11
静水圧の圧力積分による船の浮心位置の決定 その4:三角柱に対する証明 A Positioning on Ship’s Centre of Buoyancy Derived by Surface Integral of Hydrostatic Pressure Part 4 : The Proof for Triangular Prism Tsutomu HORI

静水圧の圧力積分による船の浮心位置の決定...4 月 静水圧の圧力積分による船の浮心位置の決定 ― その4:三角柱 に対する証明 ― 堀

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Page 1: 静水圧の圧力積分による船の浮心位置の決定...4 月 静水圧の圧力積分による船の浮心位置の決定 ― その4:三角柱 に対する証明 ― 堀

4 月

静水圧の圧力積分による船の浮心位置の決定

― その4:三角柱に対する証明 ―

堀 勉

A Positioning on Ship’s Centre of Buoyancy Derived by Surface Integral of Hydrostatic Pressure

― Part 4 : The Proof for Triangular Prism ―

Tsutomu HORI

Page 2: 静水圧の圧力積分による船の浮心位置の決定...4 月 静水圧の圧力積分による船の浮心位置の決定 ― その4:三角柱 に対する証明 ― 堀

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1..前前 書書 きき 船に作用する浮力の中心「浮心」は,水面下の

体積(排水体積)を水で置き換えた重心(即ち,水

面下の幾何学的形状の体積中心)に等しいことは,

造船学上,否,物理学上の周知の事実である. Archimedes の原理 (1) が教える浮力は,静水圧

の圧力積分によって明快に求められるが,浮心位

置については,物理学 や水理学,造船学や航海力

学など,どの教科書(例えば,第 1 報(2)の参考文献

(2)~(16) )にも,水面下の体積を水で置き換えた

重心位置であると記述されていて,静水圧による

圧力中心としての説明は見当たらない. そんな状況の中,10 年ほど前,小松 (3) によって,

「浮心≠圧力中心?」の問題提起が成され,日本船

舶海洋工学会の推進性能・運動性能合同研究会等

で,瀬戸(4),(5),鈴木(勝) (6),芳村・安川(7),小松(8),薮下(9),慎(10)らによって,活発に議論が成された.

この問題に対して,著者は,この航海学会誌上

で,第 1 報(2)と第 2 報(11)において,鉛直方向の圧

力中心を定められない原因は,直立状態では,水

平方向の力が平衡してゼロになる為であると考え,

その打開策として,船を だけ横傾斜させた状態

で,静水圧を圧力積分し,船に固定して傾斜した

座標系に関して,作用する力とモーメントを計算

した. その場合,合力の両成分ともゼロにならな

いことから,傾斜時の圧力中心を決定し得ること

を示した. その結果を, 0 とすることで,圧

力中心が,直立状態での水面下の図心,即ち,周知

の浮心に位置することを,矩形断面(2)に続いて,

任意の横断面形状(11) について証明した(12). この問題については,一色(13) や 藪下(14) は,重

力の作用方向を,鉛直方向から傾斜させることに

より,「浮心=圧力中心」であることを示した. その後,藪下ら(15)は,浮体や重力の作用方向を傾斜

させるのではなく,座標系のみを傾斜させること

で,同様の結論が得られることを示した. 一方,

鈴木(勝) (16) ,小松(17),(18) ,一色(19)が,種々のアプ

ローチで,この問題に対して検討を加え,議論も

深まってきた. このような状況に鑑み,著者は,第 3 報(20)とし

て,傾斜しても水面下の形状が変化しない半没円

柱についても,「浮心=圧力中心」であることを証

明した. この第 4 報では,三角柱について,同様な手法

により,「浮心=静水圧の圧力中心」であることを

証明する. 前報(20)の半没円柱と同様,任意形状(11)

の証明に含まれるものであるが,矩形 (2)や半没円

柱(20)と共に典型的な断面形状であるので,これを

公表することも,強ち無意味ではないと考え,こ

こにご報告させて頂く次第である.

研究・調査

静静水水圧圧のの圧圧力力積積分分にによよるる船船のの浮浮心心位位置置のの決決定定

―― そそのの44::三三角角柱柱にに対対すするる証証明明 ――

堀 勉

A Positioning on Ship’s Centre of Buoyancy Derived by Surface Integral of Hydrostatic Pressure

―― Part 4 : The Proof for Triangular Prism ――

Tsutomu HORI キキーーワワーードド:: 浮心,圧力中心,三角柱,静水圧,圧力積分

キキーーワワーードド:: メタセンター半径,復原性,横傾斜角,浮心移動,露出部と没入部の楔型

日本航海学会誌 NAVIGATION(令和 2 年 7 月 第 213 号)投.稿

令和 2 年 7 月50 NAVIGATION( 研究・調査 )

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2..三三角角柱柱のの圧圧力力中中心心 PC のの位位置置決決めめ

図 1 は,三角柱(幅 2b ,吃水 f ,乾舷 h ,頂角

2 )が,右舷側に だけ横傾斜した場合の横断面

を示す.ここに,直立時の三角柱の水線の半幅 bは,吃水 f と半頂角 を用いて,

tanb f ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)

と書ける. この三角柱の横断面は,底辺(甲板長)

2( ) tanf h ,高さ f h ,両辺 ( )secf h の二等

辺三角形である.

2. 1 左左右右両両舷舷のの浸浸水水長長ななどどのの準準備備計計算算

図 1 の水線付近の露出部(左舷 Left)の三角形

L LoE T と没入部(右舷 Right)の三角形 R RoE Tについて, L L Lx U E , R R Rx U E は,それぞれの

三角形の高さ L L Lq U T , R R Rq U T に対して,幾

何的に,

( ) tantan

( ) tantan

LL L

RR R

xq b x

xq b x・・・・・・・・・・・(2)

の関係にあるから,

( ) tan tan( ) tan tan

L L

R R

x b xx b x

・・・・・・・・・・・・・・(3)

である. ,L Rx x は,半幅 b に対して(1)式の関係を

用いて,解くことにより,

tan1

tan1

L

R

x f

x f・・・・・・・・・・・・・・・・・(4)

のように求まる. 但し,式中の は,半頂角 と

横傾斜角 それぞれの正接の積として,

tan tan ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(5)

で定義したものである.

次に,左右両舷側における,乾舷の増分長 Ls と,

減分長 Rs は,それぞれ,

secsin 1

secsin 1

LL

RR

xs f

xs f・・・・・・・・・・・・(6)

となる.

よって,左右両舷側の浸水長 ,,L R は,

1sec sec1

1sec sec1

sec sec sec sec sec sec

sec sec sec sec sec sec

L L

R R

f s f

f s f・・・・・・・(7)

である.

図 1 横傾斜した三角柱の横断面

LL RR

Lb

Rb

b

Lq

Rx

Rq

RT

RE

RU

Lx

K

LT

LELU

oLs

f h( ) sec

f

h

00000

Rs

213号 51静水圧の圧力積分による船の浮心位置の決定 ― その4:三角柱に対する証明 ―

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また,左右両舷側の水線幅 ,L Rb b は, (3)式の

,L Rx x を用いて,

1( ) sec tan sec1

1( ) sec tan sec1

L L

R R

b b x f

b b x f ・・・(8)

のように求まる.よって,水線幅は,

2

2 tan sec1

L Rb b f ・・・・・・・・・・・・(9)

である.

よって, だけ横傾斜した三角柱の,水面下の

三角形 L RK T T の面積 A は,

22

1 1( ) cos tan2 1L RA b b f f

・・(10)

であり,直立状態( 0 )の

20

tanA f

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(11)

より, 2 A だけ,水面下の面積が増加している.

2. 2 三三角角柱柱表表面面にに働働くく圧圧力力にによよるる力力

図 1 の三角柱の横断面に働く圧力分布と,その

積分値である力を,図 2 に示す.

座標系は,静水面中央に原点 o を置き,z 軸を鉛

直下向きに取った空間固定座標系を o y z ,三角

柱に固定して傾斜した座標系を o とする.

大気圧を 0p ,水の比重量を とし,大気圧を破

線,静水圧 z を実線,それぞれの圧力を細線,力

を太線のベクトルで示していて,全て,三角柱表

面に対して,垂直方向に作用する.

船底に当たる三角形の頂点 K の 水深 fZ は,

cosfZ f ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(12) である.

左舷(Left),右舷(Right)に働く力 LeftP , RightPは,それぞれ舷側全体に働く一様分布の大気圧に

よる ( 0 )Lef tP , (0)

RightP と,没水部に働く三角形分布の静

水圧による ( )LeftP , ( )

RightP の和で求まるから,(7)式の

浸水長 ,L R を用いて,

(0) ( )

0

20

(0) ( )

0

20

1( )sec21 sec cos( )sec2 1

1( )sec21 sec cos( )sec2 1

Left Left Left

f L

Right Right Right

f R

P P P

p f h Z

p f h f

P P P

p f h Z

p f h f

(13)

となる. 甲板(Upper)に働く力 UpperP は,大気圧

による ( 0 )UpperP のみが作用するから,

(0)

02 ( ) tanUpper UpperP P

p f h

・・・・・・・・・・・・(14)

となる.

2. 3 方方向向とと 方方向向のの合合力力 F , F

浮体固定の , 方向に働く合力 F , F は,

(13),(14)式の LeftP , RightP , UpperP を用いて,

2

0 0

22

2

(0)0

22

cos cos

1 1 1cos2 1 1

( ) ( )

cos sin1sin sin

1 1 1tan cos2 1 1

2 ( ) tan

tan cos cos1

Right Left

Right Left Upper

Upper

F P P

f

p f h p f h

f A

F P P P

f

p f h P

f A

(15)

のように,それぞれ浮力 A の傾斜角 に関する正

弦成分と余弦成分として求まる. この結果から,

大気圧 0p は相殺して,浮体に作用する合力には寄

与しないことが分かる.

2. 4 y方方向向とと z方方向向のの合合力力 yF , zF

水平成分( y 方向)の yF ,鉛直成分( z 方向)

の zF を,前節の F , F を座標変換して求める.

水平成分の yF は,

NAVIGATION 令和 2 年 7 月52

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cos sin

(sin cos cos sin )0

yF F F

A

となって,横傾斜して左右非対称な場合でも,合

力の水平成分は生じない. 鉛直成分の zF は,

2 2

cos sin

(cos sin )zF F F

AA

のように,比重量 と,(10)式に示す三角柱の水面

下の横断面積 A の積で得られていて,Archi-medes の原理が教える,浮力である.

この yF , zF については, (13),(14)式の L e f tP ,

RightP , UpperP から,直接,求めることもできる.

実際,水平成分の yF は,

2

0

22

0

cos ( ) cos ( ) sin

1 cos ( ) cos ( )sec cos2 1 1

( )

sec cos ( ) cos ( ) 2 tan sin

sin sin cos cossec cos1

2 ( )sin (sin sec tan )

0

y Right Left UpperF P P P

f

p f h

f

p f h

となり,鉛直成分の zF は,

y

z

o

(0)UpperP

( )LeftP

( )RightP

( )RightP

( )RightP

(0)LeftP

(0)RightP

( )RightP

zF

PC

F

F

( )Rv

(0)Rv

( )Lv

(0)Lv

( )Lv

(0)Lv

( )Rv

(0)L Rv

PP

Py

cos3Pfz

cosfZ f

3L

3R

sec2

f h

sec2

f h

0p

0p

0p0p

0p

0p

図 2 横傾斜した三角柱の横断面に作用する静水圧の分布と圧力中心

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(18)

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(16)

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(17)

P

y

z

o

(0)UpperP

( )LeftP

( )RightP

( )RightP

( )RightP

(0)LeftP

(0)RightP

( )RightP

zF

PC

F

F

( )Rv

(0)Rv

( )Lv

(0)Lv

( )Lv

(0)Lv

( )Rv

(0)Rv

P

Py

cos3Pfz

cosfZ f

3LL

3RR

sec2

f h

sec2

f h

0p

0p

0p0p

0p

0p

213号 53静水圧の圧力積分による船の浮心位置の決定 ― その4:三角柱に対する証明 ―

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2

0

22

0

2

sin ( ) sin ( ) cos

1 sin ( ) sin ( )sec cos2 1 1

( )

sec sin ( ) sin ( ) 2 tan cos

sin cos cos sinsec cos1

2 ( )cos (sin sec tan )

sec

z Right Left UpperF P P P

f

p f h

f

p f h

f

2

22

sin seccos1

1 tan1

f A

となって,共に大気圧 0p は相殺され, , の

座標変換から得られた(16),(17)式と同一の結果が

得られることから,2.2 節の圧力による力が,正し

く計算されていることを確認できた.

2. 5 ,, 方方向向のの圧圧力力にによよるるモモーーメメンントト

三角柱側面に垂直に働く圧力による力 LeftP ,

RightP の 方向成分によって生ずる,o 点回りのモ

ーメント M を計算することを考える.

等分布の大気圧成分 ( 0 )による左右両舷の 軸

に 平 行 な レ バ ー (0)Lv , (0)

Rv は , 舷 側 長 が

( )secf h だから,

(0) (0) ( )sec cos2

2 2

L Rf hv v f

f h f hf

のように,左右同長として得られる. 三角形分布の静水圧成分 ( ) による左右両舷の

軸に平行なレバー ( )Lv

, ( )Rv

は,(7)式の浸水長

,L R を用いて,

( )

( )

1cos3 3(1 )

2 33(1 )

1cos3 3(1 )

2 33(1 )

LL

RR

v f f f

f

v f f f

f

となる. これにより,原点 o に関する 方向の圧

力による時計回りのモーメント M は,(13), (20),

(21)式を用いて,

2 2

(0) (0) ( ) ( )

(0) (0) ( ) ( )

3

(0) (0)0

23

2 2

2

2

2 3 2 3(1 ) (1 )

cos cos

( cos cos )

1 cos6

( ) ( )

(1 3 ) cos(1 )1 3 sin1

1313

Right R Right R

Left L Left L

R L

M P v P v

P v P v

f

p f h v v

f

f A

のように,大気圧 0p に依らず求まる.

同様に, Lef tP , RightP の 方向成分と UpperP によ

って生ずる, o 点回りのモーメント M を,計算

する.

大気圧成分 ( 0 )による 軸に平行なレバー ( 0 )Lv ,

(0)Rv は,

(0) (0) ( )sec sin2

tan2

L Rf hv v

f h

のように,(20)式と同様,左右同長である.

静水圧成分 ( ) による左右両舷の 軸に平行な

レバー ( )Lv , ( )

Rv は,(7)式の ,L R を用いて,

( )

( )

tansin3 3(1 )

tansin3 3(1 )

LL

RR

v f

v f

となる. よって,原点 o に関する 方向の圧力に

よる反時計回りのモーメント M は, (13), (23),

(24)式により,

2 2

(0) (0) ( ) ( )

(0) (0) ( ) ( )

3 2

(0) (0)0

23

2 2

2

1 1(1 ) (1 )

sin sin

( sin sin )

0

1 tan cos6

( ) tan ( )

2 tan cos3 (1 )2 tan3 1

Right R Right R

Left L Left L

Upper

R L

M P v P v

P v P v

P

f

p f h v v

f

f A

2 sin

F F

・・・・・・・・・・・・・・(19) ・・・・・・・・・・・(22)

・・・・・・・・・・・・(25)

・・・・・・・・・・・・(20)

・・・(21)

・・・・・・・・・・・・・・・・・・(23)

・・・・・・・・・・(24)

NAVIGATION 令和 2 年 7 月54

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のように,M と同様,大気圧 0p に依らず求まる.

2. 6 横横傾傾斜斜時時のの圧圧力力中中心心 PC のの位位置置決決めめ

圧力中心 PC を,浮体固定の o 座標系で位

置決めするには,第 1 報(2),第 2 報(11),第 3 報(20)

と同様に,大串(21) が用いた水理学の手法に基づい

て, 座標 P は, 方向の圧力による合力 F と

モーメント M により,(15), (25)式を用いて,

2

2

2

2 tan sin3 1

cos2 tan3 1

P

f AMF A

f

のように, 座標 P は, 方向の圧力による

F と M により,(15), (22)式を用いて,

2

2

2

2

1 3 sin1sin

1 1 33 1

13

P

f AMF A

f

のように定めることができる. この P は,(27)式

に示す通り,傾斜角 0 で 0 となるゼロ因子

sin が,分母と分子で相殺することで得られて

いる. 当初から, 0 として直立状態で計算す

れば,分母の F も分子の M も,共に平衡してゼ

ロとなるから,不定形となって, P を確定できな

い. これが,横傾斜させることで,圧力中心位置

を確定できた所以である.

これに対し,(26)式の 座標 P は, 0 とし

ても,分子の M は平衡してゼロとなるが,分母

の F は浮力の余弦成分として有限値を取るから,

当初から直立状態で計算しても, 0P として,

求まる訳である.

得 ら れ た 浮 体 固 定 座 標 で の 圧 力 中 心 PC( , )P P を,空間固定の座標系 ( , )P Py z に変換し

てみる. 水平方向の Py は,

2

2

2 2

2

cos sin

1 2 tan cos (1 3 )sin3 11 2 tan 3 1 sin3 1

P P Py

f

f

のように,鉛直方向の Pz は,

2

2

2 2

2

cos sin

1 (1 3 )cos 2 tan sin3 11 (1 3 ) 2 cos3 11 cos3

P P Pz

f

f

f

のように求まる. 後者の鉛直方向の Pz は,水面

を底辺とする,高さ cosf の三角形の,鉛直方向

の図心位置を示していることは,明らかであるか

ら,前者の Py についても,水平方向の図心位置に

一致するかを,次節で検証する.

2. 7 水水面面下下のの三三角角形形のの図図心心位位置置にによよるる検検証証

図 3 は,図 2 の三角柱の横断面の,水面下の面

積を抽出したものである. 三角形の頂点 K と,そ

の鉛直上方に取った原点 oを結ぶ z 軸によって,

L RK T T を左右 2 個に分割して考える. 左側(Left)の三角形 LK o T の面積を LA ,底

辺を Ly ,右側(Right)の三角形 RK o T の面積を RA ,底辺を Ry とする. 高さは共通で, fo K Z

である.

このとき,左右それぞれの面積 ,L RA A は,

1212

L f L

R f R

A Z y

A Z y

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(30)

である. 両者の和である L RK T T の面積 A は,

22

1 ( )21 1( ) tan2 1

L R

f L R

f L R

A A A

Z y y

Z b b f

・・・・(31)

のように,2.1 節の(10)式によって求められる.

また,底辺に相当する ,L Ry y は,それぞれ と

を用いて,

tan tantan( )1

tan tantan( )1

L f f

R f f

y Z Z

y Z Z

・・・(32)

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(29)

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(26)

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(27)

・・・・・・(28)

213号 55静水圧の圧力積分による船の浮心位置の決定 ― その4:三角柱に対する証明 ―

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である.

三角形 L RK T TL RK T TL RK T TL R の, z 軸に関する面積モーメ

ント zM は,分割した左右それぞれの三角形

LK o Tz

LK o TLK o TLK o TK o T , RK o T RK o TRK o TR

K o TK o T の図心 ,L Rg g までの, z 軸か

らの水平距離がレバーとなるから,

2 2

3 31 ( )6

R Lz R L

f R L

y yM A A

Z y y

・・・・・・・・・・・(33)

によって,求め得る. ,L Ry y に (32)式, fZ に

(12)式を用い, が(5)式であることを使って,計算

を進めると, zM は,

2 23

2 2

2 23

2 2

23

2 2

2

2

1 (tan tan ) (tan tan )6 (1 ) (1 )

1 4 sec sec6 (1 )2 tan sec sin3 (1 )2 sec sin3 1

z f

f

M Z

Z

f

f A

のように,(31)式の A を用いて,求まる.

これによって,三角形 L RK T TL RK T TL RK T TL R の図心 G の,z

軸からの水平距離 Gy は,(34)式の zM を,面積 Aで除すことにより,

2

2

2 sec sin3 1

zG

My

A

f

・・・・・・・・・・・・・(35)

のように,定まる.

よって,図心 G の元々の z 軸からの水平距離

Gy は,両原点間の距離 o o が,

sinL Lo o b y f ・・・・・・・・・・・・・・(36)

であるから,

2 2

2

2 2

2

sin

1 2sec 3 (1 ) sin3 11 2 tan 3 1 sin3 1

G G

G

y y o o

y f

f

f

・・・・・(37)

のように,求められる.

一方, y 軸から図心 G までの鉛直距離 Gz は,

L RK T TL RK T TL RK T TL R が,水面( y 軸)を底辺とする,高さ

cosfZ f の三角形であるから,計算するまでも

なく,

1 cos3Gz f ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(38)

である.

よって,(28)式と(37)式,(29)式と(38)式を,見較

べることにより,

P G

P G

y y

z z

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(39)

であることが分かった.

この結果は,横傾斜時の左右非対称な三角形断

図 3 水面下の三角形断面の図心位置

・・・・・・・・・・・・・・(34)

GRgLg

Lb Rb

LyRy

oo

Gy

Gy

z

yRT

K

LT

fZ f cos

fG

Zz

3

LLRRRR

f sin

z

f

NAVIGATION 令和 2 年 7 月56

Page 9: 静水圧の圧力積分による船の浮心位置の決定...4 月 静水圧の圧力積分による船の浮心位置の決定 ― その4:三角柱 に対する証明 ― 堀

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面の圧力中心が,水面下の図心に一致することを

示しているから, 圧力中心が,周知の浮心位置で

あることを証明できた.

2. 8 直直立立時時のの圧圧力力中中心心 PC のの位位置置決決めめ

前節の(39)式で得られた帰結を,明確にするた

めに,傾斜状態で得られた圧力中心 PC の座標

( , )P P において, 0 とすることで,直立状

態の三角柱の圧力中心を求めてみよう.

(5)式の は,横傾斜角を 0 とすると,

0 0tan tan 0

・・・・・・・・・・・(40)

であるから,2.6 節の(26),(27)式により,

0( , ) 0 ,

3P P PfC

・・・・・・・・・・(41)

のように,或いは, 0 では,o 座標系と

o y z 座標系は一致するから,(28),(29)式によっ

ても,同様に,

0( , ) 0 ,

3P P PfC y z

・・・・・・・・・・(42)

のように求まる. この (41),(42) 両式は,明らかに,

水面下の二等辺三角形の図心位置を示しているこ

とから,三角柱に対して,静水圧の圧力中心が,

周知の浮心位置であることを,証明できた.

3..後後 書書 きき

第 1 報(矩 形 断 面 (2)),第 2 報(任意の断 面 形

状 (11)),第 3 報(半没円柱(20))に続いて,この第 4報では,三角柱に対しても,静水圧の圧力中心が,

周知の浮心位置(三角形の図心)に一致することを,

証明した. 謝謝 辞辞

著者が前職(九州大学 応用力学研究所 津屋崎海

洋災害実験所)に赴任した 1987 年頃,当時の実験

所長だった,故 大楠 丹 先生が,夜の博多の街の

酒席で「 浮心というのは,圧力中心ではないのじ

ゃないか?」と,話されたことを想い出します.

その言葉が,頭の深層に残っていて,現職で「浮

体静力学」の講義を担当することになり,本稿の

研究テーマに取り組む契機になったことを実感し,

先生の慧眼に,今更ながら敬意を捧げて,本稿を

閉じます.

参参考考文文献献 (1) ARCHIMEDES : The Works of Archimedes , On

Floating Bodies,Book I & Book II,Edited and

Translated by T. L. HEATH, Cambridge University Press,pp.253~300, 1897.

(2) 堀 勉:静水圧の圧力積分による船の浮心位

置の決定 ― 浮心=圧力中心の証明 ―,日本航

海学会誌,第 203 号,pp.90~94,2018 年 1 月.

(3) 小松 正彦:浮体に働く浮力の作用中心に関す

る考察,舟艇技報,No.93,pp.21~25,2007 年

12 月.

(4) 瀬戸 秀幸:「浮心」考 ― 小松:浮体に働く浮力

の作用中心に関する考察 の再検討 ―,第 14 回

推進性能・運動性能合同研究会,2010 年.

(5) 瀬戸 秀幸:浮力の作用中心に関する一考察,

日本船舶海洋工学会 講演会論文集,第 12 号,

pp.529~532,2011 年 5 月.

(6) 鈴木 勝雄:神説「浮心の法則」,2011 年 1 月.

(7) 芳村康男, 安川宏紀:浮力の作用中心と復原

性の再考, 第 16 回 推進性能・運動性能合同

研究会, 2011 年.

(8) 小松 正彦:座標変換による浮力の作用中心に

関する考察,第 19 回 推進性能・運動性能合

同研究会,2012 年.

(9) 渡辺 倫堂:船体周りの圧力分布と浮心の関係

に関する研究,防衛大学校 機械システム工学

科 船舶工学講座 卒業論文,(指導) 薮下和樹,

岡畑 豪,pp.1~25,2013 年 3 月.

(10) 慎 燦益:造船幾何学 ― 造船設計の基礎知識

―,第 4 章 排水量等計算と曲線図,4.2 アル

キメデスの原理,海文堂,pp.125~133,2013年 2 月(初版).

(11) 堀 勉:静水圧の圧力積分による船の浮心

位置の決定 ― その 2:任意の断面形状の場合

―,日本航海学会誌,第 205 号,pp.28~34,2018 年 7 月.

213号 57静水圧の圧力積分による船の浮心位置の決定 ― その4:三角柱に対する証明 ―

Page 10: 静水圧の圧力積分による船の浮心位置の決定...4 月 静水圧の圧力積分による船の浮心位置の決定 ― その4:三角柱 に対する証明 ― 堀

9 / 9

(12) 堀 勉:「浮体静力学」の基礎理論に対する

新展開 ― その1:「浮心=圧力中心」の証明 ―,

舟艇技法,第 135 号,pp.1~10,2018 年 9 月.

(13) 一色 浩:Pressure Center,2018 年 3 月.

(14) 薮下 和樹:船舶の復原 及び 推進性能(2018 年

度版),第 4 章 浮力と圧力分布の関係,防衛

大学校 機械システム工学科 テキスト,pp.81

~90,2018 年 4 月.

(15) 薮下 和樹,日比 茂幸,岡畑 豪:物体周りの

圧力分布による浮心位置の同定,第 10 回 推

進・運動性能研究会,pp.1~14,2018 年 6 月.

(16) 鈴木 勝雄:見かけの浮心について ― 堀論

文(2) に関連して ―,2018 年 4 月.

(17) 小松 正彦:浮体に働く浮力の作用中心に関

する考察(続報),舟艇技法,第 136 号,pp.12

~18,2018 年 12 月.

(18) 小松 正彦:圧力分布に着目した浮体の「浮力

の作用中心」,第 13 回 推進・運動性能研究会,

pp.1~22,2019 年 6 月.

(19) 一色 浩:浮心について,日本船舶海洋工学会

講演会 論文集,第 28 号,No. 2019S-OS2-9,pp.131~132,2019 年 5 月.

(20) 堀 勉:静水圧の圧力積分による船の浮心

位置の決定 ― その 3:半没円柱に対する証明

―,日本航海学会誌,第 208 号,pp.60~68,2019 年 4 月.

(21) 大串 雅信:理論船舶工学(上巻),1.3 浮力の

例題,海文堂,pp.4~5,1971 年 6 月(初版).

令和 2 年 5 月 5 日 投稿

堀ホリ

勉ツトム

正会員 長崎総合科学大学 工学部 船舶工学コース 教 授( 〠 851-0193 長崎市 網場町 536 ) E-mail:[email protected],HomePage:http://www.ship.nias.ac.jp/personnel/horiken/ 1987 年 大阪大学 大学院 工学研究科 造船学専攻 博士後期課程 修了,工学博士 所属学会:日本航海学会,日本船舶海洋工学会の各会員; 研究テーマ:水面波動力学

NAVIGATION 令和 2 年 7 月58

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日本航海学会誌

令和 2年 7月 第 213号 」∪L 2020 No.213

巻頭言

会長退任のご挨拶/Rθ′Jκ“θ4′ G″θ′j4が力″ PたS′売れ′グ那「・………………………・………・………………・…。…¨̈ ……… 織田 博行/励″ックわODA… (1)

副会長退任にあたって/θ4Rc′′″j4g力 9“ α Иεθ Pた Sブル肩…………・……………………………………………・…。…………下川 伸也/助 jηα品励θκ4″

'4…(2)

会長就任のご挨拶/2α 3/gν′αJ И励たssゲ′力θP″S′虎η′………………………………̈ ……………………………………………………………………………… 庄司 るり/RttrJ辞

〃 … (3)

教育・研究機関紹介

北海道大学水産学部と練習船おしよろ丸の役割/動θ Rο〃げθ〔蘭θROルbrク ノ4励θ丘潮謗あ 磁 Jνθだjク FliS力θ″Jθ s ttJθ 4ε cs

―…・…。…・……………………………………………。………………・……。…。………………… 星 直樹 。木村 暢夫/Aりοわ激%H物4σ 」吻bνο

R4¨。(4)

海事博物館紹介

日本郵船歴史博物館の紹介/シわめε′JοηグⅣ】κ彪力′ノ″θゴ協sθν“………………………………………………………………………………………… 堀江 誠/協 わ′ο″θ朋 … (9)

研究室紹介

水産大学校海洋生産管理学科 漁船運用学研究室

/助 ′′οれαJ Fお 力θ″jθs磁 ブッθだ′ヶ D"α′′“

θ″ げ 乃 動 θη 肋 たηεθ θ4グ ルεル οJον Fjs力 ′辱 Bοα′肋 α“

α4s力 ″ Zα ιο′α′οッ … … …… 酒 井 健 一 /&万 ε力J yttI… 。(18)

大学等奨学褒賞…………………・…………………………………………………………………………………………………………………………………………(22)

解説・展望

PSC(Port state Control)の 実際と対応 ~管理船における受検とその対応~/2ψθε′Jο 4 α4グ ″ル bε′′οれ`ο

′力ιたsノ′α′PSCヵ″“α4鋸θ

“θ4′ ツθSSθな

。…・……………。…・………・……………。……・………………………………………・………。…………………。……・…。…。上月 敏彰/bs力 JαたJκθZug¨ 。(33)

実数の連続性と級数の極限 ―極限値と循環小数の話 一/動θ04′J4ν Jヶ げRθα′Mttιθ″α4グ Zj“′′げ′力θ肋″jθ S― Zjz′′′彎 乃′νθ α4グ RθενrrJtt DθεJ“α′―

。…………。………………。……………………………。………………。…・…。……………。…。…………………・…………………・岩本 才次/肋グ′″ M鋭り … (40)

研究・調査

静水圧の圧力積分による船の浮心位置の決定 一 その4:三角柱に対する証明 一

/И Pο s′′Jοηjηg οη膨 ″ bOグ た び Bクの αην Dθ ″′νθグレ 熟 ξQεθ動 ′ag″α′げ 乃 ノグrOS′α′Jε Pたss2で 一 Pα′′イ 動 θP“ィル ″ル Jα4gノα″Prな“

……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………堀 勉/■ν′ο“ク〃θχ 。̈(50)

AISと VHFのデータ収集システム構築の記録とこれから/И Dθνθ′η“θ4′ げ幻ソレ7『

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′′θε′ノ4gル s′θ″αηふ助′ν″

。………………・…………………………。…・……鈴木 治・吉田 南穂子 。今井 康之・冨山 貴史 。Cemil Yurtё ren e瀬 田 広明

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丁ransactions of Navigation Vol.5 1ssuel(2020) ……。・・………………・・・̈ ・̈…。・。……・…………‥‥‥…………………・………………。………・…………・・・・・・・・・̈ 。,…・…。…・…。…・……・…

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事務局だより……………………。…………………………………………………………………………………………………………………・……………………・

2020年度 定時総会 …・…………………………Ⅲ………。……………………・

日 本 航 海 学 会Japan lnstitute ofNavigation

c/o Tokyo University ofMarine Science and Tcchnology9 1-6,Etchttima 2,Koto― ku,Tokyo,135-8533 JAPAN定価 2,000円 (税込)