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∪.D.C.d21.3.047.4:d21.431.73-573
自動車スタータ用ブラシの接触電圧降下および摩耗特性Contact Drop and Wear ofBrush fbr Automobile Starters
広 瀬 利 男*Toshio Hirose
要 旨
自動車スタータ用ブラシのおもな問題点となっている接触電圧降下およびブラシ摩耗について検討した。そ
の結果,高電流密度下における接触電圧降下ほ電流密度の増大とともに直線的に増加し,ブラシの比抵抗が大
きいほど一般に高くなる。また研摩性を与えると低下する。接触電圧降下の大きさはスタータの出力に由二接関
係する。電流密度が150A/cm2以上になると温度が急激に上昇するためブラシの摩耗は著しく増大する。研
摩性ブラシを用いると摩耗および温度ヒ界が減少する点から考えて,ブラシ摩擦痢の温度とブラシ摩耗との間
に関連があることが推定された。またブラシの潤滑性を改善したり,ブラシを構成する粒子の結合強度を大き
くすると摩耗は減少する。このほかマイカ切下げのない整流子を用いたスタータの場合はマイカのかたさに適
応Lた削摩性ブラシを使用することにより非常に好結果を得た。日立化成工業株式会社では上述の研究を基礎
にして,数種額の新ブラシを開発した。
1.緒 言
自動車エンジン始動用スタータは電装品の中では最も重要な製1甘.
の一つであるが,これについてのブラシの実験研究に関する文献は
はとんどない。しかし最近自動車の著しい普及と高性能化のため,
ブラシに対する問題は多くなり,これの究明はきわめて重要になっ
てきた。スタータブラシほ一般直流機に比較してきわめて高電流緯
度,高速度の過酷な条件下で使用されるので未知の現象が多い。本
報告でほ,高電流密度,高速度下における接触電圧降下およぴブラ
シ摩耗について述べる。
2.スタータ用ブラシの使用条件
2.1スタータの負荷特性
自動車エンジンの始動用電動機(スタータ)は一般に直流直巻電
動棟が使用され,図1に示すような外観の電動機である。この電動
機の負荷特性は一般直流機と著しく相違している。すなわち始動ト
ルクが大きく,短時間定格のた¥),ブラシの電流密度を極端に高く
とり,可能な限り小形化を行なっている(1)。したがって始動時にお
けるブラシの電流密度は図2のオシログラムに示すように極端に高
く100~120A/cm2に達している。またエンジン着火後の電動機ほ
無負荷に近い状態になり,電流密度は20A/cm2前後に減少するが,
その反血回転数は6,000~12,000rpmまで上丼する。しかもこの動
作時間は周囲大気温度およびそのほかの要因により差異ほあるが,
一般に1秒前後の短時間である。2.2 具備すべき特性
スタータ用ブラシの具備すべき特性は次のとおりである。
(1)瞬時的に大電流になるので比抵抗が小さいこと。
(2)瞬時的大電流に対して火花の発生が少ないこと。
(3)静止暗から急速に高速度回転になるので,ブラシの摺(し
ゆう)動特性が良好であること。
(4)ェソジンの振動に対してブラシが欠損しないこと。
(5)大電流,高温度の条件下でもブラシ材質の崩壊,異常摩耗
などを発生しないこと。
(6)整流子の損傷および目づまりを発生しないこと。
(7)低電圧電池を使用するため,ブラシ接触電圧降下過大によ
る出力低下を起こさないこと。
以上述べたようにスタータ用ブラシとして種々の特性が要求され
日立化成工業株式会社
05
<U
O
2
9
(N亡岩\王
朝軸媒蝉∴小ト
60
30
(已
』紳へ1へぺ
スタータ電流
スタータ上目‡転数1,540rpm
スタータ電吐
図1 ス ター
タ
スタータの
接点「渕く
ー神髄スタータ回転数10,000~
14,000rpm
12秒
時間
図2 エンジン始動時のスタータの電流特性
ているが,これらのうちで出力および温度上昇と関係がある接触電
圧降下とブラシ摩耗が掛こ重視されている。なお後述するようにマ
イカ切下げのない整流子に対してはハイマイカを防止するため,適
当なマイカ削摩特性が必要である。
59
268 日 立 評 論
l衰 供試 性特理物のシラプ
性特見掛比重
比抵抗
幽
乱3
21.5
23.4
4仇6
500
さ刀たヨ
、シカ(
実刑…M別
2
4
AT
AT
1
1
1
1
1
2
鋼量大
黒鉛塵.
大
備 考
金属黒鉛質ブラシ
金属黒鉛質ブラシ
金属黒鉛質ブラシ
金属黒鉛質ブラシ
金属黒鉛質ブラシ
一
-
】
A
B
C
「ヘリ
6
5
A-0 ブラシに研摩性を与えたブラシB-0 ブラシに研摩性を与えたブラシC-0 ブラシに研寧性を与えたブラシ
2
2
2
一
一
■
A
B
C
【ソ+
7
6
A-0 ブラシに潤滑性を与えたブラシB-0 7Pラシに澗i骨性を与えたフラシC-0 ブラシに潤滑性を与えたブラシ
蓑2 スタータブラシの試験条件
項 目
ス タ ー タ
印 加 電 圧
条 件
12V O.6kW lkW
10~11V
運 転 周 期
負 荷
1.5s ON 13.5s OFF
エンジン ブレーキ負荷
3.実 験 方 法
3.1供 試 料
本実験はいずれも銅粉と黒鉛を主原料とした金属黒鉛質ブラシを
用いたが,これらブラシの物理特性および特徴は表lに示すとおり
である。なお表1以外のブラシも使用したが,この物理特性はその
都度記載した。
3.2 実 験 二万 法
スタータの負荷条件は,容量,使用条件などiこより異なるので等
価実験はかなりむずかしい。したがって本研究では実用状態に近づ
けるため実際のエンジンあるいはブレーキを負荷として用いた。試
験回路は図3に,試験条件ほ表2に示すとおりである。以上述べた
実機試験のほかに現象解明用として,図4に示すようなリング試験
棟を使用した。本機ほ直径100mmの銅製スリップリングを同一軸
に数個取り付け,電動機により駆動させ,ブラシの摺動特性実験を
行なうものである。
4.実験結果および鳶察
4.1高電流密度下における接触電圧降下
一般の直流機ではブラシの電流密度が6~8A/cm2のものが多い。
この場合の接触電圧降下と電流密度との関係曲線(以下ⅤⅠ特性と
呼ぷ)は飽和曲線を措き,電流方向による極性差を有するのが普通
である。これは電流の増大によって銅表面に生成された亜酸化銅皮
膜が破壊するためであり,接触電圧降下の極性差はその皮膜の特性
に基因すると考えられている(2)‾(4)。しかしスタータブラシの場合
は,はなはだしく高電流密度になるので,ⅤⅠ特性も著しく相違す
ることが考えられる。図5はA-0,B-0,C-0,D-0およぴE-0のブ
ラシについて測定したⅤⅠ特性である。図5のⅤⅠ特性をみるといず
れも関係曲線ほ直線になっている。このようにⅤⅠ特性が直線になる
ことほ非常に高電流密度になっても皮膜の破壊は発生しないことを
示すものである。電流による皮膜破壊が発生しないとすれば,皮膜
が存在しないことも一応考えられる。しかし図るに示したように研
摩性ブラシの場合は非研摩性ブラシよりも接触電圧降下が減少して
いる事実を考えれば安定な皮且莫が存在していることほ容易に推定で
60
蛋珊席
T2
Tl,T2:トランス
Sl,S2:マグネットスイッチ
S.R:シリコン整流器
E :バツテリ
R:可変抵抗器
A=直流電流計
Ⅴ:直流電圧計
3.0
Eル
1
0
唱+ヒ(と
←泣出留寒空∴小ト
S.R.
Ⅴ○Ⅰ一.53 N0.3
S‥S2は時限回路に
接続されS20N時は
SlOFFになるように
セットLてあるこ
因3 スタータブラシの試験回路
図4 多環式ブラシ試験機
スリ・ソブリンダニ鋼100¢
回 転 数:1,500r叩1
ブラ シ 圧力:0.馳gノ′′cm2
通 電 方 法:3秒ON
../ニンニーー=ニ
E-07ラ
//二三≠竺
C-O
B-0
望 A・-0
5() 100 150
プラン電流密度(Aノcが)
200
1971
負荷
囲5 ブラシ電流密度と接触電圧降下の関係
きる。このような安定皮膜生成の原因として温度および電流の二つ
が考えられる。温度に関しては星野氏による図7のような発表があ
るが,これによるとⅤⅠ特性はブラシ温度が150℃前後になると直
線となり,接触電圧降下は著しく低下し,電流方向による極性差は
なくなる。一方,電流のみによる効果についてほ実験的に確認され
ていないが,電流による皮B莫破壊などの現象から考えてなんらかの
効果を与えていることはじゅうぶん推定される。
4.2 出力と接触電圧降下
スタータの電源には12Vおよび24Vの低電圧電池が使用されて
いるので,ブラシの接触電圧が大きい場合には,電磯子に印加され
る有効電圧ほ小さくなり,出力は著しく低下する。図8にスタータ
のクランキング時の回転数とブラシの比抵抗との関係を示したが,
40
屯+増(己卜璧ヒ田豊璧
グ数力法
ル
庄方
プ転シ
ッ
ラ電
ス回ブ通
A-0
A-1「「
l】
:銅100¢
:1,500rpm
:0.8kg//cm2
:3秒ON12秒OFF
B-0
C-0
0一n)
[‖l研摩性のないブラシ
[‥‥一
研摩性のあるブラシ
榔脚
電川
電50
10 20 30
プラン比抵抗(〟幻-Cm)
40
図6 ブラシの比抵抗と接触電圧降下の関係
ブラシ:電気黒昔話質スート系ブラシ
2.5
屯+肖(ヒ
ト幾世関東恐
一En上雫膿牢"∴朴∴lトヘ
1jング温度40勺C
】jング温度1500C
2 4 6 8 10 12
プラン電流密度(A/cふ2)
図7 低電流密度下におけるブラシⅤⅠ特性
「、、、-
タ源法化茄n塩
一々ノ
ス中岨巾岨負皐
:12Vl.OkW
:12V32Ahパ、ソテリ
:150A
:エンジンfi荷
:50C
平均値
自動車スタータ用ブラシの接触電圧降下および摩耗特性 269
表3 電流密度とブラシ摩耗の関係
号裔比抵抗(〃凸-Cm)
電流密度
(A/cm2)
ブラシ温度
(℃)
nU
O
O
(U
「
-
←
一
A
B
C
D
8.3
21.5
23.4
40.6
50
銅リングあ ら さ
(s)
ブラシ摩耗
正
l
dU
4
8
1
5
9
5
1
(U
O
nU
(mm/10,000回′1
負 l平 均
1-‾怒「13:冒;
nUO
3
5
4
6
∩■O
1
3
0
2
2
4
ハU
O
O
∧リ
ー
一
-
一
A
B
C
D
■
一
■
一
A
B
C
D
8.3
21.5
23.4
40.6
051
13
舶29
42
1.05
0.43
0.83
1.41
A-O
B-O
C-0
8.3
21.5
23.4
200
114.1
150.0
165.0
6.0
4.7
4.6
2.21
2.40
4.98
3。1
1.0
2.46
2.65
1.70
3.72
試験条件 試琵奏政
通電方法
電流方向
4,0
ハU
nル
3
2
(回書○■ヨ\E∈)増故人爪ト
0†L.
銅リング試験機,リソグ径10岬,ブラシ圧力0.8kg/cm2
3秒ON,12秒OFFの繰り返し
正瓜,負魚
グ数・乃泣
け
圧方
丁転シ
ラ電
ス回ブ通
網10叩1,500rpm
O.8kg/cm2
3秒ONlさ秒OFF
数字は電流密度(A/cが)を示す。
Zこ_。
00<U5
150
50
50100
100
150
150
200
B-0
200
C-0
10 20 30 40 50 60 70
プラ‾シの比抵抗(〃正一Cm)
囲8 ブラシの比抵抗とクランキング回転数の関係
比抵抗が大きくなるはどクランキング回転数は減少しスタータの出
力ほ低下する。ブラシの比抵抗は図5に示したように接触電圧降下
と比例関係にあるので,ブラシの比抵抗が大きいぼどスタータの出
力は小さくなることは明白である。
4.3 電流密度とブラシ摩耗
前述のように,スタータブラシはきわめて高電流密度で使用され
るので,ブラシの電流密度と摩耗との関係を知ることはスタータプ
60 80 100 120 140 160 180
プラン温度(OC)
図9 ブラシ温度とブラシ摩耗の関係
ラシの摩耗を考察するうえできわめて重要である。この見地から各
種のブラシについて,実験を行ない表3の結果を得た。表3から一
般にブラシの比抵抗が大きいほど高電流密度においてブラシの温度
が高くなっている。これはブラシの接触電圧降下が大きいためであ
る。またブラシは電流密度100A/cm2前後までは温度も低く,摩
耗も正常である。しかし150A/cm2の場合はブラシ温度も高くな
り,ブラシ摩耗も増加の傾向が認められる。さらに200A/cm2の
場合はブラシ温度ほいずれも100℃以上に,またブラシ摩耗も1.7
mm/10,000回以上になっている。次にブラシ摩耗と材質との関係
をみると各電流密度において,B-0ブラシが摩耗少なく良好であ
る。結局ブラシ摩耗はブラシ材質すなわち銅,黒鉛の配合割合に重
大な関係があることが判明した。
4.4 温度とブラシ摩耗との関係
高電流密度下においては接触電圧降下が増大し,ブラシ摩擦面の
温度は非常に高くなる。このような高温度ではブラシ摩耗に重大な
影響を与えることが予想される。国9は温度とブラシ摩耗との関係
を示すもので,B-0およびC-0ブラシは80~120℃で摩耗が最小に
61
270 日 立 評 論
衰4 研摩性の有無とブラシ摩耗の関係
ブラシ
番 号
7 フ シ′
比 抵 抗(〃Q-Cm)
研摩性の
有 無
ブラシ温度上 昇
(℃)
200A/cI12におけるブラシ厚東毛
(mm/10,000回)
B-O
C-O
B-1
C-1
L
lし
ゎノ
hノ
な
な
あ
あ
試験条件:蓑2と同じ
表5 ブラシの潤滑とブラシ摩耗の関係
ブ ラ シ 潤滑処理の有無ブ ラ シ 摩 耗(mm/10,000回)
A-O
A-2
B-O
B-2
C-O
C-2
な し
あ り
4.1
3.4
な
あ
し
hソ
0.7
0.4
な L
あ り
2.5
1.1
試験条件 供試放
電 流
通電周期
12V300W スタータ
18~20A
3砂ON,12秒OFF
表6 ブ ラ シ 摩 耗 試 験 結 果
■し、、、項目
言誓\\\
比抵抗
(〟n-
CIn)
曲げ強さ
(kg/
cm2)
さたカ
アシ
シラプ
度温
℃花火
ブラシ摩耗(mIn/10,000回)
正 l 負
1l2l3r4■▲】平均
E-O
E-3
16.9
14.9
262
474 :…l;;5′-6
4
1.20
0.74
1.40
0.80 こ二;…l:二;;0.94
0.61
試験条件 試験棟:12V l.OkWスタータ
ブラシ:銅配合量 E-0 と E-3は同じ
電 流:100A
なり,それ以後高温度になるに従い摩耗は増大する。しかしこの
場合は電流密度を大きくして温度を高くしたのであるから,当然
電流密度の影響すなわち火花によるブラシ摩耗増大も考えられる。
この点を確認するためにB-0およびC-0ブラシに特殊処理を行な
って研摩性を与えたB-1,C-1ブラシを用い表4の結果を得た。蓑
4から明らかなように,ブラシに研摩性を与えると,接触電圧降下
を低下させ,Lたがってブラシ摩擦面における温度も低下し,ブラ
シ摩耗も減少する。このように研摩性のあるブラシほ接触電圧降下
および摩耗が小さく良好であるが,その反面摺動特性が不安定にな
るため火花が発生し,逆に摩耗を増加させる場合もある。特にスタ
ータの場合は1秒前後の短時間で静止の状態から12,000rpm程度
の高速回転になるので,ブラシの摺動特性は不安定になりやすい。
このためスタータの場合は研摩性ブラシを用いて摩耗を増大させた
実例はかなりある。図10ほ研摩性の有無とブラシ接触電圧降下の
関係を示すもので,研摩性ブラシのはうが接触電圧降下の変動ほ大
きい。
4.5 潤滑性とブラシ摩耗
前述のようにスタータブラシの場合はブラシの摺動特性が不安定
になりやすいので,摺動特性の良好なブラシを用いたはうが摩耗特
性が良好になることが考えられる。これを確認するた捌こ潤滑処理
を与えたブラシA-2,B-2,C-2について実験を行ない表5の結果
を得た。表5から明らかなように,潤滑性を与えるとブラシ摩耗特
性が改善される。これほ潤滑性を与えるとブラシの摺動特性が安定
62
(A) 研摩性のない ラン
(>ヱ
寄倒仁←彗ヨ甲蓑賛
(L′ヱ
覇側E+彗ヨ神意彗
ⅤOL.53 N0.3 1971
嚢
‾蛋
〉=‾亘
■亘■ざ.
空■≡戻ら言
⊃才・さ⊇卓・云;ニー宅亘=さ
百蔓≡=:望叢三さ■_-「岳責
(B) 研摩性のあるプラン
L実TlO ブラシの研摩性と接触電旺降下の変動
し,ブラシ面における電流分布が均一化され,局部電流による火花
が減少するためである。
4・d ブラシの組織と摩耗
金属黒鉛賀ブラシは銅粉と黒鉛が焼結の過程で相互に結合され
る。一方,ブラシ摩耗は粒子結合境界層付近で破壊され摩耗を生ずる
ので粒子結合強度に関係がある。たとえば高橋氏によればブラシ材
の弾性係数が大きいほどブラシ摩耗が少なく(6),またブラシの曲げ
強さが大きいほどブラシ摩耗が小さいこと(7)などが知られている。
なお弾性係数および耐ザ強さほブラシの粒子結合強度に関係があ
り,銅,黒鉛配合比率が一定の場合にはこれらが大きいはど粒子間
の結合強度ほ大きい。
上述の見地からブラシの摩耗特件を改善する巨川勺で,E-0ブラシ
とこれに特殊処坪を施して仰げ強さを大きくLたE-3ブラシを用い
て実験を行ない表るの結果を得た。以上述べたようにブラシを構成
する粒子間の結合強度ほブラシ摩耗に甫大な影響を与えることが確
認された。
4・7 銅配合量と摩耗との関係
金属黒鉛貿ブラシの場合,銅の配合量が黒鉛配合量に比較して多
くなると当然ブラシの見掛比重は増大する。この場合の見掛比重と
ブラシ摩耗との関係ほ図11のとおりでⅤ字形曲線を示し,銅の配
合量があまり多くても,また逆に少なくても摩耗が大きい。銅配合
量の多いブラシほ崇鉛量が少ないため,摩擦特性が高速度のため不
安定になF),火花を発生し,摩耗を増大させるものと考えられる。
また逆に銅を少なくして,黒鉛量を多くした場合は摩擦特性ほ良好
になるが高電流密度のため,温度上昇が過大になり,摩耗が増大す
るものと思われる。
4.8 整流子マイカ切下げ効果とブラシ摩耗
整流子面はブラシとの摩擦によって摩耗していくがマイカ切下げ
のない整流子では整流子片と片間マイカとのかたさが異なるので,
ハイマイカとなり,ブラシを踊らせ火花を発生させる。したがっ
ニホー験燐12VO.3川'∴タ一夕
5.0
一義』二【蓋弓≡㌧E∈)
軍哲∴粁ト
4,0 4.8 5.2 5.6
見掛比丘
図11見掛比重とブラシ摩耗の関係
/座喜ハイマイカ説明図
l転方向
(A)ブラシの削摩性がない場合(ハイマイカの状態)
(B)ブラシの削摩性がある場合
図12 ブラシの削摩性と整流子(フラッシュマイカ)の状態
て一鰍こほてイカ切下げを行なった整流子を用いるのが普通であ
る。しかし最近,軟質マイカが開発され小形機にはマイカ切下げを
省略Lたものが使用されるようになった()特に外国製のスタータ
でほマイカ切下げを行なっていないものが多い。マイカ切下げを行
なっていない整流子はハイマイカさえ発生しなければブラシの摺動
特性は良好であり,かつ摩耗粉の目づまり現象を発生しないという
特長がある。以上述べたようにマイカ切下げのない整流子にはマイ
カを削摩するようなブラシを用いる必要がある。図12ほマイカ削
摩性のないブラシと削摩性のあるブラシを用いたマイカ切下げのな
い整流子面の状態を示したものである。図12によると削摩性のな
いブラシの場合ir土,ほなはだしいハイマイカになるが,削摩性のあ
るブラシの場合はほとんど/、イマイカを発生してしない。表7はマ
イカ切下げのない整流子に用いられているブラシの一例で,銅粉の
配合量の多い(見掛比重が大きくなる)ブラシを使用しているのが
特徴である。図13は外国A社製スタータにA祉使用ブラシと日立
化成+二業株式会社MH-COL(開発品)およびB-0ブラシを用いて行
なった実験結果の一例である。図】3を見るとB-0ブラシは起動回
数10,000匝I前後で急速にブラシ摩耗が増大しているが,A杜使用
ブラシおよび日立化成工業株式会社MH-COLほ起動回数30,000
自動車スタータ用ブラシの接触電圧降下および摩耗特性 271
表7 マイカ切下げなし整流子用ブラシの物理特性
ニ忘㌃\-\㌔ユ【見掛比ヰ驚l竿琶芸!。聖苦手)F用途
外国A社使用ブラシ16.25
外国B社使用ブラシ
百豆花成〒書画亮子ラマMH-COL
B-0(参 考〕
7.51
6.46
4.37
11.2
8.0
14.0
21.5
ー】10】て蒜‾i‾‾‾‾古‾
二要一二吾
マイカ切下げなし
マイカ切下げなし
マイカ切下げなし
マイカ切下げあり
表8 新 開 発 ブ ラ シ
;ニ\---、--、\--、-、三三l見掛比重l漕法急場懲)rぞ;吾㌔ブラシ\‾‾、‾\\\l九p‾仙邑l(岬‾Cm)l(kg/cm2)l(ショア)僻 考
MH-C20M
MH-C21M
MH-C22M
MH¶C23M
MH-32
MH◆33
7
3
0
5
1
2
2
(XU
4
1
2
0
0
JハT
∧U
2
2
5
∩入U
6
00
1
1
1
1
4
4
シラプ発閲
ロJU流現
4.0
3.5
1.0
0.5
(∈E)媒妙八爪ト
スタータ
印加電圧
ii荷電流
負 荷
起動周期
外国A社製スタータ
10~11V
lOOA
ブレーキ負荷
1.5秒ON13.5秒OFF
B-0プラン
≠≠≠ニ/
外国A社使用ブラシ
/×M以-COL
U 5,00010β0015,000 20,000 25,000 30,000
起動回数(回)
図13 マイカ切下げなし整流子付スタータによるブラシ摩耗試験紆果
0
(U
2
(EE)媒敏∴lトト
スタータ
印加電圧
電 流
負 荷
起動同期
:12VO.6kⅥ・「
:10V
:90~110A
:ブレーキ負荷
2,000 4,000
起動回数(回)
囲14 新開発ブラシの摩耗特性
6,000
回に達しても正常摩耗である。なおブラシ削摩性は片間マイカのか
たさに関係があるのでマイカのかたさに対してははなほだしく削摩
性が大きいと整流子の摩耗が大きくなり,また逆に削摩性が小さい
とノ、イマイカになる。
4.9 新開発ブラシ
(A)マイカ切下げのある整流子
この場合はブラシ粒子間の結合強度を大きくし,かつ潤滑性を
良くしたブラシの摩耗特性が最も良好であると考えられたので,
これを基礎にして表8に示す新系列のブラシを開発した。図14
63
272 日 立 評 論
は在来品MH-33と新開発ブラシとの比較実験結果の一例で,新
開発ブラシMIi-C23MはMH【33に比較して摩耗特性が改善さ
れていることが明らかである。スタータの容量,負荷条件に対し
て自由に選択できるように新開発ブラシには数種類のものが準隋
されている。
(B)マイカ切下げのない整流子
外国製のスタータにはマイカ切下げなしの整流子が多いが,国
内では現在あまり用いられていない。しかし近い将来この種整流
子を用いた国産のスタータが多く出現することと思う。前述した
MH-COLは前記の摩耗特性改善効果を施したうえに,さらにマ
イカ削摩性を与えたブラシである。MH-COLの特性はマイカの
かたさに多少影響されるが,現在の段階では外国製ブラシに劣ら
ない良好な特性を有している。
5.結 口
以上スタータブラシの特性,特に接触電圧降下および摩莱毛特性を
中心にして述べたが,これらの結果を要約すると次のとおりである。
(1)高電流密度下におけるブラシのⅤⅠ特性は直線となり,低
電流密度の場合のような飽和曲線にならない。
(2)研摩性のあるブラシを用いると,接触電圧降下は減少する
ので,ある種の酸化膜が生成されていることは明白である。
(3)ブラシの接触電圧降下が大きくなるとスタータの出力が著
しく低下する。
⊆蔓〕 特 許 の
特許弟443645号(特公昭39-21602号)
多 段 式 高
一般に高圧容器の軸封装置においては,高圧容器内の圧力と軸封室内の油圧とをバランスさせたいわゆる均圧式メカニカルシールが
用いられているが,この場合高圧容器内の圧力が高くなるとシール
面圧と回転数の帯であるPV値が著しく大きくなる傾向があり,そ
のためシール面の温度上昇による焼付また摩耗による漏えいなどを
生ずる欠点がある。
この発明は,上記の問題を解決したもので,高圧容器1内の圧力
をPとし,メカニカルシール4~6の許容しゅう動面圧力を1/2P
とすると,高圧容器1内の圧力Pは均圧管12,ヘッダ8,均圧
管13,均圧タンク7,油管14を経て下部軸封董2内に作用してお
り,下部軸封窒2内の油圧ほ常時高圧容器1内の圧力とバランスさ
れているため,メカニカルシール4のしゅう動画圧力は常時許容し
ゆう動面圧力1/2P内に維持される。一方,ヘッダ8を経て調圧器9に作用する高圧容器1内の圧力はP,違径ピストン10の面積比に
応じて減圧(図示の2段式では1/2に調圧)され,油壷11,抽管15
を経て上部軸封室3内に作用するため,上部軸封室3内の油圧は常
時高圧容器1内の圧力Pの1/2に保たれる。したがってメカニカル
シール5およぴ6のしゅう動面圧力は,それぞれP-1/2Pおよび1/2Pとなり,常時容許しゅう動面圧力1/2P内に維持される。
高圧容器内の圧力が非常に高い場合にほ,必要に応じて上部軸封
宝と同様な軸封室を多段に設け,かつ各段ごとに調圧器を設けて高
圧容器内の圧力を順次減圧(たとえば4段の場合にはそれぞれ3/4,
2/4,1/4に調圧)し,それぞれの軸封窒に作用させることにより各
メカニカルシールのしゅう動画圧力を許容しゅう動画圧力内に維持することができる。
この発明によれば,ポンプその他の動力を必要とせず,かつ高圧
容器内圧力の変動に関係なく,常時メカニカルシールのしゅう動画
圧力を許容しゅう動画圧力内に維持することができ,メカニカル
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ⅤOL.53 N0.3 1971
(4)ブラシ電流密度が150A/cm2を超過すると,ブラシの温度
上昇およびブラシ摩耗が大きくなる`。
(5)スタータのブラシ摩耗ほ潤滑性が良く,かつブラシ粒子間
の結合強度が大きいほど少ない。
t6)ブラシの摩耗ほ銅の配合量に関係する。
(7)片間マイカの切下げのない整流子ではハイマイカを発生
し,著しくブラシ摩耗を促進させるが,マイカ削摩性を与
えたブラシはノ、イマイカの発生を少なくする。
(8) 日立化成工業株式会社でほ前述の実験結果を基礎にして次
のブラシを開発した。
(A)マイカ切下げのある整流子用ブラシ
MH-C20M,MH-C21M,MH-C22M,MH-C23M
(B)マイカ切下げのない整流子用ブラシ
MH-COL
本研究を行なうにあたり,多大なご援助を賜去っった日立製作所佐
和工場関係者に深い謝意を表する。
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参 芳 文 献
杉浦:自動車電装品(昭43山海堂)
Van.Brunt&R.H.Savage二 G.E.Rev.July16(1944)
R・H.Savage:G.E.Rev.Oct.13(1945)
武政:炭素No.56,p.165
星野,武政:日立評論50,444(昭43-5)
高橋,鈴木:日立評論22,3S3(昭14-6)
広瀬:日立評論48,323(昭4ト2)
紹 介 ∈吏] .v〝
蜂 谷 昌 彦・戸 村 循 一
軸 封 装 置
シールの摩耗,熱損および漏えいを防止することができる。
(寺田)
10\
8
9
7
+
15/11
13
12
3
2
4
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5
14
訣
浴
ミ丈
図1 多段式高圧軸封装置