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【考察】 バランスを評価する方法は多数の方法が立案され
ているが , 動的バランス機能を簡便に評価できるこ
とから今回は FRT を採用した .FRT は高齢者のバ
ランスを測定するパフォーマンステストとして開発さ
れたものであり, 臨床でも幅広く活用されている評
価法である 6). 先行文献では主に高齢者を対象とし
た研究が多く, 小中学生を対象とした FRT の研究
はあまり多くない .
本研究では, FRT の結果が良い生徒は長座体前屈
あるいは持久走の結果が良いという結果が得られた .
1. FRTと長座体前屈の関係
外乱に対する重心動揺距離は足関節背屈 , 股関節
屈曲可動域に相関がみられ ,可動域の低下は姿勢の
不安定さに繋がる 7)とされ, FRT 動作中に足関節 ,
股関節などの下肢柔軟性が必要であると考えられ
る . 結果として FRT の成績が良い者は下肢柔軟性が
優れており, 長座体前屈の結果が良いと推察された .
2. FRTと持久走の関係
ランニング動作においては ,骨盤後傾位を呈すると
前方推進効率が低下する 8)との報告や, 長距離走に
おいて重心を高くした走行フォームは記録の向上に有
用である 9)と報告があり,これらの見解は脊柱安定性
が優れ ,骨盤前位を保つ機能が高い者ほどランニン
グの成績が良いことを示唆している.また, FRT 動作
においてリーチ動作の最終域における体幹前傾を制
御しているのは多裂筋の活動によるものが大きい10)と
報告がある .これら先行研究から,FRT 動作には多
裂筋による骨盤前傾位を保つ機能や, 脊柱安定性が
必要であり, 結果として FRT の成績が良い者は持久
走の結果が良いと推察された .
3. 長座体前屈と持久走の関係
本研究の結果では , 長座体前屈と持久走の結果に
関連性は認められなかった .この結果から身体柔軟
性と脊柱安定性は中学生の身体機能を構成する上で
別々の要素であることが推察され , 身体柔軟性が優
れているだけでは脊柱安定性が良いとは言えず,その
逆も同じであることが考えられた .このことから,中学
生のリハビリテーションにおいて双方の評価・アプロ
ーチが必要であると思われる.
本研究からFRT を測定する意義として, 高齢者に
対しては歩行速度や転倒のリスクを評価するものとし
てのツールであり 4) 中学生に対しては ,下肢柔軟性や
脊柱安定性を評価するツールとして本テストを活用で
きるのではないかと考えられた . ただし , 本研究から
では FRT の結果を一見しただけで下肢柔軟性と脊柱
安定性のどちらが優れているかを判定することは難し
く,今後の検討が必要である.
【参考文献】1)文部科学省体育局 . 新体力テスト実施要項 .
2)篠原崇志 , 安藤正和 , 米倉伸樹ら . 思春期にお
ける運動機能とケガの関係性 . 東海スポーツ障
害研究会会誌 Vol.35 (Dec.2017)
3)Duncan PW,Weiner DK Chandler J, et
al:Functional reach,a new clinical masure
of balance.Gerontol,1990,45(VI):192-197
4)松澤正 . 理学療法評価学 改訂第 3 版 . 東京 :
金原出版株式会社 2011.155
5)大木雄一 , 曽根理 . 脳卒中片麻痺者におけるフ
ァンクショナルリーチを用いた屋外歩行自立可能
性を判断する一指標 -カットオフ値の検討及び
地域在住高齢者との比較 .( 第 42 回日本理学療
法学術大会 抄録集 )
6)前岡浩 , 金井秀作 , 坂口顕ほか .Functional
Reach Test に影響を与える因子 - 身長 , 年齢 ,
足圧中心点 , 体幹前傾角度及び歩行速度による
検証 -. 理学療法学 21(2):197-200,2006
7)岡田修一 , 平川和文 , 浅見高明 . 高齢者の加速
度外乱に対する姿勢保持能力と行動体力及び日
常動作能力との関係 . 教育医学 ,1999,44(3):
549-563
8)小林寛和 , 宮下浩二 , 藤堂庫治 . スポーツ動作
と安定性 - 外傷発生に関係するスポーツ動作の
特徴から - 関西理学 3:49-57,2003
9)是石直文 . 長距離走における記録向上が , 走フ
ォームに及ぼす影響について- 男子高校生を例
に -.MEMOIRS OF SHONAN INSTTIUTE
OF TECHNOLOGY Vol.48 No.1 2019
10)佐々木賢太郎 , 神谷晃央 , 小林聖 .ファンクシ
ョナル・リーチ動作の筋電図学的解析 . 理学療
法科学 24(6):813-816,2009
東海スポーツ傷害研究会会誌:Vol.37(Dec.2019)
当院におけるアメリカンフットボール選手のメディカルチェック
【はじめに】 アメリカンフットボールは激しいコンタクトを伴うス
ポーツであり, 外傷や障害が数多く発生する1).
当院では平成 29 年よりスポーツ外来を開設した .
スポーツ選手のサポートの一環として, 大学生及び社
会人アメリカンフットボール選手を対象とし , メディカ
ルチェックを行った .
今回当院におけるメディカルチェックの実施内容に
ついて報告する .
【対象】 対象は東海 2 部所属の大学アメリカンフットボー
ル選手16 名(平均年齢 19.8±1.1 歳)と X リーグ所
属社会人アメリカンフットボール選手 9 名(平均年齢
27.8±4.4 歳)である.
【方法】 メディカルチェックとして,アンケート調査 , 身体所
見・検査を実施した .その後フィードバックとして, スト
レッチ・エクササイズ指導を実施し, 必要に応じて 2
次検診として医療機関の受診を促した .
1)アンケート調査
事前にアンケート用紙を配布し, メディカルチェック
当日に回収した . 下記の領域に関してアンケート調査
を実施した .
(1) 整形外科(既往歴 , 頸腰部痛 , バーナー症候群),
(2) 内科(既往歴 , 家族歴),
(3) 脳神経外科(頭痛 , 脳震盪)
Key words: アメリカンフットボール (American football), メディカルチェック(Medical checkup), アンケート調査 (Questionnaire survey)
医療法人宏友会竹内整形外科・内科クリニック リハビリテーション科鬼頭明裕 池田潤一 山下桂司 山口秀仁
田村恵美 天木 充 戸田遼太 安楽岡みなみ 竹内宏幸
名古屋市立大学 整形外科吉田雅人
2)身体検査
医師 , 検査技師 , 放射線技師 , 理学療法士により
実践した .
(1) 身長 ,(2) 体重 ,(3) 体脂肪率 ,(4) 心電図 ,(5) 頚椎レ
ントゲン(アライメント, 狭窄症の有無),(6) 血液検査
(肝機能 , 血中脂質)
3)身体所見
医師 , 理学療法士により実践した .
(1) 関節可動域測定
①頚椎(屈曲 , 伸展 , 回旋), ②体幹(回旋), ③股
関節(屈曲 , 内旋 , 外旋), ④肩関節(2nd 内旋・外
旋 ,3rd 内 旋・外旋 , 伸展 ,Combined Abduction
Test(CAT)¹),Horizontal Test(HFT)¹)).
(2) 胸郭出口症候群のテスト
① Morley test, ② Roos test, ③ Wright test
(3) 頚椎症神経根症状誘発テスト
① Jackson test, ② Spurling test
(4)下肢体幹タイトネス
① Straight Leg Raising(SLR) 角度 , ② Heel Buttock
Distance(HBD), ③ Finger Floor Distance(FFD), ④
しゃがみこみテスト
(5) その他
① Trunk rotation test, ② Dynamic Trendelenburg
【フィードバック】 選手・指導者に対して,フィードバック用紙(図1)
を配布した .アンケート及び頚椎レントゲンの結果か
ら,ABC の 3 段階で評価し, 精密検査が必要と思わ
東海スポーツ傷害研究会会誌:Vol.37(Dec.2019)
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図1:フィードバック用紙
図 1 : フ ィ ー ド バ ッ ク 用 紙
れる場合,医療機関の受診を促した.また,アンケート
と身体所見・検査の結果から,ストレッチ,エクササイ
ズ指導実施した.
東海スポーツ傷害研究会会誌:Vol.37(Dec.2019)
【考察】 アメリカンフットボールは , 激しいコンタクトを繰り
返すことから多くの障害が発生するスポーツである 2~4).
そのため脳震盪や頸部外傷のリスクが高い 2). 近年特
に脳震盪後症候群や慢性外傷性脳症などの報告 5) も
あり,注目されている. 脳震盪に関しては, 真木ら6) は ,
重大な問題だと選手が理解していないと報告している.ま
た , 萩野 6) は , 一瞬意識を失うのが脳震盪であると
誤解されていることが多いと報告している.今回のメ
ディカルチェックでは , バーナー症候群を含む整形外
科領域のみならず, 突然死予防として内科領域 , 脳
震盪の予防として脳外科領域も含めて実践した . 一
方,アメリカンフットボールの外傷では , 岸本ら7) は ,
足関節靭帯損傷 , 膝関節靭帯・半月板損傷が多か
ったと報告し , 藤谷ら 8) は , 膝関節靭帯損傷 , 足
関節靭帯損傷 , 脳震盪が多かったと報告している .
【まとめ】 大学生及び社会人男子アメリカンフットボール選手
のメディカルチェックを行った . 当院におけるメディカ
ルチェックの実施内容について報告した .今後は実施
項目の再検討や脳震盪の予防 , 啓蒙活動を含めたフ
ィードバックの充実を図りたい .
【謝辞】 事前アンケートを作成するにあたり, 北里研究所病
院整形外科スポーツクリニックの月村泰規先生に御協
力をいただき, 心より御礼申し上げます.
【文献】1)原正文:投球障害肩患者に対する診察と病態把
握のポイント MB Orthop,2007,7:29-38
2)阿部均ら:アメリカンフットボール,ラグビー選手
の頭部外傷について, 日本整形外科スポーツ医学
会誌 1991:10,55-59.
3)阿部均:頸部の痛み . 臨床スポーツ医学 1997:
14(10),1097-1101.
4)岸谷勲:日本におけるラグビー外傷の統計. 臨床
スポーツ医学 1989:6(8),863-868.
5)萩野雅宏:スポーツによる頭部外傷の発生状況 .
日本医事新報 ,2017;4859:26-29
6)真木真一ほか:大学アメリカンフットボール選手の
脳震盪発生率と危険因子. 臨床スポーツ医学 ,
2014;22,521
7)岸本ほか:大学アメリカンフットボールチームにお
ける1999 年から2008 年までの障害発生状況 .
臨床スポーツ医学 ,2012;20,24-31
8)藤本ほか:関東大学アメリカンフットボール秋季
公式戦における過去 20 年間 (1991-2010) の外傷
について. 臨床スポーツ医学 ,2012;20,550-556
東海スポーツ傷害研究会会誌:Vol.37(Dec.2019)
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図1:フィードバック用紙
図 1 : フ ィ ー ド バ ッ ク 用 紙
れる場合,医療機関の受診を促した.また,アンケート
と身体所見・検査の結果から,ストレッチ,エクササイ
ズ指導実施した.
東海スポーツ傷害研究会会誌:Vol.37(Dec.2019)
【考察】 アメリカンフットボールは , 激しいコンタクトを繰り
返すことから多くの障害が発生するスポーツである 2~4).
そのため脳震盪や頸部外傷のリスクが高い 2). 近年特
に脳震盪後症候群や慢性外傷性脳症などの報告 5) も
あり,注目されている. 脳震盪に関しては, 真木ら6) は ,
重大な問題だと選手が理解していないと報告している.ま
た , 萩野 6) は , 一瞬意識を失うのが脳震盪であると
誤解されていることが多いと報告している.今回のメ
ディカルチェックでは , バーナー症候群を含む整形外
科領域のみならず, 突然死予防として内科領域 , 脳
震盪の予防として脳外科領域も含めて実践した . 一
方,アメリカンフットボールの外傷では , 岸本ら7) は ,
足関節靭帯損傷 , 膝関節靭帯・半月板損傷が多か
ったと報告し , 藤谷ら 8) は , 膝関節靭帯損傷 , 足
関節靭帯損傷 , 脳震盪が多かったと報告している .
【まとめ】 大学生及び社会人男子アメリカンフットボール選手
のメディカルチェックを行った . 当院におけるメディカ
ルチェックの実施内容について報告した .今後は実施
項目の再検討や脳震盪の予防 , 啓蒙活動を含めたフ
ィードバックの充実を図りたい .
【謝辞】 事前アンケートを作成するにあたり, 北里研究所病
院整形外科スポーツクリニックの月村泰規先生に御協
力をいただき, 心より御礼申し上げます.
【文献】1)原正文:投球障害肩患者に対する診察と病態把
握のポイント MB Orthop,2007,7:29-38
2)阿部均ら:アメリカンフットボール,ラグビー選手
の頭部外傷について, 日本整形外科スポーツ医学
会誌 1991:10,55-59.
3)阿部均:頸部の痛み . 臨床スポーツ医学 1997:
14(10),1097-1101.
4)岸谷勲:日本におけるラグビー外傷の統計. 臨床
スポーツ医学 1989:6(8),863-868.
5)萩野雅宏:スポーツによる頭部外傷の発生状況 .
日本医事新報 ,2017;4859:26-29
6)真木真一ほか:大学アメリカンフットボール選手の
脳震盪発生率と危険因子. 臨床スポーツ医学 ,
2014;22,521
7)岸本ほか:大学アメリカンフットボールチームにお
ける1999 年から2008 年までの障害発生状況 .
臨床スポーツ医学 ,2012;20,24-31
8)藤本ほか:関東大学アメリカンフットボール秋季
公式戦における過去 20 年間 (1991-2010) の外傷
について. 臨床スポーツ医学 ,2012;20,550-556
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