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アインシュタイン方程式岡田 和樹
概 要一般相対性理論の数学的に正確な方程式を与え、重力が弱い場合につ
いて考察する。
1 相対論以前の物理における空間幾何相対論以前の物理では空間は R3 の多様体構造をとるものとし、空間の要素はデカルト座標 (x1, x2, x3)で表現する。ここでデカルト座標系は回転と並進を考えれば6自由度の取り方を考えることが出来、座標はその取り方に依るために本質的な意味を持たない。しかし、2点 xとx間の距離の2乗
D2 = (x1 − x1)2 + (x2 − x2)2 + (x3 − x3)2 (1)
は座標の取り方に依らないので本質的な意味を持つ。この距離から空間の計量 hab を導くことができる。まず近傍にある2点間の距離を考えると、
(δD)2 = (δx1)2 + (δx2)2 + (δx3)2 (2)
となるので、計量は
ds2 = (dx1)2 + (dx2)2 + (dx3)2 (3)
となる。これはまた添字を用いて、
hab =∑µ,ν
(dxµ)a(dxν)b (4)
ただし、hµν = diag(1, 1, 1)
と表すことができる。ここで hab はデカルト座標系の取り方に依らずその要素は定数であるので、
∂ahab = 0 (5)
となる。この (5)から分かることを考えよう。クリストッフェル記号は
Γρµν =
12
∑σ
gρσ(∂µgνσ + ∂νgµσ − ∂σgµν) (6)
なので、Γabc = 0が言え、共変微分が偏微分に置き換わることが分かる。曲
率は∇a∇bωc −∇b∇aωc = Rabc
dωd (7)
1
なので 0となる。よって hab は平坦な計量であるということが分かる。また慣性系の測地線の方程式は
d2xµ
dt2= 0 (8)
となり慣性系の測地線が直線になっている。また2点間を結ぶ測地線の長さは
l =∫
(gabTaT b)
12 dt (9)
で与えられ、これが (1)に相当することが分かる。以上から空間はR3の多様体とそれ上で定義される平坦なリーマン計量で表現されるといえる。
2 特殊相対性理論前節と同様の方針で特殊相対性理論を議論していく。特殊相対性理論では時空は R4の多様体構造をとり、空間の要素はデカルト座標 (x1, x2, x3)とそこでの時間 (t = x0)1で表現される。ここで座標系の選択はポワンカレ群の要素に対応して10自由度を持ち、座標は本質的な意味を持たない。しかし
I = −(x0 − x0)2 + (x1 − x1)2 + (x2 − x2)2 + (x3 − x3)2 (10)
は座標系の取り方に依らないので、本質的な意味をもつ。前節と同様にして(10)から計量 ηab を得ることが出来、
ηab =3∑
µ,ν=0
ηµν(dxµ)a(dxν)b (11)
ただし、ηµν = diag(−1, 1, 1, 1)
となる。また∂aηbc = 0 (12)
も言えるので、ηabに曲率がなく、慣性系の測地線の方程式は直線になる。即ち、特殊相対性理論はR4の多様体と、それ上で定義される平坦な Lorentz計量で表現される。ここで特殊相対性理論における物理量の取り扱いを考える。相対論以前の物理では、空間テンソルによって物理量を表現していた。同様に特殊相対性理論では、時空テンソルによって物理量を表現することができる。これは1つの修正点を考慮すれば実験的に確かめられることである。その修正点というのは、時空の構造には時間の指向と空間の指向が現れるということである。ここで時間の指向とは、時間軸の向きを“将来”と“過去”のどちらかに選択しているということであり、空間の指向とは座標系を“左手系”と“右手系”のどちらかに指定しているということである。即ちそれは、物理法則は
1光速 c = 1 とする。
2
並進・回転・ブースト変換の下では不変性を示すが、時間反転・パリティ・もしくはその合成の下では不変性を示さないということに相当する。次に時間や4元ベクトルの性質を見ていく。特殊相対性理論において素粒子は光の速度を超えて運動することが出来ないため、素粒子の経路曲線は常に時間的(即ち ηabT
aT b < 0)となる。よって時間的な曲線は、固有時間
τ =∫
(−ηabTaT b)
12 dt (13)
(tは任意のパラメタ、T aは曲線の接ベクトル)
をパラメタとして表せる。ここで τ は曲線に沿った系の経過時間に相当する。4元速度 ua はこの曲線の接ベクトルであり
uaua = −1 (14)
を満たす。また外力がない時は測地線に沿った運動をする為、
ua∂aub = 0 (15)
を満たす。エネルギー・運動量4元ベクトル paは物体の静止質量をmとして
pa = mua (16)
と表される。エネルギーの定義は観測者の4元速度を va(= (1, 0, 0, 0))とすると
E = −pava (17)
であるので、E = p0 となり pa の第 0成分がエネルギーに相当する。今観測者が物体の静止系なら、E = −pava = −mvava = mとなり cを用いる単位系に戻すと、よく知られた E = mc2 が導かれる。次に応力・エネルギーテンソル Tab について考える。エネルギー密度は観
測者の4元速度を va とすると Tabvavb で与えられ、一般に
Tabvavb ≥ 0 (18)
となる。またxa⊥vaを満たすxaを考えると、xa方向の運動量密度は−Tabvaxb
で表される。更に ya⊥va を満たす ya を考えると、Tabxayb は応力テンソル
の xa, ya成分を表す。(yaに垂直な面を通る xa方向の運動量の流れ) と表される。以上から Tab は応力テンソル・運動量密度・エネルギー密度を表すテンソルであり、“応力・エネルギー・運動量テンソル”また単に“応力・エネルギーテンソル”,“応力テンソル”と呼ばれる。次に完全流体を考える。完全流体の応力テンソルは
Tab = ρuaub + P (ηab + uaub) (19)
3
で与えられる。ここで ρは流体の静止系における質量密度、P は流体の圧力である。外力がない時、運動方程式は
∂aTab = 0 (20)
であるので、(12)と (19)から
∂aTab = (∂aρ)uaub + ρ(∂aua)ub + ρua(∂aub)
+ (∂aP )(ηab + uaub) + P (∂aua)ub + Pua(∂aub) = 0
となる。この式について ub に関して平行な部分と垂直な部分を考えると、
平行な部分 : ua∂aρ + (ρ + P )∂aua = 0 (21)
垂直な部分 : (P + ρ)ua∂aub + (ηab + uaub)∂aP = 0 (22)
が得られる。この式の古典極限 (P ¿ ρ, uµ = (1, ~v), v ∂P∂t ¿ |∇P |)を考える。
(21)は
ua∂aρ → ∂ρ
∂t(∇ρ = 0より)
(P + ρ)︸ ︷︷ ︸≈ρ
ua∂aub → ρ∇ · ~v = ∇ · (ρ~v) (∂u0
∂t= 0より)
から∂ρ
∂t+ ∇ · (ρ~v) = 0 (23)
となり質量保存の法則に相当する。また (22)は
(P + ρ)︸ ︷︷ ︸≈ρ
ua∂aub →
(0
ρ( ∂∂t + ~v · ∇)~v
)
ηab∂aP →
(∂P∂t
∇P
)
ubua∂aP → (
∂P
∂t+ (~v · ∇)P︸ ︷︷ ︸
=0
)
(−1~v
)=
(−∂P
∂t
~v · ∂P∂t
)
よりρ∂~v
∂t+ (~v · ∇)~v = −(∇P + ~v · ∂P
∂t) ≈ −∇P (24)
となってオイラー方程式に相当している。ここで4元速度 vaを持つ慣性系を考える。今、エネルギーの流れの密度は
Ja = −Tabvb (25)
であり、(20)より∂aJa = 0 (26)
4
が言える。これを時空で積分し4次元におけるガウスの法則を適用すれば、∫V
∂aJadV = 0 →∫
S
JanadS = 0 (27)
と書き直すことができる。ここで V は時空領域の4次元体積、Sは時空領域の3次元境界面をそれぞれ表す。timespace図1図1を用いてこの式の意味を吟味する。円筒の上面と下面からの積分への寄与は物体の質量エネルギーの時間変化に相当し、側面からの寄与は物体の質量エネルギーの空間的な流量を時間積分したものに相当する。したがって (27)は質量エネルギーの保存則を表す。今完全流体を考え質量エネルギー保存則を見たが、質量エネルギーの保存則は完全流体だけでなく慣性系におけるあらゆる物体で成り立つはずである。よって順序を逆にたどれば、(20)は完全流体だけでなく慣性系におけるあらゆる物体が満たすはずである。
(20)を満たすことものの例として、スカラー場と電磁場について考えよう。まずスカラー場はクライン・ゴルドン方程式
∂a∂aφ − m2φ = 0 (28)
を満たし、応力・エネルギーテンソルは
Tab = ∂aφ∂bφ − 12ηab(∂cφ∂cφ + m2φ) (29)
で与えられる。この時、(18)式は
Tabvavb =
12(∂φ
∂t)2 + (∇φ)2 + m2φ2 ≥ 0
より満たされており、(20)は
∂aTab = (∂a∂aφ)∂bφ︸ ︷︷ ︸=m2∂bφ
+(∂aφ)∂a∂bφ
− 12ηab(∂a∂cφ)∂cφ + ηab(∂cφ)∂a∂cφ + 2ηabm
2φ∂aφ = 0 (30)
5
より満たされている。次に電磁場を考える。電磁場は応力エネルギーテンソルが完全反対称テンソル Fabによって与えられるので、まず Fabを少し見ていく。静止系の4元速度を va と書くと、Fab と電場 Ea・磁場 Ba の関係は
Ea = Fabvb (31)
Ba = −12εab
cdFcdvb (32)
εabcd =
1 ((abcd)が (0123)の偶置換)−1 ((abcd)が (0123)の奇置換)
となる。ここでマクスウェル方程式は
∂aFab = −4πjb (33)
∂[aFbc] = 0 (34)
と書け、Fab の完全反対称性から
0 = ∂b∂aFab = −4π∂bjb (35)
も言える。この式は電荷の保存を表す。更に電荷 q,質量 mの粒子の運動方程式は
ua∂aub =q
mF b
cuc (36)
と書ける。なお応力エネルギーテンソルは Fab を用いて
Tab =14π
FacFbc − 1
4ηabFdeF
de (37)
で与えられる。以上のことを用いて電磁場が (18)と (20)を満たすことを確認しよう。まず (18)は
Tabvavb =
14π
32| ~E|2 +
12| ~B|2 ≥ 0
より満たされている。次に (20)は ja = 0とすると
∂aTab =14π
(∂aFac)︸ ︷︷ ︸=−4πjc=0
Fbc + Fac∂
aFbc − 1
2ηab(∂aF de)Fde = 0
となり、成立している。電磁場の場合についてもう少し考察をすすめる。電磁場はベクトルポテン
シャル Aa によってFab = ∂aAb − ∂bAa (38)
と表される。(33)にこれを代入すると
∂a(∂aAb − ∂bAa) = −4πjb (39)
6
となり、Fab はゲージ変換 Aa → Aa − ∂aχのもとで不変である。ここで
∂a∂aχ = −∂bAb (40)
を満たすような χをとると、ゲージ変換された Aa は Lorentz条件
∂bAb = 0 (41)
を満たす。この時 (39)は
∂a∂aAb = −4πjb (42)
となる。ja = 0の場合、この式の解が定振幅の波
Aa = Caexp(iS) (43)
(Ca :定ベクトル、S ∈ R :波の位相)
によって与えられることを見てみよう。(43)を (42)に代入すると
∂a∂aAb = Cb(i∂a∂aS − ∂aS∂aS)exp(iS) = 0
となることより
∂a∂aS = 0 (虚部) (44)
∂aS∂aS = 0 (実部) (45)
が言える。また、(41)からCa∂aS = 0 (46)
も言える。今 S一定の表面を考えると、その表面の法線ベクトルは ka = ∂aS
で与えられる。(45)より kaは零ベクトルである。さらに (45)を微分すれば
0 = ∂b(∂aS∂aS) = 2ka∂akb (47)
を得て、kaの積分曲線が測地線になることが分かる。ここで波の振動数 ωは
ω = −va∂aS = −vaka (48)
と与えられる。解 (43)の重要な例が kµ を定数ベクトルとする平面波解
S =3∑
µ=0
kµxµ (49)
である。
7
3 一般相対性理論マクスウェル方程式が特殊相対性理論の枠組みを使って定式化できることをみてきた。次に重力について考えてみる。クーロンの法則を拡張してマクスウェル方程式を得たようには、ニュートンの重力方程式を拡張して、特殊相対性理論にかなうものにする道をアインシュタインはたどらなかった。重力理論の構築にあたり指針にしたのは等価原理とマッハの理論である。ここで等価原理と重力の新しい観点との関連をみるために、特殊相対論において電磁場をどう測定したかを見直そう。まず電磁場に支配されない観測者、即ち測地線の方程式 (15)を満たす観測者を考える。次に電荷や磁荷をもった物体を放つ。するとこの物体の世界線は (36)を満たすので、最初の電磁場がない時との差を測定することで Fabを決定できる。これが特殊相対性理論における電磁場の測定法であった。同様のことを重力においても考えてみよう。しかし重力の場合は、等価原
理から重力の影響を受けない物体や観測者をそもそも考えることが出来ない。それ故、全ての観測者は同じ方法で運動を行うために比較が行えず、直接的に重力場を測定することはできないのである。特殊相対性理論が正しいとするなら、慣性系を選択することで重力の影響を受けない観測者を設定できるだろう。しかしこれでは等価原理は重力法則の特殊な場合のみの言い逃れとなってしまい、これはニュートンの理論を考えることと同じである。一般相対性理論の枠組みはむしろ逆の可能性、つまり原理的には特殊相対性理論における慣性系を決定できないというところから生じる。一般相対性理論は「時空の計量は平坦でなく、重力場中で自由落下する物体の世界線は単に曲がった計量の測地線である。」という前提によって完成されるのである。それは結果として重力を力の場として記述する良い方法がなく、重力を時空構造の側面としてとらえなければならないということになる。よって全体にかかる重力は時空構造に内包されるため意味がない。しかし2つの物体が互いに及ぼしあう重力等の相対的な重力は一般相対性理論においても意味をもち、測定できる。以上から言えることは一般相対性理論は、計量 gabをもつ時空多様体M で定式化され、アインシュタイン方程式によって時空の幾何が物質の分布に関係づけられるということである。アインシュタイン方程式を議論する前に議論したいのは、一般相対論における物理法則の特徴である。一般相対性理論は2つの原理によっている。1つは一般共変性でもうひとつは gab が平坦であると方程式は特殊相対性理論のそれに帰着するということである。よって特殊相対性理論を参考に一般相対性理論を議論できるので、最小限の置き換えとして ηab → gab, ∂a → ∇a を考えることができる。4元速度を再び ua とすれば、自由粒子の運動は
ua∇aub = 0 (50)
8
を満たし、電磁場のもとでは
ua∇aub =q
mF b
cuc (51)
を満たす。また4元運動量 pa とエネルギー E に関して
pa = mua (52)
E = −pava (va :観測者による4元速度) (53)
なども言える。しかし時空が曲がっているために、異なる点においてベクトルが平行であることを定義するのに適した表記法がなく、観測者から離れた粒子のエネルギーは定義できない。完全流体の応力テンソル Tab は
Tab = ρuaub + P (gab + uaub) (54)
であり運動方程式は∇aTab = 0 (55)
である。(54)と (55)から
∇aTab = (∇aρ)uaub + ρ(∇aua)ub + ρua(∇aub)
+ (∇aP )(gab + uaub) + P (∇aua)ub + Pua(∇aub) = 0
となるので、この式について ub に平行な部分と垂直な部分を考えると、
平行な部分 : ua∇aρ + (ρ + P )∇aua = 0 (56)
垂直な部分 : (P + ρ)ua∇aub + (gab + uaub)∇aP = 0 (57)
となる。しかし (55)は特殊相対性理論の時と同じ意味を表さない。観測者の集合は timelikeな単位ベクトル場 va によって表現される。このベクトルが不変である、つまり∇avb = 0や∇(avb) = 0を満たすなら vbによって測定される Ja = −Tabv
b は曲がった時空におけるガウスの法則を適応することで、(55)から特殊相対性理論のときと同じく厳密にエネルギーの保存則を意味する。しかし曲がった時空においては一般的に∇avb = 0や∇(avb) = 0を満たさない。そのため (55)は厳密なエネルギー保存則を表さない。これは重力場が流体に力を及ぼすために局所的にエネルギーは増減するからである。しかし曲率半径に対し十分小さな時空領域 (即ち∇bv
a ≈ 0となる領域)では重力が及ぼす影響が十分小さく、(55)はほぼエネルギー保存則に相当していると言える。このことは特殊相対性理論のときと同様に完全流体に限らない。次にスカラー場の運動方程式を曲がった時空に拡張していこう。最小限の置き換えでは
∇a∇aφ − m2φ = 0 (58)
Tab = ∇aφ∇bφ − 12(∇cφ∇cφ + m2φ2) (59)
9
となる。しかし (28)は (58)でなく定数 αを用いて
∇a∇aφ − m2φ − αRφ = 0 (60)
と拡張しても gab が平坦な極限でクライン・ゴルドン方程式に帰着する。等角不変性を要請すると α = 1
6 が生じる。ここから全ての場合で最小限の置き換えが有効でないことが分かる。またマクスウェル方程式は
∇aFab = −4πjb (61)
∇[aFbc] = 0 (62)
Tab =14π
(FacFbc − 1
4gabFdeF
de) (63)
となる。しかし Lorentz条件を満たすベクトルポテンシャルの満たす式は
∇a∇aAb − RdbAd = −4πjb (64)
となり (42)に最小限の置き換えを行ったものとは異なる。ここで
−4π∇bjb = ∇b∇a∇aAb −∇bRdbAd
= ∇b∇a∇aAb −∇b(∇d∇b −∇b ∇d)Ad︸ ︷︷ ︸=0
= ∇b∇a∇aAb −∇b∇a∇bAa
= ∇b∇a(∇aAb −∇bAa)
= ∇b∇aFab = 0
より (64)は∇aja = 0に矛盾しない。今曲率に対し電磁場の変化が十分小さいとすると、解はほぼ定振幅の波と考えることができ
Aa = CaeiS (但し Caの微係数は十分小さい) (65)
とおける。ここで jb = 0としさらに、∇b∇bCaと − RdbAd は十分小さいと
すると∇aS∇aS = 0 (66)
となる。よって結局 ka = ∇aS は null測地線の接ベクトルになる。一般相対性理論において、時空の構造としての重力をどう扱うかということと、この時空構造での物理法則の性質をここまでで述べてきた。あとは時空の計量によって満たされる方程式を考えなければならない。ここでマッハの原理が登場する。前もって時空構造を指定することはできず、時空構造は物質の分布に影響されるのである。つまり時空の計量は物理法則を適用する場というだけでなく、物質の分布によって変化するものなのである。よって時空と物質の分布の関係を求めていこう。そのためにニュートン力学と一般相対性理
10
論を比較する。ニュートン力学では重力場のポテンシャルをφで表現した。更に隣り合う質点の相対的加速度は相対位置ベクトルを ~xとすると−(~x ·∇)∇φ
と表される。一方、一般相対性理論では相対的加速度は Rcbdavcxbvdで表現
される。よって対応関係
Rcbdavcvd ↔ ∂b∂
aφ (67)
が得られ、更に質量密度はρ ↔ Tabv
avb (68)
と対応する。よってポアソン方程式から上の対応関係を使って
∇2φ = 4πρ (69)
⇒ Rcadavcvd = 4πTcdv
cvd
→ Rcd = 4πTcd
が得られる。ここで ∇cTcd = 0とビアンキ恒等式 ∇c(Rcd − 12gcdR) = 0を
考えると∇dR = 0となり、T aaは定数となってしまう。これは物理的ではな
い。そこでGab ≡ Rab −
12Rgab = 8πTab (70)
とするとビアンキ恒等式は保存則∇aTab = 0と矛盾しなくなる。よって
R = −8πT (71)
となり、さらにRab = 8π(Tab −
12gabT ) (72)
となる。ほぼ静止した系では T ≈ −ρ = −Tabvavb から、(72)は Rabv
avb ≈4πTabv
avb も満たしている。
4 重力の線形近似:ニュートンの極限と重力放射この章では重力が弱い、即ち計量がほぼ平坦な時の近似を考える。ミンコフスキー計量からの計量のずれを γab として
gab = ηab + γab (73)
とおいて γab に関して線形な部分、即ち γab の1次項までを考える。よってγabの2次項以降は無視するので、添字の上げ下げは基本的に ηab, η
abを用いて行う。但し gab は例外で
gab = ηab − γab (74)
11
となる。これを用いると Γcab は
Γcab =
12ηcd(∂aγbd + ∂bγad − ∂dγab) (75)
となり、Rab の γab に関して1次までの部分は
R(1)ab = ∂cΓc
ab − ∂aΓccd
= ∂c∂(bγa)c −12∂c∂cγab −
12∂a∂bγ (76)
となる。アインシュタインテンソルは
G(1)ab = R
(1)ab − 1
2ηabR
(1)
= ∂c∂(bγa)c −12∂c∂cγab −
12∂a∂bγ − 1
2ηab(∂c∂dγcd − ∂c∂cγ) (77)
で、ここでγab ≡ γab −
12ηabγ (78)
とすればアインシュタイン方程式は
G(1)ab = −1
2∂c∂cγab + ∂c∂(bγa)c −
12ηab∂
c∂dγcd = 8πTab (79)
と表せる。ここでゲージ自由度について考えよう。γabは γab → γab + £ξηab
のゲージ自由度をもつ。ここでリー導関数は
£ξηab = ∂aξb + ∂bξa (80)
で表されるので、ゲージ自由度は
γab → γab + ∂aξb + ∂bξa (81)
となる。ここで∂b∂bξa = −∂bγab (82)
となる ξを考える。このとき γab → γab + ∂aξb + ∂bξa − ηab∂cξc から
∂bγab = ∂bγab + ∂b∂bξa︸ ︷︷ ︸=−∂bγab
+∂b∂aξb − ∂c∂aξc = 0 (83)
となる。よってアインシュタイン方程式は
∂c∂cγab = −16πTab (84)
と書ける。
12
4.1 ニュートンの極限アインシュタイン方程式が自然法則を記述していることを確認するために、c
よりも速度が十分小さく質量密度 ρより圧力が十分小さい極限を考え、ニュートン力学と一致していることをみよう。まず応力・エネルギーテンソルを考えると time-space,space-time成分は速度が小さいことから、space-space成分は圧力が小さいことからそれぞれ無視することが出来るので、
Tab ≈ ρtatb (85)
但し ta = (∂
∂x0)a
と書ける。さらに Tab の時間変化が小さいことから γab の時間変化も無視すると、(84)式は
∇2γµν = 0 (µ = ν = 0は除く) (86)
∇2γ00 = −16πρ (87)
となる。無限遠での振舞いを考えると (86)は
γµν = 0
となる。ここで重力ポテンシャル φの満たすポアソン方程式
∇2φ = 4πρ (88)
と (87)を比べるとφ ≡ −1
4γ00
となる。よって
γab = γ00tatb = −4tatbφ
γab = γab −12ηabγ = −(4tatb + 2ηab)φ
が言える。今測地線の方程式
d2xµ
dτ2+
∑ρ,σ
Γµρσ(
dxρ
dτ)(
dxσ
dτ) = 0 (89)
は、 d2
dτ2 ≈ d2
dt2 , dxα
dτ ≈ (1, 0, 0, 0)より
d2xµ
dt2= −Γµ
00 (µ = 1, 2, 3) (90)
と書ける。ここで (75)式より
Γµ00 = −1
2∂γ00
∂xµ=
∂φ
∂xµ(91)
13
であるので、~a = −∇φ (92)
となりニュートン力学と一致することが確認できる。次に圧力は無視したままで速度の 1次まで考慮すると、応力・エネルギーテンソルは Jb = −Tabt
a を用いて
Tab = −ta T0b︸︷︷︸=−Jb
−tb Ta0︸︷︷︸=−Ja
− T00︸︷︷︸=ρ
tatb
= taJb + tbJa − ρtatb
= 2t(aJb) − ρtatb (93)
と書ける。よって (84)式から
∂a∂aγ0µ = 16πJµ (µ = 1, 2, 3) (94)
が言える。これをマクスウェル方程式
∂a∂aAb = −4πjb (95)
と比較するとγ0µ = γµ0 = −4Aµ
がいえる。このとき 4Ab = −γabta と書けるので、(93)を求めたときと同様
にすれば
γab = 4tatbA0 + 8t(aAb)
γab = 4A0
がわかり γab = γab − 12 γηab から
γab = (4tatb − 2ηab)A0 + 8t(aAb)
となる。ここで測地線の方程式は
d2xµ
dt2= −Γµ
00︸ ︷︷ ︸=− ∂A0
∂xµ
−23∑
ρ=1
Γµρ0(
dxρ
dt) (µ = 1, 2, 3)
となり、
Γµρ0 =
12(∂ρ γ0
µ︸︷︷︸=−4Aµ
+ ∂0γρµ︸ ︷︷ ︸
=0
−∂µ γρ0︸︷︷︸=−4Aρ
)
= −2(∂ρAµ − ∂µAρ)
= −2Fρµ
14
から
d2xµ
dt2= −∂A0
∂xµ+ 4
3∑ρ=0
Fρµ(
dxρ
dt)
→ ~a = − ~E − 4~v × ~B (96)
となるので、4の因子を除いてマクスウェル方程式と一致することが分かる。
4.2 重力波クーロンの静電気学をマクスウェルの電磁気学に拡張すると、電磁場に力学的自由度が与えられて、電磁波が生じる。同様のことがニュートンの重力論から一般相対性理論への拡張の際にも起こって重力波が生じ、時空の曲率のゆらぎが伝播する。ここではそれを見ていこう。引き続き線形近似を考え、更に源がない場合を考える。ここで (83)、(84)は
∂aγab = 0 (97)
∂c∂cγab = 0 (98)
となる。γab が (97),(98)式を満たす時
∂b∂bξa = 0 (99)
を満たす ξaを使って γab → γab + ∂aξb + ∂bξaと変換しても (97),(98)は満たされる。ここでマクスウェル方程式で (99)に相当するのは
∂a∂aχ = 0 (100)
で、これを満たす χ で Aµ + ∂µχ とゲージ変換しても Lorentz 条件は不変である。t = t0 において (100)を満たし、ベクトルポテンシャルの時間成分A0 = 0(即ち∂χ
∂t = −A0)となるようなゲージをとれるか考えよう。これは
∂a∂aχ = −∂2χ
∂t2︸ ︷︷ ︸=
∂A0∂t
+∇2χ
= −∂2χ
∂t2︸ ︷︷ ︸=∇· ~A
+∇2χ
= ∇ · ~A + ∇2χ = 0
から∇2χ = −∇ · ~A (101)
15
を満たすようにゲージをとれば (100) に矛盾しない。なお Lorentz ゲージ∂aAa = 0から
∂aAa =∂A0
∂t︸︷︷︸=0
+∇ · ~A = 0
→ ∇ · ~A = 0
も t = t0 において成り立つ。このとき
A′0 ≡ A0 +
∂χ
∂t(102)
を定義すれば、源なしから j0 = 0の時を考えると
∂a∂aA′0 = ∂a∂aA0︸ ︷︷ ︸
−4πj0
+ ∂a∂a∂χ
∂t︸ ︷︷ ︸=0
= −4πj0 = 0 (103)
が言える。さらに t = t0 においては
A′0 = 0 (104)
∂A0′
∂t=
∂A0
∂t︸︷︷︸=∇· ~A
+∂2χ
∂t2︸︷︷︸=∇2χ
= ∇ · ~A + ∇2χ = 0 (105)
もいえる。よってずっと源なし (即ちずっと j0 = 0)なら t0を順次取り直すことでずっと A′
0 = 0の状態であることが分かる。以上から t = t0 の場合と同様に考えれば、任意の tにおいて radiationゲージ
A0 = 0∇ · ~A = 0
を (100)と矛盾なくとることが可能であることが分かる。これと同様に議論していこう。まず t = t0を考える。(99)を満たし、γ = 0となるようなゲージをとれるかを考えよう。γ = 0となるためには
2∂aξa = 2[−∂ξ0
∂t+ ∇ · ~ξ] = −γ (106)
を満たすような ξ0 をとれば良い。これが (99)と矛盾しないためには
2∂a∂aξ0 =∂
∂t( −2
∂ξ0
∂t︸ ︷︷ ︸=−2∇·~ξ−γ
) + 2∇2ξ0 = 0
より
2[∂2ξ0
∂t2+ ∇ · ∂~ξ
∂t] = −∂γ
∂t(107)
16
を満たすように ξ0 をとれよい。このようにゲージをとれば γ = 0を満たし(99)と矛盾しないようなゲージをとることができる。つぎに (99)を満たしγ0µ = 0 (µ = 1, 2, 3)となるようなゲージをとれるか考えよう。γ0µ = 0 (µ =1, 2, 3)となるためには
∂0ξµ + ∂µξ0 =∂ξµ
∂t+
∂ξ0
∂xµ= −γ0µ (µ = 1, 2, 3) (108)
を満たすように ξµ (µ = 1, 2, 3)をとれば良い。これが (99)と矛盾しないためには
∂a∂aξµ =∂
∂t( −∂ξµ
∂t︸ ︷︷ ︸=
∂ξ0∂xµ +γ0µ
) + ∇2ξµ = 0 (µ = 1, 2, 3)
より
∂2ξµ
∂t2+
∂
∂xµ(∂ξ0
∂t) = −∂γ0µ
∂t(µ = 1, 2, 3) (109)
を満たすように ξµ (µ = 1, 2, 3)をとればよい。このようにゲージをとればγ0µ = 0 (µ = 1, 2, 3)を満たし (99)と矛盾しないようなゲージをとることができる。ここで γ′ = γ + 2∂aξa, γ′
0µ = γ0µ + ∂0ξµ + ∂µξ0 (µ = 1, 2, 3)とおくと、t = t0 において
γ′ = 0
∂γ′
∂t=
∂γ
∂t+ 2[
∂2ξ0
∂t2+ ∇ · ∂~ξ
∂t]︸ ︷︷ ︸
=− ∂γ∂t
= 0
γ0µ = 0 (µ = 1, 2, 3)
∂γ′0µ
∂t=
∂γ0µ
∂t+
∂2ξµ
∂t2+
∂
∂xµ(∂ξ0
∂t)︸ ︷︷ ︸
=− ∂γ0µ∂t
= 0 (µ = 1, 2, 3)
がいえる。よってマクスウェル方程式のときと同様にして、任意の tにおいて radiationゲージ
γ = 0γ0µ = 0 (µ = 1, 2, 3)
を (97)と矛盾なくとることが可能であると分かる。更に重力波の場合 γ = 0から得られる γab = γab と γ0µ = 0から (97)を
∂γ00
∂t= 0 (110)
と書き換えられる。さらに (84)を
∂c∂cγ00 = ∇2γ00 = −16π T00︸︷︷︸=0
= 0 (111)
17
と書くことが出来る。よって γ00 = constとなる。ここでゲージ変換を行えば任意の時刻 tにおいて γ00 = 0となる。次に γab を
γab = Habexp(i3∑
µ=0
kµxµ) (112)
と平面波の形で書くことを考えると (98)は
3∑µ=0
kµkµ =3∑
µ=0
ηµνkµkν = 0 (113)
となり、(97)は3∑
µ=0
kµHµν = 0 (114)
となる。更に γ0µ = 0, γ = 0は
H0ν = 0 (115)3∑
µ=0
Hµµ = 0 (116)
となる。ここで (115)は (114)の ν = 0に相当するので、この9個の方程式のうち独立な方程式は8個である。Hµν は 10個の独立成分があるので、これは2つの独立な解があることを示しており、任意の片方の解の重ね合わせが重力波の波束を表現することになる。ここで例えば~k = (0, 0, k)の時を考えてみよう。このとき (113)式から kµ = (±k, 0, 0, k)と分かる。さらに (114),(115)から
Hµν =
0 0 0 00 a c 00 c b 00 0 0 0
(但し a, b, cは任意定数)
となり (116)から a = −bなので
Hµν = a
0 0 0 00 1 0 00 0 −1 00 0 0 0
+ c
0 0 0 00 0 1 00 1 0 00 0 0 0
と決定できる。重力波を決めるため2つの物体を考え相対的な加速度を考える。
aa = −RcbdaXbT cT d
18
は物体がほぼ静止している場合
d2Xµ
dt2≈
3∑ν=0
Rν00µXν (117)
(Xν :相対位置ベクトル)
となる。ここで
Rν00µ =
∂
∂x0Γµ
ν0 −∂
∂xνΓν
00︸︷︷︸=0
=∂
∂x0
∑µ,ρ
12ηµρ(∂ν γ0ρ︸︷︷︸
=0
+∂0γνρ − ∂ρ γν0︸︷︷︸=0
)
=12
∂2
∂t2γν
µ
→ Rν00µ =12
∂2
∂t2γµν (118)
である。この式は上で得られた平面波解が時空の曲率をもたらし、ゲージ変換で消去できないことを示している。しかし重力波は小さいため測定は難しく、現在も測定の努力がなされている。ところで、実際は重力波は線形近似が適用できないような強い重力中での崩壊現象で発生する。しかしこの計算は難解であるのでまず線形近似が適応できるとして重力波をみていこう。重力場はスカラー場や電磁場のように遅延グリーン関数を用いて
γµν(x) = 4∫
Λ
Tµν(x′)
|~x − ~x′|dS(x′) (Λは点 xの past − lightcone上) (119)
= 4∫
Tµν(t − |~x − ~x′|, ~x′)
|~x − ~x′|d3x′
と表せる。γµν を tに関してフーリエ変換すると
ˆγµν(ω, ~x) =1√2π
∫ ∞
−∞γµνeiωtdt (120)
となり、よって
ˆγµν(ω, ~x) = 41√2π
∫ ∞
−∞
∫Tµν(t − |~x − ~x′|, ~x′)
|~x − ~x′|eiωtd3x′dt
= 41√2π
∫ ∞
−∞
∫Tµν(t′, ~x′)
|~x − ~x′|eiωt′eiω|~x−~x′|d3x′dt′
= 4∫ ∞
−∞Tµν(ω, ~x′)
eiω|~x−~x′|
|~x − ~x′|d3x′ (121)
(Tµν(ω, ~x′) =1√2π
∫ ∞
−∞Tµν(t, ~x′)eiωtdtより)
19
が言える。ここで ˆγµν (µ, ν = 1, 2, 3)だけ求めればよい。ˆγ0µ はゲージ条件∂ν γνµ = 0(83)から
−iωˆγ0ν =3∑
µ=1
∂ ˆγ∂xµ (122)
と求められる。残りの成分を計算するためにソースからの距離が十分大きい時 (R À 1
ωの時)を考える。このとき eiω|~x− ~x′|
|~x−~x′|→ eiωR
R となるのでこれを積分の外に出すことができる。よって (122)の積分の中身は µ, ν = 1, 2, 3で∫
Tµνd3x =3∑
α=1
∫
∂
∂xα(Tανxµ) −
∫∂Tαν
∂xαxµ
= −iω
∫T 0νxµ (ガウスの法則と∂aTab = 0 → iωT 0µ =
3∑α=1
∂Tαν
∂xαxµから)
= − iω
2
∫(T 0νxµ + T 0µxν) (Tµνの対称性より)
= − iω
2
3∑β=1
∫
∂
∂xβ(T 0βxµxν) −
∫∂T 0β
∂xβxµxν
= −ω2
2
∫T 00xµxνd3x (第2式から第3式への変形と同様)
(123)
と計算できる。四重極モーメント
qµν = 3∫
T 00xµxνd3x (124)
を用いれば (121)は
ˆγµν(ω, ~x) = −2ω2
3eiωR
Rqµν(ω) (µ, ν = 1.2.3) (125)
と書ける。この結果を逆フーリエ変換して
γµν(t, ~x) =2
3R
∫−ω2e−iω(t−R)qµν︸ ︷︷ ︸
=d2qµν
dt2
∣∣ret
dω
=2
3R
d2qµν
dt2
∣∣∣ret
(ret = t − R) (126)
が求められる。このように重力波は四重極モーメントの時間微分からくるものであり、ω
∫T 00xµd3x =
∫Tµ0d3x = pµ(運動量) = 0 (ω 6= 0)は振動しな
いため、速度の遅い物体からの重力波は電磁波より小さくなることが分かる。次にエネルギーについて考えよう。空間の計量と重力場の力学的な量を分離することが出来ないので、エネルギーを局所的に測定することは不可能である。しかし孤立した系を考えた場合、そこから遠く離れた重力場による系
20
全体のエネルギーと運び出されるエネルギーのフラックスは定義することができる。線形近似におけるアインシュタイン方程式は
G(1)ab [γcd] = 0 (127)
である。ここで γcd の2次項を考えてみよう。リッチテンソルの2次項は
R(2)ab =
12γcd∂a∂bγcd − γcd∂c∂(aγb)d +
14(∂aγcd)∂bγ
cd + (∂dγcb)∂[dγc]a
+12∂d(γdc∂cγab) −
14(∂cγ)∂cγab − (∂dγ
cd − 12∂cγ)∂(aγb)c (128)
となる。尚この計算は
R(2)ab = ∂cΓ
c(2)ab − ∂aΓc(2)
cb + Γc(1)ab Γd(1)
cd − Γc(1)db Γd(1)
ca
Γc(2)ab = −1
2γcd(∂aγbd + ∂bγad − ∂dγab)
Γc(2)cb = −1
2γcd( ∂cγbd︸ ︷︷ ︸
cancel1
+∂bγcd −∂dγcb︸ ︷︷ ︸cancel1
)
Γc(1)ab =
12(∂aγb
c + ∂bγac − ∂cγab)
Γd(1)cd =
12(∂cγ + ∂dγc
d − ∂dγcd)
Γc(1)db =
12(∂dγb
c + ∂bγdc︸ ︷︷ ︸
cancel2
−∂cγdb︸ ︷︷ ︸cancel2
)
Γd(1)ca =
12(∂cγa
d + ∂aγcd − ∂dγca)
から導かれる。よってアインシュタイン方程式の2次項部分は
G(1)ab [γ(2)
cd ] + G(2)ab [γcd] = 0 (129)
である。R(1)ab = 0のとき
G(2)ab = R
(2)ab − 1
2ηabR
(2)
であることを考慮して (129)を書き直すと
G(1)ab [γ(2)
cd ] = 8πtab (130)
tab = − 18π
G(2)ab [γcd] (131)
と書ける。ここで tabは γabが (127)を満たせば ∂atab = 0を満たす。よってtabを重力場の応力テンソルと見なすことができる。しかしこの tabは γabに
21
依るので γab → γab + 2∂(aξb) とすると tab は変化してしまう。よってゲージ不変性を満たさないという点で応力テンソルとは異なるが、
E =∫
Σ
t00d3x (132)
(Σは図2の spacelikeな領域)Σ 図2を考えると γab とその偏微分が r → ∞で 0になる条件の下で
E[γab] = E[γab + 2∂(aξb)]
というゲージ不変性を満たし、これを系のエネルギーと考えることができる。さらにフラックス −ta0 もゲージ不変ではないが
∆E = −∫
S
ta0dSa (133)
(積分範囲は図3の S とΣ1とΣ2による領域)Σ1Σ2S図3を考えると、この表面は r → ∞の極限を考えるので、γabとその偏微分が 0になりゲージ不変な系のフラックスといえる。ここで (134)を計算すると
∆E =∫
Pdt (134)
P =145
3∑µ,ν=1
(d3Qµν
dt3
∣∣∣ret
)2 (135)
Qµν = qµν − 13δµνq (136)
22
となる。この例として中心の振動数Ω、質量M、長さ Lの棒状の剛体の回転を考えると
Prod =2G
45c5M2L4Ω6 (c,Gを表記している) (137)
となる。ここで P がM2L4Ω6に比例することを次元解析から示そう。T 00は密度であるのでQµνの次元は [ML2]である。よってP の次元は [ML2t−3]2 =[M2L4t−6]となるので、P がM2L4Ω6 に比例することがいえる。ここで質量・長さ・振動数をそれぞれ 1kg, 1m, 1rad/sとすれば Prod ≈ 10−47ergs−1
となる。ここで重力波が天文単位で考えても大変小さいものであることが分かる。しかしこの重力放射によるエネルギー損失は観測によって確認されているので、重力波は実際存在すると考えられている2。最後に重力波に関する具体例を見てみよう。まず質量M の2つの質点がバネ定数K のバネに取り付けられバネが振動している場合を考え、バネの振動一周期の間に放射されるエネルギーを計算する。この二つの質点が x軸上を運動しているとし、2つの質点の x座標をそれぞれ x1, x2 とすると
x1 = A cos ωt
x2 = −A cos ωt(ω =
√K
M,Aは定数)
と書ける。いま
T 00 = ρ = Mδ(x − x1) + δ(x − x2)δ(y)δ(z)
なので
q11 = 3∫
T 00d3x
= 3M
∫δ(x − x1) + δ(x − x2)x2dx
= 3M(x21 + x2
2)
qµν(µ = ν = 1以外) = 0
となる。よって
Qµν = M
2(x21 + x2
2) 0 00 −(x2
1 + x22) 0
0 0 −(x21 + x2
2)
と求められ、
d3
dt3(cos2 ωt) = 4ω3 sin 2ωt
から
P =145
3∑µ,ν=1
(d3
dt3Qµν)2 =
128G
15c5M2A4ω6 sin2 2ωt
2ハルスとテイラーによる PSR1913+16 の観測等
23
となる。ここで ∫ ωt=2π
0
sin2 2ωtdt =π
ω
より一周期分で放射されるエネルギーは
∆E =128Gπ
15c5M2A4ω5 (c,Gを表記した)
となる。次に質量M の2つの星が連星系をなし、半径 Rで互いに円運動をする時を考えよう。このときの P の平均値と重力放射による周期の減少率を求めよう。この星が円筒座標の z = 0の平面上で運動している時を考える。このとき
T 00 = ρ = M(δ(r − R)δ(z)1r
∑n
δ(θ − ωt + nπ))
(ω :軌道の角速度, n :整数)
となる。よって
qµν = 3M
∫δ(r − R)δ(z)
1r
∑n
δ(θ − ωt + nπ)xµxνrdrdθdz
x1 = r cos θ, x2 = r sin θ
となるので
qµν = 6MR2
cos2 ωt 0 00 sin2 ωt 00 0 0
となる。よって
Qµν = 6MR2
cos2 ωt − 13 0 0
0 sin2 ωt − 13 0
0 0 −13
となって
P =145
3∑µ,ν=1
(d3
dt3Qµν)2 =
1285
M2R4ω6 sin2 2ωt
と求められる。ここで P の平均値は
P =645
M2R4ω6
と求められ、ω2 = MR3 を用いれば P は c,Gをもどして
P =64G4M5
5c5R5
となる。さらに周期の減少率を求めよう。全エネルギーは
E = −GM2
2R
24