44
1 コントラクターを利用した 持続的畜産経営の展開 九州大学大学院農学研究院 福田

コントラクターを利用した 持続的畜産経営の展開 - LINsouchi.lin.gr.jp/contractor/kenshu/kaigi/pdf/h20...1 コントラクターを利用した 持続的畜産経営の展開

  • Upload
    others

  • View
    1

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

  • 1

    コントラクターを利用した

    持続的畜産経営の展開

    九州大学大学院農学研究院

    福田

  • 2

    報告の構成

    資源利用型畜産の循環フロー

    コントラクターの成立とタイプ

    コントラクターのメリットと問題点

    コントラクターを利用した酪農経営の事例

    作業受託から生産販売契約へ

    コントラクターを組み込んだ地域農業システムの構築

    むすび

  • 3

    コントラクター成立の契機

    畜産稠密地帯における需要

    大規模畜産農家、高齢・兼業農家の自己完結 型飼料生産(資本、労働力)の限界

    飼料生産の何処が隘路になっているか、 自ら、制約要因とニーズを的確に把握する

    機械共同利用組織→飼料作受託組織に発展

  • 4

    コントラクターのタイプ

    飼料生産の需要が大きなところで、機械共同利用組織が生まれ、受託組織に発展してきた同様の地域で、飼料生産受託を業務の柱とするサービス事業体が自ら形成されてきた農協が直営のコントラクターを立ち上げたり、農家コントラクターを間接的に支援する形で関与してきた農協出資、第3セクターの法人組織の出現、転換農業生産法人の参入→粗飼料生産供給組織

  • 5

    コントラクターを利用するメリット

    作業効率が高く、畜産経営自作よりも低コストでの生産が可能

    適期収穫・調製による良質サイレージの確保

    飼料生産労働の節減→家畜飼養、他用途への有効利用→ゆとりある経営の確立

    果たして、これらは実現しているか

  • 6

    作業効率が高く、畜産経営自作よりも 低コストでの生産が可能

    作業委託費<機械減価償却費、機械修理費、燃料費、自家労働費

    この命題は、部分作業受託よりも全作業受託 の方が成立しやすい

    受託面積、圃場条件、圃場距離の考慮、機械 の装備状況

  • 7

    作業の効率化を目指すには

    効率化のための方策

    ・適正な機械の投資(レンタル利用との併用)

    ・規模拡大による機械の効率利用

    ・圃場の団地化による作業効率向上

    ・作業の周年平準化による遊休労働力・機械

    の解消(栽培期間の平準化、他作物の導入)

    ・常時雇用と臨時雇用の使い分け

    作業の受託にとどまらず経営農地における飼料生 産・販売の有利性?

  • 8

    規模の経済性発揮要因としての 労働力・機械の調達

    規模の経済性:受託面積が増えることで平均費用が低減する現象

    一定程度のまとまった農地で大型機械を効率的に利用することで発揮されやすい

    固定費部分が大きく、操業度が高いと規模の経済性は発揮されやすい

  • 9

    表2 受託組織の労働力配置状況(単位:人)

    常勤職員 臨時職員うち常勤オペレーター

    うち臨時オペレーター

    営農集団 5.1 4.8 5.4 5.3北 法人 4.0 3.4 7.8 7.2海 公社 2.5 2.0 22.0 22.0道 農協直轄 2.9 2.5 6.8 6.6

    全体 3.9 3.4 7.0 6.7営農集団 1.2 1.1 5.1 4.9

    都 法人 3.6 3.0 3.6 3.1府 公社 8.3 6.1 3.6 3.6県 農協直轄 4.1 3.4 5.7 5.6

    全体 2.1 1.8 5.1 4.9営農集団 1.8 1.6 5.2 4.9

    全 法人 3.9 3.3 6.8 6.2国

    表1

    受託組織の労働力配置状況

  • 10

    表3 受託作業用機械の調達状況(単位:上段=件数、下段=%)

    営農集団 農協直轄 法人 公社等 合計組織所有 19 20 20 6 65

    28.4 60.6 58.8 60 45.1構成農家所有 7 0 1 8

    10.4 0 0 10 5.6委託農家所有 1 1 0 2

    1.5 0 2.9 0 1.4複合所有 26 7 8 3 44

    38.8 21.2 23.5 30 30.6所有・リース組み合わせ 9 3 3 0 15

    13.4 9.1 8.8 0 10.4その他 5 3 2 0 10

    7.46 9.1 5.9 0 6.9合計 67 33 34 10 144

    100 100 100 100 100注)複合所有とは、構成農家、組織、受託農家の複合所有状態のことである  所有・リース組み合わせとは組織、構成農家等の所有にリースを組み合わ  せている組織のことである。資料:アンケートより作成

    表2

    受託作業機械の調達状況

  • 11

    労働臨 時雇用

    労働常 時雇用

    機 械 等 リース

    営農集団、 農協→

    規模の経済 性なし

    サービス事 業体公社、 →規模の経 済性小

    機 械 等 所有

    営農集団、 サービス事 業体→規模 の経済性中

    公社、農協 直営→規模 の 経 済 性 大?

    表3

    労働・機械の装備とコントラクターの規模の経済性

  • 12

    適期収穫・調製による良質サイレー ジの確保

    作業適期を逃さない作業体系の構築

    収穫・運搬・調製作業における他のコントラクターや異業種との分業化、外部化

    緊急時等(降雨時)の迅速な対応

  • 13

    営農集団型コントラクターの問題点

    畜産農家の集団である多くの営農集団型コントラクター(都府県に典型的)

    機械等減価償却費の見積もりが不十分

    オペレータ等労賃見積もりが不十分

    作業コストを反映しない料金設定

    機械保守、管理の不徹底→修理費増大

  • 14

    コントラクターを活かした2つの持続 型酪農経営の事例

    酪農専門農協直営のコントラクターを活かし、規模拡大と乳量増大に成功

    営農集団型コントラクターを活かし、低コスト飼料調達とオペレータとしての所得確保

  • 15

    A酪農協による飼料作受委託

    昭和42年と極めて早い時期から一貫作業受託体制を整えていた。現在、2台体制で効率の良い収穫・調製作業が可能

    料金は作業別時間制。圃場条件による作業効率を料金に反映させると共に、収量が少ない年に委託農家から料金を多くとらないようにするための仕組み

  • 16

    農家

    農協 土建業者

    作業日程調整

    収穫作業委託 調製作業委託

    図1 飼料作の作業受委託関係 図3

    飼料作の作業受委託関係

  • 17

    調査農家の経営概要(H17)

    フリーストール牛舎にて、経産牛115頭(うち搾乳牛100頭、乾乳牛15頭)

    労働力は、経営主、妻、息子、及び通年雇用者2名(18歳の従業員、酪農をリタイアした58歳の従業員の2名)

    経営耕地面積は13ha(うち借地10ha)、すべて飼料作。なお、平成19年現在で経営耕地面積は17ha(うち借地14ha)と飼料作が拡大

  • 18

    表4

    飼料作関連労働時間

    (単位:時間)

    飼料関連労働 調査農家 都府県平均

    耕起・播種 250 291

    肥培管理 0 116

    収穫・運搬 0 291

    サイレージ・乾草調整 0 291

    労働時間合計 250 988

  • 19

    表5

    調査農家と都府県平均のデントコーン費用価

    (単位:円/10a)

    調査農家 都府県平均

    草地費 0 179

    資材費 種子・種苗 4929 3040

    肥料・土壌改良剤 2711 8359

    農薬 0

    その他資材 1320 10907

    労働費 3065 12114

    固定財費 21675 7018

    コントラクター委託料 10439

    44139 41617

    項目

    生産費合計

  • 20

    0

    20

    40

    60

    80

    100

    120

    140

    S10 S50 S60 H6 H9 H12 H14 H18 H19年

    7500

    8000

    8500

    9000

    9500

    10000

    10500

    11000

    平均乳量

    kg

    育成牛頭数

    経産牛頭数

    平均乳量

    図4

    調査農家の飼養頭数と平均乳量の推移

  • 21

    y = 9.606x + 258.7R² = 0.879

    y = 162.1x0.361

    R² = 0.700

    0

    1000

    2000

    3000

    4000

    5000

    6000

    0 100 200 300 400 500

    飼料作付面積(美野里町)、耕地面積(都府県)

    搾乳牛頭数

    美野里酪農協組合員

    畜産物生産費(都府県)

    線形 (美野里酪農協組合員)

    線形 (美野里酪農協組合員)

    累乗 (畜産物生産費(都府県))

    図5

    飼料作と作乳牛頭数の関係

  • 22

    営農集団型コントラクターと利用農家 の経済性

    熊本県の主要畜産地帯で、地域内にはコントラクター組織が多数存在している

    コントラクターの組織形態は、JAに事務局を置く利用組合型のコントラクターの他、営農集団による利用者組織型のコントラクターもある

  • 23

    コントラクターを利用したメリット

    飼養規模拡大とともに飼料作も同時に規模拡大することができる。飼料作に関わる労働時間が少なく、乳牛の飼養に集中できる

    大型機械化体系に移行することで、良質なサイレージを給餌できるようになり乳量増大が可能となる

  • 24

    調査農家の経営概要

    経産牛54.6頭(うち搾乳牛46.7頭)、育成・肥育牛39.7頭の酪農経営

    労働力は経営主、経営主の妻、経営主の父の3人で、雇用労働はサイロ詰めの際の臨時雇用のみ

    経営耕地面積は畑8.5haで、うち3haを借地している(平成18年)

    搾乳牛1頭当たりの粗飼料給与量は、8,680kgと都府県平均の約2.5倍

  • 25

    Hハーベスタ組合の概要

    Hハーベスター組合は平成11年に設立された3戸の酪農家による営農集団で、作付け作業と収穫作業の受託を行っている

    組合員の3戸は作業を委託する傍らオペレーターとしての出役も行っており、組合員外で作業を委託する農家は4戸

    ダンプ等は作業時に組合農家等からリースにて借り上げる方式をとっている。

  • 26

    刈取 植付

    構成員 5,000 1,500

    員外委託者 7,000 2,500

    機械名称 型式

    コーンハーベスター JAG840

    不耕起更新機 9500型

    マニアスプレッダー JD455

    バキュームカー DV4560

    ボブローダー TCM610

    表6

    Hハーベスタ組合の作業料金(円/10a)

    表7

    Hハーベスタ組合の機械装備

  • 27

    0

    1,000

    2,000

    3,000

    4,000

    5,000

    6,000

    7,000

    8,000

    9,000

    H11年

    H12年

    H13年

    H14年

    H15年

    H16年

    H17年

    H18年

    H19年

    面積

    (a

    )夏収穫

    秋収穫

    夏植付

    図6

    Hハーベスタ組合の受託実績

  • 28

    表8

    調査農家の飼料作面積

         (単位:a)

    飼料作物 延収穫作付面積

    イタリアンライグラス 483

    トウモロコシ 1,161

    麦 212

    イナワラ 500

    計 2,356

  • 29

    労働力・機械

    収穫作業

    作業委託、委託料

    調査農家

    コントラクター 労賃・リース料

    図5 調査農家とコントラクターの取引関係 図7

    調査農家とコントラクターの取引関係

  • 30

    調査農家 都府県平均

    草地費 0 179

    資材費 種子・種苗 3,119 3,040

    肥料・土壌改良剤 6,822 8,359

    農薬 2,364

    その他資材 579 10,907

    労働費 6,258 12,114

    機械減価償却費 6,343 7,018

    コントラクター委託料 6,948

    32,435 41,617

    項目

    生産費合計

    表9

    調査農家と都府県平均のデントコーン費用価

    (単位:円/10a)

  • 31

    2つの事例からの教訓

    自給飼料生産コストは必ず大きく節減するものではない←機械装備を節減できるか?

    しかし、外部化した労働時間の短縮は必ず生じる

    飼料作の労働節減を、新規投資をして規模拡大に振り向ける←新規投資の資本

    飼料作の労働節減を、飼養管理に振り向け、乳量増大、繁殖成績向上に振り向ける

  • 32

    委託者がコントラクターの作業・経営 を管理する意識の重要性

    委託者は、コントラクターが自分と同じ方向(=良質飼料をより安く生産)を向いて仕事をしているか監視する必要がある

    監視は、作業だけでなく、どのように運営されている組織か、その仕組みも把握して置くべき。コントラクターも情報公開をし、相互理解を求める

    委託者は、ただ作業を委託するだけでなく、どのような仕組みを作れば一層効率的な受委託システムが構築できるか、コントラクターとともに考える必要がある。

  • 33

    コントラクターがやる気を出す契約システ ムを作り出す

    面積あたりだけではなく、時間当たりの料金契約システム

    圃場面積、距離を考慮した料金契約システム

    作業が早いだけでなく、如何に収量を増やし、良質なものを作るか、それを引き出すボーナス制度

  • 34

    業務形態の垂直的発展

    飼料作をめぐる垂直的発展飼料収穫の部分的作業受託

    ↓飼料生産の全作業受託

    ↓借地による飼料生産・販売

    (作業効率、低コストを考慮)農場制土地利用を前提としたTMRセンター

  • 35

    DC

    コントラク ター

    TMRセンター設立による新たな コントラクター利用システム

    AC

    20戸の

    酪農家

    構成農家の農地

    を一元的に管理、 とうもろこし生産

    構成農家のとうもろこしを原料にTMR製造 TMRセンター

    コントラク ター収穫

    作業 委託 一元 化

    従来 現状

  • 36

    比較項目 作業受託 生産販売

    農地集積 集積困難、委託者に よる組織的対応

    意図的な集積可能、土 地利用調整

    生産効率 委託者との関係、調 整重要

    自ら生産効率化追求可 能

    契約 作業受託契約ー作業 料金

    販売契約ー販売金額

    取引費用 代金回収 取引相手の探索重要、 代金回収

    品質問題 委託者との共同責任 全面的責任あり

    所有販売 リスク

    あり なし

    表10 粗飼料の作業受託と生産販売方式の比較

  • 37

    5)地域農業システムでの位置づけの明確化

    地域農業振興計画や地域水田農業ビジョンの原点に立ち返って、その中でどのようにコントラクターを位置づけるか

    JAや普及センターに実質的に仲介・調整機能を位置 づける

    コントラクター委託農家の「利用者組合」を組織化する

    コントラクターと利用者を包含した「コントラクター利用 組合」を組織化する

  • 38

    図8

    コントラクター利用システムのタイプ

  • 39

    図9

    デイリーサポートの組織

  • 40

    図10

    清水町農作業受委託者協議会の組織

  • 41

    図11

    清水町農業サポートセンターの受委託と資源利用

  • 42

    飼料生産受託から飼料生産受託からTMRTMR供給組織へ供給組織へ①部分作業・分散農地の受託という課題を飼料生

    産受託、借地という点で克服し、農家が利用しやすく しかも乳量・乳質に好影響をもたらすTMR供給を安 定的な経営のもとで運営

    ②不特定多数の委託農家との契約取引をするので はなく、特定の基準や目的に基づいた農家に限定し た受託構造

    ③飼料生産の効率化に向けた農地の集積、栽培様 式、飼料供給のあり方など、コントラクターと畜産経

    営が相互の経営にとって望ましい一定の条件を契 約事項として取り決め、そのうえでのサービスを提 供するという環境を構築すべき

  • 43

    飼料生産のプロで、技術革新の担い手と なるコントラクター

    コントラクターは、高い技術を持ち、信頼される組織。

    委託者側は作業を委託している訳であるから、その作業状態がまずければ、どうしたらより効率的な作業になりうるかを一緒に検討する必要がある。

    農協直営で信頼されてくると、営農指導も含めた総合的な機能を求められてくる。デントコーンの品種1つをとっても、肥料の使い方、防除の仕方、草地造成の技術的問題などの要求があり、さらに、新技術に対するコントラクターへの要求が出てくる

  • 44

    むすびにかえて

    コントラクターへの委託は、自己の経営内矛盾を何とか解消するために分業化・外部化したものであり、生産者仲間が集まって、自ら考えて組織するか、市町村、県、農協を活用して作った組織は、持続的に成功する

    地域条件(農地条件、畜産密度、水田利用状況等)を十分踏まえて、それに見合った地域資源利用型飼料供給システムを構築すべき。外部化、分業化の原点に立ち返り、どのようなコントラクターと連携して、持続的に地域資源利用型の経営を構築するかを検討すべき

    コントラクターを利用した     持続的畜産経営の展開報告の構成コントラクター成立の契機コントラクターのタイプコントラクターを利用するメリット作業効率が高く、畜産経営自作よりも低コストでの生産が可能スライド番号 7規模の経済性発揮要因としての  労働力・機械の調達スライド番号 9スライド番号 10スライド番号 11適期収穫・調製による良質サイレージの確保営農集団型コントラクターの問題点コントラクターを活かした2つの持続型酪農経営の事例A酪農協による飼料作受委託スライド番号 16調査農家の経営概要(H17)表4 飼料作関連労働時間�               (単位:時間)スライド番号 19スライド番号 20スライド番号 21営農集団型コントラクターと利用農家の経済性 コントラクターを利用したメリット調査農家の経営概要Hハーベスタ組合の概要スライド番号 26スライド番号 27スライド番号 28スライド番号 29スライド番号 302つの事例からの教訓委託者がコントラクターの作業・経営を管理する意識の重要性コントラクターがやる気を出す契約システムを作り出す業務形態の垂直的発展スライド番号 35スライド番号 365)地域農業システムでの位置づけの明確化スライド番号 38スライド番号 39スライド番号 40スライド番号 41スライド番号 42�     むすびにかえて