12
129 雲凝縮核(CCN)数の推定における粒子の吸湿性の重要性: 札幌都市大気エアロゾルの吸湿測定からの評価 Importance of particle hygroscopicity to the estimate of cloud condensation nuclei (CCN)concentrations: Assessment from hygroscopicity measurements for urban aerosols in Sapporo, Japan Hygroscopicity of aerosol particles as well as the particle size is key variable for the calculation of cloud condensation nuclei (CCN)concentrations in atmospheric models. In this study, the relevance of particle hygroscopicity on the accuracy of the prediction of CCN concentrations is assessed based on the size and hygroscopicity measurements of aerosol particles in the urban city of Sapporo, Japan using a hygroscopicity tandem differential mobility analyzer system. The CCN concentrations calculated based on Köhler theory with full information on the measured particle hygroscopicity(CCNREF)are regarded as true values, and they are compared to the CCN concentrations estimated with two different degrees of approximation of particle hygroscopicity. If the hygroscopicity of all particles are approximated to that of(NH42SO4, CCN concentrations are significantly overestimated at low supersaturation conditions. The mean ratios(±1standard deviation)of estimated CCN concentrations to CCN REF range from 1.02(± 0.01)to 4.34(± 1.93)at 0.04%–5% supersaturation. When a single average hygroscopicity is applied to all particles, the accuracy of the estimate is substantially improved. The mean ratios are from 0.60(± 0.21) to 1.41(± 0.17) . The present study has revealed high sensitivity of the estimate of CCN to particle hygroscopicity information, and provides guides to understand what degrees of approximation is allowed in atmospheric models, depending on the accuracy required for the prediction of CCN . 129 2001年 3 月 北海道大学大学院地球環境科学研究科  大気海洋研環境科学専攻 修士課程卒業 2001年 4 月 (株)エコニクス 入社 2004年 4 月 北海道大学大学院地球環境科学研究科  大気海洋研環境科学専攻 博士課程入学 2006年 6 月 (株)エコニクス 退社 現在に至る 略 歴 キタ モリ ヤス ユキ

雲凝縮核(CCN)数の推定における粒子の吸湿性の重要性 ......130 1. はじめに 自然および人為起源から放出されるエアロゾル粒子は、雲粒を形成するための雲凝縮核(CCN)と

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  • 129

    雲凝縮核(CCN)数の推定における粒子の吸湿性の重要性: 札幌都市大気エアロゾルの吸湿測定からの評価

    Importance of particle hygroscopicity to the estimate of cloud condensation nuclei(CCN)concentrations: Assessment from

    hygroscopicity measurements for urban aerosols in Sapporo, Japan

     Hygroscopicity of aerosol particles as well as the particle size is key variable for the calculation of cloud condensation nuclei(CCN)concentrations in atmospheric models. In this study, the relevance of particle hygroscopicity on the accuracy of the prediction of CCN concentrations is assessed based on the size and hygroscopicity measurements of aerosol particles in the urban city of Sapporo, Japan using a hygroscopicity tandem differential mobility analyzer system. The CCN concentrations calculated based on Köhler theory with full information on the measured particle hygroscopicity(CCNREF)are regarded as true values, and they are compared to the CCN concentrations estimated with two different degrees of approximation of particle hygroscopicity. If the hygroscopicity of all particles are approximated to that of(NH4)2SO4, CCN concentrations are significantly overestimated at low supersaturation conditions. The mean ratios(±1standard deviation)of estimated CCN concentrations to CCN REF range from 1.02(± 0.01)to 4.34(± 1.93)at 0.04%–5% supersaturation. When a single average hygroscopicity is applied to all particles, the accuracy of the estimate is substantially improved. The mean ratios are from 0.60(± 0.21)to 1.41(± 0.17). The present study has revealed high sensitivity of the estimate of CCN to particle hygroscopicity information, and provides guides to understand what degrees of approximation is allowed in atmospheric models, depending on the accuracy required for the prediction of CCN .

    129

    2001年 3 月 北海道大学大学院地球環境科学研究科  大気海洋研環境科学専攻 修士課程卒業2001年 4 月 (株)エコニクス 入社2004年 4 月 北海道大学大学院地球環境科学研究科  大気海洋研環境科学専攻 博士課程入学2006年 6 月 (株)エコニクス 退社 現在に至る

    略 歴北キタ

    森モリ

     康ヤス

    之ユキ

     

  • 130

    1. はじめに

     自然および人為起源から放出されるエアロゾル粒子は、雲粒を形成するための雲凝縮核(CCN)として作用し、地球の気候に対して重要な影響を与える。しかしながら、エアロゾル粒子濃度の増加に対する雲特性と降水過程の応答には大きな不確かさが存在する(Ramaswamy et al., 2001)。CCN数はエアロゾル粒子の粒径分布、化学組成、混合状態などに依存する。エアロゾルとCCNを扱う大気モデルでは、コスト、リソースが限られているために、これらのエアロゾル特性に対する簡易化された情報を使用してCCN数を推定する必要がある。従って、気候モデルの開発のためには、エアロゾル特性に対するどのような情報がCCN数の推定に対して重要であるのか(Dusek et al., 2006)、そして、それらの情報をどの程度考慮すべきか、という点を理解することが重要である。 CCN数推定のパラメータ依存性を検討するために、これまでにCCN数の実測値とその推定値の比較を行う多くの研究(aerosol-to-CCN closure)が実施してきた。ある研究では、すべての粒子の化学組成を硫酸アンモニウムのような純化合物によって代表し、測定され粒径分布を使用して両者の比較を行っている(e.g. VanReken et al., 2003)。また、CCN数を推定するために、Aerosol Mass Spectrometer などを使用して測定された粒径別化学組成情報を用いて実施されている研究もある(e.g. Median et al., 2007)。このような研究では、得られた化学組成情報を水溶性と非水溶性成分に分類する手法がしばしば用いられている。これまでの研究では、CCN数の推定値が過大評価となるCCN closure 研究が報告されている一方、実測値と推定値の一応の一致を報告している研究もある。測定されたエアロゾルタイプとともに測定誤差が個々の研究で異なるために、これらの過去の研究から重要なパラメータに対するCCN closure の感度評価を行うことは難しい。 近年、大気中のCCN数を評価するための有用な手段として Hygroscopicity Tandem Differential Mobility Analyzer(HTDMA)が注目されている。HTDMAはCCN活性と密接に関連するエアロゾル粒子の吸湿性(Köhler, 1936)を測定することができる。大気中の粒子のCCN活性と吸湿性の同時測定を行った研究では、吸湿性がCCN活性を規定する重要な因子であることを示している(Brechtel and Kreidenweis, 2000; Mochida et al., 2006)。Closure 研究の問題点として、各パラメータの不確かさがClosure 研究全体に及ぼす影響を定量的に評価しにくい側面がある。特に、CCN数をCCNカウンタを用いて実測する一方で、粒径分布や組成など関連するパラメータは別の測器で測定しているため、closure 結果に系統的な測定誤差が影響を及ぼしやすい。そこで本研究では、実測したCCN数の代わりに、粒径・吸湿性の混合状態の情報を持つHTDMAデータからCCN数を算出して、吸湿性の情報を近似により単純化した場合に、CCN数の推定精度がどの程度ずれるのかを定量的に評価した。この場合、基準となるCCN数はあくまでも推定値であるが、closure において上記の系統的な測定誤差の影響を受けないという大きな利点がある。また、この研究では、エアロゾルの発生源として重要であり、様々な一次発生源、二次生成機構をもつ都市大気エアロゾルを対象とした。

  • 131

    2. 測 定

    2.1 大気エアロゾル粒子の吸湿成長測定 本観測は北海道大学低温科学研究所敷地内で行われた。大気エアロゾル粒子は屋外に設置した採取口から吸引され、実験室内の測定システムに流量 0.3lmin-1 で導入された。採取口から測定システムの導入口までの距離は約15mである。採取管には銅管(外径1/4×内径3/16inch)を使用した。観測期間は2007年5月18日から26日のうちの計5日間である。測定は早朝(7:00~10:00)、日中(11:00~14:00)、夜間(20:00~23:00)に行った。測定回数は合計13回(早朝4回、日中5回、夜間4回)であった。 大気エアロゾル粒子の吸湿成長測定はHTDMAシステム(図1)を使用して行われた。測定の概要を簡単に説明する。採取口から吸引された大気エアロゾル粒子はまず始めに拡散ドライヤーを通して乾燥された後(RH

  • 132

    2.2 大気エアロゾル粒子の乾燥粒径と吸湿性からの臨界過飽和度の導出 CCN数を推定するために、個々の粒子に対する臨界過飽和度(粒子が雲粒を形成するために必要とする最小の水蒸気過飽和度)をHTDMAによって測定された乾燥粒径と吸湿性から導出した。 エアロゾル粒子に対する臨界過飽和度は、粒子が溶質成分と不溶性成分から構成されていると考えて求めた(Pruppacher and Klett, 1997)。本研究では、溶質成分を都市大気中において主要な成分割合を示す硫酸アンモニウムとして仮定した。相対湿度と液滴径の関係は次に示すKöhler式で表される:

    (2)( ) ( )⎟⎟⎠

    ⎞⎜⎜⎝

    ⎛⎟⎟⎠

    ⎞⎜⎜⎝

    ⎛=

    wetdRTMexpm mmMS

    wwetww 4

    1000-exp100

    ρ

    σΦν

     ここで、Sは平衡水蒸気飽和度(%)である。mは硫酸アンモニウム水溶液の重量モル濃度である。dwetとσwet(m)は液滴の直径と表面張力である。Mwとρwは、それぞれ水の分子量と密度である。ν は溶質の解離によって生じる全イオン数、Φ(m)は practical osmotic 係数である。RとT はそれぞれ気体定数と温度である。式(2)中の液滴の直径は式(3)によって表される。

    (3)( ) ( )31

    vvss

    ssdrywet 1M

    M1000

    ⎭⎬⎫

    ⎩⎨⎧

    −++

    = εερ

    ρ

    mmd ,d

     ddry は乾燥粒径である。Msとρs はそれぞれ、溶質成分の分子量と密度である。mが含まれている項は、乾燥粒子の体積に対する液滴の体積の比を表している。εvは、水溶性成分の体積割合であり、これはHTDMAデータから次のような式で求められる(Pichford and McMurry, 1994):

    (4)( )( ) 185

    1853

    sol

    3

    v−

    −=g

    gεε ,

     ここで、gε(85)は相対湿度85%で測定された粒子の吸湿成長因子である。gsol(RH)は純硫酸アンモニウム粒子の吸湿成長因子である。 本研究では、Sが最大となる重量モル濃度(m)をコンピューター計算で決定し、臨界過飽和度を求めた。σwet(m)の計算には、Hänel(1976)によって提案されている式を、Φ(m)には、Pitzer and Mayorga(1973)のモデルを使用した。純硫酸アンモニウム粒子のgsol(85)の算出は、Brechtel and Kreidenweis(2000)によって提案されている方法を使用した。 各粒子がある臨界過飽和度でCCN活性であるかどうかの判定は、検出された粒径・吸湿性のビンの中央の値(吸湿性の場合は対数スケール)を用いて、上述した計算式によって行った。

    2.3 エアロゾル粒子の平均的な吸湿成長因子の導出 吸湿性情報に対するCCN数の依存性を評価するために、得られたHTDMAデータを用いて、すべての粒子に対して平均化された吸湿成長因子(gave)を計算した(3.3章のModel 2を参照)。gave は

  • 133

    次の式で与えられる:

    (5)( )( ) ( )( )

    ( )( )

    31

    3drydry

    3drydry

    ave

    dry

    dry

    685

    856

    85

    ⎟⎟⎟⎟

    ⎜⎜⎜⎜

    ⋅⋅

    ⋅⋅⋅=

    ∑∑

    ∑∑

    dg

    dg

    dg,dN

    dgg,dNg

    π

    π

     ここで、N(ddry, g(85))は、ddry(16個のbin)と g(85)(21個のbin)を関数とするエアロゾル粒子の個数濃度である。

    3. 結果と考察

     本章ではまず始めに、HTDMAを用いて測定された粒子の吸湿特性結果を表示し、そしてCCN数の推定に対する乾燥粒径と詳細に測定された吸湿性の関係を示す(3.1章)。これらの測定データから推定されたCCN数を参照値(CCNREF)として取り扱い、二つの異なったレベルの吸湿性情報を用いて予測されたCCN数がCCNREF からどの程度に変化するのかを評価した。一つ目のモデル近似では(Model 1, 3.2章)、エアロゾル粒子の粒径のみを考慮した。二番目では(Model 2, 3.3章)、エアロゾル粒子の平均的な吸湿性を用いた。

    3.1 エアロゾル粒子の吸湿特性と臨界過飽和度スペクトル 図2aと2bに札幌で測定されたエアロゾル粒子の吸湿特性結果の一例を示す。図2a-2と2b-2は乾燥粒径(ddry)と吸湿成長因子(g)を関数とする大気エアロゾル粒子の二次元個数濃度分布(カラー等高線)を示している。図2a-1と2b-1はエアロゾル粒子の粒径分布であり、ddry-g マトリックスデータ(図2a-2と2b-2)をy軸方向に積分することによって得られる。図2a-3と2b-3 は、個数濃度で荷重平均された全平均吸湿成長分布を示し、ddry-gマトリックスデータ(図2a-2と2b-2)をx軸方向に積分することによって得られる。図2a-2と2b-2 にはddryとgから計算された粒子の臨界過飽和度が黒の等高線で示されている。ある過飽和度でのCCN活性粒子の個数濃度は、ddry-gマトリックにおいてそれと等しい臨界過飽和度曲線の右上部分に位置する粒子個数濃度を積分することによって計算される。本研究では、この方法で計算されたCCN数は大気中での実際のCCN数をより精度よく反映していると考え、それらを参照値として使用した。 図2a-2と2b-2 に示されたエアロゾル粒子の個数濃度分布(混合状態)はCCN数と関連していることが見て取れる。図2a–2では、明確な2つの粒子モードが観測されている。即ち、より吸湿性を示すグループとほとんど吸湿性を示さないグループが存在することが見て取れる。観測期間中の多くの測定結果においてこのような二山分布のパターンが認められた。このような二山の吸湿性分布は、吸湿性の違いによって粒径の小さい粒子が大きな粒子よりも高いCCN活性を示す場合が存在しうることを示唆している。例えば、吸湿性の高いモードで個数濃度が最大となる130nm付近の粒子は過飽和度0.2%でCCN活性であるのに対して、吸湿性の低いグループでは、粒径が130nmよりもずっと大きい200nm程度の粒子であってもCCN不活性であることが見て取れる。

  • 134

     一方、粒子中の化学組成割合が均一な場合、エアロゾル粒子の吸湿成長分布は平均的な吸湿成長因子からある広がりをもった一山分布を示す。図2b-2と2b-3 に示す粒子個数濃度の分布および吸湿成長分布では、吸湿成長因子が1付近の粒子の存在が僅かに見られる程度であり、全体的に平均的な吸湿成長因子からある広がりをもった分布の様子が伺える。このような場合では、粒径の大小がほぼCCN活性の大小を決めていると考えられる。 図1に示された ddry-gマトリックを使用して、それぞれの測定データセットに対して体積で重み付けしたエアロゾル粒子の平均的な吸湿成長因子(gave, 式(5))を計算した(表1)。gave値は観測期間中に1.16から1.32の範囲で変動しており、札幌都市エアロゾル粒子の吸湿特性が多様な変化を有していることを示唆している。

    30002500200015001000500

    0

    dN(p

    artic

    le c

    m-3

    )/dl

    ogd d

    ry

    3 4 5 6 7 8 100 2 3

    1.6

    1.4

    1.2

    1.0

    g (8

    5% R

    H)

    3 4 5 6 7 8 100 2 3

    Dry particle diameter ddry (nm)

    2 1

    0.5

    0.1

    0.05

    a)

    159

    2.0x1041.51.00.5

    dN/dlogg

    1.6

    1.4

    1.2

    1.0

    3.0x104

    2.52.01.51.00.50

    d2N

    /dlogddry dlogg

    1.6

    1.4

    1.2

    1.0

    3 4 5 6 7 8 100 2 3

    1 0.1

    0.05

    b)

    1

    2

    59

    0.5

    2000

    1500

    1000

    500

    03 4 5 6 7 8100 2 3

    1.5x10410.50

    1.6

    1.4

    1.2

    1.0

    2.0x104

    1.5

    1.0

    0.5

    0

    0

    g (8

    5% R

    H)

    dN/dlogg

    d2N

    /dlogddry dlogg

    Dry particle diameter ddry (nm)

    dN(p

    artic

    le c

    m-3

    )/dl

    ogd d

    ry

    a-1

    a-2 a-3

    b-1

    b-2 b-3

    図2.札幌都市大気エアロゾル粒子の吸湿測定結果の例;(a)5月18日(11:00–15:00LT)と(b)5月22日(19:30-22:50LT)。図a-1とb-1はエアロゾル粒子の粒径分布を示す。図a-2とb-2は乾燥粒径と吸湿性を関数とする二次元粒子個数濃度分布を表す。図a-3とb-3は個数濃度で重み付けした吸湿成長因子の平均分布である。図a-2とb-2に示された黒の実線は対応する臨界過飽和度の等高線を表している。

  • 135

    3.2 Model 1: 物理特性(粒径)のみを考慮した場合のCCN数の推定精度 粒子の吸湿性情報に対するCCN数予測に対する感度を評価するために最初のモデル計算では(Model 1)、エアロゾルタイプと粒径に対する吸湿性の変動を考慮せずに、CCN数をエアロゾルの粒径分布のみから推定した。ここでは、すべての粒子の吸湿性を純硫酸アンモニウム粒子のそれと等しいと仮定した。このモデル計算は単純であり、エアロゾル粒子の組成情報が無い時に大気中のCCN数の推定に使用されることがある(Vanreken et al., 2003)。ある過飽和度におけるCCNM1 値は粒径分布において(NH4)2SO4粒子の活性化粒径以上の粒子個数濃度を積分することによって計算される。活性化粒径

    Sample No. Day in May Local time gave

    1 18 6:50-10:20 1.29

    2 18 11:40-15:00 1.30

    3 18 19:40-23:00 1.26

    4 19 7:10-10:30 1.32

    5 19 12:00-15:20 1.28

    6 22 7:20-10:40 1.16

    7 22 12:30-15:50 1.21

    8 22 19:30-22:50 1.24

    9 24 7:20-10:40 1.25

    10 24 12:50-16:10 1.23

    11 24 20:10-23:30 1.24

    12 26 11:00-14:20 1.24

    13 26 19:30-23:00 1.19

    表1. 各測定結果から計算されたエアロゾル粒子の平均吸湿性(gavc)

    2500

    2000

    1500

    1000

    500

    0

    25002000150010005000

    0.2% SS

    1:1 line regression line

    y=bx(b=1.97±0.12, R=0.93)

    CC

    NM

    1 (

    part

    icle

    cm

    -3)

    CCNREF (particle cm-3)

    図3. CCNM1とCCNREF濃度の散布図。図中に示された直線は回帰直線を表している(R=0.93,傾き:1.97±0.12)。回帰直線の切片はゼロとしている。

    Mean(± 1 ) Min-Max Mean(± 1 ) Min-Max

    0.1% 2.49(± 0.72) 1.66-3.96 1.10(± 0.12) 0.89-1.32

    0.2% 2.25(± 0.51) 1.59-3.15 1.36(± 0.13) 1.20-1.58

    0.5% 1.89(± 0.32) 1.39-2.47 1.41(± 0.17) 1.14-1.75

    1% 1.53(± 0.12) 1.27-1.80 1.34(± 0.15) 1.11-1.68

    Model 1 Model 2Supersaturation

    表2. 各モデルに対する過飽和度0.1%、0.2%、0.5%及び1%でのCCNM/CCNREF比の平均値(±1標準偏差)と範囲

  • 136

    の計算にはεv=1として式(2)と(3)を用いた。 図3に例として過飽和度0.2%でのCCNM1とCCNREFの散布図を示す。CCNM1対CCNREF のプロットは 1:1 の直線から著しくずれており、CCNM1 が大きく過大評価されていることが見て取れる。回帰直線(R=0.93)の傾きは1.97±0.12 である(図3)。さらに、様々な過飽和度に対するCCNM1とCCNREF の比較を図4に示す。エアロゾル粒子数(CN)に対するCCNREFとCCNM1の比を臨界過飽和度に対してプロットしたCCNスペクトルが図4aと図4b にそれぞれ示されている。CCNM1/CN 比がCCNREF/CN 比よりも高いことが明らかに見て取れる。参照モデルでは、全粒子数の50%が活性化される過飽和度が約 0.6%SSであるのに対して(図4a)、一方、モデル1では約0.2%SSである(図4b)。CCNREF/CN比がCCNM1/CNより低くなる理由は、純硫酸アンモニウム粒子と仮定した場合にCCN活性を示すと予測される粒子のある割合が、実際には、粒子の吸湿性が低いためにCCN活性を示さないためである。 CCNREFに対するCCNM1の比を様々な過飽和度条件下で計算した(図4c)。0.04%-5%SSでの比は平均で1.02(±0.01)から4.34(±1.93)まで変動し、過飽和度の減少とともとに増加する傾向を示した。0.1%, 0.2%, 0.5% および 1%SSでのCCNM1/CCNREF比の平均値と範囲を表2に示す。このモデル結果では、過飽和度0.2%では推定値が125(±51)%の過大評価となっていた。一方、過飽和度0.9%では55(±13)%の過大評価となっていた。これらの結果は、航空機によるclosure 観測を行っているVanreken et al.(2003)が報告している結果(推定値が、過飽和度0.2%で5%、過飽和度0.85%で9%の過大評価となっていた)と比較すると、推定値が大きく過大評価となっている。これは、汚染空気塊の影響を比較的に受けていない対流圏エアロゾル粒子では、硫酸アンモニウムがほぼ主要な成分であると思われる(Nessler et al., 2003)のに対して、都市大気エ

    10

    8

    6

    4

    2

    0

    0.012 4 6 8

    0.12 4 6 8

    12 4

    Supersaturation (%)

    Average Bar : 1

    1.0

    0.8

    0.6

    0.4

    0.2

    0

    CC

    NR

    EF /

    CN

    0.012 4 6 8

    0.12 4 6 8

    12 4

    Average Bar : 1

    1.0

    0.8

    0.6

    0.4

    0.2

    0

    0.012 4 6 8

    0.12 4 6 8

    12 4

    Average Bar : 1

    a)

    b)

    c)

    CC

    NM

    1 / C

    NC

    CN

    M1

    / CC

    NR

    EF

    図4. 過飽和度と関数とする(a)CCNREF/CN,(b)CCNM1/CN,及び(c)CCNM1/CCNREF比の累積CCNスペクトル。赤い丸印は一連の測定から得られたデータ結果を表している。黒い丸印とエラーバーはそれぞれ平均値と1標準偏差を示している。

  • 137

    アロゾル粒子には、硫酸アンモニウム粒子よりも吸湿性の低い粒子や吸湿性をほとんど示さないような粒子が存在していることが一因と考えられる。

    3.3. Model 2: エアロゾル粒子の平均的な吸湿性を考慮した場合のCCN数の推定 モデル2では、式(5)から得られた単一な平均吸湿性を考慮してCCN数(CCNM2)を推定した。この場合では、エアロゾル粒子の物理的側面(即ち、粒径)とともに化学組成の相違が考慮されている。これは、Aerosol Mass Spectrometer(AMS)などから得られる組成情報を使用して、CCN数を推定する場合と類似している。CCNM2 は、式(2)-(4)を使用して求められる活性化粒径以上の粒子個数濃度を積分することによって計算される。式(4)中のg(85)には式(5)中の平均吸湿性 gaveが使用されている。図5は5月18日の正午頃に測定されたデータに対する0.2%SSでのCN, CCNREF, およびCCNM2の粒径分布の一例を示している。薄い部分と濃い部分はそれぞれCNとCCNREFの濃度を示している。点線で囲まれている部分は平均吸湿性を使用して推定されたCCNM2を示しており、対応する活性化粒径(d*p_M2)は108nmである。比較のために、モデル1で計算された活性化粒径(d*p_M1)も図5に示されている。明らかに、CCNM2を表す積分部分がCCNM1の積分部分よりもCCNREFのそれに近づいていることが見て取れる。  図 6 は 過 飽 和度 0 . 2 %での C C N M 2と C C N R E F の 散 布 図 を 示 す。回 帰直 線(R= 0 . 9 8)の傾きは1 . 3 5±0 . 0 4である。モ デ ル 2 で は 、C C N 数 は平均 で 3 6(±1 3)% の 過 大 評 価であっ

    4000

    3000

    2000

    1000

    03 4 5 6 7 8 9

    1002 3

    CN CCNREFCCNM1 CCNM2

    d*p_M181 nm

    d*p_M2108 nm

    Dry particle diameter ddry (nm)

    0.2% SS

    dN(p

    artic

    le c

    m-3

    )/dl

    ogd d

    ry図5. 5月18日の日中(11:30 -15:00LT)における過飽和度0.2%でのCN,CCNREF,及びCCNM2の粒径分布。図中の薄い部分と濃い部分はそれぞれCN,とCCNREFの粒径分布を示す。点線で囲まれた部分はCCNM2を示す。過飽和度0.2%では、活性化粒径(d*p_M2)は108nmである。d*p_M1はモデル1において計算された活性化粒径であり、アミのケイ線で囲まれた部分がCCNM1を表している。

    1200

    800

    400

    0

    12008004000

    0.2% SS

    1:1 line regression line

    y=bx (b=1.35±0.04, R=0.98)

    CC

    NM

    2 (

    part

    icle

    cm

    -3)

    CCNREF (particle cm-3)

    図6. CCNM2とCCNREF濃度の散布図。図中に示された直線は回帰直線を表している(R=0.98,傾き:1.35±0.12)。回帰直線の切片はゼロとしている。

  • 138

    た。図2と5はCCN数の予測精度は過飽和度0.2%で著しく向上していることを示している。図7は過飽和度0.04から5%までの範囲におけるCCNREFに対するCCNM2の比を示している。平均比は0.60(±0.21)から1.41(±0.17)までの範囲である。0.1%, 0.2%, 0.5%および1%SSでのCCNM2/CCNREF比の平均値と範囲を表2に示されている。過飽和度0.04-2%の範囲で、モデル2によるCCN数の推定結果がモデル1の推定結果から大幅に向上されていることが見て取れる。過飽和度0.07%以下でCCNM2/CCNREFの平均比が1より小さくなっている理由としては、粒径200nm以上で粒子個数割合が高くなっている比較的に吸湿性が高い粒子の寄与がモデル2において過少評価されていることが考えられる。エアロゾル粒子を溶質成分((NH4)2 SO4)と不溶性成分の二成分で近似的に表現することによって、Aerosol Mass Spectrometer(AMS)で測定された平均的な組成情報を使用したMedina et al.(2007)の都市域での結果は、過飽和度0.2%から0.6%の範囲で、推定値が平均で36(±29)%の過大評価となっている。本研究の結果では、過飽和度0.2%から0.6%の範囲の推定精度は、平均で38(±10)%の過大評価となっており、彼らの結果とほぼ一致していた。この結果からは、CCN数の推定程度のずれが比較的に大きい過飽和度(0.04%と0.2%-1%)では、CCN数の推定精度をより向上させるためには、エアロゾル粒子の外部混合状態の情報(個々の粒子の吸湿性の違い)を考慮することが有効であると示唆される。

    4. まとめ

     札幌都市大気エアロゾルの吸湿測定データを使用して、CCN数推定に対する粒子の吸湿性の感度を評価した。CCN数はHTDMAを使用して得られた詳細な乾燥粒径と吸湿性データを使用して、二成分近似モデルを仮定してKöhler理論に基づいて計算された。このように推定されたCCN数(CCNREF)を基にして、粒子の吸湿性情報に対して異なった近似レベルを用いて求められるCCN数の推定精度を評価した。エアロゾルの吸湿性を考慮しない場合(Model 1)では、CCNREFに対する予測されるCCN数の平均比は過飽和度0.04-5%で1.02(±0.01)から4.34(±1.93)まで変動した。求められた比は過飽和度が減少するとともに増加する傾向を示した。次に、CCN数の推定にエアロゾル粒子の単一な平均吸湿性を使用した場合では(Model 2)、得られた比は0.60(±0.21)から1.41(±0.17)までの範囲となり、過飽和度0.04-2%SSでCCN数の推定精度が大きく改善されることが示された。

    5

    4

    3

    2

    1

    0

    0.012 4 6 8

    0.12 4 6 8

    12 4

    Supersaturation (%)

    Average

    Bar : 1

    Model 1

    CC

    NM

    2 / C

    CN

    RE

    F

    図7. 過飽和度に対するCCNM2/CCNREF比のプロット図。赤い丸印は一連の測定から得られたデータ結果を表している。黒い丸印とエラーバーはそれぞれ平均値と1標準偏差を示している。

  • 139

    謝 辞

     本研究を進めるにあたり、アサヒビール学術振興財団より研究助成金を賜りましたことを、ここに深くお礼申し上げます。また、名古屋大学特任准教授の持田陸宏先生、北海道大学教授の河村公隆先生に有益な御助言、御協力をいただきました。この場を借りて厚く御礼申し上げます。また、本助成金の一部は下記の関連研究にも使わせていただきました。

    関連研究

    “Assessment of the aerosol water content in urban atmospheric particles by the hygroscopic growth measurements in Sapporo, Japan”(Atmospheric Environment に投稿中)。

    参照文献

    Brechtel, F. J., and S. M. Kreidenweis(2000), Predicting particle critical supersaturation from hygroscopic growth measurements in the humidified TDMA. Part Ι: Theory and sensitivity studies, J. Atmos. Sci., 57, 1854-1871.Dusek, U., G. P. Frank, L. Hildebrandt, J. Curtius, J. Schneider, S. Walter, D. Chand, F. Drewnich, S. Hings, D. Jung, S. Borrmann, and M. O. Andreae(2006), Size matters more than chemistry for cloud-Nucleating ability of aerosol particles, Science, 312, 1375-1378.Hänel, G.(1976), The properties of atmospheric aerosol particles as functions of the relative humidity at thermodynamic equilibrium with the surrounding moist air, Adv. Geophys., 17, 73-188.Köhler, H.(1936), The nucleus in and the growth of hygroscopic droplets, Trans. Faraday Soc., 32, 1152-1161.Medina, J., A. Nenes, R-E. P. Sotiropoulou, L. D. Cottrell, L. D. Ziemba, P. J. Bechman, and R. J. Griffin(2007), Cloud condensation nuclei closure during the International Consortium for Atmospheric Research on Transport and Transformation 2004 campaign: effects of size-resolved composition, J. Geophys. Res., 112, D10S31, doi:10.1029/2006JD007588.Mochida, M., and K. Kawamura(2004), Hygroscopic properties of levoglucosan and related organic compounds characteristic to biomass burning aerosol particles, J. Geophys. Res. 109, D21202, doi:10.1029/2004JD004962.Mochida, M., M. Kuwata, T. Miyakawa, N. Takegawa, K. Kawamura, and Y. Kondo(2006), Relationship between hygroscopicity and cloud condensation nuclei activity for urban aerosols in Tokyo, J. Geophys. Res., 111, D23204, doi:10.1029/2005JD006980.Nessler, R., N. Bukowiecki, S. Henning, E. Weingartner, B. Calpini, and U. Baltensperger(2003), Simultaneous dry and ambient measurements of aerosol size distributions at th Jungfraujooch, Tellus, Ser. B, 55, 808-819.

  • 140

    Pitzer, K. S., and G. Mayorga(1973), Thermodynamics of electrolytes. Ⅱ. Activity and osmotic coefficients for strong electrolytes with one or both ions univalent, J. Phys. Chem., 77, 2300-2308.Pitchford, L. M. and P. H. Mcmurry(1994), Relationship between measured water vapor growth and chemistry of atmospheric aerosol for grand canyon, Arizona, in winter 1990, Atmos. Environ., 28, 827-839.Pruppacher , H. R., and J. D. Klett(1997), Microphysics of Clouds and Precipitation, 2nd ed., 954 pp., Springer, New York.Ramaswamy, N., Boucher, O., Haigh, I., Hauglustaine, D., Haywood, J., Myhre, G., Nakajima, T., Shi, G. Y., and Solomon, S., Climate change 2001 : The Seientific Basis. Contribution of working group Ⅰ to the Third Assesment Report of the Intergovernmental Panel on Climate Change, 2001.VanReken, T. M., T. A. Rissman, G. C. Roberts, V. Varutbangkul, H. H. Jonsson, R. C. Flagan, and J. H. Seinfeld(2003), Toward aerosol/cloud condensation muclei(CCN)closure during CRYSTAL-FACE, J. Geophys. Res. 108, 4633, doi:10.1029/2003JD003582.