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調査ニュース 模型自動車等の充電池を充電中に出火した火災について ···························288 調査ニュースは、平成 25 年中に調査課から通知したものであり、調査課で行った実験に ついてまとめてあります。火災予防上の資料としてご活用下さい。 なお、調査ニュースの中のデータについては、通知日時点の内容を掲載しています。 287

調査ニュース - 東京消防庁288 調査ニュース 表1 最近5年間の火災状況 年 別 火災件数 損害状況 建物 焼損床面 積 ( ) 焼損表面 積 (

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目次 287

調査ニュース

目 次

模型自動車等の充電池を充電中に出火した火災について ··························· 288

※ 調査ニュースは、平成 25年中に調査課から通知したものであり、調査課で行った実験に

ついてまとめてあります。火災予防上の資料としてご活用下さい。

なお、調査ニュースの中のデータについては、通知日時点の内容を掲載しています。

目 次 287 

288 調査ニュース

表1 最近5年間の火災状況

火 災 件 数 損 害 状 況

建 物 焼

(㎡)

(㎡)

(円)

焼 ぼ

21 - - - - - - - -

22 1 - 1 - - 200 - -

23 2 - 2 - - 385,500 - -

24 - - - - - - - -

25 4 1 3 57 2 16,083,800 - 6

1 はじめに

リチウムポリマー電池は、同じ大きさの今までの充電池と比較して高容量、高出力、軽

量であり、リチウムイオン電池と比較して形状の自由度が高いことから、模型自動車や模

型飛行機など(以下、「模型自動車等」という。)の動力用のバッテリとしても近年利用さ

れるようになっていますが、使用中や充電中に発火する事故が発生しており、専門誌や業

界のホームページには注意喚起の記事などが掲載されています。

東京消防庁管内において、リチウムポリマー電池の充電に起因して出火した火災は、平

成21年から平成25年までの過去5年間に7件発生しています。

平成 25 年中は4件で、前年と比べて4件増加し、最近5年間では最も多い件数となって

います。

模型自動車等の充電池を充電中に出火した火災について

模型自動車等の充電池を充電中に出火した火災について 289

図1 リチウムポリマー電池の構造

2 リチウムポリマー(LiPo)電池の構造

リチウムポリマー電池は、リチウムイオン電池の一種です。正極の中のリチウムイオン

が電解質を介して負極に移動することにより電気エネルギーを得ています。

正極材料としては、一般的に二酸化コバルト(LiCoO2)が、負極として黒鉛(LiC6)が

使用されており、電解質として、ゲル状固体ポリマーを使用しています。

3 一般的なリチウムイオン電池の発火に至る機構

リチウムイオン電池では、充電時に電圧が上昇する際、正極及び負極が極めて強い酸化・

還元状態となるため、材料が不安定化し易いと言えます。

⑴ 過充電

充電しすぎると「過充電」となり、発熱や電解質から可燃性ガスの発生などが起きます。

一般に過充電時の電池内部では、はじめに電解液と負極の還元反応が起こり、電解液の熱

分解、電解液と正極との酸化分解、負極の熱分解、正極の熱分解、最後にセパレータの溶

融流動による内部短絡になるといわれています。

正極側:電解液の酸化、結晶構造の破壊による発熱

負極側:金属リチウムの析出

⑵ 過放電

放電しすぎると「過放電」となり、「過充電」と同様に発熱します。

正極側:コバルトの溶出

負極側:集電体(銅)の溶出

いずれの場合でも、発熱により、電極や電解質、セパレータの溶融が発生し内部で短

絡、この時のジュール熱による熱暴走が起こり、最終的には可燃性の電解液(または発

生した可燃性ガス)に着火すると考えられます。

火災熱などによって外部から加熱された場合は、電池内部で正極材料、電解液、負極

288 調査ニュース

288 調査ニュース

表1 最近5年間の火災状況

火 災 件 数 損 害 状 況

建 物 焼

(㎡)

(㎡)

(円)

21 - - - - - - - -

22 1 - 1 - - 200 - -

23 2 - 2 - - 385,500 - -

24 - - - - - - - -

25 4 1 3 57 2 16,083,800 - 6

1 はじめに

リチウムポリマー電池は、同じ大きさの今までの充電池と比較して高容量、高出力、軽

量であり、リチウムイオン電池と比較して形状の自由度が高いことから、模型自動車や模

型飛行機など(以下、「模型自動車等」という。)の動力用のバッテリとしても近年利用さ

れるようになっていますが、使用中や充電中に発火する事故が発生しており、専門誌や業

界のホームページには注意喚起の記事などが掲載されています。

東京消防庁管内において、リチウムポリマー電池の充電に起因して出火した火災は、平

成21年から平成25年までの過去5年間に7件発生しています。

平成 25 年中は4件で、前年と比べて4件増加し、最近5年間では最も多い件数となって

います。

模型自動車等の充電池を充電中に出火した火災について

模型自動車等の充電池を充電中に出火した火災について 289

図1 リチウムポリマー電池の構造

2 リチウムポリマー(LiPo)電池の構造

リチウムポリマー電池は、リチウムイオン電池の一種です。正極の中のリチウムイオン

が電解質を介して負極に移動することにより電気エネルギーを得ています。

正極材料としては、一般的に二酸化コバルト(LiCoO2)が、負極として黒鉛(LiC6)が

使用されており、電解質として、ゲル状固体ポリマーを使用しています。

3 一般的なリチウムイオン電池の発火に至る機構

リチウムイオン電池では、充電時に電圧が上昇する際、正極及び負極が極めて強い酸化・

還元状態となるため、材料が不安定化し易いと言えます。

⑴ 過充電

充電しすぎると「過充電」となり、発熱や電解質から可燃性ガスの発生などが起きます。

一般に過充電時の電池内部では、はじめに電解液と負極の還元反応が起こり、電解液の熱

分解、電解液と正極との酸化分解、負極の熱分解、正極の熱分解、最後にセパレータの溶

融流動による内部短絡になるといわれています。

正極側:電解液の酸化、結晶構造の破壊による発熱

負極側:金属リチウムの析出

⑵ 過放電

放電しすぎると「過放電」となり、「過充電」と同様に発熱します。

正極側:コバルトの溶出

負極側:集電体(銅)の溶出

いずれの場合でも、発熱により、電極や電解質、セパレータの溶融が発生し内部で短

絡、この時のジュール熱による熱暴走が起こり、最終的には可燃性の電解液(または発

生した可燃性ガス)に着火すると考えられます。

火災熱などによって外部から加熱された場合は、電池内部で正極材料、電解液、負極

模型自動車等の充電池を充電中に出火した火災について 289 

290 調査ニュース

材料が単独及び相互に発熱反応を起こし、これによりセパレータが溶融して電極が短絡、

この時のジュール熱により熱暴走が開始します。

また、外部からの衝撃により各電極の絶縁やセパレータが損傷した場合、その時に出

火に至らなくとも、充電時に内部短絡が発生、出火する場合があります。

エネルギー密度が高いため短絡時には急激に過熱し、電解質が有機系溶媒であること

から、発火しやすいのです。

4 模型自動車等用のリチウムポリマー電池において、「過充電」が起こる理由

携帯電話やノート型パソコンなどでリチウムポリマー電池が電源として使用されている

場合、過充電を防ぐために常に機器側でリチウムポリマー電池の状況を監視しており、異

常があれば即時に充電を停止する機能があります。このため、これらの機器で使用されて

いるリチウムポリマー電池が過充電されることはありません。

模型自動車等用のリチウムポリマー電池は、その使用環境から、より軽量化が求められ

ているため、これらの機能を備えた基板をリチウムポリマー電池に積載しておらず、充電

器にこの機能を持たせています。

模型自動車等用のリチウムポリマー電池は、セルの構成によりバッテリの容量(単位時

間に使用できる電流量。単位:mAh)、充放電許容量(単位:CmA,C)などが異なる製品が

各種存在するため、これに応じて充電器の設定を変更するか、各電池専用の充電器を使用

する必要があるが、これを行わない場合、充電器の機能が適切に働かず、過充電となる場

合があります。過充電となったリチウムポリマー電池は、膨張していることが多いのです。

写真1 模型用リチウムポリマー 写真2 過充電により膨張したリチウム

電池の外観 ポリマー電池

また、充電は周囲に可燃物のない場所で不燃性の専用袋に入れて行うとともに、充電中

は常時監視を行い、電池の発熱や膨らみなどの異常事態に備えることとされていますが、

これらの使用上の注意や配慮すべき点を怠り、次のような充電を行うことにより、「過充

電」となり出火に至ります。

⑴ リチウムポリマー電池をニッケルカドミニウム充電池(又は、ニッケル水素充電池)

の設定で充電した場合

ニッケルカドミニウム充電池は、充電完了時に特有の電圧変化(デルタピーク)が発

生するため、充電池にはこれを検出して充電を止める機能があります。

模型自動車等の充電池を充電中に出火した火災について 291

図2 バランス充電がされている状況

セルごとに充電状況をモニタして、

充電終了を行います。

右端のセルは満充電となり充電終

了しているが、左2つのセルが充電中

である。

図3 バランス充電がされていない状況

直列のセルを一体としてモニタして

います。

パック全体としては、充電が終了し

ていないため、右端のセルは過充電と

なる。

リチウムポリマー電池は充電完了時にこの電圧変化がないため、充電が停止されず、

「過充電」となります。

⑵ リチウムポリマー電池を構成する各セルの電圧のバランスが崩れており、かつ、充電

時の設定が不適切であった場合

リチウムポリマー電池は複数のセルが直列接続で組み合わせたパックになっており、

経年使用や使用条件などによって、各セルの電圧バランスに差異が生じることがありま

す。 この状態を改善するため、充電時に各セルの充電状況をモニタして、それぞれのセ

ルごとに充電終了を行う機能が充電器に備えられており、この充電方法を「バランス充

電」といいます(図2参照)。

各セルの電圧に差異が生じたリチウムポリマー電池を充電する際、バランス充電を行

わない場合、直列のセルを一体としてモニタしていることになり、パック全体の電圧と

しては適切であっても、単セルでは「過充電」となります(図3参照)。

⑶ 誤った設定により充電を行った場合

充電するリチウムポリマー電池のセル数やスペックを誤認識し、充電電圧、充電電

流を誤って充電を行うと「過充電」になります。

290 調査ニュース

290 調査ニュース

材料が単独及び相互に発熱反応を起こし、これによりセパレータが溶融して電極が短絡、

この時のジュール熱により熱暴走が開始します。

また、外部からの衝撃により各電極の絶縁やセパレータが損傷した場合、その時に出

火に至らなくとも、充電時に内部短絡が発生、出火する場合があります。

エネルギー密度が高いため短絡時には急激に過熱し、電解質が有機系溶媒であること

から、発火しやすいのです。

4 模型自動車等用のリチウムポリマー電池において、「過充電」が起こる理由

携帯電話やノート型パソコンなどでリチウムポリマー電池が電源として使用されている

場合、過充電を防ぐために常に機器側でリチウムポリマー電池の状況を監視しており、異

常があれば即時に充電を停止する機能があります。このため、これらの機器で使用されて

いるリチウムポリマー電池が過充電されることはありません。

模型自動車等用のリチウムポリマー電池は、その使用環境から、より軽量化が求められ

ているため、これらの機能を備えた基板をリチウムポリマー電池に積載しておらず、充電

器にこの機能を持たせています。

模型自動車等用のリチウムポリマー電池は、セルの構成によりバッテリの容量(単位時

間に使用できる電流量。単位:mAh)、充放電許容量(単位:CmA,C)などが異なる製品が

各種存在するため、これに応じて充電器の設定を変更するか、各電池専用の充電器を使用

する必要があるが、これを行わない場合、充電器の機能が適切に働かず、過充電となる場

合があります。過充電となったリチウムポリマー電池は、膨張していることが多いのです。

写真1 模型用リチウムポリマー 写真2 過充電により膨張したリチウム

電池の外観 ポリマー電池

また、充電は周囲に可燃物のない場所で不燃性の専用袋に入れて行うとともに、充電中

は常時監視を行い、電池の発熱や膨らみなどの異常事態に備えることとされていますが、

これらの使用上の注意や配慮すべき点を怠り、次のような充電を行うことにより、「過充

電」となり出火に至ります。

⑴ リチウムポリマー電池をニッケルカドミニウム充電池(又は、ニッケル水素充電池)

の設定で充電した場合

ニッケルカドミニウム充電池は、充電完了時に特有の電圧変化(デルタピーク)が発

生するため、充電池にはこれを検出して充電を止める機能があります。

模型自動車等の充電池を充電中に出火した火災について 291

図2 バランス充電がされている状況

セルごとに充電状況をモニタして、

充電終了を行います。

右端のセルは満充電となり充電終

了しているが、左2つのセルが充電中

である。

図3 バランス充電がされていない状況

直列のセルを一体としてモニタして

います。

パック全体としては、充電が終了し

ていないため、右端のセルは過充電と

なる。

リチウムポリマー電池は充電完了時にこの電圧変化がないため、充電が停止されず、

「過充電」となります。

⑵ リチウムポリマー電池を構成する各セルの電圧のバランスが崩れており、かつ、充電

時の設定が不適切であった場合

リチウムポリマー電池は複数のセルが直列接続で組み合わせたパックになっており、

経年使用や使用条件などによって、各セルの電圧バランスに差異が生じることがありま

す。 この状態を改善するため、充電時に各セルの充電状況をモニタして、それぞれのセ

ルごとに充電終了を行う機能が充電器に備えられており、この充電方法を「バランス充

電」といいます(図2参照)。

各セルの電圧に差異が生じたリチウムポリマー電池を充電する際、バランス充電を行

わない場合、直列のセルを一体としてモニタしていることになり、パック全体の電圧と

しては適切であっても、単セルでは「過充電」となります(図3参照)。

⑶ 誤った設定により充電を行った場合

充電するリチウムポリマー電池のセル数やスペックを誤認識し、充電電圧、充電電

流を誤って充電を行うと「過充電」になります。

模型自動車等の充電池を充電中に出火した火災について 291 

292 調査ニュース

5 実験

過充電により破裂した充電池からどの程度の大きさの炎が出るのか、出火に至るまでの

時間経過などを確認するため、実験を行いました。

実験は、リチウムポリマー電池を満充電の状態から、さらに充電を行い過充電の状態と

して出火させ、充電池の容量及び充電時の電流値の違いによる出火に至るまでの時間や出

火時の炎の大きさなどを観察し、過充電状態を人為的に引き起こすため、ニッカド充電池

用の充電器を使用して充電を行いました。充電にあたっては電流がそのバッテリの容量を

超えないようにすることが安全ですが、本実験では、急速充電の条件で充電することによ

り充電池の劣化を促進することとしました。

使用した充電器及び充電池は、いずれも模型自動車等の動力源用として販売されている

製品です。

各実験の条件とその結果は次のとおりです。

⑴ 満充電状態のリチウムポリマー電池(2,200mAh)を6Aで充電を実施しました。こ

れは、通常充電の約2.7倍の急速充電です。開始から31分で外装の合成樹脂製ケースが

破損し、36分で白煙が噴出、37分で充電池から炎が噴出しました。炎の大きさは、ビ

デオ映像を確認して目測した結果、最大で100㎝でした。

⑵ 満充電状態のリチウムポリマー電池(2,200mAh)を 10Aで充電を実施しました。こ

れは、通常充電の約 4.5 倍の急速充電です。結果は、表1のとおりです。

⑶ 満充電状態のリチウムポリマー電池(4,200mAh)を 10Aで充電を実施しました。こ

れは、通常充電の約 2.4 倍の急速充電です。リチウムポリマー電池(2,200mAh)と比

較して約 1.9 倍の電気容量があります。結果は、表2のとおりです。

写真3 充電開始時の状況

写真4 充電池ケースが破損

写真5 充電池から白煙噴出

写真6 充電池から炎が激しく噴出

292 調査ニュース

292 調査ニュース

5 実験

過充電により破裂した充電池からどの程度の大きさの炎が出るのか、出火に至るまでの

時間経過などを確認するため、実験を行いました。

実験は、リチウムポリマー電池を満充電の状態から、さらに充電を行い過充電の状態と

して出火させ、充電池の容量及び充電時の電流値の違いによる出火に至るまでの時間や出

火時の炎の大きさなどを観察し、過充電状態を人為的に引き起こすため、ニッカド充電池

用の充電器を使用して充電を行いました。充電にあたっては電流がそのバッテリの容量を

超えないようにすることが安全ですが、本実験では、急速充電の条件で充電することによ

り充電池の劣化を促進することとしました。

使用した充電器及び充電池は、いずれも模型自動車等の動力源用として販売されている

製品です。

各実験の条件とその結果は次のとおりです。

⑴ 満充電状態のリチウムポリマー電池(2,200mAh)を6Aで充電を実施しました。こ

れは、通常充電の約2.7倍の急速充電です。開始から31分で外装の合成樹脂製ケースが

破損し、36分で白煙が噴出、37分で充電池から炎が噴出しました。炎の大きさは、ビ

デオ映像を確認して目測した結果、最大で100㎝でした。

⑵ 満充電状態のリチウムポリマー電池(2,200mAh)を 10Aで充電を実施しました。こ

れは、通常充電の約 4.5 倍の急速充電です。結果は、表1のとおりです。

⑶ 満充電状態のリチウムポリマー電池(4,200mAh)を 10Aで充電を実施しました。こ

れは、通常充電の約 2.4 倍の急速充電です。リチウムポリマー電池(2,200mAh)と比

較して約 1.9 倍の電気容量があります。結果は、表2のとおりです。

写真3 充電開始時の状況

写真4 充電池ケースが破損

写真5 充電池から白煙噴出

写真6 充電池から炎が激しく噴出

模型自動車等の充電池を充電中に出火した火災について 293

表2 実験結果

充電の条件

充電池の容量 6Aで充電 10Aで充電

2,200mAh 37 分で出火

炎の最大長:100 ㎝ 15 分で出火

炎の最大長:100 ㎝

4,200mAh ― 20 分で出火

炎の最大長:130 ㎝

7 類似火災の発生を防止するために

いずれの火災も、模型自動車等の動力源として使用されるリチウムポリマー電池の充電

時の注意事項などが遵守されていないことに起因して発生していると考えられます。

このことから、類似火災を防止するためには「リチウムポリマー電池に対応した充電器

を使用する。」「凹み、膨張など外観に異常のある充電池は使用しない。」「周囲に可燃

物のない安全な場所で充電を実施する。」「充電中は常に監視し、異常があった場合は直

ちに充電を中止する。」といった模型自動車等の動力源として使用されるリチウムポリマ

ー電池の使用上の注意事項を使用者に周知する必要があります。

平成25年に4件の同様の出火原因による火災が発生していること、延焼火災や負傷者が

発生する火災が起きていることを鑑み、東京消防庁では次の呼びかけを行いました。

⑴ 報道発表による広報

平成25年5月23日にテレビ、新聞などの報道機関に対して発表を行うとともに、同内

容を東京消防庁ホームページ、ツイッター、フェイスブックに掲載しました。

これにより1紙の新聞紙上に関係記事が掲載され、4件のニュース番組で放送されま

した。

⑵ 専門誌に対する協力依頼

愛好者が購入する専門誌の一つである「ラジコン技術(株式会社電波実験社発行)」

編集室に協力を求め、模型用自動車等の動力源として使用されるリチウムポリマー電池

の使用に際して、適正な利用についての啓蒙記事の掲載を依頼しました。

⑶ 関係する業界団体に対する協力依頼

販売店、卸売店等が主な会員である一般財団法人日本ラジコン電波安全協会にも協力

を求め、販売時におけるリチウムポリマー電池の適正な使用に対する周知を依頼しまし

た。

同協会では、理事会においてリーフレットなどによる啓蒙活動を行うことが了承され

るとともに、本年度の「東京ホビーショー2013」において、販売店や卸売店などを

集めて行われる周知会において出火危険について説明されました。

また、日本国内に事業所のある模型用自動車等の業界団体である日本ラジコン模型工

業会に対しても同様に、取扱い説明書などに記載する注意書きの明確化、販売店に対す

る利用上の注意の周知について協力を依頼しました。

模型自動車等の充電池を充電中に出火した火災について 293 

294 調査ニュース

事例1 作業場併用住宅の作業場内で充電中に出火し、傷者1名が発生した火災

⑴ 火災概要

出火時分 2月 22時ごろ

用 途 等 作業場併用住宅 耐火造2/0 延112㎡

被害状況 建物ぼや リチウムポリマー電池4本、充電器2台、木製作業台等

⑵ 発見・通報・初期消火

居住者は、1階作業場の作業台でリチウムポリマー電池を充電中、2階でテレビを見

ていたところ、ドンドンと2回大きな音が聞こえたので1階に降りたところ、作業台が

燃えているのを発見しました。

出火建物隣の共同住宅の住人が外でバンバンと2回音を聞き、外を確認すると出火建

物1階の窓越しに炎が見えたので、自宅の加入電話で119番通報しました。

出火建物居住者は、1階作業場から避難し、付近住民が搬送してきた消火器で消火を

試みたが、消火できませんでした。

⑶ 原因概要

火災では、居住者は専用充電器によりリチウムポリマー電池14.8V(3.7V×4セル)

に合わせた設定でバランス充電をしていましたが、当該リチウムポリマー電池のセルの

一つは劣化により膨張していました。

このことから、劣化の進行したリチウムポリマー電池の充電を継続させたことから、

内部で発熱及び出火、周囲に充満した可燃性ガスに着火したものと思われます。

写真7 出火箇所の焼損状況 写真8 焼損したリチウムポリマー電池

模型自動車等の充電池を充電中に出火した火災について 295

事例2 共同住宅の居室内で充電中に出火したが、初期消火に成功した火災

⑴ 火災概要

出火時分 4月 16時ごろ

用 途 等 共同住宅 防火造2/0 延250㎡

被害状況 建物ぼや リチウムポリマー電池1本、洗濯機1台焼損

⑵ 発見・通報・初期消火状況

居住者は、建物2階居室でリチウムポリマー電池の充電を開始してから約10分後、リ

チウムポリマー電池からパチパチと音がして、煙が出るのを発見しました。危険を感じ、

玄関設置の洗濯機脇に搬送したところ、リチウムポリマー電池から20㎝程の炎を上げて

燃えだしました。

炎を確認した居住者は、浴室から洗面器に水を汲み、それをリチウムポリマー電池及

び洗濯機にかけて消火しました。

⑶ 原因概要

本火災では、居住者が専用充電器によりリチウムポリマー電池14.8V(3.7V×4セル)

に合わせた設定でバランス充電をしていましたが、当該リチウムポリマー電池のセルの一

つは劣化により膨張していました。

このことから、劣化の進行したリチウムポリマー電池の充電を継続させたことから内

部で発熱及び出火、周囲に充満した可燃性ガスに着火したものと推定されます。

写真9 出火時の充電状況を再現 写真 10 セルの1つを広げた状況

294 調査ニュース

294 調査ニュース

事例1 作業場併用住宅の作業場内で充電中に出火し、傷者1名が発生した火災

⑴ 火災概要

出火時分 2月 22時ごろ

用 途 等 作業場併用住宅 耐火造2/0 延112㎡

被害状況 建物ぼや リチウムポリマー電池4本、充電器2台、木製作業台等

⑵ 発見・通報・初期消火

居住者は、1階作業場の作業台でリチウムポリマー電池を充電中、2階でテレビを見

ていたところ、ドンドンと2回大きな音が聞こえたので1階に降りたところ、作業台が

燃えているのを発見しました。

出火建物隣の共同住宅の住人が外でバンバンと2回音を聞き、外を確認すると出火建

物1階の窓越しに炎が見えたので、自宅の加入電話で119番通報しました。

出火建物居住者は、1階作業場から避難し、付近住民が搬送してきた消火器で消火を

試みたが、消火できませんでした。

⑶ 原因概要

火災では、居住者は専用充電器によりリチウムポリマー電池14.8V(3.7V×4セル)

に合わせた設定でバランス充電をしていましたが、当該リチウムポリマー電池のセルの

一つは劣化により膨張していました。

このことから、劣化の進行したリチウムポリマー電池の充電を継続させたことから、

内部で発熱及び出火、周囲に充満した可燃性ガスに着火したものと思われます。

写真7 出火箇所の焼損状況 写真8 焼損したリチウムポリマー電池

模型自動車等の充電池を充電中に出火した火災について 295

事例2 共同住宅の居室内で充電中に出火したが、初期消火に成功した火災

⑴ 火災概要

出火時分 4月 16時ごろ

用 途 等 共同住宅 防火造2/0 延250㎡

被害状況 建物ぼや リチウムポリマー電池1本、洗濯機1台焼損

⑵ 発見・通報・初期消火状況

居住者は、建物2階居室でリチウムポリマー電池の充電を開始してから約10分後、リ

チウムポリマー電池からパチパチと音がして、煙が出るのを発見しました。危険を感じ、

玄関設置の洗濯機脇に搬送したところ、リチウムポリマー電池から20㎝程の炎を上げて

燃えだしました。

炎を確認した居住者は、浴室から洗面器に水を汲み、それをリチウムポリマー電池及

び洗濯機にかけて消火しました。

⑶ 原因概要

本火災では、居住者が専用充電器によりリチウムポリマー電池14.8V(3.7V×4セル)

に合わせた設定でバランス充電をしていましたが、当該リチウムポリマー電池のセルの一

つは劣化により膨張していました。

このことから、劣化の進行したリチウムポリマー電池の充電を継続させたことから内

部で発熱及び出火、周囲に充満した可燃性ガスに着火したものと推定されます。

写真9 出火時の充電状況を再現 写真 10 セルの1つを広げた状況

模型自動車等の充電池を充電中に出火した火災について 295 

296 調査ニュース

事例3 自宅居室内で充電中に出火し、傷者5名が発生した延焼火災

⑴ 火災概要

出火時分 5月 0時ごろ

用 途 等 専用住宅 防火造2/0 延112㎡

焼損状況 建物半焼1棟 部分焼1棟 ぼや1棟 計3棟57㎡

⑵ 発見・通報・初期消火状況

居住者は、2階子供部屋でリチウムポリマー電池を充電したまま就寝しました。寝室

で就寝中に臭気により目を覚ました居住者が廊下に出ると子供部屋から煙が出ているの

を発見しました。

近隣の共同住宅の居住者は、外から音が聞こえたので出火建物を見ると煙が出ていた

ため、自分の携帯電話で119番通報しました。 初期消火は行われていません。

⑶ 原因概要

火災は居住者が7.4V(3.7V×2セル)のリチウムポリマー電池を専用充電器により

充電していましたが、充電電圧を確認せずに充電していました。居住者が就寝している

間に過充電となり、リチウムポリマー電池を構成するセル内部で短絡し出火したものと

推定されます。

過充電に至った理由として、直前に充電したニッカド充電池の設定をリチウムポリマ

ー電池に変更しないまま充電した可能性が考えられますが、充電器の焼損が激しく確認

はできませんでした。

写真 11 出火箇所の焼損状況 写真 12 焼損したリチウムポリマー電池

模型自動車等の充電池を充電中に出火した火災について 297

事例4 共同住宅の居室内で充電中に出火したが、初期消火に成功した火災

⑴ 火災概要

出火時分 5月 4時ごろ

用 途 等 共同住宅 耐火造2/0 延1,256㎡

被害状況 建物ぼや リチウムポリマー電池1本、床、布団、ごみ各若干焼損

⑵ 発見・通報・初期消火状況

居住者は、2階居室内でリチウムポリマー電池を充電したまま就寝しました。臭気と

シューシューという音で目を覚ました居住者が周囲を確認していたところ、リチウムポ

リマー電池が爆発し、1m大の炎が上がるのを発見しました。さらに周囲にあった可燃

物(紙くず、衣類など)に着火したため、布団をかぶせた後、カップラーメンの空き容

器、洗面器などで水を掛けて初期消火を行いました。

同建物の別の居住者は就寝中に爆発音により目を覚ましました。通路に出ると自動火

災報知設備の地区ベルが鳴動していたため、自分の携帯電話で119番通報しました。

⑶ 原因概要

本火災では、居住者が7.4V(3.7V×2セル)のリチウムポリマー電池を専用充電器

により適切な設定で充電していました。専用充電器を見分するも異常は認められないこ

とから、既に何らかの要因により劣化していたリチウムポリマー電池を充電したことに

より、出火したものと推定されます。

写真13 焼損したリチウムポリマー電池 写真14 出火時の充電器の設定状況

296 調査ニュース

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事例3 自宅居室内で充電中に出火し、傷者5名が発生した延焼火災

⑴ 火災概要

出火時分 5月 0時ごろ

用 途 等 専用住宅 防火造2/0 延112㎡

焼損状況 建物半焼1棟 部分焼1棟 ぼや1棟 計3棟57㎡

⑵ 発見・通報・初期消火状況

居住者は、2階子供部屋でリチウムポリマー電池を充電したまま就寝しました。寝室

で就寝中に臭気により目を覚ました居住者が廊下に出ると子供部屋から煙が出ているの

を発見しました。

近隣の共同住宅の居住者は、外から音が聞こえたので出火建物を見ると煙が出ていた

ため、自分の携帯電話で119番通報しました。 初期消火は行われていません。

⑶ 原因概要

火災は居住者が7.4V(3.7V×2セル)のリチウムポリマー電池を専用充電器により

充電していましたが、充電電圧を確認せずに充電していました。居住者が就寝している

間に過充電となり、リチウムポリマー電池を構成するセル内部で短絡し出火したものと

推定されます。

過充電に至った理由として、直前に充電したニッカド充電池の設定をリチウムポリマ

ー電池に変更しないまま充電した可能性が考えられますが、充電器の焼損が激しく確認

はできませんでした。

写真 11 出火箇所の焼損状況 写真 12 焼損したリチウムポリマー電池

模型自動車等の充電池を充電中に出火した火災について 297

事例4 共同住宅の居室内で充電中に出火したが、初期消火に成功した火災

⑴ 火災概要

出火時分 5月 4時ごろ

用 途 等 共同住宅 耐火造2/0 延1,256㎡

被害状況 建物ぼや リチウムポリマー電池1本、床、布団、ごみ各若干焼損

⑵ 発見・通報・初期消火状況

居住者は、2階居室内でリチウムポリマー電池を充電したまま就寝しました。臭気と

シューシューという音で目を覚ました居住者が周囲を確認していたところ、リチウムポ

リマー電池が爆発し、1m大の炎が上がるのを発見しました。さらに周囲にあった可燃

物(紙くず、衣類など)に着火したため、布団をかぶせた後、カップラーメンの空き容

器、洗面器などで水を掛けて初期消火を行いました。

同建物の別の居住者は就寝中に爆発音により目を覚ましました。通路に出ると自動火

災報知設備の地区ベルが鳴動していたため、自分の携帯電話で119番通報しました。

⑶ 原因概要

本火災では、居住者が7.4V(3.7V×2セル)のリチウムポリマー電池を専用充電器

により適切な設定で充電していました。専用充電器を見分するも異常は認められないこ

とから、既に何らかの要因により劣化していたリチウムポリマー電池を充電したことに

より、出火したものと推定されます。

写真13 焼損したリチウムポリマー電池 写真14 出火時の充電器の設定状況

模型自動車等の充電池を充電中に出火した火災について 297