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グローバルセンター報告(68) グローバルセンター報告(68) ベトナムにおける推進工法関連規格策定に関する訪越調査 国土交通省国土技術政策総合研究所 下水道研究部 下水道研究官 国土交通省国土技術政策総合研究所 下水道研究部下水道研究室 研究官 1.は じ め に 近年、経済発展が著しいベトナムでは、都市部にお ける産業排水や生活排水の増大に環境対策が追い付い ておらず、生活環境の改善や公共用水域の水質保全の ためには下水道整備を早急に進める必要がある。都市 部においては人口集中が著しく、下水道工事時の道路 交通渋滞への影響を考慮すると、効率的な面整備のた めには非開削工法の採用が有効と考えられる。 2.調査概要 国土交通省では、ベトナムにおける推進工法関連の 規格策定を支援し、本邦推進技術の普及を図るため、 ベトナム側に技術基準類の提供(推進工事の設計施工 マニュアル、積算方法、推進管規格)や、これに基づ く関連セミナーの共同開催(2014 年3月)を予定して いる。 今回の訪越では、2013 年 10 月7日~9日の期間で、 ベトナム建設省(Ministry of Construction: MOC)等 との協議にて日本のシステマティックな推進工事積算 方法を説明するとともに、設計施工マニュアルやケー ススタディも含めた今後の予定を説明し、意見交換す ることを目的とした。併せて、積算のケーススタディ の現地確認や JICA や日本国大使館との打合せを行っ た。 3.調査結果 10 月7日にベトナム建設科学技術院(Vietnam Institute for Building Science and Technology: IBST)、JICA ベトナム事務所、8日に MOC、9日に ハノイ下水排水プロジェクト管理所(Hanoi Sewerage & Drainage Project Management Board : PMB)、在ベ トナム日本国大使館と協議した。先方の主要な意見を 以下に列挙する。 ・ベトナムの発展のためにインフラ整備は重要であ り、推進工法は大事な役割を担う。(MOC、PMB) ・積算方法については MOC 建設経済局、設計施工マ ニュアルについては IBST が担当部署である。 (MOC、IBST) ・日本とベトナムの積算方法は似ているが、間接経費 の考え方は若干異なる。(MOC、IBST、JICA) ・工事で新技術を採用する場合は MOC や人民委員会 の承認を得る必要があり、基準を国家規格化する場 合は実績も必要となり、手続きに多大な時間を要す る。(MOC、PMB) ・ケーススタディ2箇所は、ハノイの地盤を代表する 地質である。(IBST) ・設計施工マニュアルのベトナム語訳やケーススタ ディ、セミナーへの協力は可能である。また、ヒュー ム管の製造会社を紹介できる。(IBST) ・IBST は MOC 直下の4つの院の1つであり、主な 業務内容は、土質、構造物、コンクリート、環境等 の研究を行うことと、技術を展開することである。 品質向上を目的とした基準作りや、外国の新基準等 をベトナム版にすることも含まれる。技術者の育成 も IBST の役割である。耐震、台風等、9つの実験 室を所有しており、推進管の基準を作るために実験 を行うこともできる。(IBST) ・ホーチミンで推進工事の実績はあるが、まだ普及が 進んでいないため協力してほしい。(PMB) ・推進工事時の地上への影響や掘削方法等、技術的な 内容についても教えてほしい。(PMB) ・ケーススタディにおける関連情報の提供等は協力す る。(PMB) ・来年度以降、日本の方法による設計施工マニュアル、 積算方法、ケーススタディをベトナム版化すること に協力してほしい。(MOC、PMB) ・日本の歩掛りでの技術基準類の説明は今年度中に可 能と考えられるが、そこからベトナム版化するため に時間を要することが予想される。(JICA) Vol.50 No.614 2013/12 ベトナムにおける推進工法関連規格策定に関する訪越調査 77

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グローバルセンター報告(68)グローバルセンター報告(68)

ベトナムにおける推進工法関連規格策定に関する訪越調査

国土交通省国土技術政策総合研究所下水道研究部 下水道研究官

森 田 弘 昭

国土交通省国土技術政策総合研究所下水道研究部下水道研究室 研究官

橋 本 翼

1.は じ め に近年、経済発展が著しいベトナムでは、都市部にお

ける産業排水や生活排水の増大に環境対策が追い付いておらず、生活環境の改善や公共用水域の水質保全のためには下水道整備を早急に進める必要がある。都市部においては人口集中が著しく、下水道工事時の道路交通渋滞への影響を考慮すると、効率的な面整備のためには非開削工法の採用が有効と考えられる。

2.調査概要国土交通省では、ベトナムにおける推進工法関連の

規格策定を支援し、本邦推進技術の普及を図るため、ベトナム側に技術基準類の提供(推進工事の設計施工マニュアル、積算方法、推進管規格)や、これに基づく関連セミナーの共同開催(2014 年3月)を予定している。

今回の訪越では、2013 年 10 月7日~9日の期間で、ベトナム建設省(Ministry of Construction: MOC)等との協議にて日本のシステマティックな推進工事積算方法を説明するとともに、設計施工マニュアルやケーススタディも含めた今後の予定を説明し、意見交換することを目的とした。併せて、積算のケーススタディの現地確認や JICA や日本国大使館との打合せを行った。

3.調査結果10 月7日にベトナム建設科学技術院(Vietnam

Institute for Building Science and Technology:IBST)、JICA ベトナム事務所、8日に MOC、9日にハノイ下水排水プロジェクト管理所(Hanoi Sewerage& Drainage Project Management Board : PMB)、在ベトナム日本国大使館と協議した。先方の主要な意見を以下に列挙する。・ベトナムの発展のためにインフラ整備は重要であ

り、推進工法は大事な役割を担う。(MOC、PMB)・積算方法については MOC 建設経済局、設計施工マ

ニュアルについては IBST が担当部署である。(MOC、IBST)

・日本とベトナムの積算方法は似ているが、間接経費の考え方は若干異なる。(MOC、IBST、JICA)

・工事で新技術を採用する場合は MOC や人民委員会の承認を得る必要があり、基準を国家規格化する場合は実績も必要となり、手続きに多大な時間を要する。(MOC、PMB)

・ケーススタディ2箇所は、ハノイの地盤を代表する地質である。(IBST)

・設計施工マニュアルのベトナム語訳やケーススタディ、セミナーへの協力は可能である。また、ヒューム管の製造会社を紹介できる。(IBST)

・IBST は MOC 直下の4つの院の1つであり、主な業務内容は、土質、構造物、コンクリート、環境等の研究を行うことと、技術を展開することである。品質向上を目的とした基準作りや、外国の新基準等をベトナム版にすることも含まれる。技術者の育成も IBST の役割である。耐震、台風等、9つの実験室を所有しており、推進管の基準を作るために実験を行うこともできる。(IBST)

・ホーチミンで推進工事の実績はあるが、まだ普及が進んでいないため協力してほしい。(PMB)

・推進工事時の地上への影響や掘削方法等、技術的な内容についても教えてほしい。(PMB)

・ケーススタディにおける関連情報の提供等は協力する。(PMB)

・来年度以降、日本の方法による設計施工マニュアル、積算方法、ケーススタディをベトナム版化することに協力してほしい。(MOC、PMB)

・日本の歩掛りでの技術基準類の説明は今年度中に可能と考えられるが、そこからベトナム版化するために時間を要することが予想される。(JICA)

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・推進工法のマーケットは莫大である。(JICA)・間接経費に関する日本との差異については、下水道

事業だけでなく、公共工事一般的なものであるため、そこも考慮した上で基準作成をした方が良い。(日本国大使館)10 月8日にはエンサ処理区内トゥリック川近傍の

ケーススタディ実施箇所(図-1)において、線形や立坑位置、交通状況等を確認した。トゥリック川では、未処理放流水の影響による河川水の白濁化(写真-1)や悪臭の発生が確認された。また、交通量が多い横断道路(写真-2)や、横断道路下の排水渠や水道管埋設が確認され、開削工法よりも推進工法が有利であると判断された。ケーススタディについては、今年度は日本の方法で積算を行い、来年度以降、ベトナム側と協議しながらベトナム版基準類を作成する予定である。

4.お わ り に日本では、適正な価格での効率的な工事、公平・透

明性の確保、安全性等を実現するために何十年もかけて積算方法を作り上げてきた。本調査では、この基本的な日本の積算方法のコンセプトと内容を各関係機関に説明するとともに、推進工事の積算方法・設計施工マニュアルの提供、日本の設計方法・積算方法でのエンサ処理区2箇所でのケーススタディ実施、セミナー共同開催について提案し、了解を得られた。また、今後もお互い協力し合うことを確認し、各関係機関との協議を終えた。今後とも、ベトナムにおける生活環境の改善や公共用水域の水質保全に貢献するために、必要な調査を進めたいと考えている。

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図-1 ケーススタディ実施箇所

写真-1 白濁したトゥリック川 写真-2 交通状況