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豚胸膜肺炎の起因菌Actinobacillus pleuropneumoniaeの生物型,血清型及び遺伝子型について
誌名誌名 家畜衛生学雑誌 = The Japanese journal of animal hygiene
ISSNISSN 13476602
著者著者 伊藤, 博哉
巻/号巻/号 42巻2号
掲載ページ掲載ページ p. 29-60
発行年月発行年月 2016年7月
農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センターTsukuba Business-Academia Cooperation Support Center, Agriculture, Forestry and Fisheries Research CouncilSecretariat
画~ 29
豚胸膜肺炎の起因菌Actinobacilluspleuropneumoniaeの生物型,
血清型及び遺伝子型について
伊藤博哉*
Actinobacillus pleuropneumoniae biotypes, serotypes and genotypes
Hiroya ITO *
(*National Institute of Animal Health, NARO, 3-1-5 Kannondai, Tsukuba, Ibaraki 305-0856, ]apan)
(2016.4.22受付/2016.6. 6受理)
Summary
Actinobacillusρleuroρneumoniae, a Gram-negative bacterium belonging to the Pasteurellaceae family, is a
causative agent of swine pleuropneumonia, a highly contagious repiratory disease that causes important economic
losses to the swine industry worldwide. To date, 2 biotypes and 16 serotypes are recognized in A.
ρleuroρneumoniae. Serotyping is of major interest for A.ρleuroρneumoniae due to different virulence potential
among serotypes and serotype-specific protection with bacterins. Serotype prediction methods based on
genotyping have been developed lately and can be used as diagnostic tools by veterinary diagnostic laboratories.
Here, I review current knowledge on A.ρleuropneumoniae biotypes, serotypes and genotypes.
Key words : Swine pleuropneumonia, Actinobacillusρleuroρneumoniae, biotypes, serotypes, genotypes
1.豚胸膜肺炎及び豚胸膜肺炎菌について
豚胸膜肺炎は世界各国で多発し養豚産業に多大な経
済的損失を与える豚の重要な呼吸器系疾病である45) 本
症の主要な臨床症状は,急性の場合は食欲不振,沈欝,
発熱,発咳,呼吸促拍,呼吸困難であるが,剖検後,初
めて本病と診断される場合も多い45) 飼料効率及び一日
平均増体量の低下等を示す慢性症例も多く,これらでは
食肉衛生検査時に肺と壁側胸膜の癒着,肺における膿蕩
及び結節等の病変が観察されることが多い45)
豚胸膜肺 炎 の 起 因 菌 で あ る Actinobacillus
ρleuroρneumoniae (App)は,英膜を保有するグラム陰
性の小梓菌で、あるが, しばしば多形性を示す.ウレアー
本国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 動物衛生研究部門〒305-0856 茨城県つくば市観音台3-1-5連絡著者:伊藤博哉([email protected]お)
家畜衛生学雑誌 42, 29--60 (2016)
ゼ (Actinobαcillus属以外の菌種との鑑別時に重要な性
状),マンニットの分解 (Actinobacillussuisとの鑑別時
に重要な性状), CAMPテスト,血液寒天上での洛血性
は,いずれも陽性であるω.73)
2. 生物型について
2.1.はじめに
Appは,発育の際のニコチンアミド・アデニン・ジヌ
クレオチド (Nicotinamideadenine dinucleotide) (NAD)
要求性の有無に基づき, 2つの生物型に型別される68.73. 166) N AD要求性の生物型 lは,かつては
Haemoρhilusρleuroρneumoniae (その前はHaemoρhilus
ρarahaemolyticus) ,一方, NAD非要求性の生物型2は,
かつてはPasteurellahaemolytica-like organismに分類
され別菌種とされていた. しかし DNA相同性試験及
び生化学的性状試験の成績から,共にActinobacillus属
に移行され,同一菌種のAppに再分類された166) この
30 家畜衛生学雑誌第42巻第 2号 (2016)
ために,現在でも Appのことを IHaemoρhilusヘモフィ
ルス」の最初の 2文字である「ヘモ」と呼ぶ人も多い.
2.2. 生物型 1と2の分離頻度について
App生物型 1による豚胸膜肺炎は頻発しアウトブレ
イク例も多いが, App生物型 2による豚胸膜肺炎の発生
は少なく,散発例が多い. App生物型 2の分離例は世界
的にも少ないが72ー74) ドイツ35) ハンガリー35) ベルギー94)
オランダ94) デンマーク 151)及びスペイン120-122)等の欧
州や米国37)等での分離報告がある. 日本では,筆者の
知る限り,生物型 2の分離報告は 2例のみである81, 135)
2.3. 生物型 1及び2の病原性について
実験感染の成績に基づき,生物型 2は生物型 1よりも
病原性が弱いと考えられてきた31, 85) しかし胸膜肺炎
症例から生物型 2が純培養的に分離された報告例がいく
つかあり 37. 120 -122) 米国で分離された生物型 2を用いた
実験感染で,胸膜肺炎を再現させた報告もある37) さら
に7年にわたる調査により,スペインではApp生物型
2が豚胸膜肺炎に強く関与している可能性が示唆されて
いる.すなわち,典型的な急性胸膜肺炎を呈した豚の肺
から App生物型 2がほとんどは純培養状あるいは優勢
菌として分離され,それらの割合は, 8.9~39.4% (平均
25.3%) を占め比較的高率で、あった122)
2.4. パスツレラ科細菌のNAD合成経路と App生物型 1
のNAD要求性の遺伝学的背景について
パスツレラ科細菌のNADは 以下の経路で合成され
ると考えられている 124) (i) ニコチンアミドと 5リン
酸リボシルピロリン酸から,ニコチンアミド・リン酸転
移酵素 (NAmPRTase) によって,ニコチンアミド・モ
ノヌクレオチド (NMN)が合成される. (ii)次いでニ
コチンアミド・アデニル転移酵素によって, NMNから
NADが合成される.
なぜApp生物型 lはNAD要求性であるかを明らかに
するための実験が行われている.すなわち, NAD非要
求性のHaemoρhilusducreyiのNAmPRTase(495アミ
ノ酸 (aa)) をコードする nadV遺伝子を App生物型 l
(血清型 1)に形質転換し発育にNADが不要になるか
検討されたlμ) その結果,形質転換体は発育にNADを
添加する必要がなくなり ,nadV遺伝子の欠損あるいは
機能不全がApp生物型 lのNAD要求性の理由であると
考えられた124) その後,生物型 1 (血清型 3)は495aa
のNAmPRTaseをコードする nadV遺伝子で、はなく,ア
ミノ酸長が112以下と短く,酵素として機能しなくなっ
たと思われる偽遺伝子nadV'(203aaのタンパクをコー
ド)を保有することが明らかにされ,この事が生物型 1
のNAD要求性の生化学的及び遺伝学的背景である可能
性が示唆された204) しかしさらにその後,生物型 2(血
清型13) も生物型 1 (血清型 3) と同様にnadV'を保有
することが明らかになったため加)上記の仮説に矛盾
が生じた. したがって,生物型 1のNAD要求性の生化
学的及び遺伝学的背景の解明のために,今後のさらなる
解析が必要と思われる.
3.血清型について
3.1.はじめに
Appには,英膜の抗原性の違いに基づきこれまでに
15の血清型が存在することが知られてきた13. 149) しか
し昨年末になって最も新しい血清型16が提唱された175)
血清型 1及び5は, リポ多糖 (LPS)のO抗原及び爽膜
の抗原性の違いに基づき,さらに 2つの亜型(それぞれ
1a, 1b及び、5a,5b)に型別される88.89. 148) しかし臨床
細菌学的観点からみると亜型の鑑別の重要性は低い44)
生物型 1では,血清型14を除くすべての血清型の分離が
報告されている 13. 149. 162. 167. 175) 一方,生物型 2では,
血清型 2,4, 7, 9, 11, 13, 14のみが分離されてい
る9.35. 120 -122. 151)また両生物型ともに,型別不能の
株も存在するが,複数の血清型特異抗血清に反応する
ために型別不能な場合と,既知の血清型特異抗血清の
いずれとも反応しないために型別不能な場合とがあ
る16.86. 1∞. 122. 1ぬ 137. 196) 血清型別不能株となった遺伝
学的背景(動く遺伝子ISAρUの英膜多糖合成遺伝子へ
の挿入による変異)が明らかとなっている型別不能株も
ある78)
3.2. 血清型別の検査法について
スライド凝集試験129. 170)及び共凝集試験131, 132)等が,
分離株の簡易・迅速な血清型別法として広く用いられて
いる.血清型別には,高力価で特異性の高い血清型別用
抗血清が必要であるが,市販されていない.そのため
通常はホルマリン不活化した各血清型参考株の全菌体を
ウサギに免疫して作製した自家製の抗血清が用いられて
いる.しかしこの方法で作製した抗血清中には,血清
型特異抗原に対する抗体だけでなく,共通抗原を含む
様々な菌体抗原に対するポリクローナルな抗体を含有
すると考えられる.そのため,異なる血清型間で交差
反応がしばしば認められ,血清型別不能となることがある45.51,拡 68.72一丸 127. 128. 132. 134)
交差反応が認められた場合には,間接赤血球凝集試験130)
やゲル内沈降反応地 133. 186)による確定診断を実施する
ことが推奨されている.なおスライド凝集試験では血清
伊藤:豚胸膜肺炎菌の生物型,血清型及び遺伝子型について 31
型 2と型別可能な株が,ゲル内沈降反応では型別できず
に型別不能株と同定される株や73.138) 凝集試験及びゲ
ル内沈降反応のいずれの検査法でも型別できない株も存
在する78)
3.3. 血清型別実施の意義について
3.3.1.1.血清型聞の病原性の強さに差が認められるため
に,血清型別は重要である
Appは,血清型に関わらず病原性を有するが,血清型
によって病原性の強さが異なると言われている45.68. 72江)
病原性因子は複数あると考えられるが45) Apx毒素
(ApxI ~ ApxIV毒素)は, Appの最も重要な病原性因
子の一つであるお) ApxIV毒素は全ての血清型がznVZVO
で分泌するが invitroでは分泌しない毒素である177)
一方, Appは, ApxI ~ ApxIII毒素のうち, 1種類または
2種類のApx毒素を invitroで分泌するお)しかし血清
型毎にその種類が異なり,その違いが各血清型聞の病原
性の差に強く関与すると考えられているぬ 45.46回 72-74)
各Apx毒素の性状,各血清型の株が分泌する Apx毒素
の種類と各血清型の株の病原性について表 l及び2にま
とめた.
3.3.1.2. 各血清型のAppにおける Apx毒素の分布について
細胞毒性の強い ApxI及び、細胞毒性が中程度の ApxII
の 2種類の Apx毒素を分泌する血清型 1, 5, 9及び
11が最も病原性が強いと考えられておりお.45) (表 1~
2) ,様々な国々で問題となっている(表3~ 6). さら
に, ApxII及び細胞毒性の強い ApxIIIの 2種類の Apx
毒素を分泌する血清型 2, 4, 8及び15による豚胸膜肺
炎が,それぞれ日本・欧州全土,スペイン,イギリス及び
オーストラリアで問題となっている. (表 3~ 6) 45-47)
したがって, ApxI及び、Apxrn毒素のいずれかに加え,Apx II毒素を分泌する血清型の臨床学的重要性が高い
と考えられる.
ApxI毒素のみ分泌する血清型10(表 2)は, ApxIを
表 1. App毒素の性状について38.45鎚 72ー74.94)
Apx毒素 細胞毒性a i容血性b 病原性へのワクチンへの 診断への
関与 利用 利用
強iと〉
ApxI 強 + +
ApxII 中程度 ~~ + 十
ApxIII 『虫 征 + +
ApxIV 有 +
a 多形核白血球及びマクロファージの膜に穴を開けて溶解することによって,細胞毒性を示す.b 赤血球の膜に穴を聞けて溶解することによって,溶血性を示す.
(種特異性一)
乙』
(種特異性ー)
+
備考
Actinobacillus suisも分泌
A. suisも分泌
in vivoでのみ発現.感染抗体とワクチン抗体を識別
可能な診断用抗原に利用.
表 2. 各血清型の株が分泌する App毒素の種類と各血清型の株の病原性についてお.45-47.侃 72-74)
血 i青 型
毒素1. 5, 9,11 2.4.6.8.15
245-471 161751
非典型的13 非典型的127. 12. 13
(北米分離株)10. 14 3
(K13・010附) (K12・03771)
ApxI + + (+)' (+) , (一)"
ApxII + + + + (+)' (ー), (一)"
ApxIII 十 + (ー), (ー), (+) ,
ApxIV + + + + 十 + 、7→中程度
~~ ? 12. 13→中程
弱? (病豚から 中程度? 中程度?
病原性 強 中程度度または弱?
(臨床例 はほとんど ~lJ 強?' (臨床例1621か (臨床例円)か(血清型7
以外は臨床例少ない) 分離されて ら分離) ら分離)
少ない)いない461)
a 毒素タンパク分J必の確認はされていないが.Apx毒素の遺伝子プロファイル39.56. 1711から推測.
32 家畜衛生学雑誌第42巻第 2号 (2016)
表3. 1974~2013年に日本で分離された Appの各血清型(株数)
血清型
文献 分離年l 2 3 5 6 7 8 9 11
20 1974 。 18 l 。。 。。。 。66 1975 -1982 。 85' 。。 。。。 。106 1982 -1983 。 272 。 。。 。。。 。104 1983 -1984 。 103 。 。。 。。。 。84 1982-1985 。 6 。 51 。 。。。 。141 1985 。 24 。 23 。 。。。 。82 1986 。 I 。 。。 。。。 。95 1974-1986 。 107 。 22 。 。。。 。83 1985 -1987 。 48 。 7 。 。。。 。174 1987 2 21 。 。。 。 2 I 。3 1987 。 93 。 8 。 。。。 。41 1987 14 85 3 10 。 7 2 1 。205 1987 。 。。 。 1 b 。。。 。105 1986 -1987 7 43 。 24 2 11 。。 。185. 186 1986 -1987 6 178 。 2 。 4 。。 。190 1988 。4(1)' 。 。。 。。。 。155 1988 -1989 6(2)' 5(3)' 。 。。 。。。 。62 1989 3(1)' 。。 。。 。。。 。140 1991 。2(1)' 。 。。 。。。 。65 1989-1992 3 88 。 4 。 。。。 。207 1991-1992 3(1)' 。。 。。 。。。 。142 1992 。 。。 。。 o 3(1)' 。 。
1982 -1994 l 19 。 5 。 l 。。 。6 1992 -1994 22 29 。 7 。 7 2 。 。40 1989 -1995 523 757 20 90 。 22 21 I 。209 1995 -1997 14 49 。 2 2 I 。。 。137 1999 -2000 24 76 1 15 2 2 。。 。
1986 -2000 620 2107 270 55 28 3 。
小計 (19.8%) (67.4%) 26 (8.6%) 7(18%)
189 2001 。 。。 。。 。。。2(1)' 101 2003 。 。。 。。 。。。136 2002-2005 8 66 。 14 。 。。。154 2008 。20(8)' 。 。。 。。。183 2001-2010 116 248 ? 18 ? ? ? ?
76 2009-2010 。 。。 。 2d 。。。92 2006-2011 5 29 。 7 1 ' l 。。152 2012 。 。。 。。 。。。184 2013 。 。。 o 4(1)' 。。。30 2006 -2013 30 343 4 48 I 2 。。
2001-2013 159 694 87 3 。。小計 (15.5%) (67.8%) 4(85%) 4 (0.3%)
1986 -2013 779 2801 357 58 28
合計 (18.8%) (67.5%) 30 (8.6%) 11 (1.4%) 3
表中の各数字は分離株数
a 文献20の菌株数を示してカウントしているので,その株数(それぞれ20及ぴ 1)を差しヲlいた数を示した.b 輸入検疫中に死亡した豚から分離C 括弧内の数字は農場数 同一農場から分離された株は. 1株としてカウントしたd 遺伝学的に非典型的な血清型6e 文献76の株と同一株f 血清型12の非典型的株K12:03
。。。?
。。。。。1
l
12 13 15
。。 。。。 。。。 。。。 。。。 。。。 。。。 。。。 。。。 。。。 。。。 。I 。 。。。 。。。 。。。 。。。 。。。 。。。 。。。 。。。 。。。 。。。 。。。 。。。 。7 。 。。。 。。。 。8 。 。
(0%)
。。 。。。 I 。。 2 。。 。? ? .干
。。 。1f 。 4 。o 61(1)' 。。 。2 5 15
3 23
5 (2.2%)
11 23
5(0.6%)
112/5 合計112/5
以外
18 1
85 1
272 。103 。57 。47 。I 。
129 。55 。23 3
101 。109 14
。 1 74 13
186 4
4(1)' 。11(5)' 。3(1)' 。2(1)' 。
95 。3(1)' 。。3(1)' 25 l
58 9
1370 71
65 3
115 5
2997 127 3124
(95.9%) (4.1%)
。2(1)' 。 l 88 2
20(8)' 。382 39
。 2 41 7
o 61(1)' 。4(1)'
421 29
940 83 1023
(91.9%) (8.1 %)
3937 210 4147
(94.9%) (5.1%)
伊藤・豚胸膜肺炎菌の生物型,血清型及び遺伝子型について 33
表4. 日本を除く世界各国で分離される Appの血清型の割合(%) (型別用抗血清で菌株を血清型別)
州及び国 文献 分離年 検査株数 主要な血清型 分離されたことのある血清型
アジア
韓国 126 不明 100 2(56)て5(28) 2.5.6.7
208 2006-2009 68 5(66).2(16) 1. 2. 4. 5. 7
208 2010 34 5 (38). 1(35) 1. 2. 4. 5. 7. 8
中国山東省 29 不明 20 7(30).5(25).3(20) 3.4.5.7.8
台湾 21 不明 60 1(53) 1.2.5
179 2007-2008 56 1(79) 1. 2. 4. 5. 7
206 2002-2007 211 1 (65).2 (34) 1.2.5
フィリピン 192 不明 57 5(60).3(16) 1.3.4.5.11
イスラエル 167 2010 不明 13
欧州
イギリス 156 1994 51 8 (35). 6 (28). 3 (18) 2. 3. 6. 7. 8. 9. 10
156 2004 96 3 (52). 8 (27) 2. 3. 6. 7. 8. 12
オラン夕、 93 不明 不明 9 (49).3 (32) 1. 2. 3. 5. 7. 8. 9
34 2008 63 2(70).9(25) 2. 9. 13. 9/11 b
チェコ 176 1999-2000 122 9(66).2(16) 1. 2. 3. 5. 7. 8. 9. 11. 12
143 2001-2003 238 1/9111'(41).9(34).2(22) 2. 8. 9. 11. 12. 1/9/11 b
102 2003-2004 254 9/11'(55) 2.4.5.7. 11. 12. 119/11 b. 9111 b
フランス 23 1989 -1996 1154 1/9/11'.2 2.4. 5. 7. 10. 12. 1/9/11 b. 3/6/8b
ベルギー 32 1991-1992 199 2(48).3(21) 2. 3. 5. 7. 9. 10. 11
ハンガリー 35 不明 不明 13
175 不明 不明 16
スペイン 60 不明 71 4(42).7(23) 1. 2. 3. 4. 6. 7. 8. 9. 12
59 1997 -2004 229 2(41).4(40) 1. 2. 4. 5. 6. 7. 8. 11
120. 121 不明 不明 13.14
122 2002-2008 不明 7(69). UT'(21) 1.2.7.11
デンマーク 57 不明 不明 2(>90)'.6(>90)'.12(>90)'
86 不明 不明 2 (63). 6 (26) 2.5.6
151 不明 不明 14
56 不明 100 (扇桃由来) 2(45).12(27) 2.5.6.8.9.10.12
56 1996 102 (肺由来) 2 (56). 6 (27) 1, 2. 5. 6. 8. 9. 10. 12
スウェーデン 181 不明 不明 2.3.4.5.6
北米
米国及びカナダ 162 不明 不明 13(K13・010)
カナダ 52 2011-2014 134 5(39).7(37) 1. 2. 5. 7. 8. 12
中南米
メキシコ 46 不明 不明 15
ブラジル 107 1993-1999 94 5 (35).3 (34) 1. 3. 4. 5. 7. 11. 12
107 2000-2006 144 10(29).6(26).5(24).3(21) 1. 3. 4. 5. 6. 7. 8. 10. 11
28 2003 -2011 234 3(25).15(21).8(15) 1.2.3.4.5.6.7.8. 10. 15
ベネズエラ 197 不明 不明 7(48).5(25).1(22) 1.2.5.7
165 1989-1994 50 1(48). 7(24) 1. 2. 3. 4. 6. 7
アルゼンチン 210 不明 不明 1. 3. 5. 7. 8. 12. 15
オセアニア
豪州 12 不明 378 15' (38). 1 (28).7 (22) 1.2.5.7.15
195 2002-2011 不明 15(35).7(26).5(19) 1. 5. 7. 12. 15
195 2012-2013 7(42).15(22).12(16) 1. 5. 7. 12. 15
ニュージーランド 172 不明 27 5 (56). 7 (37) 5.7.8
a 括弧内の数値は分離率.b 複数の血清型の抗血清で凝集.C 型別不能d 血清型 2. 6. 12あわせて90%以上e 原、著では当時血清型12となっているが,後に実際には血清型15と判明ー
34 家畜衛生学雑誌第42巻第 2号 (2016)
表5. 日本を除く世界各国で分離される Appの血清型の割合(%) (PCR法で血清型を予測)
州及び国 文献 分離年 株数 主要な血清型分離されたこと
型別法のある血清型
アジア
韓国 91 2008-2010 32 5 (50). 1 (22).2 (16) 1. 2. 5. 12 PCR (遺伝子不明)
96 2011-2012 48 2 (42).5 (33) 1. 2. 4. 5. 7. 12 cpsla,ρ'xlomlA PCR
III 2012-2013 54 5 (37). 1 (28). UT' (24) 1. 2. 5. 7. 12 cps PCR
タイ 191 不明 15 αρ'xIVREA b
欧州
イキ、リス 66 3(52).8(30) 2. 3. 6. 7. 8. 12 従来の血清型別法
156 2004 (同一検体)
(凝集試験)
8(82) 2. 3. 6. 7. 8. 12 C)りsPCR
156 2009 378 8(78) cρs PCR
北米
cps PCR (血清型 3.カナダ 51 2007 -2013 96 6.8.316 '. 15? 6及び8抗血清で交差
する株のみを検査)
南米
チリ 144. 145 2007 -2009 60 7(36).6(17) 4.6.7 。,pxPCR コロンビア 173 不明 不明 1.5.7 。,pxIVPCR
a型別不能株b restriction analysis (制限酵素切断解析)C 血清型3及び6に特異的なサイズのPCR産物が2本増胸されたため,非典型的な血清型 676)下線はPCR法ではなく,抗血清を用いた従来の血清型別法(スライド凝集試験)での成績.
表6.世界各国における Appの各血清型に対する抗体陽性率(%)
州及び国 文献抗体検査の 頭数農場数主要な血清型実施年
抗体陽性を示した血清型 備考
アジア
日本 106 1982 -1983 119 18 2(44)' 2 血清型2のみ検査
104 1983 -1984 200 48 2(52) 2 血清型2のみ検査
141 1985 64 6 5 (36). 2 (38) 2.5 血清型2.5のみ検査
83 1983 -1986 629 220 2(62).5(10) 2.5 血清型2.5のみ検査
207 1992 473 l 5(91)b. 2(83)b.1 (47).6(44).7(17) 1.2.5.6.7 血清型1.2.5-7のみ検査
188 2012 -2013 31 2(74).5(61).119111'(19) 119/11.2.5 血清型119/11.2.5のみ検査
188 2012-2013 144 2(62).5(25) 1/9/11.2.5 血清型1/9/11.2. 5のみ検査
韓国 96 2011-2012 452 2(19) 1/9/11. 2. 3/6/8'. 4/7ぺ5タイ 7 不明 549 1/9/11 (29).3/6/8(26). 5a (26) 1/9/11. 3/6/8. 5a. 5b. 12
欧州
ベルギー 118 不明 150 3(90).2(81).9(39) 農場内平均感染率
血清型2.3.9のみ検査
119 不明 50 2(57).3(54).9(41) 農場内平均感染率
血清型2.3.9のみ検査
オランダ 34 2008 500 2 (35). 12 (28). 417 (21). 3/6/8 (17) 1/9/11. 2. 3/6/8. 417. 5a/5b. 10. 12
スウェーテ矛ン 199 2000 500 4/7(59).2(49).3(39) 農場内平均感染率
フィンランド 112 不明 692 3 (51). 2 (26)
61 2007 -2008 206 417 (35). 119/11 (15) 119/11. 2. 316/8. 417. 5. 12 野生及び家畜化した猪
北米
カナダ 115 2003 50 417(26).12(17).3/6/8(15) 119111. 2. 316/8. 417. 5. 12
中南米
メキシコ 19 不明 556 2(89).3(86).1(50)
括弧内の数値は抗体陽性率.b ワクチン抗体?C 血清型LPSの0抗原を用いたELISAで検査したので.血清型119/11聞の識別はできないd 血清型LPSのO抗原を用いたELISAで検査したので,血清型3/6/8聞の識別はできないe 血清型LPSのO抗原を用いたELISAで検査したので,血清型4/7聞の識別はできない.
伊藤:豚胸膜肺炎菌の生物型,血清型及び遺伝子型について 35
分泌する事とマウスを用いた感染実験での高い致死性か
ら,病原性が高いと考えられていたが,世界的にも血清
型10の(特に臨床例での)分離例は少なく,豚を用いた
実験感染試験でも病気が再現されない46) 同様に,
ApxI毒素のみを分泌する血清型14の分離報告も非常に
少ない120-122. 151) 血清型12はApxII毒素のみを分泌する
が(表2),デンマークでは病豚の肺からの血清型12の
分離率は低く,健康豚の扇桃から血清型12が高率に分離
される56) (表4).そのため,血清型12はデンマークで
は低病原性の扇桃に親和性の高い血清型であると考えら
れている56) ApxIII毒素のみ分泌する血清型 3 (表 2)の
病原性が低いことは,これまで広く認識されている45)
同じ血清型であっても病原性の強さに差が認められる
場合がある.すなわち日本及び欧州では血清型 2の病原
性が強いと考えられており,血清型 2による胸膜肺炎の
被害が多く問題となっているが(表2-4),北米では
血清型 2による胸膜肺炎は問題となっていない(表2及
び4)46. 47) この違いは分泌される Apx毒素の種類に
よるものと考えられている.すなわち, 日本及び欧州由
来の血清型 2は, ApxII及び、ApxIII毒素を分泌する
が,北米由来の血清型 2はApxII毒素しか分泌しない
(表2)46. 47) 一方,血清型4は,スペインでは病原性
が強く,臨床上重要な血清型であるが,他国では血清型
4は問題となっていない46) (表4).しかしカナダで
分離された健康豚由来のApp血清型 4 (北米での分離
は非常に希)とスペインの血清型4のApx毒素パター
ンは同一であり(表2),病原性の差及び臨床学的重要
度の違いを分泌する Apx毒素の違いで、説明で、きない46)
同様に血清型15は,オーストラリアでは病原性が強く,
臨床上重要な血清型であるが(表4),オーストラリア
以外の固で分離される血清型15の病原性は中程度であ
り,分離率も高くない(表2-4) 46). このように同一
血清型での病原性の強さの差及び各国における臨床学的
重要度の違いを Apx毒素では説明で、きない46) ApxII毒
素しか分泌しない典型的な生物型 2血清型13(K13: 013)
はハンガリーで初めて分離されたがお)その後ハンガリー
及びその他の固においての分離報告はきわめて少数で
あるためね 162. 167) 病原性は弱いと推測されるぬ 162. 167)
(表2及び4).一方,近年アメリカ及びカナダでApxI
毒素のみを分泌する非典型的な生物型 l血清型13(K13:
010)が分離され(表2及び4),その後 5年間に 8例
臨床例から分離されており 162) ApxII毒素のみを分泌す
る血清型13(K13: 013) よりも病原性が強いと考えられ
る(表2).
さらに異なる血清型間での病原性の強さの違いを
Apx毒素のみでは説明できない場合もある.すなわち
血清型 7及び12はともにApxII毒素のみを分泌するが
(表2),カナダでは血清型 7は2番目に多く分離される
臨床的に重要な血清型であり(表4),血清型12よりも
病原性が強い46) デンマークでも血清型12の病原性は低
いと考えられている56)
3.3.2. ワクチンの効果は,血清型特異的であるために
血清型別は重要である
一部の報告例(血清型 8,3及び6聞での交差防御免疫)
を除き 147) 異なる血清型の菌体をワクチンとして接種
しでも十分な効果が期待できない45.回. 72-74. 146. 193. 1叫)
全ての血清型に効果・効能を示すワクチンはまだ開発さ
れていない.したがって 農場にどの血清型が浸潤して
いるか把握し各農場におけるワクチンの選択及びワク
チンプログラムの検討を行うために,分離株の血清型別
は,重要な検査項目の一つであると言える.
3.4.各国及び大陸で流行している血清型の遣いについて
3.4.1 日本における主要な血清型について
App分離株の血清型は,国,地域,農場によって様々である33.45. 46.ω. 72-74) 日本では血清型 2の分離が
最も多く,次いで血清型 lまたは 5が多い(表 3).過
去約40年間の文献を集計すると上記 3つの血清型で約
94.9%,血清型 2だけで約67.5%を占めている(表 3).
日本で最も分離頻度の高い血清型 2は全国各地で分離さ
れるが,血清型 1及び5の分離の有無及び分離率は地域
によって差がある. 日本では血清型 4,10及び14の分離
報告はなく,血清型1. 2, 5以外の血清型は農場での
豚胸膜肺炎の散発的発生や食肉衛生検査の際における分
離報告が多い(表 3).血清型15は2001年以降の日本で
は血清型 2, 1及び5に次いで4番目に分離率の高い血
清型である.血清型15は, 1990年にオーストラリアで分
離され,血清型12と同定されていた株12) を再解析した
結果, 2002年に新しい血清型として提唱された血清型で
ある 13) 日本では2003年に初めて血清型15が分離されて
いる 101) しかし筆者は血清型15がまだ提唱されてい
ない1990年代に分離された株(当時は型別不能株として
保存)を,近年再検査した結果,血清型15と型別され
た74) したがって,血清型15は1990年代(1株は1995年,
もう一株は分離年不明)には既に日本に侵入していた事
になる74)
3.4.2. 日本以外の世界各国での主要な血清型について
Dubreuilら33) は,世界各国の最も主要な血清型及び
分離例のある血清型についてまとめているので,この総
説を参照されたい.しかしこの総説は2000年以前に発
表された報告をまとめたものであるため, 2000年以降に
発表された報告及びDubreuilらの総説33)に記載のない
36 家畜衛生学雑誌第42巻第 2号 (2016)
報告を表4~6 にまとめた.表 4 は各血清型の App を
免疫して作製した抗血清を用いたtraditionalな血清型別
法による報告,表 5は後述する PCRによる遺伝子検査
で分離株の血清型を推定した報告,表6は抗体検査に
よって各血清型の感染率を調査した報告(日本での報告
を含む)をとりまとめたものである.
3.4.3. アジアでの主要な血清型について
韓国ではかつては,血清型 5及び2が主要な血清型で
あった126) (表4).しかし近年では血清型 lの分離率
が上昇し現在は血清型 5についで主要な血清型であ
る91.111. 2郎) (表4及び5).台湾では血清型 lが最も主要
な血清型である21. 179 捌) (表4).世界第一位の豚飼育頭
数を誇る中国で分離される Appの血清型についての情
報は,山東省での調査報告(表4)しか見当たらない却)
3.4.4.欧州での主要な血清型について
欧州のほとんどの国では日本と同様に血清型2が主要な
血清型である(表4).フランスお 33) オランダ33.34. 93)
ベルギー118. 119)及びチェコぬ 102. 143. 176)等,血清型 2に
次いで血清型 9が主要な血清型である国も多い(表
4) . 日本における豚肉の主要輸入先国であるデンマー
クでは,肺または肩桃から分離された Appの90%以上
が血清型 2,6または12であるという報告57) (表4) と,
血清型 2 (63%), 6 (26%に 5 (5 %)の順で分離率
が高いという報告があり,日本と同様に血清型 2が主要
な血清型である部)(表4).
イギリスとスペインでは他の固ではほとんど分離され
ない血清型 8及び4がそれぞれ臨床学的に重要な主要血
清型である.イギリスではかつては血清型 3 (表4及び
5 )が最も主要な血清型と考えられてきた(スライド凝
集試験による血清型別) 1日) しかし 2004年に分離さ
れた株を,スライド凝集試験と後述する英膜多糖合成遺
伝子を標的DNAとする PCRi:去の両方で検査し比較した
ところ,多数の血清型8を血清型3とミスタイピングし
ていた可能性が示唆され,イギリスでは以前から血清型
8が主要な血清であったと考えられている 156) (表4及び
5) .このように血清型 3,6, 8 (及び15) は,スラ
イド凝集試験では交差反応の頻度が高くミスタイピング
する危険性が高いため,最近では血清型 3,6, 8また
は15と思われる株については, PCRで型別している例
もある51) (表 5).スペインで1990年代~2004年に分離
された株では,血清型 4,2及び7の分離率が高かった
が33.59. 60) (表4),2002~2008年に分離された株(生物
型 1)でも同様な傾向が続いている 122) 一方生物型 2
では,血清型 7の分離率が最も高く (69%),型別不能
株 (21%),血清型2/4(ともに 5%),11(2%) と続
く122)(表4).
3.4.5. 北米での主要な血清型について
20年以上前のカナダでは血清型 1 (68%),次いで 5
(23%) がよく分離されていたが, 2011 ~20l4年にカナ
ダで分離されたAppの血清型に関する報告によれば,
血清型 5(39%)及び7(37%) が主要な血清型であり,
次いで、血清型 8 (8 %), 12 (7 %に 1 (5 %)及び2
(5 %)の順に分離率が高かった52) (表 4).このように
病原性が最も強いと考えられている血清型 1の分離率が
激減した一因は, App血清型 1清浄化のための特別な
プログラムによって繁殖豚の感染率を減少させたためで
あると推察されている52)
カナダのオンタリオ州で2003年に実施した抗体検査で
は,血清型4/7(おそらく 7) (26%), 12 (17%), 3/6/8
(おそらく 8) (12%),5 (6%に 2 (4 %), 1/9/11 (お
そらく 1) (2%) の順に抗体陽性率が高く,病原性が
強いと考えられている血清型 1及び5 (表 2)の抗体陽
性率は低かった115) (表 6).また北米では,臨床症状が
認められない農場であっても,血清型 3,6, 8, 12及
び15のいずれかの血清型に対する抗体を保有する豚が高
頻度に検出される農場が多い.さらにこれらの血清型の
農場内での感染率が高いため,少数の豚の検査でも摘発
が可能であると言われている必 47) これらの血清型はい
ずれも病原性が中程度か弱いと考えられている血清型で
ある(表2)
3.4.6. 中南米での主要な血清型について
日本の豚肉輸入先の主要因の一つである南米のチリで
は, 1980年代は北米と同様に血清型 l及び5が主要な血
清型であったが33) 2007 ~2009年に分離された Appの血
清型は,血清型 7 (36%に 6 (17%), 4 (7%) のい
ずれか (PCRによる型別)であった144. 145) (表 5).病原
性が最も強いと言われている血清型 1及び5から,他の
血清型にシフトした理由が,北米での例と同様に,検査
によるモニタリング,バイオセキュリティーの強化や管
理手法の向上によるものなのか,あるいは検査した地域
や農場の違いによるものなのかは不明である.また中米
のメキシコも我が国の豚肉輸入先の主要国の一つである
が,メキシコのCHIAPAS州における抗体調査の結果,
556頭中89%が血清型 2,86%が血清型 3,50%が血清
型 1に対する抗体を保有していたと報告している 19) (表
6) .
3.4.7. オセアニアでの主要な血清型について
オーストラリアでは,血清型15が病原性の高い臨床上
重要な血清型であり 13.195. 196) 血清型7及び5の分離率も
高い195. 196) (表4).北米46) メキシコ46) ブラジル28.46)
(表4), タイ 191) (表5)及び日本初.92. 101. 136. 152) (表 3)
においても血清型15は,低頻度であるが分離されている
伊藤:豚胸膜肺炎菌の生物型,血清型及び遺伝子型について 37
が,これらの諸国では大きな問題とはなっていない46)
3.5. Appの血清型に関するその他のトピックについて
同一時期に一農場で複数の血清型のAppが分離され
る報告例はある17) また, Iある血清型のAppに感染し
た豚は,他の血清型に感染しない」と考えられてきた時
期もあるが, 1個体から複数の血清型のAppが分離さ
れた報告例がいくつかある17.174)
3.6.血清型に関与する抗原及びその遺伝子について
3.6.1. はじめに
どの抗原が血清型に関与しさらにどの抗原が血清学
的交差反応性に関与しているかを明らかにするための研
究が多数行なわれてきた結果, Appの血清型は主に爽
膜多糖の抗原性に基づき型別されることが,明らかと
なった11.33. 117. 161. 163. 164) さらに,一部の血清型では,
リポ多糖 (LPS)のO多糖抗原も血清型別の際の交差反
応に影響を与える重要な抗原である事が明らかとなっ
た33.117. 161-1臼)特に血清型 1,9及び11間127.1鈍)血清
型 3,6, 8及び15間51.132) 血清型4及び7間128)では,
交差反応が頻繁に認められる.これはLPSの構造が,
それぞれの血清型間で同ーまたは非常に類似しているた
めである33.161. 1臼)またLPSの0多糖抗原だけでなく,
外膜タンパク質等も各血清型間で交差する原因となる抗
原である.従来のポリクローナルな抗体を含む血清型別
法では,複数の抗原が血清型別に影響を与えるため,血
清型特異的モノクローナル抗体を用いた血清型別を実施
する方法もあるが実用化されていない.
3.6.2 新しい血清型の命名方式の提案について
以上の知見から,大腸菌やサルモネラで使用されてい
る (K):O:Hという血清型命名方式と同様に, Appにお
いても K (爽膜抗原):0(LPS 0抗原)を使用した血清
型命名方式が提唱された(表7)11). Appの血清型参考
株及び野外分離株のほとんどは表7の左から 2香目のカ
ラムに示すK:Oの組合せのK及びO抗原を発現する.
例数は少ないが非典型的なK抗原と 0抗原の組合せが非
典型的な株が北米 (K1:0753)及びK13:0l0162)),欧州
(K2:oi印))及び日本 (K12:0377. 187)) で,分離されて
表 7.App血清型 1~16の爽膜多糖及びLPSの O多糖抗原の化学構造に基づいたK:O血清型11)
血清型参考株及び典型
爽膜血清型 的な野外株のK・O血I青型
0多糖抗原の化学構造が同ーか類似性非典型的な野外株の
非典型的なK:O血清型野外株としているために血清型学的交差性が認
K:O血清型同一あるいは類似したKまたは
められる爽膜血清型群 0抗原を発現する K:O血清型
K1:01 119/11 K1:07日) K1:01 (北米のみで分離) K4:04. K7:07.(K13:013)'
9 K9:09 119/11
11 K11:01 119/11
2 K2:02 K2:071叩) K2:02 (欧州のみで分離) K4:04. K7:07.(K13:013)'
3 K3:03 3/6/8/15
6 K6:06 3/6/8/15
8 K8:03 3/6/8/15
15 K15:03 3/6/8/15
4 K4:04' 4171(13)'
7 K7:07' 4171(13)'
13 K13:013' 4171(13)' K13:0101臼) K13・013(北米のみで分離) K10:010'
5a K5a:05
5b K5b:05
10 K10:1O
12 K12:012 K12:0377)
(日本のみで分離)
K12・012K3:03. K6:06. K8:03. K15:03
14 K14:0?b
16 K16:0?c
a血清型7及び13のO多糖抗原の化学構造は同一であるにも関わらず(図 3).血清学的交差反応が認められる例と,認められない例が報告されている45叩.したがって,化学構造ではK13:07と記載すべきであるが,ここではK13・013を使用する.
b 0抗原の化学構造は未決定
C K及びO抗原の化学構造は未決定であるが,血清型 1~15のいずれの抗血清にも反応しない17日ため. K16と記載
38 家畜衛生学雑誌第42巻第 2号 (2016)
いる(表7). しかし K抗原及びO抗原を同定するた
めには,英膜やLPS0抗原の化学構造及び遺伝子構造
等を決定する事が必要であり, K:O血清型別には, K及
びO抗原に特異的な抗血清(爽膜及びLPSのO抗原に対
するモノクローナル抗体等)が必要で、あるため,限られ
た検査室または研究室以外では検査の実施は困難でLあ
る.そのため新たに提唱されたK:Oによる血清型命名
方式は普及していない.
3.6.3. K抗原(英膜多糖)の化学構造について
血清型 1~ 13及び血清型15のK抗原の化 学構
造33. 117. 161. 164)を図 1に示した血清型14及び今年新た
に提唱された血清型16のK抗原の化学構造に関する報告
はまだない163.175) AppはK抗原の化学構造及び抗原性の
違いに基づき,血清型別される.K抗原の化学構造は,
ホスホジエステル結合した直鎖オリゴ糖ポリマーで構成
されるグループ 1 (血清型 1,4, 12, 15,) 33. 161. 1臼) (図
1A),ホスホジエステル結合したタイコ酸ポリマーで構
成されるグループII(血清型2,3, 6, 7, 8, 9, 11, 13) 33. 117. 161) (図1B)及び通常はLPSのリピッドA
と内部コアの連結部分に存在する 2-ケト -3-デオキシオ
クトン酸 (KDO)を保有し単純なオリゴ糖のポリマー
で構成されるグループm(血清型 5,10) 33. 161) (図1C)の3つにグルーピングされる.
3.6.4. K抗原の遺伝子構造について血清型 1~15のK抗原合成遺伝子の遺伝子構造と塩基配
列が決定されている 8.14お花 π79.87. 113. 160. 200. 203. 204. 211)
上述のようにApp血清型は,各血清型のK抗原の化学
構造に基づき 3つのグループに分けられるが,遺伝子構造でも同様に, 3つのタイプに分けられる丸 79.87. 203) (図
2A~C).
まずタイプ Iに属する血清型 1,4, 12, 14及び15(図
2A) には, cρslA (爽膜多糖リン酸転移酵素)が存在
し爽膜のリニアパックボーンを構築するリン酸結合に
関与する75.79. 203) 次に,タイプEに属する血清型 2,
3, 6, 7, 8, 9, 11及び13(図2B) には203.2似)タ
イコ酸の合成に関与するφs2A(タイコ酸グリセロール
転移酵素遺伝子)及び、φs2B(グリセロールー3-リン酸
シチジル転移酵素)と機能不明なφs2C遺伝子が存在す
る.タイプEに属する血清型は,タイコ酸合成酵素遺伝
子 (φs2D,cts6D及びcts9D) も保有する φs2D,
φs6D及び、φs9D遺伝子がコードするタンパク聞のアミ
ノ酸配列の相同性は低いが,共に保存された二つのドメ
インを保有する. cρs9D (タイコ酸合成酵素遺伝子)は
血清型 9及び11に存在するが,血清型 3では機能しない
偽遺伝子φs9D'しか存在しない.最後に,タイプEの
血清型 5及び10(図2C)には,単糖 3-デオキシーd-マン
ノー2-オクツロソン酸 (dOclA)の合成に必要な KdsA
(dOclA 8リン酸合成酵素)ホモログが存在する捌.
なお血清型 7及び13はともに,同一の塩基配列の
φs2A,ゆs2B,c.ρs2C, cρs2D及び、cρs7Eを保有するが(図2B),異なる化学構造33. 117. 161) (図1B)及び抗原性47)
を呈する. したがって,これらの遺伝子以外にも爽膜血
清及び血清型に関与する遺伝子及びそれらがコードする
タンパクの存在が示唆される.同様に血清型 9及び11は
ともに,同ーの塩基配列のφs2A,cρs2B, cρs2C及び
φs9Dを保有するが(図2B),異なる化学構造を有する
(図1B). したがって,これらの遺伝子以外にも英膜血
清及び血清型に関与する遺伝子がゲノム上の他の場所に
存在し,それらの遺伝子がコードする酵素によって爽膜
多糖が修飾され,異なる抗原性を示している可能性が示
唆される.
血清型14のK抗原の遺伝子構造はタイプ Iに属する
が75) Appとは異なる菌種のA.suisのK抗原の遺伝子
構造18. 116) とほぼ同ーであることに興味がもたれる.
AppのK抗原合成遺伝子のGC%は, Appの全ゲノムの
平均GC% (約41%)よりも低く,水平伝播で獲得した
ものと考えられている75.79. 87) さらに, App, A. suis,
Actinobacillus minor, Haemoρhilus influenzae,
Mannheimia haemolytica, Pasteuella multocida及び
NeisseJ匂 meningitidsのK抗原合成遺伝子領域は,モザ
イク様構造を呈して類似しており,パスツレラ科及びナ
イセリア科に属する異なる属及び種間で爽膜合成遺伝子
に関わる遺伝子が水平伝播している可能性が示唆されて
いる 109) 図2A~C を参照して分かるように, φslAB
(グループ1), φs2ABC(グループII)及び、kdsABF(グ
ループm)の基本骨格を持った血清型に,他菌種から水
平伝播された様々な遺伝子がそれらの遺伝子の下流また
は上流に挿入されたために,多様な化学構造及び抗原性
を持った英膜多糖及び爽膜血清型が誕生したと推察でき
る.K抗原合成遺伝子の水平伝播は, Appが属するパス
ツレラ科に属する菌種や,同じGram陰性菌のナイセリ
ア科に属する菌種にとどまらず, Gram陽性菌との聞で
も水平伝播が起こっている可能性が示唆されている.例
えば血清型 6のK抗原合成遺伝子 (φs2A,ゆs2B,
cρs6D及び、cts6E) (図2B)がコードするタンパクのア
ミノ酸配列を用いてホモロジー検索を行なうと, Gram
陽性菌である Bacillus属菌のタイコ酸合成に関わる遺伝
子がコードするタンパクのアミノ酸配列と局所的あるい
は広範囲に渡ってホモロジー(それぞれ31-37%, 67
73%, 28-41%及び32-35%) を有する87) 教科書的に
はタイコ酸はグラム陽性菌が発現するとされているが,
Gram陰性菌である Appがタイコ酸を発現することは非
伊藤:豚胸膜肺炎菌の生物型,血清型及び遺伝子型について
A(グループ 1) B (グループII)文献 文献
[ 11
→4) -s-D-GlcpNAc-(l→6) -a-D-Galp-(l-O-P-O 6
OH (Ac) 0.85
「。11
4 I→6)-s-D-Glcp-(l→3)ーα-D-GalpNAc-(1-0-P-0-1
I a I " n 「 。1 11
|→3) -s-D-GlcpNAc-(1→3) -s-D←GlcpNAc-(1→3)ーα-D-GlcpNAc-(1-0-Pーか12 1
14 未決定事
。 D-Galp(0.3)-(1→~ 0
↓ 11
15 →3) -s-D-GalpNAc-(日)αMcpmc(1010
OH
C(グループill)文献
[→6)-a-D一一一-D-dOclApー(2→Jn
[→6) -a-D-GlcpNAc-(→) -s-D-dOclAp-(→
i|33161
s -D-Glcp
(Ac)
10 1 6 33,161
→3)一日一D-MAnpNー(1→5)-s-D-dOclAp-(2→ | J n
OH
33,161
33,161
33,161
なし
164
→3)日D-Galp-(l-OCH, 6 ↑ HOCH 0 1 11
s-D-Glcp CH20-P-0
6 ↑ OH I
s-D-Glcp
[?| 4)日D-Galp-(1-0CH 0 3 11 ↑ CH20-P-0-
αD-GlcpNAc OH
→6) -s-D-GlcpNAc-(1→3) -s-D-GAlpNAc-(1-0CH,
αD-GalpNAc-(1-0CH 0
→3)αD-Galp-(1-0CH2 4 ↑ HOCH 0 1 11 。D-Galp CH,O-P-O
OH
(AC),.3
11 CH20-P-0-
OH
CH20H
3 8 1→6) -s-D-GalpNAc-(1→3) -s-D-GalpNAc-(1-0CH 0
11
(AC),.3 (Ac),.,
(AC),.7 CH20H
3 →4)αD-Galp-(卜OCH 0
4 11 CH20-P-0
(Ac),.l
(Ac)
CH20Il
3
OH
11 1→4)αD-Galp-(1-0印。11
CH,O-P-O 1
s-D-Glcp OH
→CH2
α D-Galp-(1-0CH 0
13 4 3 11 t t CH2口-P-OAc Ac 0.6 0.4 OH
CH,O-P-O
OH
図 1.App血清型 1-13及び血清型15の英膜多糖の化学構造.
33,161
33,161
33,161
33,161
33,161
33,161
33,161
117
39
キ血清型14の爽膜多糖の化学構造は未決定であるが, K抗原の遺伝子構造(図 2)お)によって,化学構造もグループ Iに属すると考えられる
40 家畜衛生学雑誌第42巻第2号 (2016)
(A) 。 2 3 4 5 6 7 8 9 10 Kb
血清型 1 ←ーcpxD cpslA cpslB 血清型 4 - 区〉
cpxD cpslA cpslB cps4C
血清型12 ←.医盛時cpxD cpslA cps12B
血清型15←ね・ーcp.冗Dc,ps15C cpslB cpslA
区今時cpslC cpslD
血清型 14 ←二三二二二二宇和物理吟桝田静cpxD cpslA cpslB' I I cps14C cps14D I cps14FI
A. Sllお -IVza= cpslA cpxD
cpsls' cpslB' cps14E cps14G
腕物圏域田陣臨時間pslB 0ヴヲ orf4 ors I orj7
。ゲ百
文献
8,87,203
203
87,203
79
75
18,116
(8) 。 2 3 4 5 6 7 8 9 10 Kb
血清型2 ←...吟己〉開級会ヲW!4?!Zfi7AゆcpxD cps2A T cps2C C.戸2D
cps2B
血細川←.....c::)~~@Wørpg,ø4P'~多臨時C戸 Dcps2AI cps2C cps2D cps7E
血清型 6 ←時仁担吟鴎時cμD cps2A I cps2C cps6D cps6E cps6F
cps2B
血清型 8 ←・~底思今堅今国令臨時cp.冗:Dcps2A I cps2C C.戸6D cps6E cps8F cps8G
cp!f2B‘ム血清型 9/11... ー・・M・三三、>11111111111111111111111111川l 恥
cpxDqS24JS232℃ cm9D
血清型 3 ←・ゆ吟皿皿同ゆcpxD cps2A I明 2Ccps9D' cps9D'
cps2B
文献
203,211
87,113,203
87,203,211
15,160
203
204
(c) 。 2 3 4 5 6 7 8 9 10 Kb 文献
血清型5 ←鴎 叫 鴎 ......己今 36,200 cpxD cps5A cps5Bcps5C kdsA kdsB kpsF
血清型 10←鴎臨時同盟副>...---+c=今 203 cpxD cpsl0A cpsl0B cpsl0Ccpsl0D kdsA kdsB kpsF
図2. Appの各血清型の爽膜多糖合成遺伝子の遺伝子構造
(A) Appの各血清型(グループ1)の爽膜多糖合成遺伝子の遺伝子構造.
(B) Appの各血清型(グループII)の爽膜多糖合成遺伝子の遺伝子構造.
(C) Appの各血清型(グループm)の爽膜多糖合成遺伝子の遺伝子構造.cpxD, 全てのAppl血清型で保存されている爽膜多糖の合成に関与する
4つのφx遺伝子のうちのー遺伝子.
伊藤:豚胸膜肺炎菌の生物型,血清型及び遺伝子型について 41
常に興味深い(図 1).さらに血清型15のK抗原合成遺
伝子のうちφs15C(図2A)がコードするタンパクのア
ミノ酸配列は, Gram 陽性菌Corynebacteriumresistensの
遺伝子がコードするタンパクのアミノ酸配列と最も高い
相同性を示す80) 以上のことから, Gram陰性・陽性菌
を問わず, Appと様々な菌種との聞で、遺伝子の水平伝
播が起こり, Appの英膜は進化してきたと考えられる.
このように各血清型のK抗原合成遺伝子の塩基配列は
血清型特異的であり多様性に富むため,本遺伝子を利用
したPCRによる遺伝子型別法 (5.1.1.英膜多糖合成遺伝子及び英膜多糖輸送遺伝子型別用PCR参照)が多数開発されている.
3.6.5. 0抗原の化学構造について血清型 1~15の O抗原の化学構造を図 3 33. 117, 161, 163, 164)
に示した.昨年末新たに提唱された血清型16のK抗原の化学構造に関する報告はまだない175) 血清型 l及び11
のO抗原の化学構造は同一であり,さらに血清型 9のO
抗原と著しく類似している(図 3).さらに血清型 3,
8及び15のO抗原の化学構造は同一であり,血清型 6の
O抗原と著しく類似している(図 3).さらにまた血清
型7及び13のO抗原の化学構造は同一で、あり,血清型4
のO抗原と著しく類似している(図 3).そのため,血
清型1, 9及び11の間,血清型 3,6, 8及び15型の聞
ならびに血清型 4及び7の聞では,血清学的交差反応が
認められると考えられている.血清型 8の死菌を免疫し
た豚は血清型6の攻撃に交差防御反応を示したという報
告があるが, 0抗原の共通性が交差防御に貢献したものと考えられる 147)
血清型 7及び13のO抗原の化学構造は同一であるにも
かかわらず(図 3),これらの血清型間での交差反応性
は報告されていないが47) その理由は不明である.筆者
の経験では,ゲル内沈降反応で血清型 7と同定された異
なる10県で分離された株を用いて,凝集反応による血清
型別を実施したところ, 2/10株は血清型 7及び13抗血清
の両方で凝集したが, 8/10株が血清型 7抗血清のみで凝
集し,血清型 7及び13間で交差反応が認められる株と認
められない株の両方があった(未発表データ).他の血
清型との血学清的交差反応の報告がほとんど認められな
い血清型 2,5, 10, 12及び14のO抗原の化学構造はそ
れぞれ血清型特異的である.
血清型14のO抗原の化学構造はユニークで,他のどの
血清型とも類似しておらず163) 肺炎球菌Str,φtococcus
ρneumoniae type 37が産生する櫛状のD-グルカン 2)や
放線菌Str,ゆtomycessp.が産生するガラクトマンナン180)
に類似していると報告されている.
3.6.6. 0抗原の遺伝子構造について
血清型 1~13及び15のO抗原合成遺伝子の遺伝子構造と塩基配列が決定されている(図4)14,お, 77, 108, 113, Iω 加,肌 211)
交差反応が頻繁に認められる血清型間(血清型 1,9及
び11;血清型 4及び7;血清型 3,6, 8及び15)で
は,同一あるいは類似した遺伝子構造をしており,これ
らの血清型聞でのO抗原の化学構造の同一性・類似性な
らびに血清学的交差性を説明可能で、ある.一方, 0抗原
の化学構造と同様に血清型 7及び13のO抗原の遺伝子構
造及び0抗原の合成に関与する遺伝子の塩基配列が同ー
である1J3,203)にも関わらず,両血清型間で血清学的交差
性が認められない理由は不明であり 47) 今後の検討が必
要である.
グラム陰性菌のO抗原合成経路には 3種類の経路が知
られているが, Appでは 2つのO抗原合成経路が存在
することが,明らかになっている33,198, 203) その一つは
Wzy/Wzx依存'性経路によってO抗原を合成するグルー
プ1(血清型2,3, 4, 6, 7, 8, 13及び15)(図4A)
で, もう一つはABC-2輸送体依存性経路によってO抗
原を合成するグループII (血清型 1,5b, 9, 10, 11及
び12)(図4B)である.グループEに属する血清型は,いずれも ABC-2トランポーターをコードする Wzm(膜
貫通蛋白質)及び、Wzt(ATP結合性サフ守ユニット)遺
伝子を保有する.血清型14及ぴ16のO抗原合成遺伝子の
塩基配列がまだ決定されていないため, 1, IIどちらの
合成経路グループに属するか不明である.
3.7. Appと血清学的交差反応の認められる細菌について
3.7.1. Actinobacillus porcitonsillarum
健康豚の扇桃,肺,肝臓日)や豚の肉芽腫性リンパ節
炎153)からActinobacillusρorcitonsillarumが分離され,
新菌種として提唱されている刊本菌は主に肩桃から分
離され,発育にNADを要求するなど生物学的・生化学
性状がAppと似ており,ゲル内沈降反応,共凝集試験
及び間接赤血球凝集試験による検査成績から,当初は
App血清型 1や9と誤認されたザ一方,肉芽腫性リンパ
節炎から分離されたA.ρorczωnsillarumは,血清型12抗血清で凝集し免疫組織学的検査では血清型2及び12抗
血清で陽性反応が認められるなど, Appと血清学的に交
差する共通抗原を発現することが報告されている 153)
そのため共通抗原を保有するA.ρorcitonsillarumに感染
した豚は, Appに感染していなくても抗体陽性とな
り,抗体検査による豚胸膜肺炎の血清診断の妨げになる
と考えられている54) 筆者も App血清型1, 2, 9及び
12以外の他の血清型の Appと共通抗原を保有する
A.ρorcitonsillarumに遭遇している(未発表データ).
42 家畜衛生学雑誌第42巻第2号 (2016)
A(Wzy/Wzx依存性合成経路197)で合成される0抗原) 文献
|→2)α D-Galp-(1→3) -s-D-Glcp-(1→4)αD-Glcp-(1→4)日D-Ga1pNA cー(1→2)-Rhapー(1→2)ーαーL-Rhap-(l→6
2 33,161 Ac (0.63)
|→3)ーα-D-Glcpー(1→2)-s-D-Galf-(1→6)αD也l.p-(1→6)-s-D-G1cp-( 1→3)-s-D-Galf-(1→| 3/8/15
「→3)α D-G1cpー(1→2)一日-D-Ga1fー(1→6)ーα-D一位四一(1→6)-s-D-Glcpー(1→3) -s-D-Galf-(1→1 6
4
[→)日(→)日;(→)-a-L -Rhap -(→
T
Jt:It:且盟l >3)→斗叫一3ω川印……)汁川叩R日印D-G3
Jt:It:缶詰
7/13
B(ABC-2輸送体依存性合成経路197)で合成される0抗原)
|→6)α D-Glcp-(l→2)-a-L-Rhapー(1→2)ーαーL-Rhapー(1→I 3 | ↑
1/1 1|1
| 主主旦辺監ι
9
[→) -a-D-Glcp-(→)((→ )-a-L-Rhap-(→
↑
阜主手主E世以仏.2.Ql
5
10
12
C(合成経路不明)「→5) 日D-Ga1f-(1→
2
14|[ |α-D-Galp
n
n
n
In
n
n
n
n
図3.App血清型 1~13及び血清型15の LPS 0抗原の化学構造.
(A) Wzy/Wzx依存'性合成経路酬で合成される 0抗原.
(B) ABC-2輸送体依存性合成経路間)で合成される O抗原.
(C)合成経路不明.
I n
33,161,164
33,161
33,161
33,117,161
文献
33,161
33,161
33,161
33,161
33,161
文献
163
伊藤:豚胸膜肺炎菌の生物型,血清型及び遺伝子型について 43
(A)
13
(B)
1
文献
203
204
203
文献
108,203
203
203
36
203
203
図4. Appの各血清型のO抗原合成遺伝子の遺伝子構造.
(A)グループ I (Wzy/Wzx依存性合成経路によ ってO抗原を合成)の血清型の0抗原合成遺伝子の遺伝子構造
(B)グループII (ABC -2輸送体依存性経路によってO抗原を合成)の血清型のO抗原合成逃伝子の遺伝子構造
A.ρorcitonsillarumは扇桃や上気道の正常細菌叢を構成
する非病原性細菌の一つであると考えられているが,血
清学的に交差する共通抗原をもつだけでなく ,Appの
病原性因子の一つである ApxII毒素 も分泌するため,
AppとA.ρorcitonsillarumの類似性は,両菌の進化を
考える上で大いに興味が持たれる
3.7.2. Actinobacillus I悠nieresii
午のアクチノパシラス症から分離されるActinobacillus
lignieresiiは, App血清型4及び7と血清学的に交差する
LPSを保有する川.さらに馬から分離されたA.lignieresii
(牛から分離されるA.lignieresiiと生化学性状では識別
できないが, DNA相向性試験及び16SrDNA塩基配列
解析では同一菌種とはいえない低い相向性を示す
Actinobacillus genomospecies 1とも呼ばれる)は, App
血清型3特異抗血清と血清学的交差反応が認められるお)
しかし Actinobacillus属に属する菌種の宿主特異性は
高く ,A. lignieresiiの豚からの分離報告もないため,現
時点では抗体検査による Appの血清診断の妨げになる
可能性は低いと考えられる.
3.7.3. Actinobacillus suis
Appには,タイプ 1 (血清型 2,3, 4, 5, 7, 8,
10, 12)と,タイプn(血清型1, 6, 9及び11)の2タイプのLPSコアが存在し 異なるタイプのLPSコアで
は,構造の類似性や血清学的交差性は認められない43.125)
一方,タイプ Iに属する Appの血清型及びA.suis血清
型K1/0lのLPSのコアの構造は類似しており,血清学
的交差性が認められる43)
3.7.4. Escheich句 coli血清型K62(K2ab), N. meningitidis
血清群H友び'Bibersteiniatrehalosi (Pasteurella
haemolytica)血清型T15
N uclear magnetic resonance (NMR) (核磁気共鳴)
法を用いた解析により ,App血清型 9とE.coli K62
44 家畜衛生学雑誌第42巻第2号 (2016)
(K2ab). N menigitidis血 清 群H及びP.haemolytica
(現在の菌種名はB.trehalosi)血清型T15の英膜多糖抗
原の基本構造は同一であることが報告されている10) さら
に,抗N meningitidis血清群H免疫血清を用いたゲFル内
沈降反応を実施すると. App血清型 9.N meningitidis
血清群H及びB.trehalosi血清型T15の爽膜抗原聞に血
清学的交差性が認められている10)
3.8.血清型による抗菌剤感受性の遣いについて
我が国で分離された血清型 1及び5では,血清型 2よ
りも抗菌剤(特にテトラサイクリン系抗菌剤)耐性の株
が多いと報告されているが92,136, 137, 159, 2ω) その理由は
不明である.
4. 血清型または血清群特異的な血清学的
診断法(抗体検査法)について
豚胸膜肺炎の生前診断法として,鼻腔や扇桃からの
Appの分離やAppの遺伝子の検出が試みられているが,
抗体検査による血清学的診断がベストであると考えら
れ,実施されているのー Appの抗体検査法には,血清
型または血清群特異的な抗体検査法と血清型または血
清群を特定できないApp種特異的な抗体検査法の 2種
類があるが45,47) ここでは前者のみについて概説する.
4.1.補体結合反応 (CF) について
CFは,血清型特異的な抗体検査法として,古くから
実施されてきた血清型8に感染した豚血清は血清型3
及び6と血清学的交差反応を示すことが報告されている
ため147) CFはいくつかの血清型については,血清型特
異的というよりも,共通のLPS0抗原を発現する血清
群に特異的であると思われる.しかし血清型3/6/8と
同様に0多糖の抗原性が類似した血清型1/9/11及び血清
型417問でのCFにおける交差性に関する報告は筆者の
知る限り無い. CFは,補体と結合する抗体を検出する
方法であり. IgGだけでなく IgMも検出可能で、あり,感
染初期の動物も検出できる点が長所である. CFは,か
つては豚胸膜肺炎の血清診断法のgoldstandardであ
り,現在でも中国やロシアでは豚の生体輸入の際には,
CFによる抗体検査が必要であると聞く 157) CFは,一般
の細菌検査室であればどこででも実施可能な特異性の高
い検査法であるが,感度が低く,操作が煩雑なことから,
海外では現在はEnzyme-LinkedImmunosorbent Assay
(ELISA)による抗体検査が主流となっている45-47)
4.2. ELlSAについて
ELISAの感度は一般的に高いためApp保菌豚の摘発
や導入豚の検疫検査が必要なAppフリーの農場では,
ELISAがベストな抗体検査法であると考えられる.
血清型または血清型群特異的な抗体検査用のELISA抗原として,精製LPS4,肝ぬ 1鎚)精製長鎖LPS必叩, 57, I侃 169)
及び精製爽膜等15,67)が使用されている.
LPSは,簡便,安価かっ大量に精製できるため. LPS
が血清型または血清群特異的な ELISA抗原に適して
いると考えられている.また 非特異反応の原因となる
短鎖(低分子量)のLPSをゲル漉過で取り除いた画分
(=長鎖LPS) を診断用抗原に用いたELISA(長鎖LPS-
ELISA) が開発されている必 50,57, 168 -169) 長鎖LPS-
ELISAのキットが海外で開発されているが,日本では
体外診断薬として承認を受けていないため使用できな
い.精製抗原 (LPS) を使用しているためか. CFより
も特異性が高いという報告もある157) LPSのO抗原は,
血清型/血清群特異的であり,血清型119/11. 2.
3/6/8/15. 417. 5. 10及び12のいずれの血清型/血清
群に感染したかを検査できる.血清型 7及び13のLPS
のO多糖抗原の化学構造は同一で、あるにもかかわらず,
血清型417の長鎖LPSを抗原に用いたELISAでは,血清
型13感染抗体を検出できない47) この矛盾点を説明でき
る報告はない.また表7に示したように. K1 :07 53).
K2 : 07 150) • K12 : 03 77)及びK13:01O162) といった非典型
的なK及びO抗原の組合せの株も分離されているため
に,長鎖LPS-ELISAでは,感染したAppの爽膜血清型
を推定できないことがある.しかし非典型的なK:O血清型の分離例はごくわずかであるため,現時点では大
きな問題とはならないと考えられる.長鎖ではなく,市
販のLPS精製キットで精製したLPSを使用して,抗体
検査を実施した報告もある1お) (表 6).しかし自家製
のLPS-ELISAを実施する場合は,非特異反応を防ぐた
めに. LPSの純度検定の実施や. LPSの抽出・精製に用
いる菌株にはできる限り LPS0多糖の長い菌株を用い
る等の注意が必要であると思われる.
日本ではラテックス凝集反応 (Latexagglutination
(LA) )による血清型 2に対する抗体検出法が開発さ
れ,市販されている. LAの感度及び特異性は. CFや
ELISAに劣るが,簡単に入手可能な点では両手法,簡
便性ではCFに勝る.
抗体検査で抗体陽性となる血清型と,病豚の肺等から
分離される血清型の傾向はしばしば異なる46,47,115)ため,
各血清型の特徴を把握しておく必要がある.オランダで
は血清型 2 (35%) に次いで,血清型12(28%に417
(21 %)及び3/6/8(17%)に対する抗体を保有する豚が
多いが,血清型119/11(おそらく 9)に対する抗体を保
有する豚は 6%のみであった34) (表 6).しかし 肺か
伊藤:豚胸膜肺炎菌の生物型,血清型及び遺伝子型について 45
ら分離された株の血清型をみると,血清型2および9の
分離率はそれぞれ70及び25%であったが,血清型12,
4/7及び3/6/8は分離されなかった34)(表4).
5.遺伝子型について
5.1.血清型を推測可能な遺伝子型別法について
5.1.1.英膜多糖合成遺伝子及び英膜多糖輸送遺伝子型用
PCR
血清型 1~15の英膜多糖合成に関わる遺伝子(図 2 )
及び輸送に関与する遺伝子が同定されている.英膜血清
型を推測可能な方法として,主に爽膜多糖の合成及び一
部は輸送に関与する遺伝子の塩基配列を利用して設計し
た特異プライマーによる血清型 1-3, 5 -8, 10, 12
及び15の同定・検出用のPCR法やマルチプレックスPCR法が開発されている 5.16. 64. 71.飢 87.114. 178. 212. 213)
上記のようにAppの血清型は主に英膜抗原の抗原性で
規定されることから,爽膜多糖の合成に関与する遺伝子
を標的としたPCRは,血清型別を推定する方法とし
て,最もふさわしい遺伝子型別法であると考えられてい
る47) 日本で分離される Appのほとんどが血清型 1,
2, 5のいずれかである状況(表3)をふまえ,血清型
1, 2及び5の爽膜合成遺伝子を標的としたマルチプ
レックス PCR法が開発されている71) さらに日本で
は,血清型 7及び15は,血清型1, 2及び5に次いで4
あるいは 5番目に多い血清型であり,特に近年血清型15
の分離が増加しているため,血清型 1,2, 5, 7及び
15 (5つの血清型の割合 =96.9%) (表 3)の爽膜合成
遺伝子を標的としたマルチプレックス PCR法も開発さ
れている80)
Traditionalな抗血清を用いた凝集試験等の簡易な血
清型別法では,血清型3/6/8間では血清学的交差が頻繁に
認められるために,型別できない場合が多い51.213) そ
のためこれらの血清型を識別するためのマルチプレック
スPCRが開発され利用されてきた213) しかし近年,ゲ
ル内沈降反応で血清型 6と型別できるが,このマルチプ
レックス PCRでは型別できない遺伝学的に非典型的な
血清型 6が福井県及び栃木県で分離されており注意が必
要である76)(表 3).その後,富山県でも同様の株が分
離されているl以) (表 3).これらの株は,血清型 3特異
的に増幅するサイズと血清型 6特異的に増幅するサイズ
の2本のPCR産物が増幅され型別不能となる.その理
由は,非典型的血清型 6は,血清型 6型別用PCRプラ
イマーだけなく,血清型 3型別用PCRプライマーにも
結合可能な塩基配列を保有しているためである76) その
後,イギリス16)及び北米51)においても, 日本と同様に
非典型的な血清型 6の存在が報告されており,非典型的
な血清型 6にも対応した新しいマルチプレックス PCR
が最近開発された16)
5.1.2. 0抗原合成遺伝子型別用 PCR
0型を推定可能なO抗原合成遺伝子型別用PCRが一
種のみ開発されている.それは, 0抗原の構造が同一あ
るいは類似する血清型119/11と他の血清型を識別可能な
リアルタイム PCRである123) 0抗原の化学構造が同一
あるいは類似する血清型3/6/8/15と他の血清型を識別可
能なPCR開発の可能性を示唆する論文もあるが,野外
株を用いた検証がなく,各血清型参考株 l株のみでしか
検証していないため,今後多数の野外株を用いた検証が
必要で、ある却2)
5.1.3. Apx毒素の遺伝子型別用 PCR
Appが分泌するApx毒素 (Apxl,Apxll, ApxIII) 9.話。恒)
の種類は,おおむね血清型特異的であると言われてい
る9 認 94)(表8).そのため, Apx毒素を遺伝子型別する
ためのマルチプレックスPCRが開発されている39.民 171.182)
(表8).スイス/ドイツ, 日本及び北米ではそれぞれ血
清型 3103),血清型12(K12: 03) 77)及び血清型13(K13:
010) 162)で,非典型的なゆx遺伝子パターンを示す株の
表8. マルチプレックス PCRによる Appの血清型推定法(Freyら39)のゆx毒素遺伝子マルチプレックスPCR)
グループ 爽膜血清型。pxI,atxII及ひ、atxIIIPCR profile 39)
αTxIBD atxIIIBD 。'txICA φxIICA atxIIICA 1. 5a. 5b. 1617号).9,11 + + +
II 2.4,6.8,15 + + + +
III 3. 12(K12:03)77) , + + +
IV 7. 12, 13 + +
V 10. 13(K13: 010) 161). ', 14 + +
VI 3103), a + +
a 非典型的な血清型またはK:O血清型
46 家畜衛生学雑誌第42巻第2号 (2016)
分離報告もある(表8) しかしその頻度は非常に少
ないと考えられれ,ゆx毒素遺伝子を利用した遺伝子型
別による血清型推定の信頼度は100%ではないが,抗血
清を用いた血清型別の補助法として広く使われてきた
(表5).
ApxIVは全ての血清型がznvzvoでのみ分泌する Apx
毒素である177) しかしゅ'xIV遺伝子の塩基配列に多様
性が認められることを利用しゅ'xI.ゆ'xII及びゆ'xIII
のマルチプレックス PCR38) とゆ'xIVのPCRの両方の結
果を組み合わせて識別能を高めたPCR血清型(群)別
が開発されている(表9)171).
5.1.4.外膜リポ蛋白質OmlA遺伝子型別用 PCR及び
PCR-Restriction Fragment Polymorphism (RFLP)
OmlAはすべてのAppが発現する種特異的な抗原であ
り70) PCRによる種特異的な同定・検出法が開発されて
いる日) しかも OmlAには遺伝学的多様性があり. 5つ
の遺伝子型群に分かれる(表10)25日69.70. 1回)さらに,
Appの各血清型株のomlAの遺伝子型はおおむね血清型
特異的である25.56. 70. 1回)すなわち. PCR-RFLPによっ
てApp血清型 1~15の参考株及び野外分離株のほとん
どは,血清型1. 9. 11及び12からなるI群,血清型 2
及び8からなる 11群,血清型 3. 6. 7及び8からなる
III群,血清型 4からなる IV群,血清型 5及び10からな
るV群に群別できる(表10)お 70.1回) したがって.omlA
の遺伝子型別用のPCR-RFLP(表10) を実施すれば, 日
本で流行している主要な血清型(血清型1. 2及び5)
のいずれであるか,おおよその見当がつく l国)後に,
Gramらは,識別能を高めるために文献39のゆ'xPCRを
改良したPCRとomlAを利用して開発したマルチプレッ
クス PCRの2つの試験の結果を元に Appを11のグルー
表 9. マルチプレックス PCRによる Appの血清型推定法
(Rajyamajhiら171)のゆx毒素遺伝子マルチプレックス PCR)
グループ 爽膜血清型。pxI,ゆ'xIl, apxII 1及び、ゆ'xIVPCR profile 171}
αTxIB apxIA 。pxII α,pxIII + + +
II 2,8,15 + + +
III 3 + +
IV 4 + + +
V 5a, 5b, 16 175} + + +
VI 6 + + +
VII 7 + +
VIII 9,11 + + +
IX 10 + +
X 12,13 + +
XI 14 + +
, PCR産物のサイズ (bp)
表10. PCR-RFLPによる Appの血清型推定法
(usakiら158)のomlA遺伝子を利用したomIA-PCR)
グループ 爽膜血清型
1, 9, 11, 12
II 2, 8
III 3, 6, 7, 8
IV 4
V 5a, 5b, 10
13, 14, 15, 16175}
a PCR産物のサイズ (bp)
NT,未実施のため不明
omIA-RFLp1描)
Hinfl VsPl
520, 450' 590. 290, 75. 15'
460, 450. 60" 680. 290'
440, 405, 125' 520. 450'
470, 405, 125" 550. 450'
330, 290, 170, 120, 45. 15' 410, 405, 155'
NT NT
。,pxIV2400'
2800'
2400
1600'
2800
2000'
2800
1600
2800
2400
2400
伊藤:豚胸膜肺炎菌の生物型,血清型及び遺伝子型について 47
表11.マルチプレックス PCRによる Appの血清型推定法(Gramら日)のゆx毒素及び、omlA遺伝子を利用したマルチプレックスPCR)
グループ 爽膜血清型aapxIBD
1. 9, 11
II 2,8
III 3, 12 (KI2: 03) 77). ,
IV 4
V 5a,5b
VI 6,(8),15
VII 7, (12), 13
VIII 10
IX 12
X (12)
XI 14
13 (KI3: 010) 1621. ,
161百)
a 括弧盤しは血清型参考株,括弧は野外分離株を意味する.b omlA遺伝子型C 非典型的なK:O血清型.NT,未実施のため不明
+
+
+
+
+
+
+
+
+
ート
+
+
? omlAの型別が実施されていないため,そのグループに属するか不明
プに群別する方法を開発した56) (表11),その結果,血
清型 8及び12野外分離株は,それぞれ凹群及びII/III群
に属するバリアント株が確認されているが(血清型 8及
び12参考株はそれぞれII群及びI群),その他の血清型
の野外分離株は,血清型参考株と同じomlA遺伝子群に
属していた部)(表11),筆者も遺伝学的及び血清学的に
従来の典型的な株とは異なる非典型的な野外分離株に遭
遇した時には,爽膜多糖の合成及び輸送に関与する遺伝
子型別用PCR5.16.臼 71.80. 87. 114. 178. 212. 213)に加え,omlA
(及び必要に応じてゆx)を利用したマルチプレックスPCR日) (表11) をtraditionalな抗血清を用いた血清型別
法の補助法としてよく実施している.
5.1.5. Arbitrarily primed (AP) (任意プライム)-PCRに
ついて
AP-PCRによる Appの血清型別法が開発されている63)
AP-PCRで使用するプライマーは, 目的の細菌が保有す
る特定の遺伝子を元に設計しておらず,配列は任意でよ
く,文献63ではプラスミドにクローニングした遺伝子の
塩基配列決定時によく使用される M13,T7及びT3プラ
イマーを利用している.通常のPCRでは 2種の特異的
プライマーで目的のDNA断片 I本のみが特異的に増幅
されるが, AP-PCR法では任意のプライマーによって複
数のDNA断片が増幅される.そして,増幅した DNA
断片の数及びサイズの違いで菌株を型別する.本法を利
apxlomlA PCR pro五le56
apxIIIBD 。ρ'xICA 。,pxIICA α戸'XlIICA omlA + + 1 b
+ + + IIb
+ + + IIIb
+ + + IVb
+ + Vb
+ + + III
+ III
+ V
+
+ II
+
+ NT
+ + NT
用して血清型を推定した研究報告は初報以外にはなく,
本法の評価はまだ定まっていない.
5.1.6. DNAマイク口アレイ法について
Appの型別及び同定に利用できる DNAマイクロアレ
イ法が開発されている却1) DNAマイクロアレイ法と
は,血清型特異的DNA及び、App種特異的DNA等存在
の有無を調べたいDNAを合成し,ガラス板上にスポッ
トし,検査株のゲノム DNAがスポットしたDNA(標的
遺伝子)と結合(ハイブリダイゼーション)するか検査
することによって,各遺伝子の有無を調べる方法であ
る.上記のDNAマイクロアレイ法に使用される血清型
別用の標的遺伝子には,血清型用PCRの標的遺伝子に
も使用されている K抗原合成遺伝子,omlA及び、ゆx遺
伝子, App種特異的遺伝子には,apxIV, dsbE (チオー
ル:ジスルフィド交換タンパク遺伝子)及び、φ'x(英膜
多糖の輸送に関与する遺伝子)遺伝子が使用されており
(合計15種類のDNAがスポット), Appの同定及び型別
を同時に行えるよう設計されている.このようにDNA
マイクロアレイ法は,複数の遺伝子の有無を一度に確認
できるので,個々の遺伝子を標的としたPCRよりも迅
速・簡便な方法であるが, DNAマイクロアレイ法普及
のためには解析装置の普及が必要で、ある.
48 家畜衛生学雑誌第42巻第 2号 (2016)
5.2. その他の遺伝子型別法について
以下に紹介する方法は,本来は菌株の識別及び系統解
析のために開発され,多数の菌種で利用されている遺伝
子型別法である.血清型は系統の一種であるため,系統
解析用に開発されたこれらの方法は,血清型別法をある
程度は推測可能であるが,これらの方法は,あくまで
Appのゲノムの類似性及び遺伝学的多様性の解析に使
用された方法である.
5.2.1. パルスフィールド電気泳動 Pulsed司 FieldGel
Electrophoresis (PFGE)
PFGEは,細菌のゲノム DNAを制限酵素処理して,
切断された断片の長さの違いを解析する手法であり,疫
学的解析を目的とした遺伝子型別法のgoldstandardで
ある. App血清型 1~12の PFGE型を比較すると,血清
型的交差の認められる血清型119/11聞のPFGE型は非常
に似ており. PFGEでこれらの血清型聞の識別はできな
い24) 一方,これらの血清型以外の血清型では,それぞ
れの血清型に特有なPFGEを示し,他の血清型との識別
が可能である24) 血清学的交差が頻繁に認められる血清
型3/6/8間及び417聞においても. PFGEによって明瞭に
血清型3/6/8閉または417聞を識別できると報告されている24)
その他に,異なる国及び同一国内で分離された株の
PFGE解析を行い,同一国だけでなく異なる国で分離さ
れた同一血清型の株でもある程度PFGE型に単一クロー
ン性が認められる事を示した報告もいくつかある22,42)
日本で分離された AppのPFGE型を解析した報告
は,少なくとも 3つある.一つは,我が国で分離された
血清型 2の81%. 血清型 5の79%が,それぞれほぼ同一
のPFGE型であり,日本で分離された血清型 2及び5の
ほとんどは,それぞれ単一のクローンを起源としている
可能性を示した報告であるlぬ)二つ目は,スライド凝
集試験では血清型 2と型別されるが,ゲル内沈降反応で
は型別不能となる非典型的な血清型 2の国内分離株と,
典型的な血清型 2の圏内分離株のPFGE型は同一で、あっ
た事を示した報告であるIお)三つ目は,血清型別不能
株の PFGE型は,同一農場で分離された血清型15の
PFGE型とほぼ同一である事と,型別不能株の英膜多糖
合成遺伝子の解析等の複数の成績から,型別不能株は血
清型15が爽膜を失ったために型別不能となった可能性を
示した報告である78)
以上のことから PFGEは系統解析だけでなく. App血
清型の推測にもある程度利用できると考えられる. しか
しどのようなPFGE型を示せばどの血清型と推測でき
るか. PFGEの泳動パターンがどの程度違えば異なる血
清型であるといえるかの明確な基準がない.さらに
PFGEの操作は煩雑で、あり,解析に時間を要する.
5.2.2. Multilocus sequence typing (MLST)について
MLSTは複数の遺伝子(通常 7種類以上)のそれぞれ
の塩基配列を決定しそれらをもとに菌の型別を行なう
手法であり,種々の病原細菌の系統解析及び疫学解析に
利用されている. Appにおいては.frdB.ルcK.glnA. gph.ρ'gk. ureC及びρIgiの7種のhousekeeping遺伝子
(細菌が生存していく上で必須な遺伝子)の塩基配列に
基づき,中国,デンマーク,スイス,アイルランド及び
イギリスで分離された株 (n=337. 血清型 2. 5. 6.
7及び8)をMLST解析した報告が一例のみある27,90)
その結果,同ーの血清型株は,概ね同一あるいは非常に
近縁な Sequencetype (ST) に属するが,同じST内
に,複数の血清型が存在する例もあり. MLSTによる血
清型別の信頼度は100%ではない. MLSTは,系統解析
及び疫学解析のgoldstandradである PFGEよりも,よ
り簡便迅速に解析を実施でき,再現性も高いため,有望
なAppの遺伝子型別法であると考えられる. しかし
AppのMLST用のプライマー配列情報等が文献27及び
90には記載されておらず, 日本で分離された野外分離株
等での追試ができないため. MLSTの評価を行なうこと
ができない.
5.2.3. Ampli自edfragment length polymorphism (AFLP)
について
AFLPとは,制限酵素を用いて断片化したゲノム
DNAを選択的にPCR増幅する事により,制限酵素認識
部位およびPCR増幅部位での多型を調べる再現性の高
い解析手法である. AppでAFLPと上述のPFGEの識別
能を比較した結果. AFLPの方がPFGEよりも識別能が
高かったと報告されている剛.またAFLPによって,
系統発生学的に Appと非常に近縁なA.lignieresiiと
Appを明確に識別可能であ�