28
リーマン多 リーマン った3 ユークリッド R 3 におけ 2 にあり,そ n に拡 した す. った リーマン しました. リーマン いう意 ありません. を扱 に, から めて扱う く, いる って いう す. リーマン する に, します. S えられれ ,第1 I = g ij du i du j および第 2 II = h ij du i du j まります. ただし 1 5 i, j 5 2,g 12 = g 21 ,h 12 = h 21 . わち, 6 {g 11 ,g 12 ,g 22 ,h 11 ,h 12 ,h 22 } まります. それ ユークリッド R 2 また U 6 {g 11 ,g 12 ,g 22 ,h 11 ,h 12 ,h 22 } えた き, S 第1 I = g ij du i du j , 2 II = h ij du i du j ある 一つに まるか いう す.こ しく,偏 して されます. める 3 f (u, v )= {f 1 (u, v ),f 2 (u, v ),f 3 (u, v )} めるこ す. める 3 える g ij ,h ij 6 バランスが悪い. くに g ij ,h ij かしら ,そ がコダッチ ,ガ す. ように,第1 ,第2 えれ すが 1

リーマン多様体 - Coocansshmathgeom.private.coocan.jp/diffgeom/Riemanngeom.pdfn 次元の立体M を扱うわけですから,その立体の定義をする必要があり ます.3次元ユークリッド空間における2次元曲面は媒介変数表示で

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リーマン多様体

リーマン幾何の原型はガウスの行った3次元ユークリッド空間 R3 におけ

る 2次元曲面の内在幾何にあり,その内容を n次元に拡張したものです.

ガウスの行った内在幾何との関連でリーマン幾何の接続を説明しました.

リーマン幾何とは,高次元の幾何学という意味ではありません.図形を扱

うのに,外部から眺めて扱うのではなく,図形上に住んでいる人の立場に

立って調べるという研究方法のことです.

リーマン幾何の研究方法を説明する前に,微分幾何の曲面の研究方法を復

習します.

曲面 Sが与えられれば,第1基本形式 I = gijduiduj および第 2基本形式

II = hijduiduj が定まります.

ただし 1 5 i, j 5 2, g12 = g21, h12 = h21.

すなわち,曲面上に 6つの関数 {g11, g12, g22, h11, h12, h22}が決まります.それでは逆に

ユークリッド平面 R2 またはその開集合 U 上に 6つの関数

{g11, g12, g22, h11, h12, h22}を与えたとき,曲面 S で第1基本形式が I = gijduiduj , 第 2基本形式が

II = hijduiduj である曲面が唯一つに決まるか

というのが曲面の基本定理です.この定理は正しく,偏微分方程式を利用

して証明されます.

曲面を決めるとは 3つの関数

f(u, v) = {f1(u, v), f2(u, v), f3(u, v)}を求めることです.求める式が 3つなのに与える関数が gij , hij の 6つで

はバランスが悪い.当然偏微分方程式を解くには gij , hij に何かしらの条件

が必要で,その条件がコダッチの方程式,ガウスの方程式です.

このように,第1基本形式,第2基本形式を与えれば局所的にはですが曲

1

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面は完全に決まるわけですから,第1基本形式,第2基本形式に曲面の局所

的情報は全部入っていることになります,ですから,たとえば曲面の第3基

本形式が第1,2基本形式で表せることは当たり前です.

曲面を調べるためには,ユークリッド平面 R2 またはその開集合 U の各点

に 6つの関数

{g11, g12, g22, h11, h12, h22}を与えたものを調べることと同じで.曲面のこの見方を抽象曲面といい

ます.

このように,第1基本形式,第2基本形式を与えれば局所的ですが曲面は

完全に決まりますが,リーマン幾何とは第1基本形式 {g11, g12, g22}だけで曲面を調べようという研究方法です.このようにいうと,リーマン幾何は,

第1基本形式,第2基本形式を用いた曲面の調べ方より大まかな調べ方だと

思うかもしれませんがそれは正確ではありません.

例えばトーラス面で説明しましょう.

右図のトーラス面上の 3 つの円

C1, C2, C3 について,外部から見ると

円ですが,もし人間がトーラス面上

で生活しているとすると,3 つの円は

同じように感じるでしょうか.人間は

トーラス面上を這って生活していると

考え,意識できるのは接平面だけで,接平面の上や下は意識できないすな

わち存在しないとします.C1 は円であるが,C2, C3 は直線と考えるでしょ

う.このように,曲面上で生活している人の立場たって曲面を調べる研究方

法をリーマン幾何(Intrinsic Geometry)といいます.

ガウスはユークリッド空間 R3 内におかれた曲面上の曲線の曲率を次のよ

うに考えました.

R3 内の曲線として曲率ベクトル(弧長変数表示の加速度)を求め,その

2

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ベクトルの接平面への正射影を曲面上の曲線の曲面上における曲率ベクトル

と考えました.この曲率ベクトルを測地曲率ベクトルといいます.

この考えにしたがって,上記のトーラス面上の 3円の測地曲率ベクトルを

調べてみましょう.円の曲率ベクトルは円の中心を向きます,したがって,

C2, C3 では接平面の法線ベクトルとなり,接平面への正射影すなわち測地

曲率ベクトルは 0ベクトルですが,C1 の曲率ベクトルは接平面上にあるの

で,そのまま測地曲率ベクトルになります.したがって,測地曲率ベクトル

は 0ベクトルではありません.曲面上の曲線で,各点で測地曲率ベクトルが

0になるベクトルを測地線といいます.測地線が局所的に最短距離を与える

ことは知られています.

話を進めましょう.

n次元の立体M を扱うわけですから,その立体の定義をする必要があり

ます.3次元ユークリッド空間における2次元曲面は媒介変数表示で

f(u, v) = (f1(u, v), f2(u, v), f3(u, v))

と表示して曲面を調べました.

しかし,リーマン幾何の立場では M を外部から見るわけではないので,

Rn から高次元ユークリッドへの写像として立体 M を扱うわけにはいきま

せん.そこで通常の多様体の定義になりました.ここでは,曲率 kの球面す

なわち半径 1√kの2次元球面について通常の微分幾何とリーマン幾何 (内在

幾何)の違いを説明します.

原点を中心とする半径 1√kの微分幾何での取り扱いは,緯度 θ,経度 φを

用いて

x =1√k

cos θ cos φ, y =1√k

cos θ sinφ, z =1√k

sin θ

です.

内在幾何は R3 の中で考える訳にはいかないので,次のように極射影を用

3

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いるのが一般的です

4

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原点を中心とする半径1√kの

球面の,南極 S(0, 0,− 1√k

) か

ら,北極 N(0, 0,1√k

) における

球の接平面への極射影を考える.

す な わ ち, 球 面 上 の 点

P (x, y, z), 北極 N における接

平面上の点を Q(u, v,1√k

) とす

ると−→SP = t

−→SQ

より

(x, y, z +1√k

) = t(u, v,2√k

)

したがって

x = tu, y = tv, z =−1 + 2t√

kおよび

x2 + y2 + z2 =1k

より

t =4

k(u2 + v2) + 4

x =4u

k(u2 + v2) + 4, y =

4v

k(u2 + v2) + 4, z =

4 − k(u2 + v2)√k(4 + k(u2 + v2))

を得る.

dx =∂x

∂udu +

∂x

∂vdv

等及び

I = dx2 + dy2 + dz2

より,半径1√kの (u, v)における第1基本形式

I =16(du2 + dv2)

(4 + k(u2 + v2))2· · · (])

をえる.(手計算でも難しくはないが,右下式はパソコンでの結果)

5

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(]) が標準的な曲率 k の定曲

率曲面の表示です.(]) を見る

と√

k がありません.ですから

k が負すなわち負の定曲率曲面

でもかまわないことに注目しま

しょう.

話を先に進めましょう.

多様体上での微分・積分の理

論を構成するのが目的です.

多様体におけるベクトル場に対する微分を説明しますが,まず,通常の微

分すなわちユークリッド空間におけるベクトル場に対する微分がどのように

行われかを調べ,そのままでは多様体に持ち込めないことを説明する.さら

に,ガウスが共変微分をどのように定義して曲面を研究したかをのべ,それ

をどのように n次元に拡張するかの概略を述べる.

ユークリッド平面 R2における曲線の速度 (接ベクトル),加速度を求める.

ユークリッド座標平面 R2 上を運動する点 P の時刻 tにおける座標 (x, y)

x = x(t), y = y(t)

とすると時刻 tにおける速度は(x(t + ∆t), y(t + ∆t)) − (x(t), y(t))

∆t

=(

x(t + ∆t) − x(t)∆t

,y(t + ∆t) − y(t)

∆t

)−→ (x′(t), y′(t)) (∆t → 0)

である.2点間の差をベクトルで近似するが,これは多様体でも問題を

ない.

次に加速度を調べよう.

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(x′(t + ∆t), y′(t + ∆t)) − (x′(t), y′(t))∆t

· · · (∗)

=(

x′(t + ∆t) − x′(t)∆t

,y′(t + ∆t) − y′(t)

∆t

)· · · (∗∗)

−→ (x”(t), y”(t)) (∆t → 0)

とするがこれはそのまま多様体に持

ち込めない.それは (∗)から (∗∗)への変形のとき,ユークリッド平面では異

なる始点のベクトルの差は片方を平行

移動して始点をそろえて行うことがで

きる,すなわち右図で

u = (x′(t), y′(t)),

v = (x′(t + ∆t), y′(t + ∆t))

であり,v − uは v を平行移動し始点をそろえ計算している.

多様体では,異なる始点のベクトルの差をどのように計算するのが問題で

す.言い方を変えれば,2点 P (x(t), y(t))と P (x(t + ∆t), y(t + ∆t)) の接

ベクトル間をどのように同一視を与えるかが問題です.異なる2点間のベク

トル空間に同一視を与えることを接続を与えるといいます.このように,多

様体上で微分を行うとき,多様体の滑らかさだけでない,各点の接ベクトル

空間の関係である接続の概念が必要です.

なお,ベクトル空間間の接続を与えればベクトル場に対する微分が定義で

きるのですが,本稿では微分を定義してから,その微分に適合した接続が定

義されるという流れで説明しています.

話を進めましょう.ここではユークリッド平面すなわちベクトルが平行移

動できる場合を考えています.

速度を微分して加速度を求めていますが,曲線 C : (x(t), y(t)) 上のベク

トル場

X(t) = X(x(t), y(t)) = (f(x(t), y(t)), g(x(t), y(t)))

に対しても微分 X ′(t)が定義できる.X ′(t)を計算すると

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X ′(t) =(

df(x(t), y(t))dt

,dg(x(t), y(t))

dt

)=

(∂f

∂xx′(t) +

∂f

∂yy′(t),

∂g

∂xx′(t) +

∂g

∂yy′(t)

)ここで,曲線 P (x(t), y(t))の速度を Y (t) = Y (x(t), y(t)),ただし

Y (t) = x′(t)∂

∂x+ y′(t)

∂yとおくと

X ′(t) = (Y (f), Y (g))

となる.

このことは,点 P のおけるベクトル YP でベクトル場 X を微分する,こ

れをベクトル場 X の点 P における YP に沿った方向微分または普通微分と

いい dYPX と表すと,

X = (X1, X2)のとき

dYP X = (YP (X1), YP (X2))

と成分ごとの微分である.

次に,ガウスが曲面を研究するのに曲面上のベクトル場の微分をどのよう

に扱ったのかをのべ,それを手がかりに,どのように高次元に拡張したかを

解説する.

ガウスは R3 における曲面を媒介変数表示して,すなわち曲面を

f(u1, u2) = (f1(u1, u2), f2(u1, u2), f3(u1, u2))

と表示して調べました.

f の偏導関数 fi, fij , fijk は

fi =(

∂f1

∂ui,∂f2

∂ui,∂f3

∂ui

)fij =

(∂2f1

∂ui∂uj,

∂2f2

∂ui∂uj,

∂2f3

∂ui∂uj

)fijk =

(∂3f1

∂ui∂uj∂uk,

∂3f2

∂ui∂uj∂uk,

∂3f3

∂ui∂uj∂uk

)のことです.ベクトルの偏微分は x成分,y 成分,z 成分を成分ごと微分

することです.これは曲面上の微分をユークリッド空間における微分と見て

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いるだけです.

なおベクトル fi は通常は曲面上の∂

∂uiと書くベクトルのことで

fij = d ∂

∂uj

∂ui

fijk = d ∂

∂uk(d ∂

∂uj

∂ui)

です.

ガウスは曲面上のベクトルの微分を次のように考えるました.

曲面の単位法線ベクトルを nとおくと,曲面 S 上の任意の点におけるベ

クトルは {f1, f2, n}で表せるので,任意の 1 5 i, j 5 2に対して

fij = Γkjifk + hijn・・・(1)

と表せる.

fij はベクトル fi を fj 方向に R3 のベクトルとして微分したもので,一

般に曲面 Sの接ベクトルではない.

そこで,曲面上において,曲面上のベクトル fi を fj 方向に微分するこ

とを

fij の接平面への正射影 Γkjifk によって

定め,∇fj fi または∇ ∂

∂uj

∂ui

と表す.

すなわち

∇ ∂

∂uj

∂ui= Γk

ji

∂uk· · · (])

このベクトルを fi の fj 方向への共変微分という.

接平面への正射影を ( · )T と表せば

∇ ∂

∂uj

∂ui= (d ∂

∂uj

∂ui)T

である.

さらに,座標系の基底だけでなく,一般のベクトル場に対しても共変微分

を次のよう定義した.

R3 内の曲面 f 上の点 P における接ベクトル XP ,曲面 f 上のベクトル場

Y = (Y 1, Y 2, Y 3)に対して

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∇XPY = (dXP

Y )T = (XP (Y 1), XP (Y 2).XP (Y 3))T

と定義し,曲面 f 上のベクトル場 X,Y に対して新しいベクトル場 ∇XY

(∇XY )P = ∇XPY

と定義した.∇XPY をベクトル場 Y の XP 方向の共変微分係数,

∇XY をベクトル場 Y の X 方向の共変微分という.

共変微分について,曲面上のベクトル場 X,X1, X2, Y, Y1, Y2 および曲面

上のなめらかな関数 hについて次の性質が成り立つことがわかる.

1. ∇X(Y1 + Y2) = ∇XY1 + ∇XY2

2. ∇X(hY ) = X(h)Y + h∇XY

3. ∇X1+X2Y = ∇X1Y + ∇X2Y

4. ∇hXY = h∇XY

証明は難しくない.ここでは2の証明だけを行う.

各点 P で

∇XP (hY ) = XP (h)YP + h(P )∇XP Y

を示せばよい.

Y = (Y 1, Y 2, Y 3)とおく.

∇XP (hY ) = (dXP (hY 1, hY 2, hY 3))T

= (XP (hY 1), XP (hY 2), XP (hY 3))T

= (XP h)(Y 1(P ), Y 2(P ), Y 3(P )) + h(P )(XP Y 1, XP Y 2, XP Y 3)T

= (XP h)YP + h(P )∇XP Y

次に,R3 における曲面 S 上の内積と S 上の共変微分の関係を調べよう,

曲面 S 上の内積 < ·, · >は共に R3 のベクトルとして内積をたったもので

ある.

すなわち,X = (X1, X2, X3), Y = (Y 1, Y 2, Y 3)のとき

< X,Y >= X1Y 1 + X2Y 2 + X3Y 3

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である.

曲面 S 上の3つのベクトル場 X,Y, Z に対して

∇X < Y,Z >=< ∇XY,Z > + < Y,∇XZ >

が成り立つ.

実際

∇X < Y,Z >= dX < Y,Z >=< dXY,Z > + < Y, dXZ >

=< ∇XY,Z > + < Y,∇XZ >

ここまで,R3 における曲面 S の共変微分の性質を調べてきました.共変

微分の性質をまとめると次のようになります.

曲面 S 上のベクトル場 X,Y に対してベクトル場 Y の X 方向の共変微分

∇XY を

∇XY = (dXY )T = (XY 1, XY 2, XY 3)T

で定義した.ただし Y = (Y 1, Y 2, Y 3)

共変微分 ∇XY について次の (A),(B)が成り立つ.

(A)曲面 S 上のベクトル場 X,X1, X2, Y, Y1, Y2 および曲面上のなめらか

な関数 hについて次の性質が成り立つ.

1. ∇X(Y1 + Y2) = ∇XY1 + ∇XY2

2. ∇X(hY ) = X(h)Y + h∇XY

3. ∇X1+X2Y = ∇X1Y + ∇X2Y

4. ∇hXY = h∇XY

(B) 曲面 S 上の内積を < ·, · >とするとベクトル場 X,Y, Z に対して

∇X < Y,Z >=< ∇XY,Z > + < Y,∇XZ >

が成り立つ.

準備は整いました.これから n次元微分多様体M 上の共変微分の説明を

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します.

まず,M を高次元のユークリッド空間 Rm に置かれた立体ということを

用いることはできないことに注意する.

曲面 S 上の共変微分を定義し,共変微分の満たす性質 (A), (B)を導き出

しましたが,これを逆に考えます.公理的になりますが,多様体M 上の性

質 (A)を満たす演算を共変微分と定めます.すなわち

定義 (接続)

M を n 次元微分多様体,X(M) をM 上のなめらかなベクトル場全体と

する.

M 上に接続を定義するとは,下に述べる4条件を満たす

∇ : X(M) × X(M) −→ X(M); (X,Y ) 7→ ∇XY

を定義することである.

条件∀X,Y, Z ∈ X(M),∀ f ∈ C∞(M)に対して

1. ∇X(Y1 + Y2) = ∇XY1 + ∇XY2

2. ∇X(fY ) = X(f)Y + f∇XY

3. ∇X1+X2Y = ∇X1Y + ∇X2Y

4. ∇fXY = f∇XY

∇XY を Y の X 方向の共変微分と呼ぶ.

多様体M に接続∇を定義するのはM の局所座標系 {U ; u1, . . . , un} で

∇ ∂

∂ui

∂uj= Γk

ij

∂uk

を定める Γkij ∈ C∞(U)を定めればよい.実際

X = Xi ∂

∂ui, Y = Y i ∂

∂ui

のとき

∇XY = Xi∇ ∂

∂ui(Y j ∂

∂uj)

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= Xi ∂Y j

∂ui

∂uj+ XiY jΓk

ij

∂uk

添字をそろえ

= Xi(∂Y j

∂ui+ Y kΓj

ik)∂

∂uj

である.Γkij を局所座標系 {U ; u1, . . . , un}における接続係数と呼ぶ.

{Γkij}は自由であるから接続の方法は幾らでもある.そこで,曲面にあっ

た接続 {Γkij}を唯一つ決める必要があるがその前に,{Γk

ij}の座標変換のときの関係式を調べよう.

∇XY は各点でベクトルであるから,座標変換でしかるべき変換公式を満

たさなければならない.それを調べよう.

局所座標系 (U ;xi) の接続係数を Γkij , 局所座標系 (V ; yp) の接続係数を

Γkij とする.

U ∩ V において∂

∂xi=

∂yp

∂xi

∂yp

である.

∇ ∂

∂xi

∂xj= ∇ ∂yp

∂xi∂

∂yp

∂yq

∂xj

∂yq

=∂yp

∂xi(∇ ∂

∂yp

∂yq

∂xj

∂yq)

=∂2yq

∂xj∂xi

∂yq+

∂yp

∂xi

∂yq

∂xjΓr

pq

∂yr

添字をそろえて

= (∂2yr

∂xj∂xi+

∂yp

∂xi

∂yq

∂xjΓr

pq)∂

∂yr

一方

∇ ∂

∂xi

∂xj= Γk

ij

∂xk

=∂yr

∂xkΓk

ij

∂yr

したがって,Γkij と Γr

pq の関係式は∂yr

∂xkΓk

ij =∂2yr

∂xj∂xi+

∂yp

∂xi

∂yq

∂xjΓr

pq · · · (])であることが分かる.

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(])から分かるように,共変微分

∇ : X(M) × X(M) −→ X(M); (X,Y ) 7→ ∇XY

はテンソル場ではない.それは性質2である

2. ∇X(fY ) = X(f)Y + h∇XY

より分かる.しかし性質

4. ∇fXY = f∇XY

より分かるように,Y を固定した

X(M) −→ X(M);X 7→ ∇XY

は (1, 1)型のテンソルで,このテンソルを ∇Y と表す.

多様体に局所座標系を与えれば,上記 (])を満たすように接続係数を自由

に定め共変微分を定義することができるが,多様体固有の接続がただ一つ定

まるとありがたい.それを考える.

共変微分は R3における曲面 S 上の共変微分である (dXY )T により∇XY

を定義した.(dXY )の性質を調べよう.

曲面 S が

f = (f1(u1, u2)f2(u1, u2), f3(u1, u2))

のとき

d ∂

∂ui

∂uj= (

∂2f1

∂ui∂uj,

∂2f2

∂ui∂uj,

∂2f3

∂ui∂uj)

であり,∂2fk

∂ui∂uj=

∂2fk

∂uj∂ui

であるから

∇ ∂

∂ui

∂uj= ∇ ∂

∂uj

∂ui

ここで

∇ ∂

∂ui

∂uj= Γk

ij

∇ ∂

∂ui

∂uj= Γk

ji

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であるから,任意の 1 5 i, j, k 5 nで

Γkij = Γk

ji · · · ([)が成り立つ.([)を満たす接続を対称接続または捩れ0の接続という.

もう一つはすでにのべたべた

(B) 曲面 S 上の内積を < ·, · >とするとベクトル場 X,Y, Z に対して

∇X < Y,Z >=< ∇XY,Z > + < Y,∇XZ > · · · (\)が成り立つ.

である.(\)を満たす接続を計量 < ·, · >を保つ接続という.

リーマン多様体 (M, g)に固有の接続がただ一つ決まることは次の定理で

ある.

定理 (リーマン幾何の基本定理)

リーマン多様体 (M, g)上に対称な距離を保つ接続はただ一つ存在する.

リーマン幾何の基本定理の証明の前に,対称テンソルすなわち

Γkij = Γk

ji

を局所座標を用いないテンソル場で表そう.

ちなみにできるだけ局所座標を用いないでテンソル場で条件を表すのが

リーマン幾何の基本的考えです.リーマン幾何の理解にはテンソルの知識が

必要であることが納得できると思う.なお,リーマン幾何で特に用いるテン

ソル場は,計量テンソル場,これからでてくる捩率テンソル場および曲率テ

ンソル場である.

ここテンソルの復習をしておこう.詳しくはしかるべき書を読むとして,

概略だけ説明する.

2つの実数体上のベクトル空間 V,W が与えられたとき,v ∈ V, w ∈ W

に対して,v, w の積 v ⊗ w を次の2条件

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1. (v1 + v2) ⊗ w = v1 ⊗ w + v2 ⊗ w, (av) ⊗ x = a(v ⊗ w)

2. v ⊗ (w1 + w2) = v ⊗ w1 + v ⊗ w2, v) ⊗ (aw) = a(v ⊗ w)

ただし,v, v1, v2 ∈ V, w, w1, w2 ∈ W,a ∈ Rを満たすように定めたものです.

ここで,集合 {v ⊗ w|v ∈ V, w ∈ W}ではベクトル空間にならないので,v ⊗w, v ∈ V, w ∈ W の生成したベクトル空間を V,W のテンソル積といい

V ⊗ W と表す.

この定義では,いろいろなテンソルの定義ができそうです.しかし

どうのように定義しても互いに同型になる

が証明されます.これをテンソル積の普遍性といいます.テンソルを学ぶ

と最初にこの普遍性の定理の証明があり,躓きそうになりますがとても大事

であることが分かります.

テンソル積はどのように定義しても同型であるから一つ作ればよくそれ

は, 双線型写像

V ∗ × W ∗ −→ Rを全体であり L(V ∗,W ∗; R)と表す.すなわち

V ⊗ W ∼= L(V ∗, W ∗; R)

である.

もう一つテンソルで学ばなければならないことがあります.それはベクト

ル空間の基底を用いた定義です.

この説明のためにまず,ベクトルの基底よる定義を復習しましょう.

ベクトル空間は抽象的な概念で,基底を用いて初めてベクトル空間 V の

要素が扱えます.すなわち,基底 {ei}を用いてV 3 v = viei

より成分表示 v = (v1, . . . , vn)となります.

逆に,ベクトル空間 V の要素は基底を与えたとき,定まる n個の実数の

組で,基底の変換で次の条件を満たす.

基底 {ei}のとき定める n個の実数の組 {vi},および基底 {ei}のとき決

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まる n個の実数の組 vi が基底の関係が

ei = ajiej

のとき,

vi = aij v

j

を満たす.

この条件を満たすとき,V の要素が矛盾なく定義できる.実際

viei = aij v

jei = vj ej

これが基底に基づいたベクトルの定義です.

ベクトルをこのように学んでいれば,添字が複数や多数の場合も考えるの

が自然であり

ベクトル空間 V の基底 {ei}を定めるとき n2個の実数が決まりそれを vij

とする.また別の基底 {f1, . . . , fn}を定めると n2 個の実数は wij である.

2つの基底 {e1, . . . , en}, {f1, . . . , fn}の関係がfi = eja

ji

のとき {vij}, {wpq}がai

pajqw

pq = vij

を満たすとき {vij}を V 上の2階の反変テンソルまたは V 上の (2, 0)型

のテンソルといいます.

これがテンソルの基本です.添字が3つ以上も当然考えます.もう一つ注

意することは,ベクトル空間 V に対してその双対空間 V ∗ をあるのでテン

ソルの定義は次のようになる.

(2, 3)型のテンソルで説明する.

V 上の (2, 3)型のテンソル(2階反変,3階共変テンソル)とは V の基底

を {ei}を定めれば決まる n5 個の実数 {T ijklm}で V の別の基底 {fi} で表し

たとき {T pqrst}とする.このとき,2つの基底間に

fi = ejaji の関係がある時

aipa

jqT

pqrst = ak

ralsa

mt T ij

klm

を満たすものである.

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話を戻しましょう.対称性を示すテンソル場を定義します.

定義 (捩率テンソル)

∇を多様体M の接続とする.写像

T : X(M) × X(M) −→ X(M); (X,Y ) 7→ T (X,Y )

T (X,Y ) = ∇XY −∇Y X − [X,Y ]

で定義する.この T を捩率テンソル場という.

まず.T がテンソル場であることを示そう.

T (X,Y ) = −T (Y,X)

であるから,

T (X1 + X2, Y ) = T (X1, Y ) + T (X2, Y ) · · · (1)

および  f ∈ C∞(M)に対して

T (fX, Y ) = fT (X,Y ) · · · (2)

を示せばよい.

(1)は容易であるので,(2)を証明する.

[fX, Y ] = f [X,Y ] − (Y f)X · · · (∗)に注意する.

T (fX, Y ) = ∇fXY −∇Y (fX) − [fX, Y ]

= f∇XY − Y (f)X − f∇Y X − f [X,Y ] + Y (f)X

= fT (X,Y )

注意

任意の X,Y ∈ X(M)に対して

T1(X,Y ) = ∇XY −∇Y X

で定まる T1 はテンソル場でない.実際

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T1(fX, Y ) = f∇XY − (Y f)X −∇Y X

である.また [X,Y ] はベクトルであるが上記 (∗) より分かるように [·, ·]はテンソル場でない.

次に,M の局所座標系 (U, xi)で捩率テンソルを表そう.

T (∂

∂xi,

∂xj) = ∇ ∂

∂xi

∂xj−∇ ∂

∂xj

∂xi

= (Γkij − Γk

ji)∂

∂xk

したがって,捩率テンソル T の成分表示は

T = T kijdxi ⊗ dxj ⊗ ∂

∂xk

である.この成分表示より次のことが分かる.

T ≡ 0 ⇔ 接続 ∇は対称接続準備が整いました.リーマン幾何の基本定理の証明をする.

証明

< ∇XY,Z >を内積および交換子積 [·, ·]で表す.それは次のようにすればよい.

X < Y,Z >=< ∇XY,Z > + < Y,∇XZ >

Y < Z,X >=< ∇Y Z,X > + < Z,∇Y X >

−Z < X,Y >= − < ∇ZX,Y > − < X,∇ZY >

辺々加えて捩率テンソルが 0より

2 < ∇XY,Z >= X < Y,Z > +Y < Z,X > −Z < X,Y >

+ < [X,Y ], Z > − < [Y,Z], X >

+ < Z,X, Y > · · · (])を得る.X,Y, Z は任意であるから,∇XY はただ一つに決まる.

(])で定義した ∇XY が接続の条件を満たすことを示せばよい.

f ∈ C∞(M)のとき

2 < ∇fXY,Z >を計算する.

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[fX, Y ] = f [X,Y ] − Y (f)X, [Z, fX] = Z(f)X − f [Z,X]

に注意すれば

2 < ∇fXY,Z >

= fX < Y,Z > +Y < Z, fX > −Z < fX, Y > − < [fX, Y ], Z >

−f < [Y,Z], X > + < [Z, fX], Y >

= f(X < Y,Z > +Y < Z,X > −Z < X,Y > − < [X,Y ], Z > − <

[Y,Z], X > + < [Z,X], Y >)

= 2 < f∇XY,Z >

他も同様に示すことができるので接続である.したがって,リーマン多様

体に対称な距離を保つ接続がただ一つ存在することが証明された.

リーマン多様体 (M, g)の対称な距離を保つただ一つの接続すなわち上記

(])で定まる接続をリーマン接続または Levi-Civita接続と呼ぶ.

なお (])から分かるように,リーマン接続はリーマン計量 gだけで決まる.

次に,距離を保つ接続の条件である

∇X < Y,Z >=< ∇XY,Z > + < Y,∇XZ >

をテンソルの言葉で書き直そう.そのためにはテンソル場の共変微分が必

要なので,その復習から始める.

すでに,ベクトル場に対する共変微分は説明したが,テンソル場に対する

共変微分も定義される.

多様体M 上のなめらかなベクトル場全体を X(M), 1次の微分形式全体

(一階共変ベクトル場) を A(M)で表す.また C(R)でテンソル Rの縮約を

表す.本来は反変成分の t 番目と共変成分の t 番目の縮約なら Cts(R) のよ

うに表すべきであるが,ここでは混乱がないので,C(R)とする.

Y ∈ X(M), α ∈ A(M)

のとき,自然な演算 α(Y )は

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α(Y ) = C(α ⊗ Y )

であることに注意する.∀Y ∈ X(M)に対して

∇X(α(Y )) = C((∇Xα) ⊗ Y + α ⊗ (∇XY )) · · · (])が自然であろう.

(])を書き直すと

∇XC(α ⊗ Y ) = C(∇X(α ⊗ Y )) = C((∇Xα) ⊗ Y + α ⊗ (∇XY ))

となる.

この例より,テンソル場に対する共変微分の次の定義が自然であることが

分かる.

定義 (テンソル場の共変微分)

多様体M 上のテンソル場に対する共変微分 ∇X は次の条件を満たす.

1. テンソル場 R が (r, s)型なら ∇XR は (r, s)型である.すなわち ∇X

はテンソルの型を変えない.

2. ∇X はテンソル積に対してライプニッツの法則を満たす.すなわち,

R,S がテンソル場のとき

∇X(R ⊗ S) = (∇XR) ⊗ S + R ⊗ (∇XS)

が成り立つ.

3. ∇X は縮約と交換可能である.すなわち

∇XC(R) = C(∇XR)

成り立つ.

ここで,たとえば R が (2, 2) 型テンソルのとき X,Y ∈ X(M), α, β ∈A(M)に対して

R(X,Y, α, β) = C(R ⊗ X ⊗ Y ⊗ α ⊗ β)

であることに注意する.

テンソル場の共変微分を計算しよう.

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リーマン多様体 (M, g)の局所座標系 (U ; xi)で考える.

まず1次の微分形式(1階共変ベクトル場)の共変微分を計算する.

∇X(α(Y )) = (∇Xα)(Y ) + α(∇XY )

であるから

α = αidxi ∈ A(M)のとき

(∇ ∂

∂xiα)(

∂xj)

=∂α( ∂

∂xj )∂xi

− α(∇ ∂

∂xi

∂xj)

=∂αj

∂xi− αkΓk

ij

したがって

∇ ∂∂xi

α = (∂αj

∂xi− αkΓk

ij)dxj

である.

さらに,X = Xi ∂

∂xiと置けば

∇Xα = Xi∇ ∂

∂xiα

= Xi(∂αj

∂xi− αkΓk

ij)dxj

であり,特に

∇ ∂

∂xidxk = −Γk

ijdxj

である.

反変ベクトル場,共変ベクトル場の共変微分の大事な公式であるのでまと

めておくと∇ ∂

∂xi

∂xj= Γk

ij

∂xk

∇ ∂

∂xidxj = −Γj

ikdxk

である.なお Γkij の i, j の順番は書物によって異なるのに注意.ただし多

くは対称接続を扱うので大きな問題はない.

次に一般のテンソル場の共変微分の成分表示を計算する.

ここでは (2, 2)型のテンソル Rで計算する.

∇X(R(Y,Z, α, β))

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= ∇X(C(R ⊗ Y ⊗ Z ⊗ α ⊗ β))

= C((∇XR) ⊗ Y ⊗ Z ⊗ α ⊗ β + R ⊗∇XY ⊗ Z ⊗ α ⊗ β

+R ⊗ Y ⊗∇XZ ⊗ α ⊗ β + R ⊗ Y ⊗ Z ⊗∇Xα ⊗ β

+R ⊗ Y ⊗ Z ⊗ α ⊗∇Xβ)

= (∇XR)(Y,Z, α, β) + R(∇XY,Z, α, β) + R(Y,∇XZ,α, β)

+R(Y,Z,∇Xα, β) + R(Y,Z, α,∇Xβ)

である.これが,テンソル場の共変微分の基本となる式である.

R = Rijkl

∂xi⊗ ∂

∂xj⊗ dxk ⊗ dxl

とする.

∇ ∂∂xt

R = (∇ ∂∂xt

R)ijkl

∂xi⊗ ∂

∂xj⊗ dxk ⊗ dxl

ここで

(∇ ∂∂xt

R)ijkl

= (∇ ∂∂xt

R)(dxi, dxj ,∂

∂xk,

∂xl)

=∂Rij

kl

∂xt− R(∇ ∂

∂xtdxi, dxj ,

∂xk,

∂xl) − R(dxi,∇ ∂

∂xtdxj ,

∂xk,

∂xl) −

R(dxi, dxj ,∇ ∂∂xt

∂xk,

∂xl) − R(dxi, dxj ,

∂xk,∇ ∂

∂xt

∂xl)

=∂Rij

kl

∂xt+ Γi

tsRsjkl + Γj

tsRiskl − Γs

tkRijsl − Γs

tlRijks

ここで,∇XRにおいて f ∈ C∞(M)に対して

∇fXR = f∇XR

を満たすから X はテンソル場の性質を持つ.したがって ∇Rを

∇R : A(M) × A(M) × X(M) × X(M) × X(M) −→ R;

(X,Y, Z, α, β) 7→ ∇X(Y,Z, α, β)

で定義すると (2, 3)型のテンソルである.

通常,テンソル∇Rをテンソル Rの共変微分といい,∇XR を RのX 方

向の共変微分商または共変微分係数という.

∇Rを成分表示すると

∇R =∂Rij

kl

∂xt+ Γi

tsRsjkl + Γj

tsRiskl − Γs

tkRijsl − Γs

tlRijks)

∂xi⊗ ∂

∂xj⊗ dxk ⊗

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dxl ⊗ dxt

である.

準備が整いました.ここで距離を保つ接続である

∇X < Y,Z >=< ∇XY,Z > + < Y,∇XZ >

をテンソルの言葉で書き直そう.

ここで内積 < ·, · >は計量テンソル g を用いて

< Y,Z >= g(Y,Z)

と表記するものである.

接続が距離を保つは

∇X(g(Y,Z)) = g(∇XY,Z) + g(),∇XZ)

となる.

左辺は

(∇Xg)(Y,Z) + g(∇XY,Z) + g(Y,∇XZ)

である.したがって,

接続∇が距離 g を保つ 

⇐⇒∀X,Y, Z ∈ X(M)に対して  (∇Xg)(Y,Z) = 0

⇐⇒ ∇g ≡ 0

となる.

以上の議論の上でリーマンの基本定理を書き直すと次のようになる.ちな

みにこれが標準的な表し方です.

定理 (リーマン幾何の基本定理)

リーマン多様体 (M, g)上に

T ≡ 0,∇g ≡ 0

をみたす接続∇はただ一つ存在する.

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内容が前後するが,最後に多様体上の計量テンソル場を説明し,この章を

終わりにする.

まずベクトル空間 V 上の内積を定義する.

定義(ベクトル空間の内積)

n次元ベクトル空間 V 上の内積 < ·, · >とは次の2条件を満たす R上双線型写像

< ·, · >: V × V −→ Rである.

(1)  対称性を持つ.すなわち

< u, v >=< v, u >, ∀u, v ∈ V

(2) 正値である.すなわち

< u, u >= 0, ∀u ∈ V .等号が成り立つのは u = 0のときに限る.

内積 < ·, · > を指定したベクトル空間 V をユークリッド空間という.内

積が定義できればシュミットの直交化より正規直交基底が作ることができ,

Rn と同一視することができるからである.当然ユークリッド空間では,角

や長さが求められられる.

ベクトル空間に内積を定義するとは,ベクトル空間 V 上の2階共変正値

対称テンソル g

g(u, v) =< u, v >,∀ u, v ∈ V

を定義することである.

定義(計量テンソル場)

M を微分多様体とする.g がM 上の滑らかな 2階共変正値対称テンソル

場であるとき,すなわちM の各点 P で g(P )が TP (M)の 2階共変正値対

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称テンソルのとき,g をM 上のリーマン計量または基本テンソル場という.

リーマン計量が指定された多様体M をリーマン多様体といい,(M, g)また

は簡単にM で表す.

微分多様体M の許容座標系 (U ; xi)を用いて g を表すと

g|U = gijdxi ⊗ dxj

となる.ここで,

gij = g

(∂

∂xi,

∂xj

)∈ C∞(U)

であり,対称性より gij = gji が成り立つ.

なお,

g = gijdxidxj

のように dxi と dxj の積の表示をすることがあるが,それは対称化作用

素による

dxidxj =12(dxi ⊗ dxj + dxj ⊗ dxi)

のことで,gij = gji であるから dxi ⊗ dxj を dxidxj とおきかえても問題

はない.

多様体 U の許容座標系 (U ; xi) におけるリーマン計量は自由に定義する

ことができる.実際,U 上の m2 個の関数 gij ∈ C∞ が gij = gji かつ行列

(gij)が各点で正値であればよい.しかし,M 全体でリーマン計量の条件を

満たす2階共変正値対称テンソル場が存在するかどうかを明らかではない.

例えば,ベクトル場でいえば,球面全体で 0でないベクトル場は存在しない.

次の定理は微分多様体上に必ずリーマン計量が存在することを保証して

いる.

定理

M が第2可算公理を満たす微分多様体なら,M 上のリーマン計量が必ず

存在する.

証明

証明の方針は,有限交差性を持つ許容座標系上にリーマン計量を作り,そ

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れを単位の分割でつなげるという方法である.

M は第2可算公理を満たすから,M の有限交差性を持つ局所座標系の被

覆を (Uα, xiα) とする.また,単位分割定理より,次の条件を満たす関数族

{fα}が存在する.(1) fα ∈ C∞(M)

(2) supp(fα) ⊂ Uα

(3) 0 5 fα 5 1

(4)∑α

fα = 1

一方,各局所近傍 Uα 上のリーマン計量を一つ取る.ここでは一番簡単な

gα =m∑

i=1

dxiα ⊗ dxi

α

を取り,局所座標近傍 Uα で対称2階共変テンソル場 gα を

gα(P ) =

fα(P )g(α)(P ) (P ∈ Uα)

0 (P 6∈ Uα)で定義すれば

suppfα ⊂ Uα

であり,Uα は有限交差性を持つからM 全体で定義された

g =∑α

が求めるリーマン計量である.

証明から分かるように,M 上にはいろいろな計量テンソル場が定義でき

そうである.実際,局所座標系上,2次正値リーマン計量をつくり,単位の

分割で継ぎ合わせればよい.しかし,実際はそうではなく,M の位相の制

約を受ける.例えば半径1の球面 S2 上の各点でガウス曲率 K が K ≡ 0と

なるリーマン計量は存在しない.なぜなら∫S2

KdV = 0

となるがこの積分の値はガウスーボンネの定理より 4πであるからである.

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以上がリーマン幾何の土台です.歴史的な背景をつかんだ方が理解しや

すいと思いまとめなおしてみました.後は次の章の曲率テンソルを学べば,

リーマン幾何の土台は一通り学んだことになります.これからの学習の役に

立つことを期待しています.

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