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よりよい人間関係づくりをめざす指導の在り方 -「人間関係づくりふくおかカリキュラム」の作成と 学級の実態に応じた活用を通して- 福岡市教育センター 人間関係づくり 長期研修員 西村 紀彦 山本 幸輝 G1103 平成 27 年度 研究紀要 (第996号) 近年,いじめ・不登校等の生徒指導上の諸問題の一因として,児童生徒 の人間関係を築く力(人間関係形成力)が十分身に付いていないことが挙 げられている。そうした中で,小中の学級担任は,人間関係形成力を育成 するために,どのように指導を行えばよいか模索している。 そこで,本研究では,小中9年間を通して系統的・計画的に人間関係形 成力を育成する「人間関係づくりふくおかカリキュラム」を作成し,学級 の実態に応じて活用する方途を明らかにしようと試みた。 まず,人間関係形成力を構成するスキルを自己他者理解力とコミュニケ ーション能力に分け,その力を発達段階に応じて指導できるように,めざ す児童生徒像,年間計画,学習指導案を提示した。さらに,学級担任が Q-U アンケートから学級の実態を分析し,本カリキュラムの年間計画を見直し て人間関係づくりの授業を実践した。 その結果,9年間を見据えた系統的な指導と学級の実態に応じた具体的 な指導の在り方が明らかになった。

よりよい人間関係づくりをめざす指導の在り方...研究紀要 よりよい人間関係づくりをめざす指導の在り方 -「人間関係づくりふくおかカリキュラム」の作成と

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よりよい人間関係づくりをめざす指導の在り方

-「人間関係づくりふくおかカリキュラム」の作成と

学級の実態に応じた活用を通して-

福岡市教育センター

人間関係づくり

長期研修員 西村 紀彦 山本 幸輝

G11-03

平成 27 年度

研究紀要

(第996号)

近年,いじめ・不登校等の生徒指導上の諸問題の一因として,児童生徒

の人間関係を築く力(人間関係形成力)が十分身に付いていないことが挙

げられている。そうした中で,小中の学級担任は,人間関係形成力を育成

するために,どのように指導を行えばよいか模索している。

そこで,本研究では,小中9年間を通して系統的・計画的に人間関係形

成力を育成する「人間関係づくりふくおかカリキュラム」を作成し,学級

の実態に応じて活用する方途を明らかにしようと試みた。

まず,人間関係形成力を構成するスキルを自己他者理解力とコミュニケ

ーション能力に分け,その力を発達段階に応じて指導できるように,めざ

す児童生徒像,年間計画,学習指導案を提示した。さらに,学級担任が Q-U

アンケートから学級の実態を分析し,本カリキュラムの年間計画を見直し

て人間関係づくりの授業を実践した。

その結果,9年間を見据えた系統的な指導と学級の実態に応じた具体的

な指導の在り方が明らかになった。

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目 次

第Ⅰ章 研究の基本的な考え方

1 主題について ···················································· 人間・長研‐1

(1)主題設定の理由 ·············································· 人間・長研‐1

(2)主題及び副主題の意味 ········································ 人間・長研‐4

2 研究目標 ························································· 人間・長研‐4

3 研究仮説 ························································· 人間・長研‐5

4 研究の構想······················································· 人間・長研‐5

5 研究の検証······················································· 人間・長研‐6

6 研究構想図······················································· 人間・長研‐6

第Ⅱ章 研究の実際

1 福岡市の学級担任における「児童生徒の人間関係づくり」

に関する意識や指導等の調査・分析 ···· 人間・長研‐7

2 「人間関係づくりふくおかカリキュラム」の作成 ···················· 人間・長研‐9

(1)めざす児童生徒像 ············································ 人間・長研‐9

(2)9年間を見通した発達段階の視点 ······························ 人間・長研‐9

(3)年間を見通した集団づくりの視点 ······························ 人間・長研‐12

(4)学習指導案の作成 ············································ 人間・長研‐13

3 「人間関係づくりふくおかカリキュラム」の活用 ···················· 人間・長研‐14

(1)小学校5年生におけるカリキュラムの活用 ······················ 人間・長研‐14

ア 実態把握 ················································ 人間・長研‐14

イ 年間計画の見直し ········································ 人間・長研‐15

ウ 実証授業 ················································ 人間・長研‐17

エ 分析・考察 ·············································· 人間・長研‐25

(2)中学校2年生におけるカリキュラムの活用 ······················ 人間・長研‐29

ア 実態把握 ················································ 人間・長研‐29

イ 年間計画の見直し ········································ 人間・長研‐31

ウ 実証授業 ················································ 人間・長研‐33

エ 分析・考察 ·············································· 人間・長研‐38

(3)「人間関係づくりふくおかカリキュラム」の考察 ················ 人間・長研‐42

第Ⅲ章 研究の成果と課題

1 研究の成果······················································· 人間・長研‐44

(1)「人間関係づくりふくおかカリキュラム」の作成について ········ 人間・長研‐44

(2)「人間関係づくりふくおかカリキュラム」の活用について ········ 人間・長研‐44

2 研究の課題······················································· 人間・長研‐44

3 まとめ ··························································· 人間・長研‐45

資料等 ······························································· 人間・長研‐46

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-人間・長研‐1

第Ⅰ章 研究の基本的な考え方

1 主題について

(1) 主題設定の理由

ア 今日的課題と教育の動向について

今日,少子化,核家族化,情報化等が急激に進み,児童生徒を取り巻く環境は大きく変化して

いる。家庭や地域社会において,人との関わり方を身に付ける機会や直接体験を通して学ぶ生活

体験,自然体験の機会が減少している。このことは,集団の中で人間関係をうまく築くことがで

きない児童生徒を生み,いじめや不登校等さまざまな問題を引き起こす一因と言われている。さ

らに,集団内の人間関係の希薄さや未熟さによる自己肯定感やコミュニケーション能力の低下が

指摘されている。

平成20年に改訂された小学校,中学校,高等学校の学習指導要領特別活動編の目標に「人間関

係」が加えられた。目標に「人間関係」を加えたのは,児童生徒が自分に自信がもてず,そして

好ましい人間関係が築けず,社会性の育成が不十分である現状を踏まえ,児童生徒が望ましい集

団活動を通して,よりよい人間関係を築くことをめざしたからである。さらに,指導計画の作成

と内容の取り扱いの2の(1)において,学級活動の充実すべき活動として「人間関係を形成す

る力を養う活動」が示され,学級活動において効果的に組み込んでいく工夫も必要になってきて

いる。

そうした中で,児童生徒が一日の大半を過ごす学校,学級は,児童生徒の自己肯定感を高め,

社会性を育成する人間関係の築き方を学ぶ集団の場として,その果たす役割はますます重要にな

ってきている。

イ 福岡市の不登校の実態から

福岡市の喫緊の課題として,不登校の問題が挙げられる。不登校児童生徒数調査によると,本

市全体の不登校児童生徒数は,平成22年から1000人を下回っているが,ここ5年間,横ばい状態

が続いている(図-1)。また,小学1年から中学3年までの間,学年が上がるにつれて増加し

ている。特に,中学1年における不登校生徒数は,小学6年の不登校児童数と比較して,毎年,

約4倍に急増している(図-2)。

福岡市不登校対策支援会議の報告書(H21)では,不登校児童生徒の実態の一つとして,「人

図-1 福岡市の不登校児童生徒数の推移

(平成27年学校教育指導の重点より)

図-2 福岡市の学年別不登校児童生徒数の推移

(平成26年教育委員会会議第18回資料より)

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-人間・長研‐2

間関係づくりが苦手」を挙げている。また,不登校を生まない取組について,「小学校から予防

的な観点での取組」「集団づくりを通した人間関係力の育成」「中1に対して,よりいっそう細

かく手厚い指導」の3点が示されている。したがって,本研究では,不登校を生まない未然防止

の対策を講じる上でも,小中の9年間を見通して人間関係を築く力を育成することが大切である

と考える。

ウ 福岡市の学級担任の意識調査から

福岡市の小・中学校28校の学級担

任(3 9 2人)に,児童生徒の人間関

係づくりに関する意識調査を行った。

調査結果から,学級担任から見た児

童生徒の課題と学級担任の人間関係

づくりの取組に対する課題が明らか

になった。

「学級づくりを進める上で困難に

感じていること」を尋ねた質問では,

「児童生徒同士の人間関係づくり」

という回答が最も多かった(図-3)。

では,学級担任は児童生徒の人間

関係づくりのどこに困難を感じてい

るのだろうか。学級担任から見た児

童生徒の課題は,「感情のコントロ

ールができない」「自分の考えを伝

えることができない」「傷つける言

葉を使う」の順に多かった(図-4)。

この結果から,学級担任は,学級集

団の中で,他者とうまくかかわれず

に感情的になる児童生徒や,自分の

気持ちや考えを適切に表現できない

児童生徒の対応に悩んでいるのでは

ないかと考える。

次に,学級担任は,Q-U アンケー

トをどれくらい活用することができ

ているのだろうか。「学級集団や個々

の児童生徒の課題をつかむことがで

きる」と回答した学級担任が80%に

達しているのに対し,「課題を改善

する取組に生かすことができる」と

回答した学級担任が50%程度だった

(図-5)。したがって,本市の学

0 50 100 150 200

感情のコントロールができない

考えを伝えられない

傷つける言葉を使う

話を聞けない

他者のよさに気づけない

自分に自信がない

協調性がない

自分のよさに気づけない

約束を守れない

その他

(人)

図-4 人間関係をうまく築けない児童生徒

4%

1%

4%

1%

74%

54%

77%

53%

22%

44%

18%

44%

1%

1%

1%

1%

個の実態把握

個への取組

集団の実態把握

集団への取組

よくできる できる あまりできない できない

図-5 Q-U による実態把握とその後の取組

0 20 40 60 80 100 120 140

児童生徒同士の人間関係

向き合う時間の確保

秩序やルール

見通しをもった学級経営

保護者対応

児童生徒との人間関係

特になし

教師同士の人間関係

その他

(人)

図-3 学級づくりを進める上で困難に感じていること

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-人間・長研‐3

級担任は,学級の実態を把握することはできているが,具体的な取組を行うことができていない

ことが分かる。

では,どのような人間関係づく

りの取組を実践したことがあるの

だろうか。人間関係づくりの取組

の一つとして,授業の中に構成的

グループエンカウンターやソーシ

ャルスキルトレーニング等を実施

したことがある学級担任は,全体

の9割である。また,構成的グル

ープエンカウンターは全体の約6

割,ソーシャルスキルトレーニン

グは全体の約5割の学級担任が実

践していることが分かる。(図-

6)。これらの手法は,「生徒指

導提要」第5章「教育相談」で,

人間関係を養う新たな手法として

示され,その効果は多くの研究論

文で示されている。本市の多くの

学級担任は,構成的グループエン

カウンター等の手法を人間関係づ

くりの授業として実施しているこ

とが分かった。

それでは,人間関係づくりの授

業を進める上でどのような課題が

あるのだろうか。調査結果から「授

業準備の時間がない」「どんな題材を選定すればよいか分からない」「学校・学年で計画的な取

組が行われていない」等が挙がった(図-7)。学級担任は,多忙で題材選びや授業準備の時間

を捻出できないことや,指導内容や方法に不安を感じ,計画的な授業を行うことができていない

ことに,困り感を感じていると考える。

以上の結果から本市の学級担任は,児童生徒の課題を解消したいという「おもい」はあるが,

Q-U アンケートを活用した効果的な人間関係づくりの取組を行うことができていないという課題

が分かった。また,多くの学級担任は,構成的グループエンカウンター等の手法を授業に取り入

れ実践しているが,児童生徒の実態にあった題材選びや計画的な取組に課題があることが分かっ

た。これらの課題解決のためには,学級担任の困り感の解消や資質向上に向けた支援が必要であ

る。

図-6 実践したことがある人間関係づくりの取組

0 50 100 150 200

授業準備の時間がない

題材の選定が分からない

計画的な取組が行われていない

特にない

授業の進め方が分からない

効果があるか分からない

児童生徒との信頼関係が築けない

児童生徒の実態に合わない

(人)

図-7 人間関係づくりの授業を進める上で悩んでいること

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-人間・長研‐4

(2) 主題及び副主題の意味

ア 「よりよい人間関係づくりをめざす指導」とは

(ア) 「よりよい人間関係」とは

中学校学習指導要領解説特別活動編(平成20年 文部科学省)では,望ましい人間関係について,

「豊かで充実した学級生活づくりのために,生徒一人一人が自他の個性を尊重するとともに,集

団の一員としてそれぞれが役割を果たし,互いに尊重しよさを認め発揮し合えるような開かれた

人間関係である」と示している。

そこで,本研究では,よりよい人間関係について,「自他のよさを理解し,進んで様々な人々

とコミュニケ―ションを図り,互いに協力し認め合える関係」であると考えた。そうしたよりよ

い人間関係を築くためには,他者との関わりの基盤となる自己他者理解力と他者と円滑な人間関

係を築くためのコミュニケーション能力の二つの力が必要だと考え,これらを合わせて,「人間

関係形成力」と位置付けた(図-8)。

(イ) 「よりよい人間関係づくり」とは

児童生徒が,学級活動で学んだ人間関係形成力を,日常生活の場面で生かしながら,自分の意

思や判断に基づいて,よりよい人間関係を求めて行動することである。

(ウ) 「よりよい人間関係づくりをめざす指導」とは

学級担任が,児童生徒や学級集団の実態を把握し,学級活動で人間関係づくりの授業を計画的

に実践することである。このような指導を通して,児童生徒の人間関係形成力が育成されると同

時に,よりよい学級集団が形成されると考える。

イ 「人間関係づくりふくおかカリキュラム」とは

小中9年間を通して児童生徒に人間関係形成力を育成する目的で,「めざす児童生徒像」「9

年間を見通した発達段階の視点」「年間を見通した集団づくりの視点」「学習指導案」から構成

されるカリキュラム試案のことである。

ウ 「学級の実態に応じた活用」とは

学級担任が,Q-U アンケートと普段の生活から児童生徒の実態を把握し,明らかになった課題

を解消するために,カリキュラムに配置された題材を適切に配置し直し,実践することである。

2 研究の目標

「人間関係づくりふくおかカリキュラム」の作成と学級の実態に応じた活用を通して,よりよい

人間関係づくりをめざす指導の在り方を明らかにする。

人間関係形成力

自他のよさを理解し,自己の個性を発揮しながら,様々な人々とコミュニケーションを図り,協力

し認め合って生活していく能力

自己他者理解力 コミュニケーション能力

自己理解を深め,他者の多様な個性を理解し,互

いに認め合うことを大切にして行動していく能力

互いに傷つくことなく,円滑に人間関係を広め

深めることができるための行動がとれる能力

図-8 めざす児童生徒像

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-人間・長研‐5

表-1 年間計画の見直しの視点

親和的まとまりのある集団 ゆるみの見られる集団 かたさの見られる集団 まとまりの見られない集団

学級生活に満足している

児童生徒が多くいる状態

他者から侵害感を感じて

いる児童生徒がある程度

いる状態

自分の存在感を感じられ

ない児童生徒がある程度

いる状態

学級生活に満足している

児童生徒と満足していな

い児童生徒が2極化して

いる状態

年間計画とおりに進める 話す,聞くスキルを学ぶ

コミュニケーション能力

の題材を中心に配置する

言語的な交流活動を行う

自己他者理解力の題材を

中心に配置する

身体的・ゲーム性の高い

自己他者理解力の題材を

配置する

3 研究の仮説

学級活動において,小中9年間を通して計画的に児童生徒の人間関係形成力を育成する「人間関

係づくりふくおかカリキュラム」を作成し,学級担任が,学級の実態に応じて活用すれば,よりよ

い人間関係づくりをめざす指導の在り方を明らかにすることができるであろう。

4 研究の構想

(1) 福岡市の学級担任における児童生徒の人間関係づくりに関する意識や指導等の調査・分析

福岡市の小・中学校28校の学級担任を対象に,「児童生徒の人間関係づくり」の実態について,

質問紙調査を実施する。質問紙を集計・分析し,本市の学級担任における人間関係づくりの指導

の現状と課題を把握する。

(2) 「人間関係づくりふくおかカリキュラム」の作成

ア めざす児童生徒像

小中9年間を「自己の理解」「自己の形成」「自己の確立」の3段階に分けて,段階ごとに人

間関係形成力を身に付けた児童生徒を設定する。

イ 9年間を見通した発達段階の視点

各段階で育成する自己他者理解力とコミュニケーション能力の各スキルを示した人間関係形成

力系統表を作成する。そして,作成した系統表を基に各スキルを育成する題材を選定する。

ウ 年間を見通した集団づくりの視点

選定した題材を集団づくりの時期や学校行事と関連させて配置した,各学年の年間計画を作成

する。

エ 学習指導案

学習活動の基本型を「ねらいを知る」,「約束を知る」,「体験をする」,「ふり返る」の4段階

で構成した学習指導案を作成する。

(3) 学級担任による「人間関係づくりふくおかカリキュラム」の活用

ア 実態把握

Q-U アンケートの結果と学級担任の聞き取りから児童生徒と学級集団の様子や課題を把握する。

さらに学級担任の人間関係づくりに対する意識を把握する。

イ 年間計画の見直し

年間計画に配置された題材を学級の実態に応じて,以下の視点で配置を変更する。

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-人間・長研‐6

ウ 実証授業

学級担任が,9月,10月,11月の学級活動で,見直した年間計画の題材を月1回実践する。

5 研究の検証

検証の内容と方法を以下に示す。

(1) 「人間関係づくりふくおかカリキュラム」の作成

学級の実態に応じたカリキュラムの活用を通して,「人間関係づくりふくおかカリキュラム」は

9年間の系統性を見据えた指導に有効であったか,学級担任への事後アンケートで検証していく。

(2) 学級の実態に応じたカリキュラムの活用

学級の実態に応じて,年間計画を適切に見直して,計画的に人間関係づくりの授業を実践するこ

とは,児童生徒の人間関係形成力の高まりに有効であったか,Q-U アンケートの変容と児童生徒の

自己評価,学級担任からの聞き取りで検証していく。

6 研究構想図

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-人間・長研‐7

行って

いる

8%

ある程度

行っている

48%

あまり

行っていない

37%

行って

いない

7%

図-11 人間関係づくりの取組を

系統的に実施しているか

第Ⅱ章 研究の実際

1 福岡市の学級担任における「児童生徒の人間関係づくり」に関する意識や指導等の調査・分析

(1) 調査の概要

児童生徒の人間関係づくりに関する意識や指導等の実態把握を目的に,福岡市各区の小学校と中

学校からそれぞれ2校ずつ抽出し学級担任を対象に,平成27年6月18日から6月25日の期間に,質

問紙による調査を実施した。質問紙の回答方法は,選択肢と自由記述とし,この質問紙の結果を踏ま

えて「人間関係づくりふくおかカリキュラム」を作成した。回答者数は以下のとおりである。(単位

は人)

質問内容に関する留意点として,設問中に「人間関係づく

りの取組」という表記が多く使用されるので,次のような但

し書きを質問紙の始めに記載した。

(2) 調査結果と分析

ア 系統的で計画的に行うことができる推進体制

本研究では,9年間を通して系統的・計画的に人間関係形

成力を育成していくことが重要であると考える。そのために

は,各学校で人間関係づくりの取組をどのような体制で実施

しているか把握する必要があると考えた。そこで,学級担任

に,「人間関係づくりの取組をどのような体制で行うことが

望ましいか」「人間関係づくりの取組をどのような体制で行

っているか」「系統的・計画的に実施しているか」尋ねてみ

た。

その結果,約5割

の学級担任が,「学

校全体での取組」が

望ましいと考えてい

ることが分かった

(図-9)。しかし,

実際は,図-10のよ

うに,学校全体での

取組」が約3割であ

区 東 博多 中央 城南 南 早良 西 計

小学校 38 30 38 11 28 27 35 207

中学校 25 20 22 26 26 34 32 185

学校全体

での取組

49%学年での

取組

37%

学級担任

の取組

14%

図-9 人間関係づくりの取組をどの

ような体制で行うことが望ましいか

行って

いる

8%

ある程度

行っている

55%

あまり

行っていない

32%

行っ

てい

ない

5%

図-12 人間関係づくりの取組を年間を見

通して計画的に実施しているか

学校全体

での取組

26%

学年での

取組

43%

学級担任

の取組

28%

図-10 人間関係づくりの取組を

どのような体制で行っているか

【人間関係づくりの取組】

児童生徒同士の関係がよりよいものになるよう学級担任側

から働きかける活動のすべて

(※上記の考えは,「人間関係づくりの取組」を定義したもので

はなく,アンケートに答えていただくための表現である。)

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-人間・長研‐8

り,「学年での取組」が約4割と一番多い結果であった。さらに,系統的に人間関係づくりの取

組を実施している学校が約5割(図-11),年間を見通して計画的に実施している学校は,約6

割の結果であった(図-12)。

この結果から,人間関係づくりの取組を学校全体で系統的・計画的に取り組むことについては,

課題があると考える。そこで本研究では,発達段階に応じて計画的に実施することができる人間

関係づくりのカリキュラムを作成する必要があると考えた。

イ 人間関係づくりに効果があると考える場面

本研究では,学級活動で「人間

関係づくりふくおかカリキュラ

ム」を実施したいと考えている。

そこで,学級担任が「人間関係づ

くりに効果があると考える場面」

について尋ねてみた。その結果,

小学校では,「学級活動」「教科」

「学校行事」の順に回答した人数

が多かった(図-13)。中学校で

は,「学校行事」「学級活動」「部

活動」の順に回答した人数が多か

った。この結果から,小・中共通

して,「学級活動」と「学校行事」

が人間関係づくりに効果があると考えていることが分かった。

本研究では,児童生徒の人間関係形成力を高めるために,学級活動で,人間関係づくりの授業

と学校行事を関連して実施すると効果をより上げることが期待できると考える。

ウ 人間関係を築く時期として大切にしている時期

本研究では,年間を通して計画的に児童生徒の人間関係形成力を育成するために,人間関係づ

くりの授業を毎月実施したいと考えている。そこで,学級担任に「児童生徒の人間関係を築く時

期として,特に重要であると思われる時期と理由」について尋ねた。その結果,小・中では大き

な差異は見られず,4月,

5月,9月,1月と回答し

た人数が極めて多かった

(図-14)。各時期を選ん

だ理由は,図-15のとおり

であった。この結果から,

学級担任は,長期休業明け

の4月,9月,1月と,運

動会や合唱コンクール等の

大きな行事がある5月,10

月の2つの期間を,人間関

係づくりの時期として特に

重要だと考えていることが

0 20 40 60 80 100 120 140 160

学級活動

各教科

学校行事

係活動

朝・帰りの会

道徳

給食

掃除

児童・生徒会活動

クラブ活動・部活動

総合的な学習の時間

小学校

中学校

(人)

図-13 人間関係づくりに効果があると考える場面

0 20 40 60 80 100 120 140 160 180 200

4月

5月

6月

7月

9月

10月

11月

12月

1月

2月

3月

小学校

中学校

(人)

図-14 人間関係を築く時期として大切にしている時期

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-人間・長研‐9

分かった。

本研究では,児童生徒の人間関係づく

りの授業を長期休業明けの4月,9月,

1月と,大きな行事がある5月,10月の

2つの時期に重点を置きながら,題材を

配置していく必要性があると考えた。

以上の結果から,本研究では,系統的・

計画的に人間関係形成力を育成する「人

間関係づくりふくおかカリキュラム」を

作成することは,調査結果から見ても,

大変意義深いことであると考える。さら

に,作成にあたり,学級担任が人間関係

づくりの取組に効果があると考えている場面や時期等を考慮して作成する。

2 「人間関係づくりふくおかカリキュラム」の作成

本研究では,よりよい人間関係を「自他のよさを理解し,進んで様々な人々とコミュニケ―ショ

ンを図り,互いに協力し認め合える関係」と考えた。そうしたよりよい人間関係を築くためには,

人間関係形成力を育成する必要があると考えた。そこで,小中9年間を通して,児童生徒の人間関

係形成力を育成する目的で,「人間関係づくりふくおかカリキュラム」を作成する。以下に,作成

した手順を示す。

(1) めざす児童生徒像

小中9年間を「自己の理解」,「自己の形成」,「自己の確立」の3つの段階に分け,各段階の

人間関係形成力を身に付けためざす児童生徒像を設定した(図-16)。

(2) 9年間を見通した発達段階の視点

ア 身に付けさせたい力

発達段階で,身に付けさせたい自己他者理解力とコミュニケーション能力を位置付けた人間関

係形成力系統表を作成した(資料-1)。系統表を作成するにあたり,まず,自己他者理解力を二

つのスキル「自己理解」「他者理解」,コミュニケーション能力を三つのスキル「話す」「聞く」

「ストレスマネジメント」に細分化した。次に,細分化したスキルの内容を発達段階ごとに示し

た。

4月 出会いの時期,学級づくりのスタート

5月 学校生活に慣れてくる頃,運動会・体育会の実施時期

9月 夏休み明け,人間関係の変化が生じやすい時期

10月 友達と仲を深める時期,合唱コンクールの実施時期

1月 冬休み明け,学級づくりの仕上げの時期

図-15 各時期を選んだ主な理由

前期 接続期 後期

小1 小2 小3 小4 小5 小6 中 1 中2 中3

自己の理解 自己の形成 自己の確立

自他のよさに気付き,

仲良く助け合って生活

する児童

自他のよさを理解し,

他者と関わり,協力し

合って生活する児童

自他のよさ認め合い,進んで他者と

関わり,協力し合って生活する児童

生徒

自他の個性を認め合い,

誰とでも協力し,互いの

よさを発揮し合って生活

する生徒

図-16 めざす児童生徒像

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-人間・長研‐10

イ 題材の選定

作成した系統表を基に各スキルを育成する題材を選定した。各発達段階で題材を選んだ基準を

示す。

(ア) 自己他者理解力

自己他者理解力とは,「自己理解を深め,他者の多様な個性を理解し,互いに認め合い行動す

る能力」と考える。本カリキュラムでは,「自分や他者のよさに気付く」「協力して成功体験を

味わう」ことをねらいとした題材を主に選定した(図-17)。

(イ) コミュニケーション能力

コミュニケーション能力とは,「互いに傷つくことなく,円滑に人間関係を広め深めることが

できるための行動がとれる能力」と考える。本カリキュラムでは,自分や相手を大切にした話し

方や,相手が話しやすくなる聞き方,欲求やストレスに適切に対処することをねらいとした題材

を選定した(図-18)。

発達段階 ねらい 主な活動

自己の理解

(小 1・小2)

自分や友達のよさに気付く

ことができる。

身体的活動やゲーム的な活動を通して,自他の

よさに気付くことができる活動を行う。

自己の理解

(小3・小4)

自分や友達のよさを理解す

ることができる。

身体的な活動やゲーム的な活動を通して,自己

理解・他者理解の活動を行う。

自己の形成

(小5・小6・中1)

自分や友達のよさや違いを認め

ることができる。

身体的な活動や言語的な活動を通して,自己受

容・他者受容を中心とした活動を行う。

自己の確立

(中2・中3)

自他の考え方,とらえ方の違

いを理解することができる。

協力して成功体験を味わう活動を通して,他者

の価値観を知ることができる活動を行う。

図-17 発達段階における自己他者理解力を高める題材の選定基準

発達段階 ねらい 主な活動

自己の理解

(小 1・小2)

きまりを守って,班の友達と

人間関係を築くことができ

る。

基本的な「話す・聞く」スキルを習得する活動

を行う。いろいろな感情について学ぶ。

自己の理解

(小3・小4)

きまりを守って,学級内の友

達と人間関係を築くことがで

きる。

自分の意見や気持ちを伝え,友だちの気持ちを

理解した聞き方を習得する活動を行う。いろい

ろな感情を言葉で適切に伝える方法を学ぶ。

自己の形成

(小5・小6・中1)

思いやりをもって,異年齢の友達

と進んで人間関係を築くことが

できる。

問題を解決する方法や異学年の仲間と関わる

方法等を習得する活動を行う。ストレスの対処

法について学ぶ。

自己の確立

(中2・中3)

他者の気持ちに配慮しなが

ら,様々な人々と進んで人間

関係を築くことができる。

他者に配慮しながら,自分の気持ちをしっかり

伝えたり,他者の意見を聞いたりする活動を行

う。ストレスの対処法について学ぶ。

図-18 発達段階におけるコミュニケーション能力を高める題材の選定基準

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-人間・長研‐11

資料-1 人間関係形成力系統表

前期 接続期 後期

小 1 小 2 小 3 小 4 小 5 小 6 中 1 中 2 中 3

めざす児童生徒

自己の理解 自己の形成 自己の確立

自他のよさに気付き,仲

良く助け合って生活する

児童

自他のよさに気付き,他

者とかかわり,協力し合

って生活する児童

自他のよさや違いを認め合い,進んで

他者とかかわり,協力し合って生活す

る児童生徒

自他のよさや違いを認め

合い,誰とでも協力し,

互いのよさを発揮し合っ

て生活する生徒

人間関係形成力

自他のよさを理解し,

自己の個性を発揮しな

がら,様々な人々とコ

ミュニケーションを図

り,協力し認め合って

生活する能力

自己他者理解力

自己理解を深め,他者の多様

な個性を理解し,互いに認め

合うことを大切にして行動

していく能力

自分や友達のよさに気付

くことができる。

自分や友達のよさを理

解することができる。

自分や友達のよさや違いを認めるこ

とができる。

自他の考え方や個性の違

いを認めることができ

る。

【自己理解】

自分のよさに気付くこと

ができる。

【自己理解】

自分のよさを理解する

ことができる。

【自己理解】

自分のよさを認めることができる。

【自己理解】

自分の個性を認めること

ができる。

【他者理解】

友達のよさに気付くこと

ができる。

【他者理解】

友達のよさを理解する

ことができる。

【他者理解】

友達のよさを認めることができる。

【他者理解】

友達の個性を認めること

ができる。

コミュニケーション能力

互いに傷つくことなく,円滑

に人間関係を広め深めるこ

とができるための行動がと

れる能力

決まりを守って,班の友

達と進んで人間関係を築

くことができる。

決まりを守って,学級内

の友達と進んで人間関

係を築くことができる。

思いやりをもって,異年齢の友達と進

んで人間関係を築くことができる。

他者の気持ちに配慮しな

がら,様々な人々と進ん

で人間関係を築くことが

できる。

【話す】

自分の気持ちを伝えるこ

とができる。

【話す】

自分の考えや思いを大

切にし,相手にはっきり

と伝えることができる。

【話す】

相手の思いを大切にしつつ,自分の考

えや思いを大切にし,相手にはっきり

と話すことができる。

【話す】

具体例を入れて自分の意

見を話したり,表情や身

振りを交えて話したりす

ることができる。

【聞く】

話す人の方を向いて最後

まで話を聞くことができ

る。

【聞く】

うなずいたり,目を見た

りしながら,相手を大切

にした聞き方ができる。

【聞く】

質問を入れながら,相手を大切にした

聞き方ができる。

【聞く】

姿勢や表情など話し手が

話しやすいような態度で

聞くことができる。

【ストレスマネジメント】

いろいろな感情について

知ることができる。

【ストレスマネジメント】

不安への対処の仕方に

ついて理解することが

できる。

【ストレスマネジメント】

悩みへの対処の仕方について理解す

ることができる。

【ストレスマネジメント】

欲求やストレスに対して

適切に対処し,心身の調

和を保つことができる。

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-人間・長研‐12

(2) 年間を見通した集団づくりの視点

ア 人間関係形成力と学級集団の関係性

児童生徒の人間関係形成力は,他者とのかかわ

りの中で育成されていくと考える。そのため,児

童生徒が所属する学級集団がどのような状況であ

るかということは,とても重要な要因になる。所

属する学級集団が学習規律やルールが守られ,児

童生徒同士が互いに関わり,児童生徒それぞれの

人格が尊重され,互いをより高め合っていくこと

で,人間関係形成力が高まると考える。河村茂雄

氏は,「よりよい学級集団にするためには,ルー

ルとリレーションの二つの要素が学級内に同時に確立していることである。」と述べている。河

村は,ルールについて,「児童生徒同士の対人関係を建設的に促進し,互いが傷つくことなく,

より対人関係を広め深めることができるための行動の仕方のシステムである。」述べている。岡

田弘氏は,リレーションを「あたたかな人間関係」とし,「自他を理解し,認める関係ができれ

ば,それは存在の肯定となる。肯定的に認め合う関係が,あたたかな人間関係づくりとなる。」

と述べている。

これらのことから,本研究では,児童生徒の人間関係形成力を構成する自己他者理解力とコミ

ュニケーション能力を育成することは,よりよい学級集団のリレーションとルールの形成につな

がり,さらに,学級集団のルールとリレーションの形成をめざす指導は,自己他者理解力とコミ

ュニケーション能力の育成につながると考える(図-19)。

イ 題材の配置

題材の年間の配置は,次の手順で

行った。まず,アンケートの調査結

果(表-2)から集団づくりの時期

を「出会い」,「気付き」,「協力」,

「認め合い」の四つの時期を設定し,

集団づくりのねらいを整理した。次

に集団づくりの時期とねらい,学校

行事と関連した集団づくりの要素(リレーションとルール)と育成するスキルにあった題材を配

置した(表-3)。また,「自己の理解」の段階では,「コミュニケーション能力」の題材を多

く取り入れている。

表-2 アンケート調査と集団づくりの時期との関連

月 どんな時期だと思うか 時期

4 出会い,学級づくりのスタート 出会い

5~7 運動会,学校生活に慣れてくること 気付き

9~12 行事が多い,学級の仲を深める 協力

1~3 学級づくりの仕上げ,次年度の準備期間 認め合い

図-19 人間関係形成力と学級集団の関係性

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-人間・長研‐13

表-3 年間の集団づくりの時期,ねらい,要素,育成するスキルとの関連(中学校1年生)

時期 月 ねらい 要素 スキル 題材名

出会い 4月 ・自己紹介を兼ねた他者との出会い リレーション 他者理解 私はキャスター

気付き

5月 ・運動会を通して,自己や他者のよさに気付く リレーション 自己理解,他者理解 黙って

コミュニケーション

6月 ・落ち着いた学校生活を送る

・円滑に人間関係を広める

ルール 話す ねん土とこねる人

7月 ルール 聞く スイッチ

協力

9月 ルール 話す,聞く 紙をつかって

10月 ・学んだスキルを生かして,様々な学校行事

で他者と協力する

・他者との考えの違いに気付く

リレーション 自己理解,他者理解 人間コピー

11月 リレーション 自己理解,他者理解 ぼくらのリーダー

12月 リレーション 自己理解,他者理解 ぼくらの先生

認め合い

1月 ・悩みへの対処の仕方を学ぶ ルール ストレスマネジメント いろいろな考えを

してみよう

2月 ・自分のことを他者に伝える リレーション 自己理解 自分探し

3月 ・学級での所属感を実感する リレーション 自己理解 別れの花束

(4) 学習指導案の作成

「人間関係づくりふくおかカリキュラム」の題材は,体験を通して児童生徒が感じた思いを友

達同士でわかち合うことで,学びを深めていく学習である。人間関係づくりの授業は,学習活動

を「ねらいを知る」,「約束を知る」,「体験をする」,「ふり返る」の四つの段階で行う。さら

に,「自己他者理解力」と「コミュニケーションの能力」の題材は,図-20に示す指導内容で,

学習指導案を作成する。

図-20 題材の展開の仕方

① ねらいを知る

② 約束を知る

③ 体験をする

④ ふり返る

コミュニケーション能力

・学習するスキルを習得する意義

を示す。

・スキルの説明・モデルの例示・

ルールを確認させる。

・課題演習をさせる。

・体験を通して,うまくできたこと

を称賛する等の評価を与え,スキ

ルを使う意欲を高めさせる。

自己他者理解力

・ウォーミングアップをする。

・本時のねらいを明確に示す。

・エクササイズの説明・例示・

ルールを確認させる。

・課題演習をさせる。

・体験を通して,学んだこと,考えた

こと,感じたことのふり返りをして,

わかち合わせる。

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-人間・長研‐14

3 「人間関係づくりふくおかカリキュラム」の活用

(1) H小学校5年生におけるカリキュラムの活用

ア 実態把握

(ア) 学級集団の実態

6月に実施した Q-U アンケートの結果を見

ると,学級生活満足群が31%(9人),非承認

群が17%(5人),侵害行為認知群が21%(6

人),学級生活不満足群が31%(9人)であっ

た(図-21)。

この結果によると,四つの群に点在化してお

り,学級生活に満足している児童から,存在感

を十分に感じられていない児童まで階層化して

いることが分かる。侵害行為認知群と学級生活

不満足群に属している児童が52%と,侵害得点

が高い傾向にある。被侵害得点の質問項目「嫌

なことを言われたり,からかわれたりしてつら

い」では,「とてもそう思う」「少しそう思う」と答えた児童は52%と高く,学級の中で身勝手

な言動や相手を傷つける言動があり,他者とよりよい人間関係を築けていない児童がいることが

推察される。さらに,承認得点の質問項目「運動や勉強等でクラスの人から認められることがあ

る」では,「まったくない」「あまりない」と答えた児童が38%いることから,学級の中で互い

のよさを認め合う関係が築けていないことが分かる。以上のことを踏まえ,学級担任から聞き取

りをすることで,学級集団の課題を2点とらえた。

○ 自分がされたことに対してやり返す,友達の失敗に批判的,攻撃的になる等侵害感が強い児

童が多い。

○ 他者のよさに気付いたり,互いに認め合ったりする意識が低い。

これらの実態から,学級の中で一人一人のよさを認め合うような関係が十分に育っていないた

めに階層化していると考えた。

(イ) 抽出児童 A 児の実態

実証にあたって,Q-U アンケートの結果と学級担任への聞き取りから,抽出児童を1人設定し

た。

A 児は,学級生活不満足群に属し,その中でも被侵害得点が一番高い児童である。質問項目「自

分が発表する時ひやかさずにしっかり聞いてくれる」では,「まったくない」と回答しており,

学級内で友達から認められていないと感じていることが分かる。学級担任への聞き取りでは,A

児は自己主張が強く,相手に対する侵害行為も多く見られる反面,自分がされたことに対して過

敏で,被侵害感が強い児童であることが分かった。

以上のことから,A 児は,学級の友達に自分を認めてほしいという強い思いはあるが,言動が

その思いについていかず,友達とよりよい人間関係を築けていない児童であることが分かった。

(ウ) 学級担任の人間関係づくりに対する意識

学級担任は30代の男性教諭である。学級担任との面接では,学級づくりを進める上で「児童生

徒の人間関係づくり」に困難を感じていることが分かった。また,児童の人間関係づくりの取組

9

10

11

12

13

14

15

16

17

18

19

20

21

22

23

24

6789101112131415161718192021

要支援群

A児

図-21 6月に実施した Q-U 学級満足度尺度

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-人間・長研‐15

表-4 カリキュラムの配置

時期 9月 10 月 11 月

題材名 自然教室SOS! 世界に一つしかない自分の

名刺をつくろう 新製品コマーシャル

育てるスキル 自己理解・他者理解 自己理解・他者理解 自己理解・他者理解

活動のねらい

グループでの交流活動を通

して,自他よさに気付くこ

とができる。

夢を語る体験を通して,自

他のよさを理解することが

できる。

グループでの表現活動

を通して ,自他のよさを認

めることができる。

行事との関連 自然教室SOS!

自然教室

世界に一つしかない自分の名刺をつくろう

学習発表会

新製品コマーシャル

取り組ませる

集団の人数

自然教室の活動班

6人組 4人組 5人組

ルール 友達の考えを大切にす

る 等

わるふざけやからかい

をしない 等

先生の話やルールを守

る 等

活動時間

ねらいを知る 2分

約束を知る 3分

体験をする 30分

ふ り 返 る 10分

ねらいを知る 2分

約束を知る 3分

体験をする 30分

ふ り 返 る 10分

ねらいを知る 3分

約束を知る 7分

体験をする 25分

ふ り 返 る 10分

活動レベル 自分の考えや想いを伝えなくてはいけないもの

活動内容に伴

う留意点

グループで話し合うときは,全員

が一人一回意見を言うようにす

る。

事前に将来の夢について考えて

記録しておく。

児童が発想しやすいお

題にし,考える時間を

十分に与える。

では,年間を見通した計画的な学級経営が必要だと感じている。実際に,一年間を通して人間関

係づくりの取組をやろうと準備をしたが,単発的な取組で終わってしまっている。

イ 年間計画の見直し

これらの実態を学級担任と話し合う中で,2学期は,まず,安心して互いに関わり合うことが

できるように,多様性を認め合えるような関係を育成していくことが必要であると考えた。その

ためには,友達に関心をもち,相手の考えを理解しようとする場を作ったり,一人一人のよさを

認め合えるような場を仕組んだりして行く必要があると考える。また,自己主張の強い A 児に不

満をもつ児童もいるので,一人一人のよさを認め合えるような関係づくりをすることで,学級生

活に満足する児童が増えると考える。そこで,児童同士のふれ合いを中心とした自己他者理解力

の題材を配置することで,児童の自己他者理解力が高まり,よりよい学級集団を育成することが

できると考えた。さらに,実証学級では,10月に自然教室,11月に学習発表会と大きな行事があ

るので,学校行事と関連付けて実施することで,互いをより理解し合い,行事前に集団の結束力

と意欲を高めることにつながると考える。

そこで,学級の実態に合わせてカリキュラムを活用するために,小学校5年生の年間計画(資

料-2)を表-4のように構成し直した。

まず,9月の題材は,自己や他者のよさに気付くことをねらいとするために,自己他者理解力

の題材「自然教室SOS!」を配置した。10月に自然教室があるので,自然教室に関連する題材

を配置することで,活動班で協力して課題解決に取り組み,友達の多様な考えを知ることができ

ると考えた。

10月の題材では,自己や他者のよさを理解することをねらいとするために,自己他者理解力の

題材「世界に一つしかない自分の名刺をつくろう」を配置した。将来の夢を話したり,他者の夢

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-人間・長研‐16

資料-2小学校5年生 年間計画

学期

集団づくり 出会い

月 4月 5月 6月 7月 9月 10月 11月 12月 1月 2月 3月

行事 始業式 運動会 自然教室 学習発表会 修了式

要素 リレーション ルール ルール リレーション ルール リレーション リレーション ルール リレーション リレーション リレーション

題材名 探偵ごっこじょうずにたずねよう

こんにちはブラインド・ウォーク

さわやかな頼み方を考えよう

自然教室SOS!世界に一つしかない自分の名刺をつくろう

リラックスして すごろくトーク新製品コマーシャル

別れの花束

スキル 他者理解 聞く 話す自己理解他者理解

話す自己理解他者理解

自己理解他者理解

ストレスマネジメント

自己理解他者理解

自己理解他者理解

自己理解他者理解

ねらい

質問に該当する友達を探し出す活動を通して,互いの情報を交換し合い,他者のよさに気付く

不明な点について質問することの重要性に気付き,「質問のポイント」を適切に使った尋ね方を身に付ける

学校行事や学習活動で合う人に対する自分のあいさつをふり返り,あいさつの改善点について考え,気持ちのよいあいさつについて学ぶ

目隠したり,誘導したりして,自分の感じ方や相手の感じ方を体験的に受けとめ,自他のよさに気付く

相手の気持ちや立場を考え,さわやかに頼む言い方を学ぶ

グループでの交流活動を通して,友だちの多様な考え方を知ることで,互いを認め合える人間関係を築く

自分の夢に関する名刺を作り,夢を語る体験を通して,自他のよさに気付く

ストレス対処法の一つとして,身体をリラックスさせるリラクゼーション法を体験し,そのやり方を身に付ける

すごろくトーキングを通して、自己開示し合うことで、自他のよさを気付く

コマーシャルをグループで話し合い,そのコマーシャルを発表する活動を通して,自他のよさをに気付く

他者との肯定的な関わりを通して,自他のよさに気付き,自己肯定感や他者肯定感を深める

【他者理解力】

自分のよさを認めることができる 友達のよさを認めることができる

自分や友だちのよさや違いを認めることができる

認め合い

三学期

相手の思いを大切にしつつ,自分の

考えや思いを大切にし,相手にはっきりと伝えることができる

質問を入れながら,相手を大切にした聞き方ができる

悩みへの対処の仕方について理解できるようにする

一学期 二学期

気づき 協力

小学校5年生 年間計画めざす児童生徒

自己の形成 自他のよさや違いを認め合い,進んで他者とかかわり,協力し合って生活する児童生徒

人間関係形成力

他者の気持ちに配慮しながら,様々な人々と進んで人間関係を築こうとする

【話す】 【聞く】 【ストレスマネジメント】

自己他者理解力 コミュニケーション能力

【自己理解力】

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-人間・長研‐17

を聞いたりする活動をすることで,自分や友達の新たな一面を知る体験を通して,自己・他者理

解を図ることができると考えた。

11月の題材では,自己や他者のよさを認めることをねらいとするために,自己他者理解力の題

材「新製品コマーシャル」を配置した。グループでの表現活動を通して,自分の役割を果たした

り,友達の考えを受け入れたりすることで,自他を肯定的に受けとめることができると考えた。

ルールは,児童が安心して活動ができるように,「先生の話やルールを守る」「わるふざけやか

らかいをしない」「友達の考えを大切にする」の三つを提示することにした。

ウ 実証授業

(ア) 実証授業1 9月「自然教室SOS!」

① 題材のねらい ○ 友だちの多様な考え方を知り,互いを認め合える人間関係を築く。

○ 自分の考えを主張する。

② 検証の視点 グループでの交流活動を通して,自他のよさに気付くことができる。

展開 主な学習活動と内容

1 本時学習のめあてをつかむ。

2 本時のエクササイズ「自然教室 SOS!」とその進め方を知

る。

○ 「非常事態に陥ったときにどうするか」という課題につ

いて,グループで話し合いを行い,全員の合意によってグ

ループ決定をする。

3 「自然教室SOS!」をする。

(1) 課題1をグループで考える。

① グループで話し合い,グループの意見を決定する。

② グループ毎に発表する。

(2) 課題2をグループで考える。

① 課題2を読み,個人決定をする。

② グループで話し合い,グループの意見を決定する。

③ 全体で交流する。

4 ふり返りをする。

(1) ふり返りシートに記入する。

(2) グループでふり返りをする。

(3) 教師の話を聞く。

めあて

進んで自分の考えを話したり,友達の話を聞いたりして,

自分や友達のいいところを見つけよう。

課題1 グループで相談し,次のどちらの方法をとるか

決めましょう。

ア 付近の安全な場所にとどまり,助けを待つ。

イ 町(住宅地)まで,歩いて行く。

課題2 バスの中には,12 の品物がありました。バスが燃

えてしまう前に取り出すことができたのは,そのうちの5

つだけでした。皆さんが生き残るために必要な5つの品物

を選びましょう。まずは,一人で考えてから,グループで

考えましょう。

資料-3 グループで話し合っている様子

資料-4 実証授業1の児童のふり返りシート

・ 活動を通して,自分の考えを話し,友

達の考えを聞けたのでよかった。

・ 班のみんながどんどん意見を出してい

て,友達の意見を聞くのが面白かった

し,楽しかった。

・ 今日の活動を通して,いろんな意見が

出て,そういう考えもあるんだなと思っ

た。

・ 友達の意見を大切にできたので,よか

った。友達と協力してがんばりたい。

・ リーダーとしてまとめることが簡単に

できなかったので,もっとみんなに声を

かけてやっていきたい。

・ 副リーダーなので,リーダーが困って

いたら助けられるようになりたいなと

思った。リーダーはがんばってまとめて

いたので,すごいなと思ったし,みんな

意見を出せたのですごいなと思いった。

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-人間・長研‐18

③ 学級集団の様子

「自然教室SOS!」は,グループで協力して課題解決に取り組み,友達の多様な考えや自

他のよさに気付くことをねらいとしている。

「ねらいを知る」場面では,児童にねらいが伝わるように,学級担任が自然教室2週間前な

ので,自然教室の活動班の仲を深めてほしいということを伝え,「自分や友達のいいところを

見つけよう。」とめあてを提示した。

「約束をする」場面では,題材の場面の設定が伝わるように,バスや山,動物等の絵を提示

しながら課題シートを読み上げた。児童は,「わくわくする。」「やってみたい。」と活動へ

の興味を示していた。さらに,題材の進め方を説明した後に,「友達の話を聞くときには,ど

んなことが大事ですか。」と問うと,「相手の目を見る」「返事をする」等の意見が出た。そ

こで,学級担任は,グループで話し合うときに必要な約束として「先生の話やルールを守る」

「わるふざけやからかいをしない」「友達の考えを大切にする」の三つを提示した。

「体験をする」場面では,互いの意見を聞き合う和やかな雰囲気での交流が見られた(資料

-3)。特に課題2の交流活動では,12の品物から五つの品物をグループ決定するので,活発

な話し合いが見られた。学級担任は,机間指導しながら,話し合いが停滞しているグループに

入り,児童のつぶやきを肯定的に取り上げて,「なんでそう思ったの。」と根拠をもとに話し

合いができるように支援していた。特にA児が話し合いに参加できるように,声をかけていた。

全体で交流する場面では,ある班長が「みんながいろんな意見を言うので,まとめるのが難し

かった。」という感想を述べていた。学級担任は,「しっかり意見をまとめることができたの

は,みんなで協力したからだね。班長として,しっかりまとめたんですね。」と,児童の苦労

に共感しながら,班長のがんばりを称賛していた。

「ふり返る」場面では,「自他のよさ」の視点で,ふり返りシートを書かせた。児童のふり

返りシートには,「班のみんながどんどん意見を出していて,友達の意見を聞くのが面白かっ

たし,楽しかった。」等,グループで協力する楽しさや喜びを味わったという意見が多かった

(資料-4)。さらに,「副リーダーなので,リーダーが困っていたら助けられるようになり

たい。」と,自然教室に向けて自分の役割を見つめ直している児童もいた。

④ 抽出児童の様子

A 児は,積極的に挙手して自分の意見を述

べ,その表情からは自分の考えを受け入れら

れた満足感がうかがえた。資料-5のように,

自然教室の活動班の友達とうまく関わるこ

とができ,活動班への信頼感と自然教室への意欲が高まっていることが分かる。

⑤ 実証後のふり返り

学級担任は,役割分担しながら話し合いができていたので,グループで協力できていると感

じていた。しかし,話し合い自体は活発であったが,話し合いが進むにつれて,意見が対立し

たり,批判的な言葉も多く見られたので,相手の意見に傾聴したり,共感したりするというこ

とが課題だと感じていた。また,ふり返りの中で「自然教室で遭難したら大変だと思った。」

とめあてに対するふり返りができていない児童もいた。グループの交流活動を通して,何を学

ぶのかという点を「ねらいを知る」場面で明確に伝える必要があると感じていた。

資料-5 実証授業1における A 児のふり返りシート

今,改めて,おもしろい人達が集まった班

だと思いました。自然教室もみんなとなら成

功しそうです。

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-人間・長研‐19

表-5 実証授業1における児童のふり返りの状況(記述式)

ふり返りの視点 ①自他のよさ ②自分のよさ ③他者のよさ ④その他

人数 0 4 8 23

【実証授業1の考察】

図-22は,実証授業1における

児童の自己評価を「とてもそう思

う(4点)」「そう思う(3点)」

「あまりそう思わない(2点)」「ま

ったくそう思わない(1点)」の4

段階で評定したものである。その

結果を見てみると,「自分のよい

ところ」と「友達のよいところ」

の項目では,平均2よりも高い数

値を示し,多くの児童が自他のよさに気付けたと回答している。

児童のふり返りシートの記述では,「友達の意見を聞くのが面白かった。」「いろんな考えが分

かった。」等,充実した話し合いを行うことができ,多様な考えに気付くことができている(資料

-4)。

この結果から,多様な考えを知るためにグループでの交流活動を取り入れたことは,受容的な

雰囲気の中で交流活動が進み,自他のよさに気付くことができたと考える。

しかし,児童のふり返りシートの記述を「自他のよさ」「自分のよさ」「他者のよさ」「その他

(どれにも当てはならないもの)」の視点でまとめると,自分や友達の視点でふり返りをしている

児童が少ないことが分かった(表-5)。これは,学級担任の聞き取りからも分かるように,児

童がねらいを意識して活動できていないことに課題あると考える。

そこで,10月の実証授業では,

児童がねらいを意識した体験活動

ができるように,「ねらいを知る」

場面に重点を置くことにした。

1 楽しかった2 自分のため

になった

3 自分の

よいところ

4 友だちの

よいところ

5 自分の考え

を伝える

6 友だちの

考えを聞く

9月 3.38 3.21 2.52 3.07 3.24 3.21

0

0.5

1

1.5

2

2.5

3

3.5

4

9月

項目

図-22 実証授業1における児童の自己評価

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-人間・長研‐20

(イ) 実証授業2 10月「世界に一つしかない自分の名刺をつくろう」

① 題材のねらい ○ 自分の夢に関する自己開示・傾聴体験を通して,自己理解を図ることが

できる。

○ 友達の夢を聞いて,友達のよさを理解することができる。

② 検証の視点 夢を語る体験を通して,自他のよさを理解することができる。

③ 学級集団の様子

「世界に一つしかない自分の名刺をつくろう」では,将来の夢を話したり,友達の夢を聴い

たりする体験を通して,自分や友達のよさを理解することをねらいとしている。

「ねらいを知る」場面では,前時の活動を想起し,前時のふり返りシートで「友達のいいと

展開 主な学習活動と内容

1 本時学習のめあてをつかむ。

2 本時のエクササイズ「世界に一つしかない自分の名刺を

つくろう」とその進め方を知る。

(1) 「世界に一つしかない自分の名刺をつくろう」の説明を

聞く。

○ 名刺をもとに,「将来の夢」について紹介したり,友達

の夢を聞いたりして,自他のよさを見つける。

(2) 約束を聞く。

3 名刺を作成し,自分を紹介したり,相手の話を聞いたり

する。

(1) 自分の名刺を作る。(10分)

(2) 名刺を提示し,交流する。(20分)

・「夢」について語り,質問を受ける。

4 ふり返りをする。

(1) ふり返りシートに記入する。

(2) グループでふり返る。

(3) 全体で感想を発表する。

(4) 教師の話を聞く。

めあて

将来の夢を進んで話したり,友達の夢を聞いたりして,

自分や友達のいいところを見つけよう。

① 自分の名刺をつくる。

(表)5-1,自分の名前

(裏)将来の夢(こんな人になりたい!)

② 名刺について,紹介する。

・発表(1分),質問(3分)を目安にする

資料-6 将来の夢について語っている様子

資料-7 実証授業2の児童のふり返りシート

・ 今回の活動を通して,自分はどう

して大工になりたいかを改めて考え

直して,答えが見つかり,すっきり

しました。友達のいいところは,途

中までしかできてなくてもしっかり

発表していたところです。真似して

いきたいです。

・ みんなの将来の夢を応援できたの

でよかったと思います。私のいいと

ころは,みんなのいいところをうな

ずきながら,聞けたことです。

・ みんな他の人の役に立ちたい,喜

んでもらいたいなど,人の役にたて

る夢をもってすごいなと思いまし

た。

・ みんなの夢を聞いて,とてもおも

しろかったです。発表すると「いい

ね。」など,言葉を言ってくれたの

でうれしかったです。夢が叶うため

にがんばりたいと思いました。

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-人間・長研‐21

ころ」に気付いた児童の感想を紹介した。そして,「自分のいいところに気付けていない」児

童の感想を紹介し,「今日の活動では,友達のいいところだけでなく,自分のいいところも見

つけよう。」というねらいを伝え,本時のめあてを提示した。

「体験をする」場面では,カードに自分の名前と将来の夢(こんな人になりたい)を書き,

自分の名刺を作らせた。名刺には,将来の夢に関する絵と自分への応援メッセージも描き,自

分だけのオリジナルな名刺であるという気持ちをもたせた。次に,4人グループで,名刺をも

とに自分の夢を紹介したり,友達の夢を聞いたりする交流活動を行った(資料-6)。自分の

夢を紹介するときは,恥ずかしそうに紹介している児童もいたが,友達から「何で,看護師に

なりたいんですか。」「その夢をもったきっかけはなんですか。」と質問されることで,自分

のことを見つめ直しながら,夢への思いを語っていた。自分の夢を紹介した児童は,グループ

のみんなから「がんばってね。」と拍手されると,うれしそうな表情をしていた。

「ふり返る」場面では,活動のねらいを確認し,「活動を通して気付いた自他のよさ」につ

いてふり返りシートを書くようにうながした。児童のふり返りシートには,「自分の夢を見つ

め直すことにつながった。」「友達がすごい夢をもっているので,びっくりした。」と自他の

気付きを深めている姿が見られた(資料-7)。

④ 抽出児童の様子

A 児は,恥ずかしそうに自分の夢につい

て紹介していたが,友達が夢を紹介すると

きは真剣な表情でうなずきながら聴くこ

とができていた。A 児は,授業の最後に学

級担任から指名され,全体の前で発表することになった。A 児は,照れくさそうにしながらも

「サッカー関連の仕事につきたい。サッカーは見るのもするのも好きだからです。」と発表し

た。A 児は,クラスみんなから大きな拍手をもらい,うれしそうな表情をしていた。

また,A 児のふり返りシートには,資料-8のように,具体的に自他のよさの視点で書くこ

とはできていないが,友達の意外な一面を知ることができており,他者への気付きが深まって

いることがうかがえる。

⑤ 実証後のふり返り

学級担任は,「ねらいを知る」場面で,前時のふり返りシートを紹介したことで,前時の学

習を想起し,本時のねらいにつなげるができたと感じていた。また,自分の夢について語るこ

とに抵抗を感じたり,質問に戸惑ったりする児童がいると思っていたが,手を挙げて質問をし

ている児童も多く,意欲的な活動ができたと感じていた。さらに,自己開示が苦手な友達に対

して,周りの児童が「どう。」と優しく尋ねている姿も見られ,友達の夢を大切に聞こうとい

う雰囲気もあった。しかし,テンションが上がりすぎてふざける児童もいたので,最後まで目

をキラキラと輝かせながら,取り組むことができたらと感じていた。また,将来の夢について

語る児童の姿や,それをうなずきながら聴く姿を見て,児童の意外な一面を知ることができ,

うれしくなったと述べていた。

次回の活動については,題材が表現活動なので,児童に活動の見通しをしっかりもたせるこ

とで,安心して体験活動ができるように,「約束を知る」場面に重点を置くことにした。

資料-8 実証授業2における A 児のふり返りシート

今日,班にしていろんな人の夢を聞いて,

「すごいな。」と思うことや「へぇ。」と思

うことがありました。

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-人間・長研‐22

【実証授業2の考察】

児童の自己評価の結果から,

項目3「自分のよいところ」と

項目4「友達のよいところ」の

数値が高まっていることが分

かる(図-23)。

児童のふり返りシートでは,

「自分の夢を見つめ直すこと

ができた。」「みんな他の人の

役に立ちたい,喜んでもらいた

い等,人の役にたてる夢をもっ

てすごい」等,具体的に自他の

よさについてふり返る姿が見られた(資料-7)。さらに,「夢が叶うためにがんばりたい。」

と行動への意欲が見られる記述も多くあった。これは,夢を語る体験を通して,自分の夢を見

つめ直したり,友達の想いに気付いたりしたことで,自己他者理解力が高まったからだと考え

る。

また,表-6の結果を見ると,

9割の児童が自分や友達のよさの

視点でふり返ることができている。

これは,学級担任が,「自分や友

達のよさを見つけよう」というねらいを明確に伝えたことで,目的意識をもって体験活動を行

うことができ,自他への気付きを深めることにつながったと考える。

以上のことから,自分の夢について自己開示したり,友達の夢を聞いたりする活動を通して,

新たな一面を発見し,自他のよさを理解することにつながったと考える。

1 楽しかった2 自分の

ためになった

3 自分の

よいところ

4 友だちの

よいところ

5 自分の考え

を伝える

6 友だちの

考えを聞く

9月 3.38 3.21 2.52 3.07 3.24 3.21

10月 3.45 3.38 2.83 3.69 3.14 3.59

0

0.5

1

1.5

2

2.5

3

3.5

49月 10月

項目

図-23 実証授業2における児童の自己評価

表-6 実証授業2における児童のふり返りの状況(記述式)

ふり返りの視点 ①自他のよさ ②自分のよさ ③他者のよさ ④その他

人数 14 5 9 1

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-人間・長研‐23

(ウ) 実証授業3 11月「新製品コマーシャル」

① 題材のねらい コマーシャルをグループで話し合い,そのコマーシャルを発表する活動を通

し,友達と協力したり表現したりする楽しさや喜びを味わう。

② 検証の視点 グループでの表現活動を通して,自他のよさを認めることができる。

展開 主な学習活動と内容

1 本時学習のめあてをつかむ。

2 本時のエクササイズ「新製品コマーシャル」とその進め

方を知る。

(1) 「新製品コマーシャル」の説明を聞く。

① グループでお題に書かれている商品のアイデアを出し

合い,コマーシャルをつくる。

② グループごとに,コマーシャルを発表する。

③ コマーシャルづくりで感じた自分や友達のよさについ

て話し合う。

(2) 約束を聞く

3 「新製品コマーシャル」をする。

(1) お題を引く。

(2) コマーシャルを話し合う。

○ 自分や友達のアイデアから,流れを組み立て,コマーシ

ャルをつくる。

(3) 新製品コマーシャル発表会をする。

4 ふり返りをする。

(1) ふり返りシートに記入する。

(2) グループでふり返る。

(3) 全体で感想を発表する。

(4) 教師の話を聞く。

めあて

○ 進んで自分の考えを話したり,友達の話を聞いたり

して,「新製品コマーシャル」をつくろう。

○ 自分や友達のいいところを見つけよう。

① コマーシャル時間は 1 分以内。

考えたり練習したりする時間は20分。

②「できない」「おかしい」「それはだめ」等は,絶対

に言わないこと。

③「こんなことを言ったら,笑われはしないか」等,気

にせずにできるだけたくさんのアイデアを言うこと。

資料-9 コマーシャルづくりをしている様子

資料-10 コマーシャルを発表している様子

資料-11 実証授業3の児童のふり返りシート

・ 自分のよいところは,自分から進んで

役をしたいと言えて良かったです。友達

のいいところは,いろいろな提案を出し

てくれたりと,いいところを見つけられ

ました。

・ 私が,「ハイパーシューズ」のお題を

引いたとき,C 君が「よし,よくやった。」

と,手でハイタッチをしてくれたのでう

れしかったです。私の意見をとうしてく

れました。

・ 他の班のコマーシャルを見て思ったこ

とは,一人一人の気持ちがよくわかって

いい学習だったです。自分達は,みんな

で協力しておもしろいコマーシャルに

なったからよかったです。

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-人間・長研‐24

③ 学級集団の様子

「新製品コマーシャル」では,グループでの表現活動を通して,自他のよさを認めることが

できることをねらいとしている。

「ねらいを知る」場面では,ねらいを明確に伝えるために,前回と同じように前時のふり返

りシートを紹介することで,「自他のよさを見つけよう。」というねらいを確認した。

「約束を知る」場面では,活動の進め方を丁寧に説明することで,児童が安心して活動でき

るようにした。まず,「題材の説明」「モデルの提示」「ルールの確認」の順に掲示物を使っ

て明示し,児童が見通しをもてるように丁寧に説明をした。特に,モデルを提示するときは,

学級担任が「おまかせパソコン」というお題で,役割演技をすることで,「やってみたい。」

と活動内容に興味や関心をもたせることができた。

「体験をする」場面のコマーシャルづくりでは,どのグループからも自分の意見を安心して

発表できる雰囲気があり,児童は身振り手振りで自分の考えを伝え,その表情からは安心して

活動できている様子がうかがえた(資料-9)。友達の考えに対する冷やかしやからかいは全

く見られず,共に笑ったり思いも寄らない考えには驚きの声をあげたりする等,児童同士の認

め合いが随所に見られた。コマーシャルを発表する場面では,グループが発表した後に,クラ

ス全員から大きな拍手で称賛する姿も見られた。発表したグループは,自分達のアイデアが受

け入れられた満足感とグループで協力できた達成感から,うれしそうな表情を見せていた(資

料-10)。

「ふり返る」場面では,「自他のよさ」の視点でふり返りシートを書かせた(資料-11)。

また,最後に学級担任から,「自分や友達のよさを見つける」ことは,学級目標の「心の花を

咲かせよう」につながっているということを伝え,これからも,自他のよさをみつけてほしい

と話をされた。

④ 抽出児童の様子

A 児は,コマーシャルづくりのとき,率先

して自分の考えを友達に伝えていた。A 児は,

自分のアイデアをグループの友達が受け入れ

てくれたので,A 児も友達の考えをやさしく

聞いていた。コマーシャルの発表会では,迫

真の演技で笑いと大きな拍手をもらい,満足そうな顔をしていた。

A 児のふり返りシートには,資料-12のように,コマーシャルづくりを通して,自分の役割

を果たすことができ,自己理解が深まっていることが分かる。さらに,友達のよさについても

記述することができており,友達を肯定的に受けとめていることがうかがえる。

⑤ 実証後のふり返り

学級担任は,「約束を知る」場面で,ルールをしっかり確認できたので,表現活動をするこ

とに抵抗を感じることなく意欲的に体験活動ができていたと感じていた。「ふり返る」場面で

も,自分や友達のいいところについて発表できていたので,ねらいを意識したふり返りができ

ていたと感じていた。また,今回の題材がこんなに順調に活動が進み,自分達で考えを出し合

い,表現することができたことに,すごく感心して,やってよかったという感想をもらった。

資料-12 実証授業3における A 児のふり返りシート

自分はムードメーカーかなと思いました。I

君が押し売りしてくれる店員がすごくよかっ

たと思います。僕の意見をみんなが聞いてく

れたのでうれしかった。

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-人間・長研‐25

【実証授業3の考察】

児童の自己評価の結果から,

項目3「自分のよいところ」

と項目4「友達のよいところ」

が,3回の実証授業の中で,

一番高い数値を得ることがで

きた(図-24)。「自分のよ

いところ」の項目が高まった

のは,自分から進んでアイデ

アを出したり,表現活動の中

で自分の役割を果たすことが

できたりしたからだと考える。

「友達のよいところ」の数値が高まったのは,グループの友達と一緒に笑ったり考えたりしなが

ら,互いに認め合う雰囲気の中で,協力してコマーシャルをつくりあげることができたからだと

考える。

児童のふり返りシートからも,

「みんな自分の意見をしっかり言

えていてとてもいい空気だった。」

等,互いに認め合う関係ができて

いることが分かる(資料-11)。さらに,表-7からも,すべての児童が自分や友達のよさについ

て,ふり返りことができている。これは,約束を明確に提示したことで,児童が安心して交流活

動を行うことができ,ねらいを意識したふり返りにつながったと考える。

以上の結果から,コマーシャルをグループで話し合い,そのコマーシャルを発表する活動を通

して,自他のよさを認めることができたと考える。

エ 第5学年におけるカリキュラム活用の分析・考察

(ア) ふり返りシートの自己評価の結果

実証授業1,2,3の考察でも述べたように,図-24の児童の自己評価の結果を見ると,質問

3の自己理解に関する項目と,質問4の他者理解に関する項目は,授業を重ねるにつれて数値が

高くなっていることが分かる。これは,自他のよさを理解する活動を継続することで,自分のよ

さを自覚する児童が増え,自信がついてきたからではないかと考える。さらに,ねらいを意識し

たふり返りを行ったことで,他者のよさを見つける視点も広がり,いろいろな友達のよさを認め

ることができるようになったと考える。この結果から,児童同士のふれ合いを中心とした自己他

者理解力の題材を適切に配置したことは,児童の自己他者理解力を高めるのに有効であったと考

える。

それでは,3回の実証授業を通して,コミュニケーション能力は,どのように高まったのだろ

うか。質問5「自分の考えを伝える」と質問6の「友達の考えを聞く」項目の結果を見ると,回

数を重なるにつれて,数値が高まっていることが分かる。質問5の項目で,実証授業2の数値が

下がっているのは,自分の夢について語るのに恥ずかしい面もあり,思うように夢を語ることが

できなかった児童もいた結果だと考える。質問6の項目では,どの活動でも自分の気持ちを伝え

1 楽しかった2 自分のため

になった

3 自分の

よいところ

4 友だちの

よいところ

5 自分の考え

を伝える

6 友だちの

考えを聞く

9月 3.38 3.21 2.52 3.07 3.24 3.21

10月 3.45 3.38 2.83 3.69 3.14 3.59

11月 3.96 3.25 3.18 3.71 3.54 3.75

0

0.5

1

1.5

2

2.5

3

3.5

49月 10月 11月

項目

図-24 実証授業3における児童の自己評価

表-7 実証授業3における児童のふり返りの状況(記述式)

ふり返りの視点 ①自他のよさ ②自分のよさ ③他者のよさ ④その他

人数 16 5 8 0

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-人間・長研‐26

たり,相手の話を聞いたりする傾聴活動

を行ったことで,「話す・聞く」意識が

高まり,相手を大切にしようとする態度

が育ったからだと考える。資料-13は,

B 児の3回分のふり返りシートの記述で

ある。下線部を見ると,交流活動の中で

対話を積み重ねることを通して,友達の

話を聞こうとする B児の意識の変化が分

かる。これは,どの題材でも「約束を知

る」場面で,「友達の考えを大切にする」

という約束を提示することで,相手を大

切にした聞き方が定着してきた結果だと

考える。

以上の結果から,実証授業1,2,3と自己他者理解力の題材を計画的に実施したことで,受容

的な雰囲気の中で学習が進み,自己他者理解力とコミュニケ―ション能力が高まったと考える。

(イ) Q-U アンケートの結果

① 学級集団の様子

6月と12月に実施した Q-U アンケートの結果を比べると, 実証前と実証後では,学級生活

満足群に属している児童の割合は,実証前の31%(9人)から実証後の31%(9人)と変化は

ないが,全体的にやや右側にプロットしていることが分かる(図-25)。これは,3回の実証

授業の中で,自他のよさを理解することをねらいとした題材を配置し,一人一人のよさを認め

合えるような関係づくりに取り組んできた結果だと考える。学級の課題として挙げた質問項目

「運動や勉強等でクラスの人から認められることがある」の「まったくない」「あまりない」

と回答した児童の得点が10ポイント下がっている(表-8)。これは,自己他者理解力が高ま

ったことで,互いのよさを受け入れ認め合う関係が形成され始めたからだと考える。しかし,

資料-13 B 児の児童のふり返りシート

9月・ 私は,自分の意見を伝えようとしすぎて,友達の意

見や考えを大切にできませんでした。なので,これか

ら友達の意見を大切にしていきたいです。

10 月・ 今日、私は自分の想いを班のみんなに伝えることが

でき,みんな真剣に聞いてくれたので,これがこれか

らも続けばいいと思います。

11 月・ 私が班のみんなに意見を言うと,みんなも意見を言

ってくれました。そして,みんなちゃんと意見を伝え

られていいと思いました。他の班の人達のコマーシャ

ルめっちゃおもしろかったです。

9

10

11

12

13

14

15

16

17

18

19

20

21

22

23

24

6789101112131415161718192021

要支援群

A児

9

10

11

12

13

14

15

16

17

18

19

20

21

22

23

24

6789101112131415161718192021

要支援群

A児

6月に実施した Q-U 学級満足度尺度 12 月に実施した Q-U 学級満足度尺度

図-25 Q-U プロット図の変容

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-人間・長研‐27

学級生活不満足群に属している児童

の割合が,実証前の31%(9人)か

ら実証後の45%(13人)と14%も高

くなっている。質問項目「嫌なこと

を言われたり,からかわれたりして

つらい」の得点が7ポイントも下が

っている。しかし,学級生活不満足

群に属している13人の児童の中で,

11人の児童がこの項目について「と

てもそう思う」「少しそう思う」と

回答している。このことについて,学級担任へ聞き取りをすると,「友達に対する批判的・攻

撃的な言葉は減ってきている。児童との交友関係に広がりが見られ,互いのことを言い合える

関係もできているが,友達に対して思いやりがかける言動をとる場面も見られる。」と感じて

いた。そのため,今後は,さらに自他のよさを理解し合うことをねらいとした自己他者理解力

の題材を継続的に取り組み,自分や相手を大切にした話し方や対人関係スキルを学ぶコミュニ

ケーション能力の題材も併せて取り組む必要があると考える。

以上のことから,学級の実態に応じて,自己他者理解力の題材を計画的に実践したことで,

学級の人間関係が密になり,学級によりよい人間関係がやや形成されたと考える。また,学級

生活に満足感を得られていない児童については,その実態に応じて,児童の人間関係形成力が

高まるように継続的に働きかけていくことが大切だと考える。

② 抽出児童 A 児の変容

Q-U アンケートの結果を見ると,6

月は学級生活不満足群の侵害得点が一

番高い位置に属していたが,12月は同

じ学級生活不満足群でも,承認得点が

2ポイント上昇し,被侵害得点が4ポ

イント減少している(表-9)。質問

項目「自分が発表する時ひやかさずに

しっかり聞いてくれる」では,6月の

「まったくない」から「少しある」と

肯定的に回答している。この結果から,

どの実証でもグループでの交流活動を

設定したことで,関わりが上手になっ

た姿を友達から認められる場があった

ことやそれぞれの活動でA児が得意と

する話す場がたくさんあり,自分の考

えを受け入れてもらえたと感じることができたからだと考える。

やる気のあるクラスをつくるためのアンケートでは,「友達関係」「学習意欲」「学級の雰

囲気」の項目が,6月に比べると12月の数値が高くなっていることが分かる(図-26)。この

結果からも,A 児は友達とよりよい関係を築けるようになり,学級内で意欲的に活動ができて

表-8 Q-U アンケートからわかる学級の変容

項目 6月 12月

学級生活満足群 31% 31%

学級生活不満足群 31% 45%

運動や勉強等でクラスの人から

認められることがある(※1) 38% 28%

嫌なことを言われたり,からか

われたりしてつらい(※2) 52% 45%

※1 「まったくない」「あまりない」

※2 「とてもそう思う」「少しそう思う」

表-9 A 児の承認得点と被侵害得点の変化

項目 回答

6月 12 月

承認得点 16 18

被侵害得点 21 17

0

2

4

6

8

10

12

友達関係 学習意欲 学級の雰囲気

6月 12月

図-26 A 児のやる気のあるクラスのアンケート

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-人間・長研‐28

いて,さらに学級を肯定的に受けとめていることが分かる。

学級担任は,A 児に関して,「状況判断や場に応じた言葉遣いができるようになって,非常

に友達との関わりがよくなっている。」と感じていた。

以上の結果から,3回の人間関係づくりの授業を通して,A 児の人間関係形成力が高まったこ

とで,友達との関わりに自信をもつことができるようになり,よりよい人間関係を気付くことが

できるようになったと考える。

(ウ) 実証後に行ったアンケート(自由記述)の結果

資料-14は,3回の実証授業後に行った自由

記述によるアンケートを自分・友達・学級の視

点で,分類したものである。下線部分を見ると,

「自信をもって自分自身を受け入れるようにな

った。」「友達といっぱい話すようになった。」

等,自分のよさを認めることができるようにな

ったり,児童の交友関係に広がりが見られたり

していることが分かる。波線部分を見ると,「注

意する人が増えた。」「助け合ったりする声掛

けが多くなった。」等,よりよい学級にしよう

とする児童の意識の高まりがうかがえる。この

ような児童の変化から,人間関係づくりの授業

で学んだことが,日常生活場面で生かされ,よ

りよい人間関係が形成されていることが分かる。

(エ) 学級担任の意識の変容

3回の実証授業後に,カリキュラムの活用について,学級担任へ聞き取りを行った。

学級担任は,「人間関係づくりふくおかカリキュラム」を活用して,児童同士の人間関係が深

まったと実感していた。その理由として,自分の意見を素直に表現する児童が増えたことや,批

判的な言動が減っていること,さらに,学級の中でリーダーシップのとれる児童が出てきたこと

も挙げられた。このように,学級担任は,人間関係づくりの授業を計画的に行うことで児童の成

長につながるとその効果を実感していた。

人間関係づくりの授業を行ってみて大切だと感じたことは,「ふり返り」を挙げた。学級担任

は,「何のための学習でどのように感じたかふり返ることが,学習の効果を左右する」と実感し

ていた。これは,第1回の「自然教室SOS!」で,自分のよさに気付けていない児童が,第3回

の「新製品コマーシャル」では,「自分のいいところは・・・です。」と記述するようになった

ことで,児童にねらいを意識させることで,自分自身をふり返らせることにつながると感じてい

た。さらに,「ふり返り」をすることで,自分だけでなく友達も意識するようになり,友達のや

さしさや行動面にも着目するようになり,自他のよさを見つける視点が広がったと感じていた。

以上のことから,学級の実態に応じてカリキュラムを活用することで,学級担任の人間関係づ

くりへの意識が高まったと考える。

以上の(ア)(イ)(ウ)(エ)のように,学級の実態に応じてカリキュラムを活用することは,児童の人

間関係形成力を高め,よりよい学級集団を形成する上で,有効であることが分かる。

資料-14 3回の実証授業後に行ったアンケート

自分への変化の気付き

・ 自信もって自分自身を受け入れることができるよ

うになった。

・ 前より友達といっぱい話すようになった。

・ 男子と話したり,いつも遊ばない友だちと遊べる

ようになった。

友達への変化の気付き

・ 前より話しやすくなった。

・ 普段発表しない人もちゃんと自分の意見をもって

いることが分かった。

・ 悪口を言われるのがちょっと減った。

学級への変化の気付き

・ 昼休み,男女で遊ぶようになった。

・ 先生がいないときに,注意してくれる人が増えた。

・ 助け合ったりする声掛けが多くなった。

・ 授業のときに,みんなが積極的に意見を出すよう

になった。

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-人間・長研‐29

資料-15 学級担任との打合せの様子

表-10 Q-U アンケートから分かる学級の変容

項目 6月

学級生活満足群 66%(25/38 人)

項目 学級平均(μ) 標準偏差(σ)

6月 6月

承認得点 38.1 6.8

被侵害得点 16.6 6.0

【やる気のあるクラスをつくるためのアンケート】

質問項目 学級平均(μ) 標準偏差(σ)

6月 6月

学級の活動に貢献している 3.8 1.2

【いごこちのよいクラスにするためのアンケート】

質問項目 学級平均(μ) 標準偏差(σ)

6月 6月

自分の考えが学級の意見になる 3.2 1.3

周りの目が気になり,緊張する 2.2 1.5

※ 学級平均は5点法の平均値

5…とてもそう思う,4…少しそう思う,3…どちらとも言えない

2…あまりそう思わない,1…全くそう思わない

(2) K 中学校2年生におけるカリキュラムの活用

ア 学級の実態把握

(ア) 学級集団の実態把握

① Q-U アンケートの分析

2年 A 組は,男子21人,女子17人,計38人の学級である。6月に実施した Q-U アンケートの

結果では,全体の66%(38人中25人)が学級生活満足群に属していた(表-10)。しかし,プ

ロット図の全体的な形(図-27)や承認得点と被侵害得点の学級平均とその標準偏差から,や

やかたさが見られる学級集団だと分かった。

5点法で回答した質問項目の中で,学級平均の値が低かった項目は「学級の活動に貢献して

いる」「自分の考えが学級の意見になることがある」「周りの目が気になり,不安や緊張を覚

えたことがある」の3項目であった(表-10)。また,質問項目「周りの目が気になり,不安

や緊張を覚えたことがある」の標準偏差は,他の項目と比べ大きいことから,生徒の回答にば

らつきが大きく,学級への安心を十分に感じていない生徒もいることが分かった。

以上の分析から,2年 A 組は,要支援群の生徒はいないものの,一部の生徒において,学級

への所属感や安心感を十分に満足できていないと考えた。

② 学級担任への聞き取り

実証授業前に,学級担任への聞き取りから学級

の実態を把握した(資料-15)。学級担任は学級

について,レクリエーションや協働して活動する

ときには,意欲的に取り組む生徒が多いと述べた。

しかし,一方で学級生活満足群に属している生徒

は6割以上いるが,全体的にまとまっているわけ

ではないと感じていた。その理由について,他者

に対して無関心で,自己中心的な生徒が多いこと,

17

19

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23

25

27

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10121416182022242628303234363840

要支援群

生徒A

図-27 1回目の Q-U アンケート(6月実施)

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-人間・長研‐30

女子がグループ化していること,特別支援学級の生徒に対してどのように関われば良いか分か

らないことを挙げた。さらに,授業や学級会の場面で自分の考えを話す生徒が少なく,話し合

い活動を苦手に思う生徒が多いことも挙げた。

Q-U アンケートの結果と学級担任への聞き取りから,2年 A 組の生徒は,所属する学級集団に

対して,もっと良くしたい,高まりたいという思いをもちながらも,一部の生徒は,学級への所

属感・連帯感や安心感が十分でないため,自分の考えを素直に伝えることができていない状況に

あると考えた。

(イ) 生徒 A の実態

6月の Q-U アンケートの結果では,非承認群に属していた(図-27)。また,その質問項目「ク

ラスで行う活動には積極的に取り組んでいる」「仲のよいグループ内では中心的である」「勉強

や運動等で友人から認められている」の承認得点が低かった。担任への聞き取りから,頭髪や身

だしなみ等の生活上のルール,座り方や話を聞く姿勢等の学習上のマナーを守る意識が低く,特

定の生徒とのコミュニケーションをとり,周囲との関係性が希薄であることが分かった。以上の

実態から,生徒 A は学級やグループ内で認められ感が低く,疎外感をもちながら生活していると

考えた。

(ウ) 学級担任の人間関係づくりの意識

学級担任は30代の男性教諭である。学級づくりを進める上で困難に感じていることは,年間の

見通しをもった学級経営と答えた。また,Q-U アンケートの活用について,集団の課題をつかむ

ことはできるが,改善する取組はあまりできていないと答えた。そして,人間関係づくりの取組

を行う上で大切にしていることは,生徒との人間関係を築くこと,生徒一人一人に気を配ること,

個や集団の課題を明確にすることと答えた。さらに,これまで人間関係づくりの授業を何度か実

践していた。しかし,人間関係づくりの授業の効果を実感しながらも,何か問題があった後に授

業を実践していたこと,学校・学年で組織的に行われていないことを課題に感じていた。そのため,

計画的に人間関係づくりの授業を実施できるように,年間の教育計画に位置付ける必要があると

考えていた。

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-人間・長研‐31

イ 年間計画の見直し

学級の実態を整理していく中で,生徒に人間関係形成力を身に付けさせるために,「生徒の学

級への所属感・連帯感を高め,安心して自分の考えを話すことができる学級」を目標にした。こ

の目標を段階的に達成することにし,さらに目標を3段階に分けた。各段階の目的は,「他者を

意識して考えを話したり,聞いたりするスキルを習得させる」「前時で学んだスキルを生かし,

班で協力する活動をさせる」「互いが認め合える関係をつくる大切さに気付かせる」と設定した。

2年 A 組はカリキュラムに配置された題材を変更せずに実施することにした。その理由を2点

あげる。1点目は,年間計画の題材の配置(資料-16)で,学級づくりの目標を達成できると考

えたからである(表-11)。2点目は,学校行事との関連である。カリキュラムに配置されてい

る10月の題材のねらいは,積極的に課題解決に向けて貢献できる力を付けることであり,意図的

に合唱コンクールと関連させた題材だからである。

表-11 カリキュラムの配置(K 中学校2年生)

月 9月 10 月 11 月

題材名 背中合わせと向かい合わせ

(カード版) なぞのマラソンランナー NASA ゲーム

育てるスキル 話す・聞く 自己理解・他者理解 自己理解・他者理解

活動のねらい

話す・聞くとき位置関係が,

情報の伝達にどのように影響

するか体験的に学ぶ

話し合いの中で,必要な情報

の提供し,積極的に課題解決

に向けて貢献できる力を付け

他者との考えの相違を確認し

ながら,合意による集団決定

の過程を体験的に学ぶ

行事との関連

取り組ませる集

団の人数 2人組 5~7人組 5~7人組

ルール 話し手は情報(カード)を聞

き手に見せない 等

情報カードは他者に見せない

他者の意見に対して否定的な

発言をしない 等

活動時間

ねらいを知る 5分

約 束 を 知 る 10分

体 験 を す る 25分

ふ り 返 る 10分

ねらいを知る 8分

約 束 を 知 る 8分

体 験 を す る 17分

ふ り 返 る 17分

ねらいを知る 5分

約 束 を 知 る 10分

体 験 を す る 20分

ふ り 返 る 15分

活動レベル カードの情報を伝える 自分の考えを話す

活動内容に伴う

留意点

向かい合わせのとき,背中合

わせのときで机といすの配置

をかえる

それぞれの情報を整理するた

めのメモ用紙を配布する

自分の考えを書く時間を十分

にとる

合唱コンクール

背中合わせ

と向かい合

わせ

なぞの

マラソン

ランナー

NASA ゲーム

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-人間・長研‐32

資料-16 中学校2年生 年間計画

学期

集団づくり 出会い

月 4月 5月 6月 7月 9月 10月 11月 12月 1月 2月 3月

行事 始業式 体育会 職場体験 合唱コンクール 修学旅行 修了式

要素 リレーション リレーション ルール ルール ルール リレーション リレーション リレーション ルール リレーション リレーション

題材名 すごろくトーク 共同絵画 お話づくり 役割カード背中合わせと向かい合わせ(カード版)

なぞのマラソンランナー

NASAゲーム ライフボートストレス対処法すごろくトーク

わたしの四面鏡 別れの花束

育てるスキル

他者理解自己理解他者理解

話す 聞く 話す・聞く自己理解他者理解

自己理解他者理解

自己理解他者理解

ストレスマネジメント

自己理解 自己理解

ねらい

すごろくで止まったテーマについて話をさせることで,他者の考えを知る

今の自分の感情を表現するとともに,他者の感情を察知する

表現された気持ちを言葉に置き換える活動を通し,気持ちや感情は,人によって様々に表現されることに気付く

聞き手の姿勢や態度が,話し手の話そうとする意欲や話しやすさにどう影響するか体験させ,聞くときの姿勢や態度について気付く

話す・聞くとき位置関係が,情報の伝達にどのように影響するかを学ぶ

話し合いの中で,必要な情報の提供し,積極的に課題解決に向けて貢献できる力を付ける

他者との考えの相違を確認しながら,合意による集団決定の過程を体験的に学ぶ

班で目的を達成させる体験を通して,お互いが助け合うことの大切さに気付く

他者のストレス対処法を知り,日常に生かせるストレス対処法を知る

友達という鏡に写し出された自己像を見ることで,自分を肯定的に見る

級友とお互いに思っている意見を交換し,新しい学年に向けての決意を固める

一学期 二学期 三学期

気付き 協力 認め合い

自己他者理解力 コミュニケーション能力

中学校2年生 年間計画めざす児童生徒

自己の形成 自他のよさや違いを認め合い,誰とでも協力し,互いのよさを発揮し合って生活する生徒

人間関係形成力

他者の気持ちに配慮しながら,様々な人々と進んで人間関係を築くことができる自他の考え方や個性の違いを認めることができる

【話す】 【聞く】 【ストレスマネジメント】具体例を入れて自分の意見を話したり,表情や身振りを交えて話したりすることができる

姿勢や表情など話し手が話しやすいような態度で聞くことができる

欲求やストレスに対して適切に対処し,心身の調和を保つことができる

【自己理解力】 【他者理解力】自分の個性を認めることができる 友達の個性を認めることができる

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-人間・長研‐33

ウ 授業実践

(ア) 実証授業1「背中合わせと向かい合わせ(カード版)」授業日:平成27年9月15日 1限目

① 題材のねらい 話す・聞くとき位置関係が,情報の伝達にどのように影響するか体験的に学ぶ。

② 検証の視点 他者を意識して考えを話したり,聞いたりするスキルを習得できたか。

③ 学級集団の様子

授業中の発言は多いが,時々収拾がつかなくなる傾向にあるので,学級担任は日頃より話し

の聞き方や私語等の学習規律を指導している。学級担任の指導の効果もあり,全体的に落ち着

いて授業を進めることができていた。「約束を知る」学習活動では,生徒は体験のルールにつ

いてよく質問をしていた。「体験する」学習活動では,話し手は聞き手に対して,カードに描

かれている図を説明し,聞き手は話し手の説明をよく聞いていた(資料-17)。生徒たちはと

ても盛り上がり,意欲的に楽しく学習していた。自己評価の感想(資料-18)より,「他者を

意識して考えを話したり,聞いたりするためのスキルを習得させる」は,達成できたと考えら

れる。

④ 生徒 A の様子

生徒Aは,日頃から仲のよい生徒とペアを組んで活動した。学習のマナーを守る意識が低く,

終始後ろの生徒と話をしていた。「体験する」学習活動になっても,どのように活動すればよ

いか分かっていなかった。学級担任が活動の進め方を個別に説明したことで,その後,生徒 A

は何とか活動することができた。しかし,周囲の生徒の目が気になり,落ち着いて活動するこ

主な学習の活動と内容

ねらいを知る

○学校行事や班活動,部活動で話をうまく伝えられな

かった経験がないか想起する。

○めあてを確認する

約束を知る

○二人一組をつくり,話し手と聞き手を決める。

○体験の内容とルールを聞く。

体験をする

○背中合わせで体験する。

○向かい合わせて体験する。

○2つの体験を比較し,情報の伝わり方やそのときの

気持ちについて班で話し合う。

ふり返る

○自己評価を記入し,感想を発表する。

資料-17 背中合わせの体験している様子

めあて

相手に話を正確に伝える方法を知ろう

・聞き手は話し手が伝えた情報を紙に描く。

・話し手は情報を聞き手に見せない。

・聞き手は質問や聞き返し,他の人の様子を見ては

いけない。

・相手の顔を見て伝えるのと見ない

で伝えるのとでは,全然違うことに

驚いた。

・言葉だけで伝えるより,相手の様

子を見たり,ジェスチャーをしたり

する方が相手に意思が伝わりやすい

と思った。

・向かい合わせのでは視覚や聴覚,

コミュニケーション力などを使うこ

とできたので描くことができた。意

思伝達を知った。

資料-18 実証授業1の生徒の主な感想

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-人間・長研‐34

とができなかった。自己評価の感想には「何かよく分からなかった」と記述されていた。

⑤ 学級担任の感想

学級担任は日頃より学級づくりをしっかりおこなった上で,このような題材を実施すれば,

より効果が上がると実感し,日頃の学級経営や生徒との関わり方を反省できる授業であったと

述べた。また,学習展開では,「ふり返る」学習活動で,生徒が体験のふり返りをした後,学

級担任がめあてに則したまとめをするべきではないかと述べた。したがって,10月の実証授業

は,学級担任がめあてに則したまとめをする時間をとることにした。

9月の実証授業では,他者を意識して考えを話したり,聞いたりするスキルを習得させるこ

とを目的とした。学級集団の様子と学級担任の感想から,目的にあった題材を実践したことで,

生徒に一方的な言葉の伝達ではなく,他者を意識した話し方や聞き方が大切であることに気付

かせることができたと考える。

(イ) 実証授業2「なぞのマラソンランナー」 授業日:平成27年10月13日 1限目

① 題材のねらい 一人一人が持っている情報を伝え合い,情報を組み立てて,班で課題解決に

貢献する。

② 検証の視点 前時で学んだ他者を意識した話し方と聞き方を生かし,班で協力する活動が

できたか。

主な学習の活動と内容

ねらいを知る

○アイスブレイク(誕生日チェーン)をする。

○めあてを確認する

約束を知る

○体験の内容とルールを聞く。

体験をする

○開始の合図を聞き,体験をはじめる。

○カードをつなげ,正解を確認する。

ふり返る

○ふり返りシートを記入し,班で発表し合う。

○担任の話を聞く。

○自己評価を記入し,感想を発表する。

資料-19 情報を伝え合っている様子

めあて

自分の情報を相手に伝え,班で協力して1枚の絵を

完成させよう

・先頭から数えて4番目を走っているゼッケン番号

を答える。

・情報カードを人に見せたり,手渡したりしない。

・情報は口頭,またはメモで伝える。

・答えが分かったら,班のみんなで声を合わせて「

バンザイ!」と言う。

・制限時間は15分。

・人と協力することは,自分の意見

を言うだけではなく,他の人の意見

もきちんと聞くことだと思った。

・自分では相手に分かるように伝え

たと思っていたことでも,うまく伝

わっていなかった。伝える側も聞く

側に理解できるようにしないといけ

ないと思った。

・協力することは思った以上に難し

かったです。でも,コミュニケーシ

ョンを大事にすることで,いつも以

上に協力できた。

資料-20 実証授業 2 の生徒の主な感想

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-人間・長研‐35

③ 学級集団の様子

3連休後の最初の授業のためか,9月の実証授業よりも全体的に落ち着かず,私語が目立っ

た。学級担任はたびたび話を聞くように注意を促していた。「ねらいを知る」学習活動の誕生

日チェーンでは,話をしないルールのもと,班のメンバーが誕生日順に並ぶことができ,本時

のねらいを意識化させることができた。「体験する」学習活動では,情報カードに描かれてい

る絵の特徴を伝え合い,質問し,整理しながら,課題解決に向けて協力して取り組む姿が見ら

れた(資料-19)。「ふり返る」学習活動では,体験を通して協力するときに心がけることを

個人でしっかり考えさせることができた。自己評価の感想(資料-20)より,授業のねらいが

伝わっただけでなく,前時の学習を生かせる体験活動になっていた。ただ,「ふり返る」学習

活動において,班内で発表するときに,進行の仕方が分からず戸惑っている班や自分の考えを

発表できていない生徒もいた。

④ 生徒 A の様子

生徒 A は,終始笑顔で活動に参加していた。誕生日チェーンでは,自分の誕生日を身振りで

伝え,誕生日順に並ぶことができた。日頃の学級担任の指導の効果もあり,話を聞く姿勢も前

回よりもよくなっていた。「体験する」学習活動では,「情報カードを見せない」ルールをし

っかり守り,口頭で情報を伝えて,班で課題を解決することができた。ふり返りシートには,

協力するときに心がけることについて,「人の話をよく聞いて,班のみんなで協力する」と考

えを書くことができていた。

⑤ 学級担任の感想

生徒 A を含めて,生徒が9月の体験よりも積極的に取り組む姿や友達と関わり合いをもとう

とする姿を見たことで,題材のよさを実感していた。今後の課題として,今回の授業で学んだ

ことを日常生活や合唱コンクールにどのように生かしていけばよいかと「ふり返る」学習活動

を充実させることの2点を挙げた。11月の実証授業は,「ふり返る」学習活動の進め方を生徒

に提示することにした。

10月の実証授業は,学んだスキルを生かし,班で協力する活動をさせることを目的とし,目

的にあった題材を実践した。生徒は,9月の実証授業で学んだスキルを生かしながら,他者を

意識した話し方や聞き方を実践し,他者と関わりながら課題解決をしていた。その結果,集団

への所属感や連帯感を高めることができたと考えられる。

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-人間・長研‐36

(ウ) 実証授業3「NASA ゲーム」 授業日:平成27年11月2日 6限目

① 題材のねらい 他者との価値観の相違を確認しながら,合意による集団決定の過程を体験的

に学ぶ。

② 検証の視点 互いが認め合える関係をつくる大切さに気付くことができたか。

③ 学級集団の様子

全体的に落ち着いた雰囲気で,学級担任の話を聞こうとしていた。学級担任が,前時の感想

を数名読みあげ,協力するときに大切なことは何かと問うと,生徒から自然と「考えを伝える

こと」「聞くこと」と答えが返ってきた。個人の考えを書く場面(資料-23)では,学級担任

が「だれとも相談しないように」と指示したこともあって,黙々と自分の考えを書いていた。

「体験する」学習活動では,活発に意見交換していた(資料-21)。自己評価の感想(資料-22,24)

より,他者の意見に関心を持ち,他者の意見を聞こうとしたり,自分の意見を伝えたりしてい

たことが分かった。

主な学習の活動と内容

ねらいを知る

○前時の学習内容をふり返る。

○だまし絵(象の足)を見る。

○めあての確認をする。

約束を知る

○周囲と相談せず,個人の考えを書く。

○体験の内容とルールを聞く。

体験をする

○班で話し合いをする。

○班で決定した意見を発表する。

ふり返る

○ふり返りシートを記入し,班で発表し合う。

○担任の話を聞く。

○自己評価を記入し,感想を発表する。

資料-21 話し合いで意見をまとめている様子

・ワーク-シートを使って,「NASA ゲーム」の内

容と15個の道具の確認をする。

・15個の道具の中から母船にたどり着くまでに必要

なものを 7 個選択し,順位をつける。

・個人の考えとその理由を発表し,全員が納得した

班の意見1位から5位を決定する。

・班の意見は話し合いで決める。多数決やじゃんけ

んで決めない。

・他者の意見に対して否定的な発言をしない。

・話し合いの時間は15分間。

めあて

班で話し合いをして,全員が納得できる決定をしよう

・班の人の考え方がおもしろかった

し,それもそうだなと気付かされた。

・人の考えを受け入れることは,自

分にとってとても大切なことだと思

った。

・班の中で意見が違うときは,理由

を聞くといいと思った。自分はそれ

でもこっちの方がいいなど,考えが

変わったり,変わらなかったりした。

・みんなで話し合って,互いの意見

を尊重して最後まで話すことができ

た。

・人の意見を聞くと違う考えがあり,

とてもおもしろく,楽しかった。こ

れからもまとめるときは,人の意見

も自分の意見も大切にすることが分

かった。

資料-22 実証授業3の生徒の主な感想

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-人間・長研‐37

④ 生徒 A の様子

学級担任の話を聞く生徒 A の姿勢は,9月と比べ改善されていた。落ち着いた様子が表情か

らも分かった。考えを書く場面では,自分の考えをしっかり書いていた。しかし,話し合いの

場面になると,自分の意見をほとんど言うことができなかった。周囲との関係づくりにはもう

少し時間がかかると感じた。その様子を見て,学級担任が声かけに行くと,照れくさそうに自

分の考えを書いた紙を学級担任に見せていた。学級担任との人間関係ができてきたと感じる場

面であった。活動で気付いたことは,「相手の話をよく聞いて,自分の意見をしっかり述べる

こと」と記述し,前時よりコミュニケーション能力を意識し,ねらいに則した活動ができてい

たと考える。

⑤ 学級担任の感想

生徒達は話し合い活動には慣れていないので,うまくできるか心配していたが,活発な意見

交換をする姿を見て安心していた。また,本時のねらいは前時のねらいをステップアップさせ

る内容であった。そして,生徒達も「自分の意見を伝えないといけない,しっかり聞かないと

いけない」という意識を持って体験に取り組むことができた,と感想を述べた。また,生徒の

体験の様子や書いた感想を見る限り,前時より学習が深まり,ねらいに則した授業になったと

述べた。

11月の実証授業は,互いが認め合える関係をつくる大切さに気付かせることを目的とした。

目的にあった題材を実践したことと,これまでの実証授業で他者の考えを大切にしようとする

姿勢が生徒にできたことで,安心して自分の考えを伝えることできたと考えられる。

資料-23「NASA ゲーム」ワークシート 資料-24「NASA ゲーム」ふり返りしシート①,②

「NASAゲーム」ふり返りシート①

2年 組 番 氏名

班の活動のようすを思い出して書きましょう。

1 次の質問に当てはまる人は誰ですか。班から1人を選んで書いてください。自分だと思うときは

自分の名前を書きましょう。

質 問 名 前

1 自分の考えを分かりやすく伝えていた人は,誰ですか。

2 考えをまとめようとした人は,誰ですか。

・○○は必要だとみんな考えているようだね。

・○○君と△△さんは,同じ考えだね。 など

3 人の話をよく聞いていた人は,誰ですか。

4 よく質問していた人は,誰ですか

・○○君は※※が必要だと考えているけど,もう少し詳しく説明して 等

2 話し合いで,お互いの考えをまとめるために「大切なこと」は何だと思いましたか。

ふり返りシート②

自分の気持ちにあてはまる番号に○をつけてください。

※4…とてもそうおもう、3…そうおもう、2…あまりそうおもわない、1…まったくそうおもわない

ア 今日の活動は楽しかったですか。 4 3 2 1

イ 今日の活動は自分のためになりましたか。 4 3 2 1

ウ 自分のよいところを見つけることはできましたか。 4 3 2 1

エ 友だちのよいところを見つけることはできましたか。 4 3 2 1

オ 自分の意見や考えを進んで伝えようとしましたか。 4 3 2 1

カ 友だちの意見や考えを大切に聞こうとしましたか。 4 3 2 1

キ 感じたことや思ったことを自由に書きましょう。

お互いの考えをまとめるために「大切なこと」は,

( )

と思います。

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-人間・長研‐38

表-12 Q-U アンケートから分かる学級の変容

項目 6月 11 月

学級生活満足群 66%(25/38 人) 73%(24/37 人)

項目 学級平均(μ) 標準偏差(σ)

6月 11 月 6月 11 月

承認得点 38.1 38.6 6.8 6.7

被侵害得点(注) 16.6 15.2 6.0 5.2

【やる気のあるクラスをつくるためのアンケート】

質問項目 学級平均(μ) 標準偏差(σ)

6月 11 月 6月 11 月

学級の活動に貢献している 3.8 3.6 1.2 1.2

学級担任とはうまくいっている 4.1 4.3 0.9 0.9

学級の中にいるとほっとする 4.3 4.1 1.0 1.7

【いごこちのよいクラスにするためのアンケート】

質問項目 学級平均(μ) 標準偏差(σ)

6月 11 月 6月 11 月

自分の考えが学級の意見になる 3.2 3.4 1.3 1.2

周りの目が気になり,緊張する 2.2 2.1 1.5 1.4

からかわれたり,馬鹿にされる 1.9 1.4 1.1 0.9

※ 学級平均は5点法の平均値 (注)被侵害得点は,反転項目

17

19

21

23

25

27

29

31

33

35

37

39

41

43

45

47

49

10121416182022242628303234363840

要支援群

生徒A

17

19

21

23

25

27

29

31

33

35

37

39

41

43

45

47

49

10121416182022242628303234363840

要支援群

生徒A

図-28 Q-U プロット図の変容

2回目の Q-U アンケート(11 月実施) 1回目の Q-U アンケート(6月実施)

エ 分析・考察

(ア) Q-U アンケートの分析

① 学級集団の変容

11月に実施された2回目の Q-U アンケートの結果を図-28,表-12に示す。なお,表-12で

は,1回目の Q-U アンケートで課題としてあげた質問項目と変化の大きかった項目を示して

いる。

学級の課題を改善するために,

9月から11月まで段階的な目的を

設定し,目的を達成するための題

材を配置し,実践した。その結果,

学級生活満足群の割合や,承認得

点と被侵害得点の学級平均および

標準偏差の変化から学級集団の凝

集性が高まったと考えられる。そ

の理由を質問項目の回答結果から

分析すると,学級担任への信頼感

や,学級への安心感が高まったこ

と,自分の意見を素直に出すこと

に抵抗を感じなくなったことが考

えられる。

ただ,質問項目「学級の活動に

貢献している」「学級の中にいる

とほっとする」において,肯定的

に回答した生徒が少なくなった。

さらに,質問項目「学級の中にいるとほっとする」は,学級の標準偏差は大きくなった。こ

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-人間・長研‐39

表-13 生徒 A の回答の変化

【承認得点と被侵害得点の変化】

項目 回答

6月 11 月

承認得点 23 26

被侵害得点(注) 21 24

(注)被侵害得点は,反転項目

【いごこちのよいクラスにするためのアンケート】

質問項目 回答

6月 11 月

仲のよいグループ内では中心的だ 1 3

勉強や運動等で友人から認められている 2 3

学級で行う活動には積極的に取り組んでいる 1 1

班をつくる時入れず残ってしまうことがある 1 3

クラスの中で浮いていると感じることがある 3 4

【やる気のあるクラスをつくるためのアンケート】

質問項目 回答

6月 11 月

自分の将来に夢や希望を持っている 3 5

進路について仲のよい友人などと話をする 1 4

※ 質問項目への回答は5点法 5…とてもそう思う,4…少しそう思う,3…どちらとも言えない

2…あまりそう思わない,1…全くそう思わない

の結果から,学級集団の質を高めていこうとする姿勢や学級への連帯感の高まり,一部の生

徒における学級への安心感の高まりにやや課題があると分かる。したがって,10月の実証授

業では集団への連帯感を高めることができたが,日常の教育活動を通して見てみると学級へ

の連帯感を高めるまでには至らなかったと考えられる。その理由を2点あげる。1点目は,

実証授業は5~7人の集団での活動であり,学級と比べその規模が違うことが考えられる。

10 月の実証授業の題材は,合唱コンクールと関連させていた。授業後,学級担任は,授業で

学んだことを日常生活や学校行事にどのように生かしていくかが今後の課題だと述べていた。

よって,集団を通して学んだことを,学級の中に生かしていく具体的な取組が必要であった

と考えられる。2点目は,授業だけの取組では,学級への連帯感を高めることは難しかった

と考えられる。よって,生徒が授業で学んだことを日常の教育活動に生かしていく取組が必

要であったと考えられる。

以上,Q-U アンケートの分析と考察から,学級の実態に応じて,計画的に人間関係づくり

の授業を実践したことで,生徒は学級への安心感を高め,安心して自分の考えを話すことが

できる学級がやや形成されたと考える。

② 生徒 A の変容

2回目の Q-U アンケートに

おいて,抽出生徒 A は承認得点

が高くなり,非承認群から学級

生活不満足群へと位置を変え

た(図-28)。6月の Q-U アン

ケートで承認得点が低かった

質問項目は,11月において「学

級で行う活動には積極的に取

り組んでいる」を除いて承認得

点を挙げた(表-13)。一方で,

被侵害得点が高くなった。その

質問項目「班をつくる時入れず

残ってしまうことがある」「ク

ラスの中で浮いていると感じ

ることがある」では,他の項目

と比べ否定的な回答が目立っ

た。やる気のあるクラスをつく

るためのアンケートの進路意

識に関する質問項目において,

肯定的に回答していることが

分かった。

学級担任は「以前と比べると,

授業や班活動に対して前向き

に取り組むようになったが,合唱コンクールなど学級全体での活動になると,人目を気にして

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-人間・長研‐40

消極的になってしまう」と実証授業後の日常生活の様子を述べた。

以上の結果と実態から,人間関係づくりの授業を計画的に実践したことは,生徒 A の学習面

や生活面において一定の効果があったと考えられる。しかし,それは生徒 A と周囲との関係性

を改善するには至らなかった。本研究では,生徒 A の不安を軽減するために,「体験をする」

学習活動でグルーピングに留意した。その結果,実証授業の項で述べたように,生徒 A は笑顔

を見せながら,意欲的に活動するようになった。よって,「体験をする」学習活動において,

グルーピングに留意したことは,生徒 A に対して効果的であったと考えられる。しかし,「ふ

り返る」学習活動において,生徒 A は,周囲の目を気にして,あまり意欲的に活動することが

できなかった。生徒 A の人間関係形成力を高め,周囲との関係性を改善するためには,グルー

ピングだけでなく,動機付けや声かけなどの働きかけが必要であったと考えられる。

(イ) 自己評価の分析

授業後の自己評価を図-29に

示す。表の数値は学級平均を示

している。

実証授業を重ねるごとに,各

項目の評価が上がっている。要

因として,次の2点が考えられ

る。1点目は,生徒に対して,

授業のねらいを明確にしたこと

である。めあてを提示する前に

「誕生日チェーン」や「だまし

絵」のような活動を取り入れた

ことは,ねらいを意識化させる

ことに有効であったと考えられる。2点目は,「ふり返る」学習活動を充実させたことである。

つまり,活動が楽しかっただけでなく,活動から何を気付いたのか意識化させるための工夫をし

たことである。本研究が工夫したことは,まず,個人の考えを書く場面では,一斉授業の隊形に

したことで,周囲を気にならない場をつくったことである。次に,体験を通して学んだことを友

だちとわかち合う場面では,司会者を決め,進め方を提示したことで,戸惑うことなく安心して

「ふり返る」学習活動が進めることができたことである。これらの工夫が「ふり返る」学習活動

において有効であったと考えられる。

項目ごとに見てみると,項目4「友だちのよいところに気付いた」と項目5「自分の考えを伝

えることができた」の2項目において,9月から10月にかけた変化が顕著である。その要因とし

て,次の2点が考えられる。1点目は,9月の自己評価が学級の実態を反映していたことである。

学級の実態の項で述べたように,実証授業を行う前は,他者に対して無関心な生徒が多く,学級

への所属感や安心感が十分でないため,安心して自分の考えを伝えることができにくい状況であ

った。したがって,他の質問項目に比べると,この2項目は,もともと評価が低かったと考えら

れる。2点目は,学級の実態に応じて,年間計画を見直し,実証授業を進めたことである。つま

り,10月の実証授業では,9月に学んだスキルを生かしながら,班で協力して課題を解決させる

活動を通して,仲間意識や所属感を持たせることを目的とし,目的に合った題材を配置して,授

1 楽しかった2 自分のため

になった

3 自分のよい

ところ

4 友だちの

よいところ

5 自分の考え

を伝える

6 友だちの考え

を聞く

9月 3.75 3.33 3.33 2.86 2.86 3.33

10月 3.75 3.64 3.44 3.69 3.78 3.78

11月 3.86 3.83 3.66 3.8 3.8 3.86

0

0.5

1

1.5

2

2.5

3

3.5

49月 10月 11月

項目

図-29 自己評価の結果(K 中学校2年生)

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-人間・長研‐41

業をした。その効果が結果として表れたと考えられる。

以上の自己評価の分析と考察から,学級の実態に応じて,計画的に人間関係づくりの授業を実

践したことで,人間関係形成力の高まったと考える。

(ウ) 学級担任の意識

3回の実証授業を実践した学級担任の感想をまとめた。

学級担任は,生徒に活動を通して他者との関わり方を気付かせる必要があると考え,これまで,

人間関係づくりの授業を何度か実践していた。しかし,題材と題材の関連や学校行事と時期に合

った計画的な取組ができてないことを課題としてとらえていた。実証授業を通して,生徒の授業

への取組や感想,日常生活の様子から,計画的に人間関係づくりの授業を設定して実践すれば,

他者との関係が深まり,生徒間のトラブルを未然に防ぐことができると実感した。

人間関係づくりの授業の指導方法については,活動に消極的な生徒に対して,どのような支援

をすればよいのか,また生徒の活動に対して,どこまで介入すればよいかなど戸惑っていた。実

証授業を通して,活動のねらいやルールを明確にすれば,生徒が主体的に活動に参加し,活動が

楽しかっただけで終わらず,めあてに則した気付きを持たせることができると実感した。また,

生徒が活動で得た気付きを意識化するためには,「ふり返る」学習活動が重要であると考えるよ

うになった。そのため,個人で考える場の設定や体験を通して学んだことを友達とわかち合う場

面の進め方など工夫するようになった。

以上のことから,カリキュラムを活用することで,人間関係づくりの取組への考えが深まり,

資質向上につながったと考えられる。

以上,(ア)(イ)(ウ)から,学級の実態を把握し,明らかになった課題を解消するために,「人間関

係づくりふくおかカリキュラム」を活用したことで,よりよい学級集団が形成され,生徒の人間

関係形成力が高まったと考える。

資料-25 実証授業を終えた学級担任の感想(要約)

実践後すぐに,生徒同士の関わり方に目に見えた変化は見られない。これまでの教育活動を

ふり返ると,生徒同士で何か問題があったときに,仲裁しながら人間関係を築かせる場面が多

かった。しかし,カリキュラムを活用することで,事前に生徒同士の関係づくりができて,生

徒間のトラブルが減り,他者を中傷するようなことはなかった。合唱コンクールを例に挙げる

と,互いの個性を理解し,ぶつかり合いもなかった。また,以前から,自分自身が人間関係づ

くりの授業を実践したいと思っていた。実践を通して,生徒との関わり方や指導方法などを学

んだことで,学級経営に自信を持つことができた。さらに,題材が学校行事や時期と関連して

いるため,学級担任として取り組みやすかった。以上の点から,カリキュラムは効果があった

と思うし,成果としてとらえている。

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-人間・長研‐42

0 5 10 15 20 25

児童生徒同士の人間関係

秩序やルール

児童生徒との人間関係

見通しをもった学級経営

向き合う時間の確保

保護者対応

教師同士の人間関係

(人)

図-30 学級づくりを進める上で効果があると思われること

(3) 「人間関係づくりふくおかカリキュラム」の考察

「人間関係づくりふくおかカリキュラム」を活用した学級担任のアンケートをもとに,本研究

が作成したカリキュラムの学級づくりへの効果,有用性,人間関係づくりの授業で大切だと感じ

たことを考察する。調査目的は,カリキュラム活用後の児童生徒の人間関係づくりに関する意識

や指導等とし,平成27年11月12日から11月26日の期間に,質問紙による調査を実施した。質問紙

の回答方法は,選択肢と自由記述とした。回答者数は,H 小学校は学級担任4人,K 中学校は学級

担任および副担任27人である。なお,K 中学校は本研究のカリキュラムを学校全体で活用した。

ア カリキュラムの学級づくりへの効果

本研究が作成したカリキュラ

ムは,学級づくりにどのような

効果があるのだろうか。調査結

果では,「児童生徒同士の人間

関係」「学級の秩序やルールづ

くり」「児童生徒との人間関係」

の順であった(図-30)。また,

理由は「取組の中で他者のよさ

をよく発見していた」「子ども

達の雰囲気が明るくなり,これ

まで話したことがない児童生徒

と話すようになった」「取組の

中で普段見ることができない姿が見られ,新たな一面を知ることができた」等であった。他者と

関わる場を設定した人間関係づくりの授業は,児童生徒の人間関係づくりに効果的であったこと

が考えられる。また,授業で「約束を知る」学習活動を取り入れたことは,学級の秩序やルール

づくりに有効にはたらいたと考えられる。さらに,授業を通して学級担任が児童生徒の新たな一

面を知り,よさに気付いたことで,児童生徒との関わり方にも変化が見られ,学級担任と児童生

徒との人間関係づくりにも効果があったと考えられる。

一方で,「年間を通して継続することが必要である」との意見もあった。これは,授業後の児

童生徒同士の関わりの変化や人間関係形成力の高まりをとらえにくいことが考えられる。したが

って,カリキュラム活用し,児童生徒の人間関係づくりへの効果を実証するためには,長期的視

野に立って検証する必要がある。

イ カリキュラムの有用性

カリキュラムの有用性は,「計画的な取組ができる」「誰でも授業ができる」の順であった(図

-31)。また,理由は「教科であればあるはずのカリキュラムがなかったので,今後,人間関係

づくりの取組を行う上で,とても助かる」「小中連携を意識した連続性・系統性のある人間関係

づくりの取組が必要だと思っていたから」等であった。事前調査から人間関係づくりの取組の必

要性を感じながら,計画的な取組や組織的な取組が実施できていない現状があった。また,学級

担任の多くが人間関係づくりの取組を実践したいと感じながらも,どのような題材を実践したら

よいのか,どのように授業を進めるのか,という悩みもあった。本研究のカリキュラムは,人間

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-人間・長研‐43

0 5 10 15 20 25

計画的な取組

誰でも授業ができる

児童生徒の課題克服

児童生徒との信頼関係

授業準備の手間

題材の選定

(人)

図-31 カリキュラムの有用性

0 5 10 15 20

ふり返りを必ず行う

目的を明確にする

ルールを明確にする

日常的に行う

児童生徒や集団の課題

児童生徒の主体性

一人一人に気を配る

児童生徒の個人の力

声かけをする

課題のある児童生徒を中心

児童との信頼関係

感情的に怒らない

児童生徒の話を聴く

(人)

図-32 人間関係づくりの授業で大切にしたいこと

関係づくりの取組において,学

級担任の困り感を解消し,資質

向上の一助となったことが分か

る。さらに,小中連携した取組

や組織的な取組の推進など,そ

の活用の幅を広げることが期待

できる。

ウ 人間関係づくりの授業で大切なこと

調査結果では,「ふり返りを

必ず行う」「目的を明確にする」

「ルールを明確にする」の順で

あった(図-32)。理由は,「ね

らいを意識させた活動を行うこ

とで,振り返りを明確にさせる

ことができる」「ルールを守ら

せることによって,ねらいに沿

った展開ができる」「体験をふ

り返ることで,自他のよさに気

付かせることができる」等であ

った。この結果から,人間関係

づくりの授業を通して,人間関係形成力を育成するには,以下の3点が大切であると考える。1

点目は,児童生徒に目的意識を持たせて体験活動をさせることである。2点目は,児童生徒が安

心して体験活動を進めるために,ルールを守らせることである。3点目は,児童生徒が体験活動

から何を学んだのか,ふり返らせることである。本研究は,四つの学習活動「ねらいを知る」「約

束を知る」「体験をする」「ふり返る」を人間関係づくりの授業に位置付けた。この四つの学習

活動が有機的に結びつくことで,児童生徒の人間関係形成力の高まりに有効にはたらくと考えら

れる。

「人間関係づくりふくおかカリキュラム」を活用した学級担任のアンケート結果から,本研究

が作成したカリキュラムは学級担任の困り感を解消し,人間関係づくりの取組を計画的に行う上

で有効であると考える。さらに,児童生徒の人間関係づくりの指導を示すことができたと考える。

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-人間・長研‐44

第Ⅲ章 研究の成果と課題

1 研究の成果

本研究は,学級担任が小中9年間を通して系統的・計画的に児童生徒の人間関係づくりの指導がで

きる「人間関係づくりふくおかカリキュラム」を作成した。さらに,学級担任が学級の実態に応じて,

本カリキュラムの年間計画を見直し,人間関係づくりの授業を実践した。以下,研究の成果を述べる。

(1) 「人間関係づくりふくおかカリキュラム」の作成

「人間関係づくりふくおかカリキュラム」は,9年間を見通して人間関係形成力を育成するた

めに,人間関係形成力系統表,年間計画,学習指導案の三つで構成した。その作成の成果を3点

述べる。

○ 人間関係形成力系統表は,発達段階に応じて児童生徒の人間関係形成力を育成する方針を学

級担任に提示することができた。

○ 年間計画は,学級担任が見通しをもって,人間関係づくりの授業を計画的に実施できる指針

を提示することができた。

○ 学習指導案は,人間関係づくりの授業の具体的な手法を提示することができた。

以上の成果から,「人間関係づくりふくおかカリキュラム」を作成したことで,9年間の系統

性を見据えた指導の在り方の一案を提示することができた。さらに,「授業準備の時間がない」

「題材の選定がわからない」「計画的な取組が行われていない」という学級担任の困り感を解消

することができたと考える。

(2) 「人間関係づくりふくおかカリキュラム」の活用

本研究では,学級の実態に応じてカリキュラムを活用し,児童生徒の人間関係形成力を高めら

れることを実証した。カリキュラムの活用の成果について3点述べる。

○ 学級担任が,学級集団や児童生徒の実態に応じて,カリキュラムの年間計画を見直し人間関

係づくりの授業を実践したことは,児童生徒の人間関係形成力を高めることに有効であった。

○ 四つの学習活動を位置付けた人間関係づくりの授業は,児童生徒の人間関係形成力を高める

ことに有効であった。

○ Q-U アンケートを活用した児童生徒の人間関係づくりの一例を示すことができた。

以上の成果から,学級担任が「人間関係づくりふくおかカリキュラム」を活用したことで,Q-U

アンケートを効果的に用いて児童生徒の人間関係形成力を高める具体的な実践事例を示すことが

できた。また,それは学級担任の資質向上のための一例を提示することができたと考える。

2 研究の課題

「人間関係づくりふくおかカリキュラム」の課題について,研究の内容と今後の方向性の視点から

4点述べる。

(1) 配慮を要する児童生徒への支援の工夫

配慮を要する児童生徒への人間関係形成力を高めるための個別の支援を検証する必要がある。

そのためには,配慮を要する児童生徒の実態を把握し,他者と関わることへの不安感や授業への

つまずきをなくすために,グルーピングや声かけ等を工夫して働き掛けていくことが重要である

と考える。

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-人間・長研‐45

(2) 学校行事との関連性の検証

児童生徒の人間関係形成力をさらに高めるために,学校行事と関連させた題材を計画的に配置

し実践したが,その効果を三ヶ月で検証するまでには至らなかった。そのために,年間を通して

学校行事との関連を客観的に見取る必要がある。

(3) 新しい指標の必要性

Q-U アンケートの結果と日常生活の様子から児童生徒の自己他者理解力とコミュニケーション

能力を把握した。さらに,信憑性を高めるために,人間関係形成力の各スキルを測ることができ

る新しい指標が必要である。

(4) カリキュラムの有効性

カリキュラムを学級の実態に応じて活用することは,児童生徒の人間関係形成力を高めること

に一定の効果は認められたが,系統的な高まりと年間を通した高まりの検証には至らなかった。

そのため,系統的な実証と年間を通した実証を行いながら,児童生徒の変容を見取り,その有用

性を検証していく必要がある。

3 まとめ

本研究では,学級担任が学級集団と児童生徒の実態を分析し,学級の実態に応じた授業を計画的に

実施することで,児童生徒の人間関係形成力が高まった。また,人間関係形成力が高まった児童生徒

は,周囲との関わり方を変容させていき,よりよい人間関係を築くことの大切さに気付くことができ

た。

このように,児童生徒に人間関係形成力を育成していくためには,年度初めに,特別活動の年間計

画へ「人間関係づくりふくおかカリキュラム」を位置づけ,4月から計画的に実践することが望まれ

る。さらに人間関係形成力を高めるためにも,日常の全教育活動において,「人間関係づくり」を意

識した実践を積み重ねていく必要がある。

また,本研究は同じ小中ブロックの学校で児童生徒の人間関係づくりの取組を実証してきた。校種

は変わっても,小中の学級担任が共通の目標や方法を理解して,一貫性のある学習活動を行ったこと

に価値がある。このような小中ブロックでの人間関係づくりの取組が全市に広がることが望まれる。

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-人間・長研‐46

資料等

引用文献

1 文部科学省 中学校学習指導要領解説 特別活動編 (平成20年)

2 文部科学省 生徒指導提要 (平成22年)

3 福岡市教育委員会 福岡市の不登校対策について 報告書 (平成21年)

4 河村茂雄 グループ体験によるタイプ別学級育成プログラム小学校編 (平成13年)

5 岡田弘 構成的グループエンカウンター辞典 図書文化 (平成16年)

参考文献

1 福岡市教育委員会 新しいふくおかの教育計画 後期実施計画 (平成26年)

2 國分康孝監修 構成的グループエンカウンター辞典 図書文化 (平成16年)

3 國分康孝・岡田弘 エンカウンターで学級が変わる 小学校編①~② 図書文化 (平成13年)

4 國分康孝・片野智治 エンカウンターで学級が変わる 中学校編①~③ 図書文化 (平成13年)

5 國分康孝 他 エンカウンターで学級が変わるショートエクササイズ集 図書文化 (平成11年)

6 児童が輝く風土づくりの実践と理論 謳歌書房 (平成22年)

7 学級作りのトータルデザイン 謳歌書房 (平成24年)

8 小泉令三 他 社会性と情動の学習(SEL-8S)の進め方 中学校編 ミネルヴァ書房 (平成23年)

9 小泉令三 他 社会性と情動の学習(SEL-8S)の進め方 小学校編 ミネルヴァ書房 (平成23年)

11 小泉令三 他 社会性と情動の学習(SEL-8S)の導入と実践 ミネルヴァ書房 (平成23年)

10 河村茂雄 データが語る①学校の課題 図書文化 (平成19年)

11 河村茂雄 データが語る②子どもの実態 図書文化 (平成19年)

12 坂野公信 協力すれば何かがかわる〈続・学校グループワーク・トレーニング〉遊戯社 (平成6年)

13 坂野公信 学校グループワーク・トレーニング3 遊戯社 (平成15年)

14 坂野公信 学校グループワーク・トレーニング 遊戯社 (平成1年)

15 岡田弘 小学校人間関係づくりエクササイズ&ワークシート 学事出版 (平成26年)

16 滝充 ピア・サポートではじめる学校づくり中学校編 金子書房 (平成16年)

17 明里康弘 どんな学級にも使えるエンカウンター20選 図書文化 (平成19年)

18 園田雅代,中釜洋子 子どものためのアサーション自己表現グループワーク

日本・精神技術研究所 (平成22年)

参考サイト

1 NASAゲーム http://konsensasugame.web.fc2.com/ (平成27年)

研修員

山 本 幸 輝 (大池小学校教諭)

西 村 紀 彦 (内浜中学校教諭)

研究指導者

原 田 雅 秀 (研修・研究課 主任指導主事)

宇都宮 美 保 (研修・研究課 主任指導主事)

Teacher’s Teacher

Teacher’s Teacher2