8
九重火山の噴気地帯周辺の雨水の化学特性と HCl ガス放出量の経年変化 後藤卓哉 ・宇野木理恵 ** ・田中俊昭 ** ・糸井龍一 ** Chemical characteristics of rainwater and the change in HCl gas discharge rate with time from the fumarolic area of Mt. Kuju Takuya GOTO * , Rie UNOKI ** , Tosiaki TANAKA ** and Ryuichi ITOI ** * 九州大学大学院工学府地球資源システム工学専攻エネルギー資源工学研究室  812-8581 福岡県福岡市東区箱崎 6-10-1 Laboratory of Energy Resources Engineering, Department of Earth Resources Engineering, Graduate School of Engineering, Kyushu University, 6-10-1 Hakozaki, Higashi-ku, Fukuoka 812-8581 ** 九州大学大学院工学研究院地球資源システム工学部門エネルギー資源工学研究室 812-8581 福岡県福岡市東区箱崎 6-10-1 Laboratory of Energy Resources Engineering, Department of Earth Resources Engineering, Faculty of Engineering, Kyushu University, 6-10-1 Hakozaki, Higashi-ku, Fukuoka 812-8581 We studied characteristics of rainwater and calculated the rate of HCl gas discharged from the fumarolic area of Mt. Kuju. Concentrations of Cl - decreased quickly but those of SO 4 2- decreased gradually with distance from the fumarolic area. Discharge rates of HCl in the year 2001 were calculated to be in the range of 0.1 to 1.1 t/day. 1.緒言 大分県南西部位置する九重火山群星生山北側斜 には火山性噴気孔多数存在これらから大気 放出される噴気ガスには SO 2 をはじめHCl HF などの酸性ガスがまれている噴気地帯周辺 ではこれらのガスが雨水溶存することにより pH 低下周辺地域植生土壌環境影響 ぼしている本研究では 2001 5 から 11 までの 7 月間九重硫黄山周辺雨水定期的採取分析雨水化学特性とその距離的変化時間的変化調べたぎにこれらの結果いて噴気地帯からの HCl 放出量推定したさらに1993 年以来観測デー タを算定方法えた HCl 放出量再計算従来結果との比較検討った2.雨水の採取方法および分析方法 星生山北東斜面標高 1400-1600 にかけて高温 90270火山性噴気口群存在江原ほか1981)、一帯九重硫黄山ばれている噴気地帯 Fig. 1 雨水採取地点位置図右隅網掛けを した範囲1.3 × 10 5 m 2 江原ほか1981分布 しているなお1995 10 11 噴火活動によ しい噴気孔群従来噴気帯南側約 300 された本地域降水時にはよりの卓越する ため火山ガスやそれをんだ噴気地帯 ABSTRACT 九大地熱火山研究報告 11 (2002) 113-120 113 1 2 Fig. 1 雨水採取装置設置位置および Cl 着量算定領域実線

九重火山の噴気地帯周辺の雨水の化学特性とHClガ …kgvrs.mine.kyushu-u.ac.jp/GVR report/No11/goto.pdf九重火山の噴気地帯周辺の雨水の化学特性とHClガス放出量の経年変化

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九重火山の噴気地帯周辺の雨水の化学特性とHCl ガス放出量の経年変化

後藤卓哉*・宇野木理恵**・田中俊昭**・糸井龍一**

Chemical characteristics of rainwater and the change in HCl gas discharge rate with time from the fumarolic area of Mt. Kuju

Takuya GOTO*, Rie UNOKI**, Tosiaki TANAKA** and Ryuichi ITOI**

* 九州大学大学院工学府地球資源システム工学専攻エネルギー資源工学研究室 〒 812-8581 福岡県福岡市東区箱崎 6-10-1Laboratory of Energy Resources Engineering, Department of Earth Resources Engineering, Graduate School of Engineering, Kyushu University, 6-10-1 Hakozaki, Higashi-ku, Fukuoka 812-8581** 九州大学大学院工学研究院地球資源システム工学部門エネルギー資源工学研究室〒 812-8581 福岡県福岡市東区箱崎 6-10-1Laboratory of Energy Resources Engineering, Department of Earth Resources Engineering, Faculty of Engineering, Kyushu University, 6-10-1 Hakozaki, Higashi-ku, Fukuoka 812-8581

We studied characteristics of rainwater and calculated the rate of HCl gas discharged from the fumarolic area of Mt. Kuju.

Concentrations of Cl- decreased quickly but those of SO42- decreased gradually with distance from the fumarolic area. 

Discharge rates of HCl in the year 2001 were calculated to be in the range of 0.1 to 1.1 t/day.

1.緒言 大分県南西部に位置する九重火山群の星生山北側斜面には、火山性噴気孔が多数存在し、これらから大気中に放出される噴気ガスには SO2をはじめ、HClやHFなどの酸性ガスが含まれている。噴気地帯の周辺では、これらのガスが雨水や霧に溶存することによりpHが低下し、周辺地域の植生や土壌環境に強い影響を及ぼしている。 本研究では 2001年 5月から 11月までの 7ヶ月間、九重硫黄山周辺で雨水を定期的に採取分析し、雨水の化学特性とその距離的変化、時間的変化を調べた。つぎに、これらの結果を用いて噴気地帯からの HClガス放出量を推定した。さらに、1993年以来の観測データを用い、算定方法を変えた HCl放出量の再計算を行い、従来の結果との比較検討を行った。

2.雨水の採取方法および分析方法 星生山北東斜面の標高 1400-1600mにかけて高温(90℃~ 270℃)の火山性噴気口群が存在し(江原ほか、

1981)、一帯は九重硫黄山と呼ばれている。噴気地帯は Fig. 1に示す雨水採取地点位置図の右隅の網掛けをした範囲(約 1.3× 105m2、江原ほか、1981)に分布している。なお、1995年 10月 11日の噴火活動により新しい噴気孔群が従来の噴気帯の南側約 300mに形成された。本地域は降水時には南よりの風が卓越するため、火山ガスやそれを取り込んだ雨は主に噴気地帯

ABSTRACT

九大地熱・火山研究報告第 11号 (2002) 113-120頁

113

測線 1

測線 2

Fig. 1 雨水採取装置の設置位置(●印)および Cl沈着量の算定領域(実線)

114

の北側で沈着する。噴気地帯の北側は三俣山と星生山から北に伸びる尾根に挟まれた斜面の緩やかな谷状の地形を呈し、標高 1000mの長者原付近から北に飯田高原が広がる。 本研究では Fig. 1に示すように、主に噴気地帯の北側の 16箇所に雨水採取装置を設置し、2001年 5月 25

日から 11月 13日までの期間中、2週間間隔で計 12

回の雨水採取および分析を行った。 雨水は簡易型採取装置を用いて採取した。本装置は直径 60mmのポリビンの底を切り取って受け口とし、これをシリコンゴム栓の中心を通したプラスチック製のパイプで 2リットルポリタンクにつないだものである。なお、パイプにはサランネットをつめ、タンクは黒色のポリ袋で遮光をした。雨水採取装置は、雨水回収時に新しく作成した雨水計と置き換え、タンクごと持ち帰った。実験室において雨水の容積を測定し、採取期間の雨量を算定した。次に、必要量を 0.45μmメンブランフィルターでろ過し、陽イオン(Na+、K+、NH4+、Ca2+、Mg2+)と陰イオン(F-、Cl-、NO3-、SO4

2-)をイオンクロマトグラフ AQ(日本ダイオネクス社(株))を用いて分析を行った。分析にあたり陰イオンには 5点検量線法を用い、陽イオンには 4点検量線法を用いた。また、pHや ECも測定した。

3.雨水の化学成分の距離的変化 Fig. 2、3には Fig. 1に示す 2本の測線上での ClとSO4濃度の距離的変化を示す(2001/8/17採取)。また、Table 1に各測線上の観測点における Clと SO4の濃度をまとめている。なお、測線 1は噴気帯から南北方向、測線 2は東西方向にそれぞれ噴気帯のごく近傍の測点

No. 1を通るように設け、測線から離れた観測点は測線上に投影した。 No. 1では Clと SO4はほぼ同じ濃度を示す。南北方向(測線 1)で見ると、No. 1から No. 2へ向かう間で Cl濃度が大きく低下し、No.8以遠では値は極めて小さい。一方、SO4濃度は No. 1からの距離とともにゆるやかに低下している。東西方向(測線 2)では、No. 1から西側に 400mほど離れた No.16地点で Cl沈着量は極めて小さくなり、さらに西に向かっても値に変化はない。一方、SO4濃度は距離と共にゆるやかに低下しており、測線 1の場合と同様である。 SO4の原因物質である SO2は HClに比べ噴気地帯からの放出量が多く(江原ほか、1981)、拡散により周辺に広がることが想定される。その結果、大気中でSO4が形成され、降水の発生に伴い観測点を設けている噴気帯周辺で方向性の影響がやや弱くなったような沈着をするためと考えられる。 しかし、Clの原因物質である HClは水に対する溶解度が大きいため、降水発生時の風向に支配されるような沈着をする。

4.HCl 放出量の推定方法 噴気地帯より放出された HCl放出量を求めるにあたり、海塩起源の Cl-の影響を除去する必要がある。そこで雨水中の Na+は全て海塩起源であり、海塩の組成そのものは海水の組成と変わらないと仮定することにより、その影響を除去した。これに基いて Cl-濃度を海塩起源と非海塩起源に区別した。Na+を基準に

後藤卓哉・宇野木理恵・田中俊昭・糸井龍一

測線1

0.00

0.05

0.10

0.15

0.20

-1000 0 1000 2000 3000距離(m)

濃度(meq/l)

Cl

SO4

No.1No.2

No.3No.8

No.9No.10

No.7

Fig. 2 測線 1上の Clと SO4の濃度

測線2

0.00

0.05

0.10

0.15

0.20

-3000 -2000 -1000 0 1000

距離(m)

濃度(meq/l)

Cl

SO4No.14 No.15

No.16

No.1

No.5

Fig. 3 測線 2上の Clと SO4の濃度

No Cl(meq/l) SO4(meq/l)

7 0.016 0.098

1 0.173 0.158

測 2 0.061 0.138

線 3 0.046 0.111

1 8 0.012 0.085

9 0.008 0.076

10 0.006 0.057

No Cl(meq/l) SO4(meq/l)

測 14 0.006 0.068

線 15 0.007 0.078

2 16 0.01 0.092

1 0.152 0.134

5 0.053 0.12

Table 1 測線 1、測線 2の各観測点における濃度

[ ] [ ][ ][ ]

[ ]R nss RS

SR− − = − − −

−× −− −

++Cl Cl

ClNa

Na

115

した非海塩起源の濃度 Cl-は次式で与えられる(原、1991)。  式中の [ ]は当量濃度を表し、nss-(non-seasalt)は非海塩起源を表す。また、R-は雨水中、S-は海水中を意味する。 次に、雨量計を設置した各地点の Cl沈着量 (meq/m2)

は [nss-Cl]に雨量(mm)を掛けて求める。単位は (meq/l

× mm=10-4meq/cm2=meq/m2)である。これから得られた値をコンター作成ソフト Surferを使って Cl沈着量のコンターマップを描き、その結果を所定の範囲内で面積分することにより Cl-の総沈着量 (meq)を求めた。さらに、1時間あたり 0.5mm以上の降水が発生した時間を 1降水時間と定義し、No. 8に設置した転倒枡形の自記雨量計のデータをもとに一観測期間内の降水時間 (h)を求めた。 次に、1日当たりの HCl放出量 (t/day)を次のように求める。まず、Cl-沈着量を次式を用いて HCl沈着量に換算する。

ここで、36.461は HCl分子量、10-9は質量(mgを tへ)の換算係数である。 HCl放出量 (t/day)は次式で与えられる。

5.2001 年のHCl 放出量 Fig. 4に 2001年の HCl放出量の経時変化を示す。なお、横軸は各採取期間を表す。図より放出量は、ほぼ 1t/day以下の小さな値で推移していることがわかる。その中でも特に 5月から 6月はじめにかけて、約1t/dayの高い値が 2点認められる。その直後に、約0.2t/dayと急減している。その後、一時的に増加するが経時的に低下し、2001年最後の観測(11月 13日)では最も小さい値(0.1t/day)が得られた。 次に Fig. 5に 1993年から 2001年までの HCl放出量のデータをまとめて示す。これを見ると、1995年の

噴火直前に急増した HCl放出量は噴火後の 1996年に一時的に大きな値を示した後、時間の経過とともに減少を続けていることがわかる。

6.HCl 放出量の再評価6. 1 雨水採取装置設置地点および放出量の算定領域について Fig. 6~ 11には 1993年~ 2001年の期間における雨水採取装置の設置地点および Cl沈着量の算定に用いた長方形領域(実線)を示す(以下、算定領域)。図より、算定領域は 1993年~ 1997年は東西 2.8km、南北 7 kmの南北に長い長方形、1998年から 2001年は東西 3.38 km、南北 3.18 kmと正方形に近い形状である。

6. 2 1997年のデータを用いた算定領域の評価 1997年のデータを用い、算定領域の大きさが Cl総沈着量の計算値に及ぼす影響が評価された(坂井ほか、1999)。算定領域は以下の 5通りである。算定領域 A:東西 2.8km、南北 7km

算定領域 B:東西 2.8km、南北 3km

算定領域 C:東西 2.8km、南北 2km

算定領域 D:東西 3.4km、南北 3.2km

算定領域 E:東西 3.4km、南北 2.3km

 各算定領域を Fig.12~ 16に示す。坂井ほか(1999)は、1997年の本地域での観測データについてこれら5つの算定領域を用い、Cl総沈着量のコンターマップを作成し比較した。その結果、算定領域 A~ Cのコンターマップは採取期間全てにおいて等値線が西側に開く傾向を示した。本地域の降水時の風向を考慮すると、噴気帯の西側には噴気ガスの影響が及んでいない可能性がある。そこで、図中の牧の戸峠に新たに観測点(No.28)を設置した算定領域 D、Eを見ると、採取期間すべてにおいて等値線は西側に開いていないことがわかった。また、南北方向では噴気地帯から 2km

以北では Cl-はほとんど沈着していないことがわかった。すなわち、Cl沈着量を精度よく求めるためには、北方向には噴気地帯から約 2kmの観測範囲を取り、西方向には新たな観測点を設ける必要性が指摘された。

九重火山の噴気地帯周辺の雨水の化学特性と HClガス放出量の経年変化

��� �������������� ��� ������� 沈着量沈着量

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降水時間

沈着量放出量

0.00

0.20

0.40

0.60

0.80

1.00

1.20

5/10-5/25

5/25-6/7

6/7-7/5

7/5-7/19

7/19-8/2

8/2-8/17

8/17-9/4

9/4-9/17

9/17-10/2

10/2-10/15

10/15-10/30

10/30-11/13

HC

l 放

出量

(t/da

y)

Fig. 4 2001年の HCl放出量の経時変化

0

3

6

9

12

15

1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002

時間(year)

HCl放出量(t/day)

Fig. 5 HCl放出量の経年変化

116

後藤卓哉・宇野木理恵・田中俊昭・糸井龍一

Fig. 6 1993年の観測地点と HCl沈着量算定領域

Fig. 7 1994年の観測地点と HCl沈着量算定領域

Fig. 8 1995年の観測地点と HCl沈着量算定領域

Fig. 9 1996年の観測地点と HCl沈着量算定領域

117

九重火山の噴気地帯周辺の雨水の化学特性と HClガス放出量の経年変化

Fig. 10 1998年の観測地点と HCl沈着量算定領域

Fig. 11 1999- 2001年の観測地点と HCl沈着量算定領域

Fig. 12 算定領域 A

Fig. 13 算定領域 B

118

6. 3 HCl放出量の再評価 6. 2で述べたように噴気地帯の西側に設置した観測点のデータを考慮すると、Cl沈着量の等値線が西側に広がらないような結果が得られた。そこで、噴気地帯の西側に複数の観測点を設置した 2001年のデータを利用し、これらの地点のデータの有無が HCl放出量の結果にどのような影響を及ぼすか評価した。すなわち、Fig. 1において観測点No.14,15,16の3地点のデータがないものとして HCl放出量を計算し、これらの地点のデータも入れた結果との比較をおこなった。なお、計算に際して用いた Cl沈着量の算定領域の広さは同じである。 Fig. 17、18には、2001年 7月 5日に回収した雨水について上述の 3地点のデータがない場合およびある場合の Cl沈着量のコンター図をそれぞれ示す。これらの図より、上述の 3地点のデータの有無によって等値線の形状が大きく異なることがわかる。すなわち、これら 3地点のデータがある場合、噴気地帯の西側への Cl沈着量は噴気地帯周辺に限定されていることがわかる。 そこで、1993年から 1998年までのデータについて、2001年と同じ算定領域(東西 3.38km、南北 3.18km)を設定して沈着量を再計算した。なお、1997年以前は噴気地帯の西側に観測点を設けていない(1998

年は No.14地点のみのデータあり)。そこで、これらの3地点とCl沈着量がほぼ同様である他の地点のデータでこれらの地点の値を代用することを以下に検討し

Fig. 14 算定領域 C

Fig. 15 算定領域 D

Fig. 16 算定領域 E

後藤卓哉・宇野木理恵・田中俊昭・糸井龍一

119

た。 2001年のデータについて No.14,15,16の 3地点の Cl

沈着量を他の観測点と比較した。その結果、算定領域の北端に位置する No.10の Cl沈着量が観測期間を通じてほぼ同様の値を示した。そこで、No.10の Cl沈着量をこれら 3地点の沈着量として代用し、1999年から 2001年までのデータ(27期間)を利用し、このように沈着量を置き換えた場合と置き換えない場合のHCl放出量を算定した。そこで沈着量の置き換えによって生じる差を次式を用いて算定し、結果を Fig.19

に示す。

 HCloldは置き換える前の放出量で、HClnewは置き換えたあとの放出量である。図より両者の差は 0~37%の範囲にあり、平均は 8.0%である。すなわち

No.10の Cl沈着量で No.14,15,16の 3地点の値を代用しても HCl放出量に及ぼす影響は小さいといえる。よって、1998年 8月以前のデータについても同様の処理が可能であると判断した。 そこで、2001年と同じ算定領域を用い、No.10のCl沈着量を No.14,15,16の地点の値として用い、HCl

放出量を再計算した。結果を Fig.20に示す。また従来の方法で算定したHCl放出量はFig. 5に示している。図より再計算した HCl放出量は 1995年の噴火前に急増し、1996年はやや高い値を示す挙動が認められる。しかし、絶対量は大きく低下し、最も放出量が大きな 1996年の値でも 5.1t/dayであり、Fig. 5の同時期の値に比べると半分以下である。噴火後における平林ら(1996)の報告では 14t/day(1995年 11月 13日)に達しており、再計算の結果は半分以下の低い値となっている。すなわち、ここ数年の放出量が低い値で推移している期間ではこの手法を用いても従来とほぼ同様の結果を得ることができたが、噴火後に活動が活発な時期においては同様の処理が適用できない可能性が考えられる。

7.結言 九重硫黄山周辺の雨水の定期的採取および分析により得られた結果をまとめると以下のようである。1) SO4濃度は噴気地帯からの距離とともに方向にかかわらず緩やかに低下する。しかし、Cl濃度は距離とともに急減し、その傾向は南北方向よりも東

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Fig. 17 No.14、15、16のデータを除いて求めた Cl総沈着量コンターマップ(2001/7/5)

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Fig. 18 Cl総沈着量コンターマップ(2001/7/5)

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������-誤差=

-50-40-30-20-1001020304050

99-7-30

99-8-16

99-8-30

99-9-27

99-10-13

99-10-25

99-11-18

00-4-27

00-5-24

00-6-12

00-6-22

00-7-5

00-7-18

00-8-16

00-8-30

00-10-5

01-5-25

01-6-7

01-7-5

01-7-19

01-8-2

01-8-17

01-9-4

01-9-17

01-10-2

01-10-15

01-10-30

01-11-13

誤差(%)

Fig. 19  HCl放出量の誤差

0

3

6

9

12

15

1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002

時間(year)

HCl放出量(t/day)

Fig. 20  No14、15、16の Cl 沈着量を No10のそれと入れ替えて現在の算定領域で求めたの HCl放出量の経年変化

九重火山の噴気地帯周辺の雨水の化学特性と HClガス放出量の経年変化

120

西方向のほうが顕著である。2) 2001年 5月 25日~ 11月 13日にかけての観測値から算定した HClガスの放出量は 0.1~ 1.1(t/day)

の小さな値で推移している。3) 噴気地帯の西側に位置する 3 箇所の測定点(No14,15,16)とほぼ同じ Cl濃度を示す溶存イオン濃度は比較的低い。No.10の Cl濃度をこれらの3点に与えて HCl放出量を求めると、ほぼ同様の値が得られた。

4) 3)の結果にもとづき、1993年~ 1998年までのデータについて同様の処理を行い HCl放出量を再評価した結果、従来の放出量に比べ値が大きく低下した。しかし、1995年の 10月の噴火前後におけるHCl放出量の相対的な値の変化はほぼ同じである。

参考文献江原幸雄、湯原浩三、野田徹郎(1981)九重硫黄山か

後藤卓哉・宇野木理恵・田中俊昭・糸井龍一

らの放熱量・噴出水量・火山ガス放出量とそれらから推定される熱水系と火山ガスの起源、火山、第 2集、第 26巻、第 1号、35-56.

原 宏(1991)酸性雨-第 3講-酸性雨のデータをどう見るか-、大気汚染学会誌、第 26巻、第 3号、A51-A59.

平林順一、大場武、野上健治(1996)、九重山1995年の噴火と地球科学的研究、文部科学研究費(No.07300017)研究成果報告書、63-73.

坂井賢之、糸井龍一、甲斐辰次、田中俊昭、福田道博(1999)雨水データの採取範囲が九重火山の噴気帯からの HCl放出速度の推定値に及ぼす影響、九大地熱研究報告、第 8号、95-102.