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30 - 1 1. はじめに 1. 1. 研究の背景と目的 テンセグリティはKenneth Snelsonによって発明さ れ、その後 R.Buckminster Fuller が発展させ、命名し たとされている。Maxwellの公式で要求されるよりも 少ない部材数で構成することができるのが特徴であり、 最少部材で空間を構築できるため、 ( 註 1) 仮設建築とし ての応用可能性は高いと言える。一方で、重力下での 最終形態の決定や構造解析が困難、また、複雑な構造 により施工に長時間を要する等の様々な課題があり、 建築への応用例は数少ない。 本稿ではDiamond Patternのテンセグリティを対象 として、 ( 註 2) 引張材の材料を線材から膜材に置換する デザイン手法を考察し、膜材を用いたテンセグリティ の特徴を明らかにすることを目的とする。また、筆者 らが製作した仮設の茶室「筍庵」を事例に挙げ、仮設 建築への応用を検討する。なお、「筍庵」の特徴として は以下の点が挙げられる。 1) テンセグリティ構造である。 2) 引張材に膜材、圧縮材に竹材を用いている。 3)ユニット化され、組み立て・解体が容易であり、特 殊な技術を要することなく少人数・短時間にて行なう ことが可能である。 4) 分解し、2t ロングトラックで運搬可能である。 1. 2. 研究の方法 2章でテンセグリティの特性を整理し、3章で線材 から膜材へ置換する手法を述べる。4章で事例をもと に、架構概要や部材のディテールから設計手法につい て考察する。5章では、試行建設により、架構の構法 と施工性を検証する。得られた知見より仮設建築への 応用を検討していく。 膜材を引張材とするテンセグリティ構造物の設計手法 ー仮設の茶室「筍庵」を事例としてー 井田 久遠 2. テンセグリティについて 2. 1. 構造的特性 テンセグリティは一般的に「互いに接しない圧縮材 と連続する引張材により構成される」と定義されてい る。圧縮材と引張材を完全に分離することで、それぞ れの部材の性質を最大限利用できる合理的な構造であ る。R.B.Fullerはテンセグリティを風船や車輪の構造 に似ていると説明した。風船は内部の空気が外に拡張 しようとする力と、風船が内向きに萎もうとする力が 釣り合っている。同様に、テンセグリティでは圧縮材 が外に飛び出そうとするのを、引張材が内向きに縛り 上げることで自己釣り合い状態となる。風船内の空気 が増加すると体積も増大し、強度も強くなるのと同じ く、テンセグリティの内力を増加することで構造体と しての強度や耐荷重能力も向上させることができる。 2. 2. テンセグリティ構造物の課題 テンセグリティについては様々な研究がなされてい るが、実際の構造物は数少ない。本稿では、意匠や構 法の観点からテンセグリティを仮設建築へ応用するた めに、以下の課題に着目して考察する。 ①施工性; 柱や梁といった一般的な構造部材とは異な り、部材の位置や向きが複雑である。さらには張力が 導入されるまでは部材が立ち上がらず、全体を把握し にくいことから施工が難しい。 ②空間性; 圧縮材と引張材がそれぞれスチールパイプ、 ワイヤー等でつくられることが多く、屋根や壁要素が ないため、線材だけで空間を規定するのが困難である。 3. 膜材によるテンセグリティ 3. 1. Diamond Pattern Diamond Patternは1本の圧縮材に引張材が4本接 続されており、その引張材がひし形(Diamond)を形成 している。このとき、圧縮材はひし形の長手方向の対 角線長さを定義している。 圧縮材の数によって形態が決定され、1層の圧縮材 図 1-1. 「筍庵」外観 図 1-2. 「筍庵」立面図 図 3-1. Diamond Pattern の展開図と形態 A joins to A 頂部 底部 正 5 角形を基本平面とした形態 c = 5 の展開図 y x joins to B B 4,030 3,117.7

膜材を引張材とするテンセグリティ構造物の設計手法...30 - 1 1. はじめに 1. 1. 研究の背景と目的 テンセグリティはKenneth Snelsonによって発明さ

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1. はじめに1. 1. 研究の背景と目的

テンセグリティは Kenneth Snelson によって発明され、その後 R.Buckminster Fuller が発展させ、命名したとされている。Maxwell の公式で要求されるよりも

少ない部材数で構成することができるのが特徴であり、

最少部材で空間を構築できるため、( 註 1) 仮設建築とし

ての応用可能性は高いと言える。一方で、重力下での最終形態の決定や構造解析が困難、また、複雑な構造により施工に長時間を要する等の様々な課題があり、建築への応用例は数少ない。

本稿では Diamond Pattern のテンセグリティを対象として、( 註 2) 引張材の材料を線材から膜材に置換するデザイン手法を考察し、膜材を用いたテンセグリティの特徴を明らかにすることを目的とする。また、筆者らが製作した仮設の茶室「筍庵」を事例に挙げ、仮設建築への応用を検討する。なお、「筍庵」の特徴としては以下の点が挙げられる。1)テンセグリティ構造である。

2)引張材に膜材、圧縮材に竹材を用いている。

3)ユニット化され、組み立て・解体が容易であり、特

殊な技術を要することなく少人数・短時間にて行なう

ことが可能である。

4)分解し、2tロングトラックで運搬可能である。

1. 2. 研究の方法2 章でテンセグリティの特性を整理し、3 章で線材

から膜材へ置換する手法を述べる。4章で事例をもとに、架構概要や部材のディテールから設計手法について考察する。5 章では、試行建設により、架構の構法と施工性を検証する。得られた知見より仮設建築への応用を検討していく。

膜材を引張材とするテンセグリティ構造物の設計手法

ー仮設の茶室「筍庵」を事例としてー

井田 久遠

2. テンセグリティについて2. 1. 構造的特性

テンセグリティは一般的に「互いに接しない圧縮材と連続する引張材により構成される」と定義されている。圧縮材と引張材を完全に分離することで、それぞれの部材の性質を最大限利用できる合理的な構造であ

る。R.B.Fuller はテンセグリティを風船や車輪の構造に似ていると説明した。風船は内部の空気が外に拡張しようとする力と、風船が内向きに萎もうとする力が釣り合っている。同様に、テンセグリティでは圧縮材が外に飛び出そうとするのを、引張材が内向きに縛り上げることで自己釣り合い状態となる。風船内の空気が増加すると体積も増大し、強度も強くなるのと同じく、テンセグリティの内力を増加することで構造体としての強度や耐荷重能力も向上させることができる。2. 2. テンセグリティ構造物の課題

テンセグリティについては様々な研究がなされているが、実際の構造物は数少ない。本稿では、意匠や構法の観点からテンセグリティを仮設建築へ応用するために、以下の課題に着目して考察する。①施工性; 柱や梁といった一般的な構造部材とは異なり、部材の位置や向きが複雑である。さらには張力が導入されるまでは部材が立ち上がらず、全体を把握しにくいことから施工が難しい。②空間性; 圧縮材と引張材がそれぞれスチールパイプ、ワイヤー等でつくられることが多く、屋根や壁要素がないため、線材だけで空間を規定するのが困難である。3. 膜材によるテンセグリティ3. 1. Diamond Pattern

Diamond Pattern は 1 本の圧縮材に引張材が 4 本接続されており、その引張材がひし形(Diamond)を形成している。このとき、圧縮材はひし形の長手方向の対角線長さを定義している。

圧縮材の数によって形態が決定され、1 層の圧縮材

図 1-1. 「筍庵」外観 図 1-2. 「筍庵」立面図 図 3-1. Diamond Pattern の展開図と形態

A joins to A 頂部

底部

正 5角形を基本平面とした形態c = 5の展開図

y

xjoins to BB

4,030

3 ,117.7

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数を c とすると、頂部と底部では正 c 角形が形成される。また、図の x 軸方向だけでなく、y 軸方向にも拡張可能であり、y 軸方向への拡張は層として形態に現れてくる。( 図 3-2) このとき 1 層の引張材数 s は 4 c となるので、層数を l で表すと、総部材数 m は m = ( c + c × 4 ) × l = 5 c l となる。(ただし、1層の場合は m = 4 c )( 註 3)

3. 2. 線材から膜材への置換方法Diamond Pattern において、引張材を線材から膜材

に置換する方法を示す。( 註 4) 線材を用いた基本パターンをAとし、膜材を用いた場合をそれぞれB、C、Dとした。B と C は、ひし形を形成している引張材を線材4 本から膜材 1 枚に置換することで得られる。このとき、総部材数は m = ( c + c ) × l = 2 c l となる。また、BとCは置換する引張材の選択は同じだが、膜材の位置が内部もしくは外部で異なる。B は膜材が圧縮材と接触し、長手方向で折れ曲がるが、C では膜材と圧縮材は節点以外では接触していない。Dは、最上層と最下層で線材 3 本を膜材 1 枚に置換し、それ以外の層では線材 4 本を膜材 1 枚に置換することで得られる。ただし、頂部と底部に正 c 角形の膜材を必要とする。総部材数は m = ( c + c ) × l +2 = 2 c l + 2 となる。また、線材と膜材の両方を用いるパターンとしてEが存在する。水平方向に繋がる引張材を1枚の膜材に置換し、その他の引張材には線材を用いる。総部材数は m= c l + 2 c l + ( l + 1 ) = 3 c l + l + 1 となる。

3. 3. ユニット化パターン B と C では、ひし形の長手方向長さを定義

している圧縮材と膜材を予め接合しておくことで、ユニット化することができる。圧縮材 1 本に膜材 1 枚を接合したものを1ユニットとすると、総部材数は m= c l となり、さらに部材数を減らすことが可能である。3. 4. 膜材の挙動

膜材を引張材として用いる際に、膜材の構造的挙動を把握しておく必要があるため、パターンBの膜を対象に図 3-4 に示す規模で構造解析を行なった。( 註 5) 頂点a,cを固定し、頂点b,dに外向きの荷重を加えた。応力は膜全体に分散して発生しているが、頂部では極端に集中した。応力が最少部分では 0.5kgf/mm2なのに対して、最大部分では 9.1kgf/mm2 となっている。つ

図 3-2. 3 層からなる Diamond Pattern の展開図

図 3-3. 膜材を用いたテンセグリティのデザインパターン

A joins to A

joins to B

joins to C

joins to D

B

C

D

y

x

1 層目

2 層目

3 層目

圧縮材

引張材( 線材 )

引張材( 膜材 )

1 ユニット

圧縮材( 外部 )

圧縮材( 内部 )

引張材( 膜材 )

引張材( 膜材 )

1 ユニット

圧縮材

引張材( 膜材 )

引張材( 膜材 )

パターン Aを基本形とする。引張材は全て線材である。部材数が多く施工に長時間を要する。また、細長い線材で構成されているため、空間を把握しにくい。

複数の引張材を膜材1枚に置換する。頂部と底部にも膜材が必要となる。部材数が減り、施工が容易になる。膜が壁や屋根となり空間が出来上がる。

水平方向に繋がる引張材を膜材 1枚に置換する。その他は線材のままである。内部に膜材が現れる。部材数が減り、施工が容易になる。膜が屋根や床となり空間が出来上がる。

引張材( 膜材 )

圧縮材

引張材( 線材 )

引張材( 膜材 )

線材を引張材としたテンセグリティ

膜材を引張材としたテンセグリティ

線材と膜材を引張材としたテンセグリティ

パターンA

パターンB

パターンC

パターンD

パターンE

線材 4本を膜材 1枚に置換する。圧縮材が外部に現れ、膜材に包まれるように接触する。部材数が減り、施工が容易になる。ユニット化すると、さらに施工時間を短縮できる。膜が壁や屋根となり空間が出来上がる。

線材 4本を膜材 1枚に置換する。圧縮材が内部に現れ、膜材とは節点以外では接触しない。部材数が減り、施工が容易になる。ユニット化すると、さらに施工時間を短縮できる。膜が壁や屋根となり空間が出来上がる。

m = ( c + 4 × c ) × l = 5 c l ※s = 4 c

※s = c、頂部と底部の膜材が必要 m=(c+c)×l+2=2cl+2

m=(c+c ) × l = 2 c l ユニット化により、 m = c l ※s=c

m=(c+c ) × l = 2 c l ユニット化により、 m = c l ※s=c

※s = 2 c l + ( l + 1 )  (線材+膜材) m=cl+2cl+(l+1)=3cl+l+1

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まり頂部では中央部の約 18 倍の応力がかかっているため、仮設建築への応用には頂部の補強が必要である。特に頂部の形状が鋭利な a,c に応力が集中していることから、頂部の膜材の断面が小さいほど応力が集中しやすく補強が必要と考えられる。また、辺ab、辺cd、線分bdでは力が流れているが、辺bc、辺adは膜がたるむと考えられる。膜材端部にエッジケーブルを付加するなど、膜全体に張力を入れる処理を検討する必要がある。

4. 「筍庵」について4. 1. 架構概要

筆者らは可搬性能に優れているパターン B のテンセグリティ、「筍庵」を製作した。これは圧縮材に竹材、引張材に膜材を用いたテンセグリティである。3層の Diamond Pattern であり、頂部と底部が 6 角形のテンセグリティを重ねたものである。「筍庵」の上部は日差しを遮るために狭まっており、1 辺が 800mm の正 6 角形、下部は 4 畳半の平面が取れるように 1 辺が1800mm の正 6 角形から成る。それらをつなぐように正 6 角形を基本平面としたテンセグリティを 3 層配置することで全体を形成している。( 註 6)

4. 2. ユニット概要「筍庵」では竹材 1 本と膜材 1 枚を接合したものを 1

ユニットとする。各層は6つのユニットから形成されており、全体で 18 のユニットがある。なお、層ごとにユニットの形態は異なっており、ユニット①、②、③を製作した。①、②の圧縮材は 2500mm、③は出入口となることを考慮して 3500mm とした。また、ユニットの重量はそれぞれ、4kg、4kg、5.5kgであり、総重量が約81kgと超軽量の架構である。4. 3. ユニットのディテール4. 3. 1. 膜材

膜材は伸縮性がなく強度のあるもの(C種膜)を選択した。膜材の4つの頂部にハトメを取り付け、ハトメからターンバックルで締め上げることで初期張力を導入する仕組みである。その際、4 つのハトメに応力が集中するため、膜材頂部には膜材を1枚圧着して補強した。さらに、膜材の端部は折り返して縫製しているため、膜材頂部には4枚の膜材が集まり、最大厚みの部分でハトメを取り付けた。また、膜全体に応力がかかるように、膜材端部にはΦ=5mmの繊維ロープを付加し、エッジケーブルとしている。4. 3. 2. 竹材

テンセグリティは外力を考慮せずに内力のみで釣り合う構造なので、重力による変形を考慮する必要がある。竹の中でも軽量でかつ強度もある真竹を使用することで、重力の影響を極力抑えている。個体差があるが直径は50 〜 60mmである。「筍庵」では竹の長手方向で圧縮力を負担させた。その際、竹材は木材よりも強度が高いが、縦に繊維が伸びているため、割裂しやすいことに留意する必要がある。この性質を考慮し、竹本体を加工するのではなく、竹の端部からボルトを挿入し、割り箸とエポキシ樹脂を詰め込むことで、摩擦力により力を全体に伝達している。4. 3. 3. 接合方法「筍庵」ではユニットごとに接合角度が異なるが、

ターンバックルとカラビナをアイナットに引っ掛けてピン接合とするこで、3次元的に複雑な接合を可能としている。また、ユニット内の接合については、膜材

図 4-2. ユニットの概要と詳細

図 4-1. 「筍庵」架構概要

図 3-4. 膜材の主応力図

1 層目

2層目

3層目

ユニット①

ユニット②

ユニット③

800mm

1400mm

1600mm

2000mm

2000mm

1800mm

アイナット M12

ワッシャー M12節真竹

ナット M12

ボルト M12割り箸 + エポキシ系樹脂

摩擦力の発生

ハトメ Φ=26mm

補強膜

折り返す本体膜

繊維ロープ

仕上がり線

ハトメ Φ=26mm

カラビナ M8( ユニット①と接合 )

カラビナ M8( ユニット②と接合 )

150 1502200

ターンバックル( ユニット作成時は最大長さにしておく )

圧縮材 ( 竹材 )

引張材 ( 膜材 )

ユニット概要(ユニット②の例) 膜材端部 竹材端部

0.91

0.78

0.66

0.53

0.40

0.27

0.14

0.00

-0.07

a

b

c

d[kgf/mm2]13.5kgf

1334

876 1725

1397

13.5kgf

最大応力

【 C 種膜 】

縦弾性係数 : 1.65×102N/mm2

厚さ : 0.55mm

※グリッドにより 30 分割している

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の長手方向の頂部にある2つのハトメと、竹材に接合したアイナットをターンバックルで接合する。その後、締め上げることで膜材に引張力を導入している。ユニット同士の接合は、膜材の短手方向の頂部にはカラビナが付いており、それらを所定のユニットのアイナットと接合するだけで組み上げることができる。5. 試行建設5. 1. 試行建設概要

容易な施工の可能性の検証と、施工時における問題点の把握を目的として、試行建設を行なった。作業人員は 5 〜 10 名とした。部材は予め工場製作とし、現場建方はユニット化している状態で行なった。仮設建築として繰り返し利用することを想定し、建方と解体を4度ずつ行なった。5. 2. 現場建方

現場建方は特殊な工具を用いず全て人力で行なった。1,2,3 層目の順に上から組み立てていく。施工内容はユニットに付けられたカラビナを所定のアイボルトに接合するだけである。ただし、接合していくにつれ徐々に内力が増大していくため、不必要な外力を与えないために接合順序が重要となる。同じ層の中で対角にあるユニットを同時に接合していくことで釣り合いを取りながら組み立てた。また、一部ではワイヤーを用いた。(註7)1回目の建方は膜材だけを引張材として行なった。人員は 5 人、約 40 分で組み立てが完了した。2回目の建方では、7 〜 10 人で行ない、ワイヤーを付加したところ約80分を要した。膜材を用いることで、短時間で組み立てられ、施工が容易になったと考える。6. 考察

膜材への置換により、4 つのデザインパターンを

確認したが、それらのパターンを合成することによ

り、新しいパターンを生み出すことが可能である。(図

6-1,6-2) 合成することにより引張材が増え、構造物と

してさらに安定すると考えられる。建方試験において、

ワイヤーで引張力を負担させると、ハトメ周辺部分から膜材が破損した。膜よりも内力が増加したため、さらに補強をするか、応力を分散させる接合方法の開発が必要である。また、引張力を導入する過程で、竹材に圧縮力が生じるが、竹材のしなりにより曲げも発生する。竹材端部で座屈が生じたので、端部の剛性を高める必要がある。7. 結

引張材 ( 線材 ) を膜材へ置換することで、同じ展開

図から、形態や部材数、特徴が異なる4つのデザインパターンが存在することを明らかにした。また、B からEの膜材を合成することで、強度を高めた新たなパターンも生み出せると考えられる。膜材の構造的挙動の解析結果より、建築に応用する際には、頂部の補強が必要である。一方で、膜材の使用により部材数を減らし、運搬性能や施工性能の向上に寄与すると考えられる。同時に、膜材が構造要素だけでなく、屋根や壁要素となり、テンセグリティ自体が空間を創出した。今後の展望として、膜材を用いたテンセグリティの構造解析や構造実験を行なうことで、構造物としての性能を追求していきたい。

【註釈】(註1) 鈴木悠介、川口健一らによる「テンセグリティの分類と部材長に関する一考察」に詳しい。(註2) A.Pughは多様に存在するテンセグリティを、「多面体の中心を圧縮材が通るパターン」と「Diamond Pattern」「Circuit Pattern」「Zigzag Pattern 」の4つに分類している。また、「Circuit Pattern」は圧縮材が連続しているが、A.Pughは、連続した圧縮材が形成する「輪」同士が不連続なため、純粋なテンセグリティとしてみなしている。(註3) 1層の場合、左右の引張材を共有するため圧縮材1本に対して引張材は3本になる。(註4)以下のときは対象としない。1層である。引張材を増やす。引張材を重複して選択する。膜の辺以外で置換する。膜同士が交差する。対称性を尊重し、各層内では同じ置換方法とする。(註5)構造解析は解析ソフト「midas iGen」を用いて行なった。膜材は微小変形を考慮せず、膜と同価な剛性の板材として解析している。圧縮力が発生している箇所は、実際では膜材がたるむと考えられる。また、板材はハトメの大きさを考慮して30分割している。(註6)「筍庵」本体だけで内力が釣り合い、アンカー等の外力を必要としないが、茶室として使用したため、畳等を設置する下部架構も同時に製作し、接合した。また、下部架構は重りとしての機能もある。(註7)膜材を用いているが、出入口のために3層目のみワイヤーを付加し引張力を負担させた。

【参考文献】1) Anthony Pugh; An Introduction to Tensegrity, University of California Press, 1976.2) 鈴木悠介、川口健一; テンセグリティの分類と部材長に関する一考察(その1: 多面体パターンを中心として), 2003. 093) 工藤智之、岡田章、宮里直也、安田真弓、斎藤公男; HP張力膜をハイブリッド化したテンセグリック・トラス(TypeⅠ)の基本的構造特性に関する研究, 2011.084) マーティン・ポリー ; バックミンスター・フラー , 鹿島出版会, 19945) essay by Eleanor Heartney/ additional text by Kenneth Snelson; KENNETH SNELSON forces made visible, Hudson Hills Press, 2009. 05.6) Joachim Krausse, Claude Lichtenstein; Your Private Sky R. バックミンスター・フラー アート・デザイン・サイエンス, Lars Muller Publishers, 2002. 03

図 6-3. 膜材端部の破損

図 6-1. (左・中)Bと D を合成した模型 図 6-2. (右)B〜Eを合成した 形態

図 6-4.  竹材端部の破損

図 5-1.  建方順序

ユニット①を接合する 1層目を持ち上げながらユニット②を接合する

最後の 2つは内力が最大になるので思い切り引きながら接合する

ターンバックルを締め上げて張力を導入し、安定させる

更に持ち上げ順序よくユニット③を接合する

釣り合いを取りながら対角の 2つずつ接合する