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ビジネス環境の改善に向けて 1. 改善する日本のビジネス環境 日本政府は対日投資の促進を成長戦略の一つの柱と位置づけ、 日本を「世界で最もビジネスのしやすい国」にするとの目標を掲 げた。法人実効税率の抜本的引下げやコーポレートガバナンスの 強化など投資関連分野の制度改革を実行に移すとともに、これま で改革が進んでいなかった電力、農業、医療などを成長分野と位 置づけ、「岩盤規制」の改革に向け、様々な政策を打ち出してきた。 さらに、2016 年 5 月には「グローバル・ハブを目指した対日直 接投資促進のための政策パッケージ」を策定。外国企業目線で対 日投資の阻害要因として指摘される課題の克服に取り組んでいる。 この章では、これらの政府の取り組みやその成果とともに、外国 企業の誘致に特化した施策についても紹介する。 (1)規制改革によるビジネス機会の創出 日本政府はこれまで「岩盤規制」と言われていたエネルギーや 医療分野の規制改革をはじめ、他の先進国に比べて高かった法人 実効税率の引下げや、コーポレートガバナンスの強化などに取り 組んできた。こうした改革は徐々に成果を生み始め、外国企業に よる日本への進出のきっかけにもなっている。 ・エネルギー分野 エネルギー分野では、2012 年 7 月に開始された「固定価格買 取制度(FIT: Feed-in Tariff)」が大きな変革をもたらした。この 制度は、原子力発電や火力発電に比べてコストが高い再生可能エ ネルギーの普及・促進を目的とし、太陽光発電をはじめ、多くの 再生可能エネルギー発電業者の市場参入を促した。 また、2016 年 4 月からは電力小売市場の全面自由化が開始さ れた。電力小売市場の規模は約 8 兆円といわれており、自由化が 実施されてから 2 カ月あまりで小売電力事業者の登録数は 310 業者に上った。現在は国内企業が中心だが、今後は外国企業によ る参入も見込まれる。加えて、2015 年 3 月には節電した電力量 を売買できる「ネガワット取引に関するガイドライン」が策定され、 Energy Pool Japan(フランス) 欧州で最大手のデマンド・レスポンスのオペレーションを行うフ ランス企業。工場などの産業施設を中心に、電力消費を抑制し、 コスト削減を実現するといったサービスを展開するため、2015 年 6 月に東京に株式会社およびオペレーション・センターを設立。 COMVERGE JAPAN K.K.(米国) デマンド・レスポンスのソリューションを 提供する米国の企業。2015 年 4 月、経 済産業省のネガワット取引実証の対象事業者として採択され、 日本事業を本格化した。電力会社と顧客の間に入り、電力の 使用量抑制と安定供給を図るソリューションを提供している。 <エネルギー分野の外資の参入事例> 8 Invest Japan Report 2016

ビジネス環境の改善に向けて - jetro.go.jp · 行者(訪日客)は1,974万人で、3年連続で過去最高を更新し た(図表2-1)。アジアからの訪日客数が多く、中国(499万人)、

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ビジネス環境の改善に向けてⅡ

1. 改善する日本のビジネス環境

 日本政府は対日投資の促進を成長戦略の一つの柱と位置づけ、日本を「世界で最もビジネスのしやすい国」にするとの目標を掲げた。法人実効税率の抜本的引下げやコーポレートガバナンスの強化など投資関連分野の制度改革を実行に移すとともに、これまで改革が進んでいなかった電力、農業、医療などを成長分野と位置づけ、「岩盤規制」の改革に向け、様々な政策を打ち出してきた。さらに、2016 年 5 月には「グローバル・ハブを目指した対日直接投資促進のための政策パッケージ」を策定。外国企業目線で対日投資の阻害要因として指摘される課題の克服に取り組んでいる。この章では、これらの政府の取り組みやその成果とともに、外国企業の誘致に特化した施策についても紹介する。

(1)規制改革によるビジネス機会の創出

 日本政府はこれまで「岩盤規制」と言われていたエネルギーや医療分野の規制改革をはじめ、他の先進国に比べて高かった法人実効税率の引下げや、コーポレートガバナンスの強化などに取り組んできた。こうした改革は徐々に成果を生み始め、外国企業による日本への進出のきっかけにもなっている。

・エネルギー分野 エネルギー分野では、2012 年 7 月に開始された「固定価格買取制度(FIT: Feed-in Tariff)」が大きな変革をもたらした。この制度は、原子力発電や火力発電に比べてコストが高い再生可能エネルギーの普及・促進を目的とし、太陽光発電をはじめ、多くの再生可能エネルギー発電業者の市場参入を促した。 また、2016 年 4 月からは電力小売市場の全面自由化が開始された。電力小売市場の規模は約 8 兆円といわれており、自由化が実施されてから 2 カ月あまりで小売電力事業者の登録数は 310業者に上った。現在は国内企業が中心だが、今後は外国企業による参入も見込まれる。加えて、2015 年 3 月には節電した電力量を売買できる「ネガワット取引に関するガイドライン」が策定され、

EnergyPoolJapan(フランス)

欧州で最大手のデマンド・レスポンスのオペレーションを行うフランス企業。工場などの産業施設を中心に、電力消費を抑制し、コスト削減を実現するといったサービスを展開するため、2015年6月に東京に株式会社およびオペレーション・センターを設立。

COMVERGEJAPANK.K.(米国)

デマンド・レスポンスのソリューションを提供する米国の企業。2015 年 4 月、経

済産業省のネガワット取引実証の対象事業者として採択され、日本事業を本格化した。電力会社と顧客の間に入り、電力の使用量抑制と安定供給を図るソリューションを提供している。

<エネルギー分野の外資の参入事例>

8 Invest Japan Report 2016

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デマンド・レスポンス(※)の定着・拡大を見越して、外資系企業の参入が始まっている。政府は 2017 年 4 月に、「ネガワット取引市場」の創設を目指し、様々な実証事業や制度整備等を行っている。 2017 年 4 月にはガス小売市場の全面自由化や 2020 年 4 月には電力の送配電部門の法的分離が予定されており、外国企業にとってもビジネス機会の拡大につながると期待されている。

(※)デマンド・レスポンスとは:電力需要のピーク時に使用抑制を促し、ピーク時の電力消費を抑え、電力の安定供給を図る仕組みのこと。使用抑制を促す方法としては、時間帯別に電気料金設定を行う、ピーク時に使用を控えた消費者に対し対価を支払うなどの方法がある。

・ライフサイエンス分野 政府は再生医療の実用化の促進や、使用承認までの時間差や遅延を意味する「ドラッグラグ」・「デバイスラグ」の解消、革新的な医薬品や医療機器の早期実用化といった様々な改革を行うことで、ライフサイエンス分野の市場を活性化し、新たに市場に参入することの魅力を生み出してきた。 2014 年 11 月の改正薬事法(薬機法)の施行や、医薬品医療機器総合機構 (PMDA) の体制強化等により、医薬品・医療機器の承認審査の迅速化を進めた結果、長く問題視されてきた「ドラッグラグ」、「デバイスラグ」が実質的に解消される形となった。また、これに並行して、薬事審査において「再生医療等製品」のカテゴリーが新設、早期承認制度の導入により、世界で最も早く再生医療製品を実用化できる環境が整った。さらに、革新的医薬品・医療機器・再生医療用製品を日本で開発し、早期に実用化することを目指して、「先駆け審査指定制度」を導入した。この制度により、指定を受けた医薬品は優先的に評価や審査を受けられる結果、承認取得までの期間を短縮し、新製品を早期に市場に投入することが可能になった。その他、国内未承認の医薬品等を保険外併用療養として使用可能にする「患者申出療養」の制度が新設された。これらの制度は、医療サービスの向上および市場の活性化に貢献している。

・観光分野 日本政府観光局(JNTO)によると、2015 年の訪日外国人旅行者(訪日客)は 1,974 万人で、3 年連続で過去最高を更新した(図表 2-1)。アジアからの訪日客数が多く、中国(499 万人)、韓国(400 万人)、台湾(368 万人)、香港(152 万人)だけで全体の 7 割を超える。訪日客数は 2016 年に入っても増加傾向が続き、上半期の累計は 1,174 万人(推計値)と初めて半年で 1,000万人を超えて過去最高となったほか、7 月には 230 万人(同)と単月で過去最高を記録した。為替相場が円高傾向にあるなか、日本は観光地としての評価が定着しつつあることを示している。この観光客の急激な増加は、ASEAN 諸国を中心とした 14 カ国でのビザ発給要件の緩和、羽田空港や成田空港の発着枠の大幅増枠、また、外国人旅行者向け消費税免税の対象品目の消耗品(食品、飲料、化粧品等)への拡大といった様々な施策が奏功した結果といえる。

TaiwanLiposomeCompany(台湾)

がん、眼科や急性・慢性疼痛管理のナノ医薬品の開発に取り組む製薬企業。日本での承認申請、日本の提携先の新規開拓および関係強化に向け、2015年1月に東京に株式会社を設立。日本での医薬品の研究開発および製造販売を目指している。

CaladriusBiosciences(米国)

細胞治療製品の開発製造サービスで業界をリードする大手企業。主に医薬品医療機器等法が 2014 年 11月に施行されたことを受け、積極的に日本において細胞治療製品の登録を進めることを決定した。2014 年 8 月に神戸市に株式会社を設立。2016 年後半にも臨床試験を開始するため、日本企業の提携先を見つけたいとしている。

<ライフサイエンス分野の外資の参入事例>

0

500

1,000

1,500

2,000

2011

622

2012

10,849

2013

14,167

2014 2015

1,974 万人(万人) (億円)

8,135

836

1,036

1,341

20,278

34,771

0

10,000

20,000

30,000

40,000

訪日外国人数

旅行消費額

〔出所〕「年別 訪日外客数 , 出国日本人数の推移」(日本政府観光局)、「訪日外国人消費動向調査」(観光庁)より作成

図表 2-1 訪日外国人数の推移と旅行消費額

Invest Japan Report 2016 9

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 政府は当初、訪日外国人数を 2020 年までに 2,000 万人にする目標を掲げていたが、この目標は前倒しで達成される見込みとなったことから、新たに 2020 年までに訪日外国人数を 4,000万人に、訪日外国人旅行消費額を 8 兆円にする目標を掲げた。政府は「日本再興戦略 2016」の中で観光産業を「『地方創生』への切り札、GDP600 兆円達成に向けた成長戦略の柱」と位置づけ、観光を日本の基幹産業にするために今後も様々な施策を講じるとしている。ここ数年で経験した訪日外国人客の増加を継続させるためには、地方に眠る観光資源の掘り起こしや観光周遊ルートの

整備に加え、通訳ガイド制度の見直し、民泊ルールの規制緩和やさらなるビザの要件緩和、また、高速交通機関の活用や空港の利便性の向上といった、旅行の快適度を向上する取り組みが必要になってくる。これらの中ですでに改善に向け取り組みが始まっているものもあり、特に通訳ガイド制度に関しては規制改革会議で取り上げられ、業務独占制度の廃止に向け法案が提出される予定になっている。これまでアジアの国々を中心とした訪日客の増加をいかにアジア圏外に広げ、リピーターや長期滞在者を増やせるかがポイントとなる。

観光資源の魅力を極め、「地方創生」の礎に・活かしきれていない魅力的な観光資源の整備 →赤坂迎賓館・京都迎賓館の公開・開放 →国立公園のブランド化(2020 年を目途に、5 カ所の公園を集中改善) →文化財の観光資源としての活用推進(2020 年までに 200 カ所整備)

・インバウンド消費の地方への波及 →地方の商店街等における観光需要の獲得・伝統工芸品等の消費拡大(免税手続カウンター、キャッシュレ

ス端末、外国人コンシェルジュサービスの提供等) →複数の都道府県にまたがってテーマ性・ストーリー性を持った広域観光周遊ルートを交通アクセスも含め

ネットワーク化、世界水準へ改善

観光産業を革新し、国際競争力を高め、我が国の基幹産業に・観光関係の規制改革・制度の見直し →「通訳ガイド制度」を見直し、「通訳案内士」不足を解消 →民泊サービスに対応するため、宿泊法制度の抜本見直し

・ビザ発行要件の戦略的緩和 →中国、フィリピン、ベトナム、インド、ロシアの 5 カ国に対してビザ発行要件を緩和

・宿泊施設不足の緩和 →旅館等におけるインバウンド投資の促進

・多様な訪日客の受入促進 →世界水準の DMO(Destination Management Organization)を形成・育成(2020 年までに全国で

100 の DMO を形成) → MICE(Meeting, Incentive Travel, Convention, Exhibition)の誘致促進

すべての旅行者がストレスなく快適に観光を満喫できる環境に・出入国審査の迅速化 →世界初の出入国審査パッケージの導入や、顔認証技術の導入

・通信環境、キャッシュレス環境等、利便性の向上 →無料 Wi-Fi 環境と SIM カードの相互補完利用の促進 →2020年までに、主要な観光地における「100%のクレジットカード対応化」を実現

・交通アクセスの利便性の向上 →「ジャパン・レールパス」を訪日後でも購入可能に →高速交通網活用の利便性を高め、「地方創生回路」を整備。地方へのアクセスの利便性を向上 →クルーズ船の受入を拡大し、2020 年までに訪日クルーズ旅客を 500 万人に

<観光を日本の基幹産業にするための取り組み>

〔出所〕「日本再興戦略 2016」

10 Invest Japan Report 2016

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Ⅱ ビジネス環境の改善に向けて

(2)法人実効税率の引き下げ

 日本の法人実効税率は 37.00%(2013 年度)から 29.97%(2016 年度)へと、3 年間で約 7%引き下げられた。さらに2018 年度には 29.74%まで引き下げられる予定だ。日本の法人税はかねてより他の先進国よりも高いと指摘されており、日本が外国企業から「ビジネスコストが高い国」との印象を持たれる一因となっていた。政府は、企業の「稼ぐ力」を後押しする施策の一環として、法人実効税率を 20%台まで引き下げることを決定し、前倒しでこれを実現した。 諸外国と比べると、現在の日本の法人実効税率(29.97%)は、米国・カリフォルニア州(40.75%)、フランス(33.33%)よりも低く、ドイツ(29.72%)と同程度になったが、英国(20%)、中国(25%)、韓国(24.20%)などの国々を依然として上回っており(図表 2-2)、引き続き日本の立地競争力を高めるための法人税改革が求められる。 一方、ジェトロが 2016 年 6 月に日本でビジネスをする外資系企業を対象に行ったアンケート(後述)では、「日本のビジネス環境を改善するために特に効果があった取り組み」の質問で、「法人税改革」を挙げた回答が 39%と最も多く、「体感できる対策」、「大きなインセンティブ」との評価を得た。

(3)コーポレートガバナンスの強化

 政府は、企業の「稼ぐ力」を高める施策の一環として、コーポレートガバナンスの強化を図る様々な施策を実行している。その狙いとしては、企業の中長期的な収益性・生産性を高めてグローバル市場での競争に打ち勝つ体力をつけるとともに、経営者と投資家の関係において明確な原則を定め、企業の意思決定の透明性を高めることで、企業の投資先としての魅力を高めることが挙げられる。 政府は 2014 年 2 月に「日本版スチュワードシップ・コード」を策定し、「責任ある機関投資家」の諸原則を定めた。これは、日本の上場株式会社に投資する機関投資家を対象とした行動規範で、機関投資家が「株主」として投資先企業の状況を深く理解するとともに、企業と目的を共有するためのプロセスを投資家自らが構築することが求められる。2016 年 9 月 2 日時点で 213 の機関投資家がスチュワードシップ・コードを受け入れている。 さらに 2015 年 6 月から、東京証券取引所は、実効的なコーポレートガバナンスの実現に資する主要な原則を取りまとめた「コーポレートガバナンス・コード」の適用を開始した。コードは、「株主の権利・平等性の確保」、「株主以外のステークホルダーとの適切な協業」、「適切な情報公開と透明性の確保」、「取締役等の責務」、

「株主との対話」の 5 つの原則からなり、2 人以上の独立社外取締役の設置等、上場会社に多くの規律の実践を求めている。企業に対して社外取締役を導入するよう促した、2015 年 5 月施行の改正会社法も相まって、2016 年には独立社外取締役を選任する企業の割合は 97.2%に達した(図表 2-3)。今後政府は、「スチュワードシップ・コードおよびコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」や「CGS 研究会」(コーポレートガバナンス・システム研究会)等でこれらの改革をより「実質」へと深化させていく方針だ。

〔注〕各国税率は 2016 年 4 月現在〔出所〕財務省ウェブサイトおよび「平成 28 年度税制改正の大綱」より作成

2013

37.034.62

32.1129.97 29.74

40.75

33.3329.72

25.00 24.2020.00

17.00

2014 2015 2016 2018 米国(カリフォルニア州)

フランス

ドイツ

中国

韓国

英国

シンガポール

日本

20%台に引き下げる

0

10

20

30

40

50

(%)

図表 2-2 法人実効税率の引き下げ

図表 2-3 独立社外取締役の選任比率推移(東証一部上場会社)

〔出所〕「日本企業のコーポレートガバナンス調査」2016 年 8 月 1 日(日本取締役協会)

2010 2011 2012 2013 2014 2015 20160

10

20

30

40

50

60

70

80

90

100(%)

31.6 34.6 37.546.7

61.7

87.7

97.2

Invest Japan Report 2016 11

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(4)国家戦略特区の活用

 「国家戦略特区」は、医療、観光、創業といったさまざまな分野において存在する「岩盤規制」を先進的に改革することを目的に創設され、2013 年 12 月の法制定以来、10 の地域が特区として制定された。特区では経済社会の構造改革を重点的に推進することにより、産業の国際競争力を強化するとともに、国際的な経済活動の拠点の形成を促進する観点から、規制改革等の施策を総合的かつ集中的に推進している。

 今後は、さらなる規制改革の推進のため、残された課題の改革を進めていく。重点的に取り組むべき分野・事項としては、以下のとおり。規制改革事項の追加や深堀りに加え、必要な指定区域の追加や、改革事項を活用した具体的事業の「可視化」などについて、政府は一層の加速的推進を図っていく。

図表 2-4 これまでに認定された事業の代表例(2016 年 6 月時点)

規制改革事項 概要 初の活用自治体

開業ワンストップ外国人を含めた起業・開業促進のための各種申請ワンストップセンターの設置外国人を含めた起業・開業促進のため、登記、税務、年金、定款認証等の創業時に必要な各種申請のための窓口を集約。相談を含めた総合的な支援を実施。

東京都

創業外国人材創業人材等の多様な外国人の受入れ促進創業人材について、地方自治体による事業計画の審査等を要件に、「経営・管理」の在留資格の基準(創業当初から「2人以上の常勤職員の雇用」又は「最低限(500 万円)の投資額」等)を緩和。

東京都福岡市

旅館業法滞在施設の旅館業法の適用除外国内外旅行客の滞在に適した施設を賃貸借契約に基づき7日から10 日間以上使用させ、滞在に必要な役務を提供する事業を行おうとする者が、都道府県知事の認定を受けた場合は、旅館業法を適用しない。

東京都 (大田区)

iPS

iPS 細胞から製造する試験用細胞等への血液使用の解禁採取した血液を原料として製造できる物は血液製剤等に限定されているが、再生医療技術を活用し、医薬品の研究開発等に係る国際競争力を強化するため、血液を使用して、業として、iPS細胞から試験用細胞等を製造することを可能化。

京都府

・幅広い分野における「外国人材」の受入れ促進

・公共施設等運営権方式の活用等による「インバウンド」の推進

・幅広い分野における事業主体間の「イコールフッティング」の実現

・幅広い分野における「シェアリング・エコノミー」の推進

・特にグローバル・新規企業等における「多様な働き方」の推進

・地方創生に寄与する「第一次産業」や「観光」分野等の改革   等

 これまで国家戦略特区により実現した規制改革事項は、全国措置等を含め、50 以上となっており、特に、都市計画の手続きの迅速化、いわゆる民泊(宿泊可能な住居)の解禁、医学部の新設、雇用条件の明確化(雇用労働相談センターの設置)などがあり、長年にわたり実現できなかった規制改革を実現してきた。10 の特区内では合計 202 の事業が認定され(2016 年 9 月 9 日時点)、現在、目に見える形で迅速に進展している(図表 2-4、2-5)。

<サービス分野における「シェアリング・エコノミー」推進の事例> 「シェアリング・エコノミー」とは、典型的には個人が保有する遊休資産(スキルのような無形のものも含む)の貸出しを仲介するサービスであり、貸主は遊休資産の活用による収入、借主は所有することなく利用ができるというメリットがある。例えば、自家用車に相乗りする乗客を見つけて収入を得る「ライド・シェア」や、利用していないアパートや部屋を宿泊施設として貸す「民泊」といったサービスがある。シリコンバレーを起点にグローバルに成長してきたシェアリング・エコノミーの波が日本にも押し寄せており、法整備が急がれる。以下では外国のシェアリング・エコノミー企業の日本への参入例を挙げている。

〔出所〕内閣府地方創生推進事務局ウェブサイト

12 Invest Japan Report 2016

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Ⅱ ビジネス環境の改善に向けて

図表 2-5 国家戦略特区 規制改革の例(抜粋)(2016 年 9 月時点)

UberJapan(米国、ライド・シェア)

ライド・シェアサービスを提供する米国の企業。自家用車で外出の際、スマートフォンの Uber アプリに行き先を入力し、配車を希望している乗客が行き先を入力することでマッチングを行う。日本には 2013 年に進出し、スマートフォンを使った既存ハイヤー・タクシーの配車サービスを提供している。規制などの影響で海外で広く行っているライド・シェアサービスを提供できずにいたが、2016 年 5 月、国家戦略特区の京都府京丹後市での同社のシステムを活用した有料配車サービス「ささえ合い交通」を始めると発表した。今後は、このサービスを使って過疎化・高齢化が進むエリアで、交通の利便性向上を目指す。

AirbnbJapan(米国、民泊)

民泊のサービスを提供する米国企業。個人宅で使われていない部屋やアパートを宿泊施設として提供するためのウェブサイトを運営している。部屋を提供する個人はウェブサイト上に提供する部屋のデータをアップロードし、宿泊希望者がサイト上で予約をする仕組み。世界 190 カ国で展開し、登録されている部屋数は 200 万室に上る。日本では旅館業法によって住宅を宿泊施設として提供することは規制されていたが、東京都(大田区)および大阪府の国家戦略特区内で規制を緩和。民泊事業を開始している。Airbnb のサービスは、訪日客の増加や東京五輪開催による宿泊施設の不足を解決するポテンシャルを持っている。

〔出所〕内閣府地方創生推進事務局ウェブサイト

医療外国医師の受入れ 9革新的医療機器の開発迅速化 1,7,9保険外併用療養 ( 先進医療の承認迅速化 ) 1,4,7,9,10病床数の特例 1,4,5,9医学部の新設 9

創業創業を志す外国人に対するビザ発給要件の緩和 3,4,8,9人材確保を支援するための人材流動化支援施設の設置 3,4開業ワンストップセンターの設置 9公証人の役場外の定款認証 9

税制設備投資に係る課税の特例措置 ( 特別償却、投資税額控除 ) 1,8

外国人材家事支援外国人材の受入れ 1,9

観光民泊 ( 宿泊可能な住宅解禁 ) 1,9

都市再生都市計画の手続き迅速化 9

農林農業生産法人の経営多角化 2,6

1 関西圏 6 仙北市

2 養父市 7 仙台市

3 広島県・今治市 8 新潟市

4 福岡市・北九州市 9 東京圏

5 沖縄県 10愛知県

Invest Japan Report 2016 13

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第 4 次産業革命の実現 「第 4 次産業革命」とも呼ぶべき IoT、ビッグデータ、ロボット、人工知能(AI)等による技術革新は、従来にないスピードとインパクトで進行している。この技術革新を的確に捉え、これをリードするべく、大胆に経済社会システムを変革することこそが、日本が新たな成長フェーズに移行するための鍵になると政府はとらえている。政府は第 4 次産業革命に関連した付加価値の創出を 2020 年までに 30 兆円にする目標を掲げ、革新的な技術を迅速に実用化できるよう、環境や制度等の整備を急いでいる。 具体的には、第 4 次産業革命の鍵を握る人工知能技術の研究

さらなるビジネス環境改善のための取り組み column

① IoT を活用した健康・医療サービスの充実強化治験・検査データを収集・管理・匿名化する「代理機関(仮称)」制度を整備。ウェアラブル端末等から日常的に取得できる健康情報を活用した、

「個別化健康サービス」の実現。② 無人自動走行を含む高度な自動走行の実現に向けた環境整備。2018 年までに自動走行地図を実用化。

2020 年までに無人走行による移動サービス、高速道路での自動走行を実現。そのため、2017 年までに必要な制度・インフラを整備。③ 小型無人飛行機(ドローン)の産業利用に向けた環境整備

早ければ 3 年以内にドローンによる荷物配送を実現。2016 年夏に制度整備の対応方針を決定。④ i-Construction

盛り土・切り土などの土工でドローン等による3次元データを活用。必要となる基準類を 2016 年度より大規模な国直轄事業に原則として全面適用(検査日数を 5 分の1に、検査書類を 50 分の1に削減)。

⑤ シェアリング・エコノミーの推進IT の革新的発展を基盤とした、遊休資産等の活用による新たな経済活動であるシェアリング・エコノミーの健全な発展に向け協議会を立ち上げ、関係者の意見も踏まえつつ、2016 年秋を目途に必要な措置を取りまとめ。

開発と社会実装を加速するための司令塔機能の確立および、企業の垣根や組織の垣根を越えたデータ利活用を推進していく。 2016 年 4 月、「人工知能技術戦略会議」が設置され、産学官で取り組むべき人工知能の研究開発目標と産業化のロードマップを 2016 年度内に策定する。 また、規制・制度改革、データ利活用プロジェクト等を推進するため、プロジェクト抽出体制を整備する。期限を決めて目指すべき将来のビジネス像を官民で共有したうえで、そこから逆算してロードマップを描き、具体的改革を実施する新たな規制改革等の実行メカニズムを導入する。

<今後実現していく具体的なプロジェクトの例>

2. 外国企業誘致のための施策

 政府は、対日直接投資残高を 2020 年までに、2012 年末時点の 2 倍である 35 兆円に引き上げる目標のもと、外国企業誘致の促進、外国企業にとってのビジネス環境の改善、外国人の生活環境や利便性の向上、日本への高付加価値拠点の立地を促す補助金といったインセンティブの提供など、様々な施策に取り組んでいる。なお、日本に進出しようとする企業への個別支援や、既に日本でビジネスを行っている外資系企業による投資への支援、広報活動などの取り組みについては、第 5 章の「ジェトロの対日投資促進事業」にて紹介する。

(1)「外国企業の日本への誘致に向けた 5 つの約束」

 政府は、対日直接投資を推進する上での課題や施策を議論するため、閣僚会議である「対日直接投資推進会議」を開催している。

この会議には、内閣府特命担当相(経済財政政策)、内閣府特命担当相(規制改革)、総務相、外務相、経済産業相、地方創生担当相などが出席し、政策の司令塔機能を担うとともに、外国企業経営者等から直接意見を聴取し、必要な制度改革等の実現に向けた取り組みを行っている。 2015 年 3 月に行われた会議では「外国企業の日本への誘致に向けた 5 つの約束」が決定された。5 つの約束の内容は、「日常生活における言語の壁の克服」、「インターネットの接続環境の向上」、

「地方空港のビジネスジェット受入れ」、「海外から来た子弟等の教育環境の充実」、「外国企業からの相談への対応強化」で、外資系企業にとってビジネスのしやすい環境を整えるとともに、外国人にとっての生活環境の改善を目指している。「5 つの約束」が決定されてからの取り組みの主な進捗状況(2015 年度末時点)は以下のとおりである。

〔出所〕「日本再興戦略 2016」

14 Invest Japan Report 2016

Page 8: ビジネス環境の改善に向けて - jetro.go.jp · 行者(訪日客)は1,974万人で、3年連続で過去最高を更新し た(図表2-1)。アジアからの訪日客数が多く、中国(499万人)、

・1つ目の約束「日常生活における言語の壁の克服」

項目 進捗状況

小売業の多言語化→ 外国人に買い物時の多言語ニーズのヒアリング調査等を行い、「小売業の店内多言語化にかかるガイドライン」を作成。

2016 年度春より経済産業省ウェブサイトにおいて公表し、普及を行っていく。

医療の多言語化

→ 医療通訳等が配置された拠点病院を 2015 年 7 月に新たに 9 カ所選定し、累計で19 カ所整備。2020 年までに 30カ所に増やす。

→ 2015 年 7 月、国家戦略特区内で研修目的の外国人医師を受け入れる「臨床修練制度」を、大規模病院のみならず診療所でも実施可能とする改正国家戦略特区法が成立(2015 年 9 月施行)。

飲食店の多言語化→ 全国 7 カ所(三重、石川、香川、広島、長崎、北海道、仙台)において、飲食店等を対象に多言語対応研修セミナーを開催。

多言語対応のためのツールや声掛け会話集を紹介する「インバウンド対応ガイドブック」を作成、公表。

音声翻訳システム→ 翻訳精度を向上させた旅行会話の多言語音声翻訳アプリ(10 言語)の最新バージョンを 2015 年 10 月に公開。

2016 年 1月末までに約18 万件のダウンロードがあった。

・2つ目の約束「インターネットの接続環境の向上」

項目 進捗状況

無料公衆無線 LAN

→ 2015 年 7 月よりソフトバンクが訪日外国人向け無料 Wi-Fi サービスの提供を開始し、全国 40 万スポットで利用可能。その他 2015 年 12 月現在、NTT BP が全国13.8 万スポット、ワイヤ・アンド・ワイヤレスが全国 20 万スポットを提供中。

→ 2015 年 4 月より、日本政府観光局のウェブサイト上に無料公衆無線 LAN を紹介するページを開設。

・3つ目の約束「地方空港のビジネスジェット受入れ」

項目 進捗状況

地方空港におけるビジネスジェットの受入れ

→ 2015 年度、14 空港で入国審査ブースを 44 増設。また、2015 年 7 月に地方空港を管轄する出張所に15 名の入国審査官を緊急増員したほか、審査機動班として 2 官署に 20 名を配置。さらに 2015 年 12 月、関西空港と那覇空港で 57 名の入国審査官を緊急増員した。今後さらに 4 空港で 6 ブースを増設する予定。

→ 2016 年 3 月より、CIQ( 税関、出入国管理、検疫 ) が常駐していない空港での事前連絡期限を、これまでの 2 週間から1週間に半減し、ビジネスジェットの受け入れ態勢を整備。

・4つ目の約束「海外から来た子弟等の教育環境の充実」

項目 進捗状況

留学生支援ネットワークの活動推進

→ 2015 年夏にセミナー等で、外国人留学生の来日から就職まで一貫した支援を行う「留学生支援ネットワーク」について周知した結果、加入者が増加。2016 年 2 月時点で、71大学、約 2000 人の外国人留学生、約 700 社の企業が登録。

→ 外国人留学生向けの就職面接会を2015年8月、10月に開催し、のべ170社、1800名が参加。2016年3月にも開催。インターナショナルスクール

→ 2015 年 7 月、文科省が都道府県に対して各種学校設置認可基準の緩和を要請。その一環として、2016 年 1月、東京都が建物・土地の賃貸借要件を 20 年から10 年へ短縮。

小学校の英語授業→ JET プログラム(The Japan Exchange and Teaching Program)による外国語指導助手(ALT: Assistant

Language Teacher)は 2014 年度 4,101人から 2015 年度 4,404 人に増加。2019 年度までに 6,400 人以上とすることを目指す。

・5つ目の約束「外国企業からの相談への対応強化」

項目 進捗状況

自治体との連携

→ 地域への企業誘致等を推進するため、「地域経済グローバル循環創造ポータルサイト」を構築し、2015 年 8 月から稼動を開始。

→ 自治体のニーズに応じ、外国企業誘致戦略の策定、トップセールス等の広報・情報発信、個別企業へのアプローチ・立上げ支援等を協働で実施。

企業担当制 → 重要な投資をした外国企業に副大臣を相談相手としてつける企業担当制を創設。2016 年 1月 7 日〜 2 月12 日にか

けて外国企業を公募し、3 月に 9 社の外国企業を選定。2016 年 4 月より各企業に対して副大臣が随時相談に対応。

Ⅱ ビジネス環境の改善に向けて

〔出所〕内閣府対日直接投資推進会議ウェブサイト

Invest Japan Report 2016 15

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 企業担当制では、公募を経て 9 社が選定された(図表 2-6)。対象企業は、以下の要件をすべて満たす外国企業となっている。担当副大臣による外国企業との面会には、外務副大臣並びに担当副大臣が所属する省および外務省の事務方並びにジェトロの職員が同席し、相談対応を支援する。日本に重要な投資を実施した企業が、日本政府と相談しやすい体制を整えている。

① 規制改革・行政手続きの改善

- 行政手続きの簡素化 日本への投資活動に関係する規制・行政手続きを抜本的に簡素化するため、外国企業にとって煩雑な規制・行政手続きの見直し・簡素化について、1 年以内を目途に結論を得る。先行的な取り組みは 2016 年内に具体策を決定し、速やかに着手する。

- 日本法令の外国語訳の拡充 2020 年度までに新たに 500 以上の法令を外国語訳することを目指す。※ 2015 年度末までに 508 法令の外国語訳を公開済み。< Japanese Law Translation >http://www.japaneselawtranslation.go.jp/

- ワンストップ手続きの徹底 「東京開業ワンストップセンター」における起業・開業に必要な各種申請等の受付のうち、登記、税務、年金等の事務について電子申請を行うことができる支援体制等を整備する。また、現在同センターでは、入国管理等の一部の事務についてのみ、窓口での申請受付等を行っているが、すべての事務について窓口での申請受付ができるよう範囲を拡大する。加えて、開業に伴う外国人材の入国手続の円滑化を図る観点から、同センターにおける申請可能な在留資格の対象について、「経営・管理」、「企業内転勤」に加え、「技術・人文知識・国際業務」を追加する。さらに、在留資格について、法人開設後に同センターにて申請できる期限を、現状の 6 カ月以内から延長する。

図表 2-6 企業担当制 選定企業一覧

企業名 国籍 業種 担当副大臣 主な日本法人名IBM 米国 情報システム 経済産業副大臣 日本アイ・ビー・エム(株)エア・リキード フランス 化学 経済産業副大臣 日本エア・リキード(株)ジョンソン・エンド・ジョンソン 米国 医療機器 厚生労働副大臣 ジョンソン・エンド・ジョンソン(株)スリーエム 米国 化学 経済産業副大臣 スリーエムジャパン(株)デュポン 米国 化学 経済産業副大臣 デュポン(株)ファイザー 米国 医薬品 厚生労働副大臣 ファイザー(株)フィリップス オランダ 医療機器 厚生労働副大臣 (株)フィリップスエレクトロニクスジャパンマイクロンテクノロジー 米国 半導体 経済産業副大臣 マイクロンメモリジャパン(株)メルク 米国 医薬品 厚生労働副大臣 MSD(株)

 対象企業の要件としては、日本に対する直接投資額が 200 億円以上あり、常用雇用者数が 500 人以上であること、日本再興戦略に規定する重要分野に属し、健全な事業活動を行っていること、日本経済の活性化に寄与することが期待される企業であること等がある。

(2)「グローバル・ハブを目指した  対日直接投資促進のための政策パッケージ」

 外国企業による投資先としての日本の評価は近年改善しているものの、ジェトロが昨年外資系企業を対象に実施したアンケートでは、規制・行政手続きの煩雑さ、グローバル人材の確保の難しさ、外国語によるコミュニケーションの難しさといったことが日本へ投資する上で阻害要因として指摘された。これを踏まえ、こうした課題を解決するための新たな政策パッケージが、2016 年 5 月20 日に開催された「対日直接投資推進会議」で決定された。 行政手続きの簡素化およびグローバル人材の呼び込みを始めとして、外国企業と外国人の活動の円滑化に焦点を当てた取り組みを行う。

〔出所〕内閣府

規制・行政手続きの改善

・行政手続きの簡素化・日本法令の外国語訳の拡充・ワンストップ手続きの徹底

グローバル人材の呼び込み・育成

・日本版高度外国人材グリーンカード・在留資格手続きのオンライン化・外国人留学生の就職支援・日本人に対する英語教育の強化

外国人の生活環境の改善

・必要とする児童生徒全員に日本語指導・外国人受入体制が整備された医療機関の拡大・医療機関、銀行、電気・ガス事業者の外国 人対応状況をジェトロウェブサイトで掲載

16 Invest Japan Report 2016

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Ⅱ ビジネス環境の改善に向けて

② グローバル人材の呼び込み・育成 ~高度外国人材受入、  留学生の就職支援、日本人の英語教育強化

- 高度外国人材等 高度外国人材の永住許可申請に必要な在留年数を 5 年から大幅に短縮し、世界最速級の「日本版高度外国人材グリーンカード」を創設する。併せて、高度人材ポイント制をより活用しやすくするため、要件の見直しおよびさらなる周知を促進する。加えて、2018 年度からの在留資格手続のオンライン化を含めた手続の円滑化・迅速化を目指す。 また、家事支援外国人の国家戦略特区での受入を推進する(神奈川県、大阪市に加え、東京都をはじめ他の地域においても利用意向に応じて対応する)。

- 外国人留学生の就職支援 2020 年までに、外国人留学生(学士、修士、博士)の日本での就職率を、2013 年度時点の約 3 割から 5 割に引き上げる。そのため、日本企業文化やビジネス日本語講座、インターンシップ等のプログラムを終了した外国人留学生に、在留資格変更手続を簡素化・迅速化する優遇措置を付与する等の取り組みを行う。

- 日本人に対する英語教育の強化 2019 年 度 ま で に 全 小 学 校 に 外 国 語 指 導 助 手(ALT: Assistant Language Teacher)や英語の堪能な人材等の外部人材を 2 万人以上配置し、児童生徒が質の高い英語に触れられるようにすることで、外国語に堪能な人材の育成を行っていく。

③ 外国人の生活環境の改善 ~教育、医療、外国語対応

- 外国人児童生徒に対する教育支援 2020 年までに、日本語指導を必要とするすべての児童生徒(小学校・中学校)が日本語指導を受けられるようにする

(2014 年度現在 8 割)。また、日本語学習の必要な児童生徒が多い地域の在籍校では、学習に必要な日本語を習得できる「JSL (Japanese as a Second Language) カリキュラム」による指導が実施されるよう、カリキュラム導入校比率を拡大する。

- 日常生活に係る手続の外国語対応 2016 年度中に、外国人患者の受入体制が整備された医療機関を全国に 40 カ所程度へ拡大する。その他、医療機関、銀行、携帯電話事業者、電気・ガス事業者に対し、外国語対応が可能な拠点等についての情報を、ジェトロのウェブサイトに集約して掲載する。

(3)規制・行政手続見直しワーキング・  グループの開催

 政府の対日直接投資推進会議は、対日直接投資を推進するため、外国企業が日本で投資を行うに際して課題となる規制・行政手続きの簡素化について検討し、関係府省庁と調整することを目的として、2016 年 5 月 20 日、「規制・行政手続見直しワーキング・グループ」(以下、「ワーキング・グループ」)の設置を決定した。 ワーキング・グループは、内閣府特命担当大臣(経済財政政策)の指名を受けた有識者、実務家、外資系企業関係者等から構成され、外国企業の日本への投資活動に関係する規制・行政手続きの抜本的な簡素化について 1 年以内を目途に結論を得ることとしている。また、このうち早期に結論が得られるものについては先行的な取り組みとして年内に具体策を決定し、速やかに着手することとしている。 2016 年 8 月 17 日に開催された第1回ワーキング・グループでは、日本における株式会社設立手続きに関する課題として、署名証明書(サイン証明書)および出資金払込証明書が取り上げられた。 株式会社の設立登記に当たっては、発起人や設立時取締役の印鑑証明が必要となるが、日本に住所がない外国人等は、印鑑証明書に代えて署名証明書を提出することができる。従来、署名証明書は、本国(国籍国)の官憲(本国の公証人や日本における領事)が発行したものである必要があったため、当該外国人が他の国に居住している場合は本国に一時帰国するか、日本国内の領事館に行く手間が問題視されていたが、第1回ワーキング・グループでは、法務省から、2016 年 6 月 28 日付けの通達により、当該外国人が本国や日本以外の国に居住している場合にも、居住国における本国官憲が作成した署名証明書で認められるようになったことが報告された。 また、株式会社の設立に当たり、発起人は出資金の全額を発起人名義の銀行口座または設立時に代表取締役となる予定の者の名義の銀行口座に事前に払い込み、設立登記申請の際に出資金払込を証明する書類を提出する必要があるが、外国人による日本での銀行口座開設の困難さや、マネーロンダリング規制に基づく銀行による本人確認手続きが煩雑であることが指摘されていた。このため、第1回ワーキング・グループでは、登記手続きに際して出資金払込を証明する書類を提出する手続や出資金を確認するタイミングなどについて活発な議論が行われた。 ワーキング・グループでは、9 月から 11 月頃にかけて様々な課題を取り上げて規制・行政手続きの簡素化に向けた議論を行ったうえで、先行的取り組み項目は年内に具体策を決定、継続して検討が必要な項目は、2017 年上半期のワーキング・グループでの議論を経て、6 月頃を目途に最終的なとりまとめを行い、対日直接投資推進会議において報告することとしている。

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