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2017 年8月2日発行 超電導 Web21 (国研)産業技術総合研究所TIA推進センター 〒305-8560 茨城県つくば市梅園 1-1-1 中央第1 Tel: 029-862-6122 2017 年夏号 (Summer Issue) © AIST 2017 All rights reserved. -1- 掲載内容: トピックス:ASCOT 参画企業の超電導・極低温への取組み 内容: ○ 前川製作所の超電導・極低温事業の取組み 仲村 直子 ○ 住友電工における RE 系薄膜超電導線材開発 永石 竜起 ○ フジクラの RE 系高温超電導線材開発および応用機器開発の取り組み 大保 雅載 会議報告:CEC/ICMC 2017 (July 9−13, Monona Terrace, Madison, WI, USA) 内容: ○ 高温超電導の航空機応用 白井 康之 事務局から ○ISS2016 のプロシーディングスが刊行されました 超電導 Web21 トップページ 超電導 Web21 〈発行者〉 国立研究開発法人産業技術総合研究所(産総研)TIA推進センター 超電導 Web21 編集局 305-8560 茨城県つくば市梅園 1-1-1 つくば中央第1 Tel: 029-861-5264 Fax:029-862-6048 超電導 Web21 トップページ:https://www.tia-nano.jp/ascot/tyoudendou/index.html

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2017 年8月2日発行 超電導Web21

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掲載内容:

トピックス:ASCOT 参画企業の超電導・極低温への取組み

内容:

○ 前川製作所の超電導・極低温事業の取組み 仲村 直子

○ 住友電工における RE系薄膜超電導線材開発 永石 竜起

○ フジクラの RE系高温超電導線材開発および応用機器開発の取り組み 大保 雅載

会議報告:CEC/ICMC 2017 (July 9−13, Monona Terrace, Madison, WI, USA)

内容:

○ 高温超電導の航空機応用 白井 康之

事務局から

○ISS2016のプロシーディングスが刊行されました

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超電導 Web21

〈発行者〉

国立研究開発法人産業技術総合研究所(産総研)TIA推進センター 超電導Web21 編集局

〒305-8560 茨城県つくば市梅園 1-1-1 つくば中央第1

Tel: 029-861-5264 Fax:029-862-6048

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トピックス:ASCOT 参画企業の超電導・極低温への取組み

前川製作所の超電導・極低温事業の取組み

株式会社前川製作所 技術研究所 極低温システム推進室 仲村 直子

前川製作所は、高温から低温までの広い温度領域の製品を取り扱っており、産冷、食品、食肉、エ

ネルギー、ケミカル、船舶分野のお客様に圧縮機、冷凍機、フリーザー、ロボットを提供する老舗メ

ーカーである。2017 年 7 月現在、国内は 3 工場、60 拠点、海外は 41 ヶ国、7 工場、102 拠点を構

え、自社工場での徹底した「モノづくり」と、お客様と共に製品や市場を作り上げる「共創」の企業

文化を大切にしながら活動を行っている。

前川製作所の超電導や極低温分野での事業活動は、40 年ほど前に、米国のフェルミ研究所にヘリ

ウム圧縮機を納めたことからスタートした。その当時、誰もが困難と考えていたオイルインジェクシ

ョンのヘリウム圧縮機を開発し、ヘリウム冷却設備に採用してもらうことで、各国の核融合、加速器

研究に影ながら貢献してきた。この十数年間は、高温超電導ケーブルの冷凍機、冷却システムの開発

を行っている。NEDO「高温超電導ケーブル実証プロジェクト」で開発したブレイトン冷凍機は、達

成が難しいと言われていた COP: 0.1 にチャレンジし、COP: 0.1@77 K の結果を得た。我々は、今も

昔も変わらず、お客様のニーズに応えるため、高い目標に向かって挑戦し続けることの出来る技術屋

集団だと考えているし、今後もそうあり続けたいと思っている。

前述のブレイトン冷凍機は、冷凍能力 5 kW、COP: 0.1、メンテナンスインターバル 30,000 時間を

目標とし、開発に成功した。回転機の効率を高めるためにターボ圧縮機や膨張機は何度も試作、試験

を繰り返し、冷凍システム全体での損失を減らすためにシステムの最適化を行った。ターボ圧縮機、

膨張機には、磁気軸受を採用してオイルフリーならびに完全非接触で運転できるようにし、メンテナ

ンスインターバルの延長を行った。本開発では、効率を優先したことや、東京電力旭変電所で運転す

る可能性を考えて設計を行い、冷凍機の大きさや運用性の優先度を下げたため、必然的に冷凍機サイ

ズが大きくなり、冷凍機の搬入や据え付け時に苦労した。そこで、冷凍機のブラッシュアップを行い、

商品としてより多くのお客様に便利に使って頂くため、商品機「BraytonNeO」を開発した。

開発した「BraytonNeO」を写真 1 に示す。「BraytonNeO」は、冷凍サイクルを考案したブレイト

ン氏への敬意と、「冷媒のネオンガス」×「前川製作所にとって次世代の冷凍機であること」をかけて

命名した。海外で使用することも考えて、洋上コンテナで運べるサイズまで小型化を行った。一般的

に、冷凍機を小型にすると、流体損失等が増えるため、システム全体の効率も低下するが、本商品開

発では、ターボ機械の効率改善を図ることで大きな効率低下を防いでいる。また、社内のエンジニア

が客先で搬入、据付、試運転を行うことも考え、より産業用冷凍機に近づけた現地運用をイメージし

て設計した。冷凍機の運用性を高めることで、据付から運転までの時間短縮やメンテナンス作業の簡

素化が可能になると考えている。「BraytonNeO」は、2017 年内には販売出来るよう、鋭意準備を進め

ている。

近年では、海外での超電導ケーブルの普及活動にも力を入れて取り組んでおり、冷凍機メーカーの

枠を超えた活動を行っている。海外の関連組織や企業に向けて、超電導ケーブルの技術面を紹介しつ

つ、相手国の電力インフラの課題やニーズを吸い上げ、相手のニーズにマッチした提案を行っている。

本活動を行うことで、超電導ケーブルシステムに求められる本質的な技術課題も見えてきており、超

電導ケーブルシステム全体での最適化を行うため、引き続き技術開発を進めたい。

超電導の普及は、我々の長年の夢である。個々人の思いやこだわりで活動出来る前川製作所ならで

はの利点を活かし、超電導ケーブルの実用化を始めとした事業活動を通じて、今後も積極的に貢献し

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ていきたいと考えている。

写真 1 商品機「BraytonNeO」上:屋内仕様、下:屋外仕様

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トピックス:ASCOT 参画企業の超電導・極低温への取組み

住友電工における RE系薄膜超電導線材開発

住友電気工業株式会社 パワーシステム研究開発センター 次世代超電導開発室 永石 竜起

住友電工は、Bi 系線材の開発、販売(商品名:DI-BISCCO)及びRE 系薄膜線材の開発を行ってい

ます。本記事では、RE 系薄膜線材の開発について紹介いたします。

RE 系薄膜線材では、独自のクラッド基板を適用した開発を行っています。図 1 に当社線材の構造

を示します。クラッド基板は東洋鋼鈑株式会社と当社が開発したオリジナル基板で、100μm 厚の

SUS316 を基材として、その上に 17μm の銅箔をプラズマ処理により貼り付け、その上に酸化防止

膜として Ni をメッキした構造となっています。銅箔は高温で熱処理することにより 2 軸配向し、そ

の 2 軸配向を Ni メッキも引継いでいます。低磁性に加えて、いずれの材料も汎用材料であり、また

汎用技術で製造しているため、低コスト化が期待できるとともに、銅層を有するため安定化層を含ん

だ基材としての活用も期待できます。中間層は当初 Y2O3/YSZ/CeO2の 3 層構造で各々Ni との格子整

合、Ni 拡散防止、超電導層との格子整合の役割を持たせていましたが 1)、Y2O3にも Ni の拡散を防止

する機能があることが分かりましたので、低コスト化をにらんだ中間層層数の低減を検討し、1 層化

に成功しました 2)。超電導層は、PLD(Pulsed Laser Deposition)法により GdBCO 膜を成膜してい

ます。線幅を 30 mm とすることで、最終的な 4 mm 幅線材製作のスループットを向上させています。

現在、長尺では 4 mm 幅で最大 250 A、短尺では 300 A 以上の臨界電流を実現しています。線材長は

設備の制約上最長 200 m 程度となっておりますが、図 2 の外観写真に示すような銅メッキ線材を製

作しています。

図 1 住友電工の RE 系薄膜線材構造 図 2 RE 系薄膜線材の外観写真

応用検討として、NEDO プロジェクトにおいてケーブル開発を実施し、図 3 に示す 15 m の三心一

括型ケーブルを試作しました。図 4 は当社熊取製作所に設置したケーブル実証システムです。交流損

失の評価を行い、5 kA の通電で 1.8 W/m/相の低損失を実証するとともに、30 日間の長期安定課通電

試験に成功しました 3)。

当社は今後とも顧客のニーズに即した線材開発と応用技術開発を進めてまいります。

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図 3 三心一括型ケーブル外観写真 図 4 ケーブル実証システム

参考文献:

1)T. Nagaishi et al., Physica C 469 (2009) 1311–1315.

2)吉原他、3C-a09、2015 年秋季低温工学・超電導学会

3)住友電工プレスリリース 2013 年 5 月 28 日

(http://www.sei.co.jp/news/press/13/prs060_s.html)

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トピックス:ASCOT 参画企業の超電導・極低温への取組み

フジクラの RE系高温超電導線材開発および応用機器開発の取り組み

株式会社フジクラ 新規事業推進センター 超電導事業推進室 大保 雅載

1986 年の La 系高温超電導体の発表以降、翌年 2 月には液体窒素温度で超電導特性を示し、かつ磁

場中特性に優れるイットリウム系銅酸化物系超電導体が発見され、フジクラも同時期に RE(=Rare

Earth)系酸化物超電導線材の開発を開始した。RE 系超電導体は他の酸化物超電導体と同時期に発見

されながらその線材化は長年困難とされてきた。それは図 1 に示すように超電導電流は Cu-O2 の面

内(ab 面)に集中するため、通電方向に結晶の ab 面を揃える必要がある。さらに、ab 面内でも結晶

粒界で各軸が揃っていなければ通電特性が低下する 1)、つまり、RE 系超電導線材の実現には線材長

手方向に超電導の結晶を 3 次元的に揃える高度な技術開発が必要であった。1991 年には特定の角度

から Ar イオンを照射させながらスパッタ蒸着することで無配向の金属テープ上に 3 次元的に配向制

御された中間層を成膜するイオンビームアシスト蒸着(Ion Beam Assisted Deposition : IBAD)法を

独自開発 2) した(図 2 参照)。この IBAD 法により 3 次元的に配向した中間層の上に超電導層を積層

させ、高い臨界電流特性を示す線材を実現した。

フジクラでは超電導層はパルスレーザ蒸着(Pulsed Laser Deposition : PLD)法によって形成して

いる。PLD 法はパルスレーザを超電導焼結体に照射して、超電導焼結体を昇華させ、線材表面に超電

導層を積層させる。超電導層を形成する手法は PLD 法以外にもあるが、PLD 法は成膜の自由度が高

い特徴がある。PLD 法による超電導線材の特性は薄膜形成時の雰囲気温度に大きく影響されること

が知られている 3)。そこで超電導層を成膜する領域全体を加熱することにより、薄膜の成長面を常に

一定温度に保つことが可能となるホットウォール PLD 法を独自に開発した。図 3 にホットウォール

PLD 装置概略図を示し、図 4 にホットウォール PLD で製作した線材の臨界電流の膜厚依存性を示

す。図 4 のように従来の PLD 装置では超電導層厚が厚くなるにつれて臨界電流が低下するが、ホッ

トウォール PLD では超電導層厚さ 6μmでも特性を維持し、世界で初めて液体窒素中で 1000 A/cm

幅の線材を実現した 4)。

図 1 RE 系超電導体の結晶構造 図 2 IBAD 法の概念図 図 3 ホットウォール PLD 装置の概略図

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図 5は液体窒素中の 1 cm幅当たりの臨界電流値を単長で乗じた

値を縦軸に取り、線材開発経緯を示したものである。2005年には 200

m級、2008年には 500 m級、2011年には 800 m級の世界記録を

更新し、長年、世界で線材開発競争をリードしてきた。2011 年以降は

記録更新よりも高特性かつ長尺の線材を安定的に生産する量産技術

開発の段階に移っている。

図 6 に RE 系超電導線材の外観を、表 1 に現状の製品ラインアッ

プを示す。金属基板は 75μm 厚を適用し、安定化層は片側 20μm

厚の銅めっきを適用している。最近ではようやく数十 km オーダーの

線材の量産化が安定し、応用機器開発への提供を行っている 5)。また、

2016 年からは国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機

構より高温超電導高磁場コイル用線材の実用化技術開発プロジェクト

を受託し、特性向上、長尺化、生産性向上の研究開発を行っている。特性向上では人工ピンを導入した線材

開発にも取り組んでいる 6)。

図 5 線材開発経緯 図 6 RE 系超電導線材外観

表 1 RE 系超電導線材製品ラインアップ

型番 幅

(mm)

厚さ(μm) 絶縁

(ポリイミド)

Ic (A)

(77 K, s.f.) 金属基板 銅安定化層

FYSC-S12 12 75 - 有 / 無 ≧550

FYSC-SCH04 4 75 20 x 2 有 / 無 ≧165

FYSC-SCH12 12 75 20 x 2 有 / 無 ≧550

RE 系超電導線材の応用開発において、磁場特性、機械特性のロット間の特性は重要と考えており、

特性を把握すべく調査を行っている 7), 8)。また、機械特性について RE 系超電導線材は線材垂直方向

の剥離耐力が特に弱いと指摘されており、アンビル法や小型含浸コイルを用いた方法 9)などを用いて

剥離強度をワイブル解析することで線材強度の信頼性を高めるべく活動を行っている 10) 。さらに、

一般的なセラミックスでは室温中の静疲労特性、動疲労特性を把握することでセラミックスの信頼性

を評価していることが知られており 11)、同じ観点から RE 系超電導線材の室温中の静疲労特性、動疲

労特性を把握する取り組みも開始している 12)。

金属基板

中間層

超電導層

保護層(Ag)

安定化層(Cu)

絶縁層

(ポリイミドテー

図 4 RE 系線材臨界電流膜厚

依存性

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フジクラは 2009 年より RE 系超電導線材の市販化を開始したが、並行して小型コイル試作による

課題抽出、含浸コイルの安定性評価などコイル開発も行ってきた 13)。2012 年にはフジクラ製 RE 系

超電導線材を約 7.2 km 使用し、蓄積エネルギー426 kJ という当時世界最大級の RE 系高温超電導マ

グネットの開発にも成功した。この超電導マグネット製作に当たっては各パンケーキコイルを液体窒

素中で測定し低電圧領域からの n 値を評価することによって各パンケーキコイルの健全性を確認し、

さらに、製作した超電導マグネットの遮蔽電流による中心磁場ドリフト量を評価し、通電電流を 1%

オーバーシュートすることにより磁場ドリフト量が約 1 桁抑制されることを確認した 14) (図 7、8 参

照)。超電導マグネット製作の事前検証ではモデルコイルを試作し,コイル内磁場分布計算値と超電

導線材の磁場中臨界電流特性からコイル臨界電流を計算し、測定結果が±5%以内で一致することを

確認している。なお、製作したRE 系超電導マグネットは社内で線材特性評価および小型コイルフー

プ試験用マグネットとして利用しており、製作後 4 年以上経過しても問題なく稼働している。

また、最近では加速器用六極マグネットの小型含浸コイルを製作し、熱安定性を評価し、コイルが

クエンチしても検出、コイル保護が可能なことを解析で確認している。今後、コイルを試作して検証

する計画である 15)。

なお、RE 系超電導線材を用いた超電導ケーブル開発も行っており、2012 年には 66 kV で当時世

界最大級の 5 kA 級超電導ケーブルの開発に成功している。4 mm 幅線材を用いて約 20 m の実証線

路を構築(図 9 参照)し、77 K において交流損失 1.4 W/m at 5 kArms を実証した 16)。

図 7 パンケーキコイル外観 図 8 φ20 cm ボア 5T 超電導マグネット

図 9 RE 系超電導ケーブル実証線路

以上、フジクラのこれまでの RE 系高温超電導線材開発および応用機器開発の取り組みについて述

べた。今後も超電導業界並びに社会に貢献できるよう、線材および応用開発に取り組んでいきたいと

考えている。今後とも皆様の御指導の程、宜しくお願い申し上げます。

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参考文献:

1) D. Dimos, et al. : Phys. Rev. B., Vol.41, p.4038, 1990

2) Y. Iijima, et.al., Appl. Phys. Lett. Vol 60, p.769, 1992

3)五十嵐ほか:フジクラ技報 第 115 号,p.46,2008

4) K. Kakimoto, et al, : Physica C. Vol. 469, p.1294-1297. 2009

5)横山ほか:低温工学 第 52 巻 4 号,p.217, 2017

6)吉田ほか:フジクラ技報 第 130 号,p.22,2017

7)藤田ほか:低温工学 第 48 巻, p.172, 2013

8)五十嵐ほか:フジクラ技報 第 129 号,p.5,2016

9) H. Miyazaki, et al. : IEEE Trans. Appl. Supercond., vol. 24, no. 3, 4600905, 2014

10)藤田ほか:第 94 回低温工学・超電導学会 講演概要集,p165,2017

11) D.Munz, et al. : Materials Selection Springer Verlag, 1999

12)武藤ほか:第 94 回低温工学・超電導学会 講演概要集,p166,2017

13) M. Daibo, et al., IEEE Trans. Appl. Supercond. Vol.22, No.3, 3900204, 2012

14)大保ほか:低温工学 第 48 巻, p.226, 2013

15)藤田ほか:フジクラ技報 第 129 号,p.16,2016

16)渡辺ほか:フジクラ技報 第 129 号,p.22,2016

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会議報告:CEC/ICMC 2017 (July 9−13, Monona Terrace, Madison, WI, USA)

高温超電導の航空機応用

京都大学 大学院エネルギー科学研究科 白井 康之

今回のCEC-ICMC 2017 においては Focus Session として Propulsion に関して7つのシンポジウ

ム(1: Overview, System Level 2: Power Electronics 3: Materials, Technologies, Drivetrain

machines 4: Power Electronics, Energy 5: Motors & Generators 6: Cryocool Technologies

7: Wires & Cables)があった.航空機への応用を目指した研究の発表数は多く,関連するモータをは

じめとした電気機器だけでなく,航空機に搭載することを想定した超電導冷媒,パワエレ機器等に関

する研究など数多くの分野で活発な研究発表が行われた.

初日のPlenary Sessionでは,NASA Ames Research Center (USA)のN, Madavan氏によるNASA

における大型商業航空機用電動機の開発状況の報告があった.次世代の飛行機として望まれる特性は,

低炭素排出,静音性,エネルギー利用量の削減(機体のドラッグ低減,パワートレインの効率上昇)な

どが掲げられ,その中で取り組むべき課題としては,電気システムの重量削減,貯蔵装置のエネルギ

ー密度向上,温度管理,機体制御,安全性の向上,認可を受けることが挙げられた.

実現を目指すパワートレインシステムとして,自動車と同様に,余剰タービン動力によりモータ回

生を行うパラレルハイブリッド,ジェットエンジンによりバッテリーへの給電を行い,プロペラと直

結されたモータを推進に用いるシリーズハイブリッド,モータとバッテリーのみの完全な電動航空機

などを挙げ,段階的に電動化を進めることが示された.NASA では,N3-X というコンセプトモデル

が設計されており,合計 30 MW の推力を持つ複数個の超伝導モータによって推進し,300 人程度の

収容スペースを持つ.同様に Airbus と Rolls-Royce も E-Thrust という超伝導モータによる電気飛

行機のモデルが設計されている.また,GE と Rolls-Royce は,詳細な要素解析を行い,コンバータ

や遮断器,限流器によるロスを減らすことが,システム重量軽減に重要であることが報告されている.

そこで,MTECH や Boeing は,液化天然ガスあるいは,液体水素下で 1000 V 入力で最大 3000 Hz

動作が可能な 99%以上の効率を持つインバータ(SiC,GaN,etc.)の開発を行っていることが説明

された.さらに伝導冷却システムの比出力の向上も目指されており,現状の 6 倍の 3 kg/kW が目標

となっていることが報告された.

同日午前のセッションにおいて,Siemens AG (Germany)の F, Anton により高温超電導の航空機

応用の状況の報告があった.高温超電導技術の適応により,出力重量比の向上,電位低下,航空機設

計の自由性の向上などのメリットが得られ,環境性能だけでなく機体性能の大幅な向上も目指せるこ

とが示された.2017/5 より,EU において産官学が参加し,2020 年までの 3 年間で超電導搭載電動

航空機の開発を目指したプロジェクト(ASuMED:Advanced Superconducting Motor Experimental

Demonstrator)が始まっており,多額の研究資金(480 万€)が投入され,実現への研究が本格的に

始まっていることも報告された.ターゲットは 20 kW/kg~の超電導モータ(HTS 固定子 450 kA/m

~,HTS 回転子 2.5 T~)で,1MW 推力@1 万 rpm でサーマルロスは 0.1%以下,モジュラーイン

バータシステムとしてロバスト制御を行い安全性と柔軟性を担保する.

続けて同セッションにおいて,U.S. Air Force Research Laboratory (USA) の Timothy Haugan

氏による電動航空機への低温機器,超電導機器の開発の発表があった.液体窒素温度下での使用を想

定した電動機,インバータ等のパワエレ機器,超電導送電線,SMES などのエネルギー貯蔵装置,液

体窒素の貯蔵タンクなど多くの分野での開発が進められていることが発表された.

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2017 年8月2日発行 超電導Web21

(国研)産業技術総合研究所TIA推進センター 〒305-8560 茨城県つくば市梅園 1-1-1 中央第1 Tel: 029-862-6122

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また,Georgia Institute of Technology の L, Graber により,低温下で作動する IGBT の作成と性

能評価に関する発表があった.従来の IGBT 素子は,プラスチックやシリコンゲルが使用されるが,

低温下での利用には適さないため,セラミック製のモジュールに銅と圧着することで接続する IGBT

が製作された.製作された素子は,液体窒素浸漬冷却下で特性評価が行われ,液体窒素温度下では,

常温に比べ,同じエミッタ・コレクタ電流において,エミッタ・コレクタ電圧は低く,閾値電圧は,

キャリアの不活性化により高くなることが説明された.よって,低温時の動作による発熱は小さくな

るため,電気飛行機などに搭載するにあたって高効率化が目指せることが報告された.

その他,超伝導飛行機に搭載することを目的とした各デバイスの研究発表の数が多く,その中でも

航空業界や電気業界の企業による発表も多かった.超電導機器の高エネルギー密度(体積当たり&重

量当たり)のメリットを最大限に活かせる応用デバイスとして,電気飛行機はかなり注目されている

といえる.

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事務局から

ISS2016のプロシーディングスが刊行されました

昨年の5月に ASCOT が発足してから1年以上が経過しました。超電導技術の社会実装を目指して

色々と検討を進めているところですが、本号から、「ASCOT 参画企業の超電導・極低温への取組み」

と言うトピックス記事を掲載することになりました。各企業の相互理解にも役立つと思いますので、

積極的な寄稿をお願いします。また、最近、高温超電導の航空機応用が注目されていますが、7月に

開催された CEC/ICMC2017 でも、それに関連する多くの研究発表がなされました。京都大学の白井先

生にその報告記事を寄稿していただきましたので、参考にしていただけましたら幸いです。

さて、ASCOT は、昨年から産総研が主催している国際超電導シンポジウム International

Symposium on Superconductivity (ISS) を大きく支援しております。昨年の 12月 13~15日に東京

国際フォーラムで開催された ISS2016 では、招待講演を含めて約 320件の発表がありましたが、そ

の約4割の 120件以上の論文投稿がありました。専門家による厳正な査読を経て 104件の論文がアク

セプトされ、7月末に、オンラインジャーナル Journal of Physics: Conference Series, Vol. 871

として刊行されました(http://iopscience.iop.org/issue/1742-6596/871/1)。一昔前の、冊子とし

てのプロシーディングス “Advances in Superconductivity”と違って、オープンアクセスのオンラ

インジャーナルは、その内容(論文)に無料で容易にアクセスできるのが特徴です。

なお、ISS の第 30 回目に当たる今年は、昨年と同じ 12 月 13~15 日に東京内幸町のイイノホール

&カンファレンスセンターで開催されます。既に、海外からの招待講演者 40 人以上から内諾をいた

だいております。例年以上に国際色豊かな会議になるはずですので、皆様の積極的な参加をお待ちし

ております。