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46 アイソス No.261 2019年 8月号
東京海上日動リスクコンサルティング株式会社企業財産本部 本部長
佐藤 一郎 (さとう いちろう)
1999年、東京大学大学院工学系研究科建築学専攻修了。建設会社勤務を経て、2002年に東京海上日動リスクコンサルティング入社。以降、開発やコンサルティングに従事。2011年、在職中に信頼性・リスク論で学位取得。現在は、産業や地域社会などの社会課題解決貢献に向けた企画開発等にも携わる。博士(工学)、一級建築士。
• 因果の「ステージ」が統一されていること元となるテキストデータが形式的に構造
化されていても、必ず高い精度で分類で
きる訳ではない。その要因の一つとして、
原因として記述されている内容にズレが
ある場合がある。すなわち、因果関係は
原因と結果の連鎖であるため、同じメカ
ニズムであっても異なる段階の原因が各
事例の原因欄に混在して記述されている
と十分な精度が出ない。例えば「排水系
の詰まりで水がたまり、モータ水没。温度
が上昇した」いう事象は、「排水の詰まり
⇒モータ水没⇒故障⇒温度上昇」という
因果関係の連鎖で異常が発現するが、
原因を「排水の詰まり」としているレコード
と「モータの水没」としているレコードが混
在していると、類似度の高いレコードとして
認識されない。すなわち、相対的な因果
関係の中で、どのステージを原因として与
えるのかの判断基準が統一できていなけ
れば、精度よく分類することができない。
SSMによる知識構造化を利用すれば、
因果連鎖を含め、メカニズムをどのように
表現するのかという記述方針が与えられ
るので、分類の精度を向上させることがで
きる。すなわち、保全記録において、単に
原因を記述するための欄を設けるだけで
なく、因果の連鎖関係がわかるように記
入欄を分割するなどの工夫により、保全
現場での事例検索の精度を更に向上さ
せることが可能である。
• できるだけパターン化されたシンプルな記述であること
詳細な記述は、人が参照する場合、状
況を知る助けになるが、自然言語処理の
分析においては精度を乱す要因となる。
レコードの記述はシンプルなものとし、注釈
コメントは分けて残しておくべきである。
これらの留意点を踏まえた履歴データ
を蓄積してゆくためには、データをインプッ
トする段階で、フォーマットの工夫や記録
者の目線合わせ等の配慮が必要となる。
上記配慮のなされていないデータでは、
自然言語処理による類似テキストの検索
エンジンを構築しても精度が出ないと考え
られる。記録をつける際のマニュアル・ガイ
ダンスが明確になっていること、複数の保
全担当者間で記録のとり方の目線合わ
せができていること、等が重要となる。
4. おわりに
2つの実証事例を通じて、自然言語処
理によるテキストデータを扱ううえでの構造
化の重要性を確認した。また、知識構造
化を利用してテキストデータを蓄積してい
く過程で留意すべき事項について確認
した。
現状、自然言語処理技術は万能と呼
べる精度には達していないが、構造化を
意識したデータの作成により、精度を高め
ていくことは可能である。IoT/AIによる状
態監視の高度化だけでなく、過去からの
保全履歴を有益なビッグデータとして活
用することで、メンテナンス業務をより効
率的で付加価値の高いものとしていくこ
とができるだろう。
参考:
i JIS Z 8115:2000「デイペンダビリティ
(信頼性)用語」 F2
ii 株式会社構造化知識研究所ホーム
ページ https://www.ssm.co.jp/
iii D. Mekala et al. arXiv:1612.06778
v3 [cs.CL], 2017
iv 日本科学技術連盟 第10回知識構造
化シンポジウム(2018年9月7日)講演
資料より
東京海上日動リスクコンサルティング株式会社企業財産本部 リスク定量化ユニット エキスパートリスクアナリスト
矢野 良輔 (やの りょうすけ)
2007年、東京大学大学院新領域創成科学研究科先端エネルギー工学専攻博士課程修了(Ph.D., Sci.)、同専攻特任助教を経て、2016年より、東京海上日動リスクコンサルティングにて、主にデータ分析、AI関連業務に従事。2017年より、東京大学大学院数理科学研究科非常勤講師、同専攻社会数理実践研究へ参加。日本物理学会、数理社会学会正会員。
東京海上日動リスクコンサルティング株式会社企業財産本部 企業財産リスクユニット エキスパートリスクエンジニア
犬塚 俊之 (いぬづか としゆき)
2007年、東京大学工学系研究科社会基盤学専攻修士課程修了、同年東京海上日動リスクコンサルティング入社。2011年から2014年にかけ、シンガポールのTokio Marine Asia Pte Ltd.に出向。化学、自動車メーカー等のグローバル企業を中心に、企業の防災・減災に関するアドバイザリー業務やデータ利活用に関するコンサルティング業務に従事。