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2 寒地土木研究所月報 №776 2018年1月 報 文 コンクリート構造物を合理的に維持管理するため、ライフサイクルコストが最小となるよう最適な 補修スケジュールの策定、対策箇所の優先順位付けを行うには、劣化予測技術が必要となる。一方、 寒冷地で見られるコンクリートの主な劣化である凍害は、塩化物が作用する環境下で進行しやすいこ とが知られている。凍害の進行は凍結防止剤の散布量や散布方法と関係があると考えられるが、具体 的な因果関係は不明な点が多い。そこで、コンクリートの凍害予測技術の開発に向け、凍結防止剤の 散布形態が凍害の進行に及ぼす影響を調べる基礎実験を行った。スケーリングに及ぼす散布の影響 は、単に散布回数だけでは説明できず、散布回数の増減に伴う融雪水の塩分濃度の変化や、塩分濃度 の高い融雪水がコンクリート表面に接する機会等を総合的に考慮した上で予測を行う必要があること がわかった。相対動弾性係数については、AE剤の使用の有無が重要な評価指標であり、AE剤が使用 されていない可能性のある、供用年数が長い部材は散布の影響を受ける可能性が高く、適切な予測が 必要となることが示された。 《キーワード:コンクリート;凍結防止剤;散布形態;スケーリング;相対動弾性係数》 To effectively and economically manage and maintain concrete structures so as to minimize their life-cycle costs, it is necessary to plan optimal inspection schedules and to prioritize the locations for maintenance works. To realize such management, an accurate deterioration prediction technique is necessary. Frost damage, which is a major form of concrete deterioration in cold areas, has been known to progress rapidly in environments where chloride acts on the concrete structure. The progress of frost damage has been thought to be related to the amount and spreading method of deicing salt; however, the relationship between the progress of frost damage and these two factors has not been fully clarified. To develop a technique for predicting the progress of frost damage to concrete, the authors conducted a basic experiment on how the pattern of deicing salt spreading affected the progress of frost damage to concrete. It was found that the influence of spreading pattern on concrete scaling could not be explained based solely on the number of spreadings. It was also found that a comprehensive consideration is necessary in predicting the progress of frost damage to concrete. The differences in the concentration of salt in the snowmelt water for different numbers of spreadings and for whether or not snowmelt water with high salt concentration comes into contact with the surface concrete were found as the influential factors to be considered. In predicting the relative dynamic modulus of elasticity, an important evaluation index was found to be the use of air-entraining (AE) agent in the concrete. The concrete members that had been constructed without using an AE agent and that had been in service for many years were found to be particularly prone to deicing salt and were found to require timely damage prediction. 《Keywords:Concrete;Deicing Salt;Spray Pattern;Scaling;Relative Dynamic Modulus of Elasticity》 コンクリートの凍害に及ぼす凍結防止剤の散布形態の影響に関する研究 A Study on Influence of Deicing Salt Spray Pattern on Concrete Frost Damage 遠藤 裕丈  安中 新太郎 ENDOH Hirotake and YASUNAKA Shintaro

コンクリートの凍害に及ぼす凍結防止剤の散布形態 …...be particularly prone to deicing salt and were found to require timely damage prediction. 《Keywords:Concrete;Deicing

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Page 1: コンクリートの凍害に及ぼす凍結防止剤の散布形態 …...be particularly prone to deicing salt and were found to require timely damage prediction. 《Keywords:Concrete;Deicing

2 寒地土木研究所月報 №776 2018年1月

報 文

コンクリート構造物を合理的に維持管理するため、ライフサイクルコストが最小となるよう最適な補修スケジュールの策定、対策箇所の優先順位付けを行うには、劣化予測技術が必要となる。一方、寒冷地で見られるコンクリートの主な劣化である凍害は、塩化物が作用する環境下で進行しやすいことが知られている。凍害の進行は凍結防止剤の散布量や散布方法と関係があると考えられるが、具体的な因果関係は不明な点が多い。そこで、コンクリートの凍害予測技術の開発に向け、凍結防止剤の散布形態が凍害の進行に及ぼす影響を調べる基礎実験を行った。スケーリングに及ぼす散布の影響は、単に散布回数だけでは説明できず、散布回数の増減に伴う融雪水の塩分濃度の変化や、塩分濃度の高い融雪水がコンクリート表面に接する機会等を総合的に考慮した上で予測を行う必要があることがわかった。相対動弾性係数については、AE剤の使用の有無が重要な評価指標であり、AE剤が使用されていない可能性のある、供用年数が長い部材は散布の影響を受ける可能性が高く、適切な予測が必要となることが示された。

《キーワード:コンクリート;凍結防止剤;散布形態;スケーリング;相対動弾性係数》

To effectively and economically manage and maintain concrete structures so as to minimize their life-cycle costs, it is necessary to plan optimal inspection schedules and to prioritize the locations for maintenance works. To realize such management, an accurate deterioration prediction technique is necessary. Frost damage, which is a major form of concrete deterioration in cold areas, has been known to progress rapidly in environments where chloride acts on the concrete structure. The progress of frost damage has been thought to be related to the amount and spreading method of deicing salt; however, the relationship between the progress of frost damage and these two factors has not been fully clarified. To develop a technique for predicting the progress of frost damage to concrete, the authors conducted a basic experiment on how the pattern of deicing salt spreading affected the progress of frost damage to concrete. It was found that the influence of spreading pattern on concrete scaling could not be explained based solely on the number of spreadings. It was also found that a comprehensive consideration is necessary in predicting the progress of frost damage to concrete. The differences in the concentration of salt in the snowmelt water for different numbers of spreadings and for whether or not snowmelt water with high salt concentration comes into contact with the surface concrete were found as the influential factors to be considered. In predicting the relative dynamic modulus of elasticity, an important evaluation index was found to be the use of air-entraining (AE) agent in the concrete. The concrete members that had been constructed without using an AE agent and that had been in service for many years were found to be particularly prone to deicing salt and were found to require timely damage prediction.

《Keywords:Concrete;Deicing Salt;Spray Pattern;Scaling;Relative Dynamic Modulus of Elasticity》

コンクリートの凍害に及ぼす凍結防止剤の散布形態の影響に関する研究

A Study on Influence of Deicing Salt Spray Pattern on Concrete Frost Damage

遠藤 裕丈  安中 新太郎

ENDOH Hirotake and YASUNAKA Shintaro

Page 2: コンクリートの凍害に及ぼす凍結防止剤の散布形態 …...be particularly prone to deicing salt and were found to require timely damage prediction. 《Keywords:Concrete;Deicing

寒地土木研究所月報 №776 2018年1月 3

1.はじめに

限られた予算の中で多くのコンクリート構造物を合理的に維持管理するには、コンクリートの劣化予測を適切に行い、予測結果をもとにライフサイクルコストが最小となるような、最適な補修スケジュールの策定や対策箇所の優先順位付けを行うことが大切である。そのためには、予測技術の開発、精度向上が求められる。

寒冷地で見られるコンクリートの劣化形態の一つに凍害が挙げられる。なお、単に寒冷地と言っても、地域によって寒冷環境の厳しさやコンクリートの配合は異なる。凍害の予測技術を開発するには、凍害の進行に及ぼすこれら種々の条件による影響を整理する必要がある。

一方で、凍害は、塩化物が作用する環境下で進行しやすい1)(写真-1)。例えば、冬期に凍結防止剤が散布される道路橋のコンクリート部材における凍害の進行は、凍結防止剤の散布量や散布方法と関係があると考えられるが、具体的な因果関係については不明な点が多い2)。

そこで、凍害の進行に及ぼす凍結防止剤の散布形態の影響を調べるための基礎実験を行った。

2.実験概要

2. 1 コンクリート材料・配合

コンクリート配合を表-1に示す。水セメント比は55%とし、セメントは普通ポルトランドセメントもしくは高炉セメントB種を使用した。細骨材は苫小牧市錦岡産の海砂(表乾密度2.67g/cm3、絶乾密度2.65g/cm3、吸水率0.87%、粗粒率2.80、除塩処理済み)、粗骨材は小樽市見晴産の砕石(表乾密度2.67g/cm3、絶乾密度2.64g/cm3、吸水率1.66%、粗粒率7.04)を使用した。粗骨材の最大寸法は25mmとした。

現在、寒冷地ではAE剤を添加したAEコンクリートが使用されているが、土木学会コンクリート標準示方書によると、寒冷地でAEコンクリートが原則となったのは昭和42年3)からで、それ以前は「AEコンクリートを用いるのが望ましい」4)とされており、原則とはなっていない。そのため、供用年数が長いコンクリートの一部はAEコンクリートではない可能性もあることに鑑み、AE剤を使用しないケースも設けた。AE剤を使用するケースの目標空気量は4.5±1.5%とした。本実験で使用したAE剤の種類は、AE減水剤(リグニ

ンスルホン酸化合物とポリオール複合体)とAE助剤(変性ロジン酸化合物系陰イオン界面活性剤)である。

2. 2 供試体

図-1に供試体を示す。供試体は100mm×100mm×400mmの角柱とした。材齢7日まで常温下で湿布養生を行い、その後は材齢28日まで恒温恒湿室(温度20℃、湿度60%)に静置した。また、発泡スチロールを使用して高さ10mm、幅5mmの枠を作製し、材齢21日に打設面(100mm×400mm、以下、試験面と記す)に据え付けた。

2. 3 凍結融解試験

凍結融解試験は材齢28日から開始した。ここでは、水や塩化物イオンが部材の全面ではなく片面から供給される実際の状態(写真-1)を模擬し、ASTM C

写真-1 地覆の凍害事例(凍結防止剤散布路線)

表-1 コンクリート配合および凍結融解試験条件

記号

単位量(kg/m3)

AE剤 凍結融解試験 温度、時間 水

セメント 細

骨材

骨材 普通 高炉 B

N-n-18 158 287 - 872 1058 不使用

-18℃で16時間、23℃で 8時間の1日 1サイクル

N-a-18 150 273 - 864 1057 使用

B-n-18 155 - 282 875 1058 不使用

B-a-18 147 - 267 865 1058 使用

N-n-40 158 287 - 872 1058 不使用

-40℃で16時間、23℃で 8時間の

1日 1サイクル

N-a-40 150 273 - 864 1057 使用

B-n-40 155 - 282 875 1058 不使用

B-a-40 147 - 267 865 1058 使用

記号:セメントの種類(N、B)、AE剤使用有無(n、a)、凍結融解試験

における凍結温度の絶対値(18、40)の組み合わせにより構成。

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4 寒地土木研究所月報 №776 2018年1月

6725)を参考に、試験面(図-1)に試験水を深さ6mm張り、写真-2に示すように、所定の温度、時間をセットすることで、凍結と融解の繰り返し空調運転が自動で行われる実験室に供試体を設置した。ASTM C 672では-18℃で16時間、23℃で8時間の1日1サイクルの凍結融解作用を与えることになっているが、冬期の環境の厳しさが地域によって異なることをふまえ、ここでは北海道で最も厳しい最低気温に相当する-40℃6)で16時間、23℃で8時間の凍結融解作用を与えるケースも設けた(表-1)。

試験水は、淡水と凍結防止剤を含む融雪水に見立てた濃度3%の塩化ナトリウム水溶液(以下、塩水と記す)の2種類を準備した。試験水の張り方は、図-2に示すように、①散布が全く行われない路線を想定して常時淡水を張るパターン、②散布の頻度に幅のある路線を想定して塩水8日間→淡水17日間→…を繰り返すパターン、③散布の頻度を前者よりも高く設定し、塩水17日間→淡水8日間→…を繰り返すパターン、④散布がほぼ毎日行われる路線を想定して常時塩水を張るパターン、の計4パターンとした。

2. 4 測定項目

凍結融解試験は300サイクルまで行い、25サイクルおきにスケーリング量と相対動弾性係数を測定した。また、普通ポルトランドセメントを使用したケースは300サイクル終了後、塩化物イオン量も調べた。スケーリング量と相対動弾性係数は供試体3個の平均を測

定値とし、3個のうち1個でも凍害が著しく進行し(例えば、側面に明瞭な亀裂の発生や欠損がある、等)、測定が困難になった時点で測定は終了することとした。なお、そのような場合でも塩化物イオン量の測定試料を準備するため、供試体を補修した上で凍結融解作用は300サイクルまで与えた。

スケーリング量は試験面から剥離片を採取し、110℃で乾燥させた後、剥離片の質量を測定して求めた。

相対動弾性係数は超音波測定器(周波数:28kHz)を使用して求めた。図-1に示すように、供試体の側面(100mm×100mm)に超音波の発、受振子をあて、深さ10、20、…、90mmの超音波伝播速度をそれぞれ測定し、式(1)7)、(2)から各深さの相対動弾性係数を求めた。

  708204381403874 2 .V.V.E nndn +−= (1)

  1000

×=d

dnd E

ERE (2)

10m

m

400mm

上面図

側面図

5m

m

超音波受振子

100m

m100m

m

測定項目(3)塩化物イオン量

測定項目(2)相対動弾性係数 (超音波測定)

測定項目(1)スケーリング量

超音波発振子

試験面(打設面)

図-1 供試体および測定項目

供試体

写真-2 凍結融解試験の状況

凍結融解サイクル(1日 1サイクル)

0 8 17 25 33 42 50

N0W25 淡水 …

N8W17 塩水 淡水 塩水 淡水 …

N17W8 塩水 淡水 塩水 淡水 …

N25W0 塩水 …

記号: 25サイクル(日)の中の塩水(N)を張る日数と淡水(W)

を張る日数の組み合わせにより示している。

図-2 試験水の張り方

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寒地土木研究所月報 №776 2018年1月 5

ここに、Ednはnサイクルの動弾性係数(GPa)、Vnはnサイクルの超音波伝播速度(km/s)、REdはnサイクルの相対動弾性係数(%)、Ed0は凍結融解を受けていないコンクリートの動弾性係数(GPa)である。Ed0は一般に凍結融解試験前の値があてられるが、ここでは動弾性係数に及ぼす試験期間の水和反応の影響を除外するため、試験水の張り方のみ図-2にならい、nサイクルと同じ期間(n日間)、温度20℃、湿度60%の恒温恒湿室に存置した供試体の動弾性係数をEd0とした。

塩化物イオン量の測定はJIS A 1154に準じて行った。300サイクル終了後、試験面から中心までの範囲をコンクリートカッターで切り分けて測定し、深さ方向の塩化物イオン量の分布を求めた。切り分け間隔は

基本的に10mmとしたが、凍害でコンクリート組織が大きく脆弱化し、10mm厚でスライスすると試料が損壊する恐れのある場合に限り、切り分け間隔を20mmとした。また、比較のため、試験水の張り方のみ図-

2にならい、300サイクルと同じ期間(300日間)、温度20℃、湿度60%の恒温恒湿室に存置した供試体も測定を行った。

3.実験結果・考察

3. 1 凍害の推移

図-3に普通ポルトランドセメントを使用したケースのスケーリング量と相対動弾性係数の推移を示

図-3 スケーリングおよび深さ50mm位置の相対動弾性係数の推移(普通ポルトランドセメント使用)

N-n-18

0.0

0.5

1.0

1.5

2.0

0 50 100 150 200 250 300

サイクル

0

20

40

60

80

100

0 50 100 150 200 250 300

スケーリング量

(g/c

m2 )

深さ

50m

m位置の

相対動弾性係数

(%)

N-a-18

0.0

0.5

1.0

1.5

2.0

0 50 100 150 200 250 300

サイクル

スケーリング量

(g/c

m2 )

深さ

50m

m位置の

相対動弾性係数

(%)

0

20

40

60

80

100

0 50 100 150 200 250 300

N0W25

N8W17

N17W8

N25W0

黒塗りのマー

カーは著しい

凍害の進行に

伴う測定の終

了を表す

N-n-40

0.0

0.5

1.0

1.5

2.0

0 50 100 150 200 250 300

サイクル

0

20

40

60

80

100

0 50 100 150 200 250 300

スケーリング量

(g/c

m2 )

深さ

50m

m位置の

相対動弾性係数

(%)

N-a-40

0.0

0.5

1.0

1.5

2.0

0 50 100 150 200 250 300

サイクル

0

20

40

60

80

100

0 50 100 150 200 250 300

スケーリング量

(g/c

m2 )

深さ

50m

m位置の

相対動弾性係数

(%)

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6 寒地土木研究所月報 №776 2018年1月

す。相対動弾性係数は代表して中心の深さ50mm位置の値を示した。淡水のみのN0W25と、塩水を用いたN8W17、N17W8、N25W0を比較すると、スケーリング量はいずれもN0W25が最も小さい結果となった。相対動弾性係数はN-n-40以外、断面厚が20cm程度以下のコンクリートにおいて凍害に対する耐久性能を満足するための最小限界である85%8)よりも高い値で全体的に推移した。N-n-40は、塩水の供給有無によらず150サイクル以降、相対動弾性係数は急速に低下した。特に、塩水を張ったものは試験途中で側面に明瞭な亀裂が発生し、200サイクル以降、試験水が亀裂から漏れ出す程、凍害が著しく進行したため、測定は途中で打ち切った。

図-4は高炉セメントB種を使用したケースの結果である。図-3と同様にスケーリング量はN0W25が最も小さかった。相対動弾性係数はB-a-18、B-a-40が85%以上の値で推移したのに対し、B-n-18、B-n-40は経時的に低下し、塩水を張ったものはB-n-18のN8W17を除き、側面に明瞭な亀裂の発生もしくは部分的な損壊に至ったため、試験の途中で測定を終わらせた。

3. 2 塩化物イオン量の分布

図-5は凍結融解作用を300サイクル与えた、普通ポルトランドセメントを使用したケースにおける深さ方向の塩化物イオン量の分布である。恒温恒湿室に300日間存置したものもあわせて図示している。

B-n-18

0.0

0.5

1.0

1.5

2.0

0 50 100 150 200 250 300

サイクル

0

20

40

60

80

100

0 50 100 150 200 250 300

スケーリング量

(g/c

m2 )

深さ

50m

m位置の

相対動弾性係数

(%)

B-a-18

0.0

0.5

1.0

1.5

2.0

0 50 100 150 200 250 300

サイクル

0

20

40

60

80

100

0 50 100 150 200 250 300

スケーリング量

(g/c

m2 )

深さ

50m

m位置の

相対動弾性係数

(%)

N0W25

N8W17

N17W8

N25W0

黒塗りのマー

カーは著しい

凍害の進行に

伴う測定の終

了を表す

B-n-40

0.0

0.5

1.0

1.5

2.0

0 50 100 150 200 250 300

サイクル

0

20

40

60

80

100

0 50 100 150 200 250 300

スケーリング量

(g/c

m2 )

深さ

50m

m位置の

相対動弾性係数

(%)

B-a-40

0.0

0.5

1.0

1.5

2.0

0 50 100 150 200 250 300

サイクル

0

20

40

60

80

100

0 50 100 150 200 250 300

スケーリング量

(g/c

m2 )

深さ

50m

m位置の

相対動弾性係数

(%)

図-4 スケーリングおよび深さ50mm位置の相対動弾性係数の推移(高炉セメントB種使用)

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寒地土木研究所月報 №776 2018年1月 7

恒温恒湿室に存置したものをみると、表面側で塩化物イオン量が多く、深くなるにつれて減少する傾向を示している。これに対し、N-n-40は深さ方向に対する濃度勾配が小さく、塩化物イオンは中心まで多く侵入している。N-n-40の深さ50mm位置の相対動弾性係数は20%まで低下しており(図-3)、凍害によるコンクリート組織の脆弱化により塩化物イオン拡散係数は増加する既報9)と一致する。

N-n-18、N-a-18は深くなるにつれて塩化物イオン量が全体的に減少しているが、N17W8とN25W0においては、深さ30~50mmの塩化物イオン量が恒温恒湿室に存置したものよりも多い傾向にある。N-n-18とN-a-18の相対動弾性係数は90~100%と高い(図-3)ことから、スケーリングの進行によって表層が欠損し、試験面から中心までの塩化物イオンの移動距離が縮まったことが一因と考えられる。一方、N-a-40における深さ30~50mmの塩化物イオン量は、N8W17、N17W8、N25W0のいずれも恒温恒湿室に存置したものと概ね同程度であった。N-a-40はスケーリング量、ならびに相対動弾性係数の低下は比較的小さく(図-3)、前述したような影響が殆ど表れなかったためであろう。

N8W17のN-n-18、N-a-18は、スケーリングが進行している(図-3)ものの、深さ30~50mmの塩化物イオン量は恒温恒湿室に存置したものと大きな差がなかった。塩水を張る期間がN17W8やN25W0に比べると短いために明確な傾向は表れなかったと思われる。

3. 3 スケーリングに及ぼす散布形態の影響

図-6、7は本実験の範囲でまとめたスケーリングに及ぼす散布形態の影響を示している。測定が最も早く終了した供試体のサイクルは、凍害による損壊を受け、試験を途中で打ち切ったN17W8のB-n-40の150サイクルで、150サイクルまでは全てのケースのデータが揃

っているため、ここでは比較が可能な最長サイクルである150サイクル目のデータを用いて整理した(後述する相対動弾性係数の考察も同じ)。N0W25とN8W17を比較すると、スケーリング量はN8W17の方が明らかに大きいことがわかる。一方、N8W17、N17W8、N25W0をみると、スケーリング量はセメントの種類やAE剤の使用有無、最低温度によって異なるが、試

0

2

4

6

8

10

0 10 20 30 40 50 600

2

4

6

8

10

0 10 20 30 40 50 600

2

4

6

8

10

0 10 20 30 40 50 60

温度20℃の恒温恒湿室に300日間存置(普通ポルトランドセメントを使用)

N-n-18N-a-18N-n-40N-a-40

N8W17 N17W8 N25W0

300サ

イクル目における

塩化物イオン量

(kg/

m3 )

試験面からの深さ(mm)試験面からの深さ(mm) 試験面からの深さ(mm)

0

2

4

6

8

10

0 10 20 30 40 50 60

図-5 塩化物イオン量の測定結果(普通ポルトランドセメント使用、300サイクル)

試験水の張り方

0.0

0.5

1.0

1.5

2.0

0 1 2 3 4 5

N-n-18

N-a-18

N-n-40

N-a-40

N0W

25

N8W

17

N17W

8

N25W

0

150サイクル目における

スケーリング量

(g/c

m2 )

図-6 スケーリングに及ぼす散布形態の影響

(普通ポルトランドセメント使用)

0.0

0.5

1.0

1.5

2.0

0 1 2 3 4 5

B-n-18

B-a-18

B-n-40

B-a-40

150サイクル目における

スケーリング量

(g/c

m2 )

試験水の張り方

N0W

25

N8W

17

N17W

8

N25W

0

図-7 スケーリングに及ぼす散布形態の影響

(高炉セメントB種使用)

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8 寒地土木研究所月報 №776 2018年1月

験水の張り方の影響は明確ではない。N8W17は塩水を張る期間がN25W0の3割程度であ

るが、本実験では濃度3%の塩水が繰り返し接する場合、接する期間が全体の3割程度でもスケーリングは大きく進行することが確認された。表層ではスケーリングの促進に繋がるひび割れ10)が短期間で急速に形成されたことが伺える。

なお、本実験では試験面に張る塩水の濃度を常時、スケーリングが促進されやすい3%11)としているが、実際の路面では凍結防止剤を含む融雪水の塩分濃度が急速に変化しやすく12)、必ずしも常時一定とは限らない。散布回数が多くなると融雪水の塩分濃度が高い状態は持続しやすく、スケーリングも進行しやすくなると思われるが、コンクリートに接する塩水の濃度が常に3%の条件では、散布回数がわずかでも大きなスケーリングに至ることが本実験で示された。

この結果は散布回数が少なくても、塩分濃度がある程度高い融雪水と接しやすい部位では、スケーリング発生の可能性が思いのほか高くなることを示唆する。このことから、スケーリングに及ぼす凍結防止剤の散布形態の影響は、単に散布回数だけでは説明できず、散布回数の増減による融雪水の塩分濃度の変化や、コンクリート表面に塩分濃度の高い融雪水が接する機会

の有無等のより詳細な調査を基に劣化予測の方法を確立する必要がある。

なお、スケーリングに及ぼす最低温度の影響については当初の予想と異なり、-18℃よりも小さい-40℃の方がスケーリングは小さい結果となり、本実験においては最低温度による明確な傾向が示されなかった。最低温度の影響を整理するには、今後もさらに詳細な検討を行う必要がある。

3. 4 相対動弾性係数に及ぼす散布形態の影響

図-8は150サイクル目における内部の相対動弾性係数の分布である。相対動弾性係数に及ぼすAE剤の使用有無の影響が大きいことが明らかにわかる。凍結水圧の緩和に効果的なAE剤を使用したケースは相対動弾性係数の低下が全体的に小さく、塩水を使用した場合も、塩水の影響はスケーリングが確認された表層付近に集中的に作用していた。相対動弾性係数の予測において、AE剤の使用有無は重要な評価指標と言える。

一方、AE剤を使用しなかったケースでは相対動弾性係数の低下が確認された。AE剤不使用の実験結果について考察すると、下記のように整理される。

(1)最低温度の影響

普通ポルトランドセメントを使用したケースについ

N-n-18

(AE剤不使用)

N-a-18

(AE剤使用)

0102030405060708090

100

0 20 40 60 80 100

試験面からの深さ

(mm

)

150サイクル目における

相対動弾性係数(%)

N-n-40

(AE剤不使用)

N-a-40

(AE剤使用)

0102030405060708090

100

0 20 40 60 80 100

試験面からの深さ

(mm

)

150サイクル目における

相対動弾性係数(%)

N0W25

N8W17

N17W8

N25W0

AE剤使用

N0W25

N8W17

N17W8

N25W0

AE剤不使用

B-n-18

(AE剤不使用)

B-a-18

(AE剤使用)

0102030405060708090

100

0 20 40 60 80 100

150サイクル目における

相対動弾性係数(%)

試験面からの深さ

(mm

)

B-n-40

(AE剤不使用)

B-a-40

(AE剤使用)

0102030405060708090

100

0 20 40 60 80 100

試験面からの深さ

(mm

)

150サイクル目における

相対動弾性係数(%)

図-8 相対動弾性係数の分布(150サイクル)

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寒地土木研究所月報 №776 2018年1月 9

ては、最低温度を-18℃に設定したシリーズでは相対動弾性係数が殆ど低下しなかったが、-40℃に設定したシリーズでは試験面から中心までの範囲が大きく低下していた。一方、高炉セメントB種を使用したケースについては、-18℃に設定したシリーズでは中心から試験面に近づく程大きく低下し、-40℃に設定したシリーズは全体的に大きく低下した。最低温度が低いほど凍結水量が増大し、コンクリート内部で凍結水圧が高まること、特にAE剤を使用しないときは水圧の増幅によりコンクリート組織が脆弱化し、コンクリートの健全性に影響が及ぶことが知られており13)、実験結果はこの知見と良く対応している。

(2)使用セメントの影響

最低温度が同じ場合、高炉セメントB種を用いたケースの方が相対動弾性係数の低下は大きかった。一般に、高炉スラグ微粉末が混入された高炉セメントを使用したコンクリート組織は透水しにくく、水密性も高い14)。そのため、凍害によって発生したひび割れから侵入し、供試体内部に過剰に蓄積された水が凍結したときに発生する余剰水がコンクリート組織を流動する際、普通ポルトランドセメントを用いたケースに比べると円滑に流動せず、組織内に大きな水圧が生じたことでコンクリート組織がさらに損傷し、相対動弾性係数の低下に至ったように考えられる。

(3)試験水の影響

高炉セメントB種を用いたケースのデータをみると、塩水を使用したシリーズは相対動弾性係数の低下が大きかった。コンクリート組織において、塩分濃度の低い小さな細孔の溶液が、塩分濃度の高い大きな細孔の溶液へ引き寄せられ、氷晶の成長が促される浸透圧15)が発生したことが一因と考えられる。N-n-40は

150サイクルの段階で塩水の供給有無の影響が明確に表れていないが、図-3で示したように塩水を使用したものは300サイクルに達する前に凍害が著しいため測定終了に至っており、塩水の影響は受けていると言える。

以上のことから、AE剤が使用されていない可能性のある、供用年数が長い部材については、散布の影響を受けることが懸念され、適切な予測が必要となる。

4.まとめ

凍結防止剤が散布される寒冷環境下でのコンクリートの凍害予測技術の開発に向け、凍害の進行に及ぼす凍結防止剤の散布形態の影響を調べるための基礎実験を行った。本実験の範囲で得られた成果を以下に示す。(1) スケーリングに及ぼす散布形態の影響は、単に散

布回数だけでは説明できず、散布回数の増減による融雪水の塩分濃度の変化や、コンクリート表面に塩分濃度の高い融雪水が接する機会の有無等を総合的に考慮した上で予測を行う必要がある。

(2) 相対動弾性係数は、AE剤の使用有無が重要な評価指標となる。AE剤が使用されていない可能性のある、供用年数が長い部材は散布の影響を受けることが懸念され、適切な予測が必要となる。

5.今後の課題

現在は、凍害の進行に及ぼす塩水の濃度に着目するとともに、寒冷地には最低気温が0~-18℃の地域も多いことをふまえ、最低気温を0~-18℃の範囲に設定した条件下でも実験を進めている。

また、予測技術の精度向上に向け、実験室と実環境における凍害の進行の違いを整理するため、2016年より道路、河川、自然公園等の管理者の許可を得て、寒地技術推進室、道北・道東支所の協力のもと、写真-

3に示すように、環境の異なる北海道内の複数の道路橋の下に実験室で使用する供試体と同じ配合・寸法のコンクリートを設置し、凍害の進行を把握するための暴露実験を行っている。

今後も、凍結防止剤が散布される寒冷環境下でのコンクリートの凍害予測技術の開発に向け、データを積み重ねていきたい。

凍結防止剤を含む路面の融雪水(排水管から落下)

供試体(融雪水が溜まるよう、試験面に枠を設置している)

写真-3 現在道路橋下で行っている暴露実験の様子

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10 寒地土木研究所月報 №776 2018年1月

参考文献

1) 川村浩二,遠藤裕丈,葛西隆廣:マルコフ連鎖モデルを用いたコンクリート構造物の凍害の進行性評価,土木学会第69回年次学術講演概要集(V部門),pp.979-980,2014.9

2) 平成29年度北海道開発局道路設計要領:第3集橋梁,第2編コンクリート,p.3-コ7-5,2017.4

3) 土木学会:コンクリート標準示方書解説【昭和42年版】,p.32,1967.7

4) 土木学会:昭和31年土木学会制定コンクリート標準示方書解説,p.26,1958.12

5) American Society for Testing and Materials : Standard Test Method for Scaling Resistance of Concrete Surfaces Exposed to Deicing Chemicals

6) 気象庁アメダス7) 緒方英彦,服部九二雄,高田龍一,野中資博:

超音波法によるコンクリートの耐凍結融解特性の評価,コンクリート工学年次論文集,Vol.24,No.1,pp.1563-1568,2002.6

8) 土木学会:2012年制定コンクリート標準示方書,設計編,p.158,2013.3

9) 遠藤裕丈,島多昭典:凍結融解と塩化物の複合作

用を受けるコンクリートの性能評価法の提案,第59回(平成27年度)北海道開発技術研究発表会発表概要集,2016.2

10) Valenza II, J. J. and Scherer, G. W. : Mechanism for Salt Scaling,J. Am. Ceram. Soc.,Vol.89,No.4,pp.1161-1179,2006.

11) Verbeck, G. J. and Klieger, P.:Studies of Salt Scaling of Concrete,Highway Research Board,Bulletin,No.150,pp.1-13,1957.

12) 佐野弘:定置式凍結防止剤自動散布装置の研究開発,福井県雪対策・建設技術研究所年報「地域技術」第14号,第1編調査研究報告,pp.20-27,2001.7

13) 山下英俊:コンクリート構造物の凍害の劣化評価と予測に関する研究,北海道大学博士学位論文,pp.116-121,1999.3

14) 依田彰彦:技術フォーラム「資源の有効利用とコンクリート」(第5回)高炉スラグ微粉末を用いたコンクリート,コンクリート工学,Vol.34,No.4,pp.72-82,1996.4

15) Pigeon, M. and Pleau, R.:Durability of Concrete in Cold Climates,E&FN SPON,pp.16-17,1995.

遠藤 裕丈ENDOH Hirotake

寒地土木研究所寒地保全技術研究グループ耐寒材料チーム主任研究員博士(工学)

安中 新太郎YASUNAKA Shintaro

寒地土木研究所寒地保全技術研究グループ耐寒材料チーム上席研究員