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416 1.都市における生物多様性の確保に向けて 生物多様性条約に基づく国際的な議論を背景に、 近年、都市においても、生物多様性の確保に向けた 効果的な取組の実施が求められている。取組を進め るには、実際の生物の生息状況をもとに、生息地と なる緑地環境の保全・創出を計画的に進めることが 肝要だが、そのような生物の生息状況を継続的にモ ニタリングしている地方公共団体は極めて少ない。 そこで、専門業者への委託と比べ、地方公共団体 が取組やすく継続性のある生物モニタリングとして、 市民参加型生物調査に着目し、その効果的な実施・ 活用手法について調査を行っている。 2.市民参加型生物調査の活用実態と課題 全国の地方公共団体での市民参加型生物調査の既 存事例を対象にアンケート調査を行った結果、その ねらい・活用実態は、生物の生息状況の把握のほか、 図-1 市民参加型生物調査のねらい・活用実態 と課題 市民の自然への理解の普及啓発が多かったが、緑の 基本計画等の緑地保全施策に活用している例もみら れた(図-1a)。実施・活用上の課題は、市民が取 得する生物データに基づく調査成果の信頼性の担保 や、取組のコーディネート役となる行政職員の人員 や技術力の不足が多く挙げられていた(図-1b)。 3.市民参加型生物調査の効果的な実施・活用手法 これらの課題を解決し市民参加型生物調査を推進 するには、先行事例でのノウハウの共有が有効と考 えられる。そこで2018年度は、先進的な取組を行っ ている16の地方公共団体を抽出し取組上の工夫点等 についてヒアリング調査を行ったところ、調査目的 は大きく2つに分かれ、目的に応じ、実施体制や参加 する市民のタイプ、調査対象種の選定の考え方等を 設定することが適切と考えられた(図-2)。地方 公共団体が自らの地域に合った調査目的を設定し、 調査成果を都市の生物多様性の確保へ結び付けられ るよう、目的設定の際の観点や、調査の企画から実 施・活用に至る一連の手順における留意点について、 ヒアリング結果を踏まえた整理を現在進めている。 図-2 市民参加型生物調査の類別例 4.今後の展開 これらの成果は、市民参加型生物調査を実施・活 用する際の手引きとなるよう、2019年度末を目途に 国総研資料としてとりまとめる予定である。 4. 研究動向・成果 都市の生物多様性確保に向けた 簡易なモニタリングとその活用手法 (研究期間 : 平成 29 年度~) 社会資本マネジメント研究センター 緑化生態研究室 研究官 (博士(理学)) 益子 美由希 研究官 守谷 室長 舟久保 (キーワード) 都市緑地、生物多様性、市民参加型生物調査 - 184 - - 184 -

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Page 1: 都市の生物多様性確保に向けた 道路空間や地域特性に適応した道 … · 416 原稿テンプレート(個別記事・1ページ原稿用) 道路空間や地域特性に適応した道路

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原稿テンプレート(個別記事・1ページ原稿用)

道路空間や地域特性に適応した道路緑化手法 (研究期間:平成29~30年度)

社会資本マネジメント研究センター 緑化生態研究室 主任研究官 飯塚康雄 室長 舟久保敏

(キーワード) 道路緑化、街路樹、地域特性

1.はじめに

道路緑化においては、道路空間との適合性や植栽

後の維持管理水準の設定が不適切と考えられる事例

がみられ、植物の経年的な成長とともに道路利用者

の見通しの阻害や通行障害等が発生している。この

ような状況の中で、緑化機能を総合的に発揮できる

質の高い緑化を行うことにより道路空間や地域の価

値向上を図ることが求められている。

国総研では、道路交通機能の確保を前提として道

路空間や地域特性に応じた質の高い緑化を行うため

の設計・管理手法を検討している。

2.道路空間に適応した道路緑化手法の検討

道路緑化に起因する交通障害は、主に見通し阻

害、標識視認阻害、信号視認阻害、照明照射阻害、

建築限界越境、架空線干渉、防護柵接触、縁石持ち

上げ・歩道不陸、歩行者通行障害、隣接公園樹木と

の競合の10タイプに類別される。これらの発生要因

としては、樹木や道路附属物の配置が不適切、植栽

樹種が道路空間に対して不適合、樹木の維持管理が

不十分ということがあげられ、この改善策として、

設計時においては交通障害を発生させない植栽配置、

道路附属物との配置調整、植物の成長特性を踏まえ

た樹種選定が、維持管理時においては適切な樹木剪

定、植栽基盤の改良等が重要となる(図1、2)。

3.地域特性を活かした道路緑化手法の検討

街路樹により地域の価値向上を行うためには、地

域特性を踏まえたシンボル性、季節感の創出、文化・

イベントとの連携、歴史性との調和、地域特産物の

装飾などによる演出が効果的である(写真1)。さら

に、雨水貯留・浸透や防火帯などの防災や花壇づく

りなどの地域活性化も含めたグリーンインフラとし

ての多機能性を発揮させることも有効である。

マツの雪吊りによる季節感の演出 地域キャラクターとの連携(天童市) (境港市)

イヌマキによる歴史環境との調和 地域特産物・ハッサクによる装飾(平戸市) (尾道市)

写真1 街路樹による地域特性の演出事例

4.おわりに

本成果は、緑化事例紹介を含め、現場担当者が活

用できる道路空間や地域特性に配慮した質の高い道

路緑化方法の手引きとしてとりまとめる予定である。

舟久保敏(写真データの貼り付けは不

要)

飯塚康雄(写真データの貼り付けは不

要)

5m

0m

10m

15m

樹高成⾧ライン

建築限界との調整

下枝の剪定、樹冠の切り詰め剪定

樹冠の切返し剪定、支障枝の剪定視認性阻害、近接施設との競合、樹冠形状の維持

根上りによる歩道不陸 植栽基盤の拡張、根系切断

樹勢回復、伐採・更新樹勢衰退、倒伏危険性維持管理項目と実施時期の目安植樹帯幅:1.5m、植栽後50年間

樹 高幹直径下枝高枝張り

成長予測

植栽 5年後 10年後 30年後 50年後

6.0m 7.2m 12.0m 16.9m9.5㎝ 13.8㎝ 30.9㎝ 48.0㎝2.0m 2.2m 3.4m 3.6m1.5m 1.5m 5.5m 7.5m

車道側・建築限界高さ:4.5m

歩道側・建築限界高さ:2.5m

図2 街路樹の適切な維持管理計画の例(イチョウ)

【見通し阻害の発生】◇植栽間隔が狭い◇下枝が低い樹種の植栽

10.0m

【対応策】◇植栽間隔を6~10m程度確保する(設計時)◇下枝の剪定(維持管理時)

2.5m

図1 街路樹による見通し阻害と対策事例

原稿テンプレート(個別記事・1ページ原稿用)

都市の生物多様性確保に向けた簡易なモニタリングとその活用手法(研究期間:平成29年度~)

社会資本マネジメント研究センター 緑化生態研究室 研究官 益子美由希 研究官 守谷 修 室長 舟久保 敏

(キーワード) 都市緑地、生物多様性、市民参加型生物調査

1.都市における生物多様性の確保に向けて

生物多様性条約に基づく国際的な議論を背景に、

近年、都市においても、生物多様性の確保に向けた

効果的な取組の実施が求められている。取組を進め

るには、実際の生物の生息状況をもとに、生息地と

なる緑地環境の保全・創出を計画的に進めることが

肝要だが、そのような生物の生息状況を継続的にモ

ニタリングしている地方公共団体は極めて少ない。

そこで、専門業者への委託と比べ、地方公共団体

が取組やすく継続性のある生物モニタリングとして、

市民参加型生物調査に着目し、その効果的な実施・

活用手法について調査を行っている。

2.市民参加型生物調査の活用実態と課題

全国の地方公共団体での市民参加型生物調査の既

存事例を対象にアンケート調査を行った結果、その

ねらい・活用実態は、生物の生息状況の把握のほか、

図-1 市民参加型生物調査のねらい・活用実態

と課題

市民の自然への理解の普及啓発が多かったが、緑の

基本計画等の緑地保全施策に活用している例もみら

れた(図-1a)。実施・活用上の課題は、市民が取

得する生物データに基づく調査成果の信頼性の担保

や、取組のコーディネート役となる行政職員の人員

や技術力の不足が多く挙げられていた(図-1b)。

3.市民参加型生物調査の効果的な実施・活用手法

これらの課題を解決し市民参加型生物調査を推進

するには、先行事例でのノウハウの共有が有効と考

えられる。そこで2018年度は、先進的な取組を行っ

ている16の地方公共団体を抽出し取組上の工夫点等

についてヒアリング調査を行ったところ、調査目的

は大きく2つに分かれ、目的に応じ、実施体制や参加

する市民のタイプ、調査対象種の選定の考え方等を

設定することが適切と考えられた(図-2)。地方

公共団体が自らの地域に合った調査目的を設定し、

調査成果を都市の生物多様性の確保へ結び付けられ

るよう、目的設定の際の観点や、調査の企画から実

施・活用に至る一連の手順における留意点について、

ヒアリング結果を踏まえた整理を現在進めている。

図-2 市民参加型生物調査の類別例

4.今後の展開

これらの成果は、市民参加型生物調査を実施・活

用する際の手引きとなるよう、2019年度末を目途に

国総研資料としてとりまとめる予定である。

顔写真掲載者氏名(写真データの貼り付けは不

要)

(博士(理学))

顔写真掲載者氏名(写真データの貼り付けは不

要)

4.地域創生・暮らしやすさの向上

研究動向・成果

都市の生物多様性確保に向けた 簡易なモニタリングとその活用手法(研究期間 : 平成29年度~)

社会資本マネジメント研究センター �

緑化生態研究室  研究官(博士(理学)) 益子 美由希 研究官 守谷 修 室長 舟久保 敏

(キーワード) 都市緑地、生物多様性、市民参加型生物調査

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