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日皮会誌:88 (12), 838-842, 1978 (昭53) 魚鱗癖を中心とした角化異常症 治* 角化についての知識は,近年電子顕微鏡的また生化 学的手段を通じ↓急速な進歩をもたらし,これがきわ めて複雑な生物学的過程をへて,営まれていることが 判明しつっある.しかし,この角化の異常にもとずく 種々の疾患にっいての理論的な分類はいまもなお不可 能な状態であり,いまもって従来の臨床形態的あるい ぱ症候学的な分類に従わざるを得ない. 今回この総会において教育講演の1つとして角化異 常症がとりあげられたが,ここではそのほかでもっと も代表的な疾患である魚鱗癖をとりあげ,これを中心 にし,関連ある若干の疾患をこれに加えて,主に臨床 的立場からの解説を試みたい. 1.魚鱗癖の病型分類I) 魚鱗耐は従来わが国において,尋常性魚鱗癖と先天 性魚鱗癖(先天性魚鱗癖様紅皮症)に大別され,その 症状の軽重によって幾多の病名が用いられてきた(表 1),しかし,この分類が純症候学的であったため,き わめて理解しがたいものであったことは周失口のことで ある.しかるに1960年代後半に至り,欧米各国から 次々と新分類が示され,ここに魚鱗癖分類の新たな頁 が開かれるに至った. 表1.従来の魚鱗癖分類 尋常性魚鱗柳 単純性魚鱗脚 毛孔性魚鱗癖 雲母状魚鱗孵 蛇皮状魚鱗癖 豪猪皮状魚鱗癖 先天性魚鱗癖 重症先天性魚鱗癖 不全性先天性魚鱗脚 遅発性先天性魚鱗癖 先天性魚鱗癖様紅皮症 慶応義塾大学医学部皮膚科教室 現杏林大学医学部皮膚科教室 1) Wells et Kerrの分類(表2):遺伝性魚鱗癖を その遺伝形式により3大別し,ことに伴性遺伝性魚鱗 癖の存在を明確化して,これを常染色体性優性遺伝を 示す尋常性魚鱗癖から独立させている.このほか,先 天性魚鱗癖様紅皮症(Brocq)を劣性型と優性型に分 け,前者を魚鱗癖様紅皮症,後者を水庖性魚鱗癖様紅 皮症とよび,また生下時いわゆるコロジオソ児として 発症,比較的早期に皮疹の軽快をみるものをlamellar 表2. Wells et Kerr の分類 1. Autosomal recessive ichthyosis A. Ichthyosiform erythroderma Harlequin fetus, Ichthyosis fetalis,Ichthyosis congenita (larvata, tarda, mitis, inversa), Keratosis maligna diffusa, Keratosis diffusa fetalis, Hyperkeratose ichthyosiforme, Hy- perkeratosis congenita B, lameller ichthyosis Collodion baby, lamellar desquamation of the newborn C. Refsu�S syndrome D. Sj5gren-Larsson syndrome 2. Sex-linked ichthyosis (recessive) Ichthyosis serpentina, Ichthyosis sauroderma, Ichthyosis nigricans, Ichthyosis vulgaris, Ich- thyosis simplex 3, Dominant ichthyosis A. Without atopy Ichthyosis nacrge, Ichthyosis nitida, Fish skin disease, Ichthyosis vulgaris, Ichthyosis sim・ plex B, Associated with atopy, ie, asthoma/eczema/ hay fever χeroderma, Pityriasis vulgaris, Ichthyosis simplex C. Bullous ichthyosiform erythroderma Hyperkeratose ichthyosiforme, (other names as for A) D. Ichthyosis hystrix (Lambert family) Ichthyosis cornea

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日皮会誌:88 (12), 838-842, 1978 (昭53)

魚鱗癖を中心とした角化異常症

長 島 正 治*

 角化についての知識は,近年電子顕微鏡的また生化

学的手段を通じ↓急速な進歩をもたらし,これがきわ

めて複雑な生物学的過程をへて,営まれていることが

判明しつっある.しかし,この角化の異常にもとずく

種々の疾患にっいての理論的な分類はいまもなお不可

能な状態であり,いまもって従来の臨床形態的あるい

ぱ症候学的な分類に従わざるを得ない.

 今回この総会において教育講演の1つとして角化異

常症がとりあげられたが,ここではそのほかでもっと

も代表的な疾患である魚鱗癖をとりあげ,これを中心

にし,関連ある若干の疾患をこれに加えて,主に臨床

的立場からの解説を試みたい.

 1.魚鱗癖の病型分類I)

 魚鱗耐は従来わが国において,尋常性魚鱗癖と先天

性魚鱗癖(先天性魚鱗癖様紅皮症)に大別され,その

症状の軽重によって幾多の病名が用いられてきた(表

1),しかし,この分類が純症候学的であったため,き

わめて理解しがたいものであったことは周失口のことで

ある.しかるに1960年代後半に至り,欧米各国から

次々と新分類が示され,ここに魚鱗癖分類の新たな頁

が開かれるに至った.

表1.従来の魚鱗癖分類

尋常性魚鱗柳

  皮 膚 乾 燥 症

  単純性魚鱗脚

  毛孔性魚鱗癖

  雲母状魚鱗孵

  蛇皮状魚鱗癖

  豪猪皮状魚鱗癖

先天性魚鱗癖

  重症先天性魚鱗癖

  不全性先天性魚鱗脚

  遅発性先天性魚鱗癖

先天性魚鱗癖様紅皮症

慶応義塾大学医学部皮膚科教室

現杏林大学医学部皮膚科教室

 1) Wells et Kerrの分類(表2):遺伝性魚鱗癖を

その遺伝形式により3大別し,ことに伴性遺伝性魚鱗

癖の存在を明確化して,これを常染色体性優性遺伝を

示す尋常性魚鱗癖から独立させている.このほか,先

天性魚鱗癖様紅皮症(Brocq)を劣性型と優性型に分

け,前者を魚鱗癖様紅皮症,後者を水庖性魚鱗癖様紅

皮症とよび,また生下時いわゆるコロジオソ児として

発症,比較的早期に皮疹の軽快をみるものをlamellar

      表2. Wells et Kerr の分類

1. Autosomal recessive ichthyosis

 A. Ichthyosiform erythroderma

   Harlequin fetus, Ichthyosis fetalis,Ichthyosis

   congenita (larvata, tarda, mitis, inversa),

   Keratosis maligna diffusa, Keratosis diffusa

   fetalis, Hyperkeratose ichthyosiforme, Hy-

   perkeratosis congenita

 B, lameller ichthyosis

   Collodion baby, lamellar desquamation of

   the newborn

 C. Refsu�S syndrome

 D. Sj5gren-Larsson syndrome

2. Sex-linked ichthyosis (recessive)

   Ichthyosis serpentina, Ichthyosis sauroderma,

   Ichthyosis nigricans, Ichthyosis vulgaris, Ich-

   thyosis simplex

3, Dominant ichthyosis

 A. Without atopy

   Ichthyosis nacrge, Ichthyosis nitida, Fish skin

   disease, Ichthyosis vulgaris, Ichthyosis sim・

   plex

 B, Associated with atopy, ie, asthoma/eczema/

   hay fever

   χeroderma, Pityriasis vulgaris, Ichthyosis

   simplex

 C. Bullous ichthyosiform erythroderma

   Hyperkeratose ichthyosiforme, (other names

   as for A)

 D. Ichthyosis hystrix (Lambert family)

   Ichthyosis cornea

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魚鱗癖を中心とした角化異常症

ichthyosisとして別個に扱っている.

 2) Frost et Van Scott の分類(表3):非水庖型先

天性魚鱗癖様紅皮症に相当するものをlamellar ich-

thyosis,また組織学的にいわゆる穎粒変性を示す疾患

にepidermolytic hyperkeratosis など,従来の病名を

拾て新しい病名を用いた点に1つの特微かある. ここ

でのlamellaパchthyosisはWellsらの用いた意味と

は異なることに注意.

 3) Schnyderの分類(表4):水庖型先天性魚鱗癖

様紅皮症を豪猪皮状魚鱗癖に含め,かつ豪猪皮状魚鱗

癖の病名を2・3の疾患に限定して用いている. Curth

-Macklin型豪猪皮状魚鱗癖2)は1973年に追加され

た.

 以上に代表的な魚鱗癖分類を紹介したが,病名その

ほか細部に若干の意見の相異があるものの,遺伝性魚

鱗癖の代表的病型が,尋常性魚鱗癖・魚鱗癖様紅皮

症・水庖性魚鱗癖様角化症の3型よりなることにっい

ては異論がなく,この3病型が遺伝性魚鱗癖の基本型

をなしていると考えてまい.

 2.魚鱗癖め各基本型とその関連事項

 1)尋常性魚鱗癖(Ichthyosis vulgaris):従来,尋

常性魚鱗癖といわれてきた病型中に,常染色体性優性

型と伴性劣性型の2型があることは,今日間違いない

事実である.ただし,わが国における伴性劣性型の報

告は非常に稀で,現在原著としては平井ら3)の1例が

     表3. Frost et Van Scott の分類

Ichthyosisvu】garis

Lamellar ichthyosis

Epidermolytic hyperkeratosis

   a. generalizedform

   b.localized form

Psoriasiform erythroderma

表4. Schnyderの分類

Ichthyosis vulgaris

Ichthyosis congenita

Ichthyosis hystrix

a) Congenital ichthyosiform erythroder-

  ma, bullous type

b) Ichthyosis hystrix gravior

c) Maleformatio ectodermalis generalisa-

  ta

d) Ichthyosis hystrix (Curth-Macklin)

Atypical ichthyoses

839

知られているにすぎない.英国で男性6000人に1人,

スペインで男性4000人に1人の発症といわれてい

る4)が,わが日本人に実際に稀か否か,頻度は今後の調

査に待ちだト.詳細は不明であるが,宮崎地方には少

なからずこれが経験されているとのことである5).

 伴性遺伝性魚鱗m (X-linked ichthyosis)は女性保

因者を通じ,男性のみに発現する病型である. 1933年

Cockayneはすでにこの伴性劣性遺伝を示す魚鱗癖を

報告したが,優性型の尋常性魚鱗癖との臨床的相異を

明確にしたのは英国のWellsらである,両病型の鑑別

点を表5に示した.すなわち,優性型か男女ほぽ同数

に発症するのに反して,一方は男性のみである.発症

は伴性型が早く,約40%が生下時か生直後に症状を示

し,あるものは=ゴロジオソ児の臨床型をとることがあ

る.症状は一般に伴性型に高度で,しかも小児期には

頭皮・頚・耳・耳前部にも出現する.躯幹では背中よ

りも腹部に病変が強い.掌齢をのぞくほぼ全身が侵さ

れ,優性型では病変をみない肢寫・肘高(20%)・膝咽

 (28%)も侵されることがある,鱗屑は一般に大で暗

色を呈し,従来Ichthyosis serpentina あるいはIch-

thyosis nigricans といわれたような症例がこれに属す

ると考えられている.毛孔性角化については, Wellsら

はこれを欠くのを特徴としたが,その後の報告者には

これをみとめるとするものも多い3)4)組織学的には優

性型と異なり,穎粒層の存在が明瞭である.

 要するに男子で,生下時かあるいは生後数週のうち

に一発症し,頭皮・耳・頚また関節屈側面などが侵され

ている時には,まず伴性劣性型を考えるべきである.

表5.尋常性魚鱗癖両病型の鑑別

優性型 伴性劣性型

性 含=♀ 舎

発  症  時  期 3ヵ月以後 生下時~数週

病 状 の 程 度 軽症~中等度 重    症

頭      皮 軽    度 高    度

順 極 軽 度 高    度

顔     面 額  ●  頬 耳・耳前部

躯      幹 背>腹 腹>背

肘高・膝胴・飯高 (-) 時 に(十)

掌      獣 (十) (-)

毛 孔 性 角 化 (十) (-)?

鱗        肩 小  ●  少 犬ヽ ・  多

願粒層肥厚 レ) (十)

角      栓 (十) (-)?

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840 長島 正治

組織学的に.穎粒層が明瞭であり,さらに細隙灯検査に

よって,角膜混濁がみとめられれば,補助的診断とし

て重要な意味がある.しかし,本症の診断確定は患者

の遺伝形式の調査によりはじめて得られるものであ

り,伴性劣性遺伝が確認されることがもっとも重要な

条件である.今日,両病型の治療上での差はないが,

遺伝形式を正しく認識することは,遺伝相談の上でき

わめて重要なことであろう.

 2)魚鱗癖様紅皮症(Ichthyosiform erythroder-

ma):先天性魚鱗癖様紅皮症の歴史は1902年Brocq

にはじまり,当時すでに臨床的な水庖の有無により,

乾燥型と水庖型に大別されていたが,今日では遺伝学

的また組織学的な差異から,両型がそれぞれ別個な疾

患であることは異論がない6).非水庖型(乾燥型)のそ

れには,先天性魚鱗癖(Schnyder)・lamellar ichthy-

osis (Frostら)などの同義語があるが,ここでは魚鱗

癖様紅皮症(Wellsら)を採用したい.

 本症は常染色体性劣性遺伝を示す.多くは家系に血

族結婚を証明する.生下時より発症することが多く,

頭皮・顔面を含む全身が侵され,しばしば眼瞼外反・

耳介・口唇の変形を伴う,組織学的にはいわゆるpro・

liferation hyperkeratosis の像を示す.

 本症は今日,先天性魚鱗癖(Riecke)と同症とする

ものが多いが,その重症型すなわち道化師様胎児

 (harlequin fetus)の所属についてはなお決定的な見

解がない.ちなみにBaden一派7,8)は本病型の角層の

X線回折を試み,通常みられるα-fibrous proteinに

代って, crossβ-fibrous proteinがその主体をなして

トるとのべ,分子レベルにおける本病型の異常にふれ

ている.一方,魚鱗癖様紅皮症は生下時,いわゆるコ

ロジオソ児として発症することが知られているが,コ

ロジオン児といわれる臨床形態は,本症を含めlamel-

lar ichthysis (Wellsら)・伴性遺伝性魚鱗癖またSjo-

gren-Larsson症候群が新生児期に示すことがある一

種独特な表現型であり,独立疾患ではない.いずれの

病型に移行するかは,長期の経過観察が必要である.

1

2

3

4

5

 表6.いわゆる穎粒変性を示す疾患

水庖性魚鱗癖様角化症

列序性角化母斑

Vomer型遺伝性掌聴角化症

Epidermolytic acanthoma

 (isolatedor disseminated)

Naevoid follicular epidermolytic hyper

keratosis

6. Accidental cases

 魚鱗癖様紅皮症は全身皮膚を侵すが,これに似た所

見を偏側性に示し,同時に骨・筋肉また内臓変化をも

合併する疾患に先天性偏側性魚鱗癖様紅皮症がある.

わが国では2例の報告がみられ,笹岡ら9)はこれを一

種の母斑症.とりわけepidermal nevus syndrome類

似の疾患と考えている.蓮尾例lo)では,興味あること

に生下時偏個性にコロジオソ児であったという.さす

ればコロジオン児の表現型をとる疾患として,この疾

患をも追加する必要があろう.

 3)水庖性魚鱗癖様角化症(Bullous ichthyosiform

hyperkeratosis):水庖型先天性魚鱗粉様紅皮症・epi-

dermolytic hyperkeratosis などの同義語であるが,こ

こではReedらの用いた水庖性魚鱗癖様角化症を採用

したい.すなわち,本症は魚鱗癖様紅皮症と異なり,

潮紅を呈することが少く,むしろ症状・豪猪皮状と形

容される高度の角質増殖を示すことが多い.水庖は生

下時また乳幼児期に多くみられるが,成長とともに角

質増殖が著明となる,角質増殖は関節伸側また屈側に

著明,角質物質は灰白褐色できわめてもろく容易に剥

離され,あとに紅色局面を残す.角質増殖が軽度の場

合は一見黒色表皮腫を思わせることがある.顔面が侵

されることは少ない.孤立例が多いが,常染色体性優

性遺伝を示す.組織学的にはいわゆる穎粒変性の所見

があり,診断上重要である.しかし,この所見は本症

に特異的でなく,列序性角化母斑をはじめとし,数種

の角化疾患にもみとめられている(表6).このうち,

いわゆる穎粒変性を示す列序性角化母斑11)またVOrn-

er型掌鮭角化症12)と水庖性魚鱗癖様角化症との関係

は,今日なお不明の点が多いが,同一家系内にこれら

臨床像の異った疾患が稀ではあるがみとめられること

から,それぞれは遺伝子の異った表現型にすぎないと

もいわれている.これら3疾患の関係は今後症例を重

ねて検討する必要がある.

 3.列序性角化母斑について

 組織学的にいわゆる穎粒変性を示す疾患のうち,列

序性角化母斑は比較的多く経験されている.角化母斑

にっいて福代13)は, Unnaの定義を引用し,組織学的

に角質増殖を主体とし,表皮肥厚の有無を問題とせず,

また真皮に重大な変化をみない母斑としているが,そ

の角化母斑10例あまりのうち8例までに,いわゆる穎

粒変性をみとめ,これを角化母斑の特異型とよんだ.

一方われわれの調査によれば,慶大皮膚科において角

化母斑は,昭和35年から51年末までに9例経験され

ている.興味のあることは,組織学的に検討されたこ

の角化母斑9例のすべてが,いわゆる穎粒変性を示し

ており,穎粒変性の所見を欠く角化母斑はみとめられ

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魚鱗栴を中心とした角化異常症

表7.いわゆる穎粒変性を示す列序性角化母斑(慶大

   例)

N0. 初診年次 年令 性 発病 部   位

1 1965 4才 ♀ 6ヵ月 左そけい,下肢

2 1966 5才 吉 6ヵ月 右類,躯幹,外陰

3 1967 13才 ♀ 3 才 ほぼ全身(除掌跡)

4 1969 3才 舎 6ヵ月 右類,躯幹,下肢

5 1969 23才 ♀ 生直後 右上肢,躯幹

6 1970 1才 ♀ 5ヵ月 頚,躯幹,四肢

7 1973 30才 ♀ 10 才 左躯幹,下肢

8 1974 5才 否 生直後 左側腹

9 1977 8才 否 6ヵ月 右類,躯幹,外陰

なかったことである(表7).症例数が少いので,断言

はさけるべきであるが,われわれの経験にょれば,列

序性角化母斑の典型は組織学的にいわゆる穎粒変性を

示すものということができる.穎粒変性を示さない角

化母斑が存在するとすれば,それはむしろ角化母斑の

特殊な病型に属するものではないかと考えられる.

 4.豪猪皮状魚鱗癖について

 広範囲あるいは限局性に角質増殖がきわめて著明

で,時にその高さ1cm以上に達する尭状の角板ある

いは蝋石状の角柱形成をきたす種々の疾患に対して,

従来単なる記述的名称として,豪猪皮状魚鱗m (ich-

thyosis hystrix)なる病名が用いられてきた.すなわ

ち,18世紀から19世紀初頭にかげporcupine man”

として見せ物になった有名なLambert家族,水庖性魚

鱗癖様角化症また列序性疵状母斑などがこれに属す

る.今日でも列序性犯状母斑(Naevus verrucosus

systematicus, Naevus linearis, Naevus unius lat-

eralis)に対して,豪猪皮状魚鱗癖の表題を用いた報告が

内外ともに多数みとめられ,本病名の適用にっいては

なお混舌しがある.列序性現状母斑のなかには,列序性

病変に伴い広範囲の皮疹分布を示す症例も少なからず

みとめられるが,このような症例には豪猪皮状魚鱗癖

様母斑(Naevus ichthyosiformis hystrix)の名を与え

るべきであり,豪猪皮状魚鱗癖を用いるべきではない.

Schnyderは豪猪皮状魚鱗癖の項目に,水庖性魚鱗癖

様角化症・重症豪猪皮状魚鱗癖(Lambert家族)・

Maleformatio ectodermalis generalisata.最近では

これにCurth-Macklin型を加えて,比較的すっきりと

した分類としたが,私見としては水庖性魚鱗癖様角化

症は,魚鱗癖の1基本型をなすものであり,これをそ

の範時から独立させるべきと考える.

841

 Maleformatio ectodermalis generalisata""は,1

941年Bafverstedtにより報告され,知能低下とてん

かんを伴い,ほぼ全身とくに耳介・顔面・願・躯幹に

著明な角質増殖をみる症例であるが,本邦ではその報

告に接しない.

 Curth-Macklin型豪猪皮状魚鱗癖は, 1954年Curth

とMacklinにより報告された家族例15)である.この

家系内には豪猪皮状を呈する症例あるいは尋常性魚鱗

癖様の臨床像を呈するもののほか,肘頭・膝蓋の限局

性角質増殖・掌嘸角化など種々の角化症を有する症例

がみとめられる.その組織所見はがっては水庖性魚鱗

疸様角化症のそれに類すると考えられ,一方抱贅様表

皮発育異常症類似の組織を呈するとも記載されたもの

である. 1973年Anton-Lamprechtら2)はこの症例に

対して,組織学的・電顕的に再検討を加え,ほかの遺

伝性魚鱗癖とは全く異った所見を見出し, Curth-

Macklin型豪猪状魚鱗癖として,その独自の存在を強

調した.組織所見は穎粒層に相当して水庖状に膨化し

た表皮細胞がみられるが, acanthokeratolysisとは細

胞相互の結合が保たれていること,また2核の細胞が

多数みとめられることなどの点において異っている.

これらの変化は一種独特であるが, 1970年Pinkus

ら16)がbiphasic ichthyosiform dermatosis として報

告した症例の所見に近似しており, Anton-Lamprecht

らはこの両疾患を近縁疾患と考えている. Pinkusらの

症例は,幼児期からの四肢の豪猪皮状病変,中年以降

に生じた躯幹0鱗屑局面の2相を臨床的に示すもの

表8.魚鱗癖の分類(私案)

遺伝性魚鱗孵

 1.尋常性魚鱗疸

 2.伴性遺伝性魚鱗癖

 3.魚鱗癖様紅皮症

 4.薄葉状魚鱗癖

 5.水庖性魚鱗癖様角化症

 6.豪猪皮状魚鱗癖

 7.魚鱗癖症候群

非遺伝性魚鱗癖

 1.後天性魚鱗孵

 2.連圏状枇糠疹

       表9.豪猪皮状魚鱗癖

Ichtyosis hystrix

 1. Ichthyosis hystrix gravior

 2. Maleformatio ectodermalis generalisata

 3. Ichthyosis hystrix (Curth-Macklin)

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842 長島 正治

で,主としてこの臨床像の2相性からbiphasicと名づ

けられている.このような症例も,いまだわが国に報

告されていないが,一応かかる症例の存在を念頭にお

く必要があろう.

 以上今日一般に用いられている魚鱗癖分類の若干を

紹介し,遺伝性魚鱗癖の3基本型とこれらに関連した

事項をのべ,さらに2・3の疾患にっいても触れたが,

ここに魚鱗癖分類の私案を表示(表8)して御批判を得

たい.すなわち,魚鱗癖をまず遺伝性と非遺伝性に大

別し,前者を3基本型のほかに4型を加えて,現在の

所7病型とした.薄葉状魚鱗癖(lamellar ichthyosis)

はWellsらの意味である.豪猪皮状魚鱗癖なる名称は

将来捨て去るべきものと考えられるが,現在では表9

に属するものに用いたい.魚鱗癖症候群については,

今回全く触れなかったが,ここにはSjogren-Larsson

またRefsum症候群などを包括させたい.非遺伝性魚

鱗癖は今回の主題よりはずれるが,一応2疾患に分け

てみた.詳細にっいては別の機会にゆずりたい.遺伝

性魚鱗粉はこのほか種々の異型があり,その所属を明

らかにできない病型もあろうが,これらにつトては症

例の蓄積をまち,今後の問題としたい.

         文   献

1)長島正治:魚鱗癖,病型と治療.慶応医学51:

  383~389, 1974.

2) Anton-Lamprecht, I., Curth, H.O。Schnyder,

  U.χV,:Zur Ultrastruktur hereditarer Verho-

  rnungsstorungen, II. Ichthyosis hystriχ Typ

  Curth-Macklin. A肥力.Derm,FoTsch,7M,

  77-91, 1973.

3)平井玲子,戸田浄,小堀辰治:X-linked ich-

  thyosisの1例.臨皮30 : 631-635, 1976.

4) De Unamuno, p., Martin-Pascual, A., Gar-

  cia-Perez, A.: X-linked ichthyosis.召rit. J.

   Derm. 97: 53-58, 1977.

 5)菊地一郎:私信

 6)長島正治:先天性魚鱗癖様紅皮症,とくに水庖

   型と非水庖型との差異につトて.臨皮23: 999

   -1008, 1969.

 7) Baden, II.P., Goldsmith, L.A.:The structur-

   al proteins of harlequin fetus. stratum cor-

   neum. /. ;れwest,Derm,61: 25-26, 1973・

 8) Baden, H.P., Goldsmith, L.A., Lee, L.D.:The

   fibr‘ous proteins in various types of ichthyo-

   sis. /.加回が. Derm. 65 : 228-230, 1975.

 9)笹岡和夫,西本勝太郎,麻生則正,船元冨美子,

   野地通夫,芦塚卓郎:Congenita]unilateral

   ichthyosiforn! erythroderma.皮膚臨床15:

   639-649, 1973.

10)蓮尾統子:Collodion bady の1例.西日皮膚37

   :294, 1975.

11)長島正治:いわゆる穎粒変性を伴った列序性角

   化母斑と先天性掌雛角化腫にっいて.臨皮23:

   399-406, 1969.

12)長島正治,野平睦子,林田美保:先天性掌雛角化

   腫(Vorner型).皮膚臨床t3 : 522-528, 1971.

13)福代良一:硬母斑の研究,角化母斑の一特異型

   にっいて.日皮会誌60 : 147-171, 1950.

14) Bafverstedt, B.:Fall von genereller, naevus・

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