4
- P 56 - 研究ノート 長野県工技センター研報 No.9, p.P56-P59 (2014) 接触式三次元測定機のプローブキャリブレーション に関する考察 田中敏幸* 1 江口穫正* 1 Study on Probe Calibration of Contact Coordinate Measuring Machine Toshiyuki TANAKA and Kakumasa EGUCHI 接触式三次元測定機のプローブキャリブレーションの方法による測定結果への影響について,実験 と考察を行った。プローブキャリブレーションの条件を変え,球測定,点測定を行うことで,測定結 果への影響を調べた。その結果,キャリブレーション時のプロービング方向と,測定時のプロービン グ方向に関があることなど,測定結果についてのいくつかの知見を得た。 キーワード:三次元測定機,キャリブレーション,プロービング,測定偏差 1 はじめに はじめに はじめに はじめに 近年,非接触式の三次元測定機はさまざまなタイプの ものが開発され,その手軽さ,迅速性等の利点により, 産業界で大きな役割を果たすようになっている。一方で, 接触式三次元測定機には,汎用性,安定性等の優位点が あり,非接触測定機のマスタ的存在となるなど,特に高 精度を要する場面では,確固たる地位を維持している。 接触式三次元測定機において,高精度な測定を行うに は,プローブのキャリブレーションを切に行うことが 必須である。 プローブのキャリブレーションは,校正球の半球から 均等にプロービングポイントを択するのが原則である が,複数のスタイラスをセットで使用するマルチスタイ ラスの場合,校正球のシャンクとの干渉をけるため, 均等なプロービングポイントによるキャリブレーション ができないことがある。 キャリブレーションのプロービングポイントは,多く の場合, 5点または25点から択でき, 25点は斜め方向か らのプロービングに対してもキャリブレーションを行う。 これまでの経験から,校正球の姿勢とキャリブレーシ ョン点数の組み合わせにより,測定結果に差異が出るこ とがわかっている。また, 25点よりも, 5点でのキャリブ レーションの方が,結果がよいと思われることもあり, 高精度な測定のために,この関係を明らかにしたい。 キャリブレーションの条件による測定結果への影響に ついて,実験と考察を行ったので報告する。 2 測定機 測定機 測定機 測定機 2.1 2.1 2.1 2.1 三次元測定機 三次元測定機 三次元測定機 三次元測定機 表1に,実験に使用した三次元測定機の仕様を示す。 本稿でのXYZの方向は,すべて測定機の機械座標に おける方向とする。 2.2 2.2 2.2 2.2 校正球 校正球 校正球 校正球 1に校正球を示す。校正球は,保持スタンドへの取 メーカ Hexagon Metrology GmbH LEITZ Dev. 型式 PMM-C 12.10.7 測定範囲 1200×1000×700mm 測定精度 MPEE=(0.6+L/800)μm MPEP=0.6μm プローブ ならいプローブ ソフトウェア QUINDOS 7 表1 三次元測定機仕様 * 測定 図1 校正球 表1 三次元測定機仕様 メーカ Hexagon Metrology GmbH LEITZ Dev. 型式 PMM-C 12.10.7 測定範囲 1200×1000×700mm 測定精度 MPEE=(0.6+L/800)μm MPEP=0.6μm プローブ ならいプローブ ソフトウェア QUINDOS 7 * 1 測定

接触式三次元測定機のプローブキャリブレーション …...- P 56 - 研究ノート 長野県工技センター研報 No.9, p.P56-P59 (2014) 接触式三次元測定機のプローブキャリブレーション

  • Upload
    others

  • View
    1

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: 接触式三次元測定機のプローブキャリブレーション …...- P 56 - 研究ノート 長野県工技センター研報 No.9, p.P56-P59 (2014) 接触式三次元測定機のプローブキャリブレーション

- P 56 -

研究ノート 長野県工技センター研報

No.9, p.P56-P59 (2014)

接触式三次元測定機のプローブキャリブレーション

に関する考察

田中敏幸*1 江口穫正*1

Study on Probe Calibration of Contact Coordinate Measuring Machine Toshiyuki TANAKA and Kakumasa EGUCHI

接触式三次元測定機のプローブキャリブレーションの方法による測定結果への影響について,実験

と考察を行った。プローブキャリブレーションの条件を変え,球測定,点測定を行うことで,測定結

果への影響を調べた。その結果,キャリブレーション時のプロービング方向と,測定時のプロービン

グ方向に関連があることなど,測定結果についてのいくつかの知見を得た。

キーワード:三次元測定機,キャリブレーション,プロービング,測定偏差

1111 はじめにはじめにはじめにはじめに

近年,非接触式の三次元測定機はさまざまなタイプの

ものが開発され,その手軽さ,迅速性等の利点により,

産業界で大きな役割を果たすようになっている。一方で,

接触式三次元測定機には,汎用性,安定性等の優位点が

あり,非接触測定機のマスタ的存在となるなど,特に高

精度を要する場面では,確固たる地位を維持している。

接触式三次元測定機において,高精度な測定を行うに

は,プローブのキャリブレーションを適切に行うことが

必須である。

プローブのキャリブレーションは,校正球の半球から

均等にプロービングポイントを選択するのが原則である

が,複数のスタイラスをセットで使用するマルチスタイ

ラスの場合,校正球のシャンクとの干渉を避けるため,

均等なプロービングポイントによるキャリブレーション

ができないことがある。

キャリブレーションのプロービングポイントは,多く

の場合,5点または25点から選択でき,25点は斜め方向か

らのプロービングに対してもキャリブレーションを行う。

これまでの経験から,校正球の姿勢とキャリブレーシ

ョン点数の組み合わせにより,測定結果に差異が出るこ

とがわかっている。また,25点よりも,5点でのキャリブ

レーションの方が,結果がよいと思われることもあり,

高精度な測定のために,この関係を明らかにしたい。

キャリブレーションの条件による測定結果への影響に

ついて,実験と考察を行ったので報告する。

2222 測定機測定機測定機測定機

2.12.12.12.1 三次元測定機三次元測定機三次元測定機三次元測定機

表1に,実験に使用した三次元測定機の仕様を示す。

本稿でのX,Y,Zの方向は,すべて測定機の機械座標に

おける方向とする。

2.22.22.22.2 校正球校正球校正球校正球

図1に校正球を示す。校正球は,保持スタンドへの取

メーカ Hexagon Metrology GmbH

LEITZ Dev.

型式 PMM-C 12.10.7

測定範囲 1200×1000×700mm

測定精度 MPEE=(0.6+L/800)μm

MPEP=0.6μm

プローブ ならいプローブ

ソフトウェア QUINDOS 7

表1 三次元測定機仕様

* 測定部 図1 校正球

表1 三次元測定機仕様

メーカ Hexagon Metrology GmbH

LEITZ Dev.

型式 PMM-C 12.10.7

測定範囲 1200×1000×700mm

測定精度 MPEE=(0.6+L/800)μm

MPEP=0.6μm

プローブ ならいプローブ

ソフトウェア QUINDOS 7

*1 測定部

Page 2: 接触式三次元測定機のプローブキャリブレーション …...- P 56 - 研究ノート 長野県工技センター研報 No.9, p.P56-P59 (2014) 接触式三次元測定機のプローブキャリブレーション

- P 57 -

り付け位置を変えることにより,鉛直上方,水平,斜め

45゚ 上方の3姿勢に支持でき,また,スタンドの設置方向

を変えることにより,水平方向には自由な方向で支持で

きる。

校正球の校正値は,24.9999mmである。

3333 実実実実 験験験験

3.13.13.13.1 球測定球測定球測定球測定

キャリブレーション条件の違いによる測定結果への影

響を検討するため,キャリブレーションとスタイラスの

条件を変え,球の測定を行った。球はキャリブレーショ

ンに用いた校正球を使用した。

スタイラスは,φ5-L60mmを用い,長さの異なるエク

ステンションにより長さを延長した。エクステンション

の長さは,0(エクステンションなし),20,50,100,200mm

の5種である。スタイラスの取り付け方向は,-Z方向とし

た。

校正球を+Z方向にセットし,校正球の+Z半球で,5点

および25点の,それぞれの点数でキャリブレーションを

行った。この姿勢では,校正球のシャンクによるプロー

ビングの制約はなく,+Z半球がほぼ均等にプロービング

できる。

球測定の測定点は,ソフトウェアの測定点数モードの

選択により自動生成されるが,同じモードでも球の測定

範囲により生成される測定点数が異なる。ここでは,1

本のスタイラスで測定できるほぼ最大範囲の,+Z半球に

ついて,少ない方から3種類のモードを選択し,自動生成

された5,15,29点の測定点で球測定を行った。5点以外

はキャリブレーション時とは測定点が異なるが,通常使

用時に準じた設定とした。5点のキャリブレーションにお

けるプロービングポイントは,半球の頂点1点と赤道上の

±X,±Y方向4点であり,5点キャリブレーションにおけ

るポイントと同一である。25点の場合は,頂点1点を含む

ほぼ半球をおおよそ均等に分布させる点であり,赤道上

の±X,±Y方向のポイントは,必ずしも含まれない。

球の測定における上記条件をまとめると,次のとおり。

・校正球の姿勢

+Z方向

・エクステンションの長さ

0(エクステンションなし),20,50,100,200mm

・キャリブレーションの点数

5点,25点

・球測定点数

5,15,29点

これらの条件すべての組み合わせ,計30種の条件で球

の測定を行った。

3.23.23.23.2 点測定点測定点測定点測定

マルチスタイラス等,測定時のプロービング方向に,

キャリブレーション時のプロービングが行われない場合

の影響を検討するため,条件の違うキャリブレーション

を行ったマルチスタイラスを用い,方向の違う平面の点

測定を行うことで,各面の面方向の座標値を測定した。

マルチスタイラスは,図2のような,-Z方向の下出し1

本と,±X,±Y方向の横出し4本の計5本構成とした。

200mmのエクステンションの先にキューブを介し,下出

しはφ8-L90mm,横出しはφ8-L180mmのスタイラスを用い

た。

マルチスタイラスのキャリブレーションは,ひとつの校正球

を図3のような+Z,+X,-Y方向の3種の姿勢に向け,各

姿勢について,スタイラスの方向を頂点とする校正球の

半球から5点および25点のそれぞれで行った。一回のキャ

リブレーションは,5本のスタイラスすべてで同一条件と

した。キャリブレーション時のプロービングポイントは,

ソフトウェアにより半球内でほぼ均等に割り振られ,校

正球のシャンクとの干渉が発生する方向の場合は,干渉

図2 マルチスタイラス

図4 立方体ゲージ

図3 校正球の姿勢

+X

+Y

+Z

機械座標

-Y方向

+Z 方向

+X方向

Page 3: 接触式三次元測定機のプローブキャリブレーション …...- P 56 - 研究ノート 長野県工技センター研報 No.9, p.P56-P59 (2014) 接触式三次元測定機のプローブキャリブレーション

- P 58 -

を避ける範囲でほぼ均等に割り振られる。

平面の測定は,機械座標とほぼ平行においた図4のよう

な立方体ゲージを用いた。下出しのスタイラスで座標系

をつくり,各スタイラスで順次立方体ゲージの各面上の

ほぼ同一点を点測定し,面方向の座標を測定した。スタ

イラスの方向と立方体ゲージの面の方向が同じ場合およ

び,キャリブレーション時にスタイラスの方向と校正球

の方向が同じになる場合は,測定またはキャリブレーシ

ョンが不可能のため,測定は行わなかった。

点測定における上記条件をまとめると,次のとおり。

・マルチスタイラス

下出し1本,横出し4本の計5本構成

・校正球の姿勢

+Z,+X,-Y方向

・キャリブレーションの点数

5点,25点

これらの条件すべての組み合わせ,計6種の条件で,立

方体ゲージの-Z方向以外の5つの平面の点測定を行った。

4444 結果及び考察結果及び考察結果及び考察結果及び考察

4.14.14.14.1 球測定球測定球測定球測定

図4に,エクステンションの長さとキャリブレーション

時のディフレクション値の関係を示す。ディフレクショ

ン値は,プロービング時のスタイラスの変形の大きさを

表す係数である。図4から,エクステンションが長くなる

と,ディフレクション値が大きくなり,スタイラスのた

わみが大きくなっていることがわかる。

図5に,球の測定偏差の結果を示す。

キャリブレーションの点数によらず,球の測定点数が

多くなると,測定偏差が大きくなることがわかる。エク

ステンション長さに対する測定偏差の増加の傾向はディ

フレクションの傾向と同様であり,測定偏差はディフレ

クション値の大きさに関係すると考えられる。

球の測定点数が多い場合,キャリブレーションは5点よ

り25点の方が測定偏差の増加が少ない。一方,球の測定

点数が5点の場合は,キャリブレーションも5点の方が測

定偏差が小さい。

このことから,球の測定点数が多く,斜め方向からの

プロービングも行われる場合は,キャリブレーションに

おいても同様なプロービングが行われる25点の方がたわ

(a) 5点キャリブレーション (b) 25点キャリブレーション

図5 球の測定偏差

(a) 5点キャリブレーション (b) 25点キャリブレーション

図6 球の直径

0

1

2

5点

15点

29点

5点

15点

29点

5点

15点

29点

5点

15点

29点

5点

15点

29点

0mm 20mm 50mm 100mm 200mm

エクステンション長さ、球測定点数

測定

偏差

m)

0

1

2

5点

15点

29点

5点

15点

29点

5点

15点

29点

5点

15点

29点

5点

15点

29点

0mm 20mm 50mm 100mm 200mm

エクステンション長さ、球測定点数

測定

偏差

m)

24.9987

24.9999

25.0011

5点

15点

29点

5点

15点

29点

5点

15点

29点

5点

15点

29点

5点

15点

29点

0mm 20mm 50mm 100mm 200mm

エクステンション長さ、球測定点数

直径

(m

m)

24.9987

24.9999

25.0011

5点

15点

29点

5点

15点

29点

5点

15点

29点

5点

15点

29点

5点

15点

29点

0mm 20mm 50mm 100mm 200mm

エクステンション長さ、球測定点数

直径

(m

m)

図4 エクステンション長さとディフレクション値

0.0

0.5

1.0

0 20 50 100 200

エクステンション長さ(mm)

ディ

フレ

クシ

ョン

Page 4: 接触式三次元測定機のプローブキャリブレーション …...- P 56 - 研究ノート 長野県工技センター研報 No.9, p.P56-P59 (2014) 接触式三次元測定機のプローブキャリブレーション

- P 59 -

みの補正効果が現れ,逆に球の測定とキャリブレーショ

ンでのプロービングポイントが同一となる5点どうしの

場合は,測定偏差の小さい安定した測定が行われると考

えられる。

図6に,球の直径の測定結果を示す。縦軸の24.9999mm

は校正球の校正値であり,球の測定値として期待される

値である。

いずれの条件でも,測定点数が多くなると直径値が大

きくなっているが,測定点数とキャリブレーション点数

が近い方が,校正値の24.9999mmに近い値となっている。

特に,球の測定とキャリブレーションが5点どうしの場合

は,エクステンション長さにかかわらず,期待される

24.9999mmの測定値となっており,精度よく測定が行わ

れたことがわかる。

以上より,測定時のプロービング方向を考慮したキャ

リブレーションが大切と考えられ,25点よりも5点のキャ

リブレーションの方がよい結果が得られる場合もあるこ

とがわかる。

4.24.24.24.2 点測定点測定点測定点測定

図7及び図8に,測定結果の一部を抜粋する。図は下向

きスタイラスの測定値を基準として,他のスタイラスで

の各面の測定値の偏差を表している。

図から,全体として25点でのキャリブレーションによ

る測定値は,5点のものに比べ安定していることがわかる。

また,校正球が-Y方向で5点キャリブレーションした場合

の,+X面,-X面の値も比較的安定しているのに対し,校正

球が+X方向の5点の場合は,測定値に大きな偏差が見られ,

その方向も面の向きによって反対となっている。このことは,

上図以外の±Y面,+Z面でも同様の結果となっている。

5点キャリブレーション時の偏差が大きくなる校正球

が+X方向の場合,キャリブレーション時に校正球のシャンク

と干渉する-X方向にプロービングできず,この方向のたわみ

量が精度よく算出できないため,偏差が大きくなるものと推測

される。このことは,他の校正球の姿勢でも同様と考えられ

る。

5555 おわりにおわりにおわりにおわりに

プローブキャリブレーションの方法による測定結果へ

の影響について,実験を行い,次のことがわかった。

(1) 測定偏差はスタイラスのたわみ量に関係すると考え

られる。

(2) キャリブレーション時と測定時のプロービング方向

の差異により,測定結果に違いが現れる。

(3) 上記のため,キャリブレーションは25点より5点の方

がよい結果が得られることもある。

(4) キャリブレーション時にプロービングできない方向

は,測定誤差が大きくなりやすいため,測定時のプ

ロービング方向を考慮したキャリブレーションが

必要である。

マルチスタイラスのキャリブレーションでは,キャリ

ブレーション時にプロービングできない方向を持つスタ

イラスが発生するのは,避けられないことも多く,この

ことが測定精度の低下を引き起こすと考えられる。姿勢

の違う複数の校正球を用いることで,このことを回避で

きる可能性も考えられ,今後の検討課題である。

(a) +X面 (b) -X面

図8 校正球 +X 方向

-10

0

10

-Z +X +Y -X -Y -Z +X +Y -X -Y

5点 25点

キャリブレーション点数、スタイラス方向

偏差

m)

-10

0

10

-Z +X +Y -X -Y -Z +X +Y -X -Y

5点 25点

キャリブレーション点数、スタイラス方向偏

差(μ

m)

-10

0

10

-Z +X +Y -X -Y -Z +X +Y -X -Y

5点 25点

キャリブレーション点数、スタイラス方向

偏差

m)

-10

0

10

-Z +X +Y -X -Y -Z +X +Y -X -Y

5点 25点

キャリブレーション点数、スタイラス方向

偏差

m)

(a) +X面 (b) -X面

図7 校正球 –Y 方向