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1 コザ・ハンには店舗やカフェが入って いる  2 1396 ~ 1400年に建設のモス ク、ウル・ジャーミィ  3 5 ユネスコの 世界文化遺産にも登録されているジュ マルクズクではローカルな食べものの購 入も楽しみの一つ  4 大粒な栗で甘さ 控えめのケスターネ・シェケリ  6 の霊廟といわれるイェシェル・テュルベ 1 2 5 6 3 4 イスタンブル トルコ共和国 マルマラ地方 夏はハイキング、冬はスキーのスポッ トとして知られる標高2543mのウル山。 その麓に広がるのが自然豊かな町、ブ ルサだ。周囲を山や丘に囲まれ、町な かに多くの公園があることから“緑のブ ルサ”と呼ばれている。また、かつては シルクロードの西端の都市として発展。 ビザンチン帝国の統治下に置かれた後 は1326年にオスマン帝国2代目のスルタ ン、オルハン・ガーズィが支配し、オ スマン帝国最初の首都になるという歴 史的にも重要な町として知られている。 そのためオスマン様式の建築物が点在 し、今では見応えのある観光地にもなっ ている。 この町を最も有名にした食といえば イスケンデル・ケバブだろう。これは、 ピデ(薄焼きパン)に薄くスライスした ドネル・ケバブを乗せ、トマトソースと ヨーグルトをかけて最後に熱いバターを 回しかけて食べるケバブのこと。ケバブ といえば串刺しスタイルを思い浮かべる 日本人にとって、新鮮なスタイルといえ よう。市内には発祥の店もあるので、 ぜひ味わいたい名物料理の一つだ。 温暖なマルマラ地方は羊肉をはじめ とする肉や豊富な魚介類をバランス良 く取るエリア。加えて野菜や果物の農 産物も豊かで、特に有名なのが栗やク ルミだ。実はトルコは栗の名産地で、 秋になると町なかではあちこちに焼き栗 の屋台が出て活気づく。 そんなトルコの中でもブルサは最高級 の栗の生産地であり、その栗はケスター ネ・シェケリ(マロングラッセ)として 親しまれている。ケスターネ・シェケリ は1300年代以来のブルサの銘菓で、大 粒な栗を甘さ控えめに仕上げているの が特徴といえる。「カフカス」や「パス ターネ」といった専門店も存在し、カ フェでのお茶請けとして最適だ。同じく 名産のクルミの飴がけや桃とともに、ぜ ひ味わいたいスイーツとなっている。 ブルサ市内には世界遺産を含む歴史 的な見どころが多い。また郊外のチェ キルゲでは温泉にも立ち寄りたいので、 ブルサの滞在にはたっぷり時間を割くの がいいだろう。 市内で最もシンボリックな建物は、 14世紀後半に建設のモスク、ウル・ ジャーミィ。セルジューク朝の建築様 式で、館内にある清めの泉や装飾のカ リグラフィー(イスラム書道)が見事だ。 その北側に広範囲にわたって広がって いるのがバザール。かつて絹貿易で栄え、 タオル製造でも知られるブルサでは、こ うしたバザールでタオルやバスローブな どのお土産を探すのもいいだろう。 バザールにはハンと呼ばれる隊商宿の 建物を生かしたエリアが点在している。 隊商宿とは商隊の宿泊施設のことで、 中庭を囲むように建つ2階建ての石造り 建築であることが多い。1490年頃に建 てられたコザ・ハンも、かつて繭が取 引されたという隊商宿。現在は修復さ れて店舗やカフェが入っており、スカー フやストールなどの絹製品を買うことも できる。 ブルサ中心部から少し外れた市の東 部では、緑の霊廟といわれるイェシェル・ テュルベが見どころ。1421年にオスマ ン帝国のスルタンとその家族の霊廟と して建てられたもので、ターコイズブ ルーに輝くタイルの外観が目を引くブル サを代表する観光スポットだ。内部に はメフメット1世と家族の棺があり、金 のカリグラフィーを施した豪華な造りに 目を奪われるだろう。 ブルサから東へ約10㎞のジュマルクズ クも足を運びたいスポット。ここは 1300年代に造られたオスマン帝国の集 落で、今でも約270軒の古い建築物が 密集するエリアだ。歴史を感じさせる 美しい古都として、2014年にはユネス コの世界文化遺産に登録された。現在 これらの建物は土産物屋やレストラン、 カフェとして利用されており、希少な エリアだが気軽に立ち寄ることができる 観光地になっている。石畳の道を歩き ながら出窓や格子窓のある家々を眺め ていると、タイムスリップしたような不 思議な感覚を味わえそうだ。 また、ブルサ中心部の北西に位置す るチェキルゲは、ミネラル分を多く含む 温泉で知られる古くから栄える温泉街。 いくつもの温泉ホテルが立ち並び、な かでもケルヴァンサライ・ホテルが有名 だ。14世紀に建てられた入浴施設は今 も利用でき、ハマムや温泉プールでゆっ たりと体を癒やすことができる。宿泊 者でなくても入浴可能なので、ぜひ足 を延ばしたい。 観光名所が点在 名物を本場で食す イスケンデル・ケバブは、1867年に料理人のイ スケンデル・エフェンディ氏によって考案されたの が始まり。今ではトルコ中に広まっており、イスタ ンブルでも美味しいイスケンデル・ケバブを食べる ことができる。ブルサではユンリュ通りに次男の家 系が継いだ本店、アタテュルク通りに長男と三男の 家系が継いだ店があり、どちらでも本場の味が楽し める。1人前のほか、肉大盛り、1.5人前といった 注文もできるので試してみたい。 イスケンデル・ケバブはピデの上にケバブとトマ トソースを乗せるが、そこにヨーグルトまで添える のは少し変わった食べ方のように映る。しかしヨー グルトは、トルコ人の祖先である遊牧民族にとって 伝統食であり、トルコではデザートというより料理 の調味料的な役割で使われることが多い。濃厚な ケバブの肉汁やバターをヨーグルトの爽やかな酸味 が中和するイスケンデル・ケバブは、実にトルコら しい組み合わせの味といえるだろう。 ブルサ イスタンブルの南約 150km に位置するブルサ(Bursa)は、マルマラ地方を代表する都市の一つ。 イスケンデル・ケバブ発祥の地として、また栗やクルミの飴がけや桃の美味しさで知られ、 歴史的見どころも多い魅力的な町だ。 風土と伝統が生んだ 古都ブルサのケバブ Vol.02 Gastro Turkey 食で旅するトルコ

食で旅するトルコ Vol.02 風土と伝統が生んだ 1 4 古 …...1 コザ・ハンには店舗やカフェが入って いる 2 1396~1400年に建設のモスク、ウル・ジャーミィ

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1コザ・ハンには店舗やカフェが入っている  2 1396~1400年に建設のモスク、ウル・ジャーミィ  3 5 ユネスコの世界文化遺産にも登録されているジュマルクズクではローカルな食べものの購入も楽しみの一つ  4 大粒な栗で甘さ控えめのケスターネ・シェケリ  6 緑の霊廟といわれるイェシェル・テュルベ

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イスタンブル

トルコ共和国

マルマラ地方

 夏はハイキング、冬はスキーのスポットとして知られる標高2543mのウル山。その麓に広がるのが自然豊かな町、ブルサだ。周囲を山や丘に囲まれ、町なかに多くの公園があることから“緑のブルサ”と呼ばれている。また、かつてはシルクロードの西端の都市として発展。ビザンチン帝国の統治下に置かれた後は1326年にオスマン帝国2代目のスルタン、オルハン・ガーズィが支配し、オスマン帝国最初の首都になるという歴史的にも重要な町として知られている。そのためオスマン様式の建築物が点在し、今では見応えのある観光地にもなっている。 この町を最も有名にした食といえばイスケンデル・ケバブだろう。これは、ピデ(薄焼きパン)に薄くスライスしたドネル・ケバブを乗せ、トマトソースと

ヨーグルトをかけて最後に熱いバターを回しかけて食べるケバブのこと。ケバブといえば串刺しスタイルを思い浮かべる日本人にとって、新鮮なスタイルといえよう。市内には発祥の店もあるので、ぜひ味わいたい名物料理の一つだ。 温暖なマルマラ地方は羊肉をはじめとする肉や豊富な魚介類をバランス良く取るエリア。加えて野菜や果物の農産物も豊かで、特に有名なのが栗やクルミだ。実はトルコは栗の名産地で、秋になると町なかではあちこちに焼き栗の屋台が出て活気づく。 そんなトルコの中でもブルサは最高級の栗の生産地であり、その栗はケスターネ・シェケリ(マロングラッセ)として親しまれている。ケスターネ・シェケリは1300年代以来のブルサの銘菓で、大粒な栗を甘さ控えめに仕上げているのが特徴といえる。「カフカス」や「パスターネ」といった専門店も存在し、カフェでのお茶請けとして最適だ。同じく名産のクルミの飴がけや桃とともに、ぜひ味わいたいスイーツとなっている。

 ブルサ市内には世界遺産を含む歴史的な見どころが多い。また郊外のチェキルゲでは温泉にも立ち寄りたいので、ブルサの滞在にはたっぷり時間を割くの

がいいだろう。 市内で最もシンボリックな建物は、14世紀後半に建設のモスク、ウル・ジャーミィ。セルジューク朝の建築様式で、館内にある清めの泉や装飾のカリグラフィー(イスラム書道)が見事だ。その北側に広範囲にわたって広がっているのがバザール。かつて絹貿易で栄え、タオル製造でも知られるブルサでは、こうしたバザールでタオルやバスローブなどのお土産を探すのもいいだろう。 バザールにはハンと呼ばれる隊商宿の建物を生かしたエリアが点在している。隊商宿とは商隊の宿泊施設のことで、中庭を囲むように建つ2階建ての石造り建築であることが多い。1490年頃に建てられたコザ・ハンも、かつて繭が取引されたという隊商宿。現在は修復されて店舗やカフェが入っており、スカーフやストールなどの絹製品を買うこともできる。 ブルサ中心部から少し外れた市の東部では、緑の霊廟といわれるイェシェル・テュルベが見どころ。1421年にオスマン帝国のスルタンとその家族の霊廟として建てられたもので、ターコイズブルーに輝くタイルの外観が目を引くブルサを代表する観光スポットだ。内部にはメフメット1世と家族の棺があり、金のカリグラフィーを施した豪華な造りに目を奪われるだろう。

 ブルサから東へ約10㎞のジュマルクズクも足を運びたいスポット。ここは1300年代に造られたオスマン帝国の集落で、今でも約270軒の古い建築物が密集するエリアだ。歴史を感じさせる美しい古都として、2014年にはユネスコの世界文化遺産に登録された。現在これらの建物は土産物屋やレストラン、カフェとして利用されており、希少なエリアだが気軽に立ち寄ることができる観光地になっている。石畳の道を歩きながら出窓や格子窓のある家々を眺めていると、タイムスリップしたような不思議な感覚を味わえそうだ。 また、ブルサ中心部の北西に位置するチェキルゲは、ミネラル分を多く含む温泉で知られる古くから栄える温泉街。いくつもの温泉ホテルが立ち並び、なかでもケルヴァンサライ・ホテルが有名

だ。14世紀に建てられた入浴施設は今も利用でき、ハマムや温泉プールでゆったりと体を癒やすことができる。宿泊者でなくても入浴可能なので、ぜひ足を延ばしたい。

観光名所が点在

名物を本場で食す イスケンデル・ケバブは、1867年に料理人のイスケンデル・エフェンディ氏によって考案されたのが始まり。今ではトルコ中に広まっており、イスタンブルでも美味しいイスケンデル・ケバブを食べることができる。ブルサではユンリュ通りに次男の家系が継いだ本店、アタテュルク通りに長男と三男の家系が継いだ店があり、どちらでも本場の味が楽しめる。1人前のほか、肉大盛り、1.5人前といった注文もできるので試してみたい。 イスケンデル・ケバブはピデの上にケバブとトマトソースを乗せるが、そこにヨーグルトまで添えるのは少し変わった食べ方のように映る。しかしヨーグルトは、トルコ人の祖先である遊牧民族にとって伝統食であり、トルコではデザートというより料理の調味料的な役割で使われることが多い。濃厚な

ケバブの肉汁やバターをヨーグルトの爽やかな酸味が中和するイスケンデル・ケバブは、実にトルコらしい組み合わせの味といえるだろう。

ブルサ

イスタンブルの南約 150kmに位置するブルサ(Bursa)は、マルマラ地方を代表する都市の一つ。イスケンデル・ケバブ発祥の地として、また栗やクルミの飴がけや桃の美味しさで知られ、

歴史的見どころも多い魅力的な町だ。

風土と伝統が生んだ古都ブルサのケバブ

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