14
1 章 遺伝 ―― 似ていることと似ていないこと 2 章 DNARNA、タンパク質、形質 3 章 多様性の諸相 第Ⅰ部は遺伝現象の生物学的な基礎をまとめます。生物学・遺伝学を背 景にしている人は数理解析的処理とフリー統計解析ソフト「R」の利用法に ついてを、数理解析を背景にしている人は生物学・遺伝学に関して整理し てください。 遺伝子型から表現型まで

遺伝子型から表現型まで - 京都大学 · 第1章 遺伝――似ていることと似ていないこと 第2章 dna、rna、タンパク質、形質 第3章 多様性の諸相

  • Upload
    others

  • View
    2

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: 遺伝子型から表現型まで - 京都大学 · 第1章 遺伝――似ていることと似ていないこと 第2章 dna、rna、タンパク質、形質 第3章 多様性の諸相

第 1章 遺伝――似ていることと似ていないこと

第 2章 DNA、RNA、タンパク質、形質

第 3章 多様性の諸相

第Ⅰ部は遺伝現象の生物学的な基礎をまとめます。生物学・遺伝学を背景にしている人は数理解析的処理とフリー統計解析ソフト「R」の利用法についてを、数理解析を背景にしている人は生物学・遺伝学に関して整理してください。

第 Ⅰ 部

遺伝子型から表現型まで

Page 2: 遺伝子型から表現型まで - 京都大学 · 第1章 遺伝――似ていることと似ていないこと 第2章 dna、rna、タンパク質、形質 第3章 多様性の諸相
Page 3: 遺伝子型から表現型まで - 京都大学 · 第1章 遺伝――似ていることと似ていないこと 第2章 dna、rna、タンパク質、形質 第3章 多様性の諸相

第 1章

遺伝――似ていることと似ていないこと

1.1 形質が遺伝する

◉ 1.1.1 遺伝

遺伝とは何でしょうか。血のつながりがあるときに、ある特徴が共有されることです。人間の親から人間の子が生まれたとき、人間であるという特徴は親子で共有されています。このことがあまりにも当たり前であったとき、人間は遺伝という現象に言葉を与えることはなかったと思います。遺伝という現象に単語を与えたということは、それが当たり前とは言えなかったからです。人間の親から人間の子が生まれるその傍らで、「カエルの子はカエル」であり、「瓜の蔓に茄子はならな」かったために、種という特徴が遺伝していることに気づいたのでしょう。しかしながら、種に気づいただけでは、遺伝現象に気づいたとは言い難いです。ここで挙げたカエルと瓜のことわざも、「鳶が鷹を生む」という逆の意味のことわざも、「親子は似るのが普通であって、ごく稀に親子に際だった違いが見られる」という人間の親子の観察の結果です。これらのことわざが示すように、

 「血のつながりがあるときに、ある特徴について似たり似なかったりするものだけれども、似ることの方が似ないことよりも多い」

ということに気づいたことをもって、遺伝現象に気づいたと言えるでしょう。

Page 4: 遺伝子型から表現型まで - 京都大学 · 第1章 遺伝――似ていることと似ていないこと 第2章 dna、rna、タンパク質、形質 第3章 多様性の諸相

第 1章 遺伝――似ていることと似ていないこと�

さらには、

 「遺伝する特徴もある一方で、遺伝しない特徴もある」

ことに気づいたときに、遺伝現象には原因があるだろうと気づいたと思われます。これが遺伝学の第一歩です。

◉ 1.1.2 生物の特徴――形質とフェノタイプ(表現型)

生物が持つ特徴は形質※�と呼ばれます。特徴はなんでも形質です。どんな形質に興味を持つかが、研究の内容を決めますし、新たな解析の視点を持つことは、新しく形質を定義することとも言い換えられます。そういう意味で、形質を考える視点を整理することは有用です。形質を分類するときの �つの方法は、五感(視覚・聴覚・味覚・嗅覚・触覚)のどれによる評価であるかが挙げられます。別の分類の仕方としては、解剖学・構造的、生理・機能的、分子生物学・薬理学的という分け方があります。また、個体そのものに備わった特徴であるのか、個体が外敵や環境との関係の持ち方(行動・免疫反応など)なのか、という分類もできます。その他には、数学的な概念なのか、物理的に測定するものなのか、変化する(化ける)様子なのか、という視点も形質の分類に役立ちます。これらの形質を観察することでデータが得られます。この形質の観察データがフェノタイプ(表現型)です。

◉ 1.1.3 同一性と多様性

生物は自分と同じものを次世代に残すことを �つの特徴とします。無性生

殖※�では子は親の遺伝子をそのまま引き継ぎますが、ヒトをはじめとする有性

生殖※�の生物では全く同一の個体を残すわけではなく、両親の遺伝子の半分ずつを引き継ぎます(図 �.�)。

※� 太字の単語は索引掲載語です。索引には、その単語を丁寧に説明したページ(索引の太字のページ)が示されているので、ウェブのリンクをたどるように索引を介して、適宜、説明をたどってください。

※� 無性生殖:�つの個体が単独で新しい個体を生み出すような生殖形式。※� 有性生殖:男と女という異なる性別の個体から構成される種がとる生殖戦略で、子の

遺伝子は両親の遺伝子の半分ずつからなる。

Page 5: 遺伝子型から表現型まで - 京都大学 · 第1章 遺伝――似ていることと似ていないこと 第2章 dna、rna、タンパク質、形質 第3章 多様性の諸相

�1.2 遺伝子

□はオス、○はメス、△は性別がない個体を表します。親子の関係はグラフで表されます。有性生殖では、オスとメスの対から子が生まれます。無性生殖では、性別のない親から子が生まれます。図では、線で結ばれた個体は、上にあるのが親、下にあるのが子です。

図 1.1 有性生殖と無性生殖

適応という面から言うと、親がうまく生きているわけだから、子も親と同じならうまくいくだろうと考えた戦略と言えるかもしれません。他方、個体ではなく、個体が属する種に着目してみます。種の個体がどれもみな同じだと、環境が変化したときに、全個体がそろって生きにくくなることもあるでしょう。それは得策ではないと考えることができます。環境の変化があっても、いろいろな個体がいれば、環境の変化が起きても種の全滅する可能性は減りますから、いろいろな個体で構成しておくことも得策と考えられます。遺伝現象は、このように、同一性の確保と多様性の確保の二面性を持っています。

1.2 遺伝子

◉ 1.2.1 遺伝子とは

遺伝現象は、親子関係と形質との間の関係です。なぜ、親子関係があると形質が似るのか、それが何によってもたらされるのかわかりませんでした。その遺伝現象をもたらす何かの基本単位が遺伝子です。わからないなりに、遺伝現象の原因となる実体の存在が信じられ、それはいくつもあると予測されたので、遺伝現象の基本単位を遺伝子としました。現在の生物学で言えば、遺伝現象の原因となる実体がゲノムであり、ゲノムの構成要素が遺伝子と言えるでしょう。遺伝子は親子の間で共有されるものであるべ

Page 6: 遺伝子型から表現型まで - 京都大学 · 第1章 遺伝――似ていることと似ていないこと 第2章 dna、rna、タンパク質、形質 第3章 多様性の諸相

第 1章 遺伝――似ていることと似ていないこと�

きです。習慣や環境も親と子の間で共有されますが、個体の始まりは受精卵であり、受精卵は母親の体内で母親からの卵子と父親からの精子とが合わさってできます。卵子と精子は、それぞれ母と父からの遺伝情報を染色体として持ち込むので、ここに遺伝子があるはずです。実際、この染色体が遺伝子のすべてではないかもしれないものの、大部分を担うと考えられています。染色体は長いDNA分子とそれをとりまくタンパク質からできています。DNA分子は第 �章で説明する通り「情報を担う物質」として優れた特長を持っています。

◉ 1.2.2 染色体

染色体は非常に長い紐のような構造になっています。受精に際して、卵子と精子から持ち込まれた染色体のセットは、新しい個体の遺伝情報となります。ヒトの身体は多数の細胞でできていますが、すべての細胞は原則として、同じ染色体のセットを持ちます(図 �.�)。

(a)上段・下段はそれぞれ母由来・父由来のセットです。1 番から 22 番までの常染色体と性染色体の X・Y、mt(ミトコンドリア染色体)とが示されています。

図 1.2 染色体

父由来

母由来

mt1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 X/Y

Page 7: 遺伝子型から表現型まで - 京都大学 · 第1章 遺伝――似ていることと似ていないこと 第2章 dna、rna、タンパク質、形質 第3章 多様性の諸相

71.2 遺伝子

(b)核染色体とミトコンドリア染色体の大きさのイメージ図です。ミトコンドリア染色体(約15,000 塩基対)を輪ゴムとすると、核染色体の短いものだと、1 本(約 0.5 億塩基対)は陸上トラックを 1 周(400 メートル)するくらいの 1 本の紐に相当します。長い核染色体だと、トラック 5 周分くらいになります。ミトコンドリア染色体は 1 細胞あたり 100 から 10,000個あるので、箱売りの輪ゴム数箱から数十箱分の輪ゴムがあることになります。

図 1.2 染色体(つづき)

染色体は大きく�つに分けられます。核染色体とミトコンドリア染色体です。核染色体は ��対の常染色体と �対の性染色体とからなります。性染色体はX,Yの �種類で女はXを �本、男はXとYを �本ずつ持ちます。受精に際して、卵子からは �セットの核染色体(��本の常染色体と �本の性染色体(X染色体))と多数のミトコンドリア染色体が、精子からは �セットの核染色体(��本の常染色体と �本の性染色体(XもしくはY染色体))が持ち込まれます。父親からはミトコンドリア染色体は受け継ぎません。対となる常染色体はよく似ていますが、�本の性染色体はかなり違います。X染色体とY染色体は共通の部分も持ちますが、それぞれに特異的な部分があり、長さも大きく異なります。ミトコンドリア染色体は、紐の両端がくっついた輪の形(環状)をしていますが、この環状染色体はバクテリアの染色体に見られる特徴です。はるか昔に真核細胞が今のミトコンドリアの祖先であるバクテリアを細胞内に取り込んだことに由来しています。ミトコンドリア染色体は核染色体に較べて非常に小さく、長さにして�万分の�程度ですが、個々の細胞は多くのミトコンドリア染色体を持ちます。その数は細胞によってばらつきがあり、�00 から �0,000 個くらいです。

陸上トラック

輪ゴム

Page 8: 遺伝子型から表現型まで - 京都大学 · 第1章 遺伝――似ていることと似ていないこと 第2章 dna、rna、タンパク質、形質 第3章 多様性の諸相

第 1章 遺伝――似ていることと似ていないこと�

■ Rを使ってみる

本書ではフリーの統計ソフト Rのソースを使って内容の理解を助けることにしています。Rのソースが読めなくても、内容の枠を理解することは可能ですが、Rのソースを読み取ることを前提として本書は書いてあります。�8.�節を参考に、是非、Rのインストールをして、Rを使えるようになってください。Rを覚えるためには、「はじめに」に挙げたR関連書や、"R統計 "という検索語でインターネット検索をすると必要な情報は得られると思います。本書に掲載した R のソースは、http://www.genome.med.kyoto-u.ac.jp/StatGenet/lectures/�0�0/StatGenetTextbook/Rsrc.zip からダウンロード可能です。Rをインストールして起動したのち、ダウンロードしたコマンドをコピー&ペーストして下さい。StatGenetDemo.Rというファイルを読み込ませると、すべてのソースファイルが順次実行されます。Rを覚えたい場合には、面倒くさくても、コマンドを自分で打つことも非常に有用です。ヒト染色体の大きさを表す棒グラフを描いてみます(R�-�.R)。

Rソース 1.1 R1-1.R:ベクトルに値を代入し、棒グラフを描く(関数 barplot( ))※左端の数値は行数、それ以外が R のコマンド

1 #染色体の長さ (単位:塩基対数 )

2 #chromLenに 24個の数値のベクトルを代入する 3 chromLen<-c(247249719,242951149,199501827,191273063,

180857866,

4 170899992,158821424,146274826,140273252,135374737,

134452384,

5 132349534,114142980,106368585,100338915,88827254,78774742,

6 76117153,63811651,62435964,46944323,49691432,154913754,

57772954)

7 #barplot(棒グラフ )を描く。データは chromLen、棒の名前は、 1:22(1,2,...,22)と "X","Y"のベクトル。色は黒 8 barplot(chromLen,names=c(1:22,"X","Y"),col="black")

◉ 1.2.3 遺伝子座、アレル、ハプロタイプ、ディプロタイプ、フェノタイプ

遺伝情報は染色体が担っています。遺伝子は遺伝情報の単位ですが、この単位はひも状の染色体の特定の部分に存在します。この位置のことを遺伝子座

(ローカス)と言います。染色体とその主要構成要素である DNA分子は線状

Page 9: 遺伝子型から表現型まで - 京都大学 · 第1章 遺伝――似ていることと似ていないこと 第2章 dna、rna、タンパク質、形質 第3章 多様性の諸相

�1.2 遺伝子

の構造をしているので、遺伝子座は、線状の地図の位置として表現されます。遺伝子は、遺伝情報を担うものであって、染色体・DNA上の位置で表すことができるものである、とも言い換えられるかもしれません。

ここで言う遺伝情報は、あるタンパク質のアミノ酸配列に関する情報の書かれた範囲全体を指してもよいですし、その発現制御領域のことを指してもよく、また、それらを合わせたものを指しても、反対にそれらのごく一部だけを指してもよいです。後述するように染色体の主要構成成分である DNA分子は、4 種類の塩基

(A,T,G,C)と呼ばれる部品が線状に並んだ構造をしていますが、その塩基 �つ �つにも遺伝情報はありますし、それが �00 万個連なった塊にも情報があります。長さが �塩基の部分を遺伝子座とみなし、染色体によって異なる塩基が対応しているとき、そこの遺伝子座を 1 塩基多型(SNP)と呼び、その座を占める塩基のバリエーションをアレルと言います(図 �.� の X)。ある長さにわたって遺伝子座とみなし、染色体によってその遺伝子座の塩基の並びが異なるとき、その配列の �つ �つがアレルで、ハプロタイプとも呼びます(図 �.� の Y)。また、タンパク質はアミノ酸がつながった構造をしていて、その情報がDNA上にコードされていますが、そのDNA上の情報は連続してコードされていることもあれば、いくつかの線分に分かれて並んでいることもあります。そのコードしている線分の �つ �つをエクソンと呼び、エクソンとエクソンの間をイントロンと呼びます。このエクソンとイントロンとで構成されるDNA配列全体を遺伝子座とすることもできます(図 �.� の Z)。

XY

Z

X は長さが 1 塩基、Y は複数塩基の長さのある線分、Z は複数の線分の集合であるような遺伝子座です。△は上下で異なる塩基の位置を示しています。

図 1.3 X, Y, Zが遺伝子座

Page 10: 遺伝子型から表現型まで - 京都大学 · 第1章 遺伝――似ていることと似ていないこと 第2章 dna、rna、タンパク質、形質 第3章 多様性の諸相

第 1章 遺伝――似ていることと似ていないこと10

このように、遺伝子座に配列のバリエーションがあるとき、そのバリエーションの �つ �つがアレル(対立遺伝子)です。DNA配列のタイプがアレルですが、遺伝子座の取り方によって別名があったり、名前の付け方が違ったりします。

遺伝子座の単位 1 塩基 塩基の組み合わせ・長さのある配列 遺伝子

アレルの別称 ハプロタイプ 遺伝子タイプ

例 "A", "G" "AGCT", "CCAT", "0011", "1101" " 野生型 ", " 変異型 X", "*0401", " タイプ 2"

染色体が遺伝子座に持つタイプがアレルです。個体は、染色体のセットを持ちます。常染色体の場合には、個体は両親に由来する �つのアレルを持ちます。個人が遺伝子座に持つタイプ(アレルの組み合わせ)がジェノタイプ(遺

伝子型)です。常染色体の場合には �つのアレルの組み合わせのタイプなので、ディプロタイプとも呼びます。

単位 1 塩基 塩基の組み合わせ・長さのある配列 遺伝子

例 "A, A", "A, G" "AGCT, AGCT", "0011, 1101" " 野生 , 野生 ", "*0401, *0901", "2, 2"

個体はジェノタイプを持つ一方で、フェノタイプも持ちます。これらは、単位をDNA分子とするか、そのペアとするか、個体とするかの違いがありますが、それぞれの単位でのタイプのことです。その名称がアレル(ハプロタイプを含む)、ジェノタイプ(ディプロタイプ)、フェノタイプです。

単位 染色体 染色体のペア 個体

名称 アレル(ハプロタイプ) ジェノタイプ(ディプロタイプ) フェノタイプ

◉ 1.2.4 2倍体、ホモ接合、ヘテロ接合、ジェノタイプ、フェノタイプ、遺伝形式

常染色体は父母由来の �本ずつの対で存在します。遺伝情報を重複して �組持っていることを意味します。このように �組持っている生物を 2 倍体と言います。ある遺伝子座について同じアレルを �つ持っているとき、その個体はその遺伝子座についてホモ接合体であると言い、異なるアレルを持っていると

Page 11: 遺伝子型から表現型まで - 京都大学 · 第1章 遺伝――似ていることと似ていないこと 第2章 dna、rna、タンパク質、形質 第3章 多様性の諸相

111.2 遺伝子

きには、ヘテロ接合体であると言います。ここから先では、�倍体生物のみを考えます。ヒトも �倍体です。�倍体生物は、常染色体上の遺伝子座にはアレルが �つあります。この �つのアレルの持ち方を個体のジェノタイプと言います。これに対して、個体の形質の様子がフェノタイプです。ジェノタイプがフェノタイプに影響を与える関係の中で最も明快な関係に、優性遺伝形式と劣性遺伝形式という関係があります。これについて考えます。今、� つのアレルMとmがあり、ある特徴を持つか持たないかの区別として、「あり」と「なし」というフェノタイプがあるとします。個体はMM,Mm,mmのいずれかのアレルのパターン(ジェノタイプ)でアレルを持ちます。アレルmがあるフェノタイプをもたらす因子であるとします。

表 1.1 ジェノタイプとフェノタイプの関係:2× 3表

MM Mm mm 計

あり n10 n11 n12 n1.

なし n20 n21 n22 n2.

計 n.0 n.1 n.2 n..

nij の i,jはそれぞれ行と列の番号を表していて、特に列番号は m の本数を表しています。また、最右の列は行に関する和、最下行は列に関する和を表しています。

記号Σについては、付録 B を参照。

フェノタイプが「あり」である率    , j = 0, 1, 2はジェノタイプごと

に異なります。これはジェノタイプ別の浸透率と呼ばれます。MMを基準として、各ジェノタイプの浸透率が何倍高いか(    )は、

ジェノタイプ相対リスク(genotype relative risk:GRR)と呼ばれます。l0 = 1です。

MM Mm mm

GRR l0 = 1 l1 l2

ヘテロ型(Mm)の GRRがホモ型(mm)のそれと等しいとき(l1 = l2)、

n n n n n niji

j ijj

j ijji= = ==

∑ ∑ ∑∑= = =1

2

0

2

0

2

1

2

. . ..; ; ;;

fn

nij

j

= 1

.

ljjf

f=

0

Page 12: 遺伝子型から表現型まで - 京都大学 · 第1章 遺伝――似ていることと似ていないこと 第2章 dna、rna、タンパク質、形質 第3章 多様性の諸相

第 1章 遺伝――似ていることと似ていないこと12

アレルmは �本でも �本でも同じ強さでフェノタイプに影響を与えていることになりますが、このとき、mのこの表現型への影響の仕方を優性遺伝形式と呼びます。逆に、ヘテロ型の GRRが基準のホモ型(MM)のそれと等しい(l1 = l0)とき、アレルmは �本揃って初めてフェノタイプに影響を与えていることになります。この形式を劣性遺伝形式と呼びます※4。優性とも劣性ともつかない中間的な形式には大きく分けて �つの定義がありますが、

と表せば、x = 0が劣性、x = 0.5が相加的(additive)、x = 1が優性です。

と表せば、y = 0が劣性、y = 0.5 が相乗的(multiplicative)、y = 1が優性です。x = 0.5のときは、

(l 0と l 2の相加平均※5)となるので、additive(相加的)モデル、

※4 今、着目しているフェノタイプを持つことに関してMが優性の形式を持つときには、「このフェノタイプを持たないこと」に関して、mが劣性の形式を持ち、Mが劣性の形式を持つときには、mが優性の形式を持ちます。

※5 平均と言えば、

相加平均(算術平均):

乗平均(幾何平均):

の他に、調和平均:

がありますが、調和平均に基づいた遺伝形式の議論はあまりされません。�要素の場合

には、      であることや、一般化した形式        の平均の定義(一

般化平均)を使えば相加平均、相乗平均、調和平均は、M1, M∞ , M-1であるとして捉えておくことは悪くないです。

l l l1 2 01= + -x x( )

l l l1 2 01= × -y y

ll l

10 2

2=

+

Ax

n nx x x

ii

n

n= = + + +=∑

11 2

1( ... )

H n

xii

n=

=∑ 1

1

G AH=

G x x x xii

n n

nn

1

1

1 2

1

( ... )

Mn

xp ip

i

n p1

1

1

Page 13: 遺伝子型から表現型まで - 京都大学 · 第1章 遺伝――似ていることと似ていないこと 第2章 dna、rna、タンパク質、形質 第3章 多様性の諸相

131.2 遺伝子

y = 0.5のときは、

(l 0と l 2の相乗平均)となるので、multiplicative(相乗的)モデルと呼びます。また、アレルmを �本持つ効果が �本持つ効果以下であるときは、0≦ x, y≦ 1ですが、アレルmを �本持つ効果が �本持つよりも強いことあることもあり、それは超優性(overdominance)と呼ばれますが、x, y > 1の場合に相当します。x, y < 0の場合はヘテロ型が着目している表現型を持たないことについて超優性である場合になり、x, y  (-∞ , ∞ )により、GRRに基づき、すべての遺伝形式が網羅できることになります。

l l l1 0 2= ×

Page 14: 遺伝子型から表現型まで - 京都大学 · 第1章 遺伝――似ていることと似ていないこと 第2章 dna、rna、タンパク質、形質 第3章 多様性の諸相