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公益財団法人 公正取引協会 発行 http: // www.koutori-kyokai.or.jp (2014 年4月~ 2015 年3月) No. 38 2015 年7月

海外ニュース...2 イリノイ州北部地区地裁、LCDパネル国際カルテル訴訟でシャーマン法の域外 適用を認めないとする判決を下す(2014年1月23日

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Page 1: 海外ニュース...2 イリノイ州北部地区地裁、LCDパネル国際カルテル訴訟でシャーマン法の域外 適用を認めないとする判決を下す(2014年1月23日

公益財団法人 公 正 取 引 協 会 発行

http://www.koutori-kyokai .or. jp

海 外 ニ ュ ー ス

(2014年4月~ 2015年3月)

No.38

2015年7月

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I

目 次

速報海外ニュース 2014 年 155 号(平成 26 年 4 月 10 日)

○ 米国反トラスト法の最近の動向

1 司法省、自動車部品メーカー・小糸製作所が有罪を認めた旨公表(2014 年 1月 16

日)

(1)

2 イリノイ州北部地区地裁、LCDパネル国際カルテル訴訟でシャーマン法の域外

適用を認めないとする判決を下す(2014年 1月 23日)

(2)

3 司法省、ダイヤモンド電機の前社長ら 2名が有罪を認めた旨公表(2014 年 1月 31

日)

(3)

○ 欧州競争法の最近の動向

1 欧州委員会、有料テレビサービスの国境を越えた提供を阻害するライセンス取決

めに対する調査を開始(2014年 1月 13日)

(49)

2 欧州委員会、軟質ポリウレタンフォーム製造業者に対し、カルテル和解手続の適

用を通じ、総額 1億 1400万ユーロの制裁金を賦課(2014年 1月 29日)

(50)

速報海外ニュース 2014 年 156 号(平成 26 年 5 月 12 日)

○ 米国反トラスト法の最近の動向

4 司法省、自動車部品メーカー・ブリヂストンが有罪を認めた旨公表(2014 年 2 月

13日)

(4)

5 第 9巡回裁判所、人工膝製造業者を狙い撃ちにした共同の妨害行為に対する提訴

を棄却(2014年 2 月 24日)

(5)

6 司法省、自動車部品メーカー・愛三工業との間で締結した有罪答弁協定書を地裁

に提出(2014年 3 月 4日)

(6)

○ 欧州競争法の最近の動向

3 欧州委員会、和解手続を利用した電力取引所 2社に対し、総額 590万ユーロの制

裁金を賦課(2014 年 3月 5日)

(51)

4 欧州委員会、和解手続の利用を通じ自動車とトラックのベアリングの製造業者に

対し、9億 5,300 万ユーロの制裁金を賦課(2014年 3月 19日)

(52)

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II

速報海外ニュース 2014 年 157 号(平成 26 年 6 月 10 日)

○ 米国反トラスト法の最近の動向

7 第 7 巡回裁判所、液晶パネル・カルテル訴訟でシャーマン法の域外適用を否定

(2014年 3月 27日)

(7)

8 ニューヨーク州南部地区地裁、ユーロ円建て金利デリバティブ・カルテル訴訟で

請求棄却判決を下す(2014年 3月 28日)

(9)

9 第 4巡回裁判所、DuPontに対するシャーマン法違反の訴えを却下(2014 年 4 月 3

日)

(10)

○ 欧州競争法の最近の動向

5 欧州委員会、カルテルの実施を理由に高電圧ケーブル製造業者に 3億 200万ユー

ロの制裁金を賦課(2014年 4月 2日)

(53)

6 欧州委員会、金属研磨材製造業者に対し、カルテル和解手続の利用を通じ 3070

万ユーロの制裁金を賦課(2014年 4月 2日)

(56)

速報海外ニュース 2014 年 158 号(平成 26 年 7 月 10 日)

○ 米国反トラスト法の最近の動向

10 連邦大陪審、防振ゴム談合への関与を理由にブリヂストンの日本人幹部ら 3名を

起訴(2014年 4月 15日)

(11)

11 司法省、自動車部品メーカー・ブリヂストンの元幹部が有罪答弁を行うことに同

意した旨公表(2014年 4月 16日)

(13)

12 第 6巡回裁判所、吸収合併を実行した 2つの病院に対し分割を命じた FTC決定

を承認(2014年 4月 22日)

(14)

○ 欧州競争法の最近の動向

7 欧州委員会、サムスン電子の申し出た標準必須特許に関する確約案に法的拘束力

を持たせる旨決定(2014年 4月 29日)

(57)

8 欧州委員会、INEOS と Solvay による PVC の JV の設立を条件付承認(2014 年 5 月

8日)

(59)

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III

速報海外ニュース 2014 年 159 号(平成 26 年 8 月 8 日)

○ 米国反トラスト法の最近の動向

13 司法省、自動車部品に係る入札談合にショーワが関与を認めた旨公表(2014 年 4

月 23日)

(15)

14 第 9巡回裁判所、SDカードカルテル訴訟の継続を容認(2014年 5月 14 日)

(16)

15 連邦大陪審、自動車部品に係る入札談合に関与したとして、東海理化の元常務取

締役を起訴(2014 年 5月 22日)

(18)

○ 欧州競争法の最近の動向

9 欧州委員会、円建て金利デリバティブ・カルテルへの関与の嫌疑で ICAP へ異議

告知書を送付(2014年 6月 10日)

(60)

10 欧州委員会、競争者 Federal-Mogulによる Honeywellの摩擦材事業の買収を条件

付承認(2014年 6 月 16日)

(61)

速報海外ニュース 2014 年 160 号(平成 26 年 9 月 10 日)

○ 米国反トラスト法の最近の動向

16 大陪審、自動車関連部品に係る価格カルテルに関与したとして、タカタの元幹部

を起訴(2014年 6 月 5日)

(19)

17 司法省、自動車関連部品に係る価格カルテルにデンソーの幹部が関与を認めた旨

公表(2014年 6月 30日)

(20)

18 第 9 巡回裁判所、LCD メーカーのカルテルへの関与を認定した有罪の判決を支持

(2014年 7月 10日)

(21)

○ 欧州競争法の最近の動向

11 欧州委員会、和解手続を利用したマッシュルーム缶詰製造業者 3社に 3200 万ユ

ーロの制裁金を賦課(2014 年 6 月 25日)

(62)

12 欧州委員会、Servier と後発製薬会社 5社が心血管薬の廉価版の発売を遅らせて

いたことを理由に制裁金を賦課(2014年 7月 9日)

(63)

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IV

速報海外ニュース 2014 年 161 号(平成 26 年 10 月 10 日)

○ 米国反トラスト法の最近の動向

19 FTC、カルテル行為を誘引していたとして、インターネット販売業者 2 社に対し

同意命令案を発出(2014年 7月 21日)

(22)

20 司法省、自動車関連部品の価格カルテルに関し、ジーエスエレティックの幹部と

の間で締結された有罪答弁協定書を地裁に提出(2014年 7月 31日)

(24)

21 第 10 巡回裁判所、医療機器メーカー大手に対するシャーマン法 2 条違反訴訟

での略式判決を覆す(2014年 8月 5日)

(25)

○ 欧州競争法の最近の動向

13 欧州委員会、SSABによる競合他社 Rautaruukkiの買収を条件付で容認(2014年 7

月 15日)

(65)

14 欧州委員会、Marine Harvest が EU 合併規則上の「承認」を得る前に Morpol 株式

を取得したとして、2000万ユーロの制裁金を賦課(2014年 7月 23日)

(66)

速報海外ニュース 2014 年 162 号(平成 26 年 11 月 10 日)

○ 米国反トラスト法の最近の動向

22 司法省、自動車関連部品の価格カルテルに関し、日本特殊陶業が関与を認めた旨

公表(2014年 8月 19日)

(27)

23 カリフォルニア州北部地区地裁、カルテル行為に対する集団訴訟の和解からの

離脱を求めたシャープの申立てを棄却(2014年 8月 20日)

(28)

24 FTC、製薬会社 Prestigeによる Insightの買収を条件付きで承認(2014 年 8月 28

日)

(29)

○ 欧州競争法の最近の動向

15 欧州委員会、スマートカード・チップ製造業者に対し、1 億 3800 万ユーロの制

裁金を賦課(2014 年 9 月 3 日)

(67)

16 欧州委員会、Huntsman による Rockwood の複数事業の買収を条件付で容認(2014

年 9月 10日)

(68)

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V

速報海外ニュース 2014 年 163 号(平成 26 年 12 月 10 日)

○ 米国反トラスト法の最近の動向

25 司法省、自動車部品の価格カルテルへの関与を理由に、三菱電機と日立オートモ

ティブの幹部と元幹部計 7人が起訴された旨公表(2014年 9月 18日)

(30)

26 司法省、海運カルテルに関して、川崎汽船が有罪答弁を行いまた 6770 万ドルの

罰金を支払うことに同意した旨公表(2014年 9月 26日)

(32)

27 第 10 巡回裁判所、ポリウレタンを巡る価格カルテル事件の集団訴訟で、10.6 億

ドルの三倍額賠償命令を承認(2014年 9月 29日)

(32)

○ 欧州競争法の最近の動向

17 欧州委員会、バナナ製造・輸入業者 Chiquitaと Fyffesとの間の合併を条件付で

容認(2014年 10月 3日)

(70)

18 欧州委員会、スロバキアのブロードバンド市場における濫用行為を理由に、

Slovak Telekom と同社の親会社である Deutsche Telekom に対し制裁金を賦課

(2014年 10月 15 日)

(71)

速報海外ニュース 2015 年 164 号(平成 27 年 1 月 9 日)

○ 米国反トラスト法の最近の動向

28 司法省、自動車部品の価格カルテルへの関与を理由に、日本精工とジェイテック

の幹部計 2人が起訴された旨公表(2014年 11月 14日)

(34)

29 司法省、自動車関連部品の価格カルテルに関し、アイシン精機が関与を認めた旨

公表(2014年 11月 13日)

(35)

30 司法省、自動車部品の価格カルテルへの関与を理由に、日立金属が有罪答弁を行

いまた 125万ドルの罰金を支払うことに同意した旨公表(2014年 10月 31日)

(36)

31 オハイオ州南部地区地裁、病院らのジョイント・ベンチャーが共謀の主体となり

得ない単一主体である旨判示(2014年 10月 20日)

(38)

○ 欧州競争法の最近の動向

19 欧州委員会、スイスフラン金利デリバティブを対象とする売買幅に関するカルテ

ルを和解手続により解決し、主要 4 銀行に 3230 万ユーロの制裁金を賦課(2014

年 10月 21日)

(72)

20 欧州委員会、アリタリア航空とエティハド航空の戦略的提携を条件付で容認(2014

年 11月 14日)

(73)

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VI

速報海外ニュース 2015 年 165 号(平成 27 年 2 月 10 日)

○ 米国反トラスト法の最近の動向

32 第 7 巡回裁判所、液晶パネル・カルテル訴訟でシャーマン法の域外適用を否定

(2014年 11月 26 日)

(39)

33 司法省、自動車部品の価格カルテルに関して、ティラドの幹部が有罪答弁を行う

ことに同意した旨公表(2014年 12月 1日)

(40)

34 司法省、自動車部品の価格カルテルに関して、ミツバの元幹部が有罪答弁を行う

ことに同意した旨公表(2014年 12月 1日)

(42)

○ 欧州競争法の最近の動向

21 欧州委員会、カルテル和解手続を利用した封筒製造業者 5 社に対し総額 1940 万

ユーロの制裁金を賦課(2014年 12月 11日)

(74)

22 欧州委員会、IMS Health による Cegedim の一部の買収を条件付で容認(2014 年

12月 19日)

(76)

速報海外ニュース 2015 年 166 号(平成 27 年 3 月 10 日)

○ 米国反トラスト法の最近の動向

35 FTC、製薬大手 Eli Lillyによる Novartis動物健康部門の取得を条件付きで容認

(2014年 12月 22 日)

(43)

36 司法省、日本郵船が車両運搬の海運カルテルに関与していたとして有罪答弁を行

うことに同意した旨公表(2014年 12月 29日)

(44)

37 司法省、自動車部品の価格カルテルに関し、豊田合成の元幹部が有罪答弁を行う

ことに同意した旨公表(2015年 1月 6日)

(45)

○ 欧州競争法の最近の動向

23 欧州委員会、BPによる航空用燃料の供給者 Statoil Fuel & Retail Aviationの

買収を条件付で容認(2014年 12月 15日)

(77)

24 欧州委員会、Holcim による Lafargeの買収を条件付で容認(2014年 12 月 15日)

(78)

※ 本文中の制裁金等の日本円換算額は速報海外ニュースの掲載時の外国為替レートをも

とに計算したものである。

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米国反トラスト法の最近の動向

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米国反トラスト法の最近の動向

1 司法省、自動車部品メーカー・小糸製作所が有罪を認めた旨公表(2014 年 1 月

16 日)1

司法省は 1 月 16 日、自動車関連部品に係る反トラスト法違反事件において、小糸

製作所が、米国で販売される(1)照明器具及び(2)放電ランプ安定器に係る 2 つの入札

談合・価格カルテルに関与したことを認め、有罪答弁をすること及び 5660 万ドル(約

57 億 7320 万円、1 ドル=102 円)の罰金を支払うことに合意した旨を公表した。

本件の背景として、2010 年 2 月頃、米国司法省、欧州委員会及び日本の公正取引委

員会等は、自動車メーカーらが発注する部品を巡って、国際的な入札談合・価格カル

テルが行われている疑いがあるとみて、捜査を開始した。とりわけ、司法省は芋づる

式に自動車部品メーカーら及びそれらの幹部らを次々に捜査し、それらから有罪の答

弁を次々に得てきた。

自動車業界において、各自動車メーカーは、自動車部品を調達するに当たり、部品

メーカーらに対して見積書の提出を求め、提出される見積書を審査し、当該審査の結

果に従って受注者の選定をしている。

本件の被告である小糸製作所は、東京に本社を置く自動車部品メーカーである。同

社は、前方を照らすヘッドランプ並びにブレーキ及びブリンカー機能等を有するリア

コンビネーション・ランプなどの自動車用照明器具を製造販売している。また同社は、

自動車用放電ランプの始動と調節をする放電ランプ安定器も製造販売している。

本件において、司法省が小糸製作所を当該談合・カルテル容疑で捜査していたとこ

ろ、同社は、同省との司法取引に応じた。司法取引で、同社は大陪審起訴を受ける権

利を放棄して有罪の答弁を行うこと、総額 5660 万ドルの罰金を支払うことに同意し

た。これを受け、2014 年 1 月 16 日、司法省は、シャーマン法 1 条違反の罪で同社を

ミシガン州東部地区地裁に略式起訴した。

略式起訴状によると、被告は以下 2 つの入札談合・価格カルテルに関与していた。

(1)同社は、他社と共謀して、遅くとも 1997 年 6 月から早くとも 2011 年 7 月にかけ

て、トヨタ(日本)の米国子会社などに販売される自動車用照明器具に係る入札談合・

価格カルテルに関与していた。(2)同社は、他社と共謀して、遅くとも 1998 年 7 月か

ら 2010 年 2 月にかけて、トヨタなどの米国子会社に販売される自動車用放電ランプ

安定器に係る入札談合・価格カルテルに関与していた。

司法省は自動車部品メーカーらによる入札談合・価格カルテルについて捜査を現在

も続けている。今回を含め、これまでに部品メーカー24 社が関与を認めており、総額

18 億ドル(約 1,836 億円)以上の罰金刑が科せられている。さらに、個人 26 人も当該入

札談合に関与していたとして起訴されている。

2 イリノイ州北部地区地裁、LCD パネル国際カルテル訴訟でシャーマン法の域外

1 Press Release, Department of Justice, Koito Manufacturing Co. Ltd. Agrees to

Plead Guilty to Price Fixing on Automobile Parts Installed in U.S. Cars., Jan. 16,

2014.

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適用を認めないとする判決を下す(2014 年 1 月 23 日)2

イリノイ州北部地区地裁は 1 月 23 日、被告・LCD(liquid crystal display, 液晶デ

ィスプレイ)パネル・メーカーら(日本、韓国、台湾)が国際カルテルを締結したとして、

エレクトロニックス会社たる原告・Motorola(米国)の外国子会社が海外取引反トラス

ト改善法(Foreign Trade Antitrust Improvements Act)の下で、シャーマン法を域外適

用するよう求めた訴訟で、請求棄却の判決を言い渡した。

本件の背景として、2006 年に米国司法省、日本の公正取引委員会及び欧州委員会等

は、液晶パネル業界において国際価格カルテルが行われている疑いがあるとみて、捜

査を開始した。とりわけ、司法省は、日本のシャープ及びエプソンが当該カルテルに

関与したとして捜査を行い、これらのメーカーから有罪の答弁を得た(速報海外ニュー

ス 95 号(海外ニュース 32 号 22 頁)、103 号(海外ニュース 33 号 12 頁))。

捜査開始後、これに追随し、米国のみならず外国においても LCD パネルを購入した

購入者らを代表する三倍額賠償訴訟が次々に提起された。これらの訴訟は、裁判前手

続の一環として、カリフォルニア州北部地区地裁に統合された。これらの訴訟のうち、

本件は外国で LCD パネルを購入した、Motorola の外国子会社が提起したものである。

同子会社は、とりわけ外国で購入した LCD パネルを携帯電話に搭載し、それを米国に

輸出している。

本件において、被告らは、原告が海外取引反トラスト改善法の法的要件を満たして

いないと主張し、略式判決を求める申立てをした。海外取引反トラスト改善法によれ

ば、米国反トラスト法は、輸入通商だけではなく、(1)米国内の取引に対し直接的、実

質的かつ合理的に予見可能な弊害をもたらし(direct, substantial, and reasonably

foreseeable effect)、なおかつ(2)シャーマン法の要件を満たす行為に適用される。

2012 年 8 月、同地裁は、(1)被告らが LCD パネルの価格を米国で決定し、また(2)同

決定が Motorola の外国子会社による損害の発生を引き起こしたと認定するに足りる

十分な証拠が提出されたと判示した。これにより、略式判決を求めた申立ては却下さ

れた。

その後、裁判を行うために、本件はイリノイ州北部地区地裁に移送された。そこ

で、被告は再審理を求める申立て(motion for reconsideration)をした。なお、日本の

経済産業省らは、同地裁に対して「法廷の友」(amicus curiae)と呼ばれる意見書を提出

した。同意見書は、米国市場において実質的な影響を及ぼさない海外での行為に対し

ては、シャーマン法が域外適用されるべきでない、との見解を示した。

同地裁は、要旨以下の様に述べ、原判決を覆し、被告ら勝訴の略式判決を下した。

海外取引反トラスト改善法の下、シャーマン法の域外適用が認められるには、とり

わけ、米国内での影響と米国外での損害との間に、直接因果関係(proximate cause)が

なければならない。この点、全体として一個の国際カルテルの米国効果でなく外国の

効果が、海外での原告の損害をもたらしたにしても、これはあれがなければこれもな

し(but-for causation)、というレベルの因果関係しか示すものではない。米国国内効

果が国外での原告の損害を引き起こしていなければ、直接因果関係があるとはいえな

い。

2 Motorola Mobility v. AU Optronics, 09-cv-06610 (N.D. Ill. Jan. 23, 2014).

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本件において、国際カルテル全体が米国のみならず諸外国においても価格引上効果

をもたらしたが、Motorola の外国子会社の損害は米国での国内効果ではなく外国での

LCD パネルの高価格購入によりもたらされた。したがって、直接因果関係を認定する

に足りる十分な証拠はない。

これらの理由により、同地裁は、被告らの再審理を求めた申立てを受け入れ、被告

ら勝訴の略式判決を下した。よって、予定されていた裁判は中止となった。

3 司法省、ダイヤモンド電機の前社長ら 2 名が有罪を認めた旨公表(2014 年 1 月

31 日)3

司法省は 1 月 31 日、自動車関連部品に係る反トラスト法違反事件において、ダイヤ

モンド電機の前社長シゲヒコ・イケナガと前副社長タツオ・イケナガが、米国で販売

される自動車に組み込まれる点火コイル部品(内燃機関の点火装置で、高電圧を発生さ

せる誘導コイル)に係る入札談合・価格カルテルに関与したことを認めた旨を公表した。

司法省によると、この一環として、各自は有罪の答弁を行い、それぞれ 16 か月及び 13

か月の禁固刑に服し、それとともに、5 千ドル(約 51 万円)の罰金を支払うことに同意

した。

本件の背景として、2010 年 2 月頃、米国司法省、欧州委員会及び日本の公正取引委

員会等は、自動車メーカーらが発注する部品を巡って、国際的な入札談合・価格カル

テルが行われている疑いがあるとみて、捜査を開始した。捜査の結果、とりわけ司法

省は、芋づる式に自動車部品メーカーら及びそれらの幹部らを次々に捜査し、それら

から有罪の答弁を次々に得た。

自動車業界において、各自動車メーカーは、自動車用部品を調達するに当たり、部

品メーカーらに対して見積書の提出を求め、提出される見積書を審査し、当該審査の

結果に従い受注者を選定している。

本件に先立ち、司法省は大阪に本社を置くダイヤモンド電機が自動車用点火コイル

を巡る入札談合・価格カルテルに関与していたとして、捜査を行っていた。2013 年 7

月、同社は、司法省との司法取引に応じ、その一環として、大陪審起訴を受ける権利

を放棄して有罪の答弁を行うこと、1900 万ドル(約 19 億 3800 万円)の罰金を支払うこ

とに同意した。

これを受け、司法省は、シャーマン法 1 条違反の罪で同社をミシガン州東部地区地

裁に略式起訴した。略式起訴状によると、同社は、他社と共謀して、遅くとも 2013 年

7 月から早くとも 2012 年 2 月にかけて、フォード(米国)、トヨタ(日本)及び富士重工

(日本)の米国子会社に販売される点火コイルに係る入札談合・価格カルテルに関与し

ていた。

2013 年 9 月 10 日、司法省は、2013 年 7 月に締結された有罪答弁協定書を同地裁に

提出した。同協定書からは、特定幹部 2 名が対象外とされ、それらが余罪で追起訴さ

れるという可能性が残された。また同日、同地裁は同社に対し、勧告された内容どお

3 Justice Department, Press Release, Former President and Vice President of

Diamond Electric Agree to Plead Guilty to Participating in Auto Parts Price-

Fixing Conspiracy, Jan. 31, 2014.

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りの刑を科した。

本件において、同協定の対象外とされた特定幹部 2 名、すなわち前社長シゲヒコ・

イケナガ、及び前副社長タツオ・イケナガがそれぞれ新たに略式起訴された。略式起

訴状によると、両者は 2003 年 7 月から 2010 年 2 月にかけて、他社と共謀して、自動

車用点火コイルを巡る入札談合・価格カルテルに関与していた。なお、それによると、

前社長シゲヒコ・イケナガは、対象期間中、同社の社長を務めていた。また、前副社

長タツオ・イケナガは、対象期間の初めは同社の取締役、2008 年からは同社の副社長

を務め、また対象期間全体においては、同社の米国子会社の社長を兼ねていたとされ

ている。

司法省は、自動車部品メーカーらによる入札談合・価格カルテルについて捜査を現

在も続けている。今回を含め、これまでに部品メーカー24 社と個人 28 人が関与を認

めている。

4 司法省、自動車部品メーカー・ブリヂストンが有罪を認めた旨公表(2014 年 2

月 13 日)4

司法省は 2 月 13 日、一連の自動車部品の入札談合・価格カルテル事件につき、ブリ

ヂストン(日本)が、米国で販売される防振防止ゴムの価格操作を繰り返していたこと

を認め、有罪答弁をすること、及び 4 億 2,500 万ドル(約 433 億 5,000 万円、1 ドル=

102 円)の罰金を支払うことに同意した旨を公表した。

本件の背景として、2010 年 2 月頃、米国司法省、欧州委員会及び日本の公正取引委

員会等は、自動車メーカーらが発注する部品を巡り、国際的な入札談合・価格カルテ

ルが行われている疑いがあるとみて、捜査を開始した。とりわけ、司法省は芋づる式

に自動車部品メーカーら及びそれらの幹部らを次々に捜査し、それらから有罪の答弁

を次々に得た。

自動車業界において、各自動車メーカーは、自動車部品を調達するに当たり、部品

メーカーらに対して見積書の提出を求め、提出される見積書を精査し、その結果に従

い受注者を選定している。

本件の被告であるブリヂストンは、東京に本社を置き、またオハイオ州フィンドレ

ー市に米国子会社を置く、自動車部品メーカーである。同社は、とりわけ防振防止ゴ

ム(道路及びエンジンによる振動を軽減することを目的に、サスペンション・システム及

びエンジン・マウント等に組み込まれる、ゴムと鉄で製造されている部品)などの自動車

部品を製造販売している。

本件において、司法省がブリヂストンを当該談合・カルテル容疑で捜査していたと

ころ、同社は、同省との司法取引に応じたのだ。その一環として、同社は、大陪審起

訴を受ける権利を放棄して有罪の答弁をすること、総額 4 億 2,500 万ドル(約 433 億

5,000 万円)の罰金を支払うこと、同省の捜査に全面的にかつ継続して協力することに

同意した。その見返りとして、司法省は、一定の従業員を除き、ブリヂストン及び同

4 Press Release, Department of Justice, Bridgestone Corp. Agrees to Plead Guilty

to Price Fixing on Automobile Parts Installed in U.S. Cars, Company Agrees to

Pay $425 Million Criminal Fine, Feb. 13, 2014.

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社の従業員を余罪で追起訴しないことに同意した。

本件に先立ち、ブリヂストンは、2011 年 10 月に石油輸送に使われるマリーン・ホ

ースに絡むカルテル事件で和解している。しかし、同社は、その時点においては、今

回の談合・カルテルの存在について申告せずにいた。ブリヂストンがマリーン・ホー

スを巡るカルテルに参加したことを申告した時に、本件談合・カルテルにも参加して

いたことを申告しなかったことは、罰金額の勧告の際に、加重要因となった。

ブリヂストンが司法取引に応じたことを受け、2014 年 2 月 13 日、司法省は、シャ

ーマン法 1 条違反の罪で同社をオハイオ州北部地区地裁に略式起訴した。略式起訴状

によると、ブリヂストンは、他社と共謀して、遅くとも 2001 年 1 月から早くとも 2008

年 12 月にかけて、日本のトヨタ、日産自動車、富士重工、スズキ、いすゞ自動車のそ

れぞれの米国子会社に販売される防振防止ゴムに係る談合・カルテルに関与していた。

司法省は自動車部品メーカーらによる談合・カルテルについて捜査を現在も継続し

ている。今回を含め、これまでに部品メーカー25 社が関与を認めており、総額 18 億

ドル(約 1,836 億円)以上の罰金刑が科せられている。さらに、28 人の個人も当該談合・

カルテルに関与していたとして起訴されている。

5 第 9 巡回裁判所、人工膝製造業者を狙い撃ちにした共同の妨害行為に対する

提訴を棄却(2014 年 2 月 24 日)5

第 9 巡回裁判所は 2 月 24 日、人工膝製造業者である被告 (被控訴人 )Hanger

Orthopedic 及び被告(被控訴人)Otto Bock が共同してそれらの競争者である原告(控訴

人)DAW Industries の事業活動を妨害したとして、原告が被告に損害賠償を請求した

訴訟で、被告ら勝訴を言い渡した地裁判決を承認する判決を言い渡した。

本件の原告は、マイクロプロセッサで制御された人工膝を製造販売する事業者であ

り、Self-Learned Knee というブランドを市場化している。原告はカリフォルニア州

サンディアゴ市に本拠を置いている。また、被告 Hanger Orthopedic 及び被告 Otto

Bock も、同様の人工膝を製造販売しており、直接原告と競争している。 Hanger

Orthopedic はカリフォルニア州サンディアゴ市、Otto Bock はミネソタ州ミネアポリ

ス市に本拠を置いている。

本件において、被告らは、様々な方策により、原告の事業活動を妨害していた。例

えば、Hanger Orthopedic は、医療施設及び利用者に対して、Self-Learned Knee には

マイクロプロセッサがなく、健康保険の給付対象にもならないとの虚偽の説明を行っ

ていた。また Hanger Orthopedic の重役は、原告を破滅させたいという趣旨の発言を

行っていた。さらに、2003 年 5 月、Hanger Orthopedic 及び Otto Bock は、全米義肢

装具協会(American Orthotic and Prosthetic Association)が主催した会合から原告を

除外した。また、Hanger Orthopedic の重役は、同会合で、マイクロプロセッサ制御

による人工膝の定義をテーマとした発表を行い、その定義には Self-Learned Knee が

当てはまらなかった。その後、原告の売上額が半減し、この様な低迷した状況が数年

間も続いた。

5 DAW Industries, Inc. v. Hanger Orthopedic Group, No. 11-56858 (9th Cir. Feb.

24, 2014).

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2006 年 5 月、原告は被告らがカリフォルニア州反トラスト法(Cartwright Act)など

に違反し、それらの支配的地位を利用し、共同して原告を滅ぼそうとしたと主張し、

カリフォルニア州サンディアゴ郡上位裁判所(Superior Court of California, County

of San Diego)に提訴した。2006 年 6 月、被告らは、州籍相違(diversity of citizenship)

を根拠に、本件をカリフォルニア州南部地区連邦裁判所に移送した。そして、被告ら

は、同地裁に対し略式判決を求める申立てをした。

2011 年 9 月 30 日、同地裁は、共謀が存在しまた反競争的効果が発生したとの原告

の事実主張については、真正な争点を作り出すに足りる十分な証拠がないとし、被告

ら勝訴の略式判決を下した。

控訴審において、第 9 巡回裁判所は、要旨以下の様に述べ、地裁判決を承認した。

反トラスト法は、反競争的効果が発生しない限り、競争者に対する悪質

な行為(malicious actions)を違法にしていない。本件において、反競争的

効果の発生について、実際の証拠はほとんど何もない。それどころか、違

反行為が行われていたとされる期間において、幾つかのマイクロプロセッ

サを用いた人工膝製造業者が実際に市場参入した。これは、原告の売上額

が半減したものの、市場では活発な競争が展開していたことを示唆するも

のである。

これらの理由により、同巡回裁判所は、地裁が下した被告ら勝訴の略式判決を承認

した。

6 司法省、自動車部品メーカー・愛三工業との間で締結された有罪答弁協定書を

地裁に提出(2014 年 3 月 4 日)6

司法省は 3 月 4 日、一連の自動車部品の入札談合・価格カルテル事件につき、愛三

工業(日本)が有罪を認めたこと等を内容とする有罪答弁協定書をオハイオ州北部地区

地裁に提出した。同協定書では、同社は米国で販売される電子スロットル・ボデーの

価格操作を繰り返したことを認め、686 万ドル(約 6 億 9,972 万円)の罰金を支払うこと

に同意した。

本件の背景として、2010 年 2 月頃、米国司法省、欧州委員会及び日本の公正取引委

員会等は、自動車メーカーらが発注する部品を巡り、国際的な入札談合・価格カルテ

ルが行われている疑いがあるとみて、捜査を開始した。とりわけ、司法省は芋づる式

に自動車部品メーカーら及びそれらの幹部らを次々に捜査し、それらから有罪の答弁

を次々に得た。

自動車業界において、各自動車メーカーは、自動車部品を調達するに当たり、部品

メーカーらに対して見積書の提出を求め、提出される見積書を精査し、その結果に従

い受注者を選定している。

本件の被告である愛三工業は、愛知県大府市に本社を置き、またミシガン州トロイ

市に米国子会社を置く、自動車部品メーカーである。同社は、電子スロットル・ボデ

ー(エンジンへの吸入空気量の制御を目的に、アクセルの動きと連動してバルブを開閉さ

6 United States v. Aisan Industry Co., Ltd., No. 14-cr-20047 (E.D. Mich. Mar. 4,

2014).

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せている部品)など様々な自動車部品を製造販売している。

本件において、司法省が愛三工業を当該談合・カルテル容疑で捜査していたところ、

同社は、同省との司法取引に応じたのだ。その一環として、同社は、大陪審起訴を受

ける権利を放棄して有罪の答弁を行うこと、罰金総額 686 万ドル(約 6 億 9,972 万円)

を支払うこと、また同省の捜査に全面的にかつ継続して協力することに同意した。そ

の見返りとして、司法省は、一定の従業員を除き、愛三工業及びその従業員を余罪で

追起訴しないことに同意した。

これを受け、2014 年 2 月 13 日、司法省は、シャーマン法違反の罪で同社をオハイ

オ州北部地区地裁に略式起訴した。略式起訴状によると、被告は、他社と共謀して、

遅くとも 2003 年 10 月から早くとも 2010 年 2 月にかけて、日産自動車(日本)の米国子

会社に販売される電子スロットル・ボデーに係る談合・カルテルに関与していた。

2014 年 3 月 4 日、司法省は、愛三工業との間で締結されていた有罪答弁協定書を同

地裁に提出した。同有罪答弁協定書は、本件協定対象外とされているがゆえに、余罪

で追起訴される可能性のある者は従業員一名のみであると明記している。しかし、そ

の従業員の名前は非公開とされている。

また、同協定書には、罰金額決定の判断要因が示されている。つまり、司法省は、

量刑ガイドラインに基づき、対象商品の米国内での通商量の 2 割を基礎額とし、それ

に責任スコアと呼ばれるポイントを反映させ罰金額を決定している。この点、本件協

定書は、電子スロットル・ボデーの米国内での取引金額が 3,500 万ドル(約 35 億 7,000

万円)であったことを示している。したがって、その 2 割に該当する基礎額は、700 万

ドル(約 7 億 1,400 万円)である。また加重要因としては、被告が 1,000 人以上の従業

員を雇っている大規模企業であり、また被告の幹部社員(high level personnel)を含

め被告の従業員が本件談合・カルテルに関与したとされている。また、軽減要因とし

ては、被告が他者の捜査・訴追に相当程度協力したことが示されている。

司法省は自動車部品メーカーらによる談合・カルテルについて捜査を現在も続けて

いる。今回を含め、これまでに部品メーカー26 社が関与を認めており、総額 20 億ド

ル(約 2,040 億円)以上の罰金刑が科せられている。さらに、個人 28 名も当該談合・カ

ルテルに関与していたとして起訴されている。

7 第 7 巡回裁判所、液晶パネル・カルテル訴訟でシャーマン法の域外適用を否

定(2014 年 3 月 27 日)7

第 7 巡回裁判所は 3 月 27 日、被告(被控訴人)液晶パネル・メーカーら(日本、韓国、

台湾)が国際カルテルを締結したとして、原告(控訴人)Motorola が海外取引反トラス

ト改善法(Foreign Trade Antitrust Improvements Act)に基づくシャーマン法上の域外適

用をするよう求めた訴訟で、一審・被告ら勝訴判決を承認する旨の判決を言い渡した。

本件の背景として、2006 年に米国司法省、日本の公正取引委員会及び欧州委員会等

は、液晶パネル業界において国際価格カルテルが行われている疑いがあるとみて、捜

査を開始した。とりわけ、司法省は、日本のシャープやエプソンが当該カルテルに関

7 Motorola Mobility LLC v. AU Optronics Corp., No. 14-8003 (7th Cir. Mar. 27,

2014).

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与しているとして捜査を行った。捜査過程において、これらのメーカーらは、司法省

との司法取引に応じ、有罪の答弁を行った(速報海外ニュース 95 号(海外ニュース 32 号

22 頁)、103 号(海外ニュース 33 号 12 頁))。

捜査開始後、同捜査に追随し、液晶パネルの直接的また間接的な購入者らは被告ら

を相手取り訴訟を次々に提起した。その一環として、2009 年 10 月、原告は、被告ら

が海外取引反トラスト改善法上のシャーマン法 1 条違反行為を行ったと主張し、イリ

ノイ州北部地区地裁に訴訟を提起した。海外取引反トラスト改善法によれば、米国反

トラスト法は、輸入通商だけではなく、(1)米国内の取引に対し直接的、実質的かつ合

理的に予見可能な弊害をもたらし(direct, substantial, and reasonably foreseeable

effect)、なおかつ(2)シャーマン法の要件を満たす行為に適用される。

これに対して、被告らは、略式判決を求める申立てをした。また、日本の経済産業

省は、同地裁に対し「法廷の友」(amicus curiae)と呼ばれる意見書を提出した。同意見

書は、米国市場において実質的な影響を及ぼさない海外での行為に対しては、シャー

マン法の域外適用は行われるべきでない、と述べた。

2014 年 1 月 23 日、同地裁は、被告ら勝訴の略式判決を言い渡した。つまり、同地

裁は、まず、本件液晶パネルの流通過程の存在を認定した。認定された事実は以下の

とおりである。

(A)原告親会社自身は液晶パネルの 1%しか被告らから購入していない。(B)原告の

外国子会社は、液晶パネルの 57%を被告らから購入し、携帯電話に組み込み、またそ

れらが組み込まれた完成品を海外で販売した。(C)原告の外国子会社は、液晶パネルの

42%を被告らから購入し、携帯電話に組み込み、またそれらが組み込まれた完成品を

原告親会社自身に輸出した。同完成品は米国内で再販売された。

次に、同地裁は、シャーマン法の適用についての是非を判断した。つまり、(A)の取

引については、原告親会社による LCD パネルの直接購入が輸入通商(import commerce)

に該当するため、シャーマン法は適用される旨の判断がなされた。(B)の取引について

は、海外での完成品販売が国内通商(domestic commerce)に影響をもたらすものではな

いため、シャーマン法の適用はないとされた。(C)の取引については、米国での完成品

販売が、(1)国内通商に対し、直接的な効果(direct effect)を及ぼすものではなく、ま

た(2)シャーマン法に基づく請求の原因ともならないため、シャーマン法の適用はな

いとされた。また、同地裁は、争点が(C)の取引であると指摘し、被告ら勝訴の略式判

決を下した。

控訴審において、2014 年 3 月 27 日、第7巡回裁判所のポスナー判事が本件判決を

言い渡した。判旨は以下のとおりである。

本件の争点は、(C)の取引が海外取引反トラスト改善法に基づくシャー

マン法違反に当たるか否かである。この点、同法の(1)と(2)の何れかの要

件も満たされていないため、地裁判決は承認される。つまり、第一に、本

件部品を購入したのは原告の外国子会社であり、原告親会社自身は同部品

が組み込まれた完成品を輸入したに過ぎない。したがって、原告親会社の

被害は間接的であり、(1)の直接効果の要件は満たされていない。

第二に、本件訴えは、原告親会社自身が受けた同国際カルテルによる間

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接的な国内効果では無く、その外国子会社が受けた直接効果に基づき提起

されたものである。ところが、同外国子会社は、その外国で競争法上の救

済を求めることができる。米国シャーマン法に基づく訴訟を提起すること

はできない。したがって、(2)の請求原因の要件も満たされていない。

なお、同法の文理解釈のみならず、実際的な問題としても、原告の求め

る拡大解釈は認められない。つまり、現在のグローバル経済においては、

部品が外国で外国子会社から調達されることほど日常的なものは無い。こ

の様な状況下において、裁判所が拡大解釈を採用したとすれば、シャーマ

ン法の国際的な射程が劇的に拡大して行くことになるだろうし、諸外国の

主権に対する不合理な干渉が生じるおそれも増して行くことになるだろ

う。このことは、正に同法が避けようとしている事態である。

これらの理由により、同巡回裁判所は、同地裁より言い渡された被告ら勝訴の略式

判決を承認する判決を言い渡した。

8 ニューヨーク州南部地区地裁、ユーロ円建て金利デリバティブ・カルテル訴訟

で請求棄却判決を下す(2014 年 3 月 28 日)8

ニューヨーク州南部地区地裁は 3 月 28 日、日本の銀行を含む約 20 行がシャーマン

法に違反し、指標金利であるユーロ円建て TIBOR(Tokyo Interbank Offered Rate, 東

京銀行間取引金利)を操作したとして、原告・投資家らが被告に三倍額賠償を請求した

クラスアクション訴訟で、訴え棄却の判決を言い渡した。

本件の背景として、日本銀行協会は、指標金利たる TIBOR を算出・公表している。

TIBOR の算出に当たり、同協会の会員銀行であるリファレンス・バンクらは、毎営業

日、13 種類(1 週間物、1~12 か月物)の TIBOR の市場実勢レートを同協会に呈示して

いる。そして、同協会は、これらを基礎に、毎営業日、TIBOR を算出・公表している。

なお、TIBOR 等の指標金利を用いた金融商品には、金利デリバティブがあり、これは

商品取引所などに上場され、取引の対象となっている。

2013 年 4 月、日本の銀行(東京三菱 UFJ 銀行、横浜銀行、みずほ銀行、みずほ信託銀

行、農林中金、りそな銀行、信金中央金庫、商工中金、住友三井銀行、住友三井信託銀行)

を含む約 20 行がシャーマン法 1 条、及び商品取引所法(Commodities Exchange Act)6

条に違反し、ユーロ円建て TIBOR を操作したとするクラスアクションがニューヨーク

州南部地区地裁に提起された。同クラスアクションにおいて、クラスの代表者 Laydon

氏は、ユーロ円建て TIBOR 先物契約のショートポジション(売付けの予約を行っている

状態)から損失を被ったと主張し、自分自身と、同じような状況下にいる他の投資家ら

を代表し、損害賠償を請求した。とりわけ、シャーマン法 1 条違反について、リファ

レンス・バンクらは、共同してそれらが日本銀行協会に対して呈示する市場実勢レー

トについて協議をし、ユーロ円建て TIBOR を不正に操作し、よってユーロ円建て TIBOR

先物契約の取引に影響を及ぼしたという主張が展開された。

これに対して、被告らは、訴え棄却を求める申立てをした。2014 年 3 月 28 日、同

地裁は、シャーマン法違反の訴えを棄却したが、商品取引所法違反の訴えの続行を容

8 Laydon v. Mizuho Bank, Ltd. et al., 12-cv-3419 (SDNY Mar. 28, 2014).

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認した。とりわけ、判決中の請求棄却の部分の要旨は以下のとおりである。

(1)原告らには原告適格がない上、(2)代表原告団は、取引がそもそも制限

されたと主張してないため、訴訟をそのまま続行することができない。

(1)原告らは、原告適格を持つには、違反行為に対する効率的な法執行者

(efficient enforcer)に該当しなければならない。しかし、本件において、

代表原告団は、被告らが同協会に申告をする市場実勢レートについて協議

をし、算出される標準金利が先物取引の金利に影響を及ぼし、またそれが

先物契約の取引に影響を及ぼしたという複雑な因果関係が存在すると主

張した。この様な因果関係の連鎖による損害は、間接的であり、思索的過

ぎる。したがって、原告適格の存在は認められない。

(2)シャーマン法 1 条は不合理な取引制限を禁止している。しかし、本件

において、代表原告団は、取引がそもそも制限されたという主張を展開し

ていない。つまり、指標金利の決定プロセスは金利算定のための協調的な

取組みであり、それ故に、各レファレンス・バンクは市場実勢レートの呈

示を巡り競争していない。したがって、代表原告団は、指標金利が不正に

歪められたとしか主張していない。

これらの理由により、同地裁は、ユーロ円建て TIBOR の不正操作を根拠とする本件

シャーマン法に基づく損害賠償の請求について、請求棄却の判決を言い渡した。

9 第 4 巡回裁判所、DuPont に対するシャーマン法違反の訴えを却下(2014 年 4

月 3 日)9

第4巡回裁判所は 4月 3日、Dupont(米国)がパラアラミド繊維を独占化したとして、

ライバル業者の Kolon(韓国)が Dupont に三倍額損害賠償を請求した訴訟で、一審・

DuPont 勝訴の略式判決を承認する旨の判決を言い渡した。

本件において、原告・反訴被告(被控訴人)DuPont は長年にわたり米国におけるバラ

アラミド繊維市場を支配してきた最大手の化学メーカーである。パラアラミド繊維は、

高強力な合成繊維であり、防弾ジョッキ、タイヤ、また光ファイバー・ケーブルなど

に用いられている。当該市場においては、1987 年に Teijin(オランダ)が参入し、また

2005 年に被告・反訴原告(控訴人)Kolon(韓国)が参入している。

本件訴訟が提起される前の 2009 年 2 月に、原告 DuPont は、被告 Kolon がバージニ

ア州統一営業秘密法(Uniform Trade Secrets Act)に違反し、秘密として管理されてい

る同社のパラアラミド製品の製造過程及びマーケティング手法を内容とする営業秘密

を不正に取得し、また使用したと主張し、バージニア州東部地区地裁に訴えを提起し

た。これに対して、反訴原告 Kolon は、反訴被告 DuPont がシャーマン法 2 条に違反し

たとする反訴を提起した。シャーマン法 2 条違反には、(1)独占力、及び(2)その形成・

維持・強化行為が立証されなければならない。この点、反訴原告 Kolon は、(1)2006 年

から 2009 年にかけて、反訴被告 DuPont が米国のパラアラミド繊維市場において 70%

以上のシェアを有していたところ、(2)主要な大口顧客らとの間で排他条件付きの多

9 Kolon Industries Inc. v. E.I. DuPont de Nemours & Co., No. 12-1587 (4th Cir.

Apr. 3, 2014).

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年契約を締結していたと主張した。

訴答が終了した段階で、反訴被告 DuPont は反訴棄却を求める申立てをした。同地裁

は、法律問題として、地理的市場において少なくとも外国供給者の所在地(韓国、オラ

ンダ)を含めなければならないと判示し、反訴棄却を言い渡した。

控訴審において、2011 年 3 月 11 日、第4巡回裁判所は、関連地理的市場の画定は

むしろ事実問題であり、この点、原告は、米国市場が関連地理的市場に該当するとい

うシナリオに真実味(plausible)を持たせるに足りる十分な具体的事実を主張したと

判示した(速報海外ニュース 122 号(海外ニュース 35 号 4 頁))。また、原告が(1)独占力、

及び(2)その維持行為が存在するというシナリオについても、真実味を持たせるに足

りる十分な具体的事実を主張したという判断がなされた。よって、地裁判決は覆され、

反訴の続行は容認された。

情報開示手続が終了した段階で、反訴被告 DuPont は、今度は略式判決を求める申し

立てをした。これに対して、同地裁は、(1)対象期間において反訴被告 DuPont が実際

には 60%を下回る程度の市場シェアしか有していなかったところ、シェアの一部が

Teijin に奪われ、市場シェアはさらに低下していったと認定した。また、同地裁は、

(2)反訴被告 DuPont が約 1,000 の潜在的な顧客のうち、たかが 21 社としか排他条件

付取引を行っておらず、そのため市場が実質的に閉鎖されていたとは認定できないと

判断した。したがって、反訴原告 Kolon は何れの要件に関する事実についても、真正

な争点を創出するに足る十分な証拠を示していないという判断が示された。これらの

理由により、同地裁は、DuPont 勝訴の略式判決を下した。

控訴審において、2014 年 4 月 3 日、第4巡回裁判所は、DuPont 勝訴の地裁判決を承

認した。まず、(1)独占力について、同巡回裁判所は、反訴被告 DuPont が数十年間に

わたり Teijin からシェアを奪われ続けていたことに鑑みれば、陪審は競争を排除す

る力が形成されていたとは到底認定することができないと判示した。次に、(2)独占維

持行為について、同巡回裁判所は、同地裁が量的実質性以外に質的実質性をも考慮に

入れなければならないが、質的実質性についても証拠が不十分であると判示した。

これらの理由により、同巡回裁判所は、同地裁が言い渡した DuPont 勝訴の略式判決

を承認する判決を下した。

10 連邦大陪審、防振ゴム談合への関与を理由にブリヂストンの日本人幹部ら 3

名を起訴(2014 年 4 月 15 日)10

オハイオ州北部地区大陪審は 4 月 15 日、自動車部品カルテル摘発の一環として、米

国で販売される自動車用防振ゴムに係る談合・カルテルに関与していたとして、ブリ

ヂストン(日本)の日本人幹部ら 3 名を起訴した。

本件の背景として、2010 年 2 月頃、米国司法省、欧州委員会及び日本の公正取引委

員会等は、自動車メーカーらが発注する部品を巡り、国際的な入札談合・価格カルテ

ルが行われている疑いがあると思料し、捜査を開始した。とりわけ、米国においては、

10 Press Release, Department of Justice, Three Bridgestone Corp. Executives

Indicted for Roles in Fixing Prices and Rigging Bids on Auto Parts Installed in

U.S. Cars, Apr. 15, 2014.

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司法省だけでなく連邦大陪審も芋づる式に関連部品メーカーら及びそれらの幹部らを

次々に起訴(それぞれ略式起訴(information)と正式起訴(indictment))している。略式起

訴された被告らについては有罪答弁が得られている。

自動車業界において、各自動車メーカーは、モデル・チェンジを行った後に部品の

調達を行っており、その際、部品メーカーらに対し見積書の提出を求め、提出される

見積書を精査し、その結果に従い受注者を選定している。

本件に先立ち、本年 2 月 13 日、法人としてのブリヂストンは、自動車用防振ゴム

(道路及びエンジンによる振動を軽減することを目的に、サスペンション・システム及び

エンジン・マウント等に組み込まれる、ゴムと鉄で製造されている部品)を巡る談合・カ

ルテル事件で、大陪審起訴を受ける権利を放棄して有罪の答弁を行うこと、罰金 4 億

2500 万ドル(約 429 億 2500 万円、1 ドル=101 円)を支払うこと、本件捜査に全面的に

かつ継続して協力することに同意した。他方、司法省は、本件被告らを含め、一定の

幹部らを除き、ブリヂストン及び同社の従業員を余罪で追起訴しないことに同意した。

よって、この司法取引でカバーされていない幹部らが別途起訴されるという可能性が

残された。なお、同社は、東京に本社を置き、またオハイオ州フィンドレー(Findlay)

市に米国子会社 Bridgestone APM を置く、自動車部品メーカーである。

司法省の提出した略式起訴状によると、ブリヂストンは、他者と共謀して、遅くと

も 2001 年 1 月から少なくとも 2008 年 12 月にかけて、日本のトヨタ、日産自動車、

(ブランド名スバルとして知られる)富士重工、スズキ、及びいすゞ自動車のそれぞれの

米国子会社に販売される防振ゴム部品について、販売量の割当て並びに価格の維持及

び引上げを行っていた。また、シャーマン法違反の時効が 5 年であるため、ブリヂス

トンは、捜査への協力の一環として、司法省との間で、2013 年 5 月 8 日から 2014 年

4 月 30 日までの間、時効を中断されることに同意した。

本件において、本年 4 月 15 日、この司法取引の対象外とされた本件 3 名たる(1)現職

田中、(2)元幹部リュウト、及び(3)元幹部ヨシダのそれぞれは、日本での会合・電話連

絡を通じ、米国で販売される(トヨタのタコマ、カムリ、タンドラ、セコイア、カローラ、

シエナ、ヴェンザ、及びハイランダー等の)自動車に組み込まれる防振ゴム部品に係る談

合・カルテルに関与していたとして、新たに起訴された。起訴状の内容は以下のとおり

である。

(1)現職田中は遅くとも 2004 年 1 月から少なくとも 2008 年 6 月にかけて、他者と

共謀して、米国で販売される自動車用防振ゴムに係る談合・カルテルに関与していた。

田中は、ブリヂストンと同様、捜査への協力の一環として、時効を中断させることに

合意し、時効は、2013 年 5 月 9 日から 2014 年 4 月 30 日までの間、中断された。

田中は、おおよそ 1991 年から 2001 年 3 月までの間、本社の自動車用防振ゴムの販

売部門の従業員、2004 年 1 月から 2008 年 6 月までの間、本社のトヨタ・スズキ向け

防振ゴムの販売部門の課長、2008 年 7 月から 2011 年 2 月までの間、ブリヂストン APM

の米国向け防振ゴムの販売を統括するエグゼクティブ・ヴァイス・プレジデントを務

めていた。

(2)元幹部リュウトは遅くとも 2001 年 4 月から少なくとも 2008 年 5 月 29 日にかけ

て、他者と共謀して、米国で販売される自動車用防振ゴムに係る談合・カルテルに関

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与していた。リュウトも時効を中断させることに同意し、時効は 2013 年 5 月 6 日か

ら 2014 年 4 月 30 日までの間、中断された。

リュウトは、おおよそ 1991 年から 1999 年までの間、本社のトヨタ向け防振ゴムの

販売を統括する課長、2001 年 4 月から 2003 年 12 月までの間、本社の米国向け防振ゴ

ムの販売部門の部長、2004 年 1 月から 2007 年 9 月までの間、本社の米国向け防振ゴ

ムの販売を統括する本部長、2007 年 10 月から 2008 年 6 月までの間、本社の工業製品

及び建築材部門(Industrial Products and Construction Materials Division)の本部長

を務めていた。

(3)元幹部ヨシダは遅くとも 2001 年 1 月から少なくとも 2008 年 7 月にかけて、他

者と共謀して、米国で販売される自動車用防振ゴムに係る談合・カルテルに関与して

いた。ヨシダも時効を中断させることに同意しており、2013 年 5 月 6 日から 2014 年

4 月 30 日までの間、時効は中断された。

ヨシダは、おおよそ 1997 年から 2003 年 12 月までの間、本社のトヨタ向け防振ゴ

ムの販売部門の課長、2004 年 1 月から 2008 年 9 月までの間、本社のトヨタ、日産、

スバル、及びスズキ向け防振ゴムの販売部門の部長を務めていた。

司法省は、自動車部品メーカーらによる談合・カルテルについて捜査を現在も続け

ている。今回を含め、これまでに部品メーカー26 社が関与を認め、総額 22 億 9000 万

ドル(約 2312 億 9000 万円)以上に上る罰金刑が科せられている。さらに、32 名の個人

も当該談合・カルテルに関与していたとして起訴されている。

11 司法省、自動車部品メーカー・ブリヂストンの元幹部が有罪答弁を行うことに

同意した旨公表(2014 年 4 月 16 日)11

司法省は 4 月 16 日、自動車部品カルテルの摘発の一環として、ブリヂストン(日本)

の元幹部が米国で販売される自動車用防振ゴムに係る談合・カルテルに関与したとし

て有罪を認めた旨を公表した。その一環として、同社は有罪答弁をすること、禁固刑

18 か月に服すること、また罰金 2 万ドル(約 202 万円)を支払うことに同意したとされ

ている。

本件の背景として、2010 年 2 月頃、米国司法省、欧州委員会及び日本の公正取引委

員会等は、自動車メーカーらが発注する部品を巡り、国際的な入札談合・価格カルテ

ルが行われている疑いがあると思料し、捜査を開始した。とりわけ、米国司法省は芋

づる式に関連部品のメーカーら及びそれらの幹部らを次々に起訴し、それらから有罪

の答弁を次々に得た。

自動車業界において、各自動車メーカーは、モデル・チェンジを行った後に部品調

達を行っている。その際に、各自動車メーカーは、部品メーカーらに対して見積書の

提出を求め、提出される見積書を精査し、その結果に従い受注者を選定している。

本件に先立ち、本年 2 月 13 日、法人としてのブリヂストンは、自動車用防振ゴム

(道路及びエンジンによる振動を軽減することを目的に、サスペンション・システム及び

11 Press Release, Department of Justice, Bridgestone Corp. Executive Agrees to

Plead Guilty for Price Fixing and Rigging Bids on Auto Parts Installed in U.S.

Cars, April 16, 2014.

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エンジン・マウント等に組み込まれる、ゴムと鉄で製造されている部品)を巡る談合・カ

ルテルに関与したとして有罪を認めた。その一環として、同社は、大陪審起訴を受け

る権利を放棄して有罪の答弁をすること、罰金 4 億 2500 万ドル(約 429 億 2500 万円)

を支払うこと、本件捜査に全面的にかつ継続して協力することに同意した。他方、司

法省は、本件被告らを含め、一定の幹部らを除き、ブリヂストン及び同社の従業員を

余罪で追起訴しないことに同意した。よって、司法省はこの司法取引でカバーされて

いない幹部らを別途起訴できるようにした。

同社は、東京に本社を置き、またオハイオ州フィンドレー(Findlay)市に米国子会社

Bridgestone APM を置く、自動車部品メーカーである。

司法省が提出した略式起訴状によると、同社は、他者と共謀して、遅くとも 2001 年

1 月から少なくとも 2008 年 12 月にかけて、日本のトヨタ、日産自動車、(ブランド名

スバルとして知られる)富士重工、スズキ、及びいすゞ自動車のそれぞれの米国子会社

に販売される防振ゴム部品について、販売量の割当て並びに価格の固定、維持及び引

上げを行っていた。また、シャーマン法違反の時効が 5 年であるため、ブリヂストン

は、捜査への協力の一環として、司法省との間で、2013 年 5 月 8 日から 2014 年 4 月

30 日までの間、時効を中断させることに同意した。

本件において、この司法取引の対象外とされた本件幹部シマザキは新たに略式起訴

された。略式起訴状によると、シマザキは遅くとも 2001 年 1 月から少なくとも 2008

年 12 月にかけて、他者と共謀して、日本のトヨタ、日産自動車、(ブランド名スバルと

して知られる)富士重工のそれぞれの米国子会社に販売される防振ゴム部品に係る談

合・カルテルに関与していた。シマザキは、対象期間中、本社の販売部門の課長、ブ

リヂストン APM のエグゼクティブ・ヴァイス・プレジデント、及び本社の販売部門の

部長のぞれぞれの役職を務めていた。

司法省は、自動車部品メーカーらによる談合・カルテルについて捜査を現在も続け

ている。今回を含め、これまでに部品メーカー26 社が関与を認めており、総額 22 億

9000 万ドル(約 2312 億 9000 万円)以上の罰金刑が科せられている。さらに、33 名の個

人も当該談合・カルテルに関与したとして起訴されている。

12 第 6 巡回裁判所、吸収合併を実行した 2 つの病院に対し分割を命じた FTC 決

定を承認(2014 年 4 月 22 日)12

第 6 巡回裁判所は 4 月 22 日、オハイオ州ルーカス(Lucus)郡における 2 つの病院の

合併がクレイトン法 7 条に違反したとして、分割措置を命じた FTC の最終決定を承認

する判決を言い渡した。

本件は、オハイオ州ルーカス郡において短期治療サービスを巡り競争している 4 つ

の病院の内の 2 つが合併したことに関する反トラスト事件である。合併当事者の一方

たる申立人 ProMedica は当該サービスの市場第 1 位の病院であり、46.8%の市場シェ

アを有する。他方の合併当事者たる申立人 St. Luke’s は同市場第 4 位であり、11.5%

12 Press Release, Federal Trade Commission, Federal Appeals Court Upholds

FTC Order Finding Ohio Hospital Acquisition Was Anticompetitive, April 22,

2014.

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の市場シェアを有する。なお、同市場第 2 位の Mercy は 28.7%、第三位の UTMC(トレ

ド大学医療センター; University of Toledo Medical Center)は 13%の市場シェアを有

する。

各病院は、その患者らに治療サービスを提供する際、同患者らの加入しているマネジ

ドケア組織(Managed Care Organization)から診療報酬を受けている。マネジドケア組織

が支払う報酬額を算定する際に用いられる割引率は、各病院との個別交渉により決定さ

れており、各当事者の交渉力を反映している。したがって、市場支配的な ProMedica と

の割引率はオハイオ州で最も低かった一方、より小規模な St. Luke’s の割引率は、よ

り優れた治療サービスに対する利率であったにもかかわらず、それにより計算された診

療報酬が治療コストさえ賄えなるものでなかった。

この結果、St. Luke’s では、合併前、赤字経営が続いていた。そこで、経営再建を

進めるため、St. Luke’s は企業再生の専門家・Wakeman 氏を社長として雇った。同氏

は再建計画を実施し、他の病院との合併を提案し、また 2010 年 8 月には、経営を黒字

へと導いた。また提案どおりに、2010 年 5 月、St. Luke’s は ProMedica との間で合併

契約を締結した。

その直後、FTC は本件審査を開始した。2010 年 8 月、FTC と ProMedica は、St. Luke’s

とマネジドケア組織らとの間の契約の破棄を禁じる条項が含まれている分離維持

(Hold Separate)協定を締結し、本件合併は実行された。2011 年 1 月、FTC は、本件合

併がルーカス郡の短期治療サービス市場における競争を実質的に減殺させるおそれが

あると主張し、審判を開始した。

2011 年 12 月、FTC 行政法判事は、本件合併は著しい集中度の増加及び非常に高度に

集中した市場をもたらし、ProMedica のマネジドケア組織との交渉力を高め、単独の

価格引上げ(割引率の引き下げ)をおよぼすおそれがあるとの判断を示した。そして、

同行政法判事は、本件合併は推定違法である旨の仮決定を下し、St. Luke’s の処分を

命じた。2012 年 3 月、FTC は同仮決定を承認する最終決定を下した。

これに対して、申立人らは、(1)単独行為の事件には集中度の推定違法原則が適用さ

れない上、(2)St. Luke’s の財務状態が余りにも困窮していたが故に、同社は意味あ

る競争圧力をかけられなかったとの主張を展開し、控訴した。

控訴審において、第 6 巡回裁判所は、要旨以下の様に述べ、FTC の同最終決定を承

認する判決を言い渡した。

(1)本件は、協調的行為でなく、単独行為の事件であるが、市場集中度を

根拠とした推定違法原則の適用は、例外的に認められる。それは、第一に、

ProMedica の価格(診療報酬)とその市場シェアとの間に高い相関関係が

あったからである。具体的に、ProMedica の診療報酬は Mercy のそれより

も 32%、UTMC のそれよりも 51%、St. Luke’s のそれよりも 74%高かっ

た。

第二に、市場集中度のデータは異常に高いからである。具体的に、HHI は

1,078 ポイントも増加し、4,391 という異常に高度に集中した市場がもた

らされた。この集中度データの値が余りにも高いため、St. Luke’s の患者

の多くは ProMedica のサービスが近似の代替的サービスであると考えてい

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たに違いない。したがって、製品差別化市場における単独行為の分析にお

いては、本来、当事者間の直接競争の度合いに焦点が当てられるが、本件

では集中度データにのみ相当なウェイト付けを置いても良かった。

(2) 被 告 ら は St Luke’s が い わ ゆ る 弱 ま っ た 競 争 者 (weakened

competitor)であると主張するが、この抗弁事由は認められない。この抗弁

は、取得される会社のシェアが余りにも余儀なく低下することとなるため、

推定違法の原則が崩されてしまうという、稀にしか認められないものであ

る。しかし、本件においては、St. Luke’s の市場シェアが合併前に上昇し

ており、債務返済に充てる十分な資金が確保されていた。

これらの理由により、同巡回裁判所は、オハイオ州ルーカス郡における本件病院合

併を対象として分割を命じた FTC の最終決定を承認する判決を言い渡した。

13 司法省、自動車部品に係る入札談合にショーワが関与を認めた旨公表(2014 年

4 月 23 日)13

司法省は 4 月 23 日、自動車部品メーカーのショーワ(本社:埼玉県)が同省との司法

取引に応じ、米国で販売されるパワステ部品に係る入札談合・価格カルテルに関与し

たことを認めた旨を公表した。司法省によると、同社は、その一環として、大陪審起

訴を受ける権利を放棄して有罪の答弁をすること及び同省の捜査に全面的にかつ継続

して協力することに同意した。その見返りとして、司法省は、本来科せられるべき罰

金よりも低い 1990 万ドル(約 20 億 990 万円、1 ドル=101 円)を同社に科すよう地裁に

勧告することに同意したとされている。

本件の背景として、2010 年 2 月頃、米国司法省、欧州委員会及び日本の公正取引委

員会等は、自動車メーカーらが発注する部品を巡り、国際的な入札談合・価格カルテ

ルが行われている疑いがあると思料し、捜査を開始した。とりわけ、司法省は、芋づ

る式に関連部品のメーカーらを次々に起訴しており、またそれらから次々に有罪の答

弁を得ている。

自動車業界において、各自動車メーカーは、モデル・チェンジ後に部品調達を行っ

ている。その際に、各自動車メーカーは、部品メーカーらに対して見積書の提出を求

め、提出される見積書を精査し、その結果に従い受注者を選定している。

本件において、2014 年 4 月 23 日、司法省は、同司法取引の下で、被告・ショーワ

がシャーマン法 1 条に違反し、他社と共謀して談合を行い、ホンダ(日本)の米国法人

(本社:オハイオ州)に販売されるパワステ部品(ピニオンアシストタイプ電動パワーステ

アリング製品)の価格を固定、安定及び維持していたとして、同社をオハイオ州南部地

区地裁に略式起訴した。略式起訴状で司法省は、被告が遅くとも 2007 年から少なくと

も 2012 年 9 月にかけて、同談合に関与していたと主張した。略式起訴状によると、シ

ョーワは、本件共謀を締結し、また実施するため、(1)ホンダの米国法人に提示される

パワステ部品の入札価格について話し合う入札参加者の会合に主席し、(2)同会合で

13 Press Release, Justice Department, Japanese Automotive Parts Manufacturer

Agrees to Plead Guilty to Price Fixing and Bid Rigging on Automobile Parts

Installed in U.S. Cars, April 23, 2014.

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同米国法人に提示される入札参加者の入札値を決定し、(3)同決定に従い同米国法人

に応札額を提示し、(4)非競争的な共謀価格で同部品を同米国法人に販売し、また(5)

同談合の実効性を確保するために同会合を継続した。

司法省は、自動車部品メーカーらによる談合・カルテルについて捜査を現在も続け

ている。今回を含め、これまでに部品メーカー27 社が関与を認めており、総額 23 億

ドル(約 2323 億円)の罰金刑が科せられている。さらに、24 名の個人も当該談合・カル

テルに関与したとして起訴されている。

14 第 9 巡回裁判所、SD カードカルテル訴訟の継続を容認(2014 年 5 月 14 日)14

第 9 巡回裁判所は 5 月 14 日、被告(被控訴人)SD カードメーカーらがシャーマン法 1

条に違反し、同カードの販売価格等を決定したとする消費者クラスアクションについ

て、時効が完成していないことを理由に、地裁判決を覆し、訴訟の継続を容認する判

決を言い渡した。

本件において、1999 年に、被告(被控訴人)パナソニック(日本)、東芝(日本)、及び

サンディスク(米国)は、フラッシュ・メモリー(デジタル機器の電源を切ってもデータが

保存される不揮発性メモリーで、写真や音楽ファイル等を長期間保存できるというメモリ

ー)を使用した次世代メモリーカードである SD カードを開発し、その規格を標準化し

た。また当該被告 3 社は被告(被控訴人)SD-3C を設立し、それらの所有する特許をラ

イセンスできるという権利を SD-3C に付与した。2003 年に、全被告 4 社は、特許ライ

センスの標準契約を作成し、被告以外のメーカーに対し売上の 6%をロイヤリティと

して徴収する旨の条項をそれに盛り込んだ。その後、サムスン(韓国)等は SD-3C との

間で同特許ライセンス契約を締結した。2006 年に、被告らは、次世代 SD カードの開

発・規格標準化を行い、同特許ライセンス標準契約の改訂版を作成した。同改定版は、

同じ 6%のロイヤリティを徴収するほか、公正販売価格(Fair Market Price:言い換

えれば、再販売価格)を設定できる権限を被告に与えた。

2011 年 3 月 15 日、同カードの間接的購入者の Oliver 氏などは、自分達自身及び

2007 年 3 月 15 日から現在に至るまでの間、同カードを間接的に購入した他の消費者

を代表し、被告らを相手取り、クラスアクションをカリフォルニア州北部地区地裁に

提起した。訴状で代表原告団は、(1)被告らが共同して同カードの販売価格を決定し、

また(2)被告らがライセンス取決めを反競争的に実施したと主張した。また、代表原告

団は、これらの行為が連邦シャーマン法 1 条及び 2 条、並びに幾つかの州反トラスト

法(間接的購入者には原告適格がないとする連邦最高裁判決を撤回している法(Illinois

Brick repealer statutes)を制定した州)に違反すると主張した。連邦シャーマン法違

反に対しては、差止請求のみ、またそれぞれの州反トラスト法違反に対しては、各州

法に基づく損害賠償請求が行われた。

2010 年 6 月、サムスンも、関連事件で、被告らを相手取りシャーマン法違反訴訟を

同地裁に提起した。訴状では、差止のみならず、三倍額賠償が請求された。

これら 2 件の訴訟提起に対して、被告らは時効の完成を理由に訴え却下を求める申

し立てをした。反トラスト法違反については、4 年の提訴時効が適用される。

14 Dan Oliver, et. al. v. SD-3C LLC, No. 12-16421 (9th Cir. May 14, 2014).

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2012 年 5 月、同地裁は、被告らの独占的価格形成行為に着目し、起算点は当該規格

が標準化された 2006 年にまで遡ると判示した(速報海外ニュース 135 号(海外ニュース

36 号 17 頁)参照)。それからは 4 年間を超える年月が経過したため、時効が成立したと

された。

なお、同地裁は、関連事件で、サムスンの請求も同様の理由で棄却する旨の判決を

下した。控訴後、第 9 巡回裁判所は 2014 年 4 月 4 日、同地裁判決を覆し、訴訟の続行

を覆した。

本件の控訴審においては、第 9 巡回裁判所が 2014 年 5 月 14 日に、関連事件と同様、

地裁判決を覆した。判旨は以下のとおりである。

通常、反トラスト法上の 4 年の提訴時効は、被告が原告に損害を加えら

れるような違反行為が行われた時を起算点としている。しかし、(1)カルテ

ルが結ばれそれが継続した場合はその例外であり、新たな販売行為が行わ

れる度、違法行為が毎回行われる(continuing conspiracy)。また(2)違反行

為時において、原告が損害を将来被るであろうことを予測ができない場合

も、その例外である。

本件において、(1)価格カルテルが締結されたため、被告らが SD カード

を販売した度、違法行為が行われている。また(2)規格標準化時においては、

間接的購入者らが損害を被るであろうということが予見可能ではなかっ

た。したがって、起算点は原告らが SD カードを購入した時である。起算点

からは 4 年の年月が経過していないため、時効は完成していない。

これらの理由により、同巡回裁判所は、関連事件と同様に、本件消費者クラスアク

ションにおいても、時効が完成していないと判示した。そして同巡回裁判所は、同地

裁判決を覆し、訴訟の継続を容認した。

15 連邦大陪審、自動車部品に係る入札談合に関与したとして、東海理化の元常務

取締役を起訴(2014 年 5 月 22 日)15

ミシガン州東部地区大陪審は 5 月 22 日、米国車に取り付けられるヒーター・コント

ロール・パネルに係る入札談合・価格カルテルに関与したとして、東海理化の元常務

取締役をミシガン州東部地区地裁に正式起訴した。

本件の背景として、2010 年 2 月頃、米国司法省、欧州委員会、及び日本の公正取引

委員会等は自動車メーカーらが発注する部品を巡り、国際的な入札談合・価格カルテ

ルが行われている疑いがあると思料し、捜査を開始した。とりわけ、米国においては、

司法省が、関連部品メーカーら及びそれらの幹部らから有罪の答弁を次々に得た。十

分な情報収集が行われたため、司法省は、捜査の次の段階に進んでおり、それらのメ

ーカーらの幹部らを正式起訴している。

自動車業界において、各自動車メーカーは、モデル・チェンジ後に部品調達を行っ

ている。その際に、それらは、部品メーカーらに対して見積書の提出を求め、提出さ

15 Press Release, Department of Justice, Japanese Automotive Parts

Manufacturer Executive Indicted for Role in Conspiracy to Fix Prices and for

Obstruction of Justice, May 22, 2014.

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れる見積書を精査し、その結果に従い受注者を選定している。

本件摘発の手段として、司法省は、同連邦大陪審を招集した。また司法省は、捜索

令状に基づき連邦捜査局(Federal Bureau of Investigation)に東海理化の米国子会社

Tokai Rika of America(本社:ミシガン州プリマス市)の立入検査をさせた。ところが、

同立入検査のことを知ってから、本件元常務取締役ヒラノは、東海理化の社員に対し

書類の破棄や電子データの消去を指示した。

当該捜査の結果、2012 年 12 月、法人としての東海理化(本社:愛知県名古屋市)は、

司法省との司法取引に応じ、有罪を認めた。具体的に、同社は、遅くとも 2003 年 9 月

から 2010 年 2 月にかけて、トヨタ・ノース・アメリカ(米国)が販売する自動車に取り

付けられるヒーター・コントロール・パネル(自動車の室内温度を調節するパネル)に係

る談合・カルテルに関与していたことを認めた。なお、同社は、審査手続における司

法妨害(obstruction of justice)を行ったことも認めた(速報海外ニュース 142 号(海外

ニュース 36 号 40 頁))。司法取引の一環として、同社は、大陪審起訴を受ける権利を放

棄して有罪の答弁をすること、本件捜査に全面的にかつ継続して協力することに同意

した。

この見返りとして、司法省は、本来賦課されるべき罰金よりも低い 1770 万ドル(約

17 億 8770 万円)を同社に賦課するよう地裁に勧告すること、また本件元常務取締役ヒ

ラノを含む 5 名を除き、東海理化及び同社の従業員を余罪で追起訴しないことに同意

した。よって、司法省は、同司法取引でカバーされていない当該 5 名を別途起訴でき

るようにした。

本件において、本年 5 月 22 日、同司法取引の対象外とされた本件元常務取締役ヒラ

ノは、(1)遅くとも 2003 年 10 月から 2010 年 2 月にかけて、他者と共謀して、トヨタ・

ノース・アメリカが販売する自動車に取り付けられるヒーター・コントロー・パネル

に係る談合・カルテルに関与していたとして、新たに起訴された。これに加え、ヒラ

ノは、(2)2010 年 2 月に東海理化の社員に対し書類の破棄や電子データの消去を指示

することにより、司法妨害罪を犯したとして、起訴された。起訴状によると、ヒラノ

は、2003 年 1 月から 2005 年までの間、東海理化第一営業部(Sales Division 1)の課

長、2005 年から 2009 年までの間、同営業部の部長、2009 年から 2010 年 2 月までの

間、同営業部を統括する常務取締役を務めていた。

司法省は、自動車部品メーカーらによる談合・カルテルについて捜査を現在も続け

ている。今回を含め、これまでに部品メーカー27 社が関与を認めており、総額 23 億

ドル(約 2323 億円)以上の罰金刑が科せられている。さらに、34 名の個人も当該談合・

価格カルテルに関与したとして起訴されている。

16 大陪審、自動車関連部品に係る価格カルテルに関与したとして、タカタの元幹

部を起訴(2014 年 6 月 5 日)16

ミシガン州東部地区大陪審は 6 月 5 日、米国車に組み込まれるシートベルトに係る

16 Press Release, Justice Department, Former Top Executive of Japanese

Automotive Parts Manufacturer Indicted for Role in Conspiracy to Fix Prices,

June 5, 2014.

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価格カルテルに関与したとして、日本企業であるタカタの元幹部ナカジマをミシガン

州東部地区地裁に正式起訴した。

本件の背景として、2010 年 2 月に米国司法省、欧州委員会、及び日本の公正取引委

員会等は、自動車メーカーらが発注する部品の入札で談合が繰り返されているという

嫌疑で、捜査を開始した。捜査の結果、とりわけ、司法省は、司法取引を通じて、部

品メーカーら及びそれらの幹部らから有罪の答弁を次々に得た。有罪答弁により情報

が十分に収集されたため、司法省は、捜査の次の段階に進んでおり、それらのメーカ

ーらの幹部らを正式起訴している。

自動車業界において、各自動車メーカーは、モデル・チェンジ後に部品調達を行っ

ており、その際に、部品メーカーらに対して見積書の提出を求め、提出される見積書

を精査し、その結果に従い受注者を選定している。

部品メーカーであるタカタ(本社:東京)は、シートベルトなどの自動車関連部品を

製造販売する会社である。同社は、米国では米国法人 TK Holdings(本社:米国ミシガ

ン州オーバン・ヒルズ市)を通じて自動車部品を供給している。

本件に先立ち、2013 年 10 月、タカタは司法省との司法取引に応じたのだ。その一

環として、同社は(1)遅くとも 2003 年 1 月から少なくとも 2011 年 2 月にかけて、米

国に所在する日系自動車メーカー4 社(ホンダ、日産、マツダ、富士重工(スバル車種製

造))向けのシートベルトに係る価格カルテルに関与していたことを認め、(2)同省の捜

査に全面的にかつ継続して協力することに同意した(速報海外ニュース 152 号(海外ニ

ュース 37 号 32 頁)参照)。

その見返りに、司法省は、(1)本来賦課されるべき罰金よりも低い 7130 万ドル(約 72

億 130 万円、1 ドル=101 円)を同社に賦課するよう地裁に勧告すること、また(2)本件

元幹部ナカジマを含む 7 名を除き、タカタ及び同社の幹部・元幹部を余罪で追起訴し

ないことに同意した。よって、司法省は同司法取引でカバーされていない当該 7 名を

別途起訴できるようにした。そして、当該 7 名のうちの 4 名は、既に司法省との司法

取引に応じ、略式起訴を受け、有罪の答弁を行った(速報海外ニュース 153 号(海外ニュ

ース 37 号 31 頁)参照)。

今般、本年 6 月 5 日、大陪審は、同司法取引でカバーされていない本件元幹部ナカ

ジマが当該価格カルテルに関与したとして、同氏を地裁に正式起訴した。正式起訴状

で、大陪審は、本邦人であるナカジマが、シャーマン法 1 条に違反し、遅くとも 2005

年 9 月から少なくとも 2009 年 6 月にかけて、当該 4 社向けシートベルトの価格を車

種ごとに固定、安定及び維持していたと主張した。

正式起訴状によると、ナカジマは、遅くとも 2005 年 6 月から少なくとも 2009 年 6

月までの間、タカタの顧客関係管理部門(Customer Relations Division)のディレクタ

ーを務め、当該 4 社向けシートベルトなどの部品の販売を担っていた。なお、それに

よると、ナカジマは、本件共謀を締結し、また実施するため、(1)当該 4 社に提示され

るシートベルトの入札価格について話し合う入札参加者の会合に出席し、又は部下ら

に対し同会合に出席するよう指示し、(2)同会合で自動車メーカーらに示される入札

価格についての合意に達し、又は部下らに対して同会合で合意に達するよう指示し、

(3) 同会合で自動車メーカーら向けシートベルトを車種ごとに割り当てることを決定

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し、又は部下らに対して同会合で同決定を行うよう指示し、(4)同部下らが合意した非

競争的価格を承認し、(5)同合意に従い自動車メーカーらに応札金額を提示し、また

(6)非競争的な共謀価格でシートベルトを当該 4 社に販売した。

司法省は、自動車部品メーカーらによる談合・カルテルについて捜査を現在も続け

ている。今回を含め、これまでに 35 名の自然人が起訴されており、そのうちの 24 名

が有罪を認め、又は有罪を認めることに同意している。さらに、部品メーカー27 社が

当該カルテルへの関与を認め、又は認めることに同意し、総額 23 億ドル(約 2323 億円)

以上の罰金刑の支払に同意している。

17 司法省、自動車関連部品に係る価格カルテルにデンソーの幹部が関与を認め

た旨公表(2014 年 6 月 30 日)17

司法省は 6 月 30 日、自動車関連部品に係る価格カルテル事件で、日本の部品メーカ

ーであるデンソーの幹部ホリサキが同省との司法取引に応じた旨を公表した。同省に

よると、その一環として、ホリサキは、米国車に取り付けられるインストラメント・

パネル・クラスター(計器盤)に係る価格カルテルに関与したことを認め、同省の捜

査に全面的にかつ継続して協力することに同意した。その見返りに、同省は本来科せ

られるべき量刑よりも軽い、1 年 1 日の禁固刑、また 2 万ドル(約 202 万円)の罰金刑

を同幹部に科すよう、ミシガン州東部地区地裁に勧告することに同意したとされてい

る。

本件の背景として、2010 年 2 月に米国司法省、欧州委員会、及び日本の公正取引委

員会等は、自動車メーカーらが発注する部品の入札で談合が繰り返されているという

嫌疑で、捜査を開始した。捜査の結果、とりわけ、司法省は、芋づる式に部品メーカ

ーら及びそれらの幹部らを次々に起訴しており、それらから有罪の答弁を得ている。

自動車業界において、各自動車メーカーは、モデル・チェンジ後に部品調達を行っ

ており、その際に、部品メーカーらに対し見積書の提出を求め、提出される見積書を

精査し、その結果に従い受注者を選定している。

デンソー(本社:愛知県刈谷市)は、インストラメント・パネル・クラスター等の自動

車関連部品を製造販売する会社である。本件に先立ち、2012 年 1 月、デンソーは司法

省との司法取引に応じたのだ。その一環として、同社は(1)米国車に取り付けられるイ

ンストラメント・パネル・クラスター等に係るカルテルに関与したことを認め、(2)同

省の捜査に全面的にかつ継続して協力することに同意した(速報海外ニュース 130 号

(海外ニュース 35 号 38 頁)参照)。その見返りに、同省は、(1)本来賦課されるべき罰金

よりも低い 7800 万ドル(約 78 億 7800 万円)を同社に賦課するよう地裁に勧告するこ

と、また(2)本件幹部を含む 7 名を除き、デンソー及び同社の幹部らを余罪で追起訴し

ないことに同意した。よって、司法省は同司法取引でカバーされていない当該 7 名を

別途起訴できるようにした。そして、当該 7 名のうちの 5 名は、既に略式起訴され、

有罪の答弁を行った(速報海外ニュース 134 号(海外ニュース 36 号 15 頁)、147 号(海外

ニュース 37 号 15 頁)参照)。

17 Press Release, Justice Department, Denso Corp. Executive Agrees to Plead

Guilty to Price Fixing on Automobile Parts Installed in U.S. Cars, June 30, 2014.

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今般、本年 6 月 30 日、同司法取引でカバーされていない本件幹部ホリサキは、新た

に略式起訴され、有罪の答弁を行った。具体的に、司法省は、同司法取引の下で、ホ

リサキがシャーマン法 1 条に違反し、おおよそ 2009 年から 2010 年 2 月にかけて、ホ

ンダ・アメリカ向けのインストラメント・パネル・クラスターの価格を固定、安定及

び維持していたとして、同氏を地裁に略式起訴した。

略式起訴状によると、同幹部ホリサキは、カルテル実行期間中、デンソーの宇都宮

支店のグループリーダーを務めていた。また、それによると、同幹部は、本件共謀を

締結し、また実施するため、(1)ホンダ・アメリカに提示されるインストラメント・パ

ネル・クラスターの入札価格について話し合う入札参加者の会合に出席し、(2)同会合

でホンダ・アメリカに提示される入札参加者の入札値を決定し、(3)同合意に従い応札

額を提示し、(4)非競争的な共謀価格でインストラメント・パネル・クラスターをホン

ダ・アメリカに販売した。

司法省は、自動車部品メーカーらによる談合・カルテルについて捜査を現在も続け

ている。今回を含め、これまでに 36 の自然人が起訴されている。さらに、部品メーカ

ー27 社が当該カルテルへの関与を認め、又は認めることに同意し、また総額 23 億ド

ル(約 2323 億円)以上に上る罰金の支払に同意している。

18 第 9 巡回裁判所、LCD パネル・メーカーらのカルテルへの関与を認定した有罪

の判決を支持(2014 年 7 月 10 日)18

第 9 巡回裁判所は 7 月 10 日、液晶パネル(liquid crystal display, LCD)に係る国際

価格カルテル訴訟において、エレクトロニクス・メーカーである被告(控訴人)Au

Optronics(台湾)、同社の米国法人及びその幹部 2 名それぞれに対する有罪判決、並び

に Au Optronics1 社に対する 5 億ドル(約 505 億円)の罰金刑判決を支持する二審判決

を言い渡した。

本件において、被告を含むアジア系エレクトロニックス・メーカー6 社(被告、

Samsung(韓国)、LG Display(韓国)、Chunghwa(台湾)、Chi Mei(台湾)、 Hannstar(台湾))

は、パソコン向け液晶パネルの販売を巡って、米国市場を含む全世界にわたり価格カ

ルテルを締結していた。とりわけ、米国市場では、被告がパソコン用液晶パネルを Dell、

Apple、Motorola 等のコンピューター会社に販売していた。そこで、2006 年末、米国

司法省は連邦捜査局に Au Optronics 米国法人の立入検査をさせた。捜査の結果、Au

Optronics を除く当該 6 社が有罪を認めたが、Au Optronics の方は一貫して罪を否定

した。

その後、司法省は捜査の次の段階に進んだ。つまり、2010 年 6 月、司法省より招集

されたカリフォルニア州北部地区大陪審は、Au Optronics、同社の米国法人並びに同

社の社長(President)と取締役副社長(Executive Vice President)がシャーマン法 1 条

に違反し、2001 年 9 月から 2006 年 12 月までの間、価格カルテルを関与していたとし

て、当該被告らをカリフォルニア州北部地区地裁に正式起訴した。また大陪審は、当

該 6 社が少なくとも 5 億ドル(約 505 億円)に上る総利益(gross gains)を得たと主張

し、代替罰金法(Alternative Fines Act)の適用を求めた。法定刑が罰金 1 億ドル(約

18 U.S. v. Au Optronics Corporation, No. 09-cr-00110 (9th Cir. Jul. 10, 2014).

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101 億円)以下であるところ、代替罰金法は、違反によって得られた総利益の 2 倍又は

違反によって他人に与えた総損失の 2 倍にまで罰金を引き上げることができる、旨規

定している。

陪審裁判が開かれ、陪審は Au Optronics が米国市場に毎月 100 万枚以上の液晶パ

ネルを輸出し、また当該 6 社が米国市場における販売で 6 億ドル(約 606 億円)以上の

利益を得た旨を認定した。8 週間に及ぶ審理の末、2012 年 3 月 13 日、陪審は、被告ら

が海外取引反トラスト改善法(Foreign Trade Antitrust Improvements Act、FTAIA)上の

シャーマン法 1 条違反行為を犯したとして、有罪の評決を下した。同法によれば、米

国反トラスト法は、輸入通商だけでなく、米国内の取引に直接的、実質的かつ合理的

予見可能な弊害をもたらすシャーマン法に違反する行為に適用される。

2012 年 9 月 20 日、地裁は、Au Optronics に対し 5 億ドル(約 505 億円)の罰金支払

い、また同社の幹部 2 名に対し各 3 年の禁固刑と 20 万ドル(約 2020 万円)の罰金支払

いを命じる一審判決を下した。当該 5億ドル(約 505億円)の罰金額は、以前に Hoffmann-

La Roche に対し科された 5 億ドル(約 505 億円)の罰金額と並び、反トラスト法違反に

対し科された史上最高のものである。

同判決に対し、被告らは、(1)ほとんどの液晶パネルが米国以外の諸外国で販売され

たため、米国との接点が希少であり、(2)罰金額の決定に当たり、Au Optronics だけ

が得た利益を司法省が参照すべきであると主張し、控訴裁判所に控訴した。

控訴審において、本年 7 月 10 日、第 9 巡回裁判所は、被告らの主張を退け、一審判

決を支持した。判旨は以下のとおりである。

(1)海外取引反トラスト改善法の下、「輸入通商」はシャーマン法の適用

対象である。本件において、Au Optronics が相当の数量の液晶パネルを台

湾から米国のコンピューター会社らへ販売していたため、当該取引はシャ

ーマン法の適用を受ける。

(2)代替罰金法における総利益とは、個々の共謀者が得た利益では無く、

全ての共謀者より得られた利益のことである。本件において、当該 6 社は

5 億ドル(約 505 億円)以上の総利益を得ていたため、5 億ドル(約 505 億円)

の罰金刑の宣告は容認される。

これらの理由により、同巡回裁判所は、Au Optronics に対する本件有罪判決及び量

刑判決を支持する二審判決を言い渡した。

19 FTC、カルテル行為を誘引していたとして、インターネット販売業者 2 社に対

し、同意命令案を発出(2014 年 7 月 21 日)19

FTC は 7 月 21 日、大手バーコード再販売業者 2 社が競争者に対してバーコードの価

格を引き上げるよう誘引したとする訴えについて、和解による事件解決が図られたた

め、同意命令案を発出した。

本件の被審人・InstantUPCCodes 及び Nationwide Barcode はインターネット上で

UPC(Universal Product Code)のバーコードを販売している企業である。被審人らのほ

19 FTC, Press Release, Two Barcode Resellers Settle FTC Charges That

Principals Invited Competitors to Collude, July 21, 2014.

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か、2 社の競合他社(競争者 A と競争者 B)も UPC のバーコードを販売している。競争

者 B のバーコードには、より高い価格が設定されている。

UPC とは米国などで使用される商品コードのことであり、国際的な標準化団体によ

って発行されている。UPC は番号とともにバーコードによって構成されている。通常、

番号とバーコードのイメージ処理によってラベルが作られる。次に、ラベルは商品の

包装に張り付けられる。その後、商品の購入時にラベルは POS 端末で読み取られる。

この様に、UPC は商品の流通管理に役立っている。

本件において、2013 年 8 月 4 日、InstantUPCCodes の Jacob Alifraghis 社長は、

Nationwide Barcode 及び競争者 A に電子メールを送り、バーコードの価格を引き上げ

るよう誘引した。二日後に、 Nationwide Barcode の Philip Peretz 社長は、

「InstantUPCCodes が先に価格引上げを実施することを条件に価格引上げ要請に応じ

る」との趣旨の返信メールを送った。返信メールは競争者 A にも送信された。その後、

InstantUPCCodes と Nationwide Barcode との間の協議が継続し、競争者 A への参加要

請も繰り返された。しかし、競争者 A は当該電子メールを無視し、返信しなかった。

2014 年 1 月に FTC が調査を開始したことを背景に、協議は終わった。

2014 年 7 月 21 日、FTC は、被審人 InstantUPCCodes と Nationwide Barcode 並びに

両社の社長のそれぞれの Alifraghis と Peretz に対して申立書(Complaint)を発出し、

それと同時に、本件が和解によって解決されたため、同意命令案も発出した。

申立書によると、被審人らは、FTC 法第 5 条に違反し、競争者に対して価格カルテ

ルへの参加を誘引していた。当該誘引行為は「共謀への誘引」(invitation to collude)

と呼ばれる行為類型に該当する。「共謀への誘引」とは、行為者が競争者に対して一方

的に行う価格協定などの共謀の申込みである。

また、同意命令案は、被審人らに対して、(1)バーコード価格に関し競争者とコミュ

ニケーションを取ったり、(2)市場分割、顧客分割、及び価格カルテル行為を行うよう

誘引したり、また(3)価格引上げをすべきであることを競争者にしきりに勧めたりす

ることを禁止した。

FTC は、ここ 20 年間、「共謀への誘引」が FTC 法第 5 条に違反するおそれがあるとし

て、禁止してきた。FTC によると、当該行為は以下の理由により禁止される。(1)競争

者が特定の誘引行為に応じたか否かを判断するのが難しい。(2)行為者の意思が開示

されているため、その誘引行為に対する応諾がなかったとしても、協調的平行行為が

促されるおそれがある。(3)誘引行為を禁止する方針は、事業上正当化事由を有さない

潜在的なカルテル行為を効果的に抑止する機能を持つ。

共謀への誘引行為に対する応諾があれば、当然違法であるシャーマン法第 1 条違反

が成立する。その場合、FTC は司法省に事件を送付し、事件は刑事捜査の対象となる。

本件では、被審人らが合意に至らなかったため、シャーマン法第 1 条違反は成立し

ない。また、本件誘引行為は特に悪質(particularly egregious)であったが、これ程悪

質でなくても、FTC 法第 5 条違反は成立しうる。つまり、FTC 法第 5 条違反が成立する

には、本件の様に、価格引上げへの明示的な誘引行為が社長より繰り返されるという

必要が無い。

FTC は本日より 30 日間、同意命令案などに係るパブリック・コメントを募集してい

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る。その後には、同意命令案を最終的に受け入れるか否かという FTC の最終判断が予

定されている。

20 司法省、自動車関連部品の価格カルテルに関し、ジーエスエレティックの幹部

との間で締結された有罪答弁協定書を地裁に提出(2014 年 7 月 31 日)20

司法省は 7 月 31 日、自動車部品メーカーであるジーエスエレティク(本社:愛知県

豊田市)の幹部オクダとの間で締結された有罪答弁協定書をケンタッキー州東部地区

地裁に提出した。

司法取引の結果として締結された同有罪答弁協定書によると、本件幹部オクダは、

(1)ブレーキ関連部品を巡り、北米トヨタへの納入入札でジーエスエレティックが落

札できるよう他者と共謀していたことを認めること、また(2)捜査に全面的にかつ継

続して協力することに同意した。その見返りに、司法省は、本来科せられるべき刑罰

よりも軽い、13 か月の禁固刑また 2 万ドル(約 204 万円、1 ドル=102 円)の罰金刑を同

幹部に科すようケンタッキー州東部地区地裁に勧告することに同意した。

本件の背景として、2010 年 2 月に米国司法省、欧州委員会、及び日本の公正取引委

員会などは、自動車メーカーらが発注する部品の入札で談合が繰り返されているとい

う嫌疑で、捜査を開始した。捜査の結果、とりわけ、司法省は、司法取引を通じ、部

品メーカーら及びそれらの幹部らから有罪の答弁を次々に得た。有罪答弁により情報

が十分な収集されたため、司法省は捜査の次の段階に進んだ。次の段階たる現段階で

は、それらのメーカーの幹部らが正式起訴されている。

自動車業界では、各自動車メーカーは自動車のモデル・チェンジに先立って部品の

サプライヤーを選定しており、選定に当たっては競争入札方式が採用されている。具

体的には、部品メーカーらに対し見積書の提出が求められ、提出される見積書が精査

され、その結果に従い受注者が選定されている。

ジーエスエレティックは、自動車製造に係る電装部品の製造、組立て及び販売を営

む会社である。本件に先立ち、2012 年上旬、法人としてのジーエスエレティックは、

司法省との司法取引に応じた。その一環として、同社は、(1)アンチロック・ブレーキ・

システムに使用される速度計付ワイヤを巡り、ある自動車メーカーへの納入入札で同

社が落札できるよう他社と共謀していたことを認め、また(2)捜査に全面的にかつ継

続して協力することに同意した。

その見返りに、司法省は、(1)本来賦課されるべき罰金よりも低い 275 万ドル(約 2

億 8050 万円)を同社に賦課するよう地裁に勧告すること、また(2)本件幹部 1 名(本件

協定からカーブ・アウト(carve-out)されたため、所属するジーエスエレティックとは別

単位となった幹部)を除き、ジーエスエレティック及び同社の幹部を余罪で追起訴しな

いことに同意した。よって、同司法取引でカバーされていない本件幹部が起訴される

という可能性が残された。同司法取引の下、司法省は、2012 年 4 月 3 日にジーエスエ

レティックをミシガン州東部地区地裁に略式起訴(information)した。

そして、2013 年 9 月 11 日、ケンタッキー州東部地区大陪審は当該カルテルに関与

20 United States of America v. Shingo Okuda, No. 13-cr-00051 (E.D. Ky. July 31,

2014).

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したとして、本件幹部オクダを正式起訴(indictment)した(速報海外ニュース 150 号(海

外ニュース 37 号 26 頁)参照)。日本国籍のオクダは、2003 年 1 月から 2009 年 1 月まで

の間、ジーエスエレティックの販売部門担当取締役、2009 年 1 月から少なくとも 2010

年 2 月までの間、同社の技術部門担当取締役を務めていた。

正式起訴状によると、オクダは、2003 年 1 月から少なくとも 2010 年 2 月までの間、

当該速度計付ワイヤを巡り、北米トヨタへの納入入札でジーエスエレティックが勝て

るよう他者と共謀していた。なお、ケンタッキー州北部地区大陪審が本件を別途起訴

したのは、談合対象の速度計付ワイヤがケンタッキー州アーランガー市における北米

トヨタの生産工場に販売されたからである。

今般、2014 年 7 月 31 日、司法省は、本件幹部オクダとの間で締結された本件有罪

答弁協定書をケンタッキー州東部地区地裁に提出した。同協定書には、罰金額決定の

判断要素が示されている。(1)罰金刑 2 万ドル(約 204 万円)については、関連販売額が

約 1100 万ドル(約 11 億 2200 万円)に上ること等の諸要素が考慮された。また(2)禁固

刑 13 か月については、本件幹部が入札談合に参加していたが適切な時期に責任を受

け入れたこと等の諸要素より決定される違法レベル(offense level)、及び前科・前歴

がないこと等の諸要素より決定される違反略歴(criminal history)が考慮された。

司法省は、自動車部品メーカーらによるカルテルについて捜査を現在も続けている。

今回を含め、これまでに 36 の自然人が起訴されている。本件幹部オクダは正式起訴さ

れた後に有罪答弁に応じた初めての自然人である。さらに、部品メーカー27 社が当該

カルテルへの関与を認め、又は認めることに同意し、また総額約 23 億ドル(約 2346 億

円)となる罰金の支払にも同意している。

21 第 10 巡回裁判所、医療機器メーカー大手に対するシャーマン法 2 条違反訴訟

での略式判決を覆す(2014 年 8 月 5 日)21

第 10 巡回裁判所は 8 月 5日、大手医療機器メーカーである被告(被控訴人)Medtronic

がシャーマン法第 2 条に違反し、手術用ボーンミル装置市場を独占したとして、原告

(控訴人)Lenox Maclaren Surgical が被告に三倍額損害賠償を請求した訴訟の控訴審

で、被告勝訴の地裁判決を覆し、事件を第一審に差し戻した。

本件において、原告は 1999 年にボーンミルを開発し、製造し始めた。ボーンミルと

は、骨をすり砕く装置のことであり、粉砕された骨は、脊椎固定術で、隣接する 2 つ

の接骨を固定する際に用いられている。

2000 年 4 月 16 日、原告は自社のボーンミルを市場化するため、被告との間で排他

的供給契約を締結した。そこで、被告は、原告のボーンミルを病院などに供給したが、

そのほとんどはレンタルによって提供された。2006 年 10 月、被告は原告のボーンミ

ルを対象に任意のリコールを手掛け、当該ボーンミルを仕入れた病院などに上記リコ

ールのことを通知した。また、2007 年初頭、被告はボーンミルを独自で開発し、それ

を Midas Rex ブランドとして販売し始めた。

被告の一連の行為に対して、原告は被告が原告の潜在的なビジネス機会を意図的に

妨害したと主張し、仲裁を求めた。そこで、仲裁パネルは、原告のボーンミルに欠陥

21 Lenox Maclaren Surgical v. Medtronic, No. 13-1307 (10th Cir. Aug. 5, 2014).

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があると認めるに足りる十分な証拠が無いこと、またリコールが原告を排除する意図

で行われたことを認定し、原告に 24 万 6 千ドル(約 2509 万 2 千円)の損害賠償を認め

た。

原告は、仲裁金額に不満を持ち、2010 年 9 月 1 日に被告を相手取りコロラド州地区

地裁にシャーマン法 2 条違反訴訟を提起した。訴状によると、被告は、2007 年から

2010 年にかけて、排除的行為により、原告を手術用ボーンミル装置市場から排除し、

独占力を維持した。

証拠開示手続完了後、被告は略式判決を求める申立てをした。これに対して、コロ

ラド州地区地裁は、(1)関連製品市場の画定、(2)独占力の存在、及び(3)排除行為とい

うシャーマン法 2 条違反の構成要件の何れについても、原告側は重要な事実に関する

真の争点を創出するに足りる十分な証拠を提示していないと判示した。よって、被告

勝訴の略式判決が言い渡された。

控訴審において、第 10 巡回裁判所は、第一審判決を覆す判決を言い渡した。判旨は

以下のとおりである。

原告側は、各構成要件について、重要な事実に関する真の争点を創出するに足りる

十分な証拠を提示した。具体的に、(1)関連製品市場については、原告側はボーンミル

が関連製品市場に該当すると主張・立証し、手術医がボーンミルの使用を好むとする

専門家証言も提出した。

これに対して、被告側は、同専門家証言が事例証拠に過ぎず、市場には骨を細かく

砕ける外科用メス等の手道具も含まれていると反証した。この点、同専門家証言には

証拠能力がある。さらに、原告側はその他にも、ボーンミルと手道具との間に著しい

価格差が存在するとする証拠、ボーンミルの製造業者こそが競争相手であるとする被

告自身の内部資料を提示した。

(2)独占力の存在については、原告側は、被告のシェアが 2007 年には 97-98%であ

ったが、その後は低下を辿ったものの、2010 年には 62%もあったとするデータを提出

した。また参入障壁が高いとする専門家証言も提出された。

これに対して、被告側は、2008 年に Stryker が新規参入し、シェアを奪い取ったの

で、独占力には持続性が無く、参入障壁が低いと反論した。しかし、当該市場シェア

で独占力の存在を推認することは可能である。また Stryker が典型的な競争者では無

く、確立された販売経路を持つ大手医療機器メーカーであることを示すに足りる十分

な証拠も提示された。

(3)排除行為については、原告側は、被告が独自のボーンミルの発売を計画し、原告

のボーンミルを中傷誹謗し、虚偽にリコールをでっち上げ、また原告を排除したと主

張・立証した。これに対して、被告側は、病院が賢い顧客なので競争への害はないと

反証した。しかし、病院は、他にも選択肢があれば、リコールされた商品を取り扱う

のに相当躊躇するであろうし、また病院が医療過誤訴訟を恐れるであろうとする専門

家証言が示されたさ。したがって、原告側は原告がリコールによる負の効果を打ち消

すことができないことを示すに足りる十分な証拠を提示した。

この様に考えると、独占行為の各構成要件について、重要な事実に関する真の争点

がある。したがって、陪審が裁判でシャーマン法第 2 条違反を認定することは十分に

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可能である。

これらの理由により、同巡回裁判所は、シャーマン法 2 条違反行為の何れの構成要

件についても、重要な事実に関する真の争点があると判示し、被告勝訴の略式判決を

覆した。

22 司法省、自動車関連部品の価格カルテルに関し、日本特殊陶業が関与を認めた

旨公表(2014 年 8 月 19 日)22

司法省は 8 月 19 日、自動車関連部品の価格カルテル事件で、日本特殊陶業が同省と

の司法取引に応じた旨を公表した。司法省によると、司法取引の一環として、同社は

米国車に組み込まれる自動車部品に係る価格カルテルに関与したことを認め、同省の

捜査に全面的にかつ継続して協力することに同意した。その見返りとして、司法省は、

本来賦課されるべき罰金よりも低い 5210 万ドル(約 56 億 2680 万円、1ドル=108 円)

を同社に賦課するよう地裁に勧告することに同意したとされている。

本件の背景として、2010 年 2 月に米国司法省、欧州委員会、及び日本の公正取引委

員会などは、自動車メーカーらが発注する部品の入札を巡り、談合が行われている疑

いがあると思料し、捜査を開始した。捜査の結果、とりわけ、司法省は、司法取引を

通じて、部品メーカーら及びそれらの幹部らから有罪の答弁を次々に得た。

自動車業界では、各自動車メーカーは自動車のモデル・チェンジに先立って部品の

供給業者を選定している。選定に当たっては、競争入札方式が採用されている。具体

的に、各自動車メーカーは、部品メーカーらに対し見積書の提出を求め、提出される

見積書を精査し、その結果に従い受注者を選定している。

本件被告・日本特殊陶業(本社:愛知県名古屋市)は、とりわけ、エンジンの点火プラ

グ、空気中の酸素濃度の測定器(酸素濃度測定器)、及びエンジンの空気/燃料比セン

サーを製造販売する中堅自動車部品メーカーである。本件との関係で、被告は、主要

な自動車メーカー(DaimlerChrysler(現 Daimler)(ドイツ)、ホンダ(日本)、及びトヨタ自

動車(日本))各社の米国子会社が米国車用の部品を調達するに際し行った競争入札に

参加した。

本件において、本年 8 月 19 日、司法省は、同司法取引の下で、被告が、他社と共謀

して、主要な上記自動車メーカー各社の米国子会社に納入される点火プラグ、酸素濃

度測定器及び空気/燃料比センサーの販売価格を維持したとして、ミシガン州東部地

区地裁に略式起訴した。略式起訴状によると、被告はシャーマン法第 1 条に違反し、

遅くとも 2000 年 1 月から 2011 年 7 月にかけて、本件談合に関与していた。なお、そ

れによると、被告は、本件共謀を締結し、また実施するため、(1)日本とドイツで、当

該主要な自動車メーカー各社の米国子会社に提示される本件部品の入札価格について

話し合う入札参加者の会合に参加し、(2)同会合で当該主要な自動車メーカー各社に

提示される入札参加者の入札値を決定し、(3)同決定に従い当該主要な自動車メーカ

ー各社に応札額を提示し、(4)非競争的な共謀価格で本件部品を当該主要な自動車メ

22 Press Release, Justice Department, NGK Spark Plug Co. LTD Agrees To Plead

Guilty To Price Fixing And Bid Rigging on Automobile Parts Installed In U.S.

Cars, August 19, 2014.

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ーカー各社のそれぞれの米国子会社に納入し、また(5)同談合の実効性を確保するた

めに同会合を継続した。

司法省は、自動車部品メーカーらによる談合・カルテルについて捜査を現在も続け

ている。今回を含め、これまでに部品メーカー28 社が関与を認めており、総額 24 億

ドル(約 2592 億円)に上る罰金刑が科せられている。さらに、26 名の個人も当該談合・

カルテルに関与したとして起訴されている。

23 カリフォルニア州北部地区地裁、カルテル行為に対する集団訴訟の和解から

の離脱を求めたシャープの申立てを棄却(2014 年 8 月 20 日)23

カリフォルニア州北部地区地裁は 8 月 20 日、ブラウン管の国際カルテルを巡る集

団訴訟で、原告の1社であるシャープ(日本)の米国子会社が集団和解からの離脱を求

めていたところ、当該請求を却下する旨の判決を言い渡した。

ブラウン管とは電気信号を光に変換し、人間の目に見える像を発生させる装置のこ

とであり、テレビやコンピューターのモニターに用いられている。家電メーカーはブ

ラウン管を直接購入しており、テレビやコンピューターのモニターに搭載している。

本件の背景として、2007 年 11 月に米国司法省、欧州委員会及び日本の公正取引委

員会は、ブラウン管を巡る国際価格カルテルが実施されている疑いがあるとして、捜

査を開始した。とりわけ、司法省は捜査を行うために、カリフォルニア州北部地区の

連邦大陪審を招集した。

捜査の結果、東アジア系企業及びそれらの幹部らが次々に起訴された。例えば、同

大陪審は、2009 年 2 月に中華映管(台湾)の元役員を正式起訴した。また大陪審審理中

に、サムスン(韓国)が司法省との司法取引に応じて有罪を認めたため、2011 年 3 月、

司法省は大陪審による正式起訴によらずに同社を略式起訴した。

捜査開始後、捜査をきっかけに、ブラウン管の直接購入者等を代表し、東アジア系

企業(パナソニック(日本)、東芝(日本)、日立製作所(日本)、サムスン(韓国)、LG ディス

プレイ(韓国)、中華映管(台湾))を相手取る集団訴訟が各地裁判所に提起された。これ

らの集団訴訟は、広域係属訴訟として、カリフォルニア州北部地区地裁に統合された。

集団訴訟では、大きな被害を被った原告が離脱し、別途訴訟を起こすのが一般的で

ある。何故ならば、大きな被害を被った原告は離脱をすれば、集団訴訟の賠償額の配

分を受けずに、より大規模な賠償額を別途請求することができるからである。本件に

おいても、大規模購入者であるシャープは 2013 年 3 月に当該東アジア系企業らを相

手取り別途訴訟を提起しており、集団訴訟からの離脱を予定にしていた。

なお訴訟係属中に、被告・パナソニック、東芝等幾つかの東アジア系企業らは、集

団訴訟の原告団と和解に達した。その後に、本件において、日立製作所もサムスンも

集団訴訟の原告団と和解した。日立製作所は 1345 万ドル(約 14 億 5260 万円)、サムス

ンは 3300 万ドル(約 35 億 6400 万円)の和解金を支払うことに合意した。本年 4 月 18

日、同地裁は、当該和解内容を承認する命令を下し、集団訴訟の管理者に対して、和

解内容を集団訴訟の構成員に通知するよう命じた。

23 In re: Cathode Ray Tube Antitrust Litigation, No. 07-5944 (N.D. Cal. Aug. 20,

2014).

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これを受け、本件集団訴訟の管理者は、集団訴訟の構成員に対して、和解内容を通

知するとともに、同構成員が訴訟から離脱(opt-out)して、別途訴訟を提起する権利を

有する旨を伝えた。また、同管理者は、構成員が離脱したいことを管理者に申告する

ための書類の提出期限を本年 6 月 12 日に設定した。

しかし、今般、シャープの米国子会社は、離脱したいことを期限までに申告するこ

とを怠った。そこで、シャープの米国子会社は、同社がうっかりして和解通知を社外

弁護士に送らなかったと主張し、同地裁に離脱を求める申立てをした。これに対して、

本年 8 月 20 日、同地裁は、シャープの米国子会社の不注意や意思疎通の失敗は言い訳

にならないと判示し、本件申立てを却下する判決を言い渡した。

これらの理由により、同地裁は、カルテル訴訟の集団和解から離脱することを求め

たシャープの申立てを却下する旨の

判決を言い渡した。これでシャープは、当該和解金額を集団訴訟の他の構成員と分け

合うことに甘んじざるを得なくなった。

24 FTC、製薬会社 Prestige による Insight の買収を条件付きで承認(2014 年 8 月

28 日)24

FTC は 8 月 28 日、製薬会社の Prestige による同業他社 Insight の買収の計画を承

認する旨の同意命令案を発した。本件承認は、Insight の所有する Bonnie ブランドを

Prestige が Wellspring へ売却することを条件としている。

本件の当事者である Prestige(本社:ニューヨーク州タリータウン街)は、乗物酔止め

の市販薬として最も良く売れているブランド薬 Dramamine を製造販売する製薬会社で

ある。また、本件当事者の Insight(本社:ペンシルベニア州トレボース市)も、乗物酔

止めの市販薬を製造販売しており、それは Bonnie ブランド薬として販売されている。

Bonnie ブランドの市場シェアは非常に高い。

本年 4 月 25 日、Prestige が Insight と同社の全株式を約 7 億 5000 万ドル(約 810

億円)で取得することを内容とする取得契約を締結した。

本件取得計画を審査した FTC は、本件取得が実施されれば、FTC 第 5 条に違反して、

乗物酔止めの市販薬市場における競争が実質的に減殺されるおそれがあるとの判断を

示した。これに対して、Prestige は、FTC と和解するために、Insight の Bonnie ブラ

ンド薬の関連資産を Wellspring(本社:フロリダ州サラソータ市)に売却することを申

し出た。FTC は当該提案を受け入れ、本年 8 月 28 日、申立書(Complaint)並びに同意命

令案を同時に発出した。

FTC の市場分析の結果は以下のとおりである。

(1) 構造的要因

関連市場は米国における乗物酔止め市販薬の製造販売市場である。当該

市場においては、Prestige と Insight のブランド薬が相当程度のシェアを

有する。両社以外には、Alva-Amco しかブランド薬を販売していないが、

24 Press Release, Federal Trade Commission, FTC Puts Conditions on Proposed

Acquisition of Insight Pharmaceuticals by Marketer of Dramamine, August 28,

2014.

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同社のシェアは微々たるものである。また、プライベート・ラベルの市販

薬が相当程度のシェアを有するが、それらによる競争圧力は限られている。

何故なれば、プライベート・ラベルの市販薬はブランド薬との一定の割引

幅を保っており、その上、販売促進されていないからである。したがって、

届出のあった取得計画は、二大ブランド薬を統合することにより、市場集

中度の実質的上昇をもたらすものである。

(2) 反競争的効果

届出のあった取得計画が実施されれば、Prestige と Insight との間の激

しい(close competition)競争が無くなることになる。そうなれば、統合後

の会社は、単独で消費者向けの価格を引き上げ、また販売促進活動を減少

させる能力とインセンティブを有することとなる。

(3) 新規参入

本件において、新規参入が、本件買収による反競争的効果を打ち消すの

に、タイムリーに、かつ十分なインパクトを持って行われる蓋然性が無い。

何故なれば、認知度の高い有効なブランドを立ち上げるのに必要となる初

期投資費用が高額であるが、それを販売する機会が少ないからである。そ

の上、店頭棚の面積が限られていることに鑑みれば、新規参入者が小売店

に対し、既存のブラントを新ブランドに入れ替えさせるという蓋然性がな

いからである。

FTC は 5 対 0 の評決で本件同意命令案を承認した。本件同意命令案は、ヘルスケア・

コストの上昇から消費者を保護するという FTC の政策方針の一環として承認された。

FTCは本日より 30日間、同意命令案などに係るパブリック・コメントを募集している。

その後には、同意命令案を最終的に受け入れるか否かという FTC の最終判断が予定さ

れている。

25 司法省、自動車部品の価格カルテルへの関与を理由に、三菱電機と日立オート

モティブの幹部と元幹部計 7 人が起訴された旨公表(2014 年 9 月 18 日)25

司法省は 9 月 18 日、ミシガン州東部地区大陪審が自動車部品の価格カルテルへの

関与を理由に、三菱電機(本社:東京)の元・現職幹部ら 3 人と日立オートモティブ(本

社:東京)の現職幹部ら 4 人を起訴した旨を公表した。

自動車業界では、各自動車メーカーは、自動車のモデル・チェンジに先立って部品

のサプライヤーを選定している。選定に当たっては、競争入札方式が採用されている。

具体的に、各自動車メーカーは、部品メーカーらに対して見積書の提出を求め、提出

される見積書を精査し、その結果に従い受注者を選定している。

本件の背景として、2010 年 2 月に米国司法省、欧州委員会、及び日本の公正取引委

員会などは、自動車メーカーらが発注する部品の入札を巡り、談合が行われている疑

いがあると思料し、相互に連携しながら捜査を開始した。捜査の結果、とりわけ、米

25 Press Release, Justice Department, Seven Mitsubishi Electric Corp. and

Hitachi Automotive Supply Ltd. Executives Indicted for Role in Conspiracy to Fix

Prices, September 18, 2014.

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国では、これまでに数多くの関連部品メーカーら及びそれらの幹部らが司法省と連邦

大陪審による起訴(それぞれ略式起訴と正式起訴)を受けた。

本件に先立ち、2013 年 9 月 26 日、法人としての三菱電機と日立製作所子会社の日

立オートモティブの両社が、司法省との司法取引に応じた。その一環として、両社そ

れぞれは、米国車に組み込まれる自動車部品(エンジン始動用セルモーター、交流発電

機、イグニッション・コイル等)に係る価格カルテルに関与していたことを認めた。そ

の見返りに、司法省は、本来賦課されるべき罰金よりも低い 1 億 9000 万ドル(約 201

億 4000 万円、1ドル=106 円)を三菱電機に、1 億 9500 万ドル(約 206 億 7000 万円)を

日立オートモティブに、賦課するよう地裁に勧告することに同意した(速報海外ニュー

ス 151 号(海外ニュース 37 号 31 頁)参照)。また、司法省は、本件被告らを含め、三菱

電機の従業員 5 名と日立オートモティブの従業員 6 名を除き、三菱電機及び日立オー

トモティブの従業員らを余罪で追起訴しないことにも同意した。

両社それぞれが被告として記載されている訴状によると、両社それぞれは、少なく

とも 2000 年 1 月から 2010 年 2 月の間、シャーマン法第 1 条に違反し、他社と共謀し

て、米系自動車メーカーら(フォード、ゼネラル・モーターズ等)及び日系自動車メーカ

ーら(ホンダ、日産等)の米国子会社の各社向けに納入された本件自動車部品の価格を

つり上げていた。

本件において、2014 年 9 月 18 日、同大陪審は、同司法取引の対象外とされた三菱

電機の元幹部ウエダ、元幹部クリサキ及び現職幹部サイトウが被告人として記載され

ている起訴状、並びに日立オートモティブの現役幹部らトヨクニ、フナサキ、ツネカ

ワ、及びイタクラが被告人として記載されている起訴状のそれぞれを同地裁に提出し

た。

対象期間中、ウエダは三菱電機オートモティブ・イクイップメント・グループの社

長、またクリサキは三菱電機オートモティブ・イクイップメント・グループの部長を

務めていた。現在、両者は退職している。またサイトウは、対象期間中、三菱電機オ

ートモティブ・イクイップメント・グループの課長を務めており、現在も同グループ

の幹部職を務めている。

現役幹部トヨクニ、フナサキ、ツネカワ、イタクラのそれぞれは、対象期間中、日

立オートモティブ・ビジネス・プランニング部で幹部職を務めており、現在も同社で

様々な幹部職に就いている。

両起訴状によると、各被告人は、米国その他の地域において販売された自動車に組

み込まれている本件自動車部品について、他者と共謀して談合を行い、顧客の割当て

並びに価格の固定、引上げ及び維持を行っていた。

また両起訴状によると、各被告人及びそれらの共謀者らは、本件共謀を締結し、ま

た実施するため、(1)米国の自動車メーカーらに提示される本件部品の入札価格につ

いて話し合う入札参加者の会合に出席し、又は部下らに対し同会合に出席するよう指

示し、(2)同会合で上記自動車メーカーらに示される入札値を決定し、又は部下らに対

して同会合で上記自動車メーカーらに示される入札値を決定するよう指示し、(3)当

該合意に従い本件自動車メーカーらに応札金額を提示し、(4)非競争的な共謀価格で

本件部品を販売し、また(5)同談合の実効性を確保するために同会合を継続した。

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なお、三菱電機の元・現職幹部らが被告人として記載されている起訴状によると、

元幹部クリサキと現職幹部サイトウは、文書の破棄や破棄教唆の罪を共謀していた。

さらに、サイトウは司法省の捜査が明らかになった後に、部下らに本件カルテルに関

する書類やメールを破棄させたとして、司法妨害の罪を犯したとされている。

司法省は、自動車部品メーカーらによる談合・カルテルについて捜査を現在も続け

ている。今回を含め、これまでに 43 名の個人が関与を認めている。なお、部品メーカ

ー28 社が有罪答弁を既に行ったか、又は行うことに同意し、総額 24 億ドル(約 2544 億

円)に上る罰金の支払にも同意している。

本件の起訴は、司法省反トラスト局刑事執行第 1 課、及び FBI(連邦捜査局)デトロイ

ト事務所による、自動車部品産業に対する共同捜査の帰結である。

26 司法省、海運カルテルに関して、川崎汽船が有罪答弁を行いまた罰金 6770 万

ドルを支払うことに同意した旨公表(2014 年 9 月 26 日)26

司法省は 9 月 26 日、海運カルテルに関して、川崎汽船(本社:東京)が同省との司法

取引に応じたことを公表した。同司法取引において、同社は、自動車やトラックを運

ぶ国際輸送船の運賃に係る価格カルテルに関与したことを認め、司法省の捜査に全面

的にかつ継続して協力することに同意した。その見返りとして、同省は本来賦課され

るべき罰金よりも低い 6770 万ドル(約 71 億 7620 万円)を同社に賦課するよう地裁に勧

告することに同意した。

本件被告は、車両を運搬する国際輸送サービスを提供する海運業大手である。被告

は、とりわけ、米国ではバージニア州リッチモンド市に米国子会社を置いている。

本件の背景として、2012 年 9 月ごろ、米国司法省、欧州委員会、及び日本の公正取

引委員会などは、車両運搬を巡り、国際的な価格カルテルが行われている疑いがある

と思料し、相互に連携しながら捜査を開始した。捜査の結果、とりわけ、米国におい

ては、司法省が 2014 年 9 月 26 日に川崎汽船を略式起訴した。

メリーランド州地区地裁に提出された略式起訴状によると、被告は、他社と共謀し

て、東部メリーランド州ボルチモアを中心に米国を出入港する輸送船の国際海運輸送

サービスについて、運賃を固定、引上げ及び維持し、並びに顧客及び航路を割当てて

いた。なお、被告は、少なくとも 1997 年 2 月から 2012 年 9 月の間、本件カルテルに

関与していたとされている。

また略式起訴状によると、被告及びその共謀者らは、同共謀を締結し、また実施す

るため、(1)自動車やトラックを運ぶ輸送船の国際輸送サービスの入札価格について

話し合う入札参加者の会合に出席し、(2)同会合で、国際輸送船の運賃を決定し、特定

の航路において顧客の割当を行い、特定の顧客に対して入札をしないことによって、

又は入札をすることによって、お互いの顧客を奪い合わないことに合意し、(3)特定の

顧客に関する価格情報を交換し、また(4)当該合意に従い、輸送船の国際輸送サービス

に対し共謀的かつ非競争的な運賃を課していた。今後、本件同意は、同裁判所の承認

26 Press Release, Department of Justice, Japanese Company Agrees to Plead

Guilty to Price Fixing on Ocean Shipping Services for Cars and Trucks,

September 26, 2014.

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を受けることとされている。

本件の起訴は、司法省反トラスト局刑事執行第 1 課、及び FBI(連邦捜査局)ボルチモ

ア事務所による、海運業に対する共同捜査の帰結である。捜査には、アメリカ合衆国

税関・国境警備局内部問題課が協力をした。

27 第 10 巡回裁判所、ポリウレタンを巡る価格カルテル事件の集団訴訟で、10.6

億ドルの三倍額賠償命令を承認(2014 年 9 月 29 日)27

第 10 巡回裁判所は 9 月 29 日、ポリウレタンを巡る価格カルテル事件の集団訴訟(ク

ラスアクション)で、10 億 6000 万ドル(約 1123 億 6000 万円)の三倍額賠償命令を下し

た一審判決を支持する二審判決を言い渡した。

ポリウレタンは、ゴムのような弾性を持っているが故に、マットレスや建物の断熱

等の素材として使用されている。ポリウレタン市場では、化学メーカーらは、個別交

渉を通じ当該繊維を商業顧客に販売している。販売はスポット取引又は長期契約によ

って行われている。長期契約の取引で価格の定めがない場合、通常、価格の引上げに

事前の公表が必要である。

本件の背景には、司法省によるポリウレタンを巡る価格カルテルの捜査がある。捜

査の結果、2004 年 3 月に Crompton(Chemtura の前身)が司法省との司法取引に応じ、シ

ャーマン法違反行為を犯したことを認め、同省の捜査に全面的にかつ継続して協力す

ることに同意した。

シャーマン法違反が明らかになった後、ポリウレタンの商業顧客を代表するクラス

アクションが各地裁判所に次々に提起された。これらは広域係属訴訟としてカンザス

州地区地裁に統合された。訴状によると、Dow、Bayer、BASF、Crompton、Huntsman、

及び Lyondell は、共同して、少なくとも 1999 年 1 月から 2003 年 12 月までの間、斉

一的に価格を引き上げた。具体的に、各被告は、並行的に価格引上げの事前公表を行

うこと、また個々の契約でそれが実現できるよう努めることに合意したとされている。

提訴後、Dow を除く被告らは原告側弁護団と和解し、本件訴訟を解決した。

その後、原告側弁護団は、被告らからポリウレタンを購入した商業顧客が共通の利

害関係を有すると主張し、クラスの認証を求めた。クラスアクションに対し適用され

る民事訴訟規則第 23 条は、とりわけ、「クラスの構成員に共通する法律又は事実に関

する問題が各構成員個人にのみ関わる問題よりも優越している」(共通争点の優越性:

同規則第 23 条 B 項 3 号の訴訟類型の要件)ことをクラス認証の要件としている。これに

対して、Dow は、商業顧客の数社が個別交渉により値上げを防ぐことができたはずで

あったと力説した。この様に考えると、原告同士の被害が異なっており、これにより

共通争点の優越性の要件は満たされていないとした。

2008 年 7 月 29 日、同地裁は、価格カルテルの主要な要素、つまり共謀の存在と反

競争的効果の発生がクラス全体に共通する証拠で立証できると判示した。したがって、

共通争点の優越性の要件は満たされていると判示し、クラスの認証を認めた。

その後、陪審裁判が開かれた。裁判では、業界関係者や原告側の専門家証人が証言

した。2013 年 2 月 20 日、陪審は Dow がシャーマン法 1 条に違反し、また 4 億ドル(約

27 In re: Urethane Antitrust Litigation, No. 13-3215 (10th Cir. Sept. 29, 2014).

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424 億円)に及ぶ実損額が発生したと認定した。

裁判後において、Dow は、クラス全体に適用される損害算定方法が提示されなけれ

ばならないとする、最近出された Comcast 事件最高裁判決(Comcast Corp. v. Behrend,

133 S. Ct.1426(2013))に依拠し、クラス認証の取消しを求める申立てをした。これに

対して、2013 年 5 月 15 日、同地裁は、Comcast 事件を本件と区別して、同申立てを却

下した。その上で、4 億ドル(約 424 億円)の実損額を三倍とし、それから和解金額を差

し引き、計 10 億 6000 万ドル(約 1123 億円)の 3 倍額賠償命令を下した。

Dow は、同地裁判決を不服として第 10 巡回裁判所に控訴した。具体的に、Dow は、

(1)共通争点の優越性がないため、クラス認証は取り消されるべきであり、(2)原告側

の専門家証人の証言は除外されるべきであり、また(3)シャーマン法違反を認定する

に足りる十分な証拠が示されていないと主張した。

控訴審において、2014 年 9 月 29 日、同巡回裁判所は、Dow のそれぞれの主張を退

け、地裁判決を承認した。つまり、同巡回裁判所は、(1)クラス認証については、共通

争点が構成員各自の問題に優越しているとして、容認判決を言い渡した。判決理由で、

同巡回裁判所は、個別交渉が行われていたとしても、出発点となる価格が人為的に引

き上げられたと述べた。

次に、同巡回裁判所は、(2)専門家証人について、その証言には十分な信頼性がある

と判示した。その上で、経済モデルに使用された独立変数が恣意的であったとする被

告側の主張は、証拠能力の問題では無く、証言に関するウェイト付の問題であると指

摘した。

さらに、同巡回裁判所は、(3)シャーマン法違反について、価格カルテルを立証する

に足りる十分な証拠が提示されたと判示した。具体的に、価格引上げの斉一的公表が

あったことのみならず、共謀の存在を認める業界関係者の証言があり、共謀的行為が

存在し、超競争的価格が存在し、また市場が共謀に陥り易いという性質であったこと

も示されたと指摘した。

これらの理由により、同巡回裁判所は、本件クラスアクションで 3 倍額賠償を命じ

た一審判決を支持する判決を言い渡した。

28 司法省、自動車部品の価格カルテルへの関与を理由に、日本精工とジェイテッ

クの幹部計 2 人が起訴された旨公表(2014 年 11 月 14 日)28

司法省は 11 月 14 日、トヨタ車向けのベアリングを巡る価格カルテルに関与したと

して、ケンタッキー州東部地区大陪審が、日本精工とジェイテックの日本人幹部を 1

人ずつ起訴した旨を公表した。

ベアリングは、回転している部分の摩擦を減らし、運動をなめらかにする部品であ

り、自動車ではホィール・ハブなど数多くの箇所で使用されている。ベアリングを調

達する際、トヨタ自動車は、車種ごとに競争入札の方法により、部品メーカーを選定

している。具体的に、トヨタ自動車は、部品メーカーらに対して見積書の提出を求め、

28 Press Release, Justice Department, Two Executives of Japanese Automotive

Parts Manufacturers Indicted for their Role in a Conspiracy to Fix Prices and Rig

Bids, November 14, 2014.

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提出される見積書を精査し、その結果に従い受注者を選定している。

本件の背景として、2010 年 2 月に米国司法省、欧州委員会、及び日本の公正取引委

員会などは、自動車メーカーらが発注する部品の入札を巡り、談合が行われている疑

いがあると思料し、相互に連携しながら捜査を開始した。捜査の結果、とりわけ米国

では、これまでに多くの関連部品メーカーとそれらの幹部が起訴(司法省による略式起

訴又は大陪審による正式起訴)された。

本件に先立ち、2013 年 9 月 26 日、法人としての日本精工(本社:東京)とジェイテッ

ク(本社:大阪)それぞれが司法省との間で司法取引を行い、罪を認めた。司法取引の

一環として、両社は、連邦大陪審による正式起訴を受ける権利を放棄して、米国その

他の地域で製造販売されるトヨタ製の自動車に組み込まれるベアリングに係る価格カ

ルテルに関与したと認めた。その見返りに、司法省は、本来賦課されるべき罰金より

も低い 6820 万ドル(約 79 億 7940 万円、1 ドル=117 円)を日本精工に、また 1 億 327 万

ドル(約 120 億 8259 万円)をジェイテックに、それぞれ賦課するようオハイオ州南部地

区地裁に勧告することに同意した(速報海外ニュース 151号(海外ニュース 37号 31頁))。

また、司法省は、同省の審査に全面的にかつ継続して協力した従業員等を余罪で追起

訴しないことにも同意した。

しかし、司法省は、違反行為を行った等とみられる日本精工の本件幹部ヒロセ(被告

人)等 2 名とジェイテックの本件幹部イワミ(被告人)等 3 名については、非訴追保護か

ら除外(カーブアウト)したのだ。同地裁に提出された両略式起訴状によると、日本精

工及びジェイテックそれぞれは、遅くとも 2000 年から少なくとも 2011 年 7 月にかけ

て、他社と共謀して、トヨタに販売されるベアリングの価格を釣り上げていた。

その後、日本精工は 2013 年 10 月 28 日に、ジェイテックは 2013 年 12 月 3 日に、

それぞれ司法取引に従い同地裁で有罪の答弁を行い、上記罰金の支払に同意した。

本件において、司法省は、両社への罰金の賦課にとどまらず、両社の従業員に対す

る禁固刑の言い渡しをも求めることとした。具体的に、本年 11 月 13 日、ケンタッキ

ー州東部地区大陪審は、同司法取引の対象外とされた幹部ヒロセ、イワミの両者をケ

ンタッキー州東部地区地裁に起訴した。

起訴状によると、両被告人は、遅くとも 2001 年から少なくとも 2011 年 7 月にかけ

て、米国その他の地域において販売されたトヨタ自動車に組み込まれるベアリングに

ついて、他社と共謀して談合を行い、価格の固定、引上げ及び維持を行っていた。ま

た、それによると、両被告人及びその共謀者らは、本件共謀を締結し、また実施する

ため、(1)トヨタ自動車の米国子会社に提示されるベアリングの入札価格について話

し合う入札参加者の会合に出席し、又は部下らに対し同会合に出席するよう指示し、

(2)同会合で、同社に提示される入札参加者の入札値を決定し、又は部下らより提示さ

れる入札値を承認し、(3)同社に応札価格を提示し、又は部下らに対し同社に応札価格

を提示するよう指示し、また(4)同社に同部品を非競争的な共謀価格で販売した。

本件幹部イワセは、対象期間のうち、少なくとも 2006 年 1 月から 2009 年までの間、

日本精工中部日本自動車部の販売担当課長、次いで 2009 年から 2011 年までの間、同

中部日本自動車部の部長を務めていた。なお、幹部イワミは、対象期間のうち、少な

くとも 1999 年から 2007 年 10 月までの間、ジェイテック東京支店で課長、次いで部

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長を務め、また 2007 年 10 月から 2009 年 6 月までの間、同支店の次長を務めていた。

司法省は自動車部品メーカーらによる談合・カルテルについて捜査を現在も続けて

いる。今回を含め、これまでに 46 名が関与を認めている。このうちの 26 人は既に有

罪答弁を行い、1 年 1 日から 2 年までの間の禁固刑に服することに同意している。な

お、部品メーカー30 社が有罪答弁を既に行ったか、又は行うことに同意し、また総額

24 億ドル(約 2808 億円)に上る罰金の支払にも同意している。

29 司法省、自動車関連部品の価格カルテルに関し、アイシン精機が関与を認めた

旨公表(2014 年 11 月 13 日)29

司法省は 11 月 13 日、自動車関連部品の価格カルテル事件で、アイシン精機が同省

との司法取引に応じた旨を公表した。司法取引において、同社は、米国車に組み込ま

れる可変バルブ・タイミング機構に係る価格カルテルに関与したことを認めた。

司法取引の一環として、同社は、連邦大陪審による正式起訴を受ける権利を放棄し

て有罪の答弁を行い、また司法省の捜査に全面的にかつ継続して協力することに同意

した。その見返りとして、司法省は、本来賦課されるべき罰金よりも低い 3580 万ドル

(約 41 億 8860 万円)を同社に賦課するようインディアナ州南部地区地裁に勧告するこ

とに同意した。

本件の背景として、2010 年 2 月に米国司法省、欧州委員会、及び日本の公正取引委

員会などは、自動車メーカーらが発注する部品の入札を巡り、談合が行われている疑

いがあると思料し、捜査を開始した。捜査の結果、とりわけ米国司法省は、司法取引

を通じて、これまでに数多くの部品メーカーらとそれらの幹部らから有罪の答弁を得

た。

本件対象部品の可変バルブ・タイミング機構は、自動車エンジンの吸気・排気バル

ブの開閉制御に関する部品である。各自動車メーカーは、可変バルブ・タイミング機

構を調達するに際し、エンジン・モデルごとに競争入札の方法により、部品メーカー

を選定している。具体的に、各自動車メーカーそれぞれは、部品メーカーらに対して

見積書の提出を求め、提出される見積書を精査し、その結果に従い受注者を選定して

いる。

本件被告・アイシン精機(本社:愛知県刈谷市)は、自動車部品メーカーの大手であり、

米国では、とりわけミズーリ州ノースヴィル市に現地法人を置いている。

本件において、本年 11 月 13 日、司法省は、同司法取引の下、アイシン精機が、

General Motors(米国)、日産自動車(日本)、Volvo(スウェーデン)及び BMW(ドイツ)を含

む自動車メーカーら並びにそれらの子会社らに販売される可変バルブ・タイミング機

構に係る価格カルテルに関与していたとして、同社をインディアナ州南部地区地裁に

略式起訴した。略式起訴状によると、被告は遅くとも 2000 年 9 月から少なくとも 2010

年 2 月にかけて、本件談合に関与していた。なお、それによると、被告は、本件共謀

を締結し、また実施するため、(1)当該自動車メーカーらに提示される可変バルブ・タ

29 Press Release, Justice Department, Aisin Seiki Co. Ltd. Agrees to Plead Guilty

to Customer Allocation on Automobile Parts Installed in U.S. Cars, November 13,

2014.

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イミング機構の入札価格について話し合う入札参加者の会合に出席し、(2)同会合で、

当該自動車メーカーらに提示される同部品の入札値をエンジン・モデルごとに決定し、

(3)同決定に従い、当該自動車メーカーらに応札金額を提示し、(4)非競争的な共謀価

格で同部品を当該自動車メーカーらに納入し、また(5)同談合の実効性を確保するた

めに同会合を継続した。

司法省は、自動車部品メーカーらによる談合・カルテルについて捜査を現在も続け

ている。今回を含め、これまでに部品メーカー31 社及び個人 46 人が起訴されている。

31 社すべては、有罪答弁を既に行ったか、又は行うことに同意し、また総額 24 億ド

ル(約 2808 億円)に上る罰金の支払にも同意している。さらに、46 人のうち 26 人が禁

固刑の宣告を既に受けたか、又は受けることに同意したという有罪答弁協定書を締結

した。

30 司法省、自動車部品の価格カルテルへの関与を理由に、日立金属が有罪答弁を

行いまた 125 万ドルの罰金を支払うことに同意した旨公表(2014 年 10 月 31

日)30

司法省は 10 月 31 日、自動車部品の価格カルテルへの関与を理由に、日立金属(日立

電線を吸収合併した利益承継者)が同省との司法取引に応じた旨を公表した。司法取引

において、同社は、米国のトヨタ車向けのブレーキ・ホースに係る価格カルテルに関

与したと認めた。

司法取引の一環として、同社は、連邦大陪審による正式起訴を受ける権利を放棄し

て有罪の答弁を行うこと、また捜査に全面的にかつ継続して協力することに同意した。

その見返りとして、司法省は、本来賦課されるべき罰金よりも低い 125 万ドル(約 1 億

4625 万円)を同社に賦課するようオハイオ州北部地区地裁に勧告することに同意した。

本件被告・日立金属は、東京に本社を置く機械部品メーカーである。同社は、とり

わけ、米国では、インディアナ州ニュー・オールバニー市に現地法人を置いている。

本件対象部品のブレーキ・ホースは、自動車のマスター・シリンダーからキャリパ

ーまでブレーキ・オイルを通すホースのことである。トヨタ自動車は、ブレーキ・ホ

ースを調達するに際し、車種ごとに競争入札の方法により、部品メーカーを選定して

いる。具体的に、トヨタ自動車は、部品メーカーらに対して見積書の提出を求め、提

出される見積書を精査し、その結果に従い受注者を選定している。

本件の背景として、2010 年 2 月に米国司法省、欧州委員会、及び日本の公正取引委

員会などは、自動車メーカーらが発注する部品の入札を巡り、談合が行われている疑

いがあると思料し、相互に連携しながら捜査を開始した。捜査の結果、とりわけ米国

司法省は、司法取引を通じて、これまでに数多くの部品メーカーらとそれらの幹部ら

から有罪の答弁を得た。

本件において、司法省は、日立金属が北米トヨタの自動車に組み込まれるブレーキ・

ホースを巡る価格カルテルに関与したとして、同社をオハイオ州北部地区地裁に略式

30 Press Release, Justice Department, Hitachi Metals Ltd. Agrees to Plead Guilty

for Fixing Prices and Rigging Bids on Automobile Parts Installed in U.S. Cars,

October 31, 2014.

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起訴した。略式起訴状によると、被告は、シャーマン法第 1 条に違反し、他社と共謀

して、北米トヨタの自動車に組み込まれるブレーキ・ホースについて、価格の固定、

引上げ、及び維持を行っていた。なお、それによると、被告は、少なくとも 2005 年 11

月から 2009 年 9 月までの間、本件価格カルテルに関与していたとされている。また、

シャーマン法違反の時効が 5 年であるため、被告は、捜査への協力の一環として、司

法省との間で、2013 年 12 月 1 日から 2014 年 10 月 31 日までの間、時効を中断させる

ことに同意したとされている。

また略式起訴状によると、被告及びその共謀者らは、本件共謀を締結し、また実施

するため、(1)北米トヨタに提示されるブレーキ・ホースの入札価格について話し合う

入札参加者の会合に出席し、(2)同会合で、北米トヨタに提示される入札参加者の入札

値を車種ごとに決定し、(3)北米トヨタに応札金額を提示し、(4)北米トヨタに対し同

部品を共謀的かつ非競争的な価格で販売した。今後、本件同意は、同裁判所の承認を

受けることとされている。

本件は、自動車メーカーらに販売される関連ブレーキ・ホースに関する初めての摘

発である。

司法省は自動車部品メーカーらによる談合・カルテルについて捜査を現在も続けて

いる。これまでに 44 名の個人が関与を認めている。なお、本件被告を含め、部品メー

カー30 社が有罪答弁を既に行ったか、又は行うことに同意し、また総額 24 億ドル(約

2808 億円)に上る罰金の支払にも同意している。

31 オハイオ州南部地区地裁、病院らのジョイント・ベンチャーが共謀の主体とな

り得ない単一主体に過ぎないと判示(2014 年 10 月 20 日)31

オハイオ州南部地区地裁は 10 月 20 日、被告・病院システムらのジョイント・ベン

チャーがシャーマン法 1 条違反の要件たる共謀の存在を充足し得ない単一主体に過ぎ

ないと判示し、被告ら勝訴の略式判決を下した。

本件において、オハイオ州西南部地域における病院システムを運営する被告・

Catholic Health Initiatives、MedAmerica Health Systems、Atrium Health System、

Samaritan Health Partners 及び Upper Valley Medical Center は、相互に競争して

いたが、ジョイント・ベンチャーたる被告・Premier Health Partners(以下「Premier」

という。)を結成し、共同事業協定(joint operating agreement)を締結した。当該病院

システムらは、カトリックの病院である Samaritan Health Partners がカトリックの

病院であるというアイデンティティを保ちたかったが故に、合併による統合形態をと

らなかった。

被告らは、資産を共有していないが、業務運営上また財務上の権限を Premier に委

任している。例えば、各病院システムはそれぞれの収入を Premier にプールし、プー

ルされた収入は病院システムそれぞれの収入にかかわらず、一定割合で各病院システ

ムに配分されている。また Premier は各病院システムを代理して、医療保険者との交

渉を行い、医療費支払契約を締結している。さらに、Premier は医療スタッフの認定

31 Medical Center at Elizabeth Place v. Premier Health Partners et, al., No. 12-

cv-26 (S.D. Oh. Oct. 20, 2014).

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基準を承認し、それに基づき医療スタッフの採用を管理している。

本件の原告・Medical Center at Elizabeth Place 病院は、オハイオ州西南部に位

置するデイトン市において 26 のベッドを有する緊急治療病院である。原告は、被告ら

がシャーマン法第 1 条に違反し、原告の排除を目的とする共同ボイコットを実施した

と主張し、被告らをオハイオ州南部地区地裁に提訴した。訴状によると、被告らは、

共同して、医療保険者らに対しそれらの保険ネットワークに原告を入れないよう強要

したり、また医師らに対し原告と提携しないよう強要したりしたとされている。

その後、被告ら側は、Premier と同病院システムらがシャーマン法 1 条違反の要件た

る共謀の存在を充足しえない単一主体に過ぎないと主張し、略式判決を求める申立てを

した。これに対して、原告側は、資産の共有が無く、被告ら病院システムが独立して所

有・運営されているため、被告らが単一主体に該当するか否かについては、真正な争点

があると主張した。

これを受け、本年 10 月 20 日、同地裁は、さまざまな法的主体同士が統合された単

一の経済主体とみなされるため、どの程度の経済統合が必要であるかについて言及し、

その上で、被告ら勝訴の略式判決を下した。

つまり、同地裁は、まず、1983 年 Copperweld 事件最高裁判決(467 U.S. 752)及び

2010 年 American Needle 事件最高裁判決(560 U.S. 183)に依拠し、これらの先例は資

産の共有の有無を根拠とした線引きを行っていないと指摘した。つまり、形式ではく、

機能、また当事者らが市場において実際にどの様な活動を行っているのかに焦点を当

てるべきだとした。

その上で、同地裁は、本件において、被告病院システムらは資産の共有を行ってい

ないが、収入共有協定、医療保険者らとの契約等で示されるように、業務運営上、ま

た財務上の権限が Premier に委任されていると判示した。したがって、同地裁は、本

件の事実関係では、独立した別々の経済主体が存在するとは認定できないと判示した。

これらの理由により、同地裁は、被告らが共謀の主体となり得ない「単一の統一され

た経済主体」(“a single, unified economic unit”)であることについて、真正な争点が

ないと判示し、被告ら勝訴の略式判決を下した。

32 第 7 巡回裁判所、液晶パネル・カルテル訴訟でシャーマン法の域外適用を否

定(2014 年 11 月 26 日)32

第 7 巡回裁判所は 11 月 26 日、被告(被控訴人)液晶パネル・メーカーら(三洋電機(日

本)、Samsung(韓国)、AU Optronics(台湾)等)が国際カルテルを締結したとして、原告

(控訴人)Motorola(米国 )が海外取引反トラスト改善法 (Foreign Trade Antitrust

Improvements Act)に基づきシャーマン法の域外適用を求めた訴訟の控訴審で、再審理

後、被告ら勝訴の判決を再度承認する二審判決を言い渡した。

原告及び原告の外国子会社らそれぞれは、被告らから液晶パネルを購入し、それら

を携帯電話に搭載し、同携帯電話を販売している。本訴訟の対象となった液晶パネル

は以下の流通・製造過程を辿った。

32 Motorola Mobility LLC v. AU Optronics Corp., No. 14-8003, (7th Cir. Nov.

26, 2014).

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(A)原告(外国子会社を含む)が被告らから購入した液晶パネルの 1%は、原告親会

社に販売され、携帯電話に搭載された。同携帯電話は米国で販売された。(B)液晶パネ

ルの 42%は、原告の外国子会社らに販売され、携帯電話に搭載された。携帯電話は米

国での再販売のために原告親会社に販売された。(C)液晶パネルの 57%は、同様に、

原告の外国子会社に販売され、携帯電話に搭載された。しかし、同携帯電話は米国以

外の諸外国で販売された。

本件の背景として、米国司法省は、液晶パネルを巡る国際価格カルテルが行われて

いる疑いがあるとみて、捜査を開始した。捜査の結果、とりわけ、AU Optronics が原

告の外国子会社向けの液晶パネルに係る価格カルテルに関与したとして、有罪判決を

受けた。

捜査開始後、捜査に追随し、2009 年 10 月、原告は、被告らが海外取引反トラスト

改善法に基づくシャーマン法第 1 条違反行為を行ったと主張し、イリノイ州北部地区

地裁に三倍額賠償訴訟を提起した。

海外取引反トラスト改善法は国際礼譲を考慮し、反トラスト法の域外適用の実施を

限定している。海外取引反トラスト改善法によれば、米国反トラスト法は、輸入通商

だけではなく、(1)米国内の取引に対し直接的、実質的かつ合理的に予見可能な弊害を

もたらし(direct, substantial, and reasonably foreseeable effect)、なおかつ(2)

シャーマン法違反行為の構成要件を満たしている行為に適用される。この様に、(1)の

要件は反トラスト法違反行為が行われたか否かを判断するものであり、(2)の要件は

誰が提訴権を有するかを判断するものである。

これに対して、被告らは、原告の外国子会社らが液晶パネルを購入した(B)と(C)の取

引について、法令違反がないことに真正な争点がないと主張し、部分的略式判決を求め

る申立てをした。これを受け、2014 年 1 月 23 日、地裁は、被告ら勝訴の部分的略式判

決を言い渡した。判決理由で、地裁は、(A)の取引について、それが輸入通商に該当す

るため、シャーマン法の適用があると判示した。また(B)の取引については、国内通商

に対する直接かつ実質的な効果がないため、シャーマン法の適用はないと判示した。さ

らに(C)の取引については、米国市場との接点がないため、シャーマン法の適用はない

と判示した。

控訴審において、2014 年 3 月 27 日、シカゴの第 7 巡回裁判所(ポスナー判事)は地裁

判決を承認する判決を言い渡した。争点は(B)の取引であった。この点、同巡回裁判所

は、海外取引反トラスト改善法の 2 つの要件の両方が満たされていないと判示し、地

裁判決を承認した。

その後、同巡回裁判所は、控訴審判決を取り消し、再審理を行い、米国司法省及び

日本の経済産業省を含む諸外国政府から意見書(法廷の友)を受け付けた。

法廷の友において、司法省は、本件カルテルが国内通商に対し直接、実質的、かつ

合理的に予見可能な効果を及ぼしたと判断するよう同控訴審に要請し、シャーマン法

上の刑事規定等が適用可能であると主張した。

なお、日本の経済産業省は、域外適用が三倍額賠償訴訟にまで拡大されたとすれば、

日本政府が国内通商を規制できる能力が妨げられるであろうと主張し、慎重な判断を

求めた。

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2014 年 11 月 26 日、同巡回裁判所は、再審理後、前判決の理由を変更したが、地裁

判決を再度承認する控訴審判決を言い渡した。判旨は以下のとおりである。

(1)の要件を検討すると、(B)の取引は単にわずかな波紋を起こしたもの

ではなく、実質的効果をもたらす程のものであった。この点、どの外国政

府も司法省が(B)の取引を対象に刑事訴追をしたことに反対していない。

(2)の要件を検討すると、原告の外国子会社は本件カルテルの「直接的な

被害者」(“immediate victim”)であり、原告親会社自身は派生的にしか損害

を被っていない。ところが、同外国子会社は、その外国で競争法上の救済

を求めることができるものの、連邦シャーマン法上の救済を求めることが

できない。他方、原告親会社自身は、同外国子会社のためにシャーマン法

上の救済を求める訴訟を提起することができない。なお、原告親会社は、

間接的購入者であるため、間接的購入者ルールにより、三倍額賠償訴訟を

提起する資格を有していない。さらに、私人である原告が司法省の様に諸

外国の主権に配慮し、国際礼譲を考慮するとは思えない。

これらの理由により、同巡回裁判所は、海外取引反トラスト改善法の 2 つの要件の

うちの 2 つ目が満たされていないと判示した。したがって、同巡回裁判所は、前判決

の理由を変更したが、被告ら勝訴の地裁判決を再度承認する判決を言い渡した。

33 司法省、自動車部品の価格カルテルに関して、ティラドの幹部が有罪答弁を行

うことに同意した旨公表(2014 年 12 月 1 日)33

司法省は 12 月 1 日、米国で製造販売されるホンダ製の自動車に取り付けられるラ

ジエーターを巡る価格カルテルに関し、ティラドの日本人幹部 1 名が同省との司法取

引に応じた旨を公表した。

司法取引において、本件幹部タムラは、大陪審起訴(正式起訴)を受ける権利を放棄

して有罪の答弁を行うこと、また司法省の捜査に全面的にかつ継続して協力すること

に同意した。その見返りとして、司法省は、本来科せられる刑罰よりも軽い、禁固刑

1 年 1 日及び罰金刑 2 万ドル(約 232 万円、1 ドル=116 円)を同幹部に科すようミシガ

ン州東部地区地裁に勧告することに同意した。今後、本件同意は、地裁の承認を受け

ることとされている。

ティラド(本社:東京)は、ラジエーター等の自動車部品を製造販売する部品メーカ

ーである。ラジエーターとは、水冷エンジンに搭載される冷却器のことである。なお、

同幹部タムラはティラドで部長職に就いている。

本件に先立ち、2013 年 9 月 26 日、法人としてのティラドは、米国で製造販売され

るホンダ製の自動車に取り付けられるラジエーター等を巡る価格カルテルに関し、司

法省との間で司法取引を行い、罪を認めた。司法取引の一環として、同社は、大陪審

起訴を受ける権利を放棄して有罪の答弁を行うこと、また司法省の捜査に全面的にか

つ継続して協力することに同意した。その見返りとして、司法省は、本来賦課される

33 Press Release, Department of Justice, T. Rad Executive Agrees to Plead

Guilty to Bid Rigging and Price Fixing on Automobile Parts Installed in U.S.

Cars, December 1, 2014.

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べき罰金よりも低い 1375 万ドル(約 15 億 9500 万円)を同社に賦課するようミシガン州

東部地区地裁に勧告することに同意した。また、司法省は、同省の捜査に全面的にか

つ継続して協力した従業員を余罪で追起訴しないことにも同意した。しかし、司法省

は、違反行為を行ったとみられる本件幹部等 2 名を司法取引の対象外とし、非訴追保

護から除外(カーブアウト)した。カーブアウト対象者 2 名の名称は、起訴前であった

が故に適正手続や社会的烙印との関係で問題があるとして、公表不可(2013 年 4 月か

らの方針)とされた。この様に、司法省は、カーブアウト対象者らを別途起訴できるよ

うにした。

2013 年 11 月、法人としてのティラドは司法取引に基づき、公開法廷の場で起訴事

実を認めて有罪であるとの答弁を行い、罰金を支払うことに同意した。

本件において、司法省は、両社への罰金の賦課にとどまらず、両社の従業員に対す

る禁固刑の言い渡しをも求めることとした。その結果、幹部タムラは司法省との司法

取引に応じ、2014 年 12 月 1 日に別途起訴された。検察官の起訴状(略式起訴状)による

と、タムラは、遅くとも 2002 年 11 月から少なくとも 2010 年 2 月にかけて、米国で製

造販売されるホンダ製の自動車に取り付けられるラジエーターについて、他者と共謀

して、談合を行い、価格の固定、引上げ及び維持を行っていた。

自動車部品に係るカルテルについては、今回を含めこれまでに 48 名が起訴されて

いる。なお、部品メーカー32 社が有罪答弁を既に行ったか、又は行うことに同意し、

また総額 24 億ドル(約 2784 億円)に上る罰金の支払にも同意している。

本件起訴は、現在進行中の自動車部品産業における入札談合、価格カルテル及び別

の反競争的行為に対する反トラスト審査から生じたものである。本件の審査は、司法

省反トラスト局全米刑事執行課及び FBI(連邦捜査局)デトロイト支局により行われた。

34 司法省、自動車部品の価格カルテルに関して、ミツバの元幹部が有罪答弁を行

うことに同意した旨公表(2014 年 12 月 1 日)34

司法省は 12 月 1 日、米国で製造販売されるホンダ製の自動車に組み込まれるウイ

ンド・シールドワイパー・システム及びスターター・モーターの価格カルテルに関し、

ミツバの元幹部 1 名が同省との司法取引に応じた旨を公表した。

司法取引において、本件元幹部ウマハシは、大陪審起訴(正式起訴)を受ける権利を

放棄して有罪の答弁を行うこと、また司法省の捜査に全面的にかつ継続して協力する

ことに同意した。その見返りとして、司法省は、本来科せられる刑罰よりも軽い、禁

固刑 13 か月及び罰金刑 2 万ドル(約 232 万円)を同元幹部に科すようミシガン州東部地

区地裁に勧告することに同意した。今後、本件同意は、地裁の承認を受けることとさ

れている。

ミツバ(本社:群馬県)は、スターター・モーター及びウインド・シールドワイパー・

システム等の部品を製造販売する自動車部品メーカーである。とりわけ、スターター・

モーターとは、自動車エンジンの内燃機関を作動させるための電池式電動機のことで

34 Press Release, Department of Justice, Former Mitsuba Executive Agrees to

Plead Guilty to Bid Rigging and Price Fixing on Automobile Parts Installed

in U.S. Cars, December 1, 2014.

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ある。なお、日本人である本件元幹部ウマハシは、同社で部長職に就いていた。

本件に先立ち、2013 年 9 月 26 日、法人としてのミツバは米国で製造販売される自

動車(ホンダ製等)に組み込まれる部品(スターター・モーター及びウインド・シールドワ

イパー・システム等)の価格カルテルに関し、司法省との間で司法取引を行い、罪を認

めた。司法取引の一環として、同社は、大陪審起訴を受ける権利を放棄して有罪の答

弁を行うこと、また司法省の捜査に全面的にかつ継続して協力することに同意した。

その見返りとして、司法省は、本来賦課されるべき罰金よりも低い 1 億 3500 万ドル

(約 156 億 6000 万円)を同社に賦課するようミシガン州東部地区地裁に勧告することに

同意した。また、司法省は、同省の捜査に全面的にかつ継続して協力した従業員を余

罪で追起訴しないことにも同意した。しかし、司法省は、違反行為を行ったとみられ

る本件幹部等 5名を司法取引の対象外とし、非訴追保護から除外(カーブアウト)した。

カーブアウト対象者 5 名の名称は、起訴前であったが故に適正手続や社会的烙印との

関係で問題があるとして、公表不可(2013 年 4 月からの方針)とされた。したがって、

司法省は、カーブアウト対象者らを別途起訴できるようにした。

2013 年 11 月 6 日、法人としてのミツバは司法取引に基づき、公開法廷の場で起訴

事実を認めて有罪である旨の答弁を行い、また罰金を支払うことに同意した。

本件において、司法省は、両社への罰金の賦課にとどまらず、両社の従業員に対す

る禁固刑の言い渡しをも求めることとした。その結果、同元幹部は司法省との司法取

引に応じ、2014 年 12 月 1 日に別途起訴された。検察官の起訴状(略式起訴状)による

と、同元幹部ウマハシは、遅くとも 2005 年 6 月から少なくとも 2009 年 12 月にかけ

て、米国で製造販売されるホンダ製の自動車に組み込まれるウインド・シールドワイ

パー・システム及びスターター・モーターの部品について、他者と共謀して、談合を

行い、価格の固定、引上げ及び維持を行っていた。

自動車部品に係るカルテルについては、今回を含めこれまでに 48 名が起訴されて

いる。なお、部品メーカー32 社が有罪答弁を既に行ったか、又は行うことに同意し、

また総額 24 億ドル(約 2784 億円)に上る罰金の支払にも同意している。

本件起訴は、現在進行中の自動車部品産業における入札談合、価格カルテル及び別

の反競争的行為に対する反トラスト審査から生じたものである。本件の審査は、司法

省反トラスト局全米刑事執行課及び FBI(連邦捜査局)本部の国際汚職ユニットの協力

を受けた FBI デトロイト支局により行われた。

35 FTC、製薬大手 Eli Lilly による Novartis 動物健康部門の取得を条件付きで

容認(2014 年 12 月 22 日)35

国際的な製薬会社 Eli Lilly(米国)による Novartis 動物用医薬品部門(スイス)の取

得が反競争的効果をもたらすおそれがあると FTC(連邦取引委員会)が主張していたと

ころ、Eli Lilly は犬糸状虫病の治療に使用されるブランド薬 Sentinel の製品ライ

ンを売却して問題を解消することに同意したということを、同委員会は 12 月 22 日、

公表した。取得金額はおおよそ 54 億ドル(約 6318 億円、1 ドル=117 円)である。また

35 Press Release, Federal Trade Commission, FTC Puts Conditions on Eli

Lilly’s Proposed Acquisition of Novartis Animal Health, December 22, 2014.

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和解案の下、Eli Lilly は Sentinel 製品ラインを製薬会社 Virbac(フランス)に売却

しなければならない。

Eli Lilly(本社:インディアナ州インディアナポリス市)の Elanco 動物用医薬品部門

と Novartis の動物用医薬品部門の両者は、ペットや家畜の病気の治療に使用される

医薬品を含め、広範囲にわたる動物用医薬品の開発・生産・販売に従事している。

本件における関連製品は犬糸状虫病用医薬品である。同医薬品は犬の心臓に寄生す

る糸状虫の予防と対策に使用されている。また、同医薬品は様々な経路を通じ犬の体

内に投与されており、口から飲む経口剤、針を刺して注入する注射剤、犬の皮膚に塗

る塗り薬が市場化されている。

2014 年 12 月 22 日、FTC は Eli Lilly と Novartis が被審人として記載されている

申立書(Complaint)を発出した。申立書によると、本件取得は FTC 法第 5 条に違反し、

競争を実質的に減殺させ、価格の引上げをもたらす蓋然性がある。市場分析の結果は

以下のとおりである。

(1) 関連市場

関連製品市場は犬糸状虫病用医薬品の研究開発・生産・販売市場であり、

関連地理的市場は米国市場である。

(2) 市場構造

関連市場は高度寡占的である。業界第 1 位の供給者 Eli Lilly は、ブラ

ンド薬 Trifexis の販売で 35%以上の市場シェアを有する。第 2 位の供給

者 Merial は、ブランド薬 Heartgard と Heartgard Plus の販売で合計 30%

の市場シェアを有する。経口剤である両医薬品はノミ駆除薬ではない。第

3 位の供給者 Novartis は、ブランド薬 Sentinel の販売で 8%の市場シェ

アを有する。その他にも主要な競争者としては Zoetis があり、ブランド薬

Revolution と ProHeart 6 を市場化している。Revolution は皮膚に塗布す

る配合剤である。また ProHeart 6 はノミには対応しない注射剤である。よ

って、本件取得は、最も激しく競争している 2 社を統合し、市場集中度を

著しく高め、43%の市場シェアを有する単一企業の誕生をもたらすもので

ある。

(3) 新規参入

新規参入が本件取得の反競争的効果を抑止又は打ち消すのに、タイムリ

ーに、かつ十分な規模で行われる蓋然性が無い。参入障壁としては、①研

究開発に必要とされる長い期間、②食品医薬品局 (Food and Drug

Administration)などの許認可要件、③有名なブランド薬を確立し、それを

使用することを獣医に説得する難しさ、がある。

(4) 反競争的効果

計画どおりに本件取得が実施されれば、ブランド薬 Trifexisと Sentinel

との間の激しい競争が消滅し、よって関連市場における競争が実質的に減

殺されるおそれがある。Trifexis と Sentinel だけがノミに対応する経口

剤であるが故に、両医薬品は最も激しく競争している。1 つの経口剤で、

ノミと犬糸状虫病に対処できることは特に重要である。何故ならば、塗り

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薬の持つ汚らしさや匂いを防ぎながら、1 つの経口剤で便利に 2 つの症状

に対応できるからである。この様に、両医薬品は他の犬糸状虫病用医薬品

にない治療の範囲と利便性を組み合わせている。よって、本件買収後、当

事会社が単独で価格を引上げることとなるであろう。

同日、本件申立書と同時に、本件和解に基づき、同意命令案が発出された。同意命

令案は、提案された本件取得の反競争的効果を是正するため、取得当事者らに対して、

ブランド薬 Sentinel の製品ライン及び関連資産を Virbac に売却することを義務付け

た。

FTC は 5 対 0 の評決で本件同意命令案を承認した。FTC は本日より 30 日間、同意命

令案などに係るパブリック・コメントを募っている。その後には、同意命令案を最終

的に受け入れるか否かという FTC の最終判断が予定されている。

36 司法省、日本郵船が車両運搬の海運カルテルに関与したとして有罪答弁を行

うことに同意した旨公表(2014 年 12 月 29 日)36

司法省は 12 月 29 日、自動車やトラック等の ro-ro 貨物(roll-on, roll-off cargo)

を運ぶ国際輸送船の運賃を巡るカルテルについて、日本郵船(本社:東京)が同省との

司法取引に応じた旨を公表した。

司法取引において、日本郵船は、大陪審起訴(正式起訴)を受ける権利を放棄して、

有罪の答弁を行うこと、また司法省の捜査に全面的にかつ継続して協力することに同

意した。その見返りとして、司法省は、本来賦課されるべき罰金よりも低い 5940 万ド

ル(約 69 億 4980 万円)を同社に賦課するようメリーランド州地区地裁に勧告すること

に同意した。今後、本件同意は、地裁の承認を受けることとされている。

2014 年 12 月 29 日、司法省はシャーマン法 1 条違反の罪で日本郵船をメリーランド

州地区地裁に略式起訴(検察官の起訴)した。略式起訴状によると、日本郵船は、他

社と共謀して、東部メリーランド州ボルチモアを中心に米国を出入港する輸送船が運

ぶ ro-ro 貨物の国際海運輸送サービスについて、運賃を決定し、また顧客や航路ごと

に受注を調整することにより、競争を制限した。日本郵船は、遅くとも 1997 年 2 月か

ら 2012 年 9 月にかけて、本件共謀に関与していたとされている。日本郵船は海運業に

対する捜査で有罪を認めた三番目の企業であり、これにより、罰金総額は 1 億 3500 万

ドル(約 157 億 9500 万円)までに膨れ上がった。

Ro-ro 貨物とは、ro-ro 船(フェリーのようにランプを備え、トレーラーなどの車両を

収納する車両甲板を持っている貨物船―筆者注)に載せることのできる、コンテナに入

っていない貨物のことである。例としては、新車と中古の自動車やトラック並びに建

設と農業用の機械がある。

略式起訴状によると、日本郵船及びその共犯者らは、運賃を決定し、特定の顧客や

航路に対して入札をしないことによって、又は入札をすることによってお互いの顧客

や航路を奪い合わないことに合意し、また顧客情報を交換していた。なお、これらの

36 Press Release, Department of Justice, Third Company Agrees to Plead

Guilty to Price Fixing on Ocean Shipping Services for Cars and Trucks,

December 29, 2014.

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企業は、当該協定に基づき、米国を出入港する輸送船が運ぶ一定の ro-ro 貨物の国際

海運輸送サービスについて、共謀的かつ非競争的な運賃を課していたとされている。

本件略式起訴は、司法省反トラスト局刑事執行第 1 課、及び FBI(連邦捜査局)ボルチ

モア事務所による、海運業に対する共同捜査の帰結である。捜査には、アメリカ合衆

国税関・国境警備局内部問題課が協力をした。

37 司法省、自動車部品の価格カルテルに関し、豊田合成の元幹部が有罪答弁を

行うことに同意した旨公表(2015 年 1 月 6 日)37

司法省は、米国で製造販売されるトヨタ製の自動車に搭載されるゴムホースの価格

カルテルに関し、豊田合成の元幹部 1 名が同省との司法取引に応じた旨を公表した。

司法取引において、本件元幹部ホリエは、大陪審起訴(正式起訴)を受ける権利を放

棄して有罪の答弁を行うこと、また司法省の捜査に全面的にかつ継続して協力するこ

とに同意した。その見返りとして、司法省は、本来科せられるべき刑罰よりも軽い、

禁固刑 1 年 1 日及び罰金刑 2 万ドル(約 234 万円)をホリエに科すようオハイオ州北部

地区地裁に勧告することに同意した。今後、本件同意は、地裁の承認を受けることと

されている。

2015 年 1 月 6 日、司法省は、シャーマン法 1 条違反の罪で、日本人である本件元幹

部ホリエをオハイオ州北部地区地裁に略式起訴(検察官の起訴)した。略式起訴状に

よると、ホリエは、他者と共謀して、トヨタ自動車及びその米国法人に販売される自

動車用ゴムホースの価格を決定していた。ホリエは、遅くとも 2007 年 3 月から 2010

年 9 月にかけて、本件共謀に関与していたとされている。

豊田合成(本社:愛知県)は、自動車用ゴムホースなどの自動車部品を製造販売する

部品メーカーである。本件に先立ち、2014 年 9 月 29 日、法人としての豊田合成は、

本件ゴムホースのほか、エアバッグやハンドルに関連する価格カルテルに関与してい

たとして有罪答弁を行うことに同意した。また同社は、司法省の捜査に全面的にかつ

継続して協力することにも同意した。その見返りとして、司法省は、本来賦課される

べき罰金よりも低い 2600 万ドル(約 30 億 4200 万円)を同社に賦課するようオハイオ州

北部地区地裁に勧告することに同意した。さらに、同省の捜査に協力した従業員を別

途起訴しないことにも同意した。しかし、司法省は、違反行為を行ったとみられる本

件元幹部等を対象外とし、非訴追保護から除外(カーブアウト)した。よって、司法省は

カーブアウト対象者を別途起訴できるようにした。

本件において、司法省は、両社への罰金の賦課にとどまらず、両社の従業員に対す

る禁固刑の言い渡しをも求めることとした。そして、今般、司法省はホリエを別途起

訴した。

本件元幹部ホリエは、2007 年 3 月から 2007 年 12 月までの間、豊田合成の米国法人

である豊田合成ノース・アメリカ(本社:ミシガン州トロイ市)の販売担当ヴァイス・プ

レジデント、2008 年 1 月から 2010 年 1 月までの間、販売担当シニア・ヴァイス・プ

37 Press Release, Department of Justice, Former Toyoda Gosei Executive

Agrees to Plead Guilty to Price Fixing and Bid Rigging on Automobile Parts

Installed in U.S. Cars, January 6, 2015.

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レジデント、2010 年 2 月から 2010 年 9 月までの間、日本での豊田合成の販売担当部

長を務めていた。

自動車部品に係るカルテルについては、今回を含めこれまでに 49 名が起訴されて

いる。なお、部品メーカー32 社が有罪答弁を既に行ったか、又は行うことに同意し、

また総額 24 億ドル(約 2808 億円)に上る罰金の支払にも同意している。

本件起訴は、現在進行中の自動車部品産業における入札談合、価格カルテル及び別

の反競争的行為に対する反トラスト審査から生じたものである。本件の審査は、司法

省反トラスト局シカゴ事務所及び FBI(連邦捜査局)本部の国際汚職ユニットの協力を

受けた FBI クリーヴランド支局により行われた。

(お問い合わせは、多田 英明・東洋大学法学部教授 [email protected]、又は佐藤 潤・クレ

ド法律事務所提携ニューヨーク州弁護士 [email protected] までお願いします。)

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欧州競争法の最近の動向

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欧州競争法の最近の動向

1 欧州委員会、有料テレビサービスの国境を越えた提供を阻害するライセンス

取決めに対する調査を開始(2014 年 1 月 13 日)1

欧州委員会は 1 月 13 日、主要な米国の映画スタジオら(Twentieth Century Fox、

Warner Bros.、Sony Pictures、NBCUniversal、Paramount Pictures)と、欧州の最大手有

料テレビ放送会社ら(BSkyB(英)、Canal Plus(仏)、Sky Italia(伊)、Sky Deutschland(独)、

DTS(西))との間で締結されたライセンス契約における特定の条項を審査するため、正

式な反トラスト手続を開始した。欧州委員会は、これらの条項が放送会社らの国境を

越えたサービスの提供を妨げているか否かについて、調査をすることとしている。と

りわけ、当該条項らは、放送会社らに対し、他の加盟国に所在する潜在的加入者の受

け入れを禁止しており、また、国境の越えた自社サービスへのアクセスを阻止するこ

とを義務付けている。なお、本件手続の開始は調査結果に予断を与えるものではない。

これは欧州委員会が本件を優先的に取り扱うことを意味するに過ぎない。

人気のある映画等の AV コンテンツは、通常、米国の映画スタジオらから有料テレビ

放送会社らへと、排他的かつ地域ごと、すなわち、放送会社 1 社のみを対象に加盟国

ごとにライセンスされる。欧州委員会は、2012 年に実施された事実認定調査を受け、

米国の映画スタジオらと欧州の主要な放送事業者らとの間の衛星、又はオンライン・

ストリーミングによる放送を巡るライセンスの本件条項(「絶対的地域保護」(absolute

territorial protection)条項)が、反競争的取決めを禁止する EU 競争規則に違反(EU 運

営条約 101 条)しているか否かについて、調査をすることにしている。

上記「絶対的地域保護」条項の規定により、米国の映画スタジオよりライセンスされ

た映画は、各放送会社が衛星又はインターネットを通じ事業を展開している加盟国に

おいてのみ放送されることとなっている。したがって、他の加盟国から潜在的な視聴

者が自発的に契約を申し込んだとしても、これらの映画は加盟国外では利用できない

ようになっている。

本件調査の背景には Premier League/Murphy 事件 EU 司法裁判所判決がある。2011 年

10 月、EU 司法裁判所は、Premier League/Murphy 事件判決において、FAPL(Football

Association Premier League,英国のプロサッカー・一部リーグ)が衛星放送事業者らに対

し、加盟国の地域ごとに、Premier League の試合を排他的に生中継できる権利を与え

たライセンス契約の制限条項について、検討をした。当該制限条項により、テレビ視聴

者は自分が在住する加盟国において設立された放送会社により放送される試合しか観

ることができないこととなっていた。同裁判所は、放送事業者らが自社放送をライセン

ス対象地域外の顧客に提供することを妨げる本件ライセンス条項は、各放送会社に対し

ライセンスの対象地域において絶対的な地理的排他性を与えるものであり、放送事業者間

のあらゆる競争を排除し、国境線に沿った市場分割をもたらすものである、と判示した。

なお、同裁判所は、当該制限条項は権利者の適切な報酬を確保する必要性を根拠に

1 Press Release, European Commission, Antitrust: Commission investigates

restrictions affecting cross border provision of pay TV services, IP/14/15, 13

January 2014.

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正当化することができない旨判示した。この点、同裁判所は、第一に、当該条項の有

無にかかわらず権利者の適切な報酬を計算する時に、放送がされている加盟国と、そ

の他に放送を受けている他の加盟国の双方における顕在的及び潜在的な顧客を考慮に

入れることができる、と判示した。したがって、欧州域内におけるサービスの自由移

動を制限する必要性は認められないとされた。第二に、同裁判所は、絶対的地域保護

の確保を目的とするテレビ局によるプレミアムの支払は、権利者の適切な報酬を確保

する必要性を超えるものであると判示した。これは、この様な取決めが加盟国間にお

ける差別的価格をもたらす可能性があるからである、とされた。この様な地域分割及

び人為的な差別的価格は、EU 条約の基本的目的たる域内市場の統合と両立するもの

ではく、禁止されるものであるとされた。

2 欧州委員会、軟質ポリウレタンフォーム製造業者に対し、カルテル和解手続の

適用を通じ、総額 1 億 1400 万ユーロの制裁金を賦課(2014 年 1 月 29 日)2

欧州委員会は 1月 29日、軟質ポリウレタンフォームの主要な製造業者である Vita、

Carpenter、Recticel 及び Eurofoam(Recticel 及び Greiner により形成されたジョイン

ト・ベンチャー)の 4 社がカルテルを実施していたことを認定し、総額 1 億 1407 万 7000

ユーロ(約 160 億円、1 ユーロ=140 円)の制裁金を賦課した。軟質ポリウレタンフォー

ムは、マットレス、ソファ等の家庭用家具に使用されている。その他、同フォームは、

自動車産業において自動車用座席にも使用されており、座席用に使用されているフォ

ームは当該市場の約 4 分の 1 を占めている。

本件当事者らは、2005 年 10 月から 2010 年 7 月までのおよそ 5 年間、EU 加盟 10 か

国(オーストリア、ベルギー、エストニア、フランス、ドイツ、ハンガリー、オランダ、ポ

ーランド、ルーマニア、英国)において、多様な種類の軟質ポリウレタンフォームの販

売価格について、共謀をしていた。

本件カルテルは、バルクケミカルの原材料価格の上昇を顧客に転嫁するとともに、

競争関係にある本件 4 社間の過度な価格競争を避けることを目的とするものであった。

この目的を達成するため、本件カルテル参加者らは、あらゆる経営のレベルでの価格

調整会合を開催していた。また、本件事業者らは、欧州、国内の事業者団体の枠外で

会っていたほか、非常に頻繁に電話連絡、その他 2 社間の連絡を行っていた。

本件事業者らに課された制裁金額は、次のとおりである。

リーニエンシ

ー告示に基づ

く減額率

和解告示に

基づく減額

制裁金額

Vita 100% 10% 0

Carpenter 10% 7500万9000ユーロ

(約105億円)

2 Press Release, European Commission, Antitrust: Commission fines producers of

foam for mattresses, sofas and car seats 114 million euroes in cartel settlement,

IP/14/88, 29 January 2014.

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Recticel(自社関与分) 50% 10% 744万2000ユーロ

(約10.4億円)

Eurofoamの関与分:

‐Eurofoam, Recticel,

Greinerが連帯責任を負う分:

‐Grenier,

Recticelが連帯責任を負う分

‐Recticel分:

50%

10%

1481万9000ユーロ

(約20.7億円)

936万4000ユーロ

(約13.1億円)

744万3000ユーロ

(約10.4億円)

合計 1億1407万7000ユー

ロ(約160億円)

上記制裁金額は、2006 年制裁金ガイドラインに基づくものである。欧州委員会は、

制裁金額の算定にあたり、各社の対象加盟国における対象商品の売上高、違反の重大

性、地理的範囲、及び実施期間を考慮に入れた。Vita は、本件カルテルの存在を明ら

かにしたため、制裁金の全額免除を受けており、これにより 6170 万ユーロ(約 86.4 億

円)の制裁金の賦課を免れた。Recticel、Eurofoam、及び Greiner は、2006 年制裁金

減免告示の下、欧州委員会に対し協力したことを理由に、制裁金額の 50%免除を受け

た。さらに、欧州委員会の 2008 年和解告示の下、欧州委員会は各社の制裁金を 10%

免除した。

なお、欧州委員会による調査は、2010 年 7 月の予告のない立入調査により開始され

たものである。

3 欧州委員会、和解手続を利用した電力取引所 2 社に対し、総額 590 万ユーロ

の制裁金を賦課(2014 年 3 月 5 日)3

欧州委員会は 3 月 5 日、欧州における主導的なスポット電力取引所である EPEX

Spot(EPEX)(フランス)と Nord Pool Spot(NPS)(ノルウェー)の 2社が欧州経済領域(EEA)

のスポット電力取引サービス市場においてお互いに競争しないことを申し合わせてい

たとして、両者に対し、総額 597 万 9,000 ユーロ(約 8.4 億円、1 ユーロ=140 円)の制

裁金を賦課した。

電力取引所は、電力を取引するための市場である。またスポット取引とは、同日や

翌日のような短期の取引を意味するものである。本件違反行為は、加盟国電力市場の

完全な統合を目指す欧州委員会の取組みである、域内エネルギー市場 (Internal

Energy Market、IEM)の設立について話合いがなされている中で行われたものである。

国境を越える取引に使用される技術システムを巡る共同のアプローチを探る中で、

EPEX と NPS の両社は、欧州内の地域を割り当てるために競争をしないことについて合

意した。この申合せは、IEM の創設に関する協力を目指す合法的な目的を超えるもの

3 Press Release, European Commission, Antitrust: Commission fines two power

exchanges 5.9 million euros in cartel settlement, IP/14/215, 5 March 2014.

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であり、EU 運営条約 101 条、及び EEA 条約 53 条の規定に明確に違反するものである。

本件違反行為は、2011 年から 2012 年にかけての 7 か月間にわたり実施されていた

が、これは欧州委員会と EFTA 監視局(EFTA Surveillance Authority)が両社に対し、予

告なく捜査を行った時点で終了した。両社間の連絡は、直接の会合のほか、電話、テ

レビ電話、また電子メールの形態を取っていた。両社に賦課された制裁金額は、次の

とおりである。

参加者 制裁金額

NPS(ノルウェー) 232 万 8,000 ユーロ(約 3.26 億円)

EPEX(フランス) 365 万 1,000 ユーロ(約 5.11 億円)

合計 597 万 9,000 ユーロ(約 8.37 億円)

欧州委員会は、2006 年制裁金ガイドラインに基づいて制裁金額を算出し、EEA にお

ける電力取引の販売額、違反の重大性、並びにカルテルの地理的範囲と継続期間を考

慮した。また、欧州委員会は、両社が本件違反行為への関与と責任を認めたため、2008

年和解告示に基づき両社に対する制裁金を 10%減額した。和解手続により、本件に対

する調査は 2012 年 2 月の捜査から 2 年以内に終了することができた。

4 欧州委員会、和解手続の利用を通じ自動車とトラックのベアリングの製造業

者に対し、9 億 5,300 万ユーロの制裁金を賦課(2014 年 3 月 19 日)4

欧州委員会は 3 月 19 日、欧州の 2 社(SKF、Schaeffler)と日本の 4 社(ジェィテクト

(JTEKT)、日本精工、不二越、NTN と同社のフランス子会社(NTN-SNR))が自動車用ベアリ

ングの市場においてカルテルを行っていたことを認定し、JTEKT を除く 5 社に総額 9

億 5,300 万ユーロ(約 1,334 億円)の制裁金を賦課することとした。

自動車とトラックには、車体内の可動部品間の摩擦を減少させるため、ホイールベ

アリング、並びに変速機、トランスミッション、交流電源、及び空調システム用のベ

アリングなど非常に多くのベアリングが使用されている。自動車用ベアリングは、通

常顧客固有の商品であり、顧客(自動車、トラック、自動車部品の製造業者)は、供給者

を選定するに当たり、見積もり依頼を行っている。選定過程は数か月から 1 年に及ぶ

のが通例である。顧客は、ベアリング供給者に対し、毎年の製造効率を反映した年次

価格割引要請(Annual Price Reduction requests)と呼ばれる年単位の値引きをしばし

ば要請している。

本件事業者らは、鉄鋼価格の上昇を顧客に転嫁することについて調整し、見積要請

と年次価格割引要請について共謀し、また事業上機微な情報を交換していた。欧州に

おける自動車用ベアリング市場は、年額少なくとも 20 億ユーロの規模に達している

と見積もられている。本件事業者らは、EEA 全域において、2004 年 4 月から 2011 年 7

月までの 7 年以上にわたり、自動車顧客向けの価格戦略を秘密裡に調整していた。本

4 Press Release, European Commission, Antitrust: Commission fines producers of

car and truck bearings 953 million euros in cartel settlement, IP/19/280, 19

March 2014.

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件事業者に対する制裁金額は、次のとおりである。

参加者 リーニエンシー

告示に基づく減

額率

和解告示に基づ

く減額率

制裁金額

JTEKT

(日本)

100% 10% 0

日本精工

(日本)

40% 10% 62,406,000 ユーロ

(約 87.4 億円)

不二越

(日本)

30% 10% 3,956,000 ユーロ

(約 5.5 億円)

SKF

(スウェーデン)

20% 10% 315,109,000 ユーロ

(約 441 億円)

Schaeffler

(ドイツ)

20% 10% 370,481,000 ユーロ

(約 518.6 億円)

NTN

(日本)

10% 201,354,000 ユーロ

(約 299 億円)

合計 953,306,000 ユーロ

(約 1,334 億 6,284 万円)

JTEKT は、2006 年制裁金減免告示の下、本件カルテルの存在を欧州委員会へ通知し

たため、制裁金の全額免除を受けた。また日本精工、不二越、SKF、及び Schaeffler

は、本件捜査に協力したため、同告示の下、制裁金の減額を受けた。また、欧州委員

会は、2008 年和解告示の下、全社とも本件違反行為への関与と責任を認めたため、制

裁金を 10%減額した。

なお、本決定は、自動車部品産業を対象とするカルテル捜査の一環として下された

ものであり、欧州委員会は既にワイヤーハーネス、及び自動車座席に使用される柔軟

発泡プラスチックに関するカルテルをも認定している。なお、欧州委員会は、エアバ

ック、シートベルト、ハンドル、エアコン、エンジン冷却製品、及び灯火システムを

対象とするカルテルについても、調査を実施している。

5 欧州委員会、カルテルの実施を理由に高電圧ケーブル製造業者に 3 億 200 万ユー

ロの制裁金を賦課(2014 年 4 月 2 日)5

欧州委員会は 4 月 2 日、カルテルの実施を理由に、地下・海底高電圧ケーブル製造

業者 11 社(欧州企業 6 社、日本企業 3 社、韓国企業 2 社)に対し、総額 3 億 163 万 9000

ユーロ(約 422 億 3000 万円、1 ユーロ=140 円)の制裁金を賦課した。

本件カルテルの対象となったケーブルは、発電所と送電網の接続、又は国境を越え

5 Press Release, European Commission, Antitrust: Commission fines producers of

high voltage power cables 302 million euros for operating a cartel , IP/14/358, 2

April 2014.

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た送電網の相互接続に使用されている。1999 年以降およそ 10 年にわたり、本件事業

者らはほぼ全世界規模で市場を分割し、顧客を割り当てていた。本件カルテルの一部

には、沖合風力発電所等の欧州経済領域(EEA)における重要な高電圧ケーブル・プロジ

ェクトのケーブルも含まれていた。

欧州委員会による調査の結果、1999 年から立入調査が実施された 2009 年 1 月まで

の間、本件事業者らは協定を結んでいた。同協定によると、欧州とアジアの製造事業

者らは、お互いの本拠地に参入しないことに合意した上で、残りの世界市場の大半を

分割することに合意した。本件カルテルを実施するに当たり、本件事業者らは、地域

ないし顧客に応じて、プロジェクトを分け合うこととし、とりわけ、欧州の事業者ら

は EEA におけるプロジェクトを分け合うこととした。欧州委員会の入手した証拠によ

ると、内部の連絡では、欧州、日本、また韓国の事業者らは、それぞれ R、A、また K

と呼ばれていた。

日本と韓国の事業者らは、欧州の顧客から入札への参加の要請を受けるたびに欧州

の事業者らに通知し、入札を辞退していた。プロジェクトを適切に分け合うことを目

的として、カルテル参加者らは、割り当てを受けたケーブル供給者が最も低い価格で

入札すること、またそれ以外の参加者らがより高い価格で入札し、入札を辞退し、あ

るいは顧客にとって魅力のない価格で入札することを確実にするために、価格の水準

を決定することについて合意し、また入札価格に関する情報を交換していた。なお、

カルテル参加者らは、東南アジアと欧州のホテルにおいて定期的に会合を開いていた

ほか、電子メール、FAX、及び電話により連絡を行っていた。

欧州委員会は、本件事業者らが競争法に違反していることを認識していたことを明

らかにした。たとえば、会合記録では、カルテルに参加するメリットとデメリットが

議論されている。具体的に、「各社のパイが増加しない限り、またカルテルに参加しな

いメリットが参加するリスクを上回らない限り、参加しないということは困難であろ

う。」と述べられている。また、カルテル参加者らは、反競争的な資料を保持している

ことが見つからないように注意していた。欧州委員会は、法廷 IT 技術(forensic IT

technologies)により、Nexans の従業員が削除した数千に上る文書を回復することがで

きた。これらの文書の大半は違法なカルテル活動と密接に関連するものであり、欧州

委員会の調査に資するものであった。

本件に対する制裁金は、欧州委員会の 2006 年ガイドラインに基づいて算出され、違

反行為の重大性、範囲、実施方法、及び期間が考慮された。制裁金額を決定する際に

用いる対象販売額を決定するに当たり、欧州委員会は、本件カルテルが本拠地を保護

しているため、(存在しないないし非常に低い)欧州における日本・韓国企業の売上高は、

違反行為における各参加者の重みを適切に反映するものではないと判断した。したが

って、欧州委員会は、各カルテル参加者の対象販売額を決定するに当たり、本ガイド

ライン第 18 段と先例に従い、EEA におけるカルテル参加者らの総販売額を計算し、同

総販売額をより広範な(ほぼ世界規模の)カルテル市場における各事業者の販売額のシ

ェアで割って決定した。対象となる販売額には、すべての地下・海底高電圧ケーブル

と関連製品・サービスが含まれる。

ABB は、本件カルテルの存在を欧州委員会に通知したため、制裁金の賦課の全額免

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除を受け、違反行為に対する本来の制裁金額である 3300 万ユーロ(約 46 億 2000 万円)

を免れることができた。電源開発と同社の親会社である日立金属、及び住友電気は、

欧州委員会の制裁金減免告示に基づき、欧州委員会の調査に協力したため、制裁金額

の 45%減額を受けた。減額には、協力のタイミングと程度、及び欧州委員会が本件カ

ルテルを証明する上で提示された証拠が役に立った程度が反映されている。加えて、

上記 3 社は、対象期間の最初の 2 年間に関する証拠を欧州委員会に最初に提出したた

め、その期間についても部分的な制裁金減額を受けた。なお、本件事業者のうち 1 社

は、制裁金支払不能を申出た。欧州委員会は、2006 年制裁金ガイドライン第 35 段に

基づいて同申立てを精査したが、制裁金額を減額しないこととした。また、本件カル

テルに関与したものの、その後には対象事業をジョイント・ベンチャーに統合したと

いう事業者ら、また本件対象事業者に対し重大な影響力を行使していたというその会

社の親会社についても、責任が認められる。これには、かつての Prysmian の所有者で

あった投資会社ゴールドマン・サックスが含まれる。

本件事業者らに賦課された制裁金額は、次のとおりである。

カルテル参加者 リーニエンシ

ー告示に基づ

く減額率

制裁金額

Brugg 849 万ユーロ

(約 11 億 8800 万円)

Nexans 7670 万ユーロ

(約 107 億 3800 万円)

NKT 388 万 7000 ユーロ

(約 5 億 4400 万円)

Prysmian 1 億 461 万 3000 ユーロ

(約 146 億 4000 万円)

うち Pirelli との連帯支

払い

6731 万ユーロ

(約 94 億 2000 万円)

うち Goldman Sachs

との連帯支払い

3730 万ユーロ

(約 52 億 2000 万円)

Safran 856 万 7000 ユーロ

(約 12 億円)

Silec 197 万 6000 ユーロ

(約 2 億 7600 万円)

うち General Cable との

連帯支払い

185 万 2500 ユーロ

(約 2 億 5900 万円)

うち Goldman Sachs との

連帯支払い

12 万 3500 ユーロ

(約 1700 万円)

住友電気 45% 263 万ユーロ

(約 3 億 6800 万円)

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日立電気(現日立金属) 45% 234 万 6000 ユーロ

(約 3 億 2800 万円)

電源開発(住友電気と日立金属

との連帯支払い)

45% 2074 万 1000 ユーロ

(約 29 億円)

古河電工 885 万 8000 ユーロ

(約 12 億 4000 万円)

フジクラ 815 万 2000 ユーロ

(約 11 億 4000 万円)

VISCAS(古河電工とフジクラと

の連帯支払い)

3499 万 2000 ユーロ

(約 55 億 8800 万円)

昭和電線ホールディングズ 84 万 4000 ユーロ

(約 1 億 1800 万円)

三菱電線 75 万ユーロ

(約 1 億円)

エクシム(昭和電線と三菱電線

との連帯支払い)

655 万 1000 ユーロ

(約 9 億 1700 万円)

LS Cable 1143 万 9000 ユーロ

(約 15 億 8800 万円)

Taihan 622 万 3000 ユーロ

(約 8 億 7100 万円)

合計 3 億 163 万 9000 ユーロ

(約 422 億 2946 万円)

6 欧州委員会、金属研磨材製造業者に対し、カルテル和解手続の利用を通じ 3070

万ユーロの制裁金を賦課(2014 年 4 月 2 日)6

欧州委員会は 4 月 2 日、Ervin、Winoa、Metalltechnik Schmidt、及び Einsenwerk

Würth の各社が 6 年間にわたり欧州において金属研磨材の価格カルテルを実施してい

たことを認定し、総額 3070 万 7000 ユーロ(約 43 億円)の制裁金を賦課した。金属研磨

材は、製鉄、自動車、冶金、及び石油化学の各産業において、金属の表面を洗浄し、

仕上がりを向上させるために使用される粉末状の金属切粉である。これは、御影石、

及び大理石のような固い石の切断にも使用されている。

2003 年秋から欧州委員会が予告なしで立入調査を実施した 2010 年 6 月までの 6 年

間にわたり、カルテル参加者らは、時期は様々ではあるが、欧州経済領域(EEA)全般に

おける販売に関する重要な価格指標について話し合うために、2 社間又は複数社間で

接触していた。金属研磨材の主要な原材料となる鉄くずは、急激な価格変動と EEA 諸

国間に見られる大きな価格差を特徴とする。本件カルテル参加者らは、急激な価格変

動を埋め合わせるため、共通の算式に基づく、特別な付加費用(「スクラップ・サーチャ

6 Press Release, European Commission, Antitrust: Commission fines producers of

steel abrasives 30.7 million euros in cartel settlement, IP/14/359, 2 April 2014.

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ージ」ないし「スクラップ費用変動」と呼ばれる)を設定していた。エネルギー価格が 2008

年に大幅に上昇した際には、同時に「エネルギー・サーチャージ」ないし「エネルギー補

填」が導入された。加えて、カルテル参加者らは、個々の顧客に対する価格について相

互に競争しないことについても、合意していた。なお、同じ調査において、欧州委員

会は、Pometon S.p.A.に対しても手続を開始したが、当該調査には通常のカルテル調

査手続が適用されている。

本件当事者らに賦課された制裁金額は、次のとおりである。

カルテル参加者 リーニエンシー告示

に基づく減額率

和解告示に基づ

く減額率

制裁金額

Evrin(米・英) 100% 10% 0

Winoa(仏) 10% 2756万5000ユーロ

(約38億6000万円)

Metalltechnik

Schmidt(独)

10% 207万9000ユーロ

(約2億9000万円)

Einsenwerk

Würth(独)

10% 106万3000ユーロ

(約1億5000万円)

合計 3070万7000ユーロ

(約42億9898万円)

制裁金額は、欧州委員会の 2006 年制裁金ガイドラインに基づいて算出され、金額水

準の算出においては、各事業者の EEA における対象商品の売上高、違反行為の重大性、

地理的範囲と実施期間が考慮されている。本件における全事業者にとり、金属研磨材

はそれらの売上高の大きな割合を占めている。このため、全当事者の制裁金額は、反

トラスト施行規則に定められている年間総売上高の上限 10%で決定されるところで

あったが、欧州委員会は、例外的に、本ガイドラインの第 37 段に規定されている裁量

権を行使し、事業者の性格と違反行為への参加の度合いを考慮して制裁金額を減額し

た。なお、Ervin は、2006 年制裁金減免告示に基づき、本件カルテルの存在を欧州委

員会に最初に通知したため、本来の制裁金額 410 万ユーロ(約 5.7 億円)の全額免除を

受けた。また、他の事業者らについても、それらが欧州委員会との間で和解手続を採

用することに同意したため、制裁金額の 10%減額を受けた。

7 欧州委員会、サムスン電子の申し出た標準必須特許に関する確約案に法的拘

束力を持たせる旨決定(2014 年 4 月 29 日)7

欧州委員会は 4 月 29 日、サムスン電子(以下「サムスン」という。)の申し出た確約案

について、それに法的拘束力を持たせる決定を行った。承認された本確約措置による

と、サムスンは、スマートフォンとタブレット端末向けの自社の標準必須特許に基づ

7 Press Release, European Commission, Antitrust: Commission accepts legally

binding commitments by Samsung Electronics on standard essential patent

injunctions, IP/14/490, 29 April 2014.

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き、欧州において、特定のライセンス枠組に参加表明したライセンス希望者に対し、

差止請求訴訟を提起しない。本枠組みの下、問題となっている標準必須特許のライセ

ンスに規定される FRAND 条件とは何かを巡る紛争が生じた場合に裁判所、又は両当事

者が合意した場合に仲裁人が、同条件の決定を行う。よって、本確約措置は、サムス

ンの標準必須特許の潜在的ライセンシーを対象にセーフ・ハーバーを設けており、そ

れ故に、ライセンス枠組みに参加表明したライセンス希望者は、サムスンによる標準

必須特許に基づく差止めから護られる。

標準必須特許は、特定の工業規格を実施するために不可欠な特許のことである。ラ

イセンスによるこれらの特許の利用なくしては、特定の規格を満たす製品を製造する

ことが不可能であるため、標準必須特許を有する事業者は、強力な市場支配力を有す

る場合が多い。その結果、標準化機関は、構成員に対し、標準必須特許を FRAND 条件

でライセンスさせるのが通例である。これは、すべての市場参加者に規格への効率的

アクセスを保証すると同時に、1 標準必須特許権者によるホールド・アップを防止す

ることを目的としている。FRAND 条件によるアクセスを通じ、顧客は互換性ある製品

についてより幅広い選択肢を有することとなる一方、標準必須特許権者は、自社の知

的財産に対する適切な報酬を得ることができる。

特許権者による法廷での差止請求は、特許侵害に対する救済措置として一般に適切

なものである。しかしながら、標準必須特許に基づく差止請求については、標準必須

特許権者が当該特許を FRAND 条件でライセンスすることを自主的に確約し、また差止

請求の対象事業者が FRAND 条件でライセンス契約を結ぶ意向を有する場合には、支配

的地位の濫用となりうる。差止請求は、一般に当該特許を侵害している製品の販売禁

止を求めるものであるため、標準必須特許をライセンスする意向のある潜在的ライセ

ンシーに対する差止請求は、製品を市場から排除する可能性を有する。これは、ライ

センス交渉を不当に歪めるおそれがあり、差止請求がなければ標準必須特許の潜在的

ライセンシーが受け入れることのない反競争的なライセンス契約条項をもたらすおそ

れもある。このような反競争的な結果は、技術革新にとって致命的なものであり、顧

客を害するものでもある。

サムスンは、多くの移動電気通信規格に関する標準必須特許を有しており、一連の

標準必須特許を FRAND 条件で供与することを確約している。しかしながら、2011 年 4

月、同社は自社の標準必須特許に基づいて、アップル社に対し差止請求訴訟を提起し

た。問題となっていたサムスンの標準必須特許は、移動及び無線通信にとって鍵とな

る産業規格である、欧州電気通信標準化機構(ETIS)の 3G UMTS に関するものである。

欧州委員会は、2012 年 1 月に調査を開始した。また同年 12 月、欧州委員会は、サム

スンに対し、アップル社がサムスンの標準必須特許を FRAND 条件で契約する意思のあ

る事業者である旨指摘し、これを考慮すると、アップル社に対する複数の EU 加盟国に

おける自社の標準必須特許に基づく差止請求訴訟の提起は、EU 運営条約 102 条により

禁止される支配的地位の濫用に該当する可能性がある旨通知した。

欧州委員会の懸念に対応するため、サムスンが 2013 年 9 月、確約措置を提案したと

ころ、欧州委員会は同年 10 月、関係者に対し意見募集を行った。2014 年 2 月 2 日、

サムスンは確約措置の最終版を提案した。それによると、サンスンは、今後 5 年間に

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わたり、スマートフォンとタブレット端末で使用される技術に関する標準必須特許に

基づいて、特定のライセンスの枠組みに同意したいかなる事業者を対しても、欧州経

済領域内において差止請求訴訟を提起しないことを確約した。本ライセンスの枠組み

は、(1)最長 12 か月の交渉期間と、(2)合意に達しない場合には、第三者による FRAND

条件の決定、すなわち、何れかの当事者が選択した場合には法廷による決定、また両

当事者が合意した場合には仲裁人による決定を定めている。また、独立した監視受託

者が、本確約措置の適切な実施を監督して欧州委員会に対し助言を行うこととなって

いる。

8 欧州委員会、INEOS と Solvay による PVC の JV の設立を条件付承認(2014 年 5

月 8 日)8

欧州委員会は 5 月 8 日、INEOS(スイス)と Solvay(ベルギー)による JV の設立を通じ

た欧州におけるポリ塩化ビニル(PVC)事業の統合を条件付で承認した。本件は、INEOS

の PVC の懸濁液(suspension-PVC、S-PVC)工場と関連施設の売却を条件とするものであ

る。

本件当事者である INEOS は、石油化学製品、特殊化学品、及び石油製品の製造を行

う企業グループの親会社であり、同社の子会社 INEOS ChloryVinyls は、欧州における

塩素アルカリ製品の製造業者であり、また PVC の供給業者でもある。Solvay は、化学

品とプラスチックの研究開発、製造、及び販売を国際的に行う企業グループの親会社

である。両者間の契約によると、本 JV はその親会社らが共同して管理することとなっ

ているが、設立後 6 年以内に、INEOS の単独管理へと移行することとなっている。

欧州委員会は、当初届け出のあった本件取引は、北西ヨーロッパにおける S-PVC 市

場、及びベネルックス諸国における次亜塩素酸ナトリウム(漂白剤)市場における二大

事業者を統合することにより、両市場における価格引上げをもたらすおそれがあると

の懸念を有していた。すなわち、北西ヨーロッパにおける S-PVC 市場においては、INEOS

の最大の競合者である Solvay が消滅することとなっていたため、統合により誕生す

る JV は、市場に残る小規模事業者らから十分な競争上の圧力を受けることなく、価格

を引き上げることができたであろうということである。加えて、欧州委員会は、INEOS

が既にある程度の市場支配力を有しており、価格引上げを行っている旨の証拠を有し

ている。なお、欧州委員会による調査の結果、競争者らは、新たに誕生する JV による

価格引上げを打ち消すために生産を拡大する能力も動機も持ち得ないということが明

らかになった。加えて、本市場においては、輸入は大きな役割を果たしておらず、近

い将来においても大きな変化の見込みはないほか、顧客は十分な購買力を行使できず、

本件取引による供給源の減少が生じることとなっていたことも懸念されていた。欧州

委員会はまた、両当事者の主張する効率性は、認められたとしても、本件取引により

もたらされることとなっていた価格上昇に比べて限定的なものであり、顧客に対する

マイナスの影響を打ち消すのに不十分なものとなるであろうと結論づけた。

8 Press Release, European Commission, Mergers: Commission approves PVC

joint venture between INEOS and Solvay, subject to conditions, IP/14/539, 8 May

2014.

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一方、ベネルックス諸国の漂白剤市場においては、本件取引は市場占拠率が 60%を

超える主導的事業者を創出することとなっていた一方、唯一残存することとなってい

た事業者・Akzo は顧客に対する価格引上げを阻止するために、合併により誕生する JV

に十分な競争上の圧力をかける見込みが無いことも明らかになった。

欧州委員会の上記懸念に応えるため、両当事者は Wilhelmshaven、Mazingaarbe、及

び Beek Geleen に所在する INEOS の S-PVC 工場と、Tessenderlo と Runcorn に所在す

る上流の塩素とエチレンジクロリドの製造設備を売却することとした。合併により誕

生する JV と一連の施設の購入者は、塩素を Runcorn において製造する旨の JV 協定を

締結することとなった。当該売却により、購入者は完全に統合され、また自立した S-

PVC 事業を入手することとなる。

これらの措置は、北西ヨーロッパにおける S-PVC 市場とベネルックス諸国における

漂白剤市場における本件両当事者の事業の重複を解消するものである。また、本件両

当事者は、欧州委員会の承認する持続性のある購入者への譲渡事業の拘束力ある契約

が締結されるまで、本件取引を終了しないことを確約した。なお、購入者に関する一

連の基準は、当該一連の資産が市場において競争圧力として事業運営できる能力ある

購入者へ売却されるべきであるというものである。

欧州委員会は、本件問題解消措置により修正された本件取引は、競争上の懸念をも

たらすものではないと決定した。本決定は問題解消措置の完全な遵守を条件とするも

のである。

本件取引は、両当事者により 2013 年 9 月 16 日に欧州委員会へ届け出られたもので

ある。欧州委員会は、同年 11 月 5 日に詳細手続を開始し、2014 年 1 月 21 日に異議告

知書を発出して、両当事者に対し本件取引による競争上の懸念を通知した。

9 欧州委員会、円建て金利デリバティブ・カルテルへの関与の嫌疑で ICAP へ異

議告知書を送付(2014 年 6 月 10 日)9

欧州委員会は 6 月 10 日、円建て金利デリバティブ市場において幾つかのカルテル

を助長することにより、EU 競争法に違反している疑いがあるとして、ロンドンに本拠

を置く ICAP に対し、異議告知書を送付した。なお、異議告知書の送付は、捜査の最終

結論を予断するものではない。

金利デリバティブ(先物金利予約、スワップ、フューチャーズ、オプション等)とは、

金利変動のリスクに対応するため、銀行や企業等により利用される金融商品のことで

ある。これらの金融商品は、全世界で取引されており、グローバル経済において重要

な役割を果たしている。同金融商品は、LIBOR(ロンドン銀行間取引金利)や日本円

TIBOR(東京銀行間取引金利)等の基準金利の水準から価値を得ている。

欧州委員会は、ICAP が仲介者として、円建て金利デリバティブに関するカルテルに

関与していたのではないかとの疑いを持っている。かかる行為は、仮に立証された場

合、反競争的取り決め及び制限的取引慣行を禁止する EU 運営条約 101 条及び欧州経

9 Press Release, European Commission, Antitrust: Commission sends Statement

of Objections to ICAP for suspected participation in yen interest rate derivatives

cartels, IP/14/656, 10 June 2014.

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済領域(EEA)協定 53 条に違反するものである。

当該捜査の過程において、2013 年 12 月、欧州委員会は、本事業分野で活動してい

る銀行 5 行と現金ブローカー1 社に対し、総額 6 億 6971 万 9000 ユーロ(約 937 億 6000

万円、1 ユーロ=140 円)の制裁金を賦課した。当該 6 社は、円建て金利デリバティブに

関するカルテルに関与していたことを認め、欧州委員会と和解をした。この見返りと

して、当該 6 社は制裁金額の 10%減額を受けた。

なお、欧州委員会は、ICAP に対しては、2013 年 10 月にも捜査を開始しており、当

該捜査は、和解ではない標準のカルテル捜査手続によって進行している。

また、欧州委員会は 2014 年 5 月 20 日には、ユーロ建て金利デリバティブのカルテ

ルへの参加容疑者に異議告知書を送付した。

10 欧州委員会、競争者 Federal-Mogul による Honeywell の摩擦材事業の買収を

条件付承認(2014 年 6 月 16 日)10

欧州委員会は 6 月 16 日、摩擦材製造業者である Federal-Mogul(米国)による

Honeywell(米国)の摩擦材事業の欧州部門の買収を条件付きで承認した。

本件当事者である Federal-Mogul は、自動車、鉄道などを対象とする、エンジン、

変速装置及び動力伝達装置部品に加え、ブレーキ摩擦材、シャーシ、シーリング及び

ワイパー製品を開発、製造、また販売する国際的な事業者である。同社はまた、ブレ

ーキのフルイッドと装置(ディスク等)、シャーシ、シーリングとエンジン部品、並び

に付属品も販売している。一方、Honeywell は、自動車、また鉄道などを対象とする、

ブレーキ摩擦材及び付属品の設計、開発、製造、販売、修理、及び大規模修理を行う

国際的な企業である。同社は、また、自動車及び鉄道向けのブレーキフルイッド及び

ブレーキ装置(ディスク、ドラム等)も販売している。

両社は、とりわけ、欧州経済領域(EEA)において、ブレーキ摩擦材、特にトラック及

び乗用車向けブレーキパッドを製造している。これらの部門において、両者は、純正

部品(OEM)と純正補修部品(OES)の市場における主要な事業者である。

当初届出のあった本件取引は、EEA における商用車と小型自動車向けの OEM と OES

の 2 大製造業者を統合するものであった。欧州委員会は、本件当事者以外の市場参加

者、つまり商用車向けブレーキパッドを製造する同規模の事業者 1 社と、小型乗用車

向けブレーキパッドを製造する同規模の事業者 2 社が合併により誕生する新会社の価

格引上げを牽制するのに十分な圧力をかけることができないであろう、と懸念してい

た。

欧州委員会による調査の結果、本件市場においては、参入障壁のみならず、事業規

模を拡大する障壁も高いことが明らかになった。市場調査によると、顧客側は少数の

大規模な自動車、又はブレーキ・システムの製造業者により構成されており、供給者

側は集中度がさらに進んでいる市場に属している。さらに、顧客は、手続に時間とコ

ストがかかるため、既存の契約を見直すのに躊躇することが多い。また顧客は、当該

10 Press Release, European Commission, Mergers: Commission approves

acquisition of part of Honeywell’s friction material business by rival Federal -

Mogul, subject to conditions, IP/14/684, 16 June 2014.

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2 つの供給市場における集中度増加の結果に対し対抗するため、十分な購買力を有し

ていないようである。

Federal-Mogul は、欧州委員会の懸念を払拭するため、商用車向けブレーキパッド

の製造に特化しているドイツ Marienheide に所在する OEM/OES 事業と、小型自動車向

けブレーキパッドを製造しているフランス Noyon に所在する工場を売却することを申

し出た。本件問題解消措置は、ブレーキパッドの OEM/OES 事業に関する重複を完全に

取り除くものである。さらに、本件問題解消措置により、両市場への競争者の参入や

既存の競争者による事業の拡大が見込まれる。

よって、欧州委員会は、本件問題解消措置により修正された本件買収は、競争上の

懸念を惹起するものではないと結論づけた。欧州委員会はまた、本件取引は、独立し

た自動車ブレーキ摩擦材のアフターマーケットや鉄道用ブレーキ摩擦材の市場におけ

る競争上の懸念を惹起するものではないと結論づけた。

本件取引は、欧州委員会に対し、2014 年 4 月に届け出がなされたものである。

11 欧州委員会、和解手続を利用したマッシュルーム缶詰製造業者 3 社に 3200 万

ユーロの制裁金を賦課(2014 年 6 月 25 日)11

欧州委員会は 6月 25 日、Lutèce(オランダ)、Prochamp(オランダ)、 及び Bonduelle(フ

ランス)の 3 社が、欧州において 1 年以上にわたり缶入マッシュルームの価格を調整

し、顧客を割り当てるカルテルを実施していたことを理由に、当該 3 社に対し、総額

3222 万 5000 ユーロ(約 45 億円、1 ユーロ=140 円)の制裁金を賦課した。

缶入りマッシュルームとは、新鮮なマッシュルームや冷凍マッシュルームを除く、

缶入りで販売されるマッシュルームのことである。本件カルテルは、欧州経済領域

(EEA)における小売業者、卸売業者やケータリング事業者等専門業者向けのプライベー

ト・ブランドの缶入りマッシュルームの入札販売に関するものである。カルテル参加

者らは、市場占拠率を安定させ、また価格下落を防止することを目的としていた。ま

た、同参加者らは、本目的達成のため、入札に関する秘密情報を交換し、最低価格を

決定し、販売数量の目標値を定めるとともに、顧客を割り当てていた。本件カルテル

は、顧客乗換えの場合に適用される補償の枠組みと最低価格の適用を兼ね備えた不可

侵協定(non-aggression pact)であった。

欧州委員会は、2012 年 2 月に予告なしの立入検査を行い、本件に対する調査手続を

開始した。本件カルテルは、2010 年 9 月 1 日に開始され、Lutèce は 2011 年 12 月 22

日まで、Prochamp 及び Bonduelle は 2012 年 2 月 28 日までカルテル参加をしていた。

なお、Riberebro に対しても手続が開始されており、目下、通常のカルテル手続に従

い調査は進行している。

本件カルテルに対する制裁金額は、2006 年制裁金ガイドラインに基づいて決定され、

欧州委員会は、とりわけ本件カルテル参加者らの EEA における対象商品の売上高、違

反行為の重大性、及び地理的範囲と継続期間を考慮した。Lutèce は本件カルテルの存

11 Press Release, European Commission, Antitrust: Commission fines three

producers of canned mushrooms 32 million euros in cartel settlement, IP/14/727,

25 June 2014.

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在を欧州委員会に明らかにしたため、2006 年制裁金ガイドラインの下、本来であれば

2070 万ユーロ(約 28 億円)に上る制裁金の全額免除を受けた。また、Prochamp につい

ては制裁金の 30%減額が適用された。なお、本件 3 社が和解手続を利用して本件を解

決することを欧州委員会と合意したため、2008 年の和解手続告示の下、制裁金額はさ

らに 10%減額された。

本件当事者らに課された制裁金額は、次のとおりである。

減免告示

に基づく

減額率

和解手続

に基づく

減額率

制裁金額

Lutèce(オランダ) 100% 10% 0

Prochamp(オランダ) 30% 10% 202万1000ユーロ(約2.8億円)

Bonduelle(フランス) 10% 3020万4000ユーロ(約42.3億円)

合計 3222万5000ユーロ(約45億円)

12 欧州委員会、Servier と後発製薬会社 5 社が心血管薬の廉価版の発売を遅らせ

ていたことを理由に制裁金を賦課(2014 年 7 月 9 日)12

欧州委員会は 7月 9日、フランスの製薬会社 Servierと後発製薬会社 5社(Niche/Unichem、

Matrix(現在は Mylan の一部)、Teva、Krka、Lupin)が、Servier の売れ筋の降圧剤であ

る perindopril を EU における後発薬との価格競争から守るため一連の取決めを行っ

ていたとして、当該 6 社に対し、総額 4 億 2770 万ユーロ(約 598.8 億円)の制裁金を賦

課した。Servier は、技術の買収及び後発製薬会社との一連の特許紛争の和解協定を

通じ、競争者を排除するとともに、割安な後発薬の発売を遅らせていた。かかる行為

は、納税者と患者を犠牲にし、EU の競争規則に反するものである。

Perindopril は、Servier の大当たりの高血圧管理薬であり、同社の売れ筋の医薬品

であった。Perindopril の後発薬以外の降圧剤は、同社の販売と価格に対し有意な圧

力をかけることができなかったため、同社は perindopril 分子市場において非常に有

力な市場支配的地位を有していた。同社の perindopril 分子の特許の大半は 2003 年

に失効したが、後発製薬会社らは、引き続き製剤に関するいわゆる「二次的」特許の問

題に直面していた。しかしながら、これらの特許は、Servier が同社の「乳牛(dairy

cow)」と表現した技術を保護していた特許よりも限定的な保護しか付与しなかった。よ

って、perindopril の後発製薬会社らは、市場投入に向けて重点的な準備を進めてい

た。

後発製薬会社らは、市場投入するための残された障害を克服するため、特許対象外

の製剤を使用することを考えたほか、自社を不当に阻止していると考えていた

Servier の特許の有効性を争うこととした。しかし、特許対象外の技術は極めて限ら

れていた。Servier が 2004 年に最新の技術を買収したことで、多くの後発薬計画は停

12 Press Release, European Commission, Antitrust: Commission fines Servier and

five generic companies for curbing entry of cheaper versions of cardiovascular

medicine, IP/14/799, 9 July 2014.

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止を余儀なくされ、実際に市場投入が遅れることとなった。Servier は、当該買収が

単に「防御機構(defense mechanism)を強化するため」のものであり、当該技術を利用す

る可能性は全くないと認識していた。

このような投入手段が遮られたため、後発製薬会社らは Servier の特許の有効性を

法廷で争うこととした。しかしながら、2005 年から 2007 年の間、当該後発製薬会社

らが市場投入を試みたほとんどの場合、Servier と後発製薬会社は、訴訟を和解によ

り解決した。しかしながら、一連の和解は、両当事者が時間と費用を節減するために

法廷外で問題となっている特許訴訟を解決する通常の取引とは異なり、後発製薬会社

らが Servier の収入の一部と引き替えに市場から手を引くというものであった。この

ような取引は、2005 年から 2007 年の間に少なくとも 5 回行われた。ある後発製薬会

社は「Perindopril から排除された」と認識していた。また、他の後発薬製薬会社は、

「相当な対価の支払が行われなければ、和解しない」と述べ、「札束(pile of cash)」に

も言及した。Servier から後発薬製薬会社らへ支払われた金銭の総額は、数千万ユー

ロに上るものと見られている。ある事例で、Servier は後発薬製薬会社に対し、7 つの

加盟国市場向けのライセンスを与えることに同意し、後発薬製薬会社はその見返りと

して、その他の EU 市場を「犠牲」にし、perindorpil の後発薬を販売する計画を中止す

ることに同意した。

いわゆる「製剤」特許を含め、特許の出願をし、特許を実施し、技術を移転し、また

訴訟を解決すること自体は合法であるのみならず、望ましいことでもある。しかしな

がら、Servier はメリットによる競争を回避するため、競合する技術を締め出し、よ

り廉価な薬品を開発していた多くの競争者を買収し、これによって、当該合法的手段

を誤って利用した。かかる行為は、EU 運営条約 102 条により禁止される市場支配的地

位の濫用に該当し、また同社と各後発薬製薬会社との間の取決めは同条約 101 条に違

反するものである。

これまでの事例に照らすと、後発薬の市場投入により医薬品の価格は大幅に引き下

げられ、患者と納税者に大きな利益がもたらされることとなる。2007 年に英国で、特

許保護を受けていた perindopril の価格水準に比べて、perindopril 後発薬の価格は

平均して 90%も下落した。これは、英国において訴訟を提起していた唯一の当事者が、

Servier の最も重要な特許の無効判決を勝ち取ったことによるものである。ところが、

Servier は、内部資料で 2003 年に遡る perindopril 分子の特許の失効に言及し、「偉

大な成功=4 年間の勝利」と誇らしげに述べた。

欧州委員会は、制裁金額の決定に際し 2006 年の制裁金ガイドラインを参照し、各

違反行為の継続期間と重大性を考慮した。各社に対する制裁金額は、次のとおりで

ある。

事業者 違反行為 制裁金額

Unichem Laboratories Limited と

Niche Generics Limited(連帯責任)

Servier-Niche/Unichem

和解協定(101条)

1396万8773ユーロ

(約19.6億円)

Matrix Laboratories Limited( 現

Mylan Laboratories Limited)

Servier-Matrix和解協定

(101条)

1716万1140ユーロ

(約24億円)

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内Mylan Inc.との連帯責任 804万5914ユーロ

(約11億2642万円)

Teva UK Limited, Teva Pharmaceuticals

Europe B.V. と Teva Pharmaceutical

Industries Ltd

(連帯責任)

Servier-Teva和解協定

(101条)

1556万9395ユーロ

(約21.8億円)

Krka, tovarna zdravil, d.d., Novo

mesto

Servier-Krka和解協定

(101条)

1000万ユーロ

(約14億円)

Lupin Limited Servier-Lupin和解協定

(101条)

4000万ユーロ

(約56億円)

Servier S.A.S.

濫用的行為(102条)

和解協定(101条)

Servier-

Niche/Unichem間協定、

Servier-Matrix間協定、

Servier-Teva間協定、

Servier-Krka間協定、

Servier-Lupin間協定

3億3099万7200ユーロ

(約463.4億円)

内 Les Laboratoires Servier との連

帯責任

3億3099万7200ユーロ

(約463.4億円)

内 Servier Laboratories Limited と

の連帯責任

1億3584万1600ユーロ

(約190億円)

内Biogaranとの連帯責任 1億3153万2600ユーロ

(約184億ユーロ)

合計 4億2769万6508ユーロ

(約598億ユーロ)

なお、本件に対しては、2012 年 7 月に異議告知書が発出され、また 2009 年 7 月に

正式調査の早期開始(early opening)が行われた。

13 欧州委員会、SSAB による競合他社 Rautaruukki の買収を条件付で容認(2014

年 7 月 15 日)13

欧州委員会は 7 月 15 日、SSAB(スウェーデン)による競合他社 Rautaruukki(以下、

Ruukki)(フィンランド)の買収計画を条件付きで容認した。本件容認は、フィンランド、

スウェーデン、及びノルウェーにおける 5 つの事業の売却を条件としている。

本件当事者である SSAB は、スウェーデンを本拠とする従業員約 8700 名の製鉄会社

であり、(主として炭素)鋼製の製造販売と、建設業向けの鉄鋼製品の供給を行ってい

る。また、Ruukki は、フィンランドを本拠とする従業員約 8700 名の製鉄会社であり、

(主として炭素)鋼製の製造販売と、建設業向けの鉄鋼製品の供給を行っている。

欧州委員会による審査の結果、欧州大陸の鉄鋼製造業者らは、供給過剰に陥ってい

13 Press Release, European Commission, Mergers: Commission clears acquisition

of Rautaruukki by SSAB, subject to conditions, IP/14/833, 15 July 2014.

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るにもかかわらず、北欧諸国において熱延、冷延、及び有機被覆炭素鋼板の販売で限

定的なプレゼンスしかなく、事業を拡大する上で、とりわけ市場アクセス、効率的な

物流、及び輸送費用に関する障壁に直面しているということが明らかとなった。さら

に、SAAB と Ruukki は、競争関係に立つ、強力かつ垂直的に統合された事業を有して

いる。このため欧州委員会は、欧州大陸からの輸入による競争が不十分であるため、

本件買収後、統合会社が北欧諸国における価格を引き上げることとなることに懸念を

抱いていた。

また、欧州委員会の詳細審査により、両社は炭素鋼平板製品(flat carbon steel

products)の販売について自国市場における主導的事業者であり、ノルウェーにおける販

売の多くについても直接ないし間接に支配していることが明らかとなった。加えて、フィ

ンランドにおけるステンレス鉄鋼の販売については、当初の届出によれば、統合会社は、

残存する有一の有力な競争者 BE Group の 3 倍以上の規模を有することとなっていた。

建設用の鋼製プロフィール・シート(profiled steel construction sheets)とは、亜

鉛でメッキされ、また着色された鋼製のプロフィール・シート(profiled steel sheets)

のことであり、北欧諸国では屋根材として広く用いられている。欧州委員会による審

査の結果、フィンランドにおいては、当初の届出によれば、本件取引は唯一の全国規

模の競争者として残存する Weckman の 3 倍以上の規模を有する統合会社を生み出すこ

ととなっていたことが明らかとなった。したがって、欧州委員会は、残余の競争者ら

は価格上昇を抑制し、統合会社に対し、十分な競争上の圧力をかけることができない

だろう、と結論付けた。

欧州委員会の上記懸念に対し、SSAB は次の事業の売却を申し出た。

1) スウェーデンにおける鉄鋼サービスセンター(SSC)、及び同国における多くの委

託在庫と工場渡し販売契約

2) フィンランドにおける SSC、及び同国における多くの委託在庫と工場渡し販売

契約

3) SSAB のノルウェーにおける SSC 及び販売業者として活動している JV2 社(Norsk

Stål 及び Norsk Stål Tynnplater)の保有株式(保有割合 50%)

4) SSAB のフィンランドにおける販売子会社 Tibnor Oy

5) SSAB のフィンランドにおける建設会社 Plannja Oy

同社はまた、本件売却後に、別の平板炭素鋼製造業者が、上記 1)から 3)の事業に出

資できるようにする旨申し出た。したがって、これらの事業は、流通段階で統合会社

と競争する立場に置かれ、それに加え、他の製造業者が北欧諸国において直接的なプ

レゼンスを確立、拡大できるための流通経路として機能する立場に置かれることとな

る。欧州委員会は、上記の問題解消措置により修正される本件取引は、競争上の懸念

を惹起するものではないと結論付けた。

なお、本件取引は本年 5 月 22 日に欧州委員会へ届出のあったものである。

14 欧州委員会、Marine Harvest が EU 合併規則上の「承認」を得る前に Morpol 株

式を取得したとして、2000 万ユーロの制裁金を賦課(2014 年 7 月 23 日)14

14 Press Release, European Commission, Mergers: Commission fines Marine

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欧州委員会は 7 月 23 日、鮭の養殖・販売業者である Marine Harvest ASA(ノルウェ

ー)が EU 合併規則上の事前届出をし、「承認」を得る前に競争者である Morpol(ノルウ

ェー)の株式を取得したとして、同社に対し 2000 万ユーロ(約 27 億 4000 万円、1 ユー

ロ=137 円)の制裁金を賦課した。

Marine Harvest は 2012 年 12 月 18 日、Morpol 株式の 48.5%を取得することによ

り、同社に対する事実上の単独支配権を獲得した。欧州委員会による審査の結果、同

社は、残りの株式の保有が分散しており、また株主総会への出席率が低いため、本件

取引により、株主総会での安定多数を取得することができたということが明らかとな

った。同社は、欧州委員会への正式通知の 8 か月前、また欧州委員会による容認決定

の 9 か月前に買収を実施したため、合併規則第 4 条 1 項及び第 7 条 1 項に違反した。

本件決定は、合併規則の下では重大な違反となる待機条項違反のみに関するものであ

り、欧州委員会が 2013 年 9 月に条件付きで本件取引を容認した決定に影響を与える

ものではない。なお、待機条項違反については、2014 年 7 月 3 日の欧州司法裁判所

Electrabel 事件判決によっても、重大な違反となることが確認されている。

合併規則によると、欧州委員会は故意ないし過失により、届出義務ないし待機義務

に違反した事業者に対し、年間売上高の 10%までの制裁金を賦課することができる。

欧州委員会は、制裁金額の算出に際し、違反行為の重大性と実施期間(本件の場合は 9

か月)に加え、軽減・加重要素についても考慮する。

Marine Harvest は、EU 合併規則に関する経験と知見を有する欧州の大企業である。

したがって、欧州委員会は、同社が買収に先立ち、欧州委員会へ通知をし、取引を実

施する前に承認を得る義務があることを承知していたはずであり、これらの義務に従

わなかったことは過失行為であると結論付けた。

また欧州委員会は、当初届出のあった取引が共通市場と両立しないと疑念し、相当

な問題解消措置を受理して初めて容認したことに鑑み、本件違反は特に重大な違反で

あると考えた。したがって、条件付きの容認に先立つ本件取引の実施は、競争上の問

題を惹起する可能性があった。

他方、欧州委員会は、制裁金軽減事由の存在、とりわけ Marine Harvest が Morpol

の支配権を獲得した後、議決権を行使しなかった事実を考慮した。さらに、欧州委員

会は、Marine Harvest が欧州委員会に対し、取引終了直後に接触手続を通じて、欧州

委員会への正式通知に先立ち、非公式な通知をしたという事実を重視した。

これらの事情に鑑み、欧州委員会は 2000 万ユーロという制裁金は、十分な抑止力を

持つ、適切なものであると結論付けた。

15 欧州委員会、スマートカード・チップ製造業者に対し、1 億 3800 万ユーロの

制裁金を賦課(2014 年 9 月 3 日)15

欧州委員会は 9 月 3 日、Infineon(ドイツ)、Philips(オランダ)、Samsung(韓国)、及

Harvest 20 million euros for taking control of Morpol without prior EU merger

clearance, IP/14/862, 23 July 2014. 15 Press Release, European Commission, Antitrust: Commission fines smart card

chips producers 138 million euros for cartel, IP/14/960, 3 September 2014.

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びルネサス(当時、日立製作所と三菱電機との間の合弁会社)が欧州経済領域(EEA)におけ

るスマートカード・チップ市場において、カルテルを実施していたことを理由に、総

額 1 億 3804 万 8000 ユーロ(約 193 億円、1 ユーロ=140 円)の制裁金を賦課した。

スマートカード・チップは、携帯電話の SIM カード、銀行のキャッシュカード、身

分証、パスポート、有料テレビカードその他多くの用途で使用されている。SIM 部門

で用いられているスマートカード・チップは、電話番号の記憶など主としてメモリー

を利用しているが、他の部門で用いられているものは、データ秘匿性を確保するため

の暗号作成のセキュリティ・デバイスをも利用している。

本件当事者らは、顧客の値下げ要請への対応を決定するために、2 者間のネットワ

ークを通じて本件カルテルを実施していた。また本件当事者らは、価格、顧客、契約

交渉、生産能力、設備稼働率、将来の市場行動等の事業上重要な情報について議論し、

また交換していた。かかる行為は、カルテルとして EU 運営条約第 101 条及び EEA 条

約第 53 条により禁止されている。

欧州委員会は、2008 年に予告のなしの調査より本件に対する調査を開始した。当初

は、2008 年の和解告示の下、関係当事者数社との間で和解により本件を解決すること

を考えていた。しかし、欧州委員会は、協議に進展が見られなかったため、和解の手

続ではなく通常の手続により処理することとし、2013 年に異議告知書を送付した。

欧州委員会は、本件に対する制裁金額の算定にあたっては、2006 年の制裁金ガイド

ラインの下、違反行為の重大性、地理的範囲(EEA 全域)、及び各当事者の違反行為への

参加期間について考慮した。ルネサスは、2006 年制裁金減免告示の下、欧州委員会に

対し本件カルテルの存在を明らかにしたため、少なくとも 5100 万ユーロ(約 71 億 4000

万円)に上ると見られていた制裁金の全額免除を受けた。また、Samsung については、

欧州委員会による調査への協力を理由に 30%の減額を受けた。本件事業者に賦課され

た制裁金額は、以下のとおりである。

減免告示に基づく減免率 制裁金額

Infineon 0 8278万4000ユーロ(約116億円)

Philips 0 2014万8000ユーロ(約28億円)

Samsung 30% 3511万6000ユーロ(約49億円)

ルネサス 100% 0

合計 1億3804万8000ユーロ(約193億円)

16 欧州委員会、Huntsmanによる Rockwoodの複数事業の買収を条件付で容認(2014

年 9 月 10 日)16

欧州委員会は 9 月 10 日、第二次審査の後、Huntsman(米国)による Rockwood Specialties

グループ(米国)の複数の事業の買収を条件付きで容認した。本件買収は、プリントインク

(柔軟包装で使用されている印刷インク等)の原料で使用される二酸化チタンに関する

16 Press Release, European Commission, Mergers: Commission approves

acquisition of several of Rockwood’s chemical businesses by Huntsman, subject to

conditions, IP/14/991, 10 September 2014.

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Huntsman の TR52 事業の売却を条件としている。

二酸化チタンは、PVC 窓枠、自動車のコーティング、バスタブ、紙、布、歯磨き、ク

リーム、クッキー等の幅広い商品を漂白し、色を明るくし、また不透明にする白色顔

料である。

本件当事者である Huntsman は、化学産業、とりわけ顔料(二酸化チタンを含む)、ポ

リウレタン、高性能製品、最先端素材市場において、国際的に事業活動を行っている

米国企業である。他方、Rockwood は、産業・商業向けの特殊化学製品、応用製品部門

において事業活動を展開している。Huntsman が買収する Rockwood の事業は、二酸化

チタンと機能性化合物(“Sachtleben”名で操業)、色顔料、北米における材木処理剤及び

木材保護化合物、水処理剤、及びゴム製自動車補修部品(“Gomet”名で操業)を対象とし

ている。

欧州委員会の詳細調査によると、当初届出のあった本件取引は印刷インクの原料で

ある二酸化チタンの主要な製造業者 2 社を統合することにより、EEA 市場における支

配的地位の創設をもたらしていただろう。また、欧州委員会の調査によると、合併に

より誕生する新会社は、市場で成長するためのノウハウ又は動機を有さない DuPont、

Tronox、Kronos のほか、東欧、アジアの製造業者からの十分な競争圧力にさらされる

ことはないだろう。欧州委員会はさらに、本件市場においては主としてノウハウと資

本要件に関する高い参入障壁が存在すると認定した。よって、欧州委員会は、顧客が

他の供給者に切り替えられず、既存の供給者にロックインされることとなることに懸

念を抱いていた。

欧州委員会は、化粧品、医薬品、食品、繊維、コーティング、プラスチック、及び

紙向けの二酸化チタン市場のほか、二酸化チタンの副産物である硫酸化鉄、またフィ

ルターで除去された塩分(filter salts)の市場における本件買収の効果についても検

討した。欧州委員会による調査の結果、Huntsman は、これらの市場において、本件買

収後にも、Kronos、DuPont、Precheza 等の他の競争者からの大きな競争圧力にさらさ

れ続けることとなることが明らかになった。

欧州委員会の懸念に対し、Huntsman は、TR2 のブランド、技術、ノウハウ、顧客と

の取り決め、及び主要な人材を含む、全世界における TR52 事業を売却することを申し

出た。これらの問題解消措置案は、Huntsman と Rockwood の EEA における印刷インク

向け二酸化チタン市場における事業活動の重複を解消するものである。当該売却は、

TR52 事業の購入者が有効に事業を運営できることを確保するものである。また両社は、

欧州委員会の承認する適切な購入者との間で有効な事業売却契約を締結するまでは、

本件取引を終了しないことについても確約した。欧州委員会は、上記問題解消措置に

より修正された本件取引は、競争上の懸念を惹起するものではないと結論付けた。

なお、本件は本年 1 月 29 日に欧州委員会へ届け出られ、欧州委員会は本年 3 月 5 日

に詳細な調査を開始した。その後、本年 7 月 8 日に欧州委員会は本件当事者らに異議

告知書を送付し、当初届出のあった取引は、EEA における印刷インク向け二酸化チタ

ン市場において深刻な競争上の懸念を惹起するものであることを通知した。

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17 欧州委員会、バナナ製造・輸入業者 Chiquita と Fyffes との間の合併を条件

付で容認(2014 年 10 月 3 日)17

欧州委員会は 10 月 3 日、Chiquita Brands International(米国)と Fyffes(アイル

ランド)との間の合併を条件付きで容認した。

本件当事者の Chiquita は、バナナを中心とする新鮮な農作物の輸入業者として全

世界で活動している。EU においては、同社はパイナップルを中心として他の果物を供

給するとともに、燻蒸サービスと輸送サービスを提供している。Fyffes もまた、バナ

ナ等の調達、輸送、輸入、及び卸売分野において事業を展開している。

本件合併は、欧州における新鮮なバナナの第 1 位と第 2 位の供給者を統合するもの

である。しかし、欧州委員会による調査の結果、両社による主要な北欧の港へのバナ

ナ輸入の全般的シェアが比較的低く、また減少傾向にあり、競合他社からの競争が活

発化しており、並びにプライベート・ブランドのバナナを開発しているスーパー・マ

ーケットが有力な地位を有していることを考慮すれば、本件関連市場において、健全

な競争が維持される蓋然性があるということが明らかになった。しかしながら、出荷

段階で競争者を閉め出すリスクを封じるため、本件容認は、本件当事者らに対し条件

を付けている。具体的に、(1)Fyffes は出荷会社である Maersk を排他的取引条項から

解放しなければならず、また(2)両者は、将来において、同じような排他的取引条項を

出荷会社らと締結してはならず、また出荷会社らに対して、他のバナナ会社にサービ

スを提供させないようなインセンティブを与えてはならない。

欧州委員会は、本件合併が(1)バナナの輸入及び小売と卸への販売、(2)バナナ燻蒸

サービスの提供、また(3)パイナップルの供給・販売の各市場における競争への影響に

ついて検討した。欧州委員会の調査によると、とりわけベルギー、フィンランド、ア

イルランド、ラトビア、オランダ、スウェーデン及び英国において、両社がバナナの

輸入販売を巡り高い市場占拠率を有しているにもかかわらず、卸と小売の顧客は、か

なりの数の潜在的なバナナ供給者から選択し続けられることとなるだろう。これらの

代替的供給者には、Dole、Del Monte、及び Compagnie Fruitière 等の大手のバナナ供

給者のほか、Noboa、Uniban 等 EU 市場に直接販売している生産者、AFC、Cobana、De

Groot、T-Port、及び Univeg 等の中規模事業者が含まれる。欧州委員会はまた、これ

らの事業者が自己の事業活動を拡大し、又は隣接する地理的市場に参入することにつ

いて、大きな障害に直面していないことを指摘した。

さらに、欧州委員会の調査の結果、とりわけ生産段階、燻蒸段階、及び EU 内での輸

送段階というバナナ供給網の多くの段階において障壁がないとする両社の主張が確認

された。しかしながら、輸送については、両社が競争者を輸送サービスの利用から閉

め出す潜在的リスクがあることが明らかになった。両社による問題解消措置は、本リ

17 Press Release, European Commission, Mergers: Commission approves merger

between banana companies Chiquita and Fyffes, subject to conditions,

IP/14/1090, 3 October 2014.

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スクに対応するものである。

問題解消措置の実施期間は 10 年間である。また、両社の協定その他の慣行に対して

は、EU 運営条約第 101 条・第 102 条の規定が全面的に適用されることとなる。欧州委

員会は、バナナの燻蒸サービスと、パイナップルの供給販売サービスについては、競

争上の問題を認定しなかった。

上記の問題解消措置を受け、欧州委員会は、修正された本件提案は競争上の問題を

もたらすものではないと結論付けた。本決定は、本件問題解消措置の完全な遵守を条

件とする。なお、本件取引は 2014 年 8 月 14 日に欧州委員会へ届出がなされたもので

ある。

18 欧州委員会、スロバキアのブロードバンド市場における濫用行為を理由に、

Slovak Telekom と同社の親会社である Deutsche Telekom に対し制裁金を賦

課(2014 年 10 月 15 日)18

欧州委員会は 10 月 15 日、Slovak Telekom(以下、ST)と同社の親会社である Deutsche

Telekom(以下、DT)が、5 年以上にわたりスロバキアのブロードバンド市場から競争者

を閉め出す濫用的な戦略を実施していたことを理由に、総額 3883 万 8000 ユーロ(約

54.4 億円、1 ユーロ=140 円)の制裁金を賦課した。欧州委員会によると、ST は競争者

に対しアンバンドルされた電線ループへの接続を拒み、また代替的事業者に対しマー

ジン・スクイーズを行っていた。なお、欧州委員会は、DT が ST の行動に対し決定的

な影響力を有する親会社であると認定し、よって DT が制裁金の支払いに対し連帯責

任を負うと決定した。また DT については、制裁金に十分な抑止力を持たせるために、

また濫用行為が繰り返されたために、3107 万ユーロ(約 43.5 億円)の制裁金が付加さ

れた。濫用行為の反復については、ドイツのブロードバンド市場においてマージン・

スクイーズを行っていたとして、2003 年に制裁金が既に賦課されている。

ST は、スロバキアにおける独占的な電気通信事業者であり、従来の電線網とファイ

バー網を経由して固定ブロードバンド・サービスを供給している。2005 年 6 月、スロ

バキアの電気通信規制当局(TUSR)は、同社に対して自己の電話ネットワークにおける

ローカル・ループへの接続を義務付けた。

これを受け、同社は 2005 年 8 月、代替的事業者に対し自己のアンバンドルされた電

線ループへの接続を認める条件を公表したが、本条件は接続を困難にするものであっ

た。とりわけ、ST はローカル・ループのアンバンドリングに必要なネットワーク情報

の提供を差し控え、一方的にアンバンドルに関する規制上の義務の範囲を縮小し、接

続を認める上で必要となる各種手続でその他の不当な条件を設定した。これは、スロ

バキアの小売ブロードバンド・サービス市場への代替的事業者の参入を遅延、ないし

阻止するものであり、接続の拒否に該当するものである。

さらに ST は、ローカル・ループへの接続の料金と小売の料金については、競争者が

ST の小売価格に対抗する価格でブロードバンド・サービスを供給しようとすると、必

18 Press Release, European Commission, Antitrust: Commission fines Slovak

Telekom and its parent, Deutsche Telekom, for abusive conduct in Slovak

broadband market, IP/14/1140, 15 October 2014.

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然的に赤字を被ってしまうという水準に設定していた(いわゆる「マージン・スクイー

ズ」)。このような条件の下、代替的事業者は有効的にスロバキア市場に参入すること

ができなかった。代替的事業者が自己のネットワークを展開することとした場合には、

市場参入が地理的に限定された範囲のみとなり、また遅延されることとなった。これ

らの行為は、EU 運営条約第 102 条が禁止する市場支配的地位の濫用に該当するもので

ある。

DT は、ST 株式の 51%を保有する大株主であり、取締役会の多数を任命し、また ST

におけるすべての経営上の問題を取り上げる通知を受ける特別な権利を有している。

それ故に、DT は ST に対して決定的な影響力を行使することができる。欧州委員会に

よる調査の結果、DT は実際に上級経営陣の兼任を通じ、また ST の意思決定過程への

影響力行使により、決定的な影響力を行使していた。EU 競争法においては、このよう

な決定的な影響力を行使する親会社は、子会社による違反行為に対して責任を有する。

したがって、DT は ST の違反行為の連帯責任を負っている。

制裁金の決定に際し、欧州委員会は、2006 年の制裁金賦課ガイドラインに基づき、

本件違反行為の実施期間(2005 年 8 月 12 日から 2010 年 12 月 31 日)及び重大性を考慮

した。なお DT は、ドイツにおいてアンバンドルされた電線ループへの接続の市場でマ

ージン・スクイーズを行っていたとして、既に 2003 年に制裁を受けている。本件にお

いて濫用行為が繰り返されたため、同社に対する制裁金は 50%割増された。なお、DT

の 2013 年における全世界での売上高が 600 億ユーロ(約 8 兆 4000 億円)を超えたこと

から、制裁金に抑止力を持たせるため、制裁金はさらに 20%割増された。その結果、

同社に対する制裁金は、ST と連帯で支払うことが求められている 3883 万 8000 ユーロ

(約 54.4 億)を含め、6990 万 8000 ユーロ(約 97.9 億円)とされた。

本件に対する詳細な調査は、ST に対しては 2009 年 4 月、DT に対しては 2010 年 12

月に開始され、2012 年 5 月に異議告知書が採択された。

19 欧州委員会、スイスフラン金利デリバティブを対象とする売買幅に関するカ

ルテルを和解手続により解決し、主要 4 銀行に 3230 万ユーロの制裁金を賦課

(2014 年 10 月 21 日)19

欧州委員会は 10 月 21 日、RBS、UBS、JP Morgan、及び Crédit Suisse の主要 4 銀行

が、欧州経済領域(EEA)において、スイスフラン金利デリバティブを対象とする売りと

買いの幅(bid-ask spreads)に関するカルテルを実施したことを認定し、総額 3235 万

5000 ユーロ(約 47 億円、1 ユーロ=145 円)の制裁金を賦課した。

金利デリバティブは、金利変動リスク管理のため、銀行や企業により利用されてい

る金融商品である。いわゆる「売りと買いの幅」は、ある商品をいくら以下なら買いた

い、いくら以上なら売りたいという市場指標の価格差である。

欧州委員会の調査の結果、RBS、UBS、JP Morgan、及び Crédit Suisse は、2007 年 5

月から 9 月までの間、店頭での短期のスイスフランの金利デリバティブの幾つかの種

19 Press Release, European Commission, Antitrust: Commission settles cartel on

bid-ask spreads charged on Swiss Franc interest rate derivatives; fines four

major banks 32.3 million Euros, IP/14/1190, 21 October 2014.

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類について、第三者には、より広い、固定された売買幅を公示することで合意する一

方、本件当事者間の取引では、より狭いスプレッドを維持することとした。本申合せ

の目的は、当事者自身の取引費用を削減し自分達の間での流動性を維持する一方、第

三者に対して幅広いスプレッドを適用することであった。また、他の市場参加者がス

イスフランのデリバティブ市場において本件主要 4 行と同一の条件で競争できること

を回避することも目的とされていた。

本件当事者に課された制裁金は、2006 年制裁金ガイドラインに基づくものであり、

欧州委員会は、EEA における本件当事者の対象商品の売上高、本件違反行為の重大性、

地理的範囲、及び継続期間を考慮した。RBS は、2006 年制裁金減免告示の下、本件カ

ルテルの存在を欧州委員会に通知したため、本件違反行為への参加による 500 万ユー

ロに上ると見込まれる制裁金の賦課を回避した。UBS と JP Morgan は、欧州委員会の

制裁金減免プログラムの下、欧州委員会の調査手続に協力したため、制裁金の減額を

受けた。4 行とも、欧州委員会と和解手続により本件を解決することに同意したため、

制裁金額はさらに 10%減額された。各社に賦課された制裁金額は、次のとおり。

当事者名 制裁金減免告示に基づく減免率 制裁金額(ユーロ)

RBS 100% 0

UBS 30% 12,650,000

JP Morgan 25% 10,534,000

Crédit Suisse 0% 9,171,000

合計 32,355,000

20 欧州委員会、アリタリア航空とエティハド航空の戦略的提携を条件付で容認

(2014 年 11 月 14 日)20

欧州委員会は 11 月 14 日、アリタリア航空(Alitalia Compagnia Aerea Italiana)(イ

タリア)とエティハド航空(アラブ首長国連邦)がジョイント・ベンチャーである新アリ

タリア航空(New Alitalia)(イタリア)を創設する旨の計画を条件付きで容認した。新ア

リタリア航空は、アリタリア航空の航空事業を継承することとなる。本決定は、アリ

タリア航空とエティハド航空が、とりわけローマ・フィウミチーノ空港とベオグラー

ド航空のスロットを新規参入者へ譲渡することを条件としている。

本件当事者であるアリタリア航空は、イタリアのナショナル・フラッグ・キャリア

であり、国内線・国際線を就航している。同社は、スカイチーム航空連合のメンバー

であり、デルタ航空とエールフランス/KLM 航空とともに、大西洋 JV の一員となって

いる。アリタリア航空は、ローマ・フィウミチーノ空港をハブ空港とし、2013 年にお

いては 2400 万人の乗客を輸送した。Alitalia Loyalty は、アリタリア航空が完全に

所有する子会社であり、アリタリア航空のマイレージ・プログラム “MilleMiglia

Programme”の運用・開発に特化した事業者である。エティハド航空は、アブダビのナ

20 Press Release, European Commission, Mergers: Commission approves

Etihad’s acquisition of joint control over Alitalia, subject to conditions,

IP/14/1766, 14 November 2014.

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ショナル・フラッグ・キャリアである。同社は、2014 年 6 月現在、102 機を保有し、

アブダビ国際空港をハブ空港として、103 の目的地へ就航していた。2012 年と 2013 年

において、同社はそれぞれ 1030 万人、及び 1150 万人の乗客を輸送した。セルビア航

空(旧 Jat 航空)は、セルビアのナショナル・フラッグ・キャリアかつ主要な航空会社

であり、ベオグラード空港をハブ空港としている。同社は、地理的にはバルカンと地

中海地域に特化している。エティハド航空は、セルビア航空の株式の 49%を保有し、

また 51%を保有するセルビア政府との間で運営協定を締結している。

欧州委員会は、本件合併が競争に与える効果を検討した。結果的に、欧州委員会は、

ローマ・ベオグラード路線を除き影響の受ける全ての路線において、主として他の航

空会社からの競争上の圧力が存在するため、本件合併により、深刻な競争上の懸念が

惹起されることはないと結論付けた。また、欧州委員会は、エティハド航空が保有す

る Airberlin、Darwin Airline、及び Jet Airways の持ち株についても考慮した。し

かし、欧州委員会の調査の結果、本件取引は、アリタリア航空とセルビア航空のみが

直行便を就航するローマ・ベオグラード路線に独占をもたらすものであることが明ら

かになった。

本路線に対する欧州委員会の競争上の懸念を払拭するため、アリタリア航空とエテ

ィハド航空は、1 ないし 2 以上の関心を有する新規参入者に対し、ローマ・フィウミ

チーノ空港とベオグラード空港において、毎日 2 スロットのペアを上限に発着枠を譲

渡することとした。両社はまた、新規参入者が一定期間経過後に祖父権(grandfathering

rights)を獲得できる可能性についても、申し出た。さらに両社は、新規参入をより確

かなものとするため、運賃組合せ協定また乗継ぎ協定(interline agreement)の締結、

及びマイレージ・プログラムへの参加等さらなる措置を申し出ることとした。

上記問題解消措置は、欧州委員会の認定した競争上の懸念に対して適切に対応する

ものであり、またローマ・ベオグラード路線への新規参入を容易にするものである。

よって欧州委員会は、問題解消措置により修正された本件措置は深刻な競争上の懸念

を惹起するものではないと結論付けた。本件取引は、上記問題解消措置の完全な実施

を条件としている。

なお、本件取引は 2014 年 9 月 29 日に届け出られたものである。

21 欧州委員会、カルテル和解手続を利用した封筒製造業者 5 社に対し総額 1940

万ユーロの制裁金を賦課(2014 年 12 月 11 日)21

欧州委員会は 12 月 11 日、Bong(スウェーデン)、GPV(フランス)、Hamelin(フランス)、

Mayer-Kuvert(ドイツ)、及び Tompla(スペイン)の 5 社が、特定の封筒の価格を調整し、

顧客を割り当てていたことを理由に、総額 1948 万 5000 ユーロ(約 28.2 億円、1 ユーロ

=145 円)の制裁金を賦課した。

欧州委員会は、2010年 9月に職権により本件に対する手続を開始した。調査の結果、

本件カルテルの目的は、カタログに掲載されている標準の封筒と、印刷された特殊な

21 Press Release, European Commission, Antitrust: Commission fines five

envelope producers over 19.4 million euros in cartel settlement, IP/14/2583,

11 December 2014.

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封筒について、顧客を分割するとともに、販売価格を調整することであったというこ

とが判明した。これらの商品は、デンマーク、フランス、ドイツ、ノルウェー、スウ

ェーデン及び英国の主として文房具卸と大企業により購入された。経営幹部の出席す

る複数社間、ないし二社間の一連の会合を通じ、本件カルテル参加者らは、欧州にお

ける主要な顧客が行った入札の受注を調整し、価格引上げに合意し、また事業上重要

な情報を交換した。

本件違反行為は、2003 年 10 月に開始され(同年 11 月にカルテルに加わった Hamelin

を除く)、2008 年 4 月まで継続した。本件事業者に課された制裁金額は、以下のとお

り。

減免告示に基づ

く減額率

和解告示に基づ

く減額率

制裁金額(ユーロ)

Tompla(スペイン) 50% 10% 472万9000ユーロ

(約6.85億円)

Hamelin(フランス) 25% 10% 499万6000ユーロ

(約7.24億円)

Mayer-Kuvert(ドイツ) 10% 10% 499万1000ユーロ

(約7.23億円)

GPV(フランス) 10% 10% 165万1000ユーロ

(約2.4億円)

Bong(スウェーデン) ― 10% 311万8000ユーロ

(約4.5億円)

合計 1948万5000ユーロ

(約28億2532万円)

上記制裁金額は、欧州委員会の 2006 年制裁金ガイドラインに基づくものであり、欧

州委員会は、違反行為者の対象商品の EEA(欧州経済領域)内の売上高、違反行為の重大

性、地理的範囲、及び実施期間を考慮した。

違反行為者全てにとっては、封筒が売上高の大半を占めている。この結果、制裁金

額は違反行為者らの年間総売上高の 10%という法定上限に張り付くこととなってい

た。そこで、欧州委員会は、同ガイドライン第 37 段に基づき、例外的に裁量権を行使

し、各事業者の特性、及び違反行為への関与に見られる相違を勘案して制裁金を減額

した。その際、欧州委員会は、比例原則に配慮しながら、十分な抑止力が確保される

ことに努めた。なお、Mayer-Kuvert の関与の程度が低かったことが制裁金額に反映さ

れた。

また、2008 年和解告示の利用を通じ、各社の制裁金額は一律 10%減額された。な

お、5 社のうち 2 社が同ガイドライン第 35 段に基づき支払不能の申立てを行ったとこ

ろ、欧州委員会は諸般の事情を考慮し、両社の制裁金額を減額した。

本件に対する調査は、2010 年 9 月に予告なく開始された。

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22 欧州委員会、IMS Health による Cegedim の一部の買収を条件付で容認(2014

年 12 月 19 日)22

欧州委員会は 12 月 19 日、IMS Health による Cegedim の一部(顧客関係管理と情報サ

ービス事業(ターゲット))の買収を条件付きで容認した。本決定は、IMS Health が同社

の重要市場調査事業の一部を売却すること、また同社の販売追跡データの基礎をなす

いわゆる「ブリック・ストラクチャー(brick structure)」を第三者に開放することを条

件としている。

欧州委員会は、本件取引により、標準化された重要市場調査サービスの顧客にとっ

て、選択肢が減少し、価格が引き上がるだろうということに懸念を有していた。さら

に、欧州委員会は、IMS Health が競争者に対し自己の「ブリック・ストラクチャー」

へのアクセスを拒否する蓋然性が高いことにも懸念を有していた。

本件当事者である IMS Health は、ニューヨーク証券取引所に上場している米国企

業である。Cedegim はフランスを本拠としている。IMS Health とターゲットは、製薬、

バイオ・テクノロジー、及び生命科学セクターの企業に対し、業績の評価と改善を行

うためのパッケージ(solution)を提供している。IMS Health は、製薬会社が使用する

処方箋医薬品の販売の追跡について、EEA における主導的事業者である。ターゲット

は、欧州において、医師の取引情報に関する最大のデータベースの 1 つを提供してお

り、製薬会社は、それを利用することによって、販売努力の焦点を絞っている。また

ターゲットは、EEA において製薬会社に顧客関係管理ソフトを提供する重要なプロバ

イダーでもある。

欧州委員会による調査の結果、本件取得により誕生する新会社が EEA に残存する少

数の事業者から十分な競争圧力を受ける蓋然性がないため、提案された本件取引は、

標準化された重要市場調査の市場における競争を減殺させるおそれがあるということ

が明らかになった。標準化された重要市場調査は、外科医のパネルにより収集された

情報とデータに基づき、市場調査提供者が定期的に集積する研究と報告書から構成さ

れている。これらの報告書は、製薬会社がマーケティングと販売努力の成果を評価で

きるようにするため、それらの会社に提供されている。

欧州委員会はまた、「ブリック・ストラクチャー」が本件市場で事業を展開する上で

重要なインプットであるが故に、IMS Health がターゲットの競争者に同ストラクチャ

ーへのアクセスを認めない可能性があることに懸念を有していた。実際、IMS Health

の EEA における販売追跡データの主導的地位に鑑み、製薬会社は、医師の取引情報や

ソフトウェア製品等、他のデータやサービスの提供者であるにしても、同ストラクチ

ャーに基づいてデータやサービスを提供することができると思っている。

これらの懸念に対処するため、IMS Health は、同社の標準化された重要市場調査事

22 Press Release, European Commission, Mergers: Commission approves IMS

Health’s acquisition of parts of Cegedim, subject to conditions, 19

December 2014.

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業を売却し、ターゲットの競争者に対し、10 年にわたり同社のブリック・ストラクチ

ャーへのアクセスを認めることとした。これらの問題解消措置は、欧州委員会の認定

した競争上の懸念に適切に応えるものである。したがって、欧州委員会は、本件問題

解消措置により修正された本件取引は競争上の懸念をもたらすものではない、と結論

付けた。本件決定は、上記措置の完全な実施を条件とするものである。

また欧州委員会は、本件取引が顧客関係管理ソフトウェア、ビジネス・インテリジ

ェンス・ソリューションズ、コンサルティング・サービス、及びいわゆる「リアル・ワ

ールド証拠」(Real World Evidence)という両当事者が競合している各市場に与える影

響についても調査した。「リアル・ワールド証拠」とは、製薬会社の医薬品の効果と副

作用に関する情報のことである。欧州委員会は、各市場において十分な数の競争者が

存在するため、これらの市場に競争上の懸念が生じるおそれがないと結論付けた。

さらに欧州委員会は、本件取引により、両当事者が提供する多様な製品・サービス

を巡る垂直関係、及び混合関係についても競争上の懸念が生じるおそれがないと結論

付けた。その理由は、これらの市場において重大な変化がもたらされるおそれがない

ことだ。さらに、IMS Health によるいかなる抱き合わせ販売についても、代替的供給

者が当該市場において有効に競争し続けられるため、反競争的効果がもたらされる蓋

然性がない。

本件取引は、2014 年 11 月 4 日に欧州委員会へ届出のあったものである。

23 欧州委員会、BP による航空用燃料の供給者 Statoil Fuel & Retail Aviation

の買収を条件付で容認(2014 年 12 月 15 日)23

欧州委員会は 12 月 15 日、統合されたガス・石油会社である BP(英国)による航空用

燃料の供給者 Statoil Fuel & Retail Aviation(SFRA、ノルウェー)の買収を容認した。

本件買収は、ストックホルム、マルメ、イィーテボリ、及びコペンハーゲンの各空港

での SFRA 事業の売却を条件としている。

両当事者の事業活動は、ストックホルム、マルメ、イィーテボリ(全てスウェーデン)、

及びコペンハーゲン(デンマーク)の各空港における航空機への燃料供給について重複

している。当初届出のあった本件取引は、上記飛行場において、飛行機への給油まで

を一手に担う供給者の大手 2 社を統合するものであり、ストックホルム、マルメ、及

びイィーテボリの各空港における供給者数を 3 社から 2 社へ、コペンハーゲン空港に

おける競争者数を 4 社から 3 社へと減少させるものであった。欧州委員会は、残り数

少ない競争者は合併により誕生する新会社の価格引上げに対し、十分な競争圧力を加

えることができないだろうということに懸念を有していた。

欧州委員会の調査によると、本件市場への参入障壁は、必要なインフラへのアクセ

スを確保する難しさ、また供給網の費用における相違に鑑み、新規参入者のみならず、

事業拡大を図ろうとする既存事業者にとっても、高いものだろうとのことが明らかと

なった。さらに、ほとんどの航空会社は、上記飛行場での航空用燃料の供給における

23 Press Release, European Commission, Mergers: Commission clears

acquisition of aviation fuel supplier Statoil Fuel & Retail Aviation by

rival BP, subject to conditions, IP/14/2681, 15 December 2014.

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集中度上昇による結果に対抗するだけの十分な購買力を有していないということも明

らかとなった。したがって、欧州委員会は、提案された本件取引が、航空会社の費用

上昇をもたらすこととなることに懸念を抱いていた。

BP は、欧州委員会の上記懸念に対処するため、上記 4 空港における対象事業の売却

を申し出た。本件事業の売却は、航空用燃料の供給にみられる両社の重複を完全に解

消し、また上記飛行場における航空用燃料の供給者の参入を可能とするものである。

したがって、欧州委員会は、上記問題解消措置により修正された本件取引は競争上

の懸念を惹起するものではない、と結論づけた。また欧州委員会は、本件取引と関係

する他の飛行場に関しては、他の事業者との十分な競争が見込めるほか、これら飛行

場のほとんどにおいて両当事者の事業活動が重複していないため、本件取引により競

争上の懸念がもたらされるおそれがないと結論づけた。

本件取引は、2014 年 10 月 27 日に欧州委員会へ届出のあったものである。

24 欧州委員会、Holcim による Lafarge の買収を条件付で容認(2014 年 12 月 15

日)24

欧州委員会は 12 月 15 日、Holcim(スイス)による Lafarge(フランス)の買収を条件付

きで容認した。両当事者は、全世界にわたりセメント、レディミックスのコンクリー

ト、骨材その他の建設資材の製造販売に従事している。本決定は、ドイツ、ルーマニ

ア、及び英国における Lafarge の事業の売却、並びにフランス、ハンガリー、スロバ

キア、スペイン、及びチェコにおける Holcim の事業の売却を条件としている。欧州委

員会は、当初届出のなされた本件取引が欧州経済領域(EEA)の相当数の市場における競

争に決定的な影響をおよぼす蓋然性があることに懸念を有していた。

本件当事者である Holcim は、スイスを本拠とし、セメント、骨材、レディミックス

のコンクリート、アスファルト、及びセメント材を含む建設資材の世界的な製造業者

である。同社は、世界 70 か国以上で操業し、年間売上高 160 億ユーロ(約 2 兆 1120 億

円、1 ユーロ=132 円)以上を計上し、約 7 万 1000 人の従業員を雇っている。他方、

Lafrage は、フランスを本拠とし、セメント、レディミックスのコンクリート、及び

骨材その他建設資材を供給している。同社は、世界 64 か国で操業し、年間売上高 150

億ユーロ(約 1 兆 9800 億円)以上を計上し、約 6 万 5000 人の従業員を雇っている。

届出のあった取引は、数十億ユーロに上る価値のある資産を対象とするものであり、

世界 90 か国以上において操業する世界最大のセメント製造会社を創出するものであ

る。欧州委員会は、欧州における競争への影響について慎重に調査した。セメント、

骨材、レディミックスのコンクリートをはじめとする建材のほとんどは、製造地から

近いところで販売されるため、欧州委員会は、両当事者の製造施設付近の顧客に対す

る影響の評価に特化することとした。欧州委員会の調査は、本件合併により誕生する

新会社が多くの市場において他の事業者から十分な競争圧力を受ける蓋然性がないと

のことを明らかにした。

24 Press Release, European Commission, Mergers: Commission approves

acquisition of Lafarge by Holcim, subject to conditions, IP/14/2683, 15

December 2014.

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本件両当事者は、競争に対する悪影響を抑えるため、両社の事業活動が重複するほ

とんどの事業を売却することとした。問題解消措置には、資産のほか、資産の活用に

必要なサービスも含まれる。売却対象となる資産には、レディミックスのコンクリー

ト工場、骨材採取地、統合セメント工場、粉砕場、セメント基地(terminals)が含まれ

る。対象となるサービスには、中枢機能(経営、IT サービス、研究開発等)、操業費節減

のための代替燃料としての処理対象ゴミに関する代替燃料資源の利用が含まれる。両

社は、欧州委員会が売却対象となっている資産の購入者を承認するまで、本件取引を

終了させることはできない。

-ドイツにおいては、Lafarge は、Karsdorf と Wössingen でのセメント工場、及び

Sötenich での粉砕場を含む事業活動全体を売却することとなっている。

-ルーマニアにおいては、Lafarge は、Medgidia と Hoghiz でのセメント工場、Targu

Jiu における粉砕場、Cluj と Glina での SCIM 基地を含む事業活動全体を売却す

ることとなっている。

-スロバキアにおいては、Holcim は、Turna と Rohožnik でのセメント工場を含む事

業活動全体を売却するとともに、Ercsi と Békéscsaba での基地を含むハンガリ

ーにおける全事業資産を売却することとなっている。

-フランスにおいては、Holcim は、Héming、Lumbres、及び Rochefort-sur-Nenon で

のセメント工場、Dannes、Dunkerque、Grand-Couronne、La Rochelle、及び Ebange

での粉砕場、Dunkerque での輸入基地を含むセメント、レディミックスのコンク

リート、及び骨材に関連する事業のほとんどを売却することとなっている。

Lafarge は、Ciments de Bourgon の粉砕場の株式を除く Réunion における粉砕場

と事業活動全体を売却することとなっている。

-英国においては、Lafarge は、Staffordshire での Cauldon セメント工場を除く、

Anglo American との JV である Lafarge Tarmac を通じて実施している事業活動全

体を売却することとなっている。本件両当事者は、Lafarge Tarmac の事業の買収

者が採取場、セメント、及びレディミックスのコンクリートに関する英国競争当

局の 2014 年 1 月の報告書で示された基準を満たすようにすることも確約した。

これにより、英国における 5 番目の独立した国内セメント製造業者の参入が可能

となる。

-Holcim はまた、チェコにおける事業活動全体のほか、スペインにおける Gador 工

場と Yeles 粉砕場も売却することとなっている。Holcim のチェコとスペインにお

ける資産のセメント製造業者 Cemex(メキシコ)への売却は、チェコの競争当局と

欧州委員会それぞれが以前に下した決定の対象であった。

欧州委員会は、上記問題解消措置が、認定された競争上の懸念に応えるものである

と判断した。したがって、欧州委員会は、上記問題解消措置により修正された本件取

引は競争上の懸念を惹起するものではないと結論付けた。本決定は、問題解消措置の

全面的な実施を条件としている。

欧州委員会は、調査の過程において加盟国競争当局との間で緊密な協力関係を維持

していた。また、欧州委員会は、本件取引を調査している米国とカナダを含む、数多

くの第三国の競争当局にも接触した。

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本件取引は、2014 年 10 月 27 日に届出のあったものである。

(お問い合わせは、多田 英明・東洋大学法学部教授 [email protected]、又は佐藤 潤・クレ

ド法律事務所提携ニューヨーク州弁護士 [email protected] までお願いします。)

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