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加速器の基本概念 I: 粒子加速器技術のあけぼの 髙田耕治 KEK [email protected] http://research.kek.jp/people/takata/home.html 総研大加速器科学専攻 2011 年度「加速器概論I」講義 2011 4 14

加速器の基本概念 I : 粒子加速器技術のあけぼの...バンデグラフ(Robert J. Van de Graaff) 1.5 MV 加速器(1931) 加速器基本概念I 粒子加速器のあけぼの

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加速器の基本概念I : 粒子加速器技術のあけぼの

髙田耕治KEK

[email protected]://research.kek.jp/people/takata/home.html

総研大加速器科学専攻2011年度「加速器概論I」講義

2011年 4月 14日

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加速器基本概念 I

目次

I 粒子加速器のあけぼの

I 高エネルギービームの力学 (1)

I 高エネルギービームの力学 (2)

I 高周波加速の基礎

I 参考文献

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加速器基本概念 I

粒子加速器のあけぼの

粒子加速器のあけぼの

I 人為的な核変換の発見(1919 - 1932)と加速器の誕生

I 初期の加速器いろいろ

I 直流高電圧加速から高周波加速へ

I 高周波加速における諸問題

I 第2次大戦(1941 - 1945)前後の急展開

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加速器基本概念 I

粒子加速器のあけぼの

人工的核変換の発見と加速器の誕生 (1)

I Ernest Rutherford(英国 Cavendish研究所):α線による核変換の発見 (1917 - 1919)

I 窒素ガスを充填した容器に α粒子崩壊する放射線源を置くと陽子と酸素が生成されたことを確認

α+ 147N → p+ 16

8O

I この人為的核変換現象をより深く追求するために、高エネルギー粒子ビーム発生装置建設への動きが各地で強まる

I この高エネルギー加速器開発競争において、当然Rutherford自身が最も強力な推進者であった

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加速器基本概念 I

粒子加速器のあけぼの

人工的核変換の発見と加速器の誕生 (2)

I 結局、Cavendish研究所の John D. Cockcroftと ErnestとT. S. Walton (1932)が

初めて人工的ビームによる原子核崩壊

に成功した。

I これは Greinacherの多段型直流整流器 (1919)を改良した高電圧電源で 800 kVに加速した陽子をリチウムに照射したものである。

p+ 73Li → α+ α

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加速器基本概念 I

粒子加速器のあけぼの直流高電圧加速器

直流高電圧加速器

I 直流高電圧発生器:主要な二つの方式

I 多段のコンデンサー・整流管回路による電圧増培:コッククロフト・ウォルトン 800 kV加速器 (1932)

I 帯電ベルト方式:バンデグラフ (Robert J. Van deGraaff) 1.5 MV 加速器 (1931)

I 静電型加速器はビームエネルギーが安定かつ精密に設定できるので、質量分析用として現在でも使われる

I 14C/12C 同位元素比の分析による考古学年代測定I 14Cの半減期約 5,730年を単位として、生物が呼吸停止してからの時間がわかる

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加速器基本概念 I

粒子加速器のあけぼの直流高電圧加速器

コッククロフト・ウォルトン回路

6V 0

V(3+cos ωt)V(1+cos ωt)V cos ωt

AC

V(5+cos ωt)

4V2V0

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加速器基本概念 I

粒子加速器のあけぼの直流高電圧加速器

1932年頃の Cockcroft

次の参考文献を参照のこと:”From X-rays to Quarks,” page 227, by E. Segre,    (W. H. Freeman and Company, 1980)

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加速器基本概念 I

粒子加速器のあけぼの直流高電圧加速器

ガラス製真空チューブとビーム加速間隙

次の URLを参照のこと:http://www.daviddarling.info/encyclopedia/C/Cockcroft.html

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加速器基本概念 I

粒子加速器のあけぼの直流高電圧加速器

KEK 陽子シンクロトロン入射に使われたコッククロフト加速器・1980年代

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加速器基本概念 I

粒子加速器のあけぼの直流高電圧加速器

帯電ベルト方式:バンデグラフ (Robert J. Van de Graaff) 1.5 MV 加速器 (1931)

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加速器基本概念 I

粒子加速器のあけぼの直流高電圧加速器

静電型加速器の加速エネルギー限界

I 絶縁破壊電圧が決定的要因

I 1cm 離れた金属平面間の標準的な絶縁破壊電圧

絶縁体 典型的絶縁破壊電圧空気 (1 atm) ≈ 30 kV

SF6 (1 atm) ≈ 80 kV

SF6 (7 atm) ≈ 360 kV

絶縁油 ≈ 150 kV

超高真空 ≈ 220 kV

I 間隙に比例してどこまでも耐電圧が増加するわけではない

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加速器基本概念 I

粒子加速器のあけぼの直流高電圧加速器

Van de Graaff加速管電極からの放電

http://en.wikipedia.org/wiki/上で”van der graaf generator”を検索すること

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加速器基本概念 I

粒子加速器のあけぼの磁気誘導の利用: betatron

ひとつの解決策:Donald W. Kerstのベータトロン (1940)

I 磁束の時間変化にともなうソレノイド電場を使う

I トランスと同原理、高周波加速への序曲

・ マクスウェル方程式

∇× E = −∂B

∂t

・ 閉曲線 C に沿って電場の接線成分Esを積分∮C

Esds = − ∂

∂t

∫∫S

B · ndxdy = − ∂

∂tΦ

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加速器基本概念 I

粒子加速器のあけぼの磁気誘導の利用: betatron

Kerstの論文

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加速器基本概念 I

粒子加速器のあけぼのlinac と cyclotron の誕生

Wideroeによる高周波線形加速の試みI Gustaf Isingの提案 (スエーデン、1925)

I Rolf Wideroe 試作に成功 (ドイツ、1928)

RF

Beam

Ion

So urce

I 現在のDTL (drift tube linac) の原型

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加速器基本概念 I

粒子加速器のあけぼのlinac と cyclotron の誕生

Ernest Lawrenceの cyclotron (1931)

I 磁場中での荷電粒子の円形運動を利用し高周波多重加速

I 初めての円形加速器

I サイクロトロン周波数     ωc = eB⊥/m

で繰り返し加速

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加速器基本概念 I

粒子加速器のあけぼのlinac と cyclotron の誕生

初期のサイクロトロン

初めてのサイクロトロン次の参考文献の図を参照せよ: From X-rays to Quarks,

page 229 by Segre, E.(W. H. Freeman and Company,

1980)

A Riken (理研) cyclotron acceleratedprotons to 9 MeV and

deuterons to 14 MeV (1939)

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加速器基本概念 I

粒子加速器のあけぼのlinac と cyclotron の誕生

サイクロトロンの原理

RF Generator

rn rn+1(> rn)

Electric FieldMagnetic Field

dee

dee

dee

dee

beam

磁場Bのもとでの質量m、電荷 eの粒子の円運動(非相対論的:β = v/c ≪ 1とする)

I 軌道半径   r = mvc|e|B

I 周回周波数  f = |e|B2πm

I f は r、したがって vにも関係なく一定

I ωc = 2πf

 サイクロトロン周波数

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加速器基本概念 I

粒子加速器のあけぼの初期加速器の限界と画期的技術革新

高周波加速で問題になったこと

I リニアック:I 高周波出力不十分 ←大電力電子管技術の未熟

I サイクロトロン:I イオン質量の相対論的増加→ サイクロトロン周波数 ωcの低下→ 加速高周波との同期 がずれる

I ベータトロン:I ドーナッツへの電子ビームの入射と円軌道への捕捉の難しさ

I 円軌道のまわりで蛇行するビーム運動の理論解析が必要→今日の ベータトロン振動論のさきがけ

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加速器基本概念 I

粒子加速器のあけぼの初期加速器の限界と画期的技術革新

第2次大戦 (1941 - 1945)直後の新展開

I 高周波加速における 位相安定性の原理の発見I Vladimir Veksler (1944) と Edwin M. McMillan (1945)

I サイクロトロン→ シンクロサイクロトロン

→ シンクロトロン

I 新しいビーム集束法(強集束法)の発明I Christofilos (1950) と Courant-Livingston-Snyder (1952)

I レーダー用として大電力マイクロ波技術が大きく進歩I とくに大電力電子管マグネトロンやクライストロン