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– 1 – Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの 投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責 任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 更新日:2016/10/24 調査部: 増野 伊登 インドの石油情勢:国内の資源開発動向 (インド政府および関連機関の公表資料、IEA 統計、BP 統計、その他各種報道) エネルギー安全保障強化の観点から、石油輸入への依存度を低下させることがインド政府の目 標。そのため、自然減退を食い止め、国内生産を強化させることが課題。 インドの石油上流事業を主に担ってきた国営企業は、油価低迷にもかかわらず、上流戦略の変更 を行っていない。油価下落によるサービス費用の低下と燃料補助金負担の軽減などを受け、国営 企業にとってはむしろ追い風になっている。ONGC は、南東部沖の深海鉱区開発に対して、向こ 4 年間で約 5,200 億円を投資すると発表。 一方、投資環境面では、国内石油産業に対する政府の統制、インフラの未整備、煩雑な税制・規 制などの問題があり、外国石油企業の進出事例は多くない。2014 年のモディ政権誕生以降、 徐々にビジネス環境の整備が進められているが、今のところ外資にとっては必ずしも進出しやす い国とは言えない。 上流分野における改革の一環として、2016 3 月、インドは新しい入札制度 Hydrocarbon Exploration Licensing PolicyHELP)の導入を検討していることを発表。多様で複雑なライセンス形 態の一本化、探鉱期間の延長、柔軟な税制、販売価格の自由化などのインセンティブが盛り込ま れているが、契約改定の実現可能性には疑問もある。2016 5 月には、HELP の前哨戦とも言え る小規模油・ガス田の入札ラウンドが開始しており、油価低迷の中でどれだけの外国企業を惹き つけることができるかが注目される。 はじめに 最近インドに対する注目が高まっている。急速な経済成長を背景にエネルギー消費量は堅調に伸び ており、世界の需要増を牽引する国として存在感を強めている。1 人当たりの国内総生産(GDP)や人間 開発面などでは中国を含むその他新興国に後れを取っているとも言われるが、国際連合貿易開発会議 UNCTAD)は、最も魅力的な投資先としてインドを世界 3 位にランク付けしており、今後のポテンシャル に対する関心は高い。そんなインドのエネルギー事情をめぐっては、特筆すべき事柄が豊富にあるが、 本稿では、これまであまり注目を浴びてこなかったインドの石油上流開発動向に焦点を当てたい。 1.インドのエネルギー事情概観 ①エネルギー需要の現状と見通し 2015 年のインドの 1 次エネルギー消費量は年間約 7 toe (石油換算トン)で、世界の総消費量の

インドの石油情勢:国内の資源開発動向 - JOGMEC …...インドの石油上流事業を主に担ってきた国営企業は、油価低迷にもかかわらず、上流戦略の変更

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Page 1: インドの石油情勢:国内の資源開発動向 - JOGMEC …...インドの石油上流事業を主に担ってきた国営企業は、油価低迷にもかかわらず、上流戦略の変更

– 1 – Global Disclaimer(免責事項)

本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま

れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの

投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責

任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

更新日:2016/10/24

調査部: 増野 伊登

インドの石油情勢:国内の資源開発動向

(インド政府および関連機関の公表資料、IEA統計、BP統計、その他各種報道)

エネルギー安全保障強化の観点から、石油輸入への依存度を低下させることがインド政府の目

標。そのため、自然減退を食い止め、国内生産を強化させることが課題。

インドの石油上流事業を主に担ってきた国営企業は、油価低迷にもかかわらず、上流戦略の変更

を行っていない。油価下落によるサービス費用の低下と燃料補助金負担の軽減などを受け、国営

企業にとってはむしろ追い風になっている。ONGC は、南東部沖の深海鉱区開発に対して、向こ

う 4年間で約5,200億円を投資すると発表。

一方、投資環境面では、国内石油産業に対する政府の統制、インフラの未整備、煩雑な税制・規

制などの問題があり、外国石油企業の進出事例は多くない。2014 年のモディ政権誕生以降、

徐々にビジネス環境の整備が進められているが、今のところ外資にとっては必ずしも進出しやす

い国とは言えない。

上流分野における改革の一環として、2016 年 3 月、インドは新しい入札制度 Hydrocarbon

Exploration Licensing Policy(HELP)の導入を検討していることを発表。多様で複雑なライセンス形

態の一本化、探鉱期間の延長、柔軟な税制、販売価格の自由化などのインセンティブが盛り込ま

れているが、契約改定の実現可能性には疑問もある。2016 年 5 月には、HELP の前哨戦とも言え

る小規模油・ガス田の入札ラウンドが開始しており、油価低迷の中でどれだけの外国企業を惹き

つけることができるかが注目される。

はじめに

最近インドに対する注目が高まっている。急速な経済成長を背景にエネルギー消費量は堅調に伸び

ており、世界の需要増を牽引する国として存在感を強めている。1 人当たりの国内総生産(GDP)や人間

開発面などでは中国を含むその他新興国に後れを取っているとも言われるが、国際連合貿易開発会議

(UNCTAD)は、最も魅力的な投資先としてインドを世界 3 位にランク付けしており、今後のポテンシャル

に対する関心は高い。そんなインドのエネルギー事情をめぐっては、特筆すべき事柄が豊富にあるが、

本稿では、これまであまり注目を浴びてこなかったインドの石油上流開発動向に焦点を当てたい。

1.インドのエネルギー事情概観

①エネルギー需要の現状と見通し

2015 年のインドの 1 次エネルギー消費量は年間約 7 億 toe(石油換算トン)で、世界の総消費量の

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– 2 – Global Disclaimer(免責事項)

本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま

れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの

投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責

任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

5.3%を占める(BP統計)。2015年にはロシアを抜いて、中国・米国に次ぐ世界第3位のエネルギー消費

国になった(日本は年間約 4.5 億 toe で、世界第 5 位)。一次エネルギー消費の内訳は、石炭 58.1%、

石油 27.9%、天然ガス 6.5%、水力発電 4.0%、再生可能エネルギー2.2%、原子力発電 1.2%で、依然

として石炭が最大のエネルギー供給源だ(図 1)。

図 1.インドの一次エネルギー消費量とその内訳

出所:BP統計を基に作成

国際エネルギー機関(IEA)は、2015 年に発表したインドエネルギー見通し(India Energy Outlook)に

おいて、2040 年までの同国の一次エネルギー需要の見通しを出している(図 2)。IEA によると、インドの

経済規模は 2040 年までに現状の 5 倍以上に拡大、世界最大の人口を抱える国になるとし、これに伴い

エネルギー消費量も 2倍に膨れ上がるとのことだ。

②インドのエネルギー政策

温室効果ガス排出量が中国、米国、ロシアに次いで世界第 4 位のインドは、2030 年までに GDP 当た

石油 30%

天然ガス8%

石炭 55%

原子力 1%

水力 6%

2005年 387Mtoe

石油 28%

天然ガス7%

石炭 58%

原子力 1%水力 4%

再エネ 2%

2015年 700Mtoe

0

500

1000

1500

2000

2000 2013 2020 2030 2040

図2.インドの一次エネルギー需要見通し(IEA)

石炭 石油 天然ガス 原子力 再生可能エネルギー

Mtoe

出所:IEA

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– 3 – Global Disclaimer(免責事項)

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れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの

投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責

任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

りの温室効果ガス排出量を 2005 年比で 33~35%削減するという国別目標案(Intended Nationally

Determined Contribution: INDC)を 2015 年 10 月に国連に提出した。また、2016 年 10 月 2 日、独立の

父マハトマ・ガンジー氏の生誕記念祭に合わせ、地球温暖化対策のための国際的な枠組みである「パリ

協定」を批准しており、11 月上旬にも発効する見通しだ。モディ首相は、ガンジー氏こそが環境に配慮し

た暮らしの手本を示していると発言している。

環境意識の高まりと共に、化石燃料の中でも、石油や天然ガスと比較して CO2 排出量が多い石炭の

利用を減らすための世界的な試みが進みつつある。しかし、世界有数の石炭埋蔵・生産国であり、石炭

需要の 8 割を国内で調達、エネルギー需要の 50%以上を石炭に依存しているインドにとって、消費量の

削減は現実的に困難だ。増え続けるエネルギー需要を賄うと同時に環境問題にも取り組むために、天然

ガス、原子力、再生可能エネルギーの比率を高めていくことをインドは目指している。

一方石油に関しては、輸入への依存度を低下させたいというのがインド政府の意向だ。伸び悩む国内

生産量に対して、2015 年の国内需要は約 5 倍(図 3)。消費量のおよそ 80%(約 330 万 b/d)を輸入に頼

っている。さらに、輸入全体における中東依存度は 60%程度(約240万b/d)と、供給源の多様化は思うよ

うに進んでいない(図 4)。原油価格が低迷する今、インドの製油業者は黄金時代を迎えているが、エネ

ルギー安全保障の強化を考慮すれば、化石燃料の輸入に対するさらなる依存は避けるべきと当局は考

えているのだろう。2016年9月、Dharmendra Pradhan石油大臣は、2022年までに原油の輸入量を 10%

削減するという目標を打ち出している。

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投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責

任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

2.石油開発の歩み

インドの炭化水素資源開発は、成熟油田がある北東部の Assam-Arakan 堆積盆地と西部の Mumbai

Offshore堆積盆地に加え、近年発見があった南東部のKrishna-Godawari Offshore堆積盆地やCauvery

堆積盆地、北西部の Rajasthan 堆積盆地や Cambay 堆積盆地に集中しており、未探鉱・未開発の地域は

まだ多く残されている(図 5)。IEAによると、米国メキシコ湾沖における井戸掘削数は 14㎢当たり 1坑で

あるのに対し、インド沖合では 146㎢に 1坑と、探鉱の余地があることを物語っている。

BP統計によると、インドの原油確認埋蔵量は 57億バレル(8億トン)で、世界全体の 0.3%を占める。古

くから、北東部のアッサム州など(Assam-Arakan 堆積盆地)で小規模な石油生産が行われてきたが、

1970 年代に西海岸沖合でムンバイ・ハイ(ボンベイ・ハイ)油田が発見されたことで、本格的な原油生産

が開始した。1990 年代から 2000 年代初めにかけての生産量は 70~80 万 b/d で推移し、2009 年に北

西部ラジャスタン州の陸上油田マンガラ(Cairn、ONGCほか)が生産を開始したことを受け、2011年に91

万b/dを記録するも、以降は伸び悩んでいる(図6)。2015年のコンデンセートを含む原油生産量は87.6

万b/dだった。

今日の原油生産を支えているのは、ラジャスタン州陸上およびグジャラート州沖合の油田群やムンバ

イ沖のムンバイ・ハイ油田がある西部地域、そして北東部のアッサム州近辺だ(図 7)。生産の中心は西

側に移ったとはいえ、アッサム州近辺は全体生産量の 1 割程度を産出する地域として今も重要な地位を

占めており、米国エネルギー省エネルギー情報局(EIA)によれば、Assam-Arakan 堆積盆の埋蔵量はイ

ンド全体の 22%以上に上るという。フィールドのタイプ別に見ると、浅海油田と陸上油田がインド全体の生

産量のおよそ半々を占める(図 8)。

出所:インド石油省統計等を基に作成

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図5.インドの主要な堆積盆地と油・ガス田および開発の進展度合い

出所:各種情報を基に JOGMEC調査部作成

マンガラ油田

ムンバイ・ハイ油田

ディルバイ・ガス田

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図 7.インドの行政区分

出所:各種情報を基に JOGMEC調査部作成

3.主要企業の顔ぶれ

インドの石油上流事業は主に国営企業によって担われてきた(図 9)。生産規模で見れば ONGC(Oil

and Natural Gas Corporation)が突出しており、それに次ぐのがOIL(Oil India)。上記2社でインド全体の

原油生産量の約 3 分の 2 を占める。このほか、同じく国営で、主に下流事業を手掛ける IOC(Indian Oil

Corporation)、Bharat Petroleum Corporation、Hindustan Petroleum Corporation、GAILなどに加え、民間

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投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責

任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

企業では、財閥系の Reliance Industries なども上流分野に参入している。現在インド全体で約 550 の鉱

区が付与されているが、この内 400 弱は ONGC がオペレーターを務め、そのほとんどにおいて 100%の

権益を有している、まさに国内最大の上流事業者だ。

一方で外国石油企業の進出事例は多くない。外国企業の中では、20 年以上にわたってインド上流に

携わってきた英国独立系企業 Cairn Energy1の存在感がとりわけ強く、ラジャスタン州陸上、東岸・西岸沖

合と幅広く権益を持ち、オペレーターも務める。そのほか、ディルバイ・ガス田が位置する南東岸沖合

KG-DWN-98/3(通称:KG-D6)鉱区の BPをはじめ、Eni、Shell(元は BGの権益)、BHP Billiton(2013年

に西岸沖合 MB-DWN-2010/1 鉱区以外のインド上流資産は売却)、丸紅(東岸沖 PKGM-1 鉱区のラワ

油田の権益 12.5%を保有)などが挙げられる。インド全体の生産量に占める外国企業の割合は 1 割程度

と見られる。

図 9.インド石油事業に関わる主なアクター

出所:各種情報を基に筆者作成

4.最近の探鉱・開発動向

直近の石油開発動向はどうだろうか。ムンバイ沖、アッサム州近辺、そして北西部陸上の成熟油田か

らの生産量が自然減退の影響で減少傾向にある一方で、石油輸入への依存低下が国策の一つとして掲

げられている今、ONGC とOIL を中心に、国内生産量を増加させるための再開発や EOR(増進回収法)、

1 2010年、Cairn Energyはインド部門Cairn Indiaの一部株式をVedanta Resourcesに売却。Cairn Indiaは現在同社の子会社。

国有 民間・外資 国有 民間・外資ONGC Reliance IOC RelianceOIL Essar Bharat Essar

Tata HindustanIOC Cairn GailGail BP

Bharat EniHindustan Shell

探鉱・開発 下流

インド政府

石油・天然ガス省

DGH(Directorate General of Hydrocarbons)

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投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責

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有望な堆積盆地の周縁地域における探鉱・開発事業が行われている。

2014 年夏以降の原油価格下落も、インド国営企業の上流戦略を変更させるほどの影響は及ぼしてい

ないようだ。IEAのWorld Energy Investment 2016によれば、2015年のエネルギー分野に対する世界全

体の投資額は 1.8 兆ドルで、前年比 8%減となった。この内、上流部門への投資額は 25%減少して 5,830

億ドル。2016 年は更に 24%減少する見込みであり、その場合、過去 30 年間で初めて 2 年連続の減少と

なるそうだ。事実、Cairnもインドにおける 2015年度(2015年4月~2016年3月)のCapexを 6割削減、

バレル当たり 55ドルで採算可能な井戸からのみ生産を続行するとした。

これに対し、ONGC と OIL は投資計画に変更を加えていない。インド政府関係筋によると、両社の生

産コストはバレル当たり 37 ドル程度とのことで、現行の油価でも採算が取れる 2。また、ONGC の Dinesh

K Sarraf 社長は、「油価下落への対応の一つは、商業性が不透明なうちは新規案件に手を出さないとい

うことだが、当社は逆の見方をしている」と述べており 3、油価低迷によるサービス費用の低下と燃料補助

金負担の軽減、これに石油製品価格の自由化の流れも相まって、国営企業にとってはむしろ追い風に

なっていることが窺える。ONGC によれば、2017 年度の Capex は 3,000 億ルピー(約 45 億ドル)を見込

んでいるとのことだ。

リグ稼働数で見ると、油価の急落で一時減少したものの、2016年以降回復基調にある(図10)。最近の

傾向では、主に国営企業が、特にグジャラート州やラジャスタン州などの北西部陸上と南東部沖合で集

中的に掘削を行っているようだ。

2016年9月30日、ONGCは、南東部沖のKrishna-Godawari Offshore堆積盆地に位置する深海鉱区

KG-DWN-98/2 の開発に対して、向こう 4 年間で 3,401 億 2,000 万ルピー(約 5,200 億円)を投資すると

2 2015年9月5日付The Economic Times of India 3 2016年3月14日Forbes India

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発表した(図 11)。同鉱区は、Reliance と BP が共同開発し、2006 年 6 月にインドの深海域では初めて原

油が発見されたKG-DWN-98/3(KG-D6)鉱区に隣接する。開発対象となるのは、KG-DWN-98/2の「ク

ラスター2」で、水深300~3,200メートルに位置する。原油埋蔵量は 9,426万トン(約6.9億バレル)、ガス

埋蔵量は 519 億 8,000 万m3(立方メートル)と見られており、ガスは 2019 年 6 月、原油は 2020 年 3 月

に生産を開始する方針だ。ピーク時の生産量は、原油7万 7,305b/d、ガス 1,275万m3/dだという。

さらに、ONGC は周辺鉱区の権益獲得にも動いている。2016 年 10 月初めの報道によれば、同社は、

KG-OSN-2001/3(通称:Deen Dayal)鉱区の権益買収に関して、グジャラート州石油公社(GSPC)との間

で覚書を交わした模様だ。同鉱区は 2013 年の生産開始を予定していたが、埋蔵量が当初見込みを大

幅に下回ったこともあり、事業は遅れている。2014 年 8 月には試験生産を開始したが、GSPC は売却の

タイミングを窺っていた。現在両社間で同鉱区の埋蔵量や評価額に関する協議が行われている。

図 11.インド南東部沖合の主要鉱区

出所:各種情報を基に JOGMEC調査部作成

今後深海域での探鉱・開発がさらに活発化することが期待されており、IEA は 2015 年に発表した見通

しで、深海油田の生産量が 2040年にかけて徐々に拡大していくと予測している(図 12)。

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図 12.IEAによるインドの石油生産見通し

出所:India Energy Outlook, IEA 2015

また、本稿では詳しくは触れないが、インド国営企業の最近の動向として、外国上流資産や外国石油

企業株式の買収が挙げられる。変動する原油価格から国内の石油産業を保護することを目的に、インド

政府自身が自国企業に対し供給源の多様化と自主開発原油の強化を奨励していることが背景にある。

最近の主な買収動向は表 1のとおりである。

表1.インド石油企業による最近の対外上流投資動向

買収時期 買収元 買収対象

上流資産買収

2013年 ONGC等 Videocon(印)モザンビーク資産(10%)

2013年 ONGC Anadarko(米)モザンビーク資産(10%)

企業買収

2015年 ONGC Rosnef子会社Vankorneft株式15%

2016年 Oil India等 Rosneft子会社Vankorneft株式23.9%

2016年 Oil India等 Rosneft子会社Taas-Yuryakh-Neftegazdobycha株式29.9%

出所:報道などを基に作成

5.インドの投資環境

ところで、インド上流における外資参入度合いが低い背景には様々な問題がある。まず、国内の石油

産業に対する政府の統制力が強いことだ。生産物の販売価格に対する統制のほかに、入札ラウンドの

実施における不透明性も一例として挙げられ、技術力の伴う外国企業よりも国営企業が優先的に鉱区を

落札するといった傾向が見られる。このほか、インフラの未整備をはじめ、煩雑な税制・規制、時間を要

する許認可プロセスも問題で、インド政府当局による事業計画の承認に時間がかかり事業が遅延するな

ど、外資にとっては必ずしも進出しやすい国とは言えない。世界銀行が発表しているビジネス環境ランキ

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ングでは 189カ国中130位と、投資環境の整備に向け改善の余地が大きいという印象を禁じ得ない。

一方で、既述のとおり、UNCTADは、World Investment Report 2016において、最も魅力的な投資先と

して、米国、中国に次いでインドを挙げていることから、今後の可能性に対する注目も大きいことが窺え

る。インドは、1991 年の経済危機以降、自給自足に基づく閉鎖的な経済政策からの脱却を図り、現在で

は主要セクターのほとんどで外資の参入が可能になった。持続的な成長に向け経済の抜本的な立て直

しを図るインド政府は、マンモハン・シン前政権時代より、外国からの直接投資(FDI)に対する規制緩和

を徐々に進めている(通信分野の出資上限を 74%から 100%に引き上げるなど)。

2014 年のモディ現政権誕生を受け、外資規制の追加的緩和にも期待が集まっている。「モディノミクス」

の名で親しまれるモディ首相の経済政策は、海外からの投資促進に加え、インフラ整備(道路、鉄道、電

力、上下水道など)や雇用拡大などを梃子に経済を活性化させることを目指している。しかし、そのため

には、FDI 規制はもちろんのこと、電力の不足、用地取得の際の紛争解決、人材確保など、さらなる規制

緩和と法整備を必要とする事案が多いことも事実だ。

また、もう一つの課題は、連邦政府と地方行政(州政府)の足並みが揃わないことだ。インドは、7 つの

連邦直轄領を除けば、29の州によって構成されている(図7)。モディ首相率いる与党BJP(インド人民党)

は、インフラ整備や工業用地のための農地収用を容易にすることを目的に、政令の改正に踏み切ろうと

したが、各州の農村部に支持基盤を持つ地方政党や有力者の反発に合い、断念せざるを得なかったと

いう経緯がある。モディ首相は、2015 年のインタビューで、土地収用問題は今後連邦レベルではなく各

州レベルの判断に委ねると発言している。

しかし、政府による政策決定の迅速化・効率化は、徐々にではあるが進んでいる。炭化水素分野では、

重要な政策は、実施機関である石油・天然ガス省(Ministry of Petroleum and Natural Gas)に移される前

に、他省の代表者から成る委員会での審議を経る必要があったが、モディ首相は就任後にこの委員会

を廃止している。上流事業にかかわる政策の策定においては、今でも財務省、外務省、環境省などが大

きな影響力を持つとされるが、非効率性からの脱却に向けた試みは評価すべきだろう。

6.入札ラウンドと契約の改定に向けた動き

増産に向けた取り組みとして、上流セクターにおける政府主導の改革も徐々に進められている。1999

年、政府は公開入札による探鉱鉱区付与制度 New Exploration Licensing Policy(NELP)を導入し、国営

企業と外資を含む民間企業が平等に上流事業に参入できる体制への転換を試みた。外資出資比率が

最大100%まで可能になったNELPの下で、これまで計9回の入札ラウンドが実施されている(図 13)。

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本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま

れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの

投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責

任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

図 13.NELPに基づいて付与された鉱区

出所:Directorate General of Hydrocarbonsの公式ウェブサイト(http://www.dghindia.org/?page=home)

しかし、上述のとおり、実際には現在でもインド企業、特に国営企業が独占的な地位を占めている。

2002 年に東海岸沖合深海でディルバイ・ガス田が発見されて以降は、インド上流への関心が一気に高

まった。結果、2006 年に実施された NELP-Ⅵでは、BP、BG、Eni、Total など大手メジャーを含む多くの

外国石油企業が応札したが、落札者は ONGC や Reliance などのインド企業がほとんどだった。深海の

知見を持たない ONGC の落札には政府側の意図が働いたと見る向きもあり、政策と現実の間に乖離が

あることは否めない。

また、NELP 自身にも制度上の問題点がある。それは、NELP が在来型資源のみを対象としているとい

うことだ。炭素メタン(CBM)、シェール、ガス・ハイドレートなどの非在来型にはそれぞれに別の法制度

が存在し、しばしば混乱と非効率を招いてきた。また、契約形態に起因した障害もある。NELP は生産物

分与契約(PSC)を採用しているため、石油・ガスを発見したコントラクター(企業)は、コスト回収が完了し

た後に、落札時に提示したパーセンテージに基づいてインド政府と収益を分け合うことになる。しかし、

回収するコスト額の正確性をめぐって企業と政府間でしばしば対立が起こり、多くのプロジェクトが遅延を

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余儀なくされてきた。さらに、ロイヤルティーの算出において、NELP は浅海と深海・大水深を区別してい

ないため、よりリスクの高い後者に対するインセンティブが設けられていないというのも企業側には不利

な点だ。

こうした問題を解決するため、2016 年 3 月、インド政府は NELP にとって代わる Hydrocarbon

Exploration Licensing Policy(HELP)の導入を検討していることを明らかにした(図 14)。

図 14.インドの上流改革に向けた歩み

出所:Directorate General of Hydrocarbonsの公式ウェブサイト(http://www.dghindia.org/?page=home)

HELP の詳細は今詰めの段階にあるようだが、3 月 10 日に政府が承認した HELP の概要をこれまで

判明している範囲で以下に記す。

ライセンスの単一化:在来型・非在来型の別にかかわらず、あらゆる炭化水素資源を単一のライセ

ンス制度の下で付与し、業務のスリム化を図る

探鉱期間の延長:探鉱期間を、陸上鉱区は 7年から 8年に、洋上鉱区は 8年から 10年に延長

PSCから Revenue Sharing Contract(RSC)への移行

Open Acreage Licensing Policy(OALP)の導入:企業は、政府による入札ラウンド実施の発表を待

たずとも、探鉱を希望する鉱区についての関心表明(Expression of Interest)をいかなる時でも提

出することが可能に。政府は、企業から受け付けた関心表明を精査し、入札にかける

ロイヤルティーの変更:浅海鉱区に対するロイヤルティーを 10%から 7.5%に削減。深海・大水深鉱

区に関しては、契約締結から 7年間は免除、以降は深海5%、大水深2%に設定

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国内におけるガス販売および価格設定の自由化

しかし、E&P の活発化を目的としたこれら上流改革は、全てがバラ色なわけではない。特に、PSC から

RSC への移行については、生産開始からすぐに収益の分配が開始されることになるため、コスト回収額

をめぐるこれまでの企業・政府間の係争は避けられる一方で、企業にとっては投下した探鉱コスト回収の

不透明性が増すことになり、改善とは言い難いからだ。2016 年 9 月時点の報道によれば、HELP 導入後

初となる入札ラウンドの実施は 2017 年の初め頃を予定しているという 4。応札が活況を呈すか否かは、イ

ンド政府が企業にとってどれだけ有利な税制措置を追加して提示できるかにかかっているだろう。

また、インド政府は、2016年5月25日、Discovered Small Fields(DSF)と称する小規模油・ガス田の入

札ラウンドの開始を発表している(政府承認は 2015 年 9 月 2 日)。NELP-IX の実施から 6 年ぶりの入札

である。ただし、DSF の対象は探鉱鉱区ではなく、ONGC や OIL などの国営企業によって石油・ガスが

発見されたものの、地理的・技術的制約や規模の小ささ、また政府によるガス価格統制ゆえに商業性が

得られず開発段階に至らなかった鉱区を新たに入札にかけ、生産増につなげることが狙いだ。DSF で

は、9 つの堆積盆地に位置する 46 鉱区(67 の油・ガス田)が入札にかけられる(図 15、表 2)。すでに生

産段階にある堆積盆地が主な対象で、陸上、浅海、深海域にまたがる総面積 1,500 ㎢超の原始埋蔵量

は 6.25億boe(石油換算バレル)になるという。

図 15.DSF入札ラウンドの対象鉱区の概要

出所:PWC

4 政府側にとってどれだけ高い収益分配率を提示できるかが一番重要な入札パラメーターとなる。

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表 2.DSF 入札ラウンドの対象鉱区一覧

出所:Directorate General of Hydrocarbonsの公式ウェブサイト(http://www.dghindia.org/?page=home)

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投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責

任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

2016 年 6 月から 8 月末にかけ、インド政府は、ムンバイ、グワーハーティー(インド東北部アッサム州

の都市)、ヒューストン、カルガリー、シンガポール、ロンドン、ドバイにおいて精力的にロードショーを実

施している。DSF においても一部 HELP と同様のインセンティブが設けられており、HELP の前哨戦とし

ても位置付けられるだろう。DSFの特徴は以下のとおり。

単一ライセンスの下で在来型・非在来型の別なく開発可能

PSCから RSCへの移行

生産される石油・ガスの販売および価格設定の自由化。ただし、石油は国内販売に限る。

国営石油会社の参加義務およびキャリード・インタレストなし

技術的知見に関する前提条件や作業義務はなし

契約期間中の探鉱活動に対する制約はなし

ロイヤルティーは、陸上鉱区では、原油が12.5%、ガスが10%、浅海では、原油・ガスともに10%、深

海鉱区では、原油・ガスともに最初の 7年間は 5%、以降は 10%

石油開発に要する物品・サービスに対しては関税を免除

生産される石油・ガスの販売と価格設定を企業の裁量で決定できることは、石油製品やガス価格の自

由化が段階的に進められてはいるが十分とは言えない中で、非常に大きい意味を持つ。しかし、これま

でも同様の契約改定をほのめかしつつ実際には実行に移さ

れなかった経緯があることも事実だ。インド政府として、市場の

自由化をどこまで本気で進められるかにかかっている。

税制が改善されたことを受け、ONGC も OIL も応札に意欲

を見せているが、原油・ガス価格が低迷する今、外国企業の反

応は芳しくないだろうとの見方も強い。2019 年の総選挙までは

様子見の傾向が続くことも想定されることから、専門家の中に

は、これまでの入札ラウンド同様、国営企業がほとんどの鉱区

を落札すると予想する者もいる。DSF 入札ラウンドの日程は表

3のとおりで、2016年10月31日に入札が締め切られ、2か月

以内に鉱区が付与される予定だ。

以 上

表3.DSF 入札ラウンドの日程(2016年5月25日時点)

出所:Directorate General of Hydrocarbonsの公式ウェブサイト