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1 東京理科大学 I 部化学研究部 2015 年度春輪講書 ゼオライトとキトサンを用いた 金属イオン除去剤の作製と評価 月曜班 Hoshika,S(2K), Masuda,R(2K), Nishimaki,K(2OK), Yamazaki,R(2K) Sunada,M(2OK), Tatekawa,R(2K), Fukushima,Y(2K) 1. 背景 1.1. 動機 現代における人間の活動の多様化による自然環境の悪化は,懸念されるべき問題の 一つである.その中でも水質汚染は,生物にとって水が極めて重要であることを鑑み ると非常に身近かつ深刻な問題である.特に工場排水には生体にとって有毒な鉛,銅 などの重金属イオンが多く含まれており 1) 日本でも過去には水質汚染が公害問題を 引き起こした事は有名である. 現代の先進国においては法律や基準の整備が進み 2) ,工場排水の不適切な処理による 公害問題が新規に発生することは無くなったといえる.しかし,重金属による水質 汚染は先進国においてのみの問題ではなく,発展途上国における水質汚染も大きな 問題となっている 3) .そのような環境においては法整備が進むまでの対策が必要である と思われる.そこで,今年度の月曜班はゼオライトをベースとした金属イオン除去剤 を作製,評価することにした. 1.2. 目的および意義 本年度の月曜班の実験はゼオライトをキトサンによって化学修飾することによって, より良い金属イオン除去の性能を発揮させることを目標とする.この製作過程は特殊な 溶媒や環境を必要としないため,前項 1.1 で述べたような高度な技術を有さない場所 での利用が期待できる.また,もう一つのテーマとして「バイオマス素材を原料とした 環境問題への対策に利用できる材料の開発」がある.キトサンはカニの甲羅から容易 に精製できるにも関わらず利用率があまり高くない 4) .そのような素材を含有させた 機能的な材料を作ることは廃棄材の有効活用に繋がるという点で有意義である. また,本実験では今までのゼオライトとキトサンを用いた実験にてあまり行われてい ないような金属イオンの除去性能について調査する.加えて,新しく架橋剤としてヒド ロキシ基との架橋が期待できるグリオキサールを使用することにより,別の架橋経路

ゼオライトとキトサンを用いた 金属イオン除去剤の …kaken/studies/2015/2015-s-all.pdf1 東京理科大学I 部化学研究部 2015 年度春輪講書 ゼオライトとキトサンを用いた

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1

東京理科大学 I部化学研究部 2015年度春輪講書

ゼオライトとキトサンを用いた

金属イオン除去剤の作製と評価 月曜班

HoshikaS(2K) MasudaR(2K) NishimakiK(2OK) YamazakiR(2K)

SunadaM(2OK) TatekawaR(2K) FukushimaY(2K)

1 背景

11 動機

現代における人間の活動の多様化による自然環境の悪化は懸念されるべき問題の

一つであるその中でも水質汚染は生物にとって水が極めて重要であることを鑑み

ると非常に身近かつ深刻な問題である特に工場排水には生体にとって有毒な鉛銅

などの重金属イオンが多く含まれており 1)日本でも過去には水質汚染が公害問題を

引き起こした事は有名である

現代の先進国においては法律や基準の整備が進み 2)工場排水の不適切な処理による

公害問題が新規に発生することは無くなったといえるしかし重金属による水質

汚染は先進国においてのみの問題ではなく発展途上国における水質汚染も大きな

問題となっている 3)そのような環境においては法整備が進むまでの対策が必要である

と思われるそこで今年度の月曜班はゼオライトをベースとした金属イオン除去剤

を作製評価することにした

12 目的および意義

本年度の月曜班の実験はゼオライトをキトサンによって化学修飾することによって

より良い金属イオン除去の性能を発揮させることを目標とするこの製作過程は特殊な

溶媒や環境を必要としないため前項 11で述べたような高度な技術を有さない場所

での利用が期待できるまたもう一つのテーマとして「バイオマス素材を原料とした

環境問題への対策に利用できる材料の開発」があるキトサンはカニの甲羅から容易

に精製できるにも関わらず利用率があまり高くない 4)そのような素材を含有させた

機能的な材料を作ることは廃棄材の有効活用に繋がるという点で有意義である

また本実験では今までのゼオライトとキトサンを用いた実験にてあまり行われてい

ないような金属イオンの除去性能について調査する加えて新しく架橋剤としてヒド

ロキシ基との架橋が期待できるグリオキサールを使用することにより別の架橋経路

2

からより優れた金属イオン除去剤が開発されることも期待できる

2 原理

21 ゼオライト

ゼオライトはより一般的には沸石とも呼ばれる粘土鉱物の一種であるその構造

は規則的な管状細孔と空洞を伴う陰イオン性の骨格にアルカリまたはアルカリ土類

金属を含む含水アルミノケイ酸塩と呼ばれるものである現在日本では福島県や

島根県において天然ゼオライトが産出されておりほかにも種々の人工ゼオライトが

製造されている

その組成は一般に

(MIM

II12)m(AlmSinO2(m+n))xH2O (n≧m)

MI Li

+Na

+K

+etchellip M

IICa

2+M

2+gBa

2+etchellip

と表されMIMIIのような陽イオンがアルミノケイ酸塩骨格の負電荷を中和している

この結晶は直径 02~10 nmの細孔を伴う多孔質でありその細孔径よりも大きい分子

は侵入できないことから「分子ふるい」としての作用を有している

その他にもゼオライトの重要な作用の一つとしてイオン交換能が挙げられる上

に述べたようにゼオライトの骨格中ではアルミノケイ酸塩骨格内の負電荷を中和する

ために骨格内の Al原子近傍に陽イオンが配置されているこの陽イオンは比較的

自由に結晶細孔内を移動することが可能であるため液相中において可逆的にイオン

を交換することができるこのイオン交換作用は特に放射性セシウムや重金属に対し

て有利であるためゼオライトは放射性物質や重金属イオンの除去に広く用いられて

いる 5)

Fig1 ゼオライトの表面とその結晶構造 Fig2 アルミノケイ酸塩骨格

3

22 キレート化合物

一般にアンモニアのような分子や硫化物イオンなどの陰イオンはその非共有

電子対によって陽イオンと配位結合を作ることができるこれによって生じた物質

を錯体または金属錯体と呼ぶまた金属イオンと配位結合する分子やイオンを配位

子配位子を構成する原子の内金属イオンと結合する部位のことを配位原子と呼ぶ

金属錯体における配位数は様々であるがそれらの中で二座以上の配位子が金属

イオンを挟むような形で中心金属と配位原子を含む環状化合物を形成するケースが

あるこれをキレート化合物と呼びその名前はギリシャ語のrdquoChelerdquo(カニのはさみ

の意)に由来するキレートを形成する配位子をキレート試薬あるいはキレート剤と

呼ぶことがありその用途は金属イオンの確認や定量そして有害重金属の除去など

多岐に渡る 6)

23 キレート滴定

液相中の金属イオン濃度は金属指示薬とキレート剤を用い定量的に求めることが

できるこの滴定方法は金属イオンのキレート生成を利用したものである

まず定量したい金属イオンを含む溶液に対して金属イオンと有色化合物を作る

金属指示薬と呼ばれる配位子を加えるその次に溶液にキレート試薬と呼ばれる大

きな錯形成定数を有する配位子を加えるこのとき金属イオンとキレート試薬との錯

形成定数が金属指示薬との錯形成定数よりも大きければ金属イオンはキレート試薬

と優先的に錯体を生成することによって溶液の色調が変化するこの色調変化の観察

により金属イオンの濃度を定量的に求める手法がキレート滴定である

このときキレート試薬には EDTA(エチレンジアミン四酢酸)が用いられることが

多いこれは EDTAが金属と 6座配位錯体を形成する配位子であると同時に多くの

金属イオンとモル比 11で錯体を生成するからである 7)

24 カルボニル基とアミノ基の反応

カルボニル基とアミノ基の反応は次のようになるまずアルデヒドに対して

アミンが求核付加した後に窒素から酸素へのプロトン移動が起こりカルビノール

アミン中間体が生成されるそのあと酸触媒によるプロトン化によりヒドロキシ基

が優れた脱離基へ変わった後に窒素上の非共有電子対の押し込みによって分子内の水

が失われイミニウムイオン中間体を生成する最後にα炭素原子(官能基の隣の

炭素原子を指す)からプロトンが脱離して最終生成物となり酸触媒が再生される

この反応スキームに基づきアルデヒドと第一級アミンの脱水縮合から生成される

4

化合物の総称をドイツの化学者 HSchiff の名前をとってシッフ塩基と呼ぶ 8)

25 アセタール生成反応

アルデヒドは酸触媒の存在下において2当量のヒドロキシ基と可逆的に反応し

アセタールという生成物を与える水と同様にヒドロキシ基の求核性は然程強くない

ものの酸性条件においてはカルボニル基の反応性がプロトン化によって強められる

ため速やかに付加反応が進むことが知られているその反応機構は以下の通りで

ある

まず溶液の酸性によりカルボニル基が強く分極された後酸素の非共有電子対に

よる求核反応に対してカルボニル基が活性化されるそこからプロトンが脱離して

中性のヘミアセタールという四面体中間体を生じるこのヘミアセタールのヒドロキ

シ基がプロトン化されて良い脱離基となった後に脱水によってオキソニウムイオン

中間体が生成されるこの構造にもう1当量のヒドロキシ基が付加しプロトン化した

アセタールを与えた後プロトンが脱離することによって最終的な生成物である中性

のアセタールが与えられる 9)

Scheme 1 カルボニル基とアミノ基の反応

Scheme 2 アセタール生成反応

5

26 一律排水基準

水は人体に非常に近い資源の一つでありながら頻繁に環境汚染の矛先が向くもの

である放流する際に家庭用排水や工場排水が混入することにより金属イオンや有機

化合物が含まれてしまうことがありこれらが人体に取り込まれた場合には様々な

被害を引き起こすそのため日本では法務省および環境省が水環境の保全のため

排水内に含まれるあらゆる成分に関して濃度の基準を設けておりこれを「一律排水

基準」と呼ぶ以下に主な金属イオンに関する排水基準を示す 10)

Table1 金属イオンに関する一律排水基準

カドミウム 003

鉛 01

六価クロム 05

ヒ素 01

水銀 0005

セレン 01

銅 30

亜鉛 20

溶解性鉄 100

溶解性マンガン 100

クロム 20

3 実験準備

31 試薬

以下mp融点 bp沸点 M分子量である

キトサン(ChitosanLD5016gkg)

無色非結晶性粉末であり水に不溶キチンを濃アルカリ性溶液と加熱して得られ

る脱アセチル化物 11)

項目 濃度(mgL)

6

グルタルアルデヒド(Glutaraldehydemp-14 bp188 M10012

LD501100mgkg)

無色またはわずかに薄い黄色の液体で水アルコールアセトンに易溶特異な刺

激臭を持つ架橋剤として用いられる比較的不安定で加熱すると重合することが

ある殺菌消毒薬としても利用されている 12)

グリオキサール(Glyoxalmp15 bp504 M5804LD502000mgkg)

アセトアルデヒドの酸化やアセチレンの酸化によって得られる蒸気は緑色で

可燃性がある医薬品や香料の原料として広く用いられる他にも繊維処理剤として

も使用される 13)

製造和光純薬工業

硝酸銅(Copper Nitratemp1145 M18756LD50940mgkg)

酸化銅または炭酸銅を希硝酸に溶かした後に濃縮冷却することにより潮解性の三水

和物が得られる水エタノールなどに可溶真空中では 150~200 において

昇華する 14)

硝酸鉄(III)(Iron(III) Nitratemp472 M24186LD503250mgkg)

淡い紫色の単斜晶であり熱すると分解する水に易溶で水溶液は加水分解して

褐色となる顔料の原料や医薬品にも用いられる 15)

製造和光純薬工業

7

エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩

(Ethylenediamine-NNNrsquoNrsquo-tetraacetic acid disodium saltM37224

LD502000mgkg)

通称 EDTA-2NaといわれEDTAを水に溶けさせるためにナトリウム塩としたもので

ある EDTAと同じようにキレート滴定に用いることができる多くの金属イオ

ンと安定なキレート化合物を生成することが知られているキレート化合物の安定性

が高い上に選択性が低いために広く用いられている 16)

PAN指示薬(1-(2-pyridylazo)-2-naphthol indicatormp137 M24900)

1-(2-ピリジルアゾ)-2-ナフトールをメタノールに溶解させた溶液金属イオンを

キレート滴定する際の指示薬として用いられる1-(2-ピリジルアゾ)-2-ナフトール

自体は 2-アミノピリジンジアゾニウム塩と β-ナフトールの反応から得られる橙色

針状結晶である 17)

製造林純薬工業

エタノール(Ethanolmp-11415 bp783 M461LD506200mgkg)

工業的には発酵などから合成され特有の匂いと味のある無色の液体である

溶剤燃料不溶剤などとしても用いられる 18)

8

グリセリン(Glycerinemp20 bp290 M921LD5027200mgkg)

石鹸製造の際など工業的にも用いられている無色粘性で吸湿性をもつ液体である

水エタノールとあらゆる割合で混合することができる湿潤剤として皮膚薬にも

用いられる分析化学においては滴定用溶媒として使われることがある 19)

サリチル酸(Salicilic Acidmp159 bp211 M138LD50891mgkg)

多くの精油中にエステルとして存在する針状の結晶エタノールなどに易溶である

染料の中間体や防腐剤角質溶解剤などに含まれているおよそ 200 で分解して

フェノールとなる分析化学においては鉄イオンなどの呈色剤に用いられる 20)

製造和光純薬工業

塩酸(Hydrochloric AcidM3646LD50900mgkg)

代表的な強酸であり多くの金属と反応して塩酸塩を生じるが貴金属とはほとんど

反応しない刺激性がある工業的には染料や医薬品などに幅広く用いられて

いる 21)

製造和光純薬工業

水酸化ナトリウム(Sodium Hydroxidemp328bp1388M4000

LD50500mgkg)

常温で無色の斜方晶系の固体であり代表的な強塩基潮解性があり通常は水や

二酸化炭素を含んでいる事からmp3184 とする場合もある溶解に伴い発熱

する刺激性がある 22)

希硝酸(Dilute Nitric Acidmp-42 bp826 M6301LD50430mgkg)

無色の吸湿性液体光または熱で分解するため暗所に褐色ビン内で保管する必要が

ある多くの金属に対して酸化剤として働く刺激性がある 23)

天然ゼオライト

製造ゼオライト市場しまねお宝館

9

32 器具

マグネチックスターラー

吸引ビンなど吸引ろ過に用いる器具

恒温槽

pHメーター

ビュレット

メスフラスコ

4 実験操作

41 ゼオライトの洗浄

天然ゼオライトを使用する予定であるがこれには水を懸濁させるような粘土質が

付着していると思われる 3 M の塩酸に 1 日ほど浸けることによりこれを除去する

42 ゼオライトのキトサンによる化学修飾(架橋剤グルタルアルデヒド)

(1)キトサン 05 gを 50times10-3

M塩酸 500 mLに加えた後に天然ゼオライト 125 g

を加える

(2)均一な懸濁液になるまでスターラーで 250 rpmにおいて撹拌する

(3)懸濁液に 1 M水酸化ナトリウム水溶液 75 mLとグルタルアルデヒドを 02 g添加

してゼオライトをキトサンで修飾する

43 ゼオライトのキトサンによる化学修飾(架橋剤グリオキサール)

(1)キトサン 05 gを 50times10-3

M塩酸 500 mLに加え溶解させて天然ゼオライト

125 gを加える

(2)均一な懸濁液になるまでスターラーで 250 rpmにおいて撹拌する

(3)懸濁液にグリオキサール 01 gを添加して水温を 80 に保ち 1時間撹拌して架橋

を行う

(4)1 M 水酸化ナトリウム水溶液を 75 mL加えてゼオライトをキトサンで修飾する

44 修飾済みゼオライトの調製

(1)しばらく静置した後に吸引ろ過を行い固相水相の分離を行う

(2)得られた固相をイオン交換水で洗浄する

(3)1週間ほど乾燥剤と共に保管することにより自然乾燥させる

10

45 種々の含金属廃液の作成

(1)01 M硝酸に各金属イオン標準液を混合させ金属イオン含有量が 5 mgになるよう

に金属イオン含有水溶液を作成する

(2)硝酸と水酸化ナトリウム水溶液を用いて pHを操作しpHが 246の付近になる

ように調製する

46 修飾ゼオライトによる金属イオンの除去

(1)各金属イオンを含む試料溶液に作製した除去剤 50 gを投入しマグネチックスター

ラーで 250 rpm において 1時間撹拌する

(2)吸引ろ過を行い固相水相の分離を行う

<備考>

本実験では作製した除去剤の性能を比較するためにキトサン天然ゼオライト

および2種の修飾済みゼオライトについて金属イオン除去実験を行う予定である

5 評価

51 キレート滴定を用いた金属イオンの定量

511 銅イオンのキレート滴定

(1)試料溶液に酢酸-酢酸ナトリウム緩衝溶液を加えて pHが 25~60に保たれている

事を確認する

(2)エタノールを 50 mL加えた後にPAN指示薬を数滴滴下して溶液を発色させる

(3)001 M EDTA水溶液を滴下して滴定を行う

512 鉄イオンのキレート滴定

(1)試料溶液の pH を確認し酸性が強い場合は 35酢酸ナトリウム水溶液を酸性が

弱い場合は 1M 塩酸を加えて pHを 20~30に調節する

(2)1サリチル酸溶液を 8 mL添加して溶液を発色させる

(3)001 M EDTA水溶液を滴下して滴定を行う

6 実験結果に関する予測

金属イオン除去剤の作製によってゼオライト粒子を内包したキトサン粒状体が得ら

れると予測されるまたグルタルアルデヒドによってキトサンを架橋した除去剤と

比較してグリオキサールを用いた除去剤の方が金属イオンの除去性能が高くなるの

ではないかと期待できる

11

7 参考文献

1)姫路市編集『工場事業所の排水が下水道におよぼす影響』

URL httpwwwcityhimejilgjps90gesuidou_9253_9277html

最新取得日2015年 4月 15日

2)環境省編集 『水土壌地盤海洋環境の保全』 URL httpwwwenvgojpwatermizuhtml

最新取得日2015年 4月 15日

3)知足章宏著 『アジアの開発途上国における水質汚染問題と下水事業への民間参入

(Private Participation)の現況経験』立命館大学 立命館国際地域研究第 23号

2005年 3月発行 p153~156

4) 一般社団法人キチンキトサン学会 『キチンキトサンとは』

URL httpjscckenkyuukaijpspecialindexaspid=1930

最新取得年月日2015年 4月 15日

5) ゼオライト学会 URL httpwwwjaz-onlineorgindexhtml

最新取得年月日2015年 4月 16日

6) 萩中淳ほか著 『パートナー分析化学 I(改訂第 2版)』 南江堂 (2012) p97~98

7)『パートナー分析化学 I(改訂第 2版)』 p116

8) 児玉三明ほか訳 『マクマリー有機化学(中) 第 8版』 東京化学同人 (2013) p703~704

9)『マクマリー有機化学(中) 第 8版』p708~711

10)環境省編集 『環境省 一律排水基準』URL httpwwwenvgojpwaterimpurehaisuihtml

最新取得年月日2015年 4月 17日

11)『化学大辞典』大木道則ほか著 東京化学同人 (2005) p543

12)『化学大辞典』p651

13) 有機合成化学協会編集『有機化合物辞典』講談社 (2004) p248

14)『化学大辞典』p1121~1122

15)『化学大辞典』p1121

16)『化学大辞典』p269

17)『化学大辞典』p1928

18)『化学大辞典』p256~257

19)『化学大辞典』p638~639

20)『化学大辞典』p858~859

21)『化学大辞典』p332~333

22)『化学大辞典』p1172

23)『化学大辞典』p1118~1119

1

東京理科大学Ⅰ部化学研究部 2015年度春輪講書

ケイ酸を用いた無機接着剤 火曜班

Shoji Y (2OK) Arai S(2OK) Abe Y(2K) Takemura R(2K) Matsui T(2K)

1背景

私たちは日々生活している中で接着剤を使う機会が多くあるしかしその接着剤が

まわりに及ぼす影響について考えることは少ないそこで接着剤について調べてみたと

ころ接着剤は大きく分けて 2つのグループに分類できることが分かったまず一般的に

使われているボンドや瞬間接着剤のように有機化合物を主成分とした有機接着剤次に

あまり一般的ではないが金属やセラミックスの接着に用いられる無機化合物を主成分とし

た無機接着剤有機接着剤は簡単に接着することができるなど様々な長所を持つが有機

物の溶媒を用いるため工事現場などで感じる独特な臭いやシックハウス症候群の原因物

質を放出してしまうという短所を合わせ持つそれに比べ無機接着剤は接着方法が高

温で加熱しなければならないという点と有機接着剤よりも接着強度が低いという短所を持

つが耐熱性に優れ特有の臭いもなく溶媒に水を用いるため環境や人体に対する影響

も少ないという長所があるさらに無機接着剤の分野はあまり多くの研究が行われてお

らず発展の余地が残っているのではないかと感じた

2目的

無機接着剤は耐熱性などの長所がある反面強度と耐水性が低いという短所があるこ

の 2つの短所は接着剤として用いるためには重大な問題となるそこで本実験ではケイ

酸を主成分とした無機接着剤に何種類かの金属化合物などの添加物を加えることにより接

着強度と耐水性の改善を目的とする

3原理

31無機接着剤

無機質の接着材料としては一般にガラス系金属系の材料が使用されているがこれ

らの材料は気密性は優れているが接着時にそれぞれの融点や軟化点以上に加熱すること

が必要でありまた接着部分の耐熱性は接着時の温度を上まわることはないという欠点を

有しているこれに対していわゆる無機接着剤は気密性には劣るが低温での接着が可能

であり優れた耐熱性を有するという特徴を持っている無機接着剤は1)無機結合剤

2)硬化剤3)充填剤を主成分として構成される

2

市販されている接着剤の多くは使用の便を考えて一液性であるそのポットライフ(可

使期間)は 3か月から 1年必要とされるので室温で作用する硬化剤は使用できない

1)結合剤

結合剤自体の硬化剤が強い強度と接着力を持つ必要があり現在しようされている無機

結合剤のほとんどはアルカリ金属ケイ酸塩系リン酸塩系シリカゾル系のいずれかで

あり本実験でしようするのはアルカリ金属ケイ酸塩系結合剤である

アルカリ金属ケイ酸塩の水溶液は粘性のある液体であり分子式 M2OnSiO2で表わさ

れMの種類(LiNaKなど)および nの大小によって数多くの種類が生ずるまたア

ンモニウムケイ酸塩やグアニジンケイ酸もある一般には安価なケイ酸ナトリウム(水ガ

ラス)がよく使用される

アルカリ金属ケイ酸塩は水溶液中において種々の量のシリケートイオンモノマーポ

リシリケートイオンおよびコロイド状シリカイオンミセルからなっているこれらの形

態や分布は n 値や濃度に依存しn が大きくなるにつれてポリシリケートイオンミセル

が増加するケイ酸ナトリウムは n が4を越えると水の溶解度は極端に小さくなりn が

3 付近で接着力は最大となるケイ酸カリウムはケイ酸ナトリウムと同じような挙動を示

すがケイ酸リチウムは nが非常に大きくケイ酸分の多い水溶液が得られることが特徴で

ありシリカゾルに近い物性を示すしたがってアルカリ金属ケイ酸塩系結合剤につい

て一般的には耐水性は LigtKgtNa接着力はこの逆の順に良いといわれている

水溶液は強いアルカリ性を示し加熱によってシラノール間で脱水縮合反応を起こし

分子間にシロキサン結合を生じる固形物は融点(軟化点)までずっと非晶質である

2)硬化剤

結合剤は低温で乾燥しただけでは耐水性が不十分であり耐水性の向上のために硬化

剤が添加される硬化剤は耐水性には寄与するが接着力を低下させる場合もあるため

使用目的によっては添加しないこともある一液性の接着剤ではポットライフの要求から

室温で作用するものはあらかじめ添加できないので高温になってはじめて結合剤と反

応するものが選ばれる硬化剤については非常に多くの物質が特許等に提案されている

アルカリ金属ケイ酸塩用の硬化剤にはZnMgCa 等の酸化物水酸化物NaK

Ca等のケイ化物ケイフッ化物Alや Zn等のリン酸塩CaBaMg等のホウ酸塩等が

用いられる

酸化亜鉛による反応機構を LSDGlasserらは次のように示している

反応初期には ZnO粒子の表面で

ZnO + 1198672119874 + 119874119867minus rarr 119885119899(119874119867)42minus

の反応がおこりZn は液中に溶解しOH-が消費されるので pH が下がりケイ酸ゲルが

3

粒子表面に析出する以後はこのケイ酸ゲル層を通して OH-が粒子表面へ拡散しZnOと

反応して Zn(OH)2として固定されるためさらにケイ酸ゲルの析出が行われ酸化亜鉛表

面へ無定形シリカが沈積する

3)充填剤

充填剤としては結合剤との反応性の小さい耐火物粉末が使用される結合剤は加熱脱

水により大きな体積収縮を生じひび割れが発生するのでこれを防ぐため充填剤を添加し

て固体分率を高くするまた粒子間の空隙は水分蒸発の逃げ道となり発泡を防ぐ接着

剤の熱膨張を被着材へ合致させることも重要な役割である

さらに一液性の接着剤ではリン酸塩系におけるアルミナ粒のように室温では反応し

ないが温度を上げていくと結合剤と反応し硬化作用をして耐水性を付与することもある

その他耐火性接着強度熱伝導性電気特性耐薬品性耐摩耗性の向上に重要な

働きがある充填剤の種類に加え粒径粒径分布表面活性等に調整することが必要で

数種の充填剤を混合することが多い

4)核剤

核剤は力学特性成形性成形時の生産性の改良などを目的として種々の結晶性高分子

で利用されている特にポリプロピレンにおいては核剤を添加することにより剛性や耐火

性(熱変形温度)あるいは透明性など諸問題が大幅に改良され高機能化による用途拡大

や成形品の薄肉化軽量化が可能となりさらには短時間で結晶化が完了することから成

形時の生産性も大幅に短縮されコスト削減はもとより省資源省エネを影から支えてい

核剤には工業的な側面から主に力学特性を改善する「核剤」と特に透明性を改良する

効果が高い「透明化剤」とよばれるものがある核剤も透明化剤も高分子の結晶化過程

における基本的な作用機構は同じでありその本質はエピタキシーにあるつまり高分子

融体が結晶化する過程で高分子鎖が結晶化しやすいように「場」(核剤の表面)を提供す

るものである核剤はまた「造核剤」とよばれることもあるが核剤透明化剤とも物理

化学的には高分子に対し同じ作用をしているといえる溶媒中に溶解している溶質が種晶

の添加により析出が促進される現象を想像されたいまさに核剤は高分子融体中に添加

されこれが核となって高分子の結晶化が促進されるのである

4

Fig3-1 核剤の表面からの高分子結晶の成長

a)力学特性の改善

自動車や家電部品の樹脂化率は年々高まり特に自動車においては内外装問わずポリ

プロピレンが多用されるようになった当初はあまり重要でない部分への利用であったも

のの最近ではバンパーフェンダーライナーフロントグリルカウルパネル各種リ

ザーバータンクドアパネルピラーダッシュボードサンバイザーコンソールボッ

クスなどありとあらゆる部分に用途開発が進んでいる高分子材料による金属代替今後

もさらに進められると思われるその理由としては自動車の軽量化はもちろんのこと

設計の自由度(一体成形や金属ではデザインしにくい曲線曲面を複雑に有する部品など)

があげられる自動車部材では機能的に高剛性が求められるものや夏場に高温にさらさ

れる内装部品などは高耐熱性(高い熱変形温度)が求められるものなどがほとんどであり

このような要求性能に応えるべくポリプロピレンに核剤が添加されている

核剤が存在する場合高分子の結晶化が促進され融体の冷却過程においてより高い

温度(より融解温度に近い温度)から結晶化が開始するそのため核剤存在下での結晶化

過程では核剤非存在下での結晶化過程に比較して高分子鎖の運動性が高い状態で結晶

化が開始する核剤を添加した高分子の結晶化開始温度を示差走査熱量計などで測定する

と結晶化が高い温度から開始することも確認されるその結果高分子結晶の欠陥は減

少しまた結晶化度も増大する核剤存在下で結晶化させた高分子結晶は欠陥も少なく

またラメラ厚も厚くなり融解温度が高くなるそのような効果により成形後の高分子

材料の力学特性耐熱性が改善する

5

Fig3-2 核剤の添加のよるポリプロピレンの曲げ弾性率の改善効果

()アデカスタブ NA-11()Hyperform HPN-68 L

()安息香酸ナトリウムポリプロピレン

Fig4-2に核剤の添加によるポリプロピレンの曲げ弾性率の改善効果について示したま

ず核剤を添加することでしかも僅か 01~03 wt程度の添加で曲げ弾性率が劇的に向

上していることが分かるその中で比較すると汎用である安息香酸ナトリウムや HPN-68

Lでは弾性率の改善はあるものの(おおよそ 30の弾性率改善)01 wt程度の添加で改

善効果は飽和する添加物を加えることで剛性耐熱性を大幅に改善できることがわかる

このような改善効果は自動車用に多用されるポリプロピレンのグレードであるインパクト

コポリマーにおいても同様であるさらに核剤の添加により結晶化が促進された結果成

形時間も短縮でき高性能化と相まって生産性改善によるコストダウンも可能となる核

剤はもとのポリマーが有する特徴を損なうことなく物性を改善できるといったメリット

があるといえる

32 縮合重合反応

二つの化合物から水などの簡単な分子が脱離して新たな結合が形成される反応を縮合反

応とよぶカルボン酸とアルコールからエステルを得る反応は縮合反応の一例である

縮合反応を繰り返すことによりポリマーを合成することができるこれが脱水縮合反応

であるたとえば 2個のカルボキシ基をもつ分子と 2個のヒドロキシ基をもつ分子を反応

させると縮合反応が連続して起こりポリマーが得られる本実験では Fig3-3 の反応が

起こる

6

Fig3-3 ケイ酸の脱水縮合反応

33 接着の原理

接着剤による接着効果には複数の理論が挙げられており賛否両論あるものもあるま

た個々の接着現象においても複数の接着効果が絡み合っていることが多く接着効果の

検証は困難であるとされるある接着系では適用できる接着効果が別の系ではまったく無

力ということも多い以下に主な接着効果の理論をあげる

1) アンカー効果

雲母を注意深くはがしたようなごくわずかな例外を除きすべての固体表面は数Åオ

ーダーの粗さを有する例えば機械で製造される金属表面の粗さは 3~6 μmであり研

磨した場合でも 002~025 μmである

アンカー効果とはこのような被着材の凹部に流入した接着剤が固化し被着部に引っかか

ることにより界面が結合するというものであるアンカー効果のような界面との相互作

用を無視した接着効果理論を機械的結合論という

開口部を有するクレバスへの液体の流入について理論式が提案されている

以下の 2式は液体の粘度 η接触角θの液体が深さ Zまで浸透するまでの時間 tを表し

(a)開口部の幅がδの平行板の場合

Zdz

dt=

120575119910

120575120578120574 cos 120579

(b)開口部δ深さ Z0の V型溝の場合

11988501198971198991198850

1198850 minus 119885minus 119885 =

120575120574 cos 120579

6120583119905

となる式によれば開口部が大きくぬれがよく粘度の低い液体ほどまた時間をかけ

たほど深くまで侵入できるとされる

7

Fig3-4 アンカー効果

2)分子間相互作用

ふたつの物体の接着面で分子同士が接触するところで互いにひきつけあう力が働くこと

で接着するとするもの代表的なものにファンデルワールス力結合水素結合が存在す

3)化学的結合

界面に化学結合が存在することで接着強さに寄与するとするものである古くから提唱

されている説であるが化学結合の存在の証明が難しく接着系の界面に本当に化学結合

が存在するのかは十分に検証されなければならないとされる

4)表面自由エネルギーと表面張力

物質の内部と表面では性質が異なる内部の分子は周囲を分子に囲まれており分子間

力で互いに引き合うため安定化されるこれに対し表面の分子には周囲を囲む分子が内部

に比べて少なく内部分子と比べて不安定=エネルギーが高いということになるこの余

分のエネルギーを表面自由エネルギーと呼ぶ

表面積が小さいほど表面自由エネルギーは少なくなるため物質の表面では表面を

小さくしようとする力が働くこの力を表面張力と呼ぶ

5)ぬれと接着角

固体表面に液体が存在するとそれぞれの表面自由エネルギーとその間の界面自由エネ

ルギーとのバランスによって液体が広がり固体表面が液体表面に置き換えられるこの

現象がぬれである固体表面のぬれは材料表面の親水性疎水性や接着強度と直接関係

しているため接着の分野ではきわめて重要である固体表面に液滴を落とすと個体の

表面張力γS と液体の表面張力γL 固体と液体の界面張力γSL が釣り合うことによってあ

る角度θで平衡になるこのとき固体と液体空気の境界点 A における力の水平成分の

釣り合いから次式の Young-Dupreの式が得られる

120574119878 = 120574119878119871 + 120574119871 cos 120579

8

自然状態では表面張力により液体は球状になるこの式は固体表面上での液体を広げよ

うとする力と球状を保とうとする力のつりあいの式である

Fig3-4 固体表面上の水滴

また界面自由エネルギーγ12 で接着している二種類の物質を引き離し表面自由エネルギ

ーγ1γ2をもつ二つの物質に分けるのに必要な仕事(これを接着仕事という)Waとすると

119882119886 = 1205741 + 1205742 minus 12057412

であらわされるこれを Dupreの式と呼ぶ接着仕事とはふたつの物質を引き離すのに必

要な仕事であるからWaの値が高いほど接着強度が強いということになる

個体と液体との関係においてこれら二式をあわせると

119882119886 = 120574119871(1 + cos 120579)

を得るこれを Young-Dupre の式という液体の表面張力と接触角から接着材の接着強

度が分かるという式になっている

6)接着力低下因子と表面処理

接着は清浄な面と面の接触が前提である金属表面は清浄であれば 1000~3000 mNmの

表面張力があるはずであるが大気中では数十mNmの値をしめすこれは異物が付着した

り酸化されていたりするためである特に表面がもろい物質でおおわれていると剥離時に

もろい面での剥離が起こり見かけ上弱い接着強度となる事がある

このような金属表面の表面張力の低下を防ぎアンカー効果において適切な凹凸を金属表

面に付与し接着強度向上を図るために洗浄と研磨を行うのが望ましい

5実験方法

41使用する器具

100 mL ビーカーガラス棒ホールピペット安全ピペッターピンセットキムワイ

プ電気炉2 L ペットボトル紐アルミ角材(10 times 30 times 30 mm)サンドペーパー

はけ

9

42試薬の物性

ケイ酸ナトリウム a)

ケイ酸のナトリウム塩で種類が多いいわゆる水ガラスも多くの場合はケイ酸ナトリウム

であるがその組成は安定していない単一物質として得られているものだけでもメタ

ケイ酸ナトリウム Na2SiO3およびその種々の割合の水化物オルトケイ酸ナトリウム

Na4SiO4二ケイ酸ナトリウム Na2Si2O5四ケイ酸ナトリウム Na2SiO9 などがあるオ

ルトケイ酸ナトリウム Na4SiO4=18405二酸化ケイ素と水酸化ナトリウムを適当な条件

で融解すると得られる水溶液で両者を反応させたのではオルトケイ酸ナトリウムの結晶

は得られずにメタケイ酸ナトリウムの水化物になってしまう無色六方晶系の結晶酸

と加熱していると二酸化ケイ素が沈殿している

酸化マグネシウム b)(MgO)

式量 4030

融点 2852

沸点 3600

一般にアンモニウム塩水溶液に溶けるがエタノールに不溶空気中で水と二酸化炭素を

吸収し炭酸水酸化マグネシウムに変化する水と反応して水酸化マグネシウムとなる耐

火レンガマグネシアセメントの製造原料医薬品として制酸剤の原料となるほか触媒

または吸着材ゴム工業にも用いられる

酸化亜鉛 c)(ZnO)

式量 8138

密度 547 gcm3

無定形の白色粉末水にはほとんど溶解しないが両性酸化物で希酸や水酸化アルカリ

水溶液アンモニア水に溶解する空気中で湿気と二酸化炭素を吸収する白色顔料とし

てペイント絵の具などに用いられるほか粒子の細かいものは医薬品化粧品として用

いられる

酸化カルシウム d)(CaO)

式量 5608

融点 2572

沸点 2850

密度 340 gcm3

10

酸に可溶空気中の湿気を吸収して水酸化カルシウムとなりまた空気中の二酸化炭素を

吸収して炭酸カルシウムとなる水と反応して水酸化カルシウムとなるしっくいモル

タルなどの建築材料石膏さらし粉消石灰の原料医療用に用いられる医療用に用

いられる酸性土壌改良にも用いられる

炭酸カルシウム e)(CaCO3)

式量 10009

融点 1339

二酸化炭素を含む水には炭酸水素カルシウムとして溶解する酸には二酸化炭素を発生し

て容易に溶ける加熱すると二酸化炭素と酸化カルシウムに解離する

二酸化ケイ素 f)(SiO2)

式量 6009

低温ではフッ素フッ素酸水素酸だけが反応する高温では他のハロゲン元素とも反応す

る水酸化アルカリ炭酸アルカリと融解すると水溶性のアルカリケイ素酸塩となる

43実験操作

431被接着面の均一化

1)10times30times30 mmのアルミ角材の表面をサンドペーパーで汚れがなくなるまで削る

2)削った表面をアセトンで洗浄する

3)洗浄が終わったアルミ角材の重量を測り記録する

432ケイ酸ナトリウムのみの接着剤の作製

1)100 mL ビーカーにケイ酸ナトリウム 50 g を加え粘り気が残るぐらいまでイオン交換

水を加えガラス棒で撹拌する

2)アルミ角材の 10times30 mm の面にはけを用いてケイ酸ナトリウム溶液を均一になるよう

に塗りアルミ角材を重ね合わせる

3)150にセットした電気炉に接着面がずれないように慎重に置き 1時間焼成する

433添加物を加えた接着剤の作製

1)100 mLビーカーにケイ酸ナトリウム 50 g添加物(酸化マグネシウウム酸化亜鉛

酸化カルシウム炭酸カルシウム二酸化ケイ素)を 010 gから 010 gずつ 20 gまで加

え粘り気が残るぐらいまでイオン交換水を加えガラス棒で撹拌する

2)アルミ角材の 10times30 mm の面にはけを用いてケイ酸ナトリウム溶液を均一になるよう

に塗りアルミ角材を重ね合わせる

3)150 にセットした電気炉に接着面がずれないように慎重に置き 1時間焼成する

11

5評価方法

51接着強度の評価

1)432433で接着したアルミ板にひもとペットボトルを用いて Fig5-1のように設置す

アルミ角材

Fig5-1 接着面の破壊

2)ペットボトルに少しずつ水を加え接着面が完全に離れた時点を破壊終了点とする

3)破壊終了点でのペットボトルに入っている水の重量を計測する

52耐水性の評価

1)接着したアルミ角材に水をかけ接着面の変化を観察する

6予想

添加物を加えることで接着強度の増加が期待されるしかし大量に添加物を加えてし

まうとケイ酸の割合が小さくなり接着強度は減少してしまうと考えられ添加物の量と接

着強度の関係性をグラフ化するとある値までは増加しその値を超えると減少していくグ

ラフが得られると考えるそこから最も接着強度が高まる添加物の量を測定する

また添加物が硬化剤の役割をし耐水性の改善も予想される

参考文献

1)日本接着学会『接着剤データブック第 2版』日刊工業新聞社1990P228~229

2) 三刀基郷『トコトンやさしい接着の本』日刊工業新聞社2003P56~67

3) セメダイン(株)『よくわかる接着技術』日本実業出版社2008P34~37

PET

Crash

12

4) ユージン Gロコー『ケイ素とシリコーン』シュプリンガーフェアラーク東京株式

会社1990 P85~113

5) 大木道則大沢利昭田中元治千原秀昭『化学大辞典』東京化学同人1989

b)P884 c)P865 d)P867 e)P1368 f)P1669

6)下井 守村田 磁『大学生のための基礎シリーズ 3 化学入門』東京化学同人2005

P229

7) 吉村壽次『化学辞典第 2版』森北出版2009a)P425

8)大勝 靖一『高分子添加剤の基礎化学と材料設計』株式会社 CMC出版2008P219~235

9)httpwwwfacekyowacojpsciencetheorywhat_contact_angleimg01jpg

2015416取得

1

東京理科大学Ⅰ部化学研究部 2015 年度春輪講書

シクロデキストリンを用いた

包接化合物の生成

水曜班

Ikemura M(2C)Ebihara K(2C) Kataoka T(2K)

ShibasakiK(2OK)TsumedaT(2C)NakaA(2OK)Murakoshi R(2OK)

OkawaT(2C)NoguchiA(2K)SekiguchiK(2K)HashimotoY(2C)

1 動機

6~8 分子のグルコース単位からなるα―14結合の環状オリゴ糖であるシクロデキストリ

ンはその環状構造に由来する包接化合物を生成する性質を示すその特異的な包接形成能

を利用した多くの製品が存在し現在もなお基礎研究分野応用研究分野での研究が行わ

れている

そこで私たちは 7 分子のグルコースからなるβ-シクロデキストリンと 3 種類のカルボン

酸を用いて包接化合物を形成させ酸の構造の違いによる包接作用の比較検討及びシクロ

デキストリンの一部のヒドロキシ基をエステル化させ水に対する溶解性及び包接形成能が

どのように変化するか考察する

2 原理

21 包接化合物

包接化合物は Schlenk によって名づけられたもので定義によると原子または分子が

結合してできた 3 次元構造の内部に適当な大きさの空孔があってその中に他の原子また

は分子が一定の組成比で入り込んで特定の結晶構造をつくっている物質ということにな

っている前者の骨組み構造の化合物のほうをホスト分子後者の入り込んでいる分子の

ほうをゲスト分子ともよんでいるがこのゲスト分子の大きさや形状はまったくホスト

構造によって規定されるだけで両者の間には弱い相互作用があっても水素結合のよう

な力はなくてもいっこうに構わないのであるこの包接化合物でのゲスト分子とホスト

構造との間の相互作用というのも物理的な吸着系に近いもので非常に弱い van der

Waals 力から高度に配向した双極子間力まで種々のものが存在する 1)

22 シクロデキストリンの包接能

シクロデキストリンはグルコース残基がα-1α-4 結合した環状のオリゴ糖で一般的

にグルコース残基が 6 個のα-シクロデキストリン7 個のβ-シクロデキストリン8個の

γ-シクロデキストリンが知られている

2

Fig1 α-シクロデキストリンの分子構造

シクロデキストリンの構造は底の抜けたバケツやドーナッツのような構造をしており

その環状構造の外側は多くの水酸基に由来する親水性領域が存在し内側の空洞の CH 基に

由来する疎水領域と相反する極性が一つの分子に共存しているがこの空洞内に様々な有

機化合物などを取り込むという包接作用がもっとも特徴的である

三種類のシクロデキストリンはそれぞれ空洞の大きさが相違するためそれぞれ包接化

合物を形成しやすいゲスト分子が存在する内部空洞が比較的小さいα-シクロデキストリ

ンは比較的小さい分子例えばエタノールメタノール等をβ-シクロデキストリンは汎

用性が広く各種ポリフェノールコレステロールメンソール等の香気成分芳香族化

合物等をよく包接するγ-シクロデキストリンは大きい分子である脂肪酸などを包接する

ことが知られている

シクロデキストリンの包接力の原動力は疎水性相互作用と分子間力が主なものとされて

いるつまりゲストは疎水性の高い分子あるいは分子の大きさが空洞にぴったりとフィッ

トするものほどシクロデキストリンがそのゲストを包接する力は大きく包接物を作り

やすい傾向がある逆に親水性が高くシクロデキストリンの空洞にフィットしないよう

なゲスト分子では包接現象は起こりにくいといえるしかしゲスト分子全体がシクロ

デキストリンの空洞内にとりこまれる必要はなく部分的にでも疎水性が高く空洞にフィ

ットすれば包接が可能となるつまりゲスト分子全体がシクロデキストリンより明ら

かに大きいものでも包接作用による効果が観察される場合がある 2)

Fig2 シクロデキストリンがゲストを包接する様子

23 水溶化シクロデキストリン

3

ブドウ糖やショ糖など通常糖質の水への溶解度は非常に高いしかし天然型シク

ロデキストリンは隣接する水酸基との水素結合の為3 種のシクロデキストリンの中では最

も高い水溶性を有するγ-シクロデキストリンであってもその溶解度は 25において水

100 mL に 23 g であり油性物質を包接した場合は一般的にその溶解度はさらに低くな

るそこで水への溶解度を改善するためにシクロデキストリン化学修飾体が製造されて

いるシクロデキストリンの水溶性を向上させる方法として隣接する水酸基をメチル基や

アセチル基などでエーテル化やエステル化する方法がある具体的には部分メチル化β-シ

クロデキストリンやモノアセチル化β-シクロデキストリンが工業的に生産されている

24 包接能の評価について

今回の実験ではゲスト分子としてカルボン酸を用いるシクロデキストリン及び水溶化

シクロデキストリンの包接能の評価については包接化合物に含まれているカルボン酸をア

ルカリで滴定することで求めることができる

3 実験

31 試薬sup3⁾

アジピン酸

分子式C6H10O4

分子量1464

mp153

bp3375 アジピン酸

クエン酸

分子式C6H8O7

分子量19213

mp156~157

クエン酸

シュウ酸

分子式C2H2O4

分子量9004

mp1895

シュウ酸

4

βシクロデキストリン

分子式(C6H10O5)7

分子量113500

n-ブタノール

分子式C4H10O

分子量7412 β-シクロデキストリン

bp1179

エタノール

分子式C2H6O n-ブタノール

分子量4607

mp-1145

bp7833

水酸化ナトリウム

組成式NaOH

分子量4000

mp328

bp1388

無水オクタン酸

分子式C₈H₃₀O₃

分子量27041

mp-1 無水オクタン酸⁶⁾

濃硫酸

分子式H₂SO₄

分子量9808

mp104

32 使用器具

300 mL ビーカーメスフラスコピペット三角フラスコ吸引漏斗吸引瓶ビュレッ

トスタンドボウルガラス棒

5

33 実験操作

331 エステル化シクロデキストリンの合成 ⁵⁾

1)三角フラスコにβ-シクロデキストリン 1 g を入れこれに無水オクタン酸 025 mL を加

える

2)触媒として 2-3 滴の濃硫酸を添加し攪拌する

3)約 10 分間放置してフラスコを氷桶に入れて冷やしガラス棒でフラスコの壁を強くこす

り結晶を析出させる

4)水 20 mL を加えさらに氷桶で冷やしながら残る結晶を析出させる

5)この結晶を濾分し水で洗ってから取り出して乾かして結晶を得る⁵⁾

332 包接化合物の形成

1)β-シクロデキストリン 1 g を水 100 mL に溶解させる

2)ピペットで 1 mL のカルボン酸を加えコルク栓をして静置する

3)1 週間程静置し包接化合物を吸引濾過する

4)上記の操作をカルボン酸(酢酸シュウ酸クエン酸)で行う

5)エステル化シクロデキストリンで同様の実験を行う

333 包接能の測定

1)よく乾燥した包接化合物約 1 g をメスフラスコで 100 mL 溶液とする

2)この溶液 20 mL にフェノールフタレインを指示薬として20 mL 加え 01 M 水酸化ナト

リウム標準溶液で滴定する⁴⁾

334 溶解度の測定

1)100 mL の水に 5 g の β-シクロデキストリンを溶解させる

2)沈殿をろ過し乾燥して重量を測定する

3)エステル化 β-シクロデキストリンで同様の作業を行う

参考文献

1) 竹本喜一包接化合物の化学東京化学同人1969p2

2) 辻堅司シクロデキストリンの応用技術株式会社シーエムシー出版2008p3-p9

3) 大木道則大沼利昭田中元治千原秀明化学大辞典東京化学同人1989

4) 発田寿々子教養の化学実験第 2 版学術図書出版社2014p119

5) 南篠正男先生と生徒のための化学実験共立出版株式会社1986p155

6) 「 chemical book 」〈 wwwchemicalbookcomchemicalProductPropert_JP_CB 〉

(2015418 アクセス)

1

東京理科大学Ⅰ部化学研究部 2015年度春輪講書

ダブルネットワークの合成と評価 木曜班

OnizukaM(2C)TanakaR(2C)YamamokaH(2K) OhiraM(2K)

1背景

現在高分子ゲルは紙おむつの高吸水性樹脂やソフトコンタクトレンズなど私たちの生

活において活躍しているしかし高分子ゲルは不均一な構造なため一般的に機械的強

度が弱いという欠点がある高分子ゲルの強度面での弱点を克服するために従来では

ゲルの構造を均一化して強度を上げるというアプローチがとられてきた

しかしながら材料の弾性とじん性は反相する因子として働くつまり大変形に耐え

られるゲルは弾性率を犠牲とし高弾性のゲルは小さい変形で破壊される

そこで私達木曜班は前述の問題の解決策と成り得るものとしてダブルネットワーク

ゲル(DNゲル)について注目した

2目的

既存に作られている DNゲルは溶媒に水を用いたハイドロゲルであるDNゲルはその

強度や柔軟性により生体内での人工関節に使用することが期待され研究がおこなわれて

いる木曜班では DNゲルを生体内の関節だけでなく機械の関節部の摩擦軽減材料として

の使用を提案するしかし従来の DNゲルは溶媒が水であることにより水の沸点である

100以上の条件下では性能の低下が問題視され高温になりうる機械への応用が困難で

ある

溶媒を水から有機溶媒に変更することで高温条件下でのゲルの機能維持を試みるとと

もに使用するモノマーを変更しその機能性を検討する

3原理

31 DNゲル

311ゲルの脆弱性

一般的なゲルはゼリーや豆腐のように僅かな力を加えただけで簡単に壊れるほど

弱いこの理由は 2つの現象により説明することができる

1)ゲルの内部に多数の欠陥が存在する

2)欠陥から発生した初期亀裂が容易に伝播する

前者はゲル内部の構造が不均一であることに由来するゲル合成時におけるモノマ

ーと架橋剤の反応性の違いにより不均一な重合がおこるあるいはゲル化溶液内の濃度

揺らぎが重合によって固定されることだと考えられている 1)こうしたゲルに力を加えた

2

時にゲルの弱い部分に力が集中してしまうため小さな力でも初期亀裂が生じてしまう

後者はゲル内部のポリマーの密度の低さから生じる一般的に物質内における亀裂

の進みやすさは破壊エネルギーU(Jm2)(単位面積あたりの破断面形成に費やされる仕事)

によって評価される架橋高分子材料の臨界破壊エネルギーUc(亀裂成長が起こる最小

の破壊エネルギー)は破断面の高分子鎖の数密度と架橋点間分子量に比例する 2)つま

りゲルのじん性(物質の破壊に対する抵抗の程度で粘り強さとも言い換えられる 3))はゲ

ル内のポリマーの密度には比例し架橋密度には反比例することがわかる

ゲルは 50~99wtの溶媒を含んでいて高分子の密度が非常に低い物質であるためゲ

ルの Ucはゴムなどの固体に比べてかなり小さいことが考えられる

これまでの高強度ゲル研究は主に前者の問題を解決するすなわち構造を均一化するこ

とでゲル内部の欠陥を極力減らして強度を改善しようという観点から行われてきた

312 ゲルの弾性率

高分子鎖が三次元架橋されたゲルはゴムと同じようにエントロピー弾性を持つ溶液

中に完全に湿潤した電気的に中性ゲルのせん断弾性率(横方向に対するバネ係数 4)であり

Young率 Eと E=3Gの関係式が成立する)は

GneucongkBT

b3Q-225

以上の式で表せられゲルの湿潤度 Qの増加にともないせん断弾性率Gneuは大きく低下

するここでkBはボルツマン定数Tは温度bは重合させたモノマーの大きさである 5)

一方溶液中に完全に湿潤した電解質ゲルのせん断弾性率は

GchacongkBT

b3Q-1

によって表せる 6)よって同じ湿潤度において電解質ゲルは中性ゲルよりせん断弾性率が

高いことが分かる

またゲルの湿潤度は架橋点重合 N(分子量)による溶液中に完全に湿潤した中性ゲル

の場合QasympN35であり電解質ゲル場合QasympN

32であるしたがって架橋密度を上げる

ことによりゲルの湿潤度が小さくなりせん断弾性率が上がる 3)4)

313 ゲルの破断歪と破断応力

架橋構造が均一と仮定した理想的なゲルの破断歪(ゲルが破壊するまでの変形 7))は架

(1)

(2)

3

橋点間高分子の伸びきった長さと高分子鎖に歪がない曲がった自然な状態での大きさ

の比として求められる溶媒中で完全に湿潤した中性ゲルの引っ張り破断歪はλBcongQ12で

ありQの増加により増加する一方湿潤することにより単位面積あたりの高分子

の本数が減るため破断応力は湿潤度 Qが大きくなることにより減少する故にQが大

きいゲルは伸びやすいが弱い応力で壊れる

電解質ゲルの場合高分子鎖はその解離しているイオンの浸透圧によって水中では

ほとんど伸びきった状態となっているその結果理想状態においても破断歪はλBcongQ19

になるこれは破断歪が小さくかつ湿潤度にあまり依存しないことを意味している 5)

以上のことより

1)架橋密度を上げる(架橋点間分子量を下げる)ことでゲルが固くて脆くなる

2)水中に完全に湿潤した高分子電解質ゲルは中性のゲルより硬くて脆い高弾性と変形は

相反するということが考えられる

314 DNゲルの高強度機構

DNゲルは強電解質をモノマーとする 1st networkゲル電気的に中性なモノマーを用

いる 2nd networkゲルを組み合わせることにより生成される前述した通りゲルにおける

弾性と靭性は常に相反する働きをするそれゆえに単一な物質で両方の性質を得るこ

とは原理的には不可能である同じ湿潤度において電解質ゲルと中性ゲルのせん断弾性

率の比はGchaGneucongQ125であるために両者の違いは湿潤度 Qが高いほど大きくなる

この性質を利用することにより電解質ゲルは硬い成分中性ゲルは軟らかい成分とし

て用いることができる

亀裂を含む DNゲルがある引張荷重を受けると応力集中の効果で最初に亀裂先端近傍

の電解質網目(1st network)が破壊され局所的にゲルが降伏する荷重がますと電解質網

目の破壊が次々に伝播し広範囲にわたるダメージゾーンが形成されていくこの過程

で非常にいい気なエネルギーが分散されるダメージゾーンがある大きさまで広がった

ときようやく亀裂先端に中性網目(2nd network)が十分に伸びて切断し亀裂が進行す

る 8)

4

Fig 1 DNゲルの破壊モデル 9)

32 光ラジカル重合

321 光分解

光重合開始剤に UVを当てることにより開裂がおきラジカルが発生する本研究にお

いては 1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンを用いる 10)

Scheme1 1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンの開裂 10)

ℎ120592

5

322 開始反応

UVを当て光開裂により生じたラジカルがビニル基の二重結合を攻撃し光重合開始剤

と炭素の間に σ結合を作り炭素原子にラジカルが存在することになる

Scheme2 ラジカルの生成

323 成長反応

Scheme2で生成したラジカルが他のモノマーを攻撃しσ結合を生じるそれが何回

も起こることにより分子鎖が成長する 6)

Scheme3 分子鎖の成長

324 停止反応

Scheme 3で成長した成長ラジカル同士が σ結合を作り分子鎖が生成する 7)

Scheme4 分子鎖の生成

4実験

41 DNゲルの合成

411 使用器具試薬

ビーカー乳鉢乳棒薬さじUVライトデシケーター

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸

分子式 C7H13NO4S

式量20724

融点160

用途1st networkゲルのモノマー

6

アクリル酸

分子式C3H4O2

式量7206

融点123

沸点1416

比重10511

危険性引火性(発火温度 360 )

用途1st networkゲルのモノマー

アクリロニトリルの加水分解アクロレインの酸化ニッケルカルボニルの存在下ア

セチレンと一酸化炭素と水との反応などにより合成される酢酸に似た刺激臭を持つ液

体水エタノールエーテルによく溶ける酸素の存在下容易に重合するプラス

チックの原料として用いられる

アクリルアミド

分子式C3H5NO

式量7108

融点845

沸点103

比重1122

用途2nd networkゲルのモノマー

アクリルニトリルを硫酸あるいは塩酸を処理して得られるフレーク状の結晶溶解

性(g100 ml溶媒30 )水 2155メタノール 155エタノール 862アセトン 631

酢酸エチル 126クロロホルム 266ベンゼン 0346ヘプタン 00068化学的に不安

定で冷暗所に保存する必要がある融点付近あるいは紫外線下で重合する重合の仕方

により水溶性不溶性のものが得られる

酢酸ビニル

分子式C4H6O2

式量8609

融点-932

沸点723

比重09317

用途2nd networkゲルのモノマー

無色の液体酸やアルカリよって容易に加水分解されてアセトアルデヒドと酢酸を生

じる熱光ラジカル開始剤によって重合する

7

メタクリル酸メチル

分子式C5H8O2

式量10012

融点-48

沸点1003

比重0936

用途2nd networkゲルのモノマー

無色透明で催涙性の芳香のある液体工業的にはアセトンシアノヒドリンにメタノー

ルと硫酸を作用させて合成する実験室的にはメテクリル酸メチルの重合物を 320

以上で乾留すると得られる一般に有機溶媒には溶けるがエチレングリコールグリセ

リンには溶けにくい重合しやすいので重合禁止剤としてヒドロキノンモノメチルエ

ーテル(65 ppm)を添加して保存する有機ガラスの製造ビニル系共重合体など広く

重合反応に用いられるまたメチル以外のアルコールのメタクリル酸エステルの合成

にも用いられる

NN-メチレンビスアクリルアミド

分子式C7H10N2O2

式量15417

融点300

用途架橋剤

1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン

分子式C13H16O2

式量20427

融点47-50

用途光重合開始剤

最大吸収波長は 260 nm付近にある

エチレングリコール

式量6207

融点 -126

沸点1976

比重11132

8

用途ゲル溶媒

重要な二価アルコールでエチレンオキシドの酸触媒による開環高温高圧下水と

の反応による開環などによって合成される吸湿性無色無臭の液体甘味を有する

が有毒である高沸点を有ししかも水酸化カリウム水酸化ナトリウムを溶解し水や

エタノールと任意の割合で混合するので有機合成における溶媒として広く用いられ

また塩基に対して安定なエチレンケタールの生成によるカルボニル基の保護に用いら

れるさらに酢酸ビニル系樹脂の溶剤や水と混ざり高沸点のため不凍液に用いら

れるなど広い用途を持っている

412 1st networkゲルの作成

1) 1st networkゲルのモノマー(電解質モノマー)架橋剤(NN-メチレンビスアクリルア

ミド)と光重合開始剤(1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)を水に溶解させた水

溶液を調製する

2) UVを 8時間照射して光ラジカル重合をさせる

3) 2)で合成した電解質ゲルを乳鉢に入れ適当なサイズに砕いた後デシケーター内で一

週間ほど乾燥させる

413水溶媒 DNゲルの作成

1) 2nd networkゲルのモノマー(中性モノマー)架橋剤(NN-メチレンビスアクリルアミ

ド)光重合開始剤(1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)をエチレングリコールに

溶解させた溶液を調製する

2) 乾燥した電解質ゲルを 1)で調製した水溶液に入れ電解質ゲルを十分に膨らませるそ

の後UVを照射し中性モノマーを光ラジカル重合させる

414エチレングリコール DNゲルの作成

1) 2nd networkゲルのモノマー(中性モノマー)架橋剤(NN-メチレンビスアクリルアミ

ド)光重合開始剤(1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)をエチレングリコールに

溶解させた溶液を調製する

2) 乾燥した電解質ゲルを 1)で調製したエチレングリコール溶液に入れ電解質ゲルを十分

に膨らませるその後UVを照射し中性モノマーを光ラジカル重合させる

42 DNゲルの評価

421引っ張り試験

使用するモノマーの変化によるゲルの性質の差を評価する引っ張り試験は

JIS-K-6251-7号に準拠する方法で測定する

9

1)DNゲルを X方向の長さ 50 mmY方向の長さ 75 mmZ方向の長さが 25 mmの大

きさに成形する

2)その一端部に X-Y平面に平行な切込みを入れて2つの引張端部を形成する

3) 引張端部を片方は固定しもう片方を一定の速度で引っ張るこのときの引っ張る力 F

を測定する

Fig 2 引っ張り試験 13)

422 摩擦試験

使用するモノマーの変化溶媒の変化によるゲルの性質の差を評価する

摩擦試験は東京理科大学工学部第一部機械工学科佐々木研究室に依頼する予定である

用いる機械は SVR4パーカー熱処理工業株式会社製であり180での高温での摩擦係

数の測定が可能である

摩擦測定は常温(20 )と高温(100 )で測定することを予定している

10

5 展望

51 DNゲルの合成

実験操作は溶液を調製した後UV照射するという簡易な手順なので合成は比較的早い

段階で成功すると考えられる

1st networkゲル合成に使うのは電解質モノマーなため水溶液のモノマーの濃度が低

いと湿潤度 Q が大きくなりせん断弾性率が下がり剛性が弱いゲルが出来上がると考え

られる

架橋剤を多く使用すると架橋密度を上がるので 2nd networkゲルが入り込む空洞が小

さくなるそのために架橋剤が多すぎると高弾性のゲルが生成できると考えられる

また同様な考えで2nd networkモノマーが含まれている水溶液に乾燥させた1st network

ゲルを入れる量が多くても高弾性のゲルが生成できると考えられる

52 DNゲルの物性

ゲルの高分子網目は基板から離れようとするときにゲルと基板の間に僅かな溶媒層

が生じるこの状態では溶媒層が潤滑油のような働きをして生じる摩擦力は小さなも

のとなるゲル周辺が高温な状態ではこの溶媒層が水の場合は蒸発してしまうので摩

擦力は増大すると考えられる溶媒を水からより沸点の高いエチレングリコールなどに

変えれば摩擦力は増大することはないと推測される 14)

11

参考文献

1) J Bastide and L LeiblerMacromolecules1988212647

2) G G J Lake and A G ThomasProc R Soc LondonA1967300108

3)越後亮三 機械工学辞典 朝倉書店 2007 p631

4) 伊藤勝悦 やさしく学べる材料力学 森北出版 2014 p14

5)SPObukhovMRubinstein and RHColby Macromolecules 1994273191-3198

6)MRubinsteinRHColbyAVDobrynin and JJaonnyElasticMacromolecules199629398-406

7) 大 阪 府 立 大 学 基 礎 講 座 材 料 の 強 度 と 破 壊

httpwwwengmmtrosakafu-uacjpresearchstrength-japdf2015413取得

8)聾剣萍「生命科学時代の新材料-高弾性高靱性ダブルネットワークゲル」高分子学会

『高分子』高分子科学最近の進歩58巻 5号2009p327-p331

9)YTanakaEurophysLett20077856005

10)蓮池幹治ラジカル重合ハンドブックエヌティーエス2010p444-p445

11)大津隆行ラジカル重合(Ⅰ)化学同人1971p80-p81

12)大津隆行ラジカル重合(Ⅰ)化学同人1971p153-p154

13)聾剣萍高分子ゲルおよびその製造方法特開 2009-185156 2008-02-05

14) 角五 彰龔 剣萍長田義仁「ゲルの摩擦と水和潤滑~生物の滑らかな運動解明への

アプローチ」日本生物物理学会『生物物理』47巻 4号2007p 253-p258

1

東京理科大学Ⅰ部化学研究部 2015年度春輪講書

耐塩性の高い新規化粧品用増粘剤の開発 2015年度金曜班

Nomata N(2OK)Seki M(2OK)Tin J(2OK)Takahashi R(2C)Watanabe A(2K)

Asai D(2K) Nishimiti D(2K)Yamamoto R(2K)

1 動機

化粧品において増粘剤の果たす役割は非常に大きい

化粧品にはクリーム状のモノが多くありその整形には増粘剤が必要不可欠である

また増粘剤は製剤だけでなく密閉効果や水和効果によって薬剤を皮膚に効率的に輸

送することに役立っている

この増粘剤であるが一つ課題がありアスコルビン酸塩(ビタミン C)のようなクロロ

基を持つ塩系薬剤をゲル中に含む場合経時によってべたつきといった使用感の悪化

につながるといった弱点があるこの問題の解決のために塩系薬剤への耐性の高い増

粘剤の開発が望まれている

塩系薬剤の高い美容効果からこの問題の解決に対する化粧剤企業のニーズは高くこ

の問題は長く研究が続けられていたが近年資生堂が逆相マイクロエマルション重

合法によって microスケールの粒状高分子を多数合成することによりできる増粘剤が高い

耐塩性を持ち使用感もよいことを発見したがこの粒状高分子増粘剤には未だ試み

られていないモノマーが多くある

そこで今年度の金曜班ではこの逆相マイクロエマルション重合法において未だ

試みられていない親水基を持つモノマーを利用して新規の増粘剤をつくることで粒

状高分子による増粘剤の耐塩性と肌触りと親水基の関係を調べ応用化に利すること

ができるのではないかと考え実験を行うこととした

2 背景

増粘剤とは水溶液をゲル化するために添加される物質であり化粧品において広く

用いられているこの増粘効果は従来では高分子鎖同士の分子間力や架橋で生じる

網目構造の結果生じる液中の摩擦力によるものである

動機で述べたように μスケールの粒状高分子が増粘剤として良質であることがわか

っているただし粒状高分子の形状は反応場であるセッケンミセルの大きさだけで

なく親水基やポリマーを構成する原子同士の分子間力によって変わる高分子の立体構

2

造にも影響されている

また粒状高分子の正確な一次構造を把握することは大変難しいことであるので

応用化のためには高分子の一次構造でなくモノマーによって粒状高分子特性の変化

を調べることが重要である

さらに従来用いられているポリマーがスルホ基とカルボキシル基を親水基とする

ものしか存在しない

以上の三点から酸以外の親水基をもつモノマーで増粘剤を合成したときその性

質はどうなるかを調べることでより製品として利用価値が高い粒状高分子増粘剤を合

成することができるのではないかと考えた

そこで新規モノマーとしては対照実験を行うためにアクリルアミド系モノマー

でかつ 2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸のスルホ基と同じ炭素骨格の先

端に親水基が存在するものとしてN-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド (3-アク

リルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライドを用いてそれぞれ親水基が酸

ではなくヒドロキシ基である場合親水基がアニオンではなくカチオンである場合に

ついて研究を行うこととした

この二種の以外にも水溶性のアクリルアミドポリマーは存在するが上記の条件を満

たさないまたは高価であるため本実験では用いないこととした

Fig1 N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド

Fig2 (3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライド

3

3 原理

31 一般的な液体の粘性

溶液の粘性は一般論では以下のように表される

Fig3のように XY平面を取り液面に平板を用意し引っ張った時挟まれた溶液内

には図のようなせん断流動が発生する高さ Yでのせん断速度は(119881

119889) 119910で与えられる

この時平板に挟まれた溶液を薄層の集まりと考えると隣り合う薄層間に摩擦が生

じるこの内部摩擦力が粘性力であるずり速度勾配が十分に小さければ平板の単位

面積当たりに生じる粘性力 Fv0はその勾配 Vd に比例するすなわち以下の式で表

され1205780を粘性係数と呼ぶこの値は溶媒固有である1)

1198651199070 = 1205780 (119881

119889)

Fig3 溶液ずりせん断図

32 増粘剤の粘性

増粘剤の多くは低分子の液体に高分子を溶かすと著しく粘性が高くなる性質を利

用している

この粘性の発生するメカニズムは下の Fig4において平板間の溶液を薄層に分けた

際高分子鎖は溶液の移動に伴って回転するこのとき溶液中の薄層は薄層間の摩

擦以外に高分子鎖との間にも摩擦が生じているこの摩擦の増加が粘性力の増加とな

る 2)

4

Fig4 高分子による粘性増加

また高分子鎖同士が分子間力によって結びつき三次元構造を形成することで内

部摩擦力は一層大きくなるこのため高分子による増粘効果は顕著である

架橋高分子では三次元構造が高分子鎖同士の分子間力による形成よりも強いものと

なるので増粘効果及びレオロジー特性に優れる 3)

33 塩系薬剤による粘性劣化のメカニズム

塩系薬剤とはビタミンC (アスコルビン酸塩)のようにクロロ基をもつ薬効物質のこ

とである

このクロロ基が直鎖高分子や架橋高分子がポリマー間で形成する三次元網目構造

を破壊することによって増粘効果を消失させ内容物の流失によるべたつきを生じさ

せる 3)

34 粒状高分子の粘性

粒状高分子の粘性について粒状高分子はその粒経が小さいほど体積に対する表面

積が増え溶液内での内部摩擦力が大きくなる

また粒子同士が摩擦力を元に網目構造を形成するため網目構造の構成要因が直

鎖高分子や架橋高分子の高分子増粘剤と異なっている 4)

35 逆相マイクロエマルション重合法

後述する転相温度乳化法を用いて形成した5 μm~30 μm 形成したマイクロエマル

ション内において水溶性のモノマーを利用して行う乳化重合法の一種容易に極小の

5

ポリマーを合成することができる 5)

36 界面活性剤の概略

界面活性剤とは分子の構造が水になじみやすい部分(親水基)と油になじみやすい

部分(新油基)からできていて2つの物質の間の界面に集まりやすい性質を持ちそ

の界面の性質を著しく変える物質というのが界面活性剤の定義である

代表的な界面活性剤の特徴は界面における「吸着」と「ミセル形成」である 6)

もうひとつの代表的な作用として「可溶化」もある

37 エマルションの形成

界面活性剤に有機溶媒が取り囲まれて水に可溶化されたとき水溶液中に存在する

有機溶媒を界面活性剤が取り囲んだ液滴のことを OW エマルションと呼ぶ

有機溶媒中に水が可溶化される場合WOエマルションと呼ぶ

38 ノニオン界面活性剤

非イオン界面活性剤とも言う界面活性剤の内解離基を持たず電気的に中性な

界面活性剤で親水基は主にポリオキシエチレン基であるその特殊な性質上他の種類

の界面活性剤に無い性質として曇点と転相温度を持つ 今回使用するノニオン界面

活性剤はポリオキシエチレンオレイルエーテルであり基本式は以下のような形にな

る 7)

R-O(CH2CH2O)n-H

Scheme 1 ポリオキシエチレンオレイルエーテルの基本式

39 曇点

曇点とは透明な液体が相分離を起こして白濁する温度のこと

本実験においてはノニオン界面活性剤が加温によって界面活性効果を失い相分離

によって白濁する温度のこと 8)

310 転相温度乳化

ノニオン界面活性剤は加温によって界面張力が変化しWO型エマルションから

OW 型に変化するこの変化点のことを転相温度と言い転相温度において界

6

面張力が最低になっているので溶液エマルションが極小になる

またこの転相温度は界面活性剤に固有の値となるので二種の比較的性質の

近い界面活性剤を混合することで転相温度を操作し適切な温度で5 μm~30 μm

程度の直径を持つエマルションを作成する方法を転相温度乳化法と呼ぶ 10)

311 ラジカル重合

開始剤を用いてラジカル種を生成して行う重合法のことをラジカル重合法と言う

開始剤の分解要因によって熱光放射線ラジカル重合の三つに分けられる 10)

3111 ラジカル重合を構成する四反応

ラジカル重合は 4種類の反応が同時並行的に起こるそれぞれ以下の通りである 11)

開始反応

開始剤が熱光放射光などの要因によってラジカル開裂を起こしラジカル種を

生じさせる反応

成長反応

ラジカル種がモノマーと反応することでモノマー新たなラジカル種が生成する

反応これが連続することでポリマーが合成される

停止反応

連鎖していた成長反応が止まる反応主にラジカル種同士の反応による

連鎖移動反応

ラジカル種がモノマー以外の分子主に溶媒分子等と反応することでポリマー以

外の物質を合成する副反応

3112 乳化重合

乳化重合はモノマー液滴と呼ばれるモノマーを大量に保存しているエマルシ

ョンと反応場となる極小のセッケンミセルの二つの構造を持つ溶液中で行う不均

一系ラジカル重合の一種である 12)

成長反応が一段階進むたびにモノマー液滴から拡散の理論式に従ってモノマ

ーがミセル内に移動するこの一連の反応を繰り返して反応が進む 13)

そのため種々のラジカル重合法と比較して以下の特長がある 13)

セッケンミセル内に存在するラジカルが常に一つであるため停止反応が

7

起こりにくく比較的重合度の高いポリマーが生成しやすい

反応速度が拡散作用によって律速されかつセッケンミセルの周囲を大量

の溶媒分子が囲んでいるため除熱が容易であるという理由から熱暴走を起

こしにくいという利点がある

ミセル内で重合するため合成した高分子が絡まりやすく粒状の分子が作

成できる

Fig5 乳化重合模式図

312 MS(質量分析法)

質量分析法とは分子の質量すなわち分子量を測る手段でもあるまた分子を分解

したフラグメントの質量を測ることによって分子構造に関する情報を得るものでも

ある

高エネルギー電子が有機分子にぶつかると分子から電子がはじき出せれカチオ

ンラジカルが発生する

119825119815 rarr 119825119815++119838minus Scheme 2カチオンラジカルの発生

電子の衝突により大量のエネルギーが分子に与えられることで大部分のカチオン

ラジカルを生成した後フラグメントに分解するフラグメントは小さな破片となっ

て浮遊し正電荷や中性となる

このカチオンラジカルとフラグメントについてmz値を横軸相対強度を縦軸につ

いて取ったグラフから質量スペクトルを読み取る 14)

またMS(質量分析法)はイオン化の方法などによりいくつかに分けられ今回使用

したいのは高分子試料でもほとんどフラグメンテーションを起こさないソフトなイ

8

オン化法であるMALDI法 15)である

3121 MALDI法(マトリックス支援レーザー脱離イオン化法)

試料を 25-ヒドロキシ安息香酸のような適切なマトリックス上に吸着させて

ペレットを作成しレーザー光を短時間照射してイオン化する

エネルギーがマトリックスから試料に移動し[119872 + 119867119899 ]119899+に分解される 15)

MALDI法にはよく TOF型の MSが用いられている

4 実験

41 2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を用いた既存化粧品用増粘剤の合成

411 使用器具試薬

温度計ウォーターバスビーカー薬さじデシケーター

ジメチルアクリルアミド

式量9913

沸点81

発火点71

LD50(経口)316mgkg

LD50(経皮)580mgkg

製造和光純薬工業株式会社

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸

式量20725

融点200

LD50(経口)5400mgkg

製造和光純薬工業株式会社

NN-メチレンビスアクリルアミド

式量156

沸点4451

発火点215

LD50(経口)390mgkg

製造東京化成工業株式会社

9

へプタン

式量1002

沸点98

引火点-4

水に不溶

製造昭和化学

2-プロパノール

式量60

沸点82

発火点12

LD50(経口)区分外(GHS分類)

LD50(経皮)区分外(GHS分類)

製造昭和化学

ペルオキソ二硫酸アンモニウム

式量22820

冷水に易溶保存湿気厳禁

重合開始罪乳化重合レドックス重合に用いられる

製造和光純薬工業株式会社

412 実験手順

① ビーカーにイオン交換水ヘプタンポリオキシエチレンオレイルエーテル(2)

(8)をそれぞれ507 mL 507 mL489 g((2)(8)=23)加えて良く撹拌したも

のを入れる

② その後その後温度調節機能つきスターラーに乗せ白濁するまで加熱する

白濁した液が透明化するまで温度を落とし電気伝導率計を用いて溶液が転

相温度付近に保たれていることを確認する

③ 以上の操作が済んだ重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先

ほどのスターラーと同じ温度にしたウォーターバスに移し2-アクリルアミド

-2-メチルプロパンスルホン酸NNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 137 g

262 g入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始

剤としてメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

10

④ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

42 N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミドを用いた新規化粧品用増粘剤の合成

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を誘導体と入れ替える以外の

操作は 41に準ずる

親水基による増粘性の変化を観察するため架橋剤のモノマーに対する濃度比

は 2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を使用したポリマーが最も増

粘効果の高くなると報告された濃度比を用いる

421 使用器具試薬

使用器具は 41に準ずる

試薬

N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド

式量11513

沸点130

発火点189

製造東京化成工業株式会社

422 実験手順

① 412 ①②と同じように重合系を作成する

② 以上の操作が済んだ重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先

ほどのスターラーと同じ温度にしたウォーターバスに移しN-(2-ヒドロキシエ

チル)アクリルアミドNNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 076 g262

g 入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始剤と

してメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

③ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

11

43 (3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライドを用いた新規化粧品用

増粘剤の合成

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を誘導体と入れ替える以外の操作は

41に準ずる

親水基による増粘性の変化を観察するため架橋剤のモノマーに対する濃度比は 2-ア

クリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を使用したポリマーが最も増粘効果の高く

なると報告された濃度比を用いる

431 実験器具

実験器具は 41に準ずる

試薬

(3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライド

式量22074

沸点100

製造東京化成工業株式会社

432 実験手順

① 412 ①②と同じように重合系を作成する

② 重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先ほどのスターラーと

同じ温度にしたウォーターバスに移し (3-アクリルアミドプロピル)トリメチ

ルアミニウムクロライドNNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 123 mL

262 g入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始

剤としてメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

③ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

5 評価分析

耐塩性の高い増粘剤の耐塩性と使用感と親水基との関係を評価するために以下の二

つの測定を行い評価する

増粘剤の耐塩性の評価のために塩酸を増粘剤内部に取り込ませた状態で経時

12

による粘度の変化を観察する

また高分子の粘性を考える上で直鎖高分子の場合よく参考にされるのが平

均分子量でありこの値を測定することで親水基が変化した場合に平均分子

量が粒状高分子の粘性にも大きく影響するか確認する

精密に上の測定を行うには専用の機器が必要になるため機器メーカーの株式

会社エーアンドデイ様または東京理科大学理学部応用化学科駒場研究室に

また高分子の性質を考える上で重要視される平均分子量及び分子量分布に

ついては東京理科大学化学系機器センターにあるMALDI-TOF型質量分析計を管

理者の東京理科大学理学部応用化学科の根岸先生に測定に協力していただこうと

考えている

6 謝辞

東京理科大学工学部工業化学科 近藤行成教授

東京理科大学理学部化学科 遠藤恆平准教授

東京理科大学理学部応用化学科 駒場慎一教授

この研究を進めるに当たり大変お世話になった先輩先生方企業の皆さんに感謝の

意を表明します

参考文献

1) 小澤美奈子 基礎高分子科学 高分子学会 編 2010年 第六版 p979899

2) 小澤美奈子 基礎高分子科学 高分子学会 編 2010年 第六版 p99100

3) 金田 勇 逆相マイクロエマルション重合法による水膨潤性ミクロゲルの重合とその増

粘剤としての応用 2010年 p1

4) 小林敏勝 福井寛 きちん知りたい粒子表面と分散技術 日刊工業新聞社 p76

5) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 2006 p839 840 841

6) 皆川基 藤井富美子 洗剤洗浄 百科事典 大矢勝 2007年版 p4647

7) 日本産業洗浄協議会編 わかりやすい界面活性剤 工業調査会 2003 p373839

8) 資生堂 HP httpswwwshiseidogroupjprddevelopmentformulationhtmlより 2015

44取得

9) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 テクノシステム 2006 p321

10) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 テクノシステム 2006 p397

13

398399

11) 遠藤 剛 高分子の合成(上)~ラジカルカチオンアニオン重合~ 講談社 2010 3p

12) 佐藤壽彌編 高分子微粒子の技術と応用 シーエムシー出版 2004 p2526

13) 佐藤壽彌編 高分子微粒子の技術と応用 シーエムシー出版 2004 p27

14) マクマリー 上 8版 東京化学同人 p403404

15) John McMurry マクマリー有機化学(上) 第 8版 2013 p410411

Page 2: ゼオライトとキトサンを用いた 金属イオン除去剤の …kaken/studies/2015/2015-s-all.pdf1 東京理科大学I 部化学研究部 2015 年度春輪講書 ゼオライトとキトサンを用いた

2

からより優れた金属イオン除去剤が開発されることも期待できる

2 原理

21 ゼオライト

ゼオライトはより一般的には沸石とも呼ばれる粘土鉱物の一種であるその構造

は規則的な管状細孔と空洞を伴う陰イオン性の骨格にアルカリまたはアルカリ土類

金属を含む含水アルミノケイ酸塩と呼ばれるものである現在日本では福島県や

島根県において天然ゼオライトが産出されておりほかにも種々の人工ゼオライトが

製造されている

その組成は一般に

(MIM

II12)m(AlmSinO2(m+n))xH2O (n≧m)

MI Li

+Na

+K

+etchellip M

IICa

2+M

2+gBa

2+etchellip

と表されMIMIIのような陽イオンがアルミノケイ酸塩骨格の負電荷を中和している

この結晶は直径 02~10 nmの細孔を伴う多孔質でありその細孔径よりも大きい分子

は侵入できないことから「分子ふるい」としての作用を有している

その他にもゼオライトの重要な作用の一つとしてイオン交換能が挙げられる上

に述べたようにゼオライトの骨格中ではアルミノケイ酸塩骨格内の負電荷を中和する

ために骨格内の Al原子近傍に陽イオンが配置されているこの陽イオンは比較的

自由に結晶細孔内を移動することが可能であるため液相中において可逆的にイオン

を交換することができるこのイオン交換作用は特に放射性セシウムや重金属に対し

て有利であるためゼオライトは放射性物質や重金属イオンの除去に広く用いられて

いる 5)

Fig1 ゼオライトの表面とその結晶構造 Fig2 アルミノケイ酸塩骨格

3

22 キレート化合物

一般にアンモニアのような分子や硫化物イオンなどの陰イオンはその非共有

電子対によって陽イオンと配位結合を作ることができるこれによって生じた物質

を錯体または金属錯体と呼ぶまた金属イオンと配位結合する分子やイオンを配位

子配位子を構成する原子の内金属イオンと結合する部位のことを配位原子と呼ぶ

金属錯体における配位数は様々であるがそれらの中で二座以上の配位子が金属

イオンを挟むような形で中心金属と配位原子を含む環状化合物を形成するケースが

あるこれをキレート化合物と呼びその名前はギリシャ語のrdquoChelerdquo(カニのはさみ

の意)に由来するキレートを形成する配位子をキレート試薬あるいはキレート剤と

呼ぶことがありその用途は金属イオンの確認や定量そして有害重金属の除去など

多岐に渡る 6)

23 キレート滴定

液相中の金属イオン濃度は金属指示薬とキレート剤を用い定量的に求めることが

できるこの滴定方法は金属イオンのキレート生成を利用したものである

まず定量したい金属イオンを含む溶液に対して金属イオンと有色化合物を作る

金属指示薬と呼ばれる配位子を加えるその次に溶液にキレート試薬と呼ばれる大

きな錯形成定数を有する配位子を加えるこのとき金属イオンとキレート試薬との錯

形成定数が金属指示薬との錯形成定数よりも大きければ金属イオンはキレート試薬

と優先的に錯体を生成することによって溶液の色調が変化するこの色調変化の観察

により金属イオンの濃度を定量的に求める手法がキレート滴定である

このときキレート試薬には EDTA(エチレンジアミン四酢酸)が用いられることが

多いこれは EDTAが金属と 6座配位錯体を形成する配位子であると同時に多くの

金属イオンとモル比 11で錯体を生成するからである 7)

24 カルボニル基とアミノ基の反応

カルボニル基とアミノ基の反応は次のようになるまずアルデヒドに対して

アミンが求核付加した後に窒素から酸素へのプロトン移動が起こりカルビノール

アミン中間体が生成されるそのあと酸触媒によるプロトン化によりヒドロキシ基

が優れた脱離基へ変わった後に窒素上の非共有電子対の押し込みによって分子内の水

が失われイミニウムイオン中間体を生成する最後にα炭素原子(官能基の隣の

炭素原子を指す)からプロトンが脱離して最終生成物となり酸触媒が再生される

この反応スキームに基づきアルデヒドと第一級アミンの脱水縮合から生成される

4

化合物の総称をドイツの化学者 HSchiff の名前をとってシッフ塩基と呼ぶ 8)

25 アセタール生成反応

アルデヒドは酸触媒の存在下において2当量のヒドロキシ基と可逆的に反応し

アセタールという生成物を与える水と同様にヒドロキシ基の求核性は然程強くない

ものの酸性条件においてはカルボニル基の反応性がプロトン化によって強められる

ため速やかに付加反応が進むことが知られているその反応機構は以下の通りで

ある

まず溶液の酸性によりカルボニル基が強く分極された後酸素の非共有電子対に

よる求核反応に対してカルボニル基が活性化されるそこからプロトンが脱離して

中性のヘミアセタールという四面体中間体を生じるこのヘミアセタールのヒドロキ

シ基がプロトン化されて良い脱離基となった後に脱水によってオキソニウムイオン

中間体が生成されるこの構造にもう1当量のヒドロキシ基が付加しプロトン化した

アセタールを与えた後プロトンが脱離することによって最終的な生成物である中性

のアセタールが与えられる 9)

Scheme 1 カルボニル基とアミノ基の反応

Scheme 2 アセタール生成反応

5

26 一律排水基準

水は人体に非常に近い資源の一つでありながら頻繁に環境汚染の矛先が向くもの

である放流する際に家庭用排水や工場排水が混入することにより金属イオンや有機

化合物が含まれてしまうことがありこれらが人体に取り込まれた場合には様々な

被害を引き起こすそのため日本では法務省および環境省が水環境の保全のため

排水内に含まれるあらゆる成分に関して濃度の基準を設けておりこれを「一律排水

基準」と呼ぶ以下に主な金属イオンに関する排水基準を示す 10)

Table1 金属イオンに関する一律排水基準

カドミウム 003

鉛 01

六価クロム 05

ヒ素 01

水銀 0005

セレン 01

銅 30

亜鉛 20

溶解性鉄 100

溶解性マンガン 100

クロム 20

3 実験準備

31 試薬

以下mp融点 bp沸点 M分子量である

キトサン(ChitosanLD5016gkg)

無色非結晶性粉末であり水に不溶キチンを濃アルカリ性溶液と加熱して得られ

る脱アセチル化物 11)

項目 濃度(mgL)

6

グルタルアルデヒド(Glutaraldehydemp-14 bp188 M10012

LD501100mgkg)

無色またはわずかに薄い黄色の液体で水アルコールアセトンに易溶特異な刺

激臭を持つ架橋剤として用いられる比較的不安定で加熱すると重合することが

ある殺菌消毒薬としても利用されている 12)

グリオキサール(Glyoxalmp15 bp504 M5804LD502000mgkg)

アセトアルデヒドの酸化やアセチレンの酸化によって得られる蒸気は緑色で

可燃性がある医薬品や香料の原料として広く用いられる他にも繊維処理剤として

も使用される 13)

製造和光純薬工業

硝酸銅(Copper Nitratemp1145 M18756LD50940mgkg)

酸化銅または炭酸銅を希硝酸に溶かした後に濃縮冷却することにより潮解性の三水

和物が得られる水エタノールなどに可溶真空中では 150~200 において

昇華する 14)

硝酸鉄(III)(Iron(III) Nitratemp472 M24186LD503250mgkg)

淡い紫色の単斜晶であり熱すると分解する水に易溶で水溶液は加水分解して

褐色となる顔料の原料や医薬品にも用いられる 15)

製造和光純薬工業

7

エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩

(Ethylenediamine-NNNrsquoNrsquo-tetraacetic acid disodium saltM37224

LD502000mgkg)

通称 EDTA-2NaといわれEDTAを水に溶けさせるためにナトリウム塩としたもので

ある EDTAと同じようにキレート滴定に用いることができる多くの金属イオ

ンと安定なキレート化合物を生成することが知られているキレート化合物の安定性

が高い上に選択性が低いために広く用いられている 16)

PAN指示薬(1-(2-pyridylazo)-2-naphthol indicatormp137 M24900)

1-(2-ピリジルアゾ)-2-ナフトールをメタノールに溶解させた溶液金属イオンを

キレート滴定する際の指示薬として用いられる1-(2-ピリジルアゾ)-2-ナフトール

自体は 2-アミノピリジンジアゾニウム塩と β-ナフトールの反応から得られる橙色

針状結晶である 17)

製造林純薬工業

エタノール(Ethanolmp-11415 bp783 M461LD506200mgkg)

工業的には発酵などから合成され特有の匂いと味のある無色の液体である

溶剤燃料不溶剤などとしても用いられる 18)

8

グリセリン(Glycerinemp20 bp290 M921LD5027200mgkg)

石鹸製造の際など工業的にも用いられている無色粘性で吸湿性をもつ液体である

水エタノールとあらゆる割合で混合することができる湿潤剤として皮膚薬にも

用いられる分析化学においては滴定用溶媒として使われることがある 19)

サリチル酸(Salicilic Acidmp159 bp211 M138LD50891mgkg)

多くの精油中にエステルとして存在する針状の結晶エタノールなどに易溶である

染料の中間体や防腐剤角質溶解剤などに含まれているおよそ 200 で分解して

フェノールとなる分析化学においては鉄イオンなどの呈色剤に用いられる 20)

製造和光純薬工業

塩酸(Hydrochloric AcidM3646LD50900mgkg)

代表的な強酸であり多くの金属と反応して塩酸塩を生じるが貴金属とはほとんど

反応しない刺激性がある工業的には染料や医薬品などに幅広く用いられて

いる 21)

製造和光純薬工業

水酸化ナトリウム(Sodium Hydroxidemp328bp1388M4000

LD50500mgkg)

常温で無色の斜方晶系の固体であり代表的な強塩基潮解性があり通常は水や

二酸化炭素を含んでいる事からmp3184 とする場合もある溶解に伴い発熱

する刺激性がある 22)

希硝酸(Dilute Nitric Acidmp-42 bp826 M6301LD50430mgkg)

無色の吸湿性液体光または熱で分解するため暗所に褐色ビン内で保管する必要が

ある多くの金属に対して酸化剤として働く刺激性がある 23)

天然ゼオライト

製造ゼオライト市場しまねお宝館

9

32 器具

マグネチックスターラー

吸引ビンなど吸引ろ過に用いる器具

恒温槽

pHメーター

ビュレット

メスフラスコ

4 実験操作

41 ゼオライトの洗浄

天然ゼオライトを使用する予定であるがこれには水を懸濁させるような粘土質が

付着していると思われる 3 M の塩酸に 1 日ほど浸けることによりこれを除去する

42 ゼオライトのキトサンによる化学修飾(架橋剤グルタルアルデヒド)

(1)キトサン 05 gを 50times10-3

M塩酸 500 mLに加えた後に天然ゼオライト 125 g

を加える

(2)均一な懸濁液になるまでスターラーで 250 rpmにおいて撹拌する

(3)懸濁液に 1 M水酸化ナトリウム水溶液 75 mLとグルタルアルデヒドを 02 g添加

してゼオライトをキトサンで修飾する

43 ゼオライトのキトサンによる化学修飾(架橋剤グリオキサール)

(1)キトサン 05 gを 50times10-3

M塩酸 500 mLに加え溶解させて天然ゼオライト

125 gを加える

(2)均一な懸濁液になるまでスターラーで 250 rpmにおいて撹拌する

(3)懸濁液にグリオキサール 01 gを添加して水温を 80 に保ち 1時間撹拌して架橋

を行う

(4)1 M 水酸化ナトリウム水溶液を 75 mL加えてゼオライトをキトサンで修飾する

44 修飾済みゼオライトの調製

(1)しばらく静置した後に吸引ろ過を行い固相水相の分離を行う

(2)得られた固相をイオン交換水で洗浄する

(3)1週間ほど乾燥剤と共に保管することにより自然乾燥させる

10

45 種々の含金属廃液の作成

(1)01 M硝酸に各金属イオン標準液を混合させ金属イオン含有量が 5 mgになるよう

に金属イオン含有水溶液を作成する

(2)硝酸と水酸化ナトリウム水溶液を用いて pHを操作しpHが 246の付近になる

ように調製する

46 修飾ゼオライトによる金属イオンの除去

(1)各金属イオンを含む試料溶液に作製した除去剤 50 gを投入しマグネチックスター

ラーで 250 rpm において 1時間撹拌する

(2)吸引ろ過を行い固相水相の分離を行う

<備考>

本実験では作製した除去剤の性能を比較するためにキトサン天然ゼオライト

および2種の修飾済みゼオライトについて金属イオン除去実験を行う予定である

5 評価

51 キレート滴定を用いた金属イオンの定量

511 銅イオンのキレート滴定

(1)試料溶液に酢酸-酢酸ナトリウム緩衝溶液を加えて pHが 25~60に保たれている

事を確認する

(2)エタノールを 50 mL加えた後にPAN指示薬を数滴滴下して溶液を発色させる

(3)001 M EDTA水溶液を滴下して滴定を行う

512 鉄イオンのキレート滴定

(1)試料溶液の pH を確認し酸性が強い場合は 35酢酸ナトリウム水溶液を酸性が

弱い場合は 1M 塩酸を加えて pHを 20~30に調節する

(2)1サリチル酸溶液を 8 mL添加して溶液を発色させる

(3)001 M EDTA水溶液を滴下して滴定を行う

6 実験結果に関する予測

金属イオン除去剤の作製によってゼオライト粒子を内包したキトサン粒状体が得ら

れると予測されるまたグルタルアルデヒドによってキトサンを架橋した除去剤と

比較してグリオキサールを用いた除去剤の方が金属イオンの除去性能が高くなるの

ではないかと期待できる

11

7 参考文献

1)姫路市編集『工場事業所の排水が下水道におよぼす影響』

URL httpwwwcityhimejilgjps90gesuidou_9253_9277html

最新取得日2015年 4月 15日

2)環境省編集 『水土壌地盤海洋環境の保全』 URL httpwwwenvgojpwatermizuhtml

最新取得日2015年 4月 15日

3)知足章宏著 『アジアの開発途上国における水質汚染問題と下水事業への民間参入

(Private Participation)の現況経験』立命館大学 立命館国際地域研究第 23号

2005年 3月発行 p153~156

4) 一般社団法人キチンキトサン学会 『キチンキトサンとは』

URL httpjscckenkyuukaijpspecialindexaspid=1930

最新取得年月日2015年 4月 15日

5) ゼオライト学会 URL httpwwwjaz-onlineorgindexhtml

最新取得年月日2015年 4月 16日

6) 萩中淳ほか著 『パートナー分析化学 I(改訂第 2版)』 南江堂 (2012) p97~98

7)『パートナー分析化学 I(改訂第 2版)』 p116

8) 児玉三明ほか訳 『マクマリー有機化学(中) 第 8版』 東京化学同人 (2013) p703~704

9)『マクマリー有機化学(中) 第 8版』p708~711

10)環境省編集 『環境省 一律排水基準』URL httpwwwenvgojpwaterimpurehaisuihtml

最新取得年月日2015年 4月 17日

11)『化学大辞典』大木道則ほか著 東京化学同人 (2005) p543

12)『化学大辞典』p651

13) 有機合成化学協会編集『有機化合物辞典』講談社 (2004) p248

14)『化学大辞典』p1121~1122

15)『化学大辞典』p1121

16)『化学大辞典』p269

17)『化学大辞典』p1928

18)『化学大辞典』p256~257

19)『化学大辞典』p638~639

20)『化学大辞典』p858~859

21)『化学大辞典』p332~333

22)『化学大辞典』p1172

23)『化学大辞典』p1118~1119

1

東京理科大学Ⅰ部化学研究部 2015年度春輪講書

ケイ酸を用いた無機接着剤 火曜班

Shoji Y (2OK) Arai S(2OK) Abe Y(2K) Takemura R(2K) Matsui T(2K)

1背景

私たちは日々生活している中で接着剤を使う機会が多くあるしかしその接着剤が

まわりに及ぼす影響について考えることは少ないそこで接着剤について調べてみたと

ころ接着剤は大きく分けて 2つのグループに分類できることが分かったまず一般的に

使われているボンドや瞬間接着剤のように有機化合物を主成分とした有機接着剤次に

あまり一般的ではないが金属やセラミックスの接着に用いられる無機化合物を主成分とし

た無機接着剤有機接着剤は簡単に接着することができるなど様々な長所を持つが有機

物の溶媒を用いるため工事現場などで感じる独特な臭いやシックハウス症候群の原因物

質を放出してしまうという短所を合わせ持つそれに比べ無機接着剤は接着方法が高

温で加熱しなければならないという点と有機接着剤よりも接着強度が低いという短所を持

つが耐熱性に優れ特有の臭いもなく溶媒に水を用いるため環境や人体に対する影響

も少ないという長所があるさらに無機接着剤の分野はあまり多くの研究が行われてお

らず発展の余地が残っているのではないかと感じた

2目的

無機接着剤は耐熱性などの長所がある反面強度と耐水性が低いという短所があるこ

の 2つの短所は接着剤として用いるためには重大な問題となるそこで本実験ではケイ

酸を主成分とした無機接着剤に何種類かの金属化合物などの添加物を加えることにより接

着強度と耐水性の改善を目的とする

3原理

31無機接着剤

無機質の接着材料としては一般にガラス系金属系の材料が使用されているがこれ

らの材料は気密性は優れているが接着時にそれぞれの融点や軟化点以上に加熱すること

が必要でありまた接着部分の耐熱性は接着時の温度を上まわることはないという欠点を

有しているこれに対していわゆる無機接着剤は気密性には劣るが低温での接着が可能

であり優れた耐熱性を有するという特徴を持っている無機接着剤は1)無機結合剤

2)硬化剤3)充填剤を主成分として構成される

2

市販されている接着剤の多くは使用の便を考えて一液性であるそのポットライフ(可

使期間)は 3か月から 1年必要とされるので室温で作用する硬化剤は使用できない

1)結合剤

結合剤自体の硬化剤が強い強度と接着力を持つ必要があり現在しようされている無機

結合剤のほとんどはアルカリ金属ケイ酸塩系リン酸塩系シリカゾル系のいずれかで

あり本実験でしようするのはアルカリ金属ケイ酸塩系結合剤である

アルカリ金属ケイ酸塩の水溶液は粘性のある液体であり分子式 M2OnSiO2で表わさ

れMの種類(LiNaKなど)および nの大小によって数多くの種類が生ずるまたア

ンモニウムケイ酸塩やグアニジンケイ酸もある一般には安価なケイ酸ナトリウム(水ガ

ラス)がよく使用される

アルカリ金属ケイ酸塩は水溶液中において種々の量のシリケートイオンモノマーポ

リシリケートイオンおよびコロイド状シリカイオンミセルからなっているこれらの形

態や分布は n 値や濃度に依存しn が大きくなるにつれてポリシリケートイオンミセル

が増加するケイ酸ナトリウムは n が4を越えると水の溶解度は極端に小さくなりn が

3 付近で接着力は最大となるケイ酸カリウムはケイ酸ナトリウムと同じような挙動を示

すがケイ酸リチウムは nが非常に大きくケイ酸分の多い水溶液が得られることが特徴で

ありシリカゾルに近い物性を示すしたがってアルカリ金属ケイ酸塩系結合剤につい

て一般的には耐水性は LigtKgtNa接着力はこの逆の順に良いといわれている

水溶液は強いアルカリ性を示し加熱によってシラノール間で脱水縮合反応を起こし

分子間にシロキサン結合を生じる固形物は融点(軟化点)までずっと非晶質である

2)硬化剤

結合剤は低温で乾燥しただけでは耐水性が不十分であり耐水性の向上のために硬化

剤が添加される硬化剤は耐水性には寄与するが接着力を低下させる場合もあるため

使用目的によっては添加しないこともある一液性の接着剤ではポットライフの要求から

室温で作用するものはあらかじめ添加できないので高温になってはじめて結合剤と反

応するものが選ばれる硬化剤については非常に多くの物質が特許等に提案されている

アルカリ金属ケイ酸塩用の硬化剤にはZnMgCa 等の酸化物水酸化物NaK

Ca等のケイ化物ケイフッ化物Alや Zn等のリン酸塩CaBaMg等のホウ酸塩等が

用いられる

酸化亜鉛による反応機構を LSDGlasserらは次のように示している

反応初期には ZnO粒子の表面で

ZnO + 1198672119874 + 119874119867minus rarr 119885119899(119874119867)42minus

の反応がおこりZn は液中に溶解しOH-が消費されるので pH が下がりケイ酸ゲルが

3

粒子表面に析出する以後はこのケイ酸ゲル層を通して OH-が粒子表面へ拡散しZnOと

反応して Zn(OH)2として固定されるためさらにケイ酸ゲルの析出が行われ酸化亜鉛表

面へ無定形シリカが沈積する

3)充填剤

充填剤としては結合剤との反応性の小さい耐火物粉末が使用される結合剤は加熱脱

水により大きな体積収縮を生じひび割れが発生するのでこれを防ぐため充填剤を添加し

て固体分率を高くするまた粒子間の空隙は水分蒸発の逃げ道となり発泡を防ぐ接着

剤の熱膨張を被着材へ合致させることも重要な役割である

さらに一液性の接着剤ではリン酸塩系におけるアルミナ粒のように室温では反応し

ないが温度を上げていくと結合剤と反応し硬化作用をして耐水性を付与することもある

その他耐火性接着強度熱伝導性電気特性耐薬品性耐摩耗性の向上に重要な

働きがある充填剤の種類に加え粒径粒径分布表面活性等に調整することが必要で

数種の充填剤を混合することが多い

4)核剤

核剤は力学特性成形性成形時の生産性の改良などを目的として種々の結晶性高分子

で利用されている特にポリプロピレンにおいては核剤を添加することにより剛性や耐火

性(熱変形温度)あるいは透明性など諸問題が大幅に改良され高機能化による用途拡大

や成形品の薄肉化軽量化が可能となりさらには短時間で結晶化が完了することから成

形時の生産性も大幅に短縮されコスト削減はもとより省資源省エネを影から支えてい

核剤には工業的な側面から主に力学特性を改善する「核剤」と特に透明性を改良する

効果が高い「透明化剤」とよばれるものがある核剤も透明化剤も高分子の結晶化過程

における基本的な作用機構は同じでありその本質はエピタキシーにあるつまり高分子

融体が結晶化する過程で高分子鎖が結晶化しやすいように「場」(核剤の表面)を提供す

るものである核剤はまた「造核剤」とよばれることもあるが核剤透明化剤とも物理

化学的には高分子に対し同じ作用をしているといえる溶媒中に溶解している溶質が種晶

の添加により析出が促進される現象を想像されたいまさに核剤は高分子融体中に添加

されこれが核となって高分子の結晶化が促進されるのである

4

Fig3-1 核剤の表面からの高分子結晶の成長

a)力学特性の改善

自動車や家電部品の樹脂化率は年々高まり特に自動車においては内外装問わずポリ

プロピレンが多用されるようになった当初はあまり重要でない部分への利用であったも

のの最近ではバンパーフェンダーライナーフロントグリルカウルパネル各種リ

ザーバータンクドアパネルピラーダッシュボードサンバイザーコンソールボッ

クスなどありとあらゆる部分に用途開発が進んでいる高分子材料による金属代替今後

もさらに進められると思われるその理由としては自動車の軽量化はもちろんのこと

設計の自由度(一体成形や金属ではデザインしにくい曲線曲面を複雑に有する部品など)

があげられる自動車部材では機能的に高剛性が求められるものや夏場に高温にさらさ

れる内装部品などは高耐熱性(高い熱変形温度)が求められるものなどがほとんどであり

このような要求性能に応えるべくポリプロピレンに核剤が添加されている

核剤が存在する場合高分子の結晶化が促進され融体の冷却過程においてより高い

温度(より融解温度に近い温度)から結晶化が開始するそのため核剤存在下での結晶化

過程では核剤非存在下での結晶化過程に比較して高分子鎖の運動性が高い状態で結晶

化が開始する核剤を添加した高分子の結晶化開始温度を示差走査熱量計などで測定する

と結晶化が高い温度から開始することも確認されるその結果高分子結晶の欠陥は減

少しまた結晶化度も増大する核剤存在下で結晶化させた高分子結晶は欠陥も少なく

またラメラ厚も厚くなり融解温度が高くなるそのような効果により成形後の高分子

材料の力学特性耐熱性が改善する

5

Fig3-2 核剤の添加のよるポリプロピレンの曲げ弾性率の改善効果

()アデカスタブ NA-11()Hyperform HPN-68 L

()安息香酸ナトリウムポリプロピレン

Fig4-2に核剤の添加によるポリプロピレンの曲げ弾性率の改善効果について示したま

ず核剤を添加することでしかも僅か 01~03 wt程度の添加で曲げ弾性率が劇的に向

上していることが分かるその中で比較すると汎用である安息香酸ナトリウムや HPN-68

Lでは弾性率の改善はあるものの(おおよそ 30の弾性率改善)01 wt程度の添加で改

善効果は飽和する添加物を加えることで剛性耐熱性を大幅に改善できることがわかる

このような改善効果は自動車用に多用されるポリプロピレンのグレードであるインパクト

コポリマーにおいても同様であるさらに核剤の添加により結晶化が促進された結果成

形時間も短縮でき高性能化と相まって生産性改善によるコストダウンも可能となる核

剤はもとのポリマーが有する特徴を損なうことなく物性を改善できるといったメリット

があるといえる

32 縮合重合反応

二つの化合物から水などの簡単な分子が脱離して新たな結合が形成される反応を縮合反

応とよぶカルボン酸とアルコールからエステルを得る反応は縮合反応の一例である

縮合反応を繰り返すことによりポリマーを合成することができるこれが脱水縮合反応

であるたとえば 2個のカルボキシ基をもつ分子と 2個のヒドロキシ基をもつ分子を反応

させると縮合反応が連続して起こりポリマーが得られる本実験では Fig3-3 の反応が

起こる

6

Fig3-3 ケイ酸の脱水縮合反応

33 接着の原理

接着剤による接着効果には複数の理論が挙げられており賛否両論あるものもあるま

た個々の接着現象においても複数の接着効果が絡み合っていることが多く接着効果の

検証は困難であるとされるある接着系では適用できる接着効果が別の系ではまったく無

力ということも多い以下に主な接着効果の理論をあげる

1) アンカー効果

雲母を注意深くはがしたようなごくわずかな例外を除きすべての固体表面は数Åオ

ーダーの粗さを有する例えば機械で製造される金属表面の粗さは 3~6 μmであり研

磨した場合でも 002~025 μmである

アンカー効果とはこのような被着材の凹部に流入した接着剤が固化し被着部に引っかか

ることにより界面が結合するというものであるアンカー効果のような界面との相互作

用を無視した接着効果理論を機械的結合論という

開口部を有するクレバスへの液体の流入について理論式が提案されている

以下の 2式は液体の粘度 η接触角θの液体が深さ Zまで浸透するまでの時間 tを表し

(a)開口部の幅がδの平行板の場合

Zdz

dt=

120575119910

120575120578120574 cos 120579

(b)開口部δ深さ Z0の V型溝の場合

11988501198971198991198850

1198850 minus 119885minus 119885 =

120575120574 cos 120579

6120583119905

となる式によれば開口部が大きくぬれがよく粘度の低い液体ほどまた時間をかけ

たほど深くまで侵入できるとされる

7

Fig3-4 アンカー効果

2)分子間相互作用

ふたつの物体の接着面で分子同士が接触するところで互いにひきつけあう力が働くこと

で接着するとするもの代表的なものにファンデルワールス力結合水素結合が存在す

3)化学的結合

界面に化学結合が存在することで接着強さに寄与するとするものである古くから提唱

されている説であるが化学結合の存在の証明が難しく接着系の界面に本当に化学結合

が存在するのかは十分に検証されなければならないとされる

4)表面自由エネルギーと表面張力

物質の内部と表面では性質が異なる内部の分子は周囲を分子に囲まれており分子間

力で互いに引き合うため安定化されるこれに対し表面の分子には周囲を囲む分子が内部

に比べて少なく内部分子と比べて不安定=エネルギーが高いということになるこの余

分のエネルギーを表面自由エネルギーと呼ぶ

表面積が小さいほど表面自由エネルギーは少なくなるため物質の表面では表面を

小さくしようとする力が働くこの力を表面張力と呼ぶ

5)ぬれと接着角

固体表面に液体が存在するとそれぞれの表面自由エネルギーとその間の界面自由エネ

ルギーとのバランスによって液体が広がり固体表面が液体表面に置き換えられるこの

現象がぬれである固体表面のぬれは材料表面の親水性疎水性や接着強度と直接関係

しているため接着の分野ではきわめて重要である固体表面に液滴を落とすと個体の

表面張力γS と液体の表面張力γL 固体と液体の界面張力γSL が釣り合うことによってあ

る角度θで平衡になるこのとき固体と液体空気の境界点 A における力の水平成分の

釣り合いから次式の Young-Dupreの式が得られる

120574119878 = 120574119878119871 + 120574119871 cos 120579

8

自然状態では表面張力により液体は球状になるこの式は固体表面上での液体を広げよ

うとする力と球状を保とうとする力のつりあいの式である

Fig3-4 固体表面上の水滴

また界面自由エネルギーγ12 で接着している二種類の物質を引き離し表面自由エネルギ

ーγ1γ2をもつ二つの物質に分けるのに必要な仕事(これを接着仕事という)Waとすると

119882119886 = 1205741 + 1205742 minus 12057412

であらわされるこれを Dupreの式と呼ぶ接着仕事とはふたつの物質を引き離すのに必

要な仕事であるからWaの値が高いほど接着強度が強いということになる

個体と液体との関係においてこれら二式をあわせると

119882119886 = 120574119871(1 + cos 120579)

を得るこれを Young-Dupre の式という液体の表面張力と接触角から接着材の接着強

度が分かるという式になっている

6)接着力低下因子と表面処理

接着は清浄な面と面の接触が前提である金属表面は清浄であれば 1000~3000 mNmの

表面張力があるはずであるが大気中では数十mNmの値をしめすこれは異物が付着した

り酸化されていたりするためである特に表面がもろい物質でおおわれていると剥離時に

もろい面での剥離が起こり見かけ上弱い接着強度となる事がある

このような金属表面の表面張力の低下を防ぎアンカー効果において適切な凹凸を金属表

面に付与し接着強度向上を図るために洗浄と研磨を行うのが望ましい

5実験方法

41使用する器具

100 mL ビーカーガラス棒ホールピペット安全ピペッターピンセットキムワイ

プ電気炉2 L ペットボトル紐アルミ角材(10 times 30 times 30 mm)サンドペーパー

はけ

9

42試薬の物性

ケイ酸ナトリウム a)

ケイ酸のナトリウム塩で種類が多いいわゆる水ガラスも多くの場合はケイ酸ナトリウム

であるがその組成は安定していない単一物質として得られているものだけでもメタ

ケイ酸ナトリウム Na2SiO3およびその種々の割合の水化物オルトケイ酸ナトリウム

Na4SiO4二ケイ酸ナトリウム Na2Si2O5四ケイ酸ナトリウム Na2SiO9 などがあるオ

ルトケイ酸ナトリウム Na4SiO4=18405二酸化ケイ素と水酸化ナトリウムを適当な条件

で融解すると得られる水溶液で両者を反応させたのではオルトケイ酸ナトリウムの結晶

は得られずにメタケイ酸ナトリウムの水化物になってしまう無色六方晶系の結晶酸

と加熱していると二酸化ケイ素が沈殿している

酸化マグネシウム b)(MgO)

式量 4030

融点 2852

沸点 3600

一般にアンモニウム塩水溶液に溶けるがエタノールに不溶空気中で水と二酸化炭素を

吸収し炭酸水酸化マグネシウムに変化する水と反応して水酸化マグネシウムとなる耐

火レンガマグネシアセメントの製造原料医薬品として制酸剤の原料となるほか触媒

または吸着材ゴム工業にも用いられる

酸化亜鉛 c)(ZnO)

式量 8138

密度 547 gcm3

無定形の白色粉末水にはほとんど溶解しないが両性酸化物で希酸や水酸化アルカリ

水溶液アンモニア水に溶解する空気中で湿気と二酸化炭素を吸収する白色顔料とし

てペイント絵の具などに用いられるほか粒子の細かいものは医薬品化粧品として用

いられる

酸化カルシウム d)(CaO)

式量 5608

融点 2572

沸点 2850

密度 340 gcm3

10

酸に可溶空気中の湿気を吸収して水酸化カルシウムとなりまた空気中の二酸化炭素を

吸収して炭酸カルシウムとなる水と反応して水酸化カルシウムとなるしっくいモル

タルなどの建築材料石膏さらし粉消石灰の原料医療用に用いられる医療用に用

いられる酸性土壌改良にも用いられる

炭酸カルシウム e)(CaCO3)

式量 10009

融点 1339

二酸化炭素を含む水には炭酸水素カルシウムとして溶解する酸には二酸化炭素を発生し

て容易に溶ける加熱すると二酸化炭素と酸化カルシウムに解離する

二酸化ケイ素 f)(SiO2)

式量 6009

低温ではフッ素フッ素酸水素酸だけが反応する高温では他のハロゲン元素とも反応す

る水酸化アルカリ炭酸アルカリと融解すると水溶性のアルカリケイ素酸塩となる

43実験操作

431被接着面の均一化

1)10times30times30 mmのアルミ角材の表面をサンドペーパーで汚れがなくなるまで削る

2)削った表面をアセトンで洗浄する

3)洗浄が終わったアルミ角材の重量を測り記録する

432ケイ酸ナトリウムのみの接着剤の作製

1)100 mL ビーカーにケイ酸ナトリウム 50 g を加え粘り気が残るぐらいまでイオン交換

水を加えガラス棒で撹拌する

2)アルミ角材の 10times30 mm の面にはけを用いてケイ酸ナトリウム溶液を均一になるよう

に塗りアルミ角材を重ね合わせる

3)150にセットした電気炉に接着面がずれないように慎重に置き 1時間焼成する

433添加物を加えた接着剤の作製

1)100 mLビーカーにケイ酸ナトリウム 50 g添加物(酸化マグネシウウム酸化亜鉛

酸化カルシウム炭酸カルシウム二酸化ケイ素)を 010 gから 010 gずつ 20 gまで加

え粘り気が残るぐらいまでイオン交換水を加えガラス棒で撹拌する

2)アルミ角材の 10times30 mm の面にはけを用いてケイ酸ナトリウム溶液を均一になるよう

に塗りアルミ角材を重ね合わせる

3)150 にセットした電気炉に接着面がずれないように慎重に置き 1時間焼成する

11

5評価方法

51接着強度の評価

1)432433で接着したアルミ板にひもとペットボトルを用いて Fig5-1のように設置す

アルミ角材

Fig5-1 接着面の破壊

2)ペットボトルに少しずつ水を加え接着面が完全に離れた時点を破壊終了点とする

3)破壊終了点でのペットボトルに入っている水の重量を計測する

52耐水性の評価

1)接着したアルミ角材に水をかけ接着面の変化を観察する

6予想

添加物を加えることで接着強度の増加が期待されるしかし大量に添加物を加えてし

まうとケイ酸の割合が小さくなり接着強度は減少してしまうと考えられ添加物の量と接

着強度の関係性をグラフ化するとある値までは増加しその値を超えると減少していくグ

ラフが得られると考えるそこから最も接着強度が高まる添加物の量を測定する

また添加物が硬化剤の役割をし耐水性の改善も予想される

参考文献

1)日本接着学会『接着剤データブック第 2版』日刊工業新聞社1990P228~229

2) 三刀基郷『トコトンやさしい接着の本』日刊工業新聞社2003P56~67

3) セメダイン(株)『よくわかる接着技術』日本実業出版社2008P34~37

PET

Crash

12

4) ユージン Gロコー『ケイ素とシリコーン』シュプリンガーフェアラーク東京株式

会社1990 P85~113

5) 大木道則大沢利昭田中元治千原秀昭『化学大辞典』東京化学同人1989

b)P884 c)P865 d)P867 e)P1368 f)P1669

6)下井 守村田 磁『大学生のための基礎シリーズ 3 化学入門』東京化学同人2005

P229

7) 吉村壽次『化学辞典第 2版』森北出版2009a)P425

8)大勝 靖一『高分子添加剤の基礎化学と材料設計』株式会社 CMC出版2008P219~235

9)httpwwwfacekyowacojpsciencetheorywhat_contact_angleimg01jpg

2015416取得

1

東京理科大学Ⅰ部化学研究部 2015 年度春輪講書

シクロデキストリンを用いた

包接化合物の生成

水曜班

Ikemura M(2C)Ebihara K(2C) Kataoka T(2K)

ShibasakiK(2OK)TsumedaT(2C)NakaA(2OK)Murakoshi R(2OK)

OkawaT(2C)NoguchiA(2K)SekiguchiK(2K)HashimotoY(2C)

1 動機

6~8 分子のグルコース単位からなるα―14結合の環状オリゴ糖であるシクロデキストリ

ンはその環状構造に由来する包接化合物を生成する性質を示すその特異的な包接形成能

を利用した多くの製品が存在し現在もなお基礎研究分野応用研究分野での研究が行わ

れている

そこで私たちは 7 分子のグルコースからなるβ-シクロデキストリンと 3 種類のカルボン

酸を用いて包接化合物を形成させ酸の構造の違いによる包接作用の比較検討及びシクロ

デキストリンの一部のヒドロキシ基をエステル化させ水に対する溶解性及び包接形成能が

どのように変化するか考察する

2 原理

21 包接化合物

包接化合物は Schlenk によって名づけられたもので定義によると原子または分子が

結合してできた 3 次元構造の内部に適当な大きさの空孔があってその中に他の原子また

は分子が一定の組成比で入り込んで特定の結晶構造をつくっている物質ということにな

っている前者の骨組み構造の化合物のほうをホスト分子後者の入り込んでいる分子の

ほうをゲスト分子ともよんでいるがこのゲスト分子の大きさや形状はまったくホスト

構造によって規定されるだけで両者の間には弱い相互作用があっても水素結合のよう

な力はなくてもいっこうに構わないのであるこの包接化合物でのゲスト分子とホスト

構造との間の相互作用というのも物理的な吸着系に近いもので非常に弱い van der

Waals 力から高度に配向した双極子間力まで種々のものが存在する 1)

22 シクロデキストリンの包接能

シクロデキストリンはグルコース残基がα-1α-4 結合した環状のオリゴ糖で一般的

にグルコース残基が 6 個のα-シクロデキストリン7 個のβ-シクロデキストリン8個の

γ-シクロデキストリンが知られている

2

Fig1 α-シクロデキストリンの分子構造

シクロデキストリンの構造は底の抜けたバケツやドーナッツのような構造をしており

その環状構造の外側は多くの水酸基に由来する親水性領域が存在し内側の空洞の CH 基に

由来する疎水領域と相反する極性が一つの分子に共存しているがこの空洞内に様々な有

機化合物などを取り込むという包接作用がもっとも特徴的である

三種類のシクロデキストリンはそれぞれ空洞の大きさが相違するためそれぞれ包接化

合物を形成しやすいゲスト分子が存在する内部空洞が比較的小さいα-シクロデキストリ

ンは比較的小さい分子例えばエタノールメタノール等をβ-シクロデキストリンは汎

用性が広く各種ポリフェノールコレステロールメンソール等の香気成分芳香族化

合物等をよく包接するγ-シクロデキストリンは大きい分子である脂肪酸などを包接する

ことが知られている

シクロデキストリンの包接力の原動力は疎水性相互作用と分子間力が主なものとされて

いるつまりゲストは疎水性の高い分子あるいは分子の大きさが空洞にぴったりとフィッ

トするものほどシクロデキストリンがそのゲストを包接する力は大きく包接物を作り

やすい傾向がある逆に親水性が高くシクロデキストリンの空洞にフィットしないよう

なゲスト分子では包接現象は起こりにくいといえるしかしゲスト分子全体がシクロ

デキストリンの空洞内にとりこまれる必要はなく部分的にでも疎水性が高く空洞にフィ

ットすれば包接が可能となるつまりゲスト分子全体がシクロデキストリンより明ら

かに大きいものでも包接作用による効果が観察される場合がある 2)

Fig2 シクロデキストリンがゲストを包接する様子

23 水溶化シクロデキストリン

3

ブドウ糖やショ糖など通常糖質の水への溶解度は非常に高いしかし天然型シク

ロデキストリンは隣接する水酸基との水素結合の為3 種のシクロデキストリンの中では最

も高い水溶性を有するγ-シクロデキストリンであってもその溶解度は 25において水

100 mL に 23 g であり油性物質を包接した場合は一般的にその溶解度はさらに低くな

るそこで水への溶解度を改善するためにシクロデキストリン化学修飾体が製造されて

いるシクロデキストリンの水溶性を向上させる方法として隣接する水酸基をメチル基や

アセチル基などでエーテル化やエステル化する方法がある具体的には部分メチル化β-シ

クロデキストリンやモノアセチル化β-シクロデキストリンが工業的に生産されている

24 包接能の評価について

今回の実験ではゲスト分子としてカルボン酸を用いるシクロデキストリン及び水溶化

シクロデキストリンの包接能の評価については包接化合物に含まれているカルボン酸をア

ルカリで滴定することで求めることができる

3 実験

31 試薬sup3⁾

アジピン酸

分子式C6H10O4

分子量1464

mp153

bp3375 アジピン酸

クエン酸

分子式C6H8O7

分子量19213

mp156~157

クエン酸

シュウ酸

分子式C2H2O4

分子量9004

mp1895

シュウ酸

4

βシクロデキストリン

分子式(C6H10O5)7

分子量113500

n-ブタノール

分子式C4H10O

分子量7412 β-シクロデキストリン

bp1179

エタノール

分子式C2H6O n-ブタノール

分子量4607

mp-1145

bp7833

水酸化ナトリウム

組成式NaOH

分子量4000

mp328

bp1388

無水オクタン酸

分子式C₈H₃₀O₃

分子量27041

mp-1 無水オクタン酸⁶⁾

濃硫酸

分子式H₂SO₄

分子量9808

mp104

32 使用器具

300 mL ビーカーメスフラスコピペット三角フラスコ吸引漏斗吸引瓶ビュレッ

トスタンドボウルガラス棒

5

33 実験操作

331 エステル化シクロデキストリンの合成 ⁵⁾

1)三角フラスコにβ-シクロデキストリン 1 g を入れこれに無水オクタン酸 025 mL を加

える

2)触媒として 2-3 滴の濃硫酸を添加し攪拌する

3)約 10 分間放置してフラスコを氷桶に入れて冷やしガラス棒でフラスコの壁を強くこす

り結晶を析出させる

4)水 20 mL を加えさらに氷桶で冷やしながら残る結晶を析出させる

5)この結晶を濾分し水で洗ってから取り出して乾かして結晶を得る⁵⁾

332 包接化合物の形成

1)β-シクロデキストリン 1 g を水 100 mL に溶解させる

2)ピペットで 1 mL のカルボン酸を加えコルク栓をして静置する

3)1 週間程静置し包接化合物を吸引濾過する

4)上記の操作をカルボン酸(酢酸シュウ酸クエン酸)で行う

5)エステル化シクロデキストリンで同様の実験を行う

333 包接能の測定

1)よく乾燥した包接化合物約 1 g をメスフラスコで 100 mL 溶液とする

2)この溶液 20 mL にフェノールフタレインを指示薬として20 mL 加え 01 M 水酸化ナト

リウム標準溶液で滴定する⁴⁾

334 溶解度の測定

1)100 mL の水に 5 g の β-シクロデキストリンを溶解させる

2)沈殿をろ過し乾燥して重量を測定する

3)エステル化 β-シクロデキストリンで同様の作業を行う

参考文献

1) 竹本喜一包接化合物の化学東京化学同人1969p2

2) 辻堅司シクロデキストリンの応用技術株式会社シーエムシー出版2008p3-p9

3) 大木道則大沼利昭田中元治千原秀明化学大辞典東京化学同人1989

4) 発田寿々子教養の化学実験第 2 版学術図書出版社2014p119

5) 南篠正男先生と生徒のための化学実験共立出版株式会社1986p155

6) 「 chemical book 」〈 wwwchemicalbookcomchemicalProductPropert_JP_CB 〉

(2015418 アクセス)

1

東京理科大学Ⅰ部化学研究部 2015年度春輪講書

ダブルネットワークの合成と評価 木曜班

OnizukaM(2C)TanakaR(2C)YamamokaH(2K) OhiraM(2K)

1背景

現在高分子ゲルは紙おむつの高吸水性樹脂やソフトコンタクトレンズなど私たちの生

活において活躍しているしかし高分子ゲルは不均一な構造なため一般的に機械的強

度が弱いという欠点がある高分子ゲルの強度面での弱点を克服するために従来では

ゲルの構造を均一化して強度を上げるというアプローチがとられてきた

しかしながら材料の弾性とじん性は反相する因子として働くつまり大変形に耐え

られるゲルは弾性率を犠牲とし高弾性のゲルは小さい変形で破壊される

そこで私達木曜班は前述の問題の解決策と成り得るものとしてダブルネットワーク

ゲル(DNゲル)について注目した

2目的

既存に作られている DNゲルは溶媒に水を用いたハイドロゲルであるDNゲルはその

強度や柔軟性により生体内での人工関節に使用することが期待され研究がおこなわれて

いる木曜班では DNゲルを生体内の関節だけでなく機械の関節部の摩擦軽減材料として

の使用を提案するしかし従来の DNゲルは溶媒が水であることにより水の沸点である

100以上の条件下では性能の低下が問題視され高温になりうる機械への応用が困難で

ある

溶媒を水から有機溶媒に変更することで高温条件下でのゲルの機能維持を試みるとと

もに使用するモノマーを変更しその機能性を検討する

3原理

31 DNゲル

311ゲルの脆弱性

一般的なゲルはゼリーや豆腐のように僅かな力を加えただけで簡単に壊れるほど

弱いこの理由は 2つの現象により説明することができる

1)ゲルの内部に多数の欠陥が存在する

2)欠陥から発生した初期亀裂が容易に伝播する

前者はゲル内部の構造が不均一であることに由来するゲル合成時におけるモノマ

ーと架橋剤の反応性の違いにより不均一な重合がおこるあるいはゲル化溶液内の濃度

揺らぎが重合によって固定されることだと考えられている 1)こうしたゲルに力を加えた

2

時にゲルの弱い部分に力が集中してしまうため小さな力でも初期亀裂が生じてしまう

後者はゲル内部のポリマーの密度の低さから生じる一般的に物質内における亀裂

の進みやすさは破壊エネルギーU(Jm2)(単位面積あたりの破断面形成に費やされる仕事)

によって評価される架橋高分子材料の臨界破壊エネルギーUc(亀裂成長が起こる最小

の破壊エネルギー)は破断面の高分子鎖の数密度と架橋点間分子量に比例する 2)つま

りゲルのじん性(物質の破壊に対する抵抗の程度で粘り強さとも言い換えられる 3))はゲ

ル内のポリマーの密度には比例し架橋密度には反比例することがわかる

ゲルは 50~99wtの溶媒を含んでいて高分子の密度が非常に低い物質であるためゲ

ルの Ucはゴムなどの固体に比べてかなり小さいことが考えられる

これまでの高強度ゲル研究は主に前者の問題を解決するすなわち構造を均一化するこ

とでゲル内部の欠陥を極力減らして強度を改善しようという観点から行われてきた

312 ゲルの弾性率

高分子鎖が三次元架橋されたゲルはゴムと同じようにエントロピー弾性を持つ溶液

中に完全に湿潤した電気的に中性ゲルのせん断弾性率(横方向に対するバネ係数 4)であり

Young率 Eと E=3Gの関係式が成立する)は

GneucongkBT

b3Q-225

以上の式で表せられゲルの湿潤度 Qの増加にともないせん断弾性率Gneuは大きく低下

するここでkBはボルツマン定数Tは温度bは重合させたモノマーの大きさである 5)

一方溶液中に完全に湿潤した電解質ゲルのせん断弾性率は

GchacongkBT

b3Q-1

によって表せる 6)よって同じ湿潤度において電解質ゲルは中性ゲルよりせん断弾性率が

高いことが分かる

またゲルの湿潤度は架橋点重合 N(分子量)による溶液中に完全に湿潤した中性ゲル

の場合QasympN35であり電解質ゲル場合QasympN

32であるしたがって架橋密度を上げる

ことによりゲルの湿潤度が小さくなりせん断弾性率が上がる 3)4)

313 ゲルの破断歪と破断応力

架橋構造が均一と仮定した理想的なゲルの破断歪(ゲルが破壊するまでの変形 7))は架

(1)

(2)

3

橋点間高分子の伸びきった長さと高分子鎖に歪がない曲がった自然な状態での大きさ

の比として求められる溶媒中で完全に湿潤した中性ゲルの引っ張り破断歪はλBcongQ12で

ありQの増加により増加する一方湿潤することにより単位面積あたりの高分子

の本数が減るため破断応力は湿潤度 Qが大きくなることにより減少する故にQが大

きいゲルは伸びやすいが弱い応力で壊れる

電解質ゲルの場合高分子鎖はその解離しているイオンの浸透圧によって水中では

ほとんど伸びきった状態となっているその結果理想状態においても破断歪はλBcongQ19

になるこれは破断歪が小さくかつ湿潤度にあまり依存しないことを意味している 5)

以上のことより

1)架橋密度を上げる(架橋点間分子量を下げる)ことでゲルが固くて脆くなる

2)水中に完全に湿潤した高分子電解質ゲルは中性のゲルより硬くて脆い高弾性と変形は

相反するということが考えられる

314 DNゲルの高強度機構

DNゲルは強電解質をモノマーとする 1st networkゲル電気的に中性なモノマーを用

いる 2nd networkゲルを組み合わせることにより生成される前述した通りゲルにおける

弾性と靭性は常に相反する働きをするそれゆえに単一な物質で両方の性質を得るこ

とは原理的には不可能である同じ湿潤度において電解質ゲルと中性ゲルのせん断弾性

率の比はGchaGneucongQ125であるために両者の違いは湿潤度 Qが高いほど大きくなる

この性質を利用することにより電解質ゲルは硬い成分中性ゲルは軟らかい成分とし

て用いることができる

亀裂を含む DNゲルがある引張荷重を受けると応力集中の効果で最初に亀裂先端近傍

の電解質網目(1st network)が破壊され局所的にゲルが降伏する荷重がますと電解質網

目の破壊が次々に伝播し広範囲にわたるダメージゾーンが形成されていくこの過程

で非常にいい気なエネルギーが分散されるダメージゾーンがある大きさまで広がった

ときようやく亀裂先端に中性網目(2nd network)が十分に伸びて切断し亀裂が進行す

る 8)

4

Fig 1 DNゲルの破壊モデル 9)

32 光ラジカル重合

321 光分解

光重合開始剤に UVを当てることにより開裂がおきラジカルが発生する本研究にお

いては 1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンを用いる 10)

Scheme1 1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンの開裂 10)

ℎ120592

5

322 開始反応

UVを当て光開裂により生じたラジカルがビニル基の二重結合を攻撃し光重合開始剤

と炭素の間に σ結合を作り炭素原子にラジカルが存在することになる

Scheme2 ラジカルの生成

323 成長反応

Scheme2で生成したラジカルが他のモノマーを攻撃しσ結合を生じるそれが何回

も起こることにより分子鎖が成長する 6)

Scheme3 分子鎖の成長

324 停止反応

Scheme 3で成長した成長ラジカル同士が σ結合を作り分子鎖が生成する 7)

Scheme4 分子鎖の生成

4実験

41 DNゲルの合成

411 使用器具試薬

ビーカー乳鉢乳棒薬さじUVライトデシケーター

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸

分子式 C7H13NO4S

式量20724

融点160

用途1st networkゲルのモノマー

6

アクリル酸

分子式C3H4O2

式量7206

融点123

沸点1416

比重10511

危険性引火性(発火温度 360 )

用途1st networkゲルのモノマー

アクリロニトリルの加水分解アクロレインの酸化ニッケルカルボニルの存在下ア

セチレンと一酸化炭素と水との反応などにより合成される酢酸に似た刺激臭を持つ液

体水エタノールエーテルによく溶ける酸素の存在下容易に重合するプラス

チックの原料として用いられる

アクリルアミド

分子式C3H5NO

式量7108

融点845

沸点103

比重1122

用途2nd networkゲルのモノマー

アクリルニトリルを硫酸あるいは塩酸を処理して得られるフレーク状の結晶溶解

性(g100 ml溶媒30 )水 2155メタノール 155エタノール 862アセトン 631

酢酸エチル 126クロロホルム 266ベンゼン 0346ヘプタン 00068化学的に不安

定で冷暗所に保存する必要がある融点付近あるいは紫外線下で重合する重合の仕方

により水溶性不溶性のものが得られる

酢酸ビニル

分子式C4H6O2

式量8609

融点-932

沸点723

比重09317

用途2nd networkゲルのモノマー

無色の液体酸やアルカリよって容易に加水分解されてアセトアルデヒドと酢酸を生

じる熱光ラジカル開始剤によって重合する

7

メタクリル酸メチル

分子式C5H8O2

式量10012

融点-48

沸点1003

比重0936

用途2nd networkゲルのモノマー

無色透明で催涙性の芳香のある液体工業的にはアセトンシアノヒドリンにメタノー

ルと硫酸を作用させて合成する実験室的にはメテクリル酸メチルの重合物を 320

以上で乾留すると得られる一般に有機溶媒には溶けるがエチレングリコールグリセ

リンには溶けにくい重合しやすいので重合禁止剤としてヒドロキノンモノメチルエ

ーテル(65 ppm)を添加して保存する有機ガラスの製造ビニル系共重合体など広く

重合反応に用いられるまたメチル以外のアルコールのメタクリル酸エステルの合成

にも用いられる

NN-メチレンビスアクリルアミド

分子式C7H10N2O2

式量15417

融点300

用途架橋剤

1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン

分子式C13H16O2

式量20427

融点47-50

用途光重合開始剤

最大吸収波長は 260 nm付近にある

エチレングリコール

式量6207

融点 -126

沸点1976

比重11132

8

用途ゲル溶媒

重要な二価アルコールでエチレンオキシドの酸触媒による開環高温高圧下水と

の反応による開環などによって合成される吸湿性無色無臭の液体甘味を有する

が有毒である高沸点を有ししかも水酸化カリウム水酸化ナトリウムを溶解し水や

エタノールと任意の割合で混合するので有機合成における溶媒として広く用いられ

また塩基に対して安定なエチレンケタールの生成によるカルボニル基の保護に用いら

れるさらに酢酸ビニル系樹脂の溶剤や水と混ざり高沸点のため不凍液に用いら

れるなど広い用途を持っている

412 1st networkゲルの作成

1) 1st networkゲルのモノマー(電解質モノマー)架橋剤(NN-メチレンビスアクリルア

ミド)と光重合開始剤(1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)を水に溶解させた水

溶液を調製する

2) UVを 8時間照射して光ラジカル重合をさせる

3) 2)で合成した電解質ゲルを乳鉢に入れ適当なサイズに砕いた後デシケーター内で一

週間ほど乾燥させる

413水溶媒 DNゲルの作成

1) 2nd networkゲルのモノマー(中性モノマー)架橋剤(NN-メチレンビスアクリルアミ

ド)光重合開始剤(1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)をエチレングリコールに

溶解させた溶液を調製する

2) 乾燥した電解質ゲルを 1)で調製した水溶液に入れ電解質ゲルを十分に膨らませるそ

の後UVを照射し中性モノマーを光ラジカル重合させる

414エチレングリコール DNゲルの作成

1) 2nd networkゲルのモノマー(中性モノマー)架橋剤(NN-メチレンビスアクリルアミ

ド)光重合開始剤(1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)をエチレングリコールに

溶解させた溶液を調製する

2) 乾燥した電解質ゲルを 1)で調製したエチレングリコール溶液に入れ電解質ゲルを十分

に膨らませるその後UVを照射し中性モノマーを光ラジカル重合させる

42 DNゲルの評価

421引っ張り試験

使用するモノマーの変化によるゲルの性質の差を評価する引っ張り試験は

JIS-K-6251-7号に準拠する方法で測定する

9

1)DNゲルを X方向の長さ 50 mmY方向の長さ 75 mmZ方向の長さが 25 mmの大

きさに成形する

2)その一端部に X-Y平面に平行な切込みを入れて2つの引張端部を形成する

3) 引張端部を片方は固定しもう片方を一定の速度で引っ張るこのときの引っ張る力 F

を測定する

Fig 2 引っ張り試験 13)

422 摩擦試験

使用するモノマーの変化溶媒の変化によるゲルの性質の差を評価する

摩擦試験は東京理科大学工学部第一部機械工学科佐々木研究室に依頼する予定である

用いる機械は SVR4パーカー熱処理工業株式会社製であり180での高温での摩擦係

数の測定が可能である

摩擦測定は常温(20 )と高温(100 )で測定することを予定している

10

5 展望

51 DNゲルの合成

実験操作は溶液を調製した後UV照射するという簡易な手順なので合成は比較的早い

段階で成功すると考えられる

1st networkゲル合成に使うのは電解質モノマーなため水溶液のモノマーの濃度が低

いと湿潤度 Q が大きくなりせん断弾性率が下がり剛性が弱いゲルが出来上がると考え

られる

架橋剤を多く使用すると架橋密度を上がるので 2nd networkゲルが入り込む空洞が小

さくなるそのために架橋剤が多すぎると高弾性のゲルが生成できると考えられる

また同様な考えで2nd networkモノマーが含まれている水溶液に乾燥させた1st network

ゲルを入れる量が多くても高弾性のゲルが生成できると考えられる

52 DNゲルの物性

ゲルの高分子網目は基板から離れようとするときにゲルと基板の間に僅かな溶媒層

が生じるこの状態では溶媒層が潤滑油のような働きをして生じる摩擦力は小さなも

のとなるゲル周辺が高温な状態ではこの溶媒層が水の場合は蒸発してしまうので摩

擦力は増大すると考えられる溶媒を水からより沸点の高いエチレングリコールなどに

変えれば摩擦力は増大することはないと推測される 14)

11

参考文献

1) J Bastide and L LeiblerMacromolecules1988212647

2) G G J Lake and A G ThomasProc R Soc LondonA1967300108

3)越後亮三 機械工学辞典 朝倉書店 2007 p631

4) 伊藤勝悦 やさしく学べる材料力学 森北出版 2014 p14

5)SPObukhovMRubinstein and RHColby Macromolecules 1994273191-3198

6)MRubinsteinRHColbyAVDobrynin and JJaonnyElasticMacromolecules199629398-406

7) 大 阪 府 立 大 学 基 礎 講 座 材 料 の 強 度 と 破 壊

httpwwwengmmtrosakafu-uacjpresearchstrength-japdf2015413取得

8)聾剣萍「生命科学時代の新材料-高弾性高靱性ダブルネットワークゲル」高分子学会

『高分子』高分子科学最近の進歩58巻 5号2009p327-p331

9)YTanakaEurophysLett20077856005

10)蓮池幹治ラジカル重合ハンドブックエヌティーエス2010p444-p445

11)大津隆行ラジカル重合(Ⅰ)化学同人1971p80-p81

12)大津隆行ラジカル重合(Ⅰ)化学同人1971p153-p154

13)聾剣萍高分子ゲルおよびその製造方法特開 2009-185156 2008-02-05

14) 角五 彰龔 剣萍長田義仁「ゲルの摩擦と水和潤滑~生物の滑らかな運動解明への

アプローチ」日本生物物理学会『生物物理』47巻 4号2007p 253-p258

1

東京理科大学Ⅰ部化学研究部 2015年度春輪講書

耐塩性の高い新規化粧品用増粘剤の開発 2015年度金曜班

Nomata N(2OK)Seki M(2OK)Tin J(2OK)Takahashi R(2C)Watanabe A(2K)

Asai D(2K) Nishimiti D(2K)Yamamoto R(2K)

1 動機

化粧品において増粘剤の果たす役割は非常に大きい

化粧品にはクリーム状のモノが多くありその整形には増粘剤が必要不可欠である

また増粘剤は製剤だけでなく密閉効果や水和効果によって薬剤を皮膚に効率的に輸

送することに役立っている

この増粘剤であるが一つ課題がありアスコルビン酸塩(ビタミン C)のようなクロロ

基を持つ塩系薬剤をゲル中に含む場合経時によってべたつきといった使用感の悪化

につながるといった弱点があるこの問題の解決のために塩系薬剤への耐性の高い増

粘剤の開発が望まれている

塩系薬剤の高い美容効果からこの問題の解決に対する化粧剤企業のニーズは高くこ

の問題は長く研究が続けられていたが近年資生堂が逆相マイクロエマルション重

合法によって microスケールの粒状高分子を多数合成することによりできる増粘剤が高い

耐塩性を持ち使用感もよいことを発見したがこの粒状高分子増粘剤には未だ試み

られていないモノマーが多くある

そこで今年度の金曜班ではこの逆相マイクロエマルション重合法において未だ

試みられていない親水基を持つモノマーを利用して新規の増粘剤をつくることで粒

状高分子による増粘剤の耐塩性と肌触りと親水基の関係を調べ応用化に利すること

ができるのではないかと考え実験を行うこととした

2 背景

増粘剤とは水溶液をゲル化するために添加される物質であり化粧品において広く

用いられているこの増粘効果は従来では高分子鎖同士の分子間力や架橋で生じる

網目構造の結果生じる液中の摩擦力によるものである

動機で述べたように μスケールの粒状高分子が増粘剤として良質であることがわか

っているただし粒状高分子の形状は反応場であるセッケンミセルの大きさだけで

なく親水基やポリマーを構成する原子同士の分子間力によって変わる高分子の立体構

2

造にも影響されている

また粒状高分子の正確な一次構造を把握することは大変難しいことであるので

応用化のためには高分子の一次構造でなくモノマーによって粒状高分子特性の変化

を調べることが重要である

さらに従来用いられているポリマーがスルホ基とカルボキシル基を親水基とする

ものしか存在しない

以上の三点から酸以外の親水基をもつモノマーで増粘剤を合成したときその性

質はどうなるかを調べることでより製品として利用価値が高い粒状高分子増粘剤を合

成することができるのではないかと考えた

そこで新規モノマーとしては対照実験を行うためにアクリルアミド系モノマー

でかつ 2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸のスルホ基と同じ炭素骨格の先

端に親水基が存在するものとしてN-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド (3-アク

リルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライドを用いてそれぞれ親水基が酸

ではなくヒドロキシ基である場合親水基がアニオンではなくカチオンである場合に

ついて研究を行うこととした

この二種の以外にも水溶性のアクリルアミドポリマーは存在するが上記の条件を満

たさないまたは高価であるため本実験では用いないこととした

Fig1 N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド

Fig2 (3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライド

3

3 原理

31 一般的な液体の粘性

溶液の粘性は一般論では以下のように表される

Fig3のように XY平面を取り液面に平板を用意し引っ張った時挟まれた溶液内

には図のようなせん断流動が発生する高さ Yでのせん断速度は(119881

119889) 119910で与えられる

この時平板に挟まれた溶液を薄層の集まりと考えると隣り合う薄層間に摩擦が生

じるこの内部摩擦力が粘性力であるずり速度勾配が十分に小さければ平板の単位

面積当たりに生じる粘性力 Fv0はその勾配 Vd に比例するすなわち以下の式で表

され1205780を粘性係数と呼ぶこの値は溶媒固有である1)

1198651199070 = 1205780 (119881

119889)

Fig3 溶液ずりせん断図

32 増粘剤の粘性

増粘剤の多くは低分子の液体に高分子を溶かすと著しく粘性が高くなる性質を利

用している

この粘性の発生するメカニズムは下の Fig4において平板間の溶液を薄層に分けた

際高分子鎖は溶液の移動に伴って回転するこのとき溶液中の薄層は薄層間の摩

擦以外に高分子鎖との間にも摩擦が生じているこの摩擦の増加が粘性力の増加とな

る 2)

4

Fig4 高分子による粘性増加

また高分子鎖同士が分子間力によって結びつき三次元構造を形成することで内

部摩擦力は一層大きくなるこのため高分子による増粘効果は顕著である

架橋高分子では三次元構造が高分子鎖同士の分子間力による形成よりも強いものと

なるので増粘効果及びレオロジー特性に優れる 3)

33 塩系薬剤による粘性劣化のメカニズム

塩系薬剤とはビタミンC (アスコルビン酸塩)のようにクロロ基をもつ薬効物質のこ

とである

このクロロ基が直鎖高分子や架橋高分子がポリマー間で形成する三次元網目構造

を破壊することによって増粘効果を消失させ内容物の流失によるべたつきを生じさ

せる 3)

34 粒状高分子の粘性

粒状高分子の粘性について粒状高分子はその粒経が小さいほど体積に対する表面

積が増え溶液内での内部摩擦力が大きくなる

また粒子同士が摩擦力を元に網目構造を形成するため網目構造の構成要因が直

鎖高分子や架橋高分子の高分子増粘剤と異なっている 4)

35 逆相マイクロエマルション重合法

後述する転相温度乳化法を用いて形成した5 μm~30 μm 形成したマイクロエマル

ション内において水溶性のモノマーを利用して行う乳化重合法の一種容易に極小の

5

ポリマーを合成することができる 5)

36 界面活性剤の概略

界面活性剤とは分子の構造が水になじみやすい部分(親水基)と油になじみやすい

部分(新油基)からできていて2つの物質の間の界面に集まりやすい性質を持ちそ

の界面の性質を著しく変える物質というのが界面活性剤の定義である

代表的な界面活性剤の特徴は界面における「吸着」と「ミセル形成」である 6)

もうひとつの代表的な作用として「可溶化」もある

37 エマルションの形成

界面活性剤に有機溶媒が取り囲まれて水に可溶化されたとき水溶液中に存在する

有機溶媒を界面活性剤が取り囲んだ液滴のことを OW エマルションと呼ぶ

有機溶媒中に水が可溶化される場合WOエマルションと呼ぶ

38 ノニオン界面活性剤

非イオン界面活性剤とも言う界面活性剤の内解離基を持たず電気的に中性な

界面活性剤で親水基は主にポリオキシエチレン基であるその特殊な性質上他の種類

の界面活性剤に無い性質として曇点と転相温度を持つ 今回使用するノニオン界面

活性剤はポリオキシエチレンオレイルエーテルであり基本式は以下のような形にな

る 7)

R-O(CH2CH2O)n-H

Scheme 1 ポリオキシエチレンオレイルエーテルの基本式

39 曇点

曇点とは透明な液体が相分離を起こして白濁する温度のこと

本実験においてはノニオン界面活性剤が加温によって界面活性効果を失い相分離

によって白濁する温度のこと 8)

310 転相温度乳化

ノニオン界面活性剤は加温によって界面張力が変化しWO型エマルションから

OW 型に変化するこの変化点のことを転相温度と言い転相温度において界

6

面張力が最低になっているので溶液エマルションが極小になる

またこの転相温度は界面活性剤に固有の値となるので二種の比較的性質の

近い界面活性剤を混合することで転相温度を操作し適切な温度で5 μm~30 μm

程度の直径を持つエマルションを作成する方法を転相温度乳化法と呼ぶ 10)

311 ラジカル重合

開始剤を用いてラジカル種を生成して行う重合法のことをラジカル重合法と言う

開始剤の分解要因によって熱光放射線ラジカル重合の三つに分けられる 10)

3111 ラジカル重合を構成する四反応

ラジカル重合は 4種類の反応が同時並行的に起こるそれぞれ以下の通りである 11)

開始反応

開始剤が熱光放射光などの要因によってラジカル開裂を起こしラジカル種を

生じさせる反応

成長反応

ラジカル種がモノマーと反応することでモノマー新たなラジカル種が生成する

反応これが連続することでポリマーが合成される

停止反応

連鎖していた成長反応が止まる反応主にラジカル種同士の反応による

連鎖移動反応

ラジカル種がモノマー以外の分子主に溶媒分子等と反応することでポリマー以

外の物質を合成する副反応

3112 乳化重合

乳化重合はモノマー液滴と呼ばれるモノマーを大量に保存しているエマルシ

ョンと反応場となる極小のセッケンミセルの二つの構造を持つ溶液中で行う不均

一系ラジカル重合の一種である 12)

成長反応が一段階進むたびにモノマー液滴から拡散の理論式に従ってモノマ

ーがミセル内に移動するこの一連の反応を繰り返して反応が進む 13)

そのため種々のラジカル重合法と比較して以下の特長がある 13)

セッケンミセル内に存在するラジカルが常に一つであるため停止反応が

7

起こりにくく比較的重合度の高いポリマーが生成しやすい

反応速度が拡散作用によって律速されかつセッケンミセルの周囲を大量

の溶媒分子が囲んでいるため除熱が容易であるという理由から熱暴走を起

こしにくいという利点がある

ミセル内で重合するため合成した高分子が絡まりやすく粒状の分子が作

成できる

Fig5 乳化重合模式図

312 MS(質量分析法)

質量分析法とは分子の質量すなわち分子量を測る手段でもあるまた分子を分解

したフラグメントの質量を測ることによって分子構造に関する情報を得るものでも

ある

高エネルギー電子が有機分子にぶつかると分子から電子がはじき出せれカチオ

ンラジカルが発生する

119825119815 rarr 119825119815++119838minus Scheme 2カチオンラジカルの発生

電子の衝突により大量のエネルギーが分子に与えられることで大部分のカチオン

ラジカルを生成した後フラグメントに分解するフラグメントは小さな破片となっ

て浮遊し正電荷や中性となる

このカチオンラジカルとフラグメントについてmz値を横軸相対強度を縦軸につ

いて取ったグラフから質量スペクトルを読み取る 14)

またMS(質量分析法)はイオン化の方法などによりいくつかに分けられ今回使用

したいのは高分子試料でもほとんどフラグメンテーションを起こさないソフトなイ

8

オン化法であるMALDI法 15)である

3121 MALDI法(マトリックス支援レーザー脱離イオン化法)

試料を 25-ヒドロキシ安息香酸のような適切なマトリックス上に吸着させて

ペレットを作成しレーザー光を短時間照射してイオン化する

エネルギーがマトリックスから試料に移動し[119872 + 119867119899 ]119899+に分解される 15)

MALDI法にはよく TOF型の MSが用いられている

4 実験

41 2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を用いた既存化粧品用増粘剤の合成

411 使用器具試薬

温度計ウォーターバスビーカー薬さじデシケーター

ジメチルアクリルアミド

式量9913

沸点81

発火点71

LD50(経口)316mgkg

LD50(経皮)580mgkg

製造和光純薬工業株式会社

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸

式量20725

融点200

LD50(経口)5400mgkg

製造和光純薬工業株式会社

NN-メチレンビスアクリルアミド

式量156

沸点4451

発火点215

LD50(経口)390mgkg

製造東京化成工業株式会社

9

へプタン

式量1002

沸点98

引火点-4

水に不溶

製造昭和化学

2-プロパノール

式量60

沸点82

発火点12

LD50(経口)区分外(GHS分類)

LD50(経皮)区分外(GHS分類)

製造昭和化学

ペルオキソ二硫酸アンモニウム

式量22820

冷水に易溶保存湿気厳禁

重合開始罪乳化重合レドックス重合に用いられる

製造和光純薬工業株式会社

412 実験手順

① ビーカーにイオン交換水ヘプタンポリオキシエチレンオレイルエーテル(2)

(8)をそれぞれ507 mL 507 mL489 g((2)(8)=23)加えて良く撹拌したも

のを入れる

② その後その後温度調節機能つきスターラーに乗せ白濁するまで加熱する

白濁した液が透明化するまで温度を落とし電気伝導率計を用いて溶液が転

相温度付近に保たれていることを確認する

③ 以上の操作が済んだ重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先

ほどのスターラーと同じ温度にしたウォーターバスに移し2-アクリルアミド

-2-メチルプロパンスルホン酸NNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 137 g

262 g入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始

剤としてメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

10

④ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

42 N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミドを用いた新規化粧品用増粘剤の合成

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を誘導体と入れ替える以外の

操作は 41に準ずる

親水基による増粘性の変化を観察するため架橋剤のモノマーに対する濃度比

は 2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を使用したポリマーが最も増

粘効果の高くなると報告された濃度比を用いる

421 使用器具試薬

使用器具は 41に準ずる

試薬

N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド

式量11513

沸点130

発火点189

製造東京化成工業株式会社

422 実験手順

① 412 ①②と同じように重合系を作成する

② 以上の操作が済んだ重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先

ほどのスターラーと同じ温度にしたウォーターバスに移しN-(2-ヒドロキシエ

チル)アクリルアミドNNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 076 g262

g 入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始剤と

してメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

③ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

11

43 (3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライドを用いた新規化粧品用

増粘剤の合成

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を誘導体と入れ替える以外の操作は

41に準ずる

親水基による増粘性の変化を観察するため架橋剤のモノマーに対する濃度比は 2-ア

クリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を使用したポリマーが最も増粘効果の高く

なると報告された濃度比を用いる

431 実験器具

実験器具は 41に準ずる

試薬

(3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライド

式量22074

沸点100

製造東京化成工業株式会社

432 実験手順

① 412 ①②と同じように重合系を作成する

② 重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先ほどのスターラーと

同じ温度にしたウォーターバスに移し (3-アクリルアミドプロピル)トリメチ

ルアミニウムクロライドNNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 123 mL

262 g入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始

剤としてメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

③ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

5 評価分析

耐塩性の高い増粘剤の耐塩性と使用感と親水基との関係を評価するために以下の二

つの測定を行い評価する

増粘剤の耐塩性の評価のために塩酸を増粘剤内部に取り込ませた状態で経時

12

による粘度の変化を観察する

また高分子の粘性を考える上で直鎖高分子の場合よく参考にされるのが平

均分子量でありこの値を測定することで親水基が変化した場合に平均分子

量が粒状高分子の粘性にも大きく影響するか確認する

精密に上の測定を行うには専用の機器が必要になるため機器メーカーの株式

会社エーアンドデイ様または東京理科大学理学部応用化学科駒場研究室に

また高分子の性質を考える上で重要視される平均分子量及び分子量分布に

ついては東京理科大学化学系機器センターにあるMALDI-TOF型質量分析計を管

理者の東京理科大学理学部応用化学科の根岸先生に測定に協力していただこうと

考えている

6 謝辞

東京理科大学工学部工業化学科 近藤行成教授

東京理科大学理学部化学科 遠藤恆平准教授

東京理科大学理学部応用化学科 駒場慎一教授

この研究を進めるに当たり大変お世話になった先輩先生方企業の皆さんに感謝の

意を表明します

参考文献

1) 小澤美奈子 基礎高分子科学 高分子学会 編 2010年 第六版 p979899

2) 小澤美奈子 基礎高分子科学 高分子学会 編 2010年 第六版 p99100

3) 金田 勇 逆相マイクロエマルション重合法による水膨潤性ミクロゲルの重合とその増

粘剤としての応用 2010年 p1

4) 小林敏勝 福井寛 きちん知りたい粒子表面と分散技術 日刊工業新聞社 p76

5) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 2006 p839 840 841

6) 皆川基 藤井富美子 洗剤洗浄 百科事典 大矢勝 2007年版 p4647

7) 日本産業洗浄協議会編 わかりやすい界面活性剤 工業調査会 2003 p373839

8) 資生堂 HP httpswwwshiseidogroupjprddevelopmentformulationhtmlより 2015

44取得

9) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 テクノシステム 2006 p321

10) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 テクノシステム 2006 p397

13

398399

11) 遠藤 剛 高分子の合成(上)~ラジカルカチオンアニオン重合~ 講談社 2010 3p

12) 佐藤壽彌編 高分子微粒子の技術と応用 シーエムシー出版 2004 p2526

13) 佐藤壽彌編 高分子微粒子の技術と応用 シーエムシー出版 2004 p27

14) マクマリー 上 8版 東京化学同人 p403404

15) John McMurry マクマリー有機化学(上) 第 8版 2013 p410411

Page 3: ゼオライトとキトサンを用いた 金属イオン除去剤の …kaken/studies/2015/2015-s-all.pdf1 東京理科大学I 部化学研究部 2015 年度春輪講書 ゼオライトとキトサンを用いた

3

22 キレート化合物

一般にアンモニアのような分子や硫化物イオンなどの陰イオンはその非共有

電子対によって陽イオンと配位結合を作ることができるこれによって生じた物質

を錯体または金属錯体と呼ぶまた金属イオンと配位結合する分子やイオンを配位

子配位子を構成する原子の内金属イオンと結合する部位のことを配位原子と呼ぶ

金属錯体における配位数は様々であるがそれらの中で二座以上の配位子が金属

イオンを挟むような形で中心金属と配位原子を含む環状化合物を形成するケースが

あるこれをキレート化合物と呼びその名前はギリシャ語のrdquoChelerdquo(カニのはさみ

の意)に由来するキレートを形成する配位子をキレート試薬あるいはキレート剤と

呼ぶことがありその用途は金属イオンの確認や定量そして有害重金属の除去など

多岐に渡る 6)

23 キレート滴定

液相中の金属イオン濃度は金属指示薬とキレート剤を用い定量的に求めることが

できるこの滴定方法は金属イオンのキレート生成を利用したものである

まず定量したい金属イオンを含む溶液に対して金属イオンと有色化合物を作る

金属指示薬と呼ばれる配位子を加えるその次に溶液にキレート試薬と呼ばれる大

きな錯形成定数を有する配位子を加えるこのとき金属イオンとキレート試薬との錯

形成定数が金属指示薬との錯形成定数よりも大きければ金属イオンはキレート試薬

と優先的に錯体を生成することによって溶液の色調が変化するこの色調変化の観察

により金属イオンの濃度を定量的に求める手法がキレート滴定である

このときキレート試薬には EDTA(エチレンジアミン四酢酸)が用いられることが

多いこれは EDTAが金属と 6座配位錯体を形成する配位子であると同時に多くの

金属イオンとモル比 11で錯体を生成するからである 7)

24 カルボニル基とアミノ基の反応

カルボニル基とアミノ基の反応は次のようになるまずアルデヒドに対して

アミンが求核付加した後に窒素から酸素へのプロトン移動が起こりカルビノール

アミン中間体が生成されるそのあと酸触媒によるプロトン化によりヒドロキシ基

が優れた脱離基へ変わった後に窒素上の非共有電子対の押し込みによって分子内の水

が失われイミニウムイオン中間体を生成する最後にα炭素原子(官能基の隣の

炭素原子を指す)からプロトンが脱離して最終生成物となり酸触媒が再生される

この反応スキームに基づきアルデヒドと第一級アミンの脱水縮合から生成される

4

化合物の総称をドイツの化学者 HSchiff の名前をとってシッフ塩基と呼ぶ 8)

25 アセタール生成反応

アルデヒドは酸触媒の存在下において2当量のヒドロキシ基と可逆的に反応し

アセタールという生成物を与える水と同様にヒドロキシ基の求核性は然程強くない

ものの酸性条件においてはカルボニル基の反応性がプロトン化によって強められる

ため速やかに付加反応が進むことが知られているその反応機構は以下の通りで

ある

まず溶液の酸性によりカルボニル基が強く分極された後酸素の非共有電子対に

よる求核反応に対してカルボニル基が活性化されるそこからプロトンが脱離して

中性のヘミアセタールという四面体中間体を生じるこのヘミアセタールのヒドロキ

シ基がプロトン化されて良い脱離基となった後に脱水によってオキソニウムイオン

中間体が生成されるこの構造にもう1当量のヒドロキシ基が付加しプロトン化した

アセタールを与えた後プロトンが脱離することによって最終的な生成物である中性

のアセタールが与えられる 9)

Scheme 1 カルボニル基とアミノ基の反応

Scheme 2 アセタール生成反応

5

26 一律排水基準

水は人体に非常に近い資源の一つでありながら頻繁に環境汚染の矛先が向くもの

である放流する際に家庭用排水や工場排水が混入することにより金属イオンや有機

化合物が含まれてしまうことがありこれらが人体に取り込まれた場合には様々な

被害を引き起こすそのため日本では法務省および環境省が水環境の保全のため

排水内に含まれるあらゆる成分に関して濃度の基準を設けておりこれを「一律排水

基準」と呼ぶ以下に主な金属イオンに関する排水基準を示す 10)

Table1 金属イオンに関する一律排水基準

カドミウム 003

鉛 01

六価クロム 05

ヒ素 01

水銀 0005

セレン 01

銅 30

亜鉛 20

溶解性鉄 100

溶解性マンガン 100

クロム 20

3 実験準備

31 試薬

以下mp融点 bp沸点 M分子量である

キトサン(ChitosanLD5016gkg)

無色非結晶性粉末であり水に不溶キチンを濃アルカリ性溶液と加熱して得られ

る脱アセチル化物 11)

項目 濃度(mgL)

6

グルタルアルデヒド(Glutaraldehydemp-14 bp188 M10012

LD501100mgkg)

無色またはわずかに薄い黄色の液体で水アルコールアセトンに易溶特異な刺

激臭を持つ架橋剤として用いられる比較的不安定で加熱すると重合することが

ある殺菌消毒薬としても利用されている 12)

グリオキサール(Glyoxalmp15 bp504 M5804LD502000mgkg)

アセトアルデヒドの酸化やアセチレンの酸化によって得られる蒸気は緑色で

可燃性がある医薬品や香料の原料として広く用いられる他にも繊維処理剤として

も使用される 13)

製造和光純薬工業

硝酸銅(Copper Nitratemp1145 M18756LD50940mgkg)

酸化銅または炭酸銅を希硝酸に溶かした後に濃縮冷却することにより潮解性の三水

和物が得られる水エタノールなどに可溶真空中では 150~200 において

昇華する 14)

硝酸鉄(III)(Iron(III) Nitratemp472 M24186LD503250mgkg)

淡い紫色の単斜晶であり熱すると分解する水に易溶で水溶液は加水分解して

褐色となる顔料の原料や医薬品にも用いられる 15)

製造和光純薬工業

7

エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩

(Ethylenediamine-NNNrsquoNrsquo-tetraacetic acid disodium saltM37224

LD502000mgkg)

通称 EDTA-2NaといわれEDTAを水に溶けさせるためにナトリウム塩としたもので

ある EDTAと同じようにキレート滴定に用いることができる多くの金属イオ

ンと安定なキレート化合物を生成することが知られているキレート化合物の安定性

が高い上に選択性が低いために広く用いられている 16)

PAN指示薬(1-(2-pyridylazo)-2-naphthol indicatormp137 M24900)

1-(2-ピリジルアゾ)-2-ナフトールをメタノールに溶解させた溶液金属イオンを

キレート滴定する際の指示薬として用いられる1-(2-ピリジルアゾ)-2-ナフトール

自体は 2-アミノピリジンジアゾニウム塩と β-ナフトールの反応から得られる橙色

針状結晶である 17)

製造林純薬工業

エタノール(Ethanolmp-11415 bp783 M461LD506200mgkg)

工業的には発酵などから合成され特有の匂いと味のある無色の液体である

溶剤燃料不溶剤などとしても用いられる 18)

8

グリセリン(Glycerinemp20 bp290 M921LD5027200mgkg)

石鹸製造の際など工業的にも用いられている無色粘性で吸湿性をもつ液体である

水エタノールとあらゆる割合で混合することができる湿潤剤として皮膚薬にも

用いられる分析化学においては滴定用溶媒として使われることがある 19)

サリチル酸(Salicilic Acidmp159 bp211 M138LD50891mgkg)

多くの精油中にエステルとして存在する針状の結晶エタノールなどに易溶である

染料の中間体や防腐剤角質溶解剤などに含まれているおよそ 200 で分解して

フェノールとなる分析化学においては鉄イオンなどの呈色剤に用いられる 20)

製造和光純薬工業

塩酸(Hydrochloric AcidM3646LD50900mgkg)

代表的な強酸であり多くの金属と反応して塩酸塩を生じるが貴金属とはほとんど

反応しない刺激性がある工業的には染料や医薬品などに幅広く用いられて

いる 21)

製造和光純薬工業

水酸化ナトリウム(Sodium Hydroxidemp328bp1388M4000

LD50500mgkg)

常温で無色の斜方晶系の固体であり代表的な強塩基潮解性があり通常は水や

二酸化炭素を含んでいる事からmp3184 とする場合もある溶解に伴い発熱

する刺激性がある 22)

希硝酸(Dilute Nitric Acidmp-42 bp826 M6301LD50430mgkg)

無色の吸湿性液体光または熱で分解するため暗所に褐色ビン内で保管する必要が

ある多くの金属に対して酸化剤として働く刺激性がある 23)

天然ゼオライト

製造ゼオライト市場しまねお宝館

9

32 器具

マグネチックスターラー

吸引ビンなど吸引ろ過に用いる器具

恒温槽

pHメーター

ビュレット

メスフラスコ

4 実験操作

41 ゼオライトの洗浄

天然ゼオライトを使用する予定であるがこれには水を懸濁させるような粘土質が

付着していると思われる 3 M の塩酸に 1 日ほど浸けることによりこれを除去する

42 ゼオライトのキトサンによる化学修飾(架橋剤グルタルアルデヒド)

(1)キトサン 05 gを 50times10-3

M塩酸 500 mLに加えた後に天然ゼオライト 125 g

を加える

(2)均一な懸濁液になるまでスターラーで 250 rpmにおいて撹拌する

(3)懸濁液に 1 M水酸化ナトリウム水溶液 75 mLとグルタルアルデヒドを 02 g添加

してゼオライトをキトサンで修飾する

43 ゼオライトのキトサンによる化学修飾(架橋剤グリオキサール)

(1)キトサン 05 gを 50times10-3

M塩酸 500 mLに加え溶解させて天然ゼオライト

125 gを加える

(2)均一な懸濁液になるまでスターラーで 250 rpmにおいて撹拌する

(3)懸濁液にグリオキサール 01 gを添加して水温を 80 に保ち 1時間撹拌して架橋

を行う

(4)1 M 水酸化ナトリウム水溶液を 75 mL加えてゼオライトをキトサンで修飾する

44 修飾済みゼオライトの調製

(1)しばらく静置した後に吸引ろ過を行い固相水相の分離を行う

(2)得られた固相をイオン交換水で洗浄する

(3)1週間ほど乾燥剤と共に保管することにより自然乾燥させる

10

45 種々の含金属廃液の作成

(1)01 M硝酸に各金属イオン標準液を混合させ金属イオン含有量が 5 mgになるよう

に金属イオン含有水溶液を作成する

(2)硝酸と水酸化ナトリウム水溶液を用いて pHを操作しpHが 246の付近になる

ように調製する

46 修飾ゼオライトによる金属イオンの除去

(1)各金属イオンを含む試料溶液に作製した除去剤 50 gを投入しマグネチックスター

ラーで 250 rpm において 1時間撹拌する

(2)吸引ろ過を行い固相水相の分離を行う

<備考>

本実験では作製した除去剤の性能を比較するためにキトサン天然ゼオライト

および2種の修飾済みゼオライトについて金属イオン除去実験を行う予定である

5 評価

51 キレート滴定を用いた金属イオンの定量

511 銅イオンのキレート滴定

(1)試料溶液に酢酸-酢酸ナトリウム緩衝溶液を加えて pHが 25~60に保たれている

事を確認する

(2)エタノールを 50 mL加えた後にPAN指示薬を数滴滴下して溶液を発色させる

(3)001 M EDTA水溶液を滴下して滴定を行う

512 鉄イオンのキレート滴定

(1)試料溶液の pH を確認し酸性が強い場合は 35酢酸ナトリウム水溶液を酸性が

弱い場合は 1M 塩酸を加えて pHを 20~30に調節する

(2)1サリチル酸溶液を 8 mL添加して溶液を発色させる

(3)001 M EDTA水溶液を滴下して滴定を行う

6 実験結果に関する予測

金属イオン除去剤の作製によってゼオライト粒子を内包したキトサン粒状体が得ら

れると予測されるまたグルタルアルデヒドによってキトサンを架橋した除去剤と

比較してグリオキサールを用いた除去剤の方が金属イオンの除去性能が高くなるの

ではないかと期待できる

11

7 参考文献

1)姫路市編集『工場事業所の排水が下水道におよぼす影響』

URL httpwwwcityhimejilgjps90gesuidou_9253_9277html

最新取得日2015年 4月 15日

2)環境省編集 『水土壌地盤海洋環境の保全』 URL httpwwwenvgojpwatermizuhtml

最新取得日2015年 4月 15日

3)知足章宏著 『アジアの開発途上国における水質汚染問題と下水事業への民間参入

(Private Participation)の現況経験』立命館大学 立命館国際地域研究第 23号

2005年 3月発行 p153~156

4) 一般社団法人キチンキトサン学会 『キチンキトサンとは』

URL httpjscckenkyuukaijpspecialindexaspid=1930

最新取得年月日2015年 4月 15日

5) ゼオライト学会 URL httpwwwjaz-onlineorgindexhtml

最新取得年月日2015年 4月 16日

6) 萩中淳ほか著 『パートナー分析化学 I(改訂第 2版)』 南江堂 (2012) p97~98

7)『パートナー分析化学 I(改訂第 2版)』 p116

8) 児玉三明ほか訳 『マクマリー有機化学(中) 第 8版』 東京化学同人 (2013) p703~704

9)『マクマリー有機化学(中) 第 8版』p708~711

10)環境省編集 『環境省 一律排水基準』URL httpwwwenvgojpwaterimpurehaisuihtml

最新取得年月日2015年 4月 17日

11)『化学大辞典』大木道則ほか著 東京化学同人 (2005) p543

12)『化学大辞典』p651

13) 有機合成化学協会編集『有機化合物辞典』講談社 (2004) p248

14)『化学大辞典』p1121~1122

15)『化学大辞典』p1121

16)『化学大辞典』p269

17)『化学大辞典』p1928

18)『化学大辞典』p256~257

19)『化学大辞典』p638~639

20)『化学大辞典』p858~859

21)『化学大辞典』p332~333

22)『化学大辞典』p1172

23)『化学大辞典』p1118~1119

1

東京理科大学Ⅰ部化学研究部 2015年度春輪講書

ケイ酸を用いた無機接着剤 火曜班

Shoji Y (2OK) Arai S(2OK) Abe Y(2K) Takemura R(2K) Matsui T(2K)

1背景

私たちは日々生活している中で接着剤を使う機会が多くあるしかしその接着剤が

まわりに及ぼす影響について考えることは少ないそこで接着剤について調べてみたと

ころ接着剤は大きく分けて 2つのグループに分類できることが分かったまず一般的に

使われているボンドや瞬間接着剤のように有機化合物を主成分とした有機接着剤次に

あまり一般的ではないが金属やセラミックスの接着に用いられる無機化合物を主成分とし

た無機接着剤有機接着剤は簡単に接着することができるなど様々な長所を持つが有機

物の溶媒を用いるため工事現場などで感じる独特な臭いやシックハウス症候群の原因物

質を放出してしまうという短所を合わせ持つそれに比べ無機接着剤は接着方法が高

温で加熱しなければならないという点と有機接着剤よりも接着強度が低いという短所を持

つが耐熱性に優れ特有の臭いもなく溶媒に水を用いるため環境や人体に対する影響

も少ないという長所があるさらに無機接着剤の分野はあまり多くの研究が行われてお

らず発展の余地が残っているのではないかと感じた

2目的

無機接着剤は耐熱性などの長所がある反面強度と耐水性が低いという短所があるこ

の 2つの短所は接着剤として用いるためには重大な問題となるそこで本実験ではケイ

酸を主成分とした無機接着剤に何種類かの金属化合物などの添加物を加えることにより接

着強度と耐水性の改善を目的とする

3原理

31無機接着剤

無機質の接着材料としては一般にガラス系金属系の材料が使用されているがこれ

らの材料は気密性は優れているが接着時にそれぞれの融点や軟化点以上に加熱すること

が必要でありまた接着部分の耐熱性は接着時の温度を上まわることはないという欠点を

有しているこれに対していわゆる無機接着剤は気密性には劣るが低温での接着が可能

であり優れた耐熱性を有するという特徴を持っている無機接着剤は1)無機結合剤

2)硬化剤3)充填剤を主成分として構成される

2

市販されている接着剤の多くは使用の便を考えて一液性であるそのポットライフ(可

使期間)は 3か月から 1年必要とされるので室温で作用する硬化剤は使用できない

1)結合剤

結合剤自体の硬化剤が強い強度と接着力を持つ必要があり現在しようされている無機

結合剤のほとんどはアルカリ金属ケイ酸塩系リン酸塩系シリカゾル系のいずれかで

あり本実験でしようするのはアルカリ金属ケイ酸塩系結合剤である

アルカリ金属ケイ酸塩の水溶液は粘性のある液体であり分子式 M2OnSiO2で表わさ

れMの種類(LiNaKなど)および nの大小によって数多くの種類が生ずるまたア

ンモニウムケイ酸塩やグアニジンケイ酸もある一般には安価なケイ酸ナトリウム(水ガ

ラス)がよく使用される

アルカリ金属ケイ酸塩は水溶液中において種々の量のシリケートイオンモノマーポ

リシリケートイオンおよびコロイド状シリカイオンミセルからなっているこれらの形

態や分布は n 値や濃度に依存しn が大きくなるにつれてポリシリケートイオンミセル

が増加するケイ酸ナトリウムは n が4を越えると水の溶解度は極端に小さくなりn が

3 付近で接着力は最大となるケイ酸カリウムはケイ酸ナトリウムと同じような挙動を示

すがケイ酸リチウムは nが非常に大きくケイ酸分の多い水溶液が得られることが特徴で

ありシリカゾルに近い物性を示すしたがってアルカリ金属ケイ酸塩系結合剤につい

て一般的には耐水性は LigtKgtNa接着力はこの逆の順に良いといわれている

水溶液は強いアルカリ性を示し加熱によってシラノール間で脱水縮合反応を起こし

分子間にシロキサン結合を生じる固形物は融点(軟化点)までずっと非晶質である

2)硬化剤

結合剤は低温で乾燥しただけでは耐水性が不十分であり耐水性の向上のために硬化

剤が添加される硬化剤は耐水性には寄与するが接着力を低下させる場合もあるため

使用目的によっては添加しないこともある一液性の接着剤ではポットライフの要求から

室温で作用するものはあらかじめ添加できないので高温になってはじめて結合剤と反

応するものが選ばれる硬化剤については非常に多くの物質が特許等に提案されている

アルカリ金属ケイ酸塩用の硬化剤にはZnMgCa 等の酸化物水酸化物NaK

Ca等のケイ化物ケイフッ化物Alや Zn等のリン酸塩CaBaMg等のホウ酸塩等が

用いられる

酸化亜鉛による反応機構を LSDGlasserらは次のように示している

反応初期には ZnO粒子の表面で

ZnO + 1198672119874 + 119874119867minus rarr 119885119899(119874119867)42minus

の反応がおこりZn は液中に溶解しOH-が消費されるので pH が下がりケイ酸ゲルが

3

粒子表面に析出する以後はこのケイ酸ゲル層を通して OH-が粒子表面へ拡散しZnOと

反応して Zn(OH)2として固定されるためさらにケイ酸ゲルの析出が行われ酸化亜鉛表

面へ無定形シリカが沈積する

3)充填剤

充填剤としては結合剤との反応性の小さい耐火物粉末が使用される結合剤は加熱脱

水により大きな体積収縮を生じひび割れが発生するのでこれを防ぐため充填剤を添加し

て固体分率を高くするまた粒子間の空隙は水分蒸発の逃げ道となり発泡を防ぐ接着

剤の熱膨張を被着材へ合致させることも重要な役割である

さらに一液性の接着剤ではリン酸塩系におけるアルミナ粒のように室温では反応し

ないが温度を上げていくと結合剤と反応し硬化作用をして耐水性を付与することもある

その他耐火性接着強度熱伝導性電気特性耐薬品性耐摩耗性の向上に重要な

働きがある充填剤の種類に加え粒径粒径分布表面活性等に調整することが必要で

数種の充填剤を混合することが多い

4)核剤

核剤は力学特性成形性成形時の生産性の改良などを目的として種々の結晶性高分子

で利用されている特にポリプロピレンにおいては核剤を添加することにより剛性や耐火

性(熱変形温度)あるいは透明性など諸問題が大幅に改良され高機能化による用途拡大

や成形品の薄肉化軽量化が可能となりさらには短時間で結晶化が完了することから成

形時の生産性も大幅に短縮されコスト削減はもとより省資源省エネを影から支えてい

核剤には工業的な側面から主に力学特性を改善する「核剤」と特に透明性を改良する

効果が高い「透明化剤」とよばれるものがある核剤も透明化剤も高分子の結晶化過程

における基本的な作用機構は同じでありその本質はエピタキシーにあるつまり高分子

融体が結晶化する過程で高分子鎖が結晶化しやすいように「場」(核剤の表面)を提供す

るものである核剤はまた「造核剤」とよばれることもあるが核剤透明化剤とも物理

化学的には高分子に対し同じ作用をしているといえる溶媒中に溶解している溶質が種晶

の添加により析出が促進される現象を想像されたいまさに核剤は高分子融体中に添加

されこれが核となって高分子の結晶化が促進されるのである

4

Fig3-1 核剤の表面からの高分子結晶の成長

a)力学特性の改善

自動車や家電部品の樹脂化率は年々高まり特に自動車においては内外装問わずポリ

プロピレンが多用されるようになった当初はあまり重要でない部分への利用であったも

のの最近ではバンパーフェンダーライナーフロントグリルカウルパネル各種リ

ザーバータンクドアパネルピラーダッシュボードサンバイザーコンソールボッ

クスなどありとあらゆる部分に用途開発が進んでいる高分子材料による金属代替今後

もさらに進められると思われるその理由としては自動車の軽量化はもちろんのこと

設計の自由度(一体成形や金属ではデザインしにくい曲線曲面を複雑に有する部品など)

があげられる自動車部材では機能的に高剛性が求められるものや夏場に高温にさらさ

れる内装部品などは高耐熱性(高い熱変形温度)が求められるものなどがほとんどであり

このような要求性能に応えるべくポリプロピレンに核剤が添加されている

核剤が存在する場合高分子の結晶化が促進され融体の冷却過程においてより高い

温度(より融解温度に近い温度)から結晶化が開始するそのため核剤存在下での結晶化

過程では核剤非存在下での結晶化過程に比較して高分子鎖の運動性が高い状態で結晶

化が開始する核剤を添加した高分子の結晶化開始温度を示差走査熱量計などで測定する

と結晶化が高い温度から開始することも確認されるその結果高分子結晶の欠陥は減

少しまた結晶化度も増大する核剤存在下で結晶化させた高分子結晶は欠陥も少なく

またラメラ厚も厚くなり融解温度が高くなるそのような効果により成形後の高分子

材料の力学特性耐熱性が改善する

5

Fig3-2 核剤の添加のよるポリプロピレンの曲げ弾性率の改善効果

()アデカスタブ NA-11()Hyperform HPN-68 L

()安息香酸ナトリウムポリプロピレン

Fig4-2に核剤の添加によるポリプロピレンの曲げ弾性率の改善効果について示したま

ず核剤を添加することでしかも僅か 01~03 wt程度の添加で曲げ弾性率が劇的に向

上していることが分かるその中で比較すると汎用である安息香酸ナトリウムや HPN-68

Lでは弾性率の改善はあるものの(おおよそ 30の弾性率改善)01 wt程度の添加で改

善効果は飽和する添加物を加えることで剛性耐熱性を大幅に改善できることがわかる

このような改善効果は自動車用に多用されるポリプロピレンのグレードであるインパクト

コポリマーにおいても同様であるさらに核剤の添加により結晶化が促進された結果成

形時間も短縮でき高性能化と相まって生産性改善によるコストダウンも可能となる核

剤はもとのポリマーが有する特徴を損なうことなく物性を改善できるといったメリット

があるといえる

32 縮合重合反応

二つの化合物から水などの簡単な分子が脱離して新たな結合が形成される反応を縮合反

応とよぶカルボン酸とアルコールからエステルを得る反応は縮合反応の一例である

縮合反応を繰り返すことによりポリマーを合成することができるこれが脱水縮合反応

であるたとえば 2個のカルボキシ基をもつ分子と 2個のヒドロキシ基をもつ分子を反応

させると縮合反応が連続して起こりポリマーが得られる本実験では Fig3-3 の反応が

起こる

6

Fig3-3 ケイ酸の脱水縮合反応

33 接着の原理

接着剤による接着効果には複数の理論が挙げられており賛否両論あるものもあるま

た個々の接着現象においても複数の接着効果が絡み合っていることが多く接着効果の

検証は困難であるとされるある接着系では適用できる接着効果が別の系ではまったく無

力ということも多い以下に主な接着効果の理論をあげる

1) アンカー効果

雲母を注意深くはがしたようなごくわずかな例外を除きすべての固体表面は数Åオ

ーダーの粗さを有する例えば機械で製造される金属表面の粗さは 3~6 μmであり研

磨した場合でも 002~025 μmである

アンカー効果とはこのような被着材の凹部に流入した接着剤が固化し被着部に引っかか

ることにより界面が結合するというものであるアンカー効果のような界面との相互作

用を無視した接着効果理論を機械的結合論という

開口部を有するクレバスへの液体の流入について理論式が提案されている

以下の 2式は液体の粘度 η接触角θの液体が深さ Zまで浸透するまでの時間 tを表し

(a)開口部の幅がδの平行板の場合

Zdz

dt=

120575119910

120575120578120574 cos 120579

(b)開口部δ深さ Z0の V型溝の場合

11988501198971198991198850

1198850 minus 119885minus 119885 =

120575120574 cos 120579

6120583119905

となる式によれば開口部が大きくぬれがよく粘度の低い液体ほどまた時間をかけ

たほど深くまで侵入できるとされる

7

Fig3-4 アンカー効果

2)分子間相互作用

ふたつの物体の接着面で分子同士が接触するところで互いにひきつけあう力が働くこと

で接着するとするもの代表的なものにファンデルワールス力結合水素結合が存在す

3)化学的結合

界面に化学結合が存在することで接着強さに寄与するとするものである古くから提唱

されている説であるが化学結合の存在の証明が難しく接着系の界面に本当に化学結合

が存在するのかは十分に検証されなければならないとされる

4)表面自由エネルギーと表面張力

物質の内部と表面では性質が異なる内部の分子は周囲を分子に囲まれており分子間

力で互いに引き合うため安定化されるこれに対し表面の分子には周囲を囲む分子が内部

に比べて少なく内部分子と比べて不安定=エネルギーが高いということになるこの余

分のエネルギーを表面自由エネルギーと呼ぶ

表面積が小さいほど表面自由エネルギーは少なくなるため物質の表面では表面を

小さくしようとする力が働くこの力を表面張力と呼ぶ

5)ぬれと接着角

固体表面に液体が存在するとそれぞれの表面自由エネルギーとその間の界面自由エネ

ルギーとのバランスによって液体が広がり固体表面が液体表面に置き換えられるこの

現象がぬれである固体表面のぬれは材料表面の親水性疎水性や接着強度と直接関係

しているため接着の分野ではきわめて重要である固体表面に液滴を落とすと個体の

表面張力γS と液体の表面張力γL 固体と液体の界面張力γSL が釣り合うことによってあ

る角度θで平衡になるこのとき固体と液体空気の境界点 A における力の水平成分の

釣り合いから次式の Young-Dupreの式が得られる

120574119878 = 120574119878119871 + 120574119871 cos 120579

8

自然状態では表面張力により液体は球状になるこの式は固体表面上での液体を広げよ

うとする力と球状を保とうとする力のつりあいの式である

Fig3-4 固体表面上の水滴

また界面自由エネルギーγ12 で接着している二種類の物質を引き離し表面自由エネルギ

ーγ1γ2をもつ二つの物質に分けるのに必要な仕事(これを接着仕事という)Waとすると

119882119886 = 1205741 + 1205742 minus 12057412

であらわされるこれを Dupreの式と呼ぶ接着仕事とはふたつの物質を引き離すのに必

要な仕事であるからWaの値が高いほど接着強度が強いということになる

個体と液体との関係においてこれら二式をあわせると

119882119886 = 120574119871(1 + cos 120579)

を得るこれを Young-Dupre の式という液体の表面張力と接触角から接着材の接着強

度が分かるという式になっている

6)接着力低下因子と表面処理

接着は清浄な面と面の接触が前提である金属表面は清浄であれば 1000~3000 mNmの

表面張力があるはずであるが大気中では数十mNmの値をしめすこれは異物が付着した

り酸化されていたりするためである特に表面がもろい物質でおおわれていると剥離時に

もろい面での剥離が起こり見かけ上弱い接着強度となる事がある

このような金属表面の表面張力の低下を防ぎアンカー効果において適切な凹凸を金属表

面に付与し接着強度向上を図るために洗浄と研磨を行うのが望ましい

5実験方法

41使用する器具

100 mL ビーカーガラス棒ホールピペット安全ピペッターピンセットキムワイ

プ電気炉2 L ペットボトル紐アルミ角材(10 times 30 times 30 mm)サンドペーパー

はけ

9

42試薬の物性

ケイ酸ナトリウム a)

ケイ酸のナトリウム塩で種類が多いいわゆる水ガラスも多くの場合はケイ酸ナトリウム

であるがその組成は安定していない単一物質として得られているものだけでもメタ

ケイ酸ナトリウム Na2SiO3およびその種々の割合の水化物オルトケイ酸ナトリウム

Na4SiO4二ケイ酸ナトリウム Na2Si2O5四ケイ酸ナトリウム Na2SiO9 などがあるオ

ルトケイ酸ナトリウム Na4SiO4=18405二酸化ケイ素と水酸化ナトリウムを適当な条件

で融解すると得られる水溶液で両者を反応させたのではオルトケイ酸ナトリウムの結晶

は得られずにメタケイ酸ナトリウムの水化物になってしまう無色六方晶系の結晶酸

と加熱していると二酸化ケイ素が沈殿している

酸化マグネシウム b)(MgO)

式量 4030

融点 2852

沸点 3600

一般にアンモニウム塩水溶液に溶けるがエタノールに不溶空気中で水と二酸化炭素を

吸収し炭酸水酸化マグネシウムに変化する水と反応して水酸化マグネシウムとなる耐

火レンガマグネシアセメントの製造原料医薬品として制酸剤の原料となるほか触媒

または吸着材ゴム工業にも用いられる

酸化亜鉛 c)(ZnO)

式量 8138

密度 547 gcm3

無定形の白色粉末水にはほとんど溶解しないが両性酸化物で希酸や水酸化アルカリ

水溶液アンモニア水に溶解する空気中で湿気と二酸化炭素を吸収する白色顔料とし

てペイント絵の具などに用いられるほか粒子の細かいものは医薬品化粧品として用

いられる

酸化カルシウム d)(CaO)

式量 5608

融点 2572

沸点 2850

密度 340 gcm3

10

酸に可溶空気中の湿気を吸収して水酸化カルシウムとなりまた空気中の二酸化炭素を

吸収して炭酸カルシウムとなる水と反応して水酸化カルシウムとなるしっくいモル

タルなどの建築材料石膏さらし粉消石灰の原料医療用に用いられる医療用に用

いられる酸性土壌改良にも用いられる

炭酸カルシウム e)(CaCO3)

式量 10009

融点 1339

二酸化炭素を含む水には炭酸水素カルシウムとして溶解する酸には二酸化炭素を発生し

て容易に溶ける加熱すると二酸化炭素と酸化カルシウムに解離する

二酸化ケイ素 f)(SiO2)

式量 6009

低温ではフッ素フッ素酸水素酸だけが反応する高温では他のハロゲン元素とも反応す

る水酸化アルカリ炭酸アルカリと融解すると水溶性のアルカリケイ素酸塩となる

43実験操作

431被接着面の均一化

1)10times30times30 mmのアルミ角材の表面をサンドペーパーで汚れがなくなるまで削る

2)削った表面をアセトンで洗浄する

3)洗浄が終わったアルミ角材の重量を測り記録する

432ケイ酸ナトリウムのみの接着剤の作製

1)100 mL ビーカーにケイ酸ナトリウム 50 g を加え粘り気が残るぐらいまでイオン交換

水を加えガラス棒で撹拌する

2)アルミ角材の 10times30 mm の面にはけを用いてケイ酸ナトリウム溶液を均一になるよう

に塗りアルミ角材を重ね合わせる

3)150にセットした電気炉に接着面がずれないように慎重に置き 1時間焼成する

433添加物を加えた接着剤の作製

1)100 mLビーカーにケイ酸ナトリウム 50 g添加物(酸化マグネシウウム酸化亜鉛

酸化カルシウム炭酸カルシウム二酸化ケイ素)を 010 gから 010 gずつ 20 gまで加

え粘り気が残るぐらいまでイオン交換水を加えガラス棒で撹拌する

2)アルミ角材の 10times30 mm の面にはけを用いてケイ酸ナトリウム溶液を均一になるよう

に塗りアルミ角材を重ね合わせる

3)150 にセットした電気炉に接着面がずれないように慎重に置き 1時間焼成する

11

5評価方法

51接着強度の評価

1)432433で接着したアルミ板にひもとペットボトルを用いて Fig5-1のように設置す

アルミ角材

Fig5-1 接着面の破壊

2)ペットボトルに少しずつ水を加え接着面が完全に離れた時点を破壊終了点とする

3)破壊終了点でのペットボトルに入っている水の重量を計測する

52耐水性の評価

1)接着したアルミ角材に水をかけ接着面の変化を観察する

6予想

添加物を加えることで接着強度の増加が期待されるしかし大量に添加物を加えてし

まうとケイ酸の割合が小さくなり接着強度は減少してしまうと考えられ添加物の量と接

着強度の関係性をグラフ化するとある値までは増加しその値を超えると減少していくグ

ラフが得られると考えるそこから最も接着強度が高まる添加物の量を測定する

また添加物が硬化剤の役割をし耐水性の改善も予想される

参考文献

1)日本接着学会『接着剤データブック第 2版』日刊工業新聞社1990P228~229

2) 三刀基郷『トコトンやさしい接着の本』日刊工業新聞社2003P56~67

3) セメダイン(株)『よくわかる接着技術』日本実業出版社2008P34~37

PET

Crash

12

4) ユージン Gロコー『ケイ素とシリコーン』シュプリンガーフェアラーク東京株式

会社1990 P85~113

5) 大木道則大沢利昭田中元治千原秀昭『化学大辞典』東京化学同人1989

b)P884 c)P865 d)P867 e)P1368 f)P1669

6)下井 守村田 磁『大学生のための基礎シリーズ 3 化学入門』東京化学同人2005

P229

7) 吉村壽次『化学辞典第 2版』森北出版2009a)P425

8)大勝 靖一『高分子添加剤の基礎化学と材料設計』株式会社 CMC出版2008P219~235

9)httpwwwfacekyowacojpsciencetheorywhat_contact_angleimg01jpg

2015416取得

1

東京理科大学Ⅰ部化学研究部 2015 年度春輪講書

シクロデキストリンを用いた

包接化合物の生成

水曜班

Ikemura M(2C)Ebihara K(2C) Kataoka T(2K)

ShibasakiK(2OK)TsumedaT(2C)NakaA(2OK)Murakoshi R(2OK)

OkawaT(2C)NoguchiA(2K)SekiguchiK(2K)HashimotoY(2C)

1 動機

6~8 分子のグルコース単位からなるα―14結合の環状オリゴ糖であるシクロデキストリ

ンはその環状構造に由来する包接化合物を生成する性質を示すその特異的な包接形成能

を利用した多くの製品が存在し現在もなお基礎研究分野応用研究分野での研究が行わ

れている

そこで私たちは 7 分子のグルコースからなるβ-シクロデキストリンと 3 種類のカルボン

酸を用いて包接化合物を形成させ酸の構造の違いによる包接作用の比較検討及びシクロ

デキストリンの一部のヒドロキシ基をエステル化させ水に対する溶解性及び包接形成能が

どのように変化するか考察する

2 原理

21 包接化合物

包接化合物は Schlenk によって名づけられたもので定義によると原子または分子が

結合してできた 3 次元構造の内部に適当な大きさの空孔があってその中に他の原子また

は分子が一定の組成比で入り込んで特定の結晶構造をつくっている物質ということにな

っている前者の骨組み構造の化合物のほうをホスト分子後者の入り込んでいる分子の

ほうをゲスト分子ともよんでいるがこのゲスト分子の大きさや形状はまったくホスト

構造によって規定されるだけで両者の間には弱い相互作用があっても水素結合のよう

な力はなくてもいっこうに構わないのであるこの包接化合物でのゲスト分子とホスト

構造との間の相互作用というのも物理的な吸着系に近いもので非常に弱い van der

Waals 力から高度に配向した双極子間力まで種々のものが存在する 1)

22 シクロデキストリンの包接能

シクロデキストリンはグルコース残基がα-1α-4 結合した環状のオリゴ糖で一般的

にグルコース残基が 6 個のα-シクロデキストリン7 個のβ-シクロデキストリン8個の

γ-シクロデキストリンが知られている

2

Fig1 α-シクロデキストリンの分子構造

シクロデキストリンの構造は底の抜けたバケツやドーナッツのような構造をしており

その環状構造の外側は多くの水酸基に由来する親水性領域が存在し内側の空洞の CH 基に

由来する疎水領域と相反する極性が一つの分子に共存しているがこの空洞内に様々な有

機化合物などを取り込むという包接作用がもっとも特徴的である

三種類のシクロデキストリンはそれぞれ空洞の大きさが相違するためそれぞれ包接化

合物を形成しやすいゲスト分子が存在する内部空洞が比較的小さいα-シクロデキストリ

ンは比較的小さい分子例えばエタノールメタノール等をβ-シクロデキストリンは汎

用性が広く各種ポリフェノールコレステロールメンソール等の香気成分芳香族化

合物等をよく包接するγ-シクロデキストリンは大きい分子である脂肪酸などを包接する

ことが知られている

シクロデキストリンの包接力の原動力は疎水性相互作用と分子間力が主なものとされて

いるつまりゲストは疎水性の高い分子あるいは分子の大きさが空洞にぴったりとフィッ

トするものほどシクロデキストリンがそのゲストを包接する力は大きく包接物を作り

やすい傾向がある逆に親水性が高くシクロデキストリンの空洞にフィットしないよう

なゲスト分子では包接現象は起こりにくいといえるしかしゲスト分子全体がシクロ

デキストリンの空洞内にとりこまれる必要はなく部分的にでも疎水性が高く空洞にフィ

ットすれば包接が可能となるつまりゲスト分子全体がシクロデキストリンより明ら

かに大きいものでも包接作用による効果が観察される場合がある 2)

Fig2 シクロデキストリンがゲストを包接する様子

23 水溶化シクロデキストリン

3

ブドウ糖やショ糖など通常糖質の水への溶解度は非常に高いしかし天然型シク

ロデキストリンは隣接する水酸基との水素結合の為3 種のシクロデキストリンの中では最

も高い水溶性を有するγ-シクロデキストリンであってもその溶解度は 25において水

100 mL に 23 g であり油性物質を包接した場合は一般的にその溶解度はさらに低くな

るそこで水への溶解度を改善するためにシクロデキストリン化学修飾体が製造されて

いるシクロデキストリンの水溶性を向上させる方法として隣接する水酸基をメチル基や

アセチル基などでエーテル化やエステル化する方法がある具体的には部分メチル化β-シ

クロデキストリンやモノアセチル化β-シクロデキストリンが工業的に生産されている

24 包接能の評価について

今回の実験ではゲスト分子としてカルボン酸を用いるシクロデキストリン及び水溶化

シクロデキストリンの包接能の評価については包接化合物に含まれているカルボン酸をア

ルカリで滴定することで求めることができる

3 実験

31 試薬sup3⁾

アジピン酸

分子式C6H10O4

分子量1464

mp153

bp3375 アジピン酸

クエン酸

分子式C6H8O7

分子量19213

mp156~157

クエン酸

シュウ酸

分子式C2H2O4

分子量9004

mp1895

シュウ酸

4

βシクロデキストリン

分子式(C6H10O5)7

分子量113500

n-ブタノール

分子式C4H10O

分子量7412 β-シクロデキストリン

bp1179

エタノール

分子式C2H6O n-ブタノール

分子量4607

mp-1145

bp7833

水酸化ナトリウム

組成式NaOH

分子量4000

mp328

bp1388

無水オクタン酸

分子式C₈H₃₀O₃

分子量27041

mp-1 無水オクタン酸⁶⁾

濃硫酸

分子式H₂SO₄

分子量9808

mp104

32 使用器具

300 mL ビーカーメスフラスコピペット三角フラスコ吸引漏斗吸引瓶ビュレッ

トスタンドボウルガラス棒

5

33 実験操作

331 エステル化シクロデキストリンの合成 ⁵⁾

1)三角フラスコにβ-シクロデキストリン 1 g を入れこれに無水オクタン酸 025 mL を加

える

2)触媒として 2-3 滴の濃硫酸を添加し攪拌する

3)約 10 分間放置してフラスコを氷桶に入れて冷やしガラス棒でフラスコの壁を強くこす

り結晶を析出させる

4)水 20 mL を加えさらに氷桶で冷やしながら残る結晶を析出させる

5)この結晶を濾分し水で洗ってから取り出して乾かして結晶を得る⁵⁾

332 包接化合物の形成

1)β-シクロデキストリン 1 g を水 100 mL に溶解させる

2)ピペットで 1 mL のカルボン酸を加えコルク栓をして静置する

3)1 週間程静置し包接化合物を吸引濾過する

4)上記の操作をカルボン酸(酢酸シュウ酸クエン酸)で行う

5)エステル化シクロデキストリンで同様の実験を行う

333 包接能の測定

1)よく乾燥した包接化合物約 1 g をメスフラスコで 100 mL 溶液とする

2)この溶液 20 mL にフェノールフタレインを指示薬として20 mL 加え 01 M 水酸化ナト

リウム標準溶液で滴定する⁴⁾

334 溶解度の測定

1)100 mL の水に 5 g の β-シクロデキストリンを溶解させる

2)沈殿をろ過し乾燥して重量を測定する

3)エステル化 β-シクロデキストリンで同様の作業を行う

参考文献

1) 竹本喜一包接化合物の化学東京化学同人1969p2

2) 辻堅司シクロデキストリンの応用技術株式会社シーエムシー出版2008p3-p9

3) 大木道則大沼利昭田中元治千原秀明化学大辞典東京化学同人1989

4) 発田寿々子教養の化学実験第 2 版学術図書出版社2014p119

5) 南篠正男先生と生徒のための化学実験共立出版株式会社1986p155

6) 「 chemical book 」〈 wwwchemicalbookcomchemicalProductPropert_JP_CB 〉

(2015418 アクセス)

1

東京理科大学Ⅰ部化学研究部 2015年度春輪講書

ダブルネットワークの合成と評価 木曜班

OnizukaM(2C)TanakaR(2C)YamamokaH(2K) OhiraM(2K)

1背景

現在高分子ゲルは紙おむつの高吸水性樹脂やソフトコンタクトレンズなど私たちの生

活において活躍しているしかし高分子ゲルは不均一な構造なため一般的に機械的強

度が弱いという欠点がある高分子ゲルの強度面での弱点を克服するために従来では

ゲルの構造を均一化して強度を上げるというアプローチがとられてきた

しかしながら材料の弾性とじん性は反相する因子として働くつまり大変形に耐え

られるゲルは弾性率を犠牲とし高弾性のゲルは小さい変形で破壊される

そこで私達木曜班は前述の問題の解決策と成り得るものとしてダブルネットワーク

ゲル(DNゲル)について注目した

2目的

既存に作られている DNゲルは溶媒に水を用いたハイドロゲルであるDNゲルはその

強度や柔軟性により生体内での人工関節に使用することが期待され研究がおこなわれて

いる木曜班では DNゲルを生体内の関節だけでなく機械の関節部の摩擦軽減材料として

の使用を提案するしかし従来の DNゲルは溶媒が水であることにより水の沸点である

100以上の条件下では性能の低下が問題視され高温になりうる機械への応用が困難で

ある

溶媒を水から有機溶媒に変更することで高温条件下でのゲルの機能維持を試みるとと

もに使用するモノマーを変更しその機能性を検討する

3原理

31 DNゲル

311ゲルの脆弱性

一般的なゲルはゼリーや豆腐のように僅かな力を加えただけで簡単に壊れるほど

弱いこの理由は 2つの現象により説明することができる

1)ゲルの内部に多数の欠陥が存在する

2)欠陥から発生した初期亀裂が容易に伝播する

前者はゲル内部の構造が不均一であることに由来するゲル合成時におけるモノマ

ーと架橋剤の反応性の違いにより不均一な重合がおこるあるいはゲル化溶液内の濃度

揺らぎが重合によって固定されることだと考えられている 1)こうしたゲルに力を加えた

2

時にゲルの弱い部分に力が集中してしまうため小さな力でも初期亀裂が生じてしまう

後者はゲル内部のポリマーの密度の低さから生じる一般的に物質内における亀裂

の進みやすさは破壊エネルギーU(Jm2)(単位面積あたりの破断面形成に費やされる仕事)

によって評価される架橋高分子材料の臨界破壊エネルギーUc(亀裂成長が起こる最小

の破壊エネルギー)は破断面の高分子鎖の数密度と架橋点間分子量に比例する 2)つま

りゲルのじん性(物質の破壊に対する抵抗の程度で粘り強さとも言い換えられる 3))はゲ

ル内のポリマーの密度には比例し架橋密度には反比例することがわかる

ゲルは 50~99wtの溶媒を含んでいて高分子の密度が非常に低い物質であるためゲ

ルの Ucはゴムなどの固体に比べてかなり小さいことが考えられる

これまでの高強度ゲル研究は主に前者の問題を解決するすなわち構造を均一化するこ

とでゲル内部の欠陥を極力減らして強度を改善しようという観点から行われてきた

312 ゲルの弾性率

高分子鎖が三次元架橋されたゲルはゴムと同じようにエントロピー弾性を持つ溶液

中に完全に湿潤した電気的に中性ゲルのせん断弾性率(横方向に対するバネ係数 4)であり

Young率 Eと E=3Gの関係式が成立する)は

GneucongkBT

b3Q-225

以上の式で表せられゲルの湿潤度 Qの増加にともないせん断弾性率Gneuは大きく低下

するここでkBはボルツマン定数Tは温度bは重合させたモノマーの大きさである 5)

一方溶液中に完全に湿潤した電解質ゲルのせん断弾性率は

GchacongkBT

b3Q-1

によって表せる 6)よって同じ湿潤度において電解質ゲルは中性ゲルよりせん断弾性率が

高いことが分かる

またゲルの湿潤度は架橋点重合 N(分子量)による溶液中に完全に湿潤した中性ゲル

の場合QasympN35であり電解質ゲル場合QasympN

32であるしたがって架橋密度を上げる

ことによりゲルの湿潤度が小さくなりせん断弾性率が上がる 3)4)

313 ゲルの破断歪と破断応力

架橋構造が均一と仮定した理想的なゲルの破断歪(ゲルが破壊するまでの変形 7))は架

(1)

(2)

3

橋点間高分子の伸びきった長さと高分子鎖に歪がない曲がった自然な状態での大きさ

の比として求められる溶媒中で完全に湿潤した中性ゲルの引っ張り破断歪はλBcongQ12で

ありQの増加により増加する一方湿潤することにより単位面積あたりの高分子

の本数が減るため破断応力は湿潤度 Qが大きくなることにより減少する故にQが大

きいゲルは伸びやすいが弱い応力で壊れる

電解質ゲルの場合高分子鎖はその解離しているイオンの浸透圧によって水中では

ほとんど伸びきった状態となっているその結果理想状態においても破断歪はλBcongQ19

になるこれは破断歪が小さくかつ湿潤度にあまり依存しないことを意味している 5)

以上のことより

1)架橋密度を上げる(架橋点間分子量を下げる)ことでゲルが固くて脆くなる

2)水中に完全に湿潤した高分子電解質ゲルは中性のゲルより硬くて脆い高弾性と変形は

相反するということが考えられる

314 DNゲルの高強度機構

DNゲルは強電解質をモノマーとする 1st networkゲル電気的に中性なモノマーを用

いる 2nd networkゲルを組み合わせることにより生成される前述した通りゲルにおける

弾性と靭性は常に相反する働きをするそれゆえに単一な物質で両方の性質を得るこ

とは原理的には不可能である同じ湿潤度において電解質ゲルと中性ゲルのせん断弾性

率の比はGchaGneucongQ125であるために両者の違いは湿潤度 Qが高いほど大きくなる

この性質を利用することにより電解質ゲルは硬い成分中性ゲルは軟らかい成分とし

て用いることができる

亀裂を含む DNゲルがある引張荷重を受けると応力集中の効果で最初に亀裂先端近傍

の電解質網目(1st network)が破壊され局所的にゲルが降伏する荷重がますと電解質網

目の破壊が次々に伝播し広範囲にわたるダメージゾーンが形成されていくこの過程

で非常にいい気なエネルギーが分散されるダメージゾーンがある大きさまで広がった

ときようやく亀裂先端に中性網目(2nd network)が十分に伸びて切断し亀裂が進行す

る 8)

4

Fig 1 DNゲルの破壊モデル 9)

32 光ラジカル重合

321 光分解

光重合開始剤に UVを当てることにより開裂がおきラジカルが発生する本研究にお

いては 1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンを用いる 10)

Scheme1 1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンの開裂 10)

ℎ120592

5

322 開始反応

UVを当て光開裂により生じたラジカルがビニル基の二重結合を攻撃し光重合開始剤

と炭素の間に σ結合を作り炭素原子にラジカルが存在することになる

Scheme2 ラジカルの生成

323 成長反応

Scheme2で生成したラジカルが他のモノマーを攻撃しσ結合を生じるそれが何回

も起こることにより分子鎖が成長する 6)

Scheme3 分子鎖の成長

324 停止反応

Scheme 3で成長した成長ラジカル同士が σ結合を作り分子鎖が生成する 7)

Scheme4 分子鎖の生成

4実験

41 DNゲルの合成

411 使用器具試薬

ビーカー乳鉢乳棒薬さじUVライトデシケーター

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸

分子式 C7H13NO4S

式量20724

融点160

用途1st networkゲルのモノマー

6

アクリル酸

分子式C3H4O2

式量7206

融点123

沸点1416

比重10511

危険性引火性(発火温度 360 )

用途1st networkゲルのモノマー

アクリロニトリルの加水分解アクロレインの酸化ニッケルカルボニルの存在下ア

セチレンと一酸化炭素と水との反応などにより合成される酢酸に似た刺激臭を持つ液

体水エタノールエーテルによく溶ける酸素の存在下容易に重合するプラス

チックの原料として用いられる

アクリルアミド

分子式C3H5NO

式量7108

融点845

沸点103

比重1122

用途2nd networkゲルのモノマー

アクリルニトリルを硫酸あるいは塩酸を処理して得られるフレーク状の結晶溶解

性(g100 ml溶媒30 )水 2155メタノール 155エタノール 862アセトン 631

酢酸エチル 126クロロホルム 266ベンゼン 0346ヘプタン 00068化学的に不安

定で冷暗所に保存する必要がある融点付近あるいは紫外線下で重合する重合の仕方

により水溶性不溶性のものが得られる

酢酸ビニル

分子式C4H6O2

式量8609

融点-932

沸点723

比重09317

用途2nd networkゲルのモノマー

無色の液体酸やアルカリよって容易に加水分解されてアセトアルデヒドと酢酸を生

じる熱光ラジカル開始剤によって重合する

7

メタクリル酸メチル

分子式C5H8O2

式量10012

融点-48

沸点1003

比重0936

用途2nd networkゲルのモノマー

無色透明で催涙性の芳香のある液体工業的にはアセトンシアノヒドリンにメタノー

ルと硫酸を作用させて合成する実験室的にはメテクリル酸メチルの重合物を 320

以上で乾留すると得られる一般に有機溶媒には溶けるがエチレングリコールグリセ

リンには溶けにくい重合しやすいので重合禁止剤としてヒドロキノンモノメチルエ

ーテル(65 ppm)を添加して保存する有機ガラスの製造ビニル系共重合体など広く

重合反応に用いられるまたメチル以外のアルコールのメタクリル酸エステルの合成

にも用いられる

NN-メチレンビスアクリルアミド

分子式C7H10N2O2

式量15417

融点300

用途架橋剤

1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン

分子式C13H16O2

式量20427

融点47-50

用途光重合開始剤

最大吸収波長は 260 nm付近にある

エチレングリコール

式量6207

融点 -126

沸点1976

比重11132

8

用途ゲル溶媒

重要な二価アルコールでエチレンオキシドの酸触媒による開環高温高圧下水と

の反応による開環などによって合成される吸湿性無色無臭の液体甘味を有する

が有毒である高沸点を有ししかも水酸化カリウム水酸化ナトリウムを溶解し水や

エタノールと任意の割合で混合するので有機合成における溶媒として広く用いられ

また塩基に対して安定なエチレンケタールの生成によるカルボニル基の保護に用いら

れるさらに酢酸ビニル系樹脂の溶剤や水と混ざり高沸点のため不凍液に用いら

れるなど広い用途を持っている

412 1st networkゲルの作成

1) 1st networkゲルのモノマー(電解質モノマー)架橋剤(NN-メチレンビスアクリルア

ミド)と光重合開始剤(1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)を水に溶解させた水

溶液を調製する

2) UVを 8時間照射して光ラジカル重合をさせる

3) 2)で合成した電解質ゲルを乳鉢に入れ適当なサイズに砕いた後デシケーター内で一

週間ほど乾燥させる

413水溶媒 DNゲルの作成

1) 2nd networkゲルのモノマー(中性モノマー)架橋剤(NN-メチレンビスアクリルアミ

ド)光重合開始剤(1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)をエチレングリコールに

溶解させた溶液を調製する

2) 乾燥した電解質ゲルを 1)で調製した水溶液に入れ電解質ゲルを十分に膨らませるそ

の後UVを照射し中性モノマーを光ラジカル重合させる

414エチレングリコール DNゲルの作成

1) 2nd networkゲルのモノマー(中性モノマー)架橋剤(NN-メチレンビスアクリルアミ

ド)光重合開始剤(1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)をエチレングリコールに

溶解させた溶液を調製する

2) 乾燥した電解質ゲルを 1)で調製したエチレングリコール溶液に入れ電解質ゲルを十分

に膨らませるその後UVを照射し中性モノマーを光ラジカル重合させる

42 DNゲルの評価

421引っ張り試験

使用するモノマーの変化によるゲルの性質の差を評価する引っ張り試験は

JIS-K-6251-7号に準拠する方法で測定する

9

1)DNゲルを X方向の長さ 50 mmY方向の長さ 75 mmZ方向の長さが 25 mmの大

きさに成形する

2)その一端部に X-Y平面に平行な切込みを入れて2つの引張端部を形成する

3) 引張端部を片方は固定しもう片方を一定の速度で引っ張るこのときの引っ張る力 F

を測定する

Fig 2 引っ張り試験 13)

422 摩擦試験

使用するモノマーの変化溶媒の変化によるゲルの性質の差を評価する

摩擦試験は東京理科大学工学部第一部機械工学科佐々木研究室に依頼する予定である

用いる機械は SVR4パーカー熱処理工業株式会社製であり180での高温での摩擦係

数の測定が可能である

摩擦測定は常温(20 )と高温(100 )で測定することを予定している

10

5 展望

51 DNゲルの合成

実験操作は溶液を調製した後UV照射するという簡易な手順なので合成は比較的早い

段階で成功すると考えられる

1st networkゲル合成に使うのは電解質モノマーなため水溶液のモノマーの濃度が低

いと湿潤度 Q が大きくなりせん断弾性率が下がり剛性が弱いゲルが出来上がると考え

られる

架橋剤を多く使用すると架橋密度を上がるので 2nd networkゲルが入り込む空洞が小

さくなるそのために架橋剤が多すぎると高弾性のゲルが生成できると考えられる

また同様な考えで2nd networkモノマーが含まれている水溶液に乾燥させた1st network

ゲルを入れる量が多くても高弾性のゲルが生成できると考えられる

52 DNゲルの物性

ゲルの高分子網目は基板から離れようとするときにゲルと基板の間に僅かな溶媒層

が生じるこの状態では溶媒層が潤滑油のような働きをして生じる摩擦力は小さなも

のとなるゲル周辺が高温な状態ではこの溶媒層が水の場合は蒸発してしまうので摩

擦力は増大すると考えられる溶媒を水からより沸点の高いエチレングリコールなどに

変えれば摩擦力は増大することはないと推測される 14)

11

参考文献

1) J Bastide and L LeiblerMacromolecules1988212647

2) G G J Lake and A G ThomasProc R Soc LondonA1967300108

3)越後亮三 機械工学辞典 朝倉書店 2007 p631

4) 伊藤勝悦 やさしく学べる材料力学 森北出版 2014 p14

5)SPObukhovMRubinstein and RHColby Macromolecules 1994273191-3198

6)MRubinsteinRHColbyAVDobrynin and JJaonnyElasticMacromolecules199629398-406

7) 大 阪 府 立 大 学 基 礎 講 座 材 料 の 強 度 と 破 壊

httpwwwengmmtrosakafu-uacjpresearchstrength-japdf2015413取得

8)聾剣萍「生命科学時代の新材料-高弾性高靱性ダブルネットワークゲル」高分子学会

『高分子』高分子科学最近の進歩58巻 5号2009p327-p331

9)YTanakaEurophysLett20077856005

10)蓮池幹治ラジカル重合ハンドブックエヌティーエス2010p444-p445

11)大津隆行ラジカル重合(Ⅰ)化学同人1971p80-p81

12)大津隆行ラジカル重合(Ⅰ)化学同人1971p153-p154

13)聾剣萍高分子ゲルおよびその製造方法特開 2009-185156 2008-02-05

14) 角五 彰龔 剣萍長田義仁「ゲルの摩擦と水和潤滑~生物の滑らかな運動解明への

アプローチ」日本生物物理学会『生物物理』47巻 4号2007p 253-p258

1

東京理科大学Ⅰ部化学研究部 2015年度春輪講書

耐塩性の高い新規化粧品用増粘剤の開発 2015年度金曜班

Nomata N(2OK)Seki M(2OK)Tin J(2OK)Takahashi R(2C)Watanabe A(2K)

Asai D(2K) Nishimiti D(2K)Yamamoto R(2K)

1 動機

化粧品において増粘剤の果たす役割は非常に大きい

化粧品にはクリーム状のモノが多くありその整形には増粘剤が必要不可欠である

また増粘剤は製剤だけでなく密閉効果や水和効果によって薬剤を皮膚に効率的に輸

送することに役立っている

この増粘剤であるが一つ課題がありアスコルビン酸塩(ビタミン C)のようなクロロ

基を持つ塩系薬剤をゲル中に含む場合経時によってべたつきといった使用感の悪化

につながるといった弱点があるこの問題の解決のために塩系薬剤への耐性の高い増

粘剤の開発が望まれている

塩系薬剤の高い美容効果からこの問題の解決に対する化粧剤企業のニーズは高くこ

の問題は長く研究が続けられていたが近年資生堂が逆相マイクロエマルション重

合法によって microスケールの粒状高分子を多数合成することによりできる増粘剤が高い

耐塩性を持ち使用感もよいことを発見したがこの粒状高分子増粘剤には未だ試み

られていないモノマーが多くある

そこで今年度の金曜班ではこの逆相マイクロエマルション重合法において未だ

試みられていない親水基を持つモノマーを利用して新規の増粘剤をつくることで粒

状高分子による増粘剤の耐塩性と肌触りと親水基の関係を調べ応用化に利すること

ができるのではないかと考え実験を行うこととした

2 背景

増粘剤とは水溶液をゲル化するために添加される物質であり化粧品において広く

用いられているこの増粘効果は従来では高分子鎖同士の分子間力や架橋で生じる

網目構造の結果生じる液中の摩擦力によるものである

動機で述べたように μスケールの粒状高分子が増粘剤として良質であることがわか

っているただし粒状高分子の形状は反応場であるセッケンミセルの大きさだけで

なく親水基やポリマーを構成する原子同士の分子間力によって変わる高分子の立体構

2

造にも影響されている

また粒状高分子の正確な一次構造を把握することは大変難しいことであるので

応用化のためには高分子の一次構造でなくモノマーによって粒状高分子特性の変化

を調べることが重要である

さらに従来用いられているポリマーがスルホ基とカルボキシル基を親水基とする

ものしか存在しない

以上の三点から酸以外の親水基をもつモノマーで増粘剤を合成したときその性

質はどうなるかを調べることでより製品として利用価値が高い粒状高分子増粘剤を合

成することができるのではないかと考えた

そこで新規モノマーとしては対照実験を行うためにアクリルアミド系モノマー

でかつ 2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸のスルホ基と同じ炭素骨格の先

端に親水基が存在するものとしてN-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド (3-アク

リルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライドを用いてそれぞれ親水基が酸

ではなくヒドロキシ基である場合親水基がアニオンではなくカチオンである場合に

ついて研究を行うこととした

この二種の以外にも水溶性のアクリルアミドポリマーは存在するが上記の条件を満

たさないまたは高価であるため本実験では用いないこととした

Fig1 N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド

Fig2 (3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライド

3

3 原理

31 一般的な液体の粘性

溶液の粘性は一般論では以下のように表される

Fig3のように XY平面を取り液面に平板を用意し引っ張った時挟まれた溶液内

には図のようなせん断流動が発生する高さ Yでのせん断速度は(119881

119889) 119910で与えられる

この時平板に挟まれた溶液を薄層の集まりと考えると隣り合う薄層間に摩擦が生

じるこの内部摩擦力が粘性力であるずり速度勾配が十分に小さければ平板の単位

面積当たりに生じる粘性力 Fv0はその勾配 Vd に比例するすなわち以下の式で表

され1205780を粘性係数と呼ぶこの値は溶媒固有である1)

1198651199070 = 1205780 (119881

119889)

Fig3 溶液ずりせん断図

32 増粘剤の粘性

増粘剤の多くは低分子の液体に高分子を溶かすと著しく粘性が高くなる性質を利

用している

この粘性の発生するメカニズムは下の Fig4において平板間の溶液を薄層に分けた

際高分子鎖は溶液の移動に伴って回転するこのとき溶液中の薄層は薄層間の摩

擦以外に高分子鎖との間にも摩擦が生じているこの摩擦の増加が粘性力の増加とな

る 2)

4

Fig4 高分子による粘性増加

また高分子鎖同士が分子間力によって結びつき三次元構造を形成することで内

部摩擦力は一層大きくなるこのため高分子による増粘効果は顕著である

架橋高分子では三次元構造が高分子鎖同士の分子間力による形成よりも強いものと

なるので増粘効果及びレオロジー特性に優れる 3)

33 塩系薬剤による粘性劣化のメカニズム

塩系薬剤とはビタミンC (アスコルビン酸塩)のようにクロロ基をもつ薬効物質のこ

とである

このクロロ基が直鎖高分子や架橋高分子がポリマー間で形成する三次元網目構造

を破壊することによって増粘効果を消失させ内容物の流失によるべたつきを生じさ

せる 3)

34 粒状高分子の粘性

粒状高分子の粘性について粒状高分子はその粒経が小さいほど体積に対する表面

積が増え溶液内での内部摩擦力が大きくなる

また粒子同士が摩擦力を元に網目構造を形成するため網目構造の構成要因が直

鎖高分子や架橋高分子の高分子増粘剤と異なっている 4)

35 逆相マイクロエマルション重合法

後述する転相温度乳化法を用いて形成した5 μm~30 μm 形成したマイクロエマル

ション内において水溶性のモノマーを利用して行う乳化重合法の一種容易に極小の

5

ポリマーを合成することができる 5)

36 界面活性剤の概略

界面活性剤とは分子の構造が水になじみやすい部分(親水基)と油になじみやすい

部分(新油基)からできていて2つの物質の間の界面に集まりやすい性質を持ちそ

の界面の性質を著しく変える物質というのが界面活性剤の定義である

代表的な界面活性剤の特徴は界面における「吸着」と「ミセル形成」である 6)

もうひとつの代表的な作用として「可溶化」もある

37 エマルションの形成

界面活性剤に有機溶媒が取り囲まれて水に可溶化されたとき水溶液中に存在する

有機溶媒を界面活性剤が取り囲んだ液滴のことを OW エマルションと呼ぶ

有機溶媒中に水が可溶化される場合WOエマルションと呼ぶ

38 ノニオン界面活性剤

非イオン界面活性剤とも言う界面活性剤の内解離基を持たず電気的に中性な

界面活性剤で親水基は主にポリオキシエチレン基であるその特殊な性質上他の種類

の界面活性剤に無い性質として曇点と転相温度を持つ 今回使用するノニオン界面

活性剤はポリオキシエチレンオレイルエーテルであり基本式は以下のような形にな

る 7)

R-O(CH2CH2O)n-H

Scheme 1 ポリオキシエチレンオレイルエーテルの基本式

39 曇点

曇点とは透明な液体が相分離を起こして白濁する温度のこと

本実験においてはノニオン界面活性剤が加温によって界面活性効果を失い相分離

によって白濁する温度のこと 8)

310 転相温度乳化

ノニオン界面活性剤は加温によって界面張力が変化しWO型エマルションから

OW 型に変化するこの変化点のことを転相温度と言い転相温度において界

6

面張力が最低になっているので溶液エマルションが極小になる

またこの転相温度は界面活性剤に固有の値となるので二種の比較的性質の

近い界面活性剤を混合することで転相温度を操作し適切な温度で5 μm~30 μm

程度の直径を持つエマルションを作成する方法を転相温度乳化法と呼ぶ 10)

311 ラジカル重合

開始剤を用いてラジカル種を生成して行う重合法のことをラジカル重合法と言う

開始剤の分解要因によって熱光放射線ラジカル重合の三つに分けられる 10)

3111 ラジカル重合を構成する四反応

ラジカル重合は 4種類の反応が同時並行的に起こるそれぞれ以下の通りである 11)

開始反応

開始剤が熱光放射光などの要因によってラジカル開裂を起こしラジカル種を

生じさせる反応

成長反応

ラジカル種がモノマーと反応することでモノマー新たなラジカル種が生成する

反応これが連続することでポリマーが合成される

停止反応

連鎖していた成長反応が止まる反応主にラジカル種同士の反応による

連鎖移動反応

ラジカル種がモノマー以外の分子主に溶媒分子等と反応することでポリマー以

外の物質を合成する副反応

3112 乳化重合

乳化重合はモノマー液滴と呼ばれるモノマーを大量に保存しているエマルシ

ョンと反応場となる極小のセッケンミセルの二つの構造を持つ溶液中で行う不均

一系ラジカル重合の一種である 12)

成長反応が一段階進むたびにモノマー液滴から拡散の理論式に従ってモノマ

ーがミセル内に移動するこの一連の反応を繰り返して反応が進む 13)

そのため種々のラジカル重合法と比較して以下の特長がある 13)

セッケンミセル内に存在するラジカルが常に一つであるため停止反応が

7

起こりにくく比較的重合度の高いポリマーが生成しやすい

反応速度が拡散作用によって律速されかつセッケンミセルの周囲を大量

の溶媒分子が囲んでいるため除熱が容易であるという理由から熱暴走を起

こしにくいという利点がある

ミセル内で重合するため合成した高分子が絡まりやすく粒状の分子が作

成できる

Fig5 乳化重合模式図

312 MS(質量分析法)

質量分析法とは分子の質量すなわち分子量を測る手段でもあるまた分子を分解

したフラグメントの質量を測ることによって分子構造に関する情報を得るものでも

ある

高エネルギー電子が有機分子にぶつかると分子から電子がはじき出せれカチオ

ンラジカルが発生する

119825119815 rarr 119825119815++119838minus Scheme 2カチオンラジカルの発生

電子の衝突により大量のエネルギーが分子に与えられることで大部分のカチオン

ラジカルを生成した後フラグメントに分解するフラグメントは小さな破片となっ

て浮遊し正電荷や中性となる

このカチオンラジカルとフラグメントについてmz値を横軸相対強度を縦軸につ

いて取ったグラフから質量スペクトルを読み取る 14)

またMS(質量分析法)はイオン化の方法などによりいくつかに分けられ今回使用

したいのは高分子試料でもほとんどフラグメンテーションを起こさないソフトなイ

8

オン化法であるMALDI法 15)である

3121 MALDI法(マトリックス支援レーザー脱離イオン化法)

試料を 25-ヒドロキシ安息香酸のような適切なマトリックス上に吸着させて

ペレットを作成しレーザー光を短時間照射してイオン化する

エネルギーがマトリックスから試料に移動し[119872 + 119867119899 ]119899+に分解される 15)

MALDI法にはよく TOF型の MSが用いられている

4 実験

41 2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を用いた既存化粧品用増粘剤の合成

411 使用器具試薬

温度計ウォーターバスビーカー薬さじデシケーター

ジメチルアクリルアミド

式量9913

沸点81

発火点71

LD50(経口)316mgkg

LD50(経皮)580mgkg

製造和光純薬工業株式会社

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸

式量20725

融点200

LD50(経口)5400mgkg

製造和光純薬工業株式会社

NN-メチレンビスアクリルアミド

式量156

沸点4451

発火点215

LD50(経口)390mgkg

製造東京化成工業株式会社

9

へプタン

式量1002

沸点98

引火点-4

水に不溶

製造昭和化学

2-プロパノール

式量60

沸点82

発火点12

LD50(経口)区分外(GHS分類)

LD50(経皮)区分外(GHS分類)

製造昭和化学

ペルオキソ二硫酸アンモニウム

式量22820

冷水に易溶保存湿気厳禁

重合開始罪乳化重合レドックス重合に用いられる

製造和光純薬工業株式会社

412 実験手順

① ビーカーにイオン交換水ヘプタンポリオキシエチレンオレイルエーテル(2)

(8)をそれぞれ507 mL 507 mL489 g((2)(8)=23)加えて良く撹拌したも

のを入れる

② その後その後温度調節機能つきスターラーに乗せ白濁するまで加熱する

白濁した液が透明化するまで温度を落とし電気伝導率計を用いて溶液が転

相温度付近に保たれていることを確認する

③ 以上の操作が済んだ重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先

ほどのスターラーと同じ温度にしたウォーターバスに移し2-アクリルアミド

-2-メチルプロパンスルホン酸NNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 137 g

262 g入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始

剤としてメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

10

④ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

42 N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミドを用いた新規化粧品用増粘剤の合成

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を誘導体と入れ替える以外の

操作は 41に準ずる

親水基による増粘性の変化を観察するため架橋剤のモノマーに対する濃度比

は 2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を使用したポリマーが最も増

粘効果の高くなると報告された濃度比を用いる

421 使用器具試薬

使用器具は 41に準ずる

試薬

N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド

式量11513

沸点130

発火点189

製造東京化成工業株式会社

422 実験手順

① 412 ①②と同じように重合系を作成する

② 以上の操作が済んだ重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先

ほどのスターラーと同じ温度にしたウォーターバスに移しN-(2-ヒドロキシエ

チル)アクリルアミドNNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 076 g262

g 入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始剤と

してメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

③ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

11

43 (3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライドを用いた新規化粧品用

増粘剤の合成

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を誘導体と入れ替える以外の操作は

41に準ずる

親水基による増粘性の変化を観察するため架橋剤のモノマーに対する濃度比は 2-ア

クリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を使用したポリマーが最も増粘効果の高く

なると報告された濃度比を用いる

431 実験器具

実験器具は 41に準ずる

試薬

(3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライド

式量22074

沸点100

製造東京化成工業株式会社

432 実験手順

① 412 ①②と同じように重合系を作成する

② 重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先ほどのスターラーと

同じ温度にしたウォーターバスに移し (3-アクリルアミドプロピル)トリメチ

ルアミニウムクロライドNNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 123 mL

262 g入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始

剤としてメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

③ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

5 評価分析

耐塩性の高い増粘剤の耐塩性と使用感と親水基との関係を評価するために以下の二

つの測定を行い評価する

増粘剤の耐塩性の評価のために塩酸を増粘剤内部に取り込ませた状態で経時

12

による粘度の変化を観察する

また高分子の粘性を考える上で直鎖高分子の場合よく参考にされるのが平

均分子量でありこの値を測定することで親水基が変化した場合に平均分子

量が粒状高分子の粘性にも大きく影響するか確認する

精密に上の測定を行うには専用の機器が必要になるため機器メーカーの株式

会社エーアンドデイ様または東京理科大学理学部応用化学科駒場研究室に

また高分子の性質を考える上で重要視される平均分子量及び分子量分布に

ついては東京理科大学化学系機器センターにあるMALDI-TOF型質量分析計を管

理者の東京理科大学理学部応用化学科の根岸先生に測定に協力していただこうと

考えている

6 謝辞

東京理科大学工学部工業化学科 近藤行成教授

東京理科大学理学部化学科 遠藤恆平准教授

東京理科大学理学部応用化学科 駒場慎一教授

この研究を進めるに当たり大変お世話になった先輩先生方企業の皆さんに感謝の

意を表明します

参考文献

1) 小澤美奈子 基礎高分子科学 高分子学会 編 2010年 第六版 p979899

2) 小澤美奈子 基礎高分子科学 高分子学会 編 2010年 第六版 p99100

3) 金田 勇 逆相マイクロエマルション重合法による水膨潤性ミクロゲルの重合とその増

粘剤としての応用 2010年 p1

4) 小林敏勝 福井寛 きちん知りたい粒子表面と分散技術 日刊工業新聞社 p76

5) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 2006 p839 840 841

6) 皆川基 藤井富美子 洗剤洗浄 百科事典 大矢勝 2007年版 p4647

7) 日本産業洗浄協議会編 わかりやすい界面活性剤 工業調査会 2003 p373839

8) 資生堂 HP httpswwwshiseidogroupjprddevelopmentformulationhtmlより 2015

44取得

9) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 テクノシステム 2006 p321

10) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 テクノシステム 2006 p397

13

398399

11) 遠藤 剛 高分子の合成(上)~ラジカルカチオンアニオン重合~ 講談社 2010 3p

12) 佐藤壽彌編 高分子微粒子の技術と応用 シーエムシー出版 2004 p2526

13) 佐藤壽彌編 高分子微粒子の技術と応用 シーエムシー出版 2004 p27

14) マクマリー 上 8版 東京化学同人 p403404

15) John McMurry マクマリー有機化学(上) 第 8版 2013 p410411

Page 4: ゼオライトとキトサンを用いた 金属イオン除去剤の …kaken/studies/2015/2015-s-all.pdf1 東京理科大学I 部化学研究部 2015 年度春輪講書 ゼオライトとキトサンを用いた

4

化合物の総称をドイツの化学者 HSchiff の名前をとってシッフ塩基と呼ぶ 8)

25 アセタール生成反応

アルデヒドは酸触媒の存在下において2当量のヒドロキシ基と可逆的に反応し

アセタールという生成物を与える水と同様にヒドロキシ基の求核性は然程強くない

ものの酸性条件においてはカルボニル基の反応性がプロトン化によって強められる

ため速やかに付加反応が進むことが知られているその反応機構は以下の通りで

ある

まず溶液の酸性によりカルボニル基が強く分極された後酸素の非共有電子対に

よる求核反応に対してカルボニル基が活性化されるそこからプロトンが脱離して

中性のヘミアセタールという四面体中間体を生じるこのヘミアセタールのヒドロキ

シ基がプロトン化されて良い脱離基となった後に脱水によってオキソニウムイオン

中間体が生成されるこの構造にもう1当量のヒドロキシ基が付加しプロトン化した

アセタールを与えた後プロトンが脱離することによって最終的な生成物である中性

のアセタールが与えられる 9)

Scheme 1 カルボニル基とアミノ基の反応

Scheme 2 アセタール生成反応

5

26 一律排水基準

水は人体に非常に近い資源の一つでありながら頻繁に環境汚染の矛先が向くもの

である放流する際に家庭用排水や工場排水が混入することにより金属イオンや有機

化合物が含まれてしまうことがありこれらが人体に取り込まれた場合には様々な

被害を引き起こすそのため日本では法務省および環境省が水環境の保全のため

排水内に含まれるあらゆる成分に関して濃度の基準を設けておりこれを「一律排水

基準」と呼ぶ以下に主な金属イオンに関する排水基準を示す 10)

Table1 金属イオンに関する一律排水基準

カドミウム 003

鉛 01

六価クロム 05

ヒ素 01

水銀 0005

セレン 01

銅 30

亜鉛 20

溶解性鉄 100

溶解性マンガン 100

クロム 20

3 実験準備

31 試薬

以下mp融点 bp沸点 M分子量である

キトサン(ChitosanLD5016gkg)

無色非結晶性粉末であり水に不溶キチンを濃アルカリ性溶液と加熱して得られ

る脱アセチル化物 11)

項目 濃度(mgL)

6

グルタルアルデヒド(Glutaraldehydemp-14 bp188 M10012

LD501100mgkg)

無色またはわずかに薄い黄色の液体で水アルコールアセトンに易溶特異な刺

激臭を持つ架橋剤として用いられる比較的不安定で加熱すると重合することが

ある殺菌消毒薬としても利用されている 12)

グリオキサール(Glyoxalmp15 bp504 M5804LD502000mgkg)

アセトアルデヒドの酸化やアセチレンの酸化によって得られる蒸気は緑色で

可燃性がある医薬品や香料の原料として広く用いられる他にも繊維処理剤として

も使用される 13)

製造和光純薬工業

硝酸銅(Copper Nitratemp1145 M18756LD50940mgkg)

酸化銅または炭酸銅を希硝酸に溶かした後に濃縮冷却することにより潮解性の三水

和物が得られる水エタノールなどに可溶真空中では 150~200 において

昇華する 14)

硝酸鉄(III)(Iron(III) Nitratemp472 M24186LD503250mgkg)

淡い紫色の単斜晶であり熱すると分解する水に易溶で水溶液は加水分解して

褐色となる顔料の原料や医薬品にも用いられる 15)

製造和光純薬工業

7

エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩

(Ethylenediamine-NNNrsquoNrsquo-tetraacetic acid disodium saltM37224

LD502000mgkg)

通称 EDTA-2NaといわれEDTAを水に溶けさせるためにナトリウム塩としたもので

ある EDTAと同じようにキレート滴定に用いることができる多くの金属イオ

ンと安定なキレート化合物を生成することが知られているキレート化合物の安定性

が高い上に選択性が低いために広く用いられている 16)

PAN指示薬(1-(2-pyridylazo)-2-naphthol indicatormp137 M24900)

1-(2-ピリジルアゾ)-2-ナフトールをメタノールに溶解させた溶液金属イオンを

キレート滴定する際の指示薬として用いられる1-(2-ピリジルアゾ)-2-ナフトール

自体は 2-アミノピリジンジアゾニウム塩と β-ナフトールの反応から得られる橙色

針状結晶である 17)

製造林純薬工業

エタノール(Ethanolmp-11415 bp783 M461LD506200mgkg)

工業的には発酵などから合成され特有の匂いと味のある無色の液体である

溶剤燃料不溶剤などとしても用いられる 18)

8

グリセリン(Glycerinemp20 bp290 M921LD5027200mgkg)

石鹸製造の際など工業的にも用いられている無色粘性で吸湿性をもつ液体である

水エタノールとあらゆる割合で混合することができる湿潤剤として皮膚薬にも

用いられる分析化学においては滴定用溶媒として使われることがある 19)

サリチル酸(Salicilic Acidmp159 bp211 M138LD50891mgkg)

多くの精油中にエステルとして存在する針状の結晶エタノールなどに易溶である

染料の中間体や防腐剤角質溶解剤などに含まれているおよそ 200 で分解して

フェノールとなる分析化学においては鉄イオンなどの呈色剤に用いられる 20)

製造和光純薬工業

塩酸(Hydrochloric AcidM3646LD50900mgkg)

代表的な強酸であり多くの金属と反応して塩酸塩を生じるが貴金属とはほとんど

反応しない刺激性がある工業的には染料や医薬品などに幅広く用いられて

いる 21)

製造和光純薬工業

水酸化ナトリウム(Sodium Hydroxidemp328bp1388M4000

LD50500mgkg)

常温で無色の斜方晶系の固体であり代表的な強塩基潮解性があり通常は水や

二酸化炭素を含んでいる事からmp3184 とする場合もある溶解に伴い発熱

する刺激性がある 22)

希硝酸(Dilute Nitric Acidmp-42 bp826 M6301LD50430mgkg)

無色の吸湿性液体光または熱で分解するため暗所に褐色ビン内で保管する必要が

ある多くの金属に対して酸化剤として働く刺激性がある 23)

天然ゼオライト

製造ゼオライト市場しまねお宝館

9

32 器具

マグネチックスターラー

吸引ビンなど吸引ろ過に用いる器具

恒温槽

pHメーター

ビュレット

メスフラスコ

4 実験操作

41 ゼオライトの洗浄

天然ゼオライトを使用する予定であるがこれには水を懸濁させるような粘土質が

付着していると思われる 3 M の塩酸に 1 日ほど浸けることによりこれを除去する

42 ゼオライトのキトサンによる化学修飾(架橋剤グルタルアルデヒド)

(1)キトサン 05 gを 50times10-3

M塩酸 500 mLに加えた後に天然ゼオライト 125 g

を加える

(2)均一な懸濁液になるまでスターラーで 250 rpmにおいて撹拌する

(3)懸濁液に 1 M水酸化ナトリウム水溶液 75 mLとグルタルアルデヒドを 02 g添加

してゼオライトをキトサンで修飾する

43 ゼオライトのキトサンによる化学修飾(架橋剤グリオキサール)

(1)キトサン 05 gを 50times10-3

M塩酸 500 mLに加え溶解させて天然ゼオライト

125 gを加える

(2)均一な懸濁液になるまでスターラーで 250 rpmにおいて撹拌する

(3)懸濁液にグリオキサール 01 gを添加して水温を 80 に保ち 1時間撹拌して架橋

を行う

(4)1 M 水酸化ナトリウム水溶液を 75 mL加えてゼオライトをキトサンで修飾する

44 修飾済みゼオライトの調製

(1)しばらく静置した後に吸引ろ過を行い固相水相の分離を行う

(2)得られた固相をイオン交換水で洗浄する

(3)1週間ほど乾燥剤と共に保管することにより自然乾燥させる

10

45 種々の含金属廃液の作成

(1)01 M硝酸に各金属イオン標準液を混合させ金属イオン含有量が 5 mgになるよう

に金属イオン含有水溶液を作成する

(2)硝酸と水酸化ナトリウム水溶液を用いて pHを操作しpHが 246の付近になる

ように調製する

46 修飾ゼオライトによる金属イオンの除去

(1)各金属イオンを含む試料溶液に作製した除去剤 50 gを投入しマグネチックスター

ラーで 250 rpm において 1時間撹拌する

(2)吸引ろ過を行い固相水相の分離を行う

<備考>

本実験では作製した除去剤の性能を比較するためにキトサン天然ゼオライト

および2種の修飾済みゼオライトについて金属イオン除去実験を行う予定である

5 評価

51 キレート滴定を用いた金属イオンの定量

511 銅イオンのキレート滴定

(1)試料溶液に酢酸-酢酸ナトリウム緩衝溶液を加えて pHが 25~60に保たれている

事を確認する

(2)エタノールを 50 mL加えた後にPAN指示薬を数滴滴下して溶液を発色させる

(3)001 M EDTA水溶液を滴下して滴定を行う

512 鉄イオンのキレート滴定

(1)試料溶液の pH を確認し酸性が強い場合は 35酢酸ナトリウム水溶液を酸性が

弱い場合は 1M 塩酸を加えて pHを 20~30に調節する

(2)1サリチル酸溶液を 8 mL添加して溶液を発色させる

(3)001 M EDTA水溶液を滴下して滴定を行う

6 実験結果に関する予測

金属イオン除去剤の作製によってゼオライト粒子を内包したキトサン粒状体が得ら

れると予測されるまたグルタルアルデヒドによってキトサンを架橋した除去剤と

比較してグリオキサールを用いた除去剤の方が金属イオンの除去性能が高くなるの

ではないかと期待できる

11

7 参考文献

1)姫路市編集『工場事業所の排水が下水道におよぼす影響』

URL httpwwwcityhimejilgjps90gesuidou_9253_9277html

最新取得日2015年 4月 15日

2)環境省編集 『水土壌地盤海洋環境の保全』 URL httpwwwenvgojpwatermizuhtml

最新取得日2015年 4月 15日

3)知足章宏著 『アジアの開発途上国における水質汚染問題と下水事業への民間参入

(Private Participation)の現況経験』立命館大学 立命館国際地域研究第 23号

2005年 3月発行 p153~156

4) 一般社団法人キチンキトサン学会 『キチンキトサンとは』

URL httpjscckenkyuukaijpspecialindexaspid=1930

最新取得年月日2015年 4月 15日

5) ゼオライト学会 URL httpwwwjaz-onlineorgindexhtml

最新取得年月日2015年 4月 16日

6) 萩中淳ほか著 『パートナー分析化学 I(改訂第 2版)』 南江堂 (2012) p97~98

7)『パートナー分析化学 I(改訂第 2版)』 p116

8) 児玉三明ほか訳 『マクマリー有機化学(中) 第 8版』 東京化学同人 (2013) p703~704

9)『マクマリー有機化学(中) 第 8版』p708~711

10)環境省編集 『環境省 一律排水基準』URL httpwwwenvgojpwaterimpurehaisuihtml

最新取得年月日2015年 4月 17日

11)『化学大辞典』大木道則ほか著 東京化学同人 (2005) p543

12)『化学大辞典』p651

13) 有機合成化学協会編集『有機化合物辞典』講談社 (2004) p248

14)『化学大辞典』p1121~1122

15)『化学大辞典』p1121

16)『化学大辞典』p269

17)『化学大辞典』p1928

18)『化学大辞典』p256~257

19)『化学大辞典』p638~639

20)『化学大辞典』p858~859

21)『化学大辞典』p332~333

22)『化学大辞典』p1172

23)『化学大辞典』p1118~1119

1

東京理科大学Ⅰ部化学研究部 2015年度春輪講書

ケイ酸を用いた無機接着剤 火曜班

Shoji Y (2OK) Arai S(2OK) Abe Y(2K) Takemura R(2K) Matsui T(2K)

1背景

私たちは日々生活している中で接着剤を使う機会が多くあるしかしその接着剤が

まわりに及ぼす影響について考えることは少ないそこで接着剤について調べてみたと

ころ接着剤は大きく分けて 2つのグループに分類できることが分かったまず一般的に

使われているボンドや瞬間接着剤のように有機化合物を主成分とした有機接着剤次に

あまり一般的ではないが金属やセラミックスの接着に用いられる無機化合物を主成分とし

た無機接着剤有機接着剤は簡単に接着することができるなど様々な長所を持つが有機

物の溶媒を用いるため工事現場などで感じる独特な臭いやシックハウス症候群の原因物

質を放出してしまうという短所を合わせ持つそれに比べ無機接着剤は接着方法が高

温で加熱しなければならないという点と有機接着剤よりも接着強度が低いという短所を持

つが耐熱性に優れ特有の臭いもなく溶媒に水を用いるため環境や人体に対する影響

も少ないという長所があるさらに無機接着剤の分野はあまり多くの研究が行われてお

らず発展の余地が残っているのではないかと感じた

2目的

無機接着剤は耐熱性などの長所がある反面強度と耐水性が低いという短所があるこ

の 2つの短所は接着剤として用いるためには重大な問題となるそこで本実験ではケイ

酸を主成分とした無機接着剤に何種類かの金属化合物などの添加物を加えることにより接

着強度と耐水性の改善を目的とする

3原理

31無機接着剤

無機質の接着材料としては一般にガラス系金属系の材料が使用されているがこれ

らの材料は気密性は優れているが接着時にそれぞれの融点や軟化点以上に加熱すること

が必要でありまた接着部分の耐熱性は接着時の温度を上まわることはないという欠点を

有しているこれに対していわゆる無機接着剤は気密性には劣るが低温での接着が可能

であり優れた耐熱性を有するという特徴を持っている無機接着剤は1)無機結合剤

2)硬化剤3)充填剤を主成分として構成される

2

市販されている接着剤の多くは使用の便を考えて一液性であるそのポットライフ(可

使期間)は 3か月から 1年必要とされるので室温で作用する硬化剤は使用できない

1)結合剤

結合剤自体の硬化剤が強い強度と接着力を持つ必要があり現在しようされている無機

結合剤のほとんどはアルカリ金属ケイ酸塩系リン酸塩系シリカゾル系のいずれかで

あり本実験でしようするのはアルカリ金属ケイ酸塩系結合剤である

アルカリ金属ケイ酸塩の水溶液は粘性のある液体であり分子式 M2OnSiO2で表わさ

れMの種類(LiNaKなど)および nの大小によって数多くの種類が生ずるまたア

ンモニウムケイ酸塩やグアニジンケイ酸もある一般には安価なケイ酸ナトリウム(水ガ

ラス)がよく使用される

アルカリ金属ケイ酸塩は水溶液中において種々の量のシリケートイオンモノマーポ

リシリケートイオンおよびコロイド状シリカイオンミセルからなっているこれらの形

態や分布は n 値や濃度に依存しn が大きくなるにつれてポリシリケートイオンミセル

が増加するケイ酸ナトリウムは n が4を越えると水の溶解度は極端に小さくなりn が

3 付近で接着力は最大となるケイ酸カリウムはケイ酸ナトリウムと同じような挙動を示

すがケイ酸リチウムは nが非常に大きくケイ酸分の多い水溶液が得られることが特徴で

ありシリカゾルに近い物性を示すしたがってアルカリ金属ケイ酸塩系結合剤につい

て一般的には耐水性は LigtKgtNa接着力はこの逆の順に良いといわれている

水溶液は強いアルカリ性を示し加熱によってシラノール間で脱水縮合反応を起こし

分子間にシロキサン結合を生じる固形物は融点(軟化点)までずっと非晶質である

2)硬化剤

結合剤は低温で乾燥しただけでは耐水性が不十分であり耐水性の向上のために硬化

剤が添加される硬化剤は耐水性には寄与するが接着力を低下させる場合もあるため

使用目的によっては添加しないこともある一液性の接着剤ではポットライフの要求から

室温で作用するものはあらかじめ添加できないので高温になってはじめて結合剤と反

応するものが選ばれる硬化剤については非常に多くの物質が特許等に提案されている

アルカリ金属ケイ酸塩用の硬化剤にはZnMgCa 等の酸化物水酸化物NaK

Ca等のケイ化物ケイフッ化物Alや Zn等のリン酸塩CaBaMg等のホウ酸塩等が

用いられる

酸化亜鉛による反応機構を LSDGlasserらは次のように示している

反応初期には ZnO粒子の表面で

ZnO + 1198672119874 + 119874119867minus rarr 119885119899(119874119867)42minus

の反応がおこりZn は液中に溶解しOH-が消費されるので pH が下がりケイ酸ゲルが

3

粒子表面に析出する以後はこのケイ酸ゲル層を通して OH-が粒子表面へ拡散しZnOと

反応して Zn(OH)2として固定されるためさらにケイ酸ゲルの析出が行われ酸化亜鉛表

面へ無定形シリカが沈積する

3)充填剤

充填剤としては結合剤との反応性の小さい耐火物粉末が使用される結合剤は加熱脱

水により大きな体積収縮を生じひび割れが発生するのでこれを防ぐため充填剤を添加し

て固体分率を高くするまた粒子間の空隙は水分蒸発の逃げ道となり発泡を防ぐ接着

剤の熱膨張を被着材へ合致させることも重要な役割である

さらに一液性の接着剤ではリン酸塩系におけるアルミナ粒のように室温では反応し

ないが温度を上げていくと結合剤と反応し硬化作用をして耐水性を付与することもある

その他耐火性接着強度熱伝導性電気特性耐薬品性耐摩耗性の向上に重要な

働きがある充填剤の種類に加え粒径粒径分布表面活性等に調整することが必要で

数種の充填剤を混合することが多い

4)核剤

核剤は力学特性成形性成形時の生産性の改良などを目的として種々の結晶性高分子

で利用されている特にポリプロピレンにおいては核剤を添加することにより剛性や耐火

性(熱変形温度)あるいは透明性など諸問題が大幅に改良され高機能化による用途拡大

や成形品の薄肉化軽量化が可能となりさらには短時間で結晶化が完了することから成

形時の生産性も大幅に短縮されコスト削減はもとより省資源省エネを影から支えてい

核剤には工業的な側面から主に力学特性を改善する「核剤」と特に透明性を改良する

効果が高い「透明化剤」とよばれるものがある核剤も透明化剤も高分子の結晶化過程

における基本的な作用機構は同じでありその本質はエピタキシーにあるつまり高分子

融体が結晶化する過程で高分子鎖が結晶化しやすいように「場」(核剤の表面)を提供す

るものである核剤はまた「造核剤」とよばれることもあるが核剤透明化剤とも物理

化学的には高分子に対し同じ作用をしているといえる溶媒中に溶解している溶質が種晶

の添加により析出が促進される現象を想像されたいまさに核剤は高分子融体中に添加

されこれが核となって高分子の結晶化が促進されるのである

4

Fig3-1 核剤の表面からの高分子結晶の成長

a)力学特性の改善

自動車や家電部品の樹脂化率は年々高まり特に自動車においては内外装問わずポリ

プロピレンが多用されるようになった当初はあまり重要でない部分への利用であったも

のの最近ではバンパーフェンダーライナーフロントグリルカウルパネル各種リ

ザーバータンクドアパネルピラーダッシュボードサンバイザーコンソールボッ

クスなどありとあらゆる部分に用途開発が進んでいる高分子材料による金属代替今後

もさらに進められると思われるその理由としては自動車の軽量化はもちろんのこと

設計の自由度(一体成形や金属ではデザインしにくい曲線曲面を複雑に有する部品など)

があげられる自動車部材では機能的に高剛性が求められるものや夏場に高温にさらさ

れる内装部品などは高耐熱性(高い熱変形温度)が求められるものなどがほとんどであり

このような要求性能に応えるべくポリプロピレンに核剤が添加されている

核剤が存在する場合高分子の結晶化が促進され融体の冷却過程においてより高い

温度(より融解温度に近い温度)から結晶化が開始するそのため核剤存在下での結晶化

過程では核剤非存在下での結晶化過程に比較して高分子鎖の運動性が高い状態で結晶

化が開始する核剤を添加した高分子の結晶化開始温度を示差走査熱量計などで測定する

と結晶化が高い温度から開始することも確認されるその結果高分子結晶の欠陥は減

少しまた結晶化度も増大する核剤存在下で結晶化させた高分子結晶は欠陥も少なく

またラメラ厚も厚くなり融解温度が高くなるそのような効果により成形後の高分子

材料の力学特性耐熱性が改善する

5

Fig3-2 核剤の添加のよるポリプロピレンの曲げ弾性率の改善効果

()アデカスタブ NA-11()Hyperform HPN-68 L

()安息香酸ナトリウムポリプロピレン

Fig4-2に核剤の添加によるポリプロピレンの曲げ弾性率の改善効果について示したま

ず核剤を添加することでしかも僅か 01~03 wt程度の添加で曲げ弾性率が劇的に向

上していることが分かるその中で比較すると汎用である安息香酸ナトリウムや HPN-68

Lでは弾性率の改善はあるものの(おおよそ 30の弾性率改善)01 wt程度の添加で改

善効果は飽和する添加物を加えることで剛性耐熱性を大幅に改善できることがわかる

このような改善効果は自動車用に多用されるポリプロピレンのグレードであるインパクト

コポリマーにおいても同様であるさらに核剤の添加により結晶化が促進された結果成

形時間も短縮でき高性能化と相まって生産性改善によるコストダウンも可能となる核

剤はもとのポリマーが有する特徴を損なうことなく物性を改善できるといったメリット

があるといえる

32 縮合重合反応

二つの化合物から水などの簡単な分子が脱離して新たな結合が形成される反応を縮合反

応とよぶカルボン酸とアルコールからエステルを得る反応は縮合反応の一例である

縮合反応を繰り返すことによりポリマーを合成することができるこれが脱水縮合反応

であるたとえば 2個のカルボキシ基をもつ分子と 2個のヒドロキシ基をもつ分子を反応

させると縮合反応が連続して起こりポリマーが得られる本実験では Fig3-3 の反応が

起こる

6

Fig3-3 ケイ酸の脱水縮合反応

33 接着の原理

接着剤による接着効果には複数の理論が挙げられており賛否両論あるものもあるま

た個々の接着現象においても複数の接着効果が絡み合っていることが多く接着効果の

検証は困難であるとされるある接着系では適用できる接着効果が別の系ではまったく無

力ということも多い以下に主な接着効果の理論をあげる

1) アンカー効果

雲母を注意深くはがしたようなごくわずかな例外を除きすべての固体表面は数Åオ

ーダーの粗さを有する例えば機械で製造される金属表面の粗さは 3~6 μmであり研

磨した場合でも 002~025 μmである

アンカー効果とはこのような被着材の凹部に流入した接着剤が固化し被着部に引っかか

ることにより界面が結合するというものであるアンカー効果のような界面との相互作

用を無視した接着効果理論を機械的結合論という

開口部を有するクレバスへの液体の流入について理論式が提案されている

以下の 2式は液体の粘度 η接触角θの液体が深さ Zまで浸透するまでの時間 tを表し

(a)開口部の幅がδの平行板の場合

Zdz

dt=

120575119910

120575120578120574 cos 120579

(b)開口部δ深さ Z0の V型溝の場合

11988501198971198991198850

1198850 minus 119885minus 119885 =

120575120574 cos 120579

6120583119905

となる式によれば開口部が大きくぬれがよく粘度の低い液体ほどまた時間をかけ

たほど深くまで侵入できるとされる

7

Fig3-4 アンカー効果

2)分子間相互作用

ふたつの物体の接着面で分子同士が接触するところで互いにひきつけあう力が働くこと

で接着するとするもの代表的なものにファンデルワールス力結合水素結合が存在す

3)化学的結合

界面に化学結合が存在することで接着強さに寄与するとするものである古くから提唱

されている説であるが化学結合の存在の証明が難しく接着系の界面に本当に化学結合

が存在するのかは十分に検証されなければならないとされる

4)表面自由エネルギーと表面張力

物質の内部と表面では性質が異なる内部の分子は周囲を分子に囲まれており分子間

力で互いに引き合うため安定化されるこれに対し表面の分子には周囲を囲む分子が内部

に比べて少なく内部分子と比べて不安定=エネルギーが高いということになるこの余

分のエネルギーを表面自由エネルギーと呼ぶ

表面積が小さいほど表面自由エネルギーは少なくなるため物質の表面では表面を

小さくしようとする力が働くこの力を表面張力と呼ぶ

5)ぬれと接着角

固体表面に液体が存在するとそれぞれの表面自由エネルギーとその間の界面自由エネ

ルギーとのバランスによって液体が広がり固体表面が液体表面に置き換えられるこの

現象がぬれである固体表面のぬれは材料表面の親水性疎水性や接着強度と直接関係

しているため接着の分野ではきわめて重要である固体表面に液滴を落とすと個体の

表面張力γS と液体の表面張力γL 固体と液体の界面張力γSL が釣り合うことによってあ

る角度θで平衡になるこのとき固体と液体空気の境界点 A における力の水平成分の

釣り合いから次式の Young-Dupreの式が得られる

120574119878 = 120574119878119871 + 120574119871 cos 120579

8

自然状態では表面張力により液体は球状になるこの式は固体表面上での液体を広げよ

うとする力と球状を保とうとする力のつりあいの式である

Fig3-4 固体表面上の水滴

また界面自由エネルギーγ12 で接着している二種類の物質を引き離し表面自由エネルギ

ーγ1γ2をもつ二つの物質に分けるのに必要な仕事(これを接着仕事という)Waとすると

119882119886 = 1205741 + 1205742 minus 12057412

であらわされるこれを Dupreの式と呼ぶ接着仕事とはふたつの物質を引き離すのに必

要な仕事であるからWaの値が高いほど接着強度が強いということになる

個体と液体との関係においてこれら二式をあわせると

119882119886 = 120574119871(1 + cos 120579)

を得るこれを Young-Dupre の式という液体の表面張力と接触角から接着材の接着強

度が分かるという式になっている

6)接着力低下因子と表面処理

接着は清浄な面と面の接触が前提である金属表面は清浄であれば 1000~3000 mNmの

表面張力があるはずであるが大気中では数十mNmの値をしめすこれは異物が付着した

り酸化されていたりするためである特に表面がもろい物質でおおわれていると剥離時に

もろい面での剥離が起こり見かけ上弱い接着強度となる事がある

このような金属表面の表面張力の低下を防ぎアンカー効果において適切な凹凸を金属表

面に付与し接着強度向上を図るために洗浄と研磨を行うのが望ましい

5実験方法

41使用する器具

100 mL ビーカーガラス棒ホールピペット安全ピペッターピンセットキムワイ

プ電気炉2 L ペットボトル紐アルミ角材(10 times 30 times 30 mm)サンドペーパー

はけ

9

42試薬の物性

ケイ酸ナトリウム a)

ケイ酸のナトリウム塩で種類が多いいわゆる水ガラスも多くの場合はケイ酸ナトリウム

であるがその組成は安定していない単一物質として得られているものだけでもメタ

ケイ酸ナトリウム Na2SiO3およびその種々の割合の水化物オルトケイ酸ナトリウム

Na4SiO4二ケイ酸ナトリウム Na2Si2O5四ケイ酸ナトリウム Na2SiO9 などがあるオ

ルトケイ酸ナトリウム Na4SiO4=18405二酸化ケイ素と水酸化ナトリウムを適当な条件

で融解すると得られる水溶液で両者を反応させたのではオルトケイ酸ナトリウムの結晶

は得られずにメタケイ酸ナトリウムの水化物になってしまう無色六方晶系の結晶酸

と加熱していると二酸化ケイ素が沈殿している

酸化マグネシウム b)(MgO)

式量 4030

融点 2852

沸点 3600

一般にアンモニウム塩水溶液に溶けるがエタノールに不溶空気中で水と二酸化炭素を

吸収し炭酸水酸化マグネシウムに変化する水と反応して水酸化マグネシウムとなる耐

火レンガマグネシアセメントの製造原料医薬品として制酸剤の原料となるほか触媒

または吸着材ゴム工業にも用いられる

酸化亜鉛 c)(ZnO)

式量 8138

密度 547 gcm3

無定形の白色粉末水にはほとんど溶解しないが両性酸化物で希酸や水酸化アルカリ

水溶液アンモニア水に溶解する空気中で湿気と二酸化炭素を吸収する白色顔料とし

てペイント絵の具などに用いられるほか粒子の細かいものは医薬品化粧品として用

いられる

酸化カルシウム d)(CaO)

式量 5608

融点 2572

沸点 2850

密度 340 gcm3

10

酸に可溶空気中の湿気を吸収して水酸化カルシウムとなりまた空気中の二酸化炭素を

吸収して炭酸カルシウムとなる水と反応して水酸化カルシウムとなるしっくいモル

タルなどの建築材料石膏さらし粉消石灰の原料医療用に用いられる医療用に用

いられる酸性土壌改良にも用いられる

炭酸カルシウム e)(CaCO3)

式量 10009

融点 1339

二酸化炭素を含む水には炭酸水素カルシウムとして溶解する酸には二酸化炭素を発生し

て容易に溶ける加熱すると二酸化炭素と酸化カルシウムに解離する

二酸化ケイ素 f)(SiO2)

式量 6009

低温ではフッ素フッ素酸水素酸だけが反応する高温では他のハロゲン元素とも反応す

る水酸化アルカリ炭酸アルカリと融解すると水溶性のアルカリケイ素酸塩となる

43実験操作

431被接着面の均一化

1)10times30times30 mmのアルミ角材の表面をサンドペーパーで汚れがなくなるまで削る

2)削った表面をアセトンで洗浄する

3)洗浄が終わったアルミ角材の重量を測り記録する

432ケイ酸ナトリウムのみの接着剤の作製

1)100 mL ビーカーにケイ酸ナトリウム 50 g を加え粘り気が残るぐらいまでイオン交換

水を加えガラス棒で撹拌する

2)アルミ角材の 10times30 mm の面にはけを用いてケイ酸ナトリウム溶液を均一になるよう

に塗りアルミ角材を重ね合わせる

3)150にセットした電気炉に接着面がずれないように慎重に置き 1時間焼成する

433添加物を加えた接着剤の作製

1)100 mLビーカーにケイ酸ナトリウム 50 g添加物(酸化マグネシウウム酸化亜鉛

酸化カルシウム炭酸カルシウム二酸化ケイ素)を 010 gから 010 gずつ 20 gまで加

え粘り気が残るぐらいまでイオン交換水を加えガラス棒で撹拌する

2)アルミ角材の 10times30 mm の面にはけを用いてケイ酸ナトリウム溶液を均一になるよう

に塗りアルミ角材を重ね合わせる

3)150 にセットした電気炉に接着面がずれないように慎重に置き 1時間焼成する

11

5評価方法

51接着強度の評価

1)432433で接着したアルミ板にひもとペットボトルを用いて Fig5-1のように設置す

アルミ角材

Fig5-1 接着面の破壊

2)ペットボトルに少しずつ水を加え接着面が完全に離れた時点を破壊終了点とする

3)破壊終了点でのペットボトルに入っている水の重量を計測する

52耐水性の評価

1)接着したアルミ角材に水をかけ接着面の変化を観察する

6予想

添加物を加えることで接着強度の増加が期待されるしかし大量に添加物を加えてし

まうとケイ酸の割合が小さくなり接着強度は減少してしまうと考えられ添加物の量と接

着強度の関係性をグラフ化するとある値までは増加しその値を超えると減少していくグ

ラフが得られると考えるそこから最も接着強度が高まる添加物の量を測定する

また添加物が硬化剤の役割をし耐水性の改善も予想される

参考文献

1)日本接着学会『接着剤データブック第 2版』日刊工業新聞社1990P228~229

2) 三刀基郷『トコトンやさしい接着の本』日刊工業新聞社2003P56~67

3) セメダイン(株)『よくわかる接着技術』日本実業出版社2008P34~37

PET

Crash

12

4) ユージン Gロコー『ケイ素とシリコーン』シュプリンガーフェアラーク東京株式

会社1990 P85~113

5) 大木道則大沢利昭田中元治千原秀昭『化学大辞典』東京化学同人1989

b)P884 c)P865 d)P867 e)P1368 f)P1669

6)下井 守村田 磁『大学生のための基礎シリーズ 3 化学入門』東京化学同人2005

P229

7) 吉村壽次『化学辞典第 2版』森北出版2009a)P425

8)大勝 靖一『高分子添加剤の基礎化学と材料設計』株式会社 CMC出版2008P219~235

9)httpwwwfacekyowacojpsciencetheorywhat_contact_angleimg01jpg

2015416取得

1

東京理科大学Ⅰ部化学研究部 2015 年度春輪講書

シクロデキストリンを用いた

包接化合物の生成

水曜班

Ikemura M(2C)Ebihara K(2C) Kataoka T(2K)

ShibasakiK(2OK)TsumedaT(2C)NakaA(2OK)Murakoshi R(2OK)

OkawaT(2C)NoguchiA(2K)SekiguchiK(2K)HashimotoY(2C)

1 動機

6~8 分子のグルコース単位からなるα―14結合の環状オリゴ糖であるシクロデキストリ

ンはその環状構造に由来する包接化合物を生成する性質を示すその特異的な包接形成能

を利用した多くの製品が存在し現在もなお基礎研究分野応用研究分野での研究が行わ

れている

そこで私たちは 7 分子のグルコースからなるβ-シクロデキストリンと 3 種類のカルボン

酸を用いて包接化合物を形成させ酸の構造の違いによる包接作用の比較検討及びシクロ

デキストリンの一部のヒドロキシ基をエステル化させ水に対する溶解性及び包接形成能が

どのように変化するか考察する

2 原理

21 包接化合物

包接化合物は Schlenk によって名づけられたもので定義によると原子または分子が

結合してできた 3 次元構造の内部に適当な大きさの空孔があってその中に他の原子また

は分子が一定の組成比で入り込んで特定の結晶構造をつくっている物質ということにな

っている前者の骨組み構造の化合物のほうをホスト分子後者の入り込んでいる分子の

ほうをゲスト分子ともよんでいるがこのゲスト分子の大きさや形状はまったくホスト

構造によって規定されるだけで両者の間には弱い相互作用があっても水素結合のよう

な力はなくてもいっこうに構わないのであるこの包接化合物でのゲスト分子とホスト

構造との間の相互作用というのも物理的な吸着系に近いもので非常に弱い van der

Waals 力から高度に配向した双極子間力まで種々のものが存在する 1)

22 シクロデキストリンの包接能

シクロデキストリンはグルコース残基がα-1α-4 結合した環状のオリゴ糖で一般的

にグルコース残基が 6 個のα-シクロデキストリン7 個のβ-シクロデキストリン8個の

γ-シクロデキストリンが知られている

2

Fig1 α-シクロデキストリンの分子構造

シクロデキストリンの構造は底の抜けたバケツやドーナッツのような構造をしており

その環状構造の外側は多くの水酸基に由来する親水性領域が存在し内側の空洞の CH 基に

由来する疎水領域と相反する極性が一つの分子に共存しているがこの空洞内に様々な有

機化合物などを取り込むという包接作用がもっとも特徴的である

三種類のシクロデキストリンはそれぞれ空洞の大きさが相違するためそれぞれ包接化

合物を形成しやすいゲスト分子が存在する内部空洞が比較的小さいα-シクロデキストリ

ンは比較的小さい分子例えばエタノールメタノール等をβ-シクロデキストリンは汎

用性が広く各種ポリフェノールコレステロールメンソール等の香気成分芳香族化

合物等をよく包接するγ-シクロデキストリンは大きい分子である脂肪酸などを包接する

ことが知られている

シクロデキストリンの包接力の原動力は疎水性相互作用と分子間力が主なものとされて

いるつまりゲストは疎水性の高い分子あるいは分子の大きさが空洞にぴったりとフィッ

トするものほどシクロデキストリンがそのゲストを包接する力は大きく包接物を作り

やすい傾向がある逆に親水性が高くシクロデキストリンの空洞にフィットしないよう

なゲスト分子では包接現象は起こりにくいといえるしかしゲスト分子全体がシクロ

デキストリンの空洞内にとりこまれる必要はなく部分的にでも疎水性が高く空洞にフィ

ットすれば包接が可能となるつまりゲスト分子全体がシクロデキストリンより明ら

かに大きいものでも包接作用による効果が観察される場合がある 2)

Fig2 シクロデキストリンがゲストを包接する様子

23 水溶化シクロデキストリン

3

ブドウ糖やショ糖など通常糖質の水への溶解度は非常に高いしかし天然型シク

ロデキストリンは隣接する水酸基との水素結合の為3 種のシクロデキストリンの中では最

も高い水溶性を有するγ-シクロデキストリンであってもその溶解度は 25において水

100 mL に 23 g であり油性物質を包接した場合は一般的にその溶解度はさらに低くな

るそこで水への溶解度を改善するためにシクロデキストリン化学修飾体が製造されて

いるシクロデキストリンの水溶性を向上させる方法として隣接する水酸基をメチル基や

アセチル基などでエーテル化やエステル化する方法がある具体的には部分メチル化β-シ

クロデキストリンやモノアセチル化β-シクロデキストリンが工業的に生産されている

24 包接能の評価について

今回の実験ではゲスト分子としてカルボン酸を用いるシクロデキストリン及び水溶化

シクロデキストリンの包接能の評価については包接化合物に含まれているカルボン酸をア

ルカリで滴定することで求めることができる

3 実験

31 試薬sup3⁾

アジピン酸

分子式C6H10O4

分子量1464

mp153

bp3375 アジピン酸

クエン酸

分子式C6H8O7

分子量19213

mp156~157

クエン酸

シュウ酸

分子式C2H2O4

分子量9004

mp1895

シュウ酸

4

βシクロデキストリン

分子式(C6H10O5)7

分子量113500

n-ブタノール

分子式C4H10O

分子量7412 β-シクロデキストリン

bp1179

エタノール

分子式C2H6O n-ブタノール

分子量4607

mp-1145

bp7833

水酸化ナトリウム

組成式NaOH

分子量4000

mp328

bp1388

無水オクタン酸

分子式C₈H₃₀O₃

分子量27041

mp-1 無水オクタン酸⁶⁾

濃硫酸

分子式H₂SO₄

分子量9808

mp104

32 使用器具

300 mL ビーカーメスフラスコピペット三角フラスコ吸引漏斗吸引瓶ビュレッ

トスタンドボウルガラス棒

5

33 実験操作

331 エステル化シクロデキストリンの合成 ⁵⁾

1)三角フラスコにβ-シクロデキストリン 1 g を入れこれに無水オクタン酸 025 mL を加

える

2)触媒として 2-3 滴の濃硫酸を添加し攪拌する

3)約 10 分間放置してフラスコを氷桶に入れて冷やしガラス棒でフラスコの壁を強くこす

り結晶を析出させる

4)水 20 mL を加えさらに氷桶で冷やしながら残る結晶を析出させる

5)この結晶を濾分し水で洗ってから取り出して乾かして結晶を得る⁵⁾

332 包接化合物の形成

1)β-シクロデキストリン 1 g を水 100 mL に溶解させる

2)ピペットで 1 mL のカルボン酸を加えコルク栓をして静置する

3)1 週間程静置し包接化合物を吸引濾過する

4)上記の操作をカルボン酸(酢酸シュウ酸クエン酸)で行う

5)エステル化シクロデキストリンで同様の実験を行う

333 包接能の測定

1)よく乾燥した包接化合物約 1 g をメスフラスコで 100 mL 溶液とする

2)この溶液 20 mL にフェノールフタレインを指示薬として20 mL 加え 01 M 水酸化ナト

リウム標準溶液で滴定する⁴⁾

334 溶解度の測定

1)100 mL の水に 5 g の β-シクロデキストリンを溶解させる

2)沈殿をろ過し乾燥して重量を測定する

3)エステル化 β-シクロデキストリンで同様の作業を行う

参考文献

1) 竹本喜一包接化合物の化学東京化学同人1969p2

2) 辻堅司シクロデキストリンの応用技術株式会社シーエムシー出版2008p3-p9

3) 大木道則大沼利昭田中元治千原秀明化学大辞典東京化学同人1989

4) 発田寿々子教養の化学実験第 2 版学術図書出版社2014p119

5) 南篠正男先生と生徒のための化学実験共立出版株式会社1986p155

6) 「 chemical book 」〈 wwwchemicalbookcomchemicalProductPropert_JP_CB 〉

(2015418 アクセス)

1

東京理科大学Ⅰ部化学研究部 2015年度春輪講書

ダブルネットワークの合成と評価 木曜班

OnizukaM(2C)TanakaR(2C)YamamokaH(2K) OhiraM(2K)

1背景

現在高分子ゲルは紙おむつの高吸水性樹脂やソフトコンタクトレンズなど私たちの生

活において活躍しているしかし高分子ゲルは不均一な構造なため一般的に機械的強

度が弱いという欠点がある高分子ゲルの強度面での弱点を克服するために従来では

ゲルの構造を均一化して強度を上げるというアプローチがとられてきた

しかしながら材料の弾性とじん性は反相する因子として働くつまり大変形に耐え

られるゲルは弾性率を犠牲とし高弾性のゲルは小さい変形で破壊される

そこで私達木曜班は前述の問題の解決策と成り得るものとしてダブルネットワーク

ゲル(DNゲル)について注目した

2目的

既存に作られている DNゲルは溶媒に水を用いたハイドロゲルであるDNゲルはその

強度や柔軟性により生体内での人工関節に使用することが期待され研究がおこなわれて

いる木曜班では DNゲルを生体内の関節だけでなく機械の関節部の摩擦軽減材料として

の使用を提案するしかし従来の DNゲルは溶媒が水であることにより水の沸点である

100以上の条件下では性能の低下が問題視され高温になりうる機械への応用が困難で

ある

溶媒を水から有機溶媒に変更することで高温条件下でのゲルの機能維持を試みるとと

もに使用するモノマーを変更しその機能性を検討する

3原理

31 DNゲル

311ゲルの脆弱性

一般的なゲルはゼリーや豆腐のように僅かな力を加えただけで簡単に壊れるほど

弱いこの理由は 2つの現象により説明することができる

1)ゲルの内部に多数の欠陥が存在する

2)欠陥から発生した初期亀裂が容易に伝播する

前者はゲル内部の構造が不均一であることに由来するゲル合成時におけるモノマ

ーと架橋剤の反応性の違いにより不均一な重合がおこるあるいはゲル化溶液内の濃度

揺らぎが重合によって固定されることだと考えられている 1)こうしたゲルに力を加えた

2

時にゲルの弱い部分に力が集中してしまうため小さな力でも初期亀裂が生じてしまう

後者はゲル内部のポリマーの密度の低さから生じる一般的に物質内における亀裂

の進みやすさは破壊エネルギーU(Jm2)(単位面積あたりの破断面形成に費やされる仕事)

によって評価される架橋高分子材料の臨界破壊エネルギーUc(亀裂成長が起こる最小

の破壊エネルギー)は破断面の高分子鎖の数密度と架橋点間分子量に比例する 2)つま

りゲルのじん性(物質の破壊に対する抵抗の程度で粘り強さとも言い換えられる 3))はゲ

ル内のポリマーの密度には比例し架橋密度には反比例することがわかる

ゲルは 50~99wtの溶媒を含んでいて高分子の密度が非常に低い物質であるためゲ

ルの Ucはゴムなどの固体に比べてかなり小さいことが考えられる

これまでの高強度ゲル研究は主に前者の問題を解決するすなわち構造を均一化するこ

とでゲル内部の欠陥を極力減らして強度を改善しようという観点から行われてきた

312 ゲルの弾性率

高分子鎖が三次元架橋されたゲルはゴムと同じようにエントロピー弾性を持つ溶液

中に完全に湿潤した電気的に中性ゲルのせん断弾性率(横方向に対するバネ係数 4)であり

Young率 Eと E=3Gの関係式が成立する)は

GneucongkBT

b3Q-225

以上の式で表せられゲルの湿潤度 Qの増加にともないせん断弾性率Gneuは大きく低下

するここでkBはボルツマン定数Tは温度bは重合させたモノマーの大きさである 5)

一方溶液中に完全に湿潤した電解質ゲルのせん断弾性率は

GchacongkBT

b3Q-1

によって表せる 6)よって同じ湿潤度において電解質ゲルは中性ゲルよりせん断弾性率が

高いことが分かる

またゲルの湿潤度は架橋点重合 N(分子量)による溶液中に完全に湿潤した中性ゲル

の場合QasympN35であり電解質ゲル場合QasympN

32であるしたがって架橋密度を上げる

ことによりゲルの湿潤度が小さくなりせん断弾性率が上がる 3)4)

313 ゲルの破断歪と破断応力

架橋構造が均一と仮定した理想的なゲルの破断歪(ゲルが破壊するまでの変形 7))は架

(1)

(2)

3

橋点間高分子の伸びきった長さと高分子鎖に歪がない曲がった自然な状態での大きさ

の比として求められる溶媒中で完全に湿潤した中性ゲルの引っ張り破断歪はλBcongQ12で

ありQの増加により増加する一方湿潤することにより単位面積あたりの高分子

の本数が減るため破断応力は湿潤度 Qが大きくなることにより減少する故にQが大

きいゲルは伸びやすいが弱い応力で壊れる

電解質ゲルの場合高分子鎖はその解離しているイオンの浸透圧によって水中では

ほとんど伸びきった状態となっているその結果理想状態においても破断歪はλBcongQ19

になるこれは破断歪が小さくかつ湿潤度にあまり依存しないことを意味している 5)

以上のことより

1)架橋密度を上げる(架橋点間分子量を下げる)ことでゲルが固くて脆くなる

2)水中に完全に湿潤した高分子電解質ゲルは中性のゲルより硬くて脆い高弾性と変形は

相反するということが考えられる

314 DNゲルの高強度機構

DNゲルは強電解質をモノマーとする 1st networkゲル電気的に中性なモノマーを用

いる 2nd networkゲルを組み合わせることにより生成される前述した通りゲルにおける

弾性と靭性は常に相反する働きをするそれゆえに単一な物質で両方の性質を得るこ

とは原理的には不可能である同じ湿潤度において電解質ゲルと中性ゲルのせん断弾性

率の比はGchaGneucongQ125であるために両者の違いは湿潤度 Qが高いほど大きくなる

この性質を利用することにより電解質ゲルは硬い成分中性ゲルは軟らかい成分とし

て用いることができる

亀裂を含む DNゲルがある引張荷重を受けると応力集中の効果で最初に亀裂先端近傍

の電解質網目(1st network)が破壊され局所的にゲルが降伏する荷重がますと電解質網

目の破壊が次々に伝播し広範囲にわたるダメージゾーンが形成されていくこの過程

で非常にいい気なエネルギーが分散されるダメージゾーンがある大きさまで広がった

ときようやく亀裂先端に中性網目(2nd network)が十分に伸びて切断し亀裂が進行す

る 8)

4

Fig 1 DNゲルの破壊モデル 9)

32 光ラジカル重合

321 光分解

光重合開始剤に UVを当てることにより開裂がおきラジカルが発生する本研究にお

いては 1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンを用いる 10)

Scheme1 1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンの開裂 10)

ℎ120592

5

322 開始反応

UVを当て光開裂により生じたラジカルがビニル基の二重結合を攻撃し光重合開始剤

と炭素の間に σ結合を作り炭素原子にラジカルが存在することになる

Scheme2 ラジカルの生成

323 成長反応

Scheme2で生成したラジカルが他のモノマーを攻撃しσ結合を生じるそれが何回

も起こることにより分子鎖が成長する 6)

Scheme3 分子鎖の成長

324 停止反応

Scheme 3で成長した成長ラジカル同士が σ結合を作り分子鎖が生成する 7)

Scheme4 分子鎖の生成

4実験

41 DNゲルの合成

411 使用器具試薬

ビーカー乳鉢乳棒薬さじUVライトデシケーター

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸

分子式 C7H13NO4S

式量20724

融点160

用途1st networkゲルのモノマー

6

アクリル酸

分子式C3H4O2

式量7206

融点123

沸点1416

比重10511

危険性引火性(発火温度 360 )

用途1st networkゲルのモノマー

アクリロニトリルの加水分解アクロレインの酸化ニッケルカルボニルの存在下ア

セチレンと一酸化炭素と水との反応などにより合成される酢酸に似た刺激臭を持つ液

体水エタノールエーテルによく溶ける酸素の存在下容易に重合するプラス

チックの原料として用いられる

アクリルアミド

分子式C3H5NO

式量7108

融点845

沸点103

比重1122

用途2nd networkゲルのモノマー

アクリルニトリルを硫酸あるいは塩酸を処理して得られるフレーク状の結晶溶解

性(g100 ml溶媒30 )水 2155メタノール 155エタノール 862アセトン 631

酢酸エチル 126クロロホルム 266ベンゼン 0346ヘプタン 00068化学的に不安

定で冷暗所に保存する必要がある融点付近あるいは紫外線下で重合する重合の仕方

により水溶性不溶性のものが得られる

酢酸ビニル

分子式C4H6O2

式量8609

融点-932

沸点723

比重09317

用途2nd networkゲルのモノマー

無色の液体酸やアルカリよって容易に加水分解されてアセトアルデヒドと酢酸を生

じる熱光ラジカル開始剤によって重合する

7

メタクリル酸メチル

分子式C5H8O2

式量10012

融点-48

沸点1003

比重0936

用途2nd networkゲルのモノマー

無色透明で催涙性の芳香のある液体工業的にはアセトンシアノヒドリンにメタノー

ルと硫酸を作用させて合成する実験室的にはメテクリル酸メチルの重合物を 320

以上で乾留すると得られる一般に有機溶媒には溶けるがエチレングリコールグリセ

リンには溶けにくい重合しやすいので重合禁止剤としてヒドロキノンモノメチルエ

ーテル(65 ppm)を添加して保存する有機ガラスの製造ビニル系共重合体など広く

重合反応に用いられるまたメチル以外のアルコールのメタクリル酸エステルの合成

にも用いられる

NN-メチレンビスアクリルアミド

分子式C7H10N2O2

式量15417

融点300

用途架橋剤

1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン

分子式C13H16O2

式量20427

融点47-50

用途光重合開始剤

最大吸収波長は 260 nm付近にある

エチレングリコール

式量6207

融点 -126

沸点1976

比重11132

8

用途ゲル溶媒

重要な二価アルコールでエチレンオキシドの酸触媒による開環高温高圧下水と

の反応による開環などによって合成される吸湿性無色無臭の液体甘味を有する

が有毒である高沸点を有ししかも水酸化カリウム水酸化ナトリウムを溶解し水や

エタノールと任意の割合で混合するので有機合成における溶媒として広く用いられ

また塩基に対して安定なエチレンケタールの生成によるカルボニル基の保護に用いら

れるさらに酢酸ビニル系樹脂の溶剤や水と混ざり高沸点のため不凍液に用いら

れるなど広い用途を持っている

412 1st networkゲルの作成

1) 1st networkゲルのモノマー(電解質モノマー)架橋剤(NN-メチレンビスアクリルア

ミド)と光重合開始剤(1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)を水に溶解させた水

溶液を調製する

2) UVを 8時間照射して光ラジカル重合をさせる

3) 2)で合成した電解質ゲルを乳鉢に入れ適当なサイズに砕いた後デシケーター内で一

週間ほど乾燥させる

413水溶媒 DNゲルの作成

1) 2nd networkゲルのモノマー(中性モノマー)架橋剤(NN-メチレンビスアクリルアミ

ド)光重合開始剤(1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)をエチレングリコールに

溶解させた溶液を調製する

2) 乾燥した電解質ゲルを 1)で調製した水溶液に入れ電解質ゲルを十分に膨らませるそ

の後UVを照射し中性モノマーを光ラジカル重合させる

414エチレングリコール DNゲルの作成

1) 2nd networkゲルのモノマー(中性モノマー)架橋剤(NN-メチレンビスアクリルアミ

ド)光重合開始剤(1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)をエチレングリコールに

溶解させた溶液を調製する

2) 乾燥した電解質ゲルを 1)で調製したエチレングリコール溶液に入れ電解質ゲルを十分

に膨らませるその後UVを照射し中性モノマーを光ラジカル重合させる

42 DNゲルの評価

421引っ張り試験

使用するモノマーの変化によるゲルの性質の差を評価する引っ張り試験は

JIS-K-6251-7号に準拠する方法で測定する

9

1)DNゲルを X方向の長さ 50 mmY方向の長さ 75 mmZ方向の長さが 25 mmの大

きさに成形する

2)その一端部に X-Y平面に平行な切込みを入れて2つの引張端部を形成する

3) 引張端部を片方は固定しもう片方を一定の速度で引っ張るこのときの引っ張る力 F

を測定する

Fig 2 引っ張り試験 13)

422 摩擦試験

使用するモノマーの変化溶媒の変化によるゲルの性質の差を評価する

摩擦試験は東京理科大学工学部第一部機械工学科佐々木研究室に依頼する予定である

用いる機械は SVR4パーカー熱処理工業株式会社製であり180での高温での摩擦係

数の測定が可能である

摩擦測定は常温(20 )と高温(100 )で測定することを予定している

10

5 展望

51 DNゲルの合成

実験操作は溶液を調製した後UV照射するという簡易な手順なので合成は比較的早い

段階で成功すると考えられる

1st networkゲル合成に使うのは電解質モノマーなため水溶液のモノマーの濃度が低

いと湿潤度 Q が大きくなりせん断弾性率が下がり剛性が弱いゲルが出来上がると考え

られる

架橋剤を多く使用すると架橋密度を上がるので 2nd networkゲルが入り込む空洞が小

さくなるそのために架橋剤が多すぎると高弾性のゲルが生成できると考えられる

また同様な考えで2nd networkモノマーが含まれている水溶液に乾燥させた1st network

ゲルを入れる量が多くても高弾性のゲルが生成できると考えられる

52 DNゲルの物性

ゲルの高分子網目は基板から離れようとするときにゲルと基板の間に僅かな溶媒層

が生じるこの状態では溶媒層が潤滑油のような働きをして生じる摩擦力は小さなも

のとなるゲル周辺が高温な状態ではこの溶媒層が水の場合は蒸発してしまうので摩

擦力は増大すると考えられる溶媒を水からより沸点の高いエチレングリコールなどに

変えれば摩擦力は増大することはないと推測される 14)

11

参考文献

1) J Bastide and L LeiblerMacromolecules1988212647

2) G G J Lake and A G ThomasProc R Soc LondonA1967300108

3)越後亮三 機械工学辞典 朝倉書店 2007 p631

4) 伊藤勝悦 やさしく学べる材料力学 森北出版 2014 p14

5)SPObukhovMRubinstein and RHColby Macromolecules 1994273191-3198

6)MRubinsteinRHColbyAVDobrynin and JJaonnyElasticMacromolecules199629398-406

7) 大 阪 府 立 大 学 基 礎 講 座 材 料 の 強 度 と 破 壊

httpwwwengmmtrosakafu-uacjpresearchstrength-japdf2015413取得

8)聾剣萍「生命科学時代の新材料-高弾性高靱性ダブルネットワークゲル」高分子学会

『高分子』高分子科学最近の進歩58巻 5号2009p327-p331

9)YTanakaEurophysLett20077856005

10)蓮池幹治ラジカル重合ハンドブックエヌティーエス2010p444-p445

11)大津隆行ラジカル重合(Ⅰ)化学同人1971p80-p81

12)大津隆行ラジカル重合(Ⅰ)化学同人1971p153-p154

13)聾剣萍高分子ゲルおよびその製造方法特開 2009-185156 2008-02-05

14) 角五 彰龔 剣萍長田義仁「ゲルの摩擦と水和潤滑~生物の滑らかな運動解明への

アプローチ」日本生物物理学会『生物物理』47巻 4号2007p 253-p258

1

東京理科大学Ⅰ部化学研究部 2015年度春輪講書

耐塩性の高い新規化粧品用増粘剤の開発 2015年度金曜班

Nomata N(2OK)Seki M(2OK)Tin J(2OK)Takahashi R(2C)Watanabe A(2K)

Asai D(2K) Nishimiti D(2K)Yamamoto R(2K)

1 動機

化粧品において増粘剤の果たす役割は非常に大きい

化粧品にはクリーム状のモノが多くありその整形には増粘剤が必要不可欠である

また増粘剤は製剤だけでなく密閉効果や水和効果によって薬剤を皮膚に効率的に輸

送することに役立っている

この増粘剤であるが一つ課題がありアスコルビン酸塩(ビタミン C)のようなクロロ

基を持つ塩系薬剤をゲル中に含む場合経時によってべたつきといった使用感の悪化

につながるといった弱点があるこの問題の解決のために塩系薬剤への耐性の高い増

粘剤の開発が望まれている

塩系薬剤の高い美容効果からこの問題の解決に対する化粧剤企業のニーズは高くこ

の問題は長く研究が続けられていたが近年資生堂が逆相マイクロエマルション重

合法によって microスケールの粒状高分子を多数合成することによりできる増粘剤が高い

耐塩性を持ち使用感もよいことを発見したがこの粒状高分子増粘剤には未だ試み

られていないモノマーが多くある

そこで今年度の金曜班ではこの逆相マイクロエマルション重合法において未だ

試みられていない親水基を持つモノマーを利用して新規の増粘剤をつくることで粒

状高分子による増粘剤の耐塩性と肌触りと親水基の関係を調べ応用化に利すること

ができるのではないかと考え実験を行うこととした

2 背景

増粘剤とは水溶液をゲル化するために添加される物質であり化粧品において広く

用いられているこの増粘効果は従来では高分子鎖同士の分子間力や架橋で生じる

網目構造の結果生じる液中の摩擦力によるものである

動機で述べたように μスケールの粒状高分子が増粘剤として良質であることがわか

っているただし粒状高分子の形状は反応場であるセッケンミセルの大きさだけで

なく親水基やポリマーを構成する原子同士の分子間力によって変わる高分子の立体構

2

造にも影響されている

また粒状高分子の正確な一次構造を把握することは大変難しいことであるので

応用化のためには高分子の一次構造でなくモノマーによって粒状高分子特性の変化

を調べることが重要である

さらに従来用いられているポリマーがスルホ基とカルボキシル基を親水基とする

ものしか存在しない

以上の三点から酸以外の親水基をもつモノマーで増粘剤を合成したときその性

質はどうなるかを調べることでより製品として利用価値が高い粒状高分子増粘剤を合

成することができるのではないかと考えた

そこで新規モノマーとしては対照実験を行うためにアクリルアミド系モノマー

でかつ 2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸のスルホ基と同じ炭素骨格の先

端に親水基が存在するものとしてN-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド (3-アク

リルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライドを用いてそれぞれ親水基が酸

ではなくヒドロキシ基である場合親水基がアニオンではなくカチオンである場合に

ついて研究を行うこととした

この二種の以外にも水溶性のアクリルアミドポリマーは存在するが上記の条件を満

たさないまたは高価であるため本実験では用いないこととした

Fig1 N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド

Fig2 (3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライド

3

3 原理

31 一般的な液体の粘性

溶液の粘性は一般論では以下のように表される

Fig3のように XY平面を取り液面に平板を用意し引っ張った時挟まれた溶液内

には図のようなせん断流動が発生する高さ Yでのせん断速度は(119881

119889) 119910で与えられる

この時平板に挟まれた溶液を薄層の集まりと考えると隣り合う薄層間に摩擦が生

じるこの内部摩擦力が粘性力であるずり速度勾配が十分に小さければ平板の単位

面積当たりに生じる粘性力 Fv0はその勾配 Vd に比例するすなわち以下の式で表

され1205780を粘性係数と呼ぶこの値は溶媒固有である1)

1198651199070 = 1205780 (119881

119889)

Fig3 溶液ずりせん断図

32 増粘剤の粘性

増粘剤の多くは低分子の液体に高分子を溶かすと著しく粘性が高くなる性質を利

用している

この粘性の発生するメカニズムは下の Fig4において平板間の溶液を薄層に分けた

際高分子鎖は溶液の移動に伴って回転するこのとき溶液中の薄層は薄層間の摩

擦以外に高分子鎖との間にも摩擦が生じているこの摩擦の増加が粘性力の増加とな

る 2)

4

Fig4 高分子による粘性増加

また高分子鎖同士が分子間力によって結びつき三次元構造を形成することで内

部摩擦力は一層大きくなるこのため高分子による増粘効果は顕著である

架橋高分子では三次元構造が高分子鎖同士の分子間力による形成よりも強いものと

なるので増粘効果及びレオロジー特性に優れる 3)

33 塩系薬剤による粘性劣化のメカニズム

塩系薬剤とはビタミンC (アスコルビン酸塩)のようにクロロ基をもつ薬効物質のこ

とである

このクロロ基が直鎖高分子や架橋高分子がポリマー間で形成する三次元網目構造

を破壊することによって増粘効果を消失させ内容物の流失によるべたつきを生じさ

せる 3)

34 粒状高分子の粘性

粒状高分子の粘性について粒状高分子はその粒経が小さいほど体積に対する表面

積が増え溶液内での内部摩擦力が大きくなる

また粒子同士が摩擦力を元に網目構造を形成するため網目構造の構成要因が直

鎖高分子や架橋高分子の高分子増粘剤と異なっている 4)

35 逆相マイクロエマルション重合法

後述する転相温度乳化法を用いて形成した5 μm~30 μm 形成したマイクロエマル

ション内において水溶性のモノマーを利用して行う乳化重合法の一種容易に極小の

5

ポリマーを合成することができる 5)

36 界面活性剤の概略

界面活性剤とは分子の構造が水になじみやすい部分(親水基)と油になじみやすい

部分(新油基)からできていて2つの物質の間の界面に集まりやすい性質を持ちそ

の界面の性質を著しく変える物質というのが界面活性剤の定義である

代表的な界面活性剤の特徴は界面における「吸着」と「ミセル形成」である 6)

もうひとつの代表的な作用として「可溶化」もある

37 エマルションの形成

界面活性剤に有機溶媒が取り囲まれて水に可溶化されたとき水溶液中に存在する

有機溶媒を界面活性剤が取り囲んだ液滴のことを OW エマルションと呼ぶ

有機溶媒中に水が可溶化される場合WOエマルションと呼ぶ

38 ノニオン界面活性剤

非イオン界面活性剤とも言う界面活性剤の内解離基を持たず電気的に中性な

界面活性剤で親水基は主にポリオキシエチレン基であるその特殊な性質上他の種類

の界面活性剤に無い性質として曇点と転相温度を持つ 今回使用するノニオン界面

活性剤はポリオキシエチレンオレイルエーテルであり基本式は以下のような形にな

る 7)

R-O(CH2CH2O)n-H

Scheme 1 ポリオキシエチレンオレイルエーテルの基本式

39 曇点

曇点とは透明な液体が相分離を起こして白濁する温度のこと

本実験においてはノニオン界面活性剤が加温によって界面活性効果を失い相分離

によって白濁する温度のこと 8)

310 転相温度乳化

ノニオン界面活性剤は加温によって界面張力が変化しWO型エマルションから

OW 型に変化するこの変化点のことを転相温度と言い転相温度において界

6

面張力が最低になっているので溶液エマルションが極小になる

またこの転相温度は界面活性剤に固有の値となるので二種の比較的性質の

近い界面活性剤を混合することで転相温度を操作し適切な温度で5 μm~30 μm

程度の直径を持つエマルションを作成する方法を転相温度乳化法と呼ぶ 10)

311 ラジカル重合

開始剤を用いてラジカル種を生成して行う重合法のことをラジカル重合法と言う

開始剤の分解要因によって熱光放射線ラジカル重合の三つに分けられる 10)

3111 ラジカル重合を構成する四反応

ラジカル重合は 4種類の反応が同時並行的に起こるそれぞれ以下の通りである 11)

開始反応

開始剤が熱光放射光などの要因によってラジカル開裂を起こしラジカル種を

生じさせる反応

成長反応

ラジカル種がモノマーと反応することでモノマー新たなラジカル種が生成する

反応これが連続することでポリマーが合成される

停止反応

連鎖していた成長反応が止まる反応主にラジカル種同士の反応による

連鎖移動反応

ラジカル種がモノマー以外の分子主に溶媒分子等と反応することでポリマー以

外の物質を合成する副反応

3112 乳化重合

乳化重合はモノマー液滴と呼ばれるモノマーを大量に保存しているエマルシ

ョンと反応場となる極小のセッケンミセルの二つの構造を持つ溶液中で行う不均

一系ラジカル重合の一種である 12)

成長反応が一段階進むたびにモノマー液滴から拡散の理論式に従ってモノマ

ーがミセル内に移動するこの一連の反応を繰り返して反応が進む 13)

そのため種々のラジカル重合法と比較して以下の特長がある 13)

セッケンミセル内に存在するラジカルが常に一つであるため停止反応が

7

起こりにくく比較的重合度の高いポリマーが生成しやすい

反応速度が拡散作用によって律速されかつセッケンミセルの周囲を大量

の溶媒分子が囲んでいるため除熱が容易であるという理由から熱暴走を起

こしにくいという利点がある

ミセル内で重合するため合成した高分子が絡まりやすく粒状の分子が作

成できる

Fig5 乳化重合模式図

312 MS(質量分析法)

質量分析法とは分子の質量すなわち分子量を測る手段でもあるまた分子を分解

したフラグメントの質量を測ることによって分子構造に関する情報を得るものでも

ある

高エネルギー電子が有機分子にぶつかると分子から電子がはじき出せれカチオ

ンラジカルが発生する

119825119815 rarr 119825119815++119838minus Scheme 2カチオンラジカルの発生

電子の衝突により大量のエネルギーが分子に与えられることで大部分のカチオン

ラジカルを生成した後フラグメントに分解するフラグメントは小さな破片となっ

て浮遊し正電荷や中性となる

このカチオンラジカルとフラグメントについてmz値を横軸相対強度を縦軸につ

いて取ったグラフから質量スペクトルを読み取る 14)

またMS(質量分析法)はイオン化の方法などによりいくつかに分けられ今回使用

したいのは高分子試料でもほとんどフラグメンテーションを起こさないソフトなイ

8

オン化法であるMALDI法 15)である

3121 MALDI法(マトリックス支援レーザー脱離イオン化法)

試料を 25-ヒドロキシ安息香酸のような適切なマトリックス上に吸着させて

ペレットを作成しレーザー光を短時間照射してイオン化する

エネルギーがマトリックスから試料に移動し[119872 + 119867119899 ]119899+に分解される 15)

MALDI法にはよく TOF型の MSが用いられている

4 実験

41 2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を用いた既存化粧品用増粘剤の合成

411 使用器具試薬

温度計ウォーターバスビーカー薬さじデシケーター

ジメチルアクリルアミド

式量9913

沸点81

発火点71

LD50(経口)316mgkg

LD50(経皮)580mgkg

製造和光純薬工業株式会社

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸

式量20725

融点200

LD50(経口)5400mgkg

製造和光純薬工業株式会社

NN-メチレンビスアクリルアミド

式量156

沸点4451

発火点215

LD50(経口)390mgkg

製造東京化成工業株式会社

9

へプタン

式量1002

沸点98

引火点-4

水に不溶

製造昭和化学

2-プロパノール

式量60

沸点82

発火点12

LD50(経口)区分外(GHS分類)

LD50(経皮)区分外(GHS分類)

製造昭和化学

ペルオキソ二硫酸アンモニウム

式量22820

冷水に易溶保存湿気厳禁

重合開始罪乳化重合レドックス重合に用いられる

製造和光純薬工業株式会社

412 実験手順

① ビーカーにイオン交換水ヘプタンポリオキシエチレンオレイルエーテル(2)

(8)をそれぞれ507 mL 507 mL489 g((2)(8)=23)加えて良く撹拌したも

のを入れる

② その後その後温度調節機能つきスターラーに乗せ白濁するまで加熱する

白濁した液が透明化するまで温度を落とし電気伝導率計を用いて溶液が転

相温度付近に保たれていることを確認する

③ 以上の操作が済んだ重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先

ほどのスターラーと同じ温度にしたウォーターバスに移し2-アクリルアミド

-2-メチルプロパンスルホン酸NNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 137 g

262 g入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始

剤としてメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

10

④ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

42 N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミドを用いた新規化粧品用増粘剤の合成

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を誘導体と入れ替える以外の

操作は 41に準ずる

親水基による増粘性の変化を観察するため架橋剤のモノマーに対する濃度比

は 2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を使用したポリマーが最も増

粘効果の高くなると報告された濃度比を用いる

421 使用器具試薬

使用器具は 41に準ずる

試薬

N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド

式量11513

沸点130

発火点189

製造東京化成工業株式会社

422 実験手順

① 412 ①②と同じように重合系を作成する

② 以上の操作が済んだ重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先

ほどのスターラーと同じ温度にしたウォーターバスに移しN-(2-ヒドロキシエ

チル)アクリルアミドNNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 076 g262

g 入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始剤と

してメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

③ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

11

43 (3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライドを用いた新規化粧品用

増粘剤の合成

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を誘導体と入れ替える以外の操作は

41に準ずる

親水基による増粘性の変化を観察するため架橋剤のモノマーに対する濃度比は 2-ア

クリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を使用したポリマーが最も増粘効果の高く

なると報告された濃度比を用いる

431 実験器具

実験器具は 41に準ずる

試薬

(3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライド

式量22074

沸点100

製造東京化成工業株式会社

432 実験手順

① 412 ①②と同じように重合系を作成する

② 重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先ほどのスターラーと

同じ温度にしたウォーターバスに移し (3-アクリルアミドプロピル)トリメチ

ルアミニウムクロライドNNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 123 mL

262 g入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始

剤としてメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

③ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

5 評価分析

耐塩性の高い増粘剤の耐塩性と使用感と親水基との関係を評価するために以下の二

つの測定を行い評価する

増粘剤の耐塩性の評価のために塩酸を増粘剤内部に取り込ませた状態で経時

12

による粘度の変化を観察する

また高分子の粘性を考える上で直鎖高分子の場合よく参考にされるのが平

均分子量でありこの値を測定することで親水基が変化した場合に平均分子

量が粒状高分子の粘性にも大きく影響するか確認する

精密に上の測定を行うには専用の機器が必要になるため機器メーカーの株式

会社エーアンドデイ様または東京理科大学理学部応用化学科駒場研究室に

また高分子の性質を考える上で重要視される平均分子量及び分子量分布に

ついては東京理科大学化学系機器センターにあるMALDI-TOF型質量分析計を管

理者の東京理科大学理学部応用化学科の根岸先生に測定に協力していただこうと

考えている

6 謝辞

東京理科大学工学部工業化学科 近藤行成教授

東京理科大学理学部化学科 遠藤恆平准教授

東京理科大学理学部応用化学科 駒場慎一教授

この研究を進めるに当たり大変お世話になった先輩先生方企業の皆さんに感謝の

意を表明します

参考文献

1) 小澤美奈子 基礎高分子科学 高分子学会 編 2010年 第六版 p979899

2) 小澤美奈子 基礎高分子科学 高分子学会 編 2010年 第六版 p99100

3) 金田 勇 逆相マイクロエマルション重合法による水膨潤性ミクロゲルの重合とその増

粘剤としての応用 2010年 p1

4) 小林敏勝 福井寛 きちん知りたい粒子表面と分散技術 日刊工業新聞社 p76

5) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 2006 p839 840 841

6) 皆川基 藤井富美子 洗剤洗浄 百科事典 大矢勝 2007年版 p4647

7) 日本産業洗浄協議会編 わかりやすい界面活性剤 工業調査会 2003 p373839

8) 資生堂 HP httpswwwshiseidogroupjprddevelopmentformulationhtmlより 2015

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9) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 テクノシステム 2006 p321

10) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 テクノシステム 2006 p397

13

398399

11) 遠藤 剛 高分子の合成(上)~ラジカルカチオンアニオン重合~ 講談社 2010 3p

12) 佐藤壽彌編 高分子微粒子の技術と応用 シーエムシー出版 2004 p2526

13) 佐藤壽彌編 高分子微粒子の技術と応用 シーエムシー出版 2004 p27

14) マクマリー 上 8版 東京化学同人 p403404

15) John McMurry マクマリー有機化学(上) 第 8版 2013 p410411

Page 5: ゼオライトとキトサンを用いた 金属イオン除去剤の …kaken/studies/2015/2015-s-all.pdf1 東京理科大学I 部化学研究部 2015 年度春輪講書 ゼオライトとキトサンを用いた

5

26 一律排水基準

水は人体に非常に近い資源の一つでありながら頻繁に環境汚染の矛先が向くもの

である放流する際に家庭用排水や工場排水が混入することにより金属イオンや有機

化合物が含まれてしまうことがありこれらが人体に取り込まれた場合には様々な

被害を引き起こすそのため日本では法務省および環境省が水環境の保全のため

排水内に含まれるあらゆる成分に関して濃度の基準を設けておりこれを「一律排水

基準」と呼ぶ以下に主な金属イオンに関する排水基準を示す 10)

Table1 金属イオンに関する一律排水基準

カドミウム 003

鉛 01

六価クロム 05

ヒ素 01

水銀 0005

セレン 01

銅 30

亜鉛 20

溶解性鉄 100

溶解性マンガン 100

クロム 20

3 実験準備

31 試薬

以下mp融点 bp沸点 M分子量である

キトサン(ChitosanLD5016gkg)

無色非結晶性粉末であり水に不溶キチンを濃アルカリ性溶液と加熱して得られ

る脱アセチル化物 11)

項目 濃度(mgL)

6

グルタルアルデヒド(Glutaraldehydemp-14 bp188 M10012

LD501100mgkg)

無色またはわずかに薄い黄色の液体で水アルコールアセトンに易溶特異な刺

激臭を持つ架橋剤として用いられる比較的不安定で加熱すると重合することが

ある殺菌消毒薬としても利用されている 12)

グリオキサール(Glyoxalmp15 bp504 M5804LD502000mgkg)

アセトアルデヒドの酸化やアセチレンの酸化によって得られる蒸気は緑色で

可燃性がある医薬品や香料の原料として広く用いられる他にも繊維処理剤として

も使用される 13)

製造和光純薬工業

硝酸銅(Copper Nitratemp1145 M18756LD50940mgkg)

酸化銅または炭酸銅を希硝酸に溶かした後に濃縮冷却することにより潮解性の三水

和物が得られる水エタノールなどに可溶真空中では 150~200 において

昇華する 14)

硝酸鉄(III)(Iron(III) Nitratemp472 M24186LD503250mgkg)

淡い紫色の単斜晶であり熱すると分解する水に易溶で水溶液は加水分解して

褐色となる顔料の原料や医薬品にも用いられる 15)

製造和光純薬工業

7

エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩

(Ethylenediamine-NNNrsquoNrsquo-tetraacetic acid disodium saltM37224

LD502000mgkg)

通称 EDTA-2NaといわれEDTAを水に溶けさせるためにナトリウム塩としたもので

ある EDTAと同じようにキレート滴定に用いることができる多くの金属イオ

ンと安定なキレート化合物を生成することが知られているキレート化合物の安定性

が高い上に選択性が低いために広く用いられている 16)

PAN指示薬(1-(2-pyridylazo)-2-naphthol indicatormp137 M24900)

1-(2-ピリジルアゾ)-2-ナフトールをメタノールに溶解させた溶液金属イオンを

キレート滴定する際の指示薬として用いられる1-(2-ピリジルアゾ)-2-ナフトール

自体は 2-アミノピリジンジアゾニウム塩と β-ナフトールの反応から得られる橙色

針状結晶である 17)

製造林純薬工業

エタノール(Ethanolmp-11415 bp783 M461LD506200mgkg)

工業的には発酵などから合成され特有の匂いと味のある無色の液体である

溶剤燃料不溶剤などとしても用いられる 18)

8

グリセリン(Glycerinemp20 bp290 M921LD5027200mgkg)

石鹸製造の際など工業的にも用いられている無色粘性で吸湿性をもつ液体である

水エタノールとあらゆる割合で混合することができる湿潤剤として皮膚薬にも

用いられる分析化学においては滴定用溶媒として使われることがある 19)

サリチル酸(Salicilic Acidmp159 bp211 M138LD50891mgkg)

多くの精油中にエステルとして存在する針状の結晶エタノールなどに易溶である

染料の中間体や防腐剤角質溶解剤などに含まれているおよそ 200 で分解して

フェノールとなる分析化学においては鉄イオンなどの呈色剤に用いられる 20)

製造和光純薬工業

塩酸(Hydrochloric AcidM3646LD50900mgkg)

代表的な強酸であり多くの金属と反応して塩酸塩を生じるが貴金属とはほとんど

反応しない刺激性がある工業的には染料や医薬品などに幅広く用いられて

いる 21)

製造和光純薬工業

水酸化ナトリウム(Sodium Hydroxidemp328bp1388M4000

LD50500mgkg)

常温で無色の斜方晶系の固体であり代表的な強塩基潮解性があり通常は水や

二酸化炭素を含んでいる事からmp3184 とする場合もある溶解に伴い発熱

する刺激性がある 22)

希硝酸(Dilute Nitric Acidmp-42 bp826 M6301LD50430mgkg)

無色の吸湿性液体光または熱で分解するため暗所に褐色ビン内で保管する必要が

ある多くの金属に対して酸化剤として働く刺激性がある 23)

天然ゼオライト

製造ゼオライト市場しまねお宝館

9

32 器具

マグネチックスターラー

吸引ビンなど吸引ろ過に用いる器具

恒温槽

pHメーター

ビュレット

メスフラスコ

4 実験操作

41 ゼオライトの洗浄

天然ゼオライトを使用する予定であるがこれには水を懸濁させるような粘土質が

付着していると思われる 3 M の塩酸に 1 日ほど浸けることによりこれを除去する

42 ゼオライトのキトサンによる化学修飾(架橋剤グルタルアルデヒド)

(1)キトサン 05 gを 50times10-3

M塩酸 500 mLに加えた後に天然ゼオライト 125 g

を加える

(2)均一な懸濁液になるまでスターラーで 250 rpmにおいて撹拌する

(3)懸濁液に 1 M水酸化ナトリウム水溶液 75 mLとグルタルアルデヒドを 02 g添加

してゼオライトをキトサンで修飾する

43 ゼオライトのキトサンによる化学修飾(架橋剤グリオキサール)

(1)キトサン 05 gを 50times10-3

M塩酸 500 mLに加え溶解させて天然ゼオライト

125 gを加える

(2)均一な懸濁液になるまでスターラーで 250 rpmにおいて撹拌する

(3)懸濁液にグリオキサール 01 gを添加して水温を 80 に保ち 1時間撹拌して架橋

を行う

(4)1 M 水酸化ナトリウム水溶液を 75 mL加えてゼオライトをキトサンで修飾する

44 修飾済みゼオライトの調製

(1)しばらく静置した後に吸引ろ過を行い固相水相の分離を行う

(2)得られた固相をイオン交換水で洗浄する

(3)1週間ほど乾燥剤と共に保管することにより自然乾燥させる

10

45 種々の含金属廃液の作成

(1)01 M硝酸に各金属イオン標準液を混合させ金属イオン含有量が 5 mgになるよう

に金属イオン含有水溶液を作成する

(2)硝酸と水酸化ナトリウム水溶液を用いて pHを操作しpHが 246の付近になる

ように調製する

46 修飾ゼオライトによる金属イオンの除去

(1)各金属イオンを含む試料溶液に作製した除去剤 50 gを投入しマグネチックスター

ラーで 250 rpm において 1時間撹拌する

(2)吸引ろ過を行い固相水相の分離を行う

<備考>

本実験では作製した除去剤の性能を比較するためにキトサン天然ゼオライト

および2種の修飾済みゼオライトについて金属イオン除去実験を行う予定である

5 評価

51 キレート滴定を用いた金属イオンの定量

511 銅イオンのキレート滴定

(1)試料溶液に酢酸-酢酸ナトリウム緩衝溶液を加えて pHが 25~60に保たれている

事を確認する

(2)エタノールを 50 mL加えた後にPAN指示薬を数滴滴下して溶液を発色させる

(3)001 M EDTA水溶液を滴下して滴定を行う

512 鉄イオンのキレート滴定

(1)試料溶液の pH を確認し酸性が強い場合は 35酢酸ナトリウム水溶液を酸性が

弱い場合は 1M 塩酸を加えて pHを 20~30に調節する

(2)1サリチル酸溶液を 8 mL添加して溶液を発色させる

(3)001 M EDTA水溶液を滴下して滴定を行う

6 実験結果に関する予測

金属イオン除去剤の作製によってゼオライト粒子を内包したキトサン粒状体が得ら

れると予測されるまたグルタルアルデヒドによってキトサンを架橋した除去剤と

比較してグリオキサールを用いた除去剤の方が金属イオンの除去性能が高くなるの

ではないかと期待できる

11

7 参考文献

1)姫路市編集『工場事業所の排水が下水道におよぼす影響』

URL httpwwwcityhimejilgjps90gesuidou_9253_9277html

最新取得日2015年 4月 15日

2)環境省編集 『水土壌地盤海洋環境の保全』 URL httpwwwenvgojpwatermizuhtml

最新取得日2015年 4月 15日

3)知足章宏著 『アジアの開発途上国における水質汚染問題と下水事業への民間参入

(Private Participation)の現況経験』立命館大学 立命館国際地域研究第 23号

2005年 3月発行 p153~156

4) 一般社団法人キチンキトサン学会 『キチンキトサンとは』

URL httpjscckenkyuukaijpspecialindexaspid=1930

最新取得年月日2015年 4月 15日

5) ゼオライト学会 URL httpwwwjaz-onlineorgindexhtml

最新取得年月日2015年 4月 16日

6) 萩中淳ほか著 『パートナー分析化学 I(改訂第 2版)』 南江堂 (2012) p97~98

7)『パートナー分析化学 I(改訂第 2版)』 p116

8) 児玉三明ほか訳 『マクマリー有機化学(中) 第 8版』 東京化学同人 (2013) p703~704

9)『マクマリー有機化学(中) 第 8版』p708~711

10)環境省編集 『環境省 一律排水基準』URL httpwwwenvgojpwaterimpurehaisuihtml

最新取得年月日2015年 4月 17日

11)『化学大辞典』大木道則ほか著 東京化学同人 (2005) p543

12)『化学大辞典』p651

13) 有機合成化学協会編集『有機化合物辞典』講談社 (2004) p248

14)『化学大辞典』p1121~1122

15)『化学大辞典』p1121

16)『化学大辞典』p269

17)『化学大辞典』p1928

18)『化学大辞典』p256~257

19)『化学大辞典』p638~639

20)『化学大辞典』p858~859

21)『化学大辞典』p332~333

22)『化学大辞典』p1172

23)『化学大辞典』p1118~1119

1

東京理科大学Ⅰ部化学研究部 2015年度春輪講書

ケイ酸を用いた無機接着剤 火曜班

Shoji Y (2OK) Arai S(2OK) Abe Y(2K) Takemura R(2K) Matsui T(2K)

1背景

私たちは日々生活している中で接着剤を使う機会が多くあるしかしその接着剤が

まわりに及ぼす影響について考えることは少ないそこで接着剤について調べてみたと

ころ接着剤は大きく分けて 2つのグループに分類できることが分かったまず一般的に

使われているボンドや瞬間接着剤のように有機化合物を主成分とした有機接着剤次に

あまり一般的ではないが金属やセラミックスの接着に用いられる無機化合物を主成分とし

た無機接着剤有機接着剤は簡単に接着することができるなど様々な長所を持つが有機

物の溶媒を用いるため工事現場などで感じる独特な臭いやシックハウス症候群の原因物

質を放出してしまうという短所を合わせ持つそれに比べ無機接着剤は接着方法が高

温で加熱しなければならないという点と有機接着剤よりも接着強度が低いという短所を持

つが耐熱性に優れ特有の臭いもなく溶媒に水を用いるため環境や人体に対する影響

も少ないという長所があるさらに無機接着剤の分野はあまり多くの研究が行われてお

らず発展の余地が残っているのではないかと感じた

2目的

無機接着剤は耐熱性などの長所がある反面強度と耐水性が低いという短所があるこ

の 2つの短所は接着剤として用いるためには重大な問題となるそこで本実験ではケイ

酸を主成分とした無機接着剤に何種類かの金属化合物などの添加物を加えることにより接

着強度と耐水性の改善を目的とする

3原理

31無機接着剤

無機質の接着材料としては一般にガラス系金属系の材料が使用されているがこれ

らの材料は気密性は優れているが接着時にそれぞれの融点や軟化点以上に加熱すること

が必要でありまた接着部分の耐熱性は接着時の温度を上まわることはないという欠点を

有しているこれに対していわゆる無機接着剤は気密性には劣るが低温での接着が可能

であり優れた耐熱性を有するという特徴を持っている無機接着剤は1)無機結合剤

2)硬化剤3)充填剤を主成分として構成される

2

市販されている接着剤の多くは使用の便を考えて一液性であるそのポットライフ(可

使期間)は 3か月から 1年必要とされるので室温で作用する硬化剤は使用できない

1)結合剤

結合剤自体の硬化剤が強い強度と接着力を持つ必要があり現在しようされている無機

結合剤のほとんどはアルカリ金属ケイ酸塩系リン酸塩系シリカゾル系のいずれかで

あり本実験でしようするのはアルカリ金属ケイ酸塩系結合剤である

アルカリ金属ケイ酸塩の水溶液は粘性のある液体であり分子式 M2OnSiO2で表わさ

れMの種類(LiNaKなど)および nの大小によって数多くの種類が生ずるまたア

ンモニウムケイ酸塩やグアニジンケイ酸もある一般には安価なケイ酸ナトリウム(水ガ

ラス)がよく使用される

アルカリ金属ケイ酸塩は水溶液中において種々の量のシリケートイオンモノマーポ

リシリケートイオンおよびコロイド状シリカイオンミセルからなっているこれらの形

態や分布は n 値や濃度に依存しn が大きくなるにつれてポリシリケートイオンミセル

が増加するケイ酸ナトリウムは n が4を越えると水の溶解度は極端に小さくなりn が

3 付近で接着力は最大となるケイ酸カリウムはケイ酸ナトリウムと同じような挙動を示

すがケイ酸リチウムは nが非常に大きくケイ酸分の多い水溶液が得られることが特徴で

ありシリカゾルに近い物性を示すしたがってアルカリ金属ケイ酸塩系結合剤につい

て一般的には耐水性は LigtKgtNa接着力はこの逆の順に良いといわれている

水溶液は強いアルカリ性を示し加熱によってシラノール間で脱水縮合反応を起こし

分子間にシロキサン結合を生じる固形物は融点(軟化点)までずっと非晶質である

2)硬化剤

結合剤は低温で乾燥しただけでは耐水性が不十分であり耐水性の向上のために硬化

剤が添加される硬化剤は耐水性には寄与するが接着力を低下させる場合もあるため

使用目的によっては添加しないこともある一液性の接着剤ではポットライフの要求から

室温で作用するものはあらかじめ添加できないので高温になってはじめて結合剤と反

応するものが選ばれる硬化剤については非常に多くの物質が特許等に提案されている

アルカリ金属ケイ酸塩用の硬化剤にはZnMgCa 等の酸化物水酸化物NaK

Ca等のケイ化物ケイフッ化物Alや Zn等のリン酸塩CaBaMg等のホウ酸塩等が

用いられる

酸化亜鉛による反応機構を LSDGlasserらは次のように示している

反応初期には ZnO粒子の表面で

ZnO + 1198672119874 + 119874119867minus rarr 119885119899(119874119867)42minus

の反応がおこりZn は液中に溶解しOH-が消費されるので pH が下がりケイ酸ゲルが

3

粒子表面に析出する以後はこのケイ酸ゲル層を通して OH-が粒子表面へ拡散しZnOと

反応して Zn(OH)2として固定されるためさらにケイ酸ゲルの析出が行われ酸化亜鉛表

面へ無定形シリカが沈積する

3)充填剤

充填剤としては結合剤との反応性の小さい耐火物粉末が使用される結合剤は加熱脱

水により大きな体積収縮を生じひび割れが発生するのでこれを防ぐため充填剤を添加し

て固体分率を高くするまた粒子間の空隙は水分蒸発の逃げ道となり発泡を防ぐ接着

剤の熱膨張を被着材へ合致させることも重要な役割である

さらに一液性の接着剤ではリン酸塩系におけるアルミナ粒のように室温では反応し

ないが温度を上げていくと結合剤と反応し硬化作用をして耐水性を付与することもある

その他耐火性接着強度熱伝導性電気特性耐薬品性耐摩耗性の向上に重要な

働きがある充填剤の種類に加え粒径粒径分布表面活性等に調整することが必要で

数種の充填剤を混合することが多い

4)核剤

核剤は力学特性成形性成形時の生産性の改良などを目的として種々の結晶性高分子

で利用されている特にポリプロピレンにおいては核剤を添加することにより剛性や耐火

性(熱変形温度)あるいは透明性など諸問題が大幅に改良され高機能化による用途拡大

や成形品の薄肉化軽量化が可能となりさらには短時間で結晶化が完了することから成

形時の生産性も大幅に短縮されコスト削減はもとより省資源省エネを影から支えてい

核剤には工業的な側面から主に力学特性を改善する「核剤」と特に透明性を改良する

効果が高い「透明化剤」とよばれるものがある核剤も透明化剤も高分子の結晶化過程

における基本的な作用機構は同じでありその本質はエピタキシーにあるつまり高分子

融体が結晶化する過程で高分子鎖が結晶化しやすいように「場」(核剤の表面)を提供す

るものである核剤はまた「造核剤」とよばれることもあるが核剤透明化剤とも物理

化学的には高分子に対し同じ作用をしているといえる溶媒中に溶解している溶質が種晶

の添加により析出が促進される現象を想像されたいまさに核剤は高分子融体中に添加

されこれが核となって高分子の結晶化が促進されるのである

4

Fig3-1 核剤の表面からの高分子結晶の成長

a)力学特性の改善

自動車や家電部品の樹脂化率は年々高まり特に自動車においては内外装問わずポリ

プロピレンが多用されるようになった当初はあまり重要でない部分への利用であったも

のの最近ではバンパーフェンダーライナーフロントグリルカウルパネル各種リ

ザーバータンクドアパネルピラーダッシュボードサンバイザーコンソールボッ

クスなどありとあらゆる部分に用途開発が進んでいる高分子材料による金属代替今後

もさらに進められると思われるその理由としては自動車の軽量化はもちろんのこと

設計の自由度(一体成形や金属ではデザインしにくい曲線曲面を複雑に有する部品など)

があげられる自動車部材では機能的に高剛性が求められるものや夏場に高温にさらさ

れる内装部品などは高耐熱性(高い熱変形温度)が求められるものなどがほとんどであり

このような要求性能に応えるべくポリプロピレンに核剤が添加されている

核剤が存在する場合高分子の結晶化が促進され融体の冷却過程においてより高い

温度(より融解温度に近い温度)から結晶化が開始するそのため核剤存在下での結晶化

過程では核剤非存在下での結晶化過程に比較して高分子鎖の運動性が高い状態で結晶

化が開始する核剤を添加した高分子の結晶化開始温度を示差走査熱量計などで測定する

と結晶化が高い温度から開始することも確認されるその結果高分子結晶の欠陥は減

少しまた結晶化度も増大する核剤存在下で結晶化させた高分子結晶は欠陥も少なく

またラメラ厚も厚くなり融解温度が高くなるそのような効果により成形後の高分子

材料の力学特性耐熱性が改善する

5

Fig3-2 核剤の添加のよるポリプロピレンの曲げ弾性率の改善効果

()アデカスタブ NA-11()Hyperform HPN-68 L

()安息香酸ナトリウムポリプロピレン

Fig4-2に核剤の添加によるポリプロピレンの曲げ弾性率の改善効果について示したま

ず核剤を添加することでしかも僅か 01~03 wt程度の添加で曲げ弾性率が劇的に向

上していることが分かるその中で比較すると汎用である安息香酸ナトリウムや HPN-68

Lでは弾性率の改善はあるものの(おおよそ 30の弾性率改善)01 wt程度の添加で改

善効果は飽和する添加物を加えることで剛性耐熱性を大幅に改善できることがわかる

このような改善効果は自動車用に多用されるポリプロピレンのグレードであるインパクト

コポリマーにおいても同様であるさらに核剤の添加により結晶化が促進された結果成

形時間も短縮でき高性能化と相まって生産性改善によるコストダウンも可能となる核

剤はもとのポリマーが有する特徴を損なうことなく物性を改善できるといったメリット

があるといえる

32 縮合重合反応

二つの化合物から水などの簡単な分子が脱離して新たな結合が形成される反応を縮合反

応とよぶカルボン酸とアルコールからエステルを得る反応は縮合反応の一例である

縮合反応を繰り返すことによりポリマーを合成することができるこれが脱水縮合反応

であるたとえば 2個のカルボキシ基をもつ分子と 2個のヒドロキシ基をもつ分子を反応

させると縮合反応が連続して起こりポリマーが得られる本実験では Fig3-3 の反応が

起こる

6

Fig3-3 ケイ酸の脱水縮合反応

33 接着の原理

接着剤による接着効果には複数の理論が挙げられており賛否両論あるものもあるま

た個々の接着現象においても複数の接着効果が絡み合っていることが多く接着効果の

検証は困難であるとされるある接着系では適用できる接着効果が別の系ではまったく無

力ということも多い以下に主な接着効果の理論をあげる

1) アンカー効果

雲母を注意深くはがしたようなごくわずかな例外を除きすべての固体表面は数Åオ

ーダーの粗さを有する例えば機械で製造される金属表面の粗さは 3~6 μmであり研

磨した場合でも 002~025 μmである

アンカー効果とはこのような被着材の凹部に流入した接着剤が固化し被着部に引っかか

ることにより界面が結合するというものであるアンカー効果のような界面との相互作

用を無視した接着効果理論を機械的結合論という

開口部を有するクレバスへの液体の流入について理論式が提案されている

以下の 2式は液体の粘度 η接触角θの液体が深さ Zまで浸透するまでの時間 tを表し

(a)開口部の幅がδの平行板の場合

Zdz

dt=

120575119910

120575120578120574 cos 120579

(b)開口部δ深さ Z0の V型溝の場合

11988501198971198991198850

1198850 minus 119885minus 119885 =

120575120574 cos 120579

6120583119905

となる式によれば開口部が大きくぬれがよく粘度の低い液体ほどまた時間をかけ

たほど深くまで侵入できるとされる

7

Fig3-4 アンカー効果

2)分子間相互作用

ふたつの物体の接着面で分子同士が接触するところで互いにひきつけあう力が働くこと

で接着するとするもの代表的なものにファンデルワールス力結合水素結合が存在す

3)化学的結合

界面に化学結合が存在することで接着強さに寄与するとするものである古くから提唱

されている説であるが化学結合の存在の証明が難しく接着系の界面に本当に化学結合

が存在するのかは十分に検証されなければならないとされる

4)表面自由エネルギーと表面張力

物質の内部と表面では性質が異なる内部の分子は周囲を分子に囲まれており分子間

力で互いに引き合うため安定化されるこれに対し表面の分子には周囲を囲む分子が内部

に比べて少なく内部分子と比べて不安定=エネルギーが高いということになるこの余

分のエネルギーを表面自由エネルギーと呼ぶ

表面積が小さいほど表面自由エネルギーは少なくなるため物質の表面では表面を

小さくしようとする力が働くこの力を表面張力と呼ぶ

5)ぬれと接着角

固体表面に液体が存在するとそれぞれの表面自由エネルギーとその間の界面自由エネ

ルギーとのバランスによって液体が広がり固体表面が液体表面に置き換えられるこの

現象がぬれである固体表面のぬれは材料表面の親水性疎水性や接着強度と直接関係

しているため接着の分野ではきわめて重要である固体表面に液滴を落とすと個体の

表面張力γS と液体の表面張力γL 固体と液体の界面張力γSL が釣り合うことによってあ

る角度θで平衡になるこのとき固体と液体空気の境界点 A における力の水平成分の

釣り合いから次式の Young-Dupreの式が得られる

120574119878 = 120574119878119871 + 120574119871 cos 120579

8

自然状態では表面張力により液体は球状になるこの式は固体表面上での液体を広げよ

うとする力と球状を保とうとする力のつりあいの式である

Fig3-4 固体表面上の水滴

また界面自由エネルギーγ12 で接着している二種類の物質を引き離し表面自由エネルギ

ーγ1γ2をもつ二つの物質に分けるのに必要な仕事(これを接着仕事という)Waとすると

119882119886 = 1205741 + 1205742 minus 12057412

であらわされるこれを Dupreの式と呼ぶ接着仕事とはふたつの物質を引き離すのに必

要な仕事であるからWaの値が高いほど接着強度が強いということになる

個体と液体との関係においてこれら二式をあわせると

119882119886 = 120574119871(1 + cos 120579)

を得るこれを Young-Dupre の式という液体の表面張力と接触角から接着材の接着強

度が分かるという式になっている

6)接着力低下因子と表面処理

接着は清浄な面と面の接触が前提である金属表面は清浄であれば 1000~3000 mNmの

表面張力があるはずであるが大気中では数十mNmの値をしめすこれは異物が付着した

り酸化されていたりするためである特に表面がもろい物質でおおわれていると剥離時に

もろい面での剥離が起こり見かけ上弱い接着強度となる事がある

このような金属表面の表面張力の低下を防ぎアンカー効果において適切な凹凸を金属表

面に付与し接着強度向上を図るために洗浄と研磨を行うのが望ましい

5実験方法

41使用する器具

100 mL ビーカーガラス棒ホールピペット安全ピペッターピンセットキムワイ

プ電気炉2 L ペットボトル紐アルミ角材(10 times 30 times 30 mm)サンドペーパー

はけ

9

42試薬の物性

ケイ酸ナトリウム a)

ケイ酸のナトリウム塩で種類が多いいわゆる水ガラスも多くの場合はケイ酸ナトリウム

であるがその組成は安定していない単一物質として得られているものだけでもメタ

ケイ酸ナトリウム Na2SiO3およびその種々の割合の水化物オルトケイ酸ナトリウム

Na4SiO4二ケイ酸ナトリウム Na2Si2O5四ケイ酸ナトリウム Na2SiO9 などがあるオ

ルトケイ酸ナトリウム Na4SiO4=18405二酸化ケイ素と水酸化ナトリウムを適当な条件

で融解すると得られる水溶液で両者を反応させたのではオルトケイ酸ナトリウムの結晶

は得られずにメタケイ酸ナトリウムの水化物になってしまう無色六方晶系の結晶酸

と加熱していると二酸化ケイ素が沈殿している

酸化マグネシウム b)(MgO)

式量 4030

融点 2852

沸点 3600

一般にアンモニウム塩水溶液に溶けるがエタノールに不溶空気中で水と二酸化炭素を

吸収し炭酸水酸化マグネシウムに変化する水と反応して水酸化マグネシウムとなる耐

火レンガマグネシアセメントの製造原料医薬品として制酸剤の原料となるほか触媒

または吸着材ゴム工業にも用いられる

酸化亜鉛 c)(ZnO)

式量 8138

密度 547 gcm3

無定形の白色粉末水にはほとんど溶解しないが両性酸化物で希酸や水酸化アルカリ

水溶液アンモニア水に溶解する空気中で湿気と二酸化炭素を吸収する白色顔料とし

てペイント絵の具などに用いられるほか粒子の細かいものは医薬品化粧品として用

いられる

酸化カルシウム d)(CaO)

式量 5608

融点 2572

沸点 2850

密度 340 gcm3

10

酸に可溶空気中の湿気を吸収して水酸化カルシウムとなりまた空気中の二酸化炭素を

吸収して炭酸カルシウムとなる水と反応して水酸化カルシウムとなるしっくいモル

タルなどの建築材料石膏さらし粉消石灰の原料医療用に用いられる医療用に用

いられる酸性土壌改良にも用いられる

炭酸カルシウム e)(CaCO3)

式量 10009

融点 1339

二酸化炭素を含む水には炭酸水素カルシウムとして溶解する酸には二酸化炭素を発生し

て容易に溶ける加熱すると二酸化炭素と酸化カルシウムに解離する

二酸化ケイ素 f)(SiO2)

式量 6009

低温ではフッ素フッ素酸水素酸だけが反応する高温では他のハロゲン元素とも反応す

る水酸化アルカリ炭酸アルカリと融解すると水溶性のアルカリケイ素酸塩となる

43実験操作

431被接着面の均一化

1)10times30times30 mmのアルミ角材の表面をサンドペーパーで汚れがなくなるまで削る

2)削った表面をアセトンで洗浄する

3)洗浄が終わったアルミ角材の重量を測り記録する

432ケイ酸ナトリウムのみの接着剤の作製

1)100 mL ビーカーにケイ酸ナトリウム 50 g を加え粘り気が残るぐらいまでイオン交換

水を加えガラス棒で撹拌する

2)アルミ角材の 10times30 mm の面にはけを用いてケイ酸ナトリウム溶液を均一になるよう

に塗りアルミ角材を重ね合わせる

3)150にセットした電気炉に接着面がずれないように慎重に置き 1時間焼成する

433添加物を加えた接着剤の作製

1)100 mLビーカーにケイ酸ナトリウム 50 g添加物(酸化マグネシウウム酸化亜鉛

酸化カルシウム炭酸カルシウム二酸化ケイ素)を 010 gから 010 gずつ 20 gまで加

え粘り気が残るぐらいまでイオン交換水を加えガラス棒で撹拌する

2)アルミ角材の 10times30 mm の面にはけを用いてケイ酸ナトリウム溶液を均一になるよう

に塗りアルミ角材を重ね合わせる

3)150 にセットした電気炉に接着面がずれないように慎重に置き 1時間焼成する

11

5評価方法

51接着強度の評価

1)432433で接着したアルミ板にひもとペットボトルを用いて Fig5-1のように設置す

アルミ角材

Fig5-1 接着面の破壊

2)ペットボトルに少しずつ水を加え接着面が完全に離れた時点を破壊終了点とする

3)破壊終了点でのペットボトルに入っている水の重量を計測する

52耐水性の評価

1)接着したアルミ角材に水をかけ接着面の変化を観察する

6予想

添加物を加えることで接着強度の増加が期待されるしかし大量に添加物を加えてし

まうとケイ酸の割合が小さくなり接着強度は減少してしまうと考えられ添加物の量と接

着強度の関係性をグラフ化するとある値までは増加しその値を超えると減少していくグ

ラフが得られると考えるそこから最も接着強度が高まる添加物の量を測定する

また添加物が硬化剤の役割をし耐水性の改善も予想される

参考文献

1)日本接着学会『接着剤データブック第 2版』日刊工業新聞社1990P228~229

2) 三刀基郷『トコトンやさしい接着の本』日刊工業新聞社2003P56~67

3) セメダイン(株)『よくわかる接着技術』日本実業出版社2008P34~37

PET

Crash

12

4) ユージン Gロコー『ケイ素とシリコーン』シュプリンガーフェアラーク東京株式

会社1990 P85~113

5) 大木道則大沢利昭田中元治千原秀昭『化学大辞典』東京化学同人1989

b)P884 c)P865 d)P867 e)P1368 f)P1669

6)下井 守村田 磁『大学生のための基礎シリーズ 3 化学入門』東京化学同人2005

P229

7) 吉村壽次『化学辞典第 2版』森北出版2009a)P425

8)大勝 靖一『高分子添加剤の基礎化学と材料設計』株式会社 CMC出版2008P219~235

9)httpwwwfacekyowacojpsciencetheorywhat_contact_angleimg01jpg

2015416取得

1

東京理科大学Ⅰ部化学研究部 2015 年度春輪講書

シクロデキストリンを用いた

包接化合物の生成

水曜班

Ikemura M(2C)Ebihara K(2C) Kataoka T(2K)

ShibasakiK(2OK)TsumedaT(2C)NakaA(2OK)Murakoshi R(2OK)

OkawaT(2C)NoguchiA(2K)SekiguchiK(2K)HashimotoY(2C)

1 動機

6~8 分子のグルコース単位からなるα―14結合の環状オリゴ糖であるシクロデキストリ

ンはその環状構造に由来する包接化合物を生成する性質を示すその特異的な包接形成能

を利用した多くの製品が存在し現在もなお基礎研究分野応用研究分野での研究が行わ

れている

そこで私たちは 7 分子のグルコースからなるβ-シクロデキストリンと 3 種類のカルボン

酸を用いて包接化合物を形成させ酸の構造の違いによる包接作用の比較検討及びシクロ

デキストリンの一部のヒドロキシ基をエステル化させ水に対する溶解性及び包接形成能が

どのように変化するか考察する

2 原理

21 包接化合物

包接化合物は Schlenk によって名づけられたもので定義によると原子または分子が

結合してできた 3 次元構造の内部に適当な大きさの空孔があってその中に他の原子また

は分子が一定の組成比で入り込んで特定の結晶構造をつくっている物質ということにな

っている前者の骨組み構造の化合物のほうをホスト分子後者の入り込んでいる分子の

ほうをゲスト分子ともよんでいるがこのゲスト分子の大きさや形状はまったくホスト

構造によって規定されるだけで両者の間には弱い相互作用があっても水素結合のよう

な力はなくてもいっこうに構わないのであるこの包接化合物でのゲスト分子とホスト

構造との間の相互作用というのも物理的な吸着系に近いもので非常に弱い van der

Waals 力から高度に配向した双極子間力まで種々のものが存在する 1)

22 シクロデキストリンの包接能

シクロデキストリンはグルコース残基がα-1α-4 結合した環状のオリゴ糖で一般的

にグルコース残基が 6 個のα-シクロデキストリン7 個のβ-シクロデキストリン8個の

γ-シクロデキストリンが知られている

2

Fig1 α-シクロデキストリンの分子構造

シクロデキストリンの構造は底の抜けたバケツやドーナッツのような構造をしており

その環状構造の外側は多くの水酸基に由来する親水性領域が存在し内側の空洞の CH 基に

由来する疎水領域と相反する極性が一つの分子に共存しているがこの空洞内に様々な有

機化合物などを取り込むという包接作用がもっとも特徴的である

三種類のシクロデキストリンはそれぞれ空洞の大きさが相違するためそれぞれ包接化

合物を形成しやすいゲスト分子が存在する内部空洞が比較的小さいα-シクロデキストリ

ンは比較的小さい分子例えばエタノールメタノール等をβ-シクロデキストリンは汎

用性が広く各種ポリフェノールコレステロールメンソール等の香気成分芳香族化

合物等をよく包接するγ-シクロデキストリンは大きい分子である脂肪酸などを包接する

ことが知られている

シクロデキストリンの包接力の原動力は疎水性相互作用と分子間力が主なものとされて

いるつまりゲストは疎水性の高い分子あるいは分子の大きさが空洞にぴったりとフィッ

トするものほどシクロデキストリンがそのゲストを包接する力は大きく包接物を作り

やすい傾向がある逆に親水性が高くシクロデキストリンの空洞にフィットしないよう

なゲスト分子では包接現象は起こりにくいといえるしかしゲスト分子全体がシクロ

デキストリンの空洞内にとりこまれる必要はなく部分的にでも疎水性が高く空洞にフィ

ットすれば包接が可能となるつまりゲスト分子全体がシクロデキストリンより明ら

かに大きいものでも包接作用による効果が観察される場合がある 2)

Fig2 シクロデキストリンがゲストを包接する様子

23 水溶化シクロデキストリン

3

ブドウ糖やショ糖など通常糖質の水への溶解度は非常に高いしかし天然型シク

ロデキストリンは隣接する水酸基との水素結合の為3 種のシクロデキストリンの中では最

も高い水溶性を有するγ-シクロデキストリンであってもその溶解度は 25において水

100 mL に 23 g であり油性物質を包接した場合は一般的にその溶解度はさらに低くな

るそこで水への溶解度を改善するためにシクロデキストリン化学修飾体が製造されて

いるシクロデキストリンの水溶性を向上させる方法として隣接する水酸基をメチル基や

アセチル基などでエーテル化やエステル化する方法がある具体的には部分メチル化β-シ

クロデキストリンやモノアセチル化β-シクロデキストリンが工業的に生産されている

24 包接能の評価について

今回の実験ではゲスト分子としてカルボン酸を用いるシクロデキストリン及び水溶化

シクロデキストリンの包接能の評価については包接化合物に含まれているカルボン酸をア

ルカリで滴定することで求めることができる

3 実験

31 試薬sup3⁾

アジピン酸

分子式C6H10O4

分子量1464

mp153

bp3375 アジピン酸

クエン酸

分子式C6H8O7

分子量19213

mp156~157

クエン酸

シュウ酸

分子式C2H2O4

分子量9004

mp1895

シュウ酸

4

βシクロデキストリン

分子式(C6H10O5)7

分子量113500

n-ブタノール

分子式C4H10O

分子量7412 β-シクロデキストリン

bp1179

エタノール

分子式C2H6O n-ブタノール

分子量4607

mp-1145

bp7833

水酸化ナトリウム

組成式NaOH

分子量4000

mp328

bp1388

無水オクタン酸

分子式C₈H₃₀O₃

分子量27041

mp-1 無水オクタン酸⁶⁾

濃硫酸

分子式H₂SO₄

分子量9808

mp104

32 使用器具

300 mL ビーカーメスフラスコピペット三角フラスコ吸引漏斗吸引瓶ビュレッ

トスタンドボウルガラス棒

5

33 実験操作

331 エステル化シクロデキストリンの合成 ⁵⁾

1)三角フラスコにβ-シクロデキストリン 1 g を入れこれに無水オクタン酸 025 mL を加

える

2)触媒として 2-3 滴の濃硫酸を添加し攪拌する

3)約 10 分間放置してフラスコを氷桶に入れて冷やしガラス棒でフラスコの壁を強くこす

り結晶を析出させる

4)水 20 mL を加えさらに氷桶で冷やしながら残る結晶を析出させる

5)この結晶を濾分し水で洗ってから取り出して乾かして結晶を得る⁵⁾

332 包接化合物の形成

1)β-シクロデキストリン 1 g を水 100 mL に溶解させる

2)ピペットで 1 mL のカルボン酸を加えコルク栓をして静置する

3)1 週間程静置し包接化合物を吸引濾過する

4)上記の操作をカルボン酸(酢酸シュウ酸クエン酸)で行う

5)エステル化シクロデキストリンで同様の実験を行う

333 包接能の測定

1)よく乾燥した包接化合物約 1 g をメスフラスコで 100 mL 溶液とする

2)この溶液 20 mL にフェノールフタレインを指示薬として20 mL 加え 01 M 水酸化ナト

リウム標準溶液で滴定する⁴⁾

334 溶解度の測定

1)100 mL の水に 5 g の β-シクロデキストリンを溶解させる

2)沈殿をろ過し乾燥して重量を測定する

3)エステル化 β-シクロデキストリンで同様の作業を行う

参考文献

1) 竹本喜一包接化合物の化学東京化学同人1969p2

2) 辻堅司シクロデキストリンの応用技術株式会社シーエムシー出版2008p3-p9

3) 大木道則大沼利昭田中元治千原秀明化学大辞典東京化学同人1989

4) 発田寿々子教養の化学実験第 2 版学術図書出版社2014p119

5) 南篠正男先生と生徒のための化学実験共立出版株式会社1986p155

6) 「 chemical book 」〈 wwwchemicalbookcomchemicalProductPropert_JP_CB 〉

(2015418 アクセス)

1

東京理科大学Ⅰ部化学研究部 2015年度春輪講書

ダブルネットワークの合成と評価 木曜班

OnizukaM(2C)TanakaR(2C)YamamokaH(2K) OhiraM(2K)

1背景

現在高分子ゲルは紙おむつの高吸水性樹脂やソフトコンタクトレンズなど私たちの生

活において活躍しているしかし高分子ゲルは不均一な構造なため一般的に機械的強

度が弱いという欠点がある高分子ゲルの強度面での弱点を克服するために従来では

ゲルの構造を均一化して強度を上げるというアプローチがとられてきた

しかしながら材料の弾性とじん性は反相する因子として働くつまり大変形に耐え

られるゲルは弾性率を犠牲とし高弾性のゲルは小さい変形で破壊される

そこで私達木曜班は前述の問題の解決策と成り得るものとしてダブルネットワーク

ゲル(DNゲル)について注目した

2目的

既存に作られている DNゲルは溶媒に水を用いたハイドロゲルであるDNゲルはその

強度や柔軟性により生体内での人工関節に使用することが期待され研究がおこなわれて

いる木曜班では DNゲルを生体内の関節だけでなく機械の関節部の摩擦軽減材料として

の使用を提案するしかし従来の DNゲルは溶媒が水であることにより水の沸点である

100以上の条件下では性能の低下が問題視され高温になりうる機械への応用が困難で

ある

溶媒を水から有機溶媒に変更することで高温条件下でのゲルの機能維持を試みるとと

もに使用するモノマーを変更しその機能性を検討する

3原理

31 DNゲル

311ゲルの脆弱性

一般的なゲルはゼリーや豆腐のように僅かな力を加えただけで簡単に壊れるほど

弱いこの理由は 2つの現象により説明することができる

1)ゲルの内部に多数の欠陥が存在する

2)欠陥から発生した初期亀裂が容易に伝播する

前者はゲル内部の構造が不均一であることに由来するゲル合成時におけるモノマ

ーと架橋剤の反応性の違いにより不均一な重合がおこるあるいはゲル化溶液内の濃度

揺らぎが重合によって固定されることだと考えられている 1)こうしたゲルに力を加えた

2

時にゲルの弱い部分に力が集中してしまうため小さな力でも初期亀裂が生じてしまう

後者はゲル内部のポリマーの密度の低さから生じる一般的に物質内における亀裂

の進みやすさは破壊エネルギーU(Jm2)(単位面積あたりの破断面形成に費やされる仕事)

によって評価される架橋高分子材料の臨界破壊エネルギーUc(亀裂成長が起こる最小

の破壊エネルギー)は破断面の高分子鎖の数密度と架橋点間分子量に比例する 2)つま

りゲルのじん性(物質の破壊に対する抵抗の程度で粘り強さとも言い換えられる 3))はゲ

ル内のポリマーの密度には比例し架橋密度には反比例することがわかる

ゲルは 50~99wtの溶媒を含んでいて高分子の密度が非常に低い物質であるためゲ

ルの Ucはゴムなどの固体に比べてかなり小さいことが考えられる

これまでの高強度ゲル研究は主に前者の問題を解決するすなわち構造を均一化するこ

とでゲル内部の欠陥を極力減らして強度を改善しようという観点から行われてきた

312 ゲルの弾性率

高分子鎖が三次元架橋されたゲルはゴムと同じようにエントロピー弾性を持つ溶液

中に完全に湿潤した電気的に中性ゲルのせん断弾性率(横方向に対するバネ係数 4)であり

Young率 Eと E=3Gの関係式が成立する)は

GneucongkBT

b3Q-225

以上の式で表せられゲルの湿潤度 Qの増加にともないせん断弾性率Gneuは大きく低下

するここでkBはボルツマン定数Tは温度bは重合させたモノマーの大きさである 5)

一方溶液中に完全に湿潤した電解質ゲルのせん断弾性率は

GchacongkBT

b3Q-1

によって表せる 6)よって同じ湿潤度において電解質ゲルは中性ゲルよりせん断弾性率が

高いことが分かる

またゲルの湿潤度は架橋点重合 N(分子量)による溶液中に完全に湿潤した中性ゲル

の場合QasympN35であり電解質ゲル場合QasympN

32であるしたがって架橋密度を上げる

ことによりゲルの湿潤度が小さくなりせん断弾性率が上がる 3)4)

313 ゲルの破断歪と破断応力

架橋構造が均一と仮定した理想的なゲルの破断歪(ゲルが破壊するまでの変形 7))は架

(1)

(2)

3

橋点間高分子の伸びきった長さと高分子鎖に歪がない曲がった自然な状態での大きさ

の比として求められる溶媒中で完全に湿潤した中性ゲルの引っ張り破断歪はλBcongQ12で

ありQの増加により増加する一方湿潤することにより単位面積あたりの高分子

の本数が減るため破断応力は湿潤度 Qが大きくなることにより減少する故にQが大

きいゲルは伸びやすいが弱い応力で壊れる

電解質ゲルの場合高分子鎖はその解離しているイオンの浸透圧によって水中では

ほとんど伸びきった状態となっているその結果理想状態においても破断歪はλBcongQ19

になるこれは破断歪が小さくかつ湿潤度にあまり依存しないことを意味している 5)

以上のことより

1)架橋密度を上げる(架橋点間分子量を下げる)ことでゲルが固くて脆くなる

2)水中に完全に湿潤した高分子電解質ゲルは中性のゲルより硬くて脆い高弾性と変形は

相反するということが考えられる

314 DNゲルの高強度機構

DNゲルは強電解質をモノマーとする 1st networkゲル電気的に中性なモノマーを用

いる 2nd networkゲルを組み合わせることにより生成される前述した通りゲルにおける

弾性と靭性は常に相反する働きをするそれゆえに単一な物質で両方の性質を得るこ

とは原理的には不可能である同じ湿潤度において電解質ゲルと中性ゲルのせん断弾性

率の比はGchaGneucongQ125であるために両者の違いは湿潤度 Qが高いほど大きくなる

この性質を利用することにより電解質ゲルは硬い成分中性ゲルは軟らかい成分とし

て用いることができる

亀裂を含む DNゲルがある引張荷重を受けると応力集中の効果で最初に亀裂先端近傍

の電解質網目(1st network)が破壊され局所的にゲルが降伏する荷重がますと電解質網

目の破壊が次々に伝播し広範囲にわたるダメージゾーンが形成されていくこの過程

で非常にいい気なエネルギーが分散されるダメージゾーンがある大きさまで広がった

ときようやく亀裂先端に中性網目(2nd network)が十分に伸びて切断し亀裂が進行す

る 8)

4

Fig 1 DNゲルの破壊モデル 9)

32 光ラジカル重合

321 光分解

光重合開始剤に UVを当てることにより開裂がおきラジカルが発生する本研究にお

いては 1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンを用いる 10)

Scheme1 1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンの開裂 10)

ℎ120592

5

322 開始反応

UVを当て光開裂により生じたラジカルがビニル基の二重結合を攻撃し光重合開始剤

と炭素の間に σ結合を作り炭素原子にラジカルが存在することになる

Scheme2 ラジカルの生成

323 成長反応

Scheme2で生成したラジカルが他のモノマーを攻撃しσ結合を生じるそれが何回

も起こることにより分子鎖が成長する 6)

Scheme3 分子鎖の成長

324 停止反応

Scheme 3で成長した成長ラジカル同士が σ結合を作り分子鎖が生成する 7)

Scheme4 分子鎖の生成

4実験

41 DNゲルの合成

411 使用器具試薬

ビーカー乳鉢乳棒薬さじUVライトデシケーター

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸

分子式 C7H13NO4S

式量20724

融点160

用途1st networkゲルのモノマー

6

アクリル酸

分子式C3H4O2

式量7206

融点123

沸点1416

比重10511

危険性引火性(発火温度 360 )

用途1st networkゲルのモノマー

アクリロニトリルの加水分解アクロレインの酸化ニッケルカルボニルの存在下ア

セチレンと一酸化炭素と水との反応などにより合成される酢酸に似た刺激臭を持つ液

体水エタノールエーテルによく溶ける酸素の存在下容易に重合するプラス

チックの原料として用いられる

アクリルアミド

分子式C3H5NO

式量7108

融点845

沸点103

比重1122

用途2nd networkゲルのモノマー

アクリルニトリルを硫酸あるいは塩酸を処理して得られるフレーク状の結晶溶解

性(g100 ml溶媒30 )水 2155メタノール 155エタノール 862アセトン 631

酢酸エチル 126クロロホルム 266ベンゼン 0346ヘプタン 00068化学的に不安

定で冷暗所に保存する必要がある融点付近あるいは紫外線下で重合する重合の仕方

により水溶性不溶性のものが得られる

酢酸ビニル

分子式C4H6O2

式量8609

融点-932

沸点723

比重09317

用途2nd networkゲルのモノマー

無色の液体酸やアルカリよって容易に加水分解されてアセトアルデヒドと酢酸を生

じる熱光ラジカル開始剤によって重合する

7

メタクリル酸メチル

分子式C5H8O2

式量10012

融点-48

沸点1003

比重0936

用途2nd networkゲルのモノマー

無色透明で催涙性の芳香のある液体工業的にはアセトンシアノヒドリンにメタノー

ルと硫酸を作用させて合成する実験室的にはメテクリル酸メチルの重合物を 320

以上で乾留すると得られる一般に有機溶媒には溶けるがエチレングリコールグリセ

リンには溶けにくい重合しやすいので重合禁止剤としてヒドロキノンモノメチルエ

ーテル(65 ppm)を添加して保存する有機ガラスの製造ビニル系共重合体など広く

重合反応に用いられるまたメチル以外のアルコールのメタクリル酸エステルの合成

にも用いられる

NN-メチレンビスアクリルアミド

分子式C7H10N2O2

式量15417

融点300

用途架橋剤

1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン

分子式C13H16O2

式量20427

融点47-50

用途光重合開始剤

最大吸収波長は 260 nm付近にある

エチレングリコール

式量6207

融点 -126

沸点1976

比重11132

8

用途ゲル溶媒

重要な二価アルコールでエチレンオキシドの酸触媒による開環高温高圧下水と

の反応による開環などによって合成される吸湿性無色無臭の液体甘味を有する

が有毒である高沸点を有ししかも水酸化カリウム水酸化ナトリウムを溶解し水や

エタノールと任意の割合で混合するので有機合成における溶媒として広く用いられ

また塩基に対して安定なエチレンケタールの生成によるカルボニル基の保護に用いら

れるさらに酢酸ビニル系樹脂の溶剤や水と混ざり高沸点のため不凍液に用いら

れるなど広い用途を持っている

412 1st networkゲルの作成

1) 1st networkゲルのモノマー(電解質モノマー)架橋剤(NN-メチレンビスアクリルア

ミド)と光重合開始剤(1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)を水に溶解させた水

溶液を調製する

2) UVを 8時間照射して光ラジカル重合をさせる

3) 2)で合成した電解質ゲルを乳鉢に入れ適当なサイズに砕いた後デシケーター内で一

週間ほど乾燥させる

413水溶媒 DNゲルの作成

1) 2nd networkゲルのモノマー(中性モノマー)架橋剤(NN-メチレンビスアクリルアミ

ド)光重合開始剤(1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)をエチレングリコールに

溶解させた溶液を調製する

2) 乾燥した電解質ゲルを 1)で調製した水溶液に入れ電解質ゲルを十分に膨らませるそ

の後UVを照射し中性モノマーを光ラジカル重合させる

414エチレングリコール DNゲルの作成

1) 2nd networkゲルのモノマー(中性モノマー)架橋剤(NN-メチレンビスアクリルアミ

ド)光重合開始剤(1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)をエチレングリコールに

溶解させた溶液を調製する

2) 乾燥した電解質ゲルを 1)で調製したエチレングリコール溶液に入れ電解質ゲルを十分

に膨らませるその後UVを照射し中性モノマーを光ラジカル重合させる

42 DNゲルの評価

421引っ張り試験

使用するモノマーの変化によるゲルの性質の差を評価する引っ張り試験は

JIS-K-6251-7号に準拠する方法で測定する

9

1)DNゲルを X方向の長さ 50 mmY方向の長さ 75 mmZ方向の長さが 25 mmの大

きさに成形する

2)その一端部に X-Y平面に平行な切込みを入れて2つの引張端部を形成する

3) 引張端部を片方は固定しもう片方を一定の速度で引っ張るこのときの引っ張る力 F

を測定する

Fig 2 引っ張り試験 13)

422 摩擦試験

使用するモノマーの変化溶媒の変化によるゲルの性質の差を評価する

摩擦試験は東京理科大学工学部第一部機械工学科佐々木研究室に依頼する予定である

用いる機械は SVR4パーカー熱処理工業株式会社製であり180での高温での摩擦係

数の測定が可能である

摩擦測定は常温(20 )と高温(100 )で測定することを予定している

10

5 展望

51 DNゲルの合成

実験操作は溶液を調製した後UV照射するという簡易な手順なので合成は比較的早い

段階で成功すると考えられる

1st networkゲル合成に使うのは電解質モノマーなため水溶液のモノマーの濃度が低

いと湿潤度 Q が大きくなりせん断弾性率が下がり剛性が弱いゲルが出来上がると考え

られる

架橋剤を多く使用すると架橋密度を上がるので 2nd networkゲルが入り込む空洞が小

さくなるそのために架橋剤が多すぎると高弾性のゲルが生成できると考えられる

また同様な考えで2nd networkモノマーが含まれている水溶液に乾燥させた1st network

ゲルを入れる量が多くても高弾性のゲルが生成できると考えられる

52 DNゲルの物性

ゲルの高分子網目は基板から離れようとするときにゲルと基板の間に僅かな溶媒層

が生じるこの状態では溶媒層が潤滑油のような働きをして生じる摩擦力は小さなも

のとなるゲル周辺が高温な状態ではこの溶媒層が水の場合は蒸発してしまうので摩

擦力は増大すると考えられる溶媒を水からより沸点の高いエチレングリコールなどに

変えれば摩擦力は増大することはないと推測される 14)

11

参考文献

1) J Bastide and L LeiblerMacromolecules1988212647

2) G G J Lake and A G ThomasProc R Soc LondonA1967300108

3)越後亮三 機械工学辞典 朝倉書店 2007 p631

4) 伊藤勝悦 やさしく学べる材料力学 森北出版 2014 p14

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6)MRubinsteinRHColbyAVDobrynin and JJaonnyElasticMacromolecules199629398-406

7) 大 阪 府 立 大 学 基 礎 講 座 材 料 の 強 度 と 破 壊

httpwwwengmmtrosakafu-uacjpresearchstrength-japdf2015413取得

8)聾剣萍「生命科学時代の新材料-高弾性高靱性ダブルネットワークゲル」高分子学会

『高分子』高分子科学最近の進歩58巻 5号2009p327-p331

9)YTanakaEurophysLett20077856005

10)蓮池幹治ラジカル重合ハンドブックエヌティーエス2010p444-p445

11)大津隆行ラジカル重合(Ⅰ)化学同人1971p80-p81

12)大津隆行ラジカル重合(Ⅰ)化学同人1971p153-p154

13)聾剣萍高分子ゲルおよびその製造方法特開 2009-185156 2008-02-05

14) 角五 彰龔 剣萍長田義仁「ゲルの摩擦と水和潤滑~生物の滑らかな運動解明への

アプローチ」日本生物物理学会『生物物理』47巻 4号2007p 253-p258

1

東京理科大学Ⅰ部化学研究部 2015年度春輪講書

耐塩性の高い新規化粧品用増粘剤の開発 2015年度金曜班

Nomata N(2OK)Seki M(2OK)Tin J(2OK)Takahashi R(2C)Watanabe A(2K)

Asai D(2K) Nishimiti D(2K)Yamamoto R(2K)

1 動機

化粧品において増粘剤の果たす役割は非常に大きい

化粧品にはクリーム状のモノが多くありその整形には増粘剤が必要不可欠である

また増粘剤は製剤だけでなく密閉効果や水和効果によって薬剤を皮膚に効率的に輸

送することに役立っている

この増粘剤であるが一つ課題がありアスコルビン酸塩(ビタミン C)のようなクロロ

基を持つ塩系薬剤をゲル中に含む場合経時によってべたつきといった使用感の悪化

につながるといった弱点があるこの問題の解決のために塩系薬剤への耐性の高い増

粘剤の開発が望まれている

塩系薬剤の高い美容効果からこの問題の解決に対する化粧剤企業のニーズは高くこ

の問題は長く研究が続けられていたが近年資生堂が逆相マイクロエマルション重

合法によって microスケールの粒状高分子を多数合成することによりできる増粘剤が高い

耐塩性を持ち使用感もよいことを発見したがこの粒状高分子増粘剤には未だ試み

られていないモノマーが多くある

そこで今年度の金曜班ではこの逆相マイクロエマルション重合法において未だ

試みられていない親水基を持つモノマーを利用して新規の増粘剤をつくることで粒

状高分子による増粘剤の耐塩性と肌触りと親水基の関係を調べ応用化に利すること

ができるのではないかと考え実験を行うこととした

2 背景

増粘剤とは水溶液をゲル化するために添加される物質であり化粧品において広く

用いられているこの増粘効果は従来では高分子鎖同士の分子間力や架橋で生じる

網目構造の結果生じる液中の摩擦力によるものである

動機で述べたように μスケールの粒状高分子が増粘剤として良質であることがわか

っているただし粒状高分子の形状は反応場であるセッケンミセルの大きさだけで

なく親水基やポリマーを構成する原子同士の分子間力によって変わる高分子の立体構

2

造にも影響されている

また粒状高分子の正確な一次構造を把握することは大変難しいことであるので

応用化のためには高分子の一次構造でなくモノマーによって粒状高分子特性の変化

を調べることが重要である

さらに従来用いられているポリマーがスルホ基とカルボキシル基を親水基とする

ものしか存在しない

以上の三点から酸以外の親水基をもつモノマーで増粘剤を合成したときその性

質はどうなるかを調べることでより製品として利用価値が高い粒状高分子増粘剤を合

成することができるのではないかと考えた

そこで新規モノマーとしては対照実験を行うためにアクリルアミド系モノマー

でかつ 2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸のスルホ基と同じ炭素骨格の先

端に親水基が存在するものとしてN-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド (3-アク

リルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライドを用いてそれぞれ親水基が酸

ではなくヒドロキシ基である場合親水基がアニオンではなくカチオンである場合に

ついて研究を行うこととした

この二種の以外にも水溶性のアクリルアミドポリマーは存在するが上記の条件を満

たさないまたは高価であるため本実験では用いないこととした

Fig1 N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド

Fig2 (3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライド

3

3 原理

31 一般的な液体の粘性

溶液の粘性は一般論では以下のように表される

Fig3のように XY平面を取り液面に平板を用意し引っ張った時挟まれた溶液内

には図のようなせん断流動が発生する高さ Yでのせん断速度は(119881

119889) 119910で与えられる

この時平板に挟まれた溶液を薄層の集まりと考えると隣り合う薄層間に摩擦が生

じるこの内部摩擦力が粘性力であるずり速度勾配が十分に小さければ平板の単位

面積当たりに生じる粘性力 Fv0はその勾配 Vd に比例するすなわち以下の式で表

され1205780を粘性係数と呼ぶこの値は溶媒固有である1)

1198651199070 = 1205780 (119881

119889)

Fig3 溶液ずりせん断図

32 増粘剤の粘性

増粘剤の多くは低分子の液体に高分子を溶かすと著しく粘性が高くなる性質を利

用している

この粘性の発生するメカニズムは下の Fig4において平板間の溶液を薄層に分けた

際高分子鎖は溶液の移動に伴って回転するこのとき溶液中の薄層は薄層間の摩

擦以外に高分子鎖との間にも摩擦が生じているこの摩擦の増加が粘性力の増加とな

る 2)

4

Fig4 高分子による粘性増加

また高分子鎖同士が分子間力によって結びつき三次元構造を形成することで内

部摩擦力は一層大きくなるこのため高分子による増粘効果は顕著である

架橋高分子では三次元構造が高分子鎖同士の分子間力による形成よりも強いものと

なるので増粘効果及びレオロジー特性に優れる 3)

33 塩系薬剤による粘性劣化のメカニズム

塩系薬剤とはビタミンC (アスコルビン酸塩)のようにクロロ基をもつ薬効物質のこ

とである

このクロロ基が直鎖高分子や架橋高分子がポリマー間で形成する三次元網目構造

を破壊することによって増粘効果を消失させ内容物の流失によるべたつきを生じさ

せる 3)

34 粒状高分子の粘性

粒状高分子の粘性について粒状高分子はその粒経が小さいほど体積に対する表面

積が増え溶液内での内部摩擦力が大きくなる

また粒子同士が摩擦力を元に網目構造を形成するため網目構造の構成要因が直

鎖高分子や架橋高分子の高分子増粘剤と異なっている 4)

35 逆相マイクロエマルション重合法

後述する転相温度乳化法を用いて形成した5 μm~30 μm 形成したマイクロエマル

ション内において水溶性のモノマーを利用して行う乳化重合法の一種容易に極小の

5

ポリマーを合成することができる 5)

36 界面活性剤の概略

界面活性剤とは分子の構造が水になじみやすい部分(親水基)と油になじみやすい

部分(新油基)からできていて2つの物質の間の界面に集まりやすい性質を持ちそ

の界面の性質を著しく変える物質というのが界面活性剤の定義である

代表的な界面活性剤の特徴は界面における「吸着」と「ミセル形成」である 6)

もうひとつの代表的な作用として「可溶化」もある

37 エマルションの形成

界面活性剤に有機溶媒が取り囲まれて水に可溶化されたとき水溶液中に存在する

有機溶媒を界面活性剤が取り囲んだ液滴のことを OW エマルションと呼ぶ

有機溶媒中に水が可溶化される場合WOエマルションと呼ぶ

38 ノニオン界面活性剤

非イオン界面活性剤とも言う界面活性剤の内解離基を持たず電気的に中性な

界面活性剤で親水基は主にポリオキシエチレン基であるその特殊な性質上他の種類

の界面活性剤に無い性質として曇点と転相温度を持つ 今回使用するノニオン界面

活性剤はポリオキシエチレンオレイルエーテルであり基本式は以下のような形にな

る 7)

R-O(CH2CH2O)n-H

Scheme 1 ポリオキシエチレンオレイルエーテルの基本式

39 曇点

曇点とは透明な液体が相分離を起こして白濁する温度のこと

本実験においてはノニオン界面活性剤が加温によって界面活性効果を失い相分離

によって白濁する温度のこと 8)

310 転相温度乳化

ノニオン界面活性剤は加温によって界面張力が変化しWO型エマルションから

OW 型に変化するこの変化点のことを転相温度と言い転相温度において界

6

面張力が最低になっているので溶液エマルションが極小になる

またこの転相温度は界面活性剤に固有の値となるので二種の比較的性質の

近い界面活性剤を混合することで転相温度を操作し適切な温度で5 μm~30 μm

程度の直径を持つエマルションを作成する方法を転相温度乳化法と呼ぶ 10)

311 ラジカル重合

開始剤を用いてラジカル種を生成して行う重合法のことをラジカル重合法と言う

開始剤の分解要因によって熱光放射線ラジカル重合の三つに分けられる 10)

3111 ラジカル重合を構成する四反応

ラジカル重合は 4種類の反応が同時並行的に起こるそれぞれ以下の通りである 11)

開始反応

開始剤が熱光放射光などの要因によってラジカル開裂を起こしラジカル種を

生じさせる反応

成長反応

ラジカル種がモノマーと反応することでモノマー新たなラジカル種が生成する

反応これが連続することでポリマーが合成される

停止反応

連鎖していた成長反応が止まる反応主にラジカル種同士の反応による

連鎖移動反応

ラジカル種がモノマー以外の分子主に溶媒分子等と反応することでポリマー以

外の物質を合成する副反応

3112 乳化重合

乳化重合はモノマー液滴と呼ばれるモノマーを大量に保存しているエマルシ

ョンと反応場となる極小のセッケンミセルの二つの構造を持つ溶液中で行う不均

一系ラジカル重合の一種である 12)

成長反応が一段階進むたびにモノマー液滴から拡散の理論式に従ってモノマ

ーがミセル内に移動するこの一連の反応を繰り返して反応が進む 13)

そのため種々のラジカル重合法と比較して以下の特長がある 13)

セッケンミセル内に存在するラジカルが常に一つであるため停止反応が

7

起こりにくく比較的重合度の高いポリマーが生成しやすい

反応速度が拡散作用によって律速されかつセッケンミセルの周囲を大量

の溶媒分子が囲んでいるため除熱が容易であるという理由から熱暴走を起

こしにくいという利点がある

ミセル内で重合するため合成した高分子が絡まりやすく粒状の分子が作

成できる

Fig5 乳化重合模式図

312 MS(質量分析法)

質量分析法とは分子の質量すなわち分子量を測る手段でもあるまた分子を分解

したフラグメントの質量を測ることによって分子構造に関する情報を得るものでも

ある

高エネルギー電子が有機分子にぶつかると分子から電子がはじき出せれカチオ

ンラジカルが発生する

119825119815 rarr 119825119815++119838minus Scheme 2カチオンラジカルの発生

電子の衝突により大量のエネルギーが分子に与えられることで大部分のカチオン

ラジカルを生成した後フラグメントに分解するフラグメントは小さな破片となっ

て浮遊し正電荷や中性となる

このカチオンラジカルとフラグメントについてmz値を横軸相対強度を縦軸につ

いて取ったグラフから質量スペクトルを読み取る 14)

またMS(質量分析法)はイオン化の方法などによりいくつかに分けられ今回使用

したいのは高分子試料でもほとんどフラグメンテーションを起こさないソフトなイ

8

オン化法であるMALDI法 15)である

3121 MALDI法(マトリックス支援レーザー脱離イオン化法)

試料を 25-ヒドロキシ安息香酸のような適切なマトリックス上に吸着させて

ペレットを作成しレーザー光を短時間照射してイオン化する

エネルギーがマトリックスから試料に移動し[119872 + 119867119899 ]119899+に分解される 15)

MALDI法にはよく TOF型の MSが用いられている

4 実験

41 2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を用いた既存化粧品用増粘剤の合成

411 使用器具試薬

温度計ウォーターバスビーカー薬さじデシケーター

ジメチルアクリルアミド

式量9913

沸点81

発火点71

LD50(経口)316mgkg

LD50(経皮)580mgkg

製造和光純薬工業株式会社

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸

式量20725

融点200

LD50(経口)5400mgkg

製造和光純薬工業株式会社

NN-メチレンビスアクリルアミド

式量156

沸点4451

発火点215

LD50(経口)390mgkg

製造東京化成工業株式会社

9

へプタン

式量1002

沸点98

引火点-4

水に不溶

製造昭和化学

2-プロパノール

式量60

沸点82

発火点12

LD50(経口)区分外(GHS分類)

LD50(経皮)区分外(GHS分類)

製造昭和化学

ペルオキソ二硫酸アンモニウム

式量22820

冷水に易溶保存湿気厳禁

重合開始罪乳化重合レドックス重合に用いられる

製造和光純薬工業株式会社

412 実験手順

① ビーカーにイオン交換水ヘプタンポリオキシエチレンオレイルエーテル(2)

(8)をそれぞれ507 mL 507 mL489 g((2)(8)=23)加えて良く撹拌したも

のを入れる

② その後その後温度調節機能つきスターラーに乗せ白濁するまで加熱する

白濁した液が透明化するまで温度を落とし電気伝導率計を用いて溶液が転

相温度付近に保たれていることを確認する

③ 以上の操作が済んだ重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先

ほどのスターラーと同じ温度にしたウォーターバスに移し2-アクリルアミド

-2-メチルプロパンスルホン酸NNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 137 g

262 g入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始

剤としてメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

10

④ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

42 N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミドを用いた新規化粧品用増粘剤の合成

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を誘導体と入れ替える以外の

操作は 41に準ずる

親水基による増粘性の変化を観察するため架橋剤のモノマーに対する濃度比

は 2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を使用したポリマーが最も増

粘効果の高くなると報告された濃度比を用いる

421 使用器具試薬

使用器具は 41に準ずる

試薬

N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド

式量11513

沸点130

発火点189

製造東京化成工業株式会社

422 実験手順

① 412 ①②と同じように重合系を作成する

② 以上の操作が済んだ重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先

ほどのスターラーと同じ温度にしたウォーターバスに移しN-(2-ヒドロキシエ

チル)アクリルアミドNNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 076 g262

g 入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始剤と

してメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

③ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

11

43 (3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライドを用いた新規化粧品用

増粘剤の合成

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を誘導体と入れ替える以外の操作は

41に準ずる

親水基による増粘性の変化を観察するため架橋剤のモノマーに対する濃度比は 2-ア

クリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を使用したポリマーが最も増粘効果の高く

なると報告された濃度比を用いる

431 実験器具

実験器具は 41に準ずる

試薬

(3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライド

式量22074

沸点100

製造東京化成工業株式会社

432 実験手順

① 412 ①②と同じように重合系を作成する

② 重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先ほどのスターラーと

同じ温度にしたウォーターバスに移し (3-アクリルアミドプロピル)トリメチ

ルアミニウムクロライドNNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 123 mL

262 g入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始

剤としてメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

③ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

5 評価分析

耐塩性の高い増粘剤の耐塩性と使用感と親水基との関係を評価するために以下の二

つの測定を行い評価する

増粘剤の耐塩性の評価のために塩酸を増粘剤内部に取り込ませた状態で経時

12

による粘度の変化を観察する

また高分子の粘性を考える上で直鎖高分子の場合よく参考にされるのが平

均分子量でありこの値を測定することで親水基が変化した場合に平均分子

量が粒状高分子の粘性にも大きく影響するか確認する

精密に上の測定を行うには専用の機器が必要になるため機器メーカーの株式

会社エーアンドデイ様または東京理科大学理学部応用化学科駒場研究室に

また高分子の性質を考える上で重要視される平均分子量及び分子量分布に

ついては東京理科大学化学系機器センターにあるMALDI-TOF型質量分析計を管

理者の東京理科大学理学部応用化学科の根岸先生に測定に協力していただこうと

考えている

6 謝辞

東京理科大学工学部工業化学科 近藤行成教授

東京理科大学理学部化学科 遠藤恆平准教授

東京理科大学理学部応用化学科 駒場慎一教授

この研究を進めるに当たり大変お世話になった先輩先生方企業の皆さんに感謝の

意を表明します

参考文献

1) 小澤美奈子 基礎高分子科学 高分子学会 編 2010年 第六版 p979899

2) 小澤美奈子 基礎高分子科学 高分子学会 編 2010年 第六版 p99100

3) 金田 勇 逆相マイクロエマルション重合法による水膨潤性ミクロゲルの重合とその増

粘剤としての応用 2010年 p1

4) 小林敏勝 福井寛 きちん知りたい粒子表面と分散技術 日刊工業新聞社 p76

5) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 2006 p839 840 841

6) 皆川基 藤井富美子 洗剤洗浄 百科事典 大矢勝 2007年版 p4647

7) 日本産業洗浄協議会編 わかりやすい界面活性剤 工業調査会 2003 p373839

8) 資生堂 HP httpswwwshiseidogroupjprddevelopmentformulationhtmlより 2015

44取得

9) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 テクノシステム 2006 p321

10) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 テクノシステム 2006 p397

13

398399

11) 遠藤 剛 高分子の合成(上)~ラジカルカチオンアニオン重合~ 講談社 2010 3p

12) 佐藤壽彌編 高分子微粒子の技術と応用 シーエムシー出版 2004 p2526

13) 佐藤壽彌編 高分子微粒子の技術と応用 シーエムシー出版 2004 p27

14) マクマリー 上 8版 東京化学同人 p403404

15) John McMurry マクマリー有機化学(上) 第 8版 2013 p410411

Page 6: ゼオライトとキトサンを用いた 金属イオン除去剤の …kaken/studies/2015/2015-s-all.pdf1 東京理科大学I 部化学研究部 2015 年度春輪講書 ゼオライトとキトサンを用いた

6

グルタルアルデヒド(Glutaraldehydemp-14 bp188 M10012

LD501100mgkg)

無色またはわずかに薄い黄色の液体で水アルコールアセトンに易溶特異な刺

激臭を持つ架橋剤として用いられる比較的不安定で加熱すると重合することが

ある殺菌消毒薬としても利用されている 12)

グリオキサール(Glyoxalmp15 bp504 M5804LD502000mgkg)

アセトアルデヒドの酸化やアセチレンの酸化によって得られる蒸気は緑色で

可燃性がある医薬品や香料の原料として広く用いられる他にも繊維処理剤として

も使用される 13)

製造和光純薬工業

硝酸銅(Copper Nitratemp1145 M18756LD50940mgkg)

酸化銅または炭酸銅を希硝酸に溶かした後に濃縮冷却することにより潮解性の三水

和物が得られる水エタノールなどに可溶真空中では 150~200 において

昇華する 14)

硝酸鉄(III)(Iron(III) Nitratemp472 M24186LD503250mgkg)

淡い紫色の単斜晶であり熱すると分解する水に易溶で水溶液は加水分解して

褐色となる顔料の原料や医薬品にも用いられる 15)

製造和光純薬工業

7

エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩

(Ethylenediamine-NNNrsquoNrsquo-tetraacetic acid disodium saltM37224

LD502000mgkg)

通称 EDTA-2NaといわれEDTAを水に溶けさせるためにナトリウム塩としたもので

ある EDTAと同じようにキレート滴定に用いることができる多くの金属イオ

ンと安定なキレート化合物を生成することが知られているキレート化合物の安定性

が高い上に選択性が低いために広く用いられている 16)

PAN指示薬(1-(2-pyridylazo)-2-naphthol indicatormp137 M24900)

1-(2-ピリジルアゾ)-2-ナフトールをメタノールに溶解させた溶液金属イオンを

キレート滴定する際の指示薬として用いられる1-(2-ピリジルアゾ)-2-ナフトール

自体は 2-アミノピリジンジアゾニウム塩と β-ナフトールの反応から得られる橙色

針状結晶である 17)

製造林純薬工業

エタノール(Ethanolmp-11415 bp783 M461LD506200mgkg)

工業的には発酵などから合成され特有の匂いと味のある無色の液体である

溶剤燃料不溶剤などとしても用いられる 18)

8

グリセリン(Glycerinemp20 bp290 M921LD5027200mgkg)

石鹸製造の際など工業的にも用いられている無色粘性で吸湿性をもつ液体である

水エタノールとあらゆる割合で混合することができる湿潤剤として皮膚薬にも

用いられる分析化学においては滴定用溶媒として使われることがある 19)

サリチル酸(Salicilic Acidmp159 bp211 M138LD50891mgkg)

多くの精油中にエステルとして存在する針状の結晶エタノールなどに易溶である

染料の中間体や防腐剤角質溶解剤などに含まれているおよそ 200 で分解して

フェノールとなる分析化学においては鉄イオンなどの呈色剤に用いられる 20)

製造和光純薬工業

塩酸(Hydrochloric AcidM3646LD50900mgkg)

代表的な強酸であり多くの金属と反応して塩酸塩を生じるが貴金属とはほとんど

反応しない刺激性がある工業的には染料や医薬品などに幅広く用いられて

いる 21)

製造和光純薬工業

水酸化ナトリウム(Sodium Hydroxidemp328bp1388M4000

LD50500mgkg)

常温で無色の斜方晶系の固体であり代表的な強塩基潮解性があり通常は水や

二酸化炭素を含んでいる事からmp3184 とする場合もある溶解に伴い発熱

する刺激性がある 22)

希硝酸(Dilute Nitric Acidmp-42 bp826 M6301LD50430mgkg)

無色の吸湿性液体光または熱で分解するため暗所に褐色ビン内で保管する必要が

ある多くの金属に対して酸化剤として働く刺激性がある 23)

天然ゼオライト

製造ゼオライト市場しまねお宝館

9

32 器具

マグネチックスターラー

吸引ビンなど吸引ろ過に用いる器具

恒温槽

pHメーター

ビュレット

メスフラスコ

4 実験操作

41 ゼオライトの洗浄

天然ゼオライトを使用する予定であるがこれには水を懸濁させるような粘土質が

付着していると思われる 3 M の塩酸に 1 日ほど浸けることによりこれを除去する

42 ゼオライトのキトサンによる化学修飾(架橋剤グルタルアルデヒド)

(1)キトサン 05 gを 50times10-3

M塩酸 500 mLに加えた後に天然ゼオライト 125 g

を加える

(2)均一な懸濁液になるまでスターラーで 250 rpmにおいて撹拌する

(3)懸濁液に 1 M水酸化ナトリウム水溶液 75 mLとグルタルアルデヒドを 02 g添加

してゼオライトをキトサンで修飾する

43 ゼオライトのキトサンによる化学修飾(架橋剤グリオキサール)

(1)キトサン 05 gを 50times10-3

M塩酸 500 mLに加え溶解させて天然ゼオライト

125 gを加える

(2)均一な懸濁液になるまでスターラーで 250 rpmにおいて撹拌する

(3)懸濁液にグリオキサール 01 gを添加して水温を 80 に保ち 1時間撹拌して架橋

を行う

(4)1 M 水酸化ナトリウム水溶液を 75 mL加えてゼオライトをキトサンで修飾する

44 修飾済みゼオライトの調製

(1)しばらく静置した後に吸引ろ過を行い固相水相の分離を行う

(2)得られた固相をイオン交換水で洗浄する

(3)1週間ほど乾燥剤と共に保管することにより自然乾燥させる

10

45 種々の含金属廃液の作成

(1)01 M硝酸に各金属イオン標準液を混合させ金属イオン含有量が 5 mgになるよう

に金属イオン含有水溶液を作成する

(2)硝酸と水酸化ナトリウム水溶液を用いて pHを操作しpHが 246の付近になる

ように調製する

46 修飾ゼオライトによる金属イオンの除去

(1)各金属イオンを含む試料溶液に作製した除去剤 50 gを投入しマグネチックスター

ラーで 250 rpm において 1時間撹拌する

(2)吸引ろ過を行い固相水相の分離を行う

<備考>

本実験では作製した除去剤の性能を比較するためにキトサン天然ゼオライト

および2種の修飾済みゼオライトについて金属イオン除去実験を行う予定である

5 評価

51 キレート滴定を用いた金属イオンの定量

511 銅イオンのキレート滴定

(1)試料溶液に酢酸-酢酸ナトリウム緩衝溶液を加えて pHが 25~60に保たれている

事を確認する

(2)エタノールを 50 mL加えた後にPAN指示薬を数滴滴下して溶液を発色させる

(3)001 M EDTA水溶液を滴下して滴定を行う

512 鉄イオンのキレート滴定

(1)試料溶液の pH を確認し酸性が強い場合は 35酢酸ナトリウム水溶液を酸性が

弱い場合は 1M 塩酸を加えて pHを 20~30に調節する

(2)1サリチル酸溶液を 8 mL添加して溶液を発色させる

(3)001 M EDTA水溶液を滴下して滴定を行う

6 実験結果に関する予測

金属イオン除去剤の作製によってゼオライト粒子を内包したキトサン粒状体が得ら

れると予測されるまたグルタルアルデヒドによってキトサンを架橋した除去剤と

比較してグリオキサールを用いた除去剤の方が金属イオンの除去性能が高くなるの

ではないかと期待できる

11

7 参考文献

1)姫路市編集『工場事業所の排水が下水道におよぼす影響』

URL httpwwwcityhimejilgjps90gesuidou_9253_9277html

最新取得日2015年 4月 15日

2)環境省編集 『水土壌地盤海洋環境の保全』 URL httpwwwenvgojpwatermizuhtml

最新取得日2015年 4月 15日

3)知足章宏著 『アジアの開発途上国における水質汚染問題と下水事業への民間参入

(Private Participation)の現況経験』立命館大学 立命館国際地域研究第 23号

2005年 3月発行 p153~156

4) 一般社団法人キチンキトサン学会 『キチンキトサンとは』

URL httpjscckenkyuukaijpspecialindexaspid=1930

最新取得年月日2015年 4月 15日

5) ゼオライト学会 URL httpwwwjaz-onlineorgindexhtml

最新取得年月日2015年 4月 16日

6) 萩中淳ほか著 『パートナー分析化学 I(改訂第 2版)』 南江堂 (2012) p97~98

7)『パートナー分析化学 I(改訂第 2版)』 p116

8) 児玉三明ほか訳 『マクマリー有機化学(中) 第 8版』 東京化学同人 (2013) p703~704

9)『マクマリー有機化学(中) 第 8版』p708~711

10)環境省編集 『環境省 一律排水基準』URL httpwwwenvgojpwaterimpurehaisuihtml

最新取得年月日2015年 4月 17日

11)『化学大辞典』大木道則ほか著 東京化学同人 (2005) p543

12)『化学大辞典』p651

13) 有機合成化学協会編集『有機化合物辞典』講談社 (2004) p248

14)『化学大辞典』p1121~1122

15)『化学大辞典』p1121

16)『化学大辞典』p269

17)『化学大辞典』p1928

18)『化学大辞典』p256~257

19)『化学大辞典』p638~639

20)『化学大辞典』p858~859

21)『化学大辞典』p332~333

22)『化学大辞典』p1172

23)『化学大辞典』p1118~1119

1

東京理科大学Ⅰ部化学研究部 2015年度春輪講書

ケイ酸を用いた無機接着剤 火曜班

Shoji Y (2OK) Arai S(2OK) Abe Y(2K) Takemura R(2K) Matsui T(2K)

1背景

私たちは日々生活している中で接着剤を使う機会が多くあるしかしその接着剤が

まわりに及ぼす影響について考えることは少ないそこで接着剤について調べてみたと

ころ接着剤は大きく分けて 2つのグループに分類できることが分かったまず一般的に

使われているボンドや瞬間接着剤のように有機化合物を主成分とした有機接着剤次に

あまり一般的ではないが金属やセラミックスの接着に用いられる無機化合物を主成分とし

た無機接着剤有機接着剤は簡単に接着することができるなど様々な長所を持つが有機

物の溶媒を用いるため工事現場などで感じる独特な臭いやシックハウス症候群の原因物

質を放出してしまうという短所を合わせ持つそれに比べ無機接着剤は接着方法が高

温で加熱しなければならないという点と有機接着剤よりも接着強度が低いという短所を持

つが耐熱性に優れ特有の臭いもなく溶媒に水を用いるため環境や人体に対する影響

も少ないという長所があるさらに無機接着剤の分野はあまり多くの研究が行われてお

らず発展の余地が残っているのではないかと感じた

2目的

無機接着剤は耐熱性などの長所がある反面強度と耐水性が低いという短所があるこ

の 2つの短所は接着剤として用いるためには重大な問題となるそこで本実験ではケイ

酸を主成分とした無機接着剤に何種類かの金属化合物などの添加物を加えることにより接

着強度と耐水性の改善を目的とする

3原理

31無機接着剤

無機質の接着材料としては一般にガラス系金属系の材料が使用されているがこれ

らの材料は気密性は優れているが接着時にそれぞれの融点や軟化点以上に加熱すること

が必要でありまた接着部分の耐熱性は接着時の温度を上まわることはないという欠点を

有しているこれに対していわゆる無機接着剤は気密性には劣るが低温での接着が可能

であり優れた耐熱性を有するという特徴を持っている無機接着剤は1)無機結合剤

2)硬化剤3)充填剤を主成分として構成される

2

市販されている接着剤の多くは使用の便を考えて一液性であるそのポットライフ(可

使期間)は 3か月から 1年必要とされるので室温で作用する硬化剤は使用できない

1)結合剤

結合剤自体の硬化剤が強い強度と接着力を持つ必要があり現在しようされている無機

結合剤のほとんどはアルカリ金属ケイ酸塩系リン酸塩系シリカゾル系のいずれかで

あり本実験でしようするのはアルカリ金属ケイ酸塩系結合剤である

アルカリ金属ケイ酸塩の水溶液は粘性のある液体であり分子式 M2OnSiO2で表わさ

れMの種類(LiNaKなど)および nの大小によって数多くの種類が生ずるまたア

ンモニウムケイ酸塩やグアニジンケイ酸もある一般には安価なケイ酸ナトリウム(水ガ

ラス)がよく使用される

アルカリ金属ケイ酸塩は水溶液中において種々の量のシリケートイオンモノマーポ

リシリケートイオンおよびコロイド状シリカイオンミセルからなっているこれらの形

態や分布は n 値や濃度に依存しn が大きくなるにつれてポリシリケートイオンミセル

が増加するケイ酸ナトリウムは n が4を越えると水の溶解度は極端に小さくなりn が

3 付近で接着力は最大となるケイ酸カリウムはケイ酸ナトリウムと同じような挙動を示

すがケイ酸リチウムは nが非常に大きくケイ酸分の多い水溶液が得られることが特徴で

ありシリカゾルに近い物性を示すしたがってアルカリ金属ケイ酸塩系結合剤につい

て一般的には耐水性は LigtKgtNa接着力はこの逆の順に良いといわれている

水溶液は強いアルカリ性を示し加熱によってシラノール間で脱水縮合反応を起こし

分子間にシロキサン結合を生じる固形物は融点(軟化点)までずっと非晶質である

2)硬化剤

結合剤は低温で乾燥しただけでは耐水性が不十分であり耐水性の向上のために硬化

剤が添加される硬化剤は耐水性には寄与するが接着力を低下させる場合もあるため

使用目的によっては添加しないこともある一液性の接着剤ではポットライフの要求から

室温で作用するものはあらかじめ添加できないので高温になってはじめて結合剤と反

応するものが選ばれる硬化剤については非常に多くの物質が特許等に提案されている

アルカリ金属ケイ酸塩用の硬化剤にはZnMgCa 等の酸化物水酸化物NaK

Ca等のケイ化物ケイフッ化物Alや Zn等のリン酸塩CaBaMg等のホウ酸塩等が

用いられる

酸化亜鉛による反応機構を LSDGlasserらは次のように示している

反応初期には ZnO粒子の表面で

ZnO + 1198672119874 + 119874119867minus rarr 119885119899(119874119867)42minus

の反応がおこりZn は液中に溶解しOH-が消費されるので pH が下がりケイ酸ゲルが

3

粒子表面に析出する以後はこのケイ酸ゲル層を通して OH-が粒子表面へ拡散しZnOと

反応して Zn(OH)2として固定されるためさらにケイ酸ゲルの析出が行われ酸化亜鉛表

面へ無定形シリカが沈積する

3)充填剤

充填剤としては結合剤との反応性の小さい耐火物粉末が使用される結合剤は加熱脱

水により大きな体積収縮を生じひび割れが発生するのでこれを防ぐため充填剤を添加し

て固体分率を高くするまた粒子間の空隙は水分蒸発の逃げ道となり発泡を防ぐ接着

剤の熱膨張を被着材へ合致させることも重要な役割である

さらに一液性の接着剤ではリン酸塩系におけるアルミナ粒のように室温では反応し

ないが温度を上げていくと結合剤と反応し硬化作用をして耐水性を付与することもある

その他耐火性接着強度熱伝導性電気特性耐薬品性耐摩耗性の向上に重要な

働きがある充填剤の種類に加え粒径粒径分布表面活性等に調整することが必要で

数種の充填剤を混合することが多い

4)核剤

核剤は力学特性成形性成形時の生産性の改良などを目的として種々の結晶性高分子

で利用されている特にポリプロピレンにおいては核剤を添加することにより剛性や耐火

性(熱変形温度)あるいは透明性など諸問題が大幅に改良され高機能化による用途拡大

や成形品の薄肉化軽量化が可能となりさらには短時間で結晶化が完了することから成

形時の生産性も大幅に短縮されコスト削減はもとより省資源省エネを影から支えてい

核剤には工業的な側面から主に力学特性を改善する「核剤」と特に透明性を改良する

効果が高い「透明化剤」とよばれるものがある核剤も透明化剤も高分子の結晶化過程

における基本的な作用機構は同じでありその本質はエピタキシーにあるつまり高分子

融体が結晶化する過程で高分子鎖が結晶化しやすいように「場」(核剤の表面)を提供す

るものである核剤はまた「造核剤」とよばれることもあるが核剤透明化剤とも物理

化学的には高分子に対し同じ作用をしているといえる溶媒中に溶解している溶質が種晶

の添加により析出が促進される現象を想像されたいまさに核剤は高分子融体中に添加

されこれが核となって高分子の結晶化が促進されるのである

4

Fig3-1 核剤の表面からの高分子結晶の成長

a)力学特性の改善

自動車や家電部品の樹脂化率は年々高まり特に自動車においては内外装問わずポリ

プロピレンが多用されるようになった当初はあまり重要でない部分への利用であったも

のの最近ではバンパーフェンダーライナーフロントグリルカウルパネル各種リ

ザーバータンクドアパネルピラーダッシュボードサンバイザーコンソールボッ

クスなどありとあらゆる部分に用途開発が進んでいる高分子材料による金属代替今後

もさらに進められると思われるその理由としては自動車の軽量化はもちろんのこと

設計の自由度(一体成形や金属ではデザインしにくい曲線曲面を複雑に有する部品など)

があげられる自動車部材では機能的に高剛性が求められるものや夏場に高温にさらさ

れる内装部品などは高耐熱性(高い熱変形温度)が求められるものなどがほとんどであり

このような要求性能に応えるべくポリプロピレンに核剤が添加されている

核剤が存在する場合高分子の結晶化が促進され融体の冷却過程においてより高い

温度(より融解温度に近い温度)から結晶化が開始するそのため核剤存在下での結晶化

過程では核剤非存在下での結晶化過程に比較して高分子鎖の運動性が高い状態で結晶

化が開始する核剤を添加した高分子の結晶化開始温度を示差走査熱量計などで測定する

と結晶化が高い温度から開始することも確認されるその結果高分子結晶の欠陥は減

少しまた結晶化度も増大する核剤存在下で結晶化させた高分子結晶は欠陥も少なく

またラメラ厚も厚くなり融解温度が高くなるそのような効果により成形後の高分子

材料の力学特性耐熱性が改善する

5

Fig3-2 核剤の添加のよるポリプロピレンの曲げ弾性率の改善効果

()アデカスタブ NA-11()Hyperform HPN-68 L

()安息香酸ナトリウムポリプロピレン

Fig4-2に核剤の添加によるポリプロピレンの曲げ弾性率の改善効果について示したま

ず核剤を添加することでしかも僅か 01~03 wt程度の添加で曲げ弾性率が劇的に向

上していることが分かるその中で比較すると汎用である安息香酸ナトリウムや HPN-68

Lでは弾性率の改善はあるものの(おおよそ 30の弾性率改善)01 wt程度の添加で改

善効果は飽和する添加物を加えることで剛性耐熱性を大幅に改善できることがわかる

このような改善効果は自動車用に多用されるポリプロピレンのグレードであるインパクト

コポリマーにおいても同様であるさらに核剤の添加により結晶化が促進された結果成

形時間も短縮でき高性能化と相まって生産性改善によるコストダウンも可能となる核

剤はもとのポリマーが有する特徴を損なうことなく物性を改善できるといったメリット

があるといえる

32 縮合重合反応

二つの化合物から水などの簡単な分子が脱離して新たな結合が形成される反応を縮合反

応とよぶカルボン酸とアルコールからエステルを得る反応は縮合反応の一例である

縮合反応を繰り返すことによりポリマーを合成することができるこれが脱水縮合反応

であるたとえば 2個のカルボキシ基をもつ分子と 2個のヒドロキシ基をもつ分子を反応

させると縮合反応が連続して起こりポリマーが得られる本実験では Fig3-3 の反応が

起こる

6

Fig3-3 ケイ酸の脱水縮合反応

33 接着の原理

接着剤による接着効果には複数の理論が挙げられており賛否両論あるものもあるま

た個々の接着現象においても複数の接着効果が絡み合っていることが多く接着効果の

検証は困難であるとされるある接着系では適用できる接着効果が別の系ではまったく無

力ということも多い以下に主な接着効果の理論をあげる

1) アンカー効果

雲母を注意深くはがしたようなごくわずかな例外を除きすべての固体表面は数Åオ

ーダーの粗さを有する例えば機械で製造される金属表面の粗さは 3~6 μmであり研

磨した場合でも 002~025 μmである

アンカー効果とはこのような被着材の凹部に流入した接着剤が固化し被着部に引っかか

ることにより界面が結合するというものであるアンカー効果のような界面との相互作

用を無視した接着効果理論を機械的結合論という

開口部を有するクレバスへの液体の流入について理論式が提案されている

以下の 2式は液体の粘度 η接触角θの液体が深さ Zまで浸透するまでの時間 tを表し

(a)開口部の幅がδの平行板の場合

Zdz

dt=

120575119910

120575120578120574 cos 120579

(b)開口部δ深さ Z0の V型溝の場合

11988501198971198991198850

1198850 minus 119885minus 119885 =

120575120574 cos 120579

6120583119905

となる式によれば開口部が大きくぬれがよく粘度の低い液体ほどまた時間をかけ

たほど深くまで侵入できるとされる

7

Fig3-4 アンカー効果

2)分子間相互作用

ふたつの物体の接着面で分子同士が接触するところで互いにひきつけあう力が働くこと

で接着するとするもの代表的なものにファンデルワールス力結合水素結合が存在す

3)化学的結合

界面に化学結合が存在することで接着強さに寄与するとするものである古くから提唱

されている説であるが化学結合の存在の証明が難しく接着系の界面に本当に化学結合

が存在するのかは十分に検証されなければならないとされる

4)表面自由エネルギーと表面張力

物質の内部と表面では性質が異なる内部の分子は周囲を分子に囲まれており分子間

力で互いに引き合うため安定化されるこれに対し表面の分子には周囲を囲む分子が内部

に比べて少なく内部分子と比べて不安定=エネルギーが高いということになるこの余

分のエネルギーを表面自由エネルギーと呼ぶ

表面積が小さいほど表面自由エネルギーは少なくなるため物質の表面では表面を

小さくしようとする力が働くこの力を表面張力と呼ぶ

5)ぬれと接着角

固体表面に液体が存在するとそれぞれの表面自由エネルギーとその間の界面自由エネ

ルギーとのバランスによって液体が広がり固体表面が液体表面に置き換えられるこの

現象がぬれである固体表面のぬれは材料表面の親水性疎水性や接着強度と直接関係

しているため接着の分野ではきわめて重要である固体表面に液滴を落とすと個体の

表面張力γS と液体の表面張力γL 固体と液体の界面張力γSL が釣り合うことによってあ

る角度θで平衡になるこのとき固体と液体空気の境界点 A における力の水平成分の

釣り合いから次式の Young-Dupreの式が得られる

120574119878 = 120574119878119871 + 120574119871 cos 120579

8

自然状態では表面張力により液体は球状になるこの式は固体表面上での液体を広げよ

うとする力と球状を保とうとする力のつりあいの式である

Fig3-4 固体表面上の水滴

また界面自由エネルギーγ12 で接着している二種類の物質を引き離し表面自由エネルギ

ーγ1γ2をもつ二つの物質に分けるのに必要な仕事(これを接着仕事という)Waとすると

119882119886 = 1205741 + 1205742 minus 12057412

であらわされるこれを Dupreの式と呼ぶ接着仕事とはふたつの物質を引き離すのに必

要な仕事であるからWaの値が高いほど接着強度が強いということになる

個体と液体との関係においてこれら二式をあわせると

119882119886 = 120574119871(1 + cos 120579)

を得るこれを Young-Dupre の式という液体の表面張力と接触角から接着材の接着強

度が分かるという式になっている

6)接着力低下因子と表面処理

接着は清浄な面と面の接触が前提である金属表面は清浄であれば 1000~3000 mNmの

表面張力があるはずであるが大気中では数十mNmの値をしめすこれは異物が付着した

り酸化されていたりするためである特に表面がもろい物質でおおわれていると剥離時に

もろい面での剥離が起こり見かけ上弱い接着強度となる事がある

このような金属表面の表面張力の低下を防ぎアンカー効果において適切な凹凸を金属表

面に付与し接着強度向上を図るために洗浄と研磨を行うのが望ましい

5実験方法

41使用する器具

100 mL ビーカーガラス棒ホールピペット安全ピペッターピンセットキムワイ

プ電気炉2 L ペットボトル紐アルミ角材(10 times 30 times 30 mm)サンドペーパー

はけ

9

42試薬の物性

ケイ酸ナトリウム a)

ケイ酸のナトリウム塩で種類が多いいわゆる水ガラスも多くの場合はケイ酸ナトリウム

であるがその組成は安定していない単一物質として得られているものだけでもメタ

ケイ酸ナトリウム Na2SiO3およびその種々の割合の水化物オルトケイ酸ナトリウム

Na4SiO4二ケイ酸ナトリウム Na2Si2O5四ケイ酸ナトリウム Na2SiO9 などがあるオ

ルトケイ酸ナトリウム Na4SiO4=18405二酸化ケイ素と水酸化ナトリウムを適当な条件

で融解すると得られる水溶液で両者を反応させたのではオルトケイ酸ナトリウムの結晶

は得られずにメタケイ酸ナトリウムの水化物になってしまう無色六方晶系の結晶酸

と加熱していると二酸化ケイ素が沈殿している

酸化マグネシウム b)(MgO)

式量 4030

融点 2852

沸点 3600

一般にアンモニウム塩水溶液に溶けるがエタノールに不溶空気中で水と二酸化炭素を

吸収し炭酸水酸化マグネシウムに変化する水と反応して水酸化マグネシウムとなる耐

火レンガマグネシアセメントの製造原料医薬品として制酸剤の原料となるほか触媒

または吸着材ゴム工業にも用いられる

酸化亜鉛 c)(ZnO)

式量 8138

密度 547 gcm3

無定形の白色粉末水にはほとんど溶解しないが両性酸化物で希酸や水酸化アルカリ

水溶液アンモニア水に溶解する空気中で湿気と二酸化炭素を吸収する白色顔料とし

てペイント絵の具などに用いられるほか粒子の細かいものは医薬品化粧品として用

いられる

酸化カルシウム d)(CaO)

式量 5608

融点 2572

沸点 2850

密度 340 gcm3

10

酸に可溶空気中の湿気を吸収して水酸化カルシウムとなりまた空気中の二酸化炭素を

吸収して炭酸カルシウムとなる水と反応して水酸化カルシウムとなるしっくいモル

タルなどの建築材料石膏さらし粉消石灰の原料医療用に用いられる医療用に用

いられる酸性土壌改良にも用いられる

炭酸カルシウム e)(CaCO3)

式量 10009

融点 1339

二酸化炭素を含む水には炭酸水素カルシウムとして溶解する酸には二酸化炭素を発生し

て容易に溶ける加熱すると二酸化炭素と酸化カルシウムに解離する

二酸化ケイ素 f)(SiO2)

式量 6009

低温ではフッ素フッ素酸水素酸だけが反応する高温では他のハロゲン元素とも反応す

る水酸化アルカリ炭酸アルカリと融解すると水溶性のアルカリケイ素酸塩となる

43実験操作

431被接着面の均一化

1)10times30times30 mmのアルミ角材の表面をサンドペーパーで汚れがなくなるまで削る

2)削った表面をアセトンで洗浄する

3)洗浄が終わったアルミ角材の重量を測り記録する

432ケイ酸ナトリウムのみの接着剤の作製

1)100 mL ビーカーにケイ酸ナトリウム 50 g を加え粘り気が残るぐらいまでイオン交換

水を加えガラス棒で撹拌する

2)アルミ角材の 10times30 mm の面にはけを用いてケイ酸ナトリウム溶液を均一になるよう

に塗りアルミ角材を重ね合わせる

3)150にセットした電気炉に接着面がずれないように慎重に置き 1時間焼成する

433添加物を加えた接着剤の作製

1)100 mLビーカーにケイ酸ナトリウム 50 g添加物(酸化マグネシウウム酸化亜鉛

酸化カルシウム炭酸カルシウム二酸化ケイ素)を 010 gから 010 gずつ 20 gまで加

え粘り気が残るぐらいまでイオン交換水を加えガラス棒で撹拌する

2)アルミ角材の 10times30 mm の面にはけを用いてケイ酸ナトリウム溶液を均一になるよう

に塗りアルミ角材を重ね合わせる

3)150 にセットした電気炉に接着面がずれないように慎重に置き 1時間焼成する

11

5評価方法

51接着強度の評価

1)432433で接着したアルミ板にひもとペットボトルを用いて Fig5-1のように設置す

アルミ角材

Fig5-1 接着面の破壊

2)ペットボトルに少しずつ水を加え接着面が完全に離れた時点を破壊終了点とする

3)破壊終了点でのペットボトルに入っている水の重量を計測する

52耐水性の評価

1)接着したアルミ角材に水をかけ接着面の変化を観察する

6予想

添加物を加えることで接着強度の増加が期待されるしかし大量に添加物を加えてし

まうとケイ酸の割合が小さくなり接着強度は減少してしまうと考えられ添加物の量と接

着強度の関係性をグラフ化するとある値までは増加しその値を超えると減少していくグ

ラフが得られると考えるそこから最も接着強度が高まる添加物の量を測定する

また添加物が硬化剤の役割をし耐水性の改善も予想される

参考文献

1)日本接着学会『接着剤データブック第 2版』日刊工業新聞社1990P228~229

2) 三刀基郷『トコトンやさしい接着の本』日刊工業新聞社2003P56~67

3) セメダイン(株)『よくわかる接着技術』日本実業出版社2008P34~37

PET

Crash

12

4) ユージン Gロコー『ケイ素とシリコーン』シュプリンガーフェアラーク東京株式

会社1990 P85~113

5) 大木道則大沢利昭田中元治千原秀昭『化学大辞典』東京化学同人1989

b)P884 c)P865 d)P867 e)P1368 f)P1669

6)下井 守村田 磁『大学生のための基礎シリーズ 3 化学入門』東京化学同人2005

P229

7) 吉村壽次『化学辞典第 2版』森北出版2009a)P425

8)大勝 靖一『高分子添加剤の基礎化学と材料設計』株式会社 CMC出版2008P219~235

9)httpwwwfacekyowacojpsciencetheorywhat_contact_angleimg01jpg

2015416取得

1

東京理科大学Ⅰ部化学研究部 2015 年度春輪講書

シクロデキストリンを用いた

包接化合物の生成

水曜班

Ikemura M(2C)Ebihara K(2C) Kataoka T(2K)

ShibasakiK(2OK)TsumedaT(2C)NakaA(2OK)Murakoshi R(2OK)

OkawaT(2C)NoguchiA(2K)SekiguchiK(2K)HashimotoY(2C)

1 動機

6~8 分子のグルコース単位からなるα―14結合の環状オリゴ糖であるシクロデキストリ

ンはその環状構造に由来する包接化合物を生成する性質を示すその特異的な包接形成能

を利用した多くの製品が存在し現在もなお基礎研究分野応用研究分野での研究が行わ

れている

そこで私たちは 7 分子のグルコースからなるβ-シクロデキストリンと 3 種類のカルボン

酸を用いて包接化合物を形成させ酸の構造の違いによる包接作用の比較検討及びシクロ

デキストリンの一部のヒドロキシ基をエステル化させ水に対する溶解性及び包接形成能が

どのように変化するか考察する

2 原理

21 包接化合物

包接化合物は Schlenk によって名づけられたもので定義によると原子または分子が

結合してできた 3 次元構造の内部に適当な大きさの空孔があってその中に他の原子また

は分子が一定の組成比で入り込んで特定の結晶構造をつくっている物質ということにな

っている前者の骨組み構造の化合物のほうをホスト分子後者の入り込んでいる分子の

ほうをゲスト分子ともよんでいるがこのゲスト分子の大きさや形状はまったくホスト

構造によって規定されるだけで両者の間には弱い相互作用があっても水素結合のよう

な力はなくてもいっこうに構わないのであるこの包接化合物でのゲスト分子とホスト

構造との間の相互作用というのも物理的な吸着系に近いもので非常に弱い van der

Waals 力から高度に配向した双極子間力まで種々のものが存在する 1)

22 シクロデキストリンの包接能

シクロデキストリンはグルコース残基がα-1α-4 結合した環状のオリゴ糖で一般的

にグルコース残基が 6 個のα-シクロデキストリン7 個のβ-シクロデキストリン8個の

γ-シクロデキストリンが知られている

2

Fig1 α-シクロデキストリンの分子構造

シクロデキストリンの構造は底の抜けたバケツやドーナッツのような構造をしており

その環状構造の外側は多くの水酸基に由来する親水性領域が存在し内側の空洞の CH 基に

由来する疎水領域と相反する極性が一つの分子に共存しているがこの空洞内に様々な有

機化合物などを取り込むという包接作用がもっとも特徴的である

三種類のシクロデキストリンはそれぞれ空洞の大きさが相違するためそれぞれ包接化

合物を形成しやすいゲスト分子が存在する内部空洞が比較的小さいα-シクロデキストリ

ンは比較的小さい分子例えばエタノールメタノール等をβ-シクロデキストリンは汎

用性が広く各種ポリフェノールコレステロールメンソール等の香気成分芳香族化

合物等をよく包接するγ-シクロデキストリンは大きい分子である脂肪酸などを包接する

ことが知られている

シクロデキストリンの包接力の原動力は疎水性相互作用と分子間力が主なものとされて

いるつまりゲストは疎水性の高い分子あるいは分子の大きさが空洞にぴったりとフィッ

トするものほどシクロデキストリンがそのゲストを包接する力は大きく包接物を作り

やすい傾向がある逆に親水性が高くシクロデキストリンの空洞にフィットしないよう

なゲスト分子では包接現象は起こりにくいといえるしかしゲスト分子全体がシクロ

デキストリンの空洞内にとりこまれる必要はなく部分的にでも疎水性が高く空洞にフィ

ットすれば包接が可能となるつまりゲスト分子全体がシクロデキストリンより明ら

かに大きいものでも包接作用による効果が観察される場合がある 2)

Fig2 シクロデキストリンがゲストを包接する様子

23 水溶化シクロデキストリン

3

ブドウ糖やショ糖など通常糖質の水への溶解度は非常に高いしかし天然型シク

ロデキストリンは隣接する水酸基との水素結合の為3 種のシクロデキストリンの中では最

も高い水溶性を有するγ-シクロデキストリンであってもその溶解度は 25において水

100 mL に 23 g であり油性物質を包接した場合は一般的にその溶解度はさらに低くな

るそこで水への溶解度を改善するためにシクロデキストリン化学修飾体が製造されて

いるシクロデキストリンの水溶性を向上させる方法として隣接する水酸基をメチル基や

アセチル基などでエーテル化やエステル化する方法がある具体的には部分メチル化β-シ

クロデキストリンやモノアセチル化β-シクロデキストリンが工業的に生産されている

24 包接能の評価について

今回の実験ではゲスト分子としてカルボン酸を用いるシクロデキストリン及び水溶化

シクロデキストリンの包接能の評価については包接化合物に含まれているカルボン酸をア

ルカリで滴定することで求めることができる

3 実験

31 試薬sup3⁾

アジピン酸

分子式C6H10O4

分子量1464

mp153

bp3375 アジピン酸

クエン酸

分子式C6H8O7

分子量19213

mp156~157

クエン酸

シュウ酸

分子式C2H2O4

分子量9004

mp1895

シュウ酸

4

βシクロデキストリン

分子式(C6H10O5)7

分子量113500

n-ブタノール

分子式C4H10O

分子量7412 β-シクロデキストリン

bp1179

エタノール

分子式C2H6O n-ブタノール

分子量4607

mp-1145

bp7833

水酸化ナトリウム

組成式NaOH

分子量4000

mp328

bp1388

無水オクタン酸

分子式C₈H₃₀O₃

分子量27041

mp-1 無水オクタン酸⁶⁾

濃硫酸

分子式H₂SO₄

分子量9808

mp104

32 使用器具

300 mL ビーカーメスフラスコピペット三角フラスコ吸引漏斗吸引瓶ビュレッ

トスタンドボウルガラス棒

5

33 実験操作

331 エステル化シクロデキストリンの合成 ⁵⁾

1)三角フラスコにβ-シクロデキストリン 1 g を入れこれに無水オクタン酸 025 mL を加

える

2)触媒として 2-3 滴の濃硫酸を添加し攪拌する

3)約 10 分間放置してフラスコを氷桶に入れて冷やしガラス棒でフラスコの壁を強くこす

り結晶を析出させる

4)水 20 mL を加えさらに氷桶で冷やしながら残る結晶を析出させる

5)この結晶を濾分し水で洗ってから取り出して乾かして結晶を得る⁵⁾

332 包接化合物の形成

1)β-シクロデキストリン 1 g を水 100 mL に溶解させる

2)ピペットで 1 mL のカルボン酸を加えコルク栓をして静置する

3)1 週間程静置し包接化合物を吸引濾過する

4)上記の操作をカルボン酸(酢酸シュウ酸クエン酸)で行う

5)エステル化シクロデキストリンで同様の実験を行う

333 包接能の測定

1)よく乾燥した包接化合物約 1 g をメスフラスコで 100 mL 溶液とする

2)この溶液 20 mL にフェノールフタレインを指示薬として20 mL 加え 01 M 水酸化ナト

リウム標準溶液で滴定する⁴⁾

334 溶解度の測定

1)100 mL の水に 5 g の β-シクロデキストリンを溶解させる

2)沈殿をろ過し乾燥して重量を測定する

3)エステル化 β-シクロデキストリンで同様の作業を行う

参考文献

1) 竹本喜一包接化合物の化学東京化学同人1969p2

2) 辻堅司シクロデキストリンの応用技術株式会社シーエムシー出版2008p3-p9

3) 大木道則大沼利昭田中元治千原秀明化学大辞典東京化学同人1989

4) 発田寿々子教養の化学実験第 2 版学術図書出版社2014p119

5) 南篠正男先生と生徒のための化学実験共立出版株式会社1986p155

6) 「 chemical book 」〈 wwwchemicalbookcomchemicalProductPropert_JP_CB 〉

(2015418 アクセス)

1

東京理科大学Ⅰ部化学研究部 2015年度春輪講書

ダブルネットワークの合成と評価 木曜班

OnizukaM(2C)TanakaR(2C)YamamokaH(2K) OhiraM(2K)

1背景

現在高分子ゲルは紙おむつの高吸水性樹脂やソフトコンタクトレンズなど私たちの生

活において活躍しているしかし高分子ゲルは不均一な構造なため一般的に機械的強

度が弱いという欠点がある高分子ゲルの強度面での弱点を克服するために従来では

ゲルの構造を均一化して強度を上げるというアプローチがとられてきた

しかしながら材料の弾性とじん性は反相する因子として働くつまり大変形に耐え

られるゲルは弾性率を犠牲とし高弾性のゲルは小さい変形で破壊される

そこで私達木曜班は前述の問題の解決策と成り得るものとしてダブルネットワーク

ゲル(DNゲル)について注目した

2目的

既存に作られている DNゲルは溶媒に水を用いたハイドロゲルであるDNゲルはその

強度や柔軟性により生体内での人工関節に使用することが期待され研究がおこなわれて

いる木曜班では DNゲルを生体内の関節だけでなく機械の関節部の摩擦軽減材料として

の使用を提案するしかし従来の DNゲルは溶媒が水であることにより水の沸点である

100以上の条件下では性能の低下が問題視され高温になりうる機械への応用が困難で

ある

溶媒を水から有機溶媒に変更することで高温条件下でのゲルの機能維持を試みるとと

もに使用するモノマーを変更しその機能性を検討する

3原理

31 DNゲル

311ゲルの脆弱性

一般的なゲルはゼリーや豆腐のように僅かな力を加えただけで簡単に壊れるほど

弱いこの理由は 2つの現象により説明することができる

1)ゲルの内部に多数の欠陥が存在する

2)欠陥から発生した初期亀裂が容易に伝播する

前者はゲル内部の構造が不均一であることに由来するゲル合成時におけるモノマ

ーと架橋剤の反応性の違いにより不均一な重合がおこるあるいはゲル化溶液内の濃度

揺らぎが重合によって固定されることだと考えられている 1)こうしたゲルに力を加えた

2

時にゲルの弱い部分に力が集中してしまうため小さな力でも初期亀裂が生じてしまう

後者はゲル内部のポリマーの密度の低さから生じる一般的に物質内における亀裂

の進みやすさは破壊エネルギーU(Jm2)(単位面積あたりの破断面形成に費やされる仕事)

によって評価される架橋高分子材料の臨界破壊エネルギーUc(亀裂成長が起こる最小

の破壊エネルギー)は破断面の高分子鎖の数密度と架橋点間分子量に比例する 2)つま

りゲルのじん性(物質の破壊に対する抵抗の程度で粘り強さとも言い換えられる 3))はゲ

ル内のポリマーの密度には比例し架橋密度には反比例することがわかる

ゲルは 50~99wtの溶媒を含んでいて高分子の密度が非常に低い物質であるためゲ

ルの Ucはゴムなどの固体に比べてかなり小さいことが考えられる

これまでの高強度ゲル研究は主に前者の問題を解決するすなわち構造を均一化するこ

とでゲル内部の欠陥を極力減らして強度を改善しようという観点から行われてきた

312 ゲルの弾性率

高分子鎖が三次元架橋されたゲルはゴムと同じようにエントロピー弾性を持つ溶液

中に完全に湿潤した電気的に中性ゲルのせん断弾性率(横方向に対するバネ係数 4)であり

Young率 Eと E=3Gの関係式が成立する)は

GneucongkBT

b3Q-225

以上の式で表せられゲルの湿潤度 Qの増加にともないせん断弾性率Gneuは大きく低下

するここでkBはボルツマン定数Tは温度bは重合させたモノマーの大きさである 5)

一方溶液中に完全に湿潤した電解質ゲルのせん断弾性率は

GchacongkBT

b3Q-1

によって表せる 6)よって同じ湿潤度において電解質ゲルは中性ゲルよりせん断弾性率が

高いことが分かる

またゲルの湿潤度は架橋点重合 N(分子量)による溶液中に完全に湿潤した中性ゲル

の場合QasympN35であり電解質ゲル場合QasympN

32であるしたがって架橋密度を上げる

ことによりゲルの湿潤度が小さくなりせん断弾性率が上がる 3)4)

313 ゲルの破断歪と破断応力

架橋構造が均一と仮定した理想的なゲルの破断歪(ゲルが破壊するまでの変形 7))は架

(1)

(2)

3

橋点間高分子の伸びきった長さと高分子鎖に歪がない曲がった自然な状態での大きさ

の比として求められる溶媒中で完全に湿潤した中性ゲルの引っ張り破断歪はλBcongQ12で

ありQの増加により増加する一方湿潤することにより単位面積あたりの高分子

の本数が減るため破断応力は湿潤度 Qが大きくなることにより減少する故にQが大

きいゲルは伸びやすいが弱い応力で壊れる

電解質ゲルの場合高分子鎖はその解離しているイオンの浸透圧によって水中では

ほとんど伸びきった状態となっているその結果理想状態においても破断歪はλBcongQ19

になるこれは破断歪が小さくかつ湿潤度にあまり依存しないことを意味している 5)

以上のことより

1)架橋密度を上げる(架橋点間分子量を下げる)ことでゲルが固くて脆くなる

2)水中に完全に湿潤した高分子電解質ゲルは中性のゲルより硬くて脆い高弾性と変形は

相反するということが考えられる

314 DNゲルの高強度機構

DNゲルは強電解質をモノマーとする 1st networkゲル電気的に中性なモノマーを用

いる 2nd networkゲルを組み合わせることにより生成される前述した通りゲルにおける

弾性と靭性は常に相反する働きをするそれゆえに単一な物質で両方の性質を得るこ

とは原理的には不可能である同じ湿潤度において電解質ゲルと中性ゲルのせん断弾性

率の比はGchaGneucongQ125であるために両者の違いは湿潤度 Qが高いほど大きくなる

この性質を利用することにより電解質ゲルは硬い成分中性ゲルは軟らかい成分とし

て用いることができる

亀裂を含む DNゲルがある引張荷重を受けると応力集中の効果で最初に亀裂先端近傍

の電解質網目(1st network)が破壊され局所的にゲルが降伏する荷重がますと電解質網

目の破壊が次々に伝播し広範囲にわたるダメージゾーンが形成されていくこの過程

で非常にいい気なエネルギーが分散されるダメージゾーンがある大きさまで広がった

ときようやく亀裂先端に中性網目(2nd network)が十分に伸びて切断し亀裂が進行す

る 8)

4

Fig 1 DNゲルの破壊モデル 9)

32 光ラジカル重合

321 光分解

光重合開始剤に UVを当てることにより開裂がおきラジカルが発生する本研究にお

いては 1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンを用いる 10)

Scheme1 1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンの開裂 10)

ℎ120592

5

322 開始反応

UVを当て光開裂により生じたラジカルがビニル基の二重結合を攻撃し光重合開始剤

と炭素の間に σ結合を作り炭素原子にラジカルが存在することになる

Scheme2 ラジカルの生成

323 成長反応

Scheme2で生成したラジカルが他のモノマーを攻撃しσ結合を生じるそれが何回

も起こることにより分子鎖が成長する 6)

Scheme3 分子鎖の成長

324 停止反応

Scheme 3で成長した成長ラジカル同士が σ結合を作り分子鎖が生成する 7)

Scheme4 分子鎖の生成

4実験

41 DNゲルの合成

411 使用器具試薬

ビーカー乳鉢乳棒薬さじUVライトデシケーター

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸

分子式 C7H13NO4S

式量20724

融点160

用途1st networkゲルのモノマー

6

アクリル酸

分子式C3H4O2

式量7206

融点123

沸点1416

比重10511

危険性引火性(発火温度 360 )

用途1st networkゲルのモノマー

アクリロニトリルの加水分解アクロレインの酸化ニッケルカルボニルの存在下ア

セチレンと一酸化炭素と水との反応などにより合成される酢酸に似た刺激臭を持つ液

体水エタノールエーテルによく溶ける酸素の存在下容易に重合するプラス

チックの原料として用いられる

アクリルアミド

分子式C3H5NO

式量7108

融点845

沸点103

比重1122

用途2nd networkゲルのモノマー

アクリルニトリルを硫酸あるいは塩酸を処理して得られるフレーク状の結晶溶解

性(g100 ml溶媒30 )水 2155メタノール 155エタノール 862アセトン 631

酢酸エチル 126クロロホルム 266ベンゼン 0346ヘプタン 00068化学的に不安

定で冷暗所に保存する必要がある融点付近あるいは紫外線下で重合する重合の仕方

により水溶性不溶性のものが得られる

酢酸ビニル

分子式C4H6O2

式量8609

融点-932

沸点723

比重09317

用途2nd networkゲルのモノマー

無色の液体酸やアルカリよって容易に加水分解されてアセトアルデヒドと酢酸を生

じる熱光ラジカル開始剤によって重合する

7

メタクリル酸メチル

分子式C5H8O2

式量10012

融点-48

沸点1003

比重0936

用途2nd networkゲルのモノマー

無色透明で催涙性の芳香のある液体工業的にはアセトンシアノヒドリンにメタノー

ルと硫酸を作用させて合成する実験室的にはメテクリル酸メチルの重合物を 320

以上で乾留すると得られる一般に有機溶媒には溶けるがエチレングリコールグリセ

リンには溶けにくい重合しやすいので重合禁止剤としてヒドロキノンモノメチルエ

ーテル(65 ppm)を添加して保存する有機ガラスの製造ビニル系共重合体など広く

重合反応に用いられるまたメチル以外のアルコールのメタクリル酸エステルの合成

にも用いられる

NN-メチレンビスアクリルアミド

分子式C7H10N2O2

式量15417

融点300

用途架橋剤

1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン

分子式C13H16O2

式量20427

融点47-50

用途光重合開始剤

最大吸収波長は 260 nm付近にある

エチレングリコール

式量6207

融点 -126

沸点1976

比重11132

8

用途ゲル溶媒

重要な二価アルコールでエチレンオキシドの酸触媒による開環高温高圧下水と

の反応による開環などによって合成される吸湿性無色無臭の液体甘味を有する

が有毒である高沸点を有ししかも水酸化カリウム水酸化ナトリウムを溶解し水や

エタノールと任意の割合で混合するので有機合成における溶媒として広く用いられ

また塩基に対して安定なエチレンケタールの生成によるカルボニル基の保護に用いら

れるさらに酢酸ビニル系樹脂の溶剤や水と混ざり高沸点のため不凍液に用いら

れるなど広い用途を持っている

412 1st networkゲルの作成

1) 1st networkゲルのモノマー(電解質モノマー)架橋剤(NN-メチレンビスアクリルア

ミド)と光重合開始剤(1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)を水に溶解させた水

溶液を調製する

2) UVを 8時間照射して光ラジカル重合をさせる

3) 2)で合成した電解質ゲルを乳鉢に入れ適当なサイズに砕いた後デシケーター内で一

週間ほど乾燥させる

413水溶媒 DNゲルの作成

1) 2nd networkゲルのモノマー(中性モノマー)架橋剤(NN-メチレンビスアクリルアミ

ド)光重合開始剤(1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)をエチレングリコールに

溶解させた溶液を調製する

2) 乾燥した電解質ゲルを 1)で調製した水溶液に入れ電解質ゲルを十分に膨らませるそ

の後UVを照射し中性モノマーを光ラジカル重合させる

414エチレングリコール DNゲルの作成

1) 2nd networkゲルのモノマー(中性モノマー)架橋剤(NN-メチレンビスアクリルアミ

ド)光重合開始剤(1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)をエチレングリコールに

溶解させた溶液を調製する

2) 乾燥した電解質ゲルを 1)で調製したエチレングリコール溶液に入れ電解質ゲルを十分

に膨らませるその後UVを照射し中性モノマーを光ラジカル重合させる

42 DNゲルの評価

421引っ張り試験

使用するモノマーの変化によるゲルの性質の差を評価する引っ張り試験は

JIS-K-6251-7号に準拠する方法で測定する

9

1)DNゲルを X方向の長さ 50 mmY方向の長さ 75 mmZ方向の長さが 25 mmの大

きさに成形する

2)その一端部に X-Y平面に平行な切込みを入れて2つの引張端部を形成する

3) 引張端部を片方は固定しもう片方を一定の速度で引っ張るこのときの引っ張る力 F

を測定する

Fig 2 引っ張り試験 13)

422 摩擦試験

使用するモノマーの変化溶媒の変化によるゲルの性質の差を評価する

摩擦試験は東京理科大学工学部第一部機械工学科佐々木研究室に依頼する予定である

用いる機械は SVR4パーカー熱処理工業株式会社製であり180での高温での摩擦係

数の測定が可能である

摩擦測定は常温(20 )と高温(100 )で測定することを予定している

10

5 展望

51 DNゲルの合成

実験操作は溶液を調製した後UV照射するという簡易な手順なので合成は比較的早い

段階で成功すると考えられる

1st networkゲル合成に使うのは電解質モノマーなため水溶液のモノマーの濃度が低

いと湿潤度 Q が大きくなりせん断弾性率が下がり剛性が弱いゲルが出来上がると考え

られる

架橋剤を多く使用すると架橋密度を上がるので 2nd networkゲルが入り込む空洞が小

さくなるそのために架橋剤が多すぎると高弾性のゲルが生成できると考えられる

また同様な考えで2nd networkモノマーが含まれている水溶液に乾燥させた1st network

ゲルを入れる量が多くても高弾性のゲルが生成できると考えられる

52 DNゲルの物性

ゲルの高分子網目は基板から離れようとするときにゲルと基板の間に僅かな溶媒層

が生じるこの状態では溶媒層が潤滑油のような働きをして生じる摩擦力は小さなも

のとなるゲル周辺が高温な状態ではこの溶媒層が水の場合は蒸発してしまうので摩

擦力は増大すると考えられる溶媒を水からより沸点の高いエチレングリコールなどに

変えれば摩擦力は増大することはないと推測される 14)

11

参考文献

1) J Bastide and L LeiblerMacromolecules1988212647

2) G G J Lake and A G ThomasProc R Soc LondonA1967300108

3)越後亮三 機械工学辞典 朝倉書店 2007 p631

4) 伊藤勝悦 やさしく学べる材料力学 森北出版 2014 p14

5)SPObukhovMRubinstein and RHColby Macromolecules 1994273191-3198

6)MRubinsteinRHColbyAVDobrynin and JJaonnyElasticMacromolecules199629398-406

7) 大 阪 府 立 大 学 基 礎 講 座 材 料 の 強 度 と 破 壊

httpwwwengmmtrosakafu-uacjpresearchstrength-japdf2015413取得

8)聾剣萍「生命科学時代の新材料-高弾性高靱性ダブルネットワークゲル」高分子学会

『高分子』高分子科学最近の進歩58巻 5号2009p327-p331

9)YTanakaEurophysLett20077856005

10)蓮池幹治ラジカル重合ハンドブックエヌティーエス2010p444-p445

11)大津隆行ラジカル重合(Ⅰ)化学同人1971p80-p81

12)大津隆行ラジカル重合(Ⅰ)化学同人1971p153-p154

13)聾剣萍高分子ゲルおよびその製造方法特開 2009-185156 2008-02-05

14) 角五 彰龔 剣萍長田義仁「ゲルの摩擦と水和潤滑~生物の滑らかな運動解明への

アプローチ」日本生物物理学会『生物物理』47巻 4号2007p 253-p258

1

東京理科大学Ⅰ部化学研究部 2015年度春輪講書

耐塩性の高い新規化粧品用増粘剤の開発 2015年度金曜班

Nomata N(2OK)Seki M(2OK)Tin J(2OK)Takahashi R(2C)Watanabe A(2K)

Asai D(2K) Nishimiti D(2K)Yamamoto R(2K)

1 動機

化粧品において増粘剤の果たす役割は非常に大きい

化粧品にはクリーム状のモノが多くありその整形には増粘剤が必要不可欠である

また増粘剤は製剤だけでなく密閉効果や水和効果によって薬剤を皮膚に効率的に輸

送することに役立っている

この増粘剤であるが一つ課題がありアスコルビン酸塩(ビタミン C)のようなクロロ

基を持つ塩系薬剤をゲル中に含む場合経時によってべたつきといった使用感の悪化

につながるといった弱点があるこの問題の解決のために塩系薬剤への耐性の高い増

粘剤の開発が望まれている

塩系薬剤の高い美容効果からこの問題の解決に対する化粧剤企業のニーズは高くこ

の問題は長く研究が続けられていたが近年資生堂が逆相マイクロエマルション重

合法によって microスケールの粒状高分子を多数合成することによりできる増粘剤が高い

耐塩性を持ち使用感もよいことを発見したがこの粒状高分子増粘剤には未だ試み

られていないモノマーが多くある

そこで今年度の金曜班ではこの逆相マイクロエマルション重合法において未だ

試みられていない親水基を持つモノマーを利用して新規の増粘剤をつくることで粒

状高分子による増粘剤の耐塩性と肌触りと親水基の関係を調べ応用化に利すること

ができるのではないかと考え実験を行うこととした

2 背景

増粘剤とは水溶液をゲル化するために添加される物質であり化粧品において広く

用いられているこの増粘効果は従来では高分子鎖同士の分子間力や架橋で生じる

網目構造の結果生じる液中の摩擦力によるものである

動機で述べたように μスケールの粒状高分子が増粘剤として良質であることがわか

っているただし粒状高分子の形状は反応場であるセッケンミセルの大きさだけで

なく親水基やポリマーを構成する原子同士の分子間力によって変わる高分子の立体構

2

造にも影響されている

また粒状高分子の正確な一次構造を把握することは大変難しいことであるので

応用化のためには高分子の一次構造でなくモノマーによって粒状高分子特性の変化

を調べることが重要である

さらに従来用いられているポリマーがスルホ基とカルボキシル基を親水基とする

ものしか存在しない

以上の三点から酸以外の親水基をもつモノマーで増粘剤を合成したときその性

質はどうなるかを調べることでより製品として利用価値が高い粒状高分子増粘剤を合

成することができるのではないかと考えた

そこで新規モノマーとしては対照実験を行うためにアクリルアミド系モノマー

でかつ 2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸のスルホ基と同じ炭素骨格の先

端に親水基が存在するものとしてN-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド (3-アク

リルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライドを用いてそれぞれ親水基が酸

ではなくヒドロキシ基である場合親水基がアニオンではなくカチオンである場合に

ついて研究を行うこととした

この二種の以外にも水溶性のアクリルアミドポリマーは存在するが上記の条件を満

たさないまたは高価であるため本実験では用いないこととした

Fig1 N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド

Fig2 (3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライド

3

3 原理

31 一般的な液体の粘性

溶液の粘性は一般論では以下のように表される

Fig3のように XY平面を取り液面に平板を用意し引っ張った時挟まれた溶液内

には図のようなせん断流動が発生する高さ Yでのせん断速度は(119881

119889) 119910で与えられる

この時平板に挟まれた溶液を薄層の集まりと考えると隣り合う薄層間に摩擦が生

じるこの内部摩擦力が粘性力であるずり速度勾配が十分に小さければ平板の単位

面積当たりに生じる粘性力 Fv0はその勾配 Vd に比例するすなわち以下の式で表

され1205780を粘性係数と呼ぶこの値は溶媒固有である1)

1198651199070 = 1205780 (119881

119889)

Fig3 溶液ずりせん断図

32 増粘剤の粘性

増粘剤の多くは低分子の液体に高分子を溶かすと著しく粘性が高くなる性質を利

用している

この粘性の発生するメカニズムは下の Fig4において平板間の溶液を薄層に分けた

際高分子鎖は溶液の移動に伴って回転するこのとき溶液中の薄層は薄層間の摩

擦以外に高分子鎖との間にも摩擦が生じているこの摩擦の増加が粘性力の増加とな

る 2)

4

Fig4 高分子による粘性増加

また高分子鎖同士が分子間力によって結びつき三次元構造を形成することで内

部摩擦力は一層大きくなるこのため高分子による増粘効果は顕著である

架橋高分子では三次元構造が高分子鎖同士の分子間力による形成よりも強いものと

なるので増粘効果及びレオロジー特性に優れる 3)

33 塩系薬剤による粘性劣化のメカニズム

塩系薬剤とはビタミンC (アスコルビン酸塩)のようにクロロ基をもつ薬効物質のこ

とである

このクロロ基が直鎖高分子や架橋高分子がポリマー間で形成する三次元網目構造

を破壊することによって増粘効果を消失させ内容物の流失によるべたつきを生じさ

せる 3)

34 粒状高分子の粘性

粒状高分子の粘性について粒状高分子はその粒経が小さいほど体積に対する表面

積が増え溶液内での内部摩擦力が大きくなる

また粒子同士が摩擦力を元に網目構造を形成するため網目構造の構成要因が直

鎖高分子や架橋高分子の高分子増粘剤と異なっている 4)

35 逆相マイクロエマルション重合法

後述する転相温度乳化法を用いて形成した5 μm~30 μm 形成したマイクロエマル

ション内において水溶性のモノマーを利用して行う乳化重合法の一種容易に極小の

5

ポリマーを合成することができる 5)

36 界面活性剤の概略

界面活性剤とは分子の構造が水になじみやすい部分(親水基)と油になじみやすい

部分(新油基)からできていて2つの物質の間の界面に集まりやすい性質を持ちそ

の界面の性質を著しく変える物質というのが界面活性剤の定義である

代表的な界面活性剤の特徴は界面における「吸着」と「ミセル形成」である 6)

もうひとつの代表的な作用として「可溶化」もある

37 エマルションの形成

界面活性剤に有機溶媒が取り囲まれて水に可溶化されたとき水溶液中に存在する

有機溶媒を界面活性剤が取り囲んだ液滴のことを OW エマルションと呼ぶ

有機溶媒中に水が可溶化される場合WOエマルションと呼ぶ

38 ノニオン界面活性剤

非イオン界面活性剤とも言う界面活性剤の内解離基を持たず電気的に中性な

界面活性剤で親水基は主にポリオキシエチレン基であるその特殊な性質上他の種類

の界面活性剤に無い性質として曇点と転相温度を持つ 今回使用するノニオン界面

活性剤はポリオキシエチレンオレイルエーテルであり基本式は以下のような形にな

る 7)

R-O(CH2CH2O)n-H

Scheme 1 ポリオキシエチレンオレイルエーテルの基本式

39 曇点

曇点とは透明な液体が相分離を起こして白濁する温度のこと

本実験においてはノニオン界面活性剤が加温によって界面活性効果を失い相分離

によって白濁する温度のこと 8)

310 転相温度乳化

ノニオン界面活性剤は加温によって界面張力が変化しWO型エマルションから

OW 型に変化するこの変化点のことを転相温度と言い転相温度において界

6

面張力が最低になっているので溶液エマルションが極小になる

またこの転相温度は界面活性剤に固有の値となるので二種の比較的性質の

近い界面活性剤を混合することで転相温度を操作し適切な温度で5 μm~30 μm

程度の直径を持つエマルションを作成する方法を転相温度乳化法と呼ぶ 10)

311 ラジカル重合

開始剤を用いてラジカル種を生成して行う重合法のことをラジカル重合法と言う

開始剤の分解要因によって熱光放射線ラジカル重合の三つに分けられる 10)

3111 ラジカル重合を構成する四反応

ラジカル重合は 4種類の反応が同時並行的に起こるそれぞれ以下の通りである 11)

開始反応

開始剤が熱光放射光などの要因によってラジカル開裂を起こしラジカル種を

生じさせる反応

成長反応

ラジカル種がモノマーと反応することでモノマー新たなラジカル種が生成する

反応これが連続することでポリマーが合成される

停止反応

連鎖していた成長反応が止まる反応主にラジカル種同士の反応による

連鎖移動反応

ラジカル種がモノマー以外の分子主に溶媒分子等と反応することでポリマー以

外の物質を合成する副反応

3112 乳化重合

乳化重合はモノマー液滴と呼ばれるモノマーを大量に保存しているエマルシ

ョンと反応場となる極小のセッケンミセルの二つの構造を持つ溶液中で行う不均

一系ラジカル重合の一種である 12)

成長反応が一段階進むたびにモノマー液滴から拡散の理論式に従ってモノマ

ーがミセル内に移動するこの一連の反応を繰り返して反応が進む 13)

そのため種々のラジカル重合法と比較して以下の特長がある 13)

セッケンミセル内に存在するラジカルが常に一つであるため停止反応が

7

起こりにくく比較的重合度の高いポリマーが生成しやすい

反応速度が拡散作用によって律速されかつセッケンミセルの周囲を大量

の溶媒分子が囲んでいるため除熱が容易であるという理由から熱暴走を起

こしにくいという利点がある

ミセル内で重合するため合成した高分子が絡まりやすく粒状の分子が作

成できる

Fig5 乳化重合模式図

312 MS(質量分析法)

質量分析法とは分子の質量すなわち分子量を測る手段でもあるまた分子を分解

したフラグメントの質量を測ることによって分子構造に関する情報を得るものでも

ある

高エネルギー電子が有機分子にぶつかると分子から電子がはじき出せれカチオ

ンラジカルが発生する

119825119815 rarr 119825119815++119838minus Scheme 2カチオンラジカルの発生

電子の衝突により大量のエネルギーが分子に与えられることで大部分のカチオン

ラジカルを生成した後フラグメントに分解するフラグメントは小さな破片となっ

て浮遊し正電荷や中性となる

このカチオンラジカルとフラグメントについてmz値を横軸相対強度を縦軸につ

いて取ったグラフから質量スペクトルを読み取る 14)

またMS(質量分析法)はイオン化の方法などによりいくつかに分けられ今回使用

したいのは高分子試料でもほとんどフラグメンテーションを起こさないソフトなイ

8

オン化法であるMALDI法 15)である

3121 MALDI法(マトリックス支援レーザー脱離イオン化法)

試料を 25-ヒドロキシ安息香酸のような適切なマトリックス上に吸着させて

ペレットを作成しレーザー光を短時間照射してイオン化する

エネルギーがマトリックスから試料に移動し[119872 + 119867119899 ]119899+に分解される 15)

MALDI法にはよく TOF型の MSが用いられている

4 実験

41 2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を用いた既存化粧品用増粘剤の合成

411 使用器具試薬

温度計ウォーターバスビーカー薬さじデシケーター

ジメチルアクリルアミド

式量9913

沸点81

発火点71

LD50(経口)316mgkg

LD50(経皮)580mgkg

製造和光純薬工業株式会社

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸

式量20725

融点200

LD50(経口)5400mgkg

製造和光純薬工業株式会社

NN-メチレンビスアクリルアミド

式量156

沸点4451

発火点215

LD50(経口)390mgkg

製造東京化成工業株式会社

9

へプタン

式量1002

沸点98

引火点-4

水に不溶

製造昭和化学

2-プロパノール

式量60

沸点82

発火点12

LD50(経口)区分外(GHS分類)

LD50(経皮)区分外(GHS分類)

製造昭和化学

ペルオキソ二硫酸アンモニウム

式量22820

冷水に易溶保存湿気厳禁

重合開始罪乳化重合レドックス重合に用いられる

製造和光純薬工業株式会社

412 実験手順

① ビーカーにイオン交換水ヘプタンポリオキシエチレンオレイルエーテル(2)

(8)をそれぞれ507 mL 507 mL489 g((2)(8)=23)加えて良く撹拌したも

のを入れる

② その後その後温度調節機能つきスターラーに乗せ白濁するまで加熱する

白濁した液が透明化するまで温度を落とし電気伝導率計を用いて溶液が転

相温度付近に保たれていることを確認する

③ 以上の操作が済んだ重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先

ほどのスターラーと同じ温度にしたウォーターバスに移し2-アクリルアミド

-2-メチルプロパンスルホン酸NNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 137 g

262 g入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始

剤としてメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

10

④ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

42 N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミドを用いた新規化粧品用増粘剤の合成

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を誘導体と入れ替える以外の

操作は 41に準ずる

親水基による増粘性の変化を観察するため架橋剤のモノマーに対する濃度比

は 2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を使用したポリマーが最も増

粘効果の高くなると報告された濃度比を用いる

421 使用器具試薬

使用器具は 41に準ずる

試薬

N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド

式量11513

沸点130

発火点189

製造東京化成工業株式会社

422 実験手順

① 412 ①②と同じように重合系を作成する

② 以上の操作が済んだ重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先

ほどのスターラーと同じ温度にしたウォーターバスに移しN-(2-ヒドロキシエ

チル)アクリルアミドNNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 076 g262

g 入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始剤と

してメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

③ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

11

43 (3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライドを用いた新規化粧品用

増粘剤の合成

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を誘導体と入れ替える以外の操作は

41に準ずる

親水基による増粘性の変化を観察するため架橋剤のモノマーに対する濃度比は 2-ア

クリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を使用したポリマーが最も増粘効果の高く

なると報告された濃度比を用いる

431 実験器具

実験器具は 41に準ずる

試薬

(3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライド

式量22074

沸点100

製造東京化成工業株式会社

432 実験手順

① 412 ①②と同じように重合系を作成する

② 重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先ほどのスターラーと

同じ温度にしたウォーターバスに移し (3-アクリルアミドプロピル)トリメチ

ルアミニウムクロライドNNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 123 mL

262 g入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始

剤としてメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

③ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

5 評価分析

耐塩性の高い増粘剤の耐塩性と使用感と親水基との関係を評価するために以下の二

つの測定を行い評価する

増粘剤の耐塩性の評価のために塩酸を増粘剤内部に取り込ませた状態で経時

12

による粘度の変化を観察する

また高分子の粘性を考える上で直鎖高分子の場合よく参考にされるのが平

均分子量でありこの値を測定することで親水基が変化した場合に平均分子

量が粒状高分子の粘性にも大きく影響するか確認する

精密に上の測定を行うには専用の機器が必要になるため機器メーカーの株式

会社エーアンドデイ様または東京理科大学理学部応用化学科駒場研究室に

また高分子の性質を考える上で重要視される平均分子量及び分子量分布に

ついては東京理科大学化学系機器センターにあるMALDI-TOF型質量分析計を管

理者の東京理科大学理学部応用化学科の根岸先生に測定に協力していただこうと

考えている

6 謝辞

東京理科大学工学部工業化学科 近藤行成教授

東京理科大学理学部化学科 遠藤恆平准教授

東京理科大学理学部応用化学科 駒場慎一教授

この研究を進めるに当たり大変お世話になった先輩先生方企業の皆さんに感謝の

意を表明します

参考文献

1) 小澤美奈子 基礎高分子科学 高分子学会 編 2010年 第六版 p979899

2) 小澤美奈子 基礎高分子科学 高分子学会 編 2010年 第六版 p99100

3) 金田 勇 逆相マイクロエマルション重合法による水膨潤性ミクロゲルの重合とその増

粘剤としての応用 2010年 p1

4) 小林敏勝 福井寛 きちん知りたい粒子表面と分散技術 日刊工業新聞社 p76

5) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 2006 p839 840 841

6) 皆川基 藤井富美子 洗剤洗浄 百科事典 大矢勝 2007年版 p4647

7) 日本産業洗浄協議会編 わかりやすい界面活性剤 工業調査会 2003 p373839

8) 資生堂 HP httpswwwshiseidogroupjprddevelopmentformulationhtmlより 2015

44取得

9) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 テクノシステム 2006 p321

10) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 テクノシステム 2006 p397

13

398399

11) 遠藤 剛 高分子の合成(上)~ラジカルカチオンアニオン重合~ 講談社 2010 3p

12) 佐藤壽彌編 高分子微粒子の技術と応用 シーエムシー出版 2004 p2526

13) 佐藤壽彌編 高分子微粒子の技術と応用 シーエムシー出版 2004 p27

14) マクマリー 上 8版 東京化学同人 p403404

15) John McMurry マクマリー有機化学(上) 第 8版 2013 p410411

Page 7: ゼオライトとキトサンを用いた 金属イオン除去剤の …kaken/studies/2015/2015-s-all.pdf1 東京理科大学I 部化学研究部 2015 年度春輪講書 ゼオライトとキトサンを用いた

7

エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩

(Ethylenediamine-NNNrsquoNrsquo-tetraacetic acid disodium saltM37224

LD502000mgkg)

通称 EDTA-2NaといわれEDTAを水に溶けさせるためにナトリウム塩としたもので

ある EDTAと同じようにキレート滴定に用いることができる多くの金属イオ

ンと安定なキレート化合物を生成することが知られているキレート化合物の安定性

が高い上に選択性が低いために広く用いられている 16)

PAN指示薬(1-(2-pyridylazo)-2-naphthol indicatormp137 M24900)

1-(2-ピリジルアゾ)-2-ナフトールをメタノールに溶解させた溶液金属イオンを

キレート滴定する際の指示薬として用いられる1-(2-ピリジルアゾ)-2-ナフトール

自体は 2-アミノピリジンジアゾニウム塩と β-ナフトールの反応から得られる橙色

針状結晶である 17)

製造林純薬工業

エタノール(Ethanolmp-11415 bp783 M461LD506200mgkg)

工業的には発酵などから合成され特有の匂いと味のある無色の液体である

溶剤燃料不溶剤などとしても用いられる 18)

8

グリセリン(Glycerinemp20 bp290 M921LD5027200mgkg)

石鹸製造の際など工業的にも用いられている無色粘性で吸湿性をもつ液体である

水エタノールとあらゆる割合で混合することができる湿潤剤として皮膚薬にも

用いられる分析化学においては滴定用溶媒として使われることがある 19)

サリチル酸(Salicilic Acidmp159 bp211 M138LD50891mgkg)

多くの精油中にエステルとして存在する針状の結晶エタノールなどに易溶である

染料の中間体や防腐剤角質溶解剤などに含まれているおよそ 200 で分解して

フェノールとなる分析化学においては鉄イオンなどの呈色剤に用いられる 20)

製造和光純薬工業

塩酸(Hydrochloric AcidM3646LD50900mgkg)

代表的な強酸であり多くの金属と反応して塩酸塩を生じるが貴金属とはほとんど

反応しない刺激性がある工業的には染料や医薬品などに幅広く用いられて

いる 21)

製造和光純薬工業

水酸化ナトリウム(Sodium Hydroxidemp328bp1388M4000

LD50500mgkg)

常温で無色の斜方晶系の固体であり代表的な強塩基潮解性があり通常は水や

二酸化炭素を含んでいる事からmp3184 とする場合もある溶解に伴い発熱

する刺激性がある 22)

希硝酸(Dilute Nitric Acidmp-42 bp826 M6301LD50430mgkg)

無色の吸湿性液体光または熱で分解するため暗所に褐色ビン内で保管する必要が

ある多くの金属に対して酸化剤として働く刺激性がある 23)

天然ゼオライト

製造ゼオライト市場しまねお宝館

9

32 器具

マグネチックスターラー

吸引ビンなど吸引ろ過に用いる器具

恒温槽

pHメーター

ビュレット

メスフラスコ

4 実験操作

41 ゼオライトの洗浄

天然ゼオライトを使用する予定であるがこれには水を懸濁させるような粘土質が

付着していると思われる 3 M の塩酸に 1 日ほど浸けることによりこれを除去する

42 ゼオライトのキトサンによる化学修飾(架橋剤グルタルアルデヒド)

(1)キトサン 05 gを 50times10-3

M塩酸 500 mLに加えた後に天然ゼオライト 125 g

を加える

(2)均一な懸濁液になるまでスターラーで 250 rpmにおいて撹拌する

(3)懸濁液に 1 M水酸化ナトリウム水溶液 75 mLとグルタルアルデヒドを 02 g添加

してゼオライトをキトサンで修飾する

43 ゼオライトのキトサンによる化学修飾(架橋剤グリオキサール)

(1)キトサン 05 gを 50times10-3

M塩酸 500 mLに加え溶解させて天然ゼオライト

125 gを加える

(2)均一な懸濁液になるまでスターラーで 250 rpmにおいて撹拌する

(3)懸濁液にグリオキサール 01 gを添加して水温を 80 に保ち 1時間撹拌して架橋

を行う

(4)1 M 水酸化ナトリウム水溶液を 75 mL加えてゼオライトをキトサンで修飾する

44 修飾済みゼオライトの調製

(1)しばらく静置した後に吸引ろ過を行い固相水相の分離を行う

(2)得られた固相をイオン交換水で洗浄する

(3)1週間ほど乾燥剤と共に保管することにより自然乾燥させる

10

45 種々の含金属廃液の作成

(1)01 M硝酸に各金属イオン標準液を混合させ金属イオン含有量が 5 mgになるよう

に金属イオン含有水溶液を作成する

(2)硝酸と水酸化ナトリウム水溶液を用いて pHを操作しpHが 246の付近になる

ように調製する

46 修飾ゼオライトによる金属イオンの除去

(1)各金属イオンを含む試料溶液に作製した除去剤 50 gを投入しマグネチックスター

ラーで 250 rpm において 1時間撹拌する

(2)吸引ろ過を行い固相水相の分離を行う

<備考>

本実験では作製した除去剤の性能を比較するためにキトサン天然ゼオライト

および2種の修飾済みゼオライトについて金属イオン除去実験を行う予定である

5 評価

51 キレート滴定を用いた金属イオンの定量

511 銅イオンのキレート滴定

(1)試料溶液に酢酸-酢酸ナトリウム緩衝溶液を加えて pHが 25~60に保たれている

事を確認する

(2)エタノールを 50 mL加えた後にPAN指示薬を数滴滴下して溶液を発色させる

(3)001 M EDTA水溶液を滴下して滴定を行う

512 鉄イオンのキレート滴定

(1)試料溶液の pH を確認し酸性が強い場合は 35酢酸ナトリウム水溶液を酸性が

弱い場合は 1M 塩酸を加えて pHを 20~30に調節する

(2)1サリチル酸溶液を 8 mL添加して溶液を発色させる

(3)001 M EDTA水溶液を滴下して滴定を行う

6 実験結果に関する予測

金属イオン除去剤の作製によってゼオライト粒子を内包したキトサン粒状体が得ら

れると予測されるまたグルタルアルデヒドによってキトサンを架橋した除去剤と

比較してグリオキサールを用いた除去剤の方が金属イオンの除去性能が高くなるの

ではないかと期待できる

11

7 参考文献

1)姫路市編集『工場事業所の排水が下水道におよぼす影響』

URL httpwwwcityhimejilgjps90gesuidou_9253_9277html

最新取得日2015年 4月 15日

2)環境省編集 『水土壌地盤海洋環境の保全』 URL httpwwwenvgojpwatermizuhtml

最新取得日2015年 4月 15日

3)知足章宏著 『アジアの開発途上国における水質汚染問題と下水事業への民間参入

(Private Participation)の現況経験』立命館大学 立命館国際地域研究第 23号

2005年 3月発行 p153~156

4) 一般社団法人キチンキトサン学会 『キチンキトサンとは』

URL httpjscckenkyuukaijpspecialindexaspid=1930

最新取得年月日2015年 4月 15日

5) ゼオライト学会 URL httpwwwjaz-onlineorgindexhtml

最新取得年月日2015年 4月 16日

6) 萩中淳ほか著 『パートナー分析化学 I(改訂第 2版)』 南江堂 (2012) p97~98

7)『パートナー分析化学 I(改訂第 2版)』 p116

8) 児玉三明ほか訳 『マクマリー有機化学(中) 第 8版』 東京化学同人 (2013) p703~704

9)『マクマリー有機化学(中) 第 8版』p708~711

10)環境省編集 『環境省 一律排水基準』URL httpwwwenvgojpwaterimpurehaisuihtml

最新取得年月日2015年 4月 17日

11)『化学大辞典』大木道則ほか著 東京化学同人 (2005) p543

12)『化学大辞典』p651

13) 有機合成化学協会編集『有機化合物辞典』講談社 (2004) p248

14)『化学大辞典』p1121~1122

15)『化学大辞典』p1121

16)『化学大辞典』p269

17)『化学大辞典』p1928

18)『化学大辞典』p256~257

19)『化学大辞典』p638~639

20)『化学大辞典』p858~859

21)『化学大辞典』p332~333

22)『化学大辞典』p1172

23)『化学大辞典』p1118~1119

1

東京理科大学Ⅰ部化学研究部 2015年度春輪講書

ケイ酸を用いた無機接着剤 火曜班

Shoji Y (2OK) Arai S(2OK) Abe Y(2K) Takemura R(2K) Matsui T(2K)

1背景

私たちは日々生活している中で接着剤を使う機会が多くあるしかしその接着剤が

まわりに及ぼす影響について考えることは少ないそこで接着剤について調べてみたと

ころ接着剤は大きく分けて 2つのグループに分類できることが分かったまず一般的に

使われているボンドや瞬間接着剤のように有機化合物を主成分とした有機接着剤次に

あまり一般的ではないが金属やセラミックスの接着に用いられる無機化合物を主成分とし

た無機接着剤有機接着剤は簡単に接着することができるなど様々な長所を持つが有機

物の溶媒を用いるため工事現場などで感じる独特な臭いやシックハウス症候群の原因物

質を放出してしまうという短所を合わせ持つそれに比べ無機接着剤は接着方法が高

温で加熱しなければならないという点と有機接着剤よりも接着強度が低いという短所を持

つが耐熱性に優れ特有の臭いもなく溶媒に水を用いるため環境や人体に対する影響

も少ないという長所があるさらに無機接着剤の分野はあまり多くの研究が行われてお

らず発展の余地が残っているのではないかと感じた

2目的

無機接着剤は耐熱性などの長所がある反面強度と耐水性が低いという短所があるこ

の 2つの短所は接着剤として用いるためには重大な問題となるそこで本実験ではケイ

酸を主成分とした無機接着剤に何種類かの金属化合物などの添加物を加えることにより接

着強度と耐水性の改善を目的とする

3原理

31無機接着剤

無機質の接着材料としては一般にガラス系金属系の材料が使用されているがこれ

らの材料は気密性は優れているが接着時にそれぞれの融点や軟化点以上に加熱すること

が必要でありまた接着部分の耐熱性は接着時の温度を上まわることはないという欠点を

有しているこれに対していわゆる無機接着剤は気密性には劣るが低温での接着が可能

であり優れた耐熱性を有するという特徴を持っている無機接着剤は1)無機結合剤

2)硬化剤3)充填剤を主成分として構成される

2

市販されている接着剤の多くは使用の便を考えて一液性であるそのポットライフ(可

使期間)は 3か月から 1年必要とされるので室温で作用する硬化剤は使用できない

1)結合剤

結合剤自体の硬化剤が強い強度と接着力を持つ必要があり現在しようされている無機

結合剤のほとんどはアルカリ金属ケイ酸塩系リン酸塩系シリカゾル系のいずれかで

あり本実験でしようするのはアルカリ金属ケイ酸塩系結合剤である

アルカリ金属ケイ酸塩の水溶液は粘性のある液体であり分子式 M2OnSiO2で表わさ

れMの種類(LiNaKなど)および nの大小によって数多くの種類が生ずるまたア

ンモニウムケイ酸塩やグアニジンケイ酸もある一般には安価なケイ酸ナトリウム(水ガ

ラス)がよく使用される

アルカリ金属ケイ酸塩は水溶液中において種々の量のシリケートイオンモノマーポ

リシリケートイオンおよびコロイド状シリカイオンミセルからなっているこれらの形

態や分布は n 値や濃度に依存しn が大きくなるにつれてポリシリケートイオンミセル

が増加するケイ酸ナトリウムは n が4を越えると水の溶解度は極端に小さくなりn が

3 付近で接着力は最大となるケイ酸カリウムはケイ酸ナトリウムと同じような挙動を示

すがケイ酸リチウムは nが非常に大きくケイ酸分の多い水溶液が得られることが特徴で

ありシリカゾルに近い物性を示すしたがってアルカリ金属ケイ酸塩系結合剤につい

て一般的には耐水性は LigtKgtNa接着力はこの逆の順に良いといわれている

水溶液は強いアルカリ性を示し加熱によってシラノール間で脱水縮合反応を起こし

分子間にシロキサン結合を生じる固形物は融点(軟化点)までずっと非晶質である

2)硬化剤

結合剤は低温で乾燥しただけでは耐水性が不十分であり耐水性の向上のために硬化

剤が添加される硬化剤は耐水性には寄与するが接着力を低下させる場合もあるため

使用目的によっては添加しないこともある一液性の接着剤ではポットライフの要求から

室温で作用するものはあらかじめ添加できないので高温になってはじめて結合剤と反

応するものが選ばれる硬化剤については非常に多くの物質が特許等に提案されている

アルカリ金属ケイ酸塩用の硬化剤にはZnMgCa 等の酸化物水酸化物NaK

Ca等のケイ化物ケイフッ化物Alや Zn等のリン酸塩CaBaMg等のホウ酸塩等が

用いられる

酸化亜鉛による反応機構を LSDGlasserらは次のように示している

反応初期には ZnO粒子の表面で

ZnO + 1198672119874 + 119874119867minus rarr 119885119899(119874119867)42minus

の反応がおこりZn は液中に溶解しOH-が消費されるので pH が下がりケイ酸ゲルが

3

粒子表面に析出する以後はこのケイ酸ゲル層を通して OH-が粒子表面へ拡散しZnOと

反応して Zn(OH)2として固定されるためさらにケイ酸ゲルの析出が行われ酸化亜鉛表

面へ無定形シリカが沈積する

3)充填剤

充填剤としては結合剤との反応性の小さい耐火物粉末が使用される結合剤は加熱脱

水により大きな体積収縮を生じひび割れが発生するのでこれを防ぐため充填剤を添加し

て固体分率を高くするまた粒子間の空隙は水分蒸発の逃げ道となり発泡を防ぐ接着

剤の熱膨張を被着材へ合致させることも重要な役割である

さらに一液性の接着剤ではリン酸塩系におけるアルミナ粒のように室温では反応し

ないが温度を上げていくと結合剤と反応し硬化作用をして耐水性を付与することもある

その他耐火性接着強度熱伝導性電気特性耐薬品性耐摩耗性の向上に重要な

働きがある充填剤の種類に加え粒径粒径分布表面活性等に調整することが必要で

数種の充填剤を混合することが多い

4)核剤

核剤は力学特性成形性成形時の生産性の改良などを目的として種々の結晶性高分子

で利用されている特にポリプロピレンにおいては核剤を添加することにより剛性や耐火

性(熱変形温度)あるいは透明性など諸問題が大幅に改良され高機能化による用途拡大

や成形品の薄肉化軽量化が可能となりさらには短時間で結晶化が完了することから成

形時の生産性も大幅に短縮されコスト削減はもとより省資源省エネを影から支えてい

核剤には工業的な側面から主に力学特性を改善する「核剤」と特に透明性を改良する

効果が高い「透明化剤」とよばれるものがある核剤も透明化剤も高分子の結晶化過程

における基本的な作用機構は同じでありその本質はエピタキシーにあるつまり高分子

融体が結晶化する過程で高分子鎖が結晶化しやすいように「場」(核剤の表面)を提供す

るものである核剤はまた「造核剤」とよばれることもあるが核剤透明化剤とも物理

化学的には高分子に対し同じ作用をしているといえる溶媒中に溶解している溶質が種晶

の添加により析出が促進される現象を想像されたいまさに核剤は高分子融体中に添加

されこれが核となって高分子の結晶化が促進されるのである

4

Fig3-1 核剤の表面からの高分子結晶の成長

a)力学特性の改善

自動車や家電部品の樹脂化率は年々高まり特に自動車においては内外装問わずポリ

プロピレンが多用されるようになった当初はあまり重要でない部分への利用であったも

のの最近ではバンパーフェンダーライナーフロントグリルカウルパネル各種リ

ザーバータンクドアパネルピラーダッシュボードサンバイザーコンソールボッ

クスなどありとあらゆる部分に用途開発が進んでいる高分子材料による金属代替今後

もさらに進められると思われるその理由としては自動車の軽量化はもちろんのこと

設計の自由度(一体成形や金属ではデザインしにくい曲線曲面を複雑に有する部品など)

があげられる自動車部材では機能的に高剛性が求められるものや夏場に高温にさらさ

れる内装部品などは高耐熱性(高い熱変形温度)が求められるものなどがほとんどであり

このような要求性能に応えるべくポリプロピレンに核剤が添加されている

核剤が存在する場合高分子の結晶化が促進され融体の冷却過程においてより高い

温度(より融解温度に近い温度)から結晶化が開始するそのため核剤存在下での結晶化

過程では核剤非存在下での結晶化過程に比較して高分子鎖の運動性が高い状態で結晶

化が開始する核剤を添加した高分子の結晶化開始温度を示差走査熱量計などで測定する

と結晶化が高い温度から開始することも確認されるその結果高分子結晶の欠陥は減

少しまた結晶化度も増大する核剤存在下で結晶化させた高分子結晶は欠陥も少なく

またラメラ厚も厚くなり融解温度が高くなるそのような効果により成形後の高分子

材料の力学特性耐熱性が改善する

5

Fig3-2 核剤の添加のよるポリプロピレンの曲げ弾性率の改善効果

()アデカスタブ NA-11()Hyperform HPN-68 L

()安息香酸ナトリウムポリプロピレン

Fig4-2に核剤の添加によるポリプロピレンの曲げ弾性率の改善効果について示したま

ず核剤を添加することでしかも僅か 01~03 wt程度の添加で曲げ弾性率が劇的に向

上していることが分かるその中で比較すると汎用である安息香酸ナトリウムや HPN-68

Lでは弾性率の改善はあるものの(おおよそ 30の弾性率改善)01 wt程度の添加で改

善効果は飽和する添加物を加えることで剛性耐熱性を大幅に改善できることがわかる

このような改善効果は自動車用に多用されるポリプロピレンのグレードであるインパクト

コポリマーにおいても同様であるさらに核剤の添加により結晶化が促進された結果成

形時間も短縮でき高性能化と相まって生産性改善によるコストダウンも可能となる核

剤はもとのポリマーが有する特徴を損なうことなく物性を改善できるといったメリット

があるといえる

32 縮合重合反応

二つの化合物から水などの簡単な分子が脱離して新たな結合が形成される反応を縮合反

応とよぶカルボン酸とアルコールからエステルを得る反応は縮合反応の一例である

縮合反応を繰り返すことによりポリマーを合成することができるこれが脱水縮合反応

であるたとえば 2個のカルボキシ基をもつ分子と 2個のヒドロキシ基をもつ分子を反応

させると縮合反応が連続して起こりポリマーが得られる本実験では Fig3-3 の反応が

起こる

6

Fig3-3 ケイ酸の脱水縮合反応

33 接着の原理

接着剤による接着効果には複数の理論が挙げられており賛否両論あるものもあるま

た個々の接着現象においても複数の接着効果が絡み合っていることが多く接着効果の

検証は困難であるとされるある接着系では適用できる接着効果が別の系ではまったく無

力ということも多い以下に主な接着効果の理論をあげる

1) アンカー効果

雲母を注意深くはがしたようなごくわずかな例外を除きすべての固体表面は数Åオ

ーダーの粗さを有する例えば機械で製造される金属表面の粗さは 3~6 μmであり研

磨した場合でも 002~025 μmである

アンカー効果とはこのような被着材の凹部に流入した接着剤が固化し被着部に引っかか

ることにより界面が結合するというものであるアンカー効果のような界面との相互作

用を無視した接着効果理論を機械的結合論という

開口部を有するクレバスへの液体の流入について理論式が提案されている

以下の 2式は液体の粘度 η接触角θの液体が深さ Zまで浸透するまでの時間 tを表し

(a)開口部の幅がδの平行板の場合

Zdz

dt=

120575119910

120575120578120574 cos 120579

(b)開口部δ深さ Z0の V型溝の場合

11988501198971198991198850

1198850 minus 119885minus 119885 =

120575120574 cos 120579

6120583119905

となる式によれば開口部が大きくぬれがよく粘度の低い液体ほどまた時間をかけ

たほど深くまで侵入できるとされる

7

Fig3-4 アンカー効果

2)分子間相互作用

ふたつの物体の接着面で分子同士が接触するところで互いにひきつけあう力が働くこと

で接着するとするもの代表的なものにファンデルワールス力結合水素結合が存在す

3)化学的結合

界面に化学結合が存在することで接着強さに寄与するとするものである古くから提唱

されている説であるが化学結合の存在の証明が難しく接着系の界面に本当に化学結合

が存在するのかは十分に検証されなければならないとされる

4)表面自由エネルギーと表面張力

物質の内部と表面では性質が異なる内部の分子は周囲を分子に囲まれており分子間

力で互いに引き合うため安定化されるこれに対し表面の分子には周囲を囲む分子が内部

に比べて少なく内部分子と比べて不安定=エネルギーが高いということになるこの余

分のエネルギーを表面自由エネルギーと呼ぶ

表面積が小さいほど表面自由エネルギーは少なくなるため物質の表面では表面を

小さくしようとする力が働くこの力を表面張力と呼ぶ

5)ぬれと接着角

固体表面に液体が存在するとそれぞれの表面自由エネルギーとその間の界面自由エネ

ルギーとのバランスによって液体が広がり固体表面が液体表面に置き換えられるこの

現象がぬれである固体表面のぬれは材料表面の親水性疎水性や接着強度と直接関係

しているため接着の分野ではきわめて重要である固体表面に液滴を落とすと個体の

表面張力γS と液体の表面張力γL 固体と液体の界面張力γSL が釣り合うことによってあ

る角度θで平衡になるこのとき固体と液体空気の境界点 A における力の水平成分の

釣り合いから次式の Young-Dupreの式が得られる

120574119878 = 120574119878119871 + 120574119871 cos 120579

8

自然状態では表面張力により液体は球状になるこの式は固体表面上での液体を広げよ

うとする力と球状を保とうとする力のつりあいの式である

Fig3-4 固体表面上の水滴

また界面自由エネルギーγ12 で接着している二種類の物質を引き離し表面自由エネルギ

ーγ1γ2をもつ二つの物質に分けるのに必要な仕事(これを接着仕事という)Waとすると

119882119886 = 1205741 + 1205742 minus 12057412

であらわされるこれを Dupreの式と呼ぶ接着仕事とはふたつの物質を引き離すのに必

要な仕事であるからWaの値が高いほど接着強度が強いということになる

個体と液体との関係においてこれら二式をあわせると

119882119886 = 120574119871(1 + cos 120579)

を得るこれを Young-Dupre の式という液体の表面張力と接触角から接着材の接着強

度が分かるという式になっている

6)接着力低下因子と表面処理

接着は清浄な面と面の接触が前提である金属表面は清浄であれば 1000~3000 mNmの

表面張力があるはずであるが大気中では数十mNmの値をしめすこれは異物が付着した

り酸化されていたりするためである特に表面がもろい物質でおおわれていると剥離時に

もろい面での剥離が起こり見かけ上弱い接着強度となる事がある

このような金属表面の表面張力の低下を防ぎアンカー効果において適切な凹凸を金属表

面に付与し接着強度向上を図るために洗浄と研磨を行うのが望ましい

5実験方法

41使用する器具

100 mL ビーカーガラス棒ホールピペット安全ピペッターピンセットキムワイ

プ電気炉2 L ペットボトル紐アルミ角材(10 times 30 times 30 mm)サンドペーパー

はけ

9

42試薬の物性

ケイ酸ナトリウム a)

ケイ酸のナトリウム塩で種類が多いいわゆる水ガラスも多くの場合はケイ酸ナトリウム

であるがその組成は安定していない単一物質として得られているものだけでもメタ

ケイ酸ナトリウム Na2SiO3およびその種々の割合の水化物オルトケイ酸ナトリウム

Na4SiO4二ケイ酸ナトリウム Na2Si2O5四ケイ酸ナトリウム Na2SiO9 などがあるオ

ルトケイ酸ナトリウム Na4SiO4=18405二酸化ケイ素と水酸化ナトリウムを適当な条件

で融解すると得られる水溶液で両者を反応させたのではオルトケイ酸ナトリウムの結晶

は得られずにメタケイ酸ナトリウムの水化物になってしまう無色六方晶系の結晶酸

と加熱していると二酸化ケイ素が沈殿している

酸化マグネシウム b)(MgO)

式量 4030

融点 2852

沸点 3600

一般にアンモニウム塩水溶液に溶けるがエタノールに不溶空気中で水と二酸化炭素を

吸収し炭酸水酸化マグネシウムに変化する水と反応して水酸化マグネシウムとなる耐

火レンガマグネシアセメントの製造原料医薬品として制酸剤の原料となるほか触媒

または吸着材ゴム工業にも用いられる

酸化亜鉛 c)(ZnO)

式量 8138

密度 547 gcm3

無定形の白色粉末水にはほとんど溶解しないが両性酸化物で希酸や水酸化アルカリ

水溶液アンモニア水に溶解する空気中で湿気と二酸化炭素を吸収する白色顔料とし

てペイント絵の具などに用いられるほか粒子の細かいものは医薬品化粧品として用

いられる

酸化カルシウム d)(CaO)

式量 5608

融点 2572

沸点 2850

密度 340 gcm3

10

酸に可溶空気中の湿気を吸収して水酸化カルシウムとなりまた空気中の二酸化炭素を

吸収して炭酸カルシウムとなる水と反応して水酸化カルシウムとなるしっくいモル

タルなどの建築材料石膏さらし粉消石灰の原料医療用に用いられる医療用に用

いられる酸性土壌改良にも用いられる

炭酸カルシウム e)(CaCO3)

式量 10009

融点 1339

二酸化炭素を含む水には炭酸水素カルシウムとして溶解する酸には二酸化炭素を発生し

て容易に溶ける加熱すると二酸化炭素と酸化カルシウムに解離する

二酸化ケイ素 f)(SiO2)

式量 6009

低温ではフッ素フッ素酸水素酸だけが反応する高温では他のハロゲン元素とも反応す

る水酸化アルカリ炭酸アルカリと融解すると水溶性のアルカリケイ素酸塩となる

43実験操作

431被接着面の均一化

1)10times30times30 mmのアルミ角材の表面をサンドペーパーで汚れがなくなるまで削る

2)削った表面をアセトンで洗浄する

3)洗浄が終わったアルミ角材の重量を測り記録する

432ケイ酸ナトリウムのみの接着剤の作製

1)100 mL ビーカーにケイ酸ナトリウム 50 g を加え粘り気が残るぐらいまでイオン交換

水を加えガラス棒で撹拌する

2)アルミ角材の 10times30 mm の面にはけを用いてケイ酸ナトリウム溶液を均一になるよう

に塗りアルミ角材を重ね合わせる

3)150にセットした電気炉に接着面がずれないように慎重に置き 1時間焼成する

433添加物を加えた接着剤の作製

1)100 mLビーカーにケイ酸ナトリウム 50 g添加物(酸化マグネシウウム酸化亜鉛

酸化カルシウム炭酸カルシウム二酸化ケイ素)を 010 gから 010 gずつ 20 gまで加

え粘り気が残るぐらいまでイオン交換水を加えガラス棒で撹拌する

2)アルミ角材の 10times30 mm の面にはけを用いてケイ酸ナトリウム溶液を均一になるよう

に塗りアルミ角材を重ね合わせる

3)150 にセットした電気炉に接着面がずれないように慎重に置き 1時間焼成する

11

5評価方法

51接着強度の評価

1)432433で接着したアルミ板にひもとペットボトルを用いて Fig5-1のように設置す

アルミ角材

Fig5-1 接着面の破壊

2)ペットボトルに少しずつ水を加え接着面が完全に離れた時点を破壊終了点とする

3)破壊終了点でのペットボトルに入っている水の重量を計測する

52耐水性の評価

1)接着したアルミ角材に水をかけ接着面の変化を観察する

6予想

添加物を加えることで接着強度の増加が期待されるしかし大量に添加物を加えてし

まうとケイ酸の割合が小さくなり接着強度は減少してしまうと考えられ添加物の量と接

着強度の関係性をグラフ化するとある値までは増加しその値を超えると減少していくグ

ラフが得られると考えるそこから最も接着強度が高まる添加物の量を測定する

また添加物が硬化剤の役割をし耐水性の改善も予想される

参考文献

1)日本接着学会『接着剤データブック第 2版』日刊工業新聞社1990P228~229

2) 三刀基郷『トコトンやさしい接着の本』日刊工業新聞社2003P56~67

3) セメダイン(株)『よくわかる接着技術』日本実業出版社2008P34~37

PET

Crash

12

4) ユージン Gロコー『ケイ素とシリコーン』シュプリンガーフェアラーク東京株式

会社1990 P85~113

5) 大木道則大沢利昭田中元治千原秀昭『化学大辞典』東京化学同人1989

b)P884 c)P865 d)P867 e)P1368 f)P1669

6)下井 守村田 磁『大学生のための基礎シリーズ 3 化学入門』東京化学同人2005

P229

7) 吉村壽次『化学辞典第 2版』森北出版2009a)P425

8)大勝 靖一『高分子添加剤の基礎化学と材料設計』株式会社 CMC出版2008P219~235

9)httpwwwfacekyowacojpsciencetheorywhat_contact_angleimg01jpg

2015416取得

1

東京理科大学Ⅰ部化学研究部 2015 年度春輪講書

シクロデキストリンを用いた

包接化合物の生成

水曜班

Ikemura M(2C)Ebihara K(2C) Kataoka T(2K)

ShibasakiK(2OK)TsumedaT(2C)NakaA(2OK)Murakoshi R(2OK)

OkawaT(2C)NoguchiA(2K)SekiguchiK(2K)HashimotoY(2C)

1 動機

6~8 分子のグルコース単位からなるα―14結合の環状オリゴ糖であるシクロデキストリ

ンはその環状構造に由来する包接化合物を生成する性質を示すその特異的な包接形成能

を利用した多くの製品が存在し現在もなお基礎研究分野応用研究分野での研究が行わ

れている

そこで私たちは 7 分子のグルコースからなるβ-シクロデキストリンと 3 種類のカルボン

酸を用いて包接化合物を形成させ酸の構造の違いによる包接作用の比較検討及びシクロ

デキストリンの一部のヒドロキシ基をエステル化させ水に対する溶解性及び包接形成能が

どのように変化するか考察する

2 原理

21 包接化合物

包接化合物は Schlenk によって名づけられたもので定義によると原子または分子が

結合してできた 3 次元構造の内部に適当な大きさの空孔があってその中に他の原子また

は分子が一定の組成比で入り込んで特定の結晶構造をつくっている物質ということにな

っている前者の骨組み構造の化合物のほうをホスト分子後者の入り込んでいる分子の

ほうをゲスト分子ともよんでいるがこのゲスト分子の大きさや形状はまったくホスト

構造によって規定されるだけで両者の間には弱い相互作用があっても水素結合のよう

な力はなくてもいっこうに構わないのであるこの包接化合物でのゲスト分子とホスト

構造との間の相互作用というのも物理的な吸着系に近いもので非常に弱い van der

Waals 力から高度に配向した双極子間力まで種々のものが存在する 1)

22 シクロデキストリンの包接能

シクロデキストリンはグルコース残基がα-1α-4 結合した環状のオリゴ糖で一般的

にグルコース残基が 6 個のα-シクロデキストリン7 個のβ-シクロデキストリン8個の

γ-シクロデキストリンが知られている

2

Fig1 α-シクロデキストリンの分子構造

シクロデキストリンの構造は底の抜けたバケツやドーナッツのような構造をしており

その環状構造の外側は多くの水酸基に由来する親水性領域が存在し内側の空洞の CH 基に

由来する疎水領域と相反する極性が一つの分子に共存しているがこの空洞内に様々な有

機化合物などを取り込むという包接作用がもっとも特徴的である

三種類のシクロデキストリンはそれぞれ空洞の大きさが相違するためそれぞれ包接化

合物を形成しやすいゲスト分子が存在する内部空洞が比較的小さいα-シクロデキストリ

ンは比較的小さい分子例えばエタノールメタノール等をβ-シクロデキストリンは汎

用性が広く各種ポリフェノールコレステロールメンソール等の香気成分芳香族化

合物等をよく包接するγ-シクロデキストリンは大きい分子である脂肪酸などを包接する

ことが知られている

シクロデキストリンの包接力の原動力は疎水性相互作用と分子間力が主なものとされて

いるつまりゲストは疎水性の高い分子あるいは分子の大きさが空洞にぴったりとフィッ

トするものほどシクロデキストリンがそのゲストを包接する力は大きく包接物を作り

やすい傾向がある逆に親水性が高くシクロデキストリンの空洞にフィットしないよう

なゲスト分子では包接現象は起こりにくいといえるしかしゲスト分子全体がシクロ

デキストリンの空洞内にとりこまれる必要はなく部分的にでも疎水性が高く空洞にフィ

ットすれば包接が可能となるつまりゲスト分子全体がシクロデキストリンより明ら

かに大きいものでも包接作用による効果が観察される場合がある 2)

Fig2 シクロデキストリンがゲストを包接する様子

23 水溶化シクロデキストリン

3

ブドウ糖やショ糖など通常糖質の水への溶解度は非常に高いしかし天然型シク

ロデキストリンは隣接する水酸基との水素結合の為3 種のシクロデキストリンの中では最

も高い水溶性を有するγ-シクロデキストリンであってもその溶解度は 25において水

100 mL に 23 g であり油性物質を包接した場合は一般的にその溶解度はさらに低くな

るそこで水への溶解度を改善するためにシクロデキストリン化学修飾体が製造されて

いるシクロデキストリンの水溶性を向上させる方法として隣接する水酸基をメチル基や

アセチル基などでエーテル化やエステル化する方法がある具体的には部分メチル化β-シ

クロデキストリンやモノアセチル化β-シクロデキストリンが工業的に生産されている

24 包接能の評価について

今回の実験ではゲスト分子としてカルボン酸を用いるシクロデキストリン及び水溶化

シクロデキストリンの包接能の評価については包接化合物に含まれているカルボン酸をア

ルカリで滴定することで求めることができる

3 実験

31 試薬sup3⁾

アジピン酸

分子式C6H10O4

分子量1464

mp153

bp3375 アジピン酸

クエン酸

分子式C6H8O7

分子量19213

mp156~157

クエン酸

シュウ酸

分子式C2H2O4

分子量9004

mp1895

シュウ酸

4

βシクロデキストリン

分子式(C6H10O5)7

分子量113500

n-ブタノール

分子式C4H10O

分子量7412 β-シクロデキストリン

bp1179

エタノール

分子式C2H6O n-ブタノール

分子量4607

mp-1145

bp7833

水酸化ナトリウム

組成式NaOH

分子量4000

mp328

bp1388

無水オクタン酸

分子式C₈H₃₀O₃

分子量27041

mp-1 無水オクタン酸⁶⁾

濃硫酸

分子式H₂SO₄

分子量9808

mp104

32 使用器具

300 mL ビーカーメスフラスコピペット三角フラスコ吸引漏斗吸引瓶ビュレッ

トスタンドボウルガラス棒

5

33 実験操作

331 エステル化シクロデキストリンの合成 ⁵⁾

1)三角フラスコにβ-シクロデキストリン 1 g を入れこれに無水オクタン酸 025 mL を加

える

2)触媒として 2-3 滴の濃硫酸を添加し攪拌する

3)約 10 分間放置してフラスコを氷桶に入れて冷やしガラス棒でフラスコの壁を強くこす

り結晶を析出させる

4)水 20 mL を加えさらに氷桶で冷やしながら残る結晶を析出させる

5)この結晶を濾分し水で洗ってから取り出して乾かして結晶を得る⁵⁾

332 包接化合物の形成

1)β-シクロデキストリン 1 g を水 100 mL に溶解させる

2)ピペットで 1 mL のカルボン酸を加えコルク栓をして静置する

3)1 週間程静置し包接化合物を吸引濾過する

4)上記の操作をカルボン酸(酢酸シュウ酸クエン酸)で行う

5)エステル化シクロデキストリンで同様の実験を行う

333 包接能の測定

1)よく乾燥した包接化合物約 1 g をメスフラスコで 100 mL 溶液とする

2)この溶液 20 mL にフェノールフタレインを指示薬として20 mL 加え 01 M 水酸化ナト

リウム標準溶液で滴定する⁴⁾

334 溶解度の測定

1)100 mL の水に 5 g の β-シクロデキストリンを溶解させる

2)沈殿をろ過し乾燥して重量を測定する

3)エステル化 β-シクロデキストリンで同様の作業を行う

参考文献

1) 竹本喜一包接化合物の化学東京化学同人1969p2

2) 辻堅司シクロデキストリンの応用技術株式会社シーエムシー出版2008p3-p9

3) 大木道則大沼利昭田中元治千原秀明化学大辞典東京化学同人1989

4) 発田寿々子教養の化学実験第 2 版学術図書出版社2014p119

5) 南篠正男先生と生徒のための化学実験共立出版株式会社1986p155

6) 「 chemical book 」〈 wwwchemicalbookcomchemicalProductPropert_JP_CB 〉

(2015418 アクセス)

1

東京理科大学Ⅰ部化学研究部 2015年度春輪講書

ダブルネットワークの合成と評価 木曜班

OnizukaM(2C)TanakaR(2C)YamamokaH(2K) OhiraM(2K)

1背景

現在高分子ゲルは紙おむつの高吸水性樹脂やソフトコンタクトレンズなど私たちの生

活において活躍しているしかし高分子ゲルは不均一な構造なため一般的に機械的強

度が弱いという欠点がある高分子ゲルの強度面での弱点を克服するために従来では

ゲルの構造を均一化して強度を上げるというアプローチがとられてきた

しかしながら材料の弾性とじん性は反相する因子として働くつまり大変形に耐え

られるゲルは弾性率を犠牲とし高弾性のゲルは小さい変形で破壊される

そこで私達木曜班は前述の問題の解決策と成り得るものとしてダブルネットワーク

ゲル(DNゲル)について注目した

2目的

既存に作られている DNゲルは溶媒に水を用いたハイドロゲルであるDNゲルはその

強度や柔軟性により生体内での人工関節に使用することが期待され研究がおこなわれて

いる木曜班では DNゲルを生体内の関節だけでなく機械の関節部の摩擦軽減材料として

の使用を提案するしかし従来の DNゲルは溶媒が水であることにより水の沸点である

100以上の条件下では性能の低下が問題視され高温になりうる機械への応用が困難で

ある

溶媒を水から有機溶媒に変更することで高温条件下でのゲルの機能維持を試みるとと

もに使用するモノマーを変更しその機能性を検討する

3原理

31 DNゲル

311ゲルの脆弱性

一般的なゲルはゼリーや豆腐のように僅かな力を加えただけで簡単に壊れるほど

弱いこの理由は 2つの現象により説明することができる

1)ゲルの内部に多数の欠陥が存在する

2)欠陥から発生した初期亀裂が容易に伝播する

前者はゲル内部の構造が不均一であることに由来するゲル合成時におけるモノマ

ーと架橋剤の反応性の違いにより不均一な重合がおこるあるいはゲル化溶液内の濃度

揺らぎが重合によって固定されることだと考えられている 1)こうしたゲルに力を加えた

2

時にゲルの弱い部分に力が集中してしまうため小さな力でも初期亀裂が生じてしまう

後者はゲル内部のポリマーの密度の低さから生じる一般的に物質内における亀裂

の進みやすさは破壊エネルギーU(Jm2)(単位面積あたりの破断面形成に費やされる仕事)

によって評価される架橋高分子材料の臨界破壊エネルギーUc(亀裂成長が起こる最小

の破壊エネルギー)は破断面の高分子鎖の数密度と架橋点間分子量に比例する 2)つま

りゲルのじん性(物質の破壊に対する抵抗の程度で粘り強さとも言い換えられる 3))はゲ

ル内のポリマーの密度には比例し架橋密度には反比例することがわかる

ゲルは 50~99wtの溶媒を含んでいて高分子の密度が非常に低い物質であるためゲ

ルの Ucはゴムなどの固体に比べてかなり小さいことが考えられる

これまでの高強度ゲル研究は主に前者の問題を解決するすなわち構造を均一化するこ

とでゲル内部の欠陥を極力減らして強度を改善しようという観点から行われてきた

312 ゲルの弾性率

高分子鎖が三次元架橋されたゲルはゴムと同じようにエントロピー弾性を持つ溶液

中に完全に湿潤した電気的に中性ゲルのせん断弾性率(横方向に対するバネ係数 4)であり

Young率 Eと E=3Gの関係式が成立する)は

GneucongkBT

b3Q-225

以上の式で表せられゲルの湿潤度 Qの増加にともないせん断弾性率Gneuは大きく低下

するここでkBはボルツマン定数Tは温度bは重合させたモノマーの大きさである 5)

一方溶液中に完全に湿潤した電解質ゲルのせん断弾性率は

GchacongkBT

b3Q-1

によって表せる 6)よって同じ湿潤度において電解質ゲルは中性ゲルよりせん断弾性率が

高いことが分かる

またゲルの湿潤度は架橋点重合 N(分子量)による溶液中に完全に湿潤した中性ゲル

の場合QasympN35であり電解質ゲル場合QasympN

32であるしたがって架橋密度を上げる

ことによりゲルの湿潤度が小さくなりせん断弾性率が上がる 3)4)

313 ゲルの破断歪と破断応力

架橋構造が均一と仮定した理想的なゲルの破断歪(ゲルが破壊するまでの変形 7))は架

(1)

(2)

3

橋点間高分子の伸びきった長さと高分子鎖に歪がない曲がった自然な状態での大きさ

の比として求められる溶媒中で完全に湿潤した中性ゲルの引っ張り破断歪はλBcongQ12で

ありQの増加により増加する一方湿潤することにより単位面積あたりの高分子

の本数が減るため破断応力は湿潤度 Qが大きくなることにより減少する故にQが大

きいゲルは伸びやすいが弱い応力で壊れる

電解質ゲルの場合高分子鎖はその解離しているイオンの浸透圧によって水中では

ほとんど伸びきった状態となっているその結果理想状態においても破断歪はλBcongQ19

になるこれは破断歪が小さくかつ湿潤度にあまり依存しないことを意味している 5)

以上のことより

1)架橋密度を上げる(架橋点間分子量を下げる)ことでゲルが固くて脆くなる

2)水中に完全に湿潤した高分子電解質ゲルは中性のゲルより硬くて脆い高弾性と変形は

相反するということが考えられる

314 DNゲルの高強度機構

DNゲルは強電解質をモノマーとする 1st networkゲル電気的に中性なモノマーを用

いる 2nd networkゲルを組み合わせることにより生成される前述した通りゲルにおける

弾性と靭性は常に相反する働きをするそれゆえに単一な物質で両方の性質を得るこ

とは原理的には不可能である同じ湿潤度において電解質ゲルと中性ゲルのせん断弾性

率の比はGchaGneucongQ125であるために両者の違いは湿潤度 Qが高いほど大きくなる

この性質を利用することにより電解質ゲルは硬い成分中性ゲルは軟らかい成分とし

て用いることができる

亀裂を含む DNゲルがある引張荷重を受けると応力集中の効果で最初に亀裂先端近傍

の電解質網目(1st network)が破壊され局所的にゲルが降伏する荷重がますと電解質網

目の破壊が次々に伝播し広範囲にわたるダメージゾーンが形成されていくこの過程

で非常にいい気なエネルギーが分散されるダメージゾーンがある大きさまで広がった

ときようやく亀裂先端に中性網目(2nd network)が十分に伸びて切断し亀裂が進行す

る 8)

4

Fig 1 DNゲルの破壊モデル 9)

32 光ラジカル重合

321 光分解

光重合開始剤に UVを当てることにより開裂がおきラジカルが発生する本研究にお

いては 1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンを用いる 10)

Scheme1 1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンの開裂 10)

ℎ120592

5

322 開始反応

UVを当て光開裂により生じたラジカルがビニル基の二重結合を攻撃し光重合開始剤

と炭素の間に σ結合を作り炭素原子にラジカルが存在することになる

Scheme2 ラジカルの生成

323 成長反応

Scheme2で生成したラジカルが他のモノマーを攻撃しσ結合を生じるそれが何回

も起こることにより分子鎖が成長する 6)

Scheme3 分子鎖の成長

324 停止反応

Scheme 3で成長した成長ラジカル同士が σ結合を作り分子鎖が生成する 7)

Scheme4 分子鎖の生成

4実験

41 DNゲルの合成

411 使用器具試薬

ビーカー乳鉢乳棒薬さじUVライトデシケーター

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸

分子式 C7H13NO4S

式量20724

融点160

用途1st networkゲルのモノマー

6

アクリル酸

分子式C3H4O2

式量7206

融点123

沸点1416

比重10511

危険性引火性(発火温度 360 )

用途1st networkゲルのモノマー

アクリロニトリルの加水分解アクロレインの酸化ニッケルカルボニルの存在下ア

セチレンと一酸化炭素と水との反応などにより合成される酢酸に似た刺激臭を持つ液

体水エタノールエーテルによく溶ける酸素の存在下容易に重合するプラス

チックの原料として用いられる

アクリルアミド

分子式C3H5NO

式量7108

融点845

沸点103

比重1122

用途2nd networkゲルのモノマー

アクリルニトリルを硫酸あるいは塩酸を処理して得られるフレーク状の結晶溶解

性(g100 ml溶媒30 )水 2155メタノール 155エタノール 862アセトン 631

酢酸エチル 126クロロホルム 266ベンゼン 0346ヘプタン 00068化学的に不安

定で冷暗所に保存する必要がある融点付近あるいは紫外線下で重合する重合の仕方

により水溶性不溶性のものが得られる

酢酸ビニル

分子式C4H6O2

式量8609

融点-932

沸点723

比重09317

用途2nd networkゲルのモノマー

無色の液体酸やアルカリよって容易に加水分解されてアセトアルデヒドと酢酸を生

じる熱光ラジカル開始剤によって重合する

7

メタクリル酸メチル

分子式C5H8O2

式量10012

融点-48

沸点1003

比重0936

用途2nd networkゲルのモノマー

無色透明で催涙性の芳香のある液体工業的にはアセトンシアノヒドリンにメタノー

ルと硫酸を作用させて合成する実験室的にはメテクリル酸メチルの重合物を 320

以上で乾留すると得られる一般に有機溶媒には溶けるがエチレングリコールグリセ

リンには溶けにくい重合しやすいので重合禁止剤としてヒドロキノンモノメチルエ

ーテル(65 ppm)を添加して保存する有機ガラスの製造ビニル系共重合体など広く

重合反応に用いられるまたメチル以外のアルコールのメタクリル酸エステルの合成

にも用いられる

NN-メチレンビスアクリルアミド

分子式C7H10N2O2

式量15417

融点300

用途架橋剤

1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン

分子式C13H16O2

式量20427

融点47-50

用途光重合開始剤

最大吸収波長は 260 nm付近にある

エチレングリコール

式量6207

融点 -126

沸点1976

比重11132

8

用途ゲル溶媒

重要な二価アルコールでエチレンオキシドの酸触媒による開環高温高圧下水と

の反応による開環などによって合成される吸湿性無色無臭の液体甘味を有する

が有毒である高沸点を有ししかも水酸化カリウム水酸化ナトリウムを溶解し水や

エタノールと任意の割合で混合するので有機合成における溶媒として広く用いられ

また塩基に対して安定なエチレンケタールの生成によるカルボニル基の保護に用いら

れるさらに酢酸ビニル系樹脂の溶剤や水と混ざり高沸点のため不凍液に用いら

れるなど広い用途を持っている

412 1st networkゲルの作成

1) 1st networkゲルのモノマー(電解質モノマー)架橋剤(NN-メチレンビスアクリルア

ミド)と光重合開始剤(1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)を水に溶解させた水

溶液を調製する

2) UVを 8時間照射して光ラジカル重合をさせる

3) 2)で合成した電解質ゲルを乳鉢に入れ適当なサイズに砕いた後デシケーター内で一

週間ほど乾燥させる

413水溶媒 DNゲルの作成

1) 2nd networkゲルのモノマー(中性モノマー)架橋剤(NN-メチレンビスアクリルアミ

ド)光重合開始剤(1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)をエチレングリコールに

溶解させた溶液を調製する

2) 乾燥した電解質ゲルを 1)で調製した水溶液に入れ電解質ゲルを十分に膨らませるそ

の後UVを照射し中性モノマーを光ラジカル重合させる

414エチレングリコール DNゲルの作成

1) 2nd networkゲルのモノマー(中性モノマー)架橋剤(NN-メチレンビスアクリルアミ

ド)光重合開始剤(1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)をエチレングリコールに

溶解させた溶液を調製する

2) 乾燥した電解質ゲルを 1)で調製したエチレングリコール溶液に入れ電解質ゲルを十分

に膨らませるその後UVを照射し中性モノマーを光ラジカル重合させる

42 DNゲルの評価

421引っ張り試験

使用するモノマーの変化によるゲルの性質の差を評価する引っ張り試験は

JIS-K-6251-7号に準拠する方法で測定する

9

1)DNゲルを X方向の長さ 50 mmY方向の長さ 75 mmZ方向の長さが 25 mmの大

きさに成形する

2)その一端部に X-Y平面に平行な切込みを入れて2つの引張端部を形成する

3) 引張端部を片方は固定しもう片方を一定の速度で引っ張るこのときの引っ張る力 F

を測定する

Fig 2 引っ張り試験 13)

422 摩擦試験

使用するモノマーの変化溶媒の変化によるゲルの性質の差を評価する

摩擦試験は東京理科大学工学部第一部機械工学科佐々木研究室に依頼する予定である

用いる機械は SVR4パーカー熱処理工業株式会社製であり180での高温での摩擦係

数の測定が可能である

摩擦測定は常温(20 )と高温(100 )で測定することを予定している

10

5 展望

51 DNゲルの合成

実験操作は溶液を調製した後UV照射するという簡易な手順なので合成は比較的早い

段階で成功すると考えられる

1st networkゲル合成に使うのは電解質モノマーなため水溶液のモノマーの濃度が低

いと湿潤度 Q が大きくなりせん断弾性率が下がり剛性が弱いゲルが出来上がると考え

られる

架橋剤を多く使用すると架橋密度を上がるので 2nd networkゲルが入り込む空洞が小

さくなるそのために架橋剤が多すぎると高弾性のゲルが生成できると考えられる

また同様な考えで2nd networkモノマーが含まれている水溶液に乾燥させた1st network

ゲルを入れる量が多くても高弾性のゲルが生成できると考えられる

52 DNゲルの物性

ゲルの高分子網目は基板から離れようとするときにゲルと基板の間に僅かな溶媒層

が生じるこの状態では溶媒層が潤滑油のような働きをして生じる摩擦力は小さなも

のとなるゲル周辺が高温な状態ではこの溶媒層が水の場合は蒸発してしまうので摩

擦力は増大すると考えられる溶媒を水からより沸点の高いエチレングリコールなどに

変えれば摩擦力は増大することはないと推測される 14)

11

参考文献

1) J Bastide and L LeiblerMacromolecules1988212647

2) G G J Lake and A G ThomasProc R Soc LondonA1967300108

3)越後亮三 機械工学辞典 朝倉書店 2007 p631

4) 伊藤勝悦 やさしく学べる材料力学 森北出版 2014 p14

5)SPObukhovMRubinstein and RHColby Macromolecules 1994273191-3198

6)MRubinsteinRHColbyAVDobrynin and JJaonnyElasticMacromolecules199629398-406

7) 大 阪 府 立 大 学 基 礎 講 座 材 料 の 強 度 と 破 壊

httpwwwengmmtrosakafu-uacjpresearchstrength-japdf2015413取得

8)聾剣萍「生命科学時代の新材料-高弾性高靱性ダブルネットワークゲル」高分子学会

『高分子』高分子科学最近の進歩58巻 5号2009p327-p331

9)YTanakaEurophysLett20077856005

10)蓮池幹治ラジカル重合ハンドブックエヌティーエス2010p444-p445

11)大津隆行ラジカル重合(Ⅰ)化学同人1971p80-p81

12)大津隆行ラジカル重合(Ⅰ)化学同人1971p153-p154

13)聾剣萍高分子ゲルおよびその製造方法特開 2009-185156 2008-02-05

14) 角五 彰龔 剣萍長田義仁「ゲルの摩擦と水和潤滑~生物の滑らかな運動解明への

アプローチ」日本生物物理学会『生物物理』47巻 4号2007p 253-p258

1

東京理科大学Ⅰ部化学研究部 2015年度春輪講書

耐塩性の高い新規化粧品用増粘剤の開発 2015年度金曜班

Nomata N(2OK)Seki M(2OK)Tin J(2OK)Takahashi R(2C)Watanabe A(2K)

Asai D(2K) Nishimiti D(2K)Yamamoto R(2K)

1 動機

化粧品において増粘剤の果たす役割は非常に大きい

化粧品にはクリーム状のモノが多くありその整形には増粘剤が必要不可欠である

また増粘剤は製剤だけでなく密閉効果や水和効果によって薬剤を皮膚に効率的に輸

送することに役立っている

この増粘剤であるが一つ課題がありアスコルビン酸塩(ビタミン C)のようなクロロ

基を持つ塩系薬剤をゲル中に含む場合経時によってべたつきといった使用感の悪化

につながるといった弱点があるこの問題の解決のために塩系薬剤への耐性の高い増

粘剤の開発が望まれている

塩系薬剤の高い美容効果からこの問題の解決に対する化粧剤企業のニーズは高くこ

の問題は長く研究が続けられていたが近年資生堂が逆相マイクロエマルション重

合法によって microスケールの粒状高分子を多数合成することによりできる増粘剤が高い

耐塩性を持ち使用感もよいことを発見したがこの粒状高分子増粘剤には未だ試み

られていないモノマーが多くある

そこで今年度の金曜班ではこの逆相マイクロエマルション重合法において未だ

試みられていない親水基を持つモノマーを利用して新規の増粘剤をつくることで粒

状高分子による増粘剤の耐塩性と肌触りと親水基の関係を調べ応用化に利すること

ができるのではないかと考え実験を行うこととした

2 背景

増粘剤とは水溶液をゲル化するために添加される物質であり化粧品において広く

用いられているこの増粘効果は従来では高分子鎖同士の分子間力や架橋で生じる

網目構造の結果生じる液中の摩擦力によるものである

動機で述べたように μスケールの粒状高分子が増粘剤として良質であることがわか

っているただし粒状高分子の形状は反応場であるセッケンミセルの大きさだけで

なく親水基やポリマーを構成する原子同士の分子間力によって変わる高分子の立体構

2

造にも影響されている

また粒状高分子の正確な一次構造を把握することは大変難しいことであるので

応用化のためには高分子の一次構造でなくモノマーによって粒状高分子特性の変化

を調べることが重要である

さらに従来用いられているポリマーがスルホ基とカルボキシル基を親水基とする

ものしか存在しない

以上の三点から酸以外の親水基をもつモノマーで増粘剤を合成したときその性

質はどうなるかを調べることでより製品として利用価値が高い粒状高分子増粘剤を合

成することができるのではないかと考えた

そこで新規モノマーとしては対照実験を行うためにアクリルアミド系モノマー

でかつ 2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸のスルホ基と同じ炭素骨格の先

端に親水基が存在するものとしてN-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド (3-アク

リルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライドを用いてそれぞれ親水基が酸

ではなくヒドロキシ基である場合親水基がアニオンではなくカチオンである場合に

ついて研究を行うこととした

この二種の以外にも水溶性のアクリルアミドポリマーは存在するが上記の条件を満

たさないまたは高価であるため本実験では用いないこととした

Fig1 N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド

Fig2 (3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライド

3

3 原理

31 一般的な液体の粘性

溶液の粘性は一般論では以下のように表される

Fig3のように XY平面を取り液面に平板を用意し引っ張った時挟まれた溶液内

には図のようなせん断流動が発生する高さ Yでのせん断速度は(119881

119889) 119910で与えられる

この時平板に挟まれた溶液を薄層の集まりと考えると隣り合う薄層間に摩擦が生

じるこの内部摩擦力が粘性力であるずり速度勾配が十分に小さければ平板の単位

面積当たりに生じる粘性力 Fv0はその勾配 Vd に比例するすなわち以下の式で表

され1205780を粘性係数と呼ぶこの値は溶媒固有である1)

1198651199070 = 1205780 (119881

119889)

Fig3 溶液ずりせん断図

32 増粘剤の粘性

増粘剤の多くは低分子の液体に高分子を溶かすと著しく粘性が高くなる性質を利

用している

この粘性の発生するメカニズムは下の Fig4において平板間の溶液を薄層に分けた

際高分子鎖は溶液の移動に伴って回転するこのとき溶液中の薄層は薄層間の摩

擦以外に高分子鎖との間にも摩擦が生じているこの摩擦の増加が粘性力の増加とな

る 2)

4

Fig4 高分子による粘性増加

また高分子鎖同士が分子間力によって結びつき三次元構造を形成することで内

部摩擦力は一層大きくなるこのため高分子による増粘効果は顕著である

架橋高分子では三次元構造が高分子鎖同士の分子間力による形成よりも強いものと

なるので増粘効果及びレオロジー特性に優れる 3)

33 塩系薬剤による粘性劣化のメカニズム

塩系薬剤とはビタミンC (アスコルビン酸塩)のようにクロロ基をもつ薬効物質のこ

とである

このクロロ基が直鎖高分子や架橋高分子がポリマー間で形成する三次元網目構造

を破壊することによって増粘効果を消失させ内容物の流失によるべたつきを生じさ

せる 3)

34 粒状高分子の粘性

粒状高分子の粘性について粒状高分子はその粒経が小さいほど体積に対する表面

積が増え溶液内での内部摩擦力が大きくなる

また粒子同士が摩擦力を元に網目構造を形成するため網目構造の構成要因が直

鎖高分子や架橋高分子の高分子増粘剤と異なっている 4)

35 逆相マイクロエマルション重合法

後述する転相温度乳化法を用いて形成した5 μm~30 μm 形成したマイクロエマル

ション内において水溶性のモノマーを利用して行う乳化重合法の一種容易に極小の

5

ポリマーを合成することができる 5)

36 界面活性剤の概略

界面活性剤とは分子の構造が水になじみやすい部分(親水基)と油になじみやすい

部分(新油基)からできていて2つの物質の間の界面に集まりやすい性質を持ちそ

の界面の性質を著しく変える物質というのが界面活性剤の定義である

代表的な界面活性剤の特徴は界面における「吸着」と「ミセル形成」である 6)

もうひとつの代表的な作用として「可溶化」もある

37 エマルションの形成

界面活性剤に有機溶媒が取り囲まれて水に可溶化されたとき水溶液中に存在する

有機溶媒を界面活性剤が取り囲んだ液滴のことを OW エマルションと呼ぶ

有機溶媒中に水が可溶化される場合WOエマルションと呼ぶ

38 ノニオン界面活性剤

非イオン界面活性剤とも言う界面活性剤の内解離基を持たず電気的に中性な

界面活性剤で親水基は主にポリオキシエチレン基であるその特殊な性質上他の種類

の界面活性剤に無い性質として曇点と転相温度を持つ 今回使用するノニオン界面

活性剤はポリオキシエチレンオレイルエーテルであり基本式は以下のような形にな

る 7)

R-O(CH2CH2O)n-H

Scheme 1 ポリオキシエチレンオレイルエーテルの基本式

39 曇点

曇点とは透明な液体が相分離を起こして白濁する温度のこと

本実験においてはノニオン界面活性剤が加温によって界面活性効果を失い相分離

によって白濁する温度のこと 8)

310 転相温度乳化

ノニオン界面活性剤は加温によって界面張力が変化しWO型エマルションから

OW 型に変化するこの変化点のことを転相温度と言い転相温度において界

6

面張力が最低になっているので溶液エマルションが極小になる

またこの転相温度は界面活性剤に固有の値となるので二種の比較的性質の

近い界面活性剤を混合することで転相温度を操作し適切な温度で5 μm~30 μm

程度の直径を持つエマルションを作成する方法を転相温度乳化法と呼ぶ 10)

311 ラジカル重合

開始剤を用いてラジカル種を生成して行う重合法のことをラジカル重合法と言う

開始剤の分解要因によって熱光放射線ラジカル重合の三つに分けられる 10)

3111 ラジカル重合を構成する四反応

ラジカル重合は 4種類の反応が同時並行的に起こるそれぞれ以下の通りである 11)

開始反応

開始剤が熱光放射光などの要因によってラジカル開裂を起こしラジカル種を

生じさせる反応

成長反応

ラジカル種がモノマーと反応することでモノマー新たなラジカル種が生成する

反応これが連続することでポリマーが合成される

停止反応

連鎖していた成長反応が止まる反応主にラジカル種同士の反応による

連鎖移動反応

ラジカル種がモノマー以外の分子主に溶媒分子等と反応することでポリマー以

外の物質を合成する副反応

3112 乳化重合

乳化重合はモノマー液滴と呼ばれるモノマーを大量に保存しているエマルシ

ョンと反応場となる極小のセッケンミセルの二つの構造を持つ溶液中で行う不均

一系ラジカル重合の一種である 12)

成長反応が一段階進むたびにモノマー液滴から拡散の理論式に従ってモノマ

ーがミセル内に移動するこの一連の反応を繰り返して反応が進む 13)

そのため種々のラジカル重合法と比較して以下の特長がある 13)

セッケンミセル内に存在するラジカルが常に一つであるため停止反応が

7

起こりにくく比較的重合度の高いポリマーが生成しやすい

反応速度が拡散作用によって律速されかつセッケンミセルの周囲を大量

の溶媒分子が囲んでいるため除熱が容易であるという理由から熱暴走を起

こしにくいという利点がある

ミセル内で重合するため合成した高分子が絡まりやすく粒状の分子が作

成できる

Fig5 乳化重合模式図

312 MS(質量分析法)

質量分析法とは分子の質量すなわち分子量を測る手段でもあるまた分子を分解

したフラグメントの質量を測ることによって分子構造に関する情報を得るものでも

ある

高エネルギー電子が有機分子にぶつかると分子から電子がはじき出せれカチオ

ンラジカルが発生する

119825119815 rarr 119825119815++119838minus Scheme 2カチオンラジカルの発生

電子の衝突により大量のエネルギーが分子に与えられることで大部分のカチオン

ラジカルを生成した後フラグメントに分解するフラグメントは小さな破片となっ

て浮遊し正電荷や中性となる

このカチオンラジカルとフラグメントについてmz値を横軸相対強度を縦軸につ

いて取ったグラフから質量スペクトルを読み取る 14)

またMS(質量分析法)はイオン化の方法などによりいくつかに分けられ今回使用

したいのは高分子試料でもほとんどフラグメンテーションを起こさないソフトなイ

8

オン化法であるMALDI法 15)である

3121 MALDI法(マトリックス支援レーザー脱離イオン化法)

試料を 25-ヒドロキシ安息香酸のような適切なマトリックス上に吸着させて

ペレットを作成しレーザー光を短時間照射してイオン化する

エネルギーがマトリックスから試料に移動し[119872 + 119867119899 ]119899+に分解される 15)

MALDI法にはよく TOF型の MSが用いられている

4 実験

41 2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を用いた既存化粧品用増粘剤の合成

411 使用器具試薬

温度計ウォーターバスビーカー薬さじデシケーター

ジメチルアクリルアミド

式量9913

沸点81

発火点71

LD50(経口)316mgkg

LD50(経皮)580mgkg

製造和光純薬工業株式会社

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸

式量20725

融点200

LD50(経口)5400mgkg

製造和光純薬工業株式会社

NN-メチレンビスアクリルアミド

式量156

沸点4451

発火点215

LD50(経口)390mgkg

製造東京化成工業株式会社

9

へプタン

式量1002

沸点98

引火点-4

水に不溶

製造昭和化学

2-プロパノール

式量60

沸点82

発火点12

LD50(経口)区分外(GHS分類)

LD50(経皮)区分外(GHS分類)

製造昭和化学

ペルオキソ二硫酸アンモニウム

式量22820

冷水に易溶保存湿気厳禁

重合開始罪乳化重合レドックス重合に用いられる

製造和光純薬工業株式会社

412 実験手順

① ビーカーにイオン交換水ヘプタンポリオキシエチレンオレイルエーテル(2)

(8)をそれぞれ507 mL 507 mL489 g((2)(8)=23)加えて良く撹拌したも

のを入れる

② その後その後温度調節機能つきスターラーに乗せ白濁するまで加熱する

白濁した液が透明化するまで温度を落とし電気伝導率計を用いて溶液が転

相温度付近に保たれていることを確認する

③ 以上の操作が済んだ重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先

ほどのスターラーと同じ温度にしたウォーターバスに移し2-アクリルアミド

-2-メチルプロパンスルホン酸NNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 137 g

262 g入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始

剤としてメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

10

④ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

42 N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミドを用いた新規化粧品用増粘剤の合成

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を誘導体と入れ替える以外の

操作は 41に準ずる

親水基による増粘性の変化を観察するため架橋剤のモノマーに対する濃度比

は 2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を使用したポリマーが最も増

粘効果の高くなると報告された濃度比を用いる

421 使用器具試薬

使用器具は 41に準ずる

試薬

N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド

式量11513

沸点130

発火点189

製造東京化成工業株式会社

422 実験手順

① 412 ①②と同じように重合系を作成する

② 以上の操作が済んだ重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先

ほどのスターラーと同じ温度にしたウォーターバスに移しN-(2-ヒドロキシエ

チル)アクリルアミドNNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 076 g262

g 入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始剤と

してメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

③ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

11

43 (3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライドを用いた新規化粧品用

増粘剤の合成

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を誘導体と入れ替える以外の操作は

41に準ずる

親水基による増粘性の変化を観察するため架橋剤のモノマーに対する濃度比は 2-ア

クリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を使用したポリマーが最も増粘効果の高く

なると報告された濃度比を用いる

431 実験器具

実験器具は 41に準ずる

試薬

(3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライド

式量22074

沸点100

製造東京化成工業株式会社

432 実験手順

① 412 ①②と同じように重合系を作成する

② 重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先ほどのスターラーと

同じ温度にしたウォーターバスに移し (3-アクリルアミドプロピル)トリメチ

ルアミニウムクロライドNNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 123 mL

262 g入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始

剤としてメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

③ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

5 評価分析

耐塩性の高い増粘剤の耐塩性と使用感と親水基との関係を評価するために以下の二

つの測定を行い評価する

増粘剤の耐塩性の評価のために塩酸を増粘剤内部に取り込ませた状態で経時

12

による粘度の変化を観察する

また高分子の粘性を考える上で直鎖高分子の場合よく参考にされるのが平

均分子量でありこの値を測定することで親水基が変化した場合に平均分子

量が粒状高分子の粘性にも大きく影響するか確認する

精密に上の測定を行うには専用の機器が必要になるため機器メーカーの株式

会社エーアンドデイ様または東京理科大学理学部応用化学科駒場研究室に

また高分子の性質を考える上で重要視される平均分子量及び分子量分布に

ついては東京理科大学化学系機器センターにあるMALDI-TOF型質量分析計を管

理者の東京理科大学理学部応用化学科の根岸先生に測定に協力していただこうと

考えている

6 謝辞

東京理科大学工学部工業化学科 近藤行成教授

東京理科大学理学部化学科 遠藤恆平准教授

東京理科大学理学部応用化学科 駒場慎一教授

この研究を進めるに当たり大変お世話になった先輩先生方企業の皆さんに感謝の

意を表明します

参考文献

1) 小澤美奈子 基礎高分子科学 高分子学会 編 2010年 第六版 p979899

2) 小澤美奈子 基礎高分子科学 高分子学会 編 2010年 第六版 p99100

3) 金田 勇 逆相マイクロエマルション重合法による水膨潤性ミクロゲルの重合とその増

粘剤としての応用 2010年 p1

4) 小林敏勝 福井寛 きちん知りたい粒子表面と分散技術 日刊工業新聞社 p76

5) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 2006 p839 840 841

6) 皆川基 藤井富美子 洗剤洗浄 百科事典 大矢勝 2007年版 p4647

7) 日本産業洗浄協議会編 わかりやすい界面活性剤 工業調査会 2003 p373839

8) 資生堂 HP httpswwwshiseidogroupjprddevelopmentformulationhtmlより 2015

44取得

9) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 テクノシステム 2006 p321

10) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 テクノシステム 2006 p397

13

398399

11) 遠藤 剛 高分子の合成(上)~ラジカルカチオンアニオン重合~ 講談社 2010 3p

12) 佐藤壽彌編 高分子微粒子の技術と応用 シーエムシー出版 2004 p2526

13) 佐藤壽彌編 高分子微粒子の技術と応用 シーエムシー出版 2004 p27

14) マクマリー 上 8版 東京化学同人 p403404

15) John McMurry マクマリー有機化学(上) 第 8版 2013 p410411

Page 8: ゼオライトとキトサンを用いた 金属イオン除去剤の …kaken/studies/2015/2015-s-all.pdf1 東京理科大学I 部化学研究部 2015 年度春輪講書 ゼオライトとキトサンを用いた

8

グリセリン(Glycerinemp20 bp290 M921LD5027200mgkg)

石鹸製造の際など工業的にも用いられている無色粘性で吸湿性をもつ液体である

水エタノールとあらゆる割合で混合することができる湿潤剤として皮膚薬にも

用いられる分析化学においては滴定用溶媒として使われることがある 19)

サリチル酸(Salicilic Acidmp159 bp211 M138LD50891mgkg)

多くの精油中にエステルとして存在する針状の結晶エタノールなどに易溶である

染料の中間体や防腐剤角質溶解剤などに含まれているおよそ 200 で分解して

フェノールとなる分析化学においては鉄イオンなどの呈色剤に用いられる 20)

製造和光純薬工業

塩酸(Hydrochloric AcidM3646LD50900mgkg)

代表的な強酸であり多くの金属と反応して塩酸塩を生じるが貴金属とはほとんど

反応しない刺激性がある工業的には染料や医薬品などに幅広く用いられて

いる 21)

製造和光純薬工業

水酸化ナトリウム(Sodium Hydroxidemp328bp1388M4000

LD50500mgkg)

常温で無色の斜方晶系の固体であり代表的な強塩基潮解性があり通常は水や

二酸化炭素を含んでいる事からmp3184 とする場合もある溶解に伴い発熱

する刺激性がある 22)

希硝酸(Dilute Nitric Acidmp-42 bp826 M6301LD50430mgkg)

無色の吸湿性液体光または熱で分解するため暗所に褐色ビン内で保管する必要が

ある多くの金属に対して酸化剤として働く刺激性がある 23)

天然ゼオライト

製造ゼオライト市場しまねお宝館

9

32 器具

マグネチックスターラー

吸引ビンなど吸引ろ過に用いる器具

恒温槽

pHメーター

ビュレット

メスフラスコ

4 実験操作

41 ゼオライトの洗浄

天然ゼオライトを使用する予定であるがこれには水を懸濁させるような粘土質が

付着していると思われる 3 M の塩酸に 1 日ほど浸けることによりこれを除去する

42 ゼオライトのキトサンによる化学修飾(架橋剤グルタルアルデヒド)

(1)キトサン 05 gを 50times10-3

M塩酸 500 mLに加えた後に天然ゼオライト 125 g

を加える

(2)均一な懸濁液になるまでスターラーで 250 rpmにおいて撹拌する

(3)懸濁液に 1 M水酸化ナトリウム水溶液 75 mLとグルタルアルデヒドを 02 g添加

してゼオライトをキトサンで修飾する

43 ゼオライトのキトサンによる化学修飾(架橋剤グリオキサール)

(1)キトサン 05 gを 50times10-3

M塩酸 500 mLに加え溶解させて天然ゼオライト

125 gを加える

(2)均一な懸濁液になるまでスターラーで 250 rpmにおいて撹拌する

(3)懸濁液にグリオキサール 01 gを添加して水温を 80 に保ち 1時間撹拌して架橋

を行う

(4)1 M 水酸化ナトリウム水溶液を 75 mL加えてゼオライトをキトサンで修飾する

44 修飾済みゼオライトの調製

(1)しばらく静置した後に吸引ろ過を行い固相水相の分離を行う

(2)得られた固相をイオン交換水で洗浄する

(3)1週間ほど乾燥剤と共に保管することにより自然乾燥させる

10

45 種々の含金属廃液の作成

(1)01 M硝酸に各金属イオン標準液を混合させ金属イオン含有量が 5 mgになるよう

に金属イオン含有水溶液を作成する

(2)硝酸と水酸化ナトリウム水溶液を用いて pHを操作しpHが 246の付近になる

ように調製する

46 修飾ゼオライトによる金属イオンの除去

(1)各金属イオンを含む試料溶液に作製した除去剤 50 gを投入しマグネチックスター

ラーで 250 rpm において 1時間撹拌する

(2)吸引ろ過を行い固相水相の分離を行う

<備考>

本実験では作製した除去剤の性能を比較するためにキトサン天然ゼオライト

および2種の修飾済みゼオライトについて金属イオン除去実験を行う予定である

5 評価

51 キレート滴定を用いた金属イオンの定量

511 銅イオンのキレート滴定

(1)試料溶液に酢酸-酢酸ナトリウム緩衝溶液を加えて pHが 25~60に保たれている

事を確認する

(2)エタノールを 50 mL加えた後にPAN指示薬を数滴滴下して溶液を発色させる

(3)001 M EDTA水溶液を滴下して滴定を行う

512 鉄イオンのキレート滴定

(1)試料溶液の pH を確認し酸性が強い場合は 35酢酸ナトリウム水溶液を酸性が

弱い場合は 1M 塩酸を加えて pHを 20~30に調節する

(2)1サリチル酸溶液を 8 mL添加して溶液を発色させる

(3)001 M EDTA水溶液を滴下して滴定を行う

6 実験結果に関する予測

金属イオン除去剤の作製によってゼオライト粒子を内包したキトサン粒状体が得ら

れると予測されるまたグルタルアルデヒドによってキトサンを架橋した除去剤と

比較してグリオキサールを用いた除去剤の方が金属イオンの除去性能が高くなるの

ではないかと期待できる

11

7 参考文献

1)姫路市編集『工場事業所の排水が下水道におよぼす影響』

URL httpwwwcityhimejilgjps90gesuidou_9253_9277html

最新取得日2015年 4月 15日

2)環境省編集 『水土壌地盤海洋環境の保全』 URL httpwwwenvgojpwatermizuhtml

最新取得日2015年 4月 15日

3)知足章宏著 『アジアの開発途上国における水質汚染問題と下水事業への民間参入

(Private Participation)の現況経験』立命館大学 立命館国際地域研究第 23号

2005年 3月発行 p153~156

4) 一般社団法人キチンキトサン学会 『キチンキトサンとは』

URL httpjscckenkyuukaijpspecialindexaspid=1930

最新取得年月日2015年 4月 15日

5) ゼオライト学会 URL httpwwwjaz-onlineorgindexhtml

最新取得年月日2015年 4月 16日

6) 萩中淳ほか著 『パートナー分析化学 I(改訂第 2版)』 南江堂 (2012) p97~98

7)『パートナー分析化学 I(改訂第 2版)』 p116

8) 児玉三明ほか訳 『マクマリー有機化学(中) 第 8版』 東京化学同人 (2013) p703~704

9)『マクマリー有機化学(中) 第 8版』p708~711

10)環境省編集 『環境省 一律排水基準』URL httpwwwenvgojpwaterimpurehaisuihtml

最新取得年月日2015年 4月 17日

11)『化学大辞典』大木道則ほか著 東京化学同人 (2005) p543

12)『化学大辞典』p651

13) 有機合成化学協会編集『有機化合物辞典』講談社 (2004) p248

14)『化学大辞典』p1121~1122

15)『化学大辞典』p1121

16)『化学大辞典』p269

17)『化学大辞典』p1928

18)『化学大辞典』p256~257

19)『化学大辞典』p638~639

20)『化学大辞典』p858~859

21)『化学大辞典』p332~333

22)『化学大辞典』p1172

23)『化学大辞典』p1118~1119

1

東京理科大学Ⅰ部化学研究部 2015年度春輪講書

ケイ酸を用いた無機接着剤 火曜班

Shoji Y (2OK) Arai S(2OK) Abe Y(2K) Takemura R(2K) Matsui T(2K)

1背景

私たちは日々生活している中で接着剤を使う機会が多くあるしかしその接着剤が

まわりに及ぼす影響について考えることは少ないそこで接着剤について調べてみたと

ころ接着剤は大きく分けて 2つのグループに分類できることが分かったまず一般的に

使われているボンドや瞬間接着剤のように有機化合物を主成分とした有機接着剤次に

あまり一般的ではないが金属やセラミックスの接着に用いられる無機化合物を主成分とし

た無機接着剤有機接着剤は簡単に接着することができるなど様々な長所を持つが有機

物の溶媒を用いるため工事現場などで感じる独特な臭いやシックハウス症候群の原因物

質を放出してしまうという短所を合わせ持つそれに比べ無機接着剤は接着方法が高

温で加熱しなければならないという点と有機接着剤よりも接着強度が低いという短所を持

つが耐熱性に優れ特有の臭いもなく溶媒に水を用いるため環境や人体に対する影響

も少ないという長所があるさらに無機接着剤の分野はあまり多くの研究が行われてお

らず発展の余地が残っているのではないかと感じた

2目的

無機接着剤は耐熱性などの長所がある反面強度と耐水性が低いという短所があるこ

の 2つの短所は接着剤として用いるためには重大な問題となるそこで本実験ではケイ

酸を主成分とした無機接着剤に何種類かの金属化合物などの添加物を加えることにより接

着強度と耐水性の改善を目的とする

3原理

31無機接着剤

無機質の接着材料としては一般にガラス系金属系の材料が使用されているがこれ

らの材料は気密性は優れているが接着時にそれぞれの融点や軟化点以上に加熱すること

が必要でありまた接着部分の耐熱性は接着時の温度を上まわることはないという欠点を

有しているこれに対していわゆる無機接着剤は気密性には劣るが低温での接着が可能

であり優れた耐熱性を有するという特徴を持っている無機接着剤は1)無機結合剤

2)硬化剤3)充填剤を主成分として構成される

2

市販されている接着剤の多くは使用の便を考えて一液性であるそのポットライフ(可

使期間)は 3か月から 1年必要とされるので室温で作用する硬化剤は使用できない

1)結合剤

結合剤自体の硬化剤が強い強度と接着力を持つ必要があり現在しようされている無機

結合剤のほとんどはアルカリ金属ケイ酸塩系リン酸塩系シリカゾル系のいずれかで

あり本実験でしようするのはアルカリ金属ケイ酸塩系結合剤である

アルカリ金属ケイ酸塩の水溶液は粘性のある液体であり分子式 M2OnSiO2で表わさ

れMの種類(LiNaKなど)および nの大小によって数多くの種類が生ずるまたア

ンモニウムケイ酸塩やグアニジンケイ酸もある一般には安価なケイ酸ナトリウム(水ガ

ラス)がよく使用される

アルカリ金属ケイ酸塩は水溶液中において種々の量のシリケートイオンモノマーポ

リシリケートイオンおよびコロイド状シリカイオンミセルからなっているこれらの形

態や分布は n 値や濃度に依存しn が大きくなるにつれてポリシリケートイオンミセル

が増加するケイ酸ナトリウムは n が4を越えると水の溶解度は極端に小さくなりn が

3 付近で接着力は最大となるケイ酸カリウムはケイ酸ナトリウムと同じような挙動を示

すがケイ酸リチウムは nが非常に大きくケイ酸分の多い水溶液が得られることが特徴で

ありシリカゾルに近い物性を示すしたがってアルカリ金属ケイ酸塩系結合剤につい

て一般的には耐水性は LigtKgtNa接着力はこの逆の順に良いといわれている

水溶液は強いアルカリ性を示し加熱によってシラノール間で脱水縮合反応を起こし

分子間にシロキサン結合を生じる固形物は融点(軟化点)までずっと非晶質である

2)硬化剤

結合剤は低温で乾燥しただけでは耐水性が不十分であり耐水性の向上のために硬化

剤が添加される硬化剤は耐水性には寄与するが接着力を低下させる場合もあるため

使用目的によっては添加しないこともある一液性の接着剤ではポットライフの要求から

室温で作用するものはあらかじめ添加できないので高温になってはじめて結合剤と反

応するものが選ばれる硬化剤については非常に多くの物質が特許等に提案されている

アルカリ金属ケイ酸塩用の硬化剤にはZnMgCa 等の酸化物水酸化物NaK

Ca等のケイ化物ケイフッ化物Alや Zn等のリン酸塩CaBaMg等のホウ酸塩等が

用いられる

酸化亜鉛による反応機構を LSDGlasserらは次のように示している

反応初期には ZnO粒子の表面で

ZnO + 1198672119874 + 119874119867minus rarr 119885119899(119874119867)42minus

の反応がおこりZn は液中に溶解しOH-が消費されるので pH が下がりケイ酸ゲルが

3

粒子表面に析出する以後はこのケイ酸ゲル層を通して OH-が粒子表面へ拡散しZnOと

反応して Zn(OH)2として固定されるためさらにケイ酸ゲルの析出が行われ酸化亜鉛表

面へ無定形シリカが沈積する

3)充填剤

充填剤としては結合剤との反応性の小さい耐火物粉末が使用される結合剤は加熱脱

水により大きな体積収縮を生じひび割れが発生するのでこれを防ぐため充填剤を添加し

て固体分率を高くするまた粒子間の空隙は水分蒸発の逃げ道となり発泡を防ぐ接着

剤の熱膨張を被着材へ合致させることも重要な役割である

さらに一液性の接着剤ではリン酸塩系におけるアルミナ粒のように室温では反応し

ないが温度を上げていくと結合剤と反応し硬化作用をして耐水性を付与することもある

その他耐火性接着強度熱伝導性電気特性耐薬品性耐摩耗性の向上に重要な

働きがある充填剤の種類に加え粒径粒径分布表面活性等に調整することが必要で

数種の充填剤を混合することが多い

4)核剤

核剤は力学特性成形性成形時の生産性の改良などを目的として種々の結晶性高分子

で利用されている特にポリプロピレンにおいては核剤を添加することにより剛性や耐火

性(熱変形温度)あるいは透明性など諸問題が大幅に改良され高機能化による用途拡大

や成形品の薄肉化軽量化が可能となりさらには短時間で結晶化が完了することから成

形時の生産性も大幅に短縮されコスト削減はもとより省資源省エネを影から支えてい

核剤には工業的な側面から主に力学特性を改善する「核剤」と特に透明性を改良する

効果が高い「透明化剤」とよばれるものがある核剤も透明化剤も高分子の結晶化過程

における基本的な作用機構は同じでありその本質はエピタキシーにあるつまり高分子

融体が結晶化する過程で高分子鎖が結晶化しやすいように「場」(核剤の表面)を提供す

るものである核剤はまた「造核剤」とよばれることもあるが核剤透明化剤とも物理

化学的には高分子に対し同じ作用をしているといえる溶媒中に溶解している溶質が種晶

の添加により析出が促進される現象を想像されたいまさに核剤は高分子融体中に添加

されこれが核となって高分子の結晶化が促進されるのである

4

Fig3-1 核剤の表面からの高分子結晶の成長

a)力学特性の改善

自動車や家電部品の樹脂化率は年々高まり特に自動車においては内外装問わずポリ

プロピレンが多用されるようになった当初はあまり重要でない部分への利用であったも

のの最近ではバンパーフェンダーライナーフロントグリルカウルパネル各種リ

ザーバータンクドアパネルピラーダッシュボードサンバイザーコンソールボッ

クスなどありとあらゆる部分に用途開発が進んでいる高分子材料による金属代替今後

もさらに進められると思われるその理由としては自動車の軽量化はもちろんのこと

設計の自由度(一体成形や金属ではデザインしにくい曲線曲面を複雑に有する部品など)

があげられる自動車部材では機能的に高剛性が求められるものや夏場に高温にさらさ

れる内装部品などは高耐熱性(高い熱変形温度)が求められるものなどがほとんどであり

このような要求性能に応えるべくポリプロピレンに核剤が添加されている

核剤が存在する場合高分子の結晶化が促進され融体の冷却過程においてより高い

温度(より融解温度に近い温度)から結晶化が開始するそのため核剤存在下での結晶化

過程では核剤非存在下での結晶化過程に比較して高分子鎖の運動性が高い状態で結晶

化が開始する核剤を添加した高分子の結晶化開始温度を示差走査熱量計などで測定する

と結晶化が高い温度から開始することも確認されるその結果高分子結晶の欠陥は減

少しまた結晶化度も増大する核剤存在下で結晶化させた高分子結晶は欠陥も少なく

またラメラ厚も厚くなり融解温度が高くなるそのような効果により成形後の高分子

材料の力学特性耐熱性が改善する

5

Fig3-2 核剤の添加のよるポリプロピレンの曲げ弾性率の改善効果

()アデカスタブ NA-11()Hyperform HPN-68 L

()安息香酸ナトリウムポリプロピレン

Fig4-2に核剤の添加によるポリプロピレンの曲げ弾性率の改善効果について示したま

ず核剤を添加することでしかも僅か 01~03 wt程度の添加で曲げ弾性率が劇的に向

上していることが分かるその中で比較すると汎用である安息香酸ナトリウムや HPN-68

Lでは弾性率の改善はあるものの(おおよそ 30の弾性率改善)01 wt程度の添加で改

善効果は飽和する添加物を加えることで剛性耐熱性を大幅に改善できることがわかる

このような改善効果は自動車用に多用されるポリプロピレンのグレードであるインパクト

コポリマーにおいても同様であるさらに核剤の添加により結晶化が促進された結果成

形時間も短縮でき高性能化と相まって生産性改善によるコストダウンも可能となる核

剤はもとのポリマーが有する特徴を損なうことなく物性を改善できるといったメリット

があるといえる

32 縮合重合反応

二つの化合物から水などの簡単な分子が脱離して新たな結合が形成される反応を縮合反

応とよぶカルボン酸とアルコールからエステルを得る反応は縮合反応の一例である

縮合反応を繰り返すことによりポリマーを合成することができるこれが脱水縮合反応

であるたとえば 2個のカルボキシ基をもつ分子と 2個のヒドロキシ基をもつ分子を反応

させると縮合反応が連続して起こりポリマーが得られる本実験では Fig3-3 の反応が

起こる

6

Fig3-3 ケイ酸の脱水縮合反応

33 接着の原理

接着剤による接着効果には複数の理論が挙げられており賛否両論あるものもあるま

た個々の接着現象においても複数の接着効果が絡み合っていることが多く接着効果の

検証は困難であるとされるある接着系では適用できる接着効果が別の系ではまったく無

力ということも多い以下に主な接着効果の理論をあげる

1) アンカー効果

雲母を注意深くはがしたようなごくわずかな例外を除きすべての固体表面は数Åオ

ーダーの粗さを有する例えば機械で製造される金属表面の粗さは 3~6 μmであり研

磨した場合でも 002~025 μmである

アンカー効果とはこのような被着材の凹部に流入した接着剤が固化し被着部に引っかか

ることにより界面が結合するというものであるアンカー効果のような界面との相互作

用を無視した接着効果理論を機械的結合論という

開口部を有するクレバスへの液体の流入について理論式が提案されている

以下の 2式は液体の粘度 η接触角θの液体が深さ Zまで浸透するまでの時間 tを表し

(a)開口部の幅がδの平行板の場合

Zdz

dt=

120575119910

120575120578120574 cos 120579

(b)開口部δ深さ Z0の V型溝の場合

11988501198971198991198850

1198850 minus 119885minus 119885 =

120575120574 cos 120579

6120583119905

となる式によれば開口部が大きくぬれがよく粘度の低い液体ほどまた時間をかけ

たほど深くまで侵入できるとされる

7

Fig3-4 アンカー効果

2)分子間相互作用

ふたつの物体の接着面で分子同士が接触するところで互いにひきつけあう力が働くこと

で接着するとするもの代表的なものにファンデルワールス力結合水素結合が存在す

3)化学的結合

界面に化学結合が存在することで接着強さに寄与するとするものである古くから提唱

されている説であるが化学結合の存在の証明が難しく接着系の界面に本当に化学結合

が存在するのかは十分に検証されなければならないとされる

4)表面自由エネルギーと表面張力

物質の内部と表面では性質が異なる内部の分子は周囲を分子に囲まれており分子間

力で互いに引き合うため安定化されるこれに対し表面の分子には周囲を囲む分子が内部

に比べて少なく内部分子と比べて不安定=エネルギーが高いということになるこの余

分のエネルギーを表面自由エネルギーと呼ぶ

表面積が小さいほど表面自由エネルギーは少なくなるため物質の表面では表面を

小さくしようとする力が働くこの力を表面張力と呼ぶ

5)ぬれと接着角

固体表面に液体が存在するとそれぞれの表面自由エネルギーとその間の界面自由エネ

ルギーとのバランスによって液体が広がり固体表面が液体表面に置き換えられるこの

現象がぬれである固体表面のぬれは材料表面の親水性疎水性や接着強度と直接関係

しているため接着の分野ではきわめて重要である固体表面に液滴を落とすと個体の

表面張力γS と液体の表面張力γL 固体と液体の界面張力γSL が釣り合うことによってあ

る角度θで平衡になるこのとき固体と液体空気の境界点 A における力の水平成分の

釣り合いから次式の Young-Dupreの式が得られる

120574119878 = 120574119878119871 + 120574119871 cos 120579

8

自然状態では表面張力により液体は球状になるこの式は固体表面上での液体を広げよ

うとする力と球状を保とうとする力のつりあいの式である

Fig3-4 固体表面上の水滴

また界面自由エネルギーγ12 で接着している二種類の物質を引き離し表面自由エネルギ

ーγ1γ2をもつ二つの物質に分けるのに必要な仕事(これを接着仕事という)Waとすると

119882119886 = 1205741 + 1205742 minus 12057412

であらわされるこれを Dupreの式と呼ぶ接着仕事とはふたつの物質を引き離すのに必

要な仕事であるからWaの値が高いほど接着強度が強いということになる

個体と液体との関係においてこれら二式をあわせると

119882119886 = 120574119871(1 + cos 120579)

を得るこれを Young-Dupre の式という液体の表面張力と接触角から接着材の接着強

度が分かるという式になっている

6)接着力低下因子と表面処理

接着は清浄な面と面の接触が前提である金属表面は清浄であれば 1000~3000 mNmの

表面張力があるはずであるが大気中では数十mNmの値をしめすこれは異物が付着した

り酸化されていたりするためである特に表面がもろい物質でおおわれていると剥離時に

もろい面での剥離が起こり見かけ上弱い接着強度となる事がある

このような金属表面の表面張力の低下を防ぎアンカー効果において適切な凹凸を金属表

面に付与し接着強度向上を図るために洗浄と研磨を行うのが望ましい

5実験方法

41使用する器具

100 mL ビーカーガラス棒ホールピペット安全ピペッターピンセットキムワイ

プ電気炉2 L ペットボトル紐アルミ角材(10 times 30 times 30 mm)サンドペーパー

はけ

9

42試薬の物性

ケイ酸ナトリウム a)

ケイ酸のナトリウム塩で種類が多いいわゆる水ガラスも多くの場合はケイ酸ナトリウム

であるがその組成は安定していない単一物質として得られているものだけでもメタ

ケイ酸ナトリウム Na2SiO3およびその種々の割合の水化物オルトケイ酸ナトリウム

Na4SiO4二ケイ酸ナトリウム Na2Si2O5四ケイ酸ナトリウム Na2SiO9 などがあるオ

ルトケイ酸ナトリウム Na4SiO4=18405二酸化ケイ素と水酸化ナトリウムを適当な条件

で融解すると得られる水溶液で両者を反応させたのではオルトケイ酸ナトリウムの結晶

は得られずにメタケイ酸ナトリウムの水化物になってしまう無色六方晶系の結晶酸

と加熱していると二酸化ケイ素が沈殿している

酸化マグネシウム b)(MgO)

式量 4030

融点 2852

沸点 3600

一般にアンモニウム塩水溶液に溶けるがエタノールに不溶空気中で水と二酸化炭素を

吸収し炭酸水酸化マグネシウムに変化する水と反応して水酸化マグネシウムとなる耐

火レンガマグネシアセメントの製造原料医薬品として制酸剤の原料となるほか触媒

または吸着材ゴム工業にも用いられる

酸化亜鉛 c)(ZnO)

式量 8138

密度 547 gcm3

無定形の白色粉末水にはほとんど溶解しないが両性酸化物で希酸や水酸化アルカリ

水溶液アンモニア水に溶解する空気中で湿気と二酸化炭素を吸収する白色顔料とし

てペイント絵の具などに用いられるほか粒子の細かいものは医薬品化粧品として用

いられる

酸化カルシウム d)(CaO)

式量 5608

融点 2572

沸点 2850

密度 340 gcm3

10

酸に可溶空気中の湿気を吸収して水酸化カルシウムとなりまた空気中の二酸化炭素を

吸収して炭酸カルシウムとなる水と反応して水酸化カルシウムとなるしっくいモル

タルなどの建築材料石膏さらし粉消石灰の原料医療用に用いられる医療用に用

いられる酸性土壌改良にも用いられる

炭酸カルシウム e)(CaCO3)

式量 10009

融点 1339

二酸化炭素を含む水には炭酸水素カルシウムとして溶解する酸には二酸化炭素を発生し

て容易に溶ける加熱すると二酸化炭素と酸化カルシウムに解離する

二酸化ケイ素 f)(SiO2)

式量 6009

低温ではフッ素フッ素酸水素酸だけが反応する高温では他のハロゲン元素とも反応す

る水酸化アルカリ炭酸アルカリと融解すると水溶性のアルカリケイ素酸塩となる

43実験操作

431被接着面の均一化

1)10times30times30 mmのアルミ角材の表面をサンドペーパーで汚れがなくなるまで削る

2)削った表面をアセトンで洗浄する

3)洗浄が終わったアルミ角材の重量を測り記録する

432ケイ酸ナトリウムのみの接着剤の作製

1)100 mL ビーカーにケイ酸ナトリウム 50 g を加え粘り気が残るぐらいまでイオン交換

水を加えガラス棒で撹拌する

2)アルミ角材の 10times30 mm の面にはけを用いてケイ酸ナトリウム溶液を均一になるよう

に塗りアルミ角材を重ね合わせる

3)150にセットした電気炉に接着面がずれないように慎重に置き 1時間焼成する

433添加物を加えた接着剤の作製

1)100 mLビーカーにケイ酸ナトリウム 50 g添加物(酸化マグネシウウム酸化亜鉛

酸化カルシウム炭酸カルシウム二酸化ケイ素)を 010 gから 010 gずつ 20 gまで加

え粘り気が残るぐらいまでイオン交換水を加えガラス棒で撹拌する

2)アルミ角材の 10times30 mm の面にはけを用いてケイ酸ナトリウム溶液を均一になるよう

に塗りアルミ角材を重ね合わせる

3)150 にセットした電気炉に接着面がずれないように慎重に置き 1時間焼成する

11

5評価方法

51接着強度の評価

1)432433で接着したアルミ板にひもとペットボトルを用いて Fig5-1のように設置す

アルミ角材

Fig5-1 接着面の破壊

2)ペットボトルに少しずつ水を加え接着面が完全に離れた時点を破壊終了点とする

3)破壊終了点でのペットボトルに入っている水の重量を計測する

52耐水性の評価

1)接着したアルミ角材に水をかけ接着面の変化を観察する

6予想

添加物を加えることで接着強度の増加が期待されるしかし大量に添加物を加えてし

まうとケイ酸の割合が小さくなり接着強度は減少してしまうと考えられ添加物の量と接

着強度の関係性をグラフ化するとある値までは増加しその値を超えると減少していくグ

ラフが得られると考えるそこから最も接着強度が高まる添加物の量を測定する

また添加物が硬化剤の役割をし耐水性の改善も予想される

参考文献

1)日本接着学会『接着剤データブック第 2版』日刊工業新聞社1990P228~229

2) 三刀基郷『トコトンやさしい接着の本』日刊工業新聞社2003P56~67

3) セメダイン(株)『よくわかる接着技術』日本実業出版社2008P34~37

PET

Crash

12

4) ユージン Gロコー『ケイ素とシリコーン』シュプリンガーフェアラーク東京株式

会社1990 P85~113

5) 大木道則大沢利昭田中元治千原秀昭『化学大辞典』東京化学同人1989

b)P884 c)P865 d)P867 e)P1368 f)P1669

6)下井 守村田 磁『大学生のための基礎シリーズ 3 化学入門』東京化学同人2005

P229

7) 吉村壽次『化学辞典第 2版』森北出版2009a)P425

8)大勝 靖一『高分子添加剤の基礎化学と材料設計』株式会社 CMC出版2008P219~235

9)httpwwwfacekyowacojpsciencetheorywhat_contact_angleimg01jpg

2015416取得

1

東京理科大学Ⅰ部化学研究部 2015 年度春輪講書

シクロデキストリンを用いた

包接化合物の生成

水曜班

Ikemura M(2C)Ebihara K(2C) Kataoka T(2K)

ShibasakiK(2OK)TsumedaT(2C)NakaA(2OK)Murakoshi R(2OK)

OkawaT(2C)NoguchiA(2K)SekiguchiK(2K)HashimotoY(2C)

1 動機

6~8 分子のグルコース単位からなるα―14結合の環状オリゴ糖であるシクロデキストリ

ンはその環状構造に由来する包接化合物を生成する性質を示すその特異的な包接形成能

を利用した多くの製品が存在し現在もなお基礎研究分野応用研究分野での研究が行わ

れている

そこで私たちは 7 分子のグルコースからなるβ-シクロデキストリンと 3 種類のカルボン

酸を用いて包接化合物を形成させ酸の構造の違いによる包接作用の比較検討及びシクロ

デキストリンの一部のヒドロキシ基をエステル化させ水に対する溶解性及び包接形成能が

どのように変化するか考察する

2 原理

21 包接化合物

包接化合物は Schlenk によって名づけられたもので定義によると原子または分子が

結合してできた 3 次元構造の内部に適当な大きさの空孔があってその中に他の原子また

は分子が一定の組成比で入り込んで特定の結晶構造をつくっている物質ということにな

っている前者の骨組み構造の化合物のほうをホスト分子後者の入り込んでいる分子の

ほうをゲスト分子ともよんでいるがこのゲスト分子の大きさや形状はまったくホスト

構造によって規定されるだけで両者の間には弱い相互作用があっても水素結合のよう

な力はなくてもいっこうに構わないのであるこの包接化合物でのゲスト分子とホスト

構造との間の相互作用というのも物理的な吸着系に近いもので非常に弱い van der

Waals 力から高度に配向した双極子間力まで種々のものが存在する 1)

22 シクロデキストリンの包接能

シクロデキストリンはグルコース残基がα-1α-4 結合した環状のオリゴ糖で一般的

にグルコース残基が 6 個のα-シクロデキストリン7 個のβ-シクロデキストリン8個の

γ-シクロデキストリンが知られている

2

Fig1 α-シクロデキストリンの分子構造

シクロデキストリンの構造は底の抜けたバケツやドーナッツのような構造をしており

その環状構造の外側は多くの水酸基に由来する親水性領域が存在し内側の空洞の CH 基に

由来する疎水領域と相反する極性が一つの分子に共存しているがこの空洞内に様々な有

機化合物などを取り込むという包接作用がもっとも特徴的である

三種類のシクロデキストリンはそれぞれ空洞の大きさが相違するためそれぞれ包接化

合物を形成しやすいゲスト分子が存在する内部空洞が比較的小さいα-シクロデキストリ

ンは比較的小さい分子例えばエタノールメタノール等をβ-シクロデキストリンは汎

用性が広く各種ポリフェノールコレステロールメンソール等の香気成分芳香族化

合物等をよく包接するγ-シクロデキストリンは大きい分子である脂肪酸などを包接する

ことが知られている

シクロデキストリンの包接力の原動力は疎水性相互作用と分子間力が主なものとされて

いるつまりゲストは疎水性の高い分子あるいは分子の大きさが空洞にぴったりとフィッ

トするものほどシクロデキストリンがそのゲストを包接する力は大きく包接物を作り

やすい傾向がある逆に親水性が高くシクロデキストリンの空洞にフィットしないよう

なゲスト分子では包接現象は起こりにくいといえるしかしゲスト分子全体がシクロ

デキストリンの空洞内にとりこまれる必要はなく部分的にでも疎水性が高く空洞にフィ

ットすれば包接が可能となるつまりゲスト分子全体がシクロデキストリンより明ら

かに大きいものでも包接作用による効果が観察される場合がある 2)

Fig2 シクロデキストリンがゲストを包接する様子

23 水溶化シクロデキストリン

3

ブドウ糖やショ糖など通常糖質の水への溶解度は非常に高いしかし天然型シク

ロデキストリンは隣接する水酸基との水素結合の為3 種のシクロデキストリンの中では最

も高い水溶性を有するγ-シクロデキストリンであってもその溶解度は 25において水

100 mL に 23 g であり油性物質を包接した場合は一般的にその溶解度はさらに低くな

るそこで水への溶解度を改善するためにシクロデキストリン化学修飾体が製造されて

いるシクロデキストリンの水溶性を向上させる方法として隣接する水酸基をメチル基や

アセチル基などでエーテル化やエステル化する方法がある具体的には部分メチル化β-シ

クロデキストリンやモノアセチル化β-シクロデキストリンが工業的に生産されている

24 包接能の評価について

今回の実験ではゲスト分子としてカルボン酸を用いるシクロデキストリン及び水溶化

シクロデキストリンの包接能の評価については包接化合物に含まれているカルボン酸をア

ルカリで滴定することで求めることができる

3 実験

31 試薬sup3⁾

アジピン酸

分子式C6H10O4

分子量1464

mp153

bp3375 アジピン酸

クエン酸

分子式C6H8O7

分子量19213

mp156~157

クエン酸

シュウ酸

分子式C2H2O4

分子量9004

mp1895

シュウ酸

4

βシクロデキストリン

分子式(C6H10O5)7

分子量113500

n-ブタノール

分子式C4H10O

分子量7412 β-シクロデキストリン

bp1179

エタノール

分子式C2H6O n-ブタノール

分子量4607

mp-1145

bp7833

水酸化ナトリウム

組成式NaOH

分子量4000

mp328

bp1388

無水オクタン酸

分子式C₈H₃₀O₃

分子量27041

mp-1 無水オクタン酸⁶⁾

濃硫酸

分子式H₂SO₄

分子量9808

mp104

32 使用器具

300 mL ビーカーメスフラスコピペット三角フラスコ吸引漏斗吸引瓶ビュレッ

トスタンドボウルガラス棒

5

33 実験操作

331 エステル化シクロデキストリンの合成 ⁵⁾

1)三角フラスコにβ-シクロデキストリン 1 g を入れこれに無水オクタン酸 025 mL を加

える

2)触媒として 2-3 滴の濃硫酸を添加し攪拌する

3)約 10 分間放置してフラスコを氷桶に入れて冷やしガラス棒でフラスコの壁を強くこす

り結晶を析出させる

4)水 20 mL を加えさらに氷桶で冷やしながら残る結晶を析出させる

5)この結晶を濾分し水で洗ってから取り出して乾かして結晶を得る⁵⁾

332 包接化合物の形成

1)β-シクロデキストリン 1 g を水 100 mL に溶解させる

2)ピペットで 1 mL のカルボン酸を加えコルク栓をして静置する

3)1 週間程静置し包接化合物を吸引濾過する

4)上記の操作をカルボン酸(酢酸シュウ酸クエン酸)で行う

5)エステル化シクロデキストリンで同様の実験を行う

333 包接能の測定

1)よく乾燥した包接化合物約 1 g をメスフラスコで 100 mL 溶液とする

2)この溶液 20 mL にフェノールフタレインを指示薬として20 mL 加え 01 M 水酸化ナト

リウム標準溶液で滴定する⁴⁾

334 溶解度の測定

1)100 mL の水に 5 g の β-シクロデキストリンを溶解させる

2)沈殿をろ過し乾燥して重量を測定する

3)エステル化 β-シクロデキストリンで同様の作業を行う

参考文献

1) 竹本喜一包接化合物の化学東京化学同人1969p2

2) 辻堅司シクロデキストリンの応用技術株式会社シーエムシー出版2008p3-p9

3) 大木道則大沼利昭田中元治千原秀明化学大辞典東京化学同人1989

4) 発田寿々子教養の化学実験第 2 版学術図書出版社2014p119

5) 南篠正男先生と生徒のための化学実験共立出版株式会社1986p155

6) 「 chemical book 」〈 wwwchemicalbookcomchemicalProductPropert_JP_CB 〉

(2015418 アクセス)

1

東京理科大学Ⅰ部化学研究部 2015年度春輪講書

ダブルネットワークの合成と評価 木曜班

OnizukaM(2C)TanakaR(2C)YamamokaH(2K) OhiraM(2K)

1背景

現在高分子ゲルは紙おむつの高吸水性樹脂やソフトコンタクトレンズなど私たちの生

活において活躍しているしかし高分子ゲルは不均一な構造なため一般的に機械的強

度が弱いという欠点がある高分子ゲルの強度面での弱点を克服するために従来では

ゲルの構造を均一化して強度を上げるというアプローチがとられてきた

しかしながら材料の弾性とじん性は反相する因子として働くつまり大変形に耐え

られるゲルは弾性率を犠牲とし高弾性のゲルは小さい変形で破壊される

そこで私達木曜班は前述の問題の解決策と成り得るものとしてダブルネットワーク

ゲル(DNゲル)について注目した

2目的

既存に作られている DNゲルは溶媒に水を用いたハイドロゲルであるDNゲルはその

強度や柔軟性により生体内での人工関節に使用することが期待され研究がおこなわれて

いる木曜班では DNゲルを生体内の関節だけでなく機械の関節部の摩擦軽減材料として

の使用を提案するしかし従来の DNゲルは溶媒が水であることにより水の沸点である

100以上の条件下では性能の低下が問題視され高温になりうる機械への応用が困難で

ある

溶媒を水から有機溶媒に変更することで高温条件下でのゲルの機能維持を試みるとと

もに使用するモノマーを変更しその機能性を検討する

3原理

31 DNゲル

311ゲルの脆弱性

一般的なゲルはゼリーや豆腐のように僅かな力を加えただけで簡単に壊れるほど

弱いこの理由は 2つの現象により説明することができる

1)ゲルの内部に多数の欠陥が存在する

2)欠陥から発生した初期亀裂が容易に伝播する

前者はゲル内部の構造が不均一であることに由来するゲル合成時におけるモノマ

ーと架橋剤の反応性の違いにより不均一な重合がおこるあるいはゲル化溶液内の濃度

揺らぎが重合によって固定されることだと考えられている 1)こうしたゲルに力を加えた

2

時にゲルの弱い部分に力が集中してしまうため小さな力でも初期亀裂が生じてしまう

後者はゲル内部のポリマーの密度の低さから生じる一般的に物質内における亀裂

の進みやすさは破壊エネルギーU(Jm2)(単位面積あたりの破断面形成に費やされる仕事)

によって評価される架橋高分子材料の臨界破壊エネルギーUc(亀裂成長が起こる最小

の破壊エネルギー)は破断面の高分子鎖の数密度と架橋点間分子量に比例する 2)つま

りゲルのじん性(物質の破壊に対する抵抗の程度で粘り強さとも言い換えられる 3))はゲ

ル内のポリマーの密度には比例し架橋密度には反比例することがわかる

ゲルは 50~99wtの溶媒を含んでいて高分子の密度が非常に低い物質であるためゲ

ルの Ucはゴムなどの固体に比べてかなり小さいことが考えられる

これまでの高強度ゲル研究は主に前者の問題を解決するすなわち構造を均一化するこ

とでゲル内部の欠陥を極力減らして強度を改善しようという観点から行われてきた

312 ゲルの弾性率

高分子鎖が三次元架橋されたゲルはゴムと同じようにエントロピー弾性を持つ溶液

中に完全に湿潤した電気的に中性ゲルのせん断弾性率(横方向に対するバネ係数 4)であり

Young率 Eと E=3Gの関係式が成立する)は

GneucongkBT

b3Q-225

以上の式で表せられゲルの湿潤度 Qの増加にともないせん断弾性率Gneuは大きく低下

するここでkBはボルツマン定数Tは温度bは重合させたモノマーの大きさである 5)

一方溶液中に完全に湿潤した電解質ゲルのせん断弾性率は

GchacongkBT

b3Q-1

によって表せる 6)よって同じ湿潤度において電解質ゲルは中性ゲルよりせん断弾性率が

高いことが分かる

またゲルの湿潤度は架橋点重合 N(分子量)による溶液中に完全に湿潤した中性ゲル

の場合QasympN35であり電解質ゲル場合QasympN

32であるしたがって架橋密度を上げる

ことによりゲルの湿潤度が小さくなりせん断弾性率が上がる 3)4)

313 ゲルの破断歪と破断応力

架橋構造が均一と仮定した理想的なゲルの破断歪(ゲルが破壊するまでの変形 7))は架

(1)

(2)

3

橋点間高分子の伸びきった長さと高分子鎖に歪がない曲がった自然な状態での大きさ

の比として求められる溶媒中で完全に湿潤した中性ゲルの引っ張り破断歪はλBcongQ12で

ありQの増加により増加する一方湿潤することにより単位面積あたりの高分子

の本数が減るため破断応力は湿潤度 Qが大きくなることにより減少する故にQが大

きいゲルは伸びやすいが弱い応力で壊れる

電解質ゲルの場合高分子鎖はその解離しているイオンの浸透圧によって水中では

ほとんど伸びきった状態となっているその結果理想状態においても破断歪はλBcongQ19

になるこれは破断歪が小さくかつ湿潤度にあまり依存しないことを意味している 5)

以上のことより

1)架橋密度を上げる(架橋点間分子量を下げる)ことでゲルが固くて脆くなる

2)水中に完全に湿潤した高分子電解質ゲルは中性のゲルより硬くて脆い高弾性と変形は

相反するということが考えられる

314 DNゲルの高強度機構

DNゲルは強電解質をモノマーとする 1st networkゲル電気的に中性なモノマーを用

いる 2nd networkゲルを組み合わせることにより生成される前述した通りゲルにおける

弾性と靭性は常に相反する働きをするそれゆえに単一な物質で両方の性質を得るこ

とは原理的には不可能である同じ湿潤度において電解質ゲルと中性ゲルのせん断弾性

率の比はGchaGneucongQ125であるために両者の違いは湿潤度 Qが高いほど大きくなる

この性質を利用することにより電解質ゲルは硬い成分中性ゲルは軟らかい成分とし

て用いることができる

亀裂を含む DNゲルがある引張荷重を受けると応力集中の効果で最初に亀裂先端近傍

の電解質網目(1st network)が破壊され局所的にゲルが降伏する荷重がますと電解質網

目の破壊が次々に伝播し広範囲にわたるダメージゾーンが形成されていくこの過程

で非常にいい気なエネルギーが分散されるダメージゾーンがある大きさまで広がった

ときようやく亀裂先端に中性網目(2nd network)が十分に伸びて切断し亀裂が進行す

る 8)

4

Fig 1 DNゲルの破壊モデル 9)

32 光ラジカル重合

321 光分解

光重合開始剤に UVを当てることにより開裂がおきラジカルが発生する本研究にお

いては 1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンを用いる 10)

Scheme1 1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンの開裂 10)

ℎ120592

5

322 開始反応

UVを当て光開裂により生じたラジカルがビニル基の二重結合を攻撃し光重合開始剤

と炭素の間に σ結合を作り炭素原子にラジカルが存在することになる

Scheme2 ラジカルの生成

323 成長反応

Scheme2で生成したラジカルが他のモノマーを攻撃しσ結合を生じるそれが何回

も起こることにより分子鎖が成長する 6)

Scheme3 分子鎖の成長

324 停止反応

Scheme 3で成長した成長ラジカル同士が σ結合を作り分子鎖が生成する 7)

Scheme4 分子鎖の生成

4実験

41 DNゲルの合成

411 使用器具試薬

ビーカー乳鉢乳棒薬さじUVライトデシケーター

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸

分子式 C7H13NO4S

式量20724

融点160

用途1st networkゲルのモノマー

6

アクリル酸

分子式C3H4O2

式量7206

融点123

沸点1416

比重10511

危険性引火性(発火温度 360 )

用途1st networkゲルのモノマー

アクリロニトリルの加水分解アクロレインの酸化ニッケルカルボニルの存在下ア

セチレンと一酸化炭素と水との反応などにより合成される酢酸に似た刺激臭を持つ液

体水エタノールエーテルによく溶ける酸素の存在下容易に重合するプラス

チックの原料として用いられる

アクリルアミド

分子式C3H5NO

式量7108

融点845

沸点103

比重1122

用途2nd networkゲルのモノマー

アクリルニトリルを硫酸あるいは塩酸を処理して得られるフレーク状の結晶溶解

性(g100 ml溶媒30 )水 2155メタノール 155エタノール 862アセトン 631

酢酸エチル 126クロロホルム 266ベンゼン 0346ヘプタン 00068化学的に不安

定で冷暗所に保存する必要がある融点付近あるいは紫外線下で重合する重合の仕方

により水溶性不溶性のものが得られる

酢酸ビニル

分子式C4H6O2

式量8609

融点-932

沸点723

比重09317

用途2nd networkゲルのモノマー

無色の液体酸やアルカリよって容易に加水分解されてアセトアルデヒドと酢酸を生

じる熱光ラジカル開始剤によって重合する

7

メタクリル酸メチル

分子式C5H8O2

式量10012

融点-48

沸点1003

比重0936

用途2nd networkゲルのモノマー

無色透明で催涙性の芳香のある液体工業的にはアセトンシアノヒドリンにメタノー

ルと硫酸を作用させて合成する実験室的にはメテクリル酸メチルの重合物を 320

以上で乾留すると得られる一般に有機溶媒には溶けるがエチレングリコールグリセ

リンには溶けにくい重合しやすいので重合禁止剤としてヒドロキノンモノメチルエ

ーテル(65 ppm)を添加して保存する有機ガラスの製造ビニル系共重合体など広く

重合反応に用いられるまたメチル以外のアルコールのメタクリル酸エステルの合成

にも用いられる

NN-メチレンビスアクリルアミド

分子式C7H10N2O2

式量15417

融点300

用途架橋剤

1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン

分子式C13H16O2

式量20427

融点47-50

用途光重合開始剤

最大吸収波長は 260 nm付近にある

エチレングリコール

式量6207

融点 -126

沸点1976

比重11132

8

用途ゲル溶媒

重要な二価アルコールでエチレンオキシドの酸触媒による開環高温高圧下水と

の反応による開環などによって合成される吸湿性無色無臭の液体甘味を有する

が有毒である高沸点を有ししかも水酸化カリウム水酸化ナトリウムを溶解し水や

エタノールと任意の割合で混合するので有機合成における溶媒として広く用いられ

また塩基に対して安定なエチレンケタールの生成によるカルボニル基の保護に用いら

れるさらに酢酸ビニル系樹脂の溶剤や水と混ざり高沸点のため不凍液に用いら

れるなど広い用途を持っている

412 1st networkゲルの作成

1) 1st networkゲルのモノマー(電解質モノマー)架橋剤(NN-メチレンビスアクリルア

ミド)と光重合開始剤(1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)を水に溶解させた水

溶液を調製する

2) UVを 8時間照射して光ラジカル重合をさせる

3) 2)で合成した電解質ゲルを乳鉢に入れ適当なサイズに砕いた後デシケーター内で一

週間ほど乾燥させる

413水溶媒 DNゲルの作成

1) 2nd networkゲルのモノマー(中性モノマー)架橋剤(NN-メチレンビスアクリルアミ

ド)光重合開始剤(1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)をエチレングリコールに

溶解させた溶液を調製する

2) 乾燥した電解質ゲルを 1)で調製した水溶液に入れ電解質ゲルを十分に膨らませるそ

の後UVを照射し中性モノマーを光ラジカル重合させる

414エチレングリコール DNゲルの作成

1) 2nd networkゲルのモノマー(中性モノマー)架橋剤(NN-メチレンビスアクリルアミ

ド)光重合開始剤(1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)をエチレングリコールに

溶解させた溶液を調製する

2) 乾燥した電解質ゲルを 1)で調製したエチレングリコール溶液に入れ電解質ゲルを十分

に膨らませるその後UVを照射し中性モノマーを光ラジカル重合させる

42 DNゲルの評価

421引っ張り試験

使用するモノマーの変化によるゲルの性質の差を評価する引っ張り試験は

JIS-K-6251-7号に準拠する方法で測定する

9

1)DNゲルを X方向の長さ 50 mmY方向の長さ 75 mmZ方向の長さが 25 mmの大

きさに成形する

2)その一端部に X-Y平面に平行な切込みを入れて2つの引張端部を形成する

3) 引張端部を片方は固定しもう片方を一定の速度で引っ張るこのときの引っ張る力 F

を測定する

Fig 2 引っ張り試験 13)

422 摩擦試験

使用するモノマーの変化溶媒の変化によるゲルの性質の差を評価する

摩擦試験は東京理科大学工学部第一部機械工学科佐々木研究室に依頼する予定である

用いる機械は SVR4パーカー熱処理工業株式会社製であり180での高温での摩擦係

数の測定が可能である

摩擦測定は常温(20 )と高温(100 )で測定することを予定している

10

5 展望

51 DNゲルの合成

実験操作は溶液を調製した後UV照射するという簡易な手順なので合成は比較的早い

段階で成功すると考えられる

1st networkゲル合成に使うのは電解質モノマーなため水溶液のモノマーの濃度が低

いと湿潤度 Q が大きくなりせん断弾性率が下がり剛性が弱いゲルが出来上がると考え

られる

架橋剤を多く使用すると架橋密度を上がるので 2nd networkゲルが入り込む空洞が小

さくなるそのために架橋剤が多すぎると高弾性のゲルが生成できると考えられる

また同様な考えで2nd networkモノマーが含まれている水溶液に乾燥させた1st network

ゲルを入れる量が多くても高弾性のゲルが生成できると考えられる

52 DNゲルの物性

ゲルの高分子網目は基板から離れようとするときにゲルと基板の間に僅かな溶媒層

が生じるこの状態では溶媒層が潤滑油のような働きをして生じる摩擦力は小さなも

のとなるゲル周辺が高温な状態ではこの溶媒層が水の場合は蒸発してしまうので摩

擦力は増大すると考えられる溶媒を水からより沸点の高いエチレングリコールなどに

変えれば摩擦力は増大することはないと推測される 14)

11

参考文献

1) J Bastide and L LeiblerMacromolecules1988212647

2) G G J Lake and A G ThomasProc R Soc LondonA1967300108

3)越後亮三 機械工学辞典 朝倉書店 2007 p631

4) 伊藤勝悦 やさしく学べる材料力学 森北出版 2014 p14

5)SPObukhovMRubinstein and RHColby Macromolecules 1994273191-3198

6)MRubinsteinRHColbyAVDobrynin and JJaonnyElasticMacromolecules199629398-406

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httpwwwengmmtrosakafu-uacjpresearchstrength-japdf2015413取得

8)聾剣萍「生命科学時代の新材料-高弾性高靱性ダブルネットワークゲル」高分子学会

『高分子』高分子科学最近の進歩58巻 5号2009p327-p331

9)YTanakaEurophysLett20077856005

10)蓮池幹治ラジカル重合ハンドブックエヌティーエス2010p444-p445

11)大津隆行ラジカル重合(Ⅰ)化学同人1971p80-p81

12)大津隆行ラジカル重合(Ⅰ)化学同人1971p153-p154

13)聾剣萍高分子ゲルおよびその製造方法特開 2009-185156 2008-02-05

14) 角五 彰龔 剣萍長田義仁「ゲルの摩擦と水和潤滑~生物の滑らかな運動解明への

アプローチ」日本生物物理学会『生物物理』47巻 4号2007p 253-p258

1

東京理科大学Ⅰ部化学研究部 2015年度春輪講書

耐塩性の高い新規化粧品用増粘剤の開発 2015年度金曜班

Nomata N(2OK)Seki M(2OK)Tin J(2OK)Takahashi R(2C)Watanabe A(2K)

Asai D(2K) Nishimiti D(2K)Yamamoto R(2K)

1 動機

化粧品において増粘剤の果たす役割は非常に大きい

化粧品にはクリーム状のモノが多くありその整形には増粘剤が必要不可欠である

また増粘剤は製剤だけでなく密閉効果や水和効果によって薬剤を皮膚に効率的に輸

送することに役立っている

この増粘剤であるが一つ課題がありアスコルビン酸塩(ビタミン C)のようなクロロ

基を持つ塩系薬剤をゲル中に含む場合経時によってべたつきといった使用感の悪化

につながるといった弱点があるこの問題の解決のために塩系薬剤への耐性の高い増

粘剤の開発が望まれている

塩系薬剤の高い美容効果からこの問題の解決に対する化粧剤企業のニーズは高くこ

の問題は長く研究が続けられていたが近年資生堂が逆相マイクロエマルション重

合法によって microスケールの粒状高分子を多数合成することによりできる増粘剤が高い

耐塩性を持ち使用感もよいことを発見したがこの粒状高分子増粘剤には未だ試み

られていないモノマーが多くある

そこで今年度の金曜班ではこの逆相マイクロエマルション重合法において未だ

試みられていない親水基を持つモノマーを利用して新規の増粘剤をつくることで粒

状高分子による増粘剤の耐塩性と肌触りと親水基の関係を調べ応用化に利すること

ができるのではないかと考え実験を行うこととした

2 背景

増粘剤とは水溶液をゲル化するために添加される物質であり化粧品において広く

用いられているこの増粘効果は従来では高分子鎖同士の分子間力や架橋で生じる

網目構造の結果生じる液中の摩擦力によるものである

動機で述べたように μスケールの粒状高分子が増粘剤として良質であることがわか

っているただし粒状高分子の形状は反応場であるセッケンミセルの大きさだけで

なく親水基やポリマーを構成する原子同士の分子間力によって変わる高分子の立体構

2

造にも影響されている

また粒状高分子の正確な一次構造を把握することは大変難しいことであるので

応用化のためには高分子の一次構造でなくモノマーによって粒状高分子特性の変化

を調べることが重要である

さらに従来用いられているポリマーがスルホ基とカルボキシル基を親水基とする

ものしか存在しない

以上の三点から酸以外の親水基をもつモノマーで増粘剤を合成したときその性

質はどうなるかを調べることでより製品として利用価値が高い粒状高分子増粘剤を合

成することができるのではないかと考えた

そこで新規モノマーとしては対照実験を行うためにアクリルアミド系モノマー

でかつ 2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸のスルホ基と同じ炭素骨格の先

端に親水基が存在するものとしてN-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド (3-アク

リルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライドを用いてそれぞれ親水基が酸

ではなくヒドロキシ基である場合親水基がアニオンではなくカチオンである場合に

ついて研究を行うこととした

この二種の以外にも水溶性のアクリルアミドポリマーは存在するが上記の条件を満

たさないまたは高価であるため本実験では用いないこととした

Fig1 N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド

Fig2 (3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライド

3

3 原理

31 一般的な液体の粘性

溶液の粘性は一般論では以下のように表される

Fig3のように XY平面を取り液面に平板を用意し引っ張った時挟まれた溶液内

には図のようなせん断流動が発生する高さ Yでのせん断速度は(119881

119889) 119910で与えられる

この時平板に挟まれた溶液を薄層の集まりと考えると隣り合う薄層間に摩擦が生

じるこの内部摩擦力が粘性力であるずり速度勾配が十分に小さければ平板の単位

面積当たりに生じる粘性力 Fv0はその勾配 Vd に比例するすなわち以下の式で表

され1205780を粘性係数と呼ぶこの値は溶媒固有である1)

1198651199070 = 1205780 (119881

119889)

Fig3 溶液ずりせん断図

32 増粘剤の粘性

増粘剤の多くは低分子の液体に高分子を溶かすと著しく粘性が高くなる性質を利

用している

この粘性の発生するメカニズムは下の Fig4において平板間の溶液を薄層に分けた

際高分子鎖は溶液の移動に伴って回転するこのとき溶液中の薄層は薄層間の摩

擦以外に高分子鎖との間にも摩擦が生じているこの摩擦の増加が粘性力の増加とな

る 2)

4

Fig4 高分子による粘性増加

また高分子鎖同士が分子間力によって結びつき三次元構造を形成することで内

部摩擦力は一層大きくなるこのため高分子による増粘効果は顕著である

架橋高分子では三次元構造が高分子鎖同士の分子間力による形成よりも強いものと

なるので増粘効果及びレオロジー特性に優れる 3)

33 塩系薬剤による粘性劣化のメカニズム

塩系薬剤とはビタミンC (アスコルビン酸塩)のようにクロロ基をもつ薬効物質のこ

とである

このクロロ基が直鎖高分子や架橋高分子がポリマー間で形成する三次元網目構造

を破壊することによって増粘効果を消失させ内容物の流失によるべたつきを生じさ

せる 3)

34 粒状高分子の粘性

粒状高分子の粘性について粒状高分子はその粒経が小さいほど体積に対する表面

積が増え溶液内での内部摩擦力が大きくなる

また粒子同士が摩擦力を元に網目構造を形成するため網目構造の構成要因が直

鎖高分子や架橋高分子の高分子増粘剤と異なっている 4)

35 逆相マイクロエマルション重合法

後述する転相温度乳化法を用いて形成した5 μm~30 μm 形成したマイクロエマル

ション内において水溶性のモノマーを利用して行う乳化重合法の一種容易に極小の

5

ポリマーを合成することができる 5)

36 界面活性剤の概略

界面活性剤とは分子の構造が水になじみやすい部分(親水基)と油になじみやすい

部分(新油基)からできていて2つの物質の間の界面に集まりやすい性質を持ちそ

の界面の性質を著しく変える物質というのが界面活性剤の定義である

代表的な界面活性剤の特徴は界面における「吸着」と「ミセル形成」である 6)

もうひとつの代表的な作用として「可溶化」もある

37 エマルションの形成

界面活性剤に有機溶媒が取り囲まれて水に可溶化されたとき水溶液中に存在する

有機溶媒を界面活性剤が取り囲んだ液滴のことを OW エマルションと呼ぶ

有機溶媒中に水が可溶化される場合WOエマルションと呼ぶ

38 ノニオン界面活性剤

非イオン界面活性剤とも言う界面活性剤の内解離基を持たず電気的に中性な

界面活性剤で親水基は主にポリオキシエチレン基であるその特殊な性質上他の種類

の界面活性剤に無い性質として曇点と転相温度を持つ 今回使用するノニオン界面

活性剤はポリオキシエチレンオレイルエーテルであり基本式は以下のような形にな

る 7)

R-O(CH2CH2O)n-H

Scheme 1 ポリオキシエチレンオレイルエーテルの基本式

39 曇点

曇点とは透明な液体が相分離を起こして白濁する温度のこと

本実験においてはノニオン界面活性剤が加温によって界面活性効果を失い相分離

によって白濁する温度のこと 8)

310 転相温度乳化

ノニオン界面活性剤は加温によって界面張力が変化しWO型エマルションから

OW 型に変化するこの変化点のことを転相温度と言い転相温度において界

6

面張力が最低になっているので溶液エマルションが極小になる

またこの転相温度は界面活性剤に固有の値となるので二種の比較的性質の

近い界面活性剤を混合することで転相温度を操作し適切な温度で5 μm~30 μm

程度の直径を持つエマルションを作成する方法を転相温度乳化法と呼ぶ 10)

311 ラジカル重合

開始剤を用いてラジカル種を生成して行う重合法のことをラジカル重合法と言う

開始剤の分解要因によって熱光放射線ラジカル重合の三つに分けられる 10)

3111 ラジカル重合を構成する四反応

ラジカル重合は 4種類の反応が同時並行的に起こるそれぞれ以下の通りである 11)

開始反応

開始剤が熱光放射光などの要因によってラジカル開裂を起こしラジカル種を

生じさせる反応

成長反応

ラジカル種がモノマーと反応することでモノマー新たなラジカル種が生成する

反応これが連続することでポリマーが合成される

停止反応

連鎖していた成長反応が止まる反応主にラジカル種同士の反応による

連鎖移動反応

ラジカル種がモノマー以外の分子主に溶媒分子等と反応することでポリマー以

外の物質を合成する副反応

3112 乳化重合

乳化重合はモノマー液滴と呼ばれるモノマーを大量に保存しているエマルシ

ョンと反応場となる極小のセッケンミセルの二つの構造を持つ溶液中で行う不均

一系ラジカル重合の一種である 12)

成長反応が一段階進むたびにモノマー液滴から拡散の理論式に従ってモノマ

ーがミセル内に移動するこの一連の反応を繰り返して反応が進む 13)

そのため種々のラジカル重合法と比較して以下の特長がある 13)

セッケンミセル内に存在するラジカルが常に一つであるため停止反応が

7

起こりにくく比較的重合度の高いポリマーが生成しやすい

反応速度が拡散作用によって律速されかつセッケンミセルの周囲を大量

の溶媒分子が囲んでいるため除熱が容易であるという理由から熱暴走を起

こしにくいという利点がある

ミセル内で重合するため合成した高分子が絡まりやすく粒状の分子が作

成できる

Fig5 乳化重合模式図

312 MS(質量分析法)

質量分析法とは分子の質量すなわち分子量を測る手段でもあるまた分子を分解

したフラグメントの質量を測ることによって分子構造に関する情報を得るものでも

ある

高エネルギー電子が有機分子にぶつかると分子から電子がはじき出せれカチオ

ンラジカルが発生する

119825119815 rarr 119825119815++119838minus Scheme 2カチオンラジカルの発生

電子の衝突により大量のエネルギーが分子に与えられることで大部分のカチオン

ラジカルを生成した後フラグメントに分解するフラグメントは小さな破片となっ

て浮遊し正電荷や中性となる

このカチオンラジカルとフラグメントについてmz値を横軸相対強度を縦軸につ

いて取ったグラフから質量スペクトルを読み取る 14)

またMS(質量分析法)はイオン化の方法などによりいくつかに分けられ今回使用

したいのは高分子試料でもほとんどフラグメンテーションを起こさないソフトなイ

8

オン化法であるMALDI法 15)である

3121 MALDI法(マトリックス支援レーザー脱離イオン化法)

試料を 25-ヒドロキシ安息香酸のような適切なマトリックス上に吸着させて

ペレットを作成しレーザー光を短時間照射してイオン化する

エネルギーがマトリックスから試料に移動し[119872 + 119867119899 ]119899+に分解される 15)

MALDI法にはよく TOF型の MSが用いられている

4 実験

41 2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を用いた既存化粧品用増粘剤の合成

411 使用器具試薬

温度計ウォーターバスビーカー薬さじデシケーター

ジメチルアクリルアミド

式量9913

沸点81

発火点71

LD50(経口)316mgkg

LD50(経皮)580mgkg

製造和光純薬工業株式会社

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸

式量20725

融点200

LD50(経口)5400mgkg

製造和光純薬工業株式会社

NN-メチレンビスアクリルアミド

式量156

沸点4451

発火点215

LD50(経口)390mgkg

製造東京化成工業株式会社

9

へプタン

式量1002

沸点98

引火点-4

水に不溶

製造昭和化学

2-プロパノール

式量60

沸点82

発火点12

LD50(経口)区分外(GHS分類)

LD50(経皮)区分外(GHS分類)

製造昭和化学

ペルオキソ二硫酸アンモニウム

式量22820

冷水に易溶保存湿気厳禁

重合開始罪乳化重合レドックス重合に用いられる

製造和光純薬工業株式会社

412 実験手順

① ビーカーにイオン交換水ヘプタンポリオキシエチレンオレイルエーテル(2)

(8)をそれぞれ507 mL 507 mL489 g((2)(8)=23)加えて良く撹拌したも

のを入れる

② その後その後温度調節機能つきスターラーに乗せ白濁するまで加熱する

白濁した液が透明化するまで温度を落とし電気伝導率計を用いて溶液が転

相温度付近に保たれていることを確認する

③ 以上の操作が済んだ重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先

ほどのスターラーと同じ温度にしたウォーターバスに移し2-アクリルアミド

-2-メチルプロパンスルホン酸NNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 137 g

262 g入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始

剤としてメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

10

④ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

42 N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミドを用いた新規化粧品用増粘剤の合成

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を誘導体と入れ替える以外の

操作は 41に準ずる

親水基による増粘性の変化を観察するため架橋剤のモノマーに対する濃度比

は 2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を使用したポリマーが最も増

粘効果の高くなると報告された濃度比を用いる

421 使用器具試薬

使用器具は 41に準ずる

試薬

N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド

式量11513

沸点130

発火点189

製造東京化成工業株式会社

422 実験手順

① 412 ①②と同じように重合系を作成する

② 以上の操作が済んだ重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先

ほどのスターラーと同じ温度にしたウォーターバスに移しN-(2-ヒドロキシエ

チル)アクリルアミドNNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 076 g262

g 入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始剤と

してメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

③ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

11

43 (3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライドを用いた新規化粧品用

増粘剤の合成

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を誘導体と入れ替える以外の操作は

41に準ずる

親水基による増粘性の変化を観察するため架橋剤のモノマーに対する濃度比は 2-ア

クリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を使用したポリマーが最も増粘効果の高く

なると報告された濃度比を用いる

431 実験器具

実験器具は 41に準ずる

試薬

(3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライド

式量22074

沸点100

製造東京化成工業株式会社

432 実験手順

① 412 ①②と同じように重合系を作成する

② 重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先ほどのスターラーと

同じ温度にしたウォーターバスに移し (3-アクリルアミドプロピル)トリメチ

ルアミニウムクロライドNNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 123 mL

262 g入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始

剤としてメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

③ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

5 評価分析

耐塩性の高い増粘剤の耐塩性と使用感と親水基との関係を評価するために以下の二

つの測定を行い評価する

増粘剤の耐塩性の評価のために塩酸を増粘剤内部に取り込ませた状態で経時

12

による粘度の変化を観察する

また高分子の粘性を考える上で直鎖高分子の場合よく参考にされるのが平

均分子量でありこの値を測定することで親水基が変化した場合に平均分子

量が粒状高分子の粘性にも大きく影響するか確認する

精密に上の測定を行うには専用の機器が必要になるため機器メーカーの株式

会社エーアンドデイ様または東京理科大学理学部応用化学科駒場研究室に

また高分子の性質を考える上で重要視される平均分子量及び分子量分布に

ついては東京理科大学化学系機器センターにあるMALDI-TOF型質量分析計を管

理者の東京理科大学理学部応用化学科の根岸先生に測定に協力していただこうと

考えている

6 謝辞

東京理科大学工学部工業化学科 近藤行成教授

東京理科大学理学部化学科 遠藤恆平准教授

東京理科大学理学部応用化学科 駒場慎一教授

この研究を進めるに当たり大変お世話になった先輩先生方企業の皆さんに感謝の

意を表明します

参考文献

1) 小澤美奈子 基礎高分子科学 高分子学会 編 2010年 第六版 p979899

2) 小澤美奈子 基礎高分子科学 高分子学会 編 2010年 第六版 p99100

3) 金田 勇 逆相マイクロエマルション重合法による水膨潤性ミクロゲルの重合とその増

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4) 小林敏勝 福井寛 きちん知りたい粒子表面と分散技術 日刊工業新聞社 p76

5) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 2006 p839 840 841

6) 皆川基 藤井富美子 洗剤洗浄 百科事典 大矢勝 2007年版 p4647

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8) 資生堂 HP httpswwwshiseidogroupjprddevelopmentformulationhtmlより 2015

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9) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 テクノシステム 2006 p321

10) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 テクノシステム 2006 p397

13

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11) 遠藤 剛 高分子の合成(上)~ラジカルカチオンアニオン重合~ 講談社 2010 3p

12) 佐藤壽彌編 高分子微粒子の技術と応用 シーエムシー出版 2004 p2526

13) 佐藤壽彌編 高分子微粒子の技術と応用 シーエムシー出版 2004 p27

14) マクマリー 上 8版 東京化学同人 p403404

15) John McMurry マクマリー有機化学(上) 第 8版 2013 p410411

Page 9: ゼオライトとキトサンを用いた 金属イオン除去剤の …kaken/studies/2015/2015-s-all.pdf1 東京理科大学I 部化学研究部 2015 年度春輪講書 ゼオライトとキトサンを用いた

9

32 器具

マグネチックスターラー

吸引ビンなど吸引ろ過に用いる器具

恒温槽

pHメーター

ビュレット

メスフラスコ

4 実験操作

41 ゼオライトの洗浄

天然ゼオライトを使用する予定であるがこれには水を懸濁させるような粘土質が

付着していると思われる 3 M の塩酸に 1 日ほど浸けることによりこれを除去する

42 ゼオライトのキトサンによる化学修飾(架橋剤グルタルアルデヒド)

(1)キトサン 05 gを 50times10-3

M塩酸 500 mLに加えた後に天然ゼオライト 125 g

を加える

(2)均一な懸濁液になるまでスターラーで 250 rpmにおいて撹拌する

(3)懸濁液に 1 M水酸化ナトリウム水溶液 75 mLとグルタルアルデヒドを 02 g添加

してゼオライトをキトサンで修飾する

43 ゼオライトのキトサンによる化学修飾(架橋剤グリオキサール)

(1)キトサン 05 gを 50times10-3

M塩酸 500 mLに加え溶解させて天然ゼオライト

125 gを加える

(2)均一な懸濁液になるまでスターラーで 250 rpmにおいて撹拌する

(3)懸濁液にグリオキサール 01 gを添加して水温を 80 に保ち 1時間撹拌して架橋

を行う

(4)1 M 水酸化ナトリウム水溶液を 75 mL加えてゼオライトをキトサンで修飾する

44 修飾済みゼオライトの調製

(1)しばらく静置した後に吸引ろ過を行い固相水相の分離を行う

(2)得られた固相をイオン交換水で洗浄する

(3)1週間ほど乾燥剤と共に保管することにより自然乾燥させる

10

45 種々の含金属廃液の作成

(1)01 M硝酸に各金属イオン標準液を混合させ金属イオン含有量が 5 mgになるよう

に金属イオン含有水溶液を作成する

(2)硝酸と水酸化ナトリウム水溶液を用いて pHを操作しpHが 246の付近になる

ように調製する

46 修飾ゼオライトによる金属イオンの除去

(1)各金属イオンを含む試料溶液に作製した除去剤 50 gを投入しマグネチックスター

ラーで 250 rpm において 1時間撹拌する

(2)吸引ろ過を行い固相水相の分離を行う

<備考>

本実験では作製した除去剤の性能を比較するためにキトサン天然ゼオライト

および2種の修飾済みゼオライトについて金属イオン除去実験を行う予定である

5 評価

51 キレート滴定を用いた金属イオンの定量

511 銅イオンのキレート滴定

(1)試料溶液に酢酸-酢酸ナトリウム緩衝溶液を加えて pHが 25~60に保たれている

事を確認する

(2)エタノールを 50 mL加えた後にPAN指示薬を数滴滴下して溶液を発色させる

(3)001 M EDTA水溶液を滴下して滴定を行う

512 鉄イオンのキレート滴定

(1)試料溶液の pH を確認し酸性が強い場合は 35酢酸ナトリウム水溶液を酸性が

弱い場合は 1M 塩酸を加えて pHを 20~30に調節する

(2)1サリチル酸溶液を 8 mL添加して溶液を発色させる

(3)001 M EDTA水溶液を滴下して滴定を行う

6 実験結果に関する予測

金属イオン除去剤の作製によってゼオライト粒子を内包したキトサン粒状体が得ら

れると予測されるまたグルタルアルデヒドによってキトサンを架橋した除去剤と

比較してグリオキサールを用いた除去剤の方が金属イオンの除去性能が高くなるの

ではないかと期待できる

11

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2005年 3月発行 p153~156

4) 一般社団法人キチンキトサン学会 『キチンキトサンとは』

URL httpjscckenkyuukaijpspecialindexaspid=1930

最新取得年月日2015年 4月 15日

5) ゼオライト学会 URL httpwwwjaz-onlineorgindexhtml

最新取得年月日2015年 4月 16日

6) 萩中淳ほか著 『パートナー分析化学 I(改訂第 2版)』 南江堂 (2012) p97~98

7)『パートナー分析化学 I(改訂第 2版)』 p116

8) 児玉三明ほか訳 『マクマリー有機化学(中) 第 8版』 東京化学同人 (2013) p703~704

9)『マクマリー有機化学(中) 第 8版』p708~711

10)環境省編集 『環境省 一律排水基準』URL httpwwwenvgojpwaterimpurehaisuihtml

最新取得年月日2015年 4月 17日

11)『化学大辞典』大木道則ほか著 東京化学同人 (2005) p543

12)『化学大辞典』p651

13) 有機合成化学協会編集『有機化合物辞典』講談社 (2004) p248

14)『化学大辞典』p1121~1122

15)『化学大辞典』p1121

16)『化学大辞典』p269

17)『化学大辞典』p1928

18)『化学大辞典』p256~257

19)『化学大辞典』p638~639

20)『化学大辞典』p858~859

21)『化学大辞典』p332~333

22)『化学大辞典』p1172

23)『化学大辞典』p1118~1119

1

東京理科大学Ⅰ部化学研究部 2015年度春輪講書

ケイ酸を用いた無機接着剤 火曜班

Shoji Y (2OK) Arai S(2OK) Abe Y(2K) Takemura R(2K) Matsui T(2K)

1背景

私たちは日々生活している中で接着剤を使う機会が多くあるしかしその接着剤が

まわりに及ぼす影響について考えることは少ないそこで接着剤について調べてみたと

ころ接着剤は大きく分けて 2つのグループに分類できることが分かったまず一般的に

使われているボンドや瞬間接着剤のように有機化合物を主成分とした有機接着剤次に

あまり一般的ではないが金属やセラミックスの接着に用いられる無機化合物を主成分とし

た無機接着剤有機接着剤は簡単に接着することができるなど様々な長所を持つが有機

物の溶媒を用いるため工事現場などで感じる独特な臭いやシックハウス症候群の原因物

質を放出してしまうという短所を合わせ持つそれに比べ無機接着剤は接着方法が高

温で加熱しなければならないという点と有機接着剤よりも接着強度が低いという短所を持

つが耐熱性に優れ特有の臭いもなく溶媒に水を用いるため環境や人体に対する影響

も少ないという長所があるさらに無機接着剤の分野はあまり多くの研究が行われてお

らず発展の余地が残っているのではないかと感じた

2目的

無機接着剤は耐熱性などの長所がある反面強度と耐水性が低いという短所があるこ

の 2つの短所は接着剤として用いるためには重大な問題となるそこで本実験ではケイ

酸を主成分とした無機接着剤に何種類かの金属化合物などの添加物を加えることにより接

着強度と耐水性の改善を目的とする

3原理

31無機接着剤

無機質の接着材料としては一般にガラス系金属系の材料が使用されているがこれ

らの材料は気密性は優れているが接着時にそれぞれの融点や軟化点以上に加熱すること

が必要でありまた接着部分の耐熱性は接着時の温度を上まわることはないという欠点を

有しているこれに対していわゆる無機接着剤は気密性には劣るが低温での接着が可能

であり優れた耐熱性を有するという特徴を持っている無機接着剤は1)無機結合剤

2)硬化剤3)充填剤を主成分として構成される

2

市販されている接着剤の多くは使用の便を考えて一液性であるそのポットライフ(可

使期間)は 3か月から 1年必要とされるので室温で作用する硬化剤は使用できない

1)結合剤

結合剤自体の硬化剤が強い強度と接着力を持つ必要があり現在しようされている無機

結合剤のほとんどはアルカリ金属ケイ酸塩系リン酸塩系シリカゾル系のいずれかで

あり本実験でしようするのはアルカリ金属ケイ酸塩系結合剤である

アルカリ金属ケイ酸塩の水溶液は粘性のある液体であり分子式 M2OnSiO2で表わさ

れMの種類(LiNaKなど)および nの大小によって数多くの種類が生ずるまたア

ンモニウムケイ酸塩やグアニジンケイ酸もある一般には安価なケイ酸ナトリウム(水ガ

ラス)がよく使用される

アルカリ金属ケイ酸塩は水溶液中において種々の量のシリケートイオンモノマーポ

リシリケートイオンおよびコロイド状シリカイオンミセルからなっているこれらの形

態や分布は n 値や濃度に依存しn が大きくなるにつれてポリシリケートイオンミセル

が増加するケイ酸ナトリウムは n が4を越えると水の溶解度は極端に小さくなりn が

3 付近で接着力は最大となるケイ酸カリウムはケイ酸ナトリウムと同じような挙動を示

すがケイ酸リチウムは nが非常に大きくケイ酸分の多い水溶液が得られることが特徴で

ありシリカゾルに近い物性を示すしたがってアルカリ金属ケイ酸塩系結合剤につい

て一般的には耐水性は LigtKgtNa接着力はこの逆の順に良いといわれている

水溶液は強いアルカリ性を示し加熱によってシラノール間で脱水縮合反応を起こし

分子間にシロキサン結合を生じる固形物は融点(軟化点)までずっと非晶質である

2)硬化剤

結合剤は低温で乾燥しただけでは耐水性が不十分であり耐水性の向上のために硬化

剤が添加される硬化剤は耐水性には寄与するが接着力を低下させる場合もあるため

使用目的によっては添加しないこともある一液性の接着剤ではポットライフの要求から

室温で作用するものはあらかじめ添加できないので高温になってはじめて結合剤と反

応するものが選ばれる硬化剤については非常に多くの物質が特許等に提案されている

アルカリ金属ケイ酸塩用の硬化剤にはZnMgCa 等の酸化物水酸化物NaK

Ca等のケイ化物ケイフッ化物Alや Zn等のリン酸塩CaBaMg等のホウ酸塩等が

用いられる

酸化亜鉛による反応機構を LSDGlasserらは次のように示している

反応初期には ZnO粒子の表面で

ZnO + 1198672119874 + 119874119867minus rarr 119885119899(119874119867)42minus

の反応がおこりZn は液中に溶解しOH-が消費されるので pH が下がりケイ酸ゲルが

3

粒子表面に析出する以後はこのケイ酸ゲル層を通して OH-が粒子表面へ拡散しZnOと

反応して Zn(OH)2として固定されるためさらにケイ酸ゲルの析出が行われ酸化亜鉛表

面へ無定形シリカが沈積する

3)充填剤

充填剤としては結合剤との反応性の小さい耐火物粉末が使用される結合剤は加熱脱

水により大きな体積収縮を生じひび割れが発生するのでこれを防ぐため充填剤を添加し

て固体分率を高くするまた粒子間の空隙は水分蒸発の逃げ道となり発泡を防ぐ接着

剤の熱膨張を被着材へ合致させることも重要な役割である

さらに一液性の接着剤ではリン酸塩系におけるアルミナ粒のように室温では反応し

ないが温度を上げていくと結合剤と反応し硬化作用をして耐水性を付与することもある

その他耐火性接着強度熱伝導性電気特性耐薬品性耐摩耗性の向上に重要な

働きがある充填剤の種類に加え粒径粒径分布表面活性等に調整することが必要で

数種の充填剤を混合することが多い

4)核剤

核剤は力学特性成形性成形時の生産性の改良などを目的として種々の結晶性高分子

で利用されている特にポリプロピレンにおいては核剤を添加することにより剛性や耐火

性(熱変形温度)あるいは透明性など諸問題が大幅に改良され高機能化による用途拡大

や成形品の薄肉化軽量化が可能となりさらには短時間で結晶化が完了することから成

形時の生産性も大幅に短縮されコスト削減はもとより省資源省エネを影から支えてい

核剤には工業的な側面から主に力学特性を改善する「核剤」と特に透明性を改良する

効果が高い「透明化剤」とよばれるものがある核剤も透明化剤も高分子の結晶化過程

における基本的な作用機構は同じでありその本質はエピタキシーにあるつまり高分子

融体が結晶化する過程で高分子鎖が結晶化しやすいように「場」(核剤の表面)を提供す

るものである核剤はまた「造核剤」とよばれることもあるが核剤透明化剤とも物理

化学的には高分子に対し同じ作用をしているといえる溶媒中に溶解している溶質が種晶

の添加により析出が促進される現象を想像されたいまさに核剤は高分子融体中に添加

されこれが核となって高分子の結晶化が促進されるのである

4

Fig3-1 核剤の表面からの高分子結晶の成長

a)力学特性の改善

自動車や家電部品の樹脂化率は年々高まり特に自動車においては内外装問わずポリ

プロピレンが多用されるようになった当初はあまり重要でない部分への利用であったも

のの最近ではバンパーフェンダーライナーフロントグリルカウルパネル各種リ

ザーバータンクドアパネルピラーダッシュボードサンバイザーコンソールボッ

クスなどありとあらゆる部分に用途開発が進んでいる高分子材料による金属代替今後

もさらに進められると思われるその理由としては自動車の軽量化はもちろんのこと

設計の自由度(一体成形や金属ではデザインしにくい曲線曲面を複雑に有する部品など)

があげられる自動車部材では機能的に高剛性が求められるものや夏場に高温にさらさ

れる内装部品などは高耐熱性(高い熱変形温度)が求められるものなどがほとんどであり

このような要求性能に応えるべくポリプロピレンに核剤が添加されている

核剤が存在する場合高分子の結晶化が促進され融体の冷却過程においてより高い

温度(より融解温度に近い温度)から結晶化が開始するそのため核剤存在下での結晶化

過程では核剤非存在下での結晶化過程に比較して高分子鎖の運動性が高い状態で結晶

化が開始する核剤を添加した高分子の結晶化開始温度を示差走査熱量計などで測定する

と結晶化が高い温度から開始することも確認されるその結果高分子結晶の欠陥は減

少しまた結晶化度も増大する核剤存在下で結晶化させた高分子結晶は欠陥も少なく

またラメラ厚も厚くなり融解温度が高くなるそのような効果により成形後の高分子

材料の力学特性耐熱性が改善する

5

Fig3-2 核剤の添加のよるポリプロピレンの曲げ弾性率の改善効果

()アデカスタブ NA-11()Hyperform HPN-68 L

()安息香酸ナトリウムポリプロピレン

Fig4-2に核剤の添加によるポリプロピレンの曲げ弾性率の改善効果について示したま

ず核剤を添加することでしかも僅か 01~03 wt程度の添加で曲げ弾性率が劇的に向

上していることが分かるその中で比較すると汎用である安息香酸ナトリウムや HPN-68

Lでは弾性率の改善はあるものの(おおよそ 30の弾性率改善)01 wt程度の添加で改

善効果は飽和する添加物を加えることで剛性耐熱性を大幅に改善できることがわかる

このような改善効果は自動車用に多用されるポリプロピレンのグレードであるインパクト

コポリマーにおいても同様であるさらに核剤の添加により結晶化が促進された結果成

形時間も短縮でき高性能化と相まって生産性改善によるコストダウンも可能となる核

剤はもとのポリマーが有する特徴を損なうことなく物性を改善できるといったメリット

があるといえる

32 縮合重合反応

二つの化合物から水などの簡単な分子が脱離して新たな結合が形成される反応を縮合反

応とよぶカルボン酸とアルコールからエステルを得る反応は縮合反応の一例である

縮合反応を繰り返すことによりポリマーを合成することができるこれが脱水縮合反応

であるたとえば 2個のカルボキシ基をもつ分子と 2個のヒドロキシ基をもつ分子を反応

させると縮合反応が連続して起こりポリマーが得られる本実験では Fig3-3 の反応が

起こる

6

Fig3-3 ケイ酸の脱水縮合反応

33 接着の原理

接着剤による接着効果には複数の理論が挙げられており賛否両論あるものもあるま

た個々の接着現象においても複数の接着効果が絡み合っていることが多く接着効果の

検証は困難であるとされるある接着系では適用できる接着効果が別の系ではまったく無

力ということも多い以下に主な接着効果の理論をあげる

1) アンカー効果

雲母を注意深くはがしたようなごくわずかな例外を除きすべての固体表面は数Åオ

ーダーの粗さを有する例えば機械で製造される金属表面の粗さは 3~6 μmであり研

磨した場合でも 002~025 μmである

アンカー効果とはこのような被着材の凹部に流入した接着剤が固化し被着部に引っかか

ることにより界面が結合するというものであるアンカー効果のような界面との相互作

用を無視した接着効果理論を機械的結合論という

開口部を有するクレバスへの液体の流入について理論式が提案されている

以下の 2式は液体の粘度 η接触角θの液体が深さ Zまで浸透するまでの時間 tを表し

(a)開口部の幅がδの平行板の場合

Zdz

dt=

120575119910

120575120578120574 cos 120579

(b)開口部δ深さ Z0の V型溝の場合

11988501198971198991198850

1198850 minus 119885minus 119885 =

120575120574 cos 120579

6120583119905

となる式によれば開口部が大きくぬれがよく粘度の低い液体ほどまた時間をかけ

たほど深くまで侵入できるとされる

7

Fig3-4 アンカー効果

2)分子間相互作用

ふたつの物体の接着面で分子同士が接触するところで互いにひきつけあう力が働くこと

で接着するとするもの代表的なものにファンデルワールス力結合水素結合が存在す

3)化学的結合

界面に化学結合が存在することで接着強さに寄与するとするものである古くから提唱

されている説であるが化学結合の存在の証明が難しく接着系の界面に本当に化学結合

が存在するのかは十分に検証されなければならないとされる

4)表面自由エネルギーと表面張力

物質の内部と表面では性質が異なる内部の分子は周囲を分子に囲まれており分子間

力で互いに引き合うため安定化されるこれに対し表面の分子には周囲を囲む分子が内部

に比べて少なく内部分子と比べて不安定=エネルギーが高いということになるこの余

分のエネルギーを表面自由エネルギーと呼ぶ

表面積が小さいほど表面自由エネルギーは少なくなるため物質の表面では表面を

小さくしようとする力が働くこの力を表面張力と呼ぶ

5)ぬれと接着角

固体表面に液体が存在するとそれぞれの表面自由エネルギーとその間の界面自由エネ

ルギーとのバランスによって液体が広がり固体表面が液体表面に置き換えられるこの

現象がぬれである固体表面のぬれは材料表面の親水性疎水性や接着強度と直接関係

しているため接着の分野ではきわめて重要である固体表面に液滴を落とすと個体の

表面張力γS と液体の表面張力γL 固体と液体の界面張力γSL が釣り合うことによってあ

る角度θで平衡になるこのとき固体と液体空気の境界点 A における力の水平成分の

釣り合いから次式の Young-Dupreの式が得られる

120574119878 = 120574119878119871 + 120574119871 cos 120579

8

自然状態では表面張力により液体は球状になるこの式は固体表面上での液体を広げよ

うとする力と球状を保とうとする力のつりあいの式である

Fig3-4 固体表面上の水滴

また界面自由エネルギーγ12 で接着している二種類の物質を引き離し表面自由エネルギ

ーγ1γ2をもつ二つの物質に分けるのに必要な仕事(これを接着仕事という)Waとすると

119882119886 = 1205741 + 1205742 minus 12057412

であらわされるこれを Dupreの式と呼ぶ接着仕事とはふたつの物質を引き離すのに必

要な仕事であるからWaの値が高いほど接着強度が強いということになる

個体と液体との関係においてこれら二式をあわせると

119882119886 = 120574119871(1 + cos 120579)

を得るこれを Young-Dupre の式という液体の表面張力と接触角から接着材の接着強

度が分かるという式になっている

6)接着力低下因子と表面処理

接着は清浄な面と面の接触が前提である金属表面は清浄であれば 1000~3000 mNmの

表面張力があるはずであるが大気中では数十mNmの値をしめすこれは異物が付着した

り酸化されていたりするためである特に表面がもろい物質でおおわれていると剥離時に

もろい面での剥離が起こり見かけ上弱い接着強度となる事がある

このような金属表面の表面張力の低下を防ぎアンカー効果において適切な凹凸を金属表

面に付与し接着強度向上を図るために洗浄と研磨を行うのが望ましい

5実験方法

41使用する器具

100 mL ビーカーガラス棒ホールピペット安全ピペッターピンセットキムワイ

プ電気炉2 L ペットボトル紐アルミ角材(10 times 30 times 30 mm)サンドペーパー

はけ

9

42試薬の物性

ケイ酸ナトリウム a)

ケイ酸のナトリウム塩で種類が多いいわゆる水ガラスも多くの場合はケイ酸ナトリウム

であるがその組成は安定していない単一物質として得られているものだけでもメタ

ケイ酸ナトリウム Na2SiO3およびその種々の割合の水化物オルトケイ酸ナトリウム

Na4SiO4二ケイ酸ナトリウム Na2Si2O5四ケイ酸ナトリウム Na2SiO9 などがあるオ

ルトケイ酸ナトリウム Na4SiO4=18405二酸化ケイ素と水酸化ナトリウムを適当な条件

で融解すると得られる水溶液で両者を反応させたのではオルトケイ酸ナトリウムの結晶

は得られずにメタケイ酸ナトリウムの水化物になってしまう無色六方晶系の結晶酸

と加熱していると二酸化ケイ素が沈殿している

酸化マグネシウム b)(MgO)

式量 4030

融点 2852

沸点 3600

一般にアンモニウム塩水溶液に溶けるがエタノールに不溶空気中で水と二酸化炭素を

吸収し炭酸水酸化マグネシウムに変化する水と反応して水酸化マグネシウムとなる耐

火レンガマグネシアセメントの製造原料医薬品として制酸剤の原料となるほか触媒

または吸着材ゴム工業にも用いられる

酸化亜鉛 c)(ZnO)

式量 8138

密度 547 gcm3

無定形の白色粉末水にはほとんど溶解しないが両性酸化物で希酸や水酸化アルカリ

水溶液アンモニア水に溶解する空気中で湿気と二酸化炭素を吸収する白色顔料とし

てペイント絵の具などに用いられるほか粒子の細かいものは医薬品化粧品として用

いられる

酸化カルシウム d)(CaO)

式量 5608

融点 2572

沸点 2850

密度 340 gcm3

10

酸に可溶空気中の湿気を吸収して水酸化カルシウムとなりまた空気中の二酸化炭素を

吸収して炭酸カルシウムとなる水と反応して水酸化カルシウムとなるしっくいモル

タルなどの建築材料石膏さらし粉消石灰の原料医療用に用いられる医療用に用

いられる酸性土壌改良にも用いられる

炭酸カルシウム e)(CaCO3)

式量 10009

融点 1339

二酸化炭素を含む水には炭酸水素カルシウムとして溶解する酸には二酸化炭素を発生し

て容易に溶ける加熱すると二酸化炭素と酸化カルシウムに解離する

二酸化ケイ素 f)(SiO2)

式量 6009

低温ではフッ素フッ素酸水素酸だけが反応する高温では他のハロゲン元素とも反応す

る水酸化アルカリ炭酸アルカリと融解すると水溶性のアルカリケイ素酸塩となる

43実験操作

431被接着面の均一化

1)10times30times30 mmのアルミ角材の表面をサンドペーパーで汚れがなくなるまで削る

2)削った表面をアセトンで洗浄する

3)洗浄が終わったアルミ角材の重量を測り記録する

432ケイ酸ナトリウムのみの接着剤の作製

1)100 mL ビーカーにケイ酸ナトリウム 50 g を加え粘り気が残るぐらいまでイオン交換

水を加えガラス棒で撹拌する

2)アルミ角材の 10times30 mm の面にはけを用いてケイ酸ナトリウム溶液を均一になるよう

に塗りアルミ角材を重ね合わせる

3)150にセットした電気炉に接着面がずれないように慎重に置き 1時間焼成する

433添加物を加えた接着剤の作製

1)100 mLビーカーにケイ酸ナトリウム 50 g添加物(酸化マグネシウウム酸化亜鉛

酸化カルシウム炭酸カルシウム二酸化ケイ素)を 010 gから 010 gずつ 20 gまで加

え粘り気が残るぐらいまでイオン交換水を加えガラス棒で撹拌する

2)アルミ角材の 10times30 mm の面にはけを用いてケイ酸ナトリウム溶液を均一になるよう

に塗りアルミ角材を重ね合わせる

3)150 にセットした電気炉に接着面がずれないように慎重に置き 1時間焼成する

11

5評価方法

51接着強度の評価

1)432433で接着したアルミ板にひもとペットボトルを用いて Fig5-1のように設置す

アルミ角材

Fig5-1 接着面の破壊

2)ペットボトルに少しずつ水を加え接着面が完全に離れた時点を破壊終了点とする

3)破壊終了点でのペットボトルに入っている水の重量を計測する

52耐水性の評価

1)接着したアルミ角材に水をかけ接着面の変化を観察する

6予想

添加物を加えることで接着強度の増加が期待されるしかし大量に添加物を加えてし

まうとケイ酸の割合が小さくなり接着強度は減少してしまうと考えられ添加物の量と接

着強度の関係性をグラフ化するとある値までは増加しその値を超えると減少していくグ

ラフが得られると考えるそこから最も接着強度が高まる添加物の量を測定する

また添加物が硬化剤の役割をし耐水性の改善も予想される

参考文献

1)日本接着学会『接着剤データブック第 2版』日刊工業新聞社1990P228~229

2) 三刀基郷『トコトンやさしい接着の本』日刊工業新聞社2003P56~67

3) セメダイン(株)『よくわかる接着技術』日本実業出版社2008P34~37

PET

Crash

12

4) ユージン Gロコー『ケイ素とシリコーン』シュプリンガーフェアラーク東京株式

会社1990 P85~113

5) 大木道則大沢利昭田中元治千原秀昭『化学大辞典』東京化学同人1989

b)P884 c)P865 d)P867 e)P1368 f)P1669

6)下井 守村田 磁『大学生のための基礎シリーズ 3 化学入門』東京化学同人2005

P229

7) 吉村壽次『化学辞典第 2版』森北出版2009a)P425

8)大勝 靖一『高分子添加剤の基礎化学と材料設計』株式会社 CMC出版2008P219~235

9)httpwwwfacekyowacojpsciencetheorywhat_contact_angleimg01jpg

2015416取得

1

東京理科大学Ⅰ部化学研究部 2015 年度春輪講書

シクロデキストリンを用いた

包接化合物の生成

水曜班

Ikemura M(2C)Ebihara K(2C) Kataoka T(2K)

ShibasakiK(2OK)TsumedaT(2C)NakaA(2OK)Murakoshi R(2OK)

OkawaT(2C)NoguchiA(2K)SekiguchiK(2K)HashimotoY(2C)

1 動機

6~8 分子のグルコース単位からなるα―14結合の環状オリゴ糖であるシクロデキストリ

ンはその環状構造に由来する包接化合物を生成する性質を示すその特異的な包接形成能

を利用した多くの製品が存在し現在もなお基礎研究分野応用研究分野での研究が行わ

れている

そこで私たちは 7 分子のグルコースからなるβ-シクロデキストリンと 3 種類のカルボン

酸を用いて包接化合物を形成させ酸の構造の違いによる包接作用の比較検討及びシクロ

デキストリンの一部のヒドロキシ基をエステル化させ水に対する溶解性及び包接形成能が

どのように変化するか考察する

2 原理

21 包接化合物

包接化合物は Schlenk によって名づけられたもので定義によると原子または分子が

結合してできた 3 次元構造の内部に適当な大きさの空孔があってその中に他の原子また

は分子が一定の組成比で入り込んで特定の結晶構造をつくっている物質ということにな

っている前者の骨組み構造の化合物のほうをホスト分子後者の入り込んでいる分子の

ほうをゲスト分子ともよんでいるがこのゲスト分子の大きさや形状はまったくホスト

構造によって規定されるだけで両者の間には弱い相互作用があっても水素結合のよう

な力はなくてもいっこうに構わないのであるこの包接化合物でのゲスト分子とホスト

構造との間の相互作用というのも物理的な吸着系に近いもので非常に弱い van der

Waals 力から高度に配向した双極子間力まで種々のものが存在する 1)

22 シクロデキストリンの包接能

シクロデキストリンはグルコース残基がα-1α-4 結合した環状のオリゴ糖で一般的

にグルコース残基が 6 個のα-シクロデキストリン7 個のβ-シクロデキストリン8個の

γ-シクロデキストリンが知られている

2

Fig1 α-シクロデキストリンの分子構造

シクロデキストリンの構造は底の抜けたバケツやドーナッツのような構造をしており

その環状構造の外側は多くの水酸基に由来する親水性領域が存在し内側の空洞の CH 基に

由来する疎水領域と相反する極性が一つの分子に共存しているがこの空洞内に様々な有

機化合物などを取り込むという包接作用がもっとも特徴的である

三種類のシクロデキストリンはそれぞれ空洞の大きさが相違するためそれぞれ包接化

合物を形成しやすいゲスト分子が存在する内部空洞が比較的小さいα-シクロデキストリ

ンは比較的小さい分子例えばエタノールメタノール等をβ-シクロデキストリンは汎

用性が広く各種ポリフェノールコレステロールメンソール等の香気成分芳香族化

合物等をよく包接するγ-シクロデキストリンは大きい分子である脂肪酸などを包接する

ことが知られている

シクロデキストリンの包接力の原動力は疎水性相互作用と分子間力が主なものとされて

いるつまりゲストは疎水性の高い分子あるいは分子の大きさが空洞にぴったりとフィッ

トするものほどシクロデキストリンがそのゲストを包接する力は大きく包接物を作り

やすい傾向がある逆に親水性が高くシクロデキストリンの空洞にフィットしないよう

なゲスト分子では包接現象は起こりにくいといえるしかしゲスト分子全体がシクロ

デキストリンの空洞内にとりこまれる必要はなく部分的にでも疎水性が高く空洞にフィ

ットすれば包接が可能となるつまりゲスト分子全体がシクロデキストリンより明ら

かに大きいものでも包接作用による効果が観察される場合がある 2)

Fig2 シクロデキストリンがゲストを包接する様子

23 水溶化シクロデキストリン

3

ブドウ糖やショ糖など通常糖質の水への溶解度は非常に高いしかし天然型シク

ロデキストリンは隣接する水酸基との水素結合の為3 種のシクロデキストリンの中では最

も高い水溶性を有するγ-シクロデキストリンであってもその溶解度は 25において水

100 mL に 23 g であり油性物質を包接した場合は一般的にその溶解度はさらに低くな

るそこで水への溶解度を改善するためにシクロデキストリン化学修飾体が製造されて

いるシクロデキストリンの水溶性を向上させる方法として隣接する水酸基をメチル基や

アセチル基などでエーテル化やエステル化する方法がある具体的には部分メチル化β-シ

クロデキストリンやモノアセチル化β-シクロデキストリンが工業的に生産されている

24 包接能の評価について

今回の実験ではゲスト分子としてカルボン酸を用いるシクロデキストリン及び水溶化

シクロデキストリンの包接能の評価については包接化合物に含まれているカルボン酸をア

ルカリで滴定することで求めることができる

3 実験

31 試薬sup3⁾

アジピン酸

分子式C6H10O4

分子量1464

mp153

bp3375 アジピン酸

クエン酸

分子式C6H8O7

分子量19213

mp156~157

クエン酸

シュウ酸

分子式C2H2O4

分子量9004

mp1895

シュウ酸

4

βシクロデキストリン

分子式(C6H10O5)7

分子量113500

n-ブタノール

分子式C4H10O

分子量7412 β-シクロデキストリン

bp1179

エタノール

分子式C2H6O n-ブタノール

分子量4607

mp-1145

bp7833

水酸化ナトリウム

組成式NaOH

分子量4000

mp328

bp1388

無水オクタン酸

分子式C₈H₃₀O₃

分子量27041

mp-1 無水オクタン酸⁶⁾

濃硫酸

分子式H₂SO₄

分子量9808

mp104

32 使用器具

300 mL ビーカーメスフラスコピペット三角フラスコ吸引漏斗吸引瓶ビュレッ

トスタンドボウルガラス棒

5

33 実験操作

331 エステル化シクロデキストリンの合成 ⁵⁾

1)三角フラスコにβ-シクロデキストリン 1 g を入れこれに無水オクタン酸 025 mL を加

える

2)触媒として 2-3 滴の濃硫酸を添加し攪拌する

3)約 10 分間放置してフラスコを氷桶に入れて冷やしガラス棒でフラスコの壁を強くこす

り結晶を析出させる

4)水 20 mL を加えさらに氷桶で冷やしながら残る結晶を析出させる

5)この結晶を濾分し水で洗ってから取り出して乾かして結晶を得る⁵⁾

332 包接化合物の形成

1)β-シクロデキストリン 1 g を水 100 mL に溶解させる

2)ピペットで 1 mL のカルボン酸を加えコルク栓をして静置する

3)1 週間程静置し包接化合物を吸引濾過する

4)上記の操作をカルボン酸(酢酸シュウ酸クエン酸)で行う

5)エステル化シクロデキストリンで同様の実験を行う

333 包接能の測定

1)よく乾燥した包接化合物約 1 g をメスフラスコで 100 mL 溶液とする

2)この溶液 20 mL にフェノールフタレインを指示薬として20 mL 加え 01 M 水酸化ナト

リウム標準溶液で滴定する⁴⁾

334 溶解度の測定

1)100 mL の水に 5 g の β-シクロデキストリンを溶解させる

2)沈殿をろ過し乾燥して重量を測定する

3)エステル化 β-シクロデキストリンで同様の作業を行う

参考文献

1) 竹本喜一包接化合物の化学東京化学同人1969p2

2) 辻堅司シクロデキストリンの応用技術株式会社シーエムシー出版2008p3-p9

3) 大木道則大沼利昭田中元治千原秀明化学大辞典東京化学同人1989

4) 発田寿々子教養の化学実験第 2 版学術図書出版社2014p119

5) 南篠正男先生と生徒のための化学実験共立出版株式会社1986p155

6) 「 chemical book 」〈 wwwchemicalbookcomchemicalProductPropert_JP_CB 〉

(2015418 アクセス)

1

東京理科大学Ⅰ部化学研究部 2015年度春輪講書

ダブルネットワークの合成と評価 木曜班

OnizukaM(2C)TanakaR(2C)YamamokaH(2K) OhiraM(2K)

1背景

現在高分子ゲルは紙おむつの高吸水性樹脂やソフトコンタクトレンズなど私たちの生

活において活躍しているしかし高分子ゲルは不均一な構造なため一般的に機械的強

度が弱いという欠点がある高分子ゲルの強度面での弱点を克服するために従来では

ゲルの構造を均一化して強度を上げるというアプローチがとられてきた

しかしながら材料の弾性とじん性は反相する因子として働くつまり大変形に耐え

られるゲルは弾性率を犠牲とし高弾性のゲルは小さい変形で破壊される

そこで私達木曜班は前述の問題の解決策と成り得るものとしてダブルネットワーク

ゲル(DNゲル)について注目した

2目的

既存に作られている DNゲルは溶媒に水を用いたハイドロゲルであるDNゲルはその

強度や柔軟性により生体内での人工関節に使用することが期待され研究がおこなわれて

いる木曜班では DNゲルを生体内の関節だけでなく機械の関節部の摩擦軽減材料として

の使用を提案するしかし従来の DNゲルは溶媒が水であることにより水の沸点である

100以上の条件下では性能の低下が問題視され高温になりうる機械への応用が困難で

ある

溶媒を水から有機溶媒に変更することで高温条件下でのゲルの機能維持を試みるとと

もに使用するモノマーを変更しその機能性を検討する

3原理

31 DNゲル

311ゲルの脆弱性

一般的なゲルはゼリーや豆腐のように僅かな力を加えただけで簡単に壊れるほど

弱いこの理由は 2つの現象により説明することができる

1)ゲルの内部に多数の欠陥が存在する

2)欠陥から発生した初期亀裂が容易に伝播する

前者はゲル内部の構造が不均一であることに由来するゲル合成時におけるモノマ

ーと架橋剤の反応性の違いにより不均一な重合がおこるあるいはゲル化溶液内の濃度

揺らぎが重合によって固定されることだと考えられている 1)こうしたゲルに力を加えた

2

時にゲルの弱い部分に力が集中してしまうため小さな力でも初期亀裂が生じてしまう

後者はゲル内部のポリマーの密度の低さから生じる一般的に物質内における亀裂

の進みやすさは破壊エネルギーU(Jm2)(単位面積あたりの破断面形成に費やされる仕事)

によって評価される架橋高分子材料の臨界破壊エネルギーUc(亀裂成長が起こる最小

の破壊エネルギー)は破断面の高分子鎖の数密度と架橋点間分子量に比例する 2)つま

りゲルのじん性(物質の破壊に対する抵抗の程度で粘り強さとも言い換えられる 3))はゲ

ル内のポリマーの密度には比例し架橋密度には反比例することがわかる

ゲルは 50~99wtの溶媒を含んでいて高分子の密度が非常に低い物質であるためゲ

ルの Ucはゴムなどの固体に比べてかなり小さいことが考えられる

これまでの高強度ゲル研究は主に前者の問題を解決するすなわち構造を均一化するこ

とでゲル内部の欠陥を極力減らして強度を改善しようという観点から行われてきた

312 ゲルの弾性率

高分子鎖が三次元架橋されたゲルはゴムと同じようにエントロピー弾性を持つ溶液

中に完全に湿潤した電気的に中性ゲルのせん断弾性率(横方向に対するバネ係数 4)であり

Young率 Eと E=3Gの関係式が成立する)は

GneucongkBT

b3Q-225

以上の式で表せられゲルの湿潤度 Qの増加にともないせん断弾性率Gneuは大きく低下

するここでkBはボルツマン定数Tは温度bは重合させたモノマーの大きさである 5)

一方溶液中に完全に湿潤した電解質ゲルのせん断弾性率は

GchacongkBT

b3Q-1

によって表せる 6)よって同じ湿潤度において電解質ゲルは中性ゲルよりせん断弾性率が

高いことが分かる

またゲルの湿潤度は架橋点重合 N(分子量)による溶液中に完全に湿潤した中性ゲル

の場合QasympN35であり電解質ゲル場合QasympN

32であるしたがって架橋密度を上げる

ことによりゲルの湿潤度が小さくなりせん断弾性率が上がる 3)4)

313 ゲルの破断歪と破断応力

架橋構造が均一と仮定した理想的なゲルの破断歪(ゲルが破壊するまでの変形 7))は架

(1)

(2)

3

橋点間高分子の伸びきった長さと高分子鎖に歪がない曲がった自然な状態での大きさ

の比として求められる溶媒中で完全に湿潤した中性ゲルの引っ張り破断歪はλBcongQ12で

ありQの増加により増加する一方湿潤することにより単位面積あたりの高分子

の本数が減るため破断応力は湿潤度 Qが大きくなることにより減少する故にQが大

きいゲルは伸びやすいが弱い応力で壊れる

電解質ゲルの場合高分子鎖はその解離しているイオンの浸透圧によって水中では

ほとんど伸びきった状態となっているその結果理想状態においても破断歪はλBcongQ19

になるこれは破断歪が小さくかつ湿潤度にあまり依存しないことを意味している 5)

以上のことより

1)架橋密度を上げる(架橋点間分子量を下げる)ことでゲルが固くて脆くなる

2)水中に完全に湿潤した高分子電解質ゲルは中性のゲルより硬くて脆い高弾性と変形は

相反するということが考えられる

314 DNゲルの高強度機構

DNゲルは強電解質をモノマーとする 1st networkゲル電気的に中性なモノマーを用

いる 2nd networkゲルを組み合わせることにより生成される前述した通りゲルにおける

弾性と靭性は常に相反する働きをするそれゆえに単一な物質で両方の性質を得るこ

とは原理的には不可能である同じ湿潤度において電解質ゲルと中性ゲルのせん断弾性

率の比はGchaGneucongQ125であるために両者の違いは湿潤度 Qが高いほど大きくなる

この性質を利用することにより電解質ゲルは硬い成分中性ゲルは軟らかい成分とし

て用いることができる

亀裂を含む DNゲルがある引張荷重を受けると応力集中の効果で最初に亀裂先端近傍

の電解質網目(1st network)が破壊され局所的にゲルが降伏する荷重がますと電解質網

目の破壊が次々に伝播し広範囲にわたるダメージゾーンが形成されていくこの過程

で非常にいい気なエネルギーが分散されるダメージゾーンがある大きさまで広がった

ときようやく亀裂先端に中性網目(2nd network)が十分に伸びて切断し亀裂が進行す

る 8)

4

Fig 1 DNゲルの破壊モデル 9)

32 光ラジカル重合

321 光分解

光重合開始剤に UVを当てることにより開裂がおきラジカルが発生する本研究にお

いては 1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンを用いる 10)

Scheme1 1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンの開裂 10)

ℎ120592

5

322 開始反応

UVを当て光開裂により生じたラジカルがビニル基の二重結合を攻撃し光重合開始剤

と炭素の間に σ結合を作り炭素原子にラジカルが存在することになる

Scheme2 ラジカルの生成

323 成長反応

Scheme2で生成したラジカルが他のモノマーを攻撃しσ結合を生じるそれが何回

も起こることにより分子鎖が成長する 6)

Scheme3 分子鎖の成長

324 停止反応

Scheme 3で成長した成長ラジカル同士が σ結合を作り分子鎖が生成する 7)

Scheme4 分子鎖の生成

4実験

41 DNゲルの合成

411 使用器具試薬

ビーカー乳鉢乳棒薬さじUVライトデシケーター

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸

分子式 C7H13NO4S

式量20724

融点160

用途1st networkゲルのモノマー

6

アクリル酸

分子式C3H4O2

式量7206

融点123

沸点1416

比重10511

危険性引火性(発火温度 360 )

用途1st networkゲルのモノマー

アクリロニトリルの加水分解アクロレインの酸化ニッケルカルボニルの存在下ア

セチレンと一酸化炭素と水との反応などにより合成される酢酸に似た刺激臭を持つ液

体水エタノールエーテルによく溶ける酸素の存在下容易に重合するプラス

チックの原料として用いられる

アクリルアミド

分子式C3H5NO

式量7108

融点845

沸点103

比重1122

用途2nd networkゲルのモノマー

アクリルニトリルを硫酸あるいは塩酸を処理して得られるフレーク状の結晶溶解

性(g100 ml溶媒30 )水 2155メタノール 155エタノール 862アセトン 631

酢酸エチル 126クロロホルム 266ベンゼン 0346ヘプタン 00068化学的に不安

定で冷暗所に保存する必要がある融点付近あるいは紫外線下で重合する重合の仕方

により水溶性不溶性のものが得られる

酢酸ビニル

分子式C4H6O2

式量8609

融点-932

沸点723

比重09317

用途2nd networkゲルのモノマー

無色の液体酸やアルカリよって容易に加水分解されてアセトアルデヒドと酢酸を生

じる熱光ラジカル開始剤によって重合する

7

メタクリル酸メチル

分子式C5H8O2

式量10012

融点-48

沸点1003

比重0936

用途2nd networkゲルのモノマー

無色透明で催涙性の芳香のある液体工業的にはアセトンシアノヒドリンにメタノー

ルと硫酸を作用させて合成する実験室的にはメテクリル酸メチルの重合物を 320

以上で乾留すると得られる一般に有機溶媒には溶けるがエチレングリコールグリセ

リンには溶けにくい重合しやすいので重合禁止剤としてヒドロキノンモノメチルエ

ーテル(65 ppm)を添加して保存する有機ガラスの製造ビニル系共重合体など広く

重合反応に用いられるまたメチル以外のアルコールのメタクリル酸エステルの合成

にも用いられる

NN-メチレンビスアクリルアミド

分子式C7H10N2O2

式量15417

融点300

用途架橋剤

1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン

分子式C13H16O2

式量20427

融点47-50

用途光重合開始剤

最大吸収波長は 260 nm付近にある

エチレングリコール

式量6207

融点 -126

沸点1976

比重11132

8

用途ゲル溶媒

重要な二価アルコールでエチレンオキシドの酸触媒による開環高温高圧下水と

の反応による開環などによって合成される吸湿性無色無臭の液体甘味を有する

が有毒である高沸点を有ししかも水酸化カリウム水酸化ナトリウムを溶解し水や

エタノールと任意の割合で混合するので有機合成における溶媒として広く用いられ

また塩基に対して安定なエチレンケタールの生成によるカルボニル基の保護に用いら

れるさらに酢酸ビニル系樹脂の溶剤や水と混ざり高沸点のため不凍液に用いら

れるなど広い用途を持っている

412 1st networkゲルの作成

1) 1st networkゲルのモノマー(電解質モノマー)架橋剤(NN-メチレンビスアクリルア

ミド)と光重合開始剤(1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)を水に溶解させた水

溶液を調製する

2) UVを 8時間照射して光ラジカル重合をさせる

3) 2)で合成した電解質ゲルを乳鉢に入れ適当なサイズに砕いた後デシケーター内で一

週間ほど乾燥させる

413水溶媒 DNゲルの作成

1) 2nd networkゲルのモノマー(中性モノマー)架橋剤(NN-メチレンビスアクリルアミ

ド)光重合開始剤(1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)をエチレングリコールに

溶解させた溶液を調製する

2) 乾燥した電解質ゲルを 1)で調製した水溶液に入れ電解質ゲルを十分に膨らませるそ

の後UVを照射し中性モノマーを光ラジカル重合させる

414エチレングリコール DNゲルの作成

1) 2nd networkゲルのモノマー(中性モノマー)架橋剤(NN-メチレンビスアクリルアミ

ド)光重合開始剤(1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)をエチレングリコールに

溶解させた溶液を調製する

2) 乾燥した電解質ゲルを 1)で調製したエチレングリコール溶液に入れ電解質ゲルを十分

に膨らませるその後UVを照射し中性モノマーを光ラジカル重合させる

42 DNゲルの評価

421引っ張り試験

使用するモノマーの変化によるゲルの性質の差を評価する引っ張り試験は

JIS-K-6251-7号に準拠する方法で測定する

9

1)DNゲルを X方向の長さ 50 mmY方向の長さ 75 mmZ方向の長さが 25 mmの大

きさに成形する

2)その一端部に X-Y平面に平行な切込みを入れて2つの引張端部を形成する

3) 引張端部を片方は固定しもう片方を一定の速度で引っ張るこのときの引っ張る力 F

を測定する

Fig 2 引っ張り試験 13)

422 摩擦試験

使用するモノマーの変化溶媒の変化によるゲルの性質の差を評価する

摩擦試験は東京理科大学工学部第一部機械工学科佐々木研究室に依頼する予定である

用いる機械は SVR4パーカー熱処理工業株式会社製であり180での高温での摩擦係

数の測定が可能である

摩擦測定は常温(20 )と高温(100 )で測定することを予定している

10

5 展望

51 DNゲルの合成

実験操作は溶液を調製した後UV照射するという簡易な手順なので合成は比較的早い

段階で成功すると考えられる

1st networkゲル合成に使うのは電解質モノマーなため水溶液のモノマーの濃度が低

いと湿潤度 Q が大きくなりせん断弾性率が下がり剛性が弱いゲルが出来上がると考え

られる

架橋剤を多く使用すると架橋密度を上がるので 2nd networkゲルが入り込む空洞が小

さくなるそのために架橋剤が多すぎると高弾性のゲルが生成できると考えられる

また同様な考えで2nd networkモノマーが含まれている水溶液に乾燥させた1st network

ゲルを入れる量が多くても高弾性のゲルが生成できると考えられる

52 DNゲルの物性

ゲルの高分子網目は基板から離れようとするときにゲルと基板の間に僅かな溶媒層

が生じるこの状態では溶媒層が潤滑油のような働きをして生じる摩擦力は小さなも

のとなるゲル周辺が高温な状態ではこの溶媒層が水の場合は蒸発してしまうので摩

擦力は増大すると考えられる溶媒を水からより沸点の高いエチレングリコールなどに

変えれば摩擦力は増大することはないと推測される 14)

11

参考文献

1) J Bastide and L LeiblerMacromolecules1988212647

2) G G J Lake and A G ThomasProc R Soc LondonA1967300108

3)越後亮三 機械工学辞典 朝倉書店 2007 p631

4) 伊藤勝悦 やさしく学べる材料力学 森北出版 2014 p14

5)SPObukhovMRubinstein and RHColby Macromolecules 1994273191-3198

6)MRubinsteinRHColbyAVDobrynin and JJaonnyElasticMacromolecules199629398-406

7) 大 阪 府 立 大 学 基 礎 講 座 材 料 の 強 度 と 破 壊

httpwwwengmmtrosakafu-uacjpresearchstrength-japdf2015413取得

8)聾剣萍「生命科学時代の新材料-高弾性高靱性ダブルネットワークゲル」高分子学会

『高分子』高分子科学最近の進歩58巻 5号2009p327-p331

9)YTanakaEurophysLett20077856005

10)蓮池幹治ラジカル重合ハンドブックエヌティーエス2010p444-p445

11)大津隆行ラジカル重合(Ⅰ)化学同人1971p80-p81

12)大津隆行ラジカル重合(Ⅰ)化学同人1971p153-p154

13)聾剣萍高分子ゲルおよびその製造方法特開 2009-185156 2008-02-05

14) 角五 彰龔 剣萍長田義仁「ゲルの摩擦と水和潤滑~生物の滑らかな運動解明への

アプローチ」日本生物物理学会『生物物理』47巻 4号2007p 253-p258

1

東京理科大学Ⅰ部化学研究部 2015年度春輪講書

耐塩性の高い新規化粧品用増粘剤の開発 2015年度金曜班

Nomata N(2OK)Seki M(2OK)Tin J(2OK)Takahashi R(2C)Watanabe A(2K)

Asai D(2K) Nishimiti D(2K)Yamamoto R(2K)

1 動機

化粧品において増粘剤の果たす役割は非常に大きい

化粧品にはクリーム状のモノが多くありその整形には増粘剤が必要不可欠である

また増粘剤は製剤だけでなく密閉効果や水和効果によって薬剤を皮膚に効率的に輸

送することに役立っている

この増粘剤であるが一つ課題がありアスコルビン酸塩(ビタミン C)のようなクロロ

基を持つ塩系薬剤をゲル中に含む場合経時によってべたつきといった使用感の悪化

につながるといった弱点があるこの問題の解決のために塩系薬剤への耐性の高い増

粘剤の開発が望まれている

塩系薬剤の高い美容効果からこの問題の解決に対する化粧剤企業のニーズは高くこ

の問題は長く研究が続けられていたが近年資生堂が逆相マイクロエマルション重

合法によって microスケールの粒状高分子を多数合成することによりできる増粘剤が高い

耐塩性を持ち使用感もよいことを発見したがこの粒状高分子増粘剤には未だ試み

られていないモノマーが多くある

そこで今年度の金曜班ではこの逆相マイクロエマルション重合法において未だ

試みられていない親水基を持つモノマーを利用して新規の増粘剤をつくることで粒

状高分子による増粘剤の耐塩性と肌触りと親水基の関係を調べ応用化に利すること

ができるのではないかと考え実験を行うこととした

2 背景

増粘剤とは水溶液をゲル化するために添加される物質であり化粧品において広く

用いられているこの増粘効果は従来では高分子鎖同士の分子間力や架橋で生じる

網目構造の結果生じる液中の摩擦力によるものである

動機で述べたように μスケールの粒状高分子が増粘剤として良質であることがわか

っているただし粒状高分子の形状は反応場であるセッケンミセルの大きさだけで

なく親水基やポリマーを構成する原子同士の分子間力によって変わる高分子の立体構

2

造にも影響されている

また粒状高分子の正確な一次構造を把握することは大変難しいことであるので

応用化のためには高分子の一次構造でなくモノマーによって粒状高分子特性の変化

を調べることが重要である

さらに従来用いられているポリマーがスルホ基とカルボキシル基を親水基とする

ものしか存在しない

以上の三点から酸以外の親水基をもつモノマーで増粘剤を合成したときその性

質はどうなるかを調べることでより製品として利用価値が高い粒状高分子増粘剤を合

成することができるのではないかと考えた

そこで新規モノマーとしては対照実験を行うためにアクリルアミド系モノマー

でかつ 2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸のスルホ基と同じ炭素骨格の先

端に親水基が存在するものとしてN-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド (3-アク

リルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライドを用いてそれぞれ親水基が酸

ではなくヒドロキシ基である場合親水基がアニオンではなくカチオンである場合に

ついて研究を行うこととした

この二種の以外にも水溶性のアクリルアミドポリマーは存在するが上記の条件を満

たさないまたは高価であるため本実験では用いないこととした

Fig1 N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド

Fig2 (3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライド

3

3 原理

31 一般的な液体の粘性

溶液の粘性は一般論では以下のように表される

Fig3のように XY平面を取り液面に平板を用意し引っ張った時挟まれた溶液内

には図のようなせん断流動が発生する高さ Yでのせん断速度は(119881

119889) 119910で与えられる

この時平板に挟まれた溶液を薄層の集まりと考えると隣り合う薄層間に摩擦が生

じるこの内部摩擦力が粘性力であるずり速度勾配が十分に小さければ平板の単位

面積当たりに生じる粘性力 Fv0はその勾配 Vd に比例するすなわち以下の式で表

され1205780を粘性係数と呼ぶこの値は溶媒固有である1)

1198651199070 = 1205780 (119881

119889)

Fig3 溶液ずりせん断図

32 増粘剤の粘性

増粘剤の多くは低分子の液体に高分子を溶かすと著しく粘性が高くなる性質を利

用している

この粘性の発生するメカニズムは下の Fig4において平板間の溶液を薄層に分けた

際高分子鎖は溶液の移動に伴って回転するこのとき溶液中の薄層は薄層間の摩

擦以外に高分子鎖との間にも摩擦が生じているこの摩擦の増加が粘性力の増加とな

る 2)

4

Fig4 高分子による粘性増加

また高分子鎖同士が分子間力によって結びつき三次元構造を形成することで内

部摩擦力は一層大きくなるこのため高分子による増粘効果は顕著である

架橋高分子では三次元構造が高分子鎖同士の分子間力による形成よりも強いものと

なるので増粘効果及びレオロジー特性に優れる 3)

33 塩系薬剤による粘性劣化のメカニズム

塩系薬剤とはビタミンC (アスコルビン酸塩)のようにクロロ基をもつ薬効物質のこ

とである

このクロロ基が直鎖高分子や架橋高分子がポリマー間で形成する三次元網目構造

を破壊することによって増粘効果を消失させ内容物の流失によるべたつきを生じさ

せる 3)

34 粒状高分子の粘性

粒状高分子の粘性について粒状高分子はその粒経が小さいほど体積に対する表面

積が増え溶液内での内部摩擦力が大きくなる

また粒子同士が摩擦力を元に網目構造を形成するため網目構造の構成要因が直

鎖高分子や架橋高分子の高分子増粘剤と異なっている 4)

35 逆相マイクロエマルション重合法

後述する転相温度乳化法を用いて形成した5 μm~30 μm 形成したマイクロエマル

ション内において水溶性のモノマーを利用して行う乳化重合法の一種容易に極小の

5

ポリマーを合成することができる 5)

36 界面活性剤の概略

界面活性剤とは分子の構造が水になじみやすい部分(親水基)と油になじみやすい

部分(新油基)からできていて2つの物質の間の界面に集まりやすい性質を持ちそ

の界面の性質を著しく変える物質というのが界面活性剤の定義である

代表的な界面活性剤の特徴は界面における「吸着」と「ミセル形成」である 6)

もうひとつの代表的な作用として「可溶化」もある

37 エマルションの形成

界面活性剤に有機溶媒が取り囲まれて水に可溶化されたとき水溶液中に存在する

有機溶媒を界面活性剤が取り囲んだ液滴のことを OW エマルションと呼ぶ

有機溶媒中に水が可溶化される場合WOエマルションと呼ぶ

38 ノニオン界面活性剤

非イオン界面活性剤とも言う界面活性剤の内解離基を持たず電気的に中性な

界面活性剤で親水基は主にポリオキシエチレン基であるその特殊な性質上他の種類

の界面活性剤に無い性質として曇点と転相温度を持つ 今回使用するノニオン界面

活性剤はポリオキシエチレンオレイルエーテルであり基本式は以下のような形にな

る 7)

R-O(CH2CH2O)n-H

Scheme 1 ポリオキシエチレンオレイルエーテルの基本式

39 曇点

曇点とは透明な液体が相分離を起こして白濁する温度のこと

本実験においてはノニオン界面活性剤が加温によって界面活性効果を失い相分離

によって白濁する温度のこと 8)

310 転相温度乳化

ノニオン界面活性剤は加温によって界面張力が変化しWO型エマルションから

OW 型に変化するこの変化点のことを転相温度と言い転相温度において界

6

面張力が最低になっているので溶液エマルションが極小になる

またこの転相温度は界面活性剤に固有の値となるので二種の比較的性質の

近い界面活性剤を混合することで転相温度を操作し適切な温度で5 μm~30 μm

程度の直径を持つエマルションを作成する方法を転相温度乳化法と呼ぶ 10)

311 ラジカル重合

開始剤を用いてラジカル種を生成して行う重合法のことをラジカル重合法と言う

開始剤の分解要因によって熱光放射線ラジカル重合の三つに分けられる 10)

3111 ラジカル重合を構成する四反応

ラジカル重合は 4種類の反応が同時並行的に起こるそれぞれ以下の通りである 11)

開始反応

開始剤が熱光放射光などの要因によってラジカル開裂を起こしラジカル種を

生じさせる反応

成長反応

ラジカル種がモノマーと反応することでモノマー新たなラジカル種が生成する

反応これが連続することでポリマーが合成される

停止反応

連鎖していた成長反応が止まる反応主にラジカル種同士の反応による

連鎖移動反応

ラジカル種がモノマー以外の分子主に溶媒分子等と反応することでポリマー以

外の物質を合成する副反応

3112 乳化重合

乳化重合はモノマー液滴と呼ばれるモノマーを大量に保存しているエマルシ

ョンと反応場となる極小のセッケンミセルの二つの構造を持つ溶液中で行う不均

一系ラジカル重合の一種である 12)

成長反応が一段階進むたびにモノマー液滴から拡散の理論式に従ってモノマ

ーがミセル内に移動するこの一連の反応を繰り返して反応が進む 13)

そのため種々のラジカル重合法と比較して以下の特長がある 13)

セッケンミセル内に存在するラジカルが常に一つであるため停止反応が

7

起こりにくく比較的重合度の高いポリマーが生成しやすい

反応速度が拡散作用によって律速されかつセッケンミセルの周囲を大量

の溶媒分子が囲んでいるため除熱が容易であるという理由から熱暴走を起

こしにくいという利点がある

ミセル内で重合するため合成した高分子が絡まりやすく粒状の分子が作

成できる

Fig5 乳化重合模式図

312 MS(質量分析法)

質量分析法とは分子の質量すなわち分子量を測る手段でもあるまた分子を分解

したフラグメントの質量を測ることによって分子構造に関する情報を得るものでも

ある

高エネルギー電子が有機分子にぶつかると分子から電子がはじき出せれカチオ

ンラジカルが発生する

119825119815 rarr 119825119815++119838minus Scheme 2カチオンラジカルの発生

電子の衝突により大量のエネルギーが分子に与えられることで大部分のカチオン

ラジカルを生成した後フラグメントに分解するフラグメントは小さな破片となっ

て浮遊し正電荷や中性となる

このカチオンラジカルとフラグメントについてmz値を横軸相対強度を縦軸につ

いて取ったグラフから質量スペクトルを読み取る 14)

またMS(質量分析法)はイオン化の方法などによりいくつかに分けられ今回使用

したいのは高分子試料でもほとんどフラグメンテーションを起こさないソフトなイ

8

オン化法であるMALDI法 15)である

3121 MALDI法(マトリックス支援レーザー脱離イオン化法)

試料を 25-ヒドロキシ安息香酸のような適切なマトリックス上に吸着させて

ペレットを作成しレーザー光を短時間照射してイオン化する

エネルギーがマトリックスから試料に移動し[119872 + 119867119899 ]119899+に分解される 15)

MALDI法にはよく TOF型の MSが用いられている

4 実験

41 2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を用いた既存化粧品用増粘剤の合成

411 使用器具試薬

温度計ウォーターバスビーカー薬さじデシケーター

ジメチルアクリルアミド

式量9913

沸点81

発火点71

LD50(経口)316mgkg

LD50(経皮)580mgkg

製造和光純薬工業株式会社

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸

式量20725

融点200

LD50(経口)5400mgkg

製造和光純薬工業株式会社

NN-メチレンビスアクリルアミド

式量156

沸点4451

発火点215

LD50(経口)390mgkg

製造東京化成工業株式会社

9

へプタン

式量1002

沸点98

引火点-4

水に不溶

製造昭和化学

2-プロパノール

式量60

沸点82

発火点12

LD50(経口)区分外(GHS分類)

LD50(経皮)区分外(GHS分類)

製造昭和化学

ペルオキソ二硫酸アンモニウム

式量22820

冷水に易溶保存湿気厳禁

重合開始罪乳化重合レドックス重合に用いられる

製造和光純薬工業株式会社

412 実験手順

① ビーカーにイオン交換水ヘプタンポリオキシエチレンオレイルエーテル(2)

(8)をそれぞれ507 mL 507 mL489 g((2)(8)=23)加えて良く撹拌したも

のを入れる

② その後その後温度調節機能つきスターラーに乗せ白濁するまで加熱する

白濁した液が透明化するまで温度を落とし電気伝導率計を用いて溶液が転

相温度付近に保たれていることを確認する

③ 以上の操作が済んだ重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先

ほどのスターラーと同じ温度にしたウォーターバスに移し2-アクリルアミド

-2-メチルプロパンスルホン酸NNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 137 g

262 g入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始

剤としてメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

10

④ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

42 N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミドを用いた新規化粧品用増粘剤の合成

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を誘導体と入れ替える以外の

操作は 41に準ずる

親水基による増粘性の変化を観察するため架橋剤のモノマーに対する濃度比

は 2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を使用したポリマーが最も増

粘効果の高くなると報告された濃度比を用いる

421 使用器具試薬

使用器具は 41に準ずる

試薬

N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド

式量11513

沸点130

発火点189

製造東京化成工業株式会社

422 実験手順

① 412 ①②と同じように重合系を作成する

② 以上の操作が済んだ重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先

ほどのスターラーと同じ温度にしたウォーターバスに移しN-(2-ヒドロキシエ

チル)アクリルアミドNNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 076 g262

g 入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始剤と

してメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

③ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

11

43 (3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライドを用いた新規化粧品用

増粘剤の合成

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を誘導体と入れ替える以外の操作は

41に準ずる

親水基による増粘性の変化を観察するため架橋剤のモノマーに対する濃度比は 2-ア

クリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を使用したポリマーが最も増粘効果の高く

なると報告された濃度比を用いる

431 実験器具

実験器具は 41に準ずる

試薬

(3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライド

式量22074

沸点100

製造東京化成工業株式会社

432 実験手順

① 412 ①②と同じように重合系を作成する

② 重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先ほどのスターラーと

同じ温度にしたウォーターバスに移し (3-アクリルアミドプロピル)トリメチ

ルアミニウムクロライドNNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 123 mL

262 g入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始

剤としてメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

③ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

5 評価分析

耐塩性の高い増粘剤の耐塩性と使用感と親水基との関係を評価するために以下の二

つの測定を行い評価する

増粘剤の耐塩性の評価のために塩酸を増粘剤内部に取り込ませた状態で経時

12

による粘度の変化を観察する

また高分子の粘性を考える上で直鎖高分子の場合よく参考にされるのが平

均分子量でありこの値を測定することで親水基が変化した場合に平均分子

量が粒状高分子の粘性にも大きく影響するか確認する

精密に上の測定を行うには専用の機器が必要になるため機器メーカーの株式

会社エーアンドデイ様または東京理科大学理学部応用化学科駒場研究室に

また高分子の性質を考える上で重要視される平均分子量及び分子量分布に

ついては東京理科大学化学系機器センターにあるMALDI-TOF型質量分析計を管

理者の東京理科大学理学部応用化学科の根岸先生に測定に協力していただこうと

考えている

6 謝辞

東京理科大学工学部工業化学科 近藤行成教授

東京理科大学理学部化学科 遠藤恆平准教授

東京理科大学理学部応用化学科 駒場慎一教授

この研究を進めるに当たり大変お世話になった先輩先生方企業の皆さんに感謝の

意を表明します

参考文献

1) 小澤美奈子 基礎高分子科学 高分子学会 編 2010年 第六版 p979899

2) 小澤美奈子 基礎高分子科学 高分子学会 編 2010年 第六版 p99100

3) 金田 勇 逆相マイクロエマルション重合法による水膨潤性ミクロゲルの重合とその増

粘剤としての応用 2010年 p1

4) 小林敏勝 福井寛 きちん知りたい粒子表面と分散技術 日刊工業新聞社 p76

5) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 2006 p839 840 841

6) 皆川基 藤井富美子 洗剤洗浄 百科事典 大矢勝 2007年版 p4647

7) 日本産業洗浄協議会編 わかりやすい界面活性剤 工業調査会 2003 p373839

8) 資生堂 HP httpswwwshiseidogroupjprddevelopmentformulationhtmlより 2015

44取得

9) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 テクノシステム 2006 p321

10) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 テクノシステム 2006 p397

13

398399

11) 遠藤 剛 高分子の合成(上)~ラジカルカチオンアニオン重合~ 講談社 2010 3p

12) 佐藤壽彌編 高分子微粒子の技術と応用 シーエムシー出版 2004 p2526

13) 佐藤壽彌編 高分子微粒子の技術と応用 シーエムシー出版 2004 p27

14) マクマリー 上 8版 東京化学同人 p403404

15) John McMurry マクマリー有機化学(上) 第 8版 2013 p410411

Page 10: ゼオライトとキトサンを用いた 金属イオン除去剤の …kaken/studies/2015/2015-s-all.pdf1 東京理科大学I 部化学研究部 2015 年度春輪講書 ゼオライトとキトサンを用いた

10

45 種々の含金属廃液の作成

(1)01 M硝酸に各金属イオン標準液を混合させ金属イオン含有量が 5 mgになるよう

に金属イオン含有水溶液を作成する

(2)硝酸と水酸化ナトリウム水溶液を用いて pHを操作しpHが 246の付近になる

ように調製する

46 修飾ゼオライトによる金属イオンの除去

(1)各金属イオンを含む試料溶液に作製した除去剤 50 gを投入しマグネチックスター

ラーで 250 rpm において 1時間撹拌する

(2)吸引ろ過を行い固相水相の分離を行う

<備考>

本実験では作製した除去剤の性能を比較するためにキトサン天然ゼオライト

および2種の修飾済みゼオライトについて金属イオン除去実験を行う予定である

5 評価

51 キレート滴定を用いた金属イオンの定量

511 銅イオンのキレート滴定

(1)試料溶液に酢酸-酢酸ナトリウム緩衝溶液を加えて pHが 25~60に保たれている

事を確認する

(2)エタノールを 50 mL加えた後にPAN指示薬を数滴滴下して溶液を発色させる

(3)001 M EDTA水溶液を滴下して滴定を行う

512 鉄イオンのキレート滴定

(1)試料溶液の pH を確認し酸性が強い場合は 35酢酸ナトリウム水溶液を酸性が

弱い場合は 1M 塩酸を加えて pHを 20~30に調節する

(2)1サリチル酸溶液を 8 mL添加して溶液を発色させる

(3)001 M EDTA水溶液を滴下して滴定を行う

6 実験結果に関する予測

金属イオン除去剤の作製によってゼオライト粒子を内包したキトサン粒状体が得ら

れると予測されるまたグルタルアルデヒドによってキトサンを架橋した除去剤と

比較してグリオキサールを用いた除去剤の方が金属イオンの除去性能が高くなるの

ではないかと期待できる

11

7 参考文献

1)姫路市編集『工場事業所の排水が下水道におよぼす影響』

URL httpwwwcityhimejilgjps90gesuidou_9253_9277html

最新取得日2015年 4月 15日

2)環境省編集 『水土壌地盤海洋環境の保全』 URL httpwwwenvgojpwatermizuhtml

最新取得日2015年 4月 15日

3)知足章宏著 『アジアの開発途上国における水質汚染問題と下水事業への民間参入

(Private Participation)の現況経験』立命館大学 立命館国際地域研究第 23号

2005年 3月発行 p153~156

4) 一般社団法人キチンキトサン学会 『キチンキトサンとは』

URL httpjscckenkyuukaijpspecialindexaspid=1930

最新取得年月日2015年 4月 15日

5) ゼオライト学会 URL httpwwwjaz-onlineorgindexhtml

最新取得年月日2015年 4月 16日

6) 萩中淳ほか著 『パートナー分析化学 I(改訂第 2版)』 南江堂 (2012) p97~98

7)『パートナー分析化学 I(改訂第 2版)』 p116

8) 児玉三明ほか訳 『マクマリー有機化学(中) 第 8版』 東京化学同人 (2013) p703~704

9)『マクマリー有機化学(中) 第 8版』p708~711

10)環境省編集 『環境省 一律排水基準』URL httpwwwenvgojpwaterimpurehaisuihtml

最新取得年月日2015年 4月 17日

11)『化学大辞典』大木道則ほか著 東京化学同人 (2005) p543

12)『化学大辞典』p651

13) 有機合成化学協会編集『有機化合物辞典』講談社 (2004) p248

14)『化学大辞典』p1121~1122

15)『化学大辞典』p1121

16)『化学大辞典』p269

17)『化学大辞典』p1928

18)『化学大辞典』p256~257

19)『化学大辞典』p638~639

20)『化学大辞典』p858~859

21)『化学大辞典』p332~333

22)『化学大辞典』p1172

23)『化学大辞典』p1118~1119

1

東京理科大学Ⅰ部化学研究部 2015年度春輪講書

ケイ酸を用いた無機接着剤 火曜班

Shoji Y (2OK) Arai S(2OK) Abe Y(2K) Takemura R(2K) Matsui T(2K)

1背景

私たちは日々生活している中で接着剤を使う機会が多くあるしかしその接着剤が

まわりに及ぼす影響について考えることは少ないそこで接着剤について調べてみたと

ころ接着剤は大きく分けて 2つのグループに分類できることが分かったまず一般的に

使われているボンドや瞬間接着剤のように有機化合物を主成分とした有機接着剤次に

あまり一般的ではないが金属やセラミックスの接着に用いられる無機化合物を主成分とし

た無機接着剤有機接着剤は簡単に接着することができるなど様々な長所を持つが有機

物の溶媒を用いるため工事現場などで感じる独特な臭いやシックハウス症候群の原因物

質を放出してしまうという短所を合わせ持つそれに比べ無機接着剤は接着方法が高

温で加熱しなければならないという点と有機接着剤よりも接着強度が低いという短所を持

つが耐熱性に優れ特有の臭いもなく溶媒に水を用いるため環境や人体に対する影響

も少ないという長所があるさらに無機接着剤の分野はあまり多くの研究が行われてお

らず発展の余地が残っているのではないかと感じた

2目的

無機接着剤は耐熱性などの長所がある反面強度と耐水性が低いという短所があるこ

の 2つの短所は接着剤として用いるためには重大な問題となるそこで本実験ではケイ

酸を主成分とした無機接着剤に何種類かの金属化合物などの添加物を加えることにより接

着強度と耐水性の改善を目的とする

3原理

31無機接着剤

無機質の接着材料としては一般にガラス系金属系の材料が使用されているがこれ

らの材料は気密性は優れているが接着時にそれぞれの融点や軟化点以上に加熱すること

が必要でありまた接着部分の耐熱性は接着時の温度を上まわることはないという欠点を

有しているこれに対していわゆる無機接着剤は気密性には劣るが低温での接着が可能

であり優れた耐熱性を有するという特徴を持っている無機接着剤は1)無機結合剤

2)硬化剤3)充填剤を主成分として構成される

2

市販されている接着剤の多くは使用の便を考えて一液性であるそのポットライフ(可

使期間)は 3か月から 1年必要とされるので室温で作用する硬化剤は使用できない

1)結合剤

結合剤自体の硬化剤が強い強度と接着力を持つ必要があり現在しようされている無機

結合剤のほとんどはアルカリ金属ケイ酸塩系リン酸塩系シリカゾル系のいずれかで

あり本実験でしようするのはアルカリ金属ケイ酸塩系結合剤である

アルカリ金属ケイ酸塩の水溶液は粘性のある液体であり分子式 M2OnSiO2で表わさ

れMの種類(LiNaKなど)および nの大小によって数多くの種類が生ずるまたア

ンモニウムケイ酸塩やグアニジンケイ酸もある一般には安価なケイ酸ナトリウム(水ガ

ラス)がよく使用される

アルカリ金属ケイ酸塩は水溶液中において種々の量のシリケートイオンモノマーポ

リシリケートイオンおよびコロイド状シリカイオンミセルからなっているこれらの形

態や分布は n 値や濃度に依存しn が大きくなるにつれてポリシリケートイオンミセル

が増加するケイ酸ナトリウムは n が4を越えると水の溶解度は極端に小さくなりn が

3 付近で接着力は最大となるケイ酸カリウムはケイ酸ナトリウムと同じような挙動を示

すがケイ酸リチウムは nが非常に大きくケイ酸分の多い水溶液が得られることが特徴で

ありシリカゾルに近い物性を示すしたがってアルカリ金属ケイ酸塩系結合剤につい

て一般的には耐水性は LigtKgtNa接着力はこの逆の順に良いといわれている

水溶液は強いアルカリ性を示し加熱によってシラノール間で脱水縮合反応を起こし

分子間にシロキサン結合を生じる固形物は融点(軟化点)までずっと非晶質である

2)硬化剤

結合剤は低温で乾燥しただけでは耐水性が不十分であり耐水性の向上のために硬化

剤が添加される硬化剤は耐水性には寄与するが接着力を低下させる場合もあるため

使用目的によっては添加しないこともある一液性の接着剤ではポットライフの要求から

室温で作用するものはあらかじめ添加できないので高温になってはじめて結合剤と反

応するものが選ばれる硬化剤については非常に多くの物質が特許等に提案されている

アルカリ金属ケイ酸塩用の硬化剤にはZnMgCa 等の酸化物水酸化物NaK

Ca等のケイ化物ケイフッ化物Alや Zn等のリン酸塩CaBaMg等のホウ酸塩等が

用いられる

酸化亜鉛による反応機構を LSDGlasserらは次のように示している

反応初期には ZnO粒子の表面で

ZnO + 1198672119874 + 119874119867minus rarr 119885119899(119874119867)42minus

の反応がおこりZn は液中に溶解しOH-が消費されるので pH が下がりケイ酸ゲルが

3

粒子表面に析出する以後はこのケイ酸ゲル層を通して OH-が粒子表面へ拡散しZnOと

反応して Zn(OH)2として固定されるためさらにケイ酸ゲルの析出が行われ酸化亜鉛表

面へ無定形シリカが沈積する

3)充填剤

充填剤としては結合剤との反応性の小さい耐火物粉末が使用される結合剤は加熱脱

水により大きな体積収縮を生じひび割れが発生するのでこれを防ぐため充填剤を添加し

て固体分率を高くするまた粒子間の空隙は水分蒸発の逃げ道となり発泡を防ぐ接着

剤の熱膨張を被着材へ合致させることも重要な役割である

さらに一液性の接着剤ではリン酸塩系におけるアルミナ粒のように室温では反応し

ないが温度を上げていくと結合剤と反応し硬化作用をして耐水性を付与することもある

その他耐火性接着強度熱伝導性電気特性耐薬品性耐摩耗性の向上に重要な

働きがある充填剤の種類に加え粒径粒径分布表面活性等に調整することが必要で

数種の充填剤を混合することが多い

4)核剤

核剤は力学特性成形性成形時の生産性の改良などを目的として種々の結晶性高分子

で利用されている特にポリプロピレンにおいては核剤を添加することにより剛性や耐火

性(熱変形温度)あるいは透明性など諸問題が大幅に改良され高機能化による用途拡大

や成形品の薄肉化軽量化が可能となりさらには短時間で結晶化が完了することから成

形時の生産性も大幅に短縮されコスト削減はもとより省資源省エネを影から支えてい

核剤には工業的な側面から主に力学特性を改善する「核剤」と特に透明性を改良する

効果が高い「透明化剤」とよばれるものがある核剤も透明化剤も高分子の結晶化過程

における基本的な作用機構は同じでありその本質はエピタキシーにあるつまり高分子

融体が結晶化する過程で高分子鎖が結晶化しやすいように「場」(核剤の表面)を提供す

るものである核剤はまた「造核剤」とよばれることもあるが核剤透明化剤とも物理

化学的には高分子に対し同じ作用をしているといえる溶媒中に溶解している溶質が種晶

の添加により析出が促進される現象を想像されたいまさに核剤は高分子融体中に添加

されこれが核となって高分子の結晶化が促進されるのである

4

Fig3-1 核剤の表面からの高分子結晶の成長

a)力学特性の改善

自動車や家電部品の樹脂化率は年々高まり特に自動車においては内外装問わずポリ

プロピレンが多用されるようになった当初はあまり重要でない部分への利用であったも

のの最近ではバンパーフェンダーライナーフロントグリルカウルパネル各種リ

ザーバータンクドアパネルピラーダッシュボードサンバイザーコンソールボッ

クスなどありとあらゆる部分に用途開発が進んでいる高分子材料による金属代替今後

もさらに進められると思われるその理由としては自動車の軽量化はもちろんのこと

設計の自由度(一体成形や金属ではデザインしにくい曲線曲面を複雑に有する部品など)

があげられる自動車部材では機能的に高剛性が求められるものや夏場に高温にさらさ

れる内装部品などは高耐熱性(高い熱変形温度)が求められるものなどがほとんどであり

このような要求性能に応えるべくポリプロピレンに核剤が添加されている

核剤が存在する場合高分子の結晶化が促進され融体の冷却過程においてより高い

温度(より融解温度に近い温度)から結晶化が開始するそのため核剤存在下での結晶化

過程では核剤非存在下での結晶化過程に比較して高分子鎖の運動性が高い状態で結晶

化が開始する核剤を添加した高分子の結晶化開始温度を示差走査熱量計などで測定する

と結晶化が高い温度から開始することも確認されるその結果高分子結晶の欠陥は減

少しまた結晶化度も増大する核剤存在下で結晶化させた高分子結晶は欠陥も少なく

またラメラ厚も厚くなり融解温度が高くなるそのような効果により成形後の高分子

材料の力学特性耐熱性が改善する

5

Fig3-2 核剤の添加のよるポリプロピレンの曲げ弾性率の改善効果

()アデカスタブ NA-11()Hyperform HPN-68 L

()安息香酸ナトリウムポリプロピレン

Fig4-2に核剤の添加によるポリプロピレンの曲げ弾性率の改善効果について示したま

ず核剤を添加することでしかも僅か 01~03 wt程度の添加で曲げ弾性率が劇的に向

上していることが分かるその中で比較すると汎用である安息香酸ナトリウムや HPN-68

Lでは弾性率の改善はあるものの(おおよそ 30の弾性率改善)01 wt程度の添加で改

善効果は飽和する添加物を加えることで剛性耐熱性を大幅に改善できることがわかる

このような改善効果は自動車用に多用されるポリプロピレンのグレードであるインパクト

コポリマーにおいても同様であるさらに核剤の添加により結晶化が促進された結果成

形時間も短縮でき高性能化と相まって生産性改善によるコストダウンも可能となる核

剤はもとのポリマーが有する特徴を損なうことなく物性を改善できるといったメリット

があるといえる

32 縮合重合反応

二つの化合物から水などの簡単な分子が脱離して新たな結合が形成される反応を縮合反

応とよぶカルボン酸とアルコールからエステルを得る反応は縮合反応の一例である

縮合反応を繰り返すことによりポリマーを合成することができるこれが脱水縮合反応

であるたとえば 2個のカルボキシ基をもつ分子と 2個のヒドロキシ基をもつ分子を反応

させると縮合反応が連続して起こりポリマーが得られる本実験では Fig3-3 の反応が

起こる

6

Fig3-3 ケイ酸の脱水縮合反応

33 接着の原理

接着剤による接着効果には複数の理論が挙げられており賛否両論あるものもあるま

た個々の接着現象においても複数の接着効果が絡み合っていることが多く接着効果の

検証は困難であるとされるある接着系では適用できる接着効果が別の系ではまったく無

力ということも多い以下に主な接着効果の理論をあげる

1) アンカー効果

雲母を注意深くはがしたようなごくわずかな例外を除きすべての固体表面は数Åオ

ーダーの粗さを有する例えば機械で製造される金属表面の粗さは 3~6 μmであり研

磨した場合でも 002~025 μmである

アンカー効果とはこのような被着材の凹部に流入した接着剤が固化し被着部に引っかか

ることにより界面が結合するというものであるアンカー効果のような界面との相互作

用を無視した接着効果理論を機械的結合論という

開口部を有するクレバスへの液体の流入について理論式が提案されている

以下の 2式は液体の粘度 η接触角θの液体が深さ Zまで浸透するまでの時間 tを表し

(a)開口部の幅がδの平行板の場合

Zdz

dt=

120575119910

120575120578120574 cos 120579

(b)開口部δ深さ Z0の V型溝の場合

11988501198971198991198850

1198850 minus 119885minus 119885 =

120575120574 cos 120579

6120583119905

となる式によれば開口部が大きくぬれがよく粘度の低い液体ほどまた時間をかけ

たほど深くまで侵入できるとされる

7

Fig3-4 アンカー効果

2)分子間相互作用

ふたつの物体の接着面で分子同士が接触するところで互いにひきつけあう力が働くこと

で接着するとするもの代表的なものにファンデルワールス力結合水素結合が存在す

3)化学的結合

界面に化学結合が存在することで接着強さに寄与するとするものである古くから提唱

されている説であるが化学結合の存在の証明が難しく接着系の界面に本当に化学結合

が存在するのかは十分に検証されなければならないとされる

4)表面自由エネルギーと表面張力

物質の内部と表面では性質が異なる内部の分子は周囲を分子に囲まれており分子間

力で互いに引き合うため安定化されるこれに対し表面の分子には周囲を囲む分子が内部

に比べて少なく内部分子と比べて不安定=エネルギーが高いということになるこの余

分のエネルギーを表面自由エネルギーと呼ぶ

表面積が小さいほど表面自由エネルギーは少なくなるため物質の表面では表面を

小さくしようとする力が働くこの力を表面張力と呼ぶ

5)ぬれと接着角

固体表面に液体が存在するとそれぞれの表面自由エネルギーとその間の界面自由エネ

ルギーとのバランスによって液体が広がり固体表面が液体表面に置き換えられるこの

現象がぬれである固体表面のぬれは材料表面の親水性疎水性や接着強度と直接関係

しているため接着の分野ではきわめて重要である固体表面に液滴を落とすと個体の

表面張力γS と液体の表面張力γL 固体と液体の界面張力γSL が釣り合うことによってあ

る角度θで平衡になるこのとき固体と液体空気の境界点 A における力の水平成分の

釣り合いから次式の Young-Dupreの式が得られる

120574119878 = 120574119878119871 + 120574119871 cos 120579

8

自然状態では表面張力により液体は球状になるこの式は固体表面上での液体を広げよ

うとする力と球状を保とうとする力のつりあいの式である

Fig3-4 固体表面上の水滴

また界面自由エネルギーγ12 で接着している二種類の物質を引き離し表面自由エネルギ

ーγ1γ2をもつ二つの物質に分けるのに必要な仕事(これを接着仕事という)Waとすると

119882119886 = 1205741 + 1205742 minus 12057412

であらわされるこれを Dupreの式と呼ぶ接着仕事とはふたつの物質を引き離すのに必

要な仕事であるからWaの値が高いほど接着強度が強いということになる

個体と液体との関係においてこれら二式をあわせると

119882119886 = 120574119871(1 + cos 120579)

を得るこれを Young-Dupre の式という液体の表面張力と接触角から接着材の接着強

度が分かるという式になっている

6)接着力低下因子と表面処理

接着は清浄な面と面の接触が前提である金属表面は清浄であれば 1000~3000 mNmの

表面張力があるはずであるが大気中では数十mNmの値をしめすこれは異物が付着した

り酸化されていたりするためである特に表面がもろい物質でおおわれていると剥離時に

もろい面での剥離が起こり見かけ上弱い接着強度となる事がある

このような金属表面の表面張力の低下を防ぎアンカー効果において適切な凹凸を金属表

面に付与し接着強度向上を図るために洗浄と研磨を行うのが望ましい

5実験方法

41使用する器具

100 mL ビーカーガラス棒ホールピペット安全ピペッターピンセットキムワイ

プ電気炉2 L ペットボトル紐アルミ角材(10 times 30 times 30 mm)サンドペーパー

はけ

9

42試薬の物性

ケイ酸ナトリウム a)

ケイ酸のナトリウム塩で種類が多いいわゆる水ガラスも多くの場合はケイ酸ナトリウム

であるがその組成は安定していない単一物質として得られているものだけでもメタ

ケイ酸ナトリウム Na2SiO3およびその種々の割合の水化物オルトケイ酸ナトリウム

Na4SiO4二ケイ酸ナトリウム Na2Si2O5四ケイ酸ナトリウム Na2SiO9 などがあるオ

ルトケイ酸ナトリウム Na4SiO4=18405二酸化ケイ素と水酸化ナトリウムを適当な条件

で融解すると得られる水溶液で両者を反応させたのではオルトケイ酸ナトリウムの結晶

は得られずにメタケイ酸ナトリウムの水化物になってしまう無色六方晶系の結晶酸

と加熱していると二酸化ケイ素が沈殿している

酸化マグネシウム b)(MgO)

式量 4030

融点 2852

沸点 3600

一般にアンモニウム塩水溶液に溶けるがエタノールに不溶空気中で水と二酸化炭素を

吸収し炭酸水酸化マグネシウムに変化する水と反応して水酸化マグネシウムとなる耐

火レンガマグネシアセメントの製造原料医薬品として制酸剤の原料となるほか触媒

または吸着材ゴム工業にも用いられる

酸化亜鉛 c)(ZnO)

式量 8138

密度 547 gcm3

無定形の白色粉末水にはほとんど溶解しないが両性酸化物で希酸や水酸化アルカリ

水溶液アンモニア水に溶解する空気中で湿気と二酸化炭素を吸収する白色顔料とし

てペイント絵の具などに用いられるほか粒子の細かいものは医薬品化粧品として用

いられる

酸化カルシウム d)(CaO)

式量 5608

融点 2572

沸点 2850

密度 340 gcm3

10

酸に可溶空気中の湿気を吸収して水酸化カルシウムとなりまた空気中の二酸化炭素を

吸収して炭酸カルシウムとなる水と反応して水酸化カルシウムとなるしっくいモル

タルなどの建築材料石膏さらし粉消石灰の原料医療用に用いられる医療用に用

いられる酸性土壌改良にも用いられる

炭酸カルシウム e)(CaCO3)

式量 10009

融点 1339

二酸化炭素を含む水には炭酸水素カルシウムとして溶解する酸には二酸化炭素を発生し

て容易に溶ける加熱すると二酸化炭素と酸化カルシウムに解離する

二酸化ケイ素 f)(SiO2)

式量 6009

低温ではフッ素フッ素酸水素酸だけが反応する高温では他のハロゲン元素とも反応す

る水酸化アルカリ炭酸アルカリと融解すると水溶性のアルカリケイ素酸塩となる

43実験操作

431被接着面の均一化

1)10times30times30 mmのアルミ角材の表面をサンドペーパーで汚れがなくなるまで削る

2)削った表面をアセトンで洗浄する

3)洗浄が終わったアルミ角材の重量を測り記録する

432ケイ酸ナトリウムのみの接着剤の作製

1)100 mL ビーカーにケイ酸ナトリウム 50 g を加え粘り気が残るぐらいまでイオン交換

水を加えガラス棒で撹拌する

2)アルミ角材の 10times30 mm の面にはけを用いてケイ酸ナトリウム溶液を均一になるよう

に塗りアルミ角材を重ね合わせる

3)150にセットした電気炉に接着面がずれないように慎重に置き 1時間焼成する

433添加物を加えた接着剤の作製

1)100 mLビーカーにケイ酸ナトリウム 50 g添加物(酸化マグネシウウム酸化亜鉛

酸化カルシウム炭酸カルシウム二酸化ケイ素)を 010 gから 010 gずつ 20 gまで加

え粘り気が残るぐらいまでイオン交換水を加えガラス棒で撹拌する

2)アルミ角材の 10times30 mm の面にはけを用いてケイ酸ナトリウム溶液を均一になるよう

に塗りアルミ角材を重ね合わせる

3)150 にセットした電気炉に接着面がずれないように慎重に置き 1時間焼成する

11

5評価方法

51接着強度の評価

1)432433で接着したアルミ板にひもとペットボトルを用いて Fig5-1のように設置す

アルミ角材

Fig5-1 接着面の破壊

2)ペットボトルに少しずつ水を加え接着面が完全に離れた時点を破壊終了点とする

3)破壊終了点でのペットボトルに入っている水の重量を計測する

52耐水性の評価

1)接着したアルミ角材に水をかけ接着面の変化を観察する

6予想

添加物を加えることで接着強度の増加が期待されるしかし大量に添加物を加えてし

まうとケイ酸の割合が小さくなり接着強度は減少してしまうと考えられ添加物の量と接

着強度の関係性をグラフ化するとある値までは増加しその値を超えると減少していくグ

ラフが得られると考えるそこから最も接着強度が高まる添加物の量を測定する

また添加物が硬化剤の役割をし耐水性の改善も予想される

参考文献

1)日本接着学会『接着剤データブック第 2版』日刊工業新聞社1990P228~229

2) 三刀基郷『トコトンやさしい接着の本』日刊工業新聞社2003P56~67

3) セメダイン(株)『よくわかる接着技術』日本実業出版社2008P34~37

PET

Crash

12

4) ユージン Gロコー『ケイ素とシリコーン』シュプリンガーフェアラーク東京株式

会社1990 P85~113

5) 大木道則大沢利昭田中元治千原秀昭『化学大辞典』東京化学同人1989

b)P884 c)P865 d)P867 e)P1368 f)P1669

6)下井 守村田 磁『大学生のための基礎シリーズ 3 化学入門』東京化学同人2005

P229

7) 吉村壽次『化学辞典第 2版』森北出版2009a)P425

8)大勝 靖一『高分子添加剤の基礎化学と材料設計』株式会社 CMC出版2008P219~235

9)httpwwwfacekyowacojpsciencetheorywhat_contact_angleimg01jpg

2015416取得

1

東京理科大学Ⅰ部化学研究部 2015 年度春輪講書

シクロデキストリンを用いた

包接化合物の生成

水曜班

Ikemura M(2C)Ebihara K(2C) Kataoka T(2K)

ShibasakiK(2OK)TsumedaT(2C)NakaA(2OK)Murakoshi R(2OK)

OkawaT(2C)NoguchiA(2K)SekiguchiK(2K)HashimotoY(2C)

1 動機

6~8 分子のグルコース単位からなるα―14結合の環状オリゴ糖であるシクロデキストリ

ンはその環状構造に由来する包接化合物を生成する性質を示すその特異的な包接形成能

を利用した多くの製品が存在し現在もなお基礎研究分野応用研究分野での研究が行わ

れている

そこで私たちは 7 分子のグルコースからなるβ-シクロデキストリンと 3 種類のカルボン

酸を用いて包接化合物を形成させ酸の構造の違いによる包接作用の比較検討及びシクロ

デキストリンの一部のヒドロキシ基をエステル化させ水に対する溶解性及び包接形成能が

どのように変化するか考察する

2 原理

21 包接化合物

包接化合物は Schlenk によって名づけられたもので定義によると原子または分子が

結合してできた 3 次元構造の内部に適当な大きさの空孔があってその中に他の原子また

は分子が一定の組成比で入り込んで特定の結晶構造をつくっている物質ということにな

っている前者の骨組み構造の化合物のほうをホスト分子後者の入り込んでいる分子の

ほうをゲスト分子ともよんでいるがこのゲスト分子の大きさや形状はまったくホスト

構造によって規定されるだけで両者の間には弱い相互作用があっても水素結合のよう

な力はなくてもいっこうに構わないのであるこの包接化合物でのゲスト分子とホスト

構造との間の相互作用というのも物理的な吸着系に近いもので非常に弱い van der

Waals 力から高度に配向した双極子間力まで種々のものが存在する 1)

22 シクロデキストリンの包接能

シクロデキストリンはグルコース残基がα-1α-4 結合した環状のオリゴ糖で一般的

にグルコース残基が 6 個のα-シクロデキストリン7 個のβ-シクロデキストリン8個の

γ-シクロデキストリンが知られている

2

Fig1 α-シクロデキストリンの分子構造

シクロデキストリンの構造は底の抜けたバケツやドーナッツのような構造をしており

その環状構造の外側は多くの水酸基に由来する親水性領域が存在し内側の空洞の CH 基に

由来する疎水領域と相反する極性が一つの分子に共存しているがこの空洞内に様々な有

機化合物などを取り込むという包接作用がもっとも特徴的である

三種類のシクロデキストリンはそれぞれ空洞の大きさが相違するためそれぞれ包接化

合物を形成しやすいゲスト分子が存在する内部空洞が比較的小さいα-シクロデキストリ

ンは比較的小さい分子例えばエタノールメタノール等をβ-シクロデキストリンは汎

用性が広く各種ポリフェノールコレステロールメンソール等の香気成分芳香族化

合物等をよく包接するγ-シクロデキストリンは大きい分子である脂肪酸などを包接する

ことが知られている

シクロデキストリンの包接力の原動力は疎水性相互作用と分子間力が主なものとされて

いるつまりゲストは疎水性の高い分子あるいは分子の大きさが空洞にぴったりとフィッ

トするものほどシクロデキストリンがそのゲストを包接する力は大きく包接物を作り

やすい傾向がある逆に親水性が高くシクロデキストリンの空洞にフィットしないよう

なゲスト分子では包接現象は起こりにくいといえるしかしゲスト分子全体がシクロ

デキストリンの空洞内にとりこまれる必要はなく部分的にでも疎水性が高く空洞にフィ

ットすれば包接が可能となるつまりゲスト分子全体がシクロデキストリンより明ら

かに大きいものでも包接作用による効果が観察される場合がある 2)

Fig2 シクロデキストリンがゲストを包接する様子

23 水溶化シクロデキストリン

3

ブドウ糖やショ糖など通常糖質の水への溶解度は非常に高いしかし天然型シク

ロデキストリンは隣接する水酸基との水素結合の為3 種のシクロデキストリンの中では最

も高い水溶性を有するγ-シクロデキストリンであってもその溶解度は 25において水

100 mL に 23 g であり油性物質を包接した場合は一般的にその溶解度はさらに低くな

るそこで水への溶解度を改善するためにシクロデキストリン化学修飾体が製造されて

いるシクロデキストリンの水溶性を向上させる方法として隣接する水酸基をメチル基や

アセチル基などでエーテル化やエステル化する方法がある具体的には部分メチル化β-シ

クロデキストリンやモノアセチル化β-シクロデキストリンが工業的に生産されている

24 包接能の評価について

今回の実験ではゲスト分子としてカルボン酸を用いるシクロデキストリン及び水溶化

シクロデキストリンの包接能の評価については包接化合物に含まれているカルボン酸をア

ルカリで滴定することで求めることができる

3 実験

31 試薬sup3⁾

アジピン酸

分子式C6H10O4

分子量1464

mp153

bp3375 アジピン酸

クエン酸

分子式C6H8O7

分子量19213

mp156~157

クエン酸

シュウ酸

分子式C2H2O4

分子量9004

mp1895

シュウ酸

4

βシクロデキストリン

分子式(C6H10O5)7

分子量113500

n-ブタノール

分子式C4H10O

分子量7412 β-シクロデキストリン

bp1179

エタノール

分子式C2H6O n-ブタノール

分子量4607

mp-1145

bp7833

水酸化ナトリウム

組成式NaOH

分子量4000

mp328

bp1388

無水オクタン酸

分子式C₈H₃₀O₃

分子量27041

mp-1 無水オクタン酸⁶⁾

濃硫酸

分子式H₂SO₄

分子量9808

mp104

32 使用器具

300 mL ビーカーメスフラスコピペット三角フラスコ吸引漏斗吸引瓶ビュレッ

トスタンドボウルガラス棒

5

33 実験操作

331 エステル化シクロデキストリンの合成 ⁵⁾

1)三角フラスコにβ-シクロデキストリン 1 g を入れこれに無水オクタン酸 025 mL を加

える

2)触媒として 2-3 滴の濃硫酸を添加し攪拌する

3)約 10 分間放置してフラスコを氷桶に入れて冷やしガラス棒でフラスコの壁を強くこす

り結晶を析出させる

4)水 20 mL を加えさらに氷桶で冷やしながら残る結晶を析出させる

5)この結晶を濾分し水で洗ってから取り出して乾かして結晶を得る⁵⁾

332 包接化合物の形成

1)β-シクロデキストリン 1 g を水 100 mL に溶解させる

2)ピペットで 1 mL のカルボン酸を加えコルク栓をして静置する

3)1 週間程静置し包接化合物を吸引濾過する

4)上記の操作をカルボン酸(酢酸シュウ酸クエン酸)で行う

5)エステル化シクロデキストリンで同様の実験を行う

333 包接能の測定

1)よく乾燥した包接化合物約 1 g をメスフラスコで 100 mL 溶液とする

2)この溶液 20 mL にフェノールフタレインを指示薬として20 mL 加え 01 M 水酸化ナト

リウム標準溶液で滴定する⁴⁾

334 溶解度の測定

1)100 mL の水に 5 g の β-シクロデキストリンを溶解させる

2)沈殿をろ過し乾燥して重量を測定する

3)エステル化 β-シクロデキストリンで同様の作業を行う

参考文献

1) 竹本喜一包接化合物の化学東京化学同人1969p2

2) 辻堅司シクロデキストリンの応用技術株式会社シーエムシー出版2008p3-p9

3) 大木道則大沼利昭田中元治千原秀明化学大辞典東京化学同人1989

4) 発田寿々子教養の化学実験第 2 版学術図書出版社2014p119

5) 南篠正男先生と生徒のための化学実験共立出版株式会社1986p155

6) 「 chemical book 」〈 wwwchemicalbookcomchemicalProductPropert_JP_CB 〉

(2015418 アクセス)

1

東京理科大学Ⅰ部化学研究部 2015年度春輪講書

ダブルネットワークの合成と評価 木曜班

OnizukaM(2C)TanakaR(2C)YamamokaH(2K) OhiraM(2K)

1背景

現在高分子ゲルは紙おむつの高吸水性樹脂やソフトコンタクトレンズなど私たちの生

活において活躍しているしかし高分子ゲルは不均一な構造なため一般的に機械的強

度が弱いという欠点がある高分子ゲルの強度面での弱点を克服するために従来では

ゲルの構造を均一化して強度を上げるというアプローチがとられてきた

しかしながら材料の弾性とじん性は反相する因子として働くつまり大変形に耐え

られるゲルは弾性率を犠牲とし高弾性のゲルは小さい変形で破壊される

そこで私達木曜班は前述の問題の解決策と成り得るものとしてダブルネットワーク

ゲル(DNゲル)について注目した

2目的

既存に作られている DNゲルは溶媒に水を用いたハイドロゲルであるDNゲルはその

強度や柔軟性により生体内での人工関節に使用することが期待され研究がおこなわれて

いる木曜班では DNゲルを生体内の関節だけでなく機械の関節部の摩擦軽減材料として

の使用を提案するしかし従来の DNゲルは溶媒が水であることにより水の沸点である

100以上の条件下では性能の低下が問題視され高温になりうる機械への応用が困難で

ある

溶媒を水から有機溶媒に変更することで高温条件下でのゲルの機能維持を試みるとと

もに使用するモノマーを変更しその機能性を検討する

3原理

31 DNゲル

311ゲルの脆弱性

一般的なゲルはゼリーや豆腐のように僅かな力を加えただけで簡単に壊れるほど

弱いこの理由は 2つの現象により説明することができる

1)ゲルの内部に多数の欠陥が存在する

2)欠陥から発生した初期亀裂が容易に伝播する

前者はゲル内部の構造が不均一であることに由来するゲル合成時におけるモノマ

ーと架橋剤の反応性の違いにより不均一な重合がおこるあるいはゲル化溶液内の濃度

揺らぎが重合によって固定されることだと考えられている 1)こうしたゲルに力を加えた

2

時にゲルの弱い部分に力が集中してしまうため小さな力でも初期亀裂が生じてしまう

後者はゲル内部のポリマーの密度の低さから生じる一般的に物質内における亀裂

の進みやすさは破壊エネルギーU(Jm2)(単位面積あたりの破断面形成に費やされる仕事)

によって評価される架橋高分子材料の臨界破壊エネルギーUc(亀裂成長が起こる最小

の破壊エネルギー)は破断面の高分子鎖の数密度と架橋点間分子量に比例する 2)つま

りゲルのじん性(物質の破壊に対する抵抗の程度で粘り強さとも言い換えられる 3))はゲ

ル内のポリマーの密度には比例し架橋密度には反比例することがわかる

ゲルは 50~99wtの溶媒を含んでいて高分子の密度が非常に低い物質であるためゲ

ルの Ucはゴムなどの固体に比べてかなり小さいことが考えられる

これまでの高強度ゲル研究は主に前者の問題を解決するすなわち構造を均一化するこ

とでゲル内部の欠陥を極力減らして強度を改善しようという観点から行われてきた

312 ゲルの弾性率

高分子鎖が三次元架橋されたゲルはゴムと同じようにエントロピー弾性を持つ溶液

中に完全に湿潤した電気的に中性ゲルのせん断弾性率(横方向に対するバネ係数 4)であり

Young率 Eと E=3Gの関係式が成立する)は

GneucongkBT

b3Q-225

以上の式で表せられゲルの湿潤度 Qの増加にともないせん断弾性率Gneuは大きく低下

するここでkBはボルツマン定数Tは温度bは重合させたモノマーの大きさである 5)

一方溶液中に完全に湿潤した電解質ゲルのせん断弾性率は

GchacongkBT

b3Q-1

によって表せる 6)よって同じ湿潤度において電解質ゲルは中性ゲルよりせん断弾性率が

高いことが分かる

またゲルの湿潤度は架橋点重合 N(分子量)による溶液中に完全に湿潤した中性ゲル

の場合QasympN35であり電解質ゲル場合QasympN

32であるしたがって架橋密度を上げる

ことによりゲルの湿潤度が小さくなりせん断弾性率が上がる 3)4)

313 ゲルの破断歪と破断応力

架橋構造が均一と仮定した理想的なゲルの破断歪(ゲルが破壊するまでの変形 7))は架

(1)

(2)

3

橋点間高分子の伸びきった長さと高分子鎖に歪がない曲がった自然な状態での大きさ

の比として求められる溶媒中で完全に湿潤した中性ゲルの引っ張り破断歪はλBcongQ12で

ありQの増加により増加する一方湿潤することにより単位面積あたりの高分子

の本数が減るため破断応力は湿潤度 Qが大きくなることにより減少する故にQが大

きいゲルは伸びやすいが弱い応力で壊れる

電解質ゲルの場合高分子鎖はその解離しているイオンの浸透圧によって水中では

ほとんど伸びきった状態となっているその結果理想状態においても破断歪はλBcongQ19

になるこれは破断歪が小さくかつ湿潤度にあまり依存しないことを意味している 5)

以上のことより

1)架橋密度を上げる(架橋点間分子量を下げる)ことでゲルが固くて脆くなる

2)水中に完全に湿潤した高分子電解質ゲルは中性のゲルより硬くて脆い高弾性と変形は

相反するということが考えられる

314 DNゲルの高強度機構

DNゲルは強電解質をモノマーとする 1st networkゲル電気的に中性なモノマーを用

いる 2nd networkゲルを組み合わせることにより生成される前述した通りゲルにおける

弾性と靭性は常に相反する働きをするそれゆえに単一な物質で両方の性質を得るこ

とは原理的には不可能である同じ湿潤度において電解質ゲルと中性ゲルのせん断弾性

率の比はGchaGneucongQ125であるために両者の違いは湿潤度 Qが高いほど大きくなる

この性質を利用することにより電解質ゲルは硬い成分中性ゲルは軟らかい成分とし

て用いることができる

亀裂を含む DNゲルがある引張荷重を受けると応力集中の効果で最初に亀裂先端近傍

の電解質網目(1st network)が破壊され局所的にゲルが降伏する荷重がますと電解質網

目の破壊が次々に伝播し広範囲にわたるダメージゾーンが形成されていくこの過程

で非常にいい気なエネルギーが分散されるダメージゾーンがある大きさまで広がった

ときようやく亀裂先端に中性網目(2nd network)が十分に伸びて切断し亀裂が進行す

る 8)

4

Fig 1 DNゲルの破壊モデル 9)

32 光ラジカル重合

321 光分解

光重合開始剤に UVを当てることにより開裂がおきラジカルが発生する本研究にお

いては 1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンを用いる 10)

Scheme1 1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンの開裂 10)

ℎ120592

5

322 開始反応

UVを当て光開裂により生じたラジカルがビニル基の二重結合を攻撃し光重合開始剤

と炭素の間に σ結合を作り炭素原子にラジカルが存在することになる

Scheme2 ラジカルの生成

323 成長反応

Scheme2で生成したラジカルが他のモノマーを攻撃しσ結合を生じるそれが何回

も起こることにより分子鎖が成長する 6)

Scheme3 分子鎖の成長

324 停止反応

Scheme 3で成長した成長ラジカル同士が σ結合を作り分子鎖が生成する 7)

Scheme4 分子鎖の生成

4実験

41 DNゲルの合成

411 使用器具試薬

ビーカー乳鉢乳棒薬さじUVライトデシケーター

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸

分子式 C7H13NO4S

式量20724

融点160

用途1st networkゲルのモノマー

6

アクリル酸

分子式C3H4O2

式量7206

融点123

沸点1416

比重10511

危険性引火性(発火温度 360 )

用途1st networkゲルのモノマー

アクリロニトリルの加水分解アクロレインの酸化ニッケルカルボニルの存在下ア

セチレンと一酸化炭素と水との反応などにより合成される酢酸に似た刺激臭を持つ液

体水エタノールエーテルによく溶ける酸素の存在下容易に重合するプラス

チックの原料として用いられる

アクリルアミド

分子式C3H5NO

式量7108

融点845

沸点103

比重1122

用途2nd networkゲルのモノマー

アクリルニトリルを硫酸あるいは塩酸を処理して得られるフレーク状の結晶溶解

性(g100 ml溶媒30 )水 2155メタノール 155エタノール 862アセトン 631

酢酸エチル 126クロロホルム 266ベンゼン 0346ヘプタン 00068化学的に不安

定で冷暗所に保存する必要がある融点付近あるいは紫外線下で重合する重合の仕方

により水溶性不溶性のものが得られる

酢酸ビニル

分子式C4H6O2

式量8609

融点-932

沸点723

比重09317

用途2nd networkゲルのモノマー

無色の液体酸やアルカリよって容易に加水分解されてアセトアルデヒドと酢酸を生

じる熱光ラジカル開始剤によって重合する

7

メタクリル酸メチル

分子式C5H8O2

式量10012

融点-48

沸点1003

比重0936

用途2nd networkゲルのモノマー

無色透明で催涙性の芳香のある液体工業的にはアセトンシアノヒドリンにメタノー

ルと硫酸を作用させて合成する実験室的にはメテクリル酸メチルの重合物を 320

以上で乾留すると得られる一般に有機溶媒には溶けるがエチレングリコールグリセ

リンには溶けにくい重合しやすいので重合禁止剤としてヒドロキノンモノメチルエ

ーテル(65 ppm)を添加して保存する有機ガラスの製造ビニル系共重合体など広く

重合反応に用いられるまたメチル以外のアルコールのメタクリル酸エステルの合成

にも用いられる

NN-メチレンビスアクリルアミド

分子式C7H10N2O2

式量15417

融点300

用途架橋剤

1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン

分子式C13H16O2

式量20427

融点47-50

用途光重合開始剤

最大吸収波長は 260 nm付近にある

エチレングリコール

式量6207

融点 -126

沸点1976

比重11132

8

用途ゲル溶媒

重要な二価アルコールでエチレンオキシドの酸触媒による開環高温高圧下水と

の反応による開環などによって合成される吸湿性無色無臭の液体甘味を有する

が有毒である高沸点を有ししかも水酸化カリウム水酸化ナトリウムを溶解し水や

エタノールと任意の割合で混合するので有機合成における溶媒として広く用いられ

また塩基に対して安定なエチレンケタールの生成によるカルボニル基の保護に用いら

れるさらに酢酸ビニル系樹脂の溶剤や水と混ざり高沸点のため不凍液に用いら

れるなど広い用途を持っている

412 1st networkゲルの作成

1) 1st networkゲルのモノマー(電解質モノマー)架橋剤(NN-メチレンビスアクリルア

ミド)と光重合開始剤(1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)を水に溶解させた水

溶液を調製する

2) UVを 8時間照射して光ラジカル重合をさせる

3) 2)で合成した電解質ゲルを乳鉢に入れ適当なサイズに砕いた後デシケーター内で一

週間ほど乾燥させる

413水溶媒 DNゲルの作成

1) 2nd networkゲルのモノマー(中性モノマー)架橋剤(NN-メチレンビスアクリルアミ

ド)光重合開始剤(1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)をエチレングリコールに

溶解させた溶液を調製する

2) 乾燥した電解質ゲルを 1)で調製した水溶液に入れ電解質ゲルを十分に膨らませるそ

の後UVを照射し中性モノマーを光ラジカル重合させる

414エチレングリコール DNゲルの作成

1) 2nd networkゲルのモノマー(中性モノマー)架橋剤(NN-メチレンビスアクリルアミ

ド)光重合開始剤(1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)をエチレングリコールに

溶解させた溶液を調製する

2) 乾燥した電解質ゲルを 1)で調製したエチレングリコール溶液に入れ電解質ゲルを十分

に膨らませるその後UVを照射し中性モノマーを光ラジカル重合させる

42 DNゲルの評価

421引っ張り試験

使用するモノマーの変化によるゲルの性質の差を評価する引っ張り試験は

JIS-K-6251-7号に準拠する方法で測定する

9

1)DNゲルを X方向の長さ 50 mmY方向の長さ 75 mmZ方向の長さが 25 mmの大

きさに成形する

2)その一端部に X-Y平面に平行な切込みを入れて2つの引張端部を形成する

3) 引張端部を片方は固定しもう片方を一定の速度で引っ張るこのときの引っ張る力 F

を測定する

Fig 2 引っ張り試験 13)

422 摩擦試験

使用するモノマーの変化溶媒の変化によるゲルの性質の差を評価する

摩擦試験は東京理科大学工学部第一部機械工学科佐々木研究室に依頼する予定である

用いる機械は SVR4パーカー熱処理工業株式会社製であり180での高温での摩擦係

数の測定が可能である

摩擦測定は常温(20 )と高温(100 )で測定することを予定している

10

5 展望

51 DNゲルの合成

実験操作は溶液を調製した後UV照射するという簡易な手順なので合成は比較的早い

段階で成功すると考えられる

1st networkゲル合成に使うのは電解質モノマーなため水溶液のモノマーの濃度が低

いと湿潤度 Q が大きくなりせん断弾性率が下がり剛性が弱いゲルが出来上がると考え

られる

架橋剤を多く使用すると架橋密度を上がるので 2nd networkゲルが入り込む空洞が小

さくなるそのために架橋剤が多すぎると高弾性のゲルが生成できると考えられる

また同様な考えで2nd networkモノマーが含まれている水溶液に乾燥させた1st network

ゲルを入れる量が多くても高弾性のゲルが生成できると考えられる

52 DNゲルの物性

ゲルの高分子網目は基板から離れようとするときにゲルと基板の間に僅かな溶媒層

が生じるこの状態では溶媒層が潤滑油のような働きをして生じる摩擦力は小さなも

のとなるゲル周辺が高温な状態ではこの溶媒層が水の場合は蒸発してしまうので摩

擦力は増大すると考えられる溶媒を水からより沸点の高いエチレングリコールなどに

変えれば摩擦力は増大することはないと推測される 14)

11

参考文献

1) J Bastide and L LeiblerMacromolecules1988212647

2) G G J Lake and A G ThomasProc R Soc LondonA1967300108

3)越後亮三 機械工学辞典 朝倉書店 2007 p631

4) 伊藤勝悦 やさしく学べる材料力学 森北出版 2014 p14

5)SPObukhovMRubinstein and RHColby Macromolecules 1994273191-3198

6)MRubinsteinRHColbyAVDobrynin and JJaonnyElasticMacromolecules199629398-406

7) 大 阪 府 立 大 学 基 礎 講 座 材 料 の 強 度 と 破 壊

httpwwwengmmtrosakafu-uacjpresearchstrength-japdf2015413取得

8)聾剣萍「生命科学時代の新材料-高弾性高靱性ダブルネットワークゲル」高分子学会

『高分子』高分子科学最近の進歩58巻 5号2009p327-p331

9)YTanakaEurophysLett20077856005

10)蓮池幹治ラジカル重合ハンドブックエヌティーエス2010p444-p445

11)大津隆行ラジカル重合(Ⅰ)化学同人1971p80-p81

12)大津隆行ラジカル重合(Ⅰ)化学同人1971p153-p154

13)聾剣萍高分子ゲルおよびその製造方法特開 2009-185156 2008-02-05

14) 角五 彰龔 剣萍長田義仁「ゲルの摩擦と水和潤滑~生物の滑らかな運動解明への

アプローチ」日本生物物理学会『生物物理』47巻 4号2007p 253-p258

1

東京理科大学Ⅰ部化学研究部 2015年度春輪講書

耐塩性の高い新規化粧品用増粘剤の開発 2015年度金曜班

Nomata N(2OK)Seki M(2OK)Tin J(2OK)Takahashi R(2C)Watanabe A(2K)

Asai D(2K) Nishimiti D(2K)Yamamoto R(2K)

1 動機

化粧品において増粘剤の果たす役割は非常に大きい

化粧品にはクリーム状のモノが多くありその整形には増粘剤が必要不可欠である

また増粘剤は製剤だけでなく密閉効果や水和効果によって薬剤を皮膚に効率的に輸

送することに役立っている

この増粘剤であるが一つ課題がありアスコルビン酸塩(ビタミン C)のようなクロロ

基を持つ塩系薬剤をゲル中に含む場合経時によってべたつきといった使用感の悪化

につながるといった弱点があるこの問題の解決のために塩系薬剤への耐性の高い増

粘剤の開発が望まれている

塩系薬剤の高い美容効果からこの問題の解決に対する化粧剤企業のニーズは高くこ

の問題は長く研究が続けられていたが近年資生堂が逆相マイクロエマルション重

合法によって microスケールの粒状高分子を多数合成することによりできる増粘剤が高い

耐塩性を持ち使用感もよいことを発見したがこの粒状高分子増粘剤には未だ試み

られていないモノマーが多くある

そこで今年度の金曜班ではこの逆相マイクロエマルション重合法において未だ

試みられていない親水基を持つモノマーを利用して新規の増粘剤をつくることで粒

状高分子による増粘剤の耐塩性と肌触りと親水基の関係を調べ応用化に利すること

ができるのではないかと考え実験を行うこととした

2 背景

増粘剤とは水溶液をゲル化するために添加される物質であり化粧品において広く

用いられているこの増粘効果は従来では高分子鎖同士の分子間力や架橋で生じる

網目構造の結果生じる液中の摩擦力によるものである

動機で述べたように μスケールの粒状高分子が増粘剤として良質であることがわか

っているただし粒状高分子の形状は反応場であるセッケンミセルの大きさだけで

なく親水基やポリマーを構成する原子同士の分子間力によって変わる高分子の立体構

2

造にも影響されている

また粒状高分子の正確な一次構造を把握することは大変難しいことであるので

応用化のためには高分子の一次構造でなくモノマーによって粒状高分子特性の変化

を調べることが重要である

さらに従来用いられているポリマーがスルホ基とカルボキシル基を親水基とする

ものしか存在しない

以上の三点から酸以外の親水基をもつモノマーで増粘剤を合成したときその性

質はどうなるかを調べることでより製品として利用価値が高い粒状高分子増粘剤を合

成することができるのではないかと考えた

そこで新規モノマーとしては対照実験を行うためにアクリルアミド系モノマー

でかつ 2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸のスルホ基と同じ炭素骨格の先

端に親水基が存在するものとしてN-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド (3-アク

リルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライドを用いてそれぞれ親水基が酸

ではなくヒドロキシ基である場合親水基がアニオンではなくカチオンである場合に

ついて研究を行うこととした

この二種の以外にも水溶性のアクリルアミドポリマーは存在するが上記の条件を満

たさないまたは高価であるため本実験では用いないこととした

Fig1 N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド

Fig2 (3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライド

3

3 原理

31 一般的な液体の粘性

溶液の粘性は一般論では以下のように表される

Fig3のように XY平面を取り液面に平板を用意し引っ張った時挟まれた溶液内

には図のようなせん断流動が発生する高さ Yでのせん断速度は(119881

119889) 119910で与えられる

この時平板に挟まれた溶液を薄層の集まりと考えると隣り合う薄層間に摩擦が生

じるこの内部摩擦力が粘性力であるずり速度勾配が十分に小さければ平板の単位

面積当たりに生じる粘性力 Fv0はその勾配 Vd に比例するすなわち以下の式で表

され1205780を粘性係数と呼ぶこの値は溶媒固有である1)

1198651199070 = 1205780 (119881

119889)

Fig3 溶液ずりせん断図

32 増粘剤の粘性

増粘剤の多くは低分子の液体に高分子を溶かすと著しく粘性が高くなる性質を利

用している

この粘性の発生するメカニズムは下の Fig4において平板間の溶液を薄層に分けた

際高分子鎖は溶液の移動に伴って回転するこのとき溶液中の薄層は薄層間の摩

擦以外に高分子鎖との間にも摩擦が生じているこの摩擦の増加が粘性力の増加とな

る 2)

4

Fig4 高分子による粘性増加

また高分子鎖同士が分子間力によって結びつき三次元構造を形成することで内

部摩擦力は一層大きくなるこのため高分子による増粘効果は顕著である

架橋高分子では三次元構造が高分子鎖同士の分子間力による形成よりも強いものと

なるので増粘効果及びレオロジー特性に優れる 3)

33 塩系薬剤による粘性劣化のメカニズム

塩系薬剤とはビタミンC (アスコルビン酸塩)のようにクロロ基をもつ薬効物質のこ

とである

このクロロ基が直鎖高分子や架橋高分子がポリマー間で形成する三次元網目構造

を破壊することによって増粘効果を消失させ内容物の流失によるべたつきを生じさ

せる 3)

34 粒状高分子の粘性

粒状高分子の粘性について粒状高分子はその粒経が小さいほど体積に対する表面

積が増え溶液内での内部摩擦力が大きくなる

また粒子同士が摩擦力を元に網目構造を形成するため網目構造の構成要因が直

鎖高分子や架橋高分子の高分子増粘剤と異なっている 4)

35 逆相マイクロエマルション重合法

後述する転相温度乳化法を用いて形成した5 μm~30 μm 形成したマイクロエマル

ション内において水溶性のモノマーを利用して行う乳化重合法の一種容易に極小の

5

ポリマーを合成することができる 5)

36 界面活性剤の概略

界面活性剤とは分子の構造が水になじみやすい部分(親水基)と油になじみやすい

部分(新油基)からできていて2つの物質の間の界面に集まりやすい性質を持ちそ

の界面の性質を著しく変える物質というのが界面活性剤の定義である

代表的な界面活性剤の特徴は界面における「吸着」と「ミセル形成」である 6)

もうひとつの代表的な作用として「可溶化」もある

37 エマルションの形成

界面活性剤に有機溶媒が取り囲まれて水に可溶化されたとき水溶液中に存在する

有機溶媒を界面活性剤が取り囲んだ液滴のことを OW エマルションと呼ぶ

有機溶媒中に水が可溶化される場合WOエマルションと呼ぶ

38 ノニオン界面活性剤

非イオン界面活性剤とも言う界面活性剤の内解離基を持たず電気的に中性な

界面活性剤で親水基は主にポリオキシエチレン基であるその特殊な性質上他の種類

の界面活性剤に無い性質として曇点と転相温度を持つ 今回使用するノニオン界面

活性剤はポリオキシエチレンオレイルエーテルであり基本式は以下のような形にな

る 7)

R-O(CH2CH2O)n-H

Scheme 1 ポリオキシエチレンオレイルエーテルの基本式

39 曇点

曇点とは透明な液体が相分離を起こして白濁する温度のこと

本実験においてはノニオン界面活性剤が加温によって界面活性効果を失い相分離

によって白濁する温度のこと 8)

310 転相温度乳化

ノニオン界面活性剤は加温によって界面張力が変化しWO型エマルションから

OW 型に変化するこの変化点のことを転相温度と言い転相温度において界

6

面張力が最低になっているので溶液エマルションが極小になる

またこの転相温度は界面活性剤に固有の値となるので二種の比較的性質の

近い界面活性剤を混合することで転相温度を操作し適切な温度で5 μm~30 μm

程度の直径を持つエマルションを作成する方法を転相温度乳化法と呼ぶ 10)

311 ラジカル重合

開始剤を用いてラジカル種を生成して行う重合法のことをラジカル重合法と言う

開始剤の分解要因によって熱光放射線ラジカル重合の三つに分けられる 10)

3111 ラジカル重合を構成する四反応

ラジカル重合は 4種類の反応が同時並行的に起こるそれぞれ以下の通りである 11)

開始反応

開始剤が熱光放射光などの要因によってラジカル開裂を起こしラジカル種を

生じさせる反応

成長反応

ラジカル種がモノマーと反応することでモノマー新たなラジカル種が生成する

反応これが連続することでポリマーが合成される

停止反応

連鎖していた成長反応が止まる反応主にラジカル種同士の反応による

連鎖移動反応

ラジカル種がモノマー以外の分子主に溶媒分子等と反応することでポリマー以

外の物質を合成する副反応

3112 乳化重合

乳化重合はモノマー液滴と呼ばれるモノマーを大量に保存しているエマルシ

ョンと反応場となる極小のセッケンミセルの二つの構造を持つ溶液中で行う不均

一系ラジカル重合の一種である 12)

成長反応が一段階進むたびにモノマー液滴から拡散の理論式に従ってモノマ

ーがミセル内に移動するこの一連の反応を繰り返して反応が進む 13)

そのため種々のラジカル重合法と比較して以下の特長がある 13)

セッケンミセル内に存在するラジカルが常に一つであるため停止反応が

7

起こりにくく比較的重合度の高いポリマーが生成しやすい

反応速度が拡散作用によって律速されかつセッケンミセルの周囲を大量

の溶媒分子が囲んでいるため除熱が容易であるという理由から熱暴走を起

こしにくいという利点がある

ミセル内で重合するため合成した高分子が絡まりやすく粒状の分子が作

成できる

Fig5 乳化重合模式図

312 MS(質量分析法)

質量分析法とは分子の質量すなわち分子量を測る手段でもあるまた分子を分解

したフラグメントの質量を測ることによって分子構造に関する情報を得るものでも

ある

高エネルギー電子が有機分子にぶつかると分子から電子がはじき出せれカチオ

ンラジカルが発生する

119825119815 rarr 119825119815++119838minus Scheme 2カチオンラジカルの発生

電子の衝突により大量のエネルギーが分子に与えられることで大部分のカチオン

ラジカルを生成した後フラグメントに分解するフラグメントは小さな破片となっ

て浮遊し正電荷や中性となる

このカチオンラジカルとフラグメントについてmz値を横軸相対強度を縦軸につ

いて取ったグラフから質量スペクトルを読み取る 14)

またMS(質量分析法)はイオン化の方法などによりいくつかに分けられ今回使用

したいのは高分子試料でもほとんどフラグメンテーションを起こさないソフトなイ

8

オン化法であるMALDI法 15)である

3121 MALDI法(マトリックス支援レーザー脱離イオン化法)

試料を 25-ヒドロキシ安息香酸のような適切なマトリックス上に吸着させて

ペレットを作成しレーザー光を短時間照射してイオン化する

エネルギーがマトリックスから試料に移動し[119872 + 119867119899 ]119899+に分解される 15)

MALDI法にはよく TOF型の MSが用いられている

4 実験

41 2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を用いた既存化粧品用増粘剤の合成

411 使用器具試薬

温度計ウォーターバスビーカー薬さじデシケーター

ジメチルアクリルアミド

式量9913

沸点81

発火点71

LD50(経口)316mgkg

LD50(経皮)580mgkg

製造和光純薬工業株式会社

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸

式量20725

融点200

LD50(経口)5400mgkg

製造和光純薬工業株式会社

NN-メチレンビスアクリルアミド

式量156

沸点4451

発火点215

LD50(経口)390mgkg

製造東京化成工業株式会社

9

へプタン

式量1002

沸点98

引火点-4

水に不溶

製造昭和化学

2-プロパノール

式量60

沸点82

発火点12

LD50(経口)区分外(GHS分類)

LD50(経皮)区分外(GHS分類)

製造昭和化学

ペルオキソ二硫酸アンモニウム

式量22820

冷水に易溶保存湿気厳禁

重合開始罪乳化重合レドックス重合に用いられる

製造和光純薬工業株式会社

412 実験手順

① ビーカーにイオン交換水ヘプタンポリオキシエチレンオレイルエーテル(2)

(8)をそれぞれ507 mL 507 mL489 g((2)(8)=23)加えて良く撹拌したも

のを入れる

② その後その後温度調節機能つきスターラーに乗せ白濁するまで加熱する

白濁した液が透明化するまで温度を落とし電気伝導率計を用いて溶液が転

相温度付近に保たれていることを確認する

③ 以上の操作が済んだ重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先

ほどのスターラーと同じ温度にしたウォーターバスに移し2-アクリルアミド

-2-メチルプロパンスルホン酸NNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 137 g

262 g入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始

剤としてメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

10

④ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

42 N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミドを用いた新規化粧品用増粘剤の合成

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を誘導体と入れ替える以外の

操作は 41に準ずる

親水基による増粘性の変化を観察するため架橋剤のモノマーに対する濃度比

は 2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を使用したポリマーが最も増

粘効果の高くなると報告された濃度比を用いる

421 使用器具試薬

使用器具は 41に準ずる

試薬

N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド

式量11513

沸点130

発火点189

製造東京化成工業株式会社

422 実験手順

① 412 ①②と同じように重合系を作成する

② 以上の操作が済んだ重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先

ほどのスターラーと同じ温度にしたウォーターバスに移しN-(2-ヒドロキシエ

チル)アクリルアミドNNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 076 g262

g 入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始剤と

してメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

③ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

11

43 (3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライドを用いた新規化粧品用

増粘剤の合成

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を誘導体と入れ替える以外の操作は

41に準ずる

親水基による増粘性の変化を観察するため架橋剤のモノマーに対する濃度比は 2-ア

クリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を使用したポリマーが最も増粘効果の高く

なると報告された濃度比を用いる

431 実験器具

実験器具は 41に準ずる

試薬

(3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライド

式量22074

沸点100

製造東京化成工業株式会社

432 実験手順

① 412 ①②と同じように重合系を作成する

② 重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先ほどのスターラーと

同じ温度にしたウォーターバスに移し (3-アクリルアミドプロピル)トリメチ

ルアミニウムクロライドNNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 123 mL

262 g入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始

剤としてメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

③ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

5 評価分析

耐塩性の高い増粘剤の耐塩性と使用感と親水基との関係を評価するために以下の二

つの測定を行い評価する

増粘剤の耐塩性の評価のために塩酸を増粘剤内部に取り込ませた状態で経時

12

による粘度の変化を観察する

また高分子の粘性を考える上で直鎖高分子の場合よく参考にされるのが平

均分子量でありこの値を測定することで親水基が変化した場合に平均分子

量が粒状高分子の粘性にも大きく影響するか確認する

精密に上の測定を行うには専用の機器が必要になるため機器メーカーの株式

会社エーアンドデイ様または東京理科大学理学部応用化学科駒場研究室に

また高分子の性質を考える上で重要視される平均分子量及び分子量分布に

ついては東京理科大学化学系機器センターにあるMALDI-TOF型質量分析計を管

理者の東京理科大学理学部応用化学科の根岸先生に測定に協力していただこうと

考えている

6 謝辞

東京理科大学工学部工業化学科 近藤行成教授

東京理科大学理学部化学科 遠藤恆平准教授

東京理科大学理学部応用化学科 駒場慎一教授

この研究を進めるに当たり大変お世話になった先輩先生方企業の皆さんに感謝の

意を表明します

参考文献

1) 小澤美奈子 基礎高分子科学 高分子学会 編 2010年 第六版 p979899

2) 小澤美奈子 基礎高分子科学 高分子学会 編 2010年 第六版 p99100

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10) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 テクノシステム 2006 p397

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11) 遠藤 剛 高分子の合成(上)~ラジカルカチオンアニオン重合~ 講談社 2010 3p

12) 佐藤壽彌編 高分子微粒子の技術と応用 シーエムシー出版 2004 p2526

13) 佐藤壽彌編 高分子微粒子の技術と応用 シーエムシー出版 2004 p27

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15) John McMurry マクマリー有機化学(上) 第 8版 2013 p410411

Page 11: ゼオライトとキトサンを用いた 金属イオン除去剤の …kaken/studies/2015/2015-s-all.pdf1 東京理科大学I 部化学研究部 2015 年度春輪講書 ゼオライトとキトサンを用いた

11

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URL httpwwwcityhimejilgjps90gesuidou_9253_9277html

最新取得日2015年 4月 15日

2)環境省編集 『水土壌地盤海洋環境の保全』 URL httpwwwenvgojpwatermizuhtml

最新取得日2015年 4月 15日

3)知足章宏著 『アジアの開発途上国における水質汚染問題と下水事業への民間参入

(Private Participation)の現況経験』立命館大学 立命館国際地域研究第 23号

2005年 3月発行 p153~156

4) 一般社団法人キチンキトサン学会 『キチンキトサンとは』

URL httpjscckenkyuukaijpspecialindexaspid=1930

最新取得年月日2015年 4月 15日

5) ゼオライト学会 URL httpwwwjaz-onlineorgindexhtml

最新取得年月日2015年 4月 16日

6) 萩中淳ほか著 『パートナー分析化学 I(改訂第 2版)』 南江堂 (2012) p97~98

7)『パートナー分析化学 I(改訂第 2版)』 p116

8) 児玉三明ほか訳 『マクマリー有機化学(中) 第 8版』 東京化学同人 (2013) p703~704

9)『マクマリー有機化学(中) 第 8版』p708~711

10)環境省編集 『環境省 一律排水基準』URL httpwwwenvgojpwaterimpurehaisuihtml

最新取得年月日2015年 4月 17日

11)『化学大辞典』大木道則ほか著 東京化学同人 (2005) p543

12)『化学大辞典』p651

13) 有機合成化学協会編集『有機化合物辞典』講談社 (2004) p248

14)『化学大辞典』p1121~1122

15)『化学大辞典』p1121

16)『化学大辞典』p269

17)『化学大辞典』p1928

18)『化学大辞典』p256~257

19)『化学大辞典』p638~639

20)『化学大辞典』p858~859

21)『化学大辞典』p332~333

22)『化学大辞典』p1172

23)『化学大辞典』p1118~1119

1

東京理科大学Ⅰ部化学研究部 2015年度春輪講書

ケイ酸を用いた無機接着剤 火曜班

Shoji Y (2OK) Arai S(2OK) Abe Y(2K) Takemura R(2K) Matsui T(2K)

1背景

私たちは日々生活している中で接着剤を使う機会が多くあるしかしその接着剤が

まわりに及ぼす影響について考えることは少ないそこで接着剤について調べてみたと

ころ接着剤は大きく分けて 2つのグループに分類できることが分かったまず一般的に

使われているボンドや瞬間接着剤のように有機化合物を主成分とした有機接着剤次に

あまり一般的ではないが金属やセラミックスの接着に用いられる無機化合物を主成分とし

た無機接着剤有機接着剤は簡単に接着することができるなど様々な長所を持つが有機

物の溶媒を用いるため工事現場などで感じる独特な臭いやシックハウス症候群の原因物

質を放出してしまうという短所を合わせ持つそれに比べ無機接着剤は接着方法が高

温で加熱しなければならないという点と有機接着剤よりも接着強度が低いという短所を持

つが耐熱性に優れ特有の臭いもなく溶媒に水を用いるため環境や人体に対する影響

も少ないという長所があるさらに無機接着剤の分野はあまり多くの研究が行われてお

らず発展の余地が残っているのではないかと感じた

2目的

無機接着剤は耐熱性などの長所がある反面強度と耐水性が低いという短所があるこ

の 2つの短所は接着剤として用いるためには重大な問題となるそこで本実験ではケイ

酸を主成分とした無機接着剤に何種類かの金属化合物などの添加物を加えることにより接

着強度と耐水性の改善を目的とする

3原理

31無機接着剤

無機質の接着材料としては一般にガラス系金属系の材料が使用されているがこれ

らの材料は気密性は優れているが接着時にそれぞれの融点や軟化点以上に加熱すること

が必要でありまた接着部分の耐熱性は接着時の温度を上まわることはないという欠点を

有しているこれに対していわゆる無機接着剤は気密性には劣るが低温での接着が可能

であり優れた耐熱性を有するという特徴を持っている無機接着剤は1)無機結合剤

2)硬化剤3)充填剤を主成分として構成される

2

市販されている接着剤の多くは使用の便を考えて一液性であるそのポットライフ(可

使期間)は 3か月から 1年必要とされるので室温で作用する硬化剤は使用できない

1)結合剤

結合剤自体の硬化剤が強い強度と接着力を持つ必要があり現在しようされている無機

結合剤のほとんどはアルカリ金属ケイ酸塩系リン酸塩系シリカゾル系のいずれかで

あり本実験でしようするのはアルカリ金属ケイ酸塩系結合剤である

アルカリ金属ケイ酸塩の水溶液は粘性のある液体であり分子式 M2OnSiO2で表わさ

れMの種類(LiNaKなど)および nの大小によって数多くの種類が生ずるまたア

ンモニウムケイ酸塩やグアニジンケイ酸もある一般には安価なケイ酸ナトリウム(水ガ

ラス)がよく使用される

アルカリ金属ケイ酸塩は水溶液中において種々の量のシリケートイオンモノマーポ

リシリケートイオンおよびコロイド状シリカイオンミセルからなっているこれらの形

態や分布は n 値や濃度に依存しn が大きくなるにつれてポリシリケートイオンミセル

が増加するケイ酸ナトリウムは n が4を越えると水の溶解度は極端に小さくなりn が

3 付近で接着力は最大となるケイ酸カリウムはケイ酸ナトリウムと同じような挙動を示

すがケイ酸リチウムは nが非常に大きくケイ酸分の多い水溶液が得られることが特徴で

ありシリカゾルに近い物性を示すしたがってアルカリ金属ケイ酸塩系結合剤につい

て一般的には耐水性は LigtKgtNa接着力はこの逆の順に良いといわれている

水溶液は強いアルカリ性を示し加熱によってシラノール間で脱水縮合反応を起こし

分子間にシロキサン結合を生じる固形物は融点(軟化点)までずっと非晶質である

2)硬化剤

結合剤は低温で乾燥しただけでは耐水性が不十分であり耐水性の向上のために硬化

剤が添加される硬化剤は耐水性には寄与するが接着力を低下させる場合もあるため

使用目的によっては添加しないこともある一液性の接着剤ではポットライフの要求から

室温で作用するものはあらかじめ添加できないので高温になってはじめて結合剤と反

応するものが選ばれる硬化剤については非常に多くの物質が特許等に提案されている

アルカリ金属ケイ酸塩用の硬化剤にはZnMgCa 等の酸化物水酸化物NaK

Ca等のケイ化物ケイフッ化物Alや Zn等のリン酸塩CaBaMg等のホウ酸塩等が

用いられる

酸化亜鉛による反応機構を LSDGlasserらは次のように示している

反応初期には ZnO粒子の表面で

ZnO + 1198672119874 + 119874119867minus rarr 119885119899(119874119867)42minus

の反応がおこりZn は液中に溶解しOH-が消費されるので pH が下がりケイ酸ゲルが

3

粒子表面に析出する以後はこのケイ酸ゲル層を通して OH-が粒子表面へ拡散しZnOと

反応して Zn(OH)2として固定されるためさらにケイ酸ゲルの析出が行われ酸化亜鉛表

面へ無定形シリカが沈積する

3)充填剤

充填剤としては結合剤との反応性の小さい耐火物粉末が使用される結合剤は加熱脱

水により大きな体積収縮を生じひび割れが発生するのでこれを防ぐため充填剤を添加し

て固体分率を高くするまた粒子間の空隙は水分蒸発の逃げ道となり発泡を防ぐ接着

剤の熱膨張を被着材へ合致させることも重要な役割である

さらに一液性の接着剤ではリン酸塩系におけるアルミナ粒のように室温では反応し

ないが温度を上げていくと結合剤と反応し硬化作用をして耐水性を付与することもある

その他耐火性接着強度熱伝導性電気特性耐薬品性耐摩耗性の向上に重要な

働きがある充填剤の種類に加え粒径粒径分布表面活性等に調整することが必要で

数種の充填剤を混合することが多い

4)核剤

核剤は力学特性成形性成形時の生産性の改良などを目的として種々の結晶性高分子

で利用されている特にポリプロピレンにおいては核剤を添加することにより剛性や耐火

性(熱変形温度)あるいは透明性など諸問題が大幅に改良され高機能化による用途拡大

や成形品の薄肉化軽量化が可能となりさらには短時間で結晶化が完了することから成

形時の生産性も大幅に短縮されコスト削減はもとより省資源省エネを影から支えてい

核剤には工業的な側面から主に力学特性を改善する「核剤」と特に透明性を改良する

効果が高い「透明化剤」とよばれるものがある核剤も透明化剤も高分子の結晶化過程

における基本的な作用機構は同じでありその本質はエピタキシーにあるつまり高分子

融体が結晶化する過程で高分子鎖が結晶化しやすいように「場」(核剤の表面)を提供す

るものである核剤はまた「造核剤」とよばれることもあるが核剤透明化剤とも物理

化学的には高分子に対し同じ作用をしているといえる溶媒中に溶解している溶質が種晶

の添加により析出が促進される現象を想像されたいまさに核剤は高分子融体中に添加

されこれが核となって高分子の結晶化が促進されるのである

4

Fig3-1 核剤の表面からの高分子結晶の成長

a)力学特性の改善

自動車や家電部品の樹脂化率は年々高まり特に自動車においては内外装問わずポリ

プロピレンが多用されるようになった当初はあまり重要でない部分への利用であったも

のの最近ではバンパーフェンダーライナーフロントグリルカウルパネル各種リ

ザーバータンクドアパネルピラーダッシュボードサンバイザーコンソールボッ

クスなどありとあらゆる部分に用途開発が進んでいる高分子材料による金属代替今後

もさらに進められると思われるその理由としては自動車の軽量化はもちろんのこと

設計の自由度(一体成形や金属ではデザインしにくい曲線曲面を複雑に有する部品など)

があげられる自動車部材では機能的に高剛性が求められるものや夏場に高温にさらさ

れる内装部品などは高耐熱性(高い熱変形温度)が求められるものなどがほとんどであり

このような要求性能に応えるべくポリプロピレンに核剤が添加されている

核剤が存在する場合高分子の結晶化が促進され融体の冷却過程においてより高い

温度(より融解温度に近い温度)から結晶化が開始するそのため核剤存在下での結晶化

過程では核剤非存在下での結晶化過程に比較して高分子鎖の運動性が高い状態で結晶

化が開始する核剤を添加した高分子の結晶化開始温度を示差走査熱量計などで測定する

と結晶化が高い温度から開始することも確認されるその結果高分子結晶の欠陥は減

少しまた結晶化度も増大する核剤存在下で結晶化させた高分子結晶は欠陥も少なく

またラメラ厚も厚くなり融解温度が高くなるそのような効果により成形後の高分子

材料の力学特性耐熱性が改善する

5

Fig3-2 核剤の添加のよるポリプロピレンの曲げ弾性率の改善効果

()アデカスタブ NA-11()Hyperform HPN-68 L

()安息香酸ナトリウムポリプロピレン

Fig4-2に核剤の添加によるポリプロピレンの曲げ弾性率の改善効果について示したま

ず核剤を添加することでしかも僅か 01~03 wt程度の添加で曲げ弾性率が劇的に向

上していることが分かるその中で比較すると汎用である安息香酸ナトリウムや HPN-68

Lでは弾性率の改善はあるものの(おおよそ 30の弾性率改善)01 wt程度の添加で改

善効果は飽和する添加物を加えることで剛性耐熱性を大幅に改善できることがわかる

このような改善効果は自動車用に多用されるポリプロピレンのグレードであるインパクト

コポリマーにおいても同様であるさらに核剤の添加により結晶化が促進された結果成

形時間も短縮でき高性能化と相まって生産性改善によるコストダウンも可能となる核

剤はもとのポリマーが有する特徴を損なうことなく物性を改善できるといったメリット

があるといえる

32 縮合重合反応

二つの化合物から水などの簡単な分子が脱離して新たな結合が形成される反応を縮合反

応とよぶカルボン酸とアルコールからエステルを得る反応は縮合反応の一例である

縮合反応を繰り返すことによりポリマーを合成することができるこれが脱水縮合反応

であるたとえば 2個のカルボキシ基をもつ分子と 2個のヒドロキシ基をもつ分子を反応

させると縮合反応が連続して起こりポリマーが得られる本実験では Fig3-3 の反応が

起こる

6

Fig3-3 ケイ酸の脱水縮合反応

33 接着の原理

接着剤による接着効果には複数の理論が挙げられており賛否両論あるものもあるま

た個々の接着現象においても複数の接着効果が絡み合っていることが多く接着効果の

検証は困難であるとされるある接着系では適用できる接着効果が別の系ではまったく無

力ということも多い以下に主な接着効果の理論をあげる

1) アンカー効果

雲母を注意深くはがしたようなごくわずかな例外を除きすべての固体表面は数Åオ

ーダーの粗さを有する例えば機械で製造される金属表面の粗さは 3~6 μmであり研

磨した場合でも 002~025 μmである

アンカー効果とはこのような被着材の凹部に流入した接着剤が固化し被着部に引っかか

ることにより界面が結合するというものであるアンカー効果のような界面との相互作

用を無視した接着効果理論を機械的結合論という

開口部を有するクレバスへの液体の流入について理論式が提案されている

以下の 2式は液体の粘度 η接触角θの液体が深さ Zまで浸透するまでの時間 tを表し

(a)開口部の幅がδの平行板の場合

Zdz

dt=

120575119910

120575120578120574 cos 120579

(b)開口部δ深さ Z0の V型溝の場合

11988501198971198991198850

1198850 minus 119885minus 119885 =

120575120574 cos 120579

6120583119905

となる式によれば開口部が大きくぬれがよく粘度の低い液体ほどまた時間をかけ

たほど深くまで侵入できるとされる

7

Fig3-4 アンカー効果

2)分子間相互作用

ふたつの物体の接着面で分子同士が接触するところで互いにひきつけあう力が働くこと

で接着するとするもの代表的なものにファンデルワールス力結合水素結合が存在す

3)化学的結合

界面に化学結合が存在することで接着強さに寄与するとするものである古くから提唱

されている説であるが化学結合の存在の証明が難しく接着系の界面に本当に化学結合

が存在するのかは十分に検証されなければならないとされる

4)表面自由エネルギーと表面張力

物質の内部と表面では性質が異なる内部の分子は周囲を分子に囲まれており分子間

力で互いに引き合うため安定化されるこれに対し表面の分子には周囲を囲む分子が内部

に比べて少なく内部分子と比べて不安定=エネルギーが高いということになるこの余

分のエネルギーを表面自由エネルギーと呼ぶ

表面積が小さいほど表面自由エネルギーは少なくなるため物質の表面では表面を

小さくしようとする力が働くこの力を表面張力と呼ぶ

5)ぬれと接着角

固体表面に液体が存在するとそれぞれの表面自由エネルギーとその間の界面自由エネ

ルギーとのバランスによって液体が広がり固体表面が液体表面に置き換えられるこの

現象がぬれである固体表面のぬれは材料表面の親水性疎水性や接着強度と直接関係

しているため接着の分野ではきわめて重要である固体表面に液滴を落とすと個体の

表面張力γS と液体の表面張力γL 固体と液体の界面張力γSL が釣り合うことによってあ

る角度θで平衡になるこのとき固体と液体空気の境界点 A における力の水平成分の

釣り合いから次式の Young-Dupreの式が得られる

120574119878 = 120574119878119871 + 120574119871 cos 120579

8

自然状態では表面張力により液体は球状になるこの式は固体表面上での液体を広げよ

うとする力と球状を保とうとする力のつりあいの式である

Fig3-4 固体表面上の水滴

また界面自由エネルギーγ12 で接着している二種類の物質を引き離し表面自由エネルギ

ーγ1γ2をもつ二つの物質に分けるのに必要な仕事(これを接着仕事という)Waとすると

119882119886 = 1205741 + 1205742 minus 12057412

であらわされるこれを Dupreの式と呼ぶ接着仕事とはふたつの物質を引き離すのに必

要な仕事であるからWaの値が高いほど接着強度が強いということになる

個体と液体との関係においてこれら二式をあわせると

119882119886 = 120574119871(1 + cos 120579)

を得るこれを Young-Dupre の式という液体の表面張力と接触角から接着材の接着強

度が分かるという式になっている

6)接着力低下因子と表面処理

接着は清浄な面と面の接触が前提である金属表面は清浄であれば 1000~3000 mNmの

表面張力があるはずであるが大気中では数十mNmの値をしめすこれは異物が付着した

り酸化されていたりするためである特に表面がもろい物質でおおわれていると剥離時に

もろい面での剥離が起こり見かけ上弱い接着強度となる事がある

このような金属表面の表面張力の低下を防ぎアンカー効果において適切な凹凸を金属表

面に付与し接着強度向上を図るために洗浄と研磨を行うのが望ましい

5実験方法

41使用する器具

100 mL ビーカーガラス棒ホールピペット安全ピペッターピンセットキムワイ

プ電気炉2 L ペットボトル紐アルミ角材(10 times 30 times 30 mm)サンドペーパー

はけ

9

42試薬の物性

ケイ酸ナトリウム a)

ケイ酸のナトリウム塩で種類が多いいわゆる水ガラスも多くの場合はケイ酸ナトリウム

であるがその組成は安定していない単一物質として得られているものだけでもメタ

ケイ酸ナトリウム Na2SiO3およびその種々の割合の水化物オルトケイ酸ナトリウム

Na4SiO4二ケイ酸ナトリウム Na2Si2O5四ケイ酸ナトリウム Na2SiO9 などがあるオ

ルトケイ酸ナトリウム Na4SiO4=18405二酸化ケイ素と水酸化ナトリウムを適当な条件

で融解すると得られる水溶液で両者を反応させたのではオルトケイ酸ナトリウムの結晶

は得られずにメタケイ酸ナトリウムの水化物になってしまう無色六方晶系の結晶酸

と加熱していると二酸化ケイ素が沈殿している

酸化マグネシウム b)(MgO)

式量 4030

融点 2852

沸点 3600

一般にアンモニウム塩水溶液に溶けるがエタノールに不溶空気中で水と二酸化炭素を

吸収し炭酸水酸化マグネシウムに変化する水と反応して水酸化マグネシウムとなる耐

火レンガマグネシアセメントの製造原料医薬品として制酸剤の原料となるほか触媒

または吸着材ゴム工業にも用いられる

酸化亜鉛 c)(ZnO)

式量 8138

密度 547 gcm3

無定形の白色粉末水にはほとんど溶解しないが両性酸化物で希酸や水酸化アルカリ

水溶液アンモニア水に溶解する空気中で湿気と二酸化炭素を吸収する白色顔料とし

てペイント絵の具などに用いられるほか粒子の細かいものは医薬品化粧品として用

いられる

酸化カルシウム d)(CaO)

式量 5608

融点 2572

沸点 2850

密度 340 gcm3

10

酸に可溶空気中の湿気を吸収して水酸化カルシウムとなりまた空気中の二酸化炭素を

吸収して炭酸カルシウムとなる水と反応して水酸化カルシウムとなるしっくいモル

タルなどの建築材料石膏さらし粉消石灰の原料医療用に用いられる医療用に用

いられる酸性土壌改良にも用いられる

炭酸カルシウム e)(CaCO3)

式量 10009

融点 1339

二酸化炭素を含む水には炭酸水素カルシウムとして溶解する酸には二酸化炭素を発生し

て容易に溶ける加熱すると二酸化炭素と酸化カルシウムに解離する

二酸化ケイ素 f)(SiO2)

式量 6009

低温ではフッ素フッ素酸水素酸だけが反応する高温では他のハロゲン元素とも反応す

る水酸化アルカリ炭酸アルカリと融解すると水溶性のアルカリケイ素酸塩となる

43実験操作

431被接着面の均一化

1)10times30times30 mmのアルミ角材の表面をサンドペーパーで汚れがなくなるまで削る

2)削った表面をアセトンで洗浄する

3)洗浄が終わったアルミ角材の重量を測り記録する

432ケイ酸ナトリウムのみの接着剤の作製

1)100 mL ビーカーにケイ酸ナトリウム 50 g を加え粘り気が残るぐらいまでイオン交換

水を加えガラス棒で撹拌する

2)アルミ角材の 10times30 mm の面にはけを用いてケイ酸ナトリウム溶液を均一になるよう

に塗りアルミ角材を重ね合わせる

3)150にセットした電気炉に接着面がずれないように慎重に置き 1時間焼成する

433添加物を加えた接着剤の作製

1)100 mLビーカーにケイ酸ナトリウム 50 g添加物(酸化マグネシウウム酸化亜鉛

酸化カルシウム炭酸カルシウム二酸化ケイ素)を 010 gから 010 gずつ 20 gまで加

え粘り気が残るぐらいまでイオン交換水を加えガラス棒で撹拌する

2)アルミ角材の 10times30 mm の面にはけを用いてケイ酸ナトリウム溶液を均一になるよう

に塗りアルミ角材を重ね合わせる

3)150 にセットした電気炉に接着面がずれないように慎重に置き 1時間焼成する

11

5評価方法

51接着強度の評価

1)432433で接着したアルミ板にひもとペットボトルを用いて Fig5-1のように設置す

アルミ角材

Fig5-1 接着面の破壊

2)ペットボトルに少しずつ水を加え接着面が完全に離れた時点を破壊終了点とする

3)破壊終了点でのペットボトルに入っている水の重量を計測する

52耐水性の評価

1)接着したアルミ角材に水をかけ接着面の変化を観察する

6予想

添加物を加えることで接着強度の増加が期待されるしかし大量に添加物を加えてし

まうとケイ酸の割合が小さくなり接着強度は減少してしまうと考えられ添加物の量と接

着強度の関係性をグラフ化するとある値までは増加しその値を超えると減少していくグ

ラフが得られると考えるそこから最も接着強度が高まる添加物の量を測定する

また添加物が硬化剤の役割をし耐水性の改善も予想される

参考文献

1)日本接着学会『接着剤データブック第 2版』日刊工業新聞社1990P228~229

2) 三刀基郷『トコトンやさしい接着の本』日刊工業新聞社2003P56~67

3) セメダイン(株)『よくわかる接着技術』日本実業出版社2008P34~37

PET

Crash

12

4) ユージン Gロコー『ケイ素とシリコーン』シュプリンガーフェアラーク東京株式

会社1990 P85~113

5) 大木道則大沢利昭田中元治千原秀昭『化学大辞典』東京化学同人1989

b)P884 c)P865 d)P867 e)P1368 f)P1669

6)下井 守村田 磁『大学生のための基礎シリーズ 3 化学入門』東京化学同人2005

P229

7) 吉村壽次『化学辞典第 2版』森北出版2009a)P425

8)大勝 靖一『高分子添加剤の基礎化学と材料設計』株式会社 CMC出版2008P219~235

9)httpwwwfacekyowacojpsciencetheorywhat_contact_angleimg01jpg

2015416取得

1

東京理科大学Ⅰ部化学研究部 2015 年度春輪講書

シクロデキストリンを用いた

包接化合物の生成

水曜班

Ikemura M(2C)Ebihara K(2C) Kataoka T(2K)

ShibasakiK(2OK)TsumedaT(2C)NakaA(2OK)Murakoshi R(2OK)

OkawaT(2C)NoguchiA(2K)SekiguchiK(2K)HashimotoY(2C)

1 動機

6~8 分子のグルコース単位からなるα―14結合の環状オリゴ糖であるシクロデキストリ

ンはその環状構造に由来する包接化合物を生成する性質を示すその特異的な包接形成能

を利用した多くの製品が存在し現在もなお基礎研究分野応用研究分野での研究が行わ

れている

そこで私たちは 7 分子のグルコースからなるβ-シクロデキストリンと 3 種類のカルボン

酸を用いて包接化合物を形成させ酸の構造の違いによる包接作用の比較検討及びシクロ

デキストリンの一部のヒドロキシ基をエステル化させ水に対する溶解性及び包接形成能が

どのように変化するか考察する

2 原理

21 包接化合物

包接化合物は Schlenk によって名づけられたもので定義によると原子または分子が

結合してできた 3 次元構造の内部に適当な大きさの空孔があってその中に他の原子また

は分子が一定の組成比で入り込んで特定の結晶構造をつくっている物質ということにな

っている前者の骨組み構造の化合物のほうをホスト分子後者の入り込んでいる分子の

ほうをゲスト分子ともよんでいるがこのゲスト分子の大きさや形状はまったくホスト

構造によって規定されるだけで両者の間には弱い相互作用があっても水素結合のよう

な力はなくてもいっこうに構わないのであるこの包接化合物でのゲスト分子とホスト

構造との間の相互作用というのも物理的な吸着系に近いもので非常に弱い van der

Waals 力から高度に配向した双極子間力まで種々のものが存在する 1)

22 シクロデキストリンの包接能

シクロデキストリンはグルコース残基がα-1α-4 結合した環状のオリゴ糖で一般的

にグルコース残基が 6 個のα-シクロデキストリン7 個のβ-シクロデキストリン8個の

γ-シクロデキストリンが知られている

2

Fig1 α-シクロデキストリンの分子構造

シクロデキストリンの構造は底の抜けたバケツやドーナッツのような構造をしており

その環状構造の外側は多くの水酸基に由来する親水性領域が存在し内側の空洞の CH 基に

由来する疎水領域と相反する極性が一つの分子に共存しているがこの空洞内に様々な有

機化合物などを取り込むという包接作用がもっとも特徴的である

三種類のシクロデキストリンはそれぞれ空洞の大きさが相違するためそれぞれ包接化

合物を形成しやすいゲスト分子が存在する内部空洞が比較的小さいα-シクロデキストリ

ンは比較的小さい分子例えばエタノールメタノール等をβ-シクロデキストリンは汎

用性が広く各種ポリフェノールコレステロールメンソール等の香気成分芳香族化

合物等をよく包接するγ-シクロデキストリンは大きい分子である脂肪酸などを包接する

ことが知られている

シクロデキストリンの包接力の原動力は疎水性相互作用と分子間力が主なものとされて

いるつまりゲストは疎水性の高い分子あるいは分子の大きさが空洞にぴったりとフィッ

トするものほどシクロデキストリンがそのゲストを包接する力は大きく包接物を作り

やすい傾向がある逆に親水性が高くシクロデキストリンの空洞にフィットしないよう

なゲスト分子では包接現象は起こりにくいといえるしかしゲスト分子全体がシクロ

デキストリンの空洞内にとりこまれる必要はなく部分的にでも疎水性が高く空洞にフィ

ットすれば包接が可能となるつまりゲスト分子全体がシクロデキストリンより明ら

かに大きいものでも包接作用による効果が観察される場合がある 2)

Fig2 シクロデキストリンがゲストを包接する様子

23 水溶化シクロデキストリン

3

ブドウ糖やショ糖など通常糖質の水への溶解度は非常に高いしかし天然型シク

ロデキストリンは隣接する水酸基との水素結合の為3 種のシクロデキストリンの中では最

も高い水溶性を有するγ-シクロデキストリンであってもその溶解度は 25において水

100 mL に 23 g であり油性物質を包接した場合は一般的にその溶解度はさらに低くな

るそこで水への溶解度を改善するためにシクロデキストリン化学修飾体が製造されて

いるシクロデキストリンの水溶性を向上させる方法として隣接する水酸基をメチル基や

アセチル基などでエーテル化やエステル化する方法がある具体的には部分メチル化β-シ

クロデキストリンやモノアセチル化β-シクロデキストリンが工業的に生産されている

24 包接能の評価について

今回の実験ではゲスト分子としてカルボン酸を用いるシクロデキストリン及び水溶化

シクロデキストリンの包接能の評価については包接化合物に含まれているカルボン酸をア

ルカリで滴定することで求めることができる

3 実験

31 試薬sup3⁾

アジピン酸

分子式C6H10O4

分子量1464

mp153

bp3375 アジピン酸

クエン酸

分子式C6H8O7

分子量19213

mp156~157

クエン酸

シュウ酸

分子式C2H2O4

分子量9004

mp1895

シュウ酸

4

βシクロデキストリン

分子式(C6H10O5)7

分子量113500

n-ブタノール

分子式C4H10O

分子量7412 β-シクロデキストリン

bp1179

エタノール

分子式C2H6O n-ブタノール

分子量4607

mp-1145

bp7833

水酸化ナトリウム

組成式NaOH

分子量4000

mp328

bp1388

無水オクタン酸

分子式C₈H₃₀O₃

分子量27041

mp-1 無水オクタン酸⁶⁾

濃硫酸

分子式H₂SO₄

分子量9808

mp104

32 使用器具

300 mL ビーカーメスフラスコピペット三角フラスコ吸引漏斗吸引瓶ビュレッ

トスタンドボウルガラス棒

5

33 実験操作

331 エステル化シクロデキストリンの合成 ⁵⁾

1)三角フラスコにβ-シクロデキストリン 1 g を入れこれに無水オクタン酸 025 mL を加

える

2)触媒として 2-3 滴の濃硫酸を添加し攪拌する

3)約 10 分間放置してフラスコを氷桶に入れて冷やしガラス棒でフラスコの壁を強くこす

り結晶を析出させる

4)水 20 mL を加えさらに氷桶で冷やしながら残る結晶を析出させる

5)この結晶を濾分し水で洗ってから取り出して乾かして結晶を得る⁵⁾

332 包接化合物の形成

1)β-シクロデキストリン 1 g を水 100 mL に溶解させる

2)ピペットで 1 mL のカルボン酸を加えコルク栓をして静置する

3)1 週間程静置し包接化合物を吸引濾過する

4)上記の操作をカルボン酸(酢酸シュウ酸クエン酸)で行う

5)エステル化シクロデキストリンで同様の実験を行う

333 包接能の測定

1)よく乾燥した包接化合物約 1 g をメスフラスコで 100 mL 溶液とする

2)この溶液 20 mL にフェノールフタレインを指示薬として20 mL 加え 01 M 水酸化ナト

リウム標準溶液で滴定する⁴⁾

334 溶解度の測定

1)100 mL の水に 5 g の β-シクロデキストリンを溶解させる

2)沈殿をろ過し乾燥して重量を測定する

3)エステル化 β-シクロデキストリンで同様の作業を行う

参考文献

1) 竹本喜一包接化合物の化学東京化学同人1969p2

2) 辻堅司シクロデキストリンの応用技術株式会社シーエムシー出版2008p3-p9

3) 大木道則大沼利昭田中元治千原秀明化学大辞典東京化学同人1989

4) 発田寿々子教養の化学実験第 2 版学術図書出版社2014p119

5) 南篠正男先生と生徒のための化学実験共立出版株式会社1986p155

6) 「 chemical book 」〈 wwwchemicalbookcomchemicalProductPropert_JP_CB 〉

(2015418 アクセス)

1

東京理科大学Ⅰ部化学研究部 2015年度春輪講書

ダブルネットワークの合成と評価 木曜班

OnizukaM(2C)TanakaR(2C)YamamokaH(2K) OhiraM(2K)

1背景

現在高分子ゲルは紙おむつの高吸水性樹脂やソフトコンタクトレンズなど私たちの生

活において活躍しているしかし高分子ゲルは不均一な構造なため一般的に機械的強

度が弱いという欠点がある高分子ゲルの強度面での弱点を克服するために従来では

ゲルの構造を均一化して強度を上げるというアプローチがとられてきた

しかしながら材料の弾性とじん性は反相する因子として働くつまり大変形に耐え

られるゲルは弾性率を犠牲とし高弾性のゲルは小さい変形で破壊される

そこで私達木曜班は前述の問題の解決策と成り得るものとしてダブルネットワーク

ゲル(DNゲル)について注目した

2目的

既存に作られている DNゲルは溶媒に水を用いたハイドロゲルであるDNゲルはその

強度や柔軟性により生体内での人工関節に使用することが期待され研究がおこなわれて

いる木曜班では DNゲルを生体内の関節だけでなく機械の関節部の摩擦軽減材料として

の使用を提案するしかし従来の DNゲルは溶媒が水であることにより水の沸点である

100以上の条件下では性能の低下が問題視され高温になりうる機械への応用が困難で

ある

溶媒を水から有機溶媒に変更することで高温条件下でのゲルの機能維持を試みるとと

もに使用するモノマーを変更しその機能性を検討する

3原理

31 DNゲル

311ゲルの脆弱性

一般的なゲルはゼリーや豆腐のように僅かな力を加えただけで簡単に壊れるほど

弱いこの理由は 2つの現象により説明することができる

1)ゲルの内部に多数の欠陥が存在する

2)欠陥から発生した初期亀裂が容易に伝播する

前者はゲル内部の構造が不均一であることに由来するゲル合成時におけるモノマ

ーと架橋剤の反応性の違いにより不均一な重合がおこるあるいはゲル化溶液内の濃度

揺らぎが重合によって固定されることだと考えられている 1)こうしたゲルに力を加えた

2

時にゲルの弱い部分に力が集中してしまうため小さな力でも初期亀裂が生じてしまう

後者はゲル内部のポリマーの密度の低さから生じる一般的に物質内における亀裂

の進みやすさは破壊エネルギーU(Jm2)(単位面積あたりの破断面形成に費やされる仕事)

によって評価される架橋高分子材料の臨界破壊エネルギーUc(亀裂成長が起こる最小

の破壊エネルギー)は破断面の高分子鎖の数密度と架橋点間分子量に比例する 2)つま

りゲルのじん性(物質の破壊に対する抵抗の程度で粘り強さとも言い換えられる 3))はゲ

ル内のポリマーの密度には比例し架橋密度には反比例することがわかる

ゲルは 50~99wtの溶媒を含んでいて高分子の密度が非常に低い物質であるためゲ

ルの Ucはゴムなどの固体に比べてかなり小さいことが考えられる

これまでの高強度ゲル研究は主に前者の問題を解決するすなわち構造を均一化するこ

とでゲル内部の欠陥を極力減らして強度を改善しようという観点から行われてきた

312 ゲルの弾性率

高分子鎖が三次元架橋されたゲルはゴムと同じようにエントロピー弾性を持つ溶液

中に完全に湿潤した電気的に中性ゲルのせん断弾性率(横方向に対するバネ係数 4)であり

Young率 Eと E=3Gの関係式が成立する)は

GneucongkBT

b3Q-225

以上の式で表せられゲルの湿潤度 Qの増加にともないせん断弾性率Gneuは大きく低下

するここでkBはボルツマン定数Tは温度bは重合させたモノマーの大きさである 5)

一方溶液中に完全に湿潤した電解質ゲルのせん断弾性率は

GchacongkBT

b3Q-1

によって表せる 6)よって同じ湿潤度において電解質ゲルは中性ゲルよりせん断弾性率が

高いことが分かる

またゲルの湿潤度は架橋点重合 N(分子量)による溶液中に完全に湿潤した中性ゲル

の場合QasympN35であり電解質ゲル場合QasympN

32であるしたがって架橋密度を上げる

ことによりゲルの湿潤度が小さくなりせん断弾性率が上がる 3)4)

313 ゲルの破断歪と破断応力

架橋構造が均一と仮定した理想的なゲルの破断歪(ゲルが破壊するまでの変形 7))は架

(1)

(2)

3

橋点間高分子の伸びきった長さと高分子鎖に歪がない曲がった自然な状態での大きさ

の比として求められる溶媒中で完全に湿潤した中性ゲルの引っ張り破断歪はλBcongQ12で

ありQの増加により増加する一方湿潤することにより単位面積あたりの高分子

の本数が減るため破断応力は湿潤度 Qが大きくなることにより減少する故にQが大

きいゲルは伸びやすいが弱い応力で壊れる

電解質ゲルの場合高分子鎖はその解離しているイオンの浸透圧によって水中では

ほとんど伸びきった状態となっているその結果理想状態においても破断歪はλBcongQ19

になるこれは破断歪が小さくかつ湿潤度にあまり依存しないことを意味している 5)

以上のことより

1)架橋密度を上げる(架橋点間分子量を下げる)ことでゲルが固くて脆くなる

2)水中に完全に湿潤した高分子電解質ゲルは中性のゲルより硬くて脆い高弾性と変形は

相反するということが考えられる

314 DNゲルの高強度機構

DNゲルは強電解質をモノマーとする 1st networkゲル電気的に中性なモノマーを用

いる 2nd networkゲルを組み合わせることにより生成される前述した通りゲルにおける

弾性と靭性は常に相反する働きをするそれゆえに単一な物質で両方の性質を得るこ

とは原理的には不可能である同じ湿潤度において電解質ゲルと中性ゲルのせん断弾性

率の比はGchaGneucongQ125であるために両者の違いは湿潤度 Qが高いほど大きくなる

この性質を利用することにより電解質ゲルは硬い成分中性ゲルは軟らかい成分とし

て用いることができる

亀裂を含む DNゲルがある引張荷重を受けると応力集中の効果で最初に亀裂先端近傍

の電解質網目(1st network)が破壊され局所的にゲルが降伏する荷重がますと電解質網

目の破壊が次々に伝播し広範囲にわたるダメージゾーンが形成されていくこの過程

で非常にいい気なエネルギーが分散されるダメージゾーンがある大きさまで広がった

ときようやく亀裂先端に中性網目(2nd network)が十分に伸びて切断し亀裂が進行す

る 8)

4

Fig 1 DNゲルの破壊モデル 9)

32 光ラジカル重合

321 光分解

光重合開始剤に UVを当てることにより開裂がおきラジカルが発生する本研究にお

いては 1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンを用いる 10)

Scheme1 1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンの開裂 10)

ℎ120592

5

322 開始反応

UVを当て光開裂により生じたラジカルがビニル基の二重結合を攻撃し光重合開始剤

と炭素の間に σ結合を作り炭素原子にラジカルが存在することになる

Scheme2 ラジカルの生成

323 成長反応

Scheme2で生成したラジカルが他のモノマーを攻撃しσ結合を生じるそれが何回

も起こることにより分子鎖が成長する 6)

Scheme3 分子鎖の成長

324 停止反応

Scheme 3で成長した成長ラジカル同士が σ結合を作り分子鎖が生成する 7)

Scheme4 分子鎖の生成

4実験

41 DNゲルの合成

411 使用器具試薬

ビーカー乳鉢乳棒薬さじUVライトデシケーター

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸

分子式 C7H13NO4S

式量20724

融点160

用途1st networkゲルのモノマー

6

アクリル酸

分子式C3H4O2

式量7206

融点123

沸点1416

比重10511

危険性引火性(発火温度 360 )

用途1st networkゲルのモノマー

アクリロニトリルの加水分解アクロレインの酸化ニッケルカルボニルの存在下ア

セチレンと一酸化炭素と水との反応などにより合成される酢酸に似た刺激臭を持つ液

体水エタノールエーテルによく溶ける酸素の存在下容易に重合するプラス

チックの原料として用いられる

アクリルアミド

分子式C3H5NO

式量7108

融点845

沸点103

比重1122

用途2nd networkゲルのモノマー

アクリルニトリルを硫酸あるいは塩酸を処理して得られるフレーク状の結晶溶解

性(g100 ml溶媒30 )水 2155メタノール 155エタノール 862アセトン 631

酢酸エチル 126クロロホルム 266ベンゼン 0346ヘプタン 00068化学的に不安

定で冷暗所に保存する必要がある融点付近あるいは紫外線下で重合する重合の仕方

により水溶性不溶性のものが得られる

酢酸ビニル

分子式C4H6O2

式量8609

融点-932

沸点723

比重09317

用途2nd networkゲルのモノマー

無色の液体酸やアルカリよって容易に加水分解されてアセトアルデヒドと酢酸を生

じる熱光ラジカル開始剤によって重合する

7

メタクリル酸メチル

分子式C5H8O2

式量10012

融点-48

沸点1003

比重0936

用途2nd networkゲルのモノマー

無色透明で催涙性の芳香のある液体工業的にはアセトンシアノヒドリンにメタノー

ルと硫酸を作用させて合成する実験室的にはメテクリル酸メチルの重合物を 320

以上で乾留すると得られる一般に有機溶媒には溶けるがエチレングリコールグリセ

リンには溶けにくい重合しやすいので重合禁止剤としてヒドロキノンモノメチルエ

ーテル(65 ppm)を添加して保存する有機ガラスの製造ビニル系共重合体など広く

重合反応に用いられるまたメチル以外のアルコールのメタクリル酸エステルの合成

にも用いられる

NN-メチレンビスアクリルアミド

分子式C7H10N2O2

式量15417

融点300

用途架橋剤

1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン

分子式C13H16O2

式量20427

融点47-50

用途光重合開始剤

最大吸収波長は 260 nm付近にある

エチレングリコール

式量6207

融点 -126

沸点1976

比重11132

8

用途ゲル溶媒

重要な二価アルコールでエチレンオキシドの酸触媒による開環高温高圧下水と

の反応による開環などによって合成される吸湿性無色無臭の液体甘味を有する

が有毒である高沸点を有ししかも水酸化カリウム水酸化ナトリウムを溶解し水や

エタノールと任意の割合で混合するので有機合成における溶媒として広く用いられ

また塩基に対して安定なエチレンケタールの生成によるカルボニル基の保護に用いら

れるさらに酢酸ビニル系樹脂の溶剤や水と混ざり高沸点のため不凍液に用いら

れるなど広い用途を持っている

412 1st networkゲルの作成

1) 1st networkゲルのモノマー(電解質モノマー)架橋剤(NN-メチレンビスアクリルア

ミド)と光重合開始剤(1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)を水に溶解させた水

溶液を調製する

2) UVを 8時間照射して光ラジカル重合をさせる

3) 2)で合成した電解質ゲルを乳鉢に入れ適当なサイズに砕いた後デシケーター内で一

週間ほど乾燥させる

413水溶媒 DNゲルの作成

1) 2nd networkゲルのモノマー(中性モノマー)架橋剤(NN-メチレンビスアクリルアミ

ド)光重合開始剤(1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)をエチレングリコールに

溶解させた溶液を調製する

2) 乾燥した電解質ゲルを 1)で調製した水溶液に入れ電解質ゲルを十分に膨らませるそ

の後UVを照射し中性モノマーを光ラジカル重合させる

414エチレングリコール DNゲルの作成

1) 2nd networkゲルのモノマー(中性モノマー)架橋剤(NN-メチレンビスアクリルアミ

ド)光重合開始剤(1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)をエチレングリコールに

溶解させた溶液を調製する

2) 乾燥した電解質ゲルを 1)で調製したエチレングリコール溶液に入れ電解質ゲルを十分

に膨らませるその後UVを照射し中性モノマーを光ラジカル重合させる

42 DNゲルの評価

421引っ張り試験

使用するモノマーの変化によるゲルの性質の差を評価する引っ張り試験は

JIS-K-6251-7号に準拠する方法で測定する

9

1)DNゲルを X方向の長さ 50 mmY方向の長さ 75 mmZ方向の長さが 25 mmの大

きさに成形する

2)その一端部に X-Y平面に平行な切込みを入れて2つの引張端部を形成する

3) 引張端部を片方は固定しもう片方を一定の速度で引っ張るこのときの引っ張る力 F

を測定する

Fig 2 引っ張り試験 13)

422 摩擦試験

使用するモノマーの変化溶媒の変化によるゲルの性質の差を評価する

摩擦試験は東京理科大学工学部第一部機械工学科佐々木研究室に依頼する予定である

用いる機械は SVR4パーカー熱処理工業株式会社製であり180での高温での摩擦係

数の測定が可能である

摩擦測定は常温(20 )と高温(100 )で測定することを予定している

10

5 展望

51 DNゲルの合成

実験操作は溶液を調製した後UV照射するという簡易な手順なので合成は比較的早い

段階で成功すると考えられる

1st networkゲル合成に使うのは電解質モノマーなため水溶液のモノマーの濃度が低

いと湿潤度 Q が大きくなりせん断弾性率が下がり剛性が弱いゲルが出来上がると考え

られる

架橋剤を多く使用すると架橋密度を上がるので 2nd networkゲルが入り込む空洞が小

さくなるそのために架橋剤が多すぎると高弾性のゲルが生成できると考えられる

また同様な考えで2nd networkモノマーが含まれている水溶液に乾燥させた1st network

ゲルを入れる量が多くても高弾性のゲルが生成できると考えられる

52 DNゲルの物性

ゲルの高分子網目は基板から離れようとするときにゲルと基板の間に僅かな溶媒層

が生じるこの状態では溶媒層が潤滑油のような働きをして生じる摩擦力は小さなも

のとなるゲル周辺が高温な状態ではこの溶媒層が水の場合は蒸発してしまうので摩

擦力は増大すると考えられる溶媒を水からより沸点の高いエチレングリコールなどに

変えれば摩擦力は増大することはないと推測される 14)

11

参考文献

1) J Bastide and L LeiblerMacromolecules1988212647

2) G G J Lake and A G ThomasProc R Soc LondonA1967300108

3)越後亮三 機械工学辞典 朝倉書店 2007 p631

4) 伊藤勝悦 やさしく学べる材料力学 森北出版 2014 p14

5)SPObukhovMRubinstein and RHColby Macromolecules 1994273191-3198

6)MRubinsteinRHColbyAVDobrynin and JJaonnyElasticMacromolecules199629398-406

7) 大 阪 府 立 大 学 基 礎 講 座 材 料 の 強 度 と 破 壊

httpwwwengmmtrosakafu-uacjpresearchstrength-japdf2015413取得

8)聾剣萍「生命科学時代の新材料-高弾性高靱性ダブルネットワークゲル」高分子学会

『高分子』高分子科学最近の進歩58巻 5号2009p327-p331

9)YTanakaEurophysLett20077856005

10)蓮池幹治ラジカル重合ハンドブックエヌティーエス2010p444-p445

11)大津隆行ラジカル重合(Ⅰ)化学同人1971p80-p81

12)大津隆行ラジカル重合(Ⅰ)化学同人1971p153-p154

13)聾剣萍高分子ゲルおよびその製造方法特開 2009-185156 2008-02-05

14) 角五 彰龔 剣萍長田義仁「ゲルの摩擦と水和潤滑~生物の滑らかな運動解明への

アプローチ」日本生物物理学会『生物物理』47巻 4号2007p 253-p258

1

東京理科大学Ⅰ部化学研究部 2015年度春輪講書

耐塩性の高い新規化粧品用増粘剤の開発 2015年度金曜班

Nomata N(2OK)Seki M(2OK)Tin J(2OK)Takahashi R(2C)Watanabe A(2K)

Asai D(2K) Nishimiti D(2K)Yamamoto R(2K)

1 動機

化粧品において増粘剤の果たす役割は非常に大きい

化粧品にはクリーム状のモノが多くありその整形には増粘剤が必要不可欠である

また増粘剤は製剤だけでなく密閉効果や水和効果によって薬剤を皮膚に効率的に輸

送することに役立っている

この増粘剤であるが一つ課題がありアスコルビン酸塩(ビタミン C)のようなクロロ

基を持つ塩系薬剤をゲル中に含む場合経時によってべたつきといった使用感の悪化

につながるといった弱点があるこの問題の解決のために塩系薬剤への耐性の高い増

粘剤の開発が望まれている

塩系薬剤の高い美容効果からこの問題の解決に対する化粧剤企業のニーズは高くこ

の問題は長く研究が続けられていたが近年資生堂が逆相マイクロエマルション重

合法によって microスケールの粒状高分子を多数合成することによりできる増粘剤が高い

耐塩性を持ち使用感もよいことを発見したがこの粒状高分子増粘剤には未だ試み

られていないモノマーが多くある

そこで今年度の金曜班ではこの逆相マイクロエマルション重合法において未だ

試みられていない親水基を持つモノマーを利用して新規の増粘剤をつくることで粒

状高分子による増粘剤の耐塩性と肌触りと親水基の関係を調べ応用化に利すること

ができるのではないかと考え実験を行うこととした

2 背景

増粘剤とは水溶液をゲル化するために添加される物質であり化粧品において広く

用いられているこの増粘効果は従来では高分子鎖同士の分子間力や架橋で生じる

網目構造の結果生じる液中の摩擦力によるものである

動機で述べたように μスケールの粒状高分子が増粘剤として良質であることがわか

っているただし粒状高分子の形状は反応場であるセッケンミセルの大きさだけで

なく親水基やポリマーを構成する原子同士の分子間力によって変わる高分子の立体構

2

造にも影響されている

また粒状高分子の正確な一次構造を把握することは大変難しいことであるので

応用化のためには高分子の一次構造でなくモノマーによって粒状高分子特性の変化

を調べることが重要である

さらに従来用いられているポリマーがスルホ基とカルボキシル基を親水基とする

ものしか存在しない

以上の三点から酸以外の親水基をもつモノマーで増粘剤を合成したときその性

質はどうなるかを調べることでより製品として利用価値が高い粒状高分子増粘剤を合

成することができるのではないかと考えた

そこで新規モノマーとしては対照実験を行うためにアクリルアミド系モノマー

でかつ 2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸のスルホ基と同じ炭素骨格の先

端に親水基が存在するものとしてN-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド (3-アク

リルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライドを用いてそれぞれ親水基が酸

ではなくヒドロキシ基である場合親水基がアニオンではなくカチオンである場合に

ついて研究を行うこととした

この二種の以外にも水溶性のアクリルアミドポリマーは存在するが上記の条件を満

たさないまたは高価であるため本実験では用いないこととした

Fig1 N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド

Fig2 (3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライド

3

3 原理

31 一般的な液体の粘性

溶液の粘性は一般論では以下のように表される

Fig3のように XY平面を取り液面に平板を用意し引っ張った時挟まれた溶液内

には図のようなせん断流動が発生する高さ Yでのせん断速度は(119881

119889) 119910で与えられる

この時平板に挟まれた溶液を薄層の集まりと考えると隣り合う薄層間に摩擦が生

じるこの内部摩擦力が粘性力であるずり速度勾配が十分に小さければ平板の単位

面積当たりに生じる粘性力 Fv0はその勾配 Vd に比例するすなわち以下の式で表

され1205780を粘性係数と呼ぶこの値は溶媒固有である1)

1198651199070 = 1205780 (119881

119889)

Fig3 溶液ずりせん断図

32 増粘剤の粘性

増粘剤の多くは低分子の液体に高分子を溶かすと著しく粘性が高くなる性質を利

用している

この粘性の発生するメカニズムは下の Fig4において平板間の溶液を薄層に分けた

際高分子鎖は溶液の移動に伴って回転するこのとき溶液中の薄層は薄層間の摩

擦以外に高分子鎖との間にも摩擦が生じているこの摩擦の増加が粘性力の増加とな

る 2)

4

Fig4 高分子による粘性増加

また高分子鎖同士が分子間力によって結びつき三次元構造を形成することで内

部摩擦力は一層大きくなるこのため高分子による増粘効果は顕著である

架橋高分子では三次元構造が高分子鎖同士の分子間力による形成よりも強いものと

なるので増粘効果及びレオロジー特性に優れる 3)

33 塩系薬剤による粘性劣化のメカニズム

塩系薬剤とはビタミンC (アスコルビン酸塩)のようにクロロ基をもつ薬効物質のこ

とである

このクロロ基が直鎖高分子や架橋高分子がポリマー間で形成する三次元網目構造

を破壊することによって増粘効果を消失させ内容物の流失によるべたつきを生じさ

せる 3)

34 粒状高分子の粘性

粒状高分子の粘性について粒状高分子はその粒経が小さいほど体積に対する表面

積が増え溶液内での内部摩擦力が大きくなる

また粒子同士が摩擦力を元に網目構造を形成するため網目構造の構成要因が直

鎖高分子や架橋高分子の高分子増粘剤と異なっている 4)

35 逆相マイクロエマルション重合法

後述する転相温度乳化法を用いて形成した5 μm~30 μm 形成したマイクロエマル

ション内において水溶性のモノマーを利用して行う乳化重合法の一種容易に極小の

5

ポリマーを合成することができる 5)

36 界面活性剤の概略

界面活性剤とは分子の構造が水になじみやすい部分(親水基)と油になじみやすい

部分(新油基)からできていて2つの物質の間の界面に集まりやすい性質を持ちそ

の界面の性質を著しく変える物質というのが界面活性剤の定義である

代表的な界面活性剤の特徴は界面における「吸着」と「ミセル形成」である 6)

もうひとつの代表的な作用として「可溶化」もある

37 エマルションの形成

界面活性剤に有機溶媒が取り囲まれて水に可溶化されたとき水溶液中に存在する

有機溶媒を界面活性剤が取り囲んだ液滴のことを OW エマルションと呼ぶ

有機溶媒中に水が可溶化される場合WOエマルションと呼ぶ

38 ノニオン界面活性剤

非イオン界面活性剤とも言う界面活性剤の内解離基を持たず電気的に中性な

界面活性剤で親水基は主にポリオキシエチレン基であるその特殊な性質上他の種類

の界面活性剤に無い性質として曇点と転相温度を持つ 今回使用するノニオン界面

活性剤はポリオキシエチレンオレイルエーテルであり基本式は以下のような形にな

る 7)

R-O(CH2CH2O)n-H

Scheme 1 ポリオキシエチレンオレイルエーテルの基本式

39 曇点

曇点とは透明な液体が相分離を起こして白濁する温度のこと

本実験においてはノニオン界面活性剤が加温によって界面活性効果を失い相分離

によって白濁する温度のこと 8)

310 転相温度乳化

ノニオン界面活性剤は加温によって界面張力が変化しWO型エマルションから

OW 型に変化するこの変化点のことを転相温度と言い転相温度において界

6

面張力が最低になっているので溶液エマルションが極小になる

またこの転相温度は界面活性剤に固有の値となるので二種の比較的性質の

近い界面活性剤を混合することで転相温度を操作し適切な温度で5 μm~30 μm

程度の直径を持つエマルションを作成する方法を転相温度乳化法と呼ぶ 10)

311 ラジカル重合

開始剤を用いてラジカル種を生成して行う重合法のことをラジカル重合法と言う

開始剤の分解要因によって熱光放射線ラジカル重合の三つに分けられる 10)

3111 ラジカル重合を構成する四反応

ラジカル重合は 4種類の反応が同時並行的に起こるそれぞれ以下の通りである 11)

開始反応

開始剤が熱光放射光などの要因によってラジカル開裂を起こしラジカル種を

生じさせる反応

成長反応

ラジカル種がモノマーと反応することでモノマー新たなラジカル種が生成する

反応これが連続することでポリマーが合成される

停止反応

連鎖していた成長反応が止まる反応主にラジカル種同士の反応による

連鎖移動反応

ラジカル種がモノマー以外の分子主に溶媒分子等と反応することでポリマー以

外の物質を合成する副反応

3112 乳化重合

乳化重合はモノマー液滴と呼ばれるモノマーを大量に保存しているエマルシ

ョンと反応場となる極小のセッケンミセルの二つの構造を持つ溶液中で行う不均

一系ラジカル重合の一種である 12)

成長反応が一段階進むたびにモノマー液滴から拡散の理論式に従ってモノマ

ーがミセル内に移動するこの一連の反応を繰り返して反応が進む 13)

そのため種々のラジカル重合法と比較して以下の特長がある 13)

セッケンミセル内に存在するラジカルが常に一つであるため停止反応が

7

起こりにくく比較的重合度の高いポリマーが生成しやすい

反応速度が拡散作用によって律速されかつセッケンミセルの周囲を大量

の溶媒分子が囲んでいるため除熱が容易であるという理由から熱暴走を起

こしにくいという利点がある

ミセル内で重合するため合成した高分子が絡まりやすく粒状の分子が作

成できる

Fig5 乳化重合模式図

312 MS(質量分析法)

質量分析法とは分子の質量すなわち分子量を測る手段でもあるまた分子を分解

したフラグメントの質量を測ることによって分子構造に関する情報を得るものでも

ある

高エネルギー電子が有機分子にぶつかると分子から電子がはじき出せれカチオ

ンラジカルが発生する

119825119815 rarr 119825119815++119838minus Scheme 2カチオンラジカルの発生

電子の衝突により大量のエネルギーが分子に与えられることで大部分のカチオン

ラジカルを生成した後フラグメントに分解するフラグメントは小さな破片となっ

て浮遊し正電荷や中性となる

このカチオンラジカルとフラグメントについてmz値を横軸相対強度を縦軸につ

いて取ったグラフから質量スペクトルを読み取る 14)

またMS(質量分析法)はイオン化の方法などによりいくつかに分けられ今回使用

したいのは高分子試料でもほとんどフラグメンテーションを起こさないソフトなイ

8

オン化法であるMALDI法 15)である

3121 MALDI法(マトリックス支援レーザー脱離イオン化法)

試料を 25-ヒドロキシ安息香酸のような適切なマトリックス上に吸着させて

ペレットを作成しレーザー光を短時間照射してイオン化する

エネルギーがマトリックスから試料に移動し[119872 + 119867119899 ]119899+に分解される 15)

MALDI法にはよく TOF型の MSが用いられている

4 実験

41 2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を用いた既存化粧品用増粘剤の合成

411 使用器具試薬

温度計ウォーターバスビーカー薬さじデシケーター

ジメチルアクリルアミド

式量9913

沸点81

発火点71

LD50(経口)316mgkg

LD50(経皮)580mgkg

製造和光純薬工業株式会社

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸

式量20725

融点200

LD50(経口)5400mgkg

製造和光純薬工業株式会社

NN-メチレンビスアクリルアミド

式量156

沸点4451

発火点215

LD50(経口)390mgkg

製造東京化成工業株式会社

9

へプタン

式量1002

沸点98

引火点-4

水に不溶

製造昭和化学

2-プロパノール

式量60

沸点82

発火点12

LD50(経口)区分外(GHS分類)

LD50(経皮)区分外(GHS分類)

製造昭和化学

ペルオキソ二硫酸アンモニウム

式量22820

冷水に易溶保存湿気厳禁

重合開始罪乳化重合レドックス重合に用いられる

製造和光純薬工業株式会社

412 実験手順

① ビーカーにイオン交換水ヘプタンポリオキシエチレンオレイルエーテル(2)

(8)をそれぞれ507 mL 507 mL489 g((2)(8)=23)加えて良く撹拌したも

のを入れる

② その後その後温度調節機能つきスターラーに乗せ白濁するまで加熱する

白濁した液が透明化するまで温度を落とし電気伝導率計を用いて溶液が転

相温度付近に保たれていることを確認する

③ 以上の操作が済んだ重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先

ほどのスターラーと同じ温度にしたウォーターバスに移し2-アクリルアミド

-2-メチルプロパンスルホン酸NNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 137 g

262 g入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始

剤としてメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

10

④ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

42 N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミドを用いた新規化粧品用増粘剤の合成

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を誘導体と入れ替える以外の

操作は 41に準ずる

親水基による増粘性の変化を観察するため架橋剤のモノマーに対する濃度比

は 2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を使用したポリマーが最も増

粘効果の高くなると報告された濃度比を用いる

421 使用器具試薬

使用器具は 41に準ずる

試薬

N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド

式量11513

沸点130

発火点189

製造東京化成工業株式会社

422 実験手順

① 412 ①②と同じように重合系を作成する

② 以上の操作が済んだ重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先

ほどのスターラーと同じ温度にしたウォーターバスに移しN-(2-ヒドロキシエ

チル)アクリルアミドNNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 076 g262

g 入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始剤と

してメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

③ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

11

43 (3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライドを用いた新規化粧品用

増粘剤の合成

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を誘導体と入れ替える以外の操作は

41に準ずる

親水基による増粘性の変化を観察するため架橋剤のモノマーに対する濃度比は 2-ア

クリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を使用したポリマーが最も増粘効果の高く

なると報告された濃度比を用いる

431 実験器具

実験器具は 41に準ずる

試薬

(3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライド

式量22074

沸点100

製造東京化成工業株式会社

432 実験手順

① 412 ①②と同じように重合系を作成する

② 重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先ほどのスターラーと

同じ温度にしたウォーターバスに移し (3-アクリルアミドプロピル)トリメチ

ルアミニウムクロライドNNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 123 mL

262 g入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始

剤としてメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

③ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

5 評価分析

耐塩性の高い増粘剤の耐塩性と使用感と親水基との関係を評価するために以下の二

つの測定を行い評価する

増粘剤の耐塩性の評価のために塩酸を増粘剤内部に取り込ませた状態で経時

12

による粘度の変化を観察する

また高分子の粘性を考える上で直鎖高分子の場合よく参考にされるのが平

均分子量でありこの値を測定することで親水基が変化した場合に平均分子

量が粒状高分子の粘性にも大きく影響するか確認する

精密に上の測定を行うには専用の機器が必要になるため機器メーカーの株式

会社エーアンドデイ様または東京理科大学理学部応用化学科駒場研究室に

また高分子の性質を考える上で重要視される平均分子量及び分子量分布に

ついては東京理科大学化学系機器センターにあるMALDI-TOF型質量分析計を管

理者の東京理科大学理学部応用化学科の根岸先生に測定に協力していただこうと

考えている

6 謝辞

東京理科大学工学部工業化学科 近藤行成教授

東京理科大学理学部化学科 遠藤恆平准教授

東京理科大学理学部応用化学科 駒場慎一教授

この研究を進めるに当たり大変お世話になった先輩先生方企業の皆さんに感謝の

意を表明します

参考文献

1) 小澤美奈子 基礎高分子科学 高分子学会 編 2010年 第六版 p979899

2) 小澤美奈子 基礎高分子科学 高分子学会 編 2010年 第六版 p99100

3) 金田 勇 逆相マイクロエマルション重合法による水膨潤性ミクロゲルの重合とその増

粘剤としての応用 2010年 p1

4) 小林敏勝 福井寛 きちん知りたい粒子表面と分散技術 日刊工業新聞社 p76

5) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 2006 p839 840 841

6) 皆川基 藤井富美子 洗剤洗浄 百科事典 大矢勝 2007年版 p4647

7) 日本産業洗浄協議会編 わかりやすい界面活性剤 工業調査会 2003 p373839

8) 資生堂 HP httpswwwshiseidogroupjprddevelopmentformulationhtmlより 2015

44取得

9) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 テクノシステム 2006 p321

10) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 テクノシステム 2006 p397

13

398399

11) 遠藤 剛 高分子の合成(上)~ラジカルカチオンアニオン重合~ 講談社 2010 3p

12) 佐藤壽彌編 高分子微粒子の技術と応用 シーエムシー出版 2004 p2526

13) 佐藤壽彌編 高分子微粒子の技術と応用 シーエムシー出版 2004 p27

14) マクマリー 上 8版 東京化学同人 p403404

15) John McMurry マクマリー有機化学(上) 第 8版 2013 p410411

Page 12: ゼオライトとキトサンを用いた 金属イオン除去剤の …kaken/studies/2015/2015-s-all.pdf1 東京理科大学I 部化学研究部 2015 年度春輪講書 ゼオライトとキトサンを用いた

1

東京理科大学Ⅰ部化学研究部 2015年度春輪講書

ケイ酸を用いた無機接着剤 火曜班

Shoji Y (2OK) Arai S(2OK) Abe Y(2K) Takemura R(2K) Matsui T(2K)

1背景

私たちは日々生活している中で接着剤を使う機会が多くあるしかしその接着剤が

まわりに及ぼす影響について考えることは少ないそこで接着剤について調べてみたと

ころ接着剤は大きく分けて 2つのグループに分類できることが分かったまず一般的に

使われているボンドや瞬間接着剤のように有機化合物を主成分とした有機接着剤次に

あまり一般的ではないが金属やセラミックスの接着に用いられる無機化合物を主成分とし

た無機接着剤有機接着剤は簡単に接着することができるなど様々な長所を持つが有機

物の溶媒を用いるため工事現場などで感じる独特な臭いやシックハウス症候群の原因物

質を放出してしまうという短所を合わせ持つそれに比べ無機接着剤は接着方法が高

温で加熱しなければならないという点と有機接着剤よりも接着強度が低いという短所を持

つが耐熱性に優れ特有の臭いもなく溶媒に水を用いるため環境や人体に対する影響

も少ないという長所があるさらに無機接着剤の分野はあまり多くの研究が行われてお

らず発展の余地が残っているのではないかと感じた

2目的

無機接着剤は耐熱性などの長所がある反面強度と耐水性が低いという短所があるこ

の 2つの短所は接着剤として用いるためには重大な問題となるそこで本実験ではケイ

酸を主成分とした無機接着剤に何種類かの金属化合物などの添加物を加えることにより接

着強度と耐水性の改善を目的とする

3原理

31無機接着剤

無機質の接着材料としては一般にガラス系金属系の材料が使用されているがこれ

らの材料は気密性は優れているが接着時にそれぞれの融点や軟化点以上に加熱すること

が必要でありまた接着部分の耐熱性は接着時の温度を上まわることはないという欠点を

有しているこれに対していわゆる無機接着剤は気密性には劣るが低温での接着が可能

であり優れた耐熱性を有するという特徴を持っている無機接着剤は1)無機結合剤

2)硬化剤3)充填剤を主成分として構成される

2

市販されている接着剤の多くは使用の便を考えて一液性であるそのポットライフ(可

使期間)は 3か月から 1年必要とされるので室温で作用する硬化剤は使用できない

1)結合剤

結合剤自体の硬化剤が強い強度と接着力を持つ必要があり現在しようされている無機

結合剤のほとんどはアルカリ金属ケイ酸塩系リン酸塩系シリカゾル系のいずれかで

あり本実験でしようするのはアルカリ金属ケイ酸塩系結合剤である

アルカリ金属ケイ酸塩の水溶液は粘性のある液体であり分子式 M2OnSiO2で表わさ

れMの種類(LiNaKなど)および nの大小によって数多くの種類が生ずるまたア

ンモニウムケイ酸塩やグアニジンケイ酸もある一般には安価なケイ酸ナトリウム(水ガ

ラス)がよく使用される

アルカリ金属ケイ酸塩は水溶液中において種々の量のシリケートイオンモノマーポ

リシリケートイオンおよびコロイド状シリカイオンミセルからなっているこれらの形

態や分布は n 値や濃度に依存しn が大きくなるにつれてポリシリケートイオンミセル

が増加するケイ酸ナトリウムは n が4を越えると水の溶解度は極端に小さくなりn が

3 付近で接着力は最大となるケイ酸カリウムはケイ酸ナトリウムと同じような挙動を示

すがケイ酸リチウムは nが非常に大きくケイ酸分の多い水溶液が得られることが特徴で

ありシリカゾルに近い物性を示すしたがってアルカリ金属ケイ酸塩系結合剤につい

て一般的には耐水性は LigtKgtNa接着力はこの逆の順に良いといわれている

水溶液は強いアルカリ性を示し加熱によってシラノール間で脱水縮合反応を起こし

分子間にシロキサン結合を生じる固形物は融点(軟化点)までずっと非晶質である

2)硬化剤

結合剤は低温で乾燥しただけでは耐水性が不十分であり耐水性の向上のために硬化

剤が添加される硬化剤は耐水性には寄与するが接着力を低下させる場合もあるため

使用目的によっては添加しないこともある一液性の接着剤ではポットライフの要求から

室温で作用するものはあらかじめ添加できないので高温になってはじめて結合剤と反

応するものが選ばれる硬化剤については非常に多くの物質が特許等に提案されている

アルカリ金属ケイ酸塩用の硬化剤にはZnMgCa 等の酸化物水酸化物NaK

Ca等のケイ化物ケイフッ化物Alや Zn等のリン酸塩CaBaMg等のホウ酸塩等が

用いられる

酸化亜鉛による反応機構を LSDGlasserらは次のように示している

反応初期には ZnO粒子の表面で

ZnO + 1198672119874 + 119874119867minus rarr 119885119899(119874119867)42minus

の反応がおこりZn は液中に溶解しOH-が消費されるので pH が下がりケイ酸ゲルが

3

粒子表面に析出する以後はこのケイ酸ゲル層を通して OH-が粒子表面へ拡散しZnOと

反応して Zn(OH)2として固定されるためさらにケイ酸ゲルの析出が行われ酸化亜鉛表

面へ無定形シリカが沈積する

3)充填剤

充填剤としては結合剤との反応性の小さい耐火物粉末が使用される結合剤は加熱脱

水により大きな体積収縮を生じひび割れが発生するのでこれを防ぐため充填剤を添加し

て固体分率を高くするまた粒子間の空隙は水分蒸発の逃げ道となり発泡を防ぐ接着

剤の熱膨張を被着材へ合致させることも重要な役割である

さらに一液性の接着剤ではリン酸塩系におけるアルミナ粒のように室温では反応し

ないが温度を上げていくと結合剤と反応し硬化作用をして耐水性を付与することもある

その他耐火性接着強度熱伝導性電気特性耐薬品性耐摩耗性の向上に重要な

働きがある充填剤の種類に加え粒径粒径分布表面活性等に調整することが必要で

数種の充填剤を混合することが多い

4)核剤

核剤は力学特性成形性成形時の生産性の改良などを目的として種々の結晶性高分子

で利用されている特にポリプロピレンにおいては核剤を添加することにより剛性や耐火

性(熱変形温度)あるいは透明性など諸問題が大幅に改良され高機能化による用途拡大

や成形品の薄肉化軽量化が可能となりさらには短時間で結晶化が完了することから成

形時の生産性も大幅に短縮されコスト削減はもとより省資源省エネを影から支えてい

核剤には工業的な側面から主に力学特性を改善する「核剤」と特に透明性を改良する

効果が高い「透明化剤」とよばれるものがある核剤も透明化剤も高分子の結晶化過程

における基本的な作用機構は同じでありその本質はエピタキシーにあるつまり高分子

融体が結晶化する過程で高分子鎖が結晶化しやすいように「場」(核剤の表面)を提供す

るものである核剤はまた「造核剤」とよばれることもあるが核剤透明化剤とも物理

化学的には高分子に対し同じ作用をしているといえる溶媒中に溶解している溶質が種晶

の添加により析出が促進される現象を想像されたいまさに核剤は高分子融体中に添加

されこれが核となって高分子の結晶化が促進されるのである

4

Fig3-1 核剤の表面からの高分子結晶の成長

a)力学特性の改善

自動車や家電部品の樹脂化率は年々高まり特に自動車においては内外装問わずポリ

プロピレンが多用されるようになった当初はあまり重要でない部分への利用であったも

のの最近ではバンパーフェンダーライナーフロントグリルカウルパネル各種リ

ザーバータンクドアパネルピラーダッシュボードサンバイザーコンソールボッ

クスなどありとあらゆる部分に用途開発が進んでいる高分子材料による金属代替今後

もさらに進められると思われるその理由としては自動車の軽量化はもちろんのこと

設計の自由度(一体成形や金属ではデザインしにくい曲線曲面を複雑に有する部品など)

があげられる自動車部材では機能的に高剛性が求められるものや夏場に高温にさらさ

れる内装部品などは高耐熱性(高い熱変形温度)が求められるものなどがほとんどであり

このような要求性能に応えるべくポリプロピレンに核剤が添加されている

核剤が存在する場合高分子の結晶化が促進され融体の冷却過程においてより高い

温度(より融解温度に近い温度)から結晶化が開始するそのため核剤存在下での結晶化

過程では核剤非存在下での結晶化過程に比較して高分子鎖の運動性が高い状態で結晶

化が開始する核剤を添加した高分子の結晶化開始温度を示差走査熱量計などで測定する

と結晶化が高い温度から開始することも確認されるその結果高分子結晶の欠陥は減

少しまた結晶化度も増大する核剤存在下で結晶化させた高分子結晶は欠陥も少なく

またラメラ厚も厚くなり融解温度が高くなるそのような効果により成形後の高分子

材料の力学特性耐熱性が改善する

5

Fig3-2 核剤の添加のよるポリプロピレンの曲げ弾性率の改善効果

()アデカスタブ NA-11()Hyperform HPN-68 L

()安息香酸ナトリウムポリプロピレン

Fig4-2に核剤の添加によるポリプロピレンの曲げ弾性率の改善効果について示したま

ず核剤を添加することでしかも僅か 01~03 wt程度の添加で曲げ弾性率が劇的に向

上していることが分かるその中で比較すると汎用である安息香酸ナトリウムや HPN-68

Lでは弾性率の改善はあるものの(おおよそ 30の弾性率改善)01 wt程度の添加で改

善効果は飽和する添加物を加えることで剛性耐熱性を大幅に改善できることがわかる

このような改善効果は自動車用に多用されるポリプロピレンのグレードであるインパクト

コポリマーにおいても同様であるさらに核剤の添加により結晶化が促進された結果成

形時間も短縮でき高性能化と相まって生産性改善によるコストダウンも可能となる核

剤はもとのポリマーが有する特徴を損なうことなく物性を改善できるといったメリット

があるといえる

32 縮合重合反応

二つの化合物から水などの簡単な分子が脱離して新たな結合が形成される反応を縮合反

応とよぶカルボン酸とアルコールからエステルを得る反応は縮合反応の一例である

縮合反応を繰り返すことによりポリマーを合成することができるこれが脱水縮合反応

であるたとえば 2個のカルボキシ基をもつ分子と 2個のヒドロキシ基をもつ分子を反応

させると縮合反応が連続して起こりポリマーが得られる本実験では Fig3-3 の反応が

起こる

6

Fig3-3 ケイ酸の脱水縮合反応

33 接着の原理

接着剤による接着効果には複数の理論が挙げられており賛否両論あるものもあるま

た個々の接着現象においても複数の接着効果が絡み合っていることが多く接着効果の

検証は困難であるとされるある接着系では適用できる接着効果が別の系ではまったく無

力ということも多い以下に主な接着効果の理論をあげる

1) アンカー効果

雲母を注意深くはがしたようなごくわずかな例外を除きすべての固体表面は数Åオ

ーダーの粗さを有する例えば機械で製造される金属表面の粗さは 3~6 μmであり研

磨した場合でも 002~025 μmである

アンカー効果とはこのような被着材の凹部に流入した接着剤が固化し被着部に引っかか

ることにより界面が結合するというものであるアンカー効果のような界面との相互作

用を無視した接着効果理論を機械的結合論という

開口部を有するクレバスへの液体の流入について理論式が提案されている

以下の 2式は液体の粘度 η接触角θの液体が深さ Zまで浸透するまでの時間 tを表し

(a)開口部の幅がδの平行板の場合

Zdz

dt=

120575119910

120575120578120574 cos 120579

(b)開口部δ深さ Z0の V型溝の場合

11988501198971198991198850

1198850 minus 119885minus 119885 =

120575120574 cos 120579

6120583119905

となる式によれば開口部が大きくぬれがよく粘度の低い液体ほどまた時間をかけ

たほど深くまで侵入できるとされる

7

Fig3-4 アンカー効果

2)分子間相互作用

ふたつの物体の接着面で分子同士が接触するところで互いにひきつけあう力が働くこと

で接着するとするもの代表的なものにファンデルワールス力結合水素結合が存在す

3)化学的結合

界面に化学結合が存在することで接着強さに寄与するとするものである古くから提唱

されている説であるが化学結合の存在の証明が難しく接着系の界面に本当に化学結合

が存在するのかは十分に検証されなければならないとされる

4)表面自由エネルギーと表面張力

物質の内部と表面では性質が異なる内部の分子は周囲を分子に囲まれており分子間

力で互いに引き合うため安定化されるこれに対し表面の分子には周囲を囲む分子が内部

に比べて少なく内部分子と比べて不安定=エネルギーが高いということになるこの余

分のエネルギーを表面自由エネルギーと呼ぶ

表面積が小さいほど表面自由エネルギーは少なくなるため物質の表面では表面を

小さくしようとする力が働くこの力を表面張力と呼ぶ

5)ぬれと接着角

固体表面に液体が存在するとそれぞれの表面自由エネルギーとその間の界面自由エネ

ルギーとのバランスによって液体が広がり固体表面が液体表面に置き換えられるこの

現象がぬれである固体表面のぬれは材料表面の親水性疎水性や接着強度と直接関係

しているため接着の分野ではきわめて重要である固体表面に液滴を落とすと個体の

表面張力γS と液体の表面張力γL 固体と液体の界面張力γSL が釣り合うことによってあ

る角度θで平衡になるこのとき固体と液体空気の境界点 A における力の水平成分の

釣り合いから次式の Young-Dupreの式が得られる

120574119878 = 120574119878119871 + 120574119871 cos 120579

8

自然状態では表面張力により液体は球状になるこの式は固体表面上での液体を広げよ

うとする力と球状を保とうとする力のつりあいの式である

Fig3-4 固体表面上の水滴

また界面自由エネルギーγ12 で接着している二種類の物質を引き離し表面自由エネルギ

ーγ1γ2をもつ二つの物質に分けるのに必要な仕事(これを接着仕事という)Waとすると

119882119886 = 1205741 + 1205742 minus 12057412

であらわされるこれを Dupreの式と呼ぶ接着仕事とはふたつの物質を引き離すのに必

要な仕事であるからWaの値が高いほど接着強度が強いということになる

個体と液体との関係においてこれら二式をあわせると

119882119886 = 120574119871(1 + cos 120579)

を得るこれを Young-Dupre の式という液体の表面張力と接触角から接着材の接着強

度が分かるという式になっている

6)接着力低下因子と表面処理

接着は清浄な面と面の接触が前提である金属表面は清浄であれば 1000~3000 mNmの

表面張力があるはずであるが大気中では数十mNmの値をしめすこれは異物が付着した

り酸化されていたりするためである特に表面がもろい物質でおおわれていると剥離時に

もろい面での剥離が起こり見かけ上弱い接着強度となる事がある

このような金属表面の表面張力の低下を防ぎアンカー効果において適切な凹凸を金属表

面に付与し接着強度向上を図るために洗浄と研磨を行うのが望ましい

5実験方法

41使用する器具

100 mL ビーカーガラス棒ホールピペット安全ピペッターピンセットキムワイ

プ電気炉2 L ペットボトル紐アルミ角材(10 times 30 times 30 mm)サンドペーパー

はけ

9

42試薬の物性

ケイ酸ナトリウム a)

ケイ酸のナトリウム塩で種類が多いいわゆる水ガラスも多くの場合はケイ酸ナトリウム

であるがその組成は安定していない単一物質として得られているものだけでもメタ

ケイ酸ナトリウム Na2SiO3およびその種々の割合の水化物オルトケイ酸ナトリウム

Na4SiO4二ケイ酸ナトリウム Na2Si2O5四ケイ酸ナトリウム Na2SiO9 などがあるオ

ルトケイ酸ナトリウム Na4SiO4=18405二酸化ケイ素と水酸化ナトリウムを適当な条件

で融解すると得られる水溶液で両者を反応させたのではオルトケイ酸ナトリウムの結晶

は得られずにメタケイ酸ナトリウムの水化物になってしまう無色六方晶系の結晶酸

と加熱していると二酸化ケイ素が沈殿している

酸化マグネシウム b)(MgO)

式量 4030

融点 2852

沸点 3600

一般にアンモニウム塩水溶液に溶けるがエタノールに不溶空気中で水と二酸化炭素を

吸収し炭酸水酸化マグネシウムに変化する水と反応して水酸化マグネシウムとなる耐

火レンガマグネシアセメントの製造原料医薬品として制酸剤の原料となるほか触媒

または吸着材ゴム工業にも用いられる

酸化亜鉛 c)(ZnO)

式量 8138

密度 547 gcm3

無定形の白色粉末水にはほとんど溶解しないが両性酸化物で希酸や水酸化アルカリ

水溶液アンモニア水に溶解する空気中で湿気と二酸化炭素を吸収する白色顔料とし

てペイント絵の具などに用いられるほか粒子の細かいものは医薬品化粧品として用

いられる

酸化カルシウム d)(CaO)

式量 5608

融点 2572

沸点 2850

密度 340 gcm3

10

酸に可溶空気中の湿気を吸収して水酸化カルシウムとなりまた空気中の二酸化炭素を

吸収して炭酸カルシウムとなる水と反応して水酸化カルシウムとなるしっくいモル

タルなどの建築材料石膏さらし粉消石灰の原料医療用に用いられる医療用に用

いられる酸性土壌改良にも用いられる

炭酸カルシウム e)(CaCO3)

式量 10009

融点 1339

二酸化炭素を含む水には炭酸水素カルシウムとして溶解する酸には二酸化炭素を発生し

て容易に溶ける加熱すると二酸化炭素と酸化カルシウムに解離する

二酸化ケイ素 f)(SiO2)

式量 6009

低温ではフッ素フッ素酸水素酸だけが反応する高温では他のハロゲン元素とも反応す

る水酸化アルカリ炭酸アルカリと融解すると水溶性のアルカリケイ素酸塩となる

43実験操作

431被接着面の均一化

1)10times30times30 mmのアルミ角材の表面をサンドペーパーで汚れがなくなるまで削る

2)削った表面をアセトンで洗浄する

3)洗浄が終わったアルミ角材の重量を測り記録する

432ケイ酸ナトリウムのみの接着剤の作製

1)100 mL ビーカーにケイ酸ナトリウム 50 g を加え粘り気が残るぐらいまでイオン交換

水を加えガラス棒で撹拌する

2)アルミ角材の 10times30 mm の面にはけを用いてケイ酸ナトリウム溶液を均一になるよう

に塗りアルミ角材を重ね合わせる

3)150にセットした電気炉に接着面がずれないように慎重に置き 1時間焼成する

433添加物を加えた接着剤の作製

1)100 mLビーカーにケイ酸ナトリウム 50 g添加物(酸化マグネシウウム酸化亜鉛

酸化カルシウム炭酸カルシウム二酸化ケイ素)を 010 gから 010 gずつ 20 gまで加

え粘り気が残るぐらいまでイオン交換水を加えガラス棒で撹拌する

2)アルミ角材の 10times30 mm の面にはけを用いてケイ酸ナトリウム溶液を均一になるよう

に塗りアルミ角材を重ね合わせる

3)150 にセットした電気炉に接着面がずれないように慎重に置き 1時間焼成する

11

5評価方法

51接着強度の評価

1)432433で接着したアルミ板にひもとペットボトルを用いて Fig5-1のように設置す

アルミ角材

Fig5-1 接着面の破壊

2)ペットボトルに少しずつ水を加え接着面が完全に離れた時点を破壊終了点とする

3)破壊終了点でのペットボトルに入っている水の重量を計測する

52耐水性の評価

1)接着したアルミ角材に水をかけ接着面の変化を観察する

6予想

添加物を加えることで接着強度の増加が期待されるしかし大量に添加物を加えてし

まうとケイ酸の割合が小さくなり接着強度は減少してしまうと考えられ添加物の量と接

着強度の関係性をグラフ化するとある値までは増加しその値を超えると減少していくグ

ラフが得られると考えるそこから最も接着強度が高まる添加物の量を測定する

また添加物が硬化剤の役割をし耐水性の改善も予想される

参考文献

1)日本接着学会『接着剤データブック第 2版』日刊工業新聞社1990P228~229

2) 三刀基郷『トコトンやさしい接着の本』日刊工業新聞社2003P56~67

3) セメダイン(株)『よくわかる接着技術』日本実業出版社2008P34~37

PET

Crash

12

4) ユージン Gロコー『ケイ素とシリコーン』シュプリンガーフェアラーク東京株式

会社1990 P85~113

5) 大木道則大沢利昭田中元治千原秀昭『化学大辞典』東京化学同人1989

b)P884 c)P865 d)P867 e)P1368 f)P1669

6)下井 守村田 磁『大学生のための基礎シリーズ 3 化学入門』東京化学同人2005

P229

7) 吉村壽次『化学辞典第 2版』森北出版2009a)P425

8)大勝 靖一『高分子添加剤の基礎化学と材料設計』株式会社 CMC出版2008P219~235

9)httpwwwfacekyowacojpsciencetheorywhat_contact_angleimg01jpg

2015416取得

1

東京理科大学Ⅰ部化学研究部 2015 年度春輪講書

シクロデキストリンを用いた

包接化合物の生成

水曜班

Ikemura M(2C)Ebihara K(2C) Kataoka T(2K)

ShibasakiK(2OK)TsumedaT(2C)NakaA(2OK)Murakoshi R(2OK)

OkawaT(2C)NoguchiA(2K)SekiguchiK(2K)HashimotoY(2C)

1 動機

6~8 分子のグルコース単位からなるα―14結合の環状オリゴ糖であるシクロデキストリ

ンはその環状構造に由来する包接化合物を生成する性質を示すその特異的な包接形成能

を利用した多くの製品が存在し現在もなお基礎研究分野応用研究分野での研究が行わ

れている

そこで私たちは 7 分子のグルコースからなるβ-シクロデキストリンと 3 種類のカルボン

酸を用いて包接化合物を形成させ酸の構造の違いによる包接作用の比較検討及びシクロ

デキストリンの一部のヒドロキシ基をエステル化させ水に対する溶解性及び包接形成能が

どのように変化するか考察する

2 原理

21 包接化合物

包接化合物は Schlenk によって名づけられたもので定義によると原子または分子が

結合してできた 3 次元構造の内部に適当な大きさの空孔があってその中に他の原子また

は分子が一定の組成比で入り込んで特定の結晶構造をつくっている物質ということにな

っている前者の骨組み構造の化合物のほうをホスト分子後者の入り込んでいる分子の

ほうをゲスト分子ともよんでいるがこのゲスト分子の大きさや形状はまったくホスト

構造によって規定されるだけで両者の間には弱い相互作用があっても水素結合のよう

な力はなくてもいっこうに構わないのであるこの包接化合物でのゲスト分子とホスト

構造との間の相互作用というのも物理的な吸着系に近いもので非常に弱い van der

Waals 力から高度に配向した双極子間力まで種々のものが存在する 1)

22 シクロデキストリンの包接能

シクロデキストリンはグルコース残基がα-1α-4 結合した環状のオリゴ糖で一般的

にグルコース残基が 6 個のα-シクロデキストリン7 個のβ-シクロデキストリン8個の

γ-シクロデキストリンが知られている

2

Fig1 α-シクロデキストリンの分子構造

シクロデキストリンの構造は底の抜けたバケツやドーナッツのような構造をしており

その環状構造の外側は多くの水酸基に由来する親水性領域が存在し内側の空洞の CH 基に

由来する疎水領域と相反する極性が一つの分子に共存しているがこの空洞内に様々な有

機化合物などを取り込むという包接作用がもっとも特徴的である

三種類のシクロデキストリンはそれぞれ空洞の大きさが相違するためそれぞれ包接化

合物を形成しやすいゲスト分子が存在する内部空洞が比較的小さいα-シクロデキストリ

ンは比較的小さい分子例えばエタノールメタノール等をβ-シクロデキストリンは汎

用性が広く各種ポリフェノールコレステロールメンソール等の香気成分芳香族化

合物等をよく包接するγ-シクロデキストリンは大きい分子である脂肪酸などを包接する

ことが知られている

シクロデキストリンの包接力の原動力は疎水性相互作用と分子間力が主なものとされて

いるつまりゲストは疎水性の高い分子あるいは分子の大きさが空洞にぴったりとフィッ

トするものほどシクロデキストリンがそのゲストを包接する力は大きく包接物を作り

やすい傾向がある逆に親水性が高くシクロデキストリンの空洞にフィットしないよう

なゲスト分子では包接現象は起こりにくいといえるしかしゲスト分子全体がシクロ

デキストリンの空洞内にとりこまれる必要はなく部分的にでも疎水性が高く空洞にフィ

ットすれば包接が可能となるつまりゲスト分子全体がシクロデキストリンより明ら

かに大きいものでも包接作用による効果が観察される場合がある 2)

Fig2 シクロデキストリンがゲストを包接する様子

23 水溶化シクロデキストリン

3

ブドウ糖やショ糖など通常糖質の水への溶解度は非常に高いしかし天然型シク

ロデキストリンは隣接する水酸基との水素結合の為3 種のシクロデキストリンの中では最

も高い水溶性を有するγ-シクロデキストリンであってもその溶解度は 25において水

100 mL に 23 g であり油性物質を包接した場合は一般的にその溶解度はさらに低くな

るそこで水への溶解度を改善するためにシクロデキストリン化学修飾体が製造されて

いるシクロデキストリンの水溶性を向上させる方法として隣接する水酸基をメチル基や

アセチル基などでエーテル化やエステル化する方法がある具体的には部分メチル化β-シ

クロデキストリンやモノアセチル化β-シクロデキストリンが工業的に生産されている

24 包接能の評価について

今回の実験ではゲスト分子としてカルボン酸を用いるシクロデキストリン及び水溶化

シクロデキストリンの包接能の評価については包接化合物に含まれているカルボン酸をア

ルカリで滴定することで求めることができる

3 実験

31 試薬sup3⁾

アジピン酸

分子式C6H10O4

分子量1464

mp153

bp3375 アジピン酸

クエン酸

分子式C6H8O7

分子量19213

mp156~157

クエン酸

シュウ酸

分子式C2H2O4

分子量9004

mp1895

シュウ酸

4

βシクロデキストリン

分子式(C6H10O5)7

分子量113500

n-ブタノール

分子式C4H10O

分子量7412 β-シクロデキストリン

bp1179

エタノール

分子式C2H6O n-ブタノール

分子量4607

mp-1145

bp7833

水酸化ナトリウム

組成式NaOH

分子量4000

mp328

bp1388

無水オクタン酸

分子式C₈H₃₀O₃

分子量27041

mp-1 無水オクタン酸⁶⁾

濃硫酸

分子式H₂SO₄

分子量9808

mp104

32 使用器具

300 mL ビーカーメスフラスコピペット三角フラスコ吸引漏斗吸引瓶ビュレッ

トスタンドボウルガラス棒

5

33 実験操作

331 エステル化シクロデキストリンの合成 ⁵⁾

1)三角フラスコにβ-シクロデキストリン 1 g を入れこれに無水オクタン酸 025 mL を加

える

2)触媒として 2-3 滴の濃硫酸を添加し攪拌する

3)約 10 分間放置してフラスコを氷桶に入れて冷やしガラス棒でフラスコの壁を強くこす

り結晶を析出させる

4)水 20 mL を加えさらに氷桶で冷やしながら残る結晶を析出させる

5)この結晶を濾分し水で洗ってから取り出して乾かして結晶を得る⁵⁾

332 包接化合物の形成

1)β-シクロデキストリン 1 g を水 100 mL に溶解させる

2)ピペットで 1 mL のカルボン酸を加えコルク栓をして静置する

3)1 週間程静置し包接化合物を吸引濾過する

4)上記の操作をカルボン酸(酢酸シュウ酸クエン酸)で行う

5)エステル化シクロデキストリンで同様の実験を行う

333 包接能の測定

1)よく乾燥した包接化合物約 1 g をメスフラスコで 100 mL 溶液とする

2)この溶液 20 mL にフェノールフタレインを指示薬として20 mL 加え 01 M 水酸化ナト

リウム標準溶液で滴定する⁴⁾

334 溶解度の測定

1)100 mL の水に 5 g の β-シクロデキストリンを溶解させる

2)沈殿をろ過し乾燥して重量を測定する

3)エステル化 β-シクロデキストリンで同様の作業を行う

参考文献

1) 竹本喜一包接化合物の化学東京化学同人1969p2

2) 辻堅司シクロデキストリンの応用技術株式会社シーエムシー出版2008p3-p9

3) 大木道則大沼利昭田中元治千原秀明化学大辞典東京化学同人1989

4) 発田寿々子教養の化学実験第 2 版学術図書出版社2014p119

5) 南篠正男先生と生徒のための化学実験共立出版株式会社1986p155

6) 「 chemical book 」〈 wwwchemicalbookcomchemicalProductPropert_JP_CB 〉

(2015418 アクセス)

1

東京理科大学Ⅰ部化学研究部 2015年度春輪講書

ダブルネットワークの合成と評価 木曜班

OnizukaM(2C)TanakaR(2C)YamamokaH(2K) OhiraM(2K)

1背景

現在高分子ゲルは紙おむつの高吸水性樹脂やソフトコンタクトレンズなど私たちの生

活において活躍しているしかし高分子ゲルは不均一な構造なため一般的に機械的強

度が弱いという欠点がある高分子ゲルの強度面での弱点を克服するために従来では

ゲルの構造を均一化して強度を上げるというアプローチがとられてきた

しかしながら材料の弾性とじん性は反相する因子として働くつまり大変形に耐え

られるゲルは弾性率を犠牲とし高弾性のゲルは小さい変形で破壊される

そこで私達木曜班は前述の問題の解決策と成り得るものとしてダブルネットワーク

ゲル(DNゲル)について注目した

2目的

既存に作られている DNゲルは溶媒に水を用いたハイドロゲルであるDNゲルはその

強度や柔軟性により生体内での人工関節に使用することが期待され研究がおこなわれて

いる木曜班では DNゲルを生体内の関節だけでなく機械の関節部の摩擦軽減材料として

の使用を提案するしかし従来の DNゲルは溶媒が水であることにより水の沸点である

100以上の条件下では性能の低下が問題視され高温になりうる機械への応用が困難で

ある

溶媒を水から有機溶媒に変更することで高温条件下でのゲルの機能維持を試みるとと

もに使用するモノマーを変更しその機能性を検討する

3原理

31 DNゲル

311ゲルの脆弱性

一般的なゲルはゼリーや豆腐のように僅かな力を加えただけで簡単に壊れるほど

弱いこの理由は 2つの現象により説明することができる

1)ゲルの内部に多数の欠陥が存在する

2)欠陥から発生した初期亀裂が容易に伝播する

前者はゲル内部の構造が不均一であることに由来するゲル合成時におけるモノマ

ーと架橋剤の反応性の違いにより不均一な重合がおこるあるいはゲル化溶液内の濃度

揺らぎが重合によって固定されることだと考えられている 1)こうしたゲルに力を加えた

2

時にゲルの弱い部分に力が集中してしまうため小さな力でも初期亀裂が生じてしまう

後者はゲル内部のポリマーの密度の低さから生じる一般的に物質内における亀裂

の進みやすさは破壊エネルギーU(Jm2)(単位面積あたりの破断面形成に費やされる仕事)

によって評価される架橋高分子材料の臨界破壊エネルギーUc(亀裂成長が起こる最小

の破壊エネルギー)は破断面の高分子鎖の数密度と架橋点間分子量に比例する 2)つま

りゲルのじん性(物質の破壊に対する抵抗の程度で粘り強さとも言い換えられる 3))はゲ

ル内のポリマーの密度には比例し架橋密度には反比例することがわかる

ゲルは 50~99wtの溶媒を含んでいて高分子の密度が非常に低い物質であるためゲ

ルの Ucはゴムなどの固体に比べてかなり小さいことが考えられる

これまでの高強度ゲル研究は主に前者の問題を解決するすなわち構造を均一化するこ

とでゲル内部の欠陥を極力減らして強度を改善しようという観点から行われてきた

312 ゲルの弾性率

高分子鎖が三次元架橋されたゲルはゴムと同じようにエントロピー弾性を持つ溶液

中に完全に湿潤した電気的に中性ゲルのせん断弾性率(横方向に対するバネ係数 4)であり

Young率 Eと E=3Gの関係式が成立する)は

GneucongkBT

b3Q-225

以上の式で表せられゲルの湿潤度 Qの増加にともないせん断弾性率Gneuは大きく低下

するここでkBはボルツマン定数Tは温度bは重合させたモノマーの大きさである 5)

一方溶液中に完全に湿潤した電解質ゲルのせん断弾性率は

GchacongkBT

b3Q-1

によって表せる 6)よって同じ湿潤度において電解質ゲルは中性ゲルよりせん断弾性率が

高いことが分かる

またゲルの湿潤度は架橋点重合 N(分子量)による溶液中に完全に湿潤した中性ゲル

の場合QasympN35であり電解質ゲル場合QasympN

32であるしたがって架橋密度を上げる

ことによりゲルの湿潤度が小さくなりせん断弾性率が上がる 3)4)

313 ゲルの破断歪と破断応力

架橋構造が均一と仮定した理想的なゲルの破断歪(ゲルが破壊するまでの変形 7))は架

(1)

(2)

3

橋点間高分子の伸びきった長さと高分子鎖に歪がない曲がった自然な状態での大きさ

の比として求められる溶媒中で完全に湿潤した中性ゲルの引っ張り破断歪はλBcongQ12で

ありQの増加により増加する一方湿潤することにより単位面積あたりの高分子

の本数が減るため破断応力は湿潤度 Qが大きくなることにより減少する故にQが大

きいゲルは伸びやすいが弱い応力で壊れる

電解質ゲルの場合高分子鎖はその解離しているイオンの浸透圧によって水中では

ほとんど伸びきった状態となっているその結果理想状態においても破断歪はλBcongQ19

になるこれは破断歪が小さくかつ湿潤度にあまり依存しないことを意味している 5)

以上のことより

1)架橋密度を上げる(架橋点間分子量を下げる)ことでゲルが固くて脆くなる

2)水中に完全に湿潤した高分子電解質ゲルは中性のゲルより硬くて脆い高弾性と変形は

相反するということが考えられる

314 DNゲルの高強度機構

DNゲルは強電解質をモノマーとする 1st networkゲル電気的に中性なモノマーを用

いる 2nd networkゲルを組み合わせることにより生成される前述した通りゲルにおける

弾性と靭性は常に相反する働きをするそれゆえに単一な物質で両方の性質を得るこ

とは原理的には不可能である同じ湿潤度において電解質ゲルと中性ゲルのせん断弾性

率の比はGchaGneucongQ125であるために両者の違いは湿潤度 Qが高いほど大きくなる

この性質を利用することにより電解質ゲルは硬い成分中性ゲルは軟らかい成分とし

て用いることができる

亀裂を含む DNゲルがある引張荷重を受けると応力集中の効果で最初に亀裂先端近傍

の電解質網目(1st network)が破壊され局所的にゲルが降伏する荷重がますと電解質網

目の破壊が次々に伝播し広範囲にわたるダメージゾーンが形成されていくこの過程

で非常にいい気なエネルギーが分散されるダメージゾーンがある大きさまで広がった

ときようやく亀裂先端に中性網目(2nd network)が十分に伸びて切断し亀裂が進行す

る 8)

4

Fig 1 DNゲルの破壊モデル 9)

32 光ラジカル重合

321 光分解

光重合開始剤に UVを当てることにより開裂がおきラジカルが発生する本研究にお

いては 1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンを用いる 10)

Scheme1 1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンの開裂 10)

ℎ120592

5

322 開始反応

UVを当て光開裂により生じたラジカルがビニル基の二重結合を攻撃し光重合開始剤

と炭素の間に σ結合を作り炭素原子にラジカルが存在することになる

Scheme2 ラジカルの生成

323 成長反応

Scheme2で生成したラジカルが他のモノマーを攻撃しσ結合を生じるそれが何回

も起こることにより分子鎖が成長する 6)

Scheme3 分子鎖の成長

324 停止反応

Scheme 3で成長した成長ラジカル同士が σ結合を作り分子鎖が生成する 7)

Scheme4 分子鎖の生成

4実験

41 DNゲルの合成

411 使用器具試薬

ビーカー乳鉢乳棒薬さじUVライトデシケーター

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸

分子式 C7H13NO4S

式量20724

融点160

用途1st networkゲルのモノマー

6

アクリル酸

分子式C3H4O2

式量7206

融点123

沸点1416

比重10511

危険性引火性(発火温度 360 )

用途1st networkゲルのモノマー

アクリロニトリルの加水分解アクロレインの酸化ニッケルカルボニルの存在下ア

セチレンと一酸化炭素と水との反応などにより合成される酢酸に似た刺激臭を持つ液

体水エタノールエーテルによく溶ける酸素の存在下容易に重合するプラス

チックの原料として用いられる

アクリルアミド

分子式C3H5NO

式量7108

融点845

沸点103

比重1122

用途2nd networkゲルのモノマー

アクリルニトリルを硫酸あるいは塩酸を処理して得られるフレーク状の結晶溶解

性(g100 ml溶媒30 )水 2155メタノール 155エタノール 862アセトン 631

酢酸エチル 126クロロホルム 266ベンゼン 0346ヘプタン 00068化学的に不安

定で冷暗所に保存する必要がある融点付近あるいは紫外線下で重合する重合の仕方

により水溶性不溶性のものが得られる

酢酸ビニル

分子式C4H6O2

式量8609

融点-932

沸点723

比重09317

用途2nd networkゲルのモノマー

無色の液体酸やアルカリよって容易に加水分解されてアセトアルデヒドと酢酸を生

じる熱光ラジカル開始剤によって重合する

7

メタクリル酸メチル

分子式C5H8O2

式量10012

融点-48

沸点1003

比重0936

用途2nd networkゲルのモノマー

無色透明で催涙性の芳香のある液体工業的にはアセトンシアノヒドリンにメタノー

ルと硫酸を作用させて合成する実験室的にはメテクリル酸メチルの重合物を 320

以上で乾留すると得られる一般に有機溶媒には溶けるがエチレングリコールグリセ

リンには溶けにくい重合しやすいので重合禁止剤としてヒドロキノンモノメチルエ

ーテル(65 ppm)を添加して保存する有機ガラスの製造ビニル系共重合体など広く

重合反応に用いられるまたメチル以外のアルコールのメタクリル酸エステルの合成

にも用いられる

NN-メチレンビスアクリルアミド

分子式C7H10N2O2

式量15417

融点300

用途架橋剤

1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン

分子式C13H16O2

式量20427

融点47-50

用途光重合開始剤

最大吸収波長は 260 nm付近にある

エチレングリコール

式量6207

融点 -126

沸点1976

比重11132

8

用途ゲル溶媒

重要な二価アルコールでエチレンオキシドの酸触媒による開環高温高圧下水と

の反応による開環などによって合成される吸湿性無色無臭の液体甘味を有する

が有毒である高沸点を有ししかも水酸化カリウム水酸化ナトリウムを溶解し水や

エタノールと任意の割合で混合するので有機合成における溶媒として広く用いられ

また塩基に対して安定なエチレンケタールの生成によるカルボニル基の保護に用いら

れるさらに酢酸ビニル系樹脂の溶剤や水と混ざり高沸点のため不凍液に用いら

れるなど広い用途を持っている

412 1st networkゲルの作成

1) 1st networkゲルのモノマー(電解質モノマー)架橋剤(NN-メチレンビスアクリルア

ミド)と光重合開始剤(1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)を水に溶解させた水

溶液を調製する

2) UVを 8時間照射して光ラジカル重合をさせる

3) 2)で合成した電解質ゲルを乳鉢に入れ適当なサイズに砕いた後デシケーター内で一

週間ほど乾燥させる

413水溶媒 DNゲルの作成

1) 2nd networkゲルのモノマー(中性モノマー)架橋剤(NN-メチレンビスアクリルアミ

ド)光重合開始剤(1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)をエチレングリコールに

溶解させた溶液を調製する

2) 乾燥した電解質ゲルを 1)で調製した水溶液に入れ電解質ゲルを十分に膨らませるそ

の後UVを照射し中性モノマーを光ラジカル重合させる

414エチレングリコール DNゲルの作成

1) 2nd networkゲルのモノマー(中性モノマー)架橋剤(NN-メチレンビスアクリルアミ

ド)光重合開始剤(1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)をエチレングリコールに

溶解させた溶液を調製する

2) 乾燥した電解質ゲルを 1)で調製したエチレングリコール溶液に入れ電解質ゲルを十分

に膨らませるその後UVを照射し中性モノマーを光ラジカル重合させる

42 DNゲルの評価

421引っ張り試験

使用するモノマーの変化によるゲルの性質の差を評価する引っ張り試験は

JIS-K-6251-7号に準拠する方法で測定する

9

1)DNゲルを X方向の長さ 50 mmY方向の長さ 75 mmZ方向の長さが 25 mmの大

きさに成形する

2)その一端部に X-Y平面に平行な切込みを入れて2つの引張端部を形成する

3) 引張端部を片方は固定しもう片方を一定の速度で引っ張るこのときの引っ張る力 F

を測定する

Fig 2 引っ張り試験 13)

422 摩擦試験

使用するモノマーの変化溶媒の変化によるゲルの性質の差を評価する

摩擦試験は東京理科大学工学部第一部機械工学科佐々木研究室に依頼する予定である

用いる機械は SVR4パーカー熱処理工業株式会社製であり180での高温での摩擦係

数の測定が可能である

摩擦測定は常温(20 )と高温(100 )で測定することを予定している

10

5 展望

51 DNゲルの合成

実験操作は溶液を調製した後UV照射するという簡易な手順なので合成は比較的早い

段階で成功すると考えられる

1st networkゲル合成に使うのは電解質モノマーなため水溶液のモノマーの濃度が低

いと湿潤度 Q が大きくなりせん断弾性率が下がり剛性が弱いゲルが出来上がると考え

られる

架橋剤を多く使用すると架橋密度を上がるので 2nd networkゲルが入り込む空洞が小

さくなるそのために架橋剤が多すぎると高弾性のゲルが生成できると考えられる

また同様な考えで2nd networkモノマーが含まれている水溶液に乾燥させた1st network

ゲルを入れる量が多くても高弾性のゲルが生成できると考えられる

52 DNゲルの物性

ゲルの高分子網目は基板から離れようとするときにゲルと基板の間に僅かな溶媒層

が生じるこの状態では溶媒層が潤滑油のような働きをして生じる摩擦力は小さなも

のとなるゲル周辺が高温な状態ではこの溶媒層が水の場合は蒸発してしまうので摩

擦力は増大すると考えられる溶媒を水からより沸点の高いエチレングリコールなどに

変えれば摩擦力は増大することはないと推測される 14)

11

参考文献

1) J Bastide and L LeiblerMacromolecules1988212647

2) G G J Lake and A G ThomasProc R Soc LondonA1967300108

3)越後亮三 機械工学辞典 朝倉書店 2007 p631

4) 伊藤勝悦 やさしく学べる材料力学 森北出版 2014 p14

5)SPObukhovMRubinstein and RHColby Macromolecules 1994273191-3198

6)MRubinsteinRHColbyAVDobrynin and JJaonnyElasticMacromolecules199629398-406

7) 大 阪 府 立 大 学 基 礎 講 座 材 料 の 強 度 と 破 壊

httpwwwengmmtrosakafu-uacjpresearchstrength-japdf2015413取得

8)聾剣萍「生命科学時代の新材料-高弾性高靱性ダブルネットワークゲル」高分子学会

『高分子』高分子科学最近の進歩58巻 5号2009p327-p331

9)YTanakaEurophysLett20077856005

10)蓮池幹治ラジカル重合ハンドブックエヌティーエス2010p444-p445

11)大津隆行ラジカル重合(Ⅰ)化学同人1971p80-p81

12)大津隆行ラジカル重合(Ⅰ)化学同人1971p153-p154

13)聾剣萍高分子ゲルおよびその製造方法特開 2009-185156 2008-02-05

14) 角五 彰龔 剣萍長田義仁「ゲルの摩擦と水和潤滑~生物の滑らかな運動解明への

アプローチ」日本生物物理学会『生物物理』47巻 4号2007p 253-p258

1

東京理科大学Ⅰ部化学研究部 2015年度春輪講書

耐塩性の高い新規化粧品用増粘剤の開発 2015年度金曜班

Nomata N(2OK)Seki M(2OK)Tin J(2OK)Takahashi R(2C)Watanabe A(2K)

Asai D(2K) Nishimiti D(2K)Yamamoto R(2K)

1 動機

化粧品において増粘剤の果たす役割は非常に大きい

化粧品にはクリーム状のモノが多くありその整形には増粘剤が必要不可欠である

また増粘剤は製剤だけでなく密閉効果や水和効果によって薬剤を皮膚に効率的に輸

送することに役立っている

この増粘剤であるが一つ課題がありアスコルビン酸塩(ビタミン C)のようなクロロ

基を持つ塩系薬剤をゲル中に含む場合経時によってべたつきといった使用感の悪化

につながるといった弱点があるこの問題の解決のために塩系薬剤への耐性の高い増

粘剤の開発が望まれている

塩系薬剤の高い美容効果からこの問題の解決に対する化粧剤企業のニーズは高くこ

の問題は長く研究が続けられていたが近年資生堂が逆相マイクロエマルション重

合法によって microスケールの粒状高分子を多数合成することによりできる増粘剤が高い

耐塩性を持ち使用感もよいことを発見したがこの粒状高分子増粘剤には未だ試み

られていないモノマーが多くある

そこで今年度の金曜班ではこの逆相マイクロエマルション重合法において未だ

試みられていない親水基を持つモノマーを利用して新規の増粘剤をつくることで粒

状高分子による増粘剤の耐塩性と肌触りと親水基の関係を調べ応用化に利すること

ができるのではないかと考え実験を行うこととした

2 背景

増粘剤とは水溶液をゲル化するために添加される物質であり化粧品において広く

用いられているこの増粘効果は従来では高分子鎖同士の分子間力や架橋で生じる

網目構造の結果生じる液中の摩擦力によるものである

動機で述べたように μスケールの粒状高分子が増粘剤として良質であることがわか

っているただし粒状高分子の形状は反応場であるセッケンミセルの大きさだけで

なく親水基やポリマーを構成する原子同士の分子間力によって変わる高分子の立体構

2

造にも影響されている

また粒状高分子の正確な一次構造を把握することは大変難しいことであるので

応用化のためには高分子の一次構造でなくモノマーによって粒状高分子特性の変化

を調べることが重要である

さらに従来用いられているポリマーがスルホ基とカルボキシル基を親水基とする

ものしか存在しない

以上の三点から酸以外の親水基をもつモノマーで増粘剤を合成したときその性

質はどうなるかを調べることでより製品として利用価値が高い粒状高分子増粘剤を合

成することができるのではないかと考えた

そこで新規モノマーとしては対照実験を行うためにアクリルアミド系モノマー

でかつ 2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸のスルホ基と同じ炭素骨格の先

端に親水基が存在するものとしてN-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド (3-アク

リルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライドを用いてそれぞれ親水基が酸

ではなくヒドロキシ基である場合親水基がアニオンではなくカチオンである場合に

ついて研究を行うこととした

この二種の以外にも水溶性のアクリルアミドポリマーは存在するが上記の条件を満

たさないまたは高価であるため本実験では用いないこととした

Fig1 N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド

Fig2 (3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライド

3

3 原理

31 一般的な液体の粘性

溶液の粘性は一般論では以下のように表される

Fig3のように XY平面を取り液面に平板を用意し引っ張った時挟まれた溶液内

には図のようなせん断流動が発生する高さ Yでのせん断速度は(119881

119889) 119910で与えられる

この時平板に挟まれた溶液を薄層の集まりと考えると隣り合う薄層間に摩擦が生

じるこの内部摩擦力が粘性力であるずり速度勾配が十分に小さければ平板の単位

面積当たりに生じる粘性力 Fv0はその勾配 Vd に比例するすなわち以下の式で表

され1205780を粘性係数と呼ぶこの値は溶媒固有である1)

1198651199070 = 1205780 (119881

119889)

Fig3 溶液ずりせん断図

32 増粘剤の粘性

増粘剤の多くは低分子の液体に高分子を溶かすと著しく粘性が高くなる性質を利

用している

この粘性の発生するメカニズムは下の Fig4において平板間の溶液を薄層に分けた

際高分子鎖は溶液の移動に伴って回転するこのとき溶液中の薄層は薄層間の摩

擦以外に高分子鎖との間にも摩擦が生じているこの摩擦の増加が粘性力の増加とな

る 2)

4

Fig4 高分子による粘性増加

また高分子鎖同士が分子間力によって結びつき三次元構造を形成することで内

部摩擦力は一層大きくなるこのため高分子による増粘効果は顕著である

架橋高分子では三次元構造が高分子鎖同士の分子間力による形成よりも強いものと

なるので増粘効果及びレオロジー特性に優れる 3)

33 塩系薬剤による粘性劣化のメカニズム

塩系薬剤とはビタミンC (アスコルビン酸塩)のようにクロロ基をもつ薬効物質のこ

とである

このクロロ基が直鎖高分子や架橋高分子がポリマー間で形成する三次元網目構造

を破壊することによって増粘効果を消失させ内容物の流失によるべたつきを生じさ

せる 3)

34 粒状高分子の粘性

粒状高分子の粘性について粒状高分子はその粒経が小さいほど体積に対する表面

積が増え溶液内での内部摩擦力が大きくなる

また粒子同士が摩擦力を元に網目構造を形成するため網目構造の構成要因が直

鎖高分子や架橋高分子の高分子増粘剤と異なっている 4)

35 逆相マイクロエマルション重合法

後述する転相温度乳化法を用いて形成した5 μm~30 μm 形成したマイクロエマル

ション内において水溶性のモノマーを利用して行う乳化重合法の一種容易に極小の

5

ポリマーを合成することができる 5)

36 界面活性剤の概略

界面活性剤とは分子の構造が水になじみやすい部分(親水基)と油になじみやすい

部分(新油基)からできていて2つの物質の間の界面に集まりやすい性質を持ちそ

の界面の性質を著しく変える物質というのが界面活性剤の定義である

代表的な界面活性剤の特徴は界面における「吸着」と「ミセル形成」である 6)

もうひとつの代表的な作用として「可溶化」もある

37 エマルションの形成

界面活性剤に有機溶媒が取り囲まれて水に可溶化されたとき水溶液中に存在する

有機溶媒を界面活性剤が取り囲んだ液滴のことを OW エマルションと呼ぶ

有機溶媒中に水が可溶化される場合WOエマルションと呼ぶ

38 ノニオン界面活性剤

非イオン界面活性剤とも言う界面活性剤の内解離基を持たず電気的に中性な

界面活性剤で親水基は主にポリオキシエチレン基であるその特殊な性質上他の種類

の界面活性剤に無い性質として曇点と転相温度を持つ 今回使用するノニオン界面

活性剤はポリオキシエチレンオレイルエーテルであり基本式は以下のような形にな

る 7)

R-O(CH2CH2O)n-H

Scheme 1 ポリオキシエチレンオレイルエーテルの基本式

39 曇点

曇点とは透明な液体が相分離を起こして白濁する温度のこと

本実験においてはノニオン界面活性剤が加温によって界面活性効果を失い相分離

によって白濁する温度のこと 8)

310 転相温度乳化

ノニオン界面活性剤は加温によって界面張力が変化しWO型エマルションから

OW 型に変化するこの変化点のことを転相温度と言い転相温度において界

6

面張力が最低になっているので溶液エマルションが極小になる

またこの転相温度は界面活性剤に固有の値となるので二種の比較的性質の

近い界面活性剤を混合することで転相温度を操作し適切な温度で5 μm~30 μm

程度の直径を持つエマルションを作成する方法を転相温度乳化法と呼ぶ 10)

311 ラジカル重合

開始剤を用いてラジカル種を生成して行う重合法のことをラジカル重合法と言う

開始剤の分解要因によって熱光放射線ラジカル重合の三つに分けられる 10)

3111 ラジカル重合を構成する四反応

ラジカル重合は 4種類の反応が同時並行的に起こるそれぞれ以下の通りである 11)

開始反応

開始剤が熱光放射光などの要因によってラジカル開裂を起こしラジカル種を

生じさせる反応

成長反応

ラジカル種がモノマーと反応することでモノマー新たなラジカル種が生成する

反応これが連続することでポリマーが合成される

停止反応

連鎖していた成長反応が止まる反応主にラジカル種同士の反応による

連鎖移動反応

ラジカル種がモノマー以外の分子主に溶媒分子等と反応することでポリマー以

外の物質を合成する副反応

3112 乳化重合

乳化重合はモノマー液滴と呼ばれるモノマーを大量に保存しているエマルシ

ョンと反応場となる極小のセッケンミセルの二つの構造を持つ溶液中で行う不均

一系ラジカル重合の一種である 12)

成長反応が一段階進むたびにモノマー液滴から拡散の理論式に従ってモノマ

ーがミセル内に移動するこの一連の反応を繰り返して反応が進む 13)

そのため種々のラジカル重合法と比較して以下の特長がある 13)

セッケンミセル内に存在するラジカルが常に一つであるため停止反応が

7

起こりにくく比較的重合度の高いポリマーが生成しやすい

反応速度が拡散作用によって律速されかつセッケンミセルの周囲を大量

の溶媒分子が囲んでいるため除熱が容易であるという理由から熱暴走を起

こしにくいという利点がある

ミセル内で重合するため合成した高分子が絡まりやすく粒状の分子が作

成できる

Fig5 乳化重合模式図

312 MS(質量分析法)

質量分析法とは分子の質量すなわち分子量を測る手段でもあるまた分子を分解

したフラグメントの質量を測ることによって分子構造に関する情報を得るものでも

ある

高エネルギー電子が有機分子にぶつかると分子から電子がはじき出せれカチオ

ンラジカルが発生する

119825119815 rarr 119825119815++119838minus Scheme 2カチオンラジカルの発生

電子の衝突により大量のエネルギーが分子に与えられることで大部分のカチオン

ラジカルを生成した後フラグメントに分解するフラグメントは小さな破片となっ

て浮遊し正電荷や中性となる

このカチオンラジカルとフラグメントについてmz値を横軸相対強度を縦軸につ

いて取ったグラフから質量スペクトルを読み取る 14)

またMS(質量分析法)はイオン化の方法などによりいくつかに分けられ今回使用

したいのは高分子試料でもほとんどフラグメンテーションを起こさないソフトなイ

8

オン化法であるMALDI法 15)である

3121 MALDI法(マトリックス支援レーザー脱離イオン化法)

試料を 25-ヒドロキシ安息香酸のような適切なマトリックス上に吸着させて

ペレットを作成しレーザー光を短時間照射してイオン化する

エネルギーがマトリックスから試料に移動し[119872 + 119867119899 ]119899+に分解される 15)

MALDI法にはよく TOF型の MSが用いられている

4 実験

41 2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を用いた既存化粧品用増粘剤の合成

411 使用器具試薬

温度計ウォーターバスビーカー薬さじデシケーター

ジメチルアクリルアミド

式量9913

沸点81

発火点71

LD50(経口)316mgkg

LD50(経皮)580mgkg

製造和光純薬工業株式会社

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸

式量20725

融点200

LD50(経口)5400mgkg

製造和光純薬工業株式会社

NN-メチレンビスアクリルアミド

式量156

沸点4451

発火点215

LD50(経口)390mgkg

製造東京化成工業株式会社

9

へプタン

式量1002

沸点98

引火点-4

水に不溶

製造昭和化学

2-プロパノール

式量60

沸点82

発火点12

LD50(経口)区分外(GHS分類)

LD50(経皮)区分外(GHS分類)

製造昭和化学

ペルオキソ二硫酸アンモニウム

式量22820

冷水に易溶保存湿気厳禁

重合開始罪乳化重合レドックス重合に用いられる

製造和光純薬工業株式会社

412 実験手順

① ビーカーにイオン交換水ヘプタンポリオキシエチレンオレイルエーテル(2)

(8)をそれぞれ507 mL 507 mL489 g((2)(8)=23)加えて良く撹拌したも

のを入れる

② その後その後温度調節機能つきスターラーに乗せ白濁するまで加熱する

白濁した液が透明化するまで温度を落とし電気伝導率計を用いて溶液が転

相温度付近に保たれていることを確認する

③ 以上の操作が済んだ重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先

ほどのスターラーと同じ温度にしたウォーターバスに移し2-アクリルアミド

-2-メチルプロパンスルホン酸NNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 137 g

262 g入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始

剤としてメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

10

④ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

42 N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミドを用いた新規化粧品用増粘剤の合成

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を誘導体と入れ替える以外の

操作は 41に準ずる

親水基による増粘性の変化を観察するため架橋剤のモノマーに対する濃度比

は 2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を使用したポリマーが最も増

粘効果の高くなると報告された濃度比を用いる

421 使用器具試薬

使用器具は 41に準ずる

試薬

N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド

式量11513

沸点130

発火点189

製造東京化成工業株式会社

422 実験手順

① 412 ①②と同じように重合系を作成する

② 以上の操作が済んだ重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先

ほどのスターラーと同じ温度にしたウォーターバスに移しN-(2-ヒドロキシエ

チル)アクリルアミドNNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 076 g262

g 入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始剤と

してメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

③ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

11

43 (3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライドを用いた新規化粧品用

増粘剤の合成

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を誘導体と入れ替える以外の操作は

41に準ずる

親水基による増粘性の変化を観察するため架橋剤のモノマーに対する濃度比は 2-ア

クリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を使用したポリマーが最も増粘効果の高く

なると報告された濃度比を用いる

431 実験器具

実験器具は 41に準ずる

試薬

(3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライド

式量22074

沸点100

製造東京化成工業株式会社

432 実験手順

① 412 ①②と同じように重合系を作成する

② 重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先ほどのスターラーと

同じ温度にしたウォーターバスに移し (3-アクリルアミドプロピル)トリメチ

ルアミニウムクロライドNNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 123 mL

262 g入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始

剤としてメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

③ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

5 評価分析

耐塩性の高い増粘剤の耐塩性と使用感と親水基との関係を評価するために以下の二

つの測定を行い評価する

増粘剤の耐塩性の評価のために塩酸を増粘剤内部に取り込ませた状態で経時

12

による粘度の変化を観察する

また高分子の粘性を考える上で直鎖高分子の場合よく参考にされるのが平

均分子量でありこの値を測定することで親水基が変化した場合に平均分子

量が粒状高分子の粘性にも大きく影響するか確認する

精密に上の測定を行うには専用の機器が必要になるため機器メーカーの株式

会社エーアンドデイ様または東京理科大学理学部応用化学科駒場研究室に

また高分子の性質を考える上で重要視される平均分子量及び分子量分布に

ついては東京理科大学化学系機器センターにあるMALDI-TOF型質量分析計を管

理者の東京理科大学理学部応用化学科の根岸先生に測定に協力していただこうと

考えている

6 謝辞

東京理科大学工学部工業化学科 近藤行成教授

東京理科大学理学部化学科 遠藤恆平准教授

東京理科大学理学部応用化学科 駒場慎一教授

この研究を進めるに当たり大変お世話になった先輩先生方企業の皆さんに感謝の

意を表明します

参考文献

1) 小澤美奈子 基礎高分子科学 高分子学会 編 2010年 第六版 p979899

2) 小澤美奈子 基礎高分子科学 高分子学会 編 2010年 第六版 p99100

3) 金田 勇 逆相マイクロエマルション重合法による水膨潤性ミクロゲルの重合とその増

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4) 小林敏勝 福井寛 きちん知りたい粒子表面と分散技術 日刊工業新聞社 p76

5) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 2006 p839 840 841

6) 皆川基 藤井富美子 洗剤洗浄 百科事典 大矢勝 2007年版 p4647

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8) 資生堂 HP httpswwwshiseidogroupjprddevelopmentformulationhtmlより 2015

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10) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 テクノシステム 2006 p397

13

398399

11) 遠藤 剛 高分子の合成(上)~ラジカルカチオンアニオン重合~ 講談社 2010 3p

12) 佐藤壽彌編 高分子微粒子の技術と応用 シーエムシー出版 2004 p2526

13) 佐藤壽彌編 高分子微粒子の技術と応用 シーエムシー出版 2004 p27

14) マクマリー 上 8版 東京化学同人 p403404

15) John McMurry マクマリー有機化学(上) 第 8版 2013 p410411

Page 13: ゼオライトとキトサンを用いた 金属イオン除去剤の …kaken/studies/2015/2015-s-all.pdf1 東京理科大学I 部化学研究部 2015 年度春輪講書 ゼオライトとキトサンを用いた

2

市販されている接着剤の多くは使用の便を考えて一液性であるそのポットライフ(可

使期間)は 3か月から 1年必要とされるので室温で作用する硬化剤は使用できない

1)結合剤

結合剤自体の硬化剤が強い強度と接着力を持つ必要があり現在しようされている無機

結合剤のほとんどはアルカリ金属ケイ酸塩系リン酸塩系シリカゾル系のいずれかで

あり本実験でしようするのはアルカリ金属ケイ酸塩系結合剤である

アルカリ金属ケイ酸塩の水溶液は粘性のある液体であり分子式 M2OnSiO2で表わさ

れMの種類(LiNaKなど)および nの大小によって数多くの種類が生ずるまたア

ンモニウムケイ酸塩やグアニジンケイ酸もある一般には安価なケイ酸ナトリウム(水ガ

ラス)がよく使用される

アルカリ金属ケイ酸塩は水溶液中において種々の量のシリケートイオンモノマーポ

リシリケートイオンおよびコロイド状シリカイオンミセルからなっているこれらの形

態や分布は n 値や濃度に依存しn が大きくなるにつれてポリシリケートイオンミセル

が増加するケイ酸ナトリウムは n が4を越えると水の溶解度は極端に小さくなりn が

3 付近で接着力は最大となるケイ酸カリウムはケイ酸ナトリウムと同じような挙動を示

すがケイ酸リチウムは nが非常に大きくケイ酸分の多い水溶液が得られることが特徴で

ありシリカゾルに近い物性を示すしたがってアルカリ金属ケイ酸塩系結合剤につい

て一般的には耐水性は LigtKgtNa接着力はこの逆の順に良いといわれている

水溶液は強いアルカリ性を示し加熱によってシラノール間で脱水縮合反応を起こし

分子間にシロキサン結合を生じる固形物は融点(軟化点)までずっと非晶質である

2)硬化剤

結合剤は低温で乾燥しただけでは耐水性が不十分であり耐水性の向上のために硬化

剤が添加される硬化剤は耐水性には寄与するが接着力を低下させる場合もあるため

使用目的によっては添加しないこともある一液性の接着剤ではポットライフの要求から

室温で作用するものはあらかじめ添加できないので高温になってはじめて結合剤と反

応するものが選ばれる硬化剤については非常に多くの物質が特許等に提案されている

アルカリ金属ケイ酸塩用の硬化剤にはZnMgCa 等の酸化物水酸化物NaK

Ca等のケイ化物ケイフッ化物Alや Zn等のリン酸塩CaBaMg等のホウ酸塩等が

用いられる

酸化亜鉛による反応機構を LSDGlasserらは次のように示している

反応初期には ZnO粒子の表面で

ZnO + 1198672119874 + 119874119867minus rarr 119885119899(119874119867)42minus

の反応がおこりZn は液中に溶解しOH-が消費されるので pH が下がりケイ酸ゲルが

3

粒子表面に析出する以後はこのケイ酸ゲル層を通して OH-が粒子表面へ拡散しZnOと

反応して Zn(OH)2として固定されるためさらにケイ酸ゲルの析出が行われ酸化亜鉛表

面へ無定形シリカが沈積する

3)充填剤

充填剤としては結合剤との反応性の小さい耐火物粉末が使用される結合剤は加熱脱

水により大きな体積収縮を生じひび割れが発生するのでこれを防ぐため充填剤を添加し

て固体分率を高くするまた粒子間の空隙は水分蒸発の逃げ道となり発泡を防ぐ接着

剤の熱膨張を被着材へ合致させることも重要な役割である

さらに一液性の接着剤ではリン酸塩系におけるアルミナ粒のように室温では反応し

ないが温度を上げていくと結合剤と反応し硬化作用をして耐水性を付与することもある

その他耐火性接着強度熱伝導性電気特性耐薬品性耐摩耗性の向上に重要な

働きがある充填剤の種類に加え粒径粒径分布表面活性等に調整することが必要で

数種の充填剤を混合することが多い

4)核剤

核剤は力学特性成形性成形時の生産性の改良などを目的として種々の結晶性高分子

で利用されている特にポリプロピレンにおいては核剤を添加することにより剛性や耐火

性(熱変形温度)あるいは透明性など諸問題が大幅に改良され高機能化による用途拡大

や成形品の薄肉化軽量化が可能となりさらには短時間で結晶化が完了することから成

形時の生産性も大幅に短縮されコスト削減はもとより省資源省エネを影から支えてい

核剤には工業的な側面から主に力学特性を改善する「核剤」と特に透明性を改良する

効果が高い「透明化剤」とよばれるものがある核剤も透明化剤も高分子の結晶化過程

における基本的な作用機構は同じでありその本質はエピタキシーにあるつまり高分子

融体が結晶化する過程で高分子鎖が結晶化しやすいように「場」(核剤の表面)を提供す

るものである核剤はまた「造核剤」とよばれることもあるが核剤透明化剤とも物理

化学的には高分子に対し同じ作用をしているといえる溶媒中に溶解している溶質が種晶

の添加により析出が促進される現象を想像されたいまさに核剤は高分子融体中に添加

されこれが核となって高分子の結晶化が促進されるのである

4

Fig3-1 核剤の表面からの高分子結晶の成長

a)力学特性の改善

自動車や家電部品の樹脂化率は年々高まり特に自動車においては内外装問わずポリ

プロピレンが多用されるようになった当初はあまり重要でない部分への利用であったも

のの最近ではバンパーフェンダーライナーフロントグリルカウルパネル各種リ

ザーバータンクドアパネルピラーダッシュボードサンバイザーコンソールボッ

クスなどありとあらゆる部分に用途開発が進んでいる高分子材料による金属代替今後

もさらに進められると思われるその理由としては自動車の軽量化はもちろんのこと

設計の自由度(一体成形や金属ではデザインしにくい曲線曲面を複雑に有する部品など)

があげられる自動車部材では機能的に高剛性が求められるものや夏場に高温にさらさ

れる内装部品などは高耐熱性(高い熱変形温度)が求められるものなどがほとんどであり

このような要求性能に応えるべくポリプロピレンに核剤が添加されている

核剤が存在する場合高分子の結晶化が促進され融体の冷却過程においてより高い

温度(より融解温度に近い温度)から結晶化が開始するそのため核剤存在下での結晶化

過程では核剤非存在下での結晶化過程に比較して高分子鎖の運動性が高い状態で結晶

化が開始する核剤を添加した高分子の結晶化開始温度を示差走査熱量計などで測定する

と結晶化が高い温度から開始することも確認されるその結果高分子結晶の欠陥は減

少しまた結晶化度も増大する核剤存在下で結晶化させた高分子結晶は欠陥も少なく

またラメラ厚も厚くなり融解温度が高くなるそのような効果により成形後の高分子

材料の力学特性耐熱性が改善する

5

Fig3-2 核剤の添加のよるポリプロピレンの曲げ弾性率の改善効果

()アデカスタブ NA-11()Hyperform HPN-68 L

()安息香酸ナトリウムポリプロピレン

Fig4-2に核剤の添加によるポリプロピレンの曲げ弾性率の改善効果について示したま

ず核剤を添加することでしかも僅か 01~03 wt程度の添加で曲げ弾性率が劇的に向

上していることが分かるその中で比較すると汎用である安息香酸ナトリウムや HPN-68

Lでは弾性率の改善はあるものの(おおよそ 30の弾性率改善)01 wt程度の添加で改

善効果は飽和する添加物を加えることで剛性耐熱性を大幅に改善できることがわかる

このような改善効果は自動車用に多用されるポリプロピレンのグレードであるインパクト

コポリマーにおいても同様であるさらに核剤の添加により結晶化が促進された結果成

形時間も短縮でき高性能化と相まって生産性改善によるコストダウンも可能となる核

剤はもとのポリマーが有する特徴を損なうことなく物性を改善できるといったメリット

があるといえる

32 縮合重合反応

二つの化合物から水などの簡単な分子が脱離して新たな結合が形成される反応を縮合反

応とよぶカルボン酸とアルコールからエステルを得る反応は縮合反応の一例である

縮合反応を繰り返すことによりポリマーを合成することができるこれが脱水縮合反応

であるたとえば 2個のカルボキシ基をもつ分子と 2個のヒドロキシ基をもつ分子を反応

させると縮合反応が連続して起こりポリマーが得られる本実験では Fig3-3 の反応が

起こる

6

Fig3-3 ケイ酸の脱水縮合反応

33 接着の原理

接着剤による接着効果には複数の理論が挙げられており賛否両論あるものもあるま

た個々の接着現象においても複数の接着効果が絡み合っていることが多く接着効果の

検証は困難であるとされるある接着系では適用できる接着効果が別の系ではまったく無

力ということも多い以下に主な接着効果の理論をあげる

1) アンカー効果

雲母を注意深くはがしたようなごくわずかな例外を除きすべての固体表面は数Åオ

ーダーの粗さを有する例えば機械で製造される金属表面の粗さは 3~6 μmであり研

磨した場合でも 002~025 μmである

アンカー効果とはこのような被着材の凹部に流入した接着剤が固化し被着部に引っかか

ることにより界面が結合するというものであるアンカー効果のような界面との相互作

用を無視した接着効果理論を機械的結合論という

開口部を有するクレバスへの液体の流入について理論式が提案されている

以下の 2式は液体の粘度 η接触角θの液体が深さ Zまで浸透するまでの時間 tを表し

(a)開口部の幅がδの平行板の場合

Zdz

dt=

120575119910

120575120578120574 cos 120579

(b)開口部δ深さ Z0の V型溝の場合

11988501198971198991198850

1198850 minus 119885minus 119885 =

120575120574 cos 120579

6120583119905

となる式によれば開口部が大きくぬれがよく粘度の低い液体ほどまた時間をかけ

たほど深くまで侵入できるとされる

7

Fig3-4 アンカー効果

2)分子間相互作用

ふたつの物体の接着面で分子同士が接触するところで互いにひきつけあう力が働くこと

で接着するとするもの代表的なものにファンデルワールス力結合水素結合が存在す

3)化学的結合

界面に化学結合が存在することで接着強さに寄与するとするものである古くから提唱

されている説であるが化学結合の存在の証明が難しく接着系の界面に本当に化学結合

が存在するのかは十分に検証されなければならないとされる

4)表面自由エネルギーと表面張力

物質の内部と表面では性質が異なる内部の分子は周囲を分子に囲まれており分子間

力で互いに引き合うため安定化されるこれに対し表面の分子には周囲を囲む分子が内部

に比べて少なく内部分子と比べて不安定=エネルギーが高いということになるこの余

分のエネルギーを表面自由エネルギーと呼ぶ

表面積が小さいほど表面自由エネルギーは少なくなるため物質の表面では表面を

小さくしようとする力が働くこの力を表面張力と呼ぶ

5)ぬれと接着角

固体表面に液体が存在するとそれぞれの表面自由エネルギーとその間の界面自由エネ

ルギーとのバランスによって液体が広がり固体表面が液体表面に置き換えられるこの

現象がぬれである固体表面のぬれは材料表面の親水性疎水性や接着強度と直接関係

しているため接着の分野ではきわめて重要である固体表面に液滴を落とすと個体の

表面張力γS と液体の表面張力γL 固体と液体の界面張力γSL が釣り合うことによってあ

る角度θで平衡になるこのとき固体と液体空気の境界点 A における力の水平成分の

釣り合いから次式の Young-Dupreの式が得られる

120574119878 = 120574119878119871 + 120574119871 cos 120579

8

自然状態では表面張力により液体は球状になるこの式は固体表面上での液体を広げよ

うとする力と球状を保とうとする力のつりあいの式である

Fig3-4 固体表面上の水滴

また界面自由エネルギーγ12 で接着している二種類の物質を引き離し表面自由エネルギ

ーγ1γ2をもつ二つの物質に分けるのに必要な仕事(これを接着仕事という)Waとすると

119882119886 = 1205741 + 1205742 minus 12057412

であらわされるこれを Dupreの式と呼ぶ接着仕事とはふたつの物質を引き離すのに必

要な仕事であるからWaの値が高いほど接着強度が強いということになる

個体と液体との関係においてこれら二式をあわせると

119882119886 = 120574119871(1 + cos 120579)

を得るこれを Young-Dupre の式という液体の表面張力と接触角から接着材の接着強

度が分かるという式になっている

6)接着力低下因子と表面処理

接着は清浄な面と面の接触が前提である金属表面は清浄であれば 1000~3000 mNmの

表面張力があるはずであるが大気中では数十mNmの値をしめすこれは異物が付着した

り酸化されていたりするためである特に表面がもろい物質でおおわれていると剥離時に

もろい面での剥離が起こり見かけ上弱い接着強度となる事がある

このような金属表面の表面張力の低下を防ぎアンカー効果において適切な凹凸を金属表

面に付与し接着強度向上を図るために洗浄と研磨を行うのが望ましい

5実験方法

41使用する器具

100 mL ビーカーガラス棒ホールピペット安全ピペッターピンセットキムワイ

プ電気炉2 L ペットボトル紐アルミ角材(10 times 30 times 30 mm)サンドペーパー

はけ

9

42試薬の物性

ケイ酸ナトリウム a)

ケイ酸のナトリウム塩で種類が多いいわゆる水ガラスも多くの場合はケイ酸ナトリウム

であるがその組成は安定していない単一物質として得られているものだけでもメタ

ケイ酸ナトリウム Na2SiO3およびその種々の割合の水化物オルトケイ酸ナトリウム

Na4SiO4二ケイ酸ナトリウム Na2Si2O5四ケイ酸ナトリウム Na2SiO9 などがあるオ

ルトケイ酸ナトリウム Na4SiO4=18405二酸化ケイ素と水酸化ナトリウムを適当な条件

で融解すると得られる水溶液で両者を反応させたのではオルトケイ酸ナトリウムの結晶

は得られずにメタケイ酸ナトリウムの水化物になってしまう無色六方晶系の結晶酸

と加熱していると二酸化ケイ素が沈殿している

酸化マグネシウム b)(MgO)

式量 4030

融点 2852

沸点 3600

一般にアンモニウム塩水溶液に溶けるがエタノールに不溶空気中で水と二酸化炭素を

吸収し炭酸水酸化マグネシウムに変化する水と反応して水酸化マグネシウムとなる耐

火レンガマグネシアセメントの製造原料医薬品として制酸剤の原料となるほか触媒

または吸着材ゴム工業にも用いられる

酸化亜鉛 c)(ZnO)

式量 8138

密度 547 gcm3

無定形の白色粉末水にはほとんど溶解しないが両性酸化物で希酸や水酸化アルカリ

水溶液アンモニア水に溶解する空気中で湿気と二酸化炭素を吸収する白色顔料とし

てペイント絵の具などに用いられるほか粒子の細かいものは医薬品化粧品として用

いられる

酸化カルシウム d)(CaO)

式量 5608

融点 2572

沸点 2850

密度 340 gcm3

10

酸に可溶空気中の湿気を吸収して水酸化カルシウムとなりまた空気中の二酸化炭素を

吸収して炭酸カルシウムとなる水と反応して水酸化カルシウムとなるしっくいモル

タルなどの建築材料石膏さらし粉消石灰の原料医療用に用いられる医療用に用

いられる酸性土壌改良にも用いられる

炭酸カルシウム e)(CaCO3)

式量 10009

融点 1339

二酸化炭素を含む水には炭酸水素カルシウムとして溶解する酸には二酸化炭素を発生し

て容易に溶ける加熱すると二酸化炭素と酸化カルシウムに解離する

二酸化ケイ素 f)(SiO2)

式量 6009

低温ではフッ素フッ素酸水素酸だけが反応する高温では他のハロゲン元素とも反応す

る水酸化アルカリ炭酸アルカリと融解すると水溶性のアルカリケイ素酸塩となる

43実験操作

431被接着面の均一化

1)10times30times30 mmのアルミ角材の表面をサンドペーパーで汚れがなくなるまで削る

2)削った表面をアセトンで洗浄する

3)洗浄が終わったアルミ角材の重量を測り記録する

432ケイ酸ナトリウムのみの接着剤の作製

1)100 mL ビーカーにケイ酸ナトリウム 50 g を加え粘り気が残るぐらいまでイオン交換

水を加えガラス棒で撹拌する

2)アルミ角材の 10times30 mm の面にはけを用いてケイ酸ナトリウム溶液を均一になるよう

に塗りアルミ角材を重ね合わせる

3)150にセットした電気炉に接着面がずれないように慎重に置き 1時間焼成する

433添加物を加えた接着剤の作製

1)100 mLビーカーにケイ酸ナトリウム 50 g添加物(酸化マグネシウウム酸化亜鉛

酸化カルシウム炭酸カルシウム二酸化ケイ素)を 010 gから 010 gずつ 20 gまで加

え粘り気が残るぐらいまでイオン交換水を加えガラス棒で撹拌する

2)アルミ角材の 10times30 mm の面にはけを用いてケイ酸ナトリウム溶液を均一になるよう

に塗りアルミ角材を重ね合わせる

3)150 にセットした電気炉に接着面がずれないように慎重に置き 1時間焼成する

11

5評価方法

51接着強度の評価

1)432433で接着したアルミ板にひもとペットボトルを用いて Fig5-1のように設置す

アルミ角材

Fig5-1 接着面の破壊

2)ペットボトルに少しずつ水を加え接着面が完全に離れた時点を破壊終了点とする

3)破壊終了点でのペットボトルに入っている水の重量を計測する

52耐水性の評価

1)接着したアルミ角材に水をかけ接着面の変化を観察する

6予想

添加物を加えることで接着強度の増加が期待されるしかし大量に添加物を加えてし

まうとケイ酸の割合が小さくなり接着強度は減少してしまうと考えられ添加物の量と接

着強度の関係性をグラフ化するとある値までは増加しその値を超えると減少していくグ

ラフが得られると考えるそこから最も接着強度が高まる添加物の量を測定する

また添加物が硬化剤の役割をし耐水性の改善も予想される

参考文献

1)日本接着学会『接着剤データブック第 2版』日刊工業新聞社1990P228~229

2) 三刀基郷『トコトンやさしい接着の本』日刊工業新聞社2003P56~67

3) セメダイン(株)『よくわかる接着技術』日本実業出版社2008P34~37

PET

Crash

12

4) ユージン Gロコー『ケイ素とシリコーン』シュプリンガーフェアラーク東京株式

会社1990 P85~113

5) 大木道則大沢利昭田中元治千原秀昭『化学大辞典』東京化学同人1989

b)P884 c)P865 d)P867 e)P1368 f)P1669

6)下井 守村田 磁『大学生のための基礎シリーズ 3 化学入門』東京化学同人2005

P229

7) 吉村壽次『化学辞典第 2版』森北出版2009a)P425

8)大勝 靖一『高分子添加剤の基礎化学と材料設計』株式会社 CMC出版2008P219~235

9)httpwwwfacekyowacojpsciencetheorywhat_contact_angleimg01jpg

2015416取得

1

東京理科大学Ⅰ部化学研究部 2015 年度春輪講書

シクロデキストリンを用いた

包接化合物の生成

水曜班

Ikemura M(2C)Ebihara K(2C) Kataoka T(2K)

ShibasakiK(2OK)TsumedaT(2C)NakaA(2OK)Murakoshi R(2OK)

OkawaT(2C)NoguchiA(2K)SekiguchiK(2K)HashimotoY(2C)

1 動機

6~8 分子のグルコース単位からなるα―14結合の環状オリゴ糖であるシクロデキストリ

ンはその環状構造に由来する包接化合物を生成する性質を示すその特異的な包接形成能

を利用した多くの製品が存在し現在もなお基礎研究分野応用研究分野での研究が行わ

れている

そこで私たちは 7 分子のグルコースからなるβ-シクロデキストリンと 3 種類のカルボン

酸を用いて包接化合物を形成させ酸の構造の違いによる包接作用の比較検討及びシクロ

デキストリンの一部のヒドロキシ基をエステル化させ水に対する溶解性及び包接形成能が

どのように変化するか考察する

2 原理

21 包接化合物

包接化合物は Schlenk によって名づけられたもので定義によると原子または分子が

結合してできた 3 次元構造の内部に適当な大きさの空孔があってその中に他の原子また

は分子が一定の組成比で入り込んで特定の結晶構造をつくっている物質ということにな

っている前者の骨組み構造の化合物のほうをホスト分子後者の入り込んでいる分子の

ほうをゲスト分子ともよんでいるがこのゲスト分子の大きさや形状はまったくホスト

構造によって規定されるだけで両者の間には弱い相互作用があっても水素結合のよう

な力はなくてもいっこうに構わないのであるこの包接化合物でのゲスト分子とホスト

構造との間の相互作用というのも物理的な吸着系に近いもので非常に弱い van der

Waals 力から高度に配向した双極子間力まで種々のものが存在する 1)

22 シクロデキストリンの包接能

シクロデキストリンはグルコース残基がα-1α-4 結合した環状のオリゴ糖で一般的

にグルコース残基が 6 個のα-シクロデキストリン7 個のβ-シクロデキストリン8個の

γ-シクロデキストリンが知られている

2

Fig1 α-シクロデキストリンの分子構造

シクロデキストリンの構造は底の抜けたバケツやドーナッツのような構造をしており

その環状構造の外側は多くの水酸基に由来する親水性領域が存在し内側の空洞の CH 基に

由来する疎水領域と相反する極性が一つの分子に共存しているがこの空洞内に様々な有

機化合物などを取り込むという包接作用がもっとも特徴的である

三種類のシクロデキストリンはそれぞれ空洞の大きさが相違するためそれぞれ包接化

合物を形成しやすいゲスト分子が存在する内部空洞が比較的小さいα-シクロデキストリ

ンは比較的小さい分子例えばエタノールメタノール等をβ-シクロデキストリンは汎

用性が広く各種ポリフェノールコレステロールメンソール等の香気成分芳香族化

合物等をよく包接するγ-シクロデキストリンは大きい分子である脂肪酸などを包接する

ことが知られている

シクロデキストリンの包接力の原動力は疎水性相互作用と分子間力が主なものとされて

いるつまりゲストは疎水性の高い分子あるいは分子の大きさが空洞にぴったりとフィッ

トするものほどシクロデキストリンがそのゲストを包接する力は大きく包接物を作り

やすい傾向がある逆に親水性が高くシクロデキストリンの空洞にフィットしないよう

なゲスト分子では包接現象は起こりにくいといえるしかしゲスト分子全体がシクロ

デキストリンの空洞内にとりこまれる必要はなく部分的にでも疎水性が高く空洞にフィ

ットすれば包接が可能となるつまりゲスト分子全体がシクロデキストリンより明ら

かに大きいものでも包接作用による効果が観察される場合がある 2)

Fig2 シクロデキストリンがゲストを包接する様子

23 水溶化シクロデキストリン

3

ブドウ糖やショ糖など通常糖質の水への溶解度は非常に高いしかし天然型シク

ロデキストリンは隣接する水酸基との水素結合の為3 種のシクロデキストリンの中では最

も高い水溶性を有するγ-シクロデキストリンであってもその溶解度は 25において水

100 mL に 23 g であり油性物質を包接した場合は一般的にその溶解度はさらに低くな

るそこで水への溶解度を改善するためにシクロデキストリン化学修飾体が製造されて

いるシクロデキストリンの水溶性を向上させる方法として隣接する水酸基をメチル基や

アセチル基などでエーテル化やエステル化する方法がある具体的には部分メチル化β-シ

クロデキストリンやモノアセチル化β-シクロデキストリンが工業的に生産されている

24 包接能の評価について

今回の実験ではゲスト分子としてカルボン酸を用いるシクロデキストリン及び水溶化

シクロデキストリンの包接能の評価については包接化合物に含まれているカルボン酸をア

ルカリで滴定することで求めることができる

3 実験

31 試薬sup3⁾

アジピン酸

分子式C6H10O4

分子量1464

mp153

bp3375 アジピン酸

クエン酸

分子式C6H8O7

分子量19213

mp156~157

クエン酸

シュウ酸

分子式C2H2O4

分子量9004

mp1895

シュウ酸

4

βシクロデキストリン

分子式(C6H10O5)7

分子量113500

n-ブタノール

分子式C4H10O

分子量7412 β-シクロデキストリン

bp1179

エタノール

分子式C2H6O n-ブタノール

分子量4607

mp-1145

bp7833

水酸化ナトリウム

組成式NaOH

分子量4000

mp328

bp1388

無水オクタン酸

分子式C₈H₃₀O₃

分子量27041

mp-1 無水オクタン酸⁶⁾

濃硫酸

分子式H₂SO₄

分子量9808

mp104

32 使用器具

300 mL ビーカーメスフラスコピペット三角フラスコ吸引漏斗吸引瓶ビュレッ

トスタンドボウルガラス棒

5

33 実験操作

331 エステル化シクロデキストリンの合成 ⁵⁾

1)三角フラスコにβ-シクロデキストリン 1 g を入れこれに無水オクタン酸 025 mL を加

える

2)触媒として 2-3 滴の濃硫酸を添加し攪拌する

3)約 10 分間放置してフラスコを氷桶に入れて冷やしガラス棒でフラスコの壁を強くこす

り結晶を析出させる

4)水 20 mL を加えさらに氷桶で冷やしながら残る結晶を析出させる

5)この結晶を濾分し水で洗ってから取り出して乾かして結晶を得る⁵⁾

332 包接化合物の形成

1)β-シクロデキストリン 1 g を水 100 mL に溶解させる

2)ピペットで 1 mL のカルボン酸を加えコルク栓をして静置する

3)1 週間程静置し包接化合物を吸引濾過する

4)上記の操作をカルボン酸(酢酸シュウ酸クエン酸)で行う

5)エステル化シクロデキストリンで同様の実験を行う

333 包接能の測定

1)よく乾燥した包接化合物約 1 g をメスフラスコで 100 mL 溶液とする

2)この溶液 20 mL にフェノールフタレインを指示薬として20 mL 加え 01 M 水酸化ナト

リウム標準溶液で滴定する⁴⁾

334 溶解度の測定

1)100 mL の水に 5 g の β-シクロデキストリンを溶解させる

2)沈殿をろ過し乾燥して重量を測定する

3)エステル化 β-シクロデキストリンで同様の作業を行う

参考文献

1) 竹本喜一包接化合物の化学東京化学同人1969p2

2) 辻堅司シクロデキストリンの応用技術株式会社シーエムシー出版2008p3-p9

3) 大木道則大沼利昭田中元治千原秀明化学大辞典東京化学同人1989

4) 発田寿々子教養の化学実験第 2 版学術図書出版社2014p119

5) 南篠正男先生と生徒のための化学実験共立出版株式会社1986p155

6) 「 chemical book 」〈 wwwchemicalbookcomchemicalProductPropert_JP_CB 〉

(2015418 アクセス)

1

東京理科大学Ⅰ部化学研究部 2015年度春輪講書

ダブルネットワークの合成と評価 木曜班

OnizukaM(2C)TanakaR(2C)YamamokaH(2K) OhiraM(2K)

1背景

現在高分子ゲルは紙おむつの高吸水性樹脂やソフトコンタクトレンズなど私たちの生

活において活躍しているしかし高分子ゲルは不均一な構造なため一般的に機械的強

度が弱いという欠点がある高分子ゲルの強度面での弱点を克服するために従来では

ゲルの構造を均一化して強度を上げるというアプローチがとられてきた

しかしながら材料の弾性とじん性は反相する因子として働くつまり大変形に耐え

られるゲルは弾性率を犠牲とし高弾性のゲルは小さい変形で破壊される

そこで私達木曜班は前述の問題の解決策と成り得るものとしてダブルネットワーク

ゲル(DNゲル)について注目した

2目的

既存に作られている DNゲルは溶媒に水を用いたハイドロゲルであるDNゲルはその

強度や柔軟性により生体内での人工関節に使用することが期待され研究がおこなわれて

いる木曜班では DNゲルを生体内の関節だけでなく機械の関節部の摩擦軽減材料として

の使用を提案するしかし従来の DNゲルは溶媒が水であることにより水の沸点である

100以上の条件下では性能の低下が問題視され高温になりうる機械への応用が困難で

ある

溶媒を水から有機溶媒に変更することで高温条件下でのゲルの機能維持を試みるとと

もに使用するモノマーを変更しその機能性を検討する

3原理

31 DNゲル

311ゲルの脆弱性

一般的なゲルはゼリーや豆腐のように僅かな力を加えただけで簡単に壊れるほど

弱いこの理由は 2つの現象により説明することができる

1)ゲルの内部に多数の欠陥が存在する

2)欠陥から発生した初期亀裂が容易に伝播する

前者はゲル内部の構造が不均一であることに由来するゲル合成時におけるモノマ

ーと架橋剤の反応性の違いにより不均一な重合がおこるあるいはゲル化溶液内の濃度

揺らぎが重合によって固定されることだと考えられている 1)こうしたゲルに力を加えた

2

時にゲルの弱い部分に力が集中してしまうため小さな力でも初期亀裂が生じてしまう

後者はゲル内部のポリマーの密度の低さから生じる一般的に物質内における亀裂

の進みやすさは破壊エネルギーU(Jm2)(単位面積あたりの破断面形成に費やされる仕事)

によって評価される架橋高分子材料の臨界破壊エネルギーUc(亀裂成長が起こる最小

の破壊エネルギー)は破断面の高分子鎖の数密度と架橋点間分子量に比例する 2)つま

りゲルのじん性(物質の破壊に対する抵抗の程度で粘り強さとも言い換えられる 3))はゲ

ル内のポリマーの密度には比例し架橋密度には反比例することがわかる

ゲルは 50~99wtの溶媒を含んでいて高分子の密度が非常に低い物質であるためゲ

ルの Ucはゴムなどの固体に比べてかなり小さいことが考えられる

これまでの高強度ゲル研究は主に前者の問題を解決するすなわち構造を均一化するこ

とでゲル内部の欠陥を極力減らして強度を改善しようという観点から行われてきた

312 ゲルの弾性率

高分子鎖が三次元架橋されたゲルはゴムと同じようにエントロピー弾性を持つ溶液

中に完全に湿潤した電気的に中性ゲルのせん断弾性率(横方向に対するバネ係数 4)であり

Young率 Eと E=3Gの関係式が成立する)は

GneucongkBT

b3Q-225

以上の式で表せられゲルの湿潤度 Qの増加にともないせん断弾性率Gneuは大きく低下

するここでkBはボルツマン定数Tは温度bは重合させたモノマーの大きさである 5)

一方溶液中に完全に湿潤した電解質ゲルのせん断弾性率は

GchacongkBT

b3Q-1

によって表せる 6)よって同じ湿潤度において電解質ゲルは中性ゲルよりせん断弾性率が

高いことが分かる

またゲルの湿潤度は架橋点重合 N(分子量)による溶液中に完全に湿潤した中性ゲル

の場合QasympN35であり電解質ゲル場合QasympN

32であるしたがって架橋密度を上げる

ことによりゲルの湿潤度が小さくなりせん断弾性率が上がる 3)4)

313 ゲルの破断歪と破断応力

架橋構造が均一と仮定した理想的なゲルの破断歪(ゲルが破壊するまでの変形 7))は架

(1)

(2)

3

橋点間高分子の伸びきった長さと高分子鎖に歪がない曲がった自然な状態での大きさ

の比として求められる溶媒中で完全に湿潤した中性ゲルの引っ張り破断歪はλBcongQ12で

ありQの増加により増加する一方湿潤することにより単位面積あたりの高分子

の本数が減るため破断応力は湿潤度 Qが大きくなることにより減少する故にQが大

きいゲルは伸びやすいが弱い応力で壊れる

電解質ゲルの場合高分子鎖はその解離しているイオンの浸透圧によって水中では

ほとんど伸びきった状態となっているその結果理想状態においても破断歪はλBcongQ19

になるこれは破断歪が小さくかつ湿潤度にあまり依存しないことを意味している 5)

以上のことより

1)架橋密度を上げる(架橋点間分子量を下げる)ことでゲルが固くて脆くなる

2)水中に完全に湿潤した高分子電解質ゲルは中性のゲルより硬くて脆い高弾性と変形は

相反するということが考えられる

314 DNゲルの高強度機構

DNゲルは強電解質をモノマーとする 1st networkゲル電気的に中性なモノマーを用

いる 2nd networkゲルを組み合わせることにより生成される前述した通りゲルにおける

弾性と靭性は常に相反する働きをするそれゆえに単一な物質で両方の性質を得るこ

とは原理的には不可能である同じ湿潤度において電解質ゲルと中性ゲルのせん断弾性

率の比はGchaGneucongQ125であるために両者の違いは湿潤度 Qが高いほど大きくなる

この性質を利用することにより電解質ゲルは硬い成分中性ゲルは軟らかい成分とし

て用いることができる

亀裂を含む DNゲルがある引張荷重を受けると応力集中の効果で最初に亀裂先端近傍

の電解質網目(1st network)が破壊され局所的にゲルが降伏する荷重がますと電解質網

目の破壊が次々に伝播し広範囲にわたるダメージゾーンが形成されていくこの過程

で非常にいい気なエネルギーが分散されるダメージゾーンがある大きさまで広がった

ときようやく亀裂先端に中性網目(2nd network)が十分に伸びて切断し亀裂が進行す

る 8)

4

Fig 1 DNゲルの破壊モデル 9)

32 光ラジカル重合

321 光分解

光重合開始剤に UVを当てることにより開裂がおきラジカルが発生する本研究にお

いては 1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンを用いる 10)

Scheme1 1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンの開裂 10)

ℎ120592

5

322 開始反応

UVを当て光開裂により生じたラジカルがビニル基の二重結合を攻撃し光重合開始剤

と炭素の間に σ結合を作り炭素原子にラジカルが存在することになる

Scheme2 ラジカルの生成

323 成長反応

Scheme2で生成したラジカルが他のモノマーを攻撃しσ結合を生じるそれが何回

も起こることにより分子鎖が成長する 6)

Scheme3 分子鎖の成長

324 停止反応

Scheme 3で成長した成長ラジカル同士が σ結合を作り分子鎖が生成する 7)

Scheme4 分子鎖の生成

4実験

41 DNゲルの合成

411 使用器具試薬

ビーカー乳鉢乳棒薬さじUVライトデシケーター

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸

分子式 C7H13NO4S

式量20724

融点160

用途1st networkゲルのモノマー

6

アクリル酸

分子式C3H4O2

式量7206

融点123

沸点1416

比重10511

危険性引火性(発火温度 360 )

用途1st networkゲルのモノマー

アクリロニトリルの加水分解アクロレインの酸化ニッケルカルボニルの存在下ア

セチレンと一酸化炭素と水との反応などにより合成される酢酸に似た刺激臭を持つ液

体水エタノールエーテルによく溶ける酸素の存在下容易に重合するプラス

チックの原料として用いられる

アクリルアミド

分子式C3H5NO

式量7108

融点845

沸点103

比重1122

用途2nd networkゲルのモノマー

アクリルニトリルを硫酸あるいは塩酸を処理して得られるフレーク状の結晶溶解

性(g100 ml溶媒30 )水 2155メタノール 155エタノール 862アセトン 631

酢酸エチル 126クロロホルム 266ベンゼン 0346ヘプタン 00068化学的に不安

定で冷暗所に保存する必要がある融点付近あるいは紫外線下で重合する重合の仕方

により水溶性不溶性のものが得られる

酢酸ビニル

分子式C4H6O2

式量8609

融点-932

沸点723

比重09317

用途2nd networkゲルのモノマー

無色の液体酸やアルカリよって容易に加水分解されてアセトアルデヒドと酢酸を生

じる熱光ラジカル開始剤によって重合する

7

メタクリル酸メチル

分子式C5H8O2

式量10012

融点-48

沸点1003

比重0936

用途2nd networkゲルのモノマー

無色透明で催涙性の芳香のある液体工業的にはアセトンシアノヒドリンにメタノー

ルと硫酸を作用させて合成する実験室的にはメテクリル酸メチルの重合物を 320

以上で乾留すると得られる一般に有機溶媒には溶けるがエチレングリコールグリセ

リンには溶けにくい重合しやすいので重合禁止剤としてヒドロキノンモノメチルエ

ーテル(65 ppm)を添加して保存する有機ガラスの製造ビニル系共重合体など広く

重合反応に用いられるまたメチル以外のアルコールのメタクリル酸エステルの合成

にも用いられる

NN-メチレンビスアクリルアミド

分子式C7H10N2O2

式量15417

融点300

用途架橋剤

1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン

分子式C13H16O2

式量20427

融点47-50

用途光重合開始剤

最大吸収波長は 260 nm付近にある

エチレングリコール

式量6207

融点 -126

沸点1976

比重11132

8

用途ゲル溶媒

重要な二価アルコールでエチレンオキシドの酸触媒による開環高温高圧下水と

の反応による開環などによって合成される吸湿性無色無臭の液体甘味を有する

が有毒である高沸点を有ししかも水酸化カリウム水酸化ナトリウムを溶解し水や

エタノールと任意の割合で混合するので有機合成における溶媒として広く用いられ

また塩基に対して安定なエチレンケタールの生成によるカルボニル基の保護に用いら

れるさらに酢酸ビニル系樹脂の溶剤や水と混ざり高沸点のため不凍液に用いら

れるなど広い用途を持っている

412 1st networkゲルの作成

1) 1st networkゲルのモノマー(電解質モノマー)架橋剤(NN-メチレンビスアクリルア

ミド)と光重合開始剤(1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)を水に溶解させた水

溶液を調製する

2) UVを 8時間照射して光ラジカル重合をさせる

3) 2)で合成した電解質ゲルを乳鉢に入れ適当なサイズに砕いた後デシケーター内で一

週間ほど乾燥させる

413水溶媒 DNゲルの作成

1) 2nd networkゲルのモノマー(中性モノマー)架橋剤(NN-メチレンビスアクリルアミ

ド)光重合開始剤(1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)をエチレングリコールに

溶解させた溶液を調製する

2) 乾燥した電解質ゲルを 1)で調製した水溶液に入れ電解質ゲルを十分に膨らませるそ

の後UVを照射し中性モノマーを光ラジカル重合させる

414エチレングリコール DNゲルの作成

1) 2nd networkゲルのモノマー(中性モノマー)架橋剤(NN-メチレンビスアクリルアミ

ド)光重合開始剤(1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)をエチレングリコールに

溶解させた溶液を調製する

2) 乾燥した電解質ゲルを 1)で調製したエチレングリコール溶液に入れ電解質ゲルを十分

に膨らませるその後UVを照射し中性モノマーを光ラジカル重合させる

42 DNゲルの評価

421引っ張り試験

使用するモノマーの変化によるゲルの性質の差を評価する引っ張り試験は

JIS-K-6251-7号に準拠する方法で測定する

9

1)DNゲルを X方向の長さ 50 mmY方向の長さ 75 mmZ方向の長さが 25 mmの大

きさに成形する

2)その一端部に X-Y平面に平行な切込みを入れて2つの引張端部を形成する

3) 引張端部を片方は固定しもう片方を一定の速度で引っ張るこのときの引っ張る力 F

を測定する

Fig 2 引っ張り試験 13)

422 摩擦試験

使用するモノマーの変化溶媒の変化によるゲルの性質の差を評価する

摩擦試験は東京理科大学工学部第一部機械工学科佐々木研究室に依頼する予定である

用いる機械は SVR4パーカー熱処理工業株式会社製であり180での高温での摩擦係

数の測定が可能である

摩擦測定は常温(20 )と高温(100 )で測定することを予定している

10

5 展望

51 DNゲルの合成

実験操作は溶液を調製した後UV照射するという簡易な手順なので合成は比較的早い

段階で成功すると考えられる

1st networkゲル合成に使うのは電解質モノマーなため水溶液のモノマーの濃度が低

いと湿潤度 Q が大きくなりせん断弾性率が下がり剛性が弱いゲルが出来上がると考え

られる

架橋剤を多く使用すると架橋密度を上がるので 2nd networkゲルが入り込む空洞が小

さくなるそのために架橋剤が多すぎると高弾性のゲルが生成できると考えられる

また同様な考えで2nd networkモノマーが含まれている水溶液に乾燥させた1st network

ゲルを入れる量が多くても高弾性のゲルが生成できると考えられる

52 DNゲルの物性

ゲルの高分子網目は基板から離れようとするときにゲルと基板の間に僅かな溶媒層

が生じるこの状態では溶媒層が潤滑油のような働きをして生じる摩擦力は小さなも

のとなるゲル周辺が高温な状態ではこの溶媒層が水の場合は蒸発してしまうので摩

擦力は増大すると考えられる溶媒を水からより沸点の高いエチレングリコールなどに

変えれば摩擦力は増大することはないと推測される 14)

11

参考文献

1) J Bastide and L LeiblerMacromolecules1988212647

2) G G J Lake and A G ThomasProc R Soc LondonA1967300108

3)越後亮三 機械工学辞典 朝倉書店 2007 p631

4) 伊藤勝悦 やさしく学べる材料力学 森北出版 2014 p14

5)SPObukhovMRubinstein and RHColby Macromolecules 1994273191-3198

6)MRubinsteinRHColbyAVDobrynin and JJaonnyElasticMacromolecules199629398-406

7) 大 阪 府 立 大 学 基 礎 講 座 材 料 の 強 度 と 破 壊

httpwwwengmmtrosakafu-uacjpresearchstrength-japdf2015413取得

8)聾剣萍「生命科学時代の新材料-高弾性高靱性ダブルネットワークゲル」高分子学会

『高分子』高分子科学最近の進歩58巻 5号2009p327-p331

9)YTanakaEurophysLett20077856005

10)蓮池幹治ラジカル重合ハンドブックエヌティーエス2010p444-p445

11)大津隆行ラジカル重合(Ⅰ)化学同人1971p80-p81

12)大津隆行ラジカル重合(Ⅰ)化学同人1971p153-p154

13)聾剣萍高分子ゲルおよびその製造方法特開 2009-185156 2008-02-05

14) 角五 彰龔 剣萍長田義仁「ゲルの摩擦と水和潤滑~生物の滑らかな運動解明への

アプローチ」日本生物物理学会『生物物理』47巻 4号2007p 253-p258

1

東京理科大学Ⅰ部化学研究部 2015年度春輪講書

耐塩性の高い新規化粧品用増粘剤の開発 2015年度金曜班

Nomata N(2OK)Seki M(2OK)Tin J(2OK)Takahashi R(2C)Watanabe A(2K)

Asai D(2K) Nishimiti D(2K)Yamamoto R(2K)

1 動機

化粧品において増粘剤の果たす役割は非常に大きい

化粧品にはクリーム状のモノが多くありその整形には増粘剤が必要不可欠である

また増粘剤は製剤だけでなく密閉効果や水和効果によって薬剤を皮膚に効率的に輸

送することに役立っている

この増粘剤であるが一つ課題がありアスコルビン酸塩(ビタミン C)のようなクロロ

基を持つ塩系薬剤をゲル中に含む場合経時によってべたつきといった使用感の悪化

につながるといった弱点があるこの問題の解決のために塩系薬剤への耐性の高い増

粘剤の開発が望まれている

塩系薬剤の高い美容効果からこの問題の解決に対する化粧剤企業のニーズは高くこ

の問題は長く研究が続けられていたが近年資生堂が逆相マイクロエマルション重

合法によって microスケールの粒状高分子を多数合成することによりできる増粘剤が高い

耐塩性を持ち使用感もよいことを発見したがこの粒状高分子増粘剤には未だ試み

られていないモノマーが多くある

そこで今年度の金曜班ではこの逆相マイクロエマルション重合法において未だ

試みられていない親水基を持つモノマーを利用して新規の増粘剤をつくることで粒

状高分子による増粘剤の耐塩性と肌触りと親水基の関係を調べ応用化に利すること

ができるのではないかと考え実験を行うこととした

2 背景

増粘剤とは水溶液をゲル化するために添加される物質であり化粧品において広く

用いられているこの増粘効果は従来では高分子鎖同士の分子間力や架橋で生じる

網目構造の結果生じる液中の摩擦力によるものである

動機で述べたように μスケールの粒状高分子が増粘剤として良質であることがわか

っているただし粒状高分子の形状は反応場であるセッケンミセルの大きさだけで

なく親水基やポリマーを構成する原子同士の分子間力によって変わる高分子の立体構

2

造にも影響されている

また粒状高分子の正確な一次構造を把握することは大変難しいことであるので

応用化のためには高分子の一次構造でなくモノマーによって粒状高分子特性の変化

を調べることが重要である

さらに従来用いられているポリマーがスルホ基とカルボキシル基を親水基とする

ものしか存在しない

以上の三点から酸以外の親水基をもつモノマーで増粘剤を合成したときその性

質はどうなるかを調べることでより製品として利用価値が高い粒状高分子増粘剤を合

成することができるのではないかと考えた

そこで新規モノマーとしては対照実験を行うためにアクリルアミド系モノマー

でかつ 2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸のスルホ基と同じ炭素骨格の先

端に親水基が存在するものとしてN-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド (3-アク

リルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライドを用いてそれぞれ親水基が酸

ではなくヒドロキシ基である場合親水基がアニオンではなくカチオンである場合に

ついて研究を行うこととした

この二種の以外にも水溶性のアクリルアミドポリマーは存在するが上記の条件を満

たさないまたは高価であるため本実験では用いないこととした

Fig1 N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド

Fig2 (3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライド

3

3 原理

31 一般的な液体の粘性

溶液の粘性は一般論では以下のように表される

Fig3のように XY平面を取り液面に平板を用意し引っ張った時挟まれた溶液内

には図のようなせん断流動が発生する高さ Yでのせん断速度は(119881

119889) 119910で与えられる

この時平板に挟まれた溶液を薄層の集まりと考えると隣り合う薄層間に摩擦が生

じるこの内部摩擦力が粘性力であるずり速度勾配が十分に小さければ平板の単位

面積当たりに生じる粘性力 Fv0はその勾配 Vd に比例するすなわち以下の式で表

され1205780を粘性係数と呼ぶこの値は溶媒固有である1)

1198651199070 = 1205780 (119881

119889)

Fig3 溶液ずりせん断図

32 増粘剤の粘性

増粘剤の多くは低分子の液体に高分子を溶かすと著しく粘性が高くなる性質を利

用している

この粘性の発生するメカニズムは下の Fig4において平板間の溶液を薄層に分けた

際高分子鎖は溶液の移動に伴って回転するこのとき溶液中の薄層は薄層間の摩

擦以外に高分子鎖との間にも摩擦が生じているこの摩擦の増加が粘性力の増加とな

る 2)

4

Fig4 高分子による粘性増加

また高分子鎖同士が分子間力によって結びつき三次元構造を形成することで内

部摩擦力は一層大きくなるこのため高分子による増粘効果は顕著である

架橋高分子では三次元構造が高分子鎖同士の分子間力による形成よりも強いものと

なるので増粘効果及びレオロジー特性に優れる 3)

33 塩系薬剤による粘性劣化のメカニズム

塩系薬剤とはビタミンC (アスコルビン酸塩)のようにクロロ基をもつ薬効物質のこ

とである

このクロロ基が直鎖高分子や架橋高分子がポリマー間で形成する三次元網目構造

を破壊することによって増粘効果を消失させ内容物の流失によるべたつきを生じさ

せる 3)

34 粒状高分子の粘性

粒状高分子の粘性について粒状高分子はその粒経が小さいほど体積に対する表面

積が増え溶液内での内部摩擦力が大きくなる

また粒子同士が摩擦力を元に網目構造を形成するため網目構造の構成要因が直

鎖高分子や架橋高分子の高分子増粘剤と異なっている 4)

35 逆相マイクロエマルション重合法

後述する転相温度乳化法を用いて形成した5 μm~30 μm 形成したマイクロエマル

ション内において水溶性のモノマーを利用して行う乳化重合法の一種容易に極小の

5

ポリマーを合成することができる 5)

36 界面活性剤の概略

界面活性剤とは分子の構造が水になじみやすい部分(親水基)と油になじみやすい

部分(新油基)からできていて2つの物質の間の界面に集まりやすい性質を持ちそ

の界面の性質を著しく変える物質というのが界面活性剤の定義である

代表的な界面活性剤の特徴は界面における「吸着」と「ミセル形成」である 6)

もうひとつの代表的な作用として「可溶化」もある

37 エマルションの形成

界面活性剤に有機溶媒が取り囲まれて水に可溶化されたとき水溶液中に存在する

有機溶媒を界面活性剤が取り囲んだ液滴のことを OW エマルションと呼ぶ

有機溶媒中に水が可溶化される場合WOエマルションと呼ぶ

38 ノニオン界面活性剤

非イオン界面活性剤とも言う界面活性剤の内解離基を持たず電気的に中性な

界面活性剤で親水基は主にポリオキシエチレン基であるその特殊な性質上他の種類

の界面活性剤に無い性質として曇点と転相温度を持つ 今回使用するノニオン界面

活性剤はポリオキシエチレンオレイルエーテルであり基本式は以下のような形にな

る 7)

R-O(CH2CH2O)n-H

Scheme 1 ポリオキシエチレンオレイルエーテルの基本式

39 曇点

曇点とは透明な液体が相分離を起こして白濁する温度のこと

本実験においてはノニオン界面活性剤が加温によって界面活性効果を失い相分離

によって白濁する温度のこと 8)

310 転相温度乳化

ノニオン界面活性剤は加温によって界面張力が変化しWO型エマルションから

OW 型に変化するこの変化点のことを転相温度と言い転相温度において界

6

面張力が最低になっているので溶液エマルションが極小になる

またこの転相温度は界面活性剤に固有の値となるので二種の比較的性質の

近い界面活性剤を混合することで転相温度を操作し適切な温度で5 μm~30 μm

程度の直径を持つエマルションを作成する方法を転相温度乳化法と呼ぶ 10)

311 ラジカル重合

開始剤を用いてラジカル種を生成して行う重合法のことをラジカル重合法と言う

開始剤の分解要因によって熱光放射線ラジカル重合の三つに分けられる 10)

3111 ラジカル重合を構成する四反応

ラジカル重合は 4種類の反応が同時並行的に起こるそれぞれ以下の通りである 11)

開始反応

開始剤が熱光放射光などの要因によってラジカル開裂を起こしラジカル種を

生じさせる反応

成長反応

ラジカル種がモノマーと反応することでモノマー新たなラジカル種が生成する

反応これが連続することでポリマーが合成される

停止反応

連鎖していた成長反応が止まる反応主にラジカル種同士の反応による

連鎖移動反応

ラジカル種がモノマー以外の分子主に溶媒分子等と反応することでポリマー以

外の物質を合成する副反応

3112 乳化重合

乳化重合はモノマー液滴と呼ばれるモノマーを大量に保存しているエマルシ

ョンと反応場となる極小のセッケンミセルの二つの構造を持つ溶液中で行う不均

一系ラジカル重合の一種である 12)

成長反応が一段階進むたびにモノマー液滴から拡散の理論式に従ってモノマ

ーがミセル内に移動するこの一連の反応を繰り返して反応が進む 13)

そのため種々のラジカル重合法と比較して以下の特長がある 13)

セッケンミセル内に存在するラジカルが常に一つであるため停止反応が

7

起こりにくく比較的重合度の高いポリマーが生成しやすい

反応速度が拡散作用によって律速されかつセッケンミセルの周囲を大量

の溶媒分子が囲んでいるため除熱が容易であるという理由から熱暴走を起

こしにくいという利点がある

ミセル内で重合するため合成した高分子が絡まりやすく粒状の分子が作

成できる

Fig5 乳化重合模式図

312 MS(質量分析法)

質量分析法とは分子の質量すなわち分子量を測る手段でもあるまた分子を分解

したフラグメントの質量を測ることによって分子構造に関する情報を得るものでも

ある

高エネルギー電子が有機分子にぶつかると分子から電子がはじき出せれカチオ

ンラジカルが発生する

119825119815 rarr 119825119815++119838minus Scheme 2カチオンラジカルの発生

電子の衝突により大量のエネルギーが分子に与えられることで大部分のカチオン

ラジカルを生成した後フラグメントに分解するフラグメントは小さな破片となっ

て浮遊し正電荷や中性となる

このカチオンラジカルとフラグメントについてmz値を横軸相対強度を縦軸につ

いて取ったグラフから質量スペクトルを読み取る 14)

またMS(質量分析法)はイオン化の方法などによりいくつかに分けられ今回使用

したいのは高分子試料でもほとんどフラグメンテーションを起こさないソフトなイ

8

オン化法であるMALDI法 15)である

3121 MALDI法(マトリックス支援レーザー脱離イオン化法)

試料を 25-ヒドロキシ安息香酸のような適切なマトリックス上に吸着させて

ペレットを作成しレーザー光を短時間照射してイオン化する

エネルギーがマトリックスから試料に移動し[119872 + 119867119899 ]119899+に分解される 15)

MALDI法にはよく TOF型の MSが用いられている

4 実験

41 2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を用いた既存化粧品用増粘剤の合成

411 使用器具試薬

温度計ウォーターバスビーカー薬さじデシケーター

ジメチルアクリルアミド

式量9913

沸点81

発火点71

LD50(経口)316mgkg

LD50(経皮)580mgkg

製造和光純薬工業株式会社

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸

式量20725

融点200

LD50(経口)5400mgkg

製造和光純薬工業株式会社

NN-メチレンビスアクリルアミド

式量156

沸点4451

発火点215

LD50(経口)390mgkg

製造東京化成工業株式会社

9

へプタン

式量1002

沸点98

引火点-4

水に不溶

製造昭和化学

2-プロパノール

式量60

沸点82

発火点12

LD50(経口)区分外(GHS分類)

LD50(経皮)区分外(GHS分類)

製造昭和化学

ペルオキソ二硫酸アンモニウム

式量22820

冷水に易溶保存湿気厳禁

重合開始罪乳化重合レドックス重合に用いられる

製造和光純薬工業株式会社

412 実験手順

① ビーカーにイオン交換水ヘプタンポリオキシエチレンオレイルエーテル(2)

(8)をそれぞれ507 mL 507 mL489 g((2)(8)=23)加えて良く撹拌したも

のを入れる

② その後その後温度調節機能つきスターラーに乗せ白濁するまで加熱する

白濁した液が透明化するまで温度を落とし電気伝導率計を用いて溶液が転

相温度付近に保たれていることを確認する

③ 以上の操作が済んだ重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先

ほどのスターラーと同じ温度にしたウォーターバスに移し2-アクリルアミド

-2-メチルプロパンスルホン酸NNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 137 g

262 g入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始

剤としてメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

10

④ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

42 N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミドを用いた新規化粧品用増粘剤の合成

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を誘導体と入れ替える以外の

操作は 41に準ずる

親水基による増粘性の変化を観察するため架橋剤のモノマーに対する濃度比

は 2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を使用したポリマーが最も増

粘効果の高くなると報告された濃度比を用いる

421 使用器具試薬

使用器具は 41に準ずる

試薬

N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド

式量11513

沸点130

発火点189

製造東京化成工業株式会社

422 実験手順

① 412 ①②と同じように重合系を作成する

② 以上の操作が済んだ重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先

ほどのスターラーと同じ温度にしたウォーターバスに移しN-(2-ヒドロキシエ

チル)アクリルアミドNNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 076 g262

g 入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始剤と

してメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

③ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

11

43 (3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライドを用いた新規化粧品用

増粘剤の合成

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を誘導体と入れ替える以外の操作は

41に準ずる

親水基による増粘性の変化を観察するため架橋剤のモノマーに対する濃度比は 2-ア

クリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を使用したポリマーが最も増粘効果の高く

なると報告された濃度比を用いる

431 実験器具

実験器具は 41に準ずる

試薬

(3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライド

式量22074

沸点100

製造東京化成工業株式会社

432 実験手順

① 412 ①②と同じように重合系を作成する

② 重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先ほどのスターラーと

同じ温度にしたウォーターバスに移し (3-アクリルアミドプロピル)トリメチ

ルアミニウムクロライドNNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 123 mL

262 g入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始

剤としてメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

③ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

5 評価分析

耐塩性の高い増粘剤の耐塩性と使用感と親水基との関係を評価するために以下の二

つの測定を行い評価する

増粘剤の耐塩性の評価のために塩酸を増粘剤内部に取り込ませた状態で経時

12

による粘度の変化を観察する

また高分子の粘性を考える上で直鎖高分子の場合よく参考にされるのが平

均分子量でありこの値を測定することで親水基が変化した場合に平均分子

量が粒状高分子の粘性にも大きく影響するか確認する

精密に上の測定を行うには専用の機器が必要になるため機器メーカーの株式

会社エーアンドデイ様または東京理科大学理学部応用化学科駒場研究室に

また高分子の性質を考える上で重要視される平均分子量及び分子量分布に

ついては東京理科大学化学系機器センターにあるMALDI-TOF型質量分析計を管

理者の東京理科大学理学部応用化学科の根岸先生に測定に協力していただこうと

考えている

6 謝辞

東京理科大学工学部工業化学科 近藤行成教授

東京理科大学理学部化学科 遠藤恆平准教授

東京理科大学理学部応用化学科 駒場慎一教授

この研究を進めるに当たり大変お世話になった先輩先生方企業の皆さんに感謝の

意を表明します

参考文献

1) 小澤美奈子 基礎高分子科学 高分子学会 編 2010年 第六版 p979899

2) 小澤美奈子 基礎高分子科学 高分子学会 編 2010年 第六版 p99100

3) 金田 勇 逆相マイクロエマルション重合法による水膨潤性ミクロゲルの重合とその増

粘剤としての応用 2010年 p1

4) 小林敏勝 福井寛 きちん知りたい粒子表面と分散技術 日刊工業新聞社 p76

5) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 2006 p839 840 841

6) 皆川基 藤井富美子 洗剤洗浄 百科事典 大矢勝 2007年版 p4647

7) 日本産業洗浄協議会編 わかりやすい界面活性剤 工業調査会 2003 p373839

8) 資生堂 HP httpswwwshiseidogroupjprddevelopmentformulationhtmlより 2015

44取得

9) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 テクノシステム 2006 p321

10) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 テクノシステム 2006 p397

13

398399

11) 遠藤 剛 高分子の合成(上)~ラジカルカチオンアニオン重合~ 講談社 2010 3p

12) 佐藤壽彌編 高分子微粒子の技術と応用 シーエムシー出版 2004 p2526

13) 佐藤壽彌編 高分子微粒子の技術と応用 シーエムシー出版 2004 p27

14) マクマリー 上 8版 東京化学同人 p403404

15) John McMurry マクマリー有機化学(上) 第 8版 2013 p410411

Page 14: ゼオライトとキトサンを用いた 金属イオン除去剤の …kaken/studies/2015/2015-s-all.pdf1 東京理科大学I 部化学研究部 2015 年度春輪講書 ゼオライトとキトサンを用いた

3

粒子表面に析出する以後はこのケイ酸ゲル層を通して OH-が粒子表面へ拡散しZnOと

反応して Zn(OH)2として固定されるためさらにケイ酸ゲルの析出が行われ酸化亜鉛表

面へ無定形シリカが沈積する

3)充填剤

充填剤としては結合剤との反応性の小さい耐火物粉末が使用される結合剤は加熱脱

水により大きな体積収縮を生じひび割れが発生するのでこれを防ぐため充填剤を添加し

て固体分率を高くするまた粒子間の空隙は水分蒸発の逃げ道となり発泡を防ぐ接着

剤の熱膨張を被着材へ合致させることも重要な役割である

さらに一液性の接着剤ではリン酸塩系におけるアルミナ粒のように室温では反応し

ないが温度を上げていくと結合剤と反応し硬化作用をして耐水性を付与することもある

その他耐火性接着強度熱伝導性電気特性耐薬品性耐摩耗性の向上に重要な

働きがある充填剤の種類に加え粒径粒径分布表面活性等に調整することが必要で

数種の充填剤を混合することが多い

4)核剤

核剤は力学特性成形性成形時の生産性の改良などを目的として種々の結晶性高分子

で利用されている特にポリプロピレンにおいては核剤を添加することにより剛性や耐火

性(熱変形温度)あるいは透明性など諸問題が大幅に改良され高機能化による用途拡大

や成形品の薄肉化軽量化が可能となりさらには短時間で結晶化が完了することから成

形時の生産性も大幅に短縮されコスト削減はもとより省資源省エネを影から支えてい

核剤には工業的な側面から主に力学特性を改善する「核剤」と特に透明性を改良する

効果が高い「透明化剤」とよばれるものがある核剤も透明化剤も高分子の結晶化過程

における基本的な作用機構は同じでありその本質はエピタキシーにあるつまり高分子

融体が結晶化する過程で高分子鎖が結晶化しやすいように「場」(核剤の表面)を提供す

るものである核剤はまた「造核剤」とよばれることもあるが核剤透明化剤とも物理

化学的には高分子に対し同じ作用をしているといえる溶媒中に溶解している溶質が種晶

の添加により析出が促進される現象を想像されたいまさに核剤は高分子融体中に添加

されこれが核となって高分子の結晶化が促進されるのである

4

Fig3-1 核剤の表面からの高分子結晶の成長

a)力学特性の改善

自動車や家電部品の樹脂化率は年々高まり特に自動車においては内外装問わずポリ

プロピレンが多用されるようになった当初はあまり重要でない部分への利用であったも

のの最近ではバンパーフェンダーライナーフロントグリルカウルパネル各種リ

ザーバータンクドアパネルピラーダッシュボードサンバイザーコンソールボッ

クスなどありとあらゆる部分に用途開発が進んでいる高分子材料による金属代替今後

もさらに進められると思われるその理由としては自動車の軽量化はもちろんのこと

設計の自由度(一体成形や金属ではデザインしにくい曲線曲面を複雑に有する部品など)

があげられる自動車部材では機能的に高剛性が求められるものや夏場に高温にさらさ

れる内装部品などは高耐熱性(高い熱変形温度)が求められるものなどがほとんどであり

このような要求性能に応えるべくポリプロピレンに核剤が添加されている

核剤が存在する場合高分子の結晶化が促進され融体の冷却過程においてより高い

温度(より融解温度に近い温度)から結晶化が開始するそのため核剤存在下での結晶化

過程では核剤非存在下での結晶化過程に比較して高分子鎖の運動性が高い状態で結晶

化が開始する核剤を添加した高分子の結晶化開始温度を示差走査熱量計などで測定する

と結晶化が高い温度から開始することも確認されるその結果高分子結晶の欠陥は減

少しまた結晶化度も増大する核剤存在下で結晶化させた高分子結晶は欠陥も少なく

またラメラ厚も厚くなり融解温度が高くなるそのような効果により成形後の高分子

材料の力学特性耐熱性が改善する

5

Fig3-2 核剤の添加のよるポリプロピレンの曲げ弾性率の改善効果

()アデカスタブ NA-11()Hyperform HPN-68 L

()安息香酸ナトリウムポリプロピレン

Fig4-2に核剤の添加によるポリプロピレンの曲げ弾性率の改善効果について示したま

ず核剤を添加することでしかも僅か 01~03 wt程度の添加で曲げ弾性率が劇的に向

上していることが分かるその中で比較すると汎用である安息香酸ナトリウムや HPN-68

Lでは弾性率の改善はあるものの(おおよそ 30の弾性率改善)01 wt程度の添加で改

善効果は飽和する添加物を加えることで剛性耐熱性を大幅に改善できることがわかる

このような改善効果は自動車用に多用されるポリプロピレンのグレードであるインパクト

コポリマーにおいても同様であるさらに核剤の添加により結晶化が促進された結果成

形時間も短縮でき高性能化と相まって生産性改善によるコストダウンも可能となる核

剤はもとのポリマーが有する特徴を損なうことなく物性を改善できるといったメリット

があるといえる

32 縮合重合反応

二つの化合物から水などの簡単な分子が脱離して新たな結合が形成される反応を縮合反

応とよぶカルボン酸とアルコールからエステルを得る反応は縮合反応の一例である

縮合反応を繰り返すことによりポリマーを合成することができるこれが脱水縮合反応

であるたとえば 2個のカルボキシ基をもつ分子と 2個のヒドロキシ基をもつ分子を反応

させると縮合反応が連続して起こりポリマーが得られる本実験では Fig3-3 の反応が

起こる

6

Fig3-3 ケイ酸の脱水縮合反応

33 接着の原理

接着剤による接着効果には複数の理論が挙げられており賛否両論あるものもあるま

た個々の接着現象においても複数の接着効果が絡み合っていることが多く接着効果の

検証は困難であるとされるある接着系では適用できる接着効果が別の系ではまったく無

力ということも多い以下に主な接着効果の理論をあげる

1) アンカー効果

雲母を注意深くはがしたようなごくわずかな例外を除きすべての固体表面は数Åオ

ーダーの粗さを有する例えば機械で製造される金属表面の粗さは 3~6 μmであり研

磨した場合でも 002~025 μmである

アンカー効果とはこのような被着材の凹部に流入した接着剤が固化し被着部に引っかか

ることにより界面が結合するというものであるアンカー効果のような界面との相互作

用を無視した接着効果理論を機械的結合論という

開口部を有するクレバスへの液体の流入について理論式が提案されている

以下の 2式は液体の粘度 η接触角θの液体が深さ Zまで浸透するまでの時間 tを表し

(a)開口部の幅がδの平行板の場合

Zdz

dt=

120575119910

120575120578120574 cos 120579

(b)開口部δ深さ Z0の V型溝の場合

11988501198971198991198850

1198850 minus 119885minus 119885 =

120575120574 cos 120579

6120583119905

となる式によれば開口部が大きくぬれがよく粘度の低い液体ほどまた時間をかけ

たほど深くまで侵入できるとされる

7

Fig3-4 アンカー効果

2)分子間相互作用

ふたつの物体の接着面で分子同士が接触するところで互いにひきつけあう力が働くこと

で接着するとするもの代表的なものにファンデルワールス力結合水素結合が存在す

3)化学的結合

界面に化学結合が存在することで接着強さに寄与するとするものである古くから提唱

されている説であるが化学結合の存在の証明が難しく接着系の界面に本当に化学結合

が存在するのかは十分に検証されなければならないとされる

4)表面自由エネルギーと表面張力

物質の内部と表面では性質が異なる内部の分子は周囲を分子に囲まれており分子間

力で互いに引き合うため安定化されるこれに対し表面の分子には周囲を囲む分子が内部

に比べて少なく内部分子と比べて不安定=エネルギーが高いということになるこの余

分のエネルギーを表面自由エネルギーと呼ぶ

表面積が小さいほど表面自由エネルギーは少なくなるため物質の表面では表面を

小さくしようとする力が働くこの力を表面張力と呼ぶ

5)ぬれと接着角

固体表面に液体が存在するとそれぞれの表面自由エネルギーとその間の界面自由エネ

ルギーとのバランスによって液体が広がり固体表面が液体表面に置き換えられるこの

現象がぬれである固体表面のぬれは材料表面の親水性疎水性や接着強度と直接関係

しているため接着の分野ではきわめて重要である固体表面に液滴を落とすと個体の

表面張力γS と液体の表面張力γL 固体と液体の界面張力γSL が釣り合うことによってあ

る角度θで平衡になるこのとき固体と液体空気の境界点 A における力の水平成分の

釣り合いから次式の Young-Dupreの式が得られる

120574119878 = 120574119878119871 + 120574119871 cos 120579

8

自然状態では表面張力により液体は球状になるこの式は固体表面上での液体を広げよ

うとする力と球状を保とうとする力のつりあいの式である

Fig3-4 固体表面上の水滴

また界面自由エネルギーγ12 で接着している二種類の物質を引き離し表面自由エネルギ

ーγ1γ2をもつ二つの物質に分けるのに必要な仕事(これを接着仕事という)Waとすると

119882119886 = 1205741 + 1205742 minus 12057412

であらわされるこれを Dupreの式と呼ぶ接着仕事とはふたつの物質を引き離すのに必

要な仕事であるからWaの値が高いほど接着強度が強いということになる

個体と液体との関係においてこれら二式をあわせると

119882119886 = 120574119871(1 + cos 120579)

を得るこれを Young-Dupre の式という液体の表面張力と接触角から接着材の接着強

度が分かるという式になっている

6)接着力低下因子と表面処理

接着は清浄な面と面の接触が前提である金属表面は清浄であれば 1000~3000 mNmの

表面張力があるはずであるが大気中では数十mNmの値をしめすこれは異物が付着した

り酸化されていたりするためである特に表面がもろい物質でおおわれていると剥離時に

もろい面での剥離が起こり見かけ上弱い接着強度となる事がある

このような金属表面の表面張力の低下を防ぎアンカー効果において適切な凹凸を金属表

面に付与し接着強度向上を図るために洗浄と研磨を行うのが望ましい

5実験方法

41使用する器具

100 mL ビーカーガラス棒ホールピペット安全ピペッターピンセットキムワイ

プ電気炉2 L ペットボトル紐アルミ角材(10 times 30 times 30 mm)サンドペーパー

はけ

9

42試薬の物性

ケイ酸ナトリウム a)

ケイ酸のナトリウム塩で種類が多いいわゆる水ガラスも多くの場合はケイ酸ナトリウム

であるがその組成は安定していない単一物質として得られているものだけでもメタ

ケイ酸ナトリウム Na2SiO3およびその種々の割合の水化物オルトケイ酸ナトリウム

Na4SiO4二ケイ酸ナトリウム Na2Si2O5四ケイ酸ナトリウム Na2SiO9 などがあるオ

ルトケイ酸ナトリウム Na4SiO4=18405二酸化ケイ素と水酸化ナトリウムを適当な条件

で融解すると得られる水溶液で両者を反応させたのではオルトケイ酸ナトリウムの結晶

は得られずにメタケイ酸ナトリウムの水化物になってしまう無色六方晶系の結晶酸

と加熱していると二酸化ケイ素が沈殿している

酸化マグネシウム b)(MgO)

式量 4030

融点 2852

沸点 3600

一般にアンモニウム塩水溶液に溶けるがエタノールに不溶空気中で水と二酸化炭素を

吸収し炭酸水酸化マグネシウムに変化する水と反応して水酸化マグネシウムとなる耐

火レンガマグネシアセメントの製造原料医薬品として制酸剤の原料となるほか触媒

または吸着材ゴム工業にも用いられる

酸化亜鉛 c)(ZnO)

式量 8138

密度 547 gcm3

無定形の白色粉末水にはほとんど溶解しないが両性酸化物で希酸や水酸化アルカリ

水溶液アンモニア水に溶解する空気中で湿気と二酸化炭素を吸収する白色顔料とし

てペイント絵の具などに用いられるほか粒子の細かいものは医薬品化粧品として用

いられる

酸化カルシウム d)(CaO)

式量 5608

融点 2572

沸点 2850

密度 340 gcm3

10

酸に可溶空気中の湿気を吸収して水酸化カルシウムとなりまた空気中の二酸化炭素を

吸収して炭酸カルシウムとなる水と反応して水酸化カルシウムとなるしっくいモル

タルなどの建築材料石膏さらし粉消石灰の原料医療用に用いられる医療用に用

いられる酸性土壌改良にも用いられる

炭酸カルシウム e)(CaCO3)

式量 10009

融点 1339

二酸化炭素を含む水には炭酸水素カルシウムとして溶解する酸には二酸化炭素を発生し

て容易に溶ける加熱すると二酸化炭素と酸化カルシウムに解離する

二酸化ケイ素 f)(SiO2)

式量 6009

低温ではフッ素フッ素酸水素酸だけが反応する高温では他のハロゲン元素とも反応す

る水酸化アルカリ炭酸アルカリと融解すると水溶性のアルカリケイ素酸塩となる

43実験操作

431被接着面の均一化

1)10times30times30 mmのアルミ角材の表面をサンドペーパーで汚れがなくなるまで削る

2)削った表面をアセトンで洗浄する

3)洗浄が終わったアルミ角材の重量を測り記録する

432ケイ酸ナトリウムのみの接着剤の作製

1)100 mL ビーカーにケイ酸ナトリウム 50 g を加え粘り気が残るぐらいまでイオン交換

水を加えガラス棒で撹拌する

2)アルミ角材の 10times30 mm の面にはけを用いてケイ酸ナトリウム溶液を均一になるよう

に塗りアルミ角材を重ね合わせる

3)150にセットした電気炉に接着面がずれないように慎重に置き 1時間焼成する

433添加物を加えた接着剤の作製

1)100 mLビーカーにケイ酸ナトリウム 50 g添加物(酸化マグネシウウム酸化亜鉛

酸化カルシウム炭酸カルシウム二酸化ケイ素)を 010 gから 010 gずつ 20 gまで加

え粘り気が残るぐらいまでイオン交換水を加えガラス棒で撹拌する

2)アルミ角材の 10times30 mm の面にはけを用いてケイ酸ナトリウム溶液を均一になるよう

に塗りアルミ角材を重ね合わせる

3)150 にセットした電気炉に接着面がずれないように慎重に置き 1時間焼成する

11

5評価方法

51接着強度の評価

1)432433で接着したアルミ板にひもとペットボトルを用いて Fig5-1のように設置す

アルミ角材

Fig5-1 接着面の破壊

2)ペットボトルに少しずつ水を加え接着面が完全に離れた時点を破壊終了点とする

3)破壊終了点でのペットボトルに入っている水の重量を計測する

52耐水性の評価

1)接着したアルミ角材に水をかけ接着面の変化を観察する

6予想

添加物を加えることで接着強度の増加が期待されるしかし大量に添加物を加えてし

まうとケイ酸の割合が小さくなり接着強度は減少してしまうと考えられ添加物の量と接

着強度の関係性をグラフ化するとある値までは増加しその値を超えると減少していくグ

ラフが得られると考えるそこから最も接着強度が高まる添加物の量を測定する

また添加物が硬化剤の役割をし耐水性の改善も予想される

参考文献

1)日本接着学会『接着剤データブック第 2版』日刊工業新聞社1990P228~229

2) 三刀基郷『トコトンやさしい接着の本』日刊工業新聞社2003P56~67

3) セメダイン(株)『よくわかる接着技術』日本実業出版社2008P34~37

PET

Crash

12

4) ユージン Gロコー『ケイ素とシリコーン』シュプリンガーフェアラーク東京株式

会社1990 P85~113

5) 大木道則大沢利昭田中元治千原秀昭『化学大辞典』東京化学同人1989

b)P884 c)P865 d)P867 e)P1368 f)P1669

6)下井 守村田 磁『大学生のための基礎シリーズ 3 化学入門』東京化学同人2005

P229

7) 吉村壽次『化学辞典第 2版』森北出版2009a)P425

8)大勝 靖一『高分子添加剤の基礎化学と材料設計』株式会社 CMC出版2008P219~235

9)httpwwwfacekyowacojpsciencetheorywhat_contact_angleimg01jpg

2015416取得

1

東京理科大学Ⅰ部化学研究部 2015 年度春輪講書

シクロデキストリンを用いた

包接化合物の生成

水曜班

Ikemura M(2C)Ebihara K(2C) Kataoka T(2K)

ShibasakiK(2OK)TsumedaT(2C)NakaA(2OK)Murakoshi R(2OK)

OkawaT(2C)NoguchiA(2K)SekiguchiK(2K)HashimotoY(2C)

1 動機

6~8 分子のグルコース単位からなるα―14結合の環状オリゴ糖であるシクロデキストリ

ンはその環状構造に由来する包接化合物を生成する性質を示すその特異的な包接形成能

を利用した多くの製品が存在し現在もなお基礎研究分野応用研究分野での研究が行わ

れている

そこで私たちは 7 分子のグルコースからなるβ-シクロデキストリンと 3 種類のカルボン

酸を用いて包接化合物を形成させ酸の構造の違いによる包接作用の比較検討及びシクロ

デキストリンの一部のヒドロキシ基をエステル化させ水に対する溶解性及び包接形成能が

どのように変化するか考察する

2 原理

21 包接化合物

包接化合物は Schlenk によって名づけられたもので定義によると原子または分子が

結合してできた 3 次元構造の内部に適当な大きさの空孔があってその中に他の原子また

は分子が一定の組成比で入り込んで特定の結晶構造をつくっている物質ということにな

っている前者の骨組み構造の化合物のほうをホスト分子後者の入り込んでいる分子の

ほうをゲスト分子ともよんでいるがこのゲスト分子の大きさや形状はまったくホスト

構造によって規定されるだけで両者の間には弱い相互作用があっても水素結合のよう

な力はなくてもいっこうに構わないのであるこの包接化合物でのゲスト分子とホスト

構造との間の相互作用というのも物理的な吸着系に近いもので非常に弱い van der

Waals 力から高度に配向した双極子間力まで種々のものが存在する 1)

22 シクロデキストリンの包接能

シクロデキストリンはグルコース残基がα-1α-4 結合した環状のオリゴ糖で一般的

にグルコース残基が 6 個のα-シクロデキストリン7 個のβ-シクロデキストリン8個の

γ-シクロデキストリンが知られている

2

Fig1 α-シクロデキストリンの分子構造

シクロデキストリンの構造は底の抜けたバケツやドーナッツのような構造をしており

その環状構造の外側は多くの水酸基に由来する親水性領域が存在し内側の空洞の CH 基に

由来する疎水領域と相反する極性が一つの分子に共存しているがこの空洞内に様々な有

機化合物などを取り込むという包接作用がもっとも特徴的である

三種類のシクロデキストリンはそれぞれ空洞の大きさが相違するためそれぞれ包接化

合物を形成しやすいゲスト分子が存在する内部空洞が比較的小さいα-シクロデキストリ

ンは比較的小さい分子例えばエタノールメタノール等をβ-シクロデキストリンは汎

用性が広く各種ポリフェノールコレステロールメンソール等の香気成分芳香族化

合物等をよく包接するγ-シクロデキストリンは大きい分子である脂肪酸などを包接する

ことが知られている

シクロデキストリンの包接力の原動力は疎水性相互作用と分子間力が主なものとされて

いるつまりゲストは疎水性の高い分子あるいは分子の大きさが空洞にぴったりとフィッ

トするものほどシクロデキストリンがそのゲストを包接する力は大きく包接物を作り

やすい傾向がある逆に親水性が高くシクロデキストリンの空洞にフィットしないよう

なゲスト分子では包接現象は起こりにくいといえるしかしゲスト分子全体がシクロ

デキストリンの空洞内にとりこまれる必要はなく部分的にでも疎水性が高く空洞にフィ

ットすれば包接が可能となるつまりゲスト分子全体がシクロデキストリンより明ら

かに大きいものでも包接作用による効果が観察される場合がある 2)

Fig2 シクロデキストリンがゲストを包接する様子

23 水溶化シクロデキストリン

3

ブドウ糖やショ糖など通常糖質の水への溶解度は非常に高いしかし天然型シク

ロデキストリンは隣接する水酸基との水素結合の為3 種のシクロデキストリンの中では最

も高い水溶性を有するγ-シクロデキストリンであってもその溶解度は 25において水

100 mL に 23 g であり油性物質を包接した場合は一般的にその溶解度はさらに低くな

るそこで水への溶解度を改善するためにシクロデキストリン化学修飾体が製造されて

いるシクロデキストリンの水溶性を向上させる方法として隣接する水酸基をメチル基や

アセチル基などでエーテル化やエステル化する方法がある具体的には部分メチル化β-シ

クロデキストリンやモノアセチル化β-シクロデキストリンが工業的に生産されている

24 包接能の評価について

今回の実験ではゲスト分子としてカルボン酸を用いるシクロデキストリン及び水溶化

シクロデキストリンの包接能の評価については包接化合物に含まれているカルボン酸をア

ルカリで滴定することで求めることができる

3 実験

31 試薬sup3⁾

アジピン酸

分子式C6H10O4

分子量1464

mp153

bp3375 アジピン酸

クエン酸

分子式C6H8O7

分子量19213

mp156~157

クエン酸

シュウ酸

分子式C2H2O4

分子量9004

mp1895

シュウ酸

4

βシクロデキストリン

分子式(C6H10O5)7

分子量113500

n-ブタノール

分子式C4H10O

分子量7412 β-シクロデキストリン

bp1179

エタノール

分子式C2H6O n-ブタノール

分子量4607

mp-1145

bp7833

水酸化ナトリウム

組成式NaOH

分子量4000

mp328

bp1388

無水オクタン酸

分子式C₈H₃₀O₃

分子量27041

mp-1 無水オクタン酸⁶⁾

濃硫酸

分子式H₂SO₄

分子量9808

mp104

32 使用器具

300 mL ビーカーメスフラスコピペット三角フラスコ吸引漏斗吸引瓶ビュレッ

トスタンドボウルガラス棒

5

33 実験操作

331 エステル化シクロデキストリンの合成 ⁵⁾

1)三角フラスコにβ-シクロデキストリン 1 g を入れこれに無水オクタン酸 025 mL を加

える

2)触媒として 2-3 滴の濃硫酸を添加し攪拌する

3)約 10 分間放置してフラスコを氷桶に入れて冷やしガラス棒でフラスコの壁を強くこす

り結晶を析出させる

4)水 20 mL を加えさらに氷桶で冷やしながら残る結晶を析出させる

5)この結晶を濾分し水で洗ってから取り出して乾かして結晶を得る⁵⁾

332 包接化合物の形成

1)β-シクロデキストリン 1 g を水 100 mL に溶解させる

2)ピペットで 1 mL のカルボン酸を加えコルク栓をして静置する

3)1 週間程静置し包接化合物を吸引濾過する

4)上記の操作をカルボン酸(酢酸シュウ酸クエン酸)で行う

5)エステル化シクロデキストリンで同様の実験を行う

333 包接能の測定

1)よく乾燥した包接化合物約 1 g をメスフラスコで 100 mL 溶液とする

2)この溶液 20 mL にフェノールフタレインを指示薬として20 mL 加え 01 M 水酸化ナト

リウム標準溶液で滴定する⁴⁾

334 溶解度の測定

1)100 mL の水に 5 g の β-シクロデキストリンを溶解させる

2)沈殿をろ過し乾燥して重量を測定する

3)エステル化 β-シクロデキストリンで同様の作業を行う

参考文献

1) 竹本喜一包接化合物の化学東京化学同人1969p2

2) 辻堅司シクロデキストリンの応用技術株式会社シーエムシー出版2008p3-p9

3) 大木道則大沼利昭田中元治千原秀明化学大辞典東京化学同人1989

4) 発田寿々子教養の化学実験第 2 版学術図書出版社2014p119

5) 南篠正男先生と生徒のための化学実験共立出版株式会社1986p155

6) 「 chemical book 」〈 wwwchemicalbookcomchemicalProductPropert_JP_CB 〉

(2015418 アクセス)

1

東京理科大学Ⅰ部化学研究部 2015年度春輪講書

ダブルネットワークの合成と評価 木曜班

OnizukaM(2C)TanakaR(2C)YamamokaH(2K) OhiraM(2K)

1背景

現在高分子ゲルは紙おむつの高吸水性樹脂やソフトコンタクトレンズなど私たちの生

活において活躍しているしかし高分子ゲルは不均一な構造なため一般的に機械的強

度が弱いという欠点がある高分子ゲルの強度面での弱点を克服するために従来では

ゲルの構造を均一化して強度を上げるというアプローチがとられてきた

しかしながら材料の弾性とじん性は反相する因子として働くつまり大変形に耐え

られるゲルは弾性率を犠牲とし高弾性のゲルは小さい変形で破壊される

そこで私達木曜班は前述の問題の解決策と成り得るものとしてダブルネットワーク

ゲル(DNゲル)について注目した

2目的

既存に作られている DNゲルは溶媒に水を用いたハイドロゲルであるDNゲルはその

強度や柔軟性により生体内での人工関節に使用することが期待され研究がおこなわれて

いる木曜班では DNゲルを生体内の関節だけでなく機械の関節部の摩擦軽減材料として

の使用を提案するしかし従来の DNゲルは溶媒が水であることにより水の沸点である

100以上の条件下では性能の低下が問題視され高温になりうる機械への応用が困難で

ある

溶媒を水から有機溶媒に変更することで高温条件下でのゲルの機能維持を試みるとと

もに使用するモノマーを変更しその機能性を検討する

3原理

31 DNゲル

311ゲルの脆弱性

一般的なゲルはゼリーや豆腐のように僅かな力を加えただけで簡単に壊れるほど

弱いこの理由は 2つの現象により説明することができる

1)ゲルの内部に多数の欠陥が存在する

2)欠陥から発生した初期亀裂が容易に伝播する

前者はゲル内部の構造が不均一であることに由来するゲル合成時におけるモノマ

ーと架橋剤の反応性の違いにより不均一な重合がおこるあるいはゲル化溶液内の濃度

揺らぎが重合によって固定されることだと考えられている 1)こうしたゲルに力を加えた

2

時にゲルの弱い部分に力が集中してしまうため小さな力でも初期亀裂が生じてしまう

後者はゲル内部のポリマーの密度の低さから生じる一般的に物質内における亀裂

の進みやすさは破壊エネルギーU(Jm2)(単位面積あたりの破断面形成に費やされる仕事)

によって評価される架橋高分子材料の臨界破壊エネルギーUc(亀裂成長が起こる最小

の破壊エネルギー)は破断面の高分子鎖の数密度と架橋点間分子量に比例する 2)つま

りゲルのじん性(物質の破壊に対する抵抗の程度で粘り強さとも言い換えられる 3))はゲ

ル内のポリマーの密度には比例し架橋密度には反比例することがわかる

ゲルは 50~99wtの溶媒を含んでいて高分子の密度が非常に低い物質であるためゲ

ルの Ucはゴムなどの固体に比べてかなり小さいことが考えられる

これまでの高強度ゲル研究は主に前者の問題を解決するすなわち構造を均一化するこ

とでゲル内部の欠陥を極力減らして強度を改善しようという観点から行われてきた

312 ゲルの弾性率

高分子鎖が三次元架橋されたゲルはゴムと同じようにエントロピー弾性を持つ溶液

中に完全に湿潤した電気的に中性ゲルのせん断弾性率(横方向に対するバネ係数 4)であり

Young率 Eと E=3Gの関係式が成立する)は

GneucongkBT

b3Q-225

以上の式で表せられゲルの湿潤度 Qの増加にともないせん断弾性率Gneuは大きく低下

するここでkBはボルツマン定数Tは温度bは重合させたモノマーの大きさである 5)

一方溶液中に完全に湿潤した電解質ゲルのせん断弾性率は

GchacongkBT

b3Q-1

によって表せる 6)よって同じ湿潤度において電解質ゲルは中性ゲルよりせん断弾性率が

高いことが分かる

またゲルの湿潤度は架橋点重合 N(分子量)による溶液中に完全に湿潤した中性ゲル

の場合QasympN35であり電解質ゲル場合QasympN

32であるしたがって架橋密度を上げる

ことによりゲルの湿潤度が小さくなりせん断弾性率が上がる 3)4)

313 ゲルの破断歪と破断応力

架橋構造が均一と仮定した理想的なゲルの破断歪(ゲルが破壊するまでの変形 7))は架

(1)

(2)

3

橋点間高分子の伸びきった長さと高分子鎖に歪がない曲がった自然な状態での大きさ

の比として求められる溶媒中で完全に湿潤した中性ゲルの引っ張り破断歪はλBcongQ12で

ありQの増加により増加する一方湿潤することにより単位面積あたりの高分子

の本数が減るため破断応力は湿潤度 Qが大きくなることにより減少する故にQが大

きいゲルは伸びやすいが弱い応力で壊れる

電解質ゲルの場合高分子鎖はその解離しているイオンの浸透圧によって水中では

ほとんど伸びきった状態となっているその結果理想状態においても破断歪はλBcongQ19

になるこれは破断歪が小さくかつ湿潤度にあまり依存しないことを意味している 5)

以上のことより

1)架橋密度を上げる(架橋点間分子量を下げる)ことでゲルが固くて脆くなる

2)水中に完全に湿潤した高分子電解質ゲルは中性のゲルより硬くて脆い高弾性と変形は

相反するということが考えられる

314 DNゲルの高強度機構

DNゲルは強電解質をモノマーとする 1st networkゲル電気的に中性なモノマーを用

いる 2nd networkゲルを組み合わせることにより生成される前述した通りゲルにおける

弾性と靭性は常に相反する働きをするそれゆえに単一な物質で両方の性質を得るこ

とは原理的には不可能である同じ湿潤度において電解質ゲルと中性ゲルのせん断弾性

率の比はGchaGneucongQ125であるために両者の違いは湿潤度 Qが高いほど大きくなる

この性質を利用することにより電解質ゲルは硬い成分中性ゲルは軟らかい成分とし

て用いることができる

亀裂を含む DNゲルがある引張荷重を受けると応力集中の効果で最初に亀裂先端近傍

の電解質網目(1st network)が破壊され局所的にゲルが降伏する荷重がますと電解質網

目の破壊が次々に伝播し広範囲にわたるダメージゾーンが形成されていくこの過程

で非常にいい気なエネルギーが分散されるダメージゾーンがある大きさまで広がった

ときようやく亀裂先端に中性網目(2nd network)が十分に伸びて切断し亀裂が進行す

る 8)

4

Fig 1 DNゲルの破壊モデル 9)

32 光ラジカル重合

321 光分解

光重合開始剤に UVを当てることにより開裂がおきラジカルが発生する本研究にお

いては 1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンを用いる 10)

Scheme1 1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンの開裂 10)

ℎ120592

5

322 開始反応

UVを当て光開裂により生じたラジカルがビニル基の二重結合を攻撃し光重合開始剤

と炭素の間に σ結合を作り炭素原子にラジカルが存在することになる

Scheme2 ラジカルの生成

323 成長反応

Scheme2で生成したラジカルが他のモノマーを攻撃しσ結合を生じるそれが何回

も起こることにより分子鎖が成長する 6)

Scheme3 分子鎖の成長

324 停止反応

Scheme 3で成長した成長ラジカル同士が σ結合を作り分子鎖が生成する 7)

Scheme4 分子鎖の生成

4実験

41 DNゲルの合成

411 使用器具試薬

ビーカー乳鉢乳棒薬さじUVライトデシケーター

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸

分子式 C7H13NO4S

式量20724

融点160

用途1st networkゲルのモノマー

6

アクリル酸

分子式C3H4O2

式量7206

融点123

沸点1416

比重10511

危険性引火性(発火温度 360 )

用途1st networkゲルのモノマー

アクリロニトリルの加水分解アクロレインの酸化ニッケルカルボニルの存在下ア

セチレンと一酸化炭素と水との反応などにより合成される酢酸に似た刺激臭を持つ液

体水エタノールエーテルによく溶ける酸素の存在下容易に重合するプラス

チックの原料として用いられる

アクリルアミド

分子式C3H5NO

式量7108

融点845

沸点103

比重1122

用途2nd networkゲルのモノマー

アクリルニトリルを硫酸あるいは塩酸を処理して得られるフレーク状の結晶溶解

性(g100 ml溶媒30 )水 2155メタノール 155エタノール 862アセトン 631

酢酸エチル 126クロロホルム 266ベンゼン 0346ヘプタン 00068化学的に不安

定で冷暗所に保存する必要がある融点付近あるいは紫外線下で重合する重合の仕方

により水溶性不溶性のものが得られる

酢酸ビニル

分子式C4H6O2

式量8609

融点-932

沸点723

比重09317

用途2nd networkゲルのモノマー

無色の液体酸やアルカリよって容易に加水分解されてアセトアルデヒドと酢酸を生

じる熱光ラジカル開始剤によって重合する

7

メタクリル酸メチル

分子式C5H8O2

式量10012

融点-48

沸点1003

比重0936

用途2nd networkゲルのモノマー

無色透明で催涙性の芳香のある液体工業的にはアセトンシアノヒドリンにメタノー

ルと硫酸を作用させて合成する実験室的にはメテクリル酸メチルの重合物を 320

以上で乾留すると得られる一般に有機溶媒には溶けるがエチレングリコールグリセ

リンには溶けにくい重合しやすいので重合禁止剤としてヒドロキノンモノメチルエ

ーテル(65 ppm)を添加して保存する有機ガラスの製造ビニル系共重合体など広く

重合反応に用いられるまたメチル以外のアルコールのメタクリル酸エステルの合成

にも用いられる

NN-メチレンビスアクリルアミド

分子式C7H10N2O2

式量15417

融点300

用途架橋剤

1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン

分子式C13H16O2

式量20427

融点47-50

用途光重合開始剤

最大吸収波長は 260 nm付近にある

エチレングリコール

式量6207

融点 -126

沸点1976

比重11132

8

用途ゲル溶媒

重要な二価アルコールでエチレンオキシドの酸触媒による開環高温高圧下水と

の反応による開環などによって合成される吸湿性無色無臭の液体甘味を有する

が有毒である高沸点を有ししかも水酸化カリウム水酸化ナトリウムを溶解し水や

エタノールと任意の割合で混合するので有機合成における溶媒として広く用いられ

また塩基に対して安定なエチレンケタールの生成によるカルボニル基の保護に用いら

れるさらに酢酸ビニル系樹脂の溶剤や水と混ざり高沸点のため不凍液に用いら

れるなど広い用途を持っている

412 1st networkゲルの作成

1) 1st networkゲルのモノマー(電解質モノマー)架橋剤(NN-メチレンビスアクリルア

ミド)と光重合開始剤(1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)を水に溶解させた水

溶液を調製する

2) UVを 8時間照射して光ラジカル重合をさせる

3) 2)で合成した電解質ゲルを乳鉢に入れ適当なサイズに砕いた後デシケーター内で一

週間ほど乾燥させる

413水溶媒 DNゲルの作成

1) 2nd networkゲルのモノマー(中性モノマー)架橋剤(NN-メチレンビスアクリルアミ

ド)光重合開始剤(1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)をエチレングリコールに

溶解させた溶液を調製する

2) 乾燥した電解質ゲルを 1)で調製した水溶液に入れ電解質ゲルを十分に膨らませるそ

の後UVを照射し中性モノマーを光ラジカル重合させる

414エチレングリコール DNゲルの作成

1) 2nd networkゲルのモノマー(中性モノマー)架橋剤(NN-メチレンビスアクリルアミ

ド)光重合開始剤(1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)をエチレングリコールに

溶解させた溶液を調製する

2) 乾燥した電解質ゲルを 1)で調製したエチレングリコール溶液に入れ電解質ゲルを十分

に膨らませるその後UVを照射し中性モノマーを光ラジカル重合させる

42 DNゲルの評価

421引っ張り試験

使用するモノマーの変化によるゲルの性質の差を評価する引っ張り試験は

JIS-K-6251-7号に準拠する方法で測定する

9

1)DNゲルを X方向の長さ 50 mmY方向の長さ 75 mmZ方向の長さが 25 mmの大

きさに成形する

2)その一端部に X-Y平面に平行な切込みを入れて2つの引張端部を形成する

3) 引張端部を片方は固定しもう片方を一定の速度で引っ張るこのときの引っ張る力 F

を測定する

Fig 2 引っ張り試験 13)

422 摩擦試験

使用するモノマーの変化溶媒の変化によるゲルの性質の差を評価する

摩擦試験は東京理科大学工学部第一部機械工学科佐々木研究室に依頼する予定である

用いる機械は SVR4パーカー熱処理工業株式会社製であり180での高温での摩擦係

数の測定が可能である

摩擦測定は常温(20 )と高温(100 )で測定することを予定している

10

5 展望

51 DNゲルの合成

実験操作は溶液を調製した後UV照射するという簡易な手順なので合成は比較的早い

段階で成功すると考えられる

1st networkゲル合成に使うのは電解質モノマーなため水溶液のモノマーの濃度が低

いと湿潤度 Q が大きくなりせん断弾性率が下がり剛性が弱いゲルが出来上がると考え

られる

架橋剤を多く使用すると架橋密度を上がるので 2nd networkゲルが入り込む空洞が小

さくなるそのために架橋剤が多すぎると高弾性のゲルが生成できると考えられる

また同様な考えで2nd networkモノマーが含まれている水溶液に乾燥させた1st network

ゲルを入れる量が多くても高弾性のゲルが生成できると考えられる

52 DNゲルの物性

ゲルの高分子網目は基板から離れようとするときにゲルと基板の間に僅かな溶媒層

が生じるこの状態では溶媒層が潤滑油のような働きをして生じる摩擦力は小さなも

のとなるゲル周辺が高温な状態ではこの溶媒層が水の場合は蒸発してしまうので摩

擦力は増大すると考えられる溶媒を水からより沸点の高いエチレングリコールなどに

変えれば摩擦力は増大することはないと推測される 14)

11

参考文献

1) J Bastide and L LeiblerMacromolecules1988212647

2) G G J Lake and A G ThomasProc R Soc LondonA1967300108

3)越後亮三 機械工学辞典 朝倉書店 2007 p631

4) 伊藤勝悦 やさしく学べる材料力学 森北出版 2014 p14

5)SPObukhovMRubinstein and RHColby Macromolecules 1994273191-3198

6)MRubinsteinRHColbyAVDobrynin and JJaonnyElasticMacromolecules199629398-406

7) 大 阪 府 立 大 学 基 礎 講 座 材 料 の 強 度 と 破 壊

httpwwwengmmtrosakafu-uacjpresearchstrength-japdf2015413取得

8)聾剣萍「生命科学時代の新材料-高弾性高靱性ダブルネットワークゲル」高分子学会

『高分子』高分子科学最近の進歩58巻 5号2009p327-p331

9)YTanakaEurophysLett20077856005

10)蓮池幹治ラジカル重合ハンドブックエヌティーエス2010p444-p445

11)大津隆行ラジカル重合(Ⅰ)化学同人1971p80-p81

12)大津隆行ラジカル重合(Ⅰ)化学同人1971p153-p154

13)聾剣萍高分子ゲルおよびその製造方法特開 2009-185156 2008-02-05

14) 角五 彰龔 剣萍長田義仁「ゲルの摩擦と水和潤滑~生物の滑らかな運動解明への

アプローチ」日本生物物理学会『生物物理』47巻 4号2007p 253-p258

1

東京理科大学Ⅰ部化学研究部 2015年度春輪講書

耐塩性の高い新規化粧品用増粘剤の開発 2015年度金曜班

Nomata N(2OK)Seki M(2OK)Tin J(2OK)Takahashi R(2C)Watanabe A(2K)

Asai D(2K) Nishimiti D(2K)Yamamoto R(2K)

1 動機

化粧品において増粘剤の果たす役割は非常に大きい

化粧品にはクリーム状のモノが多くありその整形には増粘剤が必要不可欠である

また増粘剤は製剤だけでなく密閉効果や水和効果によって薬剤を皮膚に効率的に輸

送することに役立っている

この増粘剤であるが一つ課題がありアスコルビン酸塩(ビタミン C)のようなクロロ

基を持つ塩系薬剤をゲル中に含む場合経時によってべたつきといった使用感の悪化

につながるといった弱点があるこの問題の解決のために塩系薬剤への耐性の高い増

粘剤の開発が望まれている

塩系薬剤の高い美容効果からこの問題の解決に対する化粧剤企業のニーズは高くこ

の問題は長く研究が続けられていたが近年資生堂が逆相マイクロエマルション重

合法によって microスケールの粒状高分子を多数合成することによりできる増粘剤が高い

耐塩性を持ち使用感もよいことを発見したがこの粒状高分子増粘剤には未だ試み

られていないモノマーが多くある

そこで今年度の金曜班ではこの逆相マイクロエマルション重合法において未だ

試みられていない親水基を持つモノマーを利用して新規の増粘剤をつくることで粒

状高分子による増粘剤の耐塩性と肌触りと親水基の関係を調べ応用化に利すること

ができるのではないかと考え実験を行うこととした

2 背景

増粘剤とは水溶液をゲル化するために添加される物質であり化粧品において広く

用いられているこの増粘効果は従来では高分子鎖同士の分子間力や架橋で生じる

網目構造の結果生じる液中の摩擦力によるものである

動機で述べたように μスケールの粒状高分子が増粘剤として良質であることがわか

っているただし粒状高分子の形状は反応場であるセッケンミセルの大きさだけで

なく親水基やポリマーを構成する原子同士の分子間力によって変わる高分子の立体構

2

造にも影響されている

また粒状高分子の正確な一次構造を把握することは大変難しいことであるので

応用化のためには高分子の一次構造でなくモノマーによって粒状高分子特性の変化

を調べることが重要である

さらに従来用いられているポリマーがスルホ基とカルボキシル基を親水基とする

ものしか存在しない

以上の三点から酸以外の親水基をもつモノマーで増粘剤を合成したときその性

質はどうなるかを調べることでより製品として利用価値が高い粒状高分子増粘剤を合

成することができるのではないかと考えた

そこで新規モノマーとしては対照実験を行うためにアクリルアミド系モノマー

でかつ 2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸のスルホ基と同じ炭素骨格の先

端に親水基が存在するものとしてN-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド (3-アク

リルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライドを用いてそれぞれ親水基が酸

ではなくヒドロキシ基である場合親水基がアニオンではなくカチオンである場合に

ついて研究を行うこととした

この二種の以外にも水溶性のアクリルアミドポリマーは存在するが上記の条件を満

たさないまたは高価であるため本実験では用いないこととした

Fig1 N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド

Fig2 (3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライド

3

3 原理

31 一般的な液体の粘性

溶液の粘性は一般論では以下のように表される

Fig3のように XY平面を取り液面に平板を用意し引っ張った時挟まれた溶液内

には図のようなせん断流動が発生する高さ Yでのせん断速度は(119881

119889) 119910で与えられる

この時平板に挟まれた溶液を薄層の集まりと考えると隣り合う薄層間に摩擦が生

じるこの内部摩擦力が粘性力であるずり速度勾配が十分に小さければ平板の単位

面積当たりに生じる粘性力 Fv0はその勾配 Vd に比例するすなわち以下の式で表

され1205780を粘性係数と呼ぶこの値は溶媒固有である1)

1198651199070 = 1205780 (119881

119889)

Fig3 溶液ずりせん断図

32 増粘剤の粘性

増粘剤の多くは低分子の液体に高分子を溶かすと著しく粘性が高くなる性質を利

用している

この粘性の発生するメカニズムは下の Fig4において平板間の溶液を薄層に分けた

際高分子鎖は溶液の移動に伴って回転するこのとき溶液中の薄層は薄層間の摩

擦以外に高分子鎖との間にも摩擦が生じているこの摩擦の増加が粘性力の増加とな

る 2)

4

Fig4 高分子による粘性増加

また高分子鎖同士が分子間力によって結びつき三次元構造を形成することで内

部摩擦力は一層大きくなるこのため高分子による増粘効果は顕著である

架橋高分子では三次元構造が高分子鎖同士の分子間力による形成よりも強いものと

なるので増粘効果及びレオロジー特性に優れる 3)

33 塩系薬剤による粘性劣化のメカニズム

塩系薬剤とはビタミンC (アスコルビン酸塩)のようにクロロ基をもつ薬効物質のこ

とである

このクロロ基が直鎖高分子や架橋高分子がポリマー間で形成する三次元網目構造

を破壊することによって増粘効果を消失させ内容物の流失によるべたつきを生じさ

せる 3)

34 粒状高分子の粘性

粒状高分子の粘性について粒状高分子はその粒経が小さいほど体積に対する表面

積が増え溶液内での内部摩擦力が大きくなる

また粒子同士が摩擦力を元に網目構造を形成するため網目構造の構成要因が直

鎖高分子や架橋高分子の高分子増粘剤と異なっている 4)

35 逆相マイクロエマルション重合法

後述する転相温度乳化法を用いて形成した5 μm~30 μm 形成したマイクロエマル

ション内において水溶性のモノマーを利用して行う乳化重合法の一種容易に極小の

5

ポリマーを合成することができる 5)

36 界面活性剤の概略

界面活性剤とは分子の構造が水になじみやすい部分(親水基)と油になじみやすい

部分(新油基)からできていて2つの物質の間の界面に集まりやすい性質を持ちそ

の界面の性質を著しく変える物質というのが界面活性剤の定義である

代表的な界面活性剤の特徴は界面における「吸着」と「ミセル形成」である 6)

もうひとつの代表的な作用として「可溶化」もある

37 エマルションの形成

界面活性剤に有機溶媒が取り囲まれて水に可溶化されたとき水溶液中に存在する

有機溶媒を界面活性剤が取り囲んだ液滴のことを OW エマルションと呼ぶ

有機溶媒中に水が可溶化される場合WOエマルションと呼ぶ

38 ノニオン界面活性剤

非イオン界面活性剤とも言う界面活性剤の内解離基を持たず電気的に中性な

界面活性剤で親水基は主にポリオキシエチレン基であるその特殊な性質上他の種類

の界面活性剤に無い性質として曇点と転相温度を持つ 今回使用するノニオン界面

活性剤はポリオキシエチレンオレイルエーテルであり基本式は以下のような形にな

る 7)

R-O(CH2CH2O)n-H

Scheme 1 ポリオキシエチレンオレイルエーテルの基本式

39 曇点

曇点とは透明な液体が相分離を起こして白濁する温度のこと

本実験においてはノニオン界面活性剤が加温によって界面活性効果を失い相分離

によって白濁する温度のこと 8)

310 転相温度乳化

ノニオン界面活性剤は加温によって界面張力が変化しWO型エマルションから

OW 型に変化するこの変化点のことを転相温度と言い転相温度において界

6

面張力が最低になっているので溶液エマルションが極小になる

またこの転相温度は界面活性剤に固有の値となるので二種の比較的性質の

近い界面活性剤を混合することで転相温度を操作し適切な温度で5 μm~30 μm

程度の直径を持つエマルションを作成する方法を転相温度乳化法と呼ぶ 10)

311 ラジカル重合

開始剤を用いてラジカル種を生成して行う重合法のことをラジカル重合法と言う

開始剤の分解要因によって熱光放射線ラジカル重合の三つに分けられる 10)

3111 ラジカル重合を構成する四反応

ラジカル重合は 4種類の反応が同時並行的に起こるそれぞれ以下の通りである 11)

開始反応

開始剤が熱光放射光などの要因によってラジカル開裂を起こしラジカル種を

生じさせる反応

成長反応

ラジカル種がモノマーと反応することでモノマー新たなラジカル種が生成する

反応これが連続することでポリマーが合成される

停止反応

連鎖していた成長反応が止まる反応主にラジカル種同士の反応による

連鎖移動反応

ラジカル種がモノマー以外の分子主に溶媒分子等と反応することでポリマー以

外の物質を合成する副反応

3112 乳化重合

乳化重合はモノマー液滴と呼ばれるモノマーを大量に保存しているエマルシ

ョンと反応場となる極小のセッケンミセルの二つの構造を持つ溶液中で行う不均

一系ラジカル重合の一種である 12)

成長反応が一段階進むたびにモノマー液滴から拡散の理論式に従ってモノマ

ーがミセル内に移動するこの一連の反応を繰り返して反応が進む 13)

そのため種々のラジカル重合法と比較して以下の特長がある 13)

セッケンミセル内に存在するラジカルが常に一つであるため停止反応が

7

起こりにくく比較的重合度の高いポリマーが生成しやすい

反応速度が拡散作用によって律速されかつセッケンミセルの周囲を大量

の溶媒分子が囲んでいるため除熱が容易であるという理由から熱暴走を起

こしにくいという利点がある

ミセル内で重合するため合成した高分子が絡まりやすく粒状の分子が作

成できる

Fig5 乳化重合模式図

312 MS(質量分析法)

質量分析法とは分子の質量すなわち分子量を測る手段でもあるまた分子を分解

したフラグメントの質量を測ることによって分子構造に関する情報を得るものでも

ある

高エネルギー電子が有機分子にぶつかると分子から電子がはじき出せれカチオ

ンラジカルが発生する

119825119815 rarr 119825119815++119838minus Scheme 2カチオンラジカルの発生

電子の衝突により大量のエネルギーが分子に与えられることで大部分のカチオン

ラジカルを生成した後フラグメントに分解するフラグメントは小さな破片となっ

て浮遊し正電荷や中性となる

このカチオンラジカルとフラグメントについてmz値を横軸相対強度を縦軸につ

いて取ったグラフから質量スペクトルを読み取る 14)

またMS(質量分析法)はイオン化の方法などによりいくつかに分けられ今回使用

したいのは高分子試料でもほとんどフラグメンテーションを起こさないソフトなイ

8

オン化法であるMALDI法 15)である

3121 MALDI法(マトリックス支援レーザー脱離イオン化法)

試料を 25-ヒドロキシ安息香酸のような適切なマトリックス上に吸着させて

ペレットを作成しレーザー光を短時間照射してイオン化する

エネルギーがマトリックスから試料に移動し[119872 + 119867119899 ]119899+に分解される 15)

MALDI法にはよく TOF型の MSが用いられている

4 実験

41 2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を用いた既存化粧品用増粘剤の合成

411 使用器具試薬

温度計ウォーターバスビーカー薬さじデシケーター

ジメチルアクリルアミド

式量9913

沸点81

発火点71

LD50(経口)316mgkg

LD50(経皮)580mgkg

製造和光純薬工業株式会社

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸

式量20725

融点200

LD50(経口)5400mgkg

製造和光純薬工業株式会社

NN-メチレンビスアクリルアミド

式量156

沸点4451

発火点215

LD50(経口)390mgkg

製造東京化成工業株式会社

9

へプタン

式量1002

沸点98

引火点-4

水に不溶

製造昭和化学

2-プロパノール

式量60

沸点82

発火点12

LD50(経口)区分外(GHS分類)

LD50(経皮)区分外(GHS分類)

製造昭和化学

ペルオキソ二硫酸アンモニウム

式量22820

冷水に易溶保存湿気厳禁

重合開始罪乳化重合レドックス重合に用いられる

製造和光純薬工業株式会社

412 実験手順

① ビーカーにイオン交換水ヘプタンポリオキシエチレンオレイルエーテル(2)

(8)をそれぞれ507 mL 507 mL489 g((2)(8)=23)加えて良く撹拌したも

のを入れる

② その後その後温度調節機能つきスターラーに乗せ白濁するまで加熱する

白濁した液が透明化するまで温度を落とし電気伝導率計を用いて溶液が転

相温度付近に保たれていることを確認する

③ 以上の操作が済んだ重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先

ほどのスターラーと同じ温度にしたウォーターバスに移し2-アクリルアミド

-2-メチルプロパンスルホン酸NNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 137 g

262 g入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始

剤としてメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

10

④ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

42 N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミドを用いた新規化粧品用増粘剤の合成

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を誘導体と入れ替える以外の

操作は 41に準ずる

親水基による増粘性の変化を観察するため架橋剤のモノマーに対する濃度比

は 2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を使用したポリマーが最も増

粘効果の高くなると報告された濃度比を用いる

421 使用器具試薬

使用器具は 41に準ずる

試薬

N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド

式量11513

沸点130

発火点189

製造東京化成工業株式会社

422 実験手順

① 412 ①②と同じように重合系を作成する

② 以上の操作が済んだ重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先

ほどのスターラーと同じ温度にしたウォーターバスに移しN-(2-ヒドロキシエ

チル)アクリルアミドNNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 076 g262

g 入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始剤と

してメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

③ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

11

43 (3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライドを用いた新規化粧品用

増粘剤の合成

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を誘導体と入れ替える以外の操作は

41に準ずる

親水基による増粘性の変化を観察するため架橋剤のモノマーに対する濃度比は 2-ア

クリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を使用したポリマーが最も増粘効果の高く

なると報告された濃度比を用いる

431 実験器具

実験器具は 41に準ずる

試薬

(3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライド

式量22074

沸点100

製造東京化成工業株式会社

432 実験手順

① 412 ①②と同じように重合系を作成する

② 重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先ほどのスターラーと

同じ温度にしたウォーターバスに移し (3-アクリルアミドプロピル)トリメチ

ルアミニウムクロライドNNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 123 mL

262 g入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始

剤としてメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

③ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

5 評価分析

耐塩性の高い増粘剤の耐塩性と使用感と親水基との関係を評価するために以下の二

つの測定を行い評価する

増粘剤の耐塩性の評価のために塩酸を増粘剤内部に取り込ませた状態で経時

12

による粘度の変化を観察する

また高分子の粘性を考える上で直鎖高分子の場合よく参考にされるのが平

均分子量でありこの値を測定することで親水基が変化した場合に平均分子

量が粒状高分子の粘性にも大きく影響するか確認する

精密に上の測定を行うには専用の機器が必要になるため機器メーカーの株式

会社エーアンドデイ様または東京理科大学理学部応用化学科駒場研究室に

また高分子の性質を考える上で重要視される平均分子量及び分子量分布に

ついては東京理科大学化学系機器センターにあるMALDI-TOF型質量分析計を管

理者の東京理科大学理学部応用化学科の根岸先生に測定に協力していただこうと

考えている

6 謝辞

東京理科大学工学部工業化学科 近藤行成教授

東京理科大学理学部化学科 遠藤恆平准教授

東京理科大学理学部応用化学科 駒場慎一教授

この研究を進めるに当たり大変お世話になった先輩先生方企業の皆さんに感謝の

意を表明します

参考文献

1) 小澤美奈子 基礎高分子科学 高分子学会 編 2010年 第六版 p979899

2) 小澤美奈子 基礎高分子科学 高分子学会 編 2010年 第六版 p99100

3) 金田 勇 逆相マイクロエマルション重合法による水膨潤性ミクロゲルの重合とその増

粘剤としての応用 2010年 p1

4) 小林敏勝 福井寛 きちん知りたい粒子表面と分散技術 日刊工業新聞社 p76

5) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 2006 p839 840 841

6) 皆川基 藤井富美子 洗剤洗浄 百科事典 大矢勝 2007年版 p4647

7) 日本産業洗浄協議会編 わかりやすい界面活性剤 工業調査会 2003 p373839

8) 資生堂 HP httpswwwshiseidogroupjprddevelopmentformulationhtmlより 2015

44取得

9) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 テクノシステム 2006 p321

10) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 テクノシステム 2006 p397

13

398399

11) 遠藤 剛 高分子の合成(上)~ラジカルカチオンアニオン重合~ 講談社 2010 3p

12) 佐藤壽彌編 高分子微粒子の技術と応用 シーエムシー出版 2004 p2526

13) 佐藤壽彌編 高分子微粒子の技術と応用 シーエムシー出版 2004 p27

14) マクマリー 上 8版 東京化学同人 p403404

15) John McMurry マクマリー有機化学(上) 第 8版 2013 p410411

Page 15: ゼオライトとキトサンを用いた 金属イオン除去剤の …kaken/studies/2015/2015-s-all.pdf1 東京理科大学I 部化学研究部 2015 年度春輪講書 ゼオライトとキトサンを用いた

4

Fig3-1 核剤の表面からの高分子結晶の成長

a)力学特性の改善

自動車や家電部品の樹脂化率は年々高まり特に自動車においては内外装問わずポリ

プロピレンが多用されるようになった当初はあまり重要でない部分への利用であったも

のの最近ではバンパーフェンダーライナーフロントグリルカウルパネル各種リ

ザーバータンクドアパネルピラーダッシュボードサンバイザーコンソールボッ

クスなどありとあらゆる部分に用途開発が進んでいる高分子材料による金属代替今後

もさらに進められると思われるその理由としては自動車の軽量化はもちろんのこと

設計の自由度(一体成形や金属ではデザインしにくい曲線曲面を複雑に有する部品など)

があげられる自動車部材では機能的に高剛性が求められるものや夏場に高温にさらさ

れる内装部品などは高耐熱性(高い熱変形温度)が求められるものなどがほとんどであり

このような要求性能に応えるべくポリプロピレンに核剤が添加されている

核剤が存在する場合高分子の結晶化が促進され融体の冷却過程においてより高い

温度(より融解温度に近い温度)から結晶化が開始するそのため核剤存在下での結晶化

過程では核剤非存在下での結晶化過程に比較して高分子鎖の運動性が高い状態で結晶

化が開始する核剤を添加した高分子の結晶化開始温度を示差走査熱量計などで測定する

と結晶化が高い温度から開始することも確認されるその結果高分子結晶の欠陥は減

少しまた結晶化度も増大する核剤存在下で結晶化させた高分子結晶は欠陥も少なく

またラメラ厚も厚くなり融解温度が高くなるそのような効果により成形後の高分子

材料の力学特性耐熱性が改善する

5

Fig3-2 核剤の添加のよるポリプロピレンの曲げ弾性率の改善効果

()アデカスタブ NA-11()Hyperform HPN-68 L

()安息香酸ナトリウムポリプロピレン

Fig4-2に核剤の添加によるポリプロピレンの曲げ弾性率の改善効果について示したま

ず核剤を添加することでしかも僅か 01~03 wt程度の添加で曲げ弾性率が劇的に向

上していることが分かるその中で比較すると汎用である安息香酸ナトリウムや HPN-68

Lでは弾性率の改善はあるものの(おおよそ 30の弾性率改善)01 wt程度の添加で改

善効果は飽和する添加物を加えることで剛性耐熱性を大幅に改善できることがわかる

このような改善効果は自動車用に多用されるポリプロピレンのグレードであるインパクト

コポリマーにおいても同様であるさらに核剤の添加により結晶化が促進された結果成

形時間も短縮でき高性能化と相まって生産性改善によるコストダウンも可能となる核

剤はもとのポリマーが有する特徴を損なうことなく物性を改善できるといったメリット

があるといえる

32 縮合重合反応

二つの化合物から水などの簡単な分子が脱離して新たな結合が形成される反応を縮合反

応とよぶカルボン酸とアルコールからエステルを得る反応は縮合反応の一例である

縮合反応を繰り返すことによりポリマーを合成することができるこれが脱水縮合反応

であるたとえば 2個のカルボキシ基をもつ分子と 2個のヒドロキシ基をもつ分子を反応

させると縮合反応が連続して起こりポリマーが得られる本実験では Fig3-3 の反応が

起こる

6

Fig3-3 ケイ酸の脱水縮合反応

33 接着の原理

接着剤による接着効果には複数の理論が挙げられており賛否両論あるものもあるま

た個々の接着現象においても複数の接着効果が絡み合っていることが多く接着効果の

検証は困難であるとされるある接着系では適用できる接着効果が別の系ではまったく無

力ということも多い以下に主な接着効果の理論をあげる

1) アンカー効果

雲母を注意深くはがしたようなごくわずかな例外を除きすべての固体表面は数Åオ

ーダーの粗さを有する例えば機械で製造される金属表面の粗さは 3~6 μmであり研

磨した場合でも 002~025 μmである

アンカー効果とはこのような被着材の凹部に流入した接着剤が固化し被着部に引っかか

ることにより界面が結合するというものであるアンカー効果のような界面との相互作

用を無視した接着効果理論を機械的結合論という

開口部を有するクレバスへの液体の流入について理論式が提案されている

以下の 2式は液体の粘度 η接触角θの液体が深さ Zまで浸透するまでの時間 tを表し

(a)開口部の幅がδの平行板の場合

Zdz

dt=

120575119910

120575120578120574 cos 120579

(b)開口部δ深さ Z0の V型溝の場合

11988501198971198991198850

1198850 minus 119885minus 119885 =

120575120574 cos 120579

6120583119905

となる式によれば開口部が大きくぬれがよく粘度の低い液体ほどまた時間をかけ

たほど深くまで侵入できるとされる

7

Fig3-4 アンカー効果

2)分子間相互作用

ふたつの物体の接着面で分子同士が接触するところで互いにひきつけあう力が働くこと

で接着するとするもの代表的なものにファンデルワールス力結合水素結合が存在す

3)化学的結合

界面に化学結合が存在することで接着強さに寄与するとするものである古くから提唱

されている説であるが化学結合の存在の証明が難しく接着系の界面に本当に化学結合

が存在するのかは十分に検証されなければならないとされる

4)表面自由エネルギーと表面張力

物質の内部と表面では性質が異なる内部の分子は周囲を分子に囲まれており分子間

力で互いに引き合うため安定化されるこれに対し表面の分子には周囲を囲む分子が内部

に比べて少なく内部分子と比べて不安定=エネルギーが高いということになるこの余

分のエネルギーを表面自由エネルギーと呼ぶ

表面積が小さいほど表面自由エネルギーは少なくなるため物質の表面では表面を

小さくしようとする力が働くこの力を表面張力と呼ぶ

5)ぬれと接着角

固体表面に液体が存在するとそれぞれの表面自由エネルギーとその間の界面自由エネ

ルギーとのバランスによって液体が広がり固体表面が液体表面に置き換えられるこの

現象がぬれである固体表面のぬれは材料表面の親水性疎水性や接着強度と直接関係

しているため接着の分野ではきわめて重要である固体表面に液滴を落とすと個体の

表面張力γS と液体の表面張力γL 固体と液体の界面張力γSL が釣り合うことによってあ

る角度θで平衡になるこのとき固体と液体空気の境界点 A における力の水平成分の

釣り合いから次式の Young-Dupreの式が得られる

120574119878 = 120574119878119871 + 120574119871 cos 120579

8

自然状態では表面張力により液体は球状になるこの式は固体表面上での液体を広げよ

うとする力と球状を保とうとする力のつりあいの式である

Fig3-4 固体表面上の水滴

また界面自由エネルギーγ12 で接着している二種類の物質を引き離し表面自由エネルギ

ーγ1γ2をもつ二つの物質に分けるのに必要な仕事(これを接着仕事という)Waとすると

119882119886 = 1205741 + 1205742 minus 12057412

であらわされるこれを Dupreの式と呼ぶ接着仕事とはふたつの物質を引き離すのに必

要な仕事であるからWaの値が高いほど接着強度が強いということになる

個体と液体との関係においてこれら二式をあわせると

119882119886 = 120574119871(1 + cos 120579)

を得るこれを Young-Dupre の式という液体の表面張力と接触角から接着材の接着強

度が分かるという式になっている

6)接着力低下因子と表面処理

接着は清浄な面と面の接触が前提である金属表面は清浄であれば 1000~3000 mNmの

表面張力があるはずであるが大気中では数十mNmの値をしめすこれは異物が付着した

り酸化されていたりするためである特に表面がもろい物質でおおわれていると剥離時に

もろい面での剥離が起こり見かけ上弱い接着強度となる事がある

このような金属表面の表面張力の低下を防ぎアンカー効果において適切な凹凸を金属表

面に付与し接着強度向上を図るために洗浄と研磨を行うのが望ましい

5実験方法

41使用する器具

100 mL ビーカーガラス棒ホールピペット安全ピペッターピンセットキムワイ

プ電気炉2 L ペットボトル紐アルミ角材(10 times 30 times 30 mm)サンドペーパー

はけ

9

42試薬の物性

ケイ酸ナトリウム a)

ケイ酸のナトリウム塩で種類が多いいわゆる水ガラスも多くの場合はケイ酸ナトリウム

であるがその組成は安定していない単一物質として得られているものだけでもメタ

ケイ酸ナトリウム Na2SiO3およびその種々の割合の水化物オルトケイ酸ナトリウム

Na4SiO4二ケイ酸ナトリウム Na2Si2O5四ケイ酸ナトリウム Na2SiO9 などがあるオ

ルトケイ酸ナトリウム Na4SiO4=18405二酸化ケイ素と水酸化ナトリウムを適当な条件

で融解すると得られる水溶液で両者を反応させたのではオルトケイ酸ナトリウムの結晶

は得られずにメタケイ酸ナトリウムの水化物になってしまう無色六方晶系の結晶酸

と加熱していると二酸化ケイ素が沈殿している

酸化マグネシウム b)(MgO)

式量 4030

融点 2852

沸点 3600

一般にアンモニウム塩水溶液に溶けるがエタノールに不溶空気中で水と二酸化炭素を

吸収し炭酸水酸化マグネシウムに変化する水と反応して水酸化マグネシウムとなる耐

火レンガマグネシアセメントの製造原料医薬品として制酸剤の原料となるほか触媒

または吸着材ゴム工業にも用いられる

酸化亜鉛 c)(ZnO)

式量 8138

密度 547 gcm3

無定形の白色粉末水にはほとんど溶解しないが両性酸化物で希酸や水酸化アルカリ

水溶液アンモニア水に溶解する空気中で湿気と二酸化炭素を吸収する白色顔料とし

てペイント絵の具などに用いられるほか粒子の細かいものは医薬品化粧品として用

いられる

酸化カルシウム d)(CaO)

式量 5608

融点 2572

沸点 2850

密度 340 gcm3

10

酸に可溶空気中の湿気を吸収して水酸化カルシウムとなりまた空気中の二酸化炭素を

吸収して炭酸カルシウムとなる水と反応して水酸化カルシウムとなるしっくいモル

タルなどの建築材料石膏さらし粉消石灰の原料医療用に用いられる医療用に用

いられる酸性土壌改良にも用いられる

炭酸カルシウム e)(CaCO3)

式量 10009

融点 1339

二酸化炭素を含む水には炭酸水素カルシウムとして溶解する酸には二酸化炭素を発生し

て容易に溶ける加熱すると二酸化炭素と酸化カルシウムに解離する

二酸化ケイ素 f)(SiO2)

式量 6009

低温ではフッ素フッ素酸水素酸だけが反応する高温では他のハロゲン元素とも反応す

る水酸化アルカリ炭酸アルカリと融解すると水溶性のアルカリケイ素酸塩となる

43実験操作

431被接着面の均一化

1)10times30times30 mmのアルミ角材の表面をサンドペーパーで汚れがなくなるまで削る

2)削った表面をアセトンで洗浄する

3)洗浄が終わったアルミ角材の重量を測り記録する

432ケイ酸ナトリウムのみの接着剤の作製

1)100 mL ビーカーにケイ酸ナトリウム 50 g を加え粘り気が残るぐらいまでイオン交換

水を加えガラス棒で撹拌する

2)アルミ角材の 10times30 mm の面にはけを用いてケイ酸ナトリウム溶液を均一になるよう

に塗りアルミ角材を重ね合わせる

3)150にセットした電気炉に接着面がずれないように慎重に置き 1時間焼成する

433添加物を加えた接着剤の作製

1)100 mLビーカーにケイ酸ナトリウム 50 g添加物(酸化マグネシウウム酸化亜鉛

酸化カルシウム炭酸カルシウム二酸化ケイ素)を 010 gから 010 gずつ 20 gまで加

え粘り気が残るぐらいまでイオン交換水を加えガラス棒で撹拌する

2)アルミ角材の 10times30 mm の面にはけを用いてケイ酸ナトリウム溶液を均一になるよう

に塗りアルミ角材を重ね合わせる

3)150 にセットした電気炉に接着面がずれないように慎重に置き 1時間焼成する

11

5評価方法

51接着強度の評価

1)432433で接着したアルミ板にひもとペットボトルを用いて Fig5-1のように設置す

アルミ角材

Fig5-1 接着面の破壊

2)ペットボトルに少しずつ水を加え接着面が完全に離れた時点を破壊終了点とする

3)破壊終了点でのペットボトルに入っている水の重量を計測する

52耐水性の評価

1)接着したアルミ角材に水をかけ接着面の変化を観察する

6予想

添加物を加えることで接着強度の増加が期待されるしかし大量に添加物を加えてし

まうとケイ酸の割合が小さくなり接着強度は減少してしまうと考えられ添加物の量と接

着強度の関係性をグラフ化するとある値までは増加しその値を超えると減少していくグ

ラフが得られると考えるそこから最も接着強度が高まる添加物の量を測定する

また添加物が硬化剤の役割をし耐水性の改善も予想される

参考文献

1)日本接着学会『接着剤データブック第 2版』日刊工業新聞社1990P228~229

2) 三刀基郷『トコトンやさしい接着の本』日刊工業新聞社2003P56~67

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PET

Crash

12

4) ユージン Gロコー『ケイ素とシリコーン』シュプリンガーフェアラーク東京株式

会社1990 P85~113

5) 大木道則大沢利昭田中元治千原秀昭『化学大辞典』東京化学同人1989

b)P884 c)P865 d)P867 e)P1368 f)P1669

6)下井 守村田 磁『大学生のための基礎シリーズ 3 化学入門』東京化学同人2005

P229

7) 吉村壽次『化学辞典第 2版』森北出版2009a)P425

8)大勝 靖一『高分子添加剤の基礎化学と材料設計』株式会社 CMC出版2008P219~235

9)httpwwwfacekyowacojpsciencetheorywhat_contact_angleimg01jpg

2015416取得

1

東京理科大学Ⅰ部化学研究部 2015 年度春輪講書

シクロデキストリンを用いた

包接化合物の生成

水曜班

Ikemura M(2C)Ebihara K(2C) Kataoka T(2K)

ShibasakiK(2OK)TsumedaT(2C)NakaA(2OK)Murakoshi R(2OK)

OkawaT(2C)NoguchiA(2K)SekiguchiK(2K)HashimotoY(2C)

1 動機

6~8 分子のグルコース単位からなるα―14結合の環状オリゴ糖であるシクロデキストリ

ンはその環状構造に由来する包接化合物を生成する性質を示すその特異的な包接形成能

を利用した多くの製品が存在し現在もなお基礎研究分野応用研究分野での研究が行わ

れている

そこで私たちは 7 分子のグルコースからなるβ-シクロデキストリンと 3 種類のカルボン

酸を用いて包接化合物を形成させ酸の構造の違いによる包接作用の比較検討及びシクロ

デキストリンの一部のヒドロキシ基をエステル化させ水に対する溶解性及び包接形成能が

どのように変化するか考察する

2 原理

21 包接化合物

包接化合物は Schlenk によって名づけられたもので定義によると原子または分子が

結合してできた 3 次元構造の内部に適当な大きさの空孔があってその中に他の原子また

は分子が一定の組成比で入り込んで特定の結晶構造をつくっている物質ということにな

っている前者の骨組み構造の化合物のほうをホスト分子後者の入り込んでいる分子の

ほうをゲスト分子ともよんでいるがこのゲスト分子の大きさや形状はまったくホスト

構造によって規定されるだけで両者の間には弱い相互作用があっても水素結合のよう

な力はなくてもいっこうに構わないのであるこの包接化合物でのゲスト分子とホスト

構造との間の相互作用というのも物理的な吸着系に近いもので非常に弱い van der

Waals 力から高度に配向した双極子間力まで種々のものが存在する 1)

22 シクロデキストリンの包接能

シクロデキストリンはグルコース残基がα-1α-4 結合した環状のオリゴ糖で一般的

にグルコース残基が 6 個のα-シクロデキストリン7 個のβ-シクロデキストリン8個の

γ-シクロデキストリンが知られている

2

Fig1 α-シクロデキストリンの分子構造

シクロデキストリンの構造は底の抜けたバケツやドーナッツのような構造をしており

その環状構造の外側は多くの水酸基に由来する親水性領域が存在し内側の空洞の CH 基に

由来する疎水領域と相反する極性が一つの分子に共存しているがこの空洞内に様々な有

機化合物などを取り込むという包接作用がもっとも特徴的である

三種類のシクロデキストリンはそれぞれ空洞の大きさが相違するためそれぞれ包接化

合物を形成しやすいゲスト分子が存在する内部空洞が比較的小さいα-シクロデキストリ

ンは比較的小さい分子例えばエタノールメタノール等をβ-シクロデキストリンは汎

用性が広く各種ポリフェノールコレステロールメンソール等の香気成分芳香族化

合物等をよく包接するγ-シクロデキストリンは大きい分子である脂肪酸などを包接する

ことが知られている

シクロデキストリンの包接力の原動力は疎水性相互作用と分子間力が主なものとされて

いるつまりゲストは疎水性の高い分子あるいは分子の大きさが空洞にぴったりとフィッ

トするものほどシクロデキストリンがそのゲストを包接する力は大きく包接物を作り

やすい傾向がある逆に親水性が高くシクロデキストリンの空洞にフィットしないよう

なゲスト分子では包接現象は起こりにくいといえるしかしゲスト分子全体がシクロ

デキストリンの空洞内にとりこまれる必要はなく部分的にでも疎水性が高く空洞にフィ

ットすれば包接が可能となるつまりゲスト分子全体がシクロデキストリンより明ら

かに大きいものでも包接作用による効果が観察される場合がある 2)

Fig2 シクロデキストリンがゲストを包接する様子

23 水溶化シクロデキストリン

3

ブドウ糖やショ糖など通常糖質の水への溶解度は非常に高いしかし天然型シク

ロデキストリンは隣接する水酸基との水素結合の為3 種のシクロデキストリンの中では最

も高い水溶性を有するγ-シクロデキストリンであってもその溶解度は 25において水

100 mL に 23 g であり油性物質を包接した場合は一般的にその溶解度はさらに低くな

るそこで水への溶解度を改善するためにシクロデキストリン化学修飾体が製造されて

いるシクロデキストリンの水溶性を向上させる方法として隣接する水酸基をメチル基や

アセチル基などでエーテル化やエステル化する方法がある具体的には部分メチル化β-シ

クロデキストリンやモノアセチル化β-シクロデキストリンが工業的に生産されている

24 包接能の評価について

今回の実験ではゲスト分子としてカルボン酸を用いるシクロデキストリン及び水溶化

シクロデキストリンの包接能の評価については包接化合物に含まれているカルボン酸をア

ルカリで滴定することで求めることができる

3 実験

31 試薬sup3⁾

アジピン酸

分子式C6H10O4

分子量1464

mp153

bp3375 アジピン酸

クエン酸

分子式C6H8O7

分子量19213

mp156~157

クエン酸

シュウ酸

分子式C2H2O4

分子量9004

mp1895

シュウ酸

4

βシクロデキストリン

分子式(C6H10O5)7

分子量113500

n-ブタノール

分子式C4H10O

分子量7412 β-シクロデキストリン

bp1179

エタノール

分子式C2H6O n-ブタノール

分子量4607

mp-1145

bp7833

水酸化ナトリウム

組成式NaOH

分子量4000

mp328

bp1388

無水オクタン酸

分子式C₈H₃₀O₃

分子量27041

mp-1 無水オクタン酸⁶⁾

濃硫酸

分子式H₂SO₄

分子量9808

mp104

32 使用器具

300 mL ビーカーメスフラスコピペット三角フラスコ吸引漏斗吸引瓶ビュレッ

トスタンドボウルガラス棒

5

33 実験操作

331 エステル化シクロデキストリンの合成 ⁵⁾

1)三角フラスコにβ-シクロデキストリン 1 g を入れこれに無水オクタン酸 025 mL を加

える

2)触媒として 2-3 滴の濃硫酸を添加し攪拌する

3)約 10 分間放置してフラスコを氷桶に入れて冷やしガラス棒でフラスコの壁を強くこす

り結晶を析出させる

4)水 20 mL を加えさらに氷桶で冷やしながら残る結晶を析出させる

5)この結晶を濾分し水で洗ってから取り出して乾かして結晶を得る⁵⁾

332 包接化合物の形成

1)β-シクロデキストリン 1 g を水 100 mL に溶解させる

2)ピペットで 1 mL のカルボン酸を加えコルク栓をして静置する

3)1 週間程静置し包接化合物を吸引濾過する

4)上記の操作をカルボン酸(酢酸シュウ酸クエン酸)で行う

5)エステル化シクロデキストリンで同様の実験を行う

333 包接能の測定

1)よく乾燥した包接化合物約 1 g をメスフラスコで 100 mL 溶液とする

2)この溶液 20 mL にフェノールフタレインを指示薬として20 mL 加え 01 M 水酸化ナト

リウム標準溶液で滴定する⁴⁾

334 溶解度の測定

1)100 mL の水に 5 g の β-シクロデキストリンを溶解させる

2)沈殿をろ過し乾燥して重量を測定する

3)エステル化 β-シクロデキストリンで同様の作業を行う

参考文献

1) 竹本喜一包接化合物の化学東京化学同人1969p2

2) 辻堅司シクロデキストリンの応用技術株式会社シーエムシー出版2008p3-p9

3) 大木道則大沼利昭田中元治千原秀明化学大辞典東京化学同人1989

4) 発田寿々子教養の化学実験第 2 版学術図書出版社2014p119

5) 南篠正男先生と生徒のための化学実験共立出版株式会社1986p155

6) 「 chemical book 」〈 wwwchemicalbookcomchemicalProductPropert_JP_CB 〉

(2015418 アクセス)

1

東京理科大学Ⅰ部化学研究部 2015年度春輪講書

ダブルネットワークの合成と評価 木曜班

OnizukaM(2C)TanakaR(2C)YamamokaH(2K) OhiraM(2K)

1背景

現在高分子ゲルは紙おむつの高吸水性樹脂やソフトコンタクトレンズなど私たちの生

活において活躍しているしかし高分子ゲルは不均一な構造なため一般的に機械的強

度が弱いという欠点がある高分子ゲルの強度面での弱点を克服するために従来では

ゲルの構造を均一化して強度を上げるというアプローチがとられてきた

しかしながら材料の弾性とじん性は反相する因子として働くつまり大変形に耐え

られるゲルは弾性率を犠牲とし高弾性のゲルは小さい変形で破壊される

そこで私達木曜班は前述の問題の解決策と成り得るものとしてダブルネットワーク

ゲル(DNゲル)について注目した

2目的

既存に作られている DNゲルは溶媒に水を用いたハイドロゲルであるDNゲルはその

強度や柔軟性により生体内での人工関節に使用することが期待され研究がおこなわれて

いる木曜班では DNゲルを生体内の関節だけでなく機械の関節部の摩擦軽減材料として

の使用を提案するしかし従来の DNゲルは溶媒が水であることにより水の沸点である

100以上の条件下では性能の低下が問題視され高温になりうる機械への応用が困難で

ある

溶媒を水から有機溶媒に変更することで高温条件下でのゲルの機能維持を試みるとと

もに使用するモノマーを変更しその機能性を検討する

3原理

31 DNゲル

311ゲルの脆弱性

一般的なゲルはゼリーや豆腐のように僅かな力を加えただけで簡単に壊れるほど

弱いこの理由は 2つの現象により説明することができる

1)ゲルの内部に多数の欠陥が存在する

2)欠陥から発生した初期亀裂が容易に伝播する

前者はゲル内部の構造が不均一であることに由来するゲル合成時におけるモノマ

ーと架橋剤の反応性の違いにより不均一な重合がおこるあるいはゲル化溶液内の濃度

揺らぎが重合によって固定されることだと考えられている 1)こうしたゲルに力を加えた

2

時にゲルの弱い部分に力が集中してしまうため小さな力でも初期亀裂が生じてしまう

後者はゲル内部のポリマーの密度の低さから生じる一般的に物質内における亀裂

の進みやすさは破壊エネルギーU(Jm2)(単位面積あたりの破断面形成に費やされる仕事)

によって評価される架橋高分子材料の臨界破壊エネルギーUc(亀裂成長が起こる最小

の破壊エネルギー)は破断面の高分子鎖の数密度と架橋点間分子量に比例する 2)つま

りゲルのじん性(物質の破壊に対する抵抗の程度で粘り強さとも言い換えられる 3))はゲ

ル内のポリマーの密度には比例し架橋密度には反比例することがわかる

ゲルは 50~99wtの溶媒を含んでいて高分子の密度が非常に低い物質であるためゲ

ルの Ucはゴムなどの固体に比べてかなり小さいことが考えられる

これまでの高強度ゲル研究は主に前者の問題を解決するすなわち構造を均一化するこ

とでゲル内部の欠陥を極力減らして強度を改善しようという観点から行われてきた

312 ゲルの弾性率

高分子鎖が三次元架橋されたゲルはゴムと同じようにエントロピー弾性を持つ溶液

中に完全に湿潤した電気的に中性ゲルのせん断弾性率(横方向に対するバネ係数 4)であり

Young率 Eと E=3Gの関係式が成立する)は

GneucongkBT

b3Q-225

以上の式で表せられゲルの湿潤度 Qの増加にともないせん断弾性率Gneuは大きく低下

するここでkBはボルツマン定数Tは温度bは重合させたモノマーの大きさである 5)

一方溶液中に完全に湿潤した電解質ゲルのせん断弾性率は

GchacongkBT

b3Q-1

によって表せる 6)よって同じ湿潤度において電解質ゲルは中性ゲルよりせん断弾性率が

高いことが分かる

またゲルの湿潤度は架橋点重合 N(分子量)による溶液中に完全に湿潤した中性ゲル

の場合QasympN35であり電解質ゲル場合QasympN

32であるしたがって架橋密度を上げる

ことによりゲルの湿潤度が小さくなりせん断弾性率が上がる 3)4)

313 ゲルの破断歪と破断応力

架橋構造が均一と仮定した理想的なゲルの破断歪(ゲルが破壊するまでの変形 7))は架

(1)

(2)

3

橋点間高分子の伸びきった長さと高分子鎖に歪がない曲がった自然な状態での大きさ

の比として求められる溶媒中で完全に湿潤した中性ゲルの引っ張り破断歪はλBcongQ12で

ありQの増加により増加する一方湿潤することにより単位面積あたりの高分子

の本数が減るため破断応力は湿潤度 Qが大きくなることにより減少する故にQが大

きいゲルは伸びやすいが弱い応力で壊れる

電解質ゲルの場合高分子鎖はその解離しているイオンの浸透圧によって水中では

ほとんど伸びきった状態となっているその結果理想状態においても破断歪はλBcongQ19

になるこれは破断歪が小さくかつ湿潤度にあまり依存しないことを意味している 5)

以上のことより

1)架橋密度を上げる(架橋点間分子量を下げる)ことでゲルが固くて脆くなる

2)水中に完全に湿潤した高分子電解質ゲルは中性のゲルより硬くて脆い高弾性と変形は

相反するということが考えられる

314 DNゲルの高強度機構

DNゲルは強電解質をモノマーとする 1st networkゲル電気的に中性なモノマーを用

いる 2nd networkゲルを組み合わせることにより生成される前述した通りゲルにおける

弾性と靭性は常に相反する働きをするそれゆえに単一な物質で両方の性質を得るこ

とは原理的には不可能である同じ湿潤度において電解質ゲルと中性ゲルのせん断弾性

率の比はGchaGneucongQ125であるために両者の違いは湿潤度 Qが高いほど大きくなる

この性質を利用することにより電解質ゲルは硬い成分中性ゲルは軟らかい成分とし

て用いることができる

亀裂を含む DNゲルがある引張荷重を受けると応力集中の効果で最初に亀裂先端近傍

の電解質網目(1st network)が破壊され局所的にゲルが降伏する荷重がますと電解質網

目の破壊が次々に伝播し広範囲にわたるダメージゾーンが形成されていくこの過程

で非常にいい気なエネルギーが分散されるダメージゾーンがある大きさまで広がった

ときようやく亀裂先端に中性網目(2nd network)が十分に伸びて切断し亀裂が進行す

る 8)

4

Fig 1 DNゲルの破壊モデル 9)

32 光ラジカル重合

321 光分解

光重合開始剤に UVを当てることにより開裂がおきラジカルが発生する本研究にお

いては 1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンを用いる 10)

Scheme1 1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンの開裂 10)

ℎ120592

5

322 開始反応

UVを当て光開裂により生じたラジカルがビニル基の二重結合を攻撃し光重合開始剤

と炭素の間に σ結合を作り炭素原子にラジカルが存在することになる

Scheme2 ラジカルの生成

323 成長反応

Scheme2で生成したラジカルが他のモノマーを攻撃しσ結合を生じるそれが何回

も起こることにより分子鎖が成長する 6)

Scheme3 分子鎖の成長

324 停止反応

Scheme 3で成長した成長ラジカル同士が σ結合を作り分子鎖が生成する 7)

Scheme4 分子鎖の生成

4実験

41 DNゲルの合成

411 使用器具試薬

ビーカー乳鉢乳棒薬さじUVライトデシケーター

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸

分子式 C7H13NO4S

式量20724

融点160

用途1st networkゲルのモノマー

6

アクリル酸

分子式C3H4O2

式量7206

融点123

沸点1416

比重10511

危険性引火性(発火温度 360 )

用途1st networkゲルのモノマー

アクリロニトリルの加水分解アクロレインの酸化ニッケルカルボニルの存在下ア

セチレンと一酸化炭素と水との反応などにより合成される酢酸に似た刺激臭を持つ液

体水エタノールエーテルによく溶ける酸素の存在下容易に重合するプラス

チックの原料として用いられる

アクリルアミド

分子式C3H5NO

式量7108

融点845

沸点103

比重1122

用途2nd networkゲルのモノマー

アクリルニトリルを硫酸あるいは塩酸を処理して得られるフレーク状の結晶溶解

性(g100 ml溶媒30 )水 2155メタノール 155エタノール 862アセトン 631

酢酸エチル 126クロロホルム 266ベンゼン 0346ヘプタン 00068化学的に不安

定で冷暗所に保存する必要がある融点付近あるいは紫外線下で重合する重合の仕方

により水溶性不溶性のものが得られる

酢酸ビニル

分子式C4H6O2

式量8609

融点-932

沸点723

比重09317

用途2nd networkゲルのモノマー

無色の液体酸やアルカリよって容易に加水分解されてアセトアルデヒドと酢酸を生

じる熱光ラジカル開始剤によって重合する

7

メタクリル酸メチル

分子式C5H8O2

式量10012

融点-48

沸点1003

比重0936

用途2nd networkゲルのモノマー

無色透明で催涙性の芳香のある液体工業的にはアセトンシアノヒドリンにメタノー

ルと硫酸を作用させて合成する実験室的にはメテクリル酸メチルの重合物を 320

以上で乾留すると得られる一般に有機溶媒には溶けるがエチレングリコールグリセ

リンには溶けにくい重合しやすいので重合禁止剤としてヒドロキノンモノメチルエ

ーテル(65 ppm)を添加して保存する有機ガラスの製造ビニル系共重合体など広く

重合反応に用いられるまたメチル以外のアルコールのメタクリル酸エステルの合成

にも用いられる

NN-メチレンビスアクリルアミド

分子式C7H10N2O2

式量15417

融点300

用途架橋剤

1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン

分子式C13H16O2

式量20427

融点47-50

用途光重合開始剤

最大吸収波長は 260 nm付近にある

エチレングリコール

式量6207

融点 -126

沸点1976

比重11132

8

用途ゲル溶媒

重要な二価アルコールでエチレンオキシドの酸触媒による開環高温高圧下水と

の反応による開環などによって合成される吸湿性無色無臭の液体甘味を有する

が有毒である高沸点を有ししかも水酸化カリウム水酸化ナトリウムを溶解し水や

エタノールと任意の割合で混合するので有機合成における溶媒として広く用いられ

また塩基に対して安定なエチレンケタールの生成によるカルボニル基の保護に用いら

れるさらに酢酸ビニル系樹脂の溶剤や水と混ざり高沸点のため不凍液に用いら

れるなど広い用途を持っている

412 1st networkゲルの作成

1) 1st networkゲルのモノマー(電解質モノマー)架橋剤(NN-メチレンビスアクリルア

ミド)と光重合開始剤(1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)を水に溶解させた水

溶液を調製する

2) UVを 8時間照射して光ラジカル重合をさせる

3) 2)で合成した電解質ゲルを乳鉢に入れ適当なサイズに砕いた後デシケーター内で一

週間ほど乾燥させる

413水溶媒 DNゲルの作成

1) 2nd networkゲルのモノマー(中性モノマー)架橋剤(NN-メチレンビスアクリルアミ

ド)光重合開始剤(1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)をエチレングリコールに

溶解させた溶液を調製する

2) 乾燥した電解質ゲルを 1)で調製した水溶液に入れ電解質ゲルを十分に膨らませるそ

の後UVを照射し中性モノマーを光ラジカル重合させる

414エチレングリコール DNゲルの作成

1) 2nd networkゲルのモノマー(中性モノマー)架橋剤(NN-メチレンビスアクリルアミ

ド)光重合開始剤(1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)をエチレングリコールに

溶解させた溶液を調製する

2) 乾燥した電解質ゲルを 1)で調製したエチレングリコール溶液に入れ電解質ゲルを十分

に膨らませるその後UVを照射し中性モノマーを光ラジカル重合させる

42 DNゲルの評価

421引っ張り試験

使用するモノマーの変化によるゲルの性質の差を評価する引っ張り試験は

JIS-K-6251-7号に準拠する方法で測定する

9

1)DNゲルを X方向の長さ 50 mmY方向の長さ 75 mmZ方向の長さが 25 mmの大

きさに成形する

2)その一端部に X-Y平面に平行な切込みを入れて2つの引張端部を形成する

3) 引張端部を片方は固定しもう片方を一定の速度で引っ張るこのときの引っ張る力 F

を測定する

Fig 2 引っ張り試験 13)

422 摩擦試験

使用するモノマーの変化溶媒の変化によるゲルの性質の差を評価する

摩擦試験は東京理科大学工学部第一部機械工学科佐々木研究室に依頼する予定である

用いる機械は SVR4パーカー熱処理工業株式会社製であり180での高温での摩擦係

数の測定が可能である

摩擦測定は常温(20 )と高温(100 )で測定することを予定している

10

5 展望

51 DNゲルの合成

実験操作は溶液を調製した後UV照射するという簡易な手順なので合成は比較的早い

段階で成功すると考えられる

1st networkゲル合成に使うのは電解質モノマーなため水溶液のモノマーの濃度が低

いと湿潤度 Q が大きくなりせん断弾性率が下がり剛性が弱いゲルが出来上がると考え

られる

架橋剤を多く使用すると架橋密度を上がるので 2nd networkゲルが入り込む空洞が小

さくなるそのために架橋剤が多すぎると高弾性のゲルが生成できると考えられる

また同様な考えで2nd networkモノマーが含まれている水溶液に乾燥させた1st network

ゲルを入れる量が多くても高弾性のゲルが生成できると考えられる

52 DNゲルの物性

ゲルの高分子網目は基板から離れようとするときにゲルと基板の間に僅かな溶媒層

が生じるこの状態では溶媒層が潤滑油のような働きをして生じる摩擦力は小さなも

のとなるゲル周辺が高温な状態ではこの溶媒層が水の場合は蒸発してしまうので摩

擦力は増大すると考えられる溶媒を水からより沸点の高いエチレングリコールなどに

変えれば摩擦力は増大することはないと推測される 14)

11

参考文献

1) J Bastide and L LeiblerMacromolecules1988212647

2) G G J Lake and A G ThomasProc R Soc LondonA1967300108

3)越後亮三 機械工学辞典 朝倉書店 2007 p631

4) 伊藤勝悦 やさしく学べる材料力学 森北出版 2014 p14

5)SPObukhovMRubinstein and RHColby Macromolecules 1994273191-3198

6)MRubinsteinRHColbyAVDobrynin and JJaonnyElasticMacromolecules199629398-406

7) 大 阪 府 立 大 学 基 礎 講 座 材 料 の 強 度 と 破 壊

httpwwwengmmtrosakafu-uacjpresearchstrength-japdf2015413取得

8)聾剣萍「生命科学時代の新材料-高弾性高靱性ダブルネットワークゲル」高分子学会

『高分子』高分子科学最近の進歩58巻 5号2009p327-p331

9)YTanakaEurophysLett20077856005

10)蓮池幹治ラジカル重合ハンドブックエヌティーエス2010p444-p445

11)大津隆行ラジカル重合(Ⅰ)化学同人1971p80-p81

12)大津隆行ラジカル重合(Ⅰ)化学同人1971p153-p154

13)聾剣萍高分子ゲルおよびその製造方法特開 2009-185156 2008-02-05

14) 角五 彰龔 剣萍長田義仁「ゲルの摩擦と水和潤滑~生物の滑らかな運動解明への

アプローチ」日本生物物理学会『生物物理』47巻 4号2007p 253-p258

1

東京理科大学Ⅰ部化学研究部 2015年度春輪講書

耐塩性の高い新規化粧品用増粘剤の開発 2015年度金曜班

Nomata N(2OK)Seki M(2OK)Tin J(2OK)Takahashi R(2C)Watanabe A(2K)

Asai D(2K) Nishimiti D(2K)Yamamoto R(2K)

1 動機

化粧品において増粘剤の果たす役割は非常に大きい

化粧品にはクリーム状のモノが多くありその整形には増粘剤が必要不可欠である

また増粘剤は製剤だけでなく密閉効果や水和効果によって薬剤を皮膚に効率的に輸

送することに役立っている

この増粘剤であるが一つ課題がありアスコルビン酸塩(ビタミン C)のようなクロロ

基を持つ塩系薬剤をゲル中に含む場合経時によってべたつきといった使用感の悪化

につながるといった弱点があるこの問題の解決のために塩系薬剤への耐性の高い増

粘剤の開発が望まれている

塩系薬剤の高い美容効果からこの問題の解決に対する化粧剤企業のニーズは高くこ

の問題は長く研究が続けられていたが近年資生堂が逆相マイクロエマルション重

合法によって microスケールの粒状高分子を多数合成することによりできる増粘剤が高い

耐塩性を持ち使用感もよいことを発見したがこの粒状高分子増粘剤には未だ試み

られていないモノマーが多くある

そこで今年度の金曜班ではこの逆相マイクロエマルション重合法において未だ

試みられていない親水基を持つモノマーを利用して新規の増粘剤をつくることで粒

状高分子による増粘剤の耐塩性と肌触りと親水基の関係を調べ応用化に利すること

ができるのではないかと考え実験を行うこととした

2 背景

増粘剤とは水溶液をゲル化するために添加される物質であり化粧品において広く

用いられているこの増粘効果は従来では高分子鎖同士の分子間力や架橋で生じる

網目構造の結果生じる液中の摩擦力によるものである

動機で述べたように μスケールの粒状高分子が増粘剤として良質であることがわか

っているただし粒状高分子の形状は反応場であるセッケンミセルの大きさだけで

なく親水基やポリマーを構成する原子同士の分子間力によって変わる高分子の立体構

2

造にも影響されている

また粒状高分子の正確な一次構造を把握することは大変難しいことであるので

応用化のためには高分子の一次構造でなくモノマーによって粒状高分子特性の変化

を調べることが重要である

さらに従来用いられているポリマーがスルホ基とカルボキシル基を親水基とする

ものしか存在しない

以上の三点から酸以外の親水基をもつモノマーで増粘剤を合成したときその性

質はどうなるかを調べることでより製品として利用価値が高い粒状高分子増粘剤を合

成することができるのではないかと考えた

そこで新規モノマーとしては対照実験を行うためにアクリルアミド系モノマー

でかつ 2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸のスルホ基と同じ炭素骨格の先

端に親水基が存在するものとしてN-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド (3-アク

リルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライドを用いてそれぞれ親水基が酸

ではなくヒドロキシ基である場合親水基がアニオンではなくカチオンである場合に

ついて研究を行うこととした

この二種の以外にも水溶性のアクリルアミドポリマーは存在するが上記の条件を満

たさないまたは高価であるため本実験では用いないこととした

Fig1 N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド

Fig2 (3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライド

3

3 原理

31 一般的な液体の粘性

溶液の粘性は一般論では以下のように表される

Fig3のように XY平面を取り液面に平板を用意し引っ張った時挟まれた溶液内

には図のようなせん断流動が発生する高さ Yでのせん断速度は(119881

119889) 119910で与えられる

この時平板に挟まれた溶液を薄層の集まりと考えると隣り合う薄層間に摩擦が生

じるこの内部摩擦力が粘性力であるずり速度勾配が十分に小さければ平板の単位

面積当たりに生じる粘性力 Fv0はその勾配 Vd に比例するすなわち以下の式で表

され1205780を粘性係数と呼ぶこの値は溶媒固有である1)

1198651199070 = 1205780 (119881

119889)

Fig3 溶液ずりせん断図

32 増粘剤の粘性

増粘剤の多くは低分子の液体に高分子を溶かすと著しく粘性が高くなる性質を利

用している

この粘性の発生するメカニズムは下の Fig4において平板間の溶液を薄層に分けた

際高分子鎖は溶液の移動に伴って回転するこのとき溶液中の薄層は薄層間の摩

擦以外に高分子鎖との間にも摩擦が生じているこの摩擦の増加が粘性力の増加とな

る 2)

4

Fig4 高分子による粘性増加

また高分子鎖同士が分子間力によって結びつき三次元構造を形成することで内

部摩擦力は一層大きくなるこのため高分子による増粘効果は顕著である

架橋高分子では三次元構造が高分子鎖同士の分子間力による形成よりも強いものと

なるので増粘効果及びレオロジー特性に優れる 3)

33 塩系薬剤による粘性劣化のメカニズム

塩系薬剤とはビタミンC (アスコルビン酸塩)のようにクロロ基をもつ薬効物質のこ

とである

このクロロ基が直鎖高分子や架橋高分子がポリマー間で形成する三次元網目構造

を破壊することによって増粘効果を消失させ内容物の流失によるべたつきを生じさ

せる 3)

34 粒状高分子の粘性

粒状高分子の粘性について粒状高分子はその粒経が小さいほど体積に対する表面

積が増え溶液内での内部摩擦力が大きくなる

また粒子同士が摩擦力を元に網目構造を形成するため網目構造の構成要因が直

鎖高分子や架橋高分子の高分子増粘剤と異なっている 4)

35 逆相マイクロエマルション重合法

後述する転相温度乳化法を用いて形成した5 μm~30 μm 形成したマイクロエマル

ション内において水溶性のモノマーを利用して行う乳化重合法の一種容易に極小の

5

ポリマーを合成することができる 5)

36 界面活性剤の概略

界面活性剤とは分子の構造が水になじみやすい部分(親水基)と油になじみやすい

部分(新油基)からできていて2つの物質の間の界面に集まりやすい性質を持ちそ

の界面の性質を著しく変える物質というのが界面活性剤の定義である

代表的な界面活性剤の特徴は界面における「吸着」と「ミセル形成」である 6)

もうひとつの代表的な作用として「可溶化」もある

37 エマルションの形成

界面活性剤に有機溶媒が取り囲まれて水に可溶化されたとき水溶液中に存在する

有機溶媒を界面活性剤が取り囲んだ液滴のことを OW エマルションと呼ぶ

有機溶媒中に水が可溶化される場合WOエマルションと呼ぶ

38 ノニオン界面活性剤

非イオン界面活性剤とも言う界面活性剤の内解離基を持たず電気的に中性な

界面活性剤で親水基は主にポリオキシエチレン基であるその特殊な性質上他の種類

の界面活性剤に無い性質として曇点と転相温度を持つ 今回使用するノニオン界面

活性剤はポリオキシエチレンオレイルエーテルであり基本式は以下のような形にな

る 7)

R-O(CH2CH2O)n-H

Scheme 1 ポリオキシエチレンオレイルエーテルの基本式

39 曇点

曇点とは透明な液体が相分離を起こして白濁する温度のこと

本実験においてはノニオン界面活性剤が加温によって界面活性効果を失い相分離

によって白濁する温度のこと 8)

310 転相温度乳化

ノニオン界面活性剤は加温によって界面張力が変化しWO型エマルションから

OW 型に変化するこの変化点のことを転相温度と言い転相温度において界

6

面張力が最低になっているので溶液エマルションが極小になる

またこの転相温度は界面活性剤に固有の値となるので二種の比較的性質の

近い界面活性剤を混合することで転相温度を操作し適切な温度で5 μm~30 μm

程度の直径を持つエマルションを作成する方法を転相温度乳化法と呼ぶ 10)

311 ラジカル重合

開始剤を用いてラジカル種を生成して行う重合法のことをラジカル重合法と言う

開始剤の分解要因によって熱光放射線ラジカル重合の三つに分けられる 10)

3111 ラジカル重合を構成する四反応

ラジカル重合は 4種類の反応が同時並行的に起こるそれぞれ以下の通りである 11)

開始反応

開始剤が熱光放射光などの要因によってラジカル開裂を起こしラジカル種を

生じさせる反応

成長反応

ラジカル種がモノマーと反応することでモノマー新たなラジカル種が生成する

反応これが連続することでポリマーが合成される

停止反応

連鎖していた成長反応が止まる反応主にラジカル種同士の反応による

連鎖移動反応

ラジカル種がモノマー以外の分子主に溶媒分子等と反応することでポリマー以

外の物質を合成する副反応

3112 乳化重合

乳化重合はモノマー液滴と呼ばれるモノマーを大量に保存しているエマルシ

ョンと反応場となる極小のセッケンミセルの二つの構造を持つ溶液中で行う不均

一系ラジカル重合の一種である 12)

成長反応が一段階進むたびにモノマー液滴から拡散の理論式に従ってモノマ

ーがミセル内に移動するこの一連の反応を繰り返して反応が進む 13)

そのため種々のラジカル重合法と比較して以下の特長がある 13)

セッケンミセル内に存在するラジカルが常に一つであるため停止反応が

7

起こりにくく比較的重合度の高いポリマーが生成しやすい

反応速度が拡散作用によって律速されかつセッケンミセルの周囲を大量

の溶媒分子が囲んでいるため除熱が容易であるという理由から熱暴走を起

こしにくいという利点がある

ミセル内で重合するため合成した高分子が絡まりやすく粒状の分子が作

成できる

Fig5 乳化重合模式図

312 MS(質量分析法)

質量分析法とは分子の質量すなわち分子量を測る手段でもあるまた分子を分解

したフラグメントの質量を測ることによって分子構造に関する情報を得るものでも

ある

高エネルギー電子が有機分子にぶつかると分子から電子がはじき出せれカチオ

ンラジカルが発生する

119825119815 rarr 119825119815++119838minus Scheme 2カチオンラジカルの発生

電子の衝突により大量のエネルギーが分子に与えられることで大部分のカチオン

ラジカルを生成した後フラグメントに分解するフラグメントは小さな破片となっ

て浮遊し正電荷や中性となる

このカチオンラジカルとフラグメントについてmz値を横軸相対強度を縦軸につ

いて取ったグラフから質量スペクトルを読み取る 14)

またMS(質量分析法)はイオン化の方法などによりいくつかに分けられ今回使用

したいのは高分子試料でもほとんどフラグメンテーションを起こさないソフトなイ

8

オン化法であるMALDI法 15)である

3121 MALDI法(マトリックス支援レーザー脱離イオン化法)

試料を 25-ヒドロキシ安息香酸のような適切なマトリックス上に吸着させて

ペレットを作成しレーザー光を短時間照射してイオン化する

エネルギーがマトリックスから試料に移動し[119872 + 119867119899 ]119899+に分解される 15)

MALDI法にはよく TOF型の MSが用いられている

4 実験

41 2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を用いた既存化粧品用増粘剤の合成

411 使用器具試薬

温度計ウォーターバスビーカー薬さじデシケーター

ジメチルアクリルアミド

式量9913

沸点81

発火点71

LD50(経口)316mgkg

LD50(経皮)580mgkg

製造和光純薬工業株式会社

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸

式量20725

融点200

LD50(経口)5400mgkg

製造和光純薬工業株式会社

NN-メチレンビスアクリルアミド

式量156

沸点4451

発火点215

LD50(経口)390mgkg

製造東京化成工業株式会社

9

へプタン

式量1002

沸点98

引火点-4

水に不溶

製造昭和化学

2-プロパノール

式量60

沸点82

発火点12

LD50(経口)区分外(GHS分類)

LD50(経皮)区分外(GHS分類)

製造昭和化学

ペルオキソ二硫酸アンモニウム

式量22820

冷水に易溶保存湿気厳禁

重合開始罪乳化重合レドックス重合に用いられる

製造和光純薬工業株式会社

412 実験手順

① ビーカーにイオン交換水ヘプタンポリオキシエチレンオレイルエーテル(2)

(8)をそれぞれ507 mL 507 mL489 g((2)(8)=23)加えて良く撹拌したも

のを入れる

② その後その後温度調節機能つきスターラーに乗せ白濁するまで加熱する

白濁した液が透明化するまで温度を落とし電気伝導率計を用いて溶液が転

相温度付近に保たれていることを確認する

③ 以上の操作が済んだ重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先

ほどのスターラーと同じ温度にしたウォーターバスに移し2-アクリルアミド

-2-メチルプロパンスルホン酸NNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 137 g

262 g入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始

剤としてメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

10

④ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

42 N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミドを用いた新規化粧品用増粘剤の合成

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を誘導体と入れ替える以外の

操作は 41に準ずる

親水基による増粘性の変化を観察するため架橋剤のモノマーに対する濃度比

は 2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を使用したポリマーが最も増

粘効果の高くなると報告された濃度比を用いる

421 使用器具試薬

使用器具は 41に準ずる

試薬

N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド

式量11513

沸点130

発火点189

製造東京化成工業株式会社

422 実験手順

① 412 ①②と同じように重合系を作成する

② 以上の操作が済んだ重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先

ほどのスターラーと同じ温度にしたウォーターバスに移しN-(2-ヒドロキシエ

チル)アクリルアミドNNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 076 g262

g 入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始剤と

してメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

③ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

11

43 (3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライドを用いた新規化粧品用

増粘剤の合成

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を誘導体と入れ替える以外の操作は

41に準ずる

親水基による増粘性の変化を観察するため架橋剤のモノマーに対する濃度比は 2-ア

クリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を使用したポリマーが最も増粘効果の高く

なると報告された濃度比を用いる

431 実験器具

実験器具は 41に準ずる

試薬

(3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライド

式量22074

沸点100

製造東京化成工業株式会社

432 実験手順

① 412 ①②と同じように重合系を作成する

② 重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先ほどのスターラーと

同じ温度にしたウォーターバスに移し (3-アクリルアミドプロピル)トリメチ

ルアミニウムクロライドNNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 123 mL

262 g入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始

剤としてメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

③ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

5 評価分析

耐塩性の高い増粘剤の耐塩性と使用感と親水基との関係を評価するために以下の二

つの測定を行い評価する

増粘剤の耐塩性の評価のために塩酸を増粘剤内部に取り込ませた状態で経時

12

による粘度の変化を観察する

また高分子の粘性を考える上で直鎖高分子の場合よく参考にされるのが平

均分子量でありこの値を測定することで親水基が変化した場合に平均分子

量が粒状高分子の粘性にも大きく影響するか確認する

精密に上の測定を行うには専用の機器が必要になるため機器メーカーの株式

会社エーアンドデイ様または東京理科大学理学部応用化学科駒場研究室に

また高分子の性質を考える上で重要視される平均分子量及び分子量分布に

ついては東京理科大学化学系機器センターにあるMALDI-TOF型質量分析計を管

理者の東京理科大学理学部応用化学科の根岸先生に測定に協力していただこうと

考えている

6 謝辞

東京理科大学工学部工業化学科 近藤行成教授

東京理科大学理学部化学科 遠藤恆平准教授

東京理科大学理学部応用化学科 駒場慎一教授

この研究を進めるに当たり大変お世話になった先輩先生方企業の皆さんに感謝の

意を表明します

参考文献

1) 小澤美奈子 基礎高分子科学 高分子学会 編 2010年 第六版 p979899

2) 小澤美奈子 基礎高分子科学 高分子学会 編 2010年 第六版 p99100

3) 金田 勇 逆相マイクロエマルション重合法による水膨潤性ミクロゲルの重合とその増

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4) 小林敏勝 福井寛 きちん知りたい粒子表面と分散技術 日刊工業新聞社 p76

5) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 2006 p839 840 841

6) 皆川基 藤井富美子 洗剤洗浄 百科事典 大矢勝 2007年版 p4647

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8) 資生堂 HP httpswwwshiseidogroupjprddevelopmentformulationhtmlより 2015

44取得

9) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 テクノシステム 2006 p321

10) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 テクノシステム 2006 p397

13

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11) 遠藤 剛 高分子の合成(上)~ラジカルカチオンアニオン重合~ 講談社 2010 3p

12) 佐藤壽彌編 高分子微粒子の技術と応用 シーエムシー出版 2004 p2526

13) 佐藤壽彌編 高分子微粒子の技術と応用 シーエムシー出版 2004 p27

14) マクマリー 上 8版 東京化学同人 p403404

15) John McMurry マクマリー有機化学(上) 第 8版 2013 p410411

Page 16: ゼオライトとキトサンを用いた 金属イオン除去剤の …kaken/studies/2015/2015-s-all.pdf1 東京理科大学I 部化学研究部 2015 年度春輪講書 ゼオライトとキトサンを用いた

5

Fig3-2 核剤の添加のよるポリプロピレンの曲げ弾性率の改善効果

()アデカスタブ NA-11()Hyperform HPN-68 L

()安息香酸ナトリウムポリプロピレン

Fig4-2に核剤の添加によるポリプロピレンの曲げ弾性率の改善効果について示したま

ず核剤を添加することでしかも僅か 01~03 wt程度の添加で曲げ弾性率が劇的に向

上していることが分かるその中で比較すると汎用である安息香酸ナトリウムや HPN-68

Lでは弾性率の改善はあるものの(おおよそ 30の弾性率改善)01 wt程度の添加で改

善効果は飽和する添加物を加えることで剛性耐熱性を大幅に改善できることがわかる

このような改善効果は自動車用に多用されるポリプロピレンのグレードであるインパクト

コポリマーにおいても同様であるさらに核剤の添加により結晶化が促進された結果成

形時間も短縮でき高性能化と相まって生産性改善によるコストダウンも可能となる核

剤はもとのポリマーが有する特徴を損なうことなく物性を改善できるといったメリット

があるといえる

32 縮合重合反応

二つの化合物から水などの簡単な分子が脱離して新たな結合が形成される反応を縮合反

応とよぶカルボン酸とアルコールからエステルを得る反応は縮合反応の一例である

縮合反応を繰り返すことによりポリマーを合成することができるこれが脱水縮合反応

であるたとえば 2個のカルボキシ基をもつ分子と 2個のヒドロキシ基をもつ分子を反応

させると縮合反応が連続して起こりポリマーが得られる本実験では Fig3-3 の反応が

起こる

6

Fig3-3 ケイ酸の脱水縮合反応

33 接着の原理

接着剤による接着効果には複数の理論が挙げられており賛否両論あるものもあるま

た個々の接着現象においても複数の接着効果が絡み合っていることが多く接着効果の

検証は困難であるとされるある接着系では適用できる接着効果が別の系ではまったく無

力ということも多い以下に主な接着効果の理論をあげる

1) アンカー効果

雲母を注意深くはがしたようなごくわずかな例外を除きすべての固体表面は数Åオ

ーダーの粗さを有する例えば機械で製造される金属表面の粗さは 3~6 μmであり研

磨した場合でも 002~025 μmである

アンカー効果とはこのような被着材の凹部に流入した接着剤が固化し被着部に引っかか

ることにより界面が結合するというものであるアンカー効果のような界面との相互作

用を無視した接着効果理論を機械的結合論という

開口部を有するクレバスへの液体の流入について理論式が提案されている

以下の 2式は液体の粘度 η接触角θの液体が深さ Zまで浸透するまでの時間 tを表し

(a)開口部の幅がδの平行板の場合

Zdz

dt=

120575119910

120575120578120574 cos 120579

(b)開口部δ深さ Z0の V型溝の場合

11988501198971198991198850

1198850 minus 119885minus 119885 =

120575120574 cos 120579

6120583119905

となる式によれば開口部が大きくぬれがよく粘度の低い液体ほどまた時間をかけ

たほど深くまで侵入できるとされる

7

Fig3-4 アンカー効果

2)分子間相互作用

ふたつの物体の接着面で分子同士が接触するところで互いにひきつけあう力が働くこと

で接着するとするもの代表的なものにファンデルワールス力結合水素結合が存在す

3)化学的結合

界面に化学結合が存在することで接着強さに寄与するとするものである古くから提唱

されている説であるが化学結合の存在の証明が難しく接着系の界面に本当に化学結合

が存在するのかは十分に検証されなければならないとされる

4)表面自由エネルギーと表面張力

物質の内部と表面では性質が異なる内部の分子は周囲を分子に囲まれており分子間

力で互いに引き合うため安定化されるこれに対し表面の分子には周囲を囲む分子が内部

に比べて少なく内部分子と比べて不安定=エネルギーが高いということになるこの余

分のエネルギーを表面自由エネルギーと呼ぶ

表面積が小さいほど表面自由エネルギーは少なくなるため物質の表面では表面を

小さくしようとする力が働くこの力を表面張力と呼ぶ

5)ぬれと接着角

固体表面に液体が存在するとそれぞれの表面自由エネルギーとその間の界面自由エネ

ルギーとのバランスによって液体が広がり固体表面が液体表面に置き換えられるこの

現象がぬれである固体表面のぬれは材料表面の親水性疎水性や接着強度と直接関係

しているため接着の分野ではきわめて重要である固体表面に液滴を落とすと個体の

表面張力γS と液体の表面張力γL 固体と液体の界面張力γSL が釣り合うことによってあ

る角度θで平衡になるこのとき固体と液体空気の境界点 A における力の水平成分の

釣り合いから次式の Young-Dupreの式が得られる

120574119878 = 120574119878119871 + 120574119871 cos 120579

8

自然状態では表面張力により液体は球状になるこの式は固体表面上での液体を広げよ

うとする力と球状を保とうとする力のつりあいの式である

Fig3-4 固体表面上の水滴

また界面自由エネルギーγ12 で接着している二種類の物質を引き離し表面自由エネルギ

ーγ1γ2をもつ二つの物質に分けるのに必要な仕事(これを接着仕事という)Waとすると

119882119886 = 1205741 + 1205742 minus 12057412

であらわされるこれを Dupreの式と呼ぶ接着仕事とはふたつの物質を引き離すのに必

要な仕事であるからWaの値が高いほど接着強度が強いということになる

個体と液体との関係においてこれら二式をあわせると

119882119886 = 120574119871(1 + cos 120579)

を得るこれを Young-Dupre の式という液体の表面張力と接触角から接着材の接着強

度が分かるという式になっている

6)接着力低下因子と表面処理

接着は清浄な面と面の接触が前提である金属表面は清浄であれば 1000~3000 mNmの

表面張力があるはずであるが大気中では数十mNmの値をしめすこれは異物が付着した

り酸化されていたりするためである特に表面がもろい物質でおおわれていると剥離時に

もろい面での剥離が起こり見かけ上弱い接着強度となる事がある

このような金属表面の表面張力の低下を防ぎアンカー効果において適切な凹凸を金属表

面に付与し接着強度向上を図るために洗浄と研磨を行うのが望ましい

5実験方法

41使用する器具

100 mL ビーカーガラス棒ホールピペット安全ピペッターピンセットキムワイ

プ電気炉2 L ペットボトル紐アルミ角材(10 times 30 times 30 mm)サンドペーパー

はけ

9

42試薬の物性

ケイ酸ナトリウム a)

ケイ酸のナトリウム塩で種類が多いいわゆる水ガラスも多くの場合はケイ酸ナトリウム

であるがその組成は安定していない単一物質として得られているものだけでもメタ

ケイ酸ナトリウム Na2SiO3およびその種々の割合の水化物オルトケイ酸ナトリウム

Na4SiO4二ケイ酸ナトリウム Na2Si2O5四ケイ酸ナトリウム Na2SiO9 などがあるオ

ルトケイ酸ナトリウム Na4SiO4=18405二酸化ケイ素と水酸化ナトリウムを適当な条件

で融解すると得られる水溶液で両者を反応させたのではオルトケイ酸ナトリウムの結晶

は得られずにメタケイ酸ナトリウムの水化物になってしまう無色六方晶系の結晶酸

と加熱していると二酸化ケイ素が沈殿している

酸化マグネシウム b)(MgO)

式量 4030

融点 2852

沸点 3600

一般にアンモニウム塩水溶液に溶けるがエタノールに不溶空気中で水と二酸化炭素を

吸収し炭酸水酸化マグネシウムに変化する水と反応して水酸化マグネシウムとなる耐

火レンガマグネシアセメントの製造原料医薬品として制酸剤の原料となるほか触媒

または吸着材ゴム工業にも用いられる

酸化亜鉛 c)(ZnO)

式量 8138

密度 547 gcm3

無定形の白色粉末水にはほとんど溶解しないが両性酸化物で希酸や水酸化アルカリ

水溶液アンモニア水に溶解する空気中で湿気と二酸化炭素を吸収する白色顔料とし

てペイント絵の具などに用いられるほか粒子の細かいものは医薬品化粧品として用

いられる

酸化カルシウム d)(CaO)

式量 5608

融点 2572

沸点 2850

密度 340 gcm3

10

酸に可溶空気中の湿気を吸収して水酸化カルシウムとなりまた空気中の二酸化炭素を

吸収して炭酸カルシウムとなる水と反応して水酸化カルシウムとなるしっくいモル

タルなどの建築材料石膏さらし粉消石灰の原料医療用に用いられる医療用に用

いられる酸性土壌改良にも用いられる

炭酸カルシウム e)(CaCO3)

式量 10009

融点 1339

二酸化炭素を含む水には炭酸水素カルシウムとして溶解する酸には二酸化炭素を発生し

て容易に溶ける加熱すると二酸化炭素と酸化カルシウムに解離する

二酸化ケイ素 f)(SiO2)

式量 6009

低温ではフッ素フッ素酸水素酸だけが反応する高温では他のハロゲン元素とも反応す

る水酸化アルカリ炭酸アルカリと融解すると水溶性のアルカリケイ素酸塩となる

43実験操作

431被接着面の均一化

1)10times30times30 mmのアルミ角材の表面をサンドペーパーで汚れがなくなるまで削る

2)削った表面をアセトンで洗浄する

3)洗浄が終わったアルミ角材の重量を測り記録する

432ケイ酸ナトリウムのみの接着剤の作製

1)100 mL ビーカーにケイ酸ナトリウム 50 g を加え粘り気が残るぐらいまでイオン交換

水を加えガラス棒で撹拌する

2)アルミ角材の 10times30 mm の面にはけを用いてケイ酸ナトリウム溶液を均一になるよう

に塗りアルミ角材を重ね合わせる

3)150にセットした電気炉に接着面がずれないように慎重に置き 1時間焼成する

433添加物を加えた接着剤の作製

1)100 mLビーカーにケイ酸ナトリウム 50 g添加物(酸化マグネシウウム酸化亜鉛

酸化カルシウム炭酸カルシウム二酸化ケイ素)を 010 gから 010 gずつ 20 gまで加

え粘り気が残るぐらいまでイオン交換水を加えガラス棒で撹拌する

2)アルミ角材の 10times30 mm の面にはけを用いてケイ酸ナトリウム溶液を均一になるよう

に塗りアルミ角材を重ね合わせる

3)150 にセットした電気炉に接着面がずれないように慎重に置き 1時間焼成する

11

5評価方法

51接着強度の評価

1)432433で接着したアルミ板にひもとペットボトルを用いて Fig5-1のように設置す

アルミ角材

Fig5-1 接着面の破壊

2)ペットボトルに少しずつ水を加え接着面が完全に離れた時点を破壊終了点とする

3)破壊終了点でのペットボトルに入っている水の重量を計測する

52耐水性の評価

1)接着したアルミ角材に水をかけ接着面の変化を観察する

6予想

添加物を加えることで接着強度の増加が期待されるしかし大量に添加物を加えてし

まうとケイ酸の割合が小さくなり接着強度は減少してしまうと考えられ添加物の量と接

着強度の関係性をグラフ化するとある値までは増加しその値を超えると減少していくグ

ラフが得られると考えるそこから最も接着強度が高まる添加物の量を測定する

また添加物が硬化剤の役割をし耐水性の改善も予想される

参考文献

1)日本接着学会『接着剤データブック第 2版』日刊工業新聞社1990P228~229

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P229

7) 吉村壽次『化学辞典第 2版』森北出版2009a)P425

8)大勝 靖一『高分子添加剤の基礎化学と材料設計』株式会社 CMC出版2008P219~235

9)httpwwwfacekyowacojpsciencetheorywhat_contact_angleimg01jpg

2015416取得

1

東京理科大学Ⅰ部化学研究部 2015 年度春輪講書

シクロデキストリンを用いた

包接化合物の生成

水曜班

Ikemura M(2C)Ebihara K(2C) Kataoka T(2K)

ShibasakiK(2OK)TsumedaT(2C)NakaA(2OK)Murakoshi R(2OK)

OkawaT(2C)NoguchiA(2K)SekiguchiK(2K)HashimotoY(2C)

1 動機

6~8 分子のグルコース単位からなるα―14結合の環状オリゴ糖であるシクロデキストリ

ンはその環状構造に由来する包接化合物を生成する性質を示すその特異的な包接形成能

を利用した多くの製品が存在し現在もなお基礎研究分野応用研究分野での研究が行わ

れている

そこで私たちは 7 分子のグルコースからなるβ-シクロデキストリンと 3 種類のカルボン

酸を用いて包接化合物を形成させ酸の構造の違いによる包接作用の比較検討及びシクロ

デキストリンの一部のヒドロキシ基をエステル化させ水に対する溶解性及び包接形成能が

どのように変化するか考察する

2 原理

21 包接化合物

包接化合物は Schlenk によって名づけられたもので定義によると原子または分子が

結合してできた 3 次元構造の内部に適当な大きさの空孔があってその中に他の原子また

は分子が一定の組成比で入り込んで特定の結晶構造をつくっている物質ということにな

っている前者の骨組み構造の化合物のほうをホスト分子後者の入り込んでいる分子の

ほうをゲスト分子ともよんでいるがこのゲスト分子の大きさや形状はまったくホスト

構造によって規定されるだけで両者の間には弱い相互作用があっても水素結合のよう

な力はなくてもいっこうに構わないのであるこの包接化合物でのゲスト分子とホスト

構造との間の相互作用というのも物理的な吸着系に近いもので非常に弱い van der

Waals 力から高度に配向した双極子間力まで種々のものが存在する 1)

22 シクロデキストリンの包接能

シクロデキストリンはグルコース残基がα-1α-4 結合した環状のオリゴ糖で一般的

にグルコース残基が 6 個のα-シクロデキストリン7 個のβ-シクロデキストリン8個の

γ-シクロデキストリンが知られている

2

Fig1 α-シクロデキストリンの分子構造

シクロデキストリンの構造は底の抜けたバケツやドーナッツのような構造をしており

その環状構造の外側は多くの水酸基に由来する親水性領域が存在し内側の空洞の CH 基に

由来する疎水領域と相反する極性が一つの分子に共存しているがこの空洞内に様々な有

機化合物などを取り込むという包接作用がもっとも特徴的である

三種類のシクロデキストリンはそれぞれ空洞の大きさが相違するためそれぞれ包接化

合物を形成しやすいゲスト分子が存在する内部空洞が比較的小さいα-シクロデキストリ

ンは比較的小さい分子例えばエタノールメタノール等をβ-シクロデキストリンは汎

用性が広く各種ポリフェノールコレステロールメンソール等の香気成分芳香族化

合物等をよく包接するγ-シクロデキストリンは大きい分子である脂肪酸などを包接する

ことが知られている

シクロデキストリンの包接力の原動力は疎水性相互作用と分子間力が主なものとされて

いるつまりゲストは疎水性の高い分子あるいは分子の大きさが空洞にぴったりとフィッ

トするものほどシクロデキストリンがそのゲストを包接する力は大きく包接物を作り

やすい傾向がある逆に親水性が高くシクロデキストリンの空洞にフィットしないよう

なゲスト分子では包接現象は起こりにくいといえるしかしゲスト分子全体がシクロ

デキストリンの空洞内にとりこまれる必要はなく部分的にでも疎水性が高く空洞にフィ

ットすれば包接が可能となるつまりゲスト分子全体がシクロデキストリンより明ら

かに大きいものでも包接作用による効果が観察される場合がある 2)

Fig2 シクロデキストリンがゲストを包接する様子

23 水溶化シクロデキストリン

3

ブドウ糖やショ糖など通常糖質の水への溶解度は非常に高いしかし天然型シク

ロデキストリンは隣接する水酸基との水素結合の為3 種のシクロデキストリンの中では最

も高い水溶性を有するγ-シクロデキストリンであってもその溶解度は 25において水

100 mL に 23 g であり油性物質を包接した場合は一般的にその溶解度はさらに低くな

るそこで水への溶解度を改善するためにシクロデキストリン化学修飾体が製造されて

いるシクロデキストリンの水溶性を向上させる方法として隣接する水酸基をメチル基や

アセチル基などでエーテル化やエステル化する方法がある具体的には部分メチル化β-シ

クロデキストリンやモノアセチル化β-シクロデキストリンが工業的に生産されている

24 包接能の評価について

今回の実験ではゲスト分子としてカルボン酸を用いるシクロデキストリン及び水溶化

シクロデキストリンの包接能の評価については包接化合物に含まれているカルボン酸をア

ルカリで滴定することで求めることができる

3 実験

31 試薬sup3⁾

アジピン酸

分子式C6H10O4

分子量1464

mp153

bp3375 アジピン酸

クエン酸

分子式C6H8O7

分子量19213

mp156~157

クエン酸

シュウ酸

分子式C2H2O4

分子量9004

mp1895

シュウ酸

4

βシクロデキストリン

分子式(C6H10O5)7

分子量113500

n-ブタノール

分子式C4H10O

分子量7412 β-シクロデキストリン

bp1179

エタノール

分子式C2H6O n-ブタノール

分子量4607

mp-1145

bp7833

水酸化ナトリウム

組成式NaOH

分子量4000

mp328

bp1388

無水オクタン酸

分子式C₈H₃₀O₃

分子量27041

mp-1 無水オクタン酸⁶⁾

濃硫酸

分子式H₂SO₄

分子量9808

mp104

32 使用器具

300 mL ビーカーメスフラスコピペット三角フラスコ吸引漏斗吸引瓶ビュレッ

トスタンドボウルガラス棒

5

33 実験操作

331 エステル化シクロデキストリンの合成 ⁵⁾

1)三角フラスコにβ-シクロデキストリン 1 g を入れこれに無水オクタン酸 025 mL を加

える

2)触媒として 2-3 滴の濃硫酸を添加し攪拌する

3)約 10 分間放置してフラスコを氷桶に入れて冷やしガラス棒でフラスコの壁を強くこす

り結晶を析出させる

4)水 20 mL を加えさらに氷桶で冷やしながら残る結晶を析出させる

5)この結晶を濾分し水で洗ってから取り出して乾かして結晶を得る⁵⁾

332 包接化合物の形成

1)β-シクロデキストリン 1 g を水 100 mL に溶解させる

2)ピペットで 1 mL のカルボン酸を加えコルク栓をして静置する

3)1 週間程静置し包接化合物を吸引濾過する

4)上記の操作をカルボン酸(酢酸シュウ酸クエン酸)で行う

5)エステル化シクロデキストリンで同様の実験を行う

333 包接能の測定

1)よく乾燥した包接化合物約 1 g をメスフラスコで 100 mL 溶液とする

2)この溶液 20 mL にフェノールフタレインを指示薬として20 mL 加え 01 M 水酸化ナト

リウム標準溶液で滴定する⁴⁾

334 溶解度の測定

1)100 mL の水に 5 g の β-シクロデキストリンを溶解させる

2)沈殿をろ過し乾燥して重量を測定する

3)エステル化 β-シクロデキストリンで同様の作業を行う

参考文献

1) 竹本喜一包接化合物の化学東京化学同人1969p2

2) 辻堅司シクロデキストリンの応用技術株式会社シーエムシー出版2008p3-p9

3) 大木道則大沼利昭田中元治千原秀明化学大辞典東京化学同人1989

4) 発田寿々子教養の化学実験第 2 版学術図書出版社2014p119

5) 南篠正男先生と生徒のための化学実験共立出版株式会社1986p155

6) 「 chemical book 」〈 wwwchemicalbookcomchemicalProductPropert_JP_CB 〉

(2015418 アクセス)

1

東京理科大学Ⅰ部化学研究部 2015年度春輪講書

ダブルネットワークの合成と評価 木曜班

OnizukaM(2C)TanakaR(2C)YamamokaH(2K) OhiraM(2K)

1背景

現在高分子ゲルは紙おむつの高吸水性樹脂やソフトコンタクトレンズなど私たちの生

活において活躍しているしかし高分子ゲルは不均一な構造なため一般的に機械的強

度が弱いという欠点がある高分子ゲルの強度面での弱点を克服するために従来では

ゲルの構造を均一化して強度を上げるというアプローチがとられてきた

しかしながら材料の弾性とじん性は反相する因子として働くつまり大変形に耐え

られるゲルは弾性率を犠牲とし高弾性のゲルは小さい変形で破壊される

そこで私達木曜班は前述の問題の解決策と成り得るものとしてダブルネットワーク

ゲル(DNゲル)について注目した

2目的

既存に作られている DNゲルは溶媒に水を用いたハイドロゲルであるDNゲルはその

強度や柔軟性により生体内での人工関節に使用することが期待され研究がおこなわれて

いる木曜班では DNゲルを生体内の関節だけでなく機械の関節部の摩擦軽減材料として

の使用を提案するしかし従来の DNゲルは溶媒が水であることにより水の沸点である

100以上の条件下では性能の低下が問題視され高温になりうる機械への応用が困難で

ある

溶媒を水から有機溶媒に変更することで高温条件下でのゲルの機能維持を試みるとと

もに使用するモノマーを変更しその機能性を検討する

3原理

31 DNゲル

311ゲルの脆弱性

一般的なゲルはゼリーや豆腐のように僅かな力を加えただけで簡単に壊れるほど

弱いこの理由は 2つの現象により説明することができる

1)ゲルの内部に多数の欠陥が存在する

2)欠陥から発生した初期亀裂が容易に伝播する

前者はゲル内部の構造が不均一であることに由来するゲル合成時におけるモノマ

ーと架橋剤の反応性の違いにより不均一な重合がおこるあるいはゲル化溶液内の濃度

揺らぎが重合によって固定されることだと考えられている 1)こうしたゲルに力を加えた

2

時にゲルの弱い部分に力が集中してしまうため小さな力でも初期亀裂が生じてしまう

後者はゲル内部のポリマーの密度の低さから生じる一般的に物質内における亀裂

の進みやすさは破壊エネルギーU(Jm2)(単位面積あたりの破断面形成に費やされる仕事)

によって評価される架橋高分子材料の臨界破壊エネルギーUc(亀裂成長が起こる最小

の破壊エネルギー)は破断面の高分子鎖の数密度と架橋点間分子量に比例する 2)つま

りゲルのじん性(物質の破壊に対する抵抗の程度で粘り強さとも言い換えられる 3))はゲ

ル内のポリマーの密度には比例し架橋密度には反比例することがわかる

ゲルは 50~99wtの溶媒を含んでいて高分子の密度が非常に低い物質であるためゲ

ルの Ucはゴムなどの固体に比べてかなり小さいことが考えられる

これまでの高強度ゲル研究は主に前者の問題を解決するすなわち構造を均一化するこ

とでゲル内部の欠陥を極力減らして強度を改善しようという観点から行われてきた

312 ゲルの弾性率

高分子鎖が三次元架橋されたゲルはゴムと同じようにエントロピー弾性を持つ溶液

中に完全に湿潤した電気的に中性ゲルのせん断弾性率(横方向に対するバネ係数 4)であり

Young率 Eと E=3Gの関係式が成立する)は

GneucongkBT

b3Q-225

以上の式で表せられゲルの湿潤度 Qの増加にともないせん断弾性率Gneuは大きく低下

するここでkBはボルツマン定数Tは温度bは重合させたモノマーの大きさである 5)

一方溶液中に完全に湿潤した電解質ゲルのせん断弾性率は

GchacongkBT

b3Q-1

によって表せる 6)よって同じ湿潤度において電解質ゲルは中性ゲルよりせん断弾性率が

高いことが分かる

またゲルの湿潤度は架橋点重合 N(分子量)による溶液中に完全に湿潤した中性ゲル

の場合QasympN35であり電解質ゲル場合QasympN

32であるしたがって架橋密度を上げる

ことによりゲルの湿潤度が小さくなりせん断弾性率が上がる 3)4)

313 ゲルの破断歪と破断応力

架橋構造が均一と仮定した理想的なゲルの破断歪(ゲルが破壊するまでの変形 7))は架

(1)

(2)

3

橋点間高分子の伸びきった長さと高分子鎖に歪がない曲がった自然な状態での大きさ

の比として求められる溶媒中で完全に湿潤した中性ゲルの引っ張り破断歪はλBcongQ12で

ありQの増加により増加する一方湿潤することにより単位面積あたりの高分子

の本数が減るため破断応力は湿潤度 Qが大きくなることにより減少する故にQが大

きいゲルは伸びやすいが弱い応力で壊れる

電解質ゲルの場合高分子鎖はその解離しているイオンの浸透圧によって水中では

ほとんど伸びきった状態となっているその結果理想状態においても破断歪はλBcongQ19

になるこれは破断歪が小さくかつ湿潤度にあまり依存しないことを意味している 5)

以上のことより

1)架橋密度を上げる(架橋点間分子量を下げる)ことでゲルが固くて脆くなる

2)水中に完全に湿潤した高分子電解質ゲルは中性のゲルより硬くて脆い高弾性と変形は

相反するということが考えられる

314 DNゲルの高強度機構

DNゲルは強電解質をモノマーとする 1st networkゲル電気的に中性なモノマーを用

いる 2nd networkゲルを組み合わせることにより生成される前述した通りゲルにおける

弾性と靭性は常に相反する働きをするそれゆえに単一な物質で両方の性質を得るこ

とは原理的には不可能である同じ湿潤度において電解質ゲルと中性ゲルのせん断弾性

率の比はGchaGneucongQ125であるために両者の違いは湿潤度 Qが高いほど大きくなる

この性質を利用することにより電解質ゲルは硬い成分中性ゲルは軟らかい成分とし

て用いることができる

亀裂を含む DNゲルがある引張荷重を受けると応力集中の効果で最初に亀裂先端近傍

の電解質網目(1st network)が破壊され局所的にゲルが降伏する荷重がますと電解質網

目の破壊が次々に伝播し広範囲にわたるダメージゾーンが形成されていくこの過程

で非常にいい気なエネルギーが分散されるダメージゾーンがある大きさまで広がった

ときようやく亀裂先端に中性網目(2nd network)が十分に伸びて切断し亀裂が進行す

る 8)

4

Fig 1 DNゲルの破壊モデル 9)

32 光ラジカル重合

321 光分解

光重合開始剤に UVを当てることにより開裂がおきラジカルが発生する本研究にお

いては 1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンを用いる 10)

Scheme1 1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンの開裂 10)

ℎ120592

5

322 開始反応

UVを当て光開裂により生じたラジカルがビニル基の二重結合を攻撃し光重合開始剤

と炭素の間に σ結合を作り炭素原子にラジカルが存在することになる

Scheme2 ラジカルの生成

323 成長反応

Scheme2で生成したラジカルが他のモノマーを攻撃しσ結合を生じるそれが何回

も起こることにより分子鎖が成長する 6)

Scheme3 分子鎖の成長

324 停止反応

Scheme 3で成長した成長ラジカル同士が σ結合を作り分子鎖が生成する 7)

Scheme4 分子鎖の生成

4実験

41 DNゲルの合成

411 使用器具試薬

ビーカー乳鉢乳棒薬さじUVライトデシケーター

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸

分子式 C7H13NO4S

式量20724

融点160

用途1st networkゲルのモノマー

6

アクリル酸

分子式C3H4O2

式量7206

融点123

沸点1416

比重10511

危険性引火性(発火温度 360 )

用途1st networkゲルのモノマー

アクリロニトリルの加水分解アクロレインの酸化ニッケルカルボニルの存在下ア

セチレンと一酸化炭素と水との反応などにより合成される酢酸に似た刺激臭を持つ液

体水エタノールエーテルによく溶ける酸素の存在下容易に重合するプラス

チックの原料として用いられる

アクリルアミド

分子式C3H5NO

式量7108

融点845

沸点103

比重1122

用途2nd networkゲルのモノマー

アクリルニトリルを硫酸あるいは塩酸を処理して得られるフレーク状の結晶溶解

性(g100 ml溶媒30 )水 2155メタノール 155エタノール 862アセトン 631

酢酸エチル 126クロロホルム 266ベンゼン 0346ヘプタン 00068化学的に不安

定で冷暗所に保存する必要がある融点付近あるいは紫外線下で重合する重合の仕方

により水溶性不溶性のものが得られる

酢酸ビニル

分子式C4H6O2

式量8609

融点-932

沸点723

比重09317

用途2nd networkゲルのモノマー

無色の液体酸やアルカリよって容易に加水分解されてアセトアルデヒドと酢酸を生

じる熱光ラジカル開始剤によって重合する

7

メタクリル酸メチル

分子式C5H8O2

式量10012

融点-48

沸点1003

比重0936

用途2nd networkゲルのモノマー

無色透明で催涙性の芳香のある液体工業的にはアセトンシアノヒドリンにメタノー

ルと硫酸を作用させて合成する実験室的にはメテクリル酸メチルの重合物を 320

以上で乾留すると得られる一般に有機溶媒には溶けるがエチレングリコールグリセ

リンには溶けにくい重合しやすいので重合禁止剤としてヒドロキノンモノメチルエ

ーテル(65 ppm)を添加して保存する有機ガラスの製造ビニル系共重合体など広く

重合反応に用いられるまたメチル以外のアルコールのメタクリル酸エステルの合成

にも用いられる

NN-メチレンビスアクリルアミド

分子式C7H10N2O2

式量15417

融点300

用途架橋剤

1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン

分子式C13H16O2

式量20427

融点47-50

用途光重合開始剤

最大吸収波長は 260 nm付近にある

エチレングリコール

式量6207

融点 -126

沸点1976

比重11132

8

用途ゲル溶媒

重要な二価アルコールでエチレンオキシドの酸触媒による開環高温高圧下水と

の反応による開環などによって合成される吸湿性無色無臭の液体甘味を有する

が有毒である高沸点を有ししかも水酸化カリウム水酸化ナトリウムを溶解し水や

エタノールと任意の割合で混合するので有機合成における溶媒として広く用いられ

また塩基に対して安定なエチレンケタールの生成によるカルボニル基の保護に用いら

れるさらに酢酸ビニル系樹脂の溶剤や水と混ざり高沸点のため不凍液に用いら

れるなど広い用途を持っている

412 1st networkゲルの作成

1) 1st networkゲルのモノマー(電解質モノマー)架橋剤(NN-メチレンビスアクリルア

ミド)と光重合開始剤(1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)を水に溶解させた水

溶液を調製する

2) UVを 8時間照射して光ラジカル重合をさせる

3) 2)で合成した電解質ゲルを乳鉢に入れ適当なサイズに砕いた後デシケーター内で一

週間ほど乾燥させる

413水溶媒 DNゲルの作成

1) 2nd networkゲルのモノマー(中性モノマー)架橋剤(NN-メチレンビスアクリルアミ

ド)光重合開始剤(1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)をエチレングリコールに

溶解させた溶液を調製する

2) 乾燥した電解質ゲルを 1)で調製した水溶液に入れ電解質ゲルを十分に膨らませるそ

の後UVを照射し中性モノマーを光ラジカル重合させる

414エチレングリコール DNゲルの作成

1) 2nd networkゲルのモノマー(中性モノマー)架橋剤(NN-メチレンビスアクリルアミ

ド)光重合開始剤(1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)をエチレングリコールに

溶解させた溶液を調製する

2) 乾燥した電解質ゲルを 1)で調製したエチレングリコール溶液に入れ電解質ゲルを十分

に膨らませるその後UVを照射し中性モノマーを光ラジカル重合させる

42 DNゲルの評価

421引っ張り試験

使用するモノマーの変化によるゲルの性質の差を評価する引っ張り試験は

JIS-K-6251-7号に準拠する方法で測定する

9

1)DNゲルを X方向の長さ 50 mmY方向の長さ 75 mmZ方向の長さが 25 mmの大

きさに成形する

2)その一端部に X-Y平面に平行な切込みを入れて2つの引張端部を形成する

3) 引張端部を片方は固定しもう片方を一定の速度で引っ張るこのときの引っ張る力 F

を測定する

Fig 2 引っ張り試験 13)

422 摩擦試験

使用するモノマーの変化溶媒の変化によるゲルの性質の差を評価する

摩擦試験は東京理科大学工学部第一部機械工学科佐々木研究室に依頼する予定である

用いる機械は SVR4パーカー熱処理工業株式会社製であり180での高温での摩擦係

数の測定が可能である

摩擦測定は常温(20 )と高温(100 )で測定することを予定している

10

5 展望

51 DNゲルの合成

実験操作は溶液を調製した後UV照射するという簡易な手順なので合成は比較的早い

段階で成功すると考えられる

1st networkゲル合成に使うのは電解質モノマーなため水溶液のモノマーの濃度が低

いと湿潤度 Q が大きくなりせん断弾性率が下がり剛性が弱いゲルが出来上がると考え

られる

架橋剤を多く使用すると架橋密度を上がるので 2nd networkゲルが入り込む空洞が小

さくなるそのために架橋剤が多すぎると高弾性のゲルが生成できると考えられる

また同様な考えで2nd networkモノマーが含まれている水溶液に乾燥させた1st network

ゲルを入れる量が多くても高弾性のゲルが生成できると考えられる

52 DNゲルの物性

ゲルの高分子網目は基板から離れようとするときにゲルと基板の間に僅かな溶媒層

が生じるこの状態では溶媒層が潤滑油のような働きをして生じる摩擦力は小さなも

のとなるゲル周辺が高温な状態ではこの溶媒層が水の場合は蒸発してしまうので摩

擦力は増大すると考えられる溶媒を水からより沸点の高いエチレングリコールなどに

変えれば摩擦力は増大することはないと推測される 14)

11

参考文献

1) J Bastide and L LeiblerMacromolecules1988212647

2) G G J Lake and A G ThomasProc R Soc LondonA1967300108

3)越後亮三 機械工学辞典 朝倉書店 2007 p631

4) 伊藤勝悦 やさしく学べる材料力学 森北出版 2014 p14

5)SPObukhovMRubinstein and RHColby Macromolecules 1994273191-3198

6)MRubinsteinRHColbyAVDobrynin and JJaonnyElasticMacromolecules199629398-406

7) 大 阪 府 立 大 学 基 礎 講 座 材 料 の 強 度 と 破 壊

httpwwwengmmtrosakafu-uacjpresearchstrength-japdf2015413取得

8)聾剣萍「生命科学時代の新材料-高弾性高靱性ダブルネットワークゲル」高分子学会

『高分子』高分子科学最近の進歩58巻 5号2009p327-p331

9)YTanakaEurophysLett20077856005

10)蓮池幹治ラジカル重合ハンドブックエヌティーエス2010p444-p445

11)大津隆行ラジカル重合(Ⅰ)化学同人1971p80-p81

12)大津隆行ラジカル重合(Ⅰ)化学同人1971p153-p154

13)聾剣萍高分子ゲルおよびその製造方法特開 2009-185156 2008-02-05

14) 角五 彰龔 剣萍長田義仁「ゲルの摩擦と水和潤滑~生物の滑らかな運動解明への

アプローチ」日本生物物理学会『生物物理』47巻 4号2007p 253-p258

1

東京理科大学Ⅰ部化学研究部 2015年度春輪講書

耐塩性の高い新規化粧品用増粘剤の開発 2015年度金曜班

Nomata N(2OK)Seki M(2OK)Tin J(2OK)Takahashi R(2C)Watanabe A(2K)

Asai D(2K) Nishimiti D(2K)Yamamoto R(2K)

1 動機

化粧品において増粘剤の果たす役割は非常に大きい

化粧品にはクリーム状のモノが多くありその整形には増粘剤が必要不可欠である

また増粘剤は製剤だけでなく密閉効果や水和効果によって薬剤を皮膚に効率的に輸

送することに役立っている

この増粘剤であるが一つ課題がありアスコルビン酸塩(ビタミン C)のようなクロロ

基を持つ塩系薬剤をゲル中に含む場合経時によってべたつきといった使用感の悪化

につながるといった弱点があるこの問題の解決のために塩系薬剤への耐性の高い増

粘剤の開発が望まれている

塩系薬剤の高い美容効果からこの問題の解決に対する化粧剤企業のニーズは高くこ

の問題は長く研究が続けられていたが近年資生堂が逆相マイクロエマルション重

合法によって microスケールの粒状高分子を多数合成することによりできる増粘剤が高い

耐塩性を持ち使用感もよいことを発見したがこの粒状高分子増粘剤には未だ試み

られていないモノマーが多くある

そこで今年度の金曜班ではこの逆相マイクロエマルション重合法において未だ

試みられていない親水基を持つモノマーを利用して新規の増粘剤をつくることで粒

状高分子による増粘剤の耐塩性と肌触りと親水基の関係を調べ応用化に利すること

ができるのではないかと考え実験を行うこととした

2 背景

増粘剤とは水溶液をゲル化するために添加される物質であり化粧品において広く

用いられているこの増粘効果は従来では高分子鎖同士の分子間力や架橋で生じる

網目構造の結果生じる液中の摩擦力によるものである

動機で述べたように μスケールの粒状高分子が増粘剤として良質であることがわか

っているただし粒状高分子の形状は反応場であるセッケンミセルの大きさだけで

なく親水基やポリマーを構成する原子同士の分子間力によって変わる高分子の立体構

2

造にも影響されている

また粒状高分子の正確な一次構造を把握することは大変難しいことであるので

応用化のためには高分子の一次構造でなくモノマーによって粒状高分子特性の変化

を調べることが重要である

さらに従来用いられているポリマーがスルホ基とカルボキシル基を親水基とする

ものしか存在しない

以上の三点から酸以外の親水基をもつモノマーで増粘剤を合成したときその性

質はどうなるかを調べることでより製品として利用価値が高い粒状高分子増粘剤を合

成することができるのではないかと考えた

そこで新規モノマーとしては対照実験を行うためにアクリルアミド系モノマー

でかつ 2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸のスルホ基と同じ炭素骨格の先

端に親水基が存在するものとしてN-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド (3-アク

リルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライドを用いてそれぞれ親水基が酸

ではなくヒドロキシ基である場合親水基がアニオンではなくカチオンである場合に

ついて研究を行うこととした

この二種の以外にも水溶性のアクリルアミドポリマーは存在するが上記の条件を満

たさないまたは高価であるため本実験では用いないこととした

Fig1 N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド

Fig2 (3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライド

3

3 原理

31 一般的な液体の粘性

溶液の粘性は一般論では以下のように表される

Fig3のように XY平面を取り液面に平板を用意し引っ張った時挟まれた溶液内

には図のようなせん断流動が発生する高さ Yでのせん断速度は(119881

119889) 119910で与えられる

この時平板に挟まれた溶液を薄層の集まりと考えると隣り合う薄層間に摩擦が生

じるこの内部摩擦力が粘性力であるずり速度勾配が十分に小さければ平板の単位

面積当たりに生じる粘性力 Fv0はその勾配 Vd に比例するすなわち以下の式で表

され1205780を粘性係数と呼ぶこの値は溶媒固有である1)

1198651199070 = 1205780 (119881

119889)

Fig3 溶液ずりせん断図

32 増粘剤の粘性

増粘剤の多くは低分子の液体に高分子を溶かすと著しく粘性が高くなる性質を利

用している

この粘性の発生するメカニズムは下の Fig4において平板間の溶液を薄層に分けた

際高分子鎖は溶液の移動に伴って回転するこのとき溶液中の薄層は薄層間の摩

擦以外に高分子鎖との間にも摩擦が生じているこの摩擦の増加が粘性力の増加とな

る 2)

4

Fig4 高分子による粘性増加

また高分子鎖同士が分子間力によって結びつき三次元構造を形成することで内

部摩擦力は一層大きくなるこのため高分子による増粘効果は顕著である

架橋高分子では三次元構造が高分子鎖同士の分子間力による形成よりも強いものと

なるので増粘効果及びレオロジー特性に優れる 3)

33 塩系薬剤による粘性劣化のメカニズム

塩系薬剤とはビタミンC (アスコルビン酸塩)のようにクロロ基をもつ薬効物質のこ

とである

このクロロ基が直鎖高分子や架橋高分子がポリマー間で形成する三次元網目構造

を破壊することによって増粘効果を消失させ内容物の流失によるべたつきを生じさ

せる 3)

34 粒状高分子の粘性

粒状高分子の粘性について粒状高分子はその粒経が小さいほど体積に対する表面

積が増え溶液内での内部摩擦力が大きくなる

また粒子同士が摩擦力を元に網目構造を形成するため網目構造の構成要因が直

鎖高分子や架橋高分子の高分子増粘剤と異なっている 4)

35 逆相マイクロエマルション重合法

後述する転相温度乳化法を用いて形成した5 μm~30 μm 形成したマイクロエマル

ション内において水溶性のモノマーを利用して行う乳化重合法の一種容易に極小の

5

ポリマーを合成することができる 5)

36 界面活性剤の概略

界面活性剤とは分子の構造が水になじみやすい部分(親水基)と油になじみやすい

部分(新油基)からできていて2つの物質の間の界面に集まりやすい性質を持ちそ

の界面の性質を著しく変える物質というのが界面活性剤の定義である

代表的な界面活性剤の特徴は界面における「吸着」と「ミセル形成」である 6)

もうひとつの代表的な作用として「可溶化」もある

37 エマルションの形成

界面活性剤に有機溶媒が取り囲まれて水に可溶化されたとき水溶液中に存在する

有機溶媒を界面活性剤が取り囲んだ液滴のことを OW エマルションと呼ぶ

有機溶媒中に水が可溶化される場合WOエマルションと呼ぶ

38 ノニオン界面活性剤

非イオン界面活性剤とも言う界面活性剤の内解離基を持たず電気的に中性な

界面活性剤で親水基は主にポリオキシエチレン基であるその特殊な性質上他の種類

の界面活性剤に無い性質として曇点と転相温度を持つ 今回使用するノニオン界面

活性剤はポリオキシエチレンオレイルエーテルであり基本式は以下のような形にな

る 7)

R-O(CH2CH2O)n-H

Scheme 1 ポリオキシエチレンオレイルエーテルの基本式

39 曇点

曇点とは透明な液体が相分離を起こして白濁する温度のこと

本実験においてはノニオン界面活性剤が加温によって界面活性効果を失い相分離

によって白濁する温度のこと 8)

310 転相温度乳化

ノニオン界面活性剤は加温によって界面張力が変化しWO型エマルションから

OW 型に変化するこの変化点のことを転相温度と言い転相温度において界

6

面張力が最低になっているので溶液エマルションが極小になる

またこの転相温度は界面活性剤に固有の値となるので二種の比較的性質の

近い界面活性剤を混合することで転相温度を操作し適切な温度で5 μm~30 μm

程度の直径を持つエマルションを作成する方法を転相温度乳化法と呼ぶ 10)

311 ラジカル重合

開始剤を用いてラジカル種を生成して行う重合法のことをラジカル重合法と言う

開始剤の分解要因によって熱光放射線ラジカル重合の三つに分けられる 10)

3111 ラジカル重合を構成する四反応

ラジカル重合は 4種類の反応が同時並行的に起こるそれぞれ以下の通りである 11)

開始反応

開始剤が熱光放射光などの要因によってラジカル開裂を起こしラジカル種を

生じさせる反応

成長反応

ラジカル種がモノマーと反応することでモノマー新たなラジカル種が生成する

反応これが連続することでポリマーが合成される

停止反応

連鎖していた成長反応が止まる反応主にラジカル種同士の反応による

連鎖移動反応

ラジカル種がモノマー以外の分子主に溶媒分子等と反応することでポリマー以

外の物質を合成する副反応

3112 乳化重合

乳化重合はモノマー液滴と呼ばれるモノマーを大量に保存しているエマルシ

ョンと反応場となる極小のセッケンミセルの二つの構造を持つ溶液中で行う不均

一系ラジカル重合の一種である 12)

成長反応が一段階進むたびにモノマー液滴から拡散の理論式に従ってモノマ

ーがミセル内に移動するこの一連の反応を繰り返して反応が進む 13)

そのため種々のラジカル重合法と比較して以下の特長がある 13)

セッケンミセル内に存在するラジカルが常に一つであるため停止反応が

7

起こりにくく比較的重合度の高いポリマーが生成しやすい

反応速度が拡散作用によって律速されかつセッケンミセルの周囲を大量

の溶媒分子が囲んでいるため除熱が容易であるという理由から熱暴走を起

こしにくいという利点がある

ミセル内で重合するため合成した高分子が絡まりやすく粒状の分子が作

成できる

Fig5 乳化重合模式図

312 MS(質量分析法)

質量分析法とは分子の質量すなわち分子量を測る手段でもあるまた分子を分解

したフラグメントの質量を測ることによって分子構造に関する情報を得るものでも

ある

高エネルギー電子が有機分子にぶつかると分子から電子がはじき出せれカチオ

ンラジカルが発生する

119825119815 rarr 119825119815++119838minus Scheme 2カチオンラジカルの発生

電子の衝突により大量のエネルギーが分子に与えられることで大部分のカチオン

ラジカルを生成した後フラグメントに分解するフラグメントは小さな破片となっ

て浮遊し正電荷や中性となる

このカチオンラジカルとフラグメントについてmz値を横軸相対強度を縦軸につ

いて取ったグラフから質量スペクトルを読み取る 14)

またMS(質量分析法)はイオン化の方法などによりいくつかに分けられ今回使用

したいのは高分子試料でもほとんどフラグメンテーションを起こさないソフトなイ

8

オン化法であるMALDI法 15)である

3121 MALDI法(マトリックス支援レーザー脱離イオン化法)

試料を 25-ヒドロキシ安息香酸のような適切なマトリックス上に吸着させて

ペレットを作成しレーザー光を短時間照射してイオン化する

エネルギーがマトリックスから試料に移動し[119872 + 119867119899 ]119899+に分解される 15)

MALDI法にはよく TOF型の MSが用いられている

4 実験

41 2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を用いた既存化粧品用増粘剤の合成

411 使用器具試薬

温度計ウォーターバスビーカー薬さじデシケーター

ジメチルアクリルアミド

式量9913

沸点81

発火点71

LD50(経口)316mgkg

LD50(経皮)580mgkg

製造和光純薬工業株式会社

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸

式量20725

融点200

LD50(経口)5400mgkg

製造和光純薬工業株式会社

NN-メチレンビスアクリルアミド

式量156

沸点4451

発火点215

LD50(経口)390mgkg

製造東京化成工業株式会社

9

へプタン

式量1002

沸点98

引火点-4

水に不溶

製造昭和化学

2-プロパノール

式量60

沸点82

発火点12

LD50(経口)区分外(GHS分類)

LD50(経皮)区分外(GHS分類)

製造昭和化学

ペルオキソ二硫酸アンモニウム

式量22820

冷水に易溶保存湿気厳禁

重合開始罪乳化重合レドックス重合に用いられる

製造和光純薬工業株式会社

412 実験手順

① ビーカーにイオン交換水ヘプタンポリオキシエチレンオレイルエーテル(2)

(8)をそれぞれ507 mL 507 mL489 g((2)(8)=23)加えて良く撹拌したも

のを入れる

② その後その後温度調節機能つきスターラーに乗せ白濁するまで加熱する

白濁した液が透明化するまで温度を落とし電気伝導率計を用いて溶液が転

相温度付近に保たれていることを確認する

③ 以上の操作が済んだ重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先

ほどのスターラーと同じ温度にしたウォーターバスに移し2-アクリルアミド

-2-メチルプロパンスルホン酸NNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 137 g

262 g入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始

剤としてメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

10

④ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

42 N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミドを用いた新規化粧品用増粘剤の合成

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を誘導体と入れ替える以外の

操作は 41に準ずる

親水基による増粘性の変化を観察するため架橋剤のモノマーに対する濃度比

は 2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を使用したポリマーが最も増

粘効果の高くなると報告された濃度比を用いる

421 使用器具試薬

使用器具は 41に準ずる

試薬

N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド

式量11513

沸点130

発火点189

製造東京化成工業株式会社

422 実験手順

① 412 ①②と同じように重合系を作成する

② 以上の操作が済んだ重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先

ほどのスターラーと同じ温度にしたウォーターバスに移しN-(2-ヒドロキシエ

チル)アクリルアミドNNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 076 g262

g 入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始剤と

してメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

③ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

11

43 (3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライドを用いた新規化粧品用

増粘剤の合成

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を誘導体と入れ替える以外の操作は

41に準ずる

親水基による増粘性の変化を観察するため架橋剤のモノマーに対する濃度比は 2-ア

クリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を使用したポリマーが最も増粘効果の高く

なると報告された濃度比を用いる

431 実験器具

実験器具は 41に準ずる

試薬

(3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライド

式量22074

沸点100

製造東京化成工業株式会社

432 実験手順

① 412 ①②と同じように重合系を作成する

② 重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先ほどのスターラーと

同じ温度にしたウォーターバスに移し (3-アクリルアミドプロピル)トリメチ

ルアミニウムクロライドNNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 123 mL

262 g入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始

剤としてメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

③ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

5 評価分析

耐塩性の高い増粘剤の耐塩性と使用感と親水基との関係を評価するために以下の二

つの測定を行い評価する

増粘剤の耐塩性の評価のために塩酸を増粘剤内部に取り込ませた状態で経時

12

による粘度の変化を観察する

また高分子の粘性を考える上で直鎖高分子の場合よく参考にされるのが平

均分子量でありこの値を測定することで親水基が変化した場合に平均分子

量が粒状高分子の粘性にも大きく影響するか確認する

精密に上の測定を行うには専用の機器が必要になるため機器メーカーの株式

会社エーアンドデイ様または東京理科大学理学部応用化学科駒場研究室に

また高分子の性質を考える上で重要視される平均分子量及び分子量分布に

ついては東京理科大学化学系機器センターにあるMALDI-TOF型質量分析計を管

理者の東京理科大学理学部応用化学科の根岸先生に測定に協力していただこうと

考えている

6 謝辞

東京理科大学工学部工業化学科 近藤行成教授

東京理科大学理学部化学科 遠藤恆平准教授

東京理科大学理学部応用化学科 駒場慎一教授

この研究を進めるに当たり大変お世話になった先輩先生方企業の皆さんに感謝の

意を表明します

参考文献

1) 小澤美奈子 基礎高分子科学 高分子学会 編 2010年 第六版 p979899

2) 小澤美奈子 基礎高分子科学 高分子学会 編 2010年 第六版 p99100

3) 金田 勇 逆相マイクロエマルション重合法による水膨潤性ミクロゲルの重合とその増

粘剤としての応用 2010年 p1

4) 小林敏勝 福井寛 きちん知りたい粒子表面と分散技術 日刊工業新聞社 p76

5) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 2006 p839 840 841

6) 皆川基 藤井富美子 洗剤洗浄 百科事典 大矢勝 2007年版 p4647

7) 日本産業洗浄協議会編 わかりやすい界面活性剤 工業調査会 2003 p373839

8) 資生堂 HP httpswwwshiseidogroupjprddevelopmentformulationhtmlより 2015

44取得

9) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 テクノシステム 2006 p321

10) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 テクノシステム 2006 p397

13

398399

11) 遠藤 剛 高分子の合成(上)~ラジカルカチオンアニオン重合~ 講談社 2010 3p

12) 佐藤壽彌編 高分子微粒子の技術と応用 シーエムシー出版 2004 p2526

13) 佐藤壽彌編 高分子微粒子の技術と応用 シーエムシー出版 2004 p27

14) マクマリー 上 8版 東京化学同人 p403404

15) John McMurry マクマリー有機化学(上) 第 8版 2013 p410411

Page 17: ゼオライトとキトサンを用いた 金属イオン除去剤の …kaken/studies/2015/2015-s-all.pdf1 東京理科大学I 部化学研究部 2015 年度春輪講書 ゼオライトとキトサンを用いた

6

Fig3-3 ケイ酸の脱水縮合反応

33 接着の原理

接着剤による接着効果には複数の理論が挙げられており賛否両論あるものもあるま

た個々の接着現象においても複数の接着効果が絡み合っていることが多く接着効果の

検証は困難であるとされるある接着系では適用できる接着効果が別の系ではまったく無

力ということも多い以下に主な接着効果の理論をあげる

1) アンカー効果

雲母を注意深くはがしたようなごくわずかな例外を除きすべての固体表面は数Åオ

ーダーの粗さを有する例えば機械で製造される金属表面の粗さは 3~6 μmであり研

磨した場合でも 002~025 μmである

アンカー効果とはこのような被着材の凹部に流入した接着剤が固化し被着部に引っかか

ることにより界面が結合するというものであるアンカー効果のような界面との相互作

用を無視した接着効果理論を機械的結合論という

開口部を有するクレバスへの液体の流入について理論式が提案されている

以下の 2式は液体の粘度 η接触角θの液体が深さ Zまで浸透するまでの時間 tを表し

(a)開口部の幅がδの平行板の場合

Zdz

dt=

120575119910

120575120578120574 cos 120579

(b)開口部δ深さ Z0の V型溝の場合

11988501198971198991198850

1198850 minus 119885minus 119885 =

120575120574 cos 120579

6120583119905

となる式によれば開口部が大きくぬれがよく粘度の低い液体ほどまた時間をかけ

たほど深くまで侵入できるとされる

7

Fig3-4 アンカー効果

2)分子間相互作用

ふたつの物体の接着面で分子同士が接触するところで互いにひきつけあう力が働くこと

で接着するとするもの代表的なものにファンデルワールス力結合水素結合が存在す

3)化学的結合

界面に化学結合が存在することで接着強さに寄与するとするものである古くから提唱

されている説であるが化学結合の存在の証明が難しく接着系の界面に本当に化学結合

が存在するのかは十分に検証されなければならないとされる

4)表面自由エネルギーと表面張力

物質の内部と表面では性質が異なる内部の分子は周囲を分子に囲まれており分子間

力で互いに引き合うため安定化されるこれに対し表面の分子には周囲を囲む分子が内部

に比べて少なく内部分子と比べて不安定=エネルギーが高いということになるこの余

分のエネルギーを表面自由エネルギーと呼ぶ

表面積が小さいほど表面自由エネルギーは少なくなるため物質の表面では表面を

小さくしようとする力が働くこの力を表面張力と呼ぶ

5)ぬれと接着角

固体表面に液体が存在するとそれぞれの表面自由エネルギーとその間の界面自由エネ

ルギーとのバランスによって液体が広がり固体表面が液体表面に置き換えられるこの

現象がぬれである固体表面のぬれは材料表面の親水性疎水性や接着強度と直接関係

しているため接着の分野ではきわめて重要である固体表面に液滴を落とすと個体の

表面張力γS と液体の表面張力γL 固体と液体の界面張力γSL が釣り合うことによってあ

る角度θで平衡になるこのとき固体と液体空気の境界点 A における力の水平成分の

釣り合いから次式の Young-Dupreの式が得られる

120574119878 = 120574119878119871 + 120574119871 cos 120579

8

自然状態では表面張力により液体は球状になるこの式は固体表面上での液体を広げよ

うとする力と球状を保とうとする力のつりあいの式である

Fig3-4 固体表面上の水滴

また界面自由エネルギーγ12 で接着している二種類の物質を引き離し表面自由エネルギ

ーγ1γ2をもつ二つの物質に分けるのに必要な仕事(これを接着仕事という)Waとすると

119882119886 = 1205741 + 1205742 minus 12057412

であらわされるこれを Dupreの式と呼ぶ接着仕事とはふたつの物質を引き離すのに必

要な仕事であるからWaの値が高いほど接着強度が強いということになる

個体と液体との関係においてこれら二式をあわせると

119882119886 = 120574119871(1 + cos 120579)

を得るこれを Young-Dupre の式という液体の表面張力と接触角から接着材の接着強

度が分かるという式になっている

6)接着力低下因子と表面処理

接着は清浄な面と面の接触が前提である金属表面は清浄であれば 1000~3000 mNmの

表面張力があるはずであるが大気中では数十mNmの値をしめすこれは異物が付着した

り酸化されていたりするためである特に表面がもろい物質でおおわれていると剥離時に

もろい面での剥離が起こり見かけ上弱い接着強度となる事がある

このような金属表面の表面張力の低下を防ぎアンカー効果において適切な凹凸を金属表

面に付与し接着強度向上を図るために洗浄と研磨を行うのが望ましい

5実験方法

41使用する器具

100 mL ビーカーガラス棒ホールピペット安全ピペッターピンセットキムワイ

プ電気炉2 L ペットボトル紐アルミ角材(10 times 30 times 30 mm)サンドペーパー

はけ

9

42試薬の物性

ケイ酸ナトリウム a)

ケイ酸のナトリウム塩で種類が多いいわゆる水ガラスも多くの場合はケイ酸ナトリウム

であるがその組成は安定していない単一物質として得られているものだけでもメタ

ケイ酸ナトリウム Na2SiO3およびその種々の割合の水化物オルトケイ酸ナトリウム

Na4SiO4二ケイ酸ナトリウム Na2Si2O5四ケイ酸ナトリウム Na2SiO9 などがあるオ

ルトケイ酸ナトリウム Na4SiO4=18405二酸化ケイ素と水酸化ナトリウムを適当な条件

で融解すると得られる水溶液で両者を反応させたのではオルトケイ酸ナトリウムの結晶

は得られずにメタケイ酸ナトリウムの水化物になってしまう無色六方晶系の結晶酸

と加熱していると二酸化ケイ素が沈殿している

酸化マグネシウム b)(MgO)

式量 4030

融点 2852

沸点 3600

一般にアンモニウム塩水溶液に溶けるがエタノールに不溶空気中で水と二酸化炭素を

吸収し炭酸水酸化マグネシウムに変化する水と反応して水酸化マグネシウムとなる耐

火レンガマグネシアセメントの製造原料医薬品として制酸剤の原料となるほか触媒

または吸着材ゴム工業にも用いられる

酸化亜鉛 c)(ZnO)

式量 8138

密度 547 gcm3

無定形の白色粉末水にはほとんど溶解しないが両性酸化物で希酸や水酸化アルカリ

水溶液アンモニア水に溶解する空気中で湿気と二酸化炭素を吸収する白色顔料とし

てペイント絵の具などに用いられるほか粒子の細かいものは医薬品化粧品として用

いられる

酸化カルシウム d)(CaO)

式量 5608

融点 2572

沸点 2850

密度 340 gcm3

10

酸に可溶空気中の湿気を吸収して水酸化カルシウムとなりまた空気中の二酸化炭素を

吸収して炭酸カルシウムとなる水と反応して水酸化カルシウムとなるしっくいモル

タルなどの建築材料石膏さらし粉消石灰の原料医療用に用いられる医療用に用

いられる酸性土壌改良にも用いられる

炭酸カルシウム e)(CaCO3)

式量 10009

融点 1339

二酸化炭素を含む水には炭酸水素カルシウムとして溶解する酸には二酸化炭素を発生し

て容易に溶ける加熱すると二酸化炭素と酸化カルシウムに解離する

二酸化ケイ素 f)(SiO2)

式量 6009

低温ではフッ素フッ素酸水素酸だけが反応する高温では他のハロゲン元素とも反応す

る水酸化アルカリ炭酸アルカリと融解すると水溶性のアルカリケイ素酸塩となる

43実験操作

431被接着面の均一化

1)10times30times30 mmのアルミ角材の表面をサンドペーパーで汚れがなくなるまで削る

2)削った表面をアセトンで洗浄する

3)洗浄が終わったアルミ角材の重量を測り記録する

432ケイ酸ナトリウムのみの接着剤の作製

1)100 mL ビーカーにケイ酸ナトリウム 50 g を加え粘り気が残るぐらいまでイオン交換

水を加えガラス棒で撹拌する

2)アルミ角材の 10times30 mm の面にはけを用いてケイ酸ナトリウム溶液を均一になるよう

に塗りアルミ角材を重ね合わせる

3)150にセットした電気炉に接着面がずれないように慎重に置き 1時間焼成する

433添加物を加えた接着剤の作製

1)100 mLビーカーにケイ酸ナトリウム 50 g添加物(酸化マグネシウウム酸化亜鉛

酸化カルシウム炭酸カルシウム二酸化ケイ素)を 010 gから 010 gずつ 20 gまで加

え粘り気が残るぐらいまでイオン交換水を加えガラス棒で撹拌する

2)アルミ角材の 10times30 mm の面にはけを用いてケイ酸ナトリウム溶液を均一になるよう

に塗りアルミ角材を重ね合わせる

3)150 にセットした電気炉に接着面がずれないように慎重に置き 1時間焼成する

11

5評価方法

51接着強度の評価

1)432433で接着したアルミ板にひもとペットボトルを用いて Fig5-1のように設置す

アルミ角材

Fig5-1 接着面の破壊

2)ペットボトルに少しずつ水を加え接着面が完全に離れた時点を破壊終了点とする

3)破壊終了点でのペットボトルに入っている水の重量を計測する

52耐水性の評価

1)接着したアルミ角材に水をかけ接着面の変化を観察する

6予想

添加物を加えることで接着強度の増加が期待されるしかし大量に添加物を加えてし

まうとケイ酸の割合が小さくなり接着強度は減少してしまうと考えられ添加物の量と接

着強度の関係性をグラフ化するとある値までは増加しその値を超えると減少していくグ

ラフが得られると考えるそこから最も接着強度が高まる添加物の量を測定する

また添加物が硬化剤の役割をし耐水性の改善も予想される

参考文献

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2) 三刀基郷『トコトンやさしい接着の本』日刊工業新聞社2003P56~67

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12

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5) 大木道則大沢利昭田中元治千原秀昭『化学大辞典』東京化学同人1989

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7) 吉村壽次『化学辞典第 2版』森北出版2009a)P425

8)大勝 靖一『高分子添加剤の基礎化学と材料設計』株式会社 CMC出版2008P219~235

9)httpwwwfacekyowacojpsciencetheorywhat_contact_angleimg01jpg

2015416取得

1

東京理科大学Ⅰ部化学研究部 2015 年度春輪講書

シクロデキストリンを用いた

包接化合物の生成

水曜班

Ikemura M(2C)Ebihara K(2C) Kataoka T(2K)

ShibasakiK(2OK)TsumedaT(2C)NakaA(2OK)Murakoshi R(2OK)

OkawaT(2C)NoguchiA(2K)SekiguchiK(2K)HashimotoY(2C)

1 動機

6~8 分子のグルコース単位からなるα―14結合の環状オリゴ糖であるシクロデキストリ

ンはその環状構造に由来する包接化合物を生成する性質を示すその特異的な包接形成能

を利用した多くの製品が存在し現在もなお基礎研究分野応用研究分野での研究が行わ

れている

そこで私たちは 7 分子のグルコースからなるβ-シクロデキストリンと 3 種類のカルボン

酸を用いて包接化合物を形成させ酸の構造の違いによる包接作用の比較検討及びシクロ

デキストリンの一部のヒドロキシ基をエステル化させ水に対する溶解性及び包接形成能が

どのように変化するか考察する

2 原理

21 包接化合物

包接化合物は Schlenk によって名づけられたもので定義によると原子または分子が

結合してできた 3 次元構造の内部に適当な大きさの空孔があってその中に他の原子また

は分子が一定の組成比で入り込んで特定の結晶構造をつくっている物質ということにな

っている前者の骨組み構造の化合物のほうをホスト分子後者の入り込んでいる分子の

ほうをゲスト分子ともよんでいるがこのゲスト分子の大きさや形状はまったくホスト

構造によって規定されるだけで両者の間には弱い相互作用があっても水素結合のよう

な力はなくてもいっこうに構わないのであるこの包接化合物でのゲスト分子とホスト

構造との間の相互作用というのも物理的な吸着系に近いもので非常に弱い van der

Waals 力から高度に配向した双極子間力まで種々のものが存在する 1)

22 シクロデキストリンの包接能

シクロデキストリンはグルコース残基がα-1α-4 結合した環状のオリゴ糖で一般的

にグルコース残基が 6 個のα-シクロデキストリン7 個のβ-シクロデキストリン8個の

γ-シクロデキストリンが知られている

2

Fig1 α-シクロデキストリンの分子構造

シクロデキストリンの構造は底の抜けたバケツやドーナッツのような構造をしており

その環状構造の外側は多くの水酸基に由来する親水性領域が存在し内側の空洞の CH 基に

由来する疎水領域と相反する極性が一つの分子に共存しているがこの空洞内に様々な有

機化合物などを取り込むという包接作用がもっとも特徴的である

三種類のシクロデキストリンはそれぞれ空洞の大きさが相違するためそれぞれ包接化

合物を形成しやすいゲスト分子が存在する内部空洞が比較的小さいα-シクロデキストリ

ンは比較的小さい分子例えばエタノールメタノール等をβ-シクロデキストリンは汎

用性が広く各種ポリフェノールコレステロールメンソール等の香気成分芳香族化

合物等をよく包接するγ-シクロデキストリンは大きい分子である脂肪酸などを包接する

ことが知られている

シクロデキストリンの包接力の原動力は疎水性相互作用と分子間力が主なものとされて

いるつまりゲストは疎水性の高い分子あるいは分子の大きさが空洞にぴったりとフィッ

トするものほどシクロデキストリンがそのゲストを包接する力は大きく包接物を作り

やすい傾向がある逆に親水性が高くシクロデキストリンの空洞にフィットしないよう

なゲスト分子では包接現象は起こりにくいといえるしかしゲスト分子全体がシクロ

デキストリンの空洞内にとりこまれる必要はなく部分的にでも疎水性が高く空洞にフィ

ットすれば包接が可能となるつまりゲスト分子全体がシクロデキストリンより明ら

かに大きいものでも包接作用による効果が観察される場合がある 2)

Fig2 シクロデキストリンがゲストを包接する様子

23 水溶化シクロデキストリン

3

ブドウ糖やショ糖など通常糖質の水への溶解度は非常に高いしかし天然型シク

ロデキストリンは隣接する水酸基との水素結合の為3 種のシクロデキストリンの中では最

も高い水溶性を有するγ-シクロデキストリンであってもその溶解度は 25において水

100 mL に 23 g であり油性物質を包接した場合は一般的にその溶解度はさらに低くな

るそこで水への溶解度を改善するためにシクロデキストリン化学修飾体が製造されて

いるシクロデキストリンの水溶性を向上させる方法として隣接する水酸基をメチル基や

アセチル基などでエーテル化やエステル化する方法がある具体的には部分メチル化β-シ

クロデキストリンやモノアセチル化β-シクロデキストリンが工業的に生産されている

24 包接能の評価について

今回の実験ではゲスト分子としてカルボン酸を用いるシクロデキストリン及び水溶化

シクロデキストリンの包接能の評価については包接化合物に含まれているカルボン酸をア

ルカリで滴定することで求めることができる

3 実験

31 試薬sup3⁾

アジピン酸

分子式C6H10O4

分子量1464

mp153

bp3375 アジピン酸

クエン酸

分子式C6H8O7

分子量19213

mp156~157

クエン酸

シュウ酸

分子式C2H2O4

分子量9004

mp1895

シュウ酸

4

βシクロデキストリン

分子式(C6H10O5)7

分子量113500

n-ブタノール

分子式C4H10O

分子量7412 β-シクロデキストリン

bp1179

エタノール

分子式C2H6O n-ブタノール

分子量4607

mp-1145

bp7833

水酸化ナトリウム

組成式NaOH

分子量4000

mp328

bp1388

無水オクタン酸

分子式C₈H₃₀O₃

分子量27041

mp-1 無水オクタン酸⁶⁾

濃硫酸

分子式H₂SO₄

分子量9808

mp104

32 使用器具

300 mL ビーカーメスフラスコピペット三角フラスコ吸引漏斗吸引瓶ビュレッ

トスタンドボウルガラス棒

5

33 実験操作

331 エステル化シクロデキストリンの合成 ⁵⁾

1)三角フラスコにβ-シクロデキストリン 1 g を入れこれに無水オクタン酸 025 mL を加

える

2)触媒として 2-3 滴の濃硫酸を添加し攪拌する

3)約 10 分間放置してフラスコを氷桶に入れて冷やしガラス棒でフラスコの壁を強くこす

り結晶を析出させる

4)水 20 mL を加えさらに氷桶で冷やしながら残る結晶を析出させる

5)この結晶を濾分し水で洗ってから取り出して乾かして結晶を得る⁵⁾

332 包接化合物の形成

1)β-シクロデキストリン 1 g を水 100 mL に溶解させる

2)ピペットで 1 mL のカルボン酸を加えコルク栓をして静置する

3)1 週間程静置し包接化合物を吸引濾過する

4)上記の操作をカルボン酸(酢酸シュウ酸クエン酸)で行う

5)エステル化シクロデキストリンで同様の実験を行う

333 包接能の測定

1)よく乾燥した包接化合物約 1 g をメスフラスコで 100 mL 溶液とする

2)この溶液 20 mL にフェノールフタレインを指示薬として20 mL 加え 01 M 水酸化ナト

リウム標準溶液で滴定する⁴⁾

334 溶解度の測定

1)100 mL の水に 5 g の β-シクロデキストリンを溶解させる

2)沈殿をろ過し乾燥して重量を測定する

3)エステル化 β-シクロデキストリンで同様の作業を行う

参考文献

1) 竹本喜一包接化合物の化学東京化学同人1969p2

2) 辻堅司シクロデキストリンの応用技術株式会社シーエムシー出版2008p3-p9

3) 大木道則大沼利昭田中元治千原秀明化学大辞典東京化学同人1989

4) 発田寿々子教養の化学実験第 2 版学術図書出版社2014p119

5) 南篠正男先生と生徒のための化学実験共立出版株式会社1986p155

6) 「 chemical book 」〈 wwwchemicalbookcomchemicalProductPropert_JP_CB 〉

(2015418 アクセス)

1

東京理科大学Ⅰ部化学研究部 2015年度春輪講書

ダブルネットワークの合成と評価 木曜班

OnizukaM(2C)TanakaR(2C)YamamokaH(2K) OhiraM(2K)

1背景

現在高分子ゲルは紙おむつの高吸水性樹脂やソフトコンタクトレンズなど私たちの生

活において活躍しているしかし高分子ゲルは不均一な構造なため一般的に機械的強

度が弱いという欠点がある高分子ゲルの強度面での弱点を克服するために従来では

ゲルの構造を均一化して強度を上げるというアプローチがとられてきた

しかしながら材料の弾性とじん性は反相する因子として働くつまり大変形に耐え

られるゲルは弾性率を犠牲とし高弾性のゲルは小さい変形で破壊される

そこで私達木曜班は前述の問題の解決策と成り得るものとしてダブルネットワーク

ゲル(DNゲル)について注目した

2目的

既存に作られている DNゲルは溶媒に水を用いたハイドロゲルであるDNゲルはその

強度や柔軟性により生体内での人工関節に使用することが期待され研究がおこなわれて

いる木曜班では DNゲルを生体内の関節だけでなく機械の関節部の摩擦軽減材料として

の使用を提案するしかし従来の DNゲルは溶媒が水であることにより水の沸点である

100以上の条件下では性能の低下が問題視され高温になりうる機械への応用が困難で

ある

溶媒を水から有機溶媒に変更することで高温条件下でのゲルの機能維持を試みるとと

もに使用するモノマーを変更しその機能性を検討する

3原理

31 DNゲル

311ゲルの脆弱性

一般的なゲルはゼリーや豆腐のように僅かな力を加えただけで簡単に壊れるほど

弱いこの理由は 2つの現象により説明することができる

1)ゲルの内部に多数の欠陥が存在する

2)欠陥から発生した初期亀裂が容易に伝播する

前者はゲル内部の構造が不均一であることに由来するゲル合成時におけるモノマ

ーと架橋剤の反応性の違いにより不均一な重合がおこるあるいはゲル化溶液内の濃度

揺らぎが重合によって固定されることだと考えられている 1)こうしたゲルに力を加えた

2

時にゲルの弱い部分に力が集中してしまうため小さな力でも初期亀裂が生じてしまう

後者はゲル内部のポリマーの密度の低さから生じる一般的に物質内における亀裂

の進みやすさは破壊エネルギーU(Jm2)(単位面積あたりの破断面形成に費やされる仕事)

によって評価される架橋高分子材料の臨界破壊エネルギーUc(亀裂成長が起こる最小

の破壊エネルギー)は破断面の高分子鎖の数密度と架橋点間分子量に比例する 2)つま

りゲルのじん性(物質の破壊に対する抵抗の程度で粘り強さとも言い換えられる 3))はゲ

ル内のポリマーの密度には比例し架橋密度には反比例することがわかる

ゲルは 50~99wtの溶媒を含んでいて高分子の密度が非常に低い物質であるためゲ

ルの Ucはゴムなどの固体に比べてかなり小さいことが考えられる

これまでの高強度ゲル研究は主に前者の問題を解決するすなわち構造を均一化するこ

とでゲル内部の欠陥を極力減らして強度を改善しようという観点から行われてきた

312 ゲルの弾性率

高分子鎖が三次元架橋されたゲルはゴムと同じようにエントロピー弾性を持つ溶液

中に完全に湿潤した電気的に中性ゲルのせん断弾性率(横方向に対するバネ係数 4)であり

Young率 Eと E=3Gの関係式が成立する)は

GneucongkBT

b3Q-225

以上の式で表せられゲルの湿潤度 Qの増加にともないせん断弾性率Gneuは大きく低下

するここでkBはボルツマン定数Tは温度bは重合させたモノマーの大きさである 5)

一方溶液中に完全に湿潤した電解質ゲルのせん断弾性率は

GchacongkBT

b3Q-1

によって表せる 6)よって同じ湿潤度において電解質ゲルは中性ゲルよりせん断弾性率が

高いことが分かる

またゲルの湿潤度は架橋点重合 N(分子量)による溶液中に完全に湿潤した中性ゲル

の場合QasympN35であり電解質ゲル場合QasympN

32であるしたがって架橋密度を上げる

ことによりゲルの湿潤度が小さくなりせん断弾性率が上がる 3)4)

313 ゲルの破断歪と破断応力

架橋構造が均一と仮定した理想的なゲルの破断歪(ゲルが破壊するまでの変形 7))は架

(1)

(2)

3

橋点間高分子の伸びきった長さと高分子鎖に歪がない曲がった自然な状態での大きさ

の比として求められる溶媒中で完全に湿潤した中性ゲルの引っ張り破断歪はλBcongQ12で

ありQの増加により増加する一方湿潤することにより単位面積あたりの高分子

の本数が減るため破断応力は湿潤度 Qが大きくなることにより減少する故にQが大

きいゲルは伸びやすいが弱い応力で壊れる

電解質ゲルの場合高分子鎖はその解離しているイオンの浸透圧によって水中では

ほとんど伸びきった状態となっているその結果理想状態においても破断歪はλBcongQ19

になるこれは破断歪が小さくかつ湿潤度にあまり依存しないことを意味している 5)

以上のことより

1)架橋密度を上げる(架橋点間分子量を下げる)ことでゲルが固くて脆くなる

2)水中に完全に湿潤した高分子電解質ゲルは中性のゲルより硬くて脆い高弾性と変形は

相反するということが考えられる

314 DNゲルの高強度機構

DNゲルは強電解質をモノマーとする 1st networkゲル電気的に中性なモノマーを用

いる 2nd networkゲルを組み合わせることにより生成される前述した通りゲルにおける

弾性と靭性は常に相反する働きをするそれゆえに単一な物質で両方の性質を得るこ

とは原理的には不可能である同じ湿潤度において電解質ゲルと中性ゲルのせん断弾性

率の比はGchaGneucongQ125であるために両者の違いは湿潤度 Qが高いほど大きくなる

この性質を利用することにより電解質ゲルは硬い成分中性ゲルは軟らかい成分とし

て用いることができる

亀裂を含む DNゲルがある引張荷重を受けると応力集中の効果で最初に亀裂先端近傍

の電解質網目(1st network)が破壊され局所的にゲルが降伏する荷重がますと電解質網

目の破壊が次々に伝播し広範囲にわたるダメージゾーンが形成されていくこの過程

で非常にいい気なエネルギーが分散されるダメージゾーンがある大きさまで広がった

ときようやく亀裂先端に中性網目(2nd network)が十分に伸びて切断し亀裂が進行す

る 8)

4

Fig 1 DNゲルの破壊モデル 9)

32 光ラジカル重合

321 光分解

光重合開始剤に UVを当てることにより開裂がおきラジカルが発生する本研究にお

いては 1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンを用いる 10)

Scheme1 1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンの開裂 10)

ℎ120592

5

322 開始反応

UVを当て光開裂により生じたラジカルがビニル基の二重結合を攻撃し光重合開始剤

と炭素の間に σ結合を作り炭素原子にラジカルが存在することになる

Scheme2 ラジカルの生成

323 成長反応

Scheme2で生成したラジカルが他のモノマーを攻撃しσ結合を生じるそれが何回

も起こることにより分子鎖が成長する 6)

Scheme3 分子鎖の成長

324 停止反応

Scheme 3で成長した成長ラジカル同士が σ結合を作り分子鎖が生成する 7)

Scheme4 分子鎖の生成

4実験

41 DNゲルの合成

411 使用器具試薬

ビーカー乳鉢乳棒薬さじUVライトデシケーター

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸

分子式 C7H13NO4S

式量20724

融点160

用途1st networkゲルのモノマー

6

アクリル酸

分子式C3H4O2

式量7206

融点123

沸点1416

比重10511

危険性引火性(発火温度 360 )

用途1st networkゲルのモノマー

アクリロニトリルの加水分解アクロレインの酸化ニッケルカルボニルの存在下ア

セチレンと一酸化炭素と水との反応などにより合成される酢酸に似た刺激臭を持つ液

体水エタノールエーテルによく溶ける酸素の存在下容易に重合するプラス

チックの原料として用いられる

アクリルアミド

分子式C3H5NO

式量7108

融点845

沸点103

比重1122

用途2nd networkゲルのモノマー

アクリルニトリルを硫酸あるいは塩酸を処理して得られるフレーク状の結晶溶解

性(g100 ml溶媒30 )水 2155メタノール 155エタノール 862アセトン 631

酢酸エチル 126クロロホルム 266ベンゼン 0346ヘプタン 00068化学的に不安

定で冷暗所に保存する必要がある融点付近あるいは紫外線下で重合する重合の仕方

により水溶性不溶性のものが得られる

酢酸ビニル

分子式C4H6O2

式量8609

融点-932

沸点723

比重09317

用途2nd networkゲルのモノマー

無色の液体酸やアルカリよって容易に加水分解されてアセトアルデヒドと酢酸を生

じる熱光ラジカル開始剤によって重合する

7

メタクリル酸メチル

分子式C5H8O2

式量10012

融点-48

沸点1003

比重0936

用途2nd networkゲルのモノマー

無色透明で催涙性の芳香のある液体工業的にはアセトンシアノヒドリンにメタノー

ルと硫酸を作用させて合成する実験室的にはメテクリル酸メチルの重合物を 320

以上で乾留すると得られる一般に有機溶媒には溶けるがエチレングリコールグリセ

リンには溶けにくい重合しやすいので重合禁止剤としてヒドロキノンモノメチルエ

ーテル(65 ppm)を添加して保存する有機ガラスの製造ビニル系共重合体など広く

重合反応に用いられるまたメチル以外のアルコールのメタクリル酸エステルの合成

にも用いられる

NN-メチレンビスアクリルアミド

分子式C7H10N2O2

式量15417

融点300

用途架橋剤

1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン

分子式C13H16O2

式量20427

融点47-50

用途光重合開始剤

最大吸収波長は 260 nm付近にある

エチレングリコール

式量6207

融点 -126

沸点1976

比重11132

8

用途ゲル溶媒

重要な二価アルコールでエチレンオキシドの酸触媒による開環高温高圧下水と

の反応による開環などによって合成される吸湿性無色無臭の液体甘味を有する

が有毒である高沸点を有ししかも水酸化カリウム水酸化ナトリウムを溶解し水や

エタノールと任意の割合で混合するので有機合成における溶媒として広く用いられ

また塩基に対して安定なエチレンケタールの生成によるカルボニル基の保護に用いら

れるさらに酢酸ビニル系樹脂の溶剤や水と混ざり高沸点のため不凍液に用いら

れるなど広い用途を持っている

412 1st networkゲルの作成

1) 1st networkゲルのモノマー(電解質モノマー)架橋剤(NN-メチレンビスアクリルア

ミド)と光重合開始剤(1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)を水に溶解させた水

溶液を調製する

2) UVを 8時間照射して光ラジカル重合をさせる

3) 2)で合成した電解質ゲルを乳鉢に入れ適当なサイズに砕いた後デシケーター内で一

週間ほど乾燥させる

413水溶媒 DNゲルの作成

1) 2nd networkゲルのモノマー(中性モノマー)架橋剤(NN-メチレンビスアクリルアミ

ド)光重合開始剤(1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)をエチレングリコールに

溶解させた溶液を調製する

2) 乾燥した電解質ゲルを 1)で調製した水溶液に入れ電解質ゲルを十分に膨らませるそ

の後UVを照射し中性モノマーを光ラジカル重合させる

414エチレングリコール DNゲルの作成

1) 2nd networkゲルのモノマー(中性モノマー)架橋剤(NN-メチレンビスアクリルアミ

ド)光重合開始剤(1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)をエチレングリコールに

溶解させた溶液を調製する

2) 乾燥した電解質ゲルを 1)で調製したエチレングリコール溶液に入れ電解質ゲルを十分

に膨らませるその後UVを照射し中性モノマーを光ラジカル重合させる

42 DNゲルの評価

421引っ張り試験

使用するモノマーの変化によるゲルの性質の差を評価する引っ張り試験は

JIS-K-6251-7号に準拠する方法で測定する

9

1)DNゲルを X方向の長さ 50 mmY方向の長さ 75 mmZ方向の長さが 25 mmの大

きさに成形する

2)その一端部に X-Y平面に平行な切込みを入れて2つの引張端部を形成する

3) 引張端部を片方は固定しもう片方を一定の速度で引っ張るこのときの引っ張る力 F

を測定する

Fig 2 引っ張り試験 13)

422 摩擦試験

使用するモノマーの変化溶媒の変化によるゲルの性質の差を評価する

摩擦試験は東京理科大学工学部第一部機械工学科佐々木研究室に依頼する予定である

用いる機械は SVR4パーカー熱処理工業株式会社製であり180での高温での摩擦係

数の測定が可能である

摩擦測定は常温(20 )と高温(100 )で測定することを予定している

10

5 展望

51 DNゲルの合成

実験操作は溶液を調製した後UV照射するという簡易な手順なので合成は比較的早い

段階で成功すると考えられる

1st networkゲル合成に使うのは電解質モノマーなため水溶液のモノマーの濃度が低

いと湿潤度 Q が大きくなりせん断弾性率が下がり剛性が弱いゲルが出来上がると考え

られる

架橋剤を多く使用すると架橋密度を上がるので 2nd networkゲルが入り込む空洞が小

さくなるそのために架橋剤が多すぎると高弾性のゲルが生成できると考えられる

また同様な考えで2nd networkモノマーが含まれている水溶液に乾燥させた1st network

ゲルを入れる量が多くても高弾性のゲルが生成できると考えられる

52 DNゲルの物性

ゲルの高分子網目は基板から離れようとするときにゲルと基板の間に僅かな溶媒層

が生じるこの状態では溶媒層が潤滑油のような働きをして生じる摩擦力は小さなも

のとなるゲル周辺が高温な状態ではこの溶媒層が水の場合は蒸発してしまうので摩

擦力は増大すると考えられる溶媒を水からより沸点の高いエチレングリコールなどに

変えれば摩擦力は増大することはないと推測される 14)

11

参考文献

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1

東京理科大学Ⅰ部化学研究部 2015年度春輪講書

耐塩性の高い新規化粧品用増粘剤の開発 2015年度金曜班

Nomata N(2OK)Seki M(2OK)Tin J(2OK)Takahashi R(2C)Watanabe A(2K)

Asai D(2K) Nishimiti D(2K)Yamamoto R(2K)

1 動機

化粧品において増粘剤の果たす役割は非常に大きい

化粧品にはクリーム状のモノが多くありその整形には増粘剤が必要不可欠である

また増粘剤は製剤だけでなく密閉効果や水和効果によって薬剤を皮膚に効率的に輸

送することに役立っている

この増粘剤であるが一つ課題がありアスコルビン酸塩(ビタミン C)のようなクロロ

基を持つ塩系薬剤をゲル中に含む場合経時によってべたつきといった使用感の悪化

につながるといった弱点があるこの問題の解決のために塩系薬剤への耐性の高い増

粘剤の開発が望まれている

塩系薬剤の高い美容効果からこの問題の解決に対する化粧剤企業のニーズは高くこ

の問題は長く研究が続けられていたが近年資生堂が逆相マイクロエマルション重

合法によって microスケールの粒状高分子を多数合成することによりできる増粘剤が高い

耐塩性を持ち使用感もよいことを発見したがこの粒状高分子増粘剤には未だ試み

られていないモノマーが多くある

そこで今年度の金曜班ではこの逆相マイクロエマルション重合法において未だ

試みられていない親水基を持つモノマーを利用して新規の増粘剤をつくることで粒

状高分子による増粘剤の耐塩性と肌触りと親水基の関係を調べ応用化に利すること

ができるのではないかと考え実験を行うこととした

2 背景

増粘剤とは水溶液をゲル化するために添加される物質であり化粧品において広く

用いられているこの増粘効果は従来では高分子鎖同士の分子間力や架橋で生じる

網目構造の結果生じる液中の摩擦力によるものである

動機で述べたように μスケールの粒状高分子が増粘剤として良質であることがわか

っているただし粒状高分子の形状は反応場であるセッケンミセルの大きさだけで

なく親水基やポリマーを構成する原子同士の分子間力によって変わる高分子の立体構

2

造にも影響されている

また粒状高分子の正確な一次構造を把握することは大変難しいことであるので

応用化のためには高分子の一次構造でなくモノマーによって粒状高分子特性の変化

を調べることが重要である

さらに従来用いられているポリマーがスルホ基とカルボキシル基を親水基とする

ものしか存在しない

以上の三点から酸以外の親水基をもつモノマーで増粘剤を合成したときその性

質はどうなるかを調べることでより製品として利用価値が高い粒状高分子増粘剤を合

成することができるのではないかと考えた

そこで新規モノマーとしては対照実験を行うためにアクリルアミド系モノマー

でかつ 2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸のスルホ基と同じ炭素骨格の先

端に親水基が存在するものとしてN-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド (3-アク

リルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライドを用いてそれぞれ親水基が酸

ではなくヒドロキシ基である場合親水基がアニオンではなくカチオンである場合に

ついて研究を行うこととした

この二種の以外にも水溶性のアクリルアミドポリマーは存在するが上記の条件を満

たさないまたは高価であるため本実験では用いないこととした

Fig1 N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド

Fig2 (3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライド

3

3 原理

31 一般的な液体の粘性

溶液の粘性は一般論では以下のように表される

Fig3のように XY平面を取り液面に平板を用意し引っ張った時挟まれた溶液内

には図のようなせん断流動が発生する高さ Yでのせん断速度は(119881

119889) 119910で与えられる

この時平板に挟まれた溶液を薄層の集まりと考えると隣り合う薄層間に摩擦が生

じるこの内部摩擦力が粘性力であるずり速度勾配が十分に小さければ平板の単位

面積当たりに生じる粘性力 Fv0はその勾配 Vd に比例するすなわち以下の式で表

され1205780を粘性係数と呼ぶこの値は溶媒固有である1)

1198651199070 = 1205780 (119881

119889)

Fig3 溶液ずりせん断図

32 増粘剤の粘性

増粘剤の多くは低分子の液体に高分子を溶かすと著しく粘性が高くなる性質を利

用している

この粘性の発生するメカニズムは下の Fig4において平板間の溶液を薄層に分けた

際高分子鎖は溶液の移動に伴って回転するこのとき溶液中の薄層は薄層間の摩

擦以外に高分子鎖との間にも摩擦が生じているこの摩擦の増加が粘性力の増加とな

る 2)

4

Fig4 高分子による粘性増加

また高分子鎖同士が分子間力によって結びつき三次元構造を形成することで内

部摩擦力は一層大きくなるこのため高分子による増粘効果は顕著である

架橋高分子では三次元構造が高分子鎖同士の分子間力による形成よりも強いものと

なるので増粘効果及びレオロジー特性に優れる 3)

33 塩系薬剤による粘性劣化のメカニズム

塩系薬剤とはビタミンC (アスコルビン酸塩)のようにクロロ基をもつ薬効物質のこ

とである

このクロロ基が直鎖高分子や架橋高分子がポリマー間で形成する三次元網目構造

を破壊することによって増粘効果を消失させ内容物の流失によるべたつきを生じさ

せる 3)

34 粒状高分子の粘性

粒状高分子の粘性について粒状高分子はその粒経が小さいほど体積に対する表面

積が増え溶液内での内部摩擦力が大きくなる

また粒子同士が摩擦力を元に網目構造を形成するため網目構造の構成要因が直

鎖高分子や架橋高分子の高分子増粘剤と異なっている 4)

35 逆相マイクロエマルション重合法

後述する転相温度乳化法を用いて形成した5 μm~30 μm 形成したマイクロエマル

ション内において水溶性のモノマーを利用して行う乳化重合法の一種容易に極小の

5

ポリマーを合成することができる 5)

36 界面活性剤の概略

界面活性剤とは分子の構造が水になじみやすい部分(親水基)と油になじみやすい

部分(新油基)からできていて2つの物質の間の界面に集まりやすい性質を持ちそ

の界面の性質を著しく変える物質というのが界面活性剤の定義である

代表的な界面活性剤の特徴は界面における「吸着」と「ミセル形成」である 6)

もうひとつの代表的な作用として「可溶化」もある

37 エマルションの形成

界面活性剤に有機溶媒が取り囲まれて水に可溶化されたとき水溶液中に存在する

有機溶媒を界面活性剤が取り囲んだ液滴のことを OW エマルションと呼ぶ

有機溶媒中に水が可溶化される場合WOエマルションと呼ぶ

38 ノニオン界面活性剤

非イオン界面活性剤とも言う界面活性剤の内解離基を持たず電気的に中性な

界面活性剤で親水基は主にポリオキシエチレン基であるその特殊な性質上他の種類

の界面活性剤に無い性質として曇点と転相温度を持つ 今回使用するノニオン界面

活性剤はポリオキシエチレンオレイルエーテルであり基本式は以下のような形にな

る 7)

R-O(CH2CH2O)n-H

Scheme 1 ポリオキシエチレンオレイルエーテルの基本式

39 曇点

曇点とは透明な液体が相分離を起こして白濁する温度のこと

本実験においてはノニオン界面活性剤が加温によって界面活性効果を失い相分離

によって白濁する温度のこと 8)

310 転相温度乳化

ノニオン界面活性剤は加温によって界面張力が変化しWO型エマルションから

OW 型に変化するこの変化点のことを転相温度と言い転相温度において界

6

面張力が最低になっているので溶液エマルションが極小になる

またこの転相温度は界面活性剤に固有の値となるので二種の比較的性質の

近い界面活性剤を混合することで転相温度を操作し適切な温度で5 μm~30 μm

程度の直径を持つエマルションを作成する方法を転相温度乳化法と呼ぶ 10)

311 ラジカル重合

開始剤を用いてラジカル種を生成して行う重合法のことをラジカル重合法と言う

開始剤の分解要因によって熱光放射線ラジカル重合の三つに分けられる 10)

3111 ラジカル重合を構成する四反応

ラジカル重合は 4種類の反応が同時並行的に起こるそれぞれ以下の通りである 11)

開始反応

開始剤が熱光放射光などの要因によってラジカル開裂を起こしラジカル種を

生じさせる反応

成長反応

ラジカル種がモノマーと反応することでモノマー新たなラジカル種が生成する

反応これが連続することでポリマーが合成される

停止反応

連鎖していた成長反応が止まる反応主にラジカル種同士の反応による

連鎖移動反応

ラジカル種がモノマー以外の分子主に溶媒分子等と反応することでポリマー以

外の物質を合成する副反応

3112 乳化重合

乳化重合はモノマー液滴と呼ばれるモノマーを大量に保存しているエマルシ

ョンと反応場となる極小のセッケンミセルの二つの構造を持つ溶液中で行う不均

一系ラジカル重合の一種である 12)

成長反応が一段階進むたびにモノマー液滴から拡散の理論式に従ってモノマ

ーがミセル内に移動するこの一連の反応を繰り返して反応が進む 13)

そのため種々のラジカル重合法と比較して以下の特長がある 13)

セッケンミセル内に存在するラジカルが常に一つであるため停止反応が

7

起こりにくく比較的重合度の高いポリマーが生成しやすい

反応速度が拡散作用によって律速されかつセッケンミセルの周囲を大量

の溶媒分子が囲んでいるため除熱が容易であるという理由から熱暴走を起

こしにくいという利点がある

ミセル内で重合するため合成した高分子が絡まりやすく粒状の分子が作

成できる

Fig5 乳化重合模式図

312 MS(質量分析法)

質量分析法とは分子の質量すなわち分子量を測る手段でもあるまた分子を分解

したフラグメントの質量を測ることによって分子構造に関する情報を得るものでも

ある

高エネルギー電子が有機分子にぶつかると分子から電子がはじき出せれカチオ

ンラジカルが発生する

119825119815 rarr 119825119815++119838minus Scheme 2カチオンラジカルの発生

電子の衝突により大量のエネルギーが分子に与えられることで大部分のカチオン

ラジカルを生成した後フラグメントに分解するフラグメントは小さな破片となっ

て浮遊し正電荷や中性となる

このカチオンラジカルとフラグメントについてmz値を横軸相対強度を縦軸につ

いて取ったグラフから質量スペクトルを読み取る 14)

またMS(質量分析法)はイオン化の方法などによりいくつかに分けられ今回使用

したいのは高分子試料でもほとんどフラグメンテーションを起こさないソフトなイ

8

オン化法であるMALDI法 15)である

3121 MALDI法(マトリックス支援レーザー脱離イオン化法)

試料を 25-ヒドロキシ安息香酸のような適切なマトリックス上に吸着させて

ペレットを作成しレーザー光を短時間照射してイオン化する

エネルギーがマトリックスから試料に移動し[119872 + 119867119899 ]119899+に分解される 15)

MALDI法にはよく TOF型の MSが用いられている

4 実験

41 2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を用いた既存化粧品用増粘剤の合成

411 使用器具試薬

温度計ウォーターバスビーカー薬さじデシケーター

ジメチルアクリルアミド

式量9913

沸点81

発火点71

LD50(経口)316mgkg

LD50(経皮)580mgkg

製造和光純薬工業株式会社

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸

式量20725

融点200

LD50(経口)5400mgkg

製造和光純薬工業株式会社

NN-メチレンビスアクリルアミド

式量156

沸点4451

発火点215

LD50(経口)390mgkg

製造東京化成工業株式会社

9

へプタン

式量1002

沸点98

引火点-4

水に不溶

製造昭和化学

2-プロパノール

式量60

沸点82

発火点12

LD50(経口)区分外(GHS分類)

LD50(経皮)区分外(GHS分類)

製造昭和化学

ペルオキソ二硫酸アンモニウム

式量22820

冷水に易溶保存湿気厳禁

重合開始罪乳化重合レドックス重合に用いられる

製造和光純薬工業株式会社

412 実験手順

① ビーカーにイオン交換水ヘプタンポリオキシエチレンオレイルエーテル(2)

(8)をそれぞれ507 mL 507 mL489 g((2)(8)=23)加えて良く撹拌したも

のを入れる

② その後その後温度調節機能つきスターラーに乗せ白濁するまで加熱する

白濁した液が透明化するまで温度を落とし電気伝導率計を用いて溶液が転

相温度付近に保たれていることを確認する

③ 以上の操作が済んだ重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先

ほどのスターラーと同じ温度にしたウォーターバスに移し2-アクリルアミド

-2-メチルプロパンスルホン酸NNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 137 g

262 g入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始

剤としてメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

10

④ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

42 N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミドを用いた新規化粧品用増粘剤の合成

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を誘導体と入れ替える以外の

操作は 41に準ずる

親水基による増粘性の変化を観察するため架橋剤のモノマーに対する濃度比

は 2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を使用したポリマーが最も増

粘効果の高くなると報告された濃度比を用いる

421 使用器具試薬

使用器具は 41に準ずる

試薬

N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド

式量11513

沸点130

発火点189

製造東京化成工業株式会社

422 実験手順

① 412 ①②と同じように重合系を作成する

② 以上の操作が済んだ重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先

ほどのスターラーと同じ温度にしたウォーターバスに移しN-(2-ヒドロキシエ

チル)アクリルアミドNNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 076 g262

g 入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始剤と

してメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

③ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

11

43 (3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライドを用いた新規化粧品用

増粘剤の合成

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を誘導体と入れ替える以外の操作は

41に準ずる

親水基による増粘性の変化を観察するため架橋剤のモノマーに対する濃度比は 2-ア

クリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を使用したポリマーが最も増粘効果の高く

なると報告された濃度比を用いる

431 実験器具

実験器具は 41に準ずる

試薬

(3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライド

式量22074

沸点100

製造東京化成工業株式会社

432 実験手順

① 412 ①②と同じように重合系を作成する

② 重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先ほどのスターラーと

同じ温度にしたウォーターバスに移し (3-アクリルアミドプロピル)トリメチ

ルアミニウムクロライドNNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 123 mL

262 g入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始

剤としてメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

③ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

5 評価分析

耐塩性の高い増粘剤の耐塩性と使用感と親水基との関係を評価するために以下の二

つの測定を行い評価する

増粘剤の耐塩性の評価のために塩酸を増粘剤内部に取り込ませた状態で経時

12

による粘度の変化を観察する

また高分子の粘性を考える上で直鎖高分子の場合よく参考にされるのが平

均分子量でありこの値を測定することで親水基が変化した場合に平均分子

量が粒状高分子の粘性にも大きく影響するか確認する

精密に上の測定を行うには専用の機器が必要になるため機器メーカーの株式

会社エーアンドデイ様または東京理科大学理学部応用化学科駒場研究室に

また高分子の性質を考える上で重要視される平均分子量及び分子量分布に

ついては東京理科大学化学系機器センターにあるMALDI-TOF型質量分析計を管

理者の東京理科大学理学部応用化学科の根岸先生に測定に協力していただこうと

考えている

6 謝辞

東京理科大学工学部工業化学科 近藤行成教授

東京理科大学理学部化学科 遠藤恆平准教授

東京理科大学理学部応用化学科 駒場慎一教授

この研究を進めるに当たり大変お世話になった先輩先生方企業の皆さんに感謝の

意を表明します

参考文献

1) 小澤美奈子 基礎高分子科学 高分子学会 編 2010年 第六版 p979899

2) 小澤美奈子 基礎高分子科学 高分子学会 編 2010年 第六版 p99100

3) 金田 勇 逆相マイクロエマルション重合法による水膨潤性ミクロゲルの重合とその増

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4) 小林敏勝 福井寛 きちん知りたい粒子表面と分散技術 日刊工業新聞社 p76

5) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 2006 p839 840 841

6) 皆川基 藤井富美子 洗剤洗浄 百科事典 大矢勝 2007年版 p4647

7) 日本産業洗浄協議会編 わかりやすい界面活性剤 工業調査会 2003 p373839

8) 資生堂 HP httpswwwshiseidogroupjprddevelopmentformulationhtmlより 2015

44取得

9) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 テクノシステム 2006 p321

10) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 テクノシステム 2006 p397

13

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11) 遠藤 剛 高分子の合成(上)~ラジカルカチオンアニオン重合~ 講談社 2010 3p

12) 佐藤壽彌編 高分子微粒子の技術と応用 シーエムシー出版 2004 p2526

13) 佐藤壽彌編 高分子微粒子の技術と応用 シーエムシー出版 2004 p27

14) マクマリー 上 8版 東京化学同人 p403404

15) John McMurry マクマリー有機化学(上) 第 8版 2013 p410411

Page 18: ゼオライトとキトサンを用いた 金属イオン除去剤の …kaken/studies/2015/2015-s-all.pdf1 東京理科大学I 部化学研究部 2015 年度春輪講書 ゼオライトとキトサンを用いた

7

Fig3-4 アンカー効果

2)分子間相互作用

ふたつの物体の接着面で分子同士が接触するところで互いにひきつけあう力が働くこと

で接着するとするもの代表的なものにファンデルワールス力結合水素結合が存在す

3)化学的結合

界面に化学結合が存在することで接着強さに寄与するとするものである古くから提唱

されている説であるが化学結合の存在の証明が難しく接着系の界面に本当に化学結合

が存在するのかは十分に検証されなければならないとされる

4)表面自由エネルギーと表面張力

物質の内部と表面では性質が異なる内部の分子は周囲を分子に囲まれており分子間

力で互いに引き合うため安定化されるこれに対し表面の分子には周囲を囲む分子が内部

に比べて少なく内部分子と比べて不安定=エネルギーが高いということになるこの余

分のエネルギーを表面自由エネルギーと呼ぶ

表面積が小さいほど表面自由エネルギーは少なくなるため物質の表面では表面を

小さくしようとする力が働くこの力を表面張力と呼ぶ

5)ぬれと接着角

固体表面に液体が存在するとそれぞれの表面自由エネルギーとその間の界面自由エネ

ルギーとのバランスによって液体が広がり固体表面が液体表面に置き換えられるこの

現象がぬれである固体表面のぬれは材料表面の親水性疎水性や接着強度と直接関係

しているため接着の分野ではきわめて重要である固体表面に液滴を落とすと個体の

表面張力γS と液体の表面張力γL 固体と液体の界面張力γSL が釣り合うことによってあ

る角度θで平衡になるこのとき固体と液体空気の境界点 A における力の水平成分の

釣り合いから次式の Young-Dupreの式が得られる

120574119878 = 120574119878119871 + 120574119871 cos 120579

8

自然状態では表面張力により液体は球状になるこの式は固体表面上での液体を広げよ

うとする力と球状を保とうとする力のつりあいの式である

Fig3-4 固体表面上の水滴

また界面自由エネルギーγ12 で接着している二種類の物質を引き離し表面自由エネルギ

ーγ1γ2をもつ二つの物質に分けるのに必要な仕事(これを接着仕事という)Waとすると

119882119886 = 1205741 + 1205742 minus 12057412

であらわされるこれを Dupreの式と呼ぶ接着仕事とはふたつの物質を引き離すのに必

要な仕事であるからWaの値が高いほど接着強度が強いということになる

個体と液体との関係においてこれら二式をあわせると

119882119886 = 120574119871(1 + cos 120579)

を得るこれを Young-Dupre の式という液体の表面張力と接触角から接着材の接着強

度が分かるという式になっている

6)接着力低下因子と表面処理

接着は清浄な面と面の接触が前提である金属表面は清浄であれば 1000~3000 mNmの

表面張力があるはずであるが大気中では数十mNmの値をしめすこれは異物が付着した

り酸化されていたりするためである特に表面がもろい物質でおおわれていると剥離時に

もろい面での剥離が起こり見かけ上弱い接着強度となる事がある

このような金属表面の表面張力の低下を防ぎアンカー効果において適切な凹凸を金属表

面に付与し接着強度向上を図るために洗浄と研磨を行うのが望ましい

5実験方法

41使用する器具

100 mL ビーカーガラス棒ホールピペット安全ピペッターピンセットキムワイ

プ電気炉2 L ペットボトル紐アルミ角材(10 times 30 times 30 mm)サンドペーパー

はけ

9

42試薬の物性

ケイ酸ナトリウム a)

ケイ酸のナトリウム塩で種類が多いいわゆる水ガラスも多くの場合はケイ酸ナトリウム

であるがその組成は安定していない単一物質として得られているものだけでもメタ

ケイ酸ナトリウム Na2SiO3およびその種々の割合の水化物オルトケイ酸ナトリウム

Na4SiO4二ケイ酸ナトリウム Na2Si2O5四ケイ酸ナトリウム Na2SiO9 などがあるオ

ルトケイ酸ナトリウム Na4SiO4=18405二酸化ケイ素と水酸化ナトリウムを適当な条件

で融解すると得られる水溶液で両者を反応させたのではオルトケイ酸ナトリウムの結晶

は得られずにメタケイ酸ナトリウムの水化物になってしまう無色六方晶系の結晶酸

と加熱していると二酸化ケイ素が沈殿している

酸化マグネシウム b)(MgO)

式量 4030

融点 2852

沸点 3600

一般にアンモニウム塩水溶液に溶けるがエタノールに不溶空気中で水と二酸化炭素を

吸収し炭酸水酸化マグネシウムに変化する水と反応して水酸化マグネシウムとなる耐

火レンガマグネシアセメントの製造原料医薬品として制酸剤の原料となるほか触媒

または吸着材ゴム工業にも用いられる

酸化亜鉛 c)(ZnO)

式量 8138

密度 547 gcm3

無定形の白色粉末水にはほとんど溶解しないが両性酸化物で希酸や水酸化アルカリ

水溶液アンモニア水に溶解する空気中で湿気と二酸化炭素を吸収する白色顔料とし

てペイント絵の具などに用いられるほか粒子の細かいものは医薬品化粧品として用

いられる

酸化カルシウム d)(CaO)

式量 5608

融点 2572

沸点 2850

密度 340 gcm3

10

酸に可溶空気中の湿気を吸収して水酸化カルシウムとなりまた空気中の二酸化炭素を

吸収して炭酸カルシウムとなる水と反応して水酸化カルシウムとなるしっくいモル

タルなどの建築材料石膏さらし粉消石灰の原料医療用に用いられる医療用に用

いられる酸性土壌改良にも用いられる

炭酸カルシウム e)(CaCO3)

式量 10009

融点 1339

二酸化炭素を含む水には炭酸水素カルシウムとして溶解する酸には二酸化炭素を発生し

て容易に溶ける加熱すると二酸化炭素と酸化カルシウムに解離する

二酸化ケイ素 f)(SiO2)

式量 6009

低温ではフッ素フッ素酸水素酸だけが反応する高温では他のハロゲン元素とも反応す

る水酸化アルカリ炭酸アルカリと融解すると水溶性のアルカリケイ素酸塩となる

43実験操作

431被接着面の均一化

1)10times30times30 mmのアルミ角材の表面をサンドペーパーで汚れがなくなるまで削る

2)削った表面をアセトンで洗浄する

3)洗浄が終わったアルミ角材の重量を測り記録する

432ケイ酸ナトリウムのみの接着剤の作製

1)100 mL ビーカーにケイ酸ナトリウム 50 g を加え粘り気が残るぐらいまでイオン交換

水を加えガラス棒で撹拌する

2)アルミ角材の 10times30 mm の面にはけを用いてケイ酸ナトリウム溶液を均一になるよう

に塗りアルミ角材を重ね合わせる

3)150にセットした電気炉に接着面がずれないように慎重に置き 1時間焼成する

433添加物を加えた接着剤の作製

1)100 mLビーカーにケイ酸ナトリウム 50 g添加物(酸化マグネシウウム酸化亜鉛

酸化カルシウム炭酸カルシウム二酸化ケイ素)を 010 gから 010 gずつ 20 gまで加

え粘り気が残るぐらいまでイオン交換水を加えガラス棒で撹拌する

2)アルミ角材の 10times30 mm の面にはけを用いてケイ酸ナトリウム溶液を均一になるよう

に塗りアルミ角材を重ね合わせる

3)150 にセットした電気炉に接着面がずれないように慎重に置き 1時間焼成する

11

5評価方法

51接着強度の評価

1)432433で接着したアルミ板にひもとペットボトルを用いて Fig5-1のように設置す

アルミ角材

Fig5-1 接着面の破壊

2)ペットボトルに少しずつ水を加え接着面が完全に離れた時点を破壊終了点とする

3)破壊終了点でのペットボトルに入っている水の重量を計測する

52耐水性の評価

1)接着したアルミ角材に水をかけ接着面の変化を観察する

6予想

添加物を加えることで接着強度の増加が期待されるしかし大量に添加物を加えてし

まうとケイ酸の割合が小さくなり接着強度は減少してしまうと考えられ添加物の量と接

着強度の関係性をグラフ化するとある値までは増加しその値を超えると減少していくグ

ラフが得られると考えるそこから最も接着強度が高まる添加物の量を測定する

また添加物が硬化剤の役割をし耐水性の改善も予想される

参考文献

1)日本接着学会『接着剤データブック第 2版』日刊工業新聞社1990P228~229

2) 三刀基郷『トコトンやさしい接着の本』日刊工業新聞社2003P56~67

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Crash

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5) 大木道則大沢利昭田中元治千原秀昭『化学大辞典』東京化学同人1989

b)P884 c)P865 d)P867 e)P1368 f)P1669

6)下井 守村田 磁『大学生のための基礎シリーズ 3 化学入門』東京化学同人2005

P229

7) 吉村壽次『化学辞典第 2版』森北出版2009a)P425

8)大勝 靖一『高分子添加剤の基礎化学と材料設計』株式会社 CMC出版2008P219~235

9)httpwwwfacekyowacojpsciencetheorywhat_contact_angleimg01jpg

2015416取得

1

東京理科大学Ⅰ部化学研究部 2015 年度春輪講書

シクロデキストリンを用いた

包接化合物の生成

水曜班

Ikemura M(2C)Ebihara K(2C) Kataoka T(2K)

ShibasakiK(2OK)TsumedaT(2C)NakaA(2OK)Murakoshi R(2OK)

OkawaT(2C)NoguchiA(2K)SekiguchiK(2K)HashimotoY(2C)

1 動機

6~8 分子のグルコース単位からなるα―14結合の環状オリゴ糖であるシクロデキストリ

ンはその環状構造に由来する包接化合物を生成する性質を示すその特異的な包接形成能

を利用した多くの製品が存在し現在もなお基礎研究分野応用研究分野での研究が行わ

れている

そこで私たちは 7 分子のグルコースからなるβ-シクロデキストリンと 3 種類のカルボン

酸を用いて包接化合物を形成させ酸の構造の違いによる包接作用の比較検討及びシクロ

デキストリンの一部のヒドロキシ基をエステル化させ水に対する溶解性及び包接形成能が

どのように変化するか考察する

2 原理

21 包接化合物

包接化合物は Schlenk によって名づけられたもので定義によると原子または分子が

結合してできた 3 次元構造の内部に適当な大きさの空孔があってその中に他の原子また

は分子が一定の組成比で入り込んで特定の結晶構造をつくっている物質ということにな

っている前者の骨組み構造の化合物のほうをホスト分子後者の入り込んでいる分子の

ほうをゲスト分子ともよんでいるがこのゲスト分子の大きさや形状はまったくホスト

構造によって規定されるだけで両者の間には弱い相互作用があっても水素結合のよう

な力はなくてもいっこうに構わないのであるこの包接化合物でのゲスト分子とホスト

構造との間の相互作用というのも物理的な吸着系に近いもので非常に弱い van der

Waals 力から高度に配向した双極子間力まで種々のものが存在する 1)

22 シクロデキストリンの包接能

シクロデキストリンはグルコース残基がα-1α-4 結合した環状のオリゴ糖で一般的

にグルコース残基が 6 個のα-シクロデキストリン7 個のβ-シクロデキストリン8個の

γ-シクロデキストリンが知られている

2

Fig1 α-シクロデキストリンの分子構造

シクロデキストリンの構造は底の抜けたバケツやドーナッツのような構造をしており

その環状構造の外側は多くの水酸基に由来する親水性領域が存在し内側の空洞の CH 基に

由来する疎水領域と相反する極性が一つの分子に共存しているがこの空洞内に様々な有

機化合物などを取り込むという包接作用がもっとも特徴的である

三種類のシクロデキストリンはそれぞれ空洞の大きさが相違するためそれぞれ包接化

合物を形成しやすいゲスト分子が存在する内部空洞が比較的小さいα-シクロデキストリ

ンは比較的小さい分子例えばエタノールメタノール等をβ-シクロデキストリンは汎

用性が広く各種ポリフェノールコレステロールメンソール等の香気成分芳香族化

合物等をよく包接するγ-シクロデキストリンは大きい分子である脂肪酸などを包接する

ことが知られている

シクロデキストリンの包接力の原動力は疎水性相互作用と分子間力が主なものとされて

いるつまりゲストは疎水性の高い分子あるいは分子の大きさが空洞にぴったりとフィッ

トするものほどシクロデキストリンがそのゲストを包接する力は大きく包接物を作り

やすい傾向がある逆に親水性が高くシクロデキストリンの空洞にフィットしないよう

なゲスト分子では包接現象は起こりにくいといえるしかしゲスト分子全体がシクロ

デキストリンの空洞内にとりこまれる必要はなく部分的にでも疎水性が高く空洞にフィ

ットすれば包接が可能となるつまりゲスト分子全体がシクロデキストリンより明ら

かに大きいものでも包接作用による効果が観察される場合がある 2)

Fig2 シクロデキストリンがゲストを包接する様子

23 水溶化シクロデキストリン

3

ブドウ糖やショ糖など通常糖質の水への溶解度は非常に高いしかし天然型シク

ロデキストリンは隣接する水酸基との水素結合の為3 種のシクロデキストリンの中では最

も高い水溶性を有するγ-シクロデキストリンであってもその溶解度は 25において水

100 mL に 23 g であり油性物質を包接した場合は一般的にその溶解度はさらに低くな

るそこで水への溶解度を改善するためにシクロデキストリン化学修飾体が製造されて

いるシクロデキストリンの水溶性を向上させる方法として隣接する水酸基をメチル基や

アセチル基などでエーテル化やエステル化する方法がある具体的には部分メチル化β-シ

クロデキストリンやモノアセチル化β-シクロデキストリンが工業的に生産されている

24 包接能の評価について

今回の実験ではゲスト分子としてカルボン酸を用いるシクロデキストリン及び水溶化

シクロデキストリンの包接能の評価については包接化合物に含まれているカルボン酸をア

ルカリで滴定することで求めることができる

3 実験

31 試薬sup3⁾

アジピン酸

分子式C6H10O4

分子量1464

mp153

bp3375 アジピン酸

クエン酸

分子式C6H8O7

分子量19213

mp156~157

クエン酸

シュウ酸

分子式C2H2O4

分子量9004

mp1895

シュウ酸

4

βシクロデキストリン

分子式(C6H10O5)7

分子量113500

n-ブタノール

分子式C4H10O

分子量7412 β-シクロデキストリン

bp1179

エタノール

分子式C2H6O n-ブタノール

分子量4607

mp-1145

bp7833

水酸化ナトリウム

組成式NaOH

分子量4000

mp328

bp1388

無水オクタン酸

分子式C₈H₃₀O₃

分子量27041

mp-1 無水オクタン酸⁶⁾

濃硫酸

分子式H₂SO₄

分子量9808

mp104

32 使用器具

300 mL ビーカーメスフラスコピペット三角フラスコ吸引漏斗吸引瓶ビュレッ

トスタンドボウルガラス棒

5

33 実験操作

331 エステル化シクロデキストリンの合成 ⁵⁾

1)三角フラスコにβ-シクロデキストリン 1 g を入れこれに無水オクタン酸 025 mL を加

える

2)触媒として 2-3 滴の濃硫酸を添加し攪拌する

3)約 10 分間放置してフラスコを氷桶に入れて冷やしガラス棒でフラスコの壁を強くこす

り結晶を析出させる

4)水 20 mL を加えさらに氷桶で冷やしながら残る結晶を析出させる

5)この結晶を濾分し水で洗ってから取り出して乾かして結晶を得る⁵⁾

332 包接化合物の形成

1)β-シクロデキストリン 1 g を水 100 mL に溶解させる

2)ピペットで 1 mL のカルボン酸を加えコルク栓をして静置する

3)1 週間程静置し包接化合物を吸引濾過する

4)上記の操作をカルボン酸(酢酸シュウ酸クエン酸)で行う

5)エステル化シクロデキストリンで同様の実験を行う

333 包接能の測定

1)よく乾燥した包接化合物約 1 g をメスフラスコで 100 mL 溶液とする

2)この溶液 20 mL にフェノールフタレインを指示薬として20 mL 加え 01 M 水酸化ナト

リウム標準溶液で滴定する⁴⁾

334 溶解度の測定

1)100 mL の水に 5 g の β-シクロデキストリンを溶解させる

2)沈殿をろ過し乾燥して重量を測定する

3)エステル化 β-シクロデキストリンで同様の作業を行う

参考文献

1) 竹本喜一包接化合物の化学東京化学同人1969p2

2) 辻堅司シクロデキストリンの応用技術株式会社シーエムシー出版2008p3-p9

3) 大木道則大沼利昭田中元治千原秀明化学大辞典東京化学同人1989

4) 発田寿々子教養の化学実験第 2 版学術図書出版社2014p119

5) 南篠正男先生と生徒のための化学実験共立出版株式会社1986p155

6) 「 chemical book 」〈 wwwchemicalbookcomchemicalProductPropert_JP_CB 〉

(2015418 アクセス)

1

東京理科大学Ⅰ部化学研究部 2015年度春輪講書

ダブルネットワークの合成と評価 木曜班

OnizukaM(2C)TanakaR(2C)YamamokaH(2K) OhiraM(2K)

1背景

現在高分子ゲルは紙おむつの高吸水性樹脂やソフトコンタクトレンズなど私たちの生

活において活躍しているしかし高分子ゲルは不均一な構造なため一般的に機械的強

度が弱いという欠点がある高分子ゲルの強度面での弱点を克服するために従来では

ゲルの構造を均一化して強度を上げるというアプローチがとられてきた

しかしながら材料の弾性とじん性は反相する因子として働くつまり大変形に耐え

られるゲルは弾性率を犠牲とし高弾性のゲルは小さい変形で破壊される

そこで私達木曜班は前述の問題の解決策と成り得るものとしてダブルネットワーク

ゲル(DNゲル)について注目した

2目的

既存に作られている DNゲルは溶媒に水を用いたハイドロゲルであるDNゲルはその

強度や柔軟性により生体内での人工関節に使用することが期待され研究がおこなわれて

いる木曜班では DNゲルを生体内の関節だけでなく機械の関節部の摩擦軽減材料として

の使用を提案するしかし従来の DNゲルは溶媒が水であることにより水の沸点である

100以上の条件下では性能の低下が問題視され高温になりうる機械への応用が困難で

ある

溶媒を水から有機溶媒に変更することで高温条件下でのゲルの機能維持を試みるとと

もに使用するモノマーを変更しその機能性を検討する

3原理

31 DNゲル

311ゲルの脆弱性

一般的なゲルはゼリーや豆腐のように僅かな力を加えただけで簡単に壊れるほど

弱いこの理由は 2つの現象により説明することができる

1)ゲルの内部に多数の欠陥が存在する

2)欠陥から発生した初期亀裂が容易に伝播する

前者はゲル内部の構造が不均一であることに由来するゲル合成時におけるモノマ

ーと架橋剤の反応性の違いにより不均一な重合がおこるあるいはゲル化溶液内の濃度

揺らぎが重合によって固定されることだと考えられている 1)こうしたゲルに力を加えた

2

時にゲルの弱い部分に力が集中してしまうため小さな力でも初期亀裂が生じてしまう

後者はゲル内部のポリマーの密度の低さから生じる一般的に物質内における亀裂

の進みやすさは破壊エネルギーU(Jm2)(単位面積あたりの破断面形成に費やされる仕事)

によって評価される架橋高分子材料の臨界破壊エネルギーUc(亀裂成長が起こる最小

の破壊エネルギー)は破断面の高分子鎖の数密度と架橋点間分子量に比例する 2)つま

りゲルのじん性(物質の破壊に対する抵抗の程度で粘り強さとも言い換えられる 3))はゲ

ル内のポリマーの密度には比例し架橋密度には反比例することがわかる

ゲルは 50~99wtの溶媒を含んでいて高分子の密度が非常に低い物質であるためゲ

ルの Ucはゴムなどの固体に比べてかなり小さいことが考えられる

これまでの高強度ゲル研究は主に前者の問題を解決するすなわち構造を均一化するこ

とでゲル内部の欠陥を極力減らして強度を改善しようという観点から行われてきた

312 ゲルの弾性率

高分子鎖が三次元架橋されたゲルはゴムと同じようにエントロピー弾性を持つ溶液

中に完全に湿潤した電気的に中性ゲルのせん断弾性率(横方向に対するバネ係数 4)であり

Young率 Eと E=3Gの関係式が成立する)は

GneucongkBT

b3Q-225

以上の式で表せられゲルの湿潤度 Qの増加にともないせん断弾性率Gneuは大きく低下

するここでkBはボルツマン定数Tは温度bは重合させたモノマーの大きさである 5)

一方溶液中に完全に湿潤した電解質ゲルのせん断弾性率は

GchacongkBT

b3Q-1

によって表せる 6)よって同じ湿潤度において電解質ゲルは中性ゲルよりせん断弾性率が

高いことが分かる

またゲルの湿潤度は架橋点重合 N(分子量)による溶液中に完全に湿潤した中性ゲル

の場合QasympN35であり電解質ゲル場合QasympN

32であるしたがって架橋密度を上げる

ことによりゲルの湿潤度が小さくなりせん断弾性率が上がる 3)4)

313 ゲルの破断歪と破断応力

架橋構造が均一と仮定した理想的なゲルの破断歪(ゲルが破壊するまでの変形 7))は架

(1)

(2)

3

橋点間高分子の伸びきった長さと高分子鎖に歪がない曲がった自然な状態での大きさ

の比として求められる溶媒中で完全に湿潤した中性ゲルの引っ張り破断歪はλBcongQ12で

ありQの増加により増加する一方湿潤することにより単位面積あたりの高分子

の本数が減るため破断応力は湿潤度 Qが大きくなることにより減少する故にQが大

きいゲルは伸びやすいが弱い応力で壊れる

電解質ゲルの場合高分子鎖はその解離しているイオンの浸透圧によって水中では

ほとんど伸びきった状態となっているその結果理想状態においても破断歪はλBcongQ19

になるこれは破断歪が小さくかつ湿潤度にあまり依存しないことを意味している 5)

以上のことより

1)架橋密度を上げる(架橋点間分子量を下げる)ことでゲルが固くて脆くなる

2)水中に完全に湿潤した高分子電解質ゲルは中性のゲルより硬くて脆い高弾性と変形は

相反するということが考えられる

314 DNゲルの高強度機構

DNゲルは強電解質をモノマーとする 1st networkゲル電気的に中性なモノマーを用

いる 2nd networkゲルを組み合わせることにより生成される前述した通りゲルにおける

弾性と靭性は常に相反する働きをするそれゆえに単一な物質で両方の性質を得るこ

とは原理的には不可能である同じ湿潤度において電解質ゲルと中性ゲルのせん断弾性

率の比はGchaGneucongQ125であるために両者の違いは湿潤度 Qが高いほど大きくなる

この性質を利用することにより電解質ゲルは硬い成分中性ゲルは軟らかい成分とし

て用いることができる

亀裂を含む DNゲルがある引張荷重を受けると応力集中の効果で最初に亀裂先端近傍

の電解質網目(1st network)が破壊され局所的にゲルが降伏する荷重がますと電解質網

目の破壊が次々に伝播し広範囲にわたるダメージゾーンが形成されていくこの過程

で非常にいい気なエネルギーが分散されるダメージゾーンがある大きさまで広がった

ときようやく亀裂先端に中性網目(2nd network)が十分に伸びて切断し亀裂が進行す

る 8)

4

Fig 1 DNゲルの破壊モデル 9)

32 光ラジカル重合

321 光分解

光重合開始剤に UVを当てることにより開裂がおきラジカルが発生する本研究にお

いては 1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンを用いる 10)

Scheme1 1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンの開裂 10)

ℎ120592

5

322 開始反応

UVを当て光開裂により生じたラジカルがビニル基の二重結合を攻撃し光重合開始剤

と炭素の間に σ結合を作り炭素原子にラジカルが存在することになる

Scheme2 ラジカルの生成

323 成長反応

Scheme2で生成したラジカルが他のモノマーを攻撃しσ結合を生じるそれが何回

も起こることにより分子鎖が成長する 6)

Scheme3 分子鎖の成長

324 停止反応

Scheme 3で成長した成長ラジカル同士が σ結合を作り分子鎖が生成する 7)

Scheme4 分子鎖の生成

4実験

41 DNゲルの合成

411 使用器具試薬

ビーカー乳鉢乳棒薬さじUVライトデシケーター

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸

分子式 C7H13NO4S

式量20724

融点160

用途1st networkゲルのモノマー

6

アクリル酸

分子式C3H4O2

式量7206

融点123

沸点1416

比重10511

危険性引火性(発火温度 360 )

用途1st networkゲルのモノマー

アクリロニトリルの加水分解アクロレインの酸化ニッケルカルボニルの存在下ア

セチレンと一酸化炭素と水との反応などにより合成される酢酸に似た刺激臭を持つ液

体水エタノールエーテルによく溶ける酸素の存在下容易に重合するプラス

チックの原料として用いられる

アクリルアミド

分子式C3H5NO

式量7108

融点845

沸点103

比重1122

用途2nd networkゲルのモノマー

アクリルニトリルを硫酸あるいは塩酸を処理して得られるフレーク状の結晶溶解

性(g100 ml溶媒30 )水 2155メタノール 155エタノール 862アセトン 631

酢酸エチル 126クロロホルム 266ベンゼン 0346ヘプタン 00068化学的に不安

定で冷暗所に保存する必要がある融点付近あるいは紫外線下で重合する重合の仕方

により水溶性不溶性のものが得られる

酢酸ビニル

分子式C4H6O2

式量8609

融点-932

沸点723

比重09317

用途2nd networkゲルのモノマー

無色の液体酸やアルカリよって容易に加水分解されてアセトアルデヒドと酢酸を生

じる熱光ラジカル開始剤によって重合する

7

メタクリル酸メチル

分子式C5H8O2

式量10012

融点-48

沸点1003

比重0936

用途2nd networkゲルのモノマー

無色透明で催涙性の芳香のある液体工業的にはアセトンシアノヒドリンにメタノー

ルと硫酸を作用させて合成する実験室的にはメテクリル酸メチルの重合物を 320

以上で乾留すると得られる一般に有機溶媒には溶けるがエチレングリコールグリセ

リンには溶けにくい重合しやすいので重合禁止剤としてヒドロキノンモノメチルエ

ーテル(65 ppm)を添加して保存する有機ガラスの製造ビニル系共重合体など広く

重合反応に用いられるまたメチル以外のアルコールのメタクリル酸エステルの合成

にも用いられる

NN-メチレンビスアクリルアミド

分子式C7H10N2O2

式量15417

融点300

用途架橋剤

1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン

分子式C13H16O2

式量20427

融点47-50

用途光重合開始剤

最大吸収波長は 260 nm付近にある

エチレングリコール

式量6207

融点 -126

沸点1976

比重11132

8

用途ゲル溶媒

重要な二価アルコールでエチレンオキシドの酸触媒による開環高温高圧下水と

の反応による開環などによって合成される吸湿性無色無臭の液体甘味を有する

が有毒である高沸点を有ししかも水酸化カリウム水酸化ナトリウムを溶解し水や

エタノールと任意の割合で混合するので有機合成における溶媒として広く用いられ

また塩基に対して安定なエチレンケタールの生成によるカルボニル基の保護に用いら

れるさらに酢酸ビニル系樹脂の溶剤や水と混ざり高沸点のため不凍液に用いら

れるなど広い用途を持っている

412 1st networkゲルの作成

1) 1st networkゲルのモノマー(電解質モノマー)架橋剤(NN-メチレンビスアクリルア

ミド)と光重合開始剤(1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)を水に溶解させた水

溶液を調製する

2) UVを 8時間照射して光ラジカル重合をさせる

3) 2)で合成した電解質ゲルを乳鉢に入れ適当なサイズに砕いた後デシケーター内で一

週間ほど乾燥させる

413水溶媒 DNゲルの作成

1) 2nd networkゲルのモノマー(中性モノマー)架橋剤(NN-メチレンビスアクリルアミ

ド)光重合開始剤(1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)をエチレングリコールに

溶解させた溶液を調製する

2) 乾燥した電解質ゲルを 1)で調製した水溶液に入れ電解質ゲルを十分に膨らませるそ

の後UVを照射し中性モノマーを光ラジカル重合させる

414エチレングリコール DNゲルの作成

1) 2nd networkゲルのモノマー(中性モノマー)架橋剤(NN-メチレンビスアクリルアミ

ド)光重合開始剤(1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)をエチレングリコールに

溶解させた溶液を調製する

2) 乾燥した電解質ゲルを 1)で調製したエチレングリコール溶液に入れ電解質ゲルを十分

に膨らませるその後UVを照射し中性モノマーを光ラジカル重合させる

42 DNゲルの評価

421引っ張り試験

使用するモノマーの変化によるゲルの性質の差を評価する引っ張り試験は

JIS-K-6251-7号に準拠する方法で測定する

9

1)DNゲルを X方向の長さ 50 mmY方向の長さ 75 mmZ方向の長さが 25 mmの大

きさに成形する

2)その一端部に X-Y平面に平行な切込みを入れて2つの引張端部を形成する

3) 引張端部を片方は固定しもう片方を一定の速度で引っ張るこのときの引っ張る力 F

を測定する

Fig 2 引っ張り試験 13)

422 摩擦試験

使用するモノマーの変化溶媒の変化によるゲルの性質の差を評価する

摩擦試験は東京理科大学工学部第一部機械工学科佐々木研究室に依頼する予定である

用いる機械は SVR4パーカー熱処理工業株式会社製であり180での高温での摩擦係

数の測定が可能である

摩擦測定は常温(20 )と高温(100 )で測定することを予定している

10

5 展望

51 DNゲルの合成

実験操作は溶液を調製した後UV照射するという簡易な手順なので合成は比較的早い

段階で成功すると考えられる

1st networkゲル合成に使うのは電解質モノマーなため水溶液のモノマーの濃度が低

いと湿潤度 Q が大きくなりせん断弾性率が下がり剛性が弱いゲルが出来上がると考え

られる

架橋剤を多く使用すると架橋密度を上がるので 2nd networkゲルが入り込む空洞が小

さくなるそのために架橋剤が多すぎると高弾性のゲルが生成できると考えられる

また同様な考えで2nd networkモノマーが含まれている水溶液に乾燥させた1st network

ゲルを入れる量が多くても高弾性のゲルが生成できると考えられる

52 DNゲルの物性

ゲルの高分子網目は基板から離れようとするときにゲルと基板の間に僅かな溶媒層

が生じるこの状態では溶媒層が潤滑油のような働きをして生じる摩擦力は小さなも

のとなるゲル周辺が高温な状態ではこの溶媒層が水の場合は蒸発してしまうので摩

擦力は増大すると考えられる溶媒を水からより沸点の高いエチレングリコールなどに

変えれば摩擦力は増大することはないと推測される 14)

11

参考文献

1) J Bastide and L LeiblerMacromolecules1988212647

2) G G J Lake and A G ThomasProc R Soc LondonA1967300108

3)越後亮三 機械工学辞典 朝倉書店 2007 p631

4) 伊藤勝悦 やさしく学べる材料力学 森北出版 2014 p14

5)SPObukhovMRubinstein and RHColby Macromolecules 1994273191-3198

6)MRubinsteinRHColbyAVDobrynin and JJaonnyElasticMacromolecules199629398-406

7) 大 阪 府 立 大 学 基 礎 講 座 材 料 の 強 度 と 破 壊

httpwwwengmmtrosakafu-uacjpresearchstrength-japdf2015413取得

8)聾剣萍「生命科学時代の新材料-高弾性高靱性ダブルネットワークゲル」高分子学会

『高分子』高分子科学最近の進歩58巻 5号2009p327-p331

9)YTanakaEurophysLett20077856005

10)蓮池幹治ラジカル重合ハンドブックエヌティーエス2010p444-p445

11)大津隆行ラジカル重合(Ⅰ)化学同人1971p80-p81

12)大津隆行ラジカル重合(Ⅰ)化学同人1971p153-p154

13)聾剣萍高分子ゲルおよびその製造方法特開 2009-185156 2008-02-05

14) 角五 彰龔 剣萍長田義仁「ゲルの摩擦と水和潤滑~生物の滑らかな運動解明への

アプローチ」日本生物物理学会『生物物理』47巻 4号2007p 253-p258

1

東京理科大学Ⅰ部化学研究部 2015年度春輪講書

耐塩性の高い新規化粧品用増粘剤の開発 2015年度金曜班

Nomata N(2OK)Seki M(2OK)Tin J(2OK)Takahashi R(2C)Watanabe A(2K)

Asai D(2K) Nishimiti D(2K)Yamamoto R(2K)

1 動機

化粧品において増粘剤の果たす役割は非常に大きい

化粧品にはクリーム状のモノが多くありその整形には増粘剤が必要不可欠である

また増粘剤は製剤だけでなく密閉効果や水和効果によって薬剤を皮膚に効率的に輸

送することに役立っている

この増粘剤であるが一つ課題がありアスコルビン酸塩(ビタミン C)のようなクロロ

基を持つ塩系薬剤をゲル中に含む場合経時によってべたつきといった使用感の悪化

につながるといった弱点があるこの問題の解決のために塩系薬剤への耐性の高い増

粘剤の開発が望まれている

塩系薬剤の高い美容効果からこの問題の解決に対する化粧剤企業のニーズは高くこ

の問題は長く研究が続けられていたが近年資生堂が逆相マイクロエマルション重

合法によって microスケールの粒状高分子を多数合成することによりできる増粘剤が高い

耐塩性を持ち使用感もよいことを発見したがこの粒状高分子増粘剤には未だ試み

られていないモノマーが多くある

そこで今年度の金曜班ではこの逆相マイクロエマルション重合法において未だ

試みられていない親水基を持つモノマーを利用して新規の増粘剤をつくることで粒

状高分子による増粘剤の耐塩性と肌触りと親水基の関係を調べ応用化に利すること

ができるのではないかと考え実験を行うこととした

2 背景

増粘剤とは水溶液をゲル化するために添加される物質であり化粧品において広く

用いられているこの増粘効果は従来では高分子鎖同士の分子間力や架橋で生じる

網目構造の結果生じる液中の摩擦力によるものである

動機で述べたように μスケールの粒状高分子が増粘剤として良質であることがわか

っているただし粒状高分子の形状は反応場であるセッケンミセルの大きさだけで

なく親水基やポリマーを構成する原子同士の分子間力によって変わる高分子の立体構

2

造にも影響されている

また粒状高分子の正確な一次構造を把握することは大変難しいことであるので

応用化のためには高分子の一次構造でなくモノマーによって粒状高分子特性の変化

を調べることが重要である

さらに従来用いられているポリマーがスルホ基とカルボキシル基を親水基とする

ものしか存在しない

以上の三点から酸以外の親水基をもつモノマーで増粘剤を合成したときその性

質はどうなるかを調べることでより製品として利用価値が高い粒状高分子増粘剤を合

成することができるのではないかと考えた

そこで新規モノマーとしては対照実験を行うためにアクリルアミド系モノマー

でかつ 2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸のスルホ基と同じ炭素骨格の先

端に親水基が存在するものとしてN-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド (3-アク

リルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライドを用いてそれぞれ親水基が酸

ではなくヒドロキシ基である場合親水基がアニオンではなくカチオンである場合に

ついて研究を行うこととした

この二種の以外にも水溶性のアクリルアミドポリマーは存在するが上記の条件を満

たさないまたは高価であるため本実験では用いないこととした

Fig1 N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド

Fig2 (3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライド

3

3 原理

31 一般的な液体の粘性

溶液の粘性は一般論では以下のように表される

Fig3のように XY平面を取り液面に平板を用意し引っ張った時挟まれた溶液内

には図のようなせん断流動が発生する高さ Yでのせん断速度は(119881

119889) 119910で与えられる

この時平板に挟まれた溶液を薄層の集まりと考えると隣り合う薄層間に摩擦が生

じるこの内部摩擦力が粘性力であるずり速度勾配が十分に小さければ平板の単位

面積当たりに生じる粘性力 Fv0はその勾配 Vd に比例するすなわち以下の式で表

され1205780を粘性係数と呼ぶこの値は溶媒固有である1)

1198651199070 = 1205780 (119881

119889)

Fig3 溶液ずりせん断図

32 増粘剤の粘性

増粘剤の多くは低分子の液体に高分子を溶かすと著しく粘性が高くなる性質を利

用している

この粘性の発生するメカニズムは下の Fig4において平板間の溶液を薄層に分けた

際高分子鎖は溶液の移動に伴って回転するこのとき溶液中の薄層は薄層間の摩

擦以外に高分子鎖との間にも摩擦が生じているこの摩擦の増加が粘性力の増加とな

る 2)

4

Fig4 高分子による粘性増加

また高分子鎖同士が分子間力によって結びつき三次元構造を形成することで内

部摩擦力は一層大きくなるこのため高分子による増粘効果は顕著である

架橋高分子では三次元構造が高分子鎖同士の分子間力による形成よりも強いものと

なるので増粘効果及びレオロジー特性に優れる 3)

33 塩系薬剤による粘性劣化のメカニズム

塩系薬剤とはビタミンC (アスコルビン酸塩)のようにクロロ基をもつ薬効物質のこ

とである

このクロロ基が直鎖高分子や架橋高分子がポリマー間で形成する三次元網目構造

を破壊することによって増粘効果を消失させ内容物の流失によるべたつきを生じさ

せる 3)

34 粒状高分子の粘性

粒状高分子の粘性について粒状高分子はその粒経が小さいほど体積に対する表面

積が増え溶液内での内部摩擦力が大きくなる

また粒子同士が摩擦力を元に網目構造を形成するため網目構造の構成要因が直

鎖高分子や架橋高分子の高分子増粘剤と異なっている 4)

35 逆相マイクロエマルション重合法

後述する転相温度乳化法を用いて形成した5 μm~30 μm 形成したマイクロエマル

ション内において水溶性のモノマーを利用して行う乳化重合法の一種容易に極小の

5

ポリマーを合成することができる 5)

36 界面活性剤の概略

界面活性剤とは分子の構造が水になじみやすい部分(親水基)と油になじみやすい

部分(新油基)からできていて2つの物質の間の界面に集まりやすい性質を持ちそ

の界面の性質を著しく変える物質というのが界面活性剤の定義である

代表的な界面活性剤の特徴は界面における「吸着」と「ミセル形成」である 6)

もうひとつの代表的な作用として「可溶化」もある

37 エマルションの形成

界面活性剤に有機溶媒が取り囲まれて水に可溶化されたとき水溶液中に存在する

有機溶媒を界面活性剤が取り囲んだ液滴のことを OW エマルションと呼ぶ

有機溶媒中に水が可溶化される場合WOエマルションと呼ぶ

38 ノニオン界面活性剤

非イオン界面活性剤とも言う界面活性剤の内解離基を持たず電気的に中性な

界面活性剤で親水基は主にポリオキシエチレン基であるその特殊な性質上他の種類

の界面活性剤に無い性質として曇点と転相温度を持つ 今回使用するノニオン界面

活性剤はポリオキシエチレンオレイルエーテルであり基本式は以下のような形にな

る 7)

R-O(CH2CH2O)n-H

Scheme 1 ポリオキシエチレンオレイルエーテルの基本式

39 曇点

曇点とは透明な液体が相分離を起こして白濁する温度のこと

本実験においてはノニオン界面活性剤が加温によって界面活性効果を失い相分離

によって白濁する温度のこと 8)

310 転相温度乳化

ノニオン界面活性剤は加温によって界面張力が変化しWO型エマルションから

OW 型に変化するこの変化点のことを転相温度と言い転相温度において界

6

面張力が最低になっているので溶液エマルションが極小になる

またこの転相温度は界面活性剤に固有の値となるので二種の比較的性質の

近い界面活性剤を混合することで転相温度を操作し適切な温度で5 μm~30 μm

程度の直径を持つエマルションを作成する方法を転相温度乳化法と呼ぶ 10)

311 ラジカル重合

開始剤を用いてラジカル種を生成して行う重合法のことをラジカル重合法と言う

開始剤の分解要因によって熱光放射線ラジカル重合の三つに分けられる 10)

3111 ラジカル重合を構成する四反応

ラジカル重合は 4種類の反応が同時並行的に起こるそれぞれ以下の通りである 11)

開始反応

開始剤が熱光放射光などの要因によってラジカル開裂を起こしラジカル種を

生じさせる反応

成長反応

ラジカル種がモノマーと反応することでモノマー新たなラジカル種が生成する

反応これが連続することでポリマーが合成される

停止反応

連鎖していた成長反応が止まる反応主にラジカル種同士の反応による

連鎖移動反応

ラジカル種がモノマー以外の分子主に溶媒分子等と反応することでポリマー以

外の物質を合成する副反応

3112 乳化重合

乳化重合はモノマー液滴と呼ばれるモノマーを大量に保存しているエマルシ

ョンと反応場となる極小のセッケンミセルの二つの構造を持つ溶液中で行う不均

一系ラジカル重合の一種である 12)

成長反応が一段階進むたびにモノマー液滴から拡散の理論式に従ってモノマ

ーがミセル内に移動するこの一連の反応を繰り返して反応が進む 13)

そのため種々のラジカル重合法と比較して以下の特長がある 13)

セッケンミセル内に存在するラジカルが常に一つであるため停止反応が

7

起こりにくく比較的重合度の高いポリマーが生成しやすい

反応速度が拡散作用によって律速されかつセッケンミセルの周囲を大量

の溶媒分子が囲んでいるため除熱が容易であるという理由から熱暴走を起

こしにくいという利点がある

ミセル内で重合するため合成した高分子が絡まりやすく粒状の分子が作

成できる

Fig5 乳化重合模式図

312 MS(質量分析法)

質量分析法とは分子の質量すなわち分子量を測る手段でもあるまた分子を分解

したフラグメントの質量を測ることによって分子構造に関する情報を得るものでも

ある

高エネルギー電子が有機分子にぶつかると分子から電子がはじき出せれカチオ

ンラジカルが発生する

119825119815 rarr 119825119815++119838minus Scheme 2カチオンラジカルの発生

電子の衝突により大量のエネルギーが分子に与えられることで大部分のカチオン

ラジカルを生成した後フラグメントに分解するフラグメントは小さな破片となっ

て浮遊し正電荷や中性となる

このカチオンラジカルとフラグメントについてmz値を横軸相対強度を縦軸につ

いて取ったグラフから質量スペクトルを読み取る 14)

またMS(質量分析法)はイオン化の方法などによりいくつかに分けられ今回使用

したいのは高分子試料でもほとんどフラグメンテーションを起こさないソフトなイ

8

オン化法であるMALDI法 15)である

3121 MALDI法(マトリックス支援レーザー脱離イオン化法)

試料を 25-ヒドロキシ安息香酸のような適切なマトリックス上に吸着させて

ペレットを作成しレーザー光を短時間照射してイオン化する

エネルギーがマトリックスから試料に移動し[119872 + 119867119899 ]119899+に分解される 15)

MALDI法にはよく TOF型の MSが用いられている

4 実験

41 2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を用いた既存化粧品用増粘剤の合成

411 使用器具試薬

温度計ウォーターバスビーカー薬さじデシケーター

ジメチルアクリルアミド

式量9913

沸点81

発火点71

LD50(経口)316mgkg

LD50(経皮)580mgkg

製造和光純薬工業株式会社

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸

式量20725

融点200

LD50(経口)5400mgkg

製造和光純薬工業株式会社

NN-メチレンビスアクリルアミド

式量156

沸点4451

発火点215

LD50(経口)390mgkg

製造東京化成工業株式会社

9

へプタン

式量1002

沸点98

引火点-4

水に不溶

製造昭和化学

2-プロパノール

式量60

沸点82

発火点12

LD50(経口)区分外(GHS分類)

LD50(経皮)区分外(GHS分類)

製造昭和化学

ペルオキソ二硫酸アンモニウム

式量22820

冷水に易溶保存湿気厳禁

重合開始罪乳化重合レドックス重合に用いられる

製造和光純薬工業株式会社

412 実験手順

① ビーカーにイオン交換水ヘプタンポリオキシエチレンオレイルエーテル(2)

(8)をそれぞれ507 mL 507 mL489 g((2)(8)=23)加えて良く撹拌したも

のを入れる

② その後その後温度調節機能つきスターラーに乗せ白濁するまで加熱する

白濁した液が透明化するまで温度を落とし電気伝導率計を用いて溶液が転

相温度付近に保たれていることを確認する

③ 以上の操作が済んだ重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先

ほどのスターラーと同じ温度にしたウォーターバスに移し2-アクリルアミド

-2-メチルプロパンスルホン酸NNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 137 g

262 g入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始

剤としてメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

10

④ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

42 N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミドを用いた新規化粧品用増粘剤の合成

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を誘導体と入れ替える以外の

操作は 41に準ずる

親水基による増粘性の変化を観察するため架橋剤のモノマーに対する濃度比

は 2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を使用したポリマーが最も増

粘効果の高くなると報告された濃度比を用いる

421 使用器具試薬

使用器具は 41に準ずる

試薬

N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド

式量11513

沸点130

発火点189

製造東京化成工業株式会社

422 実験手順

① 412 ①②と同じように重合系を作成する

② 以上の操作が済んだ重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先

ほどのスターラーと同じ温度にしたウォーターバスに移しN-(2-ヒドロキシエ

チル)アクリルアミドNNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 076 g262

g 入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始剤と

してメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

③ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

11

43 (3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライドを用いた新規化粧品用

増粘剤の合成

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を誘導体と入れ替える以外の操作は

41に準ずる

親水基による増粘性の変化を観察するため架橋剤のモノマーに対する濃度比は 2-ア

クリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を使用したポリマーが最も増粘効果の高く

なると報告された濃度比を用いる

431 実験器具

実験器具は 41に準ずる

試薬

(3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライド

式量22074

沸点100

製造東京化成工業株式会社

432 実験手順

① 412 ①②と同じように重合系を作成する

② 重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先ほどのスターラーと

同じ温度にしたウォーターバスに移し (3-アクリルアミドプロピル)トリメチ

ルアミニウムクロライドNNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 123 mL

262 g入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始

剤としてメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

③ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

5 評価分析

耐塩性の高い増粘剤の耐塩性と使用感と親水基との関係を評価するために以下の二

つの測定を行い評価する

増粘剤の耐塩性の評価のために塩酸を増粘剤内部に取り込ませた状態で経時

12

による粘度の変化を観察する

また高分子の粘性を考える上で直鎖高分子の場合よく参考にされるのが平

均分子量でありこの値を測定することで親水基が変化した場合に平均分子

量が粒状高分子の粘性にも大きく影響するか確認する

精密に上の測定を行うには専用の機器が必要になるため機器メーカーの株式

会社エーアンドデイ様または東京理科大学理学部応用化学科駒場研究室に

また高分子の性質を考える上で重要視される平均分子量及び分子量分布に

ついては東京理科大学化学系機器センターにあるMALDI-TOF型質量分析計を管

理者の東京理科大学理学部応用化学科の根岸先生に測定に協力していただこうと

考えている

6 謝辞

東京理科大学工学部工業化学科 近藤行成教授

東京理科大学理学部化学科 遠藤恆平准教授

東京理科大学理学部応用化学科 駒場慎一教授

この研究を進めるに当たり大変お世話になった先輩先生方企業の皆さんに感謝の

意を表明します

参考文献

1) 小澤美奈子 基礎高分子科学 高分子学会 編 2010年 第六版 p979899

2) 小澤美奈子 基礎高分子科学 高分子学会 編 2010年 第六版 p99100

3) 金田 勇 逆相マイクロエマルション重合法による水膨潤性ミクロゲルの重合とその増

粘剤としての応用 2010年 p1

4) 小林敏勝 福井寛 きちん知りたい粒子表面と分散技術 日刊工業新聞社 p76

5) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 2006 p839 840 841

6) 皆川基 藤井富美子 洗剤洗浄 百科事典 大矢勝 2007年版 p4647

7) 日本産業洗浄協議会編 わかりやすい界面活性剤 工業調査会 2003 p373839

8) 資生堂 HP httpswwwshiseidogroupjprddevelopmentformulationhtmlより 2015

44取得

9) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 テクノシステム 2006 p321

10) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 テクノシステム 2006 p397

13

398399

11) 遠藤 剛 高分子の合成(上)~ラジカルカチオンアニオン重合~ 講談社 2010 3p

12) 佐藤壽彌編 高分子微粒子の技術と応用 シーエムシー出版 2004 p2526

13) 佐藤壽彌編 高分子微粒子の技術と応用 シーエムシー出版 2004 p27

14) マクマリー 上 8版 東京化学同人 p403404

15) John McMurry マクマリー有機化学(上) 第 8版 2013 p410411

Page 19: ゼオライトとキトサンを用いた 金属イオン除去剤の …kaken/studies/2015/2015-s-all.pdf1 東京理科大学I 部化学研究部 2015 年度春輪講書 ゼオライトとキトサンを用いた

8

自然状態では表面張力により液体は球状になるこの式は固体表面上での液体を広げよ

うとする力と球状を保とうとする力のつりあいの式である

Fig3-4 固体表面上の水滴

また界面自由エネルギーγ12 で接着している二種類の物質を引き離し表面自由エネルギ

ーγ1γ2をもつ二つの物質に分けるのに必要な仕事(これを接着仕事という)Waとすると

119882119886 = 1205741 + 1205742 minus 12057412

であらわされるこれを Dupreの式と呼ぶ接着仕事とはふたつの物質を引き離すのに必

要な仕事であるからWaの値が高いほど接着強度が強いということになる

個体と液体との関係においてこれら二式をあわせると

119882119886 = 120574119871(1 + cos 120579)

を得るこれを Young-Dupre の式という液体の表面張力と接触角から接着材の接着強

度が分かるという式になっている

6)接着力低下因子と表面処理

接着は清浄な面と面の接触が前提である金属表面は清浄であれば 1000~3000 mNmの

表面張力があるはずであるが大気中では数十mNmの値をしめすこれは異物が付着した

り酸化されていたりするためである特に表面がもろい物質でおおわれていると剥離時に

もろい面での剥離が起こり見かけ上弱い接着強度となる事がある

このような金属表面の表面張力の低下を防ぎアンカー効果において適切な凹凸を金属表

面に付与し接着強度向上を図るために洗浄と研磨を行うのが望ましい

5実験方法

41使用する器具

100 mL ビーカーガラス棒ホールピペット安全ピペッターピンセットキムワイ

プ電気炉2 L ペットボトル紐アルミ角材(10 times 30 times 30 mm)サンドペーパー

はけ

9

42試薬の物性

ケイ酸ナトリウム a)

ケイ酸のナトリウム塩で種類が多いいわゆる水ガラスも多くの場合はケイ酸ナトリウム

であるがその組成は安定していない単一物質として得られているものだけでもメタ

ケイ酸ナトリウム Na2SiO3およびその種々の割合の水化物オルトケイ酸ナトリウム

Na4SiO4二ケイ酸ナトリウム Na2Si2O5四ケイ酸ナトリウム Na2SiO9 などがあるオ

ルトケイ酸ナトリウム Na4SiO4=18405二酸化ケイ素と水酸化ナトリウムを適当な条件

で融解すると得られる水溶液で両者を反応させたのではオルトケイ酸ナトリウムの結晶

は得られずにメタケイ酸ナトリウムの水化物になってしまう無色六方晶系の結晶酸

と加熱していると二酸化ケイ素が沈殿している

酸化マグネシウム b)(MgO)

式量 4030

融点 2852

沸点 3600

一般にアンモニウム塩水溶液に溶けるがエタノールに不溶空気中で水と二酸化炭素を

吸収し炭酸水酸化マグネシウムに変化する水と反応して水酸化マグネシウムとなる耐

火レンガマグネシアセメントの製造原料医薬品として制酸剤の原料となるほか触媒

または吸着材ゴム工業にも用いられる

酸化亜鉛 c)(ZnO)

式量 8138

密度 547 gcm3

無定形の白色粉末水にはほとんど溶解しないが両性酸化物で希酸や水酸化アルカリ

水溶液アンモニア水に溶解する空気中で湿気と二酸化炭素を吸収する白色顔料とし

てペイント絵の具などに用いられるほか粒子の細かいものは医薬品化粧品として用

いられる

酸化カルシウム d)(CaO)

式量 5608

融点 2572

沸点 2850

密度 340 gcm3

10

酸に可溶空気中の湿気を吸収して水酸化カルシウムとなりまた空気中の二酸化炭素を

吸収して炭酸カルシウムとなる水と反応して水酸化カルシウムとなるしっくいモル

タルなどの建築材料石膏さらし粉消石灰の原料医療用に用いられる医療用に用

いられる酸性土壌改良にも用いられる

炭酸カルシウム e)(CaCO3)

式量 10009

融点 1339

二酸化炭素を含む水には炭酸水素カルシウムとして溶解する酸には二酸化炭素を発生し

て容易に溶ける加熱すると二酸化炭素と酸化カルシウムに解離する

二酸化ケイ素 f)(SiO2)

式量 6009

低温ではフッ素フッ素酸水素酸だけが反応する高温では他のハロゲン元素とも反応す

る水酸化アルカリ炭酸アルカリと融解すると水溶性のアルカリケイ素酸塩となる

43実験操作

431被接着面の均一化

1)10times30times30 mmのアルミ角材の表面をサンドペーパーで汚れがなくなるまで削る

2)削った表面をアセトンで洗浄する

3)洗浄が終わったアルミ角材の重量を測り記録する

432ケイ酸ナトリウムのみの接着剤の作製

1)100 mL ビーカーにケイ酸ナトリウム 50 g を加え粘り気が残るぐらいまでイオン交換

水を加えガラス棒で撹拌する

2)アルミ角材の 10times30 mm の面にはけを用いてケイ酸ナトリウム溶液を均一になるよう

に塗りアルミ角材を重ね合わせる

3)150にセットした電気炉に接着面がずれないように慎重に置き 1時間焼成する

433添加物を加えた接着剤の作製

1)100 mLビーカーにケイ酸ナトリウム 50 g添加物(酸化マグネシウウム酸化亜鉛

酸化カルシウム炭酸カルシウム二酸化ケイ素)を 010 gから 010 gずつ 20 gまで加

え粘り気が残るぐらいまでイオン交換水を加えガラス棒で撹拌する

2)アルミ角材の 10times30 mm の面にはけを用いてケイ酸ナトリウム溶液を均一になるよう

に塗りアルミ角材を重ね合わせる

3)150 にセットした電気炉に接着面がずれないように慎重に置き 1時間焼成する

11

5評価方法

51接着強度の評価

1)432433で接着したアルミ板にひもとペットボトルを用いて Fig5-1のように設置す

アルミ角材

Fig5-1 接着面の破壊

2)ペットボトルに少しずつ水を加え接着面が完全に離れた時点を破壊終了点とする

3)破壊終了点でのペットボトルに入っている水の重量を計測する

52耐水性の評価

1)接着したアルミ角材に水をかけ接着面の変化を観察する

6予想

添加物を加えることで接着強度の増加が期待されるしかし大量に添加物を加えてし

まうとケイ酸の割合が小さくなり接着強度は減少してしまうと考えられ添加物の量と接

着強度の関係性をグラフ化するとある値までは増加しその値を超えると減少していくグ

ラフが得られると考えるそこから最も接着強度が高まる添加物の量を測定する

また添加物が硬化剤の役割をし耐水性の改善も予想される

参考文献

1)日本接着学会『接着剤データブック第 2版』日刊工業新聞社1990P228~229

2) 三刀基郷『トコトンやさしい接着の本』日刊工業新聞社2003P56~67

3) セメダイン(株)『よくわかる接着技術』日本実業出版社2008P34~37

PET

Crash

12

4) ユージン Gロコー『ケイ素とシリコーン』シュプリンガーフェアラーク東京株式

会社1990 P85~113

5) 大木道則大沢利昭田中元治千原秀昭『化学大辞典』東京化学同人1989

b)P884 c)P865 d)P867 e)P1368 f)P1669

6)下井 守村田 磁『大学生のための基礎シリーズ 3 化学入門』東京化学同人2005

P229

7) 吉村壽次『化学辞典第 2版』森北出版2009a)P425

8)大勝 靖一『高分子添加剤の基礎化学と材料設計』株式会社 CMC出版2008P219~235

9)httpwwwfacekyowacojpsciencetheorywhat_contact_angleimg01jpg

2015416取得

1

東京理科大学Ⅰ部化学研究部 2015 年度春輪講書

シクロデキストリンを用いた

包接化合物の生成

水曜班

Ikemura M(2C)Ebihara K(2C) Kataoka T(2K)

ShibasakiK(2OK)TsumedaT(2C)NakaA(2OK)Murakoshi R(2OK)

OkawaT(2C)NoguchiA(2K)SekiguchiK(2K)HashimotoY(2C)

1 動機

6~8 分子のグルコース単位からなるα―14結合の環状オリゴ糖であるシクロデキストリ

ンはその環状構造に由来する包接化合物を生成する性質を示すその特異的な包接形成能

を利用した多くの製品が存在し現在もなお基礎研究分野応用研究分野での研究が行わ

れている

そこで私たちは 7 分子のグルコースからなるβ-シクロデキストリンと 3 種類のカルボン

酸を用いて包接化合物を形成させ酸の構造の違いによる包接作用の比較検討及びシクロ

デキストリンの一部のヒドロキシ基をエステル化させ水に対する溶解性及び包接形成能が

どのように変化するか考察する

2 原理

21 包接化合物

包接化合物は Schlenk によって名づけられたもので定義によると原子または分子が

結合してできた 3 次元構造の内部に適当な大きさの空孔があってその中に他の原子また

は分子が一定の組成比で入り込んで特定の結晶構造をつくっている物質ということにな

っている前者の骨組み構造の化合物のほうをホスト分子後者の入り込んでいる分子の

ほうをゲスト分子ともよんでいるがこのゲスト分子の大きさや形状はまったくホスト

構造によって規定されるだけで両者の間には弱い相互作用があっても水素結合のよう

な力はなくてもいっこうに構わないのであるこの包接化合物でのゲスト分子とホスト

構造との間の相互作用というのも物理的な吸着系に近いもので非常に弱い van der

Waals 力から高度に配向した双極子間力まで種々のものが存在する 1)

22 シクロデキストリンの包接能

シクロデキストリンはグルコース残基がα-1α-4 結合した環状のオリゴ糖で一般的

にグルコース残基が 6 個のα-シクロデキストリン7 個のβ-シクロデキストリン8個の

γ-シクロデキストリンが知られている

2

Fig1 α-シクロデキストリンの分子構造

シクロデキストリンの構造は底の抜けたバケツやドーナッツのような構造をしており

その環状構造の外側は多くの水酸基に由来する親水性領域が存在し内側の空洞の CH 基に

由来する疎水領域と相反する極性が一つの分子に共存しているがこの空洞内に様々な有

機化合物などを取り込むという包接作用がもっとも特徴的である

三種類のシクロデキストリンはそれぞれ空洞の大きさが相違するためそれぞれ包接化

合物を形成しやすいゲスト分子が存在する内部空洞が比較的小さいα-シクロデキストリ

ンは比較的小さい分子例えばエタノールメタノール等をβ-シクロデキストリンは汎

用性が広く各種ポリフェノールコレステロールメンソール等の香気成分芳香族化

合物等をよく包接するγ-シクロデキストリンは大きい分子である脂肪酸などを包接する

ことが知られている

シクロデキストリンの包接力の原動力は疎水性相互作用と分子間力が主なものとされて

いるつまりゲストは疎水性の高い分子あるいは分子の大きさが空洞にぴったりとフィッ

トするものほどシクロデキストリンがそのゲストを包接する力は大きく包接物を作り

やすい傾向がある逆に親水性が高くシクロデキストリンの空洞にフィットしないよう

なゲスト分子では包接現象は起こりにくいといえるしかしゲスト分子全体がシクロ

デキストリンの空洞内にとりこまれる必要はなく部分的にでも疎水性が高く空洞にフィ

ットすれば包接が可能となるつまりゲスト分子全体がシクロデキストリンより明ら

かに大きいものでも包接作用による効果が観察される場合がある 2)

Fig2 シクロデキストリンがゲストを包接する様子

23 水溶化シクロデキストリン

3

ブドウ糖やショ糖など通常糖質の水への溶解度は非常に高いしかし天然型シク

ロデキストリンは隣接する水酸基との水素結合の為3 種のシクロデキストリンの中では最

も高い水溶性を有するγ-シクロデキストリンであってもその溶解度は 25において水

100 mL に 23 g であり油性物質を包接した場合は一般的にその溶解度はさらに低くな

るそこで水への溶解度を改善するためにシクロデキストリン化学修飾体が製造されて

いるシクロデキストリンの水溶性を向上させる方法として隣接する水酸基をメチル基や

アセチル基などでエーテル化やエステル化する方法がある具体的には部分メチル化β-シ

クロデキストリンやモノアセチル化β-シクロデキストリンが工業的に生産されている

24 包接能の評価について

今回の実験ではゲスト分子としてカルボン酸を用いるシクロデキストリン及び水溶化

シクロデキストリンの包接能の評価については包接化合物に含まれているカルボン酸をア

ルカリで滴定することで求めることができる

3 実験

31 試薬sup3⁾

アジピン酸

分子式C6H10O4

分子量1464

mp153

bp3375 アジピン酸

クエン酸

分子式C6H8O7

分子量19213

mp156~157

クエン酸

シュウ酸

分子式C2H2O4

分子量9004

mp1895

シュウ酸

4

βシクロデキストリン

分子式(C6H10O5)7

分子量113500

n-ブタノール

分子式C4H10O

分子量7412 β-シクロデキストリン

bp1179

エタノール

分子式C2H6O n-ブタノール

分子量4607

mp-1145

bp7833

水酸化ナトリウム

組成式NaOH

分子量4000

mp328

bp1388

無水オクタン酸

分子式C₈H₃₀O₃

分子量27041

mp-1 無水オクタン酸⁶⁾

濃硫酸

分子式H₂SO₄

分子量9808

mp104

32 使用器具

300 mL ビーカーメスフラスコピペット三角フラスコ吸引漏斗吸引瓶ビュレッ

トスタンドボウルガラス棒

5

33 実験操作

331 エステル化シクロデキストリンの合成 ⁵⁾

1)三角フラスコにβ-シクロデキストリン 1 g を入れこれに無水オクタン酸 025 mL を加

える

2)触媒として 2-3 滴の濃硫酸を添加し攪拌する

3)約 10 分間放置してフラスコを氷桶に入れて冷やしガラス棒でフラスコの壁を強くこす

り結晶を析出させる

4)水 20 mL を加えさらに氷桶で冷やしながら残る結晶を析出させる

5)この結晶を濾分し水で洗ってから取り出して乾かして結晶を得る⁵⁾

332 包接化合物の形成

1)β-シクロデキストリン 1 g を水 100 mL に溶解させる

2)ピペットで 1 mL のカルボン酸を加えコルク栓をして静置する

3)1 週間程静置し包接化合物を吸引濾過する

4)上記の操作をカルボン酸(酢酸シュウ酸クエン酸)で行う

5)エステル化シクロデキストリンで同様の実験を行う

333 包接能の測定

1)よく乾燥した包接化合物約 1 g をメスフラスコで 100 mL 溶液とする

2)この溶液 20 mL にフェノールフタレインを指示薬として20 mL 加え 01 M 水酸化ナト

リウム標準溶液で滴定する⁴⁾

334 溶解度の測定

1)100 mL の水に 5 g の β-シクロデキストリンを溶解させる

2)沈殿をろ過し乾燥して重量を測定する

3)エステル化 β-シクロデキストリンで同様の作業を行う

参考文献

1) 竹本喜一包接化合物の化学東京化学同人1969p2

2) 辻堅司シクロデキストリンの応用技術株式会社シーエムシー出版2008p3-p9

3) 大木道則大沼利昭田中元治千原秀明化学大辞典東京化学同人1989

4) 発田寿々子教養の化学実験第 2 版学術図書出版社2014p119

5) 南篠正男先生と生徒のための化学実験共立出版株式会社1986p155

6) 「 chemical book 」〈 wwwchemicalbookcomchemicalProductPropert_JP_CB 〉

(2015418 アクセス)

1

東京理科大学Ⅰ部化学研究部 2015年度春輪講書

ダブルネットワークの合成と評価 木曜班

OnizukaM(2C)TanakaR(2C)YamamokaH(2K) OhiraM(2K)

1背景

現在高分子ゲルは紙おむつの高吸水性樹脂やソフトコンタクトレンズなど私たちの生

活において活躍しているしかし高分子ゲルは不均一な構造なため一般的に機械的強

度が弱いという欠点がある高分子ゲルの強度面での弱点を克服するために従来では

ゲルの構造を均一化して強度を上げるというアプローチがとられてきた

しかしながら材料の弾性とじん性は反相する因子として働くつまり大変形に耐え

られるゲルは弾性率を犠牲とし高弾性のゲルは小さい変形で破壊される

そこで私達木曜班は前述の問題の解決策と成り得るものとしてダブルネットワーク

ゲル(DNゲル)について注目した

2目的

既存に作られている DNゲルは溶媒に水を用いたハイドロゲルであるDNゲルはその

強度や柔軟性により生体内での人工関節に使用することが期待され研究がおこなわれて

いる木曜班では DNゲルを生体内の関節だけでなく機械の関節部の摩擦軽減材料として

の使用を提案するしかし従来の DNゲルは溶媒が水であることにより水の沸点である

100以上の条件下では性能の低下が問題視され高温になりうる機械への応用が困難で

ある

溶媒を水から有機溶媒に変更することで高温条件下でのゲルの機能維持を試みるとと

もに使用するモノマーを変更しその機能性を検討する

3原理

31 DNゲル

311ゲルの脆弱性

一般的なゲルはゼリーや豆腐のように僅かな力を加えただけで簡単に壊れるほど

弱いこの理由は 2つの現象により説明することができる

1)ゲルの内部に多数の欠陥が存在する

2)欠陥から発生した初期亀裂が容易に伝播する

前者はゲル内部の構造が不均一であることに由来するゲル合成時におけるモノマ

ーと架橋剤の反応性の違いにより不均一な重合がおこるあるいはゲル化溶液内の濃度

揺らぎが重合によって固定されることだと考えられている 1)こうしたゲルに力を加えた

2

時にゲルの弱い部分に力が集中してしまうため小さな力でも初期亀裂が生じてしまう

後者はゲル内部のポリマーの密度の低さから生じる一般的に物質内における亀裂

の進みやすさは破壊エネルギーU(Jm2)(単位面積あたりの破断面形成に費やされる仕事)

によって評価される架橋高分子材料の臨界破壊エネルギーUc(亀裂成長が起こる最小

の破壊エネルギー)は破断面の高分子鎖の数密度と架橋点間分子量に比例する 2)つま

りゲルのじん性(物質の破壊に対する抵抗の程度で粘り強さとも言い換えられる 3))はゲ

ル内のポリマーの密度には比例し架橋密度には反比例することがわかる

ゲルは 50~99wtの溶媒を含んでいて高分子の密度が非常に低い物質であるためゲ

ルの Ucはゴムなどの固体に比べてかなり小さいことが考えられる

これまでの高強度ゲル研究は主に前者の問題を解決するすなわち構造を均一化するこ

とでゲル内部の欠陥を極力減らして強度を改善しようという観点から行われてきた

312 ゲルの弾性率

高分子鎖が三次元架橋されたゲルはゴムと同じようにエントロピー弾性を持つ溶液

中に完全に湿潤した電気的に中性ゲルのせん断弾性率(横方向に対するバネ係数 4)であり

Young率 Eと E=3Gの関係式が成立する)は

GneucongkBT

b3Q-225

以上の式で表せられゲルの湿潤度 Qの増加にともないせん断弾性率Gneuは大きく低下

するここでkBはボルツマン定数Tは温度bは重合させたモノマーの大きさである 5)

一方溶液中に完全に湿潤した電解質ゲルのせん断弾性率は

GchacongkBT

b3Q-1

によって表せる 6)よって同じ湿潤度において電解質ゲルは中性ゲルよりせん断弾性率が

高いことが分かる

またゲルの湿潤度は架橋点重合 N(分子量)による溶液中に完全に湿潤した中性ゲル

の場合QasympN35であり電解質ゲル場合QasympN

32であるしたがって架橋密度を上げる

ことによりゲルの湿潤度が小さくなりせん断弾性率が上がる 3)4)

313 ゲルの破断歪と破断応力

架橋構造が均一と仮定した理想的なゲルの破断歪(ゲルが破壊するまでの変形 7))は架

(1)

(2)

3

橋点間高分子の伸びきった長さと高分子鎖に歪がない曲がった自然な状態での大きさ

の比として求められる溶媒中で完全に湿潤した中性ゲルの引っ張り破断歪はλBcongQ12で

ありQの増加により増加する一方湿潤することにより単位面積あたりの高分子

の本数が減るため破断応力は湿潤度 Qが大きくなることにより減少する故にQが大

きいゲルは伸びやすいが弱い応力で壊れる

電解質ゲルの場合高分子鎖はその解離しているイオンの浸透圧によって水中では

ほとんど伸びきった状態となっているその結果理想状態においても破断歪はλBcongQ19

になるこれは破断歪が小さくかつ湿潤度にあまり依存しないことを意味している 5)

以上のことより

1)架橋密度を上げる(架橋点間分子量を下げる)ことでゲルが固くて脆くなる

2)水中に完全に湿潤した高分子電解質ゲルは中性のゲルより硬くて脆い高弾性と変形は

相反するということが考えられる

314 DNゲルの高強度機構

DNゲルは強電解質をモノマーとする 1st networkゲル電気的に中性なモノマーを用

いる 2nd networkゲルを組み合わせることにより生成される前述した通りゲルにおける

弾性と靭性は常に相反する働きをするそれゆえに単一な物質で両方の性質を得るこ

とは原理的には不可能である同じ湿潤度において電解質ゲルと中性ゲルのせん断弾性

率の比はGchaGneucongQ125であるために両者の違いは湿潤度 Qが高いほど大きくなる

この性質を利用することにより電解質ゲルは硬い成分中性ゲルは軟らかい成分とし

て用いることができる

亀裂を含む DNゲルがある引張荷重を受けると応力集中の効果で最初に亀裂先端近傍

の電解質網目(1st network)が破壊され局所的にゲルが降伏する荷重がますと電解質網

目の破壊が次々に伝播し広範囲にわたるダメージゾーンが形成されていくこの過程

で非常にいい気なエネルギーが分散されるダメージゾーンがある大きさまで広がった

ときようやく亀裂先端に中性網目(2nd network)が十分に伸びて切断し亀裂が進行す

る 8)

4

Fig 1 DNゲルの破壊モデル 9)

32 光ラジカル重合

321 光分解

光重合開始剤に UVを当てることにより開裂がおきラジカルが発生する本研究にお

いては 1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンを用いる 10)

Scheme1 1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンの開裂 10)

ℎ120592

5

322 開始反応

UVを当て光開裂により生じたラジカルがビニル基の二重結合を攻撃し光重合開始剤

と炭素の間に σ結合を作り炭素原子にラジカルが存在することになる

Scheme2 ラジカルの生成

323 成長反応

Scheme2で生成したラジカルが他のモノマーを攻撃しσ結合を生じるそれが何回

も起こることにより分子鎖が成長する 6)

Scheme3 分子鎖の成長

324 停止反応

Scheme 3で成長した成長ラジカル同士が σ結合を作り分子鎖が生成する 7)

Scheme4 分子鎖の生成

4実験

41 DNゲルの合成

411 使用器具試薬

ビーカー乳鉢乳棒薬さじUVライトデシケーター

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸

分子式 C7H13NO4S

式量20724

融点160

用途1st networkゲルのモノマー

6

アクリル酸

分子式C3H4O2

式量7206

融点123

沸点1416

比重10511

危険性引火性(発火温度 360 )

用途1st networkゲルのモノマー

アクリロニトリルの加水分解アクロレインの酸化ニッケルカルボニルの存在下ア

セチレンと一酸化炭素と水との反応などにより合成される酢酸に似た刺激臭を持つ液

体水エタノールエーテルによく溶ける酸素の存在下容易に重合するプラス

チックの原料として用いられる

アクリルアミド

分子式C3H5NO

式量7108

融点845

沸点103

比重1122

用途2nd networkゲルのモノマー

アクリルニトリルを硫酸あるいは塩酸を処理して得られるフレーク状の結晶溶解

性(g100 ml溶媒30 )水 2155メタノール 155エタノール 862アセトン 631

酢酸エチル 126クロロホルム 266ベンゼン 0346ヘプタン 00068化学的に不安

定で冷暗所に保存する必要がある融点付近あるいは紫外線下で重合する重合の仕方

により水溶性不溶性のものが得られる

酢酸ビニル

分子式C4H6O2

式量8609

融点-932

沸点723

比重09317

用途2nd networkゲルのモノマー

無色の液体酸やアルカリよって容易に加水分解されてアセトアルデヒドと酢酸を生

じる熱光ラジカル開始剤によって重合する

7

メタクリル酸メチル

分子式C5H8O2

式量10012

融点-48

沸点1003

比重0936

用途2nd networkゲルのモノマー

無色透明で催涙性の芳香のある液体工業的にはアセトンシアノヒドリンにメタノー

ルと硫酸を作用させて合成する実験室的にはメテクリル酸メチルの重合物を 320

以上で乾留すると得られる一般に有機溶媒には溶けるがエチレングリコールグリセ

リンには溶けにくい重合しやすいので重合禁止剤としてヒドロキノンモノメチルエ

ーテル(65 ppm)を添加して保存する有機ガラスの製造ビニル系共重合体など広く

重合反応に用いられるまたメチル以外のアルコールのメタクリル酸エステルの合成

にも用いられる

NN-メチレンビスアクリルアミド

分子式C7H10N2O2

式量15417

融点300

用途架橋剤

1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン

分子式C13H16O2

式量20427

融点47-50

用途光重合開始剤

最大吸収波長は 260 nm付近にある

エチレングリコール

式量6207

融点 -126

沸点1976

比重11132

8

用途ゲル溶媒

重要な二価アルコールでエチレンオキシドの酸触媒による開環高温高圧下水と

の反応による開環などによって合成される吸湿性無色無臭の液体甘味を有する

が有毒である高沸点を有ししかも水酸化カリウム水酸化ナトリウムを溶解し水や

エタノールと任意の割合で混合するので有機合成における溶媒として広く用いられ

また塩基に対して安定なエチレンケタールの生成によるカルボニル基の保護に用いら

れるさらに酢酸ビニル系樹脂の溶剤や水と混ざり高沸点のため不凍液に用いら

れるなど広い用途を持っている

412 1st networkゲルの作成

1) 1st networkゲルのモノマー(電解質モノマー)架橋剤(NN-メチレンビスアクリルア

ミド)と光重合開始剤(1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)を水に溶解させた水

溶液を調製する

2) UVを 8時間照射して光ラジカル重合をさせる

3) 2)で合成した電解質ゲルを乳鉢に入れ適当なサイズに砕いた後デシケーター内で一

週間ほど乾燥させる

413水溶媒 DNゲルの作成

1) 2nd networkゲルのモノマー(中性モノマー)架橋剤(NN-メチレンビスアクリルアミ

ド)光重合開始剤(1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)をエチレングリコールに

溶解させた溶液を調製する

2) 乾燥した電解質ゲルを 1)で調製した水溶液に入れ電解質ゲルを十分に膨らませるそ

の後UVを照射し中性モノマーを光ラジカル重合させる

414エチレングリコール DNゲルの作成

1) 2nd networkゲルのモノマー(中性モノマー)架橋剤(NN-メチレンビスアクリルアミ

ド)光重合開始剤(1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)をエチレングリコールに

溶解させた溶液を調製する

2) 乾燥した電解質ゲルを 1)で調製したエチレングリコール溶液に入れ電解質ゲルを十分

に膨らませるその後UVを照射し中性モノマーを光ラジカル重合させる

42 DNゲルの評価

421引っ張り試験

使用するモノマーの変化によるゲルの性質の差を評価する引っ張り試験は

JIS-K-6251-7号に準拠する方法で測定する

9

1)DNゲルを X方向の長さ 50 mmY方向の長さ 75 mmZ方向の長さが 25 mmの大

きさに成形する

2)その一端部に X-Y平面に平行な切込みを入れて2つの引張端部を形成する

3) 引張端部を片方は固定しもう片方を一定の速度で引っ張るこのときの引っ張る力 F

を測定する

Fig 2 引っ張り試験 13)

422 摩擦試験

使用するモノマーの変化溶媒の変化によるゲルの性質の差を評価する

摩擦試験は東京理科大学工学部第一部機械工学科佐々木研究室に依頼する予定である

用いる機械は SVR4パーカー熱処理工業株式会社製であり180での高温での摩擦係

数の測定が可能である

摩擦測定は常温(20 )と高温(100 )で測定することを予定している

10

5 展望

51 DNゲルの合成

実験操作は溶液を調製した後UV照射するという簡易な手順なので合成は比較的早い

段階で成功すると考えられる

1st networkゲル合成に使うのは電解質モノマーなため水溶液のモノマーの濃度が低

いと湿潤度 Q が大きくなりせん断弾性率が下がり剛性が弱いゲルが出来上がると考え

られる

架橋剤を多く使用すると架橋密度を上がるので 2nd networkゲルが入り込む空洞が小

さくなるそのために架橋剤が多すぎると高弾性のゲルが生成できると考えられる

また同様な考えで2nd networkモノマーが含まれている水溶液に乾燥させた1st network

ゲルを入れる量が多くても高弾性のゲルが生成できると考えられる

52 DNゲルの物性

ゲルの高分子網目は基板から離れようとするときにゲルと基板の間に僅かな溶媒層

が生じるこの状態では溶媒層が潤滑油のような働きをして生じる摩擦力は小さなも

のとなるゲル周辺が高温な状態ではこの溶媒層が水の場合は蒸発してしまうので摩

擦力は増大すると考えられる溶媒を水からより沸点の高いエチレングリコールなどに

変えれば摩擦力は増大することはないと推測される 14)

11

参考文献

1) J Bastide and L LeiblerMacromolecules1988212647

2) G G J Lake and A G ThomasProc R Soc LondonA1967300108

3)越後亮三 機械工学辞典 朝倉書店 2007 p631

4) 伊藤勝悦 やさしく学べる材料力学 森北出版 2014 p14

5)SPObukhovMRubinstein and RHColby Macromolecules 1994273191-3198

6)MRubinsteinRHColbyAVDobrynin and JJaonnyElasticMacromolecules199629398-406

7) 大 阪 府 立 大 学 基 礎 講 座 材 料 の 強 度 と 破 壊

httpwwwengmmtrosakafu-uacjpresearchstrength-japdf2015413取得

8)聾剣萍「生命科学時代の新材料-高弾性高靱性ダブルネットワークゲル」高分子学会

『高分子』高分子科学最近の進歩58巻 5号2009p327-p331

9)YTanakaEurophysLett20077856005

10)蓮池幹治ラジカル重合ハンドブックエヌティーエス2010p444-p445

11)大津隆行ラジカル重合(Ⅰ)化学同人1971p80-p81

12)大津隆行ラジカル重合(Ⅰ)化学同人1971p153-p154

13)聾剣萍高分子ゲルおよびその製造方法特開 2009-185156 2008-02-05

14) 角五 彰龔 剣萍長田義仁「ゲルの摩擦と水和潤滑~生物の滑らかな運動解明への

アプローチ」日本生物物理学会『生物物理』47巻 4号2007p 253-p258

1

東京理科大学Ⅰ部化学研究部 2015年度春輪講書

耐塩性の高い新規化粧品用増粘剤の開発 2015年度金曜班

Nomata N(2OK)Seki M(2OK)Tin J(2OK)Takahashi R(2C)Watanabe A(2K)

Asai D(2K) Nishimiti D(2K)Yamamoto R(2K)

1 動機

化粧品において増粘剤の果たす役割は非常に大きい

化粧品にはクリーム状のモノが多くありその整形には増粘剤が必要不可欠である

また増粘剤は製剤だけでなく密閉効果や水和効果によって薬剤を皮膚に効率的に輸

送することに役立っている

この増粘剤であるが一つ課題がありアスコルビン酸塩(ビタミン C)のようなクロロ

基を持つ塩系薬剤をゲル中に含む場合経時によってべたつきといった使用感の悪化

につながるといった弱点があるこの問題の解決のために塩系薬剤への耐性の高い増

粘剤の開発が望まれている

塩系薬剤の高い美容効果からこの問題の解決に対する化粧剤企業のニーズは高くこ

の問題は長く研究が続けられていたが近年資生堂が逆相マイクロエマルション重

合法によって microスケールの粒状高分子を多数合成することによりできる増粘剤が高い

耐塩性を持ち使用感もよいことを発見したがこの粒状高分子増粘剤には未だ試み

られていないモノマーが多くある

そこで今年度の金曜班ではこの逆相マイクロエマルション重合法において未だ

試みられていない親水基を持つモノマーを利用して新規の増粘剤をつくることで粒

状高分子による増粘剤の耐塩性と肌触りと親水基の関係を調べ応用化に利すること

ができるのではないかと考え実験を行うこととした

2 背景

増粘剤とは水溶液をゲル化するために添加される物質であり化粧品において広く

用いられているこの増粘効果は従来では高分子鎖同士の分子間力や架橋で生じる

網目構造の結果生じる液中の摩擦力によるものである

動機で述べたように μスケールの粒状高分子が増粘剤として良質であることがわか

っているただし粒状高分子の形状は反応場であるセッケンミセルの大きさだけで

なく親水基やポリマーを構成する原子同士の分子間力によって変わる高分子の立体構

2

造にも影響されている

また粒状高分子の正確な一次構造を把握することは大変難しいことであるので

応用化のためには高分子の一次構造でなくモノマーによって粒状高分子特性の変化

を調べることが重要である

さらに従来用いられているポリマーがスルホ基とカルボキシル基を親水基とする

ものしか存在しない

以上の三点から酸以外の親水基をもつモノマーで増粘剤を合成したときその性

質はどうなるかを調べることでより製品として利用価値が高い粒状高分子増粘剤を合

成することができるのではないかと考えた

そこで新規モノマーとしては対照実験を行うためにアクリルアミド系モノマー

でかつ 2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸のスルホ基と同じ炭素骨格の先

端に親水基が存在するものとしてN-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド (3-アク

リルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライドを用いてそれぞれ親水基が酸

ではなくヒドロキシ基である場合親水基がアニオンではなくカチオンである場合に

ついて研究を行うこととした

この二種の以外にも水溶性のアクリルアミドポリマーは存在するが上記の条件を満

たさないまたは高価であるため本実験では用いないこととした

Fig1 N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド

Fig2 (3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライド

3

3 原理

31 一般的な液体の粘性

溶液の粘性は一般論では以下のように表される

Fig3のように XY平面を取り液面に平板を用意し引っ張った時挟まれた溶液内

には図のようなせん断流動が発生する高さ Yでのせん断速度は(119881

119889) 119910で与えられる

この時平板に挟まれた溶液を薄層の集まりと考えると隣り合う薄層間に摩擦が生

じるこの内部摩擦力が粘性力であるずり速度勾配が十分に小さければ平板の単位

面積当たりに生じる粘性力 Fv0はその勾配 Vd に比例するすなわち以下の式で表

され1205780を粘性係数と呼ぶこの値は溶媒固有である1)

1198651199070 = 1205780 (119881

119889)

Fig3 溶液ずりせん断図

32 増粘剤の粘性

増粘剤の多くは低分子の液体に高分子を溶かすと著しく粘性が高くなる性質を利

用している

この粘性の発生するメカニズムは下の Fig4において平板間の溶液を薄層に分けた

際高分子鎖は溶液の移動に伴って回転するこのとき溶液中の薄層は薄層間の摩

擦以外に高分子鎖との間にも摩擦が生じているこの摩擦の増加が粘性力の増加とな

る 2)

4

Fig4 高分子による粘性増加

また高分子鎖同士が分子間力によって結びつき三次元構造を形成することで内

部摩擦力は一層大きくなるこのため高分子による増粘効果は顕著である

架橋高分子では三次元構造が高分子鎖同士の分子間力による形成よりも強いものと

なるので増粘効果及びレオロジー特性に優れる 3)

33 塩系薬剤による粘性劣化のメカニズム

塩系薬剤とはビタミンC (アスコルビン酸塩)のようにクロロ基をもつ薬効物質のこ

とである

このクロロ基が直鎖高分子や架橋高分子がポリマー間で形成する三次元網目構造

を破壊することによって増粘効果を消失させ内容物の流失によるべたつきを生じさ

せる 3)

34 粒状高分子の粘性

粒状高分子の粘性について粒状高分子はその粒経が小さいほど体積に対する表面

積が増え溶液内での内部摩擦力が大きくなる

また粒子同士が摩擦力を元に網目構造を形成するため網目構造の構成要因が直

鎖高分子や架橋高分子の高分子増粘剤と異なっている 4)

35 逆相マイクロエマルション重合法

後述する転相温度乳化法を用いて形成した5 μm~30 μm 形成したマイクロエマル

ション内において水溶性のモノマーを利用して行う乳化重合法の一種容易に極小の

5

ポリマーを合成することができる 5)

36 界面活性剤の概略

界面活性剤とは分子の構造が水になじみやすい部分(親水基)と油になじみやすい

部分(新油基)からできていて2つの物質の間の界面に集まりやすい性質を持ちそ

の界面の性質を著しく変える物質というのが界面活性剤の定義である

代表的な界面活性剤の特徴は界面における「吸着」と「ミセル形成」である 6)

もうひとつの代表的な作用として「可溶化」もある

37 エマルションの形成

界面活性剤に有機溶媒が取り囲まれて水に可溶化されたとき水溶液中に存在する

有機溶媒を界面活性剤が取り囲んだ液滴のことを OW エマルションと呼ぶ

有機溶媒中に水が可溶化される場合WOエマルションと呼ぶ

38 ノニオン界面活性剤

非イオン界面活性剤とも言う界面活性剤の内解離基を持たず電気的に中性な

界面活性剤で親水基は主にポリオキシエチレン基であるその特殊な性質上他の種類

の界面活性剤に無い性質として曇点と転相温度を持つ 今回使用するノニオン界面

活性剤はポリオキシエチレンオレイルエーテルであり基本式は以下のような形にな

る 7)

R-O(CH2CH2O)n-H

Scheme 1 ポリオキシエチレンオレイルエーテルの基本式

39 曇点

曇点とは透明な液体が相分離を起こして白濁する温度のこと

本実験においてはノニオン界面活性剤が加温によって界面活性効果を失い相分離

によって白濁する温度のこと 8)

310 転相温度乳化

ノニオン界面活性剤は加温によって界面張力が変化しWO型エマルションから

OW 型に変化するこの変化点のことを転相温度と言い転相温度において界

6

面張力が最低になっているので溶液エマルションが極小になる

またこの転相温度は界面活性剤に固有の値となるので二種の比較的性質の

近い界面活性剤を混合することで転相温度を操作し適切な温度で5 μm~30 μm

程度の直径を持つエマルションを作成する方法を転相温度乳化法と呼ぶ 10)

311 ラジカル重合

開始剤を用いてラジカル種を生成して行う重合法のことをラジカル重合法と言う

開始剤の分解要因によって熱光放射線ラジカル重合の三つに分けられる 10)

3111 ラジカル重合を構成する四反応

ラジカル重合は 4種類の反応が同時並行的に起こるそれぞれ以下の通りである 11)

開始反応

開始剤が熱光放射光などの要因によってラジカル開裂を起こしラジカル種を

生じさせる反応

成長反応

ラジカル種がモノマーと反応することでモノマー新たなラジカル種が生成する

反応これが連続することでポリマーが合成される

停止反応

連鎖していた成長反応が止まる反応主にラジカル種同士の反応による

連鎖移動反応

ラジカル種がモノマー以外の分子主に溶媒分子等と反応することでポリマー以

外の物質を合成する副反応

3112 乳化重合

乳化重合はモノマー液滴と呼ばれるモノマーを大量に保存しているエマルシ

ョンと反応場となる極小のセッケンミセルの二つの構造を持つ溶液中で行う不均

一系ラジカル重合の一種である 12)

成長反応が一段階進むたびにモノマー液滴から拡散の理論式に従ってモノマ

ーがミセル内に移動するこの一連の反応を繰り返して反応が進む 13)

そのため種々のラジカル重合法と比較して以下の特長がある 13)

セッケンミセル内に存在するラジカルが常に一つであるため停止反応が

7

起こりにくく比較的重合度の高いポリマーが生成しやすい

反応速度が拡散作用によって律速されかつセッケンミセルの周囲を大量

の溶媒分子が囲んでいるため除熱が容易であるという理由から熱暴走を起

こしにくいという利点がある

ミセル内で重合するため合成した高分子が絡まりやすく粒状の分子が作

成できる

Fig5 乳化重合模式図

312 MS(質量分析法)

質量分析法とは分子の質量すなわち分子量を測る手段でもあるまた分子を分解

したフラグメントの質量を測ることによって分子構造に関する情報を得るものでも

ある

高エネルギー電子が有機分子にぶつかると分子から電子がはじき出せれカチオ

ンラジカルが発生する

119825119815 rarr 119825119815++119838minus Scheme 2カチオンラジカルの発生

電子の衝突により大量のエネルギーが分子に与えられることで大部分のカチオン

ラジカルを生成した後フラグメントに分解するフラグメントは小さな破片となっ

て浮遊し正電荷や中性となる

このカチオンラジカルとフラグメントについてmz値を横軸相対強度を縦軸につ

いて取ったグラフから質量スペクトルを読み取る 14)

またMS(質量分析法)はイオン化の方法などによりいくつかに分けられ今回使用

したいのは高分子試料でもほとんどフラグメンテーションを起こさないソフトなイ

8

オン化法であるMALDI法 15)である

3121 MALDI法(マトリックス支援レーザー脱離イオン化法)

試料を 25-ヒドロキシ安息香酸のような適切なマトリックス上に吸着させて

ペレットを作成しレーザー光を短時間照射してイオン化する

エネルギーがマトリックスから試料に移動し[119872 + 119867119899 ]119899+に分解される 15)

MALDI法にはよく TOF型の MSが用いられている

4 実験

41 2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を用いた既存化粧品用増粘剤の合成

411 使用器具試薬

温度計ウォーターバスビーカー薬さじデシケーター

ジメチルアクリルアミド

式量9913

沸点81

発火点71

LD50(経口)316mgkg

LD50(経皮)580mgkg

製造和光純薬工業株式会社

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸

式量20725

融点200

LD50(経口)5400mgkg

製造和光純薬工業株式会社

NN-メチレンビスアクリルアミド

式量156

沸点4451

発火点215

LD50(経口)390mgkg

製造東京化成工業株式会社

9

へプタン

式量1002

沸点98

引火点-4

水に不溶

製造昭和化学

2-プロパノール

式量60

沸点82

発火点12

LD50(経口)区分外(GHS分類)

LD50(経皮)区分外(GHS分類)

製造昭和化学

ペルオキソ二硫酸アンモニウム

式量22820

冷水に易溶保存湿気厳禁

重合開始罪乳化重合レドックス重合に用いられる

製造和光純薬工業株式会社

412 実験手順

① ビーカーにイオン交換水ヘプタンポリオキシエチレンオレイルエーテル(2)

(8)をそれぞれ507 mL 507 mL489 g((2)(8)=23)加えて良く撹拌したも

のを入れる

② その後その後温度調節機能つきスターラーに乗せ白濁するまで加熱する

白濁した液が透明化するまで温度を落とし電気伝導率計を用いて溶液が転

相温度付近に保たれていることを確認する

③ 以上の操作が済んだ重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先

ほどのスターラーと同じ温度にしたウォーターバスに移し2-アクリルアミド

-2-メチルプロパンスルホン酸NNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 137 g

262 g入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始

剤としてメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

10

④ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

42 N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミドを用いた新規化粧品用増粘剤の合成

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を誘導体と入れ替える以外の

操作は 41に準ずる

親水基による増粘性の変化を観察するため架橋剤のモノマーに対する濃度比

は 2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を使用したポリマーが最も増

粘効果の高くなると報告された濃度比を用いる

421 使用器具試薬

使用器具は 41に準ずる

試薬

N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド

式量11513

沸点130

発火点189

製造東京化成工業株式会社

422 実験手順

① 412 ①②と同じように重合系を作成する

② 以上の操作が済んだ重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先

ほどのスターラーと同じ温度にしたウォーターバスに移しN-(2-ヒドロキシエ

チル)アクリルアミドNNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 076 g262

g 入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始剤と

してメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

③ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

11

43 (3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライドを用いた新規化粧品用

増粘剤の合成

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を誘導体と入れ替える以外の操作は

41に準ずる

親水基による増粘性の変化を観察するため架橋剤のモノマーに対する濃度比は 2-ア

クリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を使用したポリマーが最も増粘効果の高く

なると報告された濃度比を用いる

431 実験器具

実験器具は 41に準ずる

試薬

(3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライド

式量22074

沸点100

製造東京化成工業株式会社

432 実験手順

① 412 ①②と同じように重合系を作成する

② 重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先ほどのスターラーと

同じ温度にしたウォーターバスに移し (3-アクリルアミドプロピル)トリメチ

ルアミニウムクロライドNNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 123 mL

262 g入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始

剤としてメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

③ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

5 評価分析

耐塩性の高い増粘剤の耐塩性と使用感と親水基との関係を評価するために以下の二

つの測定を行い評価する

増粘剤の耐塩性の評価のために塩酸を増粘剤内部に取り込ませた状態で経時

12

による粘度の変化を観察する

また高分子の粘性を考える上で直鎖高分子の場合よく参考にされるのが平

均分子量でありこの値を測定することで親水基が変化した場合に平均分子

量が粒状高分子の粘性にも大きく影響するか確認する

精密に上の測定を行うには専用の機器が必要になるため機器メーカーの株式

会社エーアンドデイ様または東京理科大学理学部応用化学科駒場研究室に

また高分子の性質を考える上で重要視される平均分子量及び分子量分布に

ついては東京理科大学化学系機器センターにあるMALDI-TOF型質量分析計を管

理者の東京理科大学理学部応用化学科の根岸先生に測定に協力していただこうと

考えている

6 謝辞

東京理科大学工学部工業化学科 近藤行成教授

東京理科大学理学部化学科 遠藤恆平准教授

東京理科大学理学部応用化学科 駒場慎一教授

この研究を進めるに当たり大変お世話になった先輩先生方企業の皆さんに感謝の

意を表明します

参考文献

1) 小澤美奈子 基礎高分子科学 高分子学会 編 2010年 第六版 p979899

2) 小澤美奈子 基礎高分子科学 高分子学会 編 2010年 第六版 p99100

3) 金田 勇 逆相マイクロエマルション重合法による水膨潤性ミクロゲルの重合とその増

粘剤としての応用 2010年 p1

4) 小林敏勝 福井寛 きちん知りたい粒子表面と分散技術 日刊工業新聞社 p76

5) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 2006 p839 840 841

6) 皆川基 藤井富美子 洗剤洗浄 百科事典 大矢勝 2007年版 p4647

7) 日本産業洗浄協議会編 わかりやすい界面活性剤 工業調査会 2003 p373839

8) 資生堂 HP httpswwwshiseidogroupjprddevelopmentformulationhtmlより 2015

44取得

9) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 テクノシステム 2006 p321

10) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 テクノシステム 2006 p397

13

398399

11) 遠藤 剛 高分子の合成(上)~ラジカルカチオンアニオン重合~ 講談社 2010 3p

12) 佐藤壽彌編 高分子微粒子の技術と応用 シーエムシー出版 2004 p2526

13) 佐藤壽彌編 高分子微粒子の技術と応用 シーエムシー出版 2004 p27

14) マクマリー 上 8版 東京化学同人 p403404

15) John McMurry マクマリー有機化学(上) 第 8版 2013 p410411

Page 20: ゼオライトとキトサンを用いた 金属イオン除去剤の …kaken/studies/2015/2015-s-all.pdf1 東京理科大学I 部化学研究部 2015 年度春輪講書 ゼオライトとキトサンを用いた

9

42試薬の物性

ケイ酸ナトリウム a)

ケイ酸のナトリウム塩で種類が多いいわゆる水ガラスも多くの場合はケイ酸ナトリウム

であるがその組成は安定していない単一物質として得られているものだけでもメタ

ケイ酸ナトリウム Na2SiO3およびその種々の割合の水化物オルトケイ酸ナトリウム

Na4SiO4二ケイ酸ナトリウム Na2Si2O5四ケイ酸ナトリウム Na2SiO9 などがあるオ

ルトケイ酸ナトリウム Na4SiO4=18405二酸化ケイ素と水酸化ナトリウムを適当な条件

で融解すると得られる水溶液で両者を反応させたのではオルトケイ酸ナトリウムの結晶

は得られずにメタケイ酸ナトリウムの水化物になってしまう無色六方晶系の結晶酸

と加熱していると二酸化ケイ素が沈殿している

酸化マグネシウム b)(MgO)

式量 4030

融点 2852

沸点 3600

一般にアンモニウム塩水溶液に溶けるがエタノールに不溶空気中で水と二酸化炭素を

吸収し炭酸水酸化マグネシウムに変化する水と反応して水酸化マグネシウムとなる耐

火レンガマグネシアセメントの製造原料医薬品として制酸剤の原料となるほか触媒

または吸着材ゴム工業にも用いられる

酸化亜鉛 c)(ZnO)

式量 8138

密度 547 gcm3

無定形の白色粉末水にはほとんど溶解しないが両性酸化物で希酸や水酸化アルカリ

水溶液アンモニア水に溶解する空気中で湿気と二酸化炭素を吸収する白色顔料とし

てペイント絵の具などに用いられるほか粒子の細かいものは医薬品化粧品として用

いられる

酸化カルシウム d)(CaO)

式量 5608

融点 2572

沸点 2850

密度 340 gcm3

10

酸に可溶空気中の湿気を吸収して水酸化カルシウムとなりまた空気中の二酸化炭素を

吸収して炭酸カルシウムとなる水と反応して水酸化カルシウムとなるしっくいモル

タルなどの建築材料石膏さらし粉消石灰の原料医療用に用いられる医療用に用

いられる酸性土壌改良にも用いられる

炭酸カルシウム e)(CaCO3)

式量 10009

融点 1339

二酸化炭素を含む水には炭酸水素カルシウムとして溶解する酸には二酸化炭素を発生し

て容易に溶ける加熱すると二酸化炭素と酸化カルシウムに解離する

二酸化ケイ素 f)(SiO2)

式量 6009

低温ではフッ素フッ素酸水素酸だけが反応する高温では他のハロゲン元素とも反応す

る水酸化アルカリ炭酸アルカリと融解すると水溶性のアルカリケイ素酸塩となる

43実験操作

431被接着面の均一化

1)10times30times30 mmのアルミ角材の表面をサンドペーパーで汚れがなくなるまで削る

2)削った表面をアセトンで洗浄する

3)洗浄が終わったアルミ角材の重量を測り記録する

432ケイ酸ナトリウムのみの接着剤の作製

1)100 mL ビーカーにケイ酸ナトリウム 50 g を加え粘り気が残るぐらいまでイオン交換

水を加えガラス棒で撹拌する

2)アルミ角材の 10times30 mm の面にはけを用いてケイ酸ナトリウム溶液を均一になるよう

に塗りアルミ角材を重ね合わせる

3)150にセットした電気炉に接着面がずれないように慎重に置き 1時間焼成する

433添加物を加えた接着剤の作製

1)100 mLビーカーにケイ酸ナトリウム 50 g添加物(酸化マグネシウウム酸化亜鉛

酸化カルシウム炭酸カルシウム二酸化ケイ素)を 010 gから 010 gずつ 20 gまで加

え粘り気が残るぐらいまでイオン交換水を加えガラス棒で撹拌する

2)アルミ角材の 10times30 mm の面にはけを用いてケイ酸ナトリウム溶液を均一になるよう

に塗りアルミ角材を重ね合わせる

3)150 にセットした電気炉に接着面がずれないように慎重に置き 1時間焼成する

11

5評価方法

51接着強度の評価

1)432433で接着したアルミ板にひもとペットボトルを用いて Fig5-1のように設置す

アルミ角材

Fig5-1 接着面の破壊

2)ペットボトルに少しずつ水を加え接着面が完全に離れた時点を破壊終了点とする

3)破壊終了点でのペットボトルに入っている水の重量を計測する

52耐水性の評価

1)接着したアルミ角材に水をかけ接着面の変化を観察する

6予想

添加物を加えることで接着強度の増加が期待されるしかし大量に添加物を加えてし

まうとケイ酸の割合が小さくなり接着強度は減少してしまうと考えられ添加物の量と接

着強度の関係性をグラフ化するとある値までは増加しその値を超えると減少していくグ

ラフが得られると考えるそこから最も接着強度が高まる添加物の量を測定する

また添加物が硬化剤の役割をし耐水性の改善も予想される

参考文献

1)日本接着学会『接着剤データブック第 2版』日刊工業新聞社1990P228~229

2) 三刀基郷『トコトンやさしい接着の本』日刊工業新聞社2003P56~67

3) セメダイン(株)『よくわかる接着技術』日本実業出版社2008P34~37

PET

Crash

12

4) ユージン Gロコー『ケイ素とシリコーン』シュプリンガーフェアラーク東京株式

会社1990 P85~113

5) 大木道則大沢利昭田中元治千原秀昭『化学大辞典』東京化学同人1989

b)P884 c)P865 d)P867 e)P1368 f)P1669

6)下井 守村田 磁『大学生のための基礎シリーズ 3 化学入門』東京化学同人2005

P229

7) 吉村壽次『化学辞典第 2版』森北出版2009a)P425

8)大勝 靖一『高分子添加剤の基礎化学と材料設計』株式会社 CMC出版2008P219~235

9)httpwwwfacekyowacojpsciencetheorywhat_contact_angleimg01jpg

2015416取得

1

東京理科大学Ⅰ部化学研究部 2015 年度春輪講書

シクロデキストリンを用いた

包接化合物の生成

水曜班

Ikemura M(2C)Ebihara K(2C) Kataoka T(2K)

ShibasakiK(2OK)TsumedaT(2C)NakaA(2OK)Murakoshi R(2OK)

OkawaT(2C)NoguchiA(2K)SekiguchiK(2K)HashimotoY(2C)

1 動機

6~8 分子のグルコース単位からなるα―14結合の環状オリゴ糖であるシクロデキストリ

ンはその環状構造に由来する包接化合物を生成する性質を示すその特異的な包接形成能

を利用した多くの製品が存在し現在もなお基礎研究分野応用研究分野での研究が行わ

れている

そこで私たちは 7 分子のグルコースからなるβ-シクロデキストリンと 3 種類のカルボン

酸を用いて包接化合物を形成させ酸の構造の違いによる包接作用の比較検討及びシクロ

デキストリンの一部のヒドロキシ基をエステル化させ水に対する溶解性及び包接形成能が

どのように変化するか考察する

2 原理

21 包接化合物

包接化合物は Schlenk によって名づけられたもので定義によると原子または分子が

結合してできた 3 次元構造の内部に適当な大きさの空孔があってその中に他の原子また

は分子が一定の組成比で入り込んで特定の結晶構造をつくっている物質ということにな

っている前者の骨組み構造の化合物のほうをホスト分子後者の入り込んでいる分子の

ほうをゲスト分子ともよんでいるがこのゲスト分子の大きさや形状はまったくホスト

構造によって規定されるだけで両者の間には弱い相互作用があっても水素結合のよう

な力はなくてもいっこうに構わないのであるこの包接化合物でのゲスト分子とホスト

構造との間の相互作用というのも物理的な吸着系に近いもので非常に弱い van der

Waals 力から高度に配向した双極子間力まで種々のものが存在する 1)

22 シクロデキストリンの包接能

シクロデキストリンはグルコース残基がα-1α-4 結合した環状のオリゴ糖で一般的

にグルコース残基が 6 個のα-シクロデキストリン7 個のβ-シクロデキストリン8個の

γ-シクロデキストリンが知られている

2

Fig1 α-シクロデキストリンの分子構造

シクロデキストリンの構造は底の抜けたバケツやドーナッツのような構造をしており

その環状構造の外側は多くの水酸基に由来する親水性領域が存在し内側の空洞の CH 基に

由来する疎水領域と相反する極性が一つの分子に共存しているがこの空洞内に様々な有

機化合物などを取り込むという包接作用がもっとも特徴的である

三種類のシクロデキストリンはそれぞれ空洞の大きさが相違するためそれぞれ包接化

合物を形成しやすいゲスト分子が存在する内部空洞が比較的小さいα-シクロデキストリ

ンは比較的小さい分子例えばエタノールメタノール等をβ-シクロデキストリンは汎

用性が広く各種ポリフェノールコレステロールメンソール等の香気成分芳香族化

合物等をよく包接するγ-シクロデキストリンは大きい分子である脂肪酸などを包接する

ことが知られている

シクロデキストリンの包接力の原動力は疎水性相互作用と分子間力が主なものとされて

いるつまりゲストは疎水性の高い分子あるいは分子の大きさが空洞にぴったりとフィッ

トするものほどシクロデキストリンがそのゲストを包接する力は大きく包接物を作り

やすい傾向がある逆に親水性が高くシクロデキストリンの空洞にフィットしないよう

なゲスト分子では包接現象は起こりにくいといえるしかしゲスト分子全体がシクロ

デキストリンの空洞内にとりこまれる必要はなく部分的にでも疎水性が高く空洞にフィ

ットすれば包接が可能となるつまりゲスト分子全体がシクロデキストリンより明ら

かに大きいものでも包接作用による効果が観察される場合がある 2)

Fig2 シクロデキストリンがゲストを包接する様子

23 水溶化シクロデキストリン

3

ブドウ糖やショ糖など通常糖質の水への溶解度は非常に高いしかし天然型シク

ロデキストリンは隣接する水酸基との水素結合の為3 種のシクロデキストリンの中では最

も高い水溶性を有するγ-シクロデキストリンであってもその溶解度は 25において水

100 mL に 23 g であり油性物質を包接した場合は一般的にその溶解度はさらに低くな

るそこで水への溶解度を改善するためにシクロデキストリン化学修飾体が製造されて

いるシクロデキストリンの水溶性を向上させる方法として隣接する水酸基をメチル基や

アセチル基などでエーテル化やエステル化する方法がある具体的には部分メチル化β-シ

クロデキストリンやモノアセチル化β-シクロデキストリンが工業的に生産されている

24 包接能の評価について

今回の実験ではゲスト分子としてカルボン酸を用いるシクロデキストリン及び水溶化

シクロデキストリンの包接能の評価については包接化合物に含まれているカルボン酸をア

ルカリで滴定することで求めることができる

3 実験

31 試薬sup3⁾

アジピン酸

分子式C6H10O4

分子量1464

mp153

bp3375 アジピン酸

クエン酸

分子式C6H8O7

分子量19213

mp156~157

クエン酸

シュウ酸

分子式C2H2O4

分子量9004

mp1895

シュウ酸

4

βシクロデキストリン

分子式(C6H10O5)7

分子量113500

n-ブタノール

分子式C4H10O

分子量7412 β-シクロデキストリン

bp1179

エタノール

分子式C2H6O n-ブタノール

分子量4607

mp-1145

bp7833

水酸化ナトリウム

組成式NaOH

分子量4000

mp328

bp1388

無水オクタン酸

分子式C₈H₃₀O₃

分子量27041

mp-1 無水オクタン酸⁶⁾

濃硫酸

分子式H₂SO₄

分子量9808

mp104

32 使用器具

300 mL ビーカーメスフラスコピペット三角フラスコ吸引漏斗吸引瓶ビュレッ

トスタンドボウルガラス棒

5

33 実験操作

331 エステル化シクロデキストリンの合成 ⁵⁾

1)三角フラスコにβ-シクロデキストリン 1 g を入れこれに無水オクタン酸 025 mL を加

える

2)触媒として 2-3 滴の濃硫酸を添加し攪拌する

3)約 10 分間放置してフラスコを氷桶に入れて冷やしガラス棒でフラスコの壁を強くこす

り結晶を析出させる

4)水 20 mL を加えさらに氷桶で冷やしながら残る結晶を析出させる

5)この結晶を濾分し水で洗ってから取り出して乾かして結晶を得る⁵⁾

332 包接化合物の形成

1)β-シクロデキストリン 1 g を水 100 mL に溶解させる

2)ピペットで 1 mL のカルボン酸を加えコルク栓をして静置する

3)1 週間程静置し包接化合物を吸引濾過する

4)上記の操作をカルボン酸(酢酸シュウ酸クエン酸)で行う

5)エステル化シクロデキストリンで同様の実験を行う

333 包接能の測定

1)よく乾燥した包接化合物約 1 g をメスフラスコで 100 mL 溶液とする

2)この溶液 20 mL にフェノールフタレインを指示薬として20 mL 加え 01 M 水酸化ナト

リウム標準溶液で滴定する⁴⁾

334 溶解度の測定

1)100 mL の水に 5 g の β-シクロデキストリンを溶解させる

2)沈殿をろ過し乾燥して重量を測定する

3)エステル化 β-シクロデキストリンで同様の作業を行う

参考文献

1) 竹本喜一包接化合物の化学東京化学同人1969p2

2) 辻堅司シクロデキストリンの応用技術株式会社シーエムシー出版2008p3-p9

3) 大木道則大沼利昭田中元治千原秀明化学大辞典東京化学同人1989

4) 発田寿々子教養の化学実験第 2 版学術図書出版社2014p119

5) 南篠正男先生と生徒のための化学実験共立出版株式会社1986p155

6) 「 chemical book 」〈 wwwchemicalbookcomchemicalProductPropert_JP_CB 〉

(2015418 アクセス)

1

東京理科大学Ⅰ部化学研究部 2015年度春輪講書

ダブルネットワークの合成と評価 木曜班

OnizukaM(2C)TanakaR(2C)YamamokaH(2K) OhiraM(2K)

1背景

現在高分子ゲルは紙おむつの高吸水性樹脂やソフトコンタクトレンズなど私たちの生

活において活躍しているしかし高分子ゲルは不均一な構造なため一般的に機械的強

度が弱いという欠点がある高分子ゲルの強度面での弱点を克服するために従来では

ゲルの構造を均一化して強度を上げるというアプローチがとられてきた

しかしながら材料の弾性とじん性は反相する因子として働くつまり大変形に耐え

られるゲルは弾性率を犠牲とし高弾性のゲルは小さい変形で破壊される

そこで私達木曜班は前述の問題の解決策と成り得るものとしてダブルネットワーク

ゲル(DNゲル)について注目した

2目的

既存に作られている DNゲルは溶媒に水を用いたハイドロゲルであるDNゲルはその

強度や柔軟性により生体内での人工関節に使用することが期待され研究がおこなわれて

いる木曜班では DNゲルを生体内の関節だけでなく機械の関節部の摩擦軽減材料として

の使用を提案するしかし従来の DNゲルは溶媒が水であることにより水の沸点である

100以上の条件下では性能の低下が問題視され高温になりうる機械への応用が困難で

ある

溶媒を水から有機溶媒に変更することで高温条件下でのゲルの機能維持を試みるとと

もに使用するモノマーを変更しその機能性を検討する

3原理

31 DNゲル

311ゲルの脆弱性

一般的なゲルはゼリーや豆腐のように僅かな力を加えただけで簡単に壊れるほど

弱いこの理由は 2つの現象により説明することができる

1)ゲルの内部に多数の欠陥が存在する

2)欠陥から発生した初期亀裂が容易に伝播する

前者はゲル内部の構造が不均一であることに由来するゲル合成時におけるモノマ

ーと架橋剤の反応性の違いにより不均一な重合がおこるあるいはゲル化溶液内の濃度

揺らぎが重合によって固定されることだと考えられている 1)こうしたゲルに力を加えた

2

時にゲルの弱い部分に力が集中してしまうため小さな力でも初期亀裂が生じてしまう

後者はゲル内部のポリマーの密度の低さから生じる一般的に物質内における亀裂

の進みやすさは破壊エネルギーU(Jm2)(単位面積あたりの破断面形成に費やされる仕事)

によって評価される架橋高分子材料の臨界破壊エネルギーUc(亀裂成長が起こる最小

の破壊エネルギー)は破断面の高分子鎖の数密度と架橋点間分子量に比例する 2)つま

りゲルのじん性(物質の破壊に対する抵抗の程度で粘り強さとも言い換えられる 3))はゲ

ル内のポリマーの密度には比例し架橋密度には反比例することがわかる

ゲルは 50~99wtの溶媒を含んでいて高分子の密度が非常に低い物質であるためゲ

ルの Ucはゴムなどの固体に比べてかなり小さいことが考えられる

これまでの高強度ゲル研究は主に前者の問題を解決するすなわち構造を均一化するこ

とでゲル内部の欠陥を極力減らして強度を改善しようという観点から行われてきた

312 ゲルの弾性率

高分子鎖が三次元架橋されたゲルはゴムと同じようにエントロピー弾性を持つ溶液

中に完全に湿潤した電気的に中性ゲルのせん断弾性率(横方向に対するバネ係数 4)であり

Young率 Eと E=3Gの関係式が成立する)は

GneucongkBT

b3Q-225

以上の式で表せられゲルの湿潤度 Qの増加にともないせん断弾性率Gneuは大きく低下

するここでkBはボルツマン定数Tは温度bは重合させたモノマーの大きさである 5)

一方溶液中に完全に湿潤した電解質ゲルのせん断弾性率は

GchacongkBT

b3Q-1

によって表せる 6)よって同じ湿潤度において電解質ゲルは中性ゲルよりせん断弾性率が

高いことが分かる

またゲルの湿潤度は架橋点重合 N(分子量)による溶液中に完全に湿潤した中性ゲル

の場合QasympN35であり電解質ゲル場合QasympN

32であるしたがって架橋密度を上げる

ことによりゲルの湿潤度が小さくなりせん断弾性率が上がる 3)4)

313 ゲルの破断歪と破断応力

架橋構造が均一と仮定した理想的なゲルの破断歪(ゲルが破壊するまでの変形 7))は架

(1)

(2)

3

橋点間高分子の伸びきった長さと高分子鎖に歪がない曲がった自然な状態での大きさ

の比として求められる溶媒中で完全に湿潤した中性ゲルの引っ張り破断歪はλBcongQ12で

ありQの増加により増加する一方湿潤することにより単位面積あたりの高分子

の本数が減るため破断応力は湿潤度 Qが大きくなることにより減少する故にQが大

きいゲルは伸びやすいが弱い応力で壊れる

電解質ゲルの場合高分子鎖はその解離しているイオンの浸透圧によって水中では

ほとんど伸びきった状態となっているその結果理想状態においても破断歪はλBcongQ19

になるこれは破断歪が小さくかつ湿潤度にあまり依存しないことを意味している 5)

以上のことより

1)架橋密度を上げる(架橋点間分子量を下げる)ことでゲルが固くて脆くなる

2)水中に完全に湿潤した高分子電解質ゲルは中性のゲルより硬くて脆い高弾性と変形は

相反するということが考えられる

314 DNゲルの高強度機構

DNゲルは強電解質をモノマーとする 1st networkゲル電気的に中性なモノマーを用

いる 2nd networkゲルを組み合わせることにより生成される前述した通りゲルにおける

弾性と靭性は常に相反する働きをするそれゆえに単一な物質で両方の性質を得るこ

とは原理的には不可能である同じ湿潤度において電解質ゲルと中性ゲルのせん断弾性

率の比はGchaGneucongQ125であるために両者の違いは湿潤度 Qが高いほど大きくなる

この性質を利用することにより電解質ゲルは硬い成分中性ゲルは軟らかい成分とし

て用いることができる

亀裂を含む DNゲルがある引張荷重を受けると応力集中の効果で最初に亀裂先端近傍

の電解質網目(1st network)が破壊され局所的にゲルが降伏する荷重がますと電解質網

目の破壊が次々に伝播し広範囲にわたるダメージゾーンが形成されていくこの過程

で非常にいい気なエネルギーが分散されるダメージゾーンがある大きさまで広がった

ときようやく亀裂先端に中性網目(2nd network)が十分に伸びて切断し亀裂が進行す

る 8)

4

Fig 1 DNゲルの破壊モデル 9)

32 光ラジカル重合

321 光分解

光重合開始剤に UVを当てることにより開裂がおきラジカルが発生する本研究にお

いては 1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンを用いる 10)

Scheme1 1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンの開裂 10)

ℎ120592

5

322 開始反応

UVを当て光開裂により生じたラジカルがビニル基の二重結合を攻撃し光重合開始剤

と炭素の間に σ結合を作り炭素原子にラジカルが存在することになる

Scheme2 ラジカルの生成

323 成長反応

Scheme2で生成したラジカルが他のモノマーを攻撃しσ結合を生じるそれが何回

も起こることにより分子鎖が成長する 6)

Scheme3 分子鎖の成長

324 停止反応

Scheme 3で成長した成長ラジカル同士が σ結合を作り分子鎖が生成する 7)

Scheme4 分子鎖の生成

4実験

41 DNゲルの合成

411 使用器具試薬

ビーカー乳鉢乳棒薬さじUVライトデシケーター

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸

分子式 C7H13NO4S

式量20724

融点160

用途1st networkゲルのモノマー

6

アクリル酸

分子式C3H4O2

式量7206

融点123

沸点1416

比重10511

危険性引火性(発火温度 360 )

用途1st networkゲルのモノマー

アクリロニトリルの加水分解アクロレインの酸化ニッケルカルボニルの存在下ア

セチレンと一酸化炭素と水との反応などにより合成される酢酸に似た刺激臭を持つ液

体水エタノールエーテルによく溶ける酸素の存在下容易に重合するプラス

チックの原料として用いられる

アクリルアミド

分子式C3H5NO

式量7108

融点845

沸点103

比重1122

用途2nd networkゲルのモノマー

アクリルニトリルを硫酸あるいは塩酸を処理して得られるフレーク状の結晶溶解

性(g100 ml溶媒30 )水 2155メタノール 155エタノール 862アセトン 631

酢酸エチル 126クロロホルム 266ベンゼン 0346ヘプタン 00068化学的に不安

定で冷暗所に保存する必要がある融点付近あるいは紫外線下で重合する重合の仕方

により水溶性不溶性のものが得られる

酢酸ビニル

分子式C4H6O2

式量8609

融点-932

沸点723

比重09317

用途2nd networkゲルのモノマー

無色の液体酸やアルカリよって容易に加水分解されてアセトアルデヒドと酢酸を生

じる熱光ラジカル開始剤によって重合する

7

メタクリル酸メチル

分子式C5H8O2

式量10012

融点-48

沸点1003

比重0936

用途2nd networkゲルのモノマー

無色透明で催涙性の芳香のある液体工業的にはアセトンシアノヒドリンにメタノー

ルと硫酸を作用させて合成する実験室的にはメテクリル酸メチルの重合物を 320

以上で乾留すると得られる一般に有機溶媒には溶けるがエチレングリコールグリセ

リンには溶けにくい重合しやすいので重合禁止剤としてヒドロキノンモノメチルエ

ーテル(65 ppm)を添加して保存する有機ガラスの製造ビニル系共重合体など広く

重合反応に用いられるまたメチル以外のアルコールのメタクリル酸エステルの合成

にも用いられる

NN-メチレンビスアクリルアミド

分子式C7H10N2O2

式量15417

融点300

用途架橋剤

1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン

分子式C13H16O2

式量20427

融点47-50

用途光重合開始剤

最大吸収波長は 260 nm付近にある

エチレングリコール

式量6207

融点 -126

沸点1976

比重11132

8

用途ゲル溶媒

重要な二価アルコールでエチレンオキシドの酸触媒による開環高温高圧下水と

の反応による開環などによって合成される吸湿性無色無臭の液体甘味を有する

が有毒である高沸点を有ししかも水酸化カリウム水酸化ナトリウムを溶解し水や

エタノールと任意の割合で混合するので有機合成における溶媒として広く用いられ

また塩基に対して安定なエチレンケタールの生成によるカルボニル基の保護に用いら

れるさらに酢酸ビニル系樹脂の溶剤や水と混ざり高沸点のため不凍液に用いら

れるなど広い用途を持っている

412 1st networkゲルの作成

1) 1st networkゲルのモノマー(電解質モノマー)架橋剤(NN-メチレンビスアクリルア

ミド)と光重合開始剤(1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)を水に溶解させた水

溶液を調製する

2) UVを 8時間照射して光ラジカル重合をさせる

3) 2)で合成した電解質ゲルを乳鉢に入れ適当なサイズに砕いた後デシケーター内で一

週間ほど乾燥させる

413水溶媒 DNゲルの作成

1) 2nd networkゲルのモノマー(中性モノマー)架橋剤(NN-メチレンビスアクリルアミ

ド)光重合開始剤(1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)をエチレングリコールに

溶解させた溶液を調製する

2) 乾燥した電解質ゲルを 1)で調製した水溶液に入れ電解質ゲルを十分に膨らませるそ

の後UVを照射し中性モノマーを光ラジカル重合させる

414エチレングリコール DNゲルの作成

1) 2nd networkゲルのモノマー(中性モノマー)架橋剤(NN-メチレンビスアクリルアミ

ド)光重合開始剤(1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)をエチレングリコールに

溶解させた溶液を調製する

2) 乾燥した電解質ゲルを 1)で調製したエチレングリコール溶液に入れ電解質ゲルを十分

に膨らませるその後UVを照射し中性モノマーを光ラジカル重合させる

42 DNゲルの評価

421引っ張り試験

使用するモノマーの変化によるゲルの性質の差を評価する引っ張り試験は

JIS-K-6251-7号に準拠する方法で測定する

9

1)DNゲルを X方向の長さ 50 mmY方向の長さ 75 mmZ方向の長さが 25 mmの大

きさに成形する

2)その一端部に X-Y平面に平行な切込みを入れて2つの引張端部を形成する

3) 引張端部を片方は固定しもう片方を一定の速度で引っ張るこのときの引っ張る力 F

を測定する

Fig 2 引っ張り試験 13)

422 摩擦試験

使用するモノマーの変化溶媒の変化によるゲルの性質の差を評価する

摩擦試験は東京理科大学工学部第一部機械工学科佐々木研究室に依頼する予定である

用いる機械は SVR4パーカー熱処理工業株式会社製であり180での高温での摩擦係

数の測定が可能である

摩擦測定は常温(20 )と高温(100 )で測定することを予定している

10

5 展望

51 DNゲルの合成

実験操作は溶液を調製した後UV照射するという簡易な手順なので合成は比較的早い

段階で成功すると考えられる

1st networkゲル合成に使うのは電解質モノマーなため水溶液のモノマーの濃度が低

いと湿潤度 Q が大きくなりせん断弾性率が下がり剛性が弱いゲルが出来上がると考え

られる

架橋剤を多く使用すると架橋密度を上がるので 2nd networkゲルが入り込む空洞が小

さくなるそのために架橋剤が多すぎると高弾性のゲルが生成できると考えられる

また同様な考えで2nd networkモノマーが含まれている水溶液に乾燥させた1st network

ゲルを入れる量が多くても高弾性のゲルが生成できると考えられる

52 DNゲルの物性

ゲルの高分子網目は基板から離れようとするときにゲルと基板の間に僅かな溶媒層

が生じるこの状態では溶媒層が潤滑油のような働きをして生じる摩擦力は小さなも

のとなるゲル周辺が高温な状態ではこの溶媒層が水の場合は蒸発してしまうので摩

擦力は増大すると考えられる溶媒を水からより沸点の高いエチレングリコールなどに

変えれば摩擦力は増大することはないと推測される 14)

11

参考文献

1) J Bastide and L LeiblerMacromolecules1988212647

2) G G J Lake and A G ThomasProc R Soc LondonA1967300108

3)越後亮三 機械工学辞典 朝倉書店 2007 p631

4) 伊藤勝悦 やさしく学べる材料力学 森北出版 2014 p14

5)SPObukhovMRubinstein and RHColby Macromolecules 1994273191-3198

6)MRubinsteinRHColbyAVDobrynin and JJaonnyElasticMacromolecules199629398-406

7) 大 阪 府 立 大 学 基 礎 講 座 材 料 の 強 度 と 破 壊

httpwwwengmmtrosakafu-uacjpresearchstrength-japdf2015413取得

8)聾剣萍「生命科学時代の新材料-高弾性高靱性ダブルネットワークゲル」高分子学会

『高分子』高分子科学最近の進歩58巻 5号2009p327-p331

9)YTanakaEurophysLett20077856005

10)蓮池幹治ラジカル重合ハンドブックエヌティーエス2010p444-p445

11)大津隆行ラジカル重合(Ⅰ)化学同人1971p80-p81

12)大津隆行ラジカル重合(Ⅰ)化学同人1971p153-p154

13)聾剣萍高分子ゲルおよびその製造方法特開 2009-185156 2008-02-05

14) 角五 彰龔 剣萍長田義仁「ゲルの摩擦と水和潤滑~生物の滑らかな運動解明への

アプローチ」日本生物物理学会『生物物理』47巻 4号2007p 253-p258

1

東京理科大学Ⅰ部化学研究部 2015年度春輪講書

耐塩性の高い新規化粧品用増粘剤の開発 2015年度金曜班

Nomata N(2OK)Seki M(2OK)Tin J(2OK)Takahashi R(2C)Watanabe A(2K)

Asai D(2K) Nishimiti D(2K)Yamamoto R(2K)

1 動機

化粧品において増粘剤の果たす役割は非常に大きい

化粧品にはクリーム状のモノが多くありその整形には増粘剤が必要不可欠である

また増粘剤は製剤だけでなく密閉効果や水和効果によって薬剤を皮膚に効率的に輸

送することに役立っている

この増粘剤であるが一つ課題がありアスコルビン酸塩(ビタミン C)のようなクロロ

基を持つ塩系薬剤をゲル中に含む場合経時によってべたつきといった使用感の悪化

につながるといった弱点があるこの問題の解決のために塩系薬剤への耐性の高い増

粘剤の開発が望まれている

塩系薬剤の高い美容効果からこの問題の解決に対する化粧剤企業のニーズは高くこ

の問題は長く研究が続けられていたが近年資生堂が逆相マイクロエマルション重

合法によって microスケールの粒状高分子を多数合成することによりできる増粘剤が高い

耐塩性を持ち使用感もよいことを発見したがこの粒状高分子増粘剤には未だ試み

られていないモノマーが多くある

そこで今年度の金曜班ではこの逆相マイクロエマルション重合法において未だ

試みられていない親水基を持つモノマーを利用して新規の増粘剤をつくることで粒

状高分子による増粘剤の耐塩性と肌触りと親水基の関係を調べ応用化に利すること

ができるのではないかと考え実験を行うこととした

2 背景

増粘剤とは水溶液をゲル化するために添加される物質であり化粧品において広く

用いられているこの増粘効果は従来では高分子鎖同士の分子間力や架橋で生じる

網目構造の結果生じる液中の摩擦力によるものである

動機で述べたように μスケールの粒状高分子が増粘剤として良質であることがわか

っているただし粒状高分子の形状は反応場であるセッケンミセルの大きさだけで

なく親水基やポリマーを構成する原子同士の分子間力によって変わる高分子の立体構

2

造にも影響されている

また粒状高分子の正確な一次構造を把握することは大変難しいことであるので

応用化のためには高分子の一次構造でなくモノマーによって粒状高分子特性の変化

を調べることが重要である

さらに従来用いられているポリマーがスルホ基とカルボキシル基を親水基とする

ものしか存在しない

以上の三点から酸以外の親水基をもつモノマーで増粘剤を合成したときその性

質はどうなるかを調べることでより製品として利用価値が高い粒状高分子増粘剤を合

成することができるのではないかと考えた

そこで新規モノマーとしては対照実験を行うためにアクリルアミド系モノマー

でかつ 2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸のスルホ基と同じ炭素骨格の先

端に親水基が存在するものとしてN-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド (3-アク

リルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライドを用いてそれぞれ親水基が酸

ではなくヒドロキシ基である場合親水基がアニオンではなくカチオンである場合に

ついて研究を行うこととした

この二種の以外にも水溶性のアクリルアミドポリマーは存在するが上記の条件を満

たさないまたは高価であるため本実験では用いないこととした

Fig1 N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド

Fig2 (3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライド

3

3 原理

31 一般的な液体の粘性

溶液の粘性は一般論では以下のように表される

Fig3のように XY平面を取り液面に平板を用意し引っ張った時挟まれた溶液内

には図のようなせん断流動が発生する高さ Yでのせん断速度は(119881

119889) 119910で与えられる

この時平板に挟まれた溶液を薄層の集まりと考えると隣り合う薄層間に摩擦が生

じるこの内部摩擦力が粘性力であるずり速度勾配が十分に小さければ平板の単位

面積当たりに生じる粘性力 Fv0はその勾配 Vd に比例するすなわち以下の式で表

され1205780を粘性係数と呼ぶこの値は溶媒固有である1)

1198651199070 = 1205780 (119881

119889)

Fig3 溶液ずりせん断図

32 増粘剤の粘性

増粘剤の多くは低分子の液体に高分子を溶かすと著しく粘性が高くなる性質を利

用している

この粘性の発生するメカニズムは下の Fig4において平板間の溶液を薄層に分けた

際高分子鎖は溶液の移動に伴って回転するこのとき溶液中の薄層は薄層間の摩

擦以外に高分子鎖との間にも摩擦が生じているこの摩擦の増加が粘性力の増加とな

る 2)

4

Fig4 高分子による粘性増加

また高分子鎖同士が分子間力によって結びつき三次元構造を形成することで内

部摩擦力は一層大きくなるこのため高分子による増粘効果は顕著である

架橋高分子では三次元構造が高分子鎖同士の分子間力による形成よりも強いものと

なるので増粘効果及びレオロジー特性に優れる 3)

33 塩系薬剤による粘性劣化のメカニズム

塩系薬剤とはビタミンC (アスコルビン酸塩)のようにクロロ基をもつ薬効物質のこ

とである

このクロロ基が直鎖高分子や架橋高分子がポリマー間で形成する三次元網目構造

を破壊することによって増粘効果を消失させ内容物の流失によるべたつきを生じさ

せる 3)

34 粒状高分子の粘性

粒状高分子の粘性について粒状高分子はその粒経が小さいほど体積に対する表面

積が増え溶液内での内部摩擦力が大きくなる

また粒子同士が摩擦力を元に網目構造を形成するため網目構造の構成要因が直

鎖高分子や架橋高分子の高分子増粘剤と異なっている 4)

35 逆相マイクロエマルション重合法

後述する転相温度乳化法を用いて形成した5 μm~30 μm 形成したマイクロエマル

ション内において水溶性のモノマーを利用して行う乳化重合法の一種容易に極小の

5

ポリマーを合成することができる 5)

36 界面活性剤の概略

界面活性剤とは分子の構造が水になじみやすい部分(親水基)と油になじみやすい

部分(新油基)からできていて2つの物質の間の界面に集まりやすい性質を持ちそ

の界面の性質を著しく変える物質というのが界面活性剤の定義である

代表的な界面活性剤の特徴は界面における「吸着」と「ミセル形成」である 6)

もうひとつの代表的な作用として「可溶化」もある

37 エマルションの形成

界面活性剤に有機溶媒が取り囲まれて水に可溶化されたとき水溶液中に存在する

有機溶媒を界面活性剤が取り囲んだ液滴のことを OW エマルションと呼ぶ

有機溶媒中に水が可溶化される場合WOエマルションと呼ぶ

38 ノニオン界面活性剤

非イオン界面活性剤とも言う界面活性剤の内解離基を持たず電気的に中性な

界面活性剤で親水基は主にポリオキシエチレン基であるその特殊な性質上他の種類

の界面活性剤に無い性質として曇点と転相温度を持つ 今回使用するノニオン界面

活性剤はポリオキシエチレンオレイルエーテルであり基本式は以下のような形にな

る 7)

R-O(CH2CH2O)n-H

Scheme 1 ポリオキシエチレンオレイルエーテルの基本式

39 曇点

曇点とは透明な液体が相分離を起こして白濁する温度のこと

本実験においてはノニオン界面活性剤が加温によって界面活性効果を失い相分離

によって白濁する温度のこと 8)

310 転相温度乳化

ノニオン界面活性剤は加温によって界面張力が変化しWO型エマルションから

OW 型に変化するこの変化点のことを転相温度と言い転相温度において界

6

面張力が最低になっているので溶液エマルションが極小になる

またこの転相温度は界面活性剤に固有の値となるので二種の比較的性質の

近い界面活性剤を混合することで転相温度を操作し適切な温度で5 μm~30 μm

程度の直径を持つエマルションを作成する方法を転相温度乳化法と呼ぶ 10)

311 ラジカル重合

開始剤を用いてラジカル種を生成して行う重合法のことをラジカル重合法と言う

開始剤の分解要因によって熱光放射線ラジカル重合の三つに分けられる 10)

3111 ラジカル重合を構成する四反応

ラジカル重合は 4種類の反応が同時並行的に起こるそれぞれ以下の通りである 11)

開始反応

開始剤が熱光放射光などの要因によってラジカル開裂を起こしラジカル種を

生じさせる反応

成長反応

ラジカル種がモノマーと反応することでモノマー新たなラジカル種が生成する

反応これが連続することでポリマーが合成される

停止反応

連鎖していた成長反応が止まる反応主にラジカル種同士の反応による

連鎖移動反応

ラジカル種がモノマー以外の分子主に溶媒分子等と反応することでポリマー以

外の物質を合成する副反応

3112 乳化重合

乳化重合はモノマー液滴と呼ばれるモノマーを大量に保存しているエマルシ

ョンと反応場となる極小のセッケンミセルの二つの構造を持つ溶液中で行う不均

一系ラジカル重合の一種である 12)

成長反応が一段階進むたびにモノマー液滴から拡散の理論式に従ってモノマ

ーがミセル内に移動するこの一連の反応を繰り返して反応が進む 13)

そのため種々のラジカル重合法と比較して以下の特長がある 13)

セッケンミセル内に存在するラジカルが常に一つであるため停止反応が

7

起こりにくく比較的重合度の高いポリマーが生成しやすい

反応速度が拡散作用によって律速されかつセッケンミセルの周囲を大量

の溶媒分子が囲んでいるため除熱が容易であるという理由から熱暴走を起

こしにくいという利点がある

ミセル内で重合するため合成した高分子が絡まりやすく粒状の分子が作

成できる

Fig5 乳化重合模式図

312 MS(質量分析法)

質量分析法とは分子の質量すなわち分子量を測る手段でもあるまた分子を分解

したフラグメントの質量を測ることによって分子構造に関する情報を得るものでも

ある

高エネルギー電子が有機分子にぶつかると分子から電子がはじき出せれカチオ

ンラジカルが発生する

119825119815 rarr 119825119815++119838minus Scheme 2カチオンラジカルの発生

電子の衝突により大量のエネルギーが分子に与えられることで大部分のカチオン

ラジカルを生成した後フラグメントに分解するフラグメントは小さな破片となっ

て浮遊し正電荷や中性となる

このカチオンラジカルとフラグメントについてmz値を横軸相対強度を縦軸につ

いて取ったグラフから質量スペクトルを読み取る 14)

またMS(質量分析法)はイオン化の方法などによりいくつかに分けられ今回使用

したいのは高分子試料でもほとんどフラグメンテーションを起こさないソフトなイ

8

オン化法であるMALDI法 15)である

3121 MALDI法(マトリックス支援レーザー脱離イオン化法)

試料を 25-ヒドロキシ安息香酸のような適切なマトリックス上に吸着させて

ペレットを作成しレーザー光を短時間照射してイオン化する

エネルギーがマトリックスから試料に移動し[119872 + 119867119899 ]119899+に分解される 15)

MALDI法にはよく TOF型の MSが用いられている

4 実験

41 2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を用いた既存化粧品用増粘剤の合成

411 使用器具試薬

温度計ウォーターバスビーカー薬さじデシケーター

ジメチルアクリルアミド

式量9913

沸点81

発火点71

LD50(経口)316mgkg

LD50(経皮)580mgkg

製造和光純薬工業株式会社

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸

式量20725

融点200

LD50(経口)5400mgkg

製造和光純薬工業株式会社

NN-メチレンビスアクリルアミド

式量156

沸点4451

発火点215

LD50(経口)390mgkg

製造東京化成工業株式会社

9

へプタン

式量1002

沸点98

引火点-4

水に不溶

製造昭和化学

2-プロパノール

式量60

沸点82

発火点12

LD50(経口)区分外(GHS分類)

LD50(経皮)区分外(GHS分類)

製造昭和化学

ペルオキソ二硫酸アンモニウム

式量22820

冷水に易溶保存湿気厳禁

重合開始罪乳化重合レドックス重合に用いられる

製造和光純薬工業株式会社

412 実験手順

① ビーカーにイオン交換水ヘプタンポリオキシエチレンオレイルエーテル(2)

(8)をそれぞれ507 mL 507 mL489 g((2)(8)=23)加えて良く撹拌したも

のを入れる

② その後その後温度調節機能つきスターラーに乗せ白濁するまで加熱する

白濁した液が透明化するまで温度を落とし電気伝導率計を用いて溶液が転

相温度付近に保たれていることを確認する

③ 以上の操作が済んだ重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先

ほどのスターラーと同じ温度にしたウォーターバスに移し2-アクリルアミド

-2-メチルプロパンスルホン酸NNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 137 g

262 g入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始

剤としてメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

10

④ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

42 N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミドを用いた新規化粧品用増粘剤の合成

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を誘導体と入れ替える以外の

操作は 41に準ずる

親水基による増粘性の変化を観察するため架橋剤のモノマーに対する濃度比

は 2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を使用したポリマーが最も増

粘効果の高くなると報告された濃度比を用いる

421 使用器具試薬

使用器具は 41に準ずる

試薬

N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド

式量11513

沸点130

発火点189

製造東京化成工業株式会社

422 実験手順

① 412 ①②と同じように重合系を作成する

② 以上の操作が済んだ重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先

ほどのスターラーと同じ温度にしたウォーターバスに移しN-(2-ヒドロキシエ

チル)アクリルアミドNNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 076 g262

g 入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始剤と

してメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

③ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

11

43 (3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライドを用いた新規化粧品用

増粘剤の合成

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を誘導体と入れ替える以外の操作は

41に準ずる

親水基による増粘性の変化を観察するため架橋剤のモノマーに対する濃度比は 2-ア

クリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を使用したポリマーが最も増粘効果の高く

なると報告された濃度比を用いる

431 実験器具

実験器具は 41に準ずる

試薬

(3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライド

式量22074

沸点100

製造東京化成工業株式会社

432 実験手順

① 412 ①②と同じように重合系を作成する

② 重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先ほどのスターラーと

同じ温度にしたウォーターバスに移し (3-アクリルアミドプロピル)トリメチ

ルアミニウムクロライドNNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 123 mL

262 g入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始

剤としてメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

③ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

5 評価分析

耐塩性の高い増粘剤の耐塩性と使用感と親水基との関係を評価するために以下の二

つの測定を行い評価する

増粘剤の耐塩性の評価のために塩酸を増粘剤内部に取り込ませた状態で経時

12

による粘度の変化を観察する

また高分子の粘性を考える上で直鎖高分子の場合よく参考にされるのが平

均分子量でありこの値を測定することで親水基が変化した場合に平均分子

量が粒状高分子の粘性にも大きく影響するか確認する

精密に上の測定を行うには専用の機器が必要になるため機器メーカーの株式

会社エーアンドデイ様または東京理科大学理学部応用化学科駒場研究室に

また高分子の性質を考える上で重要視される平均分子量及び分子量分布に

ついては東京理科大学化学系機器センターにあるMALDI-TOF型質量分析計を管

理者の東京理科大学理学部応用化学科の根岸先生に測定に協力していただこうと

考えている

6 謝辞

東京理科大学工学部工業化学科 近藤行成教授

東京理科大学理学部化学科 遠藤恆平准教授

東京理科大学理学部応用化学科 駒場慎一教授

この研究を進めるに当たり大変お世話になった先輩先生方企業の皆さんに感謝の

意を表明します

参考文献

1) 小澤美奈子 基礎高分子科学 高分子学会 編 2010年 第六版 p979899

2) 小澤美奈子 基礎高分子科学 高分子学会 編 2010年 第六版 p99100

3) 金田 勇 逆相マイクロエマルション重合法による水膨潤性ミクロゲルの重合とその増

粘剤としての応用 2010年 p1

4) 小林敏勝 福井寛 きちん知りたい粒子表面と分散技術 日刊工業新聞社 p76

5) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 2006 p839 840 841

6) 皆川基 藤井富美子 洗剤洗浄 百科事典 大矢勝 2007年版 p4647

7) 日本産業洗浄協議会編 わかりやすい界面活性剤 工業調査会 2003 p373839

8) 資生堂 HP httpswwwshiseidogroupjprddevelopmentformulationhtmlより 2015

44取得

9) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 テクノシステム 2006 p321

10) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 テクノシステム 2006 p397

13

398399

11) 遠藤 剛 高分子の合成(上)~ラジカルカチオンアニオン重合~ 講談社 2010 3p

12) 佐藤壽彌編 高分子微粒子の技術と応用 シーエムシー出版 2004 p2526

13) 佐藤壽彌編 高分子微粒子の技術と応用 シーエムシー出版 2004 p27

14) マクマリー 上 8版 東京化学同人 p403404

15) John McMurry マクマリー有機化学(上) 第 8版 2013 p410411

Page 21: ゼオライトとキトサンを用いた 金属イオン除去剤の …kaken/studies/2015/2015-s-all.pdf1 東京理科大学I 部化学研究部 2015 年度春輪講書 ゼオライトとキトサンを用いた

10

酸に可溶空気中の湿気を吸収して水酸化カルシウムとなりまた空気中の二酸化炭素を

吸収して炭酸カルシウムとなる水と反応して水酸化カルシウムとなるしっくいモル

タルなどの建築材料石膏さらし粉消石灰の原料医療用に用いられる医療用に用

いられる酸性土壌改良にも用いられる

炭酸カルシウム e)(CaCO3)

式量 10009

融点 1339

二酸化炭素を含む水には炭酸水素カルシウムとして溶解する酸には二酸化炭素を発生し

て容易に溶ける加熱すると二酸化炭素と酸化カルシウムに解離する

二酸化ケイ素 f)(SiO2)

式量 6009

低温ではフッ素フッ素酸水素酸だけが反応する高温では他のハロゲン元素とも反応す

る水酸化アルカリ炭酸アルカリと融解すると水溶性のアルカリケイ素酸塩となる

43実験操作

431被接着面の均一化

1)10times30times30 mmのアルミ角材の表面をサンドペーパーで汚れがなくなるまで削る

2)削った表面をアセトンで洗浄する

3)洗浄が終わったアルミ角材の重量を測り記録する

432ケイ酸ナトリウムのみの接着剤の作製

1)100 mL ビーカーにケイ酸ナトリウム 50 g を加え粘り気が残るぐらいまでイオン交換

水を加えガラス棒で撹拌する

2)アルミ角材の 10times30 mm の面にはけを用いてケイ酸ナトリウム溶液を均一になるよう

に塗りアルミ角材を重ね合わせる

3)150にセットした電気炉に接着面がずれないように慎重に置き 1時間焼成する

433添加物を加えた接着剤の作製

1)100 mLビーカーにケイ酸ナトリウム 50 g添加物(酸化マグネシウウム酸化亜鉛

酸化カルシウム炭酸カルシウム二酸化ケイ素)を 010 gから 010 gずつ 20 gまで加

え粘り気が残るぐらいまでイオン交換水を加えガラス棒で撹拌する

2)アルミ角材の 10times30 mm の面にはけを用いてケイ酸ナトリウム溶液を均一になるよう

に塗りアルミ角材を重ね合わせる

3)150 にセットした電気炉に接着面がずれないように慎重に置き 1時間焼成する

11

5評価方法

51接着強度の評価

1)432433で接着したアルミ板にひもとペットボトルを用いて Fig5-1のように設置す

アルミ角材

Fig5-1 接着面の破壊

2)ペットボトルに少しずつ水を加え接着面が完全に離れた時点を破壊終了点とする

3)破壊終了点でのペットボトルに入っている水の重量を計測する

52耐水性の評価

1)接着したアルミ角材に水をかけ接着面の変化を観察する

6予想

添加物を加えることで接着強度の増加が期待されるしかし大量に添加物を加えてし

まうとケイ酸の割合が小さくなり接着強度は減少してしまうと考えられ添加物の量と接

着強度の関係性をグラフ化するとある値までは増加しその値を超えると減少していくグ

ラフが得られると考えるそこから最も接着強度が高まる添加物の量を測定する

また添加物が硬化剤の役割をし耐水性の改善も予想される

参考文献

1)日本接着学会『接着剤データブック第 2版』日刊工業新聞社1990P228~229

2) 三刀基郷『トコトンやさしい接着の本』日刊工業新聞社2003P56~67

3) セメダイン(株)『よくわかる接着技術』日本実業出版社2008P34~37

PET

Crash

12

4) ユージン Gロコー『ケイ素とシリコーン』シュプリンガーフェアラーク東京株式

会社1990 P85~113

5) 大木道則大沢利昭田中元治千原秀昭『化学大辞典』東京化学同人1989

b)P884 c)P865 d)P867 e)P1368 f)P1669

6)下井 守村田 磁『大学生のための基礎シリーズ 3 化学入門』東京化学同人2005

P229

7) 吉村壽次『化学辞典第 2版』森北出版2009a)P425

8)大勝 靖一『高分子添加剤の基礎化学と材料設計』株式会社 CMC出版2008P219~235

9)httpwwwfacekyowacojpsciencetheorywhat_contact_angleimg01jpg

2015416取得

1

東京理科大学Ⅰ部化学研究部 2015 年度春輪講書

シクロデキストリンを用いた

包接化合物の生成

水曜班

Ikemura M(2C)Ebihara K(2C) Kataoka T(2K)

ShibasakiK(2OK)TsumedaT(2C)NakaA(2OK)Murakoshi R(2OK)

OkawaT(2C)NoguchiA(2K)SekiguchiK(2K)HashimotoY(2C)

1 動機

6~8 分子のグルコース単位からなるα―14結合の環状オリゴ糖であるシクロデキストリ

ンはその環状構造に由来する包接化合物を生成する性質を示すその特異的な包接形成能

を利用した多くの製品が存在し現在もなお基礎研究分野応用研究分野での研究が行わ

れている

そこで私たちは 7 分子のグルコースからなるβ-シクロデキストリンと 3 種類のカルボン

酸を用いて包接化合物を形成させ酸の構造の違いによる包接作用の比較検討及びシクロ

デキストリンの一部のヒドロキシ基をエステル化させ水に対する溶解性及び包接形成能が

どのように変化するか考察する

2 原理

21 包接化合物

包接化合物は Schlenk によって名づけられたもので定義によると原子または分子が

結合してできた 3 次元構造の内部に適当な大きさの空孔があってその中に他の原子また

は分子が一定の組成比で入り込んで特定の結晶構造をつくっている物質ということにな

っている前者の骨組み構造の化合物のほうをホスト分子後者の入り込んでいる分子の

ほうをゲスト分子ともよんでいるがこのゲスト分子の大きさや形状はまったくホスト

構造によって規定されるだけで両者の間には弱い相互作用があっても水素結合のよう

な力はなくてもいっこうに構わないのであるこの包接化合物でのゲスト分子とホスト

構造との間の相互作用というのも物理的な吸着系に近いもので非常に弱い van der

Waals 力から高度に配向した双極子間力まで種々のものが存在する 1)

22 シクロデキストリンの包接能

シクロデキストリンはグルコース残基がα-1α-4 結合した環状のオリゴ糖で一般的

にグルコース残基が 6 個のα-シクロデキストリン7 個のβ-シクロデキストリン8個の

γ-シクロデキストリンが知られている

2

Fig1 α-シクロデキストリンの分子構造

シクロデキストリンの構造は底の抜けたバケツやドーナッツのような構造をしており

その環状構造の外側は多くの水酸基に由来する親水性領域が存在し内側の空洞の CH 基に

由来する疎水領域と相反する極性が一つの分子に共存しているがこの空洞内に様々な有

機化合物などを取り込むという包接作用がもっとも特徴的である

三種類のシクロデキストリンはそれぞれ空洞の大きさが相違するためそれぞれ包接化

合物を形成しやすいゲスト分子が存在する内部空洞が比較的小さいα-シクロデキストリ

ンは比較的小さい分子例えばエタノールメタノール等をβ-シクロデキストリンは汎

用性が広く各種ポリフェノールコレステロールメンソール等の香気成分芳香族化

合物等をよく包接するγ-シクロデキストリンは大きい分子である脂肪酸などを包接する

ことが知られている

シクロデキストリンの包接力の原動力は疎水性相互作用と分子間力が主なものとされて

いるつまりゲストは疎水性の高い分子あるいは分子の大きさが空洞にぴったりとフィッ

トするものほどシクロデキストリンがそのゲストを包接する力は大きく包接物を作り

やすい傾向がある逆に親水性が高くシクロデキストリンの空洞にフィットしないよう

なゲスト分子では包接現象は起こりにくいといえるしかしゲスト分子全体がシクロ

デキストリンの空洞内にとりこまれる必要はなく部分的にでも疎水性が高く空洞にフィ

ットすれば包接が可能となるつまりゲスト分子全体がシクロデキストリンより明ら

かに大きいものでも包接作用による効果が観察される場合がある 2)

Fig2 シクロデキストリンがゲストを包接する様子

23 水溶化シクロデキストリン

3

ブドウ糖やショ糖など通常糖質の水への溶解度は非常に高いしかし天然型シク

ロデキストリンは隣接する水酸基との水素結合の為3 種のシクロデキストリンの中では最

も高い水溶性を有するγ-シクロデキストリンであってもその溶解度は 25において水

100 mL に 23 g であり油性物質を包接した場合は一般的にその溶解度はさらに低くな

るそこで水への溶解度を改善するためにシクロデキストリン化学修飾体が製造されて

いるシクロデキストリンの水溶性を向上させる方法として隣接する水酸基をメチル基や

アセチル基などでエーテル化やエステル化する方法がある具体的には部分メチル化β-シ

クロデキストリンやモノアセチル化β-シクロデキストリンが工業的に生産されている

24 包接能の評価について

今回の実験ではゲスト分子としてカルボン酸を用いるシクロデキストリン及び水溶化

シクロデキストリンの包接能の評価については包接化合物に含まれているカルボン酸をア

ルカリで滴定することで求めることができる

3 実験

31 試薬sup3⁾

アジピン酸

分子式C6H10O4

分子量1464

mp153

bp3375 アジピン酸

クエン酸

分子式C6H8O7

分子量19213

mp156~157

クエン酸

シュウ酸

分子式C2H2O4

分子量9004

mp1895

シュウ酸

4

βシクロデキストリン

分子式(C6H10O5)7

分子量113500

n-ブタノール

分子式C4H10O

分子量7412 β-シクロデキストリン

bp1179

エタノール

分子式C2H6O n-ブタノール

分子量4607

mp-1145

bp7833

水酸化ナトリウム

組成式NaOH

分子量4000

mp328

bp1388

無水オクタン酸

分子式C₈H₃₀O₃

分子量27041

mp-1 無水オクタン酸⁶⁾

濃硫酸

分子式H₂SO₄

分子量9808

mp104

32 使用器具

300 mL ビーカーメスフラスコピペット三角フラスコ吸引漏斗吸引瓶ビュレッ

トスタンドボウルガラス棒

5

33 実験操作

331 エステル化シクロデキストリンの合成 ⁵⁾

1)三角フラスコにβ-シクロデキストリン 1 g を入れこれに無水オクタン酸 025 mL を加

える

2)触媒として 2-3 滴の濃硫酸を添加し攪拌する

3)約 10 分間放置してフラスコを氷桶に入れて冷やしガラス棒でフラスコの壁を強くこす

り結晶を析出させる

4)水 20 mL を加えさらに氷桶で冷やしながら残る結晶を析出させる

5)この結晶を濾分し水で洗ってから取り出して乾かして結晶を得る⁵⁾

332 包接化合物の形成

1)β-シクロデキストリン 1 g を水 100 mL に溶解させる

2)ピペットで 1 mL のカルボン酸を加えコルク栓をして静置する

3)1 週間程静置し包接化合物を吸引濾過する

4)上記の操作をカルボン酸(酢酸シュウ酸クエン酸)で行う

5)エステル化シクロデキストリンで同様の実験を行う

333 包接能の測定

1)よく乾燥した包接化合物約 1 g をメスフラスコで 100 mL 溶液とする

2)この溶液 20 mL にフェノールフタレインを指示薬として20 mL 加え 01 M 水酸化ナト

リウム標準溶液で滴定する⁴⁾

334 溶解度の測定

1)100 mL の水に 5 g の β-シクロデキストリンを溶解させる

2)沈殿をろ過し乾燥して重量を測定する

3)エステル化 β-シクロデキストリンで同様の作業を行う

参考文献

1) 竹本喜一包接化合物の化学東京化学同人1969p2

2) 辻堅司シクロデキストリンの応用技術株式会社シーエムシー出版2008p3-p9

3) 大木道則大沼利昭田中元治千原秀明化学大辞典東京化学同人1989

4) 発田寿々子教養の化学実験第 2 版学術図書出版社2014p119

5) 南篠正男先生と生徒のための化学実験共立出版株式会社1986p155

6) 「 chemical book 」〈 wwwchemicalbookcomchemicalProductPropert_JP_CB 〉

(2015418 アクセス)

1

東京理科大学Ⅰ部化学研究部 2015年度春輪講書

ダブルネットワークの合成と評価 木曜班

OnizukaM(2C)TanakaR(2C)YamamokaH(2K) OhiraM(2K)

1背景

現在高分子ゲルは紙おむつの高吸水性樹脂やソフトコンタクトレンズなど私たちの生

活において活躍しているしかし高分子ゲルは不均一な構造なため一般的に機械的強

度が弱いという欠点がある高分子ゲルの強度面での弱点を克服するために従来では

ゲルの構造を均一化して強度を上げるというアプローチがとられてきた

しかしながら材料の弾性とじん性は反相する因子として働くつまり大変形に耐え

られるゲルは弾性率を犠牲とし高弾性のゲルは小さい変形で破壊される

そこで私達木曜班は前述の問題の解決策と成り得るものとしてダブルネットワーク

ゲル(DNゲル)について注目した

2目的

既存に作られている DNゲルは溶媒に水を用いたハイドロゲルであるDNゲルはその

強度や柔軟性により生体内での人工関節に使用することが期待され研究がおこなわれて

いる木曜班では DNゲルを生体内の関節だけでなく機械の関節部の摩擦軽減材料として

の使用を提案するしかし従来の DNゲルは溶媒が水であることにより水の沸点である

100以上の条件下では性能の低下が問題視され高温になりうる機械への応用が困難で

ある

溶媒を水から有機溶媒に変更することで高温条件下でのゲルの機能維持を試みるとと

もに使用するモノマーを変更しその機能性を検討する

3原理

31 DNゲル

311ゲルの脆弱性

一般的なゲルはゼリーや豆腐のように僅かな力を加えただけで簡単に壊れるほど

弱いこの理由は 2つの現象により説明することができる

1)ゲルの内部に多数の欠陥が存在する

2)欠陥から発生した初期亀裂が容易に伝播する

前者はゲル内部の構造が不均一であることに由来するゲル合成時におけるモノマ

ーと架橋剤の反応性の違いにより不均一な重合がおこるあるいはゲル化溶液内の濃度

揺らぎが重合によって固定されることだと考えられている 1)こうしたゲルに力を加えた

2

時にゲルの弱い部分に力が集中してしまうため小さな力でも初期亀裂が生じてしまう

後者はゲル内部のポリマーの密度の低さから生じる一般的に物質内における亀裂

の進みやすさは破壊エネルギーU(Jm2)(単位面積あたりの破断面形成に費やされる仕事)

によって評価される架橋高分子材料の臨界破壊エネルギーUc(亀裂成長が起こる最小

の破壊エネルギー)は破断面の高分子鎖の数密度と架橋点間分子量に比例する 2)つま

りゲルのじん性(物質の破壊に対する抵抗の程度で粘り強さとも言い換えられる 3))はゲ

ル内のポリマーの密度には比例し架橋密度には反比例することがわかる

ゲルは 50~99wtの溶媒を含んでいて高分子の密度が非常に低い物質であるためゲ

ルの Ucはゴムなどの固体に比べてかなり小さいことが考えられる

これまでの高強度ゲル研究は主に前者の問題を解決するすなわち構造を均一化するこ

とでゲル内部の欠陥を極力減らして強度を改善しようという観点から行われてきた

312 ゲルの弾性率

高分子鎖が三次元架橋されたゲルはゴムと同じようにエントロピー弾性を持つ溶液

中に完全に湿潤した電気的に中性ゲルのせん断弾性率(横方向に対するバネ係数 4)であり

Young率 Eと E=3Gの関係式が成立する)は

GneucongkBT

b3Q-225

以上の式で表せられゲルの湿潤度 Qの増加にともないせん断弾性率Gneuは大きく低下

するここでkBはボルツマン定数Tは温度bは重合させたモノマーの大きさである 5)

一方溶液中に完全に湿潤した電解質ゲルのせん断弾性率は

GchacongkBT

b3Q-1

によって表せる 6)よって同じ湿潤度において電解質ゲルは中性ゲルよりせん断弾性率が

高いことが分かる

またゲルの湿潤度は架橋点重合 N(分子量)による溶液中に完全に湿潤した中性ゲル

の場合QasympN35であり電解質ゲル場合QasympN

32であるしたがって架橋密度を上げる

ことによりゲルの湿潤度が小さくなりせん断弾性率が上がる 3)4)

313 ゲルの破断歪と破断応力

架橋構造が均一と仮定した理想的なゲルの破断歪(ゲルが破壊するまでの変形 7))は架

(1)

(2)

3

橋点間高分子の伸びきった長さと高分子鎖に歪がない曲がった自然な状態での大きさ

の比として求められる溶媒中で完全に湿潤した中性ゲルの引っ張り破断歪はλBcongQ12で

ありQの増加により増加する一方湿潤することにより単位面積あたりの高分子

の本数が減るため破断応力は湿潤度 Qが大きくなることにより減少する故にQが大

きいゲルは伸びやすいが弱い応力で壊れる

電解質ゲルの場合高分子鎖はその解離しているイオンの浸透圧によって水中では

ほとんど伸びきった状態となっているその結果理想状態においても破断歪はλBcongQ19

になるこれは破断歪が小さくかつ湿潤度にあまり依存しないことを意味している 5)

以上のことより

1)架橋密度を上げる(架橋点間分子量を下げる)ことでゲルが固くて脆くなる

2)水中に完全に湿潤した高分子電解質ゲルは中性のゲルより硬くて脆い高弾性と変形は

相反するということが考えられる

314 DNゲルの高強度機構

DNゲルは強電解質をモノマーとする 1st networkゲル電気的に中性なモノマーを用

いる 2nd networkゲルを組み合わせることにより生成される前述した通りゲルにおける

弾性と靭性は常に相反する働きをするそれゆえに単一な物質で両方の性質を得るこ

とは原理的には不可能である同じ湿潤度において電解質ゲルと中性ゲルのせん断弾性

率の比はGchaGneucongQ125であるために両者の違いは湿潤度 Qが高いほど大きくなる

この性質を利用することにより電解質ゲルは硬い成分中性ゲルは軟らかい成分とし

て用いることができる

亀裂を含む DNゲルがある引張荷重を受けると応力集中の効果で最初に亀裂先端近傍

の電解質網目(1st network)が破壊され局所的にゲルが降伏する荷重がますと電解質網

目の破壊が次々に伝播し広範囲にわたるダメージゾーンが形成されていくこの過程

で非常にいい気なエネルギーが分散されるダメージゾーンがある大きさまで広がった

ときようやく亀裂先端に中性網目(2nd network)が十分に伸びて切断し亀裂が進行す

る 8)

4

Fig 1 DNゲルの破壊モデル 9)

32 光ラジカル重合

321 光分解

光重合開始剤に UVを当てることにより開裂がおきラジカルが発生する本研究にお

いては 1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンを用いる 10)

Scheme1 1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンの開裂 10)

ℎ120592

5

322 開始反応

UVを当て光開裂により生じたラジカルがビニル基の二重結合を攻撃し光重合開始剤

と炭素の間に σ結合を作り炭素原子にラジカルが存在することになる

Scheme2 ラジカルの生成

323 成長反応

Scheme2で生成したラジカルが他のモノマーを攻撃しσ結合を生じるそれが何回

も起こることにより分子鎖が成長する 6)

Scheme3 分子鎖の成長

324 停止反応

Scheme 3で成長した成長ラジカル同士が σ結合を作り分子鎖が生成する 7)

Scheme4 分子鎖の生成

4実験

41 DNゲルの合成

411 使用器具試薬

ビーカー乳鉢乳棒薬さじUVライトデシケーター

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸

分子式 C7H13NO4S

式量20724

融点160

用途1st networkゲルのモノマー

6

アクリル酸

分子式C3H4O2

式量7206

融点123

沸点1416

比重10511

危険性引火性(発火温度 360 )

用途1st networkゲルのモノマー

アクリロニトリルの加水分解アクロレインの酸化ニッケルカルボニルの存在下ア

セチレンと一酸化炭素と水との反応などにより合成される酢酸に似た刺激臭を持つ液

体水エタノールエーテルによく溶ける酸素の存在下容易に重合するプラス

チックの原料として用いられる

アクリルアミド

分子式C3H5NO

式量7108

融点845

沸点103

比重1122

用途2nd networkゲルのモノマー

アクリルニトリルを硫酸あるいは塩酸を処理して得られるフレーク状の結晶溶解

性(g100 ml溶媒30 )水 2155メタノール 155エタノール 862アセトン 631

酢酸エチル 126クロロホルム 266ベンゼン 0346ヘプタン 00068化学的に不安

定で冷暗所に保存する必要がある融点付近あるいは紫外線下で重合する重合の仕方

により水溶性不溶性のものが得られる

酢酸ビニル

分子式C4H6O2

式量8609

融点-932

沸点723

比重09317

用途2nd networkゲルのモノマー

無色の液体酸やアルカリよって容易に加水分解されてアセトアルデヒドと酢酸を生

じる熱光ラジカル開始剤によって重合する

7

メタクリル酸メチル

分子式C5H8O2

式量10012

融点-48

沸点1003

比重0936

用途2nd networkゲルのモノマー

無色透明で催涙性の芳香のある液体工業的にはアセトンシアノヒドリンにメタノー

ルと硫酸を作用させて合成する実験室的にはメテクリル酸メチルの重合物を 320

以上で乾留すると得られる一般に有機溶媒には溶けるがエチレングリコールグリセ

リンには溶けにくい重合しやすいので重合禁止剤としてヒドロキノンモノメチルエ

ーテル(65 ppm)を添加して保存する有機ガラスの製造ビニル系共重合体など広く

重合反応に用いられるまたメチル以外のアルコールのメタクリル酸エステルの合成

にも用いられる

NN-メチレンビスアクリルアミド

分子式C7H10N2O2

式量15417

融点300

用途架橋剤

1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン

分子式C13H16O2

式量20427

融点47-50

用途光重合開始剤

最大吸収波長は 260 nm付近にある

エチレングリコール

式量6207

融点 -126

沸点1976

比重11132

8

用途ゲル溶媒

重要な二価アルコールでエチレンオキシドの酸触媒による開環高温高圧下水と

の反応による開環などによって合成される吸湿性無色無臭の液体甘味を有する

が有毒である高沸点を有ししかも水酸化カリウム水酸化ナトリウムを溶解し水や

エタノールと任意の割合で混合するので有機合成における溶媒として広く用いられ

また塩基に対して安定なエチレンケタールの生成によるカルボニル基の保護に用いら

れるさらに酢酸ビニル系樹脂の溶剤や水と混ざり高沸点のため不凍液に用いら

れるなど広い用途を持っている

412 1st networkゲルの作成

1) 1st networkゲルのモノマー(電解質モノマー)架橋剤(NN-メチレンビスアクリルア

ミド)と光重合開始剤(1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)を水に溶解させた水

溶液を調製する

2) UVを 8時間照射して光ラジカル重合をさせる

3) 2)で合成した電解質ゲルを乳鉢に入れ適当なサイズに砕いた後デシケーター内で一

週間ほど乾燥させる

413水溶媒 DNゲルの作成

1) 2nd networkゲルのモノマー(中性モノマー)架橋剤(NN-メチレンビスアクリルアミ

ド)光重合開始剤(1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)をエチレングリコールに

溶解させた溶液を調製する

2) 乾燥した電解質ゲルを 1)で調製した水溶液に入れ電解質ゲルを十分に膨らませるそ

の後UVを照射し中性モノマーを光ラジカル重合させる

414エチレングリコール DNゲルの作成

1) 2nd networkゲルのモノマー(中性モノマー)架橋剤(NN-メチレンビスアクリルアミ

ド)光重合開始剤(1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)をエチレングリコールに

溶解させた溶液を調製する

2) 乾燥した電解質ゲルを 1)で調製したエチレングリコール溶液に入れ電解質ゲルを十分

に膨らませるその後UVを照射し中性モノマーを光ラジカル重合させる

42 DNゲルの評価

421引っ張り試験

使用するモノマーの変化によるゲルの性質の差を評価する引っ張り試験は

JIS-K-6251-7号に準拠する方法で測定する

9

1)DNゲルを X方向の長さ 50 mmY方向の長さ 75 mmZ方向の長さが 25 mmの大

きさに成形する

2)その一端部に X-Y平面に平行な切込みを入れて2つの引張端部を形成する

3) 引張端部を片方は固定しもう片方を一定の速度で引っ張るこのときの引っ張る力 F

を測定する

Fig 2 引っ張り試験 13)

422 摩擦試験

使用するモノマーの変化溶媒の変化によるゲルの性質の差を評価する

摩擦試験は東京理科大学工学部第一部機械工学科佐々木研究室に依頼する予定である

用いる機械は SVR4パーカー熱処理工業株式会社製であり180での高温での摩擦係

数の測定が可能である

摩擦測定は常温(20 )と高温(100 )で測定することを予定している

10

5 展望

51 DNゲルの合成

実験操作は溶液を調製した後UV照射するという簡易な手順なので合成は比較的早い

段階で成功すると考えられる

1st networkゲル合成に使うのは電解質モノマーなため水溶液のモノマーの濃度が低

いと湿潤度 Q が大きくなりせん断弾性率が下がり剛性が弱いゲルが出来上がると考え

られる

架橋剤を多く使用すると架橋密度を上がるので 2nd networkゲルが入り込む空洞が小

さくなるそのために架橋剤が多すぎると高弾性のゲルが生成できると考えられる

また同様な考えで2nd networkモノマーが含まれている水溶液に乾燥させた1st network

ゲルを入れる量が多くても高弾性のゲルが生成できると考えられる

52 DNゲルの物性

ゲルの高分子網目は基板から離れようとするときにゲルと基板の間に僅かな溶媒層

が生じるこの状態では溶媒層が潤滑油のような働きをして生じる摩擦力は小さなも

のとなるゲル周辺が高温な状態ではこの溶媒層が水の場合は蒸発してしまうので摩

擦力は増大すると考えられる溶媒を水からより沸点の高いエチレングリコールなどに

変えれば摩擦力は増大することはないと推測される 14)

11

参考文献

1) J Bastide and L LeiblerMacromolecules1988212647

2) G G J Lake and A G ThomasProc R Soc LondonA1967300108

3)越後亮三 機械工学辞典 朝倉書店 2007 p631

4) 伊藤勝悦 やさしく学べる材料力学 森北出版 2014 p14

5)SPObukhovMRubinstein and RHColby Macromolecules 1994273191-3198

6)MRubinsteinRHColbyAVDobrynin and JJaonnyElasticMacromolecules199629398-406

7) 大 阪 府 立 大 学 基 礎 講 座 材 料 の 強 度 と 破 壊

httpwwwengmmtrosakafu-uacjpresearchstrength-japdf2015413取得

8)聾剣萍「生命科学時代の新材料-高弾性高靱性ダブルネットワークゲル」高分子学会

『高分子』高分子科学最近の進歩58巻 5号2009p327-p331

9)YTanakaEurophysLett20077856005

10)蓮池幹治ラジカル重合ハンドブックエヌティーエス2010p444-p445

11)大津隆行ラジカル重合(Ⅰ)化学同人1971p80-p81

12)大津隆行ラジカル重合(Ⅰ)化学同人1971p153-p154

13)聾剣萍高分子ゲルおよびその製造方法特開 2009-185156 2008-02-05

14) 角五 彰龔 剣萍長田義仁「ゲルの摩擦と水和潤滑~生物の滑らかな運動解明への

アプローチ」日本生物物理学会『生物物理』47巻 4号2007p 253-p258

1

東京理科大学Ⅰ部化学研究部 2015年度春輪講書

耐塩性の高い新規化粧品用増粘剤の開発 2015年度金曜班

Nomata N(2OK)Seki M(2OK)Tin J(2OK)Takahashi R(2C)Watanabe A(2K)

Asai D(2K) Nishimiti D(2K)Yamamoto R(2K)

1 動機

化粧品において増粘剤の果たす役割は非常に大きい

化粧品にはクリーム状のモノが多くありその整形には増粘剤が必要不可欠である

また増粘剤は製剤だけでなく密閉効果や水和効果によって薬剤を皮膚に効率的に輸

送することに役立っている

この増粘剤であるが一つ課題がありアスコルビン酸塩(ビタミン C)のようなクロロ

基を持つ塩系薬剤をゲル中に含む場合経時によってべたつきといった使用感の悪化

につながるといった弱点があるこの問題の解決のために塩系薬剤への耐性の高い増

粘剤の開発が望まれている

塩系薬剤の高い美容効果からこの問題の解決に対する化粧剤企業のニーズは高くこ

の問題は長く研究が続けられていたが近年資生堂が逆相マイクロエマルション重

合法によって microスケールの粒状高分子を多数合成することによりできる増粘剤が高い

耐塩性を持ち使用感もよいことを発見したがこの粒状高分子増粘剤には未だ試み

られていないモノマーが多くある

そこで今年度の金曜班ではこの逆相マイクロエマルション重合法において未だ

試みられていない親水基を持つモノマーを利用して新規の増粘剤をつくることで粒

状高分子による増粘剤の耐塩性と肌触りと親水基の関係を調べ応用化に利すること

ができるのではないかと考え実験を行うこととした

2 背景

増粘剤とは水溶液をゲル化するために添加される物質であり化粧品において広く

用いられているこの増粘効果は従来では高分子鎖同士の分子間力や架橋で生じる

網目構造の結果生じる液中の摩擦力によるものである

動機で述べたように μスケールの粒状高分子が増粘剤として良質であることがわか

っているただし粒状高分子の形状は反応場であるセッケンミセルの大きさだけで

なく親水基やポリマーを構成する原子同士の分子間力によって変わる高分子の立体構

2

造にも影響されている

また粒状高分子の正確な一次構造を把握することは大変難しいことであるので

応用化のためには高分子の一次構造でなくモノマーによって粒状高分子特性の変化

を調べることが重要である

さらに従来用いられているポリマーがスルホ基とカルボキシル基を親水基とする

ものしか存在しない

以上の三点から酸以外の親水基をもつモノマーで増粘剤を合成したときその性

質はどうなるかを調べることでより製品として利用価値が高い粒状高分子増粘剤を合

成することができるのではないかと考えた

そこで新規モノマーとしては対照実験を行うためにアクリルアミド系モノマー

でかつ 2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸のスルホ基と同じ炭素骨格の先

端に親水基が存在するものとしてN-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド (3-アク

リルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライドを用いてそれぞれ親水基が酸

ではなくヒドロキシ基である場合親水基がアニオンではなくカチオンである場合に

ついて研究を行うこととした

この二種の以外にも水溶性のアクリルアミドポリマーは存在するが上記の条件を満

たさないまたは高価であるため本実験では用いないこととした

Fig1 N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド

Fig2 (3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライド

3

3 原理

31 一般的な液体の粘性

溶液の粘性は一般論では以下のように表される

Fig3のように XY平面を取り液面に平板を用意し引っ張った時挟まれた溶液内

には図のようなせん断流動が発生する高さ Yでのせん断速度は(119881

119889) 119910で与えられる

この時平板に挟まれた溶液を薄層の集まりと考えると隣り合う薄層間に摩擦が生

じるこの内部摩擦力が粘性力であるずり速度勾配が十分に小さければ平板の単位

面積当たりに生じる粘性力 Fv0はその勾配 Vd に比例するすなわち以下の式で表

され1205780を粘性係数と呼ぶこの値は溶媒固有である1)

1198651199070 = 1205780 (119881

119889)

Fig3 溶液ずりせん断図

32 増粘剤の粘性

増粘剤の多くは低分子の液体に高分子を溶かすと著しく粘性が高くなる性質を利

用している

この粘性の発生するメカニズムは下の Fig4において平板間の溶液を薄層に分けた

際高分子鎖は溶液の移動に伴って回転するこのとき溶液中の薄層は薄層間の摩

擦以外に高分子鎖との間にも摩擦が生じているこの摩擦の増加が粘性力の増加とな

る 2)

4

Fig4 高分子による粘性増加

また高分子鎖同士が分子間力によって結びつき三次元構造を形成することで内

部摩擦力は一層大きくなるこのため高分子による増粘効果は顕著である

架橋高分子では三次元構造が高分子鎖同士の分子間力による形成よりも強いものと

なるので増粘効果及びレオロジー特性に優れる 3)

33 塩系薬剤による粘性劣化のメカニズム

塩系薬剤とはビタミンC (アスコルビン酸塩)のようにクロロ基をもつ薬効物質のこ

とである

このクロロ基が直鎖高分子や架橋高分子がポリマー間で形成する三次元網目構造

を破壊することによって増粘効果を消失させ内容物の流失によるべたつきを生じさ

せる 3)

34 粒状高分子の粘性

粒状高分子の粘性について粒状高分子はその粒経が小さいほど体積に対する表面

積が増え溶液内での内部摩擦力が大きくなる

また粒子同士が摩擦力を元に網目構造を形成するため網目構造の構成要因が直

鎖高分子や架橋高分子の高分子増粘剤と異なっている 4)

35 逆相マイクロエマルション重合法

後述する転相温度乳化法を用いて形成した5 μm~30 μm 形成したマイクロエマル

ション内において水溶性のモノマーを利用して行う乳化重合法の一種容易に極小の

5

ポリマーを合成することができる 5)

36 界面活性剤の概略

界面活性剤とは分子の構造が水になじみやすい部分(親水基)と油になじみやすい

部分(新油基)からできていて2つの物質の間の界面に集まりやすい性質を持ちそ

の界面の性質を著しく変える物質というのが界面活性剤の定義である

代表的な界面活性剤の特徴は界面における「吸着」と「ミセル形成」である 6)

もうひとつの代表的な作用として「可溶化」もある

37 エマルションの形成

界面活性剤に有機溶媒が取り囲まれて水に可溶化されたとき水溶液中に存在する

有機溶媒を界面活性剤が取り囲んだ液滴のことを OW エマルションと呼ぶ

有機溶媒中に水が可溶化される場合WOエマルションと呼ぶ

38 ノニオン界面活性剤

非イオン界面活性剤とも言う界面活性剤の内解離基を持たず電気的に中性な

界面活性剤で親水基は主にポリオキシエチレン基であるその特殊な性質上他の種類

の界面活性剤に無い性質として曇点と転相温度を持つ 今回使用するノニオン界面

活性剤はポリオキシエチレンオレイルエーテルであり基本式は以下のような形にな

る 7)

R-O(CH2CH2O)n-H

Scheme 1 ポリオキシエチレンオレイルエーテルの基本式

39 曇点

曇点とは透明な液体が相分離を起こして白濁する温度のこと

本実験においてはノニオン界面活性剤が加温によって界面活性効果を失い相分離

によって白濁する温度のこと 8)

310 転相温度乳化

ノニオン界面活性剤は加温によって界面張力が変化しWO型エマルションから

OW 型に変化するこの変化点のことを転相温度と言い転相温度において界

6

面張力が最低になっているので溶液エマルションが極小になる

またこの転相温度は界面活性剤に固有の値となるので二種の比較的性質の

近い界面活性剤を混合することで転相温度を操作し適切な温度で5 μm~30 μm

程度の直径を持つエマルションを作成する方法を転相温度乳化法と呼ぶ 10)

311 ラジカル重合

開始剤を用いてラジカル種を生成して行う重合法のことをラジカル重合法と言う

開始剤の分解要因によって熱光放射線ラジカル重合の三つに分けられる 10)

3111 ラジカル重合を構成する四反応

ラジカル重合は 4種類の反応が同時並行的に起こるそれぞれ以下の通りである 11)

開始反応

開始剤が熱光放射光などの要因によってラジカル開裂を起こしラジカル種を

生じさせる反応

成長反応

ラジカル種がモノマーと反応することでモノマー新たなラジカル種が生成する

反応これが連続することでポリマーが合成される

停止反応

連鎖していた成長反応が止まる反応主にラジカル種同士の反応による

連鎖移動反応

ラジカル種がモノマー以外の分子主に溶媒分子等と反応することでポリマー以

外の物質を合成する副反応

3112 乳化重合

乳化重合はモノマー液滴と呼ばれるモノマーを大量に保存しているエマルシ

ョンと反応場となる極小のセッケンミセルの二つの構造を持つ溶液中で行う不均

一系ラジカル重合の一種である 12)

成長反応が一段階進むたびにモノマー液滴から拡散の理論式に従ってモノマ

ーがミセル内に移動するこの一連の反応を繰り返して反応が進む 13)

そのため種々のラジカル重合法と比較して以下の特長がある 13)

セッケンミセル内に存在するラジカルが常に一つであるため停止反応が

7

起こりにくく比較的重合度の高いポリマーが生成しやすい

反応速度が拡散作用によって律速されかつセッケンミセルの周囲を大量

の溶媒分子が囲んでいるため除熱が容易であるという理由から熱暴走を起

こしにくいという利点がある

ミセル内で重合するため合成した高分子が絡まりやすく粒状の分子が作

成できる

Fig5 乳化重合模式図

312 MS(質量分析法)

質量分析法とは分子の質量すなわち分子量を測る手段でもあるまた分子を分解

したフラグメントの質量を測ることによって分子構造に関する情報を得るものでも

ある

高エネルギー電子が有機分子にぶつかると分子から電子がはじき出せれカチオ

ンラジカルが発生する

119825119815 rarr 119825119815++119838minus Scheme 2カチオンラジカルの発生

電子の衝突により大量のエネルギーが分子に与えられることで大部分のカチオン

ラジカルを生成した後フラグメントに分解するフラグメントは小さな破片となっ

て浮遊し正電荷や中性となる

このカチオンラジカルとフラグメントについてmz値を横軸相対強度を縦軸につ

いて取ったグラフから質量スペクトルを読み取る 14)

またMS(質量分析法)はイオン化の方法などによりいくつかに分けられ今回使用

したいのは高分子試料でもほとんどフラグメンテーションを起こさないソフトなイ

8

オン化法であるMALDI法 15)である

3121 MALDI法(マトリックス支援レーザー脱離イオン化法)

試料を 25-ヒドロキシ安息香酸のような適切なマトリックス上に吸着させて

ペレットを作成しレーザー光を短時間照射してイオン化する

エネルギーがマトリックスから試料に移動し[119872 + 119867119899 ]119899+に分解される 15)

MALDI法にはよく TOF型の MSが用いられている

4 実験

41 2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を用いた既存化粧品用増粘剤の合成

411 使用器具試薬

温度計ウォーターバスビーカー薬さじデシケーター

ジメチルアクリルアミド

式量9913

沸点81

発火点71

LD50(経口)316mgkg

LD50(経皮)580mgkg

製造和光純薬工業株式会社

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸

式量20725

融点200

LD50(経口)5400mgkg

製造和光純薬工業株式会社

NN-メチレンビスアクリルアミド

式量156

沸点4451

発火点215

LD50(経口)390mgkg

製造東京化成工業株式会社

9

へプタン

式量1002

沸点98

引火点-4

水に不溶

製造昭和化学

2-プロパノール

式量60

沸点82

発火点12

LD50(経口)区分外(GHS分類)

LD50(経皮)区分外(GHS分類)

製造昭和化学

ペルオキソ二硫酸アンモニウム

式量22820

冷水に易溶保存湿気厳禁

重合開始罪乳化重合レドックス重合に用いられる

製造和光純薬工業株式会社

412 実験手順

① ビーカーにイオン交換水ヘプタンポリオキシエチレンオレイルエーテル(2)

(8)をそれぞれ507 mL 507 mL489 g((2)(8)=23)加えて良く撹拌したも

のを入れる

② その後その後温度調節機能つきスターラーに乗せ白濁するまで加熱する

白濁した液が透明化するまで温度を落とし電気伝導率計を用いて溶液が転

相温度付近に保たれていることを確認する

③ 以上の操作が済んだ重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先

ほどのスターラーと同じ温度にしたウォーターバスに移し2-アクリルアミド

-2-メチルプロパンスルホン酸NNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 137 g

262 g入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始

剤としてメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

10

④ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

42 N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミドを用いた新規化粧品用増粘剤の合成

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を誘導体と入れ替える以外の

操作は 41に準ずる

親水基による増粘性の変化を観察するため架橋剤のモノマーに対する濃度比

は 2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を使用したポリマーが最も増

粘効果の高くなると報告された濃度比を用いる

421 使用器具試薬

使用器具は 41に準ずる

試薬

N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド

式量11513

沸点130

発火点189

製造東京化成工業株式会社

422 実験手順

① 412 ①②と同じように重合系を作成する

② 以上の操作が済んだ重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先

ほどのスターラーと同じ温度にしたウォーターバスに移しN-(2-ヒドロキシエ

チル)アクリルアミドNNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 076 g262

g 入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始剤と

してメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

③ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

11

43 (3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライドを用いた新規化粧品用

増粘剤の合成

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を誘導体と入れ替える以外の操作は

41に準ずる

親水基による増粘性の変化を観察するため架橋剤のモノマーに対する濃度比は 2-ア

クリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を使用したポリマーが最も増粘効果の高く

なると報告された濃度比を用いる

431 実験器具

実験器具は 41に準ずる

試薬

(3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライド

式量22074

沸点100

製造東京化成工業株式会社

432 実験手順

① 412 ①②と同じように重合系を作成する

② 重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先ほどのスターラーと

同じ温度にしたウォーターバスに移し (3-アクリルアミドプロピル)トリメチ

ルアミニウムクロライドNNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 123 mL

262 g入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始

剤としてメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

③ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

5 評価分析

耐塩性の高い増粘剤の耐塩性と使用感と親水基との関係を評価するために以下の二

つの測定を行い評価する

増粘剤の耐塩性の評価のために塩酸を増粘剤内部に取り込ませた状態で経時

12

による粘度の変化を観察する

また高分子の粘性を考える上で直鎖高分子の場合よく参考にされるのが平

均分子量でありこの値を測定することで親水基が変化した場合に平均分子

量が粒状高分子の粘性にも大きく影響するか確認する

精密に上の測定を行うには専用の機器が必要になるため機器メーカーの株式

会社エーアンドデイ様または東京理科大学理学部応用化学科駒場研究室に

また高分子の性質を考える上で重要視される平均分子量及び分子量分布に

ついては東京理科大学化学系機器センターにあるMALDI-TOF型質量分析計を管

理者の東京理科大学理学部応用化学科の根岸先生に測定に協力していただこうと

考えている

6 謝辞

東京理科大学工学部工業化学科 近藤行成教授

東京理科大学理学部化学科 遠藤恆平准教授

東京理科大学理学部応用化学科 駒場慎一教授

この研究を進めるに当たり大変お世話になった先輩先生方企業の皆さんに感謝の

意を表明します

参考文献

1) 小澤美奈子 基礎高分子科学 高分子学会 編 2010年 第六版 p979899

2) 小澤美奈子 基礎高分子科学 高分子学会 編 2010年 第六版 p99100

3) 金田 勇 逆相マイクロエマルション重合法による水膨潤性ミクロゲルの重合とその増

粘剤としての応用 2010年 p1

4) 小林敏勝 福井寛 きちん知りたい粒子表面と分散技術 日刊工業新聞社 p76

5) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 2006 p839 840 841

6) 皆川基 藤井富美子 洗剤洗浄 百科事典 大矢勝 2007年版 p4647

7) 日本産業洗浄協議会編 わかりやすい界面活性剤 工業調査会 2003 p373839

8) 資生堂 HP httpswwwshiseidogroupjprddevelopmentformulationhtmlより 2015

44取得

9) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 テクノシステム 2006 p321

10) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 テクノシステム 2006 p397

13

398399

11) 遠藤 剛 高分子の合成(上)~ラジカルカチオンアニオン重合~ 講談社 2010 3p

12) 佐藤壽彌編 高分子微粒子の技術と応用 シーエムシー出版 2004 p2526

13) 佐藤壽彌編 高分子微粒子の技術と応用 シーエムシー出版 2004 p27

14) マクマリー 上 8版 東京化学同人 p403404

15) John McMurry マクマリー有機化学(上) 第 8版 2013 p410411

Page 22: ゼオライトとキトサンを用いた 金属イオン除去剤の …kaken/studies/2015/2015-s-all.pdf1 東京理科大学I 部化学研究部 2015 年度春輪講書 ゼオライトとキトサンを用いた

11

5評価方法

51接着強度の評価

1)432433で接着したアルミ板にひもとペットボトルを用いて Fig5-1のように設置す

アルミ角材

Fig5-1 接着面の破壊

2)ペットボトルに少しずつ水を加え接着面が完全に離れた時点を破壊終了点とする

3)破壊終了点でのペットボトルに入っている水の重量を計測する

52耐水性の評価

1)接着したアルミ角材に水をかけ接着面の変化を観察する

6予想

添加物を加えることで接着強度の増加が期待されるしかし大量に添加物を加えてし

まうとケイ酸の割合が小さくなり接着強度は減少してしまうと考えられ添加物の量と接

着強度の関係性をグラフ化するとある値までは増加しその値を超えると減少していくグ

ラフが得られると考えるそこから最も接着強度が高まる添加物の量を測定する

また添加物が硬化剤の役割をし耐水性の改善も予想される

参考文献

1)日本接着学会『接着剤データブック第 2版』日刊工業新聞社1990P228~229

2) 三刀基郷『トコトンやさしい接着の本』日刊工業新聞社2003P56~67

3) セメダイン(株)『よくわかる接着技術』日本実業出版社2008P34~37

PET

Crash

12

4) ユージン Gロコー『ケイ素とシリコーン』シュプリンガーフェアラーク東京株式

会社1990 P85~113

5) 大木道則大沢利昭田中元治千原秀昭『化学大辞典』東京化学同人1989

b)P884 c)P865 d)P867 e)P1368 f)P1669

6)下井 守村田 磁『大学生のための基礎シリーズ 3 化学入門』東京化学同人2005

P229

7) 吉村壽次『化学辞典第 2版』森北出版2009a)P425

8)大勝 靖一『高分子添加剤の基礎化学と材料設計』株式会社 CMC出版2008P219~235

9)httpwwwfacekyowacojpsciencetheorywhat_contact_angleimg01jpg

2015416取得

1

東京理科大学Ⅰ部化学研究部 2015 年度春輪講書

シクロデキストリンを用いた

包接化合物の生成

水曜班

Ikemura M(2C)Ebihara K(2C) Kataoka T(2K)

ShibasakiK(2OK)TsumedaT(2C)NakaA(2OK)Murakoshi R(2OK)

OkawaT(2C)NoguchiA(2K)SekiguchiK(2K)HashimotoY(2C)

1 動機

6~8 分子のグルコース単位からなるα―14結合の環状オリゴ糖であるシクロデキストリ

ンはその環状構造に由来する包接化合物を生成する性質を示すその特異的な包接形成能

を利用した多くの製品が存在し現在もなお基礎研究分野応用研究分野での研究が行わ

れている

そこで私たちは 7 分子のグルコースからなるβ-シクロデキストリンと 3 種類のカルボン

酸を用いて包接化合物を形成させ酸の構造の違いによる包接作用の比較検討及びシクロ

デキストリンの一部のヒドロキシ基をエステル化させ水に対する溶解性及び包接形成能が

どのように変化するか考察する

2 原理

21 包接化合物

包接化合物は Schlenk によって名づけられたもので定義によると原子または分子が

結合してできた 3 次元構造の内部に適当な大きさの空孔があってその中に他の原子また

は分子が一定の組成比で入り込んで特定の結晶構造をつくっている物質ということにな

っている前者の骨組み構造の化合物のほうをホスト分子後者の入り込んでいる分子の

ほうをゲスト分子ともよんでいるがこのゲスト分子の大きさや形状はまったくホスト

構造によって規定されるだけで両者の間には弱い相互作用があっても水素結合のよう

な力はなくてもいっこうに構わないのであるこの包接化合物でのゲスト分子とホスト

構造との間の相互作用というのも物理的な吸着系に近いもので非常に弱い van der

Waals 力から高度に配向した双極子間力まで種々のものが存在する 1)

22 シクロデキストリンの包接能

シクロデキストリンはグルコース残基がα-1α-4 結合した環状のオリゴ糖で一般的

にグルコース残基が 6 個のα-シクロデキストリン7 個のβ-シクロデキストリン8個の

γ-シクロデキストリンが知られている

2

Fig1 α-シクロデキストリンの分子構造

シクロデキストリンの構造は底の抜けたバケツやドーナッツのような構造をしており

その環状構造の外側は多くの水酸基に由来する親水性領域が存在し内側の空洞の CH 基に

由来する疎水領域と相反する極性が一つの分子に共存しているがこの空洞内に様々な有

機化合物などを取り込むという包接作用がもっとも特徴的である

三種類のシクロデキストリンはそれぞれ空洞の大きさが相違するためそれぞれ包接化

合物を形成しやすいゲスト分子が存在する内部空洞が比較的小さいα-シクロデキストリ

ンは比較的小さい分子例えばエタノールメタノール等をβ-シクロデキストリンは汎

用性が広く各種ポリフェノールコレステロールメンソール等の香気成分芳香族化

合物等をよく包接するγ-シクロデキストリンは大きい分子である脂肪酸などを包接する

ことが知られている

シクロデキストリンの包接力の原動力は疎水性相互作用と分子間力が主なものとされて

いるつまりゲストは疎水性の高い分子あるいは分子の大きさが空洞にぴったりとフィッ

トするものほどシクロデキストリンがそのゲストを包接する力は大きく包接物を作り

やすい傾向がある逆に親水性が高くシクロデキストリンの空洞にフィットしないよう

なゲスト分子では包接現象は起こりにくいといえるしかしゲスト分子全体がシクロ

デキストリンの空洞内にとりこまれる必要はなく部分的にでも疎水性が高く空洞にフィ

ットすれば包接が可能となるつまりゲスト分子全体がシクロデキストリンより明ら

かに大きいものでも包接作用による効果が観察される場合がある 2)

Fig2 シクロデキストリンがゲストを包接する様子

23 水溶化シクロデキストリン

3

ブドウ糖やショ糖など通常糖質の水への溶解度は非常に高いしかし天然型シク

ロデキストリンは隣接する水酸基との水素結合の為3 種のシクロデキストリンの中では最

も高い水溶性を有するγ-シクロデキストリンであってもその溶解度は 25において水

100 mL に 23 g であり油性物質を包接した場合は一般的にその溶解度はさらに低くな

るそこで水への溶解度を改善するためにシクロデキストリン化学修飾体が製造されて

いるシクロデキストリンの水溶性を向上させる方法として隣接する水酸基をメチル基や

アセチル基などでエーテル化やエステル化する方法がある具体的には部分メチル化β-シ

クロデキストリンやモノアセチル化β-シクロデキストリンが工業的に生産されている

24 包接能の評価について

今回の実験ではゲスト分子としてカルボン酸を用いるシクロデキストリン及び水溶化

シクロデキストリンの包接能の評価については包接化合物に含まれているカルボン酸をア

ルカリで滴定することで求めることができる

3 実験

31 試薬sup3⁾

アジピン酸

分子式C6H10O4

分子量1464

mp153

bp3375 アジピン酸

クエン酸

分子式C6H8O7

分子量19213

mp156~157

クエン酸

シュウ酸

分子式C2H2O4

分子量9004

mp1895

シュウ酸

4

βシクロデキストリン

分子式(C6H10O5)7

分子量113500

n-ブタノール

分子式C4H10O

分子量7412 β-シクロデキストリン

bp1179

エタノール

分子式C2H6O n-ブタノール

分子量4607

mp-1145

bp7833

水酸化ナトリウム

組成式NaOH

分子量4000

mp328

bp1388

無水オクタン酸

分子式C₈H₃₀O₃

分子量27041

mp-1 無水オクタン酸⁶⁾

濃硫酸

分子式H₂SO₄

分子量9808

mp104

32 使用器具

300 mL ビーカーメスフラスコピペット三角フラスコ吸引漏斗吸引瓶ビュレッ

トスタンドボウルガラス棒

5

33 実験操作

331 エステル化シクロデキストリンの合成 ⁵⁾

1)三角フラスコにβ-シクロデキストリン 1 g を入れこれに無水オクタン酸 025 mL を加

える

2)触媒として 2-3 滴の濃硫酸を添加し攪拌する

3)約 10 分間放置してフラスコを氷桶に入れて冷やしガラス棒でフラスコの壁を強くこす

り結晶を析出させる

4)水 20 mL を加えさらに氷桶で冷やしながら残る結晶を析出させる

5)この結晶を濾分し水で洗ってから取り出して乾かして結晶を得る⁵⁾

332 包接化合物の形成

1)β-シクロデキストリン 1 g を水 100 mL に溶解させる

2)ピペットで 1 mL のカルボン酸を加えコルク栓をして静置する

3)1 週間程静置し包接化合物を吸引濾過する

4)上記の操作をカルボン酸(酢酸シュウ酸クエン酸)で行う

5)エステル化シクロデキストリンで同様の実験を行う

333 包接能の測定

1)よく乾燥した包接化合物約 1 g をメスフラスコで 100 mL 溶液とする

2)この溶液 20 mL にフェノールフタレインを指示薬として20 mL 加え 01 M 水酸化ナト

リウム標準溶液で滴定する⁴⁾

334 溶解度の測定

1)100 mL の水に 5 g の β-シクロデキストリンを溶解させる

2)沈殿をろ過し乾燥して重量を測定する

3)エステル化 β-シクロデキストリンで同様の作業を行う

参考文献

1) 竹本喜一包接化合物の化学東京化学同人1969p2

2) 辻堅司シクロデキストリンの応用技術株式会社シーエムシー出版2008p3-p9

3) 大木道則大沼利昭田中元治千原秀明化学大辞典東京化学同人1989

4) 発田寿々子教養の化学実験第 2 版学術図書出版社2014p119

5) 南篠正男先生と生徒のための化学実験共立出版株式会社1986p155

6) 「 chemical book 」〈 wwwchemicalbookcomchemicalProductPropert_JP_CB 〉

(2015418 アクセス)

1

東京理科大学Ⅰ部化学研究部 2015年度春輪講書

ダブルネットワークの合成と評価 木曜班

OnizukaM(2C)TanakaR(2C)YamamokaH(2K) OhiraM(2K)

1背景

現在高分子ゲルは紙おむつの高吸水性樹脂やソフトコンタクトレンズなど私たちの生

活において活躍しているしかし高分子ゲルは不均一な構造なため一般的に機械的強

度が弱いという欠点がある高分子ゲルの強度面での弱点を克服するために従来では

ゲルの構造を均一化して強度を上げるというアプローチがとられてきた

しかしながら材料の弾性とじん性は反相する因子として働くつまり大変形に耐え

られるゲルは弾性率を犠牲とし高弾性のゲルは小さい変形で破壊される

そこで私達木曜班は前述の問題の解決策と成り得るものとしてダブルネットワーク

ゲル(DNゲル)について注目した

2目的

既存に作られている DNゲルは溶媒に水を用いたハイドロゲルであるDNゲルはその

強度や柔軟性により生体内での人工関節に使用することが期待され研究がおこなわれて

いる木曜班では DNゲルを生体内の関節だけでなく機械の関節部の摩擦軽減材料として

の使用を提案するしかし従来の DNゲルは溶媒が水であることにより水の沸点である

100以上の条件下では性能の低下が問題視され高温になりうる機械への応用が困難で

ある

溶媒を水から有機溶媒に変更することで高温条件下でのゲルの機能維持を試みるとと

もに使用するモノマーを変更しその機能性を検討する

3原理

31 DNゲル

311ゲルの脆弱性

一般的なゲルはゼリーや豆腐のように僅かな力を加えただけで簡単に壊れるほど

弱いこの理由は 2つの現象により説明することができる

1)ゲルの内部に多数の欠陥が存在する

2)欠陥から発生した初期亀裂が容易に伝播する

前者はゲル内部の構造が不均一であることに由来するゲル合成時におけるモノマ

ーと架橋剤の反応性の違いにより不均一な重合がおこるあるいはゲル化溶液内の濃度

揺らぎが重合によって固定されることだと考えられている 1)こうしたゲルに力を加えた

2

時にゲルの弱い部分に力が集中してしまうため小さな力でも初期亀裂が生じてしまう

後者はゲル内部のポリマーの密度の低さから生じる一般的に物質内における亀裂

の進みやすさは破壊エネルギーU(Jm2)(単位面積あたりの破断面形成に費やされる仕事)

によって評価される架橋高分子材料の臨界破壊エネルギーUc(亀裂成長が起こる最小

の破壊エネルギー)は破断面の高分子鎖の数密度と架橋点間分子量に比例する 2)つま

りゲルのじん性(物質の破壊に対する抵抗の程度で粘り強さとも言い換えられる 3))はゲ

ル内のポリマーの密度には比例し架橋密度には反比例することがわかる

ゲルは 50~99wtの溶媒を含んでいて高分子の密度が非常に低い物質であるためゲ

ルの Ucはゴムなどの固体に比べてかなり小さいことが考えられる

これまでの高強度ゲル研究は主に前者の問題を解決するすなわち構造を均一化するこ

とでゲル内部の欠陥を極力減らして強度を改善しようという観点から行われてきた

312 ゲルの弾性率

高分子鎖が三次元架橋されたゲルはゴムと同じようにエントロピー弾性を持つ溶液

中に完全に湿潤した電気的に中性ゲルのせん断弾性率(横方向に対するバネ係数 4)であり

Young率 Eと E=3Gの関係式が成立する)は

GneucongkBT

b3Q-225

以上の式で表せられゲルの湿潤度 Qの増加にともないせん断弾性率Gneuは大きく低下

するここでkBはボルツマン定数Tは温度bは重合させたモノマーの大きさである 5)

一方溶液中に完全に湿潤した電解質ゲルのせん断弾性率は

GchacongkBT

b3Q-1

によって表せる 6)よって同じ湿潤度において電解質ゲルは中性ゲルよりせん断弾性率が

高いことが分かる

またゲルの湿潤度は架橋点重合 N(分子量)による溶液中に完全に湿潤した中性ゲル

の場合QasympN35であり電解質ゲル場合QasympN

32であるしたがって架橋密度を上げる

ことによりゲルの湿潤度が小さくなりせん断弾性率が上がる 3)4)

313 ゲルの破断歪と破断応力

架橋構造が均一と仮定した理想的なゲルの破断歪(ゲルが破壊するまでの変形 7))は架

(1)

(2)

3

橋点間高分子の伸びきった長さと高分子鎖に歪がない曲がった自然な状態での大きさ

の比として求められる溶媒中で完全に湿潤した中性ゲルの引っ張り破断歪はλBcongQ12で

ありQの増加により増加する一方湿潤することにより単位面積あたりの高分子

の本数が減るため破断応力は湿潤度 Qが大きくなることにより減少する故にQが大

きいゲルは伸びやすいが弱い応力で壊れる

電解質ゲルの場合高分子鎖はその解離しているイオンの浸透圧によって水中では

ほとんど伸びきった状態となっているその結果理想状態においても破断歪はλBcongQ19

になるこれは破断歪が小さくかつ湿潤度にあまり依存しないことを意味している 5)

以上のことより

1)架橋密度を上げる(架橋点間分子量を下げる)ことでゲルが固くて脆くなる

2)水中に完全に湿潤した高分子電解質ゲルは中性のゲルより硬くて脆い高弾性と変形は

相反するということが考えられる

314 DNゲルの高強度機構

DNゲルは強電解質をモノマーとする 1st networkゲル電気的に中性なモノマーを用

いる 2nd networkゲルを組み合わせることにより生成される前述した通りゲルにおける

弾性と靭性は常に相反する働きをするそれゆえに単一な物質で両方の性質を得るこ

とは原理的には不可能である同じ湿潤度において電解質ゲルと中性ゲルのせん断弾性

率の比はGchaGneucongQ125であるために両者の違いは湿潤度 Qが高いほど大きくなる

この性質を利用することにより電解質ゲルは硬い成分中性ゲルは軟らかい成分とし

て用いることができる

亀裂を含む DNゲルがある引張荷重を受けると応力集中の効果で最初に亀裂先端近傍

の電解質網目(1st network)が破壊され局所的にゲルが降伏する荷重がますと電解質網

目の破壊が次々に伝播し広範囲にわたるダメージゾーンが形成されていくこの過程

で非常にいい気なエネルギーが分散されるダメージゾーンがある大きさまで広がった

ときようやく亀裂先端に中性網目(2nd network)が十分に伸びて切断し亀裂が進行す

る 8)

4

Fig 1 DNゲルの破壊モデル 9)

32 光ラジカル重合

321 光分解

光重合開始剤に UVを当てることにより開裂がおきラジカルが発生する本研究にお

いては 1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンを用いる 10)

Scheme1 1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンの開裂 10)

ℎ120592

5

322 開始反応

UVを当て光開裂により生じたラジカルがビニル基の二重結合を攻撃し光重合開始剤

と炭素の間に σ結合を作り炭素原子にラジカルが存在することになる

Scheme2 ラジカルの生成

323 成長反応

Scheme2で生成したラジカルが他のモノマーを攻撃しσ結合を生じるそれが何回

も起こることにより分子鎖が成長する 6)

Scheme3 分子鎖の成長

324 停止反応

Scheme 3で成長した成長ラジカル同士が σ結合を作り分子鎖が生成する 7)

Scheme4 分子鎖の生成

4実験

41 DNゲルの合成

411 使用器具試薬

ビーカー乳鉢乳棒薬さじUVライトデシケーター

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸

分子式 C7H13NO4S

式量20724

融点160

用途1st networkゲルのモノマー

6

アクリル酸

分子式C3H4O2

式量7206

融点123

沸点1416

比重10511

危険性引火性(発火温度 360 )

用途1st networkゲルのモノマー

アクリロニトリルの加水分解アクロレインの酸化ニッケルカルボニルの存在下ア

セチレンと一酸化炭素と水との反応などにより合成される酢酸に似た刺激臭を持つ液

体水エタノールエーテルによく溶ける酸素の存在下容易に重合するプラス

チックの原料として用いられる

アクリルアミド

分子式C3H5NO

式量7108

融点845

沸点103

比重1122

用途2nd networkゲルのモノマー

アクリルニトリルを硫酸あるいは塩酸を処理して得られるフレーク状の結晶溶解

性(g100 ml溶媒30 )水 2155メタノール 155エタノール 862アセトン 631

酢酸エチル 126クロロホルム 266ベンゼン 0346ヘプタン 00068化学的に不安

定で冷暗所に保存する必要がある融点付近あるいは紫外線下で重合する重合の仕方

により水溶性不溶性のものが得られる

酢酸ビニル

分子式C4H6O2

式量8609

融点-932

沸点723

比重09317

用途2nd networkゲルのモノマー

無色の液体酸やアルカリよって容易に加水分解されてアセトアルデヒドと酢酸を生

じる熱光ラジカル開始剤によって重合する

7

メタクリル酸メチル

分子式C5H8O2

式量10012

融点-48

沸点1003

比重0936

用途2nd networkゲルのモノマー

無色透明で催涙性の芳香のある液体工業的にはアセトンシアノヒドリンにメタノー

ルと硫酸を作用させて合成する実験室的にはメテクリル酸メチルの重合物を 320

以上で乾留すると得られる一般に有機溶媒には溶けるがエチレングリコールグリセ

リンには溶けにくい重合しやすいので重合禁止剤としてヒドロキノンモノメチルエ

ーテル(65 ppm)を添加して保存する有機ガラスの製造ビニル系共重合体など広く

重合反応に用いられるまたメチル以外のアルコールのメタクリル酸エステルの合成

にも用いられる

NN-メチレンビスアクリルアミド

分子式C7H10N2O2

式量15417

融点300

用途架橋剤

1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン

分子式C13H16O2

式量20427

融点47-50

用途光重合開始剤

最大吸収波長は 260 nm付近にある

エチレングリコール

式量6207

融点 -126

沸点1976

比重11132

8

用途ゲル溶媒

重要な二価アルコールでエチレンオキシドの酸触媒による開環高温高圧下水と

の反応による開環などによって合成される吸湿性無色無臭の液体甘味を有する

が有毒である高沸点を有ししかも水酸化カリウム水酸化ナトリウムを溶解し水や

エタノールと任意の割合で混合するので有機合成における溶媒として広く用いられ

また塩基に対して安定なエチレンケタールの生成によるカルボニル基の保護に用いら

れるさらに酢酸ビニル系樹脂の溶剤や水と混ざり高沸点のため不凍液に用いら

れるなど広い用途を持っている

412 1st networkゲルの作成

1) 1st networkゲルのモノマー(電解質モノマー)架橋剤(NN-メチレンビスアクリルア

ミド)と光重合開始剤(1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)を水に溶解させた水

溶液を調製する

2) UVを 8時間照射して光ラジカル重合をさせる

3) 2)で合成した電解質ゲルを乳鉢に入れ適当なサイズに砕いた後デシケーター内で一

週間ほど乾燥させる

413水溶媒 DNゲルの作成

1) 2nd networkゲルのモノマー(中性モノマー)架橋剤(NN-メチレンビスアクリルアミ

ド)光重合開始剤(1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)をエチレングリコールに

溶解させた溶液を調製する

2) 乾燥した電解質ゲルを 1)で調製した水溶液に入れ電解質ゲルを十分に膨らませるそ

の後UVを照射し中性モノマーを光ラジカル重合させる

414エチレングリコール DNゲルの作成

1) 2nd networkゲルのモノマー(中性モノマー)架橋剤(NN-メチレンビスアクリルアミ

ド)光重合開始剤(1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)をエチレングリコールに

溶解させた溶液を調製する

2) 乾燥した電解質ゲルを 1)で調製したエチレングリコール溶液に入れ電解質ゲルを十分

に膨らませるその後UVを照射し中性モノマーを光ラジカル重合させる

42 DNゲルの評価

421引っ張り試験

使用するモノマーの変化によるゲルの性質の差を評価する引っ張り試験は

JIS-K-6251-7号に準拠する方法で測定する

9

1)DNゲルを X方向の長さ 50 mmY方向の長さ 75 mmZ方向の長さが 25 mmの大

きさに成形する

2)その一端部に X-Y平面に平行な切込みを入れて2つの引張端部を形成する

3) 引張端部を片方は固定しもう片方を一定の速度で引っ張るこのときの引っ張る力 F

を測定する

Fig 2 引っ張り試験 13)

422 摩擦試験

使用するモノマーの変化溶媒の変化によるゲルの性質の差を評価する

摩擦試験は東京理科大学工学部第一部機械工学科佐々木研究室に依頼する予定である

用いる機械は SVR4パーカー熱処理工業株式会社製であり180での高温での摩擦係

数の測定が可能である

摩擦測定は常温(20 )と高温(100 )で測定することを予定している

10

5 展望

51 DNゲルの合成

実験操作は溶液を調製した後UV照射するという簡易な手順なので合成は比較的早い

段階で成功すると考えられる

1st networkゲル合成に使うのは電解質モノマーなため水溶液のモノマーの濃度が低

いと湿潤度 Q が大きくなりせん断弾性率が下がり剛性が弱いゲルが出来上がると考え

られる

架橋剤を多く使用すると架橋密度を上がるので 2nd networkゲルが入り込む空洞が小

さくなるそのために架橋剤が多すぎると高弾性のゲルが生成できると考えられる

また同様な考えで2nd networkモノマーが含まれている水溶液に乾燥させた1st network

ゲルを入れる量が多くても高弾性のゲルが生成できると考えられる

52 DNゲルの物性

ゲルの高分子網目は基板から離れようとするときにゲルと基板の間に僅かな溶媒層

が生じるこの状態では溶媒層が潤滑油のような働きをして生じる摩擦力は小さなも

のとなるゲル周辺が高温な状態ではこの溶媒層が水の場合は蒸発してしまうので摩

擦力は増大すると考えられる溶媒を水からより沸点の高いエチレングリコールなどに

変えれば摩擦力は増大することはないと推測される 14)

11

参考文献

1) J Bastide and L LeiblerMacromolecules1988212647

2) G G J Lake and A G ThomasProc R Soc LondonA1967300108

3)越後亮三 機械工学辞典 朝倉書店 2007 p631

4) 伊藤勝悦 やさしく学べる材料力学 森北出版 2014 p14

5)SPObukhovMRubinstein and RHColby Macromolecules 1994273191-3198

6)MRubinsteinRHColbyAVDobrynin and JJaonnyElasticMacromolecules199629398-406

7) 大 阪 府 立 大 学 基 礎 講 座 材 料 の 強 度 と 破 壊

httpwwwengmmtrosakafu-uacjpresearchstrength-japdf2015413取得

8)聾剣萍「生命科学時代の新材料-高弾性高靱性ダブルネットワークゲル」高分子学会

『高分子』高分子科学最近の進歩58巻 5号2009p327-p331

9)YTanakaEurophysLett20077856005

10)蓮池幹治ラジカル重合ハンドブックエヌティーエス2010p444-p445

11)大津隆行ラジカル重合(Ⅰ)化学同人1971p80-p81

12)大津隆行ラジカル重合(Ⅰ)化学同人1971p153-p154

13)聾剣萍高分子ゲルおよびその製造方法特開 2009-185156 2008-02-05

14) 角五 彰龔 剣萍長田義仁「ゲルの摩擦と水和潤滑~生物の滑らかな運動解明への

アプローチ」日本生物物理学会『生物物理』47巻 4号2007p 253-p258

1

東京理科大学Ⅰ部化学研究部 2015年度春輪講書

耐塩性の高い新規化粧品用増粘剤の開発 2015年度金曜班

Nomata N(2OK)Seki M(2OK)Tin J(2OK)Takahashi R(2C)Watanabe A(2K)

Asai D(2K) Nishimiti D(2K)Yamamoto R(2K)

1 動機

化粧品において増粘剤の果たす役割は非常に大きい

化粧品にはクリーム状のモノが多くありその整形には増粘剤が必要不可欠である

また増粘剤は製剤だけでなく密閉効果や水和効果によって薬剤を皮膚に効率的に輸

送することに役立っている

この増粘剤であるが一つ課題がありアスコルビン酸塩(ビタミン C)のようなクロロ

基を持つ塩系薬剤をゲル中に含む場合経時によってべたつきといった使用感の悪化

につながるといった弱点があるこの問題の解決のために塩系薬剤への耐性の高い増

粘剤の開発が望まれている

塩系薬剤の高い美容効果からこの問題の解決に対する化粧剤企業のニーズは高くこ

の問題は長く研究が続けられていたが近年資生堂が逆相マイクロエマルション重

合法によって microスケールの粒状高分子を多数合成することによりできる増粘剤が高い

耐塩性を持ち使用感もよいことを発見したがこの粒状高分子増粘剤には未だ試み

られていないモノマーが多くある

そこで今年度の金曜班ではこの逆相マイクロエマルション重合法において未だ

試みられていない親水基を持つモノマーを利用して新規の増粘剤をつくることで粒

状高分子による増粘剤の耐塩性と肌触りと親水基の関係を調べ応用化に利すること

ができるのではないかと考え実験を行うこととした

2 背景

増粘剤とは水溶液をゲル化するために添加される物質であり化粧品において広く

用いられているこの増粘効果は従来では高分子鎖同士の分子間力や架橋で生じる

網目構造の結果生じる液中の摩擦力によるものである

動機で述べたように μスケールの粒状高分子が増粘剤として良質であることがわか

っているただし粒状高分子の形状は反応場であるセッケンミセルの大きさだけで

なく親水基やポリマーを構成する原子同士の分子間力によって変わる高分子の立体構

2

造にも影響されている

また粒状高分子の正確な一次構造を把握することは大変難しいことであるので

応用化のためには高分子の一次構造でなくモノマーによって粒状高分子特性の変化

を調べることが重要である

さらに従来用いられているポリマーがスルホ基とカルボキシル基を親水基とする

ものしか存在しない

以上の三点から酸以外の親水基をもつモノマーで増粘剤を合成したときその性

質はどうなるかを調べることでより製品として利用価値が高い粒状高分子増粘剤を合

成することができるのではないかと考えた

そこで新規モノマーとしては対照実験を行うためにアクリルアミド系モノマー

でかつ 2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸のスルホ基と同じ炭素骨格の先

端に親水基が存在するものとしてN-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド (3-アク

リルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライドを用いてそれぞれ親水基が酸

ではなくヒドロキシ基である場合親水基がアニオンではなくカチオンである場合に

ついて研究を行うこととした

この二種の以外にも水溶性のアクリルアミドポリマーは存在するが上記の条件を満

たさないまたは高価であるため本実験では用いないこととした

Fig1 N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド

Fig2 (3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライド

3

3 原理

31 一般的な液体の粘性

溶液の粘性は一般論では以下のように表される

Fig3のように XY平面を取り液面に平板を用意し引っ張った時挟まれた溶液内

には図のようなせん断流動が発生する高さ Yでのせん断速度は(119881

119889) 119910で与えられる

この時平板に挟まれた溶液を薄層の集まりと考えると隣り合う薄層間に摩擦が生

じるこの内部摩擦力が粘性力であるずり速度勾配が十分に小さければ平板の単位

面積当たりに生じる粘性力 Fv0はその勾配 Vd に比例するすなわち以下の式で表

され1205780を粘性係数と呼ぶこの値は溶媒固有である1)

1198651199070 = 1205780 (119881

119889)

Fig3 溶液ずりせん断図

32 増粘剤の粘性

増粘剤の多くは低分子の液体に高分子を溶かすと著しく粘性が高くなる性質を利

用している

この粘性の発生するメカニズムは下の Fig4において平板間の溶液を薄層に分けた

際高分子鎖は溶液の移動に伴って回転するこのとき溶液中の薄層は薄層間の摩

擦以外に高分子鎖との間にも摩擦が生じているこの摩擦の増加が粘性力の増加とな

る 2)

4

Fig4 高分子による粘性増加

また高分子鎖同士が分子間力によって結びつき三次元構造を形成することで内

部摩擦力は一層大きくなるこのため高分子による増粘効果は顕著である

架橋高分子では三次元構造が高分子鎖同士の分子間力による形成よりも強いものと

なるので増粘効果及びレオロジー特性に優れる 3)

33 塩系薬剤による粘性劣化のメカニズム

塩系薬剤とはビタミンC (アスコルビン酸塩)のようにクロロ基をもつ薬効物質のこ

とである

このクロロ基が直鎖高分子や架橋高分子がポリマー間で形成する三次元網目構造

を破壊することによって増粘効果を消失させ内容物の流失によるべたつきを生じさ

せる 3)

34 粒状高分子の粘性

粒状高分子の粘性について粒状高分子はその粒経が小さいほど体積に対する表面

積が増え溶液内での内部摩擦力が大きくなる

また粒子同士が摩擦力を元に網目構造を形成するため網目構造の構成要因が直

鎖高分子や架橋高分子の高分子増粘剤と異なっている 4)

35 逆相マイクロエマルション重合法

後述する転相温度乳化法を用いて形成した5 μm~30 μm 形成したマイクロエマル

ション内において水溶性のモノマーを利用して行う乳化重合法の一種容易に極小の

5

ポリマーを合成することができる 5)

36 界面活性剤の概略

界面活性剤とは分子の構造が水になじみやすい部分(親水基)と油になじみやすい

部分(新油基)からできていて2つの物質の間の界面に集まりやすい性質を持ちそ

の界面の性質を著しく変える物質というのが界面活性剤の定義である

代表的な界面活性剤の特徴は界面における「吸着」と「ミセル形成」である 6)

もうひとつの代表的な作用として「可溶化」もある

37 エマルションの形成

界面活性剤に有機溶媒が取り囲まれて水に可溶化されたとき水溶液中に存在する

有機溶媒を界面活性剤が取り囲んだ液滴のことを OW エマルションと呼ぶ

有機溶媒中に水が可溶化される場合WOエマルションと呼ぶ

38 ノニオン界面活性剤

非イオン界面活性剤とも言う界面活性剤の内解離基を持たず電気的に中性な

界面活性剤で親水基は主にポリオキシエチレン基であるその特殊な性質上他の種類

の界面活性剤に無い性質として曇点と転相温度を持つ 今回使用するノニオン界面

活性剤はポリオキシエチレンオレイルエーテルであり基本式は以下のような形にな

る 7)

R-O(CH2CH2O)n-H

Scheme 1 ポリオキシエチレンオレイルエーテルの基本式

39 曇点

曇点とは透明な液体が相分離を起こして白濁する温度のこと

本実験においてはノニオン界面活性剤が加温によって界面活性効果を失い相分離

によって白濁する温度のこと 8)

310 転相温度乳化

ノニオン界面活性剤は加温によって界面張力が変化しWO型エマルションから

OW 型に変化するこの変化点のことを転相温度と言い転相温度において界

6

面張力が最低になっているので溶液エマルションが極小になる

またこの転相温度は界面活性剤に固有の値となるので二種の比較的性質の

近い界面活性剤を混合することで転相温度を操作し適切な温度で5 μm~30 μm

程度の直径を持つエマルションを作成する方法を転相温度乳化法と呼ぶ 10)

311 ラジカル重合

開始剤を用いてラジカル種を生成して行う重合法のことをラジカル重合法と言う

開始剤の分解要因によって熱光放射線ラジカル重合の三つに分けられる 10)

3111 ラジカル重合を構成する四反応

ラジカル重合は 4種類の反応が同時並行的に起こるそれぞれ以下の通りである 11)

開始反応

開始剤が熱光放射光などの要因によってラジカル開裂を起こしラジカル種を

生じさせる反応

成長反応

ラジカル種がモノマーと反応することでモノマー新たなラジカル種が生成する

反応これが連続することでポリマーが合成される

停止反応

連鎖していた成長反応が止まる反応主にラジカル種同士の反応による

連鎖移動反応

ラジカル種がモノマー以外の分子主に溶媒分子等と反応することでポリマー以

外の物質を合成する副反応

3112 乳化重合

乳化重合はモノマー液滴と呼ばれるモノマーを大量に保存しているエマルシ

ョンと反応場となる極小のセッケンミセルの二つの構造を持つ溶液中で行う不均

一系ラジカル重合の一種である 12)

成長反応が一段階進むたびにモノマー液滴から拡散の理論式に従ってモノマ

ーがミセル内に移動するこの一連の反応を繰り返して反応が進む 13)

そのため種々のラジカル重合法と比較して以下の特長がある 13)

セッケンミセル内に存在するラジカルが常に一つであるため停止反応が

7

起こりにくく比較的重合度の高いポリマーが生成しやすい

反応速度が拡散作用によって律速されかつセッケンミセルの周囲を大量

の溶媒分子が囲んでいるため除熱が容易であるという理由から熱暴走を起

こしにくいという利点がある

ミセル内で重合するため合成した高分子が絡まりやすく粒状の分子が作

成できる

Fig5 乳化重合模式図

312 MS(質量分析法)

質量分析法とは分子の質量すなわち分子量を測る手段でもあるまた分子を分解

したフラグメントの質量を測ることによって分子構造に関する情報を得るものでも

ある

高エネルギー電子が有機分子にぶつかると分子から電子がはじき出せれカチオ

ンラジカルが発生する

119825119815 rarr 119825119815++119838minus Scheme 2カチオンラジカルの発生

電子の衝突により大量のエネルギーが分子に与えられることで大部分のカチオン

ラジカルを生成した後フラグメントに分解するフラグメントは小さな破片となっ

て浮遊し正電荷や中性となる

このカチオンラジカルとフラグメントについてmz値を横軸相対強度を縦軸につ

いて取ったグラフから質量スペクトルを読み取る 14)

またMS(質量分析法)はイオン化の方法などによりいくつかに分けられ今回使用

したいのは高分子試料でもほとんどフラグメンテーションを起こさないソフトなイ

8

オン化法であるMALDI法 15)である

3121 MALDI法(マトリックス支援レーザー脱離イオン化法)

試料を 25-ヒドロキシ安息香酸のような適切なマトリックス上に吸着させて

ペレットを作成しレーザー光を短時間照射してイオン化する

エネルギーがマトリックスから試料に移動し[119872 + 119867119899 ]119899+に分解される 15)

MALDI法にはよく TOF型の MSが用いられている

4 実験

41 2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を用いた既存化粧品用増粘剤の合成

411 使用器具試薬

温度計ウォーターバスビーカー薬さじデシケーター

ジメチルアクリルアミド

式量9913

沸点81

発火点71

LD50(経口)316mgkg

LD50(経皮)580mgkg

製造和光純薬工業株式会社

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸

式量20725

融点200

LD50(経口)5400mgkg

製造和光純薬工業株式会社

NN-メチレンビスアクリルアミド

式量156

沸点4451

発火点215

LD50(経口)390mgkg

製造東京化成工業株式会社

9

へプタン

式量1002

沸点98

引火点-4

水に不溶

製造昭和化学

2-プロパノール

式量60

沸点82

発火点12

LD50(経口)区分外(GHS分類)

LD50(経皮)区分外(GHS分類)

製造昭和化学

ペルオキソ二硫酸アンモニウム

式量22820

冷水に易溶保存湿気厳禁

重合開始罪乳化重合レドックス重合に用いられる

製造和光純薬工業株式会社

412 実験手順

① ビーカーにイオン交換水ヘプタンポリオキシエチレンオレイルエーテル(2)

(8)をそれぞれ507 mL 507 mL489 g((2)(8)=23)加えて良く撹拌したも

のを入れる

② その後その後温度調節機能つきスターラーに乗せ白濁するまで加熱する

白濁した液が透明化するまで温度を落とし電気伝導率計を用いて溶液が転

相温度付近に保たれていることを確認する

③ 以上の操作が済んだ重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先

ほどのスターラーと同じ温度にしたウォーターバスに移し2-アクリルアミド

-2-メチルプロパンスルホン酸NNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 137 g

262 g入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始

剤としてメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

10

④ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

42 N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミドを用いた新規化粧品用増粘剤の合成

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を誘導体と入れ替える以外の

操作は 41に準ずる

親水基による増粘性の変化を観察するため架橋剤のモノマーに対する濃度比

は 2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を使用したポリマーが最も増

粘効果の高くなると報告された濃度比を用いる

421 使用器具試薬

使用器具は 41に準ずる

試薬

N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド

式量11513

沸点130

発火点189

製造東京化成工業株式会社

422 実験手順

① 412 ①②と同じように重合系を作成する

② 以上の操作が済んだ重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先

ほどのスターラーと同じ温度にしたウォーターバスに移しN-(2-ヒドロキシエ

チル)アクリルアミドNNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 076 g262

g 入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始剤と

してメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

③ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

11

43 (3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライドを用いた新規化粧品用

増粘剤の合成

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を誘導体と入れ替える以外の操作は

41に準ずる

親水基による増粘性の変化を観察するため架橋剤のモノマーに対する濃度比は 2-ア

クリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を使用したポリマーが最も増粘効果の高く

なると報告された濃度比を用いる

431 実験器具

実験器具は 41に準ずる

試薬

(3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライド

式量22074

沸点100

製造東京化成工業株式会社

432 実験手順

① 412 ①②と同じように重合系を作成する

② 重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先ほどのスターラーと

同じ温度にしたウォーターバスに移し (3-アクリルアミドプロピル)トリメチ

ルアミニウムクロライドNNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 123 mL

262 g入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始

剤としてメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

③ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

5 評価分析

耐塩性の高い増粘剤の耐塩性と使用感と親水基との関係を評価するために以下の二

つの測定を行い評価する

増粘剤の耐塩性の評価のために塩酸を増粘剤内部に取り込ませた状態で経時

12

による粘度の変化を観察する

また高分子の粘性を考える上で直鎖高分子の場合よく参考にされるのが平

均分子量でありこの値を測定することで親水基が変化した場合に平均分子

量が粒状高分子の粘性にも大きく影響するか確認する

精密に上の測定を行うには専用の機器が必要になるため機器メーカーの株式

会社エーアンドデイ様または東京理科大学理学部応用化学科駒場研究室に

また高分子の性質を考える上で重要視される平均分子量及び分子量分布に

ついては東京理科大学化学系機器センターにあるMALDI-TOF型質量分析計を管

理者の東京理科大学理学部応用化学科の根岸先生に測定に協力していただこうと

考えている

6 謝辞

東京理科大学工学部工業化学科 近藤行成教授

東京理科大学理学部化学科 遠藤恆平准教授

東京理科大学理学部応用化学科 駒場慎一教授

この研究を進めるに当たり大変お世話になった先輩先生方企業の皆さんに感謝の

意を表明します

参考文献

1) 小澤美奈子 基礎高分子科学 高分子学会 編 2010年 第六版 p979899

2) 小澤美奈子 基礎高分子科学 高分子学会 編 2010年 第六版 p99100

3) 金田 勇 逆相マイクロエマルション重合法による水膨潤性ミクロゲルの重合とその増

粘剤としての応用 2010年 p1

4) 小林敏勝 福井寛 きちん知りたい粒子表面と分散技術 日刊工業新聞社 p76

5) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 2006 p839 840 841

6) 皆川基 藤井富美子 洗剤洗浄 百科事典 大矢勝 2007年版 p4647

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8) 資生堂 HP httpswwwshiseidogroupjprddevelopmentformulationhtmlより 2015

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9) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 テクノシステム 2006 p321

10) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 テクノシステム 2006 p397

13

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11) 遠藤 剛 高分子の合成(上)~ラジカルカチオンアニオン重合~ 講談社 2010 3p

12) 佐藤壽彌編 高分子微粒子の技術と応用 シーエムシー出版 2004 p2526

13) 佐藤壽彌編 高分子微粒子の技術と応用 シーエムシー出版 2004 p27

14) マクマリー 上 8版 東京化学同人 p403404

15) John McMurry マクマリー有機化学(上) 第 8版 2013 p410411

Page 23: ゼオライトとキトサンを用いた 金属イオン除去剤の …kaken/studies/2015/2015-s-all.pdf1 東京理科大学I 部化学研究部 2015 年度春輪講書 ゼオライトとキトサンを用いた

12

4) ユージン Gロコー『ケイ素とシリコーン』シュプリンガーフェアラーク東京株式

会社1990 P85~113

5) 大木道則大沢利昭田中元治千原秀昭『化学大辞典』東京化学同人1989

b)P884 c)P865 d)P867 e)P1368 f)P1669

6)下井 守村田 磁『大学生のための基礎シリーズ 3 化学入門』東京化学同人2005

P229

7) 吉村壽次『化学辞典第 2版』森北出版2009a)P425

8)大勝 靖一『高分子添加剤の基礎化学と材料設計』株式会社 CMC出版2008P219~235

9)httpwwwfacekyowacojpsciencetheorywhat_contact_angleimg01jpg

2015416取得

1

東京理科大学Ⅰ部化学研究部 2015 年度春輪講書

シクロデキストリンを用いた

包接化合物の生成

水曜班

Ikemura M(2C)Ebihara K(2C) Kataoka T(2K)

ShibasakiK(2OK)TsumedaT(2C)NakaA(2OK)Murakoshi R(2OK)

OkawaT(2C)NoguchiA(2K)SekiguchiK(2K)HashimotoY(2C)

1 動機

6~8 分子のグルコース単位からなるα―14結合の環状オリゴ糖であるシクロデキストリ

ンはその環状構造に由来する包接化合物を生成する性質を示すその特異的な包接形成能

を利用した多くの製品が存在し現在もなお基礎研究分野応用研究分野での研究が行わ

れている

そこで私たちは 7 分子のグルコースからなるβ-シクロデキストリンと 3 種類のカルボン

酸を用いて包接化合物を形成させ酸の構造の違いによる包接作用の比較検討及びシクロ

デキストリンの一部のヒドロキシ基をエステル化させ水に対する溶解性及び包接形成能が

どのように変化するか考察する

2 原理

21 包接化合物

包接化合物は Schlenk によって名づけられたもので定義によると原子または分子が

結合してできた 3 次元構造の内部に適当な大きさの空孔があってその中に他の原子また

は分子が一定の組成比で入り込んで特定の結晶構造をつくっている物質ということにな

っている前者の骨組み構造の化合物のほうをホスト分子後者の入り込んでいる分子の

ほうをゲスト分子ともよんでいるがこのゲスト分子の大きさや形状はまったくホスト

構造によって規定されるだけで両者の間には弱い相互作用があっても水素結合のよう

な力はなくてもいっこうに構わないのであるこの包接化合物でのゲスト分子とホスト

構造との間の相互作用というのも物理的な吸着系に近いもので非常に弱い van der

Waals 力から高度に配向した双極子間力まで種々のものが存在する 1)

22 シクロデキストリンの包接能

シクロデキストリンはグルコース残基がα-1α-4 結合した環状のオリゴ糖で一般的

にグルコース残基が 6 個のα-シクロデキストリン7 個のβ-シクロデキストリン8個の

γ-シクロデキストリンが知られている

2

Fig1 α-シクロデキストリンの分子構造

シクロデキストリンの構造は底の抜けたバケツやドーナッツのような構造をしており

その環状構造の外側は多くの水酸基に由来する親水性領域が存在し内側の空洞の CH 基に

由来する疎水領域と相反する極性が一つの分子に共存しているがこの空洞内に様々な有

機化合物などを取り込むという包接作用がもっとも特徴的である

三種類のシクロデキストリンはそれぞれ空洞の大きさが相違するためそれぞれ包接化

合物を形成しやすいゲスト分子が存在する内部空洞が比較的小さいα-シクロデキストリ

ンは比較的小さい分子例えばエタノールメタノール等をβ-シクロデキストリンは汎

用性が広く各種ポリフェノールコレステロールメンソール等の香気成分芳香族化

合物等をよく包接するγ-シクロデキストリンは大きい分子である脂肪酸などを包接する

ことが知られている

シクロデキストリンの包接力の原動力は疎水性相互作用と分子間力が主なものとされて

いるつまりゲストは疎水性の高い分子あるいは分子の大きさが空洞にぴったりとフィッ

トするものほどシクロデキストリンがそのゲストを包接する力は大きく包接物を作り

やすい傾向がある逆に親水性が高くシクロデキストリンの空洞にフィットしないよう

なゲスト分子では包接現象は起こりにくいといえるしかしゲスト分子全体がシクロ

デキストリンの空洞内にとりこまれる必要はなく部分的にでも疎水性が高く空洞にフィ

ットすれば包接が可能となるつまりゲスト分子全体がシクロデキストリンより明ら

かに大きいものでも包接作用による効果が観察される場合がある 2)

Fig2 シクロデキストリンがゲストを包接する様子

23 水溶化シクロデキストリン

3

ブドウ糖やショ糖など通常糖質の水への溶解度は非常に高いしかし天然型シク

ロデキストリンは隣接する水酸基との水素結合の為3 種のシクロデキストリンの中では最

も高い水溶性を有するγ-シクロデキストリンであってもその溶解度は 25において水

100 mL に 23 g であり油性物質を包接した場合は一般的にその溶解度はさらに低くな

るそこで水への溶解度を改善するためにシクロデキストリン化学修飾体が製造されて

いるシクロデキストリンの水溶性を向上させる方法として隣接する水酸基をメチル基や

アセチル基などでエーテル化やエステル化する方法がある具体的には部分メチル化β-シ

クロデキストリンやモノアセチル化β-シクロデキストリンが工業的に生産されている

24 包接能の評価について

今回の実験ではゲスト分子としてカルボン酸を用いるシクロデキストリン及び水溶化

シクロデキストリンの包接能の評価については包接化合物に含まれているカルボン酸をア

ルカリで滴定することで求めることができる

3 実験

31 試薬sup3⁾

アジピン酸

分子式C6H10O4

分子量1464

mp153

bp3375 アジピン酸

クエン酸

分子式C6H8O7

分子量19213

mp156~157

クエン酸

シュウ酸

分子式C2H2O4

分子量9004

mp1895

シュウ酸

4

βシクロデキストリン

分子式(C6H10O5)7

分子量113500

n-ブタノール

分子式C4H10O

分子量7412 β-シクロデキストリン

bp1179

エタノール

分子式C2H6O n-ブタノール

分子量4607

mp-1145

bp7833

水酸化ナトリウム

組成式NaOH

分子量4000

mp328

bp1388

無水オクタン酸

分子式C₈H₃₀O₃

分子量27041

mp-1 無水オクタン酸⁶⁾

濃硫酸

分子式H₂SO₄

分子量9808

mp104

32 使用器具

300 mL ビーカーメスフラスコピペット三角フラスコ吸引漏斗吸引瓶ビュレッ

トスタンドボウルガラス棒

5

33 実験操作

331 エステル化シクロデキストリンの合成 ⁵⁾

1)三角フラスコにβ-シクロデキストリン 1 g を入れこれに無水オクタン酸 025 mL を加

える

2)触媒として 2-3 滴の濃硫酸を添加し攪拌する

3)約 10 分間放置してフラスコを氷桶に入れて冷やしガラス棒でフラスコの壁を強くこす

り結晶を析出させる

4)水 20 mL を加えさらに氷桶で冷やしながら残る結晶を析出させる

5)この結晶を濾分し水で洗ってから取り出して乾かして結晶を得る⁵⁾

332 包接化合物の形成

1)β-シクロデキストリン 1 g を水 100 mL に溶解させる

2)ピペットで 1 mL のカルボン酸を加えコルク栓をして静置する

3)1 週間程静置し包接化合物を吸引濾過する

4)上記の操作をカルボン酸(酢酸シュウ酸クエン酸)で行う

5)エステル化シクロデキストリンで同様の実験を行う

333 包接能の測定

1)よく乾燥した包接化合物約 1 g をメスフラスコで 100 mL 溶液とする

2)この溶液 20 mL にフェノールフタレインを指示薬として20 mL 加え 01 M 水酸化ナト

リウム標準溶液で滴定する⁴⁾

334 溶解度の測定

1)100 mL の水に 5 g の β-シクロデキストリンを溶解させる

2)沈殿をろ過し乾燥して重量を測定する

3)エステル化 β-シクロデキストリンで同様の作業を行う

参考文献

1) 竹本喜一包接化合物の化学東京化学同人1969p2

2) 辻堅司シクロデキストリンの応用技術株式会社シーエムシー出版2008p3-p9

3) 大木道則大沼利昭田中元治千原秀明化学大辞典東京化学同人1989

4) 発田寿々子教養の化学実験第 2 版学術図書出版社2014p119

5) 南篠正男先生と生徒のための化学実験共立出版株式会社1986p155

6) 「 chemical book 」〈 wwwchemicalbookcomchemicalProductPropert_JP_CB 〉

(2015418 アクセス)

1

東京理科大学Ⅰ部化学研究部 2015年度春輪講書

ダブルネットワークの合成と評価 木曜班

OnizukaM(2C)TanakaR(2C)YamamokaH(2K) OhiraM(2K)

1背景

現在高分子ゲルは紙おむつの高吸水性樹脂やソフトコンタクトレンズなど私たちの生

活において活躍しているしかし高分子ゲルは不均一な構造なため一般的に機械的強

度が弱いという欠点がある高分子ゲルの強度面での弱点を克服するために従来では

ゲルの構造を均一化して強度を上げるというアプローチがとられてきた

しかしながら材料の弾性とじん性は反相する因子として働くつまり大変形に耐え

られるゲルは弾性率を犠牲とし高弾性のゲルは小さい変形で破壊される

そこで私達木曜班は前述の問題の解決策と成り得るものとしてダブルネットワーク

ゲル(DNゲル)について注目した

2目的

既存に作られている DNゲルは溶媒に水を用いたハイドロゲルであるDNゲルはその

強度や柔軟性により生体内での人工関節に使用することが期待され研究がおこなわれて

いる木曜班では DNゲルを生体内の関節だけでなく機械の関節部の摩擦軽減材料として

の使用を提案するしかし従来の DNゲルは溶媒が水であることにより水の沸点である

100以上の条件下では性能の低下が問題視され高温になりうる機械への応用が困難で

ある

溶媒を水から有機溶媒に変更することで高温条件下でのゲルの機能維持を試みるとと

もに使用するモノマーを変更しその機能性を検討する

3原理

31 DNゲル

311ゲルの脆弱性

一般的なゲルはゼリーや豆腐のように僅かな力を加えただけで簡単に壊れるほど

弱いこの理由は 2つの現象により説明することができる

1)ゲルの内部に多数の欠陥が存在する

2)欠陥から発生した初期亀裂が容易に伝播する

前者はゲル内部の構造が不均一であることに由来するゲル合成時におけるモノマ

ーと架橋剤の反応性の違いにより不均一な重合がおこるあるいはゲル化溶液内の濃度

揺らぎが重合によって固定されることだと考えられている 1)こうしたゲルに力を加えた

2

時にゲルの弱い部分に力が集中してしまうため小さな力でも初期亀裂が生じてしまう

後者はゲル内部のポリマーの密度の低さから生じる一般的に物質内における亀裂

の進みやすさは破壊エネルギーU(Jm2)(単位面積あたりの破断面形成に費やされる仕事)

によって評価される架橋高分子材料の臨界破壊エネルギーUc(亀裂成長が起こる最小

の破壊エネルギー)は破断面の高分子鎖の数密度と架橋点間分子量に比例する 2)つま

りゲルのじん性(物質の破壊に対する抵抗の程度で粘り強さとも言い換えられる 3))はゲ

ル内のポリマーの密度には比例し架橋密度には反比例することがわかる

ゲルは 50~99wtの溶媒を含んでいて高分子の密度が非常に低い物質であるためゲ

ルの Ucはゴムなどの固体に比べてかなり小さいことが考えられる

これまでの高強度ゲル研究は主に前者の問題を解決するすなわち構造を均一化するこ

とでゲル内部の欠陥を極力減らして強度を改善しようという観点から行われてきた

312 ゲルの弾性率

高分子鎖が三次元架橋されたゲルはゴムと同じようにエントロピー弾性を持つ溶液

中に完全に湿潤した電気的に中性ゲルのせん断弾性率(横方向に対するバネ係数 4)であり

Young率 Eと E=3Gの関係式が成立する)は

GneucongkBT

b3Q-225

以上の式で表せられゲルの湿潤度 Qの増加にともないせん断弾性率Gneuは大きく低下

するここでkBはボルツマン定数Tは温度bは重合させたモノマーの大きさである 5)

一方溶液中に完全に湿潤した電解質ゲルのせん断弾性率は

GchacongkBT

b3Q-1

によって表せる 6)よって同じ湿潤度において電解質ゲルは中性ゲルよりせん断弾性率が

高いことが分かる

またゲルの湿潤度は架橋点重合 N(分子量)による溶液中に完全に湿潤した中性ゲル

の場合QasympN35であり電解質ゲル場合QasympN

32であるしたがって架橋密度を上げる

ことによりゲルの湿潤度が小さくなりせん断弾性率が上がる 3)4)

313 ゲルの破断歪と破断応力

架橋構造が均一と仮定した理想的なゲルの破断歪(ゲルが破壊するまでの変形 7))は架

(1)

(2)

3

橋点間高分子の伸びきった長さと高分子鎖に歪がない曲がった自然な状態での大きさ

の比として求められる溶媒中で完全に湿潤した中性ゲルの引っ張り破断歪はλBcongQ12で

ありQの増加により増加する一方湿潤することにより単位面積あたりの高分子

の本数が減るため破断応力は湿潤度 Qが大きくなることにより減少する故にQが大

きいゲルは伸びやすいが弱い応力で壊れる

電解質ゲルの場合高分子鎖はその解離しているイオンの浸透圧によって水中では

ほとんど伸びきった状態となっているその結果理想状態においても破断歪はλBcongQ19

になるこれは破断歪が小さくかつ湿潤度にあまり依存しないことを意味している 5)

以上のことより

1)架橋密度を上げる(架橋点間分子量を下げる)ことでゲルが固くて脆くなる

2)水中に完全に湿潤した高分子電解質ゲルは中性のゲルより硬くて脆い高弾性と変形は

相反するということが考えられる

314 DNゲルの高強度機構

DNゲルは強電解質をモノマーとする 1st networkゲル電気的に中性なモノマーを用

いる 2nd networkゲルを組み合わせることにより生成される前述した通りゲルにおける

弾性と靭性は常に相反する働きをするそれゆえに単一な物質で両方の性質を得るこ

とは原理的には不可能である同じ湿潤度において電解質ゲルと中性ゲルのせん断弾性

率の比はGchaGneucongQ125であるために両者の違いは湿潤度 Qが高いほど大きくなる

この性質を利用することにより電解質ゲルは硬い成分中性ゲルは軟らかい成分とし

て用いることができる

亀裂を含む DNゲルがある引張荷重を受けると応力集中の効果で最初に亀裂先端近傍

の電解質網目(1st network)が破壊され局所的にゲルが降伏する荷重がますと電解質網

目の破壊が次々に伝播し広範囲にわたるダメージゾーンが形成されていくこの過程

で非常にいい気なエネルギーが分散されるダメージゾーンがある大きさまで広がった

ときようやく亀裂先端に中性網目(2nd network)が十分に伸びて切断し亀裂が進行す

る 8)

4

Fig 1 DNゲルの破壊モデル 9)

32 光ラジカル重合

321 光分解

光重合開始剤に UVを当てることにより開裂がおきラジカルが発生する本研究にお

いては 1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンを用いる 10)

Scheme1 1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンの開裂 10)

ℎ120592

5

322 開始反応

UVを当て光開裂により生じたラジカルがビニル基の二重結合を攻撃し光重合開始剤

と炭素の間に σ結合を作り炭素原子にラジカルが存在することになる

Scheme2 ラジカルの生成

323 成長反応

Scheme2で生成したラジカルが他のモノマーを攻撃しσ結合を生じるそれが何回

も起こることにより分子鎖が成長する 6)

Scheme3 分子鎖の成長

324 停止反応

Scheme 3で成長した成長ラジカル同士が σ結合を作り分子鎖が生成する 7)

Scheme4 分子鎖の生成

4実験

41 DNゲルの合成

411 使用器具試薬

ビーカー乳鉢乳棒薬さじUVライトデシケーター

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸

分子式 C7H13NO4S

式量20724

融点160

用途1st networkゲルのモノマー

6

アクリル酸

分子式C3H4O2

式量7206

融点123

沸点1416

比重10511

危険性引火性(発火温度 360 )

用途1st networkゲルのモノマー

アクリロニトリルの加水分解アクロレインの酸化ニッケルカルボニルの存在下ア

セチレンと一酸化炭素と水との反応などにより合成される酢酸に似た刺激臭を持つ液

体水エタノールエーテルによく溶ける酸素の存在下容易に重合するプラス

チックの原料として用いられる

アクリルアミド

分子式C3H5NO

式量7108

融点845

沸点103

比重1122

用途2nd networkゲルのモノマー

アクリルニトリルを硫酸あるいは塩酸を処理して得られるフレーク状の結晶溶解

性(g100 ml溶媒30 )水 2155メタノール 155エタノール 862アセトン 631

酢酸エチル 126クロロホルム 266ベンゼン 0346ヘプタン 00068化学的に不安

定で冷暗所に保存する必要がある融点付近あるいは紫外線下で重合する重合の仕方

により水溶性不溶性のものが得られる

酢酸ビニル

分子式C4H6O2

式量8609

融点-932

沸点723

比重09317

用途2nd networkゲルのモノマー

無色の液体酸やアルカリよって容易に加水分解されてアセトアルデヒドと酢酸を生

じる熱光ラジカル開始剤によって重合する

7

メタクリル酸メチル

分子式C5H8O2

式量10012

融点-48

沸点1003

比重0936

用途2nd networkゲルのモノマー

無色透明で催涙性の芳香のある液体工業的にはアセトンシアノヒドリンにメタノー

ルと硫酸を作用させて合成する実験室的にはメテクリル酸メチルの重合物を 320

以上で乾留すると得られる一般に有機溶媒には溶けるがエチレングリコールグリセ

リンには溶けにくい重合しやすいので重合禁止剤としてヒドロキノンモノメチルエ

ーテル(65 ppm)を添加して保存する有機ガラスの製造ビニル系共重合体など広く

重合反応に用いられるまたメチル以外のアルコールのメタクリル酸エステルの合成

にも用いられる

NN-メチレンビスアクリルアミド

分子式C7H10N2O2

式量15417

融点300

用途架橋剤

1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン

分子式C13H16O2

式量20427

融点47-50

用途光重合開始剤

最大吸収波長は 260 nm付近にある

エチレングリコール

式量6207

融点 -126

沸点1976

比重11132

8

用途ゲル溶媒

重要な二価アルコールでエチレンオキシドの酸触媒による開環高温高圧下水と

の反応による開環などによって合成される吸湿性無色無臭の液体甘味を有する

が有毒である高沸点を有ししかも水酸化カリウム水酸化ナトリウムを溶解し水や

エタノールと任意の割合で混合するので有機合成における溶媒として広く用いられ

また塩基に対して安定なエチレンケタールの生成によるカルボニル基の保護に用いら

れるさらに酢酸ビニル系樹脂の溶剤や水と混ざり高沸点のため不凍液に用いら

れるなど広い用途を持っている

412 1st networkゲルの作成

1) 1st networkゲルのモノマー(電解質モノマー)架橋剤(NN-メチレンビスアクリルア

ミド)と光重合開始剤(1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)を水に溶解させた水

溶液を調製する

2) UVを 8時間照射して光ラジカル重合をさせる

3) 2)で合成した電解質ゲルを乳鉢に入れ適当なサイズに砕いた後デシケーター内で一

週間ほど乾燥させる

413水溶媒 DNゲルの作成

1) 2nd networkゲルのモノマー(中性モノマー)架橋剤(NN-メチレンビスアクリルアミ

ド)光重合開始剤(1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)をエチレングリコールに

溶解させた溶液を調製する

2) 乾燥した電解質ゲルを 1)で調製した水溶液に入れ電解質ゲルを十分に膨らませるそ

の後UVを照射し中性モノマーを光ラジカル重合させる

414エチレングリコール DNゲルの作成

1) 2nd networkゲルのモノマー(中性モノマー)架橋剤(NN-メチレンビスアクリルアミ

ド)光重合開始剤(1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)をエチレングリコールに

溶解させた溶液を調製する

2) 乾燥した電解質ゲルを 1)で調製したエチレングリコール溶液に入れ電解質ゲルを十分

に膨らませるその後UVを照射し中性モノマーを光ラジカル重合させる

42 DNゲルの評価

421引っ張り試験

使用するモノマーの変化によるゲルの性質の差を評価する引っ張り試験は

JIS-K-6251-7号に準拠する方法で測定する

9

1)DNゲルを X方向の長さ 50 mmY方向の長さ 75 mmZ方向の長さが 25 mmの大

きさに成形する

2)その一端部に X-Y平面に平行な切込みを入れて2つの引張端部を形成する

3) 引張端部を片方は固定しもう片方を一定の速度で引っ張るこのときの引っ張る力 F

を測定する

Fig 2 引っ張り試験 13)

422 摩擦試験

使用するモノマーの変化溶媒の変化によるゲルの性質の差を評価する

摩擦試験は東京理科大学工学部第一部機械工学科佐々木研究室に依頼する予定である

用いる機械は SVR4パーカー熱処理工業株式会社製であり180での高温での摩擦係

数の測定が可能である

摩擦測定は常温(20 )と高温(100 )で測定することを予定している

10

5 展望

51 DNゲルの合成

実験操作は溶液を調製した後UV照射するという簡易な手順なので合成は比較的早い

段階で成功すると考えられる

1st networkゲル合成に使うのは電解質モノマーなため水溶液のモノマーの濃度が低

いと湿潤度 Q が大きくなりせん断弾性率が下がり剛性が弱いゲルが出来上がると考え

られる

架橋剤を多く使用すると架橋密度を上がるので 2nd networkゲルが入り込む空洞が小

さくなるそのために架橋剤が多すぎると高弾性のゲルが生成できると考えられる

また同様な考えで2nd networkモノマーが含まれている水溶液に乾燥させた1st network

ゲルを入れる量が多くても高弾性のゲルが生成できると考えられる

52 DNゲルの物性

ゲルの高分子網目は基板から離れようとするときにゲルと基板の間に僅かな溶媒層

が生じるこの状態では溶媒層が潤滑油のような働きをして生じる摩擦力は小さなも

のとなるゲル周辺が高温な状態ではこの溶媒層が水の場合は蒸発してしまうので摩

擦力は増大すると考えられる溶媒を水からより沸点の高いエチレングリコールなどに

変えれば摩擦力は増大することはないと推測される 14)

11

参考文献

1) J Bastide and L LeiblerMacromolecules1988212647

2) G G J Lake and A G ThomasProc R Soc LondonA1967300108

3)越後亮三 機械工学辞典 朝倉書店 2007 p631

4) 伊藤勝悦 やさしく学べる材料力学 森北出版 2014 p14

5)SPObukhovMRubinstein and RHColby Macromolecules 1994273191-3198

6)MRubinsteinRHColbyAVDobrynin and JJaonnyElasticMacromolecules199629398-406

7) 大 阪 府 立 大 学 基 礎 講 座 材 料 の 強 度 と 破 壊

httpwwwengmmtrosakafu-uacjpresearchstrength-japdf2015413取得

8)聾剣萍「生命科学時代の新材料-高弾性高靱性ダブルネットワークゲル」高分子学会

『高分子』高分子科学最近の進歩58巻 5号2009p327-p331

9)YTanakaEurophysLett20077856005

10)蓮池幹治ラジカル重合ハンドブックエヌティーエス2010p444-p445

11)大津隆行ラジカル重合(Ⅰ)化学同人1971p80-p81

12)大津隆行ラジカル重合(Ⅰ)化学同人1971p153-p154

13)聾剣萍高分子ゲルおよびその製造方法特開 2009-185156 2008-02-05

14) 角五 彰龔 剣萍長田義仁「ゲルの摩擦と水和潤滑~生物の滑らかな運動解明への

アプローチ」日本生物物理学会『生物物理』47巻 4号2007p 253-p258

1

東京理科大学Ⅰ部化学研究部 2015年度春輪講書

耐塩性の高い新規化粧品用増粘剤の開発 2015年度金曜班

Nomata N(2OK)Seki M(2OK)Tin J(2OK)Takahashi R(2C)Watanabe A(2K)

Asai D(2K) Nishimiti D(2K)Yamamoto R(2K)

1 動機

化粧品において増粘剤の果たす役割は非常に大きい

化粧品にはクリーム状のモノが多くありその整形には増粘剤が必要不可欠である

また増粘剤は製剤だけでなく密閉効果や水和効果によって薬剤を皮膚に効率的に輸

送することに役立っている

この増粘剤であるが一つ課題がありアスコルビン酸塩(ビタミン C)のようなクロロ

基を持つ塩系薬剤をゲル中に含む場合経時によってべたつきといった使用感の悪化

につながるといった弱点があるこの問題の解決のために塩系薬剤への耐性の高い増

粘剤の開発が望まれている

塩系薬剤の高い美容効果からこの問題の解決に対する化粧剤企業のニーズは高くこ

の問題は長く研究が続けられていたが近年資生堂が逆相マイクロエマルション重

合法によって microスケールの粒状高分子を多数合成することによりできる増粘剤が高い

耐塩性を持ち使用感もよいことを発見したがこの粒状高分子増粘剤には未だ試み

られていないモノマーが多くある

そこで今年度の金曜班ではこの逆相マイクロエマルション重合法において未だ

試みられていない親水基を持つモノマーを利用して新規の増粘剤をつくることで粒

状高分子による増粘剤の耐塩性と肌触りと親水基の関係を調べ応用化に利すること

ができるのではないかと考え実験を行うこととした

2 背景

増粘剤とは水溶液をゲル化するために添加される物質であり化粧品において広く

用いられているこの増粘効果は従来では高分子鎖同士の分子間力や架橋で生じる

網目構造の結果生じる液中の摩擦力によるものである

動機で述べたように μスケールの粒状高分子が増粘剤として良質であることがわか

っているただし粒状高分子の形状は反応場であるセッケンミセルの大きさだけで

なく親水基やポリマーを構成する原子同士の分子間力によって変わる高分子の立体構

2

造にも影響されている

また粒状高分子の正確な一次構造を把握することは大変難しいことであるので

応用化のためには高分子の一次構造でなくモノマーによって粒状高分子特性の変化

を調べることが重要である

さらに従来用いられているポリマーがスルホ基とカルボキシル基を親水基とする

ものしか存在しない

以上の三点から酸以外の親水基をもつモノマーで増粘剤を合成したときその性

質はどうなるかを調べることでより製品として利用価値が高い粒状高分子増粘剤を合

成することができるのではないかと考えた

そこで新規モノマーとしては対照実験を行うためにアクリルアミド系モノマー

でかつ 2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸のスルホ基と同じ炭素骨格の先

端に親水基が存在するものとしてN-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド (3-アク

リルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライドを用いてそれぞれ親水基が酸

ではなくヒドロキシ基である場合親水基がアニオンではなくカチオンである場合に

ついて研究を行うこととした

この二種の以外にも水溶性のアクリルアミドポリマーは存在するが上記の条件を満

たさないまたは高価であるため本実験では用いないこととした

Fig1 N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド

Fig2 (3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライド

3

3 原理

31 一般的な液体の粘性

溶液の粘性は一般論では以下のように表される

Fig3のように XY平面を取り液面に平板を用意し引っ張った時挟まれた溶液内

には図のようなせん断流動が発生する高さ Yでのせん断速度は(119881

119889) 119910で与えられる

この時平板に挟まれた溶液を薄層の集まりと考えると隣り合う薄層間に摩擦が生

じるこの内部摩擦力が粘性力であるずり速度勾配が十分に小さければ平板の単位

面積当たりに生じる粘性力 Fv0はその勾配 Vd に比例するすなわち以下の式で表

され1205780を粘性係数と呼ぶこの値は溶媒固有である1)

1198651199070 = 1205780 (119881

119889)

Fig3 溶液ずりせん断図

32 増粘剤の粘性

増粘剤の多くは低分子の液体に高分子を溶かすと著しく粘性が高くなる性質を利

用している

この粘性の発生するメカニズムは下の Fig4において平板間の溶液を薄層に分けた

際高分子鎖は溶液の移動に伴って回転するこのとき溶液中の薄層は薄層間の摩

擦以外に高分子鎖との間にも摩擦が生じているこの摩擦の増加が粘性力の増加とな

る 2)

4

Fig4 高分子による粘性増加

また高分子鎖同士が分子間力によって結びつき三次元構造を形成することで内

部摩擦力は一層大きくなるこのため高分子による増粘効果は顕著である

架橋高分子では三次元構造が高分子鎖同士の分子間力による形成よりも強いものと

なるので増粘効果及びレオロジー特性に優れる 3)

33 塩系薬剤による粘性劣化のメカニズム

塩系薬剤とはビタミンC (アスコルビン酸塩)のようにクロロ基をもつ薬効物質のこ

とである

このクロロ基が直鎖高分子や架橋高分子がポリマー間で形成する三次元網目構造

を破壊することによって増粘効果を消失させ内容物の流失によるべたつきを生じさ

せる 3)

34 粒状高分子の粘性

粒状高分子の粘性について粒状高分子はその粒経が小さいほど体積に対する表面

積が増え溶液内での内部摩擦力が大きくなる

また粒子同士が摩擦力を元に網目構造を形成するため網目構造の構成要因が直

鎖高分子や架橋高分子の高分子増粘剤と異なっている 4)

35 逆相マイクロエマルション重合法

後述する転相温度乳化法を用いて形成した5 μm~30 μm 形成したマイクロエマル

ション内において水溶性のモノマーを利用して行う乳化重合法の一種容易に極小の

5

ポリマーを合成することができる 5)

36 界面活性剤の概略

界面活性剤とは分子の構造が水になじみやすい部分(親水基)と油になじみやすい

部分(新油基)からできていて2つの物質の間の界面に集まりやすい性質を持ちそ

の界面の性質を著しく変える物質というのが界面活性剤の定義である

代表的な界面活性剤の特徴は界面における「吸着」と「ミセル形成」である 6)

もうひとつの代表的な作用として「可溶化」もある

37 エマルションの形成

界面活性剤に有機溶媒が取り囲まれて水に可溶化されたとき水溶液中に存在する

有機溶媒を界面活性剤が取り囲んだ液滴のことを OW エマルションと呼ぶ

有機溶媒中に水が可溶化される場合WOエマルションと呼ぶ

38 ノニオン界面活性剤

非イオン界面活性剤とも言う界面活性剤の内解離基を持たず電気的に中性な

界面活性剤で親水基は主にポリオキシエチレン基であるその特殊な性質上他の種類

の界面活性剤に無い性質として曇点と転相温度を持つ 今回使用するノニオン界面

活性剤はポリオキシエチレンオレイルエーテルであり基本式は以下のような形にな

る 7)

R-O(CH2CH2O)n-H

Scheme 1 ポリオキシエチレンオレイルエーテルの基本式

39 曇点

曇点とは透明な液体が相分離を起こして白濁する温度のこと

本実験においてはノニオン界面活性剤が加温によって界面活性効果を失い相分離

によって白濁する温度のこと 8)

310 転相温度乳化

ノニオン界面活性剤は加温によって界面張力が変化しWO型エマルションから

OW 型に変化するこの変化点のことを転相温度と言い転相温度において界

6

面張力が最低になっているので溶液エマルションが極小になる

またこの転相温度は界面活性剤に固有の値となるので二種の比較的性質の

近い界面活性剤を混合することで転相温度を操作し適切な温度で5 μm~30 μm

程度の直径を持つエマルションを作成する方法を転相温度乳化法と呼ぶ 10)

311 ラジカル重合

開始剤を用いてラジカル種を生成して行う重合法のことをラジカル重合法と言う

開始剤の分解要因によって熱光放射線ラジカル重合の三つに分けられる 10)

3111 ラジカル重合を構成する四反応

ラジカル重合は 4種類の反応が同時並行的に起こるそれぞれ以下の通りである 11)

開始反応

開始剤が熱光放射光などの要因によってラジカル開裂を起こしラジカル種を

生じさせる反応

成長反応

ラジカル種がモノマーと反応することでモノマー新たなラジカル種が生成する

反応これが連続することでポリマーが合成される

停止反応

連鎖していた成長反応が止まる反応主にラジカル種同士の反応による

連鎖移動反応

ラジカル種がモノマー以外の分子主に溶媒分子等と反応することでポリマー以

外の物質を合成する副反応

3112 乳化重合

乳化重合はモノマー液滴と呼ばれるモノマーを大量に保存しているエマルシ

ョンと反応場となる極小のセッケンミセルの二つの構造を持つ溶液中で行う不均

一系ラジカル重合の一種である 12)

成長反応が一段階進むたびにモノマー液滴から拡散の理論式に従ってモノマ

ーがミセル内に移動するこの一連の反応を繰り返して反応が進む 13)

そのため種々のラジカル重合法と比較して以下の特長がある 13)

セッケンミセル内に存在するラジカルが常に一つであるため停止反応が

7

起こりにくく比較的重合度の高いポリマーが生成しやすい

反応速度が拡散作用によって律速されかつセッケンミセルの周囲を大量

の溶媒分子が囲んでいるため除熱が容易であるという理由から熱暴走を起

こしにくいという利点がある

ミセル内で重合するため合成した高分子が絡まりやすく粒状の分子が作

成できる

Fig5 乳化重合模式図

312 MS(質量分析法)

質量分析法とは分子の質量すなわち分子量を測る手段でもあるまた分子を分解

したフラグメントの質量を測ることによって分子構造に関する情報を得るものでも

ある

高エネルギー電子が有機分子にぶつかると分子から電子がはじき出せれカチオ

ンラジカルが発生する

119825119815 rarr 119825119815++119838minus Scheme 2カチオンラジカルの発生

電子の衝突により大量のエネルギーが分子に与えられることで大部分のカチオン

ラジカルを生成した後フラグメントに分解するフラグメントは小さな破片となっ

て浮遊し正電荷や中性となる

このカチオンラジカルとフラグメントについてmz値を横軸相対強度を縦軸につ

いて取ったグラフから質量スペクトルを読み取る 14)

またMS(質量分析法)はイオン化の方法などによりいくつかに分けられ今回使用

したいのは高分子試料でもほとんどフラグメンテーションを起こさないソフトなイ

8

オン化法であるMALDI法 15)である

3121 MALDI法(マトリックス支援レーザー脱離イオン化法)

試料を 25-ヒドロキシ安息香酸のような適切なマトリックス上に吸着させて

ペレットを作成しレーザー光を短時間照射してイオン化する

エネルギーがマトリックスから試料に移動し[119872 + 119867119899 ]119899+に分解される 15)

MALDI法にはよく TOF型の MSが用いられている

4 実験

41 2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を用いた既存化粧品用増粘剤の合成

411 使用器具試薬

温度計ウォーターバスビーカー薬さじデシケーター

ジメチルアクリルアミド

式量9913

沸点81

発火点71

LD50(経口)316mgkg

LD50(経皮)580mgkg

製造和光純薬工業株式会社

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸

式量20725

融点200

LD50(経口)5400mgkg

製造和光純薬工業株式会社

NN-メチレンビスアクリルアミド

式量156

沸点4451

発火点215

LD50(経口)390mgkg

製造東京化成工業株式会社

9

へプタン

式量1002

沸点98

引火点-4

水に不溶

製造昭和化学

2-プロパノール

式量60

沸点82

発火点12

LD50(経口)区分外(GHS分類)

LD50(経皮)区分外(GHS分類)

製造昭和化学

ペルオキソ二硫酸アンモニウム

式量22820

冷水に易溶保存湿気厳禁

重合開始罪乳化重合レドックス重合に用いられる

製造和光純薬工業株式会社

412 実験手順

① ビーカーにイオン交換水ヘプタンポリオキシエチレンオレイルエーテル(2)

(8)をそれぞれ507 mL 507 mL489 g((2)(8)=23)加えて良く撹拌したも

のを入れる

② その後その後温度調節機能つきスターラーに乗せ白濁するまで加熱する

白濁した液が透明化するまで温度を落とし電気伝導率計を用いて溶液が転

相温度付近に保たれていることを確認する

③ 以上の操作が済んだ重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先

ほどのスターラーと同じ温度にしたウォーターバスに移し2-アクリルアミド

-2-メチルプロパンスルホン酸NNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 137 g

262 g入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始

剤としてメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

10

④ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

42 N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミドを用いた新規化粧品用増粘剤の合成

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を誘導体と入れ替える以外の

操作は 41に準ずる

親水基による増粘性の変化を観察するため架橋剤のモノマーに対する濃度比

は 2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を使用したポリマーが最も増

粘効果の高くなると報告された濃度比を用いる

421 使用器具試薬

使用器具は 41に準ずる

試薬

N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド

式量11513

沸点130

発火点189

製造東京化成工業株式会社

422 実験手順

① 412 ①②と同じように重合系を作成する

② 以上の操作が済んだ重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先

ほどのスターラーと同じ温度にしたウォーターバスに移しN-(2-ヒドロキシエ

チル)アクリルアミドNNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 076 g262

g 入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始剤と

してメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

③ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

11

43 (3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライドを用いた新規化粧品用

増粘剤の合成

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を誘導体と入れ替える以外の操作は

41に準ずる

親水基による増粘性の変化を観察するため架橋剤のモノマーに対する濃度比は 2-ア

クリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を使用したポリマーが最も増粘効果の高く

なると報告された濃度比を用いる

431 実験器具

実験器具は 41に準ずる

試薬

(3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライド

式量22074

沸点100

製造東京化成工業株式会社

432 実験手順

① 412 ①②と同じように重合系を作成する

② 重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先ほどのスターラーと

同じ温度にしたウォーターバスに移し (3-アクリルアミドプロピル)トリメチ

ルアミニウムクロライドNNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 123 mL

262 g入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始

剤としてメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

③ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

5 評価分析

耐塩性の高い増粘剤の耐塩性と使用感と親水基との関係を評価するために以下の二

つの測定を行い評価する

増粘剤の耐塩性の評価のために塩酸を増粘剤内部に取り込ませた状態で経時

12

による粘度の変化を観察する

また高分子の粘性を考える上で直鎖高分子の場合よく参考にされるのが平

均分子量でありこの値を測定することで親水基が変化した場合に平均分子

量が粒状高分子の粘性にも大きく影響するか確認する

精密に上の測定を行うには専用の機器が必要になるため機器メーカーの株式

会社エーアンドデイ様または東京理科大学理学部応用化学科駒場研究室に

また高分子の性質を考える上で重要視される平均分子量及び分子量分布に

ついては東京理科大学化学系機器センターにあるMALDI-TOF型質量分析計を管

理者の東京理科大学理学部応用化学科の根岸先生に測定に協力していただこうと

考えている

6 謝辞

東京理科大学工学部工業化学科 近藤行成教授

東京理科大学理学部化学科 遠藤恆平准教授

東京理科大学理学部応用化学科 駒場慎一教授

この研究を進めるに当たり大変お世話になった先輩先生方企業の皆さんに感謝の

意を表明します

参考文献

1) 小澤美奈子 基礎高分子科学 高分子学会 編 2010年 第六版 p979899

2) 小澤美奈子 基礎高分子科学 高分子学会 編 2010年 第六版 p99100

3) 金田 勇 逆相マイクロエマルション重合法による水膨潤性ミクロゲルの重合とその増

粘剤としての応用 2010年 p1

4) 小林敏勝 福井寛 きちん知りたい粒子表面と分散技術 日刊工業新聞社 p76

5) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 2006 p839 840 841

6) 皆川基 藤井富美子 洗剤洗浄 百科事典 大矢勝 2007年版 p4647

7) 日本産業洗浄協議会編 わかりやすい界面活性剤 工業調査会 2003 p373839

8) 資生堂 HP httpswwwshiseidogroupjprddevelopmentformulationhtmlより 2015

44取得

9) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 テクノシステム 2006 p321

10) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 テクノシステム 2006 p397

13

398399

11) 遠藤 剛 高分子の合成(上)~ラジカルカチオンアニオン重合~ 講談社 2010 3p

12) 佐藤壽彌編 高分子微粒子の技術と応用 シーエムシー出版 2004 p2526

13) 佐藤壽彌編 高分子微粒子の技術と応用 シーエムシー出版 2004 p27

14) マクマリー 上 8版 東京化学同人 p403404

15) John McMurry マクマリー有機化学(上) 第 8版 2013 p410411

Page 24: ゼオライトとキトサンを用いた 金属イオン除去剤の …kaken/studies/2015/2015-s-all.pdf1 東京理科大学I 部化学研究部 2015 年度春輪講書 ゼオライトとキトサンを用いた

1

東京理科大学Ⅰ部化学研究部 2015 年度春輪講書

シクロデキストリンを用いた

包接化合物の生成

水曜班

Ikemura M(2C)Ebihara K(2C) Kataoka T(2K)

ShibasakiK(2OK)TsumedaT(2C)NakaA(2OK)Murakoshi R(2OK)

OkawaT(2C)NoguchiA(2K)SekiguchiK(2K)HashimotoY(2C)

1 動機

6~8 分子のグルコース単位からなるα―14結合の環状オリゴ糖であるシクロデキストリ

ンはその環状構造に由来する包接化合物を生成する性質を示すその特異的な包接形成能

を利用した多くの製品が存在し現在もなお基礎研究分野応用研究分野での研究が行わ

れている

そこで私たちは 7 分子のグルコースからなるβ-シクロデキストリンと 3 種類のカルボン

酸を用いて包接化合物を形成させ酸の構造の違いによる包接作用の比較検討及びシクロ

デキストリンの一部のヒドロキシ基をエステル化させ水に対する溶解性及び包接形成能が

どのように変化するか考察する

2 原理

21 包接化合物

包接化合物は Schlenk によって名づけられたもので定義によると原子または分子が

結合してできた 3 次元構造の内部に適当な大きさの空孔があってその中に他の原子また

は分子が一定の組成比で入り込んで特定の結晶構造をつくっている物質ということにな

っている前者の骨組み構造の化合物のほうをホスト分子後者の入り込んでいる分子の

ほうをゲスト分子ともよんでいるがこのゲスト分子の大きさや形状はまったくホスト

構造によって規定されるだけで両者の間には弱い相互作用があっても水素結合のよう

な力はなくてもいっこうに構わないのであるこの包接化合物でのゲスト分子とホスト

構造との間の相互作用というのも物理的な吸着系に近いもので非常に弱い van der

Waals 力から高度に配向した双極子間力まで種々のものが存在する 1)

22 シクロデキストリンの包接能

シクロデキストリンはグルコース残基がα-1α-4 結合した環状のオリゴ糖で一般的

にグルコース残基が 6 個のα-シクロデキストリン7 個のβ-シクロデキストリン8個の

γ-シクロデキストリンが知られている

2

Fig1 α-シクロデキストリンの分子構造

シクロデキストリンの構造は底の抜けたバケツやドーナッツのような構造をしており

その環状構造の外側は多くの水酸基に由来する親水性領域が存在し内側の空洞の CH 基に

由来する疎水領域と相反する極性が一つの分子に共存しているがこの空洞内に様々な有

機化合物などを取り込むという包接作用がもっとも特徴的である

三種類のシクロデキストリンはそれぞれ空洞の大きさが相違するためそれぞれ包接化

合物を形成しやすいゲスト分子が存在する内部空洞が比較的小さいα-シクロデキストリ

ンは比較的小さい分子例えばエタノールメタノール等をβ-シクロデキストリンは汎

用性が広く各種ポリフェノールコレステロールメンソール等の香気成分芳香族化

合物等をよく包接するγ-シクロデキストリンは大きい分子である脂肪酸などを包接する

ことが知られている

シクロデキストリンの包接力の原動力は疎水性相互作用と分子間力が主なものとされて

いるつまりゲストは疎水性の高い分子あるいは分子の大きさが空洞にぴったりとフィッ

トするものほどシクロデキストリンがそのゲストを包接する力は大きく包接物を作り

やすい傾向がある逆に親水性が高くシクロデキストリンの空洞にフィットしないよう

なゲスト分子では包接現象は起こりにくいといえるしかしゲスト分子全体がシクロ

デキストリンの空洞内にとりこまれる必要はなく部分的にでも疎水性が高く空洞にフィ

ットすれば包接が可能となるつまりゲスト分子全体がシクロデキストリンより明ら

かに大きいものでも包接作用による効果が観察される場合がある 2)

Fig2 シクロデキストリンがゲストを包接する様子

23 水溶化シクロデキストリン

3

ブドウ糖やショ糖など通常糖質の水への溶解度は非常に高いしかし天然型シク

ロデキストリンは隣接する水酸基との水素結合の為3 種のシクロデキストリンの中では最

も高い水溶性を有するγ-シクロデキストリンであってもその溶解度は 25において水

100 mL に 23 g であり油性物質を包接した場合は一般的にその溶解度はさらに低くな

るそこで水への溶解度を改善するためにシクロデキストリン化学修飾体が製造されて

いるシクロデキストリンの水溶性を向上させる方法として隣接する水酸基をメチル基や

アセチル基などでエーテル化やエステル化する方法がある具体的には部分メチル化β-シ

クロデキストリンやモノアセチル化β-シクロデキストリンが工業的に生産されている

24 包接能の評価について

今回の実験ではゲスト分子としてカルボン酸を用いるシクロデキストリン及び水溶化

シクロデキストリンの包接能の評価については包接化合物に含まれているカルボン酸をア

ルカリで滴定することで求めることができる

3 実験

31 試薬sup3⁾

アジピン酸

分子式C6H10O4

分子量1464

mp153

bp3375 アジピン酸

クエン酸

分子式C6H8O7

分子量19213

mp156~157

クエン酸

シュウ酸

分子式C2H2O4

分子量9004

mp1895

シュウ酸

4

βシクロデキストリン

分子式(C6H10O5)7

分子量113500

n-ブタノール

分子式C4H10O

分子量7412 β-シクロデキストリン

bp1179

エタノール

分子式C2H6O n-ブタノール

分子量4607

mp-1145

bp7833

水酸化ナトリウム

組成式NaOH

分子量4000

mp328

bp1388

無水オクタン酸

分子式C₈H₃₀O₃

分子量27041

mp-1 無水オクタン酸⁶⁾

濃硫酸

分子式H₂SO₄

分子量9808

mp104

32 使用器具

300 mL ビーカーメスフラスコピペット三角フラスコ吸引漏斗吸引瓶ビュレッ

トスタンドボウルガラス棒

5

33 実験操作

331 エステル化シクロデキストリンの合成 ⁵⁾

1)三角フラスコにβ-シクロデキストリン 1 g を入れこれに無水オクタン酸 025 mL を加

える

2)触媒として 2-3 滴の濃硫酸を添加し攪拌する

3)約 10 分間放置してフラスコを氷桶に入れて冷やしガラス棒でフラスコの壁を強くこす

り結晶を析出させる

4)水 20 mL を加えさらに氷桶で冷やしながら残る結晶を析出させる

5)この結晶を濾分し水で洗ってから取り出して乾かして結晶を得る⁵⁾

332 包接化合物の形成

1)β-シクロデキストリン 1 g を水 100 mL に溶解させる

2)ピペットで 1 mL のカルボン酸を加えコルク栓をして静置する

3)1 週間程静置し包接化合物を吸引濾過する

4)上記の操作をカルボン酸(酢酸シュウ酸クエン酸)で行う

5)エステル化シクロデキストリンで同様の実験を行う

333 包接能の測定

1)よく乾燥した包接化合物約 1 g をメスフラスコで 100 mL 溶液とする

2)この溶液 20 mL にフェノールフタレインを指示薬として20 mL 加え 01 M 水酸化ナト

リウム標準溶液で滴定する⁴⁾

334 溶解度の測定

1)100 mL の水に 5 g の β-シクロデキストリンを溶解させる

2)沈殿をろ過し乾燥して重量を測定する

3)エステル化 β-シクロデキストリンで同様の作業を行う

参考文献

1) 竹本喜一包接化合物の化学東京化学同人1969p2

2) 辻堅司シクロデキストリンの応用技術株式会社シーエムシー出版2008p3-p9

3) 大木道則大沼利昭田中元治千原秀明化学大辞典東京化学同人1989

4) 発田寿々子教養の化学実験第 2 版学術図書出版社2014p119

5) 南篠正男先生と生徒のための化学実験共立出版株式会社1986p155

6) 「 chemical book 」〈 wwwchemicalbookcomchemicalProductPropert_JP_CB 〉

(2015418 アクセス)

1

東京理科大学Ⅰ部化学研究部 2015年度春輪講書

ダブルネットワークの合成と評価 木曜班

OnizukaM(2C)TanakaR(2C)YamamokaH(2K) OhiraM(2K)

1背景

現在高分子ゲルは紙おむつの高吸水性樹脂やソフトコンタクトレンズなど私たちの生

活において活躍しているしかし高分子ゲルは不均一な構造なため一般的に機械的強

度が弱いという欠点がある高分子ゲルの強度面での弱点を克服するために従来では

ゲルの構造を均一化して強度を上げるというアプローチがとられてきた

しかしながら材料の弾性とじん性は反相する因子として働くつまり大変形に耐え

られるゲルは弾性率を犠牲とし高弾性のゲルは小さい変形で破壊される

そこで私達木曜班は前述の問題の解決策と成り得るものとしてダブルネットワーク

ゲル(DNゲル)について注目した

2目的

既存に作られている DNゲルは溶媒に水を用いたハイドロゲルであるDNゲルはその

強度や柔軟性により生体内での人工関節に使用することが期待され研究がおこなわれて

いる木曜班では DNゲルを生体内の関節だけでなく機械の関節部の摩擦軽減材料として

の使用を提案するしかし従来の DNゲルは溶媒が水であることにより水の沸点である

100以上の条件下では性能の低下が問題視され高温になりうる機械への応用が困難で

ある

溶媒を水から有機溶媒に変更することで高温条件下でのゲルの機能維持を試みるとと

もに使用するモノマーを変更しその機能性を検討する

3原理

31 DNゲル

311ゲルの脆弱性

一般的なゲルはゼリーや豆腐のように僅かな力を加えただけで簡単に壊れるほど

弱いこの理由は 2つの現象により説明することができる

1)ゲルの内部に多数の欠陥が存在する

2)欠陥から発生した初期亀裂が容易に伝播する

前者はゲル内部の構造が不均一であることに由来するゲル合成時におけるモノマ

ーと架橋剤の反応性の違いにより不均一な重合がおこるあるいはゲル化溶液内の濃度

揺らぎが重合によって固定されることだと考えられている 1)こうしたゲルに力を加えた

2

時にゲルの弱い部分に力が集中してしまうため小さな力でも初期亀裂が生じてしまう

後者はゲル内部のポリマーの密度の低さから生じる一般的に物質内における亀裂

の進みやすさは破壊エネルギーU(Jm2)(単位面積あたりの破断面形成に費やされる仕事)

によって評価される架橋高分子材料の臨界破壊エネルギーUc(亀裂成長が起こる最小

の破壊エネルギー)は破断面の高分子鎖の数密度と架橋点間分子量に比例する 2)つま

りゲルのじん性(物質の破壊に対する抵抗の程度で粘り強さとも言い換えられる 3))はゲ

ル内のポリマーの密度には比例し架橋密度には反比例することがわかる

ゲルは 50~99wtの溶媒を含んでいて高分子の密度が非常に低い物質であるためゲ

ルの Ucはゴムなどの固体に比べてかなり小さいことが考えられる

これまでの高強度ゲル研究は主に前者の問題を解決するすなわち構造を均一化するこ

とでゲル内部の欠陥を極力減らして強度を改善しようという観点から行われてきた

312 ゲルの弾性率

高分子鎖が三次元架橋されたゲルはゴムと同じようにエントロピー弾性を持つ溶液

中に完全に湿潤した電気的に中性ゲルのせん断弾性率(横方向に対するバネ係数 4)であり

Young率 Eと E=3Gの関係式が成立する)は

GneucongkBT

b3Q-225

以上の式で表せられゲルの湿潤度 Qの増加にともないせん断弾性率Gneuは大きく低下

するここでkBはボルツマン定数Tは温度bは重合させたモノマーの大きさである 5)

一方溶液中に完全に湿潤した電解質ゲルのせん断弾性率は

GchacongkBT

b3Q-1

によって表せる 6)よって同じ湿潤度において電解質ゲルは中性ゲルよりせん断弾性率が

高いことが分かる

またゲルの湿潤度は架橋点重合 N(分子量)による溶液中に完全に湿潤した中性ゲル

の場合QasympN35であり電解質ゲル場合QasympN

32であるしたがって架橋密度を上げる

ことによりゲルの湿潤度が小さくなりせん断弾性率が上がる 3)4)

313 ゲルの破断歪と破断応力

架橋構造が均一と仮定した理想的なゲルの破断歪(ゲルが破壊するまでの変形 7))は架

(1)

(2)

3

橋点間高分子の伸びきった長さと高分子鎖に歪がない曲がった自然な状態での大きさ

の比として求められる溶媒中で完全に湿潤した中性ゲルの引っ張り破断歪はλBcongQ12で

ありQの増加により増加する一方湿潤することにより単位面積あたりの高分子

の本数が減るため破断応力は湿潤度 Qが大きくなることにより減少する故にQが大

きいゲルは伸びやすいが弱い応力で壊れる

電解質ゲルの場合高分子鎖はその解離しているイオンの浸透圧によって水中では

ほとんど伸びきった状態となっているその結果理想状態においても破断歪はλBcongQ19

になるこれは破断歪が小さくかつ湿潤度にあまり依存しないことを意味している 5)

以上のことより

1)架橋密度を上げる(架橋点間分子量を下げる)ことでゲルが固くて脆くなる

2)水中に完全に湿潤した高分子電解質ゲルは中性のゲルより硬くて脆い高弾性と変形は

相反するということが考えられる

314 DNゲルの高強度機構

DNゲルは強電解質をモノマーとする 1st networkゲル電気的に中性なモノマーを用

いる 2nd networkゲルを組み合わせることにより生成される前述した通りゲルにおける

弾性と靭性は常に相反する働きをするそれゆえに単一な物質で両方の性質を得るこ

とは原理的には不可能である同じ湿潤度において電解質ゲルと中性ゲルのせん断弾性

率の比はGchaGneucongQ125であるために両者の違いは湿潤度 Qが高いほど大きくなる

この性質を利用することにより電解質ゲルは硬い成分中性ゲルは軟らかい成分とし

て用いることができる

亀裂を含む DNゲルがある引張荷重を受けると応力集中の効果で最初に亀裂先端近傍

の電解質網目(1st network)が破壊され局所的にゲルが降伏する荷重がますと電解質網

目の破壊が次々に伝播し広範囲にわたるダメージゾーンが形成されていくこの過程

で非常にいい気なエネルギーが分散されるダメージゾーンがある大きさまで広がった

ときようやく亀裂先端に中性網目(2nd network)が十分に伸びて切断し亀裂が進行す

る 8)

4

Fig 1 DNゲルの破壊モデル 9)

32 光ラジカル重合

321 光分解

光重合開始剤に UVを当てることにより開裂がおきラジカルが発生する本研究にお

いては 1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンを用いる 10)

Scheme1 1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンの開裂 10)

ℎ120592

5

322 開始反応

UVを当て光開裂により生じたラジカルがビニル基の二重結合を攻撃し光重合開始剤

と炭素の間に σ結合を作り炭素原子にラジカルが存在することになる

Scheme2 ラジカルの生成

323 成長反応

Scheme2で生成したラジカルが他のモノマーを攻撃しσ結合を生じるそれが何回

も起こることにより分子鎖が成長する 6)

Scheme3 分子鎖の成長

324 停止反応

Scheme 3で成長した成長ラジカル同士が σ結合を作り分子鎖が生成する 7)

Scheme4 分子鎖の生成

4実験

41 DNゲルの合成

411 使用器具試薬

ビーカー乳鉢乳棒薬さじUVライトデシケーター

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸

分子式 C7H13NO4S

式量20724

融点160

用途1st networkゲルのモノマー

6

アクリル酸

分子式C3H4O2

式量7206

融点123

沸点1416

比重10511

危険性引火性(発火温度 360 )

用途1st networkゲルのモノマー

アクリロニトリルの加水分解アクロレインの酸化ニッケルカルボニルの存在下ア

セチレンと一酸化炭素と水との反応などにより合成される酢酸に似た刺激臭を持つ液

体水エタノールエーテルによく溶ける酸素の存在下容易に重合するプラス

チックの原料として用いられる

アクリルアミド

分子式C3H5NO

式量7108

融点845

沸点103

比重1122

用途2nd networkゲルのモノマー

アクリルニトリルを硫酸あるいは塩酸を処理して得られるフレーク状の結晶溶解

性(g100 ml溶媒30 )水 2155メタノール 155エタノール 862アセトン 631

酢酸エチル 126クロロホルム 266ベンゼン 0346ヘプタン 00068化学的に不安

定で冷暗所に保存する必要がある融点付近あるいは紫外線下で重合する重合の仕方

により水溶性不溶性のものが得られる

酢酸ビニル

分子式C4H6O2

式量8609

融点-932

沸点723

比重09317

用途2nd networkゲルのモノマー

無色の液体酸やアルカリよって容易に加水分解されてアセトアルデヒドと酢酸を生

じる熱光ラジカル開始剤によって重合する

7

メタクリル酸メチル

分子式C5H8O2

式量10012

融点-48

沸点1003

比重0936

用途2nd networkゲルのモノマー

無色透明で催涙性の芳香のある液体工業的にはアセトンシアノヒドリンにメタノー

ルと硫酸を作用させて合成する実験室的にはメテクリル酸メチルの重合物を 320

以上で乾留すると得られる一般に有機溶媒には溶けるがエチレングリコールグリセ

リンには溶けにくい重合しやすいので重合禁止剤としてヒドロキノンモノメチルエ

ーテル(65 ppm)を添加して保存する有機ガラスの製造ビニル系共重合体など広く

重合反応に用いられるまたメチル以外のアルコールのメタクリル酸エステルの合成

にも用いられる

NN-メチレンビスアクリルアミド

分子式C7H10N2O2

式量15417

融点300

用途架橋剤

1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン

分子式C13H16O2

式量20427

融点47-50

用途光重合開始剤

最大吸収波長は 260 nm付近にある

エチレングリコール

式量6207

融点 -126

沸点1976

比重11132

8

用途ゲル溶媒

重要な二価アルコールでエチレンオキシドの酸触媒による開環高温高圧下水と

の反応による開環などによって合成される吸湿性無色無臭の液体甘味を有する

が有毒である高沸点を有ししかも水酸化カリウム水酸化ナトリウムを溶解し水や

エタノールと任意の割合で混合するので有機合成における溶媒として広く用いられ

また塩基に対して安定なエチレンケタールの生成によるカルボニル基の保護に用いら

れるさらに酢酸ビニル系樹脂の溶剤や水と混ざり高沸点のため不凍液に用いら

れるなど広い用途を持っている

412 1st networkゲルの作成

1) 1st networkゲルのモノマー(電解質モノマー)架橋剤(NN-メチレンビスアクリルア

ミド)と光重合開始剤(1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)を水に溶解させた水

溶液を調製する

2) UVを 8時間照射して光ラジカル重合をさせる

3) 2)で合成した電解質ゲルを乳鉢に入れ適当なサイズに砕いた後デシケーター内で一

週間ほど乾燥させる

413水溶媒 DNゲルの作成

1) 2nd networkゲルのモノマー(中性モノマー)架橋剤(NN-メチレンビスアクリルアミ

ド)光重合開始剤(1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)をエチレングリコールに

溶解させた溶液を調製する

2) 乾燥した電解質ゲルを 1)で調製した水溶液に入れ電解質ゲルを十分に膨らませるそ

の後UVを照射し中性モノマーを光ラジカル重合させる

414エチレングリコール DNゲルの作成

1) 2nd networkゲルのモノマー(中性モノマー)架橋剤(NN-メチレンビスアクリルアミ

ド)光重合開始剤(1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)をエチレングリコールに

溶解させた溶液を調製する

2) 乾燥した電解質ゲルを 1)で調製したエチレングリコール溶液に入れ電解質ゲルを十分

に膨らませるその後UVを照射し中性モノマーを光ラジカル重合させる

42 DNゲルの評価

421引っ張り試験

使用するモノマーの変化によるゲルの性質の差を評価する引っ張り試験は

JIS-K-6251-7号に準拠する方法で測定する

9

1)DNゲルを X方向の長さ 50 mmY方向の長さ 75 mmZ方向の長さが 25 mmの大

きさに成形する

2)その一端部に X-Y平面に平行な切込みを入れて2つの引張端部を形成する

3) 引張端部を片方は固定しもう片方を一定の速度で引っ張るこのときの引っ張る力 F

を測定する

Fig 2 引っ張り試験 13)

422 摩擦試験

使用するモノマーの変化溶媒の変化によるゲルの性質の差を評価する

摩擦試験は東京理科大学工学部第一部機械工学科佐々木研究室に依頼する予定である

用いる機械は SVR4パーカー熱処理工業株式会社製であり180での高温での摩擦係

数の測定が可能である

摩擦測定は常温(20 )と高温(100 )で測定することを予定している

10

5 展望

51 DNゲルの合成

実験操作は溶液を調製した後UV照射するという簡易な手順なので合成は比較的早い

段階で成功すると考えられる

1st networkゲル合成に使うのは電解質モノマーなため水溶液のモノマーの濃度が低

いと湿潤度 Q が大きくなりせん断弾性率が下がり剛性が弱いゲルが出来上がると考え

られる

架橋剤を多く使用すると架橋密度を上がるので 2nd networkゲルが入り込む空洞が小

さくなるそのために架橋剤が多すぎると高弾性のゲルが生成できると考えられる

また同様な考えで2nd networkモノマーが含まれている水溶液に乾燥させた1st network

ゲルを入れる量が多くても高弾性のゲルが生成できると考えられる

52 DNゲルの物性

ゲルの高分子網目は基板から離れようとするときにゲルと基板の間に僅かな溶媒層

が生じるこの状態では溶媒層が潤滑油のような働きをして生じる摩擦力は小さなも

のとなるゲル周辺が高温な状態ではこの溶媒層が水の場合は蒸発してしまうので摩

擦力は増大すると考えられる溶媒を水からより沸点の高いエチレングリコールなどに

変えれば摩擦力は増大することはないと推測される 14)

11

参考文献

1) J Bastide and L LeiblerMacromolecules1988212647

2) G G J Lake and A G ThomasProc R Soc LondonA1967300108

3)越後亮三 機械工学辞典 朝倉書店 2007 p631

4) 伊藤勝悦 やさしく学べる材料力学 森北出版 2014 p14

5)SPObukhovMRubinstein and RHColby Macromolecules 1994273191-3198

6)MRubinsteinRHColbyAVDobrynin and JJaonnyElasticMacromolecules199629398-406

7) 大 阪 府 立 大 学 基 礎 講 座 材 料 の 強 度 と 破 壊

httpwwwengmmtrosakafu-uacjpresearchstrength-japdf2015413取得

8)聾剣萍「生命科学時代の新材料-高弾性高靱性ダブルネットワークゲル」高分子学会

『高分子』高分子科学最近の進歩58巻 5号2009p327-p331

9)YTanakaEurophysLett20077856005

10)蓮池幹治ラジカル重合ハンドブックエヌティーエス2010p444-p445

11)大津隆行ラジカル重合(Ⅰ)化学同人1971p80-p81

12)大津隆行ラジカル重合(Ⅰ)化学同人1971p153-p154

13)聾剣萍高分子ゲルおよびその製造方法特開 2009-185156 2008-02-05

14) 角五 彰龔 剣萍長田義仁「ゲルの摩擦と水和潤滑~生物の滑らかな運動解明への

アプローチ」日本生物物理学会『生物物理』47巻 4号2007p 253-p258

1

東京理科大学Ⅰ部化学研究部 2015年度春輪講書

耐塩性の高い新規化粧品用増粘剤の開発 2015年度金曜班

Nomata N(2OK)Seki M(2OK)Tin J(2OK)Takahashi R(2C)Watanabe A(2K)

Asai D(2K) Nishimiti D(2K)Yamamoto R(2K)

1 動機

化粧品において増粘剤の果たす役割は非常に大きい

化粧品にはクリーム状のモノが多くありその整形には増粘剤が必要不可欠である

また増粘剤は製剤だけでなく密閉効果や水和効果によって薬剤を皮膚に効率的に輸

送することに役立っている

この増粘剤であるが一つ課題がありアスコルビン酸塩(ビタミン C)のようなクロロ

基を持つ塩系薬剤をゲル中に含む場合経時によってべたつきといった使用感の悪化

につながるといった弱点があるこの問題の解決のために塩系薬剤への耐性の高い増

粘剤の開発が望まれている

塩系薬剤の高い美容効果からこの問題の解決に対する化粧剤企業のニーズは高くこ

の問題は長く研究が続けられていたが近年資生堂が逆相マイクロエマルション重

合法によって microスケールの粒状高分子を多数合成することによりできる増粘剤が高い

耐塩性を持ち使用感もよいことを発見したがこの粒状高分子増粘剤には未だ試み

られていないモノマーが多くある

そこで今年度の金曜班ではこの逆相マイクロエマルション重合法において未だ

試みられていない親水基を持つモノマーを利用して新規の増粘剤をつくることで粒

状高分子による増粘剤の耐塩性と肌触りと親水基の関係を調べ応用化に利すること

ができるのではないかと考え実験を行うこととした

2 背景

増粘剤とは水溶液をゲル化するために添加される物質であり化粧品において広く

用いられているこの増粘効果は従来では高分子鎖同士の分子間力や架橋で生じる

網目構造の結果生じる液中の摩擦力によるものである

動機で述べたように μスケールの粒状高分子が増粘剤として良質であることがわか

っているただし粒状高分子の形状は反応場であるセッケンミセルの大きさだけで

なく親水基やポリマーを構成する原子同士の分子間力によって変わる高分子の立体構

2

造にも影響されている

また粒状高分子の正確な一次構造を把握することは大変難しいことであるので

応用化のためには高分子の一次構造でなくモノマーによって粒状高分子特性の変化

を調べることが重要である

さらに従来用いられているポリマーがスルホ基とカルボキシル基を親水基とする

ものしか存在しない

以上の三点から酸以外の親水基をもつモノマーで増粘剤を合成したときその性

質はどうなるかを調べることでより製品として利用価値が高い粒状高分子増粘剤を合

成することができるのではないかと考えた

そこで新規モノマーとしては対照実験を行うためにアクリルアミド系モノマー

でかつ 2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸のスルホ基と同じ炭素骨格の先

端に親水基が存在するものとしてN-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド (3-アク

リルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライドを用いてそれぞれ親水基が酸

ではなくヒドロキシ基である場合親水基がアニオンではなくカチオンである場合に

ついて研究を行うこととした

この二種の以外にも水溶性のアクリルアミドポリマーは存在するが上記の条件を満

たさないまたは高価であるため本実験では用いないこととした

Fig1 N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド

Fig2 (3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライド

3

3 原理

31 一般的な液体の粘性

溶液の粘性は一般論では以下のように表される

Fig3のように XY平面を取り液面に平板を用意し引っ張った時挟まれた溶液内

には図のようなせん断流動が発生する高さ Yでのせん断速度は(119881

119889) 119910で与えられる

この時平板に挟まれた溶液を薄層の集まりと考えると隣り合う薄層間に摩擦が生

じるこの内部摩擦力が粘性力であるずり速度勾配が十分に小さければ平板の単位

面積当たりに生じる粘性力 Fv0はその勾配 Vd に比例するすなわち以下の式で表

され1205780を粘性係数と呼ぶこの値は溶媒固有である1)

1198651199070 = 1205780 (119881

119889)

Fig3 溶液ずりせん断図

32 増粘剤の粘性

増粘剤の多くは低分子の液体に高分子を溶かすと著しく粘性が高くなる性質を利

用している

この粘性の発生するメカニズムは下の Fig4において平板間の溶液を薄層に分けた

際高分子鎖は溶液の移動に伴って回転するこのとき溶液中の薄層は薄層間の摩

擦以外に高分子鎖との間にも摩擦が生じているこの摩擦の増加が粘性力の増加とな

る 2)

4

Fig4 高分子による粘性増加

また高分子鎖同士が分子間力によって結びつき三次元構造を形成することで内

部摩擦力は一層大きくなるこのため高分子による増粘効果は顕著である

架橋高分子では三次元構造が高分子鎖同士の分子間力による形成よりも強いものと

なるので増粘効果及びレオロジー特性に優れる 3)

33 塩系薬剤による粘性劣化のメカニズム

塩系薬剤とはビタミンC (アスコルビン酸塩)のようにクロロ基をもつ薬効物質のこ

とである

このクロロ基が直鎖高分子や架橋高分子がポリマー間で形成する三次元網目構造

を破壊することによって増粘効果を消失させ内容物の流失によるべたつきを生じさ

せる 3)

34 粒状高分子の粘性

粒状高分子の粘性について粒状高分子はその粒経が小さいほど体積に対する表面

積が増え溶液内での内部摩擦力が大きくなる

また粒子同士が摩擦力を元に網目構造を形成するため網目構造の構成要因が直

鎖高分子や架橋高分子の高分子増粘剤と異なっている 4)

35 逆相マイクロエマルション重合法

後述する転相温度乳化法を用いて形成した5 μm~30 μm 形成したマイクロエマル

ション内において水溶性のモノマーを利用して行う乳化重合法の一種容易に極小の

5

ポリマーを合成することができる 5)

36 界面活性剤の概略

界面活性剤とは分子の構造が水になじみやすい部分(親水基)と油になじみやすい

部分(新油基)からできていて2つの物質の間の界面に集まりやすい性質を持ちそ

の界面の性質を著しく変える物質というのが界面活性剤の定義である

代表的な界面活性剤の特徴は界面における「吸着」と「ミセル形成」である 6)

もうひとつの代表的な作用として「可溶化」もある

37 エマルションの形成

界面活性剤に有機溶媒が取り囲まれて水に可溶化されたとき水溶液中に存在する

有機溶媒を界面活性剤が取り囲んだ液滴のことを OW エマルションと呼ぶ

有機溶媒中に水が可溶化される場合WOエマルションと呼ぶ

38 ノニオン界面活性剤

非イオン界面活性剤とも言う界面活性剤の内解離基を持たず電気的に中性な

界面活性剤で親水基は主にポリオキシエチレン基であるその特殊な性質上他の種類

の界面活性剤に無い性質として曇点と転相温度を持つ 今回使用するノニオン界面

活性剤はポリオキシエチレンオレイルエーテルであり基本式は以下のような形にな

る 7)

R-O(CH2CH2O)n-H

Scheme 1 ポリオキシエチレンオレイルエーテルの基本式

39 曇点

曇点とは透明な液体が相分離を起こして白濁する温度のこと

本実験においてはノニオン界面活性剤が加温によって界面活性効果を失い相分離

によって白濁する温度のこと 8)

310 転相温度乳化

ノニオン界面活性剤は加温によって界面張力が変化しWO型エマルションから

OW 型に変化するこの変化点のことを転相温度と言い転相温度において界

6

面張力が最低になっているので溶液エマルションが極小になる

またこの転相温度は界面活性剤に固有の値となるので二種の比較的性質の

近い界面活性剤を混合することで転相温度を操作し適切な温度で5 μm~30 μm

程度の直径を持つエマルションを作成する方法を転相温度乳化法と呼ぶ 10)

311 ラジカル重合

開始剤を用いてラジカル種を生成して行う重合法のことをラジカル重合法と言う

開始剤の分解要因によって熱光放射線ラジカル重合の三つに分けられる 10)

3111 ラジカル重合を構成する四反応

ラジカル重合は 4種類の反応が同時並行的に起こるそれぞれ以下の通りである 11)

開始反応

開始剤が熱光放射光などの要因によってラジカル開裂を起こしラジカル種を

生じさせる反応

成長反応

ラジカル種がモノマーと反応することでモノマー新たなラジカル種が生成する

反応これが連続することでポリマーが合成される

停止反応

連鎖していた成長反応が止まる反応主にラジカル種同士の反応による

連鎖移動反応

ラジカル種がモノマー以外の分子主に溶媒分子等と反応することでポリマー以

外の物質を合成する副反応

3112 乳化重合

乳化重合はモノマー液滴と呼ばれるモノマーを大量に保存しているエマルシ

ョンと反応場となる極小のセッケンミセルの二つの構造を持つ溶液中で行う不均

一系ラジカル重合の一種である 12)

成長反応が一段階進むたびにモノマー液滴から拡散の理論式に従ってモノマ

ーがミセル内に移動するこの一連の反応を繰り返して反応が進む 13)

そのため種々のラジカル重合法と比較して以下の特長がある 13)

セッケンミセル内に存在するラジカルが常に一つであるため停止反応が

7

起こりにくく比較的重合度の高いポリマーが生成しやすい

反応速度が拡散作用によって律速されかつセッケンミセルの周囲を大量

の溶媒分子が囲んでいるため除熱が容易であるという理由から熱暴走を起

こしにくいという利点がある

ミセル内で重合するため合成した高分子が絡まりやすく粒状の分子が作

成できる

Fig5 乳化重合模式図

312 MS(質量分析法)

質量分析法とは分子の質量すなわち分子量を測る手段でもあるまた分子を分解

したフラグメントの質量を測ることによって分子構造に関する情報を得るものでも

ある

高エネルギー電子が有機分子にぶつかると分子から電子がはじき出せれカチオ

ンラジカルが発生する

119825119815 rarr 119825119815++119838minus Scheme 2カチオンラジカルの発生

電子の衝突により大量のエネルギーが分子に与えられることで大部分のカチオン

ラジカルを生成した後フラグメントに分解するフラグメントは小さな破片となっ

て浮遊し正電荷や中性となる

このカチオンラジカルとフラグメントについてmz値を横軸相対強度を縦軸につ

いて取ったグラフから質量スペクトルを読み取る 14)

またMS(質量分析法)はイオン化の方法などによりいくつかに分けられ今回使用

したいのは高分子試料でもほとんどフラグメンテーションを起こさないソフトなイ

8

オン化法であるMALDI法 15)である

3121 MALDI法(マトリックス支援レーザー脱離イオン化法)

試料を 25-ヒドロキシ安息香酸のような適切なマトリックス上に吸着させて

ペレットを作成しレーザー光を短時間照射してイオン化する

エネルギーがマトリックスから試料に移動し[119872 + 119867119899 ]119899+に分解される 15)

MALDI法にはよく TOF型の MSが用いられている

4 実験

41 2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を用いた既存化粧品用増粘剤の合成

411 使用器具試薬

温度計ウォーターバスビーカー薬さじデシケーター

ジメチルアクリルアミド

式量9913

沸点81

発火点71

LD50(経口)316mgkg

LD50(経皮)580mgkg

製造和光純薬工業株式会社

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸

式量20725

融点200

LD50(経口)5400mgkg

製造和光純薬工業株式会社

NN-メチレンビスアクリルアミド

式量156

沸点4451

発火点215

LD50(経口)390mgkg

製造東京化成工業株式会社

9

へプタン

式量1002

沸点98

引火点-4

水に不溶

製造昭和化学

2-プロパノール

式量60

沸点82

発火点12

LD50(経口)区分外(GHS分類)

LD50(経皮)区分外(GHS分類)

製造昭和化学

ペルオキソ二硫酸アンモニウム

式量22820

冷水に易溶保存湿気厳禁

重合開始罪乳化重合レドックス重合に用いられる

製造和光純薬工業株式会社

412 実験手順

① ビーカーにイオン交換水ヘプタンポリオキシエチレンオレイルエーテル(2)

(8)をそれぞれ507 mL 507 mL489 g((2)(8)=23)加えて良く撹拌したも

のを入れる

② その後その後温度調節機能つきスターラーに乗せ白濁するまで加熱する

白濁した液が透明化するまで温度を落とし電気伝導率計を用いて溶液が転

相温度付近に保たれていることを確認する

③ 以上の操作が済んだ重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先

ほどのスターラーと同じ温度にしたウォーターバスに移し2-アクリルアミド

-2-メチルプロパンスルホン酸NNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 137 g

262 g入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始

剤としてメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

10

④ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

42 N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミドを用いた新規化粧品用増粘剤の合成

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を誘導体と入れ替える以外の

操作は 41に準ずる

親水基による増粘性の変化を観察するため架橋剤のモノマーに対する濃度比

は 2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を使用したポリマーが最も増

粘効果の高くなると報告された濃度比を用いる

421 使用器具試薬

使用器具は 41に準ずる

試薬

N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド

式量11513

沸点130

発火点189

製造東京化成工業株式会社

422 実験手順

① 412 ①②と同じように重合系を作成する

② 以上の操作が済んだ重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先

ほどのスターラーと同じ温度にしたウォーターバスに移しN-(2-ヒドロキシエ

チル)アクリルアミドNNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 076 g262

g 入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始剤と

してメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

③ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

11

43 (3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライドを用いた新規化粧品用

増粘剤の合成

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を誘導体と入れ替える以外の操作は

41に準ずる

親水基による増粘性の変化を観察するため架橋剤のモノマーに対する濃度比は 2-ア

クリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を使用したポリマーが最も増粘効果の高く

なると報告された濃度比を用いる

431 実験器具

実験器具は 41に準ずる

試薬

(3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライド

式量22074

沸点100

製造東京化成工業株式会社

432 実験手順

① 412 ①②と同じように重合系を作成する

② 重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先ほどのスターラーと

同じ温度にしたウォーターバスに移し (3-アクリルアミドプロピル)トリメチ

ルアミニウムクロライドNNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 123 mL

262 g入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始

剤としてメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

③ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

5 評価分析

耐塩性の高い増粘剤の耐塩性と使用感と親水基との関係を評価するために以下の二

つの測定を行い評価する

増粘剤の耐塩性の評価のために塩酸を増粘剤内部に取り込ませた状態で経時

12

による粘度の変化を観察する

また高分子の粘性を考える上で直鎖高分子の場合よく参考にされるのが平

均分子量でありこの値を測定することで親水基が変化した場合に平均分子

量が粒状高分子の粘性にも大きく影響するか確認する

精密に上の測定を行うには専用の機器が必要になるため機器メーカーの株式

会社エーアンドデイ様または東京理科大学理学部応用化学科駒場研究室に

また高分子の性質を考える上で重要視される平均分子量及び分子量分布に

ついては東京理科大学化学系機器センターにあるMALDI-TOF型質量分析計を管

理者の東京理科大学理学部応用化学科の根岸先生に測定に協力していただこうと

考えている

6 謝辞

東京理科大学工学部工業化学科 近藤行成教授

東京理科大学理学部化学科 遠藤恆平准教授

東京理科大学理学部応用化学科 駒場慎一教授

この研究を進めるに当たり大変お世話になった先輩先生方企業の皆さんに感謝の

意を表明します

参考文献

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13

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12) 佐藤壽彌編 高分子微粒子の技術と応用 シーエムシー出版 2004 p2526

13) 佐藤壽彌編 高分子微粒子の技術と応用 シーエムシー出版 2004 p27

14) マクマリー 上 8版 東京化学同人 p403404

15) John McMurry マクマリー有機化学(上) 第 8版 2013 p410411

Page 25: ゼオライトとキトサンを用いた 金属イオン除去剤の …kaken/studies/2015/2015-s-all.pdf1 東京理科大学I 部化学研究部 2015 年度春輪講書 ゼオライトとキトサンを用いた

2

Fig1 α-シクロデキストリンの分子構造

シクロデキストリンの構造は底の抜けたバケツやドーナッツのような構造をしており

その環状構造の外側は多くの水酸基に由来する親水性領域が存在し内側の空洞の CH 基に

由来する疎水領域と相反する極性が一つの分子に共存しているがこの空洞内に様々な有

機化合物などを取り込むという包接作用がもっとも特徴的である

三種類のシクロデキストリンはそれぞれ空洞の大きさが相違するためそれぞれ包接化

合物を形成しやすいゲスト分子が存在する内部空洞が比較的小さいα-シクロデキストリ

ンは比較的小さい分子例えばエタノールメタノール等をβ-シクロデキストリンは汎

用性が広く各種ポリフェノールコレステロールメンソール等の香気成分芳香族化

合物等をよく包接するγ-シクロデキストリンは大きい分子である脂肪酸などを包接する

ことが知られている

シクロデキストリンの包接力の原動力は疎水性相互作用と分子間力が主なものとされて

いるつまりゲストは疎水性の高い分子あるいは分子の大きさが空洞にぴったりとフィッ

トするものほどシクロデキストリンがそのゲストを包接する力は大きく包接物を作り

やすい傾向がある逆に親水性が高くシクロデキストリンの空洞にフィットしないよう

なゲスト分子では包接現象は起こりにくいといえるしかしゲスト分子全体がシクロ

デキストリンの空洞内にとりこまれる必要はなく部分的にでも疎水性が高く空洞にフィ

ットすれば包接が可能となるつまりゲスト分子全体がシクロデキストリンより明ら

かに大きいものでも包接作用による効果が観察される場合がある 2)

Fig2 シクロデキストリンがゲストを包接する様子

23 水溶化シクロデキストリン

3

ブドウ糖やショ糖など通常糖質の水への溶解度は非常に高いしかし天然型シク

ロデキストリンは隣接する水酸基との水素結合の為3 種のシクロデキストリンの中では最

も高い水溶性を有するγ-シクロデキストリンであってもその溶解度は 25において水

100 mL に 23 g であり油性物質を包接した場合は一般的にその溶解度はさらに低くな

るそこで水への溶解度を改善するためにシクロデキストリン化学修飾体が製造されて

いるシクロデキストリンの水溶性を向上させる方法として隣接する水酸基をメチル基や

アセチル基などでエーテル化やエステル化する方法がある具体的には部分メチル化β-シ

クロデキストリンやモノアセチル化β-シクロデキストリンが工業的に生産されている

24 包接能の評価について

今回の実験ではゲスト分子としてカルボン酸を用いるシクロデキストリン及び水溶化

シクロデキストリンの包接能の評価については包接化合物に含まれているカルボン酸をア

ルカリで滴定することで求めることができる

3 実験

31 試薬sup3⁾

アジピン酸

分子式C6H10O4

分子量1464

mp153

bp3375 アジピン酸

クエン酸

分子式C6H8O7

分子量19213

mp156~157

クエン酸

シュウ酸

分子式C2H2O4

分子量9004

mp1895

シュウ酸

4

βシクロデキストリン

分子式(C6H10O5)7

分子量113500

n-ブタノール

分子式C4H10O

分子量7412 β-シクロデキストリン

bp1179

エタノール

分子式C2H6O n-ブタノール

分子量4607

mp-1145

bp7833

水酸化ナトリウム

組成式NaOH

分子量4000

mp328

bp1388

無水オクタン酸

分子式C₈H₃₀O₃

分子量27041

mp-1 無水オクタン酸⁶⁾

濃硫酸

分子式H₂SO₄

分子量9808

mp104

32 使用器具

300 mL ビーカーメスフラスコピペット三角フラスコ吸引漏斗吸引瓶ビュレッ

トスタンドボウルガラス棒

5

33 実験操作

331 エステル化シクロデキストリンの合成 ⁵⁾

1)三角フラスコにβ-シクロデキストリン 1 g を入れこれに無水オクタン酸 025 mL を加

える

2)触媒として 2-3 滴の濃硫酸を添加し攪拌する

3)約 10 分間放置してフラスコを氷桶に入れて冷やしガラス棒でフラスコの壁を強くこす

り結晶を析出させる

4)水 20 mL を加えさらに氷桶で冷やしながら残る結晶を析出させる

5)この結晶を濾分し水で洗ってから取り出して乾かして結晶を得る⁵⁾

332 包接化合物の形成

1)β-シクロデキストリン 1 g を水 100 mL に溶解させる

2)ピペットで 1 mL のカルボン酸を加えコルク栓をして静置する

3)1 週間程静置し包接化合物を吸引濾過する

4)上記の操作をカルボン酸(酢酸シュウ酸クエン酸)で行う

5)エステル化シクロデキストリンで同様の実験を行う

333 包接能の測定

1)よく乾燥した包接化合物約 1 g をメスフラスコで 100 mL 溶液とする

2)この溶液 20 mL にフェノールフタレインを指示薬として20 mL 加え 01 M 水酸化ナト

リウム標準溶液で滴定する⁴⁾

334 溶解度の測定

1)100 mL の水に 5 g の β-シクロデキストリンを溶解させる

2)沈殿をろ過し乾燥して重量を測定する

3)エステル化 β-シクロデキストリンで同様の作業を行う

参考文献

1) 竹本喜一包接化合物の化学東京化学同人1969p2

2) 辻堅司シクロデキストリンの応用技術株式会社シーエムシー出版2008p3-p9

3) 大木道則大沼利昭田中元治千原秀明化学大辞典東京化学同人1989

4) 発田寿々子教養の化学実験第 2 版学術図書出版社2014p119

5) 南篠正男先生と生徒のための化学実験共立出版株式会社1986p155

6) 「 chemical book 」〈 wwwchemicalbookcomchemicalProductPropert_JP_CB 〉

(2015418 アクセス)

1

東京理科大学Ⅰ部化学研究部 2015年度春輪講書

ダブルネットワークの合成と評価 木曜班

OnizukaM(2C)TanakaR(2C)YamamokaH(2K) OhiraM(2K)

1背景

現在高分子ゲルは紙おむつの高吸水性樹脂やソフトコンタクトレンズなど私たちの生

活において活躍しているしかし高分子ゲルは不均一な構造なため一般的に機械的強

度が弱いという欠点がある高分子ゲルの強度面での弱点を克服するために従来では

ゲルの構造を均一化して強度を上げるというアプローチがとられてきた

しかしながら材料の弾性とじん性は反相する因子として働くつまり大変形に耐え

られるゲルは弾性率を犠牲とし高弾性のゲルは小さい変形で破壊される

そこで私達木曜班は前述の問題の解決策と成り得るものとしてダブルネットワーク

ゲル(DNゲル)について注目した

2目的

既存に作られている DNゲルは溶媒に水を用いたハイドロゲルであるDNゲルはその

強度や柔軟性により生体内での人工関節に使用することが期待され研究がおこなわれて

いる木曜班では DNゲルを生体内の関節だけでなく機械の関節部の摩擦軽減材料として

の使用を提案するしかし従来の DNゲルは溶媒が水であることにより水の沸点である

100以上の条件下では性能の低下が問題視され高温になりうる機械への応用が困難で

ある

溶媒を水から有機溶媒に変更することで高温条件下でのゲルの機能維持を試みるとと

もに使用するモノマーを変更しその機能性を検討する

3原理

31 DNゲル

311ゲルの脆弱性

一般的なゲルはゼリーや豆腐のように僅かな力を加えただけで簡単に壊れるほど

弱いこの理由は 2つの現象により説明することができる

1)ゲルの内部に多数の欠陥が存在する

2)欠陥から発生した初期亀裂が容易に伝播する

前者はゲル内部の構造が不均一であることに由来するゲル合成時におけるモノマ

ーと架橋剤の反応性の違いにより不均一な重合がおこるあるいはゲル化溶液内の濃度

揺らぎが重合によって固定されることだと考えられている 1)こうしたゲルに力を加えた

2

時にゲルの弱い部分に力が集中してしまうため小さな力でも初期亀裂が生じてしまう

後者はゲル内部のポリマーの密度の低さから生じる一般的に物質内における亀裂

の進みやすさは破壊エネルギーU(Jm2)(単位面積あたりの破断面形成に費やされる仕事)

によって評価される架橋高分子材料の臨界破壊エネルギーUc(亀裂成長が起こる最小

の破壊エネルギー)は破断面の高分子鎖の数密度と架橋点間分子量に比例する 2)つま

りゲルのじん性(物質の破壊に対する抵抗の程度で粘り強さとも言い換えられる 3))はゲ

ル内のポリマーの密度には比例し架橋密度には反比例することがわかる

ゲルは 50~99wtの溶媒を含んでいて高分子の密度が非常に低い物質であるためゲ

ルの Ucはゴムなどの固体に比べてかなり小さいことが考えられる

これまでの高強度ゲル研究は主に前者の問題を解決するすなわち構造を均一化するこ

とでゲル内部の欠陥を極力減らして強度を改善しようという観点から行われてきた

312 ゲルの弾性率

高分子鎖が三次元架橋されたゲルはゴムと同じようにエントロピー弾性を持つ溶液

中に完全に湿潤した電気的に中性ゲルのせん断弾性率(横方向に対するバネ係数 4)であり

Young率 Eと E=3Gの関係式が成立する)は

GneucongkBT

b3Q-225

以上の式で表せられゲルの湿潤度 Qの増加にともないせん断弾性率Gneuは大きく低下

するここでkBはボルツマン定数Tは温度bは重合させたモノマーの大きさである 5)

一方溶液中に完全に湿潤した電解質ゲルのせん断弾性率は

GchacongkBT

b3Q-1

によって表せる 6)よって同じ湿潤度において電解質ゲルは中性ゲルよりせん断弾性率が

高いことが分かる

またゲルの湿潤度は架橋点重合 N(分子量)による溶液中に完全に湿潤した中性ゲル

の場合QasympN35であり電解質ゲル場合QasympN

32であるしたがって架橋密度を上げる

ことによりゲルの湿潤度が小さくなりせん断弾性率が上がる 3)4)

313 ゲルの破断歪と破断応力

架橋構造が均一と仮定した理想的なゲルの破断歪(ゲルが破壊するまでの変形 7))は架

(1)

(2)

3

橋点間高分子の伸びきった長さと高分子鎖に歪がない曲がった自然な状態での大きさ

の比として求められる溶媒中で完全に湿潤した中性ゲルの引っ張り破断歪はλBcongQ12で

ありQの増加により増加する一方湿潤することにより単位面積あたりの高分子

の本数が減るため破断応力は湿潤度 Qが大きくなることにより減少する故にQが大

きいゲルは伸びやすいが弱い応力で壊れる

電解質ゲルの場合高分子鎖はその解離しているイオンの浸透圧によって水中では

ほとんど伸びきった状態となっているその結果理想状態においても破断歪はλBcongQ19

になるこれは破断歪が小さくかつ湿潤度にあまり依存しないことを意味している 5)

以上のことより

1)架橋密度を上げる(架橋点間分子量を下げる)ことでゲルが固くて脆くなる

2)水中に完全に湿潤した高分子電解質ゲルは中性のゲルより硬くて脆い高弾性と変形は

相反するということが考えられる

314 DNゲルの高強度機構

DNゲルは強電解質をモノマーとする 1st networkゲル電気的に中性なモノマーを用

いる 2nd networkゲルを組み合わせることにより生成される前述した通りゲルにおける

弾性と靭性は常に相反する働きをするそれゆえに単一な物質で両方の性質を得るこ

とは原理的には不可能である同じ湿潤度において電解質ゲルと中性ゲルのせん断弾性

率の比はGchaGneucongQ125であるために両者の違いは湿潤度 Qが高いほど大きくなる

この性質を利用することにより電解質ゲルは硬い成分中性ゲルは軟らかい成分とし

て用いることができる

亀裂を含む DNゲルがある引張荷重を受けると応力集中の効果で最初に亀裂先端近傍

の電解質網目(1st network)が破壊され局所的にゲルが降伏する荷重がますと電解質網

目の破壊が次々に伝播し広範囲にわたるダメージゾーンが形成されていくこの過程

で非常にいい気なエネルギーが分散されるダメージゾーンがある大きさまで広がった

ときようやく亀裂先端に中性網目(2nd network)が十分に伸びて切断し亀裂が進行す

る 8)

4

Fig 1 DNゲルの破壊モデル 9)

32 光ラジカル重合

321 光分解

光重合開始剤に UVを当てることにより開裂がおきラジカルが発生する本研究にお

いては 1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンを用いる 10)

Scheme1 1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンの開裂 10)

ℎ120592

5

322 開始反応

UVを当て光開裂により生じたラジカルがビニル基の二重結合を攻撃し光重合開始剤

と炭素の間に σ結合を作り炭素原子にラジカルが存在することになる

Scheme2 ラジカルの生成

323 成長反応

Scheme2で生成したラジカルが他のモノマーを攻撃しσ結合を生じるそれが何回

も起こることにより分子鎖が成長する 6)

Scheme3 分子鎖の成長

324 停止反応

Scheme 3で成長した成長ラジカル同士が σ結合を作り分子鎖が生成する 7)

Scheme4 分子鎖の生成

4実験

41 DNゲルの合成

411 使用器具試薬

ビーカー乳鉢乳棒薬さじUVライトデシケーター

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸

分子式 C7H13NO4S

式量20724

融点160

用途1st networkゲルのモノマー

6

アクリル酸

分子式C3H4O2

式量7206

融点123

沸点1416

比重10511

危険性引火性(発火温度 360 )

用途1st networkゲルのモノマー

アクリロニトリルの加水分解アクロレインの酸化ニッケルカルボニルの存在下ア

セチレンと一酸化炭素と水との反応などにより合成される酢酸に似た刺激臭を持つ液

体水エタノールエーテルによく溶ける酸素の存在下容易に重合するプラス

チックの原料として用いられる

アクリルアミド

分子式C3H5NO

式量7108

融点845

沸点103

比重1122

用途2nd networkゲルのモノマー

アクリルニトリルを硫酸あるいは塩酸を処理して得られるフレーク状の結晶溶解

性(g100 ml溶媒30 )水 2155メタノール 155エタノール 862アセトン 631

酢酸エチル 126クロロホルム 266ベンゼン 0346ヘプタン 00068化学的に不安

定で冷暗所に保存する必要がある融点付近あるいは紫外線下で重合する重合の仕方

により水溶性不溶性のものが得られる

酢酸ビニル

分子式C4H6O2

式量8609

融点-932

沸点723

比重09317

用途2nd networkゲルのモノマー

無色の液体酸やアルカリよって容易に加水分解されてアセトアルデヒドと酢酸を生

じる熱光ラジカル開始剤によって重合する

7

メタクリル酸メチル

分子式C5H8O2

式量10012

融点-48

沸点1003

比重0936

用途2nd networkゲルのモノマー

無色透明で催涙性の芳香のある液体工業的にはアセトンシアノヒドリンにメタノー

ルと硫酸を作用させて合成する実験室的にはメテクリル酸メチルの重合物を 320

以上で乾留すると得られる一般に有機溶媒には溶けるがエチレングリコールグリセ

リンには溶けにくい重合しやすいので重合禁止剤としてヒドロキノンモノメチルエ

ーテル(65 ppm)を添加して保存する有機ガラスの製造ビニル系共重合体など広く

重合反応に用いられるまたメチル以外のアルコールのメタクリル酸エステルの合成

にも用いられる

NN-メチレンビスアクリルアミド

分子式C7H10N2O2

式量15417

融点300

用途架橋剤

1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン

分子式C13H16O2

式量20427

融点47-50

用途光重合開始剤

最大吸収波長は 260 nm付近にある

エチレングリコール

式量6207

融点 -126

沸点1976

比重11132

8

用途ゲル溶媒

重要な二価アルコールでエチレンオキシドの酸触媒による開環高温高圧下水と

の反応による開環などによって合成される吸湿性無色無臭の液体甘味を有する

が有毒である高沸点を有ししかも水酸化カリウム水酸化ナトリウムを溶解し水や

エタノールと任意の割合で混合するので有機合成における溶媒として広く用いられ

また塩基に対して安定なエチレンケタールの生成によるカルボニル基の保護に用いら

れるさらに酢酸ビニル系樹脂の溶剤や水と混ざり高沸点のため不凍液に用いら

れるなど広い用途を持っている

412 1st networkゲルの作成

1) 1st networkゲルのモノマー(電解質モノマー)架橋剤(NN-メチレンビスアクリルア

ミド)と光重合開始剤(1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)を水に溶解させた水

溶液を調製する

2) UVを 8時間照射して光ラジカル重合をさせる

3) 2)で合成した電解質ゲルを乳鉢に入れ適当なサイズに砕いた後デシケーター内で一

週間ほど乾燥させる

413水溶媒 DNゲルの作成

1) 2nd networkゲルのモノマー(中性モノマー)架橋剤(NN-メチレンビスアクリルアミ

ド)光重合開始剤(1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)をエチレングリコールに

溶解させた溶液を調製する

2) 乾燥した電解質ゲルを 1)で調製した水溶液に入れ電解質ゲルを十分に膨らませるそ

の後UVを照射し中性モノマーを光ラジカル重合させる

414エチレングリコール DNゲルの作成

1) 2nd networkゲルのモノマー(中性モノマー)架橋剤(NN-メチレンビスアクリルアミ

ド)光重合開始剤(1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)をエチレングリコールに

溶解させた溶液を調製する

2) 乾燥した電解質ゲルを 1)で調製したエチレングリコール溶液に入れ電解質ゲルを十分

に膨らませるその後UVを照射し中性モノマーを光ラジカル重合させる

42 DNゲルの評価

421引っ張り試験

使用するモノマーの変化によるゲルの性質の差を評価する引っ張り試験は

JIS-K-6251-7号に準拠する方法で測定する

9

1)DNゲルを X方向の長さ 50 mmY方向の長さ 75 mmZ方向の長さが 25 mmの大

きさに成形する

2)その一端部に X-Y平面に平行な切込みを入れて2つの引張端部を形成する

3) 引張端部を片方は固定しもう片方を一定の速度で引っ張るこのときの引っ張る力 F

を測定する

Fig 2 引っ張り試験 13)

422 摩擦試験

使用するモノマーの変化溶媒の変化によるゲルの性質の差を評価する

摩擦試験は東京理科大学工学部第一部機械工学科佐々木研究室に依頼する予定である

用いる機械は SVR4パーカー熱処理工業株式会社製であり180での高温での摩擦係

数の測定が可能である

摩擦測定は常温(20 )と高温(100 )で測定することを予定している

10

5 展望

51 DNゲルの合成

実験操作は溶液を調製した後UV照射するという簡易な手順なので合成は比較的早い

段階で成功すると考えられる

1st networkゲル合成に使うのは電解質モノマーなため水溶液のモノマーの濃度が低

いと湿潤度 Q が大きくなりせん断弾性率が下がり剛性が弱いゲルが出来上がると考え

られる

架橋剤を多く使用すると架橋密度を上がるので 2nd networkゲルが入り込む空洞が小

さくなるそのために架橋剤が多すぎると高弾性のゲルが生成できると考えられる

また同様な考えで2nd networkモノマーが含まれている水溶液に乾燥させた1st network

ゲルを入れる量が多くても高弾性のゲルが生成できると考えられる

52 DNゲルの物性

ゲルの高分子網目は基板から離れようとするときにゲルと基板の間に僅かな溶媒層

が生じるこの状態では溶媒層が潤滑油のような働きをして生じる摩擦力は小さなも

のとなるゲル周辺が高温な状態ではこの溶媒層が水の場合は蒸発してしまうので摩

擦力は増大すると考えられる溶媒を水からより沸点の高いエチレングリコールなどに

変えれば摩擦力は増大することはないと推測される 14)

11

参考文献

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11)大津隆行ラジカル重合(Ⅰ)化学同人1971p80-p81

12)大津隆行ラジカル重合(Ⅰ)化学同人1971p153-p154

13)聾剣萍高分子ゲルおよびその製造方法特開 2009-185156 2008-02-05

14) 角五 彰龔 剣萍長田義仁「ゲルの摩擦と水和潤滑~生物の滑らかな運動解明への

アプローチ」日本生物物理学会『生物物理』47巻 4号2007p 253-p258

1

東京理科大学Ⅰ部化学研究部 2015年度春輪講書

耐塩性の高い新規化粧品用増粘剤の開発 2015年度金曜班

Nomata N(2OK)Seki M(2OK)Tin J(2OK)Takahashi R(2C)Watanabe A(2K)

Asai D(2K) Nishimiti D(2K)Yamamoto R(2K)

1 動機

化粧品において増粘剤の果たす役割は非常に大きい

化粧品にはクリーム状のモノが多くありその整形には増粘剤が必要不可欠である

また増粘剤は製剤だけでなく密閉効果や水和効果によって薬剤を皮膚に効率的に輸

送することに役立っている

この増粘剤であるが一つ課題がありアスコルビン酸塩(ビタミン C)のようなクロロ

基を持つ塩系薬剤をゲル中に含む場合経時によってべたつきといった使用感の悪化

につながるといった弱点があるこの問題の解決のために塩系薬剤への耐性の高い増

粘剤の開発が望まれている

塩系薬剤の高い美容効果からこの問題の解決に対する化粧剤企業のニーズは高くこ

の問題は長く研究が続けられていたが近年資生堂が逆相マイクロエマルション重

合法によって microスケールの粒状高分子を多数合成することによりできる増粘剤が高い

耐塩性を持ち使用感もよいことを発見したがこの粒状高分子増粘剤には未だ試み

られていないモノマーが多くある

そこで今年度の金曜班ではこの逆相マイクロエマルション重合法において未だ

試みられていない親水基を持つモノマーを利用して新規の増粘剤をつくることで粒

状高分子による増粘剤の耐塩性と肌触りと親水基の関係を調べ応用化に利すること

ができるのではないかと考え実験を行うこととした

2 背景

増粘剤とは水溶液をゲル化するために添加される物質であり化粧品において広く

用いられているこの増粘効果は従来では高分子鎖同士の分子間力や架橋で生じる

網目構造の結果生じる液中の摩擦力によるものである

動機で述べたように μスケールの粒状高分子が増粘剤として良質であることがわか

っているただし粒状高分子の形状は反応場であるセッケンミセルの大きさだけで

なく親水基やポリマーを構成する原子同士の分子間力によって変わる高分子の立体構

2

造にも影響されている

また粒状高分子の正確な一次構造を把握することは大変難しいことであるので

応用化のためには高分子の一次構造でなくモノマーによって粒状高分子特性の変化

を調べることが重要である

さらに従来用いられているポリマーがスルホ基とカルボキシル基を親水基とする

ものしか存在しない

以上の三点から酸以外の親水基をもつモノマーで増粘剤を合成したときその性

質はどうなるかを調べることでより製品として利用価値が高い粒状高分子増粘剤を合

成することができるのではないかと考えた

そこで新規モノマーとしては対照実験を行うためにアクリルアミド系モノマー

でかつ 2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸のスルホ基と同じ炭素骨格の先

端に親水基が存在するものとしてN-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド (3-アク

リルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライドを用いてそれぞれ親水基が酸

ではなくヒドロキシ基である場合親水基がアニオンではなくカチオンである場合に

ついて研究を行うこととした

この二種の以外にも水溶性のアクリルアミドポリマーは存在するが上記の条件を満

たさないまたは高価であるため本実験では用いないこととした

Fig1 N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド

Fig2 (3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライド

3

3 原理

31 一般的な液体の粘性

溶液の粘性は一般論では以下のように表される

Fig3のように XY平面を取り液面に平板を用意し引っ張った時挟まれた溶液内

には図のようなせん断流動が発生する高さ Yでのせん断速度は(119881

119889) 119910で与えられる

この時平板に挟まれた溶液を薄層の集まりと考えると隣り合う薄層間に摩擦が生

じるこの内部摩擦力が粘性力であるずり速度勾配が十分に小さければ平板の単位

面積当たりに生じる粘性力 Fv0はその勾配 Vd に比例するすなわち以下の式で表

され1205780を粘性係数と呼ぶこの値は溶媒固有である1)

1198651199070 = 1205780 (119881

119889)

Fig3 溶液ずりせん断図

32 増粘剤の粘性

増粘剤の多くは低分子の液体に高分子を溶かすと著しく粘性が高くなる性質を利

用している

この粘性の発生するメカニズムは下の Fig4において平板間の溶液を薄層に分けた

際高分子鎖は溶液の移動に伴って回転するこのとき溶液中の薄層は薄層間の摩

擦以外に高分子鎖との間にも摩擦が生じているこの摩擦の増加が粘性力の増加とな

る 2)

4

Fig4 高分子による粘性増加

また高分子鎖同士が分子間力によって結びつき三次元構造を形成することで内

部摩擦力は一層大きくなるこのため高分子による増粘効果は顕著である

架橋高分子では三次元構造が高分子鎖同士の分子間力による形成よりも強いものと

なるので増粘効果及びレオロジー特性に優れる 3)

33 塩系薬剤による粘性劣化のメカニズム

塩系薬剤とはビタミンC (アスコルビン酸塩)のようにクロロ基をもつ薬効物質のこ

とである

このクロロ基が直鎖高分子や架橋高分子がポリマー間で形成する三次元網目構造

を破壊することによって増粘効果を消失させ内容物の流失によるべたつきを生じさ

せる 3)

34 粒状高分子の粘性

粒状高分子の粘性について粒状高分子はその粒経が小さいほど体積に対する表面

積が増え溶液内での内部摩擦力が大きくなる

また粒子同士が摩擦力を元に網目構造を形成するため網目構造の構成要因が直

鎖高分子や架橋高分子の高分子増粘剤と異なっている 4)

35 逆相マイクロエマルション重合法

後述する転相温度乳化法を用いて形成した5 μm~30 μm 形成したマイクロエマル

ション内において水溶性のモノマーを利用して行う乳化重合法の一種容易に極小の

5

ポリマーを合成することができる 5)

36 界面活性剤の概略

界面活性剤とは分子の構造が水になじみやすい部分(親水基)と油になじみやすい

部分(新油基)からできていて2つの物質の間の界面に集まりやすい性質を持ちそ

の界面の性質を著しく変える物質というのが界面活性剤の定義である

代表的な界面活性剤の特徴は界面における「吸着」と「ミセル形成」である 6)

もうひとつの代表的な作用として「可溶化」もある

37 エマルションの形成

界面活性剤に有機溶媒が取り囲まれて水に可溶化されたとき水溶液中に存在する

有機溶媒を界面活性剤が取り囲んだ液滴のことを OW エマルションと呼ぶ

有機溶媒中に水が可溶化される場合WOエマルションと呼ぶ

38 ノニオン界面活性剤

非イオン界面活性剤とも言う界面活性剤の内解離基を持たず電気的に中性な

界面活性剤で親水基は主にポリオキシエチレン基であるその特殊な性質上他の種類

の界面活性剤に無い性質として曇点と転相温度を持つ 今回使用するノニオン界面

活性剤はポリオキシエチレンオレイルエーテルであり基本式は以下のような形にな

る 7)

R-O(CH2CH2O)n-H

Scheme 1 ポリオキシエチレンオレイルエーテルの基本式

39 曇点

曇点とは透明な液体が相分離を起こして白濁する温度のこと

本実験においてはノニオン界面活性剤が加温によって界面活性効果を失い相分離

によって白濁する温度のこと 8)

310 転相温度乳化

ノニオン界面活性剤は加温によって界面張力が変化しWO型エマルションから

OW 型に変化するこの変化点のことを転相温度と言い転相温度において界

6

面張力が最低になっているので溶液エマルションが極小になる

またこの転相温度は界面活性剤に固有の値となるので二種の比較的性質の

近い界面活性剤を混合することで転相温度を操作し適切な温度で5 μm~30 μm

程度の直径を持つエマルションを作成する方法を転相温度乳化法と呼ぶ 10)

311 ラジカル重合

開始剤を用いてラジカル種を生成して行う重合法のことをラジカル重合法と言う

開始剤の分解要因によって熱光放射線ラジカル重合の三つに分けられる 10)

3111 ラジカル重合を構成する四反応

ラジカル重合は 4種類の反応が同時並行的に起こるそれぞれ以下の通りである 11)

開始反応

開始剤が熱光放射光などの要因によってラジカル開裂を起こしラジカル種を

生じさせる反応

成長反応

ラジカル種がモノマーと反応することでモノマー新たなラジカル種が生成する

反応これが連続することでポリマーが合成される

停止反応

連鎖していた成長反応が止まる反応主にラジカル種同士の反応による

連鎖移動反応

ラジカル種がモノマー以外の分子主に溶媒分子等と反応することでポリマー以

外の物質を合成する副反応

3112 乳化重合

乳化重合はモノマー液滴と呼ばれるモノマーを大量に保存しているエマルシ

ョンと反応場となる極小のセッケンミセルの二つの構造を持つ溶液中で行う不均

一系ラジカル重合の一種である 12)

成長反応が一段階進むたびにモノマー液滴から拡散の理論式に従ってモノマ

ーがミセル内に移動するこの一連の反応を繰り返して反応が進む 13)

そのため種々のラジカル重合法と比較して以下の特長がある 13)

セッケンミセル内に存在するラジカルが常に一つであるため停止反応が

7

起こりにくく比較的重合度の高いポリマーが生成しやすい

反応速度が拡散作用によって律速されかつセッケンミセルの周囲を大量

の溶媒分子が囲んでいるため除熱が容易であるという理由から熱暴走を起

こしにくいという利点がある

ミセル内で重合するため合成した高分子が絡まりやすく粒状の分子が作

成できる

Fig5 乳化重合模式図

312 MS(質量分析法)

質量分析法とは分子の質量すなわち分子量を測る手段でもあるまた分子を分解

したフラグメントの質量を測ることによって分子構造に関する情報を得るものでも

ある

高エネルギー電子が有機分子にぶつかると分子から電子がはじき出せれカチオ

ンラジカルが発生する

119825119815 rarr 119825119815++119838minus Scheme 2カチオンラジカルの発生

電子の衝突により大量のエネルギーが分子に与えられることで大部分のカチオン

ラジカルを生成した後フラグメントに分解するフラグメントは小さな破片となっ

て浮遊し正電荷や中性となる

このカチオンラジカルとフラグメントについてmz値を横軸相対強度を縦軸につ

いて取ったグラフから質量スペクトルを読み取る 14)

またMS(質量分析法)はイオン化の方法などによりいくつかに分けられ今回使用

したいのは高分子試料でもほとんどフラグメンテーションを起こさないソフトなイ

8

オン化法であるMALDI法 15)である

3121 MALDI法(マトリックス支援レーザー脱離イオン化法)

試料を 25-ヒドロキシ安息香酸のような適切なマトリックス上に吸着させて

ペレットを作成しレーザー光を短時間照射してイオン化する

エネルギーがマトリックスから試料に移動し[119872 + 119867119899 ]119899+に分解される 15)

MALDI法にはよく TOF型の MSが用いられている

4 実験

41 2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を用いた既存化粧品用増粘剤の合成

411 使用器具試薬

温度計ウォーターバスビーカー薬さじデシケーター

ジメチルアクリルアミド

式量9913

沸点81

発火点71

LD50(経口)316mgkg

LD50(経皮)580mgkg

製造和光純薬工業株式会社

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸

式量20725

融点200

LD50(経口)5400mgkg

製造和光純薬工業株式会社

NN-メチレンビスアクリルアミド

式量156

沸点4451

発火点215

LD50(経口)390mgkg

製造東京化成工業株式会社

9

へプタン

式量1002

沸点98

引火点-4

水に不溶

製造昭和化学

2-プロパノール

式量60

沸点82

発火点12

LD50(経口)区分外(GHS分類)

LD50(経皮)区分外(GHS分類)

製造昭和化学

ペルオキソ二硫酸アンモニウム

式量22820

冷水に易溶保存湿気厳禁

重合開始罪乳化重合レドックス重合に用いられる

製造和光純薬工業株式会社

412 実験手順

① ビーカーにイオン交換水ヘプタンポリオキシエチレンオレイルエーテル(2)

(8)をそれぞれ507 mL 507 mL489 g((2)(8)=23)加えて良く撹拌したも

のを入れる

② その後その後温度調節機能つきスターラーに乗せ白濁するまで加熱する

白濁した液が透明化するまで温度を落とし電気伝導率計を用いて溶液が転

相温度付近に保たれていることを確認する

③ 以上の操作が済んだ重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先

ほどのスターラーと同じ温度にしたウォーターバスに移し2-アクリルアミド

-2-メチルプロパンスルホン酸NNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 137 g

262 g入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始

剤としてメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

10

④ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

42 N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミドを用いた新規化粧品用増粘剤の合成

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を誘導体と入れ替える以外の

操作は 41に準ずる

親水基による増粘性の変化を観察するため架橋剤のモノマーに対する濃度比

は 2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を使用したポリマーが最も増

粘効果の高くなると報告された濃度比を用いる

421 使用器具試薬

使用器具は 41に準ずる

試薬

N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド

式量11513

沸点130

発火点189

製造東京化成工業株式会社

422 実験手順

① 412 ①②と同じように重合系を作成する

② 以上の操作が済んだ重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先

ほどのスターラーと同じ温度にしたウォーターバスに移しN-(2-ヒドロキシエ

チル)アクリルアミドNNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 076 g262

g 入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始剤と

してメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

③ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

11

43 (3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライドを用いた新規化粧品用

増粘剤の合成

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を誘導体と入れ替える以外の操作は

41に準ずる

親水基による増粘性の変化を観察するため架橋剤のモノマーに対する濃度比は 2-ア

クリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を使用したポリマーが最も増粘効果の高く

なると報告された濃度比を用いる

431 実験器具

実験器具は 41に準ずる

試薬

(3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライド

式量22074

沸点100

製造東京化成工業株式会社

432 実験手順

① 412 ①②と同じように重合系を作成する

② 重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先ほどのスターラーと

同じ温度にしたウォーターバスに移し (3-アクリルアミドプロピル)トリメチ

ルアミニウムクロライドNNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 123 mL

262 g入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始

剤としてメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

③ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

5 評価分析

耐塩性の高い増粘剤の耐塩性と使用感と親水基との関係を評価するために以下の二

つの測定を行い評価する

増粘剤の耐塩性の評価のために塩酸を増粘剤内部に取り込ませた状態で経時

12

による粘度の変化を観察する

また高分子の粘性を考える上で直鎖高分子の場合よく参考にされるのが平

均分子量でありこの値を測定することで親水基が変化した場合に平均分子

量が粒状高分子の粘性にも大きく影響するか確認する

精密に上の測定を行うには専用の機器が必要になるため機器メーカーの株式

会社エーアンドデイ様または東京理科大学理学部応用化学科駒場研究室に

また高分子の性質を考える上で重要視される平均分子量及び分子量分布に

ついては東京理科大学化学系機器センターにあるMALDI-TOF型質量分析計を管

理者の東京理科大学理学部応用化学科の根岸先生に測定に協力していただこうと

考えている

6 謝辞

東京理科大学工学部工業化学科 近藤行成教授

東京理科大学理学部化学科 遠藤恆平准教授

東京理科大学理学部応用化学科 駒場慎一教授

この研究を進めるに当たり大変お世話になった先輩先生方企業の皆さんに感謝の

意を表明します

参考文献

1) 小澤美奈子 基礎高分子科学 高分子学会 編 2010年 第六版 p979899

2) 小澤美奈子 基礎高分子科学 高分子学会 編 2010年 第六版 p99100

3) 金田 勇 逆相マイクロエマルション重合法による水膨潤性ミクロゲルの重合とその増

粘剤としての応用 2010年 p1

4) 小林敏勝 福井寛 きちん知りたい粒子表面と分散技術 日刊工業新聞社 p76

5) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 2006 p839 840 841

6) 皆川基 藤井富美子 洗剤洗浄 百科事典 大矢勝 2007年版 p4647

7) 日本産業洗浄協議会編 わかりやすい界面活性剤 工業調査会 2003 p373839

8) 資生堂 HP httpswwwshiseidogroupjprddevelopmentformulationhtmlより 2015

44取得

9) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 テクノシステム 2006 p321

10) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 テクノシステム 2006 p397

13

398399

11) 遠藤 剛 高分子の合成(上)~ラジカルカチオンアニオン重合~ 講談社 2010 3p

12) 佐藤壽彌編 高分子微粒子の技術と応用 シーエムシー出版 2004 p2526

13) 佐藤壽彌編 高分子微粒子の技術と応用 シーエムシー出版 2004 p27

14) マクマリー 上 8版 東京化学同人 p403404

15) John McMurry マクマリー有機化学(上) 第 8版 2013 p410411

Page 26: ゼオライトとキトサンを用いた 金属イオン除去剤の …kaken/studies/2015/2015-s-all.pdf1 東京理科大学I 部化学研究部 2015 年度春輪講書 ゼオライトとキトサンを用いた

3

ブドウ糖やショ糖など通常糖質の水への溶解度は非常に高いしかし天然型シク

ロデキストリンは隣接する水酸基との水素結合の為3 種のシクロデキストリンの中では最

も高い水溶性を有するγ-シクロデキストリンであってもその溶解度は 25において水

100 mL に 23 g であり油性物質を包接した場合は一般的にその溶解度はさらに低くな

るそこで水への溶解度を改善するためにシクロデキストリン化学修飾体が製造されて

いるシクロデキストリンの水溶性を向上させる方法として隣接する水酸基をメチル基や

アセチル基などでエーテル化やエステル化する方法がある具体的には部分メチル化β-シ

クロデキストリンやモノアセチル化β-シクロデキストリンが工業的に生産されている

24 包接能の評価について

今回の実験ではゲスト分子としてカルボン酸を用いるシクロデキストリン及び水溶化

シクロデキストリンの包接能の評価については包接化合物に含まれているカルボン酸をア

ルカリで滴定することで求めることができる

3 実験

31 試薬sup3⁾

アジピン酸

分子式C6H10O4

分子量1464

mp153

bp3375 アジピン酸

クエン酸

分子式C6H8O7

分子量19213

mp156~157

クエン酸

シュウ酸

分子式C2H2O4

分子量9004

mp1895

シュウ酸

4

βシクロデキストリン

分子式(C6H10O5)7

分子量113500

n-ブタノール

分子式C4H10O

分子量7412 β-シクロデキストリン

bp1179

エタノール

分子式C2H6O n-ブタノール

分子量4607

mp-1145

bp7833

水酸化ナトリウム

組成式NaOH

分子量4000

mp328

bp1388

無水オクタン酸

分子式C₈H₃₀O₃

分子量27041

mp-1 無水オクタン酸⁶⁾

濃硫酸

分子式H₂SO₄

分子量9808

mp104

32 使用器具

300 mL ビーカーメスフラスコピペット三角フラスコ吸引漏斗吸引瓶ビュレッ

トスタンドボウルガラス棒

5

33 実験操作

331 エステル化シクロデキストリンの合成 ⁵⁾

1)三角フラスコにβ-シクロデキストリン 1 g を入れこれに無水オクタン酸 025 mL を加

える

2)触媒として 2-3 滴の濃硫酸を添加し攪拌する

3)約 10 分間放置してフラスコを氷桶に入れて冷やしガラス棒でフラスコの壁を強くこす

り結晶を析出させる

4)水 20 mL を加えさらに氷桶で冷やしながら残る結晶を析出させる

5)この結晶を濾分し水で洗ってから取り出して乾かして結晶を得る⁵⁾

332 包接化合物の形成

1)β-シクロデキストリン 1 g を水 100 mL に溶解させる

2)ピペットで 1 mL のカルボン酸を加えコルク栓をして静置する

3)1 週間程静置し包接化合物を吸引濾過する

4)上記の操作をカルボン酸(酢酸シュウ酸クエン酸)で行う

5)エステル化シクロデキストリンで同様の実験を行う

333 包接能の測定

1)よく乾燥した包接化合物約 1 g をメスフラスコで 100 mL 溶液とする

2)この溶液 20 mL にフェノールフタレインを指示薬として20 mL 加え 01 M 水酸化ナト

リウム標準溶液で滴定する⁴⁾

334 溶解度の測定

1)100 mL の水に 5 g の β-シクロデキストリンを溶解させる

2)沈殿をろ過し乾燥して重量を測定する

3)エステル化 β-シクロデキストリンで同様の作業を行う

参考文献

1) 竹本喜一包接化合物の化学東京化学同人1969p2

2) 辻堅司シクロデキストリンの応用技術株式会社シーエムシー出版2008p3-p9

3) 大木道則大沼利昭田中元治千原秀明化学大辞典東京化学同人1989

4) 発田寿々子教養の化学実験第 2 版学術図書出版社2014p119

5) 南篠正男先生と生徒のための化学実験共立出版株式会社1986p155

6) 「 chemical book 」〈 wwwchemicalbookcomchemicalProductPropert_JP_CB 〉

(2015418 アクセス)

1

東京理科大学Ⅰ部化学研究部 2015年度春輪講書

ダブルネットワークの合成と評価 木曜班

OnizukaM(2C)TanakaR(2C)YamamokaH(2K) OhiraM(2K)

1背景

現在高分子ゲルは紙おむつの高吸水性樹脂やソフトコンタクトレンズなど私たちの生

活において活躍しているしかし高分子ゲルは不均一な構造なため一般的に機械的強

度が弱いという欠点がある高分子ゲルの強度面での弱点を克服するために従来では

ゲルの構造を均一化して強度を上げるというアプローチがとられてきた

しかしながら材料の弾性とじん性は反相する因子として働くつまり大変形に耐え

られるゲルは弾性率を犠牲とし高弾性のゲルは小さい変形で破壊される

そこで私達木曜班は前述の問題の解決策と成り得るものとしてダブルネットワーク

ゲル(DNゲル)について注目した

2目的

既存に作られている DNゲルは溶媒に水を用いたハイドロゲルであるDNゲルはその

強度や柔軟性により生体内での人工関節に使用することが期待され研究がおこなわれて

いる木曜班では DNゲルを生体内の関節だけでなく機械の関節部の摩擦軽減材料として

の使用を提案するしかし従来の DNゲルは溶媒が水であることにより水の沸点である

100以上の条件下では性能の低下が問題視され高温になりうる機械への応用が困難で

ある

溶媒を水から有機溶媒に変更することで高温条件下でのゲルの機能維持を試みるとと

もに使用するモノマーを変更しその機能性を検討する

3原理

31 DNゲル

311ゲルの脆弱性

一般的なゲルはゼリーや豆腐のように僅かな力を加えただけで簡単に壊れるほど

弱いこの理由は 2つの現象により説明することができる

1)ゲルの内部に多数の欠陥が存在する

2)欠陥から発生した初期亀裂が容易に伝播する

前者はゲル内部の構造が不均一であることに由来するゲル合成時におけるモノマ

ーと架橋剤の反応性の違いにより不均一な重合がおこるあるいはゲル化溶液内の濃度

揺らぎが重合によって固定されることだと考えられている 1)こうしたゲルに力を加えた

2

時にゲルの弱い部分に力が集中してしまうため小さな力でも初期亀裂が生じてしまう

後者はゲル内部のポリマーの密度の低さから生じる一般的に物質内における亀裂

の進みやすさは破壊エネルギーU(Jm2)(単位面積あたりの破断面形成に費やされる仕事)

によって評価される架橋高分子材料の臨界破壊エネルギーUc(亀裂成長が起こる最小

の破壊エネルギー)は破断面の高分子鎖の数密度と架橋点間分子量に比例する 2)つま

りゲルのじん性(物質の破壊に対する抵抗の程度で粘り強さとも言い換えられる 3))はゲ

ル内のポリマーの密度には比例し架橋密度には反比例することがわかる

ゲルは 50~99wtの溶媒を含んでいて高分子の密度が非常に低い物質であるためゲ

ルの Ucはゴムなどの固体に比べてかなり小さいことが考えられる

これまでの高強度ゲル研究は主に前者の問題を解決するすなわち構造を均一化するこ

とでゲル内部の欠陥を極力減らして強度を改善しようという観点から行われてきた

312 ゲルの弾性率

高分子鎖が三次元架橋されたゲルはゴムと同じようにエントロピー弾性を持つ溶液

中に完全に湿潤した電気的に中性ゲルのせん断弾性率(横方向に対するバネ係数 4)であり

Young率 Eと E=3Gの関係式が成立する)は

GneucongkBT

b3Q-225

以上の式で表せられゲルの湿潤度 Qの増加にともないせん断弾性率Gneuは大きく低下

するここでkBはボルツマン定数Tは温度bは重合させたモノマーの大きさである 5)

一方溶液中に完全に湿潤した電解質ゲルのせん断弾性率は

GchacongkBT

b3Q-1

によって表せる 6)よって同じ湿潤度において電解質ゲルは中性ゲルよりせん断弾性率が

高いことが分かる

またゲルの湿潤度は架橋点重合 N(分子量)による溶液中に完全に湿潤した中性ゲル

の場合QasympN35であり電解質ゲル場合QasympN

32であるしたがって架橋密度を上げる

ことによりゲルの湿潤度が小さくなりせん断弾性率が上がる 3)4)

313 ゲルの破断歪と破断応力

架橋構造が均一と仮定した理想的なゲルの破断歪(ゲルが破壊するまでの変形 7))は架

(1)

(2)

3

橋点間高分子の伸びきった長さと高分子鎖に歪がない曲がった自然な状態での大きさ

の比として求められる溶媒中で完全に湿潤した中性ゲルの引っ張り破断歪はλBcongQ12で

ありQの増加により増加する一方湿潤することにより単位面積あたりの高分子

の本数が減るため破断応力は湿潤度 Qが大きくなることにより減少する故にQが大

きいゲルは伸びやすいが弱い応力で壊れる

電解質ゲルの場合高分子鎖はその解離しているイオンの浸透圧によって水中では

ほとんど伸びきった状態となっているその結果理想状態においても破断歪はλBcongQ19

になるこれは破断歪が小さくかつ湿潤度にあまり依存しないことを意味している 5)

以上のことより

1)架橋密度を上げる(架橋点間分子量を下げる)ことでゲルが固くて脆くなる

2)水中に完全に湿潤した高分子電解質ゲルは中性のゲルより硬くて脆い高弾性と変形は

相反するということが考えられる

314 DNゲルの高強度機構

DNゲルは強電解質をモノマーとする 1st networkゲル電気的に中性なモノマーを用

いる 2nd networkゲルを組み合わせることにより生成される前述した通りゲルにおける

弾性と靭性は常に相反する働きをするそれゆえに単一な物質で両方の性質を得るこ

とは原理的には不可能である同じ湿潤度において電解質ゲルと中性ゲルのせん断弾性

率の比はGchaGneucongQ125であるために両者の違いは湿潤度 Qが高いほど大きくなる

この性質を利用することにより電解質ゲルは硬い成分中性ゲルは軟らかい成分とし

て用いることができる

亀裂を含む DNゲルがある引張荷重を受けると応力集中の効果で最初に亀裂先端近傍

の電解質網目(1st network)が破壊され局所的にゲルが降伏する荷重がますと電解質網

目の破壊が次々に伝播し広範囲にわたるダメージゾーンが形成されていくこの過程

で非常にいい気なエネルギーが分散されるダメージゾーンがある大きさまで広がった

ときようやく亀裂先端に中性網目(2nd network)が十分に伸びて切断し亀裂が進行す

る 8)

4

Fig 1 DNゲルの破壊モデル 9)

32 光ラジカル重合

321 光分解

光重合開始剤に UVを当てることにより開裂がおきラジカルが発生する本研究にお

いては 1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンを用いる 10)

Scheme1 1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンの開裂 10)

ℎ120592

5

322 開始反応

UVを当て光開裂により生じたラジカルがビニル基の二重結合を攻撃し光重合開始剤

と炭素の間に σ結合を作り炭素原子にラジカルが存在することになる

Scheme2 ラジカルの生成

323 成長反応

Scheme2で生成したラジカルが他のモノマーを攻撃しσ結合を生じるそれが何回

も起こることにより分子鎖が成長する 6)

Scheme3 分子鎖の成長

324 停止反応

Scheme 3で成長した成長ラジカル同士が σ結合を作り分子鎖が生成する 7)

Scheme4 分子鎖の生成

4実験

41 DNゲルの合成

411 使用器具試薬

ビーカー乳鉢乳棒薬さじUVライトデシケーター

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸

分子式 C7H13NO4S

式量20724

融点160

用途1st networkゲルのモノマー

6

アクリル酸

分子式C3H4O2

式量7206

融点123

沸点1416

比重10511

危険性引火性(発火温度 360 )

用途1st networkゲルのモノマー

アクリロニトリルの加水分解アクロレインの酸化ニッケルカルボニルの存在下ア

セチレンと一酸化炭素と水との反応などにより合成される酢酸に似た刺激臭を持つ液

体水エタノールエーテルによく溶ける酸素の存在下容易に重合するプラス

チックの原料として用いられる

アクリルアミド

分子式C3H5NO

式量7108

融点845

沸点103

比重1122

用途2nd networkゲルのモノマー

アクリルニトリルを硫酸あるいは塩酸を処理して得られるフレーク状の結晶溶解

性(g100 ml溶媒30 )水 2155メタノール 155エタノール 862アセトン 631

酢酸エチル 126クロロホルム 266ベンゼン 0346ヘプタン 00068化学的に不安

定で冷暗所に保存する必要がある融点付近あるいは紫外線下で重合する重合の仕方

により水溶性不溶性のものが得られる

酢酸ビニル

分子式C4H6O2

式量8609

融点-932

沸点723

比重09317

用途2nd networkゲルのモノマー

無色の液体酸やアルカリよって容易に加水分解されてアセトアルデヒドと酢酸を生

じる熱光ラジカル開始剤によって重合する

7

メタクリル酸メチル

分子式C5H8O2

式量10012

融点-48

沸点1003

比重0936

用途2nd networkゲルのモノマー

無色透明で催涙性の芳香のある液体工業的にはアセトンシアノヒドリンにメタノー

ルと硫酸を作用させて合成する実験室的にはメテクリル酸メチルの重合物を 320

以上で乾留すると得られる一般に有機溶媒には溶けるがエチレングリコールグリセ

リンには溶けにくい重合しやすいので重合禁止剤としてヒドロキノンモノメチルエ

ーテル(65 ppm)を添加して保存する有機ガラスの製造ビニル系共重合体など広く

重合反応に用いられるまたメチル以外のアルコールのメタクリル酸エステルの合成

にも用いられる

NN-メチレンビスアクリルアミド

分子式C7H10N2O2

式量15417

融点300

用途架橋剤

1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン

分子式C13H16O2

式量20427

融点47-50

用途光重合開始剤

最大吸収波長は 260 nm付近にある

エチレングリコール

式量6207

融点 -126

沸点1976

比重11132

8

用途ゲル溶媒

重要な二価アルコールでエチレンオキシドの酸触媒による開環高温高圧下水と

の反応による開環などによって合成される吸湿性無色無臭の液体甘味を有する

が有毒である高沸点を有ししかも水酸化カリウム水酸化ナトリウムを溶解し水や

エタノールと任意の割合で混合するので有機合成における溶媒として広く用いられ

また塩基に対して安定なエチレンケタールの生成によるカルボニル基の保護に用いら

れるさらに酢酸ビニル系樹脂の溶剤や水と混ざり高沸点のため不凍液に用いら

れるなど広い用途を持っている

412 1st networkゲルの作成

1) 1st networkゲルのモノマー(電解質モノマー)架橋剤(NN-メチレンビスアクリルア

ミド)と光重合開始剤(1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)を水に溶解させた水

溶液を調製する

2) UVを 8時間照射して光ラジカル重合をさせる

3) 2)で合成した電解質ゲルを乳鉢に入れ適当なサイズに砕いた後デシケーター内で一

週間ほど乾燥させる

413水溶媒 DNゲルの作成

1) 2nd networkゲルのモノマー(中性モノマー)架橋剤(NN-メチレンビスアクリルアミ

ド)光重合開始剤(1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)をエチレングリコールに

溶解させた溶液を調製する

2) 乾燥した電解質ゲルを 1)で調製した水溶液に入れ電解質ゲルを十分に膨らませるそ

の後UVを照射し中性モノマーを光ラジカル重合させる

414エチレングリコール DNゲルの作成

1) 2nd networkゲルのモノマー(中性モノマー)架橋剤(NN-メチレンビスアクリルアミ

ド)光重合開始剤(1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)をエチレングリコールに

溶解させた溶液を調製する

2) 乾燥した電解質ゲルを 1)で調製したエチレングリコール溶液に入れ電解質ゲルを十分

に膨らませるその後UVを照射し中性モノマーを光ラジカル重合させる

42 DNゲルの評価

421引っ張り試験

使用するモノマーの変化によるゲルの性質の差を評価する引っ張り試験は

JIS-K-6251-7号に準拠する方法で測定する

9

1)DNゲルを X方向の長さ 50 mmY方向の長さ 75 mmZ方向の長さが 25 mmの大

きさに成形する

2)その一端部に X-Y平面に平行な切込みを入れて2つの引張端部を形成する

3) 引張端部を片方は固定しもう片方を一定の速度で引っ張るこのときの引っ張る力 F

を測定する

Fig 2 引っ張り試験 13)

422 摩擦試験

使用するモノマーの変化溶媒の変化によるゲルの性質の差を評価する

摩擦試験は東京理科大学工学部第一部機械工学科佐々木研究室に依頼する予定である

用いる機械は SVR4パーカー熱処理工業株式会社製であり180での高温での摩擦係

数の測定が可能である

摩擦測定は常温(20 )と高温(100 )で測定することを予定している

10

5 展望

51 DNゲルの合成

実験操作は溶液を調製した後UV照射するという簡易な手順なので合成は比較的早い

段階で成功すると考えられる

1st networkゲル合成に使うのは電解質モノマーなため水溶液のモノマーの濃度が低

いと湿潤度 Q が大きくなりせん断弾性率が下がり剛性が弱いゲルが出来上がると考え

られる

架橋剤を多く使用すると架橋密度を上がるので 2nd networkゲルが入り込む空洞が小

さくなるそのために架橋剤が多すぎると高弾性のゲルが生成できると考えられる

また同様な考えで2nd networkモノマーが含まれている水溶液に乾燥させた1st network

ゲルを入れる量が多くても高弾性のゲルが生成できると考えられる

52 DNゲルの物性

ゲルの高分子網目は基板から離れようとするときにゲルと基板の間に僅かな溶媒層

が生じるこの状態では溶媒層が潤滑油のような働きをして生じる摩擦力は小さなも

のとなるゲル周辺が高温な状態ではこの溶媒層が水の場合は蒸発してしまうので摩

擦力は増大すると考えられる溶媒を水からより沸点の高いエチレングリコールなどに

変えれば摩擦力は増大することはないと推測される 14)

11

参考文献

1) J Bastide and L LeiblerMacromolecules1988212647

2) G G J Lake and A G ThomasProc R Soc LondonA1967300108

3)越後亮三 機械工学辞典 朝倉書店 2007 p631

4) 伊藤勝悦 やさしく学べる材料力学 森北出版 2014 p14

5)SPObukhovMRubinstein and RHColby Macromolecules 1994273191-3198

6)MRubinsteinRHColbyAVDobrynin and JJaonnyElasticMacromolecules199629398-406

7) 大 阪 府 立 大 学 基 礎 講 座 材 料 の 強 度 と 破 壊

httpwwwengmmtrosakafu-uacjpresearchstrength-japdf2015413取得

8)聾剣萍「生命科学時代の新材料-高弾性高靱性ダブルネットワークゲル」高分子学会

『高分子』高分子科学最近の進歩58巻 5号2009p327-p331

9)YTanakaEurophysLett20077856005

10)蓮池幹治ラジカル重合ハンドブックエヌティーエス2010p444-p445

11)大津隆行ラジカル重合(Ⅰ)化学同人1971p80-p81

12)大津隆行ラジカル重合(Ⅰ)化学同人1971p153-p154

13)聾剣萍高分子ゲルおよびその製造方法特開 2009-185156 2008-02-05

14) 角五 彰龔 剣萍長田義仁「ゲルの摩擦と水和潤滑~生物の滑らかな運動解明への

アプローチ」日本生物物理学会『生物物理』47巻 4号2007p 253-p258

1

東京理科大学Ⅰ部化学研究部 2015年度春輪講書

耐塩性の高い新規化粧品用増粘剤の開発 2015年度金曜班

Nomata N(2OK)Seki M(2OK)Tin J(2OK)Takahashi R(2C)Watanabe A(2K)

Asai D(2K) Nishimiti D(2K)Yamamoto R(2K)

1 動機

化粧品において増粘剤の果たす役割は非常に大きい

化粧品にはクリーム状のモノが多くありその整形には増粘剤が必要不可欠である

また増粘剤は製剤だけでなく密閉効果や水和効果によって薬剤を皮膚に効率的に輸

送することに役立っている

この増粘剤であるが一つ課題がありアスコルビン酸塩(ビタミン C)のようなクロロ

基を持つ塩系薬剤をゲル中に含む場合経時によってべたつきといった使用感の悪化

につながるといった弱点があるこの問題の解決のために塩系薬剤への耐性の高い増

粘剤の開発が望まれている

塩系薬剤の高い美容効果からこの問題の解決に対する化粧剤企業のニーズは高くこ

の問題は長く研究が続けられていたが近年資生堂が逆相マイクロエマルション重

合法によって microスケールの粒状高分子を多数合成することによりできる増粘剤が高い

耐塩性を持ち使用感もよいことを発見したがこの粒状高分子増粘剤には未だ試み

られていないモノマーが多くある

そこで今年度の金曜班ではこの逆相マイクロエマルション重合法において未だ

試みられていない親水基を持つモノマーを利用して新規の増粘剤をつくることで粒

状高分子による増粘剤の耐塩性と肌触りと親水基の関係を調べ応用化に利すること

ができるのではないかと考え実験を行うこととした

2 背景

増粘剤とは水溶液をゲル化するために添加される物質であり化粧品において広く

用いられているこの増粘効果は従来では高分子鎖同士の分子間力や架橋で生じる

網目構造の結果生じる液中の摩擦力によるものである

動機で述べたように μスケールの粒状高分子が増粘剤として良質であることがわか

っているただし粒状高分子の形状は反応場であるセッケンミセルの大きさだけで

なく親水基やポリマーを構成する原子同士の分子間力によって変わる高分子の立体構

2

造にも影響されている

また粒状高分子の正確な一次構造を把握することは大変難しいことであるので

応用化のためには高分子の一次構造でなくモノマーによって粒状高分子特性の変化

を調べることが重要である

さらに従来用いられているポリマーがスルホ基とカルボキシル基を親水基とする

ものしか存在しない

以上の三点から酸以外の親水基をもつモノマーで増粘剤を合成したときその性

質はどうなるかを調べることでより製品として利用価値が高い粒状高分子増粘剤を合

成することができるのではないかと考えた

そこで新規モノマーとしては対照実験を行うためにアクリルアミド系モノマー

でかつ 2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸のスルホ基と同じ炭素骨格の先

端に親水基が存在するものとしてN-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド (3-アク

リルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライドを用いてそれぞれ親水基が酸

ではなくヒドロキシ基である場合親水基がアニオンではなくカチオンである場合に

ついて研究を行うこととした

この二種の以外にも水溶性のアクリルアミドポリマーは存在するが上記の条件を満

たさないまたは高価であるため本実験では用いないこととした

Fig1 N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド

Fig2 (3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライド

3

3 原理

31 一般的な液体の粘性

溶液の粘性は一般論では以下のように表される

Fig3のように XY平面を取り液面に平板を用意し引っ張った時挟まれた溶液内

には図のようなせん断流動が発生する高さ Yでのせん断速度は(119881

119889) 119910で与えられる

この時平板に挟まれた溶液を薄層の集まりと考えると隣り合う薄層間に摩擦が生

じるこの内部摩擦力が粘性力であるずり速度勾配が十分に小さければ平板の単位

面積当たりに生じる粘性力 Fv0はその勾配 Vd に比例するすなわち以下の式で表

され1205780を粘性係数と呼ぶこの値は溶媒固有である1)

1198651199070 = 1205780 (119881

119889)

Fig3 溶液ずりせん断図

32 増粘剤の粘性

増粘剤の多くは低分子の液体に高分子を溶かすと著しく粘性が高くなる性質を利

用している

この粘性の発生するメカニズムは下の Fig4において平板間の溶液を薄層に分けた

際高分子鎖は溶液の移動に伴って回転するこのとき溶液中の薄層は薄層間の摩

擦以外に高分子鎖との間にも摩擦が生じているこの摩擦の増加が粘性力の増加とな

る 2)

4

Fig4 高分子による粘性増加

また高分子鎖同士が分子間力によって結びつき三次元構造を形成することで内

部摩擦力は一層大きくなるこのため高分子による増粘効果は顕著である

架橋高分子では三次元構造が高分子鎖同士の分子間力による形成よりも強いものと

なるので増粘効果及びレオロジー特性に優れる 3)

33 塩系薬剤による粘性劣化のメカニズム

塩系薬剤とはビタミンC (アスコルビン酸塩)のようにクロロ基をもつ薬効物質のこ

とである

このクロロ基が直鎖高分子や架橋高分子がポリマー間で形成する三次元網目構造

を破壊することによって増粘効果を消失させ内容物の流失によるべたつきを生じさ

せる 3)

34 粒状高分子の粘性

粒状高分子の粘性について粒状高分子はその粒経が小さいほど体積に対する表面

積が増え溶液内での内部摩擦力が大きくなる

また粒子同士が摩擦力を元に網目構造を形成するため網目構造の構成要因が直

鎖高分子や架橋高分子の高分子増粘剤と異なっている 4)

35 逆相マイクロエマルション重合法

後述する転相温度乳化法を用いて形成した5 μm~30 μm 形成したマイクロエマル

ション内において水溶性のモノマーを利用して行う乳化重合法の一種容易に極小の

5

ポリマーを合成することができる 5)

36 界面活性剤の概略

界面活性剤とは分子の構造が水になじみやすい部分(親水基)と油になじみやすい

部分(新油基)からできていて2つの物質の間の界面に集まりやすい性質を持ちそ

の界面の性質を著しく変える物質というのが界面活性剤の定義である

代表的な界面活性剤の特徴は界面における「吸着」と「ミセル形成」である 6)

もうひとつの代表的な作用として「可溶化」もある

37 エマルションの形成

界面活性剤に有機溶媒が取り囲まれて水に可溶化されたとき水溶液中に存在する

有機溶媒を界面活性剤が取り囲んだ液滴のことを OW エマルションと呼ぶ

有機溶媒中に水が可溶化される場合WOエマルションと呼ぶ

38 ノニオン界面活性剤

非イオン界面活性剤とも言う界面活性剤の内解離基を持たず電気的に中性な

界面活性剤で親水基は主にポリオキシエチレン基であるその特殊な性質上他の種類

の界面活性剤に無い性質として曇点と転相温度を持つ 今回使用するノニオン界面

活性剤はポリオキシエチレンオレイルエーテルであり基本式は以下のような形にな

る 7)

R-O(CH2CH2O)n-H

Scheme 1 ポリオキシエチレンオレイルエーテルの基本式

39 曇点

曇点とは透明な液体が相分離を起こして白濁する温度のこと

本実験においてはノニオン界面活性剤が加温によって界面活性効果を失い相分離

によって白濁する温度のこと 8)

310 転相温度乳化

ノニオン界面活性剤は加温によって界面張力が変化しWO型エマルションから

OW 型に変化するこの変化点のことを転相温度と言い転相温度において界

6

面張力が最低になっているので溶液エマルションが極小になる

またこの転相温度は界面活性剤に固有の値となるので二種の比較的性質の

近い界面活性剤を混合することで転相温度を操作し適切な温度で5 μm~30 μm

程度の直径を持つエマルションを作成する方法を転相温度乳化法と呼ぶ 10)

311 ラジカル重合

開始剤を用いてラジカル種を生成して行う重合法のことをラジカル重合法と言う

開始剤の分解要因によって熱光放射線ラジカル重合の三つに分けられる 10)

3111 ラジカル重合を構成する四反応

ラジカル重合は 4種類の反応が同時並行的に起こるそれぞれ以下の通りである 11)

開始反応

開始剤が熱光放射光などの要因によってラジカル開裂を起こしラジカル種を

生じさせる反応

成長反応

ラジカル種がモノマーと反応することでモノマー新たなラジカル種が生成する

反応これが連続することでポリマーが合成される

停止反応

連鎖していた成長反応が止まる反応主にラジカル種同士の反応による

連鎖移動反応

ラジカル種がモノマー以外の分子主に溶媒分子等と反応することでポリマー以

外の物質を合成する副反応

3112 乳化重合

乳化重合はモノマー液滴と呼ばれるモノマーを大量に保存しているエマルシ

ョンと反応場となる極小のセッケンミセルの二つの構造を持つ溶液中で行う不均

一系ラジカル重合の一種である 12)

成長反応が一段階進むたびにモノマー液滴から拡散の理論式に従ってモノマ

ーがミセル内に移動するこの一連の反応を繰り返して反応が進む 13)

そのため種々のラジカル重合法と比較して以下の特長がある 13)

セッケンミセル内に存在するラジカルが常に一つであるため停止反応が

7

起こりにくく比較的重合度の高いポリマーが生成しやすい

反応速度が拡散作用によって律速されかつセッケンミセルの周囲を大量

の溶媒分子が囲んでいるため除熱が容易であるという理由から熱暴走を起

こしにくいという利点がある

ミセル内で重合するため合成した高分子が絡まりやすく粒状の分子が作

成できる

Fig5 乳化重合模式図

312 MS(質量分析法)

質量分析法とは分子の質量すなわち分子量を測る手段でもあるまた分子を分解

したフラグメントの質量を測ることによって分子構造に関する情報を得るものでも

ある

高エネルギー電子が有機分子にぶつかると分子から電子がはじき出せれカチオ

ンラジカルが発生する

119825119815 rarr 119825119815++119838minus Scheme 2カチオンラジカルの発生

電子の衝突により大量のエネルギーが分子に与えられることで大部分のカチオン

ラジカルを生成した後フラグメントに分解するフラグメントは小さな破片となっ

て浮遊し正電荷や中性となる

このカチオンラジカルとフラグメントについてmz値を横軸相対強度を縦軸につ

いて取ったグラフから質量スペクトルを読み取る 14)

またMS(質量分析法)はイオン化の方法などによりいくつかに分けられ今回使用

したいのは高分子試料でもほとんどフラグメンテーションを起こさないソフトなイ

8

オン化法であるMALDI法 15)である

3121 MALDI法(マトリックス支援レーザー脱離イオン化法)

試料を 25-ヒドロキシ安息香酸のような適切なマトリックス上に吸着させて

ペレットを作成しレーザー光を短時間照射してイオン化する

エネルギーがマトリックスから試料に移動し[119872 + 119867119899 ]119899+に分解される 15)

MALDI法にはよく TOF型の MSが用いられている

4 実験

41 2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を用いた既存化粧品用増粘剤の合成

411 使用器具試薬

温度計ウォーターバスビーカー薬さじデシケーター

ジメチルアクリルアミド

式量9913

沸点81

発火点71

LD50(経口)316mgkg

LD50(経皮)580mgkg

製造和光純薬工業株式会社

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸

式量20725

融点200

LD50(経口)5400mgkg

製造和光純薬工業株式会社

NN-メチレンビスアクリルアミド

式量156

沸点4451

発火点215

LD50(経口)390mgkg

製造東京化成工業株式会社

9

へプタン

式量1002

沸点98

引火点-4

水に不溶

製造昭和化学

2-プロパノール

式量60

沸点82

発火点12

LD50(経口)区分外(GHS分類)

LD50(経皮)区分外(GHS分類)

製造昭和化学

ペルオキソ二硫酸アンモニウム

式量22820

冷水に易溶保存湿気厳禁

重合開始罪乳化重合レドックス重合に用いられる

製造和光純薬工業株式会社

412 実験手順

① ビーカーにイオン交換水ヘプタンポリオキシエチレンオレイルエーテル(2)

(8)をそれぞれ507 mL 507 mL489 g((2)(8)=23)加えて良く撹拌したも

のを入れる

② その後その後温度調節機能つきスターラーに乗せ白濁するまで加熱する

白濁した液が透明化するまで温度を落とし電気伝導率計を用いて溶液が転

相温度付近に保たれていることを確認する

③ 以上の操作が済んだ重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先

ほどのスターラーと同じ温度にしたウォーターバスに移し2-アクリルアミド

-2-メチルプロパンスルホン酸NNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 137 g

262 g入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始

剤としてメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

10

④ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

42 N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミドを用いた新規化粧品用増粘剤の合成

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を誘導体と入れ替える以外の

操作は 41に準ずる

親水基による増粘性の変化を観察するため架橋剤のモノマーに対する濃度比

は 2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を使用したポリマーが最も増

粘効果の高くなると報告された濃度比を用いる

421 使用器具試薬

使用器具は 41に準ずる

試薬

N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド

式量11513

沸点130

発火点189

製造東京化成工業株式会社

422 実験手順

① 412 ①②と同じように重合系を作成する

② 以上の操作が済んだ重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先

ほどのスターラーと同じ温度にしたウォーターバスに移しN-(2-ヒドロキシエ

チル)アクリルアミドNNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 076 g262

g 入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始剤と

してメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

③ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

11

43 (3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライドを用いた新規化粧品用

増粘剤の合成

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を誘導体と入れ替える以外の操作は

41に準ずる

親水基による増粘性の変化を観察するため架橋剤のモノマーに対する濃度比は 2-ア

クリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を使用したポリマーが最も増粘効果の高く

なると報告された濃度比を用いる

431 実験器具

実験器具は 41に準ずる

試薬

(3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライド

式量22074

沸点100

製造東京化成工業株式会社

432 実験手順

① 412 ①②と同じように重合系を作成する

② 重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先ほどのスターラーと

同じ温度にしたウォーターバスに移し (3-アクリルアミドプロピル)トリメチ

ルアミニウムクロライドNNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 123 mL

262 g入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始

剤としてメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

③ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

5 評価分析

耐塩性の高い増粘剤の耐塩性と使用感と親水基との関係を評価するために以下の二

つの測定を行い評価する

増粘剤の耐塩性の評価のために塩酸を増粘剤内部に取り込ませた状態で経時

12

による粘度の変化を観察する

また高分子の粘性を考える上で直鎖高分子の場合よく参考にされるのが平

均分子量でありこの値を測定することで親水基が変化した場合に平均分子

量が粒状高分子の粘性にも大きく影響するか確認する

精密に上の測定を行うには専用の機器が必要になるため機器メーカーの株式

会社エーアンドデイ様または東京理科大学理学部応用化学科駒場研究室に

また高分子の性質を考える上で重要視される平均分子量及び分子量分布に

ついては東京理科大学化学系機器センターにあるMALDI-TOF型質量分析計を管

理者の東京理科大学理学部応用化学科の根岸先生に測定に協力していただこうと

考えている

6 謝辞

東京理科大学工学部工業化学科 近藤行成教授

東京理科大学理学部化学科 遠藤恆平准教授

東京理科大学理学部応用化学科 駒場慎一教授

この研究を進めるに当たり大変お世話になった先輩先生方企業の皆さんに感謝の

意を表明します

参考文献

1) 小澤美奈子 基礎高分子科学 高分子学会 編 2010年 第六版 p979899

2) 小澤美奈子 基礎高分子科学 高分子学会 編 2010年 第六版 p99100

3) 金田 勇 逆相マイクロエマルション重合法による水膨潤性ミクロゲルの重合とその増

粘剤としての応用 2010年 p1

4) 小林敏勝 福井寛 きちん知りたい粒子表面と分散技術 日刊工業新聞社 p76

5) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 2006 p839 840 841

6) 皆川基 藤井富美子 洗剤洗浄 百科事典 大矢勝 2007年版 p4647

7) 日本産業洗浄協議会編 わかりやすい界面活性剤 工業調査会 2003 p373839

8) 資生堂 HP httpswwwshiseidogroupjprddevelopmentformulationhtmlより 2015

44取得

9) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 テクノシステム 2006 p321

10) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 テクノシステム 2006 p397

13

398399

11) 遠藤 剛 高分子の合成(上)~ラジカルカチオンアニオン重合~ 講談社 2010 3p

12) 佐藤壽彌編 高分子微粒子の技術と応用 シーエムシー出版 2004 p2526

13) 佐藤壽彌編 高分子微粒子の技術と応用 シーエムシー出版 2004 p27

14) マクマリー 上 8版 東京化学同人 p403404

15) John McMurry マクマリー有機化学(上) 第 8版 2013 p410411

Page 27: ゼオライトとキトサンを用いた 金属イオン除去剤の …kaken/studies/2015/2015-s-all.pdf1 東京理科大学I 部化学研究部 2015 年度春輪講書 ゼオライトとキトサンを用いた

4

βシクロデキストリン

分子式(C6H10O5)7

分子量113500

n-ブタノール

分子式C4H10O

分子量7412 β-シクロデキストリン

bp1179

エタノール

分子式C2H6O n-ブタノール

分子量4607

mp-1145

bp7833

水酸化ナトリウム

組成式NaOH

分子量4000

mp328

bp1388

無水オクタン酸

分子式C₈H₃₀O₃

分子量27041

mp-1 無水オクタン酸⁶⁾

濃硫酸

分子式H₂SO₄

分子量9808

mp104

32 使用器具

300 mL ビーカーメスフラスコピペット三角フラスコ吸引漏斗吸引瓶ビュレッ

トスタンドボウルガラス棒

5

33 実験操作

331 エステル化シクロデキストリンの合成 ⁵⁾

1)三角フラスコにβ-シクロデキストリン 1 g を入れこれに無水オクタン酸 025 mL を加

える

2)触媒として 2-3 滴の濃硫酸を添加し攪拌する

3)約 10 分間放置してフラスコを氷桶に入れて冷やしガラス棒でフラスコの壁を強くこす

り結晶を析出させる

4)水 20 mL を加えさらに氷桶で冷やしながら残る結晶を析出させる

5)この結晶を濾分し水で洗ってから取り出して乾かして結晶を得る⁵⁾

332 包接化合物の形成

1)β-シクロデキストリン 1 g を水 100 mL に溶解させる

2)ピペットで 1 mL のカルボン酸を加えコルク栓をして静置する

3)1 週間程静置し包接化合物を吸引濾過する

4)上記の操作をカルボン酸(酢酸シュウ酸クエン酸)で行う

5)エステル化シクロデキストリンで同様の実験を行う

333 包接能の測定

1)よく乾燥した包接化合物約 1 g をメスフラスコで 100 mL 溶液とする

2)この溶液 20 mL にフェノールフタレインを指示薬として20 mL 加え 01 M 水酸化ナト

リウム標準溶液で滴定する⁴⁾

334 溶解度の測定

1)100 mL の水に 5 g の β-シクロデキストリンを溶解させる

2)沈殿をろ過し乾燥して重量を測定する

3)エステル化 β-シクロデキストリンで同様の作業を行う

参考文献

1) 竹本喜一包接化合物の化学東京化学同人1969p2

2) 辻堅司シクロデキストリンの応用技術株式会社シーエムシー出版2008p3-p9

3) 大木道則大沼利昭田中元治千原秀明化学大辞典東京化学同人1989

4) 発田寿々子教養の化学実験第 2 版学術図書出版社2014p119

5) 南篠正男先生と生徒のための化学実験共立出版株式会社1986p155

6) 「 chemical book 」〈 wwwchemicalbookcomchemicalProductPropert_JP_CB 〉

(2015418 アクセス)

1

東京理科大学Ⅰ部化学研究部 2015年度春輪講書

ダブルネットワークの合成と評価 木曜班

OnizukaM(2C)TanakaR(2C)YamamokaH(2K) OhiraM(2K)

1背景

現在高分子ゲルは紙おむつの高吸水性樹脂やソフトコンタクトレンズなど私たちの生

活において活躍しているしかし高分子ゲルは不均一な構造なため一般的に機械的強

度が弱いという欠点がある高分子ゲルの強度面での弱点を克服するために従来では

ゲルの構造を均一化して強度を上げるというアプローチがとられてきた

しかしながら材料の弾性とじん性は反相する因子として働くつまり大変形に耐え

られるゲルは弾性率を犠牲とし高弾性のゲルは小さい変形で破壊される

そこで私達木曜班は前述の問題の解決策と成り得るものとしてダブルネットワーク

ゲル(DNゲル)について注目した

2目的

既存に作られている DNゲルは溶媒に水を用いたハイドロゲルであるDNゲルはその

強度や柔軟性により生体内での人工関節に使用することが期待され研究がおこなわれて

いる木曜班では DNゲルを生体内の関節だけでなく機械の関節部の摩擦軽減材料として

の使用を提案するしかし従来の DNゲルは溶媒が水であることにより水の沸点である

100以上の条件下では性能の低下が問題視され高温になりうる機械への応用が困難で

ある

溶媒を水から有機溶媒に変更することで高温条件下でのゲルの機能維持を試みるとと

もに使用するモノマーを変更しその機能性を検討する

3原理

31 DNゲル

311ゲルの脆弱性

一般的なゲルはゼリーや豆腐のように僅かな力を加えただけで簡単に壊れるほど

弱いこの理由は 2つの現象により説明することができる

1)ゲルの内部に多数の欠陥が存在する

2)欠陥から発生した初期亀裂が容易に伝播する

前者はゲル内部の構造が不均一であることに由来するゲル合成時におけるモノマ

ーと架橋剤の反応性の違いにより不均一な重合がおこるあるいはゲル化溶液内の濃度

揺らぎが重合によって固定されることだと考えられている 1)こうしたゲルに力を加えた

2

時にゲルの弱い部分に力が集中してしまうため小さな力でも初期亀裂が生じてしまう

後者はゲル内部のポリマーの密度の低さから生じる一般的に物質内における亀裂

の進みやすさは破壊エネルギーU(Jm2)(単位面積あたりの破断面形成に費やされる仕事)

によって評価される架橋高分子材料の臨界破壊エネルギーUc(亀裂成長が起こる最小

の破壊エネルギー)は破断面の高分子鎖の数密度と架橋点間分子量に比例する 2)つま

りゲルのじん性(物質の破壊に対する抵抗の程度で粘り強さとも言い換えられる 3))はゲ

ル内のポリマーの密度には比例し架橋密度には反比例することがわかる

ゲルは 50~99wtの溶媒を含んでいて高分子の密度が非常に低い物質であるためゲ

ルの Ucはゴムなどの固体に比べてかなり小さいことが考えられる

これまでの高強度ゲル研究は主に前者の問題を解決するすなわち構造を均一化するこ

とでゲル内部の欠陥を極力減らして強度を改善しようという観点から行われてきた

312 ゲルの弾性率

高分子鎖が三次元架橋されたゲルはゴムと同じようにエントロピー弾性を持つ溶液

中に完全に湿潤した電気的に中性ゲルのせん断弾性率(横方向に対するバネ係数 4)であり

Young率 Eと E=3Gの関係式が成立する)は

GneucongkBT

b3Q-225

以上の式で表せられゲルの湿潤度 Qの増加にともないせん断弾性率Gneuは大きく低下

するここでkBはボルツマン定数Tは温度bは重合させたモノマーの大きさである 5)

一方溶液中に完全に湿潤した電解質ゲルのせん断弾性率は

GchacongkBT

b3Q-1

によって表せる 6)よって同じ湿潤度において電解質ゲルは中性ゲルよりせん断弾性率が

高いことが分かる

またゲルの湿潤度は架橋点重合 N(分子量)による溶液中に完全に湿潤した中性ゲル

の場合QasympN35であり電解質ゲル場合QasympN

32であるしたがって架橋密度を上げる

ことによりゲルの湿潤度が小さくなりせん断弾性率が上がる 3)4)

313 ゲルの破断歪と破断応力

架橋構造が均一と仮定した理想的なゲルの破断歪(ゲルが破壊するまでの変形 7))は架

(1)

(2)

3

橋点間高分子の伸びきった長さと高分子鎖に歪がない曲がった自然な状態での大きさ

の比として求められる溶媒中で完全に湿潤した中性ゲルの引っ張り破断歪はλBcongQ12で

ありQの増加により増加する一方湿潤することにより単位面積あたりの高分子

の本数が減るため破断応力は湿潤度 Qが大きくなることにより減少する故にQが大

きいゲルは伸びやすいが弱い応力で壊れる

電解質ゲルの場合高分子鎖はその解離しているイオンの浸透圧によって水中では

ほとんど伸びきった状態となっているその結果理想状態においても破断歪はλBcongQ19

になるこれは破断歪が小さくかつ湿潤度にあまり依存しないことを意味している 5)

以上のことより

1)架橋密度を上げる(架橋点間分子量を下げる)ことでゲルが固くて脆くなる

2)水中に完全に湿潤した高分子電解質ゲルは中性のゲルより硬くて脆い高弾性と変形は

相反するということが考えられる

314 DNゲルの高強度機構

DNゲルは強電解質をモノマーとする 1st networkゲル電気的に中性なモノマーを用

いる 2nd networkゲルを組み合わせることにより生成される前述した通りゲルにおける

弾性と靭性は常に相反する働きをするそれゆえに単一な物質で両方の性質を得るこ

とは原理的には不可能である同じ湿潤度において電解質ゲルと中性ゲルのせん断弾性

率の比はGchaGneucongQ125であるために両者の違いは湿潤度 Qが高いほど大きくなる

この性質を利用することにより電解質ゲルは硬い成分中性ゲルは軟らかい成分とし

て用いることができる

亀裂を含む DNゲルがある引張荷重を受けると応力集中の効果で最初に亀裂先端近傍

の電解質網目(1st network)が破壊され局所的にゲルが降伏する荷重がますと電解質網

目の破壊が次々に伝播し広範囲にわたるダメージゾーンが形成されていくこの過程

で非常にいい気なエネルギーが分散されるダメージゾーンがある大きさまで広がった

ときようやく亀裂先端に中性網目(2nd network)が十分に伸びて切断し亀裂が進行す

る 8)

4

Fig 1 DNゲルの破壊モデル 9)

32 光ラジカル重合

321 光分解

光重合開始剤に UVを当てることにより開裂がおきラジカルが発生する本研究にお

いては 1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンを用いる 10)

Scheme1 1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンの開裂 10)

ℎ120592

5

322 開始反応

UVを当て光開裂により生じたラジカルがビニル基の二重結合を攻撃し光重合開始剤

と炭素の間に σ結合を作り炭素原子にラジカルが存在することになる

Scheme2 ラジカルの生成

323 成長反応

Scheme2で生成したラジカルが他のモノマーを攻撃しσ結合を生じるそれが何回

も起こることにより分子鎖が成長する 6)

Scheme3 分子鎖の成長

324 停止反応

Scheme 3で成長した成長ラジカル同士が σ結合を作り分子鎖が生成する 7)

Scheme4 分子鎖の生成

4実験

41 DNゲルの合成

411 使用器具試薬

ビーカー乳鉢乳棒薬さじUVライトデシケーター

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸

分子式 C7H13NO4S

式量20724

融点160

用途1st networkゲルのモノマー

6

アクリル酸

分子式C3H4O2

式量7206

融点123

沸点1416

比重10511

危険性引火性(発火温度 360 )

用途1st networkゲルのモノマー

アクリロニトリルの加水分解アクロレインの酸化ニッケルカルボニルの存在下ア

セチレンと一酸化炭素と水との反応などにより合成される酢酸に似た刺激臭を持つ液

体水エタノールエーテルによく溶ける酸素の存在下容易に重合するプラス

チックの原料として用いられる

アクリルアミド

分子式C3H5NO

式量7108

融点845

沸点103

比重1122

用途2nd networkゲルのモノマー

アクリルニトリルを硫酸あるいは塩酸を処理して得られるフレーク状の結晶溶解

性(g100 ml溶媒30 )水 2155メタノール 155エタノール 862アセトン 631

酢酸エチル 126クロロホルム 266ベンゼン 0346ヘプタン 00068化学的に不安

定で冷暗所に保存する必要がある融点付近あるいは紫外線下で重合する重合の仕方

により水溶性不溶性のものが得られる

酢酸ビニル

分子式C4H6O2

式量8609

融点-932

沸点723

比重09317

用途2nd networkゲルのモノマー

無色の液体酸やアルカリよって容易に加水分解されてアセトアルデヒドと酢酸を生

じる熱光ラジカル開始剤によって重合する

7

メタクリル酸メチル

分子式C5H8O2

式量10012

融点-48

沸点1003

比重0936

用途2nd networkゲルのモノマー

無色透明で催涙性の芳香のある液体工業的にはアセトンシアノヒドリンにメタノー

ルと硫酸を作用させて合成する実験室的にはメテクリル酸メチルの重合物を 320

以上で乾留すると得られる一般に有機溶媒には溶けるがエチレングリコールグリセ

リンには溶けにくい重合しやすいので重合禁止剤としてヒドロキノンモノメチルエ

ーテル(65 ppm)を添加して保存する有機ガラスの製造ビニル系共重合体など広く

重合反応に用いられるまたメチル以外のアルコールのメタクリル酸エステルの合成

にも用いられる

NN-メチレンビスアクリルアミド

分子式C7H10N2O2

式量15417

融点300

用途架橋剤

1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン

分子式C13H16O2

式量20427

融点47-50

用途光重合開始剤

最大吸収波長は 260 nm付近にある

エチレングリコール

式量6207

融点 -126

沸点1976

比重11132

8

用途ゲル溶媒

重要な二価アルコールでエチレンオキシドの酸触媒による開環高温高圧下水と

の反応による開環などによって合成される吸湿性無色無臭の液体甘味を有する

が有毒である高沸点を有ししかも水酸化カリウム水酸化ナトリウムを溶解し水や

エタノールと任意の割合で混合するので有機合成における溶媒として広く用いられ

また塩基に対して安定なエチレンケタールの生成によるカルボニル基の保護に用いら

れるさらに酢酸ビニル系樹脂の溶剤や水と混ざり高沸点のため不凍液に用いら

れるなど広い用途を持っている

412 1st networkゲルの作成

1) 1st networkゲルのモノマー(電解質モノマー)架橋剤(NN-メチレンビスアクリルア

ミド)と光重合開始剤(1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)を水に溶解させた水

溶液を調製する

2) UVを 8時間照射して光ラジカル重合をさせる

3) 2)で合成した電解質ゲルを乳鉢に入れ適当なサイズに砕いた後デシケーター内で一

週間ほど乾燥させる

413水溶媒 DNゲルの作成

1) 2nd networkゲルのモノマー(中性モノマー)架橋剤(NN-メチレンビスアクリルアミ

ド)光重合開始剤(1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)をエチレングリコールに

溶解させた溶液を調製する

2) 乾燥した電解質ゲルを 1)で調製した水溶液に入れ電解質ゲルを十分に膨らませるそ

の後UVを照射し中性モノマーを光ラジカル重合させる

414エチレングリコール DNゲルの作成

1) 2nd networkゲルのモノマー(中性モノマー)架橋剤(NN-メチレンビスアクリルアミ

ド)光重合開始剤(1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)をエチレングリコールに

溶解させた溶液を調製する

2) 乾燥した電解質ゲルを 1)で調製したエチレングリコール溶液に入れ電解質ゲルを十分

に膨らませるその後UVを照射し中性モノマーを光ラジカル重合させる

42 DNゲルの評価

421引っ張り試験

使用するモノマーの変化によるゲルの性質の差を評価する引っ張り試験は

JIS-K-6251-7号に準拠する方法で測定する

9

1)DNゲルを X方向の長さ 50 mmY方向の長さ 75 mmZ方向の長さが 25 mmの大

きさに成形する

2)その一端部に X-Y平面に平行な切込みを入れて2つの引張端部を形成する

3) 引張端部を片方は固定しもう片方を一定の速度で引っ張るこのときの引っ張る力 F

を測定する

Fig 2 引っ張り試験 13)

422 摩擦試験

使用するモノマーの変化溶媒の変化によるゲルの性質の差を評価する

摩擦試験は東京理科大学工学部第一部機械工学科佐々木研究室に依頼する予定である

用いる機械は SVR4パーカー熱処理工業株式会社製であり180での高温での摩擦係

数の測定が可能である

摩擦測定は常温(20 )と高温(100 )で測定することを予定している

10

5 展望

51 DNゲルの合成

実験操作は溶液を調製した後UV照射するという簡易な手順なので合成は比較的早い

段階で成功すると考えられる

1st networkゲル合成に使うのは電解質モノマーなため水溶液のモノマーの濃度が低

いと湿潤度 Q が大きくなりせん断弾性率が下がり剛性が弱いゲルが出来上がると考え

られる

架橋剤を多く使用すると架橋密度を上がるので 2nd networkゲルが入り込む空洞が小

さくなるそのために架橋剤が多すぎると高弾性のゲルが生成できると考えられる

また同様な考えで2nd networkモノマーが含まれている水溶液に乾燥させた1st network

ゲルを入れる量が多くても高弾性のゲルが生成できると考えられる

52 DNゲルの物性

ゲルの高分子網目は基板から離れようとするときにゲルと基板の間に僅かな溶媒層

が生じるこの状態では溶媒層が潤滑油のような働きをして生じる摩擦力は小さなも

のとなるゲル周辺が高温な状態ではこの溶媒層が水の場合は蒸発してしまうので摩

擦力は増大すると考えられる溶媒を水からより沸点の高いエチレングリコールなどに

変えれば摩擦力は増大することはないと推測される 14)

11

参考文献

1) J Bastide and L LeiblerMacromolecules1988212647

2) G G J Lake and A G ThomasProc R Soc LondonA1967300108

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6)MRubinsteinRHColbyAVDobrynin and JJaonnyElasticMacromolecules199629398-406

7) 大 阪 府 立 大 学 基 礎 講 座 材 料 の 強 度 と 破 壊

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9)YTanakaEurophysLett20077856005

10)蓮池幹治ラジカル重合ハンドブックエヌティーエス2010p444-p445

11)大津隆行ラジカル重合(Ⅰ)化学同人1971p80-p81

12)大津隆行ラジカル重合(Ⅰ)化学同人1971p153-p154

13)聾剣萍高分子ゲルおよびその製造方法特開 2009-185156 2008-02-05

14) 角五 彰龔 剣萍長田義仁「ゲルの摩擦と水和潤滑~生物の滑らかな運動解明への

アプローチ」日本生物物理学会『生物物理』47巻 4号2007p 253-p258

1

東京理科大学Ⅰ部化学研究部 2015年度春輪講書

耐塩性の高い新規化粧品用増粘剤の開発 2015年度金曜班

Nomata N(2OK)Seki M(2OK)Tin J(2OK)Takahashi R(2C)Watanabe A(2K)

Asai D(2K) Nishimiti D(2K)Yamamoto R(2K)

1 動機

化粧品において増粘剤の果たす役割は非常に大きい

化粧品にはクリーム状のモノが多くありその整形には増粘剤が必要不可欠である

また増粘剤は製剤だけでなく密閉効果や水和効果によって薬剤を皮膚に効率的に輸

送することに役立っている

この増粘剤であるが一つ課題がありアスコルビン酸塩(ビタミン C)のようなクロロ

基を持つ塩系薬剤をゲル中に含む場合経時によってべたつきといった使用感の悪化

につながるといった弱点があるこの問題の解決のために塩系薬剤への耐性の高い増

粘剤の開発が望まれている

塩系薬剤の高い美容効果からこの問題の解決に対する化粧剤企業のニーズは高くこ

の問題は長く研究が続けられていたが近年資生堂が逆相マイクロエマルション重

合法によって microスケールの粒状高分子を多数合成することによりできる増粘剤が高い

耐塩性を持ち使用感もよいことを発見したがこの粒状高分子増粘剤には未だ試み

られていないモノマーが多くある

そこで今年度の金曜班ではこの逆相マイクロエマルション重合法において未だ

試みられていない親水基を持つモノマーを利用して新規の増粘剤をつくることで粒

状高分子による増粘剤の耐塩性と肌触りと親水基の関係を調べ応用化に利すること

ができるのではないかと考え実験を行うこととした

2 背景

増粘剤とは水溶液をゲル化するために添加される物質であり化粧品において広く

用いられているこの増粘効果は従来では高分子鎖同士の分子間力や架橋で生じる

網目構造の結果生じる液中の摩擦力によるものである

動機で述べたように μスケールの粒状高分子が増粘剤として良質であることがわか

っているただし粒状高分子の形状は反応場であるセッケンミセルの大きさだけで

なく親水基やポリマーを構成する原子同士の分子間力によって変わる高分子の立体構

2

造にも影響されている

また粒状高分子の正確な一次構造を把握することは大変難しいことであるので

応用化のためには高分子の一次構造でなくモノマーによって粒状高分子特性の変化

を調べることが重要である

さらに従来用いられているポリマーがスルホ基とカルボキシル基を親水基とする

ものしか存在しない

以上の三点から酸以外の親水基をもつモノマーで増粘剤を合成したときその性

質はどうなるかを調べることでより製品として利用価値が高い粒状高分子増粘剤を合

成することができるのではないかと考えた

そこで新規モノマーとしては対照実験を行うためにアクリルアミド系モノマー

でかつ 2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸のスルホ基と同じ炭素骨格の先

端に親水基が存在するものとしてN-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド (3-アク

リルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライドを用いてそれぞれ親水基が酸

ではなくヒドロキシ基である場合親水基がアニオンではなくカチオンである場合に

ついて研究を行うこととした

この二種の以外にも水溶性のアクリルアミドポリマーは存在するが上記の条件を満

たさないまたは高価であるため本実験では用いないこととした

Fig1 N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド

Fig2 (3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライド

3

3 原理

31 一般的な液体の粘性

溶液の粘性は一般論では以下のように表される

Fig3のように XY平面を取り液面に平板を用意し引っ張った時挟まれた溶液内

には図のようなせん断流動が発生する高さ Yでのせん断速度は(119881

119889) 119910で与えられる

この時平板に挟まれた溶液を薄層の集まりと考えると隣り合う薄層間に摩擦が生

じるこの内部摩擦力が粘性力であるずり速度勾配が十分に小さければ平板の単位

面積当たりに生じる粘性力 Fv0はその勾配 Vd に比例するすなわち以下の式で表

され1205780を粘性係数と呼ぶこの値は溶媒固有である1)

1198651199070 = 1205780 (119881

119889)

Fig3 溶液ずりせん断図

32 増粘剤の粘性

増粘剤の多くは低分子の液体に高分子を溶かすと著しく粘性が高くなる性質を利

用している

この粘性の発生するメカニズムは下の Fig4において平板間の溶液を薄層に分けた

際高分子鎖は溶液の移動に伴って回転するこのとき溶液中の薄層は薄層間の摩

擦以外に高分子鎖との間にも摩擦が生じているこの摩擦の増加が粘性力の増加とな

る 2)

4

Fig4 高分子による粘性増加

また高分子鎖同士が分子間力によって結びつき三次元構造を形成することで内

部摩擦力は一層大きくなるこのため高分子による増粘効果は顕著である

架橋高分子では三次元構造が高分子鎖同士の分子間力による形成よりも強いものと

なるので増粘効果及びレオロジー特性に優れる 3)

33 塩系薬剤による粘性劣化のメカニズム

塩系薬剤とはビタミンC (アスコルビン酸塩)のようにクロロ基をもつ薬効物質のこ

とである

このクロロ基が直鎖高分子や架橋高分子がポリマー間で形成する三次元網目構造

を破壊することによって増粘効果を消失させ内容物の流失によるべたつきを生じさ

せる 3)

34 粒状高分子の粘性

粒状高分子の粘性について粒状高分子はその粒経が小さいほど体積に対する表面

積が増え溶液内での内部摩擦力が大きくなる

また粒子同士が摩擦力を元に網目構造を形成するため網目構造の構成要因が直

鎖高分子や架橋高分子の高分子増粘剤と異なっている 4)

35 逆相マイクロエマルション重合法

後述する転相温度乳化法を用いて形成した5 μm~30 μm 形成したマイクロエマル

ション内において水溶性のモノマーを利用して行う乳化重合法の一種容易に極小の

5

ポリマーを合成することができる 5)

36 界面活性剤の概略

界面活性剤とは分子の構造が水になじみやすい部分(親水基)と油になじみやすい

部分(新油基)からできていて2つの物質の間の界面に集まりやすい性質を持ちそ

の界面の性質を著しく変える物質というのが界面活性剤の定義である

代表的な界面活性剤の特徴は界面における「吸着」と「ミセル形成」である 6)

もうひとつの代表的な作用として「可溶化」もある

37 エマルションの形成

界面活性剤に有機溶媒が取り囲まれて水に可溶化されたとき水溶液中に存在する

有機溶媒を界面活性剤が取り囲んだ液滴のことを OW エマルションと呼ぶ

有機溶媒中に水が可溶化される場合WOエマルションと呼ぶ

38 ノニオン界面活性剤

非イオン界面活性剤とも言う界面活性剤の内解離基を持たず電気的に中性な

界面活性剤で親水基は主にポリオキシエチレン基であるその特殊な性質上他の種類

の界面活性剤に無い性質として曇点と転相温度を持つ 今回使用するノニオン界面

活性剤はポリオキシエチレンオレイルエーテルであり基本式は以下のような形にな

る 7)

R-O(CH2CH2O)n-H

Scheme 1 ポリオキシエチレンオレイルエーテルの基本式

39 曇点

曇点とは透明な液体が相分離を起こして白濁する温度のこと

本実験においてはノニオン界面活性剤が加温によって界面活性効果を失い相分離

によって白濁する温度のこと 8)

310 転相温度乳化

ノニオン界面活性剤は加温によって界面張力が変化しWO型エマルションから

OW 型に変化するこの変化点のことを転相温度と言い転相温度において界

6

面張力が最低になっているので溶液エマルションが極小になる

またこの転相温度は界面活性剤に固有の値となるので二種の比較的性質の

近い界面活性剤を混合することで転相温度を操作し適切な温度で5 μm~30 μm

程度の直径を持つエマルションを作成する方法を転相温度乳化法と呼ぶ 10)

311 ラジカル重合

開始剤を用いてラジカル種を生成して行う重合法のことをラジカル重合法と言う

開始剤の分解要因によって熱光放射線ラジカル重合の三つに分けられる 10)

3111 ラジカル重合を構成する四反応

ラジカル重合は 4種類の反応が同時並行的に起こるそれぞれ以下の通りである 11)

開始反応

開始剤が熱光放射光などの要因によってラジカル開裂を起こしラジカル種を

生じさせる反応

成長反応

ラジカル種がモノマーと反応することでモノマー新たなラジカル種が生成する

反応これが連続することでポリマーが合成される

停止反応

連鎖していた成長反応が止まる反応主にラジカル種同士の反応による

連鎖移動反応

ラジカル種がモノマー以外の分子主に溶媒分子等と反応することでポリマー以

外の物質を合成する副反応

3112 乳化重合

乳化重合はモノマー液滴と呼ばれるモノマーを大量に保存しているエマルシ

ョンと反応場となる極小のセッケンミセルの二つの構造を持つ溶液中で行う不均

一系ラジカル重合の一種である 12)

成長反応が一段階進むたびにモノマー液滴から拡散の理論式に従ってモノマ

ーがミセル内に移動するこの一連の反応を繰り返して反応が進む 13)

そのため種々のラジカル重合法と比較して以下の特長がある 13)

セッケンミセル内に存在するラジカルが常に一つであるため停止反応が

7

起こりにくく比較的重合度の高いポリマーが生成しやすい

反応速度が拡散作用によって律速されかつセッケンミセルの周囲を大量

の溶媒分子が囲んでいるため除熱が容易であるという理由から熱暴走を起

こしにくいという利点がある

ミセル内で重合するため合成した高分子が絡まりやすく粒状の分子が作

成できる

Fig5 乳化重合模式図

312 MS(質量分析法)

質量分析法とは分子の質量すなわち分子量を測る手段でもあるまた分子を分解

したフラグメントの質量を測ることによって分子構造に関する情報を得るものでも

ある

高エネルギー電子が有機分子にぶつかると分子から電子がはじき出せれカチオ

ンラジカルが発生する

119825119815 rarr 119825119815++119838minus Scheme 2カチオンラジカルの発生

電子の衝突により大量のエネルギーが分子に与えられることで大部分のカチオン

ラジカルを生成した後フラグメントに分解するフラグメントは小さな破片となっ

て浮遊し正電荷や中性となる

このカチオンラジカルとフラグメントについてmz値を横軸相対強度を縦軸につ

いて取ったグラフから質量スペクトルを読み取る 14)

またMS(質量分析法)はイオン化の方法などによりいくつかに分けられ今回使用

したいのは高分子試料でもほとんどフラグメンテーションを起こさないソフトなイ

8

オン化法であるMALDI法 15)である

3121 MALDI法(マトリックス支援レーザー脱離イオン化法)

試料を 25-ヒドロキシ安息香酸のような適切なマトリックス上に吸着させて

ペレットを作成しレーザー光を短時間照射してイオン化する

エネルギーがマトリックスから試料に移動し[119872 + 119867119899 ]119899+に分解される 15)

MALDI法にはよく TOF型の MSが用いられている

4 実験

41 2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を用いた既存化粧品用増粘剤の合成

411 使用器具試薬

温度計ウォーターバスビーカー薬さじデシケーター

ジメチルアクリルアミド

式量9913

沸点81

発火点71

LD50(経口)316mgkg

LD50(経皮)580mgkg

製造和光純薬工業株式会社

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸

式量20725

融点200

LD50(経口)5400mgkg

製造和光純薬工業株式会社

NN-メチレンビスアクリルアミド

式量156

沸点4451

発火点215

LD50(経口)390mgkg

製造東京化成工業株式会社

9

へプタン

式量1002

沸点98

引火点-4

水に不溶

製造昭和化学

2-プロパノール

式量60

沸点82

発火点12

LD50(経口)区分外(GHS分類)

LD50(経皮)区分外(GHS分類)

製造昭和化学

ペルオキソ二硫酸アンモニウム

式量22820

冷水に易溶保存湿気厳禁

重合開始罪乳化重合レドックス重合に用いられる

製造和光純薬工業株式会社

412 実験手順

① ビーカーにイオン交換水ヘプタンポリオキシエチレンオレイルエーテル(2)

(8)をそれぞれ507 mL 507 mL489 g((2)(8)=23)加えて良く撹拌したも

のを入れる

② その後その後温度調節機能つきスターラーに乗せ白濁するまで加熱する

白濁した液が透明化するまで温度を落とし電気伝導率計を用いて溶液が転

相温度付近に保たれていることを確認する

③ 以上の操作が済んだ重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先

ほどのスターラーと同じ温度にしたウォーターバスに移し2-アクリルアミド

-2-メチルプロパンスルホン酸NNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 137 g

262 g入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始

剤としてメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

10

④ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

42 N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミドを用いた新規化粧品用増粘剤の合成

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を誘導体と入れ替える以外の

操作は 41に準ずる

親水基による増粘性の変化を観察するため架橋剤のモノマーに対する濃度比

は 2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を使用したポリマーが最も増

粘効果の高くなると報告された濃度比を用いる

421 使用器具試薬

使用器具は 41に準ずる

試薬

N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド

式量11513

沸点130

発火点189

製造東京化成工業株式会社

422 実験手順

① 412 ①②と同じように重合系を作成する

② 以上の操作が済んだ重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先

ほどのスターラーと同じ温度にしたウォーターバスに移しN-(2-ヒドロキシエ

チル)アクリルアミドNNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 076 g262

g 入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始剤と

してメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

③ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

11

43 (3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライドを用いた新規化粧品用

増粘剤の合成

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を誘導体と入れ替える以外の操作は

41に準ずる

親水基による増粘性の変化を観察するため架橋剤のモノマーに対する濃度比は 2-ア

クリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を使用したポリマーが最も増粘効果の高く

なると報告された濃度比を用いる

431 実験器具

実験器具は 41に準ずる

試薬

(3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライド

式量22074

沸点100

製造東京化成工業株式会社

432 実験手順

① 412 ①②と同じように重合系を作成する

② 重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先ほどのスターラーと

同じ温度にしたウォーターバスに移し (3-アクリルアミドプロピル)トリメチ

ルアミニウムクロライドNNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 123 mL

262 g入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始

剤としてメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

③ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

5 評価分析

耐塩性の高い増粘剤の耐塩性と使用感と親水基との関係を評価するために以下の二

つの測定を行い評価する

増粘剤の耐塩性の評価のために塩酸を増粘剤内部に取り込ませた状態で経時

12

による粘度の変化を観察する

また高分子の粘性を考える上で直鎖高分子の場合よく参考にされるのが平

均分子量でありこの値を測定することで親水基が変化した場合に平均分子

量が粒状高分子の粘性にも大きく影響するか確認する

精密に上の測定を行うには専用の機器が必要になるため機器メーカーの株式

会社エーアンドデイ様または東京理科大学理学部応用化学科駒場研究室に

また高分子の性質を考える上で重要視される平均分子量及び分子量分布に

ついては東京理科大学化学系機器センターにあるMALDI-TOF型質量分析計を管

理者の東京理科大学理学部応用化学科の根岸先生に測定に協力していただこうと

考えている

6 謝辞

東京理科大学工学部工業化学科 近藤行成教授

東京理科大学理学部化学科 遠藤恆平准教授

東京理科大学理学部応用化学科 駒場慎一教授

この研究を進めるに当たり大変お世話になった先輩先生方企業の皆さんに感謝の

意を表明します

参考文献

1) 小澤美奈子 基礎高分子科学 高分子学会 編 2010年 第六版 p979899

2) 小澤美奈子 基礎高分子科学 高分子学会 編 2010年 第六版 p99100

3) 金田 勇 逆相マイクロエマルション重合法による水膨潤性ミクロゲルの重合とその増

粘剤としての応用 2010年 p1

4) 小林敏勝 福井寛 きちん知りたい粒子表面と分散技術 日刊工業新聞社 p76

5) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 2006 p839 840 841

6) 皆川基 藤井富美子 洗剤洗浄 百科事典 大矢勝 2007年版 p4647

7) 日本産業洗浄協議会編 わかりやすい界面活性剤 工業調査会 2003 p373839

8) 資生堂 HP httpswwwshiseidogroupjprddevelopmentformulationhtmlより 2015

44取得

9) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 テクノシステム 2006 p321

10) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 テクノシステム 2006 p397

13

398399

11) 遠藤 剛 高分子の合成(上)~ラジカルカチオンアニオン重合~ 講談社 2010 3p

12) 佐藤壽彌編 高分子微粒子の技術と応用 シーエムシー出版 2004 p2526

13) 佐藤壽彌編 高分子微粒子の技術と応用 シーエムシー出版 2004 p27

14) マクマリー 上 8版 東京化学同人 p403404

15) John McMurry マクマリー有機化学(上) 第 8版 2013 p410411

Page 28: ゼオライトとキトサンを用いた 金属イオン除去剤の …kaken/studies/2015/2015-s-all.pdf1 東京理科大学I 部化学研究部 2015 年度春輪講書 ゼオライトとキトサンを用いた

5

33 実験操作

331 エステル化シクロデキストリンの合成 ⁵⁾

1)三角フラスコにβ-シクロデキストリン 1 g を入れこれに無水オクタン酸 025 mL を加

える

2)触媒として 2-3 滴の濃硫酸を添加し攪拌する

3)約 10 分間放置してフラスコを氷桶に入れて冷やしガラス棒でフラスコの壁を強くこす

り結晶を析出させる

4)水 20 mL を加えさらに氷桶で冷やしながら残る結晶を析出させる

5)この結晶を濾分し水で洗ってから取り出して乾かして結晶を得る⁵⁾

332 包接化合物の形成

1)β-シクロデキストリン 1 g を水 100 mL に溶解させる

2)ピペットで 1 mL のカルボン酸を加えコルク栓をして静置する

3)1 週間程静置し包接化合物を吸引濾過する

4)上記の操作をカルボン酸(酢酸シュウ酸クエン酸)で行う

5)エステル化シクロデキストリンで同様の実験を行う

333 包接能の測定

1)よく乾燥した包接化合物約 1 g をメスフラスコで 100 mL 溶液とする

2)この溶液 20 mL にフェノールフタレインを指示薬として20 mL 加え 01 M 水酸化ナト

リウム標準溶液で滴定する⁴⁾

334 溶解度の測定

1)100 mL の水に 5 g の β-シクロデキストリンを溶解させる

2)沈殿をろ過し乾燥して重量を測定する

3)エステル化 β-シクロデキストリンで同様の作業を行う

参考文献

1) 竹本喜一包接化合物の化学東京化学同人1969p2

2) 辻堅司シクロデキストリンの応用技術株式会社シーエムシー出版2008p3-p9

3) 大木道則大沼利昭田中元治千原秀明化学大辞典東京化学同人1989

4) 発田寿々子教養の化学実験第 2 版学術図書出版社2014p119

5) 南篠正男先生と生徒のための化学実験共立出版株式会社1986p155

6) 「 chemical book 」〈 wwwchemicalbookcomchemicalProductPropert_JP_CB 〉

(2015418 アクセス)

1

東京理科大学Ⅰ部化学研究部 2015年度春輪講書

ダブルネットワークの合成と評価 木曜班

OnizukaM(2C)TanakaR(2C)YamamokaH(2K) OhiraM(2K)

1背景

現在高分子ゲルは紙おむつの高吸水性樹脂やソフトコンタクトレンズなど私たちの生

活において活躍しているしかし高分子ゲルは不均一な構造なため一般的に機械的強

度が弱いという欠点がある高分子ゲルの強度面での弱点を克服するために従来では

ゲルの構造を均一化して強度を上げるというアプローチがとられてきた

しかしながら材料の弾性とじん性は反相する因子として働くつまり大変形に耐え

られるゲルは弾性率を犠牲とし高弾性のゲルは小さい変形で破壊される

そこで私達木曜班は前述の問題の解決策と成り得るものとしてダブルネットワーク

ゲル(DNゲル)について注目した

2目的

既存に作られている DNゲルは溶媒に水を用いたハイドロゲルであるDNゲルはその

強度や柔軟性により生体内での人工関節に使用することが期待され研究がおこなわれて

いる木曜班では DNゲルを生体内の関節だけでなく機械の関節部の摩擦軽減材料として

の使用を提案するしかし従来の DNゲルは溶媒が水であることにより水の沸点である

100以上の条件下では性能の低下が問題視され高温になりうる機械への応用が困難で

ある

溶媒を水から有機溶媒に変更することで高温条件下でのゲルの機能維持を試みるとと

もに使用するモノマーを変更しその機能性を検討する

3原理

31 DNゲル

311ゲルの脆弱性

一般的なゲルはゼリーや豆腐のように僅かな力を加えただけで簡単に壊れるほど

弱いこの理由は 2つの現象により説明することができる

1)ゲルの内部に多数の欠陥が存在する

2)欠陥から発生した初期亀裂が容易に伝播する

前者はゲル内部の構造が不均一であることに由来するゲル合成時におけるモノマ

ーと架橋剤の反応性の違いにより不均一な重合がおこるあるいはゲル化溶液内の濃度

揺らぎが重合によって固定されることだと考えられている 1)こうしたゲルに力を加えた

2

時にゲルの弱い部分に力が集中してしまうため小さな力でも初期亀裂が生じてしまう

後者はゲル内部のポリマーの密度の低さから生じる一般的に物質内における亀裂

の進みやすさは破壊エネルギーU(Jm2)(単位面積あたりの破断面形成に費やされる仕事)

によって評価される架橋高分子材料の臨界破壊エネルギーUc(亀裂成長が起こる最小

の破壊エネルギー)は破断面の高分子鎖の数密度と架橋点間分子量に比例する 2)つま

りゲルのじん性(物質の破壊に対する抵抗の程度で粘り強さとも言い換えられる 3))はゲ

ル内のポリマーの密度には比例し架橋密度には反比例することがわかる

ゲルは 50~99wtの溶媒を含んでいて高分子の密度が非常に低い物質であるためゲ

ルの Ucはゴムなどの固体に比べてかなり小さいことが考えられる

これまでの高強度ゲル研究は主に前者の問題を解決するすなわち構造を均一化するこ

とでゲル内部の欠陥を極力減らして強度を改善しようという観点から行われてきた

312 ゲルの弾性率

高分子鎖が三次元架橋されたゲルはゴムと同じようにエントロピー弾性を持つ溶液

中に完全に湿潤した電気的に中性ゲルのせん断弾性率(横方向に対するバネ係数 4)であり

Young率 Eと E=3Gの関係式が成立する)は

GneucongkBT

b3Q-225

以上の式で表せられゲルの湿潤度 Qの増加にともないせん断弾性率Gneuは大きく低下

するここでkBはボルツマン定数Tは温度bは重合させたモノマーの大きさである 5)

一方溶液中に完全に湿潤した電解質ゲルのせん断弾性率は

GchacongkBT

b3Q-1

によって表せる 6)よって同じ湿潤度において電解質ゲルは中性ゲルよりせん断弾性率が

高いことが分かる

またゲルの湿潤度は架橋点重合 N(分子量)による溶液中に完全に湿潤した中性ゲル

の場合QasympN35であり電解質ゲル場合QasympN

32であるしたがって架橋密度を上げる

ことによりゲルの湿潤度が小さくなりせん断弾性率が上がる 3)4)

313 ゲルの破断歪と破断応力

架橋構造が均一と仮定した理想的なゲルの破断歪(ゲルが破壊するまでの変形 7))は架

(1)

(2)

3

橋点間高分子の伸びきった長さと高分子鎖に歪がない曲がった自然な状態での大きさ

の比として求められる溶媒中で完全に湿潤した中性ゲルの引っ張り破断歪はλBcongQ12で

ありQの増加により増加する一方湿潤することにより単位面積あたりの高分子

の本数が減るため破断応力は湿潤度 Qが大きくなることにより減少する故にQが大

きいゲルは伸びやすいが弱い応力で壊れる

電解質ゲルの場合高分子鎖はその解離しているイオンの浸透圧によって水中では

ほとんど伸びきった状態となっているその結果理想状態においても破断歪はλBcongQ19

になるこれは破断歪が小さくかつ湿潤度にあまり依存しないことを意味している 5)

以上のことより

1)架橋密度を上げる(架橋点間分子量を下げる)ことでゲルが固くて脆くなる

2)水中に完全に湿潤した高分子電解質ゲルは中性のゲルより硬くて脆い高弾性と変形は

相反するということが考えられる

314 DNゲルの高強度機構

DNゲルは強電解質をモノマーとする 1st networkゲル電気的に中性なモノマーを用

いる 2nd networkゲルを組み合わせることにより生成される前述した通りゲルにおける

弾性と靭性は常に相反する働きをするそれゆえに単一な物質で両方の性質を得るこ

とは原理的には不可能である同じ湿潤度において電解質ゲルと中性ゲルのせん断弾性

率の比はGchaGneucongQ125であるために両者の違いは湿潤度 Qが高いほど大きくなる

この性質を利用することにより電解質ゲルは硬い成分中性ゲルは軟らかい成分とし

て用いることができる

亀裂を含む DNゲルがある引張荷重を受けると応力集中の効果で最初に亀裂先端近傍

の電解質網目(1st network)が破壊され局所的にゲルが降伏する荷重がますと電解質網

目の破壊が次々に伝播し広範囲にわたるダメージゾーンが形成されていくこの過程

で非常にいい気なエネルギーが分散されるダメージゾーンがある大きさまで広がった

ときようやく亀裂先端に中性網目(2nd network)が十分に伸びて切断し亀裂が進行す

る 8)

4

Fig 1 DNゲルの破壊モデル 9)

32 光ラジカル重合

321 光分解

光重合開始剤に UVを当てることにより開裂がおきラジカルが発生する本研究にお

いては 1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンを用いる 10)

Scheme1 1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンの開裂 10)

ℎ120592

5

322 開始反応

UVを当て光開裂により生じたラジカルがビニル基の二重結合を攻撃し光重合開始剤

と炭素の間に σ結合を作り炭素原子にラジカルが存在することになる

Scheme2 ラジカルの生成

323 成長反応

Scheme2で生成したラジカルが他のモノマーを攻撃しσ結合を生じるそれが何回

も起こることにより分子鎖が成長する 6)

Scheme3 分子鎖の成長

324 停止反応

Scheme 3で成長した成長ラジカル同士が σ結合を作り分子鎖が生成する 7)

Scheme4 分子鎖の生成

4実験

41 DNゲルの合成

411 使用器具試薬

ビーカー乳鉢乳棒薬さじUVライトデシケーター

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸

分子式 C7H13NO4S

式量20724

融点160

用途1st networkゲルのモノマー

6

アクリル酸

分子式C3H4O2

式量7206

融点123

沸点1416

比重10511

危険性引火性(発火温度 360 )

用途1st networkゲルのモノマー

アクリロニトリルの加水分解アクロレインの酸化ニッケルカルボニルの存在下ア

セチレンと一酸化炭素と水との反応などにより合成される酢酸に似た刺激臭を持つ液

体水エタノールエーテルによく溶ける酸素の存在下容易に重合するプラス

チックの原料として用いられる

アクリルアミド

分子式C3H5NO

式量7108

融点845

沸点103

比重1122

用途2nd networkゲルのモノマー

アクリルニトリルを硫酸あるいは塩酸を処理して得られるフレーク状の結晶溶解

性(g100 ml溶媒30 )水 2155メタノール 155エタノール 862アセトン 631

酢酸エチル 126クロロホルム 266ベンゼン 0346ヘプタン 00068化学的に不安

定で冷暗所に保存する必要がある融点付近あるいは紫外線下で重合する重合の仕方

により水溶性不溶性のものが得られる

酢酸ビニル

分子式C4H6O2

式量8609

融点-932

沸点723

比重09317

用途2nd networkゲルのモノマー

無色の液体酸やアルカリよって容易に加水分解されてアセトアルデヒドと酢酸を生

じる熱光ラジカル開始剤によって重合する

7

メタクリル酸メチル

分子式C5H8O2

式量10012

融点-48

沸点1003

比重0936

用途2nd networkゲルのモノマー

無色透明で催涙性の芳香のある液体工業的にはアセトンシアノヒドリンにメタノー

ルと硫酸を作用させて合成する実験室的にはメテクリル酸メチルの重合物を 320

以上で乾留すると得られる一般に有機溶媒には溶けるがエチレングリコールグリセ

リンには溶けにくい重合しやすいので重合禁止剤としてヒドロキノンモノメチルエ

ーテル(65 ppm)を添加して保存する有機ガラスの製造ビニル系共重合体など広く

重合反応に用いられるまたメチル以外のアルコールのメタクリル酸エステルの合成

にも用いられる

NN-メチレンビスアクリルアミド

分子式C7H10N2O2

式量15417

融点300

用途架橋剤

1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン

分子式C13H16O2

式量20427

融点47-50

用途光重合開始剤

最大吸収波長は 260 nm付近にある

エチレングリコール

式量6207

融点 -126

沸点1976

比重11132

8

用途ゲル溶媒

重要な二価アルコールでエチレンオキシドの酸触媒による開環高温高圧下水と

の反応による開環などによって合成される吸湿性無色無臭の液体甘味を有する

が有毒である高沸点を有ししかも水酸化カリウム水酸化ナトリウムを溶解し水や

エタノールと任意の割合で混合するので有機合成における溶媒として広く用いられ

また塩基に対して安定なエチレンケタールの生成によるカルボニル基の保護に用いら

れるさらに酢酸ビニル系樹脂の溶剤や水と混ざり高沸点のため不凍液に用いら

れるなど広い用途を持っている

412 1st networkゲルの作成

1) 1st networkゲルのモノマー(電解質モノマー)架橋剤(NN-メチレンビスアクリルア

ミド)と光重合開始剤(1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)を水に溶解させた水

溶液を調製する

2) UVを 8時間照射して光ラジカル重合をさせる

3) 2)で合成した電解質ゲルを乳鉢に入れ適当なサイズに砕いた後デシケーター内で一

週間ほど乾燥させる

413水溶媒 DNゲルの作成

1) 2nd networkゲルのモノマー(中性モノマー)架橋剤(NN-メチレンビスアクリルアミ

ド)光重合開始剤(1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)をエチレングリコールに

溶解させた溶液を調製する

2) 乾燥した電解質ゲルを 1)で調製した水溶液に入れ電解質ゲルを十分に膨らませるそ

の後UVを照射し中性モノマーを光ラジカル重合させる

414エチレングリコール DNゲルの作成

1) 2nd networkゲルのモノマー(中性モノマー)架橋剤(NN-メチレンビスアクリルアミ

ド)光重合開始剤(1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)をエチレングリコールに

溶解させた溶液を調製する

2) 乾燥した電解質ゲルを 1)で調製したエチレングリコール溶液に入れ電解質ゲルを十分

に膨らませるその後UVを照射し中性モノマーを光ラジカル重合させる

42 DNゲルの評価

421引っ張り試験

使用するモノマーの変化によるゲルの性質の差を評価する引っ張り試験は

JIS-K-6251-7号に準拠する方法で測定する

9

1)DNゲルを X方向の長さ 50 mmY方向の長さ 75 mmZ方向の長さが 25 mmの大

きさに成形する

2)その一端部に X-Y平面に平行な切込みを入れて2つの引張端部を形成する

3) 引張端部を片方は固定しもう片方を一定の速度で引っ張るこのときの引っ張る力 F

を測定する

Fig 2 引っ張り試験 13)

422 摩擦試験

使用するモノマーの変化溶媒の変化によるゲルの性質の差を評価する

摩擦試験は東京理科大学工学部第一部機械工学科佐々木研究室に依頼する予定である

用いる機械は SVR4パーカー熱処理工業株式会社製であり180での高温での摩擦係

数の測定が可能である

摩擦測定は常温(20 )と高温(100 )で測定することを予定している

10

5 展望

51 DNゲルの合成

実験操作は溶液を調製した後UV照射するという簡易な手順なので合成は比較的早い

段階で成功すると考えられる

1st networkゲル合成に使うのは電解質モノマーなため水溶液のモノマーの濃度が低

いと湿潤度 Q が大きくなりせん断弾性率が下がり剛性が弱いゲルが出来上がると考え

られる

架橋剤を多く使用すると架橋密度を上がるので 2nd networkゲルが入り込む空洞が小

さくなるそのために架橋剤が多すぎると高弾性のゲルが生成できると考えられる

また同様な考えで2nd networkモノマーが含まれている水溶液に乾燥させた1st network

ゲルを入れる量が多くても高弾性のゲルが生成できると考えられる

52 DNゲルの物性

ゲルの高分子網目は基板から離れようとするときにゲルと基板の間に僅かな溶媒層

が生じるこの状態では溶媒層が潤滑油のような働きをして生じる摩擦力は小さなも

のとなるゲル周辺が高温な状態ではこの溶媒層が水の場合は蒸発してしまうので摩

擦力は増大すると考えられる溶媒を水からより沸点の高いエチレングリコールなどに

変えれば摩擦力は増大することはないと推測される 14)

11

参考文献

1) J Bastide and L LeiblerMacromolecules1988212647

2) G G J Lake and A G ThomasProc R Soc LondonA1967300108

3)越後亮三 機械工学辞典 朝倉書店 2007 p631

4) 伊藤勝悦 やさしく学べる材料力学 森北出版 2014 p14

5)SPObukhovMRubinstein and RHColby Macromolecules 1994273191-3198

6)MRubinsteinRHColbyAVDobrynin and JJaonnyElasticMacromolecules199629398-406

7) 大 阪 府 立 大 学 基 礎 講 座 材 料 の 強 度 と 破 壊

httpwwwengmmtrosakafu-uacjpresearchstrength-japdf2015413取得

8)聾剣萍「生命科学時代の新材料-高弾性高靱性ダブルネットワークゲル」高分子学会

『高分子』高分子科学最近の進歩58巻 5号2009p327-p331

9)YTanakaEurophysLett20077856005

10)蓮池幹治ラジカル重合ハンドブックエヌティーエス2010p444-p445

11)大津隆行ラジカル重合(Ⅰ)化学同人1971p80-p81

12)大津隆行ラジカル重合(Ⅰ)化学同人1971p153-p154

13)聾剣萍高分子ゲルおよびその製造方法特開 2009-185156 2008-02-05

14) 角五 彰龔 剣萍長田義仁「ゲルの摩擦と水和潤滑~生物の滑らかな運動解明への

アプローチ」日本生物物理学会『生物物理』47巻 4号2007p 253-p258

1

東京理科大学Ⅰ部化学研究部 2015年度春輪講書

耐塩性の高い新規化粧品用増粘剤の開発 2015年度金曜班

Nomata N(2OK)Seki M(2OK)Tin J(2OK)Takahashi R(2C)Watanabe A(2K)

Asai D(2K) Nishimiti D(2K)Yamamoto R(2K)

1 動機

化粧品において増粘剤の果たす役割は非常に大きい

化粧品にはクリーム状のモノが多くありその整形には増粘剤が必要不可欠である

また増粘剤は製剤だけでなく密閉効果や水和効果によって薬剤を皮膚に効率的に輸

送することに役立っている

この増粘剤であるが一つ課題がありアスコルビン酸塩(ビタミン C)のようなクロロ

基を持つ塩系薬剤をゲル中に含む場合経時によってべたつきといった使用感の悪化

につながるといった弱点があるこの問題の解決のために塩系薬剤への耐性の高い増

粘剤の開発が望まれている

塩系薬剤の高い美容効果からこの問題の解決に対する化粧剤企業のニーズは高くこ

の問題は長く研究が続けられていたが近年資生堂が逆相マイクロエマルション重

合法によって microスケールの粒状高分子を多数合成することによりできる増粘剤が高い

耐塩性を持ち使用感もよいことを発見したがこの粒状高分子増粘剤には未だ試み

られていないモノマーが多くある

そこで今年度の金曜班ではこの逆相マイクロエマルション重合法において未だ

試みられていない親水基を持つモノマーを利用して新規の増粘剤をつくることで粒

状高分子による増粘剤の耐塩性と肌触りと親水基の関係を調べ応用化に利すること

ができるのではないかと考え実験を行うこととした

2 背景

増粘剤とは水溶液をゲル化するために添加される物質であり化粧品において広く

用いられているこの増粘効果は従来では高分子鎖同士の分子間力や架橋で生じる

網目構造の結果生じる液中の摩擦力によるものである

動機で述べたように μスケールの粒状高分子が増粘剤として良質であることがわか

っているただし粒状高分子の形状は反応場であるセッケンミセルの大きさだけで

なく親水基やポリマーを構成する原子同士の分子間力によって変わる高分子の立体構

2

造にも影響されている

また粒状高分子の正確な一次構造を把握することは大変難しいことであるので

応用化のためには高分子の一次構造でなくモノマーによって粒状高分子特性の変化

を調べることが重要である

さらに従来用いられているポリマーがスルホ基とカルボキシル基を親水基とする

ものしか存在しない

以上の三点から酸以外の親水基をもつモノマーで増粘剤を合成したときその性

質はどうなるかを調べることでより製品として利用価値が高い粒状高分子増粘剤を合

成することができるのではないかと考えた

そこで新規モノマーとしては対照実験を行うためにアクリルアミド系モノマー

でかつ 2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸のスルホ基と同じ炭素骨格の先

端に親水基が存在するものとしてN-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド (3-アク

リルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライドを用いてそれぞれ親水基が酸

ではなくヒドロキシ基である場合親水基がアニオンではなくカチオンである場合に

ついて研究を行うこととした

この二種の以外にも水溶性のアクリルアミドポリマーは存在するが上記の条件を満

たさないまたは高価であるため本実験では用いないこととした

Fig1 N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド

Fig2 (3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライド

3

3 原理

31 一般的な液体の粘性

溶液の粘性は一般論では以下のように表される

Fig3のように XY平面を取り液面に平板を用意し引っ張った時挟まれた溶液内

には図のようなせん断流動が発生する高さ Yでのせん断速度は(119881

119889) 119910で与えられる

この時平板に挟まれた溶液を薄層の集まりと考えると隣り合う薄層間に摩擦が生

じるこの内部摩擦力が粘性力であるずり速度勾配が十分に小さければ平板の単位

面積当たりに生じる粘性力 Fv0はその勾配 Vd に比例するすなわち以下の式で表

され1205780を粘性係数と呼ぶこの値は溶媒固有である1)

1198651199070 = 1205780 (119881

119889)

Fig3 溶液ずりせん断図

32 増粘剤の粘性

増粘剤の多くは低分子の液体に高分子を溶かすと著しく粘性が高くなる性質を利

用している

この粘性の発生するメカニズムは下の Fig4において平板間の溶液を薄層に分けた

際高分子鎖は溶液の移動に伴って回転するこのとき溶液中の薄層は薄層間の摩

擦以外に高分子鎖との間にも摩擦が生じているこの摩擦の増加が粘性力の増加とな

る 2)

4

Fig4 高分子による粘性増加

また高分子鎖同士が分子間力によって結びつき三次元構造を形成することで内

部摩擦力は一層大きくなるこのため高分子による増粘効果は顕著である

架橋高分子では三次元構造が高分子鎖同士の分子間力による形成よりも強いものと

なるので増粘効果及びレオロジー特性に優れる 3)

33 塩系薬剤による粘性劣化のメカニズム

塩系薬剤とはビタミンC (アスコルビン酸塩)のようにクロロ基をもつ薬効物質のこ

とである

このクロロ基が直鎖高分子や架橋高分子がポリマー間で形成する三次元網目構造

を破壊することによって増粘効果を消失させ内容物の流失によるべたつきを生じさ

せる 3)

34 粒状高分子の粘性

粒状高分子の粘性について粒状高分子はその粒経が小さいほど体積に対する表面

積が増え溶液内での内部摩擦力が大きくなる

また粒子同士が摩擦力を元に網目構造を形成するため網目構造の構成要因が直

鎖高分子や架橋高分子の高分子増粘剤と異なっている 4)

35 逆相マイクロエマルション重合法

後述する転相温度乳化法を用いて形成した5 μm~30 μm 形成したマイクロエマル

ション内において水溶性のモノマーを利用して行う乳化重合法の一種容易に極小の

5

ポリマーを合成することができる 5)

36 界面活性剤の概略

界面活性剤とは分子の構造が水になじみやすい部分(親水基)と油になじみやすい

部分(新油基)からできていて2つの物質の間の界面に集まりやすい性質を持ちそ

の界面の性質を著しく変える物質というのが界面活性剤の定義である

代表的な界面活性剤の特徴は界面における「吸着」と「ミセル形成」である 6)

もうひとつの代表的な作用として「可溶化」もある

37 エマルションの形成

界面活性剤に有機溶媒が取り囲まれて水に可溶化されたとき水溶液中に存在する

有機溶媒を界面活性剤が取り囲んだ液滴のことを OW エマルションと呼ぶ

有機溶媒中に水が可溶化される場合WOエマルションと呼ぶ

38 ノニオン界面活性剤

非イオン界面活性剤とも言う界面活性剤の内解離基を持たず電気的に中性な

界面活性剤で親水基は主にポリオキシエチレン基であるその特殊な性質上他の種類

の界面活性剤に無い性質として曇点と転相温度を持つ 今回使用するノニオン界面

活性剤はポリオキシエチレンオレイルエーテルであり基本式は以下のような形にな

る 7)

R-O(CH2CH2O)n-H

Scheme 1 ポリオキシエチレンオレイルエーテルの基本式

39 曇点

曇点とは透明な液体が相分離を起こして白濁する温度のこと

本実験においてはノニオン界面活性剤が加温によって界面活性効果を失い相分離

によって白濁する温度のこと 8)

310 転相温度乳化

ノニオン界面活性剤は加温によって界面張力が変化しWO型エマルションから

OW 型に変化するこの変化点のことを転相温度と言い転相温度において界

6

面張力が最低になっているので溶液エマルションが極小になる

またこの転相温度は界面活性剤に固有の値となるので二種の比較的性質の

近い界面活性剤を混合することで転相温度を操作し適切な温度で5 μm~30 μm

程度の直径を持つエマルションを作成する方法を転相温度乳化法と呼ぶ 10)

311 ラジカル重合

開始剤を用いてラジカル種を生成して行う重合法のことをラジカル重合法と言う

開始剤の分解要因によって熱光放射線ラジカル重合の三つに分けられる 10)

3111 ラジカル重合を構成する四反応

ラジカル重合は 4種類の反応が同時並行的に起こるそれぞれ以下の通りである 11)

開始反応

開始剤が熱光放射光などの要因によってラジカル開裂を起こしラジカル種を

生じさせる反応

成長反応

ラジカル種がモノマーと反応することでモノマー新たなラジカル種が生成する

反応これが連続することでポリマーが合成される

停止反応

連鎖していた成長反応が止まる反応主にラジカル種同士の反応による

連鎖移動反応

ラジカル種がモノマー以外の分子主に溶媒分子等と反応することでポリマー以

外の物質を合成する副反応

3112 乳化重合

乳化重合はモノマー液滴と呼ばれるモノマーを大量に保存しているエマルシ

ョンと反応場となる極小のセッケンミセルの二つの構造を持つ溶液中で行う不均

一系ラジカル重合の一種である 12)

成長反応が一段階進むたびにモノマー液滴から拡散の理論式に従ってモノマ

ーがミセル内に移動するこの一連の反応を繰り返して反応が進む 13)

そのため種々のラジカル重合法と比較して以下の特長がある 13)

セッケンミセル内に存在するラジカルが常に一つであるため停止反応が

7

起こりにくく比較的重合度の高いポリマーが生成しやすい

反応速度が拡散作用によって律速されかつセッケンミセルの周囲を大量

の溶媒分子が囲んでいるため除熱が容易であるという理由から熱暴走を起

こしにくいという利点がある

ミセル内で重合するため合成した高分子が絡まりやすく粒状の分子が作

成できる

Fig5 乳化重合模式図

312 MS(質量分析法)

質量分析法とは分子の質量すなわち分子量を測る手段でもあるまた分子を分解

したフラグメントの質量を測ることによって分子構造に関する情報を得るものでも

ある

高エネルギー電子が有機分子にぶつかると分子から電子がはじき出せれカチオ

ンラジカルが発生する

119825119815 rarr 119825119815++119838minus Scheme 2カチオンラジカルの発生

電子の衝突により大量のエネルギーが分子に与えられることで大部分のカチオン

ラジカルを生成した後フラグメントに分解するフラグメントは小さな破片となっ

て浮遊し正電荷や中性となる

このカチオンラジカルとフラグメントについてmz値を横軸相対強度を縦軸につ

いて取ったグラフから質量スペクトルを読み取る 14)

またMS(質量分析法)はイオン化の方法などによりいくつかに分けられ今回使用

したいのは高分子試料でもほとんどフラグメンテーションを起こさないソフトなイ

8

オン化法であるMALDI法 15)である

3121 MALDI法(マトリックス支援レーザー脱離イオン化法)

試料を 25-ヒドロキシ安息香酸のような適切なマトリックス上に吸着させて

ペレットを作成しレーザー光を短時間照射してイオン化する

エネルギーがマトリックスから試料に移動し[119872 + 119867119899 ]119899+に分解される 15)

MALDI法にはよく TOF型の MSが用いられている

4 実験

41 2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を用いた既存化粧品用増粘剤の合成

411 使用器具試薬

温度計ウォーターバスビーカー薬さじデシケーター

ジメチルアクリルアミド

式量9913

沸点81

発火点71

LD50(経口)316mgkg

LD50(経皮)580mgkg

製造和光純薬工業株式会社

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸

式量20725

融点200

LD50(経口)5400mgkg

製造和光純薬工業株式会社

NN-メチレンビスアクリルアミド

式量156

沸点4451

発火点215

LD50(経口)390mgkg

製造東京化成工業株式会社

9

へプタン

式量1002

沸点98

引火点-4

水に不溶

製造昭和化学

2-プロパノール

式量60

沸点82

発火点12

LD50(経口)区分外(GHS分類)

LD50(経皮)区分外(GHS分類)

製造昭和化学

ペルオキソ二硫酸アンモニウム

式量22820

冷水に易溶保存湿気厳禁

重合開始罪乳化重合レドックス重合に用いられる

製造和光純薬工業株式会社

412 実験手順

① ビーカーにイオン交換水ヘプタンポリオキシエチレンオレイルエーテル(2)

(8)をそれぞれ507 mL 507 mL489 g((2)(8)=23)加えて良く撹拌したも

のを入れる

② その後その後温度調節機能つきスターラーに乗せ白濁するまで加熱する

白濁した液が透明化するまで温度を落とし電気伝導率計を用いて溶液が転

相温度付近に保たれていることを確認する

③ 以上の操作が済んだ重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先

ほどのスターラーと同じ温度にしたウォーターバスに移し2-アクリルアミド

-2-メチルプロパンスルホン酸NNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 137 g

262 g入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始

剤としてメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

10

④ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

42 N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミドを用いた新規化粧品用増粘剤の合成

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を誘導体と入れ替える以外の

操作は 41に準ずる

親水基による増粘性の変化を観察するため架橋剤のモノマーに対する濃度比

は 2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を使用したポリマーが最も増

粘効果の高くなると報告された濃度比を用いる

421 使用器具試薬

使用器具は 41に準ずる

試薬

N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド

式量11513

沸点130

発火点189

製造東京化成工業株式会社

422 実験手順

① 412 ①②と同じように重合系を作成する

② 以上の操作が済んだ重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先

ほどのスターラーと同じ温度にしたウォーターバスに移しN-(2-ヒドロキシエ

チル)アクリルアミドNNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 076 g262

g 入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始剤と

してメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

③ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

11

43 (3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライドを用いた新規化粧品用

増粘剤の合成

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を誘導体と入れ替える以外の操作は

41に準ずる

親水基による増粘性の変化を観察するため架橋剤のモノマーに対する濃度比は 2-ア

クリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を使用したポリマーが最も増粘効果の高く

なると報告された濃度比を用いる

431 実験器具

実験器具は 41に準ずる

試薬

(3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライド

式量22074

沸点100

製造東京化成工業株式会社

432 実験手順

① 412 ①②と同じように重合系を作成する

② 重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先ほどのスターラーと

同じ温度にしたウォーターバスに移し (3-アクリルアミドプロピル)トリメチ

ルアミニウムクロライドNNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 123 mL

262 g入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始

剤としてメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

③ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

5 評価分析

耐塩性の高い増粘剤の耐塩性と使用感と親水基との関係を評価するために以下の二

つの測定を行い評価する

増粘剤の耐塩性の評価のために塩酸を増粘剤内部に取り込ませた状態で経時

12

による粘度の変化を観察する

また高分子の粘性を考える上で直鎖高分子の場合よく参考にされるのが平

均分子量でありこの値を測定することで親水基が変化した場合に平均分子

量が粒状高分子の粘性にも大きく影響するか確認する

精密に上の測定を行うには専用の機器が必要になるため機器メーカーの株式

会社エーアンドデイ様または東京理科大学理学部応用化学科駒場研究室に

また高分子の性質を考える上で重要視される平均分子量及び分子量分布に

ついては東京理科大学化学系機器センターにあるMALDI-TOF型質量分析計を管

理者の東京理科大学理学部応用化学科の根岸先生に測定に協力していただこうと

考えている

6 謝辞

東京理科大学工学部工業化学科 近藤行成教授

東京理科大学理学部化学科 遠藤恆平准教授

東京理科大学理学部応用化学科 駒場慎一教授

この研究を進めるに当たり大変お世話になった先輩先生方企業の皆さんに感謝の

意を表明します

参考文献

1) 小澤美奈子 基礎高分子科学 高分子学会 編 2010年 第六版 p979899

2) 小澤美奈子 基礎高分子科学 高分子学会 編 2010年 第六版 p99100

3) 金田 勇 逆相マイクロエマルション重合法による水膨潤性ミクロゲルの重合とその増

粘剤としての応用 2010年 p1

4) 小林敏勝 福井寛 きちん知りたい粒子表面と分散技術 日刊工業新聞社 p76

5) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 2006 p839 840 841

6) 皆川基 藤井富美子 洗剤洗浄 百科事典 大矢勝 2007年版 p4647

7) 日本産業洗浄協議会編 わかりやすい界面活性剤 工業調査会 2003 p373839

8) 資生堂 HP httpswwwshiseidogroupjprddevelopmentformulationhtmlより 2015

44取得

9) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 テクノシステム 2006 p321

10) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 テクノシステム 2006 p397

13

398399

11) 遠藤 剛 高分子の合成(上)~ラジカルカチオンアニオン重合~ 講談社 2010 3p

12) 佐藤壽彌編 高分子微粒子の技術と応用 シーエムシー出版 2004 p2526

13) 佐藤壽彌編 高分子微粒子の技術と応用 シーエムシー出版 2004 p27

14) マクマリー 上 8版 東京化学同人 p403404

15) John McMurry マクマリー有機化学(上) 第 8版 2013 p410411

Page 29: ゼオライトとキトサンを用いた 金属イオン除去剤の …kaken/studies/2015/2015-s-all.pdf1 東京理科大学I 部化学研究部 2015 年度春輪講書 ゼオライトとキトサンを用いた

1

東京理科大学Ⅰ部化学研究部 2015年度春輪講書

ダブルネットワークの合成と評価 木曜班

OnizukaM(2C)TanakaR(2C)YamamokaH(2K) OhiraM(2K)

1背景

現在高分子ゲルは紙おむつの高吸水性樹脂やソフトコンタクトレンズなど私たちの生

活において活躍しているしかし高分子ゲルは不均一な構造なため一般的に機械的強

度が弱いという欠点がある高分子ゲルの強度面での弱点を克服するために従来では

ゲルの構造を均一化して強度を上げるというアプローチがとられてきた

しかしながら材料の弾性とじん性は反相する因子として働くつまり大変形に耐え

られるゲルは弾性率を犠牲とし高弾性のゲルは小さい変形で破壊される

そこで私達木曜班は前述の問題の解決策と成り得るものとしてダブルネットワーク

ゲル(DNゲル)について注目した

2目的

既存に作られている DNゲルは溶媒に水を用いたハイドロゲルであるDNゲルはその

強度や柔軟性により生体内での人工関節に使用することが期待され研究がおこなわれて

いる木曜班では DNゲルを生体内の関節だけでなく機械の関節部の摩擦軽減材料として

の使用を提案するしかし従来の DNゲルは溶媒が水であることにより水の沸点である

100以上の条件下では性能の低下が問題視され高温になりうる機械への応用が困難で

ある

溶媒を水から有機溶媒に変更することで高温条件下でのゲルの機能維持を試みるとと

もに使用するモノマーを変更しその機能性を検討する

3原理

31 DNゲル

311ゲルの脆弱性

一般的なゲルはゼリーや豆腐のように僅かな力を加えただけで簡単に壊れるほど

弱いこの理由は 2つの現象により説明することができる

1)ゲルの内部に多数の欠陥が存在する

2)欠陥から発生した初期亀裂が容易に伝播する

前者はゲル内部の構造が不均一であることに由来するゲル合成時におけるモノマ

ーと架橋剤の反応性の違いにより不均一な重合がおこるあるいはゲル化溶液内の濃度

揺らぎが重合によって固定されることだと考えられている 1)こうしたゲルに力を加えた

2

時にゲルの弱い部分に力が集中してしまうため小さな力でも初期亀裂が生じてしまう

後者はゲル内部のポリマーの密度の低さから生じる一般的に物質内における亀裂

の進みやすさは破壊エネルギーU(Jm2)(単位面積あたりの破断面形成に費やされる仕事)

によって評価される架橋高分子材料の臨界破壊エネルギーUc(亀裂成長が起こる最小

の破壊エネルギー)は破断面の高分子鎖の数密度と架橋点間分子量に比例する 2)つま

りゲルのじん性(物質の破壊に対する抵抗の程度で粘り強さとも言い換えられる 3))はゲ

ル内のポリマーの密度には比例し架橋密度には反比例することがわかる

ゲルは 50~99wtの溶媒を含んでいて高分子の密度が非常に低い物質であるためゲ

ルの Ucはゴムなどの固体に比べてかなり小さいことが考えられる

これまでの高強度ゲル研究は主に前者の問題を解決するすなわち構造を均一化するこ

とでゲル内部の欠陥を極力減らして強度を改善しようという観点から行われてきた

312 ゲルの弾性率

高分子鎖が三次元架橋されたゲルはゴムと同じようにエントロピー弾性を持つ溶液

中に完全に湿潤した電気的に中性ゲルのせん断弾性率(横方向に対するバネ係数 4)であり

Young率 Eと E=3Gの関係式が成立する)は

GneucongkBT

b3Q-225

以上の式で表せられゲルの湿潤度 Qの増加にともないせん断弾性率Gneuは大きく低下

するここでkBはボルツマン定数Tは温度bは重合させたモノマーの大きさである 5)

一方溶液中に完全に湿潤した電解質ゲルのせん断弾性率は

GchacongkBT

b3Q-1

によって表せる 6)よって同じ湿潤度において電解質ゲルは中性ゲルよりせん断弾性率が

高いことが分かる

またゲルの湿潤度は架橋点重合 N(分子量)による溶液中に完全に湿潤した中性ゲル

の場合QasympN35であり電解質ゲル場合QasympN

32であるしたがって架橋密度を上げる

ことによりゲルの湿潤度が小さくなりせん断弾性率が上がる 3)4)

313 ゲルの破断歪と破断応力

架橋構造が均一と仮定した理想的なゲルの破断歪(ゲルが破壊するまでの変形 7))は架

(1)

(2)

3

橋点間高分子の伸びきった長さと高分子鎖に歪がない曲がった自然な状態での大きさ

の比として求められる溶媒中で完全に湿潤した中性ゲルの引っ張り破断歪はλBcongQ12で

ありQの増加により増加する一方湿潤することにより単位面積あたりの高分子

の本数が減るため破断応力は湿潤度 Qが大きくなることにより減少する故にQが大

きいゲルは伸びやすいが弱い応力で壊れる

電解質ゲルの場合高分子鎖はその解離しているイオンの浸透圧によって水中では

ほとんど伸びきった状態となっているその結果理想状態においても破断歪はλBcongQ19

になるこれは破断歪が小さくかつ湿潤度にあまり依存しないことを意味している 5)

以上のことより

1)架橋密度を上げる(架橋点間分子量を下げる)ことでゲルが固くて脆くなる

2)水中に完全に湿潤した高分子電解質ゲルは中性のゲルより硬くて脆い高弾性と変形は

相反するということが考えられる

314 DNゲルの高強度機構

DNゲルは強電解質をモノマーとする 1st networkゲル電気的に中性なモノマーを用

いる 2nd networkゲルを組み合わせることにより生成される前述した通りゲルにおける

弾性と靭性は常に相反する働きをするそれゆえに単一な物質で両方の性質を得るこ

とは原理的には不可能である同じ湿潤度において電解質ゲルと中性ゲルのせん断弾性

率の比はGchaGneucongQ125であるために両者の違いは湿潤度 Qが高いほど大きくなる

この性質を利用することにより電解質ゲルは硬い成分中性ゲルは軟らかい成分とし

て用いることができる

亀裂を含む DNゲルがある引張荷重を受けると応力集中の効果で最初に亀裂先端近傍

の電解質網目(1st network)が破壊され局所的にゲルが降伏する荷重がますと電解質網

目の破壊が次々に伝播し広範囲にわたるダメージゾーンが形成されていくこの過程

で非常にいい気なエネルギーが分散されるダメージゾーンがある大きさまで広がった

ときようやく亀裂先端に中性網目(2nd network)が十分に伸びて切断し亀裂が進行す

る 8)

4

Fig 1 DNゲルの破壊モデル 9)

32 光ラジカル重合

321 光分解

光重合開始剤に UVを当てることにより開裂がおきラジカルが発生する本研究にお

いては 1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンを用いる 10)

Scheme1 1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンの開裂 10)

ℎ120592

5

322 開始反応

UVを当て光開裂により生じたラジカルがビニル基の二重結合を攻撃し光重合開始剤

と炭素の間に σ結合を作り炭素原子にラジカルが存在することになる

Scheme2 ラジカルの生成

323 成長反応

Scheme2で生成したラジカルが他のモノマーを攻撃しσ結合を生じるそれが何回

も起こることにより分子鎖が成長する 6)

Scheme3 分子鎖の成長

324 停止反応

Scheme 3で成長した成長ラジカル同士が σ結合を作り分子鎖が生成する 7)

Scheme4 分子鎖の生成

4実験

41 DNゲルの合成

411 使用器具試薬

ビーカー乳鉢乳棒薬さじUVライトデシケーター

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸

分子式 C7H13NO4S

式量20724

融点160

用途1st networkゲルのモノマー

6

アクリル酸

分子式C3H4O2

式量7206

融点123

沸点1416

比重10511

危険性引火性(発火温度 360 )

用途1st networkゲルのモノマー

アクリロニトリルの加水分解アクロレインの酸化ニッケルカルボニルの存在下ア

セチレンと一酸化炭素と水との反応などにより合成される酢酸に似た刺激臭を持つ液

体水エタノールエーテルによく溶ける酸素の存在下容易に重合するプラス

チックの原料として用いられる

アクリルアミド

分子式C3H5NO

式量7108

融点845

沸点103

比重1122

用途2nd networkゲルのモノマー

アクリルニトリルを硫酸あるいは塩酸を処理して得られるフレーク状の結晶溶解

性(g100 ml溶媒30 )水 2155メタノール 155エタノール 862アセトン 631

酢酸エチル 126クロロホルム 266ベンゼン 0346ヘプタン 00068化学的に不安

定で冷暗所に保存する必要がある融点付近あるいは紫外線下で重合する重合の仕方

により水溶性不溶性のものが得られる

酢酸ビニル

分子式C4H6O2

式量8609

融点-932

沸点723

比重09317

用途2nd networkゲルのモノマー

無色の液体酸やアルカリよって容易に加水分解されてアセトアルデヒドと酢酸を生

じる熱光ラジカル開始剤によって重合する

7

メタクリル酸メチル

分子式C5H8O2

式量10012

融点-48

沸点1003

比重0936

用途2nd networkゲルのモノマー

無色透明で催涙性の芳香のある液体工業的にはアセトンシアノヒドリンにメタノー

ルと硫酸を作用させて合成する実験室的にはメテクリル酸メチルの重合物を 320

以上で乾留すると得られる一般に有機溶媒には溶けるがエチレングリコールグリセ

リンには溶けにくい重合しやすいので重合禁止剤としてヒドロキノンモノメチルエ

ーテル(65 ppm)を添加して保存する有機ガラスの製造ビニル系共重合体など広く

重合反応に用いられるまたメチル以外のアルコールのメタクリル酸エステルの合成

にも用いられる

NN-メチレンビスアクリルアミド

分子式C7H10N2O2

式量15417

融点300

用途架橋剤

1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン

分子式C13H16O2

式量20427

融点47-50

用途光重合開始剤

最大吸収波長は 260 nm付近にある

エチレングリコール

式量6207

融点 -126

沸点1976

比重11132

8

用途ゲル溶媒

重要な二価アルコールでエチレンオキシドの酸触媒による開環高温高圧下水と

の反応による開環などによって合成される吸湿性無色無臭の液体甘味を有する

が有毒である高沸点を有ししかも水酸化カリウム水酸化ナトリウムを溶解し水や

エタノールと任意の割合で混合するので有機合成における溶媒として広く用いられ

また塩基に対して安定なエチレンケタールの生成によるカルボニル基の保護に用いら

れるさらに酢酸ビニル系樹脂の溶剤や水と混ざり高沸点のため不凍液に用いら

れるなど広い用途を持っている

412 1st networkゲルの作成

1) 1st networkゲルのモノマー(電解質モノマー)架橋剤(NN-メチレンビスアクリルア

ミド)と光重合開始剤(1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)を水に溶解させた水

溶液を調製する

2) UVを 8時間照射して光ラジカル重合をさせる

3) 2)で合成した電解質ゲルを乳鉢に入れ適当なサイズに砕いた後デシケーター内で一

週間ほど乾燥させる

413水溶媒 DNゲルの作成

1) 2nd networkゲルのモノマー(中性モノマー)架橋剤(NN-メチレンビスアクリルアミ

ド)光重合開始剤(1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)をエチレングリコールに

溶解させた溶液を調製する

2) 乾燥した電解質ゲルを 1)で調製した水溶液に入れ電解質ゲルを十分に膨らませるそ

の後UVを照射し中性モノマーを光ラジカル重合させる

414エチレングリコール DNゲルの作成

1) 2nd networkゲルのモノマー(中性モノマー)架橋剤(NN-メチレンビスアクリルアミ

ド)光重合開始剤(1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)をエチレングリコールに

溶解させた溶液を調製する

2) 乾燥した電解質ゲルを 1)で調製したエチレングリコール溶液に入れ電解質ゲルを十分

に膨らませるその後UVを照射し中性モノマーを光ラジカル重合させる

42 DNゲルの評価

421引っ張り試験

使用するモノマーの変化によるゲルの性質の差を評価する引っ張り試験は

JIS-K-6251-7号に準拠する方法で測定する

9

1)DNゲルを X方向の長さ 50 mmY方向の長さ 75 mmZ方向の長さが 25 mmの大

きさに成形する

2)その一端部に X-Y平面に平行な切込みを入れて2つの引張端部を形成する

3) 引張端部を片方は固定しもう片方を一定の速度で引っ張るこのときの引っ張る力 F

を測定する

Fig 2 引っ張り試験 13)

422 摩擦試験

使用するモノマーの変化溶媒の変化によるゲルの性質の差を評価する

摩擦試験は東京理科大学工学部第一部機械工学科佐々木研究室に依頼する予定である

用いる機械は SVR4パーカー熱処理工業株式会社製であり180での高温での摩擦係

数の測定が可能である

摩擦測定は常温(20 )と高温(100 )で測定することを予定している

10

5 展望

51 DNゲルの合成

実験操作は溶液を調製した後UV照射するという簡易な手順なので合成は比較的早い

段階で成功すると考えられる

1st networkゲル合成に使うのは電解質モノマーなため水溶液のモノマーの濃度が低

いと湿潤度 Q が大きくなりせん断弾性率が下がり剛性が弱いゲルが出来上がると考え

られる

架橋剤を多く使用すると架橋密度を上がるので 2nd networkゲルが入り込む空洞が小

さくなるそのために架橋剤が多すぎると高弾性のゲルが生成できると考えられる

また同様な考えで2nd networkモノマーが含まれている水溶液に乾燥させた1st network

ゲルを入れる量が多くても高弾性のゲルが生成できると考えられる

52 DNゲルの物性

ゲルの高分子網目は基板から離れようとするときにゲルと基板の間に僅かな溶媒層

が生じるこの状態では溶媒層が潤滑油のような働きをして生じる摩擦力は小さなも

のとなるゲル周辺が高温な状態ではこの溶媒層が水の場合は蒸発してしまうので摩

擦力は増大すると考えられる溶媒を水からより沸点の高いエチレングリコールなどに

変えれば摩擦力は増大することはないと推測される 14)

11

参考文献

1) J Bastide and L LeiblerMacromolecules1988212647

2) G G J Lake and A G ThomasProc R Soc LondonA1967300108

3)越後亮三 機械工学辞典 朝倉書店 2007 p631

4) 伊藤勝悦 やさしく学べる材料力学 森北出版 2014 p14

5)SPObukhovMRubinstein and RHColby Macromolecules 1994273191-3198

6)MRubinsteinRHColbyAVDobrynin and JJaonnyElasticMacromolecules199629398-406

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8)聾剣萍「生命科学時代の新材料-高弾性高靱性ダブルネットワークゲル」高分子学会

『高分子』高分子科学最近の進歩58巻 5号2009p327-p331

9)YTanakaEurophysLett20077856005

10)蓮池幹治ラジカル重合ハンドブックエヌティーエス2010p444-p445

11)大津隆行ラジカル重合(Ⅰ)化学同人1971p80-p81

12)大津隆行ラジカル重合(Ⅰ)化学同人1971p153-p154

13)聾剣萍高分子ゲルおよびその製造方法特開 2009-185156 2008-02-05

14) 角五 彰龔 剣萍長田義仁「ゲルの摩擦と水和潤滑~生物の滑らかな運動解明への

アプローチ」日本生物物理学会『生物物理』47巻 4号2007p 253-p258

1

東京理科大学Ⅰ部化学研究部 2015年度春輪講書

耐塩性の高い新規化粧品用増粘剤の開発 2015年度金曜班

Nomata N(2OK)Seki M(2OK)Tin J(2OK)Takahashi R(2C)Watanabe A(2K)

Asai D(2K) Nishimiti D(2K)Yamamoto R(2K)

1 動機

化粧品において増粘剤の果たす役割は非常に大きい

化粧品にはクリーム状のモノが多くありその整形には増粘剤が必要不可欠である

また増粘剤は製剤だけでなく密閉効果や水和効果によって薬剤を皮膚に効率的に輸

送することに役立っている

この増粘剤であるが一つ課題がありアスコルビン酸塩(ビタミン C)のようなクロロ

基を持つ塩系薬剤をゲル中に含む場合経時によってべたつきといった使用感の悪化

につながるといった弱点があるこの問題の解決のために塩系薬剤への耐性の高い増

粘剤の開発が望まれている

塩系薬剤の高い美容効果からこの問題の解決に対する化粧剤企業のニーズは高くこ

の問題は長く研究が続けられていたが近年資生堂が逆相マイクロエマルション重

合法によって microスケールの粒状高分子を多数合成することによりできる増粘剤が高い

耐塩性を持ち使用感もよいことを発見したがこの粒状高分子増粘剤には未だ試み

られていないモノマーが多くある

そこで今年度の金曜班ではこの逆相マイクロエマルション重合法において未だ

試みられていない親水基を持つモノマーを利用して新規の増粘剤をつくることで粒

状高分子による増粘剤の耐塩性と肌触りと親水基の関係を調べ応用化に利すること

ができるのではないかと考え実験を行うこととした

2 背景

増粘剤とは水溶液をゲル化するために添加される物質であり化粧品において広く

用いられているこの増粘効果は従来では高分子鎖同士の分子間力や架橋で生じる

網目構造の結果生じる液中の摩擦力によるものである

動機で述べたように μスケールの粒状高分子が増粘剤として良質であることがわか

っているただし粒状高分子の形状は反応場であるセッケンミセルの大きさだけで

なく親水基やポリマーを構成する原子同士の分子間力によって変わる高分子の立体構

2

造にも影響されている

また粒状高分子の正確な一次構造を把握することは大変難しいことであるので

応用化のためには高分子の一次構造でなくモノマーによって粒状高分子特性の変化

を調べることが重要である

さらに従来用いられているポリマーがスルホ基とカルボキシル基を親水基とする

ものしか存在しない

以上の三点から酸以外の親水基をもつモノマーで増粘剤を合成したときその性

質はどうなるかを調べることでより製品として利用価値が高い粒状高分子増粘剤を合

成することができるのではないかと考えた

そこで新規モノマーとしては対照実験を行うためにアクリルアミド系モノマー

でかつ 2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸のスルホ基と同じ炭素骨格の先

端に親水基が存在するものとしてN-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド (3-アク

リルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライドを用いてそれぞれ親水基が酸

ではなくヒドロキシ基である場合親水基がアニオンではなくカチオンである場合に

ついて研究を行うこととした

この二種の以外にも水溶性のアクリルアミドポリマーは存在するが上記の条件を満

たさないまたは高価であるため本実験では用いないこととした

Fig1 N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド

Fig2 (3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライド

3

3 原理

31 一般的な液体の粘性

溶液の粘性は一般論では以下のように表される

Fig3のように XY平面を取り液面に平板を用意し引っ張った時挟まれた溶液内

には図のようなせん断流動が発生する高さ Yでのせん断速度は(119881

119889) 119910で与えられる

この時平板に挟まれた溶液を薄層の集まりと考えると隣り合う薄層間に摩擦が生

じるこの内部摩擦力が粘性力であるずり速度勾配が十分に小さければ平板の単位

面積当たりに生じる粘性力 Fv0はその勾配 Vd に比例するすなわち以下の式で表

され1205780を粘性係数と呼ぶこの値は溶媒固有である1)

1198651199070 = 1205780 (119881

119889)

Fig3 溶液ずりせん断図

32 増粘剤の粘性

増粘剤の多くは低分子の液体に高分子を溶かすと著しく粘性が高くなる性質を利

用している

この粘性の発生するメカニズムは下の Fig4において平板間の溶液を薄層に分けた

際高分子鎖は溶液の移動に伴って回転するこのとき溶液中の薄層は薄層間の摩

擦以外に高分子鎖との間にも摩擦が生じているこの摩擦の増加が粘性力の増加とな

る 2)

4

Fig4 高分子による粘性増加

また高分子鎖同士が分子間力によって結びつき三次元構造を形成することで内

部摩擦力は一層大きくなるこのため高分子による増粘効果は顕著である

架橋高分子では三次元構造が高分子鎖同士の分子間力による形成よりも強いものと

なるので増粘効果及びレオロジー特性に優れる 3)

33 塩系薬剤による粘性劣化のメカニズム

塩系薬剤とはビタミンC (アスコルビン酸塩)のようにクロロ基をもつ薬効物質のこ

とである

このクロロ基が直鎖高分子や架橋高分子がポリマー間で形成する三次元網目構造

を破壊することによって増粘効果を消失させ内容物の流失によるべたつきを生じさ

せる 3)

34 粒状高分子の粘性

粒状高分子の粘性について粒状高分子はその粒経が小さいほど体積に対する表面

積が増え溶液内での内部摩擦力が大きくなる

また粒子同士が摩擦力を元に網目構造を形成するため網目構造の構成要因が直

鎖高分子や架橋高分子の高分子増粘剤と異なっている 4)

35 逆相マイクロエマルション重合法

後述する転相温度乳化法を用いて形成した5 μm~30 μm 形成したマイクロエマル

ション内において水溶性のモノマーを利用して行う乳化重合法の一種容易に極小の

5

ポリマーを合成することができる 5)

36 界面活性剤の概略

界面活性剤とは分子の構造が水になじみやすい部分(親水基)と油になじみやすい

部分(新油基)からできていて2つの物質の間の界面に集まりやすい性質を持ちそ

の界面の性質を著しく変える物質というのが界面活性剤の定義である

代表的な界面活性剤の特徴は界面における「吸着」と「ミセル形成」である 6)

もうひとつの代表的な作用として「可溶化」もある

37 エマルションの形成

界面活性剤に有機溶媒が取り囲まれて水に可溶化されたとき水溶液中に存在する

有機溶媒を界面活性剤が取り囲んだ液滴のことを OW エマルションと呼ぶ

有機溶媒中に水が可溶化される場合WOエマルションと呼ぶ

38 ノニオン界面活性剤

非イオン界面活性剤とも言う界面活性剤の内解離基を持たず電気的に中性な

界面活性剤で親水基は主にポリオキシエチレン基であるその特殊な性質上他の種類

の界面活性剤に無い性質として曇点と転相温度を持つ 今回使用するノニオン界面

活性剤はポリオキシエチレンオレイルエーテルであり基本式は以下のような形にな

る 7)

R-O(CH2CH2O)n-H

Scheme 1 ポリオキシエチレンオレイルエーテルの基本式

39 曇点

曇点とは透明な液体が相分離を起こして白濁する温度のこと

本実験においてはノニオン界面活性剤が加温によって界面活性効果を失い相分離

によって白濁する温度のこと 8)

310 転相温度乳化

ノニオン界面活性剤は加温によって界面張力が変化しWO型エマルションから

OW 型に変化するこの変化点のことを転相温度と言い転相温度において界

6

面張力が最低になっているので溶液エマルションが極小になる

またこの転相温度は界面活性剤に固有の値となるので二種の比較的性質の

近い界面活性剤を混合することで転相温度を操作し適切な温度で5 μm~30 μm

程度の直径を持つエマルションを作成する方法を転相温度乳化法と呼ぶ 10)

311 ラジカル重合

開始剤を用いてラジカル種を生成して行う重合法のことをラジカル重合法と言う

開始剤の分解要因によって熱光放射線ラジカル重合の三つに分けられる 10)

3111 ラジカル重合を構成する四反応

ラジカル重合は 4種類の反応が同時並行的に起こるそれぞれ以下の通りである 11)

開始反応

開始剤が熱光放射光などの要因によってラジカル開裂を起こしラジカル種を

生じさせる反応

成長反応

ラジカル種がモノマーと反応することでモノマー新たなラジカル種が生成する

反応これが連続することでポリマーが合成される

停止反応

連鎖していた成長反応が止まる反応主にラジカル種同士の反応による

連鎖移動反応

ラジカル種がモノマー以外の分子主に溶媒分子等と反応することでポリマー以

外の物質を合成する副反応

3112 乳化重合

乳化重合はモノマー液滴と呼ばれるモノマーを大量に保存しているエマルシ

ョンと反応場となる極小のセッケンミセルの二つの構造を持つ溶液中で行う不均

一系ラジカル重合の一種である 12)

成長反応が一段階進むたびにモノマー液滴から拡散の理論式に従ってモノマ

ーがミセル内に移動するこの一連の反応を繰り返して反応が進む 13)

そのため種々のラジカル重合法と比較して以下の特長がある 13)

セッケンミセル内に存在するラジカルが常に一つであるため停止反応が

7

起こりにくく比較的重合度の高いポリマーが生成しやすい

反応速度が拡散作用によって律速されかつセッケンミセルの周囲を大量

の溶媒分子が囲んでいるため除熱が容易であるという理由から熱暴走を起

こしにくいという利点がある

ミセル内で重合するため合成した高分子が絡まりやすく粒状の分子が作

成できる

Fig5 乳化重合模式図

312 MS(質量分析法)

質量分析法とは分子の質量すなわち分子量を測る手段でもあるまた分子を分解

したフラグメントの質量を測ることによって分子構造に関する情報を得るものでも

ある

高エネルギー電子が有機分子にぶつかると分子から電子がはじき出せれカチオ

ンラジカルが発生する

119825119815 rarr 119825119815++119838minus Scheme 2カチオンラジカルの発生

電子の衝突により大量のエネルギーが分子に与えられることで大部分のカチオン

ラジカルを生成した後フラグメントに分解するフラグメントは小さな破片となっ

て浮遊し正電荷や中性となる

このカチオンラジカルとフラグメントについてmz値を横軸相対強度を縦軸につ

いて取ったグラフから質量スペクトルを読み取る 14)

またMS(質量分析法)はイオン化の方法などによりいくつかに分けられ今回使用

したいのは高分子試料でもほとんどフラグメンテーションを起こさないソフトなイ

8

オン化法であるMALDI法 15)である

3121 MALDI法(マトリックス支援レーザー脱離イオン化法)

試料を 25-ヒドロキシ安息香酸のような適切なマトリックス上に吸着させて

ペレットを作成しレーザー光を短時間照射してイオン化する

エネルギーがマトリックスから試料に移動し[119872 + 119867119899 ]119899+に分解される 15)

MALDI法にはよく TOF型の MSが用いられている

4 実験

41 2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を用いた既存化粧品用増粘剤の合成

411 使用器具試薬

温度計ウォーターバスビーカー薬さじデシケーター

ジメチルアクリルアミド

式量9913

沸点81

発火点71

LD50(経口)316mgkg

LD50(経皮)580mgkg

製造和光純薬工業株式会社

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸

式量20725

融点200

LD50(経口)5400mgkg

製造和光純薬工業株式会社

NN-メチレンビスアクリルアミド

式量156

沸点4451

発火点215

LD50(経口)390mgkg

製造東京化成工業株式会社

9

へプタン

式量1002

沸点98

引火点-4

水に不溶

製造昭和化学

2-プロパノール

式量60

沸点82

発火点12

LD50(経口)区分外(GHS分類)

LD50(経皮)区分外(GHS分類)

製造昭和化学

ペルオキソ二硫酸アンモニウム

式量22820

冷水に易溶保存湿気厳禁

重合開始罪乳化重合レドックス重合に用いられる

製造和光純薬工業株式会社

412 実験手順

① ビーカーにイオン交換水ヘプタンポリオキシエチレンオレイルエーテル(2)

(8)をそれぞれ507 mL 507 mL489 g((2)(8)=23)加えて良く撹拌したも

のを入れる

② その後その後温度調節機能つきスターラーに乗せ白濁するまで加熱する

白濁した液が透明化するまで温度を落とし電気伝導率計を用いて溶液が転

相温度付近に保たれていることを確認する

③ 以上の操作が済んだ重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先

ほどのスターラーと同じ温度にしたウォーターバスに移し2-アクリルアミド

-2-メチルプロパンスルホン酸NNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 137 g

262 g入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始

剤としてメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

10

④ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

42 N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミドを用いた新規化粧品用増粘剤の合成

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を誘導体と入れ替える以外の

操作は 41に準ずる

親水基による増粘性の変化を観察するため架橋剤のモノマーに対する濃度比

は 2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を使用したポリマーが最も増

粘効果の高くなると報告された濃度比を用いる

421 使用器具試薬

使用器具は 41に準ずる

試薬

N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド

式量11513

沸点130

発火点189

製造東京化成工業株式会社

422 実験手順

① 412 ①②と同じように重合系を作成する

② 以上の操作が済んだ重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先

ほどのスターラーと同じ温度にしたウォーターバスに移しN-(2-ヒドロキシエ

チル)アクリルアミドNNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 076 g262

g 入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始剤と

してメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

③ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

11

43 (3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライドを用いた新規化粧品用

増粘剤の合成

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を誘導体と入れ替える以外の操作は

41に準ずる

親水基による増粘性の変化を観察するため架橋剤のモノマーに対する濃度比は 2-ア

クリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を使用したポリマーが最も増粘効果の高く

なると報告された濃度比を用いる

431 実験器具

実験器具は 41に準ずる

試薬

(3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライド

式量22074

沸点100

製造東京化成工業株式会社

432 実験手順

① 412 ①②と同じように重合系を作成する

② 重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先ほどのスターラーと

同じ温度にしたウォーターバスに移し (3-アクリルアミドプロピル)トリメチ

ルアミニウムクロライドNNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 123 mL

262 g入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始

剤としてメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

③ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

5 評価分析

耐塩性の高い増粘剤の耐塩性と使用感と親水基との関係を評価するために以下の二

つの測定を行い評価する

増粘剤の耐塩性の評価のために塩酸を増粘剤内部に取り込ませた状態で経時

12

による粘度の変化を観察する

また高分子の粘性を考える上で直鎖高分子の場合よく参考にされるのが平

均分子量でありこの値を測定することで親水基が変化した場合に平均分子

量が粒状高分子の粘性にも大きく影響するか確認する

精密に上の測定を行うには専用の機器が必要になるため機器メーカーの株式

会社エーアンドデイ様または東京理科大学理学部応用化学科駒場研究室に

また高分子の性質を考える上で重要視される平均分子量及び分子量分布に

ついては東京理科大学化学系機器センターにあるMALDI-TOF型質量分析計を管

理者の東京理科大学理学部応用化学科の根岸先生に測定に協力していただこうと

考えている

6 謝辞

東京理科大学工学部工業化学科 近藤行成教授

東京理科大学理学部化学科 遠藤恆平准教授

東京理科大学理学部応用化学科 駒場慎一教授

この研究を進めるに当たり大変お世話になった先輩先生方企業の皆さんに感謝の

意を表明します

参考文献

1) 小澤美奈子 基礎高分子科学 高分子学会 編 2010年 第六版 p979899

2) 小澤美奈子 基礎高分子科学 高分子学会 編 2010年 第六版 p99100

3) 金田 勇 逆相マイクロエマルション重合法による水膨潤性ミクロゲルの重合とその増

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4) 小林敏勝 福井寛 きちん知りたい粒子表面と分散技術 日刊工業新聞社 p76

5) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 2006 p839 840 841

6) 皆川基 藤井富美子 洗剤洗浄 百科事典 大矢勝 2007年版 p4647

7) 日本産業洗浄協議会編 わかりやすい界面活性剤 工業調査会 2003 p373839

8) 資生堂 HP httpswwwshiseidogroupjprddevelopmentformulationhtmlより 2015

44取得

9) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 テクノシステム 2006 p321

10) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 テクノシステム 2006 p397

13

398399

11) 遠藤 剛 高分子の合成(上)~ラジカルカチオンアニオン重合~ 講談社 2010 3p

12) 佐藤壽彌編 高分子微粒子の技術と応用 シーエムシー出版 2004 p2526

13) 佐藤壽彌編 高分子微粒子の技術と応用 シーエムシー出版 2004 p27

14) マクマリー 上 8版 東京化学同人 p403404

15) John McMurry マクマリー有機化学(上) 第 8版 2013 p410411

Page 30: ゼオライトとキトサンを用いた 金属イオン除去剤の …kaken/studies/2015/2015-s-all.pdf1 東京理科大学I 部化学研究部 2015 年度春輪講書 ゼオライトとキトサンを用いた

2

時にゲルの弱い部分に力が集中してしまうため小さな力でも初期亀裂が生じてしまう

後者はゲル内部のポリマーの密度の低さから生じる一般的に物質内における亀裂

の進みやすさは破壊エネルギーU(Jm2)(単位面積あたりの破断面形成に費やされる仕事)

によって評価される架橋高分子材料の臨界破壊エネルギーUc(亀裂成長が起こる最小

の破壊エネルギー)は破断面の高分子鎖の数密度と架橋点間分子量に比例する 2)つま

りゲルのじん性(物質の破壊に対する抵抗の程度で粘り強さとも言い換えられる 3))はゲ

ル内のポリマーの密度には比例し架橋密度には反比例することがわかる

ゲルは 50~99wtの溶媒を含んでいて高分子の密度が非常に低い物質であるためゲ

ルの Ucはゴムなどの固体に比べてかなり小さいことが考えられる

これまでの高強度ゲル研究は主に前者の問題を解決するすなわち構造を均一化するこ

とでゲル内部の欠陥を極力減らして強度を改善しようという観点から行われてきた

312 ゲルの弾性率

高分子鎖が三次元架橋されたゲルはゴムと同じようにエントロピー弾性を持つ溶液

中に完全に湿潤した電気的に中性ゲルのせん断弾性率(横方向に対するバネ係数 4)であり

Young率 Eと E=3Gの関係式が成立する)は

GneucongkBT

b3Q-225

以上の式で表せられゲルの湿潤度 Qの増加にともないせん断弾性率Gneuは大きく低下

するここでkBはボルツマン定数Tは温度bは重合させたモノマーの大きさである 5)

一方溶液中に完全に湿潤した電解質ゲルのせん断弾性率は

GchacongkBT

b3Q-1

によって表せる 6)よって同じ湿潤度において電解質ゲルは中性ゲルよりせん断弾性率が

高いことが分かる

またゲルの湿潤度は架橋点重合 N(分子量)による溶液中に完全に湿潤した中性ゲル

の場合QasympN35であり電解質ゲル場合QasympN

32であるしたがって架橋密度を上げる

ことによりゲルの湿潤度が小さくなりせん断弾性率が上がる 3)4)

313 ゲルの破断歪と破断応力

架橋構造が均一と仮定した理想的なゲルの破断歪(ゲルが破壊するまでの変形 7))は架

(1)

(2)

3

橋点間高分子の伸びきった長さと高分子鎖に歪がない曲がった自然な状態での大きさ

の比として求められる溶媒中で完全に湿潤した中性ゲルの引っ張り破断歪はλBcongQ12で

ありQの増加により増加する一方湿潤することにより単位面積あたりの高分子

の本数が減るため破断応力は湿潤度 Qが大きくなることにより減少する故にQが大

きいゲルは伸びやすいが弱い応力で壊れる

電解質ゲルの場合高分子鎖はその解離しているイオンの浸透圧によって水中では

ほとんど伸びきった状態となっているその結果理想状態においても破断歪はλBcongQ19

になるこれは破断歪が小さくかつ湿潤度にあまり依存しないことを意味している 5)

以上のことより

1)架橋密度を上げる(架橋点間分子量を下げる)ことでゲルが固くて脆くなる

2)水中に完全に湿潤した高分子電解質ゲルは中性のゲルより硬くて脆い高弾性と変形は

相反するということが考えられる

314 DNゲルの高強度機構

DNゲルは強電解質をモノマーとする 1st networkゲル電気的に中性なモノマーを用

いる 2nd networkゲルを組み合わせることにより生成される前述した通りゲルにおける

弾性と靭性は常に相反する働きをするそれゆえに単一な物質で両方の性質を得るこ

とは原理的には不可能である同じ湿潤度において電解質ゲルと中性ゲルのせん断弾性

率の比はGchaGneucongQ125であるために両者の違いは湿潤度 Qが高いほど大きくなる

この性質を利用することにより電解質ゲルは硬い成分中性ゲルは軟らかい成分とし

て用いることができる

亀裂を含む DNゲルがある引張荷重を受けると応力集中の効果で最初に亀裂先端近傍

の電解質網目(1st network)が破壊され局所的にゲルが降伏する荷重がますと電解質網

目の破壊が次々に伝播し広範囲にわたるダメージゾーンが形成されていくこの過程

で非常にいい気なエネルギーが分散されるダメージゾーンがある大きさまで広がった

ときようやく亀裂先端に中性網目(2nd network)が十分に伸びて切断し亀裂が進行す

る 8)

4

Fig 1 DNゲルの破壊モデル 9)

32 光ラジカル重合

321 光分解

光重合開始剤に UVを当てることにより開裂がおきラジカルが発生する本研究にお

いては 1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンを用いる 10)

Scheme1 1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンの開裂 10)

ℎ120592

5

322 開始反応

UVを当て光開裂により生じたラジカルがビニル基の二重結合を攻撃し光重合開始剤

と炭素の間に σ結合を作り炭素原子にラジカルが存在することになる

Scheme2 ラジカルの生成

323 成長反応

Scheme2で生成したラジカルが他のモノマーを攻撃しσ結合を生じるそれが何回

も起こることにより分子鎖が成長する 6)

Scheme3 分子鎖の成長

324 停止反応

Scheme 3で成長した成長ラジカル同士が σ結合を作り分子鎖が生成する 7)

Scheme4 分子鎖の生成

4実験

41 DNゲルの合成

411 使用器具試薬

ビーカー乳鉢乳棒薬さじUVライトデシケーター

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸

分子式 C7H13NO4S

式量20724

融点160

用途1st networkゲルのモノマー

6

アクリル酸

分子式C3H4O2

式量7206

融点123

沸点1416

比重10511

危険性引火性(発火温度 360 )

用途1st networkゲルのモノマー

アクリロニトリルの加水分解アクロレインの酸化ニッケルカルボニルの存在下ア

セチレンと一酸化炭素と水との反応などにより合成される酢酸に似た刺激臭を持つ液

体水エタノールエーテルによく溶ける酸素の存在下容易に重合するプラス

チックの原料として用いられる

アクリルアミド

分子式C3H5NO

式量7108

融点845

沸点103

比重1122

用途2nd networkゲルのモノマー

アクリルニトリルを硫酸あるいは塩酸を処理して得られるフレーク状の結晶溶解

性(g100 ml溶媒30 )水 2155メタノール 155エタノール 862アセトン 631

酢酸エチル 126クロロホルム 266ベンゼン 0346ヘプタン 00068化学的に不安

定で冷暗所に保存する必要がある融点付近あるいは紫外線下で重合する重合の仕方

により水溶性不溶性のものが得られる

酢酸ビニル

分子式C4H6O2

式量8609

融点-932

沸点723

比重09317

用途2nd networkゲルのモノマー

無色の液体酸やアルカリよって容易に加水分解されてアセトアルデヒドと酢酸を生

じる熱光ラジカル開始剤によって重合する

7

メタクリル酸メチル

分子式C5H8O2

式量10012

融点-48

沸点1003

比重0936

用途2nd networkゲルのモノマー

無色透明で催涙性の芳香のある液体工業的にはアセトンシアノヒドリンにメタノー

ルと硫酸を作用させて合成する実験室的にはメテクリル酸メチルの重合物を 320

以上で乾留すると得られる一般に有機溶媒には溶けるがエチレングリコールグリセ

リンには溶けにくい重合しやすいので重合禁止剤としてヒドロキノンモノメチルエ

ーテル(65 ppm)を添加して保存する有機ガラスの製造ビニル系共重合体など広く

重合反応に用いられるまたメチル以外のアルコールのメタクリル酸エステルの合成

にも用いられる

NN-メチレンビスアクリルアミド

分子式C7H10N2O2

式量15417

融点300

用途架橋剤

1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン

分子式C13H16O2

式量20427

融点47-50

用途光重合開始剤

最大吸収波長は 260 nm付近にある

エチレングリコール

式量6207

融点 -126

沸点1976

比重11132

8

用途ゲル溶媒

重要な二価アルコールでエチレンオキシドの酸触媒による開環高温高圧下水と

の反応による開環などによって合成される吸湿性無色無臭の液体甘味を有する

が有毒である高沸点を有ししかも水酸化カリウム水酸化ナトリウムを溶解し水や

エタノールと任意の割合で混合するので有機合成における溶媒として広く用いられ

また塩基に対して安定なエチレンケタールの生成によるカルボニル基の保護に用いら

れるさらに酢酸ビニル系樹脂の溶剤や水と混ざり高沸点のため不凍液に用いら

れるなど広い用途を持っている

412 1st networkゲルの作成

1) 1st networkゲルのモノマー(電解質モノマー)架橋剤(NN-メチレンビスアクリルア

ミド)と光重合開始剤(1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)を水に溶解させた水

溶液を調製する

2) UVを 8時間照射して光ラジカル重合をさせる

3) 2)で合成した電解質ゲルを乳鉢に入れ適当なサイズに砕いた後デシケーター内で一

週間ほど乾燥させる

413水溶媒 DNゲルの作成

1) 2nd networkゲルのモノマー(中性モノマー)架橋剤(NN-メチレンビスアクリルアミ

ド)光重合開始剤(1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)をエチレングリコールに

溶解させた溶液を調製する

2) 乾燥した電解質ゲルを 1)で調製した水溶液に入れ電解質ゲルを十分に膨らませるそ

の後UVを照射し中性モノマーを光ラジカル重合させる

414エチレングリコール DNゲルの作成

1) 2nd networkゲルのモノマー(中性モノマー)架橋剤(NN-メチレンビスアクリルアミ

ド)光重合開始剤(1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)をエチレングリコールに

溶解させた溶液を調製する

2) 乾燥した電解質ゲルを 1)で調製したエチレングリコール溶液に入れ電解質ゲルを十分

に膨らませるその後UVを照射し中性モノマーを光ラジカル重合させる

42 DNゲルの評価

421引っ張り試験

使用するモノマーの変化によるゲルの性質の差を評価する引っ張り試験は

JIS-K-6251-7号に準拠する方法で測定する

9

1)DNゲルを X方向の長さ 50 mmY方向の長さ 75 mmZ方向の長さが 25 mmの大

きさに成形する

2)その一端部に X-Y平面に平行な切込みを入れて2つの引張端部を形成する

3) 引張端部を片方は固定しもう片方を一定の速度で引っ張るこのときの引っ張る力 F

を測定する

Fig 2 引っ張り試験 13)

422 摩擦試験

使用するモノマーの変化溶媒の変化によるゲルの性質の差を評価する

摩擦試験は東京理科大学工学部第一部機械工学科佐々木研究室に依頼する予定である

用いる機械は SVR4パーカー熱処理工業株式会社製であり180での高温での摩擦係

数の測定が可能である

摩擦測定は常温(20 )と高温(100 )で測定することを予定している

10

5 展望

51 DNゲルの合成

実験操作は溶液を調製した後UV照射するという簡易な手順なので合成は比較的早い

段階で成功すると考えられる

1st networkゲル合成に使うのは電解質モノマーなため水溶液のモノマーの濃度が低

いと湿潤度 Q が大きくなりせん断弾性率が下がり剛性が弱いゲルが出来上がると考え

られる

架橋剤を多く使用すると架橋密度を上がるので 2nd networkゲルが入り込む空洞が小

さくなるそのために架橋剤が多すぎると高弾性のゲルが生成できると考えられる

また同様な考えで2nd networkモノマーが含まれている水溶液に乾燥させた1st network

ゲルを入れる量が多くても高弾性のゲルが生成できると考えられる

52 DNゲルの物性

ゲルの高分子網目は基板から離れようとするときにゲルと基板の間に僅かな溶媒層

が生じるこの状態では溶媒層が潤滑油のような働きをして生じる摩擦力は小さなも

のとなるゲル周辺が高温な状態ではこの溶媒層が水の場合は蒸発してしまうので摩

擦力は増大すると考えられる溶媒を水からより沸点の高いエチレングリコールなどに

変えれば摩擦力は増大することはないと推測される 14)

11

参考文献

1) J Bastide and L LeiblerMacromolecules1988212647

2) G G J Lake and A G ThomasProc R Soc LondonA1967300108

3)越後亮三 機械工学辞典 朝倉書店 2007 p631

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5)SPObukhovMRubinstein and RHColby Macromolecules 1994273191-3198

6)MRubinsteinRHColbyAVDobrynin and JJaonnyElasticMacromolecules199629398-406

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『高分子』高分子科学最近の進歩58巻 5号2009p327-p331

9)YTanakaEurophysLett20077856005

10)蓮池幹治ラジカル重合ハンドブックエヌティーエス2010p444-p445

11)大津隆行ラジカル重合(Ⅰ)化学同人1971p80-p81

12)大津隆行ラジカル重合(Ⅰ)化学同人1971p153-p154

13)聾剣萍高分子ゲルおよびその製造方法特開 2009-185156 2008-02-05

14) 角五 彰龔 剣萍長田義仁「ゲルの摩擦と水和潤滑~生物の滑らかな運動解明への

アプローチ」日本生物物理学会『生物物理』47巻 4号2007p 253-p258

1

東京理科大学Ⅰ部化学研究部 2015年度春輪講書

耐塩性の高い新規化粧品用増粘剤の開発 2015年度金曜班

Nomata N(2OK)Seki M(2OK)Tin J(2OK)Takahashi R(2C)Watanabe A(2K)

Asai D(2K) Nishimiti D(2K)Yamamoto R(2K)

1 動機

化粧品において増粘剤の果たす役割は非常に大きい

化粧品にはクリーム状のモノが多くありその整形には増粘剤が必要不可欠である

また増粘剤は製剤だけでなく密閉効果や水和効果によって薬剤を皮膚に効率的に輸

送することに役立っている

この増粘剤であるが一つ課題がありアスコルビン酸塩(ビタミン C)のようなクロロ

基を持つ塩系薬剤をゲル中に含む場合経時によってべたつきといった使用感の悪化

につながるといった弱点があるこの問題の解決のために塩系薬剤への耐性の高い増

粘剤の開発が望まれている

塩系薬剤の高い美容効果からこの問題の解決に対する化粧剤企業のニーズは高くこ

の問題は長く研究が続けられていたが近年資生堂が逆相マイクロエマルション重

合法によって microスケールの粒状高分子を多数合成することによりできる増粘剤が高い

耐塩性を持ち使用感もよいことを発見したがこの粒状高分子増粘剤には未だ試み

られていないモノマーが多くある

そこで今年度の金曜班ではこの逆相マイクロエマルション重合法において未だ

試みられていない親水基を持つモノマーを利用して新規の増粘剤をつくることで粒

状高分子による増粘剤の耐塩性と肌触りと親水基の関係を調べ応用化に利すること

ができるのではないかと考え実験を行うこととした

2 背景

増粘剤とは水溶液をゲル化するために添加される物質であり化粧品において広く

用いられているこの増粘効果は従来では高分子鎖同士の分子間力や架橋で生じる

網目構造の結果生じる液中の摩擦力によるものである

動機で述べたように μスケールの粒状高分子が増粘剤として良質であることがわか

っているただし粒状高分子の形状は反応場であるセッケンミセルの大きさだけで

なく親水基やポリマーを構成する原子同士の分子間力によって変わる高分子の立体構

2

造にも影響されている

また粒状高分子の正確な一次構造を把握することは大変難しいことであるので

応用化のためには高分子の一次構造でなくモノマーによって粒状高分子特性の変化

を調べることが重要である

さらに従来用いられているポリマーがスルホ基とカルボキシル基を親水基とする

ものしか存在しない

以上の三点から酸以外の親水基をもつモノマーで増粘剤を合成したときその性

質はどうなるかを調べることでより製品として利用価値が高い粒状高分子増粘剤を合

成することができるのではないかと考えた

そこで新規モノマーとしては対照実験を行うためにアクリルアミド系モノマー

でかつ 2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸のスルホ基と同じ炭素骨格の先

端に親水基が存在するものとしてN-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド (3-アク

リルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライドを用いてそれぞれ親水基が酸

ではなくヒドロキシ基である場合親水基がアニオンではなくカチオンである場合に

ついて研究を行うこととした

この二種の以外にも水溶性のアクリルアミドポリマーは存在するが上記の条件を満

たさないまたは高価であるため本実験では用いないこととした

Fig1 N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド

Fig2 (3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライド

3

3 原理

31 一般的な液体の粘性

溶液の粘性は一般論では以下のように表される

Fig3のように XY平面を取り液面に平板を用意し引っ張った時挟まれた溶液内

には図のようなせん断流動が発生する高さ Yでのせん断速度は(119881

119889) 119910で与えられる

この時平板に挟まれた溶液を薄層の集まりと考えると隣り合う薄層間に摩擦が生

じるこの内部摩擦力が粘性力であるずり速度勾配が十分に小さければ平板の単位

面積当たりに生じる粘性力 Fv0はその勾配 Vd に比例するすなわち以下の式で表

され1205780を粘性係数と呼ぶこの値は溶媒固有である1)

1198651199070 = 1205780 (119881

119889)

Fig3 溶液ずりせん断図

32 増粘剤の粘性

増粘剤の多くは低分子の液体に高分子を溶かすと著しく粘性が高くなる性質を利

用している

この粘性の発生するメカニズムは下の Fig4において平板間の溶液を薄層に分けた

際高分子鎖は溶液の移動に伴って回転するこのとき溶液中の薄層は薄層間の摩

擦以外に高分子鎖との間にも摩擦が生じているこの摩擦の増加が粘性力の増加とな

る 2)

4

Fig4 高分子による粘性増加

また高分子鎖同士が分子間力によって結びつき三次元構造を形成することで内

部摩擦力は一層大きくなるこのため高分子による増粘効果は顕著である

架橋高分子では三次元構造が高分子鎖同士の分子間力による形成よりも強いものと

なるので増粘効果及びレオロジー特性に優れる 3)

33 塩系薬剤による粘性劣化のメカニズム

塩系薬剤とはビタミンC (アスコルビン酸塩)のようにクロロ基をもつ薬効物質のこ

とである

このクロロ基が直鎖高分子や架橋高分子がポリマー間で形成する三次元網目構造

を破壊することによって増粘効果を消失させ内容物の流失によるべたつきを生じさ

せる 3)

34 粒状高分子の粘性

粒状高分子の粘性について粒状高分子はその粒経が小さいほど体積に対する表面

積が増え溶液内での内部摩擦力が大きくなる

また粒子同士が摩擦力を元に網目構造を形成するため網目構造の構成要因が直

鎖高分子や架橋高分子の高分子増粘剤と異なっている 4)

35 逆相マイクロエマルション重合法

後述する転相温度乳化法を用いて形成した5 μm~30 μm 形成したマイクロエマル

ション内において水溶性のモノマーを利用して行う乳化重合法の一種容易に極小の

5

ポリマーを合成することができる 5)

36 界面活性剤の概略

界面活性剤とは分子の構造が水になじみやすい部分(親水基)と油になじみやすい

部分(新油基)からできていて2つの物質の間の界面に集まりやすい性質を持ちそ

の界面の性質を著しく変える物質というのが界面活性剤の定義である

代表的な界面活性剤の特徴は界面における「吸着」と「ミセル形成」である 6)

もうひとつの代表的な作用として「可溶化」もある

37 エマルションの形成

界面活性剤に有機溶媒が取り囲まれて水に可溶化されたとき水溶液中に存在する

有機溶媒を界面活性剤が取り囲んだ液滴のことを OW エマルションと呼ぶ

有機溶媒中に水が可溶化される場合WOエマルションと呼ぶ

38 ノニオン界面活性剤

非イオン界面活性剤とも言う界面活性剤の内解離基を持たず電気的に中性な

界面活性剤で親水基は主にポリオキシエチレン基であるその特殊な性質上他の種類

の界面活性剤に無い性質として曇点と転相温度を持つ 今回使用するノニオン界面

活性剤はポリオキシエチレンオレイルエーテルであり基本式は以下のような形にな

る 7)

R-O(CH2CH2O)n-H

Scheme 1 ポリオキシエチレンオレイルエーテルの基本式

39 曇点

曇点とは透明な液体が相分離を起こして白濁する温度のこと

本実験においてはノニオン界面活性剤が加温によって界面活性効果を失い相分離

によって白濁する温度のこと 8)

310 転相温度乳化

ノニオン界面活性剤は加温によって界面張力が変化しWO型エマルションから

OW 型に変化するこの変化点のことを転相温度と言い転相温度において界

6

面張力が最低になっているので溶液エマルションが極小になる

またこの転相温度は界面活性剤に固有の値となるので二種の比較的性質の

近い界面活性剤を混合することで転相温度を操作し適切な温度で5 μm~30 μm

程度の直径を持つエマルションを作成する方法を転相温度乳化法と呼ぶ 10)

311 ラジカル重合

開始剤を用いてラジカル種を生成して行う重合法のことをラジカル重合法と言う

開始剤の分解要因によって熱光放射線ラジカル重合の三つに分けられる 10)

3111 ラジカル重合を構成する四反応

ラジカル重合は 4種類の反応が同時並行的に起こるそれぞれ以下の通りである 11)

開始反応

開始剤が熱光放射光などの要因によってラジカル開裂を起こしラジカル種を

生じさせる反応

成長反応

ラジカル種がモノマーと反応することでモノマー新たなラジカル種が生成する

反応これが連続することでポリマーが合成される

停止反応

連鎖していた成長反応が止まる反応主にラジカル種同士の反応による

連鎖移動反応

ラジカル種がモノマー以外の分子主に溶媒分子等と反応することでポリマー以

外の物質を合成する副反応

3112 乳化重合

乳化重合はモノマー液滴と呼ばれるモノマーを大量に保存しているエマルシ

ョンと反応場となる極小のセッケンミセルの二つの構造を持つ溶液中で行う不均

一系ラジカル重合の一種である 12)

成長反応が一段階進むたびにモノマー液滴から拡散の理論式に従ってモノマ

ーがミセル内に移動するこの一連の反応を繰り返して反応が進む 13)

そのため種々のラジカル重合法と比較して以下の特長がある 13)

セッケンミセル内に存在するラジカルが常に一つであるため停止反応が

7

起こりにくく比較的重合度の高いポリマーが生成しやすい

反応速度が拡散作用によって律速されかつセッケンミセルの周囲を大量

の溶媒分子が囲んでいるため除熱が容易であるという理由から熱暴走を起

こしにくいという利点がある

ミセル内で重合するため合成した高分子が絡まりやすく粒状の分子が作

成できる

Fig5 乳化重合模式図

312 MS(質量分析法)

質量分析法とは分子の質量すなわち分子量を測る手段でもあるまた分子を分解

したフラグメントの質量を測ることによって分子構造に関する情報を得るものでも

ある

高エネルギー電子が有機分子にぶつかると分子から電子がはじき出せれカチオ

ンラジカルが発生する

119825119815 rarr 119825119815++119838minus Scheme 2カチオンラジカルの発生

電子の衝突により大量のエネルギーが分子に与えられることで大部分のカチオン

ラジカルを生成した後フラグメントに分解するフラグメントは小さな破片となっ

て浮遊し正電荷や中性となる

このカチオンラジカルとフラグメントについてmz値を横軸相対強度を縦軸につ

いて取ったグラフから質量スペクトルを読み取る 14)

またMS(質量分析法)はイオン化の方法などによりいくつかに分けられ今回使用

したいのは高分子試料でもほとんどフラグメンテーションを起こさないソフトなイ

8

オン化法であるMALDI法 15)である

3121 MALDI法(マトリックス支援レーザー脱離イオン化法)

試料を 25-ヒドロキシ安息香酸のような適切なマトリックス上に吸着させて

ペレットを作成しレーザー光を短時間照射してイオン化する

エネルギーがマトリックスから試料に移動し[119872 + 119867119899 ]119899+に分解される 15)

MALDI法にはよく TOF型の MSが用いられている

4 実験

41 2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を用いた既存化粧品用増粘剤の合成

411 使用器具試薬

温度計ウォーターバスビーカー薬さじデシケーター

ジメチルアクリルアミド

式量9913

沸点81

発火点71

LD50(経口)316mgkg

LD50(経皮)580mgkg

製造和光純薬工業株式会社

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸

式量20725

融点200

LD50(経口)5400mgkg

製造和光純薬工業株式会社

NN-メチレンビスアクリルアミド

式量156

沸点4451

発火点215

LD50(経口)390mgkg

製造東京化成工業株式会社

9

へプタン

式量1002

沸点98

引火点-4

水に不溶

製造昭和化学

2-プロパノール

式量60

沸点82

発火点12

LD50(経口)区分外(GHS分類)

LD50(経皮)区分外(GHS分類)

製造昭和化学

ペルオキソ二硫酸アンモニウム

式量22820

冷水に易溶保存湿気厳禁

重合開始罪乳化重合レドックス重合に用いられる

製造和光純薬工業株式会社

412 実験手順

① ビーカーにイオン交換水ヘプタンポリオキシエチレンオレイルエーテル(2)

(8)をそれぞれ507 mL 507 mL489 g((2)(8)=23)加えて良く撹拌したも

のを入れる

② その後その後温度調節機能つきスターラーに乗せ白濁するまで加熱する

白濁した液が透明化するまで温度を落とし電気伝導率計を用いて溶液が転

相温度付近に保たれていることを確認する

③ 以上の操作が済んだ重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先

ほどのスターラーと同じ温度にしたウォーターバスに移し2-アクリルアミド

-2-メチルプロパンスルホン酸NNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 137 g

262 g入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始

剤としてメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

10

④ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

42 N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミドを用いた新規化粧品用増粘剤の合成

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を誘導体と入れ替える以外の

操作は 41に準ずる

親水基による増粘性の変化を観察するため架橋剤のモノマーに対する濃度比

は 2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を使用したポリマーが最も増

粘効果の高くなると報告された濃度比を用いる

421 使用器具試薬

使用器具は 41に準ずる

試薬

N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド

式量11513

沸点130

発火点189

製造東京化成工業株式会社

422 実験手順

① 412 ①②と同じように重合系を作成する

② 以上の操作が済んだ重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先

ほどのスターラーと同じ温度にしたウォーターバスに移しN-(2-ヒドロキシエ

チル)アクリルアミドNNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 076 g262

g 入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始剤と

してメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

③ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

11

43 (3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライドを用いた新規化粧品用

増粘剤の合成

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を誘導体と入れ替える以外の操作は

41に準ずる

親水基による増粘性の変化を観察するため架橋剤のモノマーに対する濃度比は 2-ア

クリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を使用したポリマーが最も増粘効果の高く

なると報告された濃度比を用いる

431 実験器具

実験器具は 41に準ずる

試薬

(3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライド

式量22074

沸点100

製造東京化成工業株式会社

432 実験手順

① 412 ①②と同じように重合系を作成する

② 重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先ほどのスターラーと

同じ温度にしたウォーターバスに移し (3-アクリルアミドプロピル)トリメチ

ルアミニウムクロライドNNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 123 mL

262 g入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始

剤としてメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

③ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

5 評価分析

耐塩性の高い増粘剤の耐塩性と使用感と親水基との関係を評価するために以下の二

つの測定を行い評価する

増粘剤の耐塩性の評価のために塩酸を増粘剤内部に取り込ませた状態で経時

12

による粘度の変化を観察する

また高分子の粘性を考える上で直鎖高分子の場合よく参考にされるのが平

均分子量でありこの値を測定することで親水基が変化した場合に平均分子

量が粒状高分子の粘性にも大きく影響するか確認する

精密に上の測定を行うには専用の機器が必要になるため機器メーカーの株式

会社エーアンドデイ様または東京理科大学理学部応用化学科駒場研究室に

また高分子の性質を考える上で重要視される平均分子量及び分子量分布に

ついては東京理科大学化学系機器センターにあるMALDI-TOF型質量分析計を管

理者の東京理科大学理学部応用化学科の根岸先生に測定に協力していただこうと

考えている

6 謝辞

東京理科大学工学部工業化学科 近藤行成教授

東京理科大学理学部化学科 遠藤恆平准教授

東京理科大学理学部応用化学科 駒場慎一教授

この研究を進めるに当たり大変お世話になった先輩先生方企業の皆さんに感謝の

意を表明します

参考文献

1) 小澤美奈子 基礎高分子科学 高分子学会 編 2010年 第六版 p979899

2) 小澤美奈子 基礎高分子科学 高分子学会 編 2010年 第六版 p99100

3) 金田 勇 逆相マイクロエマルション重合法による水膨潤性ミクロゲルの重合とその増

粘剤としての応用 2010年 p1

4) 小林敏勝 福井寛 きちん知りたい粒子表面と分散技術 日刊工業新聞社 p76

5) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 2006 p839 840 841

6) 皆川基 藤井富美子 洗剤洗浄 百科事典 大矢勝 2007年版 p4647

7) 日本産業洗浄協議会編 わかりやすい界面活性剤 工業調査会 2003 p373839

8) 資生堂 HP httpswwwshiseidogroupjprddevelopmentformulationhtmlより 2015

44取得

9) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 テクノシステム 2006 p321

10) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 テクノシステム 2006 p397

13

398399

11) 遠藤 剛 高分子の合成(上)~ラジカルカチオンアニオン重合~ 講談社 2010 3p

12) 佐藤壽彌編 高分子微粒子の技術と応用 シーエムシー出版 2004 p2526

13) 佐藤壽彌編 高分子微粒子の技術と応用 シーエムシー出版 2004 p27

14) マクマリー 上 8版 東京化学同人 p403404

15) John McMurry マクマリー有機化学(上) 第 8版 2013 p410411

Page 31: ゼオライトとキトサンを用いた 金属イオン除去剤の …kaken/studies/2015/2015-s-all.pdf1 東京理科大学I 部化学研究部 2015 年度春輪講書 ゼオライトとキトサンを用いた

3

橋点間高分子の伸びきった長さと高分子鎖に歪がない曲がった自然な状態での大きさ

の比として求められる溶媒中で完全に湿潤した中性ゲルの引っ張り破断歪はλBcongQ12で

ありQの増加により増加する一方湿潤することにより単位面積あたりの高分子

の本数が減るため破断応力は湿潤度 Qが大きくなることにより減少する故にQが大

きいゲルは伸びやすいが弱い応力で壊れる

電解質ゲルの場合高分子鎖はその解離しているイオンの浸透圧によって水中では

ほとんど伸びきった状態となっているその結果理想状態においても破断歪はλBcongQ19

になるこれは破断歪が小さくかつ湿潤度にあまり依存しないことを意味している 5)

以上のことより

1)架橋密度を上げる(架橋点間分子量を下げる)ことでゲルが固くて脆くなる

2)水中に完全に湿潤した高分子電解質ゲルは中性のゲルより硬くて脆い高弾性と変形は

相反するということが考えられる

314 DNゲルの高強度機構

DNゲルは強電解質をモノマーとする 1st networkゲル電気的に中性なモノマーを用

いる 2nd networkゲルを組み合わせることにより生成される前述した通りゲルにおける

弾性と靭性は常に相反する働きをするそれゆえに単一な物質で両方の性質を得るこ

とは原理的には不可能である同じ湿潤度において電解質ゲルと中性ゲルのせん断弾性

率の比はGchaGneucongQ125であるために両者の違いは湿潤度 Qが高いほど大きくなる

この性質を利用することにより電解質ゲルは硬い成分中性ゲルは軟らかい成分とし

て用いることができる

亀裂を含む DNゲルがある引張荷重を受けると応力集中の効果で最初に亀裂先端近傍

の電解質網目(1st network)が破壊され局所的にゲルが降伏する荷重がますと電解質網

目の破壊が次々に伝播し広範囲にわたるダメージゾーンが形成されていくこの過程

で非常にいい気なエネルギーが分散されるダメージゾーンがある大きさまで広がった

ときようやく亀裂先端に中性網目(2nd network)が十分に伸びて切断し亀裂が進行す

る 8)

4

Fig 1 DNゲルの破壊モデル 9)

32 光ラジカル重合

321 光分解

光重合開始剤に UVを当てることにより開裂がおきラジカルが発生する本研究にお

いては 1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンを用いる 10)

Scheme1 1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンの開裂 10)

ℎ120592

5

322 開始反応

UVを当て光開裂により生じたラジカルがビニル基の二重結合を攻撃し光重合開始剤

と炭素の間に σ結合を作り炭素原子にラジカルが存在することになる

Scheme2 ラジカルの生成

323 成長反応

Scheme2で生成したラジカルが他のモノマーを攻撃しσ結合を生じるそれが何回

も起こることにより分子鎖が成長する 6)

Scheme3 分子鎖の成長

324 停止反応

Scheme 3で成長した成長ラジカル同士が σ結合を作り分子鎖が生成する 7)

Scheme4 分子鎖の生成

4実験

41 DNゲルの合成

411 使用器具試薬

ビーカー乳鉢乳棒薬さじUVライトデシケーター

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸

分子式 C7H13NO4S

式量20724

融点160

用途1st networkゲルのモノマー

6

アクリル酸

分子式C3H4O2

式量7206

融点123

沸点1416

比重10511

危険性引火性(発火温度 360 )

用途1st networkゲルのモノマー

アクリロニトリルの加水分解アクロレインの酸化ニッケルカルボニルの存在下ア

セチレンと一酸化炭素と水との反応などにより合成される酢酸に似た刺激臭を持つ液

体水エタノールエーテルによく溶ける酸素の存在下容易に重合するプラス

チックの原料として用いられる

アクリルアミド

分子式C3H5NO

式量7108

融点845

沸点103

比重1122

用途2nd networkゲルのモノマー

アクリルニトリルを硫酸あるいは塩酸を処理して得られるフレーク状の結晶溶解

性(g100 ml溶媒30 )水 2155メタノール 155エタノール 862アセトン 631

酢酸エチル 126クロロホルム 266ベンゼン 0346ヘプタン 00068化学的に不安

定で冷暗所に保存する必要がある融点付近あるいは紫外線下で重合する重合の仕方

により水溶性不溶性のものが得られる

酢酸ビニル

分子式C4H6O2

式量8609

融点-932

沸点723

比重09317

用途2nd networkゲルのモノマー

無色の液体酸やアルカリよって容易に加水分解されてアセトアルデヒドと酢酸を生

じる熱光ラジカル開始剤によって重合する

7

メタクリル酸メチル

分子式C5H8O2

式量10012

融点-48

沸点1003

比重0936

用途2nd networkゲルのモノマー

無色透明で催涙性の芳香のある液体工業的にはアセトンシアノヒドリンにメタノー

ルと硫酸を作用させて合成する実験室的にはメテクリル酸メチルの重合物を 320

以上で乾留すると得られる一般に有機溶媒には溶けるがエチレングリコールグリセ

リンには溶けにくい重合しやすいので重合禁止剤としてヒドロキノンモノメチルエ

ーテル(65 ppm)を添加して保存する有機ガラスの製造ビニル系共重合体など広く

重合反応に用いられるまたメチル以外のアルコールのメタクリル酸エステルの合成

にも用いられる

NN-メチレンビスアクリルアミド

分子式C7H10N2O2

式量15417

融点300

用途架橋剤

1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン

分子式C13H16O2

式量20427

融点47-50

用途光重合開始剤

最大吸収波長は 260 nm付近にある

エチレングリコール

式量6207

融点 -126

沸点1976

比重11132

8

用途ゲル溶媒

重要な二価アルコールでエチレンオキシドの酸触媒による開環高温高圧下水と

の反応による開環などによって合成される吸湿性無色無臭の液体甘味を有する

が有毒である高沸点を有ししかも水酸化カリウム水酸化ナトリウムを溶解し水や

エタノールと任意の割合で混合するので有機合成における溶媒として広く用いられ

また塩基に対して安定なエチレンケタールの生成によるカルボニル基の保護に用いら

れるさらに酢酸ビニル系樹脂の溶剤や水と混ざり高沸点のため不凍液に用いら

れるなど広い用途を持っている

412 1st networkゲルの作成

1) 1st networkゲルのモノマー(電解質モノマー)架橋剤(NN-メチレンビスアクリルア

ミド)と光重合開始剤(1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)を水に溶解させた水

溶液を調製する

2) UVを 8時間照射して光ラジカル重合をさせる

3) 2)で合成した電解質ゲルを乳鉢に入れ適当なサイズに砕いた後デシケーター内で一

週間ほど乾燥させる

413水溶媒 DNゲルの作成

1) 2nd networkゲルのモノマー(中性モノマー)架橋剤(NN-メチレンビスアクリルアミ

ド)光重合開始剤(1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)をエチレングリコールに

溶解させた溶液を調製する

2) 乾燥した電解質ゲルを 1)で調製した水溶液に入れ電解質ゲルを十分に膨らませるそ

の後UVを照射し中性モノマーを光ラジカル重合させる

414エチレングリコール DNゲルの作成

1) 2nd networkゲルのモノマー(中性モノマー)架橋剤(NN-メチレンビスアクリルアミ

ド)光重合開始剤(1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)をエチレングリコールに

溶解させた溶液を調製する

2) 乾燥した電解質ゲルを 1)で調製したエチレングリコール溶液に入れ電解質ゲルを十分

に膨らませるその後UVを照射し中性モノマーを光ラジカル重合させる

42 DNゲルの評価

421引っ張り試験

使用するモノマーの変化によるゲルの性質の差を評価する引っ張り試験は

JIS-K-6251-7号に準拠する方法で測定する

9

1)DNゲルを X方向の長さ 50 mmY方向の長さ 75 mmZ方向の長さが 25 mmの大

きさに成形する

2)その一端部に X-Y平面に平行な切込みを入れて2つの引張端部を形成する

3) 引張端部を片方は固定しもう片方を一定の速度で引っ張るこのときの引っ張る力 F

を測定する

Fig 2 引っ張り試験 13)

422 摩擦試験

使用するモノマーの変化溶媒の変化によるゲルの性質の差を評価する

摩擦試験は東京理科大学工学部第一部機械工学科佐々木研究室に依頼する予定である

用いる機械は SVR4パーカー熱処理工業株式会社製であり180での高温での摩擦係

数の測定が可能である

摩擦測定は常温(20 )と高温(100 )で測定することを予定している

10

5 展望

51 DNゲルの合成

実験操作は溶液を調製した後UV照射するという簡易な手順なので合成は比較的早い

段階で成功すると考えられる

1st networkゲル合成に使うのは電解質モノマーなため水溶液のモノマーの濃度が低

いと湿潤度 Q が大きくなりせん断弾性率が下がり剛性が弱いゲルが出来上がると考え

られる

架橋剤を多く使用すると架橋密度を上がるので 2nd networkゲルが入り込む空洞が小

さくなるそのために架橋剤が多すぎると高弾性のゲルが生成できると考えられる

また同様な考えで2nd networkモノマーが含まれている水溶液に乾燥させた1st network

ゲルを入れる量が多くても高弾性のゲルが生成できると考えられる

52 DNゲルの物性

ゲルの高分子網目は基板から離れようとするときにゲルと基板の間に僅かな溶媒層

が生じるこの状態では溶媒層が潤滑油のような働きをして生じる摩擦力は小さなも

のとなるゲル周辺が高温な状態ではこの溶媒層が水の場合は蒸発してしまうので摩

擦力は増大すると考えられる溶媒を水からより沸点の高いエチレングリコールなどに

変えれば摩擦力は増大することはないと推測される 14)

11

参考文献

1) J Bastide and L LeiblerMacromolecules1988212647

2) G G J Lake and A G ThomasProc R Soc LondonA1967300108

3)越後亮三 機械工学辞典 朝倉書店 2007 p631

4) 伊藤勝悦 やさしく学べる材料力学 森北出版 2014 p14

5)SPObukhovMRubinstein and RHColby Macromolecules 1994273191-3198

6)MRubinsteinRHColbyAVDobrynin and JJaonnyElasticMacromolecules199629398-406

7) 大 阪 府 立 大 学 基 礎 講 座 材 料 の 強 度 と 破 壊

httpwwwengmmtrosakafu-uacjpresearchstrength-japdf2015413取得

8)聾剣萍「生命科学時代の新材料-高弾性高靱性ダブルネットワークゲル」高分子学会

『高分子』高分子科学最近の進歩58巻 5号2009p327-p331

9)YTanakaEurophysLett20077856005

10)蓮池幹治ラジカル重合ハンドブックエヌティーエス2010p444-p445

11)大津隆行ラジカル重合(Ⅰ)化学同人1971p80-p81

12)大津隆行ラジカル重合(Ⅰ)化学同人1971p153-p154

13)聾剣萍高分子ゲルおよびその製造方法特開 2009-185156 2008-02-05

14) 角五 彰龔 剣萍長田義仁「ゲルの摩擦と水和潤滑~生物の滑らかな運動解明への

アプローチ」日本生物物理学会『生物物理』47巻 4号2007p 253-p258

1

東京理科大学Ⅰ部化学研究部 2015年度春輪講書

耐塩性の高い新規化粧品用増粘剤の開発 2015年度金曜班

Nomata N(2OK)Seki M(2OK)Tin J(2OK)Takahashi R(2C)Watanabe A(2K)

Asai D(2K) Nishimiti D(2K)Yamamoto R(2K)

1 動機

化粧品において増粘剤の果たす役割は非常に大きい

化粧品にはクリーム状のモノが多くありその整形には増粘剤が必要不可欠である

また増粘剤は製剤だけでなく密閉効果や水和効果によって薬剤を皮膚に効率的に輸

送することに役立っている

この増粘剤であるが一つ課題がありアスコルビン酸塩(ビタミン C)のようなクロロ

基を持つ塩系薬剤をゲル中に含む場合経時によってべたつきといった使用感の悪化

につながるといった弱点があるこの問題の解決のために塩系薬剤への耐性の高い増

粘剤の開発が望まれている

塩系薬剤の高い美容効果からこの問題の解決に対する化粧剤企業のニーズは高くこ

の問題は長く研究が続けられていたが近年資生堂が逆相マイクロエマルション重

合法によって microスケールの粒状高分子を多数合成することによりできる増粘剤が高い

耐塩性を持ち使用感もよいことを発見したがこの粒状高分子増粘剤には未だ試み

られていないモノマーが多くある

そこで今年度の金曜班ではこの逆相マイクロエマルション重合法において未だ

試みられていない親水基を持つモノマーを利用して新規の増粘剤をつくることで粒

状高分子による増粘剤の耐塩性と肌触りと親水基の関係を調べ応用化に利すること

ができるのではないかと考え実験を行うこととした

2 背景

増粘剤とは水溶液をゲル化するために添加される物質であり化粧品において広く

用いられているこの増粘効果は従来では高分子鎖同士の分子間力や架橋で生じる

網目構造の結果生じる液中の摩擦力によるものである

動機で述べたように μスケールの粒状高分子が増粘剤として良質であることがわか

っているただし粒状高分子の形状は反応場であるセッケンミセルの大きさだけで

なく親水基やポリマーを構成する原子同士の分子間力によって変わる高分子の立体構

2

造にも影響されている

また粒状高分子の正確な一次構造を把握することは大変難しいことであるので

応用化のためには高分子の一次構造でなくモノマーによって粒状高分子特性の変化

を調べることが重要である

さらに従来用いられているポリマーがスルホ基とカルボキシル基を親水基とする

ものしか存在しない

以上の三点から酸以外の親水基をもつモノマーで増粘剤を合成したときその性

質はどうなるかを調べることでより製品として利用価値が高い粒状高分子増粘剤を合

成することができるのではないかと考えた

そこで新規モノマーとしては対照実験を行うためにアクリルアミド系モノマー

でかつ 2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸のスルホ基と同じ炭素骨格の先

端に親水基が存在するものとしてN-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド (3-アク

リルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライドを用いてそれぞれ親水基が酸

ではなくヒドロキシ基である場合親水基がアニオンではなくカチオンである場合に

ついて研究を行うこととした

この二種の以外にも水溶性のアクリルアミドポリマーは存在するが上記の条件を満

たさないまたは高価であるため本実験では用いないこととした

Fig1 N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド

Fig2 (3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライド

3

3 原理

31 一般的な液体の粘性

溶液の粘性は一般論では以下のように表される

Fig3のように XY平面を取り液面に平板を用意し引っ張った時挟まれた溶液内

には図のようなせん断流動が発生する高さ Yでのせん断速度は(119881

119889) 119910で与えられる

この時平板に挟まれた溶液を薄層の集まりと考えると隣り合う薄層間に摩擦が生

じるこの内部摩擦力が粘性力であるずり速度勾配が十分に小さければ平板の単位

面積当たりに生じる粘性力 Fv0はその勾配 Vd に比例するすなわち以下の式で表

され1205780を粘性係数と呼ぶこの値は溶媒固有である1)

1198651199070 = 1205780 (119881

119889)

Fig3 溶液ずりせん断図

32 増粘剤の粘性

増粘剤の多くは低分子の液体に高分子を溶かすと著しく粘性が高くなる性質を利

用している

この粘性の発生するメカニズムは下の Fig4において平板間の溶液を薄層に分けた

際高分子鎖は溶液の移動に伴って回転するこのとき溶液中の薄層は薄層間の摩

擦以外に高分子鎖との間にも摩擦が生じているこの摩擦の増加が粘性力の増加とな

る 2)

4

Fig4 高分子による粘性増加

また高分子鎖同士が分子間力によって結びつき三次元構造を形成することで内

部摩擦力は一層大きくなるこのため高分子による増粘効果は顕著である

架橋高分子では三次元構造が高分子鎖同士の分子間力による形成よりも強いものと

なるので増粘効果及びレオロジー特性に優れる 3)

33 塩系薬剤による粘性劣化のメカニズム

塩系薬剤とはビタミンC (アスコルビン酸塩)のようにクロロ基をもつ薬効物質のこ

とである

このクロロ基が直鎖高分子や架橋高分子がポリマー間で形成する三次元網目構造

を破壊することによって増粘効果を消失させ内容物の流失によるべたつきを生じさ

せる 3)

34 粒状高分子の粘性

粒状高分子の粘性について粒状高分子はその粒経が小さいほど体積に対する表面

積が増え溶液内での内部摩擦力が大きくなる

また粒子同士が摩擦力を元に網目構造を形成するため網目構造の構成要因が直

鎖高分子や架橋高分子の高分子増粘剤と異なっている 4)

35 逆相マイクロエマルション重合法

後述する転相温度乳化法を用いて形成した5 μm~30 μm 形成したマイクロエマル

ション内において水溶性のモノマーを利用して行う乳化重合法の一種容易に極小の

5

ポリマーを合成することができる 5)

36 界面活性剤の概略

界面活性剤とは分子の構造が水になじみやすい部分(親水基)と油になじみやすい

部分(新油基)からできていて2つの物質の間の界面に集まりやすい性質を持ちそ

の界面の性質を著しく変える物質というのが界面活性剤の定義である

代表的な界面活性剤の特徴は界面における「吸着」と「ミセル形成」である 6)

もうひとつの代表的な作用として「可溶化」もある

37 エマルションの形成

界面活性剤に有機溶媒が取り囲まれて水に可溶化されたとき水溶液中に存在する

有機溶媒を界面活性剤が取り囲んだ液滴のことを OW エマルションと呼ぶ

有機溶媒中に水が可溶化される場合WOエマルションと呼ぶ

38 ノニオン界面活性剤

非イオン界面活性剤とも言う界面活性剤の内解離基を持たず電気的に中性な

界面活性剤で親水基は主にポリオキシエチレン基であるその特殊な性質上他の種類

の界面活性剤に無い性質として曇点と転相温度を持つ 今回使用するノニオン界面

活性剤はポリオキシエチレンオレイルエーテルであり基本式は以下のような形にな

る 7)

R-O(CH2CH2O)n-H

Scheme 1 ポリオキシエチレンオレイルエーテルの基本式

39 曇点

曇点とは透明な液体が相分離を起こして白濁する温度のこと

本実験においてはノニオン界面活性剤が加温によって界面活性効果を失い相分離

によって白濁する温度のこと 8)

310 転相温度乳化

ノニオン界面活性剤は加温によって界面張力が変化しWO型エマルションから

OW 型に変化するこの変化点のことを転相温度と言い転相温度において界

6

面張力が最低になっているので溶液エマルションが極小になる

またこの転相温度は界面活性剤に固有の値となるので二種の比較的性質の

近い界面活性剤を混合することで転相温度を操作し適切な温度で5 μm~30 μm

程度の直径を持つエマルションを作成する方法を転相温度乳化法と呼ぶ 10)

311 ラジカル重合

開始剤を用いてラジカル種を生成して行う重合法のことをラジカル重合法と言う

開始剤の分解要因によって熱光放射線ラジカル重合の三つに分けられる 10)

3111 ラジカル重合を構成する四反応

ラジカル重合は 4種類の反応が同時並行的に起こるそれぞれ以下の通りである 11)

開始反応

開始剤が熱光放射光などの要因によってラジカル開裂を起こしラジカル種を

生じさせる反応

成長反応

ラジカル種がモノマーと反応することでモノマー新たなラジカル種が生成する

反応これが連続することでポリマーが合成される

停止反応

連鎖していた成長反応が止まる反応主にラジカル種同士の反応による

連鎖移動反応

ラジカル種がモノマー以外の分子主に溶媒分子等と反応することでポリマー以

外の物質を合成する副反応

3112 乳化重合

乳化重合はモノマー液滴と呼ばれるモノマーを大量に保存しているエマルシ

ョンと反応場となる極小のセッケンミセルの二つの構造を持つ溶液中で行う不均

一系ラジカル重合の一種である 12)

成長反応が一段階進むたびにモノマー液滴から拡散の理論式に従ってモノマ

ーがミセル内に移動するこの一連の反応を繰り返して反応が進む 13)

そのため種々のラジカル重合法と比較して以下の特長がある 13)

セッケンミセル内に存在するラジカルが常に一つであるため停止反応が

7

起こりにくく比較的重合度の高いポリマーが生成しやすい

反応速度が拡散作用によって律速されかつセッケンミセルの周囲を大量

の溶媒分子が囲んでいるため除熱が容易であるという理由から熱暴走を起

こしにくいという利点がある

ミセル内で重合するため合成した高分子が絡まりやすく粒状の分子が作

成できる

Fig5 乳化重合模式図

312 MS(質量分析法)

質量分析法とは分子の質量すなわち分子量を測る手段でもあるまた分子を分解

したフラグメントの質量を測ることによって分子構造に関する情報を得るものでも

ある

高エネルギー電子が有機分子にぶつかると分子から電子がはじき出せれカチオ

ンラジカルが発生する

119825119815 rarr 119825119815++119838minus Scheme 2カチオンラジカルの発生

電子の衝突により大量のエネルギーが分子に与えられることで大部分のカチオン

ラジカルを生成した後フラグメントに分解するフラグメントは小さな破片となっ

て浮遊し正電荷や中性となる

このカチオンラジカルとフラグメントについてmz値を横軸相対強度を縦軸につ

いて取ったグラフから質量スペクトルを読み取る 14)

またMS(質量分析法)はイオン化の方法などによりいくつかに分けられ今回使用

したいのは高分子試料でもほとんどフラグメンテーションを起こさないソフトなイ

8

オン化法であるMALDI法 15)である

3121 MALDI法(マトリックス支援レーザー脱離イオン化法)

試料を 25-ヒドロキシ安息香酸のような適切なマトリックス上に吸着させて

ペレットを作成しレーザー光を短時間照射してイオン化する

エネルギーがマトリックスから試料に移動し[119872 + 119867119899 ]119899+に分解される 15)

MALDI法にはよく TOF型の MSが用いられている

4 実験

41 2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を用いた既存化粧品用増粘剤の合成

411 使用器具試薬

温度計ウォーターバスビーカー薬さじデシケーター

ジメチルアクリルアミド

式量9913

沸点81

発火点71

LD50(経口)316mgkg

LD50(経皮)580mgkg

製造和光純薬工業株式会社

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸

式量20725

融点200

LD50(経口)5400mgkg

製造和光純薬工業株式会社

NN-メチレンビスアクリルアミド

式量156

沸点4451

発火点215

LD50(経口)390mgkg

製造東京化成工業株式会社

9

へプタン

式量1002

沸点98

引火点-4

水に不溶

製造昭和化学

2-プロパノール

式量60

沸点82

発火点12

LD50(経口)区分外(GHS分類)

LD50(経皮)区分外(GHS分類)

製造昭和化学

ペルオキソ二硫酸アンモニウム

式量22820

冷水に易溶保存湿気厳禁

重合開始罪乳化重合レドックス重合に用いられる

製造和光純薬工業株式会社

412 実験手順

① ビーカーにイオン交換水ヘプタンポリオキシエチレンオレイルエーテル(2)

(8)をそれぞれ507 mL 507 mL489 g((2)(8)=23)加えて良く撹拌したも

のを入れる

② その後その後温度調節機能つきスターラーに乗せ白濁するまで加熱する

白濁した液が透明化するまで温度を落とし電気伝導率計を用いて溶液が転

相温度付近に保たれていることを確認する

③ 以上の操作が済んだ重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先

ほどのスターラーと同じ温度にしたウォーターバスに移し2-アクリルアミド

-2-メチルプロパンスルホン酸NNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 137 g

262 g入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始

剤としてメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

10

④ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

42 N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミドを用いた新規化粧品用増粘剤の合成

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を誘導体と入れ替える以外の

操作は 41に準ずる

親水基による増粘性の変化を観察するため架橋剤のモノマーに対する濃度比

は 2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を使用したポリマーが最も増

粘効果の高くなると報告された濃度比を用いる

421 使用器具試薬

使用器具は 41に準ずる

試薬

N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド

式量11513

沸点130

発火点189

製造東京化成工業株式会社

422 実験手順

① 412 ①②と同じように重合系を作成する

② 以上の操作が済んだ重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先

ほどのスターラーと同じ温度にしたウォーターバスに移しN-(2-ヒドロキシエ

チル)アクリルアミドNNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 076 g262

g 入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始剤と

してメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

③ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

11

43 (3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライドを用いた新規化粧品用

増粘剤の合成

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を誘導体と入れ替える以外の操作は

41に準ずる

親水基による増粘性の変化を観察するため架橋剤のモノマーに対する濃度比は 2-ア

クリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を使用したポリマーが最も増粘効果の高く

なると報告された濃度比を用いる

431 実験器具

実験器具は 41に準ずる

試薬

(3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライド

式量22074

沸点100

製造東京化成工業株式会社

432 実験手順

① 412 ①②と同じように重合系を作成する

② 重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先ほどのスターラーと

同じ温度にしたウォーターバスに移し (3-アクリルアミドプロピル)トリメチ

ルアミニウムクロライドNNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 123 mL

262 g入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始

剤としてメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

③ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

5 評価分析

耐塩性の高い増粘剤の耐塩性と使用感と親水基との関係を評価するために以下の二

つの測定を行い評価する

増粘剤の耐塩性の評価のために塩酸を増粘剤内部に取り込ませた状態で経時

12

による粘度の変化を観察する

また高分子の粘性を考える上で直鎖高分子の場合よく参考にされるのが平

均分子量でありこの値を測定することで親水基が変化した場合に平均分子

量が粒状高分子の粘性にも大きく影響するか確認する

精密に上の測定を行うには専用の機器が必要になるため機器メーカーの株式

会社エーアンドデイ様または東京理科大学理学部応用化学科駒場研究室に

また高分子の性質を考える上で重要視される平均分子量及び分子量分布に

ついては東京理科大学化学系機器センターにあるMALDI-TOF型質量分析計を管

理者の東京理科大学理学部応用化学科の根岸先生に測定に協力していただこうと

考えている

6 謝辞

東京理科大学工学部工業化学科 近藤行成教授

東京理科大学理学部化学科 遠藤恆平准教授

東京理科大学理学部応用化学科 駒場慎一教授

この研究を進めるに当たり大変お世話になった先輩先生方企業の皆さんに感謝の

意を表明します

参考文献

1) 小澤美奈子 基礎高分子科学 高分子学会 編 2010年 第六版 p979899

2) 小澤美奈子 基礎高分子科学 高分子学会 編 2010年 第六版 p99100

3) 金田 勇 逆相マイクロエマルション重合法による水膨潤性ミクロゲルの重合とその増

粘剤としての応用 2010年 p1

4) 小林敏勝 福井寛 きちん知りたい粒子表面と分散技術 日刊工業新聞社 p76

5) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 2006 p839 840 841

6) 皆川基 藤井富美子 洗剤洗浄 百科事典 大矢勝 2007年版 p4647

7) 日本産業洗浄協議会編 わかりやすい界面活性剤 工業調査会 2003 p373839

8) 資生堂 HP httpswwwshiseidogroupjprddevelopmentformulationhtmlより 2015

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9) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 テクノシステム 2006 p321

10) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 テクノシステム 2006 p397

13

398399

11) 遠藤 剛 高分子の合成(上)~ラジカルカチオンアニオン重合~ 講談社 2010 3p

12) 佐藤壽彌編 高分子微粒子の技術と応用 シーエムシー出版 2004 p2526

13) 佐藤壽彌編 高分子微粒子の技術と応用 シーエムシー出版 2004 p27

14) マクマリー 上 8版 東京化学同人 p403404

15) John McMurry マクマリー有機化学(上) 第 8版 2013 p410411

Page 32: ゼオライトとキトサンを用いた 金属イオン除去剤の …kaken/studies/2015/2015-s-all.pdf1 東京理科大学I 部化学研究部 2015 年度春輪講書 ゼオライトとキトサンを用いた

4

Fig 1 DNゲルの破壊モデル 9)

32 光ラジカル重合

321 光分解

光重合開始剤に UVを当てることにより開裂がおきラジカルが発生する本研究にお

いては 1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンを用いる 10)

Scheme1 1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンの開裂 10)

ℎ120592

5

322 開始反応

UVを当て光開裂により生じたラジカルがビニル基の二重結合を攻撃し光重合開始剤

と炭素の間に σ結合を作り炭素原子にラジカルが存在することになる

Scheme2 ラジカルの生成

323 成長反応

Scheme2で生成したラジカルが他のモノマーを攻撃しσ結合を生じるそれが何回

も起こることにより分子鎖が成長する 6)

Scheme3 分子鎖の成長

324 停止反応

Scheme 3で成長した成長ラジカル同士が σ結合を作り分子鎖が生成する 7)

Scheme4 分子鎖の生成

4実験

41 DNゲルの合成

411 使用器具試薬

ビーカー乳鉢乳棒薬さじUVライトデシケーター

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸

分子式 C7H13NO4S

式量20724

融点160

用途1st networkゲルのモノマー

6

アクリル酸

分子式C3H4O2

式量7206

融点123

沸点1416

比重10511

危険性引火性(発火温度 360 )

用途1st networkゲルのモノマー

アクリロニトリルの加水分解アクロレインの酸化ニッケルカルボニルの存在下ア

セチレンと一酸化炭素と水との反応などにより合成される酢酸に似た刺激臭を持つ液

体水エタノールエーテルによく溶ける酸素の存在下容易に重合するプラス

チックの原料として用いられる

アクリルアミド

分子式C3H5NO

式量7108

融点845

沸点103

比重1122

用途2nd networkゲルのモノマー

アクリルニトリルを硫酸あるいは塩酸を処理して得られるフレーク状の結晶溶解

性(g100 ml溶媒30 )水 2155メタノール 155エタノール 862アセトン 631

酢酸エチル 126クロロホルム 266ベンゼン 0346ヘプタン 00068化学的に不安

定で冷暗所に保存する必要がある融点付近あるいは紫外線下で重合する重合の仕方

により水溶性不溶性のものが得られる

酢酸ビニル

分子式C4H6O2

式量8609

融点-932

沸点723

比重09317

用途2nd networkゲルのモノマー

無色の液体酸やアルカリよって容易に加水分解されてアセトアルデヒドと酢酸を生

じる熱光ラジカル開始剤によって重合する

7

メタクリル酸メチル

分子式C5H8O2

式量10012

融点-48

沸点1003

比重0936

用途2nd networkゲルのモノマー

無色透明で催涙性の芳香のある液体工業的にはアセトンシアノヒドリンにメタノー

ルと硫酸を作用させて合成する実験室的にはメテクリル酸メチルの重合物を 320

以上で乾留すると得られる一般に有機溶媒には溶けるがエチレングリコールグリセ

リンには溶けにくい重合しやすいので重合禁止剤としてヒドロキノンモノメチルエ

ーテル(65 ppm)を添加して保存する有機ガラスの製造ビニル系共重合体など広く

重合反応に用いられるまたメチル以外のアルコールのメタクリル酸エステルの合成

にも用いられる

NN-メチレンビスアクリルアミド

分子式C7H10N2O2

式量15417

融点300

用途架橋剤

1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン

分子式C13H16O2

式量20427

融点47-50

用途光重合開始剤

最大吸収波長は 260 nm付近にある

エチレングリコール

式量6207

融点 -126

沸点1976

比重11132

8

用途ゲル溶媒

重要な二価アルコールでエチレンオキシドの酸触媒による開環高温高圧下水と

の反応による開環などによって合成される吸湿性無色無臭の液体甘味を有する

が有毒である高沸点を有ししかも水酸化カリウム水酸化ナトリウムを溶解し水や

エタノールと任意の割合で混合するので有機合成における溶媒として広く用いられ

また塩基に対して安定なエチレンケタールの生成によるカルボニル基の保護に用いら

れるさらに酢酸ビニル系樹脂の溶剤や水と混ざり高沸点のため不凍液に用いら

れるなど広い用途を持っている

412 1st networkゲルの作成

1) 1st networkゲルのモノマー(電解質モノマー)架橋剤(NN-メチレンビスアクリルア

ミド)と光重合開始剤(1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)を水に溶解させた水

溶液を調製する

2) UVを 8時間照射して光ラジカル重合をさせる

3) 2)で合成した電解質ゲルを乳鉢に入れ適当なサイズに砕いた後デシケーター内で一

週間ほど乾燥させる

413水溶媒 DNゲルの作成

1) 2nd networkゲルのモノマー(中性モノマー)架橋剤(NN-メチレンビスアクリルアミ

ド)光重合開始剤(1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)をエチレングリコールに

溶解させた溶液を調製する

2) 乾燥した電解質ゲルを 1)で調製した水溶液に入れ電解質ゲルを十分に膨らませるそ

の後UVを照射し中性モノマーを光ラジカル重合させる

414エチレングリコール DNゲルの作成

1) 2nd networkゲルのモノマー(中性モノマー)架橋剤(NN-メチレンビスアクリルアミ

ド)光重合開始剤(1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)をエチレングリコールに

溶解させた溶液を調製する

2) 乾燥した電解質ゲルを 1)で調製したエチレングリコール溶液に入れ電解質ゲルを十分

に膨らませるその後UVを照射し中性モノマーを光ラジカル重合させる

42 DNゲルの評価

421引っ張り試験

使用するモノマーの変化によるゲルの性質の差を評価する引っ張り試験は

JIS-K-6251-7号に準拠する方法で測定する

9

1)DNゲルを X方向の長さ 50 mmY方向の長さ 75 mmZ方向の長さが 25 mmの大

きさに成形する

2)その一端部に X-Y平面に平行な切込みを入れて2つの引張端部を形成する

3) 引張端部を片方は固定しもう片方を一定の速度で引っ張るこのときの引っ張る力 F

を測定する

Fig 2 引っ張り試験 13)

422 摩擦試験

使用するモノマーの変化溶媒の変化によるゲルの性質の差を評価する

摩擦試験は東京理科大学工学部第一部機械工学科佐々木研究室に依頼する予定である

用いる機械は SVR4パーカー熱処理工業株式会社製であり180での高温での摩擦係

数の測定が可能である

摩擦測定は常温(20 )と高温(100 )で測定することを予定している

10

5 展望

51 DNゲルの合成

実験操作は溶液を調製した後UV照射するという簡易な手順なので合成は比較的早い

段階で成功すると考えられる

1st networkゲル合成に使うのは電解質モノマーなため水溶液のモノマーの濃度が低

いと湿潤度 Q が大きくなりせん断弾性率が下がり剛性が弱いゲルが出来上がると考え

られる

架橋剤を多く使用すると架橋密度を上がるので 2nd networkゲルが入り込む空洞が小

さくなるそのために架橋剤が多すぎると高弾性のゲルが生成できると考えられる

また同様な考えで2nd networkモノマーが含まれている水溶液に乾燥させた1st network

ゲルを入れる量が多くても高弾性のゲルが生成できると考えられる

52 DNゲルの物性

ゲルの高分子網目は基板から離れようとするときにゲルと基板の間に僅かな溶媒層

が生じるこの状態では溶媒層が潤滑油のような働きをして生じる摩擦力は小さなも

のとなるゲル周辺が高温な状態ではこの溶媒層が水の場合は蒸発してしまうので摩

擦力は増大すると考えられる溶媒を水からより沸点の高いエチレングリコールなどに

変えれば摩擦力は増大することはないと推測される 14)

11

参考文献

1) J Bastide and L LeiblerMacromolecules1988212647

2) G G J Lake and A G ThomasProc R Soc LondonA1967300108

3)越後亮三 機械工学辞典 朝倉書店 2007 p631

4) 伊藤勝悦 やさしく学べる材料力学 森北出版 2014 p14

5)SPObukhovMRubinstein and RHColby Macromolecules 1994273191-3198

6)MRubinsteinRHColbyAVDobrynin and JJaonnyElasticMacromolecules199629398-406

7) 大 阪 府 立 大 学 基 礎 講 座 材 料 の 強 度 と 破 壊

httpwwwengmmtrosakafu-uacjpresearchstrength-japdf2015413取得

8)聾剣萍「生命科学時代の新材料-高弾性高靱性ダブルネットワークゲル」高分子学会

『高分子』高分子科学最近の進歩58巻 5号2009p327-p331

9)YTanakaEurophysLett20077856005

10)蓮池幹治ラジカル重合ハンドブックエヌティーエス2010p444-p445

11)大津隆行ラジカル重合(Ⅰ)化学同人1971p80-p81

12)大津隆行ラジカル重合(Ⅰ)化学同人1971p153-p154

13)聾剣萍高分子ゲルおよびその製造方法特開 2009-185156 2008-02-05

14) 角五 彰龔 剣萍長田義仁「ゲルの摩擦と水和潤滑~生物の滑らかな運動解明への

アプローチ」日本生物物理学会『生物物理』47巻 4号2007p 253-p258

1

東京理科大学Ⅰ部化学研究部 2015年度春輪講書

耐塩性の高い新規化粧品用増粘剤の開発 2015年度金曜班

Nomata N(2OK)Seki M(2OK)Tin J(2OK)Takahashi R(2C)Watanabe A(2K)

Asai D(2K) Nishimiti D(2K)Yamamoto R(2K)

1 動機

化粧品において増粘剤の果たす役割は非常に大きい

化粧品にはクリーム状のモノが多くありその整形には増粘剤が必要不可欠である

また増粘剤は製剤だけでなく密閉効果や水和効果によって薬剤を皮膚に効率的に輸

送することに役立っている

この増粘剤であるが一つ課題がありアスコルビン酸塩(ビタミン C)のようなクロロ

基を持つ塩系薬剤をゲル中に含む場合経時によってべたつきといった使用感の悪化

につながるといった弱点があるこの問題の解決のために塩系薬剤への耐性の高い増

粘剤の開発が望まれている

塩系薬剤の高い美容効果からこの問題の解決に対する化粧剤企業のニーズは高くこ

の問題は長く研究が続けられていたが近年資生堂が逆相マイクロエマルション重

合法によって microスケールの粒状高分子を多数合成することによりできる増粘剤が高い

耐塩性を持ち使用感もよいことを発見したがこの粒状高分子増粘剤には未だ試み

られていないモノマーが多くある

そこで今年度の金曜班ではこの逆相マイクロエマルション重合法において未だ

試みられていない親水基を持つモノマーを利用して新規の増粘剤をつくることで粒

状高分子による増粘剤の耐塩性と肌触りと親水基の関係を調べ応用化に利すること

ができるのではないかと考え実験を行うこととした

2 背景

増粘剤とは水溶液をゲル化するために添加される物質であり化粧品において広く

用いられているこの増粘効果は従来では高分子鎖同士の分子間力や架橋で生じる

網目構造の結果生じる液中の摩擦力によるものである

動機で述べたように μスケールの粒状高分子が増粘剤として良質であることがわか

っているただし粒状高分子の形状は反応場であるセッケンミセルの大きさだけで

なく親水基やポリマーを構成する原子同士の分子間力によって変わる高分子の立体構

2

造にも影響されている

また粒状高分子の正確な一次構造を把握することは大変難しいことであるので

応用化のためには高分子の一次構造でなくモノマーによって粒状高分子特性の変化

を調べることが重要である

さらに従来用いられているポリマーがスルホ基とカルボキシル基を親水基とする

ものしか存在しない

以上の三点から酸以外の親水基をもつモノマーで増粘剤を合成したときその性

質はどうなるかを調べることでより製品として利用価値が高い粒状高分子増粘剤を合

成することができるのではないかと考えた

そこで新規モノマーとしては対照実験を行うためにアクリルアミド系モノマー

でかつ 2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸のスルホ基と同じ炭素骨格の先

端に親水基が存在するものとしてN-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド (3-アク

リルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライドを用いてそれぞれ親水基が酸

ではなくヒドロキシ基である場合親水基がアニオンではなくカチオンである場合に

ついて研究を行うこととした

この二種の以外にも水溶性のアクリルアミドポリマーは存在するが上記の条件を満

たさないまたは高価であるため本実験では用いないこととした

Fig1 N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド

Fig2 (3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライド

3

3 原理

31 一般的な液体の粘性

溶液の粘性は一般論では以下のように表される

Fig3のように XY平面を取り液面に平板を用意し引っ張った時挟まれた溶液内

には図のようなせん断流動が発生する高さ Yでのせん断速度は(119881

119889) 119910で与えられる

この時平板に挟まれた溶液を薄層の集まりと考えると隣り合う薄層間に摩擦が生

じるこの内部摩擦力が粘性力であるずり速度勾配が十分に小さければ平板の単位

面積当たりに生じる粘性力 Fv0はその勾配 Vd に比例するすなわち以下の式で表

され1205780を粘性係数と呼ぶこの値は溶媒固有である1)

1198651199070 = 1205780 (119881

119889)

Fig3 溶液ずりせん断図

32 増粘剤の粘性

増粘剤の多くは低分子の液体に高分子を溶かすと著しく粘性が高くなる性質を利

用している

この粘性の発生するメカニズムは下の Fig4において平板間の溶液を薄層に分けた

際高分子鎖は溶液の移動に伴って回転するこのとき溶液中の薄層は薄層間の摩

擦以外に高分子鎖との間にも摩擦が生じているこの摩擦の増加が粘性力の増加とな

る 2)

4

Fig4 高分子による粘性増加

また高分子鎖同士が分子間力によって結びつき三次元構造を形成することで内

部摩擦力は一層大きくなるこのため高分子による増粘効果は顕著である

架橋高分子では三次元構造が高分子鎖同士の分子間力による形成よりも強いものと

なるので増粘効果及びレオロジー特性に優れる 3)

33 塩系薬剤による粘性劣化のメカニズム

塩系薬剤とはビタミンC (アスコルビン酸塩)のようにクロロ基をもつ薬効物質のこ

とである

このクロロ基が直鎖高分子や架橋高分子がポリマー間で形成する三次元網目構造

を破壊することによって増粘効果を消失させ内容物の流失によるべたつきを生じさ

せる 3)

34 粒状高分子の粘性

粒状高分子の粘性について粒状高分子はその粒経が小さいほど体積に対する表面

積が増え溶液内での内部摩擦力が大きくなる

また粒子同士が摩擦力を元に網目構造を形成するため網目構造の構成要因が直

鎖高分子や架橋高分子の高分子増粘剤と異なっている 4)

35 逆相マイクロエマルション重合法

後述する転相温度乳化法を用いて形成した5 μm~30 μm 形成したマイクロエマル

ション内において水溶性のモノマーを利用して行う乳化重合法の一種容易に極小の

5

ポリマーを合成することができる 5)

36 界面活性剤の概略

界面活性剤とは分子の構造が水になじみやすい部分(親水基)と油になじみやすい

部分(新油基)からできていて2つの物質の間の界面に集まりやすい性質を持ちそ

の界面の性質を著しく変える物質というのが界面活性剤の定義である

代表的な界面活性剤の特徴は界面における「吸着」と「ミセル形成」である 6)

もうひとつの代表的な作用として「可溶化」もある

37 エマルションの形成

界面活性剤に有機溶媒が取り囲まれて水に可溶化されたとき水溶液中に存在する

有機溶媒を界面活性剤が取り囲んだ液滴のことを OW エマルションと呼ぶ

有機溶媒中に水が可溶化される場合WOエマルションと呼ぶ

38 ノニオン界面活性剤

非イオン界面活性剤とも言う界面活性剤の内解離基を持たず電気的に中性な

界面活性剤で親水基は主にポリオキシエチレン基であるその特殊な性質上他の種類

の界面活性剤に無い性質として曇点と転相温度を持つ 今回使用するノニオン界面

活性剤はポリオキシエチレンオレイルエーテルであり基本式は以下のような形にな

る 7)

R-O(CH2CH2O)n-H

Scheme 1 ポリオキシエチレンオレイルエーテルの基本式

39 曇点

曇点とは透明な液体が相分離を起こして白濁する温度のこと

本実験においてはノニオン界面活性剤が加温によって界面活性効果を失い相分離

によって白濁する温度のこと 8)

310 転相温度乳化

ノニオン界面活性剤は加温によって界面張力が変化しWO型エマルションから

OW 型に変化するこの変化点のことを転相温度と言い転相温度において界

6

面張力が最低になっているので溶液エマルションが極小になる

またこの転相温度は界面活性剤に固有の値となるので二種の比較的性質の

近い界面活性剤を混合することで転相温度を操作し適切な温度で5 μm~30 μm

程度の直径を持つエマルションを作成する方法を転相温度乳化法と呼ぶ 10)

311 ラジカル重合

開始剤を用いてラジカル種を生成して行う重合法のことをラジカル重合法と言う

開始剤の分解要因によって熱光放射線ラジカル重合の三つに分けられる 10)

3111 ラジカル重合を構成する四反応

ラジカル重合は 4種類の反応が同時並行的に起こるそれぞれ以下の通りである 11)

開始反応

開始剤が熱光放射光などの要因によってラジカル開裂を起こしラジカル種を

生じさせる反応

成長反応

ラジカル種がモノマーと反応することでモノマー新たなラジカル種が生成する

反応これが連続することでポリマーが合成される

停止反応

連鎖していた成長反応が止まる反応主にラジカル種同士の反応による

連鎖移動反応

ラジカル種がモノマー以外の分子主に溶媒分子等と反応することでポリマー以

外の物質を合成する副反応

3112 乳化重合

乳化重合はモノマー液滴と呼ばれるモノマーを大量に保存しているエマルシ

ョンと反応場となる極小のセッケンミセルの二つの構造を持つ溶液中で行う不均

一系ラジカル重合の一種である 12)

成長反応が一段階進むたびにモノマー液滴から拡散の理論式に従ってモノマ

ーがミセル内に移動するこの一連の反応を繰り返して反応が進む 13)

そのため種々のラジカル重合法と比較して以下の特長がある 13)

セッケンミセル内に存在するラジカルが常に一つであるため停止反応が

7

起こりにくく比較的重合度の高いポリマーが生成しやすい

反応速度が拡散作用によって律速されかつセッケンミセルの周囲を大量

の溶媒分子が囲んでいるため除熱が容易であるという理由から熱暴走を起

こしにくいという利点がある

ミセル内で重合するため合成した高分子が絡まりやすく粒状の分子が作

成できる

Fig5 乳化重合模式図

312 MS(質量分析法)

質量分析法とは分子の質量すなわち分子量を測る手段でもあるまた分子を分解

したフラグメントの質量を測ることによって分子構造に関する情報を得るものでも

ある

高エネルギー電子が有機分子にぶつかると分子から電子がはじき出せれカチオ

ンラジカルが発生する

119825119815 rarr 119825119815++119838minus Scheme 2カチオンラジカルの発生

電子の衝突により大量のエネルギーが分子に与えられることで大部分のカチオン

ラジカルを生成した後フラグメントに分解するフラグメントは小さな破片となっ

て浮遊し正電荷や中性となる

このカチオンラジカルとフラグメントについてmz値を横軸相対強度を縦軸につ

いて取ったグラフから質量スペクトルを読み取る 14)

またMS(質量分析法)はイオン化の方法などによりいくつかに分けられ今回使用

したいのは高分子試料でもほとんどフラグメンテーションを起こさないソフトなイ

8

オン化法であるMALDI法 15)である

3121 MALDI法(マトリックス支援レーザー脱離イオン化法)

試料を 25-ヒドロキシ安息香酸のような適切なマトリックス上に吸着させて

ペレットを作成しレーザー光を短時間照射してイオン化する

エネルギーがマトリックスから試料に移動し[119872 + 119867119899 ]119899+に分解される 15)

MALDI法にはよく TOF型の MSが用いられている

4 実験

41 2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を用いた既存化粧品用増粘剤の合成

411 使用器具試薬

温度計ウォーターバスビーカー薬さじデシケーター

ジメチルアクリルアミド

式量9913

沸点81

発火点71

LD50(経口)316mgkg

LD50(経皮)580mgkg

製造和光純薬工業株式会社

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸

式量20725

融点200

LD50(経口)5400mgkg

製造和光純薬工業株式会社

NN-メチレンビスアクリルアミド

式量156

沸点4451

発火点215

LD50(経口)390mgkg

製造東京化成工業株式会社

9

へプタン

式量1002

沸点98

引火点-4

水に不溶

製造昭和化学

2-プロパノール

式量60

沸点82

発火点12

LD50(経口)区分外(GHS分類)

LD50(経皮)区分外(GHS分類)

製造昭和化学

ペルオキソ二硫酸アンモニウム

式量22820

冷水に易溶保存湿気厳禁

重合開始罪乳化重合レドックス重合に用いられる

製造和光純薬工業株式会社

412 実験手順

① ビーカーにイオン交換水ヘプタンポリオキシエチレンオレイルエーテル(2)

(8)をそれぞれ507 mL 507 mL489 g((2)(8)=23)加えて良く撹拌したも

のを入れる

② その後その後温度調節機能つきスターラーに乗せ白濁するまで加熱する

白濁した液が透明化するまで温度を落とし電気伝導率計を用いて溶液が転

相温度付近に保たれていることを確認する

③ 以上の操作が済んだ重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先

ほどのスターラーと同じ温度にしたウォーターバスに移し2-アクリルアミド

-2-メチルプロパンスルホン酸NNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 137 g

262 g入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始

剤としてメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

10

④ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

42 N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミドを用いた新規化粧品用増粘剤の合成

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を誘導体と入れ替える以外の

操作は 41に準ずる

親水基による増粘性の変化を観察するため架橋剤のモノマーに対する濃度比

は 2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を使用したポリマーが最も増

粘効果の高くなると報告された濃度比を用いる

421 使用器具試薬

使用器具は 41に準ずる

試薬

N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド

式量11513

沸点130

発火点189

製造東京化成工業株式会社

422 実験手順

① 412 ①②と同じように重合系を作成する

② 以上の操作が済んだ重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先

ほどのスターラーと同じ温度にしたウォーターバスに移しN-(2-ヒドロキシエ

チル)アクリルアミドNNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 076 g262

g 入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始剤と

してメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

③ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

11

43 (3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライドを用いた新規化粧品用

増粘剤の合成

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を誘導体と入れ替える以外の操作は

41に準ずる

親水基による増粘性の変化を観察するため架橋剤のモノマーに対する濃度比は 2-ア

クリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を使用したポリマーが最も増粘効果の高く

なると報告された濃度比を用いる

431 実験器具

実験器具は 41に準ずる

試薬

(3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライド

式量22074

沸点100

製造東京化成工業株式会社

432 実験手順

① 412 ①②と同じように重合系を作成する

② 重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先ほどのスターラーと

同じ温度にしたウォーターバスに移し (3-アクリルアミドプロピル)トリメチ

ルアミニウムクロライドNNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 123 mL

262 g入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始

剤としてメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

③ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

5 評価分析

耐塩性の高い増粘剤の耐塩性と使用感と親水基との関係を評価するために以下の二

つの測定を行い評価する

増粘剤の耐塩性の評価のために塩酸を増粘剤内部に取り込ませた状態で経時

12

による粘度の変化を観察する

また高分子の粘性を考える上で直鎖高分子の場合よく参考にされるのが平

均分子量でありこの値を測定することで親水基が変化した場合に平均分子

量が粒状高分子の粘性にも大きく影響するか確認する

精密に上の測定を行うには専用の機器が必要になるため機器メーカーの株式

会社エーアンドデイ様または東京理科大学理学部応用化学科駒場研究室に

また高分子の性質を考える上で重要視される平均分子量及び分子量分布に

ついては東京理科大学化学系機器センターにあるMALDI-TOF型質量分析計を管

理者の東京理科大学理学部応用化学科の根岸先生に測定に協力していただこうと

考えている

6 謝辞

東京理科大学工学部工業化学科 近藤行成教授

東京理科大学理学部化学科 遠藤恆平准教授

東京理科大学理学部応用化学科 駒場慎一教授

この研究を進めるに当たり大変お世話になった先輩先生方企業の皆さんに感謝の

意を表明します

参考文献

1) 小澤美奈子 基礎高分子科学 高分子学会 編 2010年 第六版 p979899

2) 小澤美奈子 基礎高分子科学 高分子学会 編 2010年 第六版 p99100

3) 金田 勇 逆相マイクロエマルション重合法による水膨潤性ミクロゲルの重合とその増

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4) 小林敏勝 福井寛 きちん知りたい粒子表面と分散技術 日刊工業新聞社 p76

5) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 2006 p839 840 841

6) 皆川基 藤井富美子 洗剤洗浄 百科事典 大矢勝 2007年版 p4647

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10) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 テクノシステム 2006 p397

13

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11) 遠藤 剛 高分子の合成(上)~ラジカルカチオンアニオン重合~ 講談社 2010 3p

12) 佐藤壽彌編 高分子微粒子の技術と応用 シーエムシー出版 2004 p2526

13) 佐藤壽彌編 高分子微粒子の技術と応用 シーエムシー出版 2004 p27

14) マクマリー 上 8版 東京化学同人 p403404

15) John McMurry マクマリー有機化学(上) 第 8版 2013 p410411

Page 33: ゼオライトとキトサンを用いた 金属イオン除去剤の …kaken/studies/2015/2015-s-all.pdf1 東京理科大学I 部化学研究部 2015 年度春輪講書 ゼオライトとキトサンを用いた

5

322 開始反応

UVを当て光開裂により生じたラジカルがビニル基の二重結合を攻撃し光重合開始剤

と炭素の間に σ結合を作り炭素原子にラジカルが存在することになる

Scheme2 ラジカルの生成

323 成長反応

Scheme2で生成したラジカルが他のモノマーを攻撃しσ結合を生じるそれが何回

も起こることにより分子鎖が成長する 6)

Scheme3 分子鎖の成長

324 停止反応

Scheme 3で成長した成長ラジカル同士が σ結合を作り分子鎖が生成する 7)

Scheme4 分子鎖の生成

4実験

41 DNゲルの合成

411 使用器具試薬

ビーカー乳鉢乳棒薬さじUVライトデシケーター

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸

分子式 C7H13NO4S

式量20724

融点160

用途1st networkゲルのモノマー

6

アクリル酸

分子式C3H4O2

式量7206

融点123

沸点1416

比重10511

危険性引火性(発火温度 360 )

用途1st networkゲルのモノマー

アクリロニトリルの加水分解アクロレインの酸化ニッケルカルボニルの存在下ア

セチレンと一酸化炭素と水との反応などにより合成される酢酸に似た刺激臭を持つ液

体水エタノールエーテルによく溶ける酸素の存在下容易に重合するプラス

チックの原料として用いられる

アクリルアミド

分子式C3H5NO

式量7108

融点845

沸点103

比重1122

用途2nd networkゲルのモノマー

アクリルニトリルを硫酸あるいは塩酸を処理して得られるフレーク状の結晶溶解

性(g100 ml溶媒30 )水 2155メタノール 155エタノール 862アセトン 631

酢酸エチル 126クロロホルム 266ベンゼン 0346ヘプタン 00068化学的に不安

定で冷暗所に保存する必要がある融点付近あるいは紫外線下で重合する重合の仕方

により水溶性不溶性のものが得られる

酢酸ビニル

分子式C4H6O2

式量8609

融点-932

沸点723

比重09317

用途2nd networkゲルのモノマー

無色の液体酸やアルカリよって容易に加水分解されてアセトアルデヒドと酢酸を生

じる熱光ラジカル開始剤によって重合する

7

メタクリル酸メチル

分子式C5H8O2

式量10012

融点-48

沸点1003

比重0936

用途2nd networkゲルのモノマー

無色透明で催涙性の芳香のある液体工業的にはアセトンシアノヒドリンにメタノー

ルと硫酸を作用させて合成する実験室的にはメテクリル酸メチルの重合物を 320

以上で乾留すると得られる一般に有機溶媒には溶けるがエチレングリコールグリセ

リンには溶けにくい重合しやすいので重合禁止剤としてヒドロキノンモノメチルエ

ーテル(65 ppm)を添加して保存する有機ガラスの製造ビニル系共重合体など広く

重合反応に用いられるまたメチル以外のアルコールのメタクリル酸エステルの合成

にも用いられる

NN-メチレンビスアクリルアミド

分子式C7H10N2O2

式量15417

融点300

用途架橋剤

1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン

分子式C13H16O2

式量20427

融点47-50

用途光重合開始剤

最大吸収波長は 260 nm付近にある

エチレングリコール

式量6207

融点 -126

沸点1976

比重11132

8

用途ゲル溶媒

重要な二価アルコールでエチレンオキシドの酸触媒による開環高温高圧下水と

の反応による開環などによって合成される吸湿性無色無臭の液体甘味を有する

が有毒である高沸点を有ししかも水酸化カリウム水酸化ナトリウムを溶解し水や

エタノールと任意の割合で混合するので有機合成における溶媒として広く用いられ

また塩基に対して安定なエチレンケタールの生成によるカルボニル基の保護に用いら

れるさらに酢酸ビニル系樹脂の溶剤や水と混ざり高沸点のため不凍液に用いら

れるなど広い用途を持っている

412 1st networkゲルの作成

1) 1st networkゲルのモノマー(電解質モノマー)架橋剤(NN-メチレンビスアクリルア

ミド)と光重合開始剤(1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)を水に溶解させた水

溶液を調製する

2) UVを 8時間照射して光ラジカル重合をさせる

3) 2)で合成した電解質ゲルを乳鉢に入れ適当なサイズに砕いた後デシケーター内で一

週間ほど乾燥させる

413水溶媒 DNゲルの作成

1) 2nd networkゲルのモノマー(中性モノマー)架橋剤(NN-メチレンビスアクリルアミ

ド)光重合開始剤(1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)をエチレングリコールに

溶解させた溶液を調製する

2) 乾燥した電解質ゲルを 1)で調製した水溶液に入れ電解質ゲルを十分に膨らませるそ

の後UVを照射し中性モノマーを光ラジカル重合させる

414エチレングリコール DNゲルの作成

1) 2nd networkゲルのモノマー(中性モノマー)架橋剤(NN-メチレンビスアクリルアミ

ド)光重合開始剤(1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)をエチレングリコールに

溶解させた溶液を調製する

2) 乾燥した電解質ゲルを 1)で調製したエチレングリコール溶液に入れ電解質ゲルを十分

に膨らませるその後UVを照射し中性モノマーを光ラジカル重合させる

42 DNゲルの評価

421引っ張り試験

使用するモノマーの変化によるゲルの性質の差を評価する引っ張り試験は

JIS-K-6251-7号に準拠する方法で測定する

9

1)DNゲルを X方向の長さ 50 mmY方向の長さ 75 mmZ方向の長さが 25 mmの大

きさに成形する

2)その一端部に X-Y平面に平行な切込みを入れて2つの引張端部を形成する

3) 引張端部を片方は固定しもう片方を一定の速度で引っ張るこのときの引っ張る力 F

を測定する

Fig 2 引っ張り試験 13)

422 摩擦試験

使用するモノマーの変化溶媒の変化によるゲルの性質の差を評価する

摩擦試験は東京理科大学工学部第一部機械工学科佐々木研究室に依頼する予定である

用いる機械は SVR4パーカー熱処理工業株式会社製であり180での高温での摩擦係

数の測定が可能である

摩擦測定は常温(20 )と高温(100 )で測定することを予定している

10

5 展望

51 DNゲルの合成

実験操作は溶液を調製した後UV照射するという簡易な手順なので合成は比較的早い

段階で成功すると考えられる

1st networkゲル合成に使うのは電解質モノマーなため水溶液のモノマーの濃度が低

いと湿潤度 Q が大きくなりせん断弾性率が下がり剛性が弱いゲルが出来上がると考え

られる

架橋剤を多く使用すると架橋密度を上がるので 2nd networkゲルが入り込む空洞が小

さくなるそのために架橋剤が多すぎると高弾性のゲルが生成できると考えられる

また同様な考えで2nd networkモノマーが含まれている水溶液に乾燥させた1st network

ゲルを入れる量が多くても高弾性のゲルが生成できると考えられる

52 DNゲルの物性

ゲルの高分子網目は基板から離れようとするときにゲルと基板の間に僅かな溶媒層

が生じるこの状態では溶媒層が潤滑油のような働きをして生じる摩擦力は小さなも

のとなるゲル周辺が高温な状態ではこの溶媒層が水の場合は蒸発してしまうので摩

擦力は増大すると考えられる溶媒を水からより沸点の高いエチレングリコールなどに

変えれば摩擦力は増大することはないと推測される 14)

11

参考文献

1) J Bastide and L LeiblerMacromolecules1988212647

2) G G J Lake and A G ThomasProc R Soc LondonA1967300108

3)越後亮三 機械工学辞典 朝倉書店 2007 p631

4) 伊藤勝悦 やさしく学べる材料力学 森北出版 2014 p14

5)SPObukhovMRubinstein and RHColby Macromolecules 1994273191-3198

6)MRubinsteinRHColbyAVDobrynin and JJaonnyElasticMacromolecules199629398-406

7) 大 阪 府 立 大 学 基 礎 講 座 材 料 の 強 度 と 破 壊

httpwwwengmmtrosakafu-uacjpresearchstrength-japdf2015413取得

8)聾剣萍「生命科学時代の新材料-高弾性高靱性ダブルネットワークゲル」高分子学会

『高分子』高分子科学最近の進歩58巻 5号2009p327-p331

9)YTanakaEurophysLett20077856005

10)蓮池幹治ラジカル重合ハンドブックエヌティーエス2010p444-p445

11)大津隆行ラジカル重合(Ⅰ)化学同人1971p80-p81

12)大津隆行ラジカル重合(Ⅰ)化学同人1971p153-p154

13)聾剣萍高分子ゲルおよびその製造方法特開 2009-185156 2008-02-05

14) 角五 彰龔 剣萍長田義仁「ゲルの摩擦と水和潤滑~生物の滑らかな運動解明への

アプローチ」日本生物物理学会『生物物理』47巻 4号2007p 253-p258

1

東京理科大学Ⅰ部化学研究部 2015年度春輪講書

耐塩性の高い新規化粧品用増粘剤の開発 2015年度金曜班

Nomata N(2OK)Seki M(2OK)Tin J(2OK)Takahashi R(2C)Watanabe A(2K)

Asai D(2K) Nishimiti D(2K)Yamamoto R(2K)

1 動機

化粧品において増粘剤の果たす役割は非常に大きい

化粧品にはクリーム状のモノが多くありその整形には増粘剤が必要不可欠である

また増粘剤は製剤だけでなく密閉効果や水和効果によって薬剤を皮膚に効率的に輸

送することに役立っている

この増粘剤であるが一つ課題がありアスコルビン酸塩(ビタミン C)のようなクロロ

基を持つ塩系薬剤をゲル中に含む場合経時によってべたつきといった使用感の悪化

につながるといった弱点があるこの問題の解決のために塩系薬剤への耐性の高い増

粘剤の開発が望まれている

塩系薬剤の高い美容効果からこの問題の解決に対する化粧剤企業のニーズは高くこ

の問題は長く研究が続けられていたが近年資生堂が逆相マイクロエマルション重

合法によって microスケールの粒状高分子を多数合成することによりできる増粘剤が高い

耐塩性を持ち使用感もよいことを発見したがこの粒状高分子増粘剤には未だ試み

られていないモノマーが多くある

そこで今年度の金曜班ではこの逆相マイクロエマルション重合法において未だ

試みられていない親水基を持つモノマーを利用して新規の増粘剤をつくることで粒

状高分子による増粘剤の耐塩性と肌触りと親水基の関係を調べ応用化に利すること

ができるのではないかと考え実験を行うこととした

2 背景

増粘剤とは水溶液をゲル化するために添加される物質であり化粧品において広く

用いられているこの増粘効果は従来では高分子鎖同士の分子間力や架橋で生じる

網目構造の結果生じる液中の摩擦力によるものである

動機で述べたように μスケールの粒状高分子が増粘剤として良質であることがわか

っているただし粒状高分子の形状は反応場であるセッケンミセルの大きさだけで

なく親水基やポリマーを構成する原子同士の分子間力によって変わる高分子の立体構

2

造にも影響されている

また粒状高分子の正確な一次構造を把握することは大変難しいことであるので

応用化のためには高分子の一次構造でなくモノマーによって粒状高分子特性の変化

を調べることが重要である

さらに従来用いられているポリマーがスルホ基とカルボキシル基を親水基とする

ものしか存在しない

以上の三点から酸以外の親水基をもつモノマーで増粘剤を合成したときその性

質はどうなるかを調べることでより製品として利用価値が高い粒状高分子増粘剤を合

成することができるのではないかと考えた

そこで新規モノマーとしては対照実験を行うためにアクリルアミド系モノマー

でかつ 2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸のスルホ基と同じ炭素骨格の先

端に親水基が存在するものとしてN-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド (3-アク

リルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライドを用いてそれぞれ親水基が酸

ではなくヒドロキシ基である場合親水基がアニオンではなくカチオンである場合に

ついて研究を行うこととした

この二種の以外にも水溶性のアクリルアミドポリマーは存在するが上記の条件を満

たさないまたは高価であるため本実験では用いないこととした

Fig1 N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド

Fig2 (3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライド

3

3 原理

31 一般的な液体の粘性

溶液の粘性は一般論では以下のように表される

Fig3のように XY平面を取り液面に平板を用意し引っ張った時挟まれた溶液内

には図のようなせん断流動が発生する高さ Yでのせん断速度は(119881

119889) 119910で与えられる

この時平板に挟まれた溶液を薄層の集まりと考えると隣り合う薄層間に摩擦が生

じるこの内部摩擦力が粘性力であるずり速度勾配が十分に小さければ平板の単位

面積当たりに生じる粘性力 Fv0はその勾配 Vd に比例するすなわち以下の式で表

され1205780を粘性係数と呼ぶこの値は溶媒固有である1)

1198651199070 = 1205780 (119881

119889)

Fig3 溶液ずりせん断図

32 増粘剤の粘性

増粘剤の多くは低分子の液体に高分子を溶かすと著しく粘性が高くなる性質を利

用している

この粘性の発生するメカニズムは下の Fig4において平板間の溶液を薄層に分けた

際高分子鎖は溶液の移動に伴って回転するこのとき溶液中の薄層は薄層間の摩

擦以外に高分子鎖との間にも摩擦が生じているこの摩擦の増加が粘性力の増加とな

る 2)

4

Fig4 高分子による粘性増加

また高分子鎖同士が分子間力によって結びつき三次元構造を形成することで内

部摩擦力は一層大きくなるこのため高分子による増粘効果は顕著である

架橋高分子では三次元構造が高分子鎖同士の分子間力による形成よりも強いものと

なるので増粘効果及びレオロジー特性に優れる 3)

33 塩系薬剤による粘性劣化のメカニズム

塩系薬剤とはビタミンC (アスコルビン酸塩)のようにクロロ基をもつ薬効物質のこ

とである

このクロロ基が直鎖高分子や架橋高分子がポリマー間で形成する三次元網目構造

を破壊することによって増粘効果を消失させ内容物の流失によるべたつきを生じさ

せる 3)

34 粒状高分子の粘性

粒状高分子の粘性について粒状高分子はその粒経が小さいほど体積に対する表面

積が増え溶液内での内部摩擦力が大きくなる

また粒子同士が摩擦力を元に網目構造を形成するため網目構造の構成要因が直

鎖高分子や架橋高分子の高分子増粘剤と異なっている 4)

35 逆相マイクロエマルション重合法

後述する転相温度乳化法を用いて形成した5 μm~30 μm 形成したマイクロエマル

ション内において水溶性のモノマーを利用して行う乳化重合法の一種容易に極小の

5

ポリマーを合成することができる 5)

36 界面活性剤の概略

界面活性剤とは分子の構造が水になじみやすい部分(親水基)と油になじみやすい

部分(新油基)からできていて2つの物質の間の界面に集まりやすい性質を持ちそ

の界面の性質を著しく変える物質というのが界面活性剤の定義である

代表的な界面活性剤の特徴は界面における「吸着」と「ミセル形成」である 6)

もうひとつの代表的な作用として「可溶化」もある

37 エマルションの形成

界面活性剤に有機溶媒が取り囲まれて水に可溶化されたとき水溶液中に存在する

有機溶媒を界面活性剤が取り囲んだ液滴のことを OW エマルションと呼ぶ

有機溶媒中に水が可溶化される場合WOエマルションと呼ぶ

38 ノニオン界面活性剤

非イオン界面活性剤とも言う界面活性剤の内解離基を持たず電気的に中性な

界面活性剤で親水基は主にポリオキシエチレン基であるその特殊な性質上他の種類

の界面活性剤に無い性質として曇点と転相温度を持つ 今回使用するノニオン界面

活性剤はポリオキシエチレンオレイルエーテルであり基本式は以下のような形にな

る 7)

R-O(CH2CH2O)n-H

Scheme 1 ポリオキシエチレンオレイルエーテルの基本式

39 曇点

曇点とは透明な液体が相分離を起こして白濁する温度のこと

本実験においてはノニオン界面活性剤が加温によって界面活性効果を失い相分離

によって白濁する温度のこと 8)

310 転相温度乳化

ノニオン界面活性剤は加温によって界面張力が変化しWO型エマルションから

OW 型に変化するこの変化点のことを転相温度と言い転相温度において界

6

面張力が最低になっているので溶液エマルションが極小になる

またこの転相温度は界面活性剤に固有の値となるので二種の比較的性質の

近い界面活性剤を混合することで転相温度を操作し適切な温度で5 μm~30 μm

程度の直径を持つエマルションを作成する方法を転相温度乳化法と呼ぶ 10)

311 ラジカル重合

開始剤を用いてラジカル種を生成して行う重合法のことをラジカル重合法と言う

開始剤の分解要因によって熱光放射線ラジカル重合の三つに分けられる 10)

3111 ラジカル重合を構成する四反応

ラジカル重合は 4種類の反応が同時並行的に起こるそれぞれ以下の通りである 11)

開始反応

開始剤が熱光放射光などの要因によってラジカル開裂を起こしラジカル種を

生じさせる反応

成長反応

ラジカル種がモノマーと反応することでモノマー新たなラジカル種が生成する

反応これが連続することでポリマーが合成される

停止反応

連鎖していた成長反応が止まる反応主にラジカル種同士の反応による

連鎖移動反応

ラジカル種がモノマー以外の分子主に溶媒分子等と反応することでポリマー以

外の物質を合成する副反応

3112 乳化重合

乳化重合はモノマー液滴と呼ばれるモノマーを大量に保存しているエマルシ

ョンと反応場となる極小のセッケンミセルの二つの構造を持つ溶液中で行う不均

一系ラジカル重合の一種である 12)

成長反応が一段階進むたびにモノマー液滴から拡散の理論式に従ってモノマ

ーがミセル内に移動するこの一連の反応を繰り返して反応が進む 13)

そのため種々のラジカル重合法と比較して以下の特長がある 13)

セッケンミセル内に存在するラジカルが常に一つであるため停止反応が

7

起こりにくく比較的重合度の高いポリマーが生成しやすい

反応速度が拡散作用によって律速されかつセッケンミセルの周囲を大量

の溶媒分子が囲んでいるため除熱が容易であるという理由から熱暴走を起

こしにくいという利点がある

ミセル内で重合するため合成した高分子が絡まりやすく粒状の分子が作

成できる

Fig5 乳化重合模式図

312 MS(質量分析法)

質量分析法とは分子の質量すなわち分子量を測る手段でもあるまた分子を分解

したフラグメントの質量を測ることによって分子構造に関する情報を得るものでも

ある

高エネルギー電子が有機分子にぶつかると分子から電子がはじき出せれカチオ

ンラジカルが発生する

119825119815 rarr 119825119815++119838minus Scheme 2カチオンラジカルの発生

電子の衝突により大量のエネルギーが分子に与えられることで大部分のカチオン

ラジカルを生成した後フラグメントに分解するフラグメントは小さな破片となっ

て浮遊し正電荷や中性となる

このカチオンラジカルとフラグメントについてmz値を横軸相対強度を縦軸につ

いて取ったグラフから質量スペクトルを読み取る 14)

またMS(質量分析法)はイオン化の方法などによりいくつかに分けられ今回使用

したいのは高分子試料でもほとんどフラグメンテーションを起こさないソフトなイ

8

オン化法であるMALDI法 15)である

3121 MALDI法(マトリックス支援レーザー脱離イオン化法)

試料を 25-ヒドロキシ安息香酸のような適切なマトリックス上に吸着させて

ペレットを作成しレーザー光を短時間照射してイオン化する

エネルギーがマトリックスから試料に移動し[119872 + 119867119899 ]119899+に分解される 15)

MALDI法にはよく TOF型の MSが用いられている

4 実験

41 2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を用いた既存化粧品用増粘剤の合成

411 使用器具試薬

温度計ウォーターバスビーカー薬さじデシケーター

ジメチルアクリルアミド

式量9913

沸点81

発火点71

LD50(経口)316mgkg

LD50(経皮)580mgkg

製造和光純薬工業株式会社

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸

式量20725

融点200

LD50(経口)5400mgkg

製造和光純薬工業株式会社

NN-メチレンビスアクリルアミド

式量156

沸点4451

発火点215

LD50(経口)390mgkg

製造東京化成工業株式会社

9

へプタン

式量1002

沸点98

引火点-4

水に不溶

製造昭和化学

2-プロパノール

式量60

沸点82

発火点12

LD50(経口)区分外(GHS分類)

LD50(経皮)区分外(GHS分類)

製造昭和化学

ペルオキソ二硫酸アンモニウム

式量22820

冷水に易溶保存湿気厳禁

重合開始罪乳化重合レドックス重合に用いられる

製造和光純薬工業株式会社

412 実験手順

① ビーカーにイオン交換水ヘプタンポリオキシエチレンオレイルエーテル(2)

(8)をそれぞれ507 mL 507 mL489 g((2)(8)=23)加えて良く撹拌したも

のを入れる

② その後その後温度調節機能つきスターラーに乗せ白濁するまで加熱する

白濁した液が透明化するまで温度を落とし電気伝導率計を用いて溶液が転

相温度付近に保たれていることを確認する

③ 以上の操作が済んだ重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先

ほどのスターラーと同じ温度にしたウォーターバスに移し2-アクリルアミド

-2-メチルプロパンスルホン酸NNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 137 g

262 g入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始

剤としてメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

10

④ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

42 N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミドを用いた新規化粧品用増粘剤の合成

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を誘導体と入れ替える以外の

操作は 41に準ずる

親水基による増粘性の変化を観察するため架橋剤のモノマーに対する濃度比

は 2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を使用したポリマーが最も増

粘効果の高くなると報告された濃度比を用いる

421 使用器具試薬

使用器具は 41に準ずる

試薬

N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド

式量11513

沸点130

発火点189

製造東京化成工業株式会社

422 実験手順

① 412 ①②と同じように重合系を作成する

② 以上の操作が済んだ重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先

ほどのスターラーと同じ温度にしたウォーターバスに移しN-(2-ヒドロキシエ

チル)アクリルアミドNNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 076 g262

g 入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始剤と

してメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

③ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

11

43 (3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライドを用いた新規化粧品用

増粘剤の合成

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を誘導体と入れ替える以外の操作は

41に準ずる

親水基による増粘性の変化を観察するため架橋剤のモノマーに対する濃度比は 2-ア

クリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を使用したポリマーが最も増粘効果の高く

なると報告された濃度比を用いる

431 実験器具

実験器具は 41に準ずる

試薬

(3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライド

式量22074

沸点100

製造東京化成工業株式会社

432 実験手順

① 412 ①②と同じように重合系を作成する

② 重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先ほどのスターラーと

同じ温度にしたウォーターバスに移し (3-アクリルアミドプロピル)トリメチ

ルアミニウムクロライドNNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 123 mL

262 g入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始

剤としてメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

③ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

5 評価分析

耐塩性の高い増粘剤の耐塩性と使用感と親水基との関係を評価するために以下の二

つの測定を行い評価する

増粘剤の耐塩性の評価のために塩酸を増粘剤内部に取り込ませた状態で経時

12

による粘度の変化を観察する

また高分子の粘性を考える上で直鎖高分子の場合よく参考にされるのが平

均分子量でありこの値を測定することで親水基が変化した場合に平均分子

量が粒状高分子の粘性にも大きく影響するか確認する

精密に上の測定を行うには専用の機器が必要になるため機器メーカーの株式

会社エーアンドデイ様または東京理科大学理学部応用化学科駒場研究室に

また高分子の性質を考える上で重要視される平均分子量及び分子量分布に

ついては東京理科大学化学系機器センターにあるMALDI-TOF型質量分析計を管

理者の東京理科大学理学部応用化学科の根岸先生に測定に協力していただこうと

考えている

6 謝辞

東京理科大学工学部工業化学科 近藤行成教授

東京理科大学理学部化学科 遠藤恆平准教授

東京理科大学理学部応用化学科 駒場慎一教授

この研究を進めるに当たり大変お世話になった先輩先生方企業の皆さんに感謝の

意を表明します

参考文献

1) 小澤美奈子 基礎高分子科学 高分子学会 編 2010年 第六版 p979899

2) 小澤美奈子 基礎高分子科学 高分子学会 編 2010年 第六版 p99100

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13

398399

11) 遠藤 剛 高分子の合成(上)~ラジカルカチオンアニオン重合~ 講談社 2010 3p

12) 佐藤壽彌編 高分子微粒子の技術と応用 シーエムシー出版 2004 p2526

13) 佐藤壽彌編 高分子微粒子の技術と応用 シーエムシー出版 2004 p27

14) マクマリー 上 8版 東京化学同人 p403404

15) John McMurry マクマリー有機化学(上) 第 8版 2013 p410411

Page 34: ゼオライトとキトサンを用いた 金属イオン除去剤の …kaken/studies/2015/2015-s-all.pdf1 東京理科大学I 部化学研究部 2015 年度春輪講書 ゼオライトとキトサンを用いた

6

アクリル酸

分子式C3H4O2

式量7206

融点123

沸点1416

比重10511

危険性引火性(発火温度 360 )

用途1st networkゲルのモノマー

アクリロニトリルの加水分解アクロレインの酸化ニッケルカルボニルの存在下ア

セチレンと一酸化炭素と水との反応などにより合成される酢酸に似た刺激臭を持つ液

体水エタノールエーテルによく溶ける酸素の存在下容易に重合するプラス

チックの原料として用いられる

アクリルアミド

分子式C3H5NO

式量7108

融点845

沸点103

比重1122

用途2nd networkゲルのモノマー

アクリルニトリルを硫酸あるいは塩酸を処理して得られるフレーク状の結晶溶解

性(g100 ml溶媒30 )水 2155メタノール 155エタノール 862アセトン 631

酢酸エチル 126クロロホルム 266ベンゼン 0346ヘプタン 00068化学的に不安

定で冷暗所に保存する必要がある融点付近あるいは紫外線下で重合する重合の仕方

により水溶性不溶性のものが得られる

酢酸ビニル

分子式C4H6O2

式量8609

融点-932

沸点723

比重09317

用途2nd networkゲルのモノマー

無色の液体酸やアルカリよって容易に加水分解されてアセトアルデヒドと酢酸を生

じる熱光ラジカル開始剤によって重合する

7

メタクリル酸メチル

分子式C5H8O2

式量10012

融点-48

沸点1003

比重0936

用途2nd networkゲルのモノマー

無色透明で催涙性の芳香のある液体工業的にはアセトンシアノヒドリンにメタノー

ルと硫酸を作用させて合成する実験室的にはメテクリル酸メチルの重合物を 320

以上で乾留すると得られる一般に有機溶媒には溶けるがエチレングリコールグリセ

リンには溶けにくい重合しやすいので重合禁止剤としてヒドロキノンモノメチルエ

ーテル(65 ppm)を添加して保存する有機ガラスの製造ビニル系共重合体など広く

重合反応に用いられるまたメチル以外のアルコールのメタクリル酸エステルの合成

にも用いられる

NN-メチレンビスアクリルアミド

分子式C7H10N2O2

式量15417

融点300

用途架橋剤

1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン

分子式C13H16O2

式量20427

融点47-50

用途光重合開始剤

最大吸収波長は 260 nm付近にある

エチレングリコール

式量6207

融点 -126

沸点1976

比重11132

8

用途ゲル溶媒

重要な二価アルコールでエチレンオキシドの酸触媒による開環高温高圧下水と

の反応による開環などによって合成される吸湿性無色無臭の液体甘味を有する

が有毒である高沸点を有ししかも水酸化カリウム水酸化ナトリウムを溶解し水や

エタノールと任意の割合で混合するので有機合成における溶媒として広く用いられ

また塩基に対して安定なエチレンケタールの生成によるカルボニル基の保護に用いら

れるさらに酢酸ビニル系樹脂の溶剤や水と混ざり高沸点のため不凍液に用いら

れるなど広い用途を持っている

412 1st networkゲルの作成

1) 1st networkゲルのモノマー(電解質モノマー)架橋剤(NN-メチレンビスアクリルア

ミド)と光重合開始剤(1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)を水に溶解させた水

溶液を調製する

2) UVを 8時間照射して光ラジカル重合をさせる

3) 2)で合成した電解質ゲルを乳鉢に入れ適当なサイズに砕いた後デシケーター内で一

週間ほど乾燥させる

413水溶媒 DNゲルの作成

1) 2nd networkゲルのモノマー(中性モノマー)架橋剤(NN-メチレンビスアクリルアミ

ド)光重合開始剤(1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)をエチレングリコールに

溶解させた溶液を調製する

2) 乾燥した電解質ゲルを 1)で調製した水溶液に入れ電解質ゲルを十分に膨らませるそ

の後UVを照射し中性モノマーを光ラジカル重合させる

414エチレングリコール DNゲルの作成

1) 2nd networkゲルのモノマー(中性モノマー)架橋剤(NN-メチレンビスアクリルアミ

ド)光重合開始剤(1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)をエチレングリコールに

溶解させた溶液を調製する

2) 乾燥した電解質ゲルを 1)で調製したエチレングリコール溶液に入れ電解質ゲルを十分

に膨らませるその後UVを照射し中性モノマーを光ラジカル重合させる

42 DNゲルの評価

421引っ張り試験

使用するモノマーの変化によるゲルの性質の差を評価する引っ張り試験は

JIS-K-6251-7号に準拠する方法で測定する

9

1)DNゲルを X方向の長さ 50 mmY方向の長さ 75 mmZ方向の長さが 25 mmの大

きさに成形する

2)その一端部に X-Y平面に平行な切込みを入れて2つの引張端部を形成する

3) 引張端部を片方は固定しもう片方を一定の速度で引っ張るこのときの引っ張る力 F

を測定する

Fig 2 引っ張り試験 13)

422 摩擦試験

使用するモノマーの変化溶媒の変化によるゲルの性質の差を評価する

摩擦試験は東京理科大学工学部第一部機械工学科佐々木研究室に依頼する予定である

用いる機械は SVR4パーカー熱処理工業株式会社製であり180での高温での摩擦係

数の測定が可能である

摩擦測定は常温(20 )と高温(100 )で測定することを予定している

10

5 展望

51 DNゲルの合成

実験操作は溶液を調製した後UV照射するという簡易な手順なので合成は比較的早い

段階で成功すると考えられる

1st networkゲル合成に使うのは電解質モノマーなため水溶液のモノマーの濃度が低

いと湿潤度 Q が大きくなりせん断弾性率が下がり剛性が弱いゲルが出来上がると考え

られる

架橋剤を多く使用すると架橋密度を上がるので 2nd networkゲルが入り込む空洞が小

さくなるそのために架橋剤が多すぎると高弾性のゲルが生成できると考えられる

また同様な考えで2nd networkモノマーが含まれている水溶液に乾燥させた1st network

ゲルを入れる量が多くても高弾性のゲルが生成できると考えられる

52 DNゲルの物性

ゲルの高分子網目は基板から離れようとするときにゲルと基板の間に僅かな溶媒層

が生じるこの状態では溶媒層が潤滑油のような働きをして生じる摩擦力は小さなも

のとなるゲル周辺が高温な状態ではこの溶媒層が水の場合は蒸発してしまうので摩

擦力は増大すると考えられる溶媒を水からより沸点の高いエチレングリコールなどに

変えれば摩擦力は増大することはないと推測される 14)

11

参考文献

1) J Bastide and L LeiblerMacromolecules1988212647

2) G G J Lake and A G ThomasProc R Soc LondonA1967300108

3)越後亮三 機械工学辞典 朝倉書店 2007 p631

4) 伊藤勝悦 やさしく学べる材料力学 森北出版 2014 p14

5)SPObukhovMRubinstein and RHColby Macromolecules 1994273191-3198

6)MRubinsteinRHColbyAVDobrynin and JJaonnyElasticMacromolecules199629398-406

7) 大 阪 府 立 大 学 基 礎 講 座 材 料 の 強 度 と 破 壊

httpwwwengmmtrosakafu-uacjpresearchstrength-japdf2015413取得

8)聾剣萍「生命科学時代の新材料-高弾性高靱性ダブルネットワークゲル」高分子学会

『高分子』高分子科学最近の進歩58巻 5号2009p327-p331

9)YTanakaEurophysLett20077856005

10)蓮池幹治ラジカル重合ハンドブックエヌティーエス2010p444-p445

11)大津隆行ラジカル重合(Ⅰ)化学同人1971p80-p81

12)大津隆行ラジカル重合(Ⅰ)化学同人1971p153-p154

13)聾剣萍高分子ゲルおよびその製造方法特開 2009-185156 2008-02-05

14) 角五 彰龔 剣萍長田義仁「ゲルの摩擦と水和潤滑~生物の滑らかな運動解明への

アプローチ」日本生物物理学会『生物物理』47巻 4号2007p 253-p258

1

東京理科大学Ⅰ部化学研究部 2015年度春輪講書

耐塩性の高い新規化粧品用増粘剤の開発 2015年度金曜班

Nomata N(2OK)Seki M(2OK)Tin J(2OK)Takahashi R(2C)Watanabe A(2K)

Asai D(2K) Nishimiti D(2K)Yamamoto R(2K)

1 動機

化粧品において増粘剤の果たす役割は非常に大きい

化粧品にはクリーム状のモノが多くありその整形には増粘剤が必要不可欠である

また増粘剤は製剤だけでなく密閉効果や水和効果によって薬剤を皮膚に効率的に輸

送することに役立っている

この増粘剤であるが一つ課題がありアスコルビン酸塩(ビタミン C)のようなクロロ

基を持つ塩系薬剤をゲル中に含む場合経時によってべたつきといった使用感の悪化

につながるといった弱点があるこの問題の解決のために塩系薬剤への耐性の高い増

粘剤の開発が望まれている

塩系薬剤の高い美容効果からこの問題の解決に対する化粧剤企業のニーズは高くこ

の問題は長く研究が続けられていたが近年資生堂が逆相マイクロエマルション重

合法によって microスケールの粒状高分子を多数合成することによりできる増粘剤が高い

耐塩性を持ち使用感もよいことを発見したがこの粒状高分子増粘剤には未だ試み

られていないモノマーが多くある

そこで今年度の金曜班ではこの逆相マイクロエマルション重合法において未だ

試みられていない親水基を持つモノマーを利用して新規の増粘剤をつくることで粒

状高分子による増粘剤の耐塩性と肌触りと親水基の関係を調べ応用化に利すること

ができるのではないかと考え実験を行うこととした

2 背景

増粘剤とは水溶液をゲル化するために添加される物質であり化粧品において広く

用いられているこの増粘効果は従来では高分子鎖同士の分子間力や架橋で生じる

網目構造の結果生じる液中の摩擦力によるものである

動機で述べたように μスケールの粒状高分子が増粘剤として良質であることがわか

っているただし粒状高分子の形状は反応場であるセッケンミセルの大きさだけで

なく親水基やポリマーを構成する原子同士の分子間力によって変わる高分子の立体構

2

造にも影響されている

また粒状高分子の正確な一次構造を把握することは大変難しいことであるので

応用化のためには高分子の一次構造でなくモノマーによって粒状高分子特性の変化

を調べることが重要である

さらに従来用いられているポリマーがスルホ基とカルボキシル基を親水基とする

ものしか存在しない

以上の三点から酸以外の親水基をもつモノマーで増粘剤を合成したときその性

質はどうなるかを調べることでより製品として利用価値が高い粒状高分子増粘剤を合

成することができるのではないかと考えた

そこで新規モノマーとしては対照実験を行うためにアクリルアミド系モノマー

でかつ 2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸のスルホ基と同じ炭素骨格の先

端に親水基が存在するものとしてN-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド (3-アク

リルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライドを用いてそれぞれ親水基が酸

ではなくヒドロキシ基である場合親水基がアニオンではなくカチオンである場合に

ついて研究を行うこととした

この二種の以外にも水溶性のアクリルアミドポリマーは存在するが上記の条件を満

たさないまたは高価であるため本実験では用いないこととした

Fig1 N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド

Fig2 (3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライド

3

3 原理

31 一般的な液体の粘性

溶液の粘性は一般論では以下のように表される

Fig3のように XY平面を取り液面に平板を用意し引っ張った時挟まれた溶液内

には図のようなせん断流動が発生する高さ Yでのせん断速度は(119881

119889) 119910で与えられる

この時平板に挟まれた溶液を薄層の集まりと考えると隣り合う薄層間に摩擦が生

じるこの内部摩擦力が粘性力であるずり速度勾配が十分に小さければ平板の単位

面積当たりに生じる粘性力 Fv0はその勾配 Vd に比例するすなわち以下の式で表

され1205780を粘性係数と呼ぶこの値は溶媒固有である1)

1198651199070 = 1205780 (119881

119889)

Fig3 溶液ずりせん断図

32 増粘剤の粘性

増粘剤の多くは低分子の液体に高分子を溶かすと著しく粘性が高くなる性質を利

用している

この粘性の発生するメカニズムは下の Fig4において平板間の溶液を薄層に分けた

際高分子鎖は溶液の移動に伴って回転するこのとき溶液中の薄層は薄層間の摩

擦以外に高分子鎖との間にも摩擦が生じているこの摩擦の増加が粘性力の増加とな

る 2)

4

Fig4 高分子による粘性増加

また高分子鎖同士が分子間力によって結びつき三次元構造を形成することで内

部摩擦力は一層大きくなるこのため高分子による増粘効果は顕著である

架橋高分子では三次元構造が高分子鎖同士の分子間力による形成よりも強いものと

なるので増粘効果及びレオロジー特性に優れる 3)

33 塩系薬剤による粘性劣化のメカニズム

塩系薬剤とはビタミンC (アスコルビン酸塩)のようにクロロ基をもつ薬効物質のこ

とである

このクロロ基が直鎖高分子や架橋高分子がポリマー間で形成する三次元網目構造

を破壊することによって増粘効果を消失させ内容物の流失によるべたつきを生じさ

せる 3)

34 粒状高分子の粘性

粒状高分子の粘性について粒状高分子はその粒経が小さいほど体積に対する表面

積が増え溶液内での内部摩擦力が大きくなる

また粒子同士が摩擦力を元に網目構造を形成するため網目構造の構成要因が直

鎖高分子や架橋高分子の高分子増粘剤と異なっている 4)

35 逆相マイクロエマルション重合法

後述する転相温度乳化法を用いて形成した5 μm~30 μm 形成したマイクロエマル

ション内において水溶性のモノマーを利用して行う乳化重合法の一種容易に極小の

5

ポリマーを合成することができる 5)

36 界面活性剤の概略

界面活性剤とは分子の構造が水になじみやすい部分(親水基)と油になじみやすい

部分(新油基)からできていて2つの物質の間の界面に集まりやすい性質を持ちそ

の界面の性質を著しく変える物質というのが界面活性剤の定義である

代表的な界面活性剤の特徴は界面における「吸着」と「ミセル形成」である 6)

もうひとつの代表的な作用として「可溶化」もある

37 エマルションの形成

界面活性剤に有機溶媒が取り囲まれて水に可溶化されたとき水溶液中に存在する

有機溶媒を界面活性剤が取り囲んだ液滴のことを OW エマルションと呼ぶ

有機溶媒中に水が可溶化される場合WOエマルションと呼ぶ

38 ノニオン界面活性剤

非イオン界面活性剤とも言う界面活性剤の内解離基を持たず電気的に中性な

界面活性剤で親水基は主にポリオキシエチレン基であるその特殊な性質上他の種類

の界面活性剤に無い性質として曇点と転相温度を持つ 今回使用するノニオン界面

活性剤はポリオキシエチレンオレイルエーテルであり基本式は以下のような形にな

る 7)

R-O(CH2CH2O)n-H

Scheme 1 ポリオキシエチレンオレイルエーテルの基本式

39 曇点

曇点とは透明な液体が相分離を起こして白濁する温度のこと

本実験においてはノニオン界面活性剤が加温によって界面活性効果を失い相分離

によって白濁する温度のこと 8)

310 転相温度乳化

ノニオン界面活性剤は加温によって界面張力が変化しWO型エマルションから

OW 型に変化するこの変化点のことを転相温度と言い転相温度において界

6

面張力が最低になっているので溶液エマルションが極小になる

またこの転相温度は界面活性剤に固有の値となるので二種の比較的性質の

近い界面活性剤を混合することで転相温度を操作し適切な温度で5 μm~30 μm

程度の直径を持つエマルションを作成する方法を転相温度乳化法と呼ぶ 10)

311 ラジカル重合

開始剤を用いてラジカル種を生成して行う重合法のことをラジカル重合法と言う

開始剤の分解要因によって熱光放射線ラジカル重合の三つに分けられる 10)

3111 ラジカル重合を構成する四反応

ラジカル重合は 4種類の反応が同時並行的に起こるそれぞれ以下の通りである 11)

開始反応

開始剤が熱光放射光などの要因によってラジカル開裂を起こしラジカル種を

生じさせる反応

成長反応

ラジカル種がモノマーと反応することでモノマー新たなラジカル種が生成する

反応これが連続することでポリマーが合成される

停止反応

連鎖していた成長反応が止まる反応主にラジカル種同士の反応による

連鎖移動反応

ラジカル種がモノマー以外の分子主に溶媒分子等と反応することでポリマー以

外の物質を合成する副反応

3112 乳化重合

乳化重合はモノマー液滴と呼ばれるモノマーを大量に保存しているエマルシ

ョンと反応場となる極小のセッケンミセルの二つの構造を持つ溶液中で行う不均

一系ラジカル重合の一種である 12)

成長反応が一段階進むたびにモノマー液滴から拡散の理論式に従ってモノマ

ーがミセル内に移動するこの一連の反応を繰り返して反応が進む 13)

そのため種々のラジカル重合法と比較して以下の特長がある 13)

セッケンミセル内に存在するラジカルが常に一つであるため停止反応が

7

起こりにくく比較的重合度の高いポリマーが生成しやすい

反応速度が拡散作用によって律速されかつセッケンミセルの周囲を大量

の溶媒分子が囲んでいるため除熱が容易であるという理由から熱暴走を起

こしにくいという利点がある

ミセル内で重合するため合成した高分子が絡まりやすく粒状の分子が作

成できる

Fig5 乳化重合模式図

312 MS(質量分析法)

質量分析法とは分子の質量すなわち分子量を測る手段でもあるまた分子を分解

したフラグメントの質量を測ることによって分子構造に関する情報を得るものでも

ある

高エネルギー電子が有機分子にぶつかると分子から電子がはじき出せれカチオ

ンラジカルが発生する

119825119815 rarr 119825119815++119838minus Scheme 2カチオンラジカルの発生

電子の衝突により大量のエネルギーが分子に与えられることで大部分のカチオン

ラジカルを生成した後フラグメントに分解するフラグメントは小さな破片となっ

て浮遊し正電荷や中性となる

このカチオンラジカルとフラグメントについてmz値を横軸相対強度を縦軸につ

いて取ったグラフから質量スペクトルを読み取る 14)

またMS(質量分析法)はイオン化の方法などによりいくつかに分けられ今回使用

したいのは高分子試料でもほとんどフラグメンテーションを起こさないソフトなイ

8

オン化法であるMALDI法 15)である

3121 MALDI法(マトリックス支援レーザー脱離イオン化法)

試料を 25-ヒドロキシ安息香酸のような適切なマトリックス上に吸着させて

ペレットを作成しレーザー光を短時間照射してイオン化する

エネルギーがマトリックスから試料に移動し[119872 + 119867119899 ]119899+に分解される 15)

MALDI法にはよく TOF型の MSが用いられている

4 実験

41 2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を用いた既存化粧品用増粘剤の合成

411 使用器具試薬

温度計ウォーターバスビーカー薬さじデシケーター

ジメチルアクリルアミド

式量9913

沸点81

発火点71

LD50(経口)316mgkg

LD50(経皮)580mgkg

製造和光純薬工業株式会社

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸

式量20725

融点200

LD50(経口)5400mgkg

製造和光純薬工業株式会社

NN-メチレンビスアクリルアミド

式量156

沸点4451

発火点215

LD50(経口)390mgkg

製造東京化成工業株式会社

9

へプタン

式量1002

沸点98

引火点-4

水に不溶

製造昭和化学

2-プロパノール

式量60

沸点82

発火点12

LD50(経口)区分外(GHS分類)

LD50(経皮)区分外(GHS分類)

製造昭和化学

ペルオキソ二硫酸アンモニウム

式量22820

冷水に易溶保存湿気厳禁

重合開始罪乳化重合レドックス重合に用いられる

製造和光純薬工業株式会社

412 実験手順

① ビーカーにイオン交換水ヘプタンポリオキシエチレンオレイルエーテル(2)

(8)をそれぞれ507 mL 507 mL489 g((2)(8)=23)加えて良く撹拌したも

のを入れる

② その後その後温度調節機能つきスターラーに乗せ白濁するまで加熱する

白濁した液が透明化するまで温度を落とし電気伝導率計を用いて溶液が転

相温度付近に保たれていることを確認する

③ 以上の操作が済んだ重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先

ほどのスターラーと同じ温度にしたウォーターバスに移し2-アクリルアミド

-2-メチルプロパンスルホン酸NNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 137 g

262 g入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始

剤としてメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

10

④ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

42 N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミドを用いた新規化粧品用増粘剤の合成

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を誘導体と入れ替える以外の

操作は 41に準ずる

親水基による増粘性の変化を観察するため架橋剤のモノマーに対する濃度比

は 2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を使用したポリマーが最も増

粘効果の高くなると報告された濃度比を用いる

421 使用器具試薬

使用器具は 41に準ずる

試薬

N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド

式量11513

沸点130

発火点189

製造東京化成工業株式会社

422 実験手順

① 412 ①②と同じように重合系を作成する

② 以上の操作が済んだ重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先

ほどのスターラーと同じ温度にしたウォーターバスに移しN-(2-ヒドロキシエ

チル)アクリルアミドNNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 076 g262

g 入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始剤と

してメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

③ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

11

43 (3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライドを用いた新規化粧品用

増粘剤の合成

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を誘導体と入れ替える以外の操作は

41に準ずる

親水基による増粘性の変化を観察するため架橋剤のモノマーに対する濃度比は 2-ア

クリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を使用したポリマーが最も増粘効果の高く

なると報告された濃度比を用いる

431 実験器具

実験器具は 41に準ずる

試薬

(3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライド

式量22074

沸点100

製造東京化成工業株式会社

432 実験手順

① 412 ①②と同じように重合系を作成する

② 重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先ほどのスターラーと

同じ温度にしたウォーターバスに移し (3-アクリルアミドプロピル)トリメチ

ルアミニウムクロライドNNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 123 mL

262 g入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始

剤としてメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

③ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

5 評価分析

耐塩性の高い増粘剤の耐塩性と使用感と親水基との関係を評価するために以下の二

つの測定を行い評価する

増粘剤の耐塩性の評価のために塩酸を増粘剤内部に取り込ませた状態で経時

12

による粘度の変化を観察する

また高分子の粘性を考える上で直鎖高分子の場合よく参考にされるのが平

均分子量でありこの値を測定することで親水基が変化した場合に平均分子

量が粒状高分子の粘性にも大きく影響するか確認する

精密に上の測定を行うには専用の機器が必要になるため機器メーカーの株式

会社エーアンドデイ様または東京理科大学理学部応用化学科駒場研究室に

また高分子の性質を考える上で重要視される平均分子量及び分子量分布に

ついては東京理科大学化学系機器センターにあるMALDI-TOF型質量分析計を管

理者の東京理科大学理学部応用化学科の根岸先生に測定に協力していただこうと

考えている

6 謝辞

東京理科大学工学部工業化学科 近藤行成教授

東京理科大学理学部化学科 遠藤恆平准教授

東京理科大学理学部応用化学科 駒場慎一教授

この研究を進めるに当たり大変お世話になった先輩先生方企業の皆さんに感謝の

意を表明します

参考文献

1) 小澤美奈子 基礎高分子科学 高分子学会 編 2010年 第六版 p979899

2) 小澤美奈子 基礎高分子科学 高分子学会 編 2010年 第六版 p99100

3) 金田 勇 逆相マイクロエマルション重合法による水膨潤性ミクロゲルの重合とその増

粘剤としての応用 2010年 p1

4) 小林敏勝 福井寛 きちん知りたい粒子表面と分散技術 日刊工業新聞社 p76

5) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 2006 p839 840 841

6) 皆川基 藤井富美子 洗剤洗浄 百科事典 大矢勝 2007年版 p4647

7) 日本産業洗浄協議会編 わかりやすい界面活性剤 工業調査会 2003 p373839

8) 資生堂 HP httpswwwshiseidogroupjprddevelopmentformulationhtmlより 2015

44取得

9) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 テクノシステム 2006 p321

10) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 テクノシステム 2006 p397

13

398399

11) 遠藤 剛 高分子の合成(上)~ラジカルカチオンアニオン重合~ 講談社 2010 3p

12) 佐藤壽彌編 高分子微粒子の技術と応用 シーエムシー出版 2004 p2526

13) 佐藤壽彌編 高分子微粒子の技術と応用 シーエムシー出版 2004 p27

14) マクマリー 上 8版 東京化学同人 p403404

15) John McMurry マクマリー有機化学(上) 第 8版 2013 p410411

Page 35: ゼオライトとキトサンを用いた 金属イオン除去剤の …kaken/studies/2015/2015-s-all.pdf1 東京理科大学I 部化学研究部 2015 年度春輪講書 ゼオライトとキトサンを用いた

7

メタクリル酸メチル

分子式C5H8O2

式量10012

融点-48

沸点1003

比重0936

用途2nd networkゲルのモノマー

無色透明で催涙性の芳香のある液体工業的にはアセトンシアノヒドリンにメタノー

ルと硫酸を作用させて合成する実験室的にはメテクリル酸メチルの重合物を 320

以上で乾留すると得られる一般に有機溶媒には溶けるがエチレングリコールグリセ

リンには溶けにくい重合しやすいので重合禁止剤としてヒドロキノンモノメチルエ

ーテル(65 ppm)を添加して保存する有機ガラスの製造ビニル系共重合体など広く

重合反応に用いられるまたメチル以外のアルコールのメタクリル酸エステルの合成

にも用いられる

NN-メチレンビスアクリルアミド

分子式C7H10N2O2

式量15417

融点300

用途架橋剤

1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン

分子式C13H16O2

式量20427

融点47-50

用途光重合開始剤

最大吸収波長は 260 nm付近にある

エチレングリコール

式量6207

融点 -126

沸点1976

比重11132

8

用途ゲル溶媒

重要な二価アルコールでエチレンオキシドの酸触媒による開環高温高圧下水と

の反応による開環などによって合成される吸湿性無色無臭の液体甘味を有する

が有毒である高沸点を有ししかも水酸化カリウム水酸化ナトリウムを溶解し水や

エタノールと任意の割合で混合するので有機合成における溶媒として広く用いられ

また塩基に対して安定なエチレンケタールの生成によるカルボニル基の保護に用いら

れるさらに酢酸ビニル系樹脂の溶剤や水と混ざり高沸点のため不凍液に用いら

れるなど広い用途を持っている

412 1st networkゲルの作成

1) 1st networkゲルのモノマー(電解質モノマー)架橋剤(NN-メチレンビスアクリルア

ミド)と光重合開始剤(1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)を水に溶解させた水

溶液を調製する

2) UVを 8時間照射して光ラジカル重合をさせる

3) 2)で合成した電解質ゲルを乳鉢に入れ適当なサイズに砕いた後デシケーター内で一

週間ほど乾燥させる

413水溶媒 DNゲルの作成

1) 2nd networkゲルのモノマー(中性モノマー)架橋剤(NN-メチレンビスアクリルアミ

ド)光重合開始剤(1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)をエチレングリコールに

溶解させた溶液を調製する

2) 乾燥した電解質ゲルを 1)で調製した水溶液に入れ電解質ゲルを十分に膨らませるそ

の後UVを照射し中性モノマーを光ラジカル重合させる

414エチレングリコール DNゲルの作成

1) 2nd networkゲルのモノマー(中性モノマー)架橋剤(NN-メチレンビスアクリルアミ

ド)光重合開始剤(1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)をエチレングリコールに

溶解させた溶液を調製する

2) 乾燥した電解質ゲルを 1)で調製したエチレングリコール溶液に入れ電解質ゲルを十分

に膨らませるその後UVを照射し中性モノマーを光ラジカル重合させる

42 DNゲルの評価

421引っ張り試験

使用するモノマーの変化によるゲルの性質の差を評価する引っ張り試験は

JIS-K-6251-7号に準拠する方法で測定する

9

1)DNゲルを X方向の長さ 50 mmY方向の長さ 75 mmZ方向の長さが 25 mmの大

きさに成形する

2)その一端部に X-Y平面に平行な切込みを入れて2つの引張端部を形成する

3) 引張端部を片方は固定しもう片方を一定の速度で引っ張るこのときの引っ張る力 F

を測定する

Fig 2 引っ張り試験 13)

422 摩擦試験

使用するモノマーの変化溶媒の変化によるゲルの性質の差を評価する

摩擦試験は東京理科大学工学部第一部機械工学科佐々木研究室に依頼する予定である

用いる機械は SVR4パーカー熱処理工業株式会社製であり180での高温での摩擦係

数の測定が可能である

摩擦測定は常温(20 )と高温(100 )で測定することを予定している

10

5 展望

51 DNゲルの合成

実験操作は溶液を調製した後UV照射するという簡易な手順なので合成は比較的早い

段階で成功すると考えられる

1st networkゲル合成に使うのは電解質モノマーなため水溶液のモノマーの濃度が低

いと湿潤度 Q が大きくなりせん断弾性率が下がり剛性が弱いゲルが出来上がると考え

られる

架橋剤を多く使用すると架橋密度を上がるので 2nd networkゲルが入り込む空洞が小

さくなるそのために架橋剤が多すぎると高弾性のゲルが生成できると考えられる

また同様な考えで2nd networkモノマーが含まれている水溶液に乾燥させた1st network

ゲルを入れる量が多くても高弾性のゲルが生成できると考えられる

52 DNゲルの物性

ゲルの高分子網目は基板から離れようとするときにゲルと基板の間に僅かな溶媒層

が生じるこの状態では溶媒層が潤滑油のような働きをして生じる摩擦力は小さなも

のとなるゲル周辺が高温な状態ではこの溶媒層が水の場合は蒸発してしまうので摩

擦力は増大すると考えられる溶媒を水からより沸点の高いエチレングリコールなどに

変えれば摩擦力は増大することはないと推測される 14)

11

参考文献

1) J Bastide and L LeiblerMacromolecules1988212647

2) G G J Lake and A G ThomasProc R Soc LondonA1967300108

3)越後亮三 機械工学辞典 朝倉書店 2007 p631

4) 伊藤勝悦 やさしく学べる材料力学 森北出版 2014 p14

5)SPObukhovMRubinstein and RHColby Macromolecules 1994273191-3198

6)MRubinsteinRHColbyAVDobrynin and JJaonnyElasticMacromolecules199629398-406

7) 大 阪 府 立 大 学 基 礎 講 座 材 料 の 強 度 と 破 壊

httpwwwengmmtrosakafu-uacjpresearchstrength-japdf2015413取得

8)聾剣萍「生命科学時代の新材料-高弾性高靱性ダブルネットワークゲル」高分子学会

『高分子』高分子科学最近の進歩58巻 5号2009p327-p331

9)YTanakaEurophysLett20077856005

10)蓮池幹治ラジカル重合ハンドブックエヌティーエス2010p444-p445

11)大津隆行ラジカル重合(Ⅰ)化学同人1971p80-p81

12)大津隆行ラジカル重合(Ⅰ)化学同人1971p153-p154

13)聾剣萍高分子ゲルおよびその製造方法特開 2009-185156 2008-02-05

14) 角五 彰龔 剣萍長田義仁「ゲルの摩擦と水和潤滑~生物の滑らかな運動解明への

アプローチ」日本生物物理学会『生物物理』47巻 4号2007p 253-p258

1

東京理科大学Ⅰ部化学研究部 2015年度春輪講書

耐塩性の高い新規化粧品用増粘剤の開発 2015年度金曜班

Nomata N(2OK)Seki M(2OK)Tin J(2OK)Takahashi R(2C)Watanabe A(2K)

Asai D(2K) Nishimiti D(2K)Yamamoto R(2K)

1 動機

化粧品において増粘剤の果たす役割は非常に大きい

化粧品にはクリーム状のモノが多くありその整形には増粘剤が必要不可欠である

また増粘剤は製剤だけでなく密閉効果や水和効果によって薬剤を皮膚に効率的に輸

送することに役立っている

この増粘剤であるが一つ課題がありアスコルビン酸塩(ビタミン C)のようなクロロ

基を持つ塩系薬剤をゲル中に含む場合経時によってべたつきといった使用感の悪化

につながるといった弱点があるこの問題の解決のために塩系薬剤への耐性の高い増

粘剤の開発が望まれている

塩系薬剤の高い美容効果からこの問題の解決に対する化粧剤企業のニーズは高くこ

の問題は長く研究が続けられていたが近年資生堂が逆相マイクロエマルション重

合法によって microスケールの粒状高分子を多数合成することによりできる増粘剤が高い

耐塩性を持ち使用感もよいことを発見したがこの粒状高分子増粘剤には未だ試み

られていないモノマーが多くある

そこで今年度の金曜班ではこの逆相マイクロエマルション重合法において未だ

試みられていない親水基を持つモノマーを利用して新規の増粘剤をつくることで粒

状高分子による増粘剤の耐塩性と肌触りと親水基の関係を調べ応用化に利すること

ができるのではないかと考え実験を行うこととした

2 背景

増粘剤とは水溶液をゲル化するために添加される物質であり化粧品において広く

用いられているこの増粘効果は従来では高分子鎖同士の分子間力や架橋で生じる

網目構造の結果生じる液中の摩擦力によるものである

動機で述べたように μスケールの粒状高分子が増粘剤として良質であることがわか

っているただし粒状高分子の形状は反応場であるセッケンミセルの大きさだけで

なく親水基やポリマーを構成する原子同士の分子間力によって変わる高分子の立体構

2

造にも影響されている

また粒状高分子の正確な一次構造を把握することは大変難しいことであるので

応用化のためには高分子の一次構造でなくモノマーによって粒状高分子特性の変化

を調べることが重要である

さらに従来用いられているポリマーがスルホ基とカルボキシル基を親水基とする

ものしか存在しない

以上の三点から酸以外の親水基をもつモノマーで増粘剤を合成したときその性

質はどうなるかを調べることでより製品として利用価値が高い粒状高分子増粘剤を合

成することができるのではないかと考えた

そこで新規モノマーとしては対照実験を行うためにアクリルアミド系モノマー

でかつ 2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸のスルホ基と同じ炭素骨格の先

端に親水基が存在するものとしてN-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド (3-アク

リルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライドを用いてそれぞれ親水基が酸

ではなくヒドロキシ基である場合親水基がアニオンではなくカチオンである場合に

ついて研究を行うこととした

この二種の以外にも水溶性のアクリルアミドポリマーは存在するが上記の条件を満

たさないまたは高価であるため本実験では用いないこととした

Fig1 N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド

Fig2 (3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライド

3

3 原理

31 一般的な液体の粘性

溶液の粘性は一般論では以下のように表される

Fig3のように XY平面を取り液面に平板を用意し引っ張った時挟まれた溶液内

には図のようなせん断流動が発生する高さ Yでのせん断速度は(119881

119889) 119910で与えられる

この時平板に挟まれた溶液を薄層の集まりと考えると隣り合う薄層間に摩擦が生

じるこの内部摩擦力が粘性力であるずり速度勾配が十分に小さければ平板の単位

面積当たりに生じる粘性力 Fv0はその勾配 Vd に比例するすなわち以下の式で表

され1205780を粘性係数と呼ぶこの値は溶媒固有である1)

1198651199070 = 1205780 (119881

119889)

Fig3 溶液ずりせん断図

32 増粘剤の粘性

増粘剤の多くは低分子の液体に高分子を溶かすと著しく粘性が高くなる性質を利

用している

この粘性の発生するメカニズムは下の Fig4において平板間の溶液を薄層に分けた

際高分子鎖は溶液の移動に伴って回転するこのとき溶液中の薄層は薄層間の摩

擦以外に高分子鎖との間にも摩擦が生じているこの摩擦の増加が粘性力の増加とな

る 2)

4

Fig4 高分子による粘性増加

また高分子鎖同士が分子間力によって結びつき三次元構造を形成することで内

部摩擦力は一層大きくなるこのため高分子による増粘効果は顕著である

架橋高分子では三次元構造が高分子鎖同士の分子間力による形成よりも強いものと

なるので増粘効果及びレオロジー特性に優れる 3)

33 塩系薬剤による粘性劣化のメカニズム

塩系薬剤とはビタミンC (アスコルビン酸塩)のようにクロロ基をもつ薬効物質のこ

とである

このクロロ基が直鎖高分子や架橋高分子がポリマー間で形成する三次元網目構造

を破壊することによって増粘効果を消失させ内容物の流失によるべたつきを生じさ

せる 3)

34 粒状高分子の粘性

粒状高分子の粘性について粒状高分子はその粒経が小さいほど体積に対する表面

積が増え溶液内での内部摩擦力が大きくなる

また粒子同士が摩擦力を元に網目構造を形成するため網目構造の構成要因が直

鎖高分子や架橋高分子の高分子増粘剤と異なっている 4)

35 逆相マイクロエマルション重合法

後述する転相温度乳化法を用いて形成した5 μm~30 μm 形成したマイクロエマル

ション内において水溶性のモノマーを利用して行う乳化重合法の一種容易に極小の

5

ポリマーを合成することができる 5)

36 界面活性剤の概略

界面活性剤とは分子の構造が水になじみやすい部分(親水基)と油になじみやすい

部分(新油基)からできていて2つの物質の間の界面に集まりやすい性質を持ちそ

の界面の性質を著しく変える物質というのが界面活性剤の定義である

代表的な界面活性剤の特徴は界面における「吸着」と「ミセル形成」である 6)

もうひとつの代表的な作用として「可溶化」もある

37 エマルションの形成

界面活性剤に有機溶媒が取り囲まれて水に可溶化されたとき水溶液中に存在する

有機溶媒を界面活性剤が取り囲んだ液滴のことを OW エマルションと呼ぶ

有機溶媒中に水が可溶化される場合WOエマルションと呼ぶ

38 ノニオン界面活性剤

非イオン界面活性剤とも言う界面活性剤の内解離基を持たず電気的に中性な

界面活性剤で親水基は主にポリオキシエチレン基であるその特殊な性質上他の種類

の界面活性剤に無い性質として曇点と転相温度を持つ 今回使用するノニオン界面

活性剤はポリオキシエチレンオレイルエーテルであり基本式は以下のような形にな

る 7)

R-O(CH2CH2O)n-H

Scheme 1 ポリオキシエチレンオレイルエーテルの基本式

39 曇点

曇点とは透明な液体が相分離を起こして白濁する温度のこと

本実験においてはノニオン界面活性剤が加温によって界面活性効果を失い相分離

によって白濁する温度のこと 8)

310 転相温度乳化

ノニオン界面活性剤は加温によって界面張力が変化しWO型エマルションから

OW 型に変化するこの変化点のことを転相温度と言い転相温度において界

6

面張力が最低になっているので溶液エマルションが極小になる

またこの転相温度は界面活性剤に固有の値となるので二種の比較的性質の

近い界面活性剤を混合することで転相温度を操作し適切な温度で5 μm~30 μm

程度の直径を持つエマルションを作成する方法を転相温度乳化法と呼ぶ 10)

311 ラジカル重合

開始剤を用いてラジカル種を生成して行う重合法のことをラジカル重合法と言う

開始剤の分解要因によって熱光放射線ラジカル重合の三つに分けられる 10)

3111 ラジカル重合を構成する四反応

ラジカル重合は 4種類の反応が同時並行的に起こるそれぞれ以下の通りである 11)

開始反応

開始剤が熱光放射光などの要因によってラジカル開裂を起こしラジカル種を

生じさせる反応

成長反応

ラジカル種がモノマーと反応することでモノマー新たなラジカル種が生成する

反応これが連続することでポリマーが合成される

停止反応

連鎖していた成長反応が止まる反応主にラジカル種同士の反応による

連鎖移動反応

ラジカル種がモノマー以外の分子主に溶媒分子等と反応することでポリマー以

外の物質を合成する副反応

3112 乳化重合

乳化重合はモノマー液滴と呼ばれるモノマーを大量に保存しているエマルシ

ョンと反応場となる極小のセッケンミセルの二つの構造を持つ溶液中で行う不均

一系ラジカル重合の一種である 12)

成長反応が一段階進むたびにモノマー液滴から拡散の理論式に従ってモノマ

ーがミセル内に移動するこの一連の反応を繰り返して反応が進む 13)

そのため種々のラジカル重合法と比較して以下の特長がある 13)

セッケンミセル内に存在するラジカルが常に一つであるため停止反応が

7

起こりにくく比較的重合度の高いポリマーが生成しやすい

反応速度が拡散作用によって律速されかつセッケンミセルの周囲を大量

の溶媒分子が囲んでいるため除熱が容易であるという理由から熱暴走を起

こしにくいという利点がある

ミセル内で重合するため合成した高分子が絡まりやすく粒状の分子が作

成できる

Fig5 乳化重合模式図

312 MS(質量分析法)

質量分析法とは分子の質量すなわち分子量を測る手段でもあるまた分子を分解

したフラグメントの質量を測ることによって分子構造に関する情報を得るものでも

ある

高エネルギー電子が有機分子にぶつかると分子から電子がはじき出せれカチオ

ンラジカルが発生する

119825119815 rarr 119825119815++119838minus Scheme 2カチオンラジカルの発生

電子の衝突により大量のエネルギーが分子に与えられることで大部分のカチオン

ラジカルを生成した後フラグメントに分解するフラグメントは小さな破片となっ

て浮遊し正電荷や中性となる

このカチオンラジカルとフラグメントについてmz値を横軸相対強度を縦軸につ

いて取ったグラフから質量スペクトルを読み取る 14)

またMS(質量分析法)はイオン化の方法などによりいくつかに分けられ今回使用

したいのは高分子試料でもほとんどフラグメンテーションを起こさないソフトなイ

8

オン化法であるMALDI法 15)である

3121 MALDI法(マトリックス支援レーザー脱離イオン化法)

試料を 25-ヒドロキシ安息香酸のような適切なマトリックス上に吸着させて

ペレットを作成しレーザー光を短時間照射してイオン化する

エネルギーがマトリックスから試料に移動し[119872 + 119867119899 ]119899+に分解される 15)

MALDI法にはよく TOF型の MSが用いられている

4 実験

41 2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を用いた既存化粧品用増粘剤の合成

411 使用器具試薬

温度計ウォーターバスビーカー薬さじデシケーター

ジメチルアクリルアミド

式量9913

沸点81

発火点71

LD50(経口)316mgkg

LD50(経皮)580mgkg

製造和光純薬工業株式会社

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸

式量20725

融点200

LD50(経口)5400mgkg

製造和光純薬工業株式会社

NN-メチレンビスアクリルアミド

式量156

沸点4451

発火点215

LD50(経口)390mgkg

製造東京化成工業株式会社

9

へプタン

式量1002

沸点98

引火点-4

水に不溶

製造昭和化学

2-プロパノール

式量60

沸点82

発火点12

LD50(経口)区分外(GHS分類)

LD50(経皮)区分外(GHS分類)

製造昭和化学

ペルオキソ二硫酸アンモニウム

式量22820

冷水に易溶保存湿気厳禁

重合開始罪乳化重合レドックス重合に用いられる

製造和光純薬工業株式会社

412 実験手順

① ビーカーにイオン交換水ヘプタンポリオキシエチレンオレイルエーテル(2)

(8)をそれぞれ507 mL 507 mL489 g((2)(8)=23)加えて良く撹拌したも

のを入れる

② その後その後温度調節機能つきスターラーに乗せ白濁するまで加熱する

白濁した液が透明化するまで温度を落とし電気伝導率計を用いて溶液が転

相温度付近に保たれていることを確認する

③ 以上の操作が済んだ重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先

ほどのスターラーと同じ温度にしたウォーターバスに移し2-アクリルアミド

-2-メチルプロパンスルホン酸NNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 137 g

262 g入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始

剤としてメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

10

④ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

42 N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミドを用いた新規化粧品用増粘剤の合成

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を誘導体と入れ替える以外の

操作は 41に準ずる

親水基による増粘性の変化を観察するため架橋剤のモノマーに対する濃度比

は 2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を使用したポリマーが最も増

粘効果の高くなると報告された濃度比を用いる

421 使用器具試薬

使用器具は 41に準ずる

試薬

N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド

式量11513

沸点130

発火点189

製造東京化成工業株式会社

422 実験手順

① 412 ①②と同じように重合系を作成する

② 以上の操作が済んだ重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先

ほどのスターラーと同じ温度にしたウォーターバスに移しN-(2-ヒドロキシエ

チル)アクリルアミドNNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 076 g262

g 入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始剤と

してメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

③ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

11

43 (3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライドを用いた新規化粧品用

増粘剤の合成

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を誘導体と入れ替える以外の操作は

41に準ずる

親水基による増粘性の変化を観察するため架橋剤のモノマーに対する濃度比は 2-ア

クリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を使用したポリマーが最も増粘効果の高く

なると報告された濃度比を用いる

431 実験器具

実験器具は 41に準ずる

試薬

(3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライド

式量22074

沸点100

製造東京化成工業株式会社

432 実験手順

① 412 ①②と同じように重合系を作成する

② 重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先ほどのスターラーと

同じ温度にしたウォーターバスに移し (3-アクリルアミドプロピル)トリメチ

ルアミニウムクロライドNNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 123 mL

262 g入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始

剤としてメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

③ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

5 評価分析

耐塩性の高い増粘剤の耐塩性と使用感と親水基との関係を評価するために以下の二

つの測定を行い評価する

増粘剤の耐塩性の評価のために塩酸を増粘剤内部に取り込ませた状態で経時

12

による粘度の変化を観察する

また高分子の粘性を考える上で直鎖高分子の場合よく参考にされるのが平

均分子量でありこの値を測定することで親水基が変化した場合に平均分子

量が粒状高分子の粘性にも大きく影響するか確認する

精密に上の測定を行うには専用の機器が必要になるため機器メーカーの株式

会社エーアンドデイ様または東京理科大学理学部応用化学科駒場研究室に

また高分子の性質を考える上で重要視される平均分子量及び分子量分布に

ついては東京理科大学化学系機器センターにあるMALDI-TOF型質量分析計を管

理者の東京理科大学理学部応用化学科の根岸先生に測定に協力していただこうと

考えている

6 謝辞

東京理科大学工学部工業化学科 近藤行成教授

東京理科大学理学部化学科 遠藤恆平准教授

東京理科大学理学部応用化学科 駒場慎一教授

この研究を進めるに当たり大変お世話になった先輩先生方企業の皆さんに感謝の

意を表明します

参考文献

1) 小澤美奈子 基礎高分子科学 高分子学会 編 2010年 第六版 p979899

2) 小澤美奈子 基礎高分子科学 高分子学会 編 2010年 第六版 p99100

3) 金田 勇 逆相マイクロエマルション重合法による水膨潤性ミクロゲルの重合とその増

粘剤としての応用 2010年 p1

4) 小林敏勝 福井寛 きちん知りたい粒子表面と分散技術 日刊工業新聞社 p76

5) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 2006 p839 840 841

6) 皆川基 藤井富美子 洗剤洗浄 百科事典 大矢勝 2007年版 p4647

7) 日本産業洗浄協議会編 わかりやすい界面活性剤 工業調査会 2003 p373839

8) 資生堂 HP httpswwwshiseidogroupjprddevelopmentformulationhtmlより 2015

44取得

9) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 テクノシステム 2006 p321

10) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 テクノシステム 2006 p397

13

398399

11) 遠藤 剛 高分子の合成(上)~ラジカルカチオンアニオン重合~ 講談社 2010 3p

12) 佐藤壽彌編 高分子微粒子の技術と応用 シーエムシー出版 2004 p2526

13) 佐藤壽彌編 高分子微粒子の技術と応用 シーエムシー出版 2004 p27

14) マクマリー 上 8版 東京化学同人 p403404

15) John McMurry マクマリー有機化学(上) 第 8版 2013 p410411

Page 36: ゼオライトとキトサンを用いた 金属イオン除去剤の …kaken/studies/2015/2015-s-all.pdf1 東京理科大学I 部化学研究部 2015 年度春輪講書 ゼオライトとキトサンを用いた

8

用途ゲル溶媒

重要な二価アルコールでエチレンオキシドの酸触媒による開環高温高圧下水と

の反応による開環などによって合成される吸湿性無色無臭の液体甘味を有する

が有毒である高沸点を有ししかも水酸化カリウム水酸化ナトリウムを溶解し水や

エタノールと任意の割合で混合するので有機合成における溶媒として広く用いられ

また塩基に対して安定なエチレンケタールの生成によるカルボニル基の保護に用いら

れるさらに酢酸ビニル系樹脂の溶剤や水と混ざり高沸点のため不凍液に用いら

れるなど広い用途を持っている

412 1st networkゲルの作成

1) 1st networkゲルのモノマー(電解質モノマー)架橋剤(NN-メチレンビスアクリルア

ミド)と光重合開始剤(1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)を水に溶解させた水

溶液を調製する

2) UVを 8時間照射して光ラジカル重合をさせる

3) 2)で合成した電解質ゲルを乳鉢に入れ適当なサイズに砕いた後デシケーター内で一

週間ほど乾燥させる

413水溶媒 DNゲルの作成

1) 2nd networkゲルのモノマー(中性モノマー)架橋剤(NN-メチレンビスアクリルアミ

ド)光重合開始剤(1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)をエチレングリコールに

溶解させた溶液を調製する

2) 乾燥した電解質ゲルを 1)で調製した水溶液に入れ電解質ゲルを十分に膨らませるそ

の後UVを照射し中性モノマーを光ラジカル重合させる

414エチレングリコール DNゲルの作成

1) 2nd networkゲルのモノマー(中性モノマー)架橋剤(NN-メチレンビスアクリルアミ

ド)光重合開始剤(1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)をエチレングリコールに

溶解させた溶液を調製する

2) 乾燥した電解質ゲルを 1)で調製したエチレングリコール溶液に入れ電解質ゲルを十分

に膨らませるその後UVを照射し中性モノマーを光ラジカル重合させる

42 DNゲルの評価

421引っ張り試験

使用するモノマーの変化によるゲルの性質の差を評価する引っ張り試験は

JIS-K-6251-7号に準拠する方法で測定する

9

1)DNゲルを X方向の長さ 50 mmY方向の長さ 75 mmZ方向の長さが 25 mmの大

きさに成形する

2)その一端部に X-Y平面に平行な切込みを入れて2つの引張端部を形成する

3) 引張端部を片方は固定しもう片方を一定の速度で引っ張るこのときの引っ張る力 F

を測定する

Fig 2 引っ張り試験 13)

422 摩擦試験

使用するモノマーの変化溶媒の変化によるゲルの性質の差を評価する

摩擦試験は東京理科大学工学部第一部機械工学科佐々木研究室に依頼する予定である

用いる機械は SVR4パーカー熱処理工業株式会社製であり180での高温での摩擦係

数の測定が可能である

摩擦測定は常温(20 )と高温(100 )で測定することを予定している

10

5 展望

51 DNゲルの合成

実験操作は溶液を調製した後UV照射するという簡易な手順なので合成は比較的早い

段階で成功すると考えられる

1st networkゲル合成に使うのは電解質モノマーなため水溶液のモノマーの濃度が低

いと湿潤度 Q が大きくなりせん断弾性率が下がり剛性が弱いゲルが出来上がると考え

られる

架橋剤を多く使用すると架橋密度を上がるので 2nd networkゲルが入り込む空洞が小

さくなるそのために架橋剤が多すぎると高弾性のゲルが生成できると考えられる

また同様な考えで2nd networkモノマーが含まれている水溶液に乾燥させた1st network

ゲルを入れる量が多くても高弾性のゲルが生成できると考えられる

52 DNゲルの物性

ゲルの高分子網目は基板から離れようとするときにゲルと基板の間に僅かな溶媒層

が生じるこの状態では溶媒層が潤滑油のような働きをして生じる摩擦力は小さなも

のとなるゲル周辺が高温な状態ではこの溶媒層が水の場合は蒸発してしまうので摩

擦力は増大すると考えられる溶媒を水からより沸点の高いエチレングリコールなどに

変えれば摩擦力は増大することはないと推測される 14)

11

参考文献

1) J Bastide and L LeiblerMacromolecules1988212647

2) G G J Lake and A G ThomasProc R Soc LondonA1967300108

3)越後亮三 機械工学辞典 朝倉書店 2007 p631

4) 伊藤勝悦 やさしく学べる材料力学 森北出版 2014 p14

5)SPObukhovMRubinstein and RHColby Macromolecules 1994273191-3198

6)MRubinsteinRHColbyAVDobrynin and JJaonnyElasticMacromolecules199629398-406

7) 大 阪 府 立 大 学 基 礎 講 座 材 料 の 強 度 と 破 壊

httpwwwengmmtrosakafu-uacjpresearchstrength-japdf2015413取得

8)聾剣萍「生命科学時代の新材料-高弾性高靱性ダブルネットワークゲル」高分子学会

『高分子』高分子科学最近の進歩58巻 5号2009p327-p331

9)YTanakaEurophysLett20077856005

10)蓮池幹治ラジカル重合ハンドブックエヌティーエス2010p444-p445

11)大津隆行ラジカル重合(Ⅰ)化学同人1971p80-p81

12)大津隆行ラジカル重合(Ⅰ)化学同人1971p153-p154

13)聾剣萍高分子ゲルおよびその製造方法特開 2009-185156 2008-02-05

14) 角五 彰龔 剣萍長田義仁「ゲルの摩擦と水和潤滑~生物の滑らかな運動解明への

アプローチ」日本生物物理学会『生物物理』47巻 4号2007p 253-p258

1

東京理科大学Ⅰ部化学研究部 2015年度春輪講書

耐塩性の高い新規化粧品用増粘剤の開発 2015年度金曜班

Nomata N(2OK)Seki M(2OK)Tin J(2OK)Takahashi R(2C)Watanabe A(2K)

Asai D(2K) Nishimiti D(2K)Yamamoto R(2K)

1 動機

化粧品において増粘剤の果たす役割は非常に大きい

化粧品にはクリーム状のモノが多くありその整形には増粘剤が必要不可欠である

また増粘剤は製剤だけでなく密閉効果や水和効果によって薬剤を皮膚に効率的に輸

送することに役立っている

この増粘剤であるが一つ課題がありアスコルビン酸塩(ビタミン C)のようなクロロ

基を持つ塩系薬剤をゲル中に含む場合経時によってべたつきといった使用感の悪化

につながるといった弱点があるこの問題の解決のために塩系薬剤への耐性の高い増

粘剤の開発が望まれている

塩系薬剤の高い美容効果からこの問題の解決に対する化粧剤企業のニーズは高くこ

の問題は長く研究が続けられていたが近年資生堂が逆相マイクロエマルション重

合法によって microスケールの粒状高分子を多数合成することによりできる増粘剤が高い

耐塩性を持ち使用感もよいことを発見したがこの粒状高分子増粘剤には未だ試み

られていないモノマーが多くある

そこで今年度の金曜班ではこの逆相マイクロエマルション重合法において未だ

試みられていない親水基を持つモノマーを利用して新規の増粘剤をつくることで粒

状高分子による増粘剤の耐塩性と肌触りと親水基の関係を調べ応用化に利すること

ができるのではないかと考え実験を行うこととした

2 背景

増粘剤とは水溶液をゲル化するために添加される物質であり化粧品において広く

用いられているこの増粘効果は従来では高分子鎖同士の分子間力や架橋で生じる

網目構造の結果生じる液中の摩擦力によるものである

動機で述べたように μスケールの粒状高分子が増粘剤として良質であることがわか

っているただし粒状高分子の形状は反応場であるセッケンミセルの大きさだけで

なく親水基やポリマーを構成する原子同士の分子間力によって変わる高分子の立体構

2

造にも影響されている

また粒状高分子の正確な一次構造を把握することは大変難しいことであるので

応用化のためには高分子の一次構造でなくモノマーによって粒状高分子特性の変化

を調べることが重要である

さらに従来用いられているポリマーがスルホ基とカルボキシル基を親水基とする

ものしか存在しない

以上の三点から酸以外の親水基をもつモノマーで増粘剤を合成したときその性

質はどうなるかを調べることでより製品として利用価値が高い粒状高分子増粘剤を合

成することができるのではないかと考えた

そこで新規モノマーとしては対照実験を行うためにアクリルアミド系モノマー

でかつ 2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸のスルホ基と同じ炭素骨格の先

端に親水基が存在するものとしてN-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド (3-アク

リルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライドを用いてそれぞれ親水基が酸

ではなくヒドロキシ基である場合親水基がアニオンではなくカチオンである場合に

ついて研究を行うこととした

この二種の以外にも水溶性のアクリルアミドポリマーは存在するが上記の条件を満

たさないまたは高価であるため本実験では用いないこととした

Fig1 N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド

Fig2 (3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライド

3

3 原理

31 一般的な液体の粘性

溶液の粘性は一般論では以下のように表される

Fig3のように XY平面を取り液面に平板を用意し引っ張った時挟まれた溶液内

には図のようなせん断流動が発生する高さ Yでのせん断速度は(119881

119889) 119910で与えられる

この時平板に挟まれた溶液を薄層の集まりと考えると隣り合う薄層間に摩擦が生

じるこの内部摩擦力が粘性力であるずり速度勾配が十分に小さければ平板の単位

面積当たりに生じる粘性力 Fv0はその勾配 Vd に比例するすなわち以下の式で表

され1205780を粘性係数と呼ぶこの値は溶媒固有である1)

1198651199070 = 1205780 (119881

119889)

Fig3 溶液ずりせん断図

32 増粘剤の粘性

増粘剤の多くは低分子の液体に高分子を溶かすと著しく粘性が高くなる性質を利

用している

この粘性の発生するメカニズムは下の Fig4において平板間の溶液を薄層に分けた

際高分子鎖は溶液の移動に伴って回転するこのとき溶液中の薄層は薄層間の摩

擦以外に高分子鎖との間にも摩擦が生じているこの摩擦の増加が粘性力の増加とな

る 2)

4

Fig4 高分子による粘性増加

また高分子鎖同士が分子間力によって結びつき三次元構造を形成することで内

部摩擦力は一層大きくなるこのため高分子による増粘効果は顕著である

架橋高分子では三次元構造が高分子鎖同士の分子間力による形成よりも強いものと

なるので増粘効果及びレオロジー特性に優れる 3)

33 塩系薬剤による粘性劣化のメカニズム

塩系薬剤とはビタミンC (アスコルビン酸塩)のようにクロロ基をもつ薬効物質のこ

とである

このクロロ基が直鎖高分子や架橋高分子がポリマー間で形成する三次元網目構造

を破壊することによって増粘効果を消失させ内容物の流失によるべたつきを生じさ

せる 3)

34 粒状高分子の粘性

粒状高分子の粘性について粒状高分子はその粒経が小さいほど体積に対する表面

積が増え溶液内での内部摩擦力が大きくなる

また粒子同士が摩擦力を元に網目構造を形成するため網目構造の構成要因が直

鎖高分子や架橋高分子の高分子増粘剤と異なっている 4)

35 逆相マイクロエマルション重合法

後述する転相温度乳化法を用いて形成した5 μm~30 μm 形成したマイクロエマル

ション内において水溶性のモノマーを利用して行う乳化重合法の一種容易に極小の

5

ポリマーを合成することができる 5)

36 界面活性剤の概略

界面活性剤とは分子の構造が水になじみやすい部分(親水基)と油になじみやすい

部分(新油基)からできていて2つの物質の間の界面に集まりやすい性質を持ちそ

の界面の性質を著しく変える物質というのが界面活性剤の定義である

代表的な界面活性剤の特徴は界面における「吸着」と「ミセル形成」である 6)

もうひとつの代表的な作用として「可溶化」もある

37 エマルションの形成

界面活性剤に有機溶媒が取り囲まれて水に可溶化されたとき水溶液中に存在する

有機溶媒を界面活性剤が取り囲んだ液滴のことを OW エマルションと呼ぶ

有機溶媒中に水が可溶化される場合WOエマルションと呼ぶ

38 ノニオン界面活性剤

非イオン界面活性剤とも言う界面活性剤の内解離基を持たず電気的に中性な

界面活性剤で親水基は主にポリオキシエチレン基であるその特殊な性質上他の種類

の界面活性剤に無い性質として曇点と転相温度を持つ 今回使用するノニオン界面

活性剤はポリオキシエチレンオレイルエーテルであり基本式は以下のような形にな

る 7)

R-O(CH2CH2O)n-H

Scheme 1 ポリオキシエチレンオレイルエーテルの基本式

39 曇点

曇点とは透明な液体が相分離を起こして白濁する温度のこと

本実験においてはノニオン界面活性剤が加温によって界面活性効果を失い相分離

によって白濁する温度のこと 8)

310 転相温度乳化

ノニオン界面活性剤は加温によって界面張力が変化しWO型エマルションから

OW 型に変化するこの変化点のことを転相温度と言い転相温度において界

6

面張力が最低になっているので溶液エマルションが極小になる

またこの転相温度は界面活性剤に固有の値となるので二種の比較的性質の

近い界面活性剤を混合することで転相温度を操作し適切な温度で5 μm~30 μm

程度の直径を持つエマルションを作成する方法を転相温度乳化法と呼ぶ 10)

311 ラジカル重合

開始剤を用いてラジカル種を生成して行う重合法のことをラジカル重合法と言う

開始剤の分解要因によって熱光放射線ラジカル重合の三つに分けられる 10)

3111 ラジカル重合を構成する四反応

ラジカル重合は 4種類の反応が同時並行的に起こるそれぞれ以下の通りである 11)

開始反応

開始剤が熱光放射光などの要因によってラジカル開裂を起こしラジカル種を

生じさせる反応

成長反応

ラジカル種がモノマーと反応することでモノマー新たなラジカル種が生成する

反応これが連続することでポリマーが合成される

停止反応

連鎖していた成長反応が止まる反応主にラジカル種同士の反応による

連鎖移動反応

ラジカル種がモノマー以外の分子主に溶媒分子等と反応することでポリマー以

外の物質を合成する副反応

3112 乳化重合

乳化重合はモノマー液滴と呼ばれるモノマーを大量に保存しているエマルシ

ョンと反応場となる極小のセッケンミセルの二つの構造を持つ溶液中で行う不均

一系ラジカル重合の一種である 12)

成長反応が一段階進むたびにモノマー液滴から拡散の理論式に従ってモノマ

ーがミセル内に移動するこの一連の反応を繰り返して反応が進む 13)

そのため種々のラジカル重合法と比較して以下の特長がある 13)

セッケンミセル内に存在するラジカルが常に一つであるため停止反応が

7

起こりにくく比較的重合度の高いポリマーが生成しやすい

反応速度が拡散作用によって律速されかつセッケンミセルの周囲を大量

の溶媒分子が囲んでいるため除熱が容易であるという理由から熱暴走を起

こしにくいという利点がある

ミセル内で重合するため合成した高分子が絡まりやすく粒状の分子が作

成できる

Fig5 乳化重合模式図

312 MS(質量分析法)

質量分析法とは分子の質量すなわち分子量を測る手段でもあるまた分子を分解

したフラグメントの質量を測ることによって分子構造に関する情報を得るものでも

ある

高エネルギー電子が有機分子にぶつかると分子から電子がはじき出せれカチオ

ンラジカルが発生する

119825119815 rarr 119825119815++119838minus Scheme 2カチオンラジカルの発生

電子の衝突により大量のエネルギーが分子に与えられることで大部分のカチオン

ラジカルを生成した後フラグメントに分解するフラグメントは小さな破片となっ

て浮遊し正電荷や中性となる

このカチオンラジカルとフラグメントについてmz値を横軸相対強度を縦軸につ

いて取ったグラフから質量スペクトルを読み取る 14)

またMS(質量分析法)はイオン化の方法などによりいくつかに分けられ今回使用

したいのは高分子試料でもほとんどフラグメンテーションを起こさないソフトなイ

8

オン化法であるMALDI法 15)である

3121 MALDI法(マトリックス支援レーザー脱離イオン化法)

試料を 25-ヒドロキシ安息香酸のような適切なマトリックス上に吸着させて

ペレットを作成しレーザー光を短時間照射してイオン化する

エネルギーがマトリックスから試料に移動し[119872 + 119867119899 ]119899+に分解される 15)

MALDI法にはよく TOF型の MSが用いられている

4 実験

41 2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を用いた既存化粧品用増粘剤の合成

411 使用器具試薬

温度計ウォーターバスビーカー薬さじデシケーター

ジメチルアクリルアミド

式量9913

沸点81

発火点71

LD50(経口)316mgkg

LD50(経皮)580mgkg

製造和光純薬工業株式会社

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸

式量20725

融点200

LD50(経口)5400mgkg

製造和光純薬工業株式会社

NN-メチレンビスアクリルアミド

式量156

沸点4451

発火点215

LD50(経口)390mgkg

製造東京化成工業株式会社

9

へプタン

式量1002

沸点98

引火点-4

水に不溶

製造昭和化学

2-プロパノール

式量60

沸点82

発火点12

LD50(経口)区分外(GHS分類)

LD50(経皮)区分外(GHS分類)

製造昭和化学

ペルオキソ二硫酸アンモニウム

式量22820

冷水に易溶保存湿気厳禁

重合開始罪乳化重合レドックス重合に用いられる

製造和光純薬工業株式会社

412 実験手順

① ビーカーにイオン交換水ヘプタンポリオキシエチレンオレイルエーテル(2)

(8)をそれぞれ507 mL 507 mL489 g((2)(8)=23)加えて良く撹拌したも

のを入れる

② その後その後温度調節機能つきスターラーに乗せ白濁するまで加熱する

白濁した液が透明化するまで温度を落とし電気伝導率計を用いて溶液が転

相温度付近に保たれていることを確認する

③ 以上の操作が済んだ重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先

ほどのスターラーと同じ温度にしたウォーターバスに移し2-アクリルアミド

-2-メチルプロパンスルホン酸NNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 137 g

262 g入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始

剤としてメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

10

④ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

42 N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミドを用いた新規化粧品用増粘剤の合成

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を誘導体と入れ替える以外の

操作は 41に準ずる

親水基による増粘性の変化を観察するため架橋剤のモノマーに対する濃度比

は 2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を使用したポリマーが最も増

粘効果の高くなると報告された濃度比を用いる

421 使用器具試薬

使用器具は 41に準ずる

試薬

N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド

式量11513

沸点130

発火点189

製造東京化成工業株式会社

422 実験手順

① 412 ①②と同じように重合系を作成する

② 以上の操作が済んだ重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先

ほどのスターラーと同じ温度にしたウォーターバスに移しN-(2-ヒドロキシエ

チル)アクリルアミドNNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 076 g262

g 入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始剤と

してメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

③ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

11

43 (3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライドを用いた新規化粧品用

増粘剤の合成

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を誘導体と入れ替える以外の操作は

41に準ずる

親水基による増粘性の変化を観察するため架橋剤のモノマーに対する濃度比は 2-ア

クリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を使用したポリマーが最も増粘効果の高く

なると報告された濃度比を用いる

431 実験器具

実験器具は 41に準ずる

試薬

(3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライド

式量22074

沸点100

製造東京化成工業株式会社

432 実験手順

① 412 ①②と同じように重合系を作成する

② 重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先ほどのスターラーと

同じ温度にしたウォーターバスに移し (3-アクリルアミドプロピル)トリメチ

ルアミニウムクロライドNNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 123 mL

262 g入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始

剤としてメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

③ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

5 評価分析

耐塩性の高い増粘剤の耐塩性と使用感と親水基との関係を評価するために以下の二

つの測定を行い評価する

増粘剤の耐塩性の評価のために塩酸を増粘剤内部に取り込ませた状態で経時

12

による粘度の変化を観察する

また高分子の粘性を考える上で直鎖高分子の場合よく参考にされるのが平

均分子量でありこの値を測定することで親水基が変化した場合に平均分子

量が粒状高分子の粘性にも大きく影響するか確認する

精密に上の測定を行うには専用の機器が必要になるため機器メーカーの株式

会社エーアンドデイ様または東京理科大学理学部応用化学科駒場研究室に

また高分子の性質を考える上で重要視される平均分子量及び分子量分布に

ついては東京理科大学化学系機器センターにあるMALDI-TOF型質量分析計を管

理者の東京理科大学理学部応用化学科の根岸先生に測定に協力していただこうと

考えている

6 謝辞

東京理科大学工学部工業化学科 近藤行成教授

東京理科大学理学部化学科 遠藤恆平准教授

東京理科大学理学部応用化学科 駒場慎一教授

この研究を進めるに当たり大変お世話になった先輩先生方企業の皆さんに感謝の

意を表明します

参考文献

1) 小澤美奈子 基礎高分子科学 高分子学会 編 2010年 第六版 p979899

2) 小澤美奈子 基礎高分子科学 高分子学会 編 2010年 第六版 p99100

3) 金田 勇 逆相マイクロエマルション重合法による水膨潤性ミクロゲルの重合とその増

粘剤としての応用 2010年 p1

4) 小林敏勝 福井寛 きちん知りたい粒子表面と分散技術 日刊工業新聞社 p76

5) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 2006 p839 840 841

6) 皆川基 藤井富美子 洗剤洗浄 百科事典 大矢勝 2007年版 p4647

7) 日本産業洗浄協議会編 わかりやすい界面活性剤 工業調査会 2003 p373839

8) 資生堂 HP httpswwwshiseidogroupjprddevelopmentformulationhtmlより 2015

44取得

9) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 テクノシステム 2006 p321

10) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 テクノシステム 2006 p397

13

398399

11) 遠藤 剛 高分子の合成(上)~ラジカルカチオンアニオン重合~ 講談社 2010 3p

12) 佐藤壽彌編 高分子微粒子の技術と応用 シーエムシー出版 2004 p2526

13) 佐藤壽彌編 高分子微粒子の技術と応用 シーエムシー出版 2004 p27

14) マクマリー 上 8版 東京化学同人 p403404

15) John McMurry マクマリー有機化学(上) 第 8版 2013 p410411

Page 37: ゼオライトとキトサンを用いた 金属イオン除去剤の …kaken/studies/2015/2015-s-all.pdf1 東京理科大学I 部化学研究部 2015 年度春輪講書 ゼオライトとキトサンを用いた

9

1)DNゲルを X方向の長さ 50 mmY方向の長さ 75 mmZ方向の長さが 25 mmの大

きさに成形する

2)その一端部に X-Y平面に平行な切込みを入れて2つの引張端部を形成する

3) 引張端部を片方は固定しもう片方を一定の速度で引っ張るこのときの引っ張る力 F

を測定する

Fig 2 引っ張り試験 13)

422 摩擦試験

使用するモノマーの変化溶媒の変化によるゲルの性質の差を評価する

摩擦試験は東京理科大学工学部第一部機械工学科佐々木研究室に依頼する予定である

用いる機械は SVR4パーカー熱処理工業株式会社製であり180での高温での摩擦係

数の測定が可能である

摩擦測定は常温(20 )と高温(100 )で測定することを予定している

10

5 展望

51 DNゲルの合成

実験操作は溶液を調製した後UV照射するという簡易な手順なので合成は比較的早い

段階で成功すると考えられる

1st networkゲル合成に使うのは電解質モノマーなため水溶液のモノマーの濃度が低

いと湿潤度 Q が大きくなりせん断弾性率が下がり剛性が弱いゲルが出来上がると考え

られる

架橋剤を多く使用すると架橋密度を上がるので 2nd networkゲルが入り込む空洞が小

さくなるそのために架橋剤が多すぎると高弾性のゲルが生成できると考えられる

また同様な考えで2nd networkモノマーが含まれている水溶液に乾燥させた1st network

ゲルを入れる量が多くても高弾性のゲルが生成できると考えられる

52 DNゲルの物性

ゲルの高分子網目は基板から離れようとするときにゲルと基板の間に僅かな溶媒層

が生じるこの状態では溶媒層が潤滑油のような働きをして生じる摩擦力は小さなも

のとなるゲル周辺が高温な状態ではこの溶媒層が水の場合は蒸発してしまうので摩

擦力は増大すると考えられる溶媒を水からより沸点の高いエチレングリコールなどに

変えれば摩擦力は増大することはないと推測される 14)

11

参考文献

1) J Bastide and L LeiblerMacromolecules1988212647

2) G G J Lake and A G ThomasProc R Soc LondonA1967300108

3)越後亮三 機械工学辞典 朝倉書店 2007 p631

4) 伊藤勝悦 やさしく学べる材料力学 森北出版 2014 p14

5)SPObukhovMRubinstein and RHColby Macromolecules 1994273191-3198

6)MRubinsteinRHColbyAVDobrynin and JJaonnyElasticMacromolecules199629398-406

7) 大 阪 府 立 大 学 基 礎 講 座 材 料 の 強 度 と 破 壊

httpwwwengmmtrosakafu-uacjpresearchstrength-japdf2015413取得

8)聾剣萍「生命科学時代の新材料-高弾性高靱性ダブルネットワークゲル」高分子学会

『高分子』高分子科学最近の進歩58巻 5号2009p327-p331

9)YTanakaEurophysLett20077856005

10)蓮池幹治ラジカル重合ハンドブックエヌティーエス2010p444-p445

11)大津隆行ラジカル重合(Ⅰ)化学同人1971p80-p81

12)大津隆行ラジカル重合(Ⅰ)化学同人1971p153-p154

13)聾剣萍高分子ゲルおよびその製造方法特開 2009-185156 2008-02-05

14) 角五 彰龔 剣萍長田義仁「ゲルの摩擦と水和潤滑~生物の滑らかな運動解明への

アプローチ」日本生物物理学会『生物物理』47巻 4号2007p 253-p258

1

東京理科大学Ⅰ部化学研究部 2015年度春輪講書

耐塩性の高い新規化粧品用増粘剤の開発 2015年度金曜班

Nomata N(2OK)Seki M(2OK)Tin J(2OK)Takahashi R(2C)Watanabe A(2K)

Asai D(2K) Nishimiti D(2K)Yamamoto R(2K)

1 動機

化粧品において増粘剤の果たす役割は非常に大きい

化粧品にはクリーム状のモノが多くありその整形には増粘剤が必要不可欠である

また増粘剤は製剤だけでなく密閉効果や水和効果によって薬剤を皮膚に効率的に輸

送することに役立っている

この増粘剤であるが一つ課題がありアスコルビン酸塩(ビタミン C)のようなクロロ

基を持つ塩系薬剤をゲル中に含む場合経時によってべたつきといった使用感の悪化

につながるといった弱点があるこの問題の解決のために塩系薬剤への耐性の高い増

粘剤の開発が望まれている

塩系薬剤の高い美容効果からこの問題の解決に対する化粧剤企業のニーズは高くこ

の問題は長く研究が続けられていたが近年資生堂が逆相マイクロエマルション重

合法によって microスケールの粒状高分子を多数合成することによりできる増粘剤が高い

耐塩性を持ち使用感もよいことを発見したがこの粒状高分子増粘剤には未だ試み

られていないモノマーが多くある

そこで今年度の金曜班ではこの逆相マイクロエマルション重合法において未だ

試みられていない親水基を持つモノマーを利用して新規の増粘剤をつくることで粒

状高分子による増粘剤の耐塩性と肌触りと親水基の関係を調べ応用化に利すること

ができるのではないかと考え実験を行うこととした

2 背景

増粘剤とは水溶液をゲル化するために添加される物質であり化粧品において広く

用いられているこの増粘効果は従来では高分子鎖同士の分子間力や架橋で生じる

網目構造の結果生じる液中の摩擦力によるものである

動機で述べたように μスケールの粒状高分子が増粘剤として良質であることがわか

っているただし粒状高分子の形状は反応場であるセッケンミセルの大きさだけで

なく親水基やポリマーを構成する原子同士の分子間力によって変わる高分子の立体構

2

造にも影響されている

また粒状高分子の正確な一次構造を把握することは大変難しいことであるので

応用化のためには高分子の一次構造でなくモノマーによって粒状高分子特性の変化

を調べることが重要である

さらに従来用いられているポリマーがスルホ基とカルボキシル基を親水基とする

ものしか存在しない

以上の三点から酸以外の親水基をもつモノマーで増粘剤を合成したときその性

質はどうなるかを調べることでより製品として利用価値が高い粒状高分子増粘剤を合

成することができるのではないかと考えた

そこで新規モノマーとしては対照実験を行うためにアクリルアミド系モノマー

でかつ 2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸のスルホ基と同じ炭素骨格の先

端に親水基が存在するものとしてN-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド (3-アク

リルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライドを用いてそれぞれ親水基が酸

ではなくヒドロキシ基である場合親水基がアニオンではなくカチオンである場合に

ついて研究を行うこととした

この二種の以外にも水溶性のアクリルアミドポリマーは存在するが上記の条件を満

たさないまたは高価であるため本実験では用いないこととした

Fig1 N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド

Fig2 (3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライド

3

3 原理

31 一般的な液体の粘性

溶液の粘性は一般論では以下のように表される

Fig3のように XY平面を取り液面に平板を用意し引っ張った時挟まれた溶液内

には図のようなせん断流動が発生する高さ Yでのせん断速度は(119881

119889) 119910で与えられる

この時平板に挟まれた溶液を薄層の集まりと考えると隣り合う薄層間に摩擦が生

じるこの内部摩擦力が粘性力であるずり速度勾配が十分に小さければ平板の単位

面積当たりに生じる粘性力 Fv0はその勾配 Vd に比例するすなわち以下の式で表

され1205780を粘性係数と呼ぶこの値は溶媒固有である1)

1198651199070 = 1205780 (119881

119889)

Fig3 溶液ずりせん断図

32 増粘剤の粘性

増粘剤の多くは低分子の液体に高分子を溶かすと著しく粘性が高くなる性質を利

用している

この粘性の発生するメカニズムは下の Fig4において平板間の溶液を薄層に分けた

際高分子鎖は溶液の移動に伴って回転するこのとき溶液中の薄層は薄層間の摩

擦以外に高分子鎖との間にも摩擦が生じているこの摩擦の増加が粘性力の増加とな

る 2)

4

Fig4 高分子による粘性増加

また高分子鎖同士が分子間力によって結びつき三次元構造を形成することで内

部摩擦力は一層大きくなるこのため高分子による増粘効果は顕著である

架橋高分子では三次元構造が高分子鎖同士の分子間力による形成よりも強いものと

なるので増粘効果及びレオロジー特性に優れる 3)

33 塩系薬剤による粘性劣化のメカニズム

塩系薬剤とはビタミンC (アスコルビン酸塩)のようにクロロ基をもつ薬効物質のこ

とである

このクロロ基が直鎖高分子や架橋高分子がポリマー間で形成する三次元網目構造

を破壊することによって増粘効果を消失させ内容物の流失によるべたつきを生じさ

せる 3)

34 粒状高分子の粘性

粒状高分子の粘性について粒状高分子はその粒経が小さいほど体積に対する表面

積が増え溶液内での内部摩擦力が大きくなる

また粒子同士が摩擦力を元に網目構造を形成するため網目構造の構成要因が直

鎖高分子や架橋高分子の高分子増粘剤と異なっている 4)

35 逆相マイクロエマルション重合法

後述する転相温度乳化法を用いて形成した5 μm~30 μm 形成したマイクロエマル

ション内において水溶性のモノマーを利用して行う乳化重合法の一種容易に極小の

5

ポリマーを合成することができる 5)

36 界面活性剤の概略

界面活性剤とは分子の構造が水になじみやすい部分(親水基)と油になじみやすい

部分(新油基)からできていて2つの物質の間の界面に集まりやすい性質を持ちそ

の界面の性質を著しく変える物質というのが界面活性剤の定義である

代表的な界面活性剤の特徴は界面における「吸着」と「ミセル形成」である 6)

もうひとつの代表的な作用として「可溶化」もある

37 エマルションの形成

界面活性剤に有機溶媒が取り囲まれて水に可溶化されたとき水溶液中に存在する

有機溶媒を界面活性剤が取り囲んだ液滴のことを OW エマルションと呼ぶ

有機溶媒中に水が可溶化される場合WOエマルションと呼ぶ

38 ノニオン界面活性剤

非イオン界面活性剤とも言う界面活性剤の内解離基を持たず電気的に中性な

界面活性剤で親水基は主にポリオキシエチレン基であるその特殊な性質上他の種類

の界面活性剤に無い性質として曇点と転相温度を持つ 今回使用するノニオン界面

活性剤はポリオキシエチレンオレイルエーテルであり基本式は以下のような形にな

る 7)

R-O(CH2CH2O)n-H

Scheme 1 ポリオキシエチレンオレイルエーテルの基本式

39 曇点

曇点とは透明な液体が相分離を起こして白濁する温度のこと

本実験においてはノニオン界面活性剤が加温によって界面活性効果を失い相分離

によって白濁する温度のこと 8)

310 転相温度乳化

ノニオン界面活性剤は加温によって界面張力が変化しWO型エマルションから

OW 型に変化するこの変化点のことを転相温度と言い転相温度において界

6

面張力が最低になっているので溶液エマルションが極小になる

またこの転相温度は界面活性剤に固有の値となるので二種の比較的性質の

近い界面活性剤を混合することで転相温度を操作し適切な温度で5 μm~30 μm

程度の直径を持つエマルションを作成する方法を転相温度乳化法と呼ぶ 10)

311 ラジカル重合

開始剤を用いてラジカル種を生成して行う重合法のことをラジカル重合法と言う

開始剤の分解要因によって熱光放射線ラジカル重合の三つに分けられる 10)

3111 ラジカル重合を構成する四反応

ラジカル重合は 4種類の反応が同時並行的に起こるそれぞれ以下の通りである 11)

開始反応

開始剤が熱光放射光などの要因によってラジカル開裂を起こしラジカル種を

生じさせる反応

成長反応

ラジカル種がモノマーと反応することでモノマー新たなラジカル種が生成する

反応これが連続することでポリマーが合成される

停止反応

連鎖していた成長反応が止まる反応主にラジカル種同士の反応による

連鎖移動反応

ラジカル種がモノマー以外の分子主に溶媒分子等と反応することでポリマー以

外の物質を合成する副反応

3112 乳化重合

乳化重合はモノマー液滴と呼ばれるモノマーを大量に保存しているエマルシ

ョンと反応場となる極小のセッケンミセルの二つの構造を持つ溶液中で行う不均

一系ラジカル重合の一種である 12)

成長反応が一段階進むたびにモノマー液滴から拡散の理論式に従ってモノマ

ーがミセル内に移動するこの一連の反応を繰り返して反応が進む 13)

そのため種々のラジカル重合法と比較して以下の特長がある 13)

セッケンミセル内に存在するラジカルが常に一つであるため停止反応が

7

起こりにくく比較的重合度の高いポリマーが生成しやすい

反応速度が拡散作用によって律速されかつセッケンミセルの周囲を大量

の溶媒分子が囲んでいるため除熱が容易であるという理由から熱暴走を起

こしにくいという利点がある

ミセル内で重合するため合成した高分子が絡まりやすく粒状の分子が作

成できる

Fig5 乳化重合模式図

312 MS(質量分析法)

質量分析法とは分子の質量すなわち分子量を測る手段でもあるまた分子を分解

したフラグメントの質量を測ることによって分子構造に関する情報を得るものでも

ある

高エネルギー電子が有機分子にぶつかると分子から電子がはじき出せれカチオ

ンラジカルが発生する

119825119815 rarr 119825119815++119838minus Scheme 2カチオンラジカルの発生

電子の衝突により大量のエネルギーが分子に与えられることで大部分のカチオン

ラジカルを生成した後フラグメントに分解するフラグメントは小さな破片となっ

て浮遊し正電荷や中性となる

このカチオンラジカルとフラグメントについてmz値を横軸相対強度を縦軸につ

いて取ったグラフから質量スペクトルを読み取る 14)

またMS(質量分析法)はイオン化の方法などによりいくつかに分けられ今回使用

したいのは高分子試料でもほとんどフラグメンテーションを起こさないソフトなイ

8

オン化法であるMALDI法 15)である

3121 MALDI法(マトリックス支援レーザー脱離イオン化法)

試料を 25-ヒドロキシ安息香酸のような適切なマトリックス上に吸着させて

ペレットを作成しレーザー光を短時間照射してイオン化する

エネルギーがマトリックスから試料に移動し[119872 + 119867119899 ]119899+に分解される 15)

MALDI法にはよく TOF型の MSが用いられている

4 実験

41 2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を用いた既存化粧品用増粘剤の合成

411 使用器具試薬

温度計ウォーターバスビーカー薬さじデシケーター

ジメチルアクリルアミド

式量9913

沸点81

発火点71

LD50(経口)316mgkg

LD50(経皮)580mgkg

製造和光純薬工業株式会社

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸

式量20725

融点200

LD50(経口)5400mgkg

製造和光純薬工業株式会社

NN-メチレンビスアクリルアミド

式量156

沸点4451

発火点215

LD50(経口)390mgkg

製造東京化成工業株式会社

9

へプタン

式量1002

沸点98

引火点-4

水に不溶

製造昭和化学

2-プロパノール

式量60

沸点82

発火点12

LD50(経口)区分外(GHS分類)

LD50(経皮)区分外(GHS分類)

製造昭和化学

ペルオキソ二硫酸アンモニウム

式量22820

冷水に易溶保存湿気厳禁

重合開始罪乳化重合レドックス重合に用いられる

製造和光純薬工業株式会社

412 実験手順

① ビーカーにイオン交換水ヘプタンポリオキシエチレンオレイルエーテル(2)

(8)をそれぞれ507 mL 507 mL489 g((2)(8)=23)加えて良く撹拌したも

のを入れる

② その後その後温度調節機能つきスターラーに乗せ白濁するまで加熱する

白濁した液が透明化するまで温度を落とし電気伝導率計を用いて溶液が転

相温度付近に保たれていることを確認する

③ 以上の操作が済んだ重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先

ほどのスターラーと同じ温度にしたウォーターバスに移し2-アクリルアミド

-2-メチルプロパンスルホン酸NNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 137 g

262 g入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始

剤としてメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

10

④ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

42 N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミドを用いた新規化粧品用増粘剤の合成

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を誘導体と入れ替える以外の

操作は 41に準ずる

親水基による増粘性の変化を観察するため架橋剤のモノマーに対する濃度比

は 2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を使用したポリマーが最も増

粘効果の高くなると報告された濃度比を用いる

421 使用器具試薬

使用器具は 41に準ずる

試薬

N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド

式量11513

沸点130

発火点189

製造東京化成工業株式会社

422 実験手順

① 412 ①②と同じように重合系を作成する

② 以上の操作が済んだ重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先

ほどのスターラーと同じ温度にしたウォーターバスに移しN-(2-ヒドロキシエ

チル)アクリルアミドNNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 076 g262

g 入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始剤と

してメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

③ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

11

43 (3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライドを用いた新規化粧品用

増粘剤の合成

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を誘導体と入れ替える以外の操作は

41に準ずる

親水基による増粘性の変化を観察するため架橋剤のモノマーに対する濃度比は 2-ア

クリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を使用したポリマーが最も増粘効果の高く

なると報告された濃度比を用いる

431 実験器具

実験器具は 41に準ずる

試薬

(3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライド

式量22074

沸点100

製造東京化成工業株式会社

432 実験手順

① 412 ①②と同じように重合系を作成する

② 重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先ほどのスターラーと

同じ温度にしたウォーターバスに移し (3-アクリルアミドプロピル)トリメチ

ルアミニウムクロライドNNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 123 mL

262 g入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始

剤としてメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

③ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

5 評価分析

耐塩性の高い増粘剤の耐塩性と使用感と親水基との関係を評価するために以下の二

つの測定を行い評価する

増粘剤の耐塩性の評価のために塩酸を増粘剤内部に取り込ませた状態で経時

12

による粘度の変化を観察する

また高分子の粘性を考える上で直鎖高分子の場合よく参考にされるのが平

均分子量でありこの値を測定することで親水基が変化した場合に平均分子

量が粒状高分子の粘性にも大きく影響するか確認する

精密に上の測定を行うには専用の機器が必要になるため機器メーカーの株式

会社エーアンドデイ様または東京理科大学理学部応用化学科駒場研究室に

また高分子の性質を考える上で重要視される平均分子量及び分子量分布に

ついては東京理科大学化学系機器センターにあるMALDI-TOF型質量分析計を管

理者の東京理科大学理学部応用化学科の根岸先生に測定に協力していただこうと

考えている

6 謝辞

東京理科大学工学部工業化学科 近藤行成教授

東京理科大学理学部化学科 遠藤恆平准教授

東京理科大学理学部応用化学科 駒場慎一教授

この研究を進めるに当たり大変お世話になった先輩先生方企業の皆さんに感謝の

意を表明します

参考文献

1) 小澤美奈子 基礎高分子科学 高分子学会 編 2010年 第六版 p979899

2) 小澤美奈子 基礎高分子科学 高分子学会 編 2010年 第六版 p99100

3) 金田 勇 逆相マイクロエマルション重合法による水膨潤性ミクロゲルの重合とその増

粘剤としての応用 2010年 p1

4) 小林敏勝 福井寛 きちん知りたい粒子表面と分散技術 日刊工業新聞社 p76

5) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 2006 p839 840 841

6) 皆川基 藤井富美子 洗剤洗浄 百科事典 大矢勝 2007年版 p4647

7) 日本産業洗浄協議会編 わかりやすい界面活性剤 工業調査会 2003 p373839

8) 資生堂 HP httpswwwshiseidogroupjprddevelopmentformulationhtmlより 2015

44取得

9) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 テクノシステム 2006 p321

10) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 テクノシステム 2006 p397

13

398399

11) 遠藤 剛 高分子の合成(上)~ラジカルカチオンアニオン重合~ 講談社 2010 3p

12) 佐藤壽彌編 高分子微粒子の技術と応用 シーエムシー出版 2004 p2526

13) 佐藤壽彌編 高分子微粒子の技術と応用 シーエムシー出版 2004 p27

14) マクマリー 上 8版 東京化学同人 p403404

15) John McMurry マクマリー有機化学(上) 第 8版 2013 p410411

Page 38: ゼオライトとキトサンを用いた 金属イオン除去剤の …kaken/studies/2015/2015-s-all.pdf1 東京理科大学I 部化学研究部 2015 年度春輪講書 ゼオライトとキトサンを用いた

10

5 展望

51 DNゲルの合成

実験操作は溶液を調製した後UV照射するという簡易な手順なので合成は比較的早い

段階で成功すると考えられる

1st networkゲル合成に使うのは電解質モノマーなため水溶液のモノマーの濃度が低

いと湿潤度 Q が大きくなりせん断弾性率が下がり剛性が弱いゲルが出来上がると考え

られる

架橋剤を多く使用すると架橋密度を上がるので 2nd networkゲルが入り込む空洞が小

さくなるそのために架橋剤が多すぎると高弾性のゲルが生成できると考えられる

また同様な考えで2nd networkモノマーが含まれている水溶液に乾燥させた1st network

ゲルを入れる量が多くても高弾性のゲルが生成できると考えられる

52 DNゲルの物性

ゲルの高分子網目は基板から離れようとするときにゲルと基板の間に僅かな溶媒層

が生じるこの状態では溶媒層が潤滑油のような働きをして生じる摩擦力は小さなも

のとなるゲル周辺が高温な状態ではこの溶媒層が水の場合は蒸発してしまうので摩

擦力は増大すると考えられる溶媒を水からより沸点の高いエチレングリコールなどに

変えれば摩擦力は増大することはないと推測される 14)

11

参考文献

1) J Bastide and L LeiblerMacromolecules1988212647

2) G G J Lake and A G ThomasProc R Soc LondonA1967300108

3)越後亮三 機械工学辞典 朝倉書店 2007 p631

4) 伊藤勝悦 やさしく学べる材料力学 森北出版 2014 p14

5)SPObukhovMRubinstein and RHColby Macromolecules 1994273191-3198

6)MRubinsteinRHColbyAVDobrynin and JJaonnyElasticMacromolecules199629398-406

7) 大 阪 府 立 大 学 基 礎 講 座 材 料 の 強 度 と 破 壊

httpwwwengmmtrosakafu-uacjpresearchstrength-japdf2015413取得

8)聾剣萍「生命科学時代の新材料-高弾性高靱性ダブルネットワークゲル」高分子学会

『高分子』高分子科学最近の進歩58巻 5号2009p327-p331

9)YTanakaEurophysLett20077856005

10)蓮池幹治ラジカル重合ハンドブックエヌティーエス2010p444-p445

11)大津隆行ラジカル重合(Ⅰ)化学同人1971p80-p81

12)大津隆行ラジカル重合(Ⅰ)化学同人1971p153-p154

13)聾剣萍高分子ゲルおよびその製造方法特開 2009-185156 2008-02-05

14) 角五 彰龔 剣萍長田義仁「ゲルの摩擦と水和潤滑~生物の滑らかな運動解明への

アプローチ」日本生物物理学会『生物物理』47巻 4号2007p 253-p258

1

東京理科大学Ⅰ部化学研究部 2015年度春輪講書

耐塩性の高い新規化粧品用増粘剤の開発 2015年度金曜班

Nomata N(2OK)Seki M(2OK)Tin J(2OK)Takahashi R(2C)Watanabe A(2K)

Asai D(2K) Nishimiti D(2K)Yamamoto R(2K)

1 動機

化粧品において増粘剤の果たす役割は非常に大きい

化粧品にはクリーム状のモノが多くありその整形には増粘剤が必要不可欠である

また増粘剤は製剤だけでなく密閉効果や水和効果によって薬剤を皮膚に効率的に輸

送することに役立っている

この増粘剤であるが一つ課題がありアスコルビン酸塩(ビタミン C)のようなクロロ

基を持つ塩系薬剤をゲル中に含む場合経時によってべたつきといった使用感の悪化

につながるといった弱点があるこの問題の解決のために塩系薬剤への耐性の高い増

粘剤の開発が望まれている

塩系薬剤の高い美容効果からこの問題の解決に対する化粧剤企業のニーズは高くこ

の問題は長く研究が続けられていたが近年資生堂が逆相マイクロエマルション重

合法によって microスケールの粒状高分子を多数合成することによりできる増粘剤が高い

耐塩性を持ち使用感もよいことを発見したがこの粒状高分子増粘剤には未だ試み

られていないモノマーが多くある

そこで今年度の金曜班ではこの逆相マイクロエマルション重合法において未だ

試みられていない親水基を持つモノマーを利用して新規の増粘剤をつくることで粒

状高分子による増粘剤の耐塩性と肌触りと親水基の関係を調べ応用化に利すること

ができるのではないかと考え実験を行うこととした

2 背景

増粘剤とは水溶液をゲル化するために添加される物質であり化粧品において広く

用いられているこの増粘効果は従来では高分子鎖同士の分子間力や架橋で生じる

網目構造の結果生じる液中の摩擦力によるものである

動機で述べたように μスケールの粒状高分子が増粘剤として良質であることがわか

っているただし粒状高分子の形状は反応場であるセッケンミセルの大きさだけで

なく親水基やポリマーを構成する原子同士の分子間力によって変わる高分子の立体構

2

造にも影響されている

また粒状高分子の正確な一次構造を把握することは大変難しいことであるので

応用化のためには高分子の一次構造でなくモノマーによって粒状高分子特性の変化

を調べることが重要である

さらに従来用いられているポリマーがスルホ基とカルボキシル基を親水基とする

ものしか存在しない

以上の三点から酸以外の親水基をもつモノマーで増粘剤を合成したときその性

質はどうなるかを調べることでより製品として利用価値が高い粒状高分子増粘剤を合

成することができるのではないかと考えた

そこで新規モノマーとしては対照実験を行うためにアクリルアミド系モノマー

でかつ 2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸のスルホ基と同じ炭素骨格の先

端に親水基が存在するものとしてN-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド (3-アク

リルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライドを用いてそれぞれ親水基が酸

ではなくヒドロキシ基である場合親水基がアニオンではなくカチオンである場合に

ついて研究を行うこととした

この二種の以外にも水溶性のアクリルアミドポリマーは存在するが上記の条件を満

たさないまたは高価であるため本実験では用いないこととした

Fig1 N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド

Fig2 (3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライド

3

3 原理

31 一般的な液体の粘性

溶液の粘性は一般論では以下のように表される

Fig3のように XY平面を取り液面に平板を用意し引っ張った時挟まれた溶液内

には図のようなせん断流動が発生する高さ Yでのせん断速度は(119881

119889) 119910で与えられる

この時平板に挟まれた溶液を薄層の集まりと考えると隣り合う薄層間に摩擦が生

じるこの内部摩擦力が粘性力であるずり速度勾配が十分に小さければ平板の単位

面積当たりに生じる粘性力 Fv0はその勾配 Vd に比例するすなわち以下の式で表

され1205780を粘性係数と呼ぶこの値は溶媒固有である1)

1198651199070 = 1205780 (119881

119889)

Fig3 溶液ずりせん断図

32 増粘剤の粘性

増粘剤の多くは低分子の液体に高分子を溶かすと著しく粘性が高くなる性質を利

用している

この粘性の発生するメカニズムは下の Fig4において平板間の溶液を薄層に分けた

際高分子鎖は溶液の移動に伴って回転するこのとき溶液中の薄層は薄層間の摩

擦以外に高分子鎖との間にも摩擦が生じているこの摩擦の増加が粘性力の増加とな

る 2)

4

Fig4 高分子による粘性増加

また高分子鎖同士が分子間力によって結びつき三次元構造を形成することで内

部摩擦力は一層大きくなるこのため高分子による増粘効果は顕著である

架橋高分子では三次元構造が高分子鎖同士の分子間力による形成よりも強いものと

なるので増粘効果及びレオロジー特性に優れる 3)

33 塩系薬剤による粘性劣化のメカニズム

塩系薬剤とはビタミンC (アスコルビン酸塩)のようにクロロ基をもつ薬効物質のこ

とである

このクロロ基が直鎖高分子や架橋高分子がポリマー間で形成する三次元網目構造

を破壊することによって増粘効果を消失させ内容物の流失によるべたつきを生じさ

せる 3)

34 粒状高分子の粘性

粒状高分子の粘性について粒状高分子はその粒経が小さいほど体積に対する表面

積が増え溶液内での内部摩擦力が大きくなる

また粒子同士が摩擦力を元に網目構造を形成するため網目構造の構成要因が直

鎖高分子や架橋高分子の高分子増粘剤と異なっている 4)

35 逆相マイクロエマルション重合法

後述する転相温度乳化法を用いて形成した5 μm~30 μm 形成したマイクロエマル

ション内において水溶性のモノマーを利用して行う乳化重合法の一種容易に極小の

5

ポリマーを合成することができる 5)

36 界面活性剤の概略

界面活性剤とは分子の構造が水になじみやすい部分(親水基)と油になじみやすい

部分(新油基)からできていて2つの物質の間の界面に集まりやすい性質を持ちそ

の界面の性質を著しく変える物質というのが界面活性剤の定義である

代表的な界面活性剤の特徴は界面における「吸着」と「ミセル形成」である 6)

もうひとつの代表的な作用として「可溶化」もある

37 エマルションの形成

界面活性剤に有機溶媒が取り囲まれて水に可溶化されたとき水溶液中に存在する

有機溶媒を界面活性剤が取り囲んだ液滴のことを OW エマルションと呼ぶ

有機溶媒中に水が可溶化される場合WOエマルションと呼ぶ

38 ノニオン界面活性剤

非イオン界面活性剤とも言う界面活性剤の内解離基を持たず電気的に中性な

界面活性剤で親水基は主にポリオキシエチレン基であるその特殊な性質上他の種類

の界面活性剤に無い性質として曇点と転相温度を持つ 今回使用するノニオン界面

活性剤はポリオキシエチレンオレイルエーテルであり基本式は以下のような形にな

る 7)

R-O(CH2CH2O)n-H

Scheme 1 ポリオキシエチレンオレイルエーテルの基本式

39 曇点

曇点とは透明な液体が相分離を起こして白濁する温度のこと

本実験においてはノニオン界面活性剤が加温によって界面活性効果を失い相分離

によって白濁する温度のこと 8)

310 転相温度乳化

ノニオン界面活性剤は加温によって界面張力が変化しWO型エマルションから

OW 型に変化するこの変化点のことを転相温度と言い転相温度において界

6

面張力が最低になっているので溶液エマルションが極小になる

またこの転相温度は界面活性剤に固有の値となるので二種の比較的性質の

近い界面活性剤を混合することで転相温度を操作し適切な温度で5 μm~30 μm

程度の直径を持つエマルションを作成する方法を転相温度乳化法と呼ぶ 10)

311 ラジカル重合

開始剤を用いてラジカル種を生成して行う重合法のことをラジカル重合法と言う

開始剤の分解要因によって熱光放射線ラジカル重合の三つに分けられる 10)

3111 ラジカル重合を構成する四反応

ラジカル重合は 4種類の反応が同時並行的に起こるそれぞれ以下の通りである 11)

開始反応

開始剤が熱光放射光などの要因によってラジカル開裂を起こしラジカル種を

生じさせる反応

成長反応

ラジカル種がモノマーと反応することでモノマー新たなラジカル種が生成する

反応これが連続することでポリマーが合成される

停止反応

連鎖していた成長反応が止まる反応主にラジカル種同士の反応による

連鎖移動反応

ラジカル種がモノマー以外の分子主に溶媒分子等と反応することでポリマー以

外の物質を合成する副反応

3112 乳化重合

乳化重合はモノマー液滴と呼ばれるモノマーを大量に保存しているエマルシ

ョンと反応場となる極小のセッケンミセルの二つの構造を持つ溶液中で行う不均

一系ラジカル重合の一種である 12)

成長反応が一段階進むたびにモノマー液滴から拡散の理論式に従ってモノマ

ーがミセル内に移動するこの一連の反応を繰り返して反応が進む 13)

そのため種々のラジカル重合法と比較して以下の特長がある 13)

セッケンミセル内に存在するラジカルが常に一つであるため停止反応が

7

起こりにくく比較的重合度の高いポリマーが生成しやすい

反応速度が拡散作用によって律速されかつセッケンミセルの周囲を大量

の溶媒分子が囲んでいるため除熱が容易であるという理由から熱暴走を起

こしにくいという利点がある

ミセル内で重合するため合成した高分子が絡まりやすく粒状の分子が作

成できる

Fig5 乳化重合模式図

312 MS(質量分析法)

質量分析法とは分子の質量すなわち分子量を測る手段でもあるまた分子を分解

したフラグメントの質量を測ることによって分子構造に関する情報を得るものでも

ある

高エネルギー電子が有機分子にぶつかると分子から電子がはじき出せれカチオ

ンラジカルが発生する

119825119815 rarr 119825119815++119838minus Scheme 2カチオンラジカルの発生

電子の衝突により大量のエネルギーが分子に与えられることで大部分のカチオン

ラジカルを生成した後フラグメントに分解するフラグメントは小さな破片となっ

て浮遊し正電荷や中性となる

このカチオンラジカルとフラグメントについてmz値を横軸相対強度を縦軸につ

いて取ったグラフから質量スペクトルを読み取る 14)

またMS(質量分析法)はイオン化の方法などによりいくつかに分けられ今回使用

したいのは高分子試料でもほとんどフラグメンテーションを起こさないソフトなイ

8

オン化法であるMALDI法 15)である

3121 MALDI法(マトリックス支援レーザー脱離イオン化法)

試料を 25-ヒドロキシ安息香酸のような適切なマトリックス上に吸着させて

ペレットを作成しレーザー光を短時間照射してイオン化する

エネルギーがマトリックスから試料に移動し[119872 + 119867119899 ]119899+に分解される 15)

MALDI法にはよく TOF型の MSが用いられている

4 実験

41 2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を用いた既存化粧品用増粘剤の合成

411 使用器具試薬

温度計ウォーターバスビーカー薬さじデシケーター

ジメチルアクリルアミド

式量9913

沸点81

発火点71

LD50(経口)316mgkg

LD50(経皮)580mgkg

製造和光純薬工業株式会社

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸

式量20725

融点200

LD50(経口)5400mgkg

製造和光純薬工業株式会社

NN-メチレンビスアクリルアミド

式量156

沸点4451

発火点215

LD50(経口)390mgkg

製造東京化成工業株式会社

9

へプタン

式量1002

沸点98

引火点-4

水に不溶

製造昭和化学

2-プロパノール

式量60

沸点82

発火点12

LD50(経口)区分外(GHS分類)

LD50(経皮)区分外(GHS分類)

製造昭和化学

ペルオキソ二硫酸アンモニウム

式量22820

冷水に易溶保存湿気厳禁

重合開始罪乳化重合レドックス重合に用いられる

製造和光純薬工業株式会社

412 実験手順

① ビーカーにイオン交換水ヘプタンポリオキシエチレンオレイルエーテル(2)

(8)をそれぞれ507 mL 507 mL489 g((2)(8)=23)加えて良く撹拌したも

のを入れる

② その後その後温度調節機能つきスターラーに乗せ白濁するまで加熱する

白濁した液が透明化するまで温度を落とし電気伝導率計を用いて溶液が転

相温度付近に保たれていることを確認する

③ 以上の操作が済んだ重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先

ほどのスターラーと同じ温度にしたウォーターバスに移し2-アクリルアミド

-2-メチルプロパンスルホン酸NNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 137 g

262 g入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始

剤としてメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

10

④ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

42 N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミドを用いた新規化粧品用増粘剤の合成

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を誘導体と入れ替える以外の

操作は 41に準ずる

親水基による増粘性の変化を観察するため架橋剤のモノマーに対する濃度比

は 2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を使用したポリマーが最も増

粘効果の高くなると報告された濃度比を用いる

421 使用器具試薬

使用器具は 41に準ずる

試薬

N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド

式量11513

沸点130

発火点189

製造東京化成工業株式会社

422 実験手順

① 412 ①②と同じように重合系を作成する

② 以上の操作が済んだ重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先

ほどのスターラーと同じ温度にしたウォーターバスに移しN-(2-ヒドロキシエ

チル)アクリルアミドNNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 076 g262

g 入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始剤と

してメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

③ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

11

43 (3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライドを用いた新規化粧品用

増粘剤の合成

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を誘導体と入れ替える以外の操作は

41に準ずる

親水基による増粘性の変化を観察するため架橋剤のモノマーに対する濃度比は 2-ア

クリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を使用したポリマーが最も増粘効果の高く

なると報告された濃度比を用いる

431 実験器具

実験器具は 41に準ずる

試薬

(3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライド

式量22074

沸点100

製造東京化成工業株式会社

432 実験手順

① 412 ①②と同じように重合系を作成する

② 重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先ほどのスターラーと

同じ温度にしたウォーターバスに移し (3-アクリルアミドプロピル)トリメチ

ルアミニウムクロライドNNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 123 mL

262 g入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始

剤としてメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

③ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

5 評価分析

耐塩性の高い増粘剤の耐塩性と使用感と親水基との関係を評価するために以下の二

つの測定を行い評価する

増粘剤の耐塩性の評価のために塩酸を増粘剤内部に取り込ませた状態で経時

12

による粘度の変化を観察する

また高分子の粘性を考える上で直鎖高分子の場合よく参考にされるのが平

均分子量でありこの値を測定することで親水基が変化した場合に平均分子

量が粒状高分子の粘性にも大きく影響するか確認する

精密に上の測定を行うには専用の機器が必要になるため機器メーカーの株式

会社エーアンドデイ様または東京理科大学理学部応用化学科駒場研究室に

また高分子の性質を考える上で重要視される平均分子量及び分子量分布に

ついては東京理科大学化学系機器センターにあるMALDI-TOF型質量分析計を管

理者の東京理科大学理学部応用化学科の根岸先生に測定に協力していただこうと

考えている

6 謝辞

東京理科大学工学部工業化学科 近藤行成教授

東京理科大学理学部化学科 遠藤恆平准教授

東京理科大学理学部応用化学科 駒場慎一教授

この研究を進めるに当たり大変お世話になった先輩先生方企業の皆さんに感謝の

意を表明します

参考文献

1) 小澤美奈子 基礎高分子科学 高分子学会 編 2010年 第六版 p979899

2) 小澤美奈子 基礎高分子科学 高分子学会 編 2010年 第六版 p99100

3) 金田 勇 逆相マイクロエマルション重合法による水膨潤性ミクロゲルの重合とその増

粘剤としての応用 2010年 p1

4) 小林敏勝 福井寛 きちん知りたい粒子表面と分散技術 日刊工業新聞社 p76

5) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 2006 p839 840 841

6) 皆川基 藤井富美子 洗剤洗浄 百科事典 大矢勝 2007年版 p4647

7) 日本産業洗浄協議会編 わかりやすい界面活性剤 工業調査会 2003 p373839

8) 資生堂 HP httpswwwshiseidogroupjprddevelopmentformulationhtmlより 2015

44取得

9) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 テクノシステム 2006 p321

10) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 テクノシステム 2006 p397

13

398399

11) 遠藤 剛 高分子の合成(上)~ラジカルカチオンアニオン重合~ 講談社 2010 3p

12) 佐藤壽彌編 高分子微粒子の技術と応用 シーエムシー出版 2004 p2526

13) 佐藤壽彌編 高分子微粒子の技術と応用 シーエムシー出版 2004 p27

14) マクマリー 上 8版 東京化学同人 p403404

15) John McMurry マクマリー有機化学(上) 第 8版 2013 p410411

Page 39: ゼオライトとキトサンを用いた 金属イオン除去剤の …kaken/studies/2015/2015-s-all.pdf1 東京理科大学I 部化学研究部 2015 年度春輪講書 ゼオライトとキトサンを用いた

11

参考文献

1) J Bastide and L LeiblerMacromolecules1988212647

2) G G J Lake and A G ThomasProc R Soc LondonA1967300108

3)越後亮三 機械工学辞典 朝倉書店 2007 p631

4) 伊藤勝悦 やさしく学べる材料力学 森北出版 2014 p14

5)SPObukhovMRubinstein and RHColby Macromolecules 1994273191-3198

6)MRubinsteinRHColbyAVDobrynin and JJaonnyElasticMacromolecules199629398-406

7) 大 阪 府 立 大 学 基 礎 講 座 材 料 の 強 度 と 破 壊

httpwwwengmmtrosakafu-uacjpresearchstrength-japdf2015413取得

8)聾剣萍「生命科学時代の新材料-高弾性高靱性ダブルネットワークゲル」高分子学会

『高分子』高分子科学最近の進歩58巻 5号2009p327-p331

9)YTanakaEurophysLett20077856005

10)蓮池幹治ラジカル重合ハンドブックエヌティーエス2010p444-p445

11)大津隆行ラジカル重合(Ⅰ)化学同人1971p80-p81

12)大津隆行ラジカル重合(Ⅰ)化学同人1971p153-p154

13)聾剣萍高分子ゲルおよびその製造方法特開 2009-185156 2008-02-05

14) 角五 彰龔 剣萍長田義仁「ゲルの摩擦と水和潤滑~生物の滑らかな運動解明への

アプローチ」日本生物物理学会『生物物理』47巻 4号2007p 253-p258

1

東京理科大学Ⅰ部化学研究部 2015年度春輪講書

耐塩性の高い新規化粧品用増粘剤の開発 2015年度金曜班

Nomata N(2OK)Seki M(2OK)Tin J(2OK)Takahashi R(2C)Watanabe A(2K)

Asai D(2K) Nishimiti D(2K)Yamamoto R(2K)

1 動機

化粧品において増粘剤の果たす役割は非常に大きい

化粧品にはクリーム状のモノが多くありその整形には増粘剤が必要不可欠である

また増粘剤は製剤だけでなく密閉効果や水和効果によって薬剤を皮膚に効率的に輸

送することに役立っている

この増粘剤であるが一つ課題がありアスコルビン酸塩(ビタミン C)のようなクロロ

基を持つ塩系薬剤をゲル中に含む場合経時によってべたつきといった使用感の悪化

につながるといった弱点があるこの問題の解決のために塩系薬剤への耐性の高い増

粘剤の開発が望まれている

塩系薬剤の高い美容効果からこの問題の解決に対する化粧剤企業のニーズは高くこ

の問題は長く研究が続けられていたが近年資生堂が逆相マイクロエマルション重

合法によって microスケールの粒状高分子を多数合成することによりできる増粘剤が高い

耐塩性を持ち使用感もよいことを発見したがこの粒状高分子増粘剤には未だ試み

られていないモノマーが多くある

そこで今年度の金曜班ではこの逆相マイクロエマルション重合法において未だ

試みられていない親水基を持つモノマーを利用して新規の増粘剤をつくることで粒

状高分子による増粘剤の耐塩性と肌触りと親水基の関係を調べ応用化に利すること

ができるのではないかと考え実験を行うこととした

2 背景

増粘剤とは水溶液をゲル化するために添加される物質であり化粧品において広く

用いられているこの増粘効果は従来では高分子鎖同士の分子間力や架橋で生じる

網目構造の結果生じる液中の摩擦力によるものである

動機で述べたように μスケールの粒状高分子が増粘剤として良質であることがわか

っているただし粒状高分子の形状は反応場であるセッケンミセルの大きさだけで

なく親水基やポリマーを構成する原子同士の分子間力によって変わる高分子の立体構

2

造にも影響されている

また粒状高分子の正確な一次構造を把握することは大変難しいことであるので

応用化のためには高分子の一次構造でなくモノマーによって粒状高分子特性の変化

を調べることが重要である

さらに従来用いられているポリマーがスルホ基とカルボキシル基を親水基とする

ものしか存在しない

以上の三点から酸以外の親水基をもつモノマーで増粘剤を合成したときその性

質はどうなるかを調べることでより製品として利用価値が高い粒状高分子増粘剤を合

成することができるのではないかと考えた

そこで新規モノマーとしては対照実験を行うためにアクリルアミド系モノマー

でかつ 2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸のスルホ基と同じ炭素骨格の先

端に親水基が存在するものとしてN-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド (3-アク

リルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライドを用いてそれぞれ親水基が酸

ではなくヒドロキシ基である場合親水基がアニオンではなくカチオンである場合に

ついて研究を行うこととした

この二種の以外にも水溶性のアクリルアミドポリマーは存在するが上記の条件を満

たさないまたは高価であるため本実験では用いないこととした

Fig1 N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド

Fig2 (3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライド

3

3 原理

31 一般的な液体の粘性

溶液の粘性は一般論では以下のように表される

Fig3のように XY平面を取り液面に平板を用意し引っ張った時挟まれた溶液内

には図のようなせん断流動が発生する高さ Yでのせん断速度は(119881

119889) 119910で与えられる

この時平板に挟まれた溶液を薄層の集まりと考えると隣り合う薄層間に摩擦が生

じるこの内部摩擦力が粘性力であるずり速度勾配が十分に小さければ平板の単位

面積当たりに生じる粘性力 Fv0はその勾配 Vd に比例するすなわち以下の式で表

され1205780を粘性係数と呼ぶこの値は溶媒固有である1)

1198651199070 = 1205780 (119881

119889)

Fig3 溶液ずりせん断図

32 増粘剤の粘性

増粘剤の多くは低分子の液体に高分子を溶かすと著しく粘性が高くなる性質を利

用している

この粘性の発生するメカニズムは下の Fig4において平板間の溶液を薄層に分けた

際高分子鎖は溶液の移動に伴って回転するこのとき溶液中の薄層は薄層間の摩

擦以外に高分子鎖との間にも摩擦が生じているこの摩擦の増加が粘性力の増加とな

る 2)

4

Fig4 高分子による粘性増加

また高分子鎖同士が分子間力によって結びつき三次元構造を形成することで内

部摩擦力は一層大きくなるこのため高分子による増粘効果は顕著である

架橋高分子では三次元構造が高分子鎖同士の分子間力による形成よりも強いものと

なるので増粘効果及びレオロジー特性に優れる 3)

33 塩系薬剤による粘性劣化のメカニズム

塩系薬剤とはビタミンC (アスコルビン酸塩)のようにクロロ基をもつ薬効物質のこ

とである

このクロロ基が直鎖高分子や架橋高分子がポリマー間で形成する三次元網目構造

を破壊することによって増粘効果を消失させ内容物の流失によるべたつきを生じさ

せる 3)

34 粒状高分子の粘性

粒状高分子の粘性について粒状高分子はその粒経が小さいほど体積に対する表面

積が増え溶液内での内部摩擦力が大きくなる

また粒子同士が摩擦力を元に網目構造を形成するため網目構造の構成要因が直

鎖高分子や架橋高分子の高分子増粘剤と異なっている 4)

35 逆相マイクロエマルション重合法

後述する転相温度乳化法を用いて形成した5 μm~30 μm 形成したマイクロエマル

ション内において水溶性のモノマーを利用して行う乳化重合法の一種容易に極小の

5

ポリマーを合成することができる 5)

36 界面活性剤の概略

界面活性剤とは分子の構造が水になじみやすい部分(親水基)と油になじみやすい

部分(新油基)からできていて2つの物質の間の界面に集まりやすい性質を持ちそ

の界面の性質を著しく変える物質というのが界面活性剤の定義である

代表的な界面活性剤の特徴は界面における「吸着」と「ミセル形成」である 6)

もうひとつの代表的な作用として「可溶化」もある

37 エマルションの形成

界面活性剤に有機溶媒が取り囲まれて水に可溶化されたとき水溶液中に存在する

有機溶媒を界面活性剤が取り囲んだ液滴のことを OW エマルションと呼ぶ

有機溶媒中に水が可溶化される場合WOエマルションと呼ぶ

38 ノニオン界面活性剤

非イオン界面活性剤とも言う界面活性剤の内解離基を持たず電気的に中性な

界面活性剤で親水基は主にポリオキシエチレン基であるその特殊な性質上他の種類

の界面活性剤に無い性質として曇点と転相温度を持つ 今回使用するノニオン界面

活性剤はポリオキシエチレンオレイルエーテルであり基本式は以下のような形にな

る 7)

R-O(CH2CH2O)n-H

Scheme 1 ポリオキシエチレンオレイルエーテルの基本式

39 曇点

曇点とは透明な液体が相分離を起こして白濁する温度のこと

本実験においてはノニオン界面活性剤が加温によって界面活性効果を失い相分離

によって白濁する温度のこと 8)

310 転相温度乳化

ノニオン界面活性剤は加温によって界面張力が変化しWO型エマルションから

OW 型に変化するこの変化点のことを転相温度と言い転相温度において界

6

面張力が最低になっているので溶液エマルションが極小になる

またこの転相温度は界面活性剤に固有の値となるので二種の比較的性質の

近い界面活性剤を混合することで転相温度を操作し適切な温度で5 μm~30 μm

程度の直径を持つエマルションを作成する方法を転相温度乳化法と呼ぶ 10)

311 ラジカル重合

開始剤を用いてラジカル種を生成して行う重合法のことをラジカル重合法と言う

開始剤の分解要因によって熱光放射線ラジカル重合の三つに分けられる 10)

3111 ラジカル重合を構成する四反応

ラジカル重合は 4種類の反応が同時並行的に起こるそれぞれ以下の通りである 11)

開始反応

開始剤が熱光放射光などの要因によってラジカル開裂を起こしラジカル種を

生じさせる反応

成長反応

ラジカル種がモノマーと反応することでモノマー新たなラジカル種が生成する

反応これが連続することでポリマーが合成される

停止反応

連鎖していた成長反応が止まる反応主にラジカル種同士の反応による

連鎖移動反応

ラジカル種がモノマー以外の分子主に溶媒分子等と反応することでポリマー以

外の物質を合成する副反応

3112 乳化重合

乳化重合はモノマー液滴と呼ばれるモノマーを大量に保存しているエマルシ

ョンと反応場となる極小のセッケンミセルの二つの構造を持つ溶液中で行う不均

一系ラジカル重合の一種である 12)

成長反応が一段階進むたびにモノマー液滴から拡散の理論式に従ってモノマ

ーがミセル内に移動するこの一連の反応を繰り返して反応が進む 13)

そのため種々のラジカル重合法と比較して以下の特長がある 13)

セッケンミセル内に存在するラジカルが常に一つであるため停止反応が

7

起こりにくく比較的重合度の高いポリマーが生成しやすい

反応速度が拡散作用によって律速されかつセッケンミセルの周囲を大量

の溶媒分子が囲んでいるため除熱が容易であるという理由から熱暴走を起

こしにくいという利点がある

ミセル内で重合するため合成した高分子が絡まりやすく粒状の分子が作

成できる

Fig5 乳化重合模式図

312 MS(質量分析法)

質量分析法とは分子の質量すなわち分子量を測る手段でもあるまた分子を分解

したフラグメントの質量を測ることによって分子構造に関する情報を得るものでも

ある

高エネルギー電子が有機分子にぶつかると分子から電子がはじき出せれカチオ

ンラジカルが発生する

119825119815 rarr 119825119815++119838minus Scheme 2カチオンラジカルの発生

電子の衝突により大量のエネルギーが分子に与えられることで大部分のカチオン

ラジカルを生成した後フラグメントに分解するフラグメントは小さな破片となっ

て浮遊し正電荷や中性となる

このカチオンラジカルとフラグメントについてmz値を横軸相対強度を縦軸につ

いて取ったグラフから質量スペクトルを読み取る 14)

またMS(質量分析法)はイオン化の方法などによりいくつかに分けられ今回使用

したいのは高分子試料でもほとんどフラグメンテーションを起こさないソフトなイ

8

オン化法であるMALDI法 15)である

3121 MALDI法(マトリックス支援レーザー脱離イオン化法)

試料を 25-ヒドロキシ安息香酸のような適切なマトリックス上に吸着させて

ペレットを作成しレーザー光を短時間照射してイオン化する

エネルギーがマトリックスから試料に移動し[119872 + 119867119899 ]119899+に分解される 15)

MALDI法にはよく TOF型の MSが用いられている

4 実験

41 2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を用いた既存化粧品用増粘剤の合成

411 使用器具試薬

温度計ウォーターバスビーカー薬さじデシケーター

ジメチルアクリルアミド

式量9913

沸点81

発火点71

LD50(経口)316mgkg

LD50(経皮)580mgkg

製造和光純薬工業株式会社

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸

式量20725

融点200

LD50(経口)5400mgkg

製造和光純薬工業株式会社

NN-メチレンビスアクリルアミド

式量156

沸点4451

発火点215

LD50(経口)390mgkg

製造東京化成工業株式会社

9

へプタン

式量1002

沸点98

引火点-4

水に不溶

製造昭和化学

2-プロパノール

式量60

沸点82

発火点12

LD50(経口)区分外(GHS分類)

LD50(経皮)区分外(GHS分類)

製造昭和化学

ペルオキソ二硫酸アンモニウム

式量22820

冷水に易溶保存湿気厳禁

重合開始罪乳化重合レドックス重合に用いられる

製造和光純薬工業株式会社

412 実験手順

① ビーカーにイオン交換水ヘプタンポリオキシエチレンオレイルエーテル(2)

(8)をそれぞれ507 mL 507 mL489 g((2)(8)=23)加えて良く撹拌したも

のを入れる

② その後その後温度調節機能つきスターラーに乗せ白濁するまで加熱する

白濁した液が透明化するまで温度を落とし電気伝導率計を用いて溶液が転

相温度付近に保たれていることを確認する

③ 以上の操作が済んだ重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先

ほどのスターラーと同じ温度にしたウォーターバスに移し2-アクリルアミド

-2-メチルプロパンスルホン酸NNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 137 g

262 g入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始

剤としてメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

10

④ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

42 N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミドを用いた新規化粧品用増粘剤の合成

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を誘導体と入れ替える以外の

操作は 41に準ずる

親水基による増粘性の変化を観察するため架橋剤のモノマーに対する濃度比

は 2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を使用したポリマーが最も増

粘効果の高くなると報告された濃度比を用いる

421 使用器具試薬

使用器具は 41に準ずる

試薬

N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド

式量11513

沸点130

発火点189

製造東京化成工業株式会社

422 実験手順

① 412 ①②と同じように重合系を作成する

② 以上の操作が済んだ重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先

ほどのスターラーと同じ温度にしたウォーターバスに移しN-(2-ヒドロキシエ

チル)アクリルアミドNNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 076 g262

g 入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始剤と

してメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

③ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

11

43 (3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライドを用いた新規化粧品用

増粘剤の合成

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を誘導体と入れ替える以外の操作は

41に準ずる

親水基による増粘性の変化を観察するため架橋剤のモノマーに対する濃度比は 2-ア

クリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を使用したポリマーが最も増粘効果の高く

なると報告された濃度比を用いる

431 実験器具

実験器具は 41に準ずる

試薬

(3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライド

式量22074

沸点100

製造東京化成工業株式会社

432 実験手順

① 412 ①②と同じように重合系を作成する

② 重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先ほどのスターラーと

同じ温度にしたウォーターバスに移し (3-アクリルアミドプロピル)トリメチ

ルアミニウムクロライドNNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 123 mL

262 g入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始

剤としてメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

③ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

5 評価分析

耐塩性の高い増粘剤の耐塩性と使用感と親水基との関係を評価するために以下の二

つの測定を行い評価する

増粘剤の耐塩性の評価のために塩酸を増粘剤内部に取り込ませた状態で経時

12

による粘度の変化を観察する

また高分子の粘性を考える上で直鎖高分子の場合よく参考にされるのが平

均分子量でありこの値を測定することで親水基が変化した場合に平均分子

量が粒状高分子の粘性にも大きく影響するか確認する

精密に上の測定を行うには専用の機器が必要になるため機器メーカーの株式

会社エーアンドデイ様または東京理科大学理学部応用化学科駒場研究室に

また高分子の性質を考える上で重要視される平均分子量及び分子量分布に

ついては東京理科大学化学系機器センターにあるMALDI-TOF型質量分析計を管

理者の東京理科大学理学部応用化学科の根岸先生に測定に協力していただこうと

考えている

6 謝辞

東京理科大学工学部工業化学科 近藤行成教授

東京理科大学理学部化学科 遠藤恆平准教授

東京理科大学理学部応用化学科 駒場慎一教授

この研究を進めるに当たり大変お世話になった先輩先生方企業の皆さんに感謝の

意を表明します

参考文献

1) 小澤美奈子 基礎高分子科学 高分子学会 編 2010年 第六版 p979899

2) 小澤美奈子 基礎高分子科学 高分子学会 編 2010年 第六版 p99100

3) 金田 勇 逆相マイクロエマルション重合法による水膨潤性ミクロゲルの重合とその増

粘剤としての応用 2010年 p1

4) 小林敏勝 福井寛 きちん知りたい粒子表面と分散技術 日刊工業新聞社 p76

5) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 2006 p839 840 841

6) 皆川基 藤井富美子 洗剤洗浄 百科事典 大矢勝 2007年版 p4647

7) 日本産業洗浄協議会編 わかりやすい界面活性剤 工業調査会 2003 p373839

8) 資生堂 HP httpswwwshiseidogroupjprddevelopmentformulationhtmlより 2015

44取得

9) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 テクノシステム 2006 p321

10) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 テクノシステム 2006 p397

13

398399

11) 遠藤 剛 高分子の合成(上)~ラジカルカチオンアニオン重合~ 講談社 2010 3p

12) 佐藤壽彌編 高分子微粒子の技術と応用 シーエムシー出版 2004 p2526

13) 佐藤壽彌編 高分子微粒子の技術と応用 シーエムシー出版 2004 p27

14) マクマリー 上 8版 東京化学同人 p403404

15) John McMurry マクマリー有機化学(上) 第 8版 2013 p410411

Page 40: ゼオライトとキトサンを用いた 金属イオン除去剤の …kaken/studies/2015/2015-s-all.pdf1 東京理科大学I 部化学研究部 2015 年度春輪講書 ゼオライトとキトサンを用いた

1

東京理科大学Ⅰ部化学研究部 2015年度春輪講書

耐塩性の高い新規化粧品用増粘剤の開発 2015年度金曜班

Nomata N(2OK)Seki M(2OK)Tin J(2OK)Takahashi R(2C)Watanabe A(2K)

Asai D(2K) Nishimiti D(2K)Yamamoto R(2K)

1 動機

化粧品において増粘剤の果たす役割は非常に大きい

化粧品にはクリーム状のモノが多くありその整形には増粘剤が必要不可欠である

また増粘剤は製剤だけでなく密閉効果や水和効果によって薬剤を皮膚に効率的に輸

送することに役立っている

この増粘剤であるが一つ課題がありアスコルビン酸塩(ビタミン C)のようなクロロ

基を持つ塩系薬剤をゲル中に含む場合経時によってべたつきといった使用感の悪化

につながるといった弱点があるこの問題の解決のために塩系薬剤への耐性の高い増

粘剤の開発が望まれている

塩系薬剤の高い美容効果からこの問題の解決に対する化粧剤企業のニーズは高くこ

の問題は長く研究が続けられていたが近年資生堂が逆相マイクロエマルション重

合法によって microスケールの粒状高分子を多数合成することによりできる増粘剤が高い

耐塩性を持ち使用感もよいことを発見したがこの粒状高分子増粘剤には未だ試み

られていないモノマーが多くある

そこで今年度の金曜班ではこの逆相マイクロエマルション重合法において未だ

試みられていない親水基を持つモノマーを利用して新規の増粘剤をつくることで粒

状高分子による増粘剤の耐塩性と肌触りと親水基の関係を調べ応用化に利すること

ができるのではないかと考え実験を行うこととした

2 背景

増粘剤とは水溶液をゲル化するために添加される物質であり化粧品において広く

用いられているこの増粘効果は従来では高分子鎖同士の分子間力や架橋で生じる

網目構造の結果生じる液中の摩擦力によるものである

動機で述べたように μスケールの粒状高分子が増粘剤として良質であることがわか

っているただし粒状高分子の形状は反応場であるセッケンミセルの大きさだけで

なく親水基やポリマーを構成する原子同士の分子間力によって変わる高分子の立体構

2

造にも影響されている

また粒状高分子の正確な一次構造を把握することは大変難しいことであるので

応用化のためには高分子の一次構造でなくモノマーによって粒状高分子特性の変化

を調べることが重要である

さらに従来用いられているポリマーがスルホ基とカルボキシル基を親水基とする

ものしか存在しない

以上の三点から酸以外の親水基をもつモノマーで増粘剤を合成したときその性

質はどうなるかを調べることでより製品として利用価値が高い粒状高分子増粘剤を合

成することができるのではないかと考えた

そこで新規モノマーとしては対照実験を行うためにアクリルアミド系モノマー

でかつ 2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸のスルホ基と同じ炭素骨格の先

端に親水基が存在するものとしてN-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド (3-アク

リルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライドを用いてそれぞれ親水基が酸

ではなくヒドロキシ基である場合親水基がアニオンではなくカチオンである場合に

ついて研究を行うこととした

この二種の以外にも水溶性のアクリルアミドポリマーは存在するが上記の条件を満

たさないまたは高価であるため本実験では用いないこととした

Fig1 N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド

Fig2 (3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライド

3

3 原理

31 一般的な液体の粘性

溶液の粘性は一般論では以下のように表される

Fig3のように XY平面を取り液面に平板を用意し引っ張った時挟まれた溶液内

には図のようなせん断流動が発生する高さ Yでのせん断速度は(119881

119889) 119910で与えられる

この時平板に挟まれた溶液を薄層の集まりと考えると隣り合う薄層間に摩擦が生

じるこの内部摩擦力が粘性力であるずり速度勾配が十分に小さければ平板の単位

面積当たりに生じる粘性力 Fv0はその勾配 Vd に比例するすなわち以下の式で表

され1205780を粘性係数と呼ぶこの値は溶媒固有である1)

1198651199070 = 1205780 (119881

119889)

Fig3 溶液ずりせん断図

32 増粘剤の粘性

増粘剤の多くは低分子の液体に高分子を溶かすと著しく粘性が高くなる性質を利

用している

この粘性の発生するメカニズムは下の Fig4において平板間の溶液を薄層に分けた

際高分子鎖は溶液の移動に伴って回転するこのとき溶液中の薄層は薄層間の摩

擦以外に高分子鎖との間にも摩擦が生じているこの摩擦の増加が粘性力の増加とな

る 2)

4

Fig4 高分子による粘性増加

また高分子鎖同士が分子間力によって結びつき三次元構造を形成することで内

部摩擦力は一層大きくなるこのため高分子による増粘効果は顕著である

架橋高分子では三次元構造が高分子鎖同士の分子間力による形成よりも強いものと

なるので増粘効果及びレオロジー特性に優れる 3)

33 塩系薬剤による粘性劣化のメカニズム

塩系薬剤とはビタミンC (アスコルビン酸塩)のようにクロロ基をもつ薬効物質のこ

とである

このクロロ基が直鎖高分子や架橋高分子がポリマー間で形成する三次元網目構造

を破壊することによって増粘効果を消失させ内容物の流失によるべたつきを生じさ

せる 3)

34 粒状高分子の粘性

粒状高分子の粘性について粒状高分子はその粒経が小さいほど体積に対する表面

積が増え溶液内での内部摩擦力が大きくなる

また粒子同士が摩擦力を元に網目構造を形成するため網目構造の構成要因が直

鎖高分子や架橋高分子の高分子増粘剤と異なっている 4)

35 逆相マイクロエマルション重合法

後述する転相温度乳化法を用いて形成した5 μm~30 μm 形成したマイクロエマル

ション内において水溶性のモノマーを利用して行う乳化重合法の一種容易に極小の

5

ポリマーを合成することができる 5)

36 界面活性剤の概略

界面活性剤とは分子の構造が水になじみやすい部分(親水基)と油になじみやすい

部分(新油基)からできていて2つの物質の間の界面に集まりやすい性質を持ちそ

の界面の性質を著しく変える物質というのが界面活性剤の定義である

代表的な界面活性剤の特徴は界面における「吸着」と「ミセル形成」である 6)

もうひとつの代表的な作用として「可溶化」もある

37 エマルションの形成

界面活性剤に有機溶媒が取り囲まれて水に可溶化されたとき水溶液中に存在する

有機溶媒を界面活性剤が取り囲んだ液滴のことを OW エマルションと呼ぶ

有機溶媒中に水が可溶化される場合WOエマルションと呼ぶ

38 ノニオン界面活性剤

非イオン界面活性剤とも言う界面活性剤の内解離基を持たず電気的に中性な

界面活性剤で親水基は主にポリオキシエチレン基であるその特殊な性質上他の種類

の界面活性剤に無い性質として曇点と転相温度を持つ 今回使用するノニオン界面

活性剤はポリオキシエチレンオレイルエーテルであり基本式は以下のような形にな

る 7)

R-O(CH2CH2O)n-H

Scheme 1 ポリオキシエチレンオレイルエーテルの基本式

39 曇点

曇点とは透明な液体が相分離を起こして白濁する温度のこと

本実験においてはノニオン界面活性剤が加温によって界面活性効果を失い相分離

によって白濁する温度のこと 8)

310 転相温度乳化

ノニオン界面活性剤は加温によって界面張力が変化しWO型エマルションから

OW 型に変化するこの変化点のことを転相温度と言い転相温度において界

6

面張力が最低になっているので溶液エマルションが極小になる

またこの転相温度は界面活性剤に固有の値となるので二種の比較的性質の

近い界面活性剤を混合することで転相温度を操作し適切な温度で5 μm~30 μm

程度の直径を持つエマルションを作成する方法を転相温度乳化法と呼ぶ 10)

311 ラジカル重合

開始剤を用いてラジカル種を生成して行う重合法のことをラジカル重合法と言う

開始剤の分解要因によって熱光放射線ラジカル重合の三つに分けられる 10)

3111 ラジカル重合を構成する四反応

ラジカル重合は 4種類の反応が同時並行的に起こるそれぞれ以下の通りである 11)

開始反応

開始剤が熱光放射光などの要因によってラジカル開裂を起こしラジカル種を

生じさせる反応

成長反応

ラジカル種がモノマーと反応することでモノマー新たなラジカル種が生成する

反応これが連続することでポリマーが合成される

停止反応

連鎖していた成長反応が止まる反応主にラジカル種同士の反応による

連鎖移動反応

ラジカル種がモノマー以外の分子主に溶媒分子等と反応することでポリマー以

外の物質を合成する副反応

3112 乳化重合

乳化重合はモノマー液滴と呼ばれるモノマーを大量に保存しているエマルシ

ョンと反応場となる極小のセッケンミセルの二つの構造を持つ溶液中で行う不均

一系ラジカル重合の一種である 12)

成長反応が一段階進むたびにモノマー液滴から拡散の理論式に従ってモノマ

ーがミセル内に移動するこの一連の反応を繰り返して反応が進む 13)

そのため種々のラジカル重合法と比較して以下の特長がある 13)

セッケンミセル内に存在するラジカルが常に一つであるため停止反応が

7

起こりにくく比較的重合度の高いポリマーが生成しやすい

反応速度が拡散作用によって律速されかつセッケンミセルの周囲を大量

の溶媒分子が囲んでいるため除熱が容易であるという理由から熱暴走を起

こしにくいという利点がある

ミセル内で重合するため合成した高分子が絡まりやすく粒状の分子が作

成できる

Fig5 乳化重合模式図

312 MS(質量分析法)

質量分析法とは分子の質量すなわち分子量を測る手段でもあるまた分子を分解

したフラグメントの質量を測ることによって分子構造に関する情報を得るものでも

ある

高エネルギー電子が有機分子にぶつかると分子から電子がはじき出せれカチオ

ンラジカルが発生する

119825119815 rarr 119825119815++119838minus Scheme 2カチオンラジカルの発生

電子の衝突により大量のエネルギーが分子に与えられることで大部分のカチオン

ラジカルを生成した後フラグメントに分解するフラグメントは小さな破片となっ

て浮遊し正電荷や中性となる

このカチオンラジカルとフラグメントについてmz値を横軸相対強度を縦軸につ

いて取ったグラフから質量スペクトルを読み取る 14)

またMS(質量分析法)はイオン化の方法などによりいくつかに分けられ今回使用

したいのは高分子試料でもほとんどフラグメンテーションを起こさないソフトなイ

8

オン化法であるMALDI法 15)である

3121 MALDI法(マトリックス支援レーザー脱離イオン化法)

試料を 25-ヒドロキシ安息香酸のような適切なマトリックス上に吸着させて

ペレットを作成しレーザー光を短時間照射してイオン化する

エネルギーがマトリックスから試料に移動し[119872 + 119867119899 ]119899+に分解される 15)

MALDI法にはよく TOF型の MSが用いられている

4 実験

41 2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を用いた既存化粧品用増粘剤の合成

411 使用器具試薬

温度計ウォーターバスビーカー薬さじデシケーター

ジメチルアクリルアミド

式量9913

沸点81

発火点71

LD50(経口)316mgkg

LD50(経皮)580mgkg

製造和光純薬工業株式会社

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸

式量20725

融点200

LD50(経口)5400mgkg

製造和光純薬工業株式会社

NN-メチレンビスアクリルアミド

式量156

沸点4451

発火点215

LD50(経口)390mgkg

製造東京化成工業株式会社

9

へプタン

式量1002

沸点98

引火点-4

水に不溶

製造昭和化学

2-プロパノール

式量60

沸点82

発火点12

LD50(経口)区分外(GHS分類)

LD50(経皮)区分外(GHS分類)

製造昭和化学

ペルオキソ二硫酸アンモニウム

式量22820

冷水に易溶保存湿気厳禁

重合開始罪乳化重合レドックス重合に用いられる

製造和光純薬工業株式会社

412 実験手順

① ビーカーにイオン交換水ヘプタンポリオキシエチレンオレイルエーテル(2)

(8)をそれぞれ507 mL 507 mL489 g((2)(8)=23)加えて良く撹拌したも

のを入れる

② その後その後温度調節機能つきスターラーに乗せ白濁するまで加熱する

白濁した液が透明化するまで温度を落とし電気伝導率計を用いて溶液が転

相温度付近に保たれていることを確認する

③ 以上の操作が済んだ重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先

ほどのスターラーと同じ温度にしたウォーターバスに移し2-アクリルアミド

-2-メチルプロパンスルホン酸NNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 137 g

262 g入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始

剤としてメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

10

④ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

42 N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミドを用いた新規化粧品用増粘剤の合成

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を誘導体と入れ替える以外の

操作は 41に準ずる

親水基による増粘性の変化を観察するため架橋剤のモノマーに対する濃度比

は 2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を使用したポリマーが最も増

粘効果の高くなると報告された濃度比を用いる

421 使用器具試薬

使用器具は 41に準ずる

試薬

N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド

式量11513

沸点130

発火点189

製造東京化成工業株式会社

422 実験手順

① 412 ①②と同じように重合系を作成する

② 以上の操作が済んだ重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先

ほどのスターラーと同じ温度にしたウォーターバスに移しN-(2-ヒドロキシエ

チル)アクリルアミドNNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 076 g262

g 入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始剤と

してメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

③ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

11

43 (3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライドを用いた新規化粧品用

増粘剤の合成

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を誘導体と入れ替える以外の操作は

41に準ずる

親水基による増粘性の変化を観察するため架橋剤のモノマーに対する濃度比は 2-ア

クリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を使用したポリマーが最も増粘効果の高く

なると報告された濃度比を用いる

431 実験器具

実験器具は 41に準ずる

試薬

(3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライド

式量22074

沸点100

製造東京化成工業株式会社

432 実験手順

① 412 ①②と同じように重合系を作成する

② 重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先ほどのスターラーと

同じ温度にしたウォーターバスに移し (3-アクリルアミドプロピル)トリメチ

ルアミニウムクロライドNNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 123 mL

262 g入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始

剤としてメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

③ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

5 評価分析

耐塩性の高い増粘剤の耐塩性と使用感と親水基との関係を評価するために以下の二

つの測定を行い評価する

増粘剤の耐塩性の評価のために塩酸を増粘剤内部に取り込ませた状態で経時

12

による粘度の変化を観察する

また高分子の粘性を考える上で直鎖高分子の場合よく参考にされるのが平

均分子量でありこの値を測定することで親水基が変化した場合に平均分子

量が粒状高分子の粘性にも大きく影響するか確認する

精密に上の測定を行うには専用の機器が必要になるため機器メーカーの株式

会社エーアンドデイ様または東京理科大学理学部応用化学科駒場研究室に

また高分子の性質を考える上で重要視される平均分子量及び分子量分布に

ついては東京理科大学化学系機器センターにあるMALDI-TOF型質量分析計を管

理者の東京理科大学理学部応用化学科の根岸先生に測定に協力していただこうと

考えている

6 謝辞

東京理科大学工学部工業化学科 近藤行成教授

東京理科大学理学部化学科 遠藤恆平准教授

東京理科大学理学部応用化学科 駒場慎一教授

この研究を進めるに当たり大変お世話になった先輩先生方企業の皆さんに感謝の

意を表明します

参考文献

1) 小澤美奈子 基礎高分子科学 高分子学会 編 2010年 第六版 p979899

2) 小澤美奈子 基礎高分子科学 高分子学会 編 2010年 第六版 p99100

3) 金田 勇 逆相マイクロエマルション重合法による水膨潤性ミクロゲルの重合とその増

粘剤としての応用 2010年 p1

4) 小林敏勝 福井寛 きちん知りたい粒子表面と分散技術 日刊工業新聞社 p76

5) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 2006 p839 840 841

6) 皆川基 藤井富美子 洗剤洗浄 百科事典 大矢勝 2007年版 p4647

7) 日本産業洗浄協議会編 わかりやすい界面活性剤 工業調査会 2003 p373839

8) 資生堂 HP httpswwwshiseidogroupjprddevelopmentformulationhtmlより 2015

44取得

9) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 テクノシステム 2006 p321

10) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 テクノシステム 2006 p397

13

398399

11) 遠藤 剛 高分子の合成(上)~ラジカルカチオンアニオン重合~ 講談社 2010 3p

12) 佐藤壽彌編 高分子微粒子の技術と応用 シーエムシー出版 2004 p2526

13) 佐藤壽彌編 高分子微粒子の技術と応用 シーエムシー出版 2004 p27

14) マクマリー 上 8版 東京化学同人 p403404

15) John McMurry マクマリー有機化学(上) 第 8版 2013 p410411

Page 41: ゼオライトとキトサンを用いた 金属イオン除去剤の …kaken/studies/2015/2015-s-all.pdf1 東京理科大学I 部化学研究部 2015 年度春輪講書 ゼオライトとキトサンを用いた

2

造にも影響されている

また粒状高分子の正確な一次構造を把握することは大変難しいことであるので

応用化のためには高分子の一次構造でなくモノマーによって粒状高分子特性の変化

を調べることが重要である

さらに従来用いられているポリマーがスルホ基とカルボキシル基を親水基とする

ものしか存在しない

以上の三点から酸以外の親水基をもつモノマーで増粘剤を合成したときその性

質はどうなるかを調べることでより製品として利用価値が高い粒状高分子増粘剤を合

成することができるのではないかと考えた

そこで新規モノマーとしては対照実験を行うためにアクリルアミド系モノマー

でかつ 2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸のスルホ基と同じ炭素骨格の先

端に親水基が存在するものとしてN-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド (3-アク

リルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライドを用いてそれぞれ親水基が酸

ではなくヒドロキシ基である場合親水基がアニオンではなくカチオンである場合に

ついて研究を行うこととした

この二種の以外にも水溶性のアクリルアミドポリマーは存在するが上記の条件を満

たさないまたは高価であるため本実験では用いないこととした

Fig1 N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド

Fig2 (3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライド

3

3 原理

31 一般的な液体の粘性

溶液の粘性は一般論では以下のように表される

Fig3のように XY平面を取り液面に平板を用意し引っ張った時挟まれた溶液内

には図のようなせん断流動が発生する高さ Yでのせん断速度は(119881

119889) 119910で与えられる

この時平板に挟まれた溶液を薄層の集まりと考えると隣り合う薄層間に摩擦が生

じるこの内部摩擦力が粘性力であるずり速度勾配が十分に小さければ平板の単位

面積当たりに生じる粘性力 Fv0はその勾配 Vd に比例するすなわち以下の式で表

され1205780を粘性係数と呼ぶこの値は溶媒固有である1)

1198651199070 = 1205780 (119881

119889)

Fig3 溶液ずりせん断図

32 増粘剤の粘性

増粘剤の多くは低分子の液体に高分子を溶かすと著しく粘性が高くなる性質を利

用している

この粘性の発生するメカニズムは下の Fig4において平板間の溶液を薄層に分けた

際高分子鎖は溶液の移動に伴って回転するこのとき溶液中の薄層は薄層間の摩

擦以外に高分子鎖との間にも摩擦が生じているこの摩擦の増加が粘性力の増加とな

る 2)

4

Fig4 高分子による粘性増加

また高分子鎖同士が分子間力によって結びつき三次元構造を形成することで内

部摩擦力は一層大きくなるこのため高分子による増粘効果は顕著である

架橋高分子では三次元構造が高分子鎖同士の分子間力による形成よりも強いものと

なるので増粘効果及びレオロジー特性に優れる 3)

33 塩系薬剤による粘性劣化のメカニズム

塩系薬剤とはビタミンC (アスコルビン酸塩)のようにクロロ基をもつ薬効物質のこ

とである

このクロロ基が直鎖高分子や架橋高分子がポリマー間で形成する三次元網目構造

を破壊することによって増粘効果を消失させ内容物の流失によるべたつきを生じさ

せる 3)

34 粒状高分子の粘性

粒状高分子の粘性について粒状高分子はその粒経が小さいほど体積に対する表面

積が増え溶液内での内部摩擦力が大きくなる

また粒子同士が摩擦力を元に網目構造を形成するため網目構造の構成要因が直

鎖高分子や架橋高分子の高分子増粘剤と異なっている 4)

35 逆相マイクロエマルション重合法

後述する転相温度乳化法を用いて形成した5 μm~30 μm 形成したマイクロエマル

ション内において水溶性のモノマーを利用して行う乳化重合法の一種容易に極小の

5

ポリマーを合成することができる 5)

36 界面活性剤の概略

界面活性剤とは分子の構造が水になじみやすい部分(親水基)と油になじみやすい

部分(新油基)からできていて2つの物質の間の界面に集まりやすい性質を持ちそ

の界面の性質を著しく変える物質というのが界面活性剤の定義である

代表的な界面活性剤の特徴は界面における「吸着」と「ミセル形成」である 6)

もうひとつの代表的な作用として「可溶化」もある

37 エマルションの形成

界面活性剤に有機溶媒が取り囲まれて水に可溶化されたとき水溶液中に存在する

有機溶媒を界面活性剤が取り囲んだ液滴のことを OW エマルションと呼ぶ

有機溶媒中に水が可溶化される場合WOエマルションと呼ぶ

38 ノニオン界面活性剤

非イオン界面活性剤とも言う界面活性剤の内解離基を持たず電気的に中性な

界面活性剤で親水基は主にポリオキシエチレン基であるその特殊な性質上他の種類

の界面活性剤に無い性質として曇点と転相温度を持つ 今回使用するノニオン界面

活性剤はポリオキシエチレンオレイルエーテルであり基本式は以下のような形にな

る 7)

R-O(CH2CH2O)n-H

Scheme 1 ポリオキシエチレンオレイルエーテルの基本式

39 曇点

曇点とは透明な液体が相分離を起こして白濁する温度のこと

本実験においてはノニオン界面活性剤が加温によって界面活性効果を失い相分離

によって白濁する温度のこと 8)

310 転相温度乳化

ノニオン界面活性剤は加温によって界面張力が変化しWO型エマルションから

OW 型に変化するこの変化点のことを転相温度と言い転相温度において界

6

面張力が最低になっているので溶液エマルションが極小になる

またこの転相温度は界面活性剤に固有の値となるので二種の比較的性質の

近い界面活性剤を混合することで転相温度を操作し適切な温度で5 μm~30 μm

程度の直径を持つエマルションを作成する方法を転相温度乳化法と呼ぶ 10)

311 ラジカル重合

開始剤を用いてラジカル種を生成して行う重合法のことをラジカル重合法と言う

開始剤の分解要因によって熱光放射線ラジカル重合の三つに分けられる 10)

3111 ラジカル重合を構成する四反応

ラジカル重合は 4種類の反応が同時並行的に起こるそれぞれ以下の通りである 11)

開始反応

開始剤が熱光放射光などの要因によってラジカル開裂を起こしラジカル種を

生じさせる反応

成長反応

ラジカル種がモノマーと反応することでモノマー新たなラジカル種が生成する

反応これが連続することでポリマーが合成される

停止反応

連鎖していた成長反応が止まる反応主にラジカル種同士の反応による

連鎖移動反応

ラジカル種がモノマー以外の分子主に溶媒分子等と反応することでポリマー以

外の物質を合成する副反応

3112 乳化重合

乳化重合はモノマー液滴と呼ばれるモノマーを大量に保存しているエマルシ

ョンと反応場となる極小のセッケンミセルの二つの構造を持つ溶液中で行う不均

一系ラジカル重合の一種である 12)

成長反応が一段階進むたびにモノマー液滴から拡散の理論式に従ってモノマ

ーがミセル内に移動するこの一連の反応を繰り返して反応が進む 13)

そのため種々のラジカル重合法と比較して以下の特長がある 13)

セッケンミセル内に存在するラジカルが常に一つであるため停止反応が

7

起こりにくく比較的重合度の高いポリマーが生成しやすい

反応速度が拡散作用によって律速されかつセッケンミセルの周囲を大量

の溶媒分子が囲んでいるため除熱が容易であるという理由から熱暴走を起

こしにくいという利点がある

ミセル内で重合するため合成した高分子が絡まりやすく粒状の分子が作

成できる

Fig5 乳化重合模式図

312 MS(質量分析法)

質量分析法とは分子の質量すなわち分子量を測る手段でもあるまた分子を分解

したフラグメントの質量を測ることによって分子構造に関する情報を得るものでも

ある

高エネルギー電子が有機分子にぶつかると分子から電子がはじき出せれカチオ

ンラジカルが発生する

119825119815 rarr 119825119815++119838minus Scheme 2カチオンラジカルの発生

電子の衝突により大量のエネルギーが分子に与えられることで大部分のカチオン

ラジカルを生成した後フラグメントに分解するフラグメントは小さな破片となっ

て浮遊し正電荷や中性となる

このカチオンラジカルとフラグメントについてmz値を横軸相対強度を縦軸につ

いて取ったグラフから質量スペクトルを読み取る 14)

またMS(質量分析法)はイオン化の方法などによりいくつかに分けられ今回使用

したいのは高分子試料でもほとんどフラグメンテーションを起こさないソフトなイ

8

オン化法であるMALDI法 15)である

3121 MALDI法(マトリックス支援レーザー脱離イオン化法)

試料を 25-ヒドロキシ安息香酸のような適切なマトリックス上に吸着させて

ペレットを作成しレーザー光を短時間照射してイオン化する

エネルギーがマトリックスから試料に移動し[119872 + 119867119899 ]119899+に分解される 15)

MALDI法にはよく TOF型の MSが用いられている

4 実験

41 2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を用いた既存化粧品用増粘剤の合成

411 使用器具試薬

温度計ウォーターバスビーカー薬さじデシケーター

ジメチルアクリルアミド

式量9913

沸点81

発火点71

LD50(経口)316mgkg

LD50(経皮)580mgkg

製造和光純薬工業株式会社

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸

式量20725

融点200

LD50(経口)5400mgkg

製造和光純薬工業株式会社

NN-メチレンビスアクリルアミド

式量156

沸点4451

発火点215

LD50(経口)390mgkg

製造東京化成工業株式会社

9

へプタン

式量1002

沸点98

引火点-4

水に不溶

製造昭和化学

2-プロパノール

式量60

沸点82

発火点12

LD50(経口)区分外(GHS分類)

LD50(経皮)区分外(GHS分類)

製造昭和化学

ペルオキソ二硫酸アンモニウム

式量22820

冷水に易溶保存湿気厳禁

重合開始罪乳化重合レドックス重合に用いられる

製造和光純薬工業株式会社

412 実験手順

① ビーカーにイオン交換水ヘプタンポリオキシエチレンオレイルエーテル(2)

(8)をそれぞれ507 mL 507 mL489 g((2)(8)=23)加えて良く撹拌したも

のを入れる

② その後その後温度調節機能つきスターラーに乗せ白濁するまで加熱する

白濁した液が透明化するまで温度を落とし電気伝導率計を用いて溶液が転

相温度付近に保たれていることを確認する

③ 以上の操作が済んだ重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先

ほどのスターラーと同じ温度にしたウォーターバスに移し2-アクリルアミド

-2-メチルプロパンスルホン酸NNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 137 g

262 g入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始

剤としてメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

10

④ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

42 N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミドを用いた新規化粧品用増粘剤の合成

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を誘導体と入れ替える以外の

操作は 41に準ずる

親水基による増粘性の変化を観察するため架橋剤のモノマーに対する濃度比

は 2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を使用したポリマーが最も増

粘効果の高くなると報告された濃度比を用いる

421 使用器具試薬

使用器具は 41に準ずる

試薬

N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド

式量11513

沸点130

発火点189

製造東京化成工業株式会社

422 実験手順

① 412 ①②と同じように重合系を作成する

② 以上の操作が済んだ重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先

ほどのスターラーと同じ温度にしたウォーターバスに移しN-(2-ヒドロキシエ

チル)アクリルアミドNNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 076 g262

g 入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始剤と

してメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

③ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

11

43 (3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライドを用いた新規化粧品用

増粘剤の合成

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を誘導体と入れ替える以外の操作は

41に準ずる

親水基による増粘性の変化を観察するため架橋剤のモノマーに対する濃度比は 2-ア

クリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を使用したポリマーが最も増粘効果の高く

なると報告された濃度比を用いる

431 実験器具

実験器具は 41に準ずる

試薬

(3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライド

式量22074

沸点100

製造東京化成工業株式会社

432 実験手順

① 412 ①②と同じように重合系を作成する

② 重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先ほどのスターラーと

同じ温度にしたウォーターバスに移し (3-アクリルアミドプロピル)トリメチ

ルアミニウムクロライドNNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 123 mL

262 g入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始

剤としてメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

③ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

5 評価分析

耐塩性の高い増粘剤の耐塩性と使用感と親水基との関係を評価するために以下の二

つの測定を行い評価する

増粘剤の耐塩性の評価のために塩酸を増粘剤内部に取り込ませた状態で経時

12

による粘度の変化を観察する

また高分子の粘性を考える上で直鎖高分子の場合よく参考にされるのが平

均分子量でありこの値を測定することで親水基が変化した場合に平均分子

量が粒状高分子の粘性にも大きく影響するか確認する

精密に上の測定を行うには専用の機器が必要になるため機器メーカーの株式

会社エーアンドデイ様または東京理科大学理学部応用化学科駒場研究室に

また高分子の性質を考える上で重要視される平均分子量及び分子量分布に

ついては東京理科大学化学系機器センターにあるMALDI-TOF型質量分析計を管

理者の東京理科大学理学部応用化学科の根岸先生に測定に協力していただこうと

考えている

6 謝辞

東京理科大学工学部工業化学科 近藤行成教授

東京理科大学理学部化学科 遠藤恆平准教授

東京理科大学理学部応用化学科 駒場慎一教授

この研究を進めるに当たり大変お世話になった先輩先生方企業の皆さんに感謝の

意を表明します

参考文献

1) 小澤美奈子 基礎高分子科学 高分子学会 編 2010年 第六版 p979899

2) 小澤美奈子 基礎高分子科学 高分子学会 編 2010年 第六版 p99100

3) 金田 勇 逆相マイクロエマルション重合法による水膨潤性ミクロゲルの重合とその増

粘剤としての応用 2010年 p1

4) 小林敏勝 福井寛 きちん知りたい粒子表面と分散技術 日刊工業新聞社 p76

5) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 2006 p839 840 841

6) 皆川基 藤井富美子 洗剤洗浄 百科事典 大矢勝 2007年版 p4647

7) 日本産業洗浄協議会編 わかりやすい界面活性剤 工業調査会 2003 p373839

8) 資生堂 HP httpswwwshiseidogroupjprddevelopmentformulationhtmlより 2015

44取得

9) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 テクノシステム 2006 p321

10) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 テクノシステム 2006 p397

13

398399

11) 遠藤 剛 高分子の合成(上)~ラジカルカチオンアニオン重合~ 講談社 2010 3p

12) 佐藤壽彌編 高分子微粒子の技術と応用 シーエムシー出版 2004 p2526

13) 佐藤壽彌編 高分子微粒子の技術と応用 シーエムシー出版 2004 p27

14) マクマリー 上 8版 東京化学同人 p403404

15) John McMurry マクマリー有機化学(上) 第 8版 2013 p410411

Page 42: ゼオライトとキトサンを用いた 金属イオン除去剤の …kaken/studies/2015/2015-s-all.pdf1 東京理科大学I 部化学研究部 2015 年度春輪講書 ゼオライトとキトサンを用いた

3

3 原理

31 一般的な液体の粘性

溶液の粘性は一般論では以下のように表される

Fig3のように XY平面を取り液面に平板を用意し引っ張った時挟まれた溶液内

には図のようなせん断流動が発生する高さ Yでのせん断速度は(119881

119889) 119910で与えられる

この時平板に挟まれた溶液を薄層の集まりと考えると隣り合う薄層間に摩擦が生

じるこの内部摩擦力が粘性力であるずり速度勾配が十分に小さければ平板の単位

面積当たりに生じる粘性力 Fv0はその勾配 Vd に比例するすなわち以下の式で表

され1205780を粘性係数と呼ぶこの値は溶媒固有である1)

1198651199070 = 1205780 (119881

119889)

Fig3 溶液ずりせん断図

32 増粘剤の粘性

増粘剤の多くは低分子の液体に高分子を溶かすと著しく粘性が高くなる性質を利

用している

この粘性の発生するメカニズムは下の Fig4において平板間の溶液を薄層に分けた

際高分子鎖は溶液の移動に伴って回転するこのとき溶液中の薄層は薄層間の摩

擦以外に高分子鎖との間にも摩擦が生じているこの摩擦の増加が粘性力の増加とな

る 2)

4

Fig4 高分子による粘性増加

また高分子鎖同士が分子間力によって結びつき三次元構造を形成することで内

部摩擦力は一層大きくなるこのため高分子による増粘効果は顕著である

架橋高分子では三次元構造が高分子鎖同士の分子間力による形成よりも強いものと

なるので増粘効果及びレオロジー特性に優れる 3)

33 塩系薬剤による粘性劣化のメカニズム

塩系薬剤とはビタミンC (アスコルビン酸塩)のようにクロロ基をもつ薬効物質のこ

とである

このクロロ基が直鎖高分子や架橋高分子がポリマー間で形成する三次元網目構造

を破壊することによって増粘効果を消失させ内容物の流失によるべたつきを生じさ

せる 3)

34 粒状高分子の粘性

粒状高分子の粘性について粒状高分子はその粒経が小さいほど体積に対する表面

積が増え溶液内での内部摩擦力が大きくなる

また粒子同士が摩擦力を元に網目構造を形成するため網目構造の構成要因が直

鎖高分子や架橋高分子の高分子増粘剤と異なっている 4)

35 逆相マイクロエマルション重合法

後述する転相温度乳化法を用いて形成した5 μm~30 μm 形成したマイクロエマル

ション内において水溶性のモノマーを利用して行う乳化重合法の一種容易に極小の

5

ポリマーを合成することができる 5)

36 界面活性剤の概略

界面活性剤とは分子の構造が水になじみやすい部分(親水基)と油になじみやすい

部分(新油基)からできていて2つの物質の間の界面に集まりやすい性質を持ちそ

の界面の性質を著しく変える物質というのが界面活性剤の定義である

代表的な界面活性剤の特徴は界面における「吸着」と「ミセル形成」である 6)

もうひとつの代表的な作用として「可溶化」もある

37 エマルションの形成

界面活性剤に有機溶媒が取り囲まれて水に可溶化されたとき水溶液中に存在する

有機溶媒を界面活性剤が取り囲んだ液滴のことを OW エマルションと呼ぶ

有機溶媒中に水が可溶化される場合WOエマルションと呼ぶ

38 ノニオン界面活性剤

非イオン界面活性剤とも言う界面活性剤の内解離基を持たず電気的に中性な

界面活性剤で親水基は主にポリオキシエチレン基であるその特殊な性質上他の種類

の界面活性剤に無い性質として曇点と転相温度を持つ 今回使用するノニオン界面

活性剤はポリオキシエチレンオレイルエーテルであり基本式は以下のような形にな

る 7)

R-O(CH2CH2O)n-H

Scheme 1 ポリオキシエチレンオレイルエーテルの基本式

39 曇点

曇点とは透明な液体が相分離を起こして白濁する温度のこと

本実験においてはノニオン界面活性剤が加温によって界面活性効果を失い相分離

によって白濁する温度のこと 8)

310 転相温度乳化

ノニオン界面活性剤は加温によって界面張力が変化しWO型エマルションから

OW 型に変化するこの変化点のことを転相温度と言い転相温度において界

6

面張力が最低になっているので溶液エマルションが極小になる

またこの転相温度は界面活性剤に固有の値となるので二種の比較的性質の

近い界面活性剤を混合することで転相温度を操作し適切な温度で5 μm~30 μm

程度の直径を持つエマルションを作成する方法を転相温度乳化法と呼ぶ 10)

311 ラジカル重合

開始剤を用いてラジカル種を生成して行う重合法のことをラジカル重合法と言う

開始剤の分解要因によって熱光放射線ラジカル重合の三つに分けられる 10)

3111 ラジカル重合を構成する四反応

ラジカル重合は 4種類の反応が同時並行的に起こるそれぞれ以下の通りである 11)

開始反応

開始剤が熱光放射光などの要因によってラジカル開裂を起こしラジカル種を

生じさせる反応

成長反応

ラジカル種がモノマーと反応することでモノマー新たなラジカル種が生成する

反応これが連続することでポリマーが合成される

停止反応

連鎖していた成長反応が止まる反応主にラジカル種同士の反応による

連鎖移動反応

ラジカル種がモノマー以外の分子主に溶媒分子等と反応することでポリマー以

外の物質を合成する副反応

3112 乳化重合

乳化重合はモノマー液滴と呼ばれるモノマーを大量に保存しているエマルシ

ョンと反応場となる極小のセッケンミセルの二つの構造を持つ溶液中で行う不均

一系ラジカル重合の一種である 12)

成長反応が一段階進むたびにモノマー液滴から拡散の理論式に従ってモノマ

ーがミセル内に移動するこの一連の反応を繰り返して反応が進む 13)

そのため種々のラジカル重合法と比較して以下の特長がある 13)

セッケンミセル内に存在するラジカルが常に一つであるため停止反応が

7

起こりにくく比較的重合度の高いポリマーが生成しやすい

反応速度が拡散作用によって律速されかつセッケンミセルの周囲を大量

の溶媒分子が囲んでいるため除熱が容易であるという理由から熱暴走を起

こしにくいという利点がある

ミセル内で重合するため合成した高分子が絡まりやすく粒状の分子が作

成できる

Fig5 乳化重合模式図

312 MS(質量分析法)

質量分析法とは分子の質量すなわち分子量を測る手段でもあるまた分子を分解

したフラグメントの質量を測ることによって分子構造に関する情報を得るものでも

ある

高エネルギー電子が有機分子にぶつかると分子から電子がはじき出せれカチオ

ンラジカルが発生する

119825119815 rarr 119825119815++119838minus Scheme 2カチオンラジカルの発生

電子の衝突により大量のエネルギーが分子に与えられることで大部分のカチオン

ラジカルを生成した後フラグメントに分解するフラグメントは小さな破片となっ

て浮遊し正電荷や中性となる

このカチオンラジカルとフラグメントについてmz値を横軸相対強度を縦軸につ

いて取ったグラフから質量スペクトルを読み取る 14)

またMS(質量分析法)はイオン化の方法などによりいくつかに分けられ今回使用

したいのは高分子試料でもほとんどフラグメンテーションを起こさないソフトなイ

8

オン化法であるMALDI法 15)である

3121 MALDI法(マトリックス支援レーザー脱離イオン化法)

試料を 25-ヒドロキシ安息香酸のような適切なマトリックス上に吸着させて

ペレットを作成しレーザー光を短時間照射してイオン化する

エネルギーがマトリックスから試料に移動し[119872 + 119867119899 ]119899+に分解される 15)

MALDI法にはよく TOF型の MSが用いられている

4 実験

41 2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を用いた既存化粧品用増粘剤の合成

411 使用器具試薬

温度計ウォーターバスビーカー薬さじデシケーター

ジメチルアクリルアミド

式量9913

沸点81

発火点71

LD50(経口)316mgkg

LD50(経皮)580mgkg

製造和光純薬工業株式会社

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸

式量20725

融点200

LD50(経口)5400mgkg

製造和光純薬工業株式会社

NN-メチレンビスアクリルアミド

式量156

沸点4451

発火点215

LD50(経口)390mgkg

製造東京化成工業株式会社

9

へプタン

式量1002

沸点98

引火点-4

水に不溶

製造昭和化学

2-プロパノール

式量60

沸点82

発火点12

LD50(経口)区分外(GHS分類)

LD50(経皮)区分外(GHS分類)

製造昭和化学

ペルオキソ二硫酸アンモニウム

式量22820

冷水に易溶保存湿気厳禁

重合開始罪乳化重合レドックス重合に用いられる

製造和光純薬工業株式会社

412 実験手順

① ビーカーにイオン交換水ヘプタンポリオキシエチレンオレイルエーテル(2)

(8)をそれぞれ507 mL 507 mL489 g((2)(8)=23)加えて良く撹拌したも

のを入れる

② その後その後温度調節機能つきスターラーに乗せ白濁するまで加熱する

白濁した液が透明化するまで温度を落とし電気伝導率計を用いて溶液が転

相温度付近に保たれていることを確認する

③ 以上の操作が済んだ重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先

ほどのスターラーと同じ温度にしたウォーターバスに移し2-アクリルアミド

-2-メチルプロパンスルホン酸NNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 137 g

262 g入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始

剤としてメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

10

④ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

42 N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミドを用いた新規化粧品用増粘剤の合成

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を誘導体と入れ替える以外の

操作は 41に準ずる

親水基による増粘性の変化を観察するため架橋剤のモノマーに対する濃度比

は 2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を使用したポリマーが最も増

粘効果の高くなると報告された濃度比を用いる

421 使用器具試薬

使用器具は 41に準ずる

試薬

N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド

式量11513

沸点130

発火点189

製造東京化成工業株式会社

422 実験手順

① 412 ①②と同じように重合系を作成する

② 以上の操作が済んだ重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先

ほどのスターラーと同じ温度にしたウォーターバスに移しN-(2-ヒドロキシエ

チル)アクリルアミドNNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 076 g262

g 入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始剤と

してメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

③ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

11

43 (3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライドを用いた新規化粧品用

増粘剤の合成

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を誘導体と入れ替える以外の操作は

41に準ずる

親水基による増粘性の変化を観察するため架橋剤のモノマーに対する濃度比は 2-ア

クリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を使用したポリマーが最も増粘効果の高く

なると報告された濃度比を用いる

431 実験器具

実験器具は 41に準ずる

試薬

(3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライド

式量22074

沸点100

製造東京化成工業株式会社

432 実験手順

① 412 ①②と同じように重合系を作成する

② 重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先ほどのスターラーと

同じ温度にしたウォーターバスに移し (3-アクリルアミドプロピル)トリメチ

ルアミニウムクロライドNNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 123 mL

262 g入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始

剤としてメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

③ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

5 評価分析

耐塩性の高い増粘剤の耐塩性と使用感と親水基との関係を評価するために以下の二

つの測定を行い評価する

増粘剤の耐塩性の評価のために塩酸を増粘剤内部に取り込ませた状態で経時

12

による粘度の変化を観察する

また高分子の粘性を考える上で直鎖高分子の場合よく参考にされるのが平

均分子量でありこの値を測定することで親水基が変化した場合に平均分子

量が粒状高分子の粘性にも大きく影響するか確認する

精密に上の測定を行うには専用の機器が必要になるため機器メーカーの株式

会社エーアンドデイ様または東京理科大学理学部応用化学科駒場研究室に

また高分子の性質を考える上で重要視される平均分子量及び分子量分布に

ついては東京理科大学化学系機器センターにあるMALDI-TOF型質量分析計を管

理者の東京理科大学理学部応用化学科の根岸先生に測定に協力していただこうと

考えている

6 謝辞

東京理科大学工学部工業化学科 近藤行成教授

東京理科大学理学部化学科 遠藤恆平准教授

東京理科大学理学部応用化学科 駒場慎一教授

この研究を進めるに当たり大変お世話になった先輩先生方企業の皆さんに感謝の

意を表明します

参考文献

1) 小澤美奈子 基礎高分子科学 高分子学会 編 2010年 第六版 p979899

2) 小澤美奈子 基礎高分子科学 高分子学会 編 2010年 第六版 p99100

3) 金田 勇 逆相マイクロエマルション重合法による水膨潤性ミクロゲルの重合とその増

粘剤としての応用 2010年 p1

4) 小林敏勝 福井寛 きちん知りたい粒子表面と分散技術 日刊工業新聞社 p76

5) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 2006 p839 840 841

6) 皆川基 藤井富美子 洗剤洗浄 百科事典 大矢勝 2007年版 p4647

7) 日本産業洗浄協議会編 わかりやすい界面活性剤 工業調査会 2003 p373839

8) 資生堂 HP httpswwwshiseidogroupjprddevelopmentformulationhtmlより 2015

44取得

9) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 テクノシステム 2006 p321

10) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 テクノシステム 2006 p397

13

398399

11) 遠藤 剛 高分子の合成(上)~ラジカルカチオンアニオン重合~ 講談社 2010 3p

12) 佐藤壽彌編 高分子微粒子の技術と応用 シーエムシー出版 2004 p2526

13) 佐藤壽彌編 高分子微粒子の技術と応用 シーエムシー出版 2004 p27

14) マクマリー 上 8版 東京化学同人 p403404

15) John McMurry マクマリー有機化学(上) 第 8版 2013 p410411

Page 43: ゼオライトとキトサンを用いた 金属イオン除去剤の …kaken/studies/2015/2015-s-all.pdf1 東京理科大学I 部化学研究部 2015 年度春輪講書 ゼオライトとキトサンを用いた

4

Fig4 高分子による粘性増加

また高分子鎖同士が分子間力によって結びつき三次元構造を形成することで内

部摩擦力は一層大きくなるこのため高分子による増粘効果は顕著である

架橋高分子では三次元構造が高分子鎖同士の分子間力による形成よりも強いものと

なるので増粘効果及びレオロジー特性に優れる 3)

33 塩系薬剤による粘性劣化のメカニズム

塩系薬剤とはビタミンC (アスコルビン酸塩)のようにクロロ基をもつ薬効物質のこ

とである

このクロロ基が直鎖高分子や架橋高分子がポリマー間で形成する三次元網目構造

を破壊することによって増粘効果を消失させ内容物の流失によるべたつきを生じさ

せる 3)

34 粒状高分子の粘性

粒状高分子の粘性について粒状高分子はその粒経が小さいほど体積に対する表面

積が増え溶液内での内部摩擦力が大きくなる

また粒子同士が摩擦力を元に網目構造を形成するため網目構造の構成要因が直

鎖高分子や架橋高分子の高分子増粘剤と異なっている 4)

35 逆相マイクロエマルション重合法

後述する転相温度乳化法を用いて形成した5 μm~30 μm 形成したマイクロエマル

ション内において水溶性のモノマーを利用して行う乳化重合法の一種容易に極小の

5

ポリマーを合成することができる 5)

36 界面活性剤の概略

界面活性剤とは分子の構造が水になじみやすい部分(親水基)と油になじみやすい

部分(新油基)からできていて2つの物質の間の界面に集まりやすい性質を持ちそ

の界面の性質を著しく変える物質というのが界面活性剤の定義である

代表的な界面活性剤の特徴は界面における「吸着」と「ミセル形成」である 6)

もうひとつの代表的な作用として「可溶化」もある

37 エマルションの形成

界面活性剤に有機溶媒が取り囲まれて水に可溶化されたとき水溶液中に存在する

有機溶媒を界面活性剤が取り囲んだ液滴のことを OW エマルションと呼ぶ

有機溶媒中に水が可溶化される場合WOエマルションと呼ぶ

38 ノニオン界面活性剤

非イオン界面活性剤とも言う界面活性剤の内解離基を持たず電気的に中性な

界面活性剤で親水基は主にポリオキシエチレン基であるその特殊な性質上他の種類

の界面活性剤に無い性質として曇点と転相温度を持つ 今回使用するノニオン界面

活性剤はポリオキシエチレンオレイルエーテルであり基本式は以下のような形にな

る 7)

R-O(CH2CH2O)n-H

Scheme 1 ポリオキシエチレンオレイルエーテルの基本式

39 曇点

曇点とは透明な液体が相分離を起こして白濁する温度のこと

本実験においてはノニオン界面活性剤が加温によって界面活性効果を失い相分離

によって白濁する温度のこと 8)

310 転相温度乳化

ノニオン界面活性剤は加温によって界面張力が変化しWO型エマルションから

OW 型に変化するこの変化点のことを転相温度と言い転相温度において界

6

面張力が最低になっているので溶液エマルションが極小になる

またこの転相温度は界面活性剤に固有の値となるので二種の比較的性質の

近い界面活性剤を混合することで転相温度を操作し適切な温度で5 μm~30 μm

程度の直径を持つエマルションを作成する方法を転相温度乳化法と呼ぶ 10)

311 ラジカル重合

開始剤を用いてラジカル種を生成して行う重合法のことをラジカル重合法と言う

開始剤の分解要因によって熱光放射線ラジカル重合の三つに分けられる 10)

3111 ラジカル重合を構成する四反応

ラジカル重合は 4種類の反応が同時並行的に起こるそれぞれ以下の通りである 11)

開始反応

開始剤が熱光放射光などの要因によってラジカル開裂を起こしラジカル種を

生じさせる反応

成長反応

ラジカル種がモノマーと反応することでモノマー新たなラジカル種が生成する

反応これが連続することでポリマーが合成される

停止反応

連鎖していた成長反応が止まる反応主にラジカル種同士の反応による

連鎖移動反応

ラジカル種がモノマー以外の分子主に溶媒分子等と反応することでポリマー以

外の物質を合成する副反応

3112 乳化重合

乳化重合はモノマー液滴と呼ばれるモノマーを大量に保存しているエマルシ

ョンと反応場となる極小のセッケンミセルの二つの構造を持つ溶液中で行う不均

一系ラジカル重合の一種である 12)

成長反応が一段階進むたびにモノマー液滴から拡散の理論式に従ってモノマ

ーがミセル内に移動するこの一連の反応を繰り返して反応が進む 13)

そのため種々のラジカル重合法と比較して以下の特長がある 13)

セッケンミセル内に存在するラジカルが常に一つであるため停止反応が

7

起こりにくく比較的重合度の高いポリマーが生成しやすい

反応速度が拡散作用によって律速されかつセッケンミセルの周囲を大量

の溶媒分子が囲んでいるため除熱が容易であるという理由から熱暴走を起

こしにくいという利点がある

ミセル内で重合するため合成した高分子が絡まりやすく粒状の分子が作

成できる

Fig5 乳化重合模式図

312 MS(質量分析法)

質量分析法とは分子の質量すなわち分子量を測る手段でもあるまた分子を分解

したフラグメントの質量を測ることによって分子構造に関する情報を得るものでも

ある

高エネルギー電子が有機分子にぶつかると分子から電子がはじき出せれカチオ

ンラジカルが発生する

119825119815 rarr 119825119815++119838minus Scheme 2カチオンラジカルの発生

電子の衝突により大量のエネルギーが分子に与えられることで大部分のカチオン

ラジカルを生成した後フラグメントに分解するフラグメントは小さな破片となっ

て浮遊し正電荷や中性となる

このカチオンラジカルとフラグメントについてmz値を横軸相対強度を縦軸につ

いて取ったグラフから質量スペクトルを読み取る 14)

またMS(質量分析法)はイオン化の方法などによりいくつかに分けられ今回使用

したいのは高分子試料でもほとんどフラグメンテーションを起こさないソフトなイ

8

オン化法であるMALDI法 15)である

3121 MALDI法(マトリックス支援レーザー脱離イオン化法)

試料を 25-ヒドロキシ安息香酸のような適切なマトリックス上に吸着させて

ペレットを作成しレーザー光を短時間照射してイオン化する

エネルギーがマトリックスから試料に移動し[119872 + 119867119899 ]119899+に分解される 15)

MALDI法にはよく TOF型の MSが用いられている

4 実験

41 2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を用いた既存化粧品用増粘剤の合成

411 使用器具試薬

温度計ウォーターバスビーカー薬さじデシケーター

ジメチルアクリルアミド

式量9913

沸点81

発火点71

LD50(経口)316mgkg

LD50(経皮)580mgkg

製造和光純薬工業株式会社

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸

式量20725

融点200

LD50(経口)5400mgkg

製造和光純薬工業株式会社

NN-メチレンビスアクリルアミド

式量156

沸点4451

発火点215

LD50(経口)390mgkg

製造東京化成工業株式会社

9

へプタン

式量1002

沸点98

引火点-4

水に不溶

製造昭和化学

2-プロパノール

式量60

沸点82

発火点12

LD50(経口)区分外(GHS分類)

LD50(経皮)区分外(GHS分類)

製造昭和化学

ペルオキソ二硫酸アンモニウム

式量22820

冷水に易溶保存湿気厳禁

重合開始罪乳化重合レドックス重合に用いられる

製造和光純薬工業株式会社

412 実験手順

① ビーカーにイオン交換水ヘプタンポリオキシエチレンオレイルエーテル(2)

(8)をそれぞれ507 mL 507 mL489 g((2)(8)=23)加えて良く撹拌したも

のを入れる

② その後その後温度調節機能つきスターラーに乗せ白濁するまで加熱する

白濁した液が透明化するまで温度を落とし電気伝導率計を用いて溶液が転

相温度付近に保たれていることを確認する

③ 以上の操作が済んだ重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先

ほどのスターラーと同じ温度にしたウォーターバスに移し2-アクリルアミド

-2-メチルプロパンスルホン酸NNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 137 g

262 g入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始

剤としてメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

10

④ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

42 N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミドを用いた新規化粧品用増粘剤の合成

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を誘導体と入れ替える以外の

操作は 41に準ずる

親水基による増粘性の変化を観察するため架橋剤のモノマーに対する濃度比

は 2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を使用したポリマーが最も増

粘効果の高くなると報告された濃度比を用いる

421 使用器具試薬

使用器具は 41に準ずる

試薬

N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド

式量11513

沸点130

発火点189

製造東京化成工業株式会社

422 実験手順

① 412 ①②と同じように重合系を作成する

② 以上の操作が済んだ重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先

ほどのスターラーと同じ温度にしたウォーターバスに移しN-(2-ヒドロキシエ

チル)アクリルアミドNNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 076 g262

g 入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始剤と

してメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

③ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

11

43 (3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライドを用いた新規化粧品用

増粘剤の合成

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を誘導体と入れ替える以外の操作は

41に準ずる

親水基による増粘性の変化を観察するため架橋剤のモノマーに対する濃度比は 2-ア

クリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を使用したポリマーが最も増粘効果の高く

なると報告された濃度比を用いる

431 実験器具

実験器具は 41に準ずる

試薬

(3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライド

式量22074

沸点100

製造東京化成工業株式会社

432 実験手順

① 412 ①②と同じように重合系を作成する

② 重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先ほどのスターラーと

同じ温度にしたウォーターバスに移し (3-アクリルアミドプロピル)トリメチ

ルアミニウムクロライドNNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 123 mL

262 g入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始

剤としてメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

③ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

5 評価分析

耐塩性の高い増粘剤の耐塩性と使用感と親水基との関係を評価するために以下の二

つの測定を行い評価する

増粘剤の耐塩性の評価のために塩酸を増粘剤内部に取り込ませた状態で経時

12

による粘度の変化を観察する

また高分子の粘性を考える上で直鎖高分子の場合よく参考にされるのが平

均分子量でありこの値を測定することで親水基が変化した場合に平均分子

量が粒状高分子の粘性にも大きく影響するか確認する

精密に上の測定を行うには専用の機器が必要になるため機器メーカーの株式

会社エーアンドデイ様または東京理科大学理学部応用化学科駒場研究室に

また高分子の性質を考える上で重要視される平均分子量及び分子量分布に

ついては東京理科大学化学系機器センターにあるMALDI-TOF型質量分析計を管

理者の東京理科大学理学部応用化学科の根岸先生に測定に協力していただこうと

考えている

6 謝辞

東京理科大学工学部工業化学科 近藤行成教授

東京理科大学理学部化学科 遠藤恆平准教授

東京理科大学理学部応用化学科 駒場慎一教授

この研究を進めるに当たり大変お世話になった先輩先生方企業の皆さんに感謝の

意を表明します

参考文献

1) 小澤美奈子 基礎高分子科学 高分子学会 編 2010年 第六版 p979899

2) 小澤美奈子 基礎高分子科学 高分子学会 編 2010年 第六版 p99100

3) 金田 勇 逆相マイクロエマルション重合法による水膨潤性ミクロゲルの重合とその増

粘剤としての応用 2010年 p1

4) 小林敏勝 福井寛 きちん知りたい粒子表面と分散技術 日刊工業新聞社 p76

5) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 2006 p839 840 841

6) 皆川基 藤井富美子 洗剤洗浄 百科事典 大矢勝 2007年版 p4647

7) 日本産業洗浄協議会編 わかりやすい界面活性剤 工業調査会 2003 p373839

8) 資生堂 HP httpswwwshiseidogroupjprddevelopmentformulationhtmlより 2015

44取得

9) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 テクノシステム 2006 p321

10) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 テクノシステム 2006 p397

13

398399

11) 遠藤 剛 高分子の合成(上)~ラジカルカチオンアニオン重合~ 講談社 2010 3p

12) 佐藤壽彌編 高分子微粒子の技術と応用 シーエムシー出版 2004 p2526

13) 佐藤壽彌編 高分子微粒子の技術と応用 シーエムシー出版 2004 p27

14) マクマリー 上 8版 東京化学同人 p403404

15) John McMurry マクマリー有機化学(上) 第 8版 2013 p410411

Page 44: ゼオライトとキトサンを用いた 金属イオン除去剤の …kaken/studies/2015/2015-s-all.pdf1 東京理科大学I 部化学研究部 2015 年度春輪講書 ゼオライトとキトサンを用いた

5

ポリマーを合成することができる 5)

36 界面活性剤の概略

界面活性剤とは分子の構造が水になじみやすい部分(親水基)と油になじみやすい

部分(新油基)からできていて2つの物質の間の界面に集まりやすい性質を持ちそ

の界面の性質を著しく変える物質というのが界面活性剤の定義である

代表的な界面活性剤の特徴は界面における「吸着」と「ミセル形成」である 6)

もうひとつの代表的な作用として「可溶化」もある

37 エマルションの形成

界面活性剤に有機溶媒が取り囲まれて水に可溶化されたとき水溶液中に存在する

有機溶媒を界面活性剤が取り囲んだ液滴のことを OW エマルションと呼ぶ

有機溶媒中に水が可溶化される場合WOエマルションと呼ぶ

38 ノニオン界面活性剤

非イオン界面活性剤とも言う界面活性剤の内解離基を持たず電気的に中性な

界面活性剤で親水基は主にポリオキシエチレン基であるその特殊な性質上他の種類

の界面活性剤に無い性質として曇点と転相温度を持つ 今回使用するノニオン界面

活性剤はポリオキシエチレンオレイルエーテルであり基本式は以下のような形にな

る 7)

R-O(CH2CH2O)n-H

Scheme 1 ポリオキシエチレンオレイルエーテルの基本式

39 曇点

曇点とは透明な液体が相分離を起こして白濁する温度のこと

本実験においてはノニオン界面活性剤が加温によって界面活性効果を失い相分離

によって白濁する温度のこと 8)

310 転相温度乳化

ノニオン界面活性剤は加温によって界面張力が変化しWO型エマルションから

OW 型に変化するこの変化点のことを転相温度と言い転相温度において界

6

面張力が最低になっているので溶液エマルションが極小になる

またこの転相温度は界面活性剤に固有の値となるので二種の比較的性質の

近い界面活性剤を混合することで転相温度を操作し適切な温度で5 μm~30 μm

程度の直径を持つエマルションを作成する方法を転相温度乳化法と呼ぶ 10)

311 ラジカル重合

開始剤を用いてラジカル種を生成して行う重合法のことをラジカル重合法と言う

開始剤の分解要因によって熱光放射線ラジカル重合の三つに分けられる 10)

3111 ラジカル重合を構成する四反応

ラジカル重合は 4種類の反応が同時並行的に起こるそれぞれ以下の通りである 11)

開始反応

開始剤が熱光放射光などの要因によってラジカル開裂を起こしラジカル種を

生じさせる反応

成長反応

ラジカル種がモノマーと反応することでモノマー新たなラジカル種が生成する

反応これが連続することでポリマーが合成される

停止反応

連鎖していた成長反応が止まる反応主にラジカル種同士の反応による

連鎖移動反応

ラジカル種がモノマー以外の分子主に溶媒分子等と反応することでポリマー以

外の物質を合成する副反応

3112 乳化重合

乳化重合はモノマー液滴と呼ばれるモノマーを大量に保存しているエマルシ

ョンと反応場となる極小のセッケンミセルの二つの構造を持つ溶液中で行う不均

一系ラジカル重合の一種である 12)

成長反応が一段階進むたびにモノマー液滴から拡散の理論式に従ってモノマ

ーがミセル内に移動するこの一連の反応を繰り返して反応が進む 13)

そのため種々のラジカル重合法と比較して以下の特長がある 13)

セッケンミセル内に存在するラジカルが常に一つであるため停止反応が

7

起こりにくく比較的重合度の高いポリマーが生成しやすい

反応速度が拡散作用によって律速されかつセッケンミセルの周囲を大量

の溶媒分子が囲んでいるため除熱が容易であるという理由から熱暴走を起

こしにくいという利点がある

ミセル内で重合するため合成した高分子が絡まりやすく粒状の分子が作

成できる

Fig5 乳化重合模式図

312 MS(質量分析法)

質量分析法とは分子の質量すなわち分子量を測る手段でもあるまた分子を分解

したフラグメントの質量を測ることによって分子構造に関する情報を得るものでも

ある

高エネルギー電子が有機分子にぶつかると分子から電子がはじき出せれカチオ

ンラジカルが発生する

119825119815 rarr 119825119815++119838minus Scheme 2カチオンラジカルの発生

電子の衝突により大量のエネルギーが分子に与えられることで大部分のカチオン

ラジカルを生成した後フラグメントに分解するフラグメントは小さな破片となっ

て浮遊し正電荷や中性となる

このカチオンラジカルとフラグメントについてmz値を横軸相対強度を縦軸につ

いて取ったグラフから質量スペクトルを読み取る 14)

またMS(質量分析法)はイオン化の方法などによりいくつかに分けられ今回使用

したいのは高分子試料でもほとんどフラグメンテーションを起こさないソフトなイ

8

オン化法であるMALDI法 15)である

3121 MALDI法(マトリックス支援レーザー脱離イオン化法)

試料を 25-ヒドロキシ安息香酸のような適切なマトリックス上に吸着させて

ペレットを作成しレーザー光を短時間照射してイオン化する

エネルギーがマトリックスから試料に移動し[119872 + 119867119899 ]119899+に分解される 15)

MALDI法にはよく TOF型の MSが用いられている

4 実験

41 2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を用いた既存化粧品用増粘剤の合成

411 使用器具試薬

温度計ウォーターバスビーカー薬さじデシケーター

ジメチルアクリルアミド

式量9913

沸点81

発火点71

LD50(経口)316mgkg

LD50(経皮)580mgkg

製造和光純薬工業株式会社

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸

式量20725

融点200

LD50(経口)5400mgkg

製造和光純薬工業株式会社

NN-メチレンビスアクリルアミド

式量156

沸点4451

発火点215

LD50(経口)390mgkg

製造東京化成工業株式会社

9

へプタン

式量1002

沸点98

引火点-4

水に不溶

製造昭和化学

2-プロパノール

式量60

沸点82

発火点12

LD50(経口)区分外(GHS分類)

LD50(経皮)区分外(GHS分類)

製造昭和化学

ペルオキソ二硫酸アンモニウム

式量22820

冷水に易溶保存湿気厳禁

重合開始罪乳化重合レドックス重合に用いられる

製造和光純薬工業株式会社

412 実験手順

① ビーカーにイオン交換水ヘプタンポリオキシエチレンオレイルエーテル(2)

(8)をそれぞれ507 mL 507 mL489 g((2)(8)=23)加えて良く撹拌したも

のを入れる

② その後その後温度調節機能つきスターラーに乗せ白濁するまで加熱する

白濁した液が透明化するまで温度を落とし電気伝導率計を用いて溶液が転

相温度付近に保たれていることを確認する

③ 以上の操作が済んだ重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先

ほどのスターラーと同じ温度にしたウォーターバスに移し2-アクリルアミド

-2-メチルプロパンスルホン酸NNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 137 g

262 g入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始

剤としてメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

10

④ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

42 N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミドを用いた新規化粧品用増粘剤の合成

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を誘導体と入れ替える以外の

操作は 41に準ずる

親水基による増粘性の変化を観察するため架橋剤のモノマーに対する濃度比

は 2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を使用したポリマーが最も増

粘効果の高くなると報告された濃度比を用いる

421 使用器具試薬

使用器具は 41に準ずる

試薬

N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド

式量11513

沸点130

発火点189

製造東京化成工業株式会社

422 実験手順

① 412 ①②と同じように重合系を作成する

② 以上の操作が済んだ重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先

ほどのスターラーと同じ温度にしたウォーターバスに移しN-(2-ヒドロキシエ

チル)アクリルアミドNNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 076 g262

g 入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始剤と

してメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

③ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

11

43 (3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライドを用いた新規化粧品用

増粘剤の合成

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を誘導体と入れ替える以外の操作は

41に準ずる

親水基による増粘性の変化を観察するため架橋剤のモノマーに対する濃度比は 2-ア

クリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を使用したポリマーが最も増粘効果の高く

なると報告された濃度比を用いる

431 実験器具

実験器具は 41に準ずる

試薬

(3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライド

式量22074

沸点100

製造東京化成工業株式会社

432 実験手順

① 412 ①②と同じように重合系を作成する

② 重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先ほどのスターラーと

同じ温度にしたウォーターバスに移し (3-アクリルアミドプロピル)トリメチ

ルアミニウムクロライドNNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 123 mL

262 g入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始

剤としてメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

③ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

5 評価分析

耐塩性の高い増粘剤の耐塩性と使用感と親水基との関係を評価するために以下の二

つの測定を行い評価する

増粘剤の耐塩性の評価のために塩酸を増粘剤内部に取り込ませた状態で経時

12

による粘度の変化を観察する

また高分子の粘性を考える上で直鎖高分子の場合よく参考にされるのが平

均分子量でありこの値を測定することで親水基が変化した場合に平均分子

量が粒状高分子の粘性にも大きく影響するか確認する

精密に上の測定を行うには専用の機器が必要になるため機器メーカーの株式

会社エーアンドデイ様または東京理科大学理学部応用化学科駒場研究室に

また高分子の性質を考える上で重要視される平均分子量及び分子量分布に

ついては東京理科大学化学系機器センターにあるMALDI-TOF型質量分析計を管

理者の東京理科大学理学部応用化学科の根岸先生に測定に協力していただこうと

考えている

6 謝辞

東京理科大学工学部工業化学科 近藤行成教授

東京理科大学理学部化学科 遠藤恆平准教授

東京理科大学理学部応用化学科 駒場慎一教授

この研究を進めるに当たり大変お世話になった先輩先生方企業の皆さんに感謝の

意を表明します

参考文献

1) 小澤美奈子 基礎高分子科学 高分子学会 編 2010年 第六版 p979899

2) 小澤美奈子 基礎高分子科学 高分子学会 編 2010年 第六版 p99100

3) 金田 勇 逆相マイクロエマルション重合法による水膨潤性ミクロゲルの重合とその増

粘剤としての応用 2010年 p1

4) 小林敏勝 福井寛 きちん知りたい粒子表面と分散技術 日刊工業新聞社 p76

5) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 2006 p839 840 841

6) 皆川基 藤井富美子 洗剤洗浄 百科事典 大矢勝 2007年版 p4647

7) 日本産業洗浄協議会編 わかりやすい界面活性剤 工業調査会 2003 p373839

8) 資生堂 HP httpswwwshiseidogroupjprddevelopmentformulationhtmlより 2015

44取得

9) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 テクノシステム 2006 p321

10) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 テクノシステム 2006 p397

13

398399

11) 遠藤 剛 高分子の合成(上)~ラジカルカチオンアニオン重合~ 講談社 2010 3p

12) 佐藤壽彌編 高分子微粒子の技術と応用 シーエムシー出版 2004 p2526

13) 佐藤壽彌編 高分子微粒子の技術と応用 シーエムシー出版 2004 p27

14) マクマリー 上 8版 東京化学同人 p403404

15) John McMurry マクマリー有機化学(上) 第 8版 2013 p410411

Page 45: ゼオライトとキトサンを用いた 金属イオン除去剤の …kaken/studies/2015/2015-s-all.pdf1 東京理科大学I 部化学研究部 2015 年度春輪講書 ゼオライトとキトサンを用いた

6

面張力が最低になっているので溶液エマルションが極小になる

またこの転相温度は界面活性剤に固有の値となるので二種の比較的性質の

近い界面活性剤を混合することで転相温度を操作し適切な温度で5 μm~30 μm

程度の直径を持つエマルションを作成する方法を転相温度乳化法と呼ぶ 10)

311 ラジカル重合

開始剤を用いてラジカル種を生成して行う重合法のことをラジカル重合法と言う

開始剤の分解要因によって熱光放射線ラジカル重合の三つに分けられる 10)

3111 ラジカル重合を構成する四反応

ラジカル重合は 4種類の反応が同時並行的に起こるそれぞれ以下の通りである 11)

開始反応

開始剤が熱光放射光などの要因によってラジカル開裂を起こしラジカル種を

生じさせる反応

成長反応

ラジカル種がモノマーと反応することでモノマー新たなラジカル種が生成する

反応これが連続することでポリマーが合成される

停止反応

連鎖していた成長反応が止まる反応主にラジカル種同士の反応による

連鎖移動反応

ラジカル種がモノマー以外の分子主に溶媒分子等と反応することでポリマー以

外の物質を合成する副反応

3112 乳化重合

乳化重合はモノマー液滴と呼ばれるモノマーを大量に保存しているエマルシ

ョンと反応場となる極小のセッケンミセルの二つの構造を持つ溶液中で行う不均

一系ラジカル重合の一種である 12)

成長反応が一段階進むたびにモノマー液滴から拡散の理論式に従ってモノマ

ーがミセル内に移動するこの一連の反応を繰り返して反応が進む 13)

そのため種々のラジカル重合法と比較して以下の特長がある 13)

セッケンミセル内に存在するラジカルが常に一つであるため停止反応が

7

起こりにくく比較的重合度の高いポリマーが生成しやすい

反応速度が拡散作用によって律速されかつセッケンミセルの周囲を大量

の溶媒分子が囲んでいるため除熱が容易であるという理由から熱暴走を起

こしにくいという利点がある

ミセル内で重合するため合成した高分子が絡まりやすく粒状の分子が作

成できる

Fig5 乳化重合模式図

312 MS(質量分析法)

質量分析法とは分子の質量すなわち分子量を測る手段でもあるまた分子を分解

したフラグメントの質量を測ることによって分子構造に関する情報を得るものでも

ある

高エネルギー電子が有機分子にぶつかると分子から電子がはじき出せれカチオ

ンラジカルが発生する

119825119815 rarr 119825119815++119838minus Scheme 2カチオンラジカルの発生

電子の衝突により大量のエネルギーが分子に与えられることで大部分のカチオン

ラジカルを生成した後フラグメントに分解するフラグメントは小さな破片となっ

て浮遊し正電荷や中性となる

このカチオンラジカルとフラグメントについてmz値を横軸相対強度を縦軸につ

いて取ったグラフから質量スペクトルを読み取る 14)

またMS(質量分析法)はイオン化の方法などによりいくつかに分けられ今回使用

したいのは高分子試料でもほとんどフラグメンテーションを起こさないソフトなイ

8

オン化法であるMALDI法 15)である

3121 MALDI法(マトリックス支援レーザー脱離イオン化法)

試料を 25-ヒドロキシ安息香酸のような適切なマトリックス上に吸着させて

ペレットを作成しレーザー光を短時間照射してイオン化する

エネルギーがマトリックスから試料に移動し[119872 + 119867119899 ]119899+に分解される 15)

MALDI法にはよく TOF型の MSが用いられている

4 実験

41 2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を用いた既存化粧品用増粘剤の合成

411 使用器具試薬

温度計ウォーターバスビーカー薬さじデシケーター

ジメチルアクリルアミド

式量9913

沸点81

発火点71

LD50(経口)316mgkg

LD50(経皮)580mgkg

製造和光純薬工業株式会社

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸

式量20725

融点200

LD50(経口)5400mgkg

製造和光純薬工業株式会社

NN-メチレンビスアクリルアミド

式量156

沸点4451

発火点215

LD50(経口)390mgkg

製造東京化成工業株式会社

9

へプタン

式量1002

沸点98

引火点-4

水に不溶

製造昭和化学

2-プロパノール

式量60

沸点82

発火点12

LD50(経口)区分外(GHS分類)

LD50(経皮)区分外(GHS分類)

製造昭和化学

ペルオキソ二硫酸アンモニウム

式量22820

冷水に易溶保存湿気厳禁

重合開始罪乳化重合レドックス重合に用いられる

製造和光純薬工業株式会社

412 実験手順

① ビーカーにイオン交換水ヘプタンポリオキシエチレンオレイルエーテル(2)

(8)をそれぞれ507 mL 507 mL489 g((2)(8)=23)加えて良く撹拌したも

のを入れる

② その後その後温度調節機能つきスターラーに乗せ白濁するまで加熱する

白濁した液が透明化するまで温度を落とし電気伝導率計を用いて溶液が転

相温度付近に保たれていることを確認する

③ 以上の操作が済んだ重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先

ほどのスターラーと同じ温度にしたウォーターバスに移し2-アクリルアミド

-2-メチルプロパンスルホン酸NNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 137 g

262 g入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始

剤としてメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

10

④ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

42 N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミドを用いた新規化粧品用増粘剤の合成

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を誘導体と入れ替える以外の

操作は 41に準ずる

親水基による増粘性の変化を観察するため架橋剤のモノマーに対する濃度比

は 2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を使用したポリマーが最も増

粘効果の高くなると報告された濃度比を用いる

421 使用器具試薬

使用器具は 41に準ずる

試薬

N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド

式量11513

沸点130

発火点189

製造東京化成工業株式会社

422 実験手順

① 412 ①②と同じように重合系を作成する

② 以上の操作が済んだ重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先

ほどのスターラーと同じ温度にしたウォーターバスに移しN-(2-ヒドロキシエ

チル)アクリルアミドNNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 076 g262

g 入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始剤と

してメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

③ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

11

43 (3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライドを用いた新規化粧品用

増粘剤の合成

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を誘導体と入れ替える以外の操作は

41に準ずる

親水基による増粘性の変化を観察するため架橋剤のモノマーに対する濃度比は 2-ア

クリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を使用したポリマーが最も増粘効果の高く

なると報告された濃度比を用いる

431 実験器具

実験器具は 41に準ずる

試薬

(3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライド

式量22074

沸点100

製造東京化成工業株式会社

432 実験手順

① 412 ①②と同じように重合系を作成する

② 重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先ほどのスターラーと

同じ温度にしたウォーターバスに移し (3-アクリルアミドプロピル)トリメチ

ルアミニウムクロライドNNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 123 mL

262 g入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始

剤としてメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

③ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

5 評価分析

耐塩性の高い増粘剤の耐塩性と使用感と親水基との関係を評価するために以下の二

つの測定を行い評価する

増粘剤の耐塩性の評価のために塩酸を増粘剤内部に取り込ませた状態で経時

12

による粘度の変化を観察する

また高分子の粘性を考える上で直鎖高分子の場合よく参考にされるのが平

均分子量でありこの値を測定することで親水基が変化した場合に平均分子

量が粒状高分子の粘性にも大きく影響するか確認する

精密に上の測定を行うには専用の機器が必要になるため機器メーカーの株式

会社エーアンドデイ様または東京理科大学理学部応用化学科駒場研究室に

また高分子の性質を考える上で重要視される平均分子量及び分子量分布に

ついては東京理科大学化学系機器センターにあるMALDI-TOF型質量分析計を管

理者の東京理科大学理学部応用化学科の根岸先生に測定に協力していただこうと

考えている

6 謝辞

東京理科大学工学部工業化学科 近藤行成教授

東京理科大学理学部化学科 遠藤恆平准教授

東京理科大学理学部応用化学科 駒場慎一教授

この研究を進めるに当たり大変お世話になった先輩先生方企業の皆さんに感謝の

意を表明します

参考文献

1) 小澤美奈子 基礎高分子科学 高分子学会 編 2010年 第六版 p979899

2) 小澤美奈子 基礎高分子科学 高分子学会 編 2010年 第六版 p99100

3) 金田 勇 逆相マイクロエマルション重合法による水膨潤性ミクロゲルの重合とその増

粘剤としての応用 2010年 p1

4) 小林敏勝 福井寛 きちん知りたい粒子表面と分散技術 日刊工業新聞社 p76

5) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 2006 p839 840 841

6) 皆川基 藤井富美子 洗剤洗浄 百科事典 大矢勝 2007年版 p4647

7) 日本産業洗浄協議会編 わかりやすい界面活性剤 工業調査会 2003 p373839

8) 資生堂 HP httpswwwshiseidogroupjprddevelopmentformulationhtmlより 2015

44取得

9) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 テクノシステム 2006 p321

10) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 テクノシステム 2006 p397

13

398399

11) 遠藤 剛 高分子の合成(上)~ラジカルカチオンアニオン重合~ 講談社 2010 3p

12) 佐藤壽彌編 高分子微粒子の技術と応用 シーエムシー出版 2004 p2526

13) 佐藤壽彌編 高分子微粒子の技術と応用 シーエムシー出版 2004 p27

14) マクマリー 上 8版 東京化学同人 p403404

15) John McMurry マクマリー有機化学(上) 第 8版 2013 p410411

Page 46: ゼオライトとキトサンを用いた 金属イオン除去剤の …kaken/studies/2015/2015-s-all.pdf1 東京理科大学I 部化学研究部 2015 年度春輪講書 ゼオライトとキトサンを用いた

7

起こりにくく比較的重合度の高いポリマーが生成しやすい

反応速度が拡散作用によって律速されかつセッケンミセルの周囲を大量

の溶媒分子が囲んでいるため除熱が容易であるという理由から熱暴走を起

こしにくいという利点がある

ミセル内で重合するため合成した高分子が絡まりやすく粒状の分子が作

成できる

Fig5 乳化重合模式図

312 MS(質量分析法)

質量分析法とは分子の質量すなわち分子量を測る手段でもあるまた分子を分解

したフラグメントの質量を測ることによって分子構造に関する情報を得るものでも

ある

高エネルギー電子が有機分子にぶつかると分子から電子がはじき出せれカチオ

ンラジカルが発生する

119825119815 rarr 119825119815++119838minus Scheme 2カチオンラジカルの発生

電子の衝突により大量のエネルギーが分子に与えられることで大部分のカチオン

ラジカルを生成した後フラグメントに分解するフラグメントは小さな破片となっ

て浮遊し正電荷や中性となる

このカチオンラジカルとフラグメントについてmz値を横軸相対強度を縦軸につ

いて取ったグラフから質量スペクトルを読み取る 14)

またMS(質量分析法)はイオン化の方法などによりいくつかに分けられ今回使用

したいのは高分子試料でもほとんどフラグメンテーションを起こさないソフトなイ

8

オン化法であるMALDI法 15)である

3121 MALDI法(マトリックス支援レーザー脱離イオン化法)

試料を 25-ヒドロキシ安息香酸のような適切なマトリックス上に吸着させて

ペレットを作成しレーザー光を短時間照射してイオン化する

エネルギーがマトリックスから試料に移動し[119872 + 119867119899 ]119899+に分解される 15)

MALDI法にはよく TOF型の MSが用いられている

4 実験

41 2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を用いた既存化粧品用増粘剤の合成

411 使用器具試薬

温度計ウォーターバスビーカー薬さじデシケーター

ジメチルアクリルアミド

式量9913

沸点81

発火点71

LD50(経口)316mgkg

LD50(経皮)580mgkg

製造和光純薬工業株式会社

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸

式量20725

融点200

LD50(経口)5400mgkg

製造和光純薬工業株式会社

NN-メチレンビスアクリルアミド

式量156

沸点4451

発火点215

LD50(経口)390mgkg

製造東京化成工業株式会社

9

へプタン

式量1002

沸点98

引火点-4

水に不溶

製造昭和化学

2-プロパノール

式量60

沸点82

発火点12

LD50(経口)区分外(GHS分類)

LD50(経皮)区分外(GHS分類)

製造昭和化学

ペルオキソ二硫酸アンモニウム

式量22820

冷水に易溶保存湿気厳禁

重合開始罪乳化重合レドックス重合に用いられる

製造和光純薬工業株式会社

412 実験手順

① ビーカーにイオン交換水ヘプタンポリオキシエチレンオレイルエーテル(2)

(8)をそれぞれ507 mL 507 mL489 g((2)(8)=23)加えて良く撹拌したも

のを入れる

② その後その後温度調節機能つきスターラーに乗せ白濁するまで加熱する

白濁した液が透明化するまで温度を落とし電気伝導率計を用いて溶液が転

相温度付近に保たれていることを確認する

③ 以上の操作が済んだ重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先

ほどのスターラーと同じ温度にしたウォーターバスに移し2-アクリルアミド

-2-メチルプロパンスルホン酸NNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 137 g

262 g入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始

剤としてメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

10

④ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

42 N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミドを用いた新規化粧品用増粘剤の合成

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を誘導体と入れ替える以外の

操作は 41に準ずる

親水基による増粘性の変化を観察するため架橋剤のモノマーに対する濃度比

は 2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を使用したポリマーが最も増

粘効果の高くなると報告された濃度比を用いる

421 使用器具試薬

使用器具は 41に準ずる

試薬

N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド

式量11513

沸点130

発火点189

製造東京化成工業株式会社

422 実験手順

① 412 ①②と同じように重合系を作成する

② 以上の操作が済んだ重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先

ほどのスターラーと同じ温度にしたウォーターバスに移しN-(2-ヒドロキシエ

チル)アクリルアミドNNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 076 g262

g 入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始剤と

してメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

③ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

11

43 (3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライドを用いた新規化粧品用

増粘剤の合成

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を誘導体と入れ替える以外の操作は

41に準ずる

親水基による増粘性の変化を観察するため架橋剤のモノマーに対する濃度比は 2-ア

クリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を使用したポリマーが最も増粘効果の高く

なると報告された濃度比を用いる

431 実験器具

実験器具は 41に準ずる

試薬

(3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライド

式量22074

沸点100

製造東京化成工業株式会社

432 実験手順

① 412 ①②と同じように重合系を作成する

② 重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先ほどのスターラーと

同じ温度にしたウォーターバスに移し (3-アクリルアミドプロピル)トリメチ

ルアミニウムクロライドNNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 123 mL

262 g入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始

剤としてメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

③ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

5 評価分析

耐塩性の高い増粘剤の耐塩性と使用感と親水基との関係を評価するために以下の二

つの測定を行い評価する

増粘剤の耐塩性の評価のために塩酸を増粘剤内部に取り込ませた状態で経時

12

による粘度の変化を観察する

また高分子の粘性を考える上で直鎖高分子の場合よく参考にされるのが平

均分子量でありこの値を測定することで親水基が変化した場合に平均分子

量が粒状高分子の粘性にも大きく影響するか確認する

精密に上の測定を行うには専用の機器が必要になるため機器メーカーの株式

会社エーアンドデイ様または東京理科大学理学部応用化学科駒場研究室に

また高分子の性質を考える上で重要視される平均分子量及び分子量分布に

ついては東京理科大学化学系機器センターにあるMALDI-TOF型質量分析計を管

理者の東京理科大学理学部応用化学科の根岸先生に測定に協力していただこうと

考えている

6 謝辞

東京理科大学工学部工業化学科 近藤行成教授

東京理科大学理学部化学科 遠藤恆平准教授

東京理科大学理学部応用化学科 駒場慎一教授

この研究を進めるに当たり大変お世話になった先輩先生方企業の皆さんに感謝の

意を表明します

参考文献

1) 小澤美奈子 基礎高分子科学 高分子学会 編 2010年 第六版 p979899

2) 小澤美奈子 基礎高分子科学 高分子学会 編 2010年 第六版 p99100

3) 金田 勇 逆相マイクロエマルション重合法による水膨潤性ミクロゲルの重合とその増

粘剤としての応用 2010年 p1

4) 小林敏勝 福井寛 きちん知りたい粒子表面と分散技術 日刊工業新聞社 p76

5) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 2006 p839 840 841

6) 皆川基 藤井富美子 洗剤洗浄 百科事典 大矢勝 2007年版 p4647

7) 日本産業洗浄協議会編 わかりやすい界面活性剤 工業調査会 2003 p373839

8) 資生堂 HP httpswwwshiseidogroupjprddevelopmentformulationhtmlより 2015

44取得

9) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 テクノシステム 2006 p321

10) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 テクノシステム 2006 p397

13

398399

11) 遠藤 剛 高分子の合成(上)~ラジカルカチオンアニオン重合~ 講談社 2010 3p

12) 佐藤壽彌編 高分子微粒子の技術と応用 シーエムシー出版 2004 p2526

13) 佐藤壽彌編 高分子微粒子の技術と応用 シーエムシー出版 2004 p27

14) マクマリー 上 8版 東京化学同人 p403404

15) John McMurry マクマリー有機化学(上) 第 8版 2013 p410411

Page 47: ゼオライトとキトサンを用いた 金属イオン除去剤の …kaken/studies/2015/2015-s-all.pdf1 東京理科大学I 部化学研究部 2015 年度春輪講書 ゼオライトとキトサンを用いた

8

オン化法であるMALDI法 15)である

3121 MALDI法(マトリックス支援レーザー脱離イオン化法)

試料を 25-ヒドロキシ安息香酸のような適切なマトリックス上に吸着させて

ペレットを作成しレーザー光を短時間照射してイオン化する

エネルギーがマトリックスから試料に移動し[119872 + 119867119899 ]119899+に分解される 15)

MALDI法にはよく TOF型の MSが用いられている

4 実験

41 2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を用いた既存化粧品用増粘剤の合成

411 使用器具試薬

温度計ウォーターバスビーカー薬さじデシケーター

ジメチルアクリルアミド

式量9913

沸点81

発火点71

LD50(経口)316mgkg

LD50(経皮)580mgkg

製造和光純薬工業株式会社

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸

式量20725

融点200

LD50(経口)5400mgkg

製造和光純薬工業株式会社

NN-メチレンビスアクリルアミド

式量156

沸点4451

発火点215

LD50(経口)390mgkg

製造東京化成工業株式会社

9

へプタン

式量1002

沸点98

引火点-4

水に不溶

製造昭和化学

2-プロパノール

式量60

沸点82

発火点12

LD50(経口)区分外(GHS分類)

LD50(経皮)区分外(GHS分類)

製造昭和化学

ペルオキソ二硫酸アンモニウム

式量22820

冷水に易溶保存湿気厳禁

重合開始罪乳化重合レドックス重合に用いられる

製造和光純薬工業株式会社

412 実験手順

① ビーカーにイオン交換水ヘプタンポリオキシエチレンオレイルエーテル(2)

(8)をそれぞれ507 mL 507 mL489 g((2)(8)=23)加えて良く撹拌したも

のを入れる

② その後その後温度調節機能つきスターラーに乗せ白濁するまで加熱する

白濁した液が透明化するまで温度を落とし電気伝導率計を用いて溶液が転

相温度付近に保たれていることを確認する

③ 以上の操作が済んだ重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先

ほどのスターラーと同じ温度にしたウォーターバスに移し2-アクリルアミド

-2-メチルプロパンスルホン酸NNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 137 g

262 g入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始

剤としてメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

10

④ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

42 N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミドを用いた新規化粧品用増粘剤の合成

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を誘導体と入れ替える以外の

操作は 41に準ずる

親水基による増粘性の変化を観察するため架橋剤のモノマーに対する濃度比

は 2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を使用したポリマーが最も増

粘効果の高くなると報告された濃度比を用いる

421 使用器具試薬

使用器具は 41に準ずる

試薬

N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド

式量11513

沸点130

発火点189

製造東京化成工業株式会社

422 実験手順

① 412 ①②と同じように重合系を作成する

② 以上の操作が済んだ重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先

ほどのスターラーと同じ温度にしたウォーターバスに移しN-(2-ヒドロキシエ

チル)アクリルアミドNNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 076 g262

g 入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始剤と

してメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

③ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

11

43 (3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライドを用いた新規化粧品用

増粘剤の合成

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を誘導体と入れ替える以外の操作は

41に準ずる

親水基による増粘性の変化を観察するため架橋剤のモノマーに対する濃度比は 2-ア

クリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を使用したポリマーが最も増粘効果の高く

なると報告された濃度比を用いる

431 実験器具

実験器具は 41に準ずる

試薬

(3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライド

式量22074

沸点100

製造東京化成工業株式会社

432 実験手順

① 412 ①②と同じように重合系を作成する

② 重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先ほどのスターラーと

同じ温度にしたウォーターバスに移し (3-アクリルアミドプロピル)トリメチ

ルアミニウムクロライドNNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 123 mL

262 g入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始

剤としてメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

③ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

5 評価分析

耐塩性の高い増粘剤の耐塩性と使用感と親水基との関係を評価するために以下の二

つの測定を行い評価する

増粘剤の耐塩性の評価のために塩酸を増粘剤内部に取り込ませた状態で経時

12

による粘度の変化を観察する

また高分子の粘性を考える上で直鎖高分子の場合よく参考にされるのが平

均分子量でありこの値を測定することで親水基が変化した場合に平均分子

量が粒状高分子の粘性にも大きく影響するか確認する

精密に上の測定を行うには専用の機器が必要になるため機器メーカーの株式

会社エーアンドデイ様または東京理科大学理学部応用化学科駒場研究室に

また高分子の性質を考える上で重要視される平均分子量及び分子量分布に

ついては東京理科大学化学系機器センターにあるMALDI-TOF型質量分析計を管

理者の東京理科大学理学部応用化学科の根岸先生に測定に協力していただこうと

考えている

6 謝辞

東京理科大学工学部工業化学科 近藤行成教授

東京理科大学理学部化学科 遠藤恆平准教授

東京理科大学理学部応用化学科 駒場慎一教授

この研究を進めるに当たり大変お世話になった先輩先生方企業の皆さんに感謝の

意を表明します

参考文献

1) 小澤美奈子 基礎高分子科学 高分子学会 編 2010年 第六版 p979899

2) 小澤美奈子 基礎高分子科学 高分子学会 編 2010年 第六版 p99100

3) 金田 勇 逆相マイクロエマルション重合法による水膨潤性ミクロゲルの重合とその増

粘剤としての応用 2010年 p1

4) 小林敏勝 福井寛 きちん知りたい粒子表面と分散技術 日刊工業新聞社 p76

5) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 2006 p839 840 841

6) 皆川基 藤井富美子 洗剤洗浄 百科事典 大矢勝 2007年版 p4647

7) 日本産業洗浄協議会編 わかりやすい界面活性剤 工業調査会 2003 p373839

8) 資生堂 HP httpswwwshiseidogroupjprddevelopmentformulationhtmlより 2015

44取得

9) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 テクノシステム 2006 p321

10) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 テクノシステム 2006 p397

13

398399

11) 遠藤 剛 高分子の合成(上)~ラジカルカチオンアニオン重合~ 講談社 2010 3p

12) 佐藤壽彌編 高分子微粒子の技術と応用 シーエムシー出版 2004 p2526

13) 佐藤壽彌編 高分子微粒子の技術と応用 シーエムシー出版 2004 p27

14) マクマリー 上 8版 東京化学同人 p403404

15) John McMurry マクマリー有機化学(上) 第 8版 2013 p410411

Page 48: ゼオライトとキトサンを用いた 金属イオン除去剤の …kaken/studies/2015/2015-s-all.pdf1 東京理科大学I 部化学研究部 2015 年度春輪講書 ゼオライトとキトサンを用いた

9

へプタン

式量1002

沸点98

引火点-4

水に不溶

製造昭和化学

2-プロパノール

式量60

沸点82

発火点12

LD50(経口)区分外(GHS分類)

LD50(経皮)区分外(GHS分類)

製造昭和化学

ペルオキソ二硫酸アンモニウム

式量22820

冷水に易溶保存湿気厳禁

重合開始罪乳化重合レドックス重合に用いられる

製造和光純薬工業株式会社

412 実験手順

① ビーカーにイオン交換水ヘプタンポリオキシエチレンオレイルエーテル(2)

(8)をそれぞれ507 mL 507 mL489 g((2)(8)=23)加えて良く撹拌したも

のを入れる

② その後その後温度調節機能つきスターラーに乗せ白濁するまで加熱する

白濁した液が透明化するまで温度を落とし電気伝導率計を用いて溶液が転

相温度付近に保たれていることを確認する

③ 以上の操作が済んだ重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先

ほどのスターラーと同じ温度にしたウォーターバスに移し2-アクリルアミド

-2-メチルプロパンスルホン酸NNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 137 g

262 g入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始

剤としてメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

10

④ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

42 N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミドを用いた新規化粧品用増粘剤の合成

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を誘導体と入れ替える以外の

操作は 41に準ずる

親水基による増粘性の変化を観察するため架橋剤のモノマーに対する濃度比

は 2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を使用したポリマーが最も増

粘効果の高くなると報告された濃度比を用いる

421 使用器具試薬

使用器具は 41に準ずる

試薬

N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド

式量11513

沸点130

発火点189

製造東京化成工業株式会社

422 実験手順

① 412 ①②と同じように重合系を作成する

② 以上の操作が済んだ重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先

ほどのスターラーと同じ温度にしたウォーターバスに移しN-(2-ヒドロキシエ

チル)アクリルアミドNNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 076 g262

g 入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始剤と

してメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

③ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

11

43 (3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライドを用いた新規化粧品用

増粘剤の合成

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を誘導体と入れ替える以外の操作は

41に準ずる

親水基による増粘性の変化を観察するため架橋剤のモノマーに対する濃度比は 2-ア

クリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を使用したポリマーが最も増粘効果の高く

なると報告された濃度比を用いる

431 実験器具

実験器具は 41に準ずる

試薬

(3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライド

式量22074

沸点100

製造東京化成工業株式会社

432 実験手順

① 412 ①②と同じように重合系を作成する

② 重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先ほどのスターラーと

同じ温度にしたウォーターバスに移し (3-アクリルアミドプロピル)トリメチ

ルアミニウムクロライドNNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 123 mL

262 g入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始

剤としてメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

③ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

5 評価分析

耐塩性の高い増粘剤の耐塩性と使用感と親水基との関係を評価するために以下の二

つの測定を行い評価する

増粘剤の耐塩性の評価のために塩酸を増粘剤内部に取り込ませた状態で経時

12

による粘度の変化を観察する

また高分子の粘性を考える上で直鎖高分子の場合よく参考にされるのが平

均分子量でありこの値を測定することで親水基が変化した場合に平均分子

量が粒状高分子の粘性にも大きく影響するか確認する

精密に上の測定を行うには専用の機器が必要になるため機器メーカーの株式

会社エーアンドデイ様または東京理科大学理学部応用化学科駒場研究室に

また高分子の性質を考える上で重要視される平均分子量及び分子量分布に

ついては東京理科大学化学系機器センターにあるMALDI-TOF型質量分析計を管

理者の東京理科大学理学部応用化学科の根岸先生に測定に協力していただこうと

考えている

6 謝辞

東京理科大学工学部工業化学科 近藤行成教授

東京理科大学理学部化学科 遠藤恆平准教授

東京理科大学理学部応用化学科 駒場慎一教授

この研究を進めるに当たり大変お世話になった先輩先生方企業の皆さんに感謝の

意を表明します

参考文献

1) 小澤美奈子 基礎高分子科学 高分子学会 編 2010年 第六版 p979899

2) 小澤美奈子 基礎高分子科学 高分子学会 編 2010年 第六版 p99100

3) 金田 勇 逆相マイクロエマルション重合法による水膨潤性ミクロゲルの重合とその増

粘剤としての応用 2010年 p1

4) 小林敏勝 福井寛 きちん知りたい粒子表面と分散技術 日刊工業新聞社 p76

5) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 2006 p839 840 841

6) 皆川基 藤井富美子 洗剤洗浄 百科事典 大矢勝 2007年版 p4647

7) 日本産業洗浄協議会編 わかりやすい界面活性剤 工業調査会 2003 p373839

8) 資生堂 HP httpswwwshiseidogroupjprddevelopmentformulationhtmlより 2015

44取得

9) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 テクノシステム 2006 p321

10) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 テクノシステム 2006 p397

13

398399

11) 遠藤 剛 高分子の合成(上)~ラジカルカチオンアニオン重合~ 講談社 2010 3p

12) 佐藤壽彌編 高分子微粒子の技術と応用 シーエムシー出版 2004 p2526

13) 佐藤壽彌編 高分子微粒子の技術と応用 シーエムシー出版 2004 p27

14) マクマリー 上 8版 東京化学同人 p403404

15) John McMurry マクマリー有機化学(上) 第 8版 2013 p410411

Page 49: ゼオライトとキトサンを用いた 金属イオン除去剤の …kaken/studies/2015/2015-s-all.pdf1 東京理科大学I 部化学研究部 2015 年度春輪講書 ゼオライトとキトサンを用いた

10

④ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

42 N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミドを用いた新規化粧品用増粘剤の合成

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を誘導体と入れ替える以外の

操作は 41に準ずる

親水基による増粘性の変化を観察するため架橋剤のモノマーに対する濃度比

は 2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を使用したポリマーが最も増

粘効果の高くなると報告された濃度比を用いる

421 使用器具試薬

使用器具は 41に準ずる

試薬

N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド

式量11513

沸点130

発火点189

製造東京化成工業株式会社

422 実験手順

① 412 ①②と同じように重合系を作成する

② 以上の操作が済んだ重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先

ほどのスターラーと同じ温度にしたウォーターバスに移しN-(2-ヒドロキシエ

チル)アクリルアミドNNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 076 g262

g 入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始剤と

してメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

③ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

11

43 (3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライドを用いた新規化粧品用

増粘剤の合成

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を誘導体と入れ替える以外の操作は

41に準ずる

親水基による増粘性の変化を観察するため架橋剤のモノマーに対する濃度比は 2-ア

クリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を使用したポリマーが最も増粘効果の高く

なると報告された濃度比を用いる

431 実験器具

実験器具は 41に準ずる

試薬

(3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライド

式量22074

沸点100

製造東京化成工業株式会社

432 実験手順

① 412 ①②と同じように重合系を作成する

② 重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先ほどのスターラーと

同じ温度にしたウォーターバスに移し (3-アクリルアミドプロピル)トリメチ

ルアミニウムクロライドNNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 123 mL

262 g入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始

剤としてメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

③ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

5 評価分析

耐塩性の高い増粘剤の耐塩性と使用感と親水基との関係を評価するために以下の二

つの測定を行い評価する

増粘剤の耐塩性の評価のために塩酸を増粘剤内部に取り込ませた状態で経時

12

による粘度の変化を観察する

また高分子の粘性を考える上で直鎖高分子の場合よく参考にされるのが平

均分子量でありこの値を測定することで親水基が変化した場合に平均分子

量が粒状高分子の粘性にも大きく影響するか確認する

精密に上の測定を行うには専用の機器が必要になるため機器メーカーの株式

会社エーアンドデイ様または東京理科大学理学部応用化学科駒場研究室に

また高分子の性質を考える上で重要視される平均分子量及び分子量分布に

ついては東京理科大学化学系機器センターにあるMALDI-TOF型質量分析計を管

理者の東京理科大学理学部応用化学科の根岸先生に測定に協力していただこうと

考えている

6 謝辞

東京理科大学工学部工業化学科 近藤行成教授

東京理科大学理学部化学科 遠藤恆平准教授

東京理科大学理学部応用化学科 駒場慎一教授

この研究を進めるに当たり大変お世話になった先輩先生方企業の皆さんに感謝の

意を表明します

参考文献

1) 小澤美奈子 基礎高分子科学 高分子学会 編 2010年 第六版 p979899

2) 小澤美奈子 基礎高分子科学 高分子学会 編 2010年 第六版 p99100

3) 金田 勇 逆相マイクロエマルション重合法による水膨潤性ミクロゲルの重合とその増

粘剤としての応用 2010年 p1

4) 小林敏勝 福井寛 きちん知りたい粒子表面と分散技術 日刊工業新聞社 p76

5) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 2006 p839 840 841

6) 皆川基 藤井富美子 洗剤洗浄 百科事典 大矢勝 2007年版 p4647

7) 日本産業洗浄協議会編 わかりやすい界面活性剤 工業調査会 2003 p373839

8) 資生堂 HP httpswwwshiseidogroupjprddevelopmentformulationhtmlより 2015

44取得

9) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 テクノシステム 2006 p321

10) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 テクノシステム 2006 p397

13

398399

11) 遠藤 剛 高分子の合成(上)~ラジカルカチオンアニオン重合~ 講談社 2010 3p

12) 佐藤壽彌編 高分子微粒子の技術と応用 シーエムシー出版 2004 p2526

13) 佐藤壽彌編 高分子微粒子の技術と応用 シーエムシー出版 2004 p27

14) マクマリー 上 8版 東京化学同人 p403404

15) John McMurry マクマリー有機化学(上) 第 8版 2013 p410411

Page 50: ゼオライトとキトサンを用いた 金属イオン除去剤の …kaken/studies/2015/2015-s-all.pdf1 東京理科大学I 部化学研究部 2015 年度春輪講書 ゼオライトとキトサンを用いた

11

43 (3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライドを用いた新規化粧品用

増粘剤の合成

2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を誘導体と入れ替える以外の操作は

41に準ずる

親水基による増粘性の変化を観察するため架橋剤のモノマーに対する濃度比は 2-ア

クリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を使用したポリマーが最も増粘効果の高く

なると報告された濃度比を用いる

431 実験器具

実験器具は 41に準ずる

試薬

(3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアミニウムクロライド

式量22074

沸点100

製造東京化成工業株式会社

432 実験手順

① 412 ①②と同じように重合系を作成する

② 重合系溶液を丸底フラスコに移した後丸底フラスコを先ほどのスターラーと

同じ温度にしたウォーターバスに移し (3-アクリルアミドプロピル)トリメチ

ルアミニウムクロライドNNジメチルアクリルアミドをそれぞれ 123 mL

262 g入れ窒素ガスで丸底フラスコ内の酸素をパージする最後に重合開始

剤としてメチレンビスアクリルアミドを 005 g加えて 4時間重合する

③ 重合反応終了後系に過剰量のアセトンを加えミクロゲルを沈殿回収する さ

らにこの沈殿を 2-プロパノールで再膨潤させた後さらにアセトンを加えて再沈

殿させるこの工程を 3回繰り返し 重合系に含まれる界面活性剤および未反

応モノマーを除去する得られた沈殿はデシケーター内にて乾燥させる

5 評価分析

耐塩性の高い増粘剤の耐塩性と使用感と親水基との関係を評価するために以下の二

つの測定を行い評価する

増粘剤の耐塩性の評価のために塩酸を増粘剤内部に取り込ませた状態で経時

12

による粘度の変化を観察する

また高分子の粘性を考える上で直鎖高分子の場合よく参考にされるのが平

均分子量でありこの値を測定することで親水基が変化した場合に平均分子

量が粒状高分子の粘性にも大きく影響するか確認する

精密に上の測定を行うには専用の機器が必要になるため機器メーカーの株式

会社エーアンドデイ様または東京理科大学理学部応用化学科駒場研究室に

また高分子の性質を考える上で重要視される平均分子量及び分子量分布に

ついては東京理科大学化学系機器センターにあるMALDI-TOF型質量分析計を管

理者の東京理科大学理学部応用化学科の根岸先生に測定に協力していただこうと

考えている

6 謝辞

東京理科大学工学部工業化学科 近藤行成教授

東京理科大学理学部化学科 遠藤恆平准教授

東京理科大学理学部応用化学科 駒場慎一教授

この研究を進めるに当たり大変お世話になった先輩先生方企業の皆さんに感謝の

意を表明します

参考文献

1) 小澤美奈子 基礎高分子科学 高分子学会 編 2010年 第六版 p979899

2) 小澤美奈子 基礎高分子科学 高分子学会 編 2010年 第六版 p99100

3) 金田 勇 逆相マイクロエマルション重合法による水膨潤性ミクロゲルの重合とその増

粘剤としての応用 2010年 p1

4) 小林敏勝 福井寛 きちん知りたい粒子表面と分散技術 日刊工業新聞社 p76

5) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 2006 p839 840 841

6) 皆川基 藤井富美子 洗剤洗浄 百科事典 大矢勝 2007年版 p4647

7) 日本産業洗浄協議会編 わかりやすい界面活性剤 工業調査会 2003 p373839

8) 資生堂 HP httpswwwshiseidogroupjprddevelopmentformulationhtmlより 2015

44取得

9) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 テクノシステム 2006 p321

10) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 テクノシステム 2006 p397

13

398399

11) 遠藤 剛 高分子の合成(上)~ラジカルカチオンアニオン重合~ 講談社 2010 3p

12) 佐藤壽彌編 高分子微粒子の技術と応用 シーエムシー出版 2004 p2526

13) 佐藤壽彌編 高分子微粒子の技術と応用 シーエムシー出版 2004 p27

14) マクマリー 上 8版 東京化学同人 p403404

15) John McMurry マクマリー有機化学(上) 第 8版 2013 p410411

Page 51: ゼオライトとキトサンを用いた 金属イオン除去剤の …kaken/studies/2015/2015-s-all.pdf1 東京理科大学I 部化学研究部 2015 年度春輪講書 ゼオライトとキトサンを用いた

12

による粘度の変化を観察する

また高分子の粘性を考える上で直鎖高分子の場合よく参考にされるのが平

均分子量でありこの値を測定することで親水基が変化した場合に平均分子

量が粒状高分子の粘性にも大きく影響するか確認する

精密に上の測定を行うには専用の機器が必要になるため機器メーカーの株式

会社エーアンドデイ様または東京理科大学理学部応用化学科駒場研究室に

また高分子の性質を考える上で重要視される平均分子量及び分子量分布に

ついては東京理科大学化学系機器センターにあるMALDI-TOF型質量分析計を管

理者の東京理科大学理学部応用化学科の根岸先生に測定に協力していただこうと

考えている

6 謝辞

東京理科大学工学部工業化学科 近藤行成教授

東京理科大学理学部化学科 遠藤恆平准教授

東京理科大学理学部応用化学科 駒場慎一教授

この研究を進めるに当たり大変お世話になった先輩先生方企業の皆さんに感謝の

意を表明します

参考文献

1) 小澤美奈子 基礎高分子科学 高分子学会 編 2010年 第六版 p979899

2) 小澤美奈子 基礎高分子科学 高分子学会 編 2010年 第六版 p99100

3) 金田 勇 逆相マイクロエマルション重合法による水膨潤性ミクロゲルの重合とその増

粘剤としての応用 2010年 p1

4) 小林敏勝 福井寛 きちん知りたい粒子表面と分散技術 日刊工業新聞社 p76

5) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 2006 p839 840 841

6) 皆川基 藤井富美子 洗剤洗浄 百科事典 大矢勝 2007年版 p4647

7) 日本産業洗浄協議会編 わかりやすい界面活性剤 工業調査会 2003 p373839

8) 資生堂 HP httpswwwshiseidogroupjprddevelopmentformulationhtmlより 2015

44取得

9) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 テクノシステム 2006 p321

10) 古澤 邦夫 新しい分散乳化の科学と応用技術の新展開 テクノシステム 2006 p397

13

398399

11) 遠藤 剛 高分子の合成(上)~ラジカルカチオンアニオン重合~ 講談社 2010 3p

12) 佐藤壽彌編 高分子微粒子の技術と応用 シーエムシー出版 2004 p2526

13) 佐藤壽彌編 高分子微粒子の技術と応用 シーエムシー出版 2004 p27

14) マクマリー 上 8版 東京化学同人 p403404

15) John McMurry マクマリー有機化学(上) 第 8版 2013 p410411

Page 52: ゼオライトとキトサンを用いた 金属イオン除去剤の …kaken/studies/2015/2015-s-all.pdf1 東京理科大学I 部化学研究部 2015 年度春輪講書 ゼオライトとキトサンを用いた

13

398399

11) 遠藤 剛 高分子の合成(上)~ラジカルカチオンアニオン重合~ 講談社 2010 3p

12) 佐藤壽彌編 高分子微粒子の技術と応用 シーエムシー出版 2004 p2526

13) 佐藤壽彌編 高分子微粒子の技術と応用 シーエムシー出版 2004 p27

14) マクマリー 上 8版 東京化学同人 p403404

15) John McMurry マクマリー有機化学(上) 第 8版 2013 p410411