6
L2007-09 ガス交換ユニットを用いた 拡散換気システムの性能検証 広文・石橋 祐里奈 順治 羽山 石垣 松田 北海道大学 北海道ガス㈱ 飛栄建設㈱ 翁はじめに 環境意識の高まり、ナノテクノロジ ーの発展に伴い、清浄環境の実現が求 められる場も増加している。半導体な ど電子工業部品の製造過程はもちろん、 医療現場における手術室や治療室、加 えて薬品や食料品を扱う工場など、あ らゆる場で需要に応じたクリーンな環 境が構築されている。しかし、従来型 のクリーンルーム技術は重厚長大であ るとも言え、特に高度な清浄環境の実 現には非常に大きな設備と費用が必要 となる。そこで、より低コストにて導 入可能なクリーンシステムの開発・推 進は、各産業における清浄環境実現手 法に幅を与えるとともに、今まで実現 しえなかったレベルでのクリーンルー ム運用を可能とする。近年、話題に なることも多い感染症予防や、花粉や PM2.5等の空気中微粒子への対策など、 より手軽な清浄環境が応用できる場面 は多い。 本稿は、石橋ら(1)(2)により空気清浄 技術として開発されたクリーンユニッ トシステムプラットフォーム(以下 CUSP)において、ガス交換ユニット を利用した拡散換気システムについて 性能検証を行い、清浄環境実現に関す る新たな知見を提供することを目的と する。 -ンブースでは、送風能力のあるファ ンと塵瑛除去フィルタの結合した系で あるファンフィルタユニット (FFU) を外界と室内の界面に設置している (図1)。外気および室内からの還気を ろ過して得られる清浄空気を室内に送 り込むことにより、室内に侵入する浮 遊塵瑛・菌の濃度を希釈する。 このシ ステムでは、FFUでろ過・導入した空 気の一部も室外に排出しており、室内 が清浄化したあとも外界との界面に位 置するFFUは依然として同じレートで フィルタを目詰まりさせ続ける。 C 割~ 0 Z2 CUSPシステム なる。 このとき、在来型ではFFUを通じて 流入する外気にて自動的に換気がなさ れるが、 CUSP系においては気体のマ スとしてのやり取りがない。その代わ り、内外境界面の一部にガス交換能力 を有する膜(GasExchange ne:GEM)により成る隔壁を形成し 濃度拡散による室内ガス分子濃度制御 (拡散換気)を行う。 このGEMとして は日本古来の障子紙なども利用するこ とが可能である。また、拡散換気に際 しては、GEMを多数枚集積して、各膜 面の両側を内気と外気が層状に流れ るようにした一体物(GasExcha Umt:GEU)を用いることも有効で る。 これにより、機密性の高い部屋等 の閉空間内部へ必要なガス成分(酸素 など)を外界から供給、あるいは、あ る閉鎖空間内部から不必要ガス成分 (二酸化炭素やホルムアルデヒド等の分 子)を外界へ排出可能である。 、(2)ガス交換ユニット (GasExchangeUni :GEU) 本研究において使用しているGEUで は、障子紙に近い性能を持つ不織布を 睡雫( : FFU 殿 殿 劉蕊騨蕊凝露騒鴬職蕊蕊爵溌職薄闇認篭圃座 Cieanair U 1 K 図1 従来型のクリーンルーム 一方、石橋らが新たに提案したC]efm UnitSystemPlatfOrm(CUSP)(')では、 用いるFFUの吐出エア全量をその給気 側へ戻し、内外でマスとしての空気の やり取りのない孤立・閉鎖系のシステ ムを取っている(図2)。その孤立・閉 鎖性により、CUSP系で使用するFFU は室内が清浄化した後は無負荷運転に 近い状態となり、 フイルタの目詰まり はほぼゼロとなる。また、 このシステ ムでは室内と外界では基本的に等圧と .CUSPシステムの概要(1) (1)CUSP (CleanUnitSystemPlatform) 在来型のクリーンルームまたはクリ 68 クリーンテクノロジー2020. 10

ガス交換ユニットを用いた 拡散換気システムの性能検証...、(2)ガス交換ユニット (GasExchangeUnit:GEU) 本研究において使用しているGEUで は、障子紙に近い性能を持つ不織布を

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Page 1: ガス交換ユニットを用いた 拡散換気システムの性能検証...、(2)ガス交換ユニット (GasExchangeUnit:GEU) 本研究において使用しているGEUで は、障子紙に近い性能を持つ不織布を

L2007-09

ガス交換ユニットを用いた拡散換気システムの性能検証

広文・石橋 晃

祐里奈

順治

羽山

石垣

松田

北海道大学

北海道ガス㈱

飛栄建設㈱

翁はじめに環境意識の高まり、ナノテクノロジ

ーの発展に伴い、清浄環境の実現が求

められる場も増加している。半導体な

ど電子工業部品の製造過程はもちろん、

医療現場における手術室や治療室、加

えて薬品や食料品を扱う工場など、あ

らゆる場で需要に応じたクリーンな環

境が構築されている。しかし、従来型

のクリーンルーム技術は重厚長大であ

るとも言え、特に高度な清浄環境の実

現には非常に大きな設備と費用が必要

となる。そこで、より低コストにて導

入可能なクリーンシステムの開発・推

進は、各産業における清浄環境実現手

法に幅を与えるとともに、今まで実現

しえなかったレベルでのクリーンルー

ム運用を可能とする。近年、話題に

なることも多い感染症予防や、花粉や

PM2.5等の空気中微粒子への対策など、

より手軽な清浄環境が応用できる場面

は多い。

本稿は、石橋ら(1)(2)により空気清浄

技術として開発されたクリーンユニッ

トシステムプラットフォーム(以下

CUSP)において、ガス交換ユニット

を利用した拡散換気システムについて

性能検証を行い、清浄環境実現に関す

る新たな知見を提供することを目的と

する。

-ンブースでは、送風能力のあるファ

ンと塵瑛除去フィルタの結合した系で

あるファンフィルタユニット (FFU)

を外界と室内の界面に設置している

(図1)。外気および室内からの還気を

ろ過して得られる清浄空気を室内に送

り込むことにより、室内に侵入する浮

遊塵瑛・菌の濃度を希釈する。 このシ

ステムでは、FFUでろ過・導入した空

気の一部も室外に排出しており、室内

が清浄化したあとも外界との界面に位

置するFFUは依然として同じレートで

フィルタを目詰まりさせ続ける。

C

割~0

Z2 CUSPシステム

なる。

このとき、在来型ではFFUを通じて

流入する外気にて自動的に換気がなさ

れるが、 CUSP系においては気体のマ

スとしてのやり取りがない。その代わ

り、内外境界面の一部にガス交換能力

を有する膜(GasExchangeMembraF

ne:GEM)により成る隔壁を形成し、

濃度拡散による室内ガス分子濃度制御

(拡散換気)を行う。 このGEMとして

は日本古来の障子紙なども利用するこ

とが可能である。また、拡散換気に際

しては、GEMを多数枚集積して、各膜

面の両側を内気と外気が層状に流れ

るようにした一体物(GasExchange

Umt:GEU)を用いることも有効であ

る。 これにより、機密性の高い部屋等

の閉空間内部へ必要なガス成分(酸素

など)を外界から供給、あるいは、あ

る閉鎖空間内部から不必要ガス成分

(二酸化炭素やホルムアルデヒド等の分

子)を外界へ排出可能である。

、(2)ガス交換ユニット

(GasExchangeUnit :GEU)

本研究において使用しているGEUで

は、障子紙に近い性能を持つ不織布を

睡雫(

: FFU殿

殿

劉蕊騨蕊凝露騒鴬職蕊蕊爵溌職薄闇認篭圃座

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● ●

図1 従来型のクリーンルーム

一方、石橋らが新たに提案したC]efm

UnitSystemPlatfOrm(CUSP)(')では、

用いるFFUの吐出エア全量をその給気

側へ戻し、内外でマスとしての空気の

やり取りのない孤立・閉鎖系のシステ

ムを取っている(図2)。その孤立・閉

鎖性により、CUSP系で使用するFFU

は室内が清浄化した後は無負荷運転に

近い状態となり、 フイルタの目詰まり

はほぼゼロとなる。また、 このシステ

ムでは室内と外界では基本的に等圧と

.CUSPシステムの概要(1)(1) CUSP

(CleanUnitSystemPlatform)

在来型のクリーンルームまたはクリ

68 クリーンテクノロジー2020. 10

Page 2: ガス交換ユニットを用いた 拡散換気システムの性能検証...、(2)ガス交換ユニット (GasExchangeUnit:GEU) 本研究において使用しているGEUで は、障子紙に近い性能を持つ不織布を

給気側2ヶ所に風量計を設置し、 また

排気側2ヶ所に送風機を設置している。

以降の検証実験でも、 同様の装置を使

用している。

検証室内の幅と奥行きは1,500mm、

高さは2,100mmである (図5)。検証

室内に、 FFUの役割を果たす家庭用空

気清浄機(Panasonic製F-PDP30-W,

中性のフィルタ付き、 12畳用、運転風

量1.7m3/min) とパーテイクルカウン

ター(ハンドヘルドパーティクルカウ

ンターHHPC3+)を設置した。GEU

に対して、 B部およびC部上流側に風

量測定器(コナー札幌製KNS-300)を

設置した。 また、A部およびD部排気

側2ヶ所に送風機を設置し、所定の風

ヒトの呼吸に必要なのは空気中の酸

素であり、約80%を占める窒素を室内

に入れる必要がなく、合理的な原理で

ある。GEMを介しての物質移動は、一

般の全熱交換器の熱移動および水分移

動と同様であるが、換気のルートが異

なる点が特徴である。 このため、酸素

二酸化炭素水分、化学物質などは通

過するが、気密性が高く、熱移動し難

い素材で構成されていることが好まし

い。

GEMとして用いている。石橋ら(2)の研

究より、 当該膜における酸素分子・二

酸化炭素分子の実効拡散定数は各々約

1.1×10-7m2/S、約0.94×10 7m2/S

とされる。試作したGEUを写真lに示

す。縦523mm、横861mm、高さ

222mmの木箱に、短辺の側面から2

本ずつ直径100mmのダクトを設置し

ている。ガス交換部分には、 327×732

InrnのGEMが層状に集積され、各膜面

の両側を内気と外気が層状に流れる。

外気通過空間用のスペーサーが12mm,

内気通過用のスペーサーが5mmとし

てGEMが張られており (1周期17

mm)、 10周期内包されている。ガス交

換に有効な膜面積は、 325×732mm

×(10周期×2)=4.79m2である。

鰯室内清浄度の検証実験(1) 実験方法

システムの性能を検証するため、

GEUと室に見立てた気密性の高い冷蔵

庫をフレキシブルダクトで接続し、室

内清浄度に関する実験を行った。以下、

便宜上、室に見立てた冷蔵庫を検証室、

検証室や実験機器を設置している部屋

を実験室と表す。実験装置の概略を図

4に示す。当システムでは、 C部から

流入した検証室内空気とB部から流入

した実験室内空気が物質交換を行う。

その後、検証室内空気はA部を通過し

て給気として検証室内に戻り、実験室

内空気はD部を通じて屋外に排出され

る。 この際、 C-A部を通過する検証室

空気とB-D部を通過する実験室空気は

互いに混合しないため、検証室内空気

~~ ”縄毒、鼠 、 、ミ500mm

?罰

2100

mm

昌写真1 GEUの外観

、、、勺、、、、

丁、 、、、、、、、、、、

通気経路のイメージを図3に示す。

構造的には、水平方向には1枚ずつ

GEMが張られ、 X方向とY方向が交互

に空くようにスペーサーが配置されて

いる。外気と内気はそれぞれ異なる層

で一定の方向に通過しているため、マ

スとしての気体の交換はない。

1500mm

の情1争度が保たれる。GEUに対して、 図5検証室の模式図

|■■琴

検証室

・パーティクル

カウンター

・空気清浄機

・電気ヒータ

も 。加湿器

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・賭卜患

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・鼠篭計く室内給気

図3 GEU内の通気経路のイメージ図 図4 実験装置の構成

ラリーンテクノロジー2020. 10. 69

Page 3: ガス交換ユニットを用いた 拡散換気システムの性能検証...、(2)ガス交換ユニット (GasExchangeUnit:GEU) 本研究において使用しているGEUで は、障子紙に近い性能を持つ不織布を

h 凸 』 両 ニム ュ一 .=

量になるよう送風機の電圧を変圧器で

調整した。パーティクルカウンターは

各粒径(0.3, 0.5, 1.0"m)を上限と

して、空気中の塵嶢等微粒子の個数

をカウントした。風量を変えて5回の

測定を行った(10, 15, 20, 25, 30

m3/h)。測定時間は1分間隔で120分、

カウント個数の単位は個/ft3とした。

(2) 測定結果

まず、密閉されていない検証室内に

おいて60分間空気清浄機を稼働させた

場合、測定結果は図6のようになった。

縦軸は粒子数を対数で取り、横軸は経

過時間を表している。測定開始から5

分程度は粒子数が低下したが、それ以

降はあまり変化しなかった。

いて、測定開始後すぐに室内の粒子数

が低下した。測定開始から30分ほど経

過した段階で徐々に数値が安定し、そ

の後終了まで大きな変化は見られなか

った。また、粒径が大きいほど、空気

中の粒子数が少なくなり、 1.0"m、

0.5"mを上限とした粒子数ではしばし

ば個数がOとなった。

各風量と粒径において、 60分以降の

粒子数について平均値・最大値・最小

値を示したものを図8に示す。 どの粒

径においても、風量が大きくなると測

定される粒子数も多くなる傾向がみら

れた。 これは、風量が高くなることで

検証室内または実験機器から離脱した

粒子が飛散しやすくなるためだと考え

られる。風量などに応じて室内の清浄

度に多少のばらつきは見られるが、上

述した風量20m3/h以下では安定して

米国連邦規格における清浄度クラス

100を達成しており、検証室内はクリ

ーンルームとしての運用が可能なレベ

ルであると判断できる。室内の粒子数

が比較的多くなる30m3/hにおいても、

0.5/Jm以上の粒子数は最大でも200程

度であり、十分な性能を達成している

と言える。

換気について換気量や換気回数といっ

た在来的な評価手法を用いることがで

きない。そのため、本章ではGEUを用

いた拡散換気の性能検証を行い、今後

の拡散換気システムの可能性に関し検

証する。

(1) ガス交換性能の検証

(1-1) 実験方法

前章と同様の実験装置を用いて、ガ

ス交換性能を検証する実験を行う。検

証室内に、空気清浄機とガス攪枠用の

ファンを設置した。 また、炭酸ガスを

流入させるため、天井部に8本のチュ

ーブを設置した。マスプロメーター

(TRUSCO製D8500MC)を用いて炭酸

ガスの流量を制御し、 GEUの各接続口

(A-D部)で二酸化炭素濃度計(T&D製

TR-76Ui)を用いた。図4にも示して

いるが、 当システムではC部から流入

した検証室内空気とB部から流入した

実験室内空気が物質交換を行う。その

後、検証室内空気はA部を通過し給気

として検証室内に戻り、実験室内空気

はD部を通じて外部に排出される。流

入させる炭酸ガス濃度は3通り (0.075,

0.100, 0.125L/min)、風量は5通り

(10, 15, 20, 25, 30m3/h)を設定

し、計15通りの条件下で実験を行った。

二酸化炭素濃度の値が概ね定常となる

まで1分間隔で測定を行い、 150分ま

でのデータを用いた。

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図6 通常時の粒子数織換気性能の検証実験本システムでは、室内と室外で気体

のやり取りが行われないため、室内の

続いて、拡散換気を利用して測定し

た結果のうち、代表して風量20m3/h

の場合を図7に示す。全ての風量にお 14●轡

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図7 拡散換気動作後の粒子数(風量20m3/h) 図8 60分以降の粒子数

70 クリーンテクノロジー202(〕、 10

Page 4: ガス交換ユニットを用いた 拡散換気システムの性能検証...、(2)ガス交換ユニット (GasExchangeUnit:GEU) 本研究において使用しているGEUで は、障子紙に近い性能を持つ不織布を

Qg=cpv(/RA-/sA)=K4(/RA-/sA)=KA(1-〃i)(/RA-Io) …(6)

空気が留まる時間が長いほど拡散によ

る物質交換が行われやすいためと考え

られる。

(2)熱交換性能の検証

(2-1) 実験方法

前節と同様の実験装置を用いて、熱

交換性能に関する性能実験を行う。検

証室内に、空気清浄機、 ファン、発熱

用の電気ヒーター、加湿器を設置した。

また、 GEU本体を厚さ50mmの発泡

ポリスチレンで被覆し、GEU自体から

の熱損失はないとみなした。検証室内

で電気ヒーターによる発熱を行い、

GEUの各接続口で温度と湿度を測定し

た。電気ヒーターと変圧器を接続して

電圧を制御し、 出力の発熱量を調整し

た。検証室内では加湿も同時に行い、

全熱交換性能を測定した。加湿は実験

室湿度より20%以上高い値になること

を目安とした。電気ヒーターの発熱量

は3通り (100, 200, 300W)、風量

は5通り (10, 15, 20, 25, 30m3/

h) を設定した。測定時間は1分間隔

で4時間とした。

(2-2) 検証と評価

一般的に、熱交換器などにおける顕

熱交換効率は式(4)で評価され、本実験

においても同式を用いる。熱交換器と

GEUは非常に似た構造であると言える

が、熱交換器では室外空気を温めて室

内に給気するのに対し、拡散換気では

室内空気をそのまま室内に還気する。

そのため、本実験においては、温度交

換効率の値が高いことは、室内空気が

GEUを通過する際の熱損失がより少な

いことを表している。

また、換気による熱損失は一般的に

式(5)で評価される。そのため、今回の

膜交換における熱損失を式(6)で表す。

(1-2) 検証と評価

GEUを用いた換気について、ガス交

換効率を評価する。通常、換気に際す

る必要換気量は、室内と屋外のガス濃

度(C!, cb)、二酸化炭素発生量典を用いて式(1)のように表すことができる。

そのため、GEUを用いた拡散換気も同

様に、必要換気量g"を式(2)で表した。

それぞれQ。, Qgの値の比を取り、通常の換気方式を用いた場合の必要換気量

をlとして、拡散換気の必要換気量の

値を式(3)で表すことができる。以下、

これを換気効率比と表す。

式(6)における凡4はGEUの総合熱貫

流率(W/K) となり、風量による値の

変化を見る。同様に、全熱交換に関す

る効率は、測定した温度・湿度から算

出した。エンタルピーを求め式(7)に示

す、全熱交換効率とする。

~~ A

h~~○

″ ~h

hB-カA(7)

hB-ル,

(2-3) 結果

顕熱交換効率・全熱交換効率の値を

表したものをそれぞれ図10.図11に示

す。十分に数値が安定している区間と

して、 200分以降の区間で平均を取り、

代表値とした。 どちらの効率について

も、多少のばらつきはあるが、検証室

内発熱量に関わらず風量に応じて変化

を示している。また、 200W以上の値

K KC

== (1)

Kcl

C|

~~

|C

q~~

~~

(2)

/、、

(Dノ

(1-3) 結果

上式に基づき算出した換気効率比を

図9に示す。測定値より、十分に数値

が安定すると判断した開始50分以降の

平均を値として用いている。換気効率

比は炭酸ガスの流量に関わらず、風量

に応じた変化を示した。値は1.6から

3.2の間で推移しており、風量が小さ

くなるほど効率が向上していることが

わかる。風量の変化はGEU内の気流速

度の変化に繋がり、GEU内に検証室内

患●

義1"WA2"W43"W⑧

重繍袋鎖凝議綴

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図10顕熱交換効率

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議驚IWh》

Q換気=cpy(rsA-ib)=c/フW7{(rRA-/o).(5) 図11 全熱交換効率図9 換気効率比

グリーンテクノロジー2020. 1O. 71

Page 5: ガス交換ユニットを用いた 拡散換気システムの性能検証...、(2)ガス交換ユニット (GasExchangeUnit:GEU) 本研究において使用しているGEUで は、障子紙に近い性能を持つ不織布を

鰯クリーンルームでの

運用検討に比べて100Wの測定結果にはばらつ

きが目立つ。 これは、 100Wの場合で

は室内発熱量が小さく、検証室内温度

が実験室と比較して2~4℃程度しか

上昇しないことが原因と考えられる。

また、 図12に通過熱量をGEUの膜面積

で除した総合熱貫流率K》4を示す。 こち

らも同様に100Wにおける値のばらつ

きはあるが、 どの結果においても室内

発熱量に関わらず風量に応じて変化を

示している。

コストは約35万円/年(室容積当たり

のコスト5,703円/m3年) となった。送

風機動力は室容積と換気回数に基づい

て決まり、図13のように表せる。加え

て、 ここで求めた送風機動力は、その

ままクリーンルーム内の冷房負荷とな

るため、調温設備として冷凍機等の設

置・運用も必要になる。 SCOPを3と

仮定した冷凍機を設置した場合の年間

運用コストとして、図14に示す。

実際にクリーンルームを運用する場

合、空調による高額なランニングコス

トが導入への障壁となることは多い。

その要因として、清浄度を維持するた

めの換気回数の増加やフィルタによる

圧力損失などが挙げられる。 ここでは、

換気回数の目安やフィルタの性能につ

いて表1,表2のように想定し、その

運用コストについて簡易的に概算を行

った。高性能フィルタ使用時の送風機

動力Eを式(8)を用いて求めた。8

信遥量縛鑪穏議“灘

●1“W▲Z“W*3“W 胆一〃~

(8)●

マ律

噂¥』卜

上式に基づき運用コストを計算した

結果のパターンを表3に示す。送風機

総合効率ノルを0.4と仮定したとき、面積20m2、高さ3mかつ清浄度1,000を目

標とした室における送風機動力を求め

ると、その値は約l.6kWとなり、運用

織蝋

沙が:、蔚f:タ

0 5 10 お加お” 35

風潔i"/h】。 5●

室容積【鋪$]

縄愈

図12総合熱貫流率

図13送風機動力

表1 清浄度維持の換気回数目安14]50

~~~~~~~昭路1勺]j11~~~~~~~~

澗浄度

クラス100,0()()

クラス10,000

クラス1,000

クラス100

…換気回数(Iml/h)

20~30

30~70

100~200

200~600

USA209E規格(回/h)

20

75

150

250~400

平均気流速度(m/S)

0.()()5~0.041

0,051~0.076

0.127~0.203

0.203~0.408

軒へ匪巴頓蕊域種霞財

表2 高性能フィルター性能例{5 ● 50

室容積肺3}

X●●

’奥行寸法(mm) I 騒速(m/s)

68 1 ]~24--【拠雌力損失(Pa)

~ ~ ~’ 250| 捕集効率(%)’ 99~99

L対象粒径いm)’ 0~3 ’ 図14年間電気料金(冷房負荷込)

表3 運用コスト概算結果 一方で、 CUSP系の運用においては、

室内外が等圧となり、 フィルタを室内

外の界面に設置することによる圧力損

失が生じないこと、 またそもそもFFU

として家庭用程度の空気清浄機が利用

可能なことにより、 これらのコストを

ほぼ無視した通常の空調方式とほとん

ど変わらない形での運用が可能となる。

室容積(m3) ‘ : :;

目標清浄度(-)

換気回数の目安(回/h)

換気量(m3/h)

送風機動力(kW)

年間電気料金(円)

60(20m望×3m)

1,000

15()

9,()()0

1.6

350,40()

60 (20m塾×3m)

100

300

18,000

3.1

678.900

300(10Cm2x3m)

1,000

150

45,()0〔)

7.8

1,710.938

※電気料金は25円/kWh,年間8760時間運転した場合を仮定

72 クリーンテクノロジー2020. 1()

Page 6: ガス交換ユニットを用いた 拡散換気システムの性能検証...、(2)ガス交換ユニット (GasExchangeUnit:GEU) 本研究において使用しているGEUで は、障子紙に近い性能を持つ不織布を

鰯おわりに

(1) CUSP系における拡散換気シス

テムを用いた清浄環境の実現は、

室内清浄度の観点から見て十分に

実用に耐えうるものであり、 また、

運用コスト削減という大きな可能

性を有しており、非常に有用な手

法と言える。 クリーンルーム運用

の4原則(6)、

①持ち込まない

②発生させない

③堆積させない

④排除するの内

外気から 「①持ち込まない」を徹

底したシステムである。

(2)換気性能について実測値を見る

と、現段階でも運用は可能だが、

ガス交換と熱交換において最適な

風量の値が逆転しているなどの点

もある。気密性能が高く熱伝導率

が小さいながらも物質交換を促進

する材料の開発、 コンパクトであ

りながら物質交換面積を最大限に

確保する製造技術などが今後GEU

には欠かせない。

(3)今後、詳細なモデル等を作成し、

実用に近い条件下で、 より効率的

な拡散換気システムの運用手法の

検討が必要である。

月生:空気清浄技術「CUSP」 <新型太|場電池作製

プラットフォームから居住空間応用展開まで>、建

築設備と配管工事、 Vol.53、 No.3, pp、66-73

(2015)

(2) 石橋晃・野口伸守・江藤月生・松田順治・大橋

美久:孤立・閉鎖系環境クリーンユニットシステ

ムプラットフオーム、第35回空気清浄とコンタミ

ネーシヨンコントロール研究大会予槁集pp.38-

41 (2018)

(3) 石垣祐里奈・羽1I1広文・森太郎・石橋晃・松田

順治:ガス交換ユニットを用いた拡散換気システ

ムの性能検証、空気調和・衛生工学会北海道支部

学術講演論文集、 G-3、 pp.187-190 (2020.3)

(4) オリオン機械㈱:クリーン度と空調/換気回数

と精度

httP://www・oriollkikai-pap・com/p21-23.html

(閲覧日2020/7/20)

(5) ニッタ㈱:エアクリーン製品情報

https://www・I1itta.co.jp/prodllct/airclean/air

filter/spleats/paneltype/3xOl3xO2/

(閲覧日2020/7/20)

(6) コマニー㈱:クリーンルームとは

httl)s://wI-.comany.co.jp/cleanroom/firstvisitor

/mdex・html

(閲覧日2020/7/2())

〔謝辞〕

本研究の一部は科学研究費助成事業、

基盤研究(B) (課題番号: 18HO1591)

および挑戦的研究(萌芽) (課題番号:

19K22000)による。

注;木脇は参考文献(3)を蕪に追記したものである。

<参考文献>(1) 石槁晃・大橋美久‘松田順治・野口伸守・江藤

表4 記号表

羽山広文

北海道大学大学院工学研究院

建築都市部門建築環境学研究室

特任教授

GEU使用時必要換気瞳(m3/h)

検証室内ガス濃度(-)

検証室給気ガス濃度(一)

温度交換効率(-)

検証室給気温度(℃)

GEU各部測定温度(℃)

空気比重(kg/m3)

膜面積(m2)

屋外(実験室内)エンタルピー(kJ/kg)

検証室還気エンタルピー(kJ/kg)

送風機動力(W)

風量(m3/S)

通常換気時必要換気量(m3/h)

二酸化炭素発生量(m:'/h)

屋外(実験室内)ガス淵度(一)

GEU各部測定ガス濃度(-)

屋外(実験室内)温度(℃)

検証室還気温度(℃)

空気比熱(kJ/kgK)

換気量(m3/h)

全熱交換効率(一)

検証室給気エンタルビー(kJ/kg)

GEU各部測定エンタルピー(kJ/kg)

圧力損失(Pa)

送風機総合効率(-)

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石垣祐里奈

北海道ガス㈱エネルギー企画部

エネルギー企画グループ

石橋晃

北海道大学電子科学研究所

物質科学研究部門教授

松田順治

飛栄建設㈱代表取締役

●優良技術図書案内

プラント関連略語集B5判52頁 1 ,000円十税

お問合せは日本工業出版㈱フリーコール0120-974-250 https://wwwnikko-pb.co.jp/

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筆者紹介