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プレスリリース
2016 年 8 月 10 日
報道関係者各位
慶應義塾大学医学部
肥満に伴う大腸の炎症が、糖尿病発症につながることを明らかに
1.研究の背景 2型糖尿病(注 4)は、患者数が 2000万人にのぼる国民の 5人に 1人はかかる成人病で、網膜症や腎症といった合併症を引き起こし失明や透析の原因となるだけでなく、高血圧症、脂質異常
症と共に動脈硬化性疾患(心筋梗塞や脳梗塞)を誘発し、健康寿命が短縮する病気で す。2 型糖尿病を発症する主な原因の 1 つとして、肥満や高脂肪食の過剰摂取に伴い、全身でのインスリンの効きが悪くなる「インスリン抵抗性」という考え方が知られていますが、肥満によ
りインスリン抵抗性が起きる理由については今なお解明されていない点が多く、インスリン抵抗
性発症メカニズムの研究は医学的・社会的に最も重要な課題の 1つといえます。 2. 研究の概要 これまで、肥満に伴うインスリン抵抗性発症には「内臓脂肪の炎症」が重要であるとされてきま
した。一方で、近年の研究報告から、高脂肪食を摂取して肥満がおこる前から、腸管内において
腸内細菌叢のバランスが崩れる事が分かってきました。
このたび、慶應義塾大学医学部内科学 (腎臓・内分泌・代謝) 教室の川野義長助教、中江淳特任准教授、伊藤裕教授らは、高脂肪食の過剰摂取に伴う大腸の慢性炎症が、「インスリン抵抗性」
(注 1)を引き起こし、糖尿病の発症につながる事を、遺伝子改変マウスを用いた動物実験で明らかにしました。 これまで、肥満による糖尿病の発症には、脂肪組織、特に内臓脂肪での慢性炎症が大きく影響
していることが知られていました。本研究チームは、マウスに脂肪分を 60%含む高脂肪食を摂取させることで、脂肪組織よりも先に、免疫細胞のマクロファージの集積を促す蛋白質
Ccl2(Chemokine C-C motif ligand 2) (注 2)の産生が増加し、マクロファージ(注 3)が集積することで、大腸の慢性炎症が引き起こされることを明らかにしました。さらに、大腸腸管上皮
だけで Ccl2 が欠損するマウスを作製し、大腸の慢性炎症を抑えると、インスリンの効きが良くなり、血糖値の上昇が 30%程度低下する事も明らかにしています。 本研究は肥満によってインスリンの効きが悪くなる原因が腸管の炎症であるとする、今までに
ない糖尿病の発症メカニズムを解明したもので、肥満になっても、腸管で炎症が起こらないと糖
尿病になりにくいことを示すものです。今後、ヒトでの更なる検討を行い、将来的には腸の炎症
をおさえる新規の糖尿病治療薬の開発が期待されます。 本研究成果は、2016年 8月 9日(米国時間)に「Cell Metabolism」のオンライン版で公開され
ました。
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腸管は吸収や排泄する働きだけでなく、免疫細
胞の 70%は腸管に集中しているという報告もあり、外界から身を守るための免疫器官としても重要で
す。このことから、高脂肪食による腸内細菌の変
化を受けて、体内において腸の免疫環境も大きく
変化する事が想定されました。 4週間高脂肪食で飼育したマウスの大腸では、腸
管上皮から産生されるマクロファージの集積を誘
導する蛋白質である Ccl2(Chemokine C-C motif ligand 2)の産生が増加し、炎症を引き起こす免疫細胞の 1 種であるマクロファージが集積してきます(図 1)。 マクロファージの集積に伴い腸管のバリア機能
(注 5)が破綻し、腸内細菌由来の毒素である LPS(注 6)や血液中の炎症性物質、炎症性サイトカイン(IL1β,IL18)(注 7)が上昇します。これらの物質が血中を循環し、インスリンの効きやすさを決
める脂肪組織や肝臓に達し、インスリンを効きに
くくすることを明らかにしました(図 2)。 そこで、本研究チームは、Ccl2 を腸管上皮だけ
で欠損させたマウスを作製したところ、大腸への
マクロファージの集積が減少し、腸管の炎症を抑
えるだけではなく、脂肪組織での炎症も抑えるこ
とに成功しました。その結果、高脂肪食負荷によ
る血糖値の上昇が 30%程度抑えられることを明らかにしました(図 3)。 3.研究の成果と意義・今後の展開 以上の結果から、ヒトにおいても脂肪含量の多い高脂肪食を摂食する場合、大腸のマクロファ
ージにより炎症が引き起こされ糖尿病発症につながりうることが明らかになりました。さらに、
この際、大腸における Ccl2の産生を抑制することが、肥満による2型糖尿病発症を抑える新たな戦略になりうると考えられます。今後は、ヒト大腸における Ccl2 の同定、および具体的な Ccl2産生の分子メカニズム、腸管上皮からの Ccl2産生・活性を抑制する化合物の同定を解析していくことにより新規の糖尿病治療薬の開発を目指していきます。 4.特記事項 本研究は MEXT/JSPS科研費(26116724, 26860338)、一般社団法人日本糖尿病学会 第一回若
手研究助成、公益財団法人 万有生命科学振興国際交流財団、Banyu Foundation Research Grant 2015 の支援によって行われました。
LPS/IL-1β/IL-18/?
Ccl2
Resident macrophage
Pro-inflammatory macrophage
Ccr2
2.
* *
0
100
200
300
400
500
0 30 60 90 120
血糖値
(mg/
dl)
ブドウ糖投与後の時間(分)
**
Ccl2
30%
3. Ccl230%
*
012345678
Rel
ativ
e ge
ne e
xpre
ssio
n
**
*
0
1
2
3
4
Rel
ativ
e ge
ne e
xpre
ssio
n
**
*
1. F4/80
F4/80
F4/80
3/3
5.論文 表題:Colonic Pro-inflammatory Macrophages Cause Insulin Resistance in an Intestinal Ccl2/Ccr2-dependent Manner,(Ccl2-Ccr2経路を介した高脂肪食負荷に伴う大腸の炎症性マクロファージ浸潤が全身のインスリン抵抗性を引き起こす) 著者:川野義長,中江淳,渡辺信之,菊地徹洋, 楯谷三四郎,田守義和,阿部高也,小野寺雅史,伊藤裕, 掲載誌:Cell Metabolism. 2016. Aug(オンライン版) 【用語解説】
(注 1)インスリン抵抗性:血糖値を下げるホルモンである、インスリンの作用が体内で低下す
る事を意味し、主として肥満や高脂肪食の過剰摂取によって、循環血液中にインスリンの効きを
悪くする物質が多く存在することで引き起こされる。
(注 2)Ccl2(ChemokineC-Cmotifligand2):循環血液中の白血球を炎症が起きている部位に
誘導する蛋白質をケモカインと呼ぶ。Ccl2 は C-Cmotif という特別な構造を持つケモカインで、
主にマクロファージの誘導に重要である。
(注 3)マクロファージ:白血球の1種で、細菌や異物を取り込んで炎症性物質(サイトカイン)
を放出したり、T 細胞に情報を伝達する事で、体内における免疫機能を担う。
(注 4)2 型糖尿病:糖尿病の中で、肥満などに伴ってインスリンが効きにくい状態になり、発症
する糖尿病で、糖尿病のうち約 95%が 2 型糖尿病である。
(注 5)腸管のバリア機能:腸は食物や細菌など外界の敵から身を守るために、腸管の上皮細胞
同士が Claudin-1 に代表される蛋白質。
(注 6)LPS(Lipopolysaccharide,リポポリサッカライド):グラム陰性桿菌に分類されるある種
の腸内細菌が産生する毒素で、体内で慢性の炎症を引き起こし、インスリン抵抗性の原因となる。
(注 7)炎症性サイトカイン:炎症細胞から産生される蛋白質のことで、IL1β,IL18.TNFαに
代表される。炎症性サイトカインが脂肪組織や肝臓などでインスリンの効果を減弱させる事が知
られている。
※ご取材の際には、事前に下記までご一報くださいますようお願い申し上げます。
※本リリースは文部科学記者会、科学記者会、厚生労働記者会、厚生日比谷クラブ、各社科学部
等に送信しております。
【本発表資料のお問い合わせ先】
慶應義塾大学医学部
内科学(腎臓内分泌代謝)教室 特任准教授
中江 淳(なかえ じゅん)
TEL:03-5363-3797
FAX:03-3359-2745
E-mail:[email protected]
【本リリースの発信元】
慶應義塾大学
信濃町キャンパス総務課:谷口・吉岡
〒160-8582東京都新宿区信濃町 35
TEL03-5363-3611FAX03-5363-3612
E-mail:[email protected]
http://www.med.keio.ac.jp/