13
会計基準間の競争と コンバージェンス これは,計画をすべきかどうかに関する論争で はない。経済システム全体のための計画を,- つの権威ある主体によって中央集権的に行なう べきか,それとも計画を分割して多くの主体に 委ねるべきかに関する論争である。 F.A.日ayek(1945,E520-521) コンバージェンスとは何か? 本稿の目的は,会計基準間の市場競争によっ て,最適な会計基準を選択するような仕組みを 整えることを提言することにある(1)。この仕組 みの下では,財務報告する企業が,多様な選択 肢の中から,自社のニーズに最適な会計基準を 選んで財務諸表を作成することになる。そこで は,どの会計基準を採用したかという企業の選 択自体がマーケットに対するシグナルとして機 能することが期待できよう。企業は,資本コス トを最小化する会計基準を選択し,投資家は, 選択された会計基準の適切さも勘案しながら投 資意思決定を行なうことになる。 本稿で提言する会計基準間の市場競争システ ムは,近年の国際的動向である会計基準の国際 的コンバージェンスと真っ向から対立するもの である。もし,会計基準のコンバージェンスが 望ましいのであれば,会計基準間の競争という アイデア自体,市場に不必要な混乱をもたらす ものとして排除しなければならないことになろ (封夕) 慶衝義塾大学大学院助教授 太田康広 う。したがって,基準間競争システムを提言す るためには,そのメリット・デメリットを論じ るだけでなく,会計基準のコンバージェンスに ついても,メリット・デメリットを論じる必要 が出てくる。 ここで,会計基準のコンバージェンス(con- V(21’llence)というのは,かつてキーワードと されていた,会計基準の国際的調和化(har- mon弦atlion)の意味を強めたものだと考える。 当時の調和化の議論は,相互に矛盾するローカ ル基準の相違点を何とか解消していこうという 調整プロセスに力点があったといってよい。こ のような相違点は,いずれか一国で認められて いる会計方法をそのほかの国でも受け入れるこ とにすれば解消できる。 しかし,いずれか一国で認められている会計 方法を,国際的に認められた方法として無条件 に受け入れていては,企業が選択できる代替的 な会計方法の数が無制限に増加してしまう。そ こで,あまり一般的でない会計方法は禁止する ことにして,そのルールを許容している国にロ ーカル基準の変更を迫るごととなったようであ る。つまり,会計基準の国際的調和化というの は,会計ルールの相違点を減らしていくだけで はなくて,代替的会計方法をできるかぎり排除 していこうという動向を意味していた。 近年,この傾向に拍車がかかり,最終的には, 世界中の会計基準をシングル・セットの基準に 統合すべきだと広く信じられるようになった。 129 企業会計2007vo1.59N0.3

会計基準間の競争と コンバージェンスlabs.kbs.keio.ac.jp/ohtalab/Ohta_2007.pdfF.A.日ayek(1945,E520-521) I コンバージェンスとは何か?本稿の目的は,会計基準間の市場競争によっ

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会計基準間の競争とコンバージェンス

これは,計画をすべきかどうかに関する論争で

はない。経済システム全体のための計画を,-

つの権威ある主体によって中央集権的に行なう

べきか,それとも計画を分割して多くの主体に

委ねるべきかに関する論争である。F.A.日ayek(1945,E520-521)

I コ ン バ ー ジ ェ ン ス と は 何 か ?

本稿の目的は,会計基準間の市場競争によって,最適な会計基準を選択するような仕組みを整えることを提言することにある(1)。この仕組みの下では,財務報告する企業が,多様な選択

肢の中から,自社のニーズに最適な会計基準を選んで財務諸表を作成することになる。そこでは,どの会計基準を採用したかという企業の選択自体がマーケットに対するシグナルとして機

能することが期待できよう。企業は,資本コストを最小化する会計基準を選択し,投資家は,

選択された会計基準の適切さも勘案しながら投資意思決定を行なうことになる。本稿で提言する会計基準間の市場競争システ

ムは,近年の国際的動向である会計基準の国際

的コンバージェンスと真っ向から対立するものである。もし,会計基準のコンバージェンスが

望ましいのであれば,会計基準間の競争というアイデア自体,市場に不必要な混乱をもたらすものとして排除しなければならないことになろ

(封夕)

慶衝義塾大学大学院助教授

太田康広

う。 し た が っ て , 基 準 間 競 争 シ ス テム を 提 言 す

る た め に は , そ の メ リ ッ ト ・ デ メ リ ッ ト を 論 じ

る だ け で な く , 会 計 基 準 の コ ン バ ー ジ ェ ン ス に

つ い て も , メ リ ッ ト ・ デ メ リ ッ ト を 論 じ る 必 要

が出てくる。

ここで,会計基準のコンバージェンス(con-

V(21’llence)というのは,かつてキーワードと

さ れて い た , 会 計 基 準 の 国 際 的 調 和 化 ( h a r -

mon弦atlion)の意味を強めたものだと考える。

当 時 の 調 和 化 の 議 論 は , 相 互 に 矛 盾 す る ロ ー カ

ル 基 準 の 相 違 点 を 何 と か 解 消 して い こう と い う

調 整 プ ロ セ ス に 力 点 が あ っ た と い っ て よ い 。 こ

の よ う な 相 違 点 は , い ず れ か 一 国 で 認 め ら れ て

い る 会 計 方 法 を そ の ほ か の 国 で も 受 け 入 れ る こ

とにすれば解消できる。

し か し , い ず れ か 一 国 で 認 め ら れ て い る 会 計

方 法 を , 国 際 的 に 認 め ら れ た 方 法 と し て 無 条 件

に 受 け 入 れ て い て は , 企 業 が 選 択 で き る 代 替 的

な 会 計 方 法 の 数 が 無 制 限 に 増 加 して し ま う 。 そ

こ で , あ ま り 一 般 的 で な い 会 計 方 法 は 禁 止 す る

こ と に して , そ の ル ー ル を 許 容 して い る 国 に ロー カ ル 基 準 の 変 更 を 迫 る ご と と な っ た よ う で あ

る 。 つ ま り , 会 計 基 準 の 国 際 的 調 和 化 と い う の

は , 会 計 ル ー ル の 相 違 点 を 減 ら し て い く だ け で

は な く て , 代 替 的 会 計 方 法 を で き る か ぎ り 排 除

して い こう と い う 動 向 を 意 味 して い た 。

近 年 , こ の 傾 向 に 拍 車 が か か り , 最 終 的 に は ,

世 界 中 の 会 計 基 準 を シ ン グ ル ・ セ ッ ト の 基 準 に

統 合 すべ き だ と 広 く 信 じ ら れ る よ う に な っ た 。

129企業会計2007vo1.59N0.3

Page 2: 会計基準間の競争と コンバージェンスlabs.kbs.keio.ac.jp/ohtalab/Ohta_2007.pdfF.A.日ayek(1945,E520-521) I コンバージェンスとは何か?本稿の目的は,会計基準間の市場競争によっ

そ こ で , 会 計 基 準 の 国 際 的 相 違 点 を 完 全 に 解 消

す る と い う 意 味 を 込 め て , 調 和 化 と い う 表 現 に

代 えて , コ ン バ ー ジ ェ ン ス と 呼 ぶ よ う に な っ た

の で あ ろ う 。 要 す る に , コ ン バ ー ジ ェ ン ス の 本

質は,会計基準の国際的統一である(2)。

そ れで は , な ぜ 会 計 基 準 を 国 際 的 に 統 一 し よ

う と い う こ と に な っ た の で あ ろ う か 。 以 下 , 会

計 基 準 間 の 競 争 シ ス テ ム と 会 計 基 準 の コ ン バ ー

ジ ェ ン ス の メ リ ッ ト ・ デ メ リ ッ ト を 比 較 検 討 す

る。

II財務諸表の比較可能性と再計算コスト

会計基準を團際的に統一することのメリットとして,財務諸表の比較可能性が挙げられることが多い。会計基準が国際的に統一されていれ

ば,異なる国の財務諸表の比較が簡単になるからである。たとえば,研究開発費を支出期の費用としている国と資産計上した上で償却してい

る国とがあれば,研究開発支出を増やしている企業の財務諸表が与える印象は,両国においてかなりちがってくるであろう。このように印象の異なる財務諸表が与えられたとが,2つの財

務諸表を単純に比較しただけの投資家は,重要な意思決定を誤ることがあるかもしれない。また,財務諸表の見掛けに惑わされることのない

投資家であっても,会計基準のちがいを調整して投資判I祈をするためには,どちらかの基準にあわせて再計算をする必要が出てくる。ここで,会計基準が統一されていれば,このような誤った意思決定や再計算のコストを避けることができるかもしれない。しかし,会計基準が統一されていれば,財務

諸表の比較可能性が確保できるという理由によって,会計基準の国際的コンバージェンスが望ましいと結論するのは早計であろう。投資家がどのように財務諸表を利用しているかに関して

我々は十分な情報を持っているわけではない。たとえば,EVA(経済的付加価値)の計算で

130

は,研究開発費用は,販売促進費,広告宣伝費,人材育成費などとともに資産ストックとして扱い,毎期の償却額だけを収益から控除するように利益計算をやり直すことが提唱されている

(Stem,Shiely,andRoslら2()03)。こうした再

調整計算がっねに望ましいとはいえないが,少なくとも特定の目的のために,そうした調整計

算が望ましいと考えている財務諸表利用者がいることは事実である。かりに,このような財務

諸表利用者が市場で多数派を形成しているとするならば,研究開発費を支出期の費用とするよ

うな会計基準に統一すると,財務諸表分析における会計数値の再計算コストはコンバージェンスによってむしろ増加する。したがって,会計

基準を統一するのであれば,多くの利用者が望

ましいと考えている会計基準へと一本化することが重要となろう。それでは,いったいどうやって,コンバージェンスのゴールとなる最適な会計基準を見つけることができるのであろうか。

本来であれば,こういうときに頼りになるのは,会計に関する学術研究である。実際,ここ

数十年の分析的会計研究や実証的会計研究によって,数多くの理論命題や実証事実が蓄積されてきてはいる。しかしながら,筆者の見るところ,現代の会

計研究の学術水準は,先験的な推論のみにもとづいて,最適な会計基準を見つけられるようなレベルからはほど遠いように思う(3)。同じこと

は,概念フレームワークにもとづいた演緯的な

会計基準設定アプローチにもいえる。概念フレームワークは,現在までの学術的な成果や実務

上の経験則を取り込んではいるものの,その性

格は,現代の会計ルールの基礎をなす基本的な考え方の要約にすぎない。また,記述されているコンセプトも,必ずしも外延の確定した厳密なものとはいえないようである。このようなフレームワークを判断基準として,最適な会計基

準を論理的に演緯できると期待するのは楽観的にすぎるであろう(4)。

現時点においては,学術研究の水準からいっ

(必∂)企業会計2007vo1.59N0.3

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mll l

ても,実務的な基準設定アプローチからいって

も,先験的推論のみにもとづいて,最適な会計基準を発見するのは無理である。したがって,

会計基準を統一したほうが財務諸表の比較可能性が高まるとはいっても,ある程度の社会実験をしてみないと,どのような会計基準に統一したらいいのかわからない。最適な基準がわから

ないのであれば,経済主体の試行錯誤によって少しずつ,最適な基準へと近づいていくような仕組みを作り,その枠組みのなかで,最適解を

模索していくほかなかろう。そして,その最適解を模索するための仕組みとして,各国の会計基準設定機関のあいだの政治力学に委ねるスキームがよいのか,それとも,資本コストを低め

ようとする経営者と投資先の収益性をみきわめようとする投資家のあいだの経済力学に委ねるスキームがよいのかという点が問題となる。

111時と場所についての特定の状況に関する知識

もっとも,コンバージェンスのゴールとなる

最適な会計基準を特定できないという事実だけで,コンバージェンスを目指すべきでないと主

張するのも無理かおる。もし,大まかな傾向として,経済合理性のない会計ルールが淘汰され,

効率的なルールが生き残っていくという力が働いていれば,現存する多くの会計ルールは,最

適な会計基準から,それほど大きく隔たってはいないと期待できるからである。また,国際的に

会計基準を統一しようとすれば,基準設定プロセスに政治的圧力がないかぎり,国際的な平均に近い会計基準が生き残ることが期待できる(5)。そして,国際的に平均に近い会計基準は,概して,最適な会計基準に近いという考え方も成立つかもしれない。

しかし,平均的な意味で最適な会計基準が,

個々の地域において,最適な基準から大きく乖離するということはありうる。つい十数年前まで,日本の会計基準がアメリカ基準や国際基準

(4叙)

と大きく異なっていた理由は,必ずしも日本基

準の後昔匪とばかりはいえない。目本に固有の法的・経済的環境を与件として最適化を図った結果生じた会計基準も含まれていたはずである。一般に,中央集権的な意思決定は,分権的な

意思決定であれば取り込めたはずの「時と場所についての特定の状況に関する知識(the

knowledgeofthepart:icularcircunlsl2ances

()ftimeandl⊃lace)」を取り込むことに失敗する(Hayek,1.945)。つまり,各丿万[!拙劃司有の商

慣習などに関する情報を十分に取り込んで,国際財務報告基準が設定されるとはかぎらない。たとえば,日本では,短期の資金迎用目的で

保有される有価証券のほかに,取iミJ日列係jか協ブJ関係を顧慮して長期的に他社の株式を保有することがよくある。いわゆる株式持ち合いによって保有する部分がここに含まれる(6)。このよう

な株式持ち合いが,経済の効率性の観点から望ましいことなのかどうかは判断がわかれようが,事実の問題として一部の日本企業は株式を相互

保有している。しかし,このような日本の特殊事情a;外肋案し

て,IASBが最適な会計基準を設定してくれる

と考えることには無理かおるように思う。周知のように,長期的関係を顧慮して保有する株式に関する評価損益は,損益勘定をバイパスして,いったん,資本の勘定に直入され,それが実現

した期に純利益に戻し入れられる(7)。したがっ

て,純利益の数字は,持ち合い株式c7)時価の変

動から隔離されており,期末の株式市場の市況次第で大きく乱高下するようなことはない。日

本の企業も市場も,長期保有株式に関する評価損益を含まない純利益の数値に慣れ親しんでお

り,そ(ノ)時系列特性や企業価値評価に対するインプリケーションについても,ある程度,学習

が進んでいるといえるであろう。日木においては,純利益情報が一定の役割を果たしているといっていいように思う。

最近,IASBとFASBは,長丿切的には,純利益を廃止して,包括利益に一本化する方向を

企業会計2007vol.59N0.3 131

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目指すことで合意した(IASB,2006)。これは,純利益を廃止するだけでなく,評価損益の

資本直入とその戻し入れを禁止する趣旨である。この方向に沿って国際財務報告基準が改訂され,

日本がそれを受け入れるとなると,持ち合い株式等を保有する日本企業の最終業績は市況の変

動によって大きく変動することが予想される。この決議において,日本出身の山田辰己IASB

理事はただ一人反対を表明したという。日本経

済団体連合会も「本業の利益と,たまたま期末評価で増減した含み益を混ぜるのは妥当でない。

純利益の廃止は市場のニーズとかけ離れている」と主張していると報道されている(8)。別の例を挙げよう。日本では,大規模企業同

士の合併時において,どちらがどちらを吸収したのかを明らかにしない対等合併の形式を採用

するケースが見られる。こうした対等合併のケースでは,合併時に会長と社長をそれぞれ別の

企業から出した上,合併した後も精密なたすきがけ人事を行なう場合がある。また,合併前の

会社名を並べて新社名とする場合,和文会社名と英文会社名とで,旧会社名を並べる順序を入れ替える場合もある。日本では,形式だけでなく実質においても対等な合併が存在するといってよいであろう。このような企業結合に対してパーチェス法を

適用すれば,一方の企業が他方の企業を「取

得」したと考え,「取得」された企業の資産・負債だけを再評価することになろう。事実として「持分の結合」と考えられるような合併があるところで,IFRS3の規定をそのまま受け入れ,パーチェス法に一元化するのが,日本においても最適な会計ルールであるのかどうかについては慎重な判断が必要とされよう。

もっとも,日本のような先進国では,国際財

務報告基準に統一することによって生じる軋蝶は相対的に小さいといえる。会計基準のコンバージェンスを図るとき,一番,大きな軋蝶が生

じるのは,おそらく,イスラム教国家であろう。よく知られているように,イスラム教の教義

132

は,利子を取得することを禁止している。イスラム教徒を多数抱えるマレーシアでは,原則として,国際財務報告基準に準拠した会計基準を

採用するものの,イスラム教義の制約を尊重し,イスラム法にしたがった利子の処理を認めている。この方法では,受取利息および支払利息は

財務諸表に表示されず,預金者への利益分配として扱われることになる。さらに,マレーシアの銀行は,国際財務報告基準ではなく,イスラム会計基準に従わなければならないものとされている(中小企業基盤整備機構,2006,41)。

また,ムラーバハと呼ばれる転売の形式を取った金融では,実質的には利子に相当する利益を

資産売却益として計上することが重要なポイントになる。これを経済的実質に合わせて,利子として報告しては,深刻な宗教上の問題が生じることになろう(武藤,2005)。

今後,IASBが,イスラム教義に関する十分な理解をもって,真の意味で国際的に通用する

会計基準を設定するのかどうかについては,よくわからない。あるいは,イスラム教義を考慮することなしに国際財務報告基準を定め,これにしたがうようイスラム教国家に要請するのかもしれない。しかし,いずれのケースであっても,国際財務報告基準とイスラム会計基準のあいだの調整コストは決して小さくないであろう。

以上に挙げた,日本社会特有の慣行,イスラム社会特有び:)慣行は,多種多様なローカル情報

のうちの若干例にすぎない。実際には,ありとあらゆる地域経済で,その地域固有の慣行が存

在する。そして,このような慣行に関する知識は,国際的な統一会計基準の設定にあたって必

要不可欠のものである。しかし,これらの知識は,そもそも伝達することが不可能であったり,かりに可能であっても,その知識の伝達コストが禁止的に高い場合がれる。一般に,ローカルな情報にもとづいてローカ

ルに意思決定する仕組みが,表面上は科学的・

合理的に見える共産主義経済の中央集権的意思決定よりも優れているのは,伝達が困難な「時

(三三)企業会計2007vo1.59N0.3

C1

-

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lヽ,

で/1

t・

と場所についての特定の状況に関する知識」を

他人に移転することなく,それぞれのローカルな意思決定局面で利用できるからである。意思

決定に必要とされる情報量やその伝達効率の観点からは,国際的な統一会計基準の設定は,国別のローカルな基準設定よりもムダの多いものといえよう。

I V ど こ ま で ル ー ル を 統 一 す る 必 要が あ る の か?

会 計 基 準 が 統 一 さ れ て い る こ と の メ リ ッ ト を

考 察 す る た め に , ル ー ル 一 般 に つ い て 考 えて み

る と , ル ー ル の 内 容 そ の も の に 必 然 性 が あ る ケース と , ル ー ル の 内 容 に は 必 然 性 が な い が 決 ま

っ て い る こ と そ れ 自 体 が 重 要 で あ る ケ ース と が

あ る こ と に 気 づ く 。 「 人 を 殺 して は い け な い 」

「 人 の も の を 盗 んで は い け な い 」 と い っ た ル ール は , 内 容 に 必 然 性 が あ る ケ ース で あ り , 「 自

動 車 は 左 側 通 行 」 「 赤 信 号 は 止 ま れ 」 な ど の ルールは,内容には必j?刎生はないものの,決まっ

て い る こ とそ れ 自 体 が 重 要 な ル ール で あ る 。

後 者 の タ イ プ の ル ー ル は , み ん な が 同 じ ル ール に し た が っ て 行 動 す る よ う に コ ー ディ ネ ー ト

す る こ と で , 社 会 全 体 の 効 率 性 を 増 加 さ せ , 社

会 的 コ ス ト を 減 少 さ せる と こ ろ に 主 眼 が あ る 。

た と え ば , 「 自 動 車 は 左 側 通 行 」 と い う ル ー ル

に 関 して い え ば , 本 来 は , 右 側 通 行 で も 左 側 通

行 で も か ま わ な い が , 交 通 事 故 を 減 少 さ せ る た

め に は , ど ち ら か 一 方 に 決 ま っ て い る こ と が 重

要だということである。

し か し , こ の コ ー ディ ネ ー シ ョ ン の た め の ルー ル が 適 用 さ れ る 範 囲 は , そ の 規 整 対 象 の 性 格

に よ って , 広 く な っ た り 狭 く な っ た り して よ い 。

筆 者 が 観 察 す る と こ ろ で は , 駅 な ど の エ ス カ レー タ 上 で 立 ち 止 ま る と き , 東 京 や 横 浜 で は エ ス

カ レ ー タ の 左 側 に 立 ち , 右 側 を 追 い 抜 く 人 の た

め に 空 け て お くの が 一 般 的 な ル ール で あ る が,

大 阪 や 京 都 で は 左 右 が 逆 の よ う で あ る 。 一 見 し

た と こ ろ , 日 本 国 内 に お い て 右 側 と 左 側 が 逆 に

(45∂)

なるようでは,人々の行動のコーディネーションに失敗し,大きな混乱につながりそうであるが,現実には,関東と関西で逆のルールが,社

会的に大きな混乱を招いているようには見えない。要するに,関東から関西1こ出かける人や関

西から関束へ出かける人が,ルールが逆であることを意識しておけば済むのである。

ここで,エスカレータの立ち位置カ{左右不統一であっても大きな問題にならないのは,コー

ディネーションが失敗した場合の社会的コストが十分に小さいからである。しかし,コーディネーション失敗時のコストが十分に大きい場合にはルールの統一が必要とされる。たとえば,

日本国内で自動車が左側通行すべきか右側通行すべきか統一されていないとなると多数の交通

事故が発生することが予想されよう。したがって,人々が頻繁に自動車で移動する日本国内では左右どちらかに統一されている必要かおる。そして,日本国内では,自動車は左側通行することになっている。

ただし,「近年のグローバル化の進展にともない,国際的に人的な交流が活発になったため,グローバル・スタンダードの右側通行に合わせるべきだ」という意見がでてくる余地はある。

現実問題として,国民の多くが|三|’常的に右側通行の国に行き来するようであれば,日本だけ独自のルールを貫く余地はないであろう。実際,カナダの州が隣接するアメリカの州と:;剛胆こ異なる交通ルールを採用することはない。

しかしながら,現在までのところ,日本のような左側通行の国とアメリカやカナダのような

右側通行の国の両方が存在していても,大きな混乱はないようである。おそらく,左側通行の国と右側通行の国の両方で車を運転する人の割合がそれほど大きくないからであろう。そのような少数の人々の便宜のため,日本中を右側通行に変えるのは割にあわないはずである。北米で車を運転する日本人は,北米へ行ったときだ

け,右側通行に慣れるようにすればよい。結局のところ,グローバルなルールとローカ

企業会計2007vol.59N0.3 133

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ルなルールが異なっている場合,グローバルなルールに揃えたほうがいいのかどうかは,国際

的なヒト・モノ・カネの往来がどれくらいあるのかに依存する。国際的にルールが統一されていないことによって生じる軋條・コストと,国

内のルールを変更することによって生じるコストの大小関係を衡量すべきであろう。会計ルールに関していえば,国際的な資本調達が現実に

どれくらいあり,それが国内のすべての企業のルールを変更することを正当化するほどの重要

性を持っているかどうかが判断基準である。現在,約3,800社ある上場企業のうち,米欧

市場から資本調達している企業の割合はいかほどであろうか。また,将来,どれくらいの企業が米欧市場から資本調達を予定しているのであ

ろうか。かりに38社とすると1パーセント,

n4社とすると3パーセント,304社としても8パーセントである。数パーセントの企業が財務

諸表を二重作成しなくて済むように,すべての企業の財務諸表作成ルールを変更することが正

当化できるのであろうか。むろん,国際的資本調達を行なう企業は一般

に大規模企業と考えられるので,金額ベースでの割合はもっと高くなるはずである。しかし,大規模企業であれば,目本基準と国際財務報告

基準双方にしたがって2種類の財務諸表を作成する能力を十分に備えており,相対的に少ないコストで財務諸表を準備できるかもしれない。

こうした大規模企業が2種類の財務諸表を作成

するコストが,すべての企業;と,i国際財務報告基

準にしたがって財務諸表を作成するように制度を変更した場合のコストよりも大きいということは考えにくいであろう。

V複数の管轄区域

前 節 で 諭 じ た と お り , コ ー ディ ネ ー シ ョ ン 失

敗 の 社 会 的 コ ス ト が 十 分 に 大 き い と き , ヒ ト ・

モ ノ ・ カ ネ が 頻 繁 に 往 来 す る 範 囲 に お いて は ,

ル ー ル が 統 一 さ れ て い る 必 要 が あ る 。 こ の ル ー

134

一 一 -

ルが統一されている区域のことをかりに管轄区

域と呼ぶことにする。通常,1つの国家は1つの管轄区域を構成し

ていることが多いが,国によっては,複数の管轄区域を設けているケースがある。たとえば,アメリカ合衆国の州法と連邦法の重層的構造は,

複数の管轄区域の並立制である。地政学的条件,気候条件,人種構成,経済的条件などが異なる各州にすべて同じルールを強制するのは現実的ではないからであろう。ルールを具体的に適用

する局面における「時と場所についての特定の状況に関する知識」をルールにうまく取り込むためには,ルールを決定する主体とルールが適

用される主体の距離があまりに離れてしまっては都合が悪いのである。しかし,アメリカ合衆国の分権的ルール決定

は,たんに「時と場所についての特定の状況に

関する知識」を取り込むというメリットがあるというだけにとどまらない。範囲を限定して社会実験ができるというメリットも大きいように思う。日本やヨーロッパのように,すでにアメリカ

でテスト済みのルールを輸入する場合には,そ

のルールがうまく機能しないリスクが十分に小さいため,社会実験が失敗した場合のコストの

期待値はさほど大きくない。しかし,世界ではじめてのルールを導入するとなれば話は別である。前例のないルールを導入することの多いアメリカの場合,新しいルールを全州で一斉に試

すことにしては,予想されるコストやリスクが大きすぎるケースがある。そこで,各州の自主性にまかせてさまざまな

ルールを採択してもらい,うまく機能したルールを模範事業会社法などのモデル法のかたちで

とりまとめれば,最適なルールに近いルールがモデル法を構成することになる。各州は,再び,モデル法をもとにルールの微調整を行なえばよい。どうしても,ルールが収斂しないのであれ

ば,経済主体は,最適なルールを「足で」選択することになろう(9)。

(4甜)企業会計2007vol.59N0.3

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もっとも,アメリカ合衆国も,会計基準に関しては分権的ルール決定システムを採用していない。SECから会計基準設定権限を委任されたFASBが合衆国全体に適用される財務会計基準を設定している。全米に適用される会計ルールを設定するにあたって,FASBはドラス

ティックにルールを変更することはあまり多くカいようである。物価変動会計情報のように,

新しいルールを時限ルールのかたちで試す社会剣験を行なうこともあったものの,そのようなケースはむしろ例外であろう‰FASBはどち

らかというと,新しい経済事象に対して,既存のルールを少しずつ変化させて行く漸進的なアプローチを採用しているように思う。こうした

漸進的なアプローチを採用しているのは,会計基準に関して分権的ルール決定システムを採用していないことと無関係ではないはずである。ドラスティックなルール変更が不適切であった

場合に発生する社会的コストが無視できないほど大きいため,漸進的なアプローチを採用せざ

るをえないのであろう。アメリカが社会的コストをかけて会計基準を

設定してくれているおかげで,日本やIASBは会計基準設定コストを大幅に削減することが可能になっている。日本の会計基準や国際財務

報告基準のほとんどは,アメリカの財務会計基準をもとにして,これに修正を加えたものといってよい。そして,日本やIASBが独自に修正した部分は,アメリカ基準がそれぞれの地域の固有の条件にうまく適合しないケースか,そもそもアメリカ基準が最適なルールから乖離しているケースの可能性が高いといえそうである。

しかしながら,ルールが異なる部分が,地域固有の1と罫情によるのか,アメリカ基準が最適基準から乖離しているからなのかを判定する材料がないので,さしあたり,各基準の共通部分をモデル・ルールとして取りまとめ,ローカル・ルールとモデル・ルールとのフィードバック・ループを構成するようなシステムを考えること

ができるであろう。もし,国際財務報告基準が,

並列するローカル基準の共通部分をまとめたモ

デル・ルールとして機能するならば,国際社会全体を通じた重層的な会計基準設定システムが

構築できる(11)。この緩やかな結合システムの下では,ローカ

ルな会計実践から「時と場所についての特定の

状況に関する知識」を汲み上げて地域的な最適

化を図ることも可能となる。さらに,新しい経済事象が発生した場合,その取引の頻度の大きい地域が個々別々に新しい会計ルールを工夫し,

それがデファクト・スタンダードとなった段階で,モデル・ルールたる国際財務報告基準に組み込んでいけばよいであろう。重層的り洲往的

な会計ルール決定システムは,地域的な最適化と新事象に対処するダイナミックな最適化を実

行する上で,考慮に値する方法である㈲。

VI会計基準のー方的受容

前節では,経済主体の行動のコーディネーションに失敗した場合のコストが十分に大きいことを前提1こ議論した。しかし,会計ルールが複

数存在することによって生じるコーディネーション失敗コストが本当にそれほど大きいのかど

うかという点についても検討する必要かおるように思う。現在,アメリカの市場で資本訓達するため,

アメリカ会計基準にしたがって財務諸表を作成している企業は,一定の要件を充たす場合には,これを日本国内向けにも使用することが許されている㈲。これは,昭和52年(四77年)に,連

結財務諸表制度を導入した時点で,すでにアメリカ会計基準による連結財務諸表を作成していた39社について,アメリカ会計ミ肢準による連結

財務諸表を日本国内向けにも使用することを認めた特例を,これら39社以外にも認めたもので

ある。この措置によって,日本企業のうち,アメリカの証券市場に株式公開している会社は,2種類の連結財務諸表を作成する必要がなくな

った。

(455) 企業会計2007vol.59N0.3 135

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このルールの改正にあたって金融庁に寄せら

れたパブリック・コメントの中には,アメリカ会計基準にしたがった財務諸表だけでなく,国際会計基準にしたがった財務諸表も認めるべきではないかという意見がある。これに対して,金融庁は,團際会計基準は,日本において長い

開示実績をもつアメリカ会計基準とは異なる面もあるため,今後の検討課題とすると答えている(金融庁,2002)。

現在,日本市場においては,日本の会計基準にしたがっている企業とアメリカの会計基準に

したがっている企業とが併存しており,そのことによって作り出される軋椋は確かに存在している。たとえば,連結子会社とする判断基準が

日米の基準で異なるため,企業の親子関係が非対称的になっているケースがある。2006年8月31日,ダイエーは,丸紅が親会社に該当する見込みとなったと発表した。丸紅のダイエー株保

有比率は44.6パーセントであったが,実質支配力基準を適用して,丸紅がダイエーを実質支配しているものと判断したわけである。しかし,アメリカ基準を採用している丸紅は,形式的持

株比率基準にしたがい,ダイエーを連結子会社ではなく持分法適用会社とする方針であると報じられている㈲。ダイエーは丸紅を親会社と認

知しているのに,丸紅はダイエーを子会社と認知していないなどという非対称的な事象が生じているのも,日本国内に複数の会計基準が存在しているからであろう。このように複数基準並立によって,若干の混

乱が危惧されるのは事実である。問題は,こうしたコーディネーションの失敗による社会的コストが許容できないほど大きいのかどうかであ

ろう。もし,コストが看過できないほど大きいのであれば,すべての企業に日本基準またはアメリカ基準による会計報告を義務づける必要がある。数からいえばアメリカ基準採用企業のほうが少ないので,日本国内でアメリカ基準を採用することを禁止しなければならないことになろう。

136

しかしながら,複数基準並立による社会的コストは,本当にそれほど大きいのであろうか。

上記のケースのように,複数基準並立による軋

蝶事例は報道されているものの,一般論としていえば,その数はさほど多くないように感じら

れる。少なくとも,複数の会計基準が使われているために,日本の資本市場が大混乱に陥っているとまではいえないであろう。

もし,日本市場にアメリカ基準を採用する企

業が存在しても大きな混乱が生じないのであれば,これに加えて,国際財務報告基準を採用する企業が存在しても大きな混乱は生じない可能

性が高い。日本の会計基準がヨーロッパでそのまま認められず,ヨーロッパで資本調達する企

業が国際財務報告基準で財務諸表を作成したり,大幅な追加開示をしなければならないことになったときは,国際財務報告基準で作成された財

務諸表を日本国内向けに使用することを許可すれば,財務諸表の二重作成問題は解決するはずである。アメリカ基準に続き,国際財務報告基

準を日本市場で全面的に受け入れればよい。もっとも,衿持の問題がいくらかは残る。現

在のように,各国の会計基準設定機関のあいだの政治力学で国際的なルールを決定するスキームを前提とすると,日本市場でアメリカ基準や

国際財務報告基準を一方的に受容するのは,政治的敗北であるかのように考える人も出てこないとはかぎらない。最終的に,世界にたった1

種類の会計基準しか存在を許されないのであれば,会計基準設定ゲームが国家間の政治闘争の

様相を帯びるのは無理からぬことである。しかし,会計ルールを市場における基準間競

争によって決定するために,アメリカ基準や国際基準を受け入れるということは,「国際会計基準戦争」に敗北し,他国の支配に屈するということとは異なる。むしろ,アメリカ基準や国際基準を日本基準と同列に並べてみて,本当はどの基準が一番優れているのかを判定するための社会実験を行なうということである。アメリカ基準や国際基準が本当に優れているのであれ

(垂証)企業会計2007vo1.59N0.3

()

()

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・--!

11

ば,企業と投資家のあいだの情報の非対称性を

緩和し,企業の資本コストを低減させるであろう。したがって,多くの企業が優れた会計基準を自発的に採用することになるにちがいない。あるいは,小規模企業や大規模企業,資本集約

度の高い企業や労働集約度の高い企業といった属性に応じて,選択される最適な会計基準が異なってくるのかもしれない(15)。もちろん,このような社会実験には一定のコ

ストがかかるが,そのコストは日本市場が負担

できないほど大きいとは筆者は思わない。とく

に,すでにアメリカ基準で財務諸表を作成することを認めている状況で,国際財務報告基準に

もとづいた財務諸表を追加的に認めることにしても,さほど大きな混乱は生じないものと予想

する。もっとも,日本基準,アメリカ基準,国際基

準という3つの基準のなかで,一番利用されそうなのは,いうまでもなく日本基準である。これは,日本基準が優れているからではなく,日

本市場では日本基準が一番普及しているからである。コンピュータのソフトウェア,ビデオの

記録形式,会計基準など,ネットワーク外部性があって,ポジティブ・フィードバックが機能

するものについては,採用する人や企業が多いということそれ自体が,そのルールや製品の普

及を促進する。すでに日本基準が普及している日本市場において,アメリカ基準や国際基準が普及するためには,日本基準に対するかなりの優位性が必要とされよう。そ し て , ヨ ー ロ ッ パ 証 券 監 督 者 委 員 会

(CESR)が認めるとおり,すでにこれら3つの基準は,本質的に同等である(CESR,2005)。日本基準とほとんど変わらない会計基準を追加的に日本市場に導入したところで,日本基準の優位が崩れるとは考えにくい。別のいい方をするなら,日米欧三極に関して,会計基

準のコンバージェンスは,実質的にはすでに終了しているのである。

VII会計基準設定機関の分割

前節の終わりに述べたとおり,日本基準,アメリカ基準,国際財務報告基準の内容は,実質

的にほとんど同じである。しかしながら,この事実は,最適な会計基準を市場競争によって選択していくというシステムにおいてはむしろマイナスである。会計基準間の市場競争といっても,ある程度の選択肢が用意されなければ実質

的な意味はないからである(旧。そこで,人為的に会計基準の数を増やし,多楡吐を確保することが考えられる。

具体的には,日本の会計基準設定機関を2つか3つに増やし,アメリカ基準や国際基準のほ

か,複数の目本基準のなかから,企業がr万nT[にルールを選択できるようにすればよい(17)。これ

によって,支配的な会計基準のネットワーク外

部性が緩和され,市場競争により,最適な会計基準が選択されていくことが期待できる。さらに,会計基準設定機関の運営費用を,そ

の機関が設定する基準を採用した企業から徴収した資金で賄うことにすれば,各機関は優れた

会計基準を設定しようとしのぎを削ることになろう。企業が資本コストを最小化する会計基準を望み,投資家が情報の非対称性を効果的に緩

和する会計基準を望んでいるかぎり,会計基準設定機関間の競争は,資本コストを低減レ|貴報の非対称性を緩和させる会計基準を発見するレースヘとつながる(18)。また,ルール普及のため

には,基準のわかりやすさも重要なので,会計

基準の文章自体がわかりやすくなるものと期待できる。それだけでなく,ハンドブック,マニュアル,‘テキストのたぐいが整備され,新基準

を説明するセミナーやトレーニング・プログラムなども盛んに開かれるようになるにちがいない。各会計基準設定機関ごとに,自機関の会計

基準に関する認定資格を設けて,資格試験を実施したりすることも考えられる。このような基準普及活動は,投資家の会計基

(万万) 企業会計2007vol.59N0.3 137

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準に関する理解度を底上げし,企業と投資家のあいだのコミュニケーションを円滑にすることで,資本市場における情報の非対称性を緩和す

ることにつながるものと期待できる。したがって,ひいては,稀少資源の効率的配分に資する

はずである。ただし,会計基準設定機関の分割・細分化を

やりすぎると,それは実質的に会計基準を撤廃することと変わらなくなることに注意が必要である。多数の会計基準が乱立し,企業が自由にルールを選択できるということは,「一般に認

められた会計原則」が確立された状態以前の時

代に逆戻りするということにほかならない。ほとんどすべての主要国が完全に自由な財務報告を認めていないという現状から判断するに,企

業が完全に自由に会計ルールを選択できる状態が最善であるとは考えにくい。しかしながら,単独の会計基準設定機関によ

る国家独占,さらには,単独の会計基準設定機

関による世界独占という仕組みが最善であるということもまた立証されていない。完全に自由

な財務報告制度と単独の会計基準設定機関による世界独占というのは,考えられるすべてのシステムのなかで,両極端のケースに相当するの

である。現代の市場においても,債券格付け機

関や証券取引所については複数主体の競争がよいとされていることに鑑みると,会計基準のコンバージェンスが望ましいという主張は,説得

力ある追加的な説明を必要としているように思う。なお,ここで提案した会計基準間の市場競争

システムでは,最終的に,単独の会計基準が市

場を独占してしまうという結果を排除していない。かりに5つの会計基準を競争させるとすれ

ば,最終的に市場競争を生き残る会計基準は5つ以下にはなるが,場合によっては,1つの基

準しか生き残らないケースも起こりうるのである。つまり,基準間競争システムは,単一機関による基準設定システムを特殊ケースとして含んだ一般的なものである。市場競争の結果,ど

のような状態に到達するのかあらかじめ予想するのは困難ではあるが,複数の会計基準設定機

関の並立による寡占構造が,単一機関の独占よりも望ましい結果につながる可能性は少なくないように思う。

VIIIダーウィンの小宇宙

本 稿 で 述 べ た よ う な 会 計 基 準 間 の 市 場 競 争 と

いうアイデアは,DyeandSundeIT(2001),

Sunder(2002a),Sunder(2002b),Ben-

ston,Bromwich,Litan,andWagenhofer

(2003),FeamleyandSunder(2005),Sun-

der(2006)によってすでに提案されているも

の で あ る 。 と く に , 交 通 ル ー ル の 比 喩 ,

Hayek(1945)のアイヽデアと会計基準設定プ

ロセスとの関係などは,Sunder(2006)に習

っ た も の で あ っ て , 筆 者 の 独 創 で は な い 。 基 準

間 競 争 シ ス テ ム の アイ デ ア は , 会 計 研 究 者 の あ

い だ で は , ご く 標 準 的 な 考 え 方 で あ る よ う に 思

う(19)。

ま た , 基 準 間 競 争 シ ス テム は , 企 業 会 計 基 準

委 員 会 の 中 期 運 営 方 針 の 中 で も 言 及 さ れ て い る

(企業会計基準委員会,2004,5)。これは,日

本 の 会 計 基 準 設 定 機 関 が , コ ン バ ー ジ ェ ン ス に

ど の よ う に 対 処 して い く か に 関 す る 基 本 的 な ス

トラテジーでもあるようである。

し か し , 会 計 基 準 設 定 機 関 の 政 治 力 学 に よ っ

て コ ン バ ー ジ ェ ン ス を 達 成 し よ う と い う 枠 組 み

の 中 で , 市 場 の 経 済 力 学 に よ っ て 達 成 さ れ る で

あ ろ う コ ン バ ー ジ ェ ン ス の 結 果 を 先 読 み し て 基

準 に 取 り 込 んで い く の は , 現 実 問 題 と し て か な

り の 困 難 を と も な う で あ ろ う 。 ま た , 政 治 力 学

に よ る コ ン バ ー ジ ェ ン ス の 枠 組 み の 中 で , 基 準

間 競 争 が 最 適 解 へ 収 斂 して い く ド ラ イ ビ ン グ ・

フ ォ ース を ど の よ う に 活 か して い く こ と が で き

る の か , 具 体 的 な ス ト ラ テ ジ ー も 見 え な い 。

や は り , 会 計 基 準 の コ ン バ ー ジ ェ ン ス の 流 れ

の 中 で , 基 準 間 競 争 シ ス テム の 利 点 を 取 り 込 も

う と い う 方 針 は , 基 本 的 に 無 理 が あ る よ う に 思

138 企業会計2007vo1.59N0.3 (j三三腸)

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|!J

う。基準間競争システムにおいては,競争の結

果,シングル・セットの会計基準に収斂するのかどうかすら事前にはわからない。たとえば,

中小企業でよく利用される会計基準,無形資産が大きな役割を果たす産業でよく利用される会

計基準など,複数の基準が並立する最適解に落ち着く可能性も高い。さらに,地域ごとに別の会計基準の組み合わせが最適になる可能性もある。

基準間競争システムは,種の多様性を確保した上で,その種のあいだの生存競争によって,

最適な基準を探りあてるダーウィンの小宇宙を人為的に作り出すものである(m。あまり多様性を確保しすぎると最適解への収束が遅くなるものの,あまり均一化しすぎると大域的な最適解へ到達しなかったり,環境が激変したときに不

適合の度合いが大きくなって混乱を招くことになりかねない。システムに付与する初期値として,どれくらい差異のある会計基準セットを準

備すればよいのか,今後,議論していく必要があろう。本稿が,基準聞競争システムに関する活発な議論の喝矢となれば幸いである。

(注)

剛 本 稿 の 内 容 ・ 提 言 は , D y e a n d S u n d e r

(2001),Sunder(2002a),Sunder(2002b),

FeamleyandSunder印005),Sunder(2006)

に依拠している。

( 2 ) む ろ ん , ど の 程 度 等 し い こ と を も っ て 「 統 一

さ れ た 」 と 考 え る か と い う 問 題 は 残 る 。 究 極 的

に は , 実 務 指 針 の よ う な ロ ー カ ラ イ ゼ ー シ ョ ン

を 一 切 認 め ず, 会 計 基 準 を 現 地 語 へ 翻 訳 す る だ

け に と ど め る と い う 考 え 方 も あ り う る 。 ま た ,

も っ と 緩 や か な 意 味 で , ど の 国 も 実 質 的 に ほ ぼ

同 等 の 会 計 基 準 を 採 用 し て い れ ば , 会 計 基 準 の’ 国 際 的 統 一 が 達 成 さ れ た と 考 え る 立 場 も あ ろ う 。

い ず れ の 立 場 に 立 つ か に よ っ て , コ ン バ ー ジ ェ

ン ス の 評 価 は か な り ち が う も の に な る は ず で あ

る 。 現 実 に , コ ン バ ー ジ ェ ン ス の 意 義 が 揺 ら い

でいることについては,辻山(2006)を参照せ

よ。

(4印)

(3)た だ し , 新 し い ル ール が 導 入 さ れ た と き に ,

そ の 経 済 的 帰 結 を 分 析 す る た め の 理 論 研 究 や 実

証 研 究 が 行 な わ れ る こ と が あ る 。 こ の よ う な 研

究 は , 導 入 さ れ た ル ー ル の 妥 当 性 を 評 価 す る 上

で 重 要 な 判 断 材 料 を 提 供 す る も の と い え る 。

(4)概念フレームワークは,目的適合性(rele -

vance)や信頼性(r(:Hiability)のように,議論

に あ た っ て 注 目 す る ポ イ ン ト や 用 詔 を 整 理 し ,

コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン を 円 滑 に す る た め の 枠 組 み

と 理 解 す る の が 適 切 で あ ろ う 。

( 5 ) 現 実 に は , か な り の 政 治 的 バ イ ア ス か お る だ

ろ う 。 こ れ は , 政 治 力 学 で 会 計 基 準 を 決 定 し よ

う と す る か ぎ り , や む を え な い こ と で あ る 。

( 6 ) 日 本 企 業 の 株 式 持 ち 合 い は 一 時 期 よ り 大 幅 に

減 少 し た が , こ こ に き て , 復 活 の 兆 し が あ る と

の 報 道 も あ る 。 「 株 持 ち 合 い √ じ わ り 復 活 一 鉄

鋼 ・ 電 鉄 な ど 事 業 会 社 間 で, 買 収 防 術 を 優 先 」 ,

『『1本経済新聞』,2006年4月27「圀」刊,3ページ。

(7)IAS39,para.55および「金融商IWIに係る会

計 基 準 」 第 三 ・ 二 ・ 4 を 参 照 せ よ 。

(8)「企業会計基準の作成専門機関,欧米,純利益

廃止で合意」,『ト1本経済新聞』,20()6年11月16日

朝刊17ページ。

( 9 ) こ の 「 足 」 に よ る 投 票 の 例 と して , デ ラ ウ ェ

ア州の会社法が挙げられよう。現在,For山ne

500にランクされる企業の60パーセントがデラ

ウ ェ ア 州 法 に も と づ い て 設 立 さ れ た 会 社 で あ る 。

ま た , アメ リ カ で 新 規 上 場 を 果 た す 企 業 の 7 0 パー セ ン ト 超 が デ ラ ウ ェ ア 州 で 設 立 さ れ て い る 。

記事,“ServingasthePremierCorporate

HomeforAm(2rica’sBus仔l(?sses,”T加j/た/・ア・θ-

即Z汲z刄Cθ順y❹gCr7z,s❼,Nc3囮leastEdi-

|:i()nJ4(4),Apri12006J)age5工を参照せよ。

(10)物価変動会計情報は,SECによるASR190

やSFAS33によって要求されるようになったが,

SFAS82によって開示が要求されなくなった。

こ の ケ ー ス に 関 す る 実 証 研 究 は 数 多 く あ る 。 た

とえば,Bublitz,I?recka,anclMCKeown

(1985)を見よ。

( 1 1 ) ア メ リ カ の 州 法 と モ デル 法 の フ ィ ー ド バ ッ

ク ・ ル ープ の 考 え 方 を 国 際 的 な 基 準 設 定 プ ロ セ

スに取り込むことは斎藤(2006,1582)でも提

案されている。

企業会則‘2007vol.59N0.3 139

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(摺実は,調和化プ・セスに拍車がかかる前の国

際会計基準と各国会計基準の関係が,このシステムの構造に近かったのかもしれない。

(13)「連結財務諸表の用語,’様式及び作成方法に関する規則」,昭和51年10月30日大蔵省令第28号,

最終改正:平成18年4月26日内閣府令第56号,

第93条から第96条を参照せよ。

㈲以上,「ダイエー『丸紅は親会社』,丸紅『ダイエー は 非 子 会 社 』 会 計 基 準 異 な り 定 義 “ 混

在”」,『日本経済新聞』,2006年9月1日朝刊,

1ページより。

㈲どのような会計基準がどのような局面で選択されるのかに関する知見の集積には,実証的会

計研究が大きな役割を果たすはずである。

㈲この事実は,Bqnston,Bromwich,Litan,ElndWagenhofer(2003)においても指摘され

ている。

(17)もちろん,期間比較の問題があるから,ある

程度の継続性を求める必要はあるだろう。たとえば,会計基準セットの変更は5年に1度程度

に限定することが考えられる。

(川弊害として,ほかの基準から移行しやすいように過年度の財務諸表の再表示ルールを簡略化

する会計基準設定機関が出てくる可能性が危惧

される。たとえば,減損会計に関して緩やかな

基準セットから,減損会計に関して厳格な基準セットヘ移行する場合,移行ルールによっては,

損益計算書を一度も通すことなく減損処理が完了するケフスも出てくるかもしれない。この場

合,たとえば,金融庁のような外部機関で移行ルールをメタ・ルールとして設定する必要があ

るであろう。この可能性を指摘してくれた匿名

のコメンテーターに感謝する。

(川基準間競争システムを提言しないまでも,会

計基準のコンバージェンスに対する否定的な見

解 は 一 般 的 で あ る 。 い わ ゆ る 実 証 会 計 理 論

(positiveaccountingtheory)の観点から,コンバージェンスに否定的な見解を述べたものに

Watts(2006)がある。叫対象は異なるものの,数値計算における遺伝

的アルゴリズムや遺伝的プログラミングが類似のアプローチを採用している。

140

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佐藤紘光[監訳]/奥村雅史/川村義則/大鹿智基/内野里美AS判・囲ロ頁・定価6,72ロ円

●よA.クリステンセン/よS.デムス牛による注目の一冊を邦訳。発生主義会計というグラウンドから会計情報の本質・優位性をF!月快に解明。

〈主な目次〉第1部基礎報告を行う組織/古典的な基礎/会計の基礎/隋報のモデル化/佃人レベルでの情報の利用/情報チャネルとしての会計システム第2部情報内容価値評価の設定における情報/価値評価の設定における会計陪報/価値評価の設定における会計時報と非会計情報/経営者との契約における情報/経営者との契約における追加情報/利用目的間の対立第3部比較優位性認識/監査された発生項目の情報内容/条件付認識/異J・[!!点問の発生項目/1期間内の発生項目第4部エンド・ゲーム制度的考察/専門家としての機会と責任

(必し7) 企業会計2007vol.59N0.3 141