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-1- 詳しく! もっと α ス  ワゴン 60 No. 勤医協中央病院の場合 本日のテーマは「中堅看護師の育成」です。特に中途採用者の育成・ 支援について重点的にお話をさせていただきます。 事前に勤医協中央病院の看護師の現状をお聞きしました。中堅看護 師や中途採用看護師の抱える悩み、中途採用がうまくいったケース、 退職理由についてです。 1990年 3月 慶應義塾大学医学部付属厚生女子学院卒業 4月 慶應義塾大学病院勤務 2003年 3月 日本女子大学人間社会学部教育学科卒業 2005年 3月 同大学院人間社会研究科教育学専攻博士前期課程修了 2006年 5月 慶応義塾大学看護医療学部(看護管理・政策)勤務 2008年 4月 厚生労働省医政局看護課(看護技官研修生)勤務 2012年 4月 北海道医療大学看護福祉学部・大学院看護福祉学研究科講師 2014年 4月 東京女子医科大学看護学研究科博士後期課程入学 【所属学会】日本看護管理学会、日本看護科学学会、日本がん看護学会  日本看護学教育学会、東京女子医科大学看護学会、聖路加看護学会 講師 北海道医療大学看護福祉学部 講師 福井 純 すみ 勤医協中央病院看護部 地域公開講座 ~中途採用看護師への支援について~ 看護管理者研修 経歴 中堅看護師 育成 中堅看護師の現状

もっと詳しく! 60 - 勤医協中央病院kin-ikyo-chuo.jp/common/pdf/for_medical/section/nurse/...-1- もっと 詳しく! ナース ワゴンα 60 No. 勤医協中央病院の場合

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  • -1-

    詳しく!もっ

    と αナース  ワゴン 60No.

    勤医協中央病院の場合 本日のテーマは「中堅看護師の育成」です。特に中途採用者の育成・

    支援について重点的にお話をさせていただきます。

     事前に勤医協中央病院の看護師の現状をお聞きしました。中堅看護

    師や中途採用看護師の抱える悩み、中途採用がうまくいったケース、

    退職理由についてです。

    1990年3月 慶應義塾大学医学部付属厚生女子学院卒業

    4月 慶應義塾大学病院勤務

    2003年3月 日本女子大学人間社会学部教育学科卒業

    2005年3月 同大学院人間社会研究科教育学専攻博士前期課程修了

    2006年5月 慶応義塾大学看護医療学部(看護管理・政策)勤務

    2008年4月 厚生労働省医政局看護課(看護技官研修生)勤務

    2012年4月 北海道医療大学看護福祉学部・大学院看護福祉学研究科講師

    2014年4月 東京女子医科大学看護学研究科博士後期課程入学

    【所属学会】日本看護管理学会、日本看護科学学会、日本がん看護学会 

    日本看護学教育学会、東京女子医科大学看護学会、聖路加看護学会

    講師 北海道医療大学看護福祉学部 講師 福井 純すみ

    子こ

    勤医協中央病院看護部 地域公開講座

    ~中途採用看護師への支援について~

    看 護 管 理 者 研 修

    経歴

    中堅看護師の育成

    中堅看護師の現状

  • -2-

    中途採用がうまくいったケースそれって、その人

    個人に頼るしかな

    い?ってこと?

    ●全く経験がない部署に配属になった

    ●前の病院と比較しない

    ●コミュニケーション力が高い人は上手に

    馴染む

    中途採用看護師の悩み(主に年齢は20代後半から30代半ば)

    中途採用看護師の退職理由

    ●3年以内の退職が増えている(続かない)

    ●指導する人が年下だと、うまくいかない

    ●期待と出来高にギャップがある

    ●前のやり方が修正できず、新しいやり方

    に馴染めない

    ●受け入れ要綱が活用できない

    ●いろいろな人がいる

    ●業務についていけない

    ●病院のシステムに慣れることができない

    ●結婚、転居

    中堅看護師の悩み

    ●モチベーションが上げられない

    ●目標を持てない

    ●管理者の考え方との間にギャップがある

    ●経験年数に見合ったラダーレベルに

     ならない

    ●責任を持ちたがらない

    中堅看護師の現状

  • -3-

     看護教育に使われているパトリシア・ベナーの「ドレイフェス・モ

    デル」では、中堅看護師を次のように定義しています。

    ●状況を局面の視点ではなく全体として捉え、格率(実践的原則)に

    導かれ実践を行うレベル

    ●全体を見ながら最も重要な部分に焦点化して関わり患者をより良い

    方向へと導くことができる

     ベナーの研究は急性期の看護師を対象にしていたため、中堅看護師

    を「3~ 5年」と定義しました。日本では「5年以上」「5年以上で

    役職がない人」「40代、50代」など、はっきりと定まっていません。

    ●新人よりも高い実践力を有しているが、その度合いの個

    人差が大きく葛藤を抱えている

    ●看護師としての技術や知識の向上を求めている

    ●チームにおける自己の役割を認識している

    ●キャリアを含む自己のアイデンティティを模索している

    ●キャリアコミットは女性より男性が高い

    ポイント キャリアの方向性を描きに

    くいなど、ベテラン看護師

    ●ロールモデルとしての実践力

    ●チーム医療の推進・他部門との調整(地域連携での期待)

    ●リーダーシップの発揮

    ●率先して職場の問題を解決する

    ●自発的にキャリアを発展させていくなど、役割を中核的に果たすこと

    期待すること

    能力・特性

    ●内発的動機付け

    ●内省

    ●他者からの承認

    発達を促す要因

    中堅看護師の現状(国内の研究から)参考

    中堅看護師の定義と能力・特性 中堅看護師の現状

    よりも自己効力感が低い傾向にあ

    るため、高められるような支援を

    していく必要があります。

    看護理論の世界的権威 パトリシア・ベナー(Patricia Benner)

    米国カーネギー財団上席研究員。カリフォルニア大学サ

    ンフランシスコ校看護学部名誉教授。米国看護アカデ

    ミーフェロー。王立看護協会名誉フェロー。

    ●著書

    『FromNovice toExpert - ExcellenceandPower in

    ClinicalNursingPractice』『ベナー看護論』『看護ケア

    の臨床知』『現象学的人間論と看護』『エキスパートナー

    スとの対話-ベナー看護論・ナラティブス・看護倫理』

    など

     1943年に米国で誕生。バサディナ大学で看護学を専

    攻し、カリフォルニア大学バークレー校で博士号を取得。

    その後、同大学サンフランシスコ校看護学部の教授とな

    る。臨床家、研究者、看護理論家として多くの業績を持つ。

     「新人からエキスパートへ」という初期のドレイフェ

    ス・モデルを基盤にした研究成果をはじめ、「卓越した

    看護師の持つ臨床知について」「リスクマネジメントへ

    の適応」「ナラティブスを通した看護実践力発展への支

    援」に関する看護理論を構築するなど、世界各国の看護

    師に多くの影響を与えている。

  • -4-

    私が見てきた臨床現場を支える中堅看護師たち

    仕事が遅い? いや、確実に仕事をする看護師

    子育て中の看護師のモデル

     私は大学病院で22年ほど勤め、臨床現場で中堅看護師と関わって

    きました。その時の印象に残る事例をお話しします。

     その日、化学療法のプログラムがある患者さんにワン

    ショットで抗がん剤を投与することになっていましたが、主

    治医も日勤者も、薬剤師も投与忘れに気が付かずにいました。

    準夜勤で来たスタッフが「今日は、投与日ではないでしょう

    か」と静かな声で言ってきました。彼女は、医師のオーダー

    だけを見るのではなく、患者さんの治療計画、プロトコール

    を押さえた上で、その日の患者さんに必要なケアを考えてい

    ました。

     それまで「頼りない、ちょっと任せられないかな」と思っ

    ていましたが、彼女への見方が変わりました。目立たないけ

    れど、後輩育成にも一生懸命に取り組んでいることが見えて

    きました。

     スタッフを表面的にしか見れていなかったのだなと自覚さ

    せられた出来事でした。

     産休・育休明けの看護師が病棟に復帰しました。ほかの病

    棟での経験があり、能力の高い方でした。短時間勤務で、ほ

    かのスタッフよりも30分くらい遅く到着しますが、そこか

    らの仕事が早い、質も高い。そして仕事をきちんと納めて、

    決まった時間に帰ります。

     周りの独身のスタッフがみんな、「ああなりたい」と言っ

    ていました。子育てしながらも「良い看護ができる看護師に

    なれる」ということを示してくれた看護師さんでした。

    1事例

    2事例

    中堅看護師の現状

  • -5-

    臨床看護も研究も主体的に取り組む中堅看護師

    今何をすべきかを見極め連携できるチーム力

     私が最後に病棟管理者を務めた病棟では、「次年度の新人

    教育のプリセプターはどうするかな」と考えていると、中堅

    看護師の方から「どうします?」と聞いてきてくれました。

    病棟での研究意識も高く、主体的に勉強会を企画し、「〇〇

    医師が講師を引き受けてくれたので、〇〇の勉強会をしたい

    と思いますが、どうでしょう?」と具体的に進めてくれます。

    臨床実践から生まれた「こういうテーマで勉強したい」とい

    う意見が日常的に出てきていました。

     その病棟の中堅看護師は意欲的で、視野も広く、質も高く、

    素晴らしい看護をしていました。

     問題のある患者さんがいて、ご家族とすごく揉めていたこ

    とから、その病棟に、私ともう一人の看護師が異動し介入し

    た時の話です。

     その病棟にはナースコールが鳴った瞬間に取って、担当か

    どうかにかかわらず対応する看護師がいました。難しい患者

    さんの対応を先輩方がしているのだから、そのほかのことは

    自分たちがしっかりやろうと考えていたようでした。私が師

    長さんに呼ばれ長く話している様子を遠くで見ていた看護師

    が、私のワゴンと書き抜いたものをそーっと持って行って、

    患者さんに薬を配ってくれたこともありました。3~ 5年目

    のスタッフは周りをしっかり見ながら動いていました。チー

    ム力の高い病棟でした。

    4事例

    3事例 中堅看護師の現状

  • -6-

    増えている中途採用看護師 厚生労働省のまとめ(2011年)によると、看護職員の53.1%が

    1回は退職しています。このうちの30%近くの方が複数回退職して

    います。その理由は、「ライフサイクルの変化」や「中堅の役割から

    逃避したい」などいろいろですが、この時期のことを私は個人的に「1

    回辞めたい病」と言っています。この病気は、慢性疾患なので急性増

    悪期があります。増悪の原因は「すごく嫌なことがあった」「患者さ

    んのケアがうまくいかなかった」「医師にひどいこと言われた」など。

    そして寛解期もやってきます。この状態を繰り返しながら頑張ってい

    るのが看護師だと思うのです。私もそういったことを繰り返しながら、

    同じ病院で20年以上看護師を続けてきました。こうした中、看護師

    の「働く場の選択肢が増えている」ことも、中途採用看護師が増えて

    いる背景の一つと考えられます。

     平成29年版男女共同参画白書の「子供の出生年度別第1子出産前

    後の妻の就業経歴」を見てみると、仕事を続けていく女性がだんだん

    と増えてきているというのが見て取れます。平成22~ 26(2010

    ~ 2014)年では就業継続している女性は全体の3割以上です。

     日本看護協会の「2016年病院看護実態調査」を見てみると、

    2015年度の北海道の新卒看護職員の離職率は6.4%です。全国平均

    7.8%と比較すると低いのですが、常勤看護職員の離職率は11.6%

    と全国平均の10.9%よりも高いんです。「北海道の看護師さんたちは、

    新人に優しく丁寧に教えているので新人の離職率が低いけれど、その

    代わり常勤看護師さんが疲れて辞めてしまっている」と読み取れるの

    ではないでしょうか。

    北海道の看護師離職率は

    新人が低く、常勤が高い

    中堅看護師の現状

  • -7-

    中途採用看護師の状況を先行研究から見ていくと

    中途採用看護師のネガティブな気持ち

    中途採用看護師が心がけた適応方法

    中途採用看護師について時間軸

    中途採用看護師に支援をしている側はどのように感じているのか

    ●やり方が違うだけで、

    評価されない

    ●新人と同じように扱わ

    れる

    ●新人と同じように教育

    してほしい

     ……など、さまざま

    ●何をどこまで教えるべきかが分からない

    ●確実に教えられているか分からない

    ●背景・年齢がさまざまで、新しい環境・人・もの・技術への適応が難しい

    ●経験豊かでも、落ち込んだり、持てる力を十分に発揮できないことがある

    ●分からないことは自分から質問して解決する

    ●看護方法に疑問を持ちながらも現状を受け入れ、

    自分の中で折り合いをつける

    1カ月から3カ月

    くらいの時期に、

    管理者がどれだけ

    支援できるかが大

    事になります

    仕事を継続できた理由●支えてくれる人・体制

    ●周囲のサポート

    ●居心地の良さ

    退職を考えた理由●人間関係の悪さ

    ●労務・環境

    続けられるか続けられ

    ないかを左右している

    のは「人間関係」

    最初(入職まで) カ月6カ月2、3カ月1

    適応する

    慣れてくるがミスが多くなる

    疲労のピーク

    不安

    ポイント

    ポイント

  • -8-

    ステレオタイプからパラダイムシフトへ

    「人財」育成の前提にダイバーシティを

     私たち看護師は患者さんに対して「個別性のある看護を提供しま

    しょう」と言っていますが、職場の仲間に対しては、「新人はこうい

    うもの」「1年間でここまでいくもの」「中途看護師は即戦力」と型に

    はめてしまいがちです。こうした「ステレオタイプ」を持っていると、

    「1カ月くらいで即戦力になってくれると思っていたのに、うまくい

    かない」「この人は難しい」と考えてしまいます。

     考え方を少し変え、「新しい人が来てくれて良かった、どんな人だ

    ろう」「以前勤めていた病院では、どのようにしていたの?」など、

    相手に寄り添い、前向きにコミュニケーションを深めていく。これま

    での当たり前から「パラダイムシフト」すると、楽に支援できること

    もあります。

     どんな人も大事な「人財」です。財産の「財」、「人財」です。中途

    採用看護師も新人看護師も看護学生も多様化し、能力も経験も幅があ

    り、いろいろな人がいます。

     いろいろな人のいろいろな価値観や多様性を広く受け入れて、積極

    的に活用しようとする考え方「ダイバーシティ」が、今の日本に広がっ

    ています。いろいろな人の得意を生かし、チームや組織の力にするた

    めのアプロ―チが「ダイバーシティ・マネジメント」です。

     日本看護協会の「看護者の倫理綱領」第2条に『看護者は、国籍、人種・

    民族、宗教、信条、年齢、性別及び性的指向、社会的地位、経済的状

    態、ライフスタイル、健康問題の性質にかかわらず、対象となる人々

    に平等に看護を提供する』とありますが、管理者の中途採用看護師へ

    の対応も同じことです。教育・育成はダイバーシティの一つと考えま

    しょう。

    ●一人一人を大事に、公平に関わっていけるか

    ●いろいろな人に対していかにカスタマイズできるか

    ●個別性を考えられるか

    人材は「人財」

    いろいろな価値観や多様性を

    広く受け入れましょう

    パラダイムシフト 考え方、規範・価値観が変わること

    ステレオタイプ 型にはめること、先入観

    支援のヒント

  • -9-

    公平にカスタマイズとケアリングを

    日々の小さな進捗を支援・評価する

     私のプリセプター経験からです。1年目の看護師の中に仕事が覚え

    られないスタッフがいたので、注目し手をかけていると、1年目には

    よくできたスタッフが2年目に入ってから伸びなくなりました。そこ

    で、初めて、1年間手をかけていなかったことに気付きました。指導

    者は、できない人に対して「危ないから、どうにかしなければならな

    い」と育成に力を入れますが、できる人にも関わる必要があります。

     1年間のプログラムを余裕でこなしてしまうスタッフには「研究を

    一緒にやってみる?」などと声をかけることにしました。教育の前提

    は、一人一人を大事にし、公平にカスタマイズしていくことだと思っ

    ています。

     ケアリングは「患者の身近にいる看護職が患者に関心を寄せ、気遣

    いを持って関わること。その責任を引き受けること」ですが、看護師

    に対しても、ほかの職種に対しても同じだと思います。

    ●進捗を支援していく

    ●モチベーションが上がるような関わりを考える

     私が最近読んだ書籍『マネジャーの最も大切な仕事―95%の人が

    見過ごす「小さな進捗」の力(英治出版)』には『やりがいのある仕

    事が進捗するようマネジャーが支援すると、メンバーの創造性や生産

    性、モチベーションや同僚性が最も高まる』という進捗の法則が書か

    れています。

     マネジャーの最も大切な仕事は、チームや部下にとってやりがいの

    ある仕事が毎日少しでも進捗するよう支援すること。「あれができて

    いない、これができていない」ではなく、視点を「できたこと」に変

    えて評価する。管理者が一人一人の「できたこと」に注目をして、ちゃ

    んとアクションを起こす、「言葉にして評価する」ということです。

     「褒める」のは難しいことです。取って付けたような歯の浮くよう

    なことを言われても褒められた側はうれしくありません。目標管理の

    面接の時に褒めるということでもありません。日々のちっちゃなちっ

    ちゃな進捗やできたことに、その都度注目し、フィードバックすると

    いうことです。

    「できなかったこと」ではなく

    「できたこと」に視点を置いて

    評価する

    支援のヒント

  • -10-

    看護を語ることが仕事の満足につながっていく

    何のために?という意味付けが必要

     看護師の仕事は看護実践です。「日常の看護実践を振り返り、リフ

    レクションをする機会」を管理者が意図的につくる必要があると思い

    ます。ナラティブで看護を語る時間をもつことが非常に大事です。

     具体的には、看護実践での経験をちゃんと言葉にしてほかの人に伝

    える、見える化していくということです。語り合う、言葉にすること

    が、自分の中での「意味付け」になります。これは、自分が目指した

    い看護を見つけることにもにつながっていきます。大きな出来事や困

    難事例でなくてもいいんです。日々の何気ない看護実践の中の小さな

    気付きを積み重ねて語れることが、「仕事に魅力を感じ、満足を感じる」

    ことにつながっていくのだと思います。

     管理者が「どういった看護師になりたいのか」「どういった看護を

    したいのか」「どういう看護を目指すのか」というところに目を向け

    られる支援ができたら、「今は何をすべきか」が見えるようになる。

    それが仕事に対しての満足を感じる「動機付け要因」になっていくの

    だと思います。

    ハーズバーグの二要因理論による「仕事に対する人の関心」

     人生における仕事生活の長さを図式化してみると、人生の中で相当

    な割合を占めています。1日8時間仕事をしていると、活動時間の半

    分ほどの割合になります。つまり、仕事の満足が、その人の人生の満

    足につながるということです。そこを支援できる管理職の仕事はとて

    も重要でやりがいがあると思います。

     支援の中で、私がとても大事だと思っていたのは「意味を伝える」

    ことでした。例えば「役割(役職)を取りたくない」とか「役割が嫌

    だから退職する」という場合には、「そもそも何のために役割が必要

    なのか」に立ち戻り、目的をきちんと正しく伝え、「意味付けを一緒

    にしていく」「必要な権限は移譲する」ということです。「やらされ感」

    ではなくて「必要があるからやる」ことが、自律へとつながります。「何

    年目だから」とか「あなたの成長のためなんだから」では、心が動か

    ないのです。

     北海道医療大学看護福祉学部の先生と一緒に行った研究でインタ

    ビューした3年目のナースが「後輩たちを見守り、必要なアドバイス

    をし、早く独り立ちしてもらうことが、結局、患者さんのためになる

    と思っています」と、「患者さんのためになる」というところに落と

    仕事の満足が

    人生の満足につながります

    不満を感じる時作業環境や労働条件、お給料など(衛生要因)に向いている

    満足を感じる時 仕事そのもの(動機付け要因)に向いている

    支援のヒント

  • -11-

    し込んで、役割の意味付けをしていました。この語りは感動的でした。

    成長には「何のために?」という意味付けが必要なんです。

     もちろん、「○年目だしそろそろやらない?」という期待やきっか

    けがあってもよいのですが、「何のために?」という意味付けをきち

    んと理解してもらうために、管理職が「これは、こういうことで大事

    だから」と説明することが大切だと思います。

    管理者の見立てが

    中堅看護師のその後を左右する

    スタッフの得意を見立ててアドバイスを

    育成よりも、発揮が大事

     私の研究の中に、認定看護師や専門看護師など、キャリアの選択を

    してきた人たちにインタビューをし「どういうきっかけで選択をした

    のか」「影響を受けた要因はどんなものがあったのか」を明らかにし

    たものがあります。その中で「自分では気付かなかった興味とか得意

    なことを、上司が見立ててくれた」という声が結構出てきました。

     例えば、認定看護師になった人は、師長さんに「そういったところ

    に興味があるんじゃない?」「勉強してみたら?」と言われて、はっ

    と気が付いたと語っていました。本人は意外と気が付いていないけど、

    管理者の人からはちゃんと見えていたという事例です。そして、進学

    して視野が広がったり、研修に参加して実際に看護の深まりを実感し

    たなどの結果が出ました。管理者の人たちの見立てで看護師さんの向

    かう方向が決まったりすることは大いにあるものです。

     星野リゾート代表取締役社長の星野佳路さんはインタビュー記事

    『星野リゾート代表が語る「生産性向上のために“無駄な時間”を削っ

    てはいけない」(DIAMONDonline2017.9.5配信)』の中で「学び

    たくない人を育成しようとするとモチベーションが落ちるからやめた

    方がいい」「そもそも育成の前に、個々人が持っている能力を100%

    出せているケースが少ない。たいてい、10ある能力の6くらいまで

    しか出せていない」「個々人が持っている能力をしっかり出せるよう

    にする。育成よりも発揮が大事なんだ」ということをおっしゃってい

    ます。

     そして、「学びたいことが出てきた時には、積極的にその機会を与

    える」とも言っています。やりたくないと言っている人には、やれや

    れと言ってもますます引いていくだけですから、今ある10の力を3

    とか5とかしか出せていない人が6や7まで出せるような支援をして

    いくことがまず大事です。今ある力と伸びしろを見極める必要があり

    ます。

    支援のヒント

  • -12-

     『新1分間リーダーシップ(ダイヤモンド社)』の「状況対応型リー

    ダーシップⅡモデル」を見ると、

    ●「D1」が新人で、技能が低くて意欲が高い

     低い技能の方には具体的に指示を出す。

    ●「D2」は発達レベルが上がる3年目くらいで、

     疲れちゃって意欲が下がり気味

     目標や指示を与えながらも意見を聞いたり、意思決定に加わるよう

    に促すなどの支援を増やしていく。

    ●「D3」はさらにレベルアップ

     支援的行動を増やす。技能が高いので指示的なことはあまり言わな

    くても自律できる。

    ●「D4」はベテランで技能が高くて意欲も高い

     権限を移譲して、成長を応援し、指示的行動も支援的行動も少なく

    する。

     その人のレベルは状況によって変わります。例えば、病棟を異動し

    たら、D3くらいの人が一時的にD2になる、この診療科は得意だけど、

    ほかはできないなど。管理者はスタッフが「どのレベルにあるか」を

    見立てて、それに合わせた支援をする必要があります。

    S3高

    高低低

    S2

    S4 S1

    支援的行動

    指示的行動

    指示的行動(少)支援的行動(多)

    指示的行動(多)支援的行動(多)

    指示的行動(少)支援的行動(少)

    成長度高 成長途上

    D4 D3 D2 D1

    発達レベル

    高い技能高い意欲

    低い技能高い意欲

    中~高の技能不安定な意欲

    低~中の技能低い意欲

    指示的行動(多)支援的行動(少)

    委任型 指示

    支援

    型 コーチ

    支援のヒント

  • -13-

    出口支援も

    管理者の重要な役割です

    育成に必要な能力と役割先を読む力

     管理者には「先を読む力」「長い目で見る力」が求められます。そ

    の場その場でちゃんと必要な看護ができるかというところも当然大事

    ですが、人材育成の場合、その看護師さんの先々をどれだけ長い目で

    見てあげられるかも大切なことだと思います。

    俯瞰して見る力

     「自分の病棟さえ良ければいい」のではなく、病院全体はどうなの

    か、北海道はどうなのか、国としてどうなのかといったところも俯瞰

    して見る力が求められていると思います。「木を見て森を見ず」と言

    いますが、森は1本の木から成っていますので、俯瞰して見る力は、「一

    人一人、一本一本の木に心を砕くこと」にもつながると思います。

    相談される力

     自分がどれだけスタッフ一人一人に対して心砕けていけるか。そう

    いったところから「相談していい人なんだ、この人は」となっていく。

    つまり人間的な器の大きさです。一方、スタッフには相談する力を身

    に付けてもらわなければなりません。

    寛容に出口支援する

     せっかく育ったと思ったら辞めてしまう、慣れてきたと思ったら辞

    めてしまう。しかし、辞めるとなったら仕方ありません。看護職を辞

    めるというなら引きとめてもらいたいと思いますが、ほかのところで

    また働こうというのであれば「うちの病院でこのくらいできるように

    なったから、次はほかで、日本の看護界に貢献してくれるんだ」とい

    うくらいの寛容な気持ちを持つことが時には必要かなと思います。

    出戻りウエルカム

     現在、訪問看護で活躍している看護師さんでも40代、50代になっ

    たら、「地域を見たからあとは急性期や病院で仕事をしよう」という

    ふうに興味が変わるかもしれない。訪問看護をよくよく分かった人が

    帰ってきてくれたらそれはそれは強いですよね。

     でも、それは来年ではないです。だから長い目で。「いつでも帰っ

    てきて! またいつかあなたと働きたい」と言って送り出してあげら

    れるかどうかなんです。バージョンアップして帰ってきてくれるかも

    しれない。出戻りウェルカムです。

     こうしたことが結構、看護師さん同士の口コミで広がったりします。

    管理者へのアドバイス

  • -14-

    人を育てることは

    自分をケアし

    自分を育てることでもある

    「あそこの病院いいよ」と。ご主人の転勤の都合で辞めても、「戻って

    きたら、またここで働きたいな」と思ってもらえるようにしましょう。

    こうした出口の支援も私は管理者にとって非常に大事な役割だと思っ

    ています。

    支援者への支援は労い

     プリセプティがうまくいかなかったり、新人が辞めてしまっても、

    プリセプターのせいではありません。もう少しこうすれば良かったな

    どの振り返りはあっていいと思いますが、次のステップに生かせる「労

    い」が大事です。副師長さんには師長さんが、師長さんには部長さん

    というように、うまくいかなかったことに関してこそ、労うことが大

    事です。管理者は日頃からスタッフを大切にすることが大事だと思い

    ます。

    管理者も育成環境の一部 管理者は自分自身が「職員が育つ環境」の重要な一部であることを

    自覚しましょう。私たちが発する行動・言動、気にかけられるかどう

    か、そういったところが「育成環境」の一部だということを自覚しな

    ければいけません。

     私がいる北海道医療大学の名誉教授、石垣靖子先生は「学び合い支

    え合う組織文化の醸成は、ひとえに看護管理者の役割である。看護者

    がケアのプロフェッショナルだとしたら、それは同時に人を育てるプ

    ロでもあるはずだ。ケアをすることと、人を育てることの本質は同じ

    であり、それは自分をケアし、自分を育てることでもある」とおっ

    しゃっています。

     石垣先生はよく「自分を大事にしなさい」「自分を大事にできない

    人は他人も大事にできない」と言われます。皆さん方はベテランで、

    管理者になられたケアをするプロです。人を育てる本質は同じなので、

    そこに立ち返れば難しいことではないはずなのです。

    管理者へのアドバイス

  • -15-

      うまくいったケース

    ◦話しやすい雰囲気づくりをした

    ◦パートさんでも、振り返りはノートを使ってしっかりと行った

    ◦中途採用看護師に1年間しっかり指導した

      うまくいかなかったケース

    ◦指導するマニュアルや立ち返るものがなく、教え方も難しかった

    ◦即戦力として求めすぎた

     今後できそうなこと

    ◦振り返りを要所要所で行っていく

     うまくいったケース

    ◦受け入れる前にオリエンテーションをした

    ◦基準になるものやチェックシートを準備していた

    ◦頼りなさそうに見えたが接遇が素晴らしかったので、認めて任せた

    ら、素晴らしい看護ができるようになった

     うまくいかなかったケース

    ◦教える人によって指導の仕方が異なり、指導される人が戸惑った

    ◦チームで育てることができず、時間がかかった

    参加者は5、6人が1グループとなり、中堅看護師・中途採用看護師

    の育成についてディスカッションしました。

    中堅看護師・中途採用看護師の育成経験と支援の工夫

    うまくいったケース → どのような支援をしたのか

    うまくいかなかったケース → 今だったらどんなことができそうか

    今後できそうなことの共有

    Aグループ 代表コメント

    Bグループ 代表コメント

    「基準になるものや

    チェックシートを準備していたら

    うまくいきました!」

    グループディスカッション

    テーマ

  • -16-

     うまくいったケース

    ◦職場に入ってきた方と近い世代の方がいて、相談し合えた

    ◦専門性の高い病棟だったので、その方がやりたいと思った看護がで

    きた

     うまくいかなかったケース

    ◦以前の環境と異なり、自分で考えなければならないことがつらかっ

    ◦看護提供システム面が複雑でついていけなかった

    ◦指導者が忙しくて中途採用者が質問できない背景がある

     今後できそうなこと

    どんな看護がやりたいのかを共有したり、コミュニケーションがとり

    やすいように環境を整える

    福井

     「その人をつかむ」「指導の仕方を統一する」というのも大事ですが、

    全く同じにならないので、受け手側に「指導の仕方が異なっていたら

    言ってね」と伝え、状況を確かめる工夫も必要です。看護提供システ

    ム自体が、以前の病院と違っているかもしれませんし、同じような提

    供システムをとっていてもリーダーの役割とスタッフの役割が違うか

    もしれません。

     自分の病棟のやり方が当たり前だと思い込んでしまうと、「当たり

    前のことが、何で、できないの」と感じてしまいます。「どのような

    看護をしてきたのか」「以前とどこが違うのか」を聞いた上で、「うち

    では、こういうことを求めている」と、意味付けしながら言葉にして

    伝えることが大事です。

     

     皆さんには「これを聞いてあげなきゃ」「こういうことも確認しな

    くては」「これを伝えよう」ということが見えているのではないでしょ

    うか。師長さん同士の横のつながりを活用し「うちはこうしたらうま

    くいった」「ここをこう変えた」などの成果を共有化できるとより良

    いと思います。

     本日の講座は以上です。ありがとうございました。      (了)

    自分の病棟のやり方が

    当たり前だと思い込まないことが大事です

    Cグループ 代表コメント グループディスカッション