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- 107 - 1425100049 科目名: 比較法史 英文名: Comparative Legal History 担当者: イナモト 元 格 イタル 単 位: 2単位 開講年次: 1 ~ 3年次 開講期: 後期 必修選択の別: 選択必修科目 ■授業概要・方法等 最初に、ドイツにおける、中世から現代までの法と裁判制度の変遷を概観し(2回)、その後、中世、近世、近代、現 代に分け(各2回)、それぞれの時代の具体的な史料を利用して、法と裁判について説明します。授業の終盤では、我が 国の江戸期と明治期の法と裁判についても概観します(各2回)。裁判については、できる限り実際の裁判例を扱い、そ れを残存史料等によって復元し、受講者に、原告側・被告側・判決者として考えてもらいます。これによって、それぞ れの時代の法曹の姿勢や行動を検証し、法曹のあるべき姿についても考えます。 ■学習・教育目標および到達目標 この授業では、現行法に対する基礎知識を既に習得していることを前提にして、そのような現行の法制度が、社会や 国家制度の歴史的な変遷の中でどのように形成されてきたかを理解し、その理解を基礎として、さらに将来における法 制度、社会、国家のあるべき姿について考える力を養うことを目的とします。 ■授業時間外に必要な学修 「前以て配布される講義資料を熟読しておくこと」 「西洋史、日本史についての基礎的な知識を補うこと」 ■教科書 教科書は使用しません。毎講義時間に次回分の資料を配布します。 ■参考文献 各講義時間の内容を参照してください。 ■成績評価方法および基準 期末試験 80% 平常点(授業での質疑応答および授業参加の積極的態度を考慮要素とする) 20% ■研究室・E-mailアドレス 18号館5階 [email protected] ■授業計画の項目・内容及び到達目標 第1回 … 中世から現代にいたるドイツ法の変遷 ドイツ法は、2つの激動期、すなわち、近世における、ローマ法の継受による、ドイツ固有の慣習法のローマ法化、そし て近代の、市民法原理の導入による、法の全面的な改廃、を経験してきたことを理解させる。 ≪参考文献≫ Gerhardt Kobler 『ドイツ法史』(成文堂)  ミッタイス=リーベリッヒ『ドイツ法制史概説』(創文社) W・エーベル『ドイツ立法史』(東京大学出版会) 第2回 … 中世から現代にいたるドイツ訴訟制度の変遷 訴訟関係人である裁判官に注目し、中世の、法の素人である判決発見人から、近世の「自ら判決する裁判官」の登場、さ らに近代における陪審制の導入を経て、現代における参審制の採用という、その変遷過程を跡づける。 ≪参考文献≫ クヌート・W・ネル『ヨーロッパ法史入門』(東京大学出版会)  佐藤篤士・林毅編著『司法への民衆参加―西欧における歴史的展開―』(敬文堂) 第3回 … 中世における法 中世ドイツ慣習法が、裁判における具体的な判決の集積からなっていること、そしてそこで使用されている法概念も、誰 にでも分かるような、具体的で、抽象性の低いものであったことを、13世紀前半の法史料を使用して理解させる。 ≪参考文献≫ 久保正幡他訳『ザクセンシュピーゲル・ラント法』(創文社) 第4回 … 中世(13 ~ 15世紀)における裁判 法史料『ザクセンシュピーゲル』を使用して、裁判官は裁判集会の進行役にとどまり、判決作成に関与せず、それは、基

イナモト 稲元 格 - kindai.ac.jp · 欧における「ローマ法の継受」や「近代法の成立」を念頭におきながら、法典の比較検証によって、明らかにする。

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1425100049

科目名:比較法史英文名: Comparative Legal History

担当者: 稲イ ナ モ ト

元 格イタル

単 位: 2単位 開講年次: 1 ~ 3年次 開講期: 後期 必修選択の別: 選択必修科目

■授業概要・方法等 最初に、ドイツにおける、中世から現代までの法と裁判制度の変遷を概観し(2回)、その後、中世、近世、近代、現代に分け(各2回)、それぞれの時代の具体的な史料を利用して、法と裁判について説明します。授業の終盤では、我が国の江戸期と明治期の法と裁判についても概観します(各2回)。裁判については、できる限り実際の裁判例を扱い、それを残存史料等によって復元し、受講者に、原告側・被告側・判決者として考えてもらいます。これによって、それぞれの時代の法曹の姿勢や行動を検証し、法曹のあるべき姿についても考えます。

■学習・教育目標および到達目標 この授業では、現行法に対する基礎知識を既に習得していることを前提にして、そのような現行の法制度が、社会や国家制度の歴史的な変遷の中でどのように形成されてきたかを理解し、その理解を基礎として、さらに将来における法制度、社会、国家のあるべき姿について考える力を養うことを目的とします。

■授業時間外に必要な学修「前以て配布される講義資料を熟読しておくこと」「西洋史、日本史についての基礎的な知識を補うこと」

■教科書教科書は使用しません。毎講義時間に次回分の資料を配布します。

■参考文献各講義時間の内容を参照してください。

■成績評価方法および基準期末試験 80%平常点(授業での質疑応答および授業参加の積極的態度を考慮要素とする) 20%

■研究室・E-mailアドレス18号館5階 [email protected]

■授業計画の項目・内容及び到達目標

第1回 …中世から現代にいたるドイツ法の変遷

 ドイツ法は、2つの激動期、すなわち、近世における、ローマ法の継受による、ドイツ固有の慣習法のローマ法化、そして近代の、市民法原理の導入による、法の全面的な改廃、を経験してきたことを理解させる。 ≪参考文献≫ Gerhardt Kobler 『ドイツ法史』(成文堂)  ミッタイス=リーベリッヒ『ドイツ法制史概説』(創文社) W・エーベル『ドイツ立法史』(東京大学出版会)

第2回 …中世から現代にいたるドイツ訴訟制度の変遷

 訴訟関係人である裁判官に注目し、中世の、法の素人である判決発見人から、近世の「自ら判決する裁判官」の登場、さらに近代における陪審制の導入を経て、現代における参審制の採用という、その変遷過程を跡づける。 ≪参考文献≫ クヌート・W・ネル『ヨーロッパ法史入門』(東京大学出版会)  佐藤篤士・林毅編著『司法への民衆参加―西欧における歴史的展開―』(敬文堂)

第3回 …中世における法

 中世ドイツ慣習法が、裁判における具体的な判決の集積からなっていること、そしてそこで使用されている法概念も、誰にでも分かるような、具体的で、抽象性の低いものであったことを、13世紀前半の法史料を使用して理解させる。 ≪参考文献≫ 久保正幡他訳『ザクセンシュピーゲル・ラント法』(創文社)

第4回 …中世(13~ 15世紀)における裁判

 法史料『ザクセンシュピーゲル』を使用して、裁判官は裁判集会の進行役にとどまり、判決作成に関与せず、それは、基

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本的に、法の素人である判決発見人に委ねられた(民事)裁判の方法を説明し、実例を紹介する。 ≪参考文献≫ 歴史学研究会『紛争と訴訟の文化史』(青木書店) W.Ebel(hrg.),Lubecker Ratsurteilen,4Bde.,Gottigen,1955-1967. 稲元 格『ドイツ中世都市「私」法の実証的研究』(創文社)

第5回 …近世(15世紀~)における『ローマ法の継受』

 法律学としてのローマ法学と教会法学の継受は、各地の領邦君主による法科大学の創設を促進し、伝統的な慣習法体系の学問化も進行したが、それは、法が法曹の独占物となり、その分かりやすさを失ったことを説明する。 ≪参考文献≫ F・ヴィーアッカー『近世私法史』(創文社),H・シュロッサー『近世私法史要論』(有信堂)

第6回 …近世における裁判

 法科大学出身者である学識法曹が、弁護士、裁判官として法廷の場に独占的に登場するようになり、これが、自ら判決する裁判官の登場を促したこと、を明らかにする。絶対王政期の裁判例として、「司法の行政からの独立」にも関係するアルノルト水車小屋事件(1779年)を取り上げる。 ≪参考文献≫ 若曽根健治『中世ドイツの刑事裁判』(多賀出版)村上淳一『ドイツの近代法学』(東大出版会)

第7回 …近代(19世紀)における法

 フランス市民革命は、国民主権に基づく憲法典を頂点とする近代的な国家法秩序の形成を促したが、市民革命が挫折したドイツでは、封建的な諸制度が残存する、外見的な近代憲法体制にとどまらざるをえなかったことを説明する。また明治憲法との比較も行う。 ≪参考文献≫ C・F・メンガー『ドイツ憲法思想史』(世界思想社) 高田敏他編訳『ドイツ憲法集』(信山社)

第8回 …近代(19世紀)フランスにおける裁判

 19世紀末のフランスは、国家制度的には近代化が完了しており、裁判では陪審制も採用されるなど、基本的人権の尊重される市民国家になったが、そのような国家においても誤審を免れないことを、実例で紹介し、その原因を考える。 ≪参考文献≫ 大佛次郎『ドレフュス事件』

第9回 …20世紀の法

 ワイマール共和国の成立、ナチス独裁、東西ドイツの分裂と統合という激動の20世紀を、それぞれワイマール憲法、授権法、ボン基本法、東ドイツ憲法を実例としながら、特に基本的人権と国家機構に注目しつつ、法史的にたどる。 ≪参考文献≫ 山田晟『東西両ドイツの分裂と再統一』(有信堂),山田晟 『ドイツ法概論』(有斐閣), 『ドイツ民主共和国法概説』(東京大学出版会)

第10回 …20世紀の司法

 現行のドイツの司法制度の特徴である、多様な裁判機構の存在と、参審制の採用がどのようにして成立きたのかを説明する。さらに、その歴史的過程で生じたナチス独裁下での政治と一体化した司法の危険性にも言及する。 ≪参考文献≫ 木佐茂男『人間の尊厳と司法権』(日本評論社) Karl Kroeschell,Rechtsgeschichte Deutschlands im 20. Jahrhundert,Gottingen,1992. Ralf Dreyer und Wolgang Sellert(hrg.),Recht und Justiz im "Dritten Reich",Frankfurt,1989. Ilse Staff(hrg.),Justiz im Dritten Reich,Eine Dokumentation,Hamburg,1978.

第11回 …我が国の江戸幕藩体制下における法

 江戸幕府を頂点とする幕藩体制下の法のあり方と、17・8世紀の西欧絶対主義国家の法のあり方を比較し、両者の、例えば、形態としての法命令の普遍化等の類似性と、同時に両者が持つ相違性等を、『武家諸法度』等の史料を利用して考察する。 ≪参考文献≫ 水林彪他編『法社会史』(山川出版社)

第12回 …江戸期における裁判

 当時の代表的な訴訟法典である『公事方御定書』によりながら、刑事・民事訴訟の手続きを概観し、行政官僚としての奉

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行による裁決と西欧の「自ら判決する裁判官」の類似性や、傷害事件でも認められた「和談内済」を指摘する。裁判例として忠臣蔵をとりあげる。 ≪参考文献≫ 大平祐一「近世の合法的『訴訟』と非合法的『訴訟』」(藪田實編『民衆運動史3』(青木書店)) 大木雅夫『日本人の法観念』(東京大学出版会)

第13回 …我が国の明治期における法

 ドイツ法を中心とした法の継受の問題をとりあげ、特に、明治憲法・明治民法の制定過程を概観し、日本法の変容を、西欧における「ローマ法の継受」や「近代法の成立」を念頭におきながら、法典の比較検証によって、明らかにする。 ≪参考文献≫ 山中永之佑編『新・日本近代法論』(法律文化社)

第14回 …大津事件(1891年)

 明治の新しい訴訟制度が、旧来の裁判制度をどのように変更したのか、その中で、西欧の裁判制度から、どのような取捨選択が行われたのか、を考察する。そのような時代背景の中で発生した大津事件を実例としてとり上げ、当時の法曹のあり方を検討する。 ≪参考文献≫ 家永三郎『司法権独立の歴史的考察』(日本評論社)

第15回 …結語

 法と裁判、その人的担い手である法曹が、多様なあり方を、過去に、そして今後も、示しうること、しかし、それらが、究極的には、普遍で共通の性格と目的も有していることを理解させ、これを基に、今後の法と裁判制度のあり方について、最後に考察する。 ≪参考文献≫ H・ミッタイス『法史学の存在価値』(創文社)