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2004 年 2 月 20 日発行
中国・浙江省の 経済・産業の特徴と投資環境
長江デルタ地域の 3 省・市(上海、江蘇省、浙江省)は、近年外資系企業の対中戦略上
最大の基点となっており、特に 2000 年ごろから内販志向型、ハイテク関連、素材関連企業
等の活発な進出が続いている。浙江省は長江デルタ地域を構成する一地域として、江蘇・
浙江(江浙)と並び称されることが多いが、江蘇省と比べると外資系企業の集積や地場産
業の企業形態などに異なる特色が見出される。また、一般に狭義の長江デルタの範囲に含
まれるのは、長江下流域に位置する江蘇省の南部(蘇南)と浙江省の北部(浙北)までで
あり、特に、浙江省南部(浙南)は民営企業主導による独特の発展を遂げてきた(みずほ
アジアインサイト「浙江省南部を中心とする民営企業の動向」2004 年 1 月 20 日ご参照)。
本稿では、浙江省の経済・産業の特徴、浙江省北部(杭州、寧波)の投資環境について、
江蘇省との比較を交えながら見ていこう。
浙江省の特徴(江蘇省との比較) (相対的に低い外資依存度)
浙江省の経済面での特徴は、江蘇省に比べて外資導入額が少ない割には所得水準が高く、
活力ある民営企業の発展がその主な原動力となってきたことである。
浙江省の人口、GDP、工業生産規模は江蘇省の約 7 割に当たるが、その外資導入額(直
接投資)は 2000 年以降高い伸びを見せているものの、江蘇省と比べると 3 分の 1 の規模に
とどまる(図表 1)。したがって外資依存度も相対的に低く、工業生産に占める外資系企業
のシェアを見ると、江蘇省の 29.8%に対して浙江省は 19.6%にとどまり、輸出については
一段と大きな格差が見られる(いずれも 2002 年)。経済に占める外資系企業のプレゼンス
の点で、江蘇省と浙江省ではかなりの相違がある(図表 1)。
図表 1:浙江省と江蘇省の主要経済指標の比較 項目 単位 浙江省 江蘇省 浙江/江蘇
人口 万人 4,647 7,381 0.63
GDP 億元 7,670 10,636 0.72
工業生産 億元 9,779 13,866 0.71
直接投資(契約) 億ドル 67.2 196.5 0.34
同 (実行) 億ドル 30.8 101.9 0.30
外資依存度(生産) % 19.6 29.8
同 (輸出) % 31.3 63.00
50
100
150
200
98年 99 2000 01 02
(億ドル)
江蘇省
浙江省〔直接投資(契約)〕
(注)各指標は 2002 年(末)の値。外資依存度は、工業生産および輸出の中国全体に占める外資系企業の
比率。工業生産は国有企業および年商 500 万元以上の非国有企業が対象。
(資料)浙江統計年鑑 2003、江蘇統計年鑑 2003
1
(江蘇省を凌駕する平均所得水準)
一方で、所得水準を比較すると、浙江省は、一人当たり GDP、都市部一人当たり可処分
所得、農村部一人当たり純収入、一人当たり銀行預金残高のいずれにおいても江蘇省を凌
駕している(図表 2)。省外への活発な不動産投資は、浙江省の所得レベルの高さを示す一
例である。上海の外資系不動産デベロッパーによれば、上海住宅市場では、温州、寧波を
始めとする浙江省の企業や個人が、香港、台湾などの華人と並ぶ主要な投資家(買い手)
となっている。
経済発展と所得水準の向上の少なからぬ部分を外資系企業による活発な投資とその輸出
に拠ってきた広東省や上海、江蘇省に対して、浙江省は外資導入額がさほど大きくないに
もかかわらず高い所得レベルを実現させてきた。その 1 つの要因として挙げられるのが、
浙江省における特筆すべき民営企業の発展である。
図表 2:浙江省と江蘇省の所得水準の比較
項目 単位 浙江省 江蘇省 浙江/江蘇
1人当たりGDP 元 16,570 14,397 1.15
都市部1人当たり可処分所得 元 11,717 8,178 1.43
農村部1人当たり純収入 元 4,941 3,980 1.24
預金残高(企業) 億元 4,314 4,280 1.01
同 (個人) 億元 5,233 6,276 0.83
個人の1人当たり預金残高 元 11,538 8,503 1.36
(注)2002 年末の値
(資料)浙江統計年鑑 2003、江蘇統計年鑑 2003
(圧倒的に高い民営企業のシェア)
浙江省の工業生産に占める民営企業の比率は 40.9%、商業、サービス業などを加えた産
業全体の産出額ベースでは 50.7%と過半に達しており、江蘇省の同 12.0%、20.3%と比べて
格段に高い(図表 3)。浙江省の民営企業(製造業)は私営企業(従業員 7 人以上)と個人
企業(従業員 7 人未満)を合わせて 42.3 万社に上るが、その大半は中堅・中小企業であり、
1 社あたり生産高は 166 万元とさほど大きくない(図表 3)。
規模は小さいながらも活力のある民営企業が省内の各地に多数勃興し発展を遂げてきた
ことが、近年増勢を強める外資系企業の投資とあいまって、浙江省の工業化と経済成長、
所得水準の向上をもたらしたと考えられる。
2
図表 3:浙江省と江蘇省の民営企業の現状
単位 浙江省 江蘇省 浙江/江蘇
民営企業比率(全産業) % 50.7 20.3
同 (製造業) % 40.9 12.0
民営企業数(製造業) 万社 42.3 32.7 1.29
私有企業 万社 14.5 13.8 1.05
個人企業 万社 27.8 18.9 1.47
同 生産額(製造業) 億元 7,033 2,544 2.76
私有企業 億元 4,644 1,950 2.38
個人企業 億元 2,389 594 4.02
同 一社当たり生産額(製造業) 万元 166 78 2.14
私有企業 万元 320 141 2.27
個人企業 万元 86 31 2.73
項目
(注)2002 年末の値
(資料)浙江統計年鑑 2003、江蘇統計年鑑 2003
(貿易面での特徴)
輸出動向にも浙江省の特徴が表れている。浙江省の輸出に占める民営企業の比率は
32.6%で、外資系企業の 31.3%を上回っている。一方江蘇省では、外資系企業の比率が 63.0%
と突出しており、民営企業は 1 割以下にとどまる。さらに、浙江省の主要輸出品目は、紡
績・衣類(シェア 36.8%)、機械・輸送機器(電機を含む、同 32.9%)を筆頭に、靴、プ
ラスチック製品、照明器具、家具、鞄などが続いており、地場民営企業の主力輸出製品が
中心となっている。一方江蘇省では、外資系企業が主な担い手とみられる機械・輸送機器
(電機を含む)のシェアが 47.7%とほぼ半分を占めており、地元の主力伝統産業である紡
績・衣類のシェアは 9.3%にとどまっている。
江蘇省、浙江省内の南北格差と狭義の長江デルタ (南北の経済格差の状況)
浙江省、江蘇省の面積はともに約 10 万k㎡で、両者を合わせれば日本の面積の過半に達
する広さを持つ。このうち外資系企業の進出が経済・産業の発展に主要な役割を果たして
いるのは、狭義の長江デルタ地域、すなわち上海に近接する江蘇省南部(蘇南)と浙江省
北部(浙北)である。
まず、長江を挟んで江蘇省を南北に分けると、蘇南は蘇州、無錫、常州、南京、鎮江の 5
市、蘇北は南通(長江を挟んで蘇州の対岸)を始めとする 8 市からなる。蘇南には外資系
企業の集積と郷鎮企業の発展が見られるのに対して、蘇北は工業化を促す牽引役を欠いて
おり、南北間で大きな経済発展レベルや所得水準の格差が生じている。
蘇南の人口は蘇北の半分以下にとどまるが、直接投資導入額(契約ベース)では蘇南が
3
蘇北の 7.7 倍、輸出は 6.5 倍、一人当たり GDP では 3.2 倍、工業生産では 2.4 倍に達してお
り、工業生産に占める外資系企業の比率も蘇南の 35.1%に対して、蘇北は 16.9%と大きな
相違が見られる(図表 4)。日系企業が近時大挙して進出しているのも、蘇州、無錫を中心
とする蘇南と、蘇州の北部に隣接する南通が中心となっている。
浙江省を南北に分けると、浙北は杭州、寧波、嘉興、紹興、湖州、舟山の 6 市、浙南は
温州、台州など 5 市からなる。江蘇省を「南高北低型」とすれば、浙江省は「北高南低型」
の傾向があるが、輸出や所得水準などで江蘇省ほどの南北間格差はみられない。浙北の直
接投資導入額(契約ベース)は浙南の 10.9 倍、工業生産に占める外資系企業の比率も浙北
の 18.4%に対して浙南は 11.5%にとどまる一方、浙北の輸出は浙南の 3.8 倍、一人当たり
GDP は 1.8 倍、都市部の一人当たり可処分所得では両者に差異はほとんど見出せない(図
表 4)。浙北は民営企業の発展と外資系企業の投資があいまって、蘇南に近い経済発展パタ
ーンを辿ってきたのに対して、浙南は台州、温州に代表されるような民営企業主導型の経
済発展モデルによって所得水準が向上し、上海から離れ外資の進出も少ないハンデを跳ね
除けてきたためと考えられる。
図表 4:江蘇省、浙江省の南北地域間比較
項目 単位 蘇南 蘇北 蘇南/蘇北 浙北 浙南 浙北/浙南
人口 万人 2,196 4,930 0.45 2,304 2,232 1.03
GDP 億元 6,281 4,387 1.43 5,485 2,985 1.84
外資導入額(契約) 億ドル 174.0 22.5 7.73 81.8 7.5 10.91
同 (実行) 億ドル 91.2 10.7 8.52 30.3 3.3 9.18
工業生産 億元 9,778 4,087 2.39 7,239 2,532 2.86
(外資系企業比率) % 35.1 16.9 18.4 11.5
輸出 億ドル 333.3 51.3 6.50 232.5 61.2 3.80
一人当たりGDP 元 28,602 8,899 3.21 23,806 13,374 1.78
都市部可処分所得 元 9,555 7,660 1.25 11,849 11,842 1.00
(注)2002 年(末)の値。外資系企業比率は工業生産額に占める外資系企業の比率。都市部可処分所得は
一人当たり。
(資料)浙江統計年鑑 2003、江蘇統計年鑑 2003
(蘇南、浙北の都市間比較)
蘇南、浙北の各都市を比較すると、蘇南では、上海へのアクセスで優位に立つ東部の蘇
州、無錫の 2 都市、浙北では、上海に近い西の杭州と港湾都市である東の寧波の 2 都市が
抜きん出ており、外資系企業の集積や工業化において他の都市よりも先行している(図表 5)。
蘇州、無錫を中心とする蘇南地域は、外資系企業の集積の厚みや一人当たり GDP の高さ
などを背景に、今後も部品・素材関連産業などの連鎖的な投資の集積が期待され、上海に
進出した内販型企業の次なるターゲットとなる公算も高い。ただし、企業の集積や所得水
準の向上は、土地代や人件費等など生産コストを押し上げる要因になりつつある点には注
4
意が必要である。
これに対し、杭州、寧波を中心とする浙北地域は、外資系企業の集積状況では蘇南に見
劣りするものの、近年外資系企業の直接投資は著しい伸びを見せている。さらに、所得水
準は蘇南と比肩するレベルにあり、消費市場として上海、蘇州・無錫に次ぐターゲットに
なる可能性を秘めている。そこで次に、浙江省北部の代表的な都市である杭州と寧波に焦
点を当て、投資環境や外資系企業の進出動向を見てみよう。
図表 5:蘇南、浙北の 2 都市集中状況
蘇州 無錫 蘇南5市 集中度 杭州 寧波 浙北6市 集中度
外資系企業数 万社 1,410 523 3,023 63.9% 710 929 2,443 67.1%
工業生産額 億元 3,466 2,445 9,778 60.5% 2,400 2,000 7,239 60.8%
うち外資系 億元 1,933 537 3,436 71.9% 620 517 1,632 69.7%
一人当たりGDP 元 35,733 36,151 28,602 1.3倍 28,150 27,541 23,806 1.2倍
(注)集中度は、2 都市の合計/各地域合計(一人当たり GDP のみ 2 都市の平均値/各地域平均値)。
(資料)浙江統計年鑑 2003、江蘇統計年鑑 2003
外資系企業の投資先として注目される浙江省北部①杭州 (杭州の投資環境)
浙江省の省都である杭州は、古くは春秋時代の呉越国の都として栄え、現在も省内の政
治・経済の中心であり、中国の十大景勝地の 1 つとされる西湖を擁する観光都市でもある。
豊富な人的資源、上海へのアクセスのよさ、所得水準の高さなどが、外資系企業の進出を
促す要因となっている。
人材資源としては、中国有数の大学である浙江大学など多くの大学や専門学校がある。
しかも、上海や蘇州に比べて企業の人材獲得競争が激化していないことから、優秀な人材
を確保しやすく、大卒者の初任給や技術者、事務職などの給与水準も、上海と比べて総じ
て 3 割程度低い(杭州市対外貿易経済合作局)。一般労働者は安徽省、江西省などの外地
出身者が多く、内陸農村部の出稼ぎ労働者が低コスト労働力の重要な源泉となっている点
は広東省の珠江デルタと類似する。比較的単純な作業工程に従事する一般労働者の賃金水
準は月額 600~800 元程度(円換算約 1 万円~1 万 2,000 円)で、珠江デルタと大差なく、
地元出身者の比率が高い蘇州や無錫と比べて割安感がある。
物流インフラの面では、上海とのアクセスの良さが強みとなっている。杭州・上海間(180
㎞)の移動は高速道路を使って約 2 時間であり(無錫・上海間とほぼ同じ)、将来は上海・
杭州間を 30 分で結ぶ高速鉄道が建設される計画もある。杭州市には貿易に適した港湾はな
いが、上海、寧波の両貿易港に高速道路でつながっており大きな支障はない。また、杭州・
日本間は、2004 年 3 月に予定される旅客便の新規開設(全日空、杭州・成田週 4 便、杭州・
関空週 3 便)を契機に、人的往来の利便性が飛躍的に高まることが予想される。
杭州市の一人当たり GDP は 28,150 元(約 3,400 ドル)に達しており、所得水準の向上に
5
伴い市場としてのポテンシャルも高まっている。従来杭州の中心部付近に立地していた工
場の大半は郊外にシフトし、街の中心部は住宅化・商業化の進展に伴い小売業を始めとす
るサービス産業が急成長を遂げている。流通・小売分野では、メトロ(独)、オーシャン
(仏)などの欧州系ハイパーマーケット、ジョルダーノ等の香港系アパレル、聯華を始め
とする上海地場系のスーパー・コンビニなどが活発な店舗展開を見せている一方で、日系
小売業のプレゼンスは非常に限られているのが実状である。ただし、上海の小売市場では、
外資系、地場系企業の一斉進出を背景に競争が熾烈化していることから、今後は杭州など
比較的所得水準の高い周辺都市が日系企業の次なるターゲットとなる公算もあろう。
(杭州の産業動向)
伝統的な産業である紡績(シルクなど)、食品加工(水資源を利用した飲料水など)、
機械などに加えて、IT(携帯電話関連)、バイオ医薬、自動車部品などの新興産業の発展
が目覚ましい。地場民営企業が急速に台頭しており、杭州娃哈哈グループはボトルウォー
ター、ソフトドリンク分野で、浙江省のみならず全国で有数のブランドに成長を遂げた。
自動車用トランスミッションや建設機械向けのベアリングを生産する浙江天馬ベアリン
グもその1つである。86 年に地元の技術者数名が 50 万元を持ち寄って簡単な金属加工から
スタートした民営企業であり、2003 年には資本金 6,500 万元、年商 4.5 億元の国内有数のベ
アリング企業へと成長を遂げた。エンジニアなどの有能な人材、民営企業特有の迅速・柔
軟な経営、徹底的なコスト削減などが発展の原動力になったという(参考写真 1)。2002
年には四川省成都の国有ベアリング工場を買収し、半年後には 5 年連続の赤字から脱却さ
せ経営再建を果たしたことから、民営企業による国有企業買収のモデルケースとされてい
る。
参考写真 1:杭州の民営企業
6
(杭州の外資系企業進出動向)
杭州に進出している外資系企業数は約 1,800 社である(浙江省統計局、2002 年末)。国
別には香港系、台湾系企業(主にヴァージン諸島経由の間接投資)が多く、米系、日系、
欧州系企業などが続く。日系企業数は、国家級開発区である杭州経済技術開発区と高新(ハ
イテク)技術開発区に進出済みの企業を合わせて約 80 社にとどまっており、蘇州新区、蘇
州園区(中国・シンガポール蘇州工業園区)を合わせた約 250 社、無錫新区の約 150 社と
比べるとかなり少ない印象は否めない。主要企業には、東芝、旭化成、松下電器、ヤマハ、
日産ディーゼル、キューピー、自動車部品の矢崎、横浜ゴムなどがある。
東芝は 2002 年 6 月に独資で進出、上海に次ぐ中国内第 2 のノートブック PC 工場を 2003
年 5 月に稼動させた。フィリピンと杭州の 2 工場をノートブック PC の世界向け輸出拠点に
位置付け、2004 年以降年産 200 万台を見込んでいる。同社がノートブック PC の生産基地
として杭州を選んだ主な理由は、豊富な IT 関連人材、政府の IT 産業重視の姿勢、将来の
部品産業集積の可能性などがあるという(杭州市対外貿易経済合作局)。
杭州藤久寿機械製造(FUJIX)は、人材の現地化が進んでいる点で注目される日系企業で
ある。同社は本社を岡山県に置く 67 年設立の中小規模機械メーカーであり、95 年に独資で
杭州に進出、機械部品の生産を開始した。現地法人設立当初は複数の日本人が常駐してい
たが、現在、経常業務は中国人がすべて管理する体制となっている。現場の責任者である
総経理には設立当初の現地スタッフのうち最も有能な人材(日本語可)を据え、日本人の
会長は月に 1 回程度杭州を訪問する非常勤の形をとっている。現法のローカル化を進める
一方で、現地の優秀なスタッフを毎年数名、研修のために日本の本社に派遣し、生産管理
や技術面での「日本化(日本へのキャッチアップ)」を図っている。欧米系企業に比べて
人材の現地化が遅れているとされる日系企業では珍しい例と言えよう。
非日系企業では、通信、半導体などのハイテク分野で台湾系企業の進出が活発化してい
るほか、モトローラ(米)、エレクトロラックス(スウェーデン)、シーメンス(独)、
GE(米)、ダノン(仏)など、欧米系企業の進出も散見される。杭州泰明頓摩擦材料は、
ドイツ系自動車部品メーカーの TMD 社と杭州摩擦材料工場(国有)の合弁企業(出資比率
は 65:35)である。自動車のブレーキ関連部品を 100%国内市場向けに生産しており、主
な販売先である上海フォルクスワーゲン(VW)、一汽 VW、上海 GM に加えて、吉利汽車
や奇瑞汽車(上海汽車系列)などの地場系メーカーや日系自動車メーカーへの販路拡大を
検討している。基幹部品・素材、主要機械設備、技術はドイツから持ち込んでおり、中国
内のライバル部品メーカーに対して性能・品質面で優位性を保っている。VW の中国にお
ける事業拡大に伴い、同社を含めた多数のドイツ系部品メーカーが長江デルタ周辺に進出
しているという(同社范副総経理)。
7
外資系企業の投資先として注目される浙江省北部②寧波 (寧波の投資環境)
寧波は唐代には明州と呼ばれ、揚州、広州と並ぶ 3 大貿易港として名を馳せた都市であ
り、現在も寧波の最大の強みは中国有数の港湾機能である。寧波港は老港、鎮海港、北ル
ン港に分かれており、なかでも 78 年以降開発が進められた北ルン港は、自然の深水港の特
色を活かして、大型タンカーなど 30 万トン級(上海は 5 万トンまで)の船舶の入港も可能
な港として発展を遂げた(参考写真 2)。現在工事中の第 4 期を含めて 800 万 TEU(20 フ
ィートコンテナ換算)の貨物取り扱いが可能な大規模コンテナターミナルのほかに、宝山
製鉄所や石油化学コンビナートの原料輸送用大型タンカーの埠頭も擁し、貨物取扱量では
上海に次いで全国第 2 位である。さらに、杭州、台州、温州など浙江省内の企業にとって、
対外貿易の窓口として上海と並んで重要な役割を果たしている。
参考写真 2:寧波のコンテナターミナル
寧波・上海間(約 380 ㎞)の移動は、高速道路の整備が進んだ結果、現状約 4 時間にま
で短縮された。さらに 2008 年完成予定の杭州湾を跨ぐ全長 36 キロの寧波・上海大橋が完
成すれば、上海、寧波、杭州のトライアングルの移動が各 2 時間となり、経済活動の一層
の活発化が期待される。
人的資源の面では、寧波大学など約 20 ヶ所の大学、専門学校が主な人材の供給源となっ
ている。大卒で入社 4~5 年の事務職、専門職の給与水準は、上海の 4,000~5,000 元に対し
て寧波は 2,000~2,500 元で上海の約半分にとどまる(保税区投資合作局)。一般労働者は
杭州と同様に安徽省など外地出身者が多いことから、上海、蘇州などと比べて賃金水準は
かなり割安である。
寧波保税区投資合作局(管理委員会)では、日本での留学と就業経験のある中国人が日
8
本企業誘致を担当している。杭州経済開発区の管理委員会でも同様の経歴を持つ女性が日
本企業担当者となっていた。いずれも日本語が流暢で、日本人の習慣や考え方などもよく
理解しているように見受けられた。現状、蘇州や無錫に比べて日本語人材の厚みはないが、
日系企業が安心して進出を検討できる環境が整備されつつあると言えよう。
(寧波の産業動向)
寧波の伝統産業であるアパレル・繊維、プラスチック、電機・機械・金属に加え、最近
は携帯電話や半導体などの IT 分野が急速に伸びている。紳士服の分野では、杉杉(シャン
シャン)や雅戈爾(ヤンガー)、携帯電話の分野では、寧波波導(Bird)といった中国を
代表する民営企業が登場している。雅戈爾は、79 年に小規模の家内工業からスタート、90
年代に入って紳士服の分野で全国なブランドに成長した。寧波波導は 92 年に設立、近年携
帯電話分野で成長著しい民営企業で、2003 年上期の国内携帯電話の販売市場では 15.0%の
シェアを占め、モトローラ、ノキアを抜いてトップとなった。このほか、寧波市の郊外西
部に位置する余姚は、隣接する慈渓とともに、金型、プラスチック成形の一大集積地とな
っており(2004 年 1 月号参照)、家電の分野でも、奥克斯を始め中堅・中小規模のメーカ
ーが多数ひしめいている。
(寧波の外資系企業進出動向)
寧波に進出している外資系企業数は約 2,000 社である(浙江省統計局、2002 年末)。外
資系企業は、寧波港に近接する経済技術開発区、保税区に集中しており、従来は商社等の
貿易型企業が圧倒的に多かったが、99 年ごろから台湾系企業を中心に生産型企業の進出が
活発化している。国別には香港系、台湾系企業が圧倒的に多く、欧米系、日系企業がそれ
に続いている。香港系企業の投資は寧波幇(寧波出身者の人脈)の存在抜きには語れない。
寧波を故郷として上海に移民し、60 年代以降香港に渡り香港や東南アジアで成功を収めた
華人・華僑が、故郷である寧波への投資を活発に行ってきたのである。台湾系企業にとっ
ては、地理的な近さに加え、創業者の血縁・地縁関係、蒋介石縁の地であること(奉化県:
現寧波市管轄下の奉化市出身)などが寧波への積極的な投資の背景にあるとみられる。
一方、日系企業の寧波への進出は、貿易型企業が大半を占めており、生産型企業の進出
は少数にとどまるが、2000 年以降は増勢が強まっている(保税区投資合作局)。寧波経済
技術開発区に約 70 社、保税区・輸出加工区に約 20 社の進出が見られ、主な企業は、アラ
コ(自動車部品)、三菱レーヨン、アルプス電気、吉川化成などである。総じて中堅・中
小企業が中心で、大手メーカーの進出はこれまでのところ少ない(保税区投資合作局)。
欧米系企業では、ダウケミカル、エッソ(米)、BP(英)など石油化学関連の大規模投資
が流入している模様である。
9
今後の見通しと懸念材料
浙江省への外資系企業の投資は、杭州、寧波といった北部を中心に 2000 年以降急増して
いる。現状、香港系、台湾系企業が主体であるが、良好な立地条件、インフラ整備に伴う
交通の利便性の改善、日系企業誘致体制の強化などが誘因となり、先行する台湾系企業に
追随する形で、今後日系企業の進出に弾みが付き、従来の「蘇南集中」から「蘇南・浙北
分散」の傾向を強める公算もある。これまで民営企業の発展を最大の原動力としてきた浙
江省の経済・産業は、外資流入が軌道に乗れば一段と成長ペースが加速し、上海周辺の有
望な消費市場としても外資系企業の注目度がさらに増すことになろう。
近年江蘇省、浙江省の輸出は増勢が著しく、98 年に江蘇省が輸出額ベースで上海を抜き、
2002 年には浙江省が上海を上回った(図表 6)。上海は商業、金融、サービス産業の発展
が著しく、経済・産業のサービス化の進行に伴い、製造業の中心は周辺の江蘇省、浙江省
へとシフトしつつあることが背景にある。浙江省の輸出基地としての役割は、省北部への
外資系企業の進出をテコに益々加速する可能性がある。
図表 6:長江デルタ 3 省・市の輸出動向比較
0
100
200
300
400
97年 98 99 2000 01 02
上海
江蘇省
浙江省
(億ドル)
(資料)浙江統計年鑑 2003、江蘇統計年鑑 2003、上海統計年鑑 2003
ただし、昨年夏以降長江デルタ周辺で深刻化している電力不足問題は今後の懸念材料と
なっている。急速な工業化の進展や生活レベルの向上を背景に、電力需要が供給を上回る
ペースで増加していることが背景にある。杭州市周辺でも昨夏以降、電力不足が深刻化し
ており、2003 年 12 月には市内の企業に対して自家発電設備の導入を奨励する政策(補助金
の支出)を打ち出すなどの対応を迫られている。
電力の安定的な供給は、近年上海、蘇南、浙北への進出が活発化している IT 関連産業に
とって最も重要なインフラの1つである。電力不足問題が長期間にわたって続けば、既に
進出している外資系企業のオペレーションに影響が生じるとともに、今後の新規投資にブ
レーキが掛かるおそれもあることから、今後の動向を注意深く見ていく必要があろう。
以上
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【面談先】
浙江省の企業:民営企業 4 社、国有股份(株式制)企業 1 社、ドイツ系合弁企業 1 社(中方は
民営企業)、米系合弁企業 1 社(中方は民営企業)、台中合弁 1 社、日系独資 1 社
政府関係機関等:杭州対外貿易経済合作局、杭州経済技術開発区、寧波保税区投資合作局など
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