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Vol.37 No.4 通信総合研究所季報 September 1991 pp. 479-495 研究 アイコンの分かりやすさを構成する 3 つの要素 岩間美樹* (1991 2 4 日受理) THECOMPREHENSIVEFACULTYOFICONS - DRAWINGS,MEANINGS,ENVIRONMENTS By MikiIWAMA Recently,icons,small pictures used on displays,have become very popular in the man-machine interfaceof computers. However,methodsfortheirapplicationhavenotyetbeen established. Therearesomebarrierstoeffectiveusageoficons. Forexample,ambiguityofmeaningand poor descriptive abilityof relations between icons. Theresultsof myquestionnaireaboutthe usabilityof icons showthe importance of 3 elements (drawings,meanings,and environments)for user comprehension. Tofirmlyconnectmeaningsandpictures,adrawingshouldrepresentarealobject and should have, asfaras possible, a single interpretation. To excludeambiguity between icons, the meaning of each icon must be consistent within a system. The final requirement is for environments(thisencompasses different situations,user senses,memories,etc ... ),that help user comprehensionin the selectionof the correct icon. 1. はじめに 最近,計算機技術の発達により,かつては考えられな かった領域にまで,計算機が導入されるようになってき た.そのため,専門家でない多くの人々が計算機に接す るようになった.その一方で,計算機自身の性能も高度 化し,より複雑な操作が要求されるようになってきた. しかし,利用者にとっては機械の高度な機能を簡単に使 える方法が確立されていない.人と機械をむすぷ関係が うまく機能していない.これらの背景に基づき,人と機 械とのコミュニケーションギャップを埋めようという努 力がなされてきた.かつては,高級言語を使う程度であっ たのが,機械自身の余力が増えたせいもあって,現在で は機械側での高度な処理を人間側には簡単にみせようと 総合通信部統合通信網研究室 479 している.これが,ヒューマンインターフェースといわ れる分野である.その研究の一端には,機械の状態や操 作を目に見える形にして利用者に示す視覚化がある.視 覚化には,プロセスの進行状態を絵の組合せでみせたり, 結果をグラフで表すなど様々な方法が使われる.本報告 では,それに用いられるいくつかの特定の意味を持つ図 形,アイコン(icon )についての考察を示す. アイコンを使った視覚は,既に多くの機械に導入され, 使われていない方が珍しい状況になってきた. しかし, そのアイコンの絵自身は機械に固有であり,異種の機械 はもちろん,閉じパーソナルコンビュータ間でさえメー カーによって違う絵柄が用いられている. しかしもこの 絵柄を統一することは特許の問題も絡んで難しい.その ため,各アイコンの絵柄をいかに分かりやすくするかが, 現在のもっとも重要な問題である. しかし,アイコンの 使いやすさという概念のみが先行し,この種の分析はほ

アイコンの分かりやすさを構成する 3つの要素€¦ · フェースにも多くのアイコンが用いられるようになった. 1. 2 アイコンと利用者

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Page 1: アイコンの分かりやすさを構成する 3つの要素€¦ · フェースにも多くのアイコンが用いられるようになった. 1. 2 アイコンと利用者

Vol.37 No.4 通信総合研究所季報 September 1991

pp. 479-495

研究

アイコンの分かりやすさを構成する 3つの要素

岩間美樹*

(1991年2月4日受理)

THE COMPREHENSIVE FACULTY OF ICONS

- DRAWINGS, MEANINGS, ENVIRONMENTSー

By

Miki IWAMA

Recently, icons, small pictures used on displays, have become very popular in the man-machine

interface of computers. However, methods for their application have not yet been established.

There are some barriers to effective usage of icons. For example, ambiguity of meaning and

poor descriptive ability of relations between icons.

The results of my questionnaire about the usability of icons show the importance of 3 elements

(drawings, meanings, and environments) for user comprehension.

To firmly connect meanings and pictures, a drawing should represent a real object and should

have, as far as possible, a single interpretation. To exclude ambiguity between icons, the

meaning of each icon must be consistent within a system. The final requirement is for

environments (this encompasses different situations, user senses, memories, etc ... ), that help user

comprehension in the selection of the correct icon.

1. はじめに

最近,計算機技術の発達により,かつては考えられな

かった領域にまで,計算機が導入されるようになってき

た.そのため,専門家でない多くの人々が計算機に接す

るようになった.その一方で,計算機自身の性能も高度

化し,より複雑な操作が要求されるようになってきた.

しかし,利用者にとっては機械の高度な機能を簡単に使

える方法が確立されていない.人と機械をむすぷ関係が

うまく機能していない.これらの背景に基づき,人と機

械とのコミュニケーションギャップを埋めようという努

力がなされてきた.かつては,高級言語を使う程度であっ

たのが,機械自身の余力が増えたせいもあって,現在で

は機械側での高度な処理を人間側には簡単にみせようと

総合通信部統合通信網研究室

479

している.これが,ヒューマンインターフェースといわ

れる分野である.その研究の一端には,機械の状態や操

作を目に見える形にして利用者に示す視覚化がある.視

覚化には,プロセスの進行状態を絵の組合せでみせたり,

結果をグラフで表すなど様々な方法が使われる.本報告

では,それに用いられるいくつかの特定の意味を持つ図

形,アイコン(icon)についての考察を示す.

アイコンを使った視覚は,既に多くの機械に導入され,

使われていない方が珍しい状況になってきた. しかし,

そのアイコンの絵自身は機械に固有であり,異種の機械

はもちろん,閉じパーソナルコンビュータ間でさえメー

カーによって違う絵柄が用いられている. しかしもこの

絵柄を統一することは特許の問題も絡んで難しい.その

ため,各アイコンの絵柄をいかに分かりやすくするかが,

現在のもっとも重要な問題である. しかし,アイコンの

使いやすさという概念のみが先行し,この種の分析はほ

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とんど行われていない.ここでは,この点に絞って多面

的に分析し,分かりやすさの条件を示す.

順序として, 1章の残りを使って,アイコンの定義及

び意味を説明する. 2章では,一般的にいわれているア

イコンの利点欠点、について示し, 3章以降で,アイコン

を構成する,絵柄,意味,環境の 3つの要素についての

検討をする. 3章では,人が実際はどの様にアイコンを

考えているのか,特に「絵」と「意味」の関係に注目し,

昭和63年に行ったアンケートの結果を示す. 4' 5' 6

章ではアンケートでは示せない部分を補完する形で,論

理的な面から検討する.まず, 4章では3章には使われ

なかった行為を示すアイコンを考慮し,「絵」をオブジェ

クトアイコンとアクションアイコンに分けて,それぞれ

の絵柄の性質の違いについて検討する.更に 5章では,

アイコンの意味の理解,類准について認知心理学的な観

点を含めて検討し,それに必要な要素を示す.そして 6

章では実際の使用時に起こる諸問題を使用環境との関連

で示す最後に 7章で以上の結果をまとめて,アイコン

を作る際の指針を示す.

1. 1 アイコンとは

アイコンという言葉自身の起源は古いが,コンビュー

タ上で用いられる特定の図形を指すようになったのは最

近のことであるは)(2).この節では,コンビュータにおけ

るアイコンの意味と歴史について引用によって簡単に説

明する.

1. 1. 1 アイコンの意味

英語でアイコン(icon,ikon, eikon)を引くと 2つ

の意味を持っている. lつは,「キリスト教(ギリシャ

正教)における聖像画」であり,他は「絵表現」である.

ギリシャ語またはラテン語の「類似」という意味を持つ

言葉が,英語化した物であるω.

一方,コンビュータの世界では,小さな図形にある意

味(操作やファイルなど)を与え,それをアイコンと呼

ぶ.これは通常,その意味を象徴図形に依って表現し,

その方法が「物」の類似物を用いるため,この語を転用

したと恩われる.ここで,注意すべき点は,アイコンの

絵柄で表されるのは「物」自身の写生ではなしあくま

で「物」の象徴的な特徴の類似である.

これに似た概念に記号がある.高辻{引によると,一

般にアイコンの様な図形を用いて何らかの意味を表すも

のは記号と呼ばれる.それらは,記号表現と記号内容と

の関係に注目して,信号(signal:直接性),指標(index

:近接性),象徴(symbol:類比性),類像(icon:相

似性),狭義の記号(sign:窓意性)の5つに分かれる

(第 1表).アイコンは類像であり,記号内容と記号表

現が幾何学的な類比によって結び付けられている.いわ

通信総合研究所季報

信号[SIGNAL] 刺滋と反応の結ぴ付吉の直筆盤ー

指様[ INDEX]知覧可能な刺激で知覚不能宜反応を示す近鐙主主

象徴[SYMBOL] 耳l燭の物で代用して示す塑些笠

類像[ IC 0 N] 古里何学相似に差.づく想製主主

記号[SI G N) 表現と内容が強制による盗塁盤(狭量事)

第 1表記号の種類

ば,「模像」による記号表現である.これは確かに,上

のアイコンの本来の意味と結び付く.但し,アイコンに

おける記号表現と記号内容は相似性を持つが,数学的厳

密な意味でではなく,特徴的な部分の相似性を指す.例

えば,取っ手のついたコップを表すのにそれについた模

様(例えば鳥の絵)までを取り上げる必要はない(第 l

図).

有F写生 アイコンになる絵

第1図写生とアイコンの途い

しかし,アイコンが一般化するにつれて,コンビュー

タの世界での意味は,高辻の分類から離れて,後述する

ように記号と類像は特に混用されるようになっている

以下では,アイコンといえば,コンピュータにおけるア

イコンを指す.また,アイコンの「絵」と「意味」を分

離して考える場合もあるが,特に,絵のうち絵自身の表

している内容に注目する場合は絵柄,絵全体に注目する

場合は絵と呼ぶ.

1. 1. 2 アイコンの歴史

アイコンが一般的なインターフェースの一部として計

算機に初めて登場したのは, XEROXが開発した事務

用計算機 STARにおいてである.もちろんそれ以前に

も,特殊な用途のインターフェスとして,ワードプロセッ

サーやゲームなどに使われていたω.しかし,インター

フェースを向上させる道具として意識して使い始めたの

は1981年のこれが初めてである(6). STARでは,デス

クトップメタファーと呼び,ディスプレイの画面をオフィ

スの作業空間に見立てを行う.そこで,アイコンはオフィ

Page 3: アイコンの分かりやすさを構成する 3つの要素€¦ · フェースにも多くのアイコンが用いられるようになった. 1. 2 アイコンと利用者

Vol. 37 No. 4 September 1991

スで使われる各部品を表すようになっている.このよう

な,考え方は現在では非常に一般的ではあるが,当時で

は画期的な思想であった.この背景には,オブジェクト

指向(object-oriented)と呼ばれる思想がある.

STARの次にでてきたのは,有名な Appleのシリー

ズである. (1983年)これによってアイコンが世に広まっ

たといわれる.また, STARでは,アイコンは絵柄と

意味内容が l対 lであるのに対し, Appleは1つの絵

柄にそれにより想起される複数の意味(操作)を与えて

いる【7>.

Appleの後はビットマップディスプレイの普及もあっ

て多くのマシンでアイコンが取り入れられ,さらにディ

スプレイでなく他の電子機器(FAXなど)のインター

フェースにも多くのアイコンが用いられるようになった.

1. 2 アイコンと利用者

前節ではアイコンの定義について述べた,今節ではこ

のアイコンが利用者にどういう意味を持っているかにつ

いて初心者と熟練者に分けて考察する.

1. 2.1 初心者におけるアイコン

初心者にとってはコンピュータは,全く既存の言葉の

通じない,かっ今まで培ってきた常識も通用しない初め

ての海外旅行のようなものである.そのため,利用者の

最初の仕事は,今まで持っていた世界と未知の世界との

共通に使える「基盤」作りにある.しかし,海外旅行で

あれば人間の基本要求の部分は最低限把握でき,それを

「基盤」として反応を予測することができるが,機械が

相手ではどのような反応が返ってくるか想像できない.

この機械の動きを予測できる「基盤」を作ることがその

機械に対する熟練につながるといえる.

アイコンには,この初心者の「基盤」作りを実際の世

界をなぞらえることに依って促進し,初対面から共通意

識をサポートする役割を持つω.

1. 2. 2 熟練者におけるアイコン

熟練者においては,昨今のようにマルチウインドウ環

境が発達してくると,幾つもの仕事を1つのスクリーン

上で並列に行うようになる.また決まりきった手順を何

度も行わなければならない場合もある.

このような場合,例えば並列実行では,それぞれの仕

事の現在の状況を一度に,かっ全体像を簡単に把握した

いとか,逆にまとまった一連の仕事は簡単な操作で行い

たい,というような欲求が出てくる.このような場合,

絵の組合せを用いた視覚言語によるプログラムや,コマ

ンドプロシジャを作ってアイコンに割り当てることは利

用者の負担を軽減するのに役に立つ.

一般には,アイコンは特に初心者にとって有効である

と言われるが,その視認性の良さから言うと熟練者にとっ

481

ても非常に便利である. しかし,実際に問題になるのは

その入力の仕方と反応時間である.入力は普通,マウス

等を使うが,このようなポインティングデバイスを動か

すことは注視点の移動を伴い,かっ細かく正確な位置合

わせには適さない.そのため熟練者にとっては,キーボー

ドからのコマンド入力の方が選ぶという結果になる.ま

た,絵の表示が必要なため,その表示処理に要する時間

や表示時聞が増え,実質的な反応時聞が遅くなる. しか

しこれらの欠点はアイコンそのものではなくその周辺技

術の問題であり,ここでは深く触れない.

2. アイコンの利点,欠点

前章では,アイコンがどういうものか,また利用者に

とってはどの様な意味があるのかについて簡単に説明し

た.この章では,アイコンの利点と欠点を書き出し,問

題点を提示する.特に欠点については,テキストを使う

場合との違いを示す.また,絵文字として一般言語化し

た象形文字との違いも考慮する.

2. 1 アイコンの利点

アイコンの利点は「分かり易いJの一言に尽きるのだ

が,その分かりやすさは,視覚情報であることに依存し

ている.視覚情報が分かり易い理由について,田原らω

の論文では,次の4つを上げている.まず1つは,一般

に人聞は視覚情報になじみ易い. 2つ目はテキスト表現

よりも歌師披が早くコミュニケーションの効率がよい.

3つ目に自然言語の持つ言語障壁が少ない.最後に記憶

性に優れ学習効果が大きい.これらの条件はアイコンに

もあてはまると恩われる.

しかし,普通の視覚表現と違って,アイコンは「物」

そのものではなし象徴的意味を持つ図形であるため,

表示された絵柄と内容は必ずしも一致しない. しかし,

実際の内容の代わりに意味の比喰的代替物を示すことに

よって,利用者の利便を計ることは特に,初心者にとっ

ては最大の利点である.また,熟練者にとっても,実際

には複雑な内容を比l鳴によって,一目で全体を把握でき

る形に変えることは有意義である.

さらにアイコンでは,受動的な普通の視覚情報と違っ

て,こちらから何等かのリアクションを与えられるので,

より直感的な理解が得易い.さらにポインティングデバ

イスを使って操作ができるのでHO),いま研究が進んで

いる人工現実感ほど直接的ではないが,一種の疑似体験

と見なせる.これは,利用者の学習期聞を短縮する上で

有効である.特に,利用者の環境と計算機上の疑似環境

を一致させた場合,ポインティングデバイスの操作法さ

え知っていればいいことになる.また,人が直接操作す

るため,機械に対しての疎外感や強要される感覚を持ち

Page 4: アイコンの分かりやすさを構成する 3つの要素€¦ · フェースにも多くのアイコンが用いられるようになった. 1. 2 アイコンと利用者

通信総合研究所季報

十+白 x~ 二地事 1 よごJこπ

定的に通じる.特に機械に対する指示は確定的でなけれ

ばいけない.しかし,実際には lつの絵柄に対してはい

くつもの解釈ができ,利用者の掠らえる意味は様々であ

る.この暖昧さという欠点について順次詳しく考察する.

2. 2.1 アイコンの暖昧性

暖妹さを生じる理由にはいくつかある.まず第lはア

イコンの絵柄と意味の結び付きである.これには適切な

絵柄を選ぶことによって解決できる.

しかし,絵柄の意味がわかっても次の様な操作との結

び付きが暖昧な場合もある.すなわち,計算機上でアイ

コンを使うことは子供の指さしに似ている. しかし, 1

つのものを指しでも,名前が知りたいのか,物が欲しい

のかまた,他のことを意味するのかはその都度の状況に

よる.このように,アイコンの意味は,使う人の背景に

ある知識や置かれた状況に依存する.

また,さらに lつのアイコンでは細かい表現ができな

いため,いくつかのアイコンを組み合わせる場合は,暖

味な意味が幾つも重なることで,本来意味すべき内容を

正確に伝えることができない可能性がある.このように

複数個を一度に使う場合は,アイコンそれぞれが互いに

意味を制限するような使い方をする必要がある.

2.2.2 アイコンの環境依存性

前セクションでは,アイコンの理解においては,置か

れた環境が重要であることを述べた.この絵柄と意味を

結び付ける上では,文化的環境と使用環境の 2つの環境

が重要になる.

文化的環境は,その絵柄そのものの理解に関係する.

これには 2つの要素があり,「絵柄が何なのか」と「そ

の物が何を示すのか」と言う点である.最初の方は「物」

そのものが既知かどうかであり,後者は,その「物」と

指す内容が結び付いているかどうかである.

前者の例では,計算機上ではファイルを抹消すること

※-} t_

第3図

。A

VICの伊1f14)

~ ー+m

482

にくし\

また,アイコンは障害者に対しての言葉のギャップに

も有効であると考えられる.特に言葉を使って生活しな

い障害者には,文字よりも絵が理解され易い傾向があり,

アイコンは有効である.例えば,先天的聴覚障害者の場

合は健常者のように言語を基盤としてものを考えないの

で,音声情報を単に言葉に直しただけでは理解されな

い(ll)(J2).手話において文字を動作に割り当てたものよ

り,意味を割り当てたものがよく使われるのはそのため

である.また言語障害患者向けのブリスシンボルと呼ば

れる絵文字(第2図)も言葉では受け入れられないが,

絵表現は理解される例である.この例では言語(異言語)

の壁を越えてコミュニケーションが行われることも報告

されている(13).同様の絵言葉として vic<14lもある

(第3図).

2.2 アイコンの欠点

アイコンの最大の欠点はその暖昧さにある.これは2.1

で述べたアイコンの利点と裏腹な関係にある.すなわち,

内容と意味がl対l対応をしているときには,意味は確

。||| |||

w

ペゾ④…ーーム…ーーム

、,1s11or

プリスシンボルの伊f12)

上第2図

Page 5: アイコンの分かりやすさを構成する 3つの要素€¦ · フェースにも多くのアイコンが用いられるようになった. 1. 2 アイコンと利用者

Vol. 37 No. 4 S巴ptember 1991

を示す絵として,欧米で日常的なトラッシュカン(trash

can)と言うごみ箱の絵柄で表すことがある(第4図)

しかし,このごみ箱を知らない人にとっては,逆に「保

存容器を示す」と思うことも有り得る また,同じ内容

を表す絵柄としてブラックホールを使うマシンもあるが,

その絵が何の絵であり,何を意味するかは受け手によっ

て違うはずである

また後者の例では,計算機のアイコンの例ではないが,

郵便を示す絵について日本とスペインの違いを挙げる.

日本では赤でテの字をデザイン化した絵柄がついている

これは普郵便が逓信省で扱われた名残である 一方,ス

ペインのポス トは黄地に赤い帯があり,角笛に王冠を乗

せた絵柄を用いている(第 5図) これはかつての郵便

夫が角笛を持っていたことに由来する.問機なことが計

算機上でも起こりうる.

このように利用者の背景として持っている文化によっ

てアイコンの意味が変わることはアイコンが言語の壁を

越えることできるという仮定に反する.アイコンを作る

際には,このような影響も考慮、しなければならない

また,使用環境では,とのような場面にその絵柄が使

われているかによって意味が異なっていることが問題で

ある これについては5章で詳しく述べるが,いわば,

、1111111ノ

、ElEEEBB-Eノ

、tEtEEEEEEEJ’

、11EEttEEI』,,

トラッシュカン

Macintosh

ブラックフォーJレNeXT

第4図 文主!J'jlJI徐を表すアイコン

ω 日 本 スペイン

第5図文化の迷い (郵便を表す記号)

483

アイコンにおける「文脈効果」である 同じ絵でも,計

算機の環続設定にでてくる場合のプリンタ ーの絵(プリ

ンターの機能に関する設定)とワ ープロを使っている際

のプリンターの絵(プリンタ ーによる出力)では意味が

追う 内容的にも,絵柄で表された「物」そのものを示

すのか,「物」によって代表される動作 (機能)を指す

のかもはっきりしない

2. 2.3 テキストとアイコン

このセクションでは,アイコンの唆昧性の一例として,

計算機とアイコンの会話がテキストによる場合とどの様

に違うのかについて考察する アイコンとテキストの違

いはアイコンのみでは紛かい内容を伝えられないことに

ある アイコンでは一般的な言語における単語程度しか

存在しない そのため,今のアイコンによる会話は幼児

の片言に近い.いわば,単語を並べて,相手の浬解を待

つような状況である.単語としてアイ コンを捉えた場合,

(状況が揃えば)短い言葉で話せる

・並べれば(最低限の)話しが伝わる

という 2.1で挙げたような利点がある 初心者のレベル

では,まず意図を機械に伝えることが最大の課題である

から,アイ コンの使用が奨励されるが,熟練者にとって

はこの括弧の中の部分が問題である 例えば,熟練者が

わずかな変更を行おうとすると結局アイコンのみでは記

述できないで,もっと低次の言語を使わざるえない ア

イコンは基本的に意味から絵柄への対応は 1対 lになる

ので,現状ではほんのわずかな違いを表現するのに別の

アイコンを用意するか,テキスト表現によってパラメー

タを指定するかしなければならない 一方,テキス卜表

現では同じ単語に対し修飾する語を取り替えることによ

りわずかな迷いを表現可能である アイコンでは記号同

士の結合力が弱いため,このような方法が採り にく い

そのため,現在ではアイコンを用いるのは最上層だけで,

その下の制かい内容を記述する必要のあるレベルではテ

キスト表現を使うことがよく行われている

また,もしアイ コンの表現が無限にできるとしても,

入力は並べた中からの選択する形になるので,画面上に

一度に表現できる数は,場所的に も, 利用者の把握の容

易性から言っても限られている 階層的な選択をするに

してもその泌さが限られているのは言うまでもないこと

なので,結局はアイコン同士の関係の表現力を高める必

要がある

2. 2.4 漢字・象形文字とアイコン

~後に現在のアイコンと同機に,図形を基盤としてい

るが既に言語化している,エジプトなどで使われていた

象形文字や,漢字との追いについて述べる

例えば,漢字をアイコンに使うことを考えてみる 漢

Page 6: アイコンの分かりやすさを構成する 3つの要素€¦ · フェースにも多くのアイコンが用いられるようになった. 1. 2 アイコンと利用者

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字はアイコンのように,それに却"染みのない人に学習な

しで受け入れられることはほとんど不可能と考えられる.

同じ事が,象形文字も言える.その理由はこれらの言葉

がある意味で洗練され過ぎているためである.現在の漢

字を構成する絵自体から,元の「物」を想像することは

ほぼ不可能である.「物」を示すはずの絵自体が長年の

聞に洗練され,記号化している.

また,漢字では複合語を作る強力な結合力を持つ(IS)

が,意味からその結合方法を解析することはできるが,

その規則を一般則として用いることはできない.複合記

号聞の関係はその場限りである.ただし,このように自

由に部品を組み合わせることによって「新漢字」を作る

創造力はアイコンの情報量の少なさという欠点を補う上

で注目に値する.

3. アイコンの分かりやすさに対する調査

2章では一般的に言われる利点欠点について説明した.

この章では,人のアイコンの絵柄と意味の実際の対応付

けを以前のアンケートを例にとり,利点に関係する「親

密性」,欠点で挙げた環境依存性と暖昧性両方に関わる

「類推可能性」,暖昧性と漢字との違いに関する「絵柄

の抽象性」をポイン卜としてその結果の分析を試みる.

通信総合研究所季報

3. 1 アンケート方法等

3. 1. 1 アンケートの目的

アイコンに限らず様々な絵記号に対してどのような印

象を持つのかの謁査は余り行われていない.特定の用法

を仮定した調査が本郷ら(16)や松浦ら(17) によって行われ

ている.今回行ったアンケートではできるだけ場面を限

定せず,一般的に,様々な記号に出会ったときにどのよ

うな経過をとって解釈するかを調査することを目的とし

ている.

3. 1. 2 アンケートの概要

この調査ではできるだけ多くの不特定多数の人々の感

じ方を調べるため,昭和63年8月1日に行われた通信

総合研究所の一般公聞に来所された方々に協力をお願い

したまた,限られた時間でできるだけ多くの回答を得

るために,アンケートは筆記式とし,記述終了後に箱に

投函してもらうこととした.内容は, 10種の絵に対し簡

単なヒントを付加したものを用い,うち 7聞は表してい

ると思うものを記述してもらい,残り 3聞は3つの選択

子から合っていると思うものを選んでもらった(第6図).

10種の内,前半5つは日本で使われている記号であり,

後半5つはスイス,スペイン, ドイツの各国で使われて

いる絵である.これらの絵は Laddingの論文<2>,高速

道路の地図,海外旅行のパンフレット等を出典としてい

どのくらいわかるかな?

年齢層 1)~6さい 2) 7~1 2きい 3) 1 3~I 8怠 4) I 9~2 5鼠 5) 2 6~4 0歳 6) 4 I~5 0鼠 7) 5 I~6 5歳 8) 6 6歳~性別 I)♂ 2)早

E富こづっみ'1.小包についているよ.

こた去

富1:)2.Zこ桜こたえ

鮪鵬A生

量豊…5.高速道路にあります。

こたえ

合 …"'らものや "'んし a

1.荒物屋 2.民宿 3.ケーキ屋

韓 日付7.スペインの街角で

~?かや ほんや きが...

• !. 雑貨屋 2. 措 3. f屋おな ...... •- ·~

;.?'lO?ご い島 .;s.l:"I}ぃ

8.同じ〈スベインの街角で、急は緑色L:うぽうしょ びょういん 〈すりや

1.消M署 2.病銭 3.薬屋

圏| にし けとう1• 胃a圃I 9.西 Fイツの空港のマーク

ー===== こたえ

圃10. 9げです

こたえ

か尋 ~こ なか

ありがとうございました。この紙は箱の中においれ〈ださい.

第6図 アンケートに用いた用紙

Page 7: アイコンの分かりやすさを構成する 3つの要素€¦ · フェースにも多くのアイコンが用いられるようになった. 1. 2 アイコンと利用者

Vol. 37 No. 4 September 1991 485

3. 2 アンケートの結果

アンケー卜には約llO名の回答を得た 第 7図にその

年齢分布を示す.この年齢の分類は生活環境と計算機の

かかわり合いを考慮して分けた 性別については記入の

ないものが多かったので分類不能であるが,アンケート

をとった場所での印象によると,壮年以上では男性が多

いがそれ以下ではほぼ同等であった また,あくまでも

推定であるが,当所の一般公開に来所された方は,子供

を除けば,女性は主婦または学生,男性では学生および

通信関係の技術者が多かったようである

各問の正答は!|聞に, 「割れ物注意」,「ガソリンスタン

ドありJ,「レストランありJ,「放射能管理区域J,「レス

トイン(高速道路上の仮眠所)」,「民宿(田舎風旅館)」,

「エスタンコ (雑貨屋,日本で言うタバコ屋のようなも

の)J,「薬局」,「空港の出発」,「(同じ く)到着」 である

ただし,実際の正答を分類する際には意味内容のあって

いるものも正解とした.(例 :「ガソ リンあり」→ガソ

リン,給油所; 「放射線管理区域」→レントゲン等),

第8図に正答率をあげる.

日本にもある記号5つの内,最初の 3つは日頃なじみ

が深いせいかほぼ全員正解であった しかし,「放射線」

の記号は病院のレン トゲン室等には必ず表示されている

にもかかわらず,正答率は半分程度である.逆に最後の

「レストイン」はそれほど一般的ではないと思えるが,

3分の 2近い正答率であった.

また,外国の記号では三者択一式であった最初の 3つ

は比較的正答率が高いが,最後の 2つは国際的に適用す

るはずの空港で使われているにもかかわらず正答率は低

1 2歳以下

1 3~1 8歳

1 9~2 5歳

2 6~4 0歳

4 1~5 0怠

5 1店主以上し、

3. 3 結果の解析

このアンケー卜は絵柄と意味の対応のみを示すもので

あり, 2¥で挙げた性質全てを検証はできないが,対応

に関するものを「親密性J,「類推可能性」,「絵柄の抽象

年齢不詳

。 1 0 2 0

第7図 アンケート同答者の年齢問

こわれ物注意

ガソリンスタンドあり

レストランあり

放射能注意

レストイ ン

民宿

エスタンコ

薬屋

出 発

到着

人0・q

L・6ムnu .nu

tム8 0 4 0 。 2 0

第 8図 アンケートの正答率

Page 8: アイコンの分かりやすさを構成する 3つの要素€¦ · フェースにも多くのアイコンが用いられるようになった. 1. 2 アイコンと利用者

486

性」の3つの性質に代えて結果を解析した.

3. 3.1 親密性

ここで言う「親密性」とは,被験者の日常的な生活で,

よく目にし,かっ利用している度合いを問題にしている.

いわば背景知識として持っている度合いである.最初の

3つは「親密性」が特に高く,それに応じて正答率も高

い またこれらに対して誤答とした例でも,意味内容は

ほぼ通じていることが多い.例えば,最初の問いの「害lj

れ物注意」では,「ガラス」とか「取扱い注意」等の回

答があり,基本的概念として「ガラスのような壊れ易い

ものなので取り扱いに注意して欲しい」ことは理解され

ている.また, 3つ目の「レストラン」では,「サービ

スエリア」という回答が多かった.被験者が他の問

(「ガソリンスタンド」や後の「レストイン」のヒント)

に引きずられて,高速道路を想定し,このような回答を

したと恩われる.高速道路上ではサービスエリアを示す

看板には必ずこの記号があるためこのような回答が出て

きたのであろう.実際にはサービスエリアを表す記号は

ないのだが,被験者は「サービスエリア=(高速道路上

の)食事の出来る場所」という図式を持っているためと

思われる.

3.3.2 類推可能性

この「類推可能性」は場面に依存するものと絵柄の形

状に依存するものの 2種類が考えられる.回答タ肋〉ら被

験者の考え方を逆にたどってみる.

まず,場面からの類推では次の2つがある.

2つ自の回答で,「ガス欠灯」という答えがあった.

これは「車に必要」というヒントのためと恩われる.こ

の被験者は車に詳しく,一般的な意味よりも先にコンソー

ルパネル上のガス欠灯を思い浮かべたのであろう.この

ような一般的な記号に対しでも,人によって全く違う想

起の仕方をする事は興味深い.

場面からの類推の成功例として上げられるのは5つ自

の「レストイン」である.これは現在国内では2つしか

なく,実物の記号を見た人は余りいなかったのではない

かと恩われる.また絵柄はベッドの抽象図案であり,意

味を絵柄から一意に決定できない.そのため,多くの被

験者が,「高速道路にあります」と言うヒントから正答

にたどりついた(仮眠所,休憩所という解を含む)と恩

われる.また誤答例では高速道路でベッドの必要な場所

と言うことで,「救急病院Jや「救護所」という回答が

多く見受けられた.

解の中で場面からの類推と図形からの類推の両者が措

抗しているのは4つ自の「放射線」である.これは親密

性も薄く,類推から答を導き出すのに格好の材料だった

ようである.ここでは「レントゲン」という答を想定し

通信総合研究所季報

て「病院にもあります」と言うヒントを付けた.図形か

らの類推は,絵柄が抽象的なため,「扇風機J,「スピー

カ」など,また場面からは「緊急用駐車場」などの類推

が導き出されていた.ただし,多くの場合類推から正答

に到達できていない.記号の意味の類推は,絵からの類

推が主で,場面からの類推は補助的な役害ljを果たしてい

るためであると恩われる.

3.3.3 絵柄の抽象性

最後に,絵柄の影響について述べる.今回のアンケー

トでは海外の記号に抽象的な絵柄が多かった.前述の

「放射線Jの記号も抽象性が高く,実際の「物」とは結

びついていない.そのため,正答率が低かった.

一方, 6つ目の「民宿」は三択式であった為もあるが,

比較的正答率が高い.この絵柄は家型の中に2つの図形

を組み合わせた複合図形である.今回は中の図形に注目

して他の選択子をつけ加えた. しかし,多数の被験者は

外側の図形から,正しい選択子を選んだようである.複

合図形ではどの図形を主として解釈するかが重要である.

このような主図形と副図形の区別には,お互いの大きさ,

図形1つの中の完結性がポイントとなるであろう.

また,最後の 2つの記号は,絵柄としては具体性があ

るが,それの意味すべきものとの結びつきが弱いために

正答と結びつかなかった.特に「到着」の方は「ポー

ター」や「タクシー」のように部分やそれがなす行為の

方に注目が集まっている.具体的な絵柄の場合でもそれ

が大きな包括概念の場合は直接,意味を結び付けること

が難しい.そのため,意味と結び付けるために部分や行

為にまで範囲を広げて考えるような動作が被験者の中で

為されていると恩われる.

「エスタンコJの記号では「放射線」と同じように絵

柄自身が抽象的であり,かっ元々意味のないものに後か

ら人為的に意味を付加したため解釈不能であったようで

ある.また,つけ加えた他の選択子も絵に合わせて堅い

ものを選んだのも正答率を悪くした一因である.

さらに,「薬局」の記号の場合,これは親密性の高い

十字の記号の変形である(第9図).日本でも緑十字

(ギリシャ十字架)が薬局を指している.にもかかわら

ず正答率は高くない.色が不明(アンケート用紙では黒

抜きで,色を文字で指定)な為もあって,「病院」との

回答が多かった.しかし,「消防署」という誤答もほぼ

同等数あった.このように,元が抽象的な図形の場合は

わずかな変形に対しでも意味との連携がとれなくなる場

合があり,具象的な図形に比べて変形に弱いと言える.

また,親密性の高い図形では色の影響も重大である.

3.3.4 アンケートのまとめ

記号が人に理解されるにはいくつかのポイン卜がある.

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Vol. 37 No. 4 September 1991

日本の宅街号 スペイ沼野新E号

第9図絵柄の変形(十字)

まず,絵柄自身が具体的であること そしてそれが具体

的な意味と l対l対応にあることこれが一番理解され

易い場合である. しかし,絵柄が具体的であればその場

面に適した意味を類推可能である. しかし,具体的な絵

柄でもその絵に対応する意味が暖妹なものは理解不能で

ある.また,抽象的な絵柄でもそれに対する経験頻度が

高く,利用者にとって必要性が高い場合は学習され,意

味は理解できる. しかしこのような記号はわずかな変形

にも意味との結び付きが途切れる場合がある.

4. オブジェクトアイコン,アクションアイコン

3章のアンケートでは主に絵が「ものJを表す例を扱っ

た. しかし,計算機上のアイコンは「行為」を表す場合

が良くある.この章では,絵が表すものが「もの」を示

すのか,「行為」を示すのかに依って2つに分けその絵

の持つ性質の違いを考察する.ここでは,その2つを

Korflagmらにならい,「もの」を表すアイコンはオブ

ジェクトアイコン(object icon),「行為」を表すアイ

コンはアクションアイコン(action icon)と呼ぶ.ま

た,この章の最後で,アイコンの表示に付随する色等の

要素についてもふれる.

4. 1 オブジェクトアイコン

オブジェクトアイコンは1.1. 1に示したアイコンの定

義そのものである.つまり「物」の特徴により対象を表

す.これが,計算機上でアイコンを使うという発想の出

発点であった.そのため, STARでは,現実のオフィ

スの備品を引き写したアイコンが使われた.ファイル,

ファイルドロアー(ファイル収納用引出し)などがその

例である.この特徴は「物」と内容がl対1の対応をし

ていることである.つまり複数のファイルの実体があれ

ばそれに対して 1つずつアイコンが存在する.

このような性質を見ると,オブジェクトアイコンはそ

の実体の性質を分類するラベルである.この理由から,

オブジェクトアイコンは基本的には他のアイコンとの関

係を記述しない.但し,アイコンのモデルである実態が

487

持っている関係は,アイコン化されても維持される.例

えば,ファイル→フォルダー→ファイルド白アー→ファ

イルキャビネット,という階層関係はアイコンになって

も維持される(第10図).

以上から,絵の特徴から「もとの物」を類推できかっ

それを「知っている人」にとっては容易に理解できるこ

とが最大の利点である.但し,利用者にとって「もとの

物」対アイコンの絵の関係が維持されなければその利点

は欠点に変わる.すなわち,絵が対象物の特徴を的確に

表現していなければならない.また,「もとの物」が時

代の変化によって変わる場合も考慮しなければならない.

例えば,「ガソリン有り」を示す絵柄は,かつては消火

栓のようなポンプ型の給油機を使っていたが,今ではほ

とんどは四角い給油機になっている.更に,「知ってい

る人Jもどの範囲をとるかが問題である.通常の生活の

一般常識の範鴎に属する部分においてはアイコン化は容

易であるが,特殊な物に関しては利用対象を考慮して的

確なデザインを選ぶ必要がある.

白コ白コ白ファイ』~ フォルダー ファイルドロアー

第10図暗黙の了解として含まれる階層関係

4.2 アクションアイコン

一方,「行為」を示す,アクションアイコンの場合は

オブジェクトアイコンのように直接,対象を表現するこ

とができない.そのため,アイコンの定義から離れた表

示法が使われる場合がある.例えば, 1.1. 1で言う指標

や狭義の記号を用いる.この理由によるとアクションア

イコンは,厳密にはアクション記号と呼ぶべきであるが

ここでは,前にも述べたように計算機に使われる記号は

アイコンと呼ぶことにする.

4.2. 1 絵の性格による分類

アクションアイコンは,オブジェクトアイコンカまラベ

ルであるのに対して,ある動作の開始を示すスウィッチ

またはボタンである.アイコンは通常,静的であるため,

動作自身を実際に表現できない.その代用として普通,

次の 3つの手段がとられる(第2表).

1. その動作をするもので代用する

2. 動作の前後(結果を含む)または一部で示す.

3. 抽象図形にその意味を添付する.

それぞれについて例を挙げて説明すると, 1.はプリン

ターの図形で文書の印刷を示すといった場合であり,オ

ブジェクトアイコンと同じような使い方である.オブジェ

Page 10: アイコンの分かりやすさを構成する 3つの要素€¦ · フェースにも多くのアイコンが用いられるようになった. 1. 2 アイコンと利用者

488

1 .代用 日世

晶ロ

2.動作の一部

3.抽象図形

第2表絵柄とアクションアイコン

クトアイコ ンの持つ「属性」を「動作Jに置き換えたも

のである 当然ながら,動作を示す「もとの物」と行為

が l対 1対応している必要がある すなわち,「もとの

物」の機能は単機能,或いは少なくとも一般的な意味

で代表する機能が lつのみでなければならない

次の2.の場合は例えば, できあがった文書でプリンタ ー

を表すことである もちろん利用者はその操作のフ。ロセ

スを知っている必要があるが,自分のやることが絵で見

えているので,利用者に安心感を与えることができる

この方法における最大の問題は,多くの場合は単一図形

で表せないため,複雑な複合図形を使うことになり,

「一目でわかる」利点を失うことになることである

最後の3は,も ともと 「動作」の意味を持たないt1l1象

的な図形 (丸,四角等の幾何学図形)に強制的に意味

を与える場合である カセy 卜レ コー ダ一等における

「再生」, 「早回し」等を示す三角形がこの例としてあ

げられる (第11図) もともと無い意味を付加するので

あるから当然,利用者は学習が必要である しかし1.

や2の場合では,絵柄と意味は元の「もの」 を介して継

がっているのにたいして,ここでは 「意味」 と直接に結

び付いているため,時代に依存しない記号になりうる

また, この種類では似たような意味をまとめて答ljり当て

ることに依って,lつのアイ コンをある許容範囲内で多

義性を持たせて使う ことが出来る.例えば,文章を書き

加えることも,文章の一部を書き換えることも元の何等

かの文章を変更して新しい文章を作るという範囲内で閉

じなので, 「編集」 という言葉で総括される.更に,場

合によっては,ある絵を改変することもこの中に含める

ことがで・きょう.ただし,まとめられた意味は,全体と

して一貫性を持たなければならない.多義性を与えた場

合は文脈に応じて解釈される.

このような 3つの種類のアクションアイ コンは場合に

[> ~[> [>[> <]<] 再生 録音 早送り 巻戻し

第11図 カセットレコーダーに使われるアイコン

通信総合研究所季報

応じて混在して使われるー

4. 2. 2 fill象図形

このセクションでは前セクシ ョンに出てきたアイコ ン

tit!象図形を用いることへの有効性について考店、する。

まず, fill象図形ではその形と意味がと‘の程度結びつい

ているかを考えてみる 例えば,単体の図形のうち星形

やハート形は星やハート,心臓などの意味を持っている

(第12図) しかし,こ れらはもともと「もの」が対象

であり,かっt1!1象化されていて,アイ コンとして使うに

は役立たない.更に,アクションアイ コンに用いるとい

う条件を与えると,示す矢印,禁止を表す×,及び丸に

斜線,演算 (意味的な場合も併せて)を表す+及び×

(禁止と閉 じ図形),疑問を問う?の 5種類(第13図)

以外に意味を持つものは考えつかない これらの図形も

意味が抽象的または包括的である よって単体ではなく

他との結合によって意味が確定される もし, この5種

以外で使われる場合があっても強制的な意味付けが必要

と考えられる 例えば,フロ ーチャ ートに使われている

図形を考えてみるとよい (第14図)

これらの図形の内,矢印の意味について興味深い研究

がある(18).そのなかで,矢印の基本概念、として,「矢印

の特徴は先と後が明確なことで注目対象の移動によって

新しい概念、や情報を派生させる」と説明されているが,

第12図抽象的な記号の例

・令 x + ぐ9つ. J\ツ

疑問矢印かける たす 禁止

第13図意味を持つ抽象記号

Eコく〉〉とコ ζフ

こコ Eヨ ζコ立〈コ第14図 フローチャートに使われる記号

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Vol.37 No.4 September 1991

これを「動作」を表すアイコンという点に絞ってみると,

この「新しい概念や情報」として,「移動」,「状態の変

化」の 2つが考えられる. もちろんこの中には暗黙に時

間の推移や順序性を含む.この 2つの違いは矢印の終点

が位置を指すのか,「もの」を指すのかに依る.

以上は単体の場合であるが,抽象図形が複合図形の一

部として使われたときもやはり前述の 5種が主に使われ

る.他の図形は目印のように使われでも本来の形の意味

にはほとんど使われないことが多い 複合図形では次節

で取り上げるように, lつの図形でも組み合わせる絵柄

によって意味が変わる場合が多く,多義的である.その

ため,同ーのシステム上では意味の一貫性を保つことが

重要である.

4.2.3 複合図形

4.2. 1で述べたように,アクションアイコンでは複合

図形をアイコンとして使う場合がある.このセクション

では,複合図形の性質と問題点について検討する

複合図形をアイコンに使う理由として,単純な絵柄で

示すアイコンの数が限られることと,利用者が既存のア

イコンを組み合わせることによって新しいアイコンが

簡単に作れることが上げられる.これに答えて,

ChangmJは, 9つの位置オベレーターを複合図形を作

る方法として挙げている.

しかし,複合図形をアイコンとして使う場合の問題点

が2つ考えられる. lつは,絵柄の複雑さである.通常

アイコンは, lつの画面上に同時に並べて使うため,絵

柄の複雑さに関わらず,ほぼ同じ大きさで表示される.

複合図形では,単一図形の場合と違って,細かい部分ま

で意味を持つことになるので,その差異を見分けにくく

なるのは不利である.この対策としては,組み合わせる

図形を簡単なものに限ることと,またできた絵で表記が

簡略化が出来る場合はそれを行うことである.受け手の

人間側では絵の特徴を抽出する場合,絵の情報全てに注

目しているわけではないため,簡略化が可能であると恩

われる.更に,同じ画面で似た絵柄を同時に使うことは

避けるべきである.

複合図形の問題点のもう lつは,複合図形に使われて

いる個々の要素が場面によって違う意味を持つ場合があ

ることである.もちろん多義性を許しでも良いが,大本

の意味は保たれていないと,利用者にとっては解釈不能

となる.ただい置かれた環境によってその要素の意味

が確定する場合は許される. しかし,同じ環境のもとで,

アイコン間で共通な要素が違う意味を持つことは絶対に

避けなければならない.すなわち,違う意味を与えると

きには利用者にもそれを判断する明かな手がかりを与え

なければならない.

489

また,問題点ではないが考慮すべき点は,組み合わせ

る図形を可能な限り具象性のあるものにすることである.

一般に未知のものまたは,意味が暖味なもの(抽象図形)

を類推から導き出すには,まず,既知のものまたは意味

が一意のもの(この場合,具象図形または残りの意味が

確定してる図形)から内容を推定し,そこへ当てはめる

ためである.

複合図形によるアイコンのデザインとその評価には,

中村ら仰の研究が興味深い.ファクシミリ用のアイコ

ンを意味の一貫性や具象性を考慮にいれてデザインをし

ている.用途が限定されているため,複雑な図形はない

が,全体的には良い評価が出ている.

4.3 色,ラベリング

アイコンの絵柄と意味の関係は上に述べたとおりであ

る.しかし,ここまでは絵柄自身のみに注目して,表示

の際の付随要素である色やラベリンク’についてはふれな

かった.この節ではこれを引用により簡単に説明する.

まず,色の問題であるが,最近では小さな計算機でも

カラーディスプレイが一般的であり,多くのソフトウェ

アで色を使っている.そのためアイコンでも色を使うこ

とが当然のように思える. しかし,一度に多くの色を使

うのは望ましくない. lつのアイコンに複数の色を使っ

たものを並べた場合,色に引っ張られて意味を間違える

ことも有り得る.これは,絵が色に依って強調され,全

体が見渡せなくなるからである.そのかわり同じ関連を

持つアイコンを lつにまとめて,その背景を 1つまたは

同系統でまとめるのは有効である(21). しかし,シャー

プによると色の感じ方や好みは,時代,文化,世代等に

よって異なり(22九一般的な使用法を定義するのは難し

い.しかも,一般常識または利用者の期待に外れないよ

うな色の使い方をしなければならない(赤:禁止,黄

:注意等).

上のような心理的見地とは別に,生理学的な面での条

件がいくつかある叩.まず,青色は見にくく細かい表

現をするのに適さない.更に,青味の強さのみが違う色

は隣接した部分を区別するのには適さない.また,ディ

スプレイの周辺部では網膜の感度が悪くなるため,赤や

緑を使用しないほうが良い.

このような条件を考慮して,佐々木ら(24)は色の使い

方を調査し指針を作っている.これはネットワークオベ

レーション管理システムのアラームという限られた範囲

であるが,色に一貫性があるためわかりやすくなってい

る.

次に,文字の付加の問題,ラベリングについてである.

ラベルは,オブジェクトアイコンでは中身の目次であり

(同じアイコンが複数存在する),アクションアイコン

Page 12: アイコンの分かりやすさを構成する 3つの要素€¦ · フェースにも多くのアイコンが用いられるようになった. 1. 2 アイコンと利用者

490

では,その機能の説明(対話型)とそのときの変数(パッ

チ型)という役割がある.

このようなラベリング,特に目次と説明の役割を果た

す場合には,次のような 2つの側面がある. 1つは説明

を付加することに依ってアイコンの意味の理解を助け,

アイコン自身の持つ暖昧性を排除できる利点である.初

心者にとっては,このようなラベリングは簡単なヘルプ

代わりとなり,学習を不用にする.また,アイコンでは

厳密に表しきれない意味を補足する手段として有効であ

る.

もう 1つの面は本来使用言語が限定されないアイコン

にある言語のラベルを付けることに依り,利用者の使用

言語を限定する欠点である.このような言語障壁は問題

だが,アイコンではラベリングに使用される言語はあく

まで説明等に使われるのであって,伝達される情報は絵

自身である.またラベルが変数であれば,それは言語的

意味を持たないため,たいして問題にはならない.

5. アイコンの理解について

この章ではアイコンの理解,類推等を一般的な認知心

理学の観点にどの様に当てはまるかを示し,それを容易

にするために必要な条件等を検討する.

5. 1 アイコンの理解度の段階

まず,最初は理解の問題である.一口に理解と言って

もその深さにはいくつかの段階がある.アイコンの場合

は大まかに3つに分かれる.深い順から行くと「一目で

見て解る」,「説明すると納得できる」,「説明しでも解ら

ずそういうものであると思う」となる.ここで必要とす

る説明は絵柄と意味の両方があるがそれは区別しない.

一方,アイコンの理解とまったく別な過程の理解の例

だが,銀林(25)によると数学の学習では「わけ」が解る

と「やり方」が解るの2つに分かれる.理解の過程が違

うためアイコンとは直接比べられないが,この2つの違

いはイメージの身体性を持っか持たないかで、ある イメー

ジの身体性とは,ある行為を無意識に頭の中でなぞる力

である.これはアイコンの理解の場合でも重要な要素で

ある.すなわち,「一目でみて解るJ場合は無意識にそ

の意味をなぞっている.「説明すると納得できる場合」

はイメージの身体性が無く,毎回,他の既存のイメー

ジからその意味を組立て直す場合である.これが慣用化

されれば「一目」に移行することができる.最後の場合

は,身体性を持たない上に,他の手がかりからイメージ

をなぞること自体も困難な場合である.

5.2 アイコンについての類推

前節では,アイコンの理解度についてイメージの身体

性という言葉を使って説明を試みた.この節では理解の

通信総合研究所季報

過程,即ち意味の類推について述べる.

類推とは問題を自分の持つ知識に合わせて再構成する

能力である(26)(27)(28).絵の内容に関する類推については

例が少ないので,ここではテキストの場合から,予測す

る.

まず,言葉の類推の例について検討してみる.馬

場(29)(30)は,与えられた3語から未知の l語を引き出す

連想(第3表)を扱っている.その結果によると,目標

[公方一土佐一畜生] →→犬

[鼻一般鯨ー御用] →→ 提灯

[雲ー畳一乾] →→鰯

[電車ールート-靴] →→登山

刺激語 正答語

第3表馬場の例(29)(30)

の1語を導き出すのに 3つの語が同じ役割を果たしてい

るのではない.まず,ある語を繋留刺激語とし,最も強

く連想される語を候補と仮定し, 5:jljの語の連携刺激語に

よって方針が正しいことを検証しながら,残った語,確

定刺激語,で意味を確定するという役割分担がある.与

えられた3つの語に対する役割は,目標語と元の語との

結び付きの強さに依存して決まる.そのときの目標語の

設定は意味常識和の作用に依るが,このようにいくつか

の手がかりから意味常識和を作り出すことが,類推にお

ける知識の再構成力であると思われる.上の例でも分か

るように,類推の際にはその手がかりが同等の意義を持

つのではなく主従の関係をもって助け合う.これをアイ

コンの場合に当てはめると,アイコンの絵自身が繋留刺

激語の役割を果たし,利用者がおかれた状況や既に持っ

ている「物」に対する知識を連携刺激語,確定刺激語に

して場面にあった意味を再構成すると思われる.

このように類推にはその対象だけでなく色々な手がか

りが必要である.その手がかりとしては, Barwisec3nc32>

のいう「状況」があてはまる.特に,文章では意味は文

脈によって変わるため,文脈効果と呼ばれる.このよう

に,「状況」は単に物理環境を指すのではなく,文脈や

相手の考え方等を含む.またその「状況Jからの情報は,

明示されないが包含関係にある多くの事実を含む側.

しかし逆に手がかりの方が先になる場合も有り得る.

その場合には,ルーメルハート仰のいうように期待遇

りに出てくるほど認知され易い.状況を上手に使うこと

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Vol. 37 No. 4 September 1991

により,利用者の期待を目標に向けていくようにすると,

類推を助けることが出来る

現実的なアイコンの記述の仕方として, Changは論

理的内容と物理的内容との 2つ組でアイコンを表し

た(19).これには上に述べたような状況の要素がない.

しかし, Chang自身は lつのアイコンシステムを 1つ

の状況に対応させている.実際のシステムでは細かい状

況の設定をする事が難しいため,期待の効果を利用して,

いくつかのアイコンシステムを使うことにより,状況の

変化を与える場合がある.

5.3 図形の類似感覚

前節までは類推の過程について検討したここでは,

絵そのものの表し方と,人間の感じ方として,どの程度

の変化が図形の相似として受け入れるかについて説明す

る.

写生ではもちろん元の意味は自明で‘ある しかし,ア

イコンが一般的な意味を持つことを考えればある特定の

「物」の写生では役に立たない.元の実体の特徴を抽出

しそれを表す図形でなければならない.松原(35)らによっ

て,概念、学習と形とが密接に結び付いていることが紹介

されている.そのため,人聞は1つの形の概念(代表的

特徴)が与えられればそれに準じた概念は類推可能であ

る.但し,その特徴が簡単すぎると元の意味がとれなく

なるので,識別可能な部分を特徴として残して置く必要

がある.例えば,コップまたは湯呑,つまり飲物を入れ

る器を表す絵を作る際,その代表としてガラスコップを

思い浮かべて,その円筒形の入れ物を横からみた図とし

て長方形で示すには無理がある.このような一般的な図

形では元の意味がとれない.そのため,底の見える円筒

形の図とか取っ手の付いたマグカップのような図で示す

必要がある(第15図).しかし,付いていた絵柄とか取っ

手の形とか(有無を含めて)の要素には今回は意味がな

い.マグカップの絵柄を使った場合,取っ手があるのは

それがあることによりコップとみなされるからに過ぎな

ところで人は絵のどの程度の違いを類似と言うのであ

ろうか.また,その類似性は何等かの方法で測定可能で

意昧が取れない絵 アイコンになる絵

第15図 アイコンにならない絵柄となる絵柄

491

あろうか.これに対して,田辺ら(36)(37)は蝶や葉を形状

によりデータベースから検索する際には,物理的性質だ

けでは必ずしも人の類似感覚に一致せず,人聞の主観的

評価もその尺度に加えるべきであることを示した.つま

り人聞は物理的類似性とは別の類似感覚を持っているこ

とが判る.上で挙げられている葉の形状の例では,人に

とっては同じに見える葉でも,物理的にはぎざぎざがあ

るかどうかによって全く別なものと判断される.田辺ら

は大局的に物理的性質を特徴として抽出しているにもか

かわらずこのような例が見られる.このような形状の種

類わけではかなり大ざっぱな特徴の分類が行われている

事が分かる. しかし,アイコンの場合はこの形状のみな

らず,その元の内容とも結び付いているため,より一層

複雑な類似性の判定が必要である.

6. アイコンの使用環境

前章は,アイコンの持つ意味を,認知科学的な面から

眺めたが本章では,もっと実際の使用時の諸問題につい

ていくつかの考察を挙げる.

6. 1 状況と使用環境

この節では,「状況」に関連する記憶について述べる.

人聞をとりまく状況は時々刻々変わり,その情報量は膨

大である.それを受け入れる人間も膨大な記憶容量を持

つ. しかし,人聞は機械と違って,記憶すべき内容を丸

のまま覚えるのではなく,今まで自分が持ってきた環境

と実際の環境との差のみを覚えて必要に応じて再構成出

来る形で情報を記憶する.ここではそれを差分記憶と呼

ぶ.アイコンの意味の理解は記憶からの再構成の一部に

属している.そのために,使用環境をモデルと同じ環境

にする必要がある.5.2で示したように,類推では期待

に沿ったものが出てくる方が効率が上がるので,その期

待の元となる環境も併せて画面上に実現し,アイコンを

その一部として認識させることが有効である.また,利

用者になじみの深いモデルを表示することによって,初

心者にとっては機械との心理的な壁を乗り越えるにも役

に立つ.STARでも事務環境を利用しているがこのよ

うな広範囲の環境は考慮していない.田原らωは, HI-

VISUAL’89において,利用者に理解し易い事務環境

をアイコンの構成によって実現した.

使用環境を含めて視覚化する場合の問題点は利用者に

あった環境を画面上に作り得るかどうかであろう.全て

の人に対して同ーの環境を考えるのは難しい.また,同

じ人でも状況により,例えばオフィスなのか,家で娯楽

に使っているのかにより,違う環境が必要である.もち

ろん, 6.3に挙げるようなカスタマイズ化も必要である

が,上にあげた差分記憶の基本となる利用者にとって馴

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492

染みの深い環境を,プロトタイプとしていくつか整備す

ることがまず必要であろう.今までのアイコンは特に,

オフィス環境を中心に発達してきたが,計算機の利用が

広がるにつれてそれにあった基本環境を作り出す必要が

ある.

また,意味の一貫性も重要である.これが保たれなけ

れば,差分記憶が利用できない.特に, 1つの計算機中

では一貫性が厳密に保たれなければならない.これには

環境に依存しない機能を表すアイコンの絵及び位置を管

理しておく必要がある.

6.2 選択容易性

この節では,アイコンのディスプレイ上での選択に関

する問題について述べる.

アイコンの入力方法は個々がテキストのように簡単で

はないため,並べた中からの選択を余儀なくされる. し

かし,選択中は並べられた選択子を把握しておかなけれ

ばならないため,並べられる数は人聞のアイコニックス

トア{ω の能力に左右される.数としては10数個である.

この数は 1塊の記憶内容(チャンク)が単位である.ア

イコンでは一般にチャンクは 1つの絵と考えられる.そ

のため多くの選択子を 1度に見せるのは無理である. し

かしこの数はアイコンで表現をするのに必要な量として

は余りにも少ない.階層構造を利用するにしても,その

階層の数が大きくなると必要なアイコンを得るまでの処

理時間が掛かり実用的ではない. しかし,テキスト表現

のチャンクは必ずしも 1つの文字を示すので、はなく記憶

の単位となる意味のある 1塊である.例えば無意味文字

では1文字lチャンクであるが,単語1つも lチャンク

である.視覚表現でも同様にチャンクを大きくすること

によって記憶容量を大きくすることができる.すなわち

関連のあるもののみを絵1つがlつのチャンクとなるの

は,その絵が他に対して独立であるためである.単語の

ように一連の関係が有る絵を 1つのチャンクとしてまと

めれば,多くの選択子を一度に盛り込むことが可能であ

る.すなわち,関連のあるもの同士を例えば色を使って

まとめることにより多くの選択子を表示できる.これは

階層構造と言えないこともないが,目に見える形であり,

階層を移るための操作を必要としない.実際,人聞は

アイコンの選択子が多いときには無意識に関連の無い選

択子を落として選択の簡易化を計っているが,アイコン

の-§で解る利点を生かす上でもこのようなやり方が有

効である

この他に位置も選択に関係する棚.これは,アイコ

ンに限らず画面上の話であるが,モデルとなる世界と内

容が一貫していること,違う言葉で言えば,元となる

「物」から類推されるのと同じ位置にあることが必要で

通信総合研究所季報

ある.また,構造上も同じでなければならない.つまり

利用者の期待に沿った形で表示することが類推を楽にし,

選択容易性を向上させる.

6.3 環境のカスタマイズ化とユーザ一定義アイコン

6. 1で説明したようにアイコンの理解はその利用者の

持つ「状況」に依存する.これには利用者個人に依存す

る情報も含まれる.そのため,計算機上の環境を利用者

にあったものに作り替える必要がある.最近,ユニック

ス(UNIX)上では,このような機能を持つものも多い

が,このユーザーカスタマイズ化をするのに面倒な作業

が必要であったり,実際は単なる名前の置き換えだった

りする場合も多い.このようなカスタマイズ化はできる

だけ簡単にしかも,細かいところまで趣味に合うものが

作れる素地が必要である.

また,アイコンが利用者自身の希望に合わない場合,

新しいアイコンを作ったり,ーまとまりの作業を 1つの

アイコンに割り当て直したりする場合がある.このとき

にいかに他のものと絵柄がぶつからないで,見やすいア

イコンを作ると言うアイコンデータベースの管理は重要

である.特に,なんらかの元の図柄を持っている場合は

それで代用できるが,そうでない場合はイメージを幾何

学記号の組合せで作る場合が多いため,既存のアイコン

と新規のものとの競合を排除するように勤めなければな

らない.利用者定義のアイコンに関しては,待井ら(39)

の文書処理における利用者定義のアイコンについての研

究の例があるが,図形の一貫性や重複の排除などはまだ

考慮されていない.

6.4 アイコン聞のルール,シンタックス

これまでにも何度も述べているように,アイコンは一

目で把握する能力はあるが,深い内容を書くには適さな

い.これはアイコン聞の関係を記述する力が弱いためで

ある.また, lつのアイコン内の記述能力についてもそ

の解像度の点から限界があり,細かい修飾が不可能であ

る.

また,いままでのアイコンの使用例の多くは, Shneide-

rmanuoiの直接操作の影響を受けて,操作の度に実行

が行われる対話型であった.この場合,ポインティング

デバイスを使って簡単な操作はできるが,細かい指示を

与えることが難しい.このような細かい指示を,アイコ

ンで与える必要があるかという問題はあるが,見やすさ

の点と流れが簡単にとらえられる点では有効である.

意味の詳細化の方法の1つは,アイコン lつlつが詳

細な内容を表すようにすることであるが,これは絵柄の

複雑性が増える面でも,またアイコンの全体数が爆発的

になる函に関しでも現実的でない.漢字のように各部分

を部品化することもできるが,部品化した場合に意味と

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Vol. 37 No. 4 September 1991

の結び付きが弱くなる.

別なやり方として,アイコン聞の関係等の情報を記述

するアイコンを作るという方法がある.これはテキスト

表現における修飾語や助調の役割果たす.修飾的に働く

ときは必ずしも専用のアイコンが必要ではなく構文法で

言う格のような関係を表すものが必要であろう.ただし,

絵柄に関しては修飾語のような具体的な内容を指す場合

はそれを表す「物」を表示すればいいが,助詞のように

関係を表す場合は,抽象記号で表すことが多くなり,

「文法」が確立していないと利用者は混乱する可能性が

ある.この場合には,アイコン聞の位置関係を利用する

ことも有効であろう.しかし,この方法で問題なのは

「文法」が確立していればいるほど,その規則を習得す

る必要ができ,初心者に有利でない環境ができることで

あろう.

7. アイコンを選ぶ指針

以上6章でアイコンについて様々な視点、から検討した.

この章では,最後にどのような観点でアイコンを使う必

要があるのかについてのまとめをする.

7. 1絵柄

絵柄で大切なことは,絵の分かりやすさである.これ

にはいくつかの婆素がある.

1. 元の「物」との相似関係

2. 簡潔性

3. 色

まず,元の「物」との関係である.「物」がある時は

それを図案化して使うのがよい.アクションアイコンの

場合もできるだけ具体的なもので表す方がよい.しかし,

絵柄は特徴以外は具体的でなくて良い.以前,アイコン

が複雑な表現ができないと言うことに対し, ピットマッ

プ表現をそのままアイコンにすれば良いのではないかと

言う意見があった. しかし,アイコンは「物」の象徴で

あってそのものではない.どの特徴を残すのかを念頭に

置いた絵の省略が必要である.次に,一目でわかると言

う利点を生かすためにもできるだけ簡単な絵柄を選ぶこ

とが必要である.これは複合図形を作る場合にも有利で

ある.色については,アイコンの表示はそれほど大きく

はないので他との混乱を避けるためにも使わない方がい

い.特に, 1つのアイコンに多くの色を使うのは良くな

い. しかし元々,記号が持っている色は必要な場合があ

る.また,地の色を同じ系統同士をまとめるため等に使

うのはよい.

7.2 意味

アイコンの意味についてはその性質から次の3つが挙

げられる.

493

1. 暖昧性

2. 一貫性

3. 構文規則

アイコンは絵で内容を表すために意味が確定せず暖昧

性が残る.そのため,状況によって意味が限定されるよ

うな使い方や,ラベルによって補助することを考える必

要がある.また,逆に暖昧性を利用して多義性を持つア

イコンを作り全体のアイコンの数を減らすような努力を

することも可能である.但し,意味の一貫性を確保して

おかないと,利用者を惑わすだけになる. 3つ目の構文

規則は今までのアイコンに未知の分野であるが,アイコ

ンの記述性を増す上で有効である.その際には複雑な操

作の記述方法を理解上無理のない形で作る必要がある.

7.3 環境

最後の環境の問題は他の 2っと関連する.

1. 類推可能性

絵からの類推では,それを推測する材料が必要である.

今までは,絵そのものやそれが出現する順序を材料とし

てきたが,様々な種類のアイコンがより簡単に使えるた

めには,その類推を助けるより多くの要素を利用者に与

える必要がある.人は状況からある期待をもって類推す

るために,期待に適合した環境を作ることが重要である.

利用者自身持つ状況は変更できないが,画面上等で,で

きるだけ類推し易い環境を整えることに意味がある.

8. まとめ

本報告では,アイコンの分かりやすさについて文献,

アンケートなどを通して分析し,絵柄,意味,環境の

3つの点に注目して様々な見地から考察した.その結果

としてアイコンを形づくる 3つの要素についての指針を

まとめた しかし,これらの指針は,非常に大まかであ

り,利用者に依存する要素が大きい 特に,環境に対し

ては,利用者を仮定し,それが持つべき環境を分析し,

モデルを作ることが今後のもっとも大きな課題になろう.

究極的には各利用者にそれぞれのモデルを作る必要があ

るが,まず,オフィス以外の環境のモデル化から始める

のがよいと思われる.また,アイコンの「文法」に関し

てはできるだけ早く,簡単な規則のみでよいから整備し

ないとアイコンの有利さは失われる.これ以外の要素に

ついては,環境にも関わるため,モテソレ化した環境上で

検討する必要がある

本報告に際し,アンケートに応えてくださった方々に

感謝します.また,談話会等で熱心に討議して頂いた方,

また様々なアドバイスを頂いた方にも感謝します.最後

に,日頃御指導頂く横山総合通信部長並びに,統合通信

網研究室の方々に感謝します.また丁寧なアドバイスを

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494

いただいた遜信技術部,町津研究官にお礼申し上げます.

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