6
西松建設技報 VOL.43 高耐力既製コンクリート杭用パイルキャップ工法の開発 Development of Construction Method for High Shear Resistance Pile Cap for Precast Concrete Pile 郡司 康浩 新井 寿昭 Yasuhiro Gunji Toshiaki Arai 竹内 章博 ** Akihiro Takeuchi 要  約 本工法は既製コンクリート杭用パイルキャップのせん断設計をより合理的に行うための工法であ 本工法では従来から既製コンクリート杭用パイルキャップのせん断耐力要素として考えられてき たコンクリートに加えパイルキャップ内に配置されている鉄筋を適切に考慮することにより既製コ ンクリート杭用パイルキャップのせん断耐力を合理的に確保することが可能となる本報では工法概要を述べるとともに工法開発にあたり実施した構造性能確認実験の概要と実験結 果について報告する目 次 §1はじめに §2工法概要 §3構造性能確認実験の概要 §4実験結果と考察 §5おわりに §1.はじめに 近年既製コンクリート杭以降既製杭の高支持 力化が進み1 本に対して杭 1 本で設計する場合が多 くなっているそれに伴い1 本あたりに作用する水 平力も従来に比べて増加傾向であり杭と上部構造をつ なぐ部材であるパイルキャップにも水平力 せん断力に対するより大きな耐力が求められている既製杭用パイルキャップのせん断設計について例え 鉄筋コンクリート基礎構造部材の耐震設計指針 )・同解説 1では原則としてコンクリートのみでせ ん断耐力を確保する考え方を採用しており一部終局 時に軸力の効果を考慮する方法の記載もある), パイルキ ャップ内に配筋されている鉄筋の効果等を無視しているそこで本開発では既製杭用パイルキャップのせん断 設計をより合理的に行うため従来から耐力要素として 考えられてきたコンクリートに加えてパイルキャップ 内の鉄筋を適切に考慮できる工法を開発した本報では工法概要を述べるとともに工法開発にあ たって実施した構造性能確認実験の概要 2と実験結果の 一部 3について報告する§2.工法概要 本工法の概要を1 に示す本工法は1 に示 すように定着筋と埋込みを併用して既製杭をパイルキ ャップに定着する方式を採用する場合のパイルキャッ プのせん断耐力を評価する工法である既製杭を埋込ん だ部分の周囲には補強鉄筋を配置しておりこれらの 鉄筋の耐力もせん断耐力に見込むことにより従来より もパイルキャップのせん断耐力を合理的に確保すること が可能となる一方定着筋と埋込みを併用して既製杭をパイルキャ ップに定着する方法は実務上有用な方法であると考え られているがパイルキャップのせん断に関する実験例 が少なく抵抗機構等に不明確な点が多いそこで工法の開発にあたり構造性能確認実験を実施し定着 筋と埋込みを併用して既製杭を定着するパイルキャップ のせん断抵抗機構およびパイルキャップ内に配置され ている補強鉄筋の効果を把握することとしたなお既製杭をパイルキャップに定着する方法として 他に定着筋のみでパイルキャップに定着する方法 1A 杭頭部をパイルキャップに 1 DD杭径程度埋込んで定着する方法 1B ),半剛接合を用いて 接合する方法 例えば 4), 5などがあるがそれらの定着方法 を採用する場合は本工法の適用範囲外である** 技術研究所建築技術グループ 建築設計部構造一課技術研究所

高耐力既製コンクリート杭用パイルキャップ工法の …...西松建設技報 VOL.43 高耐力既製コンクリート杭用パイルキャップ工法の開発 3

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西松建設技報 VOL.43

高耐力既製コンクリート杭用パイルキャップ工法の開発Development of Construction Method for High Shear Resistance Pile Cap for Precast Concrete Pile

郡司 康浩* 新井 寿昭*

Yasuhiro Gunji Toshiaki Arai

竹内 章博**

Akihiro Takeuchi

要  約

本工法は,既製コンクリート杭用パイルキャップのせん断設計をより合理的に行うための工法である.本工法では,従来から既製コンクリート杭用パイルキャップのせん断耐力要素として考えられてきたコンクリートに加え,パイルキャップ内に配置されている鉄筋を適切に考慮することにより,既製コンクリート杭用パイルキャップのせん断耐力を合理的に確保することが可能となる.本報では,工法概要を述べるとともに,工法開発にあたり実施した構造性能確認実験の概要と実験結

果について報告する.

目 次§1.はじめに§2.工法概要§3.構造性能確認実験の概要§4.実験結果と考察§5.おわりに

§1.はじめに

近年,既製コンクリート杭(以降,既製杭)の高支持力化が進み,柱 1本に対して杭 1本で設計する場合が多くなっている.それに伴い,杭 1本あたりに作用する水平力も従来に比べて増加傾向であり,杭と上部構造をつなぐ部材であるパイルキャップにも,水平力(せん断力)に対するより大きな耐力が求められている.既製杭用パイルキャップのせん断設計について,例え

ば,鉄筋コンクリート基礎構造部材の耐震設計指針(案)・同解説1)では,原則としてコンクリートのみでせん断耐力を確保する考え方を採用しており(一部,終局時に軸力の効果を考慮する方法の記載もある),パイルキャップ内に配筋されている鉄筋の効果等を無視している.そこで,本開発では既製杭用パイルキャップのせん断

設計をより合理的に行うため,従来から耐力要素として考えられてきたコンクリートに加えて,パイルキャップ内の鉄筋を適切に考慮できる工法を開発した.

本報では,工法概要を述べるとともに,工法開発にあたって実施した構造性能確認実験の概要2)と実験結果の一部3)について報告する.

§2.工法概要

本工法の概要を図―1に示す.本工法は,図―1に示すように,定着筋と埋込みを併用して既製杭をパイルキャップに定着する方式を採用する場合の,パイルキャップのせん断耐力を評価する工法である.既製杭を埋込んだ部分の周囲には,補強鉄筋を配置しており,これらの鉄筋の耐力もせん断耐力に見込むことにより,従来よりもパイルキャップのせん断耐力を合理的に確保することが可能となる.一方,定着筋と埋込みを併用して既製杭をパイルキャップに定着する方法は,実務上有用な方法であると考えられているが,パイルキャップのせん断に関する実験例が少なく,抵抗機構等に不明確な点が多い.そこで,本工法の開発にあたり,構造性能確認実験を実施し,定着筋と埋込みを併用して既製杭を定着するパイルキャップのせん断抵抗機構および,パイルキャップ内に配置されている補強鉄筋の効果を把握することとした.なお,既製杭をパイルキャップに定着する方法としては,他に定着筋のみでパイルキャップに定着する方法1)

(A法)や,杭頭部をパイルキャップに 1 D(D:杭径)程度埋込んで定着する方法1)(B法),半剛接合を用いて接合する方法例えば 4),5)などがあるが,それらの定着方法を採用する場合は本工法の適用範囲外である.

**技術研究所建築技術グループ建築設計部構造一課(現:技術研究所)

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高耐力既製コンクリート杭用パイルキャップ工法の開発 西松建設技報 VOL.43

2

§3.構造性能確認実験の概要

3―1 試験体概要定着筋と埋込みを併用して既製杭を定着するパイルキ

ャップのせん断抵抗機構および,パイルキャップ内の補強鉄筋の効果を確認するため,構造性能確認実験を実施した.試験体の概要を図―2および表―1に示す.本工法の開発にあたっては,パラメータの異なる 6体の試験体を用いて実験を実施した.試験体は,杭材およびパイルキャップ部分を天地逆転した形状としている.主なパラメータは,パイルキャップの平面寸法,パイルキャップコンクリートの設計基準強度(Fc),基礎梁の有無,杭体のパイルキャップへの埋込み長,圧縮軸力の有無である.杭材は,共通で杭径 400 mmの外殻鋼管付きコンクリ

ート杭(SC杭)を用いた.パイルキャップの平面寸法は,1辺の長さを一般的と考えられる杭径の 2.5倍(1辺が1,000 mm)とした試験体の他に,杭径の 2.0倍(1辺が800 mm)に縮小した試験体も用いた.平面寸法を杭径の2.0倍とした試験体については,パイルキャップの平面寸法の合理化を目指した条件設定である.杭体のパイルキャップへの埋込み長は,杭径の 0.5倍

(200 mm)を基本とし,深く埋込む状況も想定して杭径の 1.0倍(400 mm)の試験体も計画した.杭頭部には,全試験体に定着筋として 4-D22(SD345)を配置した.

No.6試験体に作用させる圧縮軸力については,実験装置の能力等も勘案して,杭径 400 mmの地盤から決まる長期許容支持力相当(先端支持力係数 α250,先端 N値60)の 700 kNを導入した.パイルキャプ内の配筋について,縁空き部(図―2中

の赤枠部分)には,鉄筋比 Pw(鉄筋の断面積を縁空き部の面積で除した値)で概ね同量(Pw=約 0.5%)となるように補強筋(以降,横補強筋と称す)を配置した.また,パイルキャップ上面(実施工では,下面)に近い位置には,縁空き部を貫通するように補強筋(以降,U字補強筋と称する)として 1-D13(SD295 A)を配置した.杭天端面より下側(実施工では,上部躯体側)には,ベース筋と称する鉄筋を井形状に配置した.パイルキャップのコンクリート強度は Fc24,Fc45とした.試験体に用いた材料の試験結果を表―2に示す.

3―2 加力および計測の概要加力フレームの概要を図―3に示す.実験は,パイルキャップのせん断モードが卓越するように,不静定梁形式4)で実施した.ジャッキ 1(パイルキャップ上面から800 mm)で荷重を与え,ジャッキ 2(パイルキャップ上面から 1,700 mm)で水平変位がゼロとなるように制御を行った.加力は,杭頭せん断力を漸増させる正負交番の荷重制

御方式で実施した.杭頭せん断力は,ジャッキ 1の荷重からジャッキ 2の荷重を差し引いて算定した.なお,実験中はカウンターウェートを用いて,ジャッキや加力冶

図―1 本工法の概要

表―1 試験体のパラメータ

図―2 試験体の概要

U字補強筋

杭頭定着筋

パイルキャップ

埋込み長

杭径:D

軸力:N

せん断力:Q

軸力:N

軸力の抵抗

横補強筋の抵抗

コンクリートの抵抗

本工法のディテール 本工法の抵抗機構

コンクリート抵抗面

縁空き距離横補強筋 U字補強筋の

抵抗

□-D10,

D13(SD295)

(ベース筋)

(U字補強筋)

(横補強筋)

4-□-D10(SD295)

2,350

750

600

2,300

3,650

200300

400 400

4-D22(SD345)

(定着筋)

1-D13(SD295A)

5-D13(SD295A)800

(U字補強筋)1-D13(SD295A)

(横補強筋)

200

200

7-D13(SD295A)(ベース筋)

4-D22(SD345)

(定着筋)

1,000

SC杭

(鋼管厚12mm)

SC杭

(鋼管厚12mm)

縁空き距離 縁空き距離

2,350

No.1試験体 No.2試験体

パイルキャップ

平面寸法

パイルキャップ

平面寸法

(U字補強筋)1-D13(SD295A)

1,000パイルキャップ

平面寸法

200

300

縁空き距離

4-D22(SD345)

(定着筋)4-□-D10(SD295)

(横補強筋)

7-D13(SD295A)(ベース筋)

200

400

縁空き距離

800パイルキャップ

平面寸法

4-D22(SD345)

(定着筋)

400

(U字補強筋)1-D13(SD295A)

□-D10,

D13(SD295)(横補強筋)

(ベース筋)5-D13(SD295A)

400

SC杭

(鋼管厚12mm)

SC杭

(鋼管厚12mm)

550

800

2,100

3,450

550

450

2,300

3,650

350

No.4試験体

No.5試験体

No.3試験体No.6試験体

2,350 2,350

基礎梁

試験体 No.1 No.2 No.3 No.4 No.5 No.6

杭径D(mm)

1000 800 800 1000 800 800

× × × × × ×

1000 800 800 1000 800 800

(2.5D) (2.0D) (2.0D) (2.5D) (2.0D) (2.0D)

200 200 200 200 400 200

(0.5D) (0.5D) (0.5D) (0.5D) (1.0D) (0.5D)

Fc(N/mm2) 24 24 45 24 24 24

その他 - - -基礎梁有

-N=

700kN

φ400

平面寸法(mm)

埋込み長(mm)

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西松建設技報 VOL.43 高耐力既製コンクリート杭用パイルキャップ工法の開発

3

具の自重をキャンセルした.計測の概要(代表して No.1試験体の計測状況)を図―4に示す.本実験では,加力点・反力点の他に,杭頭部およびパイルキャップ側面にも変位計を設置して計測を行った.パイルキャップ内鉄筋のひずみゲージ貼付位置と,杭頭近傍の鉄筋配置概略図(代表して No.1試験体の貼付状況)を図―5に示す.パイルキャップ内の鉄筋のうち,図―5に示すように U字補強筋・横補強筋・ベース筋にひずみゲージを貼付している.各鉄筋には,加力軸との対称性を考慮して N・W・S側にひずみゲージを貼付している.また,各位置の鉄筋には表裏に各 1枚のひずみゲージを貼付しているため,データ整理にあたっては,2枚のひずみゲージの値を平均することとした.併せて,杭頭に設置した定着筋にも同様にひずみゲージを貼付し,計測を実施した.本報では,紙面の都合上,本実験で基本となる No.1試験体と No.2試験体の実験結果について次章以降で報告する.

§4.実験結果と考察

4―1 杭頭せん断力-杭頭水平変位関係杭頭せん断力-杭頭水平変位関係を図―6に示す.杭頭水平変位は,図―4に示すようにパイルキャップ上面から 50 mm上がった位置で計測した E側・W側の水平変位の平均値とした.パイルキャップの平面寸法が 2.5 Dの No.1試験体は,

杭頭せん断力が 600 kN程度まで概ね直線的な挙動であったが,平面寸法が 2.0 Dの No.2試験体が直線的な挙動を示す杭頭せん断力の範囲は,350 kN程度と No.1試験体よりも小さい範囲であった.それらより大きい杭頭せん断力の範囲では,両試験体ともにループに膨らみが見られる挙動となったが,本実験の終了まで急激な荷重の低下等は生じずに安定した挙動を示した.パイルキャップ内の鉄筋については,No.2試験体にお

いて杭頭せん断力が 780 kNの時に,パイルキャップ内の U字補強筋が降伏した.No.1試験体は,実験終了までパイルキャップ内の各補強鉄筋は降伏しなかった.定着筋については,No.1,No.2試験体ともに負方向加力時で最初に降伏が生じ,その時の杭頭せん断力は No.1試験体で -730 kN,No.2試験体では -490 kNであった.本実験においては,試験体の終局状態の確認まではで

きていない.よって,本実験における最大の杭頭せん断力は,ジャッキの加力能力によって決まった値となっており,No.1試験体で 930 kN,No.2試験体で 940 kNと両試験体でほぼ同値となった.両試験体の正加力時における杭頭せん断力と杭頭水平

変位の関係を包絡線として図―7に示す.No.1試験体とNo.2試験体を比較すると,杭頭せん断力が約 350 kNまでは,両試験体でほぼ同じ挙動となっていた.それ以上

の杭頭せん断力の範囲では,両試験体の挙動に違いが見られ,同一杭頭せん断力時の変形は,No.1試験体よりもNo.2試験体の方が大きくなる挙動であった.本実験の範囲内における最大杭頭水平変位量(正加力時)は,No.1

試験体で約 4.8 mm,No.2試験体で約 6.5 mmであった.

図―4 計測の概要(No.1 試験体)

表―2 材料試験結果

図―3 加力フレームの概要

スタブ

パイル

キャップ

1,40

0

加力点

反力点

反力床

反力壁

800

900

3,10

0

ジャッキ2

ジャッキ1

注:カウンターウェート等は表記を割愛

(+) ⇔ (ー)

加力方向N SMAX:2000kN

MAX:2000kN

ピン支承(No.6のみ)ジャッキ3MAX:2000kN

(No.6のみ)

ローラー,ロードセル

(a) 立面図

(+) ⇔ (ー)

150

150

50

75

800

900

1,70

0

載荷方向

N W

反力点▼

加力点▼ N

E

W

S

(b)伏図(見下げ)【杭頭部・パイルキャップ部】

※変位計は、不動梁から設置した

(不動梁は、記載を割愛)

試験体σB

(N/mm2)

E

(×104 N/mm

2)

試験体σB

(N/mm2)

E

(×104 N/mm

2)

No.1 25.6 2.84 No.2 24.7 2.82

No.3 51.9 3.85 No.4 24.0 2.94

No.5 26.0 3.03 No.6 28.8 3.04

材料σB

(N/mm2)

E

(×104 N/mm2)材料

σy

(N/mm2)

E

(×105 N/mm2)

CON 112.0 4.20 SKK490 418.0 2.05(規格値)

材料σy

(N/mm2)

E

(×105 N/mm2)材料

σy

(N/mm2)

E

(×105 N/mm2)

D10(SD295A)

372.9 1.87D13

(SD295A)352.4 1.81

D22(SD345)

386.0 1.89

パイルキャップコンクリート

杭体

異形鉄筋

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高耐力既製コンクリート杭用パイルキャップ工法の開発 西松建設技報 VOL.43

4

4―2 ひび割れ性状No.1試験体および No.2試験体のひび割れ性状を比較

して図―8に示す.図―8には,両試験体ともに⑴ パイルキャップ上面にひび割れが発生した状態,⑵ ひび割れがパイルキャップ側面へ進展(杭埋込み深さ程度)した状態,⑶ 加力軸上にもひび割れが発生した状態,⑷ 本実験における最大杭頭せん断力時のひび割れ状態を示している.また,前述の各状態における杭頭せん断力の値および,加力方向を図―8中に併記している.ひび割れの特徴として,正加力時のひび割れであれば

加力前面側となる N側に,負加力時のひび割れであれば逆に S側に集中して発生していた.パイルキャップの平面寸法が 2.5 Dの No.1試験体のひび割れの進捗として,まず加力軸に直交するひび割れがパイルキャップ上面の杭端部に発生し,そのひび割れが上面端部へ進展する挙動を示した.その後,パイルキャップ側面(E側,W側)にひび割れが伸展し,側面では斜め下方向にひび割れが伸びるとともに,パイルキャップ上面の加力軸上にもひび割れが発生し,側面(S側,N側)まで進展する挙動を示した.パイルキャップの平面寸法が 2.0 Dの No.2試験体に

おいても,ひび割れの進展順序は No.1試験体と概ね同様であった.これらより,パイルキャップの平面寸法の違いが,せん断系のひび割れ性状に与える影響が小さいことを確認できた.図―8中に併記した両試験体が概ね同様のひび割れ状態に至った際の杭頭せん断力は,総じて No.1試験体よりも No.2試験体の方が小さい傾向であった.また,本実験における最大杭頭せん断力時のひび割れ状態を見ると,杭頭せん断力の値は大きく変わらないが,No.1試験体よりも No.2試験体のひび割れ本数が多い状態であった.

4―3 鉄筋のひずみ性状⑴ U字補強筋図―8のひび割れ状態に対応する U字補強筋のひず

み状態(正加力時)を図―9に示す.なお,図―9の横軸の角度表示は,図―5中に示す角度表示に対応している.

No.1,No.2試験体ともに,加力軸に直交する 90°位置(W側)のひずみの値が最初に大きくなる挙動を示した.これは,図―8のひび割れ状況からも分かるように,初期のひび割れが加力軸に直交するパイルキャップ上面に発生した事象と対応していると考えられる.その後,加力軸上である 180°位置(N側)のひずみの値も大きくなっているが,この事象も加力軸上にひび割れが発生したタイミングと挙動が対応している.概ね同様のひび割れ状態で No.1試験体と No.2試験体を比較すると,No.1試験体よりも No.2試験体の方が総じてひずみの値が大きく,本実験時の最大杭頭せん断力時点において No.2試験体の 90°(W側)および 180°(N側)位置の U字補強筋は,降伏状態に至っていた.⑵ 横補強筋図―8のひび割れ状態に対応する横補強筋のひずみ状

態(正加力時)を図―10に示す.なお,図―10の横軸の角度表示は,図―5中に示す角度表示に対応している.また,図―10に示している値は,複数段配置されている横補強筋のうち,パイルキャップ上面に一番近い位置の

図―6 杭頭せん断力-杭頭水平変位関係 図―7 杭頭せん断力-杭頭水平変位関係 (包絡線)

図―5 ひずみゲージの貼付位置(No.1 試験体)

※直交のベース筋

 は記載を割愛

SN

E

W

0°180°

90°(a)U字補強筋

SN

E

W

0°180°

90°(b)横補強筋

SN

E

W (c)ベース筋

赤印がゲージを示す

(+)⇔(ー)加力方向

(U字補

強筋)

鉄筋位置略図

(横補

強筋)

(ベース筋)

-1000

-800

-600

-400

-200

0

200

400

600

800

1000

-10 -8 -6 -4 -2 0 2 4 6 8 10

杭頭水平変位 (mm)

定着筋降伏

PC内鉄筋降伏

No.2

-1000

-800

-600

-400

-200

0

200

400

600

800

1000

-10 -8 -6 -4 -2 0 2 4 6 8 10

杭頭せ

ん断

力(k

N)

杭頭水平変位 (mm)

定着筋降伏

PC内鉄筋降伏

No.1

0

100

200

300

400

500

600

700

800

900

1000

0 2 4 6 8

杭頭せ

ん断

力(k

N)

杭頭水平変位(mm)

No.1

No.2

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西松建設技報 VOL.43 高耐力既製コンクリート杭用パイルキャップ工法の開発

5

横補強筋のひずみの値である.No.1試験体については,同一深度に 2重の横補強筋が配置されているが,図―10に示しているひずみの値は,より杭に近い内側の横補強筋のものである.

No.1,No.2試験体ともに,横補強筋のひずみの傾向はU字補強筋と類似しており,加力軸に直交する 90°(W

側)位置のひずみの値が最初に大きくなり,その後,加力軸上である 180°(N側)位置のひずみの値が大きくなる挙動であった.これらの挙動は,U字補強筋でひずみの値が大きくなった理由と同様の影響によるものと考えられる.概ね同様のひび割れ状態で No.1試験体と No.2試験体を比較すると,ひずみの値の大小関係も U字補強筋と同様であり,本実験の最大杭頭せん断力時において No.2

試験体の 90°(W側)および 180°(N側)位置の横補強筋は,降伏状態に至っていた.⑶ ベース筋図―8のひび割れ状態に対応するベース筋のひずみ状

態(正加力時)を図―11に示す.なお,図―11に示すひずみの値は,加力軸上のベース筋のものである(図―5参照).ベース筋のひずみの傾向として,No.1,No.2試験体ともに,加力前面側となる N側のベース筋で,杭頭せん断力が大きくなるにつれて,ひずみの値が大きくなる傾向を示した.ベース筋のひずみの値は,本実験の最大杭頭せん断力時においても最大で約 1,500μ(No.2試験体)であり,降伏状態までには至らなかった.⑷ 補強鉄筋の挙動まとめ

U字補強筋および横補強筋の挙動について,図―6の杭頭せん断力-杭頭水平変位関係も併せて考えると,パイルキャップにひび割れが発生し,U字補強筋および横補強筋のひずみが大きくなった状態においても,杭頭せん断力の低下等は生じていない.このことから,本実験

図―10 横補強筋のひずみ状態

図―11 ベース筋のひずみ状態

図―8 ひび割れ性状

図―9 U字補強筋のひずみ状態

W

E

SN

(1)上面にひび割れ発生W

E

SN

(2)側面へ進展(杭埋込み深さ程度)

W

E

SN

(3)載荷軸上にひび割れ発生W

E

SN

(4)本実験の最大杭頭せん断力時

Nk006=QNk063=Q

Nk039=QNk027=Q

(+) ⇔ (ー)加力方向

正側加力:青色負側加力:赤色

W

E

SN

W

E

SN

W

E

SN

W

E

SN

(1)上面にひび割れ発生 (2)側面へ進展(杭埋込み深さ程度)

(3)載荷軸上にひび割れ発生 (4)本実験の最大杭頭せん断力時

(a)No.1

(b)No.2

(+) ⇔ (ー)加力方向

正側加力:青色負側加力:赤色

Q=300kN Q=400kN

Q=700kN Q=940kN

0

500

1000

1500

2000

2500

180° 140° 130° 90° 50° 40° 0°

ひずみ(με)

Q_300 Q_400Q_700 Q_940

▲降伏ひずみ

No.2

加力方向

0

500

1000

1500

2000

2500

180° 140° 130° 90° 50° 40° 0°

ひずみ(με)

Q_360 Q_600Q_730 Q_930

▲降伏ひずみ

No.1

加力方向

(1)上面ひび割れ発生 (2)側面へ進展

(3)載荷軸上にひび割れ発生 (4)本実験の最大せん断力時

0

500

1000

1500

2000

2500

N 中心 S

ひずみ(με)

Q_300 Q_400Q_700 Q_940

▲降伏ひずみ

No.2

加力方向

0

500

1000

1500

2000

2500

N 中心 S

ひずみ(με)

Q_360 Q_600Q_730

▲降伏ひずみ

No.1

※Q_930は欠測

加力方向

(1)上面ひび割れ発生 (2)側面へ進展

(3)載荷軸上にひび割れ発生 (4)本実験の最大せん断力時

0

500

1000

1500

2000

2500

180° 140° 130° 90° 50° 40° 0°

ひずみ(με)

▲降伏ひずみ

No.2

加力方向

0

500

1000

1500

2000

2500

180° 140° 130° 90° 50° 40° 0°

ひずみ(με)

Q_360 Q_600Q_730

▲降伏ひずみ

No.1

※Q_930は欠測

加力方向

(1)上面ひび割れ発生 (2)側面へ進展

(3)載荷軸上にひび割れ発生 (4)本実験の最大せん断力時

Q_300 Q_400Q_700 Q_940

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高耐力既製コンクリート杭用パイルキャップ工法の開発 西松建設技報 VOL.43

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において,ひび割れ発生前までコンクリートが負担していた応力を,ひび割れ発生後は主に U字補強筋および横補強筋で負担できていることを確認できたといえる.一方,ベース筋については,U字補強筋および横補強筋と比較してひずみの値も小さいことから,ひび割れ発生後の応力負担に対する寄与度は小さいと考えられる.

§5.おわりに

定着筋と埋込みを併用して既製杭を定着するパイルキャップのせん断抵抗機構および,パイルキャップ内の補強鉄筋の効果を確認するため,構造性能確認実験を実施した.本報では,本実験の基本となる No.1試験体と No.2試験体の結果について報告した.本実験の範囲内における荷重変位関係は,パイルキャップの平面寸法の違いによらず概ね同様の挙動を示し,荷重が急減するような脆性的な挙動は生じなかった.パイルキャップのせん断系のひび割れについて,その特徴を把握し,進展については,パイルキャップの平面寸法の違いによる影響は小さいことを確認した.また,パイルキャップ内の補強鉄筋については,縁空き部に配置される U字補強筋および横補強筋が,ひび割れ発生後に応力を負担しおり,抵抗要素として有用であることを確認した.

参考文献1) 日本建築学会:鉄筋コンクリート基礎構造部材の耐震設計指針(案)・同解説,2017.3

2) 郡司他:定着筋と埋込みを併用する既製コンクリート杭用パイルキャップの構造実験 その 1 実験概要と荷重変位関係,日本建築学会大会学術講演梗概集(北陸),pp. 185‒186, 2019. 9

3) 岩本他:定着筋と埋込みを併用する既製コンクリート杭用パイルキャップの構造実験 その 2 パイルキャップおよび補強筋の挙動,日本建築学会大会学術講演梗概集(北陸),pp. 187‒188, 2019. 9

4) 青島他:改良型簡易接合法を採用した既製コンクリート杭杭頭部の力学性状,日本建築学会構造系論文集,第 607号,pp. 125‒132, 2006. 9

5) 斎藤他:半固定杭頭接合法の開発 その 1 一定圧縮軸力下の接合部回転性状,日本建築学会大会学術講演梗概集(関東),pp. 433‒434, 2001. 9