48
2001年度 望月 宏:経済分析ゼミナール 卒業論文 総合商社の歴史と未来 ~果たして商社は生き残れるのか~ E10-0599C 江藤 裕史

一太郎 10/9/8 文書 - senshu-u.ac.jpthe0350/2001/paper/eto.pdf3 ~はじめに~ 総合商社とは何であろうか。これほど名前を知られていながら、意外なほど実態を知られていない業態というのも珍しい。い

  • Upload
    others

  • View
    0

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: 一太郎 10/9/8 文書 - senshu-u.ac.jpthe0350/2001/paper/eto.pdf3 ~はじめに~ 総合商社とは何であろうか。これほど名前を知られていながら、意外なほど実態を知られていない業態というのも珍しい。い

2001年度

望月 宏:経済分析ゼミナール

卒業論文

総合商社の歴史と未来                    ~果たして商社は生き残れるのか~

        E10-0599C        江藤 裕史

Page 2: 一太郎 10/9/8 文書 - senshu-u.ac.jpthe0350/2001/paper/eto.pdf3 ~はじめに~ 総合商社とは何であろうか。これほど名前を知られていながら、意外なほど実態を知られていない業態というのも珍しい。い

2

~はじめに~ ................................................................ 3

第一章 商社とは何か .................................................................3

第一節 商社の定義 3

第二節 商社の機能 5

第二章 商社の歴史 ...................................................................6

第一節 源流 7

第二節 戦後復興期から1950年代まで 7

第三節 高度成長時代の1960年代 8

第四節 高度成長の終焉と1970年代 9

第五節 商社冬の時代と1980年代 9

第六節 バブル崩壊から現在まで(1990年代) 10

第七節 ケーススタディー 14

第三章 商社の現状 .................................................................18

 第一節 商社の資本経済性の悪さ 18

 第二節 加速する商社の事業再編 その一 19

 第三節 加速する商社の事業再編 その二 20

 第四節 加速する商社の事業再編 その三 22

 第五節 商社の格付け 28

第四章 IT革命と商社 ................................................................31

 第一節 IT革命の意義 31

 第二節 商社のITへの取り組み 32

 第三節 商社の新しい機能      35

 

~最後に~ ............................................................... 36

Page 3: 一太郎 10/9/8 文書 - senshu-u.ac.jpthe0350/2001/paper/eto.pdf3 ~はじめに~ 総合商社とは何であろうか。これほど名前を知られていながら、意外なほど実態を知られていない業態というのも珍しい。い

3

  

 ~はじめに~

  

総合商社とは何であろうか。

これほど名前を知られていながら、意外なほど実態を知られていない業態というのも珍しい。い

ったい何をする会社なのかも知られていないことが多い。「何を売っているの?」と聞かれること

も多い。おそらくは自動車や銀行といったように商品ややサービスが具体的に見える物がないので、

イメージがわいてこないからだろう。しかし、総合商社は銀行とともに、六大企業集団の要である

とともに、日本経済の高度成長における牽引車となってきた日本大企業である。もちろん現在にお

いても、様々な方面にてその力を発揮している。

商社は時代とともに常に自己変革をくりかえしながら社会、時代に貢献してきた。しかし、いつ

の時代にも「商社は斜陽産業」であるとか、「商社不要論」が台頭しているのはなぜだろうか。さ

らに、IT革命が叫ばれITが浸透してゆく現在も(特にインターネットの普及で)、商社不要論が再

びささやかれている。本当に商社はいらない産業なのか。どういった背景があって商社中抜きとい

われたりするのか。生き残るすべはあるのか。特に今回はITと絡めて歴史的、構造的に話を進めて

いこうと思う。そして総合商社がおかれている現状を中心に過去から分析をし、商社の未来を考え

てゆきたい。  

                        

第一章 商社とは何か、その定義とその機能(役割)

第一節 その定義

商社っていったい何だろうか。商社って一口にいっても実に複雑で多様である。一般的には商社

といえば、伊藤忠商事、三井商事、三菱商事、住友商事、丸紅、日商岩井に代表される大手総合商

社をイメージされ、商社という業界が形成されてはいるが、それらを規定する法律的根拠はない。

東京証券取引所などの区分にも「商社」という区分は存在しない。

法律的見地から考えるなら「商法」がある。同法の五二条一項によれば<営利や商行為などの営

業を目的として設立された社団法人>が商事会社と規定するなら製造業を含む全ての企業は商事会

社となってしまう。さらに「商法」の問屋の規定をみても<自己の名を以て他人のために物品の販

売又は買い入れを為すを業とする者>とあるだけで、今日の商社を規定するにはきわめて不十分で

ある。そこで、商社の活動の特徴として輸出入が大きな部分を占めているという実体から貿易業態

統計表が商社を考える上で一つの定義を投げかけるのではないかと考えた。(*1)この統計によ

れば輸出入を行う貿易企業数は18442社あり、そのうちのなかで「卸・小売り」とされている

企業数は7305社で、全体の61.7%。ここから年間売上高1000億以上の「卸・小売業」は14

3社である。さらにそこから年間売り上げ1000億以上の百貨店16社をのぞいた127社を「商

社」と呼んでいいだろう。

(*1)データは1994年3月末現在の物で1997年にも似たデータはあるのだが分類のされ方が少々異なり正し

い数字が出せなかったので(輸出事業者数と輸入事業者数が分かれており同時に事業をする事業者数があいまいなため)

古いデータとなってしまいました。

一方、東京証券取引所の区分によれば、「商社」という区分の代わりに「卸売り・小売業」とし

て商社は、百貨店、スーパー、アパレルなどと一緒に並んでいる。

これは一言にいってしまえば、自動車や電気などの純粋なメーカー、すなわち製造業に対して非

メーカー的な仕事を担当している企業のことである。それは主に、卸や小売り・販売、流通といっ

たものを担当していると思えばよかろう。こういった仕事を担う会社を「商社」と称してよいので

はないか。

中にはアパレル企業のように自主生産をしているケースもあるが、商品の流通・販売に比重が置

Page 4: 一太郎 10/9/8 文書 - senshu-u.ac.jpthe0350/2001/paper/eto.pdf3 ~はじめに~ 総合商社とは何であろうか。これほど名前を知られていながら、意外なほど実態を知られていない業態というのも珍しい。い

4

かれているといえよう。そのほか、理解を深めるためにちょっとした例として外資系企業の日本IB

Mとアップルコンピューターの日本法人があげられる。実は後者は商社である。日本IBMは日本で

コンピューターの製造を行っているがアップルコンピューターの日本法人はあくまで販売会社であ

るからだ。

では総合商社について考えてみよう。今までは「商社」についてみてきたのだが「総合」の二文

字がつくとその定義はどの程度変わるのだろうか。

世間的には、伊藤忠商事、三井商事、三菱商事、住友商事、丸紅、日商岩井、トーメン、ニチメン、

兼松、と言われている。その中でも丸紅までを総合商社大手五社、それに日商岩井を加えて、大手6

社という言い方をする。あるいは、日本貿易協会によれば数ある商社を代表して同協会に所属してい

る17社(以下リスト)を総合商社と呼んでいる。

17 商社リスト The 17 companies

蝶理株式会社 Chori Co., Ltd.

伊藤忠商事株式会社 Itochu Corporation

岩谷産業株式会社 Iwatani International Corporation

兼松株式会社 Kanematsu Corporation

川鉄商事株式会社 Kawasho Corporation

丸紅株式会社 Marubeni Corporation

三菱商事株式会社 Mitsubishi Corporation

三井物産株式会社 Mitsui & Co., Ltd.

長瀬産業株式会社 Nagase & Co., Ltd.

ニチメン株式会社 Nichimen Corporation

株式会社日立ハイテクノロジーズ Hitachi High-Technologies Corporation

日商岩井株式会社 Nissho Iwai Corporation

住金物産株式会社 Sumikin Bussan Corporation

住友商事株式会社 Sumitomo Corporation

豊田通商株式会社 Toyota Tsusho Corporation

株式会社トーメン Tomen Corporation

興和株式会社 Kowa Company, Ltd.

参考:昨年の進級論文を書いていた2000年1月の時点では18社(伊藤忠商事、三井商事、三菱商

事、住友商事、丸紅、日商岩井、トーメン、ニチメン、兼松、蝶理、岩谷産業、川鉄商事、金商、長

瀬産業、日製産業、住金物産、東食、豊田通商)を総合商社と呼んでいた。この変化の早さについて

は第3章で述べることにします。

最後に、社団法人日本貿易会のホームページに、商社についてとてもわかりやすく書かれていたの

でその抜粋を載せます。

「総合商社」は、日本で生まれた独自の企業形態といえます。総合商社のビジネスは、貿易か

ら始まり、いまや国際舞台でさまざまな事業を推進しており、大陸と大陸、大陸と島をつなぎ、

物やサービス、さらには情報の橋渡しをしています。いわば、総合商社は世界各地でニーズとニ

ーズを結びつける架け橋の役割を果たしています。総合商社の『総合』とは、取扱い分野が多方

面におよび総合性と、多くの知恵の総合というふたつの意味があります。総合商社と呼ばれるの

は、現在、日本貿易会に所属している17社に代表されます。国内外に2,000以上の拠点を持ち、取

扱高は年間約100兆円となります。総合商社の取引を形態別にみると、輸出15%、輸入16%、外国

間22%、国内48%となっており、わが国の総輸出額の約30%、総輸入額の約50%が総合商社を通

Page 5: 一太郎 10/9/8 文書 - senshu-u.ac.jpthe0350/2001/paper/eto.pdf3 ~はじめに~ 総合商社とは何であろうか。これほど名前を知られていながら、意外なほど実態を知られていない業態というのも珍しい。い

5

じて行われていることになります。

 

第二節 商社の機能

それでは商社の機能についてみてみよう。商社の持つ機能は多岐にわたりしかも複合的である。し

かも、機能と言っても実は時期や会社によって個体差がある。商社のその時々の変革のスピードはす

さまじい物があり、会社によってもそれぞれの特徴(癖?!)があるので会社ごとに売りにしてくる機能

という物に差がでてしまう。これは当然のことで取り扱う商品の数も半端ではないし、数が多ければ

取り扱う物にも偏りが生じるのは仕方がないだろう。複合的に成り立っている物を個別に切り分けて

個別機能を紹介しても全体を語りきれるとは思わないが、ここでは出来るだけ偏りを取り除いて普遍

的に(理想的に?!)述べたいと思う。

機能について羅列すると、流通:輸送:オーガナイズ:ジョイントベンチャー:資源開発:技術移

転:情報:金融:投資:マーケティング:調査:プランニング:リスク負担機能が挙げられる。この

ままではそれぞれの機能における横のつながりが見えづらいのでこれをもう少し基本的な括り方をす

るなら、取引機能:金融機能:オーガナイズ機能:情報機能と分類できそうだ。ただし、ここでは詳

しく見ていきたいので前者の分類で説明してゆきたいと思う。

流通機能:商社は供給者と客先の間に立って物流倉庫の設置、製品や原材料の加工処理、配送手段

の手当、それを円滑に進めるための物流システムの構築などの総合的な物流機能の提供

を行う。

輸送機能:供給者から最終目的まで、商品を最小限残す手と時間で輸送する。また、輸送に必要な

書類の作成や通関手続き、検品、船積みの管理などを行う。

オーガナイズ機能:商品売買の経験と知識、複雑な貿易業務のノウハウを組み合わせて、

 (組織化)   多国間にまたがる大型プロジェクトを円滑に推進する。

ジョイントベンチャー機能:海外諸国での地場産業の開発、発展のために、現地の企業

 (合弁事業)      と共に企業を興す。現地の雇用を促進し、生産品の輸出に     

               よるその国の外貨獲得にも役立てる。

資源開発機能:日本経済の成長に不可欠な資源の安定供給のため、海外で多額の先行投資を行い原

料炭、鉄鉱石、原油、食料などの資源開発を行う。

 技術移転機能:海外の高度先端技術を日本企業に斡旋するために海外企業と摂氏情報を収集する。

また、海外へのプラント輸出を通じて、日本の工業技術や経営ノウハウなどの技術

移転も行う。

情報機能:情報こそ総合商社の生命線と言う声も聞かれるほど重要な機能。一国の政府の海外情報

収集能力に匹敵する、大規模な情報種主ネットワークと通信設備を持ち、内外の顧客に

対して、貿易拡大、総取引の機械、マーケティングなどに関する最適な情報を即時に伝

達する。

金融機能:大型ビジネスや貿易に必要な資金の調達、供与を行う。そのため、外国為替や財務の専

門家によるこう最適なネットワークを構成し、融資、貸し付けベンチャーキャピタルの

業務を展開する。

投資機能:資源開発や産業振興のために、直接投資を行う。また、投資の仲介役として顧客に情報

を提供し、投資を促進する手助けをする。

マーケティング:内外のあらゆる産業に関するマーケティングの専門知識や情報を持ち、研究し、

分析をする。

Page 6: 一太郎 10/9/8 文書 - senshu-u.ac.jpthe0350/2001/paper/eto.pdf3 ~はじめに~ 総合商社とは何であろうか。これほど名前を知られていながら、意外なほど実態を知られていない業態というのも珍しい。い

6

プランニング:プロジェクトを実施するに当たって、予備調査をはじめ所要資金や設備の供  

      給、輸送、製品の市場開発に至る綿密な計画を立案する。

リスク負担機能:情報力や経験を背景に、リスク負担力のあるパートナーの組成、担保    

       の確保などによってそのリスクを極小化する。

 

などが挙げられる。これだけを見ても商社が如何に幅広くやっているかがわかると思う。

これが商社のもっとも大きな特徴であり、また同時に商社の姿をぼやけさせている所以である。後

述するが、この幅広さ=総合力が歴史的に見れば商社がいままで日本経済を引っ張ってこられた原動

力であり。と、同時に現在、構造的に利益が上がらず苦しんでいる大きな原因となっている。 また上

記のことを「商社の未来像」の中で商社の機能とその限界について簡潔に書いてあったのでそれを引

用してみたい。

商社のこれまでのビジネス活動は、時代の要請に応じて変化してきた。その中で商社は川上にあ

る資源と川下の消費者と、そしてその中間にある産業をトレーディング、金融、事業などを通して

結びつけ、ビジネスの仕組みを作ってきた。このような商社の事業特性は時代を先取りし、ニュー

ビジネスにチャレンジする失敗代行役業であり、産業界が困っていることを解決するソリューショ

ン・ビジネスが中心であった。その結果、商社は多様なファンクションと、ミネラルウォーターか

ら衛星通信までの広範囲なビジネス・ドメインの維持拡大という「総花的総合主義」を事業戦略と

してきた。 このような商社の総花的多角化は、経済が右肩上がりの成長が続く中ではたとえ横並

び意識で後発に回ってもビジネスがそこそこ拡大し、定収入ながらある程度の売り上げや利益額を

確保できることでメリットが大きかった。しかし、低成長経済には入り国際競争が激しくなるにつ

れてより効率性や収益性が重要になり、このような横並び型の多角的な戦線拡大路線はマイナスの

要因の方がおおきくなっている。

これが商社の現状である。しかし、いくら現在の総合商社を分析したところで商社の本質という物

は見えてこない。商社の本質を見極めるには、ある時点の姿から捉えられる静的なものではなく、そ

の歴史の流れを見ていくことで初めて浮かび上がってくる、きわめて動的な物である。従って、商社

についての本質を見てゆく上でも、大切な商社の歴史について次章でのべてゆく。

第二章 総合商社の歴史

-変化する商社-

IT革命と叫ばれる昨今、世界の経済がめまぐるしく動いている。それに伴って、2000年に入ってか

ら、いや、ここ数年といった方がよいか、実体経済にあわせて商社は非常にドラスティックに動いて

いる。その動きについても逐一追ってみるが、この第二章ではなく第3章に話を譲る。ここの章では、

総合商社の生い立ちから、商社が日本の経済にどれだけ貢献してきたのか。総合商社が日本にどれだ

けの影響を与えてきたのか、商社について歴史的に述べてゆきたい。この章の第六節の末に年表を載

せているので、そちらも参考にして欲しい。同様に、第七節では今まで見てきた包括的な商社の歴史

ではなく、一社の視点から見た商社の歴史を追って見る。その方が、よりリアルに歴史を感じてもら

えるとだろう。

日本が第二次世界大戦での敗戦後、戦前の経済水準を回復したのは1955年のことである。その当時

の日本の経済水準は現在の100分の1にも満たなかった。経済指標で言うならば、一人あたりのGDPは

269ドル。貿易額は輸出20億ドル、輸入25億ドル。外貨準備高も7億ドルにすぎなかった。この50

年で日本経済の復興と発展は貿易との関係を抜きには語ることが出来ない。天然資源の乏しい日本に

とって経済成長に必要な生産技術の導入も海外資源の獲得も、日本での加工生産される工業製品を輸

出することによって稼ぎ出す外貨がなくては成り立たなかったからである。商社はこの日本の貿易と

経済の発展と共に深く関わっている。

Page 7: 一太郎 10/9/8 文書 - senshu-u.ac.jpthe0350/2001/paper/eto.pdf3 ~はじめに~ 総合商社とは何であろうか。これほど名前を知られていながら、意外なほど実態を知られていない業態というのも珍しい。い

7

そして、総合商社がここまで成長してきた歴史的背景は次の三点にようやくできる。

 1:戦後の貿易立国としても日本経済を引っ張る尖兵としての役割。

  2:日本の重厚長大型、大量生産型産業の商事部としての役割

  3:国内の中小企業対策への役割(商社金融、系列化)

すなわち、日本経済の高度成長という時代背景が総合商社の発展、総合性の強化に有利に働いたと

いえる。

第一節 源流 (終戦以前)

戦前の総合商社は三井物産、三菱商事という財閥系二社によって代表される。両者の源流はいずれ

も明治時期、あるいはそれ以前にさかのぼることになる。代表的商社である三井物産の前身は江戸元

禄の頃、呉服商・両替商として活動していた三井一族という見方も出来るが、三井物産の名前が歴史

にでてくるのは1876年のことである。三井の当時の主要業務としては三池炭田の石炭の一手販売、政

府米の輸出、軍の羅紗(毛織物の一種)、毛布の輸入であった。明治の末年には同社は日本の輸出入

の20%強を占め、我が国最大の貿易会社であった。

また三菱は1870年土佐藩士・岩崎与太郎は藩の商法所の財産と藩所有の全船舶を任され土佐開成商

社を九十九商会と改める。1871年には廃藩置県により岩崎個人の事業となり、これが三菱の始まりと

言える。三菱商事はその前身である三菱合資会社の売り炭部が独立したもので、筑豊炭田の輸出を行

っていた。

一方、財閥系ではないが創立が古い、長い歴史を持つ総合商社もある。例えば伊藤忠商事がそうで

ある。創立は1858年、伊藤忠兵衛兄弟が近江麻を売り歩いたのがルーツで、1871年、廃藩置県の最中

に大阪で呉服太物店の「紅忠」を創立。1914年伊藤忠合名会社に名を変え、1918年には合名会社を株

式会社に改組し、伊藤忠商事と伊藤忠商店になる。

後者が今の丸紅の前身であり、前者は文字通り伊藤忠商事となる。

その他トーメンは1920年旧三井物産綿花部が分離独立し東洋綿花を操業。日商岩井の前身鈴木商店、

岩井産業もその歴史は古い。 

第二節 戦後復興期から1950年代まで

戦後、日本はいち早く「貿易立国」として宣言し、1947年に制限付きながらの民間貿易が再開。さ

らに49年には円の為替レートが1ドル=360円に定められ、その後次々と輸出振興策が打ち出され、同

年通産省が設置された。さらに輸出所得控除制度、輸出金融優遇制度、輸出保険制度などが導入され

制度面での輸出奨励策が実施された。しかし、その二年前に連合国最高司令部特別覚書「商事会社の

解散に関する件」に基づき、三井、三菱に対して解散命令が下された。旧三井物産は約200社に、旧三

菱商事は139社へと解散し、その直後に元の社員が集まって多数の小規模商事会社が設立されたがこれ

は財閥本社との関係断絶と言うだけではすまされず、両者の復活は厳しく禁止された。また、伊藤忠、

丸紅系企業であった大建産業も解体の対象とされ、伊藤忠商事、丸紅、呉羽紡績、尼崎製釘所に分割

された。翌年の1950年6月には朝鮮動乱が勃発した。この結果日本経済に米軍の特需や世界的な好景

気好転を伴う「朝鮮動乱ブーム」がもたらされた。とうじ、ドッジ・ライン(GHQにおる経済九箇条

原則)下で不急にあえいでいた商社にとってもこのブームが輸出拡大による飛躍的発展の景気となっ

たが、ただそれは長続きせず、その後の商品の相場の暴落と不況で脆弱な地質だった商社の多くは苦

境に立たされ得た。

しかし、先述の輸出奨励策が行われるようになり、日本の海外市場開拓において、商社はその最前

線に立ち、積極的な役割を果たすことになった。

ちなみに、商社の集中統合はこの時期に進んだ。50年になって先の解散命令が緩和され、持ち株株

式会社整理委員会の承認を得ることが出来れば、多数の群小会社に分立していた新会社の統合を進め

られることになり、旧財閥の称号も使えるようになった。54年に三菱商事が復活、59年には三井物

Page 8: 一太郎 10/9/8 文書 - senshu-u.ac.jpthe0350/2001/paper/eto.pdf3 ~はじめに~ 総合商社とは何であろうか。これほど名前を知られていながら、意外なほど実態を知られていない業態というのも珍しい。い

8

産の大合同が成った。さらに日商(鈴木商店が前身)舶用貿易の合併、東洋綿花と鐘紡商事、丸紅と

高島屋飯田などの合併が相次いだ。住友商事(年表を見てもらえば住友の歴史が古いことがわかる。

しかし、商事会社としての設立は1945年の住友土地工務店、同年に日本建設産業に改称が源流。財閥

の中では商事会社設立がもっとも遅く意外である)も日本建設産業をから改称し、住友商事が誕生す

る。

これらの合併は商社としての企業基盤を強化すると共に取扱商品の多様化をもたらし、総合商社体

制を前進させることになった。この動きは「商社の歴史は再編の歴史」といわれるように、今後二十

年続くことになる。また、戦前戦中の二強時代から群雄割拠的な状況へと変化したのもこのころから

である。

  

第三節 高度成長時代の1960年代

1950年代後半から70年代にかけては日本経済が年平均で10%に達する高度成長を続けてきた時代で

あった。その原動力は技術革新と大衆消費社会の創出であった。この間日本の輸出は世界貿易の伸び

を遙かに上回る速度で増大し、日本の輸出額が世界の輸出総額に占める比率が55年の2.1%から70年の

6.2%を見れば一目瞭然である。日本の輸出がこのように拡大した背景には民間企業の積極的な設備投

資の拡大によるものであり。日本の工業が重化学工業化したのもこの時期である。消費社会が形成さ

れるに伴い、日本の国際収支の悪化には恒常的に悩まされており、輸出振興要請に応えるべく商社は

業務拡大と商社機能の充実させ、多くの商社にとって「総合商社化の時代」となった。

商社はこの高度成長期においてはます設備機械の輸入と技術の導入で大きな役割を果たした。日本

の製造業は如何に最新鋭の機械・技術を輸入するかが大きな問題で、商社はそれに答えた。商社は海

外の有力メーカーの対日販売総代権を取得し、国内のニーズに応えた。これは、国内大手企業のみな

らず、国内中小企業にとっても最新鋭の機械・技術を輸入するかが大きな問題で、商社は中小企業基

本法(他多数の中小企業育成政策)を受け、中小企業との関係を緊密化し、設備近代化に大きく貢献

した。

また、このように技術力と生産力を身につけた製造業は新製品を続々と生産し、その販売対策とし

ての海外マーケットの開拓の必要性が高まった。しかし、メーカーとって当初は販売量も少なく、流

通させる販路もなかった。そこで、スケールメリットと海外に張り巡らしたネットワークをフルに動

員する強力な販売力を持つ商社の介入がより経済的であった。特に、鉄鋼、化学品、繊維原料のよう

な素材型製品では商社の国際情報力と販売力が大きな武器となった。この結果、高度成長期以来の今

日までメーカーと商社は協力して製品を輸出拡大してきた。同様に、自動車や機械機器の輸出でも商

社はメーカーと協力して現地に販売会社を設立し、きめ細かなマーケティングとアフターサービスを

行った。

こうした、商社の必要性が増すと同時に政府による商社強化策の提起と平行して、商社業界自身で

体質強化を目指す動きが活発化した。このときの総合商社化への特徴は三つに分類される。

一つ目は、伊藤忠商事・丸紅・東綿・日綿・江商の「関西五錦」(繊維商社)を中心とする企業の

吸収・合併。二つ目は、旧三井・三菱を中心とした財閥系商社の再統合。ちなみに住友商事は下位集

団を低迷しており、伸び始めるのは20年も後のこと。最後は、岩井産業、日商、案宅産業等の鉄鋼系

専門商社の総合化の動きである。

高度成長を商社が下支えする中で商社の総合か・大型化は推進されていたが、一方では「商社斜陽

論」が提起された。その要旨は以下の通りで、

 1:商社はメーカーの流通支配力の成長に伴い、問屋の排除が進み活動余地が消失。

 2:メーカーが独自の海外販売網を確立し、商社の利用価値の低下。

 3:技術の高度化に伴い、専門知識が必要で商社の手には負えない。

 4:巨大産業資本の誕生で商社系列が縮小

 5:商社金融が縮小

Page 9: 一太郎 10/9/8 文書 - senshu-u.ac.jpthe0350/2001/paper/eto.pdf3 ~はじめに~ 総合商社とは何であろうか。これほど名前を知られていながら、意外なほど実態を知られていない業態というのも珍しい。い

9

 6:メーカーの直接貿易・新産業の登場により流通支配力が低下する。

 といった物である。しかし、当時の日本の高度成長のニーズに対応した商社機能の多様化(危機

意識による自己改革)と総合力の発揮によって商社は業績を拡大することが出来た。

こうして、商社は一層売上高をのばし(年24%も!)、日本もめざましいまでの経済成長を遂げた。1

965年にはOECDへ加盟、IMF八条国へ移行し、先進国の仲間入りを果たした。

第四節 高度成長の終焉と1970年代

1970年代はブレトン・ウッズ体制の崩壊オイルショック等、日本経済を震撼させる事件が相次いだ。

それと呼応するかのように商社にとっても大変な事件が続いた。

まず最初は、71年から74年にかけての商社批判である。ドル不安を背景に、71年後半には銀行と商

社が投機的にドルを売りまくって大もうけした等言う批判が起こりマスコミ・野党からの突き上げが

激しかった。その後ニクソン・ショックが起き、世界は変動相場制に移行する。そして、先の実体に

ついては大手商社10社合計で300億もの為替差損を出しており、その批判は当たっていなかった。し

かし、その後も商社批判がおき、商社が土地の投機・商品買い占め・売り惜しみが物価高騰を招いた

という物だった。その結果、通産省は実態調査を行い「断定できる証拠はないが、一部の商品で買い

占めや買い急ぎの疑いがある」と指摘した。74年には日本経済が狂乱物価に巻き込まれた直後に六大

商社の首脳が国会に呼ばれ、「物価集中審議」で商社批判を受けた。商社はその反省点として、商社

の影響力が日本経済を揺り動かすほどの大きさになっていることに対する自覚の不足、企業行動にお

ける適切さの欠如、一般社会に対する商社理解を促進する努力不足が指摘された。このため、商社は

広報部や、社会的責任を監視する独自の組織を設置する一方で、日本貿易会が策定した「総合商社行

動基準」を元に各社の行動規範を作りその遵守につとめてきた。

70年代には二度にわたるオイルショックに象徴されるように、日本経済は天然資源に対する脆弱製

を露呈し、日本経済は高度成長から低成長への屈折を余儀なくされた。また、60年代後半から始ま

っていた商社の資源開発関連の投資が極大化していたが様々な事件により、商社の資源関連の海外プ

ロジェクトは翻弄され、大きな教訓を残すこととなった。

その一つが安宅産業事件で、原油ビジネスで行き詰まった。安宅産業は同社のアメリカ法人がカナ

ダの精油所(NRC)に多額の貸し付けに同意し、オイルショックによってNRCの採算が悪化し、代金の

回収が遅れ同社のアメリカ法人ならず日本の本社の経営危機を招いた。住友銀行を中心として再建が

練られた物の、最終的には伊藤忠商事の救済合併で幕を閉じる。

次に挙げられるのはIJPC問題である。これは三井物産が手がけたイランの石油随伴ガスを利用した

石油化学事業計画で、日本側の事業会社ICDC(イラン化学開発)とイラン側のNPC(イラン国営石油

化学)が折半でIJPC(イラン・ジャパン石油化学)を設立した。IJPCは総額2900億円、年商2400億

円、従業員3000人の巨大な総合コンビナートの建設を目指していたが、完成間際にイラン宗教革命が

勃発し、工事が中断した。直後に日本政府が出資しナショナルプロジェクトとなり工事が再開される

が、工事再開と同時にイラン・イラク戦争が勃発。結局プロジェクトは暗礁に乗り上げ、戦争終了を

8年待つことになる。しかし、プラントは戦争被害が大きく、再建を断念し、撤退方針の三井とイラ

ン側で交渉が難航し、結果IJPCの精算で合意が成立する。

この二つの事件は事故が起きたときのリスク管理体制の大切さ、カントリー・リスク、長期プロジ

ェクトのリスクの大きさがいかなるものかを示すことになった。

しかし、一方では大きな成功もあり、三菱商事が推進したブルネイのLNGの開発事業がそうである。

第五節 商社冬の時代と1980年代

1980年代は欧米諸国が低成長に移行した時であり、日本も経済の低迷が80年代半ばまで続いた。

しかし、85年のプラザ合意以降、急な円高が起こり日本の景気は悪化しかに見えたが、86年には景気

が底入れし、いわゆる「バブル経済」の時代に突入する。

Page 10: 一太郎 10/9/8 文書 - senshu-u.ac.jpthe0350/2001/paper/eto.pdf3 ~はじめに~ 総合商社とは何であろうか。これほど名前を知られていながら、意外なほど実態を知られていない業態というのも珍しい。い

10

1983年商社は世界経済の構造変化の中で、商社は「冬の時代」を迎えていた。この年の日経新聞社

によって発行された「商社 冬の時代」では、次のような商社の問題点が指摘されていた。

 1:基礎的収益力の低下素材・原料相場の低迷による国内取引の停滞が原因

 2:売上高総利益率の低下

3:「軽薄短小」産業への対応の遅れ。

 4:次世代の成長分野となるハイテク分野への出遅れ

しかし、皮肉なことに86年には景気回復。内需中心の大型景気到来で、日本経済と主に、商社の冬

の時代は話題にのぼらなくなってしまった。ただ、プラザ合意後の円高によりエネルギー部門の比率

が高い商社の売上高が大幅に下落し、商社業界では構造変化が起きた。これを受け、商社では経営環

境の変化に的確に対応するための新たな経営構造変革をスタートさせた。

一方、商社は金融ビジネスにも展開を始めた。商社の金融機能という物は、かつては営業取引拡大

のためのおまけみたいなものであったが、エクイティ・ファイナンスを拡大した商社を中心にCPの発

行やファンドトラストを運用し始めた。一時期この運用利益が収益の3分の1を占める商社も現れた。

しかし、バブルの崩壊によりこれらは崩壊し、企業に深い傷を残すことになった。その他の金融ビジ

ネスは引き続き商社の戦略的取り組みが続いており、リースを中心に為替のディーリング、プロジェ

クトファイナンスなどが行われている。

また、1985年は国内電気通信市場の自由化が始まった年であり、各商社は競って参入した。例えば、

日本通信衛星、宇宙通信、日本国際通信、国際デジタル通信が挙げられる。

  

第六節 バブル崩壊から現在まで(1990年代)

東西冷戦の主演を迎えて旧共産主義国諸国では市場経済が始まり、また、高成長のアジアを中心に

途上国のダイナミズムが加わり、世界経済はグローバル化、情報化、ボーダレス化時代に突入する。

しかし、一方の日本経済はバブルが崩壊し、国内景気は最悪。株価は89年末にピークをつけ、地価が9

1年以降は大幅に下落。資産デフレは一層深刻になり、政府はあらゆる景気浮上策を投じるが、本格回

復には結びつかず、円高進行も止めることが出来ず、95年には一時的ではあるがドルが80円を割った。

財政悪化、日本経済システムのグローバル化への対応の遅れなどを露呈し日本経済の閉塞感は強まっ

た。

こうした中で多くの商社はバブル崩壊で不動産投資・特定金銭信託・ファンドトラストなどで被っ

た多額の不良債権の処理を余儀なくされた。収益は悪化し、実質赤字に転ずるなど経営のスリム化・

経営構造改革を余儀されることとなった。

日本経済はゼロ成長に陥り、経済活性化の手段として規制緩和を打ちだした。商社の対応は先述の

情報通信産業への事業投資による進出が特筆されるが、さらに食料分野、エネルギー分野、住宅関連

分野への新規参入をする。特に情報通信分野・放送分野は通信・民政電子機器・情報家電・半導体・

コンピューターソフト・衛星・ケーブルネットワーク・情報インフラ・コンテンツエンターテイメン

トに力をいれている。このように、商社の競争は他商社というよりかは、その業界の既存のプロに移

ってきている。

商社の海外市場開拓は90年を境にアジア・中国にシフトしてきている。東アジア経済は当面調整局

面が続くであろうが、日本を含むアジア・太平洋地域の相互依存関係の強まりから考えても、中長期

には高い経済成長による巨大な消費市場の出現が予想され、現地での生産、流通、販売を対象とした

商社の事業投資が拡大している。特に中国は、香港返還を無事終えて、新たな指導体制のもとに改革

解放路線で近代化を継続することが確認された。商社は外資系傘下型企業の認可を取得しており貿易

の強化のみならず製造業、流通業小売業、不動産投資などの現地密着型の事業投資拡大に着手してい

る。

 

こうした歴史の積み重ねた結果として現在の商社は日本企業の貿易業務を始め、販売活動や、物流、

Page 11: 一太郎 10/9/8 文書 - senshu-u.ac.jpthe0350/2001/paper/eto.pdf3 ~はじめに~ 総合商社とは何であろうか。これほど名前を知られていながら、意外なほど実態を知られていない業態というのも珍しい。い

11

資金決済などを代行する機能、日本産業の海外における情報拠点網、活動拠点網としての機能、新し

い技術や産業に投資育成する機能、さらには異業種の企業同士での大規模なプロジェクトを実現して

ゆく際のコーディネーターとしての機能、といった次元の異なる多くの機能を組み合わせた企業と成

長する。

 商社小史

1870年 明治3年 10月 三菱商事の前身,九十九商会設立

1871年 明治4年 伊藤忠商事・丸紅の前身、呉服太物店紅忠設立

1876年 明治9年 7月 三井物産設立

1892年 明治25年 日本綿花設立(現ニチメン)

1894年 明治27年 三菱合資会社 営業部、設立

1896年 明治29年 三井合資会社独立

1900年 明治33年 兼松、豪州より小麦の輸入始める

1914年 大正3年 紅忠→伊藤忠合名会社

1918年 大正7年 伊藤忠合名会社を伊藤忠商事と伊藤忠商店にする

三菱商事、三菱合資会社より独立

1919年 大正8年 12月 大阪北港(住友商事前身)設立

1920年 大正9年 三井物産より綿花部門を独立させる→東洋綿花(現トーメン)

伊藤忠商店が丸紅商店と改称

1943年 昭和18年 日本綿花設立社名を日綿実業に

1944年 昭和19年

1945年 昭和20年 大阪北港,日本建築産業に改称

1946年 昭和21年 1月 日本建設産業 (住友商事の前進)に商事部発足

1947年 昭和22年 5月 日本貿易協会設立

7月 GHQ、三井物産、三菱商事に解散命令

1949年 昭和24年 12月 大建設産業分割により伊藤忠商事、丸紅設立

1950年 昭和25年 8月 GHQ、日本商社の海外支店設置を了解

1952年 昭和27年 6月 日本建設産業、社名を住友商事改称

1953年 昭和28年 7月 室町物産が日東倉庫建物を合併、三井物産と改称

1954年 昭和29年 7月 旧三菱系4社が合併、三菱商事として新発足(三菱商事大合同)

1955年 昭和30年 9月 丸紅、高島屋飯田を合併、社名を丸紅飯田と改称

1956年 昭和31年 1月 商社の外貨保有制度実施

1959年 昭和34年 2月 第一物産、三井物産を合併、社名を三井物産として新発足(三井物産

大合同)

1960年 昭和35年 4月 商社の外貨持ち高集中制度実施

Page 12: 一太郎 10/9/8 文書 - senshu-u.ac.jpthe0350/2001/paper/eto.pdf3 ~はじめに~ 総合商社とは何であろうか。これほど名前を知られていながら、意外なほど実態を知られていない業態というのも珍しい。い

12

1961年 昭和36年 5月 東洋大の御園生等教授、「総合商社は斜陽であるか」を発表

12月 伊藤忠商事、商品本部生を最初に実施。森岡興業を合併

1963年 昭和38年 7月 住友商事、サミットストア設立

10月 東洋綿花、南海興業を合併

1964年 昭和39年 8月 住友商事、「メゾン西宮」(商社による分譲マンションの草分け)施

1965年 昭和40年 4月 丸紅飯田、ハマスレイ鉄鉱石長期輸入契約

5月 三井物産、マウントニューマン鉄鉱石輸入契約

1966年 昭和41年 4月 丸紅飯田、東通を合併

12月 日本貿易会発足

1967年 昭和42年 4月 兼松、江商を合併、兼松江商誕生

1968年 昭和43年 7月 兼松エレクトロニクス設立

10月 日商、岩井産業を合併、日商岩井誕生

1969年 昭和44年 5月 芙蓉総合リース設立

8月 丸紅飯田、ペルー・マドリガル銅山開発計画調印

10月 趣味賞コンピューターサービス(現住商情報サービス)設立

12月 三菱商事、ブルネイLNG設立

1970年 昭和45年 6月 東洋綿花、トーメンと称号変更

7月 三菱商事、日本ケンタッキー・フライド・チキン設立

1971年 昭和46年 7月 伊藤忠商事の仲介でGM・いすゞ自動車提携

1972年 昭和47年 1月 丸紅飯田、社名を丸紅に変更

1973年 昭和48年 4月 IJPC設立。

通産省、商品投機で大手6商社に自粛要請

三菱商事、メキシコ塩生産輸出会社の買収契約に調印

6月 丸紅、もち米の買占め容疑で起訴される

8月 三井物産、米アメックスのアルミ部門に株式50%出資を発表

11月 4台商社、利益の社会還元を発表

1974年 昭和49年 1月 公取委、総合商社に関する初の報告書を発表

8月 大手商社、完全週休二日制を導入

1975年 昭和50年 1月 東洋工業の米販売会社に伊藤忠と住商が現地出資

12月 安宅アメリカ危機表面化、銀行五行が支援表明

1976年 昭和51年 6月 ロッキード事件で丸紅幹部逮捕

12月 伊藤忠商事、安宅産業合併契約に調印

1977年 昭和52年 10月 伊藤忠商事、安宅産業を吸収合併

1978年 昭和53年 3月 三井物産、米クックの施設、商権の譲り受けを表明

6月 丸紅、コロンビア・グレーン設立(クックの施設運営)

三菱商事、マレーシアLNG設立に参加

1979年 昭和54年 1月 三菱グループ、サウジ石油化学開発設立

4月 日商岩井・海部元副社長グラマン疑惑で逮捕

1980年 昭和55年 1月 北商、数の子の買占め失敗で倒産、三菱商事損失

4月 三菱商事、三菱自動車と共にクライスラー・オーストラリアの株式99%取得。

豪州三菱自動車となる

1981年 昭和56年 1月 米国住友商事、雇用差別訴訟で上告棄却

5月 住友商事、藤本産業(化学商社)を系列化

10月 日商岩井、ナイキ・ジャパンを設立

1982年 昭和57年 6月 日綿事業、社名をニチメンに変更

7月 伊藤忠商事、食品問屋の松下鈴木の株取得・提携に合意

Page 13: 一太郎 10/9/8 文書 - senshu-u.ac.jpthe0350/2001/paper/eto.pdf3 ~はじめに~ 総合商社とは何であろうか。これほど名前を知られていながら、意外なほど実態を知られていない業態というのも珍しい。い

13

1983年 昭和58年 5月 マレーシア国民車に三菱商事・三菱自動車が合併契約

1984年 昭和59年 3月 伊藤忠商事、米ヒューズ・エアクラフト社と代理店契約

(日本の民間企業向け人工衛星売り込む)

6月 西オーストラリアLNGプロジェクトに三菱商事、三井物産の参加決定

1985年 昭和60年 2月 伊藤忠商事、三井物産、ヒューズ社で、日本通信衛星設立

3月 三菱グループ宇宙通信設立

1986年 昭和61年 7月 日本国際通信設立

11月 国際デジタル通信設立

1987年 昭和62年 2月 伊藤忠商事、フランスからカルピスと共同でエビアン輸入

1988年 昭和63年

1989年 平成1年 2月 三菱商事、ネッスル系列の英食品問屋を買収

1990年 平成2年 2月 IJPCの清算完了

3月 三菱商事、米アリステックのTOB完了

1991年 平成3年 10月 三井物産、営業部門に本部制採用

1992年 平成4年 1月 伊藤忠商事、ボランティア休暇制度を採用

5月 タイムワーナーエンターテイメント・ジャパン設立

(伊藤忠商事、東芝、が出資)

1993年 平成5年 9月 三菱商事、三菱自動車とベトナムに合併で自動車会社設立に合意

1994年 平成6年 9月 丸紅、大昭和製紙の株式を1000万株取得、筆頭株主となる

1995年 平成7年 8月 伊藤忠商事、東芝、米タイム・ワーナーと提携強化(本体に3%出資)

三井物産、インターネットで個人輸入を代行へ

1996年 平成8年 6月 住友商事、銅取引で巨額の損失

10月 伊藤忠、三井、住友、日商岩井のJ.V.による衛星ディジタルチャン

ネル放送開始(パーフェク・ティービー)

1997年 平成9年

1998年 平成10年 7月 規制緩和を受け「日商岩井証券」誕生

1999年 平成11年 5月 兼松、経営危機、同時に構造改善計画発表

兼松、繊維部門を分社

2000年 平成12年  2月 トーメン2200億の債務免除を受ける

3月 トーメン、豊田通商と資本ならびに業務提携

兼松、紙パルプ部門を日商岩井と統合

4月 日商岩井「情報産業本部」をITXとして分社独立させる

伊藤忠商事と川鉄商事が鋼管輸出を統合

7月 ITXがニチメンの情報関連5社を買収

8月 日商岩井が繊維部門を帝人商事に譲渡することで合意

9月 ニチメンがITXに10%出資

10月 伊藤忠、丸紅と鉄鋼部門統合

日商岩井がLPG子会社の株の70%を売却

11月 豊田通商がトーメンの鉄鋼製品事業を段階的に買収

12月 伊藤忠商事、日商岩井、丸紅株で石炭の電子商取引サイトの開設

2001年 平成13年 1月 ニチメンとトーメン、ライフサイエンス事業の統合

1月 三菱商事が日商岩井と鉄鋼製品部門の統合を発表

3月 三菱商事、住友商事と通信サービス販売子会社を対等合併

4月 兼松、機械部門の関連会社統合、ダイフクへ営業譲渡

3月 ニチメン、日商岩井と合成樹脂分野で統合・分社

6月 住友商事、日商岩井とLNG事業を統合

8月 伊藤忠商事と丸紅、建材子会社合併

Page 14: 一太郎 10/9/8 文書 - senshu-u.ac.jpthe0350/2001/paper/eto.pdf3 ~はじめに~ 総合商社とは何であろうか。これほど名前を知られていながら、意外なほど実態を知られていない業態というのも珍しい。い

14

9月 ニチメン、LPガス事業を分社化

伊藤忠商事、日商岩井とコイルセンターの統合

10月 住友商事、三井物産 一般産業向け一般炭販売事業を統合

11月 三井物産、住友商事と建材販売事業の統合

12月 ニチメン・日商岩井、合成樹脂分野でさらに蝶理と事業統合

 第七節 ケーススタディ~丸紅の沿革~

1. 創業時代

 当社の創業者である伊藤忠兵衛は、今の滋賀県犬上郡豊郷町に生まれた。1858 年(安政5年)、

忠兵衛が近江麻布の持下り行商を始めた年を当社は創業の年と定めている。忠兵衛は 1872 年(明治

5 年)に持下りをやめ、大阪市本町2丁目に呉服太物商の店「紅忠」を開店した。同じ年、忠兵衛の

兄長兵衛も九州博多に呉服卸商「伊藤長兵衛商店」を開設した。

 1883 年(明治 16 年)、忠兵衛は店の暖簾に 紅 と印した。これが当社の社名丸紅の由来である。 翌1884 年には「紅忠」を「伊藤本店」と改称し、京都に染呉服卸問屋「伊藤京店」を開設した。その

後、大阪にラシャ輸入卸商「伊藤西店」、綿糸卸商「伊藤糸店」、「神戸支店」などを開設し、事業を

拡大していった。

 1914 年(大正 3 年)、それまでの個人経営から会社組織として「伊藤忠合名会社」が設立した。

そして 1918 年(大正 7 年)に合名会社の営業部門は2つに分割され、本店と京店を母体とした株式

会社伊藤忠商店と、糸店、神戸支店及び海外店を母体とした伊藤忠商事株式会社が設立された。両

社が現在の丸紅と伊藤忠商事の前身である。

2.丸紅商店時代

 第一次大戦(1914~1918 年)後、商品相場が急落して企業や銀行の倒産が相次ぎ、伊藤忠商店、

伊藤忠商事も多額の損失を抱えることになった。このため、伊藤忠商事は貿易部門の神戸店や海外

店を分離独立させ、1920 年(大正 9 年)に大同貿易株式会社が発足した。大同貿易はその後フィリ

ピンや中国、インドシナ、インドネシアなどに支店・出張所を設け、繊維品や雑貨、麻、ゴムなど

を扱って順調に伸びていった。

 伊藤忠商店は堅実経営を続けていた伊藤長兵衛商店と合併して、1921 年 3 月に株式会社丸紅商店

が設立された。店は本店と京都支店のみで、絹織物、毛織物を扱い、あくまでも繊維の問屋であっ

た。1931 年(昭和 6 年)、大阪支店を開設して貿易に注力するようになり、その後、中国各地やイ

ンドにも支店・出張所が開設され、取扱商品も繊維以外に建築材料や機械、雑貨、食品などと拡大

していった。大阪支店の売上の伸びは目覚しく、1937 年には本店の売上をはるかに上回り、全売上

の 62%を占めるまでになった。

3. 三興・大建産業時代

 丸紅商店、伊藤忠商事などの業績が回復するにつれて伊藤家の事業を統一しようとする動きが強

まり、伊藤忠兵衛が役員をしていた鉄鋼専門商社の株式会社岸本商店と丸紅商店、伊藤忠商事の3

社が 1941 年(昭和 16 年)9 月合併して三興株式会社となった。しかしすぐに太平洋戦争が勃発し

て、経済統制が強化され活動は困難となり、貿易も中国や東南アジアに限定された。

 1944 年(昭和 19 年)9 月、三興と大同貿易、それに伊藤忠兵衛が設立した呉羽紡績株式会社の3

社が合併して大建産業株式会社が設立された。大建産業は国内外に関係会社 103 社、生産部門だけ

でも 16 業種に及ぶ大企業集団で、商事部門は繊維品や重化学品、穀物、肥料などの集荷と配給、軍

納物資の取扱いに従事した。しかし間もなく終戦となり、海外での資産は全て喪失した。

 1945 年の終戦直前時点で大建産業には 5,000 人を超える社員がいた。うち、約 2,200 人が兵役や

軍の仕事に従事し、約 1,000 人は中国や南アジアにいた。戦後、これらの人が海外から引揚げてき

たが、国内での経済活動が低迷してため、多くの人は退職を余儀なくされた。

Page 15: 一太郎 10/9/8 文書 - senshu-u.ac.jpthe0350/2001/paper/eto.pdf3 ~はじめに~ 総合商社とは何であろうか。これほど名前を知られていながら、意外なほど実態を知られていない業態というのも珍しい。い

15

 1948 年 2 月、大建産業は財閥解体措置の一環としての過度経済力集中排除法の指定会社となり丸

紅、伊藤忠商事、呉羽紡績、尼崎製釘所の4社に分割されることになった。

4. 丸紅株式会社の発足

 1949 年(昭和 24 年)12 月 1 日、旧丸紅商店、大同貿易、岸本商店の商権と社員を母体として丸

紅株式会社が設立された。資本金 1 億 5,000 万円、従業員数 1,232 人、社長には丸紅商店出身の市

川忍が就任した。本社は大阪市東区本町3丁目の旧丸紅商店の建物を使用した。設立時は大阪に本

社・本店を置き、東京に支社・支店、神戸、京都、名古屋、広島、福井、小倉、横浜に支店があり、

海外に事務所は1ヵ所もなかった。

 1949 年 12 月 1 日はわが国にとっても記念すべき日であった。この日、輸出が民間企業に委ねら

れ、輸入についても'50 年 1 月より自由に行なえるようになった。設立後、最初の決算('49 年 12 月

~'50 年 3 月)は売上高が 50 億円で、繊維が全体の8割りを占め、繊維中心の商社であった。

 1950 年 6 月に朝鮮戦争が勃発し、戦争に伴う特需が発生して、市況も高騰したことから当社の売

上は'50 年度に 506 億円へと急増した。しかし、'51 年に入り休戦会談 開催が合意され、繊維や大

豆、ゴム、皮革の新三品の相場が急落して、当社を含め多くの商社が多額の損を抱え、銀行や紡績

会社の支援を要請する事態も発生した。

 当社の最初の海外事務所は 1951 年 4 月に開設されたニューヨーク事務所で、同年 11 月に最初の

現地法人 Marubeni Company (New York) Inc,が設立された。'51 年にはそのほかカラチ、ポートラ

ンドに事務所を開設し、'52 年以降、ロンドン、シンガポール、メキシコ、マニラ、香港等、1954年末までには 22 ヵ所の現地法人、派遣員事務所が開設され、商社としての形を整えた。

 その後の国内経済の発展に伴い、当社の売上高も増大し、1953 年度には 1,349 億円と 1,000 億円

の大台を突破した。また、業容の拡大とともに資本金も増資され、1955 年 2 月には 15 億円となっ

た。

5. 高島屋飯田との合併

 わが国の貿易を伸展させるためには貿易商社の強化を図ることが先決であるとして、政府は商社

強化策をうちだした。そうしたなかで、商社の高島屋飯田株式会社は大豆の相場下落で損を抱えて

いたことから、主力銀行の富士銀行は同社再建のためには他商社との合併しかないと判断し、当社

に協力を申し入れてきた。当社としても合併は国の商社強化策に沿うとの観点から合併に踏み切り、

1955 年(昭和 30 年)9 月 1 日、当社と高島屋飯田は合併して社名を丸紅飯田株式会社とした。

 高島屋飯田は 1829 年(文政2年)に今の滋賀県高島郡出身の飯田新七が京都に古着・木綿小売商

を開業して屋号を「高島屋」としたのに始まる。その後、呉服や雑貨も扱い、貿易にも注力するよ

うになった。そして、1916 年(大正5年)に貿易部門が独立して高島屋飯田株式会社が発足し、1919年には呉服・小売部門も独立して株式会社高島屋呉服店となったが、これが今の百貨店の高島屋で

ある。

 高島屋飯田は合併直前の'55 年度の売上高は 318 億円で、商品別には繊維 44%、非繊維 56%とな

っていた。特に、鉄鋼では八幡製鉄・富士製鉄の指定問屋グループ「十日会」のメンバーとして国

内取引に強固な地盤を持っていた。この他、羊毛、原皮、機械、燃料などについても有力な商権を

持っていたことから、合併によって当社はこれらの商権を引継ぎ、それまでの繊維商社から総合商

社へ発展する大きな転機となった。1960 年に政府は所得倍増計画を発表して経済の高度成長が始ま

り、鉄鋼、石油化学、合繊、自動車など重化学工業が発達した。

 そうしたなかで、当社は'57 年には化学品部を新設して米国からポリエチレン製造技術を昭和電工

に斡旋、'58 年には日産自動車の乗用車の対米輸出を開始するなど新規事業分野を積極的に開拓し、

機械を中心に非繊維部門の売上が大幅に増えた。その結果、繊維の売上比率は高島屋飯田と合併し

た 1955 年度で 65%であったものが、'59 年度には 50%、64 年度には 35%にまで低下した。

 そして売上高も高島屋飯田と合併した年に 1,989 億円であったものが、'60 年度には 6,127 億円、'64年度には 1 兆 1,351 億円と1兆円の大台に乗った。この間、新入社員を積極的に採用したことから、

従業員数も'65 年 3 月末には 5,943 人にまで増えた。また、多くの企業に出資したり、新会社を設立

して、新丸紅発足当初わずか4社であった関係会社数も'64 年には国内だけで 70 社となった。資本

金も数度の増資によって 1955 年に 15 億円であったものが、'63 年には 150 億円と 10 倍増になった。

Page 16: 一太郎 10/9/8 文書 - senshu-u.ac.jpthe0350/2001/paper/eto.pdf3 ~はじめに~ 総合商社とは何であろうか。これほど名前を知られていながら、意外なほど実態を知られていない業態というのも珍しい。い

16

 6. 東通株式会社との合併

 1966 年 4 月、当社は日本鋼管の取引先である金属専門商社東通株式会社と合併し、同社の従業員、

商権を引き継いだ。東通株式会社は 1918 年(大正 7 年)に浅野物産株式会社として設立され、第二

次大戦前にはわが国の輸入原油の 65%を扱う貿易商社であった。戦後、同社より分離独立して朝日

物産が設立されたが、1961 年に両社は合併して東京通商株式会社となり、その後東通株式会社に社

名変更した。同社は合併直前で年間売上高が約 2,000 億円で、うち金属関係が 65%を占め、従業員

は約 1,600 人であった。

 東通との合併により当社と日本鋼管との関係が密接になり、当社が弱かった金属部門が強化され

た結果、'66 年度の金属部門の売上は合併前と比べて倍増して繊維部門の売上に匹敵するようになり、

金属、機械、化学品等重化学工業品の売上比率は 50%を超えた。

 '60 年代後半はわが国の実質経済成長率が年 10%を超え、正に高度成長期であった。そして鉄鋼や

自動車などわが国の工業生産高は飛躍的に伸びたが、需要の伸びに応じた原料の調達が課題となっ

た。

 そうしたなかで、当社は豪州での鉄鉱石、カナダでの原料炭の開発輸入を始め、カナダでのパル

プ工場の建設、豪州での塩田事業、タイでの繊維合弁事業、ベルギーでの自動車販売会社設立、国

内では鉄鋼流通加工センターや穀物サイロ、ケミカルタンクの建設、マンション建設など現在当社

の中核となる様々な事業を展開していった。

 1955 年に高島屋飯田と合併して以来、当社は富士銀行との関係が密接となり、

富士銀行の融資系列企業の間でも相互の連携を望む気運が高まり、1960 年に当社及び富士銀行、日

本鋼管、昭和電工、大成建設等 17 社によってデベロッパー会社芙蓉開発株式会社(現 芙蓉総合開

発)が設立された。'66 年には芙蓉グループの社長会として芙蓉会が発足し、'68 年には芙蓉航空サ

ービス、'69 年には芙蓉総合リースが当社を含めたメンバー各社により設立された。

7. 丸紅株式会社へ社名変更

 1969 年(昭和 44 年)、当社は丸紅株式会社として新発足して以来 20 周年を迎え、'69 年度の売上

高は2兆 1,642 億円と2兆円の大台を突破し、'70 年 3 月末の従業員数は 7,556 人となった。

 1972 年1月1日に当社は社名を丸紅飯田から従来の丸紅株式会社に変更し、英文名は MarubeniCorporation とした。同じ月に東京本社は事務所をそれまでの大手町ビルから新築なった現在の竹

橋の丸紅ビルに移転した。

  '73 年 7 月には当社は 非鉄金属専門商社の株式会社南洋物産と合併して同社の商権と社員を引き

継いだ。南洋物産は 1934 年の創業で、フィリピンを中心に銅鉱石などの非鉄金属の輸入を行い、合

併直前の売上高は 138 億円、社員数は 138 人であった。当社は銅鉱石輸入では弱かったことから、

同社との合併は大いにメリットがあった。

8.石油危機と商社批判

 わが国産業の国際競争力が強化されたことにより、輸出が増え、貿易黒字が拡大し、一方米国は

貿易赤字が増大したことから 1971 年 8 月、米国はドルの金兌換停止、輸入課徴金の設定などを行な

った。これは「ニクソン・ショック」と呼ばれ、これを契機に主要国の通貨は固定相場制から変動

相場制に移行した。

 円は切り上げられ、円高不況を恐れた政府は積極的な財政支出と金融緩和・低金利政策を行なっ

た。その結果、過剰流動性が発生し、物価が上昇した。加えて、海外では天候不順により穀物の価

格が上昇し、'73 年 10 月には第4次中東戦争が勃発し、ペルシャ湾岸産油国は原油価格の大幅引き

上げを行なった。これらの要因によって、'74 年 2 月にはわが国の卸売物価は前年同月比 37%も上昇

して“狂乱物価”の状態となった。そうしたなかで、マスコミは商社が買占めや売惜しみをしてい

るのではないか、価格上昇の原因は商社活動そのものにあるのではないかと批判した。

 総合商社はそれまで日本経済のパイオニアとして海外市場の開拓や新規事業への投資などを行い、

高く評価されていたが、売上規模が数兆円と大きくなり、その大きさゆえに批判をあびることにな

った。また、日本経済も巨大化し、それまでの二桁成長から一桁成長へ屈折し、鉄鋼、重機械など

Page 17: 一太郎 10/9/8 文書 - senshu-u.ac.jpthe0350/2001/paper/eto.pdf3 ~はじめに~ 総合商社とは何であろうか。これほど名前を知られていながら、意外なほど実態を知られていない業態というのも珍しい。い

17

の「重厚長大」産業からエレクトロニクスなどの「軽薄短小」産業へ転換を迫られた。

 こうした経済の転換期のなかで、当社の売上高 1974 年度には5兆 5,484 億円と5兆円の大台に乗

り、'75 年 5 月、檜山社長が会長に、松尾泰一郎副社長が社長に就任した。

  1979 年にイランで革命が起こり、原油生産が一時停止したため、原油価格が再び上昇し、1バ

レル 10 ドル台から 1980 年には 30 ドルを超えた。このため、当社のエネルギー・化学品部門の売上

も大幅に増え、'80 年度には全体の 23%を占めて機械や金属とほぼ並ぶまでになった。売上高全体も

'80 年度には 10 兆 1,846 億円と 10 兆円を突破し、また、数度の増資によって、資本金は'81 年 3 月

末には 398 億円となり、自己資本も 1,125 億円と 1,000 億円を超えた。

9. 「商社冬の時代」への対応

 '80 年代前半はわが国の実質経済成長率は 3%前後の低成長が続き、素材産業を中心に過剰設備の

処理が課題となってきた。また、円高によって輸出採算が悪化したことから、メーカーは商社に対

する口銭率を引下げたり、商社を通さず直接自分で輸出するようになった。このように、商社をと

りまく環境は一層厳しくなり、一方で人件費を中心に経費が増大し、関係会社の不振など、悪要因

が重なり、この時代は「商社冬の時代」と呼ばれた。

 こうした状況を打破するために'82 年 12 月、Vitalize Marubeni 運動を社内に提唱した。V.M.運動

は厳しい経営環境に対応して、全社の意識改革を基盤に全員稼動の体制を作り、営業基盤の拡充と

収益力の向上を目的としたもので、組織・人事制度の見直し、提案制度の実施などが行われた。し

かし、その後も多額の関係会社整理損が発生し、株式売却益への依存が続き、'82 年度決算では税引

き後の純利益はわずか3億円にまで落ち込んだ。

  厳しい環境のなかで伸びたのが、重電機やエネルギー・化学などのプラント輸出と産油国向けの

鋼管の輸出であった。特に重電機は世界各地で受注が相次ぎ、'80 年代から'90 年代前半通じ当社の

大きな収益源となった。

10. 連結経営の強化

 1985 年 9 月、先進5カ国蔵相・中央銀行総裁会議(G5)での「プラザ合意」で、当時1ドル=240円台であった円の対ドル相場は 1986 年1月には 190 円台になり、1987 年 12 月には 120 円台にま

で上昇した。こうした急速な円高によって電機や鉄鋼等の輸出産業の業績が悪化したが、これが「円

高不況」である。このため、日本銀行は公定歩合を相次いで引下げ、超低利による金融緩和政策を

とった。

 低金利下で余った資金の運用先が「株と土地」であった。1985 年 9 月での東証株式第1部の日経

平均株価は 12,000 円台であったが、1989 年 12 月末には 3 万 8,915 円の史上最高値をつけた。こう

した株価の上昇を利用して、多くの企業は時価発行増資や転換社債の発行によって資金を調達し、

その資金を株式で運用した。当社も積極的な増資策によって、1986 年 3 月末で 467 億円であった当

社の資本金は 1991 年 3 月末には 1,929 億円と4倍増に、また自己資本額も'86 年 3 月末の 1,302 億

円から'91 年 3 月末には 4,575 億円と 3.5 倍増となった。

 当社は 1980 年代初めから不振に陥った関係会社の整理のために多額の償却を行なっており、丸紅

を収益力のある会社にするためには関係会社を含めた丸紅グループ全体の体質強化が必要であると

して、1989 年度を「連結元年」とした。

 低金利下において住宅やオフィスビルの建設が活発化し、乗用車販売など個人消費も堅調で、円

高にもかかわらず景気は回復した。このため、'90 年度の当社の決算は売上が 19 兆 156 億円、経常

利益は 548 億円と過去最高を記録した。しかし、高騰した地価抑制のために日本銀行は金融引締め

を行い、その後、株価や地価も急速に下落した。これがいわゆる「バブル崩壊」である。

 そうしたなかで、「素顔の美しい丸紅」にするために、管理部門のスリム化や、事業会社の整理統

合、特金・ファントラの整理を行なった。その結果、多額の整理損の計上を余儀なくされ、また、

銀行を中心とした株価の下落で、保有株式の評価損を計上して、1997 年度の決算では純利益が 308億円の赤字となり、1951 年度以来の赤字決算となった。

 こうした厳しい経営環境にもかかわらず、当社は東京本社ビルの購入やカタールからの LNG の開

発輸入、カナダのパルプ工場の買収、発電事業への進出、欧米との海底光ケーブル敷設・インター

ネットなど情報通信事業への取り組み、中国や東南アジアにおける数多くの事業会社の設立など、

Page 18: 一太郎 10/9/8 文書 - senshu-u.ac.jpthe0350/2001/paper/eto.pdf3 ~はじめに~ 総合商社とは何であろうか。これほど名前を知られていながら、意外なほど実態を知られていない業態というのも珍しい。い

18

積極的な事業展開を行なった。

11. 21 世紀を迎えて

 90 年代後半、企業を取り巻く環境は大変厳しいものがあった。当社も経営環境の悪化を受け、1997年度は 46 年ぶりの赤字決算となった。

 1999 年 4 月、2 ヵ年のリストラクチャリング・プランを策定し、大規模なリストラが始まった。事

業会社の合併・統合が行われ、赤字会社比率は 2001 年 3 月期には 20%以下にまで低下した。

 人事制度も大幅な改定が進められた。給与体系は年俸制にし、成果主義を取り入れた。 組織の大

改革は 2000 年 4 月に行われ、従来の 8 部門 20 本部体制を 12 部門に統合・再編し、2001 年 4 月に

は金融・物流部門を新設し、13 部門となった。

 このように大胆なリストラが進められ、翌 2000 年 3 月期の決算では、純利益は黒字に転換した。

 1999 年 12 月、当社は記念すべき時を迎えた。丸紅株式会社として発足してから 50 周年を迎えた

のだ。50 周年記念事業として、「淀君小袖復元プロジェクト」、「丸紅コレクション展」などの文化的

事業が行われた。

 21 世紀を迎え、当社は様々な事業に新たに取り組んでいる。流通分野ではダイエー及びローソン

に出資し、マルエツの株式を取得して連結対象会社とするなど、事業展開はますます活発になって

いる。

 エネルギー分野では北海、サハリン、アラスカなどにおいて原油や天然ガスの開発に取り組んで

いる。情報通信分野では、1997 年にパソコン小売り大手のソフマップに資本参加した。同社はその

後東京証券取引所第二部に上場している。2001 年 3 月には CATV 事業連合会社のジャパンケーブル

ネットを富士通、東京電力、セコムなどと設立した。通信事業の中でも力を入れているのが、光海底

ケーブルの敷設運営プロジェクトである。当社は 1995 年に日英間を光海底ケーブルで結ぶプロジェ

クトに、1998 年には日米間の太平洋横断光海底ケーブルプロジェクトに出資しており、さらに米英

間の敷設も 2001 年内に完了する事で、世界を周回する大容量データ通信網を有することとなる。こ

の通信網を生かし、ヴェクタントグループを中心に、日本国内における長距離通信及び地域通信サ

ービスの提供を行っていく。

(添付資料に三井物産の沿革も載せました。そちらも参照してみてください)

第三章 商社の現状

第一節 商社の資本経済性の悪さ

この章では商社が今置かれている状況を様々な角度から見てゆこうと思う。先の章では商社の歴史

を追ってきた。如何に商社が日本の経済に食い込み、どれだけ多くの事業を手がけたがわかったと思

う。 総合商社は日本企業の物流、金融、貿易機能を担い、特に重厚長大産業の発展に多大な貢献を

してきた。メーカーは総合商社を活用することによりその経営資源を物作りに集中することができ、

製品の品質向上、競争力の強化などを実現してきた。産業の発展段階において総合商社の果たしてき

た役割は大きいものであった。

しかし、経済の成熟化、グローバル化が進みメーカーも自前で商社機能を持ち始める事で商社の機

能は相対的に弱くなってしまう。したがって、仲介としての口銭が低下し、それを補うかのように更

に事業を拡大化してきたという側面もある。総合商社は口銭収入の低下に対応するため、あらゆる分

野への事業投資を積極化させ、その結果、「ラーメンから衛星通信まで」と言われるまでに事業領域

は拡大していった(資料参照:現在の事業の内容一覧)。しかし、拡大の過程で事業リスクを十分に

認識し、明確な将来展望のもとで投資が行われたとは言い難く、規模(=売上高)の拡大や他社との

横並びを指向する傾向が強かった。

総花的な拡大方針により低収益体質に悩み、また多くの業績不振関係会社を抱えることになったた

め、総合商社の事業リスクは増大していった。99/3期末の9社合計連結対象会社数は約5,600社にまで

拡大し、そのうち赤字会社が約33%も占めることになる。さらにバブル崩壊後その利益規模はバブル

水準以下に落ち込んでしまった。

Page 19: 一太郎 10/9/8 文書 - senshu-u.ac.jpthe0350/2001/paper/eto.pdf3 ~はじめに~ 総合商社とは何であろうか。これほど名前を知られていながら、意外なほど実態を知られていない業態というのも珍しい。い

19

日本における全企業の売上高ランキングと、当期利益ランキングを見てみると99年3月期のもので

売上高順位1位から6位までが全て商社である。ちなみにその順位は伊藤忠商事、三井商事、丸紅、

三菱商事、住友商事、日商岩井。となっている。一方の当期利益ランキングの方を見てみると商社は

トップテンどころの話ではない。もっとも利益を出している三井物産が65位。二位が三菱商事、売上

ナンバーワンの伊藤忠商事に至っては445位である。売上が大きければいい会社であるかといえば、必

ずしもそうとは言い切れない。そのことは次の利益率の比較を見てみればよくわかる。

各社の売上高経常利益率は(2000年度)三菱商事0.74%、三井物産0.58%、伊藤忠商事0.38%、住友商

事0.71%、丸紅0.71%、日商岩井0.4%となっている。

比較対照として(97年度)トヨタが8.05%、三菱重工4.54%となっており(同年度での比較なら三

菱商事0.47%、三井物産0.44%、伊藤忠商事0.55%、住友商事0.85%、丸紅0.40%、日商岩井0.4%。い

ずれにしろ低い数値であることに変わりはない。)、商社における利益率のあまりの低さが伺える。

この利益率の低さは商社が卸売り活動をいまだに経営の中心に据えているからである。先述の機能面

で説明するならば、流通機能と輸送機能である。もはやメーカーなどは自らの力で出来る物に対して、

商社のやることはもはや高付加価値ではない。仮に複雑な事務の代行や保険の意味があったとしても、

もはや商社に頼るべき所以はないのではないかとさえ思われる。

業績が順調なうちは問題が顕在化しにくいものであるが、多くの事業領域を保有しているため、不

振事業の損失は他の事業の利益でカバーされてしまい、全社的な視点での事業リスクに対する問題意

識がいまとなっては希薄であったといえる。

第二節 加速する商社の事業再編 その一

世の中はグローバリゼーション、IT革命等で非常に経済のスピードが上がっており経済環境の変

化も大きくなっていることは周知の事実である。この世界的規制緩和の波が押し寄せている。しかし、

膨らみすぎた商社の総花的な事業拡大が経営を難しい物しているのは先の節で述べたとおりのことで

ある。拡大しすぎた事業は激しい時代の変化についてゆけず、多くの部門が減収を強いられるかある

いは赤字へと転落する結果を生んだ。アメリカのIT企業がアメリカ史上類を見ない伸びを示してい

るのはこのスピード経済に見事遅れずについてきている(=変化に耐えるだけの体制作り)に他なら

ないだろう。むしろ、シリコンバレーを代表するように時代の最先端、ビジネスの最先端を作り出し、

経済のスピードを作り出しているからである。

さらに、シリコンバレーで活躍している企業には二つの特徴がある。一つはそれぞれの企業がコア・

コンピテンス(企業が競合他社に対して圧倒的に優位にある事業分野や,他社にはない独自の技術や

ノウハウを集積している中核となる部門。)を有していること。そしてもう一つはその、コアコンピ

タンスをどのように生かしてゆくかの明確な戦略をはっきりと示していること。マイクロプロセッサ

ーならインテル、OSならWINDOWS、ルーターならシスコといった具合に、誰もが知っている地位を

築いている。

Page 20: 一太郎 10/9/8 文書 - senshu-u.ac.jpthe0350/2001/paper/eto.pdf3 ~はじめに~ 総合商社とは何であろうか。これほど名前を知られていながら、意外なほど実態を知られていない業態というのも珍しい。い

20

そこで、巨人IBMの事例を簡単に見てみたい。経済が激しい変化を見せると同時に、商社同様に様々

な問題を抱えることになった。そのなかでも、最も重要な問題は、IBMが過去から積み上げてきた「財

産」そのものである。巨人IBMというイメージがあまりにも定着しすぎた結果、内部的にはいわゆる

大企業病を招き、外部的にもさまざまな足かせをIBMに課した。このことはすなわち、「昔の強みが

今の弱み」に変化した典型的な例といってもよいだろう。これまでIBMは、システムに必要な製品を

すべて自社で賄おうとする、垂直構造型企業として成長してきた。オープン時代となり、逆にMicroso

ft、Intel、Sun Microsystemsといった企業は、水平構造型企業としてオープン環境を自ら生かしなが

ら成長し続けている。

IBMは、そのクローズドなコミュニティでのビジネスをあまりに重視しすぎたし、それに慣れすぎ

てしまっていた。いつの間にか、IBMは水平型ベンダが新たな市場で急成長するのを黙って指をくわ

えて見ているしかない企業になっていた。

事業部門への大幅な権限委譲・分権化・ダウンサイジングヘのための小型機部門やソフトウェア部

門の強化、さらにそれらの事業部門の分社化など、これまでの中央集権型の組織のあり方を大幅に改

変した。また、最大のライバル、アップルコンピューター社との提携をはじめとする多角的な業務提

携戦略の展開や、これまでもっぱら内部需要向けに供給されてきたICの外販戦略への転換など、この

間、IBMの伝統的な行き方を大きく変える経営戦略をとった。こうしたプロセスを経た現在、さらにI

BMはオープンな企業に生まれ変わるために重大な決定を行った。

その答えが「Linux」である。もはや製品の性能・機能・価格といった単純な競争だけでは戦えない

と判断したIBMは、自らオープン環境を育て上げ、その中で競争優位に立てる状態を作り上げること

を新たな戦略目標とし、その戦略の中核としてLinuxを位置付けたのである。これまでの閉じたコミュ

ニティのみに頼っていては、サーバ・ビジネスにおける今後の高成長はほぼ絶望的であるが、競争の

土俵を変えることで新たな成長は十分に追求できるという思惑がLinux戦略の裏に隠されている。

この戦略を受けてIBMは急激に業績を回復している。ハードウェアからソフトウェアへ移行し、そ

して更にオープンな環境に血路を見いだしているのがよくわかる。

第三節 加速する商社の事業再編 その二

バブル崩壊後の商社はそのつけである不動産投資・特定金銭信託・ファンドトラストなどで被った

多額の不良債権の処理を余儀なくされた。収益は悪化し、実質赤字に転ずるなど経営のスリム化・経

営構造改革を余儀されることとなった。にもかかわらず、90年代後半の商社の対応は情報通信産業

への事業投資、食料分野、エネルギー分野、住宅関連分野への新規参入をする。特に情報通信分野・

放送分野は通信・民政電子機器・情報家電・半導体・コンピューターソフト・衛星・ケーブルネット

ワーク・情報インフラ・コンテンツエンターテイメントに力をいるといった、規制緩和による事業拡

大の道を選んだ。

しかし、アメリカのITバブルも崩壊し、2000年を境に下位商社を中心にもはや、事業再編待っ

たなしの状態におい込まれることになる。事業再編という総合商社にとっての「事業再編」は自らの

総合商社の「総合」の文字を失ういわば矛盾にもみえる懸命の生き残りをかけた急速な事業再編が行

われつつある。もはや大きな体でゆっさゆっさとゆっくり体を動かしてはいられない。スリムで素早

く動くことを社会が求めているのだ。

事業再編成の第一段は情報産業部門で、前節で述べたようにITに関しては特に経営のスピードが求

められている。分社独立する事によって経営のスピードを得ようとする考えだ。それ以外にも本社自

体の経営内容によって、情報部門の行動が制約されることを嫌ったという側面もあるが。いずれにし

ろ商社が生き残りをかけた、いや、再生をかけた新たな動きはここから始まった。この動きは情報産

業部にとどまらず鉄鋼事業(金属事業・鉄鋼製品事業と会社によって若干呼び方が違うが)へも波及

する。

その背景にあるのは過酷な国際競争にさらされている、高炉メーカーの存在がある。高炉メーカー

Page 21: 一太郎 10/9/8 文書 - senshu-u.ac.jpthe0350/2001/paper/eto.pdf3 ~はじめに~ 総合商社とは何であろうか。これほど名前を知られていながら、意外なほど実態を知られていない業態というのも珍しい。い

21

は五社の合計で社員数を6万にも及ぶ壮大なリストラを行っている。それぐらい過酷な競争にさらさ

れているのである。しかも、自動車メーカーをはじめとする大口需要家も事業再編で生き残りをかけ

ている。高炉メーカー、大口需要家と共にコスト削減をぎりぎりまで押し進める中で、商社をはずし

て直接取引を増やそうとする気運が高まっている。当然そういった中では、商社の側にもコストを下

げるかより一層の機能の拡充を図るようその存在・存在意義を問われている。商社の方も原料(鉄鉱

石、石炭)の調達から高炉への搬送。生産された鋼材の加工、物流、ユーザーに対する金融機能に与

信管理などたきにわたる(参照:第一章・第二節)。さらに、高炉メーカー(サプライヤー・川上)

にとってもっとも生産効率がよい形で製品を市場に出し、ユーザー(川下)が扱いやすい形状にして

配送するために、商社自身でコイルセンターという加工工場兼倉庫を全国に配置している。そういう

面ではただの仲介業ではないのだが川上、川下の企業に対して一層の物流、加工、情報提供機能を発

揮し、かつ、収益力を上げてゆくためには投資の資金と経営のスピードが求められる。他社の同部門

との統合も会社としての体力(=資本増強)を付けるためには避けて通れない道なのかもしれない。

しかし、事業再編はそれにとどまらず、化学品事業、燃料事業、食品事業、繊維事業、建材事業、

製紙・パルプ事業へとすさまじいスピードで波及する。

ではもう少し詳しく見てみよう。

バブル期の過大な不動産投資などが原因で経営不振に陥っていた兼松は1999年5月、主力取引

金融機関の東京三菱銀行などに対して総額1550億円の債権放棄を要請。同時に再生計画を発表。

伝統事業の羊毛をはじめとして建設・不動産や紙・パルプなどの不採算事業からは撤退本体は食糧・

食品・電子・情報通信など主力事業に絞り、見込みのありそうな鉄鋼・機械・繊維などは分社化。(兼

松の組織図を添付、いかに事業の整理、選択と集中をしたかが見て取れる。)

2000年2月大手総合商社のトーメンは、不採算事業の清算や不良資産の処理のため、2000年3

月期決算に4074億円の特別損失を計上し、業績予想を1913億円の当期赤字に修正すると発表。同時に、

主要取引金融機関に総額二千億円の債務免除を要請した。トーメンは事業を化学品、電力、情報通信、

繊維、食料の五部門に特化。鉄鋼、不動産など不採算事業は縮小を進める。翌月に豊田通商がトーメ

ンの第三者割り当て増資総額75億円を引き受け、資本及び業務で提携。同年の11月に鉄鋼部門を豊

田通商に段階的買収を決定。

2000年4月、日商岩井株式会社は1984年に発足した旧情報産業本部を事業持ち株会社として分社化

し、同時に戦略投資家(帝人株式会社、船井電機株式会社、株式会社三和銀行、オリンパス光学工業

株式会社)へ一部株式売却を行ないました。ITXの傘下に入る主要な子会社は、日商エレクトロニクス

株式会社、エヌ・アイ・テレコム株式会社(現アイ・ティー・テレコム株式会社)、日商岩井ハイテ

ック株式会社(現株式会社ハイテク21)、日商岩井インフォコム株式会社(現インフォコム株式会社)、

株式会社アトラクス、株式会社サテライトニュースなどで、主要な株式投資先として、JSAT株式会社、

日本デジタル放送サービス(現株式会社スカイパーフェクト・コミュニケーションズ:Sky PerfecT

V!)、Globaltelcom Telecomunicacoes社、日本移動通信株式会社(現株式会社ディーディーアイ)、

日本テレコム株式会社など、多くの有名企業が含まれていました。さらに7月には、ニチメン株式会

社を情報産業分野での戦略パートナーと位置付け、同分野での業容のさらなる拡大を図るため、ニチ

メン株式会社の子会社5社の株式の譲り受けを決定。また同月25日、ITXと帝人株式会社は、子会社で

ある、帝人システムテクノロジーとインフォコムの合併を発表。

2000年3月、伊藤忠商事と川鉄商事は、特殊管輸出販売を目的とした合弁会社、ケー・アンド・アイ

特殊管販売株式会社を設立。同年7月、日商岩井とニチメンの建材販売子会社を統合。

2000年9月大阪ガス株式会社は、LPGビジネスの一環として、日商岩井株式会社の100%出資

子会社である日商岩井石油ガス株式会社の株式を70%取得し、日商岩井石油ガスに資本参加。日商

岩井は長年に渡りLNG業界における先駆者的役割を果たし、1973年のインドネシアからの輸入契約を

始めとして27年間、電力会社、都市ガス会社、鉄鋼メーカー等の需要家に対して、クリーンエネルギ

ーを安定的に供給する体制を構築してきた。

Page 22: 一太郎 10/9/8 文書 - senshu-u.ac.jpthe0350/2001/paper/eto.pdf3 ~はじめに~ 総合商社とは何であろうか。これほど名前を知られていながら、意外なほど実態を知られていない業態というのも珍しい。い

22

2001年6月住友商事はLNG事業分野で日商岩井と事業提携する事を決定。住友商事は本年4月には

営業部門の大幅な改編により、プロフィットセンターの一つとして資源・エネルギー事業部門を創設

し、資源、エネルギー関連ビジネスを戦略的に統合、新規優良案件への参画体制を整えた。

21世紀のエネルギー需要増加を満たす主役は、天然ガスであると言われております。日本国内に天

然ガス資源を殆ど持たないわが国にとり、エネルギーの長期に亘る安定供給を確保するためには、総

合商社など民間の資源開発企業による海外での上流ガス田権益の確保が必要となります。また、LNG

事業においては、ガス田開発、液化プラントの建設、LNG輸送船舶の建造などが必要となり、これら

は権益取得とともに、巨額の事業投資とリスクマネーを必要とする。それゆえ、殆どの案件はメジャ

ー、日本の大手総合商社などの有力企業体による国際企業連合の構築により取り組まれている。この

事業提携では、日商岩井が長年培った営業基盤に、信用・確実を旨とする住友商事の営業基盤を加え

た強力な共同事業体を構築することで、相乗効果を発揮して新たな案件に取り組み、需要家の皆様に

従来に増して安定継続したエネルギーの供給を果たす。

2000年10月31日、豊田通商がトーメンおよび同社子会社トーメン鉄鋼販売株式会社、米国トーメン

社、台湾トーメン社、タイ・トーメン社、インドネシア・トーメン社、韓国トーメン社各々の鉄鋼事業の一

部および一部の子会社、関係会社を買収。豊田通商は非自動車部門での事業拡大をねらう。

2000年12月伊藤忠商事株式会社、日商岩井株式会社 及び 丸紅株式会社の3社は、石炭の会員制B

2B電子商取引サイト(CoalinQ.com)の共同事業化を推進することに合意。

現在3社共同で同サイトの開発、プロモーションを進める一方、2001年1月末を目処に3社均等出資を

原則として同サイトを運営する新会社を設立する方向で検討。サイト設計、開発等にはNTTコミュニ

ケーションズ株式会社を起用し、2001年2月上旬には営業開始、3月には機能を追加し、4月からの本格

稼動を目指す。

輸入石炭の調達環境はこの数年で大きく変化しており、競争力ベースのスポット調達比率が年々高

まり、需要家の購買方法の多様化、コスト削減圧力の傾向が高まるなかで、新しい商社機能が求めら

れてきています。3社はこれら環境変化に応えるための新しい販売・購買方法として、商社独自の機能

と顧客基盤をもとに電子商取引を活用した石炭のマーケットプレイス、情報提供できるサイトを需要

家に提供し、需要家の石炭調達総コストの低減や業務効率化への貢献を目指す。対象とする石炭は日

本の電力会社、一般産業、製鉄会社向けの一般炭と原料炭の一部で、石炭供給する海外サプライヤー、

トレーダー、他商社などにも幅広く会員募集する。

日本の年間石炭総輸入量は現在約1.4億トンであり、5年後には電力向け一般炭を中心に約1.8億トン

のレベルまで需要増が見込まれていますが、この内10-20%は今後電子商取引を利用したマーケットプ

レイスを通して購買される可能性が高いと予想しています。この10-20%は市場規模としては、600億

円~1200億円となります。

トーメンとニチメンは、双方の農業化学品事業、および医薬・動物薬関連事業を統合し、メーカー

機能、販売・商社機能を併せ持つグローバルなライフサイエンス事業体を作ることで合意。両社のコ

ア事業分野の統合により商社業界トップの農・医薬事業会社を設立し、連結経営下での両社の収益力を

より一層強化することを目的。

ライフサイエンス分野、特に農薬事業において、川上分野で突出した生産・研究・開発機能を発揮す

るトーメンと、海外川下分野で商社業界トップの展開を図るニチメンとが、事業統合を成し遂げるこ

とにより、農薬の生産、開発・登録、普及販売および商社としての総合機能を兼ね備えた商社業界トッ

プのグローバルな農薬事業会社を誕生させる。医薬・動物薬事業に関しては、相乗的効果が期待でき、

統合会社はバイオ事業をも視野に入れたライフサイエンス事業会社となる。統合事業の内容統合する

組織と商品分野は以下の通り。

トーメン:

 組織:精密無機化学品本部生物産業部

 商品分野:農薬、天敵農薬、微生物農薬、医薬、動物薬など

Page 23: 一太郎 10/9/8 文書 - senshu-u.ac.jpthe0350/2001/paper/eto.pdf3 ~はじめに~ 総合商社とは何であろうか。これほど名前を知られていながら、意外なほど実態を知られていない業態というのも珍しい。い

23

 関連企業群:Tomen Agro Inc. Hokko do Brasilなど19社

ニチメン:

 組織:精密化学品本部農業化学品部、精密化学品部

 商品分野:農薬、微生物農薬、肥料、医薬、動物薬、化粧品・トイレタリーなど

 関連企業群:ニチメンアグリマート、Calliope、Nichimen Agro Asiaなど26社

2001年3月ニチメンと日商岩井は、合成樹脂事業を統合することで合意。三月末までに両社の関連

子会社を統括する共同持ち株会社を設立、三、四年後をメドに合成樹脂部門全体を統合する。両社の

同部門の年間連結売上高は合わせて約3,600億円で最大手の三井物産に次ぐ規模になる。電子商取引の

普及などで両社の取引仲介ビジネスは大幅な縮小を迫られており、事業統合による生き残り戦略が鮮

明になってきた。

第四節 加速する商社の事業再編 その三

前述の情報事業の事業統合に次いでの大型事業統合の第二段が鉄鋼部門である。

2001年1月丸紅と伊藤忠商事は、鉄鋼製品部門を統合することを正式に発表した。

商社業界は下位商社を中心に生き残りをかけた事業の分社化、提携が活発化している。2000年3月

期の同部門の取扱高は、丸紅が7696億円で大手商社で五位、伊藤忠が7282億円で六位。部門統合後は

約一兆五千億円と首位の三井物産を抜き最大規模となる。総合商社では、三菱商事と日商岩井がその

前日に鉄鋼部門を統合することで基本合意しており、業界の再編成は急ピッチで進んでいる。これに

よって巨大鉄鋼商社が誕生することになる。鉄鋼業界の再編加速や、日産自動車など需要家の調達方

法見直しを背景に従来の取引関係が崩れ始め、商社の仲介事業は収益が悪化している。コスト削減は

大きな課題で、丸紅、伊藤忠は統合により鉄鋼製品の物流設備などを集約、経営効率向上を図る。

新日本製鉄が粗鋼生産量で3年ぶりに世界一の座に復帰することが確実となった。同社の2000年の

粗鋼生産は前年比15.5%増2809万トンとなり、世界一位だった韓国・浦項総合製鉄の同4.5%増となる

2770万㌧を上回った。1999年に世界三位であったフランスのユジノール(2215万トン)は、2000年

の粗鋼生産量を公表していないが、国際鉄鋼協会(IISI)がまとめた欧州連合の2000年粗鋼生産

量の前年比の伸びが5%前後にとどまったため、新日本製鉄の世界一は確実視されている。しかし、

国内各社の輸出急増でアジア市況は暴落、収益は悪化しており、その対応に迫られている。建築用鋼

材の代表的品種であるH形鋼の流通在庫が急速に増えている。鉄鋼加工会社やゼネコンなどが買い控

えているためで、鋼材問屋や特約店などの出荷量が大幅に落ち込んでいる。当然、その影響は価格に

も反映しており、流通各社は安値販売には応じられないと強気の姿勢を崩さないが、需要家の値引き

攻勢は強く、強気の姿勢も時間の問題と見る観測が強い。建築分野で主として使う熱延鋼板が、東京、

大阪の店売り市場で一段安の傾向が出始めている。昨年の夏の1トン3万9000円をピークに値下がり

傾向を続けている。 

一方、三菱商事も1月末、日商岩井と金属部門を統合することで合意し、業界内外の意表をついた。

両社は年内にそれぞれの鉄鋼部門を分社化、2002年秋をめどに統合する方向で調整している。具体

的な統合方法は今後検討するが、事業の受け皿となる新会社を共同で設立する案が有力。

日商岩井との金属部門の統合では、三菱商事が総合商社路線を捨てたとも受け止められた。鉄鋼製

品部門を本体から分離するが、それは財閥系商社で初めての“荒療治”だからだ。さらに、鉄鋼原料、

非鉄部門も日商岩井と順次統合していく計画だ。2000年9月中間連結決算の税引き後損益は、全社ベ

ースでは約759億円の黒字と過去最高益を記録したが、グループ別では、金属、機械などの四つが赤字

だった。三菱商事は自動車などの鋼板に強く、三菱グループ各社を取引先に持つ。日商岩井は関係の

深い神戸製鋼所が得意な特殊鋼や線材に強く、国内販売では業界トップの実績がある。

赤字部門などでは、取引先から手数料(口銭)の引き下げを要求されるとともに、電子商取引など

IT(情報技術)化による直接調達の広がりで、商社が得意だった仲介業務の存在意義が薄くなって

Page 24: 一太郎 10/9/8 文書 - senshu-u.ac.jpthe0350/2001/paper/eto.pdf3 ~はじめに~ 総合商社とは何であろうか。これほど名前を知られていながら、意外なほど実態を知られていない業態というのも珍しい。い

24

いる。

2000年3月期の鉄鋼部門の売上高は、日商岩井が約一兆七百億円、三菱商事が約一兆二百億円。統

合により現在首位の三井物産(約一兆四千億円)、統合を予定している伊藤忠商事と丸紅の新会社(約

一兆五千億円)を抜く規模となる。

事業別対売上高粗利益率一覧表

 

会社売上

会社総利

益 金属部門 機械・情報 燃料 化学品 食料 繊維

物資・建設

伊藤忠商事 121444 6123 5 5 0.7 4.1 5.4 6.3 9.2三菱商事 131091 5771 3.7 3.7 2 3.9 6.9 6.3 6.8三井物産 132007 5379 5 5 2 4.9 4.9 6.4 7.6住友商事 106724 4770 3.6 3.6 2.2 4.7 3.7 3.2 15.4丸紅 102224 4535 4.2 4.2 1.8 7.2 5.6 4.5 5.7日商岩井 72813 2677 4.1 4.1 2.5 5 3.2 4.4 3.5トーメン 28669 1156 4.1 4.1 0.3 8.5 5.3 4.2 4.1ニチメン 28619 1301 6.7 6.7 1.3 6.7 1.7 10.5 6.3

伊 藤 忠 ・ 丸

紅/三菱商

事 ・ 日 商 岩

鉄鋼統合

日商岩井に

売却

LPG 子

会 社 の

株式の7

0%を売

ライフサイ

エ ン ス 事

業で統合  帝 人 に

売却

そ れ ぞ れ

建 材 で 統

豊田通商に段階的売却

上記の図は企業を共通の事業部門に括り直したマトリックスで対売上高粗利益率を数値で示した。

 規模の面で他部門より見劣りするのだが、機能としては重要な位置を占めるのでここで少し商社に

おける物流の再編について触れておく。

 総合商社をとり巻く環境や商社の活動が大きく変革するなかで、商社の物流への取り組みもこれま

でとは変わりつつある。1 つは、主として営業支援機能を担っていた総合商社の物流部門が、そのノウ

ハウを活かして物流を事業化していく動きが顕著であること、その 2 は、電子商取引の進展をビジネ

スチャンスととらえ、e マーケットプレース(企業間電子市場)を構築するとともに、関連する物流業

務も実施していく動きが強まっていることである。以下、各種ニュース記事などにより、総合商社に

おける物流への取り組みの状況をとりまとめる。

 総合商社の物流部門は、営業部門が商品を販売し、その物流を担当するという、営業支援機能がこ

れまで中心を占めていた。しかし、商社の業績が伸び悩むなかで、営業支援の物流も効率化とコスト

の削減が求められるようになり、物流事業の分社化や物流業務の外部委託化が進められてきた。

 近年は、これまで蓄積した物流ノウハウを活かし自社以外の物流業務を行うことを目的として、組

織を新設・再編する動きが目立っている。伊藤忠商事、トーメンでは、社内外の物流を受託するため

の新会社を設立し、住友商事、三井物産、丸紅、三菱商事などの各社では、物流の事業化を目指す組

織を新設している。例えば、住友商事は今年 4 月の機構改革で「物流企画営業部」を新設した。この

部署は、コンサルティング、サプライチェーン・マネジメント(SCM)の構築とサードパーティ・ロ

ジスティクス(3PL)の実施、電子商取引システムの構築・サポートなど、様々な物流課題に対応する

ことを目指しており、国内の物流事業を担当する子会社「オールトランス」を直轄下におき、物流施

設利用、物流のアウトソーシング(外部委託)の要請にも即応できる体制を整えている。

Page 25: 一太郎 10/9/8 文書 - senshu-u.ac.jpthe0350/2001/paper/eto.pdf3 ~はじめに~ 総合商社とは何であろうか。これほど名前を知られていながら、意外なほど実態を知られていない業態というのも珍しい。い

25

三菱商事

国際輸送部門を分社化して「エム・シー・トランスインターナショナル」(MCTI)を設立する。

海外の物流インフラが整備されていないエリアでの物流サービスの提供をねらっており、海

外現地法人の設立を推進する。(1998.7)

 

「新機能事業グループ」を発足させ、現行の金融サービス本部、物流サービス本部に加え、

新設の E コマース本部、コンシューマー事業本部などで構成する。金融・物流・情報・消費

者対応の各機能を融合し新事業展開を図り、通販などの IT 関連事業を強化する。

(2000.2)

住友商事

関西地区に物流子会社「関西オールトランス」を設立した。物流業務をアウトソーシングす

る動きが広がっており、倉庫を確保するとともに、EDI による物流管理システムを導入し、

こうした需要を取り込む。(1999.7)

 

「物流企画営業部」を新設し、コンサルティング、SCM 構築、3PL 受託、電子商取引システ

ム構築など物流事業の拡大を目指す。物流子会社「オールトランス」を当部の直轄会社と

し、3PL 事業に対応する。(2001.4)

三井物産

シンクタンク「三井物産戦略研究所」を設立した。海外の地域情報の収集やマクロ経済動向

の分析などに加え、営業部門に SCM の構築ノウハウを提案するなど事業基盤の強化に

直結する研究も対象にする。(1999.10)

 

専門部署「ロジスティクス SCM 室」を設置し、メーカー、卸、小売業を対象に、SCM 構築な

ど物流効率化を支援する。培ってきた物流ノウハウを生かし、ニーズが高まっている物流の

アウトソーシング需要を取り込む。(2000.6)

伊藤忠商事

伊藤忠倉庫(株)、伊藤忠エクスプレス(株)、ニュージャパンエアサービス(株)の伊藤忠系

物流 3 社が合併し、「(株)アイロジスティクス」として発足する。陸上・海上・航空貨物の取

扱い機能を集中し、総合物流会社を目指す。(2001.4)

 

伊藤忠商事、ニチレイ、NTT データは、冷凍・冷蔵食品の物流請負会社「ロジスティクス・プ

ランナー」を設立する。ノンアセット型(資産を持たない)の 3PL 会社で、コンサルティング業

務や物流部門の請負などを通じて食品メーカー、量販店の物流効率化を支援する。

(2000.11)

丸紅

組織改正で物流部門を営業部門化する。物流を金融、保険とならんで新規注力分野に位

置付け、収益拡大を図る。なお、同社は 1997 年に子会社「丸紅物流」を設立し、大阪、柏、

川崎、厚木などの拠点を核に物流事業を展開している。(2001.2)

 

「食品流通戦略チーム」を発足させた。それぞれの食品を担当する縦割りの部門とは異な

る特別チームを設け、食材の調達元や売り込み先を開拓して、商社の新たな川下ビジネス

につなげる。(2001.5)

日商岩井

物流と保険業務を子会社に集約して分社化、物流では貨物輸送や貿易業務を手掛ける「エ

ヌアイロジスティクス」に、SCM 構築などを受け持つ本体の人員を移管する。分社化による

コスト削減とともに、グループ外への売上増を狙う。(2000.9)

総合商社における物流事業の展開

 企業の物流においては、サプライチェーン・マネジメント(SCM)の導入が進みつつある。SCM は、

取引先との受発注、資材・部品の調達、在庫、生産、製品の配達などを IT(情報技術)を応用して統

合的に管理し、物流等の効率化を図る手法であるが、このなかにあって、物流システムを提案し包括

的に物流業務を受託するサードパーティ・ロジスティクス(3PL)が台頭しており、物流業者、企業の

Page 26: 一太郎 10/9/8 文書 - senshu-u.ac.jpthe0350/2001/paper/eto.pdf3 ~はじめに~ 総合商社とは何であろうか。これほど名前を知られていながら、意外なほど実態を知られていない業態というのも珍しい。い

26

物流子会社などの参入とあわせて、総合商社の進出が目立っている。

 総合商社は、様々な業種の企業との間で流通ビジネスを展開しているため、各業界の情報を蓄積し

企業のニーズを把握しており、SCM を構築し 3PL に進出するのに優位な立場にあるといえる。国内

における取り組みをみると、物流システム設計による物流業務の一括受託や、調達・在庫管理・配送

など一貫業務の受託といった事例がある一方、物流施設を整備したり物流会社を設立する動きもみら

れる。3PL のニーズに対応する戦略として、アセット(車両、倉庫、物流センターなどの資産)の充

実が進められているといえよう。

 総合商社は、貿易業務を遂行するなかで、海外においても物流のネットワークを構築し、物流のノ

ウハウを蓄積してきた。したがって、国際輸送においても物流業務の受託を目指す動きが活発になっ

ている。中国、フィリピン、インドネシア、東欧など、物流ネットワーク・物流インフラの整備の遅

れている国・地域との物流サービス体制を確立し、日本との輸出入貨物の物流を獲得する取り組みや、

東欧向け農薬や欧州向けコマツ製品の取扱いのように、SCM を構築し一貫物流業務を受託する取り組

みがみられる。

三菱商事

三菱商事、ダイトーコーポレーション、三菱倉庫は、マニラ近郊に総合物流センタ

ーを開設した。フィリピンに進出する日系メーカーを対象に、保管・配送のほか輸

出入取扱いを組み合わせ、総合物流サービスを提供していく。(1999.9)

住友商事

フィリピンに現地企業 2 社と合弁で物流会社「フィリピン・スミトランス・ロジスティ

クス」を設立し、フェデラルエクスプレスと組み、日本で集荷した貨物を 25 時間

以内にフィリピン、マニラ近郊の配達先に届けるサービスを行う。(1999.6)

東欧・独立国家共同体(CIS)で、農薬の最終加工から販売まで一貫して管理す

る SCM 事業に乗り出す。7 カ国に販売会社を設立、農薬原料をハンガリーの物

流倉庫に持ち込み、最適な農薬工場で最終製品へ加工し、各国の直売会社を

通し農家などへ販売する。(1999.10)

住友商事、住友倉庫などが 1997 年に現地物流業者と合弁で上海に設立した総

合物流会社が、国際フォワーディング免許を取得した。主として現地進出日系企

業を対象とした総合物流サービスを提供するが、将来は、中国国内を対象とした

輸出入貨物の複合一貫輸送を展開する。(2000.9)

三井物産

企業向けに SCM の構築を支援する事業を強化するため、横浜市に大型倉庫を

建設し、取引先企業が物流効率化の拠点として活用できるようにする。さらに、

全国に最新鋭の倉庫を設置、顧客企業の物流拠点網作りを支援する。

(1999.9)

レナウンは、若い女性向けブランドの生産・物流を一貫して大手商社などにアウ

トソーシングする。第 1 弾として、「レベッカ・テイラー」の生産から物流までの実

務を一貫して三井物産に委託した。レナウンは、自前の生産管理・物流システム

では対応できないと判断した。(2000.3)

コマツから、欧州工場向けの部品の物流業務を一括受注した。物流システム構

築や受発注情報の管理までを請負、集荷、輸出、倉庫管理などの業務を三井物

産が代行する。海外に多くの生産拠点を持つ大手企業向けに受注活動を本格

化する。(2001.4)

三井物産の子会社「MBK 流通パートナーズ」は、食品流通向けの 3PL 事業を

展開し、1998 年 8 月の中部地区を皮切りに、関西、北海道、九州、中四国地区

と配送対象エリアを広げてきたが、東北地区で共同物流事業をスタートさせる。

(2000.7)

青果物卸と共同出資会社「フレッシュファームサプライ」を設け、物流受託に乗り

出した。大丸グループから野菜と果物の仕入れ、加工、配送、代金決済、情報管

理など物流関連業務を一貫して請負、関西地区のスーパー 26 店に納品する。

(2001.1)

Page 27: 一太郎 10/9/8 文書 - senshu-u.ac.jpthe0350/2001/paper/eto.pdf3 ~はじめに~ 総合商社とは何であろうか。これほど名前を知られていながら、意外なほど実態を知られていない業態というのも珍しい。い

27

伊藤忠商事

ゼリア新薬工業は、センター業務や物流情報管理システムなどを伊藤忠商事の

物流部門に全面的に外注する。ゼリアは物流費の削減や、卸や小売店からの

小口配送に対応できる体制づくりを担う。実際の業務は、伊藤忠とハマキョウレ

ックスが共同出資するスーパーレックスが請け負う。(1999.2)

化学製品の SCM を構築する。大手化学メーカー約 50 社と契約を結び、インタ

ーネットを活用した部品の取引市場を作るとともに、販売先である自動車部品や

電機メーカーなどとの間の受発注、物流を一手に請け負う。(2000.4)

コーヒーチェーンを展開するスターバックスコーヒージャパンは、牛乳、パンなど

の日配品の配送業務を、伊藤忠商事に全面委託した。これまで、メーカーごとに

店舗へ配送していたが、店舗数が増え、効率的な物流システムの構築が必要と

なっていた。(2000.6)

丸紅

冷凍食品卸のナックスナカムラに出資し、輸入魚介類、畜産物などの販売チャネ

ルと物流網を確保する。オンライン網を利用し、受発注の速度、精度を向上さ

せ、出荷データを在庫圧縮や生産・調達計画策定にも役立てる。海外も含めた

SCM 体制が目標である。(1999.9)

日商岩井

文具・オフィス雑貨宅配を展開する「オフィスワン」は、日商岩井と提携し物流網

を構築する。日商岩井の倉庫などを活用し、配送も委託する。また、海外文具の

仕入れ、顧客開拓、受発注などでも日商岩井の協力を受ける。(1999.10)

インドネシアの紙パルプメーカー「アジア・パルプ・アンド・ペーパー」(APP)の物

流を一括して受託する。APP と物流統括の新会社を設立し、アジア域内で APP以外の貨物の輸送も請け負う。物流や在庫管理、生産計画などを最適に管理す

る SCM も導入する。(2000.5)

一方、日商岩井の下図は売上総利益に占める各部門の図である。日商岩井はこの二年間で売上総利

益のほぼ半分の部門を分社化し、本体から切り離したことになる。分社した金属カンパニー(部門の

こと)と金属カンパニーについては本社にそれぞれに対応する戦略舞台を設置する予定。日常的な情

報連鎖を通じて本体の持つ海外事業部門などのビジネスとの相乗効果を上げようとしている。新しい

統合のモデルである。近い将来、日商岩井は持ち株会社の形式を取ることになっている。分社した会

社が株式を区解すれば、キャピタルゲインと毎年の配当を生むが、粗ERと引き替えに出資比率の低下

と影響力が低下する統合モデルが機能しなくなるのではないかという不安がつきまとうのだが、日商

岩井の解体によって有望な事業まで死んでしまうという危機感から分社化を進めるのかもしれない。

三菱商事も場合も同様である。売上高に対しての各部門の占める割合である。「連結で三菱商事グ

ループの企業価値を上げることが重要で、他社との提携で強くなり、グループ全体の企業価値向上に

つながるなら、再編や提携は積極的に進める。」昨年中間期で、三菱商事のROE(株主資本利益率)

は8.1%だったが、佐々木社長は年頭のあいさつで「五年以内に15%を達成する」と表明している。

 

Page 28: 一太郎 10/9/8 文書 - senshu-u.ac.jpthe0350/2001/paper/eto.pdf3 ~はじめに~ 総合商社とは何であろうか。これほど名前を知られていながら、意外なほど実態を知られていない業態というのも珍しい。い

28

日商岩井

金属22%

化学品

機械21%

物資・住宅資材10%

生活産業10%

建設都市開発4%

エネルギー7%

情報産業14%

金属

情報産業

化学品

機械

物資・住宅資材

生活産業

エネルギー

建設都市開発

三菱商事

生活産業27%

燃料23%機械

17%

化学品11%

金属17%

新機能事業1%

情報産業4%

生活産業

燃料

機械

化学品

情報産業

新機能事業

金属

 いずれのケースを見ても事業再編によってコアコンピタンスに注力し収益性に力を入れている。

現在三井物産と住友商事の二社のみ分社・統合はせずに自社の強さを磨く方向性を打ち出している。

しかし、総合商社最大手の三菱商事が日商岩井と鉄鋼事業で手を結ぶことで経営の効率性や収益の向

上を図ろうとしている。自社のみで各事業を再編できるのかがこれから注目される点であろう。総合

商社の強さは「総合力」であり、分社化してもその「総合力」を如何に発揮していくかが事業再編、

分社統合を選んだ企業のこれからの大きな課題である。一方、分社・統合を選択しなかった企業にと

っては大きな体のまま、如何に効率的な経営をするか、収益力を高めていくかが問題である。

第五節 商社の格付け

格付けとは第三者の機関がある企業の発行する債権に対して、まず債務不履行(デフォルト)まで

の距離を測定(デフォルトリスクの分析)、次いでデフォルト後の元本回収の程度を判定(回収リス

クの分析)すること。それは主に信用リスクの分析が格付作業の根幹をなしますが、これは発行体の

全ての債務についての支払能力を見極めることであり、すなわち会社の信用力評価的ないみをなす。

次ページの図は2001年12月現在の総合商社及び自動車・電力・石油・銀行の格付け一覧である。

Page 29: 一太郎 10/9/8 文書 - senshu-u.ac.jpthe0350/2001/paper/eto.pdf3 ~はじめに~ 総合商社とは何であろうか。これほど名前を知られていながら、意外なほど実態を知られていない業態というのも珍しい。い

29

  ムーディーズの格付け 総合商社 自動車 電力・石油 銀行

Aaa

きわめて優れていると判断された債券。一流債

券と呼ばれる。投資の対象としてのリスクは最

小限である        

Aa1

総合的に優れていると判断された債券。上級

債券。Aaa の債券に比べて元利払いの安全性

の余裕度が小さい   トヨタ自動車

東 京 電 力 ・ 東

京ガス・大阪ガ

ス  

Aa2       関西電力  

Aa3         静岡銀行

A1

中級の上位と判断された債券。将来のある時

点において債券の安全性を低下させる事象発

生の可能性あり        

A2   三菱商事 ホンダ技研   東京三菱銀行

A3   三井物産    

第 一 勧 銀 ・ 富

士 銀 行 ・ 三 和

銀 行 ・ 三 井 住

友銀行

Baa1

中級と判断された債券。長期的観点から特定

要素について確実性、あるいは信頼性におい

て低い性質あり 住友商事     あさひ銀行

Baa2          

投資

適格

等級

← Baa3         大和銀行

Ba1投機的な要素を含むと判断された債券。将来

の安全性に不確実性がある ニチメン 日産自動車    

Ba2   丸紅      

Ba3   伊藤忠商事 三菱・マツダ    

B1

好ましい投資対象として適正さに欠けると判断

された債券。長期的観点で元利払い、契約遵

主の確実性が低い 日商岩井      

→投

機的

等級

B2   兼松      

B3          

Caa

安全性が低いと判断された債券。責務不履行

に陥っているか、元利払いを困難にする要素

がある        

Ca

非常に投機的であると判断された債券。債務

不履行の状態にあるか、重大な危険性が認め

られる        

C長期債券に対するもっとも低い格付け。有効な

投資対象となる見込みはきわめて薄い        

1999年の段階での商社の格付け一覧を参考資料として添付してあるのでそちらと比較してもらいた

い。格付けが低下していることがはっきりと見て取れると思う。

その理由の一つとして、バブル期の過剰投資。そして、バブル崩壊後の不良債権の処理にある。

どの商社もここ数期間において多額の損失の発生がある。バブル崩壊やアジア通貨危機などにより、

過去の安易な投資判断の誤りが表面化した。この背景として会計基準の厳格化や長期不況により損失

の先送りが難しくなったことも挙げられる。2000年3期より過去5年間に計上された大手総合商社9社の

特別損失(単体)合計額は約3兆6,000億円と巨額なものであり、期間利益の大半や含み益が損失処理

に充当された。

損失処理の過程で、各社間での体力差が拡大してしまった。財閥系3社では自己資本の毀損(きそん)

Page 30: 一太郎 10/9/8 文書 - senshu-u.ac.jpthe0350/2001/paper/eto.pdf3 ~はじめに~ 総合商社とは何であろうか。これほど名前を知られていながら、意外なほど実態を知られていない業態というのも珍しい。い

30

が少なく、体力を維持できたが、その他の大半の企業は自己資本を著しく毀損した。特に兼松、トー

メンの2社は自力での損失処理に耐えられず、金融機関からの債務免除を受ける事態に陥った。資産・

負債を圧縮する財務リストラや拡大した事業領域をコア事業へ集中させ、不採算・低効率事業の選別

や人員削減などのコスト圧縮を行う事業リストラにより、各社とも疲弊した財務体力の回復、さらに

収益力の強化を目指している。商社の事業は、金融機能を担ったものが多く、その事業リスクは高い。

しかも、従来のトレード中心の事業内容から事業投資へのウエートを高めており、さらに事業リスク

は高まっている。リスクの高い事業を継続して行うには、リスクバッファとしての自己資本の充実が

必要。

2001年度は財務面でも有利子負債の圧縮など財務体質の改善にも一定の進捗がみられる。しか

し、事業投資などリスクの高い事業を行っている総合商社にとってリスクバッファとなる自己資本は

極めて重要であり、一連の損失により自己資本は大幅に毀損されている。リスク対応力は著しく低下

しており、資産、負債圧縮による事業リスクの軽減や自己資本の増強といった課題がなお残されてい

る。

こうした財務体質の改善の為のリストラも積極的に行い、9社合計の従業員数(単体)が96年3月末

で約5万人であったものが2000年3月末には3万8000人、2001年10月の段階で3万5000人まで減少し

ており、過酷な人員削減が行われている。

前述の分社・統合の背景には総合商社の財務体質改善、優良事業の生き残りをかけた必死の思いと

いうものが見え隠れしている。しかも、このバブル崩壊後の不景気に商社には、いや、日本の企業に

とって追い打ちをかけられた出来事がある。それは新会計基準の導入である。中でも企業の実態に特

に大きな影響を与えると考えられているのは、「連結会計」「時価会計」「税効果会計」「退職給付

会計」である。これが二つ目の理由。

99年度から、日本でも連結決算を中心とするディスクロージャー(情報開示)に移行した。その

ため、文字通り連結ベースで企業評価が行われることとなった。また、連結対象企業の範囲も変わり、

従来の持ち株基準から支配力基準に移行した。これによって従来行われてきた、子会社を利用した粉

飾決済や、株式保有率を一時的に下げて行う「連結外し」を防ぐことができるようになり、より企業

の実態に近い姿を示すことができるようになったのである。企業はそうした評価軸の移行にともない

「グループ連結経営」に注力する必要が出てきた。つまり、親会社の利益を重視する旧来の経営から、

グループ全体の企業価値を最大化する経営に移行する必要が出てきたのだ。そのため、総合商社、ゼ

ネコン、大手メーカーなどが、子会社や関連会社の整理に乗り出した。企業が巨大化し、海外や他分

野に事業を拡大すると、子会社や孫会社が増えてくる。親会社1社だけの「単独決算」では企業の実

態の評価はできなくなる。欧米では連結決算が基本だが、日本ではこれまで単独決算が中心で、連結

会計はその補足データにすぎなかった。

伊藤忠商事はすでに、子会社新設ルールとして総資産利益率や親会社への利益取り込み率などの基

準を導入。さらに伊藤忠商事は約320社の子会社整理目標(2001年3月末完了予定:実際に320社の整

理が終わったかは不明だが、伊藤忠商事の事業報告書を読む限りだとかなりの子会社を整理したこと

が読みとれる)を掲げている。伊藤忠以外の総合商社も、子会社群の絞り込みに着手している。三菱

商事や三井物産は子会社を格付けする尺度「撤退ルール」をすでに設定。両社ともグループ企業にお

ける赤字会社の比率は20%台にまで低下、赤字会社が40%近い伊藤忠より先行している。

また、資産の「時価会計」の導入は、土地や株の「含み益」をテコに過当競争を続け、今は不良債

権問題に苦しむ日本企業にとっては、大きな影響がある。まずは有価証券の時価会計、2002年3

月期からは、持ち合い株式も時価会計となった。また、2000年3月期からすでに、「強制評価減」

という販売用の不動産の時価会計処理が始まった。時価主義化によって経営者は今後、持ち合い株式

を含む各保有株式が資本コストを上回る収益をあげているかどうかをチェックしそうでない銘柄は処

分しなければならない。また、持ち合い株式が時価評価されると、含み益のある企業は資本の額が膨

らむためROE(株主資本利益率)が低下してしまった。

Page 31: 一太郎 10/9/8 文書 - senshu-u.ac.jpthe0350/2001/paper/eto.pdf3 ~はじめに~ 総合商社とは何であろうか。これほど名前を知られていながら、意外なほど実態を知られていない業態というのも珍しい。い

31

三つ目として、総合商社は間接金融に頼りすぎていたこと。この金融恐慌にも似た現在の金融危機

下で銀行が(商社同様)多額の不良債権を抱え、いっこうにその処理が進んでいない。当然この状況

では多額の投資をしている商社にお金をかすだけの資本的余力がない。銀行がお金を貸してくれなけ

れば自分で資金の調達をしなければならない、しかし、上記の通り世間の風は逆風である。格付けが

下がれば当然資金の調達にも支障がでる。商社の資金繰りが悪化することで全てのよいサイクルが狂

ってくる。 先も述べたが商社が卸売り活動をまだ中心に据えていること(変化はしているが)では

利益は下がる一方である。利益を上げるためには大きなプロジェクトをとりまとめなければならない。

しかし、経営体力のない商社ではリスク管理能力にかけてしまう。従って大きなプロジェクトができ

ない。そうなれば当然、商社の投資機能にも陰りが見えてしまう。投資をするにも、投資を一つの会

社のみでやるのはそう簡単なことではないので、当然他社に声をかける事になるのだが、ノウハウの

点で信用にかけていたり、リスク管理、投資の体力面で不安を感じさせることは拭えない。

もっと早くから直接金融によって直接市場から資金を集めていたのならば、より自由に投資や資金

繰りに当てることが出来たはずである。間接金融に頼りすぎていたが為に、銀行の関与(支配)を受

けることになったり、銀行の一方的な都合による資金の引き揚げを受けることはさけられたはずであ

る。

話を戻して、度重なる会社の格下げは直接金融による資金調達に大きな障害をもたらすだろう。合

併を繰り返し巨大になってゆく銀行を傍目に、非常に対照的に見えるような事業再編を繰り返す商社。

分社統合により、子会社の株式によるキャピタルゲインを積極的に行っているが、先のテロ事件以降、

冷え切った株式市場では思ったような価格もでておらず非常に難しい立場にさらされている。

直接金融からの資金調達も難しく、銀行も当てにならない今。上記のように、商社は非常に難しい

立場に立たされており、どのような手段でこの危機を乗り越えてゆくかが注目を浴びる。

第四章 IT革命と商社

第一節 IT革命の意義

産業革命は人間を人力労働から解放した。かつては低い労働生産性のために人工の大部分は壱に比

重働いていても今日、明日の食糧を確保するのが精一杯という状況に置かれていた。しかし、蒸気機

関から電気、内燃機関の発明によって機械化が大幅に進み、生産性が劇的に上昇した。時間に余裕が

出来た人間はより高度な商品・サービスを開発することにエネルギーを振り向けることができる様に

なった。その結果、今日のような高度消費社会が実現した。

IT革命もよく似ている。IT革命は「情報処理という雑用」から人間を解放する。産業革命を経

てますます複雑化した社会の仕組みの中で、現代人が格闘してきたのは情報処理という仕事であった。

実際、会社に出勤して働くホワイトカラーは勤務時間の大部分を広い意味での情報処理に使っている。

伝票の整理、代金回収業務、顧客管理、労務管理、取引先とのコミュニケーション。これら全てが情

報処理である。こう考えると、現代企業の仕事の大部分が情報処理であることに気がつく。

しかし、コンピューターやインターネットが発達した結果、情報システムが開発され、情報処理の

効率が飛躍的に向上してきた。例えば、サプライチェーン・マネジメント(*2)によって、社内の情報共

有化が進み、コミュニケーションに割く時間は激減する。また、インターネット上には無数のサイト

が様々な情報を提供している。アプリケーション・サービス・プロバイダー(*3)はこれまで企業が自前

でやってきた様々な業務を代行してくれる。

(*2)(【supply chain management】サプライ-チェーンにおいて,取引先との受発注や社内部門の業務をコンピューターを使い統

合管理する経営手法。資材や製品の最適管理を実現し,コスト削減を目的とする。SCM。)(*3)(【application service provider】サ

ーバーに ERP(統合業務用パッケージ)などのアプリケーション-ソフトを導入し,ユーザーにはネットワークを介してそのソフトを

利用させるサービス事業者。ユーザー側はソフト更新や管理の手間を省くことが可能になる。アプリケーション-ホスティングともい

う。ASP。)

Page 32: 一太郎 10/9/8 文書 - senshu-u.ac.jpthe0350/2001/paper/eto.pdf3 ~はじめに~ 総合商社とは何であろうか。これほど名前を知られていながら、意外なほど実態を知られていない業態というのも珍しい。い

32

ITが「情報処理という雑用」を効率化し、企業の事務処理の生産性は劇的に上昇し、多くのサラリ

ーマンが情報処理という雑用から解放されるようになる。その結果、より多くの時間を人間本来の創

造的な仕事に振り向けることが可能になる。今世紀は知識想像力や、イノベーション能力という次元

で競争を繰り広げるようになるだろう。

IT革命が進展しインターネットがブロードバンド化してくると世界中の多様な端末がつながり、

それが提供する多量の情報や知識がネットワーク上に「浮かぶ」様になる。こうなると、個人の生活

や企業のあり方も変わってきてしまう。なぜならば、インターネット上での様々な情報や知識がイン

ターネット上で共有されることによって、標準化できる定型的情報はじめで蓄積する必要がなくなっ

てしまう。すなわち、必要な情報はいつでも必要に応じてネットワークから取り出せるようになるか

らである。こうして、情報の共有化、処理能力の向上によって企業は自前で情報を処理する必要性が

低下してくる。言い換えると、全て自社内でやっていたことをネットワークを通じて社外で、広義的

にインターネットが代行してくれることが可能になるのである。こうなってしまっては、日本的な長

期的取引関係の利点も損なわれてしまう。系列の減退、自前主義の衰退、もはや日本的経営スタイル

が非効率なものになってしまい、企業の中身は変わらざるを得ない。

以上を整理しておこう。日本的経営は長期的、継続的、固定的な取引関係が特徴であったが、その

目的は情報の共有、効率的な情報処理にあったと考えられる。しかし、かつての日本企業の情報処理

能力、情報収集能力、情報蓄積能力の大部分がブロードバンドの普及に伴いインターネットによって

代替されるため、日本的経営の根本的見直しを迫られることになる。これまでは情報処理に追われて

きたが、IT革命によって著しく簡略化される結果、企業はいかに情報を処理するかではなく、何を生

み出すのかが問われることになる。

第二節 商社のITへの取り組み

IT革命の初期。日本では98~99年にかけての頃。商社は時代の最先端で仕事をしているだけあ

って、世の中より半年から一年は早くにITに関して注目をしていた。しかし、商社はIT革命を新しい

ビジネスチャンスとしてしかとらえていなかった。インフラの整備、情報機器関連、情報サービス、

等、幅広いビジネスで商社にとっての不況を突破する突破口になると考えられていた。しかし、ある

時期を境にITは商社にとって諸刃の剣であるという認識が広がり始める。それはIT先進国であるアメ

リカから伝えられてくるITを商取引に活用した新しいビジネスモデルに関しての情報だった。

アメリカにおけるITの活用の事例では、どれを見ても商社は登場してこない。このこと自体は商社

が存在しないアメリカの事例である以上、当然のことだ。しかし、こうしたビジネスモデルがそのま

まの形で日本に導入されたら商社は、その主要業務の一つである仲介業務から排除されてしまう。も

ちろん、商社の機能はそれだけではないので、商社そのものが全てITに取って代わられてなくなって

しまう事にはつながらないとだろう。が、ITという要素が加わったことで、商社の存在意義が考えな

おされることになる。いわば、有望なビジネス領域であると共に、自らの仲介機能を排除するものと

捉えるようになった。

さいわい、商社はメーカーのような固定化された資産が少なく、どのような業態にでも比較的低い

コストで転換できるという強みをもっている。時代に合わせて、商社は変化してきたこのことは第二

章を見ていただければご理解いただけると思う。商社は時代と共にその多機能さ故に生き延びてきた。

ということは、「何でも出来る」と言うことになるが「何にでも効く薬」が結局、特定の病気にはあ

まり効かないことのように「何でも出来る」は経営資源が分散し、明確なコアコンピタンスを構築で

きないと言う危険性も含んでいる。つまり、総合商社のこれからはどの分野に経営資源を投入するの

かが問われるようになるであろう。

ここで、現段階での商社のITへの取り組みについて簡単に触れてゆきたいと思う。まず、商社にと

ってのITへの取り組みは二つの側面からのアプローチがある。一つ目が、情報産業を新成長分野とし

て、物流事業を通じて収益化すること(情報の産業化)。もう一つは、商社の業務処理を情報化し、

Page 33: 一太郎 10/9/8 文書 - senshu-u.ac.jpthe0350/2001/paper/eto.pdf3 ~はじめに~ 総合商社とは何であろうか。これほど名前を知られていながら、意外なほど実態を知られていない業態というのも珍しい。い

33

社内の生産性を徹底的に鍛え上げること(産業の情報化)である。前者は、85年に始まった(第二

章第五節参照)今日までに続く情報通信分野の規制緩和を契機とし、初期には情報通信インフラ分野

への事業投資が中心だった。各社ごとに違いはあるが90年代にはいると移動通信関連事業、衛星放

送事業、CATV事業などに移行。さらには、インターネットをはじめとする、ネットワーク事業、コン

テンツ事業に活動範囲を広げる。産業の情報化についても90年代後半から、大型コンピューター中

心のシステム構築から分散型システムへの転換する(VAN(*4)→インターネットOR中規模サーバー等)。

最近では、ERP(*5)の導入を積極的に進め、取引先との電子商取引、SCMの推進のために社内情報の

基盤整備を進めている。

(*4)([value-added network]コンピューター間の通信をするために情報の蓄積・提供,通信速度および形式の変換,通信ルート

の選択など種々の情報通信サービスを付加した通信網。付加価値通信網。)

(*5)([enterprise resource planning]財務や人事・顧客情報など企業の業務をサポートするシステム。統合業務ソフトともいう。)

経済の円熟化、IT革命の進展、経済のグローバル化により、もはや従来のビジネスモデルでの利益

拡大は望めないことは明白である。商社にとって、これからも生き残るためには従来型のビジネスモ

デルを変革することによって既存のビジネスの強化拡大をはかりつつ、新しいビジネスモデルを創造

してゆかなければならない。そこで各社が行っているITへの戦略をまとめてみると以下のようになる。

・すでに参入済みの情報インフラ、CATV、光ケーブル網、衛星通信、携帯電話網を駆使して新規事

業の立ち上げ。

 ・既存の流通ビジネス(主として製造業の代理人としての仲介業)をe化する事により商圏の強化

拡大を図る。=eトランスフォーメーション

 ・鉄鋼、化学品、食品などの各産業分野でeマーケットプレイスを商社中心で立ち上げる。(流通

としての縦の関係だけでなく、このような水平型のeビジネスも立ち上げる)

 ・B2Cや、ショッピングモールの運営

 ・電力。機械、繊維、木材など各業界でのeプロキュアメント(*6)の運営

 ・業界横断的なeマーケットプレイスへの取り組み。

 ・決済・審査・物流機能など、商社が今までのビジネスで培ってきた機能をeビジネス化した新規

事業の立ち上げ。

 ・製造業と卸業・小売業あるいは製造業とその海外生産拠点を結ぶSCMのオーガナイザーとしてIT、

FT、LT(*7)を総合的に活用した新しいビジネスモデルを確立する。

(*6)(e プロキュアメント:【電子調達】e-procurement:企業がネットワークを利用して,資材や部品などの調達を行うこと。従

来からの取引方法に比べ調達にかかわる手続き等が簡略化されるため,低コストの取引が可能。)

(IT:情報技術 /FT:金融技術 /LT:物流技術)

以下の図はその取り組みの一覧である。しかし、これは全てではなく、ほんの一例です。当然です

がまだまだある。

名称 参加企業

サービ

ス開始

時期 URL 備 考

ペイツボ・ドッ

トコム日商岩井・ NTT-

2000年 8

月http://www.beitsubo.com

イービストレードが運営する初めてのサイト

対象を素材や産業資材全体に拡大する計画

Page 34: 一太郎 10/9/8 文書 - senshu-u.ac.jpthe0350/2001/paper/eto.pdf3 ~はじめに~ 総合商社とは何であろうか。これほど名前を知られていながら、意外なほど実態を知られていない業態というのも珍しい。い

34

イービスルー

NTT-X,ITX, 三 和

銀行、日本火災、オ

リコ、日本アジア銀

行、日商岩井

2000年 8

月http://www.ebistrade.com

多数の業界で企業間電子市場を構築・運営・

耗業界初の総合電子市揚「beitsubo.Com」

を皮切りに順次リリース予定

CYNOMIX*)

日商岩井、コンピュ

ータアソシエイツ

2001年 1

月http://cynomix.com電子商取引を一層進化させる総合トレード支

援サービス eTrede Life LineTM を提供

保険ナビ 日商岩井

2001年 10

月http://www.hokennavi.ne.jp 自動車保健,生命保険等の保険総合サイト

TEXTREAM 日商岩井

1999年 2

月http://www.textream.ne.jp 住まいとインデリア関連情報サイト

ISO14001 認

証取得支挽サ

ービス 日商岩井

1999年 4

http://www.e21.nisshoiwai.co.jp/ez_top.nsf/Top?OpenView 認証取得,ノウハウを提供サポート

しHikkoshiGuide

日 商 岩 井 、

movingmonster.com

1999年 10

月http://www.hikkoshiguide.com

世界最大級の引越情報サイト米国への転

勤,留学,流行する人に最適な現地情報を

無料で提供

調

達 TradeAlliance .

Ltd.

日商岩井、アジア・

パルプ&ペイバー,

コマースワン他

2000年 10

月http://www.tradealliance.com

アジアにおける各業界の調達サイトを構築,

運営

品 Chemcross

三星物産,シナル

マス,日本ゼオン、

日商岩井他

2000年 7

月http://chemcross.com化学品の電子商取引サイトの運営

信 フュージョンコ

ミュニケーショ

ンズ

日商エレトロロニク

ス,ITX,古河電気

工業,NTT データ

2001年 4

月http://www.fusioncom.co.jp

全国一律,低料金長距離電話サービス,音

声とデータ統合の VPN 等のサービスを提供

Fishround

三星物産,進輿商

事,メリルリンチ、日

商岩井他

2000年 8

月http://www. f i

shroud.com 水産物の e ・マーケットプレイス

体チップワンスト

ップ

GLQEntrepia .

Inc.,図研、オムロ

ンロジステッククリ

エイツ、日商岩井他

2001年 4

月http://www.chipistop.com 半導体,電子部品の販売

ン ワイン 21 ワイン、日商岩井

2000年 10

月http://www.wine21.ne.jp ワイン販売

品 イーカモ 日商岩井

2000年 2

月http://www.e-common.co.jp 健康食品販売

有オイシックス 日商岩井、コーヘイ 2000http://www.osix.com 有機野菜の販売

Page 35: 一太郎 10/9/8 文書 - senshu-u.ac.jpthe0350/2001/paper/eto.pdf3 ~はじめに~ 総合商社とは何であろうか。これほど名前を知られていながら、意外なほど実態を知られていない業態というのも珍しい。い

35

他 年 5月

GS

my-ssnet.com 日商岩井石油

2000年 8

月http://www.my-ss.net ガソリンスタンドでの安売情報等サー

引 nifts.co.jp日商岩井フューチャ

ーズ

2000年 6

月http://www.nifts.co.jp オンライントレード

堅・

JapanbusinessPortal

ITX,ニチメン,日

商岩井,トーメンテ

レ コ ム , エ ヌ ・ テ ィ

ー・テイコミュニケー

シ ョ ン ズ , 大 塚 商

会,大同生命保険,

太陽生命保険,三和

銀行,東海銀行,他

2000年 9

月http://www.j-motto.co.jp

中小企業を対象として総合ぽーたるサイトを

運営。インターネット導入からネットビジネス

への進出支援、更に総務、経理支援まで、中

小企業経営に必要なあらゆるサポートを結

集。

LogiLinkJapan

住友商事、三菱商

事、三井物産、トヨ

タ自動車、日本通

運、他合計17社

2001年 4

月http://www.j-logilink.com

インターネット上の物流情報市場。求貨、求

車、求庫情報のマッチングサイト。コンサルテ

ィング、セミナー情報など物流関連の総合情

報の提供も

日本メタルサ

イト

伊藤忠商事、丸紅、

住友商事、(アメリ

カ)メタルサイト

2001年 1

月http://www.msjc.com 日本初の金属製品取引市場。

 

こうして、商社はITを積極的に活用して企業経営の効率化や、営業力の向上あるいはノウハウの蓄

積する動きは非常に活発で、これらのサイトではERP(*5)、SCM、CRM(*8)等、様々なコンセプトや

ツールが紹介されている。

 (*8)([customer relationship management]顧客の購入・利用履歴だけでなく,苦情や意見なども含めた企業とのあらゆる接

点での情報を統合管理する経営手法。顧客へ最適なサービスを提供し,顧客維持率をあげ長期的な収益を高めようとする。カスタマー

-リレーションシップ-マネジメント。〔IT 技術を利用した企業経営の概念として,SFA・ERM などとともに提案されている〕)

商社は様々な手法(ツール)を提供したり、単なるコンサルティングだけでなく、商社自らの事業

を行っていくために持っている様々な機能を組み合わせて提供することが出来る。この点こそが、す

でに広いシェアを築きつつあるシステムベンダーやコンサルティング・ファームと勝るとも劣らない

点である。ITと既存の機能の融合することで商社は新しい機能が生まれ、新たな局面を迎えることが

可能になろう。

 

第三節 商社の新しい機能

 ITと既存に機能が合併するとどのような機能が生まれるのか、いやむしろどういった機能を備えて

いかないと生き残っていけないのか。それには次の四つが挙げられる。

 ①eマーケットメーカー機能

 ②eマーケットプレイス・マネージャー機能

 ③バリューチェーン・インテグレーターの機能

 ④eビジネス・ポータルの機能

Page 36: 一太郎 10/9/8 文書 - senshu-u.ac.jpthe0350/2001/paper/eto.pdf3 ~はじめに~ 総合商社とは何であろうか。これほど名前を知られていながら、意外なほど実態を知られていない業態というのも珍しい。い

36

まず、eマーケットメーカーとしての機能であるが、これはオープンな仮想史上であるeマーケット

プレイスを企画し構築する機能を指す。eマーケットプレイスはインターネット上で複数の売り手と

買い手が介して取引を成立させる市場である。商社はすでにこの分野でのB2B市場の立ち上げや出

資参加を始めている。次に、その企画構築されたeマーケットプレイスを運営・管理してゆく「マネ

ージャー」としての機能である。第三のバリューチェーン(*9)・インテグレーターは、顧客企業の全体

のバリューチェーンの効率的なとりまとめを行う機能である。そして最後に消費者とブランド企業あ

るいは、外注で再編されたバリューチェーンを結ぶeビジネス・ポータルとしての機能である。

(*9)(=バリューチェーンマネジメント【value chain management】多国籍企業などが開発から資材調達・製造・販売に至る業務

の全過程を,世界全体で最も効率的に行う経営手法。価値連鎖経営。VCM。)

 こうした新しい仲介機能を武器にすればこれまでここの企業が、企業内、又はグループ内に囲い込

んでいたバリューチェーンを再編成し、そのビジネスプロセスをあうとタスクする動きを加速させ、

新たなビジネスチャンスを作り出すことが出来るだろう。さらに商社の強みは、eビジネスと今まで

の伝統的な取引を融合させることの出来る能力を持っていることである。アメリカで、多くのインタ

ーネットによるビジネスモデルが輩出されてきているが、それらの一番の弱点は、このe取引(e-CO

MMERCE)と伝統的取引を融合する能力にかけていると言われる点である。それは、アメリカに商社

が存在しないことでもあるが、なによりも日本の商社は多くの商取引に食い込んでいるからである。

長いつきあいの中、親身になって多くの企業の間に立ってきたからこそであるといえよう。インター

ネット時代に入った今、アメリカでも商社のような仲介機能の必要性に気がつき始めていると言われ

る。 なぜなら、インターネットによって商品やサービスが買えるようになったといっても、実際に

その商品やサービスを手に入れるためには、インターネットの外での物理的な取引行為が必ず発生す

るからである。

 例えばここで、「書籍を購入するためにネットを通じて注文を行い翌日には手元に届く」といった

取引を想定してみよう。こうした一見“バーチャル”な取引の中でこそ“リアル”の世界が如何に重

要であるかが見えてくる。

例えば、書籍を短期間で引き渡すためにはあらかじめ在庫を持つ必要がある。売れ筋の商品をどの

ように選択し、どれだけの数量を確保すればよいのか。在庫を保存するための倉庫は潜在的な購入者

の地理的分布を考えた上で決定される。それでは、どこの地点にどの程度の規模の倉庫を造ればよい

のか、あるいは確保すればよいのか。さらには、書籍を注文主に届けるには配達が必要となる。どこ

の倉庫から持ち出し、どのようなルートで輸送手段を用いればコストの最適化が図れるのか。注文主

はどこで引き渡しを行うことを希望するのか。代金の回収が成されて、取引は完了する。しかし、そ

れはどのような形で決済され、さらには注文主は支払いを確実に実行するだけの信用を持っているの

か。

いかにITが進化してもこうしたプロセスがなくなることはない。インターネット時代に重要とな

る再仲介機能は、このモノやサービスの流れと情報の流れをシンクロナイズさせることなのである。

 一方でIT革命のもたらす変革はネットワーク社会の出現と経済のより一層のグローバル化の進展

である。その結果、企業に要求されるモノは経営のスピードと決断力である。また、インターネット

により、情報の共有化が容易になり、従来の原則一対一の通信インフラが多数対多数になることによ

って供給者主導経済から需用者主導へのパワーシフトが急速に進むことになった。その行き着くとこ

ろは、流通における従来型の中間者排除であることは明白だ。事実、アメリカではすでにこの現象が

起きている。

 ただし、中間者排除といっても価値創造型の中間者はIT革命後の経済においてもますます必要な

存在であり、排除されるのは低機能の中間者である。従って、商社はより付加価値の高い機能を提供

してゆかなければならないのである。

~最後に~

Page 37: 一太郎 10/9/8 文書 - senshu-u.ac.jpthe0350/2001/paper/eto.pdf3 ~はじめに~ 総合商社とは何であろうか。これほど名前を知られていながら、意外なほど実態を知られていない業態というのも珍しい。い

37

 四つの章に渡って総合商社について歴史的、構造的、横断的にみてきた。これらを全て踏まえた上

で少し大胆だが僕なりに総合商社の5~10年後の将来の形を述べてみたい。

まず、総合商社としてのアウトラインだが、これは現在ほどの多事業を抱えてはいないだろう。資

源の選択と集中が進み、事業の取捨選択が進んでいるのではなかろうか。そういった意味ではオーガ

ナイズ機能を本社に残してかつての総合商社の名残はあっても、現在よりさらに多くの事業が分社化

していて一社一社はより専門商社に近い存在になっているだろう。総合商社としての存在が完全にな

くなる事に関しては否定的である。仮に、現在の形をほぼ維持しているとしてもそれは一部の財閥系

総合商社だけだろう。そして、総合商社は商社のグループとしての結束は維持され、グループ全体を

さして総合商社と呼ばれるようになるかもしれない。

 商社の中抜きが進んで会社としての規模の縮小がする事に関してもそれは一時的なものであると考

える。第四章でも述べたように商社には新たな機能が求められており、ITを用いて新たな局面を切

り開いていることだろう。当然、従来としての仲介事業からは退出し新たな経営資源にその力を配分

される。

 今後、総合商社に注目すべき点といたしましては本文ではあまり大きく取り上げることが出来なか

ったのですが、商社の新規事業開拓能力です。資源開発機能、技術移転機能、情報機能、投資機能を

余すことなく発揮し、大きな成果を上げてきている。まさに、これが商社の原動力であり、ここまで

成長してきた源なのである。圧倒的なまでの情報量とその情報の早さを武器に今後の成長の見込みの

あるものを探し出してきて投資し、育成する。そして大きな見返りを得て、そのお金を次に投資する。

総合商社は10年も前からナノテクノロジーといった最新の分野に多額の投資を行っている。そして

いま、それが花開こうとしている。こうした先見の目をいかして、更に磨きをかけてくるだろう。

 最後に、未来における商社の経営は連結ベースでの企業価値最大化という、グループ経営戦略が目

指されることになるだろう。グループ経営は、スピードと柔軟性、シナジー効果を確保するために、

事業のポートフォリオの組み替え、すなわち「選択と集中」の不断の実行が重要になる。

 総合商社の機能は時代ごとに変貌する。時代に合わせて総合商社は進化を見せている。そしてこれ

からも商社は変化し、その存在を示してゆくだろう。

Page 38: 一太郎 10/9/8 文書 - senshu-u.ac.jpthe0350/2001/paper/eto.pdf3 ~はじめに~ 総合商社とは何であろうか。これほど名前を知られていながら、意外なほど実態を知られていない業態というのも珍しい。い

38

参考文献

守屋貴司 「激動の総合商社―管理・組織労働の経営学的研究―」森山書店2000.4.1中谷巌 「商社の未来像」東洋経済新報社 1998.4.2    「IT革命と商社の未来像」 2001.04.12伊藤忠商事調査部編 「ゼミナール 日本の総合商社(第二版)」東洋経済新報社1997.5.1川村幹夫、林川真善 「総合商社ビッグバン」東洋経済新報社1999.4.22小島郁夫 「商社業界のすべてがわかる本」ぱる出版 1999.3.11

小松原聡 「2001最新データで読む産業と会社シリーズ⑤商社」 1990.12.10

海堂守 「比較日本の会社 総合商社」実務教育出版 1999.12.10

山中豊国 「経済流通論⑤ 日本の商社」大月書店 1996.1.26

佐藤 裕一 経営分析の基本 日本経済新聞社 1999.2.8

平野 健 バランスシートの見方がおもしろいほどわかる本 中経出版 2001.3.10

週刊東洋経済 2000.5.27 2000.7.22 2000.7.29 2001.1.20 2001.1.512 2001.2.3 2001.2.24 2001.11.17

2001.10.20 臨時増刊号2001.11.5 2001.11.17

週刊ダイヤモンド 2000.7.8 2000.7.29 2000.10.28 2000.11.4 2000.11.25 2001.2.3 2001.3.3

2001.10.6 2001.10.13 2001.11.24

PRESIDENT 2000.2

FORBES 2000.7 2000.6

Diamond Harvard Business Review 2000.12

日経ビジネス 2000.1.10 2000.1.17 2000.2.7 2000.3.20 2000.5.29 2000.9.11 2000.9.18 2000.12.11

2001.1.29 2001.5.30 2001.6.11 2001.7.9 2001.7.23 2001.7.30 2001.8.27

選択 11月号 選択出版株式会社

会社四季報 東洋経済新報社

専修経済学論集第35巻1号より

 麻島昭一 「昭和戦前期における三井不動産機械取引の変容」

日本貿易会ホームページ http://www.jftc.or.jp/伊藤忠商事ホームページ http://www.itochu.co.jp/main/兼松ホームページ    http://www.kanematsu.co.jp/住友商事ホームページ  http://www.sumitomocorp.co.jp/トーメンホームページ  http://www.tomen.co.jp/ニチメンホームページ  http://www.nichimen.co.jp/index.asp日商岩井ホームページ  http://www.nisshoiwai.co.jp/ni/j/丸紅ホームページ    http://www.marubeni.co.jp/三井物産ホームページ  http://www.mitsui.co.jp/三菱商事ホームページ  http://www.mitsubishi.co.jp/三省堂ホームページ   http://www.sanseido-publ.co.jp/

Page 39: 一太郎 10/9/8 文書 - senshu-u.ac.jpthe0350/2001/paper/eto.pdf3 ~はじめに~ 総合商社とは何であろうか。これほど名前を知られていながら、意外なほど実態を知られていない業態というのも珍しい。い

39

参考資料

その壱

事業内容一覧

三井物産

情報産業=コンピューター及び関連ソフトウェア,半導体材料及び製品,半導体製造装置,医療機器,

医療材料,通信機器,放送用機器,電子機器,事務機器,光ディスク及び関連資機材,映像ソフト,

磁気・IC・光カード,航空機,航空機エンジン,航空機内装品,人工衛星,ロケット,セキュリテ

ィシステム,遊技用機器◆燃料=原油,NGL(ナチュラル・ガス・リクイド),ナフサ,ガソリン,

灯油,軽油,重油,潤滑油,特殊石油製品,アスファルト,オリマルジョン,その他の石油製品,L

NG(液化天然ガス),LPG(液化石油ガス),石炭(無煙炭及び一般炭),石炭コークス,石油コー

クス,その他の炭素材,人造黒鉛電極,カーボン・ブロック,カーボン・ブラック製品及び原料油,

ピッチ,その他の炭素製品◆金属=鉄系鉱石,原料炭,一般炭,ニッケル・クロム・コバルト・マン

ガン・シリコン・その他の重金属及びこれらの合金鉄,製鋼用副原料,屑鉄,銑鉄,鋼塊,還元鉄,

鋼半製品,普通鋼鋼材,特殊鋼鋼材,ステンレス鋼材,鉄鋼二/三次製品,鉄鋼二次加工品,鉄鋼構

造物,鋳鍛鋼品,鋳鉄品,鋳鉄管,解体船,金属製品の加工・使用に係る設備・部品・付属品等,銅・

鉛・亜鉛・錫・アルミニウム・チタニウム・貴金属・稀有金属・原子燃料等非鉄金属の鉱石・地金・

屑及び製品,商品ファンド◆機械=原動機,原子力機器,電気機器・システム,昇降機,鉄道車両,

鉄道関連機器,ガス・石油・化学機械,製鉄機械,セメント機械,船舶,舶用機械,港湾機器,コン

テナ,環境設備,上下水道設備,トランスプラント,鉱山機械,自動車及び同部品・用品,農業機械,

建設機械,食品機械,設備機械,タイヤ機械,製紙機械,印刷機械,物流機器,立体駐車場,繊維機

械,化合繊プラント,製糖・製塩機械,プラスチックフィルム機械,写真工業設備,その他の機械類,

建設工事の設計・施工,設備機器,不動産事業◆化学品=糖蜜,塩,鉱産物,無機薬品,有機素原料,

有機中間原料,特殊機能薬剤,触媒,工業用添加物,香料,食品・飼料添加物,塗料,農薬,医薬品,

その他のファインケミカルズ,合成樹脂,合成樹脂製品,合成ゴム,高機能化学品,肥料,その他の

化学品◆生活産業ほか=米,麦,穀類,穀粉類,でん粉類及び同製品,砂糖類,ビール及びビール用

原材料,大豆及びその他の搾油原料,動植物油脂,油脂製品,飼料及び飼料原料,畜産物,水産物,

青果物,冷凍野菜,健康食品,農水産品の瓶缶詰,ペットフード,酪農品,製菓原料,コーヒー豆,

し好飲料,一般加工食品及び同原料,酒類,その他の農・水・畜産品及び同加工品,麻原料,麻糸,

麻織物,原綿,綿糸,綿織物,綿編地,生糸,絹織物,原毛,毛糸,毛織物,毛編地,化合繊わた,

化合繊糸,化合繊織物,化合繊編地,衣類及びその附属品,寝装・インテリア用品,各種産業資材用

繊維品,繊維雑品,光ファイバー等高機能材料,木材,木材製品,合板類,建材類,輸入住宅,木材

チップ,パルプ,洋紙,板紙,段ボール原紙,紙箱,その他の紙及び紙製品,たばこ資材,包装資材,

清涼飲料,葉たばこ,製品たばこ,硅砂,窯業原料,ガラス及びガラス製品,ガラス加工機械,セメ

ント,生コンクリート,セメント二次製品,その他の窯業製品,建材用原料,石材,カメラ及び附属

品,印画紙・フィルム及び写真関連資機材,デザインの請負,印刷関連資機材,履物・かばん及び関

連資材,タイヤ,タイヤ・チューブ,自動車部品,ベルトホース,防舷材,その他のゴム製品,二輪

車,電子楽器,スポーツ用品,家具,自動販売機,雑品

三井物産

鉄鋼=鉄鉱石,くず鉄,銑鉄及び半製品,鋼材及び二次製品,特殊鋼,合金鉄,石炭,コークス◆非

鉄金属=銅,亜鉛,アルミニウム,ニッケル,チタニウム等の原料,地金,屑及び製品,錫,貴金属,

電線,コバルト,ゲルマニウム,原子燃料等◆機械=製鉄・製紙・化学工業・石油精製・石油化学・

発送変電用の各種機械設備,電子計算機,通信機器,事務機器,医療機器,工業計器,工作機械,土

木機械,農業機械,鉄道車輌,自動車,船舶,航空機,宇宙機器,情報・通信等◆化学品=有機化学

品,無機化学品,石油化学製品,精密化学製品,合成樹脂,りん鉱石,加里,化学肥料,塩等◆食料

=米,麦,大豆,とうもろこし,マイロ,動植物油脂,小麦粉,飼料,畜産物,砂糖,農畜水産缶詰,

水産物,冷凍食品,紅茶,コーヒー,調味料,酪農品,酒類等◆繊維=生糸,絹紡糸,羊毛,毛糸,

綿花,綿糸,化合繊綿,化合繊糸,綿織物,毛織物,絹織物,化合繊織物,ニット生地,繊維二次製

品,繊維産業資材,インテリア等◆石油・ガス=原油及びガソリン,ナフサ,ジェット燃料,灯油,

Page 40: 一太郎 10/9/8 文書 - senshu-u.ac.jpthe0350/2001/paper/eto.pdf3 ~はじめに~ 総合商社とは何であろうか。これほど名前を知られていながら、意外なほど実態を知られていない業態というのも珍しい。い

40

重油,アスファルト,石油コークス,潤滑油,液化石油ガス等の石油製品,液化天然ガス等◆物資=

木材,木材チップ,挽材,単板,合板,ハードボード,床板,セメント,生コンクリート,パルプ,

紙,ゴム,タイヤ,軽機械類,スポーツ用品,たばこ,鉱工品,建築材料等◆開発建設他=不動産,

建設工事,土木工事,その他の役務提供(運送関連企業,情報通信サービス等)等

伊藤忠商事

繊維=綿花,綿糸,羊毛,毛糸,生糸,絹紡糸,人絹糸,スフ綿,スフ糸,合成繊維綿,合成繊維糸,

綿織物,毛織物,絹織物,人絹織物,スフ織物,合成繊維織物,ニット生地,繊維二次製品,洋品雑

貨,寝装用繊維品,室内装飾用繊維品,資材用繊維品,無機繊維及び製品◆機械=港湾荷役機械,建

材機械,土木建設機械,鉱山機械,運搬機械,産業車両,農業・漁業・林業・園芸機械,製鉄機械,

金属加工機械,金属工作機械,ガス・石油・化学機械,窯業機械,紙パルプ製造機械,繊維機械,ゴ

ム製造機械,食品加工機械,包装機械,印刷・製本・紙加工機械,合成樹脂加工機械,自動車,モー

ターサイクル,自転車,船舶,舶用機械,鉄道車両,原動機器,原子力関連機器,電気機械,電子機

器,半導体及び電子部品製造設備,ファクトリーオートメーション機器,空港関連機器,海洋機器,

物流機器,省エネルギー機器,貯蔵設備,自動立体倉庫,医療用品,公害防止機器,事務機器,自動

販売機,レジャー機器(以上に関するプラント・単体機械・機器・部品及び関連ソフトウェア)◆宇

宙・情報・マルチメディア=航空機,原動機器,電子機器,半導体及び製造設備,通信機器,放送機

器,宇宙関連機器,空港関連機器,事務機器,ネットワーク関連機器,コンピュータハードウエア及

びソフトウェア,音楽・ゲーム等ソフト,インターネット関連サービス◆金属=普通鋼,特殊鋼,鋳・

鍛鋼,鉄鋼構造物,銑鉄,屑鉄,鉄鉱石,還元鉄,石炭,合金鉄,炉材,非鉄金属,軽金属,貴金属・

同関連金融商品,宝飾品・その他金属製品◆エネルギー・化学品=原油,粗油,石油製品,石油コー

クス,液化石油ガス,液化天然ガス,ウラン精鉱,その他エネルギー関連製品,石油化学品,有機化

学品,合成樹脂,合成ゴム,高機能性樹脂,精密化学品,工業用ガス,タール製品,アルコール,無

機化学品,塩,肥料,その他化学製品及び以上に関連したソフトウェアとサービス◆生活産業=米麦,

雑穀,小麦粉及び製品,麦芽,でん粉類,油脂原料及び製品,畜産物,配合飼料,飼料原料,各種種

子,糖蜜,砂糖類,水産物,水産加工品,青果物,農産加工品,コーヒー豆,ココア豆,冷凍食品,

酒類,飲料水,果汁,ナッツ類,乳製品,菓子,びん缶詰,健康食品,健康補助食品,その他加工食

品及び加工食品原料,外食産業の企画開発及び関連食材・資材,ペットフード及びペット関連用品,

原木,製材品,合板,単板,木質繊維板,その他建材,輸入住宅,化繊用及び製紙用パルプ,その他

パルプ,衛生材料副資材,チップ,紙パルプ関連薬品,古紙,粗コットンリンター,紙,板紙,紙製

品,不織布,ゴム原料及びゴム製品,スポーツ用品,その他レジャー用品,履物,木工製品,窯業原

料及び製品,耐火物用原料・同製品,ニューセラミックス,ガラス及び同製品,タイル,石材,建材

用補強繊維,グラスファイバー,セメント及び製品,石膏,外溝資材,断熱材,家庭用品,家具,ボ

ウリング機器◆建設・不動産他=住宅・ホテル・ビル・量販店・工場等の建設工事,土木工事,建設

設備工事,内外装工事及び都市環境整備工事の請負,住宅・工業団地・レジャー・健康産業等の開発・

分譲・運営事業及びそれらに付帯する建築資機材の取扱,ビル等不動産の賃貸,その他の役務提供(各

種イベントの企画・運営サービス等),為替ディーリング,証券業,証券投資顧問業,証券投資,ファ

ンド関連ビジネス,融資,その他金融関連事業,損害保険代理店業務,海運営業,物流コンサルタン

ト業,物流請負業,その他物流関連投資等

丸紅

金属=銑鉄・半製品,普通鋼々材・二次製品,特殊鋼々材・二次製品,鉄鋼構造物,銅・鉛・亜鉛・

アルミニウム等非鉄金属の地金・屑・製品,貴金属,鉄系鉱石,非鉄系鉱石,鉄屑,合金鉄,石炭・

コークス,その他製鉄・製鋼原料◆機械・建設=航空関連機器,内燃機,医療機器,OA機器,セメ

ント機械,工作機械,印刷機械,油圧機器,プラズマ溶射装置,製鉄機械,公害防止機器,石油掘削

機器,農業機械,宇宙関連機器,防衛関連機器,土木建設機械,化学機械,紙パルプ機械,タバコ機

械,食品機械,繊維機械,電子機器,コンピューター及び周辺機器,ソフトウェア,情報通信システ

ム,設備機械,産業機械,船舶,自動車,鉄道車両,輸送機器,重電機械設備,通信設備,化学プラ

ントその他各種産業プラント・施設,住宅,量販店,貸ビル,宅地,別荘等の開発・建設・分譲並び

にその設計・監理・請負,一般建築工事,設備工事,上下水道工事,環境衛生工事,一般土木工事一

式並びに市街地再開発事業の企画・設計・監理・請負,不動産の売買・賃貸借・仲介及び管理◆エネ

ルギー・化学品=無機化学品,塩,有機化学品,精密化学品,染料,農薬,医薬品,合成樹脂原料・

Page 41: 一太郎 10/9/8 文書 - senshu-u.ac.jpthe0350/2001/paper/eto.pdf3 ~はじめに~ 総合商社とは何であろうか。これほど名前を知られていながら、意外なほど実態を知られていない業態というのも珍しい。い

41

製品,原油,ガソリン,ナフサ,灯軽油,重油,潤滑油,アスファルト,液化石油ガス,電力・原子

力関連機器,原子燃料,電力用炭,液化天然ガス、新燃料,ジェット燃料◆繊維=綿花,羊毛,麻原

料,繭化合繊綿,綿糸,毛糸,麻糸,絹糸,化合繊糸,綿織物,毛織物,麻織物,絹織物,化合繊織

物,綿・毛・麻・化合繊の編地,不織布,産業資材用繊維品,インテリア・寝装用繊維品,衣料品等

繊維二次製品◆食料=麦類・その製品,大豆・菜種・その他製油原料,動植物油脂,コーン・マイロ・

その他飼料原料・副原料,雑穀,澱粉,砂糖,糖蜜,醸造原料,畜産物,水産物,コーヒー,青果物,

酒類,缶詰,ミネラルウォーター,その他加工食品,冷凍食品・食品原料,肥料,花卉,果汁,乳製

品◆物資=光学製品,スポーツレジャー用品,電極,電解板,研削材,セメント,炉材,原皮,革,

毛皮,履物,タイヤ,ベルト,ホース,天然ゴム,ラテックス,合成ゴム,パルプ,木材チップ,故

紙,リンター,段ボール原紙,新聞用紙,出版・印刷用紙,クラフト紙,紙製品,原木,合板,単板,

製材品,雑貨,事務機器,生コンクリート,フィルム類,建材原料

日商岩井

金属=鉄鋼屑,各種鉱石,原料炭,一般炭,銑鉄及び半成品,条鋼,鋼板,鋼管,鉄鋼二・三次製品,

鉄鋼構造物,特殊鋼,ステンレス鋼材及び二次製品,鋳鍛鋼品,非鉄金属地金,非鉄金属製品,非鉄

金属鉱石,稀有金属,合金鉄,貴金属他◆機械・建設=原動力機械,金属精錬加工機械,工作機械,

電気機械,電子機器,通信機器,エネルギー・化学機械,農業用機械,建設土木機械,繊維機械,溶

接材料及び溶接機械,その他一般産業機械,自動車,鉄道車輛,一般車輛,船舶,航空機,レジャー

関連設備,不動産,土木建設工事,住宅の建築及び宅地造成等建築工事一式他◆エネルギー=一般炭,

無煙炭,石油コークス,チャー,原油,重油等石油製品,液化天然ガス,液化石油ガス,原子力機器,

原子燃料及び転換・濃縮・再処理役務他◆繊維=綿花,羊毛,麻原料及び製品,毛糸,毛織物,綿糸,

綿布,絹化繊,合繊綿・糸・織編物及び製品,衣料品,寝装及びインテリア用品・資材他◆木材・物

資・化学品=原木,製材品,合板類,セメント,耐火製品,ボーキサイト,マグネシアクリンカー,

蛍石,紙,パルプ,スポーツシューズ,煙草,タイヤ,自動車部品,レジャー用品,一般雑貨,工業

塩,工業薬品,顔料,染料,肥料,農薬,医薬品,合成樹脂,ゴム他◆食料=穀物,油脂,飼料,生

鮮魚,冷凍魚,青果物,肉類,酪農製品,砂糖,コーヒー豆,加工食品,冷凍食品,花卉,種苗類他

ニチメン

金属=銑鉄,屑鉄,鉄鋼半製品,鋼板,条鋼,鋼管,セグメント,鉄鋼二次製品,建材加工品,鉄鋼

構造物,特殊鋼・ステンレス・チタン・マグネット及び製品,アルミ,銅,鉛,亜鉛等の地金屑・製

品,貴金属,ダイヤモンド等貴石類,宝飾品,商品ファンド,鉄鉱石,非鉄金属鉱石,電線,光ファ

イバー,製鉄・製鋼副原料全般・副製品,石灰石,石膏,黒鉛,その他鉱産物,製鉄用石炭,一般炭,

各種コークス,炭素材・炭素製品,海上コンテナ,レール及び付属品,物流機器,グリスフィルター,

マグネシウム,メタルシリコン◆機械=原動機,金属加工機械,土木建設機械,繊維機械,農業機械,

鉱山機械,荷役機械,電気・電子機器,通信機器,電算機・ソフトウェア,事務機,OA・FA・H

A機器,ナビゲーション機器・データベース,風力発電設備,フロン回収装置,計測機器,原子力関

連機器,情報関連機器・利用技術(文字・画像情報通信システム,データベース,映像ソフト),自動

販売機械,印刷・製本機械,熱処理炉,その他一般産業機械器具,鉄道車輌,自動車・部品,船舶・

舶用機器,航空機,航空機器,空港設備機器,空港設備機材,航空機ファイナンスリース,航空機オ

ペレーティングリース,公害防止設備,工場自動化設備,立体倉庫,電力プラント,通信回線,通信

プラント,化学プラント,鉄鋼プラント,その他の一般産業プラント,プラスチック加工機械,自動

車製造設備・治工具・金型,林業機械,スポーツ施設,遊戯場,遊園地機械器具,昇降機,港湾設備

機械◆燃料・化学品=LPG,原油,ナフサ,ガソリン,灯油,航空燃料,軽油,重油,その他石油

製品全般,有機・無機化学品,合成樹脂原料(汎用樹脂,エンジニアリングプラスチック,合製ゴム

等)及び製品(容器・包装材料,建材,電気絶縁材料,エレクトロニクス関連資材基材,自動車用内

装部品,感光材料,製図用基材,各種産業資材等),合成樹脂加工機械・金型,石油化学製品,塗料,

顔料,染料,医薬品,ファインケミカルズ,農薬,動植物性肥料,化学肥料,タルク,ゴム,ガラス

繊維製品,マイクロファイバー,化粧品原料,天然薬品,鉱産物,たばこ原料・製品,たばこ産業用

資機材,コークス,炭素材製品,一般高圧ガス,化粧品,溶剤,接着剤原料,塗料原料,床材・原料,

耐火被覆剤,医療器具,医療機器,通信機器・資材,その他化学工業原料・製品・周辺機器類,潤滑

油,銅箔,光ファイバー,育児製品,小型電製品,洗材,洗材原料◆繊維=綿花,落綿,羊毛,繭,

麻,化合繊原料,綿糸,毛糸,生糸,絹紡糸,麻糸,化合繊糸,綿織物,毛織物,絹織物,化合繊織

Page 42: 一太郎 10/9/8 文書 - senshu-u.ac.jpthe0350/2001/paper/eto.pdf3 ~はじめに~ 総合商社とは何であろうか。これほど名前を知られていながら、意外なほど実態を知られていない業態というのも珍しい。い

42

物,各種交織混紡織物,各種ニット生地,タオル,寝具,ムートン,インテリア製品,羽毛・羽毛製

品,各種資材用繊維品,各種衣料・繊維二次製品,炭素繊維,不織布,タイヤコード,水産資材,建

築用仮設資材,アラミド繊維◆食料=米,麦,とうもろこし,ソルガム,雑穀,小麦粉,大豆,落花

生,油脂原料,動植物油脂,各種飼料原料,牛肉,豚肉,その他畜産物,海老,鮭鱒,魚卵,家禽肉

及び蓄肉加工品全般,その他水産物,砂糖,乳製品,菓子類,コーヒー豆,蜂蜜,酒類飲料,山菜,

漬物類原料,缶詰類,青果物,乾果物,冷凍野菜,茸類,香辛料,調味料,その他食品全般,切花,

球根,鉢花,健康食品,菓子原料◆建設・木材・物資=原木,製材,単板,合板,加工材,各種建材,

窯業系建材,住宅機器,木質二次製品,木質繊維板,チップ,パルプ,故紙,紙類・製品,製紙用機

械・周辺加工機器類,タイヤ・チューブ,コンベアベルト,防蝕・絶縁テープ類,皮革,宝石,装身

具,スポーツ用品,太陽光発電モジュール,電子材料,医療材料,各種洋品雑貨,絵画,編機,ミシ

ン工作機械,計測器,化成品,ゴム製品,製材機械・プラント,土木・建築工事請負,セメント,生

コンクリート,PCパイル,鉄骨工事,金属製建具工事,建築用ガラス,タイル,住宅リフォーム,

その他建築用資機材一式,住宅設備機器一式,有料老人ホーム分譲及び経営,空調設備機器,昇降機

設備工事,立体駐車設備,電気設備工事,給排水衛生設備工事,建築企画設計,宅地造成開発,工業

団地造成開発,マンション分譲,ビル事業,不動産売買・賃貸・仲介,スポーツ用具・設備,遊戯用

機器・設備,健康機器・設備,ホテル・ゴルフ場,マリンクラブ,レジャー用器材,履物,人工樹木

花,紙袋,段ボール原紙・シート・ケース,オゾン発生装置,フィルム,不織布,健康食品材料,水

処理機材,家具・部材,仏具・仏壇・神具,木製彫刻,陶磁器,漆器,文房具,加工冷凍鰻

トーメン

金属=鉄鉱石,原料炭,一般炭,コークス,銑鉄,鉄屑,還元鉄,合金鉄,鋼半成品,鋼管,条鋼,

鋼板,特殊鋼,ステンレス鋼,鉄鋼二次製品,銅・ニッケル及びアルミニウムの地金・屑及び製品,

その他各種非鉄鉱石,貴金属,原子燃料◆機械=風力・火力発電プラント,変電・送配電設備,熱電

併給設備,通信設備,電子機器,電子部品,CATV放送・通信設備,メディア関連ソフトウェア,

セメントプラント,製鉄プラント,LNG貯蔵設備,化学プラント,石油関連設備,橋梁,港湾・空

港設備,海洋機器,繊維機械,包装機械,船舶,航空機,自動車及び部品,建設機械◆建設・木材物

資=不動産の売買・賃貸及び仲介,建築・土木工事元請並びに設計監理,建築・土木用資機材,設備

工事・諸工事請負,原木,製材,合板・建材,紙類,チップ,セメント,石材,中間膜,板ガラス◆

食料=穀物(小麦,大麦,米,トウモロコシ,大豆,マイロなど),雑穀類(雑豆,澱粉),小麦粉,

飼料原料全般,畜肉製品(牛肉,豚肉,鶏肉など),砂糖類,コーヒー豆,酒類(ワイン,ビール,ウ

イスキーなど),食品原料全般(カカオ豆,乳製品,ナッツ類など),水産物全般(一般魚類,海老な

ど)◆化学品・燃料=石油化学製品,精密化学品,無機化学品,農薬,医薬,動物薬,合成樹脂,合

成樹脂製品,原油,石油製品,ナフサ,液化ガス◆繊維=化合繊原料,綿糸,毛糸,化合繊糸,綿・

化合繊織編物,インテリア製品,寝装用品,工業用繊維資材,農業用繊維資材,衣料品

兼松

繊維=羊毛,獣毛,綿花,綿糸,化合繊原料,化合繊糸,毛織物,綿織物,化繊織物,合繊織物,ニ

ット製品,繊維資材,繊維二次製品◆食糧・食品=米,麦,油脂,飼料,農産物,畜産物,水産物,

酪農品,冷凍食品,缶詰,砂糖,酒類,調味食品◆燃料=原油,重油,ガソリン,ナフサ,灯油,軽

油,潤滑油,その他の石油製品,液化石油ガス,高圧ガス,石炭◆機械・電子=金属加工機械,建設

機械,化学機械,繊維機械,自動車,船舶,航空機,鉄道車輛,家電重電機器,光学機器,各種機械

設備プラント,コンピューターおよび周辺装置,半導体,電子部品,通信放送機器,その他一般産業

機械◆鉄鋼・住宅建材=鉄鋼原料,普通鋼鋼材,特殊鋼,鉄鋼製品,銅,鉛,亜鉛,電線,伸銅,軽

金属,貴金属,一般建築工事並びに付帯工事,セメント,コンクリート,新建材,金属建材,その他

建築資材,パイル,セグメント,土地,建物,原木,製材品,チップ,合板,単板,建材◆化学品・

紙パルプ=有機化学品,無機化学品,染料,顔料,ファインケミカル,医薬品,合成樹脂,石油化学

製品,肥料,タイヤ・ベルトその他ゴム工業用品,洋紙,板紙,紙製品,製紙用パルプ,化繊用パル

プ,原料古紙,原皮,皮革製品,各種タンニン剤,ビニール製品,手工芸品,その他の雑貨品

Page 43: 一太郎 10/9/8 文書 - senshu-u.ac.jpthe0350/2001/paper/eto.pdf3 ~はじめに~ 総合商社とは何であろうか。これほど名前を知られていながら、意外なほど実態を知られていない業態というのも珍しい。い

43

その弐

会社組織図:兼松の場合

Page 44: 一太郎 10/9/8 文書 - senshu-u.ac.jpthe0350/2001/paper/eto.pdf3 ~はじめに~ 総合商社とは何であろうか。これほど名前を知られていながら、意外なほど実態を知られていない業態というのも珍しい。い

44

その参

三井物産の沿革

  焦土からの脱出    3 年 8 カ月にわたった戦争と敗戦によって、日本は国土の 44%を喪失し、多くの都市や産業施設を

焼失した。空襲などによるその損失額は当時の貨幣価値で4兆円を超えると見られている。

 敗戦直後のインフレーションの急進による物価高と生活必需物資の欠乏は、人々の生活を圧迫し、

家財道具などを売って食料品に換える人も多かった。当時の産業活動の基礎であった石炭の産出も停

Page 45: 一太郎 10/9/8 文書 - senshu-u.ac.jpthe0350/2001/paper/eto.pdf3 ~はじめに~ 総合商社とは何であろうか。これほど名前を知られていながら、意外なほど実態を知られていない業態というのも珍しい。い

45

滞したため、政府は石炭と鉄鋼の生産を相互循環的に上昇させる「傾斜生産方式」を導入した。

 1947 年頃からインフレは多少テンポを弱めたものの、楽観を許さなかったため、GHQ(占領軍総司

令部)は「経済安定 9 原則」の指令を発し、日本政府に実施を迫った。この指令は復興よりも安定を

意図したもので、財政、物価、賃金を安定させ、輸出を振興して日本経済の自立をはかろうとしたも

のだった。

 後にドッジ・ラインと呼ばれたこの指令の具体化計画の推進により、インフレは収束し、日本経済

は大きくその姿を変えはじめたのである。そして、1949 年それまで1ドル=160 円から 600 円の間に

あった為替レートは 360 円に固定された。

回復のための成長終焉

 戦後、米国をリーダーとする自由主義陣営と、旧ソ連に代表される共産陣営の対立は次第に深まり、

朝鮮動乱を勃発させた。これを期に各国では軍事費の支出を増大させ、世界景気は顕著な立ち上がり

に転じると共に、世界的に物資の不足が心配されはじめた。

 日本においても朝鮮戦争による特需の発生は、デフレの懸念を一気に吹き飛ばす効果があった。経

済は活発化し、消費需要や生活水準の向上が明らかになったのである。

 その後、欧米の景気は一時的に後退したが、日本の景気は拡大を続け、輸入の上昇を招いて国際収

支が赤字になる年もあった。だが、海外の景気の好転もあって、以後、わが国は高度成長に向けてヒ

タ走ることになる。

 それは神武景気、岩戸景気と言われた時代を経ることによってもたらされた。鉄鋼業では高炉が積

極的に建設され、化学産業ではナイロン、ビニロンといった合成繊維の量産がはじまった。また、国

内テレビ放送が開始され、そうしたメディアの発達が旺盛な消費を巻き起こした。投資ブームにより

個人所得が増大し、「三種の神器(白黒テレビ、電気洗濯機、電気冷蔵庫)」というキャッチコピーの

登場で、消費を活発にしたことも良好な経済につながった。

 欧米の経済の好調によって、国際競争力を付けてきた旧西ドイツは「世界経済の奇跡」と言われる

発展を見せたが、工業生産力の復活という意味では日本も負けていなかった。加えてインフレなき経

済の拡大と正常化によって、「もはや戦後ではない。回復を通じての成長は終った」(1956 年・経済白

書)という言葉に象徴される新たな時代を迎えたのである。

「所得倍増計画」による国力の増強

 1950 年の後半から 60 年代を通じての高度成長は、(1)エネルギー資源が安定的に供給されるように

なったこと(2)産業構造の重化学工業化が進む一方で一般製造業では技術水準の向上と設備投資に拍車

がかかり、中小企業の系列化がはかられたこと(3)それによって大量生産が可能になり、消費意欲の拡

大につながったことなどが、重要な要因として挙げられる。

 1960 年に発表された戦後 3 番目の経済計画である「国民所得倍増計画」でも、道路や港湾など社会

資本の充実や、重化学工業など高生産性事業への積極的誘導、貿易の推進、途上国への援助といった

形で、高成長をリードした。戦後の回復を終えた日本は、さらなる近代化への推進を果たすための、

輸出を拡大しなければならず、途上国への経済援助も輸出購買力の拡大を意図したものだった。

 そのほか、在庫投資の安定化も意識的にはかられた。在庫管理技術の発達や貿易の自由化によって、

工業原料や食品原料などの在庫を過剰に持つ必要がなくなったのである。

 開放経済への移行

 この時期、日本政府は貿易の自由化に向けて、大きく一歩踏み出している。すでに「外国為替およ

び外国貿易管理法」によって輸出に関する統制は撤廃となっていたが、輸入は統制が続いていた。そ

れを3年間で 90%まで開放することを決めたのである。

 欧米の工業国が強力な統制を廃止していたことに加え、日本の輸出が拡大を続けて対米収支が黒字

になったことが背景にある。こうして日本は GATT11 条国、IMF8条国へと移行し、OECD 加盟を実

現した。

 これにより日本は開かれた市場として、自由主義陣営の一翼を担う存在となったのである。

商社機能が問い直された時代

 1964 年に開催された東京オリンピックは、その関連工事や東海道新幹線、高速道路など建設投資が

活発化したうえ、オリンピックの前景気も手伝って、経済に活況をもたらした。

Page 46: 一太郎 10/9/8 文書 - senshu-u.ac.jpthe0350/2001/paper/eto.pdf3 ~はじめに~ 総合商社とは何であろうか。これほど名前を知られていながら、意外なほど実態を知られていない業態というのも珍しい。い

46

 しかし、それが多分にムード的なものであったことは、活況が短命に終わったことや、日経平均株

価が低迷をたどっていたことなどが物語っている。証券市場の大衆化が進む過程に起きた長い市況低

迷だっただけに、その社会的影響は過去にないほど大きかった。

 オリッピック後はそれまでの設備過剰の調整過程に入り、大手証券会社の経営行き詰まりが表面化

するなど、緊迫した情勢となったが、1966 年 11 月に経済が回復に転じると、一気に 1970 年7月に至

るまで、景気は息の長い上昇を続けた。実質経済成長率が 10%を上回る超大型の好況で「いざなぎ景

気」と呼ばれ、1968 年には米国に次いでGNP第2位の経済大国になったのである。50 年代の「三種

の神器」はカラーテレビ、クーラー、自家用車に置き換えられた。

一方、60 年代初頭から「商社斜陽論」が波紋を生じた。当時、商社は「ミサイルからラーメンまで売

る」と言われていたが、そうした販売仲介業務(コミッション・マーチャント)は、すでに時代の要

請ではなくなっているという趣旨であった。

 高度成長時代の終焉、変化の時代へ

 日本経済は 1970 年の夏を境に、長い繁栄の時代から不確実で激動する時代へと移っていった。1960年に 16 兆円だった GNP は、1970 年には 75 兆円と 4.7 倍に拡大したものの、後に環境は一変し、成

長が続くと思われていた神話は崩れた。

 以後、「ニクソン・ショック」「オイルショック」「狂乱物価」「メキシコ金融危機」「プラザ合意と円

高」「金融革命」などが日本経済にインパクトを与え、日本の産業界は激しい変化のなかで「バブルの

時代」に向けて歩むのである。

急激な円高を克服してバブル時代へ

 この時代、貿易と密接に関係する外国為替に大変化が起きた。1971 年のニクソン・ショック(ド

ル・ショック)とは、貿易収支の赤字に悩んでいた米国が突然、ドルと金との交換停止を宣言したこ

とをいう。これによりドルを基軸通貨として 22 年間成り立っていた固定相場制が一時的に崩れた。日

本は 10 年前から国際収支が黒字基調になっていたため円高が起こり、国際的合意によって固定相場が

復活した時には、1ドル=308 円に切り上げられた。

 しかし、この合意も長くは続かず、1973 年主要通貨(円も含む)は変動相場制に移行し、円はあっ

という間に 1 ドル=260 円近くまで上昇した。

 円高にさらに拍車をかけたのは、1985 年にニューヨークで開かれた G5(先進 5 カ国蔵相・中央銀

行総裁会議)での合意(プラザ合意)であった。これを契機に円は急カーブを描いて上昇し、日本は

米国に代わって世界最大の純債権国に踊り出た。実質的に世界一の金持ちになったわけで、行き場を

失ったマネーは国内外の不動産や金融市場で猛威をふるい、バブル経済をつくりあげていった。

 こうした背景には貿易収支の黒字を続けていた体質があり、米国などとの貿易摩擦激化や、それに

よる輸出規制も結局はそこに起因する。このような事情から日本は円高に歯止めをかけることは出来

なかったが、日本の企業人は持ち前の勤勉さと集団的団結で為替のハンディキャップを乗り越えたの

である。

 資源大量消費国から知識集約国へ

 日本経済を襲ったのは通貨の変動だけではなかった。1973 年の第1次オイル・ショックも、日本お

よび世界の経済を揺さぶった。第4次中東戦争が勃発した際、アラブの産油国が非友好国には原油を

売らないと発表したのだ。あわてた消費国は原油の確保に奔走し、そのため価格が4倍に上がった。

世界各国で原油高による物価高騰が起こり、日本でも値上げラッシュとモノ不足への不安から狂乱物

価という事態を招いた。こうした経験は、わが国にエネルギー資源の安定確保の見直しを迫り、また

一方では「省エネ」という新しい国際的な意識が日本の国民のなかにも広まった。

 産業界でも第2次オイル・ショック以後、生産性の向上とコストダウンを目標とする技術革新が進

展し、エネルギー資源を大量に消費する産業構造から、資源の消費を抑えた高付加価値型や知識集約

型の構造へと、改革が急速に進んだのである。

 加えて、オイルショックは限られた産油国に有り余るマネーをもたらし、非産油途上国には深刻な

貿易収支の赤字を生んだ。増大した途上国の対外債務はやがて返済困難な状況に陥り、メキシコ危機

などの累積債務問題を発生させた。

 量的拡大から質的拡大へ

Page 47: 一太郎 10/9/8 文書 - senshu-u.ac.jpthe0350/2001/paper/eto.pdf3 ~はじめに~ 総合商社とは何であろうか。これほど名前を知られていながら、意外なほど実態を知られていない業態というのも珍しい。い

47

 高度成長が持続するという神話が崩れてみると、それまでの重化学工業を中心とした生産の拡大が、

生活環境の破壊や公害の問題を引き起し、福祉などの社会整備が立ち遅れるなど、高度成長が内包し

てきた社会的“歪み”が表面化した。その結果、世論は「量より質」を求めるようになり、社会資本

や福祉の充実など、人間性の回復に議論の矛先を転じたのである。

 旧ソ連が崩壊を意味すること

 90 年代の初頭にはわが国の内外で 2 つの大変化が起きている。その一つは社会主義経済のリーダー

であった旧ソ連の崩壊であり、もう一つはバブルの崩壊によって日本が陥った先の見えない停滞であ

った。

 東西冷戦時代の終結は世界の経済制度の統一をうながし、米国が中心となって推し進めてきた「グ

ローバリズムを軸とする資本主義」が、「市場原理の最優先」という原則と共に、グローバル・スタン

ダードになったのである。

 同時にそれは「金融が経済をリードする」現象を生み出し、マネーが国境を超えて世界中を駆けめ

ぐるようになった。これにより夥しい金融手法や商品が次々に生まれ、企業経営にも多大な影響を与

えてきた。

 IT 革命とグローバル市場主義

 バブル崩壊後の日本経済の低迷を一口で語るのは難しい。失われた 10 年という見方もあれば、戦後

45 年の成長のなかで増長した歪みや、競争体質に劣るものをはじき出し、再構築しようとする時代だ

ったと見ることもできる。ただし、その改革は負の遺産の整理に時間をかけ過ぎ、次の形が見えては

いない。

 とはいえ、IT(情報技術)やナレッジ(知識)が次の時代をつくるカギになることは明らかだ。IT革命はBtoBにはじまり、産業界や企業経営に画期的な影響を及ぼした。最近はBtoCへと主流が移り、

通信衛星やインターネット、人工知能などを使ったさまざまなサービスが生まれつつある。

 90 年代は情報処理と情報通信の技術が著しく進化した時代だった。IT のインパクトは「蒸気機関が

誕生して以来の革命」とも言われ、数多くの新しいビジネスや起業家を生んだほか、若い事業を育て

る社会的な仕組みや金融の仕組みを生み出した。

 そして今、この急速なIT進化とグローバルな市場主義によって、日本も大胆な構造改革を求めら

れているのである。

                         三井物産ホームページより

その四

Page 48: 一太郎 10/9/8 文書 - senshu-u.ac.jpthe0350/2001/paper/eto.pdf3 ~はじめに~ 総合商社とは何であろうか。これほど名前を知られていながら、意外なほど実態を知られていない業態というのも珍しい。い

48

1999年度商社の格付け一覧