26
ニカラグア小学校教師の 教授的力量する自己認識変容過程 教授的力量する自己認識変容過程 広島大学大学院国際協力研究科院生 小坂 法美

ニカラグア小学校教師の 教授的力量に関する自己 …ニカラグア小学校教師の 教授的力量に関する自己認識の変容過程 広島大学大学院国際協力研究科院生

  • Upload
    others

  • View
    2

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: ニカラグア小学校教師の 教授的力量に関する自己 …ニカラグア小学校教師の 教授的力量に関する自己認識の変容過程 広島大学大学院国際協力研究科院生

ニカラグア小学校教師の教授的力量に関する自己認識の変容過程教授的力量に関する自己認識の変容過程

広島大学大学院国際協力研究科院生

小坂 法美

Page 2: ニカラグア小学校教師の 教授的力量に関する自己 …ニカラグア小学校教師の 教授的力量に関する自己認識の変容過程 広島大学大学院国際協力研究科院生

ニカラグアカラグア

1936-1979

ニカラグアソモサ独裁政権

1979-1990サンデ スタ革命政権サンディニスタ革命政権

・教育の無償化

・識字教育運動・成人教育

・内戦

1990-1990-民主政権

Page 3: ニカラグア小学校教師の 教授的力量に関する自己 …ニカラグア小学校教師の 教授的力量に関する自己認識の変容過程 広島大学大学院国際協力研究科院生

研究の動機

2002年の学力調査:

ニカラグア6年生の国語7割、算数9割の児童がカリキュラムが要求する学力に至っていない。(MECD,2004)

原因

教師の教授的力量不足教師の教授的力量不足

実行戦略

教育省活動計画(MECD,2004):

教員養成改革 教員研修の充実 教師の待遇向上教員養成改革、教員研修の充実、教師の待遇向上

Page 4: ニカラグア小学校教師の 教授的力量に関する自己 …ニカラグア小学校教師の 教授的力量に関する自己認識の変容過程 広島大学大学院国際協力研究科院生

研究の動機

教師はLif l l教師はLifelong learners (UNESCO,1997)

教師の力量は人生を通し形成され続けるもの教師の力量は人生を通し形成され続けるもの

適切な投入

学校、家庭、社会

歴史

Page 5: ニカラグア小学校教師の 教授的力量に関する自己 …ニカラグア小学校教師の 教授的力量に関する自己認識の変容過程 広島大学大学院国際協力研究科院生

目的目的

グ 学校教師 自 識 教• ニカラグア小学校教師の自己認識による教授的力量の全体像と各時期における阻害もしくは促進要因を明らかにする

Page 6: ニカラグア小学校教師の 教授的力量に関する自己 …ニカラグア小学校教師の 教授的力量に関する自己認識の変容過程 広島大学大学院国際協力研究科院生

教授的力量の内容

教師の力量は指導技術的な側面と人間の資質的側面からなる。小山(1986)、藤澤(2004)

教師の教授的力量の分類 小山(1986)

技術的側面 テクニカルスキル技術的側面 テクニカルスキル

コンセプチュアルスキル

人格的側面 狭義のパーソナリティー

モチベーションモチ ション

教師の形成された力量を測る視点

Page 7: ニカラグア小学校教師の 教授的力量に関する自己 …ニカラグア小学校教師の 教授的力量に関する自己認識の変容過程 広島大学大学院国際協力研究科院生

教師の成長に関する研究

•教師の授業指導力は経験年数によって3~5程度のその時期に共通する発達段階の時期がある。に共通する発達段階の時期がある。

秋田(1997)、藤澤(2004)、Berliner(1989)•教師のキャリア発達は多様に展開される。教師のキャリア発達は多様に展開される。

Huberman(1993)•ライフヒストリー法を用いながら教師の人生の軌跡を研究し教師の力量の「水平的、ないしはオルターナティブな発達」観を打ち出した。

山崎(2002)山崎(2002)

分析の視点、枠組みを作成

Page 8: ニカラグア小学校教師の 教授的力量に関する自己 …ニカラグア小学校教師の 教授的力量に関する自己認識の変容過程 広島大学大学院国際協力研究科院生

ライフヒストリー法についてラ 法

ライフヒストリー(生活史)

☆個人や集団の行動を時間の経過と社会との関係においてとらえ、記録したもの

手法

☆ライフストーリー(語り)とその他資料のトライアン☆ライフスト リ (語り)とその他資料のトライアンギュレーションにより、個人史の再構成を行う

特徴特徴

☆個人の主観的現実

☆過程、多義性、変化

☆全体を見渡す視座体を見渡す視座

☆歴史を捉える道具 プラマー(1991)

Page 9: ニカラグア小学校教師の 教授的力量に関する自己 …ニカラグア小学校教師の 教授的力量に関する自己認識の変容過程 広島大学大学院国際協力研究科院生

調査手法

分析の分析の55つのつの視点視点分析の分析の55つのつの視点視点

① 教師の力量

② 変容過程

③ 力量変容の契機③ 力量変容の契機

④ 時期

⑤ 歴史・社会背景

手法手法手法手法

ライフストーリー・インタビュー

校長 イ タビ校長へのインタビュー

職能変容ライン

授業分析

Page 10: ニカラグア小学校教師の 教授的力量に関する自己 …ニカラグア小学校教師の 教授的力量に関する自己認識の変容過程 広島大学大学院国際協力研究科院生

職能変容ライン

教職人生を通した教授的力量変容をイメージしてグラフに表現教職人生を通した教授的力量変容をイメ ジしてグラフに表現

授業のの質

経験年数

Page 11: ニカラグア小学校教師の 教授的力量に関する自己 …ニカラグア小学校教師の 教授的力量に関する自己認識の変容過程 広島大学大学院国際協力研究科院生

調査対象 地域:エステリ県

国語 初級 中級 上級 算数 初級 中級 上級

学力調査結果

6年

全国 69.7% 25.2% 5.1%

中部地域 70 6% 25 4% 3 9%

6年

全国 88.1% 10.8 % 1.1%

中部地域 86 4% 12 2% 1 4%中部地域 70.6% 25.4% 3.9% 中部地域 86.4% 12.2% 1.4%

地区の内訳

マナグア・・マナグアマナグア マナグア

太平洋岸地域・・6県

中部地域・・エステリ県+7県中部地域・・エステリ県+7県

カリブ海地域・・2県

Page 12: ニカラグア小学校教師の 教授的力量に関する自己 …ニカラグア小学校教師の 教授的力量に関する自己認識の変容過程 広島大学大学院国際協力研究科院生

査 象

ライフストーリー・インタビュー調査対象教師の概要(2006年8月現在)

調査対象

学校:

教師 年齢 性 経験年数

職場 校長の評価 担当

A 45歳 女 24年 下校 力量の高い

3年

学校の質が上・中・下の3校B 62歳 男 40年 下校 力量の低

い6年

C 43歳 女 20年 中校 力量の高い

5年

教師:

力量の高い 低い教師(6名)

D 46歳 女 25年 中校 力量の低い

5年

E 46歳 女 26年 上校 力量の高い

6年

力量の高い、低い教師(6名)

教育アドバイザー(2名)

F 43歳 女 23年 上校 力量の高い

3年

G 40歳 女 20年 - - アドバイザザー

H 39歳 女 9年 - - アドバイザー

Page 13: ニカラグア小学校教師の 教授的力量に関する自己 …ニカラグア小学校教師の 教授的力量に関する自己認識の変容過程 広島大学大学院国際協力研究科院生

G教師40歳、教教員経験験20年年のライフヒストトリー

Page 14: ニカラグア小学校教師の 教授的力量に関する自己 …ニカラグア小学校教師の 教授的力量に関する自己認識の変容過程 広島大学大学院国際協力研究科院生

G教師の原動力私は常によい仕事をするよう努力しています。それは自分の評価を上げるためではなく すべてのれは自分の評価を上げるためではなく、すべての人が学び、よい状態になるためです。もし私が一人の教師を援助したとすると 私は40人の子供を援の教師を援助したとすると、私は40人の子供を援助したことになります。そして、40人の子供を援助た とは 家族を援助 た と なります そしたことは、40の家族を援助したことになります。そして、その40の家族は子供が苦しんでいるという辛い経験を持つことから開放されます。(中略)私は夜中まで働くことなど重要ではありません 私はは夜中まで働くことなど重要ではありません。私は私が苦しんだ同じ経験を他の人に味わってほしくないのですいのです。

Page 15: ニカラグア小学校教師の 教授的力量に関する自己 …ニカラグア小学校教師の 教授的力量に関する自己認識の変容過程 広島大学大学院国際協力研究科院生

小坂:もしあなたがつらい経験をしていなかったら、今小坂:もしあなたがつらい経験をしていなかったら、今の様になってなかったですか?

G教師:誰もわかりません 多分そうだし 多分そうでG教師:誰もわかりません。多分そうだし、多分そうではないかもしれません。誰も人生を予想することはできません でも たぶん 経験をしていなければ同できません。でも、たぶん、経験をしていなければ同じではないと思いますが、似たようにはなっていたと思います と言うのも私の家族は価値観に基づいて思います。と言うのも私の家族は価値観に基づいていました。神の教えや良い行いについて小さいときから学びました もし 貧乏でなくても 私には価値から学びました。もし、貧乏でなくても、私には価値観がついていたと思います。たぶん一緒ではないとは思いますが 価値観とともに似たようにはなっては思いますが、価値観とともに似たようにはなっていたでしょう。もし、私が貧しくて、価値観もなかったら そうはなっていないでしょうら、そうはなっていないでしょう。

Page 16: ニカラグア小学校教師の 教授的力量に関する自己 …ニカラグア小学校教師の 教授的力量に関する自己認識の変容過程 広島大学大学院国際協力研究科院生

教授的力量の変容段階生徒制御技

ソモサ

B 教授的力量の全体像

徒制御技術

サン

サ時代 A C D E GF

教職に就く前の体験

ンディニスタ

生徒制御技術・基本的指導法

生徒制御技術

人間関係構築・共同性

博愛・共同性・適応力

基本的教授法

楽しい授業づくり

サンディニス

H

思想の形成生徒理解

調整能力、積極的実践

家族の問題、母の病気により心身ともに疲

積極的実践 子どもの実態に応じた授業づくり

出産による疲労

スタ

政権

チベ

子ども中心授業の積極的実践

子ども中心出産による疲労・家庭から

身ともに疲労

母の病気により心的疲労 子ども中心

教授法の積

ねらいを達成する狙いと関連のある授業づくり権

交代によ

ベーション低

中教授法の積極的実践

ねらいを意識した授業づくり

労 家庭からの責任

子ども中心教授法の積極

子ども中心教授法の積極的実践、子供の実態に応じた授

極的実践

個々の子ど

る授業づくり

専門的知識(数学の知識)

子どもの知識獲得過程に沿った授業づくり。

情報を分析

民主政権

基本的授業法

りモ

低下

づくり 的実践、保護者との活動、生徒理解力

に応じた授業づくり、生徒理解力

個もへの配慮、子どもの統合育成(学力・態度)

識)

現実から課題を見つけ、

情報を分析、批判、類似、比較し授業を創造

加齢家族の問題を解決する

ニカラグア教育の課題への意識

加齢,家族の問題による肉体的精神的疲労

Page 17: ニカラグア小学校教師の 教授的力量に関する自己 …ニカラグア小学校教師の 教授的力量に関する自己認識の変容過程 広島大学大学院国際協力研究科院生

識字教育を契機として:E教師初めての教師の経験は私たちは識字教育に行ったことです。そこで私たちは天職があると感じました。遠い村に行きました。そしてそこに泊まりました。そこで、ほかの人たちに教えるという行為に目覚めました。モチベーションも目覚めました。

それがとても私にとって役立つものになりました。なぜなそれ ても私 て役 もの なりました。な なら、お金などの興味を持たず働くこと、また農民と一緒に生活することも学びました。田舎の生活は都会の生活と活する も学びま 。 舎 活 都会 活とても違います。家も違います。しかし、彼らの生活に適応しました。そして彼らと経験を分け合いました。食べ物ま 。そ 彼 経験を分け合 ま 。食 物は質素なものです。しかし、彼らは大きな愛と誠実さを持っています。

Page 18: ニカラグア小学校教師の 教授的力量に関する自己 …ニカラグア小学校教師の 教授的力量に関する自己認識の変容過程 広島大学大学院国際協力研究科院生

B教師の変容B教師の力量変容の契機 影響を与えた場

教員組合入団 歴史 社会・教員組合入団 歴史・社会

・キューバ、ロシアの専門家と教科書の作成 歴史・社会、学校

・政権交代 歴史・社会

・加齢 個人加齢 個人

力量変容の要因力量変容の要因

・歴史の過渡期に教師となった

・政治と地位の関連に翻弄された

Page 19: ニカラグア小学校教師の 教授的力量に関する自己 …ニカラグア小学校教師の 教授的力量に関する自己認識の変容過程 広島大学大学院国際協力研究科院生

政権交代を機に:B教師政権交代を機に:B教師

(民主政権になり)道徳的に私は大変痛手を食いました 痛めつけられました痛手を食いました。痛めつけられました。なぜなら政治上私はもうこれ以上の地位にはなれないからです位にはなれないからです。

Page 20: ニカラグア小学校教師の 教授的力量に関する自己 …ニカラグア小学校教師の 教授的力量に関する自己認識の変容過程 広島大学大学院国際協力研究科院生

D教師の変容

力量変容 契機 影響を与えた場力量変容の契機 影響を与えた場

・母の病気 家族母の病気 家族

・本人の健康状態 個人

力量変容の阻害要因

・保守的な姿勢により力量向上の機会を契機とできないない

Page 21: ニカラグア小学校教師の 教授的力量に関する自己 …ニカラグア小学校教師の 教授的力量に関する自己認識の変容過程 広島大学大学院国際協力研究科院生

A,C,E,F教師の変容

力量変容の契機 影響を与えた場

・識字教育運動 社会福祉活動 歴史・社会・識字教育運動、社会福祉活動 歴史・社会

・意義ある学校への赴任 学校

・出産、育児、家族の問題 家庭・個人(停滞)

・育児 家族・個人

・赴任校がモデル校になる 学校

・公開授業 学校

・授業観察 学校

・学校内での立場の変化 学校・学校内での立場の変化 学校

A,C,E,F教師の力量変容の促進要因外部 情報や考え 積極的受け入れ・外部の情報や考えの積極的受け入れ

Page 22: ニカラグア小学校教師の 教授的力量に関する自己 …ニカラグア小学校教師の 教授的力量に関する自己認識の変容過程 広島大学大学院国際協力研究科院生

G,H教師の変容

力量変容の契機 影響を与えた場

・出産 育児 家庭・個人(停滞)・出産、育児 家庭・個人(停滞)

・赴任校がモデル校になる 学校

・家族での出来事 家庭・個人

・教育書作成 学校

・大学進学 家庭・個人

・立場の変化 学校

G,H教師の力量変容の促進要因・教職に就く以前の家庭での体験から人生を通しての目標を形成し、教職を遂行する上での原動力を持っている。

・経験を前向きに解釈する経験を前向き 解釈する

Page 23: ニカラグア小学校教師の 教授的力量に関する自己 …ニカラグア小学校教師の 教授的力量に関する自己認識の変容過程 広島大学大学院国際協力研究科院生

底辺を流れる原動力:H教師

影響を与えたのは私のフラストレーションです。響

私を学校に通わせてくれなく、私を重要な人にさせてくれない状態にさせていたことです。小さいとき私は重要れない状態にさせていたことです。小さいとき私は重要な人物になりたいと思っていました。机にすわり書類の前で働くような仕事がしたかったのです。つまり 家の前で働くような仕事がしたかったのです。つまり、家の中にいて、ご飯の支度をし、掃除をするということだけをしたくなかった。だから そのフラストレーションが 私をしたくなかった。だから、そのフラストレ ションが、私をポジティブな方向に変換させたのです。

私は同じことをもう繰り返したくない わたしは何かよ私は同じことをもう繰り返したくない。わたしは何かより良い方法を探し、あの醜い歴史を繰り返したくありません それが私に力を与えていますせん。それが私に力を与えています。

Page 24: ニカラグア小学校教師の 教授的力量に関する自己 …ニカラグア小学校教師の 教授的力量に関する自己認識の変容過程 広島大学大学院国際協力研究科院生

外部からの意見を積極的に取り入れる姿勢 C教師

私たちは様々なと ろ 授業観察に行きました また 公

外部からの意見を積極的に取り入れる姿勢:C教師

私たちは様々なところへ授業観察に行きました。また、公

開授業を行っても来ました。そうやって意見交換をしている す と も重要な と す 時 ある先生たちはるのです。とても重要なことです。時々ある先生たちは、「私は研修会に行きません。詰まんない」といいます。時々詰まんな す しかし 私は学びた と思うから 参加し詰まんないです。しかし、私は学びたいと思うから、参加します。また、私は児童に言います「私は絶対に、私はできな と ません なぜならあなたが満足を感じな とない、といいません」。なぜならあなたが満足を感じないということは、やっていないということです。全く試みようとしな 私は試みました うまく くうまく かな はありていない。私は試みました。うまくいくうまくいかないはあり

ますが挑戦しました。

Page 25: ニカラグア小学校教師の 教授的力量に関する自己 …ニカラグア小学校教師の 教授的力量に関する自己認識の変容過程 広島大学大学院国際協力研究科院生

歴史的要因による力量変容歴史 要因 変容

歴史の過渡期を経験

B教師:政治に傾倒。政治と地位に関係に翻弄。弄。

サンディニスタ政権以降の教育の無償化

経 貧D,F,G,H:経済的に貧しくとも目指せる職業となる。人生に目標が持て、前向きに教職を目なる。人 目標 持 、前向き 教職を目指す

サンディニスタ政権時の社会的プログラムサンディニスタ政権時の社会的プログラム

人間的成長

Page 26: ニカラグア小学校教師の 教授的力量に関する自己 …ニカラグア小学校教師の 教授的力量に関する自己認識の変容過程 広島大学大学院国際協力研究科院生

教授的力量の変容の要因

・学校だけではなく歴史、社会、家庭から力量変容の契機を得ている

・教職に就く以前の経験も教授的力量に影響を与えている

・外部の情報や意見を前向きに取り入れる姿勢が力量形成を促進する量形成を促進する

・教師の力量は経験の違いも然る事ながら、その経験の解釈の仕方で変容が異なるの解釈の仕方で変容が異なる