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経営者に聞く 明日への指針 多彩な高付加価値製品で 日常生活に不可欠な 社会インフラ基盤を支える Vol.9 株式会社 高見沢サイバネティックス 髙見澤 和夫 代表取締役社長 多彩な高付加価値製品で 日常生活に不可欠な 社会インフラ基盤を支える 経済月報 2017.6 東京都本社株式会社高見沢サイバネティックスは、永年にわたり、T.B.C.C. チケッ ・紙幣・硬貨・ カード)分野高度処理技術ってきたそれらのコアテクノロジーを、駅出改札機やホームドアなどの交通システム機器、金融機関向機器等搭載され 紙幣硬貨処理するメカトロ機器のほかセキュリティゲートや駐輪場システムなどの 開発・製造事業領域とし、日常生活不可欠社会インフラ基盤えている社内なる部門間T.B.C.C. 中核にして密接連携、多様顧客ニーズにきめかに対応することで、多品種にわたる付加価値製品している。開発生産拠点である佐久市長野工場髙見澤和夫社長、経営戦略海外進出動向、製品づくり へのいについてった

多彩な高付加価値製品で 日常生活に不可欠な 社会インフラ基盤 … · 株式会社 高見沢サイバネティックス 髙見澤 和夫氏 代表取締役社長

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Page 1: 多彩な高付加価値製品で 日常生活に不可欠な 社会インフラ基盤 … · 株式会社 高見沢サイバネティックス 髙見澤 和夫氏 代表取締役社長

経営者に聞く明日への指針

経営者に聞く明日への指針

多彩な高付加価値製品で日常生活に不可欠な社会インフラ基盤を支える

Vol.9

株式会社 高見沢サイバネティックス

髙見澤 和夫 氏代表取締役社長

多彩な高付加価値製品で日常生活に不可欠な社会インフラ基盤を支える

経済月報2017.6

 東京都に本社を置く株式会社高見沢サイバネティックスは、永年にわたり、T.B.C.C.(チケット・紙幣・硬貨・カード)分野の高度な処理技術を培ってきた。それらのコアテクノロジーを活用し、駅の出改札機やホームドアなどの交通システム機器、金融機関向け機器等に搭載される紙幣や硬貨を処理するメカトロ機器のほか、セキュリティゲートや駐輪場システムなどの開発・製造を事業領域とし、日常生活に不可欠な社会インフラ基盤を支えている。 社内の異なる部門間もT.B.C.C.を中核にして密接に連携し、多様な顧客ニーズにきめ細やかに対応することで、多品種にわたる付加価値の高い製品を生み出している。開発と生産の拠点である佐久市の長野工場で髙見澤和夫社長に、経営戦略や海外進出の動向、製品づくりへの思いについて伺った。

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経営者に聞く明日への指針

経営者に聞く明日への指針

多彩な高付加価値製品で日常生活に不可欠な社会インフラ基盤を支える

Vol.9

株式会社 高見沢サイバネティックス

髙見澤 和夫 氏代表取締役社長

多彩な高付加価値製品で日常生活に不可欠な社会インフラ基盤を支える

経済月報2017.6

三井 創業の経緯から教えてください。髙見澤 佐久市野沢出身の曾祖父が、1917(大正6)年に東京高輪の泉岳寺で髙見澤電気商会と

いう電機店を開き、電球やラジオを売ったり、通

信メーカーの発注で交換機の配線や部品を作っ

たりしていました。その後、電子部品メーカー

株式会社髙見澤電機製作所へと法人化する中で

自販機事業部ができ、1969(昭和44)年にそれが

分離独立して当社が設立されました。

三井 事務処理の自動化が本格化した時代に、駅の自動券売機メーカーとしてスタートしたの

ですね。

髙見澤 当初は駅員の仕事を奪う人切りの機械だと言われて、導入にはだいぶ苦労したようです。

ただ、利用者の利便性向上という社会的ニーズ

に合致したことと、画期的な技術による鉄道会社

の業務効率化への期待から急速に普及しました。

 会社設立時に製造し、1970年の大阪万博会場

の駅に設置された世界初の多能式自動券売機は、

日本機械学会から「機械遺産第50号」に認定さ

れ、現在も稼働できる状態で当工場に展示して

います。

三井 現在の券売機の世界はどうですか。髙見澤 今、東京では券売機で切符を買う人はあまりいなくて、ICカードにチャージしたり、

定期券購入等に利用されています。一方、地方

では券売機利用が中心で、しなの鉄道様など地

方鉄道にはそれぞれ独自のシステムを導入して

いただいています。

三井 都会と地方だけでなく、会社によってもニーズが異なるのですね。

髙見澤 無人駅では防犯機能を強くするとか、土地柄に応じて仕様を変えています。最近はタッ

チパネルが普及していますが、地方ではボタン

の方が好評で、ボタン型を復活させました。また、

一般にお年寄りにはシンプルな方がいいですね。

例えば150円の切符だけが買える機械というの

がベストなのです。都市部では、ICカード専用

機の需要も出てきています。

駅の自動券売機メーカーとして創業駅の自動券売機メーカーとして創業

地域性など多様なニーズに柔軟に対応地域性など多様なニーズに柔軟に対応

▲出荷間近の鉄道用タッチパネル式自動券売機

■所 在 地:(本社)東京都中野区中央2-48-5      (長野工場)佐久市田口5662■代 表 者:代表取締役社長 髙見澤 和夫 氏■従業員数:412名■事業内容:交通システム機器・メカトロ機器等製造 他■売 上 高:90億円(2017年3月期)■U R L:http://www.tacy.co.jp/■沿  革1969年 東京都品川区において株式会社髙見澤電機製作所の自販機事業部の一部が独立し会社設立、自動券売機等の販売を開始、70年 製造販売会社となる、78年 臼田町(現 佐久市)に長野第一工場を設置、81年 長野工場を開設、93年 本社を現在地へ移転、96年 日本証券業協会に株式を店頭登録、2003年 ISO14001の認証を取得、04年 ジャスダック証券取引所に株式を上場、06年 ISO9001の認証を取得、10年 上海駐在員事務所を開設

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経営者に聞く明日への指針

経済月報2017.6

三井 券売機だけでなく、さまざまな製品を世に送り出していますね。

髙見澤 たくさんあるように見えますが、すべての基本はT.B.C.C.という4つの中核技術に支

えられています。これはチケット(Ticket)、紙幣

(Bill)、硬貨(Coin)、カード(Card)を処理する技

術で、当社のコアテクノロジーとなっています。

三井 どのような製品がありますか。髙見澤 創業時は交通事業者向けの自動券売機だけでしたが、これを応用して映画館、体育館、

レジャー施設などに向けた汎用品を作り、入退

場管理システムまで対応しています。

 鉄道関連では、近年急速に広まった駅のプラッ

トホームの安全設備である各種ホームドアとそ

の制御システムがあります。鉄道関連以外では、

オフィスビル入口にあるセキュリティゲートに

よる入退館管理・監視システムにも展開してい

ます。

 また、切符の印刷技術を応用してスタートし

た地震防災機器にも展開しています。震度と波

形データを瞬時に記録・伝送する多機能型計測

震度計は、気象庁に採用されて全国各地に設置

され、緊急地震速報にも利用されています。

三井 応用製品群とそれを動かすシステムまで

かなり幅が広がっていますね。

髙見澤 実は、T.B.C.C.処理技術のエッセンスともいえるメカトロ機器分野にも注力していま

す。他社製機器に組み込むユニット製品で、硬

貨処理装置、紙幣処理装置、印刷装置、カード処

理装置などです。銀行のATMや飲料自動販売機

など幅広い機器に組み込まれ、他社製の券売機

にも入っています。当社の製品だと気付いても

らえないところで社会インフラの基盤を支えて

いるのです。

三井 最近伸びている分野は。髙見澤 現在伸びているのは、駐輪場のシステムです。全国で初めて、JR東日本様の電子マネー

Suicaが使える駐輪場システムを開発しました。

駅の出改札機器の応用です。当社の機械と斬新

なシステムを使って、子会社の株式会社高見沢

サービスが300カ所を超える駐輪場の運営管理

を行っています。

 駅前の駐輪場では、利用者の半数以上がSuica

を携帯しています。これを持っていると非常に

スピーディに利用できるため、今後さらに普及

していくと思います。

 大手スーパーに設置した駐輪場では、例えば

2千円以上買い物をしたら駐輪代2時間無料、

などの設定が自由にでき、顧客サービスの向上

にもつながるため、引き合いが増えています。

他にも、地方自治体の違法駐輪対策用システム

などが伸びています。

三井 今後注力していく分野は。髙見澤 一つは東京五輪への対応、もう一つが

全国初、全国初、電子マネーSuica(スイカ)電子マネーSuica(スイカ) が使える駐輪場 が使える駐輪場

東京五輪を見据えた新たな事業展開東京五輪を見据えた新たな事業展開

コア技術T.B.C.C.に基づく製品開発がコア技術T.B.C.C.に基づく製品開発が 多彩なラインアップを支える 多彩なラインアップを支える

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経営者に聞く明日への指針

経済月報2017.6

海外展開です。

三井 東京五輪への対応というと。髙見澤 まずは、駅のホームドア、ビルなどのセキュリティゲートの普及促進です。

三井 ホームドアについては。髙見澤 従来型のホームドアはかなり重く、設置するホームの補強工事が必要で、時間とお金

がかかります。しかも、車両の仕様などに応じ

てドアの位置を移動するのは困難です。そこで、

昇降バー方式による軽量タイプを開発しました。

搬送も設置も簡単で、バーの長さを調整して、ド

アの位置が違う車両にも対応できるようにしま

した。

三井 東京では複数路線の乗り入れが進んで、同じ駅でも車両ごとにドアの位置や長さが違う

という難題を解決したのですね。

髙見澤 お客様の細かいニーズに対応した製品を作ることが、当社の製品が受け入れられてい

る理由の一つだと思います。大手企業とは一線

を画し、多品種、高付加価値を目指すのが当社の

生き方だと思っています。

三井 都会のビルではセキュリティゲートの設置が広がっています。

髙見澤 9.11の同時多発テロ後、外資系のビルで導入が始まりました。当時は見た目もごつく

て抑止効果も抜群でしたが、今はビルとマッチ

したスタイリッシュなデザインが求められるよ

うになってきています。

 インバウンドの急増で、ビルのセキュリティ

強化も叫ばれていますが、現在はビル以外にい

ろんなバリエーションがあります。例えば、入

場料を入れると入口ゲートが開くコインゲート

や、大学の図書館などで本の持ち出しを防ぐた

めのコンパクトゲート、官公庁向けの簡易型ゲー

トもあります。

三井 海外展開について教えてください。髙見澤 数年前から急速に建設が進んだ中国の地下鉄に売り込みをかけました。当社の中国進

出はユニット戦略です。中国の券売機は、表面

的にはほとんどが中国製ですが、中身は当社や

欧州製のユニットで満ちています。中国の地下

鉄券売機の中のリサイクルコインユニットでは、

当社が100%近いシェアを持っています。

 日本では当たり前になっている、入れた硬貨

をリサイクルしてつり銭にする機能や硬貨をま

とめて投入する機能を、中国では初めて搭載し

ました。出荷台数は1万台を超えて、量産効果

が十分に出ているので、当社としては成功した

製品の一つだと思っています。今では、券売機

そのものを売らなかった当社の戦略が成功した

という評価をいただいています。

三井 中国メーカーとスムーズな取引が実現できている秘訣はありますか。

髙見澤 優秀な中国人スタッフに恵まれて中国側と信頼関係を築けたことです。もちろん高い識

◀�17年3月に完成した 新工場において納品 前の点検作業が行わ れているホームドア の前で

屋外の専用施設で開発が進む昇降バー方式のホームドア ▶

テロ対策、多様化するセキュリティゲートテロ対策、多様化するセキュリティゲート

中国で成功した券売機のユニット戦略中国で成功した券売機のユニット戦略

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別精度などの技術力も勝因の一つだと思います。

三井 中国で成功した希少な事例ですね。髙見澤 取引が実現するまでは大変な苦労をしましたが、そのおかげで営業マンは路線図が書

けるぐらい地下鉄に詳しくなりましたし、人や

世の中の動きを知ることで、常に中国の最先端

の情報を持っていられるのです。それが、当社

製品の付加価値とアドバンテージの高さになっ

ていると思います。

三井 中国の次はどう展開しますか。髙見澤 次のステップでは、51カ国310金種を識別できる能力を備えたグローバルコインユニッ

トを、東南アジアなどに販売します。ベース機は

同じでも国によって細かな対応をする点が、利用

する側にとっての付加価値の高さにつながって

いくと思います。

三井 創業以来、御社の多種多様な製品が社会の随所で活躍してきたのですね。

髙見澤 「世の中に必要不可欠な会社」として製品を送り続けるというのが当社の企業理念で、

結果的に社会インフラ系の製品が多いです。

三井 ライバルは超大手企業ばかりですね。髙見澤 一部上場企業ばかりです。でも、大企業が支配する市場から漏れてくるものが絶対に

ある。自分たちのオリジナリティを大切にしな

がら、大手が手を出さないところで、世の中に必

要不可欠なものを送り出していきたいと思って

います。

三井 具体的にどうやってニーズを発掘しているのですか。

髙見澤 やはり現場主義ですね。営業が市場を見る目を養い、お客様との会話の中でニーズを拾

い上げることです。正しい情報は、現場から出て

くるものです。でも、これからはこちらからの情

報発信を強化して、お客様の方から声を掛けてい

ただけるような仕組みも作りたいと思っています。

三井 新製品のアイデアはどこから出てきますか。髙見澤 40年間ほど、新製品開発提案制度を継続して行っています。

三井 全社員対象ですか。髙見澤 技術も営業も管理部門も全てです。先代は「新製品開発か死か」という言葉を残しま

した。新しいものを生み続けていかなければ生

き残っていけないという意味です。この制度は、

常に新製品を作り続けるという空気を社内に保

つための仕掛けです。

三井 提案の蓄積は大きな財産ですね。髙見澤 宝物です。審査の過程では、管理職のほかに一般社員も参加します。社員を順番に審

査に関わらせることで、全員の興味を喚起させ

たいのです。

三井 目的は達成できていますか。髙見澤 おかげさまで、他社製品を見に行ったり、休日にわざわざ都会へ出かけて行って、当社

の製品が実際にどんな風に使われているかを見

て来る社員もいます。そんな報告を聞くととて

▲当社が手掛けた硬貨処理装置や券売機の数々

先代の言葉「新製品開発か死か」先代の言葉「新製品開発か死か」 - 40年間続く新製品開発提案制度 - 40年間続く新製品開発提案制度

企業理念は「世の中に必要不可欠な会社」企業理念は「世の中に必要不可欠な会社」

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経営者に聞く明日への指針

経済月報2017.6

もうれしいですね。

三井 それは非常に大切なことですね。髙見澤 社員がものづくりに興味を持つ環境を経営者は与える義務があるし、それが現実のア

ウトプットにつながるようにも働きかけていき

たいと思います。

三井 社員に対して心がけていることは。髙見澤 会社が目指す方向性と社員のベクトルの一致を心がけています。製品づくりは、各部

門が役割を分担してチームで行っています。一

連の流れの中での社員一人ひとりの立ち位置を

自覚させるために、社内のコミュニケーション

づくりを心がけています。

三井 具体的には何をしていますか。髙見澤 年初と年度初めと10月1日の創立記念日は、東京と長野で、できるだけ同じ日に同じ話

をするようにしています。管理職とは年に一度、

車座でPH会というスモールミーティングを開

いています。PHはプレジデント・ヒアリングと

いう意味もあり、先代の頃から続いています。

三井 管理職以外とはいかがですか。髙見澤 年に一度、「社長への提言」と題して、会社の改善点を直接社長宛に手紙形式で提出し

てもらっています。良い提案には「グッド提言賞」

を贈り、受賞者とはコーヒーを飲みながら話を

する機会を設けます。彼らにものづくり屋の魂

を注ぎ込んでいきたいし、そのために、やれるこ

とは何でもやろうと思っています。

髙見澤 社会インフラ系の機械は、メーカーがどこかはあまり意識されません。当社の鉄道向

けコインユニットのシェアは非常に高いけれど、

利用者のほとんどは当社を知りません。社会イ

ンフラ系メーカーである当社の宿命のようなも

のです。そのような製品を社会に供給して役立っ

ていることに、やりがいを感じる企業であり続

けたいですね。

三井 株式を上場されていますよね。髙見澤 IR(投資家向け広報)で宣伝したいことがたくさんありますが、扱っている製品がセキュ

リティに関するものだけに、口に出して言えな

いことが多くて残念です。

 願いは、使う人が最も使いやすいものを作る

ことです。“おふくろの味的な”とでもいいますか、

最も身近で、慣れ親しんでいる存在。そういう

製品づくりを目指していきたいですね。そのた

めにも、会社全体をものづくりが好きな集団に

育て上げたい。ものづくりが好きで、それが長

続きしてこそ、いいものができると思いますから。

三井 御社の事業展開を見ていると、近未来の社会インフラが見えてくるような気がします。

それがこの佐久の工場から国内外に届けられて

いることも頼もしい限りです。本日はありがと

うございました。

インタビュー・記事/三井 哲(長野経済研究所 常務理事)

活発なコミュニケーションが活発なコミュニケーションが いいものを生む いいものを生む

ものづくりが好きな集団ものづくりが好きな集団であり続けたいであり続けたい