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【はじめに】当院は、血液型検査、不規則抗体スクリーニ ングを Bio-Rad 社全自動検査装置 IH-1000(以下 IH)で行い、 クロスマッチについては原則としてコンピュータークロス マッチにて対応している。時間外不規則抗体スクリーニン グ陽性時は当直技師による抗体同定試験の実施が困難なこ とから用手法による交差適合試験のみで対応してきた。今 回、24 時間安全かつ迅速な輸血実施を目的として時間外検 査における不規則抗体スクリーニング陽性時の運用を変更 したので報告する。【方法】従来、時間外に不規則抗体ス クリーニング陽性で輸血が必要な場合、輸血担当技師の呼 び出し対応、あるいは当直技師が用手法による交差適合試 験のみを行い適合血を供給していた。しかし技術的に不慣 れな技師も多く、製剤供給に時間を要する等問題点が多か った。そこで、時間外に不規則抗体スクリーニング陽性で 輸血が必要な場合、当直技師が IH で交差適合試験と不規則 抗体同定試験を同時に実施後、輸血担当技師に電話連絡し、 輸血担当技師がこれらの結果に基づき判断し、当直技師へ 対応を指示する運用に変更した。 【結果】運用を変更した 2016 2 月以降、時間外の不規則 抗体スクリーニング陽性による輸血担当技師への問い合わ せ件数は 11 件、そのうち、3 件は輸血担当技師の呼び出し 対応、残り 8 件は電話によるサポートのみで対応可能であ った。電話サポートのみで対応可能になった要因として、 IH による抗体同定試験と交差適合試験の結果が迅速に得ら れ、輸血担当技師の早急な判断、指示ができたことが考え られた。【考察】時間外における IH による交差適合試験、 不規則抗体同定試験の導入にあたっては当直技師の不安・ 負担増が懸念されたが、不規則抗体陽性時の対応マニュア ルを作成することによりクリアできた。本運用変更により、 輸血担当技師が来院して対応できない場合のリスクの軽減 に加え、当直技師の熟練度にかかわらず、24 時間一定レベ ルの輸血の安全性確保が可能となった。一方、輸血オーダ ーから製剤供給までの時間短縮は十分とはいえず、当直技 師に対して定期的かつ継続的にトレーニングを実施してい くなど迅速性の向上が今後の課題である。 連絡先 072-445-1000 ◎樋口 麻美 1) 、砂川 なつ 1) 、石川 隆司 1) 、杉山 昌晃 1) 市立岸和田市民病院 1) 133

時間外輸血検査における不規則抗体陽性時の運用変更による ... · 2017-11-01 · 不規則抗体スクリーニング検査における酵素法の必要性

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Page 1: 時間外輸血検査における不規則抗体陽性時の運用変更による ... · 2017-11-01 · 不規則抗体スクリーニング検査における酵素法の必要性

【はじめに】当院は、血液型検査、不規則抗体スクリーニ

ングを Bio-Rad社全自動検査装置 IH-1000(以下 IH)で行い、クロスマッチについては原則としてコンピュータークロス

マッチにて対応している。時間外不規則抗体スクリーニン

グ陽性時は当直技師による抗体同定試験の実施が困難なこ

とから用手法による交差適合試験のみで対応してきた。今

回、24時間安全かつ迅速な輸血実施を目的として時間外検査における不規則抗体スクリーニング陽性時の運用を変更

したので報告する。【方法】従来、時間外に不規則抗体ス

クリーニング陽性で輸血が必要な場合、輸血担当技師の呼

び出し対応、あるいは当直技師が用手法による交差適合試

験のみを行い適合血を供給していた。しかし技術的に不慣

れな技師も多く、製剤供給に時間を要する等問題点が多か

った。そこで、時間外に不規則抗体スクリーニング陽性で

輸血が必要な場合、当直技師が IHで交差適合試験と不規則抗体同定試験を同時に実施後、輸血担当技師に電話連絡し、

輸血担当技師がこれらの結果に基づき判断し、当直技師へ

対応を指示する運用に変更した。

【結果】運用を変更した 2016年 2月以降、時間外の不規則抗体スクリーニング陽性による輸血担当技師への問い合わ

せ件数は 11件、そのうち、3件は輸血担当技師の呼び出し対応、残り 8件は電話によるサポートのみで対応可能であった。電話サポートのみで対応可能になった要因として、

IHによる抗体同定試験と交差適合試験の結果が迅速に得られ、輸血担当技師の早急な判断、指示ができたことが考え

られた。【考察】時間外における IHによる交差適合試験、不規則抗体同定試験の導入にあたっては当直技師の不安・

負担増が懸念されたが、不規則抗体陽性時の対応マニュア

ルを作成することによりクリアできた。本運用変更により、

輸血担当技師が来院して対応できない場合のリスクの軽減

に加え、当直技師の熟練度にかかわらず、24時間一定レベルの輸血の安全性確保が可能となった。一方、輸血オーダ

ーから製剤供給までの時間短縮は十分とはいえず、当直技

師に対して定期的かつ継続的にトレーニングを実施してい

くなど迅速性の向上が今後の課題である。 

連絡先 072-445-1000

時間外輸血検査における不規則抗体陽性時の運用変更による輸血の安全性向上

◎樋口 麻美 1)、砂川 なつ 1)、石川 隆司 1)、杉山 昌晃 1)

市立岸和田市民病院 1)

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Page 2: 時間外輸血検査における不規則抗体陽性時の運用変更による ... · 2017-11-01 · 不規則抗体スクリーニング検査における酵素法の必要性

【背景】厚生労働省の指針により、輸血を実施した患者の

安全性を確保し、二次被害による感染の拡大を防ぐため輸

血後感染症検査が推奨されている。検査の依頼を主治医に

委ねていた 2013年度以前の当院での検査実施率は極めて低く、1%程度の数値を推移していた。2014年度より医師、検査技師、事務職員が一丸となって実施率向上の取り組み

を開始し、良好な結果が認められたので報告する。【対象】

2014年 4月~2016年 9月に輸血を実施した患者(死亡患者は除く)を対象とし、推奨 3項目(HBV-DNA, HCVコア抗原, HIV抗体)全てを実施した患者を検査実施者とした。【方法】輸血検査室で作成した最終輸血後 1ヶ月輸血をしていない患者のリストをもとに、事務職員が輸血後感染症

検査を薦める文書を外来患者には自宅に郵送、入院患者に

は主治医を通じて手渡した。なお、血液内科を始めとする

頻回輸血患者は、4ヶ月連続輸血患者を抽出し、輸血責任医師が対象患者の主治医に輸血後感染症検査を依頼した。

文書を送付し、3ヶ月経った時点で未検査の患者に対しては、さらに事務職員が電話で追加案内するとともに、患者

の転帰を追跡した。また、輸血後感染症検査受診の啓発活

動に関して輸血療法委員会で検討し、検査を薦める文書に

よる案内、外来待合室モニターでお知らせの表示、ポスタ

ーおよびパンフレットの設置、検査室のホームページによ

る紹介等を行った。【結果】各年度の対象患者数/検査実

施者数(実施率)は、2014年度 1,290名/780名(60.5%)、2015年度 1,267名/725名(57.2%)、2016年度 4月から9月まで 632名/365名(57.8%)であった。【考察】各医療従事者の協力のもと、取り組み開始より安定した実施率

を維持しており、検査体制の基盤は構築されたと言える。

しかしながら、患者転帰追跡の限界、患者および医師の輸

血後感染症検査に対する不十分な認識等の要因により、更

なる実施率の向上は困難であると考える。一方、電話での

追加案内により平均 15.1%実施率の増加がみられているものの、毎月約 50人に電話連絡する事務職員の負担は大きい。今後は、人的負担の軽減や感染の早期発見のために、本来

の推奨時期における検査受診率向上を新たな課題として、

取り組みを続けていきたい。 連絡先:078-302-4321

当院における輸血後感染症検査実施率向上への取り組み

◎張 允禧 1)、濱田 充生 1)、楠本 壽子 1)、門永 しのぶ 1)、山本 容子 1)、吉田 昌弘 1)、簑輪 和士 1)

独立行政法人 神戸市民病院機構 神戸市立医療センター 中央市民病院 1)

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【はじめに】当院では 2006年の開院以来、時間外検査業務を輸血・細胞療法部(輸血部)、臨床検査部、病理部合同

で当直帯 2名、日直帯 3名で担当している。時間外輸血検査は、血液型と交差適合試験(CM)を全自動輸血検査装置Auto Vue Innovaにて実施し、担当者への定期的な研修と共に、新人、異動者、長期休暇からの復帰者に対しても事前

研修を行っている。また、バックアップ体制として輸血部

の専任技師のオンコール対応を行い、必要時には出勤対応

している。今回オンコール対応を内容別に分類し、検討し

たので報告する。【方法】2015年 1月から 2017年 5月の期間でオンコール対応した 1049件を対象とした。問合わせ内容別に A運用(①臨床からの問合わせ②抗体陽性患者や自己血貯血患者③ベビー関連④血液センター関連⑤その他)

、B機器(①Auto Vue Innova関連②コンピュータシステム関連③保冷庫)、C検査(①血液型検査②CM主試験陽性③CM自己対照のみ陽性)に分類し、検討した。【結果】件数は 2015年 455件、2016年 438件、2017年 156件で、問合せ内容はいずれの年も A>C>Bの順で割合に変化はな

かった。Aは①が減少、⑤が増加、Bは①が半分以上を占め、②はプリンタや輸血サーバダウン等であった。Cは①が増加、②が減少していた。【考察】今回の検討期間で

は、ABCの件数や割合に大きな推移は認められず、オンコール体制は確立していると思われたが、細分化した項目を

確認すると、A⑤ではマニュアル違反に起因するものが多く、担当者が輸血業務に慣れてきたことによる確認不足や、

不安解消を目的としたものと考えられた。緊急対応につい

ての研修に偏らず、基本的な内容を再度実施する必要性が

示唆された。また、B①は輸血部側の準備不足も考えられ、輸血部内でのマニュアル遵守を再度徹底する必要がある。

B②は、血液製剤の迅速な供給や検査結果の報告など、医療現場への影響が大きいと思われる。C①は主にウラ検査に関するものであった。これらのことから、緊急対応にお

いては、輸血専任技師での日当直業務も視野にいれる必要

性が考えられ、非専任技師に対しては、本検討をフィード

バックした研修により、オンコールの回数を減少させるこ

とが重要と考えられた。(連絡先:072-804-0101)

時間外輸血検査業務におけるオンコール対応の検討

◎佐能 もも香 1)、阿部 操 1)、北 睦実 1)、大澤 眞輝 1)、井上 まどか 1)、寺嶋 由香利 1)、山岡 学 1)、大西 修司 1)

関西医科大学附属病院 1)

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 不規則抗体スクリーニング検査における酵素法の必要性

については、以前から議論されており、臨床的意義のない

冷式抗体や非特異反応がみられるが、一部の抗体について

産生初期の段階で検出できるなどの臨床的意義もあり、日

臨技の 2016年度精度管理調査で、参加施設の約 7割は不規則抗体スクリーニングで酵素法を実施している結果となっ

ている。

 当院でも上記臨床的意義を考慮し現在酵素法を組み込ん

で運用している。

 

 平成 28年 12月に赤血球型検査(赤血球系検査)ガイドラインが小改訂され、この中で、抗体スクリーニングにつ

いては、正しく精度管理を行い、PEGまたは LISSを用いた試験管法、カラム凝集法、固相マイクロプレート法とい

った高感度な方法を用いれば、間接抗グロブリン試験を単

独で実施できることが明記された。

 また、日本赤十字社での血液製剤製造過程での献血者の

抗体スクリーニングについて従来、間接抗グロブリン試験、

生理食塩液法及び酵素法の 3法を行ってきたが、平成29年 4月 1日検査分から間接抗グロブリン試験のみで実施している。

 当院で 2006年 4月 1日~2017年 7月 24日までの不規則抗体検査件数は延べ数 40,054件、実患者数で 22,437件で、何かしら検出された実患者件数は 707件(3.15%)であった。この内酵素法のみで検出したものは 473件となり、抗 Eなど酵素法で反応増強される抗体の検出もあるが、最終的に

非特異など同定出来なかったものは 286件で酵素法の60.5%を占める。 

 今回ガイドラインの改訂や抗体検出状況などを踏まえ酵

素法廃止を検討しており、臨床に提出する基礎資料の一つ

として報告したいと考える。

連絡先:京都第二赤十字病院 075-231-5171

当院における不規則抗体検査酵素法の抗体検出状況について

酵素法廃止に向けての検討

◎相田 幸雄 1)、片川 鈴予 1)、魚嶋 伸彦 2)、河田 英里 2)

京都第二赤十字病院 輸血部 1)、京都第二赤十字病院 血液内科 2)

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【はじめに】Donath-Landsteiner抗体(以下 DL抗体)とは発作性寒冷血色素尿症(以下 PCH)の原因となる IgG型の冷式自己抗体である。DL抗体は血液型の P特異性を示し、低温で赤血球および補体第一成分と結合する。低温のまま

であれば補体活性は進まないが、常温に戻れば古典的経路

が活性化されて血管内溶血を起こす(二相性抗体)。

【症例】60代男性。11月 20日旅行より帰宅し感冒様症状を認めた。11月 26日夕方に褐色尿を認め近医を受診し溶血性貧血と診断され、11月 29日ハプトグロビンを投与後11月 30日当院紹介となる。【経過】入院時、発熱や他感染症は認めず、褐色尿も消退していた。Hb10.6g/dl、LD1325U/L、間接ビリルビン 2.4㎎/dl溶血所見を認めた。直接抗グロブリン試験陽性(C3b、C3d陽性、IgG陰性)、間接抗グロブリン試験陰性(生食法、フィシン 2段法にて抗P1を疑う)であった。12月 6日 Hb11.5g/dl、LD389U/L、間接ビリルビン 0.6㎎/dlと軽快し 12月 7日退院された。同日寒い屋外で作業中、悪寒を感じ室内へ戻っ

たところ褐色尿を認めた為、救急外来受診となり再入院と

なった。入院時 Hb12.6g/dl、LD582U/L、間接ビリルビン1.7㎎/dl、直接抗グロブリン試験陰性、間接抗グロブリン試験陰性(フィシン 2段法にて抗 P1を疑う)であった。初回入院時の直接抗グロブリン試験 C3b、C3dのみ陽性、寒い屋外で作業後、室内への移動で症状が再発しており PCHを疑い DL試験を実施する事となった。【検査方法】DL試験は最初に低温で血清と赤血球を反応させ、次に 37℃で反応させることによって溶血を起こさせる。この際補体が不可欠なため、新鮮正常血清を添加する。患

者血清が氷水中及び 37℃の状態に置いたままの試験管では溶血が観察されず、氷水中から 37℃に移した試験管で溶血する場合に陽性と判定する。

【結果】DL試験陽性となり PCHと診断された。保温療法により軽快し、寒冷への暴露を避ける生活を指導され

12月 10日退院し外来経過観察となった。【まとめ】症状発症時の患者情報が DL抗体検出に有用な情報となり、診断に至った症例であった。

連絡先:京都桂病院 検査科 075-391-5811(内線 7172)

Donath-Landsteiner抗体陽性の 1症例

◎森田 純子 1)、蔵敷 裕一 1)、井上 和子 1)、濱田 常義 2)、森口 寿徳 2)

京都桂病院輸血部 1)、京都桂病院血液内科 2)

137

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【背景】各メーカは全自動の大型機器以外に、同じカセットを使用

した半自動の小型機器を中小の施設向け、あるいは非常時

のバックアップ等の目的により提供している。今年度から当院

では全自動輸血検査装置を A社から B社に変更になるにあたり、B社の半自動の小型機も同時に導入した。【目的】以前より、全自動輸血検査装置の結果と半自動輸血検査装

置の結果の乖離があるのではと感じていたが、検証はして

いなかった。今回われわれは、メーカが変更になるにあたり、

全自動と半自動の結果に乖離があるのかを、2メーカで検証し若干の知見を得たので報告する。【方法】以下 4つの方法で検討を行った。①抗 E抗体、抗 c抗体陽性の同一患者検体を B社の全自動と半自動で不規則抗体スクリーニングを 10回測定し同時再現性をみた。②不規則抗体陽性患者検体を2社の全自動と半自動の不規則抗体スクリーニングを同日に測定した。③不規則抗体陰性患者血漿より作成したプール血漿に抗血清を滴下し、不規則抗体陽性検体とした 10種類を②と同様に測定した。④プール血漿から作成した不規則抗体陽性検体を 2倍・ 4倍・ 8倍に希釈し、B社の全自動と半

自動で不規則抗体スクリーニングを測定した。【結果】①クームス法では全自動で c抗原、E抗原をホモで持つスクリーニング血球Ⅱに対しての反応の変動係数は 0.19であり、半自動では変動係数が 0であった。②、③に関して、全自動と半自動での結果に乖離が認められた。全自動と半自動の凝集強度の

一致率は A社は 77.8%、B社は 91.2%であった。④に関しては、希釈の倍率が大きくなるにつれ、全自動と半自動の

両方で結果は完全には一致しなかった。一方、酵素法に関

しては、全自動で c抗原、e抗原を持つスクリーニング血球Ⅲに対しての反応の変動係数は 1、半自動では変動係数が0.82であった。【考察】全自動と半自動では遠心機の半径が異なることから遠心力が異なり、このことが 2つの装置での凝集の強さの違いに影響を与えているのではないかと

考えられる。全自動と半自動での検査結果は、必ず一致す

るわけではないため、今後も検討が必要であると考える。

          奈良県立医科大学附属病院 輸血部

              0744-22-3051 (内線 3286)

全自動輸血検査装置と半自動輸血検査装置における結果不一致の検討

不規則抗体検査において半自動輸血検査装置は全自動輸血検査装置と同じ結果が得られるか?

◎谷山 歩 1)、杉邑 俊樹 1)、隅 志穂里 1)、梅木 弥生 1)、長谷川 真弓 1)

奈良県立医科大学附属病院 1)

138

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【はじめに】呼吸困難を伴う重篤な輸血副作用に、輸血関

連急性肺障害(以下 TRALI)と輸血関連循環過負荷(以下TACO)がある。両者の鑑別診断は容易ではない事が多いが、今回臨床と血液センターの意見が異なる症例を経験し

たので報告する。

【症例・経過】5歳男児、身長 111.6㎝、体重 16.6㎏。輸血歴あり。左副腎神経芽腫瘍摘出のため手術施行。術中に

RBC2単位→5%ALB100mL→PC10単位の順に輸血され、輸血副作用を認めず手術終了。抜管されるも輸血終了から

約 1時間後、SpO2低下の持続、胸部 X線撮影にて両肺透過性低下、心拡大なし(CRT:42%)、胸部聴診にて湿性ラ音が認められた。再挿管後 ICU入室となり、SpO2は上昇せず肺水腫が認められたため、TRALIの可能性が高いと判断された。

【結果】輸血後患者検体では BNP:29.4pg/mL、NT-proBNP:409pg/mLであったが、輸血前患者検体は量不足のため確認できなかった。血液センターからの報告では、

HLAclassⅠおよび classⅡ抗体、抗血小板抗体(Naka)、顆

粒球抗体は使用 PC及び輸血前患者検体の両方で陰性。一方、白血球関連抗体検査では使用 PCにて、IgG性の Tリンパ球・ Bリンパ球に対する反応と、IgM性の単球への反応(特異性未特定)はあったが、輸血前患者検体では、量

不足のため検査実施できなかった。その他、CT画像や輸血速度より TACOと評価された。【考察】血液センターの評価に対し、「TACOを否定はできないが、もう少し TRALIの可能性も考慮すべきではないかと考える。」が臨床側の意見であった。今回は輸血前検

体が微量であったため全ての検査は行えなかったが、輸血

副作用が発生した際には、速やかに輸血前検体および輸血

後検体を確保して、院内と血液センターで精査を実施する。

そして以後の製剤選択は、なるべく血漿を少なくした洗浄

血液を使用するなどして、輸血副作用の予防に努めなけれ

ばならない。

連絡先:06-6929-3460

評価が困難であった重症輸血副作用の 1症例

◎高森 舞美 1)、山下 真由 1)、森井 里香 1)、高橋 透 1)、内山 勲 1)

大阪市立総合医療センター 1)

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【はじめに】血小板製剤は pH低下に伴う血小板機能低下を防ぐためポ

リオレフィン(PO)バッグで振盪保存する必要がある.ところが,小児へ

の輸血はポンプで加圧し長時間かけて行うことが多いため,シリンジに

充填し長時間静置することで機能低下が懸念される.また,指針で推奨

されない 24G針が使用されることが多く,加圧による細胞障害も危惧さ

れる.そこで実際に使用されるポンプを用い,24G針にて長時間輸血を

行った場合の血小板機能を確認した.

【対象および方法】1)針の太さと輸血速度の影響を確認するため,

PCを 2本のシリンジに分割. 24Gと 20Gの針を用い 10mL/h,

80mL/h,150mL/hで加圧して採取したサンプルの pH,血小板数,上清

LD,K,血小板凝集能を測定した.対象は採血後 3日から 4日の PCで

輸血後バッグから回収した 6検体を用いた.2)長時間輸血による影響

を確認するため,PCをシリンジと POバッグに分割.シリンジポンプお

よび輸液ポンプで 10mL/hで加圧し,シリンジは 2,4,6時間後,POバ

ッグは 2,4,6,8,10時間後に採取したサンプルの pH,乳酸,血小板

数,血小板凝集能を測定した.対象は,採血後 3日から 5日の PCで輸

血後バッグから回収したものを混合し 10単位相当とした 2検体を用い

た.

【結果および考察】1)24Gと 20Gにおいてどの輸血速度でも全ての測

定項目に差を認めず,150mL/hまでの輸血速度であれば血小板機能に影

響はないと考えられた.2)シリンジでは 1検体で 6時間後の血小板数

が低下した.2検体とも時間経過に伴い凝集能の低下を認めたが,pHは

血小板形態が変化するとされる pH6.8を下回ることはなかった.POバ

ッグは全ての測定項目で変化を認めず 10時間まで血小板機能の低下は

なかった.これより輸液ポンプの最低流量である 10mL/h以上の速度で

輸血する場合には可能な限り POバッグのまま輸液ポンプで,シリンジ

ポンプを用いる場合は 4時間以内に輸血を終了することが望ましいと考

えられた.

【まとめ】24G針でも 150mL/hまでの輸血速度であれば血小板機能への

影響はなく,長時間輸血においては POバッグは 10時間,シリンジは

4時間以内であれば血小板機能に影響がないことが示唆された.

連絡先:0743-63-5611 (内線 3134)

長時間の血小板輸血における血小板機能への影響

小児におけるポンプを用いた輸血を想定して

◎藤井 綾香 1)、高田 旬生 2)、南 睦 2)、津田 勝代 2)、嶋田 昌司 2)、松尾 収二 2)

天理医療大学 1)、公益財団法人 天理よろづ相談所病院 2)

140