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「クンパオ(海老のBBQ)」 バンコク(タイ)  KT 表紙デザイン 大原 菜桜子 【CONTENTS】 随 想 食品照射を考える 鎖国状態から抜け出せるか?����� <市川まりこ>� 466 シリーズ解説 わが国の食品ロス・廃棄の現状と対策(第15回) 食品の期限表示制度と消費者の対応について ���� <池戸重信>� 468 シリーズ解説 食品高圧加工の最新動向(第11回) 横型超高圧処理装置FOOD FRESHERの商品化とテスト・受託処理対応 ����������������������������� <加藤雅敏>� 476 海外技術・マーケット情報 栄養と利便性のバランスが良い朝食��������������������481 HPP 処理で発展するパッケージ食品��������������������483 HACCP に脆弱性評価を備えたVACCPとは������������������484 認知機能の健康素材入りで注目を集める機能性飲料�������������487 健康食品の選択に影響する食品メッセージ�����������������489 欧州でも成長する海藻ビジネス����������������������492 食品添加物の “ クリアラベル ” 戦略���������������������494 「海外に見る容器包装最新事情」 (第18回) 今, 包装新技術は大学発ベンチャーが面白い(2) ������ <有田俊雄>� 498 一刻者の独り言 第13回: オリンピック・パラリンピックと持続可能性 ����������������������������� <岩元睦夫>� 502 特別解説:保健所における食中毒調査の実態とカンピロバクター�� <小暮 実>504 業界トピックス:上半期の低アルコール飲料市場動向�������������� 509 特別レポート:日本における清涼飲料,ビール系酒類市場 ―平成28年の上半期を振り返って― ������������������ 510 産業余話 第12回 国内石炭産業の消滅:主流派エリートの限界 �� <並河良一>516 業界の話題�������������������������� 518         今月の統計����������������������� 520 最近の技術雑誌から����������������� 522              ログオン・ログオフ(第10話) 暑さと湿気との戦い(ボルネオのサゴ澱粉) ���������������� <藤田 滋>527              

食品の期限表示制度と消費者の対応について 横型超高圧処理装 … · シリーズ解説わが国の食品ロス・廃棄の現状と対策(第15回) 食品の期限表示制度と消費者の対応について

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「クンパオ(海老の BBQ)」 バンコク(タイ)  KT

表紙デザイン大原 菜桜子

【CONTENTS】

随 想 食品照射を考える 鎖国状態から抜け出せるか? �����<市川まりこ>� 466 シリーズ解説 わが国の食品ロス・廃棄の現状と対策(第15回)

食品の期限表示制度と消費者の対応について ����<池戸重信>� 468 シリーズ解説 食品高圧加工の最新動向(第11回) 横型超高圧処理装置 FOOD FRESHERの商品化とテスト・受託処理対応 �����������������������������<加藤雅敏>� 476

海外技術・マーケット情報栄養と利便性のバランスが良い朝食��������������������481HPP 処理で発展するパッケージ食品��������������������483HACCPに脆弱性評価を備えたVACCPとは������������������484認知機能の健康素材入りで注目を集める機能性飲料�������������487健康食品の選択に影響する食品メッセージ�����������������489欧州でも成長する海藻ビジネス����������������������492食品添加物の “ クリアラベル ” 戦略���������������������494

「海外に見る容器包装最新事情」(第18回) 今, 包装新技術は大学発ベンチャーが面白い(2) ������<有田俊雄>� 498一刻者の独り言 第13回:オリンピック・パラリンピックと持続可能性 �����������������������������<岩元睦夫>� 502特別解説:保健所における食中毒調査の実態とカンピロバクター��<小暮 実>� 504業界トピックス:上半期の低アルコール飲料市場動向�������������� 509特別レポート:日本における清涼飲料,ビール系酒類市場 ―平成28年の上半期を振り返って― ������������������… 510産業余話 第12回:国内石炭産業の消滅:主流派エリートの限界 ��<並河良一>… 516業界の話題�������������������������� 518         今月の統計����������������������� 520          最近の技術雑誌から����������������� 522             ログオン・ログオフ(第10話) 暑さと湿気との戦い(ボルネオのサゴ澱粉) ����������������<藤田 滋>� 527              

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466食品と容器 2016 VOL. 57 NO. 8466

 レントゲン検査や手荷物検査に放射線が使われていると知っていても,「食べ物に放射線を照射する」と聞くと,一瞬「えっ!?」と思いませんか。 食品照射とは 食品照射は,食品や農産物に放射線を照射して殺菌,殺虫,芽止めなどを行い,食品を衛生的に管理する食品処理技術の一つです。国際的に標準化された技術であり,照射処理の有用性と,放射線照射された食品や農産物の食品としての健全性

(安全性+栄養適性)は,1980年代以降に各国の研究機関と世界保健機関(WHO)などによって確かめられ,世界各国で実用化されています。 日本の現状 日本を除く全ての先進国では,国際機関の評価をもとに安全性を評価し,規格・基準を整備してきました。しかし,日本は,ジャガイモの芽止め照射を除いて食品への照射は食品衛生法で禁止したままです。諸外国で多く実用化されている香辛料・ハーブ類の照射殺菌も禁止されたまま,規格・基準の見直しのための安全性評価も行われていません。 日本で食品照射についての検討が進まない理由について,社会受容性の低さとともに,消費者のニーズが無いとよく言われていますが,食品照射について多くの消費者がほとんど知らない状況の中で,ニーズが生まれるはずもありません。消費者は知らないが故に,食品照射のメリットを想像することもできないのだと思います。日本の古い消費者団体は,1974年の芽止めジャガイモの不買運動以来一貫して食品照射に否定的で,以後

40年間,消費者にとっての食品照射のメリットに目を向けて来ていません。 食のコミュニケーション円卓会議誕生 私は,このような状況を何とかしたいとの思いから,都内大学で開催されていた社会人向けの講座受講生仲間に呼びかけて,「食のコミュニケーション円卓会議」(URL:http://food-entaku.org/ )を2006年に立ち上げました。古い常識や思い込みにとらわれず,学びや体験を重視する新しい消費者団体の誕生となりました。 私たちの学びと体験 食品照射は当初から学びのテーマに取り上げましたが,専門用語の壁があり,すぐには理解できないことも多かったです。消費者が「食べ物に放射線」と聞いた時の素朴な疑問や不安は,まさに自分たちの疑問や不安でもあったので,まず現場へ出かけて見てみようと思い立ちました。 2007年4月,「食の円卓会議」のメンバー有志で原子力機構・高崎量子応用研究所を訪れ,照射施設を見学するとともに実際の食品への照射効果や必要以上に高線量を照射した場合の影響などを体験学習しました。さらに,学びと体験を重ねてみたいという希望と,そこから得られた成果を社会へ伝えていきたいという目的のために,改めて有志を募り,さまざまな食品を照射して効果や影響を調べる体験実験を開始しました。 主婦目線の好奇心 食品の選定にあたっては,「家庭の冷蔵庫で腐らせてしまいがちな野菜も照射で長持ちするのかな?」という消費者目線の素朴な好奇心を生かすことにしました。野菜の日持ち向上効果を見るために,きゅうり,ブロッコリー,カット野菜(キャベツ・もやし等),ショウガ,にんにくをスーパーなどで購入しました。照射による食味の変化を見るために,最初は板付き蒲鉾,ライトツナ缶,牛乳,チーズ,スライスベーコン,生うどん,豆腐を購入して体験実験を行いました。その後,興味と関心の趣くままに,リンゴ,ブドウ,梨,柿,栗などの果物や,ドライフルーツ,ナッツ,茶,鰹節,昆布,椎茸,筍,グリーンピース,米等の体験実験を継続してきています。

食品照射を考える鎖国状態から抜け出せるか?

  市川まりこ(食のコミュニケーション円卓会議 代表)

随 想

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467食品と容器 2016 VOL. 57 NO. 8467

 2009年夏には青森県で収穫してすぐのにんにくを入手し,芽止め効果を自分たちで確認する実験を行い,2010年3月までの半年に及ぶ観察の結果,確かに芽止めと根止めの効果があると納得しました。 その時の様子を当時のニュースレター(ガーリック通信11号)から引用します。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ にんにく観察 28株到着~♪♪ 2009年9月,芽止め体験実験観察のため丸々とした青森産にんにくが,我が家にやってきました!玄関にずらりと並んで,いつも家族からやさしく見守られて(?)いました。というのは真っ赤な嘘で,「いつまで占拠させておくの?」とか「ちょっと邪魔なんだけど・・・」とか,時々冷たい視線にさらされておりましたが,4月4日,無事に最終観察日を迎えました。私の観察には愛犬奈々が付き合ってくれました。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 体験実験後の実感 半年に及ぶ観察記録の結果を見てみると,確かに芽止めの効果があると思いました。非照射のものは明らかに黄緑の色濃い芽が出ているものが7割以上,根もしっかりしたものが見られました。一方,照射したものは,芽があっても薄い色でそれほど伸びる気配を見せない感じがしました。 香辛料や生レバーも体験実験 2009年11月と2013年10月には,放射線殺菌処理した香辛料と加熱殺菌処理した香辛料

を使ってカレーを調理する食味比較実験を実施しました。その結果,非加熱の照射香辛料を用いた方の風味が良いということを実感しました。 2012年6月には,牛の冷凍生レバーについて,放射線殺菌した生レバーを未処理のものと比較してみました。その結果は,概ね「色,においの差なし」でした。これらの実験観察の体験を通して,

「低温のまま殺菌などの処理ができるメリットがある」「どんな食品にも使える訳ではない。向き不向きがある」「線量は多過ぎても少な過ぎてもダメ」などのことが実感として理解できたのです。 鎖国状態を抜け出すには・・・ 食品照射については世界のどの国でも反対運動や放射線への忌避感があり,どの国でも消費者の理解や受け入れには困難を抱えていて,この点で日本だけが特別ではありません。しかし,諸外国の状況とは異なり,日本では40年前に始まったジャガイモの芽止め照射以外は,改めてリスク評価を行うことも無く,規制を見直すことも無く,食品衛生法で禁止されたままです。行政関係者をも含めた多くの国民は,「照射食品の安全性に問題があるから法律で禁止している」と思い込んでいるのではないでしょうか?

にんにくの芽止め実験結果

完全防備でいざ最終観察! ほらね!やっぱり臭い! 剥かれたにんにくの薄皮の山

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468食品と容器 2016 VOL. 57 NO. 8

⧻シリーズ解説⧻ わが国の食品ロス・廃棄の現状と対策 第15回

 ●1.はじめに●

 期限表示,すなわち消費期限および賞味期限の表示は,全表示事項の中でも,消費者が食品を購入する際に,参考にする度合いが強く関心も高い。 特に,消費期限表示は安全性確保に関する情報源として,また賞味期限表示は可食期間にもかかわらず廃棄により食品ロスや食料自給率の低下にも影響する点で重要な位置づけとなっている。 平成27年4月から,期限表示も含め食品表示に関する新たな法律である食品表示法が施行された。 一方,食品の表示は,主として消費者が日常生活の中で活用することにより,制度の実効性につながるものである。従って,食品表示制度や個別ルールに対して正しい理解が求められるが,これらの対策は,食育政策の一環としても重要であり,平成28年3月に策定された第3次食育推進基本計画にも重要な位置づけとして示されている。 本稿は,期限表示について,制度の現状と活用主体である消費者の対応について概説するものである。 ●2.期限表示の法的位置づけ● 平成25年6月に食品表示法が制定された。 同法の制定は,我が国食品表示制度の歴史上大きなトピックといえる。

 すなわち,同法は,平成21年9月の消費者庁の設立により,食品表示に関する法令に基づく表示基準の策定事務を同庁が一元的に所管することとなったことを契機に,それまでの食品衛生法,農林物資の規格化および品質表示の適正化に関する法律(JAS 法,現行の「農林物資の規格化等に関する法律」)および健康増進法3つの法律のうち食品表示に関する部分を一元化したものである。このことにより,いずれも昭和20年代に制定された3法は,60年以上を経て,各々食品表示に関する部分が削除されることとなる大改正となった。 食品表示法の目的は,食品を摂取する際の安全性の確保と自主的かつ合理的な食品選択機会確保の2点のために,基準(食品表示基準)を策定するなど必要な事項を定め,適正を確保することにある(食品表示法第1条)。すなわち,表示事項は,安全性確保に関するものと消費者の選択機会の確保に関する事項に大別される。 また,食品表示基準に関しては,「名称」から始まり,「アレルゲン(食物アレルギーの原因となる物質をいう)」「保存の方法」に続いて,「消費期限

(食品を摂取する際の安全性の判断に資する期限をいう)」という安全性確保に関する表示事項を優先した順番で例示として規定されている(食品表示法第4条)。ちなみに,同条では,「消費期限」

食品の期限表示制度と消費者の対応についてい け ど・ し げ の ぶ東北大学農学部卒業。農林省消費生活課長,( 独 ) 農林水産消費技術センター理事長を経て,宮城大学食産業学部教授,同大学副学長。現在同大学名誉教授,内閣府消費者委員会食品表示部会委員,( 一社 )JAS協会会長,( 一社 ) 食品表示検定協会理事長。 池 戸 重 信

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469食品と容器 2016 VOL. 57 NO. 8

食品の期限表示制度と消費者の対応について

の次に,一般消費者の自主的かつ合理的な選択機会確保に関する事項が例示されている。具体的には,その食品に何が使われているかを直接的に示す「原材料」,次に補助的に使われる「添加物」,その次に,その食品自体に含まれている成分を示す「栄養成分の量および熱量」,次に,その食品の素性を示す「原産地」,最後に「その他の表示事項」の順で並べられており「賞味期限」は列記されていない。これは,法律に列挙する表示事項はあくまで例示であり,「期限表示」が表示事項として重要であるということが条文上明らかになることに意義があるものであるから,「消費期限」を例示として挙げれば足りるということと,「賞味期限」が,直ちに食品の素性を明らかにする事項とはいえないことから,「その他の表示事項」に含めることが適当であるとの判断による。 なお,現行の食品表示制度上,食品は「生鮮食品」と「加工食品」に区分されるが,原則として全ての加工食品に期限表示が義務付けされている。

 ●3.消費期限と賞味期限の           区分と定義● 従来,消費期限と賞味期限は,「期限表示」として一体として論じられることが多い。 「消費期限」(use-by date)は,定められた方法により保存した場合において,腐敗,変敗,その他の品質の劣化に伴い安全性を欠くこととなるおそれがないと認められる期限を示す年月日をいうとされており,品質が急速に劣化する食品について,安全性を欠くこととなるおそれがない期限を示す指標として用いられる。  一方,「賞味期限」(best-before)は,定められた方法により保存した場合において,期待される全ての品質保持が十分に可能であると認められる期限を示す年月日をいうとされており,比較的品質が劣化しにくい食品について,おいしく食べることができる期間を示す指標であって,これを過ぎた食品であっても,必ずしもすぐに食べられなくなるわけではなく,あくまで摂取時期の目安と

して用いられるものである。 具体的には,「消費期限」は,弁当,調理パン,そうざい,生菓子類,食肉,生めん類など品質(状態)が急速に劣化しやすい食品に,また,「賞味期限」は,スナック菓子,即席めん類,缶詰,牛乳,乳製品など品質の劣化が比較的穏やかな食品に表示されている。  なお,これらの期限は,容器包装を開封する前の状態で保存した場合の期限を示すものである。 以前は,製造後おおむね5日以内で食べた方がよいものに「消費期限」を,5日以上経ても食べられるものに「賞味期限」を適用するという区分があったが,本来食品の特性等により決められるべきとの考えのもとに,現在はこうした一律な区分基準は設定されていない。 なお,通常,消費期限または賞味期限は「年月日」まで表示しなければならないが,賞味期限を表示すべき食品のうち,製造日から賞味期限までの期間が3カ月を超えるものについては,「年月」で表示することが認められている。これらのイメージを第1図に示す。

 ●4.期限表示制度の経緯●

 食品の日付表示は,平成7年に,製造年月日を表示することとされていた制度が,期限表示をするように変更され,2年の移行期間を経て平成9年4月から完全に転換された。 これは,厚生労働省および農林水産省において,食品の日付表示の在り方について検討した結果,

第1図 期限表示設定のイメージ

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470食品と容器 2016 VOL. 57 NO. 8

⧻シリーズ解説⧻ わが国の食品ロス・廃棄の現状と対策

① 保存技術の進歩により,製造年月日を見ただけではいつまで日持ちするか分からなくなったこと

② 製造年月日表示が返品や廃棄を増大させていたこと

③ 国際規格(包装食品の表示に関するコーデックス一般規格)との調和が求められたこと

 等の理由からである。すなわち,②の環境保全的観点も考慮されていたことは注目される。 なお,前記のように製造年月日のみを表示することは認められなくなったが,事業者が消費期限または賞味期限の表示を適切に行った上で,必要に応じて,消費者への情報提供として,任意で製造年月日を表示することは可能である。

 ●5.期限表示決定主体と設定法● 消費期限または賞味期限の設定は,食品の特性,品質変化の要因や原材料の衛生状態,製造・加工時の衛生管理の状態,容器包装の形態,保存状態等の諸要素を勘案し,科学的,合理的に行う必要がある。このため,その食品を一番よく知っている者,すなわち,原則として,① 輸入食品以外の食品にあっては製造業者,加工

業者または販売業者が,②輸入食品にあっては輸入業者が, 責任を持って期限を設定し,表示することとなる。  なお,消費期限または賞味期限の表示に限らず,食品への表示は,これらを販売する食品関連事業者が行う。従って,各食品関連事業者においては,設定する期限について自ら責任を持っていることを認識する必要がある。 また,食品関連事業者において,客観的な期限設定のために,微生物試験,理化学試験,官能試験等を含め,これまで商品の開発・営業等により蓄積した経験や知識等を有効に活用することにより,科学的・合理的な根拠に基づいて期限を設定する必要がある。 すなわち,あくまでも個々の製品独自で設定するものであり,他社の製品等品目横断的な期限を

用いるものではない。 ただし,一般的には,消費期限を表示すべき食品については,期限の設定に際して,一般細菌,大腸菌群,食中毒菌等の微生物試験が必要であると考えられる。また,食品衛生法において成分規格および衛生指導基準等が定められている食品については,それら設定された検査項目のうち,保存期間中に変化する項目の検査も必要である。さらに,賞味期限の設定に際しては,微生物試験,理化学試験,官能検査等の客観的な項目 ( 指標 ) に基づく必要がある。 こうした設定に関しては,「食品期限表示の設定のためのガイドライン」(平成17年2月25日食安基発第0225001号 厚生労働省基準審査課長通知,16消安第8982号 農林水産省表示・規格課長通知)が参照となる。 なお,食品の製造業者等が構成するいわゆる業界団体が作成した期限設定に関するガイドライン等も参考になる。

 ●6.期限表示設定および       消費者対応の留意点● 期限表示を行う食品関連事業者は,期限設定の設定根拠に関する資料等を整備・保管し,ウェブサイトに掲載するなどして消費者等に情報提供するよう努めるべきである。 また,食品の期限については,消費者が意味を正しく理解することが重要であるため, 消費期限または賞味期限の用語の意味について,分かりやすく表示することは,消費者への情報提供の観点から適切であると考えられる。 (表示例) ・消費期限(期限を過ぎたら食べないようにしてください。):平成○○年○○ 月○○日 ・消費期限:平成○○年○○月○○日までに食べきってください。 ・賞味期限(おいしく食べることのできる期限です。)20××年○○月○○日 ・賞味期限(期限を過ぎても,すぐに食べられな

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471食品と容器 2016 VOL. 57 NO. 8

食品の期限表示制度と消費者の対応について

いということではありません。):平成○○年○○月○○日 ・賞味期限:平成○○年○○月頃までおいしく召し上がれます。

 なお,輸入食品については,消費期限または賞味期限の表示を行うのは,輸入業者であることは前記の通りであるが,輸入時に原産国において我が国の法令に基づく期限が表示されていない輸入食品については,輸入業者が,国外の製造業者が設定する期限等を基本に,当該食品の期限の設定に必要な情報について製造業者等への確認を行うとともに,微生物試験や理化学試験,官能試験等を実施することにより,科学的な根拠に基づいた適切な期限を設定し,自らの責任において期限表示を行うことが必要である。 また,輸入時にすでに我が国の法令に基づく期限表示がされている食品についても,輸入業者が当該食品に表示されている消費期限または賞味期限の表示の設定根拠等について国外の製造業者等から十分聴取し,把握する必要がある。 なお,輸入食品については,必要に応じてその輸送保管上の特性も考慮して期限を設定する必要がある。 一方,加工食品に賞味期限を設定する場合,客観的な項目(指標)に基づいて得られた期限に対して,一定の安全をみて,食品の特性に応じ,1未満の係数(安全係数)を掛けて期間を設定することが基本である なお,安全係数は,個々の商品品質のばらつきや商品の付帯環境などを勘案して設定されるが,これらの変動が少ないと考えられるものについては,0.8以上を目安に設定することが望ましいと考えられている。 また,食品ロスを削減する観点からも,過度に低い安全係数を設定することは望ましくない。過度に低い安全係数で期限を設定した後,在庫を解消するために,期限の貼り替えを行い,消費者に誤解を与えた事例もあることから,適切な安全係数を設定することが重要である。

 ●7.期限表示違反の場合の法的責任● 食品表示については,基本的に,当該食品の製造業者が行うこととされているので,表示を行う義務を負う者であるこれら製造業者(輸入品の場合は輸入業者)が,消費期限または賞味期限の表示の内容が正しいことについて責任を負っている。 なお,販売業者が製造業者との合意等により製造業者に代わって表示をする場合にあっては,販売業者が表示責任者となるので,これらの販売業者が期限表示の内容についての責任を負うことになる。 このため,消費期限または賞味期限が適切に設定されていなかった場合には,その表示を設定したこれらの食品関連事業者(表示責任者)が,食品表示法に基づき,責任を問われることになる。 また,期限が食品表示基準に定められた方法で表示されていなかった場合(消費期限または賞味期限の表示が欠落していた場合を含む)には,その表示をした前記の食品関連事業者(表示責任者)が一義的な責任を有していることはもちろんであるが,食品表示法では,食品関連事業者等は食品表示基準に従った表示がされていない食品を販売してはならないと規定されていることから,その意味では,表示責任者ではない場合であっても,食品表示基準に合致しない消費期限または賞味期限の表示が付された食品を販売した販売業者にも責任が及ぶことがある。 一方,製造業者,販売業者,消費者が製造してから賞味期限までの期間を均等に分け合うという考え方に基づくいわゆる1/ 3ルールという考え方が一部にみられるが,法的な位置づけはなく,あくまで任意で行われているものであり,納入期限,販売期限を1/3ルールに基づいて設定する義務はない。

 ●8.期限表示の表示方法●

 消費期限または賞味期限の表示は,消費者に分かりやすいことを旨とし,次の例に示すように,

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472食品と容器 2016 VOL. 57 NO. 8

⧻シリーズ解説⧻ わが国の食品ロス・廃棄の現状と対策

一括表示の枠内に,消費期限または賞味期限の事項名を表示した上で,「年」「月」「日」(または「年」

「月」)それぞれを,この順に並べて表示を行う。 ただし,一括表示の枠内に表示することが困難と認められる場合には,一括表示欄に「消費期限 この面の上部に記載」等,表示箇所を指定する方法で,年月日(または年月)を指定箇所に単独で表示することができる。この場合,単に「枠外に記載」や「別途記載」ではなく,表示箇所を明示する。 なお,表示は消費者等に見やすく理解しやすく表示するために,原則として,日本工業規格Z8305(1962)に規定する8ポイント以上の活字を使用することが必要であるが,表示可能面積がおおむね150平方センチメートル以下のものにあっては,日本工業規格に規定する5.5ポイント以上の活字を使用することが認められている。 (表示例) 「消費期限 平成28年9月1日」 「賞味期限  平成28年9月1日」 「消費期限 28. 9. 1」 「賞味期限 28. 9」 なお,数字の間の「.」を省略しても差し支えないが,この場合,読み間違えが起こらないよう,月または日が1桁の場合は2桁目に「0」を付し

て表示(例:9月を示す「9」については,「09」とする)。 (表示例) 「消費期限 280901」「賞味期限 2809」 また,ロット番号,工場記号,その他の記号を消費期限または賞味期限の表示に併記する場合にあっては,例のように,消費期限または賞味期限が明らかに分かるように表示する必要がある。  消 費 期 限 ま た は 賞 味 期 限 の 表 示 に つ い て

「280901」と年,月,日をそれぞれ2桁とする6桁での表示を行いつつ,ロット番号「A63」と併記するなどのように消費期限または賞味期限を不明確にする表示は行わないように気を付けなければならない。 (誤った表示例) 「280901A63」 (正しい表示例)[消費期限または賞味期限の表示が明らかに分かる] 「消費期限 平成28年9月1日 A63」  「賞味期限 28. 9. 1 LOT A63」 「賞味期限 28. 9. 1/A63」

 ●9.期限表示に対する消費者の意識● 食品の表示は,本来活用するのは消費者である。

それでは,期限表示に対して消費者はどのような意識を抱いているのであろうか ? 消費者庁が,平成23年12月27日 ~ 12月28日に,Web アンケート(インターネットリサーチ)により,日本在住の20歳以上の男女を対象にした調査結果(有効サンプル数1,083人)によれば,容器包装や店頭の POP等で表示されている事

第2図 食品を購入する際,主に見る表示項目(5つまで選択)(n=1,083) [ 消費者庁「第6回食品表示一元化検討会」資料 2012 年]

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473食品と容器 2016 VOL. 57 NO. 8

食品の期限表示制度と消費者の対応について

項のうち,消費者が店頭で食品を購入する際に主に見る事項は,「価格」(81.5%)が最も多く,次いで「消費期限 ・ 賞味期限」(71.0%)となっており,期限表示に対する関心が極めて高い結果を示している(第2図)。 また,加工食品を購入する際,商品選択のために参考とする表示事項は,「いつも参考にしている」と「ときどき参考にしている」を合わせると,「価格」(91.9%)が最も多く,「消費期限 ・ 賞味期限」 87.4% と,それに次いで高い結果となっている

(第3図)。 なお,「消費期限・賞味期限」について,参考にしている理由(複数回答可)としては,「品質を確認するため」(43.7%)と「安全性を確かめるため」

(45.9%)が,ほぼ同率で最も多かった。 一方,実際に商品を購入する際に知りたい情報が「いつもすぐ見つけることができる」のは,「名称(一般的名称):「魚肉練り製品」「スナック菓子」等」(75%)が最も多く,次いで「原材料名」(57.2%),

「内容量」(56.9%)が続き,次に「消費期限・賞味期限」(55.8%)となっており,期限表示については,比較的見つけやすいという回答が多かった

(第4図) が,逆 に「 消 費 期限・賞味期限」について,「すぐに見つけられることはあまりない」もしくは「すぐに見つけられることは全くない」と回答した者(n =63) の理由としては,

「容器包装の底面など,目立たないところに表示されているため」が約6割で,

最も多かった(第5図)。 以上のように,消費者の期限表示に対する関心は,総じて強い傾向を示している。

 ●10.期限表示と食育●

 食品の表示を活用するのは消費者であり,そのためには,消費者自身が食品表示ルールを正確に理解し,日常生活に活かす必要がある。 すなわち,健全な食生活実現のためには,食品表示ルールを含め「食」に関する知識と理解を,学校,家庭等ありとあらゆる場所と機会を通じた実効ある食育の実践を通して深めることが求められる。 こうした状況を背景として,我が国では,平成17年に制定された食育基本法に基づいた総合的な施策が展開されている。 すなわち,具体的な施策としては,同基本法に基づく食育推進基本計画において規定されており,その第3次計画が平成28年3月に策定された。 期限表示は,購入された食品の消費段階における的確な取り扱いに関する表示事項であるが,主として,食品を摂取する際の安全性の確保や,食

第3図 商品選択の際に参考にしている表示項目(一つを選択)(n=1,083)[ 消費者庁「第6回食品表示一元化検討会」資料 2012 年] (カラー図表をHPに掲載C056)

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474食品と容器 2016 VOL. 57 NO. 8

⧻シリーズ解説⧻ わが国の食品ロス・廃棄の現状と対策

品の食べ残し・廃棄に強く関連している。 第3次食育推進基本計画においては,食育の推進に関する施策についての基本的な方針として,今後5年間に特に取り組むべき5つの重点課題が規定されている。そして,その一つとして,期限表示にも係る環境面での対策が「食の循環や環境を意識した食育の推進」として示されている。 具体的には,「我が国は食料および飼料等の生産資材の多くを海外からの輸入に頼っている一方で,推計で年間約642万トンにのぼる食品ロスが発生しており,環境への大きな負荷を生じさせていることから,食品廃棄物の発生抑制をさらに推進するなど,環境にも配慮することが必要であり,そのために生産から消費までの一連の食の循環を意識しつつ,食品ロスの削減等,環境にも配慮した食育を推進する」ことが明記されている。 また,それらの基本的な取組方針の一つとして,

「食に関する感謝の念と理解」が示され,「国内では大量の食料が食べられないまま廃棄されているという食料資源の浪費や環境への負荷の増加にも目を向ける必要がある。これらを踏まえ,「もった

いない」という精神で,食べ物を無駄にせず,食品ロスの削減に取り組むことは,食育として極めて大切である」ことが記されている。 さらに,食育推進に当たっての15の目標の一つに,「食品ロス削減のために何らかの行動をしている国民を増やす」を掲げ,具体的には「まだ食べられるのに廃棄されている食品ロスについては,年間642万トン(事業系331万トン,家庭系312万トン(平成24年度推計))発生していると推計されているが,その削減を進めるためには,国民一人一人が食品ロスの現状やその削減の必要性についての認識を深め,自ら主体的に取り組むことが不可欠である。このため,食品ロス削減のために何らかの行動をしている国民を増やすことを目標とする。具体的には,平成26年度に67.4%となっている割合を,平成32年度までに80%以上とすることを目指す」としている。 また,安全性確保の観点では,「食品の安全性,栄養その他の食生活に関する調査,研究,情報の提供及び国際交流の推進」の一環として,「食品表示の適正化の推進」に関して記載されている。

 具体的には,「食品表示に関する規定を一元化した食品表示法の下,食品の安全性および消費者の自主的かつ合理的な食品選択の機会を確保することができるよう,「総合的 な TPP 関 連政策大綱」(平成2 7 年 1 1 月 2 5日 TTP 総 合 対策本部決定)も踏まえ,食品表示の適正化に取

第4図 商品購入の際の見つけやすさ(n=1,083) [ 消費者庁「第6回食品表示一元化検討会」資料 2012 年] (カラー図表をHPに掲載C057)

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食品の期限表示制度と消費者の対応について

り組む。 また,関係府省の連携を強化して立入検査等の執行業務を実施するとともに,産地判別等への科学的な分析手法の活用等により,効果的かつ効率的な監視を実施し,食品表示の適正化を担保する」ことが示されている。 一方,平成12年3年に,当時の文部省,厚生省および農林水産省の3省が決定し,その推進について閣議決定された10項目の「食生活指針」においても,「調理や保存を上手にして無駄や廃棄を少なく」というフレーズが規定されるとともに,サブフレーズとして,「買い過ぎ,作り過ぎに注意して,食べ残しのない適量を心がけましょう」および「賞味期限や消費期限を考えて利用しましょう」が示されている。

 ●11.最後に● 以上,期限表示制度と,その中における消費者の意識等対応の状況について概説した。 いうまでもなく,期限表示は,表示されている

「保存の方法」に基づき,かつ「未開封」という条件のもとで有効なルールとなっている。

 いまだにこうしたルールを誤解したり,「消費」と「賞味」との区別が不明確な消費者も見受けられる。 食の循環や環境を意識した食育の推進,特に,現行での学校における食育は,主として家庭科や保健体育の授業において学ぶことが多いが,これらが受験科目として位置づけられていないこともあり,必ずしも十分な対応がなされていないことも事実である。 今回,食品表示法施行後5年目以降栄養表示の義務化の動きがあるが,この栄養表示制度においても,たとえ購入した食品に栄養成分等が正しく表示されていたとしても,自分や家庭で作った料理に関する栄養素が判断できないため,食生活全体の栄養摂取状況が把握できないとなれば,せっかくの制度の効果が期待できない事態にもなる。 栄養表示制度を通じて,個々の国民が自身の栄養コントロールに関心を持つことと同様,期限表示制度を通じて,国民があらためて食品の安全性や食品ロスについて理解を深めていくことに期待する次第である。

第5図 知りたい情報が見つけにくい理由(複数回答可)(n=1,083)[ 消費者庁「第6回食品表示一元化検討会」資料 2012 年]    (カラー図表をHPに掲載C058)

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食品高圧加工の最新動向❖シリーズ解説❖ 第11回

 ◆1.はじめに◆ 食品の殺菌・加工方法として,太古から現在に至るまで最も利用されているのは,加熱を利用した方法である。しかし,加熱は栄養分の損失,香気成分の消失や異臭の発生,大量のエネルギー消費など,様々な課題も抱える。これらの課題を解決する方法として,近年,超高圧を利用した殺菌・加工方法が注目されている。

 ◆2.超高圧処理◆ 超高圧を利用した殺菌・加工方法は,超高圧処理 と 呼 ば れ る。 英 語 圏 で は High Pressure Processing,略して HPP と呼ぶのが一般的である。 超高圧処理は,対象となる食品をセットした圧力容器中に,実用レベルとしては最大600MPa の水圧を発生させることで,食品に対し静水圧をかけ,微生物を死滅させたり,タンパク質や澱

でんぷん

粉の変性を起こさせたりすることが可能である。熱処理が化学変化を引き起こして殺菌や加工を行うのとは異なり,超高圧処理は物理的作用であり,ビタミン等の栄養素や香気成分にはほとんど影響がない。また,圧力は加熱に比べ,処理に要する消費エネルギーが非常に小さい。さらに,静水圧効果により,食品の形状や部位にかかわらず圧力が

均一に適用されるため,均質な製品を作ることができる。 超高圧処理に関する研究が1980年代に始まると,こうしたメリットが注目され,日本の食品業界に一大ブームを巻き起こした。1990年代初頭には世界初の超高圧製品として日本でジャム製品が販売され,その後,高い糊

こ か

化度や栄養価を特長とする米飯製品などの商品化が続いた。しかし,食品衛生法により加熱が実質的に必須な食品が多いことや,超高圧処理単体では芽胞形成菌のような耐圧性を持った一部の微生物には効果が不十分で,常温流通が難しいことがわかると,徐々にブームは去っていった。 一方,米国では1990年代後半より,加熱で変質しやすく流通の難しかったアボカドペーストの殺菌や,ハム・ソーセージ等の肉製品の加工・包装後の二次殺菌目的で超高圧処理が利用され始め,食品業界に広く認知されるようになっていった。米国では FDA や USDA により5log の減菌が可能な非加熱殺菌方法として正式に承認されたことで,ジュースやベビーフードにまで応用範囲が広がりつつある。 こうした状況の中,日本でもここ数年,添加物類を使用しない自然食品やおいしさを追求したプレミアム食品の人気が高まるにつれ,再び超高圧

横型超高圧処理装置FOOD FRESHERの商品化とテスト・受託処理対応

加 藤 雅 敏

か と う・ ま さ と し株式会社神戸製鋼所 機械事業部門産業機械事業部重機械部 営業室課長

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横型超高圧処理装置 FOOD FRESHER の商品化とテスト・受託処理対応

処理に注目が集まっている。直接消費者に向けた製品だけ で な く,店頭販売されるパンやおにぎりの具 材 な ど,業務用を狙

ったものが多くなっているのが最近の傾向といえる。また,後述する牡

か き

蠣等の二枚貝の脱殻用途にも使用され始めている。今後,超高圧技術を応用した商品の拡充が期待される。

 ◆3.超高圧処理装置◆ 当社は1980年代後半より食品用の超高圧処理装置の設計・製作を手掛けているが,その技術の源流は1960年代に遡る。元来,当社は超硬やセラミックスの粉末を成形するために用いられるCold Isostatic Press(CIP)(写真1)や,鋳物の緻密化などに用いられる Hot Isostatic Press (HIP)

(写真2)を手掛けており,合計900台に迫る製作実績を有する世界最大級の超高圧機器メーカー

である。超高圧処理装置は CIPを食品向けとし

て応用したものである。大型かつ数百 MPa レベルの圧力で繰り返しの使用に耐えうる超高圧装置を製作できるメーカーは,世界的にも限られており,国内では独占的な地位を築いている。 超高圧処理装置は,第1図に示すように,主に1)超高圧を内部で保持する円筒型の圧力容器と上下蓋2)圧力容器内の軸力を支えるプレスフレーム3)超高圧を発生させる増圧機と動力源となる油圧機器4)圧媒の封止,開放を行う弁や超高圧配管 等から構成される。尚,小型の装置では,第2 図のように上蓋部がピストンの役割を果たし,油圧装置でピストンを直接圧力容器に押し込むことで圧力を発生させるタイプのものもある。 第1図に示す装置の運転手順としては,以下の通りである。 ①処理品投入 プレスフレームが,レール上を通って手前方向にスライドし,圧力容器と上下蓋を覆う位置から離れる。次に,上蓋が油圧装置により上昇し,90°以上旋回することで,圧力容器開口部が露出される。ここに,食品を収めたバスケットがクレーン等により投入される。再度,上蓋が圧力容器内に収められ,プレスフレームが元の位置まで移動する。 ②超高圧処理 増圧機により,圧媒水がタンクから超高圧配管を通じて圧力容器内に送られ,圧力容器内の内圧

写真 2 大型 Hot Isostatic Press(φ 850mm×3000mmL×1400℃ ×147MPa)

写真1 大型 Cold Isostatic Press(φ 2000mm×3000mmL×196MPa)

第1図 超高圧処理装置(写真:越後製菓株式会社ご提供)

プレスフレーム上蓋

圧力容器圧媒

下蓋増圧機圧媒タンク

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食品高圧加工の最新動向❖シリーズ解説❖

が高められる。所定の圧力に達すると,圧力容器内の圧力が設定された時間に応じて保持される。その後,減圧弁が開放され,減圧される。 ③処理品取り出し 上記①と同様の手順で,処理品が取り出される。 (以降,①~③の繰り返し) 第1図の構造は,圧力容器が縦方向に配置されることから縦型方式と呼ばれ,従来主流の構造であった。しかしながら,1)処理品の出し入れにクレーンを使用するため,人手や時間を要したり,吊

り上げた処理品から水が床に落ちたりする2)運転やメンテナンスにおいて高所作業が発生する3)クレーンを含めた設置場所高さが非常に高くなる(5m を超えることも)4)狭い面積に荷重が集中するため,既存の工場には設置できないケースが多い といった課題があった。

 ◆4.横型超高圧処理装置   FOOD FRESHER の商品化◆ 縦型方式の諸問題を解決するため,当社では一昨年,圧力容器を水平方向に配置した構造の装置を開発し,FOOD FRESHER の商品名で販売を開始した(写真3,第3図)。FOOD FRESHER の

特長は,1)圧力容器を横方向に配置しているため,装置高さが抑えられ(2m 前後),単位面積当たりの耐荷重も軽減される2)処理品を入れたバスケットが自動搬送装置により機械的に装置内に出し入れされることで,人手と時間を削減できる3)バスケットへの商品の積み込み,取り出しがフロアレベルで行えるため,高所作業がない

第2図 ピストン直圧加圧方式

③排水,圧力容器移動(以降,①〜③の繰り返し)

第3図 FOOD FRESHER の稼働手順

写真3 FOOD FRESHER FF4010

①トレーを加圧容器内に投入

②圧力容器がプレスフレーム内に移動し,超高圧処理            ,

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横型超高圧処理装置 FOOD FRESHER の商品化とテスト・受託処理対応

4)処理品の入側と出側が異なるため,未処理製品と処理済み製品の混同のリスクが低くなる といったことがある。 FOOD FRESHER の第一号機は石巻市の桃浦かき生産者合同会社に納入され,牡蠣の脱殻を目的に使用されている(写真4)。200MPa 程度の超高圧下にて活牡蠣を処理すると,写真5のように貝が口を開け,貝柱が殻から離れるため,殻の開口部を下に向けるだけで身がするりと抜け落ち,従来のように殻や身に刃を入れる必要がない。当社装置ラインアップは第1表に示す通りだが,桃浦かき生産者合同会社の装置は最大圧力400MPa,処理室サイズ100liter の FF4010モデルである。剥き身換算で300㎏ / 日を超える処理能力を有し,牡蠣剥き作業者10人分以上の労働力に相当する。FF2540,FF2560モデルでは大型化によりさらに効率が改善され,剥き身で2~3トン / 日の処理量も期待できる。全国的に牡蠣剥き作業者の高齢化・後継者不足が問題となっており,牡蠣の生産量維持・拡大の観点で,水産業者から本装置に多大な期待が寄せられている。また,本用途においては,副次的メリットとして微生物殺菌効果も確認されており,衛生・安全面の改善も実現されている。さらには,いくつかの研究機関によりノロウイルス不活化の効果も確認されつつあり,これが公的に認められるようになれば,ノロウイルスフリーの牡蠣が謳

うた

えることとなり,業界へのインパクトは絶大なものとなろう。尚,桃浦かき生産者合同会社では,牡蠣以外にも多様な水産物に超高圧処理を利用した非加熱殺菌・加工を行い,商品化に向けた取り組みを行っている。 その他の納入事例として,ニッポンハムグループのマリンフーズ株式会社では,今年6月8日より,漁師町バル「北海道産ほたてのオイル漬け」

(写真6),他3品を販売している。超高圧処理

による熱を使用しない殺菌工程のため,生のようなやわらかい食感と素材のおいしさを堪能できるのが特長である。マリンフーズ株式会社では今後,ロングライフチルド製品や,加熱に不向きで商品化の難しかったシーフード製品への展開を試みておられる。

 ◆5.超高圧処理テスト・          受託処理対応◆ 当社では様々なお客様に超高圧処理のメリットと使い勝手を経験いただき,装置導入に繋

つな

げていただけるよう,テストセンター(兵庫県高砂市)に 最 大 圧 力600MPa, 処 理 室 サ イ ズ50liter のFF6005機(写真7)を設置し,見学およびテスト対応を行っている。50liter と比較的大容量を持つため,一定量のサンプルの処理を請け負うことも可能であり,テストや試作を終え,市場調査段

写真4 桃浦かき生産者合同会社での超高圧を利用した牡蠣剥きの様子

写真5 超高圧処理後の牡蠣

用途 型式 圧力 (MPa) 容量 (L)

殺菌・加工

FF6005

600

50FF6010 100FF6020 200FF6040 400FF4010

400100

FF4020 200FF4040 400

二枚貝・甲殻類の殻むき

FF2520250

200FF2540 400FF2560 600

研究開発 Dr.CHEF 700 0.61000 0.3

第1表 FOOD FRESHER ラインアップ

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食品高圧加工の最新動向❖シリーズ解説❖

階に入ったお客様に対し,サンプル製品の受託処理も行っている。テストセンターは工場や設計事務所に隣接しているため,機械や処理方法に関するお問い合わせや相談も対応可能である。是非,少しでもご興味があれば気軽に活用いただきたい。

 ◆6.今後の取り組み◆ 超高圧処理の本格的な普及のためには下記の課題があるものと考え,解決に向け取り組んでいる。1)超高圧処理利用の裾野拡大2)生産性のさらなる向上3)殺菌方法としての法的認可4)さらなる殺菌効果の実現 1)に関しては,初めて超高圧を利用するお客様でも無理なく製品化に進んでいただけるよう,前述の当社でのサンプル受託処理に続くステップとして,受託処理業者や OEM 製造業者に装置を普及させ,超高圧処理利用の裾野を広げていく試みを行っている。 2)に関しては,さらなる大容量化,増圧機の能力向上,前後設備の拡充により,生産性の向上を図っていく。 3)に関しては,食品衛生法では超高圧処理は非加熱殺菌方法として認可されておらず,加熱殺菌が必要とされる食品においては加熱の代替方法になりえていない。他国の状況としては,欧米の

みならず近隣の韓国や台湾でも,すでにコンビニエンスストアやスーパーマーケットで超

高圧処理により製造されたジュースなどがごく普通に販売されており,日本はこの分野において先進国では最も出遅れているといわざるを得ない。当社単独での取り組みでは限界があり,研究機関や顧客との連携により事態の打開を図っていきたい。 4)に関しては,前述の通り,現状では超高圧処理は芽胞形成菌の殺菌などに課題を抱える。最適な超高圧処理条件を探索し続けるのと同時に,食品に悪影響を与えない程度の加熱との併用や他の非加熱殺菌方法との併用により,完全殺菌を目指す。これに関しても,研究機関等との連携を通じて対応を行っていく。

 ◆7.まとめ◆ 食品の非加熱殺菌・加工方法である超高圧処理に対する期待が高まっており,横型超高圧処理装置 FOOD FRESHER を開発,販売開始した。当社テストセンターでのテスト・受託処理対応を通じて顧客の装置導入までの協力をしていく。また,受託処理業者への普及により,超高圧処理利用製品の裾野を広げる取り組みを行っていく。超高圧処理技術により消費者の皆様の豊かな食生活と健康に貢献できるよう,装置メーカーとして最大限の努力を行っていく所存である。

※カラー写真を HP に掲載しています。           (http//kangiken.net)

写真7 テストセンターの超高圧処理装置(FF6005(左)および Dr.CHEF(右))

写真6 マリンフーズ株式会社の “ 漁師町バル「北海道産ほたてのオイル漬け」”

※本記事に関するお問い合わせは下記まで 重機械部営業室  東京 Tel:03-5739-6762 担当 加藤,大舘 大阪 Tel:06-6206-6028 担当 真鍋

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 ●はじめに

 ここでは前号に引き続き,大学を起点として開発・実用化されつつある次世代包装技術を紹介する。この連載執筆中に東京ビッグサイトで開催された,一般社団法人日本食品機械工業会主催の国際 食 品 工 業 展(FOOMA JAPAN 2016) で は,

「アカデミックプラザ」という展示コーナーが設けられていた。そこには,63のブースによって,国内および海外の大学 ・ 研究機関からアカデミックな研究テーマがパネル展示され,教授や研究員が常駐して情報を公開,来場者との間で活発な交流が見受けられた。その中で筆者は,本誌6月号

(2016)に「食品高圧加工の最新動向第9回-重曹 ・ 高圧併用処理を用いた食肉加工品の物性改善技術の開発」を執筆された新潟大学農学部西海理之教授にお会いした(第1図)。 高圧食品加工技術は,数千気圧(数百 MPa)もの高圧力を食品の非加熱加工に応用するもので,現在欧米で開発・実用化研究が進められているが,もとはといえば,1987年,当時京都大学助教授の林力丸博士が高圧力の食品加工への利用についての提言を「食品と開発」に発表されたのが始まりであり,今でも海外では,高圧食品加工技術のパイオニアが日本であることが紹介されている1)。

 ●究極のマテリアルリサイクル,多層アルミ構 成プラスチックパウチを油と再生アルミに転換 -ケンブリッジ大学

 金属が電子レンジで加熱できないことは,誰でも知っている。しかし,英国の Enval 社は,この原則を無視。巨大オーブンで食品包装に使われたプラスチックとアルミ箔

はく

のラミネートフィルムを「加熱」し,再生原料に転換している。Enval 社

自身がこの技術を開発したケンブリッジ大学の研究プロジェクトから生まれた企業だ。 この技術はマイクロ波誘導熱分解法で,プラスチックとアルミ箔のラミネート製品を分解し,有機物は油に,アルミ屑

くず

は溶解して再生アルミに転換される。Enval 社の最初の実証実験工場は,英国の Huntingdon にあり,既に稼働している(第2図)2)。破砕されたアルミ ・ ラミネートフィルムはカーボンとともにマイクロ波誘導加熱炉に入れられ,1000℃の高温下で数分の間に炭化水素ガスとアルミに分解される。処理能力は350kg/

今,包装新技術は大学発ベンチャーが面白い(2)

●海外に見る容器包装最新事情● 第18回

(株)パッケージング・ストラテジー・ジャパン チーフコンサルタント(技術士・包装管理士)

有田 俊雄(Toshio Arita)

第1図 FOOMA JAPAN 2016 アカデミックプラザで新潟大学西海教授(左)と筆者

(パネル左)高圧処理の食品分野への応用,(右)重曹 ・高圧併用処理によるレトルト牛肉の品質改善技術  

第2図 アルミ ・ ラミネートフィルムのリサイクルプラント破砕されたアルミ ・ ラミネートフィルムはカーボンとともにマイクロ波誘導加熱炉に入れられ,1000℃の高温で分解し,油分と再生アルミに転換される   処理能力:350kg/ 時(公称:2000t / 年)

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時(公称:2000t / 年)で,年間200 ~ 300tの再生アルミを回収することができ(純度98% 以上,収率80% 以上),設備費は3~4年で回収できるといわれている。炭化水素ガスは冷却・凝縮により油分となり,特殊化学品の原料となる。 この研究は,ケンブリッジ大学の Howard Chase 教授が,炭素をマイクロ波で加熱して環境への適用研究をしたことに端を発している。博士は当時博士課程の学生であった Carlos Ludlow-Palafox 氏を参加させて研究を進め,特許を世界中に申請し,Enval 社を設立した。2010年にはパイロットプラントが完成し,Mondelez,Kraft,Heinz 社など大手企業から資金援助も得るようになったという。 現在,同社の常務取締役である Ludlow-Palafox博士は,このプロセスの意義および将来性について Global Pouch West 会議で講演したが,その際に同博士は Packaging Strategies News とのインタビューで以下のように語っている3)。 「マイクロ波誘導熱分解とは,プラスチックのような有機物質を,酸素が存在しない状況で加熱,分解するプロセスです。ほとんどの有機物質は熱分解できます。紙,プラスチック,食品もそうです。この現象は高温で起こります。有機物質は高温でガス化しますが,冷却・凝縮により油を生成します。紙から生成された油とプラスチックから生成された油は性質が異なります。プラスチックから生成された油には炭化水素が含まれますので,原油と類似の組成を示します。このプロセスは,低圧条件でも油が生成できますから,プラントに過度の負荷をかけることなく少量の炭化水素を抽出できます。電気を動力源にしていますので,巨大な煙突も必要ありませんし,場合によっては再生可能エネルギーを使うという選択肢もあります」 さらに,この技術の将来について,Ludlow-Palafox 博士は次のように述べている。 「アルミを含むラミネートフィルムを扱うことで,アルミを再生し,アルミのサプライチェーンに投入して,新しい製品を作ることができます。この数量は膨大で,成長が期待できます。英国では,アルミ構成のラミネートフィルムは年間15

万t以上の需要があると推定されています。これを換算すれば1万7000t以上のアルミが再生可能なのです。現在多くの企業が,パッケージを金属容器やガラスびんからアルミ構成のラミネートフィルムに切り替えていますが,一番の問題点はアルミの経済的な再生にありました。この技術によって,われわれはプラスチックを油に転換するだけでなく,アルミの再生を経済的に可能にします。われわれの実証実験には,Nestlé 社や Coca-Cola 社も加わり,近い将来には技術供与によって世界中のあらゆる国々の人たちに広まっていくと確信しています」

 ●ミルクの腐敗を教えるスマートキャップ- カリフォルニア大学バークレー校

 大学の研究者が3D プリンターを使い,ミルクが腐敗していることを教えてくれる“ スマート”ミルクキャップを開発した。まだ十分飲めるミルクを,賞味期限が切れたからとか,においが変わったとかいうあまり信用できない理由で捨ててしまうケースが多い。米国の年間の食品ロス1330億ポンド(約6000万t)のうち,ミルクはその中で上位にランクされる食品だ。これは驚くべきことではない。米農務省によれば,消費者は購入したミルクの約20% を廃棄しているという。 カリフォルニア大学バークレー校の工学エンジニアたちは,台湾の国立交通大学の研究者との共同研究で,この問題の解決策を生み出した。彼らはミルクカートンにピッタリあうセンサーを組み込んだワイヤレスキャップを考案した(第3図)4)。英国の Nature 誌に発表された研究内容によると,第3図に示した形状のプラスチックキャップを,

第3図 ミルクの腐敗を教えるスマートキャップ3D プリンターで樹脂キャップにセンサーを組み込み

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3D プリンターを用いて作り,その際に,回路形成部にはあらかじめワックスを埋め込んでおく。次に,ワックスを溶融除去し,そこで生じた中空部分に銀を注入すると,キャップの内部に設けられた小さな液だまり部の上下に向かい合った電極が設けられる。ミルクカートンを激しく揺するとこの部分に少量のミルクがたまり,電極間に電流が流れるので,腐敗による電流の変化を,ワイヤレスの高周波リーダーによって外部から読み取ろうという仕組みである。研究室のテストで,室温に置かれたミルクと冷蔵されたミルクを比較したところ,36時間後に,冷蔵されたミルクの周波数低下はわずか0.12% であったが,室温に置かれたミルクは4.3% 低下したという。 3D プリンター技術の進歩は,将来電子回路の生産コストを低下させる。パッケージにもこの技術が採用され,消費者に食品が腐敗したことを教えてくれるだろうと,バークレー校のセンサー・アクチュエーターセンターの共同ディレクターで,機械工学科の Liwei Lin 教授はその見通しを述べている。乳業メーカーから実用化に向けた研究依頼があるものの,Lin 教授はスマートキャップが世に出るには,まだ時間がかかると語る。 「製造工程を短縮しコストを低下させる必要がありますが,いずれ消費者はスマホのアプリでスマートキャップからの信号を読み取るようになるだろう。スマホは,このミルクは飲んでも大丈夫か? という昔ながらの問題を,消費者にシンプルに,“イエス” か “ノー ” で答えてくれるだろう」

(Lin 教授)

 ●二酸化炭素を使って PET 代替の植物由来樹 脂を製造するプロセス開発-スタンフォード大学

 カリフォルニアのスタンフォード大学の化学者たちが,二酸化炭素と農産廃棄物や草木のような非可食性植物原料を使って,石油由来のプラスチック製品を代替する研究を行っている5),6)。 Matthew Kanan 助教授は同氏の協力者と一緒に,Nature 誌に,PET 樹脂を代替する PEF(ポリエチレンフラノエート)の研究成果を発表した

(第4図)。PEF はエチレングリコールと2-5- フ

ランジカルボン酸(FDCA)を原料にして合成される。この研究チームは,FDCA を作るのにトウモロコシ糖ではなく,農業廃棄物から生成したフルフラールを原料にしていることから,植物由来で生成されるエチレングリコールと合わせて作られる FDCA もまた100% 植物由来である。 PET 樹脂の全世界の需要は,繊維,電子材料,飲料や日用品のボトルを合わせると年間5000万tにも達するといわれ,石油由来樹脂の中で量的にも最大であるが,これを100% 植物由来の PEFで代替するプロジェクトについては,オランダのバイオプラスチック開発メーカーである Avantium社が先行している7)。関連したニュースとして,今年3月,世界的な化学メーカー BASF 社とAvantium 社とは,FDCA と PEF を商業ベースで生産する合弁企業を設立することを発表した。この合弁企業は,Avantium がオランダのアムステルダムと Geleen の研究所で開発した YXY プロセスを採用し,将来 BASF のベルギー,アントワープの Verbun 地区に年産5万tの工場を建設する計画である。 一方,プラスチック業界ではまだ FDCA を低コストで持続的に生産する方法が確立していない。これまでは,フルフラールと二酸化炭素から FDCAを合成するには,有害な化学品を使用する,高コストで高エネルギー消費のプロセスしかなかったが,Kanan 助教授のチームは二酸化炭素とフルフラールの誘導体であるフッ素酸の反応に,セシウムまたはカリウムを含む溶融塩を使ったところに特徴がある。 Kanan 氏は,このプロセスは,農業廃棄物を原料とするフルフラールと化学工場や発電プラン

第4図 二酸化炭素を使って PET 代替の植物由来樹脂製造プロセスを説明する Kanan 助教授と研究者

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トから大量に排出される CO2を原料にするのでコストも安価で,温暖化ガスの排出量も石油由来の場合と比較して1/ 4で済むことから,その将来性は非常に大きいと語っている。 Nature 誌に掲載された論文には,共同研究者として,吉野達彦氏(現在,北海道大学・大学院薬学研究院助教授)の名前が挙がっている。

 ●日本で発見された PET 樹脂を食べる微生物 -京都工芸繊維大学と慶応大学

 飲料ボトルや食品容器に使われている PET 樹脂は,散乱による環境汚染の原因として最悪だと考えられている。使用済みの PET ボトルは主にリサイクルするために回収されているが,ごく一部が埋立廃棄もされずに散乱しており,その量は年に数百万tにのぼるといわれている。近年では特にプラスチック粒子による海洋汚染が新たな環境問題として取り上げられている。 そこで日本の研究者が,環境に優しい解決策を発見した。PET を分解する,言葉を換えれば PET樹脂を “ 食べて ” しまうバクテリアである。 PET の利点は耐久性に優れることだ。自然界には PET を分解する酵素がないので,いつまでもそのまま残ってしまう。 しかし,京都工芸繊維大学と慶応大学の研究チームは,PET に様々な分解菌を与え,その中からPET を主なエネルギー源と炭素源とする,新規のバクテリアを分離し取り出すことに成功した。彼らはこれを Ideonella sakaiensis201-F6と命名した。このバクテリアは2種の酵素を作りだし,これを媒介として,まず PET をモノマーレベルにまで分断し,次に加水分解によって生成したエチレングリコールやテレフタル酸を炭素源および栄養素として増殖することを突き止めた。薄い PETフィルムの場合,30℃の定温状態でフィルムが崩壊するのに6週間かかったとのこと8)。 この研究チームのメンバーである慶応大学ポリマー化学の宮本憲二准教授によれば,チームは大阪の堺市にある PET ボトルリサイクル施設周辺の土壌や廃水,活性汚泥層からバクテリアのサンプルを捕集したという。従って,バクテリアの名も,

この土地の名前からつけられた。 この方法はプラスチックリサイクルや散乱ゴミ解消にとって全く新しいアプローチを示唆している。現在では,多くの使用済みプラスチックはほんとうの意味ではリサイクルされていない。使用者側は基本的に石化由来の化学製品から作った新原料の方が好ましいと考えているからだ。PET 分解バクテリアが持つ酵素を量産化し,これを廃棄物タンクに放り込むことで,石化由来同様の扱いやすい化学製品が得られ,好ましいプラスチック新原料が得られる時代の到来も夢でなくなってきた。

 ●おわりに

 ここに挙げた事例からもわかるように,大学発新技術には大胆な発想がある。ややもすれば,企業内発想が短期的な視点,近視眼的になるのに比べて,これらの考え方には,長期的に見て持続可能な社会に必要な開発目標の一環として取り組んでいるという気概がある。ゲームの流れを変えるだけの革新性があり,極めて魅力的である。二酸化炭素を使って PET 代替の植物由来樹脂を製造するプロセス開発の論文の共著者には若い日本人研究者の名前があり,日本発の PET を食べるバクテリアの発表は,この執筆時において,インターネット・Google のヒット数が40万件にも達するほどの注目を集め,情報は瞬時にして世界を駆け巡っている。言い換えれば,次世代新技術の発掘は,それらが浮上する水面すれすれのところでのアンテナ勝負なのかもしれない。

 ●参考資料

1)林力丸:食品と開発 Vol.22,P55-62(1987)2)http://www.enval.com/process/3)Packaging Strategies News 2016年3月15日号4)http://www.gizmag.com/uc-berkley-3d-printed-

smart-milk-cap/38559/5)http://news.stanford.edu/2016/03/09/low-carbon-

bioplastic-030916/6)Packaging Strategies News 2016年3月15日号7)有田:「食品と容器」「海外に見る容器包装最新事情」

(連載第7回)2013 Vol.55 No.108)Packaging Strategies News 2016年4月15日号

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502食品と容器 2016 VOL. 57 NO. 8

 本誌6月号において,2020年東京オリンピック・パラリンピックの選手村等で提供される食材の調達基準について記しました。この件については,現在,東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会に設けた「持続可能な調達ワーキンググループ」において,今年の1月に示された「持続可能性に配慮した調達コード」基本原則に基づいて検討が進められているようです。 すなわち,組織委員会は,持続可能な大会運営を実現するため,原材料調達・製造・流通・使用・廃棄に至るまでのライフサイクル全体を通じて環境負荷を最小化することのみならず,人権・労働等社会問題などへも配慮された物品・サービス等を調達するとし,具体的には,①どのように供給されているかを重視する,②どこから採り,何を使って作られているかを重視する,③サプライチェーンへの働きかけを重視する,④資源の有効活用を重視するなどの4つの原則に基づき持続可能性に配慮した物品・サービスを調達するとしております。 この4つの原則を食品に当てはめた例として,①に関しては,適正な環境保全へ配慮し製造・流通過程において低炭素エネルギーの活用,省エネの推進や廃棄物の3R(Reduce,Reuse, Recycle)の推進が企図された物品・サービス,②に関しては,森林・海洋などの資源の保全や生物多様性に配慮し,適切に採取・栽培されたものや,低炭素エネルギーの活用,省エネルギーや大気・水質・土壌等の環境に配慮した原材料や包装容器の最小化が企図された物品・サービス,③に関しては,サプライチェーンにおいてトレーサビリティーやサービスが確保されていること,④に関しては,

「もったいない精神」を活かし,可能な限り再使

用・再生利用が容易で,かつエネルギー回収等により資源の有効活用が可能となるよう企図された資材・物品などが示されています。 そもそもオリンピックにおいて「持続可能性」が強調されるようになったのは,1994年オリンピック100周年に際し,国際オリンピック委員会

(IOC)が「スポーツ」「文化」に加え,「環境」をオリンピック精神の第3の柱とすることを宣言して以来のことです。そうした精神が大会運営に最初に活かされたのが2012年ロンドン大会であって,大会では持続可能性の象徴である「One Planet Living」をテーマに,社会・経済などを含むあらゆる分野において「持続可能性」が重視されました。 その後,2014年12月の IOC 総会において採択されたオリンピック・ムーブメントの未来に向けた戦略的工程表である40の提言からなる「オリンピック・アジェンダ2020」において,提言4として「オリンピック競技大会のすべての側面に持続可能性を導入する」こと,また提言5として

「オリンピック・ムーブメントの日常業務に持続可能性を導入する」ことが明示されました。 こうした持続可能性を重視した大会運営は,この夏開催のリオデジャネイロ大会においても引き継がれ,提供される食材調達基準である「Rio 2016 Taste of the Games」が,https://www.rio2016.com/sites/default/files/users/rio2016_files/rio-2016-taste-of-the-games_1.pdf で検索することができます。 同様に,持続可能性を前面に掲げたイベントとして,昨年5月1日から半年間,イタリア・ミラノで開催されたミラノ国際博覧会があります。博覧会のテーマ「地球に食料を,生命にエネルギーを」は,飢餓,食料安全保障,生物多様性の理念が礎となっています。このように,持続可能性は今後の国際社会において注視すべき最上位の概念であって,我々に身近な食料・農業のあり方を考える上でその正確な理解が不可欠です。 表は,食料・農業分野の持続可能性に係わる環境・エネルギー政策に関する国内外の動向を年表としてまとめたものです。その中で国際的枠組み

オリンピック・パラリンピックと持続可能性

岩いわ

 元もと

 睦むつ

 夫お

    ((公社)日本フードスペシャリスト協会 会長) 

一刻者の独り言 第13回

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503食品と容器 2016 VOL. 57 NO. 8

作りに大きな影響を与えたのが1992年6月にリオデジャネイロで開催された「国連環境と開発に関する世界総会」,いわゆる「地球環境サミット」です。我が国では1993年に環境基本法が制定され,それまでの公害対策のための環境行政から資

源・循環型社会,地球環境問題へと変化しましたが,そうした変革に対しても大きな影響を与えました。次号以降数回にわたって詳しい解説を行いたいと思います。

国内の動向 海外の動向法律 戦略・計画等1960 年代 公害対策基本法 (’67/11)1970 年代 環境庁発足(’71/7) 第一次石油危機 (’73)

第二次石油危機 (’78)省エネ法 (’79/6)

1980 年代 石油代替エネルギー法 (’80/5) 国連環境と開発に関する世界委員会:ブルントラント委員会 (’84)国連環境と開発に関する世界総会:ブルントラント報告「Our Common Future」(’87)

1990 年代 国連環境開発会議 (リオ地球サミット)(’92/6)環境基本法 (’93/11)新エネルギー法 (’97/6) 生物多様性国家戦略 (’95/10)食料・農業・農村基本法 (’97/7)地球温暖化対策推進法 (’99/4) 京都議定書(’97/12)持続農業法 (’99/10)家畜排せつ物法 (’99/11) 環境省発足 (’99/7)

2000 年代 容器包装リサイクル法 (’00/4) 国連ミレニアムサミット:「ミレニアム開発目標」(’00/9)

肥料取締法 (’00/10) リオ+10,ヨハネスブルグサミット:「持続可能な開発に関する世界首脳会議」(’02/9)

廃棄物処理法(’01/4)

資源有効利用促進法 (’01/4) 小泉首相所信表明「自然との共生社会」,「循環型社会の構築」(’01/5)

グリーン購入法 (’01/4) 第2次生物多様性国家戦略 (’02/3)食品リサイクル法 (’01/6)新エネ特措法 (RPS 法 )(’02/6) バイオマス・ニッポン総合戦略 (’02/12)エネルギー政策基本法(’02/6) 第1次エネルギー基本計画(’02/10)

改定バイオマス・ニッポン総合戦略(’06/3)

気候変動に関する政府間パネル (IPCC) 年次報告(’07/2)

第3次生物多様性国家戦略 (’07/11)

21 世紀環境立国戦略(’07/6) ハイリゲンダム G 8サミット:「美しい星」(’07/6)

生物多様性基本法 (’08/5) 洞爺湖 G 8サミット「クールアース推進構想」(’08/6)

農林漁業バイオ燃料法 (’08/5) 低炭素社会づくり行動計画 (’08/7)第3次エネルギー基本計画:3E(’10/6) 「生物多様性条約」COP10 名古屋議定書 (’10/9)

2010 年代 RPS 法廃止,再生可能エネルギー法(再エネ特措法:FIT 法 )(’11/8) 東日本大震災(’11/3) リオ+20,「国連持続可能な開発会議」(’12/6)

第 4 次エネルギー基本計画 (’14/4) 国連持続可能な開発目標「2030 アジェンダ」(SDGs)(’15/9)

長期エネルギー需給見通し(’15/7) 地球温暖化対策の新枠組み COP21パリ協定採択 (’15/12)

FIT 法改正,固定価格買取制度法(’16/6)

食料・農業分野における持続可能性に関する国内外の動向

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 1.食の安全・安心を脅かす事件

 平成28年1月,カレーチェーン店が異物混入のため廃棄処分としたビーフカツが,廃棄処分されずに横流しされ,スーパー等で販売される事件が発覚した。また,昨年末には大手ハンバーガーチェーンの異物混入など,食の安全・安心を脅かす事件が報道されている。こうした事件に関連して保健所にも,様々な調査があるが,これらの事件を整理すると第1表のように大きく6つに大別される。 マスコミ等で大きく報道される事件もあるが,

「毒物混入による犯罪」と「健康被害のある食品」以外については,ほとんど健康被害がないのが実態である。毒物混入事件については,犯人が故意に混入していることから,保健所は製品の回収等には関与するが,混入原因等については犯罪とし

て警察が介入すべき事件となる。健康被害のある食品としては,食中毒はもちろん,アレルギー物質の表記が欠落した食品やガラスや金属など明らかに健康危害が考えられる異物混入などがあげられる。

 2.食中毒の実態 第2表に過去5年間の国内での食中毒発生状況を示した。発生数では,ノロウイルス,カンピロバクターが多く,約3割を占めている。患者数は圧倒的にノロウイルスによるものが多く,約6割を占めている。1事件当たりの患者数を見ると,ノロウイルス35名 / 件に比較してカンピロバクター7名 / 件となり,1事件当たりの患者数がノロウイルスは多いが,カンピロバクターは比較的少ないことが分かる。事件当たりの患者数を見ると,ウェルシュ菌や病原大腸菌によるものも患者数が

多い傾向が読み取れる。逆に,サバ等に寄生しているアニサキスでは,患者一人の事件が多いことが分かる。アニサキスの事件では,サバ寿司や刺身を食べて発症し,救急病院に搬送されて胃カメラで寄生虫を排除したことにより食中毒であることが判明する事件がほとんどである。アニサキスについては,卵がオキアミ等に捕食され小魚を経由して最終的にはイ

保健所における食中毒調査の実態とカンピロバクター

● 特別解説 ●

小 暮  実

こ ぐ れ・ み の る東京農工大学農学部農芸化学科卒業。雪印乳業㈱を経て,現在,中央区中央保健所にて食品衛生監視員として勤務。

第1表 食の安全・安心を脅かす事件

分 類 事件例 毒物混入による犯罪 中国産冷凍餃子,農薬入り清涼飲料水など 嘘つきの詐欺事件 産地偽装,原材料偽装,廃棄物販売など 衛生管理不良な事件 加熱不足,使用水の管理不良,包装不良など 規格基準に不適合 大腸菌検出,違反添加物,農薬の残留など 何となく不安な食品 遺伝子組み換え食品,放射線照射食品など 健康被害のある食品 食中毒,食物アレルギー,異物混入など

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ルカやクジラに寄生することが知られている。近年,アニサキスによる食中毒事件数が増加しており,その理由としてクジラの捕獲が少なくなったことや地球温暖化により回遊魚の捕獲地域が変化していることなどが推測されている。 他に生のヒラメに寄生するクドア事件が増加しており,養殖時に寄生しないよう養殖技術や出荷時の検査体制等が整備されつつある。

 3.保健所における食中毒関連調査

 第3表に平成26年度の中央区保健所での調査内容を示した。年間230件の調査があり,ほぼ毎日のように新規の調査があることが分かる。食の安全・安心を脅かす事件が増加して以降,保健所は365日24時間稼働しており,230件のうち夜間・休日の対応は30件となっている。 このため,夜間・休日でも保健所に電話すれば調査が行えるよう,全国の連絡体制が構築されている。食中毒の調査といっても一様ではないが,中でも多いのが患者からの通報で「あの店で食事したところ,吐き気,嘔

お う と

吐,腹痛,下痢等の食中毒症状を呈した」との患者からの有症苦情が多い。この有症苦情による調査55件の結果,食中毒と判断された事件が3件であったというのが保健所での調査の実態である。実際には,食中毒であっても,行政が食中毒と断定することにより,営業者にも不利益処分があることから,十分な客観性があり営業者からの訴訟にも耐ええる事件だけが,食中毒事件として報告されている。このため,表面に出ない潜在的な食中毒事件が多数あるものと推定できる。 この他に,他の自治体に届け出られた食中毒事件に関連して,患者・飲食店・医療機関・食材の流通調査等に関する関連調査,患者から同様の苦情を受けた飲食店からの相談,腸管出血性大腸菌など食に関連する感染症などの調査も多い。

ここ数年,国際化に伴い感染症もグローバル化しており,日本国内では発生が無くなったコレラや腸チフスなど感染症が再興感染症として輸入されている他,豚肉やジビエ肉の生食に由来すると考えられる肝炎等の調査も増加している。私も,37年間食品衛生監視員として勤務してきたが,昨年初めて腸チフス事件の関連調査を経験できた。東京都内は大都市であることから,飲食店等の食品関連事業者も多く,世界各国からの食材や人材も豊富であることから,このような傾向が今後も継続すると考えられている。

第2表 食中毒の発生状況(平成23 ~ 27年)

原因物質全国食中毒 5年計 患者 /

件事件 % 患者 % 死者ノロウイルス 1,814 34 64,305 58 0 35カンピロバクター 1,457 28 9,708 9 0 7ウェルシュ菌 115 2 8,159 7 0 71サルモネラ属 200 4 6,957 6 3 35病原大腸菌

(0157等) 155 3 5,769 5 15 37

黄色ぶどう球菌 169 3 4,196 4 0 25クドア 149 3 1,679 2 0 11植物性自然毒 273 5 922 1 6 3腸炎ビブリオ 36 1 646 1 0 18アニサキス 341 6 351 0 0 1動物性自然毒 139 3 236 0 5 2その他 243 5 4,613 4 2 19不明 180 3 3,649 3 0 20

計 5,271 100 111,190 100 31 21

第3表 平成26年度 食中毒調査(中央区)

分類 件数 原因物質 件数 感染症内訳食中毒 3 ノロウイルス等 53 A 型肝炎 4有症苦情 52 カンピロバクター,サルモネラ 30 E 型肝炎 2関連調査 101 O157,病原大腸菌 23 パラチフス 2感染症 19 アニサキス 17 腸チフス 1相談 55 感染症 13 赤痢 1

計 230 クドア(平目関連) 12 レストスビラ 1アレルギー等 5 コレラ? 2細菌増殖 7 計 13自然毒 2不 明 68

計 230

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 4.カンピロバクターによる食中毒 このような事件調査の中で食品衛生監視員の多くが,減らすことが可能なのになかなか予防できていないと感じているのが,カンピロバクターによる食中毒事件である。カンピロバクターは,古くから家畜の流産や腸炎の原因菌として知られていたが,ヒトの腸炎の原因ともなることが1970年代に判明している。その後,世界各国でも高率に感染することが報告されており,アメリカ

(CDC の推計)では年間で人口の0.8%,240万人が,オーストラリアでは人口の1%,21万人が感染していると推計されている。現在,カンピロバクターは細菌性下痢症で最も主要な病原菌であり,解明しなければならない課題が多く残されている。

 5.カンピロバクターによる食中毒 国内でも1982年に食中毒起因菌の指定を受けてから,検査方法などが整備され,その報告数が増加している。第2表の食中毒統計では,カンピロバクターは,1,457件と原因物質としては2番目に多い食中毒であり,その患者数9,708名は,ノロウイルスに続く多さとなっている。事件数が多いのに患者数が少ないことから,焼鳥屋などでの少人数での散発事例が多いことが分かるが,これらの数値はあくまで氷山の一角であり,一部の研究者によれば年間の感染者は推計で150万人を超えていると報告されている。 食中毒の原因食品としては,そのほとんどが「鶏刺し」や「牛レバー刺し」など肉の生食による事例が多かったが,牛のレバー生食や豚肉の生食が

禁止されたことから,その発生原因は,鶏肉の生食や鶏肉の加熱不足による事件が主に報告されている。カンピロバクターによる食中毒では,潜伏時間は約1日半(36時間程度)が多いが,中には2~5日間と長い場合もあり,下痢,腹痛,発熱等の症状を呈し,多くの患者は1週間で治癒するが,若齢者や高齢者では重症化することも報告されている。

 6.中央区における食中毒事例等 平成27年度における中央区保健所管内で発生したカンピロバクター関連の食中毒や有症苦情事件は第4表のとおりである。 腹痛・下痢・発熱などの胃腸炎症状を呈した患者が,医療機関に受診し,検便によりカンピロバクターが検出される。その後,保健所に通報があり,患者の喫食状況調査から疑わしい原因食や原因施設の調査が始まる事例が多い。すでに患者からはカンピロバクターが検出されており,その胃腸炎症状

第4表 平成27年度 中央区保健所における      カンピロバクターに関係する事件調査 

No. 月日 分類 探知 事件名 喫食者 患者数

1 4/9 有症苦情 患者 銀座焼鳥カンピロ 2 2

2 4/14 有症苦情 営業者 日本橋二次会 5 10

3 4/18 有症苦情 夜間・休日 本町焼鳥カンピロ 6 30

4 4/28 関連調査 夜間・休日 上野コンパ 8 51

5 5/8 相談 営業者 人形町酒場 6 15

6 5/15 関連調査 東京都 医療機関からの報告 1 1

7 5/22 有症苦情 患者 ささみ梅和え 2 2

8 5/26 有症苦情 その他 銀座焼鳥会食 3 5

9 7/15 有症苦情 患者 鳥居酒屋アパレル 5 10

10 7/9 関連調査 東京都 焼鳥コース料理 5 7

11 9/18 関連調査 東京都 医療機関からの報告 1 2

12 8/26 有症苦情 患者 オフ会カンピロ 5 20

13 10/1 関連調査 東京都 川上温泉 21 44

14 11/6 関連調査 東京都 医療機関からの報告 1 1

15 9/29 関連調査 東京都 東京旅行カンピロ 1 1

16 12/9 関連調査 東京都 高校生バイキング 4 4

17 2/8 関連調査 東京都 医療機関からの報告 1 1

18 2/15 有症苦情 医師 出張先で有症 2 2

19 3/28 関連調査 東京都 石川カンピロ 1 1

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もカンピロバクターによるものと一致しているため,あとは原因食と原因施設を特定する調査となることが多い。

 7.ギラン ・バレー症候群 さらに少数ではあるが,カンピロバクターに感染した数週間後に,手足の麻

ま ひ

痺,顔面神経麻痺や呼吸困難などを起こす「ギラン・バレー症候群」を併発することが知られている。「ギラン・バレー症候群」の原因は,カンピロバクターだけではないが,10万人に対して1~2名の発生があることから,毎年約2,000名の患者がいると推計されている。予後は良好で,数週間後に回復が始まり機能も回復するが,中には呼吸麻痺が進行して死亡する例もある。ギラン・バレー症候群の15 ~ 20%が重症化し,致死率は2~3%であるといわれてい る。 フ リ ー 百 科 事 典『 ウ ィ キ ペ デ ィ ア

(Wikipedia)』で「ギラン・バレー症候群」を見ると,俳優の安岡力也さん,大原麗子さん,釈由美子さん,元外務大臣の川口順子さん,サッカー選手の佐藤寿人さん,福永泰さん,また古くはアメリカのルーズベルト大統領もギラン・バレー症候群であったと紹介されている。

 8.損害賠償事例 平成7年7月に PL 法(製造物責任法)が施行されており,飲食店等で提供された料理についてもが PL 法上の「加工品」に相当すると判断されている。ちょっと古いが,平成9年に福岡県で家族3名が鶏料理店にて「鶏刺し」を食べてカンピロバクター食中毒となり,約2週間後に50代の母親が四肢の脱力により入院治療を受け「ギラン・バレー症候群」と診断された。その後,下肢の完全麻痺の後遺症がでたため,損害賠償請求により約3,800万円で示談となった事例が報告されている。このようにカンピロバクターは,一過性の食中毒だけでなく,重篤な後遺症を残す可能性のある恐ろしい細菌である。

 9.焼鳥屋,そば屋,居酒屋への指導 このため,飲食店に「鶏刺し」「鶏わさ」「牛レ

バー刺し」などを提供しないよう指導するとともに,肉類からの二次汚染防止についても指導を行っている。しかし,多くの営業者が「朝採りの鮮度の良い鶏肉を使用しているから大丈夫!」「新鮮なレバーだから大丈夫!」という誤った認識があり,再三にわたる指導にもかかわらず,実際に食中毒を起こすまで,そのリスクを実感することができず提供を止められない店舗が多いのが実情である。

 10.鶏肉販売施設への指導 さらに,管内の鶏肉販売店にも,鶏肉を生食用として販売しないよう指導している。しかし,長年「生食可能」の鶏肉として販売していた店舗もあり,急に「生食不可」として販売すると,「この店の鶏肉は鮮度が悪いのではないか?」と顧客に誤解されるためなかなか改善されないことが分かった。そこで,「保健所から生食用の鶏肉を販売しないよう指導されている!」との内容のリーフレットを作成し,鶏肉販売店が顧客への納品時に配布するよう依頼している。

 11.市販鶏肉の汚染率 カンピロバクターは,野鳥,野生動物などあらゆる動物が保菌しており,ペットや鶏や牛なども高率に保菌している。しかも,腸管ばかりでなく胆汁中にも保菌しており,比較的少ない菌量(数100個程度)で感染する。市販鶏肉では60 ~ 70%,牛レバーでは約10%が汚染されていると報告されており,低温にも強いことから冷蔵流通した新鮮な肉であっても生食することは非常にリスクが高いといえる。

 12.ブロイラーの生産とカンピロバクターの汚染 平成27年度の食鳥生産数は,全国で約7億5千万羽で,鹿児島県,宮崎県,岩手県が多く,この3県で生産量の5割を占めている。約2,500戸の生産農家も年々大規模化しており,1戸当たりの出荷平均が20万羽 / 年を超えている。これら年間20万羽以上を出荷する約900戸で全体の約

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70%の鶏肉を生産している。ブロイラー用の鶏肉は,約2カ月,55日前後で出荷されるのが通常である。ひよこの段階ではカンピロバクターの感染はないが,2~3週間すると感染が始まり同一鶏舎内に汚染が広がると考えられている。しかし,その汚染率は養鶏場ごとに異なっていることから,養鶏場での衛生管理を徹底することにより,ブロイラーの汚染率が低減できるのではないかと考えられる。現在,ブロイラー以外の地鶏や銘柄鳥の生産も盛んであることから,カンピロバクター感染のない食鳥生産の取り組みが期待される。

 13.食鳥処理場とカンピロバクターの汚染 生産された食鳥は,全国で約170カ所の大規模処理場(年間30万羽以上)で95%以上が鶏肉に処理されている。これらの処理施設におけるカンピロバクターの二次汚染も大きな要因となっている。処理能力は一番大きい処理場でも5~6万羽 /日であるが,同一ラインで複数の養鶏場の食鳥を処理するため,汚染率の高い養鶏群を先に処理すると,あとの養鶏群も同様に汚染されることが考えられる。食鳥処理ラインは機械化されており,一次処理ライン(と鳥→放血→脱羽など),内臓処理ライン(内臓除去→内臓検査→洗浄→冷蔵な

ど),鶏肉解体処理ライン(鶏肉をパーツごとに精肉にする→包装)に大別されている。特に脱羽する際にスチーム処理や湯漬けするため,内臓除去して洗浄したあと,冷却水槽にて冷蔵するが,この冷却水の消毒が不十分であると二次汚染が拡大すると考えられている。今後,大規模処理場のHACPP 管理等が徹底されることにより,細菌類の汚染率や汚染菌量の低減を図ることが可能である。

 14.消費者へのリスクの啓発とマスコミ報道 カンピロバクター食中毒の予防のためには,

「From Farm to Table」まさに農場から食卓までの衛生対策が必要である。つまり,①養鶏場での感染対策,②食鳥処理場での二次汚染防止,③飲食店での肉の生食防止,④消費者へのリスクの啓発である。行政としても,広報誌,ホームページ,リーフレット,各種講習会や会合など様々な媒体や機会を通じて啓発に当たっているが,なかなか肉の生食が減らないのが現状である。この点は,テレビのグルメ番組等による影響が大きい。今後,マスコミにおいても肉の生食によるリスクについて正しく報道することが肝要であると考える。

講演会のご案内

創包工学研究会 第64回講演会 「医薬品包装に関する課題・提案・希望」

◇開催日時:平成28年9月16日(金)9:30 ~ 16:30◇主催:創包工学研究会◇会場:フォーラムミカサエコ 7F ホール  東京都千代田区内神田1-18-12 内神田東誠ビル◇申込先:創包工学研究会事務局 〒101−0047 東京都千代田区内神田1−18−11−717   TEL & FAX:03−3291−3219    メール:[email protected]◇参加費: 27,000円/人(消費税込)◇演題および講師

○医療機関から医薬品包装に希望すること NTT 東日本関東病院 落合慈之○一般消費者から医薬品包装に望むこと NACS 消費生活研究所 戸部依子○ 卸売業における医薬品包装とバーコードの活用につ

いて 東邦ホールディング㈱ 鈴木竜太○医薬品受託メーカーにおける医薬品包装の課題と展

望 ダイト㈱ 落合 誠○医薬品メーカーと包装機械・材料メーカー間の課題と

展望 創包工学研究会 吉田八郎

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509食品と容器 2016 VOL. 57 NO. 8

業 界 ト ピ ッ ク スT O P I C S

上半期の低アルコール飲料市場動向総市場は10%増で8年連続プラス醸造産業新聞社が推計した今年上半期(1~6

月累計)の低アルコール RTD総市場は,前年同期比10%増の5680万箱(350mL×24本換算)となった。上半期としては8年連続のプラスで,過去最高を更新した。数年来,総市場の基礎数字が大きくなるなかで

も5%程度の成長を続けてきたが,昨年から伸び率が加速。今年はそれをさらに上回る10%増となった。「成長市場とはいえ,想定以上の伸び」(メーカー筋)との見解は一致している。

低アル RTD 市場は2014年の消費増税以降,「節約志向」や「経済性の高さ」を背景に,特にアル分8~9%の「ストロング系」商材が存在感を高めていて,ビール類や焼酎甲類など他酒類ユーザーの流入が続いている。メーカーも「ストロング系」での積極的な新ブランド投入,マーケティング活動を展開することで,さらにユーザーを取り込み市場拡大につながっている。総市場のうち,主要4社(サントリースピリッ

ツ・キリンビール・アサヒビール・宝酒造)計の上半期販売数量は,推計で12%増の4998万箱となった。総市場に占める構成比は88.0%で前年比2.0ポイント上昇した。主要4社ベースで分野別にみると,近年の市場

牽引役の「ストロング系」は18%増の約1975万箱。新製品効果やマーケティング強化で各社定番銘柄が好調に推移した。最大ボリュームの「スタンダード系」(アル分5~7%)は15%増の2349万箱。キリン〈氷結〉や宝〈焼酎ハイボール〉,サントリー〈角ハイボール缶〉などの大幅増が寄与した。「ライト系」(同1~4%)は9.0%減の674万箱,サントリー〈ほろよい〉の大幅増を除けば軒並み10 ~ 20%減少した。構成比は,「ストロング系」が2.0ポイント上昇の39.5%,「スタンダード」は1.1ポイント増加の47.0%,「ライト系」は3.1ポイント下落の13.5%。今年の RTD市場は前年比3~7%増の予測で

スタートしたが,上半期の想定以上の伸びを受け

て , 主要各社は総市場の年間着地を見直し。サントリーが「近年で最も伸長するだろう」と,当初の7%増から10%増に修正したのをはじめ,現時点では7~ 10%増との見方が大勢になった。〇〈氷結〉10%増,〈-196℃〉20%増ブランド別の販売状況は第1表のとおり。トッ

プブランドのキリン〈氷結〉は,6割以上を占める「スタンダード」が二ケタ増で牽引した。サントリー〈-196℃〉も約9割を占める「ストロング系」No.1の〈ストロングゼロ〉が二ケタ増。〈-196℃〉は今年,〈氷結〉の年間計画を超える販売目標を掲げている。上半期の時点で,両銘柄の差は31万箱。僅差で下半期に入った。「ライト系」のサントリー〈ほろよい〉は,同分野が総じて振るわないなかで,唯一気を吐いた。「辛口」の宝〈焼酎ハイボール〉は典型的な「奥行き」銘柄,さらに拡大した。ハイボール缶は,サントリー〈角ハイボール缶〉〈トリスハイボール缶〉が二ケタ増で,圧倒的強さ。今年発売の新製品としては,アサヒ〈もぎたて〉が179万箱で群を抜き,シェアアップの立役者にもなった。

(醸造産業新聞社 編集部)

銘柄名 数量(万箱)

前年比(%)

キリン〈氷結〉 1,164 110サントリー〈-196℃〉 1,133 120サントリー〈ほろよい〉 454 123宝酒造〈焼酎ハイボール〉 354 124サントリー「ハイボール缶」計 345 131キリン〈本搾り〉 266 107アサヒ〈もぎたて〉※ 179 −キリン〈ビターズ〉 135 80宝酒造〈canチューハイ〉 73 101アサヒ〈すらっと〉 59 86アサヒ〈カクテルパートナー〉 57 82アサヒ〈辛口焼酎ハイボール〉 55 80アサヒ〈ハイリキザ・スペシャル〉 50 69キリン〈スミノフアイス〉 46 84サッポロ〈男梅サワー〉 43 110アサヒ〈ウィルキンソン〉 34 10.8 倍モルソン・クアーズJ〈ジーマ〉 27 79アサヒ〈カルピスサワー〉 22 90アサヒ〈果実の瞬間〉 22 86チョーヤ合計 22 105《注》1箱 =350mL×24 本換算。※は今年発売の新ブランド

第1表 2016上半期の低アル主要ブランド販売数量

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510食品と容器 2016 VOL. 57 NO. 8

RepoRt特別レポート

 ■清涼飲料の最新市場動向

 前年比3%増,ミネラルウォーター・茶系が牽けん

引 収益性改善図る小型容器の増,自販機底打ち感も 上半期(1~6月累計)の清涼飲料市場は,前年同期比3%増となった。第1四半期の貯金が大きく寄与し,カテゴリー別にはミネラルウォーター,緑茶飲料など茶系飲料が牽引した。月別の販売動向は下表のとおりで,1~3月の第1四半期はすべての月がプラス。閏

うるう

年による1日分の日数増や比較的気温が高く推移したことが寄与した。第2四半期は4月が大きくプラスとなったものの,5・6月はマイナスとなった。熊本地震発生によるミネラルウォーター特需の反動減などが影響した。メーカー各社の販売動向でみると,特売比率の高い大容量 PET の販促を絞る一方で,小型容器(小型 PET や缶製品)への注力を強めた結果,収益性の改善を図れたメーカーも多かった。また,チャネル別は自販機のテコ入れが徐々に形に表れてきている。専用商材の開発・投入や自販機チャネル限定の販促,コラム相互乗り入れもパーマシン改善の一助となっている。

 伸び率最高はキリンビバ,伊藤園上回り4位に メーカー別で最も高い伸び率はキリンビバレッジ9%増,次いでコカ・コーラシステム4%増で,他メーカーは前年に近い推移となった。この結果,上半期でキリンビバレッジが 2009 年以来伊藤園を久々に上回りコカ,サントリー食品インターナショナル,アサヒ飲料に続く4位となった。 カテゴリー別では,好調に推移したのがミネラルウォーターと茶系飲料。全般に好調なブランドが多く,中でもサントリー〈天然水〉シリーズ 12%増,キリンビバ〈アルカリイオンの水〉19%増,同〈生茶〉32%増,アサヒ飲料〈十六茶〉9%増となったのが目立つ。ミネラルウォーターは,フレーバーウォーターや炭酸系の商品も含めたブランド構築が進み,それぞれ順調な動き。果汁系以外にも健康素材を含むアサヒ飲料〈おいしい水プラス〉のような商品も登場した。コーヒーはボトル缶を中心に好調な動きが続き,プラスとなったブランドが多かった。一方で,炭酸飲料は

「新製品数が多く,なかなか定着できない」というメーカー関係者の声にあるように,初動が良くても持続できない商品が多く,低調な動きだった。

日本における清涼飲料,ビール系酒類市場━平成28年の上半期を振り返って━

業界平均 サントリー アサヒ飲料 伊藤園 キリンビバレッジ

大塚グループ

ポッカサッポロ

コカ・コーラ合計

1 月 104 109 100 100 116 80 100 1052 月 104 104 103 101 111 114 102 1083 月 103 103 103 101 111 103 99 1034 月 108 112 107 105 120 108 98 1085 月 98 95 98 101 102 94 93 1016 月 99 95 100 100 101 97 106 102

1 ~ 2 月累計 104 106 102 100 113 96 101 1071 ~ 3 月累計 104 105 102 100 112 102 100 1061 ~ 4 月累計 105 107 104 102 115 104 99 1071 ~ 5 月累計 104 104 102 101 112 101 98 1051 ~ 6 月累計 103 102 102 101 109 100 99 104注)コカ・コーラ合計は醸造産業新聞社推計。ポッカサッポロはポッカサッポロフード&ビバレッジ。

第1表 平成28年1~6月の主要各社の清涼飲料出荷実績前年対比(単位:%)

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 ここでは,各月の市場動向を振り返るとともに,底打ち感がみられる自販機の動向や東西ボトラーの統合に向けた協議が進むコカ・コーラグループについてみていきたい。 1月:合計4%増,気温が低下しホットに動き 1月の飲料市場は前年比4%増。年末の流通在庫も少なく,月初めからスムーズな動きとなったことに加え,中旬以降は気温が低下,ホットの動きも良くなった。メーカー別で最も高い伸びとなったのはキリンビバレッジ 16%増,次いでサントリー9%増,コカ・コーラシステム5%増(醸造産業新聞社推計)の順。ミネラルウォーター,コーヒーの伸びが高かった。ミネラルウォーターは九州や西日本の記録的な低温・大雪で,一部地域で断水やまとめ買いの需要もあり,上位社を中心に一時的な出荷増があった。コーヒーは〈ボス〉11%増,〈ワンダ〉13%増,〈ファイア〉24%増など軒並みプラス。ボトル缶が牽引した。また,気温低下に伴い低調だったホットも動いた。 2月:閏年寄与し4%増,水・コーヒーが好調 2月は前年比4%増。最高気温の平均が1℃以上平年より高く,閏月で日数が1日多いことも数字の押し上げ要因となった。伸び率が最も高かったのは大塚グループ 14%増で,キリンビバレッジ 11%増の2社が2ケタ増。サントリー〈天然水〉14%増,キリンビバレッジ〈アルカリイオンの水〉22%増などカテゴリー別ではミネラルウォーターの伸びが目立った。風邪やインフルエンザが流行し水分補給の需要が高まり,スポーツ飲料が伸長,大塚〈ポカリスエット〉は 32%増。一方で,コーヒーはボトル缶の動きが堅調で,主要ブランドは軒並みプラス。キリンビバ〈午後の紅茶〉はレギュラー3品の好調さに加え,新製品や「おいしい無糖」のリニューアルが寄与し 18%増と伸長した。他の紅茶飲料が苦戦する中,〈午後の紅茶〉は上半期 10%増と好調に推移した。 3月:高い気温で茶系飲料が好調,合計3%増 3月は前年比3%増。気温が平年よりも高かったことが影響し,茶系飲料が好調,市場全体を牽引した。メーカー別はキリンビバレッジ,大塚グループが大きく伸ばした。大塚グループは〈ポカ

リスエット〉が 14%増,〈クリスタルガイザー〉等ミネラルウォーター計が 47%増と牽引。茶系飲料は〈お~いお茶〉に桜ラベルを導入した伊藤園「日本茶・健康茶」計は3%増,サントリー

〈伊右衛門〉8%増,アサヒ飲料〈十六茶〉12%増などがプラス。中でも3月 22 日にリニューアルしたキリンビバ〈生茶〉がリニューアル品のみで初動月 140 万箱を販売,ブランド全体で 57%増と好調なスタートを切り,上半期通して好調で,今年の緑茶飲料の台風の目となった。〈生茶〉は発売約3カ月で 750 万箱を販売,6月 23 日に販売目標を 1,700 万箱から2千万箱に上方修正した。また,コーヒーは各社プラス。炭酸飲料の新製品群は順調なスタートだったが,相次ぐ商品投入で定着した商品は少なかった。 4月:高い気温が寄与8%増,熊本地震の特需も 4月は前年比8%増と大きく伸長。全国的に高い気温が続いたことで,ミネラルウォーターや茶系飲料が動いた。加えて,ゴールデンウィークの暦の関係で月末に出荷が増えたこと,さらに熊本地震の影響で他地域でも備蓄意識の高まったことも数字を押し上げた要因。メーカー別で最も高い伸びはキリンビバ 20%増,次いでサントリー食品インターナショナル 12%増の2社が2ケタ増。水・茶系以外で目立つのがコーヒー。「ボトル缶が好調に推移したことに加え,自動販売機での販売がプラスに転じた」(複数のメーカー)ことが影響した。コカ・コーラシステムがスマホアプリを活用した販促を開始,キリンビバレッジとダイドードリンコの相互販売がスタートした。自販機の販促資材などを使い,互いの自販機の「変化」を訴求したことが特徴的だった。 5月:合計2%減,一部で水「備蓄」の反動減も 5月は前年比2%減と昨年9月以来のマイナス。今年も比較的天候は良かった方だが,①前年同月がさらにそれを上回る日照時間や気温だったという天候要因②4月の熊本地震による一時的な需要増や備蓄意識の高まりによる消費拡大の反動③新製品発売のタイミングのズレ――などが影響した。メーカー別は,キリンビバレッジ,コカ・コーラシステムがプラス。カテゴリー別は,前月

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に備蓄需要が高まったミネラルウォーターが大容量などを中心に前年を下回った。だが,「備蓄とはいえ,今後消費されることを考えれば,消費の先取りと考えるべき」(メーカー関係者)。小型PET は順調な動きが続いた。茶系飲料はブランド差が大きく,新製品が好調なキリンビバ〈生茶〉は 43%増,〈十六茶〉〈お~いお茶〉なども前年を上回った。一方,上位社のコーヒー飲料は好調な動きが続く。ボトル缶の伸長に加え,SOT 缶の主力商品が順調なブランドもあった。 6月:合計1%減,前年割れのブランド多く 6月は前年比1%減。新製品の発売時期や販促のタイミングのズレなどがあり,前年比でマイナスとなる商品が多かった。雨が多い地域が多く,屋外自販機がやや低調な動き。熱中症対策の商品群,スポーツドリンクなども低調。サントリーは昨年が〈ヨーグリーナ〉や〈レモンジーナ〉の販売休止から販売を再開したり,限っていた販路を拡大したりしたタイミングだったことから,マイナス幅が大きくなった。一方,コカ・コーラシステムは昨年の出荷が滞っていた部分があったにもかかわらず,2%増(醸造産業新聞社推計)と伸び悩んだ。ただ,これまでのような上半期の押し込みはほとんどみられないことから,7月上旬は天候の後押しもあって順調な滑り出しとなっている。 自販機「専用商材」や「販促施策」で底打ち感 飲料の重要な販売チャネルである自販機の反転はメーカー各社にとって大きな課題。消費税増税後に,小容量低売価の商品の投入で稼働率を高めようという動きがあったが,今年はさらに一歩進んだ動きになっている。小型 PET を活用した自販機限定商品の開発を各社進め,一定の成果として出ている。コカの〈ファンタレモン+ C〉,サントリー〈朝摘みグレープ&天然水〉の小型PET 群や,キリンビバも〈午後の紅茶〉ボトル缶や小型 PET の自販機限定品を発売した。今後も同様の提案も増えそうだ。コラムの限られる500mLPET ではなく,比較的アイテムに余裕がある缶製品や 280mLPET の入るコラムを活用する動きで,専用商材に対しては各社手応えを感じている。加えて,コカ・コーラシステムのスマ

ホアプリ「Coke ON」を活用した販促や各社のSNS を活用した自販機向け販促も自販機に目を向ける一定の効果が出ているようだ。今年は,キリンビバとダイドードリンコの自販機コラムの相互販売が開始,導入商品の販売と自販機稼働率を高めているといわれている。こうした複数の施策がパーマシンを高められるか,注目されている。 コカ EJ とコカ W が経営統合に向け協議開始 4月 26 日,コカ・コーラウエストとコカ・コーライーストジャパンが経営統合に関する基本合意書を締結した。両社の単純合算で国内でのシステム内販売数量の構成比約 86%を占める巨大ボトラーが誕生することになる。これにより,残る単独ボトラーは北海道・みちのく・北陸・沖縄の4社になる。吉松民雄コカ W 社長は「東西ボトラーが統合することにより,市場での競争力が確立,市場への対応のスピード,統一性,一貫性が今まで以上に強力なものになる」とし,「規模が大きくなることで,重複部分やシナジーという経済的効果が今までの統合の経験から期待できる。今まで利益の面では閉塞感のあるボトラー経営だったが,こうした利益に組み込むことで高収益な経営に脱皮できる」との見方を示す。また低価格が続く飲料業界にとっても,「市場のリーダーとして市場を牽引していくためには圧倒的な力を持ち続ける必要がある。業界のリーダーとしての存在感を示し,この業界を正しい状態に戻し,市場を健全化させる」とも話す。ただ,東西ボトラーの統合は,日本のコカ・コーラのフランチャイズシステムにおける日本コカとボトラーの果たす役割の棲

み分けに変化をもたらすこともありそうだ。2位サントリーが急速に迫る中,2社の統合で,単なるボリュームだけでなく,スピードを上げた判断などにより,市場での存在感が高まるか,注目される。

 ■ビール系酒類の最新市場動向 ビール類5社合計 1.5% 減,4年連続マイナス 今年上半期(1~6月)のビール系酒類課税数量(オリオンビールを含む大手5社合計)は,第2表のとおり。総計は,前年比 1.5% 減の 244

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万 622kL で4年連続のマイナスとなった。過去30 年間の上半期課税数量としては 1987 年(昭和 62 年)の 241 万 463kL に次いで少ない。 今年第1四半期(1~3月)は 3.8% 減(102万 1,463kL)だったが,4~6月累計が 0.2% 増

(141 万 9,159kL)となったことで1~6月累計は 1.5% 減まで戻した。 ビール2年ぶり増加,新ジャンル3年連続減少 昨年 13 年ぶり増加の発泡酒,8.8% の減少に 分野別には,ビールは今年第1四半期(1~3月)は 1.1% 減だったが,4~6月が 1.4% 増となり,上半期は 0.4% 増で2年ぶりのプラスとなった。発泡酒は,昨年は「糖質ゼロ・プリン体ゼロ」のいわゆる「ゼロゼロ商品」の上乗せで 13 年ぶりのプラスとなったが,今上期は 8.8% 減となりマイナスに転じた。新ジャンルは 2005 年(平成17 年)の発表開始以来9年連続のプラスだったが,一昨年にマイナスに転じ(1.6% 減),昨年 4.5%減,今年 1.0% 減で3年連続マイナスとなった。 ビール類に占める分野別の割合は,ビールが昨年に比べ 1.0 ポイント上昇し 49.6%。発泡酒は1.1 ポイント低下し 14.0%。新ジャンルは 0.2 ポイント上昇し 36.4% となった。 キリン,オリオンの2社がマイナスに 社別シェア,アサヒ 39.2% で7年連続1位 ビールメーカー5社が発表した上半期(1~6

月)のビール系酒類課税数量は第3表のとおり。合計はキリンとオリオンの2社がマイナスとなった。前年はキリンのみがプラス(2.2% 増)だった。 分野別には,5社合計が2年ぶりにプラスとなったビールは,サントリーとサッポロ,オリオンの3社がプラス。発泡酒はオリオンのみプラス。新ジャンルはアサヒとサントリーの2社がプラスとなった。 合計の社別シェアは,アサヒは前年同期より1.1 ポイント上昇し 39.2% となり,7年連続のシェア1位をキープした。昨年はキリンのみがシェアを伸ばしたが,今年はキリン1社のみシェアを落とした。サントリーは上期として最高の数量を達成,シェアも 16.0% で過去最高となった。 〈47 都道府県の一番搾り〉112 万箱 オリオン以外の4社が明らかにした各社の主要商品の上半期販売数量(大瓶換算)は第4表のとおり。アサヒ〈スーパードライ〉計は 3.7%減だが,〈スーパードライ〉缶は 3.6%増。〈クリアア

数量 (kL) 前年比 (%)

ビール国産 1,207,296 100.5輸入 2,727 69.4計 1,210,023 100.4

発泡酒国産 340,663 91.1輸入 1,187 133.9計 341,850 91.2

新ジャンルその他の醸造酒 230,995 93.2

リキュール 657,754 101.1計 888,749 99.0

総計 2,440,622 98.5ビール ÷ 総計 49.6%(48.6%)発泡酒 ÷ 総計 14.0%(15.1%)

新ジャンル ÷ 総計 36.4%(36.2%)注)ビールはビール酒造組合,発泡酒は発泡酒の税制を考える会が発表。新ジャンルは発泡酒の税制を考える会が参考として発表。カッコ内は前年。

第3表 平成28年上半期の各社別ビール類課税数量

数量(kL)

前年比(%)

シェア(%)

アサヒ

ビ ー ル 602,697 99.2 49.8 (50.4)発 泡 酒 92,633 96.8 27.1 (25.5)新ジャンル 260,544 108.2 29.3 (26.8)

合計 955,874 101.2 39.2 (38.1)

キリン

ビ ー ル 289,744 97.8 23.9 (24.6)発 泡 酒 219,294 90.6 64.1 (64.6)新ジャンル 273,593 89.8 30.8 (33.9)

合計 782,631 92.8 32.1 (34.0)サントリー

ビ ー ル 136,789 104.7 11.3 (10.8)発 泡 酒 76 2.0 0.0 (0.0)新ジャンル 252,881 101.5 28.5 (27.7)

合計 389,748 101.6 16.0 (15.5)サッポロ

ビ ー ル 169,949 106.2 14.0 (13.3)発 泡 酒 26,044 89.2 7.6 (7.8)新ジャンル 93,667 98.4 10.5 (10.6)

合計 289,660 101.8 11.9 (11.5)オリオン

ビ ー ル 10,844 101.9 0.9 (0.9)発 泡 酒 3,801 101.4 1.1 (1.0)新ジャンル 8,064 96.0 0.9 (0.9)

合計 22,709 99.6 0.9 (0.9)5社合計

ビ ー ル 1,210,023 100.4 100.0 (100.0)発 泡 酒 341,850 91.2 100.0 (100.0)新ジャンル 888,749 99.0 100.0 (100.0)

総計 2,440,622 98.5 100.0 (100.0)注)シェアのカッコ内は前年同期の数値

第2表 平成28年上半期のビール系酒類課税数量

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サヒ〉計は 11.3% の2ケタ増。キリン〈一番搾り〉ブランド計は,5~ 10 月にかけて発売する全国の 47 都道府県ごとに味の違いや個性を楽しめる

〈47 都道府県の一番搾り〉112 万箱(すべて缶製品)が寄与し 2 年連続のプラス。〈淡麗プラチナダブル〉は 3.6% 増。サントリー〈金麦〉はキャンペーンも寄与し 4.7% 増。〈金麦・糖質 75% オフ〉は 11.1% の2ケタ増。サッポロ〈黒ラベル〉計は 4.7% 増で,うち缶は 24% 増。〈ヱビス〉計は5月発売の〈ヱビスマイスター〉の寄与もあり5.1% 増。〈麦とホップ〉 計は,〈麦とホップ〉単体の好調に加え〈同・プラチナクリア〉も寄与し9.4% 増。 機能系ビール類出荷 5.4% 減の 2,950 万箱 発泡酒・新ジャンルのカロリーや糖質などを通常商品よりも低減した「機能性商品」は前年同期比 5.4% 減の 2,950 万箱となった。昨年の上半期は大型の「ゼロゼロ商品」など機能系商品が相次いで登場したことが寄与して 17.7% の大幅増と

なった。前々年比は 11.3% の2ケタ増。 発泡酒規格・新ジャンル規格ともマイナス 上半期の機能系商品のうち,発泡酒規格商品は 3.7% 減(1,817 万箱),新ジャンル規格商品は 8.1% 減(1,133 万箱)でいずれもマイナスとなった。発泡酒規格のうち,「ゼロ系商品」は4.3% 減,「オフ系」は 2.8% 減だった。発泡酒の中で,機能系商品が占める割合は 68.6%(前年65.3%)。新ジャンルは 16.6%(同 17.9%)。 新ジャンル規格のうち,糖質またはプリン体がゼロの「ゼロ系商品」は 20.4% の大幅増。オフ系商品は 41.2% の大幅減となった。これはアサヒ〈オフ〉が昨年6月 30 日にそれまでの「オフ系」から「ゼロゼロ商品」にリニューアルして発売したことも影響している。 機能系商品は,昨年までは順調に市場拡大が続いていたが,「リニューアルはあっても新製品は当面ない」などの声も聞かれ,そろそろ頭打ちが鮮明となったといえそうだ。 プレミアムビール6%減で2年連続マイナス ビールに占める構成比 14.8 → 14.0% に低下 ビールの中で,販売価格がスタンダードビールよりも高いプレミアムビールは,大手ビールメーカー4社の商品合計(計 33 銘柄)で 5.9% 減の1,288 万箱となった。昨年は 5.9% 減で2年連続のマイナスとなった。 今中元ギフト市場でプレミアムビールが前年割れ(今年5月1日~7月 10 日の前年同期比10.8% 減)となっていることも影響している。 ビール類全体(1億 8,695 万箱)に占める構成比は 6.9% で,前年(7.2%)より 0.3 ポイント低下した。ビールカテゴリー全体(9,218 万箱)に占める構成比も 14.0%(前年 14.8%)に低下した。 ビール類新商品数 44,ビール 28 で最多 昨年上回り過去最高,「派生型」は 31 今年上半期(1~6月)発売のビール大手4社のビール類新商品の数は 44 で,過去最多だった昨年上半期の 39 を上回った。 分野別にはビール 28 で最多,発泡酒5,新ジャンルは 11。ビールが全体の6割以上を占めた。

商品名 数量(万箱)前年比(%)

スーパードライ計 4,376 96.3※スタイルフリー計 620 102.3◎クリアアサヒ計 1,668 111.3

一番搾り計 1,563 100.9 47 都道府県の一番搾り 112 133.3※淡麗計 1,728 91.8◎のどごし計 2,006 91.4

サ ン ト リ

ザ・プレミアム・モルツ香るエール 103 -

◎金麦シリーズ計 - 100.8 金麦 - 104.7 金麦・糖質 75%オフ - 111.1

黒ラベル計 764 104.7ヱビス計 401 105.1ビール計 1,323 105.6※極ZERO計 165 87.6発泡酒計 203 88.5◎麦とホップ計 622 109.4新ジャンル計 730 98.2

《注》数量は大瓶換算。商品名欄の無印はビール,※は発泡酒◎は新ジャンル。スーパードライ計は〈ドライブラック〉・ 〈SD・エクストラシャープ〉・ 〈ドライプレミアム豊醸〉ブランド計を含む

第4表 平成28年上半期の各社主要製品販売数量

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515食品と容器 2016 VOL. 57 NO. 8

(昨年はビール 26,発泡酒3,新ジャンル 10)。 発売形態別には,数量や発売期間,発売地域などのいずれかを限定した「限定型」商品が 37 と圧倒的に多く,「通年・全国型」は7のみ。 「親」ブランドからの「派生型」商品は 31 で全体の7割を占めた。ここ数年の傾向と同じく大半を占める。 メーカー別には,サッポロが 16 で最も多く,次いでアサヒ15。一方で,キリンは6にとどまり,サントリーも7と少ない。キリンは新商品すべてが「限定型」で,4社中1社のみ「通年・全国型」商品の発売がない。 販売目標 100 万箱以上は6商品のみ 各新商品の販売目標をみると,アサヒ〈ザ・ドリーム〉が 400 万箱(大瓶換算)で最も多く,次いでアサヒ〈スタイルフリー・パーフェクト〉210 万箱,アサヒ〈ドライプレミアム豊醸〉とサントリー〈ザ・プレミアム・モルツ・香るエール〉各 200 万箱,サッポロ〈麦とホップ・プラチナクリア〉160 万箱の順。5月から 10 月にかけて発売される〈47 都道府県の一番搾り〉は合計で200 万箱を見込んでいる。年内販売目標が 100万箱以上の新商品はこれら6商品のみで,全体的に「小粒化」の傾向がうかがえる。 容器別,ビール缶 4.4% 増で2年ぶりプラス 分野別および総計の容器別前年比と構成比は第5表のとおり。総計の容器別では,昨年上期は瓶 2.9%減,缶 0.5%減,大樽のみがプラスで 0.4%増だった。今上期は全容器がマイナスとなったが,最も落ち込み幅が小さかったのは缶の 1.0%減。缶の構成比は 0.4 ポイント上昇し,71.5%となった。 分野別には,ビールは缶のみがプラスで 4.4%増となり,2年ぶりのプラス。ビール中の構成比は 45.3%に上昇した。 ビールの用途別,家庭用の構成比 50.7% 用途別の動向は第6表のとおり。用途別はビールは家庭用が 2.8% 増で,家庭用構成比は50.7%(前年 49.5%)に上昇した。平成 23 年上期(50.3%)以来5年ぶりに業務用の比率を上回った。7月以降は家庭用需要が多くなる傾向

にあるため,年間はさらに家庭用比率が高まるとみられる。 ノンアルビール 0.1% 増の 776 万箱,頭打ち鮮明 ビールメーカー4社が発売するアルコール分0.00% のノンアルコールビールの上半期の出荷数量は,4社商品合計で前年比 0.1% 増の 776万箱(大瓶換算)となった。4月まで(1~4月累計)は 11.3% 増と2ケタ増だったが,5月単月が 16.6% の大幅減となり,1~5月累計は3.2% 増。6月単月は 10.0% の2ケタ減だった。 容器別では,缶が前年並みの 662 万箱(構成 比 85.3%), 瓶 が 前 年 並 み の 114 万 箱( 同14.7%)。 4月までは昨年発売の機能性商品の上乗せで伸びてきたが,一巡したことで「頭打ち」が鮮明となった。

 (醸造産業新聞社 編集部)

前年比 構成比 (%)(%) 本年 前年

ビ ー ル瓶 94.2 17.9 19.0缶 104.4 45.3 43.6

大樽 98.8 36.8 37.4

発 泡 酒瓶 62.5 0.3 0.4缶 91.5 97.4 97.1

大樽 85.5 2.3 2.5

新ジャンル瓶 - 0.0 0.0缶 99.0 97.1 97.1

大樽 98.3 2.9 2.9

総   計瓶 94.4 8.9 9.3缶 99.0 71.5 71.1

大樽 98.5 19.6 19.6

前年比 構成比 (%)(%) 本年 前年

ビ ー ル業務用 98.1 49.3 50.5家庭用 102.8 50.7 49.5

発 泡 酒業務用 84.5 3.0 3.2家庭用 91.5 97.0 96.8

新ジャンル業務用 98.3 2.9 2.9家庭用 99.0 97.1 97.1

総 計業務用 97.8 25.9 26.1家庭用 98.7 74.1 73.9

第5表 平成28年上半期のビール系酒類容器別構成比

第6表 平成28年上半期のビール系酒類用途別販売動向

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516食品と容器 2016 VOL. 57 NO. 8

                 シャープの崩壊 名門電機メーカー,シャープが,業績不振が続き,実質的に債務超過に陥り,台湾企業の傘下に入った。経営戦略の失敗が主因といわれている。第1に,液晶,テレビ,太陽電池といった主力製品について,品質競争に走り,国際的な価格競争力を喪失したこと,第2に,生産体制・市場開発両面で,国際展開が遅れたことである。「価格競争力の喪失」と「国際展開の遅れ」という2つの言葉を目にすると,かつての国内石炭産業の崩壊のプロセスを思い出す。 国内石炭産業の栄光と衰退 かつて,国内石炭産業は,最重要産業の1つとして,我が世の春を謳歌していた。全盛期(1961年)には,炭鉱数:622,産炭量: 5,541 万トン,従業員数:約 30 万人であった。また,国内炭が国内1次エネルギー供給に占める比率は,1955 年度で 43.5%(石油:17.6%),1960 年度で 34.8%(石油:37.6%)であった。1950 年代は,大学生の就職としても,「超」がつくほどの人気業種でもあった。また,地域への経済波及効果も大きく,北海道,北九州,常磐地域などの産炭地域の経済を支えてきた。政府の組織でも,石炭産業という単一の業種のために,商工省(現・経済産業省)の中に石炭庁(1946 ~1952 年),通商産業省(同)の中に石炭局(1952~1968 年)が置かれており,そのほかに石炭保安を所管する局もあった。 しかし,1960 年代前半を境に,国内の石炭産業は,石油と海外炭に押されて,衰退を始める。1970年度には,生産量 3,830 万トン,国内1次エネルギー供給に占める比率は 7.8%と,石油(71.9%),海外炭(12.1%)に比べて,比重は著しく小さく

なった。その後も衰退を続けて,2000 年代初めには,事実上の消滅状態になってしまった。現在

(2014 年度),国内炭鉱は8つにすぎず,国内炭生産量はわずか 132 万トンである。 衰退の要因 国内石炭産業の衰退の要因については,高校の教科書にも書かれている。第1は,エネルギー革命である。石炭から,石油,天然ガスへのシフトである。石油のほうが,価格が安いこと,石油,天然ガスとも流体エネルギーで取り扱いが容易であること,燃焼時に煙が少ないことが要因である。都市ガス産業は,天然ガス(メタンが主成分)を,そのまま導管に流せるため,大規模な工場は不要である。第2に,海外炭との価格競争である。国内では,炭鉱の規模が小さいこと,主力炭鉱が地下・海底にあることから,大規模な露天掘りが中心の海外炭に勝てなかった。 海外炭(一般炭=発電用石炭)の価格(CIF)は,国内石炭産業が事実上消滅する 2002 年までの約15 年間は,5,000[ 円 /トン ] 前後で推移していたが,国内炭の価格は,15,000 ~ 17,000[ 円 /トン] 程度であった。つまり,国内炭は海外炭の約3倍の価格であった。このような価格差がありながら,2000年代前半まで,国内石炭産業が,産業として存続することができたのは,国からの炭鉱設備等への補助金に加えて,石炭鉱業臨時措置法に基づく「基準炭価制度」を設け,価格差を電力業界が負担してきたからである。電力業界が負担するということは,電気料金の一部として広く国民が負担してきたということである。 その後,石油の国際価格は,2003 年以降,中国の経済成長を背景に急上昇した。原油価格(WTI=標準原油の1つ)は,2003 年の 31[$/ バレル ]から,10 年間で3倍になり,2013 年には 98[$/ バレル ] に上昇した。2009 年にリーマンショックがあったにもかかわらず,この上昇である。その結果,石炭の国際価格は石油に対して優位になった。それだけでなく,石炭価格も上昇して,石炭産業の利幅が大きくなった。さらに,2008 年頃には,国内炭の価格(約 100[$/ton])が海外炭の国際価格(120 ~ 130 [$/ton])よりも安くなっていた。

       並なみ

 河かわ

 良りょう

 一いち

            (帝京大学経済学部教授)

516

第 12 回

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517食品と容器 2016 VOL. 57 NO. 8517

国内石炭産業にとって,絶好のチャンスが巡ってきた。しかし,その時,日本の石炭産業は事実上消滅しており,すでに技術も要員も設備も散逸してしまっており,再興できる状態ではなかった。 石炭需要の増加と疑問 国内石炭産業の衰退理由についての通説的な説明は上述のとおりであるが,疑問がある。 石炭産業が衰退する時期は,日本の高度経済成長の時期であり,日本のエネルギー需要が急激に伸びている。その結果として,国内の石炭需要も大幅に伸びている。石炭の需要量は,1961 年の5,500 万トンから2014 年には 1 億 8,400 万トンまで上昇している。しかし,国内石炭産業はほぼ消滅したのである。つまり,国内石炭産業が生産していた分は,海外炭に置き換わり,国内需要の伸びた分も海外炭に持って行かれてしまった。しかも,海外炭の取り扱いは,総合商社が一手に引き受けてしまった。 なぜ国内石炭産業が,海外炭の輸入をしなかったのであろうか。価格差があるので,国内炭から海外炭にシフトするのはやむを得ない。しかし,石炭産業は,全盛時代には,国内需要家のほとんどを抑えていたのであるから,輸入海外炭を国内需要家に供給する道はあったはずである。 海外炭の輸入は,単純なスポット輸入もあるが,大半は投資をして石炭鉱山の権益を確保する開発輸入である。国内石炭産業は,巨大産業として豊富な資金力も有していたのに,なぜ海外炭の輸入・開発輸入に本格的に参入しなかったのであろうか。ビジネスで最も厳しいのは,営業つまり需要家の開拓である。なぜ,国内石炭産業は,その有利な立場を生かして海外炭を扱うことをせず,その需要家を総合商社に奪われたのであろうか。 主流派 かつて国内石炭産業はステータスの高い産業であり,石炭産業の大学卒職員はエリート集団であった。その中でも,主流は,文系は労務,企画畑,技術系は保安畑であった。多数の現場労働者を抱えており,しかも労働者は旧・社会党直結の強力な労働組合を結成しており,その対策を担う労務は最も重要な部門であった。企画畑とは政府交渉

を担う部門であり,衰退時代に入ってからは,海外炭の輸入抑制,構造調整,価格差補助などの政策を担う中心組織であった。技術系は,炭鉱の安全管理が重要任務であった。生産した石炭を求める需要家は多く,営業はそれほど重要ではなかった。そして,国内で生産して国内に売るだけであるから,組織に国際性は欠落していた。石炭産業には,国内対策中心の主流派が幅を利かす中で,海外炭の導入を図るだけの海外組織を持たず,海外展開を図るという組織文化もなかったのである。 海外炭は,ライバルというよりは敵であり,1960年代まで,石炭産業は政府と交渉し,一般炭の輸入量の抑制,輸入炭種の制限を維持させてきた。主流派のエリートたちは,海外炭の抑制を主張する傍らで,海外炭の輸入・開発輸入を進めるという矛盾する行為を取ることはできなかった。エリートは,論理矛盾を嫌う。彼らは,ある意味,高い誇りに支えられた,高い倫理性を有していた。儲けるためなら何でもするという真似はしなかったのである。そして,いろんな経緯を経て,すべてを総合商社に持って行かれてしまった。 食品業界への教訓 日本国内の食品市場は市場集中度(上位数社による市場占有率)が高い。このため,国内市場のシェアを巡って,大企業間で激烈な販売競争がくりひろげられる。まさに,寸土を争うという表現にふさわしい競争である。そして,それがマスコミに華々しく取り上げられるので,コンマ以下のシェア争いこそが企業活動の本流であると錯覚する。筆者は,イスラム諸国の食品市場の開発を研究テーマの1つにしている。イスラム諸国の経済成長,人口増加は著しく,60 兆円とも70 兆円ともいわれる市場が,毎年数%で成長している。毎年,数兆円の新しい市場(無主の地)が産み出されている。食品産業の海外市場への進出は,機械・自動車産業等に比べれば,著しく遅れている。石炭産業の教訓(主流派の限界)という言葉が,脳裏をよぎる。

 参考文献 (一社)石炭エネルギーセンター HP

 

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518食品と容器 2016 VOL. 57 NO. 8

日本食糧新聞社・日本食糧新聞電子版(http://news.nissyoku.co.jp/)より業界の話題厚労省検討会開催 HACCP制度化の考え方案を提示

(日食 2016.06.24)HACCP 義務化に向けたロー

ドマップ作りを目指す厚生労働省の第4回「食品衛生管理の国際標準化に関する検討会」が15日,東京都港区の航空会館で開催され,前回に引き続き事業者団体からのヒアリングが行われるとともに,HACCP の制度化の考え方案が示された。

事業者ヒアリングでは,日本冷凍食品協会,JA 全農ミートフーズ,全国食肉センター協議会,日本食鳥協会,日本成鶏処理流通協議会の5企業・団体から,食品安全を巡る現在の課題や HACCP の制度化に関する意見などを収集。HACCP の導入については,中小・零細事業者にとってハードルが高く,事業者のレベルに合わせた段階的かつ柔軟な対応が必要との意見が出された。

ま た,HACCP の 制 度 化 の考え方案として,コーデックスのガイドラインで示されたHACCP(7原則)に取り組む

「A」と,HACCP の考え方に基づく衛生管理を実施する「B」の二つの基準を設定する方向性が提示。これに対して委員からは,「B の幅は相当広くなり,A と B の境界が分からなくなる」などと危惧する声も挙がった。次の検討会でも事業者ヒアリングに加え,考え方案につい

て議論を重ねていく。えん下困難者用食品許可表示見直し 分かりやすい表現を 消費者庁の特別用途食品制度検討会

(日食 2016.06.27)消費者庁の第2回特別用途食

品制度に関する検討会が17日,東京都千代田区の中央合同庁舎4号館で開催され,えん下困難者用食品の許可区分は消費者が理解できる表現にするとともに,パンフレットなどにより補足を行う必要があること,とろみ調整用食品はえん下困難者用食品の下に位置付けることなどの方向性が示された。

特別用途食品は,病者用食品やえん下困難者用食品など特別の用途に適する食品で,表示に際しては健康増進法第26条に基づく国の許可が必要となる。特別用途食品制度は1947年に創設され,2009年に厚生労働省による抜本的な見直しが行われ,その後消費者庁の発足に伴い,制度が移管された。

超高齢社会を迎えたわが国では,より一層のニーズが高まることが想定されるが,表示許可件数は60数件にとどまっており,15年6月に閣議決定された規制改革実施計画において,申請手続きや表示制度の見直しが盛り込まれた。

これを受けて設置された特別用途食品制度に関する検討会では,(1)糖尿病食など新たな食品区分を追加する仕組み(2)

えん下困難者用食品の区分に応じた許可表示の見直し(3)とろみ調整食品の規格などを検討していく。(2)(3)の専門的事項に関してはワーキンググループ(WG)を設置し,WGからの報告を踏まえ議論を重ね,今年秋をめどに報告書を取りまとめる予定だ。

第2回検討会では,2回にわたる WG の検討状況をもとに議論が行われた。えん下困難者用食品については,許可区分(1~3)の規格に基づく表現としてゼリー・プリン・ムース状,ピューレ・ペースト状などの案が提示されたが,「この表現では区別が付きにくい」「物性だけで区分するのは難しい」などの意見が出され,注釈を入れることも検討すべきとされた。また,とろみ調整用食品については,えん下困難者用食品の下に位置付ける方向で進められることとされた。ただし,「すでに流通しているとろみ調整食品と,特別用途食品のとろみ調整用食品が混同されないか」と危惧する声もあった。

いずれにしても「在宅医療を推進する動きが出ている中,特別用途食品制度を生かすためには,患者や高齢者に十分に理解してもらい運用できる仕組み作り」が必要となる。全国清涼飲料特集:カテゴリー別動向 =コーヒー飲料 SOT缶復調目指す

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519食品と容器 2016 VOL. 57 NO. 8519

(日食 2016.06.30)●ボトルコーヒー起爆剤にコーヒー飲料の上半期は微増

となる見通しだ。PET ボトルコーヒーの販売量増加に加え,構成比が大きい缶コーヒーの売上げが堅調なため,トータルで前年を上回るスタートを切れた。特に900mL を中心とした,PET ボトルコーヒーの伸長が目立つ。渇きを抑えるだけでなく,味わいを重視するユーザーが増加するなど,止渇から嗜

し こ う

好という需要に対応し,さらなる成長を目指す。

同カテゴリーは長らく,焙煎メーカーが市場を構築してきた。今年から飲料メーカーの参入も始まり,販売競争が激しくなっている。価格訴求に走るのではなく,ミルクと合わせた飲み方の提供など,コーヒーの豊かな味わいや品質などの価値を提案し,アイス需要が高まる盛夏でさらなる伸長を見込む。

缶コーヒーは,SOT 缶が苦戦気味で,ボトル缶が伸長。この上半期は,SOT 缶の減少にやや歯止めがかかりつつあるようだ。飲みきりサイズへの需要の低下や消費者の健康志向の高まりなどの影響で苦戦を続けているが,ロイヤルユーザーも多く,販売量は安定している強みがある。

主要各社の主力ブランド戦略が出揃う9月以降の本格商戦を迎えるシーズンに,新たな魅力を提案することで,需要の裾野を広げ,市場の活性化を目指していきたい。

かどや製油,「純正ごま油」でハラール認証取得 イスラム圏の輸出拡大へ

(日食 2016.07.04)かどや製油の「純正ごま油」

が,日本ムスリム協会からハラール認証を取得した。昨今のハラール認証への関心の高まりやイスラム圏への輸出拡大を目指すもので,今春,正式に取得した。

同社ではすでに12年,ユダヤ教に基づくコーシャ認証を取得。今回,ハラール認証を取得することで,海外の多様なニーズに対応する商品を供給する体制を整えた。

同社ごま油製品は国内でトップシェアを保有するほか,近年では海外輸出を年々加速。中でも北米では,安価な台湾産との競合の中で,認知を拡大させており,今後は中東などイスラム圏内への輸出拡大も目指す。高機能性米特集:コメ関連カテゴリー市場動向 =腸内環境改善など追い風ににぎわう売場

( 日食 2016.07.08)15年度の健康を切り口にし

たコメ関連カテゴリー市場(家庭用)は,大麦の健康効果についてメディア露出が盛んだった前年の反動で,精麦のみが前年を割り込んだものの,ほかの商品群すべてが前年を超え,トータルで前年比0.7%増の100億0300万円に達した(はくばく推計)。

精麦のけん引で12,13年と2年連続で拡大した市場は,14年はボリュームの大きいミック

ス雑穀の苦戦で前年を割り込んだ。だが15年は,マスコミが従来の大麦中心から,健康や美容を切り口とした腸内環境改善を扱うようになったことで,食物繊維豊富な穀物に関心が集まり,売場に多くの人が訪れるようになったことが要因とみられる。

商品群別に見ると,38%のウエートを占めるミックス雑穀が同2%増の37億5900万円,26%を占める精麦が同7.6%減の26億2400万円。トップメーカ ー・ フ ァ ン ケ ル が TVCMを積極的に投入したことで,17%を占める発芽玄米が同2%増の16億9100万円,12%を占める栄養強化米は前年並みの12億3200万円。

ほか,ウエートは低いものの,加工玄米が「ロウカット玄米」のけん引で同35%増,スーパーフードとして「キヌア」「アマランサス」が大幅伸長した単品雑穀は同35%増となった。

一方今期4,5月は,3月末のもち麦の健康効果に関するTV 放映の影響で,はくばくの雑穀や精麦品の売上げが,前年比15%増と大きく伸長しており,一時期商品が欠品したものの,供給体制も整い,順調な再スタートを切っている。同社以外も,精麦だけでなく他の商品群がおおむね順調なようだ。

さらに,精米カテゴリーに入るが「金芽米」や「金賞健康米」など,健康機能性をうたった商品も多様に発売され,ファン層が育成され始め,相乗効果が生まれることが期待される。

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520食品と容器 2016 VOL. 57 NO. 8

今月の統計

0

100

200

300

400

500

600

2000年 2001年 2002年 2003年 2004年 2005年 2006年 2007年 2008年 2009年 2010年 2011年 2012年 2013年 2014年 2015年

(万トン)

ペットフード

レトルト食品

びん詰

大缶

一般缶詰(丸缶)

飲料缶詰(丸缶)

第1図 缶びん詰,他生産数量・年別推移(内容重量)

0

50

100

150

200

250

300

350

飲料缶詰

(丸缶)

一般缶詰

(丸缶)

大缶

びん詰

レトルト食品

ペットフード

(万トン)

2005年

2010年

2015年

第2図 缶びん詰,他生産数量

0

2

4

6

8

10

12

水産

果実

野菜

ジャム

食肉

調理・特殊

(万トン)

2005年

2010年

2015年

第3図 丸缶(飲料除く)の品目別生産数量

0

0.5

1

1.5

2

2.5

たけのこ

トマト

ジャム

その他

(万トン)

2005年

2010年

2015年

第4図 大缶の品目別生産数量

0

1

2

3

4

5

6

のり

ジャム

その他

(万トン)

2005年

2010年

2015年

第5図 びん詰の品目別数量

注:大缶は18リットル缶,9リットル缶など,業務用として作られる大型缶詰

缶詰・びん詰生産は総数で前年比97.6%,飲料缶詰を除いても98.7%と減少した。一般缶詰は構成比の大きい水産缶詰の減少が全体の生産減につながった。レトルト食品も前年比98.6%と減少している。

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521食品と容器 2016 VOL. 57 NO. 8

今月の統計

第3表 平均気温,降水量,日照時間 (7月中旬まで・東京)

前年比(%)

2015年 7月 月間 26.2 +0.4 -0.6 234.5 153 222 181.8 126 1048月 月間 26.7 -0.7 -1.0 103.5 62 99 137.6 78 769月 月間 22.6 -1.2 -0.6 503.5 240 324 113.3 96 7810月 月間 18.4 -0.1 -0.7 57.0 29 15 181.3 136 13411月 月間 13.9 +0.6 -0.3 139.5 151 142 120.1 82 8912月 月間 9.3 +0.6 +2.6 82.5 162 101 162.0 93 87

2016年 1月 月間 6.1 +0.0 +0.3 85.0 163 92 201.5 107 1112月 月間 7.2 +0.7 +1.5 57.0 102 92 160.1 96 963月 月間 10.1 +0.7 -0.2 103.0 88 110 161.9 99 834月 月間 15.4 +0.8 +0.9 120.0 96 93 149.2 85 1005月 月間 20.2 +1.3 -0.9 137.5 100 156 204.9 119 856月 下旬 23.0 +0.2 +0.3 47.0 66 127 26.8 93 59

月間 22.4 +0.3 +0.3 174.5 104 89 139.1 113 1017月 上旬 25.5 +1.1 +4.1 14.0 23 10 56.7 147 597

中旬 26.1 +0.2 -1.8 34.5 77 44 42.7 98 53

平均気温(℃) 降水量(mm) 日照時間(h)

平年差 前年差平年比(%)

前年比(%)

平年比(%)

             第1表 缶びん詰,他生産数量(内容重量)((公社)日本缶詰びん詰レトルト食品協会調査)

数量(トン) 構成比 数量(トン) 構成比 数量(トン) 構成比 前年比 5年前比 10年前比

飲 料 缶詰 (丸 缶 ) 3,438,902 89.5% 3,031,659 89.6% 2,800,890 89.5% 97.4% 92.4% 81.4%

一 般 缶詰 (丸 缶 ) 285,466 7.4% 250,261 7.4 230,074 7.4 98.7 91.9 80.6

大 缶 36,611 1.0% 34,170 1.0 31,909 1.0 93.2 93.4 87.2

び ん 詰 80,370 2.1% 68,609 2.0 65,560 2.1 101.6 95.6 81.6

缶 び ん 詰 計 3,841,349 100.0% 3,384,699 100.0 3,128,433 100.0 97.6 92.4 81.4

レ ト ル ト 食 品 304,154 - 326,569 - 362,560 - 98.6 111.0 119.2

ペ ッ ト フ ー ド 12,865 - 8,999 - 8,146 - 112.0 90.5 63.3

2015年2010年2005年

             第2表 缶びん詰品目別生産数量(内容重量)((公社)日本缶詰びん詰レトルト食品協会調査)

数量(トン) 構成比 数量(トン) 構成比 数量(トン) 構成比 前年比 5年前比 10年前比

(丸 缶)

水 産 117,773 3.2% 105,797 3.2% 100,685 3.3% 96.4% 95.2% 85.5%

果 実 38,523 1.0 37,784 1.2 32,547 1.1 100.0 86.1 84.5

野 菜 59,648 1.6 50,696 1.5 46,081 1.5 100.9 90.9 77.3

ジ ャ ム 861 0.0 494 0.0 329 0.0 85.2 66.6 38.2

食 肉 8,730 0.2 7,032 0.2 6,740 0.2 91.4 95.8 77.2

調 理 ・ 特 殊 59,932 1.6 48,457 1.5 43,692 1.4 102.3 90.2 72.9

飲 料 3,438,902 92.3 3,031,659 92.4 2,800,890 92.4 97.4 92.4 81.4

丸 缶 計 3,724,369 100.0 3,281,920 100.0 3,030,964 100.0 97.5 92.4 81.4

(大 缶)

た け の こ 2,173 5.9 3,596 10.5 2,224 7.0 93.7 61.8 102.3

ト マ ト 2,817 7.7 2,899 8.5 2,475 7.8 103.4 85.4 87.9

ジ ャ ム 7,201 19.7 5,385 15.8 6,243 19.6 105.5 115.9 86.7

そ の 他 24,420 66.7 22,290 65.2 20,968 65.7 89.0 94.1 85.9

大 缶 計 36,611 100.0 34,170 100.0 31,909 100.0 93.2 93.4 87.2

(びん詰)

の り 6,535 8.1 5,112 7.5 5,726 8.7 100.0 112.0 87.6

ジ ャ ム 30,106 37.5 29,620 43.2 28,825 44.0 97.8 97.3 95.7

そ の 他 43,729 54.4 33,878 49.4 31,009 47.3 105.6 91.5 70.9

び ん 詰 計 80,370 100.0 68,609 100.0 65,560 100.0 101.6 95.6 81.6

総 合 計 3,841,350 - 3,384,699 - 3,128,433 - 97.6 92.4 81.4

2015年2010年2005年

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522食品と容器 2016 VOL. 57 NO. 8

最近の技術雑誌から

分 析 ・ 測 定〔解説〕MALDI-TOF MS 技術の微生物学的知見に基づい

たルーチン試験への応用開発  シスメックス・ビオメリュー株式会社:Beverage

Japan,39(6)56~58(’16.7)

〔解説〕特集―機能性評価の関連技術―  ジャパンフードサイエンス,55(7)33~40(’16)○機能性評価のためのメタボローム解析����編集部○機能性評価のための関連技術・装置�����編集部

栄 養 ・ 健 康〔解説〕ミルクプロテイン健康維持に多彩な働き  ㈱明治:ジャパンフードサイエンス,55(7)42  ~43(’16)

〔解説〕機能性表示食品制度の開始より1年『健康食品迷子』増加中?

  ㈱リンクアンドコミュニケーション:ジャパンフードサイエンス,55(7)49~52(’16)

〔解説〕スイーツの進化/「ヘルシー志向スイーツ」の素材について―柑橘系果物の製菓材料への加工および使用方法の研究―

  松井博司:食品と科学,58(7)14~18(’16)

〔解説〕日本食品標準成分表2015年版(七訂)―改訂のポイント―

  渡邊智子:食品と科学,58(7)59~65(’16)

〔解説〕新しい高齢者食品・介護食品の開発/フレイル・サルコペニア予防のための栄養と運動の効果

  金 憲経:食品と開発,51(7)73~77(’16)

〔解説〕ブラックジンジャーエキスの抗肥満作用  吉野 進:食品と開発,51(7)81~83(’16)

食 品 衛 生〔解説〕特集―HACCP 制度化に向けた現状と課題―  明日の食品産業,(468)6~29(’16.7,8)○『食品産業 ,事業者におけるこれまでの HACCP 普及の取

り組みと「制度化」検討における課題』 ��川崎一平○「制度化」検討のポイントと方向性  ��������������道野英司・川崎一平

○わが国の HACCP 普及の歴史とこれから �湯川剛一郎

〔解説〕特集―HACCP 義務化のカギ握る「柔軟性」とは?/ EU における HACCP 義務化の先例に学ぶ―

  月刊 HACCP,22(7)15~31(’16)○ HACCP 運用の flexibility ~フレキシビリティ(柔軟性)

について~��������������岡本泰彦○「MyHACCP」とは~オンラインで HACCPプランを作成す

るツール~��������������豊福 肇◯【参考資料】EU における「HACCP の柔軟性」の考え方

を取り入れた取り組み~厚生労働省「食品の高度衛生管理手法に関する実態調査」より~�����編集部

〔解説〕特集―迫る HACCP 義務化の時代―伝わる・伝える教育&コミュニケーションのメソッド―

  月刊 HACCP,22(7)33~41(’16)○効果的な内部コミュニケーションのポイント  �������������������植竹 剛○効果的な従業員教育のポイント~「伝える」から「伝

わる」へ!~�������������新名史典

〔解説〕夏場に備える!/食品の適切な保存  中村明子:食と健康,60(7)8~15(’16)

〔解説〕学校給食の事例から学ぶ/ヒスタミンによる食中毒に注意‼

  海老名裕二:食と健康,60(7)52~61(’16)

〔解説〕市販食品のカビ汚染と防止対策  諸角 聖:食品衛生学雑誌,57(3)J-72~J-79(’16.6)

〔解説〕特集―HACCP,新たな展開に向けて―  食品と科学,58(7)67~73(’16)○消費者からみた飲食業における HACCP  �������������������戸部依子○グローバル視点からみた飲食業 HACCP  ������������������長瀬健一郎

〔解説〕食品工場における防虫管理-特に大型ハエ対策-  谷川 力・木村悟朗:日本食肉加工情報,(793)2

~8(’16.7)

〔解説〕食品産業における用水と排水処理の最新動向  編集部:食品と開発,51(7)23~34(’16)

添 加 物 ・ 副 材 料〔解説〕特集―注目の機能性食品素材―  ジャパンフードサイエンス,55(7)16~31(’16)○コラーゲン含有ミネラル複合体「プロテタイト」の骨

密度・骨質改善効果������� CBC 株式会社

国 内 編

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523食品と容器 2016 VOL. 57 NO. 8

最近の技術雑誌から

○赤パプリカ由来の健康素材『PapriX Ⓡ』  ���������������グリコ栄養食品㈱○植物由来乳酸菌が野菜に与える影響���長瀬産業㈱○農産物9品目の研究レビューを公開�����編集部○各社の関連製品と関連機器紹介�������編集部

〔解説〕特集1―糖質の科学/機能・物性・役割を知ろう―

  フードケミカル,32(7)19~53(’16)○砂糖の種類と利用法,および健康とのかかわりについ

て������������������佐藤 仁○スローカロリーを実現する糖 “ パラチノース ” が食品

の物性に与える影響����������塩見和世○ぶどう糖の種類とその特徴について����香村恵美○澱粉および澱粉分解物の科学��上原悠子・高城太一○マルトースとトレハロースの上手な使い方―糖の特徴

を活用して―�������������金子啓祐○糖アルコールの特性と利用��������十川詩帆○カロリーゼロのブドウ糖発酵甘味料「エリスリトール」

について����������栃尾 巧・中村圭伸

〔解説〕うま味調味料,MSG 値上げ順調に浸透/急激な円高で為替動向に注視

  酒類食品統計月報,58(4)17~23(’16.6)

〔解説〕15年みそ基本統計~出荷量,生産量ともに減少~  酒類食品統計月報,58(4)33~39(’16.6)

〔解説〕植物油業界,高付加価値品が引き続き伸長/コストに見合った適正な販売価格形成を

  酒類食品統計月報,58(4)40~47(’16.6)

農 産〔解説〕果実・果汁を巡る話題7件  果汁協会報,(694)85~87(’16.6)

水 産 ・ 畜 産〔解説〕チーズ総消費量,3年ぶり過去最高更新/16年

下期の原料チーズ価格弱含む  酒類食品統計月報,58(4)11~16(’16.6)

飲 料 ・ 醸 造〔解説〕特集―機能性飲料市場と機能性素材/本格的な導入

が始まった機能性表示食品と特定保健用食品の将来展望―

  Beverage Japan,39(6)30~53(’16.7)○機能性表示食品の大量投入○機能性表示食品と清涼飲料

○岐路に立つ機能性ノンアルコール飲料○トクホ市場は安定的に成長○トクホ飲料は常飲性へ回帰○機能性表示食品とトクホの棲み分け○主要ブランド別動向○新製品開発に役立つ機能性素材

〔解説〕2015年清涼飲料市場動向  久保喜寛:缶詰時報,95(7)2~7(’16)

〔解説〕国産ワイン市場,輸入との差別化が急務/日本ワイン原料確保も継続課題

  酒類食品統計月報,58(4)28~32(’16.6)

〔解説〕焼酎甲類,将来の需要層へ地道な訴求を/混和焼酎込みでもマイナスに

  酒類食品統計月報,58(4)49~53(’16.6)

〔解説〕日本茶飲料市場,健康志向背景に好調続く/機能性やカフェインレスなど多様化進む

  酒類食品統計月報,58(4)54~59(’16.6)

冷 凍 ・ 乾 燥〔解説〕冷凍食品,価値訴求強化で市場拡大へ/商品開

発・情報発信が飛躍のカギ  酒類食品統計月報,58(4)2~10(’16.6)

缶びん詰・レトルト食品〔解説〕2015年の缶詰輸入―引き続き輸入量は減少 , 金

額は増加―  缶詰時報,95(7)20~30(’16)

〔解説〕2015年の缶詰,びん詰,レトルト食品生産数量  缶詰時報,95(7)57~82(’16)

〔解説〕缶詰,びん詰,レトルト食品全国販売データ/2016年5月品目別商品別金額シェア

  缶詰時報,95(7)92~101(’16)

食 品 一 般〔解説〕「珈琲♡和菓子アワード2016」グランプリ決定  ジャパンフードサイエンス,55(7)44~45(’16)

〔解説〕特集2―スモーク・燻製最新動向―  フードケミカル,32(7)69~96(’16)○燻製工程における燻煙成分の効果  ��������������阿部 申・小林りか○アウトドアから広がる燻製のおいしさ��坂之上丈二

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524食品と容器 2016 VOL. 57 NO. 8

最近の技術雑誌から○スモークで価値向上~注目の関連加工食品~��編集部○注目のスモーク食品と関連する素材と技術���編集部

〔解説〕食品工場の労働安全/食品製造現場の安全確保に向けて

  向殿政男:食品と科学,58(7)51~58(’16)

〔解説〕食品の品質保証技術/賢い消費者から好感を持たれる企業とは

  板倉ゆか子:食品機械装置,53(7)50~55(’16)

食 品 加 工 ・ 保 蔵〔解説〕食品衛生と保存する技術―食品を調理する・処理

する技術―  五十部誠一郎:食品衛生学雑誌,57(3)J-65~ J-71

(’16.6)

〔解説〕特集―食品ロス削減と賞味期限延長技術―  食品と開発,51(7)4~19(’16)○食品ロス削減に向けた取組���������淺浦真二○惣菜市場の現状とチルドロングライフ惣菜の可能性  ��������������������城取博幸○マヨネーズのおいしさを守る酸素との戦い��若見俊介○アジア初!マイクロウェーブを用いた加熱調理殺菌シ

ステム採用で日持ちと美味しさを実現���入道知生○食品・飲料のロングライフ化技術�������編集部

〔解説〕チルドロングライフ惣菜の開発と展開~料理を社会分業で支える社会実現への長い闘い~

  山崎寛治:食品と開発,51(7)20~22(’16)

機 械 ・ 設 備〔解説〕NH3/CO2システムの小型高効率自然冷媒冷凍機  ㈱前川製作所:ジャパンフードサイエンス,55(7)

46~48(’16)

〔解説〕混合・攪拌 / 乳化・分散装置の開発動向―省エネ・コスト削減と安全・衛生対策で進展する機種開発―

  編集部:食品と開発,51(7)35~36(’16)

〔解説〕特集―飲料製造技術と品質保証―  食品機械装置,53(7)56~73(’16)○食品危害カビにおける分類,同定と迅速検出法  ��������������������矢口貴志○電子線による新型包材殺菌システム搭載の次世代充填

機について����������森山育幸・川上杏子○多様なゲーブルトップ紙容器に対応可能な新型充填機

について����������������日下文寛

容 器 ・ 包 装〔解説〕特集1―飲料&液体食品の包装とラベル―  食品包装,60(7)17~32(’16)○今年も高まる “ 勢い継続 ” への期待/2015年は生産量

が2年ぶりの増加で過去最高を記録  �����������(一社)全国清涼飲料工業会○コーヒー豆を PET ボトルで販売/ DLC 膜コーティング技

術で焙煎後の炭酸ガスも密封�����ミカフェート○真のグローバル展開に新たな弾み/顧客満足を前提に

コストや納期対応で利益追求に拍車  ������������日精エー・エス・ビー機械○「ミードウェストベーコ㈱」から社名変更/マルチパッ

クなど国内の既存事業は継承����ウェストロック○ガラスびんの魅力伝える車両を追加/「第3回びんむ

すめトラック出発式」を盛大に開催  ���������������日本ガラスびん協会○ PET ボトル用ラベルの存在感/商品の “ 顔 ” を演出,材

質・タイプなどはバリエーション化も加速

〔解説〕特集2―インバウンドも狙える“和”包装 Part Ⅲ―  食品包装,60(7)33~43(’16)○ここが○○だよ「ニッポンの包装」!(京都編)/人気

は依然トップクラス!伝統と文化の古都で聞いた実態と本音������������日報大阪女子調査隊

○ピクトグラムで食材表示/字数制限などに対応,食品包装での導入拡大にも注力���インターナショナル

○ハラール対応の食ビジネス推進/観光客と在留者のニ  ーズに応えて継続的な対応を���� 日本 SI 研究所

〔解説〕RF タグ進化論/人と社会と包装と/“友近”と  “水谷千恵子”多元的人生  寺浦信之:食品包装,60(7)56~61(’16)

〔解説〕特集―トイレタリー・化粧品包装―  包装技術,54(7)5~41(’16)○レーザー加工を用いた化粧品容器への表面加飾につい

て�������������������片山就介○複雑形状の口紅中皿開発�����金原康博・増井貴一○ DVD(新二液吐出容器)の開発 �����大和田亮一○「ブルーレット デコラル」の容器設計について-薬  剤貼付技術の検討-�����������河田卓三○使い勝手と樹脂使用量に配慮した液体計量容器の開発  ���������������青山聡史・稲葉真一○スパウト付きガセット袋の優位性に関して������芝田和正・原 成美・佐藤雄亮・長谷川和美○『DNP 詰め替え用スタンディングパウチスムーズフロ

ーⓇ』について ������������仙道和佳子○台紙付きシュリンクパッケージバリエーション展開  ��������������������高橋志步

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525食品と容器 2016 VOL. 57 NO. 8

最近の技術雑誌から

Food Technology (USA) Vol.70 May (2016)○味覚の科学を解読する

Decoding the Science of TasteM. E. Kuhn …………………………………… 18~29

○スナッキング(間食)に真剣な消費者Consumers Get Serious about SnackingM. Z. Bartelme ……………………………… 30~45

○発酵・蒸留飲料の風味成分Toasting Ingredients in Fermented and Distilled BeveragesK. Nachay ……………………………………… 50~58

○メニューのカロリー表示Calories Count on MenusN. H. Mermelstein …………………………… 64~67

○食品加工で評価が良い高圧処理(HPP)技術Putting Oysters Under PressureT. McHugh and D. Kingsley ……………… 69~71

○利用拡大されるガス置換包装(MAP)Modified Atmosphere Packaging ExpandsC. K. Sand …………………………………… 72~74

The World of Food Ingredients (NLD) Apr./May (2016)○食品素材への消費者要望にどう対応するか?

How to Solve the Ingredient ConundrumE. DeSimone ………………………………… 12~15

○肉食文化とそのイノベーションThe New Appetite for Meat: Reincarnation of CarnivoresS. Biedermann ………………………………… 22~24

○レディーミール市場の動向Ready Meal Innovators Eye Clean Label PlatformsM. Hilliam ……………………………………… 26~29

○親水コロイドは分散と水和のプロセスが重要Hydrocolloids and the Hydration ProcessR. Clark ………………………………………… 56~59

○ EFSA2020年中期計画(戦略)を概説

EFSA Strategy 2020: Wider Stakeholder Engagement?S. Geiser ……………………………………… 62~64

○プロバイオティクスの健康効果と治療学的展望Probiotics: Wellness & Therapeutic PerspectivesD. Ghosh ……………………………………… 66~70

Prepared Foods (USA) Vol.185 May (2016)○アジアの食品とフレーバーを洞察

Asian InspirationsL. A. Williams ………………………………… 19~27

○消費者を魅了するスパイスとフレーバーSpice Is NiceD. Davis ……………………………………… 35~54

○糖尿病予防食の開発状況Diabetes DevelopmentsS. Cantor ……………………………………… 62~72

○食品栄養として摂取が必要な脂質Slick TalkJ. Adams ……………………………………… 74~86

○ベーカリー製品のクリーンラベル化と品質向上Better BakingE. Pelofske …………………………………… 87~90

Beverage Industry (USA) Vol.107 May (2016)○着実に成長を続けるスポーツ・プロテイン飲料

Pushing Performance, Boosting EnduranceB. Harfmann ………………………………… 12~18

○増加する多文化消費者をターゲットとするハイネケンUSAPiecing Together Import GrowthB. Harfmann ………………………………… 24~27

○異彩を放つユニークなデザインの容器A Visual VoiceJ. Jacobsen …………………………………… 36~38

○ミレニアル世代を中心に成長するエキゾチックフルーツ飲料Experimenting with Exotic FruitsB. Harfmann ………………………………… 54~55

Beverage World (USA) Vol.135 May (2016)○健康志向を背景に根付く植物由来飲料

Plant-Based Drinks Take RootA. Kaplan ………………………………………… 6~8

○有望な飲料分野に益々普及する PET 容器Breaking Out of the MoldA. Kaplan ……………………………………… 21~23

邦文の題名は内容に従って付けてありますので,原題と異なる場合があります。

ご興味のある雑誌・記事がございましたらいつでも閲覧できますので,当会宛ご連絡ください。

海 外 編

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526食品と容器 2016 VOL. 57 NO. 8

最近の技術雑誌から

○炭酸飲料をいかにして再生するかMaking Soda CoolA. Kaplan ……………………………………… 28~31

Packaging Strategies (USA) Vol.80 May (2016)○軟包装の季節がやってきた

The Season for Flexible PackagingL. Cuneo ……………………………………… 16~19

○シュリンク包装機―ベストな選択のための3つのヒントHow to Buy the Best Shrink WrapperE. Vorm ………………………………………… 20~22

○ショップで飲む上質なコーヒーを缶で提供Coffee Package Creates New Segment in the IndustryR. Skotleski …………………………………… 28~30

Food Manufacture (GBR) Vol.91 Jun. (2016)○2016年 FOOD manufacture 優秀賞の候補者

Food Manufacture Excellence Awards 2016 : Cream of the Crop…………………………………………………… 18~19

○乳製品,ベーカリーにおけるクリーンラベルClean to the ExtremeL. Searby ……………………………………… 27~28

○五感を刺激する包装仕様を食品・飲料用途へ適用Making Sense of PackagingP. Gander ……………………………………… 41~42

Packaging World (USA) Vol.23 May (2016)○環境に優しいトマトケチャップの製造システム

In-house Blow Molding Reduces CO2 by 90%A. M. Mohan ………………………………… 44~45

○クックイン肉製品のアルミおよび CPET トレイ包装Smoker-shaped Tray Markets Tony Roma-brand MeatsJ. Butschli ……………………………………… 52~53

○食料・雑貨品のeコマースの現状と課題How e-Commerce Is Changing the Packaging LandscapeA. M. Mohan ………………………………… 76~81

Packaging Digest (USA) Vol.53 Spring (2016)○安全でユニークな電子タバコの包装仕様

E-cig Packaging : Where There’s (no) Smoke, There’s FireK. B. Connolly ………………………………… 16~19

○配送時の安全性と効率化を見いだす包装品のラボ試験

How to Reduce Risk and Optimize Shipping Performance with Packaging Lab TestingN. Weisensel ………………………………… 30~31

○インクレスのインラインデジタルカラー印刷Color Paints a Pretty Picture for Inkless In-line Digital PrintingR. Lingle ……………………………………… 32~33

Food Processing (USA) Vol.77 May (2016)○不況知らずのスナック食品

There’s No Bad Time to SnackL. R. Hartman ………………………………… 31~37

○2015年新製品ベストセラーThe Best-Selling New Products of 2015D. Fusaro ……………………………………… 38~39

○包装ラインはスピードと柔軟性のバランスが重要Packaging’s Speed vs. Flexibility TradeoffK. T. Higgins ………………………………… 55~57

The Canmaker (GBR) Vol.29 May (2016)○ MSCANCO 社がエジプトに2P 製缶ラインを設備化

From Egypt to EuropeM. Higuera …………………………………… 27~29

○最新の金属缶印刷機を紹介Hybrids Arrive in Metal DecoJ. Nutting ……………………………………… 35~40

○ Ball 社と Rexam 社の合併事情Farewell to RexamA. Stupay ……………………………………… 47~49

○カフェラテ用に開発された InnoValve 缶It’s All in the TextureJ. Nutting ……………………………………… 50~52

Journal of Food Science (USA) Vol.81 May (2016)○牡蠣の物理的,微生物的,化学的特性に対する高静水圧

処理の影響Effects of High Hydrostatic Pressure on the Physical, Microbial, and Chemical Attributes of Oysters (Crassostrea virginica)T. Lingham et al. ………………… M1158~ H1166

Fruit Processing (DEU) Vol.26 May/Jun. (2016)○ヨーロッパにおける減糖に対する消費者の見方に関する洞察

Fresh Insights into Consumer Views on Sugar Reduction in Europe………………………………………………… 111~112

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食品と容器 2016 VOL. 57 NO. 8

暑さと湿気との戦いと表題に記しましたが,三粉取扱担当の頃にサゴ澱粉をボルネオ島マレーシア領サラワク州から輸入したことがありました。

今から35年も昔の1980年代のことなので,記憶を辿りながらこの珍しい澱粉に触れたいと思います。(注:ボルネオ島は面積が世界第3位の島で,日本の国土の1.9倍もあり,島の北部の南シナ海側は,マレーシア領で南部はインドネシア領です。典型的な熱帯気候であり,降雨量は年平均4000mmもあります)

1979年に「地獄の黙示録」という,ベトナム戦争をベースにした叙事詩的で哲学的で難解なコッポラの映画がカンヌ映画祭でパルム・ドール賞を獲得し,翌年日本でも封切りされました。ワグナーの「ワルキューレの騎行」の旋律の中を米軍の戦闘ヘリコプターが勇ましく飛び回るあの有名な映画です。戦争慰問団のシーンにはセクシーなプレイメートが多数出てくるというサービス満載の映画でした。でも団塊の世代が見た難解な映画としては,「2001年宇宙の旅」と双璧だと思います。ロケ地は実はフィリピンの熱帯雨林で,この映画の殆どの場面は,ベトナムのジャングルの傍の泥の河を主人公が海軍小型哨戒艇で遡るシーンで構成されています。正にこの様な景観で高温多湿の場所に小船で産地を巡るという出張に,糖化メーカーの技術者と会社の先輩と私の3名で1週間ほど行きました。

日本からシンガポールへは直行便,そこからクチン(このころは木材部の出店があり,サラワク州最大の都市で現人口65万人)まではジェット機で行き,ここで1泊しました。翌日には,シブまでフライト,この時の飛行機は高翼式双発の定期運航プロペラ機で機体の断面図がほぼ正方形の特徴ある変わった機体でした。飛行機好きには有名

な飛行機なので,機種を調べてみますとショート・スカイバン(Shorts SC.7 SkyVan)と思われます。乗客定員は20名程度でした。今は世界の何処を探してもこの機体は飛んでない様子です。ちょっとした自慢になります。

さて,サゴ澱粉が西欧に伝えられたのは,13世紀のマルコ・ポーロ『東方見聞録』で,文中に「スマトラには,幹に小麦粉が詰まった喬

きょうぼく

木があり,この木の髄を桶に入れて大量の水を注ぎしばらく置くと,底に粉が沈殿する。この粉で作ったパンは,大麦のパンに味が似ている」との記述があります。ヴェネチア人のマルコ・ポーロ自身は,ユーラシア大陸を陸路でモンゴル・中国へ行き,帰りは杭州からホルムズ海峡までは船旅をしたようなので,彼自身がスマトラにも立ち寄り,このサゴ椰

や し

子を見て,サゴ澱粉製のパンを食した可能性は高いと思います。そもそも東南アジアでは米飯導入以前に主食の一端を占めていたと考えられており,パプアニューギニアでは現在でもサゴ椰子の澱粉を主食とする人々がいるようです。

1本の幹から,澱粉が200㎏も採れるので(澱粉含有率30%)極めて有用な作物ですが,赤道を挟んで南北10°(緯度)の熱帯泥炭地の低湿地多雨林地帯に限定され繁殖し,限定された地域にあっては,栽培適性が極めて広く,海水が混じる汽水域あるいは作物栽培が困難な肥よく度に乏しい痩せた土地や湿地にもよく適応する。また多年生作物なので気象変動の影響や病虫害の被害を受けにくく,農薬の散布を必要とせず,生態系や人に対して安全である。また樹高が20メートルにもなるので,二酸化炭素の吸収量が多く,地球温暖化防止に貢献するといわれている。良いことずくめですが,大きくなるのに10年~15年掛かることが欠点で,他地域に栽培を拡げることは基本的には難しそうです。(参考:Wiki.や農畜産業振興機構のWeb)シブの町とホテルシブの町は,ボルネオ島北西部の大河ラジャン

川とイガン川の合流点に位置しており,南洋木材の集積地でした。福建省出身の華僑が多く,今では,ここの人口も20万人を超えているようで,世

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 ログオン・ログオフ(第 10話)

暑さと湿気との戦い(ボルネオのサゴ澱粉)

藤ふじた

田 滋しげる

 楽水会(東京水産大学-現東京海洋大学 

海洋科学部同窓会)元事務局長 

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食品と容器 2016 VOL. 57 NO. 8528

界自然遺産ボルネオ熱帯観光の拠点になってもいる様子です。

この時に泊まったホテルは,「二十四時間電気空調冷気服務」と大きく赤い漢字看板がありました。どうもこの辺りはライフラインが未整備で電気は24時間供給されておらず,泊まったホテルでは供給時間以外はディーゼル発電機で自家発電をしており,大きな看板をわざわざ掲げている理由も判りました。トイレやシャワーは原始的かつ共同使用ですが,3人は幸い別々の部屋を取ることができました。但し,ある日の晩から小生の部屋のエアコンが止まり先輩の部屋に居候しソファーに寝ることになりました。エアコンなしには文明人は我慢ができない程の高温多湿の環境でした。部屋の中にはイモリが天井や壁にへばりついており夜になるとイモリの合唱が聞こえました。こんな簡易ホテルでしたが,虫よけの網戸だけは完璧でしたので,蚊に刺されるようなことはありませんでした。

毎日の様に,小型の手作り風のモーターボート(登録制度以下の船舶だったのでしょうか,毎日乗る船の仕様が異なる)であっちこっちのサゴ椰子の生育地やマルコ・ポーロ時代と変わらぬ工場(というより作業拠点)に行きました。この時に何処かで見たようなジャングルの光景は「地獄の黙示録」を思い出させました。

現在のサラワク州自然遺産観光の様子をインターネットで見ると,瀟

しょうしゃ

洒な小型船でジャングルの

河岸巡りをすることをジャングル・リバー・サファリなんてしゃれた言葉で書かれています。

ボルネオ出張という貴重な体験をさせていただきましたが,澱粉の中では,サゴ澱粉は粒子が大きいので糖化原料としての歩留りは実験室的には良いとはいえ,受け入れごとに水分含量が一定しないので結局は扱い易い優れた糖化原料にはならないとの結論が僕の転勤したあとには出たようでした。(お日様相手の天日乾燥という方式では水分含有率が様々で,本格的な乾燥ドラムを入れるほどの付加価値は生まれない)

でも,何時かはアフリカや南米を経験した自然愛好家としてサラワクのジャングル・リバー・サファリには是非行きたいと思います。三粉担当とは,小生の造語商社勤務の中で最初の国内3部店では担当商品

群の中に必ず白い粉がありました。砂糖,小麦粉,澱粉です。個人的には三粉なんて地味でつまらんなんて印象を持ちましたが,大手メーカー,代理店,特約店という形式の商流の中で口銭取得型内販商売の完成形的な商売でした。商品知識の第1歩は荷姿で,紙袋(カミタイ)で,大袋(オオタイ),小袋(コブクロ)と読むことでした。今でも,製品名の記号を多少は諳

そら

んじることができます。これ等の原料商品群を担当していたおかげで,ありとあらゆる食品製造の工場に商社マンとして入ることもできました。いわば,僕の食料商売の原点であり財産かもしれません。

編 集 後 記

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編集人 荒 井 俊 夫発行人 田 嶋 一 雄印刷所  大和サービス株式会社

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定 価1部 800円年間 8,000円

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−禁無断転載−

●6月英国で欧州連合(EU)から離脱の是非を問う国民投票があり 「離脱派」 が勝利しました。この結果を一部の英国民は喜んでいないと聞きます。また米国では新しい大統領選挙の予備選挙が終盤に入り 「トランプ現象」 といった新しい言葉も生まれ,今後どうなるか気になるところです。日本に目を向けると7月の参議院選と都知事選が行われ,今回から18歳以上に選挙権が与えられ政治にどの様に反映されて行くかも気になるところです。  ●いよいよ8月5日から「リオオリンピック」が始まります。いろいろ心配されていますので問題なく終わることを祈るばかりです。最後に2020年の東京オリンピックへうまくタスキを渡してくれることを願います。(孝)

第57巻 第8号平成28年8月 1日発行