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『道徳ノート』を活用した「道徳科」の評価に関する実践研究 大阪府寝屋川市立石津小学校

『道徳ノート』を活用した「道徳科」の評価に関す …...3 を学ぶものと、道徳教育や「道徳の時間」の目標、構造、内容項目について学び、資料分析や発問構成

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『道徳ノート』を活用した「道徳科」の評価に関する実践研究

大阪府寝屋川市立石津小学校

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目 次

第1章 問題の背景

第1節 「道徳科」でめざす指導と評価

第2節 実習校における課題

第3節 報告者の立場

第2章 「道徳科」の評価の実践

第1節 「道徳ノート」を活用した道徳科の評価

第2節 石津小学校における「道徳科」の評価

第3章 総合考察 ~考え・議論する道徳の体現に向けて~

参考・引用文献

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第1章 問題の背景

第1節 「道徳科」でめざす指導と評価

平成 26 年 10 月 21 日『道徳に係る教育課程の改善等について(答申)』を契機として、平成 27 年3

月の学校教育法施行規則改正、それに伴う学習指導要領の一部改正を受け、この間、「特別の教科 道

徳(以下道徳科)」について、様々な議論がなされてきた。教科化は、その背景にいじめ問題があった

こともあり、社会の関心は非常に高く、とりわけ、教科化に伴う評価の方法については様々な憶測を呼

ぶ事態となった。そもそも、道徳教育が、一人ひとりの道徳性を培うものであり、道徳性は極めて多様

な心情、価値、態度等を前提としていることに鑑みれば、それを第三者が評価するという行為は、それ

自体に様々な議論の可能性をはらんでいたともいえよう。そのような中で、今、学校現場では指導要録

や通知表の記述方法に関心が集まり、「何をすればよいのか」「どうすればよいのか」という、ある種の

“答え”を手探りで求めているようにも感じられる。

平成 30 年「道徳科」小学校全面実施を控えた私たちにとって、これらは喫緊の課題である。しか

し、そうであるからこそ、私たちは「何のための評価か」という前提に今一度立ち戻り、道徳科の指導

と評価をどのように進めていくべきかを考えねばならないのだと考えるのである。

本校では、平成 21 年度から道徳教育の研究を進めてきた。その間、評価に関しても、幾度も話し合

いをおこなってきたが、特に

「道徳の時間」の学習評価につ

いては、平成 25 年度より現在

の形を取っている。すなわち、

「授業に対する評価」と「児童

に対する評価」の2つの評価観

点を学習指導案上に示し、前者

を学習指導法研究に、後者を児

童への励ましに活用しながら、

それらを統合して授業改善につなげていくという手法である。「道徳教育に係る評価等の在り方に関す

る専門家会議」による「『特別の教科 道徳の指導方法・評価等について(報告)平成 28年7月 22

日」(以下「専門家会議報告」)によれば、そもそも道徳科の評価は「児童生徒の側から見れば、自らの

成長を実感し、意欲の向上につなげていくものであり、 教師の側からみれば、教師が目標や計画、指

【指導案上の評価の観点(例)平成 26 年度 地域公開学習指導案より抜粋】

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導方法の改善・充実に取り組むための資料」とされている。この点に関して、赤堀(2017)は、「どの

教科であれ、授業を実施したら、その評価を行うのは当然のことです。『話し合いのさせ方は、あれで

よかったのだろうか。教材の提示の場面はどうだったのか…』これは、授業の評価、つまり、授業者自

身に対する評価でもあります。(中略)もう一つは、子どもに対する評価です。(略)記述式の意図は、

子どもたちの学びの姿(そのよさ)を言葉で認めてあげるということです。点数化して、序列をつける

のではありません。教師は、子どもの姿を肯定的に捉える目を持たなければなりません。」と述べてい

る。

授業に対する評価或いは児童に対する評価について、平成 27年 7月に示された『学習指導要領解説

特別の教科道徳編』においては、「道徳教育における評価は、常に指導に生かされ、結果的に児童の成

長につながるものでなくてはならない。」 とされ、児童生徒の道徳性に係る成長は、教師の不断の授業

改善の営みにかかっているということが読み取れる。一方で、毎時間の道徳科の評価については、私た

ちは児童生徒の評価を積み重ね、それをもとに授業の評価を行っている。それは、児童生徒の学びの姿

を置き去りに、指導の評価をおこなうことはできないからである。例えば、ある道徳の時間を終えて、

児童の授業中の様子や発言、道徳ノートの記述から「ねらいとする価値について考えを深めることが不

十分だった。」「ねらいとする価値とは異なる道徳的価値に関する発言や記述が多くなってしまった。」

といった課題が明らかとなったとすれば、それをもとにして、「発問が不適切だったのかもしれない。」

「中心発問に対する考えを深めるために、もっと板書を工夫できたのではないか。」「価値理解が十分で

なかった。」という指導の評価をおこなうことになる。今年度も、これまでに引き続いて全ての学習指

導案に「授業の評価」「児童の評価」の 2 点の

評価の観点を示すが、私たちは、児童生徒への

評価を通して授業の評価をおこない、その積み

重ねによって授業改善をめざすものであること

を述べておきたい。

第2節 本校の研究のあゆみ

(1)これまでの研究のあゆみ

本校は、道徳教育の研究をはじめて9年目になる。これまで本校の研究を支えてきたものは、継続的

な教職員の研修だといえる。

研修は、研究授業の参観及び事後協議会への参加によって、“生”の授業を通して具体的な実践方法

【図1 本校のめざす「道徳の時間」の評価】

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を学ぶものと、道徳教育や「道徳の時間」の目標、構造、内容項目について学び、資料分析や発問構成

を論理的に考える理論研修を両輪で進めてきた。このことを継続することで、少しずつ、どの教室でも

道徳の時間が、より充実したものとなっていった。

そのような中で、平成 24 年に、大阪府小学校道徳教育研究会が本校で開催された。この大会の開催

にあたって、本校は、寝屋川市の中核として市内の道徳教育推進を牽引すべく、毎月、市教育委員会、

教育研修センターと協働して講師を招聘してのパッケージ研修を実施した。一方で、本校教員はそれに

見合う授業公開にしていくための努力を積む必要があり、またそれが多くの先生方とのつながりを得る

機会にもなり、本校の財産にもなっていったのだと考えている。

(2)道徳地域授業公開

現行の学習指導要領にも示されているように、道徳教育はその特質から、家庭や地域と共に進めてい

くということが不可欠である。今や、授業参観などの機会に、道徳の授業公開をおこなっている学校も

少なくないだろう。本校で実施している地域授業公開は、保護者、地域向けの参観であると同時に、本

校が市教育研修センターと協働し実施する、市内の道徳教育推進教師を中心とした教職員を招いての研

修でもある。さらに、この会は中学校区で協働的に開催されるものとし、本校教諭はもちろんのこと、

友呂岐中学校区全ての教職員が参画することで、道徳教育の研究を中学校区、そして広く、多くの学校

にさらに広めようとする取り組みである。

また、この地域授業公開及び合同研修は、毎年、テーマを設定し、研修の講師を招聘して、授業後に

講演会を実施している。各年度のテーマと、招聘した講師による講演内容は以下の通りである。

(表1 各年度の地域授業公開研究テーマ)

平成 26 年度 文部科学省初等中等教育局教育課程課

教科調査官(当時)

赤堀 博行 氏 教科化に向けた国の動向

平成 27 年度 元文部科学省初等中等教育局視学官

國學院大学教授

杉田 洋 氏 道徳と特別活動との関連に

ついて

平成 28 年度 道徳教育に係る評価等の在り方に関す

る専門家会議 副座長

畿央大学教授

島 恒生 氏 「道徳科」の実施に向けて

平成 29 年度 四天王寺大学 准教授 杉中 康平 氏 「道徳科」の評価について

この地域授業公開の実施までには、道徳教育推進教師を中心に、教職員が協力して準備をすすめる

が、中でも本校の取り組みに特徴的なのは、「保護者向け指導案」である。これは、学校の教員でない

一般の参観者が、授業のねらいや資料のあらすじ、各段階で求められる道徳的諸価値の内容について知

ったうえで授業参観ができるよう、それらを平易な書き方でまとめ、配布するものである。学校ですす

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める道徳教育の内容を、よりわかりやすく伝えられるようにする工夫の一つである。

第3節 報告者の立場

報告者は、平成 22 年度に初任者として実習校に赴任し、これまで8年間、学級担任として児童への

直接的な指導に関わってきた。その間、平成 23~25 年度に道徳教育推進教師、平成 26 年度に校務分掌

の長、そして平成 27 年度に研究主任を担当した。特に平成 24 年度の第 43 回大阪府小学校道徳教育研

究大会では、会場校の道徳教育推進教師として、その運営と授業提案に力を尽くした。

また、その他様々な道徳の研究授業や授業公開に授業者として携わりながら、平成 25 年度大阪府教

育センター実践モデル授業公開、平成 27 年度大阪府道徳教育研修先進校実践報告などに尽力し、実践

を重ねてきた。

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第2章 「道徳科」の評価の実践

第1節 「道徳ノート」を活用した道徳科の評価

本校では、「道徳ノート」を活用した

道徳科の評価についても試行を進めてい

る。「道徳ノート」とは、児童の授業のふ

りかえり用のノートであり、本校独自

で、平成 27年度に作成、活用を進めてき

た。また平成 29年度からは寝屋川市全体

で統一したものが作成され、各校の道徳

の時間に活用されている。道徳の時間の

学習に自分が考えたことを記録することで、

学びが深まり、また教師も授業改善が進めや

すくなる。加えて、保護者のコメント欄を設

けたことで、家庭との連携を一層図ることが

できる。中には、同一内容項目の資料と比較

したり、それまでに学習した他の価値との関

連について考えを深めたりする児童の姿も見

られるようになった。

これらの評価に対する私たちの捉えは、すべて、「専門家会議報告」にもとづいている。それによれ

ば、道徳科における評価の在り方は、

が求められる、とされている。また、方向性については、

【図3 道徳ノートの活用方法】

(平成 27 年度本校地域公開授業資料から抜粋)

道徳教育全体計画( 及び別葉) 各学年年間計画      にもとづいて・・・

道徳の時間の実施

道徳ノ ート に ふりかえり を書く

家庭に持ち帰る 家族での対話

学校に持ってく る

教師がコメ ント を書く

教師のチェ ッ ク

授業の改善

道徳科の特質を踏まえれば、評価に当たって、

・ 数値による評価ではなく、記述式とすること

・ 個々の内容項目ごとではなく、大くくりなまとまりを踏まえた評価とすること

・ 他の児童生徒との比較による評価ではなく、児童生徒がいかに成長したかを積極的に受け止めて

認め、励ます個人内評価として行うこと

・ 学習活動において児童生徒がより多面的・多角的な見方へと発展しているか、道徳的価値の理解を

自分自身との関わりの中で深めているかといった点を重視すること

・ 道徳科の学習活動における児童生徒の具体的な取組状況を一定のまとまりの中で見取ること

(下線は報告者による)

【図2 寝屋川市道徳ノート】

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があるとされている。

第2節 石津小学校における「道徳科」の評価

(1)本校「道徳科」の評価

このような国の方針、そしてこれまでの本校の学びの蓄積受けて、今年度「道徳科の評価」の在り方と

方法について、以下のように提案したい

○ 指導要録においては当面、一人一人の児童生徒の学習状況や道徳性に係る成長の様子について、発言

や会話、作文・感想文やノートなどを通じて、

・ 他者の考え方や議論に触れ、自律的に思考する中で、一面的な見方から多面的・多角的な見方へと

発展しているか (自分と違う意見を理解しようとしている、複数の道徳的価値の対立する場面を多

面的・多角的に考えようとしている等)

・ 多面的・多角的な思考の中で、道徳的価値の理解を自分自身との関わりの中で深めているか

(読み物教材の登場人物を自分に置き換えて具体的に理解しようとしている、道徳的価値を実現

することの難しさを自分事として捉え考えようとしている等)

といった点に注目して見取り、特に顕著と認められる具体的な状況を記述する、といった改善を図る

ことが妥当。

○ 評価に当たっては、児童生徒が一年間書きためた感想文をファイルしたり、1 回 1 回の授業の中で全

ての児童生徒について評価を意識して変容を見取るのは難しいため、

年間 35 時間の授業という長い期間で見取ったりするなどの工夫が必要。

○ 道徳科における学習状況や道徳性に係る成長の様子の把握は、「各教科の評定」や「出欠の記録」等と

は基本的な性格が異なるものであることから、調査書に記載せず、

入学者選抜の合否判定に活用することのないようにする必要。(下線は報告者による)

石津小学校の『道徳科の評価』の在り方

(1)教師は、児童の「よりよく生きるための基盤となる道徳性」を養うために、絶えず、道徳科

や他教科の授業改善に努めるようにする。

(2)教師は、児童が、一面的な見方から多面的・多角的な見方へと発展できるように道徳科の

授業の中で、児童が異なる意見を互いに理解したり、複数の道徳的価値を関連付けたりする

場面を設定する。

(3)教師は、読み物教材の心情理解だけで終わる授業や、道徳的価値を一方的に押し付ける授業

から脱却し、児童が多面的・多角的な思考の中で、道徳的価値の理解を自分自身との関わり

の中で深められるような授業を展開するように努める。

(4)教師は、他の児童生徒との比較による評価ではなく、児童生徒がいかに成長したかを積極的

に受け止めて認め、励ます個人内評価をおこなう。

(5)教師は、「道徳科」の評価を学校の教育活動全体を通じておこなう道徳教育の評価と混同

しない。

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(2)道徳ノートを活用した評価に向けた実践

そして、これらの理念を体現するため、道徳科の評価には、寝屋川

市作成の道徳ノートを効果的に活用していく。道徳ノートは、児童が

毎時間の学びをふりかえり、その時間で自分は何を考えたのか、どの

ようなことが心に残ったのかを記述するものである。この中から、教

師が特に当該児童生徒がねらいとする価値について考えを深めるこ

とができたと捉えるものについて記録をし、道徳科の評価に活用す

る。(写真①)

その際、指導者である学級担任が、児童生徒の学力状況や様々な背

景を考慮した上で、評価を行うことが重要である。「きつねさんに道

をゆずってあげたくまさんはやさしいなと思いました」という 1 つ

の記述に対しても、どの児童がどのような状況の中でその記述をしたのかによって、その評価観は異な

る。学級の児童生徒について、より深く理解している存在である学級担任だからこそ、道徳科の評価が可

能であるのだという自覚をもって、指導にあたりたいものである。

反対に、道徳ノートを読んで、「ねらいとする価値に対する理解、

自覚が不十分である」と考えられるものについては、教師はコメント

を通して、より考えを深めさせるための手立てを講じる必要が

ある。(写真②)「ぼくは、おばあさんを見てどう思ったのかな?」

と問い返すことで、児童は再度思考をし始めると考えるのである。

さらに、道徳ノートでは児童が自らの成長を実感し、意欲の向上につなげていくために学期ごとに自身

の学びを振り返らせる。このことによって、特に心に残った学習を想起し、児童が今の自分、そして今後

の自己の在り方について立ち止まって考える様子も見られる。(写真③)

また、複数の資料、内容項目について比較しながら統合的に考える、同一内容項目をねらいとした教材、

学習を比較し合うことで、価値の自覚が深まるといった展望も開けつつある。(写真④)

【写真①】ねらいとする価値に

迫ることができたと考えられる例

【写真②】ねらいとする価値に対する

理解、自覚が不十分であり、教師が

コメントによって追って問うている例

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これらをもとに、指導要録及び通知表の所見記述に係る評価の観点についても検討を進めている。

今年度はまだ実施途中であるので、現時点では主に以下の2点が観点として考えられる。

①については、例えば「『よわむし太郎』では、涙をこぼして殿様の前に立ったときの場面を役割演

技して、太郎の気持ちを友だちに伝えていました。」「親切の大切さについて考えたとき、日常の学校生

活を思い出しながら、積極的に発言し、話し合いをおこなう内に考えを深めていきました。」のよう

に、学習に使用した教材やねらいとする価値について触れながら、児童の考えの深まりについて評価を

することが考えられる。(道徳ノートを活用した所見例は次項に示している。)一方、②については、

「2学期の道徳ノートをふりかえる中で、自分がこれまで考えてきたことを再度見つめなおし、『3学

期になりたい自分』を考えることにつなげることができました。」「『いただいたいのち』の学習では、

生命の有限性について深く考え、また『ヒキガエルとロバ』の学習では、生命の平等性についても意見

を述べるなど、命の尊さについて多様な考えを深めることができました。」のような記述が考えられ

る。

①年間の道徳科の学習において、その児童が特に考えを深められた授業に対する記述

②授業の積み重ねの中で(例えば、同一内容項目の授業間で)みられた変化や成長に対する記述

【写真④】学期ごとの振り返りの中で、これまでに学習した同じ内容項目の資料と比較等によって価値の自覚を深めようとしているもの

【写真③】1 学期全体を通しての

ふりかえり

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(3)道徳ノートを活用した所見文例

各学級で集めた道徳ノートを材料に、校内の教員で話し合いをおこない、道徳ノートの児童の記述内

容にもとづいて、通知表及び指導要録の文例を考えた。以下がその例である。

【所見】 資料について考えることを通して、自分

の友情についても考えることができていました。相手のことをよく知ることが互いの友情を深めるために大切な考え方であるということに気づき、実践しようとする姿が見られました。

【所見】 動物の命が人間の命と同様に大切なもの

であることに気づき、世界中のどんな命もたったひとつしかないかけがえのないものであるということについて、考えを深めることができました。

【所見】 自分のことを優先してしまうというこ

とについてふりかえりながら、生活の中で 礼節を重んじた行動ができると、自分も相手も気持ちが良くなることについて気づき、考えを深めることができました。

【所見】 感謝の心を持つということは、相手の思い

やりに気づくことにはじまるのだということについて深く考えることができました。また友だちの意見から、感謝の気持ちを持ち、自分には何かできないかを考えて実践することの大切さについて考えていました。

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第3章 総合考察 ~考え・議論する道徳の体現に向けて~

新学習指導要領が示す資質・能力の三つの柱と道徳科との関係については、道徳科の目標を三つの柱

に分節することはできないものとしながらも、①「何を理解しているか、何ができるか(知識・技

能)」については、「道徳的諸価値についての理解」②「理解していること・できることをどう使うか

(思考力・判断力・表現力等)」 については、「物事を(広い視野から)多面的・多角的に考え、自己

(人間として)の生き方についての考えを深

める」③「どのように社会・世界と関わり、

よりよい人生を送るか(学びに向かう力、人

間性等)」については、「よりよく生きるため

の基盤」、「自己を見つめ」、「自己(人間とし

て)の生き方についての考えを深める」とい

うようにそれぞれの部分を重視するといった

整理が考えられるとの見解が示された。(専門

家会議報告)

「評価」を考えることは、同時に我々の指導の在り方を考えることでもある。「指導と評価の一体

化」が言われて久しいが、評価の在り方について言及する機会が多くなるのに併せて、我々はこれまで

以上に自らの指導について、深い省察を進めていかねばならない。

今回、私たちは、道徳科の児童への評価を進める中で、それが自然と自らの指導の評価に結びついて

いることを経験し、理解することができた。日々の児童評価の積み重ねを通して、授業改善が進められ

たのである。例えば、ある教諭は、自分の学習指導の中で児童がねらいとする価値に対する考えを深め

きれないことから、自身の授業展開に課題を感じていた。そこで、指導の改善を継続した結果、板書も

時系列によるものから構造的な板書へと変化が見られるようになった。(次項写真)

【図4 学習指導要領改訂の方向性(文部科学省)】

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これらの教員の意識の変化によって、教

員間の対話も増え、「授業に対する相談が

しやすくなった」という若年教員もいる。

「この発問で悩んでいるんですけど」とい

うインフォーマルな場での学び合いの機会

も増えた。

今後、「考え・議論する道徳」への転換

にあたっても、児童生徒の学習形態の工夫

ばかりに着眼するのではなく、「道徳的諸

価値について理解する」「自己を見つめ

る」「物事を多面的・多角的に考える」「自

己の生き方について考えを深める」とい

う、これまで私たちが大切にしてきたこと

を、子どもたちが一つひとつの授業で着実

に進められるよう、再確認をすることが重要であると考える。その為には、我々教員自身が、道徳的諸

価値について真に理解し、学び続ける姿勢を持つことが前提であることは言うまでもない。

例えば「規則の尊重」について、子どもたちに特定の規範意識を押し付けたり、主体性を持たずに、

何かに従って行動するように指導したりすることは、我々のめざす道徳教育の方向の対極にあるもので

ある。「考え・議論する道徳」に向けても、我々がすべきなのは、「きまりを守らないことを客観的に批

判させる」、「きまりを守らせるための賞罰について話し合わせる」という授業ではない。「きまりは何

のためにあるのか」、「相手や周りの人とよりよい人間関係を築くために、私たちは何を大切にしていけ

ばよいのか」という道徳的価値の本質的な部分について、子どもたちがきまりを守る主体者として考え

を深めていけるような授業をめざすべきである。

今後、私たちは道徳科の完全実施に向けて、更なる実践と研究を進めていきたいと考えている。地域

授業公開についても、本校教員がその目的と意義を自らに問い直し、友呂岐中学校区3校の協働と、家

庭・地域との連携のために、力を尽くしていきたい。

特に評価については、研究が始まったばかりで、まだ十分な実践だとはいえないが、授業公開にご参

会の諸先生方からのご意見を頂戴し、一層の研鑽に励んでいく所存である。

(資料の時系列に沿った板書)

(構造的な板書)

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【参考・引用文献】

・文部科学省(2015)「小学校学習指導要領解説 特別の教科 道徳編」

http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2016/01/08/

1356257_4.pdf

・文部科学省(2016.7.22)道徳教育に係る評価等の在り方に関する専門家会議

「特別の教科 道徳」の指導方法・評価等について(報告)」

http://www.mext.go.jp/component/b_menu/shingi/toushin/__icsFiles/afieldfile/2016/08/15/1375482_

2.pdf

・「1~6年生の道徳」文渓堂

・赤堀博行・佐藤幸司 他(2017)「子どもを幸せにする『道徳科』」小学館

・永田繁雄(2017)「『道徳科』評価の考え方・進め方」教育開発研究所

・牧崎幸夫・広岡義之・杉中康平 編著(2015)『楽しく豊かな「道徳の時間」をつくる』横山利弘監修、

ミネルヴァ書房