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116 ●症 要旨:症例は 34 歳,女性.2001 年に多飲,多尿,無月経,恥毛脱落が認められていたが,放置.2009 年 9 月 7 日に急性の労作時呼吸困難のために当院に入院.胸部 CT では,両肺下葉優位の多発性の囊胞陰影, 両肺の非区域性,びまん性スリガラス状陰影,気管支血管周囲束肥厚が認められた.当院入院の 14 年前に 施行された外科的肺生検の肺組織所見(右 S6,8)では,細気管支壁への S100 蛋白陽性の組織球の浸潤が 認められ,肺ランゲルハンス組織球症(pulmonary Langerhans’-cell histiocytosis;PLCH)と診断した.ま た,内分泌機能検査より,LCH による汎下垂体機能不全症と診断した.労作時呼吸困難,DLCO 低下,胸部 CT 上のスリガラス状陰影は,禁煙のみで改善が認められたため,退院とした.しかし,最初の入院から 4 カ月後に,同様の急速な PLCH の病勢悪化が認められた.メチルプレドニゾロンパルス療法(500mg! 日, 3 日間)により,労作時呼吸困難,DLCO 低下,胸部 CT 上のスリガラス状陰影は再び改善した.本症例は, 汎下垂体機能不全症を合併した点,PLCH の病勢と並行して,CT 上のスリガラス状陰影の消長が認められ た点で貴重な症例である. キーワード:ランゲルハンス細胞組織球症,スリガラス状陰影,汎下垂体機能不全 Langerhans’-cell histiocytosis,Ground glass attenuation area,Pan-hypopituitarism 肺 ラ ン ゲ ル ハ ン ス 細 胞 組 織 球 症(Pulmonary Langerhans’-cell histiocytosis;以下 PLCH)は,肺やそ の他の多臓器へのランゲルハンス細胞の非腫瘍性増殖を 来たす原因不明の疾患である .今回我々は,汎下垂体 機能不全をきっかけに診断に至り,急速な病勢悪化と同 時にスリガラス状陰影の消長を繰り返した 1 例を経験し たため,報告する. 患者:34 歳,女性. 主訴:労作時呼吸困難,多飲,多尿. 既往歴:1996 年に気胸にて手術. 家族歴:特記事項なし. 嗜好歴:現喫煙(20 本! 日×16 年間),飲酒歴:機会 飲酒. 職業歴:事務職,粉塵曝露歴なし. 現病歴:1996 年に左気胸を発症し,近医にて手術施 行.2001 年より多飲,多尿,無月経,恥毛脱落が出現 していたが,放置.2009 年 1 月頃より労作時呼吸困難 (Hugh-Jones(以 下 H-J)分 類 II 度)が 出 現.2009 年 4 月 2 日の近医受診時に電解質異常(Na 164mEq! l,Cl 124 mEq! l),高血糖(278mg! dl)が認められ,当院代謝内 分泌科に紹介受診後,デスモプレッシンスプレー投与開 始となっていた.同年 9 月 6 日より全身倦怠感,四肢脱 力,労作時呼吸困難の急性の悪化(H-J 分類 IV 度)が 出現し,9 月 7 日に当院代謝内分泌科に入院.胸部 X 線 写真,CT にてびまん性陰影が認められたため,呼吸器 内科に紹介となった. 入院時現症:身長 154cm,体重 57.6kg,意識清明, 呼吸数 24! 分,脈拍数 84! 分・整,血圧 118! 58mmHg, 体温 36.0℃,眼球に黄疸・貧血なし,顔貌正常,頸部血 管怒張(-),胸部聴診:両側肺野のfine crackle,肝脾 腫(-),全身の表在リンパ節腫脹なし,皮疹:四肢, 体幹の紫斑あり,全身浮腫なし,ばち状指なし,チアノー ゼなし. 入院時検査(Table1):血算,血清・生化学所見では, 血 清 LDH 値(321IU! l)高値および高 Na(195mEq! l血 症,高 IgG(2,370mg! dl),IgM(674mg! dl)血 症 が 汎下垂体機能不全症を呈した肺ランゲルハンス細胞組織球症の 1 例 中村 雅之 岡元 昌樹 桃崎 征也 中山 吉福 古谷 清美 一木 昌郎 相澤 久道 〒8108563 福岡市中央区地行浜 1 丁目 8 番地 1 号 1) 国立病院機構九州医療センター呼吸器内科,臨床研究 センター 2) 病理部 3) 放射線科 4) 久留米大学医学部内科学講座呼吸器・神経・膠原病部 (受付日平成 22 年 7 月 7 日) 日呼吸会誌 49(2),2011.

汎下垂体機能不全症を呈した肺ランゲルハンス細胞組織球症 …Langerhansʼ-cellhistiocytosis,Groundglassattenuationarea,Pan-hypopituitarism 緒言 肺ランゲルハンス細胞組織球症(Pulmonary

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Page 1: 汎下垂体機能不全症を呈した肺ランゲルハンス細胞組織球症 …Langerhansʼ-cellhistiocytosis,Groundglassattenuationarea,Pan-hypopituitarism 緒言 肺ランゲルハンス細胞組織球症(Pulmonary

116

●症 例

要旨:症例は 34歳,女性.2001 年に多飲,多尿,無月経,恥毛脱落が認められていたが,放置.2009 年9月 7日に急性の労作時呼吸困難のために当院に入院.胸部CTでは,両肺下葉優位の多発性の囊胞陰影,両肺の非区域性,びまん性スリガラス状陰影,気管支血管周囲束肥厚が認められた.当院入院の 14年前に施行された外科的肺生検の肺組織所見(右S6,8)では,細気管支壁へのS100 蛋白陽性の組織球の浸潤が認められ,肺ランゲルハンス組織球症(pulmonary Langerhans’-cell histiocytosis;PLCH)と診断した.また,内分泌機能検査より,LCHによる汎下垂体機能不全症と診断した.労作時呼吸困難,DLCO低下,胸部CT上のスリガラス状陰影は,禁煙のみで改善が認められたため,退院とした.しかし,最初の入院から 4カ月後に,同様の急速なPLCHの病勢悪化が認められた.メチルプレドニゾロンパルス療法(500mg�日,3日間)により,労作時呼吸困難,DLCO低下,胸部CT上のスリガラス状陰影は再び改善した.本症例は,汎下垂体機能不全症を合併した点,PLCHの病勢と並行して,CT上のスリガラス状陰影の消長が認められた点で貴重な症例である.キーワード:ランゲルハンス細胞組織球症,スリガラス状陰影,汎下垂体機能不全

Langerhans’-cell histiocytosis,Ground glass attenuation area,Pan-hypopituitarism

緒 言

肺 ラ ン ゲ ル ハ ン ス 細 胞 組 織 球 症(PulmonaryLangerhans’-cell histiocytosis;以下 PLCH)は,肺やその他の多臓器へのランゲルハンス細胞の非腫瘍性増殖を来たす原因不明の疾患である1).今回我々は,汎下垂体機能不全をきっかけに診断に至り,急速な病勢悪化と同時にスリガラス状陰影の消長を繰り返した 1例を経験したため,報告する.

症 例

患者:34 歳,女性.主訴:労作時呼吸困難,多飲,多尿.既往歴:1996 年に気胸にて手術.家族歴:特記事項なし.嗜好歴:現喫煙(20 本�日×16 年間),飲酒歴:機会

飲酒.職業歴:事務職,粉塵曝露歴なし.現病歴:1996 年に左気胸を発症し,近医にて手術施

行.2001 年より多飲,多尿,無月経,恥毛脱落が出現していたが,放置.2009 年 1 月頃より労作時呼吸困難(Hugh-Jones(以下H-J)分類 II 度)が出現.2009 年 4月 2 日の近医受診時に電解質異常(Na 164mEq�l,Cl 124mEq�l),高血糖(278mg�dl)が認められ,当院代謝内分泌科に紹介受診後,デスモプレッシンスプレー投与開始となっていた.同年 9月 6日より全身倦怠感,四肢脱力,労作時呼吸困難の急性の悪化(H-J 分類 IV度)が出現し,9月 7日に当院代謝内分泌科に入院.胸部X線写真,CTにてびまん性陰影が認められたため,呼吸器内科に紹介となった.入院時現症:身長 154cm,体重 57.6kg,意識清明,

呼吸数 24�分,脈拍数 84�分・整,血圧 118�58mmHg,体温 36.0℃,眼球に黄疸・貧血なし,顔貌正常,頸部血管怒張(-),胸部聴診:両側肺野の fine crackle,肝脾腫(-),全身の表在リンパ節腫脹なし,皮疹:四肢,体幹の紫斑あり,全身浮腫なし,ばち状指なし,チアノーゼなし.入院時検査(Table 1):血算,血清・生化学所見では,

血清 LDH値(321IU�l)高値および高Na(195mEq�l)血症,高 IgG(2,370mg�dl),IgM(674mg�dl)血症が

汎下垂体機能不全症を呈した肺ランゲルハンス細胞組織球症の 1例

中村 雅之1) 岡元 昌樹1) 桃崎 征也2) 中山 吉福2)

古谷 清美3) 一木 昌郎1) 相澤 久道4)

〒810―8563 福岡市中央区地行浜 1丁目 8番地 1号1)国立病院機構九州医療センター呼吸器内科,臨床研究センター2)同 病理部3)同 放射線科4)久留米大学医学部内科学講座呼吸器・神経・膠原病部門

(受付日平成 22 年 7月 7日)

日呼吸会誌 49(2),2011.

Page 2: 汎下垂体機能不全症を呈した肺ランゲルハンス細胞組織球症 …Langerhansʼ-cellhistiocytosis,Groundglassattenuationarea,Pan-hypopituitarism 緒言 肺ランゲルハンス細胞組織球症(Pulmonary

スリガラス状陰影を呈した肺ランゲルハンス細胞組織球症 117

Table 1 Laboratory data on admission

Complete blood count HbA1c 6.3%Hb 12.6 g/dl Fasting plasma glucose 144 mg/dlHt 44.4% Urinary osmotic pressure 188 Osm/kg/H2OWBC 6,800/μl Serum osmotic pressure 401 Osm/kg/H2OPlt 10.2×104/μl ADH 0.6 pg/mlESR 24 mm/hr TSH 3.918 uIU/ml

Labo data Free T3 1.31 pg/dlCRP 0.24 mg/dl Free T4 0.48 ug/dlLDH 321 IU/l Arterial blood gas (room air)BUN 7 mg/dl PaO2 43.9 TorrCreatinine 0.6 mg/dl PaCO2 44.7 TorrNa 195 mEq/l Pulmonary function testK 3 mEq/l %VC 64.9%Cl 160 mEq/l %DLCO/VA 54.2%KL-6 257 U/ml BAL (Rt. B5)IgG 2,370 mg/dl Total cell count 2.4×105/mlIgM 674 mg/dl Macrophage 90%IgA 127 mg/dl Eosinophil 1%Rheumatoid factor Negative CD4/8 ratio 1.32Antinuclear Ab Negative Culture of bacteria Negativeβ-D glucan Negative Culture of mycobacteria Negative

BAL; Bronchoalveolar lavage

Fig. 1 A chest X-ray film on admission shows diffuse ground-glass attenuated areas and nodular-reticular lesions in bilateral lung fields.

認められた.また,低酸素血症(PaO2 43.9Torr),呼吸機能検査における拘束性換気障害および拡散障害が認められた.気管支肺胞洗浄では,総細胞数増加(2.4×105�ml)が認められたが,ランゲルハンス細胞はなく,一般細菌,抗酸菌培養,ニューモシスチス,サイトメガロの PCRは陰性で,感染症は否定的であった.また,血中 β-D グルカン測定も陰性であり,血中BNP測定,心

超音波検査で肺高血圧の所見はなかった.胸部画像所見:胸部単純X線写真(Fig. 1)では,両

側肺野びまん性のスリガラス状陰影,粒状網状影が認められた.胸部単純CT(Fig. 2A~C)では,両肺下葉優位の多発性の囊胞陰影,両肺の非区域性,びまん性スリガラス状陰影,気管支血管周囲束肥厚が認められた.臨床経過(Fig. 4):血清浸透圧高値に比較して血清

ADHが低値であることなどより,中枢性尿崩症と診断.更に性腺機能不全,成長ホルモン分泌不全,副腎機能不全,甲状腺機能低下も認められ,CRH,TRH,LHRH,GRH負荷試験では下垂体ホルモンの反応性増加が正常(Table 2)であったため,視床下部性の汎下垂体機能不全症と診断した.骨シンチグラフィーで,骨病変は認められなかった.入院後,全身に紫斑が認められており,皮膚生検でラ

ンゲルハンス細胞の浸潤が認められた.1996 年の気胸手術時の組織検査(右 S6,8)では確定診断に至っていなかったが,再度,同標本を再検討したところ,細気管支壁へのランゲルハンス細胞の浸潤が認められた.免疫組織学的検索では,S100,CD1a,Langerin 蛋白陽性であり,PLCHと診断(Fig. 3)し,下垂体病変も LCHと診断した.入院後より禁煙を開始したところ,労作時呼吸困難は

軽快し,胸部CT上のスリガラス状陰影も消退したが,囊胞性陰影は残存した.尿崩症についてもデスモプレシンスプレー投与にて,高Na血症が改善したため,在宅

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日呼吸会誌 49(2),2011.118

Table 2 Hypothalamus-Pituitary function test

CRH challenge test

Minutes 0 30 60 90 120

ACTH (pg/ml) 9.8 86.7 86.6 103 122Cortisol (μg/dl) 2.1 6.6 6.8 7.1 6.5

TRH, LHRH, GRH challenge test

Minutes 0 30 60 90 120

TSH (μIU/ml) 3.25 27.2 26.1 29.5 25.6GH (ng/ml) 0.17 7.25 8.64 5.69 2.68LH (mIU/ml) <0.1 0.27 0.41 0.51 0.49FSH (mIU/ml) 0.36 0.81 1.08 1.32 1.59Prolactin (ng/ml) 93.3 181.3 165.6 139.5 127.3

Fig. 2A―C Chest CT from September 7th, 2009 shows multiple cystic lesions, predominantly in bilateral lower lung fields, non-segmental and diffuse ground-glass attenuation areas (A―C) and thickening of bronchovascular bundles in bilateral lung fields (B).

A

B C

酸素療法,甲状腺,副腎機能不全に対するヒドロコルチゾンや甲状腺ホルモンによる補充療法を開始し,一時退院とした.しかし,2010 年 1 月に再び,急性の労作時

呼吸困難増悪(H-J 分類 IV度),DLCO低下,胸部CT上の両肺スリガラス状陰影出現が認められ,PLCH増悪の診断で入院とした.同年 1月 22 日よりメチルプレドニ

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スリガラス状陰影を呈した肺ランゲルハンス細胞組織球症 119

Fig. 3 Pathological findings of the lung specimens in surgical lung biopsy (SLB) from the right S6 and 8 showed infiltration of histiocytoid cells and eosino-phils in the bronchiolar wall using Hematoxylin-eosin (H.E.) stain (A). Immunohistological analyses revealed S100 protein-positive histiocytoid cells (B).

A

B

Fig. 4 Clinical course. HOT: Home oxygen therapy, DOE: Dyspnea on exertion, H-J: Hugh-Jones scale, R.A.: Room air

ゾロンセミパルス療法(500mg�日×3日間)を施行後,プレドニゾロン 30mg�日開始後に漸減療法を行ったと

ころ,労作時呼吸困難,DLCO,胸部 CT上のスリガラス状陰影の改善が認められた(Fig. 4,5).現在も外来にて加療中である.

考 察

成人 LCHでは,肺病変が最も多く,合併率は 40.8~58.4%と報告されており,その中で肺以外に病変がないSingle system PLCHが 27.5~67.4%を占める2)3).肺外病変では,下垂体,骨,皮膚,リンパ節,肝病変などが認められる4).下垂体病変は,中枢性尿崩症がほとんどであり,成人 LCHの 29.6%に合併するという報告がある2).下垂体前葉機能も含めた汎下垂体機能不全については,小児例では,148 例中 9例(6.1%)に合併したとの報告があるが5),成人 LCHでの報告は,散見される程度である6).LCHにおける下垂体機能不全は,合併症の中で治療反応性の乏しい不可逆性病変と位置づけられている7).本症例でも禁煙やステロイド投与による下垂体機能不全症状の改善はなく,今後もデスモプレッシンなどの補充療法が永続的に必要となる可能性が高い.本症例は,汎下垂体機能不全症が診断のきっかけであった点で,貴重な症例と考えられた.本症例では,急速な病勢悪化と同時にスリガラス状陰

影の出現を繰り返した.1回目と 2回目の増悪時では共に,スリガラス状陰影の消長と並行していた病勢の指標は,労作時呼吸困難の程度と拡散能であった.また,スリガラス状陰影の性状や分布も同様であった.6分間歩行試験による労作後低酸素血症の評価は,患者の全身状態を考慮し,施行しなかった.労作時呼吸困難,拡散能,スリガラス状陰影は,1回目の増悪では禁煙で,2回目の増悪ではステロイド投与で速やかに改善し,可逆性の

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日呼吸会誌 49(2),2011.120

Fig. 5 Chest CT findings on admission show ground-glass attenuations with acute exacerbation of dys-pnea (September 2009 and January 2010), and their disappearance after improvement of her dyspnea (November 2009 and February, 2010).

病勢悪化と考えられた.同様の所見を示す疾患の除外が必要であったが,1回目は気管支肺胞洗浄,2回目は喀痰の検査で感染症は否定的であり,肺高血圧の所見もなかった.1回目と 2回目の増悪は共に,他疾患が否定的であり,画像所見も類似していたことより,どちらもPLCH自体の増悪と考えられた.PLCHの胸部 CTにおける典型的所見は,両側びまん性,上中肺野優位の囊胞性変化と小葉中心性粒状影である.PLCH 21 例の胸部CT所見の検討では,nodular pattern(14 例),cystic pat-tern(7 例)と共に,スリガラス状陰影も 5例で認められ,その後の 4カ月後のCTでは,nodular pattern が 6例,スリガラス状陰影は 1例に減少しているのに対して,cystic pattern は 14 例と増加していた8).この結果より,LCHの CT所見では,粒状影,スリガラス状陰影は可逆性変化,囊胞性病変は不可逆性変化を示していると考えられる.本症例のように,LCHの病勢の急速な増悪と改善を,自覚症状,呼吸機能,CT上のスリガラス状陰影にて経過観察することが可能であった症例は検索した限りではなく,貴重な症例と考えられた.PLCHは,禁煙のみで改善する症例も多く9)10),5 年生

存率は 90%前後で良好とする報告が多いが2)3),74%とする報告もある4).予後不良因子として,高齢,多臓器病変,長期の罹病期間,巨大囊胞や蜂巣肺の存在,著明

な拡散能障害,1秒率低下,残気量�全肺気量上昇,長期ステロイド投与があり,本症例でもいくつかの因子が認められる.薬物療法では,ステロイド投与の有効性は確立していない.また,ステロイドに vinblastine,etoposide,methotrexate などを併用する治療もあるが,これらも効果は明らかではなく,禁煙やステロイド単独投与の無効例に対するサルベージ治療と考えられている1).本症例でも今後,多剤薬物療法や肺移植を含めた治療の検討が必要となる可能性が高い.謝辞:本症例の診断に当たり,ご尽力頂いた,国立病院機構九州医療センター代謝内分泌内科の平松真祐,小河淳先生に謝辞を申し上げます.

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スリガラス状陰影を呈した肺ランゲルハンス細胞組織球症 121

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Abstract

A case of pulmonary Langerhans cell histiocytosis with panhypopituitarism

Masayuki Nakamura1), Masaki Okamoto1), Seiya Momosaki2), Yoshihuku Nakayama2),Kiyomi Huruya3), Masao Ichiki1)and Hisamichi Aizawa4)

1)Department of Pulmonary Medicine and Clinical Research Center, National Kyushu Medical Center2)Department of Pathology, National Kyushu Medical Center3)Department of Radiology, National Kyushu Medical Center

4)Division of Respirology, Neurology, and Rheumatology, Department of Internal Medicine,Kurume University School of Medicine

A 34-year-old woman developed polydipsia, polyuria, amenorrhea and loss of pubic hair in 2001, but did notseek medical advice. On September 7th, 2009, she was admitted to our hospital complaining of acute exacerbationof dyspnea on exertion. Chest computed tomography (CT) showed multiple cystic lesions, predominantly in bilat-eral lower lung fields. Non-segmental, diffuse ground-glass attenuated areas and thickened bronchovascular bun-dles were also seen in bilateral lung fields. Pathological findings of lung specimens from a surgical lung biopsy(right S6 and S8) 14 years previously showed infiltration of S100 protein-positive histiocytoid cells in the bronchio-lar wall. As a result, pulmonary Langerhans cell histiocytosis (PLCH) was diagnosed. Moreover, panhypopituita-rism due to LCH was identified on endocrine testing. Dyspnea on exertion, reduction of carbon-monoxide diffusingcapacity (DLCO) and ground-glass attenuation areas on CT were improved by smoking cessation alone, and she wasdischarged. However, similar acute deterioration of PLCH recurred 4 months after first admission. Her dyspneaon exertion, reduction of DLCO and ground-glass attenuation areas on CT were improved again by 500mg�daymethylprednisolone pulse therapy for 3 days. This case was a unique combination of panhypopituitarism and theappearance and disappearance of ground-glass attenuation areas on CT, paralleling PLCH disease activity.