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教員の資質向上について(東京都教育委員会の考え方) 第1 「6年制(修士制)」及び「専門免許状」の課題・問題点 「平成 21 年度公立学校教員採用選考試験の実施状況について」(文部科学省調査) を見ると、平成 21 年度公立学校教員採用選考試験による採用者のうち、大学院の 修了者の占める割合は 10.6%となっており、高等学校について見ると、その割合は 23.4%となっている。また、平成 20 年度には、教員養成に特化した専門職大学院 として教職大学院が開設されており、平成 22 年度からは同大学院の修了者が教員 として採用されることとなる。 東京都教育委員会においても、平成 18 10 月に教職大学院で学ぶべき内容・水 準をまとめた「共通カリキュラム」を提示し、当該カリキュラムを実施する大学院 の修了者については特例選考により採用する仕組みを導入するなど、教職大学院と の連携を進めてきた。 このように、大学院修了者の採用や教職大学院との連携等は進んできているが、 現状では修士の学位を有することを教員免許状の資格要件とする、いわゆる教員養 成課程の「6年制(修士制)」や採用後一定の経験を経た教員に教職大学院での単 位修得を努力義務として課す「専門免許状」制度の導入には課題・問題点が多い。 「6年制(修士制)」の導入にかかわる課題・問題点については、すでに「平成 22 年度文部科学省諸施策に関する緊急要望」(平成 21 12 月3日付け全国都道府 県教育委員長協議会・全国都道府県教育長協議会)で指摘されている。以下では、 この緊急要望の内容も踏まえて「6年制(修士制)」及び「専門免許状」制度につ いての課題・問題点を述べる。 <参考:平成 22 年度文部科学省諸施策に関する緊急要望> ①当該制度の目的を果たすためには、教員養成を行う大学院の教育環境が十分整備されていない状 況であること。 ②6年制とした場合、学生の経済的・時間的負担が増加するため、教員志願者が減少し、人材確保 が困難となることが懸念されること。なお、学生の経済的負担を軽減するために、奨学金制度の 充実が必要とされること。 ③開放制の教員養成が困難になることから、教員養成系学部以外の学部での教員志願者の減少につ ながり、多様な人材確保への支障や短期大学等で取得可能な幼稚園教員免許等の免許についても 志願者の減少が予想されること。 ④6年制の導入に伴い予想される1年間の教育実習は、学校の現状に鑑みれば、学校現場の負担が 大きく、実習校を十分に確保することは困難であること。 1

教員の資質向上について(東京都教育委員会の考え方)2010/08/06  · 教員の資質向上について(東京都教育委員会の考え方) 第1 「6年制(修士制)」及び「専門免許状」の課題・問題点

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教員の資質向上について(東京都教育委員会の考え方)

第1 「6年制(修士制)」及び「専門免許状」の課題・問題点

○ 「平成 21年度公立学校教員採用選考試験の実施状況について」(文部科学省調査)

を見ると、平成 21 年度公立学校教員採用選考試験による採用者のうち、大学院の

修了者の占める割合は 10.6%となっており、高等学校について見ると、その割合は

23.4%となっている。また、平成 20 年度には、教員養成に特化した専門職大学院

として教職大学院が開設されており、平成 22 年度からは同大学院の修了者が教員

として採用されることとなる。

○ 東京都教育委員会においても、平成 18年 10月に教職大学院で学ぶべき内容・水

準をまとめた「共通カリキュラム」を提示し、当該カリキュラムを実施する大学院

の修了者については特例選考により採用する仕組みを導入するなど、教職大学院と

の連携を進めてきた。

○ このように、大学院修了者の採用や教職大学院との連携等は進んできているが、

現状では修士の学位を有することを教員免許状の資格要件とする、いわゆる教員養

成課程の「6年制(修士制)」や採用後一定の経験を経た教員に教職大学院での単

位修得を努力義務として課す「専門免許状」制度の導入には課題・問題点が多い。

○ 「6年制(修士制)」の導入にかかわる課題・問題点については、すでに「平成

22年度文部科学省諸施策に関する緊急要望」(平成 21年 12月3日付け全国都道府

県教育委員長協議会・全国都道府県教育長協議会)で指摘されている。以下では、

この緊急要望の内容も踏まえて「6年制(修士制)」及び「専門免許状」制度につ

いての課題・問題点を述べる。

<参考:平成 22年度文部科学省諸施策に関する緊急要望>

①当該制度の目的を果たすためには、教員養成を行う大学院の教育環境が十分整備されていない状

況であること。

②6年制とした場合、学生の経済的・時間的負担が増加するため、教員志願者が減少し、人材確保

が困難となることが懸念されること。なお、学生の経済的負担を軽減するために、奨学金制度の

充実が必要とされること。

③開放制の教員養成が困難になることから、教員養成系学部以外の学部での教員志願者の減少につ

ながり、多様な人材確保への支障や短期大学等で取得可能な幼稚園教員免許等の免許についても

志願者の減少が予想されること。

④6年制の導入に伴い予想される1年間の教育実習は、学校の現状に鑑みれば、学校現場の負担が

大きく、実習校を十分に確保することは困難であること。

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1 教員養成課程「6年制(修士制)」の導入にかかわる課題・問題点

(1)教員の資質向上のためのコストを学生及び保護者に転嫁することになり、志願者

数を減らす可能性が高いこと

○ 現在、採用後に各任命権者が行っている初任者研修や指導教員等によるOJT

に相当する内容を養成課程で行うこととし、その期間を「6年」又は「4年+α」

に延長する場合、教員の資質向上のためのコストが任命権者(採用後)から学生

及び保護者(採用前)に転嫁されることになる。

○ 公立学校の教員の採用には、採用選考が不可欠であることから、医師や歯科医

師等と異なり、養成課程修了後に教職に就ける保証がない。そのため、時間的・

経済的負担増が学生及び保護者に敬遠され、志願者を減らす結果となることが懸

念される。

○ なお、平成 18 年度に、薬剤師の養成課程が4年間から6年間に延長されたこ

とにより、薬学部の志願者が減り、志願倍率が下がったことについても十分に分

析し、参考にする必要がある。

<薬学部志願者数の推移>

<国公私立計> (単位:人)17年度 18年度 19年度 20年度 21年度

全学部入学志願者計 3,589,251 3,510,620 3,585,774 3,625,047 3,626,973

薬学部志願者計(A) 148,592 101,423 94,126 94,306 88,342薬学部入学者計(B) 13,170 12,970 13,894 13,227 12,849

倍率(A/B) 11.28 7.82 6.77 7.13 6.88(↑6年制導入)

(2)教育実習期間を1年に延長すると児童・生徒の教育に影響が出ること

○ 現在、初任者研修では、採用選考による能力実証を経て合格した新規採用教員

を対象として、実際に学級担任等の責任あるポストに就けつつ、実践の中で育成

を行っている。一方、教育実習は、教員志望者が学校教育の現場を経験する唯一

の機会であり、教員になるための能力や適性を自らに問い直す重要な機会ともな

っているが、あくまでも学生として参加するものであり、正規教員として教壇に

立つ場合とは児童・生徒に対する意識や責任が大きく違う。特に、免許状取得だ

けを目的として実習を受ける学生については、十分な指導効果を上げることが難

しい。

○ また、教育実習については、協力する学校に対する国からの支援等がない上に、

大学側と実習校との事前の打合せや大学の教員による定期的な実習校訪問等がな

されずに、実習校任せになっているケースもある。実習校では指導教員の立ち会

いの上、実習生に主として教科の学習指導を行わせているが、必ずしも指導力が

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十分であるとはいえないため、実習終了後に担任や指導教員がその間の授業のフ

ォローをしているのが現状である。

○ さらに、その規模も、例えば東京都教育委員会における平成 21 年度中の教育

実習生の受入れは、全校種合計で 4,094人にも及んでおり、毎年の新規採用者数

よりも多くなっている。

○ したがって、実習期間を1年間に延長すると、児童・生徒の教育に影響が出る

ことが懸念され、保護者の理解を得ることも難しくなる。また、教育実習生を受

け入れる学校側の負担も増大するため、現在のように学校から自発的な協力を得

ることも難しくなる。

(3)多様な人材を確保することが困難になる可能性があること

○ 「平成 21年度公立学校教員採用選考試験の実施状況について」(文部科学省)

によれば、平成 21年度採用者の学歴別内訳は、国立の教員養成大学・学部出身者

が 7,685 人で全体の 31.7%、その他一般大学等の出身者が 16,569 人で全体の

68.3%を占めている。試験区分別に見ると、小学校、中学校、高等学校、特別支

援学校、養護教諭、栄養教諭というすべての試験区分において一般大学等の出身

者の比率が高くなっているが、特に中学校、高等学校の試験区分では、それぞれ

74.2%、87.4%を占めている。このように、教員を確保する上では、「開放制の原

則」の維持が不可欠となっている。

○ 教育実習等を柱として養成期間を延長し、修士課程の修了を免許状の資格要件

とする場合、教職大学院や教員養成系大学院以外の大学院に通う学生にとっては、

修士課程と並行して教職課程を履修することが難しくなり、修士課程修了後に、

更に教職課程を履修することが必要となる。

○ このため、教員の供給が教職大学院等、教員養成系の大学院中心のものとなり、

他学部からの免許状取得が困難になっていくことが予想される。結果としていわ

ゆる「開放制の原則」を維持することが困難となり、多様な人材を確保すること

が難しくなる可能性がある。

○ また、現行制度では、修得単位数に応じて複数の種類(専修・一種・二種)の

免許状を取得することができるようになっていることから、中・高の一種免許状

を取得した後に、講師等で学校に勤務しながら大学の通信制課程等に通学し、修

得した単位の一部を生かして小学校の二種免許状を取得するケースも見られる。

具体的な例を挙げると、中・高の教員を目指していたが採用選考が高倍率という

こともあって教職に就く可能性を広げるために小学校の二種免許状を取得するケ

ースなどがある。このことは、高い教科専門性を有する小学校教員の確保につな

がっているが、修士課程の修了を免許状の資格要件とすると、こうした他校種か

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らの小学校二種免許状取得も困難になる。

(4)受け皿となる大学院の教育環境が十分整備されていないこと

○ 「平成 21年度公立学校教員採用選考試験の実施状況について」(文部科学省)

によれば、平成 21年度公立学校教員採用選考試験の受験者は全国で 158,874人、

採用者は 25,897人となっている。他に臨時的任用教員や講師等の採用もある。

○ 一方、大学院の整備状況を見ると、平成 21 年4月1日現在、教職大学院は 24

校設置されており、入学定員の合計は 826人である。また、学校基本調査により、

平成 21年4月における全研究科合計の修士課程入学者数を見ても 78,119人に過

ぎない。平成3年以降、修士課程の増員が図られてきたが、ここ数年は、特に文

系の分野で修士課程の入学者数が減ってきている状況もある。

○ このように、「6年制(修士制)」の受け皿となる専門職大学院や大学院は、毎

年の教員採用者の規模に見合うだけの整備状況とはなっておらず、拡充するには

教授陣の確保等の課題もある。

○ 大学における教員養成教育については、すでに「今後の教員養成・免許制度の

在り方について」(平成 18年7月 11日中教審答申)でも、「教員養成に対する明

確な理念(養成する教員像)の追求・確立がなされていない大学がある。」「教職

課程が専門職業人たる教員の養成を目的とするものであるという認識が、必ずし

も大学の教員の間に共有されていない。」「学校現場が抱える課題に必ずしも十分

対応した授業ではない。指導方法が講義中心で、演習や実験、実習等が十分では

ないほか、教職経験者が授業に当たっている例も少ないなど、実践的指導力の育

成が必ずしも十分でない。」などと指摘されていることから、まずは4年間の学部

教育の充実が求められる。

(5)制度切替時の人材確保が困難になること

○ 養成期間が現行の4年から5年又は6年に延長される場合、制度切替時に新規

の養成課程修了者(免許状取得者)が出ない年度が生じる。

○ このことが現在大量採用を行っている教育委員会の人材確保に与える影響は

大きく、欠員をも引き起こしかねない。今後の定数改善に向けた検討の際には、

この点についての議論も必要である。

<切替時の影響(平成 24年度から養成期間が延長される場合)>

24年度 25年度 26年度 27年度 28年度 29年度 30年度

現行制度 大学1年 大学2年 大学3年 大学4年 採用1年 採用2年 採用3年

5年制の場合 大学1年 大学2年 大学3年 大学4年 院1年 採用1年 採用2年

6年制の場合 大学1年 大学2年 大学3年 大学4年 院1年 院2年 採用1年

新卒採用ができない年度

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2 「専門免許状(免許更新制廃止)」の創設にかかわる課題・問題点

(1)専門免許状を取得するために教職大学院に通う教員の後補充が困難になること

○ 公立学校教員採用選考試験の実施状況を見ると、平成 16年度以降は、毎年2万

人以上の採用が続いている。既に述べたとおり、平成 21 年度公立学校教員採用

選考試験による採用者は 25,897人となっている。

○ したがって、専門免許状の取得について、教員に義務又は努力義務が課せられ

ると、将来的には毎年2万人以上もの教員が一斉に職場を離れ、教職大学院に通

うことが想定される。受け皿となる教職大学院の不足もさることながら、当該教

員が授業を外れる場合の代替教員の確保に支障を生じる可能性が高い。

(2)専門免許状が目指す資質向上の方向性が現場のニーズに合っていないこと

○ 「専門免許状」制度は、特定の校務分掌の専門家を育成するものとなっている

が、学校現場においては、一定の経験を経た教員には、広い視野を持ち、学校運

営上の重要な役割を担当することや主幹教諭を補佐することなどが求められてい

る。また、特に中学校、高等学校における現職教員の資質向上に必要な、教科専

門性の視点が十分に盛り込まれていない。

(3)導入されたばかりの制度が廃止されることによる混乱が懸念されること

○ 平成 21年4月から導入されたばかりの免許更新制が廃止される場合、導入に当

たって新たに構築した全国的な免許管理システムの開発・運用経費や既に更新講

習を修了した全国で約 20 万の教員、例年の授与件数から推計すると全国で約 23

万から25万件程度に上る10年間の期限付きの新免許状取得者などに影響が及び、

混乱を生じることが懸念される。

第2 資質向上に向けた基本的考え方

○ 上記のように、「6年制(修士制)」及び「専門免許状」制度には、課題・問題点

が多いことから、教員の資質向上に向けた制度や施策の充実については、以下の方

向で検討すべきである。

①養成・採用・育成を一体のものとして検討すべきである

○ 教員の資質向上においては、任命権者が実施する採用選考や採用後の研修、

昇任制度なども重要な役割を果たしていることから、教員の資質向上について

は、養成課程・採用選考・採用後の人材育成という一連の過程を一体のものと

して検討し、総体としての資質向上施策について充実を図る必要がある。

②教員養成は4年制を基本として検討すべきである

○ 修士の学位を有することを教員免許状の資格要件とする「6年制(修士制)」

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については課題・問題点が多いことから、学部教育の現状や新規学卒者に欠け

ている資質能力を十分に調査・検証し、「4年制」を基本として養成課程におけ

る学部教育の充実を図ることが必要である。

③関係者間の更なる連携協力を図ることが必要である

○ 資質向上に向けた施策の実施には、大学、教育実習に協力する小学校、中学

校や高等学校、教育委員会において、関係者間の更なる連携協力を図ることが

必要である。

第3 資質向上の具体的方策

1 教員に求められる資質能力について

(1)教員に求められる資質能力

○ 東京都教育委員会は、「東京都教員人材育成基本方針」(平成 20年 10月 23日)

で、現職教員に求められる資質能力を示した。

ア 東京都の教育に求められる教師像

○ 東京都教育委員会は、人材育成基本方針を策定するに当たり、その取組目標

となる「東京都の教育に求められる教師像」を以下のとおり示した。

<東京都の教育に求められる教師像>

①教育に対する熱意と使命感をもつ教師

・子供に対する深い愛情 ・教育者としての責任感と誇り

・高い倫理観と社会的常識

②豊かな人間性と思いやりのある教師

・温かい心、柔軟な発想や思考 ・幅広いコミュニケーション能力

③子供のよさや可能性を引き出し伸ばすことができる教師

・一人一人のよさや可能性を見抜く力 ・教科等に関する高い指導力

・自己研さんに励む力

④組織人としての責任感、協調性を有し、互いに高め合う教師

・より高い目標にチャレンジする意欲 ・若手教員を育てる力

・経営参加への意欲

イ 教員に求められる基本的な4つの力

○ 社会状況の変化に伴い、学校に求められる期待度も、その内容も大きく広が

った。現在の学校が求められていることは、以下の2つのニーズに大別できる。

○ 第一のニーズは、学校の教育力の向上である。確かな学力の定着、規範意識

の醸成、キャリア教育の推進など、それぞれのねらいに即した教育内容の充実

と教育指導の力が求められている。教員の大量採用の時代にあって、これまで

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培われてきた実践的知識や指導技術をいかに若手教員に引き継いでいくかも重

要である。

○ 第二のニーズは、今日的な課題への対応である。多様化・複雑化する児童・

生徒の問題、保護者からの要望・苦情への対応など、日常的に起きる問題を適

切に解決しなければならない。また、これからは、学校が教育方針と教育内容

を保護者、地域社会に積極的に発信し、課題解決のための理解と協力を得る姿

勢が必要であり、そのためには、一人一人の教員の学校運営への参画意識を高

め、学校全体として組織的に取り組む力を向上させていくことがますます重要

となる。

○ これらのニーズに対応していくためには、学校を支える一人一人の教員が次

の基本的な力を身に付ける必要がある。

○ 第一のニーズに対応する力を、「学習指導力」と「生活指導力・進路指導力」

の2つに整理した。これらは、校内研修や授業観察、外部の研修などを通して、

育成の機会が多く設けられてきたが、今後、児童・生徒の変化に対応し、指導

方法等を工夫・改善していくことが必要である。

○ 第二のニーズに対応する力を、「外部との連携・折衝力」、「学校運営力・組織

貢献力」に整理した。この2つの力は、今まで教員が身に付けるべき力として、

それほど重視されてこなかったが、社会状況の変化や学校が解決すべき課題に

対応し、今後、特に教員が身に付けることが必要な力である。

<教員に求められる基本的な4つの力>

①学習指導力

・授業をデザインする力

・ねらいに沿って学習を進める力

・児童・生徒の興味を引き出し、個に応じた指導をする力

・主体的な学習を促すことができる力

・学習状況を適切に評価し、授業を進める力

・授業を振り返り改善する力

②生活指導力・進路指導力

・児童・生徒と良好な関係を構築する力

・児童・生徒の思いを理解し、適切に指導する力

・児童・生徒の個性や能力の伸長並びに健全な心身及び社会性の育成を通して自己実現

を図らせる力

・自校の生活指導・進路指導上の課題を発見し解決する力

③外部との連携・折衝力

・保護者・地域・外部機関に適切に対応する力

・課題に応じ保護者・地域・外部機関と連携をとり解決に向けて取り組む力

・保護者・地域・外部機関との協働の下、自校の教育の向上を図る力

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・学校からの情報発信や広報、保護者・地域・外部機関からの情報収集を適切に行う

④学校運営力・組織貢献力

・校務において企画・立案する力

・上司や同僚とコミュニケーションをとりながら、円滑に校務を遂行する力

・組織の一員として校務に積極的に参画する力

・校務の問題点を把握し改善する力

ウ 職層に応じて求められる能力や役割

○ 「東京都教員人材育成基本方針」では、採用から主任教諭までの教員の育成

段階を「基礎形成期」「伸長期」「充実期」の3つに分けるとともに、主幹教諭

以上の職層も含めて各職層に求められる能力や役割を以下のように示した。

<各職層に応じて求められる能力や役割>

(2)養成課程・採用・育成の各段階で求められる資質能力

ア 養成課程

○ 養成課程の段階では、既に平成9年の教育職員養成審議会第一次答申におい

て示されているように、「教員として最小限必要な資質能力」(採用当初から学

級や教科を担任しつつ、教科指導、生徒指導等の職務を著しい支障が生じるこ

となく実践できる資質能力)を身に付けさせることが必要であり、教員免許状

は、「教員として最小限必要な資質能力」を確実に保証するものであるべきであ

職層 求められる能力や役割

教 諭(基礎形成期)

 学習指導、生活指導や学級経営における教員としての基礎的な力を身に付ける。また、教職への使命感、教育公務員としての自覚を身に付ける。

教 諭(伸長期)

 知識や経験に基づく実践力を高め、初任者等に先輩として助言する。 主任教諭の補佐を行い、分掌組織の一員として、積極的に貢献できる力を身に付ける。 主任教諭になるために必要な力を身に付ける。

主任教諭(充実期)

 校務分掌などにおける学校運営上の重要な役割を担当する。 指導監督層である主幹教諭を補佐する。 教育指導の専門性を高め、同僚や若手教員への助言・支援などの指導的役割を担う。 主幹教諭に向けて必要な力を身に付ける。

主幹教諭(管理職候補を

含む)

 管理職を補佐しながら、教員を指導・育成するとともに、教務、生活指導、進路指導等の長として学校運営における中心的な役割を担う。 副校長に向けて必要な学校運営ができる力を身に付ける。

副 校 長

 学校経営の視点で、組織目標の達成や人的管理ができる力を身に付けるとともに、所属職員の人材育成についての責任をもつ。 校長になるために必要な学校経営ができる力を身に付ける。

校長・統括校長 教育者としての高い見識をもち、広い視野で学校経営ができる力を身に付けるとともに、副校長や管理職候補者の人材育成についての責任をもつ。

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る。

○ このことを「東京都教員人材育成基本方針」に掲げた「教員に求められる基

本的な4つの力」に即していうと、養成課程では学習指導力、生活指導力・進

路指導力、外部との連携・折衝力、学校運営力・組織貢献力の基礎を身に付け

させることが必要である。基礎が身に付いていれば、その後の資質能力の向上

は、採用後の育成の役割として、実際に教壇に立ちながら実践の中で、また、

研修により行っていくことが可能である。

○ また、「東京都の教育に求められる教師像」にある、教育に対する熱意、使命

感、豊かな人間性や、健全な判断力、困難に負けない体力・精神力など、すべ

ての教員に必要な基盤となる適性を身に付けさせることも必要である。

イ 採用

○ 採用選考の段階では、応募者に「教員として最小限必要な資質能力」が確実

に身に付いているかを検証することが必要である。特に、教職への熱意や使命

感、豊かな人間性、コミュニケーション能力のように、育成段階で抜本的な対

策をとることが困難な資質能力については、採用時に十分な能力実証を行うこ

とが不可欠である。

○ 東京都教育委員会においては、「東京都の教育に求められる教師像」や「教員

に求められる基本的な4つの力」を踏まえ、採用選考では以下の資質能力につ

いて評価している。

・択一(教職教養・専門教養)では、東京都公立学校の教員として職務を遂行

する上で必要な教育に関する法令や理論等に関する知識や指導内容・指導方

法等、教員として各教科(科目)の授業を行う上で必要な専門的教養

・論文では、課題把握、教師としての実践的指導力、論理的表現力など

・集団面接では、表現力、説得力、調整力、協調性など

・個人面接では、教職への理解、教科等の指導力、対応力、将来性、心身の健

康と人間的な魅力など

・実技では、実技を伴う教科指導に必要な基本的な技能

ウ 育成

○ 現職教員の資質能力は、責任あるポストに就き、実践の中で高められていく

ものである。育成段階では、教員本人の努力が必要なことはもちろんのこと、

任命権者の責務として資質能力の向上に取り組むことが必要である。

○ 組織の一員として求められる力や教科及び教育課題についての専門性の向上

など、現職教員の資質向上のためには、より重い職責を担う上位職への任用制

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度を整備することや、経験・職層に応じた研修を用意することが必要である。

○ 東京都教育委員会においては、平成 20年度に「教員に求められる基本的な4

つの力」を用いて「教員が身に付ける力と教職員研修センターにおける研修と

の関係」を整理し、採用時に能力実証した資質能力を基盤として、教員の経験

や職層に応じた研修を実施している。また、後に述べるように、平成 21年度か

らは、新たに「主任教諭」の職を設置し、それに伴う研修体系の見直しを図っ

た。

2 養成課程、採用、育成の各段階の現状及び課題

(1)養成課程の現状及び課題等

ア 現状及び課題

○ 平成 21年5月から6月にかけて、東京都教育委員会が採用2年目の小学校教

員 59名、その所属校管理職 54名及び 10大学を対象としてヒアリングを行った

ところ、次のような声があった。

<採用2年目の小学校教員への主なヒアリング内容と回答>

①教員1年目で苦労したこと

・児童にいつ、どのように、ノートに写させるかも考えずに板書していたため、児童の思考が

停滞してしまった。

・大学で学んだ教科指導法をもとに指導案を立てたり、児童心理学の発達段階のことを考えて

児童とかかわったりしたが、実際の授業では子供が興味をもって学習できず、なかなか子供

の気持ちもつかめなかった。

・保護者に対する説得力のなさから、信頼を得ることの難しさを痛感した。

②大学時代に学んでおきたかったこと

・板書の仕方、子供の興味関心や集中力を高める発問の仕方や児童の不規則な発言への対応の

仕方など具体的なテクニックも学びたかった。

・段取りを踏んで進める仕事の仕方、年間計画をもとにした計画性のある業務の進め方など、教

員の一日の生活・一年のサイクルについて具体的なイメージをもてるような機会があればよか

った。

・保護者への説明の仕方、協力の得方など、保護者対応について、実践的に学びたかった。

<所属校管理職への主なヒアリング内容と回答>

①1年目の教員に足りないと感じたこと

・グループ学習の手法は知っているが、具体的な指導技術が十分に身に付いていないため、結

局一斉指導に戻してしまうなど、学んだ知識を生かせていない。

・同僚や保護者など、他者の意見を聞き入れられずに人間関係を悪くしたりしてしまうことも

あった。

・電話の受け方や言葉づかいばかりでなく、社会人としての自覚が足りないために、相手に不

快な印象を与えるような言動を取ってしまう教員がいる。

②大学時代に学んでおいた方がよいと思われること

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・1単位時間の指導案だけでなく、単元の全体像を捉えた学習指導計画が作れるようになって

いて欲しい。

・話す内容の量、スピード、雰囲気、発達段階に即した言葉など、ある程度は具体的に学んで

おいた方がよいのではないか。

・突発的な子供の怪我への対応など実際の場面を想定した実習を行い、危機管理意識も高めて

きて欲しい。また、演習、ロールプレイングなどで保護者対応を学ぶ機会があってもよい。

・大学においても、自己コントロールの仕方や他者とのかかわり方などの基本的スキルを学ぶ

ことや、自らの生き方を先人から学ぶなどの基礎的な教育が必要なのではないか。

・東京教師養成塾生は、実際の教員に近い体験をしており、即戦力として期待できる。教員志

望の学生にも同じような体験をさせたい。

<大学への主なヒアリング内容(養成段階で修得すべき最小限必要な資質・能力

の育成状況)と回答>

・専門的な知識・技能については、教育基礎科目「教職概論」「教育原理」や「教科教育法」で

学ばせている。

・理論を実践で生かす方法については、各科目の中でも随時、学ばせてはいるが、「教育実習」

が大きな役割を担っている。

・児童・生徒、保護者や同僚との人間関係を作る能力については、インターンシップやボラン

ティア活動を通じて学ばせるとともに、日常の授業の中でも、専門性のみならず、コミュニ

ケーションを大切にする授業の工夫を心掛けている。

・コミュニケーション能力については、課外活動(サークル、文化祭等)で身に付ける部分が

多いと認識している。しかしながら、そのような活動にも消極的な学生が増えていることを

危惧している。

○ ヒアリングで得られた意見から明らかになった養成課程で身に付ける力を分

類・整理すると、以下の5点に大別できる。

①実践的な指導力の育成 ②学術的知見の現場への活用

③コミュニケーション能力の向上 ④組織の一員として仕事ができる力

⑤今日的課題への対応

イ 東京都教育委員会の提案

○ 教員養成課程における学部の授業内容の充実には以下のような改善が必要で

あると考えており、東京都教育委員会としては、そのための一助として各大学

の要請に応じて指導主事を派遣し、特別講義を行うなどの支援を充実させてい

く。

・すべての大学が養成すべき教師像及び身に付けさせるべき力の到達目標を明

確にした上で、教科の専門性や教職の専門性を確実に身に付けさせられるよ

う、内部改革を推進する必要がある。

・大学の教官が、「教員になるべき学生を育てる」という共通認識をもち、組織

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的に指導の改善を図ることが必要である。

・大学は、教育実習全般にわたり、実習校に任せきりにするのではなく、大学

と実習校が連携を密に計画をし、大学の教官が積極的にかかわるような指導

体制の構築が必要である。

・東京都教育委員会が実施したアンケート調査で明らかになったように、新規

採用教員は、技能面でも課題を抱えていることが多いことから、大学は、平

成 22 年度入学生から適用される「教職実践演習」について、その設置趣旨

に沿った実施に努めるとともに、授業を通じて学生が教員として必要な知識

技能を確実に身に付けたかどうかを検証することが必要である。

・学校現場や行政機関を経験した実践的指導力の高い大学教官を増やし、教員

を目指す学生に対する個別指導が充実するような組織体制の構築が必要であ

る。

・大学での講義の質の向上を図るために、教員養成に関する講義を公開して外

部からの評価を基に改善を図ることが必要である。評価者の中には、教育委

員会、学校関係者、保護者・地域住民を入れる必要がある。

○ また、東京都教育委員会は、小学校の教員養成課程の更なる改善・充実を大

学とともに進めていくため、本年2月に検討委員会を設置した。同検討委員会

においては、若手教員における実践的指導力やコミュニケーション力の不足、

教養、教科専門性の低下等が指摘されており、今後、こうした点も含めて学部

における教員養成課程の実態を調査・検証し、あるべきカリキュラムや教育実

習の在り方等について検討を進め、8月を目途に提言を行う予定である。

○ 併せて、都市部の大学に現在の教育課題に即した集中講座を開設して地方の

学生に開放するなどの取組を進めるため、他の教育委員会と連携して都市と地

方の大学間連携を促していく。

○ 大学の教員養成課程の充実には、何よりも大学における教職課程の改善・充

実に向けた主体的な取組が重要である。また、その際、教育に対する熱意、使

命感、豊かな人間性など、すべての教員に必要な、基盤となる適性を備えてい

ない学生については、養成段階での資質能力の向上が難しいと考えられるため、

入学段階で適性を見極める手法についても検討する必要がある。

○ 教職大学院修了者のうち、いわゆるストレートマスターについては、平成 22

年度に初めて教壇に立つことになる。東京都教育委員会では、教職大学院にお

けるカリキュラムの履修内容や実習の状況が教員としての資質能力の向上にど

のように関連しているかを把握するため、教職大学院を修了し、採用された教

員を対象として独自の追跡調査を実施する予定である。また、派遣された現職

教員についても同様に追跡調査を実施する。調査結果は、指導内容等の充実に

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役立てていただけるよう、教職大学院にも提供する。さらに、調査結果を踏ま

え、連携している5つの教職大学院に示している「共通カリキュラム」を本年

8月を目途に改訂する。

(2)採用の現状及び課題等

ア 現状及び課題

○ 現在の教員の採用は、都道府県、政令市単位で行っているが、職員の年齢分

布がまちまちであること、過疎化や少子化により児童・生徒数の減少が著しい

地方があることなどにより、採用倍率に著しいアンバランスが生じている。

○ 文部科学省が実施した「平成 21年度公立学校教員採用選考試験の実施状況調

査」により、採用者/受験者により算出した各県市における採用の競争率(倍

率)を比較すると、最も競争率の低い大阪市が 3.4倍であるのに対し、最も競

争率の高い鳥取県では 20.4倍となっている。

イ 東京都教育委員会の提案

○ 採用に関しては、今後とも、各任命権者が成績主義の下で公正な選考を実施

し、採用する制度を維持すべきである。ただし、今後は、教育委員会がこれま

で以上に相互の連携を図り、全国的な視野から優秀な人材を確保していくべき

である。

○ 東京都教育委員会は、本年2月に秋田県教育委員会、大分県教育委員会及び

高知県教育委員会と協定を結び、平成 23年度教員採用候補者選考から、協定相

手県の採用選考の受験希望者で東京都教育委員会の採用選考の受験も希望する

志願者には、協定相手県が実施する第一次選考を東京都教育委員会が実施する

第一次選考とみなして合否を決定し、合格した都県で第二次選考を受験する仕

組み(協調選考)を取り入れることとした。

○ また、この仕組みにより東京都教育委員会に採用され、東京都での任用が一

定期間(5年程度)を経過した教員には、協定相手県に戻ることのできる新た

な人事交流の仕組みも併せて導入する。

○ このように、少子化等の影響で採用者が減り、競争率が高くなっている地方

の教育委員会と東京都教育委員会が連携することで、これまで以上に教員志望

者に採用の扉を開き、希望をかなえられるようにすることが可能になるととも

に、教員の年齢構成のアンバランスの是正にもつなげていくことができる。

○ 今後、東京都教育委員会としては、教育委員会同士が互いに協力し合い、全

国レベルで競争倍率の平準化や教員の需給バランスの調整が図られるよう、連

携先を更に拡大していく。

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○ また、国立の教員養成大学・学部(教員養成課程)の平成 21年3月卒業者の

就職状況(文部科学省)を見ると、47 大学を合計した卒業者 9,962 人のうち、

教員として正規採用された人は 3,127人となっており、臨時的任用教員として

採用された 2,524人と合わせた教員就職率は 56.6%に過ぎない。この比率を高

めるため、教員養成大学・学部による学生への就職支援の充実も必要である。

(3)育成の現状及び課題等

ア 現状及び課題

○ 大量採用により増加する若手教員に、授業力とともに様々な教育課題に適切

かつ柔軟に対応できる力量形成が急務となっている。

○ 伸長期以降の教員の資質向上には、研修のみならず、より重い職責を担う上

位の職へのチャレンジも重要である。任用制度の面での資質向上の取組として、

東京都教育委員会は平成 21年度から新たに「特に高度の知識又は経験を必要と

する教諭の職」として「主任教諭」の職を設置した。主任教諭の受験資格は、

経験年数8年以上、かつ、年齢 30歳以上 59歳以下としており、教員の資質向

上の視点も踏まえた選考を行っている。

○ 併せて、研修制度についても、職の分化に対応した系統的な研修の在り方に

ついて検討を行い、平成 21年度から教員研修体系を再編・整備した。

○ 現職教員にとって、大学院等での研修は、日ごろの教育実践を振り返り、理

論と実践とを結びつける機会となる。東京都教育委員会では、確かな指導理論

と優れた実践力や応用力を身に付けさせ、学校運営や指導行政において中核的、

指導的な役割を果たすことのできる教員の育成を図るため、5つの大学と協定

を結んで連携し、教育管理職候補者及び現職教員を対象とする教職大学院派遣

研修を実施している。

イ 東京都教育委員会の提案

(基礎形成期の教員)

○ 東京都教育委員会は、平成 23 年度から、新規採用教員の資質向上施策とし

て、新たに「学級経営研修」「東京都若手教員育成研修」を実施する。

○ 「学級経営研修」は、小学校に配置される新規採用教員のうち、教職及び社

会人経験のない新規大学卒業者を対象として、指導力のあるベテラン教員を「新

人育成教員」として配置し、ペアで担任業務を含む教育活動を行う実践的な研

修の仕組みである。この仕組みを導入することで、新規採用教員がベテラン教

員を手本としてノウハウを学び、また、不安や負担感など、抱えている悩みに

ついても相談できるようにする。

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○ このような実践的な研修の仕組みは、他の道府県においてもニーズがあると

思われるので、全国的に実施できるよう、国における法制化及び予算・定数措

置がなされるべきである。

○ 「東京都若手教員育成研修」は、新規採用からの3年間で、系統的・段階的

に教員としての基礎的・基本的な知識・技能を確実に育成する新しい研修体系

として構築したものである。この研修は、従来の初任者研修及び2・3年次授

業研究を見直し、研修内容の重点化、到達目標の新設などを柱として計画的な

育成を行うものであり、3年間で若手教員に基礎的・基本的な力量を身に付け

させていくものである。

○ 現職教員の育成は任命権者の責務として取り組むべきであるが、法定研修の

ように国で実施を義務付けている研修については、国における予算措置等がな

されるべきである。

(伸長期以降の教員)

○ 既に述べたように、大学院等での研修は、現職教員にとって日ごろの教育実

践を振り返り、理論と実践とを結びつける機会である。一方、現場を離れて研

修を行うため、代替教員の措置やそのための人件費、研修費等の確保が課題と

なっている。教育委員会と教職大学院をはじめとする大学側との連携を推進し、

現職教員の資質向上の場として大学を更に活用していくためには、国からの財

政支援が必要である。

○ 国において現在検討されている「専門免許状」制度については、実施方法や

実施規模によっては、代替教員を大量に確保する必要が生じ、学校現場に負担

をかけることが懸念される。教員定数や採用数にも大きな影響を与える可能性

があることから、国からの財政支援についての議論を併せて行うことが不可欠

である。

○ 免許更新制については、今年度導入された制度であることから、現時点にお

いて制度導入による効果を検証することは難しいが、既に免許更新講習の受講

を修了した教員が全国で約 20万人にも及ぶことから、廃止する場合には相当の

混乱を生じることが懸念される。更新講習受講者による事後評価(中教審第 59

回教員養成部会配布資料「平成 21年度免許状更新講習事後評価結果について」)

等において、更新講習受講者からおおむね良い評価がなされていることや大学

との更なる連携を進める契機となりうる点も踏まえ、免許更新制の廃止という

結論ありきではなく、平成 15 年度から実施された「10 年経験者研修」と併せ

て慎重に効果検証することが必要である。

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