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平成 29 年度 高度な自動走行システムの 社会実装に向けた研究開発・実証事業 自動走行の実現に向けた産学官の 協調戦略、実証事業の推進 調査報告書 2018 3 株式会社ローランド・ベルガー

自動走行の実現に向けた産学官の 協調戦略、実証事 …平成29 年度 高度な自動走行システムの 社会実装に向けた研究開発・実証事業 自動走行の実現に向けた産学官の

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平成 29 年度 高度な自動走行システムの

社会実装に向けた研究開発・実証事業

自動走行の実現に向けた産学官の

協調戦略、実証事業の推進

調査報告書

2018 年 3 月

株式会社ローランド・ベルガー

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目次

1.はじめに 1

2.一般車両における自動走行(レベル2、3、4)の将来像 3

2-1)自家用 3

2-2)事業用 5

2-3)海外各社の自動走行に関連する近年の具体的な動き 5

3.走行環境の複雑性の指標化 10

3-1)指標化を行なう意義 10

3-2)考え方 11

3-3)走行環境の複雑性の指標(2017 年度暫定版) 12

3-4)利用方法イメージ 20

4.安全性評価環境づくり検討 WG 20

4-1)WG 設置の目的 20

4-2)本年度の結論 21

4-3)安全性評価に関するドイツの動向 21

4-4)ドイツの PEGASUS の取組み 22

5.自動走行における競争・協調領域の戦略的きり分け 23

5-1)重要 10 分野全体の関係性 24

5-2)重要 10 分野における取組方針 25

5-3)ドイツにおける協調領域発展のメカニズム 34

5-4)ドイツ自動車業界の政府への働きかけ方 36

6.おわりに 36

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1.はじめに 1

2

都市を中心に世界の人口が増加する中、自動車の更なる普及拡大が想定さ3

れ、交通事故の削減、交通渋滞の緩和や環境負荷の低減等がより必要となる。4

今後、既存の取組だけでは抜本的な解決が困難と予想されるため、新たな取組5

である自動走行への期待は高く、関連する市場の拡大も見込まれる。 6

自動走行は、我が国にとって、成長が期待される分野であり競争力を確保す7

ることが重要であるが、我が国自動車メーカーは、欧米自動車メーカーとともに8

世界をリードする一方で、例えば、部品やサービス等については、欧米勢の取9

組が極めて活発であるなど、決して楽観できない状況である。また、従来の自動10

車技術以上に、業界内、業界間や産学の協調、更にはユーザーの理解向上が11

求められることから、我が国がこの分野で世界をリードするためには、関係者に12

よる戦略的な取組が必要である。 13

政府の「未来投資戦略 2017」(平成 29 年 6 月 9 日)1及び「官民 ITS 構想・ロ14

ードマップ 2017」(平成 29 年 5 月 30 日)2においても、交通事故の削減、地域の15

1首相官邸 日本経済再生本部 「未来投資戦略 2017(全体版)」

https://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/pdf/miraitousi2017_t.pdf/ において以下の記載

がある。

「Ⅰ Society5.0 に向けた戦略分野 2.移動サービスの高度化、「移動弱者」の解消、物流革命

の実現」

“ヒト・モノの移動について、我が国が本格的な人口減少社会に直面し、生産年齢人口の減少が

見込まれる中、地域における公共交通網維持、人手不足が深刻化している物流分野への対応、交

通事故の削減等が喫緊の課題である。こうした社会課題に対応しつつ、産業競争力の強化等を図

るため、具体的なビジネスモデルを念頭に置いた上で、世界に先駆けた無人自動走行による移動

サービスの実現と社会に取り入れることを目指し、制度整備、技術開発、実証環境整備などの取

組を明確な期限を示して強力に推進する” 2首相官邸 高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部・官民データ活用推進戦略会議「官民

ITS 構想・ロードマップ 2017」

https://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/kettei/pdf/20170530/roadmap.pdf において以下の記載

がある。

<自動運転システムによる社会的インパクト>

自動運転システムは、今後すぐに世の中に普及する訳ではないものの、今後 10~20 年の間に急

速に普及していくことが予想されており、これに伴い今後社会に対して大きなインパクトを与え

る可能性がある。

具体的には、自動運転システムは、一般的に人間による運転よりもより安全かつ円滑な運転を可

能とするものであり、この結果、交通事故の削減、交通渋滞の緩和、環境負荷の軽減など、従来

の道路交通社会の抱える課題の解決に大きく資するものとなることが考えられる。また、自動運

転システムは、それらの課題解決に加えて、運転者の運転負担の大幅な軽減を可能とし、特に高

度自動運転システムは、移動に係るこれまでの社会的課題に対して新たな解決手段を提供する可

能性がある。

更に、自動車関連産業は、周辺産業を含め産業規模が大きく、また、波及性が高い汎用性の高い

技術をベースにする産業である。上述のような課題を解決するような新たな自動運転技術を基に

イノベーションを進めていくことにより、自動車産業の競争力強化や新たな産業の創出だけでな

く、移動・物流業界の効率化・革新を通じた広範な産業への影響や、自動運転技術の他分野(農

業、鉱業等)への波及も考えられる。

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人手不足や移動弱者の解消といった社会問題を解決するために、自動走行プ16

ロジェクト実現に向けた議論がなされている。 17

「自動走行ビジネス検討会」は、我が国が自動走行において競争力を確保し、18

世界の交通事故の削減をはじめとする社会課題の解決に積極的に貢献するた19

め、現状の課題を分析し、必要な取組を検討することを目的に、経済産業省製20

造産業局長と国土交通省自動車局長の検討会として 2015年 2月に設置された21

3。 22

産学官オールジャパンで検討が必要な取組を確認4した上で、その具体化を23

図るため 2015、2016年度に、①一般車両の自動走行(レベル 2,3,4)等の将来24

像の明確化、②協調領域の特定、③国際的なルール(基準、標準)づくりに戦略25

的に対応する体制の整備、④産学連携の促進に向けた議論を行い、「自動走行26

の実現に向けた取組方針」(2017年 3月)5 を提示した。 27

28

2017年度は、「自動走行の実現に向けた取組方針」で定められた工程表に基29

づく取組の推進及びその進捗管理が行われ、計 3 回の非公式フォローアップ会30

合を通じてそれは実施された。また、計 2 回の自動走行ビジネス検討会の本会31

合が開催され、その進捗内容と今後の方針が報告された。具体的には、これら32

の会議の開催に向けた資料の取りまとめや会合の運営支援を行なった。 33

また、自動走行ビジネス検討会の下に安全性評価環境づくり検討 WGが設置34

され、これまでの研究開発の成果を活用した安全性の評価方法の在り方等につ35

いて検討が開始され、計 4 回の WG が開催された。具体的には、WG の開催に36

向けた資料の取りまとめや会合の運営の支援を行なうと共に、ドイツを中心とし37

た安全性評価・認証に関する動向と考え方について調査を行なった。 38

39

また、現在の自動走行レベルは車両のスペックのみで議論がなさているが、40

本質的には走行環境の複雑性を車両スペックがいかに上回るかがポイントとな41

る。つまり、走行環境と車両スペックの相対比較により可能な自動走行レベルを42

判断するべきとの考えられる。この考え方に基づき、走行環境の複雑性につき43

指標化する取組を行なった。 44

具体的には、走行環境の要素分解、各要素が複雑性に与える影響度の大小45

の検討、関係者へのインタビューをふまえ、叩き台の作成と議論を繰り返し行っ46

なお、2017 年度も「官民 ITS 構想・ロードマップの改訂作業が進んでおり、例年では、6 月頃

に決定する予定 3 2015 年 2 月に第 1 回を開催して以降、検討を重ね、同年 6 月に「中間とりまとめ」、2016 年 3

月に「今後の取組方針」、2017 年 3 月に「自動走行の実現に向けた取組方針」を公表した。 4 「中間とりまとめ」において、関係者が自動走行の将来像を共有した上で、その実現に向けて、

競争領域と協調領域を戦略的に切り分け、今後の取組方針を策定すること、協調領域の基盤とな

る国際的なルール(基準・標準)づくりに戦略的に対応する体制の整備や産学連携を促進するこ

とを基本的な方向として確認した。 5 ①、②については、「将来ビジョン検討 WG」を設置して検討を行った。

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た。また、サービス事業者・自治体・大学の有識者に参画頂いた有識者会議を47

立ち上げ、その会議に向けた資料の作成、事前説明、会議の開催、会議でのフ48

ィードバックを踏まえた更新を行なった。以上を踏まえ、本年度は特に低速領域49

における走行環境の指標化につき整理を行なった。 50

51

52

2.一般車両における自動走行(レベル2、3、4)の将来像 53

54

走行エリアや走行方法が運転者に委ねられる自家用車と企業側で走行エリ55

アや走行状況をコントロール可能な限定区画における事業(移動・物流サービス)56

用車によって、自動走行の実現の仕方・時期が異なる6。 57

レベル 4 の実現に向けては、「技術」と「事業化」の両面で、技術を制度やイン58

フラで補いつつ、簡単なシーンから早期に実現・事業化し、複雑なシーンへと拡59

げ、世界最先端を目指すことが求められる。そのためには、走行環境の複雑性60

を車両側の性能により如何に上回るかが重要であることから、走行環境の複雑61

性とハード・ソフトの性能を類型化・指標化した上で、その組合せから、地域の抽62

出、必要な性能を定めて実現していく。 63

なお、レベル 3 以上の実現性、時期については、更なる法的、技術的な議論64

が必要なため、記載は目安である7。 65

66

2-1)自家用 67

68

高速道路における自動走行 69

高速道路においては、2020 年までに、運転者が安全運転に係る監視を行い、70

いつでも運転操作が行えることを前提に、加減速や車線変更が可能なレベル 271

を実現する。2020年以降には、レベル 3を含む高度な自動走行を実現する見込72

みである。 73

74

<将来像> 75

76 6事業(移動・物流サービス)用自動走行車は、自家用車と異なり、人件費を削減することができ

ればコストの制約が緩くなるため、センサー等を数多く搭載することが可能であり、雨天時など

走行環境が優れない場合は、運転者を付ける等、走行方法の工夫が可能である。また、サービス

事業者側で走行状況をコントロールできることから、サービスとして提供した車両の運転実績を

蓄積しやすい。一方、自家用車は、個人所有となるため、車両データの扱いには考慮が必要であ

り、開発にあたっては、事業用車で蓄積したデータの活用が考えられる。 7 レベル 3 以上の実現は、法的な整備が整うことが前提。また、社会受容性の向上が必要。

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77

一般道路における自動走行 78

2020 年頃に主要幹線道路(国道・主な地方道)において、直進運転のレベル79

2 を実現する。 80

2025年頃には、主要幹線道路における右左折やその他の道路における直進81

運転等、レベル 2 の対象環境が拡大される。また、一部の整備された主要幹線82

道路においては、システムによる作動継続が可能な限り、システムが安全運転83

に係る監視、運転操作を行い、運転者の一部のセカンダリーアクティビティ8を許84

容する直進運転のレベル 3を実現する可能性がある。ただし、レベル 3において85

運転者は、システムによる作動継続が困難な場合、システムの介入要求等に対86

して、適切に応答することが期待される。 87

その後、全道路におけるレベル 2 の実現や一部のセカンダリーアクティビティ88

を可能とするレベル 3の対象道路、対象車両の拡大が見込まれる。 89

90

<将来像> 91

92

93

94

駐車に関しては、2020年までに駐車支援(レベル 2)を実現する。 95

2020 年頃には、インフラ条件の整った専用駐車場におけるバレーパーキング96

を実現し、順次、一般駐車場へ自動バレーパーキング機能を拡大していく見通97

しである。 98

99

<将来像> 100

101

102

8 「自動走行の実現に向けた取組方針」においては「セカンドタスク」と表現していたが、国連

での議論を踏まえ、「セカンダリーアクティビティ」に変更。運転以外の行為を指す。

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2-2)事業(移動・物流サービス)用 103

104

2020 年頃、社会ニーズが強い地域や経済性の成立し易い地域において、そ105

の地域に必要なインフラ整備を行うことで、法的な制度の整備に合わせて、実現106

が技術的に比較的容易な低速走行の移動サービスや無人宅配等のレベル 4、107

事業成立性に鑑みた都市部の他の車両との混合交通下でも走行が可能な速度108

での移動サービスや無人宅配等のレベル 4 の実現が見込まれ、順次、レベル 4109

が可能な地域のエリアの広さや数を増やすことで導入地域が拡大していく見通110

しである。 111

112

<将来像> 113

114

115

116

2-3)海外各社の自動走行に関連する近年の具体的な動き 117

118

欧米勢は、自家用車中心の考え方ではなく、事業用車も対象にサービス事業119

者とも連携して自動走行の早期実現を狙う。 120

欧州勢はインフラも活用した実現、米国勢は車両の技術を優先した特定エリ121

アにおける自動走行の早期実現を狙っている。 122

我が国と同様に、IT系はじめとする新しいプライヤーによる、モビリティーサー123

ビスの提供を視野に入れ自動走行を活用する動きがある。 124

125

<ドイツ企業> 126

●BMW 127

自動走行を高速道路、駐車場から導入し、その後、事故/渋滞128

の多い都市部中心に V2I を整備することで、一般道路における129

自動走行を導入。前提として、まずは、走行精度と社会受容性130

を向上させ、その上で、限定地域から普及。 131

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具体的には、2021 年までに「iNEXT」の名で自動走行車を発売132

することを公表するとともに、Intel・Mobileye・Delphi・133

Continental 等の企業と iNEXT パートナーシップを結び、技術134

開発を推進。2017 年 3 月に、損害保険会社のアリアンツとの提135

携を発表し、事故時に保険会社と自動車メーカーが共同で因果136

関係と責任関係について調査する予定。2017 年下期には 40 台137

の 7 シリーズをベースとした自動走行車を使ったテストをミュ138

ンヘンの公道で行なうことを発表。そして、2017 年 12 月にチ139

ェコに自動車性能試験場の新設を発表し、ここを電動化、車両140

のデジタル化、自動走行や先進運転支援システムなどの先進技141

術の研究開発拠点とする計画。2018 年 2 月には、レベル 5 の完142

全自動走行車のプロトタイプも公開。 143

144

●Daimler 145

事故ゼロの社会の創造を志向し、2020 年以降のレベル 4 の導入146

を狙うが、2030 年までは、一般道路における右左折を含む自動147

走行の導入は困難と想定。前提として、まずは、技術向上とイ148

ンフラ整備により、顧客、政府に対する安心/安全を醸成。そ149

の後、法律や V2I の整備により高レベルの自動走行を実現。 150

具体的には、足元は運転支援機能の拡張を続けるとともに、ボ151

ッシュとのパートナーシップを通じたレベル 4、5 の開発を計画。152

2017 年 1 月、Uber と自動走行車の供給と配車サービスの事業153

運営で提携することを発表。2017 年 4 月には、ボッシュと開発154

における提携を発表し「2020 年代始めに市街地を走行できる自155

動運転タクシーなどを市場に投入できるようにする」とし、2017156

年 11 月には子会社の car2go が都市部での自動走行 EV による157

カーシェアリングの実現に向けた準備開始を発表するなど、モ158

ビリティーサービスに関する動きが活発化。また、2017 年 10159

月には、自動走行除雪車を使った実証実験をドイツの空港で開160

始。 161

162

●Audi 163

レベル 3 以上の自動走行において、責任を自社で取れるレベル164

での安全性に鑑み、高速道路、駐車場のレベル 2,3 から導入。165

次に、事業者向け限定エリアからレベル 4 を導入し、その後、166

一般消費者への展開を想定。前提として、まずは、安全に係る167

技術を向上させ、法整備の可能なドイツの高速道路から導入。168

その後、法律、インフラ整備の拡張に合わせ、対象顧客と地域169

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を拡大させる見込み。 170

具体的には、2017 年 10 月に世界で初めて一定条件下にてレベ171

ル 3 走行を出来る自動走行車である A8 を投入(ただし、保安基172

準が整備されるまでレベル 3 機能は使用不可)。2017 年 12 月の173

NIPS(神経情報処理システム)カンファレンスにおいて、AI174

を用いて極めて精密な 3D 環境モデルを構築する単眼カメラに175

関する研究報告を行い、クルマの周囲状況をより正確に把握す176

る技術開発を推進。 177

178

<米国企業> 179

●Ford 180

インフラが整備済、かつ、法整備、安全性の担保出来る地域を181

選定し、需要の大きい事業者向けから導入することでイニシア182

ティブ獲得を狙う。前提として、まずは、車載の自動走行に係183

る技術を確立し、安全かつ法改正の可能な地域から事業用車と184

して早期導入。その後、実証を重ねて世論を形成し、法改正の185

早期化を志向。 186

具体的には、3D マップ・LiDAR・画像処理やディープラーニン187

グ等のアルゴリズム開発等への投資を発表するとともに、Lyft188

と共同で自動走行車を事業化する方針。2018 年 2 月、自動走行189

車を使った宅配の実証実験開始を発表し、ドミノピザと食品宅190

配スタートアップのポストメイトの宅配を受託。また、2021 年191

までにハンドルやアクセルの無い完全自動運転車の量産を始め192

ると発表。 193

194

●GM 195

2016 年 3 月、自動運転関連ベンチャーの米 Cruise Automation196

を買収。2017 年 8 月、傘下のクルーズオートメーションは、自197

動運転車でシリコンバレーを往復するアプリベースサービスを198

試行実施するとともに、同年 9 月に「自動走行車の量産体制が199

整った」と発表し、完全自動走行に必要な全てが搭載済みで、200

あとはソフトウェアと規制の問題がクリアされるのみと発表。201

2017 年 10 月、2018 年初めにニューヨークでレベル 4 のテスト202

を行うと発表。また、2017 年 10 月、カリフォルニアで登録さ203

れた自動走行車の数が 100 台を超えたと発表。 204

更には、2018 年 1 月、ペダルやハンドルのない自動走行レベル205

4 の運行許可を NHTSA に申請したと発表。2019 年に量産を開206

始予定。 207

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208

●FCA 209

2016 年 5 月、米グーグルの持ち株会社アルファベット(現210

Waymo)と自動運転車の開発で提携すると発表。車両を FCA211

が提供。また、2017 年 8 月、BMW と Intel、Mobileye、Delphi 212

Automotive、Continental が共同開発している自動運転プラッ213

トフォームに参加を発表。 214

215

●Google 216

これまで法整備と安全性の担保出来る地域を選定し、自動走行217

を早期導入することで、データ蓄積によるアドバンテージ獲得218

でスピーディな技術進化を志向。前提としても、まずは、車載219

技術を確立し、安全かつ法的許可の可能な地域に導入。その後、220

実証による利用者の効果実感から世論形成と法改正の早期化を221

志向。昨今は自社としての自動走行の開発は継続しつつも、市222

場投入の実現性に鑑みた提携を推進。 223

具体的には、自動走行ライドシェア車両への利用を想定し、ク224

ライスラーのミニバンを千台単位で発注済であり、500 台をウ225

ェイモへ供給済で 2017 年 5 月に累計 300 万マイル以上を走行226

したと発表。2017 年 6 月には、年内に 600 台の体制で公道実験227

を開発すると発表し、2017 年 11 月には、「数ヵ月後には運転手228

がいないライドシェアサービスを開始する」と CEO が発言。229

2018 年 1 月にはアトランタでも自動走行のテスト走行を開始。 230

231

●TESLA 232

2017 年 7 月、モデル 3 販売を開始し、自動走行機能を利用する233

ための Hardware が 5,000USD から購入可能であり、今後のバ234

ージョンアップにより完全自動走行に近づける見込み。2017 年235

12 月には、AI チップの内製化を強化すると発表。 236

237

●UBER 238

2016 年 9 月に、自動走行車による配車サービスをピッツバーグ239

にて試験的に開始し、2017 年 3 月にはアリゾナとカリフォルニ240

アでも試験を開始。2018 年 1 月、自動走行システムに NVIDIA241

の技術を採用すると発表。 242

243

●Lyft 244

2017 年 6 月に、ソフトウェア企業の nuTonomy と連携し、自245

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動走行車の配車サービスをボストンにて試験的な開始を目指す246

ことを公表。2017 年 9 月には、サンフランシスコ市内の路上に247

て自動走行させるため、Drive.al との提携を発表。また、2018248

年 1 月に、Aptiv と共同でラスベガスにて完全自動走行タクシー249

の運行を目指すことを発表。 250

251

●NuTonomy9 252

2017 年 8 月、シンガポールにて自動走行車による配車サービス253

の商業化を 2018 年の実現を目指すことを公表。 254

255

<仏企業> 256

●Navya 257

2017 年 6 月、パリにて自動走行シャトルバスの試験走行を実施258

し、2017 年 11 月にはラスベガスでも試験運転を開始。2018 年259

の CES においても、自動走行シャトルバスを公開。また、スイ260

ス南東部の都市シオンにおいて、2016 年 6 月より運行を開始。261

ここでは歩行者や他の自動車との混在交通において実証が行わ262

れている。 263

264

●Easymile 265

2017 年 7 月独コンチネンタルから出資を受け、ドライバーレス266

車両の最先端を開発し、新たな能力分野の開拓を狙う。2017 年267

10 月に、ドイツにて自動走行バスを導入。2017 年 12 月には、268

IVECO、Sctor、Transpoil、ISAE-SUPAERO、Ifsttar、Inria、269

Michelin とバスの自動走行の技術開発の提携を発表。 270

271

<中国企業> 272

●SAIC(上海汽車) 273

2017 年 6 月、SAIC はカリフォルニアにて自動走行の試験の許274

可を取得。2018 年 1 月には、高解像度マップにおいて DeepMap275

と提携を発表。 276

277

●Baidu 278

2021 年までに、BAIC(北京汽車)と共同でレベル 4 の自動走279

行車の大量生産を計画。2019 年までにレベル 3 の機能を有する280

車両の製造を行い、その後 2021 年までにレベル 4 へ移行するこ281

とを計画。Baidu は画像認識、サイバーセキュリティ、自動走282

9 2017 年に 10 月に米 Delphi により買収された。

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行技術を提供し、BAIC がその技術を車両に統合する計画であり、283

2019 年までに 100 万台以上の BAIC の車両が Baidu の技術を284

搭載する予定。 285

●Pony.ai 286

2016 年設立。2017 年 6 月に米カリフォルニア州において走行287

テスト許可を取得。2018 年 2 月から広州(南沙)において 6 台288

の自動走行試乗サービスを一般市民に提供予定。 289

290

291

3.走行環境の複雑性の指標化 292

3-1)指標化を行なう意義 293

294

自動走行車に係る覇権争いが世界でおこる中、自動走行の分野で日本が主295

導権を取っていくことは、自動車産業において極めて重要である。日本が主導296

権を取るということは、技術を高めていくことのみならず、より早く事業化を目指297

していくことと言える。こと、海外勢は事業化を強く意識した取組が行なわれるな298

ど、日本は海外との競争にさらされることを念頭におく必要がある。事業化を進299

めるためには、早く自動走行車を走らせることが出来る環境づくりをしていくこと300

が求められている。 301

自動走行を実現するためには、多様な観点での検討が漏れなく実施される必302

要がある。 303

<検討するべき観点の例> 304

走行環境 : 走行ルートの走行環境の複雑性や難易度 305

車両のスペック : その走行環境を安全に走るために満たすべき車両306

のソフト・ハード両面のスペック 307

安全レベル : 自動走行車に求められる安全のレベル 308

倫理問題 : 自動走行車が備えるべき倫理性 309

社会受容性 : 乗客や周辺の住民の自動走行への認知や理解向上 310

事業性 : 走行するルートにおける収益性の担保 311

担い手 : 自動走行にて事業を行なうプレイヤーの確保 312

多様な観点に対して、その 1 つが欠けても自動走行は実現できず、すべてを313

足並みを揃えて議論していくことが必要とされている。 314

本事業では、これらの観点の中でも走行環境と車両のスペックに焦点をあて315

る。これまでの自動走行のレベル分けは SAE のレベル l 0 からレベル 5 のよう316

に、車両のスペックに基づき自動走行のレベルが定義されてきた。しかし、走行317

環境の複雑性が低い場であれば、必要な安全レベルを満たすために必要な車318

両のスペックはそれ相応のレベルでよいと考えられる。よって、より簡単な走行319

環境で必要な安全レベルを満たし自動走行を実現するために、走行環境の複320

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雑性を指標化することが有用であり、それにより簡単な走行環境の場を切り出321

すことができる。SAE においても ODD(運行設計領域:(Operational Design 322

Domain)10の概念が既に出され、その具体化が論点とされるなど、海外を見ても323

走行環境の複雑性を指標化することが求められている。 324

325

3-2)考え方 326

327

この指標は走行環境と車両スペックの相対比較とすることがポイントである。328

比較的簡単な走行環境から複雑な走行環境まで 5シーンを設定。各シーンに対329

して安全にレベル 4で走行するために必要なスペックを定義する。例えば、シー330

ン 3の走行環境を走行するためにはそのレベルのスペックが必要であり、シーン331

3を走行できる車両は、シーン 1やシーン 2 も走行できる、という考え方を行なっ332

た。 333

334

335

指標化の目的は、自動走行で走れる場を見つけることであり、より早く自動走336

行を実現しえる簡単な走行環境を切り出すことが重要である。よって、日本全国337

すべての道路を 5 つのシーンに分類することが目的ではなく、自動走行で走れ338

る場が、仮に少ないとしても見つけ出されることが重要である。一方で、自動走339

行が難しい場所や、今時点では自動走行の可否の判断がつかない場が存在す340

ることも許容し、そのような場は 5 つのシーンには含まれず、現時点では走行の341

判断において注意が必要な場として個別の対応が必要な場であるとする。 342

走行環境は、要素の組合せで構成されているものと考えた。要素は、道路構343

造と走り方(進路:直進・右折・左折、等)、気象/照度、動的要素、交通ルール、344

自車速度の大きく 5 種類で構成される。具体的な要素の例は、以下の通りであ345

り、走行環境の複雑性の判断に資する切り口で設定した。 346

道路構造と走り方(進路)の要素の例 347

10地理的な領域のみでなく、環境、周辺の交通状況、自車の速度、時間などの条件も含む

> 「走行環境の複雑性」と「クルマのスペック」の相対比較により、SAE Level 4で走ることが可能か否かを判定する目安とする

> この目安は、サービスカーのみならずオーナーカーも対象とする

SAEのLevel 4相当

スペック5

スペック4

スペック3

複雑度5

複雑度4

複雑度3

複雑度1 スペック1

走行環境の複雑性 スペック

スペック2複雑度2

シーン

シーン5

シーン4

シーン3

シーン1

シーン2

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『単路を走行』『十字路/T 字路(優先道路)を直進』『十字路/T 字路348

(優先道路)を左折』『前方優先道路を直進』『前方優先道路を左折』349

『交差点を右折』『本線への合流』『バス停・車寄せの脇を走行』『沿道350

施設出入り口のある単路を直進』『周囲が壁や植物に囲まれた交差点351

を走行』、など 352

気象/照度の要素の例 353

『晴/曇』『雨/雪』『夜/霧/高架下で照度が低い』『路面が乾燥』『路354

面が濡れている』、など 355

動的要素の例 356

『周囲にヒトが存在する可能性有り』『進行を妨げるヒト・自転車が多数357

存在』『周囲に他のクルマが存在する可能性有り』『クルマが周りにたく358

さん存在する』、など 359

交通ルールの例 360

『信号』『右折専用矢印信号』『歩車分離信号』、など 361

自車速度の例 362

『~6km/h』『~20km/h』『~60km/h(規制速度)』、など 363

その場その場の走行環境はこれらの要素の組合せで表されるものとし、どの364

ような要素が存在するのか/存在しないかにより、走行環境の複雑性を表すこ365

ととした。そして、5 つのシーンはこれらの要素の組合せで走行環境の複雑性を366

定義する。走行環境を構成する要素を見ることで、5 つのシーンに該当する場を367

見つけ出す・切り出すことにつなげていく。 368

369

3-3)走行環境の複雑性の指標化(2017年度の暫定版) 370

371

5つのシーンは要素の組合せによって定義されるものとした。具体的に 5つの372

シーンの設定を行なった。 373

374

● シーン 1 375

『単路を走行』『十字路/T 字路(優先道路を直進)』『路面が乾燥』『晴/曇』376

『周囲に人が存在する可能性有り』『周囲に他のクルマが存在する可能性377

あり』『~6km/hで走行』、といった要素のみで構成される走行環境 378

”動的要素が少ない道路にて直進かつ 6km/h以下の速度で走行”するイメ379

ージとし、交差点の走行は優先道路の直進以外は対象外とした。また、障380

害物に遭遇した際は、安全確保が不明な場合は停止して待つという走り方381

を前提とする。 382

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383

車両内無人自動走行での公道実証を開始する前に予想される走行環境の複雑性の指標化(公道走行実施に先立ち暫定的に策定したもの)

前提

(この指標の使い方)

>簡単な走行環境から自動走行車を走らせ、より複雑な走行環境へとステップ・バ

イ・ステップで挑戦していく、それにより実証・事業化を後押しすることが目的

>シーン1~3を中心とした簡単な走行環境である道路を切り出すこと、走行環境の複雑度を引き下げていく方法を議論するための材料としていく

>ただし、この指標やシーンは、公道実証開始前に作成されたもので実証結果は全く反映されていない

>したがって、本指標は絶対的なものではなく、どこでどのような実証・事業化を行なうのか議論を行なう参考であり目安とするものである

>この指標やシーンは、実証実験を通じた検証や、今後の技術進化を踏まえ、進化させていく

上記、速度

20km

/h以内の走行環境では、自動走行

車の走行によって渋滞が起きない環境であること

が前提

具体的なシーンのイメージ・例

走行環境の複雑性は、走行環境を構成する要素(道路構造、気象/照度、動的要素、交通ルール、自車速度、走り方)に基づき決まると仮定し、下位のシーンの要素は上位のシーンにも含まれるものと想定

>未来投資戦略

2017の「無人自動走行による移動サービスを

2020年に実現することを目指す」ことを念頭に、今回は時速

60km

/h以下で走行する場合について、特に重点的に走行環境の複雑性を検討した。

>公道実証の結果や技術の進展などを踏まえ、走行環境の複雑性の指標化について見直していく必要がある。

>国は本指標を活用して将来の公道実証について検討する。自治体や民間事業者は実証ルートの策定や自動走行車の開発目標として利用されることが期待される。

自動走行車の

走行判断において

注意が必要な要素

複雑性の高

/低の判断が困難な要素

自然災害

上方からの落下

5差路以上の交

差点

踏み切り

路面凍結

スクール

ゾーン

複雑性が高いと想定される要素

>当該スペックはあくまで目安であり、車両が最低限満たすべ

き安全性能を規定するものではない

>公道走行には車両の保安基準への適合が求められる。また、

サイバーセキュリティ対策がとられていることが望まれる

各シーンを車両内無人自動走行車が走るために目安となるスペックを検討

>公道実証を開始する以前の予測に基づくスペックであり、今後変更

>各スペックについては公道実証などを通じて見直しを行うことが必要

>また車両内無人運転であることを踏まえ、具体的なスペックについては社会受

容性を十分認識しながら検討する必要がある

>社会受容性が得られるレベルで、

10km

/h走行にて、障害物と接触する

前に停止できる検知・判断能力を持つ

>右左折したあと、車道内に入り走行できる等

>社会受容性が得られるレベルで、前方近距離の障害物を検知し、衝突

可能性があれば停止できる

>車道の範囲を逸脱せずに走行できる等

“スペック”(公道実証開始前の想定例)

多 く の 道 を

い つ で も 自 由 に

そ の た め に

目 安 と な る ス ペ ッ ク

”走行環境の複雑性”

発生頻度が稀な環境

(走行判断において注意が必要な要素)を除き、

ヒトの多いエリアや、壁などによる見通しの悪い

交差点等のある環境

全分類共通の前提条件

右記の複雑要素への対応は全ての

シーンにおいて求められる

動的要素の少ない道路にて

直進かつ

6km

/h以下の速度で走行

複雑な道路構造

(一般道路等)

道路構造は

比較的単純だが、

速度が速い

(高速・自動車専用道路等)

4a4b

前方優先道路、

右折、交通量の多い場、

視程の悪い状態も含めた

一般的な走行環境

動的要素が少なく

条件付で右折を行ないつつ

他車との交錯を生じさせない

状態で低速にて走行

不測の事態

にも停止することが可能な速

度での走行

>社会受容性が得られるレベルで、

60km

/h走行にて、静的障害物と接触

する前に減速及び操舵によって回避可能

>社会受容性が得られるレベルで、

60km

/h走行にて、動的障害物の動きを

検知できる

>社会受容性が得られるレベルで、

20km

/h走行にて、動的障害物と接触

する前に停止できる検知・判断能力を持つ

動的障害物の

飛出がある前提

動的障害物の

飛出がない前提

動的要素が少なく

条件付で右折を行ないつつ

他車との交錯を生じさせな

い状態で規制速度にて走行

動的障害物の

飛出がある前提

動的障害物の

飛出がない前提

>社会受容性が得られるレベルで、

20km

/h走行にて、静的障害物と接触

する前に停止できる検知・判断能力を持つ

スペック

走行環境

++ + + ++3a3b 2a2c 2b

自車速度

交通ルール

動的要素

気象/照度

各複雑度の前提

走行環境を構成する要素

>障害物に遭遇した際

には停止もしくは減

速して待つ

>(右折時以外は、)最

も左側の車線を

走行

>障害物に遭遇した際、

安全の確保が不明

な場合には

停止して待つ

シーン4及びシーン5の具体的な走行環境の複雑性

の定義や、その構成要素、スペックは今後の検討課題

シーン2 シーン1シーン3シーン4シーン5

>あらゆる道路にて、周囲の交通の

流れに合わせて走行するオーナー

カーやタクシー

>など

>幹線道路や高速道路を中心に走る

中長距離バス・物流(エリア限定

の自動走行にて運転負荷の軽減)

>エリア限定の自動走行を行なう

オーナーカー

(エリア外は手動運転)

>など

>既存の公共交通を補完する、特定

地域内でのコミュニティーバス

>観光地のエリア内巡回バス

>走行可能エリアや時間を限定した

タクシー

>など

>交通弱者の移動手段や外出支援

>宅配サービス(ラストワンマイル)

>空港内・工場内などの、特定の人

のみが存在するエリアでのバス

>など

>商業施設やエンタメ施設内の超低

速循環バス

>道路清掃車

>など

個々のクルマの性能に応じて、慎重

に走行の可否を検討すべき要素

(必ずしも走行不可ではない)

当 該 シ ー ン に 少 な く と も 含 ま れ る 要 素 を 記 載 し て い る が 、 実 際 の 走 行 環 境 で は 他 の 要 素 も 想 定 さ れ る

一時的な通行止

強い横風

Uターン走行

通信環境の悪い

エリア

ラウンド

アバウト

一般駐車場

可動橋

バス専用レーン

道路損傷・陥没

積雪により、路面

が見えない状態

車道全体幅が

2車幅未満

自車が越えられ

ない段差

*進行を妨げるヒ

ト・自転車が多数

存在

クルマが周りにた

くさん存在する

歩車分離信号

進行を妨げるヒ

ト・自転車が多数

存在

雨・雪が降ってい

夜/霧

/高架下で照

度が低い

朝日

/西日

がある

~100

km/h

(規制速度)

~6 k

m/h

周囲にヒトが

存在する可能性

あり

周囲に他のクル

マが存在する可

能性あり

単路を走行

十字路

/T字路(優

先道路)を直進

沿道施設出入口の

ある単路を直進

道路工事の脇を

走行

緊急車両・大型車両

動物の

飛び出し

ヒトの

交通違反

クルマの

交通違反

自宅の駐車場内

を走行

道路の凹凸上を

走行

車線にせり出す

植物脇を走行

路上駐車・路上

にある駐輪車脇

を走行

バス停・車寄せの

脇を走行

片側二車線以上の

道路を走行

十字路

/T字路

(優先道路)を左折

交差点を右折

右折専用矢印信

緊急時に通信が

可能な環境

路面が濡れてい

~10

km/h

歩車分離されている

道路を走行

(ガードレール・植木等)

~20

km/h

~60k

m/h

(規制速度)

~60k

m/h

(規制速度)

~20

km/h

歩車分離されている

道路を走行

(ガードレール・植木等)

継目・マンホール

上を走行

優先道路直進以外は対象外

前方優先道路や、対向車等と

時間差無く交錯する状況は対

象外

「晴れ」を前提とする。

(降水量・降雪量や霧の濃

度などにより走行環境は大

きく変化するため、その影

響の程度は今後の実証実

験を通じて確認)

周囲に多くのクルマ・ヒトが

存在する環境は対象外

*周囲に多くの

ヒトが存在する

環境は対象外

この他にも、歩道橋、地下

通路も要素として想定

この他にも、右折用時差式

信号、自動走行車専用信

号も想定

信号

晴/曇

路面が乾燥

信号情報通信

これらの要素がどの

程度影響を与える

かは実証実験を通

じて確認

道路構造

+走り方(進路)

周囲が壁や植物

に囲まれたカーブ

/急勾配を走行

周囲が壁や植物に

囲まれた交差点を

走行(直進・右左折)

*T字路で右折

本線への合流

前方優先の交差

点を走行

(直進・右左折)

*十字路を右折

交差点における

前方優先道路は

対象外

明確な死角が存在する見

通しの悪い道路は対象外

:「複雑度を下げる」要素との組合せで

存在する要素の括り

:「複雑度を下げる」要素

:複雑度へ影響する要素

(「*」付きは、対応する「複雑度を下げる」要

素あり)

「複雑度を下げる」の取組みの

適用条件

>社会受容性の観点

>コストの観点

>周囲交通への影響の観点

>通信環境の観点

黒:クルマの周辺環境

緑:クルマの状態

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● シーン 2a 384

シーン 1 で含まれる要素に加え、『バス停・クルマ寄せの脇を走行』『十字385

路/T字路(優先道路)を左折』『沿道施設出入り口のある単路を直進』『片386

側二車線以上の道路を走行』『~10km/h で走行』に加え、『右折専用矢印387

信号』がある前提での『交差点を右折』、信号情報通信』がある前提での388

『朝日/西日がある』、といった要素のみで構成される走行環境 389

”動的要素が少なく条件付で右折を行ないつつ他車との交錯を生じさせな390

い状態で低速で走行”するイメージとした。また、障害物に遭遇した際は、391

安全確保が不明な場合は停止して待つという走り方を前提とする。 392

● シーン 2b 393

シーン 2aに対して、『~10km/hで走行』の替わりに、『歩車分離されている394

道路を走行』を前提とした『~20km/h で走行』とし、動的障害物の飛び出し395

がない前提で 20km/hでの走行を許容。 396

● シーン 2c 397

シーン 2a に対して、『~10km/h で走行』の替わりに、前提条件無しで『~398

20km/hで走行』とし、動的障害物の飛び出しがある前提で 20km/hでの走399

行を許容。 400

● シーン 3a 401

シーン 2c で含まれる要素に加え、『歩車分離されている道路を走行』を前402

提とした『~60km/h(規制速度)で走行』の要素で構成される走行環境 403

”動的要素が少なく、条件付で右折を行ないつつ他車との交錯を生じさせ404

ない状態で規制速度にて走行”するイメージとした。また、障害物に遭遇し405

た際には停止もしくは減速して待つという走り方を前提とする。 406

● シーン 3b 407

シーン 3aに対して、前提条件無しで『~60km/h(帰し得速度)で走行』とし、408

動的障害物の飛び出しがある前提で 60km/h(規制速度)での走行を許409

容。 410

● シーン 4 411

より複雑性の高い要素が含まれることを対象とし、”前方優先道路、右折、412

交通量の多い場、視程の悪い状態も含めた一般的な走行環境”を想定す413

るイメージとしたが、本年度は結論を出さず、今後の検討課題とした。 414

● シーン 5 415

”一部の発生頻度がまれな環境を除き、ヒトの多いエリアや、壁などによる416

見通しの悪い交差点等のある環境”を想定するイメージとしたが、シーン 4417

と同様に本年度は結論を出さず、今後の検討課題とした。 418

● シーン 1からシーン 5共通の前提条件 419

共通の前提条件となる要素として、『路上駐車・路上にある駐輪車脇を走420

行』『動物の飛び出し』『緊急時に通信が可能な環境』など計 12の要素を設421

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定。シーン 1からシーン 5のいずれにも含まれる要素とした。 422

423

なお、例えばシーン 2a に含まれる『右折専用矢印信号』は”複雑度を下げる424

要素”であり、『交差点を右折』という要素の複雑度を引き下げる効果を持ってい425

る。このとき、必ずしも『右折専用矢印信号』である必要はなく、例えば『右折用426

時差式信号』や『自動走行車専用信号』などのように、交差点を右折するうえで427

の複雑度を引き下げるに寄与できるのであれば、他の要素も選択肢とすること428

も想定される。 429

一方、自動走行車の走行判断において注意が必要な要素についても設定を430

行なった。この要素がある走行環境は、必ずしも走行不可ではないが、個々の431

クルマの性能に応じて、慎重に走行の可否を検討すべ場であるとした。大きく 2432

種類あり、「複雑性の高/低の判断が困難な要素」として『踏み切り』『一般駐車433

場』『ラウンドアバウト』など計 12 要素、「複雑性が高いと想定される要素」として434

『路面凍結』『スクールゾーン』『車道全体幅が 2 車幅未満』など計 6 要素を設定435

した。 436

これらの要素の洗い出しや、シーンの定義にあたっては、ITARDA の事故分437

析の切り口、警察の事故調書の項目、自工会のユースケースの検討なども参438

考とした。 439

440

本年度は、実証実験や事業化がより早く実現されると見られるシーン 1からシ441

ーン 3を中心に議論を行った。一方、シーン 4やシーン 5はより複雑な走行環境442

が含まれるため詳細な議論は行っていない。しかし、シーン 4やシーン 5はオー443

ナーカーを想定した場合に検討が必要な領域であり、今後議論を行っていくこと444

が求められる。 445

また、この指標やシーンは、公道での実証実験開始前に作成されたものであ446

り実証結果は全く反映されていない。したがって、本指標は絶対的なものではな447

く、どこでどのような実証実験や事業化を行なうのか議論を行う参考であり目安448

とするものである。 449

450

451

一方、今後実証実験が始まっていくが、この実証実験を通じて、自動走行技452

術の進化、安全性確保のための制度整備、事業性の確認、走行環境の複雑性453

の指標化の進化、ふまえて実証実験の推進へとつなげていくことが必要である。454

そのためにも、多様な実証実験で得られたデータを共通のフォーマットで収集し455

管理してゆく。そのために、3種類の共通データフォーマットを作成した 456

457

●走行環境に関するデータフォーマット 458

各実証実験において、どのような走行環境のルートを走行したのか、どれだ459

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け難しい環境、どのような難しい環境を経験したのかを理解するためのフォ460

ーマットである。具体的には、実証実験の事業者や日時や使用車両といっ461

た「基本情報」、高速道路/一般道路や市街地/非市街地そして通信環境462

の有無などの「走行ルート」、時間帯や気象などの視程への要因や路面状463

況といった「気象・時間帯」、信号の有無や右左折の有無なども含めた「交差464

点」の経験、トンネルや橋などの「特殊道路構造」、について記載する。 465

●困難な状況に関するデータフォーマット 466

実証実験を行なう中で、オーバーライドなどドライバーによる操作が必要と467

なった困難な状況が、どのような走行環境でどのような状況で起きたのかを468

把握するためのフォーマットである。具体的には、実証実験の「基本情報」、469

事故/オーバーライドや相対する当事者や発生時間・場所などの「事故の470

基礎情報」、実際に事象が生じた「類型」(正面衝突、追突、自車の単独、471

等)、その時の「走行環境」、について記載する。 472

●事業性に関するデータフォーマット 473

事業化を想定した際、その地域においてどれだけの人口や移動ニーズが所474

在するか、需要に影響するどのような要素があるかの理解を行なう。それに475

加えて、自治体の自動走行移動サービス導入への積極性や前提となる都476

市計画の考え方の理解、及び運行事業者が自動走行の技術を使う見通し477

があるかなど、サービス提供側の能力を理解するためである。具体的には、478

実証実験の「基本情報」、人口構成・人口推移予測や需要に影響を与える479

施設の所在や公共交通機関の情報など「地域の基礎情報」、また関係する480

プレイヤー(乗客・沿線住民・自治体・運行事業者)から収集したアンケート481

やヒアリングの情報についても共有するものとした。 482

483

484

485

486

487

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<走行環境に関するデータフォーマット> 488

489

490

491

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<困難な状況に関するデータフォーマット> 492

493

494

495

496

497

498

499

500

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<事業性に関するデータフォーマット> 501

502

503

504

505

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3-4)本指標の利用方法イメージ 506

507

実際に実証実験を行なうにあたり、走行ルートの選定や走行ルートの改良を508

検討する材料として本指標を活用する。まず、自動走行を実施したい走行ルート509

につき、その走行ルートに含まれる要素を抽出する。それにより、その走行ルー510

トがシーン1からシーン5のどれに該当するのか、若しくは該当しないのか判断511

することが出来る。また、一本の道路であっても、その場その場により要素は変512

化することから、その場その場により該当するシーンも変化する。よって、走行513

ルート上のどこが難しい走行環境なのか、そして、難しいと理由は何なのか、走514

行環境の要素を見ることで判断することが出来る。 515

実証実験を実施するためには、出発地から目的地までの複数の走行ルート516

を想定した上で、各走行ルートがどのシーンに当てはまるのかを理解したうえで517

走れるルートを選択する。若しくは、走行したいルートがある場合、その走行ル518

ート上に存在する難しい走行環境とその場所、そして難しくしている理由が分か519

ることから、道路構造の改良や交通ルールを変えるための議論を行う材料とす520

ることができる。この指標を使いながら、能動的に自動走行車が走り易い走行521

環境を作り出すための議論を行うことが出来る。 522

従来、実証実験を行なうにあたっての走行ルートの選定は、実証実験を行な523

うサービサーと自動走行導入を目指した地方自治体が、特にガイドラインや目524

安を持つことなく、議論を繰り返しながら設定してきた。しかし、本指標を走行環525

境の複雑性を表す共通言語とすることで、自動走行のルート選定やルート改良526

に関する議論を円滑にする効果が期待される。こと、自動走行は経験の無い自527

治体が大半であるため、その効果は大きいと想定される。 528

529

530

4.安全性評価環境づくり検討 WG 531

4-1)WG設置の目的 532

533

自動運転の車両安全に関する基準、標準が WP29/GRRF/ACSF 及び534

ISO/TC204 や TC-22 等において検討される中、今後は開発プロセスや製品の535

最低限満たすべき性能基準とその試験方法等の検討が進むことが想定される。536

そのような背景から、自動運転車両及び電子システム等の評価・認証体制の在537

り方やその必要性に関する意見を受け、本 WGは設置された。2017年度は、1)538

現在国際的に議論されている評価方法、評価基準の整理、2)国内における車539

両、電子システム、部品、開発プロセスの評価・認証体制の在り方や必要性、3)540

国内で共有すべきアセットとその利活用方法を取り纏めることをアウトプットとし541

た。 542

543

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21

4-2)本年度の結論 544

545

自動走行車の安全性評価について、国際的な動向も踏まえつつ、様々な議546

論を行った結果、「安全性評価」については重要な協調領域の一分野であると547

の結論を得た。 548

自動走行の安全性評価の手法の一つとして、実車による走行だけでなく、シ549

ミュレーター上で評価を行なうことについて検討すべく、安全性評価環境づくり検550

討WG内に戦略 SWGを設置した。この戦略 SWGでは、経済産業省及び国土交551

通省と連携しつつ、①すでに自工会が作成した高速道路のユースケースから 18552

年度中に暫定的なシナリオを作成すること、②そのユースケースを活用しながら553

国際的な協調に進めること、③18年度中末までに国際的な協調を進めるために554

必要となる一般道のユースケースについて抽出することについて合意した。 555

サイバーセキュリティに関する議論を行い、車両外部からのサイバー攻撃へ556

の対応等、自動走行の安全性を確保する車載セキュリティについて、国際的に557

共通な開発プロセス、安全性評価の仕組みづくりを進めるための工程表案を作558

成した。 559

JARI が受託しているセーフティ及びサイバーセキュリティに関連する開発事560

業、並びにデンソーが受託している事故 Database 構築技術の開発事業それぞ561

れが安全性評価等のために有益であり、来年度も継続して事業を実施すべきで562

あるとの結論を得た。 563

564

565

4-3)安全性評価に関するドイツの動向 566

567

ドイツにおいて安全性に関する包括的な議論は BMVi ラウンドテーブルであり、568

2013 年にドイツ連邦運輸・デジタルインフラストラクチャー省(BMVi)により発足569

した会議体である。ここでは、安全性を含む自動走行に係る様々な議題を包括570

的に議論しており、BMVi と BASt が議論を主導し、他の政府機関、VDA、主要571

OEM、Tier 1サプライヤー、認証機関協会、保険協会、各種研究機関など、自動572

走行に関わる多様なステークホルダーが参画している。その他の安全性に関す573

る議論をする場としては、民間の自動車安全性評価団体が開催する会議体で574

ある Euro NCAP コンソーシアムや、Ko-HAF プロジェクト、PEGASUS、等が存在575

する。これらに共通しているのは、原則として参画者のみに議論内容や議論結576

果の詳細が共有されることであり、情報を得るにはインサイダーとなり参画する577

ことが必要となる。 578

579

BMVi ラウンドテーブルの目的は、「ドイツを自動車業界における先進的生産580

者として、グローバル市場での地位に留めること」「ドイツを自動運転業界の先581

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進市場とすること」「そのために自動運転車を公道で走行させること」と政府発表582

の「自動及びコネクテッド走行に係る戦略」の中で明記している。この会議は、国583

内 OEM によるドイツ政府への呼びかけにより発足した。その背景には、国内で584

コンセンサスを得た安全に係るルールが整備された中で開発を進めたいという585

各 OEM の共通した思惑があると共に、ウィーン条約改正には OEM 単体では実586

現できないとも懸念していた。一方、ドイツ政府としても、自動車産業は最重要な587

産業のひとつとして捉えており、ドイツがリーディングマーケットでありたいとの意588

識があり、両者の思惑が一致したものであった。 589

BMVi ラウンドテーブルには多様なプレイヤーが参画しているが、ステータス590

は平等であり、オブザーバー等の特殊なステータスの参画者はいない。ただし、591

偏った意見にならぬよう中立的なアドバイザーを設置し、議論をファシリテートし592

ている。また、各 OEMやサプライヤーからは CSO(最高安全責任者)とリサーチ593

のリーダーレベルが出席しており、責任を負う役員と、この領域で最も知見を持594

つ人物が議論に加わっている。 595

議論の進め方としては、まず議論すべきことの全体像を洗い出し整理したう596

えで、優先順位を付けて議論を行っている。特に、消費者にとって関心の高い分597

野と、OEM や政府にとって検討の金銭的・時間的インパクトが大きい分野の議598

論を優先的に実施している。具体的には、車両の安全性の担保に係る論点、ド599

ライバー間での人間特有のコミュニケーションの論点、通常の走行環境とは異600

なる交通規制(手旗信号、等)に係る論点、自動走行車に搭載するブラックボッ601

クスのスペックに関する論点、の4つが特に議論となっている。 602

603

自動車の安全性を評価する民間団体である Euro NCAPは、欧州自動車業界604

で最も影響力ある安全性評価テストの1つとされている。この評価結果は OEM605

製品の売上に大きく影響することから、各 OEMが最低限満たさなくてはならない606

実質的な規準となっている。OEM及びサプライヤーにとって、Euro NCPが開く会607

議体である Euro NCAP コンソーシアムへの参画は不可欠であると共に、参画608

することで3つの恩恵をもたらす。1 つ目に、いつまでにどのような安全対策をす609

べきか明記されるため開発目標が明確になり、ムダな開発を排除し効率的な工610

数配分に寄与する。2 つ目に、海外から欧州に輸入される廉価な製品への非関611

税障壁となる。3 つ目に、消費者に対して製品の安全性を可視化しその価値を612

訴求できる。よって、各 OEM 及びサプライヤーは自らに好ましい評価基準が設613

定されるよう、コンソーシアムに参画している。 614

615

4-4)ドイツの PEGASUSの取組み 616

617

ドイツの PEGASUS プロジェクトは、自動走行の考え方及び評価フレー618

ムワークの定義を一義的な目的として、2016 年 1 月から 2019 年 9 月まで619

の期間で実施されている。自動走行車の市場投入に向けた安全性評価の拠620

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り所を必要とするドイツ OEM3 社(Daimler、BMW、VW)及び認証期間621

TUV の 4 者が中核となって立ち上げた。あらゆる自動走行レベルや道路環622

境を対象としたジェネラルな枠組み作りがスコープであるが、当面は高速623

道路の SAE レベル 3 に主眼を置いている。2017 年 11 月の中間報告では評624

価フレームワークが示された。 625

<示された評価フレームワーク> 626

Requirements Definition & Convert for Database: 自動走行車は627

何がどの程度できるべきか、その要件定義が行われデータ化。 628

Data Processing: 実際の走行データや事故データをもとに、この世629

に存在し得る走行環境/走行状況をデータ化。 630

Scenario Compilation / Database: 自動走行車に求められる機能と、631

実際の走行環境/走行状況をインテグレートし、シナリオを作成。 632

Assessment of Highly Automated Driving Function: テストシナ633

リオをもとに、シミュレーションや実走行によるテストにて安全性634

を評価。評価された安全性に係るリスク許容性も検討された上で、635

最終的に安全であるか否かを判断。 636

PEGASUS プロジェクト自体が認証制度や車両規格をアウトプットするもので637

はなく、それらを検討するためのインプットを提供する役割を担っており、適宜638

BASt やドイツ自動車局といった規格作りを行なう機関と連携している。ドイツで639

はアウトバーンにおける自動走行レベル 3 を対象とした認証の導入について、640

2019 年までをターゲットとした検討を行なっているとの情報も存在し、この検討641

に大きく貢献しているのも PEGASUSプロジェクトと言われている。 642

安全性評価フレームワークの構築に必要となる最低限のデータセットについ643

ては、JSON formatという標準化されたフォーマットで各 OEMが共有するスキー644

ムを検討している模様である。ただし、各 OEM は直接のデータ共有に難色を示645

すことから、現時点ではデータ項目とフォーマット案を示すに留まり、合意はこれ646

からとも言われている。これらのデータを基に、オープンシナリオと呼ばれるジェ647

ネラルなシナリオが生成・共有される。このシナリオが蓄積されるデータベース648

は、プロジェクト期間中は fka が運営している。これら一連の開発・評価プロセス649

に用いられるツールチェーンのインターフェースは標準化を視野としており、接650

続性を担保していく方針とされている。 651

652

653

5.自動走行における競争・協調領域の戦略的きり分け 654

655

2017 年度実施した「自動走行の実現に向けた取組方針」において定めた重656

要 9 分野に加え、本報告書においては「安全性評価環境づくり検討 WG」におい657

て議論した「安全性評価」を 10分野目に加えることとした。 658

659

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5-1)重要 10分野全体の関係性 660

661

<必要な技術等> 662

レベル 2~5の実現に向けては、まず、高精度地図と車載センサーにより得た663

情報から自車位置を特定11した上で、車線情報を得つつ、目的地を設定する技664

術【地図】が必要となり、車載センサーにより周辺環境を認識しながら走行する665

技術【認識技術】が必要となる。その際、必要に応じ、通信インフラにより合流や666

右折時等の死角情報を認知する技術【通信インフラ】が必要となる。 667

走行に当たっては、周辺車両等の挙動を先読みし、障害物が無いと判断する668

技術【判断技術】が必要である。 669

走行中は、アクセル、ブレーキ、ステアリングの制御技術に加え、車両システ670

ムの故障時、センサー等の性能限界時、ユーザーによる誤操作・誤使用(ミスユ671

ース)時には、車両システムが確実にトラブルを検知し安全を確保する技術【セ672

ーフティ(機能安全12等)】が必要であり、また、サイバー攻撃等を受けた場合に673

も、車両システムが確実にトラブルを検知し安全を確保する技術【サイバーセキ674

ュリティ】が必要である。 675

また、レベル 2では運転者が周辺を監視する義務、レベル 3では運転者がシ676

ステムからの運転交代に即座に対応するためにシステムを監視する義務が生じ677

ることから、運転者の居眠り等を防ぐため、車両システムが運転者の状態を把678

握する等の技術【人間工学】が必要である。 679

これらの技術開発には、核となるサイバーセキュリティを含めたソフトウェアに680

関する人材確保・育成等に係る開発環境の整備【ソフトウェア人材】が必要であ681

る。更には、自動運転車を社会実装するためには、責任論を含めた社会受容性682

の向上【社会受容性】が必要であるとともに、これら技術が組み合わさって構成683

されたシステムの安全性を評価する技術【安全性評価】が必要である。 684

685

<協調分野の特定> 686

今後、我が国が競争力を獲得していくにあたり、上記必要な技術等のうち、企687

業が単独で開発・実施するには、リソース的、技術的に厳しい分野を考慮し、自688

動走行に係るテーマから重要となる 10分野を協調領域として特定した13。 689

※10分野=地図、通信インフラ、認識技術、判断技術、人間工学、 690

セーフティ(機能安全等)、サイバーセキュリティ、 691

ソフトウェア人材、社会受容性、安全性評価 692

11冗長性を確保するため、測位衛星(GPS や準天頂衛星等)による高精度な自車位置特定技術も

検討が進められている。 12故障時における安全設計を指す。 13 「今後の取組方針」において重要 8 分野を協調領域と位置づけ、「自動走行の実現に向けた取

組方針」においてソフトウェア人材の重要性が高まってきたことを踏まえ 9 分野に拡充し、本

報告書においては、安全性評価を 10 分野目に加えた。

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693

更に、重要 10分野に対して、我が国として協調すべき具体的取組を抽出する694

にあたり、大きく「技術開発の効率化」と「社会価値の明確化・受容性の醸成」の695

2つの分類から具体的取組の抽出を行った。 696

697

「技術開発の効率化」については、更に、アセット(試験設備、データベース、698

人材)の共通化と開発標準や開発段階における評価方法の共通化という 2つの699

協調内容に分けることができる。 700

アセットの共通化については、基盤地図のデータ整備・更新、認識・判断技術701

に活用できるデータベース等の整備と民間における運用、自動走行用テストコ702

ースの活用、更には、ソフトウェア人材の獲得に向けたイニシアティブの検討等703

の協調が考えられる。 704

開発標準や開発段階における評価方法の共通化については、組込ソフトウェ705

アのスキル標準の活用拡大、モデルベース開発、モデルベース評価など開発・706

評価手法の効率化、業界ガイドライン、サプライヤーからメーカーへの技術が提707

供される際の認証の仕組みの策定、更には、セーフティ/サイバーセキュリティ708

に関する国際共通ルール及び開発ツールの整備等の協調が考えられる。 709

「社会価値の明確化・受容性の醸成」については、事故低減効果の明確化な710

どの社会的意義の提示、ユーザーの自動走行システムの理解度向上、民事/711

刑事上/行政法上の責任論の整理や必要なインフラの明確化といった個社で712

は決めることのできない課題への取組が協調領域として挙げられる。 713

特に、アセットの共通化については、産学官が協調しながら、どのようなデー714

タが共通化・共有できるのか重点的に検討を進め、今後の産業競争力強化につ715

なげることが重要となる。 716

717

5-2)重要 10分野における取組方針 718

719

自動車メーカー、サプライヤー等のニーズ及び車両側の技術から検討した工720

程表を作成し、既存の取組を継続、必要に応じて拡充することで自動走行の将721

来像の実現を加速させる。この重要 10 分野に関しては、取組の進捗状況につ722

いて定期的に点検し、海外動向や技術の進展、産業構造の転換等状況の変化723

に応じて柔軟に取組の見直しや新たな対応を検討・実行していく。また、10 分野724

は完全に独立しているわけでなく分野の関係性の認識も重要となる。そのため、725

分野毎の進捗含め、全体を俯瞰して取り組むことが重要となる。 726

727

Ⅰ.地図 728

自動走行に活用する高精度地図の整備に向けては、①ビジネスモデル(整729

備範囲、仕様、費用負担(整備主体の決定含む)、更新頻度)の明確化、②デー730

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タ整備・更新に係るコスト低減のための技術開発、③データフォーマットの国際731

標準化やグローバルに自動車を商品化するための海外展開が必要となる。 732

(協調のポイント) 733

ビジネスモデルの明確化 734

地図データ整備・更新に係るコスト低減 735

海外展開 736

737

<進捗状況と取組方針> 738

高速道路については 2016 年度に方向性(ビジネスモデル)が概ね合意14され、739

一般道路については 2017 年度に特定地域(東京 2020 実証地区)15での実証を740

通して整備範囲や仕様等を決定していく方向性を提示したところ。 741

2020年頃の高速道路における実用化及び特定地域(東京 2020実証地区)で742

の実証に向け、2018年度中に高速道路全道路のデータ整備、2019年度中に一743

般道路における特定地域(東京 2020実証地区)のデータ整備を完了する。 744

また、一般道路における整備方針を早期に決定することが協調においては重745

要であることから、特定地域(東京 2020 実証地区)での実証を踏まえた整備方746

針を2021年まで決定することが求められる。更には、引き続き、高速道路、一般747

道路それぞれについて自動図化更新技術等の開発を推進し、コスト低減に取り748

組むことが重要である。 749

同時に、データフォーマットの国際標準化を推進するとともに、海外展開16や750

海外における地図データとの整合性を図っていく。 751

752

高精度な地図の検討に併せて、サービス性、リアルタイム性を持ったダイナ753

ミックマップの構築に向けては、①プローブデータ等の自動走行に活用する動的754

情報等の取り扱いを決定、②費用負担の効率化を図るため高精度地図データ755

を含めた地図データの自動走行分野以外への展開、③データを収集・配信する756

ダイナミックマップセンター機能の在り方、主体の決定が必要となる。 757

(協調のポイント) 758

プローブデータの活用方法(自動走行分野) 759

データの他分野展開 760

ダイナミックマップセンター機能の在り方 761

14高速道路については、自工会自動運転検討会がとりまとめた、「自動運転用 高精度地図に関す

る推奨仕様書(2016 年 11 月)」に基づき、ダイナミックマップ基盤株式会社(DMP)が地図デ

ータを整備しており、2017 年度は日本の主要な高速道路 1.4 万 km を整備した。2018 年度中に

日本全国の高速道路 3.0 万 km を整備予定。 15日本自動車工業会において検討している、東京 2020 オリンピック・パラリンピックにおける自

動運転実証地域を想定。羽田地区、臨海副都心地区、新宿地区を予定。 16北米地域において、DMP が同社仕様に基づくサンプル地図をデータ化し、国内外の OEM・主

要サプライヤーへ配布した(シリコンバレー地区幹線道路 40km)。欧州についても、DMP が(独)

HERE と議論を開始。

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762

<進捗状況と取組方針> 763

2017-18 年度の大規模実証17におけるダイナミックマップ等の実証を通して、764

プローブデータの活用方法、仕様、更にはダイナミックマップセンター機能の在り765

方の検討を 2016-18 年度で実施中である。プローブデータに関しては、活用目766

的含め、現時点では未決定事項が多い一方、個社で実施できる部分は限られ767

るため、活用目的を明確化し協調することが早期の整備には重要となる18。 768

769

Ⅱ.通信インフラ 770

通信インフラとの協調の確立に向けては、どのような場面において情報が771

必要となるのか具体化を図る必要があることから、①高速道路における合流や772

一般道路における右折時等の死角情報の必要性についてユースケースを設定773

した上で、②実証場所、車両とインフラ設備との路車間通信等の必要となるイン774

フラ・仕様を決定し、③環境整備に取り組む必要がある。 775

(協調のポイント) 776

ユースケースの設定 777

必要となるインフラの選定 778

779

<進捗状況と取組方針> 780

2020年頃の高速道路における実用化及び特定地域(東京 2020実証地区)で781

の実証に向け、実証場所・ルート案の特策定、ユースケースの整理、必要な情782

報の整理を日本自動車工業会において行い、関連団体に提示したところ。 783

今後は、関連団体と連携し、2018 年度中に仕様・設計要件を設定し、遅くとも784

2019年中に特定地域(東京 2020実証地区)において必要となるインフラの整備785

を行っていく必要がある。その際、様々な通信技術の活用を視野に入れながら、786

インフラの機能や装備が過多にならないように、グローバル化の波に遅れない787

ようセルラー系の技術19も見据えて、仕様等を検討することが協調した取組にお788

いて重要となる。 789

790

Ⅲ.認識技術、Ⅳ.判断技術 791

認識技術、判断技術の高度化に向けては、①海外動向に鑑みた最低限満た792

すべき性能基準とその試験方法を順次確立し、②試験設備や評価環境等を整793

備するとともに、③開発効率を向上させるために走行映像データ等のセンシン794

グ情報、運転行動や交通事故等のデータベースを整備していく必要がある。 795

17内閣府 SIP による大規模実証実験において、整備した基盤地図約 758km を活用して 2017 年度

に実験を実施。2018 年度は、基盤地図の更新やダイナミック情報の配信に係る実験を実施予定。 18地図の不良による事故時の対応についてもコストに大きく影響するため、ビジネスモデルの中

で合意を図ることが必要。 19 ハードウェアについても、周波数帯の変化に応じて対応できるような開発が必要。

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(協調のポイント) 796

最低限満たすべき性能基準とその試験法の確立 797

試験設備や評価環境等の整備 798

活用目的に沿ったデータベース整備 799

800

<進捗状況と取組方針> 801

性能基準とその試験方法については、JARI(一般財団法人 日本自動車研802

究所)が、2017 年 3 月に整備した⾃動運転評価拠点「Jtown」20を活用して、「自803

動走行システムに関する公道実証実験のためのガイドライン」21に基づく安全確804

保措置を評価する、事前テストサービス22を2018年2月に開始したところ。また、805

データベースについては、JARI において認識・判断データベース23の構築を検806

討してきており、このうち、走行映像については他業界の多用途への適応に向807

け、サンプルデータの公開24を行ったところ。 808

809

今後、性能基準とその試験方法に関しては、現在高速道路で検討が進んで810

いる自動操舵に対する国連法規を一般道路用の基準に拡大する等の国際的動811

向等に鑑みつつ、自動運転評価拠点「Jtown」を活用しながら、2020年頃の一般812

道路における自動走行導入を見据えて、試験方法の検討を順次推進し確立し813

ていく。認識・判断データベースや交通事故データベースについては、後述する814

安全性評価に活用するシナリオデータの策定等を目的として活用していくことに815

加えて、利用希望者の負担の下、データベースの活用を進めていく。なお、ドラ816

イブレコーダーの記録に関しては、今後、事故原因特定のための証明等に活用817

されることが考えられるが、書き換えや流出のリスクを抑える仕組みづくりが必818

須となる。 819

820

Ⅴ.人間工学 821

レベル 2,3 においては、システムから運転者に運転移譲が生じる可能性が822

あるため、運転者がシステムを監視する義務があることから、システムが運転者823

の状態を把握する技術を確立する必要があるとともに、運転者によるシステム824

20産官学連携による自動運転技術の協調領域の課題解決と将来の評価法整備に取り組むため、経

済産業省の補助事業を活用して、既設の模擬市街路を刷新し、自動運転評価拠点として建設した

もの。 http://www.jari.or.jp/tabid/142/Default.aspx 21警察庁が、自動走行システムを用いて公道実証実験を実施するにあたって、交通の安全と円滑

を図る観点から留意すべき事項等を示したもの。

https://www.npa.go.jp/koutsuu/kikaku/gaideline.pdf 22 http://www.jari.or.jp/Portals/0/resource/press/Press_2018_1_15.pdf 23 「認識・判断データベース」は、SIP-adus、経産省委託事業により構築してきたもので、走行

映像等のセンシングデータや運転行動データのデータベースを構築。 24 http://www.jari.or.jp/tabid/599/Default.aspx

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理解を向上する必要がある。また、レベル 2 以上においては、他の交通参加者825

との円滑な交通を実現するため、システムと他の交通参加者とのインタラクショ826

ンを確立していく必要がある。開発効率を向上させるため、開発・評価基盤の共827

通化を協調領域として進めることが重要であり、①運転者の生理・行動指標を828

同定し、運転者モニタリング要件や安全な運転委譲のための必要条件等の検829

討、②運転者によるシステムに関する知識及び状態の理解度向上方法の検討、830

③自動走行車両と他の交通との意思疎通方法の検討を進める必要がある。更831

には、①~③の検討結果を踏まえた、④国際標準化を推進する必要がある。 832

(協調のポイント) 833

運転者モニタリング要件 834

運転者によるシステム理解 835

自動走行車両と他の交通との意思疎通方法 836

国際標準化 837

838

<進捗状況と取組方針> 839

2016 年度までに、運転者の生理・行動指標の同定、運転者のモニタリングシ840

ステムの基本構想が完了し、2017-18 年度の大規模実証において検証を進め841

ているところ。また、運転者のReadiness状態の指標化やシステムから運転者へ842

の運転委譲に関わる HMI25など検討中のものも含め国際標準化26提案を推進し843

ているところ。 844

2018 年度中に、大規模実証実験の結果を踏まえつつ各種要件検討を完了し、845

国際標準化を引き続き推進することで設計基盤を協調して確立していく。また、846

セカンダリーアクティビティについては、海外動向等に鑑みつつ、許容されるセカ847

ンダリーアクティビティの評価方法を検討していく。 848

849

Ⅵ.セーフティ(機能安全等) 850

安全確保のための機能安全等に係る開発効率を向上させるため、開発・評851

価方法の共通化を目指す。開発・評価方法の検討に当たっては、①ユースケー852

ス・シナリオを定めた上で、②車両システムの故障時、センサー等の性能限界853

時、ミスユース時における安全設計要件の抽出とその評価方法を確立する必要854

がある。また、これらの設計要件は③国際調和を図っていく必要がある。 855

25 Human Machine Interface の略。システムと運転者とのインタラクションとなる内向き HMI

(運転者の状態把握、運転者への運転移譲等を行う)、システムと他の交通参加者とのインタラ

クションとなる外向き HMI(他の交通参加者の挙動把握、他の交通参加者へ自動走行車の挙動

提示を行う)に大別される。 26 内向き HMI(Road Vehicles: Human Performance and State in the Context of Automated

Driving: Part 1 – Terms and Definitions)について ISO/TR21959 Part1 が 2018 年に、外

向き HMI(自動走行車と他の交通参加者とのインタラクション)(Road Vehicles – Ergonomic

aspects of external visual communication from automated vehicles to other road users)につ

いて ISO/TR23049 が 2019 年に発行予定。

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30

(協調のポイント) 856

ユースケース・シナリオ策定 857

安全設計の要件とその評価方法 858

国際調和 859

860

<進捗状況と取組方針> 861

2017 年度中に、ユースケース・シナリオ27策定を実施し、センサー目標性能の862

導出、設計要件の抽出を完了し、国際標準28へ提案しているところ。 863

今後は、後述する安全性評価とも大きく関係してくるが、車両システムの故障864

時、性能限界時、ミスユース時の評価方法を確立・検証するために、バーチャル865

環境及びシミュレーターを構築し、実車での検証も行いながら、評価手法を確立866

していく。なお、評価・認証体制については、車両技術の知見や技術を評価する867

テストコースを有し、かつ、ユーザー視点でも安心のおける中立機関として、868

JARIが主体として体制を構築することが期待されている29。 869

870

Ⅶ.サイバーセキュリティ 871

安全確保のためのサイバーセキュリティに係る開発効率を向上させるため、872

開発・評価方法の共通化を目指す。開発・評価方法の検討に当たっては、①最873

低限満たすべき水準を設定し、②要件や開発プロセス、評価方法を確立する必874

要がある。これらの設計要件等は③国際調和を図っていく必要がある。また、④875

部品レベルで性能評価を行う評価環境(テストベッド)を構築し協調した対策を向876

上させる。更には、⑤市場化後の運用面において発生したインシデント情報、脆877

弱性情報の共有・分析体制を構築し、業界協調により対策を向上させることが878

重要である。 879

(協調のポイント) 880

最低限満たすべきセキュリティ水準 881

安全設計の要件とその評価方法 882

国際調和 883

テストベッドの実用化(評価認証体制の構築) 884

運用面における情報共有・分析体制の構築 885

886

<進捗状況と取組方針> 887

27 ユースケース・シナリオの定義については後述する安全性評価の項目を参照。ユースケース・

シナリオは網羅性を確保することが困難なため、この時点においては代表ケースを抽出したもの

で、順次修正・追記していく必要がある。 28機能安全について ISO26262 が 2018 年に、性能限界及びユーザーの誤操作・誤使用について

SOTIF(ISO/PAS21448)が 2018 年に発行予定。今後 ISO26262 と結合する可能性もある。 29体制の構築に向けては、国際標準も視野に入れ、自動車業界や国内外の大学等の知見等を得つ

つ、連携拠点として設備面や人材面の強化を進める必要があるとともに、セーフティ、セキュリ

ティ、ソフトウェア等に係る人材育成の場としても機能することが求められる。

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2016 年度末までに、最低限満たすべき水準を設定し、国際標準30へ提案する888

とともに、国際標準に先行して我が国における業界ガイドライン31の策定を進め889

ているところ。また、国際基準については、WP2932 傘下のサイバーセキュリティ890

タスクフォース33において、業界も積極的に参加し、自動車安全基準とリンクした891

議論が進められているところ。 892

今後は引き続き、国際基準・国際標準の議論に積極的に関わるとともに、テ893

ストベッドについて、2018 年度末までに整備し、その後実用化していく。また、日894

本自動車工業会に確立した情報共有体制34について情報共有・分析機能を強895

化する観点で必要となる体制拡大を進めることが重要である。更には、自動車896

に特化されたものではないが、米国おいて Cybersecurity Framework35が策定さ897

れ、欧州においても Cybersecurity Certification Framework36を検討していく方針898

であり、これを受け、我が国においても業界ごとにフレームワークを検討していく899

動きがある。自動車についても Connected、自動走行技術が進展する中、サイ900

バーセキュリティリスクは増大するため、自動車業界が活用できるリーズナブル901

なフレームワークを検討していくことが重要である。 902

なお、評価方法や評価環境の整備等は、IT 業界等の専門家を加え、他業界903

での知見、ノウハウを獲得した上で、自動走行に必要なサイバーセキュリティを904

担保していくことが重要となる。 905

906

Ⅷ.ソフトウェア人材 907

開発の核となる自動車工学とサイバーセキュリティを含むソフトウェアエンジ908

ニアリングの両方を担える人材は、我が国において圧倒的に不足しているため、909

その発掘・確保・育成に向けた早急な取組が必要となる。そのため、①自動車910

業界に必要なソフトウェア・セキュリティ人材像の明確化、②人材の確保・育成を911

進めるための学における連携に向けた仕組みづくり、③講座やイベントを通じた、912

30 ISO21434が2020年に発行予定。サイバーセキュリティについては、米国SAEとのJWG(Joint

Working Group)により進行中。 31 JASPAR において、OEM サプライヤーが実施する評価ガイドラインを策定予定。 32国連欧州経済委員会(UN-ECE)の自動車基準調和世界フォーラム(WP29)。 33 WP29 において策定されたガイドライン「Cybersecurity And Data Protection」(2016 年 11

月の ITS/AD で合意、2017 年 3 月の WP29 で成立)の技術的要件を定めるために、2016 年

12 月に設置されたタスクフォース。 34日本自動車工業会において J-Auto-ISAC WG を設置し、2017 年 4 月より活動を開始。 35 2014 年 2 月に Version1.0 が公表され、サイバーセキュリティ対策の全体像を示し、「特定」、

「防御」、「検知」、「対応」、「復旧」に分類して対策を提示した。現在、Version1.1 策定に向け

た議論が進行中。この改訂では、“サプライチェーンリスク管理”“サイバーセキュリティの自己

評価”の重要性が強調されている。 36 ICT 機器とサービスについて、サイバーセキュリティ認証フレームワーク(Cybersecurity

Certification Framework)を構築し、欧州内におけるサイバーセキュリティ認証制度を確立

することで、欧州におけるデジタル単一市場の信頼性、セキュリティを確保する。なお、これ

は、法の定めがない限り自主的なもの(Voluntary)であり、直ちに事業者に規制を課すよう

なものではない。

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若手を対象とした人材育成必要となる。 913

(協調のポイント) 914

必要な人材像の明確化 915

学学連携に向けた仕組みづくりの検討 916

若手人材の育成 917

918

<進捗状況と取組方針> 919

ソフトウェア人材について、2017 年度は、自動車向けソフトウェアのスキル分920

類と整理(制御系・知能系・情報系・基盤系)並びに国内及び海外におけるソフト921

ウェアの人材育成・引き付け・生産性向上に関するベストプラクティスの調査を922

実施したところ。2018 年度は、前段として、他業界から自動車業界への人材の923

引き付けや、人材育成講座の活用も視野に入れた自動車ソフトウェアに関する924

スキル標準を策定していく。なお、自動走行ビジネス検討会の下に人材戦略 WG925

(仮称)を立ち上げ、各種施策の議論を加速させていく。 926

セキュリティ人材について、2017 年度は、IPA が主体となり産業サイバーセキ927

ュリティ講座を、自動車技術会が主体となり自動車サイバーセキュリティ講座を928

実施したところ。2018 年度も引き続き、取組を継続する。今後は、海外人材の発929

掘・中途採用を含めた積極的な取組が必要であり、その際には、人材を確保す930

るために雇用体系の検討はもちろんのこと、業界が協調して、製造現場におけ931

るサイバーセキュリティ人材の必要性や職の魅力を発信することが不可欠であ932

る。 933

934

Ⅸ.社会受容性 935

自動走行システムへの社会受容性の向上に向けては、①自動走行による効936

用とリスクを示した上で、②社会・消費者の意識・関心を高めつつ、技術開発と937

制度整備を進める必要があり、ユーザーのニーズに即したシステム開発を進め938

ることが重要である。 939

(協調のポイント) 940

自動走行の効用とリスクの発信 941

責任論を含め、必要に応じた制度整備 942

943

<進捗状況と取組方針> 944

責任論を含めた制度整備については、各省庁における議論が進捗しており、945

2017 年度末に政府全体としての制度整備の方針を示す「自動運転に係る制度946

整備大綱」37を策定予定である。自動走行レベルについても「官民 ITS構想・ロー947

37 「官民 ITS 構想・ロードマップ 2017」において、「関係省庁の密な連携のもと、IT 総合戦略

本部を中心に、2017 年度中を目途に、高度自動運転実現に向けた政府全体の制度整備に係る方

針(大綱)をまとめる」こととしている。また、「未来投資戦略 2017」において、「将来の高度

な自動走行の市場化・サービス化に必要な交通関係法規の見直し等について、国際的な制度間競

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ドマップ 2017」でとりまとめたレベルが世間的に共通認識されつつある38。国民948

理解促進のための情報発信については、シンポジウム39や市民参加型受容性949

イベント40などを通して、政府として発信を継続しているところ。 950

今後は、「自動運転に係る制度整備大綱」に基づき、関係省庁における制度951

整備が加速することが重要である。また、自動走行の実用化に当たっては、ユ952

ーザーの誤認識や過信を防ぐ必要があることから、国民の自動走行システムへ953

の理解が必須となる。そのため、国民の理解度向上を促進するために、社会へ954

の情報発信の強化がより重要となる。更には、2018年度を目処に自動走行によ955

る事故低減効果、省エネルギー効果や CO2 排出削減効果等を定量化し、自動956

走行の効用を明確化し、社会への発信強化につなげていくことが必要となる。 957

加えて、後述する実証プロジェクト、関係省庁における実証プロジェクトや民958

間による実証プロジェクトが 2017 年度から頻繁に開始されていることを踏まえ、959

その内容を積極的に発信することで社会により身近になりつつあることを国民に960

認識してもらい、社会受容性を向上させていくことが重要である。 961

962

Ⅹ.安全性評価 963

2020年以降に実用化が見込まれている高度な自動走行の実現に向けて、自964

動走行に関する様々な分野に関し、国際基準の議論が WP29 において、また国965

際標準の議論が ISO において行われている中、これら基準・標準を見据えた安966

全性の評価方法等について早急に議論が必要である。そのため、自動走行ビ967

ジネス検討会の下に、安全性評価環境づくり検討 WG を設置し、関係者におい968

て議論を行った。 969

自動走行システムに係る安全性評価については、これまでのドライバーによ970

る認知・判断・操作をシステムが行うこととなるため、実車による評価に限界が971

ある。そのため、バーチャルによるシミュレーションにより評価を行う必要があり、972

評価に必要となる①安全性評価用シナリオ41、①の作成に必要な②データ収集973

争や国際条約に係る議論も見据えつつ、2020 年頃に完全自動走行を含む高度な自動走行(レベ

ル 3 以上)の市場化・サービス化に向け、制度整備の議論を加速し、本年度中に、政府全体の

制度整備の方針(大綱)を取りまとめる」こととしている。 38一般消費者目線では、自動走行レベルが分かりにくいとの指摘もあるため、システムとドライ

バーとの責任関係による分け方など、分かりやすい周知による国民の理解度向上を図っていく必

要がある。 39経済産業省・国土交通省委託事業「自動走行の民事上の責任及び社会受容性に関する研究」に

おいて、2017 年 3 月 7 日、2018 年 3 月 5 日に開催。自動車業界、移動・物流サービス事業者、

法律家、保険団体、一般消費者等が参加。 40 SIP-adus において、市民を交えた議論を数回実施している。この他、SIP においては、ワーク

ショップを毎年開催している。 41 シナリオとは、一連の行動(動作)の初めから終わりまでを指す。また、シーンとは、一連の

行動(動作)における一部分のくり抜いたものを指す。なお、ドイツ PEGASUS プロジェク

トにおいては、Functional Scenario、Logical Scenario、Concrete Scenario の 3 種類を定義

している。

Functional Scenario:車両が走行する際の交通環境の構成要素を指す

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及び③ユースケース42の研究が必要となる。 974

(協調のポイント) 975

シナリオ 976

データ収集の仕組み 977

ユースケース 978

979

<進捗状況と取組方針> 980

ユースケースについては、日本自動車工業会や JARI(「Ⅵ.セーフティ」参照)981

が業界協調として、2016年度から整理を行っており、これらを活用するとともに、982

データについては、認識・判断データベースや交通事故データベース(「Ⅲ.認識983

技術、Ⅳ.判断技術」参照)を活用し、2018 年度中に暫定的なシナリオを作成す984

ることとした。 985

安全性評価については、国際調和43を図る必要があり、海外の検討グループ986

との意見交換を進めるため、我が国の典型的な交通事情が分かるユースケー987

スを抽出し、意見交換に活用することとした。 988

今後は、シナリオ策定及び国際調和を進めるとともに、バーチャルシミュレー989

ションを行うために必要なツール44の構築や、運用面において発生する事故・イ990

ンシデント45に関するシナリオのデータ共有の在り方について検討を進める必要991

がある。また、高度な自動運転システムを有する車両が満たすべき安全性につ992

いての要件や安全確保のための方策の整理46を進める。 993

994

5-3)ドイツにおける協調領域発展のメカニズム 995

996

協調を行なう背景 997

ドイツにおける協調的取組は、連邦制における各州・各企業間、さらに998

Logical Scenario:構成要素のパラメーターの範囲を定義したものを指す

Concrete Scenario:構成要素を特定しパラメーターを一つに決めた、いわゆるテストに使用

するものを指す

Scene についても同様に存在する。 42 ユースケースとは、ドイツ PEGASUS プロジェクトの Logical Scene に対応するもの。 43 「5.ルール(基準・標準)への戦略的取組」で後述するように、自動車の国際的な安全基準

は、国連欧州経済委員会(UN-ECE)の政府間会合(WP29)において策定されており、我が

国も積極的に参加して国際調和活動を行っていることから、安全基準を見据えては、シナリオ

についても国際調和を図っておく必要がある。 44 ツールについては、①データベースからシナリオを抽出するもの、②①で抽出したシナリオ

DB を各社の評価環境(シミュレーター)へ変換するものが想定される。 45本報告書においては、事故(アクシデント)には至らないヒヤリハットの状況を指すものとす

る。 46平成 30 年 1 月に国土交通省の車両安全対策検討会の下に設置した「自動運転車車両安全対策ワ

ーキング・グループ」において、レベル 3 以上の高度な自動運転システムを有する車両が満た

すべき安全性についての要件や安全確保のための方策について、平成 30 年夏頃を目途にガイ

ドラインとして取りまとめる予定。

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は欧州各国の足並み統一化の必要性を背景に、歴史的に培われてきた経緯999

がある。ドイツ勢も欧州におけるプロジェクトやドイツ国内のプロジェク1000

トを通じ、長年かけて協調の仕方を学んできた。 1001

1002

ドイツのグローバル協調戦略 1003

基本的な考え方は、他国を排したドイツの国プロにてコンセプトを固め1004

つつ、その対となるミラープロジェクトを欧州にて組成し仲間作りを行な1005

うこと。ただし、近年は中国とも接近し、協調プログラムを組成している1006

と見られ、また、外国勢であっても貢献を示すことが出来ればインサイダ1007

ー化は可能である。 1008

「サイエンス→テクノロジー→マーケット」の各フェーズにおいて、「サ1009

イエンス」は数学・原子力・航空などに見られようにフランスが強く、ド1010

イツは必ずしも強みを持たない。しかし、競争領域の「マーケット」への1011

橋渡しとなる「テクノロジー」フェーズにおいて、ドイツがコンソーシア1012

ムを巧みに活用してフランスの知見を吸収しながらビジネスへ昇華する構1013

造となっている。 1014

1015

協調を成功させるポイント 1016

目指すべき姿である構想は協調領域で、それを実現する実装は競争領域、1017

というのが基本的な考え方。まずは、誰も反論できない構想・大義(Better 1018

society)を掲げ、構想レベルの議論を尽くす。しかしながら、関係者全員1019

の意思統一は不可能であることから、各社の思惑を全て盛り込んだフレー1020

ムワークを許容する。そして、各社が取捨選択し、出来るところから開始。1021

よって、定義されたフレームワークを生真面目に受け止めすぎない。 1022

この取組みは、OEM や Tier 1 にとっての協調領域が自社にとっての競1023

争領域となる「協調領域の担い手」が主導する。例えば、アカデミア、認1024

証機関、エンジニアリング会社、ツールベンダー。このような「協調領域1025

の担い手」が中立し、ステークホルダー間の関係性や分担を整理し調整を1026

図っている。 1027

協調領域にも、あるマイルストーンで具体的なモノに実装される機能開1028

発を行う垂直型プロジェクトと、時間軸と共に手法が継続進化するメソド1029

ロジー開発の水平型プロジェクトが存在。高速道路でのレベル 3 の機能実1030

証がターゲットの Ko-HAF は垂直型プロジェクトであり、自動走行の安全1031

性評価フレーム策定がターゲットのPEGASUSは水平型プロジェクトと見1032

られる。 1033

1034

ドイツの産学連携・アカデミアの強さ 1035

ドイツの産学連携プロジェクトでは、博士課程の学生がプロマネとなり、1036

企業にもまれる経験を得つつ産業界から論文の種を見出す構造。博士課程1037

修了後は企業に入り、10 年程度実業経験をつんで Director クラスとなり大1038

学の戻ることが、Professor となる条件とされている。そのような経験を踏1039

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まえ、ドイツの大学の研究者は、産業界との人脈を持ち、かつビジネスセ1040

ンスを持って協調領域の取組みを推進する役割を担っている。 1041

1042

協調による OEM・サプライヤーのメリット 1043

協調領域が設定されることで、OEM やサプライヤーは効率化や発言権1044

が強まると言ったメリットを感じている。 1045

まず、開発目標が明確になることがメリット。自動走行車が満たすべき1046

基準があらかじめ分かることで、無駄な開発を行わない、手戻りを発生さ1047

せないことにつながる。仮に協調の議論に参加しないと、過剰開発に繋が1048

る可能性が高まる。 1049

また、自動走行に関連する技術開発を協調して取り組むことで、開発の1050

タスクやコストを分散することが可能。自動走行に係る技術開発はこれま1051

でと比べ物にならないほど取組べき領域が多く、1 社でまかなうのは非効1052

率との考え方。タスクやコストを分散させることで、競争領域への投資を1053

より集中することが可能とされる。 1054

自動走行の実現へは新たなルールや標準作りが伴う。その際に、1 社で1055

政府に働きかけるより、業界全体として発言していくことで影響力を高め1056

る効果もある。 1057

仮に事故等が起きた場合、その責任を業界全体として受け止める狙いも1058

ある。新しい分野において、その責任を 1 社が背負い込むべきではない、1059

との考え方に基づいている。 1060

1061

5-4)ドイツ自動車業界の政府への働きかけ方 1062

1063

OEM やサプライヤーは政府への効果的な働きかけを行なうために、大き1064

く 4 つのチャネルを活用した活動を行なっている。①影響力ある政界出身1065

者をロビーイングチームに雇い入れている。ロビーイスト達は、電話など1066

により政府と直接コミュニケーションをとることを狙っている。②政党へ1067

の寄付や政府系イベントのスポンサーを実施している。そして、イベント1068

へはロビーイストが参加し、来場する政治家達へ彼らの考え方を共有する。1069

③自動車業界としてのアニューアルミーティングを主催し、政治家との議1070

論の場をつくりあげる。④法律制定において、その草案ドラフトを OEM が1071

政府と連携して作成することもある。 1072

OEM やサプライヤー各社はロビーイストを雇うが、個別の活動を行なう1073

のではなく、VDA を活用し、業界としてまとまって活動を行なっている。 1074

1075

1076

6.おわりに 1077

1078

自動車産業は日本における重要な産業のひとつであり、産業として1079

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の裾野は極めて大きい。そして、近年進化のスピードが速い自動走行1080

についても、日本が世界をリードする立場となるべきであり、それは1081

日本の自動車産業の競争力を維持するうえでも重要である。そのため1082

には、技術力のみならず、事業化し社会に価値を生み出すことまでを1083

視野にいれて取組むことが必要であり、そこまで出来て世界をリード1084

する立場となれると考えられる。一方、この分野は海外においても取1085

組が急速に進む分野である。例えば、ドイツが中国との連携を強めた1086

り、米国は民間が開発や実証実験をドライブするなど、多様な取組が1087

各所で行なわれている。 1088

2016 年度は自動走行の実現に向けた取組方針をまとめ、2017 年度1089

はそのフォローアップを行なうと共に、低速走行領域を中心に自動走1090

行の走行環境の指標化に取組んだ。自動走行の実現に向けては、早く1091

自動走行が出来る場を切り出すことで、公道を走る経験を積んでいく1092

べきである。最初は極めて限定的な場であっても走れる場が切り出さ1093

れていることが重要であり、そこから徐々に走れる場を広げていく。1094

また、走れる場を切り出すとき、個別に検討して場を切り出すのでは1095

なく、横展開が出来るような切り出し方を見つけることで、似たよう1096

な場を見つけることが出来る。 1097

また、前に着実に進めていくためには、中長期的なゴールを定める1098

ことが重要である。いつ何を実現しているのか、それを明確にする。1099

そして、ゴールに向けて解決するべき論点を洗い出し、取組べきこと1100

の全体像を俯瞰する。そして、ゴールに向かうスケジュールをバック1101

キャスティングして作成し、そのスケジュールに基づき一歩一歩進ん1102

でいく。そして、実証実験等の取組を通じて生じた課題を解決すると1103

共に、作成したスケジュールを更新し、関係者が同じゴールとスケジ1104

ュールを共有して進めていくことが必要である。 1105

今後も、日本の産業競争力の向上とより良い社会を築くために、共1106

通のゴールに向かって進んでいくことに期待したい。 1107

1108

2018年 3月 1109

株式会社ローランド・ベルガー 1110

1111

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頁 図表番号

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4

二次利用未承諾リスト

委託事業名:平成29年度 高度な自動走行システムの社会実装に向けた研究開発・実証事業自動走行の実現に向けた産学官の協調戦略、実証事業の推進

報告書の題名:調査報告書

受注事業者名:株式会社ローランド・ベルガー

タイトル

資料中の写真資料中の写真

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