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時計遺伝子DEC1は生活習慣病の 有望な分子標的である 広島大学 歯学部 歯学科 教授 加藤幸夫

時計遺伝子DEC1は生活習慣病の 有望な分子標的である - JST...PER2 JB 2005 (TGF-b) DEC1 Nature Cell Biol 2008 (背景)DEC1は体内時計のリズム発振にも関与する。促進因子が時計発振遺伝子の転写を活性化し、

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時計遺伝子DEC1は生活習慣病の有望な分子標的である

広島大学 歯学部 歯学科

教授 加藤幸夫

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研究背景生活習慣病の有病率は人口の50%

• 高血圧 3100万人• 脂質代謝異常 3000万人• 糖尿病 740万人

3大死因である脳血管疾患、心疾患、癌とも関連が強い。小児の生活習慣病も増えつつある。

最近、生活習慣病には夜の光照射、深夜の食事が関与することが明らかになってきた。

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従来技術とその問題点

既に、PPAR-gアゴニスト(チアゾリジン誘

導体)やスタチンなどの糖尿病薬や抗コレステロール薬等があるが、

生体リズム(夜の光照射、深夜の食事)と

関係する生活習慣病の薬は未だ開発されていない。

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あらゆる体の機能にサーカディアンリズムがある

メラトニン

血圧

喘息発作

死亡率

体温

昼 夜

(背景)ヒトの代表的な概日リズム(血圧にもリズム)

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(背景)生物時計システムの階層性

Noshiro

睡眠・覚醒リズム摂食リズム

中枢時計

視交叉上核(SCN)

SCN松果体

神経伝達or

液性因子

肝臓 腎臓 心臓 骨格筋

末梢時計

骨・軟骨

各組織で組織機能に重要な遺伝子が振動している:時計遺伝子だけは全組織で振動

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(背景)DEC1は中枢、末梢時計のリセットに関与する。

1

2

3

4

56

7

8

9

10

1211

光・食餌

中枢・末梢時計

生理機能リズム

血圧・体温リズム代謝リズム細胞周期リズムホルモンリズム唾液分泌リズムDNA修復

病気

高血圧糖尿病脳梗塞癌睡眠障害うつ病神経変性症

リズム異常

Input(位相リセット)

Pacemaker(約24時間周期)

Output(3000以上のリズム遺伝子)

(光照射)DEC1PER1PER2Nature 2002

(低酸素)DEC1JBC 2002

(食事)DEC1PER2JB 2005

(TGF-b)DEC1Nature Cell Biol2008

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(背景)DEC1は体内時計のリズム発振にも関与する。

促進因子が時計発振遺伝子の転写を活性化し、

産生された遺伝子産物が抑制因子として自らの転写を抑制する。MCB 2008

促進因子 抑制因子

プ ロ モ ータ ー 時計発振遺伝子

時計発振遺伝子の発振原理

抑制DECPERCRY

CLOCK BMAL1

DEC/PER/CRYE-box

5つの時計遺伝子ファミリーが発見されている

抑制因子のAuto-regulatory negative feedback loop

促進的転写因子と抑制的転写因子の相互作用で抑制的転写因子のリズムができる.

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(背景)DEC1 とDEC2 は視交差上核 SCNでも発現

DEC1

5 mmoc

ob

p

schi

SCN

12:00, LD cycle

SCNDEC2

DEC1

DEC2SCN

SCN

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中枢時計SCNでのDECリズム発現、夜間の光照射によるDEC1誘導

Nature 2002

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血圧の日内変動の異常による疾患リスクの増大(隠れ高血圧など)

Dipper 正常レベルの夜間血圧の低下

Non-dipper 夜間に血圧の低下がない

(心肥大、脳血管障害など)Extreme dipper 極端に夜間血圧が低下

(無症候性脳血管障害、頭蓋内出血リスクが高い)

血圧の日内変動の異常に対する血圧の薬はない。開発しょうにもNon-dipperやExtreme dipperの動物モデルもない。

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(背景)強心薬と内因性ウアバイン

• 強心配糖体(ジギタリス、ウアバイン)(ジギゴン錠)植物ステロイドがまの皮膚分泌物ヒト血中(副腎)

心筋細胞の収縮力を高め、血管平滑筋細胞を収縮させて血圧を上げる。ショック、心不全、心房細動、不整脈の治療に用いる。

強心配糖体は、 Na,K-ATPaseを抑制することで、

血圧を上げる。

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Na+/K+

ATPaseNa+/Ca2+

交換

ジギタリス

Ca2+

DEC1 CLOCK

(ATP1A1)

(ATP1B1)

[Ca2+]

3Na+

3Na+2K+

収縮

(新技術)心血管系でのNA/K-ATPase活性の抑制は血圧を上げる。DEC1は同酵素の遺伝子発現を抑制して血圧を上げる。

時計遺伝子DEC1とClockはNA/K-ATPase 遺伝子の転写制御に

よって血圧の概日リズムを誘導する

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CLOCK/BMAL1による Na+-K+ ATPase 転写促進を

DEC1 は抑制する。(DEC標的薬スクリーニング系)

E2-box E2-box LUCLUCTKTKE2-boxE2-box E2-boxE2-box

E1-box E1-box LUCLUCTKTKE1-boxE1-box E1-boxE1-box

E1-box

E2-box

E1-box E2-box

Na+-K+ ATPase

E-box E-box LUCLUCTKTKE-boxE-box E-boxE-box

Dec1 E-box

Dec1

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Red line: DEC1 -/- mouse (n=10), Black line: wild-type mouse (n=10)* P<0.05, DEC1 -/- mouse vs. wild-type mouse

Systolic Blood Pressure Diastolic Blood Pressure

DEC1-/- マウスは低血圧(Extreme dipperに対するスクリーニング系)

(ZT)

(mmHg)

85

90

95

100

105

110

115

0 4 8 12 16 20 24(ZT)

(mmHg)

65

70

75

80

85

90

95

0 4 8 12 16 20 24

**

**

*

*

**

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Blue line: CLOCK mutant mouse (n=10), Black line: wild-type mouse (n=10)* P<0.05, CLOCK mutant mouse vs. wild-type mouse

Systolic Blood Pressure Diastolic Blood Pressure

(ZT)

(mmHg)

CLOCK 変異マウスは高血圧

(non-dipperに対するスクリーニング系)

(ZT)

(mmHg)

85

90

95

100

105

110

115

0 4 8 12 16 20 2465

70

75

80

85

90

95

0 4 8 12 16 20 24

** * * * *

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DEC1は脂肪細胞における中性脂肪代謝遺伝子の発現をすべて抑制する:

DEC1ノックアウトマウスでこれらの発現が高レベルとなりリズムがなくなる。

Wild-type

Dec1 -/-

10:00 16:00 22:00 4:00

全て同じパターンを示す

油滴 油滴のコートタンパク

Plin Cidec S3-12Adfp

中性脂肪再合成

Glycerol-3-phosphate

Lysophosphatidate

Phosphatidate

Diacylglycerol

中性脂肪

Gpat3

Agpat2

Lipin1

Dgat2

FFA

FFA

FA-CoA

VLDL

CD36Acsl1

脂肪酸取り込み LPL

Diacylglycerol

Monoacylglycerol

FFA

FFA

Lipe (HSL)

Mgll

ATGL

脂肪酸放出

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DEC1は生活習慣病の発症に重要

1 夜間の光照射と過度の摂食による

DEC1の慢性的・過度の誘導

2 時計系の位相の変化(リズム異常)

3 NA/K-ATPase抑制による高血圧

4 PPAR-g抑制による脂質代謝抑制

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多くの核内受容体リガンドが Dec1 発現に影響する(DEC1発現抑制剤のスクリーニング系:心臓、血管、脂肪)

Luci

fera

se a

ctiv

ity

Luciferase reporter assay in HepG2 cells (48のうち17について検討)

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降圧薬の開発方法

1 心血管でDEC1発現を抑制する化合物の同定多数の核内受容体のリガンドの中から心臓あるいは血管平滑筋細胞でDEC1

発現を抑制するものをスクリーニングする。

2 DEC1によるNa/k-ATPase発現抑制に影響す

る化合物の同定DEC1存在下あるいは非存在下で、 Na/k-ATPase遺伝子の promoter活性あ

るいは mRNAレベルに影響する低分子化合物をスクリーニングする。

(NIH3T3での lucifierase assay、ヒト血管平滑筋細胞でのmRNA定量)

3 Extreme dipper症状の改善薬の探求DEC1ノックアウト以外に血管平滑筋特異的DEC1トランスジェニックマウスの作

製が望まれる。

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脂質代謝調整薬(糖尿病薬)の開発方法

1 脂肪組織でDEC1発現を抑制する化合物の同定多数の核内受容体のリガンド・拮抗薬の中から脂肪細胞での

DEC1発現を抑制するものをスクリーニングする。

2 DEC1のPPARg抑制作用に影響する化合物の同定PPAR-g標的遺伝子プロモターを用いて、DEC1による転写抑制に拮抗する

低分子化合物をスクリーニングする(NIH3T3 luciferase assay)

3 脂質代謝リズム異常を正常化させる薬物のスクリーニング脂肪特異的DEC1トランスジェニックマウスの作製も望まれる。

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実用化に向けた課題

1) Dec1を標的とするスクリーニング系や疾患モデル動物(ノックアウトマウス)はできているが、低分子ライブラリーの入手が困難、またスクリーニングにはかなりの研究費と技術員が必要。

2) 平滑筋ミオシン重鎖プロモータあるいはap2プロモータによる血管平滑筋あるいは脂肪特異的Dec1トランスジェニックマウスの開発が望ましい。

(それぞれ高血圧モデル、脂質代謝障害モデル)

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企業への期待

1 DEC1標的薬の探索のために、核内受容体リ

ガンドライブラリー(およびその他の低分子)の提供を期待する。

2 各種核内受容体リガンドを投与した動物の肝臓、心臓、脂肪などの提供(DEC1 mRNAの測

定のため)

3 降圧剤、不整脈薬、糖尿病薬や脂質代謝薬を開発中の企業は、DEC1ノックアウトマウスでの

新薬の影響を検討することが望まれる。

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本技術に関する知的財産権

1 非ヒト動物、細胞、血圧調節物質の評価方法、血圧調節条件の評価方法および血圧の調節方法

• 出願番号 :特願2010-236891号、2010 • 出願人 :広島大学

• 発明者 :加藤幸夫、河本健、能城光秀、

中島歩

2 脂質代謝関連疾患の検査方法、ならびに脂質代謝関連疾患の予防および/または治療剤の評価方法

• 出願番号 :特願2011-22172号、2011 • 出願人 :広島大学

• 発明者 :加藤幸夫、河本健、藤本勝巳、

能城光秀

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お問い合わせ先(必須)

広島大学

産学・地域連携コーディネーター

三好健一

TEL 082-257-5757

FAX 082-257-1567

e-mail medcent@hiroshima-u.ac.jp