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植込型補助人工心臓にかかる 有害事象判定結果等について (2012 年 12 月版) J-MACS 有害事象判定委員会

植込型補助人工心臓にかかる 有害事象判定結果等について ...価判定結果の一覧を別添1-4 に示す。なお、参考として2012 年11 月末までの

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  • 植込型補助人工心臓にかかる

    有害事象判定結果等について

    (2012 年 12 月版)

    J-MACS 有害事象判定委員会

  • 目 次

    1. はじめに……………………………………………………………………………1 2.主要な感染 …………………………………………………………………………4 3.神経機能障害 ………………………………………………………………………7 4.大量出血 …………………………………………………………………………10 5.装置の不具合………………………………………………………………………12 5.1 DuraHeart における装置の不具合について ………………………………13 5.1.1 セルフテストエラー警報の頻発 ………………………………………14 5.1.2 両電源外れによるポンプ停止 …………………………………………15 5.1.3 満充電バッテリ装着時の「バッテリ残量低下」警報の発生 ………19 5.1.4 データダウンロード時の「バッテリ故障」等の警報の発生 ………19 5.1.5 過大なモータ電流による血液ポンプ一時停止 ………………………20 5.1.6 バッテリ内ケーブルのハンダ接続部の破断…………………………21 5.1.7 充電時の「チャージャ警報」の発生……………………………………21 5.1.8 経皮ケーブル内導線の断線又はその疑い……………………………22 5.1.9 動圧モードへの一時的な移行…………………………………………24 5.2 EVAHEARTにおける装置の不具合について………………………………25 5.2.1 フィルタ目詰まりによる FPin 圧の上昇………………………………26 5.2.2 ダイアフラムポンプのネジの緩みによる水漏れ ……………………27 5.2.3 管路ブロックからの水漏れ ……………………………………………27 5.2.4 リザーバポートからの水漏れ …………………………………………28 5.2.5 ダイアフラムポンプの停止 ……………………………………………29 5.2.6-1 E-30 アラームの多発……………………………………………………30 5.2.6-2 装置内血栓による E-30 アラームの多発……………………………31 5.2.7 制御系 IC 故障による消費電力値波形の異常…………………………32 5.2.8 回転制御 IC 部品の故障 ………………………………………………32 5.2.9 バッテリコネクタ L 字部の破損 ………………………………………33 5.2.10 バッテリコネクタのロック機能不全 …………………………………34 6.死亡…………………………………………………………………………………36 7.おわりに……………………………………………………………………………40

  • 別添一覧

    別添 1-1 :J-MACS 有害事象判定委員会 設置要綱……………………………42

    別紙:有害事象判定委員会委員一覧……………………………………………44 別添 1-2 :有害事象評価判定等方針………………………………………………45 別添 1-3 :評価判定ツリー…………………………………………………………47 別添 1-4 :評価判定結果一覧………………………………………………………48

    別添 3-1 :事象一覧【神経機能障害】……………………………………………62 別添 3-2 :患者別 INR 値の推移(脳卒中)……………………………………64

    別添 4-1 :事象一覧【大量出血】…………………………………………………72 別添 4-2 :患者別 INR 値の推移(大量出血)…………………………………73

    別添 5-1 :デュラハートシステムの電源を安全に使用するために……………76 別添 5-2 :DuraHeart 左心補助人工心臓システム「両電源外れによるポンプ停

    止」に関する注意喚起…………………………………………………86 別添 5-3 :テルモ社製 DuraHeart における有害事象について…………………88 別添 5-4 :動圧モード移行後の臨床管理について………………………………90 別添 5-5 :植込み型補助人工心臓 EVAHEART 使用におけるご注意について

    (デバイス血栓症・E-30 アラーム)…………………………………91

  • 1

    1.はじめに 当有害事象判定委員会は、日本における補助人工心臓(ventricle-assist device、以下「VAD」)に関連した市販後のデータ収集事業(Japanese registry for Mechanically Assisted Circulatory Support、以下「J-MACS」)等を通じ、VAD企業から薬事法に基づき報告された国内事象のうち、①主要な感染、②神経機

    能障害、③大量出血、④装置の不具合、及び⑤死亡に関する評価判定等を行う

    組織である。当委員会の目的は、有害事象の判定及び判定等を通じた VAD の安全な使用の推進と患者選択の最適化を図るための助言であり、報告された有害

    事象に対する責任の所在を追求するものではない。 当委員会は、VAD にかかる医工学・臨床医学に関する専門的な知識を有する

    委員(別添 1-1 別紙)で構成されており、必要に応じ該当する専門分野についての知識を有する者を評価判定に加えることができる。

    なお、当委員会の事務局は、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)安全第一部 医療機器安全課である。

    当委員会は、これまでに計 7 回開催されており、その概要を表 1-1 に示す。

    表 1-1.これまでの開催概要

    開催日 内容

    第1回 2010/07/28 ・設置要綱、有害事象評価判定等方針の検討

    第2回 2011/01/25 ・設置要綱、有害事象評価判定等方針の検討・策定

    第3回 2011/09/20・委員長、副委員長の選出

    ・J-MACS登録症例における有害事象の評価判定

    第4回 2011/12/16

    ・J-MACS登録症例における有害事象の評価判定

    ・治験又は臨床研究による継続植込み症例における

    有害事象の評価判定 など

    第5回 2012/04/03

    第6回 2012/07/24

    第7回 2012/12/11

  • 2

    第 1 回、第 2 回の委員会では、有害事象の評価判定に先立ち、当委員会の設置要綱及び有害事象評価判定等の方針について検討し、設置要綱(別添 1-1)、有害事象評価判定等方針(別添 1-2、1-3)を策定した。第 3 回の委員会では、当委員会の委員長及び副委員長を選出し(別添 1-1 別紙 参照)、有害事象の評価判定を開始した。これまでに植込型 VAD の有害事象 158 件(60 症例)について評価判定を行ったので、J-MACS 業務委員会へ報告するものである。 これまでに評価判定を行った有害事象については、その内訳を表 1-2 に、評

    価判定結果の一覧を別添 1-4 に示す。なお、参考として 2012 年 11 月末までのJ-MACS への登録患者数の推移を図 1-1 に示した。植込型 VAD の登録患者数の内訳は、DuraHeart 29 症例、EVAHEART 71 症例である。

    表 1-2.評価判定済み有害事象の内訳

    有害事象J-MACS

    症例治験又は臨床研究

    の継続症例全体

    主要な感染 44 件 6 件 50 件

    神経機能障害

    塞栓症 14 件 ― 14 件

    頭蓋内出血 8 件 1 件 9 件

    TIA 1 件 1 件 2 件

    大量出血 11 件 ― 11 件

    装置の不具合 63 件 8 件 71 件

    その他 ― 1 件 1 件

    合計 141 件 17 件 158 件

    図 1-1:J-MACS 登録患者数の推移

  • 3

    評価判定が行われた 60 症例のうち、49 症例が J-MACS 登録症例であり、その他 11 症例は、治験又は臨床研究の継続症例である。治験又は臨床研究の継続症例においても市販後に発生した有害事象について、VAD 企業より薬事法に基づく報告が行われており、当委員会が市販後における VAD 植込み患者に発生した有害事象の評価を行うという趣旨であることから、評価判定の対象とした。 各有害事象における発生事象の詳細、評価判定結果等については、次項より

    報告する。

  • 4

    2.主要な感染 主要な感染について、50 件(32 症例)の評価判定を行った。各装置別の内訳を表 2-1 に、感染部位などの詳細を表 2-2(DuraHeart)、表 2-3(EVAHEART)に示す。

    表 2-1.各装置別の内訳

    表 2-2.各事象の詳細(DuraHeart)

    注1:( )内の症例数は、植込まれたLVADのポンプ台数に基づき算出

    有害事象

    J-MACS症例 治験又は臨床研究の継続症例

    DuraHeart EVAHEART DuraHeart EVAHEART

    主要な感染 28 件(17症例) 16 件(11症例) 2 件(2 症例) 4 件(2 症例)

    No. 年齢 性別有害事象

    発生までの補助期間

    感染部位 判定結果**

    9 10歳代 男 144日 ドライブライン 判定 A

    10 30歳代 男 82日 ドライブライン 判定 A

    11 30歳代 男

    115日 ドライブライン 判定 A

    233日 ドライブライン 判定 A

    12 20歳代 男 8日 ポンプポケット 判定 A

    13 40歳代 男 42日 ドライブライン 判定 A

    14 30歳代 男

    62日 ドライブライン 判定 A

    253日 ドライブライン 判定 A

    15 30歳代 女

    187日 ドライブライン 判定 A

    322日 ドライブライン 判定 A

    16 30歳代 男 21日 ドライブライン 判定 A

    17 40歳代 男

    226日 ドライブライン 判定 A

    266日 ドライブライン 判定 A

    18* 20歳代 男 86日 ポンプポケット 判定 A

    19* 20歳代 男 175日 ポンプポケット 判定 A

    *:治験または臨床研究の継続症例

    No. 年齢 性別有害事象

    発生までの補助期間

    感染部位 判定結果**

    1 20歳代 女 45日 ドライブライン 判定 A

    2 50歳代 男 65日 ドライブライン 判定 A

    3 30歳代 男

    59日 肺 判定 D

    80日 ポンプポケット 判定 A

    80日 縦隔 判定 A

    4 30歳代 男

    10日 尿路 判定 D

    169日 ドライブライン 判定 A

    279日 肺 判定 D

    5 40歳代 女 138日 ドライブライン 判定 A

    6 10歳代 女

    174日 ドライブライン 判定 A

    282日 ドライブライン 判定 A

    7 30歳代 男 23日 消化管 判定 D

    8 40歳代 男

    9日 CV血管カテーテル 判定 D

    36日 ドライブライン 判定 A

    79日 感染部位不明 判定 C

    * *:判定結果欄の記号は別添1-2参照

  • 5

    表 2-3.各事象の詳細(EVAHEART)

    主要な感染については、①装置植込み部位の感染が 34 件、②装置植込み部位以外の感染が 16 件であった。

    ①については、ドライブラインやポンプポケットからの感染であり、VAD との関連性は明らかにあると考え、「判定 A」とした。 ②のうち 9 件は、肺、縦隔、尿路、消化管、CV 血管カテーテルの感染であり、

    感染が限局している、または感染源の抜去(CV 血管カテーテル)により感染が消失している等の状況から、VAD との関連性がないと考え、「判定 D」とした。ただし、表 2-2、No.3 の症例における縦隔の感染については、同日に発生しているポンプポケット感染と関連していると考えられることから、「判定 A」とした。また、表 2-3、No.12 の症例における肺炎については、2 日前に発生しているドライブライン感染との因果関係が否定できず、「判定 C」とした。

    ②のうち 5 件は、感染部位不明が 3 件、細菌性の感染が 2 件であった。感染部位不明については、過去に発生しているドライブライン感染等との因果関係

    が否定できないと考え、「判定 C」、また、細菌性の感染については、感染経路や感染源が不明であることから、VAD 装着との関連性を否定することもできないと考え、「判定 C」とした。 なお、表 2-3、No.11 の症例については、菌血症を繰返しており、初回の菌血

    症の起因菌として MSSA が検出されていることから、その約 2 か月前に発生していたドライブライン感染時に皮膚貫通部から菌血症に至った可能性も否定で

    No. 年齢 性別有害事象

    発生までの補助期間

    感染部位 判定結果**

    1 40歳代 男 9日 ライン敗血症 判定 D

    2 30歳代 男 60日 細菌性の感染 判定 C

    3 40歳代 女 18日 肺炎 判定 D

    4 40歳代 男 88日 ドライブライン 判定 A

    5 40歳代 女 45日 ドライブライン 判定 A

    6 30歳代 男

    127日 ドライブライン 判定 A

    190日 ドライブライン 判定 A

    211日 感染部位不明 判定 C

    7 50歳代 男 102日 ドライブライン 判定 A

    8 30歳代 男 229日 ドライブライン 判定 A

    No. 年齢 性別有害事象

    発生までの補助期間

    感染部位 判定結果**

    9 40歳代 男 128日 ドライブライン 判定 A

    10 50歳代 男 57日 ポンプポケット 判定 A

    11 40歳代 男

    163日 ドライブライン 判定 A

    223日 菌血症 判定 B

    271日 感染部位不明 判定 C

    318日 菌血症 判定 B

    12*40歳代 男

    1544日 ドライブライン 判定 A

    1546日 肺炎 判定 C

    1795日 細菌性の感染 判定 C

    13* 50歳代 男 2089日 ドライブライン 判定 A

    *:治験または臨床研究の継続症例

    * *:判定結果欄の記号は別添1-2参照

  • 6

    きず、また 2 回目の菌血症についても、初回の菌血症の再燃とも考えられることから、VAD との関連性はおそらくあると考え、「判定 B」とした。

    なお、血液培養等により検出された起因菌については、表 2-4 の通りであり、特段の傾向等は認められなかった。

    表 2-4.検出された起因菌

    起因菌 感染部位 検出件数

    Anaerobe Gram-positive bacilli ドライブライン 2 件

    Coagulase negative staphylococcus (CNS) ドライブライン 5 件

    Corynebacterium ドライブライン、ポンプポケット 5 件

    Enterobacter aerogenes ドライブライン 1 件

    Enterobacter cloacae ポンプポケット 1 件

    Enterococcus faecalis ドライブライン 1 件

    Escherichia coli ドライブライン 3 件

    Haemophilus parahaemolyticus ドライブライン 1 件

    Haemophilus parainfluenzae ドライブライン 3 件

    Klebsiella oxytoca ライン敗血症 1 件

    Klebsiella pneumoniae ドライブライン 1 件

    Morganella morganii ドライブライン、肺炎 1 件

    MRSA 肺炎、ドライブライン、ポンプポケット、細菌性感染 6 件

    MRSE 細菌性感染 1 件

    MSSA ドライブライン、菌血症 9 件

    Prevotella ドライブライン 1 件

    Pseudomonas aeruginosa 肺炎、尿路、CVカテ―テル、ドライブライン 9 件

    Pseudomonas fluorescens ドライブライン 1 件

    Serratia marcescens ドライブライン 1 件

    Staphylococcus aureus 細菌性感染、ドライブライン 3 件

    Staphylococcus epidermidis ドライブライン、ポンプポケット 3 件

    Stenotrophomonas maltophilia 肺炎、ドライブライン 2 件

    Streptococcus ドライブライン 1 件

  • 7

    3.神経機能障害 神経機能障害について、25 件(15 症例)の評価判定を行った。各装置別の内訳を表 3-1 に、各事象の詳細を表 3-2(DuraHeart)、表 3-3(EVAHEART)に示す。

    表 3-1.各装置別の内訳

    表 3-2.各事象の詳細(DuraHeart)

    注2:合計欄の症例数は、合計件数に対する症例数であり、各有害事象の症例数を合計したものではない。

    注1:( )内の症例数は、植込まれたLVADのポンプ台数に基づき算出

    有害事象

    J-MACS症例 治験又は臨床研究の継続症例

    DuraHeart EVAHEART DuraHeart EVAHEART

    神経機能障害

    塞栓症 5 件( 5 症例) 9 件( 6 症例) ― ―

    頭蓋内出血 4 件( 3 症例) 4 件( 3 症例) ― 1 件(1 症例)

    TIA 1 件( 1 症例) ― ― 1 件(1 症例)

    合計 10 件(6 症例) 13 件(8 症例) ― 2 件(1 症例)

    No. 年齢 性別有害事象

    発生までの補助期間

    有害事象 判定結果**

    1 20歳代 女

    38日 塞栓症 左同名半盲 判定 B

    296日 TIA 失語 判定 B

    296日 頭蓋内出血 右半身筋力低下 判定 B

    300日 頭蓋内出血 頭痛 判定 B

    2 40歳代 男 4日 塞栓症 呂律困難 判定 B

    3 50歳代 男 10日 塞栓症 中心部視野欠損 判定 B

    4 30歳代 男 274日 頭蓋内出血 意識消失 判定 C

    5 10歳代 女

    4日 頭蓋内出血 頭痛 判定 B

    142日 塞栓症 両側眼球運動障害 判定 B

    6 70歳代 男 8日 塞栓症 右半身筋力低下 判定 B

    * *:判定結果欄の記号は別添1-2参照

  • 8

    表 3-3.各事象の詳細(EVAHEART)

    神経機能障害については、事象発生時までの Prothrombin Time(PT-INR、以下「INR」)値から、①適切な抗凝固療法によって管理されていたものの、神経機能障害が発生したと考えられたものが 22 件(塞栓症:14 件、頭蓋内出血:6 件、一過性脳虚血発作(TIA):2 件)、②抗凝固療法の管理上の影響により発生したと考えられたものが 2 件(頭蓋内出血)、③その他の処置に関連したと考えられたものが 1 件(頭蓋内出血)であった。 ①については、抗凝固療法は VAD 装着に伴い必要となる治療であり、VAD を

    No. 年齢 性別有害事象

    発生までの補助期間

    有害事象 判定結果**

    1 30歳代 男 10日 塞栓症 右半身麻痺 判定 B

    2 40歳代 男

    44日 頭蓋内出血 左半身麻痺 判定 B

    273日 頭蓋内出血 全身強直性痙攣 判定 B

    3 40歳代 男

    38日 塞栓症 耳鳴、前部頭部痛等 判定 B

    44日 塞栓症 左上肢感覚異常 判定 B

    50日 塞栓症 見当識障害 判定 B

    4 20歳代 男 93日 塞栓症 左顔面神経麻痺、構語障害 判定 B

    5 50歳代 男 26日 塞栓症 右半身筋力低下 判定 B

    6 50歳代 女 13日 塞栓症 右目視野一部欠損、失語等 判定 B

    7 40歳代 男 326日 頭蓋内出血 昏睡 判定 B

    8 40歳代 女

    12日 塞栓症 左半身麻痺 判定 B

    12日 頭蓋内出血 左半身麻痺 判定 D

    16日 塞栓症 昏睡、脳ヘルニア 判定 B

    9* 50歳代 男

    2125日 TIA 右下肢脱力 判定 B

    2257日 頭蓋内出血 昏睡状態 判定 C

    *:治験または臨床研究の継続症例* *:判定結果欄の記号は別添1-2参照

  • 9

    使用する上での関連性はおそらくあると考え、「判定 B」とした。 ②については、INR 値が高値であったことから、抗凝固療法の影響と考えら

    れ、①の事例よりも装置そのものとの関連性は低いが、抗凝固療法が VAD 装着に伴い必要不可欠なことから、その関連性は否定できないと考え、「判定 C」とした。 ③については、同日発生した塞栓症に対する治療として、脳血管内治療(カ

    テーテル治療)が行われており、それに関連した頭蓋内出血である可能性が高

    く、VAD との関連性はないと考え、「判定 D」とした。 また、神経機能障害のうち脳卒中(塞栓症、TIA)を発生した症例において、

    植込み手術後にヘパリンが投与されず、術後の INR 値が低値で推移し、その後、至適な範囲で INR 値が管理されていたが、脳卒中(塞栓症、TIA)を発生した症例が 7 件(5 症例)認められた。抗凝固療法については、患者の状態を考慮して実施されるものであるが、DuraHeart 及び EVAHEART が推奨する抗凝固療法では、術後、早期に INR 値を至適な範囲にもっていくために、ヘパリンを投与することとされている。 第 3 回の当委員会(2011 年 9 月 20 日開催)では、術後のヘパリン投与の必

    要性について、改めて医療機関に周知するよう、事務局を通じ、テルモ社及び

    サンメディカル技術研究所社に指摘した。 また、神経機能障害については、VAD 企業による詳細調査の結果から、各症例の INR 値の推移を確認したところ、25 件中 16 件が企業の推奨する至適 INR値(DuraHeart:2.0~3.0、EVAHEART:2.5~3.5)で管理されながらも神経機能障害が発生しており(別添 3-1、別添 3-2)、各装置における至適 INR 値について、今後、J-MACS 全体の解析を踏まえ、検討されることが望ましいと考える。

  • 10

    4.大量出血 大量出血について、11 件(7 症例)の評価判定を行った。各装置別の内訳を表 4-1 に、各事象の詳細を表 4-2(DuraHeart)、表 4-3(EVAHEART)に示す。

    表 4-1.各装置別の内訳

    表 4-2.各事象の詳細(DuraHeart)

    注1:( )内の症例数は、植込まれたLVADのポンプ台数に基づき算出

    有害事象

    J-MACS症例 治験又は臨床研究の継続症例

    DuraHeart EVAHEART DuraHeart EVAHEART

    大量出血 6 件( 5 症例) 5 件( 2 症例) ― ―

    No. 年齢 性別有害事象

    発生までの補助期間

    出血部位 判定結果**

    1 70歳代 男

    8日 ポンプポケット、胸壁 判定 B

    124日 皮膚挿入部 判定 B

    2 30歳代 男 1日 ポンプポケット 判定 B

    3 20歳代 男 1日 ポンプポケット 判定 B

    4 30歳代 女 100日 右大腿 判定 C

    5 30歳代 女 356日 性器 判定 C

    * *:判定結果欄の記号は別添1-2参照

  • 11

    表 4-3.各事象の詳細(EVAHEART)

    大量出血については、①抗凝固療法の影響によると考えられるものが 6 件、②VAD 装着術に関連したと考えられるものが 4 件、③その他の処置に関連したと考えられるものが 1 件であった。

    ①については、神経機能障害と同様に、事象発生時までの INR 値から適切な抗凝固療法によって管理されていたものの、大量出血が発生した 3 件を「判定 B」、INR 値が高値であったことから、抗凝固療法の影響と考えられたもの 1 件を「判定 C」とした。他 2 件のうち、1 件は、左股関節硬縮に起因した日常動作等による左臀部筋肉内からの出血とのことであり、装置そのものとの関連性は低いと

    考え、「判定 C」とした。もう 1 件は、INR 値が低値であったことから、抗凝固剤の増量を行った後に性器からの出血を認めたものであり、出血時の INR 値は適切であったものの、抗凝固剤の増量による出血と考えられ、装置そのものと

    の関連性は低いと考え、「判定 C」とした。 ②については、一般的な開胸手術におけるリスクとして発生したものと考え

    られたが、そもそも VAD 装着のために行われた植込み術であることから、VADとの関連性はおそらくあり、「判定 B」とした。 ③については、VAD 植込み部位以外への処置に関連していたことから、VAD

    との関連性はないと考え、「判定 D」とした。 なお、神経機能障害と同様に、大量出血の症例においても INR 値の推移を確認したところ、INR 値が適切な範囲内もしくは低値で管理されていた症例での発生が 11 件中 10 件に認められている(別添 4-1、別添 4-2)。

    No. 年齢 性別有害事象

    発生までの補助期間

    出血部位 判定結果**

    1 40歳代 女 41日 気管切開部 判定 D

    2 40歳代 男

    0日 ポンプポケット 判定 B

    1日 ポンプポケット 判定 B

    185日 左臀部筋肉内 判定 C

    254日 左下腿部 判定 B

    * *:判定結果欄の記号は別添1-2参照

  • 12

    5.装置の不具合 装置の不具合について、71 件(44 症例)の評価判定を行った。各装置における発生事象の内訳を表 5-1(DuraHeart)、表 5-2(EVAHEART)に示す。

    表 5-1.DuraHeart における装置の不具合の内訳

    表 5-2.EVAHEART における装置の不具合の内訳

    不具合発生部位 発生事象 J-MACS症例治験又は臨床研究

    の継続症例判定結果**

    外部コントローラ

    「セルフテストエラー」警報の頻発 1 件(1 症例) — 判定 Ⅱ

    両電源外れによる血液ポンプ停止 8 件(7 症例) 2 件 (2 症例) 判定 Ⅰ

    満充電バッテリ装着時の「バッテリ残量低下」警

    報の発生5 件(4 症例) — 判定 Ⅱ

    データをUSBへダウンロードする際に「バッテリ故障」警報等の発生

    5 件(5 症例) — 判定 Ⅱ

    過大なモータ電流による血液ポンプ一時停止 3 件(1 症例) 1件 (1症例) 判定 Ⅱ

    外部バッテリ

    バッテリ内ケーブルのハンダ接続部の破断 1 件(1 症例) — 判定 Ⅱ

    充電時の「チャージャ警報」の発生 1 件(1 症例) —判定 Ⅱ

    ポンプ駆動部

    経皮ケーブル内導線の断線(疑いを含む) 4 件(4 症例) 5 件 (5症例) 判定 Ⅱ

    動圧モードへの一時的な移行 2 件(1 症例) — 判定 Ⅱ

    合計 30 件(16 症例) 8 件 (8 症例)

    注2:合計欄の症例数は、合計件数に対する症例数であり、各有害事象の症例数を合計したものではない。

    注1:( )内の症例数は、植込まれたLVADのポンプ台数に基づき算出

    * *:判定結果欄の記号は別添1-2参照

    不具合発生部位 発生事象 J-MACS症例 判定結果**

    クールシールユニット

    フィルタ目詰まりによるFPin圧の上昇 11 件(10 症例) 判定 Ⅱ

    ダイアフラムポンプのネジの緩みによる水漏れ 1 件(1 症例) 判定 Ⅱ

    管路ブロックからの水漏れ 1 件(1 症例) 判定 Ⅱ

    リザーバポートからの水漏れ 1 件(1 症例) 判定 Ⅱ

    ダイアフラムポンプの停止 1 件(1 症例) 判定 Ⅱ

    外部コントローラ

    E-30アラームの多発 4 件(3 症例) 判定 Ⅱ

    制御系IC故障による消費電力値波形の異常 1 件(1 症例) 判定 Ⅱ

    回転制御IC部品の故障 1 件(1 症例) 判定 Ⅱ

    外部バッテリコネクタL字部の破損 8 件(7 症例) 判定 Ⅱ

    ロック機能不全 3 件(3 症例) 判定 Ⅱ

    血液ポンプ 装置内血栓によるE-30アラームの多発 1 件(1 症例) 判定 Ⅱ

    合計 33 件(20症例)

    注2:合計欄の症例数は、合計件数に対する症例数であり、各有害事象の症例数を合計したものではない。

    注1:( )内の症例数は、植込まれたLVADのポンプ台数に基づき算出

    * *:判定結果欄の記号は別添1-2参照

  • 13

    5.1 DuraHeart における装置の不具合について DuraHeart については、装置に関する 9 事象の不具合が発生しており、その詳細について以下に述べる。なお、図 5-1 に DuraHeart のシステム全体を示しておく。

    図 5-1:DuraHeart システム

  • 14

    5.1.1 セルフテストエラー警報の頻発 当該事象については 1 件(1 症例)の評価判定を実施しており、コントローラから「セルフテストエラー」の警報が頻発し、その都度、コントローラのボタ

    ン操作により警報をクリアしていたが、装置の異常を疑い、コントローラが交

    換されたものである。なお、当該症例は、承認以前に臨床研究を目的として個

    人輸入された装置で発生したものであるが、国内治験においても、同様事象が 2件発生している。 当該コントローラを分析した結果、セルフテストエラーは、コントローラの

    内部電圧の変動により発生していることが推察され、内部電圧変動の主な原因

    は、当該装置のインペラを磁気浮上させるための電磁石の制御に伴い発生した

    高周波ノイズとのことであった。当該装置におけるセルフテストは、コントロ

    ーラが内部のハードウェア及びソフトウェアに異常がないかを自己診断する機

    能であり、セルフテストエラーは、コントローラとバッテリの通信エラー、内

    部コネクタ異常、内部電圧異常等が検出された場合に発生するものである。承

    認以前(治験及び臨床研究)の製品については、1 回でもエラーが検出された場合にセルフテストエラーが発生する仕様となっていた。 国内治験時に当該事象の発生を受け、テルモ社では、内部電圧変動が 5 秒以

    上継続した場合にセルフテストエラーを発生させるよう、承認後の製品につい

    てはソフトウェアの変更を実施済みであり、変更後のソフトウェアが搭載され

    た製品では、現時点において同様事象の発生は認められていない。 当該事象は当該装置のソフトウェアの仕様に起因した事象と考え、「判定Ⅱ」

    とし、事務局を通じ、テルモ社に対して、以下 3 点の指摘を行った。(第 3 回有害事象判定委員会 2011 年 9 月 20 日)

    まず、1 点目として、当該事象の原因であるコントローラの内部電圧変動は通

    常では起りえない事象であり、また、内部電圧の変動が当該装置のインペラを

    浮上させるための電磁石の制御による高周波ノイズの影響であることから、高

    周波ノイズの影響を防ぐ方法、もしくは、高周波ノイズが発生しない電磁石の

    制御を検討すべきであるとの指摘を行った。 これに対して、テルモ社より、当初、高周波ノイズによる内部電圧の変動は

    想定していなかったとのことであり、現行の磁気浮上方式を維持しながら、こ

    の問題を解決することは技術的に容易ではなく、大幅な設計変更が必要となる

    ことから、次機種において同様の問題が発生しないよう考慮するとの回答があ

  • 15

    った。

    2 点目として、当該装置は患者が在宅で使用するものであり、ポンプ動作に影響を及ぼさないにも関わらず警報が頻発することは、患者に不安を与えるだけ

    であり、内部電圧の変動について警報を発生させる必要性について指摘した。 これに対して、テルモ社より、内部電圧の変動は装置の故障を疑わせる重要な

    指標であることから、この異常を検知することは必要と考えるが、当該事象の

    発生から、高周波ノイズの影響により内部電圧が変動することが分かり、また、

    この高周波ノイズの重畳による内部電圧の変動は、ポンプ動作にも影響を及ぼ

    さないことから、承認後の製品ではソフトウェアを変更し、警報が頻発しない

    よう対策を実施している旨の回答があった。 5.1.2 両電源外れによるポンプ停止 当該事象については 10 件(9 症例)の評価判定を実施しており、当該装置はコントローラに 2 個の電源が接続されているが、この 2 個の電源が両方とも外れたためにポンプが一時的に停止したものである。発生状況は、電源操作時(コ

    ンソールへの接続、バッテリ交換等)に発生したものが 6 件、当該事象発生時の操作等が不明なものが 4 件であった。また、患者への健康被害としては、意識消失が 3 件、心肺停止が 1 件、死亡が 1 件であった。なお、当該事象発生時の状況が判明している 6 件の詳細は、以下の通りである。 ①:コントローラから片側のバッテリが外れていることに気づかず、コンソー

    ルへ接続するためにもう一方のバッテリを外してしまったため、両電源とも

    に喪失した事例。 ②:コントローラの片側はバッテリ、もう一方はバッテリを充電するためのチ

    ャージャ(AC 電源)に接続されていたが、バッテリ交換を行うため、コントローラからバッテリを外し、チャージャのバッテリ接続ポートから充電さ

    れたバッテリを取り外そうとした際に、誤ってチャージャのコントローラ接

    続ポートに接続されていたケーブルを外してしまったため、両電源ともに喪

    失した事例。(図 5-2 参照)

  • 16

    ③:コントローラに接続された片側のバッテリが残量低下となり、警報が発生

    した際、残量が低下したバッテリと反対側のバッテリを外してしまった。コ

    ントローラには残量が低下したバッテリのみが接続された状態となり、再度、

    残量低下警報が発生した際に、混乱し、このバッテリも外してしまったため、

    両電源ともに喪失した事例。 ④:コントローラの片側はバッテリ、もう一方はコンソール(AC 電源)を接続

    していたが、コンソールに接続されたケーブルを外した際に、反対側のバッ

    テリも外れてしまい、両電源ともに喪失した事例。 ⑤:コントローラに接続された片側のバッテリを外し、チャージャ(AC 電源)

    を接続しようとした際に、反対側のバッテリも外れてしまい、両電源ともに

    喪失した事例。 ⑥:コントローラから片側のバッテリが外れていることに気づかず、チャージ

    ャ(AC 電源)に接続されたケーブルを外してしまったため、両電源ともに喪失した事例。

    テルモ社では、市販後に当該事象の 1 件目の発生を受け、電源の取扱いに関

    するトレーニングを強化するため、電源に関する教育用冊子(別添 5-1)を作成したが、2 件目が発生したため、コントローラへの注意ラベルの貼付(図 5-3)、を実施した。しかしながら、その後も同様事象の発生が認められた。

    コントローラ接続ポート

    バッテリ接続ポート

    図 5-2:チャージャのコントローラ、バッテリの接続ポート

  • 17

    当該事象は電源に関する取扱い上のエラーであると考え、「判定Ⅰ」とした。

    しかしながら、実際にデモ機にて電源接続部を確認したところ、コネクタのロ

    ックは外れやすく、ロックがかかっていない状態では、電源のコネクタはコン

    トローラから抜けやすい印象であった。また、このロックについては、ロック

    された時に「カチッ」とコネクタのはまった音がする製品もあるが、テルモ社

    によると、この音は製品に個体差があり、「カチッ」という音のしない製品もあ

    るとのことであった。 また、電源が外れた場合、コントローラに「電源なし」と表示されるが、コ

    ントローラがキャリングバッグに入った状態では表示は見えにくく、「ププッ」

    という確認音を聞き逃した場合、片側の電源が外れていることに気づかない可

    能性が考えられ、紙媒体(別添 5-1)によるトレーニングの強化のみでは、再発の可能性が危惧された。 なお、両電源外れについては、欧州及び国内での治験時においても発生が認

    められていたことから、承認の際に、両電源喪失に対するリスク低減及び仕様

    変更について検討するよう指示されていた(DuraHeart 審査報告書 P.41,43)。しかしながら、速やかに対策が取られず、市販後においても当該事象の発生が認

    められたものであった。 このような背景から、1 件目の評価判定を行った第 3 回の当委員会(2011 年

    9 月 20 日開催)では事務局を通じ、テルモ社に対して、以下 2 点の指摘を行った。

    まず、1 点目として、コネクタのロックに個体差が生じてしまうような品質の

    バラツキが認められることは問題であり、改善が必要であるとの指摘を行った。 これに対して、テルモ社より、部品の受入検査の強化等により改善に努める

    との回答があった。

    図 5-3:電源接続に関する注意ラベル

  • 18

    また、2 点目として、当該事象は「判定Ⅰ」としているものの、患者自らが在

    宅で使用するものであり、ヒューマンエラーにより両電源喪失が発生してしま

    う構造にも問題があると考えられることから、電源の接続外れを防ぐフェール

    セーフ、またはフールプルーフ等の構造的な対策(改良)を検討すべきである

    との指摘を行った。 これに対して、テルモ社より、現行機種において、コネクタを外れにくくす

    るような対策を検討するとの回答があった。 その後、テルモ社にて対策が検討されていたが、その間にも、同様事象を認

    め、計 10 件が報告されており、その中には、当該事象により心肺停止となった症例も認められたことから、医療機関に対し、両電源外れの発生状況と注意喚

    起が行われた(別添 5-2)。 なお、検討されていた現行機種への対策については、図 5-4 のようなプロテ

    クトカバー、コネクタロックが設計され、2012 年 11 月 12 日より供給が開始されている。 現在、補助継続中の患者へ順次装着が行われているとのことであり、12 月中

    には全ての患者に提供される予定とのことである。また、次機種においては、

    両電源が喪失した場合にもポンプ停止とならないよう、コントローラへの内蔵

    バッテリの搭載やバッテリの仕様変更など、安全性を考慮した仕様を検討する

    とのことであった。

    図 5-4:プロテクトカバーとコネクタロック

    プロテクトカバー コネクタロック

  • 19

    5.1.3 満充電バッテリ装着時の「バッテリ残量低下」警報の発生 当該事象については 5 件(4 症例)の評価判定を実施しており、バッテリ交換の際に、満充電されたバッテリをコントローラへ接続したにも関わらず、コン

    トローラから「バッテリ残量低下」警報が発生したため、バッテリの抜き差し

    やコントローラの警報クリアの操作を行い、警報を解消したものである。なお、

    4 症例中 1 症例においては、警報を解消後にも当該事象が再発したことから、コントローラの交換が行われている。 当該事象は、バッテリとコントローラの通信エラーにより、コントローラが

    交換前の消耗したバッテリの情報を誤って認識してしまったものと推察されて

    おり、この通信エラーは、承認後の製品に搭載されたソフトウェアにおいて、

    バッテリとコントローラ間の通信量を増加させたことに起因している可能性が

    否定できないとのことであった。テルモ社では、承認後の製品に搭載されてい

    るソフトウェアについて、点検を実施し、現在、是正措置を検討しているとの

    ことである。 当該事象は、当該装置のソフトウェアに起因した事象であると推察されてい

    ることから、「判定Ⅱ」とした。 5.1.4 データダウンロード時の「バッテリ故障」等の警報の発生 当該事象については 5 件(5 症例)の評価判定を実施しており、コントローラ

    をコンソールへ接続し、データをUSBメモリへダウンロードしようとした際に、コントローラから「バッテリ故障」等の電源に関連する警報が発生し、警報が

    クリアできない状態となったものであり、5 件ともコントローラの交換が行われている。 当該事象については、発生状況が共通していることから、承認後の製品に搭

    載されたソフトウェアに起因していると考えられた。ソフトウェアを分析した

    結果、治験時の製品に搭載されたソフトウェアからエラー検出方法を変更した

    ことにより、メモリデータ障害が発生していた可能性が推察された。なお、当

    該事象は、コントローラをリセットすることで解消するとのことであるが、テ

    ルモ社では、次回のソフトウェアのバージョンアップにおいて、対策を講じる

    とのことである。

  • 20

    当該事象は、当該装置のソフトウェアに起因した事象であることから、「判定

    Ⅱ」とした。 5.1.5 過大なモータ電流による血液ポンプ一時停止 当該事象については 4 件(2 症例)の評価判定を実施しており、「モータ電流

    過大警報」が発生したために、血液ポンプが一時停止となったものである。4 件のうち 3 件については 1 症例で発生したものであり、そのうち 2 件は、外来受診時のコントローラのログ確認において、受診以前に発生していた当該事象が

    確認されたものであり、コントローラの交換が行われた。当該症例では、その

    後、再度、当該事象が発生したが経過観察となっている。もう 1 症例については、警報発生後に患者が意識消失となっており、介護者によりコントローラの

    交換が行われている。 モータ電流過大警報が発生した場合、安全機構として一時的に血液ポンプを

    停止させ、5 秒後に自動復帰する仕様となっている。1 症例で当該事象が 3 件発生したコントローラについては、ログ確認の結果、当該事象発生後に自動復帰

    していることが確認されている。また、コントローラの分析結果から、異常は

    認められておらず、過大なモータ電流が流れた原因は不明であった。 また、もう 1 症例のコントローラについては、ログ確認の結果、ポンプ回転

    数の急激な変動を検出後に過大なモータ電流が流れ、安全機構が働き血液ポン

    プが停止したことが確認された。通常であれば自動復帰されるが、当該症例に

    おいては、繰返し自動復帰が行われるも、モータ回転数が目標値に到達せず、

    自動復帰に失敗していたことが判明している。しかしながら、コントローラの

    分析結果において異常は認められておらず、モータ駆動を制御する IC チップへの断続的なノイズ等の影響が推察されるも、現時点、原因は不明とのことであ

    る。 当該事象は、装置そのものに起因した事象と推察されることから、「判定Ⅱ」

    とした。

  • 21

    5.1.6 バッテリ内ケーブルのハンダ接続部の破断 当該事象については 1 件(1 症例)の評価判定を実施しており、満充電となったバッテリを保管している際に、バッテリの警報ランプが点灯していることに

    気づいたものである。 当該バッテリを分析した結果、バッテリ内部の温度を測定するケーブルのハ

    ンダ接続部が破断したために、バッテリ内部の温度が計測不能となり、警報ラ

    ンプ点灯に至ったことが判明している。ケーブル破断の原因は、ケーブル接続

    のハンダ付け状態に加え、バッテリ使用中の振動等により接続部に負荷がかか

    ったことが可能性として考えられるとのことであった。 テルモ社では、これまでに同様事象の発生はないものの、当該事例の発生を

    受け、当該接続部をハンダで接続しない方式へ変更することを検討中とのこと

    である。 当該事象は、バッテリ内部のケーブルのハンダ付状態によるものと推察され

    ていることから、「判定Ⅱ」とした。 5.1.7 充電時の「チャージャ警報」の発生 当該事象については 1 件(1 症例)の評価判定を実施しており、バッテリを充電する際に、チャージャから「チャージャ警報」が発生したものである。バッ

    テリを確認したところ、残量インジケータが正常に点灯したため、再度チャー

    ジャに接続するも、充電状態を示すマークが点灯せず、バッテリ故障と判断し

    たとのことである。 当該バッテリの調査では、当該事象は再現されておらず、分析結果からも、

    異常は認められなかったとのことから、電気的ノイズを受けた可能性も否定で

    きないとのことであるが、現時点、原因は不明とのことである。 当該事象は、装置そのものに起因した事象と推察されることから、「判定Ⅱ」

    とした。

  • 22

    5.1.8 経皮ケーブル内導線の断線又はその疑い 当該事象については 9 件(9 症例)の評価判定を実施しており、浮上エラーの

    発生を繰り返した後、動圧モードへ移行し、ポンプ交換やコントローラ交換等

    が行われたものである。なお、9 症例中 4 症例が市販後に植込まれた症例(J-MACS 症例)であり、5 症例が治験又は臨床研究の継続症例(治験症例 2 例、臨床研究症例 3 例)であった。 なお、動圧モードとは、インペラの磁気浮上に異常が認められた場合に、血

    流の力でインペラを浮上させるものであり、コントローラからの警報発生等に

    よって、動圧モードへの移行が確認できる。 当該事象については、まず治験又は臨床研究の継続症例における 3 件(3 症例)

    の発生が、テルモ社より報告された。当該 3 症例は、動圧モードへ移行後にコントローラを交換するも、再度、動圧モードへ移行するなどしたため、DuraHeartへのポンプ交換が実施された。摘出された血液ポンプを分析した結果、経皮ケ

    ーブル内にあるインペラの浮上位置を確認するためのセンサ用導線の断線 3 件(うち、1 件はその疑い)により、動圧モードへ移行したことが判明した(図5-5)。

    2011 年 12 月 16 日に開催した第 4 回の委員会において、当該 3 件について評

    価する際、テルモ社へ国内及び欧米での同様事象の発生状況を確認したところ、

    導線の断線又はその疑いがあるものは、12 月 16 日現在、当該 3 件を含め国内 5件(植込み症例数 46 例中)、欧州 5 件(植込み症例数 93 例中)、米国 4 件(植込み症例数 65 例中)、計 14 件(植込み症例数計 204 例中)との報告をテルモ社より受けた。なお、断線までの植込み期間については、不明の 1 件を除く 13 件

    図 5-5:断線した経皮ケーブル内の導線

  • 23

    中、9 件がおおよそ 1 年未満であった。 動圧モードに移行した場合、流量は保持されるものの、インペラの浮上位置

    が低下するために溶血のリスクが高くなる可能性が考えられた。対処としては、

    ポンプ交換を行うことであるが、国内の症例において、同一患者で当該事象が 2件発生した事例もあり、同一患者に複数回のポンプ交換術を実施しなければな

    らない場合、手術による合併症などのリスクがさらに高くなることが推察され

    た。 また、当該装置の経皮ケーブルは、モータ電流用、電磁石用、浮上位置セン

    サ用の導線 15 本で構成されており、これまでに発生した 14 件については、浮上位置センサ用もしくは電磁石用の導線断線の可能性であることから、動圧モ

    ードへ移行し、一定の流量は保たれるものの、モータ電流用の導線が断線した

    場合にはポンプ停止となり、死亡等の重大な有害事象につながる可能性がある

    と考えられた。 当該事象は、断線件数の増加傾向や断線までの期間を考慮すると、当該装置

    の設計や製造に起因している可能性が推察されることから、「判定Ⅱ」とした。 また、今後も新たな断線症例が早期に発生すると考えられ、モータ電流用の

    導線が断線する可能性も否定できないことから、補助継続中の患者の十分な観

    察等の必要性を含め、植込み施設に対し最新の発生状況について情報提供を行

    うと共に、当該事象の原因究明及び経皮ケーブルの構造や耐久性などの改善が

    必要と考え、当面の間、当該装置の新たなる臨床使用を一時停止することが望

    ましいとの結論に第 4 回の委員会(2011 年 12 月 16 日開催)において至り、当委員会終了後、直ちに J-MACS 運営委員会及び業務委員会に対し、この結果を報告した(別添 5-3)。

    また、この結論は、同時に事務局からテルモ社に伝達され、テルモ社ではこ

    の結論などを受け 2011 年末に新規植込みを原則見合わせている。その後、テルモ社において、再度、当該事象及びその他の原因によるものも含め、磁気浮上

    エラーの発生件数について精査した結果、2011 年 12 月 22 日時点において、全世界で 30 件発生していたことが判明している。

    当該事象の発生傾向を確認した結果、2009 年後半から当該事象の増加傾向が

    認められており、当時の経皮ケーブルの製造に問題があったと考えられた。ま

    た、原因究明の結果、断線は金属疲労によるものであり、浮上位置センサ用の

    導線に多く発生し、断線箇所は経皮ケーブルのポンプ根元部(40mm 以内)に

  • 24

    集中していることが判明した。当該事象発生の原因については、①経皮ケーブ

    ル内の導線を固定するためのポッティング剤(エポキシ樹脂)の過充填(製造

    工程上の問題)、②体内での心拍動などによる繰返し応力による、経皮ケーブル

    への負荷とのことであり、②については、経皮ケーブルのポンプ根元部を屈曲

    させた状態で植込んだ場合に故障率が高いとのことであった。 この調査結果より、テルモ社では、原因①については既に生産工程の改善を

    実施し、原因②については、体内での心拍動等による繰返し応力を想定した屈

    曲試験系を構築の上、試験を行った結果から、経皮ケーブルのストレインリリ

    ーフの形状変更を今後実施するとのことである。 なお、本報告書作成の 2012 年 12 月現在において、磁気浮上エラーの発生件

    数は全世界で 43 件とのことであり、うち、血液ポンプが摘出され、分析の結果から、経皮ケーブル内導線の断線が確認されているものは14件とのことである。 また、テルモ社は、植込み施設に対して、動圧モードに移行した場合の患者

    及び装置の観察項目等についての注意事項などを情報提供している(別添 5-4)。 5.1.9 動圧モードへの一時的な移行 当該事象については 2 件(1 症例)の評価判定を実施しており、インペラの浮上位置が一時的に不安定な状態となり浮上エラーが発生し、動圧モードへ移行

    したものである。当該事象においては、1 症例で 2 件発生しており、1 件目についてはコントローラの交換、2 件目についてはコントローラに接続された両電源を一旦外し、再接続を行いコントローラをリセットしたことで正常浮上に復帰

    している。 当該事象については、1 件目の発生時に使用されていたコントローラ(コントローラ側の経皮ケーブルを含む 図 5-6 参照)の分析結果から、コントローラ側の経皮ケーブルは、導線の断線やショートは認められず、また、コントローラ

    に記録されたログより、中間コネクタより血液ポンプ側の経皮ケーブルについ

    ても、導線の断線やショートの徴候は認めらなったことから、血液ポンプ内に

    おいてインペラの浮上位置が一時的に不安定な状態となり浮上エラーが発生し、

    動圧モードへ移行したものと推察された。 当該事象はインペラの浮上位置が不安定になったために発生したものと推察

    され、当該装置の磁気浮上方式に関連した事象であることから、「判定Ⅱ」とし

  • 25

    た。

    5.2 EVAHEART における装置の不具合について EVAHEART については、11 事象の装置の不具合が発生しており、その詳細について以下に述べる。なお、図 5-7 に EVAHEART のシステム全体を、図 5-8 にコントローラ内のクールシールユニットの構造を示しておく。 図 5-7:EVAHEART システム

    図 5-6:コントローラ側経皮ケーブル

    コントローラ

    コントローラ側経皮ケーブル

    中間コネクタ

  • 26

    5.2.1 フィルタ目詰まりによる FPin 圧の上昇 当該事象については 11 件(10 症例)の評価判定を実施しており、クールシールユニット内のフィルタ(図 5-8 参照)入口側の圧力(FPin 圧)が上昇し、予定外にクールシールユニットの交換が必要となったものである。クールシール

    ユニットの定期交換は 3 ヶ月毎であるが、11 件全て 3 ヶ月以内に発生したものであった。 フィルタを分析した結果、フィルタには血漿成分中のたんぱく質、脂質が確

    認されており、血液中の血漿成分が血液ポンプの摺動部分からクールシール液

    流路側にしみ込み、フィルタが目詰まりしたために FPin 圧が上昇したとのことであった。クールシールユニットの使用期間である 3 カ月以内に発生した原因について、サンメディカル技術研究所社によると、初期の膜間差圧(FPin 圧-FPout 圧)が大きい中空糸では血漿成分を補足しやすく、フィルタの早期目詰ま

    フィルタ

    管路ブロック

    リザーバポート

    ダイアフラムポンプ

    図 5-8:クールシールユニットの構造

  • 27

    りとなっていたとのことであり、クールシールユニットのフィルタとして適切

    な膜間差圧となるよう、現在、対策を検討しているとのことである。

    当該事象は、クールシール液にしみ込んだたんぱく質等を補足するというフ

    ィルタ本来の機能を果たしているが、クールシールユニットの定期交換を 3 ヶ月毎と設定していることから、予定外にクールシールユニットの交換が必要と

    なった当該事象を装置の不具合として取扱うこととし、「判定Ⅱ」とした。 5.2.2 ダイアフラムポンプのネジの緩みによる水漏れ 当該事象については 1 件(1 症例)の評価判定を実施しており、コントローラからE-42アラームが発生し、クールシールユニット内のダイアフラムポンプ(図5-8 参照)上部のカバーを止めているネジ部から水漏れしていることが確認され、クールシールユニットが交換されたものである。 当該クールシールユニットを分析した結果、クールシールユニット内のダイ

    アフラムポンプ上部のカバーを止めている 4 箇所のネジのうち、1 箇所のネジが緩んでいたことが確認された。製造時にネジが緩んでいたために、使用中のダ

    イアフラムポンプ内の拍動で緩みが増し、水漏れに至ったものと推察されてい

    る。 当該事象の発生を受け、サンメディカル技術研究所社では、製造工程におけ

    るダイアフラムポンプの駆動検査時に、ネジ部からの水漏れがないことを全数

    検査する対策を実施したとのことである。 当該事象は、ネジの緩みが製造時の組立に起因した不具合と推察されること

    から、「判定Ⅱ」とした。 5.2.3 管路ブロックからの水漏れ 当該事象については 1 件(1 症例)の評価判定を実施しており、クールシールユニット内の管路ブロック(図 5-8 参照)から水漏れが確認され、クールシールユニットが交換されたものである。 当該クールシールユニットを分析した結果、管路ブロックに亀裂が生じたた

  • 28

    めに水漏れが発生したものである。この亀裂は、管路ブロックの流路作製工程

    時の樹脂による溶着作業において、溶着後の冷却時の体積変化が大きかったた

    めに、溶着部に残留応力がかかり、亀裂が生じやすくなっていたとのことであ

    った。 当該事象の発生を受け、サンメディカル技術研究所社では、残留応力を低減

    させるため、これまでの溶着作業後に、溶着部を電気ゴテにより再度溶かし、

    緩やかに冷やす作業を追加する対策を実施したとのことである。 当該事象は、管路ブロックの製造工程が原因と推察されていることから、「判

    定Ⅱ」とし、事務局を通じ、サンメディカル技術研究所社に対し、樹脂による

    接着工程そのものを見直すことができないのか指摘を行った。(第 6 回有害事象判定委員会 2012 年 7 月 24 日) これに対して、サンメディカル技術研究所社より、現行のクールシールユニ

    ットにおいて、管路ブロックを樹脂による溶着なしで製造することは困難であ

    るが、次世代コントローラのクールシールユニットについては、同一構造の管

    路ブロックを使用しない設計とするとの回答があった。 5.2.4 リザーバポートからの水漏れ 当該事象については 1 件(1 症例)の評価判定を実施しており、リザーバポー

    ト(図 5-8 参照)から水漏れが確認され、クールシールユニットが交換されたものである。 当該クールシールユニットを分析した結果、リザーバポートに亀裂が生じた

    ために水漏れが発生したことが判明した。リザーバポートは、クールシール液

    を貯留するリザーバと採液ポートを接続する部品であり、リザーバポートの内

    側に採液ポートが挿入されるが、内側に挿入された採液ポートから外側のリザ

    ーバポートに向けて継続的に力がかかったことで亀裂が生じたものと推察され

    ている(図 5-9)。

  • 29

    当該事象の発生を受け、サンメディカル技術研究所社では、採液ポートとリ

    ザーバポートの間に接着剤を塗布する対策を実施したとのことである。 当該事象は、リザーバポートと採液ポートの組立に起因した不具合と推察さ

    れていることから、「判定Ⅱ」とした。 5.2.5 ダイアフラムポンプの停止 当該事象については 1 件(1 症例)の評価判定を実施しており、コントローラから E-42 アラームが発生し、クールシールユニット内のダイアフラムポンプが停止していることが確認され、クールシールユニットが交換されたものである。 当該装置のクールシールユニット内には、クールシール液を循環させるため

    のダイアフラムポンプがあり、そのモータにはブラシモータが使用されている。

    当該クールシールユニットを分析した結果、ブラシモータ電極部の摩耗により、

    電極部の絶縁抵抗が低下したため、安全機構によりダイアフラムポンプが停止

    に至ったものであった。また、ブラシモータの電極部が摩耗した原因としては、

    クールシールユニットの EOG 滅菌における加圧・減圧の際に、ダイアフラムポンプのダイアフラム内側(流路側)と外側に圧較差が生じ、この圧較差により

    モータシャフトに負荷が加わり、電極部が摩耗したと推察されている。 当該事象の発生を受け、サンメディカル技術研究所社では、クールシールユ

    採液ポート

    リザーバポート

    図 5-9:リザーバポートと採液ポートの位置

  • 30

    ニット内のパッキンの設計変更を行い、圧較差が生じないよう対策を実施した

    とのことである。 当該事象は、クールシールユニットの滅菌工程において生じた圧較差が原因

    となり、ブラシモータの電極部が摩耗していることから、「判定Ⅱ」とし、事務

    局を通じ、サンメディカル技術研究所社に対して、当該事象を防止するために

    ブラシレスモータを採用することはできないか、指摘を行った。(第 6 回有害事象判定委員会 2012 年 7 月 24 日)

    これに対して、サンメディカル技術研究所社より、現行のコントローラにお

    いては新たな制御回路が必要となることからブラシレスモータを採用すること

    は困難であるが、次世代のコントローラについてはブラシレスモータを採用し

    た設計とするとの回答があった。

    5.2.6-1 E-30 アラームの多発 当該事象については 4 件(3 症例)の評価判定を実施しており、E-30 アラームが多発したために、クールシールユニットの流路洗浄やコントローラの交換

    が行われたものである。 当該事象は、血液ポンプのシール摺動部に血液たんぱく成分が付着したこと

    により回転障害が発生し、自動復帰機構が作動したため E-30 アラームが多発したものと推察されており、付着した血液たんぱく成分を除去するために、クー

    ルシールユニットの流路洗浄が実施されている。 なお、3 症例のうち 1 症例においては、クールシールユニットの流路洗浄の操

    作時に、洗浄チューブのプライミング操作に不備があり、流路内へ空気を混入

    させてしまったことから、混入した空気によりクールシール液の供給が不足し、

    摺動部の潤滑状態が変化したために、さらに E-30 アラームを多発させてしまったものである。 当該事象は、本来はクールシールユニットにより除去されるべき血液タンパ

    クが摺動面に付着したことにより当該事象が発生したと推察されることから、

    「判定Ⅱ」とし、事務局を通じ、サンメディカル技術研究所に対して、以下の

    指摘を行った。(第 6 回有害事象判定委員会 2012 年 7 月 24 日)

    1 点目として、報告された 1 症例においてクールシールユニットの流路洗浄時

  • 31

    に空気を混入させているが、混入した空気がクールシールユニットの流路から

    血液内へ入ってしまう可能性はないのか指摘を行った。 これに対して、サンメディカル技術研究所社より、水中における数μm 以下

    の気泡は、表面張力により安定して存在できず、再度水に溶け消滅するか、安

    定して存在できる大きな気泡を形成するが、当該装置のシール摺動部の隙間は 1μm 未満であることから、クールシール液流路内に空気が存在したとしても、気泡が血液側に混入することは考えにくいとの回答があった。ただし、流路洗

    浄時に大きな圧力をかけ、シール摺動部の隙間が乖離した場合は、気泡が血液

    側へ混入する可能性が否定できないことから、流路洗浄時に空気を混入させな

    いよう注意喚起を行っているとのことであった。 2 点目として、クールシールユニットの流路洗浄時に空気を混入させてしまっ

    た場合、流路洗浄を行うことで混入した空気を完全に除去することは可能であ

    るのか指摘を行った。 これに対して、サンメディカル技術研究所社より、クールシール液流路内に

    空気が混入した場合には、血液ポンプ内の空気を除去しやすくするために、患

    者を左側臥位(ドライブラインの皮膚貫通部を上)にし、さらに枕等により腰

    部を高くする体位にし、通常よりも多い量のクールシール液(注射用水)で流

    路洗浄することで、空気を除去することが可能であるとの回答があった。ただ

    し、流路内の隅に留まった小さな気泡については、完全に除去することは困難

    とのことであるが、このような気泡は血液ポンプの駆動に影響を与えるもので

    はないと考えているとの回答であった。 5.2.6-2 装置内血栓による E-30 アラームの多発 当該事象については 1 件(1 症例)の評価判定を実施しており、E-30 アラームが多発したため、流路洗浄が実施されたものであるが、当該症例については、

    その後、患者が死亡に至っており、摘出された血液ポンプを分析した結果、ポ

    ンプ翼部に巨大な血栓が認められた。 当該事象は、血液ポンプ翼部に認められた巨大血栓が血液ポンプのケーシン

    グに接触した際に、回転抵抗が増加し、E-30 アラームを頻発させていたと推察された。なお、巨大血栓が形成された要因については、「6.死亡」にて述べる。 当初、サンメディカル技術研究所社では、E-30 アラーム発生の要因は、シール摺動部への血液たんぱく等の付着による回転抵抗の増加のみと考えていた。

  • 32

    しかしながら、当該事象の発生を受け、E-30 アラームの発生要因として、血液ポンプ内に血栓形成の可能性があること、また、流量低下が認められた場合に

    はポンプ交換を検討するよう、植込み施設に対して情報提供を行っている(別

    添 5-5)。 当該事象は、血液ポンプ内に形成された血栓により E-30 アラームが多発したものであり、「判定Ⅱ」とした。

    5.2.7 制御系 IC 故障による消費電力値波形の異常 当該事象については 1 件(1 症例)の評価判定を実施しており、血液ポンプの回転数、患者の状態に変化はないが、外部モニタにて消費電力値波形の異常が

    確認されたものであり、コントローラの消費電力値計測系の不具合を疑い、コ

    ントローラが交換されたものである。 交換されたコントローラを分析した結果、回転制御を担う IC 部品の一つが故障していたために当該事象が発生したことが判明している。当該 IC 部品の故障については、報告された 1 件以外に同様事象の発生はなく、偶発的に発生した部品故障であると推察されることから、今後も当該事象の発生率を注視してい

    くとのことであった。 当該事象は、コントローラ内の部品故障が原因であることから、「判定Ⅱ」と

    した。 5.2.8 回転制御 IC 部品の故障 当該事象については 1 件(1 症例)の評価判定を実施しており、コントローラから断続的に E-30 アラームが発生し、バックアップコントローラに交換したところアラームが発生しなくなったことから、コントローラの故障が疑われたも

    のである。 コントローラを分析した結果、回転制御を担う IC 部品に接続された制御パラメータを決めるコンデンサが故障したことが判明している。当該コンデンサの

    故障については、報告された 1 件以外に同様事象の発生はなく、偶発的に発生

  • 33

    した部品故障であると推察されることから、今後も当該事象の発生率を注視し

    ていくとのことであった。 当該事象は、コントローラ内の部品故障が原因であることから、「判定Ⅱ」と

    した。 5.2.9 バッテリコネクタの L 字部の破損 当該事象については 8 件(7 症例)の評価判定を実施しており、バッテリコネクタの L 字接合部が剥離し(図 5-10)、ぐらつきが認められたため、バッテリが交換されたものである。なお、当該事象が発生したバッテリの使用期間は 15 日~404 日であった。

    当該装置のバッテリのコネクタ L 字部は溶着接合されているが、当該事象が

    発生したバッテリを分析した結果、L 字部に繰返し負荷がかかることで徐々に疲労破壊が進み、接合部の剥離に至ったものと推察された。 当該事象の発生を受け、サンメディカル技術研究所社では、バッテリコネク

    タの L 字部の接合方法を溶着から組み込みに変更し、繰返しの負荷に対して破損し難い構造とする対策を実施し、新たに供給を開始したとのことである。 当該事象発生までのバッテリ使用期間が、日常操作での繰返し負荷による破

    損としては早期に発生していることから、「判定Ⅱ」とした。

    図 5-10:溶着が剥離したバッテリコネクタ L 字部

    バッテリコネクタ全体

  • 34

    5.2.10 バッテリコネクタのロック機能不全 当該事象については 3 件(3 症例)の評価判定を実施しており、バッテリコネクタのロックが効かなくなったために、バッテリが交換されたものである。な

    お、当該事象が発生したバッテリの使用期間は 170 日、216 日、及び 251 日であった。 当該装置のバッテリのロック機構は、バッテリコネクタ表面にある羽根状の

    部品がコントローラ側のバッテリ接続部にひっかかることでロックがかかる機

    構となっている(図 5-11)。分析の結果、ロック機構の羽根状の部品が、バッテリの抜き差しにより変形したために、ロックがかからなくなったものと推察さ

    れた(図 5-12)。

    ロックがかかった状態

    ロックがかかっていない状態

    図 5-11:コネクタのロック機構部

    図 5-12:コネクタの断面

    バッテリコネクタ全体

    ロック機構羽状部品

  • 35

    バッテリの抜き差しについては、2 年間の使用を想定した繰返し着脱試験を実施し、耐久性に問題がないことを確認していたとのことであるが、当該事象の

    発生を受け、サンメディカル技術研究所社では、ロック機構部品を円筒状の部

    品で覆うことで、バッテリの抜き差しの際にロック機構部品が変形しないよう

    対策を実施し、新たに供給を開始したとのことである。 当該事象は、着脱試験において耐久性が確認されていた使用期間よりも早期

    に発生していることから、「判定Ⅱ」とした。

  • 36

    6.死亡 VAD 装着後の死亡について、5 症例の評価判定を行った。各装置別の内訳を表 6-1 に、各症例の詳細を表 6-2(DuraHeart)、表 6-3(EVAHEART)に示す。

    表 6-1.各装置別の内訳

    表 6-2.各事象の詳細(DuraHeart)

    有害事象

    J-MACS症例 治験又は臨床研究の継続症例

    DuraHeart EVAHEART DuraHeart EVAHEART

    死亡 1 症例 2 症例 ― 2 症例

    注1:( )内の症例数は、植込まれたLVADのポンプ台数に基づき算出

    No. 年齢 性別有害事象

    発生までの補助期間

    有害事象 判定結果**

    1 70歳代 男

    8日 大量出血(ポンプポケット、胸壁) 判定 B

    8日 神経機能障害(脳卒中(塞栓症):右半身筋力低下) 判定 B

    43日 装置の不具合(外部コントローラ) 判定 Ⅱ

    124日 大量出血(皮膚挿入部) 判定 B

    145日 装置の不具合(外部コントローラ)判定 Ⅰ

    判定 イ

    * *:判定結果欄の記号は別添1-2参照

  • 37

    表 6-3.各事象の詳細(EVAHEART)

    No. 年齢 性別有害事象

    発生までの補助期間

    有害事象 判定結果**

    1* 40歳代 男

    1544日 主要な感染(ドライブライン) 判定 A

    1546日 主要な感染(肺炎) 判定 C

    1795日 主要な感染(細菌性の感染) 判定 C

    1846日 呼吸不全判定 D

    判定 イ

    2* 50歳代 男

    2089日 主要な感染(ドライブライン) 判定 A

    2125日 神経機能障害(脳卒中(TIA):右下肢脱力) 判定 B

    2257日 神経機能障害(脳卒中(頭蓋内出血):昏睡状態)判定 C

    判定 イ

    3 40歳代 男

    163日 主要な感染(ドライブライン) 判定 A

    223日 主要な感染(菌血症) 判定 B

    271日 主要な感染(感染部位不明) 判定 C

    318日 主要な感染(菌血症)判定 B

    判定 イ

    326日 神経機能障害(脳卒中(頭蓋内出血):昏睡)判定 B

    判定 イ

    335日 装置の不具合(血液ポンプ)判定 Ⅱ

    判定 イ

    4 40歳代 女

    12日 神経機能障害(脳卒中(塞栓症):左半身麻痺)判定 B

    判定 イ

    12日 神経機能障害(脳卒中(頭蓋内出血):左半身麻痺)判定 D

    判定 ロ

    16日 神経機能障害(脳卒中(塞栓症):昏睡、脳ヘルニア)判定 B

    判定 イ

    *:治験または臨床研究の継続症例

    * *:判定結果欄の記号は別添1-2参照

  • 38

    DuraHeart における症例については、在宅管理中に患者自宅にて、外部コントローラに接続されていた 2 つの電源が両方とも外れた状態で、意識消失となっているところを発見された症例である。直ちに電源が接続され、装置は再起動

    したが、患者の意識は戻らず、医療機関へ搬送後に死亡が確認されたものであ

    る。当該症例は、両電源外れによるポンプ停止が死亡の原因と考えられること

    から、有害事象と死亡との因果関係は否定できないと考え、「判定イ」とした。

    なお、摘出された血液ポンプの分析結果より、血液ポンプ内に血栓等の付着は

    認められていない。 当該症例においては、コントローラに残されていたログ記録等を確認したが、

    両電源外れの原因は不明であった。しかしながら、前述(5.1.2 参照)した通り、両電源外れは重大な健康被害につながる事象であるため、テルモ社に対し、装

    置の構造の見直し等により、リスクを低減させるよう指摘した。 EVAHEART における 4 症例については、2 症例が J-MACS 症例であり、2 症例が治験からの補助継続症例であった。 表 6-3、No.1 の症例については、VAD 装着後、治験中に発生した脳梗塞、頭

    蓋内出血の影響により、喀痰等の自己喀出が困難となり、誤燕を繰返し、全身

    状態が悪化していた患者であった。在宅管理中、肺機能が低下したことから、

    医療機関へ搬送されたものの、同日、呼吸不全により死亡に至ったものであり、

    有害事象(呼吸不全)と死亡との因果関係は否定できないと考え、「判定イ」と

    した。なお、呼吸不全については、VAD 装着から約 5 年間、装置は正常に作動していたことから、VAD との関連性はないと考え、「判定 D」とした。 なお、摘出された血液ポンプの分析結果より、ポンプ翼部に微小な血栓が認

    められている。 No.2 の症例については、紫斑病性腎炎により入院中、昏睡状態となり、CTにて左脳中大脳領域に広範囲な頭蓋内出血を認め、その後、ICU にて加療していたが、頭蓋内出血発生から 9 日後に死亡に至ったものである。頭蓋内出血から脳ヘルニアとなり、脳死状態に至ったものと判断されており、有害事象と死

    亡との因果関係は否定できないと考え、「判定イ」とした。 なお、摘出された血液ポンプの分析結果より、微小な wedge thrombus が認められている。 No.3 の症例については、ドライブライン感染、菌血症等により入退院を繰り返していた患者であった。菌血症により入院中、右前頭葉に頭蓋内出血を認め

    昏睡状態となり、薬物治療及び脳ヘルニアに対する血腫除去・減圧開頭手術等

  • 39

    を施行。その後、腎機能低下、溶血を認め、頭蓋内出血発生から 16 日後に、全身浮腫、尿量減少、心肺停止状態、多臓器うっ血状態となり死亡に至ったもの

    である。 摘出された血液ポンプの分析結果より、ポンプ翼部にポンプ流入部をほぼ塞

    ぐ巨大血栓、アウトフローグラフトのポンプ接続部側に流路を狭窄させる血栓

    が認められており、心原性の血栓が血液ポンプ内に付着し増大した可能性、ま

    たは患者の全身感染(菌血症)に起因した血液ポンプ感染による血栓形成の可

    能性が推察され、これらの要因による血栓により、血液ポンプからの拍出量が

    低下、最終的に高度な心不全状態となり、死亡に至ったものと判断されている。 血液ポンプ内の血栓形成の要因としては、菌血症が起因した可能性が推察さ

    れており、その後に発生した頭蓋内出血による抗凝固療法の中止が、血栓を増

    大させ、最終的に巨大血栓の形成によりE-30アラームが頻発、拍出量が低下し、死亡に至ったものと考え、「判定イ」とした。 なお、頭蓋内出血については、菌血症からの感染性脳動脈瘤の破裂の可能性

    も否定できないと考える。

    No.4 の症例については、植込型 VAD 装着前に、体外式 VAD による補助が行われていた症例であり、INR 値 4.0~4.5 で管理されていたが血液ポンプ内への血栓形成傾向が強く、体外式 VAD 装着期間の約 3.5 ヶ月の間に 7 回のポンプ交換が実施されていた。植込型 VAD 装着 12 日後、左半身麻痺が発生し、CT により右中大脳動脈に塞栓症が確認されたものである。塞栓症に対し、脳血管内治

    療(カテーテル治療)を施行後、頭蓋内出血となり開頭手術を施行している。

    開頭手術 4 日後、意識消失となり、CT により左中大脳動脈、右内頸動脈に塞栓症が確認され、広範囲な大脳虚血との診断により治療適応外と判断され、脳ヘ

    ルニアから、翌日、死亡に至ったものである。 植込型 VAD 装着 12 日後、及び 16 日後に 2 回の塞栓症が発生しており、2 回

    目の塞栓症から脳ヘルニアとなり死亡に至っていることから、「判定イ」とした。 また、植込型 VAD 装着 12 日後の塞栓症に対する治療後に発生した頭蓋内出

    血については、実施されたカテーテル治療による合併症と考えられることから、

    「判定ロ」とした。 なお、当該症例においては、体外式 VAD 装着期間中に血栓形成によるポンプ

    交換が 7 回に行われていたこと、また植込型 VAD 装着後も 2 回の塞栓症を発生していることから、患者の血液凝固能に何らかの異常があった可能性も推察さ

    れた。 なお、摘出された血液ポンプの分析結果より、アウトフローグラフトに血液

    ポンプ停止後に形成されたと考えられる血栓が認められている。

  • 40

    7.おわりに 本報告書では、当委員会の第 1 回(2010 年 7 月 28 日開催)~第 7 回(2012年 12 月 11 日開催)の開催状況及び有害事象の評価判定結果等について報告した。 これまでに評価判定を行った有害事象の中には、装置の不具合において、安

    全性上、迅速な対応が必要と考えられた事象(DuraHeart:経皮ケーブル内導線の断線(詳細は 5.1.8 参照)、両電源外れによるポンプ停止(詳細は 5.1.2 参照))も認められた。 経皮ケーブル内導線の断線については、当委員会での評価判定の結果、新規

    の植込みの見合わせが望ましいと考えられたことから、この結果を速やかに

    J-MACS 運営委員会、及び業務委員会へ報告した(詳細は 5.1.8 参照)。当該事象については、現在、企業により対策が検討されているところであり、当委員

    会では、今後も発生状況を注視していきたいと考える。 また、両電源外れによるポンプ停止については、承認時から装置の仕様変更

    により、リスクを低減させるよう指摘されていたにもかかわらず、企業による

    速やかな対策が取られず、市販後において、重大な健康被害が発生しており、

    当委員会においても、当該事象が報告される度に、テルモ社に対して、装置の

    構造見直しを行うよう指摘してきた。2012 年 11 月に、当該事象の対策としてプロテクトカバー等が作製され、12 月中には全患者へ提供されることとなったが、当委員会では、今後も発生状況を注視していきたいと考える。

    なお、EVAHEART においては、E-30 アラームの原因が、治験時には認められなかった装置内血栓であった事象(詳細は5.2.6-2参照)も認められたことから、今後、注視が必要と考える。 また、神経機能障害において、各症例の INR 値の推移を確認した結果から、

    各装置の至適 INR 値の範囲について、今後、さらなる分析が必要と考えられた(詳細は 3.参照)。ただし、当委員会において検討されるデータは、有害事象が発生した症例のみであり、神経機能障害を発生してい