20-1 都市論を反映したレム・コールハースの建築設計手法 オランダ構造主義との比較による考察 長友 渉 1. 研究背景と目的 本論の目的は、レム・コールハースの建築設計手法 をオランダ構造主義の手法との比較を通して考察する ことで、構造主義的観点から解釈し直すことにある。 コールハースは、組織設計 OMA とともにリサーチ 組織 AMO を組織し、世界中の商業施設における建築 的試みを扱った『SHOPPING』や、中国の珠江デルタ 地帯、アフリカのラゴスといった急成長する都市を 扱った『MUTATIONS』などのリサーチによって、現 代都市や社会状況を理論として定義している。 一方で、オランダ構造主義は、CIAM を軸に展開し ていた近代建築に批判的な立場をとった、後期近代 建築運動である。オランダ構造主義を率いていたアル ド・ファン = アイクや、ヘルマン・ヘルツベルハーは、 1960 年代に雑誌『FORUM』の中でドゴンなどの集 落の調査、また、TEAM10 の活動の中で様々な都市 論を発表している。 このように両者ともに、人間がつくりだした都市、 社会システムなどを対象とした人類学的なリサーチを もとに理論を組み立てている。また、その建築作品に おいても、建築内部に都市的な状況をつくりだそうと する試みが共通している。オランダ構造主義の活動は 1950 年代後半から始まり 60 年代に活発になる。そ の当時、コールハースはオランダで 1962 年より記者 として働いた後、1968 年に AA スクールで建築活動 を始めた。コールハースは、オランダにおいてポスト 構造主義の建築家と言えるが、その両者の比較は十分 に研究されているとは言えない。 そこで本論は、コールハースの実践を都市論、建築 設計手法の 2 段階の観点から捉え、それぞれの段階 において、オランダ構造主義との類似性と差異を指摘 する。2 章で文献による都市論の分析、3 章で図面、 写真、文献をもとに建築設計手法の分析を行った。最 後に 4 章で都市論と建築設計手法の関係を、コール ハースとオランダ構造主義者で比較し、結論とした。 2. 都市論 2.1 コールハースの都市論 コールハースは 1960 年代に建築活動を始めて以 来、継続的に都市論を発表し続けている ( 表 1)。その 都市論を分析し、以下の 4 つの特徴を抽出した。 ( i ) マンハッタン・グリッド ( 図 1) コールハースはグリッドが都市の多様性と建築的な 過密をつくりだしていることに着目した。グリッドに よって街区を区切られたことで、建築家の介入できる 領域がひとつのブロック内に納められた。それは、全 体主義の介入を防ぎ、一方でブロック内の自由を保障 するものにもなった。同時に、建築は領域をひとつの ブロックの中に規定されたために、上空に伸びるこ と、そして建築内部に都市的な過密を成立させる多様 なプログラムを含み、過密の文化が生みだされること になった。 ( ii ) 自律的生成のシステムへの興味 コールハースの都市論は一貫して、自律的なシステ ムが引き起こす都市の成長や、エネルギーに焦点が当 てられている。 コールハースは『錯乱のニューヨーク』において、 マンハッタンのグリッドがつくりだした秩序をマン ハッタニズムと名付けた。それは計画が意味を成す アーバン・デザインではなく、自生的秩序を持ったアー バニズムであった。また、ラゴスに関するリサーチ 1) では、人々がブリコラージュ的に都市機能を進化させ ていくプロセスに焦点が当てられている。当初、交通 整理のために計画されたインターチェンジは、未完の まま放置されてしまった後に、市場などが作られた。 そこでは、あらかじめ練られた計画は無効となり、住 民による都市機能の追加的発展が生じていた。 表1 コールハースの都市論 図1 囚われの球を持つ都市 (1972) 1970 1972 1978 1987 1995 建築としてのベルリンの壁 エクソダス、あるいは建築の自発的な囚人 『錯乱のニューヨーク』 ムラン・セナール都市計画 『S, M, L, XL』, Project on the City 2000 2001 2002 2004 2007 AMO 設立 『MUTATIONS』,『Project for Prada』 『Great Leap Forward』,『Guide to Shopping』 『Content』 『Gulf』 図 2 ヴォイドの戦略

都市論を反映したレム・コールハースの建築設計手法 · 2020. 11. 17. · 20-2 また、ローマの都市のリサーチ2)では、都市のオペレー 2.2オランダ構造主義者の都市論

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20-1

都市論を反映したレム・コールハースの建築設計手法オランダ構造主義との比較による考察

長友 渉

1. 研究背景と目的

 本論の目的は、レム・コールハースの建築設計手法

をオランダ構造主義の手法との比較を通して考察する

ことで、構造主義的観点から解釈し直すことにある。

 コールハースは、組織設計 OMAとともにリサーチ

組織 AMOを組織し、世界中の商業施設における建築

的試みを扱った『SHOPPING』や、中国の珠江デルタ

地帯、アフリカのラゴスといった急成長する都市を

扱った『MUTATIONS』などのリサーチによって、現

代都市や社会状況を理論として定義している。

 一方で、オランダ構造主義は、CIAM を軸に展開し

ていた近代建築に批判的な立場をとった、後期近代

建築運動である。オランダ構造主義を率いていたアル

ド・ファン =アイクや、ヘルマン・ヘルツベルハーは、

1960 年代に雑誌『FORUM』の中でドゴンなどの集

落の調査、また、TEAM10 の活動の中で様々な都市

論を発表している。

 このように両者ともに、人間がつくりだした都市、

社会システムなどを対象とした人類学的なリサーチを

もとに理論を組み立てている。また、その建築作品に

おいても、建築内部に都市的な状況をつくりだそうと

する試みが共通している。オランダ構造主義の活動は

1950 年代後半から始まり 60 年代に活発になる。そ

の当時、コールハースはオランダで 1962 年より記者

として働いた後、1968 年に AA スクールで建築活動

を始めた。コールハースは、オランダにおいてポスト

構造主義の建築家と言えるが、その両者の比較は十分

に研究されているとは言えない。

 そこで本論は、コールハースの実践を都市論、建築

設計手法の 2 段階の観点から捉え、それぞれの段階

において、オランダ構造主義との類似性と差異を指摘

する。2 章で文献による都市論の分析、3 章で図面、

写真、文献をもとに建築設計手法の分析を行った。最

後に 4 章で都市論と建築設計手法の関係を、コール

ハースとオランダ構造主義者で比較し、結論とした。

2. 都市論

2.1 コールハースの都市論

 コールハースは 1960 年代に建築活動を始めて以

来、継続的に都市論を発表し続けている ( 表 1)。その

都市論を分析し、以下の 4つの特徴を抽出した。

( i ) マンハッタン・グリッド ( 図 1)

 コールハースはグリッドが都市の多様性と建築的な

過密をつくりだしていることに着目した。グリッドに

よって街区を区切られたことで、建築家の介入できる

領域がひとつのブロック内に納められた。それは、全

体主義の介入を防ぎ、一方でブロック内の自由を保障

するものにもなった。同時に、建築は領域をひとつの

ブロックの中に規定されたために、上空に伸びるこ

と、そして建築内部に都市的な過密を成立させる多様

なプログラムを含み、過密の文化が生みだされること

になった。

( ii ) 自律的生成のシステムへの興味

 コールハースの都市論は一貫して、自律的なシステ

ムが引き起こす都市の成長や、エネルギーに焦点が当

てられている。

 コールハースは『錯乱のニューヨーク』において、

マンハッタンのグリッドがつくりだした秩序をマン

ハッタニズムと名付けた。それは計画が意味を成す

アーバン・デザインではなく、自生的秩序を持ったアー

バニズムであった。また、ラゴスに関するリサーチ1)

では、人々がブリコラージュ的に都市機能を進化させ

ていくプロセスに焦点が当てられている。当初、交通

整理のために計画されたインターチェンジは、未完の

まま放置されてしまった後に、市場などが作られた。

そこでは、あらかじめ練られた計画は無効となり、住

民による都市機能の追加的発展が生じていた。

表1 コールハースの都市論

図1 囚われの球を持つ都市 (1972)

1970

1972

1978

1987

1995

建築としてのベルリンの壁

エクソダス、あるいは建築の自発的な囚人

『錯乱のニューヨーク』

ムラン・セナール都市計画

『S, M, L, XL』, Project on the City

2000

2001

2002

2004

2007

AMO 設立

『MUTATIONS』,『Project for Prada』

『Great Leap Forward』,『Guide to Shopping』

『Content』

『Gulf』

図 2 ヴォイドの戦略

20-2

2.2 オランダ構造主義者の都市論 また、ローマの都市のリサーチ2)では、都市のオペレー

ティング・システムが焦点となっている。ローマ帝国

は、領土を広げていく際に、都市を生成するシステム

を作り出した。カルド ( 南北道路 ) とデクマヌス ( 東

西道路 ) という十字路、フォロ ( 広場 )、城門を配置し、

碁盤目状の道路で分割していくことによって、ローマ

都市はシステマティックにできあがる。コールハース

はオペレーティング・システムの反復可能性とできあ

がった都市の差異に注目した。

( iii ) ジェネリック・シティ

 コールハースは『S,M,L,XL』のなかで、グローバリ

ゼーションによって世界中に増加しつつある無個性な

現代都市をジェネリック・シティと定義する。ジェネ

リック・シティには、場所的な特徴がない。中心も周

縁もなく、無個性な風景が永遠に続いていくような都

市像である。また、様々な人種、文化の混成で成り立ち、

人々はノマドのように常に移動し続けるために、総体

としてきわめて不安定である。さらに都市が自分自身

でメンテナンスを行なうかのように、建物はものすご

い早さで建て替えられる。ジェネリック・シティでは、

計画概念は無効であり、すべては流動的な状態である。

 コールハースは資本主義社会がもたらした現代都市

をジェネリック・シティと定義することによって、建

築の与条件として受け入れる。コールハースは資本主

義が生みだした現代都市の状況から、新たな都市・建

築の可能性を追求し、ヴォイドの戦略を生みだした。

( iv ) ヴォイドの戦略

 コールハースは、AA スクールの学生時代 (1970 年 )

にベルリンの壁のリサーチ3)を行っている。コールハー

スは壁が社会的な差異を生みだす力を持っていること

に着目した。ベルリンに建てられた壁は、既存の建物

を取り込みながら、都市を分断していた。当時、壁に

囲まれたはずの資本主義社会の西ベルリンが「自由」

と呼ばれ、そのまわりの社会主義社会であった東ベル

リンは自由と見なされないパラドックスを抱えた都市

状況があった。

 コールハースは無個性に広がるジェネリック・シ

ティに、差異を持ち込むことを考えた。そして、見い

だされたのが、ジェネリックとヴォイドを対比させ

る方法であるヴォイドの戦略 ( 図 2) であった。ジェ

ネリックな空間に埋め込まれたヴォイドは結果的に、

ジェネリックな状況から守られる。コールハースの設

計したヴォイドの空間は、均質に広がったジェネリッ

ク・シティのなかに、資本主義社会に抗う公共性をもっ

た場所となる。

( i ) マンハッタン・グリッド

 ヘルツベルハーもまたマンハッタンに関心を寄せて

いたことが、彼のスケッチよりわかる ( 図 3)。彼が興

味を持っていたのもコールハースと同様、グリッドと

いう制限が生みだす多様性である。グリッドは、制限

と選択可能性のバランスをシンプルなルールのもとで

つくりだしている。これは、ヘルツベルハーが求めて

いた構造と合致するものであった。

( ii ) 多様な解釈を与える構築物

 ヘルツベルハーはアルルやルッカの円形劇場 ( 図 4)

を例に出し4)、構造の概念を説明している。アルルの

円形劇場は転用を繰り返し、19 世紀までは人々の住

む街となっていた。これらの円形劇場は同じ目的で作

られたのだが、変わりゆく状況の下で、違った役割を

担うことになった。時代とともに要求は代わるが、建

物は変化しない。しかし、多様な解釈を与える構築物

を、構造と呼んでいた。

( iii ) 部分と全体

 ファン=アイクは、ドゴンの調査で集落の構造につ

いて言及している。そこでは、部分が全体を表現し、

一方で全体も部分に影響を与えると言う相互性が見ら

れた5)。ファン=アイクはその相互性を、住宅と都市

の概念において展開した。その概念は、住宅から都市

までヒエラルキーを持ったコミュニティー像であっ

た。

( iv ) コンフィギュレーション

 ファン=アイクは明確な構造のもとに、部分を集合

させる概念をコンフィギュレーション6)と呼んだ。そ

れは、部分と全体をつなぎ、全体の統一を図る方法で

あった。

2.3 都市論の比較 ( 表 2)

 ( i )( ii ) のように、多様性を生みだすグリッドや、

生成システム的な理論が両者に共通する。( iii )( iv )

のそれぞれの都市論では、コールハースが、都市の成

長、変化に着目し、差異の生みだすエネルギーに関心

があるということが指摘できる。他方、構造主義の描

く都市像は、部分と全体が分かれながらも相互性を持

ち一体となったものであった。

図3 ヘルツベルハーのスケッチ(1976)図4 ルッカの円形劇場跡

20-3

( i )プログラムによる分節

 ≪ラ・ヴィレット公園≫では、内部のプログラムを

細かく分節することでプログラム同士の接触面積を増

やし、互いに干渉することを狙っている。また、分節

されたプログラムをすべて等価に扱い、プログラムの

構成にヒエラルキーがないこともわかる。

( ii ) プログラムの差異

 ≪ ZKM ≫では自由な断面構成を生みだすために、

構造であるトラスが室内化された。その上下階は、完

全に構造的に自由な空間とされ、その中には、多様な

プログラムを反映した、多様な設えが作られている。

コールハースはプログラムの差異を最大限に用い、建

物内に過密の文化をつくりだしている。

( iii ) ヴォイドの戦略

 ≪フランス国立図書館≫は、情報の塊としてフロア

の積層でジェネリックな空間が作られ、そこにヴォイ

ドの空間が空けられた。その手法は、15 年後に実現

した≪シアトル公立図書館≫においても見られる。こ

こでは増加し続ける蔵書をジェネリックと見なした

ヴォイドの戦略がとられている。両方のプロジェクト

において、ヴォイドの空間は公共空間であり、多様な

アクティビティが発生する場所である。ヴォイドと

ジェネリックの空間は、その境界によって完全に領域

を分断される。そこでは、ヴォイドとジェネリックの

境界は差異を生みだすためのものであり、空間の変化

を生みだし、ひとつの建物のなかで対比を生みだすも

のとしてつくられている。

( iv ) トラジェクトリー

 ≪ジュシュー大学図書館≫では、街路を立体的に展

開させていくことで、室内に街路がつくられている。

立体的な街路はトラジェクトリーと呼ばれ、敷地から

連続してつくられている。このことから、建築は建築

単体で完結するのではなく、都市のなかの一部として

考えられていることが分かる。トラジェクトリーは、

≪在ベルリン・オランダ大使館≫においてヴォイドの

戦略と結びつき、3次元的に建物を貫く公共空間とし

て実現した。トラジェクトリーを歩くと、進むに従い

インテリアが変化する。映画のように変化に富んだ展

開を意図していたことがわかる。

3.2 オランダ構造主義の建築設計手法

 オランダ構造主義の建築において、都市的状況をつ

くりだしている建築設計手法に着目し、図面、文献の

分析を行った。結果、以下の 4つの手法を把握した。

( i ) スケールによる分節

 ≪アムステルダムの孤児院≫では、ヒューマン・ス

ケールな場をつくるために、段階的なスケールで空間

が分節されている。そこで分節された小さな場は反復

され、全体を形作る。ファン=アイクは、小さな部分

の集合として全体へと設計していることがわかった。

( ii ) プログラムの融合

 ≪フランデンブルグ・音楽センター≫では、ホール

とホワイエだけでなく、お店やオフィスなどが、柱の

グリッドによってまとめられている。オランダ構造主

義の建築では、複数あるプログラムは融合され、全体

の統一が図られている。

( iii ) 閾

 オランダ構造主義者は、パブリックとプライベート

の境界の空間を中間領域または閾と呼び重点的に設計

を行っている。閾は、異なる領域間の変化を円滑にす

る上で重要な役割を果たす空間と考えられていた。閾

は、部屋の入り口や玄関、窓などの、ある領域の間に

つくられ、出会いや会話の場として、つなぐことを意

識して設計されている。

3. 建築設計手法

3.1 コールハースの建築設計手法

 コールハースの建築において、都市的状況をつくり

だしている建築設計手法に着目し、図面、文献の分析

を行った。結果、以下の 4つの手法を把握した。

在ベルリン・オランダ大使館

ラ・ヴィレット公園 ZKM

ジュシュー大学図書館

フランス国立図書館

(i) プログラムの分節 (ii) プログラムの差異 (iii) ヴォイドの戦略

(iv) トラジェクトリー

2F 平面図

事例 セントラル・ベヒーア・オフィスビル

2F 平面詳細図

20-4

【註】

1) レム・コールハース、『mutations』p.650 2) レム・コールハース、『mutations』p.10

3) レム・コールハース、『S, M, L, XL』 p.214 4) ヘルマン・ヘルツベルハー、『都市

と建築のパブリックスペース』p.100 5) アルド・ファン=アイクの一連の研究を行っ

ている朽木順綱の参考文献 [T] に詳しい 6) 朽木順綱の参考文献 [F] に詳しい

7) レム・コールハース、『コールハースは語る』p.80

【参考文献】

[D] : RemKoolhaas : Delirioous New York, The Monacelli Press, 1978

[S] : RemKoolhaas : S,M,L,XL,The Monacelli Press, 1995

[M] : Rem Koolhaas : Mutations, Actar, 2001

[C] : Rem Koolhaas : Content, &&&, 2004

[A] : Wim J. van Heuvel : Structuralism in Dutch Architecture, 010Publisher, 1992

[L] : Herman Hertzberger : Lessons for students in architecture, 鹿島出版会 , 1995

[E] : 『ユリイカ 特集*レム・コールハース』、青土社、2009

[T] : 朽木順綱、『アルド・ファン=アイクの建築思想における「対現象」の概念につ

いて̶ドゴン集落に関する論考を通して』、2005

[F] : 朽木順綱、『アルド・ファン=アイクの建築思想における「コンフィギュレーショ

ン」の構造̶論考「コンフィギュレーション理論への歩み」を通して』、2006

3) 差異

 コールハースもオランダ構造主義と類似した建築に

都市性を持たせるという目的を持っていた。オランダ

構造主義者は建築における都市性を、グリッドによる

分節や街路のような空間によって実現していた。コー

ルハースは同じ、分節や、街路空間を用いるが、「差異」

と言う手法を加えることで、無個性に広がる現代都市

に対するエネルギー発生装置のように、建築を設計し

ている。つまり、同じ都市の多様性を目指しながらも、

コールハースはその多様性の差異を意識し、オランダ

構造主義者は多様性の共通性を意識し、つなぐことを

考えていたと言えるだろう。

 本論では、レム・コールハースの都市論と建築設計

手法を、構造主義的な観点から見ることで、両者の類

似点と違いを明らかにした。それにより、コールハー

スとオランダ構造主義の歴史的な位置づけを行い、

コールハースの建築設計手法の特徴である「差異」を

指摘した。両者ともに現在も、リサーチをもとにデザ

インを行っている。人類学的・社会学的なリサーチの

視点と、都市的な建築に学ぶべきところは多い。

( iv ) 街路

 ≪セントラル・ベヒーア≫では、街路のような動線

空間がつくられている。パサージュのような街路空間

は断面構成が高く狭くなっており、上部から採光がと

られている。そこに、街の中で見るような素材の床と

壁が作られており、建築内部に、都市的空間である街

路のように設計されることが意図された。街路はグ

リッドに沿ってシステマティックに広がっており、全

体の統一を意識した上で計画されたことがわかる。

3.3 建築設計手法の比較 ( 表 2)

 これらの分析から、分節という手法と街路のような

空間を建築内部に設けるという点で、コールハースと

オランダ構造主義者たちには共通していることがわ

かった。しかし、その手法の性格はそれぞれ異なって

いる。コールハースは、分節、プログラム、ヴォイド、

トラジェクトリーと言った手法において多様性を持た

せながらも、その多様性の「差異」を強調しようとし

ていることがわかった。それに対して、オランダ構造

主義者は、分節や、閾と言った手法に見られるように

多様性を持たせながら、場の連続を考え、「つなぐこと」

を意識して作っていることがわかった。

4. 考察とまとめ

 2章と 3章で行った分析からレム・コールハースと

オランダ構造主義それぞれの、都市論と建築設計手法

の関係を読み解き、その類似点と違いを考察した。

1) 都市論と建築設計手法の相互関係

 3章で見られた建築設計手法のアイデアは各々が都

市リサーチによって見つけ出されたアイデアもしくは

空間がもとになっていた。よって、コールハースもオ

ランダ構造主義者も、両者ともに、リサーチをするこ

とで、都市論を建築設計に反映していることがわかっ

た。しかしその都市論の視点は、建築家自身によって

デザインされたことを忘れてはならない。コールハー

スが現代都市をジェネリック・シティと定義したのも、

ヴォイドの戦略を用いるためであったとも言える。

2) 両者の類似点 - 都市的建築

 コールハースとオランダ構造主義それぞれに、都市

的な多様性を持った建築を実現している。これは、多

様性をどう制御するかという矛盾した問いに各々が答

えた結果だと言える。コールハースは建築と都市の関

係について、「建築が制御の試み」であるのに対し、「都

市はそれが失敗した姿」と述べている7)。都市が制御

できないことを前提とした上で、両者の建築では、都

市に見られる多様性や選択可能性を建築の中に実現し

ようとしている。

プログラムによる分節 スケールによる分節

差異をつくるプログラム同士の衝突

(ii) プログラム

(i) 分節

融合

ヴォイドの戦略差異をつくる

(iii) 境界 閾つなげる

トラジェクトリー映画的・変化に富む

(iv) 動線 街路統一された全体

建築設計手法

コールハース オランダ構造主義者

都市としての多様性建築としての過密

都市としての多様性

成長、エネルギー

マンハッタンのグリッド

自律的生成への関心

多様性な解釈、不変

均質さをジェネリック・シティ

として受容

現代都市の認識

均質ではなく、部分・全体のヒエラルキーが

あるものと認識

ヴォイドの戦略差異・対比の方法

現代都市に対する戦略

コンフィギュレーション部分と全体をつなぐ方法

都 

市 

( i )

( ii )

( iii )

( iv )

表2 キーワードでみた比較表