31
………………………………………………………………………………………………………………………………………………………… 各国の投資環境というとき、その解釈は様々に分かれる。これまでにも、投資環境を構成する諸要 素についての調査や、企業の投資決定要因に関する研究は多くなされてきた。しかし、事業価値評価 やバリューチェーンといった企業活動の視点から各国の投資環境を整理したレポートはない。そこで 本稿では、この二つの視点から投資環境を整理し、投資環境評価のための新たな視座を提示する。そ の上で、日系企業の投資環境評価の特徴について、欧米系企業との比較を通じて実証した。 比較にあたっては、初期条件の違いを極力抑えるためにマレーシアという共通の投資環境を題材と して取り上げ、調査対象を電機・電子産業に絞った。現地調査の結果、現地日系企業の投資環境に対 する視野が限定されていること、その原因が日系企業の投資決定プロセスや現地法人の役割の違いに あることが改めて確認され、さらに、マレーシアの投資環境そのものが日系企業の初期の期待から乖 離していることも明確になった。 本稿ではこうした乖離への解消策として、現地拠点でのバリューチェーン拡大を提言している。こ の提言は、近年実際にバリューチェーン拡大がマレーシアにおいて発展しつつあることを念頭におい ている。主な内容は以下の通り。 1.進出国・進出予定国の投資環境を評価する上で、評価のために集められた様々な情報(投資環 境要素)が、売上に影響を与える要因なのか、コスト要因なのか、リスク要因なのかを判断して 再整理することが効果的である。この整理に従って現地調査を行ったところ、現地日系企業は欧 米系企業に比べコスト要因に対して意識が高く、リスク要因に対する意識が低いという結果で マレーシアにおける日系欧米系電機・ 電子メーカーの投資環境評価の調査・分析 ―「欧米系企業のアジア進出状況とわが国企業の対応 (フェーズÁ)」調査 *1 開発金融研究所 春日 アビーム コンサルティング株式会社 俊子 山口 揚平 山田 光重 加藤 靖之 *1 本調査は、国際協力銀行がアビーム コンサルティング株式会社に委託した「欧米系企業のアジア進出状況とわが国企業の対 応(フェーズÁ)」調査を要約したものである。本調査プロジェクトは、2003年9月10日から11月28日までの計13週間で実施 し、調査対象としてマレーシアの電機・電子業界を取り上げた。プロジェクト期間中、約2週間にわたり、同国ペナン及びク アラルンプール近郊の日系企業17社、欧米系企業9社のマレーシア現地法人に対するマネージメント・インタビュー実施する とともに、ペナンの日系企業13社、欧米系企業10社へのアンケート調査を行った。日系企業の調査先は、主に総合電気、AV 機器、半導体メーカー等、多岐にわたっている。一方、欧米系企業については、コンピュータ、半導体、デバイス関連企業が 中心となった。 本調査および調査のフィードバックインタビューを通じて、多くの企業の方々や関係者の方々のご協力を頂いた。匿名性の 観点から個々のお名前を記すことはできないが、この場を借りて深く御礼申し上げたい。 なお、「欧米企業のアジア進出状況とわが国企業の対応」調査のフェーズ¿、フェーズÀについては、それぞれ2000年、 2002年に調査を実施した。このうち後者については、「欧米系自動車部品メーカーのタイ進出状況とわが国自動車部品メー カーの対応」(『開発金融研究所報』第16号所収、2003年6月発行)として、モノづくりと経営との関係を日系・欧米系企業の 比較を通じて紹介している。 2004年2月 第18号 77

マレーシアにおける日系 欧米系電機・ 電子メー …...の上で、日系企業の投資環境評価の特徴について、欧米系企業との比較を通じて実証した。比較にあたっては、初期条件の違いを極力抑えるためにマレーシアという共通の投資環境を題材と

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Page 1: マレーシアにおける日系 欧米系電機・ 電子メー …...の上で、日系企業の投資環境評価の特徴について、欧米系企業との比較を通じて実証した。比較にあたっては、初期条件の違いを極力抑えるためにマレーシアという共通の投資環境を題材と

…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………

要 旨

各国の投資環境というとき、その解釈は様々に分かれる。これまでにも、投資環境を構成する諸要

素についての調査や、企業の投資決定要因に関する研究は多くなされてきた。しかし、事業価値評価

やバリューチェーンといった企業活動の視点から各国の投資環境を整理したレポートはない。そこで

本稿では、この二つの視点から投資環境を整理し、投資環境評価のための新たな視座を提示する。そ

の上で、日系企業の投資環境評価の特徴について、欧米系企業との比較を通じて実証した。

比較にあたっては、初期条件の違いを極力抑えるためにマレーシアという共通の投資環境を題材と

して取り上げ、調査対象を電機・電子産業に絞った。現地調査の結果、現地日系企業の投資環境に対

する視野が限定されていること、その原因が日系企業の投資決定プロセスや現地法人の役割の違いに

あることが改めて確認され、さらに、マレーシアの投資環境そのものが日系企業の初期の期待から乖

離していることも明確になった。

本稿ではこうした乖離への解消策として、現地拠点でのバリューチェーン拡大を提言している。こ

の提言は、近年実際にバリューチェーン拡大がマレーシアにおいて発展しつつあることを念頭におい

ている。主な内容は以下の通り。

1.進出国・進出予定国の投資環境を評価する上で、評価のために集められた様々な情報(投資環

境要素)が、売上に影響を与える要因なのか、コスト要因なのか、リスク要因なのかを判断して

再整理することが効果的である。この整理に従って現地調査を行ったところ、現地日系企業は欧

米系企業に比べコスト要因に対して意識が高く、リスク要因に対する意識が低いという結果で

マレーシアにおける日系/欧米系電機・電子メーカーの投資環境評価の調査・分析

―「欧米系企業のアジア進出状況とわが国企業の対応

(フェーズ�)」調査*1―

開発金融研究所 春日 剛アビーム コンサルティング株式会社 岡 俊子

山口 揚平山田 光重加藤 靖之

*1 本調査は、国際協力銀行がアビーム コンサルティング株式会社に委託した「欧米系企業のアジア進出状況とわが国企業の対

応(フェーズ�)」調査を要約したものである。本調査プロジェクトは、2003年9月10日から11月28日までの計13週間で実施

し、調査対象としてマレーシアの電機・電子業界を取り上げた。プロジェクト期間中、約2週間にわたり、同国ペナン及びク

アラルンプール近郊の日系企業17社、欧米系企業9社のマレーシア現地法人に対するマネージメント・インタビュー実施する

とともに、ペナンの日系企業13社、欧米系企業10社へのアンケート調査を行った。日系企業の調査先は、主に総合電気、AV

機器、半導体メーカー等、多岐にわたっている。一方、欧米系企業については、コンピュータ、半導体、デバイス関連企業が

中心となった。

本調査および調査のフィードバックインタビューを通じて、多くの企業の方々や関係者の方々のご協力を頂いた。匿名性の

観点から個々のお名前を記すことはできないが、この場を借りて深く御礼申し上げたい。

なお、「欧米企業のアジア進出状況とわが国企業の対応」調査のフェーズ�、フェーズ�については、それぞれ2000年、

2002年に調査を実施した。このうち後者については、「欧米系自動車部品メーカーのタイ進出状況とわが国自動車部品メー

カーの対応」(『開発金融研究所報』第16号所収、2003年6月発行)として、モノづくりと経営との関係を日系・欧米系企業の

比較を通じて紹介している。

2004年2月 第18号 77

Page 2: マレーシアにおける日系 欧米系電機・ 電子メー …...の上で、日系企業の投資環境評価の特徴について、欧米系企業との比較を通じて実証した。比較にあたっては、初期条件の違いを極力抑えるためにマレーシアという共通の投資環境を題材と

あった。今後は、投資環境評価においてリスク要因となる要素にも着目し、より広い視点から各

国の評価を行うべきである。

2.進出国・進出予定国の投資環境を評価する上で、R&D・製造・販売・アフターサービスと

いった拠点機能と、投資環境の諸要因との関係を整理することも効果的である。これまで製造部

門中心に投資計画を策定してきた日系企業は、進出先国決定において製造コストを重点的に評価

する傾向があった。調査結果によると、現地日系企業は経営的視点から各国の投資環境を評価す

るという意識が低く、したがって投資先国に対する評価の視野が限られていることがわかった。

今後は、拠点再編によりR&D機能や物流機能が各拠点に備わることに伴い、拠点の多機能化

(バリューチェーン拡大)を支える要因にも着目し、各国の投資環境を再評価する視点が必要に

なる。

3.各国の投資環境は、時間を経るごとに変化する。しかし、変化する投資環境を過去と同じ基準

で評価すると、その国に対する評価を間違えるばかりでなく、現地拠点の事業効率を落とすこと

につながる。事業を続けるには、変化する投資環境をより正確に評価し、評価項目および事業の

重点を変える必要がある。例えば、労賃などのコスト上昇が見込まれる地域については、コスト

重視の評価方法から、別の評価軸による投資環境の再評価が必要となる。その際、上述の財務的

視点、バリューチェーン的視点の双方に立ち戻ることが効果的である。また、欧米系企業の例を

参考に、管理部門や外部専門家を交えて投資環境を検討し、場合によっては投資環境そのものを

改善するよう現地政府等に働きかける活動が必要となる。同時に、現地拠点もまた、製造コスト

追求にとどまらない、より幅広い視点を持った自律的な経営者意識が求められることになろう。

(キー・ワード)投資環境、事業価値評価、日系企業・欧米系企業、バリューチェーン

Abstract

The term“investment climate”has various meanings. A number of surveys on factors per-

taining to investment climate and research projects on factors behind investment decisions(site

selection)have taken place. No report, however, has examined investment climates from a busi-

ness point of view, including the concepts of“valuation”and“value chain.”

In this report, we examine investment climates through valuation and value chain frame-

works, thus offering new perspectives in the evaluation of investment climates. Through our

analysis, we determine the characteristics of Japanese companies in their evaluations of invest-

ment climates and compare them to Western companies.

In comparing Japanese and Western companies, we set out to make initial conditions as simi-

lar as possible. We took Malaysia as a sample for a common investment climate and designated

the electrical equipment and electronics industry as a sample industry to survey. Our study con-

firmed that Japanese companies in Malaysia evaluate investment climates more narrowly than

Western companies, due to differences in the process of investment decision making and differ-

ences in the missions of these companies in Malaysia. Moreover, the study identified that the Ma-

laysian investment climate itself is moving away from the view of Japanese companies in their

evaluation or perception.

Taking into consideration the recent expansion of the value chain by some Japanese compa-

nies in Malaysia, we suggest that these companies expand their value chains to cope with this

movement in the investment climate.

Keywords:Value chain, Valuation, Investment climate, Japanese company, Western company

78 開発金融研究所報

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…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………

はじめに

企業の直接投資行動に関する研究や、投資環境

に関する調査は既に多くなされており、海外事業

計画の作成や現地経営の参考とされることも多

い*2。ただし、これらの調査・研究において投資

環境として考えられている要素はそれぞれ異な

る。例えば、IDA(2002)における調査項目は

「Fiscal Policy」「Financial Stability」「Gender」

のように基礎的な項目に重点がおかれているし、

貿易・投資円滑化ビジネス協議会(2002)が指

摘する投資環境とは、「外資参入規制」「技術移転

要求」「土地所有制限」のようにかなり実務的な

内容を指している。

このような違いは、投資環境を途上国の経済開

発の視点から捉えているのか、進出企業が日々直

面する実務的課題として捉えているのかの違いに

よって生じている。いずれにせよ、各要素が企業

活動に与える影響を踏まえ、例えば「通関手続き

にかかる日数は、キャッシュフロー、ひいては資

本コストに影響を与えるのではないか」といった

視点をもって投資環境を評価したレポートは見当

たらない。また、製造拠点・販売拠点・研究開発

拠点といった拠点ごとの性格を踏まえ、「同じ

国・地域であっても拠点の役割に応じて投資環境

は異なる」というような観点から投資環境を分類

しているものも多いとはいえない。

そこで本稿では、企業(事業)価値評価の考え

方を援用して、投資環境を構成する要素を売上、

製造コスト、リスクの三つのカテゴリに分類する

フレームワークに基づくことにした*3。その上

で、マレーシアで実施したアンケート調査および

インタビュー*4で得られたデータをもとに、日系

企業と欧米系企業の投資環境に対する見方がどの

ように違うのかを比較検討した。その結果、欧米

系企業が日系企業よりも幅広い視点から投資環境

を捉えており、その背景にはより幅広いバリュー

チェーンの構築があることがわかった。

第1章では、まずマレーシアという共通の投資

対象国に対する日系企業と欧米系企業のスタンス

の違いを明らかにする。その上で第2章では、投

資環境に対する視野の広さの違いについて、日

系・欧米系両者の、投資決定プロセスの違い、評

価指標*5の違い、に着目して分析する。その後、

第3章において、日系企業が重視する投資環境と

現実のマレーシアの投資環境とがミスマッチを起

こしている状況を明らかにする。最後に第4章に

おいて、ミスマッチを克服する上でバリュー

チェーンの拡大が効果的であることを示し、その

ため方法について具体的に提言する。

第1章 日系/欧米系のマレーシアにおける活動状況

1.日系企業と欧米系企業の整理

まず、マレーシアに進出している日系企業・欧

米系企業について、�進出の経緯、�親企業の分

類、�現地法人の分類、の三点から整理する。

�進出の経緯

日系・欧米系企業とも当初のマレーシア進出の

きっかけは、労働集約的製品における低コスト労

働力の確保であった。しかし、その後の両者のア

プローチは異なる。マレーシアの潜在能力を評価

して経営の現地化と機能の拡大を進める欧米系企

業に対し、多くの日系企業は低コストの労働力供

給国という位置付けを変えていないと考えられる

(図表1)。

*2 投資環境に関する代表的な資料については、http://www.fias.net/investment_climate.htmlを参照。さらに、企業の直接投資の決定に関する研究として、Lee,H.L. and Houde,M.F.(2000)、Caves,R.E.(1996)、Dunning,J.(1997)、Aggarwal,V.K.(1980)、

Lizondo, S.(1990)、Petri, P.A. and Plummer, M.G.(1998)などが代表的であるので参照されたい。和文では、貿易・投資円滑

化ビジネス協議会(2002)、ジェトロ海外情報ファイル(http://www.jetro.go.jp/re/j/jetro―file/index.html)、などが情報量および実務的観点から代表的である。この他にも、投資環境に関するサーベイとして、日本貿易振興会(2002b)、丸上、他

(2004)等が包括的かつ有益であろう。これら既存研究をサーベイしたものとして、JBIC Institute(2002)(邦訳:国際協力

銀行開発金融研究所(2002))が参考になる。

*3 本フレームワークを作成するにあたって、Tom Copeland, et al.(1994)を参考にした。

*4 2003年10月実施。調査対象企業:日系企業13社、欧米系企業10社。インタビュー対象企業:日系企業17社、欧米系企業9社。

*5 所謂KPI(Key Performance Indicator)のこと。

2004年2月 第18号 79

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一部企業の撤退も見られる。�

欧米系�日系� 日系企業の進出動向�

→ 進出以来、低コスト生産拠点の�位置付けは変わらず�

→ マレーシアの持つ潜在能力を�積極的に活用�

進出企業数:約340社�(製造業全体:JETRO資料)�

進出企業数:約30社�(電子業界:AMCHAM会員ベース)�

50年代は円安と低賃金を武器に日本国内から民生用機器の輸出を行う�

マレーシア政府の外国投資奨励政策、日本国内の労働力不足、変動相場制移行に伴う円高の流れにより、直接投資が拡大�

プラザ合意による円高の進展でコスト引き下げ圧力が強まり、低賃金を目的に進出企業が増加する�

拡張投資は継続的に行われるが、新規進出はタイ、フィリピン等他の低賃金国へシフト�

中国の台頭や他のアジア諸国の発展により生産基地としてのマレーシアの魅力は相対的に低下�

60年代から現地政府の輸入代替政策への対応として日系企業が進出開始�

三洋電機(1964)�松下電器産業(1965)�

松下電子部品(1972)�東芝(1973)�

オムロン(1973)�日本電気(1974)�シャープ(1976)�

日立製作所(1980)�ソニー(1989)�キャノン(1989)�三菱電機(1989)�ニチコン(1990)�相模無線(1991)�

安川電機(1995)�エルナー(1995)�富士電機(1997)�

電機・電子メーカー�の新規進出は一巡し�た模様� AFTA発効�

中国WTO加盟�

アジア通貨危機発生�

1990年代�

2000年代�

1980年代�

1970年代�

~1960年代�一次産品生産国�として発展�

自由貿易�地域の創設�

プラザ合意による�円高進行�

70年代以前はゴム石油�ガスといった天然資源�関連の業界が進出して�いた�

(1971)ナショナル・セミコン�(1972)インテル�(1972)テキサスインスツルメンツ�(1972)モトローラ�(1972)AMD�(1973)インフィエノン�(1973)ウエスタン・デジタル�(1975)ヒューレット・パッカード�

(1988)シーゲート�

(1993)KOMAG

(1996)デル・コンピューター�

(1997)ゲートウェイ2000

電子メーカーの新規進�出は一巡した模様�

欧米系企業の進出動向�

影響�

影響�

1957年まで英国領であった為、英語の浸透や英国準拠の法制度の整備が進んだ�

政府による外国投資誘致政策と、手先の器用な労働力を低賃金で確保する為大手半導体メーカーを中心に一斉に進出を開始�

労働集約的な生産体制から、資本集約的生産体制へのシフトを行った�

90年代後半より、中国に対する投資を積極的に行う一方、マレーシアへの投資も継続。開発・設計、販売機能等を取り込むことにより戦略ポジションを変化�

賃金の上昇により、コスト優位性は低下するが、事業分野の拡大によリ、拠点の価値を維持�

部品� 完成品�

●ルネサス�

■Motorola

日系�

欧米系�

マレーシア進出している日系/欧米系電機・電子メーカーの製品カバレッジ�

→日系は多くの製品を製造し� ている総合電機メーカーが� 多い�

●松下電器�●日立製作所�●三菱電機�

●富士通�●三洋電機�●東芝�●シャープ�

■Philips�■Thomson

●キャノン�●ONKYO�●TEAC�●NEC�●ソニー�●パイオニア�●ヤマハ�

●村田製作所�●ローム�●TDK�●アルプス電気�●太陽誘電�●信越�●ミツミ�

■DEll�■HP�■IBM�■Alcatel

■Jabil�■Solectron�■SCI�■Western Digital�■Seagate

→欧米系は半導体製品� に特化した電子メー� カーが多い�

■Intel�■AMD

キーデバイス(半導体)�

情報通信まで�

AV機器まで�

家電まで�

■Fairchild�■Chippac�■National Semicon�■Vishay�■Infineon�■TI�■ST Micro

総合型�

特化型�

�親企業の分類

マレーシアに拠点を有する企業の親会社の位置

付けを整理すると、日系大手電機メーカーは、半

導体、電子部品、PC、AV機器、家電製品など、

非常に広範囲の製品を対象に開発、生産、販売を

行っている。一方、欧米系の大手電機メーカーは

殆どが電子製品に特化しており、Intel、TI、In-

fineon、AMDに代表される半導体メーカーと、

HP、Dellに 代表されるPCメ ー カー、Jabil、

Solectronに代表されるEMS企業が大半を占めて

いる(図表2)。

図表2 マレーシア現地法人の親企業

出所)各種資料よりアビーム コンサルティング作成

図表1 進出の経緯

出所)各種資料よりアビーム コンサルティング作成

80 開発金融研究所報

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欧米系�

日系�

家電�

AV機器�

半導体�

PC

AirCon� ●日立 AirCon� ●松下電器産業�

Radio� ■Motorola� ■DMC Telecom� ■Ranger Communications

Display Divices� ■Samusung Electron Devices� ●松下電器産業�

Telephone� ●九州松下� ■Sapura Telecommunications� ■Alif Telecommunications� ●Pernec� ●Iwatsu� ●Inventec� ■Bellcorp Technology

AV� ●Onkyo� ●ケンウッド� ●三洋電機� ●シャープRoxy� ●ソニーエレクトリニクス� ●パイオニア� ●JVC Electronics� ●松下AV� ●ヤマハ�Video camera & Video CD� ●シャープ� ●JVC Video� ●シャープ� ●ソニー� ●松下 AV� ●ヤマハ� Resister�

 ●アルプス電気� ●松下電子部品� ●ローム�

DVD� ●Onkyo� ●シャープ� ●ソニーテクノロジ� ●パイオニア�

Color TV� ●Sharp-Roxy Electronic� ●ソニテクノロジー� ●松下TV

Video� ●シャープ� ●ソニーテクノロジ� ●日立� ●JVC Video� ●松下 AV� ●三菱電機�

Printer� ■Solectron� ■Instruments�  Technology

Disk Drives� ●TEAC� ●ミツミ� ■Westrn Digital� ●富士通�

PC� ●NEC� ■Dell

Computer Peripherals� ■Jabil� ■Solectron� ■Flextronics� ■Sanmina

Monitor� ■Samusung Electron Debices� ●三菱電機� ■BenQ Technologies� ■Jean� ■Motto� ■Great TV & Computer

Motherboard� ■Jabil� ■Intel� ■Solectron� ■Flextronics� ■Sanmina

Assembly & Testing� ■AMD� ●NECセミコンダクターズ� ■Agilent� ■Intel� ■Texas Instruments� ●東芝� ■National Semicon� ●ルネサス� ●富士通� ■Motorola� ■Fairchild� ■Infineon Technologies� ■STMicroelectronics� ■ASE Electronics� ■Philips Semicon

Wafer Fablication & Processing� ■MEMC Electronics Material� ■S.E.H� ■Wackers NSCE� ■SCG Industries� ■MIMOS� ■Silterra� ■1st Silicon

Passive Components� ●TDK� ●太陽誘電� ●松下電子部品� ●松下電子工業� ●村田製作所� ●Nichikon� ■Thomson

12ケ月�

少�

事業資金(キャッシュ)の必要性�

中�

大�■欧米系(韓国系・台湾系含む)�●日系�

3ケ月�6ケ月�

製品ライフサイクル�

…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………

�現地拠点

最後に、マレーシア現地生産拠点の位置付けに

ついて、製品ライフサイクルとの関連で整理する

と、マレーシアに進出している日系電機・電子

メーカーは、相対的にライフサイクルが長く事業

資金をそれほど必要としないAV機器・家電製品

に目立つ。一方、欧米系は在庫圧縮とキャッシュ

が必要な半導体・PCメーカーに目立つことがわ

かる*6(図表3)。

2.日系企業の企業数の減少と業績満足度の低下

国際協力銀行開発金融研究所が平成14年度に実

施した「わが国製造業企業の海外事業展開調査」

によると、ASEAN4をはじめとするアジア地域

で、「コスト削減が困難」等を理由に今後3年程

度の計画において事業の拡大を見送る動きが日系

企業の中にあることが報告されており、この傾向

は平成15年度調査においても確認されている*7。

他方、欧米系企業はその同じ地域・国に対し、近

年積極的な投資姿勢・事業展開姿勢を示している

模様である。

マレーシアにおける日系企業の数についてみる

と、近年、横這いないし低下傾向にある。マレー

シアの日系企業数は、1991年から1998年までは

年間平均10%増加していたが、1998年の1,433社

をピークに、その後5年間で約6.5%減少してい

る(図表4)。

また、国際協力銀行の調査結果によると、

2000年度以降、日系企業のマレーシア事業の業

績満足度は年々低下している。2000年の収益性

満足度が3.37、売上高満足度が3.11であったの

に対して、2003年には、それぞれ2.87、2.80ま

で落ち込み、3年間で満足度が大きく低下してい

ることがわかる(図表5)。同調査によると、

図表3 マレーシア現地拠点の整理

出所)各種資料よりアビーム コンサルティング作成

*6 そのため、欧米系企業は、マレーシアでバリューチェーンを広げ、効率的なサプライチェーンの確立とキャッシュフローの改

善にコミットする傾向が強い。この点については、後述する。

*7 丸上貴司、他(2003)および(2004)参照。

2004年2月 第18号 81

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→マレーシア事業の拡大・強化姿勢が弱まり�様子見または縮小傾向が強まっている�

→撤退・縮小傾向が� 強まってきている�

拡大・強化する�現状程度を維持する�撤退・縮小する�

26.2%�31.1%�

63.3%�66.5%�

5.6%�7.3%�→様子見の姿勢� が強い�

→拡大・強化姿勢� が弱まっている�

2002 2003 2002 2003 2002 2003

(数字はアンケート回答企業数に対して拡大強化/� 現状維持/撤退縮小と回答した企業の割合)�

(年)�

回答企業�の割合�(%)�

日系�

日本�

フィリピン�

インドネシア�

タイ�

韓国�

→中国へ生産拠点をシフトする傾向�

650社�21.7%� 141社�

116社�

2社�

3社�

1社�

3社�5社�

3社�

シンガポール�

マレーシア�

中国移転をする�計画がある�

(2001年度から2004年において、中国へ移管する計画があると回答した企業は650社中141社21.7%である。)�

1998年から5年間で、�6.5%減少�

(企業数)�

(年)�

→1998年をピークに、マレーシアに�おける日系企業の数は減少傾向�

700�

900�

1,100�

1,300�

1,500�

1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003

1998年までは、�平均10%/年増加�

0

1,433社�

売上高満足度�

1.002.80 3.00 3.20

2.80

3.00

3.20

3.40

(3.11 3.37)�

(3.06 2.88)�

(2.89 2.77)�(2.87 2.80)�

2000年�

2001年�

2002年�

2003年�

→日系企業のマレーシア事業に�対する満足度は、年々下降�

満足�5.00

どちら�でもない�

どちらでもない� 満足�5.00不満足� 3.40

収益性満足度�

…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………

ASEAN諸国の中においてマレーシア事業を拡大

すると回答した企業の割合は減少し、一方で、撤

退・縮小すると回答した企業の数は増加している

(図表6)*8。加えて、日本貿易振興会経済情報

部(2001)によると、日系企業の21.7%が、中

国市場の拡大に合わせて「日本を含めたアジアの

各生産拠点を中国に移転する計画がある」と回答

している(図表7)。このように、日系企業のマ

レーシアにおける今後の事業展開は、消極的(少

なくとも積極的ではない)姿勢が目立つといえる。

3.マレーシアで積極的な展開を図る欧米系企業

日系企業がマレーシアにおける事業展開に消極

的な姿勢を示す中、欧米系企業は、マレーシアに

コミットし積極的な事業展開をしている。 Intel、

Agilent、Dellなどの代表的な欧米系企業のエグ

ゼクティブのコメントからは、マレーシア拠点を

*8 2003年度調査において、「縮小・撤退する」と回答した企業の割合が最も多かったのが、マレーシア(7.3%)であった。

図表4 マレーシアに進出している日系企業数

出所)ジェトロクアラルンプール提供資料よりアビーム コンサルティング作成

図表5 日系企業のマレーシア事業の業績満足度

出所)国際協力銀行 開発金融研究所「わが国製造業企業の海外事業展開に関する調査報告」2000年~2003年

図表7 日系企業の中国移転の状況

出所)日本貿易振興会(2001)「21世紀を迎えた日本企業の海外直接投資戦略の現状と見通し2001年」よりアビーム コンサルティング編集

図表6 日系企業のマレーシアにおける今後の事業展開の方向性

出所)国際協力銀行 開発金融研究所「わが国製造業企業の海外事業展開に関する調査報告」2000年~2003年よりアビーム コンサルティング作成

82 開発金融研究所報

Page 7: マレーシアにおける日系 欧米系電機・ 電子メー …...の上で、日系企業の投資環境評価の特徴について、欧米系企業との比較を通じて実証した。比較にあたっては、初期条件の違いを極力抑えるためにマレーシアという共通の投資環境を題材と

フィリピン�

シンガポール�

中国�

■ Intel Corporation ■ Agilent Technologies ■ Dell Computerマネジメントのコメント�

アジアパシフィック拠点の概要�

「マレーシアは、中国、インド、ロシアといった他の低コスト国との競争において、今後も優位性を維持していくと思う」「ペナンは製造拠点だけでなく、技術開発拠点としてもインテルにとって重要性を増していく」�-インテルCEO, Craig Barrett(2003/8)-�

「アジレント・マレーシアが企業として世界で戦っていく為には、生産機能だけでなく研究開発とマーケティング機能を持つ必要があると思う。アジレントは優れた事業環境を持つマレーシアに今後もコミットしていく。」�

「マレーシアはアジア・パシフィック・カスタマー・センターとしてアジア地域において製造・販売を含めたサプライ・チェーンの中核を担っている。」 �

-アジレントCOO, Bill Sullivan(2002/8)-� -デルコンピュータ CEO, Michael Dell-�

マレーシア�

日本�

シンガポール�

マレーシア�

日本�

シンガポール�

中国�

マレーシア�7,790人�

5,984人�

5,000人�

1,900人�

1,600人�

700人�

1,227人� 530人�

130人�

●マレーシアの拠点はアジアで最大規模��●新たに4億ドルを投資してR&Dセンター を建設予定�

●ペナン島の拠点はR&D拠点として重要な役割を担っている��●アジアにあった複数の製造拠点をマレーシアに集約�

●1996年に製造からコールセンターまでカバーするAPCCをペナンに設立��●2002年にはAPCCの生産能力を倍増するため追加投資�

欧米系�日系� マレーシアへの進出は、台湾から始まった生産拠点のアジア進出が、中国やベトナムに展開していった過程での“通過点”。今後もマレーシアでは製造拠点として事業を継続していくが、将来的にR&D機能や販売機能の取り込みによるバリューチェーンの拡大を行う予定は無い。(大手電子メーカー)�

欧米的なキャッシュフロー経営の観点からみるとシンガポールやマレーシアの優位性はここ5年くらいはあるだろう。ただし、5年後は中国が追いついてくるものと思われる。(金融機関)�

マレーシアでも引き続き事業を行っていくが、東アジアへの新規投資は基本的に中国に対して行っていくという経営トップの基本方針が出ている。(大手総合電機メーカー)�

今のところ音響製品については大手完成品メーカーであるA社がマレーシアに生産集約を行い、取引を継続できているが、マレーシアに進出している電機・電子メーカーが中国などへ移転していくと大変厳しいことになる。(部品メーカー)�

R&D機能は、品質不良やクレームへの早い対応を考えると製造拠点の近くにあるのが理想的だが、現段階では半導体の様なハイテク製品の設計はマレーシアでは考えていない。(大手半導体メーカー)�

「マレーシアには、現在は、留まっていることにベネフィットがある」。確かに中国は人件費が安いなど、マレーシアと比して有利な点があるが、インフラの整備状況を鑑みると、大きな投資を伴う中国に完全シフトという意思決定は出来ない。(大手総合電機メーカー)�

(*)PLM:プロダクト・ライフサイクル・マネジメント。企画、開発から設計、製造、生産、出荷後のサポートやメンテナンス、生産・販売の打ち切りまで、製品のすべての過程を一貫して包括的に管理することで、開発期間の短縮、生産の効率化、そして市場の求める製品を適切な時期に市場投入することを目指す経営手法

最近の米国系企業のマレーシアへの動きとして、香港やシンガポールにあった地域統括本部の移転や、電機・電子産業にける高付加価値商品の生産が挙げられる。一方、低付加価値製品、労働集約型産業、比較的技術の低い電気・電子産業についてはマレーシアから流出する動きがある。�

マレーシアは優秀な人材に恵まれており、米国企業は特に中間管理職レベルの育成プログラムを充実させ、多くのマレーシア人を海外に駐在員として派遣している。(マレーシア米国商工会議所)�

マレーシアに進出している米国企業にとって中国は脅威ではない。地域的な展開の中で、一旦、マレーシアに投資されものが中国に移転する可能性は否めないが、多くの米国企業はマレーシアと中国では違うマーケットを持っていると捉えている。中国へ進出している米国企業はコストの問題ではなく、潜在的な国内のマーケットを狙っている。(マレーシア米国商工会議所)�

以前は製造機能を中心として製造プロセスのR&Dのみを行っていたがその後、製品設計についてもマレーシアが関与する形になった。エンジニアの人件費とPLM(*)の観点から、将来的には研究開発もマレーシアで行いたいと考えている。(大手ハードディスクメーカー)�

マレーシアはもはやローコストセンターではない。今後は、中級もしくは高付加価値製品を生み出していく。インテルやモトローラといった米国企業はマレーシアで既に30年程の歴史があり、企業の中で技術的能力の備わった人材が育っている。今後はこれらの人材を活用することが重要となる。(マレーシア米国商工会議所)�

当社はマレーシアをチャイナプラス1の対象拠点として相応しいと考える。アセアンの人口のトータルは5億人に上り、巨大なマーケットとして認識している。現状は中国とペナンでアジア全体と米国市場をカバーしている。(大手PCメーカー)�

技術開発やマーケティング機能、サプライチェー

ンの中核拠点と位置付け、コミットしている状況

を読みとれる(図表8)。

4.マレーシアに対する両者の考え方の相違

以上から、マレーシアにおける日系と欧米系企

業の事業展開動向の違いは、以下の通り整理され

る。

日系企業

� 日系企業の数は、98年をピークに、その後

は減少傾向

� 日系企業のマレーシア事業の撤退・縮小傾

向は強まっている

� マレーシアで事業を展開する企業の売上高

および収益性満足度は近年低下傾向

� 中国の台頭や賃金の上昇等、環境の変化を

見据えて、マレーシア拠点の位置付けの再

検討を行っている段階

図表8 欧米系企業は、マレーシアにコミットし積極的な事業展開

出所)各種資料よりアビーム コンサルティング作成

図表9 インタビュー結果

出所)インタビュー、各種資料よりアビーム コンサルティング作成

2004年2月 第18号 83

Page 8: マレーシアにおける日系 欧米系電機・ 電子メー …...の上で、日系企業の投資環境評価の特徴について、欧米系企業との比較を通じて実証した。比較にあたっては、初期条件の違いを極力抑えるためにマレーシアという共通の投資環境を題材と

日系企業はマレーシアに消極的な傾向� 欧米系企業はマレーシアにコミット�

問題意識: 日系と欧米系企業の投資姿勢の差異は何に起因するのか?�

欧米系�日系�

日系企業の数は、98年をピークに、その後は減少傾向�

日系/欧米系企業の投資判断にはどのような違いがあるのか?�

また、欧米系企業はマレーシアの潜在性をどのように評価し、それをどのように活用しようとしているのか?�

欧米系は中国への投資意欲を示しつつもマレーシア拠点に対しても積極的な姿勢を示している�

インテル、デル、アジレントといった代表的な欧米企業は、マレーシア拠点を技術開発やマーケティング機能、サプライチェーンの中核拠点としてコミットする傾向�

中国の台頭や賃金の上昇等の環境の変化を見据えて、マレーシア拠点の位置付けの再検討を行っている段階�

マレーシアで事業を展開する企業の売上高および収益性満足度は近年低下傾向�

日系企業のマレーシア事業の撤退・縮小傾向は強まっている�

-�

投資価値を構成する財務指標�

÷�

投資価値�財務指標に影響を与える�

投資環境要素(キードライバー)�

投資価値�

(*)事業が生み出す将来フリー・キャッシュフロー(予測)を、適切なリスクを織り込んだ割引率で割り引いて事業の現在価値を求める。�

リスク�(割引率)�

事業コスト�

売上�(生産量)�事業収益�

(フリー・キャッ�シュフロー)�

●経済成長力(GDP)�●競合環境・競合他社�●市場規模・成長性�●外資製品に対する意識�

●賃金(直接労務者)�●組立て人材の質�●設計開発人材の質�●設計開発人材の労賃�

●政治的安定性�●為替・インフレリスク�●知的財産保護法制�●会計制度の整備と透明性�●法制度の整備と透明性�●土地所有に係わる規制�

…�

…�

…�

欧米系企業

� インテル、デル、アジレントといった代表

的な欧米企業は、マレーシア拠点を技術開

発やマーケティング機能、サプライチェー

ンの中核拠点としてコミットする傾向

� 欧米系は中国への投資意欲を示しつつもマ

レーシア拠点に対しても積極的な姿勢を示

している

これらの状況整理は、マレーシアで事業展開す

る日系/欧米系企業の本社および現地マネジメン

ト層へのインタビューからも読み取れる(図表

9)。とりわけ、日系企業がマレーシアでの事業

については基本的に現状維持路線を掲げている一

方で、欧米系企業は、中国への投資意欲を示しつ

つも、マレーシア拠点に対しても積極的な事業展

開姿勢を示していることが特徴的である。

では、日系と欧米系企業のマレーシアに対する

姿勢の差異は何に起因するのか。以下では、�日

系/欧米系企業の投資判断にはどのような違いが

あるのか、�欧米系企業はマレーシアの潜在性を

どのように評価し、それをどのように活用しよう

としているのか、に焦点をあてる(図表10)。

第2章 日系/欧米系の投資環境評価の差異分析

1.調査・分析のフレームワーク

前章では、日系企業が今後のマレーシアでの事

業展開について�様子見�の姿勢を見せており、収益性満足度も低下傾向があるのに対し、欧米系

は多国籍企業を中心に、マレーシアへの投資に関

して積極的な姿勢があることを紹介した。そこで

本章では、両者の投資姿勢の差異が何に起因する

ものであるのか、その背景・理由について分析を

図表11 調査・分析のフレームワーク(概要)

出所)アビーム コンサルティング

図表10 日系・欧米系の投資環境評価に対する差異のまとめ

84 開発金融研究所報

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米国における評価指標�欧米系�日本における評価指標�日系�

1960年代�

1970年代�

1980年代�

1990年代�

日系企業も欧米企業型の評価指標を�採用しつつある�

欧米企業が新しい経営指標の�採用では先行�

■金融機関借入による間接金融主体�  「経常利益」が評価指標�

■直接金融が普及�  「ROE」が評価指標�

■経営利益/EPS万能時代�

■ROE/ROAの導入�

■キャッシュフロー時代�

■EVAの普及�

・債権者のリターンである金融費用を支払った後の利益である「経常利益」が、資金提供者の期待にどれだけ応えたかを表す尺度�・資金提供者である金融機関が、十分な経常利益を稼がなければ融資をしないという直接的な意思表示を行う�

・資金の出し手である投資家の期待収益率(インカムゲイン+キャピタルゲイン)、すなわち「ROE」によって、資本コストを測定していく事が求められる�・直接金融時代の資金の供給者である投資家は、十分なROE(期待収益率)が見込めなければ、保有株式を売却したり、新規保有を見送るといった間接的な意思表示を行う�

・規模の拡大による経営利益/EPS(1株利益)の向上が追求され、コングロマリットが形成された�・本業以外の異業種の合併/買収も盛んに行われ、結果的にコングロマリットの業績が急速に悪化�

・コングロマリットによる規模拡大の反省から、資本効率をより重視したROE/ROAを経営指標として導入�・機関投資家が大企業に効率経営を求め始めた事もあり、ROE/ROAが経営指標として浸透�

・ROE/ROAは会計上の利益をベースにしており、会計処理基準の変更、及び、D/Eレシオにより操作可能であるため、経営者の恣意性が入らないキャッシュフローが脚光を浴びる�・しかし、キャッシュフローを上げる最も手っ取り早い方法がM&Aであったため、マネーゲーム的色彩に陥り、米国経済は弱体化�

・コカコーラ社、AT&T社、コダック社、CSX社等の米国優良企業が相次いで新しい経営指標EVAを導入し、米国のみならず欧州でも普及し始めた�

…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………

行う。

一般に、事業投資の現在価値は投資によって得

られる「事業収益(将来フリー・キャッシュフ

ロー、売上と事業コストで構成される)」を、投

資に付随して発生する「リスク(事業収益獲得の

不確実性)」を含んだ割引率で割り引くことで求

められる(図表11)。

調査実施に当たっては、マレーシアで事業投資

の判断をする際に日系/欧米系がそれぞれ重視す

る�投資環境要素の相違�に着目した。というのも、両者が重視する投資環境要素が異なれば、そ

れぞれの要素に関係の深い財務指標にも影響する

と考えられるからである*9。例えば投資判断にお

いて、「輸送インフラの充実度」や「輸出入手続

きの迅速性」など、輸送環境の整備状況を強く意

識するのであれば、その企業は事業コスト(運転

資金に関するコスト)を重要視する傾向があると

言えるし、「知的財産保護法制」に注目するので

あれば、その企業は「知的財産権侵害によるリス

ク」を意識しているとの意味から「事業リスク」

を重視していると考えることができる。

そこで本調査では、それぞれの財務指標と投資

環境要素との関係をフレームワークを新たに作成

して、日系/欧米系企業の投資姿勢について、違

いを分析した*10(図表12)。以下では、売上、事

業コスト、事業リスクに対する見方の違いを紹介

する。

コラム:業績評価指標の変遷

日系/欧米系の主に使用する業績評価指標の変遷は図表26のように整理される。最近は、日系企

業の中でもキャッシュフローベースでの経済価値を表すEVA等の指標を採用する企業が増えている

が、現場レベルでの導入はそれほど進んでいない。それは、マレーシア現地法人が生産拠点として

の役割が主であるからであり、こうした経営指標を導入する必要がそもそもないからとも考えられ

る*11。

図表26 評価指標の推移

出所)各種資料よりアビーム コンサルティング作成

*9 投資環境要素が財務指標に影響を与えることを指して、「投資環境要素は財務指標のキー・ドライバーである」という。

2004年2月 第18号 85

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売上�

-�

÷�

国家状況�

制度・政策�

生活・文化�

人的資源�

事業環境�

製造原価�

管理費�

運転資金�

税金�

投資価値�

●影響の大きい投資環境要素�

 (本調査で主に分析)�

・その他の投資環境要素�

財務指標に影響を与える投資環境要素(キードライバー)�

事業収益�

(フリー・�

キャッシュフロー)�

事業�

コスト�

リスク�

(割引率)�

投資コスト�●GDP成長率�

●国民所得水準�

・政府による製品購入�

・独占禁止法�

・セールス、マーケティ�

 ング顧客サポート人材�

 確保の可能性�

●競合環境�

●市場規模・成長性�

●外資の製品に対する�

 意識�

●広告に対する意識�

●雇用規則(解雇/退職金/�

 最低賃金/時間)�

・国産化規制�

・環境規制�

●賃金(直接労務者)�

●組立て人材の質�

●設計開発人材の質�

●設計開発人材の労賃�

●第三国からの調達可能性�

●有望な外注先�

●産業の集積度�

●部品調達状況�

●電気・水道整備状況�

●物流業者の質とコスト�

●社会保険制度�

●年金制度�

●損害保険制度�

●環境規制�

●経営管理人材の労賃�

●経営管理人材の質�

●セールス人材の労賃�

・英語能力�

●販促に係わる費用�

●通信インフラ整備度�●書類・事務手続きな�

 どの精度・スピード�

●製品市場からの�

 距離�

●輸出入手続きの迅速性�

・在庫管理スキルを�

 持った人材�

●仕入代金の決済慣行�

●売上代金の決済慣行�

●輸送インフラの充実度�

●法人税・事業税�

●移転価格税制�

・輸入関税�

・環境税 等�

●優秀な税理士�

●政治的安定性�

●為替・インフレ等�

●国家財政事情�

●政策変更�

●戦争・紛争の勃発�

●自然災害の頻度�

●知的財産保護法制�

●会計制度の整備と透明性�

●法制度の整備と透明性�

●雇用規則�

●外資規制�

・行政の介入�

●ジョブホッピング�

●不正・背任行為�

●ストライキ(労働�

 争議)の慣行�

・専門家(会計士・�

 弁護士 等)�

●各種投資優遇策�

●開発研究に対する�

 優遇措置�

●従業員教育費用�

・地価・施設費用�

・オフィス事情�

・資金調達コスト�

●金融システム安定性�

・河川などの整備状況�●治安の良さ�

●アンダーマネー�

●宗教民族意識の強さ�

●模倣品に対する意識の高さ�

・欠勤に対する意識�

・外資への恣意的課税�

・追徴の習慣�

・約束の履行の可能性�

図表12

調査・分析のフレームワーク(詳細)

出所)アビームコンサルティング

86 開発金融研究所報

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マレーシア拠点からの出荷先�

マレーシア国内市場に関する投資環境要素の重視度�

日系�欧米系�

1.0 2.0 3.0 4.0

2.9

2.1

2.0

1.9

3.3

3.5

重視�

●経済成長力(GDP)�

●競合環境・競合他社�

●市場規模・成長性�

2.9

2.1

2.0

1.9

3.3

3.5●US/EU向け�

●アジア向け�

●マレーシア国内向け�

欧米系� 日系�

→U.Sと欧州向けの出荷が中心であり、マレーシア国内市場はそれほど重視していない�

→アジア/マレーシア向けの出荷が中心であり、マレーシア国内市場の状況を強く重視�

フィリピン�

インドネシア�

タイ�

韓国�

US

Japan

インタビューによる欧米系企業のコメント�

中国�拠点�

マレーシア�拠点�

China

EU/�インド�イスラム圏�

マレーシア�

シンガポール�

ASEAN

オーストラリア・�ニュージーランド�

→アジアを3分割し、中国/マレーシア拠点はそれぞれ別の位置付けを持たせる�→マレーシアからの出荷先には、US/EU、ASEAN諸国に加え、イスラム圏も視野に入れている�

アセアンの人口は5億人と巨大なマーケットであると認識。中国とペナンでアジア全体と米国市場をカバー�(欧米系大手PCメーカー)�

マレーシアと中国では違うマーケットを持っていると認識している(欧米系大手PCメーカー)�

…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………

2.売上高に関する認識の差異

現地調査から、相対的に日系企業がマレーシア

を含めたアジア市場の規模と成長可能性を重視し

ており、欧米系は相対的にマレーシア市場、アジ

ア市場に対する関心が低いということが明らかに

なった*12。一方、欧米系企業は、マレーシアで

製造した製品をASEAN諸国を含む世界中の市場

へ輸出することを想定した事業展開を行っている

ため、マレーシア市場、アジア市場への関心が低

いと考えられる*13(図表13、図表14)。

3.事業コストに関する認識の差異

(1)調査結果

事業コストに関しては、日系企業は、「直接工

の賃金水準」を相対的に重視する傾向があり、欧

米系は、製造加工費もさることながら、「設計・

開発費」や「輸送費 在庫コスト」、「管理費」な

ど、幅広い投資環境要素を重視する傾向がある

(図表15)。

(2)日系/欧米系のコストに対する意識の差異

この調査結果をふまえて、日系と欧米系のコス

*10 今回、投資環境の大分類について「国家状況」「制度・政策」「人的資源」「事業環境」「生活・文化」を用いた。この他にも、

Lee and Houde(2000)では「市場規模と経済成長見込」「天然資源と人的資本の賦存」「物理的・金融・技術インフラ」「国

際貿易への開放度と国際市場へのアクセス」「規制・制度枠組みと政策の一貫性」「投資保護と促進」の6分類を示している。

(訳:小中、他(2002)pp.22)

*11 インタビュー結果によると、「現地事業の評価基準としては、利益率やキャッシュフローなどの項目を重視している。数年前

にEVAの導入を検討したこともあったが、当社の現法では不要、という結論に達した。それは、EVAはあくまで事業結果か

ら割り出した『結果指標』であり、各現場で目標とすべき『行動指標』ではないからだ。したがって現場の人間に『EVAを

改善しろ』と言ったところで、現場は何を追及すればよいかわからず、業績は改善しない。それよりも、『コストを下げろ』『在

庫日数を○○日以下にせよ』と具体的に指導したほうが現場の理解も早く、徹底しやすい。つまり、現地マネジメントの指標

はシンプルなほうが良い、と判断したためEVAは採用しなかった。」とのコメントがあった(電機・電子メーカー)。ただし、

生産機能に加えて、物流機能やサービス機能、研究開発機能などが付加され、現地拠点の多機能化がすすむと、その事業評価

にあたってはより広い視点が必要になるだろう。

*12 これは、アンケートに回答した日系企業には、マレーシア国内の組立メーカー等を顧客としている日系部品メーカーが多く含

まれていることも影響していると考えられる。

*13 日系・欧米系の進出の経緯については、図表1参照。

図表14 欧米系企業の拠点戦略

出所)アビーム コンサルティング作成

図表13(アンケート結果)日系と欧米系企業の売上に関する投資環境要素の重視度とその理由

出所)アンケート調査よりアビーム コンサルティング作成

2004年2月 第18号 87

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投資環境要素�の重視度�

重視する�

欧米系�

3.33.4

3.0

3.3

2.8

3.3

3.0

3.6

2.9

3.5

3.3

3.4

3.2

3.5 3.6

3.23.33.6 3.8 3.5

3.0

2.2

3.02.5

3.5

日系�欧米系�

設計・開発費� 材料調達費� 製造加工費� 輸送費 在庫コスト�管理費�

1.0

2.0

3.0

4.0

日系�

影響する�事業コスト�

●設計開発人材の�

 労賃�

●開発技術に精通�

 した人材�

●通信インフラの�

 成熟度�

●従業員教育費用�

●現地での部材調�

 達環境�

●組立の技術に精�

 通した人材�

●電機・水道イン�

 フラの成熟度�

●有望な製造委託�

 先の有無�

●直接工の賃金水� 準�

●輸送インフラの�

 成熟度�

●産業の集積度�

●経営業務に精通�

 した人材�

●経営人材の賃金�

 水準�

→相対的に労賃を重視する傾向が強い�

→各項目の重視度に大きな差は見られない�

設計・開発費�

材料費�

輸送費�

税金�

欧米系�

日系/欧米系の関心領域�

人件費�

日系�

在庫コスト� 総事業�コスト�

現地の“直接工の労賃”が大きな�影響を与えるのは�総事業コストの18%*�

減価償却費�

製造加工費�

その他�管理コスト�

5%~�10%*�

50%~�80%*�

1~10%*�1~10%*�

政治・社会情勢(*)� 他社との競争�

他社との競争� 労働コストの上昇�

外資に対する規制緩和� 外資規制�

管理職クラスの人材確保� 為替規制・送金規制�

労働コストの上昇� 課税強化�

2002年� 2003年�

28.6%�

25.0%�

25.0%�

25.0%�

21.4%�

47.6%�

23.8%�

23.8%�

19.0%�

19.0%�

日系企業へのインタビューにおけるコメントから�「労働コスト」に対する意識の高さが伺える�

投資判断に際して、考慮する項目は、まず人件費、それから部材調達コストである。(日系大手総合電機メーカー)�

現在、人件費の占める割合は平均すると6~7%であるが、コストの観点からは引き続き重要な費用項目であると理解している。(日系電機メーカー)�

進出の第一理由は、顧客であるセットメーカーの進出が挙げられる。二番目の理由としては、低い労賃が挙げられる。(日系大手部品メーカー)�

図表15(アンケート結果)日系と欧米系のコストに関連する投資環境要素の重視度

出所)アンケート調査よりアビーム コンサルティング作成

図表16 電機・電子業界における事業コストの構造

出所)アビーム コンサルティング*1)数字は電機・電子メーカーにおける事業コスト(トータルコスト)に占める各コストの一般的な割合。インタビュー各種資料、日

系電機メーカーの財務諸表より、アビーム コンサルティング推計*2)経済産業省 産業関連表より、電気電子機器産業の総費用に占める人件費(直接工以外に間接人件費など含む)の割合は18%

図表17 日系企業のマレーシアに対する課題

出所)国際協力銀行 開発金融研究所「わが国製造業企業の海外事業展開に関する調査報告」2000年~2003年よりアビーム コンサルティング作成

*)2002年は同時多発テロおよびマハティール首相引退後の動向など政治・社会情勢に特に関心が高かったために、課題として認識されたものと思われる。

図表18 インタビューにおけるコメント

出所)インタビューよりアビーム コンサルティング作成

88 開発金融研究所報

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●知的財産保護法制�

●模倣品に対する意識の高さ�

●土地所有に係わる規制�

●宗教・民族意識の強さ�

●会計制度の整備と透明性�

●法規制の整備と透明性�

●アンダーマネー(賄賂)の習慣�

●為替政策・インフレ率等�

●治安の良さ�

●政治的安定性�

●雇用制度(解雇、労務時間、労組慣行)�

2.2

2.3

2.2

2.5

2.8 3.1

2.9

3.3

3.33.7

3.8

3.9

3.7

3.0

3.1

3.4

3.4

3.1

3.4

3.4

3.73.7

重視度�

事業リスクに関連する投資環境要素� 重視する�

1 2 3 4

欧米系�

日系�欧米系�

日系�

重視しない�

知的財産に関するリスク要因を欧米系は特に意識している�

国家状況に直接関連するリスク要素に関しては、日系も欧米系も強く重視することは変わらない�

→相対的に知的財産や、規制・制度に関する関心が高くない�

→欧米系はリスクに対する意識が総じて高い�

…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………

トに対する視野の広さについて具体的に比較す

る。まず、一般的な電気・電子産業に占める主な

事業コストの構造は、図表16の通り分類される。

マレーシアで事業展開を行う日系/欧米系企業

の主な目的は、海外生産によるコスト競争力の創

出にあるが、特に日系企業は、現地の労賃の低さ

が大きな影響を与える材料調達費や製造加工費

(総事業コストの約18%に相当)に強く着目し

た事業展開を行っている。

いっぽう、欧米系企業は、労働コストを競争力

の源泉と捉えるのではなく、海外生産により、開

発や在庫/管理コストを含む、総事業コストをど

れだけ低減できるかを意識した事業展開を行う傾

向があるといえる。

(3)労賃を重視する日系企業

日系企業にとって、現在も依然として労働コス

トは重要な評価指標であることがわかる。日系企

業に対して国際協力銀行が行った調査結果を見る

と、マレーシア拠点の経営上の課題として、近

年、「労賃の上昇」を挙げるケースが多くなって

おり、現地進出の日系企業においては、現在も労

賃が重要な位置付けにあることを示している(図

表17)。

1970年代から1980年代後半にかけて安価な労

働力と円高の影響回避を目的に進出先を探してい

た日系企業にとって、当時、両方の条件を満たす

マレーシアが選択されたことは自然であるといえ

る。しかし、現在においても、引き続き日系企業

はマレーシアに「安価な労働力」を求めているこ

とがわかる。これは、日系企業が、マレーシア拠

点を「製造工場」であると根強く認識しているた

めである*14(図表18)。

4.事業リスクに関する認識の差異

(1)調査結果

調査結果によれば、リスク指標に対する意識

は、総じて欧米系が日系に比して高い。特に、投

資対象国の模倣に対する意識や知的財産の保護に

対して欧米系は高い反応を示している(図表19)。

これは、欧米系がマレーシアで、開発・設計機能

を展開しているという背景がある。また、現地マ

ネジメント上のリスクに強く結びついている会計

*14 この点について、投資先としてのマレーシアのポジションそのものが変化していることを後述する。

図表19(アンケート結果)日系・欧米系の事業リスクに関連する投資環境要素の重視度

出所)アンケート調査よりアビーム コンサルティング作成

2004年2月 第18号 89

Page 14: マレーシアにおける日系 欧米系電機・ 電子メー …...の上で、日系企業の投資環境評価の特徴について、欧米系企業との比較を通じて実証した。比較にあたっては、初期条件の違いを極力抑えるためにマレーシアという共通の投資環境を題材と

日系�

欧米系�

投資判断の主体� 候補先の選定� 投資計画立案� 投資実行/管理�

リスク最小化を徹底�リスクを定量評価�

リスク対策・責任は“曖昧”�製造事業部�事業部が中心となって経営企画部と検討することが多い�

現地法人は第三者的な視点がないので参画しない�

トップマネジメントが関与し、海外投資専門部隊や外部専門家が評価�

リスクは○×などで定性的評価する場合が多い�

最終的にはNPVなどを用いた定量的な投資対効果とリスク分析を実施�

政治リスクや外資規制などの致命的要素を中心に検討�

想定される事象が起きたときの責任の所在や対処方法があいまい�

需要変動に対するリスク管理が弱い�

想定しうるリスクをすべて整理し危機プランを策定、撤退規準も明確化�

リスクを最小限に抑えるために、政府交渉を積極的に行う�

社内の監査チームが定期的に現地の経営内容を厳しくチェック�

現地法人のトップのリスクマネジメントに対する責任が重い�

工場管理に詳しい人材が工場のQCD向上のマネジメントの責任を負う�

専門部隊や�トップマネジメント�

リスクを定性的に認識� 現地マネジメントの�責任はQCD向上�

経営リスク管理の実施�

…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………

制度や法制度などに対しても欧米系の関心は総じ

て高い反応を示した。

一方で、「治安の良さ」や「政治的安定性」と

いった進出の際にノックアウトファクター(致命

的要因)となりうるリスク項目については、当然

ながら日系/欧米系問わず、共に強く重視する傾

向がある。

(2)投資意思決定プロセスにおけるリスク評価

の違い

投資意思決定プロセスにおいて、日系/欧米系

がリスクをどのように評価、対応しているかをま

とめた(図表20)。

日系企業における海外直接投資の判断は、事業

部(製造部門)を中心に行われている。また、候

補先の選定の際には、○×などによる定性的なリ

スク評価に留まるケースが目立つ。

これに対し欧米系企業では、海外直接投資の専

門チームが投資分析プロセスに関わることが多

い。また、外部専門家を登用し、投資リスクとリ

ターンに関する客観的/専門的な判断を仰ぐこと

も多く、リスクとリターンの評価に対する厳密な

評価姿勢がうかがえる。さらに事業リスクについ

ては、カントリーリスクを定量的に検討し、割引

率という形で投資の現在価値に反映させるケース

が多い。中には、F/S段階において、リスクと

なっている規制などについて積極的に政府と交渉

して対応策を検討し、あらゆるリスク要因につい

ての対策方法と、対応者、責任などを明確化して

いる企業もある*15。また、投資実行後も、欧米

系の現地法人のトップの主な役割としてリスクマ

ネジメントの重要性が指摘されている。

コラム:投資判断プロセス

日系企業と欧米系企業の投資判断プロセスの違いについて、インタビュー等をもとに整理した(図

表21)*16。まず日系企業では、海外直接投資の判断は事業部(製造部門)を中心に検討されるのに

対し、欧米系企業では、海外直接投資の専門チームが投資分析プロセスに関わる。また、外部の専

門家を登用し、投資リスクとリターンに関する客観的な判断を仰ぐこともある。

また審査プロセスにおいては、日系は、同業他社の投資動向を参考に商社等の協力を仰ぎながら

調査を進めることが多い。欧米系は、自社の競争力強化が投資目的であるため、他社と差別化すべ

く、自社の状況に合わせた分析を行う。例えば、ある大手半導体メーカーでは、審査を二段階に分

*15 筆者インタビューによる。具体的には、図表21参照。

*16「基本的に、投資決定プロセスそのものは日系企業と欧米系企業との間で大きな差はない」とする意見(日系電機メーカー)

もあったが、本稿ではプロセスそのものよりも、むしろその中身について比較している。また、日系と欧米系との優劣を論じ

るものではない。

図表20 投資意思決定プロセスにおけるリスクに対する重視度の差異

出所)各種インタビューより作成

90 開発金融研究所報

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欧米系�

日系�

実施主体�/期間�

候補地�ピック�アップ�

審査プロセス�

一次審査� 二次審査�

候補地�決定�

実行プランニング�

政府交渉� リスク回避策�の検討�

最終�決定�

経営企画部の参画�

海外投資専門部隊�

外部専門家�

トップマネジメントの参画�

交渉時の要求事項が具体的かつ論理的(直行便を週3便を4便など)�

とりあえず、投資の申請を行い、実行の検討を行う�

「自分が進出したらどんなインセンティブを受けられるのか?」を積極的に交渉する�

投資申請をおこなう前にじっくりと検討を行う�

政府には、気をつかいながら交渉�

キャッシュフローモデルなどによる定量的な投資対効果分析を実施�

ロジスティクスやマーケット環境など幅広い項目をトータルに検討�

「他社」の進出動向調査(他社が進出しているかなどを非常に気にする)�

労賃の低さなど目的に即した項目を検討�

コンサルティング会社等が作成したベストプラクティスにそってシステマチックに進める�

政治リスクや外資規制などの定性面のノックアウトファクターを中心に検討�

パートナーである商社などの情報に頼る傾向�

一時審査に至るまでの検討期間が1~2年にわたる場合もある�

戦略、目標を達成するためにいかなる施策も検討する�

2、3人のトップの承認にて速やかに意思決定�

小型投資による様子見の試行はおこなわず、やると決めれば一気に実行する�

1年~3年内の極めて短期間の回収を要求�

財務的視点(投資対効果)に立った意思決定�

承認者が10人以上もいるので、稟議だけでも時間がかる�

論理的な検討がトップの感情的意思決定によってひっくり返ることがある�

ハイテク企業には労働組合の結成が禁じられているなど、政府交渉によりリスクを最小限に抑える�

想定しうるリスクをすべて整理し、危機プランを策定�

需要変動に対するリスク管理が弱い�

計画が実績の積上に基づくため、ドラスティックではない�

想定される事象が起きたときの責任の所在や対処方法があいまい�

同時に、撤退規準も制定�

定性的評価が多い�

3ケ月~6ケ月程度で意思決定が行われる�

検討期間が1~2年にわたる場合もある�

現地法人は第3者的視点を失うので評価に参画しない�

事業部中心(製造部門)�

当初の期待収益率に満たない状況が改善しないと見込まれる場合、拠点の閉鎖や事業からの撤退を躊躇しない�(大手電機メーカー)�

現地法人のトップマネジメント層に現地人を起用し、人員の現地化を進める一方、収益・業績管理は定量目標の設定・運用を徹底することで本社コントロールを強めている�(欧米系メーカー)�

投資に対する収益性については、社内のハードルレートを本社が設定し、現地法人においても厳格な適用を行うことで事業の収益管理を行っている(欧米系大手PCメーカー)�

投資の判断時には各種リスクについても極力、定量化を行い、割引率等に反映させる傾向が強い。将来の追加投資・撤退の判断に関する(リアル)オプションを価値と評価して投資判断を行うケースもあり(業界関係者)�

需要減少のリスクなどが投資判断時にあまり考慮されていないのが、現時点での課題。需要減少のリスクをもう少し加味していれば、投資額をもう少し抑えておくという判断もありえた。今後は、これらのリスクを明確に定量的に評価していけるようにならなければならない。�(日系大手総合電機メーカー)�

リスクを定量的に判断しなければならないという理論はわかるが、実際はそこまでできていない。�(日系大手総合電機メーカー)�

リスク評価は“曖昧”“定性的”� リスク評価は“厳密”“定量化”�日系� 欧米系�

(3)リスク認識に関する具体的事例

その他の日系/欧米系のリスク評価の認識につ

いて、具体的な事例(インタビューコメント)を

以下にまとめた。一般に、日系企業はリスクがあ

ることを理解しているが、定性的なリスク管理を

行っており、最終的な投資判断の拠り所になる財

務分析にリスクを反映させていないことも多い

(図表22)*17。

5.まとめ ~投資環境評価と重視する財務指標の関係~

売上、事業コスト、事業リスクに対する評価ス

タンスの違いは、重視する財務指標の違いとなっ

てあらわれている。アンケート調査によると、日

系企業は、営業利益率、製造原価などの労働コス

トが極めて大きなインパクトを持つ財務指標を重

け、最初はノックアウトファクター(それ自体が投資のGo/No goを決めてしまう要因)を中心に、

二次審査ではキャッシュフローモデル等を用いて客観的な分析を行っている。

最後に実行プランニングでは、欧米が検討段階の早期から、投資申請、インセンティブ交渉を

行っていく�走りながら考えるスタイル�であるのに対し、日系は検討に時間をかけ、実行が確定的になった後に交渉に入るなど比較的慎重なスタイルをとる傾向があることがわかった。今後は、

日系企業も場合によっては投資環境そのものを改善するよう現地政府や投資誘致機関等に働きかけ

る活動が必要になると思われる。

図表21 投資意思決定プロセスの違い

出所)各種インタビューより作成

図表22 リスクに関する日系/欧米系企業のコメント

出所)インタビューおよび各種資料よりアビーム コンサルティング作成

2004年2月 第18号 91

Page 16: マレーシアにおける日系 欧米系電機・ 電子メー …...の上で、日系企業の投資環境評価の特徴について、欧米系企業との比較を通じて実証した。比較にあたっては、初期条件の違いを極力抑えるためにマレーシアという共通の投資環境を題材と

2.0

3.2

3.4

3.23.4

3.8

2.8

3.6

NPV Pay Back 営業利益率�製造原価�*18

重視する�

重視しない�

欧米系�

日系�欧米系�

各財務指標のカバー範囲�

1.0

2.0

3.0

4.0

運転資金�税金�投資コスト�

原価�管理費�

リスク�

事業収益�売上�

事業コスト�

投資価値�

欧米系はNPVなど事業収益/リスクを包括する評価指標を重視�

日系は製造原価等のコスト中心の指標を重視�

米国企業は1980年代からEVAを使用し始めている。経常利益のみの事業評価では資本収益性の欠落が生じる。�(SRCレポート)�

欧米の企業は株主の発言権が強いので、EVAなどの指標を使用している。(日系大手部品メーカー)�

現在価値などの概念を含めた投資判断指標は使用していない(日系メーカー)。�

最近、EVA的指標を本社が取り入れたが、最終的に投資を判断する指標は営業利益である。�(日系大手総合電機メーカー)�

投資の判断指標はROAであるが、それらは本社に稟議を通す場合の数字づくりとなっている。実際は製造原価がいくら下がるのか、製品ごとの営業利益はどうか、というものを中心に考えている。(日系大手電機メーカー)�

製造原価がどれくらい低減できるかで決定され、回収期間などはあまり厳しく考慮していない。(日系メーカー)�

日系�

日系�

投資価値�

欧米系�

製造原価を重視�業績評価指標�

現地の労働コストを重視�

売上�(生産量)�事業収益�

(フリー�キャッシュ�フロー)�

リスク�(割引率)�

事業�コスト�

マレーシアは、事業部直下の�製造拠点との認識が根強い �

投資および拠点経営に、�トップがコミットし事業展開�

マレーシアマーケットを重視� グローバルマーケットに対応�

リスクについては、�“曖昧”な判断�

各項目の重視度に大きな差はない�

リスクを認識・評価し�コントロール�

現在価値(NPV)等を重視�

・主に、マレーシア・アジア域内のマーケットを重視�

・マレーシア国内、アジア域内のマーケットだけでなくUS/EUマーケットに対応�

・労賃を重視�・設計開発コスト、経営管理コストについては、それほど重視していない�

・設計開発・経営管理コストなどを総合的に評価�・在庫コスト等、キャッシュフローの増大の観点も重視�

・リスクについては定性的(○×的)な評価�・リスク管理はあいまい�

・リスクを定量化し、財務モデルに反映�・リスク管理の徹底化�

・製造拠点としての価値を端的に表す製造原価を重視�

・総合的な海外投資価値を重要視し、それを表す現在価値などの包括的価値評価指標を重視�

…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………

図表23(アンケート結果)日系/欧米系の投資判断時に重視する財務指標の差異

出所)アンケート調査よりアビーム コンサルティング作成

図表24 インタビューにおけるコメント

*17 このため、投資実施後もリスク管理が曖昧化する傾向がある。実際、ある日系企業から、海外事業の悪化の原因が、リスクに

対する認識の甘さにあったというコメントが得られた。例えば、ある会社では顧客企業1社との取引のみの収益計画で海外直

接投資が実施され、その顧客企業の需要が悪化するリスクを考慮していなかったために、大きな損失を出したというケースも

発生している。

一方、欧米系企業からは、リスクに対するプランニングを徹底的に行ったにも関わらずリスクが顕在化した場合には、プラ

ンの計画者の責任が問われない(むしろ昇進した)ケースが報告されている。

*18 各指標の概要

NPV…時間とリスクの概念を取り入れた資本コストを用いて割引かれた、将来キャッシュフローの現在価値

Payback…投資金額が何年で回収されるかの期間。リスクや金銭の時間的価値は考慮していない

営業利益率…売上総利益-販管費で計算される利益であり事業でどのくらい儲かったかを示す会計指標

製造原価…製品の製造にかかわる材料費、労務費、物流費、管理費

図表25 日系/欧米系の投資環境評価に対する考え方の差異のまとめ

出所)アビーム コンサルティング分析

92 開発金融研究所報

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カントリーリスク� (低い)�

(低い)�

(高い)�

低廉な労働力が�競争力の源泉�

整備された�事業インフラが�競争力の源泉�

生産拠点として有望�(ただし、将来の�労賃上昇に懸念あり)�

生産拠点としての�有望性は薄い�

経済の発展・成熟化�労働コスト�

製造業における労働者の労働コスト�

(支払賃金と福利厚生費用の合計値)�

1時間あたり労働コスト(米ドル)�

カントリーリスク�(低)�(高)�

カナダ�アメリカ�イギリス�フランス�日本�

ベトナム�

コロンビア�

④�

①�

②�

③�

⑤�

(低)�

トルコ�

タイ�

南アフリカ�香港�

台湾�

韓国�

スロベニア�

チリ�

14.00

12.00

10.00

8.00

6.00

4.00

2.00

0.00

4.20 4.70 5.20 5.70 6.20 6.70 7.20 7.70 8.20 8.70 9.20 9.70

※円の大きさは一人当た� りGDPを表わす� アイスランド�アイルランド�

イスラエル�

オースト�ラリア�

スペイン�

シンガ�ポール�

ニュージーランド�

ギリシャ�

ポルトガル�

チェコ�

ハンガリー�

スロバキア�

マレーシア�

ポーランド�メキシコ�

中国*フィリピン�インド�

ブラジル�

ルーマニア�

インドネシア�

ロシア�

視している。これに対して、欧米系企業は、現在

価値(Net Present Value)やPayback(投資回

収期間)などの、包括的な業績状況をあらわす財

務指標を重視する傾向があることがわかる。日系

企業と欧米系企業の投資環境に対する視野の広さ

の違いは、このように追求する指標の違いに大き

く影響されていると言える(図表23、図表24、図

表25)。

第3章 マレーシアの変遷と今後

1.生産拠点としてのアジア各国の位置付け

(1)分類

第3章において、マレーシアで事業展開を行う

日系企業は、製造原価、とくに「労働コストの低

さ」に着目する一方、欧米系企業は、「総事業コ

スト」や「リスク(割引率)の低さ」を重視した

事業展開を行っていることを述べた。ここでは、

こうした投資環境の評価方法と、実際のマレーシ

アの投資環境との相対的な位置付けを検証する。

そこで、縦軸に、日系企業が重視している「労

働コスト」をとり、横軸に欧米系企業が重視する

リスク(ここでは、事業に様々な角度から影響を

与える「カントリーリスク」とした)をとって、

アジア各国の生産拠点としての位置付けを評価し

た(図表27)。

一般的に、国の経済の発展・成熟に伴って、左

図表27 生産拠点としての位置付けの捉え方

出所)アビーム コンサルティング

図表28 生産拠点としての各国の位置付け*20

*)中国は内陸部、沿岸部で大きく労賃、リスクが大きく異なるが、ここでは一国の総合値としてプロットしている。出所)R&I Country Risk Survey2003、IMD: The World Competitiveness Yearbook2003よりアビーム コンサルティング分析

2004年2月 第18号 93

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① 低労賃を武器にした製造特化型拠点�

② 総合的競争力を生かした生産拠点�

③ 成熟した事業インフラを生かした付加価値追求拠点�

④ 特別な理由がない限り、進出しない特異拠点�

⑤ 短期決戦型拠点�

①�

②�

③�④�

⑤�

カントリーリスク�(低い)�

(低い)�

● 企業の対応・施策�

労働コスト�

進出企業から見た各ポジションの特徴�■ 各ポジションの状況�

■ 労賃もカントリーリスクも低い為、生産拠点として短期的には有望なポジション。一般的に労賃�  とカントリーリスクは相関があるため、この状態は長くは続かないが、政府による積極的な制度�  ・事業インフラの整備の結果、一時的にこの領域に入る国がある。例えば、欧米系企業の投資が�  活発化しているチリやチェコ、ポルトガルはこのポジションに入る。�● これらの国に進出する際には、将来の労賃上昇に備えた対策を予め打っておく必要がある。�

■ 労賃とカントリーリスクが高い為、通常は製造業の進出に適さないポジション。�● この領域の国を敢えて生産拠点として選択する場合、他国では代替が困難な明確なアドバンテー�  ジの存在や自社にとっての戦略的意味合いが必要になる。例えば、インテルがイスラエルで半導�  体製造の前工程や主力製品の研究開発を行っている背景には、同国が世界トップクラスの研究者�  やエンジニアを多数保有するという事情がある。�

■ 労働コストが非常に高く、成熟製品の最終組立て等、労働集約的な作業には適さないポジション。�● 事業リスクの低さを活かし、最先端の技術と莫大な設備投資を要する付加価値の高いキーデバイ�  ス等の生産を行うことが可能。教育/所得水準の上昇により高い技術力を持ったエンジニアやテ�  クニシャンの確保可能性が高くなる為、研究開発や先端製品の設計といった知識集約型事業に適�  している。�

■ 適度に教育された人材と整備された事業環境を活用できるポジション。ポジション①に比べ労働�  コストに優位性がなくなる。�● ポジション①では困難であった拠点機能の拡張を行い、製造部門と連携した設計機能や販売と連�  動した物流機能など、広範囲の機能を取り込むことで、トータルのコスト競争力の創出が可能。�  また、当ポジションでは産業集積が進むことから、社内だけでなく、現地のサポーティング・イ�  ンダストリーと協力し、部材調達において効率的なサプライチェーンを組むべき。�

■ 専門技術を要しない廉価な労働力を活用した生産プロセスに適したポジション。技術的に安定し�  ている成熟製品の最終組立作業等に向いている。�● 当ポジションの位置付けは労働集約的作業が中心になる為、オペレーションにおいては厳格な現�  場管理(例えば、作業工程のマニュアル化)が重要となる。また、ポジション①では、低廉な労�  働コストの活用に価値があり、進出することで多くの企業が当該メリットを必然的に享受できる�  ため、進出に際しては既に同目的で進出している他社事例の活用が可能。�

…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………

上から右下へと位置付けがシフトしてゆくと考え

られる。国が未成熟な時期は、左上のポジション

に位置し、その低廉な労働力をベースにした組立

生産等の単純労働等が有効に機能する。経済の発

展が進み、事業インフラが整備されるにしたがい

カントリーリスクが低下する一方で、労働コスト

は上昇し、徐々に右下方向にポジションがシフト

してゆく。右下のポジションにおいては、労働コ

ストだけでなく、事業全体としての競争力を強化

していくことが求められるようになるだろう。

このフレームワークに基づき、現在の各国の位

置付けを行い、それぞれの位置における生産拠点

としての特質に応じて、�から�までの5つのポ

ジションに分類した*19(図表28、図表29)。

*19 なお、ポジションの切り分けは各国を位置付けるための便宜的なもので、厳密な区分ではない。

*20 労働コスト(縦軸)…IMD(2003)のBusiness Efficiency - Compensation Levelsに掲載されている各国の製造業における労

働者の労働コスト(支払賃金と福利厚生費用の合計値を米ドルに換算)に基づいてプロットした。

カントリーリスク(横軸)…海外直接投資を行い、投資先国において生産事業を行う際のリスクを表す指標として、当該国の

総合的な政治・経済状況を反映していると考えられるカントリー・リスク・レーティングを用いた。格付投資情報センター

(2003)に基づいて国毎に算定した総合評価指数に基づいてプロットし、各国の内乱・革命の危険、政権の安定性、産業の

成熟度、財政政策、戦争の危険、対外支払能力、為替政策等、計15項目の指標をもとに算定された総合指標を10.0を最高と

して各国のリスク量(指数が大きいほどリスクが小さい)をプロットした。当該調査において日本は評価対象になっていない

為、日本は他の主要先進国と同レベルのリスクという前提をおいた。

ポジショニング対象国…対象国は、アセアン4の構成国、NIES4の構成国、主要先進7ケ国+ロシア、北欧3ケ国、中南米

諸国、東欧諸国、オセアニア諸国、その他地域諸国(アフリカ、中東地域等)から選出した。なお、上記グループの中から、

�同一時点且つ同一基準の統計データが取得できない国、�比較分析意味合いの観点から、極端な位置に属する国(1時間あ

たり労働賃金が20米ドル以上の国、及びカントリーリスク指標が4.0以下の国)は対象外とした。

図表29 ポジションごとの特徴

出所)アビーム コンサルティング分析

94 開発金融研究所報

Page 19: マレーシアにおける日系 欧米系電機・ 電子メー …...の上で、日系企業の投資環境評価の特徴について、欧米系企業との比較を通じて実証した。比較にあたっては、初期条件の違いを極力抑えるためにマレーシアという共通の投資環境を題材と

1時間あたり労働コスト(米ドル)�

カントリーリスク�(低)�

(高)�

カナダ�アメリカ�イギリス�フランス�日本�

ベトナム�

コロンビア�

④�

①�

②�

③�

⑤�

(低)�

トルコ�

タイ�

南アフリカ�香港�

台湾�

韓国�

スロベニア�

チリ�

14.00

12.00

10.00

8.00

6.00

4.00

2.00

0.00

4.20 4.70 5.20 5.70 6.20 6.70 7.20 7.70 8.20 8.70 9.20 9.70

※円の大きさは一人当た� りGDPを表わす� アイスランド�アイルランド�

イスラエル�

オースト�ラリア�

スペイン�

シンガ�ポール�

ニュージーランド�

ギリシャ�

ポルトガル�

チェコ�

ハンガリー�

スロバキア�

マレーシア�

ポーランド�メキシコ�

中国*�

フィリピン�インド�

ブラジル�

ルーマニア�

インドネシア�

ロシア�

ハンガリー�東欧の人件費はドイツなど西欧先進諸国の五分の一以下。世界の完成車や自動車部品メーカーの東欧進出ラッシュが起きている。�

チェコ�日本の製造業(101社、3カ国まで回答可)の欧州の工場適地として、1位チェコ(27.7%)、2位ハンガリー(20.8%)3位ポーランド(16.8%)が選ばれるなど評価が高い。*�

ポルトガル�ユーロ導入をきっかけに欧州向けの自動車の生産拠点として急速に投資が促進された。一時期は人手が不足になる事態まで発生。�

メキシコ�94年に発効した北米自由貿易協定(NAFTA)をきっかけに米国メーカーの製造拠点として投資が増加。�

ポーランド�欧州各国に較べ5~7割も人件費が安いポーランドは自動車メーカーの生産拠点として工場新設数が多い。�

スロベニア�2004年にも欧州連合(EU)に加盟する予定で、安価な労働コストを狙った日米欧企業の進出が加速中。�

ベトナム�大手電機メーカー等が安価な労働力と勤勉な人材の確保を目的に生産拠点の進出が進む。�

フィリピン�電気・電子関連への投資が94年頃から急増し、新たな工業団地が次々と開発、輸出基地としての機能強化が図られている。�

イスラエル�中東諸国との紛争が絶えず、投資対象国としてはリスクが高いが、世界トップクラスの研究者や技術者を有するため、富士通、モトローラ、インテルといった日米の大手半導体メーカーが製造拠点や研究開発拠点を設置。�

インドネシア�国内紛争前は豊富な人口と人件費の安さをもとに投資有望国であったが、政治的なリスクが増大。�

韓国�近年、労働集約型の投資誘致から知識集約型の投資誘致へと変更し、外国人に住みやすい街づくりやマーケティングや経営計画立案など企業の「頭脳」に照準を合わせ、中国を含めた東北アジアのビジネスの中心として「海外企業の地域本部を誘致する」という方針を押し進めている。�

台湾�1970代に日系企業による投資が増加した。近年では、中国への産業シフトが起こり、国内空洞化が問題。�

①�

②�

③�

人事�

①�

②�

③�

カントリーリスク�(低い)�

(低い)�

競争力の源泉�有望な事業領域� 組織体制� 事業評価指標�

労働コスト�

低廉な労働�コスト�

総合的なコ�スト競争力�

付加価値�

労働集約的�な事業�

資本集約的�な事業�

知識集約的�な事業�

■現場コントロールが必要�

■総合力発揮の為の自立的組織�

■付加価値の高い統括/専門� 組織中心�

● 事業本部等の統括機能の充実�● 事業部中心のビジネス展開�● 開発機能は、専門特化�

■製造コスト中心� ■平等性を確保�

■総コスト/効率性重視�

● トータルコスト�● 営業利益率�● 投資回収率(IRR)�

● 労働賃金�● QCD�● 投資回収期間�

■付加価値指標を採用�

● 最終利益�● 投資収益率(ROI)�● 経済付加価値(EVA等)�

■生産性を意識した人事�

■成果重視の人事評価�

● 生産現場の厳密なコントロールが不可欠�

● 管理監視体制の徹底�

● 結果の平等を確保�● マニュアル化したオペレーションによる品質の担保�

● 総合的な競争力確保のために、現地へ権限委譲し、現場主体の自発的な機能領域の発展を促す�

● 生産性に応じた評価が有効�● 現地社員のマネージメントへの積極登用が生産性に寄与�

● 優秀な人材の新規採用・教育�

● ルーティンワークの割合が減少し、業務の質に基づく成果主義の人事制度が機能する�

● 部門毎人事管理�

(2)各ポジション国の投資動向

各ポジションに位置するいくつかの国の投資動

向についてまとめた(図表30)。例えばポジショ

ン�に位置するベトナムでは、安価な労働力と勤

勉な人材を有望理由として、日系企業が工場設立

を増加させている。ポジション�に位置する韓国

は、労働集約型の投資誘致から知識集約型の投資

誘致に転換し、統括拠点誘致の基盤づくりを推し

進めている。ポジション�に位置付けられる東欧

諸国では、労働コストが低いにも関わらず、事業

遂行上のリスクもそれほど高くないとの評価か

ら、近年、自動車業界や電機・電子業界を中心に

欧米系企業による直接投資が増加している。

(3)�~�ポジションにおける基本的な方向性

生産拠点として捉えた場合、各ポジションは異

なる競争力の源泉を有している。海外直接投資に

おいては、各ポジションの性質の相違を明確に認

識し、その性質を活かせる事業領域、組織体制、

事業評価指標や人事制度を確立しなければならな

図表30 各ポジション国の投資動向

出所)日経四誌より*)日本経済新聞社が日経リサーチと共同で実施したアンケート調査より

図表31 各ポジションにおける基本的な方向性

出所)アビーム コンサルティング分析

2004年2月 第18号 95

Page 20: マレーシアにおける日系 欧米系電機・ 電子メー …...の上で、日系企業の投資環境評価の特徴について、欧米系企業との比較を通じて実証した。比較にあたっては、初期条件の違いを極力抑えるためにマレーシアという共通の投資環境を題材と

●労働コストを重視した事業展開�●マレーシアの労賃の上昇を強く懸念�

→日系は、マレーシアでポジション①の国に適した事業展開をしている�

→欧米系は、ポジション②の国に適した事業展開をしている�

●トータルとしてのコスト競争力に着目した事業展開�●マレーシアのリスクの低さを高く評価�

(低い)�

(低い)�

カントリーリスク�

労働コスト�

■マレーシアのポジションは①から②� へとシフトしつつある�

日系�

欧米系�

①�

②�

③�

マレーシア�

5.8

6

6.2

6.4

6.6

6.8

71999 2000 2001 2002 2003

リスクが�高い�

マレーシアのリスク�

リスクが�低い�

→マレーシアのリスクは� 減少傾向�

0

100

200

300

400

500

1995 1996 1997 1998 1999 2000

マレーシアの賃金�ドル�

(月給)�

→一方で、労働コストは� 上昇�

い。例えば、ポジション�では、リスク管理のた

めの現場統制が欠かせない。また評価指標は製造

コスト中心で行う。ポジション�では、効率的な

バリューチェーンの拡大が鍵になるが、そのため

には、現地法人の評価体系をトータルコストや効

率性へとシフトさせ、生産性に応じた評価を行う

と共に、現地社員へ権限委譲を行い自立的現地経

営を促進する必要がある。例外的なポジションで

ある�、�を除く�、�、�の各ポジションに適

した事業領域と体制は、以下の通り整理される

(図表31)。

2.マレーシアの位置付け変化

このフレームワークの中で、他国と同様、マ

レーシアの位置付けも変化している。その変化を

労働コスト、およびリスクの推移から見る。コス

トについては、近年、マレーシアの労働コストは

一貫して上昇しており、低労賃を武器としたコス

ト競争力を得ることは困難になってきている(図

表32)。一方、マレーシアのカントリーリスクは、

一時的な上下変動はあるものの、長期的には低下

のトレンドにある(図表33)。このことから、最

近のマレーシアは、そのポジションを�から�へ

とシフトさせているといえる(図表34)。

3.まとめ

この章では、各国の生産拠点としての位置付け

を労働コストとカントリーリスクの二つの視点で

評価した。その中で、ポジション�では、労働コ

ストがキードライバーとなり、ポジション�で

は、リスクの低下によって整備された事業インフ

ラをベースとした機能領域の拡大が競争力を維持

する上で重要であると指摘した。また、マレーシ

アが、徐々にそのポジション�から�へとシフト

図表34 日系・欧米系のマレーシアにおける事業展開の違い

図表32 マレーシアのカントリーリスク推移

出所)R&I Country Risk Survey2003

図表33 マレーシアの賃金推移

出所)International Labor Organization、ジェトロ資料よりアビーム コンサルティング作成

96 開発金融研究所報

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販売�物流�調達� 製造� サービス�

現状�

開発設計�基礎�技術開発� Ⅰ. 製造機能における生産性の向上�

Ⅱ. バリューチェーン拡大による競争力の創出�

Ⅰ�

Ⅱ�

→高付加価値の製品を生産することによる利益率の向上�→マレーシア拠点における生産規模の拡大よる固定費率�  の低減�→低賃金国(インドネシアなど)からの労働者雇い入れ�  による労働コスト削減�

以降で説明�

…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………

させてきていることを述べた。

また第2章では、マレーシアで事業を行う日系

企業が、製造原価、特に労働コストを重視する傾

向が強く、一方で、欧米系企業は、コストについ

ては全体的な評価を行い、特に進出国のリスクの

低さを重視していることを明らかにした。

これらを考え合わせると、ポジション�を前提

とした日系企業の事業展開姿勢や投資環境評価

は、ポジション�にシフトしつつあるマレーシア

とのミスマッチを起こしているのである。これ

が、同国への投資や事業展開に対して様子見の傾

向を見せる結果を生んでおり、逆にポジション�

で有効に機能する事業展開を取っている欧米系企

業は、マレーシアに対するコミットを強めてい

る、と言うことができる。

第4章 日系企業への提言

1.競争力創出のための施策

前章で述べたように、ポジション�にシフトし

つつあるマレーシアにおいて、日系企業が今後と

も競争力を強化させていくためには、これまでの

低賃金に依存しない競争力創出が必要である。本

稿ではそのための施策の方向性として、「製造機

能における生産性の向上」と「バリューチェーン

拡大による競争力の創出」の2方向を考えたい(図

表35)*21。

まず、「製造機能における生産性の向上」にお

いては、大きく3つの施策が考えられる。第1

に、高付加価値製品の生産にシフトしていくこ

と、第2に、生産規模を拡大することにより、労

賃の上昇をカバーする生産性を確保していくこ

と、第3に、労働コスト自体も、インドネシアの

様な近隣の低賃金国から労働者を雇い入れること

である。

また、「バリューチェーン拡大による競争力の

創出」とは、既存の製造機能を中心に設計や販売

といった機能を同一拠点で有することによって新

たに競争力を創出する方法である。以降、このバ

リューチェーン拡大の効果、拡大に向けて検討す

べき論点を述べる。

2.バリューチェーン拡大のために検討すべき論点

(1)検討すべき論点と具体的検討事項

マレーシア拠点のバリューチェーンを拡大する

ためには、まず「バリューチェーン拡大の効果(実

施妥当性)」と「バリューチェーンを拡大できる

か(実現可能性)」という2点について検討する

必要がある(図表36)。実施妥当性の検討におい

ては、設計/開発やサービスといった製造以外の

機能をマレーシアに移転することによる効果、お

よび体制移行に伴う投資額を定量的に評価する。

また、各企業が固有に持つ制約条件・制約構造を

考慮しつつ、人材スキルや事業インフラ整備状況

図表35 競争力創出のための方向性

出所)アビーム コンサルティング

*21 本稿では、あくまで製造を中心とするマレーシア事業強化の観点から、売上(販売先の確保)に関する議論は行わない。ただ

し、販売拠点としてのマレーシアの可能性について、「中東をはじめとするイスラム圏へのGatewayである」と指摘する企業

があったことを紹介しておく。

2004年2月 第18号 97

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(例)�

販売�物流�調達� 製造�

H/I

B

F

C D

A

EG

現地サプライヤー�

K

顧客�

L

J 短縮化�

効率化�

1.

2.

3.

4.

5.

競争力創出の�ための5段階� バリューチェーンの拡大�

バリューチェーン�拡大の効果は?�

(実施妥当性の検討)�

バリューチェーン�を拡大できるか?�

(実現可能性の検討)�

マレーシアの�投資環境は十分か?�

自社の制約条件・�制約構造は�解消可能か?�

直接労働�コストの削減�

機能ごとの�部分コストの削減�

機能間に潜む�コストの削減�

キャッシュフロー�の改善�

付加価値の創出�

コスト低減�

コスト低減�

スピード強化�

基礎�技術開発�

開発設計� サービス�

. 設計の現地化によるコスト低減�

. 現地調達率の向上による材料コストの低減�. 物流/倉庫費用等の低減�. 量産化に係る設計⇔製造部門のコミュニケーションコストの削減�. 調達と製造の連携による業務重複の解消/フィードバック機能の強化�. サプライヤーとの協働による部品コスト削減�. 設計から量産化までのスピード短縮�. 製品トラブルへの早い対応�. リードタイム短縮による在庫の圧縮�

B�C��D�E��F��G��H�I�J

. 直接工による労働コストの低減�A

. マーケットニーズに俊敏に対応した新製品の早期投入による先行者メリット(高い利益率)の抄出�. 顧客との密接なコミュニケーションによる満足度向上�

K���L

バリューチェーン�拡大の検討�

バリューチェーン�拡大の効果は?�

(実施妥当性の検討)�

バリューチェーン拡大において検討すべき論点�

バリューチェーン�を拡大できるか?�

(実現可能性の検討)�

マレーシアの�投資環境は十分か?�

自社の制約条件・�制約構造は�解消可能か?�

具体的検討事項�

①部分コスト削減効果�②工程間に潜むコストの削減効果�③付加価値効果�

人材のスキルのレベル    �制度政策    �事業インフラの整備状況、他�

日本国内の雇用の確保�R&D機能移転に伴う技術移転のスキル不足(英語を含む)�知財保護権保護に関するノウハウ不足�

→コスト削減効果などの“定量的”評価�

→体制移行に伴う投資額の算出�

→投資環境の評価�

→制約条件の解消�

→制約構造の解決�R&D/製造/販売の各部門の連携の脆弱性�製造部門(事業部)直下の組織構造�現地法人の自立性の低さ�

などのマレーシアの投資環境を把握し、バリュー

チェーン拡大の実現可能性を検討する。

(2)バリューチェーン拡大による競争力の創出

まず「バリューチェーンの拡大」による競争力

の創出は、各工程のコスト削減効果、そして各工

程間のコスト削減効果によって生まれる(図表

37)。つまり日系企業は、整備されつつあるマ

レーシアの事業環境を活かす形で拠点機能を拡充

させ、効果的なバリューチェーンを確立すること

によって全体の生産性を向上させることが可能で

あると考える(図表37に挙げた2~5段階)。

(3)バリューチェーン拡大効果の算定

バリューチェーン拡大の意思決定においては、

その効果を感覚的に認識するのではなく、定量的

な簡易シミュレーションを実施してみるのが有効

である。その効果は、バリューチェーン拡大の5

つの段階に応じて、「2.機能ごとの部分コスト

の削減」「3.機能間に潜むコストの削減」「4.

キャッシュフローの改善」の3つのコスト削減効

果と、市場(または顧客)の求める製品を適切な

図表37 競争力創出のための5段階

出所)アビーム コンサルティング

図表36 バリューチェーン拡大において検討すべき論点

出所)アビーム コンサルティング

98 開発金融研究所報

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バリューチェーン拡大によるコスト削減効果�

直接労働�コストの削減�

機能ごとの部分�コストの削減�

機能間に潜む�コストの削減�

キャッシュフロー�の改善�

付加価値の創出�

1.

2.

3.

4.

5.

効果の分析事例�

・材料費�・物流費�・人件費�

現状�コスト� 体制移行に伴う�

コスト増�

・部門間のコミュニケーション時間�・重複業務の解消�

・リードタイム短縮� による在庫の圧縮�

?�

?�

バリューチェーン�拡大後のコスト�

→バリューチェーン拡大効果を、それぞれの� 領域で“定量的”に見積る必要がある�

2. 「機能ごとの部分コストの削減」効果の例�

3. 「機能間に潜むコストの削減」効果の例�

5. 「付加価値の創出」効果の例�

→マレーシアの人件費(エンジニア/管理職)は日本の35%~40%であり、周辺機能を日本からマレーシアに移転することにより大幅な人件費減が可能�

→製造業の部門間のコミュニケーションに要する時間は、年間間接労働量の13%に相当。マレーシアに設計等の機能を移管すれば本社⇔マレーシア間のコミュニケーションコストは大幅に減少(*)�

→開発~製造までの時間を削減し、市場投入までの時間を25%削減できれば、収益を6~8%向上可能(*)�

販売�物流�調達�開発・設計� サービス�

バリューチェーンの展開�

欧米系�

日系�

マレーシア拠点における事業の取り組み状況�

A社�(電子デバイス)�

D社�(AV機器)�

B社�(半導体)�

C社�(半導体)�

マレーシアは製造拠点と位置付け。設計・開発機能は日本、調達機能は現地化を進めているが、キーコンポーネントは日本から輸入。�

マレーシア拠点は製造機能としての役割のみを持つ。半導体のウエハーは日本から100%輸入し、その他の部材は、現地調達を進めている。今後も設計・開発機能を持たせることは考えていない。�

成熟期にある製品の開発・設計から製造までをマレーシアで行っており、世界市場への出荷機能も完備。近年、マレーシアに存在した複数の拠点を1つにまとめ、現地法人の自立経営を目指す。�

半導体後工程の最先端プラントとして、Time-To-Marketのスピード化のため基礎開発研究から販売まで一貫した事業展開を行う。マレーシア拠点は、中国、フィリピン、コスタリカにある製造拠点を統括。�

マレーシア拠点が設計・開発~製造・品質管理・販売までの全ての機能を有し、アジア地域におけるBTO(受注生産)の中核を成す。ベナンにはアジア・パシフィック地域をカバーするコールセンターも有する。�マレーシアのペナン島にラジオ機器及びデータ通信システムの生産を軸とした基礎研究から開発設計、調達、物流、販売、アフターサービスまでのバリューチェーンを構築�

90年代よりマレーシア拠点で開発、設計業務を始め、近年では米国の開発研究所と対等な立場で当該業務を実施。電子測定機器事業については西日本の工場の生産ラインをマレーシア拠点に集約予定。�

ある部品以外のほぼ全ての部品を現地調達しており、現在、設計・開発機能の強化を図ろうとしている。クレーム対応スピードを短縮させるため、現地にて24時間カスタマーサービスを実施できる体制を構築中。�

E社�(半導体)�

F社�(電子デバイス)�

G社�(PC・サーバ機器)�

H社�(情報通信機器)�

製造中心の事業展開�

バリューチェーンを左右に拡大�

成熟製品“X”は設計から全世界への出荷をマレーシア拠点で実施�

基礎�技術開発�

製造�(生産・テスト)�

24時間のサービス体制を構築�

後工程の世界先端の技術開発�

開発・設計は米国と対等な立場�

アジア・パシフィック地域をカバーするコールセンター

…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………

時期に投入することによる利益率の向上や、顧客

満足度の向上などの「5.付加価値の創出」に

表れることになる。こうした効果のそれぞれにつ

いて、具体的/定量的/客観的な分析を行う必要

がある*22。

各効果について具体的にみると(図表38)、例

えば「2.機能ごとの部分コストの削減」につ

いては、R&Dや現地法人の経営を行うエンジニ

アや管理職クラスの人件費が日本の35%~40%

であることから、設計や研究部門の移管やマネジ

図表38 バリューチェーン拡大によるコスト削減効果

* アビーム コンサルティング分析

*22 また、効果算定時には体制移行に伴うコスト増要因に関しても考慮する必要がある。

図表39 日系/欧米系の事例研究

出所)インタビュー、各種資料、アンケート調査よりアビーム コンサルティング作成

2004年2月 第18号 99

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OHQ

販売�

開発・設計�

サービス�

進出形態�

バリューチェーン�

拡大の効果は?�

(実施妥当性の検討)�

バリューチェーン�

を拡大できるか?�

(実現可能性の検討)�

マレーシアの�

投資環境は十分か?�

自社の制約条件・�

制約構造は�

解消可能か?�

●影響の大きい投資環境要素�

・その他の投資環境要素�

投資判断�

要素分類�

国家�

状況�

制度�

政策�

人的�

資源�

事業�

環境�

生活�

文化�

基礎�

技術開発�

調達�

(IPC)�

製造�

(生産~テスト)�

物流�

(RDC)�

・本国や各アジア

拠点からの距離�

●製品市場からの

距離�

●OHQ(地域統括

拠点)設置奨励

政策�

・各種税制(法人

税・所得税・奢

侈税)�

・外資出資比率�

●輸入関税�

●国産化規制�

・IPC(国際調達

センター)設置

奨励政策�

・政府による製品

購入�

・独占禁止法�

・VAT

●輸出入手続きの

迅速性�

・移転価格税制�

・地域流通拠点

(RDC)奨励政

策�

・外国人生活環境

(学校・病院な

ど)�

・主要国との交通

利便性�

●コピー・模倣等

に対する意識�・暗黙のローカル

コンテント要求�・宗教民族意識の

強さ�

・欠勤に対する意

識�

●資金調達コスト�

●金融システムの

安定性�

・研究開発施設の

立地可能性�

●電気・水道整備

状況�

●裾野産業の充実

度�

・外注先パートナー�

・地価・施設費用�

・河川等の整備状況�

●輸送インフラの

充実度�

●物流業者の質と

コスト�

●通信インフラの

整備度�

●競合環境�

●市場規模・成長性�

●売上代金の決済

慣行�

●販促に係わる費

用�

●オフィス事情�

●大学、研究施設

の充実度・集積�

●通信インフラの

整備度�

●第三国からの調

達可能性�

●有望な外注先�

●産業の集積度�

●部品調達状況�

●仕入代金の決済

慣行�

●専門家(会計士・

弁護士等)�

●経営管理人材の

質�

●英語能力�

・在庫管理スキル

を持った人材�

●設計開発人材の

質�

●設計開発人材の

労賃�

●高度な専門知識

を有する研究者

の集積度�

●知的財産保護法制の整備度�

・研究開発に対する税制上の優遇措置�

・ロイヤリティ課税�

●政治的安定�

●為替・インフレ等�

●戦争・紛争の勃発�

●自然災害の頻度�

●雇用規則�

・国産化規制�

・環境規制�

・移転価格税制�

・環境税�

・各種投資優遇策�

・行政の介入�

●GDP成長率�

●国民所得水準�

●消費者保護規制�

●賃金(直接労務者)�

●組立て人材の質�

●優秀な税理士�

●ストライキ(労働争議)の慣行�

●輸送インフラの充実度�

●セールス、マーケティング、顧客�

 サポート人材確保の可能性�

・外資の製品に対する意識�

・広告に対する意識�

・約束の履行可能性�

・外資への恣意的課税・追徴の習慣�

・模倣品に対する意識の高さ�

図表40

各機能において重視すべき投資環境要素

注)すべての機能に影響する投資環境要素は一部省略している

出所)アビームコンサルティング

100 開発金融研究所報

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販売�物流�調達�開発・設計� 製造� サービス�OHQバリューチェーン�拡大の効果は?�

(実施妥当性の検討)�

バリューチェーン�を拡大できるか?�

(実現可能性の検討)�

マレーシアの�投資環境は十分か?�

自社の制約条件・�制約構造は�解消可能か?�

◆シンガポールに比較して、安価で英語を話せる事務職の確保が可能�

◆エンジニア/研究者の確保や知的財産権法制に対する整備状況はASEAN/中国の中で最も高い評価を得ている�

◆国家プロジェクトとしてマルチメディア・スーパー・コリドー計画を実施中。通信インフラも整備されつつある�

◆ポートクランやペナン港では、物理的なインフラ整備に加え電子データ交換システム(EDI)が整備されているため、書類の電送が可能になり、通関手続きの迅速化が図られている�

◆マレーシアは5つの国際空港を持ちクアラルンプール国際空港ペナン国際空港を始めとする全ての空港において国際航空貨物を扱う事が可能である�

◆ローカルサプライヤーの質・量ともグローバルで高いクラスにランキングされる。(世界19位)�

◆空港/港の整備度は全世界の中でも15位にランクされる�

◆マレーシアは英語、中国語マレー語を話し、マレー、中国、インドといった複数文化を背景に持つ多民族国家であるため、東アジア域内諸国を始め、世界の様々な商圏にアクセス可能�

◆一人あたりGDPはUS$3,000を超えており、NIESを除く域内諸国においては最高レベルの経済力(消費能力)を持つ�

基礎�技術研究�

…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………

メントの現地化によって大幅なコスト削減が可能

である。

また「3.機能間に潜むコストの削減」につ

いてみると、製造業の部門間のコミュニケーショ

ンに要する時間が、年間間接労働量の13%に相

当するという調査結果*23から、マレーシアに設

計等の機能を移管すれば、本社―マレーシア間の

コミュニケーションコストは大幅に減少すること

が期待できる。

最後に「5.付加価値」効果についてみると、

開発~製造までの時間を削減し、市場投入までの

時間を25%削減できれば、収益を6~8%向上

可能であるとの試算*24があり、この点からもバ

リューチェーン拡大によるリードタイム短縮につ

いて、定量的に示唆できよう。

(4)マレーシアの現状把握

また、バリューチェーンを拡大するためには、

展開する機能の範囲においてそれぞれ必要とされ

る投資環境要件が整っているかを把握・分析する

作業が不可欠である。バリューチェーンの形態と

投資環境要素の関係についてのフレームワーク

を、以下の通り整理した(図表40)。

このフレームワークに基づき、特にマレーシア

の投資環境を見ると、製造機能のみでなく、販

売・サービスや開発設計などの機能に対応しうる

投資環境が整備されつつあると考えられる。特に

マレーシア以外への販売活動において重要な要素

となる、多民族性・多言語対応能力や設計・開発

機能に必要なエンジニア人材、事業インフラ、知

的財産権の法制度については、欧米系を中心に高

い評価を与える企業が多い。このように、バ

リューチェーンの拡大とともに、チェックすべき

投資環境要素も増えることがわかる(図表41)。

4.バリューチェーン拡大を阻害する自社の制約

いっぽうで、バリューチェーン拡大において

は、自社の制約条件も検討しなければならない。

日系企業のバリューチェーン拡大の障壁となって

いる主な制約条件として、�日本国内の雇用の問

題、�R&D機能移転に伴う技術移転スキル不

足、�知的財産保護のノウハウ不足が挙げられる

(図表42)。

まず�については、派遣技術者を国内で養成す

るなど、海外移転が可能な技術分野に関して、日

本人技術者の変動費化を推進することで解決でき

ないだろうか。また、�については、エンジニア

の英語教育を充実させ、海外技術者との円滑なコ

ミュニケーションを促進するなどの対策が考えら

れる。最後に�については、本社レベルの一括管

*23 アビーム コンサルティングによる分析結果

*24 アビーム コンサルティングによる分析結果

図表41 バリューチェーン拡大の観点から見たマレーシアの状況

出所)インタビュー、各種資料「World Economic forum等」よりアビーム コンサルティング作成

2004年2月 第18号 101

Page 26: マレーシアにおける日系 欧米系電機・ 電子メー …...の上で、日系企業の投資環境評価の特徴について、欧米系企業との比較を通じて実証した。比較にあたっては、初期条件の違いを極力抑えるためにマレーシアという共通の投資環境を題材と

バリューチェーン�拡大の効果は?�

(実施妥当性の検討)�

バリューチェーン�を拡大できるか?�

(実現可能性の検討)�

マレーシアの�投資環境は十分か?�

自社の制約条件・�制約構造は�解消可能か?�

バリューチェーン�の拡大を阻害する�制約�

インタビューに�おけるコメント� 今後の課題�

日本国内の雇用�の確保�

R&D機能移転に�伴う技術移転の�スキル不足�

知的財産権保護�に関するノウハ�ウ不足�

設計・開発機能を海外に移転できないのは、日本国内の雇用の問題もあるだろう。(大手電子メーカー)�

技術的に、海外でも可能であるが日本の技術者の職がなくなってしまう。(大手家電メーカー)�

現地法人の設計・開発機能が育成されないのは、日本人が英語が苦手だから。(大手総合電機メーカー)�

結局、英語でコミュニケーションをとって設計を行うよりも、自分たちでやったほうが早いということになりがちである。(大手部品メーカー)�

海外生産でコスト競争力はついたが、中核要員として育てた海外技術者が技術ごとライバル企業に簡単に流出してしまう。(業界関係者)�

1. 知的財産保護戦略本部を設置し、本社レベルの一括管理だけでなく、現場レベルまで知的財産権保護に対するノウハウを浸透させる�

�2. 優秀な現地弁理士/弁護士との協働体制を確立する�

1. 海外移転が可能な技術分野に関しては、日本人技術者の変動費化を推進する�

 (派遣エンジニアの活用)�

1. 文書化/フォーマット化を進めナレッジマネジメント体制を強化する�

�2. エンジニアの英語教育を充実させ、海外技術者との円滑なコミュニケーションを促進する�

�3. 逆に、マレーシアのエンジニアを日本に派遣し、語学および技術の移転を図っていく�

…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………

理だけでなく、現場レベルまで知的財産権保護に

対するノウハウを浸透させることが重要であると

考えられる。このような課題を解決することで、

バリューチェーン拡大のための制約を少なくする

ことができるのではないかと考えられる。

5.コーポレートが主導権をとる

また日系企業の多くは、コーポレート*25、本

社部門、現地法人といった組織上の各階層におい

て、バリューチェーン拡大に対して様々な問題を

抱えている。日系企業がマレーシア拠点を持続的

に成長・発展させていく為には、各階層におい

て、図表に挙げるような障壁を取り除いてゆくこ

とが必要であろう(図表43)。

6.現地法人の自立的組織への転換

こうした日系企業の構造的問題を解決するため

には、コーポレートが全体最適の視座に立ち、海

外拠点をコントロールすると同時に、現地法人

が、自らバリューチェーンを拡張させるようなし

くみが必要となる。そのためには、マレーシア拠

点をコーポレート直轄の自立的経営組織とすると

共に、業績評価指標をQCDや製造原価から

キャッシュフローや利益指標に変え、開発・拡張

投資などの権限を現地に委譲していくことが求め

られるのではないだろうか(図表44)。

まとめ ―日系企業への提言―

1970~80年代の同時期に、同じ目的を持って

マレーシアに進出した日系/欧米系企業であるが、

今日の両拠点の位置付けは異なる様相を呈してい

る。日系企業の多くは、低廉な労働コストを活用

した製造拠点としての位置付けを進出当初から変

えていないが、欧米系の中には、積極的に事業領

域を広げている企業も多い。

その背景には、日系企業の現状路線踏襲型の硬

直的な組織構造があると思われる。例えば、3~

5年の期間限定の出向者を中心とした現地法人マ

ネジメントでは、現地の状況変化に合わせて、機

敏にオペレーション体制を変え、積極的に拠点経

営を発展させることは難しい。また、現地法人自

体が、本社スタッフよりも製造部門との密接な関

係を持つため、開発/設計機能の拡充やアジアへ

図表42 日系企業におけるバリューチェーン拡大上の制約条件

出所)各種資料、インタビューよりアビーム コンサルティング作成

*25 コーポレート:本社の管理統括機能全体を指す。

102 開発金融研究所報

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本社部門�

現地法人�

製造� 販売�

現地法人�

バリューチェーン拡大の障壁となる現象�

製造�

� �

出向日本人�

業績管理�

バリューチェーン�拡大の効果は?�

(実施妥当性の検討)�

バリューチェーン�を拡大できるか?�

(実現可能性の検討)�

マレーシアの�投資環境は十分か?�

自社の制約条件・�制約構造は�解消可能か?�

日系企業の一般的な組織構造�

コーポレート*

研究�開発�

ローカルスタッフ�

コーポ�レート* → マレーシア拠点を製造事業部下の“一工場”と認

識し、鳥瞰的視座から全体最適を追求することが少ない�

→ 主要ポジションが日本人で固められているためローカルのマネジメントが育たず、更に、現地人は出世できないため優秀な人材が欧米系企業に流出�

→ 投資の意思決定も、投資後のコントロールも製造部門が主体で、製造以外の機能を持たせる意識が働かない�

→ 現地法人の業績評価指標は製造原価、QCD、本社で決められた仕切値に基づく擬似的な利益指標で、トータルコストの視点は根づかない�

→ マネジメントは3~5年の期間限定の出向者が多く、現状維持の姿勢が踏襲されがち�

→ R&D/製造/販売の各部門の連携が弱い�

(実施妥当性の検討)�

製造� 販売�

現地法人� 現地法人�

拠点の位置付け�

バリューチェーン�拡大の効果は?�

バリューチェーン�を拡大できるか?�

(実現可能性の検討)�

マレーシアの�投資環境は十分か?�

自社の�制約は解消可能か?�

日系企業に多く見られる組織体系� 自立的経営組織への転換(例)�

経営陣の立場�

業績評価指標�

オペレーションコントロール�

人事制度�

主な関心領域�

投資権限�

製造事業部下の低コスト�製造工場�

期間限定の出向社員�

QCD/製造原価�

日本人中心�

「結果の平等」を確保�

日本本社の内部事情�

メンテナンス投資中心�

コーポレート直下の�自立的経営組織�

成果を求められる経営者�

キャッシュフロー/利益指標�

権限委譲されたローカルスタッフ�

成果主義人事�

マレーシア/アジアの市場環境�

開発・拡張投資�

コーポ�レート�

研究�開発�

製造� 販売�

コーポ�レート�

研究�開発�

QCD/製造原価�

日本人中心のマ�ネージメント�

キャッシュフ�ロー利益指標�

現地のローカルスタッフ�中心のマネジメント�

の販売拡大が自発的に起こりにくい構造になって

いる。その業績評価もQCDや製造コストを中心

に行われていれば、拠点事業の発展よりも製造部

門独自の部分最適追求が優先される。また販売部

門は、独自に販社との密接な関係を持ち、結果と

して、一企業グループの中でマレーシア一国で製

造会社/販社をあわせて10数社もの組織が設立さ

れるという状況も珍しくない*26。

しかし、現在、このようなオペレーションは限

界に達しつつある。拠点をとりまく外部環境、つ

まり投資先国自身のポジショニングが刻々と変

化/発展を遂げており、企業に対して変化に合わ

せた構造変化を迫っているからである*27。

土壌が変わればそれに合わせたアプローチが必

要となるのは言うまでもない。マレーシアにおい

ても労働コストのみをキードライバーとした展開

図表44 自立的経営への転換(例)

出所)アビーム コンサルティング作成

図表43 日系企業の一般的な組織構造

出所)各社インタビュー、各種資料よりアビーム コンサルティング作成

2004年2月 第18号 103

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…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………

が限界に達する日は遠くないだろう。近い将来、

ベトナムに生産拠点としての優位性を奪われる可

能性や、急速に発展する中国に資本集約的分野で

後塵を拝する可能性は否定できない。また、中国

の投資環境についても、日系企業の評価手法との

ミスマッチを起こす日がくるかもしれない。今、

日系企業に求められるのは、まずアジア各国の状

況変化を機敏に捉える目(投資環境を評価する目)

を養うことであることは明白である。

こうした状況下、本稿では投資環境としての

様々な要素を、財務的視点、バリューチェーンの

視点、の二種類のフレームワークによって整理し

た。この整理が、海外拠点を製造手段としての位

置付けから開放し、拠点自体の発展を促すような

体制を構築しなければならないわが国企業にとっ

て、視野を広げるための海図となることを期待す

る。

補足:今次調査における限界と課題

1.電機・電子産業に係わる事業形態の多様性

マレーシアに進出している日系・欧米系の電

機・電子メーカーは、現地オペレーションの規模

が、数十人程度の部品メーカーから数千人規模の

グローバル多国籍企業まで多岐にわたり、また事

業内容も、部品、家電、IT、半導体製品と幅広

い展開を見せている。事業の規模と分野の違い

(事業特性)は、必然的に投資戦略に大きな影響

を与える。日系企業と欧米系企業という視点か

ら、両者の投資行動の差異を普遍的に分析するに

あたり、両者の事業特性の差異による影響を排除

し切れていない面がある。

2.欧米系電機・電子製造業のアジア投資戦略

欧米系の企業は、全般的に日系のメーカーに比

べて、企業戦略の要である投資戦略に関する情報

の公開に消極的であり、その情報の質/量ともに

日系に比べて限られたものとなった。また、地理

的な制約等から、今回の調査では欧米系企業の本

社企画部門へのインタビューは見送っている(日

系企業については実施)。本来、海外直接投資の

意思決定について実質的な判断を行っている欧米

本社へのインタービューが有効と考えられるが、

欧米系企業については、現地インタビュー、調査

アンケート、及び二次情報に基づいて分析を行う

に留まっている。

3.バリューチェーンにおけるコスト構造分析

日系、欧米企業を問わず、製品毎のコスト構造

は基本的に企業秘密であり、また、製品特性、出

荷先市場、研究開発のタイミング等により、その

構造は大きく異なる為、厳密なコスト構造のモデ

ルを洗い出すことは困難であった。そのため、バ

リューチェーンの構成要素に係わるコスト構造分

析と、バリューチェーンの拡大によるコストの削

減効果の定量的な把握については見送っている。

4.守秘義務契約による情報開示の制約

日系・欧米系の各企業へのインタビュー行うに

あたっては、守秘義務契約を取り交わしている

為、インタビュー先企業が各種媒体にて一般に公

表していない情報に関しては、個別企業名や、個

別企業名が特定できる事例についての開示が制限

された。

*26 以上のような海外拠点経営の構造的な問題は、日系企業と欧米系企業における株主(所有者)と経営者の関係の違いに、その

原因の一つがあると考える。欧米系企業では、株主に対して最大のリターンを提供すべく、おのずとトップダウンの素早い意

思決定が求められている。海外直接投資は、当然、トップの直轄に置かれる。トップは鳥瞰的視座から海外投資の意思決定を

行い、投資後も海外事業価値を高めるために持続的に事業領域を広げることになる。価値なしと見るや撤退の意思決定も早

く、実際、マレーシアの欧米系企業の過去20年間の事業継続率は、約50%(日本貿易振興機構提供資料による)とあまりに

低い水準にある。

これに対し、これまでの日系企業は、株主に対する短期的な利益還元よりも長期的な成長が重視され、おのずと事業の基本

方針は、事業の収益性よりも事業の継続そのものに重きを置かれてきた。継続を重視する土壌では、組織の間にも徐々に現状

維持を踏襲する企業文化が培われ、意思決定は現場からのボトムアップ、特に海外投資判断は製造部門中心で検討されること

もあって、拠点の位置付けについて企業価値全体を見据えたラディカルな変化が起こりにくい構造があったといえよう。

*27「外の世界について、真に知るべきは、その傾向でなく変化である」 P・F・ドラッカー

104 開発金融研究所報

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