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構造化学講義ノート
September 25, 2017
担当教員 岡林潤 (理学部化学科所属, mail:[email protected])
目的
� 水素原子について量子論から理解する
� 化学結合について量子論から理解する
テキスト 『量子化学』真船先生:著 化学同人※持ってないと講義について来れないかも
参考書 『物理化学』マッカーリ・サイモン:著 化学同人
成績評価 試験 100点, レポート (1回 1点程度・二週に一回程度). 出席は評価しない
1 原子のスペクトルとボーア原子モデル
1.1 原子モデル
1900年始め、原子モデルにおいてはトムソンの電子中心モデルと長岡の原子核中心モデルの2つの説が対立していた。これらの議論を解決したのがラザフォードである。ラザフォードは原子にα粒子 4
2Heを入射して、散乱角を調べる実験を行った。この結果、電子によっては散乱されず、原子核によって産卵されるということが判明した。結果として、陽子はは電子の 1840倍の質量を持つ。参考: 電子 e− の質量 9.11× 10−31kg、電荷 1.6× 10−18C、用紙の質量 1.67× 10−27kg、電荷 1.602× 10−19C
ところで、円運動する粒子は電磁波を出してエネルギーを失い、原子核に吸収されてしまう。実際にはそんなことがないのため、古典物理学の世界ではこれは完全に破綻している。そこで登場したのが量子論である。(1913年ボーア)
1.2 水素原子の線スペクトル
スペクトル (spectrum)とは グラフの横軸が波長もしくはエネルギーであるもののこと。
水素原子の解離 以下の様な実験を行う。
H2 −−→ H+H
H+ e− −−→ H∗
H∗ −−→ H+ light
この光を観測したところ、特定の波長のスペクトルしか見れないことが判明した。
1
� 380nm以下 (紫外) ライアン
� 380~780nm(UV~可視) バルマー
� 780nm異常 (赤外) パッシェン
1
λ= R
(1
22− 1
n2
)(n = 1, 2, · · · )
R = 1.10× 107: リュードベルク定数
一般に1
λ= R
(1
n22− 1
n21
)となる。
1.3 ボーア原子
古典論における電子の運動
釣り合いの式はe2
4πε0r2=mv2
r
r =e2
4πεmv2
エネルギー保存の式は
E =1
2mv2 − e2
4πε0r
=e2
8πε0r− e2
4πε0r
= − e2
8πε0r
E は rに依存する。軌道半径が小さいほど E は小さい。これでは安定してしまい線スペクトルが生じる原因を説明できない。
1.4 ボーアの仮説
1.4.1 量子条件
角運動量mvrが h2π の整数倍となるという仮定。
これを解いて
mvr = nh
2π(n = 1, 2, · · · )
1
v=
2πmr
nh
r =e2
4πε0m
1
v2
=πe2mr2
n2h2ε0
2
r1 = πe2mr2
h2ε0(n = 1)
r2 = πe2mr2
4h2ε0(n = 2)
......
ここでボーア半径 a0 = h2ε0πme2 (= 0.053nm)を定義する。
rn = a0n2 = 0.053n2
導出は
a0 =h2ε0πme2
=
(6.63× 10−34
)2 × (8.85× 10−12)
3.14× (9.11× 10−31)× (1.6× 10−19)2 = 0.053
※次元チェック J2·s2·c2J·m·kg·c2
例 n = 1のときの電子の速度
v =nh
2πmr=
e2
2nhε0= 2.2× 106[m/s]
これは光速の 0.73%に相当する。
この電子のエネルギーは
E = − e2
8πε0
1
rn
= − e2
8πε0
πe2mr2
n2h2ε0
= − me4
8ε20h2
1
n2
− me4
8ε20h2 が定数となり、量子化されていることが分かる。
n = 1のとき最安定となる。これを基底状態という。半径 a0
n = 2のとき、励起状態という。半径 4a0
n =∞のとき、イオン化状態である。半径∞
例
me4
8ε20h2
=9.11× 10−31 ×
(1.6× 10−19
)48× (8.85× 10−12)
2 × (6.63× 10−34)2
= 2.18× 10−18J
= 13.6eV
1.4.2 振動数条件
原子がある状態 n1 から別の状態 n2 に遷移する際、光を放出または吸収する。
光のエネルギーは
∆E = En1 − En2
=
(− me4
8ε20h2
1
n21
)−(− me4
8ε20h2
1
n22
)=
me4
8ε20h2
(1
n22− 1
n21
)∆E = hν, 1
λ = νc より、
1
λ=
me4
8cε20h3
(1
n22− 1
n21
)となり、線スペクトルの条件を満たす式が求められる。
3
2 波動性と粒子性
2.1 光の波動性
波は、位相を持ち、干渉効果を持つなどの性質がある。いっぽう粒子は、質量、電荷を持つなどの性質がある。「粒子として存在している物質もある条件下で波として振る舞う」byド・ブロイ
ヤングの実験 以下の実験を行う。
AS− BS = a sin θ
∼ a tan θ = ax
l
明線: axl = mλ (m = 0, 1, 2, · · · )
暗線: axl =
(m+ 1
2
)λ
x = mlλa なので明線間隔∆x = lλ
a
2.2 光の粒子性
光電効果 以下の実験を行う。
光が波であれば光の強弱は振幅の二乗に比例する。つまり低い ν の光でも強くすれば光電効果が起こるはず。だが実際にはそのようなことは起こらない。よって光は粒子性を持つためだ、とアインシュタインは考えた。
2.3 光の粒子性と波動性
相対論ではm =
m0√1− v2
c2
E = mc2
p = mv
E2 = m20c
4 + p2c2
ここで光の粒子 (光子)に対してm0 = 0, E = hν = h cλ を用いて
p =h
λ
となる。この式は、粒子性 pと波動性 λを結びつけた式だといえる。
4
2.4 電子の粒子性と波動性
電子は−1.602× 10−19(c)の電荷を帯びた粒子である。しかし、電子源から出た電子の光路差を用いた干渉実験により波動性が示された。(アハラノフ・ボーム効果)
2.5 物質波とド・ブロイの式
先の式より
λ =h
mv=h
p
これをドブロイ波長と呼ぶ。
電子のドブロイ波長は
λ =h
mv
=6.6× 10−34
9.11× 10−31 × 3× 10−6
= 2.43× 10−10
= 0.243nm
これはボーア半径の 4~5倍に相当。この波長の内側では電子は粒子性と波動性を併せ持つ。
2.6 物質波とボーアの量子条件
ボーアの量子条件とは、mvr = n h2π というものであった。
また、ドブロイ波長は λ = hmv であった。これにボーアの量子条件を代入すると、
h =hnh2πr
=2πr
n
よって 2πr = nλ
ここから、電子は定在波を作る。(一周すると波長の整数倍となる)
ここまででテキスト p.23まで。
(試験のうち数問は章末問題から出す。)
「東大 スペクトル」で検索した先に講義の資料を掲載する。
ここまでのコメント
� ドブロイ波長とは物質の運動量を波長で表したもの。
� m = m0√1− v2
c2
, p = mv, E = m20c
4 + p2c2ではm0 = 0だとまったく意味が無いのでは?→相対論において分母が大きくな
りm0 = 0に近くなるという約束事
� 光電効果は波動性を否定したのみで粒子性の証拠ではない→コンプトン効果
� 2.4: 電子の波動性は電子線懐石から分かる
2.7 波動方程式
5
質量 ρdx, 加速度 ∂2u(x,t)∂t2
張力の垂直成分 F = T sin θ1 − T sin θ2
sin θ ∼ tan θ =∂u
∂x
sin θ1 − sin θ2 =
(∂u
∂x
)x+ dx
2
−(∂u
∂x
)x− dx
2
=∂2u
∂t2dx
運動方程式
T∂2u
∂x2dx = ρdx
∂2u
∂t2
∂2u
∂x2=ρ
T
∂2u
∂t2
v =√
Tρ とすると
∂2u
∂x2=
1
v2∂2u
∂t2
となり、これが波動方程式であり、偏微分方程式となる。
2.8 解く
2境界条件 u (0, t) = u (l, t) = 0とする。
変数分離 u (x, t) = f (x) g (t)
波動方程式の左辺は∂2 (f (x) g (t))
∂x2= g (t)
∂2f (x)
∂x2
右辺は1
v2∂2 (f (x) g (t))
∂t2=
1
v2f (x)
∂2g (t)
∂t2
⇒ 1
f (x)
∂2f (x)
∂x2=
1
v21
g (t)
∂2g (t)
∂t2(= k)
⇒ ∂2f (x)
∂x2− kf (x) = 0
∂2g (t)
∂t2− fv2g (t) = 0
の二式を解く。
k > 0, k = 0では振動しない
k < 0のとき k = −α2 とおくと
d2f (x)
dx2+ α2f (x) = 0
単振動となる。ここから
f (x) = A cosαx+B sinαx
となる。ここで A,B は定数
いま、弦が x = 0で固定
6
f (0) = A = 0
よって f (x) = B sinαx
x = lで固定すると
f (l) = B sinαl = 0
αl = nπ
となる。ここで nは整数である。
fn (x) = sinnπ
lx
= − sin(−n)πx
l= −f−n (x)
となる。
n = 0では fn (x) = 0
次に ∂2g(t)∂t2 − fv
2g (t) = 0を解く。
gn (t) = C coswnt+D sinwnt = an cos (w0t+ ϕn)
ただし wn = nπvl
よって波動方程式の解はu (x, t) = fn (x) gn (t)− an sin
nπ
lx cos (wnt+ ϕn)
2.9 vの意味
wn = nπl vとなっている。一方 wn = 2πνn となる。
v =wnl
nπ
=2πνnl
nπ
=2νnl
n
波形から、波長 λn は 2ln なので、
v = λnνn
波の性質から速度になっている。
v =
√T
ρ
2.10 二次元の波動方程式
一次元の弦から二次元の膜へと話が変わる。変位 u (x, y, t)に対して
∂2u
∂x2+∂2u
∂y2=
1
v2∂2u
∂t2
7
境界条件はu (0, y, t) = u (a, y, t) = 0
u (x, 0, t) = u (x, b, t) = 0
これは変数分離により解ける。
u (x, y, t) = fn,m (x, y) gn,m (t)
= an,m sinnπ
ax sin
mπ
by cos (wn,m + ϕn,m)
単純な境界条件だったために解くことができたが、一般に二次元の波動方程式を解くのは非常に難しい。円形の膜ではベッセル関数という特殊な関数を導入する必要がある。
3 Schrö edinger方程式
3.1 ド・ブロイの式
ド・ブロイの式は粒子性と波動性を結ぶ式であった。
p =h
λ
3.2 時間に依存しない波動方程式
∂2u (x, t)
∂x2− 1
v2∂2u (x, t)
∂t2= 0
の解はu (x, t) = an sin
nπx
lcos (w0t+ ϕn)
であった。いま、簡単のために an = 1, ϕn = 0とする。
※文字に注意。Ψ, ψはプサイ、Φ, ϕ, φはファイである。
→ u (x, t) = ψ (x) coswt
→ d2ψ (x)
dx2coswt+
w2
v2ψ (x) coswt = 0
coswtについての恒等式としてd2ψ (x)
dx2+w2
v2ψ (x) = 0
3.3 時間に依存しない Schrö dinger方程式
v = λν より
w2
v2=
4π2ν2
v2
=4πν2
λ2ν2
=4π
λ2
8
ド・ブロイの式を用いて
=4π2p2
h2
ℏ = h2π とおくと
=p2
ℏ2
この関係式を用いてd2f (x)
dx2+p2
ℏ2ψ (x) = 0
と書ける。
粒子のエネルギー E = p2
2m + U (x)となるので、p2 = 2m (E − U (x))
よってdψ (x)
dx2+
2m
ℏ2(E − U (x))ψ (x) = 0
式変形して
− ℏ2
2m
d2ψ (x)
rdx2 + U (x)ψ (x) = Eψ (x)
これがシュレディンガー方程式 (Schrö dinger eq.)である。
3.4 ハミルトニアン
※ハミルトニアンはH(花文字)もしくは H で表す。
演算子として
H = − ℏ2
2m
d
dx2+ U (x)
を定義する。これを用いてシュレディンガー方程式は
Hψ (x) = Eψ (x)
と書ける。
3.5 固有値問題
一般に演算子 Aに対して関数 φ、定数 aがAφ = aφ
を満たすとする。このとき φを固有ベクトル、aを固有値という。
シュレディンガー方程式を解く⇔与えられた H に対して ψ (x) , E を求める
となる。
3.6 ハミルトニアンを書き下すには
ハミルトニアンとは、全エネルギーを演算子にしたものである。
H = − ℏ2
2m
d2
dx2+ U (x)
− ℏ2
2md2
dx2 = p2m なので、運動量も演算子
p = −iℏ d
dx
と書けることがわかる。(運動量演算子)
9
3.7 井戸型ポテンシャル中の自由粒子
シュレディンガー方程式の簡単な例である。
0 ≤ x ≤ aにおいて自由に動ける粒子を考える。つまり、
0 ≤ x ≤ a→ U (x) = 0
x < 0, a < x→ U (x) =∞
とする。
0 ≤ x ≤ aにおけるシュレディンガー方程式は、
H = − ℏ2
2m
d2
dx2
となるので、
− ℏ2
2m
d2ψ (x)
dx2= Eψ (x)
となる。
このとき固有関数 ψ (x) = A cos kx+B sin kx、固有値 E = ℏ2k2
2m となる。
証明 シュレディンガー方程式に ψ (x)を代入
− ℏ2
2m
d2ψ (x)
dx2= − ℏ2
2m
(−Ak2 cos kx−Bk2 sin kx
)=
ℏ2k2
2m(A cos kx+B sin kx)
=ℏ2k2
2mψ (x)
よって E = ℏ2k2
2m
境界条件について、ψ (0) = ψ (a) = 0となる。
ψ (0) = 0より ψ (0) = A = 0
ψ (a) = 0より ψ (a) = B sin ka = 0⇒ ka = nπ ⇒ k = nπa (k:波数)
よって固有関数はψn (x) = B sin
nπ
ax
(n = 1, 2, 3 · · · )固有値は
E =ℏ2k2
2m
=ℏ2n2π2
2ma2
=h2n2
8ma2
このように、E が nによって飛び飛びの値をとることになる。(量子化)
10
3.8 シュレディンガー方程式の固有関数の意味
固有値はエネルギーとして理解できるが、固有関数とは何なのかについて考察する。
ψ (x)は複素数。ψ⋆ (x)を ψ (x)の共役とする。
ボルンの解釈では、波動関数の二乗が x ∼ x+ dxの間に存在する確率に比例する。
ψ⋆ (x)ψ (x) dx = |ψ (x)|2 dx
ψ (0) = ψ (a) = 0としたのは、x = 0, aでは U →∞となり粒子が存在できないため。
例 光の強度の検出
光の強度は光子の数に比例する。波であれば強度は振幅の二乗に比例する。すなわち、u (x, t)→ |u (x, t)|2 に比例。比例する事象を確率として表したい。このとき、全空間の合計が 1になるよう規格化を行う。
ˆψ⋆ (x)ψ (x) dx = 1
今の場合、 ˆ a
0
ψ⋆ (x)ψ (x) dx = 1
実際に ˆ a
0
ψ⋆ (x)ψ (x) dx =
ˆ a
0
B2 sin2nπ
axdx = 1
→ B =
√2
a
よって自由粒子の波動関数
ψn (x) =
√2
asin
nπ
ax
(n = 1, 2, 3 · · · )これが量子数である。
ここまでのコメント
� 2.5 電子の速度を cの 1100 として 3× 106m/sを用いた
� 2.8 B = 1とした
� プリント【11】 e−ax2
(マイナスが必要)
※おまけ: ガウス関数の公式の証明 ˆ ∞
−∞e−ax
2
dx =
√π
a
I =
ˆ ∞
−∞e−ax
2
dx
=
ˆ ∞
−∞e−ay
2
dy
として、
I2 =
ˆ ˆ ∞
−∞e−1(x2+y2)dxdy
11
x = r cos θ, y = r sin θとおいて、
I2 =
ˆ 2π
0
ˆ ∞
0
e−ar2
rdrdθ
= 2π
ˆ1
2e−1αr2dr2
=1
22π
1
−α
[e−αr
2]r2=∞
r2=0
=π
α
I =
√π
α
3.9 井戸型ポテンシャル中の自由粒子の波動関数と固有値
前回までの話ではシュレディンガー方程式
− ℏ2
2m
d2
dx2ψ = Eψ
の解が、
固有値 ψn =√
2a sin
nπa x
エネルギー固有値 En = h2n2
8ma2 (n = 1, 2, 3, · · · )となるのであった。
3.10 量子状態の特徴
シュレディンガー方程式を解くときには、古典力学とはまったく異なる方法を使うことになる。(1) 最低エネルギーを考える。
n = 1のとき E1 = h2
8ma2 となり、量子力学では最安定な基底状態においてもエネルギーはゼロではない。mが大きい時 E1 はゼロに近づき、古典粒子の状態に近づいてゆく。(2) 質量の効果が異なる。古典力学においてはエネルギーは連続であるが、量子力学ではmと aに依存する。mが大きいと∆En (= En+1 − En)は小さくなり、飛び飛びであった量子状態が連続状態になる。
(3) 大きさaが大きいと古典的になる。(4) 節の数nが大きいと E が高くなる。
12
3.11 共役ポリエンの光吸収
1,3-ブタジエン
H2C−−CH−CH−−CH2
1,3,5-ヘキサトリエンH2C−−CH−CH−−CH−CH−−CH2
これらの分子は単結合、二重結合が交互に並んでいる→π電子共役系
これらのπ電子は分子の外には広がらない。ここで分子を一次元鎖とみなすと、井戸型ポテンシャルの状態とみなすことができる。
二重結合の両端からそれぞれ電子を供出してπ電子となる。
1,3-ブタジエンの場合、4つのπ電子が存在することになる。
n = 1に 2個、n = 2に 2個詰まると基底状態となる。
励起エネルギー∆E のとき遷移できる。
En =h2n2
8ma2
∆E2 = E3 − E2
=h2(32 − 22
)8ma2
=5h2
8ma2
1,3-ブタジエンの幅を 0.58mmとすると、
∆E2 =5×
(6.6× 10−34
)28× 9.1× 10−31 × (5.8× 10−10)
2
= 8.9× 10−19J
と具体的に求めることができる。
E = hν = h cλ より、
λ =hc
∆E2
=6.6× 10−34 × 3× 108
8.9× 10−19
= 220nm
これは測定値と一致する。
ヘキサトリエンの場合、n = 1に 2個、n = 2に 2個、n = 3に 2個の電子が詰まっている。
13
ヘキサトリエンの幅は 0.87nmであることを用いて、n = 3から n = 4への遷移は
∆E3 = E4 − E3
=h2(42 − 32
)8ma2
=7h2
8ma2= · · ·= 5.5× 10−19J
λ =hc
∆E3= · · ·= 360nm
こちらも測定値と一致する。
ジフェニルポリエンC6H5(CH−−CH)kC6H5
のように鎖長 kが長くなると、光吸収の極大波長 (ピーク波長)はさらに長くなり、紫外域から可視域へとシフトしてゆく。励起エネルギーは小さくなる。
4 量子化学の基礎
4.1 波動関数
波動関数は、原子、分子の粒子の中の状態を表すもの。定義された領域で一価、連続、有限で、ψ (r, t)とあらわす。
微小空間 dτ = dxdydz中二粒子が存在する確率は
ψ∗ (r, t)ψ (r, t) dxdydz = |ψ (r, t)|2 dxdydz
全領域では ˚|ψ (r, t)|2 dxdydz = 1
と規格化される。
4.2 固有値
量子化学では物理量 Aは演算子 Aとみなされる。
4.3 波動関数の直交性
演算子 Aの異なる固有値 an, am に対応する ψn, ψm がˆψ∗nψmdt = 0 (n = m)
を満たすとき、ψn と ψm は �直交している�という。
14
例 井戸型ポテンシャル中の粒子ˆψ∗nψmdτ =
ˆ a
0
(√2
asin
nπ
ax
)(√2
asin
mπ
ax
)dx
=1
a
ˆ a
0
(cos
n−ma
πx− cosn+m
aπx
)dx
= 0
一つの固有値に対して複数の固有関数があるときを �縮退�しているという。
4.4 期待値
ある粒子の状態 ψn (n = 1, 2, 3 · · · )とする。物理量 Aの期待値 ⟨A⟩は、
⟨A⟩ =ˆψ∗nAψndτ
例 全エネルギー ⟨En⟩は、
⟨En⟩ =ˆψ∗nHψndτ
シュレディンガー方程式は、Hψn = Enψn
左から ψ∗n をかけて積分すると、 ˆ
ψ∗nHψndτ =
ˆψ∗nEnψndτ
= En
ˆψ∗nψndτ
= En
例 2 井戸型ポテンシャル
⟨x⟩ =
ˆψ∗1 (x) · x · ψ (x) dx
=
ˆ a
0
(√2
asin
π
ax
)x
(√2
asin
π
ax
)dx
=2
a
ˆx sin2
π
axdx
=a
2
となる。0 ≤ x ≤ aにてたいしょうなので、井戸の中心に期待値が大きい。
例 3 運動量の期待値
⟨p⟩ =
ˆψ∗1 (x)
(−iℏ d
dx
)ψ1 (x) dx
=
ˆ a
0
√2
asin
π
ax
(−iℏ d
dx
)√2
asin
π
axdx
= −iℏ2a
ˆ a
0
(sin
π
ax) d
dxsin
π
axdx
= −iℏ 2
a2
ˆ a
0
sinπ
ax · cos π
axdx
= −iℏ πa2
ˆ a
0
sin2π
axdx
= 0
15
4.5 演算子の固有関数と変数分離
r1 のみに依存する→ H1
r2 のみに依存する→ H2
この時、H1ψ1 (r1) = E1ψ1 (r1)
H2ψ2 (r2) = E2ψ2 (r2)
ハミルトニアン H = H1 + H2 の固有関数は ψ1 (r1) , ψ2 (r2)、固有値は E1 + E2
これを実際に代入すると、
Hψ1 (r1)ψ2 (r2) =(H1 + H2
)ψ1 (r1)ψ2 (r2)
= H1ψ1 (r1)ψ2 (r2) + H2ψ1 (r1)ψ2 (r2)
= E1ψ1 (r1)ψ2 (r2) + E2ψ1 (r1)ψ2 (r2)
= (E1 + E2)ψ1 (r1)ψ2 (r2)
ここで H1 は ψ1 に、H2 は ψ2 にしか作用しない。
5 三次元のシュレディンガー方程式
今までの話は一次元だった→三次元へ拡張
5.1 三次元の井戸型ポテンシャル中の粒子
一次元→K = 12mv
2 = p2
2m
三次元→K =p2x2m +
p2y2m +
p2z2m → −
ℏ2
2m
(∂2
∂x2 + ∂2
∂y2 + ∂2
∂z2
)
0 ≤ x ≤ a, 0 ≤ y ≤ b, 0 ≤ z ≤ c箱の中の粒子のシュレディンガー方程式
Hψ (x, y, z) = − ℏ2
2m
(∂2ψ
∂x2+∂2ψ
∂y2+∂2ψ
∂z2
)= Eψ (x, y, z)
これをψ (x, y, z) = X (x)Y (y)Z (z)
と変数分離したい。
境界条件
X (0) = X (a) = 0
Y (0) = Y (b) = 0
16
Z (0) = Z (c) = 0
を入れて解くと
− ℏ2
2m
(Y Z
∂2X
∂x2+ ZX
∂2Y
∂y2+XY
∂2Z
∂z2
)= EXY Z
両辺をXY Z で割ると、
− ℏ2
2m
1
X
∂2X
∂x2− ℏ2
2m
1
Y
∂2Y
∂y2− ℏ2
2m
1
Z
∂2Z
∂z2= E
この式が成り立つには、
− ℏ2
2m
1
X
∂2X
∂x2= Ex
− ℏ2
2m
1
Y
∂2Y
∂y2= Ey
− ℏ2
2m
1
Z
∂2Z
∂z2= Ez
ここで E = Ex + Ey + Ez
よって
− ℏ2
2m
∂2X
∂x2= ExX
これは一次元のシュレディンガー方程式である。解は
X (x) =
√2
asin
nxπ
ax (nx = 1, 2, · · · )
Y (y) =
√2
bsin
nyπ
by (ny = 1, 2, · · · )
Z (z) =
√2
csin
nzπ
cz (nz = 1, 2, · · · )
となる。よって
ψ (x, y, z) =
√8
abcsin
nxπ
ax sin
nyπ
by sin
nzπ
cz (nx, nynz = 1, 2, · · · )
これは規格化されているか? (´ψ∗ψdxdydz = 1)
教科書 p.68例題参照→規格化されている。波動関数は 3つの量子数 (nx, ny, nz)で指定される。
Ex =h2n2x8ma2
, Ex =h2n2y8mb2
, Ex =h2n2z8mc2
なので、
E =h2
8m
(n2xa2
+n2yb2
+n2zc2
)(nx, nynz = 1, 2, · · · )
これが三次元でのシュレディンガー方程式となる。ここで a = b = cとすると、
エネルギーが同じでも状態が異なる縮退と呼ばれる減少が発生する。ここで a > b = cなどになるとエネルギー準位がずれる。これを「縮退が解ける」と呼ぶ。
17
5.2 三次元座標
今後中心に向かう力 (中心力)の場を考えることが多くなる。
例 クーロンポテンシャル U (r) = − e2
4πε0r
(x, y, z)→ (r, θ, ϕ)への変換を行い、中心力を扱いやすくする。
x = r sin θ cosϕ
y = r sin θ sinϕ
z = r cos θ
定義域は r > 0, 0 ≤ θ ≤ π, 0 < ϕ ≤ 2πである。
∇2 =∂2
∂x2+
∂2
∂y2+
∂2
∂z2
を極座標で表す。※∇2 はラプラシアンの記号、∇はナブラである。
∇ =
∂∂x∂∂y∂∂z
∇2 =
1
r2∂
∂r
(r2∂
∂r
)+
1
r2
{1
sin θ
∂
∂θ
(sin θ
∂
∂θ
)+
1
sin2 θ
∂2
∂ϕ2
}また、微小空間の体積を求めたい。
これを上から見ると、
体積は、dr · rdθ · r sin θdϕ = r2 sin θdrdθdϕ
となる。直交座標系の微小体積は dxdydzで、この時の波動関数は、
ˆ ∞
−∞
ˆ ∞
−∞
ˆ ∞
−∞|ψ (x, y, z)|2 dxdydz
18
であった。これは極座標では、 ˆ 2π
0
ˆ π
0
ˆ ∞
0
|ψ (r, θ, ϕ)|2 r2 sin θdrdθdϕ
となる。
6 水素原子
陽子 1個、電子 1個の系について、厳密解を求める。
6.1 水素原子のシュレディンガー方程式
images/str022.jpg
ハミルトニアンは、
H = − ℏ2
2M∇2
1 −ℏ2
2m∇2
2 + U (r)
ここで U (r) = − e2
4πε0r(Coulomb)
陽子の質量は電子の質量の 1840倍であり、陽子はほとんど動かないとみなすことができる。これをボルン=オッペンハイマー近似と呼ぶ。すると、
H = − ℏ2
2m∇2 + U (r)
とできる。極座標を用いてシュレディンガー方程式を表すと、[
− ℏ2
2m
{1
r2∂
∂r
(r2∂
∂r
)+
1
r2 sin θ
∂
∂θ
(sin θ
∂
∂θ
)+
1
r2 sin2 θ
∂2
∂ϕ2
}+ U (r)
]ψ (r, θ, ϕ) = Eψ (r, θ, ϕ)
となる。
6.2 変数分離
両辺に 2mr2 をかける。
−ℏ2 ∂∂r
(r2∂ψ
∂r
)− ℏ2
{1
sin θ
∂
∂θ
(sin θ
∂
∂θ
)ψ +
1
sin2 θ
∂2ψ
∂ϕ2
}+ 2mr2 (U (r)− E)ψ = 0
ψ (r, θ, ϕ) = f (r) g (θ, ϕ)と変数分離できるとする。
−ℏg (θ, ϕ) ∂∂r
{r2∂f (r)
∂r
}− ℏ2f (r)
[1
sin θ
∂
∂θ
{sin θ
∂g (θ, ϕ)
∂θ
}+
1
sin2 θ
∂2g (θ, ϕ)
∂ϕ2
]+ 2mr2 {U (r)− E} f (r) g (θ, ϕ) = 0
両辺を f (r) g (θ, ϕ)で割る。
−ℏ2 1
f (r)
∂
∂r
{r2∂f (r)
∂r
}− ℏ2
1
g (θ, ϕ)
[1
sin θ
∂
∂θ
{sin θ
∂g (θ, ϕ)
∂θ
}+
1
sin2 θ
∂2g (θ, ϕ)
∂ϕ2
]+ 2mr2 {U (r)− E} = 0
この式は、動径成分
−ℏ2 1
f (r)
∂
∂r
{r2∂f (r)
∂r
}+ 2mr2 {U (r)− E} = −c
19
角度成分
−ℏ2 1
g (θ, ϕ)
[1
sin θ
∂
∂θ
{sin θ
∂g (θ, ϕ)
∂θ
}+
1
sin2 θ
∂2g (θ, ϕ)
∂ϕ2
]= c
と分離できる。
6.3 角度成分
−ℏ2{
1
sin θ
∂
∂θ
{sin θ
∂
∂θ
}+
1
sin2 θ
∂2
∂ϕ2
}g (θ, ϕ) = cg (θ, ϕ)
角運動量演算子の三次元極座標表示 Lを
L2 = −ℏ2{
1
sin θ
∂
∂θ
{sin θ
∂
∂θ
}+
1
sin2 θ
∂2
∂ϕ2
}とおく。
L2 の固有値、固有関数はg (θ, ϕ) = Y ml (θ, ϕ) , c = ℏ2l (l + 1)
と与えられる。(l,mは整数)(テキスト appendixA参照)
ここで Y ml (θ, ϕ)は球面調和関数といい、整数 l,m(量子数)によって決まる。
lおよびmはl = 0, 1, 2, 3, · · ·
m = −l,−l + 1,−l + 2, · · · , 0, · · · , l − 1, l
をとりうる。
また、
Y 00 =
√1
4π
である。
全角度方向について積分するとˆ π
0
ˆ 2π
0
∣∣Y 00 (θ, ϕ)
∣∣2 sin θdθdϕ =1
4π
ˆ π
0
sin θdθ
ˆ 2π
0
dϕ
=1
4π[cos θ]
π0 [ϕ]
π0
=1
4π· 2 · 2π
= 1
(左辺の sin θはヤコビアンに由来する)
よって規格化されている。
6.4 動径成分
c = ℏ2l (l + 1)を使うと、
−ℏ2 1
f (r)
∂
∂r
{r2∂f (r)
∂r
}+ 2mr2 {U (r)− E} = −ℏ2l (l + 1)
両辺に f(r)2m をかけると、 {
− ℏ2
2mr2∂
∂r
(r2∂
∂r
)+
ℏ2l (l + 1)
2mr2+ U (r)
}f (r) = Ef (r)
固有値及び固有関数は、f (r) = Rn,l (r)
E = En =−me4
2 (4πε0)2 ℏ2n2
と与えられる。(n, lは整数)
20
{− ℏ2
2mr2∂
∂r
(r2∂
∂r
)+
ℏ2l (l + 1)
2mr2+ U (r)
}Rn,l (r) = EnRn,l (r)
Rn.l (r)は n, lによって決まる (表 6.2参照)
n = 1, 2, 3, · · ·
l = 0, 1, 2, 3, · · ·
の値をとる。
6.5 水素原子の波動関数と 3つの量子数
先に見た通り、ψ (r, θ, ϕ) = Rn,l (r)Yml (θ, ϕ)となる。
3つの量子数n = 1, 2, 3, · · ·
l = 0, 1, 2, · · ·
m = −l,−l + 1, · · · , 0, · · · , l − 1, l
をとる。(n: 主量子数, l: 方位量子数, m: 磁気量子数)
例えば、n = 2では l = 0, 1をとれる。
さらに l = 0ならm = 0、l = 1ならm = −1, 0, 1をとれる。よって (n, l,m) = (2, 0, 0) , (2, 1,−1) , (2, 1, 0) , (2, 1, 1)がとりうる組み合わせとなる。n = 3では l = 0, 1, 2
さらに l = 0ならm = 0、l = 1ならm = −1, 0, 1、l = 2ならm = −2,−1, 0, 1, 2をとれる。「水素原子中の電子の状態は、3つの量子数で指定される。」
命名は、n → そのまま、l → 0:s, 1:p. 2:d, 3:fというようになる。
例えば n = 1, l = 0なら 1s軌道、n = 2, l = 1なら 2p軌道となる。
6.6 エネルギー固有値
En =−me4
2 (4πε0)2 ℏ2n2
は nのみに依存し、飛び飛びの値しか取れない。
images/str023.jpg
n = 1が最安定 (エネルギーが低い)、n→∞で E∞ → 0となる。
21
ここまでのコメント
� 動径方向 {− ℏ2
2m
∂
∂r
(r2∂
∂r
)+
ℏ2l (l + 1)
2mr2+ U (r)
}f (r) = Ef (r)
E ==−me4
2 (4πε0)2 ℏ2n2
r =4πε0nℏ2ρ2me2
→ d2f (ρ)
dρ2+
2
ρ
df (ρ)
dρ+
{−1
4+n
ρ− l (l + 1)
ρ2
}f (ρ) = 0
f (r) = c
(2
na0
)lrle−
rna0 L2l+1
n+l
(2r
na0
)� 極座標形式での θの定義域 0 ≤ θ ≤ πに注意
6.7 水素原子の軌道
エネルギーは nに依存する (n = 1, 2, 3, · · · (ゼロなし), l = 0, 1, 2, · · · , m = −l, · · · , 0, · · · , l)このうち 1sが最安定であり、これを基底状態という。
6.7.1 基底状態
1sのとき、n = 1, l = 0であるので、m = 0のみ。
波動関数はψ1s (r, θ, ϕ) = R1,0 (r)Y
00 (θ, ϕ)
R1,0 (r) = 2
(1
a0
) 32
e−ra0
Y 00 (θ, ϕ) =
√1
4π
ここで a0 はボーア半径である。
ここから
ψ1s (r, θ, ψ) =
√1
π
(1
a0
) 32
e−ra0
規格化の確認をする。
ˆ ∞
0
ˆ π
0
ˆ 2π
0
|ψ1s (r, θ, ψ)|2 r2 sin θdrdθdϕ =1
π
(1
a0
)3 ˆ ∞
0
r2e−2ra0 dr
ˆ π
0
sin θdθ
ˆ 2π
0
dϕ = 1
となる。
電子の存在確率は、
|ψ|2 = |R1,0 (r)|2∣∣Y 0
0 (θ, ϕ)∣∣2
=1
π
(1
a0
3
e−2ra0
)
6.7.2 励起状態
2s軌道 2sでは、n = 2, l = 0,m = 0
ψ2s (r, θ, ϕ) = R2,0 (r)Y00 (θ, ϕ) =
√1
32π
(1
a0
) 32(2− r
a0
)e−
r2a0
22
2s軌道では、r = 2a0 で節ができる。
2p軌道 2pでは、n = 2, l = 1,m = −1, 0, 1をとる。
2pz 軌道 n = 2, l = 1,m = 0を考える。
ψ2p (r, θ, ϕ) = R2,1 (r)Y01 (θ, ϕ)
R2,1 (r) =
√1
24
(1
a0
) 32 r
a0e−
r2a0
Y 01 (θ, ϕ) =
√3
4πcos θ
=
√3
4π
z
r
z = r cos θであったので cos θ = zr と書けた。
ここから、Y 01 は θに依存し ϕには依存しないことが分かる。
ψ2pz(r, θ, ϕ) =
√1
32π
(1
a0
) 32 r
a0e−
r2a0 cos θ
存在確率は
|ψ2pz |2=
1
32π
(1
a0
)3r2
a0e−
ra0 cos2 θ
2px, 2py 軌道 n = 2, l = 1,m = 1を考える。
ψ2p (r, θ, ϕ) = R2,1 (r)Y11 (θ, ϕ)
Y 11 (θ, ϕ) =
√3
8πsin θe+iϕ
Y −11 (θ, ϕ) =
√3
8πsin θe−iϕ
となり、虚数を含む。
23
二つの関数を合わせて、虚数部を消去する。
1√2
(Y 11 + Y −1
1
)=
√3
4πsin θ cosϕ
=
√3
4π
x
r
1√2i
(Y 11 − Y −1
1
)=
√3
4πsin θ cosϕ
=
√3
4π
y
r
ψ2px (r, θ, ϕ) =
√1
32π
(1
a0
) 32 r
a0e−
r2a0 sin θ cosϕ
ψ2py (r, θ, ϕ) =
√1
32π
(1
a0
) 32 r
a0e−
r2a0 sin θ sinϕ
まとめると、2p軌道は n = 2, l = 1で、m = 0だと 2pz 軌道、m = ±1だと 2px, 2py 軌道が導出される。
3d軌道 3dでは、n = 3, l = 2,m = −2,−1, 0, 1, 2
ψ3d (r, θ, ϕ) = R3,2 (r)Y±2,±1,02 (θ, ϕ)
R3,2 (r) =4
81√30
(1
a0
) 72
r2e−r
3a0
3dz 軌道 n = 3, l = 2,m = 0
Y 02 (θ, ϕ) =
√5
16π
(3 cos2 θ − 1
)=
√5
16π
(3z2
r2− 1
)となり、θに依存し ϕには依存しないことが分かる。
ψ3dz2(r, θ, ϕ) =
1
81√6π
(1
a0
) 72
r2e−r
3a0
(3 cos2 θ − 1
)cos2 θ = 1
3 のとき、θ = 54.7◦, 125.3◦ で節になる。教科書 p96の図を参照。
24
3dzx,yz 軌道 m = ±1を考える。R3,2 は先ほどと同じ。
1√2
(Y 12 + Y −1
2
)=
√15
16πsin 2θ cosϕ
=
√15
4π
zx
r2
1√2i
(Y 12 − Y −1
2
)=
√15
16πsin 2θ sinϕ
=
√15
4π
yz
r2
式変換の詳細については教科書 p97参照。
3dx2−y2 , 3dxy 軌道 m = ±2について考える。R3,2 は先ほどと同じ。
1√2
(Y 22 + Y −2
2
)=
√15
16πsin2 θ cos 2ϕ
=
√15
16π
x2 − y2
r2
1√2i
(Y 22 − Y −2
2
)=
√15
16πsin2 θ sin 2ϕ
=
√15
16π
xy
r2
6.8 波動関数の空間的な広がり
1sに比べ、2s, 3sとなるにつれ、空間的に広がっていく。また、2s, 3sには節があることが分かる。p,d軌道では,Y ml (θ, ϕ)に節があるので、異方的な分布が見られる。
6.8.1 動径分布関数
r ∼ r + drのいちに電子がいる確率を p (r)とする。1s軌道の p (r) drを求める。
|ψ (r, θ, ϕ)|2 r2 sin θdrdθdϕを θ, ϕについては積分して、p (r) drを求める。
p (r) dr =
ˆ π
0
ˆ 2π
0
|Rnl (r)|2 |Y ml (θ, ϕ)|2 r2 sin θdrdθdϕ
= |Rnl (r)|2 r2drˆ π
0
ˆ 2π
0
|Y ml (θ, ϕ)|2 sin θdθdϕ
= |Rnl (r)|2 r2dr
つまり p (r) drは、|Rnl (r)|2 drではなく |Rnl (r)|2 r2drである。
p (r) dr =
{2
(1
a0
) 32
e−ra0
}2
r2dr
=4
a0
(r
a0
)2
e−2ra0 dr
1s軌道の p (r) drは r = 0で 0となり、r = a0で極大となることが分かる。すなわち、電子の存在確率は r = a0で最大となる。(r = 0でない)
25
物理的な意味 rが小さいとき、|R1,0 (r)|2 は大きいが、4πr2drは小さい。
rが大きいとき、|R1,0 (r)|2 は小さいが、4πr2drは大きい。
ここから、r = a0 で極大値ができると推測できる。
同様に 2s軌道では
p (r) dr = |R2,0 (r)|2 r2dr
=1
8a0
(2− r
a0
)2(r
a0
)2
e−ra0 dr
となる。
極大値を求めるには、dp (r)
dr=
r
8a60(r − 2a0)
(−r2 + 6a0r − 4a20
)e−
ra0 = 0
より、r = 0,(3±√5)a0, 2a0 で
dp(r)dr = 0となる。
よって r =(3±√5)a0 = 0.76a0, 5.24a0 となる。
6.8.2 期待値
1s軌道の電子は中心から平均してどのくらい離れたところにあるか?
⟨r⟩ =
ˆψ∗1s (r, θ, ϕ) · r · ψ1s (r, θ, ψ) dτ
=
ˆ ∞
0
r |R1,0 (r)|2 r2drˆ π
0
ˆ 2π
0
∣∣Y 00 (0, ϕ)
∣∣2 sin θdθdϕ=
ˆ ∞
0
r3 |R1,0 (r)|2 dr
1s軌道では、
⟨r⟩ =
ˆ ∞
0
|R1,0 (r)|2 r3dr
=4
a0
ˆ ∞
0
r3e−2ra0 dr
つまり、平均すると電子は r = 32a0 のところに存在する。
2s軌道では、
⟨r⟩ =
ˆ ∞
0
|R2,0 (r)|2 r3dr
=...
= 6a0
6.8.3 ボーアの原子モデルとの比較
一章でやったことは、量子化された電子半径は
rn =n2h2ε0πme2
= a0n2
となるというものであった。これと p (r)の極大と ⟨r⟩の値と比較して検討する。n = 1で rn = a0 となり、ボーア半径に一致する。
ここで s軌道における各種半径の値を比較すると、n ボーアモデル p (r) ⟨r⟩1 a0 a0
32a0
2 4a0 0.76a0, 5.24a0 6a0
3...
......
26
となり、n = 1では異一致するが n = 2以上では一致しないことが分かる。
En = − me4
8ε20h2· 1
h2= −13.6 1
n2(eV)
シュレディンガー方程式を復習すると、 (− ℏ2
2m∇2 − e2
4πε0r
)ψ1s = Eψ1s
ここで
∇2 =1
r2∂
∂r
(r2∂
∂r
)+
1
r2 sin θ
∂
∂θ
(sin θ
∂
∂θ
)+
1
r2 sin θ
∂2
∂ϕ2
であった。これに
ψ1s = 2
(1
a0
)2
e−ra0
1√4π
を代入して、
Hψ1s = − ℏ2
2m
1
r2∂
∂r
(r2∂ψ1s
∂r
)− e2
4πε0rψ1s
= − ℏ2
2m
1
r2∂
∂r
(r2(− 1
a0
)ψ1s
)− e2
4πε0rψ1s
= − ℏ2
2m
1
r2
{2r
(− 1
a0
)ψ1s + r2
(− 1
a0
)2
ψ1s
}− e2
4πε0rψ1s
= − ℏ2
2m
2
r
−1a0ψ1s −
ℏ2
2m
(− 1
a0
)2
ψ1s −e2
4πε0rψ1s
これにボーア半径
a0 =h2ε0πme2
を代入すると、
Hψ1s = −ℏ2
2m
(πme2
h2ε0
)4
ψ1s
よって固有エネルギー
E = EH
= − me4
8ε0h2
となっている!
不確定性原理 井戸型ポテンシャル中の粒子を考える (幅 a)
En =h2n2
8ma2, ψn (x) =
√2
asin
nπ
ax
となる。さらに、
⟨x⟩ =
ˆψ∗1x · ψ1dx
=...
=a
2
となった。ここで⟨x2⟩を計算すると、 ⟨
x2⟩
=
ˆψ∗1x
2ψ1dx
=...
=a2
3− a2
2π2
27
となる。(教科書 p.61参照)
さらに、分散 σ2x は
σ2x =
⟨x2⟩− ⟨x⟩2
=
(a2
3− a2
2π2
)−(a2
)2=
( a2π
)2(π2
3− 2
)となる。ところで運動量の期待値は
⟨p⟩ =
ˆψ∗1
(−iℏ ∂
∂x
)ψ1dx
=...
= 0
さらに二乗の期待値は ⟨p2⟩
=
ˆψ∗1
(−ℏ ∂
∂x2
)ψ1dx
=...
=π2ℏ2
a2
そして分散は
σ2p =
⟨p2⟩− ⟨p⟩2
=...
=π2ℏ2
a2
よって
σx =a
2π
√π2
3− 2
σp =πℏa
σxσp =a
2π
√π2
3− 2 · πℏ
a
=ℏ2
√π2
3− 2
= 1.1× ℏ2>
ℏ2
となる。このように場所を厳密に求めようとすると運動量を厳密に求めることができない。これを不確定性原理という。すなわち、井戸の幅 a→∞とすると、σp → 0となり、運動量を正確に決められる。しかし、σx →∞となり、位置を決められない。a→ 0では σp →∞となるが、σx → 0となり、位置を正確に決められる。このように、同時に位置と運動量を決めることはできない。(時間とエネルギーも同様の関係を持っている。)
交換関係 x→ x, p→ −iℏ ∂∂x なので、
x · p · ϕ = x
(−iℏ ∂
∂x
)ϕ = −iℏx∂ϕ
∂x
p · x · ϕ = −iℏ ∂
∂x(xϕ) = −iℏϕ− iℏx∂ϕ
∂x
よって(xp− px)ϕ = iℏϕ
→ [x, p] = xp− px = iℏ
このように、xと pは交換可能でない。これが不確定性原理の出現に関係する。
28
コメント 演習問題【18】を解く。
測定の不確かさは、
∆x =
√∑i
p (xi) (xi − ⟨x⟩)2
で表される。
xの平均は、⟨x⟩ =
∑i
xip (xi)
さらに解いていくと、(xi − ⟨x⟩)2 = x2i − 2xi ⟨x⟩+ ⟨x⟩2
∑i
p (xi) (xi − ⟨x⟩)2 =∑i
p (xi){x2i − 2xi ⟨x⟩+ ⟨x⟩2
}=
⟨x2⟩− 2 ⟨x⟩2 + ⟨x⟩2
=⟨x2⟩− ⟨x⟩2
となる。
よって、
∆x =
√∑i
p (xi) (xi − ⟨x⟩)2
=
√⟨x2⟩ − ⟨x⟩2
となり、∆xは分散 σx に一致する。
レポート提出を受けて 厳密解の導出にボルンオッペンハイマー近似を用いてよいのかという質問があった。正確には換算質量 1
µ = 1M −
1m を用いるのが厳密である。
演習問題【12】2.
pz = −iℏ∂
∂z
固有関数 f (z)とおく。
pzf (z) = pzf (z)
−iℏ ∂∂zf (z) = pzf (z)
∂f (z)
∂z=ipzℏf (z)
ln f (z) = ipzℏz + C
f (z) = Aeipzℏ z
で求まる。
演習問題【13】1. 0 ≤ x ≤ aで U (x) = 0なので、
− ℏ2
2m
d2
dx2ψ (x) = Eψ (x)
29
演習問題【13】2.ψ (x) = Aeikx +Be−ikx
を代入
− ℏ2
2m
(−Ak2eikx −Bk2e−ikx
)= E (ψ (x))
→ E =ℏ2k2
2m
演習問題【13】3.ψ (0) = A+B = 0
演習問題【13】4. x = aのときψ (a) = Aeika −Ae−ika = 0
sin ka = 0
k =nπ
a(n = 1, 2, 3, · · · )
演習問題【13】5.
E =ℏ2k2
2m=
ℏ2
2m
(nπa
)2=
n2h2
8ma2
演習問題【13】6. C−−C−C−−Cより 4つ。
演習問題【13】7. n = 2→ 3への遷移
∆E =h2(32 − 22
)8ma2
=5h2
8ma2
演習問題【13】8.
E = hν = hc
λ=
5h2
8ma2
→ λ =8ma2c
5h
演習問題【14】1. ミスプリがあった。r = aのとき U (r) =∞とあるが、r = aの間違いである。
E =p2
2m
演習問題【14】2.
p→ iℏd
adθ→ p2
2m→ − ℏ2
2ma2d2
dθ2
演習問題【14】3. シュレディンガー方程式は
− ℏ2
2ma2d2
dθ2ψ = Eψ
30
演習問題【14】4. ψ (θ) = Aeiλθ として、代入する
− ℏ2
2ma2(−λ2
)Aeiλθ = EAeiλθ
→ E =ℏ2λ2
2ma2
演習問題【14】5. ˆ 2π
0
ψ∗ (θ)ψ (θ) dθ = 1
A2
ˆ 2π
0
e−iλθeiλθ = 1
A =1√2π
演習問題【14】6.ψ (θ + 2π) = ψ (θ)
Aeiλ(θ+2π) = Aeiλθ
eiλ2π = 1
λ = n
演習問題【14】8.
6個。
演習問題【15】1. 誤答が多かった。
H =1
2m
(p2x + p2y
)演習問題【15】2.
H = − ℏ2
2m
(∂2
∂x2+
∂2
∂y2
)
31
演習問題【15】3. (x, y)→ (r, θ)
∂
∂x= cos θ
∂
∂r− 1
rsin θ
∂
∂θ
∂2
∂x2=
(cos θ
∂
∂r− 1
rsin θ
∂
∂θ
)(cos
∂
∂r− 1
rsin θ
∂
∂θ
)= cos2 θ
∂2
∂r2− cos θ
∂
∂r
(1
rsin θ
)∂
∂θ− 1
rsin θ
∂
∂θcos θ
∂
∂r+
1
r2sin θ
∂2
∂θ2
= cos2 θ∂2
∂r2+ cos θ sin θ
1
r2∂
∂θ+
1
rsin2 θ
∂
∂r+
1
rsin2 θ
∂2
∂θ2
∂2
∂x2+
∂2
∂y2=
∂2
∂r2+
1
r
∂
∂r+
1
r2∂2
∂θ2
演習問題【15】4. r = constant
H = − ℏ2
2mr2∂2
∂θ2
より、
− ℏ2
2mr2∂2
∂θ2ψ (θ) = Eψ (θ)
演習問題【15】5. ψ (θ) = Ae−iλθ として代入
→ E =ℏ2λ2
2mr2
演習問題【15】6.ψ (θ + 2π) = ψ (θ)
→ eiλ2π = 1
λは整数
演習問題【15】7.
L = xpx + ypy
=ℏi
[r cos θ
(sin θ
∂
∂r+
1
rcos θ
∂
∂θ
)− r sin θ
(cos θ
∂
∂r− 1
rsin θ
∂
∂θ
)]=
ℏi
[∂
∂θ
]L → −iℏ ∂
∂θ
演習問題【15】8.Lψ = E′ψ
−iℏ ∂∂θAeiλθ = E′Aeiλθ
hλ = E′ (固有値)hλが角運動量の固有値となっている。
32
演習問題【16】
ψ (x) =( aπ
) 14
e−ax2
H = − ℏ2
2m
∂2
∂x2+
1
2kx2
Hψ = Eψ
∂2
∂x2ψ (x) =
(−2a+ 4a2x2
)e−ax
2
[− ℏ2
2m
∂2
∂x2+
1
2kx2]e−ax
2
=
[ℏ2am
+
(1
2k − 2ℏ2a2
m
)x2e−ax
2
]x2 の係数がゼロ
a =
√km
2ℏ
このとき
E =ℏ2am
=1
2ℏ√k
m=
1
2hν
となる。
ν =1
2π
√k
m
⟨H⟩ =
´ψ∗Hψdv´ψ∗ψdv
=E´ψ∗ψdv´ψ∗ψdv
= E
=1
2hν
=h
4π
√k
m
7 多電子原子
今までの話はすべて水素原子 (一電子系)の話だったので厳密解をとくことが出来た。(エネルギーと波動関数が求まった)
その他の原子、すなわち多電子系は一般には解けない。
7.1 水素類似原子
He+: 陽子 2個、電子 1個
Li2+: 陽子 3個、電子 1個
など、電子が1個のもの。
33
7.1.1 ボーアの原子モデルからの見通し
ボーアモデルとは、
1. 核と電子のクーロン力と遠心力の釣り合い
2. 円運動による角運動量の量子化
であった。1.はze2
4πεr2=mv2
r
2.はmvr = nℏ
これを rについて解くと、
r =n2h2ε0πmze2
となった。
ボーア半径は
a0 =n2h2ε0πme2
より
r =a0zn2 =
0.053
zn2 [nm]
となる。
ここで z = 1のときは水素原子そのもの、zが大きくなると核に引きつけられる力が働くことになる。
E =1
2mv2 − ze2
4πε0r
=ze2
8πε0r− ze2
4πε0r
= − ze2
8πε0r
=−h2
8mπ
z2
a0
1
n2
より、zが大きくなるとエネルギーが低くなる。つまり、水素では a0を用いたが、類似原子では a0z とすれば同様に議論するこ
とができる。
7.1.2 エネルギー固有値と波動関数
核の正電荷を zeとする。
シュレディンガー方程式は、 (− ℏ2
2m∇2 − ze2
4πε0r
)ψ = Eψ
水素原子でのシュレディンガー方程式の解より、
E = − mz2e4
2 (4πε0)2 ℏ2n2
= −13.6 z2
n2(eV)
ψ1s =1√π
(z
a0
) 32
e−zra0
ψ2s =1√32π
(z
a0
) 32(2− zr
a0
)e−
zr2a0
34
zが大きくなると中心で大きな値を持つようになる。
7.2 独立粒子近似
He原子を考える。(陽子 2個、電子 2個)
He+ に −eを追加する、と考える。追加した電子から見た核電荷 (+ 2 e +−e−−+ eではなく、1.7 eぐらい)を「有効核電荷」Zeff という。もともとの電子は核を「遮蔽」している。
Li電子を考える。(陽子 3個、電子 3個)
Li2+に −eを近づける。まず 1個追加するとすると + 3 e +−e−−+ 2 eではなく、2.7 eぐらいの Zeff になる。続いてもう 1個追加すると + 3 e +−2e−−+ eではなく、1.3 eぐらいの Zeff になる。
このように電子を 1個ずつ考えるやり方を独立粒子近似という。ここでは電子間の相互作用は考慮されていない。
N 個の電子を持つ多電子原子のの i番目の電子についてのシュレディンガー方程式は、(− ℏ2
2m∇2i −
Zeffi e2
4πε0ri
)ϕi (r) = εiϕi (r)
こうすると水素原子に類似し、n, l,mで解が決まる事がわかる。
7.3 構成原理
N 個の電子がどう入るか?を考える。
Li原子において、i = 1, 2は n = 1, l = 0の 1s軌道に入る。i = 3は n = 2, l = 0の 2s軌道に入る。(1sより外側にあるため、有効核電荷は 1に近づく。)
(1) 軌道エネルギー
エネルギーは nに依存するというのが重要な事であった。エネルギーは 1s < 2s = 2p < 3s = 3p = 3d < 4s · · · となるはずである。
ところが実際は、電子間相互作用や電子による核電荷の遮蔽 (スクリーニング)効果によりエネルギーが変化する。
一般に lが大きいとエネルギーは高くなり、核から離れたところに電子が存在するようになる。こういった軌道エネルギーの大小関係をマーデルング規則という。(教科書 p.115)
(2) 電子スピン
陽子の周りの公転に対して、電子の自転に相当する。これは電子が実際に物理的に回転しているというより、電子が 2つの状態のみ取りうるという話である。
またスピン量子数というものが存在し、その値は S = ±12 である。
(3) パウリの排他律
電子は 4つの量子数 n, l,m, sで指定される状態に一つしか入らない。n, l,mで決まる軌道に S ↑, S ↓の 2つまで入る。
(4) フントの規則
例えば 2p軌道 (n = 2, l = 1)はm = 1, 0,−1の 3つの軌道をとるのであった。この電子ができるだけ異なる軌道に入ってスピンが平行になるように入るというのがフントの規則である。
35
7.4 原子の電子構造
H: (1s)1
He: (1s)2
Li: (1s)2(2s)
1
C: (1s)2(2s)
2(2p)
2
Na: (1s)2(2s)
2(2p)
6(3s)
1
7.5 電子殻
K殻: n = 1: 電子 2個
L殻: n = 2: 電子 8個
M殻: n = 3: 電子 18個
電子殻に入ることのできる電子数は、
N (n) =n−1∑i=0
2 (2i+ 1)−n−1∑i=0
(4i+ 2) = 4 · n (n− 1)
2+ 2n = 2n2
となる。
7.6 閉殻
閉殻とは、K, L, M, …殻がちょうど詰まっているとき、という定義は正しくない。(ArはM殻 18個は詰まっていない。)n, lで指定される軌道が満たされていることを閉殻という。(Beは 2sまで詰まっているので閉殻である。)
7.7 周期律
教科書 p.122参照。これはすべて上記のルールに従っている。
7.8 イオン化エネルギー
最外殻の電子を 1つ取り除くのに必要なエネルギー。軌道のエネルギーをプラス符号に変えたものとも言える。
Ip = −E
これをクープマンの定理 (Koopmann's theorem)という。
アルカリ金属ではイオン化エネルギーが小さく、希ガスではイオン化エネルギーは大きくなる。
同一周期では Zeff が大きくなる。周期が変わると nが増加し、核から離れて取れやすくなる。
7.9 原子半径
電子の存在確率からでは原子の大きさは決められない。ここでは便宜的に原子半径を定義する。
同一周期では Zeff が大きくなるため、原子半径は小さくなる。周期が変わると、nが増加して核から離れ、原子半径は大きくなる。
3 cos2 θ− 1について cos2 θ = 13 を解くと θ = 54.7◦となる。これはマジックアングルと呼ばれ、6章を含め様々なところで登
場する。
8 水素分子イオン
�なぜ、原子間に結合ができるのか�を H2+ で考える。
36
8.1 H2+のシュレディンガー方程式
H2+: 陽子 2個、電子 1個
核はme の 1840倍なので、核の運動は無視できる。
H = − ℏ2
2m∇2 − e2
4πε0rA− e2
4πε0rB+
e2
4πε0R
8.2 LCAO近似
電子が原子 Aの近くにいる時の �原子の�波動関数 ϕA (rA)
電子が原子 Bの近くにいる時の �原子の�波動関数 ϕB (rB)
実際はこれらの中間の状態であると考えられるので、線形結合 (Linear Combination of Atomic Orbital)で表す。
水素分子イオンの波動関数を ψとして、ψ = cAϕA + cBϕB
となる。これから係数 cA, cB を決めていきたい。
8.3 変分法
一般にHψ0 = E0ψ0
左から ψ∗0 をかけ、全領域で積分すると、 ˆ
ψ∗0Hψ0dτ =
ˆψ∗0E0ψ0dτ
= E0
ˆψ∗0ψ0dτ
E0 =
´ψ∗0Hψ0dτ´ψ∗0ψ0dτ
任意の ϕに対して E は E ≥ E0 となる。
E が小さくなるような ϕを探す→変分法
8.4 H2+のエネルギー
分子軌道 ψ = cAϕA + cBϕB
E =
´ψ∗Hψdτ´ψ∗ψdτ
=
´(c∗Aϕ
∗A + c∗Bϕ
∗B) H (cAϕA + cBϕB) dτ´
(c∗Aϕ∗A + c∗Bϕ
∗B) (cAϕA + cBϕB) dτ
ここで ˆϕ∗AHϕAdτ =
ˆϕ∗BHϕBdτ = HAA = HBB ≡ α
ˆϕ∗AHϕBdτ =
ˆϕ∗BHϕAdτ ≡ β
ˆϕ∗AϕBdτ ≡ S
とおく。
37
ここで ˆϕ∗AϕAdτ = 1
ˆϕ∗BϕBdτ = 1
なので、
E =(c∗AcA + c∗BcB)α+ (c∗BcA + c∗AcB)β
(c∗AcA + c∗BcB) + (c∗BcA + c∗AcB)S
cA, cB を変えたとき E のminを求める。その時の条件は?
→ ∂E∂c∗A
= 0となる c∗A を求める。
cAE + c∗AcA∂E
∂c∗A+ c∗BcB
∂E
∂c∗A+ c∗BcAS
∂E
∂c∗A+ cBES + c∗AcBS
∂E
∂c∗A= cAα+ cBβ
cAE + cBES = cAα+ cBβ
cA (α− E) + cB (β − ES) = 0
同様に、cA (β − ES) + cB (α− E) = 0
これは例題にある。
ここから、cA, cB が解を持つには、 ∣∣∣∣ α− E β − ESβ − ES α− E
∣∣∣∣ = 0
(α− E)2 − (β − ES)2 = 0{E1 = α+β
1+s
E2 = α−β1−s
1. S は 0 ∼ 1の値
2. α, β は離れていれば負の値
3. E1 より E2 が大きい (E1 のほうが安定)
8.5 H2+の波動関数
E1 = α+β1+s のとき、cA = cB となる。
ψ1 = a (ϕA + ϕB)
規格化して、ˆψ∗1ψ1dτ = a2
ˆ(ϕ∗A + ϕ∗B) (ϕA + ϕB) dτ
= a2 (2 + 2S)
= 1
a =1√
2 (1 + S)
よって、
ψ1 =1√
2 (1 + S)(ϕA + ϕB)
同様に E2 に対して
ψ2 =1√
2 (1− S)(ϕA + ϕB)
38
8.6 α, β, Sの意味
原子軌道として水素原子の 1s
ϕA =
√1
πa30e−
rAa0
を用いる。
8.6.1 重なり積分
S =
ˆϕ∗AϕBdτ
遠方では重なりなしなので S = 0、A = B では´ϕ∗AϕAdτ = 1より S = 1。S の範囲は 0 ≤ S ≤ 1となる。
8.6.2 クーロン積分
HAA = HBB = α
α =
ˆϕ∗A
(− ℏ2
2m∇2 − e2
4πε0rA
)ϕAdτ︸ ︷︷ ︸´
ϕ∗AE1sϕAdτ=E1s
+
ˆϕ∗A
(− e2
4πε0rB
)ϕAdτ︸ ︷︷ ︸
´− e2|ϕA|2
4πε0rBdτ
+
ˆϕ∗A
(e2
4πε0R
)ϕAdτ︸ ︷︷ ︸
e2
4πε0R核間の相互作用
e2 |ϕA|2 は微小空間の電荷 e |ϕA|2 と核 B の相互作用を表す。
α = E1s + J と書く。
8.6.3 共鳴積分
HAB = HBA = β
β =
ˆϕ∗B
(− ℏ2
2m∇2 − e2
4πε0rA
)ϕAdτ︸ ︷︷ ︸´
ϕ∗BE1sϕAdτ=E1s·S
+
ˆϕ∗B
(− e2
4πε0rB
)ϕAdτ︸ ︷︷ ︸
´−
e2ϕ∗B
ϕA4πε0rB
dτ
+
ˆϕ∗B
(e2
4πε0R
)ϕAdτ︸ ︷︷ ︸
e2S4πε0R核 A,B 間のポテンシャルと重なり
ϕ∗BϕAdτ は微小空間 dτ における原子軌道の重なりと核 B 間のポテンシャルを表す。
β = E1sS −K と書く。
8.7 あらためてエネルギーについて
E1 = α+β1+s , E2 = α−β
1−s
39
遠方では 2つが孤立するので E = −13.6eVとなる。E1 では一度エネルギーが下がり、そこで結合ができる。
8.8 あらためて波動関数について
E1 に対して
ψ1 =1√
2 (1 + s)(ϕA + ϕB)
これが結合性軌道である。
通常、裸の核が 2つあったら反発する。ここでは電子は �のり�の役割をする。
E2 に対して
ψ2 =1√
2 (1− s)(ϕA − ϕB)
これは反結合性軌道となる。
中間で ψ2 = 0となり、ここで節ができる。
また、核間に電子がいない空間があり、核間の反発でエネルギーが上がる。
9 等核二原子分子
9.1 水素分子のシュレディンガー方程式
核の運動を無視して
H = − ℏ2
2m∇2
1 −ℏ2
2m∇2
2 −e2
4πε0r1A− e2
4πε0r2A− e2
4πε0r1B− e2
4πε0r2B+
e2
4πε0r12+
e2
4πε0R
40
電子間 Coulombについて、平均場近似 (有効核電荷)を用いる。
elec.1にとって elec.2は核を screeningする役割を考え、核電荷を Z ′eとする。
H =2∑i=1
(− ℏ2
2m∇2i −
Z ′e2
4πε0r1A− Z ′e2
4πε0r1B+
1
2
e2
4πε0R
)
H =2∑i=1
H (i) = H (1) + H (2)
ここから、�水素分子中の電子も 1つずつ独立に扱って良い�ということが分かる。
この平均場の話は Appendixに掲載されている。
9.2 エネルギーダイアグラム
2つの核が近づくと、分子軌道 (MO)ができる。結合性軌道のエネルギーは下がる。
パウリの排他律によって、スピン ↑↓が入る。
He原子は
He分子は、はじめ から、混成して
images/str044.jpg
となる。
結合性、反結合性軌道に計 4つの電子が入り、エネルギーの得がない。よって He2 とはならない。
41
ここまでのコメント
1. 8.6.3 共鳴積分
(2)→ˆ− e
2Bϕn4πε0rB
dτ
ϕ∗BϕAdτ は dτ における原子軌道の重なりを表す。これと書く Bの間のポテンシャルを表す。
images/str045.jpg
2. He2 の分子軌道
images/str046.jpg
厳密には一瞬 (∼ 10−15sec)分子軌道を作るが、エネルギー的に得がないので原子に戻る (原子側に平衡)
9.3 Li分子
Li: (1s)2(2s)
1
Li分子→合計 6個の電子
images/str047.jpg
9.4 等核二原子分子の分子軌道
規則 1 1つの原子軌道から 2つの分子軌道ができる。
規則 2 原子軌道の近い物同士がMO(Molecular orbital, 分子軌道)を作る。
規則 3 対称性が同じものがMOを作る。
規則 4 重なりが大きいと結合性起動は安定化する。
9.4.1 1s起動からのMO
1s→球対称
42
images/str048.jpg
ψ1s = ϕA1s ± ϕB1sプラスなら同位相で結合性、マイナスなら逆位相で反結合性となる。分子軸に対しての回転対称: σ軌道原子の中間点に対して座標を反転させる。(x, y, z)→ (−x,−y,−z)分子軌道の符号が不変ならゲラーデ g、分子軌道の符号が変わるならウンゲラーデ uという。
9.4.2 2sの場合も 1sと同様
9.4.3 2p軌道からのMO
1. 2pz のとき
ψ±2pz
= ϕA2pz± ϕB2pz
反転対称ではないので、ウンゲラーデ uである。
同じ向きなら節ができる。よって結合ができないので反結合性軌道となる。
逆向きなので同位相でつながる。よって結合性軌道である。
ψ−2pz
= ϕA2pz− ϕB2pz
σg である。
2. 2px, 2pz のとき
2px − 2px では同じ向きなので同位相、すなわち結合性軌道である。
ψ+2px
= ϕA2px+ ϕB2px
で πu 軌道となり、反転対称でない。
逆向きなので逆位相、すなわち反結合性軌道である
ψ−2px
= ϕA2px− ϕB2px
で πg 軌道となり、飯店対称である。
2py − 2py でも同様。πu, πg はそれぞれ二重縮退している。
43
9.4.4 軌道の重なりとエネルギー
先の規則 4に「重なりが大きいと結合性起動は安定化する」とあった。これより pz − pz 間は軌道の重なりが大きく、σg がより安定、逆に σu はより不安定となる。
px − px, py − py 間で軌道の重なりはほとんどない。すなわち πu は少し安定。πg は少し不安定となる。
9.4.5 酸素分子
O: (1s)2(2s)
2(2p)
4
フント則とパウリの排他律から、原子の電子軌道は上のようになる。
以上より O2 の電子配置は、
O2: (1σg)2(1σu)
2(2σg)
2(2σu)
2(3σg)
2(1πu)
4(1πg)
2 となる。
9.5 B2 · C2 · N2の電子配置
この場合 1πu と 3σg が入れ替わる。(B · C ·Nの 2sと 2p軌道のエネルギーが近い)
2つの核間の軌道の位相が同じ物どうしが重なりあい、さらに電子密度が高くなる。よってさらに分裂をし、2σg がさらに安定化する。
B2(電子 10個): (1σg)2(1σu)
2(2σg)
2(2σu)
2(1πu)
2
N2(電子 14個): (1σg)2(1σu)
2(2σg)
2(2σu)
2(1πu)
4(3σg)
2
44
コメント O2 分子は 1πg 軌道に不対状態で電子が入っており、常磁性体となる。対して N2 分子では閉殻状態になっており、磁性を示さない。これは最外殻の電子配置の違いによる。
9.6 等核二原子分子の電子配置
教科書 p.170の表 9.2を参照。
周期表で N以前では 1πu と 3σg が逆転する。O以降では、1πu より 3σg に先に入る。
9.7 結合次数
分子の電子配置から結合の強さ、結合距離を説明する。
結合性軌道に入ると 2電子で 2∆E 得する。
結合次数 =
(結合性軌道にある電子の数
)−(反結合性軌道にある電子の数
)2
単結合…結合次数 1
二重結合…結合次数 2
He2…結合次数 0
H2 について考えると、H2: (1σg)2 なので、結合次数は 2−0
2 = 1。
N2 の結合次数は10−4
2 = 3で三重結合になる。
O2 の結合次数は10−6
2 = 2で二重結合になる。
一般に、結合次数が高くなると結合エネルギーが高くなり、結合距離が短くなる。
10 異核二原子分子
10.1 分子軌道
等核とほぼ同じ。
規則 1 2つの原子からできる
規則 2 原子軌道の近い物同士がMOを作る。
規則 3 対称性が同じものがMOを作る。
規則 4 重なりが大きいと結合性起動は安定化する。
10.2 LiH分子
LiH: (1σ)2(2σ)
2
3σは Hの 1sに近いエネルギーを持っているため、Hは負に帯電し、Liは正に帯電している。
45
10.3 HF分子
Fの 2pz は Hの 1sと結合。Fの 2px, 2py は結合しない非結合である。(反結合ではない)
HF: (1σ)2(2σ)
2(3σ)
2(1πx)
2(1πy)
2
3σは Fに近いエネルギーを持っているため、Fは負に帯電し、Hは正に帯電している。
10.4 CO分子
� Cの 2sと Oの 2sから 3σ, 4σができる
� Cの 2sと Oの 2pはエネルギーが近い→ 3σと 5σが混ざる
� Cの 2pz と Oの 2pz から 5σ, 6σができる
� Cと Oの非結合性 pz,py から 1π, 2πができる
教科書 p.179に図が乗っている。
CO: (1σ)2(2σ)
2(3σ)
2(4σ)
2(1πx)
2(1πy)
2(5σ)
2
ここまでのコメント
1. イオン化ポテンシャル
N+: (1s)2(2s)
2(2p)
2
O+: (1s)2(2s)
2(2p)
3︸ ︷︷ ︸半閉殻
2. 分子→固体では?
順位に幅がつく→【35】
3. MOを実験的に見る→光電子分光 XPS(X-ray Photoemission spectroscopy)
10.5 分子の極性
電気陰性度の異なる 2つの原子からなる異核二原子分子は、電気的に中性でも分子内で電荷の偏りがあり、極性が生まれる。
46
電気双極子モーメント µ− δel(0 ≤ d ≤ 1, e = 1.6× 10−19C, l :原子間の距離)
等核二原子分子………共有結合
異核二原子分子………共有結合+イオン結合
マリケン AB←−→ A+B− ←−→ A−B+
A+B− となった時の安定化エネルギー………EB − IAA−B+ となった時の安定化エネルギー………EA − IBイオン対の安定性
χAB = (EB − IA)− (EA − IB)= (EB + IB)− (EA + IA)
χAB > 0なら A+B− が安定、χAB < 0なら A−B+ が安定
ここから、E + I が重要な指標となる。E + I が大きいと負の電荷を帯びる。E+I2 をリストにしたのが教科書 p.181,表 10.1で
ある。
ポーリング ポーリングは結合エネルギーに着目した。EAB は EAA と EBB の平均より高い。
EAB =EAA + EBB
2+ a (χA − χB)2
ここで χA は原子 Aの電気陰性度を表す。この表が表 10.2である。
一般に χマリケン = 3.15χボーリング となる。
D 分子軌道の形成
Chap.9のMO形成規則 1.へ 4.の背景を考える。
D.1 等核二原子分子のエネルギー
MO ψ, 原子軌道 (AO) ϕ1, ϕ2 ∣∣∣∣ H11 − ES11 H12 − ES12
H21 − ES21 H22 − ES22
∣∣∣∣ = 0
規格化されている→ S11 = S22 = 1
一般にH12 = H21, S12 = S21 = S とする。
(H11 − E) (H22 − E)− (H12 − ES) (H12 − ES) = 0
E± =(H12 +H22 − 2SH12)±
√(H11 −H22)
2+ 4 (H12 − SH11) (H12 − SH22)
2 (1− S2)
等核なのでH11 = H22(A = B)、S は十分に小さいとしたとき
E± = H11 ± |H12|
(8.56)(8.62)式より
H12 = E1s +
ˆ (− e
2ϕ∗2ϕ14πε0rB
)dτ +
e2S
4πε0R
これは S に依存する。つまり S が大きくなるとエネルギーが安定化する。これは規則 4.を表す。
47
注意 H11 とH22 は原子軌道のエネルギーではない。
H11 =
ˆϕ∗1Hϕ1dτ
この H は二原子分子のハミルトニアンなので、原子軌道を求めているわけではない。
H2+ イオンでは
H11 = H22 = E1s +
ˆ (−e
2 |ϕ1|2
4πε0rB
)dτ +
e2
4πε0R
= E1s + J
となり、E1s より J 上昇する。
D.2 H11 = H22のとき
S = 0として
E± =H11 +H22
2︸ ︷︷ ︸平均値
±
√(H11 −H22)
2+ 4H2
B
2︸ ︷︷ ︸∆
∆だけ増減する。
いまH22 > H11 とする。H22 −H11 ≫ |H12|の時を考える。
∆ =
√(H11 −H22)
2+ 4H2
B
2∼ H22 −H11
2
{1 + 2
(H12
H22 −H11
)2}
よって
E− = H11 −H2
12
H22 −H11
E+ = H22 +H2
12
H22 −H11
(摂動)。H22 −H11 が小さいとMOは安定化する。
images/str067.jpg
軌道エネルギーが大きく異なる AOからはMOは形成されない (されにくい)。これは規則 2.を表している。
48
D.3 原子軌道の対称性と分子軌道
S = 0かどうかを対称性から考える。
sと px の重なりを考える。
S −ˆϕ∗sϕpxdτ
S+ = −S− → S − S+ + S− = 0
s− py, px − pz,py − pz, pz − px では重なりはゼロである。
s− pz は 0でない。
安定化エネルギー E− = H11 − H212
H22−H11(H12 に依存)
H12 =
ˆϕ∗1Hϕ2dτ
ϕ1, ϕ2, H の対称性からH12 = 0となる場合を考える。一般に H の対称性は分子の対称性と同じである。
ϕ1 → 1s, 2pz など軸対称ϕ2 → 2px など軸回転 (180◦)に反対称H12 = 0では分子軌道の安定性を得られない。2つの軌道の対称性がH12 = 0かどうかを決める。これは規則 3.を表している。
E 異核二原子分子の分子軌道
等核では 2つの原子が 1:1で混成した。H11 < H22 とする。分子軌道は
ψ = c1ϕ1 ± c2ϕ2H2
+ イオンの考察(H11 − E) c1 +H12c2 = 0
H21c1 + (H22 − E) c2 = 0
ただし S = 0とした。H12 = H21 として、H12 を消去すると
E −H11
E −H22=c22c21
図より結合性軌道では |E− −H11| ≤ |E− −H22|なので c21 ≥ c22。E− は c1 の寄与が大きい。反結合性軌道では |E+ −H11| ≥|E+ −H22|なので c21 ≤ c22。E+ は c2 の寄与が大きい。E− は原子 1の電荷分布が大きく、E+ は原子 2の電荷分布が大きい。ここから分極が引き起こされる。
49
11 分子の運動
分子の伸縮、回転運動を考える。
11.1 ポテンシャルエネルギー曲面
分子が、結合を切るほどではなく振動していると仮定する。
images/str073.jpg
∆E =1
2(r − r0)
11.2 ばねの振動
images/str074.jpg
m1z1 = k (z2 − z1 − re)
m2z2 = −k (z2 − z1 − re)
換算質量 1µ = 1
m1+ 1
m2として、
和→ m1z1 +m2z2 = 0
差→ z2 − z1 = −kµ(z2 − z1 − re)
µx− kx
となり、以下の図と等価となる。
images/str075.jpg
力は
f (x) = −dU (x)
dx
U (x) = −ˆf (x) dx+ C
U (x) =
ˆkxdx+ C =
1
2kx2 + C
50
11.3 調和振動子のエネルギー
H = − ℏ2
2µ
d2
dx2+
1
2kx2
シュレディンガー方程式は (− ℏ2
2µ
d2
dx2+
1
2kx2)ψ (x) = Eψ (x)
これを厳密に解くと
E = ℏ
√k
µ
(n+
1
2
)n = 0, 1, 2, · · · の量子数である。
古典力学では、ω = 2πν =√
kµ であるので、
E = ℏω(n+
1
2
)= hν
(n+
1
2
)ここで、n = 0においても零点振動 E0 = 1
2hν が発生し、分子の振動を停止させることは出来ないことがわかる。
例えば HClにおいては、300Kではほとんど n = 0、3000Kで 76%が n = 0、18%が n = 1、4%が n = 2というようになるが、0Kにおいても n = 0以下にはならず、;分子の振動 1
2hν は止められない。
11.4 波動関数
ψ0 =(απ
) 14
e−α2 x
2
ψ1 =
√1
2
(απ
) 14
2√αxe−
α2 x
2
ψ2 =
√1
8
(απ
) 14 (
4αx2 − 2)e−
α2 x
2
ここで α =√µkℏ である。
:
51
ここでの特徴は、n ∈ evenのとき左右対称、n ∈ oddのとき左右反対証となることである。
ˆ ∞
−∞ψ∗0ψ1dx =
ˆ ∞
−∞2
√1
2
(απ
) 12 √
αxe−ax2
dx = 0
ここで ψ0 ∈ even, ψ1 ∈ oddなので積は oddとなる。すなわち、積分すると 0になる。
11.5 調和振動子の振幅
nの増加により、ψn (x)は大きな領域まで広がる。
⟨x⟩について
⟨x⟩ =ˆ ∞
−∞ψ∗nxψndx = 0
E = ℏ√
kµ
(n+ 1
2
)が U = 1
2ka2 に一致するときに最大振幅 aとなるので、
1
2ka2 = ℏ
√k
µ
(n+
1
2
)
a =
√ℏ√kµ
(2n+ 1) =
√2n+ 1
α
n = 0, 1, 2, · · · に対して
a =
√1
α,
√3
α,
√5
α, · · ·
波動関数は古典力学の最大振幅 aを超えて外側にも広がっている。
52
n = 0のとき、存在確率が
P =
ˆ ∞
a
|ψ0 (x)|2 dx+
ˆ −a
−∞|ψ0 (x)|2 dx
= 2
ˆ ∞
a
|ψ0 (x)|2 dx
= 2
√α
π
ˆ ∞
a
e−αx2
dx
=2√x
ˆ ∞
1
e−z2
dz
= 0.16 · · ·
最後の積分計算は手計算では難しい。
ここから古典力学での振幅を超える確率が 16%であることが分かる。これをトンネル効果という。
11.6 分子の振動と赤外スペクトル
分子の振動は波数 (ウェーブナンバー、カイザー)102 ∼ 104cm−1、波長 10µmで赤外領域の光を吸収する。
ここでスペクトルとは波長若しくはエネルギーに対して吸収をプロットしたもののことを言う。
En+1 − En = hν のときに遷移できる。また選択則より∆n = ±1となる。H35Clは、2.9× 103cm−1 に吸収ピークがある。ここで、
∆E = En+1 − En = hν = ℏ
√k
µ= hcν
k = (2πcν)2µ
ここから
µ =m1m2
m1 +m2=
1×10−3
6×1023 ×35×10−3
6×1023
1×10−3
6×1023 + 35×10−3
6×1023
= 1.61× 1027(kg)
k =(2× 3.14× 3× 108(m/s)× 2.9× 103
(cm−1
))2 × 1.61× 10−27(kg)
= 4.81× 102(N/m)
79Br19F(弗化臭素)は 380cm−1 に吸収ピークがある。ここで、
µ =m1m2
m1 +m2=
79× 19
79 + 19· 10
−3 · 10−3
10−3· 1
NA= 2.54× 10−26(kg)
k = (2πcν)2µ = 1.3× 102(N/m)
このように、kがわかるとポテンシャル曲面がわかる。
11.7 分子の回転の剛体回転子近似
二つの質点があるとき、3 + 3 = 6個の自由度がある。これを重心 x, y, zで 3個、質点間の距離で 1個、回転 θ, ϕで 2個というように分解する。
53
剛体回転子の回転エネルギー
K =1
2Iω2 =
L2
2I
I = µr2
L = Iω
これらと力学的変数との対応は I ↔ m,ω ↔ v, L↔ pとなる。三次元のシュレディンガー方程式
−ℏ2
2I
{1
sin θ
∂
∂θ
(sin θ
∂
∂θ
)+
1
sin2 θ
∂
∂ϕ
}g (θ, ϕ) = Eg (θ, ϕ)
g (θ, ϕ) = YMJ (θ, ϕ)
E =ℏ2
2IJ (J + 1)
ここで J = 0, 1, 2, · · ·
11.8 剛体回転子のエネルギー
11.9 原子・分子の回転スペクトル
µ ∼ 10−25 ∼ 10−26, r ∼ 10−10m(= 1)なので、I = µr2 ∼ 10−46kg ·m2, ν = 6.62×10−34
4π210−46 ∼ 1011(s−1)の振動子であることが分
かる。これはマイクロ波の領域である。準位間の遷移は、∆J = ±1の選択則があるので、
∆E = EJ+1 − EJ
=ℏ2
2I{(J + 1) (J + 2)− J (J + 1)}
=ℏ2
I(J + 1)
この時の振動数 νc =h
4π2I (J + 1) = 2B (J + 1)。ただし B = h8π2I とする(回転定数)。
∆ν = 2B ((J + 1)− J)= 2B
から、間隔が 2B となる。これらでは、B がわかると I がわかる。さらに I がわかると rがわかることになる。
等間隔にピークを持つ回転スペクトルになる。
54
11.10 分子の電子状態・振動状態・回転状態
HCl分子では、解離エネルギー 4.5eV、振動エネルギー 0.36eV、回転エネルギー 0.0026eVである。
復習・補足
水素原子のシュレディンガー方程式[− ℏ2
2m
{1
r2∂
∂r
(r2∂
∂r
)+
1
r2 sin θ
∂
∂θ
(sin θ
∂
∂θ
)+
1
r2 sin2 θ
∂2
∂ϕ2
}+ U (r)
]ψ (r, θ, ϕ) = Eψ (r, θ, ϕ)
変数分離して、角度方向
−ℏ2{
1
sin θ
∂
∂θ
{sin θ
∂
∂θ
}+
1
sin2 θ
∂2
∂ϕ2
}Y ml (θ, ϕ) = cY ml (θ, ϕ)
c = l (l + 1) ℏ2
これをY ml (θ, ϕ) = Θ (θ)Φ (ϕ)
とさらに変数分離する。
sin θ
Θ(θ)
∂
∂θ
{sin θ
∂Θ
∂θ
}+
c
ℏ2sin2 θ +
1
Φ (ϕ)
∂2Φ (ϕ)
∂ϕ2= 0
つまり sin θΘ(θ)
∂∂θ
{sin θ ∂Θ(θ)
∂θ
}+ c
ℏ2 sin2 θ = a
1Φ(ϕ)
d2Φ(ϕ)dϕ2 = −a
とする (a: 定数)。下式はΦ(ϕ) = Ae±i
√aϕ
が解となる。
Φ(0) = Φ (2π)より A = Aei√a2π →
√a2π = 2mπ (m = 0,±1,±2, · · · )よって Φ(ϕ) = Aeimϕ。規格化すると
A2
ˆ 2π
0
e−imϕe+imϕdϕ = 1
A =1√2π
よって
Φ(ϕ) =1√2π
eimϕ (m = 0,±1,±2, · · · )
ただしm2 = aとなっている。
上式は、
sin θd
dθ
{sin θ
dΘ (θ)
dθ
}+(β2 sin2 θ −m2
)Θ(θ) = 0
ただし β = cℏ2 とした。x = cos θとして Θ(θ)→ P (x)とかくと、
(1− x2
) d2P (x)
dx2− 2x
dP (x)
dx+
(β − m2
1− x2
)P (x) = 0
55
m = 0のとき、この式はルジャンドル多項式を用いて解ける。m = 0のときは、ルジャンドル陪多項式を用いて解く。参考までにルジャンドル多項式とは、
P (x) =∞∑i=0
aixi
として級数展開し計数比較を行うことを方針とする。この結果、β = l (l + 1)となる。よって、
Y ml (θ, ϕ) =
√(2l + 1) (l − |m|)!
4π (l + |m|)!P
|m|l (cos θ) · eimϕ
ところで演習問題 19では ∑Y ml =
2l + 1
4π
を導出した。これはウンゼルトの定理というが、これは px, py, pz のそれぞれの起動を足すと一定値となり球場の起動となることを表している。話を戻すと、上式から −l ≤ m ≤ lとなる。また、動径方向の rについて解くにはラゲールの陪多項式が必要となる。
軌道角運動量と磁気モーメント 古典力学では−→L = −→r ×−→p となる。今授業では pi → iℏ ∂
∂riとなるので、
Lx = −iℏ(y∂
∂z− z ∂
∂y
)となる。極座標では
Lx = iℏ(sinϕ
∂
∂θ+
cosϕ
tan θ
∂
∂ϕ
)Ly = iℏ
(− cosϕ
∂
∂θ+
sinϕ
tan θ
∂
∂ϕ
)Lz = −iℏ
∂
∂ϕ
となる。ここから
L2 = L2x + L2
y + L2z = −ℏ2
[1
sin θ
∂
∂θ
(sin θ
∂
∂θ
)+
1
sin2 θ
∂2
∂ϕ2
]となる。この演算子の満たす固有方程式は
L2Y ml (θ, ϕ) = l (l + 1) ℏ2Y ml (θ, ϕ)
これは rに依存しない。つまり、水素原子の波動関数は、
Hψnlm = Enψnlm
のみでなく、L2ψnlm = l (l + 1) ℏ2ψnlm
も満たしている。一方、
Lzψnlm = mℏψnlm (−l ≤ m ≤ l)
も成立している。電磁気学より、磁気モーメント −→µ =
−→i ·−→S を用いる。また |−→µ | = I · πr2 である。
環電流では I = − ev2πr なので µ = − erv2 となる。ベクトル表記を用いると
−→µ = −e2(−→r ×−→v )
= − e
2me(−→r ×−→p )
= − e
2me
−→L
56
images/str085.jpg
z方向の磁場 Bz 中での位置エネルギー
U = −µzBz =(eBz2me
)· Lz
シュレディンガー方程式は {H0 +
eB
2me
(−iℏ ∂
∂ϕ
)}ψnlm = Eψnlm
H ′ = eB2me
(−iℏ ∂
∂ϕ
)とおく。無摂動 H0ψ = E0ψとする。
E = E0 +eℏB2me
·m
ˆψ∗H ′ψdτ =
eB
2mz
ˆR∗Y ∗
(−iℏ ∂
∂ϕ
)RY dτ
=eB
2memℏˆR∗Y ∗RY dτ
m = 0ならば磁場がない時と同じ。m = 0ならば eℏB2me
mだけエネルギーが変化する。これを Zeeman効果という。
images/str086.jpg
電子スピン Na原子 (D線)の発光 3p→ 3s遷移 B = 0で 1本かと思いきや 2本である。
電子のスピン (磁気モーメント)と 3p軌道の−→L の相互作用による。
電子が円運動→ B ができる→ 3p軌道の分裂 (1925年 ハウスシュミット・ウーレンバック)
シュルテン・ゲルラッハの実験 (1922年)
images/str087.jpg
電子の軌道運動 (公転)による角運動量以外に、自転に対応したスピンがある (2つの状態 α, β をとりうる)。L→ S となる。{S2α (σ) = ms (ms + 1)α (σ)
S2β (σ) = ms (ms + 1)β (σ)
2津の値しか取らない。2 |ms|+ 1 = 2個。ms = ±12
α (σ) , β (σ)は固有関数、σはスピンを表す。ms はスピン量子数であリ、−ms から +ms まで 2ms + 1個の値を取る。上向き、下向きスピン {
Szα (σ) = ℏ2α (σ)
Szβ (σ) =ℏ2β (σ)
57
多電子原子について N 個の電子を持つ原子のシュレディンガー方程式N∑i
(− ℏ2
2m∇2i −
ze2
4πε0ri
)+∑i>j
e2
4πε0rij
ψ (r1, · · · , rN ) = Eψ (r1, · · · , rN )
しかし、これは厳密には解けない。そこで、平均場近似を用いて解く。すなわち、1つの電子に着目し、他の電子からの寄与をVeff (ri)とする。このような近似を独立粒子近似、一電子近似、ハートリーフォック近似などと呼ぶ。
H =N∑i=1
hi
hi = −ℏ2
2m∇2i −
ze2
4πε0ri+ Veff (ri)
i番目の電子についてhiϕi (ri) = εiϕi (ri)
→ Hϕ1 · · ·ϕN = (ε1 + ε2 + · · ·+ εN )ϕ1 · · ·ϕN次に
Veff (ri) = ±se2
4πε0ri
とすると、
hi = −ℏ2
2m∇2i −
(z − s) e2
4πε0ri
Zeffe = (Z − s) eを有効核電荷と呼ぶ。ちなみに、スレーター軌道を用いると、動径方向は
Rn′l (r) = Nrn′−1e
−Zeffr
n′a0
一方ガウス関数を用いるガウス型ではR (r) = rn−1e−ar
2
とする。
原子軌道エネルギー 教科書 p.225の表を理解する。水素原子は-13.6eVであるが、ヘリウム原子では-25.0eVである。He+(原子核 2個、電子 1個) E1s = 13.6× z2 = −54.4eVここにさらに e− を加えると-25.0eVとなってしまう………なぜか?
電子による screeningで有効核電荷が減少する。若しくは、電子間の反発による。次に、He原子から e− を取る。
He −−→ He+ + e−
は第一イオン化エネルギーで 25eV、He+ −−→ He2+ + e−
は第二イオン化エネルギーで 54.4eV、合計 79.4eVとなる。すなわち、He原子から e− を 2つ取るのに 79.4eV必要、つまり全電子のエネルギーは-79.4eVということになる。2番目の電子はより内閣に近いためそれを引き剥がすのにより大きなエネルギーが必要になる。He2
+(e− なし)に電子を 1つ束縛した時の軌道エネルギー: -54.4eV
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電子間相互作用があるため 2つ電子をつけても 2倍にならない。He原子の中の電子間反発エネルギーは? 全電子エネルギー-79.4eVなので
−79.4− (−54.4)× 2 = 29.4eV
となる。
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多電子原子のエネルギー準位 水素 (様)原子…電子は 1つしかない
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E = −13.6× 1
n2
と nのみによる。
多電子分子
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上のようにエネルギーは 3s (l = 0) < 3p (l = 1) < 3d (l = 2)となる (lは方位量子数)。lが小さい時は screeningを受けないため、核からの引力が大きい。すなわちエネルギーが低く、安定状態となる。言い換えると、lが大きいときは screeningを受けるため、電子が核から離れられる。するとエネルギーが高くなる。
遷移金属元素 遷移金属元素の結合は金属結合である。3d軌道は s,pより外側に分布しているので、災害核である 3d軌道が結合に関与する。金属結合とは 3d軌道で行われる結合のことである。
水素分子イオンの波動関数ψ = cAϕA + cBϕB
に対して E =´ψ∗Hψdτ´ψ∗ψdτ
を求めて ∂E∂c∗A
= 0, ∂E∂c∗B= 0から cA, cB に冠する行列式を求めた。しかしなぜ ∂E
∂c∗A= 0のとき cA は定
数とできるのか?
c(A) = α+ iβ とする。α, β は独立で c∗(A) = α− iβ
∂E∂α = 0, ∂E∂β = 0が安定。
E = f (α, β) = f (c (α, β) , c∗ (α, β))
∂E
∂α=∂E
∂c
∂c
∂α+∂E
∂c∗∂c∗
∂α=∂E
∂c+∂E
∂c∗= 0
∂E
∂β=∂E
∂c
∂c
∂β+∂E
∂c∗∂c∗
∂β= i
(∂E
∂c− ∂E
∂c∗
)= 0
よって∂E
∂c= 0,
∂E
∂c∗= 0
すなわち、cと c∗ は独立に扱ってよい。
三原子分子のMO 二原子分子のMOは ∣∣∣∣ H11 − ES H12 − ES12
H21 − ES21 H22 − ES22
∣∣∣∣ = 0
∣∣∣∣ α− E β − ESβ − ES α− E
∣∣∣∣ = 0
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→ E =α+ β
1 + s,E =
α− β1− s
出会った。三原子分子の場合どうなるのかを考えよう。
[H−H−H]+ では、 ∣∣∣∣∣∣α− E β 0β α− E β0 β α− E
∣∣∣∣∣∣ = 0
一方、3つの H分子が三角形に結合していた場合、∣∣∣∣∣∣α− E β ββ α− E ββ β α− E
∣∣∣∣∣∣ = 0
と解くべき行列式が変わってくることになる。
直線型の屍鬼を解くと、 ε1 = α+
√2β
ε2 = α
ε3 = α−√2β
三角形型をとくと、 {ε1 = α+ 2β
ε2, ε3 = α− β
α, β < 0である。ここから、直線型よりも三角形型の構造のほうが安定であることがわかる。
最低エネルギーの分子軌道を満たす波動関数は、直線型で
ψ1 =1
2ϕ1 +
1√2ϕ2 +
1
2ϕ3
三角形型で
ψ1 =1√3ϕ1 +
1√3ϕ2 +
1√3ϕ3
となる。
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H3+ は z = 1が 3つ、e− は 2つ、全エネルギーは
E = 2α+ 2√2β > E = 2α+ 4β
よって H3+ 分子は三角形型が安定である。
コメント H2分子 (核 2個、e−2個)を扱うには、原子価結合法 (valance-bond法)を学ぶ必要がある。これは分子軌道を用いた計算方法とよく比較される計算法である。
コメント α, β < 0となるということをしっかり復習しておくこと。
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ブタジエンのMO CH2−−CH−CH−−CH2 ∣∣∣∣∣∣∣∣α− E β 0 0β α− E β 00 β α− E β0 0 β α− E
∣∣∣∣∣∣∣∣ = 0
これを解く。
∣∣∣∣∣∣∣∣α− E β 0 0β α− E β 00 β α− E β0 0 β α− E
∣∣∣∣∣∣∣∣ = (α− E)
∣∣∣∣∣∣α− E β 0β α− E 00 β α− E
∣∣∣∣∣∣− β∣∣∣∣∣∣β 0 0β α− E β0 β α− E
∣∣∣∣∣∣= (α− E)
{(α− E)
3 − 2β2 (α− E)}− β
{β (α− E)
2 − β}
=...
= (α− E)4 − 3β2 (α− E)
2+ β4
=[(α− E)
2 − β2 + β (α− E)] [
(α− E)2 − β2 − β (α− E)
]= 0
より、 {E = α− −1±
√5
2 β
E = α− 1±√5
2 β
シクロブタジエン
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についても同様に求めてみる。∣∣∣∣∣∣∣∣α− E β 0 ββ α− E β 00 β α− E ββ 0 β α− E
∣∣∣∣∣∣∣∣ = 0
を解いて、E = α± 2β, α
(重解
)ブタジエンには π電子が 4つある。
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井戸型ポテンシャル 教科書 p.52
En =h2n2
8ma2(n = 1, 2, 3 · · · )
ψn =
√
2a cos
nπa x n ∈ odd√
2a sin
nπa x n ∈ even
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コメント シクロブタジエンの安定性。C原子→ sp2 混成軌道 (未習)→ 120◦
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は 90◦ なので不安定である。(常温、常圧)
20Kにて、きがすちゅう
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