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華南系 華北系 春型 夏型 「半 はん じろ ふし なり 「鈴 すず なり すう よう 「加 「促成ときわ」 いな やま みつ 品種と 作型 第5回 1962年、埼玉県農業試験場・越谷支場に勤 務。1964年から野菜担当。1967年、埼玉県 園芸試験場そ菜・花き部に勤務(そ菜担 当)。主に、施設栽培キュウリの品種特性 調査、作型開発、増収技術、高品質生産技 術、およびキュウリの施設栽培における環 境制御法などの試験研究に従事する。1991 年にそ菜部長。1997年、同試験場・鶴ヶ島 洪積畑支場長。2000年、埼玉県農林総合研 究センター・園芸支所長。現在は三菱樹脂 アグリドリーム株式会社・生産・技術部開 発センター守谷技術顧問。 2016 タキイ最前線 春種特集号 65

キュウリ - TAKII2016 タキイ最前線 春種特集号 65 品種と分類 日本におけるキュウリ品種は、前述 分化し、周年栽培が行われるようになしかし、各地に産地が成立して作型が応した品種の改良が行われてきました。候や作期、栽培方法など地域特性に

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Page 1: キュウリ - TAKII2016 タキイ最前線 春種特集号 65 品種と分類 日本におけるキュウリ品種は、前述 分化し、周年栽培が行われるようになしかし、各地に産地が成立して作型が応した品種の改良が行われてきました。候や作期、栽培方法など地域特性に

品種の生態的分化と分類

 我が国における在来品種の発達は、

華南型を土台に分化していて、その後、

需要の変化と産地間競争などによって、

周年生産に向けた栽培技術と作型開発

が行われ、華北型の導入や華南型・華

北型の中間型品種(雑種群)が成立し

ています。そして、さらにこれらの中

間型内における「春型」と「夏型」群

内での交雑が繰り返されています。

 加えて、施設栽培が普及してくると、

人為的な栽培環境の中での品種選択が

なされるようになりました。我が国に

導入され、それぞれの地域で気候や食

文化を背景に順化・淘汰された生態的

特性をもつ品種(系統)素材を、作型

の分化に伴ってそれらの系統(品種)

特性を引き出しながら品種の育成が図

られてきました。

華南系華北系春型夏型「半

はん

白じろ

節ふし

成なり

」「鈴すず

成なり

四すう

葉よう

」「加か

賀が

」「促成ときわ」

稲いな

山やま

 光みつ

男お

品種と作型

の生理・生態から

とらえた

管理技術

良品多収

品種と作型

第5回

キュウリ

1962年、埼玉県農業試験場・越谷支場に勤務。1964年から野菜担当。1967年、埼玉県園芸試験場そ菜・花き部に勤務(そ菜担当)。主に、施設栽培キュウリの品種特性調査、作型開発、増収技術、高品質生産技術、およびキュウリの施設栽培における環境制御法などの試験研究に従事する。1991年にそ菜部長。1997年、同試験場・鶴ヶ島洪積畑支場長。2000年、埼玉県農林総合研究センター・園芸支所長。現在は三菱樹脂アグリドリーム株式会社・生産・技術部開発センター守谷技術顧問。

2016 タキイ最前線 春種特集号 65

Page 2: キュウリ - TAKII2016 タキイ最前線 春種特集号 65 品種と分類 日本におけるキュウリ品種は、前述 分化し、周年栽培が行われるようになしかし、各地に産地が成立して作型が応した品種の改良が行われてきました。候や作期、栽培方法など地域特性に

品種と分類

 日本におけるキュウリ品種は、前述

のようにその来歴から、品種群内や品

種群間の交雑によって、栽培地域の気

候や作期、栽培方法など地域特性に適

応した品種の改良が行われてきました。

しかし、各地に産地が成立して作型が

分化し、周年栽培が行われるようにな

ると、作型適応品種の栽培にとどまら

ず、市場で産地の特色を強調する働き

が品種特性にも求められるようになり

ました。これによって品種の変遷はめ

まぐるしく変わり、品種数も多く出回

るようになりました。

 

表は、品種の生態特性を元に分類し、

血統的類縁の中で類似の品種をまとめ、

さらに代表的品種を抽出して特性の近

い固定種と併記分類しています。数多

い品種の中から、栽培・品種改良する

立場で品種や系統を理解することに則

した大変わかりやすいものです。しか

し、近年は海外からの遺伝資源が利用

されていることや、キュウリの栽培や

品種に長年にわたり携わる研究者がい

なくなったことから、藤枝氏以降の分

類されたものはみられません。

作型と求められる品種特性

 近年の産地における品種導入の動向

をみると、作型と品種の関係は従来の

ように明確でなくなってきています。

これは、1980年代後半からの、流

通機構の変化や作型の細分化が進んだ

こと、栽培施設の重装備化と生産者の

栽培管理技術の向上などが背景にあり

ます。そして、表にみられる育種素材

に加えて、海外からの導入資源が品種

改良に利用されるようになったことな

ど、さまざまな環境の変化によるもの

です。

 施設栽培と露地栽培では利用される

品種に領域の違いはありますが、施設

栽培での作型を意識した品種の使い分

けは、昔とは大きく変わってきている

ようです。

 例えば、品種を提供する側(種苗メ

ーカーなど)の品種特性の記載をみる

と、適応作期幅が広く、春作・秋作に

対応可能な記載がみられます。

 ここでは、作型の特徴と本来求めら

れる品種特性について記します(次頁

図)。

越冬栽培

 8月中旬~9月に播種する作型で、

西日本地域では促成作型として扱われ、

関東地域では越冬栽培と呼ばれていま

す。育苗期が高温・長日期に当たるた

表 キュウリの品種分類

群内一代雑種 群間一代雑種

半白節成・若葉大仙1号・2号・4号豊島枝成堺節成・大仙3号白疣長節成

豊岡節成・渡辺八重成関野落合・埼落・八重成落合T号・七尾房成

大仙毛馬金沢・加賀

博多青

宮の陣埼玉地はい

ときわ

三谷抑制笠置・当尾

最上・用座

長節成 4号

青木節成・福交 2号長日 V2号・春分

長日 3号

大利根・新地はい・奥路

黒さんご・夏さんご

近成四葉・旭光四葉・鈴成四葉

近成山東

くろしお

ときわ夏節・高砂

山東四葉・T型新四葉・まつかぜ・こんろん

注:※白いぼ系、※※ときわ芯止系

品 種 群

半 白

相膜半白高 井 戸淀 節 成白 疣

在 来 種 固 定 種

青 節 成

落 合

日向2号

毛 馬刈 羽聖 護 院彼岸節成

青 長青 大

土 田霜 不 和

芯 止

平 和夏 節 成

四 葉山 東北 京支那三尺

酒 田

青 節 成

春型雑種

青 長

地 は い

夏型雑種

華 北

ピックル

たちばな・省エネH4号・くるめみどり2号・王金促成・王金女神1号・王金女神2号・北極2号・ひじり・さちみどり・ときわ光3号P型

夏秋節成2号・春まき秀麗・

松のみどり・翠青 2号

初春1号・久留米落合H型・まじみどり

※※

ときわ光3号A型・りつりん2号・ときわ北星・ハイカラー2号・東北1号・王金北の夏・青力2号・あそみどり・きりしま・つかさ2号

(原図:藤枝)

66 2016 タキイ最前線 春種特集号

Page 3: キュウリ - TAKII2016 タキイ最前線 春種特集号 65 品種と分類 日本におけるキュウリ品種は、前述 分化し、周年栽培が行われるようになしかし、各地に産地が成立して作型が応した品種の改良が行われてきました。候や作期、栽培方法など地域特性に

めに一般的に主枝への雌花着生は少な

くなっています。そして、収穫期に入

ると初期の生育環境とは違い、日に日

に低温寡日照期へと向かうため、主枝

の雌花着生を重視して品種を選定する

と、収穫開始期はまだ温度や日長条件

がよいために果実肥大が早く、初期収

量の増加が早くなります。この作型は、

11月以降の厳寒期の収量に重点を置い

た作型であることから、低温寡日照期

に草勢低下しないことが重要です。し

たがって、低温寡日照期に入っても草

勢低下のしにくい、単為結果性の強い

品種が望ましいでしょう。

 特に最近の品種傾向をみると、草勢

が低下してくると尻太果や短形果、肩

落ち果の発生がなくなった一方で、尻

細果の発生が多くみられる傾向が出て

きました。こうした変化を考慮して品

種を選定する必要があります。

促成栽培

 育苗期から生育初期にかけて低温寡

日照期ですが、収穫期に向かうにした

がって、温度・日射量とも上昇傾向を

示す作型です。

 したがって、主枝への雌花着生が容

易な栽培条件である反面、収穫最盛期

以降の施設内は高温多日照環境条件と

なります。

 主枝雌花着生の多い品種は初期収量

が多い傾向にありますが、主枝への雌

花着生が多いと果実肥大と側枝(子づ

る)の発生・発育との競合が起こり、

側枝の発生が抑制されやすくなります。

側枝が抑制された状態では、収穫最盛

期以降の草勢維持が難しくなり、日収

穫量の不安定を招くだけでなく、不整

形果の発生割合が多くなるので、品種

の選定に当たっては、この点に留意す

る必要があります。

半促成栽培

 促成栽培の作型とほぼ同様な気象条

件下での栽培ですが、促成栽培の作期

に比べ、低温や寡日照下での生育期間

が短いので、最も栽培しやすい作型と

いえます。ただし、促成栽培のように

施設や装備は重装備化されていません。

特にこの作型では、収穫初期ごろまで

の気象変動に注意しないと、思わぬ気

象災害を受けることがあります。品種

的には、生育環境条件がよいため、主

枝着果性の高い品種であっても、定植

活着促進管理さえ注意すれば側枝の発

生にも苦労が少なく、収穫期の草勢維

持も比較的容易です。

露地栽培

 生育初期にトンネル被覆して栽培す

る早熟トンネル栽培と、遅霜の心配が

なくなって定植する普通露地栽培とが

あります。いずれも収穫期に入ると露

地状態で栽培管理します。この作型で

は、収穫期に梅雨期と梅雨明け後の高

温乾燥期の、両気象条件下で栽培管理

することになります。したがって、草

勢の強い生態型を有する品種でなおか

つ、気象条件に直接遭遇しながらの栽

培であることから、べと病やうどんこ

病などに耐病性を有する品種が望まし

いでしょう。

↑べと病の発生。曇雨天が続くと発生しやすい。梅雨期は特に注意が必要。

↑うどんこ病の発生。梅雨明け後の高温乾燥期に入ると発生しやすい。

↑7~8月収穫、「Vシャイン」。

↑ハウス半促成作型で利用できる「半白節成」。

↑露地栽培での防風対策(防風ネットの利用方法もある)。

露地栽培

↑夏秋栽培向けのべと病、うどんこ病に強い耐病性をもつ「Vシャイン」。

2016 タキイ最前線 春種特集号 67

Page 4: キュウリ - TAKII2016 タキイ最前線 春種特集号 65 品種と分類 日本におけるキュウリ品種は、前述 分化し、周年栽培が行われるようになしかし、各地に産地が成立して作型が応した品種の改良が行われてきました。候や作期、栽培方法など地域特性に

抑制栽培

 一般的には、促成栽培や半促成栽培

の春作との組み合わせ作型として成立

しているもので、7~8月上旬に播種

し、10~11月まで収穫する普通抑制栽

培と、8月中下旬に播種し、収穫期の

途中から保温・加温して12月~1月ま

で収穫する抑制加温栽培があります。

 この作型は、育苗期から生育初期に

かけて、高温・長日で夜温も高く推移

するため、主枝への雌花着生が低い傾

向にあり、生育が早く旺盛です。そこ

で、主枝への雌花着生もさることなが

ら、側枝への着果性が安定しているこ

とが重要になります。また、抑制加温

型では、生育初期の生育・収量よりも、

11月以降の低温・短日期へ向かう気候

のもとでの安定した草勢と着果肥大性、

そして、果形が安定的に維持されるこ

とが大切です。

作型と経営

 1960年代までは、温暖な気候を

背景に地の利を生かした促成栽培産地

(高知県や静岡県など)を除けば、地

域による作期の差異はあるものの、ど

の産地も露地栽培産地でした。ところ

が1960年代後半に農業用ビニルが

普及をはじめると、早熟トンネル栽培

が普及し、竹幌型の栽培施設が登場し

て、パイプハウスへと発達しました。

そして、作期の前進化と共に栽培施設

の改良と改善、加温や保温設備の進化

発展によって、さらに作型の開発が進

みました。その一方で、施設栽培にお

ける生産性の向上と安定生産を目指し

た栽培管理や、生育環境制御の試験研

究が各研究機関で盛んに行われた結果、

現在のような作型の細分化へと発展し

ました。

 一方、施設栽培の導入過程において

は、市場入荷量の少ない端境期に出荷

を試みて作期の前進が図られたことか

ら、当時は半促成や促成栽培の年一作

型の経営でした。その後、施設栽培が

普及すると産地間競合が起こり、施設

や装備・装置が重装備化される過程で、

経営面から施設の高度利用が問われる

ようになり、抑制栽培の作型が導入さ

れました。当初の抑制栽培は、促成栽

培や半促成栽培が経営の主であったこ

とから、春作型の生産資材費を確保す

るという位置付けでの導入でした。そ

の後、経営規模が拡大し、専作経営化

されるようになると、それまでの春作

が主で秋作が従という考え方から、春

作、秋作を組み合わせ、栽培施設を有

効活用した経営の考え方へと変わり始

めました。

 キュウリの施設栽培が普及し始めた

ころの東京市場における月別価格推移

をみると、6~9月は低価格で11月~

3月の厳寒期は高価格で推移し、その

価格差はおおよそ4~5倍ありました。

近年は、流通機構が大きく変化したこ

とも背景に、年間の価格推移に大きな

変化はなくなり、その価格差は約2倍

程度になっています。

 このような現状から、従来のような

作型別有利性の考え方から、経営規模

や労働力などを十分に考慮した作型の

組み合わせと安定生産が経営上重要と

思われるようになり、作型の細分化へ

とつながりました。

↑高温下での着果のよい、抑制栽培向けの「京しずく」。

※文中で紹介している品種は、タキイでは取り扱いのないものもございます。ご了承ください。(編集部)

↑8月下旬~9月中旬収穫、「京しずく」。

↑作型が細分化され施設の周年利用が行われるようになると、栽培施設も高軒高施設化の方向に向かう。

(図) 主な作型とその組み合わせ月

作型

促成栽培(Ⅰ)

促成栽培(Ⅱ)

半促成栽培(加温)

半促成栽培(無加温)

早熟トンネル栽培

抑制栽培

抑制栽培(加温)

越冬栽培

8 9 121110 1 2 3 4 5 6 7 作型組み合わせ

播種 定植 収穫期

抑制栽培

良品多収管理技術の生理・生態からとらえたキュウリ

68 2016 タキイ最前線 春種特集号