2
高感度イムノクロマト法の開発と POC 診断への応用 研究成果活用プラザ石川における育成研究 平成 15 年度採択課題 「低侵襲型バイオ診断チップシステムの開発」 代表研究者:北陸先端科学技術大学院大学・ マテリアルサイエンス研究科・教授 民谷栄一 研究内容、研究成果 「低侵襲型バイオ診断チップシステムの開発」プロジェクトでは、健康管理や臨床診断をその場で迅速に行う、 或は一般人が簡便に行なえる自己診断システムなどの開発を目的として進められた。 具体的には、インフルエン ザや妊娠の迅速診断キットとして知られるイムノクロマトテストストリップ(イムノクロマト法)に注目し た。イムノクロマト法は、特別な測定機器を用いずとも目視で診断できる簡便な方法であり、医療分野だけ でなく、食品中のアレルゲン検査、微生物検査と使用範囲は拡大している。しかし、この方法は、一般に感 度が悪く測定できる対象が限られる欠点があった。そこで、本プロジェクトでは、感度の向上を実現する基 盤技術の開発を行なった。 イムノクロマト法は、テストストリップ上のテストラインと言われる部分に測定対象と金ナノ粒子で標識 された抗体が集積することによって金ナノ粒子が発色し測定対象を検出する方法である。金ナノ粒子の集積 の程度によって発色は変化する。そこで、本研究では、低濃度の測定対象でも金ナノ粒子の集積が効率よく 起こるようにテストライン上に予め、所定濃度の金ナノ粒子を固定して測定を行った。その結果、モデルと して行なったヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)の検出では、従来型イムノクロマトストリップでの検出限界 領域が 10.1 ng/mL であるのに対し、金ナノ粒子を予め固定した高感度イムノクロマトストリップでは 0.001 ng/mL までの領域で目視によるテストラインのシグナルを確認することができた。前立腺ガンのマー カーである前立腺ガン特異抗原(PSA)を用いた場合でも、従来型イムノクロマトストリップでは 2 ng/mL が検出限界であったのに対し、0.2 ng/mL までの範囲でテストラインの検知を確認することができた。PSA の検出では実際の患者の血清を用いて検査を行なったところ、従来の方法で作製したテストストリップより 感度よく、金ナノ粒子の発色が検知できた。 さらに、生活習慣病のマーカーとして期待されている血中の可溶型 RAGE(Endgeneous secretory RAGE:esRAGE)の測定にも適用した。 esRAGE は、糖尿病患者の血管障害発症、進展の予後の指標となるだけで なくメタボルックシンドロームの指標であるインスリン抵抗性、肥満などやアルツハイマー病にも関連する マーカーとなりうる事が示されている。実際の患者の血清を用いた測定では、感度の異なる3種類のイムノ クロマトテストストリップを用いて評価した。また、本プロジェクトでは、イムノクロマト法の技術を応用 した、臨床現場で用いられているピペットチップで測定可能なバイオ診断チップも開発し特許の出願を行な っている。これらの成果での特許も含めて、研究成果として 4 件の特許を出願するに至った。 今後の展開、将来の展望 本プロジェクトで開発した高感度イムノクロマトテストストリップの技術は、健康医療分野だけでなく、 食の安全や環境保全などを目的とした簡便な測定システムとして期待できる。現在、本基盤技術の開発を連 携して進めた(有)バイオデバイステクノロジー社が仲介し、その事業化を外部協力企業と連携して進めて いる。

高感度イムノクロマト法の開発とPOC 診断への応用...高感度イムノクロマト法の開発とPOC診断への応用 研究成果活用プラザ石川における育成研究

  • Upload
    others

  • View
    0

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: 高感度イムノクロマト法の開発とPOC 診断への応用...高感度イムノクロマト法の開発とPOC診断への応用 研究成果活用プラザ石川における育成研究

高感度イムノクロマト法の開発と POC診断への応用 研究成果活用プラザ石川における育成研究 平成15年度採択課題

「低侵襲型バイオ診断チップシステムの開発」

代表研究者:北陸先端科学技術大学院大学・

マテリアルサイエンス研究科・教授 民谷栄一

研究内容、研究成果

「低侵襲型バイオ診断チップシステムの開発」プロジェクトでは、健康管理や臨床診断をその場で迅速に行う、

或は一般人が簡便に行なえる自己診断システムなどの開発を目的として進められた。具体的には、インフルエン

ザや妊娠の迅速診断キットとして知られるイムノクロマトテストストリップ(イムノクロマト法)に注目し

た。イムノクロマト法は、特別な測定機器を用いずとも目視で診断できる簡便な方法であり、医療分野だけ

でなく、食品中のアレルゲン検査、微生物検査と使用範囲は拡大している。しかし、この方法は、一般に感

度が悪く測定できる対象が限られる欠点があった。そこで、本プロジェクトでは、感度の向上を実現する基

盤技術の開発を行なった。

イムノクロマト法は、テストストリップ上のテストラインと言われる部分に測定対象と金ナノ粒子で標識

された抗体が集積することによって金ナノ粒子が発色し測定対象を検出する方法である。金ナノ粒子の集積

の程度によって発色は変化する。そこで、本研究では、低濃度の測定対象でも金ナノ粒子の集積が効率よく

起こるようにテストライン上に予め、所定濃度の金ナノ粒子を固定して測定を行った。その結果、モデルと

して行なったヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)の検出では、従来型イムノクロマトストリップでの検出限界

領域が 1〜0.1 ng/mL であるのに対し、金ナノ粒子を予め固定した高感度イムノクロマトストリップでは

0.001 ng/mL までの領域で目視によるテストラインのシグナルを確認することができた。前立腺ガンのマー

カーである前立腺ガン特異抗原(PSA)を用いた場合でも、従来型イムノクロマトストリップでは 2 ng/mL

が検出限界であったのに対し、0.2 ng/mL までの範囲でテストラインの検知を確認することができた。PSA

の検出では実際の患者の血清を用いて検査を行なったところ、従来の方法で作製したテストストリップより

感度よく、金ナノ粒子の発色が検知できた。

さらに、生活習慣病のマーカーとして期待されている血中の可溶型 RAGE(Endgeneous secretory

RAGE:esRAGE)の測定にも適用した。esRAGEは、糖尿病患者の血管障害発症、進展の予後の指標となるだけで

なくメタボルックシンドロームの指標であるインスリン抵抗性、肥満などやアルツハイマー病にも関連する

マーカーとなりうる事が示されている。実際の患者の血清を用いた測定では、感度の異なる3種類のイムノ

クロマトテストストリップを用いて評価した。また、本プロジェクトでは、イムノクロマト法の技術を応用

した、臨床現場で用いられているピペットチップで測定可能なバイオ診断チップも開発し特許の出願を行な

っている。これらの成果での特許も含めて、研究成果として4件の特許を出願するに至った。

今後の展開、将来の展望

本プロジェクトで開発した高感度イムノクロマトテストストリップの技術は、健康医療分野だけでなく、

食の安全や環境保全などを目的とした簡便な測定システムとして期待できる。現在、本基盤技術の開発を連

携して進めた(有)バイオデバイステクノロジー社が仲介し、その事業化を外部協力企業と連携して進めて

いる。

Page 2: 高感度イムノクロマト法の開発とPOC 診断への応用...高感度イムノクロマト法の開発とPOC診断への応用 研究成果活用プラザ石川における育成研究

研究体制

代表研究者

北陸先端科学技術大学院大学 マテリアルサイエンス研究科 教授 民谷 栄一

研究者

山本博(金沢大学医学系研究科)、並木幹夫(金沢大学医学系研究科)、渡辺琢夫(金沢大学医学系研究

科)、高栄哲(金沢大学医学系研究科)、米倉秀人(金沢大学医学系研究科、現・金沢医科大学)、小中弘

之(金沢大学医学系研究科)、永谷尚紀(JST、現・岡山理科大学)、由比光子(JST)、李慧(JST)、牛島

ひろみ(バイオデバイステクノロジー)

共同研究機関

金沢大学大学院医学系研究科循環医科学専攻、金沢大学大学院医学系研究科がん医科学専攻、日本ミリ

ポア株式会社、第一ファインケミカル株式会社、株式会社テクノメディカ、有限会社バイオデバイステ

クノロジー

研究期間

平成15年10月 ~ 平成18年9月

コンジュゲートパッド テストライン

コントロールライン吸収パッド

捕捉抗体 コントロール用抗体

標識抗体

抗原

未反応抗体

抗原・抗体複合体

コンジュゲートパッドに試料を滴下する

コンジュゲートパッドの抗体が抗原と反応し、メンブレン上を展開する。

テストライン上に金ナノ粒子が集積する事によって赤く発色する。しかし、ある程度の濃度以上にならないと目に見えて発色しない。

通常法高感度法

テストライン上に金ナノ粒子を発色しない程度に固定する。通常法より少ない金ナノ粒子の集積で発色する。

0 0.5

12

581020

50

Fig ピペットチップ型イムノセンサー

0

50

1000 100 Control

従来型ストリップ

金ナノ粒子固定化トリップ(1

従来法

40

30

20Inte

nsity

10

10 1Concentration of hCG (pg/ml)

高感度法

0

10

20

30

40

50

60

70

80

5 1 0.5

PSA (ng/ml)

Den

sity

(A

.U)

従来法

抗体量 66%

抗体量 50%

抗体量 33%

抗体量66%

5 1 0.5(ng/ml)

抗体量50%

Test line

Control line

5 1 0.5(ng/ml)

従来法

5 1 0.5(ng/ml)

抗体の低減

従来法 高感度法

テストライン

コントロールライン

1000 1000 10 10 Control Control100 1 1 100

(pg/ml) (pg/ml)hCGの測定